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特表2023-519281ラネーニッケル及び塩基性共触媒の存在下でアジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】ラネーニッケル及び塩基性共触媒の存在下でアジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/48 20060101AFI20230428BHJP
   C07C 211/12 20060101ALI20230428BHJP
   B01J 25/02 20060101ALI20230428BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20230428BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230428BHJP
【FI】
C07C209/48
C07C211/12
B01J25/02 Z
B01J31/28 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557964
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2021057591
(87)【国際公開番号】W WO2021191289
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】20165609.7
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ユシェド
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・シュージエ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC06B
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BE17A
4G169BE17B
4G169BE37B
4G169CB02
4G169CB77
4G169DA02
4H006AA02
4H006AC52
4H006BA02
4H006BA04
4H006BA06
4H006BA21
4H006BA29
4H006BA51
4H006BA70
4H006BB19
4H006BB31
4H006BC32
4H006BC51
4H006BC52
4H006BE20
4H039CA71
4H039CB30
(57)【要約】
本発明は、ラネーニッケル触媒、及び水酸化カリウムを含有する塩基性共触媒の存在下で、アジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法であって、塩基性共触媒が、アルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物及び水酸化アンモニウムからなる群から選択される更なる塩基性化合物を含有する、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラネーニッケル触媒、及び水酸化カリウムを含有する塩基性共触媒の存在下で、アジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法であって、前記塩基性共触媒が、アルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物及び水酸化アンモニウムからなる群から選択される更なる塩基性化合物を含有する、方法。
【請求項2】
前記塩基性共触媒が水酸化バリウムBa(OH)2を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩基性共触媒が、一般式NR4OH(式中、各Rは互いに独立して1~16個の炭素原子を有するアルキル基である)の水酸化アンモニウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各Rが互いに独立して、1~4個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各Rが互いに独立してメチル又はブチルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
Rがメチルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Rがn-ブチルである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性共触媒が、50~95モル%のKOH、及び5~50モル%の前記更なる塩基性化合物を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基性共触媒が、70~90モル%のKOH、及び10~30モル%の前記更なる塩基性化合物を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基性共触媒が、75~85モル%のKOH、及び15~25モル%の前記更なる塩基性化合物を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基性共触媒が0.1~2.0モルOH-/kgNiの量で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水素化が、前記塩基性共触媒の水性溶液1~20質量%を含有する、溶媒としてのヘキサメチレンジアミン中で行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記水素化が50~150℃の温度において1~100barの水素圧力下で行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラネーニッケル触媒及び塩基性共触媒の存在下でアジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサメチレンジアミンは多くの用途において使用される化合物であり、その主なものは、ポリアミド、例えば、PA6,6としてより一般的に知られているポリ(ヘキサメチレンアジパミド)の製造、及びヘキサメチレンジイソシアネートの製造である。
