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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】射出成形部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20230428BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20230428BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20230428BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230428BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20230428BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20230428BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230428BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/14
C08K5/544
B29C45/00
B29C70/42
H01M8/0221
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553178
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2021057809
(87)【国際公開番号】W WO2021191381
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】20166009.9
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】クレーヴクール, イェロン ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】チウ, ジュン
【テーマコード(参考)】
4F205
4F206
4J002
5H126
【Fターム(参考)】
4F205AA34
4F205AB11
4F205AB25
4F205AH33
4F205HA12
4F205HA34
4F205HA36
4F205HB01
4F205HF01
4F205HK04
4F206AA34
4F206AB11
4F206AB16
4F206AB25
4F206AH33
4F206JA07
4F206JL02
4J002CN011
4J002DL006
4J002EX077
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD207
4J002GQ02
5H126AA12
5H126BB06
5H126GG11
5H126GG18
5H126JJ05
(57)【要約】
本発明は、a.50重量%~90重量%の量のポリアリーレンスルフィド(PAS)、b.10重量%~50重量%の量のガラス繊維を含む組成物を含む射出成形部品であって、組成物は、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有し、組成物は、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有し、重量パーセント及びppmは、組成物の全重量に対するものである、射出成形部品に関する。本発明は、射出成形部品を含む燃料電池にさらに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.50重量%~90重量%の量のポリアリーレンスルフィド(PAS)、
b.10重量%~50重量%の量のガラス繊維
を含む組成物を含む射出成形部品であって、前記組成物は、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有し、前記組成物は、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有し、前記重量パーセント及びppmは、前記組成物の全重量に対するものである、射出成形部品。
【請求項2】
前記PASの量は、60重量%~80重量%であり、及び前記ガラス繊維の量は、20重量%~40重量%であり、前記重量パーセントは、前記組成物の全重量に対するものである、請求項1に記載の射出成形部品。
【請求項3】
前記組成物は、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で2000ppmのナトリウム含有量を有する、請求項1又は2に記載の射出成形部品。
【請求項4】
