(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】リポソーム組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20230428BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20230428BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230428BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230428BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230428BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K33/24
A61P35/00
A61K47/24
A61K47/34
A61K47/28
A61K31/555
A61K31/282
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554389
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 US2021021605
(87)【国際公開番号】W WO2021183588
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506255902
【氏名又は名称】中原大學
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、イーチュイ
(72)【発明者】
【氏名】グスティ ングラ プトゥ、エカ プトラ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076CC27
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076FF67
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA32
4C086HA12
4C086HA28
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086NA07
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA44
4C206NA07
4C206ZB26
(57)【要約】
本発明はリポソーム組成物の調製方法を提供する。この方法は、白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供するステップと、リポソーム前駆体を塩溶液中で培養することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を得るステップと、を含む。このリポソーム前駆体は、白金系薬物を水和させて白金系薬物前駆体を得るステップと、白金系薬物前駆体を脂質二重層担体に添加してリポソーム前駆体を得るステップと、によって調製される。この方法で調製されたリポソーム組成物は良好な被覆率及び強い薬物負荷能力を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供するステップと、
前記リポソーム前駆体を塩溶液中で培養することで、前記白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、
を含むことを特徴とする、リポソーム組成物の調製方法。
【請求項2】
前記リポソーム前駆体は、
前記白金系薬物を水和させて前記白金系薬物前駆体を形成するステップと、
脂質製剤を混合して脂質二重層担体を形成するステップと、
前記白金系薬物前駆体を前記脂質二重層担体に添加して前記リポソーム前駆体を形成するステップと、によって調製され、
前記脂質製剤は、ジステアロイルホスファチジルコリンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール3000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール4000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール5000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、及びポリエチレングリコール10000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選ばれる1つと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記白金系薬物を水和させる前記ステップは、前記白金系薬物と、硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、及びリン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物とを培養することである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脂質製剤はクロロホルム又はエタノールを含む有機溶液に混合される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記脂質二重層担体と前記白金系薬物前駆体の体積比が1:1~20:1である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記白金系薬物と前記脂質二重層担体のモル比が0.1:1~1:1である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記白金系薬物前駆体を前記脂質二重層担体に添加する前記ステップにおいて、前記脂質二重層担体における油と水の割合は1:0.01~1:0.8である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記白