【0003】
ヘキサメチレンジアミンのいくつかの製造方法が提案されており、それらは一般的に、水素化触媒の存在下でのアジポニトリル(テトラメチレンジシアニド)の水素化からなる。異なる触媒及び異なる温度圧力条件を用いた二種類の方法が工業的に利用されている。
【0004】
即ち、利用されかつ文献に記載されている第一の種類の水素化方法は、例えばルテニウム系の触媒による、アンモニアの存在下かつ高圧下でのニトリル化合物の水素化にある。高圧高温下で鉄系の触媒も使用される。
【0005】
第二の種類の方法は、塩基性化合物、及びラネーニッケルをベースとする触媒の存在下、圧力下でそれほど高くない温度、例えば25℃80barで、ニトリル化合物の水素化を行うことにある。後者の種類の方法では、ニトリル化合物のアミンへの水素化は、場合によりドープされたラネーニッケルをベースとする触媒の存在下で行われる。これらの触媒は、強アルカリ性媒体中、Ni-Al合金からのアルミニウムの浸出により調製される。得られた触媒は、高い比表面積及び可変的な残留アルミニウム含有量を有するニッケル結晶子の凝塊からなる。
【0006】
アジポニトリルは、水素化により反応して環状ジアミンであるジアミノシクロヘキサン(DCH)を生じることができることが知られている。しかしながら、DCHは、標的アミンの沸点に近い沸点を有し、そのため分離が非常に困難であるため、特に厄介である。
【0007】
特に活性、選択性及び最終的な触媒の失活挙動に関して、ラネーニッケル触媒によるアジポニトリルのヘキサメチレンジアミンへの水素化を最適化する工業的な必要性がある。特に、最小限の資本コスト及び最小限のエネルギー消費で精製することができるヘキサメチレンジアミンを得るために、ジアミノシクロヘキサンの形成を制限することが重要である。
【0008】
US2003/0144552A1は、ヘキサメチレンジアミン及びKOHを含有する溶液中、クロムでドープされたラネーニッケルの存在下でのアジポニトリルのヘキサメチレンジアミンへの水素化を開示している。更なる水酸化物の使用は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US2003/0144552A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、副生成物としてのジアミノシクロヘキサン(DCH)の形成が少ないこと特徴とする、ラネーニッケル触媒の存在下でアジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、ラネーニッケル触媒、及び水酸化カリウムを含有する塩基性共触媒の存在下で、アジポニトリルの水素化によりヘキサメチレンジアミンを調製する方法であって、塩基性共触媒が、アルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物及び水酸化アンモニウムからなる群から選択される更なる塩基性化合物を含有する、方法により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
更に、アルカリ水酸化物は、Li、Na、Rb及びCsの水酸化物である。アルカリ土類水酸化物は、Mg、Ca、Sr及びBaの水酸化物である。
【0013】
一つの実施形態において、塩基性共触媒は、更なる塩基性化合物として水酸化セシウムCsOHを含有する。
【0014】
一つの好ましい実施形態において、塩基性共触媒は、更なる塩基性化合物として水酸化バリウムBa(OH)2を含有する。
【0015】
更に好ましい実施形態において、塩基性共触媒は、一般式NR4OHの水酸化アンモニウムを含有し、ここで各Rは互いに独立して、1~16個の炭素原子を有するアルキル基、好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0016】
特に好ましい実施形態において、NR4OHにおける各Rは、互いに独立してメチル、エチル、プロピル又はブチルである。
【0017】
非常に好ましい実施形態において、NR4OHにおける各Rはメチルであり、即ち、塩基性共触媒は、更なる塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウムを含有する。
【0018】
更に非常に好ましい実施形態において、NR4OHにおける各Rはn-ブチルであり、即ち、塩基性共触媒は、更なる塩基性化合物として水酸化テトラ(n-ブチル)アンモニウムを含有する。
【0019】
好ましくは、塩基性共触媒は、50~95モル%のKOH、及び5~50モル%の更なる塩基性化合物を含有する。より好ましくは、塩基性共触媒は、70~90モル%のKOH、及び10~30モル%の更なる塩基性化合物を含有する。特に好ましい実施形態において、塩基性共触媒は、75~85モル%のKOH、及び15~25モル%の更なる塩基性化合物を含有する。
【0020】
水素化反応は、一般的に、水素化により得られたアミンから有利にはなる溶媒の存在下で行われる。従って、アジポニトリルの水素化の場合、ヘキサメチレンジアミンは有利には反応媒体の主成分として使用される。反応媒体におけるアミンの濃度は、水素化反応媒体の液相の有利には50質量%から99質量%の間、好ましくは60質量%から99質量%の間である。
【0021】
水素化反応は、好ましくは、反応媒体の他の成分としての水の存在下で行われる。水は、全反応媒体の液相において一般的に50質量%以下、有利には20質量%以下の量で存在し、より好ましくは0.1質量%から15質量%の間である。
【0022】
添加される塩基の量は、ニッケル1キログラムあたり少なくとも0.1モルの塩基、好ましくはニッケル1キログラムあたり0.1から2モルの間の塩基、より有利にはニッケル1キログラムあたり0.3から1.5モルの間の塩基を有するように決定される。
【0023】
例えば、水素化は、反応媒体の全量に基づいて塩基性共触媒の水性溶液を1~20質量%、好ましくは5~15質量%含有する、溶媒としてのヘキサメチレンジアミン中で行われうる。
【0024】
水素化反応は、一般的に150℃以下、例えば、50~150℃、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で行われる。反応温度は、最も好ましくは50℃から100℃である。
【0025】
