(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4745 20060101AFI20230428BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/357 20060101ALI20230428BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230428BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/7056 20060101ALI20230428BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61P31/14
A61K31/366
A61K31/357
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P31/16
A61P11/00
A61K31/7056
A61K38/21
A61K31/166
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557949
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 KR2021003742
(87)【国際公開番号】W WO2021194290
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0037135
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518073240
【氏名又は名称】シンプン・ファーマシューティカル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHIN POONG PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】リュ,ジェマン
(72)【発明者】
【氏名】チュ,チョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヒョンギュ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,グムシル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA22
4C084BA44
4C084DA21
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC412
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA16
4C086BA17
4C086CB09
4C086EA11
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206GA07
4C206GA31
4C206MA02
4C206MA03
4C206NA05
4C206ZA59
4C206ZB33
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、ピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体を伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療に使用するための使用に関し、より詳細には、治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又は、治療有効量のアルテミシニン又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症、特にコロナウイルス感染症-19(COVID-19)の予防又は治療に使用するための医薬組成物に関する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項2】
治療有効量のアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
治療有効量のピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩、及び治療有効量のアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
前記ピロナリジンの薬学的に許容される塩が、リン酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢塩酸、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩及びフマル酸塩からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ピロナリジンの薬学的に許容される塩が、リン酸塩であることを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩と、アルテミシニン又はその誘導体との重量比が、10:1~1:10であることを特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩と、アルテミシニン又はその誘導体との重量比が、1:1~6:1であることを特徴とする、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩と、アルテミシニン又はその誘導体との重量比が、3:1であることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記アルテミシニンの誘導体が、ジヒドロアルテミシニン(dihydroartemisinin)、アルテスナート(artesunate)、アルテメテル(artemether)及びアルテエテル(arteether)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記アルテミシニンの誘導体が、アルテスナートであることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも一つの他の抗ウイルス剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記他の抗ウイルス剤が、ウイルス複製阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、ウイルスプロテアーゼ阻害剤及びウイルス細胞進入阻害剤からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記他の抗ウイルス剤が、リバビリン(ribavirin)、インターフェロン(interferon)、ニクロサミド(niclosamide)及びそれらの組み合わせから選ばれることを特徴とする、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記伝染性RNAウイルス感染症が、ジカウイルス感染症、エボラウイルス感染症、新型インフルエンザウイルス感染症及びコロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患が、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)及びコロナウイルス感染症-19(COVID-19)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患が、コロナウイルス感染症-19(COVID-19)であることを特徴とする、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
治療有効量のピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩の、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療用薬剤の製造における使用。
【請求項18】