金系薬物は少なくとも1つの白金-ハロゲン結合を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記白金系薬物は、シスプラチン、トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン及びサトラプラチンからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記白金系薬物前駆体は、モノアクア型の前記白金系薬物及びジアクア型の前記白金系薬物のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記塩溶液は塩化物又は臭化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記白金系薬物前駆体の前記リポソーム前駆体における体積モル濃度が25mM~600mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記リポソーム前駆体を培養するための前記塩溶液の体積モル濃度が0.2M~4Mである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記リポソーム前駆体は4~65℃の前記塩溶液中で1~24時間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、
前記塩リポソームと白金系薬物前駆体を培養して前記白金系薬物前駆体を前記塩リポソームに入れて前記塩と反応させることで、前記白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含むことを特徴とする、リポソーム組成物の調製方法。
【請求項16】
前記塩リポソームは、
脂質製剤を混合して脂質二重層担体を形成するステップと、
前記塩を前記脂質二重層担体に添加して前記塩リポソームを形成するステップと、によって調製され、
前記脂質製剤は、ジステアロイルホスファチジルコリンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール3000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール4000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール5000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、及びポリエチレングリコール10000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選ばれる1つと、を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記脂質製剤はクロロホルム又はエタノールを含む有機溶液に混合される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記脂質二重層担体と前記塩の体積比が1:1~20:1である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記塩と前記脂質二重層担体のモル比が0.1:1~1:1である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記塩は油と水の割合が1:0.01~1:0.8である前記脂質二重層担体に添加されて溶解される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記白金系薬物は少なくとも1つの白金-ハロゲン結合を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記白金系薬物は、シスプラチン、トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン及びサトラプラチンからなる群から選ばれる、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記白金系薬物前駆体は、モノアクア型の前記白金系薬物及びジアクア型の前記白金系薬物のうちの少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記塩リポソームと前記白金系薬物前駆体は4~65℃で1~24時間混合される、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供し、及び塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、
前記リポソーム前駆体と前記塩リポソームを混合することで、前記白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含むことを特徴とする、リポソーム組成物の調製方法。
【請求項26】
前記リポソーム前駆体は、
前記白金系薬物を水和させて前記白金系薬物前駆体を形成するステップと、
前記白金系薬物前駆体を脂質二重層担体に添加して前記リポソーム前駆体を形成するステップと、によって調製される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記白金系薬物を水和させる前記ステップは、前記白金系薬物と、硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、及びリン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物とを培養することである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記脂質二重層担体は、ジステアロイルホスファチジルコリンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール3000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール4000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール5000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、及びポリエチレングリコール10000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選ばれる1つと、を含む脂質製剤を混合することで調製される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記脂質製剤はクロロホルム又はエタノールを含む有機溶液に混合される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記脂質二重層担体と前記白金系薬物前駆体の体積比が1:1~20:1である、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記白金系薬物と前記脂質二重層担体のモル比が0.1:1~1:1である、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記白金系薬物前駆体は、モノアクア型の前記白金系薬物及びジアクア型の前記白金系薬物のうちの少なくとも1つである、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記塩は塩化物又は臭化物を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記白金系薬物前駆体の前記リポソーム前駆体における体積モル濃度が25mM~600mMである、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記塩の前記塩リポソームにおける体積モル濃度が0.2M~4Mである、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記リポソーム前駆体と前記塩リポソームを4~65℃で1~24時間混合する、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2020年3月10日に出願された出願番号62/987366の米国仮出願の優先権を主張し、その全ては参照によって本特許出願に組み込まれる。
本発明は、リポソーム組成物に関し、特に白金系薬物前駆体を内包するリポソーム組成物及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シス-ジアミンジクロロ白金(cis-diaminedichloroplatinum(II),CDDP,シスプラチン(cisplatin)とも呼ばれる)は公知の一般的な化学療法薬である。しかし、この薬は水溶性が悪く、そして高い毒性により様々な副作用が起こる等の欠陥がある。
【発明の概要】
【0003】
シス-ジアミンジクロロ白金の溶解度を改善し、その毒性を低減するために、本発明のいくつかの実施例は、白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供するステップと、リポソーム前駆体を塩溶液中で培養することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含むリポソーム組成物の調製方法を提供する。
本発明の別の実施例は、塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、塩リポソームと白金系薬物前駆体を混合して白金系薬物前駆体を塩リポソームに入れて塩と反応させることで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含むリポソーム組成物の調製方法を提供する。
本発明の別の実施例は、白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供し、塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、リポソーム前駆体と塩リポソームを混合することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含むリポソーム組成物の調製方法を提供する。
本発明の別の実施例は、白金系薬物前駆体を内包する前駆体コアを提供し、塩を内包する塩コアを提供するステップと、前駆体コアと塩コアを混合することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソームコアを形成するステップと、リポソームコアと第1脂質製剤を混合してリポソーム組成物を形成するステップと、を含むリポソーム組成物の調製方法をさらに提供する。
本発明の別の実施例は、前記調製方法のいずれか1つによって調製されるリポソーム組成物をさらに提供する。このリポソーム組成物の薬物負荷率(%)は少なくとも10%である。
本発明のいずれかの実施例に係るリポソーム組成物によれば、白金系薬物の溶解度及びリポソーム粒子の被覆率を向上させることができる効果的な解決手段を提供する。本発明の実施例の調製方法によれば、リポソーム前駆体は、便利で低コストの調製方法によってリポソームに内包される白金系薬物に変換される。また、これらの調製方法は、リポソーム組成物の薬物負荷率(%)を向上させるための効果的な手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】本発明の例示的な一実施例に係るリポソーム組成物の調製の化学反応模式図である。
【
図2】本発明の例示的な一実施例に係るリポソーム組成物のシス-ジアミンジクロロ白金前駆体(CDDP precursor)の調製の化学反応模式図である。
【
図3】本発明の別の例示的な実施例に係るリポソーム組成物の調製の化学反応模式図である。
【
図4】本発明の別の例示的な実施例に係るリポソーム組成物の調製の化学反応模式図である。
【
図5】本発明の別の例示的な実施例に係るリポソーム組成物の調製の化学反応模式図である。
【
図6】本発明の例示的な一実施例に係るリポソーム組成物のクライオ電子顕微鏡(cryogenic electronMicroscopy,Cryo-EM)画像である。
【
図7】本発明の例示的な一実施例に係るリポソーム組成物のサイズ分布結果図である。
