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特表2023-519347少なくとも1つの制御性T細胞活性化エピトープを含むタンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】少なくとも1つの制御性T細胞活性化エピトープを含むタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230428BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230428BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230428BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230428BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230428BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/00 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12P21/08
A01K67/027
A61P37/06
A61P37/08
A61P31/12
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K35/12
A61K39/00 A
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558302
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2021057949
(87)【国際公開番号】W WO2021191426
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】20166161.8
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】595107379
【氏名又は名称】ビオテスト・アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Biotest AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】キストナー,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】ダウフェンバッハ,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ウンゲラー,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ハーベナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルマイアー,ホルガー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064BJ12
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA08
4B064CA09
4B064CA10
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA22
4C084BA41
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB131
4C084ZB132
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA02
4C085BA01
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB08
4C087ZB13
4C087ZB33
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、免疫学の分野、特に、免疫応答の調節、とりわけ、免疫応答の抑制および/または免疫寛容の誘導の分野に関する。本発明は、ヒトIgGのFc部分に由来する配列に基づくTレジトープ(制御性T細胞活性化エピトープ)担持ポリペプチド(TCP)を提供し、該TCPは、3つの特定配列フレームの少なくとも1つ内に位置するヒトIgGとは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含む。本発明は、多目的に、例えば、単量体または二量体形態で、両者が要すれば、例えば、免疫応答が調節または抑制されるべき薬剤に連結されるか、そのような薬剤と共投与されるか、または単独の治療剤として用いるための、そのようなポリペプチドを提供する。本発明のTCPをコード化する核酸、医薬組成物および該TCPの使用もまた提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)であって、ここで、該TCPは、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない、
TCP。
【請求項2】
非相同性Tレジトープが、配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列中の同じ位置に同一に存在しない、請求項1に記載のTCP。
【請求項3】
少なくとも2つの非相同性Tレジトープ、好ましくは、少なくとも3つまたは4つの非相同性Tレジトープを含み、
ここで、要すれば、第1の非相同性TレジトープはフレームA、BまたはCのうち1つに位置し、少なくとも第2のTレジトープはフレームA、B、C、または配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端の異なるフレームに位置する、
請求項1または2に記載のTCP。
【請求項4】
(a) 配列フレームAが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームAは、配列番号1の位置168から位置203と少なくとも85%の配列同一性を有し、
(b) 配列フレームBが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームBは、配列番号1の位置272から位置307と少なくとも85%の配列同一性を有し、そして
(c) 配列フレームCが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームCは、配列番号1の位置212から位置249と少なくとも85%の配列同一性を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項5】
少なくとも1つの非相同性Tレジトープが、該Tレジトープと同じ長さを有する、またはTレジトープに1個または2個のアミノ酸を加えたまたは差し引いた長さを有する、フレームA、BまたはCのいずれか内の配列を置換している、請求項1から4のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項6】
少なくとも1つの非相同性Tレジトープが、
配列番号10(Treg289)、
配列番号7(Treg084)、
配列番号2(Treg009A)、
配列番号9(Treg088x)、
配列番号8(Treg134)、
配列番号3(Treg029B)、
配列番号4(Treg088)、
配列番号5(Treg167)、
配列番号6(Treg289n-天然)、
配列番号11(トリミングされたTreg009A)、
配列番号12(トリミングされたTreg029B-v1)、
配列番号13(トリミングされたTreg029B-v2)、
配列番号14(トリミングされたTreg088)、
配列番号15(トリミングされたTreg088x-v1)、
配列番号16(トリミングされたTreg088x-v2)、
配列番号17(トリミングされたTreg167)、
配列番号18(トリミングされたTreg289n)、
配列番号19(トリミングされたTreg289)、
配列番号20(トリミングされたTreg084)、および
配列番号21(トリミングされたTreg134)
からなる群より選択され、ここで、好ましくは、全てのTレジトープが上記の群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項7】
TCPが以下からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のTCP。
(I) (a)フレームAに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
(b)フレームBに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
(c)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(d)配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すれば3~18個のアミノ酸のリンカーを介してこの配列に連結された配列番号9のTレジトープ(Treg088x)
を含むTCP;
(II) (a)フレームBに位置する配列番号9のTレジトープ(Treg088x)、および
(b)フレームCに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)
を含むTCP;
(III) (a)フレームBに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、および
(b)配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すれば3~18個のアミノ酸のリンカーを介してこの配列に連結された配列番号9のTレジトープ(Treg088x)
を含むTCP;
(IV) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b) フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(c) 配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すれば3~18個のアミノ酸のリンカーを介してこの配列に連結された配列番号8のTレジトープ(Treg134)
を含むTCP;
(V) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームBに位置する配列番号8のTレジトープ(Treg134)、および
(c)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)
を含むTCP;
(VI) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(c)配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すれば3~18個のアミノ酸のリンカーを介してこの配列に連結された配列番号9のTレジトープ(Treg088x)、
を含むTCP;ならびに
(VII) (a)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(b) 配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すれば3~18個のアミノ酸のリンカーを介してこの配列に連結された配列番号8のTレジトープ(Treg134)
を含むTCP。
【請求項8】
配列番号23~44および46~58および111からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでいてもよい、要すれば配列番号54のアミノ酸配列を含んでいてもよい、請求項1から7のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項9】
TCPが195~350個のアミノ酸からなる、請求項1から8のいずれか一項に記載のTCPであって、ここで、TCPが、本質的に、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなっていてよく、かつ該TCPが、配列フレームA、BまたはCのうち少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されず、
要すれば、3-18個のアミノ酸のリンカーを介してこの配列に連結され得る、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に1つのさらなるTレジトープを有していてよい、
TCR。
【請求項10】
TCPが、抗体のVHドメインおよびCH1ドメイン、好ましくは、抗体の抗原結合部をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項11】
該TCPが、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個またはそれ以上のTCPモノマーを含む多量体を形成しており、
好ましくは、少なくとも2個のTCPモノマーを含む二量体であり、
要すれば、該TCPモノマーは、少なくとも1つのジスルフィド架橋を介して共有結合している、
請求項1から10のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項12】
TCPが、(a)アレルゲン、(b)不耐性誘導剤、(c)自己免疫応答の標的タンパク質、例えば自己抗体、(d)自己免疫応答の標的エピトープ、または(e)治療剤、を含む群から選択される薬剤に共有結合または非共有結合されており、
要すれば、TCPおよびこれらの薬剤は、融合タンパク質を形成している、
請求項1から11のいずれか一項に記載のTCP。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のTCPをコードする核酸であって、ここで、該核酸は、要すれば、真核生物宿主細胞においてTCPを発現させるのに適した発現ベクターである、核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項15】
Tレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を製造する方法であって、
(a)TCPの発現に適した条件下で、請求項14に記載の宿主細胞を培養する工程、
(b)工程(a)で発現されたTCPを含む細胞または培地を集める工程、
(c)該TCPを単離する工程、
(d)要すれば、工程(c)のTCPを薬学的に許容される組成物として製剤する工程
を含む、製造方法。
【請求項16】
請求項13に記載の核酸を含むトランスジェニック動物であって、好ましくは、非ヒト動物である、トランスジェニック動物。
【請求項17】
請求項1から12のいずれか一項に記載のTCP、請求項13に記載の核酸または請求項14に記載の宿主細胞、および要すれば、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項18】
免疫応答を調節するために使用するための、好ましくは、対象において免疫応答を抑制するため、または免疫寛容を誘導するための、医薬組成物であって、
ここで、要すれば、該免疫応答は、TCPが例えば共有結合された形態で共投与される薬剤に対する免疫応答である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
対象における自己免疫関連障害、アレルギー、ウイルス感染または移植関連免疫応答または障害の予防あるいは処置に用いるための、医薬組成物であって、
好ましくは、自己免疫疾患の処置における使用のための、請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野、特に免疫応答の調節、とりわけ免疫応答の抑制および/または免疫寛容の誘導の分野に関する。本発明は、ヒトIgGのFc部分に由来する配列に基づくTレジトープ(制御性T細胞活性化エピトープ:tregitope)担持ポリペプチドを提供し、ここで、該TCPは、3つの特定の配列フレームの少なくとも1つ内に位置するヒトIgGとは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含む。本発明は、多目的に、例えば、単量体または二量体形態で、両者が要すれば、例えば、免疫応答が調節または抑制されるべき薬剤に連結されるか、そのような薬剤と共投与されるか、または単独の治療剤として使用するための、そのようなポリペプチドを提供する。本発明のTCPをコード化する核酸、医薬組成物および該TCPの使用もまた提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
制御性T細胞活性化エピトープ(Tレジトープ)は、もともとヒトおよび霊長動物のタイプG免疫グロブリン(IgG)の定常領域に見出されたペプチドであり、制御性T細胞を活性化することができる(L. Cousens, et al, Hum. Immunol. 75, 1139-1146 (2014); Y. Su, R. Rossi, et al. J. Leukoc. Biol. 94, 377-383 (2013); L. Cousens, et al., J. Clin. Immunol. 33 (Suppl 1), S43-S49 (2013))。Tレジトープは、複数のHLAクラスII分子に結合するコンセンサス領域を探索するヒトIg分子のコンピューターによるエピトープマッピングによって同定されている(R. Caspi, Blood 112:3003-3004 (2008))。Tレジトープの提示は、ヒト白血球抗原(HLA)により制限されており、ここで、Tレジトープは複数のHLAにより提示される。Tレジトープは、既存の天然(natural)制御性T細胞に選択的に結合して活性化し、炎症の抑制をもたらすことが記載されている(De Groot et al. Blood 112(8):3303-3311 (2008))。
