(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/802 20200101AFI20230428BHJP
A61C 13/087 20060101ALI20230428BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20230428BHJP
A61K 6/17 20200101ALI20230428BHJP
A61K 6/833 20200101ALI20230428BHJP
A61K 6/84 20200101ALI20230428BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20230428BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K6/802
A61C13/087
A61C5/70
A61K6/17
A61K6/833
A61K6/84
A61K6/887
A61K6/15
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556521
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-09-20
(86)【国際出願番号】 KR2021095002
(87)【国際公開番号】W WO2021194327
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0036682
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516371391
【氏名又は名称】ハス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HASS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】77-14,Gwahakdanji-ro Gangneung-si Gangwon-do 25452,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】オ、ギョン シク
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョン ボン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、シ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、イェ ナ
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089AA06
4C089BA04
4C089BA05
4C089BA13
4C089BA14
4C089BB01
4C089BC13
4C089BE03
4C089CA05
4C159RR15
4C159SS01
4C159SS04
4C159TT10
(57)【要約】
本発明は、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物、及びその製造方法に関するものであって、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物であり、セラミック粒子の含有量が70~90%であり、セラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化物層と、前記第1硬化物層の内側に隣接し、セラミック粒子の含有量が40~60重量%であり、セラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化物層と、を含むことにより、天然歯と同様の構造、すなわち、表面がエナメル質であり且つその内部が象牙質である天然歯と同様の構造及び物性を発現することができる歯科用補綴物、及びこれを3次元印刷法を用いて製造する方法を開示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物であり、セラミック粒子の含有量が70~90%であり、セラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化物層と、
前記第1硬化物層の内側に隣接し、セラミック粒子の含有量が40~60重量%であり、セラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化物層と、を含む、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項2】
第1硬化物層は、二軸屈曲強度300~500MPa、弾性係数50~110GPa、及び硬度3~6GPaを満たすものであることを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項3】
第2硬化物層は、二軸屈曲強度100~300MPa、弾性係数5~20GPa、及び硬度0.5~1.5GPaを満たすものであることを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項4】
セラミック粒子は、ケイ酸バリウム系結晶化ガラス、リューサイト系結晶化ガラス、アルミナ、ジルコニア、及びガラス質の中から選択された少なくとも1種のものであることを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項5】