前記PASは、前記PASの全重量に対して最大で500ppmのナトリウム含有量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項5】
前記ガラス繊維は、前記ガラス繊維の全重量に対して最大で3000ppmのナトリウム含有量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項6】
前記ガラス繊維は、前記ガラス繊維の全重量に対して最大で800ppmのナトリウム含有量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項7】
前記PASは、ISO 11357-1/3(2009)の方法に従うDSCにより、前記組成物を320℃まで10℃/分のスキャン速度で加熱し、且つ前記組成物を窒素下で320℃において3分間にわたって保持し、且つその後、同じスキャン速度で前記組成物を冷却して、第1の冷却サイクルにおいて冷却結晶化温度を記録して測定される、少なくとも230℃の結晶化温度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項8】
前記組成物は、オートクレーブ中で1000時間、110℃の温度での水蒸気への暴露後、23℃においてISO 527-1A 5mm/分に従って測定される、厚さ4mmの射出成形された引張試験片上で少なくとも160MPa、好ましくは少なくとも165MPa、より好ましくは少なくとも170MPaの引張強さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項9】
前記組成物は、オートクレーブ中で1000時間、110℃の温度での水蒸気への暴露後、23℃においてISO 527-1A 5mm/分に従って測定される、厚さ4mmの射出成形された引張試験片上で少なくとも1.2%、好ましくは少なくとも1.3%、より好ましくは少なくとも1.4%、さらにより好ましくは少なくとも1.5%、最も好ましくは少なくとも1.6%の破断点伸びを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項10】
前記ポリアリーレンスルフィドは、ポリフェニレンスルフィドである、請求項1~9のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項11】
前記組成物は、前記組成物の全重量に対して0.1重量%~1.0重量%の量でカップリング剤をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の射出成形部品。
【請求項12】
前記カップリング剤は、アミノアルコキシルシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及び/又はγ-アミノプロピルトリメトキシシランである、請求項11に記載の射出成形部品。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の射出成形部品を含む燃料電池。
【請求項14】
ポリアリーレンスルフィド及びガラス繊維を含む組成物であって、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有し、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有し、前記重量パーセント及びppmは、前記組成物の全重量に対するものである、組成物を調製する方法であって、例えば押出機を用いて、前記PASをその溶融温度より高い温度まで加熱する工程と、その後、ガラス繊維を添加して混合物を得る工程であって、その後、前記混合物は、冷却され、且つ好適にペレット化され得る、工程とを含む方法。
【請求項15】
アミノアルコキシルシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及び/又はγ-アミノプロピルトリメトキシシランであるカップリング剤は、前記ガラス繊維と一緒に前記PASに添加される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド及びガラス繊維を含む組成物を含む射出成形部品に関する。特に、本発明は、射出成形部品を含む燃料電池応用に関する。本発明は、ポリアリーレンスルフィド及びガラス繊維を含む組成物を調製する方法並びに前記組成物を含む射出成形部品を調製する方法にも関する。
【0002】