治療有効量のアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体の、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療用薬剤の製造における使用。
【請求項19】
治療有効量のピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩、及び治療有効量のアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体の、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療用薬剤の製造における使用。
【請求項20】
前記ピロナリジンの薬学的に許容される塩が、リン酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩及びフマル酸塩からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項17又は19に記載の使用。
【請求項21】
前記ピロナリジンの薬学的に許容される塩が、リン酸塩であることを特徴とする、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩と、アルテミシニン又はその誘導体との重量比が、10:1~1:10であることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項23】
前記ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩と、アルテミシニン又はその誘導体との重量比が、1:1~6:1であることを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩と、アルテミシニン又はその誘導体との重量比が、3:1であることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記アルテミシニンの誘導体が、ジヒドロアルテミシニン(dihydroartemisinin)、アルテスナート(artesunate)、アルテメテル(artemether)及びアルテエテル(arteether)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項18又は19に記載の使用。
【請求項26】
前記アルテミシニンの誘導体が、アルテスナートであることを特徴とする、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記薬剤が、少なくとも一つの他の抗ウイルス剤をさらに含むことを特徴とする、請求項17~19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記他の抗ウイルス剤が、ウイルス複製阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、ウイルスプロテアーゼ阻害剤及びウイルス細胞進入阻害剤からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記他の抗ウイルス剤がリバビリン(ribavirin)、インターフェロン(interferon)、ニクロサミド(niclosamide)及びそれらの組み合わせから選ばれることを特徴とする、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記伝染性RNAウイルス感染症が、ジカウイルス感染症、エボラウイルス感染症、新型インフルエンザウイルス感染症及びコロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項17~19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患が、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)及びコロナウイルス感染症-19(COVID-19)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患が、コロナウイルス感染症-19(COVID-19)であることを特徴とする、請求項31に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体を伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療に使用するための使用に関し、より詳細には、治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症、特にコロナウイルス感染症-19(COVID-19)の予防又は治療に使用するための医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RNAゲノムを有するRNAウイルスは、DNAウイルスよりも突然変異率が高く、宿主や環境の変化に適応した変異体が簡単に発生する。この性質のため、RNAウイルスは、抗ウイルス剤や予防ワクチンによる制御が困難である。さらに、RNAウイルスは、ウイルスゲノムのテンプレートとしてRNAを使用して、RNAを合成するRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードし、DNAをテンプレートとしてRNAを合成する宿主細胞のRNAポリメラーゼは、RNAウイルスの複製には作用しない。RNAウイルスは、ゲノムの極性、及びゲノムRNAがmRNAと同じ極性であるかどうかによって、プラスセンス一本鎖、マイナスセンス一本鎖及び二本鎖dsRNAウイルスに分けられる。
【0003】
昨今、世界中に広がり、グローバルな公衆衛生上の危機を引き起こしている急性ウイルス性感染症は、ウイルスの発生国から他国への移動や交易を通じて急速に拡大しており、世界的に治療薬の開発が強く求められている。特に、2009年の新型インフルエンザ、2014年の西アフリカ及び2019年のコンゴ民主共和国のエボラ(Ebola)ウイルス、2016年のジカ(Zika)による流行はすべてRNAウイルス感染症である。
【0004】
コロナウイルスは、ジカウイルスのような一本鎖プラス鎖RNAウイルスに属するウイルスであり、25-32kbサイズのプラスセンス一本鎖RNAゲノムを有し、鳥類、哺乳類などの動物とヒトの両方の細胞を感染できる人畜共通ウイルスである。コロナウイルスは、特徴的な突起型スパイク(spike)タンパク質が外皮から突き出た構造を有している。コロナウイルスは、様々な構成員を有するウイルス系であり、2003年重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年サウジアラビアで新たに出現した中東呼吸器症候群(MERS)、最近、世界保健機構(WHO)により国際的公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)が宣言したコロナウイルス感染症-19(CovID-19、2019-nCoV感染症)を誘発するSARS-CoVウイルス、MERS-CoVウイルス、SARS-CoV-2(2019-nCoV)ウイルスを含む。
【0005】
SARS-CoVは、2002年に中国で発生し、世界中に広がった重症急性呼吸器症候群を誘発し、8,096人の患者で約10%の死亡率を記録した。主に、高熱と筋肉痛を伴い、2~7日後には痰のない乾いた咳が出現し、患者の10~20%で呼吸不全が発生した。適切な治療法が確立されていないため、非定型肺炎に対する抗菌剤を投与し、オセルタミビル(oseltamivir)又はリバビリン(ribavirin)などの抗ウイルス剤を投与するか、ステロイドを併用して投与したことがあった。
【0006】
MESR-CoVは、ラクダなどの動物宿主からヒトに感染されたウイルスと推定されており、重症の急性呼吸器症候群と腎不全を引き起こし、中東を含む26カ国で約2000件の感染を引き起こし、死亡率は35.6%に達した(WHO、2016)。潜伏期間は約5日で、発熱、咳、息切れ、肺炎などを伴い、家族や医療機関のメンバー間で限定的に感染が広がり、糖尿病などの基礎疾患のある人では重症化することが多かった。