セラミック粒子は、その表面がシラン処理されたものであることを特徴とする、請求項1又は4に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項6】
高分子マトリックスは、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxy ethyl methacrylate、HEMA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(2-hydroxy-3-methacryloyloxy propoxy)phenyl]propane、Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene glycoldimethacrylate、TEGDMA)、ジウレタンジメタクリレート(diurethanedimethacrylate、UDMA)、ウレタンジメタクリレート(urethane dimethacrylate、UDM)、ビフェニルジメタクリレート(biphenyldimethacrylate、BPDM)、n-トリルグリシン-グリシジルメタクリレート(n-tolylglycine-glycidylmethacrylate、NTGE)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate、PEG-DMA)、及びオリゴカーボネートジメタクリル酸エステル(oligocarbonate dimethacrylic esters)の中から選択された少なくとも1種の重合性有機化合物の硬化物であることを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項7】
第1硬化物層は、密集した構造を有し、第2硬化物層は、多孔質構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項8】
硬化物は、光硬化又は熱硬化による硬化物であることを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項9】
3次元印刷によって製造されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物。
【請求項10】
セラミック粒子と重合性有機化合物を含む硬化性組成物を用いて3次元印刷によって歯科用補綴物を製造する方法であって、
硬化性組成物として、セラミック粒子の含有量が70~90%であり且つセラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化性組成物、及びセラミック粒子の含有量が40~60重量%であり且つセラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化性組成物を用いて、所定の形状に従って積層する段階と、
硬化させる段階と、を含む、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法。
【請求項11】
セラミック粒子としては、ケイ酸バリウム系結晶化ガラス、リューサイト系結晶化ガラス、アルミナ、ジルコニア及びガラス質の中から選択された少なくとも1種のものを用いることを特徴とする、請求項10に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法。
【請求項12】
重合性有機化合物は、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxy ethyl methacrylate、HEMA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(2-hydroxy-3-methacryloyloxy propoxy)phenyl]propane、Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene glycoldimethacrylate、TEGDMA)、ジウレタンジメタクリレート(diurethanedimethacrylate、UDMA)、ウレタンジメタクリレート(urethane dimethacrylate、UDM)、ビフェニルジメタクリレート(biphenyldimethacrylate、BPDM)、n-トリルグリシン-グリシジルメタクリレート(n-tolylglycine-glycidylmethacrylate、NTGE)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate、PEG-DMA)、及びオリゴカーボネートジメタクリル酸エステル(oligocarbonate dimethacrylic esters)の中から選択された少なくとも1種のものを用いることを特徴とする、請求項10に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法。
【請求項13】
所定の形状は、第1硬化性組成物の場合には、天然歯のエナメル質を模倣した密集した構造であり、第2硬化性組成物の場合には、天然歯の象牙質を模倣した多孔質構造であることを特徴とする、請求項10に記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法。
【請求項14】
