(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】乳タンパク質組成物を脱塩する方法、当該方法によって得られる乳タンパク質組成物、および前記方法を実施するための設備
(51)【国際特許分類】
A23C 9/144 20060101AFI20230428BHJP
A23J 3/08 20060101ALI20230428BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20230428BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A23C9/144
A23J3/08
B01D61/44 500
B01D61/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557721
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2021057801
(87)【国際公開番号】W WO2021191377
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515309704
【氏名又は名称】ユーロディア・アンデュストリ
【氏名又は名称原語表記】EURODIA INDUSTRIE
【住所又は居所原語表記】IMPASSE SAINT MARTIN, ZAC SAINT‐MARTIN, F‐84120 PERTUIS, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ゴナン,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】リュタン,フロランス
【テーマコード(参考)】
4B001
4D006
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001BC99
4B001CC01
4B001EC99
4D006GA03
4D006GA17
4D006JA42A
4D006JA43A
4D006JA44A
4D006KA53
4D006KA55
4D006KA56
4D006KA57
4D006KE17R
4D006KE18R
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006PA01
4D006PB20
4D006PC11
(57)【要約】
本発明は、以下の工程を含む、脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)の製造方法に関する:
(i)乳タンパク質組成物(MPC)を提供する工程;
(ii)三つの区画(20、26、30;220、226、230)を含むユニットセル(15、215)を含んでいると共に、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンを少なくとも一つの水素イオンH+により置換して、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を得るように構成された電気透析器(5,200)において前記乳タンパク質組成物(MPC)を電気透析する工程;
(iii)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を電気透析する工程;および
(iv)前記脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を回収する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を製造する方法であって、
(i)乳タンパク質組成物(MPC)を提供する工程;
(ii)三つの区画(20、26、30;220、226、230)を含むユニットセル(15、215)を含んでいると共に、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンを少なくとも一つの水素イオンH
+により置換して、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を得るように構成された電気透析器(5,200)において前記乳タンパク質組成物(MPC)を電気透析する工程;
(iii)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を電気透析する工程;および
(iv)前記脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を回収する工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程(iii)の間および/または工程(iii)の後に、前記乳タンパク質組成物に少なくとも一つの塩基性溶液を添加すること、特に少なくとも一つの塩基性塩を含む少なくとも一つの溶液を添加することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性溶液の前記添加が、電気透析工程(iii)の少なくとも一部の間に、イオンの抽出と同時に行われることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳タンパク質組成物への前記塩基性溶液の前記添加が、前記乳タンパク質組成物が1mS/cm以下の導電率を有し、好ましくは3以上のpHを有するときに行われることを特徴とする、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記塩基性溶液の前記添加後、前記乳タンパク質組成物が4.5以上、好ましくは5.0以上のpHを有することを特徴とする、請求項2~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記電気透析工程(iii)が陰イオンおよび陽イオンの前記抽出を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(ii)が陽イオンのみの置換工程であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(iv)で回収される前記乳タンパク質組成物(MPC2)がリン酸イオン(H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3-)を含み、リンの質量が、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して110mg以上、好ましくは150mg以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(iv)で回収される前記乳タンパク質組成物(MPC2)がナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含み、その質量が、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記乳タンパク質組成物(MPC)を受け取る工程(ii)の前記電気透析器の前記区画が、二つの陽イオン性膜(24、28;224、228)の間でそれぞれ区切られていることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
電気透析工程(ii)から直接誘導される塩、
電気透析工程(ii)から間接的に誘導される塩、
電気透析工程(iii)から直接誘導される塩、
電気透析工程(iii)から間接的に誘導される塩、
工程(i)の前に前記乳タンパク質組成物に対して実施された予備的脱塩工程からの塩、および
後者の混合物、
から選択される塩の少なくとも一部の処理工程(v)を含み、
前記処理工程(v)が、一方では一つまたは複数の酸性塩、および/または他方では一つまたは複数の塩基性塩を生成するように構成されている
ことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
処理工程(v)が、双極性膜電気透析器(70)において実施される電気透析工程からなることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(v)における前記双極性膜電気透析器(70)が、三つの区画A、BおよびC(110、116、120)を含むユニットセル(105)を含み、区画AおよびBには水が供給され、区画Cには一つまたは複数の塩が供給され、特に、区画Cが、区画AとBとの間に配置されていることを特徴とする、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
処理工程(v)中に得られる、特に塩酸および/または硫酸の前記一つまたは複数の塩の少なくとも一部が、工程(ii)における前記電気透析器(5、200)の前記三つの区画(20、26、30;220、226、230)のうちの一つに供給されることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記塩基性溶液が、少なくとも部分的に、処理工程(v)の間に得られる一つまたは複数の塩基性塩、特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含むことを特徴とする、請求項11~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記塩基性溶液が、少なくとも部分的に、工程(ii)および/または工程(iii)から誘導される流出物の再利用から誘導されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記乳タンパク質組成物が、乳清、例えばスイート乳清もしくは酸性乳清またはそれらの混合物;乳限外濾過透過物;乳精密濾過透過物;乳清限外濾過残留物または透過物;乳精密濾過透過物限外濾過残留物または透過物;あるいはそれらの混合物、を含むリストから選択され、好ましくは乳清であることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の製造方法に従って得ることができる乳タンパク質組成物であって、リン酸イオン(H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3-)を含んでおり、その質量が、前記乳タンパク質組成物の合計乾燥質量100gに対して110mg以上210mg以下であることを特徴とし、また、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含んでおり、その質量が、前記乳タンパク質組成物の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上であり、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンが、好ましくは少なくとも部分的に再利用される、および/または外因性であることを特徴とする乳タンパク質組成物。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実施するための設備であって、
a)乳タンパク質組成物(MPC)を受け取ることを意図した第一の入口と、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)のための第一の出口とを含んでなり、三つの区画(20、26、30;220、226、230)を含むユニットセル(15、215)を含んでおり、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンが少なくとも一つの水素イオンH
+により置換されるように構成されている第一の電気透析器(5、200)、および
b)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取ることを意図した第一の入口と、前記乳タンパク質組成物(MPC2)のための第一の出口とを含んでなる第二の電気透析器(10、205)