【0007】
SARS-CoV-2(2019-nCoV)は、COVID-19の原因となるウイルスであり、2019年に中国の武漢で最初の症例が確認された。1~14日の潜伏期間の後、咳、発熱、倦怠感、息切れ、肺炎、急性呼吸窮迫症候群など、軽度から重度までの様々な呼吸器症状が現れ、まれに痰、喉の痛み、下痢などが現れた。それに対する選択的な抗ウイルス剤がないため、対症療法単独で、又は以前の他のウイルスに適応された抗ウイルス剤による治療と既存疾患に使用した抗ウイルス剤を併用して治療した。
【0008】
特に、COVID-19は、その中で最も最近の大流行であり、現在利用可能な治療法やワクチンがない状態で非常に急速に広がっている(非特許文献1)、この疾患に対する適切な細胞又は動物試験モデルはまだ確立されていない状態である。現在、中国及び韓国などで臨床的に使用され報告されたか、専門家勧告案で提案される薬剤には、クロロキン(Chloroquine)とレムデシビル(Remdesivir)(非特許文献2)、ロピナビル(Lopinavir)、ファビピラビル(Favipiravir)、リバビリン(Ribavirin)、インターフェロンなどがあり、80以上の臨床試験が進行中である(非特許文献3)。特に、SARS-CoV-2は、コロナウイルス科に属しているため、同じ系のMERSウイルス又はSARS-CoV-2ウイルスと塩基配列が約79.5%一致するSARS-CoVで抗ウイルス効果があることが既に知られていた物質が注目されており(非特許文献4)、その中にはニクロサミド(Niclosamide)のような薬物がある(非特許文献5)。
【0009】
SARSやCOVID-19のケースを考えると、患者と濃密に接触すると、感染のリスクは非常に高くなり、ウイルスは、エアロゾル化した呼吸飛沫によって、人口密度の高い環境で多くの人々にかなり高い感染性を有している。しかしながら、また、これらのコロナウイルスによる急性ウイルス感染症は、ウイルスの発生国から他国への移動や交易を通じて急速に広がり、成果的な公衆衛生上の危機を引き起こしていた。
【0010】
それにもかかわらず、今日まで、伝染病を引き起こすこのような呼吸器ウイルス病原体を効率的に阻害、治療又は予防するための適切な解決策の開発が不十分であった。このように、世界中の人々の健康と福祉のために、これらの病気に対向するための薬を開発することが緊急に必要とされている。
【0011】
また、呼吸器感染症の臨床症状はやや似ており、同じRNAウイルス科に属しているが、ウイルスには遺伝子レベルや構造レベルの違いがあり、この違いが抗ウイルス薬剤の感受性や効果に影響を与えることが報告されている。さらに、これらのウイルスの分子遺伝学的違いは、感染経路、ウイルスが結合する宿主の受容体、感染率、潜伏期間及び/又は感染部位の違いを引き起こし、臨床症状及び治療効果の違いにつながり、したがって、適切な標的ウイルスに対する試薬は非常に重要である。
【0012】
また、その呼吸器感染症による急速な感染、高い死亡率、世界的な保健及び経済的リスクを考慮すると、少なくとも1年から数年かかる新薬と新規ワクチンの開発に加えて、過去の臨床試験と実用化によって安全性が保証された薬物のドラッグリポジショニング(drug repositioning)を通じて、RNAウイルス感染症、特に、コロナウイルス呼吸器疾患の予防、改善、又は治療の可能性を探ることは、非常に有効で費用対比の効果の高い戦略となる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Li et al., 2020
【非特許文献2】Wang et al., 2020
【非特許文献3】Maxmen et al., 2020
【非特許文献4】Zhou et al., 2020
【非特許文献5】Xu et al., 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体の伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療における使用を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療に使用するための医薬組成物を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体を用いて、伝染性RNAウイルス感染症を予防又は治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体の、伝染性RNAウイルス感染症を予防又は治療するための使用を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体を、それを必要とする対象に投与することを含む、伝染性RNAウイルス感染症を予防又は治療する方法を提供する。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の一態様によれば、治療有効量の下記式(1)のピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と共に含む、伝染性RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0022】
【0023】
本発明の別の態様によれば、治療有効量の下記式(2)のアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0024】
【0025】
本発明の別の態様によれば、治療有効量の前記式(1)のピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩及び前記式(2)のアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む、RNAウイルス感染症の予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記ピロナリジンの薬学的に許容される塩は、例えば、リン酸、硫酸、塩酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、マレイン酸又はフマル酸との酸付加塩を含むが、それらに限定されない。本発明の別の実施形態では、前記ピロナリジンの薬学的に許容される塩は、ピロナリジンリン酸塩であってもよい。
【0027】
本発明の別の実施形態において、前記アルテミシニンの誘導体は、例えば、ジヒドロアルテミシニン(dihydroartemisinin)、アルテスナート(artesunate)、アルテメテル(artemether)及びアルテエテル(arteether)を含むが、それらに限定されない。本発明の他の実施形態で、前記アルテミシニンの誘導体はアルテスナートである。
【0028】
本発明の別の実施形態において、前記治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩及びアルテミシニン又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物において、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩とアルテミシニン又はその誘導体との重量比は、10:1~1:10である。本発明の別の実施形態において、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩とアルテミシニン又はその誘導体との重量比は、1:1~6:1である。本発明の別の実施形態において、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩とアルテミシニン又はその誘導体との重量比は、1:1~4:1である。本発明の別の実施形態において、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩とアルテミシニン又はその誘導体との重量比は、3:1である。
【0029】