燃料電池、特にプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、水素燃料を酸素と組み合わせて、電気、熱及び水を発生させる電気化学デバイスである。複数の燃料電池は、燃料スタックと呼ばれる。燃料スタックは、例えば、ポリマー組成物及び/又は金属などの種々の材料から製造された種々の構成要素と一緒に数百個の個々の燃料電池も含み得る。個々の燃料電池のそれぞれは、バイポーラ板、ガス拡散層及びプロトン交換膜と白金触媒層とのサンドイッチ構造を有する。白金触媒は、水素分子を酸化させ、それにより、選択的に水素イオンをアノードからカソードに通過させ、外部デバイスを通してカソードに電子を電流として移動させる。燃料電池内での化学反応の性質を考えると、燃料電池スタックのための構成要素を製造するために利用される材料から浸出するイオンは、最小化されなければならず、理想的には防止されなければならない。燃料電池スタック中に使用される構成要素から浸出する不純物及びイオンは、触媒に対して有害となり得、膜を詰まらせ得、それは、燃料電池スタックの効率を有意に低下させ、その寿命時間に影響を及ぼし得る。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド及びガラス繊維を含有する射出成形部品である燃料電池のためのいずれの構成要素も、燃料電池スタックの効率を維持するために低いイオン浸出を示さなければならない。さらに、特に水との接触時、これらの射出成形部分は、特に高温で十分な加水分解安定性を示さなければならない。燃料電池作動温度は、典型的には、50~80℃であり、約110℃のピーク温度を有し、このことから、より長い期間、高温で水に暴露された後でも、例えば十分な破断点伸び及び引張強さなどの十分な加水分解安定性と組み合わせて、低いイオン浸出を組み合わせる射出成形部品が必要とされる。
【0004】
本発明の目的は、特に高温での水又は水/グリコールへの暴露後、特に加水分解環境下において、十分な破断点伸び及び/又は引張強さなどのより低いイオン浸出及び十分な器械的保定を示す射出成形部品を提供することである。驚くべきことに、これは、
a.50重量%~90重量%の量のポリアリーレンスルフィド(PAS)、
b.10重量%~50重量%の量のガラス繊維
を含む組成物を含む射出成形部品であって、組成物は、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有し、組成物は、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有し、重量パーセント及びppmは、組成物の全重量に対するものである、射出成形部品によって達成された。
【0005】
米国特許出願公開第2018265701号明細書は、減少された塩素含有量及び減少されたナトリウム含有量を有するポリアリーレンスルフィド樹脂とフィラーとを含む樹脂組成物に関する。しかしながら、ベンゼンのヨウ素化を利用してポリアリーレンスルフィドが調製され、さらに硫黄元素を還元させてポリフェニレンスルフィドを形成させるため、組成物は、高いヨウ素含有量を有する。このため、この重合プロセスにおいて、このプロセスでヨウ素回収を完全に実現することは、困難であり、コストの高いポリアリーレンスルフィドをもたらすという不都合がある。そのうえ、ヨウ素部分は、ポリマー鎖中及び/又は末端基で蓄積し、ポリアリーレンスルフィドの各熱加工においてさらに活性になり得る。
【0006】
射出成形部品は、それ自体既知であり、当業者に既知である射出成形プロセスによって得られる。射出成形は、PASを含む組成物をPASの溶融温度より高い温度まで加熱して溶融物を得る工程と、型に溶融物を装填する工程と、その後、組成物が凝固して射出成形部品となるように型及び組成物を冷却する工程とを含む。
【0007】
本発明による射出成形部品は、50重量%~90重量%の量でポリアリーレンスルフィド(PAS)を含む組成物を含み、重量パーセントは、組成物の全重量に対するものである。好ましくは、PASは、55重量%~85重量%、より好ましくは60重量%~80重量%、最も好ましくは60重量%~70重量%の量で存在する。好ましい実施形態において、PASは、ポリ(p-フェニレン)スルフィド(PPS)であり、これは、PPSが容易に入手可能であるという利点を有するためである。
【0008】
本発明による射出成形部品は、組成物の全重量に対して最大で3500ppm、好ましくは最大で3000ppm、さらにより好ましくは最大で2500ppm、最も好ましくは最大で2000ppmのナトリウム含有量を有する組成物を含む。ナトリウム含有量は、下記の通り、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定され得る。組成物のナトリウム含有量は、20ppm程度の低さであり得る。
【0009】
好ましくは、本発明による射出成形部品は、ISO 11357-1/3(2009)の方法に従うDSCにより、組成物を320℃まで10℃/分のスキャン速度で加熱し、且つ組成物を窒素下で320℃において3分間にわたって保持し、且つその後、同じスキャン速度で組成物を冷却して、第1の冷却サイクルにおいて冷却結晶化温度を記録して測定される、少なくとも230℃、より好ましくは少なくとも235℃、最も好ましくは少なくとも240℃の結晶化温度(Tc)を示す組成物を含む。これは、それが射出成形部品の加水分解安定性を改善するという利点を有する。