を含むことを特徴とする設備。
【請求項20】
c)塩基性溶液を含み、好ましくは電場の印加下で、前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取ることを意図した前記第二の電気透析器の前記区画と、所定の期間、流体連通するように構成された装置
を含むことを特徴とする、請求項19に記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質組成物を脱塩する方法、およびこの方法によって得られる乳タンパク質組成物、特に脱塩乳清に関する。
【0002】
本発明は、乳タンパク質組成物を脱塩する前記方法を実施するための設備にも関する。
【背景技術】
【0003】
乳タンパク質組成物は乳清の場合がある。乳清は、乳の凝固から生じる液体部分である。2種類の乳清、特に、カゼインまたはフレッシュチーズの酸性培地における製造から生じるもの(酸性乳清)と、レンネットを用いるカゼインおよび調理済みまたは半調理済みプレスチーズの製造から生じるもの(スイート乳清)とに区別することができる。
【0004】
乳清は、主に、水、ラクトース、タンパク質、特に血清タンパク質、およびミネラルで構成されている。ラクトースとタンパク質の両方を分離することで、乳清に価値を加えることができる。乳清タンパク質は、乳児用調合乳の製造における成分としての付加価値を有することもできる。脱塩乳清、特にラクトースは、菓子、ケーキ、アイスクリーム、惣菜、ペストリーなどの製造に使用できる。
【0005】
乳清は、ナノ濾過工程を経て脱塩することができ、続いて電気透析または陽イオン交換および陰イオン交換樹脂を通過させて、70~90%、またはそれ以上の脱塩率を達成する。しかし、イオン交換樹脂は、処理が困難で費用のかかる大量の生理食塩水再生廃液を生成する。
【0006】
同時に、消費者は、元の自然な特性を保持し、したがって、加工および/または変性されていない、またはいずれにせよ可能な限り少ない、食品加工業界からの成分を求め出している。さらに、外因性ミネラル種の存在を制限するか、さらには排除する乳製品の脱塩方法も求められている。実際、イオン交換樹脂は、外因性ミネラル種に対して処理される組成物中のミネラル種を交換することによって機能する。しかしながら、イオン交換樹脂の1回以上の通過を排除すると、例えば70%、80%または90%に脱塩された、高度に脱塩された乳タンパク質組成物の製造が複雑になる。脱塩が他の処理システムに移されると、これらのシステムの膜がミネラル負荷が高いために、より早く目詰まりするリスクがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、特にイオン交換樹脂(陰イオン性および/または陽イオン性)を使用せずに、乳タンパク質組成物を脱塩するための改善された方法を提案することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、乳タンパク質組成物への外因性ミネラル化合物の導入を制限する前記乳タンパク質組成物の脱塩方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第一の局面によれば、特に連続して実施される以下の工程を含む、脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を製造するための方法を主題として有するという点で、前記の問題を克服する:
【0010】
(i)乳タンパク質組成物(MPC)を提供する工程;
(ii)三つの区画を含む、特に三つの区画からなる、ユニットセルを含んでいると共に、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンを少なくとも一つの水素イオンH+により置換して、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を得るように構成された電気透析器において前記乳タンパク質組成物(MPC)を電気透析する工程;
(iii)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を電気透析する工程;および
(iv)前記脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を回収する工程。
【0011】
一般に、電気透析中、塩、酸または塩基などの溶解したイオン化ミネラルまたは有機種は、電流の作用下でイオン膜を通って輸送される。電気透析ユニットは、平行かつ交互に配置された陽イオン性(陽イオン透過性)膜CEMおよび/または陰イオン性(陰イオン透過性)膜AEMを含み得る。陽極と陰極によって印加される電場の作用下で、CEMは陰イオンを遮断して陽イオンを通過させ、AEMは陽イオンを遮断して陰イオンを通過させる。このようにして、濃縮区画(濃縮物)と脱塩区画が作成される。この最も一般的なタイプの電気透析は、基本ユニットセルが二つの区画を含む電気透析である。ユニットセルは、濃縮および脱塩操作の最小の繰り返しパターンに対応する(一つの区画が一つの濃縮または脱塩に対応する)。溶液は、膜面に平行な循環によって区画内で更新される。電流の適用は、膜の平面に平行で、電気透析器の端に配置された二つの電極によって提供される。
【0012】
有利には、かつ新規な方法で、本発明は、陽イオンの置換を可能にするように構成された工程(ii)を実行するための三つの区画を含む電気透析器の使用を含む。したがって、前記脱塩区画(イオンが消失する)および前記濃縮区画(イオンが蓄積する)に加えて、工程(ii)の前記電気透析器は陽イオン変換区画を含む。
【0013】
工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC)は、こうして陽イオンが枯渇し、したがって酸性化される(pHの低下を伴う)。
【0014】
(それぞれが)二つの区画を含む(からなる)セルを含む電気透析器で第2の電気透析(iii)が実施される。第一の区画は、処理される前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取り、第二の区画は、最初に水の前記電気透析(iii)を受ける。水には、ブラインを形成するために前記乳タンパク質組成物(MPC1)から抽出されたイオンの塩が含まれる。
【0015】
前記電気透析(iii)により、陽イオンの完全な抽出が可能になり、前記第一電気透析では抽出されなかった陰イオンの抽出が可能になる。前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)について得られる脱塩は強力であり、70%以上、特に75%以上、または80%または85%以上、さらに特に90%以上の脱塩率に達する可能性がある。
【0016】
有利なことに、本発明による前記方法は、処理すべき再生流出物を生成せず、外因性酸を消費せず、または以下に展開する異なる変法によればほとんど消費しないため、汚染が少ない。
【0017】
この方法は、部分的に環境効率が良いと言える。
【0018】
工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物は、酸性pH、特に工程(i)のMPCのタンパク質(特に血清タンパク質)の等電点以下、特に6以下、好ましくは4以下のpHを有する。
【0019】
この規定により、微生物学的安定性の管理が促進される。さらに、前記乳タンパク質組成物は、タンパク質の変性を制限する非酸性環境で適用されるものとは異なる温度および期間の条件下で熱処理(特に低温殺菌)を受けることができる。したがって、前記乳タンパク質は有利には分解されにくい。
【0020】
好ましくは、工程(ii)および/または工程(iii)における前記乳タンパク質組成物の温度は、40℃以下、特に0℃より高い。工程(iv)で回収された前記乳タンパク質組成物は、5以上、特に6以上、さらに6.2以下、特に8以下のpHを有する。
【0021】
(乳タンパク質組成物)
【0022】
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、乳清、例えばスイート乳清もしくは酸性乳清またはそれらの混合物、乳限外濾過透過物;乳精密濾過透過物(理想的または天然の乳清とも呼ばれる)、乳清限外濾過残留物または透過物、乳精密濾過透過物限外濾過残留物または透過物、あるいはそれらの混合物(リストI)、から選択される。
【0023】
リストIに挙げられたすべての前記乳タンパク質組成物は、乳清または乳清誘導体であると考えられる。
【0024】
一つの実施態様において、前記乳タンパク質組成物(MPC)および/またはスイート乳清および/または酸性乳清および/または天然乳清は未加工である、すなわち、それ/それらは、それ/それらのミネラル負荷を減少させる操作を受けていない。したがって、正確に言及されていない前記乳清または乳タンパク質組成物(MPC)は、未加工または部分的に脱塩されていてよい。
【0025】
スイート乳清は、カゼインとスイート乳清の両方を回収するために、特にレンネットを使用して乳を化学処理することによって得られることが好ましい。酸性乳清は、好ましくは、カゼインと酸性乳清の両方を回収するために、特に乳酸および/または塩酸を使用して乳を酸処理することによって得られる。
【0026】
特に未加工または部分的に脱塩された乳タンパク質組成物(MPC)および/または特に未加工または部分的に脱塩された乳清を、機械的に(例えば、逆浸透またはナノ濾過またはそれらの組み合わせにより)または熱的に(例えば、水の蒸発により)その乾燥抽出物を増やすように予備濃縮することができる。
【0027】
特に未加工または部分的に脱塩された乳タンパク質組成物(MPC)および/または特に未加工または部分的に脱塩された酸性乳清および/または特に未加工または部分的に脱塩されたスイート乳清および/または特に未加工または部分的に脱塩された乳精密濾過透過物は、0%より大きく約16%以下、特に約6%以下の乾燥抽出物を有する/有する。
【0028】
特に未加工または部分的に脱塩された乳タンパク質組成物(MPC)および/または特に未加工または部分的に脱塩された酸性乳清および/または特に未加工または部分的に脱塩されたスイート乳清および/または特に未加工または部分的に脱塩された乳精密濾過透過物は、約8%以上かつ約32%以下の乾燥抽出物を得るために、前記で定義したように前濃縮工程を受けることができる。本発明による前記乳タンパク質組成物は、使用時に液体である。これは、特に前記リストIから選択される粉末および/または液体から液体溶液を再構成することによって得ることができる。
【0029】
好ましくは、工程(i)における前記乳タンパク質組成物は、部分的に脱塩されている。この構成により、工程(ii)における三区画電気透析器のサイズおよび/または工程(iii)における二区画電気透析器のサイズ、すなわち活性膜表面を縮小することが可能になる。
【0030】
好ましくは、工程(i)における前記乳タンパク質組成物の脱塩率は、30%以上である。
【0031】
好ましくは、工程(i)における前記乳タンパク質組成物の脱塩率は、70%以下、好ましくは60%以下、例えば50%以下である。
【0032】
好ましくは、工程(iv)で得られた/回収された前記乳タンパク質組成物の脱塩率は、70%以上、特に80%以上(DM80)または85%以上(DM85)、さらに特には90%以上である(DM90)。
【0033】
一つの実施態様において、前記乳タンパク質組成物は、質量で1%を超える、好ましくは5%以上、かつ10%以下の乾燥抽出物を有する。例えば、それは非濃縮乳清である。
【0034】
もう一つ実施態様において、前記乳タンパク質組成物は、質量基準で10%以上30%以下、好ましくは15%以上25%以下の乾燥抽出物を有する。例えば、濃縮乳清である。乳清の乾燥物質の濃縮は、逆浸透、ナノ濾過、またはその他の熱濃縮法によって行うことができる。
【0035】