本明細書において、「薬学的に許容される」とは、生理学的に許容され、ヒトに投与した際に有効成分の作用を阻害せず、通常、胃腸障害、めまいなどのアレルギー反応を引き起こさない毒性をいう。本発明の医薬組成物は、投与経路に応じて、薬学的に許容される担体と共に、当技術分野で公知の方法により様々な方法で製剤化することができる。投与経路では、これに限定されず、経口又は非経口で投与することができる。非経口投与経路には、例えば、経皮、鼻腔、腹腔内、筋肉内、皮下、静脈内などの様々な経路が含まれる。
【0030】
本発明の医薬組成物を経口投与する場合、本発明の医薬組成物は、適切な経口投与用担体と共に当技術分野で公知方法に従って、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、懸濁液、ウエハース、注射剤、坐剤などを投与することができる。適切な担体の例には、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール及びマルチトールなどを含む糖類と、コーンスターチ、コムギデンプン、米デンプン及びジャガイモデンプンなどを含むデンプン類、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシメチルセルロースなどを含むセルロース類、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどの充填剤が含まれる。また、必要に応じて、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどを崩壊剤として添加してもよい。さらに、前記医薬組成物は、流動促進剤、抗凝集剤、可塑剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含むことができる。
【0031】
また、非経口的に投与する場合、本発明の医薬組成物は、適切な非経口担体と共に当技術分野で公知の方法に従って、注射剤、坐剤、経皮投与剤及び鼻腔吸入剤の形態で製剤化することができる。注射剤の場合に、必ず滅菌し、細菌や真菌などの微生物の汚染から保護する必要がある。注射剤の場合、適切な担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの混合物及び/又は植物油を含む溶媒又は分散媒質であってもよいが、それらに限定されない。より好ましくは、適切な担体には、ハンクス液、リンゲル液、トリエタノールアミンが含まれたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコール及び5%グルコースなどの等張液などを使用することができる。前記注射剤を微生物汚染から保護するためには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌剤及び抗真菌剤をさらに含むことができる。また、殆どの場合、前記注射剤は、糖又は塩化ナトリウムなどの等張化剤をさらに含むことができる。
【0032】
これらの製剤は、薬化学において、一般に知られている文書である文献(Remington’s Pharmaceutical Science, 15th Edition, 1975, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania)に記述されている。
【0033】
吸入による投与の場合、本発明に従って使用するための化合物は、適切な噴霧推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切な気体を使用することにより、加圧パック又はネブライザーからエアロゾルスプレー形で便利に送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定することができる。例えば、吸入器又は吹送器で使用するためのカプセル及びカートリッジは、適切な粉末基剤の粉末混合物を含有するように製剤化することができる。
【0034】
その他の薬学的に許容される担体として、以下の文書に記載されているものを参照することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 19th Edition, 1995 Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania)。
【0035】
本発明の別の実施形態において、ピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と共に製剤化した。
【0036】
前述したように、本発明で使用できる「薬学的に許容される担体」は、製薬分野で従来から使用されているものであればいずれでもよい。代表的な例としては、ラクトース、デキストリン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、二酸化ケイ素、ハイドロタルサイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ベントナイト及びそれらの混合物などが挙げられる。本発明の医薬組成物は、担体に加えて、インビボで投与される場合に水性媒質と接触して急速に崩壊及び溶出するための崩壊剤、溶出や吸収を増加させるための可溶化剤又は界面活性剤、流動性や潤滑性を増加させる流動促進剤又は潤滑剤をさらに含むことができる。崩壊剤としては、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動促進剤又は潤滑剤としては、コロイド状二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリンフマル酸ナトリウム、ステアリン酸、二酸化ケイ素などが挙げられる。しかし、それらは列挙された例に限定されない。本発明の別の実施形態によれば、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩40~80重量%、微結晶セルロース1~30重量%、二酸化ケイ素0.1~5重量%、ヒドロキシプロピルセルロース1~10重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース1~10重量%、デンプングリコール酸ナトリウム2~20重量%及びステアリン酸マグネシウム1~10重量%を含む医薬組成物が提供される。
【0037】
本発明の別の実施形態において、アルテミシニン又はその誘導体を、薬学的に許容される担体と共に製剤化した。本発明の医薬組成物は、担体に加えて、インビボで投与された場合に水性媒質と接触して急速に崩壊及び溶出するための崩壊剤、溶出や吸収を増加させるための可溶化剤又は界面活性剤、及び流動性や潤滑性を増加させるための流動促進剤又は潤滑剤をさらに含むことができる。担体としては、微結晶セルロース、ラクトース水和物、マンニトール、デンプン、アルファ化デンプン、低置換度ヒドロキシセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。崩壊剤としては、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動促進剤又は潤滑剤としては、コロイド状二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリンフマル酸ナトリウム、ステアリン酸、二酸化ケイ素などが挙げられる。界面活性剤の代表的な例は、ラウリル硫酸ナトリウム及びその誘導体、ポロキサーマ(poloxamer)及びその誘導体、飽和ポリグリコール化グリセリド(別名:gelucire)、labrasol、各種のポリソルベート(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(以下、Tween20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(以下、Tween40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(以下、Tween60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(以下、Tween80)、ソルビタンエステル(例えば、ソルビタンモノラウレート(以下、Span20)、ソルビタンモノパルミテート(以下、Span40)、ソルビタンモノステアレート(以下、Span60)、ソルビタンモノオレエート(以下、Span80)、ソルビタントリラウレート(以下、Span25)、ソルビタントリオレエート(以下、Span85)、ソルビタントリステアレート(以下、Span65)、クレモフォール(cremophor)、PEG-60水添ヒマシ油、PEG-40水添ヒマシ油、ラウリルグルタミン酸ナトリウム、コカンフォ二酢酸二ナトリウムなどが挙げられる。