【
図8】本発明の例示的な一実施例に係るリポソーム組成物の動物モデルにおける薬物動態分析結果図である。
【
図9】リン酸緩衝塩溶液(PBS)による処理実験、シス-ジアミンジクロロ白金による処理実験、及び脂質二重層を担体とし且つ白金系薬物としてシス-ジアミンジクロロ白金を内包するリポソーム組成物(以下、LipoCisと略称)による処理実験をそれぞれ行ったヒト非小細胞肺癌(non-small-cell-lung-cancer,NSCLC)腺癌H1975細胞異種移植マウスモデルの腫瘍成長率及び腫瘍体積の変化結果図である。
【
図10】リン酸緩衝塩溶液による処理実験及びLipoCisによる処理実験をそれぞれ行ったA549細胞異種移植マウスモデルの腫瘍成長率、腫瘍体積、及び体重の変化結果図である。
【
図11】リン酸緩衝塩溶液による処理実験及びLipoCisによる処理実験をそれぞれ行ったH460細胞異種移植マウスモデルの有効用量変化による腫瘍体積、体重、腫瘍成長率及び体重変化の結果図である。
【
図12】リン酸緩衝塩溶液による処理実験、シス-ジアミンジクロロ白金による処理実験、及びLipoCisによる処理実験をそれぞれ行ったヒト口腔扁平上皮癌(human oral squamous cell carcinoma,HOSCC)SAS細胞異種移植マウスモデルの腫瘍体積変化結果図である。
【
図13】本発明の例示的な一実施例に係るヒト口腔扁平上皮癌マウスモデルにおける転移するSAS細胞の腫瘍縮小効果の結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は以下の詳細な説明からより十分に理解される。以下の詳細な説明は本発明を説明するためのものであり、限定するためのものではない。
図1を参照し、本発明の第1実施例では、リポソーム組成物の調製方法が提供される。該方法は、白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供するステップと、リポソーム前駆体を塩溶液中で培養することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含んでもよい。具体的には、リポソーム前駆体は、白金系薬物を水和させて白金系薬物前駆体を形成するステップと、白金系薬物前駆体を脂質二重層担体に添加してリポソーム前駆体を形成するステップと、によって調製することができる。
【0006】
白金系薬物を硝酸銀(AgNO3)、硫酸銀(Ag2SO4)、リン酸銀(Ag3PO4)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、硫酸カルシウム(CaSO4)、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、及び/又はリン酸マグネシウム(Mg(H2PO4)2)で培養することによって、白金系薬物を水和させることができる。
【0007】
いくつかの実施例では、白金系薬物は、少なくとも1つの白金-ハロゲン結合(platinum-halides bond)(例えば、白金-フッ素結合、白金-塩素結合、白金-臭素結合、又は白金-ヨウ素結合)を含んでもよい。いくつかの例において、白金系薬物は、シスプラチン(cisplatin)、トリプラチン(triplatin)、フェナントリプラチン(phenanthriplatin)、ピコプラチン(picoplatin)、サトラプラチン(satraplatin)、シス-ジアミンジヨード白金(II)、シス-ジアミンジフルオロ白金(II)、及びシス-ジアミンジブロモ白金(II)を含んでもよい。
【0008】
図2を参照し、白金系薬物前駆体は、モノアクア(monoaqua)型及び/又はジアクア(diaqua)型の白金系薬物であってもよく、例えば、cis-[Pt(NH
3)
2(H
2O)
2](NO
3)
2又はcis-[Pt(NH
3)
2(H
2O)
2]
2+である。白金系薬物前駆体は、水溶性を有するため、脂質二重層担体(例えば、リポソームナノ粒子)に内包され得る。
【0009】
脂質二重層担体は、脂質製剤を、例えば、クロロホルム、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、又はそれらの任意の組み合わせ等の有機溶液に混合することによって調製することができる。脂質製剤は、ホスファチジルコリン、コレステロール、及び、ポリエチレングリコール(PEG-based)含有化合物からなる組成物を含んでもよい。好ましくは、ホスファチジルコリンは中性脂質を含んでもよく、例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine,DSPC)、1,2-ジオレオイル-スズ-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine,DOPC)、1,2-ジパルミトイル-スズ-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine,DPPC)、1,2-ジラウロイル-スズ-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dilauroyl-sn-glycero-3-phosphocholine,DLPC)、1,2-ジミリストイル-スズ-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine,DMPC)、ヘキサデシルホスホリルコリン(hexadecyl phosphorylcholine,HePC)、1-ステアロイル-2-オレオイル-スズ-グリセロ-3-ホスホコリン(1-stearoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine,SOPC)、1,2-ジフィタノイル-スズ-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-diphytanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine,diPhyPC)、又はそれらの任意の組み合わせである。