一般に、前記乳タンパク質組成物は、任意の乳雌に由来し得る。好ましくは、前記乳タンパク質組成物は:牛の乳、ヤギの乳、ヒツジの乳、ロバの乳、水牛の乳、牝馬の乳、またはそれらの混合物から選択される乳に由来し、さらにより好ましくは:牛の乳、山羊の乳および羊の乳、またはそれらの混合物から選択され、特に、牛の乳である。
【0036】
前記タンパク質組成物は、乳タンパク質、特に血清タンパク質を含む。前記乳タンパク質組成物(MPC)、特に乳清は、血清タンパク質を含み、乳加工中のバルク(凝固)部分および/または乳精密濾過残留物中に残るカゼインを含まない。
【0037】
好ましくは、特に未加工のスイート乳清、または特に未加工の天然乳清は、以下の特性の一つを単独でまたは組み合わせて有する:
5.8と6.5の間のpH;
乾燥抽出物の質量に対するラクトースの質量の比率は、70%以上、特に74%以上である;
乾燥抽出物の質量に対する窒素物質の質量の比率は、10%以上、特に12%以上、特に30%以下である;
乾燥抽出物の質量に対する灰分の質量の比率は、8%以上、特に10%以下である;および
乾燥抽出物の質量に対する有機酸の質量の比率は、2%以上、特に5%以下である。
【0038】
好ましくは、特に未加工の酸性乳清は、以下の特性のうちの一つを単独でまたは組み合わせて有する:
pHが5以下、特に4.5以下である;
乾燥抽出物の質量に対するラクトースの質量の比率は、酸性媒体中でのチーズの製造に由来する乳清の場合、55%以上、特に65%以下である;
乾燥抽出物の質量に対するラクトースの質量の比率は、酸性媒体中でのカゼインの製造に由来する乳清の場合、70%以上、特に85%以下である;
乾燥抽出物の質量に対する全窒素物質(TNM)の質量の比率は、4%以上、特に12%以下である;
乾燥抽出物の質量に対する灰分の質量の比率は、10%以上、特に15%以下である;
乾燥抽出物の質量に対する有機酸の質量の比率は、乳酸培地でのチーズの製造に由来する乳清の場合、10%以上、特に20%以下である;および
乾燥抽出物の質量に対する有機酸の質量の比率は、酸性媒体中でのカゼインの製造に由来する乳清の場合、2%以上、特に5%以下である。
【0039】
一つの実施態様において、MPCの乾燥抽出物(工程(i))の質量に対するラクトースの質量の比率は、50%、または60%、または70%以上である。
【0040】
一つの実施態様において、MPC(工程(i))の乾燥抽出物の質量に対する全窒素物質の質量の比率は、5%または10%以上、特に12%以上であり、特に30%以下である。
【0041】
脱塩は本質的に、前記乳タンパク質組成物、特に乳清に存在する灰分を完全にまたは部分的に除去することからなる。
【0042】
(定義、測定方法)
【0043】
特に前記乳タンパク質組成物(MPC、MPC1、MPC2)の灰分含量(すなわち灰分の乾燥質量分率)は、標準化された方法であるNF V04-208、1989年10月版、タイトル「乳-灰分の決定-参考方法」で、特に525℃で焼却法を使用して決めることできる。
【0044】
本明細書において、乾燥抽出物質量または合計乾燥質量は、例えば、特に大気圧での前記乳タンパク質組成物の合計質量に基づいて合計乾燥質量が得られるまで水の蒸発後に得られる前記乳タンパク質組成物(MPC、MPC1、MPC2)の乾燥質量を意味すると理解される。乾燥抽出物質量は、標準化された方法であるISO 6731:2011年1月版の「乳、クリーム、無糖練乳-乾燥物質の測定(参考方法)」で測定できる。
【0045】
本明細書において、ラクトースは、Codex Alimentarius、Codex Stan 212-1999で定義されているラクトース:すなわち、通常乳清から得られるミルクの天然成分で、特に無水ラクトース含有量が乾燥ベースで99.0%質量/質量以上であるものを意味すると解される。
【0046】
ラクトースまたは糖の質量含有量(または乾燥質量分率)の決定は、高速液体クロマトグラフィーにより、特に2007年11月版の標準NF ISO 22662を使用して行うことができる。
【0047】
乳の陽イオンおよび陰イオン(カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リン/リン酸塩、クエン酸塩)を定量するために使用できる方法は、次の方法から選択できる:分子吸光分析、滴定/錯滴法、電気化学法、原子分光分析、キャピラリー電気泳動、イオンクロマトグラフィー/導電率検出、31Pの核磁気共鳴、酵素法/UV検出。
【0048】
全窒素物質の乾燥質量分率(TNM)は、2014年5月付けの標準NF EN ISO 8968-1(ケルダール法)を使用して決定できる。
【0049】
次の標準を使用して、質量含有量を決定することができる:例えば、塩化物については:電位差滴定法(NF ISO 21422、2019年2月版)、例えば、全リンについては:分子吸光分析法(NF ISO 9874、2008年4月版)、例えば、カルシウムについては:滴定法(標準ISO 12081:2010年版)、例えば、カルシウム、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムについては:原子吸光分析法(標準ISO 8070:2007年版)またはイオンクロマトグラフィー;例えば、乳酸/乳酸塩については、2005年付けの標準ISO 8069による。
【0050】
本明細書において、MPCは、本発明による前記乳タンパク質組成物を指す。
【0051】
好ましくは、工程(i)における前記乳タンパク質組成物(すなわちMPC)は、1mS/cm以上、より好ましくは3mS/cm以上、好ましくは8mS/cm以上、特に10mS/cm以上の導電率を有する。
【0052】
好ましくは、工程(iv)で回収された前記MPCは、乾燥抽出物に対して2.5%以下、好ましくは乾燥抽出物に対して1.5%以下、より好ましくは乾燥抽出物に対して1%以下、好ましくは乾燥抽出物に対して0.60%以下である。
【0053】
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、特に本発明による脱塩方法により標的とされる陽イオンである以下の陽イオンを含む:カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウム。
【0054】
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、特に本発明による脱塩方法により標的とされる陰イオンである以下の陰イオンを含む:塩化物、リン酸塩、硫酸塩、乳酸塩、酢酸塩およびクエン酸塩。
【0055】
一つの実施態様において、ナノ濾過または逆浸透工程を含む工程(i)の前に予備的脱塩工程においてMPCから一価陽イオンおよび一価陰イオンが少なくとも部分的に抽出される。
【0056】
有利には、前記方法は、それぞれが三つの区画を含むセルを含んでなり、特に、前記乳タンパク質組成物、特にMPC1において少なくとも一つの陰イオンが少なくとも一つのヒドロキシルイオンOH-により置換されるように構成されている電気透析器で実施される陰イオン置換工程を含まない。有利には、前記方法は、電気透析器において特にもっぱら陰イオンについて行われる置換工程を含まない。
【0057】
有利には、前記方法は、前記乳タンパク質組成物MPC1を受け取る区画を含むセルを含んでなり、前記区画の各々が二つの陰イオン性膜の間で区切られている電気透析器において実施される陰イオン置換工程を含まない。
【0058】
変形例において、前記方法は、工程(iii)の間、特に工程(iii)の少なくとも一部の間、および/または工程(iii)の後に、前記乳タンパク質組成物に少なくとも一つの塩基性溶液を添加すること、特に少なくとも一つの塩基性塩を含む少なくとも一つの溶液を添加することを含む。
【0059】
一つの実施態様において、前記塩基性溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)溶液または水酸化カリウム溶液、またはこれらの溶液の混合物である。
【0060】
一つの実施態様において、前記塩基性溶液は、その合計質量(水を含む)に対して、質量で少なくとも0.5%、好ましくは少なくとも1%または3%または5%の前記塩基(例えば、NaOHおよび/またはKOH)を含む。
【0061】
第一の実施態様において、工程(iii)の後に塩基性溶液が前記乳タンパク質組成物に添加され、次に、pHが調整された前記乳タンパク質組成物(MPC2)が回収される。これは標準化してよい。前記回収されたMPC2は、前記添加された塩基性塩のイオン、特に陽イオンを含む。要求されるミネラルプロファイルに応じて、このMPC2は特定の用途に適している場合がある。第二の実施態様では、場合により前記第一の実施態様と組み合わせて、前記乳タンパク質組成物MPC1を含む工程(iii)の前記電気透析器の前記区画に塩基性溶液を加える。次いで、好ましくは、前記電気透析(iii)中にpHを上昇させる。
【0062】
有利には、前記少なくとも一つの塩基性溶液を、特に所望のpHおよび/または目標の導電率が得られるまで、連続的または順次に添加することができる。
【0063】
有利には、前記少なくとも一つの塩基性溶液は食品級である。
【0064】
有利には、特に前記処理組成物の少なくとも一つの有機酸のpKa以上になるように、工程(iii)の間にpHを上昇させることにより、有機酸の陰イオン性形態を得ることが可能になり、従って、工程(iii)における前記陰イオン性膜を介して抽出することが可能になる。陰イオンの移動度が向上して、それによりその抽出が容易になる。
【0065】
この添加は、前記電気透析器(iii)を停止(したがって、スイッチオフ)し、次に前記塩基性溶液を前記MPC1に添加し、次いで前記電気透析器を再始動する際に;またはイオンの抽出(したがって、スイッチオン)に付随して行うことができる。
【0066】
有利には、乳タンパク質処理組成物の導電率(mS/cm)が工程(i)の前記乳タンパク質組成物の導電率に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%低下したときに、工程(iii)中に前記塩基性溶液が添加される。
【0067】
変形例において、前記塩基性溶液の前記添加は、電気透析工程(iii)の少なくとも一部の間に、イオン、特に陽イオンおよび陰イオンの抽出と同時に行われる。
【0068】
陰イオンの抽出を改善することに加えて、本発明者らは、この構成が、特に、三区画電気透析器における特にもっぱら陽イオン置換(ESC)、その後の従来のED、および三区画電気透析器における特にもっぱら陰イオン置換(ESA)を用いる脱塩方法と比べて、二価陽イオン(Ca2+;Mg2+)の抽出を改善することを観察した。
【0069】
有利には、前記塩基性溶液の前記添加は、特に電気透析工程(iii)の少なくとも一部の間、電場の適用下で実施される。前記電場は、前記電気透析器(iii)の電極、すなわち陽極と陰極との間に電圧(ボルト)を印加することによって生成される。
【0070】
変形例において、前記乳タンパク質組成物への前記塩基性溶液の前記添加は、前記乳タンパク質組成物が1mS/cm以下の導電率を有し、好ましくは3以上のpHを有する場合に実施される。
【0071】
有利には、前記乳タンパク質組成物への前記塩基性溶液の前記添加は、前記乳タンパク質組成物が0.5mS/cm以下の導電率を有し、好ましくは4以上のpHを有するときに実施される。
【0072】
変形例において、前記塩基性溶液の前記添加後、前記乳タンパク質組成物は、4.5以上、好ましくは5.0以上のpHを有する。
【0073】
一つの実施態様において、工程(iii)の後に回収された前記乳タンパク質組成物(MPC2)は、6以下のpHを有する。
【0074】
その後、pHを6~7に調整する必要がある場合は、塩基性溶液をさらに添加してMPC2を標準化することができる。
【0075】
一つの実施態様において、工程(iii)後に回収された前記乳タンパク質組成物(MPC2)は、工程(iii)後に6以上のpHを有する。工程(iii)中の前記塩基性溶液の濃度および適用期間は、このpHを達成するように調整される。