硬化させる段階は、光硬化又は熱硬化によって行われることを特徴とする、請求項1に0記載の天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物からなる歯科用補綴物及びその製造方法に係り、より具体的には、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物、及びこれを3次元印刷技法を用いて製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科産業は、歯科で使用される装備及び素材の発展に伴って一緒に成長していると見られる。例えば、熱間加圧成形(heat-pressing)やCAD/CAM(Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing)などの装備により歯科産業の発展が行われてきたし、それに適した素材であるガラスセラミックやジルコニアなどの素材の発展が行われている。
【0003】
このような変化により、歯科では、患者が求める審美的な部分での向上及びワンデー補綴による歯科治療での時間短縮などの改善が行われてきているが、天然歯との物性差により隣接歯又は対合歯の摩耗や、食物咀嚼過程での破断などの問題点が現れることがあり、これにより口腔内の二次感染などの追加的な問題点が現れている。
【0004】
これを解決するために多くの研究が行われている分野が、補綴物の天然歯と同様の構造及び物性などに関する分野である。天然歯は、クラウン部分がエナメル質と象牙質で構成されており、それぞれの物性及び構造が互いに異なる。エナメル質の場合は、無機物の含有量が85vol%以上を占め、密集した(dense)構造を持っており(
図1参照)、象牙質の場合は、無機物と有機物の割合がほぼ類似し、多孔質(porous)構造を持っているのが特徴である(
図2参照)。このような素材及び構造の違いによりエナメル質と象牙質の物性も互いに異なるが、例えば弾性係数の場合には、エナメル質が約50~110GPaの値を示し、象牙質は約20GPa以下の値を示している。また、硬度の場合には、エナメル質が約3~6GPaの値を示し、象牙質は約0.5~1.5GPaの値を示すと報告されている。
【0005】
このような天然歯と最も類似した物性及び構造を持つ素材の開発は、従来も多くの研究が行われており、様々な素材が開発されてきている。
【0006】
その一例として、韓国特許第10-2037401号には、天然歯のエナメル質レベルの光透過率を示す人工歯素材について開示しているが、ここでは、ジルコニアとの結合のため濡れ性を向上させるZrO2が3~5重量%、ガラスの構造体として機能するSiO269~79重量%、Li2O10~13重量%、P2O53~7重量%、Al2O31~4重量%、K2O1.0~2.5重量%、MO(M=Ca、Zn及びMgのいずれか)0.1~3重量%、及び調色剤0.5~2.0重量%を含むシリケートガラス組成物を300℃~600℃の区間で1分~2時間熱処理し、前記熱処理によって可視光線透過率が40~70%であるSiO2をベースとするシリケートガラスを記載している。このようなSiO2をベースとするシリケートガラスをジルコニアの外郭に熱間加圧すると、ジルコニア補綴物をほとんど切削せず、その表面に薄く熱間接合することにより、機械構造的安定性を維持することができ、ジルコニアの色が薄いコーティング層を透過して染み出てくるため、非常にダイナミックで深みのある色感を得ることにより、より天然歯と同様の光学的特性を示すことができることを記載している。
【0007】
一方、韓国特許第10-1840142号には、歯科用光硬化性樹脂組成物を用いて人工歯を製造する方法を開示しているが、ラジカル重合性有機化合物、充填剤及び光感受性ラジカル重合開始剤を含む歯科用光硬化性樹脂組成物を用いて、人工歯に要求される強度、耐摩耗性、硬度、低吸収性などの諸特性を備え、しかも審美性や機能性などにも優れた人工歯を短時間、特に1時間未満の短時間でスムーズかつ容易に製造することができる方法を記載しており、特に3次元CADデータをベースとする製造方法を記載している。
【0008】
しかし、構造的にエナメル質と象牙質の二重構造を持つ補綴物に対する技術は、未だ不十分な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許第10-2037401号
【特許文献2】韓国特許第10-1840142号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、エナメル質と象牙質の二重構造を示す天然歯と同様の構造と物性を発現することができる歯科用補綴物を提供しようとする。
【0011】
また、本発明は、3次元印刷を用いて天然歯と同様のエナメル質の密集した構造と象牙質の多孔質構造を具現して二重構造を有し、それぞれの物性を具現して天然歯と同様の構造と物性を発現することができる歯科用補綴物の製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物であり、セラミック粒子の含有量が70~90%であり、セラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化物層と、前記第1硬化物層の内側に隣接し、セラミック粒子の含有量が40~60重量%であり、セラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化物層と、を含む、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物を提供する。
【0013】
本発明の好適な一実施形態において、第1硬化物層は、二軸屈曲強度300~500MPa、弾性係数50~110GPa、及び硬度3~6GPaを満たすものであり得る。