【0003】
Tレジトープは、短い(一般に15~20アミノ酸)直鎖状ペプチド配列であり、HLAに結合して制御性T細胞を活性化する。Tレジトープの配列は、類似の自己タンパク質において高度に保存されている。ほぼ全ての同定されたTレジトープは、単一の9マーの配列を示し、これはEpiMatrixエピトープ予測アルゴリズム(WO 2008/094538A2に開示される)により、少なくとも4種のHLA DR対立遺伝子に結合すると予測され得る。かかる同定されたTレジトープは、ヒト集団において広く認識され得る。Tレジトープに応答するT細胞は、制御性T細胞表現型(CD4 CD25 FoxP3)を示す。
【0004】
Tレジトープの免疫抑制効果および免疫調節効果は、最近、Maddur et al. Trend in Immunology 38(11): 789-792 (2017)によってレビューされており、制御性T細胞に対するTレジトープの活性化効果が記載されている(L. Cousens, et al, Hum. Immunol. 75, 1139-1146 (2014); Su et al. J. Leukoc. Biol. 94, 377-383 (2013);L. Cousens, et al., J. Clin. Immunol. 33 (Suppl 1), S43-S49 (2013))。最近の文献では、Tレジトープがアレルギーの処置(De Groot et al, Blood 112(8): 3303-3311 (2008))、炎症性大腸炎の処置(Van der Marel et al. World J Gastroenterol. 18(32): 4288-4299 (2012))、1型糖尿病の処置(Su et al. J. Leukoc. Biol. 94, 377-383 (2013)、Cousens et al. Journal of Diabetes Research, Volume 2013, Article ID 621693 (2013))、多発性硬化症の処置(Elyaman et al., Neurology Research International, Volume 2011, Article ID :256460 (2011))、および耐性の誘導(Cousens et al., Hum. Immunol. 75, 1139-1146 (2014))に適していることが示されている。
【0005】
WO 2008/094538 A2は、いくつかの特定のTレジトープ、ならびにアレルギー、移植、自己免疫、糖尿病、B型肝炎感染、全身性エリテマトーデス、バセドウ病および自己免疫甲状腺炎の処置におけるこれらの適用を記載している。Tレジトープは、例えば、望ましくない免疫応答を伴う病状の処置手段として用いられ得る。
【0006】
WO 2006/036834 A2には、ループ領域に薬理活性ペプチドを含むヒトIgG Fcドメインを有する分子が記載されている。
【0007】
これまで、Tレジトープの有利な特性を利用することは困難であった。また、Tレジトープまたはそれを含むタンパク質を製造することは、これまで困難であった。そのため、Tレジトープまたはそれを含むタンパク質を容易に製造する手段および方法の開発が強く望まれている。
【0008】
一般に、Tレジトープは、ペプチド合成または組換え生産によって提供され得る。しかしながら、化学的なペプチド合成は、必要なペプチドの量を考えると満足のいくものではない。さらに、Tレジトープを単独で用いることは、例えば、循環血液中のペプチドの半減期が短いために、治療的投与に適していない。本発明者らの知る限り、2以上のTレジトープを他のタンパク質に組み込んだり、融合して発現させたりする試みは、あまり成功していない。Cousensら(Albumin Delivery of Tregitope Peptides for Tolerance Induction in Autoimmunity and Inflammatroy Disease, AAPS May 2014)は、異なる数のTレジトープに結合したヒト血清アルブミンの融合タンパク質を試験し、ここで、2個および4個のTレジトープを有するタンパク質を詳細に分析した。4個の末端に融合させたTレジトープを有するバージョンは、大きな分解生成物を生じ、精製が困難であることが記載されている。
【0009】
さらに、標的特異的な免疫寛容を伝えるために、潜在的に免疫原性のタンパク質またはペプチドにTレジトープを組み込むことが望ましいため、組換え生産が望ましいと思われる。
【0010】
しかし、TレジトープまたはTレジトープを含むタンパク質の組換え生産は困難である。Tレジトープを細菌発現系(大腸菌)で生産する試みがなされているが、本発明者らの知る限り、ペプチドの高い疎水性のためか、これらの試みはすべて失敗している。また、真核生物でのTレジトープの発現も同様の問題を有する。Tレジトープをアルブミンおよび他のタンパク質と融合させ、発現を向上させる試みがなされてきた。しかし、本発明者らの知る限り、これらのアプローチは満足のいく結果には至っていない。化学合成(FMOCなど)によりTレジトープを製造することは可能であるが、合理的なコストでTレジトープを大量に製造すること、または組換え法によりTレジトープを融合タンパク質で常套的に発現させることは、依然として困難である。
【0011】
したがって、Tレジトープの効果的な生産、特に効率的な発現系、例えば標的特異的な免疫寛容を伝えるために複数のTレジトープを標的タンパク質に連結することを可能にするアプローチに対する当技術分野の強いニーズが存在する。また、Tレジトープの治療能力を活用するために、Tレジトープを対象に投与することを可能にすることも強く求められている。
【発明の概要】
【0012】
本発明
これらの問題は、本明細書に記載される本発明によって、例えば、特許請求の範囲の主題によって解決される。
【0013】
Tレジトープ担持ポリペプチド(TCP)
第1の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を提供し、ここで該TCPは、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。配列番号1は、ヒトIgG1の重鎖配列の定常領域を表す(詳細は後段でさらに記載する)。従って、配列番号1のアミノ酸135から330は、ヒトIgGのCH2およびCH3ドメインの一部を含み、特にC144におけるジスルフィド架橋を含む。したがって、本発明のTCPは、一般的には、ヒトIgGのFc部分に由来する配列を含む。
【0014】
別の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸114~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を提供し、ここで該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。要すれば、該TCPは、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列をさらに含んでいてもよい。
【0015】
別の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸104~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を提供し、ここで該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。要すれば、該TCPは、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列をさらに含んでいてもよい。要すれば、該TCPは、配列番号1のアミノ酸114から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列をさらに含んでいてもよい。
【0016】
本発明において、新規のTレジトープ担持ポリペプチド(“TCP”と略す)が開発され、種々の目的および用途のために、Tレジトープ(同じものとして、“制御性T細胞活性化エピトープ”と称される)の発現および投与を特に効率的かつ柔軟な方法で行うことが可能となった。
【0017】
本発明は、Tレジトープが、免疫グロブリンFc部分の(配列番号1に記載のような)鎖(複数可)に組み込まれるとき、驚くほどよく発現され得るという予期せぬ発見に基づいている。さらに、Tレジトープのための骨格または担体分子としてのFc部分鎖の使用は、1以上のTレジトープの組み込みおよび成功裏の発現を可能にし、それにより、顕著に効率的な発現および/または送達ツールを提供することができる。
【0018】
さらに、本発明者らは、Tレジトープの特に効率的な発現を可能にする、該Fc部分の鎖内の特に有利なフレームを特定した。これらのフレームは、複数のTレジトープのバリエーションおよびその組合せを組み込むことを可能にするモジュール設計を提供し、したがって、選択した製品を設計するための極めて高度の柔軟性を提供する。
【0019】
本発明のTレジトープを担持するポリペプチドは、医薬の分野でも有用であり、特に免疫学的障害を処置するために有用である。例えば、Tレジトープ担持ポリペプチドは、例えば過剰な免疫応答を処置するために、単独の治療薬として投与され得る。TレジトープがFc部分に組み込まれているという事実は、単離されたTレジトープと比較してより容易な製造を可能にするだけでなく、単一のTレジトープの投与と比較して製品の血漿半減期を向上させる役割を果たし得る。このように、Tレジトープ担持ポリペプチドは、治療薬または予防薬として顕著に有用である。
【0020】
Tレジトープ担持ポリペプチドはまた、Tレジトープを、例えば融合タンパク質の形態で、他のタンパク質に容易に組み入れおよび/または結合させることができる。したがって、本発明は、Tレジトープを選択したタンパク質に結合させる柔軟なプラットフォームを提供し、Tレジトープを組み込むためのさらなる実験の必要性を低減させる。また、本発明のアプローチは、免疫寛容を伝えたいタンパク質またはペプチドのような特定の物質と組み合わせた、またはそれに連結させたTレジトープを投与するための新しいツールも提供する。これは、自己免疫、アレルギー、その他の疾患の予防または低減の観点、および治療薬に対する望ましくない免疫応答の予防または低減の観点で特に有用であると考えられる。さらに、例えば、Tレジトープを担持するポリペプチドに結合された抗原結合領域によって、該タンパク質は、特定の組織または細胞に標的化され得る。
【0021】
本発明は、多くの用途に適した担体でTレジトープを発現させることを可能にする。しかしながら、本発明のアプローチは、TレジトープがTCP内で発現される、単離されたTレジトープを効果的に製造するために用いられることも可能である。TCPの発現後、TレジトープをTCP(またはTCPを含むタンパク質)から切り出し、さらに精製してもよい。これにより、単離されたTレジトープを効率的に製造および利用することができる。
【0022】
理論はともかく、本発明のアプローチ、すなわち、担体配列として免疫グロブリンのFc部分鎖を用いることにより、Tレジトープ同志が互いに結合する傾向を阻止し、効率的に発現させることが可能であると思われる。とりわけ、上記のように、本発明者らの知る限り、複数のTレジトープをタンパク質に融合させるこれまでの試みはあまり成功していなかった。
【0023】
したがって、Tレジトープを結合させるための骨格としてFc部分鎖を用いることにより、生物学的に、特に真核生物の発現系におけるTレジトープの効率的なクローニングおよび発現(とりわけ分泌を含む)が可能となる。
【0024】
Tレジトープの担体分子として免疫グロブリンFc部分鎖を用いることにより、1つのポリペプチド内にTレジトープ、特に2以上のTレジトープ、有利には異なるTレジトープでも同一のTレジトープでもよい3以上のTレジトープも効率的にクローニングおよび発現させることができる。得られた本発明のTCPは、安定であり、精製が容易である。
【0025】
本明細書の実施例に示されるように、本発明のTCPは、免疫調節活性に関して良好な結果を示した。これは、9つの主要なHLA-DRB1スーパータイプを代表する広範囲のドナーにわたるエフェクターCD4+ T細胞の増殖および活性化に対するTCPの免疫抑制能によって示された。
【0026】
多くのさらなる有用な態様、利点および適用は、本発明の記載から明らかであろう。
【0027】
本明細書中を通して用いられている用語“配列同一性”は、当業者には知られている。一般的に、アミノ酸配列は、それら2つの整列した配列間の配列同一性が、該他のアミノ酸配列の全長にわたって少なくともx%であるとき、他のアミノ酸配列と“少なくともx%の同一性”を有する。このようなグローバルアラインメントは、例えば、EMBLのホームページ(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)で提供されている“EMBOSS”ニードルプログラムのような公に利用可能なコンピュータホモロジープログラムを用いて、提供されている以下の設定を用いて実施することができる:MATRIX:BLOSUM 62;GAP OPEN 20;GAP EXTEND 0.5;OUTPUT FORMAT:pair;END GAP PENALTY:false;END GAP OPEN:10;ENDGAP EXTEND:0.5。アミノ酸配列のセットの配列同一性または配列類似性/配列相同性パーセンテージを計算するさらなる方法は、当技術分野で知られている。
【0028】
特定の領域、本明細書で定義されたフレームが配列同一性の決定のために考慮されない限り、これは、配列同一性の決定のための比較が行われる前に、フレームのそれぞれの部分配列が、比較が行われる配列および比較される配列の両方において削除されることを意味する。ここで、疑わしい場合には、まず初めに全長配列に対するアライメントを行い、次いで、比較配列中のフレームに対応する配列を削除する。さらに、明確にするために、本明細書中で定義されているように、配列同一性に関連するコア配列の外側のN末端およびC末端の部分配列は、配列同一性を決定するために考慮されない。したがって、上記第1のアラインメントは、配列同一性の計算のために考慮されないそのようなN末端およびC末端の部分配列を特定し、そして排除するために用いられ得る。
【0029】
本発明はさらに、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTCPを提供し、ここで、該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。
【0030】
本発明のTCPはまた、配列番号1(ヒトIgGの完全なCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む配列)のアミノ酸114~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、ここで、該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。この態様において、特定領域のアミノ酸配列同一性はまた、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%であってもよい。
【0031】
本発明のTCPはまた、配列番号1(CH2およびCH3ドメインおよびヒンジ領域の一部を含む配列)のアミノ酸104~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、ここで、該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。この態様において、特定領域のアミノ酸配列同一性は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%であってもよい。
【0032】
さらなる態様において、本発明のTCPはまた、配列番号1(ヒトIgGの定常領域の配列)のアミノ酸1~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、ここで、該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。この態様において、特定領域のアミノ酸配列同一性はまた、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%であってもよい。
【0033】
別の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸135~330に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%の配列同一性を有する、少なくとも190アミノ酸の連続配列を含むTCPを提供し、ここで、該TCPは該Fc-部分鎖とは非相同の少なくとも2つの制御性T細胞活性化エピトープを含み、該タンパク質は要すれば抗体のVHドメインおよび/またはCH1ドメインを含まなくてもよい。好ましくは、該TCPのTレジトープの少なくとも1つ、要すれば少なくとも2つは、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置し、ここで
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応する。
【0034】
上記態様において、配列同一性の決定のためにフレームの配列が考慮され、これにより、例えば、上記で定義されたTCPと比較して低い配列同一性となる。
【0035】
本発明はまた、少なくとも1つの、好ましくは2つ、3つ、または4つの非相同性Tレジトープの挿入により修飾された免疫グロブリン、例えばIgG Fc-部分鎖を含むTCPも提供し、ここで該TCPは抗体のVHドメインおよび/またはCH1ドメインを含まない。