しかし、それらは列挙された例に限定されない。本発明の別の実施形態によれば、アルテミシニン又はその誘導体10~50重量%、微結晶セルロース30~70重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース2~20重量%、デンプングリコール酸ナトリウム2~20重量%、二酸化ケイ素0.1~5重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.5~15重量%及びステアリン酸マグネシウム0.1~5重量%を含む医薬組成物が提供される。
【0038】
本発明の別の実施形態において、ピロナリジン(pyronaridine)又はその薬学的に許容される塩及びアルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体は、薬学的に許容される担体と共に製剤化した。本発明の医薬組成物は、担体に加えて、インビボで投与された場合に水溶媒質と接触して急速に崩壊及び溶出するための界面活性剤又は崩壊剤、流動性や潤滑性を増加させる流動促進剤又は潤滑剤をさらに含むことができる。担体としては、ラクトース、デキストリン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、二酸化ケイ素、ハイドロタルサイト、アルミニウムケイ酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸マグネシウムアルミニウム、ベントナイト、ブチルヒドロキシトルエン及びそれらの混合物などが挙げられる。界面活性剤の代表としては、ラウリル硫酸ナトリウム及びその誘導体、ポロキサーマ及びその誘導体、飽和ポリグリコール化グリセリド(別名、gelucire)、labrasol、各種のポリソルベート(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(以下、Tween20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(以下、Tween40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(以下、Tween60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(以下、Tween80)、ソルビタンエステル(例えば、ソルビタンモノラウレート(以下、Span20)、ソルビタンモノパルミテート(以下、Span40)、ソルビタンモノステアレート(以下、Span60)、ソルビタンモノオレエート(以下、Span80)、ソルビタントリラウレート(以下、Span25)、ソルビタントリオレエート(以下、Span85)、ソルビタントリステアレート(以下、Span65)、クレモフォール(cremophor)、PEG-60水添ヒマシ油、PEG-40水添ヒマシ油、ラウリルグルタミン酸ナトリウム、コカンフォ二酢酸二ナトリウムなどが挙げられるが、それらに限定されない。崩壊剤としては、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動促進剤又は潤滑剤としては、コロイド状二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリンフマル酸ナトリウム、ステアリン酸、二酸化ケイ素などが挙げられる。しかし、それらはその列挙された例に限定されない。本発明の別の実施形態によれば、ピロナリジン又はその薬学的に許容される塩15~60重量%、アルテミシニン又はその誘導体5~20重量%、微結晶セルロース5~30重量%、クロスポビドン10~40重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース2~15重量%、ラウリル硫酸ナトリウム1~10重量%、ポリエチレングリコール5~30重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.1~5重量%、ブチルヒドロキシトルエン0.001~1重量%、二酸化ケイ素0.1~5重量%及びステアリン酸マグネシウム0.5~10重量%を含む医薬組成物が提供される。
【0039】
本発明の医薬組成物は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、乾燥シロップ剤、コーティング製剤、注射剤、坐剤、経皮投与剤及び吸入投与剤などに製剤化することができる。
本発明の別の実施形態において、本発明の医薬組成物は、伝染性RNAウイルス性感染疾患を予防及び治療するために抗ウイルス効果を有する一つ又はそれ以上の追加の薬物と組み合わせて投与することができる。
【0040】
本発明の別の実施形態において、前記他の抗ウイルス剤としては、例えば、ウイルス複製阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、ウイルスプロテアーゼ阻害剤及びウイルス細胞進入阻害剤を含むが、それらに限定されない。本発明の別の実施形態において、前記他の抗ウイルス剤は、例えば、リバビリン(ribavirin)、インターフェロン(interferon)、ニクロサミド(niclosamide)又はそれらの組み合わせであってもよいが、それらに限定されない。
【0041】
本発明の別の実施形態において、前記伝染性RNAウイルス疾患は、例えば、ジカウイルス感染症、エボラウイルス感染症、新型インフルエンザウイルス感染症、コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患を含むが、それらに限定されない。本発明の別の実施形態において、前記コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患は、例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)又はコロナウイルス感染症-19(COVID-19)を含むが、それらに限定されない。本発明の別の実施形態において、前記コロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患は、コロナウイルス感染症-19(COVID-19)である。
【0042】
本発明において、用語「予防」とは、本発明の医薬組成物を投与することにより、伝染性RNAウイルス感染症の発生、拡散及び再発を阻害又は遅延させる任意の行為を意味し、前記用語「治療」とは、本発明の医薬組成物を投与することにより、前記疾患の症状が改善又は有益に変化する任意の行為を意味する。
【0043】
また、本明細書で使用される場合、前記「治療有効量」という用語は、陰性対照よりも高い反応を示す量を指し、好ましくは伝染性RNAウイルス性感染疾患を治療又は予防するのに十分な量をいう。患者の治療用量は、一般に状態の重症度及び前記化合物内での単独、組み合わせ又は他の薬物と組み合わせて投与するかに応じて、50mg~2,000mg/日、好ましくは100mg~1,000mg/日である。経口又は非経口経路で、1日1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、前記治療有効量は、疾患の種類及び重症度、患者の年齢、体重、健康状態、性別、投与経路、治療期間などの様々な要因によって適宜変更することができる。
【0044】
