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特表2023-519090難聴治療用制御放出型製剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】難聴治療用制御放出型製剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20230428BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/36
A61K31/573
A61P27/16
A61K9/51
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547109
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2021001248
(87)【国際公開番号】W WO2021157968
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0012749
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522307007
【氏名又は名称】エムエヌエイチ バイオ カンパニー.,リミテッド.
(71)【出願人】
【識別番号】516011833
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY HOSPITAL
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン,デジュン
(72)【発明者】
【氏名】アン,グァンミン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ミョンフン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホイ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ユジョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA65
4C076AA94
4C076BB26
4C076BB40
4C076CC10
4C076EE37
4C076FF31
4C076GG21
4C076GG41
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086DA10
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA23
4C086MA38
4C086MA56
4C086MA70
4C086NA12
4C086ZA34
(57)【要約】
本発明は、難聴治療用制御放出型製剤及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、低分子量のヒアルロン酸にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を高分子量のヒアルロン酸水溶液に分散して製造された難聴治療用薬物制御放出型製剤およびその製造方法に関するものである。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている薬物制御放出型製剤。
【請求項2】
前記微小球体を形成するヒアルロン酸が分子量100,000g/mol以下であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物制御放出型製剤。
【請求項3】
前記ステロイド性抗炎症剤が、デキサメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベータメタゾン、ヒドロコルチゾン、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の薬物制御放出型製剤。
【請求項4】
前記分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸が、ストレプトコッカス属UBC-U46(Streptococcus sp. UBC-U46、寄託番号KCTC13556BP)菌株によって生産されたことを特徴とする、請求項1に記載の薬物制御放出型製剤。
【請求項5】
前記薬物制御放出型製剤が、前記ステロイド性抗炎症剤を標的部位で20日以上放出することを特徴とする、請求項1に記載の薬物制御放出型製剤。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液が1~10% (w/v)水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物制御放出型製剤。
【請求項7】
前記製剤が、中耳、内耳、蝸牛管、前庭器官、ユースタキオ管または鼓室内投与用製剤であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物制御放出型製剤。
【請求項8】
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含み、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記薬学的組成物が、中耳、内耳、蝸牛管、前庭器官、ユースタキオ管または鼓室内に注入されることを特徴とする、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記難聴が、騒音性難聴、耳毒性難聴、内耳疾患による難聴および外傷性難聴からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
(a)ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にステロイド性抗炎症剤をカプセル化する段階;
(b)分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液を製造する段階;及び、
(c)前記微小球体を前記水溶液に分散させる段階を含む、請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の薬物制御放出型製剤の製造方法。
【請求項12】
難聴治療用製剤を製造するためのヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤の使用であって、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されているステロイド性抗炎症剤の使用。
【請求項13】
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与して難聴を治療する方法であって、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年2月3日に出願された大韓民国特許出願第10-2020-0012749号を優先権として主張し、前記明細書全体は本出願の参考文献である。
【0002】
本発明は、難聴治療用制御放出型製剤及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、低分子量のヒアルロン酸にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を高分子量のヒアルロン酸水溶液に分散して製造された難聴治療用薬物制御放出型製剤およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
難聴とは、様々な原因によって聴覚に異常が来るものであり、聴覚が低下または喪失した状態を示す。耳は外耳(耳たぶから鼓膜まで)、中耳(鼓膜から蝸牛管の入口まで)、内耳(蝸牛管の内側)で構成されており、このうちいずれの1か所でも問題が発生すると難聴がもたれる。難聴は、外耳と中耳の障害による難聴(全音性難聴)及び内耳と聴神経系障害による難聴(感覚神経性難聴)として区分されるが、外耳および中耳の障害による難聴は前記障害が治療されると難聴も回復できるが、内耳および聴神経系の障害による難聴は、前記障害が治療されても回復できないことが多く、患者にとって大きな不便をもたらす。
【0004】
今までの最も標準的な難聴治療法は全身経口ステロイド投与である。しかし、健康な難聴患者に全身的ステロイド投与を施行した結果、33.0%において1つ以上の全身副作用が発生し、約1%において股関節骨折、毒性肝炎、死亡などの重篤な副作用が発生したことが報告された(Min KH and Suh MW, Kor J Audiol
2012).
【0005】
最近は、全身的高用量ステロイド投与の他にも、鼓室内ステロイド注入術が突発性難聴の治療のために利用されている。鼓膜を通して鼓室内にステロイドを注入し、注入されたステロイドが鼓室と内耳の間に位置する庭窓を通して拡散することを期待するが、鼓室内に注入された薬物は耳管を通じて数十分以内に排出されるから、実際に薬物が内耳に伝達される時間は24時間より短いため、十分な治療効果を達成することができない。
【0006】
一方、韓国登録特許第10-1877894号は、ヒアルロン酸・ヒドロゲルに生体適合性高分子に由来の微小球体にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を分散させて製造した薬物放出調節型難聴治療剤を開示している。前記薬物放出調節型難聴治療剤は、ステロイド性抗炎症剤の放出期間を延長する効果を奏したが、化学的に変形された2種類のヒアルロン酸誘導体を使用しなければならないという煩わしさと、ヒドロゲルの製造のために必須に伴われるべき架橋剤によって、鼓膜内の炎症が誘発される問題がある。
【0007】
よって、全身的ステロイド投与による副作用を減少し、難聴の治療のために十分な時間、鼓室内で薬物を伝達することができる難聴治療製剤が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、全身的ステロイド投与による副作用を減少し、難聴の治療のために十分な時間、鼓室内で薬物の伝達ができる難聴治療製剤を開発するために鋭意研究を重ねた結果、低分子量のヒアルロン酸にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を高分子量のヒアルロン酸水溶液に分散して製造された複合製剤が、鼓室内における薬物の放出期間を著しく
増加させるだけでなく、炎症反応の副作用を示さないことを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
よって、本発明の目的は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散している薬物制御放出型製剤を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含み、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
また、本発明の他の目的は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤からなり、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
また、本発明の他の目的は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤から必修的になっており、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、(a)ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にステロイド性抗炎症剤をカプセル化する段階;(b)分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液を製造する段階;及び、(c)前記微小球体を前記水溶液に分散させる段階を含む前記薬物制御放出型製剤の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、難聴治療用製剤を製造するためのヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤の使用であって、前記微小球が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されているステロイド性抗炎症剤の使用を提供するものである。
【0013】
本発明の他の目的は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与して難聴を治療する方法であって、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の治療方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の本発明の目的を達成するために、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている薬物制御放出型製剤を提供する。
【0015】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球中にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含み、前記微小球が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散した難聴予防または治療用薬学的組成物を提供する。
また、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤からなり、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを
超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