ポリエチレングリコール含有化合物は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(distearoylphosphatidyl ethanolamine(DSPE)-PEG)化合物であってもよく、例えば、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-200)-1,2-ジステアロイル-スズ-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(N-(carbonyl-methoxypolyethylene glycol-200)-1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine、ポリエチレングリコール200-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-200又はDSPE-mPEG-200)、ポリエチレングリコール400-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-400又はDSPE-mPEG-400)、ポリエチレングリコール800-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-800又はDSPE-mPEG-800)、ポリエチレングリコール1000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-1000又はDSPE-mPEG-1000)、ポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-2000又はDSPE-mPEG-2000)、ポリエチレングリコール2500-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-2500又はDSPE-mPEG-2500)、ポリエチレングリコール3000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-3000又はDSPE-mPEG-3000)、ポリエチレングリコール4000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-4000又はDSPE-mPEG-4000)、ポリエチレングリコール5000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-5000又はDSPE-mPEG-5000)、ポリエチレングリコール6000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-6000又はDSPE-mPEG-6000)、ポリエチレングリコール10000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG-10000又はDSPE-mPEG-10000)、又はそれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施例では、ポリエチレングリコール(PEG)含有化合物は、DSPE-PEG-アミノエチルアニサミド(DSPE-PEG-aminoethyl anisamide,DSPE-PEG-AEAA)、DSPE-PEG-モノクローナル抗体(DSPE-PEG-mAb)、及び他のリガンド部を有するDSPE-PEGから選ばれてもよい。
【0010】
脂質製剤は、水環境で疎水性作用及び/又はファンデルワールス相互作用により、自己組織化して脂質二重層担体を形成することができる。1つ又は複数の好ましい実施例において、脂質製剤の中性性質は、内包される活性薬物成分(API)又はその前駆体と結合する最小エネルギーを提供し、生体内の薬物放出を促進する。また、中性の脂質二重層担体は帯電した前駆体と相互作用しないため、ここで発生する薬物変換に影響又は阻害を与えることがない。
【0011】
いくつかの実施例では、リポソーム組成物の脂質二重層担体とシス-ジアミンジクロロ白金前駆体の体積比は1:1~20:1である。シス-ジアミンジクロロ白金前駆体と脂質二重層担体のモル比は0.1:1~1:1である。脂質二重層担体にシス-ジアミンジクロロ白金前駆体を添加し、脂質二重層担体の体積比(即ち、油と水の割合)は1:0.01~1:0.8である。白金系薬物前駆体の脂質二重層担体又はリポソーム前駆体における体積モル濃度は25mM~600mMであり、好ましくは1.5mM~5mMである。
【0012】
白金系薬物前駆体から白金系薬物に変換するために、リポソーム前駆体を塩溶液中で培養して、塩をリポソーム前駆体に入れることができる。この実施例では、塩溶液はフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ素化物、又はハロゲン基を有する他の塩類を含んでもよい。塩溶液の体積モル濃度は0.2M~4Mであり、具体的には、前記変換における塩として塩化ナトリウムを使用する場合、塩化ナトリウムの体積モル濃度は0.4M~3.9Mであってもよく、前記変換における塩として塩化カリウムを使用する場合、塩化カリウムの体積モル濃度は0.4M~3.0Mであってもよい。いくつかの実施例では、リポソーム前駆体は4~65℃の塩溶液中で1~24時間培養されてもよく、これにより塩をリポソーム前駆体に入れ、且つジアクア型のシス-ジアミンジクロロ白金前駆体をシス-ジアミンジクロロ白金に変換する。例を挙げると、リポソーム組成物の構造を安定化するために、リポソーム前駆体は、4~7℃の塩溶液中で一晩培養され、又は10-50℃の塩溶液中で2~15時間培養された後に冷却されてもよい。
【0013】
1つ又は複数の実施例において、高濃度の塩溶液は、ハロゲンイオンを脂質二重層担体を通過するように不可逆的に押圧する浸透圧を生じ、且つリポソーム構造の安定性に影響することなく、ハロゲンイオンをリポソーム前駆体内に滞留させる。リポソーム前駆体内のハロゲンイオンは活性成分薬物の変換のために消費されるため、より多くのハロゲンイオンがリポソーム前駆体内へ持続的に拡散される。このような浸透作用に基づく方法は、リポソーム前駆体内の薬物変換を促進するアプローチを提供し、コスト効率及び時間効率を有する。