【0014】
本発明の好適な一実施形態において、第2硬化物層は、二軸屈曲強度100~300MPa、弾性係数5~20GPa、及び硬度0.5~1.5GPaを満たすものであり得る。
【0015】
本発明の一実施形態において、セラミック粒子は、ケイ酸バリウム系結晶化ガラス、リューサイト系結晶化ガラス、アルミナ、ジルコニア、及びガラス質の中から選択された少なくとも1種のものであり得る。
【0016】
本発明の一実施形態において、セラミック粒子は、その表面がシラン処理されたものであり得る。
【0017】
本発明の一実施形態において、高分子マトリックスは、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxy ethyl methacrylate、HEMA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(2-hydroxy-3-methacryloyloxy propoxy)phenyl]propane、Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene glycoldimethacrylate、TEGDMA)、ジウレタンジメタクリレート(diurethanedimethacrylate、UDMA)、ウレタンジメタクリレート(urethane dimethacrylate、UDM)、ビフェニルジメタクリレート(biphenyldimethacrylate、BPDM)、n-トリルグリシン-グリシジルメタクリレート(n-tolylglycine-glycidylmethacrylate、NTGE)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate、PEG-DMA)、及びオリゴカーボネートジメタクリル酸エステル(oligocarbonate dimethacrylic esters)の中から選択された少なくとも1種の重合性有機化合物の硬化物であり得る。
【0018】
本発明の好適な一実施形態において、第1硬化物層は、密集した構造を有し、第2硬化物層は、多孔質構造を有することができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、硬化物は、光硬化又は熱硬化による硬化物であり得る。
【0020】
本発明の好適な一実施形態において、補綴物は、3次元印刷によって製造されたものであり得る。
【0021】
本発明の他の一実施形態では、セラミック粒子と重合性有機化合物を含む硬化性組成物を用いて3次元印刷によって歯科用補綴物を製造する方法において、硬化性組成物として、セラミック粒子の含有量が70~90%であり且つセラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化性組成物、及びセラミック粒子の含有量が40~60重量%であり且つセラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化性組成物を用いて、所定の形状に従って積層する段階と、硬化させる段階と、を含む、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の一実施形態による製造方法において、セラミック粒子としては、ケイ酸バリウム系結晶化ガラス、リューサイト系結晶化ガラス、アルミナ、ジルコニア及びガラス質の中から選択された少なくとも1種のものを用いることができる。
【0023】
本発明の一実施形態による製造方法において、重合性有機化合物は、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxy ethyl methacrylate、HEMA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(2-hydroxy-3-methacryloyloxy propoxy)phenyl]propane、Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene glycoldimethacrylate、TEGDMA)、ジウレタンジメタクリレート(diurethanedimethacrylate、UDMA)、ウレタンジメタクリレート(urethane dimethacrylate、UDM)、ビフェニルジメタクリレート(biphenyldimethacrylate、BPDM)、n-トリルグリシン-グリシジルメタクリレート(n-tolylglycine-glycidylmethacrylate、NTGE)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate、PEG-DMA)、及びオリゴカーボネートジメタクリル酸エステル(oligocarbonate dimethacrylic esters)の中から選択された少なくとも1種のものを用いることができる。
【0024】
本発明の好適な一実施形態による製造方法において、所定の形状は、第1硬化性組成物の場合には、天然歯のエナメル質を模倣した密集した構造であり、第2硬化性組成物の場合には、天然歯の象牙質を模倣した多孔質構造であり得る。
【0025】