また、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤から必須的になり、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、(a)ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にステロイド性抗炎症剤をカプセル化する段階;(b)分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液を製造する段階;及び、(c)前記微小球体を前記水溶液に分散させる段階を含む前記薬物制御放出型製剤の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、難聴治療用製剤を製造するためのヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤の使用であって、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されているステロイド性抗炎症剤の使用を提供する。
【0018】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与して難聴を治療する方法であって、前記微小球が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の治療方法を提供する。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている薬物制御放出型製剤を提供する。
【0021】
本発明において、前記ヒアルロン酸は、β-D-N-アセチルグルコサミンとβ-D-グルクロン酸とが交互に結合した直鎖状の高分子多糖である。ヒアルロン酸は哺乳動物の皮下組織と軟骨組織のような結合組織に分布するほか、目の硝子体や臍帯などに存在し、連鎖球菌や杆菌類の狭膜などにも存在することが知られている。優れた生体適合性を有する天然ヒアルロン酸は、種間特異性を持たず、組織や長期特異性を持たず、皮膚の保湿力の増進、皮膚の弾力維持および皮膚の損傷時に皮膚下層部の損傷を減らし、皮膚の主要構成成分であるコラーゲンが細胞間への動きを円滑にするように潤滑油のような役割もする。
【0022】
一方、天然ヒアルロン酸は、体内への注入時にヒアルロン酸分解酵素により早く分解されるため、このような分解速度を調節するために様々な方法にて架橋させたり、化学物質を用いて構造を変形させたりしたヒアルロン酸誘導体を作って使用することもあるが、本発明における前記ヒアルロン酸は、化学的に変形されなかった天然ヒアルロン酸またはその塩のみを含むことを特徴としてもよい。
【0023】
本発明において、前記ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カルシウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸亜鉛、ヒアルロン酸コバルト、ヒアルロン酸テトラブチルアンモニウム、またはそれらの組み合わせでもよいが、これらに限定されない。
【0024】
本発明において、前記「微小球体」とは、直径が数マイクロメートル未満の球状の微粒子であり、生体適合性及び生分解性に優れ、薬物伝達体として用いられる粒子を意味する。本発明における前記微小球体は分子量100,000g/mol以下の低分子量のヒアルロン酸を用いて製造されたものであってもよく、好ましくは、分子量50,000g/mol以下のヒアルロン酸、より好ましくは、分子量20,000g/mol以下のヒアルロン酸、最も好ましくは、分子量10,000g/mol以下のヒアルロン酸で製造されたものでもよい。
【0025】
本発明において、前記「ステロイド性抗炎症剤」とは、ステロイド母核を有し、抗炎症の役割を果たす製剤を意味するものであり、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベータメタゾン、ヒドロコルチゾンまたはこれらの組み合わせのようなコルチコステロイドを含んでもよい。好ましくは、前記ステロイド性抗炎症剤はデキサメタゾンでもよい。
【0026】
本発明において、前記微小球体は、相分離法、噴霧乾燥法、溶媒蒸発乾燥法、低温溶媒抽出法などの公知の方法を通じて製造することができる。
【0027】
本発明の一具体例によれば、前記微小球体は、低分子量のヒアルロン酸水溶液にステロイド性抗炎症剤を添加した後、前記溶液に電解質水溶液を添加してヒアルロン酸と電解質との間の複合体の形成を誘導することにより製造した。
【0028】
本発明の前記薬物制御放出型製剤は、前述のヒアルロン酸微小球体が分子量5,000,000g/molを超える超高分子量のヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されていることを特徴としてもよい。
【0029】
前記超高分子量のヒアルロン酸またはその塩は化学的に変形されておらず、例えばヒアルロン酸ジアミノブタン、ヒアルロン酸スクシンイミドなどのように化学的官能基で修飾されていない天然型の超高分子量のヒアルロン酸である。
【0030】
前記超高分子量のヒアルロン酸は、分子量が5,000,000g/molを超えてもよく、好ましくは、5,100,000g/mol超過、より好ましくは、5,200,000g/mol超過、さらにより好ましくは、5,300,000g/mol超過、最も好ましくは、5,400,000g/molを超える分子量を有するヒアルロン酸でもよい。
前記超高分子量のヒアルロン酸の分子量の上限値は特に制限がなく、自然界において天然型で存在する高分子量のヒアルロン酸として、分子量が5,000,000g/molを超えるものであれば全て本願発明に適用されて同一の効果が発揮され得ることが通常の技術者に自明に理解され得る。好ましくは、前記超高分子量のヒアルロン酸の分子量の上限値は10,000,000g/molでもよく、より好ましくは、9,000,000g/molでもよく、さらにより好ましくは、8,000,000g/molでもよく、最も好ましくは、7,500,000g/molでもよい。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、前記超高分子量のヒアルロン酸は、ストレプトコッカス属のUBC-U46(Streptococcus sp. UBC-U46、寄託番号KCTC13556BP)菌株によって生産されたものでもよい。前記微生物によって生産されたヒアルロン酸は、韓国特許第10-2018-0130275を参照して製造されたものであってもよく、前記文献は本発明に参考となる。