【0036】
当業者にとって、上記のすべてのTCPについて、可能なまたは好ましいTレジトープ、Fc-部分鎖、配列フレーム、ならびに結合および位置に関するルールを含むがこれらに限定されない、本明細書に記載される好ましい特徴が同様に適用されることは明らかである。同様に、TCPを含む多量体および融合タンパク質を設計および製造することができる。
【0037】
配列番号1は、UNIPROT配列P01857に対応する。これは、ヒトIgG重鎖の定常領域を表し、以下の特徴を有する(Giuntini et al., 2016. Clin Vaccine Immunol 23:698-706):
1)ヒンジ領域:位置103-113
2)CH2ドメイン:位置114-223
3)CH3ドメイン:位置224-330
4)分子間Fc部分二量化のためのシステイン残基:位置109および112
5)分子内ジスルフィド架橋のシステイン残基(CH2ドメイン):位置144および204
6)分子内ジスルフィド架橋のシステイン残基(CH3ドメイン):位置250および308
7)潜在的なグリコシル化部位(抗体のKabat番号付けによるAsn297):位置180。
【0038】
上記のように、本発明は、免疫グロブリンFc部分またはそのフラグメントの鎖内にTレジトープを導入するという新規な概念に基づくものである。本明細書中で用いる用語“免疫グロブリンFc-部分鎖”および“免疫グロブリンFc-部分”または単に“Fc-部分鎖”は、この技術分野の当業者に理解される(例えば、Schroeder, H.W., & Cavacini, L. (2010) Structure and function of Immunoglobulins, J Allergy Clin Immunol vol. 125(2), S41-S52参照のこと)。用語“Fc部分”は、当業者に知られている。本発明のFc部分鎖とは、免疫グロブリンのFc-フラグメント二量体の1本鎖、またはそのフラグメントを意味する。例えば、かかるフラグメントは、パパインで消化することにより、免疫グロブリンG(IgG)、好ましくはヒトIgGとして得ることができる。対応するアミノ酸配列および核酸配列は既知である。Fc部分鎖の例としては、配列番号1の一部として開示されているヒトIgG1 Fc部分鎖が挙げられる。Fc-部分鎖は、全長のFc部分鎖であってもよく、またはそれより短くてもよい。好ましくは、TCPに用いられるポリペプチドは、少なくとも、ヒトIgGなどのIgGのCH2およびCH3ドメインに対応すべきであり、Fc-部分鎖のヒンジ領域または該ヒンジ領域の一部を含んでいてもよい。
【0039】
要求される配列同一性が満たされるとき、本発明のTCPにおける免疫グロブリン配列は、マウスIgGに由来するものでもよい。好ましくは、それらは、ヒトIgGに由来する。
【0040】
配列番号1のアミノ酸135から330による免疫グロブリンFc部分鎖は、該免疫グロブリンのヒンジ領域を除くヒト免疫グロブリンG(IgG)のCH2ドメインおよびCH3ドメインの大部分を表す。
【0041】
用語“CH2ドメイン”、“CH3ドメイン”および“ヒンジ領域”は、当業者に知られている(例えば、Schroeder, H.W., & Cavacini, L. (2010) Structure and function of Immunoglobulins, J Allergy Clin Immunol vol. 125(2), S41-52を参照のこと)。上記のように、それぞれのドメインは、配列番号1において、以下のように見出され得る:
(a) ヒンジ領域:位置103-113
(b) CH2ドメイン:位置114-223
(c) CH3ドメイン:位置224-330
各CH領域は、分子内ジスルフィド結合を介して、かなり保存されたループ状のドメインを形成している。IgGのCH2ドメインは、エフェクター機能の仲介および抗体の安定性保持に重要な役割を担っている。抗体中では、糖鎖を介した別のCH2ドメインとの弱い相互作用に関与している。Asn297のN-結合型グリコシル化は、哺乳動物IgGならびに他の抗体アイソタイプの相同領域で保存されている。
【0042】
抗体またはFc部分鎖の二量体では、CH2ドメインは糖鎖を介して互いに相互作用するが、CH3ドメインは互いに直接的に相互作用するため、二量体化にも重要な役割を担っている。これらの定常領域はまた、抗体のエフェクター機能、特にFc受容体との結合にも重要である。
【0043】
TCPの生成に用いられるFc部分鎖は、配列番号1に由来する。より具体的には、少なくとも配列番号1のアミノ酸135から330に由来する。二量体化が望まれるとき、Fc部分鎖は、配列番号1のアミノ酸103から113で特定されるようなヒンジ領域(コアヒンジ領域、Giuntini et al., 2016参照)、または二量体化を可能にするその一部を含んでいてもよく、例えばTCPは配列番号1のアミノ酸104~330に由来し得る。また、配列番号1のアミノ酸40~330、または配列番号1のアミノ酸1~330に由来してもよい。“由来”とは、配列に対して1以上の修飾が行われ得ることを意味する。1つの修飾は、配列内に少なくとも1つの非相同性Tレジトープを挿入するまたは結合させることである。
【0044】
Tレジトープ担持ポリペプチドが、FcRn(新生児Fc受容体)に結合する免疫グロブリンFc部分の能力を保持するとき、これは有利には、TCPの半減期および安定性の改善をもたらし得る。要すれば、グリコシル化部位は、FcRn相互作用のために維持される。要すれば、本発明のTCPは、Fc-γRI、Fc-γRIIおよび/またはFc-γRIIIにも結合する。この場合、IgGに由来するTCPは、上記のようにグリコシル化部位を維持することが望ましい。Fc-γ-受容体への結合は、プロフェッショナルな抗原提示細胞による取り込みを増加させることができ、これは本発明において有利とであり得る。
【0045】
タンパク質の特定の所望の特性を変更または改善するために、Tレジトープ担持ポリペプチドにさらなる変異を導入することができる。TCPの特定の目的に応じて、それぞれの受容体を介する明確なエフェクター機能を防止または促進するために、例えば、タンパク質の関連アミノ酸に変異を導入することによって、新生児Fc受容体またはFc-γRI、Fc-γRIIもしくはFc-γRIIIへの該タンパク質結合を阻害することが好ましい場合がある。
【0046】
TCPは一般的には可溶性タンパク質であるため、有利にはそれを発現する細胞によって分泌され得る。この目的のために、TCPはシグナル配列を含んでいてもよい。用語“シグナル配列”は、当業者には一般的に知られている。より具体的には、この用語は、一般的にはN末端でTCPに結合され、TCPの細胞内輸送および/または分泌を促進するペプチドに関する。シグナル配列は、タンパク質の輸送および分泌の間に切断されてもよく、あるいは、例えば、別の酵素処理によって除去されてもよい。シグナル配列の例としては、配列番号22が挙げられる。
【0047】
要すれば、TCPは、精製タグを含む。用語“精製タグ”も当業者には理解される。より具体的には、この用語は、一般的にはN末端またはC末端でTCPに融合し、合成されたTCPの精製を容易にするペプチドに関する。一般例としては、His-Tag、FLAG-TagまたはMyc-Tagである。
【0048】
さらに、TCPは、グリコシル化、リン酸化またはPEG化のような翻訳後修飾を含んでいてもよい。好ましくは、TCPは、配列番号1の位置180に対応するAsn297(抗体のKabat番号付けによる)にグリコシル化部位を維持する。
【0049】
免疫グロブリンFc部分に基づくTCPの1つの利点は、免疫グロブリンFc部分鎖に由来する構造によって伝えられる長い血漿中半減期である。しかしながら、TCPはまた、半減期延長部分、例えばアルブミン、アルブミン結合ドメイン、またはポリエチレングリコール(PEG)部分を含んでいてもよい。
【0050】
Tレジトープ
本明細書中で用いられる用語“Tレジトープ”(または“制御性T細胞活性化エピトープ”)は、当業者にはよく知られている。Tレジトープは、一般に約10から25アミノ酸長、例えば約15から20アミノ酸長を有する小さな直鎖状ペプチドであり、これは制御性T細胞を活性化することができる。それらはもともと、ヒトおよび霊長動物のIgG免疫グロブリンの定常領域において同定された(L. Cousens, et al., Hum. Immunol. 75, 1139-1146 (2014); Y. Su, R. Rossi, et al. J. Leukoc. Biol. 94, 377-383 (2013); L. Cousens, et al., J. Clin. Immunol. 33 (Suppl 1), S43-S49 (2013))。これらの短鎖ペプチドは、特に樹状細胞などの抗原提示細胞上のHLA複合体のMHC IIポケットに結合することにより、制御性T細胞を活性化することができる。抗原提示細胞および制御性T細胞の間のHLA-Tレジトープ複合体を含む受容体ベースの相互作用は、後者の細胞タイプの活性化をもたらす。本発明によるT細胞活性化エピトープの例は、本明細書中に記載される。一般に、Tレジトープを表す配列は、類似の自己のタンパク質において高度に保存されている。ほぼ全ての同定されたTレジトープが単一の9マーのコア配列を有し、EpiMatrixエピトープ予測アルゴリズムにより、少なくとも4種のHLA DR対立遺伝子に結合することが予測され得る。このような同定されたTレジトープは、ヒト集団において広く認識される可能性がある。この選択は、HLAスーパータイプにわたるEpiMatrixスコア、HLA結合アッセイにおける予測されたヒットの検証、バリデーションおよび裏付けとなる証拠、インビトロアッセイおよびインビボモデル、および本明細書中の考察に基づいて行われる。
【0051】
EpiMatrixは、1以上のMHC対立遺伝子に結合すると予測される9から10アミノ酸長のペプチドセグメントについて、タンパク質配列をスクリーニングするT細胞エピトープマッピングアルゴリズムである(例えば、De Groot, AS, Jesdale, BM, Szu, E, Schafer, JR.の、 An interactive web site providing MHC ligand predictions: application to HIV research to HIV research. AIDS Res. and Human Retroviruses. 1997;13: 539-541;および、Schafer JA, Jesdale BM, George JA, Kouttab NM, De Groot, AS.の、Prediction of well-conserved HIV-1 ligands using a Matrix-based Algorithm, EpiMatrix. Vaccine. 1998;16(19):1880-1884. など参照)。EpiMatrixは、1999年にSturnioloおよびHammerによって初めて記載された、エピトープ予測のためのポケットプロファイル法を用いている。効率および簡略化の理由から、予測は8つの最も一般的なHLAクラスII対立遺伝子および6つの“スーパータイプ”HLAクラスI対立遺伝子に限定されている。EpiMatrixの生スコアは、無作為に生成されたペプチド配列の非常に大きなセットから得られたスコア分布に関して正規化されている。EpiMatrixの“Z”スケールで1.64以上のスコア(何れかのペプチドセットの上位5%程度)を有するペプチドは、それが予測されたMHC分子に結合する可能性がかなり高い。スケールで2.32以上のスコアのペプチド(上位1%)は、結合する可能性が顕著に高く、ほとんどのよく知られたT細胞エピトープのスコアは、このスコアの範囲内に入る。EpiMatrixは、例えばiVAX Toolkit(iVAXのウェブサイト、www. http://i-cubed.org/tools/ivax/ivax-tool-kit/)を通じて、i-cubesのウェブサイトで一般に公開されており、そこでもさらなる情報が入手可能である。Tレジトープの同定は、引用により本明細書中に包含させるWO 2008/094538 A2の36ページ、4行目から44ページ、30行目および実施例1、2および3に例示されており、WO 2008/094538 A2の14ページ、8行から23行も参照のこと。
【0052】
本発明のTレジトープの主な機能的特徴は以下の通りである:
(i) Tレジトープは、樹状細胞のような抗原提示細胞によって提示される。
(ii) Tレジトープは、該抗原提示細胞のHLA複合体のMHC IIポケットに結合する。
(iii) Tレジトープが提示されると、制御性T細胞が活性化される。
(iv) Tレジトープの提示は、有効なT細胞を活性化しない。
【0053】
Tレジトープによって作用する過程および機序は複雑であるが、Tレジトープであるペプチドの性質を、適切なアッセイ、例えば、後段の実施例に記載のいわゆるTT(Tetanus Toxoid)アッセイによって、さらに確認することができる。このアッセイは、破傷風トキソイドを抗原として用いたPBMCにおけるCD4 T細胞リコール応答のTレジトープを介する抑制に基づく。
【0054】
適切なTレジトープの例を以下に記載する。さらなるTレジトープは、WO2008/094538 A2の表2およびWO2016/054114 A1に開示された配列に記載されており、これらは本発明で用いることもできる。好適なTレジトープの例としては、以下が挙げられる:
配列番号10(Treg289):EEQYQSTYRVVSVLTVLHQDW、
配列番号7(Treg084):GTDFTLTISSLQPED、
配列番号2(Treg009A):GGLVQPGGSLRLSCAASGFTF、
配列番号9(Treg088x):KTLYLQMNSLRAEDTAKHYCA、
配列番号8(Treg134):LNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS、
配列番号3(Treg029B):MHWVRQAPGKGLEWV、
配列番号4(Treg088):NTLYLQMNSLRAEDTAVYYCA、
配列番号5(Treg167):PAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQ、
配列番号6(Treg289n-天然):EEQYNSTYRVVSVLTVLHQDW。
【0055】
天然Tレジトープの配列内には軽微な修飾があってもよい。例えば、生理学的pHで帯電しているアミノ酸を組み込むことによってTレジトープの疎水性を変更し、とりわけ低減するために、修飾(複数可)、とりわけ単一アミノ酸の置換を含むことが有利であり得る。WO2008/094538の表2は、Tレジトープの可能な改変に関する例を示している。天然Tレジトープの修飾配列の2つの好ましい例は、Treg088xおよびTreg289であり、ここで配列内の修飾を下線で示す:
配列番号9(Treg088x):TLYLQMNSLRAEDTAKHYCA
配列番号10(Treg289):EEQYSTYRVVSVLTVLHQDW。
【0056】
さらに、トリミングされた配列を用いてもよく、すなわち、T細胞結合エピトープの機能を維持しながら、Tレジトープを表す配列の末端の1以上のアミノ酸、とりわけ末端の2個または3個のアミノ酸が欠失されてもよい。一般に、Tレジトープの9アミノ酸のコア配列(core motive)は、その自然免疫学的プロセス中にペプチドを提示するために重要である。好ましくは、該コア配列は、好ましいTレジトープの配列中に存在する。以下にTレジトープのいくつかの好ましいトリミングされた配列を示す:
配列番号11(トリミングされたTreg009A):VQPGGSLRLSCAASG、
配列番号12(トリミングされたTreg029B-v1):WVRQAPGKGL、
配列番号13(トリミングされたTreg029B-v2):VRQAPGKGL、
配列番号14(トリミングされたTreg088):YLQMNSLRAEDTAVY、
配列番号15(トリミングされたTreg088x-v1):KTLYLQMNSLRAEDTAKH、
配列番号16(トリミングされたTreg088x-v2):YLQMNSLRAEDTAKH、
配列番号17(トリミングされたTreg167):LQSSGLYSLSSVVTVPSSSL、
配列番号18(トリミングされたTreg289n):YNSTYRVVSVLTVLH、
配列番号19(トリミングされたTreg289):YQSTYRVVSVLTVLH、
配列番号20(トリミングされたTreg084):FTLTISSLQ、および
配列番号21(トリミングされたTreg134):FYPREAKVQWKVDNALQS。
【0057】
Treg289、Treg084、Treg009A、Treg088xおよびTreg134(トリミングされていないバージョンおよびトリミングされたバージョンの両方)は、本発明のTCPに関して、発現において特に良好な結果を示している。
【0058】
要すれば、本発明のTCPにおいて、TCPの2つ、3つまたは全てのTレジトープは、配列番号2-21のTレジトープ、好ましくは、配列番号2、7、8、9、10、11、15、16、19および20のTレジトープである。
【0059】
好ましくは、1つのTCP鎖中のすべての非相同性Tレジトープは、異なる配列を有していてもよい。異なるTレジトープを使用することにより、異なるHLAハプロタイプおよび異なる認識、プロセシングまたは提示能を有する対象の制御性T細胞を標的化し活性化する可能性が向上する。あるいは、1つのTCPモノマー(単量体)中の一部またはすべての非相同性Tレジトープは、例えば、適切なHLAハプロタイプまたはハプロタイプセットにおける提示を標的として、同じ配列を有する。
【0060】
非相同性Tレジトープ
本明細書中で用いる用語“非相同性Tレジトープ”とは、Tレジトープがそれぞれの免疫グロブリンFc-部分鎖の同じ位置に同一に生じないことを意味する。したがって、より具体的には、用語“非相同性Tレジトープ”とは、Tレジトープが、