【0010】
好ましくは、本発明による射出成形部品は、最大で500ppm、より好ましくは最大で400ppm、最も好ましくは最大で300ppm、さらにより好ましくは最大で250ppmの量でナトリウム含有量を有するPAS、より好ましくはPPSを含み、ppmは、それぞれPAS又はPPSの全重量に対するものである。ナトリウム含有量は、5ppm程度の低さであり得る。
【0011】
本発明による射出成形部品は、繰り返し単位として、PASが主に-(Ar-S)-によって構成される組成物を含む(Arは、アリーレン基である)。アリーレン基の例は、p-フェニレン基、m-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基及びナフタレン基である。PASは、当業者に既知のプロセスによって重合され得る。特に好ましい製造プロセスは、ポリアリーレンスルフィドを生じるために有機極性溶媒中で硫黄供給源及びジハロ芳香族化合物を重合させる重合工程を含む。前記製造プロセスは、PPSに関して、米国特許第3,919,177号明細書によって開示されている。前記製造プロセスは、PAS中にいずれの連鎖結合及び/又はいずれの遊離ヨウ素も発生させない。PPSなどの得られたPASは、ヨウ素を含まないか、又は存在する場合、ヨウ素含有量は、10ppm未満、好ましくは5ppm未満である。上記のPASの低いナトリウム含有量は、酸洗浄によって達成され得る。酸洗浄は、それ自体既知の手順である。PASの重合後、PASは、好ましくは、酸で洗浄すること、熱水で洗浄すること若しくは有機溶媒で洗浄すること又はそれらの組合せによって処理されて、-SNaから-SHにPASの末端基を変化させる。好ましくは、洗浄溶液は、2~7のpH値を有し、好適な洗浄溶液は、酢酸(CH3COOH)、リン酸(H3PO4)及びシュウ酸(C2H2O4)又は他の有機酸であり得、より好ましくは酢酸が使用される。
【0012】
加えて、好ましくは、PAS、好ましくはPPSの結晶化温度(Tc)は、ISO 11357-1/3(2009)の方法に従うDSCにより、組成物を320℃まで10℃/分のスキャン速度で加熱し、且つ組成物を窒素下で320℃において3分間にわたって保持し、且つその後、同じスキャン速度で組成物を冷却して、第1の冷却サイクルにおいて冷却結晶化温度を記録して測定される、少なくとも230℃、より好ましくは少なくとも235℃、最も好ましくは少なくとも240℃であり、これにより射出成形部品の加水分解安定性が改善される。
【0013】
好ましくは、PASは、10000~100000g/モルの範囲、より好ましくは20000~80000g/モルの範囲、さらにより好ましくは30000~80000g/モルの範囲、最も好ましくは30000~70000g/モルの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0014】
好ましくは、本出願において好適なポリアリーレンスルフィドは、3未満、好ましくは2.5未満、より好ましくは2.1未満のPDI(重量平均分子量/数平均分子量;Mw/Mn)を有する。
【0015】
本発明に関して、ポリアリーレンスルフィドのモル質量は、SEC分析のための一般ガイドラインに従い、続いてASTM D5296-06に従い、高温サイズ排除クロマトグラフィーによって決定された。PAS(又は該当する場合にはPPS)試料を230℃において約2mg/mlで1-クロロナフタレン中に溶解した。示差屈折率(RI)、示差粘度計(DV)並びに15°及び90°の散乱角で作動する倍角光散乱検出器を備えたAgilent PL-GPC 220クロマトグラフを使用した。光散乱データ算出において、0.167の1-クロロナフタレン中のPPSのためにdn/dcが適用された。ポリマー分離では、10μmの粒径を有するThree Polymer Laboratories PLgel Mixed-B、300×7.5mmカラムを利用した。ポリマー溶液の注入量は、200μlに等しかった。使用された溶離剤は、100ppmのDBPC(BHT)を有する1-クロロナフタレンであった。分析温度は、210℃に設定され、1ml/分のフロー速度が適用された。明確な線形試料によって光散乱検出器が校正された三重アプローチを用いて、モル質量が算出された。後者は、多検出器オフセットを測定するためにも使用された。
【0016】
本出願のPASの線形は、好適には、C.J.Stacy,Molecular weight distribution of polyphenylene sulfide by high temperature gel permeation chromatography,Journal of Applied Polymer Science,32(1986)3,pp3959-3969によって教示及び決定される、0.70±0.03のマーク-ハウインク(Mark-Houwink)パラメーターを有する。