【0032】
本発明において、前記ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液の濃度は、制御放出しようとするステロイド性抗炎症剤の放出時間を考慮して通常の技術者が適宜調節すること
ができるが、1.0~10.0%(w/v)のヒアルロン酸水溶液であってもよく、好ましくは、1.5~8%(w/v)、より好ましくは、2.0~7%(w/v)、さらにより好ましくは、2.5~6%(w/v)、最も好ましくは、3.0~5%(w/v)のヒアルロン酸水溶液でもよい。
【0033】
本発明の制御放出型製剤におけるステロイド性抗炎症剤の放出速度及び放出期間は、前記超高分子量のヒアルロン酸水溶液の濃度及び超高分子量のヒアルロン酸の分子量によって調節することができ、治療しようとする標的部位、治療対象の疾患重症度などに応じて通常の技術者が調節することができる。
【0034】
前記超高分子量のヒアルロン酸水溶液には超高分子量のヒアルロン酸および水の他に、架橋剤、硬化剤、化学変性剤、脂肪酸、ヒアルロン酸と錯体を形成するカチオン性高分子などの物質が全く含まれていないことを特徴とする。
【0035】
前記架橋剤とは、ヒアルロン酸と反応して三次元ネットワーク構造を形成する化合物であり、ポリグリシジルエーテルなどの多価エポキシ化合物、ジビニルスルホン、ホルムアルデヒド、オキシ塩化リン、カルボジイミド化合物とアミノ酸エステルとの配合物、およびカルボジイミド化合物とジヒドラジド化合物との配合物からなる群から選択された1つ以上の化合物でもよい。
前記化学変性剤とは、ヒアルロン酸のカルボキシ基、ヒドロキシ基またはアセトアミド基と反応して共有結合を形成する化合物であって、無水酢酸と濃硫酸の配合物、無水トリフルオロ酢酸と有機酸の配合物およびアルキルヨウ素化合物からなる群から選択された1つ以上の化合物でもよい。
前記ヒアルロン酸と錯体を形成するカチオン性高分子とは、ヒアルロン酸のカルボキシ基と、高分子化合物のアミノ基またはイミノ基との間におけるイオン結合を介して錯体を形成する高分子であり、キトサン、ポリリシン、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミンおよびポリジメチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択された1つ以上のカチオン性高分子でもよい。
【0036】
ヒアルロン酸ヒドロゲルを製造するために化学架橋剤および/または硬化剤を使用する場合、これらの化学物質がヒアルロン酸ヒドロゲルの内部または外部の担体に残存しており、炎症反応などの有害反応を誘発する可能性が高くなることもある。しかし、本願発明の薬物制御放出型製剤は超高分子量のヒアルロン酸水溶液にいかなる化学物質も添加されないため、体内に注入された後、非常に安全に生理活性を示すこともある。
本発明の一具体例において、前記超高分子量のヒアルロン酸水溶液は、放射線、熱など、いかなる手段によっても架橋結合が誘導されない天然型のヒアルロン酸であることを特徴としてもよい。
【0037】
本発明の一実施例によれば、超高分子量のヒアルロン酸水溶液を分散体として用いた本発明の薬物制御放出型製剤は、鼓室内に投与した後に炎症反応を全然誘発しなかったが、ヒアルロン酸誘導体に架橋剤を処理して製造されたヒドロゲルを分散体として用いた製剤の場合は、鼓室内に投与された後に深刻な炎症反応を引き起こすことが確認できた。
【0038】
本発明において、前記薬物制御放出型製剤におけるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体が前記超高分子のヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散される濃度は、微小球体に含まれるステロイド性抗炎症剤の放出期間または放出濃度等によって通常の技術者が適宜調節することができ、例えば、0.1~5%(w/v)の濃度、好ましくは0.5~4%(w/v)の濃度、さらに好ましくは0.5~3%(w/v)の濃度、より好ましくは0.5~2.5%(w/v)の濃度、最も好ましくは1~2%(w/v)の濃度で分散されてもよい。
【0039】
本発明の一具体例において、前記剤型は、活性薬物を標的部位で所定の期間放出することを可能にする制御放出型製剤でもよい。前記剤型は、ステロイド性抗炎症剤を20日以上、1ヶ月以上、40日以上、2ヶ月以上、4ヶ月以上、6ヶ月以上、6ヶ月~12ヶ月、または12ヶ月以上の長期間放出することができる。一具体例において、前記放出期間は、前記超高分子のヒアルロン酸の分子量またはその水溶液の濃度に応じて調節することができる。前記標的部位は、個体の特定の器官を意味するものであり、目、鼻、耳、心臓、心室、心房、腸管内、血管、または関節などに限定されない。一具体例において、前記標的部位は耳でもよく、前記耳は、中耳、内耳、蝸牛管、前庭器官、ユースタキオ管または鼓室を含んだものでもよい。
【0040】
また、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含み、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0041】
本発明において、前記難聴は、原因によって、老人性難聴、抗がん剤、解熱剤、鎮痛剤、抗生剤等により発生する耳毒性難聴、産業騒音、銃器騒音、爆発騒音等により発生する騒音性難聴、メニエル病、突発性難聴のような内耳疾患による難聴、外リンプ瘻孔、迷路振盪、および側頭骨骨折などの外傷性難聴などがある。
【0042】
本発明の一具体例において、難聴は、騒音性難聴、耳毒性難聴、内耳疾患による難聴、および外傷性難聴からなる群から選択されたものでもよい。