(i)免疫グロブリンFc部分鎖に天然に存在しない、および/または
(ii)免疫グロブリンFc部分鎖のその天然の位置に存在しない
ことを意味する。
【0061】
本明細書中の用語“天然に存在しない”とは、Tレジトープ配列が天然Tレジトープと類似しているが、未修飾天然抗体、特に天然ヒトIgG抗体の対応するFc部分に存在する何れかのTレジトープと異なる1以上の修飾を有する場合を包含する。そのような修飾は、例えば、欠失、挿入、逆位または置換であってよく、好ましくは、置換である。
【0062】
配列番号1について、本明細書中で用いる用語“非相同性”とは、Tレジトープが配列番号1のFc部分鎖の同じ位置に同一に存在しないこと、より具体的には配列番号1の位置135から位置330までのアミノ酸配列に存在しないことを意味する。好ましくは、それはまた、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性を有する配列、例えば、天然配列において、同じ位置で同一に生じることはない。
【0063】
ヒトIgG Fc-部分鎖、より具体的には配列番号1のアミノ酸135-330の該免疫グロブリンFc-部分鎖において、1つの天然Tレジトープが存在することが特記される。これはTレジトープ289(配列番号10)であり、配列番号1の野生型IgGでは、配列フレームAに位置する。別の位置、例えば配列フレームBまたはCに位置するとき、それは非相同性Tレジトープとみなされる。また、本明細書中、Tレジトープ289の配列変異体(Tレジトープ289x)が言及されており、これも天然Tレジトープとは異なるため、本発明の目的では非相同性Tレジトープと見なされる。これは、該Tレジトープが配列番号1のTレジトープ289と同じ位置にあるときにも適用される。したがって、配列番号2-9および11-21のTレジトープは、配列番号1におけるそれらの位置に関係なく、非相同性Tレジトープである。
【0064】
少なくとも1つの非相同性Tレジトープに加えて、本発明のTCPは、少なくとも1つの“相同” Tレジトープ、すなわち配列番号1のFc-部分鎖に天然に存在するTレジトープまたはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するTレジトープ、例えば配列番号1のFc-部分に天然に存在するTレジトープ289などをさらに含んでいてもよい。
【0065】
例えば、本発明のTCPが、本発明において好ましい、フレームBまたはCに少なくとも1つの非相同性Tレジトープを含むとき、TCPは、フレームAに相同Tレジトープ、特にTレジトープ289をさらに含み得る。したがって、そのようなTCPは、少なくとも2つのTレジトープを含むか、またはフレームBおよびCの各々に非相同性Tレジトープがあるときは、少なくとも3つのTレジトープを含む。
【0066】
好ましくは、本発明のTCPは、少なくとも2つの非相同性Tレジトープを含み、より好ましくは少なくとも3つ、要すれば4つの非相同性Tレジトープを含む。要すれば、TCPは、2から4個のTレジトープを含む。
【0067】
Tレジトープの挿入
原則として、当業者は、Tレジトープ(複数可)が挿入されるべきTCP内または免疫グロブリンのFc部分鎖内の位置を適切に選択することができる。しかしながら、好ましい位置は、得られるタンパク質の三次構造または四次構造の形成に関与するTCPの部分の外側である。免疫グロブリンのFc部分の構造に匹敵する三次構造または四次構造の形成に関与するTCPの部分は、例えば、ジスルフィド結合を形成するシステインのようなアミノ酸、またはグリコシル化に関与するアミノ酸であってもよい。したがって、好ましい態様において、Tレジトープを表す配列は、三次構造を安定化する分子内ジスルフィド結合が維持されるように、および/またはグリコシル化が維持されるようにTCP中に配置される。特定の態様において、二量体化を可能にするために、ヒンジ領域またはその一部を維持することも望まれ得る。この場合、Tレジトープは、四次構造を安定化する分子間ジスルフィド結合が維持されるように、TCPに配置されるべきである。
【0068】
本発明において同定された、特に有利なフレーム、Tレジトープの挿入に適した領域は、本明細書において詳細に説明される。
【0069】
特に、IgG1などのIgGに由来するTCPについて、本発明者らは、1以上の非相同性Tレジトープが配列フレームA、BまたはC内にあるとき、例えば、TCPの発現および安定性のために有利であることを見出し、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応する。
【0070】
好ましくは、(a)配列フレームAは、配列番号1の位置170から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置275から位置306に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置214から位置249に対応する。
【0071】
要すれば、(a)配列フレームAは、配列番号1の位置173から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置277から位置304に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置217から位置248に対応する。
【0072】
各フレームは、TCPにTレジトープを挿入することを可能にし、一方、TCPの発現は依然として許容される方法で可能である。より具体的には、Fc部分鎖の三次構造は、許容できない方法で影響されることはない。例えば、有利には、CH2およびCH3ドメインを安定化する分子内ジスルフィド結合が維持される。また、所望により、二量体形成も可能である。本発明者らによるこれらのフレームの定義により、Tレジトープを挿入するための顕著に柔軟なプラットフォームがもたらされる。フレームBおよびCは、特に同定が困難であった。
【0073】
当業者は、挿入されたTレジトープの外側のTCP配列もまた、本発明の実質的な利点を根本的に損なうことなく、一定の改変を受け得ることを理解し得る。例えば、配列番号1の対立遺伝子変異体、すなわち、他のFc-部分鎖が用いられてもよい。当業者は、Fc-部分鎖の多くの変異体、例えば哺乳動物Fc-部分鎖またはヒトおよび非ヒトFc-部分鎖を認識している。ヒトの治療用途の場合、ヒトFc-部分鎖、例えばヒトIgG、IgAまたはIgM由来のFc-部分鎖が好ましく、好ましくはヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4、より好ましくはIgG1およびIgG4が好ましい。最も好ましいのは、ヒトIgG1 Fc-部分鎖である。
【0074】
本発明のTCPは、IgG以外の免疫グロブリン、例えば、IgA、IgM、IgEまたはIgDに由来し、好ましくは、そのCH2ドメインおよびCH3ドメインに由来してもよく、ここで、TCPは要すれば、さらなる定常ドメイン、特に、CH4ドメイン、および/または結合鎖などのさらなる領域を、該免疫グロブリンに通常存在すれば含んでいてもよい。このようなTCPについては、少なくとも1つの非相同性Tレジトープを挿入するための適切なフレームも、それぞれのTレジトープの配列と比較的高い配列類似性を示す、例えば少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列類似性を示すFc-部分鎖の位置で同定することができる。これは、実施例部分に記載されているような配列アライメントによって分析することができる(例えば、図4図5および図6参照)。本明細書中“類似性(similarity)”とは、配列の類似性を損なうことなく、整列させたアミノ酸が同一であるか、または類似の特性を示すことを意味し、例えば、極性アミノ酸は他の極性アミノ酸と置換されてもよく、非極性アミノ酸は他の非極性アミノ酸と置換されてもよく、塩基性アミノ酸は他の塩基性アミノ酸と置換されてもよく、酸性アミノ酸は他の酸性アミノ酸と置換されてもよい。一態様において、該類似性は配列同一性である。そのようなTCPは、一般的には、それらが由来するIgA、IgM、IgEまたはIgDの定常ドメイン(特に、CH2およびCH3ドメイン)に対して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%または少なくとも90%の全体の配列の同一性を示す。要すれば、そのようなTCPが由来するIgA、IgM、IgEまたはIgDが1以上の相同Tレジトープ(複数可)を含むとき、該相同Tレジトープは非相同性Tレジトープに対して置換されてもよい。しかしながら、好ましくは、そのようなTCPは、異なる位置に少なくとも1つの非相同性Tレジトープを含む。IgGに由来する本発明のTCPにおけるフレームA、BまたはCの位置は、他のIgに由来するTCPにおける適切なフレームを特定する際のガイダンスとして機能し得る。分子内ジスルフィド結合に重要なアミノ酸の位置は、一般的に維持される。また、Fc部分のグリコシル化は維持されていてもよいが、存在しなくてもよい。IgG以外のIgでは、受容体結合などの一部のエフェクター機能にはグリコシル化が必要ないことが示されている。特定の態様において、二量体化を可能にするために、それぞれのIgまたはその一部のヒンジ領域を維持することも望まれ得る。この場合、Tレジトープは、四次構造を安定化する分子間ジスルフィド結合も維持されるように、TCPに配置されるべきである。
【0075】
Tレジトープが挿入されたTCPは、切断、付加、欠失、挿入、逆位または置換などの、適切または有用と考えられるさらなる改変を含んでいてもよい。このような修飾は、例えば、所望により、(例えば、ヒンジ領域内のシステイン残基を介して)ジスルフィド架橋の形成を排除または促進するのに役立ち得る。他の修飾は、意図された目的に応じて所望されるように、Fc受容体への結合を改善または低減するために導入されてもよい。好ましくは、修飾は、TCPの製造(組換え発現および/または分泌など)を損なわないようにすべきである。グリコシル化、リン酸化、PEG化またはHES化などのさらなる修飾が企図される。例えば、PEG化は、TCPの半減期をさらに増加させるのに有用であり得る。当業者は、そのような修飾を導入する方法を知っている。
【0076】
しかしながら、当業者は、発現レベルに対する配列修飾のある種の負の影響を受け入れることができるが、いかなる配列修飾も、それらが許容できない様式でTCPの発現に影響を与えないように選択されるべきである。好ましくは、発現レベルは、同じ条件下で発現させたとき、配列番号54、構築物V32のポリペプチドの発現レベルの5%、10%、20%、50%、好ましくは、80%以上であるべきであり、後段の実施例に記載されている通りである。
【0077】
本発明のTCPにおいては、以下のことが好ましい:
(a)配列フレームAが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームAは、配列番号1の位置168から位置203と少なくとも85%の配列同一性を有し、
(b)配列フレームBが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームBは、配列番号1の位置272から位置307と少なくとも85%の配列同一性を有し、および
(c)配列フレームCが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームCは、配列番号1の位置212から位置249と少なくとも85%の配列同一性を有する。もちろん、非相同性Tレジトープを含まないそれらのフレームのそれぞれの位置との配列同一性も、より高くてもよく、好ましくは、少なくとも90%、要すれば少なくとも99%または100%であってもよい。
【0078】
非相同性Tレジトープが配列フレーム内に“位置する”と記載されているとき、これは、当該非相同性Tレジトープの配列全体が、例えばそれぞれの野生型配列の置換、または部分置換によって、対応する配列フレーム内に挿入されていることを意味する。好ましくは、本発明のTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープ(またはフレームA、BまたはCに存在する全ての非相同性Tレジトープ)は、該Tレジトープと同じ長さを有するか、またはTレジトープの長さに1もしくは2個のアミノ酸を加えたまたは引いた長さを有する、配列番号1のアミノ酸135から330にわたる領域内の配列に置換される。非相同性Tレジトープが該Tレジトープと同じ長さを有する配列を置換するとき、三次構造および四次構造の破壊は一般的に最小化される。当業者は、適切とみなされるように、配列フレームにさらなる配列変化を導入することを考慮してもよい。しかしながら、一般的には、配列フレームのうち非相同性Tレジトープ(複数可)によって置換されていない部分は、さらに変更される必要はない。したがって、好ましくは、配列番号1のそれぞれの位置と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する。
【0079】
あるいは、または、好ましくは、フレームA、BおよびCの1以上内に位置する非相同性Tレジトープに加えて、本発明のTCPは、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端のTレジトープも含んでいてもよい。該C末端Tレジトープは、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対して直接的C末端であるか、またはリンカー、例えば、18個未満のアミノ酸、要すれば12個未満のアミノ酸または5個未満のアミノ酸のリンカーを介して、該配列に連結されてもよい。好ましくは、3-18個のアミノ酸のリンカーが用いられる。
【0080】
該C末端の非相同性Tレジトープは、TCPのC末端に存在してもよく、要すれば3-18個のアミノ酸のリンカーを介して該配列に連結されていてもよい。あるいは、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端の非相同性Tレジトープは、TCPのC末端にはなく、この場合、好ましくは、TCPは融合タンパク質である。
【0081】
リンカーは、例えば、当技術分野で知られているようなGSリンカーであってもよい。例えば、(GGSG)(配列番号110)のようなリンカーが用いられてもよく、ここで、“n”は該配列の1以上(例えば、2、3または4個)の繰り返しを意味する。
【0082】
リンカーのさらに好ましい例としては、
リンカー1:Ala Gly Pro Gly Pro Ser Gly (配列番号107)
リンカー2:Pro Thr Gly Ser Gly (配列番号108)
リンカー3:Gly Gly Ser Thr Gly (配列番号109)
が挙げられる。
【0083】
本発明者らは、リンカー2の使用が、得られるTCP二量体の結合エネルギー、すなわちタンパク質の安定性を特に改善することを示した。
【0084】
配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に含めるための好ましいTレジトープは、Treg134、Treg088xおよびTreg088である。
【0085】
後段の実施例に示すように、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端の非相同性Tレジトープは、特に、リンカー2(配列番号108)などのリンカーと共に用いるために、Treg029Bであってもよい。
【0086】
また、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のN末端、好ましくは、タンパク質のN末端に1以上のTレジトープを付加してもよいことが企図される。
【0087】
本発明は、第1の非相同性TレジトープがフレームA、BまたはCの1つに位置し、少なくとも第2のTレジトープがフレームA、B、Cの異なるフレームに位置するか、または配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に位置し、要すれば例えば3-18個のアミノ酸のリンカーを介して該配列と連結されるTCPを提供する。
【0088】
例えば、TCPが2つの非相同性Tレジトープを含むとき、これらはフレームAおよびB、フレームAおよびC、または好ましくはフレームBおよびCに位置してもよく、その場合、フレームAが相同TレジトープTreg289(配列番号1の位置176-196)を含むことが好ましい。非相同性Tレジトープはまた、フレームAおよび配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端、またはフレームBおよび配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端、あるいはフレームCおよび配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に位置していてもよい。
【0089】
TCPが3つの非相同性Tレジトープを含むとき、これらはフレームA、BおよびC内、またはフレームA、Bおよび配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端内、またはフレームA、Cおよび配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端内、またはフレームB、Cおよび配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端内に位置していてもよい。4つの非相同性Tレジトープがあるとき、これらはフレームA、BおよびC、ならびに配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に位置していてもよい。
【0090】