【0017】
PAS、好ましくはPPSは、好ましくは、316℃において5kgで測定されて、ISO 1133の方法によって決定された、場合、50~1000g/10分、好ましくは150~1000g/10分、より好ましくは200~800g/10分、最も好ましくは300~600g/10分のメルトフローを有する。
【0018】
本発明による組成物を含む射出成形部品は、10重量%~50重量%の量でガラス繊維を含み、重量パーセントは、組成物の全重量に対するものである。「ガラス繊維」は、本明細書では、少なくとも5の、長さ(L)と、幅及び厚さの最大(D)との間の平均比率として定義されるアスペクト比L/Dを有するガラス粒子であることが理解される。好ましくは、ガラス繊維のアスペクト比は、少なくとも10、より好ましくは少なくとも20である。好適なガラス繊維は、約6~25μmの直径を有する。ガラス繊維は、一般に、1~10mmの長さ及び6~15umの直径を有し、平坦な形状と、長い方の断面軸の幅が6~40umの範囲であり、且つ短い方の断面軸の幅が3~20mの範囲である非円形の断面積とを有し得る。ガラス繊維は、好ましくは、Eガラス繊維、Aガラス繊維、Cガラス繊維、Dガラス繊維、Sガラス繊維及び/又はRガラス繊維の群から選択される。3Bから入手可能なDS8800-11P 4mmなどのガラス繊維が特に好適である。
【0019】
好ましくは、ガラス繊維は、20重量%~45重量%、より好ましくは20重量%~40重量%、さらにより好ましくは25重量%~40重量%、最も好ましくは30重量%~40重量%の量で存在し、重量パーセントは、組成物の全重量に対するものである。好ましくは、ガラス繊維は、ICP-AESで測定された場合、ガラス繊維の全重量に対して5000ppm未満のナトリウム含有量を有する。好ましくは、ガラス繊維は、最大で3000ppm、より好ましくは最大で1000ppm、さらにより好ましくは最大で800ppmのナトリウム含有量を有し、ppmは、ガラス繊維の全重量に対するものである。最小ナトリウム含有量は、50ppm程度の低さであり得る。
【0020】
ガラス繊維が組成物中に存在する形態は、連続フィラメント繊維のもの又は切断若しくは粉砕ガラス繊維のものであり得る。繊維は、好適なサイズ系を含み得、好ましくは、中でも、特にシランをベースとするカップリング剤を含む。例えば、好適なシランとしては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及びN-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランが含まれ、好ましくは、アミノアルコキシルシランは、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及び/又はγ-アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0021】
射出成形部品は、
a.50重量%~90重量%の量のポリアリーレンスルフィド(PAS)、
b.10重量%~50重量%の量のガラス繊維
を含む組成物を含み、重量パーセントは、組成物の全重量に対するものであり、組成物は、ICP-AESで測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有する。組成物のナトリウム含有量は、好ましくは、最大で3000ppm、より好ましくは最大で2500ppm、さらにより好ましくは最大で2000ppmである。組成物のナトリウム含有量は、20ppm程度の低さであり得る。
【0022】
混合された組成物中又は射出成形部品中のPASのナトリウム含有量は、以下の方法に従い、ICP-AESによって測定される。ナトリウムは、燃焼中に安定のままであるため、試料は、灰残渣法によって調製される。
【0023】
工程1:約5グラムの試料をセラミックるつぼ中に正確に重量測定し、ブンゼンバーナーを用いてゆっくりと燃焼させる。次いで、燃焼した残渣を3時間、600℃のマッフル炉中に配置し、確実に完全焼却させる。最初の試料中の実際のナトリウム濃度の再計算のために灰のパーセンテージが使用されるため、再びるつぼの重量を測定し、灰含有量を定量化する。
【0024】
工程2:プラチナ実験器具を使用し、5グラムのメタホウ酸リチウムと一緒に、1250℃で約1グラムの灰残渣を融解する。両方とも量を正確に重量測定する。
【0025】
工程3:正確に重量が測定された約1グラムの融解された材料を、その後、16時間、振動台を使用して、10mlのHSO及び10mlのHO中に溶解する。
【0026】
工程4:溶解された溶液をHOで100mlまでさらに希釈する。
【0027】
工程5:Thermo ScientificからのiCAP6500分光計を使用して、得られた溶液をICP-AESによって分析する。測定は、Alfa Aesarからの認定Specpure(登録商標)標準液によって作成された校正ラインに対して実行される。