【0076】
変形例において、電気透析工程(iii)は陰イオンおよび陽イオンの抽出を含む。
【0077】
変形例において、工程(ii)は陽イオン置換工程のみである。
【0078】
変形例において、工程(ii)の前記電気透析器は、(それぞれが)三つの区画を含む(からなる)セルを含み、前記乳タンパク質組成物(MPC)は、二つの陽イオン性膜の間で区切られている前記区画(それぞれ)内で循環する。
【0079】
変形例において、工程(iv)で回収された前記乳タンパク質組成物(MPC2)はリン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)を含み、リンの質量が、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して、110mg以上、好ましくは150mg以上である。
【0080】
有利には、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)は、リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)を含み、リンの質量は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して210mg以下である。
【0081】
前記リン酸イオンの質量は、リンに基づいて計算される。
【0082】
前記回収されたMPC2のイオンプロファイルはまた、前記方法が、工程(ii)の後に、陰イオンおよび陽イオンを抽出するための電気透析工程、次いで専ら陰イオン置換のための電気透析工程を含む場合よりも、多くのリン酸イオンを含む。
【0083】
変形例において、工程(iv)で回収された前記乳タンパク質組成物(MPC2)は、ナトリウムまたはカリウムイオンを含み、その質量は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上である。
【0084】
変形例において、工程(iv)で回収された前記乳タンパク質組成物(MPC2)は、ナトリウムまたはカリウムイオンを含み、その質量は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して80mg以下、好ましくは60mg以下である。
【0085】
一つの実施態様において、前記乳タンパク質組成物(MPC2)は、前記少なくとも一つの添加された塩基性溶液からのナトリウムおよび/またはカリウムイオンを含む。
【0086】
変形例において、前記乳タンパク質組成物(MPC)を受け取る工程(ii)の前記電気透析器の前記区画は、それぞれ二つの陽イオン性膜の間で区切られている。
【0087】
変形例において、前記製造方法は、
電気透析工程(ii)から直接誘導される塩、
電気透析工程(ii)から間接的に誘導される塩、
電気透析工程(iii)から直接誘導される塩、
電気透析工程(iii)から間接的に誘導される塩、
工程(i)の前に前記乳タンパク質組成物に対して実施される予備的脱塩工程からの塩、および
後者の混合物、
から選択される一つまたは複数の塩の少なくとも一部を処理する工程(v)を含み、
前記処理工程(v)は、一方では一つまたは複数の酸性塩、および/または他方では一つまたは複数の塩基性塩を生成するように構成されている。
【0088】
前記塩が工程(ii)および/または(iii)および/または(i)から直接誘導されるということは、後者が以下に定義される工程(vi)または(vii)、特にナノ濾過工程を受けていないことを意味すると理解される。
【0089】
前記塩が工程(ii)および/または(iii)および/または(i)から間接的に誘導されることは、後者が以下に定義される工程(vi)または(vii)、特にナノ濾過工程を受けたことを意味すると理解される。
【0090】
本発明による前記方法で使用される前記塩は、好ましくは:一価陽イオンの塩化物;二価陽イオンの塩化物;特に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウム;一価陽イオンの硫酸塩、二価陽イオンの硫酸塩;特に硫酸ナトリウム、硫酸カリウムおよび硫酸カルシウム;一価陽イオンのリン酸塩、二価陽イオンのリン酸塩;特に、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸カルシウム;ならびにそれらの混合物、から選択される。
【0091】
変形例において、処理工程(v)は、双極性膜電気透析器で実施される電気透析工程からなる。
【0092】
有利には、双極性膜は、親水性接合部によって分離された陽イオン交換層および陰イオン交換層から構成される。
【0093】
変形例において、工程(v)における前記双極性膜電気透析器は、三つの区画A、BおよびCを含むユニットセルを含んでおり、区画AおよびBには水が供給され、区画Cには前記塩が供給され、特に、区画Cは前記区画AとBの間に配置されている。
【0094】
好ましくは、前記一つまたは複数の塩は、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウム(NaClおよび/またはKCl)である。
【0095】
一つの実施態様において、工程(v)における前記電気透析器の前記ユニットセルはそれぞれ、双極性膜と陰イオン性膜との間で区切られている第一の区画、陰イオン性膜と陽イオン性膜との間で区切られている第二の区画、および陽イオン性膜と双極性膜との間で区切られている第三の区画を含む。
【0096】
好ましくは、前記第一の区画および前記第三の区画には水が供給され、前記第一および第三の区画の間に配置された前記第二の区画には塩が供給される。
【0097】
有利には、工程(v)、特に双極性膜電気透析工程(v)は、工程(ii)および/または(iii)から誘導される塩の流れから、酸、特に塩酸および/または硫酸、および塩基、特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを生成する。
【0098】
この配置により、前記乳タンパク質組成物自体からの酸性塩または塩基性塩を用いて、前記電気透析工程(ii)および/または(iii)を実施することが可能になる。このように、前記方法は、外因性ミネラル化合物の導入を排除するか、または少なくとも非常に大幅に削減することを可能にする。
【0099】
前記塩、特に塩化ナトリウム塩は、部分的に、工程(i)において前記乳タンパク質組成物に適用される前記予備的脱塩工程から、特にナノ濾過から、由来することもある。
【0100】
変形例において、処理工程(v)の間に得られる前記一つまたは複数の塩の少なくとも一部、特に塩酸および/または硫酸の塩が、工程(ii)において前記電気透析器の前記三つの区画のうちの一つに供給される。
【0101】
変形例において、添加される前記塩基性溶液は、処理工程(v)の間に得られる前記塩基性塩の一つまたは複数を少なくとも部分的に、特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含む。
【0102】
有利には、用いられる前記塩基は、前記MPC自体に由来し、それにより外因性塩基の前記添加が回避される。
【0103】
変形例において、前記塩基性溶液は、工程(ii)および/または工程(iii)から誘導される流出物の再利用から少なくとも部分的に得られる。
【0104】
流出物は、ED(ii)またはED(iii)に由来するブラインと理解される。
【0105】
有利には、前記再利用は工程(v)によって実施される。
【0106】
変形例において、前記乳タンパク質組成物は、乳清、例えばスイート乳清もしくは酸性乳清またはそれらの混合物;乳、特にスキムミルク、限外濾過透過物;乳精密濾過透過物(天然または理想的乳清とも呼ばれる);乳清残留物または限外濾過透過物;乳精密濾過透過物限外濾過残留物または透過物;あるいはそれらの混合物、を含むリストから選択され、好ましくは乳清である。
【0107】
変形例において、前記電気透析工程(ii)は、一価陽イオンの少なくとも一つの塩、特に塩化物、例えば塩化ナトリウム塩および/または塩化カリウム塩、および二価陽イオンの少なくとも一つの塩、特に塩化物、例えば塩化カルシウム(CaCl2)塩を含む混合物を生成し、前記混合物は、分離工程(vi)、特にナノ濾過工程を受ける。
【0108】
有利には、前記分離工程(vi)は、一価陽イオンの前記一つ以上の塩、および二価陽イオンの前記一つ以上の塩の分離を可能にする。
【0109】
変形例において、工程(iii)は、(それぞれが)二つの区画を含む(からなる)ユニットセルを含む電気透析器における、工程(ii)で得られた前記少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)の前記電気透析を含む。
【0110】
前記電気透析器は、複数のセル、例えば少なくとも五つのセル、好ましくは少なくとも五つのセル、より好ましくは少なくとも二十五のセルを含む。
【0111】
第一の実施態様では、前記電気透析器は、陽イオン性膜と陰イオン性膜との間で区切られている第一の区画と、陰イオン性膜、特に前記第一の区画の膜と、陽イオン性膜、特に前記第一の区画の膜との間で区切られている第二の区画とを含む少なくとも一つのユニットセルを含む。
【0112】
好ましくは、前記第一の区画には、工程(ii)で得られた前記部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)が供給される。好ましくは、前記第二の区画には水が供給される。
【0113】
この工程は、有利なことに、MPC1中の前記陰イオンおよび陽イオンの両方の抽出を可能にする。
【0114】
工程(ii)の後に実施されるこの二区画電気透析工程はまた、特に水酸化ナトリウムの添加により、陽イオンおよび陰イオンの80%、85%または90%を超える除去率を得ることを可能にする。
【0115】
工程(ii)は、本明細書において以下に記載される熱処理工程(viii)の前に実施することができる。
【0116】
変形例において、電気透析工程(iii)は、1価の陰イオンおよび/または陽イオンの少なくとも一つの塩および/または2価の陰イオンおよび/または陽イオンの少なくとも一つの塩、特に塩化ナトリウム塩(NaCl)および/またはリン酸ナトリウム塩を含む混合物を生成し、この混合物は、分離工程(vii)、特にナノ濾過工程を受ける。
【0117】
有利なことに、前記分離工程(vii)は、一価陰イオンの前記一つまたは複数の塩、および二価陰イオンの一つまたは複数の塩の分離を可能にする。
【0118】
有利なことに、本明細書に記載の工程(vi)および/または(vii)は、特に工程(ii)が選択的透過性膜なしで実施される場合、前記膜における、特に工程(v)の前記双極性電気透析の前記陽イオン性膜における、二価陽イオン、特にカルシウムおよび/またはマグネシウムの沈殿を回避することにより、前記双極性膜電気透析を完了することを可能にする。
【0119】
変形例において、前記分離工程(vi)および/または前記分離工程(vii)の最後に収集された、一価陽イオンの塩、特に一価陽イオンの塩化物塩、好ましくは塩化ナトリウムが、前記電気透析工程(ii)に供給される。
【0120】
この配置は、特に、工程(ii)が以下に定義される選択的透過性膜を用いて行われる場合に適用される。
【0121】
変形例において、前記分離工程(vi)および/または前記分離工程(vii)の最後に収集された、一価陽イオンの前記塩、特に一価陽イオンの塩化物塩、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウムは、少なくとも部分的に、前記処理工程(v)に付される。
【0122】
この配置は、特に、工程(ii)が以下に定義される選択的透過性膜なしで実施される場合に適用される。
【0123】
有利には、処理工程(v)は、前記一価陽イオンの塩基性塩、特に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの生成を可能にする。