特定の好ましいTレジトープの好ましい位置は、以下の表に示され、位置の番号付けは配列番号1を参照する。他のFc-部分鎖における対応する有利な位置は、当業者に知られているように配列アラインメントによって見出すことができる。
【0091】
【表1】
【0092】
好ましいTCP
本発明者らは、特定のフレームにおける特定のTレジトープのために特に有利な位置を特定した。好ましい態様において、本発明のTCPにおいて、
(a)フレームAは、位置176-196(すなわち、配列番号1のそれぞれの位置に対応する位置)に配列番号10のTレジトープ(Treg289)を、位置174-199に配列番号5のTレジトープ(Treg167)、位置180-200に配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、位置178-192に配列番号3のTレジトープ(Treg029B)、位置186-200に配列番号7のTレジトープ(Treg084)、位置179-202に配列番号8のTレジトープ(Treg134)、または位置173-190に配列番号15のTレジトープ(トリミングされたTreg088x-v1)を含み;および/または、
(b)フレームBは、位置280-300に配列番号10のTレジトープ(Treg289)、位置278-303に配列番号5のTレジトープ(Treg167)、位置278-298に配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、位置287-301に配列番号3のTレジトープ(Treg029B)、位置284-298に配列番号7のTレジトープ(Treg084)、位置277-300に配列番号8のTレジトープ(Treg134)、または位置287-304に配列番号15のTレジトープ(トリミングされたTreg088x-v1)を含み;および/または、
(c)フレームCは、位置225-245(または配列番号1のそれぞれの位置に対応する位置)に配列番号10のTレジトープ(Treg289)、位置223-248に配列番号5のTレジトープ(Treg167)、位置223-243に配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、位置223-237に配列番号3のTレジトープ(Treg029B)、位置224-238に配列番号7のTレジトープ(Treg084)、位置222から245に配列番号8のTレジトープ(Treg134)、または位置217-234に配列番号15のTレジトープ(トリミングされたTreg088x - v1)を含み;および/または、
(d)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に位置する少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号8(Treg134)、配列番号14(トリミングされたTreg088)または配列番号9(Treg088x)を有し、ここで、該Tレジトープは、GSリンカーまたは配列番号107-110の何れかリンカーなどの3-18個のアミノ酸のリンカーを介して配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有する該配列に連結されていてよい。
【0093】
特定のTレジトープの好適な組合せを有する本発明のTCPの例としては、以下のものが挙げられる:
(I)(a)フレームAに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
(b)フレームBに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
(c)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(d) 配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に、要すればGSリンカー(V32)のような3~18アミノ酸のリンカーを介して位置する、配列番号9のTレジトープ(Treg088x)、
を含むTCP(V32);
(II) (a)フレームBに位置する配列番号9のTレジトープ(Treg088x)、および
(b)フレームCに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)
を含むTCP(V20);
(III) (a)フレームBに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、および
(b)配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に、要すればGSリンカーなどの3~18アミノ酸のリンカーを介して位置する、配列番号9のTレジトープ(Treg088x)
を含むTCP(V34);
(IV) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(c)配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に、要すればGSリンカーなどの3~18アミノ酸のリンカーを介して位置する、配列番号8のTレジトープ(Treg134)
を含むTCP(V1);
(V) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームBに位置する配列番号8のTレジトープ(Treg134)、および
(c)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)
を含むTCP(V3);
(VI) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(c) 配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に、要すればGSリンカーなどの3~18アミノ酸のリンカーを介して位置する、配列番号9のTレジトープ(Treg088x)
を含むTCP(V13);
(VII) (a)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、
(b)配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に、要すればGSリンカーなどの3~18アミノ酸のリンカーを介して位置する配列番号8のTレジトープ(Treg134)
を含むTCP(V14)。
【0094】
本明細書において、本発明者らは、配列番号23から44(V1~V22)および46から58(V24~V36)のアミノ酸配列を含む特定のTCPを提供した。V32、V20、V34、V1、V3、V13およびV14は特に高い発現を示し、したがって本発明の好ましいTCPである。V32は、最も多くのTレジトープを含む構築物である。
【0095】
配列番号54のV32の代替物は、配列番号111のV32_変異体であり、これはフレームCにおいて配列番号1のアミノ酸R238の欠失を有する。
【0096】
種々のTCPフォーマット
本発明のTCPは、種々のフォーマットで使用することができる。
・単剤としてのTCP
例えば、TCPが他の薬剤または部位に連結されていない、特に、他の、例えば、治療用ポリペプチドとの融合タンパク質として発現されていない、単剤、例えば、単独の治療薬として用いることができる。本明細書中、TPCは、単量体として、または多量体として、例えば二量体として用いられ得る。
【0097】
従って、本発明は、195から350のアミノ酸を含むTCPを提供する。本発明はまた、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列から本質的になるTCPを提供し、ここで該TCPは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、ここで
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは配列同一性を決定するために考慮されず、TCPは、要すれば、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にTレジトープをさらに含み、これは例えば、3~18アミノ酸からなるリンカーで配列と連結されてもよい。該TCPは、195~350アミノ酸、好ましくは、200~330アミノ酸、例えば、205~300アミノ酸、210~251アミノ酸、または220~230アミノ酸から構成されてもよい。このフォーマットで用いられ得る好ましいTCPは、本明細書に、例えば上に記載されている。
【0098】
本明細書中、“本質的に~からなる”とは、配列番号1の位置99~330に対して少なくとも85%の配列同一性を有するさらなる配列、特に、CH2領域およびCH3領域(組込みTレジトープを有する)ならびに、要すれば、ヒンジ領域に対応する配列の存在を排除しない。TCPはまた、シグナル配列を含んでいてもよい。しかしながら、好ましくは、該TCPは、抗体のVHドメインおよび/またはCH1ドメインを含んでいない。
【0099】
特定のさらなる態様において、TCPは、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列からなるか、またはそれから本質的になり、ここで、該TCPは、要すれば、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端のTレジトープをさらに含み、これは例えば、3~18アミノ酸からなるリンカーを介して配列と結合されていてもよい。
【0100】
特定のさらなる態様において、TCPは、配列番号1のアミノ酸99~330と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチド配列からなるか、またはそれから本質的になり、ここで、該TCPは、要すれば、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端のTレジトープをさらに含み、これは、例えば、3~18アミノ酸からなるリンカーを介して該配列と結合されていてもよい。
【0101】
特定のさらなる態様において、TCPは、配列番号1のアミノ酸80~330と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチド配列からなるか、またはそれから本質的になり、ここで、該TCPは、要すれば、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端のTレジトープをさらに含み、これは、例えば、3~18アミノ酸からなるリンカーを介して該配列と結合されてもいてもよい。
【0102】
本明細書中“本質的に~からなる”とは、TCPが精製のための親和性タグのようなsらなる成分を含んでいてもよいことも意味するが、一般に本発明のTCPは、それ自体がアレルゲンのように治療的効果または生理的効果を有する融合タンパク質またはペプチドを含んでいない。
【0103】
好ましくは、本発明のTCPは、配列番号1の位置99~330に対して50%未満、より具体的には75%未満、85%未満、90%未満の配列同一性を有する100以上、好ましくは50以上、より好ましくは20以上の連続アミノ酸のアミノ酸配列またはTレジトープ配列、より具体的には本明細書に記載のTレジトープ配列を含まない。
【0104】
そのようなTCPはモノマーであってもよく、ここでTCPは一般的には二量体形成を可能にする部分を含まず、すなわち免疫グロブリンのヒンジ領域または二量体化を可能にするその部分を含まない。さらに、モノマーはまた、CH3ドメインにおいて、例えば、配列番号1においてK292R置換を導入することによって、二量体化を低減するように修飾されてもよい。
【0105】
あるいは、そのようなTCPは、多量体、例えば、二量体であってもよい。TCPは、要すれば、例えばCH3ドメインにおいて、多量体化、例えば、二量体形成を増加させるように修飾されてもよい。TCPはまた、三量体、四量体、五量体または六量体であってもよい。多量体は、後段でさらに特徴付けられる。好ましくは、単独使用形式のTCPは、多量体、特に、二量体を形成する。
【0106】
したがって、特定の態様において、本発明のTCPは、好ましくは、配列番号1の位置135-330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列の、記載された配列フレームおよび/またはC末端に位置する、1以上の非相同性Tレジトープを含むFc部分鎖のモノマー、二量体または多量体に本質的に対応し、またはそれからなり、ここでC末端Tレジトープは例えば3~18アミノ酸からなるリンカーを介して該配列と結合されていてもよい。
【0107】
・さらなる抗体ドメインを含むTCP
本発明のTCPは、Fc部分鎖およびTレジトープ配列に対応する配列とは別に、さらなるペプチドまたはポリペプチド配列を含んでいてもよい。本発明はまた、本発明のTCPを提供し、ここで、該TCPは、さらなる免疫グロブリンスーパーファミリドメインを含む。
【0108】
例えば、本発明のTCPは、少なくとも抗体のVHドメインおよびCH1ドメイン、好ましくは、抗体(一般的には、IgG)の抗原結合部分を含んでいてもよい。抗体の抗原結合部の異なる構造は当技術分野で知られており、例えば、本発明のTCPは、VHドメインおよびCH1ドメインを含み、VLおよびCLドメインを有する軽鎖と会合していてよく、ここで、VHドメインおよびCHドメインは、抗原結合部分の抗原結合部位を形成している。あるいは、抗原結合ドメインは、scFvであってもよく、ここで、好ましくは、scFvは、TCPとの融合タンパク質として発現される。
【0109】
あるいは、またはさらに、該TCPは、IgAのCH3ドメイン、および要すればIgAの結合領域をさらに含んでいてもよく、これにより、4つのTCPモノマーを含む4量体タンパク質の形成が可能となる。例えば、該TCPは、IgMのCH3およびCH4ドメインをさらに含んでいてもよく、これにより、10個のTCPモノマーを有する多量体の形成が可能となる。
【0110】
・さらなる薬剤に結合されたTCP
本発明のTCPは、1以上のさらなる薬剤に結合されていてもよい。かかる薬剤は、治療以外の機能、例えば、発現または精製を増加または促進するための機能を有していてもよい。例えば、TCPは、親和性タグ、例えば、アルブミン、アルブミン結合ドメインまたはHis-タグをさらに含んでいてもよい。また、本発明のTCPは、リンカー、例えば、GSリンカーまたは配列番号107-110の何れかのリンカーをさらに含んでいてもよい。
【0111】
本発明のTCPは、さらにまたはあるいは、治療または予防機能を有する1以上の薬剤に結合されていてもよい。
【0112】
本発明のTCPは、例えば、薬剤に共有結合的または非共有結合的に連結されていてもよく、ここで、該薬剤は、好ましくは、望ましくない免疫応答が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき薬剤である。“免疫応答の抑制”とは、本明細書中、免疫応答が低減されるか、または完全に消失することを意味する。これは、免疫応答の望ましくない効果、例えば、炎症および/または抗体の形成を回避または低減する方法で、免疫応答の性質が変更される場合も含む。さらに、免疫応答は、免疫応答の抑制によっても防止することができる。このような免疫応答の抑制および/または免疫原性寛容の誘導は、制御性T細胞の活性化に介在し得る。
【0113】
好ましくは、TCPは、目的の薬剤に共有結合している。それは、単量体、または多量体(例えば、二量体)として結合され得る。TCPは、他の薬剤との結合が特に容易である。ポリペプチドとして、TCPは、組換え技術によって他のタンパク質またはペプチドと特に容易な方法で結合され、TCP融合タンパク質をもたらし得る。したがって、本発明は、TCP、および望ましくない免疫応答を抑制し、免疫原性寛容を付与する薬剤を含むTCP融合タンパク質にも関する。
【0114】
融合タンパク質において、薬剤は、好ましくはN末端に、例えば、CH1ドメインまたは該TCPに存在しない場合にはヒンジ領域の代わりに、結合される(ここで、一般的には、二量体化が意図されるとき、ヒンジ領域は存在し、二量体化が意図されないとき、ヒンジ領域は存在しない)。融合タンパク質は、リンカー、例えば、GSリンカーまたは配列番号107-110の何れかのリンカーを介して結合されていてもよい。
【0115】
ヒンジ領域がTCPに含まれるとき、TCPは1以上のジスルフィド架橋を介して薬剤に結合されることもできる。化学的カップリング、例えば、TCP中のリジン残基へのカップリングも可能である。あるいは、TCPは、該薬剤に非共有結合していてもよく、例えば、ファンデルワールス相互作用、イオン相互作用または疎水性相互作用、極性相互作用(双極子、四極子以上)、および芳香族相互作用(四極極/四極極またはπ/π)経由で薬剤に結合されていてもよい。しかしながら、好ましくは、TCPおよび薬剤の密接な結合を維持するために、結合は生理的条件下で十分に安定である。
【0116】
TCPとペプチドまたはポリペプチドとの結合は、例えば組換え手段および方法によって、特に容易である。さらに、ペプチドおよびポリペプチドは、自己抗原または外来抗原のような多くの望ましくない免疫応答において役割を果たす。したがって、ある好ましい態様において、薬剤はペプチドまたはポリペプチドの部分である。
【0117】
“望ましくない免疫応答”とは、例えば、アレルギー、自己免疫または移植に対する免疫応答、例えば、移植片拒絶反応であってよい。望ましくない免疫応答は、主に抗体によって介在される場合もあれば、細胞傷害性T細胞のような細胞性メカニズムによって介在される場合もある。それは、例えば、TH1応答またはTH2応答であってもよい。
【0118】
薬剤は、例えば、(a)アレルゲン、(b)不耐性誘導剤(intolerance inducing agent)、(c)自己免疫応答の標的タンパク質、例えば自己抗体、(d)自己免疫応答の標的エピトープ、例えば自己抗体、または(e)治療薬であり得る。
【0119】