本発明の一実施形態による製造方法において、硬化させる段階は、光硬化又は熱硬化によって行われることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含むことにより、歯科用補綴物において天然歯のエナメル質及び象牙質と同様の構造及び物性を有する補綴物、及びこれを3次元印刷技法を用いて製造する方法を提案することにより、歯科用補綴素材に要求される高い審美性及び隣接歯又は対合歯と同様の物性を有する歯科用補綴物の製造が可能となり、歯科用補綴物が天然歯と同様の構造と物性を有するため、患者の口腔内に植立されて隣接歯又は対合歯である天然歯を磨耗させることや、これにより現れうる二次感染などの問題点を事前に予防することができるという効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】天然歯のエナメル質(
図1)と象牙質(
図2)の微細構造を示すSEM写真である。
【
図2】天然歯のエナメル質(
図1)と象牙質(
図2)の微細構造を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
前述した、及び追加的な本発明の態様は、添付図面を参照して説明される好適な実施例によってさらに明らかになるであろう。以下では、本発明のこのような実施例によって当業者が容易に理解し、再現し得るように詳細に説明する。
【0029】
図1及び
図2は、天然歯のエナメル質(
図1)と象牙質(
図2)の微細構造を示すSEM写真である。
【0030】
本発明は、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物を用いて、このような二重構造を持つ天然歯を最大限に具現するための一環であって、セラミック粒子の含有量が70~90%であり、セラミック粒子の平均粒径が100~1000nmである第1硬化物層と、前記第1硬化物層の内側に隣接し、セラミック粒子の含有量が40~60重量%であり、セラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化物層と、を含む、歯科用補綴物を提案する。
【0031】
本発明では、天然歯においてエナメル質と象牙質の微細構造的差異及び物性的差異が無機物と有機物の含有量及び構造による影響であると把握したし、これを構造的に発現し得る材料として重合性有機化合物とセラミック粒子を含む硬化性組成物を考慮したし、このような硬化性組成物を用いて3次元印刷技法(3D印刷)を使用することが微細構造を具現する上で最適であることを確認した。特に、二重構造を具現する上でセラミック粒子のサイズ及び含有量が制御された2種の硬化性組成物を用いる場合、物性的に天然歯のエナメル質と象牙質に近接した硬化物を得ることができることを確認した。
【0032】
このような観点から好ましい歯科用補綴物は、セラミック粒子の含有量が70~90%であり、セラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化物層と、セラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化物層と、を含む。このとき、第2硬化物層は、第1硬化物層の内側に隣接して形成されるが、これは、天然歯のエナメル質と象牙質の層構造を反映して具現することができるものであって、その層の形状に限定されない。
【0033】
本発明の歯科用補綴物においてセラミック粒子の含有量が高いほど、且つセラミック粒子のサイズが小さいほど、硬化後のセラミック粒子の緻密さが増加して物性の増加を示すことができる。
【0034】
具体的に、セラミック粒子のサイズが小さくセラミック粒子の含有量が高いほど、混合体に現れる性質がセラミックと同様であって高い物性が期待でき、一方、高分子の含有量が高いほど、混合体の物性は低下することが確認できる。また、高分子中のセラミックの含有量が類似しても、セラミック粒子のサイズが小さいほどセラミックの分布度が増加し、これは物性向上の変化を示すことができる。
【0035】
このような観点から、第1硬化物層に含まれるセラミック粒子の含有量は、第1硬化物層の全体組成中の70重量%~90重量%であり、第1硬化物層に含まれるセラミック粒子は、その平均粒径が100nm~1,000nmであることが好ましい。
【0036】
一方、第2硬化物層に含まれるセラミック粒子の含有量は、第2硬化物層の全体組成中の40重量%~60重量%であり、第2硬化物層に含まれるセラミック粒子は、その平均粒径が10μm~500μmであることが好ましい。
【0037】
このように高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子の含有量とサイズが制御された2種の硬化物層を含む場合、第1硬化物層は、二軸屈曲強度300~500MPa、弾性係数50~110GPa、硬度3~6GPaを満たす物性を示すことができ、第2硬化物層は、二軸屈曲強度100~300MPa、弾性係数5~20GPa、硬度0.5~1.5GPaを満たす物性を示すことができる。これは、それぞれ天然歯のエナメル質及び象牙質と対応する程度の対等な物性であって、食物の咀嚼並びに隣接歯及び対合歯との当接部分としての役割を果たすために構造的に密集し且つ高い物性を示すエナメルと、咀嚼過程で現れる応力を緩和する適切な弾性及び柔軟性を持つ象牙質を具現することができる。
【0038】
上記及び以下の基材において、「セラミック粒子」は、歯科用補綴物の製造で使用できる多様な無機物を挙げることができ、これに限定されるものではないが、具体的な一例として、ケイ酸バリウム系結晶化ガラス、リューサイト系結晶化ガラス、アルミナ、ジルコニア及びガラス質の中から選択された少なくとも1種のものを挙げることができる。
【0039】