【0043】
本発明の前記薬学的組成物は、中耳、内耳、蝸牛管、前庭器官、ユースタキオ管または鼓室内投与用組成物でもよく、好ましくは鼓室内投与用組成物でもよい。
【0044】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容できる担体と共に適切な形態で製剤化してもよく、賦形剤または希釈剤をさらに含有してもよい。担体としては、あらゆる種類の溶媒、分散媒体、水中油または油中水エマルジョン、水性組成物、リポソーム、マイクロビーズおよびマイクロゾームが含まれる。
【0045】
薬学的に許容できる担体は、例えば、経口投与用担体または非経口投与用担体をさらに含んでもよい。経口投与用担体はラクトース、デンプン、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などを含んでもよい。さらに、経口投与に使用される様々な薬物伝達物質を含んでもよい。また、非経口投与用担体は、水、適切なオイル、生理食塩水、水性グルコースおよびグリコールなどを含んでもよく、安定化剤および保存剤をさらに含んでもよい。適切な安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコルビン酸などの酸化防止剤がある。適切な保存剤としては、ベンズアルコニウム塩化物、メチル-またはプロピル-パラベンおよびクロロブタノールがある。本発明の薬学的組成物は、前記成分の他にも、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤などをさらに含んでもよい。他の薬学的に許容できる担体および製剤は、当該業界に公知であるものを参考にしてもよい。
【0046】
本発明の組成物は、ヒトをはじめとする哺乳動物にいかなる方法でも投与することができる。例えば、非経口的方法にて投与することができる。非経口的投与方法としては、これに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下、直腸内、関節内または鼓室内投与でもよく、最も好ましくは鼓室内投与でもよい。
薬物の鼓室内注射は、薬物を鼓膜の後ろ側から中耳および/または内耳に注射する方法
である。
本発明の一具体例において、本発明の薬学的組成物を経鼓膜注射により中耳に投与してもよい。さらに他の具体例において、本発明の薬学的組成物を内耳への非経鼓膜アプローチにより内耳に直接投与してもよい。
本発明の一具体例において、薬学的組成物は、鼓膜を貫通し、内耳の正円窓膜または卵円窓に直接的にアプローチすることができる注射器および針により投与してもよい。注射器の針は、鼓膜の穿孔を予防するために可能な限り小さな針が用いられ、例えば22ゲージ~24ゲージでもよい。
【0047】
本発明の薬学的組成物は、前述のような投与経路に応じて経口投与用または非経口投与用の製剤に製剤化することができる。
経口投与用製剤の場合、本発明の組成物は、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液などで当該業界に公知となった方法を用いて製剤化することができる。例えば、経口用製剤は、活性成分を固体賦形剤と配合し、次いでそれを粉砕し、適切な補助剤を添加した後、顆粒混合物で加工することによって錠剤または糖衣錠剤を収得することができる。適切な賦形剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトールおよびマルチトールなどを含む糖類、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプンおよびジャガイモデンプンなどを含むデンプン類と、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを含むセルロース類と、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどの充填剤とを含んでもよい。また、場合によって、架橋結合型ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはナトリウムアルギネートなどを崩壊剤として添加してもよい。さらに、本発明の薬学的組成物は、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤および防腐剤などをさらに含んでもよい。
非経口投与用製剤の場合は、注射剤、クリーム剤、ローション剤、外用軟膏剤、油剤、保湿剤、ゲル剤、エアロゾル及び鼻吸入剤の形態で当該業界に公知となった方法で製剤化することができる。これらの剤型は、すべての製薬化学で一般的に公知となっている処方箋に記載されている。
【0048】
本発明の組成物の総有効量は、単一投与量で患者に投与することができ、複数投与量で長期間投与される分割治療方法によって投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度によって有効成分の含有量を変えてもよい。好ましくは、本発明の薬学的組成物の好ましい総用量は、1日当たり患者の体重1kg当たり約0.01μg~10,000mg、最も好ましくは0.1μg~500mgでもよい。しかし、前記薬学的組成物の用量は、製剤化方法、投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌及び排泄率など様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されることであるため、これらの点を考慮すると、当該分野の従来の知識を有する者であれば、本発明の組成物の適切な有効投与量を決定することができる。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を示す限り、その製剤、投与経路および投与方法は特に限定されない。
【0049】