用語“アレルゲン”は、当業者には一般的に知られている。アレルゲンは、アレルゲンに曝露された対象において、望ましくないまたは異常に活発な免疫応答を引き起こす能力を有する非自己の物質である。より具体的には、アレルゲンは、免疫グロブリンE(IgE)応答を介してアトピー個体のI型過敏性反応を刺激することができる抗原である。
【0120】
アレルゲンの例としては、以下が挙げられる:
(a) セロリ(複数可)、トウモロコシ(複数可)、卵(一般的には白身)、豆類(例えば、豆、エンドウ、ピーナッツ、大豆)、牛乳、魚介類、ゴマ、大豆、木の実(例えば、ペカン、アーモンド)などの食物アレルゲン、
(b) 昆虫毒(例えば、ハチ毒、スズメバチ毒、蚊毒)、
(c) 植物花粉(枯草熱)、例えば、草の花粉(例えば、ライグラス、チモシーグラス)、雑草の花粉(例えば、ブタクサ、プランタゴ、イラクサ、ヨモギ、シロザ(Chenopodium album)、スイバ)、木の花粉(例えば、カバ、ハンノキ、ヘーゼル、シデ、セイヨウトチノキ(Aesculus)、柳、ポプラ、プラタナス(Platanus)、シナノキ(Tilia)、オレア、アッシュジュニパー(Ashe juniper)、シチヨウジュ(Alstonia scholaris)など);
(d) 薬物(例えば、ペニシリン、スルホンアミド、サリチル酸塩(多数の果実にも天然に存在する));
(e) 動物性食品(例えば、Fel d 1(猫アレルギー)、毛皮およびふけ、ゴキブリの鱗屑、羊毛、ダニの排泄物。
【0121】
一般的に、このようなアレルゲンの関連エピトープを含むフラグメントを用いるだけで十分であり得る。したがって、例えば、本発明は、ハチ毒のエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCP、スズメバチ毒のエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCP、蚊毒のエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCP、植物花粉のエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCPを提供する。
【0122】
免疫学的“不耐性誘導剤”とは、免疫学的不耐性反応、すなわち、免疫系が特定の物質を異物として認識する、非IgE免疫グロブリンを介した望ましくない免疫学的応答を引き起こすことができる非自己の物質である。アレルギーとは対照的に、この反応は一般的に長期間にわたって起こる。不耐性誘導剤の例としては、グルテン、サリチレート(後者はアレルギーを引き起こすこともある)などが挙げられる。例えば、アルファ-/ベータ-、ガンマ-またはオメガ-グリアジンから選択されるタンパク質またはペプチドあるいはそれらの原因となるエピトープなどのグルテンの1以上の成分が、本明細書中で考慮され得る。したがって、本発明は、アルファ-グリアジンのエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCP、および/またはベータ-グリアジンのエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCP、および/またはガンマ-グリアジンのエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と結合したTCP、および/またはオメガ-グリアジンのエピトープ、フラグメントまたは完全なペプチド/タンパク質と連結したTCP、ならびに/あるいはサリチレートと結合したTCPをも提供する。
【0123】
自己免疫応答、例えば自己抗体の“標的タンパク質”または“標的エピトープ”は、当業者には知られており、例えば、自己抗原およびその関連疾患のリストを閲覧、検索およびダウンロードできるAAgAtlasデータベースのようなデータベースから既知である。このデータベースは、http://biokb.ncpsb.org/aagatlas にて自由にアクセス可能である。融合タンパク質またはTCPと自己抗原との組合せは、リウマチ性疾患、橋本甲状腺炎、またはIgG4を介する自己免疫疾患において好適に適用され得る。例えば、標的タンパク質は、セリアック病に関して組織トランスグルタミナーゼであってもよく、I型糖尿病に関してインスリンまたはインスリン受容体または膵島細胞抗原であってもよい。他の標的タンパク質はバセドウ病に関して甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)または他のバセドウ病抗原、あるいは自己免疫甲状腺炎に関して甲状腺過酸化酵素および/またはサイログロブリンTSHRであり得る。標的エピトープは、例えば、これらの標的タンパク質の何れか由来のエピトープ、特に、処置されるべき対象によってMHC上に提示される該タンパク質由来のエピトープであってよい。
【0124】
用語“治療薬”とは、障害または疾患を予防または処置するために用いられ得る何れかの薬物、医薬品または他の薬剤を含み、ここで、該薬剤は医薬品として承認され得る。かなりの数の治療薬が、望ましくない免疫応答を誘発することができる。それらの反応は、アレルギー反応(上記)または他の望ましくない反応である。例えば、多くの治療薬は、免疫系によって異物として認識される。このため、抗薬物抗体(ADAとも呼ばれる)が形成されることがある。しばしば、これらの抗体は中和性であり、すなわち、薬剤が意図された治療標的(例えば、特定の受容体)と相互作用するのを阻害することによって、または治療薬の分解を促進することによって、薬剤の治療効果を阻害する。このことは、患者がある内因性タンパク質または因子を遺伝的に欠いているため、免疫系が当該内因性タンパク質または因子に対する耐性を獲得していない場合のある種の置換療法に関連して特に関連性がある。したがって、このような治療薬に対する免疫学的寛容を伝えること、および/または望ましくない免疫応答を抑制することが強く必要とされている。これは、特定のホルモン、サイトカイン、酵素、抗体、凝固因子、融合タンパク質またはモノクローナル抗体のような治療用タンパク質またはペプチドに関する特別な問題である。さらなる例は、一般に、望ましくない免疫応答が治療用タンパク質またはペプチドによって、例えば置き換え療法の過程で誘発されるか、または取り消される可能性のある、そのような障害である。そのような治療剤には、rhEPO、rhMGDF/TPO、グルコセレブロシダーゼ(ゴーシェ病)、α-グルコシダーゼ(ポンペ病)、α-ガラクトシダーゼA(ファブリ病)、IFN-α、IL-2、第2因子、V因子、VII因子、VIII因子、IX因子、X因子、XI因子、XIII因子が含まれる。治療薬に対する免疫応答は、望ましくない炎症、あるいは敗血症性ショックを引き起こすこともある。
【0125】
もちろん、アレルゲン、不耐性誘導剤、自己免疫応答の標的タンパク質、例えば自己抗体の標的タンパク質または治療剤の全体が、TCPに結合されていることは必要ない。TCPが投与される対象のMHCに提示されるT細胞エピトープが知られているとき、該T細胞エピトープの1以上をTCPに結合することも可能である。
【0126】
好ましくは、該アレルゲン、不耐性誘導剤、自己免疫応答の標的タンパク質もしくは標的エピトープまたは治療薬およびTCPは、融合タンパク質を形成する。
【0127】
本発明はまた、2つのTCPモノマーがヒンジ領域において1つまたは2つのジスルフィド架橋を介して互いに共有結合しているTCP二量体を含むTCP融合タンパク質に関し、ここで、該融合タンパク質は各モノマーにおいて、望ましくない免疫応答が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき薬剤を含んでいてよく、すなわち、二量体が2種のそのような薬剤を含んでいてもよい。
【0128】
特定の態様において、薬剤は、免疫グロブリンの完全な可変ドメインを含まない。さらに、特定の態様において、融合タンパク質は、全長免疫グロブリンをもたらさない。
【0129】
しかしながら、一般に、結合された薬剤は、いかなる方法においても限定されない。実際、同定されたフレームの1つの利点は、上記のフレームA、BおよびCに対応する位置で、1以上の非相同性Tレジトープをかかる抗体のFc部分に挿入することによって、ほとんどすべての抗体の免疫原性を容易に低減することができる。
【0130】
したがって、特定の態様において、TCPは、抗体またはFc融合タンパク質の一部であってもよい。好ましくは、抗体は、治療用抗体であり、Fc融合タンパク質は、治療用Fc融合タンパク質である。これは、そのような抗体の抗原性および/または中和抗薬物抗体の形成を減少させる可能性を有し得る。したがって、該抗体またはFc融合タンパク質の有効性の低下および/またはクリアランスの加速を回避することができる。例えば、治療用抗体の抗原結合領域またはFabフラグメントをTCPと融合させることができる。あるいは、上記のアプローチに従って、1以上の非相同性Tレジトープを治療用抗体のFc部分に直接、好ましくはフレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に組み込むこともできる。しかしながら、TCPを該抗体と、好ましくは重鎖のC末端に融合させてもよい。
【0131】
治療用抗体および治療用Fc融合タンパク質の好適な例は、当業者に知られている。そのような治療用抗体の例としては、アブシキシマブ、アブリルマブ(Abrilumab)、アダリムマブ、アデュカヌマブ、アファセビクマブ、アフェリモマブ、アレムツズマブ、アニフロルマブ、アンルキンズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ(Bertilimumab)、ベバシズマブ、ブレゼルマブ(Bleselumab)、ブロソズマブ、ブラジクマブ、ブレンツキシマブ、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ(Catumaxomab)、セデリズマブ(Cedelizumab)、セルトリズマブ、セツキシマブ、クラザキズマブ、クレノリキシマブ(Clenoliximab)、クロツマブ(Crotedumab)、ダクリズマブ、デノスマブ、デュピルマブ、エクリズマブ、エルデルマブ(Eldelumab)、エミシズマブ、エノキズマブ、ファシヌマブ、フェザキヌマブ、フレチクマブ、フルラヌマブ、ガビリモマブ(Gavilimomab)、ギムシルマブ(Gimsilumab)、ゴリムマブ、グゼルクマブ、イブリツモマブ、インフリキシマブ、イノリモマブ(Inolimomab)、イピリムマブ、イトリスマブ、イキセキズマブ、レブリキズマブ、レトリズマブ(Letolizumab)、ルリズマブペゴル(Lulizumab pegol)、マブリリムマブ(Mavrilimumab)、ミリキズマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、ネモリズマブ、オデュリムマブ(Odulimomab)、オファツムマブ、オレンダリズマブ(Olendalizumab)、オロキズマブ、オマリズマブ、オピシヌマブ、オテリキシズマブ、オチリマブ、オクセルマブ(Oxelumab)、オゾラリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、パスコリズマブ(Pascolizumab)、ペムブロリズマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、プラクルマブ、プリリキシマブ(Priliximab)、ラニビズマブ、リサンキズマブ、リツキシマブ、ロンタリズマブ、サリルマブ、セクキヌマブ、シファリムマブ(Sifalimumab)、シプリズマブ、シルクマブ、タリズマブ、タネズマブ、テプリズマブ、テゼペルマブ、チブリズマブ、トシリズマブ、トシツモマブ、トラロキヌマブ、トラスツズマブ、ウブリツキシマブ(Ublituximab)、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、およびザノルマブ(Zanolimumab)などが挙げられる。治療用Fc融合タンパク質の例としては、アバタセプト、アレファセプト、ベラタセプト、エタネルセプト、および第VIII因子-Fc融合タンパク質および第IX因子-Fc融合タンパク質が挙げられる。
【0132】
したがって、本発明はまた、本発明のTCPを含む人工抗体またはFc融合タンパク質に関し、好ましくは、TCPは該抗体またはFc融合タンパク質のFc部分を置換するか、または本質的に置換するものである。より具体的には、本発明はまた、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を含む人工抗体またはFc-融合タンパク質に関し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。本発明はまた、配列番号1のアミノ酸114から330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を含む人工抗体またはFc-融合タンパク質に関し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置し、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。該TCPは、上でさらに定義されるようなTCPであってもよい。本発明はまた、配列番号1のアミノ酸104~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を含む人工抗体またはFc-融合タンパク質に関し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。該TCPは、上でさらに定義されるようなTCPであってもよい。本発明はまた、配列番号1のアミノ酸1~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を含む人工抗体またはFc-融合タンパク質に関し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。該TCPは、上でさらに定義されるようなTCPであってもよい。
【0133】
好ましくは、そのような治療用抗体の必要なエフェクター機能は、保持されるべきである。例えば、グリコシル化部位が重要であるとき、該グリコシル化部位は維持されるべきであり、および/または受容体への結合が重要であるとき、それは維持されるべきである。
【0134】
・多量体
本発明はまた、少なくとも2つのTCPモノマーを含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)多量体、好ましくはTCP二量体に関し、各TCPモノマーは配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または配列番号1のアミノ酸1~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、各TCPモノマーは配列番号1とは非相同のTレジトープを少なくとも1つ含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置し、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。好ましくは、該TCPは、ヒトFc-部分鎖に由来する配列を含む。
【0135】
本発明はまた、少なくとも2つのTCPモノマーを含むTCP多量体、好ましくはTCP二量体を提供し、各TCPモノマーは、配列番号1のアミノ酸114~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または配列番号1のアミノ酸1~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、各TCPモノマーは配列番号1とは非相同のTレジトープを少なくとも1つ含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置し、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されず、例えば、上でさらに定義されるように、考慮されない。本発明はまた、少なくとも2つのTCPモノマーを含むTCP多量体、好ましくはTCP二量体を提供し、各TCPモノマーは、配列番号1のアミノ酸104~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または配列番号1のアミノ酸1~330と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、各TCPモノマーは配列番号1とは非相同のTレジトープを少なくとも1つ含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置し、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されず、例えば、上でさらに定義されるように、考慮されない。
【0136】
多量体は、単量体(モノマー)、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体であってもよく、または6個以上のTCP単量体を含んでいてもよい。好ましくは、本発明のTCP多量体は、2から10個、より好ましくは2から6個の単量体を含む。TCPの二量体または多量体を得るために、免疫グロブリンFc-部分鎖のヒンジ領域を介して形成されるジスルフィド結合を利用することができる。
【0137】
当業者は、このようなTCP多量体におけるTCPモノマーは、完全に同一である必要はないことを理解する。しかしながら、本発明のTCP多量体において、モノマーは実質的に類似の構造を有するべきである。好ましくは、多量体中の各モノマーは、多量体中に含まれる他の各モノマーに対して少なくとも60%、好ましくは65%、70%、75%、80%、85%、より好ましくは90%、95%の配列同一性を有することが望ましい。モノマーが(実質的に)同一である(例えば、95%以上のアミノ酸配列同一性を有する、より具体的には97%以上のアミノ酸配列同一性を有する)とき、それらは接頭辞“ホモ”(ホモダイマーのように)で識別され得る。多量体中の異なるモノマーが関連する差異を示すとき(例えば、TCPモノマーは少なくとも1つの異なるTレジトープを含むとき)、それらは接頭辞“ヘテロ”(ヘテロ二量体のように)で識別され得る。