一方、このようなセラミック粒子は、その表面をシラン処理することが高分子マトリックスとの結合力を向上させて、究極的に歯科用補綴物の機械的物性を向上させるという点で好ましいことは言うまでもない。このとき、使用可能なシランカップリング剤の一例としては、(メタ)アクリル基、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基などの反応性官能基を有するシランカップリング剤を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明の歯科用補綴物においてマトリックスを構成する高分子は、当業分野における公知の熱重合性又は光重合性の重合性有機化合物の硬化物を挙げることができ、これに限定されるものではないが、一例として、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxy ethyl methacrylate、HEMA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(2-hydroxy-3-methacryloyloxy propoxy)phenyl]propane、Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene glycoldimethacrylate、TEGDMA)、ジウレタンジメタクリレート(diurethanedimethacrylate、UDMA)、ウレタンジメタクリレート(urethane dimethacrylate、UDM)、ビフェニルジメタクリレート(biphenyldimethacrylate、BPDM)、n-トリルグリシン-グリシジルメタクリレート(n-tolylglycine-glycidylmethacrylate、NTGE)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate、PEG-DMA)、及びオリゴカーボネートジメタクリル酸エステル(oligocarbonate dimethacrylic esters)の中から選択された少なくとも1種の重合性有機化合物の硬化物を挙げることができる。
【0041】
本発明では、このような高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物で歯科用補綴物を製造する際に、3次元印刷を用いて天然歯と同様のエナメル質と象牙質からなる二重構造を持つ補綴物を製造することができる。
【0042】
現在、歯科用補綴物の製造において、3次元印刷は、金属又は高分子を用いた3次元印刷方法が多用されており、金属を用いた3次元印刷は、レーザーを用いて金属を溶かし、溶かした液を積層して製造する方法であり、高分子を用いた3次元印刷は、光硬化剤を用いて高分子を積層し、光源を用いて高分子を硬化させる方法である。
【0043】
3次元印刷では、まだセラミックのみを用いて印刷することは研究中であり、ほとんど有機化合物を混合して硬化させる方法を用いている。このとき、重要な変数としては、セラミックと高分子の含有量比やセラミックの粒子サイズなどがあり、これにより硬化後の物性も調節が可能である。本発明では、上述のようにセラミック粒子の含有量比と粒子サイズを制御し、3次元印刷を用いて天然歯構造を再現する。
【0044】
天然歯は、エナメル質の場合には、
図1に示すように密集した(dense)構造を有し、象牙質の場合には、
図2に示すように多孔質構造、より詳細にはサイズ約100~1000nmの管状(tubular)の気孔構造を有する。本発明において、このような天然歯を同様に具現するために、3次元印刷を利用して、このような微細構造の具現が可能となるようにする。
【0045】
本発明によれば、天然歯のような二重構造を3次元印刷を用いて具現し、各構造をなす素材及び各素材の含有量、並びに素材の粒子サイズに応じて硬化後に現れる物性の変化を与えることができる。本発明の歯科用補綴物は、歯と非常に類似した色及び物性を示すので、歯科補綴材料としての使用に適している。
【0046】
歯科用補綴物は、天然歯と最も類似した審美性及び物性を示すようにして、口腔内に植立したときに周辺歯と最も自然に似合うことを示すことが最終目的の一つである。
【0047】
このために、本発明では、3次元印刷方法を用いて、天然歯と類似した二重構造を示し、セラミックと高分子の含有量及びセラミック粒子サイズの調節で物性を調節することにより、天然歯のエナメル質と象牙質を具現することができる歯科用補綴物の製造方法を提案する。
【0048】
具体的に、本発明に係る天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物の製造方法は、セラミック粒子と重合性有機化合物を含む硬化性組成物を用いて3次元印刷によって歯科用補綴物を製造する方法であって、硬化性組成物として、セラミック粒子の含有量が70~90%であり且つセラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化性組成物、及びセラミック粒子の含有量が40~60重量%であり且つセラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化性組成物を用いて、所定の形状に従って積層する段階と、硬化させる段階と、を含む。
【0049】