【0014】
第1実施例において、ジステアロイルホスファチジルコリン、コレステロール及びポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンからなる脂質二重層を担体とし且つ白金系薬物としてシス-ジアミンジクロロ白金を内包するリポソーム組成物(以下、LipoCisと略称)を調製するために、シス-ジアミンジクロロ白金前駆体は、0.2~0.4ミリモルのシス-ジアミンジクロロ白金を0.3~0.4ミリモルの硝酸銀水溶液(AgNO3(aq))中で、25℃で16~18時間培養し、又は60℃で3~4時間培養することによって調製されてもよい。続いて、30~60℃且つ100~400rpmの回転数で、ジステアロイルホスファチジルコリン、コレステロール及びポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを40-50:25-50:10-30w/w%の重量比で10~60分間混合し、脂質二重層担体を形成する。その後、脂質二重層担体にシス-ジアミンジクロロ白金前駆体を添加し、脂質二重層担体の油と水の体積割合は1:0.01~1:0.8である。この添加プロセスでは、リポソーム前駆体を形成するために、マイクロピペットを利用して1mL/minの速度で添加してもよく、もしくは、手動揺動又は撹拌子で15~30分間均一に混合する多量混合方式で添加してもよい。続いて、シス-ジアミンジクロロ白金前駆体を内包する前記リポソームの均質化を1~10回のサイクル数で行い、60~250nmサイズのリポソームを得る。最後に、均質化したリポソーム前駆体を0.2~3.9Mの塩化カリウム又は塩化ナトリウム溶液中で、25~50℃で均一に撹拌して2~24時間培養することで、リポソーム内のシス-ジアミンジクロロ白金前駆体をシス-ジアミンジクロロ白金に変換する。続いて、タンジェンシャルフロー濾過(tangential flow filtration,TFF)システムを利用して余計な塩を除去することにより精製し、生成物のLipoCisを得、この生成物を、体積モル濃度が10mMのHEPEと5%のグルコースを含有する緩衝液(pH値6.5~7.6)、体積モル濃度が10mMのHEPEと0.9%の食塩水を含有する緩衝液(pH値6.5~7.6)、0.9%の食塩水と5%のグルコースを含有する溶液、又は二次純水中に置換して保存する。得られた生成物LipoCisの薬物対脂質比(drug-to-lipid,D/L)は1モルあたり0.05~0.8に達することができる。
【0015】
図3を参照し、第2実施例では、別のリポソーム組成物の調製方法が提供される。該方法は、塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、塩リポソームと白金系薬物前駆体を培養して白金系薬物前駆体を塩リポソームに入れて塩と反応させることで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含む。具体的には、塩リポソームの調製では、塩を脂質二重層担体に添加することで塩リポソームを形成してもよい。第2実施例の調製方法に使用される成分及びステップの詳細は、第1実施例の記載と同様であり、前述した関連説明を参照されたい。
【0016】
図4を参照し、第3実施例では、別のリポソーム組成物の調製方法が提供される。該方法は、白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体を提供し、及び塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、リポソーム前駆体と塩リポソームを混合することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含む。具体的には、リポソーム前駆体は、白金系薬物を水和させて白金系薬物前駆体を形成するステップと、白金系薬物前駆体を脂質二重層担体に添加してリポソーム前駆体を形成するステップと、によって調製することができる。同様に、塩リポソームは、塩を脂質二重層担体に添加して塩リポソームを形成するステップによって調製することができる。第3実施例の調製方法に使用される成分及びステップの詳細は、第1実施例の記載と同様であり、前述した関連説明を参照されたい。
【0017】
図5を参照し、第4実施例では、さらに別のリポソーム組成物の調製方法が提供される。該方法は、白金系薬物前駆体を内包する前駆体コアを提供し、及び塩を内包する塩コアを提供するステップと、前駆体コアと塩コアを混合することで、白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソームコアを形成するステップと、リポソームコアと第1脂質製剤を混合してリポソーム組成物を形成するステップと、を含む。具体的には、前駆体コアは、白金系薬物を水和させて白金系薬物前駆体を形成するステップと、白金系薬物前駆体を脂質二重層担体に添加して前駆体コアを形成するステップと、によって調製することができる。同様に、塩コアは、塩を脂質単一層担体に添加して塩コアを形成するステップによって調製することができる。第4実施例の調製方法に使用される成分及びステップの詳細は、第1実施例の記載と同様であり、前述した関連説明を参照されたい。
【0018】
いくつかの実施例では、第1脂質製剤は、コレステロールと、ポリエチレングリコール含有化合物とを含んでもよい。第1脂質製剤は有機溶液(例えば、クロロホルム、エタノール)に溶解して、続いてリポソームコアと共に25~45℃で25~60分間混合してもよい。例を挙げると、
図5に示すように、脂質製剤を添加した後、コレステロールは単一層のリポソームコアを安定化し、ポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンは該リポソームコアの外に被覆されて二層のリポソーム組成物を形成する。
【0019】