【0028】
射出成形部品は、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有する組成物を含む。好ましくは、ヨウ素含有量は、最大で80ppm、より好ましくは最大で70ppm、最も好ましくは最大で50ppmである。組成物のヨウ素含有量は、非常に低くてもよく、したがって通常約20ppmであるXRF法の検出限界より低くてもよい。
【0029】
ヨウ素含有量は、蛍光X線(XRF)によって測定される。ヨウ素は、その不安定性のため、試料燃焼法によって測定不可能であるため、ヨウ素は、XRF分析により、最初のポリマーのままで又は組成物中で直接分析される。フラットプラーク、例えば引張試験片などの部品は、計量カップの底が全体的に被覆される(直径40mm、厚さ4mm)ような方法で穿孔される。次いで、Rh X線管を備えたPanalyticalからのAXIOS mAX Advanced WDXRF分光計を使用するXRFにより、プラークを分析する。ヨウ素シグナルの正しい位置を確認するために、参照試料が同時に分析される。
【0030】
好ましい実施形態において、射出成形部品は、組成物の全重量に対して0.1重量%~1.0重量%の量のカップリング剤をさらに含む組成物を含む。驚くべきことに、これにより、組成物のさらなる加水分解安定性の改善が導かれる。
【0031】
カップリング剤は、それ自体既知であり、一般式(I):
(X-(CH2)-Si-(O-C(2n+1)(4-y) 式(I)
を有し、式中、置換基の定義は、以下の通りである。
Xは、NH2である。
xは、1~10、好ましくは2又は3の整数であり、
yは、0~3、好ましくは0又は3の整数であり、
nは、1~3、好ましくは1又は2の整数である。
【0032】
好適なカップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γアミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及びN-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランが含まれ、好ましくは、アミノアルコキシルシランは、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及び/又はγ-アミノプロピルトリメトキシシランである。カップリング剤は、組成物を調製している間に添加され得、それは、通常、押出機中で混合することによって実行される。好ましくは、カップリング剤は、ガラス繊維と一緒に側方供給で添加される。他の好適なカップリング剤は、例えば、米国特許出願公開第2015/0166731A1号明細書に開示されるように、ウレイドプロピルトリメトキシシラン又はウレイドプロピルトリエトキシシランである。驚くべきことに、カップリング剤の添加により、さらに加水分解安定性を示す組成物が導かれる。
【0033】
本発明は、上記で開示される実施形態のいずれかによる射出成形部品を含む燃料電池にも関する。これらの射出成形部品には、例えば、限定されないが、メディア分配プレート、マニホールド、絶縁プレート、メディアコネクター、空気流制御弁、空気流遮断器、水素インジェクター、水素供給バルブ、水素調整弁、圧力制御弁、水素循環ポンプ、加湿機、サーモスタット、電気制御冷却弁、電気制御冷却剤ポンプが含まれる。
【0034】
本発明の一実施形態は、上記で開示される射出成形部品であって、組成物は、1000時間、135℃の温度での水グリコール(W/G)混合物(50%/50% 体積%/体積%)への暴露後、23℃においてISO 527-1A 5mm/分に従って測定される、厚さ4mmの射出成形された引張試験片上で少なくとも170MPa、好ましくは少なくとも175MPa、より好ましくは少なくとも180MPaの引張強さを示す、射出成形部品に関する。別の実施形態において、本発明は、上記で開示される射出成形部品であって、組成物は、1000時間、135℃の温度での水グリコール(W/G)混合物(50%/50% 体積%/体積%)への暴露後、23℃においてISO 527-1A 5mm/分に従って測定される、厚さ4mmの射出成形された引張試験片上で少なくとも1.5%、好ましくは少なくとも1.6%、より好ましくは少なくとも1.7%の破断点伸びを示す、射出成形部品に関する。好ましい実施形態において、射出成形部品は、上記で開示される引張強さ及び破断点伸びの組合せを示す。全ての個々の範囲は、明示的に組み合わせ可能である。驚くべきことに、射出成形部品は、イオンの浸出を減少させながら、高温での水/グリコールへの曝露後、十分な引張強さ及び破断点伸びを組み合わせる。これにより、特に、射出成形部品が、水を含有する流体と接触し得る応用が可能となる。