【0124】
有利には、処理工程(v)から誘導される前記塩基性塩は、特に少なくとも部分的に、本発明による前記少なくとも一つの塩基性溶液として使用される。
【0125】
変形例において、工程(ii)の前記電気透析器は、一価陽イオンに対して選択的透過性の少なくとも一つの膜を含む。
【0126】
したがって、一価陽イオン(または一価陰イオン)に対して選択的透過性の前記膜は、一価陽イオン(または一価陰イオン)のみが通過し、陰イオン(または陽イオン)および一を超える価数、特に二価の陽イオン(または陰イオン)は通過しない。
【0127】
変形例において、工程(ii)の前記電気透析器の三つの区画を含む前記ユニットセルは、以下の区画を含む少なくとも一つのユニットセルを含み、好ましくは前記ユニットセルの各々が以下の区画を含んでいる:
一価陽イオンに対して選択的透過性の膜と陽イオン性膜との間で区切られている第一の区画;
二つの陽イオン性膜の間で区切られている第二の区画;および
陽イオン性膜と一価陽イオンに対して選択的透過性の膜との間で区切られている第三の区画。
【0128】
もう一つの変形例において、工程(ii)の前記電気透析器の三つの区画を含む前記ユニットセルは、以下の区画を含む少なくとも一つのユニットセルを含み、好ましくは前記ユニットセルの各々が以下の区画を含んでいる:
陰イオン性膜と陽イオン性膜との間で区切られている第一の区画;
二つの陽イオン性膜の間で区切られている第二の区画;および
陽イオン性膜と陰イオン性膜の間で区切られている第三の区画。
【0129】
このように、陽イオン置換の工程(ii)は、選択的透過性膜を使用して、または使用せずに行うことができる。
【0130】
亜変形例(前記工程(ii))の変形例の)では、前記第一の区画に少なくとも一つの酸性塩、好ましくは塩酸塩が供給され、前記第二の区画に工程(i)の前記乳タンパク質組成物が供給され、前記第三の区画には、一価陽イオン、好ましくはナトリウムの少なくとも一つの塩化物塩、または水が供給される。
【0131】
変形例において、前記方法は、工程(ii)の後、好ましくは工程(iii)の前に実行される熱処理工程(viii)を含む。
【0132】
好ましくは、この工程(viii)において、前記乳タンパク質組成物は、70℃以上110℃以下の温度で、5秒以上10分以下の時間である。
【0133】
有利には、前記熱処理工程は低温殺菌工程である。
【0134】
前記乳タンパク質組成物の前記酸性媒体は、芽胞菌などの破壊がより困難なものを含む細菌の排除を促進する。
【0135】
変形例において、工程(i)の前記乳タンパク質組成物は、特に有機農業に由来する乳清である。
【0136】
変形例において、工程(i)の前記乳タンパク質組成物は、特に、ナノ濾過工程、逆浸透工程、蒸発工程、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも一つの工程を経た、部分的に脱塩された乳清である。
【0137】
これらの工程はまた、前記MPCを濃縮する、すなわち、乾燥抽出物質量を増加させる。
【0138】
本発明の主題は、第二の局面によれば、本発明の前記第一の局面を参照して実施態様の変形例のいずれかによって得ることができる脱塩乳タンパク質組成物に関する。
【0139】
変形例において、前記乳タンパク質組成物は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して、リンの質量が110mg以上、好ましくは150mg以上であるリン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)を含み、また、ナトリウムまたはカリウムイオンを含み、その質量は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上であり、好ましくは、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンは、少なくとも部分的に再利用され、および/または外因性である。
【0140】
有利には、前記乳タンパク質組成物は、リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)を含み、リンの質量は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して210mg以下であり、また、ナトリウムまたはカリウムイオンを含み、その質量は、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して80mg以下、好ましくは60mg以下である。
【0141】
好ましくは、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンは、少なくとも前記添加された塩基性溶液、特に工程(v)で再利用された前記塩基性塩から誘導される。
【0142】
好ましくは、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンは、少なくとも部分的に、前記脱塩乳タンパク質組成物に由来する再利用イオンである。
【0143】
好ましくは、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンは、少なくとも部分的に、前記脱塩乳タンパク質組成物にとって外因性のイオンである。
【0144】
再利用されたイオンは、前記乳タンパク質組成物から抽出され、後者に添加されたイオンであると理解される。
【0145】
外因性イオンは、前記乳タンパク質組成物に由来しないイオンであると理解される。
【0146】
前記乳タンパク質組成物の脱塩率は、80%、85%、または90%以上である。
【0147】
本発明の主題は、第三の局面によれば、本発明の第一および/または第二の局面による前記実施態様変形例のいずれかによる前記方法を実施するための設備に関し、当該設備は、
a)乳タンパク質組成物(MPC)を受け取ることを意図した第一の入口と、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)のための第一の出口とを含んでなり、(それぞれが)三つの区画を含む(からなる)ユニットセルを含んでおり、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンが少なくとも一つの水素イオンH+により置換されるように構成されている第一の電気透析器、および
b)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取ることを意図した第一の入口と、前記乳タンパク質組成物(MPC2)のための第一の出口とを含んでなる第二の電気透析器
を含んでいる。
【0148】
前記第一の電気透析器は工程(ii)の実施を可能にし、前記第二の電気透析器は工程(iii)の実施を可能にする。
【0149】
前記第一の電気透析器および/または前記第二の電気透析器は、特に工程(ii)および(iii)の電気透析器に関して、本発明の前記第一の局面を参照して上述した前記変形例/実施態様のいずれか一つを含み得る。
【0150】
変形例において、前記設備は以下の装置を含む:
c)塩基性溶液を含んでいると共に、好ましくは電場の印加下で、前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取ることを意図した前記第二の電気透析器の区画と、所定の期間、流体連通するように構成されている装置。
【0151】
有利には、前記装置は、所定の期間、MPC1の前記陰イオンおよび陽イオンの抽出と同時に、MPC1を受け取る前記第二の電気透析器の区画に前記少なくとも一つの塩基性溶液を供給する。
【0152】
変形例において、前記第一の電気透析器は、少なくとも一つの酸性塩、特に塩酸塩および/または硫酸塩を受け取ることを意図した第二の入口と、水または塩、特に一価陽イオンの塩化物塩(NaClおよび/またはKCl)を受け取ることを意図した第三の入口とを含む。
【0153】
変形例において、前記設備は、処理ユニット(v)、特に、三つの区画および双極性膜を含むセルを含む電気透析器を含む。
【0154】
変形例において、前記処理ユニット(v)は、水を受け取る第一の入口と、一価陽イオン塩(NaCl、KCl)を受け取る第二の入口と、酸性塩(HCl)のための第一の出口と、塩基性塩(NaOHおよび/またはKOH)のための第二の出口とを含む。
【0155】
一つの実施態様において、前記塩基性塩は、塩基性溶液を含む前記装置c)に供給される。
【0156】
一つの実施態様において、前記酸性塩は、前記第一の電気透析器a)の前記第二の入口に供給される。
【0157】
変形例において、前記設備は、塩の分離、特に工程(vi)または工程(vii)を実行するためのユニットを含む。
【0158】
好ましくは、前記分離ユニット(vi)または(vii)は、
一価の陰イオンおよび/または陽イオンの少なくとも一つの塩および/または二価の陰イオンおよび/または陽イオンの少なくとも一つの塩、特に塩化ナトリウム塩(NaCl)および/またはリン酸ナトリウム塩を受け取る第一の入口、および:
前記第一の入口が一価および二価の陽イオン塩を受け取る場合、前記一価の陽イオン塩のための第一の出口および前記二価の陽イオン塩のための第二の出口、または
前記第一の入口が一価および二価の陰イオン塩を受け取る場合、前記一価の陰イオン塩のための第一の出口および前記二価の陰イオン塩のための第二の出口
を含む。
【0159】
好ましくは、前記分離ユニット(vi)または(vii)は、ナノ濾過ユニットである。
【図面の簡単な説明】
【0160】
本発明は、単に非限定的な例として与えられた本発明の実施態様の以下の説明を読み、また添付の図面を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【0161】
【
図1】脱塩乳タンパク質組成物を製造するための方法の第一の例の様々な工程を模式的に表している。
【
図2】本発明による前記処理工程(v)の例、特に、
図1および3に示される前記第一および第二の例の方法で実施される双極性膜電気透析器のユニットセルを概略的に表している。
【
図3】脱塩乳タンパク質組成物を製造するための方法の第二の例の様々な工程を模式的に表している。
【発明を実施するための形態】
【0162】
図1に示されている脱塩乳タンパク質組成物を製造するための方法の第一の例は、二つの電気透析器(ED)5および10を含む。前記ユニットセル15および35は三つの区画を有する。ED10の前記ユニットセル35は、三つの区画を有する。前記電気透析器5の単一ユニットセル15が
図1に示されている。このユニットセル15は、陽イオン選択的透過性膜22と陽イオン性膜24との間で区切られている第一の区画20、前記陽イオン性膜24と前記陽イオン性膜28との間で区切られている第二の区画26、および前記陽イオン性膜28と前記陽イオン選択的透過性膜32との間で区切られている第三の区画30、を含む。前記電気透析器10の単一のユニットセル35が
図1に示されている。このユニットセル35は、陽イオン性膜37と陰イオン性膜41との間で区切られている第一の区画39、および、前記陰イオン性膜41と陽イオン性膜45との間で区切られている第二の区画43を含む。
【0163】
前記陽イオン選択的透過性膜22および32は、一価陽イオンのみが交差することができる。前記電気透析器5および10はそれぞれ、前記ユニットセル15および35の前記区画を通過する前記導電性溶液を通して電流を生成する陰極(80、88)および陽極(78、90)を含む。
【0164】
前記方法は、また、特に
図2に詳しく示す本発明によれば、工程(vi)を実施するための第一のナノ濾過装置50、および/または、工程(vii)を実施するための第二のナノ濾過装置60、および/または、工程(v)を実施するための双極性膜電気透析器70を含むことができる。この第一の方法例は、前記熱処理工程(viii)、特に低温殺菌を実施するための熱処理ユニット75も含む。