本発明の一具体例において、前記薬学的組成物は、難聴の発生前または後、または難聴の発症中に投与することができる。投与量は、投与法、治療期間、治療患者の状態、難聴の重症度に応じて変わってもよく、主治医によって決まる。治療期間は、約1時間ないし数日、数週、または数ヶ月の範囲でもよく、必要に応じて長期間進行することができる。
【0050】
本発明における用語「予防」とは、疾患の臨床症状が発症しないように、疾患または障害の開始に対して保護する療法を指す。よって、「予防」は、疾患の徴候が対象体からの検出が可能になる前に、対象体に療法を投与すること(例えば、治療物質を投与すること
)(例えば、対象内で検出可能な感染源(例えば、ウイルス)の非存在下で対象体に治療物質を投与すること)に関することである。対象体は、疾患または障害が発症する危険性がある個体、例えば疾患または障害の発症または開始に関連することが公知となった1種以上の危険因子を有する個体であってもよい。
【0051】
本発明における用語「治療」とは、有益または望ましい臨床的結果を収得するためのアプローチを意味する。本発明の目的のために、有益または望ましい臨床的結果は、非限定的に、症状の緩和、疾病の範囲の減少、疾病状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾病の進行の遅延または速度の減少、疾病状態の改善または一時的緩和および軽減(部分的または全体的であり得る)、検出可能であるか、または検出されないことを含む。「治療」とは、治療的治療及び予防的または予防措置方法全てのことを指す。前記治療は、予防される障害だけでなく、すでに発生した障害において必要な治療も含む。疾病を「緩和(palliating)」することは、治療を行わない場合に比べて、疾病状態の範囲および/または望ましくない臨床的徴候が減少したり、進行の時間的傾向が遅くなったり長くなったりすることを意味する。
【0052】
一方、本発明の前記薬学的組成物には難聴の治療に用いられている公知の物質をさらに含むことができることは、当業者には自明に理解できることである。
【0053】
また、本発明は(a)ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にステロイド性抗炎症剤をカプセル化する段階;(b)分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液を製造する段階;及び、(c)前記微小球体を前記水溶液に分散させる段階を含む前記薬物制御放出型製剤の製造方法を提供する。
【0054】
また、本発明は、難聴治療用製剤を製造するためのヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤の使用であって、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されているステロイド性抗炎症剤の使用を提供する。
【0055】
また、本発明は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の微小球体内にカプセル化されたステロイド性抗炎症剤を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与して難聴を治療する方法であって、前記微小球体が分子量5,000,000g/molを超えるヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩水溶液に分散されている難聴治療方法を提供する。
【0056】
本発明の前記「有効量」とは、個体に投与した場合、難聴又は難聴の改善、治療、検出、診断又は難聴の抑制又は減少効果を示す量を示し、前記「個体」とは、動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物であってもよく、動物に由来の細胞、組織、器官などであってもよい。前記個体は前記効果を必要とする患者でもよい。
本発明の前記「治療」とは、難聴または難聴による症状を改善させることを包括的に指し、これは前記疾患の治癒、実質的予防、または状態の改善をすることを含んでもよく、前記疾患をはじめとした一つの症状またはほとんどの症状を緩和したり、治癒したり、予防したりすることを含むが、これに限定されるものではない。
【0057】
本明細書における用語「~を含む(comprising)」とは、「含有する(including)」または「特徴付ける(characterized by)」と同じ意味で使用され、本発明による組成物または方法において、具体的に言及されていない追加の構成成分または方法の段階などを排除しない。また、用語「~からなる(consisting of)」とは、別途の記載がない追加の要素、段階、または成分などを除外することを意味する。用語「~から必須的になる(essentially consi
sting of)」とは、組成物または方法の範囲において、記載の物質または段階に加えてその基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない物質または段階などを含み得ることを意味する。
【発明の効果】
【0058】
本発明に係る超高分子のヒアルロン酸水溶液を薬物伝達体として含む薬物制御放出型製剤及び難聴治療用薬学的組成物は、1回の投与で数週間ないし数ヶ月間治療効果を発揮することができるので、全身的副作用を誘発せず、反復的な施術なしの上、疾患の効果的な治療を可能にする。また、本発明の薬物制御放出型製剤にはヒアルロン酸架橋のための化学架橋剤が使われず、炎症反応などの副作用の発生リスクが極めて低い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1図1は、難聴誘発動物モデルにおける聴力改善試験を評価するための試験スケジュールを示した図である。
図2図2は、動物の鼓室内薬物/伝達体の維持期間をCT撮影により評価した結果である。