本発明は、ヒトにおける伝染性RNAウイルス性感染、好ましくはヒトにおけるコロナウイルス感染症によって引き起こされる呼吸器疾患、より好ましくはヒトにおけるロナウイルス感染症-19を引き起こすウイルスの予防及び治療について記載するが、本発明は、感染性RNAウイルス、具体的には呼吸器疾患を誘発するコロナウイルス科(Coronaviridae)、より具体的にはコロナウイルス感染症-19を誘発する動物及びヒト菌株治療に有用である。
【0045】
本発明の課題は、前述した技術的課題に限定されず、記載されていない他の技術的課題は、以下の説明から当業者によって明確に理解されるであろう。また、前記の説明は、特許請求された発明を決して限定するものではなく、さらに、議論された特徴の組み合わせは、本発明の解決方法に絶対的に必要というわけではない。
【発明の効果】
【0046】
本発明は、治療有効量のピロナリジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又はアルテミシニン又はその誘導体を有効成分として含む伝染性RNAウイルス感染症の予防及び治療するための医薬組成物を提供する。本発明による医薬組成物は、伝染性RNAウイルス感染症、例えば、コロナ感染症-19などのコロナウイルスによって引き起こされる呼吸器疾患を効果的に阻害することにより、予防及び治療に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の有効成分の一つのピロナリジンリン酸塩による前処理によるSARS-CoV-2に対する感染阻害効果と細胞毒性を、感染後24時間に測定し、その結果を濃度-反応曲線で示す図である。
【
図2】ピロナリジンリン酸塩の同時処理によるSARS-CoV-2に対する感染阻害効果と細胞毒性を、感染後24時間に測定し、その結果を濃度-反応曲線で示す図である。
【
図3】本発明の有効成分の一つのアルテスナートの同時処理によるSARS-CoV-2に対する感染阻害効果を、感染後24時間と48時間に測定し、対照群であるクロロキンと比較した結果である。
【
図4】SARS-CoV-2を細胞に感染させ、ピロナリジンリン酸塩とアルテスナートの様々な比率で組み合わせて処理した後、ウイルス感染阻害効果を比較し、最適比率で感染後24時間と48時間のウイルス阻害率を比較した結果である。
【
図5】SARS-CoV-2をヒトの肺細胞株であるCalu-3細胞に感染させ、ピロナリジンリン酸塩又はアルテスナートを同時処理した後、ウイルス感染阻害効果と細胞毒性を感染後24時間と48時間に測定し、その結果を濃度-反応曲線で示し、対照群であるヒドロキシクロロキンと比較した結果である。
【
図6】ヒト肺細胞株であるCalu-3におけるピロナリジンリン酸塩又はアルテスナートのウイルス感染後、治療によるSARS-CoV-2感染阻害効果を薬物処理後48時間に測定し、その結果を時間-反応曲線で示す図である。
【
図7】SARS-CoV-2をハムスターに感染させ、低用量又は高用量のピロナリジンリン酸塩とアルテスナートを3:1の比率で組み合わせて、感染後1時間から1日1回3日間経口投与するか、感染後25時間に高用量のピロナリジンリン酸塩のみを投与した後、4日目に肺のウイルス力価を分析し、薬物を投与しなかったウイルス接種対照群と比較した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
(実施例)
以下、実施例により本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。ただし、これらの例は例示にすぎず、本発明の範囲はこれに限定されない。
【0049】
実施例1:ピロナリジンリン酸塩単独錠剤の製造
ヒドロキシプロピルセルロースをエタノールに溶解して結合溶液を製造した。製造された結合溶液を用いてピロナリジンリン酸塩を湿式顆粒した後、得られた生成物を乾燥、造粒した。低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶セルロース、二酸化ケイ素を混合した。ステアリン酸マグネシウムを加えて、潤滑した後、打錠して錠剤を製造した。
【0050】
【0051】
実施例2:アルテスナート単独錠剤の製造
二酸化ケイ素とラウリル硫酸ナトリウムを、ふるいを用いて篩過した。ふるいにかけた二酸化ケイ素とラウリル硫酸ナトリウムをアルテスナート、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウムと混合し、ステアリン酸マグネシウムを加えて、潤滑し、打錠して錠剤を製造した。フィルムコーティング基剤でコーティングした。
【0052】
【0053】
実施例3:ピロナリジンリン酸塩/アルテスナート配合錠の製造
溶融分散担体としてポリエチレングリコール、ブチルヒドロキシトルエン、有効成分としてアルテスナートを混合し、加熱溶融後、急冷し粉砕した。次に、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ステアリン酸マグネシウムを混合し、混合物1を製造した。ヒドロキシプロピルセルロースをエタノールに溶解後、ピロナリジンリン酸塩を湿式顆粒し、乾燥し、造粒して混合物2を製造した。混合物1、混合物2、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化ケイ素、クロスポビドンと混合し、ステアリン酸マグネシウムを加えて、潤滑し、打錠して錠剤を製造した。フィルムコーティング基剤でコーティングした。
【0054】
【0055】
本発明のピロナリジン(pyronaridine)又はその塩、アルテミシニン(artemisinin)又はその誘導体がコロナウイルスに対する抗ウイルス活性を有するかどうかを調べるために、以下の実験例のように薬物を単独及び併用処理し、ウイルス感染に対する阻害率を評価した。
【0056】
実験例1:ピロナリジンリン酸塩の抗ウイルス効果測定(前処理)
実験例1では、SARS-CoV-2ウイルス(韓国の分離株)を細胞に感染させる前に、ピロナリジンリン酸塩を1時間前処理し、ウイルス感染に対する阻害効果を評価した。
【0057】
1)ウイルスと宿主細胞の準備
Vero細胞は、米国ATCCから購入、37℃、5%CO2の培養条件で、10%熱不活性10%ウシ胎仔血清(FBS)と抗生剤を加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。SARS-CoV-2は、韓国疾病管理本部(KCDC)から提供された。ウイルス増殖後、ウイルス増殖に利用した細胞にウイルスを感染させ、ウイルスプラークを測定するプラークアッセイによりウイルス力価を決定した。
【0058】
2)免疫蛍光染色法を使用した抗ウイルス効果の測定
試験24時間前に、μClearプレートに1ウェル当たり1.2×10
4細胞の密度でVero細胞を付着し、細胞を0.05~50μMの濃度範囲で10個の濃度で希釈し、希釈された薬物を含む培養液で1時間前処理し、SARS-CoV-2を接種した(ウイルス接種力価約値M=0.0125)。感染24時間後、4%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、SARS-CoV-2ウイルスのスタンパク質を標識する抗体を用いて感染した細胞を免疫蛍光染色法で分析した。感染率は、画像分析プログラムを介して陽性及び陰性対照群と比較して細胞総数と感染細胞数の割合として計算した。薬物の抗ウイルス効果は用量-反応-曲線で表され、Graph Prism(m(v.8)解析プログラムを使用して、下記数式(1)に示すように50%有効濃度(EC
50、ウイルス感染による細胞毒性を50%阻害する濃度)と50%細胞毒性濃度(CC
50、正常細胞の50%の損傷を加える化合物の濃度)を計算した。
【数1】
【0059】
その結果、
図1に示すように、SARS-CoV-2に感染したVero細胞の場合、ピロナリジン50μM濃度で70%のウイルス阻害率が観察されたが、薬物前処理によって細胞毒性もまた、17%増加した。Vero細胞は、アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞から分離された、1型IFN欠乏細胞として知られている。以前の研究では、ピロナリジンのエボラウイルスに対するインビトロ抗ウイルス性効果測定するとき、Vero細胞株に接種させた場合には、CC