【0138】
特に好ましいのは、TCP二量体である。従って、本発明はまた、本明細書に記載のTCPに関し、該TCPは、本明細書に記載の少なくとも2つのTCPモノマーを含む二量体を形成している。したがって、本発明は、2つのTCPモノマーを含むTCP二量体も提供する。例えば、該TCPモノマーは、少なくとも1つのジスルフィド架橋、好ましくは2つのジスルフィド架橋を介して共有結合をしていてもよい。好ましくは、該TCPモノマーは、それぞれ、二量体形成を可能にする免疫グロブリンまたはその一部に由来するヒンジ領域を含む。より具体的には、該TCPモノマーはそれぞれ、要すれば、配列番号1のアミノ酸位置103~113と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する、二量体形成を可能にする少なくとも一部を含み、好ましくは、配列番号1のアミノ酸位置109および112のシステイン残基が保持されている。二量体化を可能にする部分ヒンジ領域は、配列番号1のアミノ酸104~113と少なくとも85%、好ましくは100%の配列同一性を有する。
【0139】
TCPは、1以上(例えば、2つ)のジスルフィド架橋を介して二量体化した二量体(2つのTCPモノマーを含む)を形成してもよく、好ましくは、TCPは、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して二量体化した2つのTCPモノマーを含む二量体を形成する。当業者によって知られているように、免疫グロブリンのパパイン消化によって得られるFcフラグメントは、一般的には二量体である。同様に、Fc部分鎖のヒンジ領域がTCPに含まれるとき、TCPは、それぞれのヒンジ領域を介して自発的に二量体化する可能性が高い。二量体化は、さらに、非共有結合のCH3-CH3-相互作用によって支持されていてもよい。
【0140】
あるいは、該TCP多量体において、TCPモノマーは、例えば融合タンパク質として、または可撓性もしくは非可撓性リンカーを介して、互いに共有結合していてもよく、非共有結合していてもよい。二量体化はまた、例えば、ロイシンジッパーを介して行われてもよい。
【0141】
このようなTCP二量体は、一般的に、対応する単量体と比較して、安定性および半減期が改善される傾向にある。TCP二量体は、ホモ二量体であってもヘテロ二量体であってもよい。ホモダイマーは、細胞またはタンパク質を含まない発現系を用いて、信頼性の高い方法で製造することがより容易であり得る。一方、ヘテロ二量体は、より異なるTレジトープ、例えば最大8個の異なるTレジトープ(各モノマーにおいてフレームA,B,Cのそれぞれにおける1個のTレジトープ、および1個のC末端Tレジトープ)を挿入することができるという利点を有し得る。
【0142】
ヘテロ二量体を生成する技術は、当業者には一般に知られている。種々のTCPモノマーの共発現に加えて、該ヘテロ二量体の形成は、TCPの特定の修飾によって誘導され得る。そのような修飾は、例えば二重特異性抗体フォーマットの重鎖-重鎖対合から知られている、例えば、(I)免疫グロブリンFc-部分鎖のCH3ドメインに対応するTCPの領域へのシステイン対の導入によるジスルフィド結合対合、(II)種々のTCPモノマーに対して反対荷電残基による塩架橋(salt bridge)を促進する荷電残基の導入、(III)種々のTCPモノマーにおける小さいアミノ酸またはそれぞれより大きいアミノ酸の置換に基づくノブ-イン-ホール(knobs-into-holes;KiH)戦略などである。特に、KiH戦略は非常に効率的である。
【0143】
TCP六量体も形成することができる。人工の六価Fcタンパク質は、当技術分野で知られている(Rowley et al. 2018. Communications Biology 1:146)。
【0144】
本明細書に記載されるように、TCP多量体は、Tレジトープおよび配列番号1の特定の領域に対して少なくとも85%の配列同一性を有する配列以外の配列を本質的に含まないTCPタンパク質、またはそれらは他の免疫グロブリンドメイン、例えば抗体の抗原結合部分、もしくは他のポリペプチド、例えば免疫応答が調節されるべきポリペプチドをさらに含むTCPタンパク質、を含み得る。もちろん、混合型多量体を生成することも可能である。
【0145】
・単量体
しかしながら、二量体または多量体の形成が好ましくない用途もある。二量体または多量体形成を防止することは、例えば、TCP配列が、本明細書中の他の場所により詳細に概説されているように、他の薬剤と結合および/または融合されるときに望ましい場合がある。例えば、ヒンジ領域のシステイン残基は、TCPを含む融合タンパク質において融合パートナーと望ましくない相互作用をする場合がある。
【0146】
そのような場合、ヒンジ領域を介した二量体形成または他の望ましくないジスルフィド架橋を回避することが望ましい。例えば、そのような場合、TCPはヒンジ領域を含まないことが望ましい。あるいは、二量体形成に関与するシステイン残基は、当技術分野で知られているように、欠失または置換されてもよい。例えば、それぞれのシステイン残基の1以上は、セリンまたは他のアミノ酸で置換され、それによって、得られる分子の二量体形成が防止され得る。あるいは、二量体または多量体の形成は、化学反応、例えば還元およびその後のアルキル化によって、発現および精製後に排除されてもよい。例えば、ヒンジ領域のシステインに基づくジスルフィド結合は、還元反応、例えば還元型グルタチオン、2-メルカプトエチルアミン、ジチオスレイトールまたはトリス-2-カルボキシエチルホスフィン塩酸塩などの還元剤を用いて壊すことが可能である。その後、ヨードアセトアミドなどの試薬を用いてアルキル化することで、システイン間のジスルフィド結合の再結合を防ぐことができる。
【0147】
核酸、宿主細胞およびトランスジェニック動物
本発明はまた、本明細書に記載される、本発明のTCPをコードする核酸、例えば、配列番号1のアミノ酸135~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)をコードする核酸を提供し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。TCPは、ヒトFc部分鎖に由来する配列を含んでいてもよい。本発明はまた、本明細書に記載の、本発明のTCPをコードする核酸、例えば、配列番号1のアミノ酸114~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)をコードする核酸を提供し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、例えば、上記で定義されるように、配列同一性を決定するために考慮されない。本発明はまた、本明細書に記載の、本発明のTCPをコードする核酸、例えば、配列番号1のアミノ酸104~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)をコードする核酸を提供し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、例えば、上記で定義されるように、配列同一性を決定するために考慮されない。本発明はまた、本明細書に記載の、本発明のTCPをコードする核酸、例えば、配列番号1のアミノ酸1~330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)をコードする核酸を提供し、ここで、該TCPは配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、該非相同性Tレジトープは配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置しており、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、例えば、上記で定義されるように、配列同一性の決定には考慮されない。
【0148】
核酸によってコード化されるは、例えば、融合タンパク質であってもよい。好ましくは、核酸は、発現されたタンパク質の分泌を可能にし、それに応じて、精製を容易にするために、シグナルペプチドを含むTCPをコード化する。好ましい態様において、TCPをコード化する配列は、真核生物のシグナルペプチド、例えば、配列番号22に示されるようなアミノ酸配列(METDTLLLWVLLLWVPGSTG)を有するN末端のシグナルペプチドをコードする配列に機能的に連結される。
【0149】
核酸は、原核生物または真核生物の宿主細胞、好ましくは真核生物の宿主細胞における相同組換えに適したベクターであってもよい。例えば、ベクターは、CRIPR/Casに基づく組換えに適したものであってもよい。
【0150】
核酸はまた、発現ベクターであってもよい。したがって、本発明は、TCPをコード化する核酸を含む発現ベクターにも関する。より具体的には、発現ベクターは、真核生物または原核生物の宿主細胞においてTCPを発現させるのに適したものである。すなわち、該発現ベクターは、TCP融合タンパク質としてなど、本明細書中に記載される態様のいずれかにおいて、TCPをコード化する核酸を含んでいてもよいことが理解されるべきである。
【0151】
このような発現構築物を作成するのに適した発現ベクターは、当業者によく知られている。それぞれの発現系およびそれぞれの細胞に依存して、発現構築物をコドン最適化すること、および/またはそれを適切なベクターにクローン化することが好ましい場合がある。
【0152】
好ましくは、発現ベクターにおいて、核酸は、適切なプロモーターに機能的に連結される。このようなプロモーターは一般に知られている。プロモーターは、構成的であっても誘導的であってもよい。好ましくは、プロモーターは、宿主細胞、特に、真核生物宿主細胞におけるTCPの発現に介在するのに適している。また、トランスジェニック動物、例えば、ヒトにおける発現に適していてもよい。例えば、プロモーターは、組織特異的なプロモーターであってもよい。例えば、鳥類の卵での発現に適したプロモーターが選択されてもよい。また、プロモーターは、乳生産動物(milk-producing animal)、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなどにおいて、乳汁中への分泌をもたらす細胞での発現に介在することができるものであってもよい。また、プロモーターは、自己免疫応答がある抗原を発現するヒト細胞、および/または樹状細胞、マクロファージおよび/またはB細胞などの抗原提示細胞での発現に介在することができる組織特異的プロモーターであってもよい。
【0153】
本発明はまた、本発明のTCPをコード化する核酸、例えば発現ベクターを含む、真核生物または原核生物の宿主細胞を提供し、ここで宿主細胞は、好ましくは該TCPを発現することができる。
【0154】
好ましくは、該細胞は真核生物細胞である。細胞は、哺乳動物細胞であってもよい。例えば、治療用途では、生産されるTCPが、例えばグリコシル化のような翻訳後修飾の観点から、ヒトタンパク質により類似している可能性があるため、真核生物細胞、好ましくは哺乳動物細胞を用いることが有利である。好適な宿主細胞は既知である。例えば、上皮細胞、単球由来細胞、例えばマクロファージ、樹状細胞、B細胞、膵島細胞または線維芽細胞であってもよい。より具体的な例は、HEK 293、CAP-T細胞、CAP-Go、CHO(例えば、CHO DG44)、COS(例えば、COS-1またはCOS-7)、BHK-21、Jurkat、ピア(Peer)、CML T1、EL4、T2、HeLa、MDCKII、およびVeroなどである。特定の好ましい態様において、細胞は、HEK293細胞またはCAP-T細胞またはCAP Go細胞である。
【0155】
本発明はさらに、本発明の核酸を含むトランスジェニック動物、好ましくは非ヒト動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、チンパンジー(an ape)、ブタ、イヌ(a do)、ネコ、ラクダ、牛、羊、ヤギまたは鶏のような鳥類を提供する。トランスジェニック動物は、好ましくは、1以上の細胞または組織において該TCPを発現することができる。例えば、雌のトランスジェニック動物、例えば、ラクダ、ウシ、ヒツジまたはヤギは、その乳中にTCPを分泌することが可能である。トランスジェニック鳥類はまた、本発明のTCPを含む卵を産むことが可能である。したがって、このようなトランスジェニック動物は、本発明のTCPを製造するために用いられ得る。また、例えば、研究のために用いられてもよい。
【0156】
製造方法
本発明は、本発明のTCPをコード化する核酸を製造する方法を提供する。方法は、
(a)免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgG5、IgA、IgD、IgE、好ましくは、IgG1)Fc部分鎖またはその一部、例えば、wt Fc部分鎖をコード化する核酸配列を提供する工程、
(b)好ましくは工程(a)の核酸配列に、本明細書に記載の配列番号1の免疫グロブリンFc部分鎖のフレームA、BまたはCの1以上に対応する位置に1以上、例えば、2個、3個または4個の非相同性Tレジトープの核酸配列を導入する工程、
(c)工程(b)の配列を有する核酸を作成する工程
を含み得る。
【0157】
本発明はまた、TCPをコード化する核酸または該TCPを含むタンパク質をコード化する核酸を製造するための免疫グロブリンFc-部分鎖の核酸配列の使用を提供する。
【0158】
該TCPをコード化する核酸配列は、手動的にまたはコンピューターを用いて(in silicoで)設計することができ、要すれば、その後、該TCPまたはタンパク質をコード化する核酸の組換えまたは化学合成を行うことができる。適切な方法は既知であり、当業者には利用可能である。
【0159】
本発明は、本発明のTCPを製造する方法を提供する。本発明のTCPは、人工的または組換え(artificial or engineered)タンパク質であり、自然界には存在しない。TCPは、組換え技術であっても非組換え技術であっても、当業者が適切と考える何れかのタンパク質合成方法によって製造することができる。例えば、TCPは、細胞培養における発現または化学的タンパク質合成によって製造されてもよい。しかしながら、細胞系または無細胞系での組換え発現が、確立された方法であり、かつ比較的安価であることから、好ましい。組換え発現において、本発明のTCPで達成可能な良好な発現レベルは、特に利点である。
【0160】
TCPのクローニング、発現および精製のための適切な方法は、例えば、J. Sambrook and D. Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual、3。Edition、Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY (2001)のような実験室マニュアルを利用することができる。
【0161】
本発明はまた、本明細書に記載のTCPを製造する方法であって、例えば、(a)TCPをコード化する核酸を含む適切な発現ベクターを作成する工程、(b)該発現ベクターを用いて適切な宿主細胞をトランスフェクトする工程、(c)該宿主細胞を該TCPの発現を可能にする条件下で培養する工程、(d)該TCPを単離する工程を含む方法を提供する。
【0162】
特に、本発明は、
(a)TCPの発現に適した条件下で、本発明の宿主細胞を培養する工程;
(b)工程(a)で発現されたTCPを含む細胞または培地を集める工程;
(c)該TCPを単離する工程;
(d)要すれば、工程(c)のTCPを薬学的に許容される組成物中に配合する工程
を含む、TCPを製造する方法を提供する。
【0163】
さらに、要すれば、工程c)のタンパク質または工程d)の組成物は、適切な容器、例えばシリンジに充填されてもよい。
【0164】
本発明のTCPは、特に、TCPがシグナル配列なしで発現されるとき、細胞から単離され得る。また、特に、TCPが細胞外分泌のためのシグナル配列を含んで発現されるとき、培地から単離されてもよい。
【0165】
単離は、本明細書中、様々な純度への精製を意味し得る。単離は、細胞または培地から少なくとも1つの非TCP成分を除去または減少させる。例えば、TCPの純度は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、小なくとも99%、または少なくとも99.5%であってよく、ここでパーセントは、w/wに関する。
【0166】
適用可能な単離または精製の方法および工程は、当業者に知られており、適切とみなされるように適用することができる。例としては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ろ過、ナノろ過、沈殿(例えば、エタノール沈殿)、限外ろ過、および/または透析ろ過が挙げられる。必要とされる純度に応じて、一次精製、中間精製および仕上げ(polishing)など、異なる単離工程を組み合わせてもよい。さらに、精製されたTCPは、その後、例えば限外ろ過および/または透析ろ過を用いて、適切な緩衝液または医薬組成物に濃縮および製剤されてもよい。本方法はまた、特に治療用途のために、例えば放射線または滅菌濾過による滅菌を含んでいてもよい。
【0167】
例えば、TCPがプロテインAまたはプロテインGに結合するとき、親和性クロマトグラフィーはプロテインAまたはプロテインGに基づくものであってよい。
【0168】