脂質単一層担体は、有機溶液(例えば、クロロホルム、エタノール)に溶解した第2脂質製剤を混合することで調製されてもよい。この第2脂質製剤は、ジステアロイルホスファチジルコリン及び/又は他のホスファチジルコリンを含んでもよい。クロロホルム又は他の油類溶液を使用する場合、溶液中に脂質単一層担体が直ちに形成できる。水混和性系(例えば、エタノール)においては、脂質単一層担体を形成するために、45~60℃に加熱して15~30分間作用することが必要となり得る。
表1において実証された高変換率及び薬物負荷率(%)から明らかなように、前述した本発明の実施例に係る調製方法では、白金系薬物前駆体を効果的に被覆してそれを白金系薬物に変換することができる。これにより、本発明の実施例に係る調製方法で調製されたリポソーム組成物は、算出された薬物負荷率(%)が62%にも達し得る。
【0020】
表1 実施例におけるLipoCisの薬物負荷率(Drug loading,DL)(%)
【0021】
【0022】
図6と
図7を参照し、一例において、シス-ジアミンジクロロ白金は、ジステアロイルホスファチジルコリン、コレステロール及びポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンからなる脂質二重層に内包されて沈殿し、LipoCisナノ粒子(NPs)が形成される。このLipoCisナノ粒子は様々な方法で確認可能である。
図6と
図7に示す例において、ナノ粒径及び電位アナライザー(マルバーン社製のZetasizer Nanoシリーズ機種)でLipoCisナノ粒子のサイズ及びZETA電位(zeta-potential)を測定する。低温電子顕微鏡でLipoCisナノ粒子の形態を観察する。シス-ジアミンジクロロ白金の数は、高性能液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography,HPLC)で測定される。誘導結合プラズマ原子発光分光分析法(inductively coupled plasma-atomic emission spectroscopy,ICP-AES)又は誘導結合プラズマ発光分光分析法(inductively coupled plasma-optical emission spectroscopy,ICP-OES)でLipoCisナノ粒子における白金の含有量を測定する。賦形剤の濃度は、HPLC蒸発光散乱検出器(evaporative light scattering detectors,ELSD)で測定される。
図6に示すように、低温電子顕微鏡で撮影されたLipoCisナノ粒子は形態が完全で均一な単分散性を有し、粒子サイズは80~150nmであると推定され、この数値結果は動的光散乱法(dynamic light scattering,DLS)による測定結果に一致する。
図7に示すように、LipoCisナノ粒子の全ての相互作用ポリマークロマトグラフィー(interaction polymer chromatography,IPC)値はいずれも測定された。
【0023】
図8を参照し、本発明の第1実施例で調製されたLipoCisのラット動物モデルにおける薬物動態分析を行った。表2に示すように、LipoCisは生体内で低いクリアランス(clearance,CL)、高い曲線下面積(area under curve,AUC)、及び長い循環時間を示す(即ち、LipoCisの分布容積(Vz)と定常状態における分布容積(Vss)の値は活性成分薬物のVz及びVss値よりも低い)。薬物半減期及び平均滞留時間(mean residence time,MRT)の測定結果によると、LipoCisと活性成分薬物の両者は統計的有意差を示していない。これらの薬物動態学的結果から、LipoCisは生体内で徐放(sustained release)性を有することが分かる。
【0024】
【0025】
腫瘍成長に対するLipoCisの阻害能力を評価するために、異種移植実験を21日間行い、被験異種移植動物を毎日観察する。実験において、ヒト癌細胞株(1×106個の細胞/200μLのリン酸緩衝塩溶液-Martigelの1:1溶液)をBalb/cヌードマウスの右後足に皮下注射する。相当なサイズの腫瘍が発生した後、毎日又は1日おきに腫瘍サイズを測定し、(長さ×幅×高さ)/2の式で腫瘍サイズを計算する。腫瘍サイズが所定サイズ(例えば、100~210mm3)になった場合、LipoCis群の実験マウスに薬物を週1回で3週間にわたって静脈注射する。
【0026】
図9~
図11を参照し、3種類の肺癌細胞株(ヒト非小細胞肺癌H1975細胞とA549細胞、及びヒト大細胞癌(human large cell carcinoma)H460細胞を含む)を採用して実験を行い、LipoCisナノ粒子の生体内での効率を検出する。
図9に示すように、肺腺癌H1975細胞異種移植マウスモデルにおいて、本発明の実施例で調製されたLipoCisで処理する実験の結果から、顕著な細胞アポトーシス反応(免疫染色の実験結果による)が示され、シス-ジアミンジクロロ白金による処理の実験結果と比較すると、LipoCisによる処理の実験結果から、高い腫瘍阻害効果を示す。
図10~
図11に示すように、肺腺癌A549細胞異種移植マウスモデル及び肺大細胞癌H460細胞異種移植マウスモデルでは、いずれも類似する実験結果が観察される。
【0027】
図12と
図13を参照し、ヒト口腔扁平上皮癌(HOSCC)異種移植動物モデルを構築する。200μLあたりのMartigel(米コーニングライフサイエンス社製のMartigel細胞培地)に5×10
6個の細胞を含有するヒト口腔癌SAS細胞から160μLを取り、28-(針サイズ(G,gauge))注射針で7~9週齢の雄性ヌードマウス(品名BALB/cAnN.Cg-Foxn1
nu,台湾台北国家実験動物センターから購入される)の右下背側に皮下注射する。SAS細胞異種移植実験マウスを3群にランダムに分け、それぞれ(i)リン酸緩衝塩溶液、(ii)シス-ジアミンジクロロ白金、及び(iii)LipoCisナノ粒子の薬物で処理を行う。いずれの薬物処理でも、静脈注射で投与される。薬物であるシス-ジアミンジクロロ白金及び薬物であるLipoCisナノ粒子はいずれも3.0mg/kgの薬物用量で投与される。薬物は、腫瘍サイズが200.1mm
3±3.5(又は195~210mm