50以下の濃度で抗ウイルス活性が観察されなかったが(CC
50=1.3μM)、ヒト由来のHela細胞に接種させた場合には、CC
50がより高く、抗ウイルス活性は無毒性濃度(EC
50=0.42-1.12μM、CC
50=3.1μM)で示されることが報告されている。また、ピロナリジンは、エボラウイルスに接種したマウスモデルの死亡率とウイルス感染率を有意に阻害した(Lane et al., 2015)。このように抗ウイルス剤の効果は、実験宿主細胞の特性とその細胞内免疫シグナル伝達経路の違いに応じて、インビトロ又はインビボアッセイ系で異なる可能性があることが良く知られており(Lane et al., 2015)、ヒト由来宿主細胞ベースのアッセイがさらに確立され、様々な細胞株及び動物試験でピロナリジンの抗ウイルス効果を確認した。
【0060】
実験例2:ピロナリジンリン酸塩のSARS-CoV-2阻害効果(同時処理)
実験例2では、SARS-CoV-2(韓国の分離株)を細胞に接種時に、ピロナリジンリン酸塩を処理してウイルス感染を阻害する効果があるのか評価した。クロロキンは、エンドソームのpHを上昇させ、ウイルスと細胞の結合と、宿主細胞のSARS-CoVウイルス受容体の糖化を阻害することにより、抗ウイルス効果を示すことが知られている(Vincent et al., 2005)。クロロキンと構造が似ているピロナリジンも同様の機序で作用すると予想されることから、薬物とウイルスを同時に処理し、その抗ウイルス効果を測定した。実験例1で使用したいくつかの試験条件を最適化することにより、細胞毒性が比較的に低い試験条件で試験を行った。
【0061】
1)ウイルスと宿主細胞の準備
Vero細胞は、米国ATCCから購入、37℃、5%CO2の培養条件で、10%熱不活性10%ウシ胎仔血清(FBS)と抗生剤を加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。SARS-CoV-2ウイルスは、韓国疾病管理本部(KCDC)から提供された。ウイルス増殖後、RNAコピー数を測定するqRT-PCRによってウイルス力価を決定した。
【0062】
2)RNAコピー数を使用した抗ウイルス効果の測定
ピロナリジンリン酸塩をDMSOに溶解した後、培地を使用して0.033-100μM濃度に希釈した。試験24時間前に、2×104細胞/ウェルの密度でVero細胞株を付着させた96-ウェルプレートにSARS-CoV-2を接種(MOI=0.1)し、様々な濃度で希釈された薬物を含有する培養液を各ウェルに加えた。感染24時間後に、細胞上清を回収し、RNAを抽出し、RdRp遺伝子に対するqRT-PCRを行った。薬物の抗ウイルス効果は、薬物のRNAウイルスのコピー数を対照群と比較することによって分析された。RNAコピー数から逆算したウイルス力価からウイルス感染阻害率(%cytotoxicity)を薬物用量-反応-曲線で示し、Graph Prism(ver.8)解析プログラムを使用して、実験例1のように50%有効濃度(EC50、ウイルス力価を50%阻害する濃度)を計算した。
【0063】
3)細胞毒性(%cytotoxicity)測定
細胞毒性は、テトラゾリウム塩(WST-1)ベースのアッセイを使用して測定した。WST-1は、生きている細胞内にのみ存在するミトコンドリア脱水素酵素によってホルマザンと呼ばれる発色物質に変換される。各ウェルに10μLのWST-1プレミックスを加えた後、細胞をさらに1時間培養し、ホルマザンの生成量をELISAで吸光度を測定、計算した。50%細胞毒性濃度(CC50、正常細胞の50%の損傷を加える化合物の濃度)を計算した。
【0064】
その結果、
図2に示すように、同時処理条件でピロナリジンは濃度依存的に抗ウイルス効果を示し、一部の高濃度では細胞毒性が観察されたが、無毒性濃度でも90%以上のSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を示した(EC
50=8.27μM、CC
50=11.54μM;選択指数SI>1.40)。
【0065】
実験例3:アルテスナートのSARS-CoV-2阻害効果(同時処理)
実験例3では、実験例2と同じ試験条件でアルテスナートの抗ウイルス効果を測定した。
【0066】
1)ウイルスと宿主細胞の準備
Vero細胞株及びウイルスは、実験例2と同様に準備した。
【0067】
2)RNAコピー数を使用した抗ウイルス効果の測定
アルテスナートは、DMSOに溶解し、培地を使用して3.13、12.5、50μM濃度に希釈した。試験24時間前に、2×104細胞/ウェルの密度でVero細胞株を付着させた96-ウェルプレートにSARS-CoV-2を接種(MOI=0.1)し、それぞれの濃度に希釈された薬物を含有する培養液を各ウェルに加えた。感染24時間及び48時間後、細胞上清を回収し、実験例2に示すように、RdRp遺伝子に対するqRT-PCRを行い、ウイルス力価を計算し、ウイルス感染阻害率(%inhibition)を算出した。対照群はクロロキンを用いた。
【0068】
3)細胞毒性(%cytotoxicity)測定
細胞毒性は、実験例2と同様に測定した。
その結果、
図3に示すように、アルテスナートは、実験濃度内で濃度依存的に抗ウイルス活性を示し、50μMの濃度で83%のウイルス阻害率を示した。12.5μMでは、阻害率は、感染24時間後(24hip)と48時間後(48hpi)にそれぞれ40%と51%の阻害率を示しており、3.13μMでは処理後48時間で39%のウイルス感染阻害効果を示した。すべての試験条件で有意な細胞毒性を示さなかった。アルテスナートは、ピロナリジンと対照群としてクロロキンと比較して、SARS-CoV-2に対するEC
50が低く、発症時間が遅く、抗ウイルス効果が長く持続して、ウイルス阻害率が時間経過とともにウイルス阻害率がゆっくりと増加するパターンを示した。
【0069】
実験例4:SARS-CoV-2に対するピロナリジンリン酸塩とアルテスナート組み合わせの阻害効果
エボラウイルスを感染させたモルモットモデルで抗ウイルス効果を示さなかったクロロキンとは異なり、ピロナリジンは、エボラウイルスを接種したマウス動物モデルのウイルス力価と生存率を大幅に改善した。そのため、クロロキンはさらに異なる作用機序がある可能性があると推定されており、その中で、1型IFN-1経路などの免疫調節機序が提示されたことがある(Lane et al., 2019)。アルテスナートはまた、インビトロ試験でエボラウイルスに対するピロナリジンよりも弱い抗ウイルス効果を示しており)、クロロキン誘導体であるアモジアキン(amodiaquine)と併用した患者でエボラウイルスに関連する死亡率が31%減少されたと報告されたことがある(Gignox et al., 2016)。したがって、実験例4では、2つの薬物の併用処理と組み合わせ比率による抗ウイルス効果の変化を測定した。
【0070】
1)ウイルスと宿主細胞の準備
Vero細胞株とウイルスは、実験例2と同様に準備した。
【0071】
2)RNAコピー数を使用した抗ウイルス効果の測定
ピロナリジンリン酸塩とアルテスナートをDMSOに溶解し、1:1、3:1、10:1などの様々な組み合わせ比率で培地を使用し、様々な濃度に希釈した。試験の24時間前に、SARS-CoV-2を、2×104細胞/ウェル(MOI=0.1)の密度で96-ウェルプレートに接種したVero細胞に付着させ、それぞれの濃度に希釈された薬物を含有する培養液を各ウェルに加えた。感染24時間後、細胞上清を回収し、実験例2に示すように、RdRp遺伝子に対してqRT-PCRを行、ウイルス力価を計算し、ウイルス感染阻害率を算出した。ピロナリジンリン酸塩10μMとアルテスナート3.3μMを組み合わせて処理した場合、それぞれ感染後24時間と48時間でウイルス力価を測定し、対照群であるクロロキン及びロピナビルと比較した。
【0072】
3)細胞毒性(%cytotoxicity)測定
細胞毒性は、実験例2と同様に測定した。
その結果、