【0165】
操作において、任意に少なくとも30%に脱塩された乳タンパク質組成物MPC、特に乳清が、工程(i)において供給され、次いで、工程(ii)の実施のために前記電気透析器5の前記第二の区画26に供給される。
【0166】
同時に、酸性化された塩、特に塩酸溶液が前記第一の区画20に供給され、ブライン、特に塩化ナトリウム塩が前記第三の区画30に供給される。前記H+イオンが前記陽イオン性膜24を横切り、前記第三の区画30から来るNa+イオンによって置換され、電場の影響下で前記選択的透過性膜32または22を通過する。前記一価および/または二価陽イオン、特にNa+イオンおよびCa2+イオンが、電場の影響下で前記陰極80の方向に前記陽イオン性膜28を横切り、前記第一の区画20から来るH+イオンによって置換される。したがって、工程(i)で得られた前記乳タンパク質組成物MPC1は、部分的に脱塩され、前記陽イオンはH+によって置換され、酸性化される。MPC1のpHは4以下である。前記第三の区画30は、前記乳タンパク質組成物MPCから誘導される塩化物塩、特に塩化カルシウム塩(CaCl2)および塩化ナトリウム塩(NaCl)の混合物を含む。したがって、前記一価イオン(例えば、Na+、K+)は、前記陽イオン選択的透過性膜22または32を横切り、前記第一の区画20に供給し、一方、前記二価イオン(例えば、Ca2+)は、前記第三の区画30に留まる。
【0167】
前記酸性化乳タンパク質組成物MPC1は、その細菌学的安定性を改善するために、工程(viii)において熱処理(90℃に数分間加熱)を受けることができる。有利には、前記組成物MPC1が酸性化されると、熱処理条件は、通常よりも強く、かつ前記タンパク質が変性しないように規定することができる。
【0168】
前記第三の区画30から誘導される塩の前記混合物は、前記ナノ濾過ユニット50においてナノ濾過工程(vi)を受けて、塩化カルシウムCaCl2のような二価塩の保持によって前記第三の区画30から誘導される前記塩化ナトリウム塩の純度を高めることができる。前記精製された塩化ナトリウム塩は、こうして、前記第三の区画30に供給される。
【0169】
特に低温殺菌された前記組成物MPC1は、前記電気透析器10において第二の電気透析工程(iii)を受ける。
【0170】
前記第一の区画39には、加熱および酸性化されたMPC1が供給される。前記第二の区画43は、水を受ける。前記陰イオン(塩化物、リン酸塩)は、前記陰イオン性膜41を通過し、前記第二の区画に保持される。前記陽イオン(ナトリウム、マグネシウム)は前記陽イオン性膜37を通過し、前記ブライン区画に留まる。前記回収された組成物MPC2は、このように、脱塩および脱酸される。
【0171】
前記第二の区画43において、MPC1から誘導される、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウム塩(NaCl、KCl)とリン酸塩の前記混合物は、ナノ濾過工程(vii)を受けることができ、前記リン酸イオンの保持により、前記塩化ナトリウム塩または塩化カリウム塩の純度の増加させることができる。
【0172】
本発明による前記方法、および前記第一の方法例として特定されているこの例では、三区画双極性膜電気透析ユニット70での前記塩化ナトリウム塩または塩化カリウム塩の処理工程(v)も有利に含むことができ、それにより、
陽イオン性電気透析工程(ii)の前記第一の区画20から誘導される、前記塩、特にNaClおよび/またはKClの前記流れ、および/または、
任意に、工程(i)の前記組成物MPCに対して上流で実施される前記予備脱塩工程から誘導されるNaClおよび/またはKCl;
および/または、食品級のNaClおよび/またはKCl;
および/または、工程(vi)および/または工程(vii)から誘導されるNaClおよび/またはKClの流れ;
からの、前記酸、主にHCl、および前記塩基、主に水酸化ナトリウムまたはカリウムの再生を可能にする。
【0173】
前記予備脱塩工程は、好ましくはナノ濾過工程からなる。
【0174】
好ましい実施態様では、工程(v)で再利用される前記塩基性塩は、特に陰イオンおよび陽イオンの抽出中に、すなわち電場の影響下で、前記区画39においてMPC1に添加される。
【0175】
もう一つの実施態様において、前記電気透析器10が停止され、次いで区画39においてMPC1に塩基性塩が添加され、次いで前記脱塩を継続するように前記電気透析器が再始動される。
【0176】
一つの実施態様において、前記二つの前の実施態様のうちの一つまたは他のものと任意に組み合わされて、工程(iii)の後に塩基性溶液が添加される。
【0177】
工程(v)の開始時に使用される前記塩を除いて、前記電気透析工程(ii)および(iii)の実施に使用される前記酸性塩および塩基性塩が、前記乳タンパク質組成物MPC1から誘導され、それにより外因性ミネラル化合物の導入が回避される。
【0178】
図2は、前記電気透析器70と、双極性膜112と陰イオン性膜114との間で区切られている第一の区画110、前記陰イオン性膜114と陽イオン性膜118との間で区切られている第二の区画116、および前記陽イオン性膜118と双極性膜122との間で区切られている第三の区画120を含むそのユニットセル105を示す。前記塩、特に塩化ナトリウムまたは塩化カリウムが、前記第二の区画116に供給される。前記塩化物イオンが、電場の影響下に前記陽極125の方向に前記陰イオン性膜114を通過し、一方、前記Na
+、K
+イオンが、電場の影響下で前記陰極127の方向に前記陽イオン性膜を通過する。この工程(v)は、前記酸性塩および塩基性塩、特に塩酸および水酸化ナトリウムの再生を可能にし、その後、前記酸性塩のために工程(ii)の前記ユニットセル15または215の前記第一の区画へ、および/または、本発明による少なくとも一種の塩基性溶液を添加する前記工程の間、前記塩基性塩のために工程(iii)の前記ユニットセル35または235の前記第一の区画39または239へ供給される。
【0179】
図3に示される脱塩乳タンパク質組成物を製造するための方法の前記第二の例は、二つの電気透析器200および205を含む。前記電気透析器200は、(それぞれが)三つの区画を含むユニットセル215を含む。前記電気透析器205は、(それぞれが)二つの区画を含むユニットセル235を含む。前記電気透析器200の単一のユニットセル215を
図3に示す。このユニットセル215は、陰イオン性膜222と陽イオン性膜224との間で区切られている第一の区画220と、前記陽イオン性膜224と前記陽イオン性膜228との間で区切られている第二の区画226と、前記陽イオン性膜228と前記陰イオン性膜232との間で区切られている第三の区画230をと含む。
【0180】
前記電気透析器205の単一のユニットセル235も
図3に示されている。このユニットセル235は、陽イオン性膜237と陰イオン性膜241との間で区切られている第一の区画239、および前記陰イオン性膜241と陽イオン性膜249との間で区切られている第二の区画243を含む。
【0181】
前記電気透析器200および205はそれぞれ、前記ユニットセル215および235の前記区画を通過する前記導電性溶液を通して電流を生成する陽極(278、290)および陰極(280、288)を含む。前記方法は、工程(vi)を実施するための第一のナノ濾過装置250、および/または工程(vii)を実施するための第二のナノ濾過装置260、および/または工程(v)を実施するための特に
図2に詳述される三区画双極性膜電気透析器70を含むこともできる。さらに、前記方法は、前記熱処理工程(viii)、特に低温殺菌を実施するための熱処理ユニット275を含んでもよい。
【0182】
操作において、乳タンパク質組成物MPC、特に少なくとも30%まで脱塩された乳清が、前記電気透析器200の前記第二の区画226に供給される。同時に、酸性化された塩、特に塩酸溶液が、前記第一の区画220に供給され、水が、前記第三の区画230に供給される。H+イオンのみが前記陽イオン性膜224を横切って前記第二の区画226に向かい、前記陰極280に向かい、前記塩化物イオンが前記陰イオン性膜232を横切って前記第三の区画230に向かい、前記陽極278に向かう。前記第二の区画226において、Na+およびCa2+のような前記一価または二価陽イオンが、電場の影響下で前記陽イオン性膜228を横切って前記陰極280に向かい、前記第一の区画220から来るH+イオンによって置換される。工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物MPC1は、こうして部分的に脱塩され、前記陽イオンはH+イオンによって置換され、酸性化される。MPC1のpHは4以下である。前記第三の区画230は、前記乳タンパク質組成物MPCから誘導されるCaCl2とNaClとの混合物を含む。前記第一の区画220からの塩化物イオンが、前記陰イオン性膜222または232を通過し、前記第三の区画230に供給する。
【0183】
前記酸性化乳タンパク質組成物MPC1は、その細菌学的安定性を改善するために、好ましくは工程(viii)において熱処理、特にサーミゼーション工程(90℃に数分間加熱)を受ける。有利には、前記組成物MPC1は酸性化されているので、前記熱処理の条件を、タンパク質が変性しないように定めることができる。
【0184】
前記第三の区画230から誘導される塩の前記混合物を、塩化カルシウムCaCl2のような二価塩の抽出によって前記第三の区画230から誘導される前記塩化ナトリウム塩の純度を高めるために、前記ナノ濾過ユニット250でのナノ濾過工程(vi)を受けることができる。この工程の後に、任意に、キレート樹脂で処理して、工程(v)の3~5ppm投入仕様を達成してもよい。
【0185】
特に熱処理された前記組成物MPC1は、前記電気透析器205における第二の電気透析工程(iii)を受ける。
【0186】
前記第一の区画239には、加熱および酸性化されたMPC1が供給される。前記第二の区画243は、水を受ける。前記陰イオン(塩化物、リン酸塩)は、前記陰イオン性膜241を通過し、前記第二の区画243に保持される。前記陽イオン(ナトリウム、マグネシウム)は前記陽イオン性膜237を通過し、前記ブライン区画(243)に留まる。したがって、工程(iv)で回収された前記組成物MPC2は、脱塩および脱酸される。
【0187】
前記第二の区画243において、MPC1から誘導された塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウム塩(NaCl、KCl)およびリン酸塩の前記混合物が、ナノ濾過工程(vii)を受けることができ、前記リン酸イオンの保持により前記塩化ナトリウム塩の純度を上げることができる。
【0188】
本発明による前記方法、および特にこの第二の方法例では、三区画双極性膜電気透析ユニット、特に
図2に示され先に説明した電気透析器70での前記塩化ナトリウム塩またはカリウム塩の処理工程(v)も有利に含むことができ、それにより、
工程(i)の前記組成物MPCに対して上流で実施される前記予備脱塩工程から誘導される塩、特にNaClおよび/またはKClの流れ;
および/または、食品級のNaClおよび/またはKCl;
および/または、工程(vi)および/または工程(vii)から誘導されるNaClおよび/またはKClの流れ;
からの、前記酸、主にHCl、および前記塩基、主に水酸化ナトリウムまたはカリウムの再生を可能にする。
【0189】
前記予備脱塩工程は、好ましくはナノ濾過工程からなる。
【0190】
好ましい実施態様では、工程(v)で再利用される前記塩基性塩は、特に陰イオンおよび陽イオンの抽出中、すなわち電場の影響下で、前記区画239においてMPC1に添加される。
【0191】
もう一つの実施態様において、前記電気透析器205が停止され、次いで区画239においてMPC1に塩基性塩が添加され、次いで前記脱塩を継続するために前記電気透析器205が再開される。
【0192】