3)になった後に投与される。腫瘍サイズは、長さ×幅×高さ×0.5の式で算出される。各群の実験マウスは、12日目に死なせてデータを収集する。切除した腫瘍と器官を組織切片化して10%のホルマリン中で固定し、後の実験に供する。前記実験研究はいずれも台湾中原大学実験動物看護及び使用委員会に規定される案内規則に準じて実施される。
【0028】
LipoCisナノ粒子の生体内での効率を検証するために、腫瘍体積が200.1±3.5mm
3のSAS細胞異種移植実験マウスを(i)リン酸緩衝塩溶液処理群、(ii)シス-ジアミンジクロロ白金処理群、及び(iii)LipoCisナノ粒子群の3群にランダムに分ける。各群に対して薬物処理を1回あたり6日おきに2回行う。
図9及び
図10に示す実験結果から明らかなように、LipoCisはSAS細胞に対しても腫瘍成長阻害能力を示す。
【0029】
上記本発明の実施例によれば、LipoCisは、白金系薬物の溶解度及びリポソーム粒子の被覆率を向上させることができる効果的な解決手段を提供する。本発明の実施例の調製方法によれば、リポソーム前駆体は、便利で低コストの調製方法によってリポソームに内包される白金系薬物に変換される。また、これらの調製方法は、リポソーム組成物の薬物負荷率(%)を向上させるための効果的な手段を提供する。
【0030】
本発明の技術的内容は、好適な実施例により以上のとおり開示されたが、これらは本発明を限定するためのものではない。相対的に、添付する特許請求の範囲に限定される範囲及び精神から逸脱することなく行われた若干の修正及び類似の修飾は、いずれも本発明の範囲内に含まれるものとする。前記限定範囲はこのような修正及び類似の修飾を含むように、最も広い解釈が与えられるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金系薬物前駆体を内包するリポソーム前駆体
及び塩を内包する塩リポソームを提供するステップと、
前記リポソーム前駆体を塩溶液中で培養する
か、又は前記塩リポソームを白金系前駆溶液中で培養するか、又は前記リポソーム前駆体と前記塩リポソームを混合することで、前記白金系薬物前駆体を白金系薬物に変換してリポソーム組成物を形成するステップと、を含み、
前記リポソーム前駆体は、
前記白金系薬物を水和させて前記白金系薬物前駆体を形成するステップと、
脂質製剤を混合して脂質二重層担体を形成するステップと、
前記白金系薬物前駆体を前記脂質二重層担体に添加して前記リポソーム前駆体を形成するステップと、によって調製され、
前記塩リポソームは、
脂質製剤を混合して脂質二重層担体を形成するステップと、
前記塩を前記脂質二重層担体に添加して前記塩リポソームを形成するステップと、によって調製され、
前記脂質製剤は、ジステアロイルホスファチジルコリンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール3000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール4000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ポリエチレングリコール5000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、及びポリエチレングリコール10000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選ばれる1つと、を含むことを特徴とする、リポソーム組成物の調製方法。
【請求項2】
前記白金系薬物を水和させる前記ステップは、前記白金系薬物と、硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、及びリン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物とを培養することである、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂質製剤はクロロホルム又はエタノールを含む有機溶液に混合される、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記脂質二重層担体と前記白金系薬物前駆体の体積比が1:1~20:1である、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記白金系薬物と前記脂質二重層担体のモル比が0.1:1~1:1である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記白金系薬物前駆体を前記脂質二重層担体に添加する前記ステップにおいて、前記脂質二重層担体における油と水の割合は1:0.01~1:0.8である、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記白金系薬物は少なくとも1つの白金-ハロゲン結合を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記白金系薬物は、シスプラチン、トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン及びサトラプラチンからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記白金系薬物前駆体は、モノアクア型の前記白金系薬物及びジアクア型の前記白金系薬物のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩溶液は塩化物又は臭化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記白金系薬物前駆体の前記リポソーム前駆体における体積モル濃度が25mM~600mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記リポソーム前駆体を培養するための前記塩溶液の体積モル濃度が0.2M~4Mである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記リポソーム前駆体は4~65℃の前記塩溶液中で1~24時間培養される、請求項1に記載の方法。
【国際調査報告】