図4に示すように、アルテスナート単独処理よりも併用処理した場合、また、併用されるピロナリジンの比率が高いほど抗ウイルス効果が増加した。特に、ピロナリジンリン酸塩10μMとアルテスナート3.3μMの併用処理時(比率3:1)、90~100%の抗ウイルス感染率阻害効果を示し、対照群として用いたクロロキンやロピナビルよりも高い抗ウイルス効果を示した。この場合、48時間まで抗ウイルス阻害率が維持された。
図4に示すべての組み合わせ条件で有意な細胞毒性が認められず、ピロナリジンリン酸塩10μMとアルテスナート3.3μMを併用処理した場合、ピロナリジンリン酸塩10μM単独処理に比べて、低い細胞毒性が認められた(49.5%減少)。
【0073】
実験例5:ヒト肺細胞株におけるピロナリジンリン酸塩とアルテスナートのSARS-CoV-2阻害効果(同時処理)
抗ウイルス作用は、受容体構造など、ヒトと他の動物の抗ウイルス作用に種差がある可能性が報告されている。したがって、ヒトの肺細胞株での有効性を確認するために、実験例5では、SARS-CoV-2(韓国の分離株)をヒトの肺細胞株であるCalu-3細胞に接種する際に、ピロナリジンリン酸塩又はアルテスナートを処理し、ウイルス感染を阻害する効果があるかどうかを評価した。ウイルス感染に対するピロナリジンリン酸塩又はアルテスネートの阻害効果は、SARS-CoV-2 (韓国の分離株) 感染時に細胞を同時処理した場合のヒト肺細胞株、Calu-3 細胞で評価された。
【0074】
1)ウイルスと宿主細胞の準備
Calu-3細胞は、37℃、5%CO2培養条件で10%ウシ胎仔血清(FBS)と抗生剤を含有するダルベッコ変法イーグル培地 (DMEM)を使用して培養した。SARS-CoV-2は、韓国疾病管理本部(KCDC)から提供された。
【0075】
2)RNAコピー数を使用した抗ウイルス効果の測定
ピロナリジンリン酸塩は、DMSOに溶解し、培地を使用して0.033~100μM濃度で希釈した。試験の24時間前に、2×104細胞/ウェルの密度でCalu-3細胞を付着させた96-ウェルプレートにSARS-CoV-2を接種(MOI=0.1)し、様々な濃度で希釈された薬物を含有する培養液を各ウェルに添加した。感染24時間及び48時間後、実験例2に示すように、RdRp遺伝子に対するqRT-PCRを行い、RNAコピー数をウイルス力価から逆算して、ウイルス感染阻害率(%inhibition)を薬物用量-反応-曲線で示し、50%有効濃度(IC50、ウイルス力価を50%阻害する濃度)を計算した。
【0076】
3)細胞毒性(%cytotoxicity)測定
細胞毒性は、実験例2と同様に測定した。
その結果、
図5に示すように、同時処理条件でピロナリジンとアルテスナートの両方が、ヒトの肺細胞株でも濃度依存的に抗ウイルス効果を示した。さらに、感染後24時間(24hpi)及び48時間(48hpi)の両方で、非毒性濃度でも90%以上のSARS-CoV-2ウイルスに対する抗ウイルス活性を示した(ピロナリジンの48時間IC
50=8.58μM、CC
50>100μM;選択指数、SI>11.66;アルテスナートの48時間IC
50=0.45μM、CC
50>100μM;選択指数、SI>220.8)。特に、アルテスナートの場合、サルの腎臓細胞株であるVero細胞と比較して、ヒトの肺細胞株で効果が有意に増加した。これらとは対照的に、ヒドロキシクロロキンは、ヒトの肺細胞株では50μM以下で抗ウイルス効果を示さなかったのに対し、サル細胞株で抗ウイルス効果を示した。
【0077】
実験例6:ピロナリジンリン酸塩とアルテスナートのヒト肺細胞株における感染後処理のSARS-CoV-2阻害効果
実験例6では、SARS-CoV-2(韓国の分離株)の接種後、0、2、4、6、8、10、12、24及び36時間後にピロナリジンリン酸塩又はアルテスナートをそれぞれCalu-3細胞に処理し、ウイルス感染に対して各薬物の阻害効果がどのくらいの時間保持されるか評価した。
【0078】
1)ウイルスと宿主細胞の準備
Calu-3細胞株とウイルスは、実験例5と同様に準備した。
【0079】
2)ウイルスプラークアッセイ(plaque assay)を用いた抗ウイルス効果の測定
ピロナリジンリン酸塩とアルテスナートをそれぞれDMSOに溶解後、培地を使用して12.5μMに希釈した。SARS-CoV-2(MOI=0.1)の接種から1時間後に上清を除去し、Calu-3細胞を洗浄した後、2%ウシ血清を含有したDMEM培地を添加した。薬物を含む培地は、それぞれ0、2、4、6、8、10、12、24及び36時間で添加した。感染48時間後に細胞上清を回収し、ウイルス増殖に使用したVero細胞にウイルスを感染させて生成されたプラークを計数するプラークアッセイを行った。感染したVero細胞株の上に2%アガロースを含むDMEM-F12培地層を置き、72時間培養後、クリスタルバイオレットで対比染色してプラーク数を計数した。薬物の抗ウイルス効果は、形成されたプラーク数から逆算したウイルス力価からウイルス感染阻害率(%inhibition)で解析し、対照群と比較した。
【0080】
その結果、
図6に示すように、ピロナリジン12.5μM処理した場合に最大の抗ウイルス効果が示された(感染後6時間まで添加した場合は>99%の阻害、感染後12時間までに添加した場合は>94%の阻害、感染後24時間まで添加した場合は90%の阻害)。一方、アルテスナート12.5μM処理は、感染後6時間までに添加すると92~96%の阻害を示し、感染後12時間までに添加すると>90%を超える阻害を示し、感染後24時間までに添加すると48%の阻害が示された。
【0081】
実験例7:コロナ19動物モデルにおけるSARS-CoV-2に対するピロナリジンリン酸塩とアルテスナートの組み合わせの阻害効果
実験例7では、SARS-CoV-2(韓国の分離株)を接種したハムスターにピロナリジンリン酸塩とアルテスナート(3:1の比率で組み合わせたもの)を経口投与し、動物おけるインビボ抗ウイルス効果を評価した。
【0082】
1)SARS-CoV-2接種のためのウイルスとハムスターの準備
SARS-CoV-2は、韓国疾病管理本部(KCDC)から適用された。実験動物モデルとして、SARS-CoV-2に対する感受性が高く、供給制限の少ないゴールデンハムスターを使用し、SARS-CoV-2(1×106PFU/100μL)をハムスターの両鼻腔に50μLずつ接種した。
【0083】
2)プラークアッセイを使用したインビボ抗ウイルス効果の測定
SARS-CoV-2の鼻腔接種の1時間後に、ピロナリジンリン酸塩(180mg/kg又は360mg/kg)とアルテスナート(60mg/kg又は120mg/kg)を3:1の比率で組み合わせて1日1回3日間経口投与し、2つの薬物の併用投与時、SARS-CoV-2に対するインビボ抗ウイルス効果を評価した。比較試験群として、ピロナリジン360mg/kgのみを感染後25時間に1回経口投与し、ピロナリジンのみの感染後の有効時間を評価した。ピロナリジンリン酸塩、アルテスナートともに使用直前に調製し、5%重炭酸ナトリウムに完全溶解して経口投与した。対照群として、ウイルスを接種しない正常対照群(Mock)と溶媒のみを同時投与したビヒクル対照群を使用した。ウイルス接種後4日目に、肺の左葉及び右葉の両方を切除してウイルスを抽出し、肺組織のウイルス力価を実験例6に記載のプラークアッセイで分析した。プラークアッセイによって定量化された肺のウイルス力価は、肺組織の総体重さ(g)対して正規化され、ログ値に換算されて、最終的な力価を算定して比較した(Log10プラーク形成単位/g、Log10PFU/g)。
【0084】
その結果、
図7に示すように、感染後4日目に、ピロナリジンリン酸塩(P)-アルテスナート(A)180/60及び360/120mg/kg併用投与群の両方で肺組織内感染性ウイルスの力価が統計的に有意に減少された[Log
10PFUの中央値(median):ウイルス接種群8.30対比併用投与群PA180/60mg/kg7.22(p<0.001);PA360/120mg/kg投与群7.61(p=0.046)]。一方、ピロナリジンリン酸塩を単独経で口投与した場合、高容量360mg/kgの投与時、肺組織における感染性ウイルス力価の有意な減少が観察され、感染後25時間に1回投与した場合でも、有意な阻害効果が観察された[ウイルス接種群Log
10PFUの中央値8.30対単独高容量25hpi投与群7.22(p<0.001)]。
【国際調査報告】