一つの実施態様において、前記二つの前の実施態様のうちの一つまたは他のものと任意に組み合わされて、工程(iii)の後に塩基性溶液が添加される。
【0193】
工程(v)の開始時に使用される前記塩を除いて、前記電気透析工程(ii)および(iii)の実施に使用される前記酸性塩および塩基性塩は、前記乳タンパク質組成物MPC1から誘導され、それにより、外因性ミネラル化合物の導入が回避される。
【0194】
前記第二の方法例は、工程(ii)における選択的透過性膜の使用によって前記第一の例とは異なる。
【0195】
電気透析器5(
図1)または200(
図3)のいずれかにおいて、陽イオン置換工程(ii)を行うことができる。
【0196】
以下に記載する試験を実施するために、乳タンパク質組成物MPCを、(未加工の)スイート乳清粉末の脱塩水中16%乾燥質量の分散液を調製することによって作製した。均一な混合物が得られるまで、前記分散液を機械的に攪拌する。したがって、MPCは次のパラメーターを示す。乾物中の質量率:15.9%(粉末質量/合計質量);pH=5.95;初期導電率:10.95mS/cm;灰分質量含量:8.1%;ラクトース質量含量:73.5%;陽イオン(特にNa、NH4、K、Ca、Mg)質量含量:3.79%;陰イオン(特にCl、NO3、PO4、SO4)質量含量:3.64%;さまざまな質量率(乾物中の場合を除く)は、一つまたは複数の化合物の合計質量を前記乾物の合計質量に関連付けることによって計算する。
【0197】
【0198】
前記電気透析器200は、例えば、五から十五個のセル215を含む。前記第一の区画220には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。前記第二の区画226には、上に例示したMPCが供給される。前記第三の区画には、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、この特定の例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が最初に供給される。1アンペア以上、特に2アンペア以下の電流(I)が前記電気透析器200に印加され、電圧は好ましくは解放されたままである。電気透析(ii)の間、MPCの導電率は低下し、その脱塩を示しており、その後、そこに含まれる前記陽イオンがH+イオンに置換されるため、導電率は上昇する。得られたMPC1のpHは1程度であり、MPC1の導電率は約12mS/cmである。前記第一の区画220の出口での酸性溶液、すなわちHClの導電率は約74%低下し、前記第三の区画230の出口で得られるブライン、すなわちNaClの導電率は約234%増加する。陽イオン除去率は約84%である。
【0199】
【0200】
前記電気透析器5は、例えば、五から十五個のセル15を含む。前記第一の区画20には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。前記第二の区画26には、上で例示したMPCが供給される。前記第三の区画には、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、この特定の例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が最初に供給される。1アンペア以上、特に2アンペア以下の電流(I)が前記電気透析器5に印加され、電圧は好ましくは解放されたままである。電気透析(ii)の開始時に、MPCの導電率は低下し、その脱塩を示しており、その後、そこに含まれる陽イオンがH+イオンに置換されるため、導電率は上昇する。前記酸性区画20では、H+イオンの枯渇および導電性の低いNaClの生成により、導電率が低下する。MPCから抽出された前記陽イオンは、NaClよりも導電性の高い多価陽イオンが豊富な前記ブライン区画30に移動する。得られたMPC1のpHは1程度であり、MPC1の導電率は約12mS/cmである。第一の区画220の出口での前記酸性溶液の導電率は約35%低下し、前記第三の区画30の出口で得られる前記ブラインの導電率は約25%増加する。前記陽イオン除去率は約82%である。
【0201】
工程(iii)の実施のために、使用されるMPC1は、電気透析器5または200からのもののいずれかであり得、これは、後者が陽イオン除去速度に関して同一の性能を有するからである。
【0202】
以下に記載する試験を実施するために、乳タンパク質組成物MPC′′を、脱塩水中で乾燥質量17%の(未加工の)スイート乳清粉末の分散液を調製することによって作製した。均一な混合物が得られるまで、分散液を機械的に攪拌する。したがって、MPC′′は次のパラメーターを示す。乾物中の質量率:17%(粉末質量/合計質量);pH=5;初期導電率:12mS/cm;灰分質量含量:8%;ラクトース質量含量:74%;陽イオン(特にNa、NH4、K、Ca、Mg)質量含量:5%;陰イオン(特にCl、NO3、PO4、SO4)質量含量:3%;さまざまな質量比率(乾物のものを除く)は、一つまたは複数の化合物の合計質量を前記乾物の合計質量に関連付けることによって計算する。
【0203】
3.電気透析器200(ESC)における陽イオン置換(
図3)
【0204】
前記電気透析器200は、例えば、五から十五個のセル215を含む。前記第一の区画220には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。前記第二の区画226には、上に例示したMPC′′が供給される。前記第三の区画には、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、この特定の例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。2アンペア以上、特に3アンペア以下の電流(I)が電気透析器200に印加され、電圧は好ましくは解放されたままである。電気透析(ii)の間、MPC′′の導電率は低下し、その脱塩を示しており、その後、そこに含まれる前記陽イオンがH+イオンで置換されるため、上昇する。得られたMPC1′′のpHは2程度であり、MPC1′′の導電率は約12mS/cmである。前記第一の区画220の出口での前記酸性溶液、すなわちHClの導電率は約53%低下し、第三の区画230の出口で得られる前記ブライン、すなわちNaClの導電率は約292%増加する。陽イオンの除去率(または置換率)は約77%である。MPC′′とMPC1′′について陰イオンの割合は実質的に同じである。
【0205】
4.従来の二区画電気透析(ED)(陰イオン性膜/陽イオン性膜)(例えば、
図1または3の工程(iii)10または205)
【0206】
この電気透析器は、例えば、五から十五個のセルを含む。前記第一の区画には、前記のMPC1′′が供給され、前記第二の区画には、5ms/cm以上で15ms/cm以下の導電率を有する塩、特に塩化ナトリウムが最初に供給される。試験中、10V以上20V以下、特に15V以下の電圧が前記二区画電気透析器に印加され、電流(I)は解放されたままである。試験中、MPC1′′の導電率は低下し、その脱塩を示している。H
+イオンの一部が前記ブライン区画で抽出されるため、出口でのMPC1′′(ESC+ED)のpHが上昇し、特に2.5以上、特に3以上である。MPC1′′(ESC+ED)の最終導電率は、この従来の電気透析により、MPCと比較して約90%低下する。MPC1′′(ESC+ED)における陽イオン(Na、NH
4、K、Ca、Mg)除去率は90%以上(陽イオン置換EDの出口で得られるMPC1′′と比較、
図3)である。MPC1′′(ESC+ED)における陰イオン(Cl、NO
3、PO
4、SO
4)除去率は、約80%以上(陽イオン置換EDの出口で得られるMPC1′′と比較、
図3)である。
【0207】
pHを所望のpHに調整するために、前記回収されたMPC2に塩基性溶液(例えば、5%m/mの水酸化ナトリウム溶液)を添加することが可能である。
【0208】
陽イオンおよび陰イオンの抽出と同時に、したがって電場の適用下で、MPC1を受け取る工程(ii)の前記電気透析器の前記区画に前記塩基性溶液を添加することも可能である。このルートにより、MPC1を脱塩しながらpHを上げることが可能になる。さらに、リン酸イオン、およびカルシウムおよびマグネシウムイオンの抽出が、塩基を添加せずにEDを使用する脱塩と比較して改善されるため、相乗効果が観察された。
【0209】
以下に記載する試験を実施するために、乳タンパク質組成物MPC(A)を23%乾燥質量で提供した。前記乳タンパク組成物は、蒸発により予備濃縮されたスイート乳清である。したがって、MPC(A)は次のパラメーターを示す。乾物質量含量:23%(乾燥質量/合計質量);pH=6.04;初期導電率:12.2mS/cm;灰分質量含量:7.6%(%灰分質量/合計乾燥質量);TNM質量含量:15.7%(%TNM質量/合計乾燥質量);Na541mg/総乾物100g;K2269mg/総乾物100g;Ca513mg/総乾物100g;Mg104mg/総乾物100g;Cl1357mg/総乾物100g;リン640mg/総乾物100g。
【0210】
5.電気透析器200(ESC)における陽イオン置換(
図3)
【0211】
前記電気透析器200は、例えば、五から二十五個のセル215を含む。第一の区画220には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。第二の区画226には、上で例示したMPC(A)が供給される。第三の区画には水が供給される。2アンペア以上、特に10アンペア以下の電流(I)が前記電気透析器200に印加され、電圧は好ましくは解放されたままである。電気透析(ii)の間、MPC(A)′の導電率は低下し、その脱塩を示し、その後、そこに含まれる前記陽イオンがH+イオンによって置換されるため上昇する。得られたMPC(A)のpHは2程度であり、MPC1(A)の導電率は約8.0mS/cmである。前記第一の区画220の出口での前記酸性溶液、すなわちHClの導電率は低下し、前記第三の区画230の前記出口において、前記水にイオンが負荷され、前記出口でブラインを含む。MPC1(A)の前記陽イオンについて次のプロファイルが得られる。Na166mg/総乾物100g;K378mg/総乾物100g;Ca314mg/総乾物100g;Mg79mg/総乾物100g。陰イオンの前記濃度は、MPC(A)とMPC1(A)との間で実質的に同じである。
【0212】
6.従来の二区画電気透析(ED)(陰イオン性膜/陽イオン性膜)(例えば、
図1または3の電気透析器10または205)
【0213】
この電気透析器は、例えば、五から五十個のセルを含む。前記第一の区画には上述のMPC1(A)が供給され、前記第二の区画には水が供給される。試験中、10V以上50V以下、特に40V以下の電圧が前記二区画電気透析器に印加され、電流(I)は解放されたままにする。試験中、MPC(A)の前記導電率が低下し、その脱塩を示している。前記H+イオンの一部が前記ブライン区画で抽出され、前記出口においてMPC1(A)のpHが上昇する。
【0214】
一つの実施態様において、5%(m/m)での塩基性溶液の添加は、工程(iii)の間ではなく、工程(iii)の後にMPC2に対して行われる。
【0215】
この場合、工程(iii)の終了時(水酸化ナトリウムの添加前)に得られるMPC2の前記pHは4.5程度である。工程(iii)の前記出口におけるMPC2は、0.3mS/cm程度の導電率を有する。次のイオンプロファイルが得られる。Na約0mg/全乾物100g;K0mg/総乾物100g;Ca35mg/総乾物100g;Mg19mg/総乾物100g;Cl14mg/総乾物100g;リン206mg/総乾物100g。陽イオンの除去率は98%、陰イオンの除去率は89%である。
【0216】