天然歯と同様の構造を有するセラミックを用いた歯科用補綴物を製造するには、3次元印刷のうち、SLA(Stero Lithography Apparatus)、DLP(Digital Lighting Process)などの方法が適しており、この方法は、天然歯のエナメル質と象牙質の構造をもつように各層を印刷し、これを光源又は熱源を用いて重合性有機化合物を硬化させて高分子化する方法である。このとき、光源の一例としては、300~600nmの光源を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0050】
天然歯のエナメル質と象牙質のそれぞれと同様の物性を有するためには、セラミック粒子サイズの変化とセラミック及び高分子の含有量を制御して様々な物性を確保することができるが、このような観点から、硬化性組成物として、セラミック粒子の含有量が70~90%であり且つセラミック粒子の平均粒径が100~1,000nmである第1硬化性組成物、及びセラミック粒子の含有量が40~60重量%であり且つセラミック粒子の平均粒径が10~500μmである第2硬化性組成物を用いて、各層を印刷し、積層する。
【0051】
このとき、使用するセラミック粒子は、上述したように、ケイ酸バリウム系結晶化ガラス、リューサイト系結晶化ガラス、アルミナ、ジルコニア及びガラス質の中から選択された少なくとも1種のものを用いることができ、このようなセラミック粒子は、その表面がシラン処理されたものであり得るのは言うまでもない。
【0052】
また、重合性有機化合物は、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxy ethyl methacrylate、HEMA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(2-hydroxy-3-methacryloyloxy propoxy)phenyl]propane、Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene glycoldimethacrylate、TEGDMA)、ジウレタンジメタクリレート(diurethanedimethacrylate、UDMA)、ウレタンジメタクリレート(urethane dimethacrylate、UDM)、ビフェニルジメタクリレート(biphenyldimethacrylate、BPDM)、n-トリルグリシン-グリシジルメタクリレート(n-tolylglycine-glycidylmethacrylate、NTGE)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate、PEG-DMA)、及びオリゴカーボネートジメタクリル酸エステル(oligocarbonate dimethacrylic esters)の中から選択された少なくとも1種を使用することができる。
【0053】
このような重合性有機化合物の溶液に、一例としてシランを処理したセラミック粒子を、上述した2種の硬化性組成物のセラミック粒子サイズ及びセラミック粒子の含有量比に応じてそれぞれ混合し、これらそれぞれの硬化性組成物を3次元印刷装備に入れる。
【0054】
このようなそれぞれの硬化性組成物を用いて所定の形状に積層を行うが、ここで、所定の形状とは、第1硬化性組成物の場合には、歯の外部を構成する組成で天然歯のエナメル質を模倣した密集した構造であり、第2硬化性組成物の場合には、内部を構成する組成で天然歯の象牙質を模倣した多孔質構造、具体的には管状の多孔質構造である。このような構造で積層を行いながら硬化を行わせる。
【0055】
このとき、硬化は光硬化又は熱硬化であり得るが、光硬化の場合、光源を照射して光硬化が現れるように行う。
【0056】
光硬化剤を用いる場合には、必要な光源を供給することにより硬化が起こることができ、熱硬化剤の場合には、必要な温度を供給することにより硬化を行わせることができるのは勿論である。
【0057】
本発明によれば、3次元印刷法によって第1硬化性組成物と第2硬化性組成物を用いて、
図1に示したエナメル質を模倣した微細構造を持つ第1硬化物層と、
図2に示した象牙質を模擬した微細構造を持つ第2硬化物層を含む補綴物を得ることができる。このような補綴物は、下記表1に示すような物性を発現し得る硬化物層を得ることができる。これは、天然歯のエナメル質と象牙質に対応する物性であって、本発明によれば、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物を提供することができるようになった。
【0058】
【0059】
本発明は、図示された一実施例を参照して説明されたが、これは、例示的なものに過ぎず、当技術分野における通常の知識を有する者であれば、これから様々な変形及び均等な他の実施例が可能であることを理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含む硬化物からなる歯科用補綴物及びその製造方法に関し、より具体的には、天然歯と同様の構造を有する歯科用補綴物、及びこれを三次元印刷技術を用いて製造する方法に関する。
[60] 本発明は、高分子マトリックス内に分散したセラミック粒子を含むことにより、歯科用補綴物において天然歯のエナメル質及び象牙質と同様の構造及び物性を有する補綴物、及びこれを3次元印刷技法を用いて製造する方法を提案することにより、歯科用補綴物素材に要求される高い審美性及び隣接歯又は対合歯と同様の物性を有する歯科用補綴物の製造が可能となり、歯科用補綴物が天然歯と同様の構造と物性を有するため、患者の口腔内に植立されて隣接歯又は対合歯である天然歯を磨耗させることや、これにより現れうる二次感染などの問題点を事前に予防することができるという効果が期待できる。
【国際調査報告】