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明は、上記で開示される射出成形部品であって、組成物は、オートクレーブ中で1000時間、110℃の温度での水蒸気への暴露後、23℃においてISO 527-1A 5mm/分に従って測定される、厚さ4mmの射出成形された引張試験片上で少なくとも160MPa、好ましくは少なくとも165MPa、より好ましくは少なくとも170MPaの引張強さを示す、射出成形部品に関する。別の実施形態において、本発明は、上記で開示される射出成形部品であって、組成物は、1000時間、110℃の温度での水への暴露後、23℃においてISO 527-1A 5mm/分に従って測定される、厚さ4mmの射出成形された引張試験片上で少なくとも1.2%、好ましくは少なくとも1.3%、より好ましくは少なくとも1.4%、さらにより好ましくは少なくとも1.5%、最も好ましくは少なくとも1.6%の破断点伸びを示す、射出成形部品に関する。好ましい実施形態において、射出成形部品は、上記で開示される引張強さ及び破断時の伸びの組合せを示す。全ての個々の範囲は、明示的に組み合わせ可能である。燃料電池応用では、射出成形部品は、高温で水と接触し得、驚くべきことに、本発明による射出成形部品は、イオンの浸出を減少させながら、十分な破断点伸び及び引張強さを示す。
【0036】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド及びガラス繊維を含む組成物であって、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有し、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有し、重量パーセント及びppmは、組成物の全重量に対するものである、組成物を調製する方法であって、例えば押出機を用いて、PASをその溶融温度より高い温度まで加熱する工程と、その後、ガラス繊維を添加して混合物を得る工程であって、その後、この混合物は、冷却され、且つ好適にペレット化され得る、工程とを含む方法にさらに関する。好ましくは、組成物がカップリング剤をさらに含む場合、カップリング剤は、ガラス繊維と一緒に側方供給でPASに添加され、より好ましくは、カップリング剤は、アミノアルコキシルシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及び/又はγ-アミノプロピルトリメトキシシランである。上記で開示される全ての好ましい範囲は、組成物を調製する方法にも適用可能である。
【0037】
本発明は、
a.50重量%~90重量%の量のポリアリーレンスルフィド(PAS)、
b.10重量%~50重量%の量のガラス繊維
を含む組成物であって、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)によって測定された場合、最大で3500ppmのナトリウム含有量を有し、蛍光X線(XRF)によって測定された場合、最大で100ppmのヨウ素含有量を有し、重量パーセント及びppmは、組成物の全重量に対するものである、組成物にも関する。組成物を含む射出成形部品に関して上記で開示される全ての好ましい範囲は、組成物に関する本発明にも適用可能である。
【0038】
[実施例:]
[使用した材料:]
[ガラス繊維:]
ガラス繊維に対して4500ppmのナトリウム含有量を有する、NEGから入手可能なNEG ECS03T-747H/R。ヨウ素含有量は、検出限界未満であった。
ガラス繊維に対して400ppmのナトリウム含有量を有する、3Bから入手可能なDS8800-11P 4mm。ヨウ素含有量は、検出限界未満であった。
【0039】
[PPS:]
PPS A及びPPS 1は、米国特許第3,919,177号明細書に記載のプロセスに従って製造された。このプロセスでは、所望のMwに達するまで、パラ-ジクロロベンゼンを約250℃の高温でN-メチル-2-ピロリドン溶媒中においてNaHSと反応させた。PPS 1には、重合後、80℃の温度で水による洗浄工程をさらに行い、低いナトリウム含有量を導く-SHに部分的に変換することにより、-SNa末端基の量を低下させた。
【0040】
PPS A及びPPS 1の分子特徴、結晶化温度、ナトリウム及びヨウ素含有量は、上記で本明細書に記載される方法によって決定した。
【0041】
結果を以下に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
PPSの全重量に対して0.15重量%である1500ppmのナトリウム含有量を有するPPS A。
400ppmのナトリウム含有量を有するPPS 1。
PPS A及びPPS 1は、検出限界未満のヨウ素含有量を有する。
【0044】
比較材料B:東レ(Toray)から入手可能なA504X90(C)。これは、PPSの全重量に基づいて1700ppmのナトリウム含有量を有するPPS及び40重量%のガラス繊維を含有する。比較材料Bのヨウ素含有量は、検出限界未満である。