図3図3は、鼓膜内の薬物/伝達体の注入時に発生した鼓膜穿孔が回復する過程を時間の流れに沿って観察した図である。
図4図4は、本発明による薬物/伝達体(SURDEN)を投与した後、動物の鼓膜内に炎症が発生するか否かを時間の流れに沿って観察した図である。
図5図5は、難聴動物モデルにおける聴力の改善効果を評価した結果である(SU02+D:本発明による薬物/伝達体)。
図6図6は、先行文献の薬物/伝達体を難聴動物モデルの鼓膜内に注入する実験の方法を示した模式図である。
図7図7は、先行文献の薬物/伝達体を難聴動物モデルの鼓膜内に注入した後の炎症発生の程度を評価した結果である。
図8図8は、重量平均分子量7,000,000g/molのヒアルロン酸水溶液に造影剤を混合した伝達体(SURDEN01 + Magnevist)と分子量1,000,000~3,000,000g/molのヒアルロン酸水溶液に造影剤を混合した伝達体(Low viscosity vehicle+magvenist)をラットの鼓膜内に投与した後、9.4T MRIで時間の流れに沿った造影効果を観察した図である。
図9図9は、前記図8の実験過程のうちラット鼓膜内の各部位における造影量を時間の流れに沿って定量化して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明を下記実施例により詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明がこれらによって限定されるものではない。
【0061】
実施例1:超低分子のヒアルロン酸を利用したデキサメタゾンマイクロカプセルの製造
20%の分子量10,000Da未満の超低分子量のヒアルロン酸を含む水溶液を超純水で製造し、これに2.4%のデキサメタゾンリン酸二ナトリウム(Dexamethasone disodium phosphate)を完全に溶解した。
前記製造されたヒアルロン酸-デキサメタゾン水溶液と10%の濃度を有するCaCl(Ca2+を含むイオン性化合物)水溶液を1:1(v/v)の割合で混合し、ヒアルロン酸とCaClとの間のイオン複合体(沈殿)を誘導した。その後、前記沈殿液を12,000rpmで1分間遠心分離して上清を除去した。また、前記イオン複合体に関与していないイオン(free ion)の除去のために過剰な超純水を用いて洗浄及び遠心分離過程を3回以上行った。
イオン複合化された薬物混合物は凍結乾燥によって超低分子量のヒアルロン酸にカプセ
ル化されたデキサメタゾンを製造した。
【0062】
実施例2:カプセル化されたデキサメタゾン/ヒアルロン酸ヒドロゲル複合体(SURDEN;Sustained Release Drug Encapsulation)の製造
前記カプセル化されたデキサメタゾンの伝達体として、付着性を有し、鼓室内で体内安定性を有し、生体適合性に優れた超高分子ヒアルロン酸を製造した後、これを利用してマイクロカプセル・デキサメタゾン/ヒアルロン酸複合体を製造した。
超高分子量のヒアルロン酸は、先行特許(KR1020180130275)に明示された生産方法に従ってストレプトコッカス属UBC-U46菌株(寄託番号:KCTC13556BP)を利用して製造した。
前記方法により製造された超高分子量のヒアルロン酸の重量平均分子量は7,000,000g/molであった。
【0063】
前記超高分子量のヒアルロン酸を超純水に溶解し、濃度3%の超高分子のヒアルロン酸水溶液を製造した。前記超高分子量のヒアルロン酸水溶液に前記実施例1で製造した超低分子量のヒアルロン酸にカプセル化されたデキサメタゾン粉末を超高分子量のヒアルロン酸水溶液に濃度1.5%になるように添加し、ホモジナイザーを用いて均一に混合して超低分子量のヒアルロン酸にカプセル化されたデキサメタゾンが均一に混合されているマイクロカプセル・デキサメタゾン/ヒアルロン酸ヒドロゲル複合体(SURDEN)を製造した。
【0064】
実施例3:薬物伝達体維持期間および薬物放出性能の評価
前記実施例2で製造した複合体(SURDEN)の薬物伝達体としての性能を評価するために、難聴動物モデルを作製して以下の実験を行った。
【0065】
(1)難聴動物モデルの作製
ホルモンの影響を排除するために雄SDラットを使って実験した。耳毒性難聴を誘発するためにIT予防注射を行ってから4日目に、シスプラチン(2mg/kg)、ゲンタマイシン(120mg/kg)、フロセミド(90mg/kg)の組み合わせの薬物を尾頸静脈で2日間毎日1回ずつ注射した。
【0066】
(2)実験デザイン
鼓膜を通して薬物を伝達する経鼓膜薬物伝達(intratympanic,IT)方法を用いて、デキサメタゾン(D)を2つの異なる方法にて動物に適用した。
【0067】
第1方法は、既存の病院で使用される治療方法として生理食塩水(Saline)にDを12mg/mlで伝達する方法である。第2方法は、前記実施例2で製造したSURDENにDを12mg/mlで伝達する方法である。対照群(control)としては、何の治療も行っていない聴覚損失対照群(hearing loss control group)を作製した。前述のように用意された各試料を動物あたり(各耳あたり)0.04mlずつ投与した。具体的な実験スケジュールを図1に示した。
【0068】
(3)聴力測定
難聴を誘発する前および難聴誘発後から約2ヶ月間、1~14日間隔で聴力を測定した。周波数別特性を評価するために、click、8kHz、16kHz、32kHzの合計4つの周波数における脳幹誘発反応検査(auditory brainstem response,ABR)を行った。
【0069】
(4)薬物担体維持期間の評価
図1の実験スケジュールに示されたCT撮影時点で確認された動物の鼓室内薬物/伝達体の維持期間は、サリン(saline)+Dの場合は1.1±0.3日であり、SURDENの場合は41.1±27.0日であった。すなわち、SURDENを用いる場合、薬物/伝達体の維持期間をサリンに対して約40倍程度長く延長することができることを確認した(図2)。