もう一つの実施態様において、前記塩基性溶液の添加は、電場の適用下で、陰イオンおよび陽イオンの抽出と同時に、工程(iii)中にMPC1に対して行われる。5%(m/m)の水酸化ナトリウム溶液(NaOH)が、MPC1を含む工程(iii)の前記電気透析器の前記区画で添加される。好ましくは、この添加は、前記ED(iii)で観察される導電率が約75%低下した後に行われる。好ましくは、水酸化ナトリウムの添加は、MPC1が1mS/cm以下、この具体例では0.5mS/cm程度の導電率を有するとき、および/または、pHが3以上、特に4以上のときに行われる。
【0217】
この場合、工程(iii)の最後に得られるMPC2のpHは5.2程度である。工程(iii)の前記出口におけるMPC2は、0.3mS/cm程度の導電率を有する。次のイオンプロファイルが得られる。Na約53mg/総乾物100g;K0mg/総乾物100g;Ca24mg/総乾物100g;Mg13mg/総乾物100g;Cl9mg/総乾物100g;リン160mg/総乾物100g。前記灰分含量は0.50%(%灰分質量/合計乾燥質量)である。陽イオンの除去率は97%、陰イオンの除去率は92%である。
【0218】
電場の印加下での前記ED(iii)中の塩基性溶液の添加は、前記塩基性溶液を添加しないED(iii)と比較して、リン酸イオンおよび二価陽イオンの抽出を改善することを可能にする。
【0219】
比較実施態様では、工程(ii)は塩基性溶液の添加を含まず、前記脱塩方法は、そのセルが本明細書に記載のように三つの区画MPC2(A)を含む電気透析器における専ら陰イオン置換の工程を含み、工程(ii)の後に実行される。この場合、得られる前記乳タンパク質組成物のpHは、0.2mS/cm程度の導電率について5.4程度である。次のイオンプロファイルが得られる。Na約19mg/総乾物100g;K2mg/総乾物100g;Ca39mg/総乾物100g;Mg37mg/総乾物100g;Cl11mg/総乾物100g;リン酸塩110mg/総乾物100g。前記灰分含量は0.40%(%灰分質量/合計乾燥質量)である。二価陽イオンの質量分率は、塩基性溶液が添加される期間中、工程(iii)と比較して上記で得られたものよりも大きい。
【0220】
工程(ii)と組み合わせられている、電場下で後者の間に塩基を添加する前記工程(iii)は、(ii)と組み合わせられている、後者の間に水酸化ナトリウムを添加しない工程(iii)と比べて、約30%の二価陽イオンの抽出および約20%のリン酸塩の抽出の向上を可能にし、前記比較実施態様と比べて、約44%の二価陽イオンの抽出の向上を可能にしている。
【0221】
ポイント6で説明した前記工程(iii)を、ポイント1またはポイント2で得られるMPC1に適用して、MPC2を得ることもできる。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を製造する方法であって、
(i)乳タンパク質組成物(MPC)を提供する工程;
(ii)三つの区
画を含むユニットセ
ルを含んでいると共に、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンを少なくとも一つの水素イオンH
+により置換して、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を得るように構成された電気透析
器において前記乳タンパク質組成物(MPC)を電気透析する工程;
(iii)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を電気透析する工程;および
(iv)前記脱塩乳タンパク質組成物(MPC2)を回収する工程;
を含
む方法。
【請求項2】
工程(iii)の間および/または工程(iii)の後に、前記乳タンパク質組成物に少なくとも一つの塩基性溶液を添加すること、特に少なくとも一つの塩基性塩を含む少なくとも一つの溶液を添加す
る、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性溶液の前記添加が、電気透析工程(iii)の少なくとも一部の間に、イオンの抽出と同時に行われ
る、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳タンパク質組成物への前記塩基性溶液の前記添加が、前記乳タンパク質組成物が1mS/cm以下の導電率を有し、好ましくは3以上のpHを有するときに行われ
る、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記塩基性溶液の前記添加後、前記乳タンパク質組成物が4.5以上、好ましくは5.0以上のpHを有す
る、請求項2~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記電気透析工程(iii)が陰イオンおよび陽イオンの前記抽出を含
む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(ii)が陽イオンのみの置換工程であ
る、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(iv)で回収される前記乳タンパク質組成物(MPC2)がリン酸イオン(H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3-)を含み、リンの質量が、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して110mg以上、好ましくは150mg以上であ
る、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(iv)で回収される前記乳タンパク質組成物(MPC2)がナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含み、その質量が、前記回収された乳タンパク質組成物(MPC2)の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上であ
る、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記乳タンパク質組成物(MPC)を受け取る工程(ii)の前記電気透析器の前記区画が、二つの陽イオン性
膜の間でそれぞれ区切られてい
る、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
電気透析工程(ii)から直接誘導される塩、
電気透析工程(ii)から間接的に誘導される塩、
電気透析工程(iii)から直接誘導される塩、
電気透析工程(iii)から間接的に誘導される塩、
工程(i)の前に前記乳タンパク質組成物に対して実施された予備的脱塩工程からの塩、および
後者の混合物、
から選択される塩の少なくとも一部の処理工程(v)を含み、
前記処理工程(v)が、一方では一つまたは複数の酸性塩、および/または他方では一つまたは複数の塩基性塩を生成するように構成されている
請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
処理工程(v)が、双極性膜電気透析
器において実施される電気透析工程からな
る、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(v)における前記双極性膜電気透析
器が、三つの区画A、Bおよび
Cを含むユニットセ
ルを含み、区画AおよびBには水が供給され、区画Cには一つまたは複数の塩が供給され、特に、区画Cが、区画AとBとの間に配置されてい
る、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
処理工程(v)中に得られる、特に塩酸および/または硫酸の前記一つまたは複数の塩の少なくとも一部が、工程(ii)における前記電気透析
器の前記三つの区
画のうちの一つに供給され
る、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記塩基性溶液が、少なくとも部分的に、処理工程(v)の間に得られる一つまたは複数の塩基性塩、特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含
む、請求項11~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記塩基性溶液が、少なくとも部分的に、工程(ii)および/または工程(iii)から誘導される流出物の再利用から誘導され
る、請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記乳タンパク質組成物が、乳清、例えばスイート乳清もしくは酸性乳清またはそれらの混合物;乳限外濾過透過物;乳精密濾過透過物;乳清限外濾過残留物または透過物;乳精密濾過透過物限外濾過残留物または透過物;あるいはそれらの混合物、を含むリストから選択され、好ましくは乳清であ
る、請求項1~16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の製造方法に従って得ることができる乳タンパク質組成物であって、リン酸イオン(H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3-)を含んでおり、その質量が、前記乳タンパク質組成物の合計乾燥質量100gに対して110mg以上210mg以下であることを特徴とし、また、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含んでおり、その質量が、前記乳タンパク質組成物の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上であり、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンが、好ましくは少なくとも部分的に再利用される、および/または外因性で
ある乳タンパク質組成物。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実施するための設備であって、
a)乳タンパク質組成物(MPC)を受け取ることを意図した第一の入口と、少なくとも部分的に脱塩され酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)のための第一の出口とを含んでなり、三つの区
画を含むユニットセ
ルを含んでおり、前記乳タンパク質組成物(MPC)中において少なくとも一つの陽イオンが少なくとも一つの水素イオンH
+により置換されるように構成されている第一の電気透析
器、および
b)工程(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取ることを意図した第一の入口と、前記乳タンパク質組成物(MPC2)のための第一の出口とを含んでなる第二の電気透析
器
を含
む設備。
【請求項20】
c)塩基性溶液を含み、好ましくは電場の印加下で、前記乳タンパク質組成物(MPC1)を受け取ることを意図した前記第二の電気透析器の前記区画と、所定の期間、流体連通するように構成された装置
を含
む、請求項19に記載の設備。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項18
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の製造方法に従って得ることができる乳タンパク質組成物であって、リン酸イオン(H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3-)を含んでおり、その質量が、前記乳タンパク質組成物の合計乾燥質量100gに対して110mg以上210mg以下であ
り、また、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含んでおり、その質量が、前記乳タンパク質組成物の合計乾燥質量100gに対して20mg以上、好ましくは30mg以上であり、前記ナトリウムおよび/またはカリウムイオンが、好ましくは少なくとも部分的に再利用される、および/または外因性である乳タンパク質組成物。
【国際調査報告】