【0045】
比較材料C:Celaneseから入手可能な1140L4。この組成物は、組成物の全重量に基づいて40重量%のガラス繊維を含有し、且つ0.47重量%(4700ppm)のナトリウム含有量を有する。比較材料Cのヨウ素含有量は、検出限界未満である。
【0046】
【表2】
【0047】
東レから得られた比較B及びCelaneseから得られた比較Cを除いて、表1に示される材料を混合することによって組成物を調製した。
【0048】
ガラス繊維の破損を回避するために、PPS及びカップリング剤の混合物をガラス繊維と組み合わせ、約315℃~約420℃の温度で二軸押出機を使用して融解混合した。融解した組成物を押出成形してストランドを作成し、これを水浴に通過させ、ペレットに切断した。得られたペレットを少なくとも4時間、140℃で乾燥させ、次いで135℃~150℃の型キャビティ表面温度において、315℃~345℃の融解温度での射出成形によって試験物品に成形し、例えば引張強さ試験、引張弾性試験、引張歪みを試験した。
【0049】
表2の場合の全ての引張試験は、標準試験法ISO 527-2に従って実行された。試験物品に引張試験を受けさせ、初期特性値(T0時間値)を得た。データを表2-1~2-6に示す。試験物品に水グリコール(W/G)混合物(50%/50% 体積%/体積%)を受けさせた。試験物品のW/G老化は、表2-1~2-3に示されるように、様々な期間(例えば、1週、2週及び6週)にわたり、蒸気加熱を使用して135±2℃まで加熱した閉鎖ステンレス鋼圧力容器内で試験物品(例えば、成形試験片)をW/Gに完全に浸漬し、老化試験物品を得ることによって実行された。次いで、老化試験物品を回収し、引張試験を受けさせ、最終特性値を得た。データを表2-1~2-3に示す(135℃で老化され、23℃で試験された引張特性)。表中の「n.m.」は、測定されなかったことを意味する。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
[110℃でのオートクレーブ老化]
試験物品に引張試験を受けさせ、表中でT0と記載される初期特性値を得た。データを表2-4~2-6に示す。試験物品に、表2-4~2-6に示されるように、様々な期間にわたり、すなわち500時間及び1000時間後、オートクレーブ中で110℃において水蒸気を受けさせ、老化試験物品を得た。次いで、老化試験物品を回収し、引張試験を受けさせ、最終特性値を得た。データを表2-4~2-6に示す。これは、110℃で老化され、23℃で測定された引張特性を示す。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
表2-1~2-3は、種々の試料の弾性率が類似していることを明確に示す。引張強さ及びEABは、実施例1に関して最も高く、W/Gへの長期曝露後もより高いままである。比較Bは、引張強さ及びEABの劇的な減少を示し、これらは、1008時間後にもはや測定されなかった。
【0058】
表2-4~2-6は、種々の試料の弾性率が類似していることを示す。また、ここで、引張強さ及びEABは、実施例1に関して最も高く、水蒸気への長期曝露後もより高いままである。比較A及びCは、1000時間後でも値が依然として十分であった実施例1とは対照的に、引張強さ及びEABの劇的な減少を示した。
【0059】
[浸出実験]
[試料情報]
浸出実験のために引張試験片として3つの組成物、すなわち表1に記載の比較A、比較B及び実施例1を使用した。1/2の引張試験片を使用した。試験片は、以下の特性を有した;4.0mmの厚さ、全表面積32cm。試験片のためにISO 527-1Aを使用した。
【0060】
[浸出インキュベーションプロトコル]
1)試験片を100mlの超高純度水に入れた(=32mm/ml);
2)閉鎖テフロン(商標)FEBボトル中において90℃でオーブン老化した;
3)90℃で6週間のインキュベーション。その100mlにICP-AES測定を受けさせた。テフロンボトル中の100mlのBlancoインキュベーションによる参照試料も含まれた。
【0061】
[浸出結果のためのICP-AESセットアップ]
ICP-AESスクリーニングのために約15mlの液体を採取した。測定前に0.5mlのHNOで試料を酸性化した。認定参照標準を用いて、定量的多成分スクリーニングを実行した。Thermo ScientificからのiCAP6500 ICP-AESを用いて測定を実行した。Si、Ca、Al、K及びNaの主要な5種の浸出元素を表3に示す。浸出挙動の有意な相違点を様々なPPS試料間で観察した。
【0062】
【表9】
【0063】
比較Bは、全ての報告された元素に関して、最悪の浸出性能を明確に示した。次に比較Aが接近して悪かった。実施例1は、全ての報告された元素に関して最も低い浸出含有量を明確に示した。
【国際調査報告】