【0070】
(5)薬物伝達体の安全性評価
鼓膜内視鏡を定期的に撮影した結果、サリン+D群は21.6±12.6日以降鼓膜穿孔が完全に詰まった。SURDEN+D群の場合、16.7±11.9日経過後に鼓膜穿孔が完全に詰まった。すなわち、SURDENを用いる場合、鼓膜穿孔が治癒する期間がむしろ短くなるとか、少なくとも長くなるとかではないので、副作用なしの上、治療が可能であることを確認した(図3)。
【0071】
さらに、鼓膜内視鏡観察の結果、SURDENの投与により中耳炎症が発生した個体は全くなかった。薬物/伝達体が生体適合性を有することができなかった場合、中耳炎症が発生する(図4)。本発明の薬物/伝達体複合体(SURDEN)の場合、このような炎症性副作用が全くなかったため、人体でも成功的な使用が可能であると判断された。
【0072】
実施例4:聴力改善評価
SURDENの場合、32kHzを基準にし、難聴が誘発してから1日目(46.7dB)からサリン+D(70.0dB)または対照群(62.9dB)に比べて聴力が改善し始め、この傾向は4日目(46.7dB)、8日目(52.5dB)、12日目(47.5dB)、21日目(46.7dB)、30日目(50.0dB)までもよく維持できた。従来の標準的な治療方法であるサリン+Dに比べた場合、SERDENによる治療効果は23.3dB~26.7dBほどに優れた。一般的に、臨床的に有意な聴力差が15
dBであることを考えると、23.3 dB - 26.7 dBほどより優れた治療効果は臨床的に有意なレベルの差であった。
中間周波数である16kHzでも同様の差が示された。従来の標準的な治療方法であるサリン+Dに比べた場合、SERDENの治療効果は16.8 dB-23.3 dBほどより優れた。臨床的に有意な聴力差が15dBであることを考えると、16kHzで16.8dB-23.3dBほどより優れた治療効果は臨床的に有意なレベルの差であった。
最も低周波数の8kHzでもSURDENにおける治療効果が最も優れた。従来の標準的な治療方法であるサリン+Dに比べた場合、SERDENによる治療効果は1.7dB-10.8dBほどより優れた(図5)。
【0073】
以上の結果を総合した結果、SURDENの難聴治療効果は、既存の標準的な治療方法であるサリン+Dに比べて有意に優れていることを確認した。
【0074】
実施例5:炎症反応の有無の確認
本発明者らは、先行登録特許(10-1877894)に公開された方法と本発明による方法が内耳で炎症反応を誘発するか否かについて比較した。
【0075】
まず、正常聴力のラットに騒音にて難聴を誘発した後、先行登録特許に開示された方法に従って図6に示した3つのグループ((1)デキサメダゾン+サリン(D+サリン)、(2)デキサメタゾン+IGF-1+サリン(D&G+サリン),(3)デキサメダゾン担持PLGAのマイクロカプセル+IGF-1+HA(cD&G+HA))に分けて各薬物を鼓膜内に注入し、45日目まで聴力検査、鼓膜内視鏡、CT撮影を進行した。
そして、本発明によるSURDEN投与群も前述と同一の方法で実験を行った。
【0076】
これに対する結果を図7に示した。
図8に示したように、鼓膜を介して薬物を注入した後、中耳組織に炎症反応を起こす個体について、各群別に比率を計算した場合、デキサメタゾン担持PLGAのマイクロカプセル+IGF-1+HA群における炎症発生率が42.3%であり、他のグループに比べて2倍ほどに高いことが観察された。
一方、SURDEN投与群では何の炎症反応も見られなかった(結果は図示せず)。
【0077】
実施例6:ヒアルロン酸分子量による制御放出能および難聴治療効果の比較
前記実施例2で使った超高分子量のヒアルロン酸の分子量による制御放出能効果を比較して評価するため、前記実施例2においてSURDENを製造するために使った超高分子量(重量平均分子量が7,000,000g/mol)より相対的に低分子量のヒアルロン酸(1,000,000~3,000,000g/mol)を利用した伝達体の制御放出能を比較評価した。
【0078】
具体的に、7,000,000g/molの重量平均分子量を有するヒアルロン酸水溶液(SURDEN)または1,000,000~3,000,000g/molの分子量を有するヒアルロン酸水溶液(Low viscosity vehicle)に造影剤を添加し、これらの各試料を正常聴力のラットの鼓膜内に注入した後、9.4T MRIを用いて撮影した後、定量分析を行った。
【0079】
これに対する結果を図9に示した。
図9に示したように、前庭系と鼓室系で造影強度が増加したことが確認でき、SURDEN投与群が全ての時点、全ての領域においてLow viscosity veh群よりも強い相乗効果を示すことが確認できた。
また、図10に示したように、これを定量化した結果、蝸牛管の下、中、上層部におけるSURDEN投与群のシグナル強度は、いずれもLow viscosity vehicle群よりも高いことが確認できた。
結論として、SURDENの場合、相対的に低分子量のヒアルロン酸を用いた伝達体よりも薬物をより高い濃度で、より長い期間、より多くの量を持続させ、内耳の薬物伝達において薬物放出能力がより優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る超高分子ヒアルロン酸水溶液を薬物伝達体として含む薬物制御放出型製剤及び難聴治療用薬学的組成物は、1回の投与で数週間から数ヶ月間治療効果を発揮することができるので、全身的副作用を誘発せず、反復的な施術なしに効果的な疾患の治療を可能にする。また、本発明の薬物制御放出型製剤にはヒアルロン酸架橋のための化学架橋剤が使われないため、炎症反応などの副作用の発生リスクが非常に低く、産業上の利用可能性が非常に高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】