反応器における水素圧力は、一般的に1~100bar(0.10~10MPa)であり、好ましくは10~50bar(1~5MPa)である。
【0026】
本発明で使用されるラネーニッケル触媒は、ドーパントと呼ばれることが多い1つ又は複数の他の元素、例えば、クロム、チタン、モリブデン、タングステン、マンガン、バナジウム、ジルコニウム、鉄、亜鉛、並びにより一般的には元素周期表のIIB族、IVB族、IIIB族、VB族、VIB族、VIIB族及びVIII族元素等を有利には含有することができる。これらのドーパント元素のなかでも、クロム、鉄及び/若しくは亜鉛、又はこれらの元素の混合物が最も有利であると考えられ、10%未満、好ましくは5%未満の質量濃度(ラネーニッケル金属に対して表して)で通常存在する。例えば、鉄濃度は1~2質量%であってもよく、クロム濃度は0.5~5質量%であってもよく、亜鉛濃度は0.5~5質量%であってもよい。
【0027】
ラネー触媒は、その触媒を調製するために使用した合金に存在する痕跡量の金属を含むことが多い。従って、これらの触媒中にはアルミニウムが特に存在する。アルミニウム濃度は2~10質量%であってもよい。
【0028】
場合によりドープされたラネーNi触媒は、一般的に、溶融Ni-Al前駆体合金(例えば28~59質量%のNi含有量)に由来し、これに金属ドーパント元素、好ましくは鉄、クロム及び亜鉛が、「冶金」ドープ手順として知られるドープ手順に従って添加される。冷却及び粉砕後、ドープされた前駆体合金は、従来の方法でアルカリ処理に供され、これは多かれ少なかれアルミニウム及び場合により一部のドーパント元素の除去を生じさせる。使用される出発物質合金は、以下の形態のニッケル/アルミニウム2成分の組み合わせ、即ち、NiAl3、Ni2Al3及び初晶Al/NiAl3から有利には選択される。
【0029】
ラネーNi触媒をドーパント元素の前駆体を含有する溶液に含浸させること、ドーパント元素をラネーNi触媒上に沈殿させること、又はラネー合金のアルカリ処理の際にドーパントの前駆体化合物を導入することで、「化学的」ドープによりドーパントを導入することも可能である。
【0030】
本発明を以下の実施例により更に説明する。以下の実施例は例示目的のためのものにすぎず、本発明をそれらに限定するために用いられるのではないことが理解されるべきである。
【実施例
【0031】
(実施例1)
触媒活性測定の基本手順
N2乾燥雰囲気下、ニッケルラネー触媒0.48gを、水7.3g、純粋なヘキサメチレンジアミン65.55g、及び0.8モルOH-/kgNiに相当する7モル/Lの水酸化カリウム水性溶液55μLとともに撹拌した。温度を80℃まで上昇させ、25barの水素全圧力とした。アジポニトリル(ADN)2.5gを加圧滅菌器中で一度に添加し、水素化した。これらの操作条件において、触媒活性は111×10-5モルH2/g触媒/sである。
【0032】
(実施例2)
選択性測定の基本手順
N2乾燥雰囲気下、ニッケルラネー触媒3gを、水4.5g、純粋なヘキサメチレンジアミン40.5g、及び0.8モルOH-/kgNiに相当する7モル/Lの水酸化カリウム水性溶液345μLとともに撹拌した。温度を80℃まで上昇させ、25barの水素全圧力とした。アジポニトリル(ADN)30gを加圧滅菌器中で10g/hの質量流量で滴下し、水素化した。3時間後、得られた粗ヘキサメチレンジアミンをガスクロマトグラフィーにより分析した。これらの操作条件において、0.1812%の1,2-ジアミノシクロヘキサン(DCH)を得た。
【0033】
(実施例3)
触媒失活測定の基本手順
前の実施例におけるADNの添加の最後に、ADN2.5gを、使用済触媒及び実施例2で製造された粗HMDを含有する加圧滅菌器中で(反応混合物を取り出すことなく)一度に添加し、水素化(80℃、25bar)した。これらの操作条件において触媒活性は44.6×10-5モルH2/g触媒/sであり、これは60%の活性喪失(111×10-5モルH2/g触媒/sと比較して)を表す。
【0034】
(実施例4)
触媒活性測定のための共触媒の改変
100%のKOHの代わりに、反応器中、新たな共触媒(XOH)の水性溶液20モル%、及び水酸化カリウム(KOH)水性溶液80モル%を添加したこと以外は、実施例1の手順に従った。OH-の全量は0.8モルkgNiのままとした。
【0035】
触媒活性を以下の表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
(実施例5)
選択性測定のための共触媒の改変
100%のKOHの代わりに、反応器中、新たな共触媒(XOH)の水性溶液20モル%、及び水酸化カリウム(KOH)水性溶液80モル%を添加したこと以外は、実施例2の手順に従った。OH-の全量は0.8モル/kgNiのままとした。
【0038】
粗ヘキサメチレンジアミン中の1,2-ジアミノシクロヘキサン(DCH)の質量パーセントを以下の表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
(実施例6)
触媒活性測定のためのXOHのモル百分率の改変
100%のKOHの代わりに、反応器中、新たな共触媒(XOH)の水性溶液50モル%、及び水酸化カリウム(KOH)水性溶液50モル%を添加したこと以外は、実施例1の手順に従った。OH-の全量は0.8モル/kgNiのままとした。
【0041】
触媒活性を以下の表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
(実施例7)
選択性測定のためのXOHのモル百分率の改変
100%のKOHの代わりに、反応器中、新たな共触媒(XOH)の水性溶液50モル%、及び水酸化カリウム(KOH)水性溶液50モル%を添加したこと以外は、実施例1の手順に従った。OH-の全量は0.8モル/kgNiのままとした。
【0044】
粗ヘキサメチレンジアミン中の1,2-ジアミノシクロヘキサンの質量パーセントを以下の表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
(実施例8)
触媒の失活
各実験について実施例3の手順に従った。使用したニッケルラネー触媒の触媒活性を以下の表5に示し、初期活性(111×10-5モルH2/g触媒/s)と比較する。
【0047】
【表5】
【0048】
新たな共触媒N(CH3)4OH及びN(CH3CH2CH2CH2)4OHを用いることで、触媒が失活しにくい。
【国際調査報告】