本発明のTCPに含まれる免疫グロブリンFc部分鎖配列に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いることを含む親和性に基づく単離方法は、特に単離に有用であることが見いだされた。したがって、例えば、工程(c)は、TCPを親和性材料に吸着させることを含んでいてもよく、該親和性材料は、好ましくは、ヒトIgのFc-部分に対するポリクローナル抗体を含み、ここで、工程(c)は、要すれば、親和性クロマトグラフィーを含んでいてもよい。モノクローナル抗体は、通常、ポリクローナル抗体よりも制御性に優れている。一方、ポリクローナル抗体は、特定の配列に関係なく、種々のTCPを認識することができるという利点を有している。したがって、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかが、本発明のTCPを単離するために有用であり得る。
【0169】
あるいは、TCPが親和性タグを含むとき、該親和性に基づいて、例えば、His-タグに対する金属キレート親和性マトリックス、例えば、Ni2+親和性マトリックスを介して単離することができる。TCP上の親和性タグ、例えば、FLAGタグに対して向けられた抗体も、単離のために用いられてもよい。親和性に基づく単離は、親和性クロマトグラフィーを含み得る。親和性吸着は、カラムまたはバッチ形式で実施されてもよい。
【0170】
当業者にとって、上記のこれらすべての用途および方法について、可能なまたは好ましいTレジトープ、Fc部分鎖、配列フレーム、ならびに挿入および位置のルールを含むがこれらに限定されない、本明細書中に記載された好ましいTCPおよびその特徴が類推的に適用されることは明らかである。同様に、TCPを含む多量体および融合タンパク質を設計および製造することができる。
【0171】
TCPの使用
本発明のTCPは、
1)例えば、酵素的切断およびそれに続く、生成したTCPからのTレジトープの精製による、単離されたTレジトープの発現および製造のため、
2)例えばTCP単量体または多量体、特にTCP二量体として、独立した治療薬として使用するため、
3)免疫応答が抑制されるべきおよび/または寛容が誘導されるべき薬剤との共投与における使用のため、ここで共投与は、TCPが薬剤に連結されていない形態またはTCPが薬剤に非共有結合または共有結合している形態であり得る、例えば、TCPを含む融合タンパク質における使用のため、特にその融合タンパク質における非TCP融合パートナーに対する免疫応答の抑制および/または該融合パートナーに対する免疫寛容の誘導のためのもの、
4)インビトロの方法のため、例えば、インビトロで制御性T細胞を活性化するためのもの、または
5)研究に使用するため、
を含む複数の方法において有用である。
【0172】
第一の用途において、TCPは、Tレジトープを製造するために用いることができる。有利なことに、本発明のTCPは、Tレジトープの生産、特に組換え生産を容易にする。したがって、本発明は、1以上のTレジトープを含むか、またはそれらからなるポリペプチドまたはペプチドの製造方法であって、
a) 本発明のTCPを提供する工程、
b) TCPから1以上のTレジトープを含むペプチドまたはポリペプチドを切断する工程、
c) 要すれば、工程b)からのペプチドまたはポリペプチドを精製する工程、
を含む方法を提供する。
工程a)は、本明細書に記載の本発明のTCPを製造する工程を含んでいてもよい。工程b)は、何れかの手段または方法、例えば化学的または酵素的切断によって実施されてもよい。有利には、TCPに含まれるTレジトープ(複数可)は、Tレジトープ(複数可)を含む、またはTレジトープ(複数可)からなるポリペプチド(複数可)またはペプチド(複数可)の定められた切断を可能にする酵素的切断部位によって挟まれていてもよい。好ましくは、本明細書中の“挟まれた”とは、酵素切断部位がTレジトープに近接して位置し、より好ましくはTレジトープの最も近位端から20個未満、15個未満、または10個未満のアミノ酸残基離れたところに位置することを意味する。
【0173】
当業者には、Tレジトープのみからなるペプチドを必ずしも提供する必要はないことが理解され得る。さらなるアミノ酸を含むペプチドまたはポリペプチドを提供することは、全く十分であるか、または有利でさえある可能性がある。したがって、例えば酵素認識および/または切断部位は、例えばTレジトープ(複数可)に隣接する領域において、より柔軟に選択され、含まれ得る。さらに、ペプチドまたはポリペプチドは、例えば、さらなる有用なアミノ酸残基、例えば、本明細書中で言及されたような精製タグを含んでいてもよい。好ましくは、酵素認識および/または切断部位は、本明細書中でより詳細に記載されているように、TCPの該配列フレームA、BまたはCのうちの1つ内に位置する。好ましくは、Tレジトープに連結された何れかのタグもまた、該配列フレームA、BまたはCのうちの1つ内に位置する。
【0174】
その結果、本発明はまた、本発明により得られる1以上のTレジトープを含むか、またはそれらからなるペプチドまたはポリペプチドを提供する。
【0175】
1以上のTレジトープを含む、またはそれから構成されるペプチドまたはポリペプチドは、適切と考えられる何れかの方法によって精製することができる。適切な方法は知られており、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ろ過、ナノろ過、沈殿(例えば、エタノール沈殿)、限外ろ過、ダイアフィルトレーションを含む。Tレジトープの精製のための好適な方法は、WO 2008/094538A2にも記載されている。
【0176】
後段の実施例に示すように、本発明のTCPの発現レベルは、単一のTレジトープの発現よりもはるかに高い。したがって、TCPからTレジトープを調製する本明細書に記載のルートは、有利である。
【0177】
単独の治療薬としての医学的用途、または免疫応答が抑制されるべきおよび/または寛容が誘導されるべき薬剤との共投与での使用については、後段でさらに詳細に記載する。
【0178】
本発明のTCPはまた、インビトロで用いることができる。例えば、本発明は、免疫応答を調節するための、好ましくは、免疫応答を抑制するための、または寛容を誘導するための、例えばインビトロで、抗原提示細胞などの免疫細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージおよび/またはB細胞)および/またはT細胞を、本発明のTCP、本発明の核酸または本発明の宿主細胞と接触させることを含み、個々で、要すれば、該免疫応答は、TCPが共有結合または非共有結合で結合している薬剤に対する免疫応答、またはTCP、核酸もしくは宿主細胞が実質的に同時に混合もしくは接触している薬剤に対する免疫応答である、を含む、方法を提供する。
【0179】
例えば、本発明は、患者から単離された制御性T細胞を活性化する方法を提供する。この方法で活性化された制御性T細胞は、該患者への投与に用いるため、例えば、望ましくない免疫応答の抑制および/または免疫原性寛容の付与に用いるためであってもよい。例えば、このような制御性T細胞は、TCPに提供されるTレジトープ(複数可)および/または該TCPに連結された薬剤、例えば、望ましくない免疫応答が抑制されるべきおよび/または免疫原性寛容が付与されるべきタンパク質に含まれるエピトープを認識し得る。したがって、本発明はまた、望ましくない免疫応答を抑制し、および/または薬剤に対する免疫原性寛容を付与する方法であって、対象からT細胞を単離すること(何れかの純度まで、例えば、T細胞はまた、対象由来の樹状細胞、マクロファージおよび/またはB細胞などの抗原提示細胞を含む組成物中にあってもよい、例えば、PBMCの文脈において)、該T細胞を活性化するのに適した条件下で本発明のTCPと接触させること、要すれば、活性化された制御性T細胞を単離すること、および該T細胞、好ましくは該制御性T細胞を該対象に投与すること、を含む方法を提供する。T細胞を活性化するのに適する条件は、一般的には、抗原提示細胞、好ましくは、樹状細胞、マクロファージおよび/またはB細胞などのプロフェッショナルな抗原提示細胞が存在することを必要とする。抗原提示細胞はまた、本発明の宿主細胞であってもよい。一般的には、適当な時間、例えば12~36時間、要すれば16~24時間、共培養する。T細胞を対象に再投与する前に、T細胞の特性、例えばサイトカイン産生および/または免疫特異的マーカータンパク質(例えば、CD25、CD127、FoxP3、CD45RA、CCR7)が、例えばFACSまたはELISAを用いて分析されてもよい。好ましくは、調節性表現型、例えばCD25、CD127,FoxP3、CD45RA、CCR7および/またはIL-10を発現するT細胞が投与される。
【0180】
本発明のTCPはまた、研究、例えば動物モデルにおいて、および/または毒性試験のために、および/または細胞培養に基づく実験のための単離初代細胞の刺激のために、用いられ得る。
【0181】
組成物およびキット
本明細書に記載のように、本発明のTCPは、薬剤と共投与されてもよく、ここで、薬剤は、要すれば、望ましくない免疫応答が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき薬剤である。したがって、本発明は、単量体または多量体(例えば、二量体)であってよい本発明のTCPを含む組成物を提供し、ここで、該組成物は、薬剤をさらに含み、かつ該薬剤は、望ましくない免疫応答を抑制することおよび/または免疫原性寛容を付与することが望ましい薬剤であり得る。
【0182】
薬剤は、例えば、アレルゲン、不耐性誘導剤、自己免疫応答の標的タンパク質、特に自己抗体の標的エピトープ、またはT細胞介在自己免疫応答の標的エピトープ、または治療薬であってよい。
【0183】
本発明は、種々の共投与に適した組成物を提供する。
【0184】
最初に、本発明は、本発明のTCPを含む組成物を提供し、ここで、該TCPは薬剤に連結されていない。従って、TCPおよび薬剤は単に混合されるだけであり、互いに関連付けられることはない。例えば、組成物は、溶液であってもよく、好ましくは、均一な溶液であり得る。TCPは、多量体のTCP、例えば二量体であってもよい。あるいは、単量体の形態であってもよい。
【0185】
第二に、本発明は、本発明のTCPを含む組成物を提供し、ここで、該TCPは、薬剤に非共有結合している。このような非共有結合は、例えば、疎水性相互作用、ファン-デル-ワールス-相互作用または極性相互作用を介した、非特異的相互作用であってもよい。また、特異的相互作用であってもよく、例えば、TCPが抗体の抗原結合部分を含む抗体であるとき、該抗原結合部分は、抗原が薬剤である該抗原に特異的に結合することができる。これは、薬剤がアレルゲンまたは自己免疫応答の標的、特に自己抗体の標的であるタンパク質である場合に、特に有用であり得る。TCPは、多量体TCP、例えば、二量体であってもよい。あるいは、単量体の形態であってもよい。
【0186】
第三に、本発明は、本発明のTCPを含む組成物を提供し、ここでTCPは、例えば融合タンパク質の形態で薬剤に共有結合されている。TCPは、多量体TCP、例えば、二量体であってもよい。あるいは、単量体の形態であってもよい。
【0187】
第四の態様において、本発明の組成物は、別の活性剤、例えば、望ましくない免疫応答が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき薬剤を含んでいない。すなわち、該TCPは、多量体TCP、例えば二量体であってもよい。あるいは、単量体の形態であってもよい。
【0188】
これらの形態の何れにおいても、組成物は、後段でさらに説明するように、薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでいてもよい。
【0189】
本発明はまた、別個に、本発明のTCP、および薬剤、要すれば、望ましくない免疫応答が抑制されるべきおよび/または免疫原性寛容が付与されるべき薬剤を含むキットを提供する。該薬剤は、例えば、アレルゲン、不耐性誘導剤、自己免疫応答の標的タンパク質、特に自己抗体の標的エピトープ、または治療薬であってもよい。このようなキットは、医薬組成物を製剤するための適切な賦形剤をさらに含んでいてもよい。それは、医学的使用のための説明書を含んでいてもよい。キットはまた、TCPまたは医薬組成物および説明書を含む1以上の容器を含む外包を有していてよく、要すれば、例えば本発明のタンパク質(複数可)の再構成および/または投与のための1以上のデバイスをさらに含んでいてもよい。
【0190】
本発明のキットは、代替的にまたはさらに、例えば化学的結合を介して、TCPおよび薬剤を結合させるための手段を含んでいてもよい。そのような形態では、それはまた一般的には、TCPおよび薬剤を結合させるための説明書を含む。本発明のキットはまた、TCP、およびTCPとキットに提供されていない薬剤とを、例えば化学的結合によって連結するための手段を含み、要すれば、TCPおよび薬剤を結合させるための説明書を含んでいてもよい。適切なリンカーは、当技術分野で知られている。
【0191】
医薬組成物
本発明は、本発明のTCP、本発明の核酸、または本発明の宿主細胞(特に、ヒト細胞における発現に適した宿主細胞)を含む、医薬組成物を提供する。好ましくは、医薬組成物は、本発明のTCPを含む。
【0192】
医薬組成物は、要すれば、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。要すれば、1~10個の薬学的に許容される賦形剤、より好ましくは1~5個の薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。用語“賦形剤”はまた、担体および/または希釈剤を含む。適切な賦形剤は、当業者には一般に知られている。例としては、塩、緩衝剤、防腐剤および浸透圧活性物質が挙げられる。担体の例としては、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、様々な種類の湿潤剤、無菌溶液などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。組成物は、該組成物を等張にするために、適当な量の薬学的に許容される塩をさらに含んでいてもよい。好ましくは、許容される賦形剤、担体または安定化剤は、用いられる投与量および濃度において無毒である。これらには、クエン酸塩、リン酸塩および他の有機酸などの緩衝剤;ナトリウムおよびカリウムなどの塩形成対イオン;低分子量ポリペプチド(例えば、10個以上のアミノ酸残基);タンパク質、例えば、血清アルブミンまたはゼラチン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;ヒスチジン、グルタミン、リシン、アスパラギン、アルギニンまたはグリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの炭水化物;単糖類;二糖類;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどのその他糖類;EDTAなどのキレート剤;Tween、プルロニック系またはポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤;メチオニン、アスコルビン酸およびトコフェロールなどの抗酸化剤;および/または、防腐剤、例えば、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;ヘキサメトニウムクロライド;ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;および、m-クレゾールが挙げられる。さらに、医薬組成物は、1以上の安定化剤を含んでいてもよい。一般的な例は、アミノ酸(グリシン、グルタミン酸またはヒスチジンなど)、糖または糖アルコール(トレハロース、ソルビトール、マンニトールなど)、界面活性剤(ポリソルベートまたはポロキサマーなど)である。適切な賦形剤および製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1985, Mack Publishing Co.に、より詳細に記載されている。賦形剤および/または担体および/または希釈剤の選択は、投与経路および活性剤(複数可)の濃度、好ましくは、本発明のTCPおよび要すれば、本明細書に記載するように、共投与され得るさらなる薬剤に依存して変わり得る。医薬組成物は、適切とみなされる何れかの形態であってよく、特に、液体または凍結乾燥であってよい。医薬組成物は、例えば、錠剤、丸薬、カプセル、坐剤、懸濁液、ロゼンジ、粉末、液体、水溶液、または可溶化のための凍結乾燥組成物などに形成されてもよく、好ましくは、水溶液または凍結乾燥組成物である。
【0193】
本発明の医薬組成物は、非経腸、例えば、静脈内、皮下、経口、局所、経直腸、鼻腔内投与または何れかの他の投与経路用に製剤することができる。静脈内または皮下投与が好ましい。臨床環境では、静脈内投与が好ましい場合がある。皮下投与は、家庭でより容易に実施することができる。当業者は、症例の実態に対応して投与様式を選択することができる。好ましい投与様式はまた、例えば、TCPの皮下利用可能性に依存して変わり得る。
【0194】
例えば、特に、医薬組成物が単独の薬剤としてTCPを含むとき、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含む医薬組成物、特に静脈内または皮下免疫グロブリン製剤などの免疫グロブリン製剤に通常用いられる何れかの賦形剤、希釈剤および担体はまた、TCPを含む医薬製剤に適しているものである。例えば、医薬製剤は、1~50g/lの濃度のTCP、アミノ酸(150~500mMグリシンなど)、要すれば界面活性剤(20mMポリソルベートなど)、および緩衝液を含み、pHは4.3から6.5とすることができる。
【0195】
投与のために製剤されるTCPの投与量は、処置されるべき特定の障害および投与経路に応じて選択され得る。当業者は、適切な安全かつ有効な投与量を見出すための手段および方法を知っている。
【0196】
ガイダンスとして、投与量は、例えば、2mg/kg体重から20g/kg体重までの範囲、特に、200mg/kg体重から10g/kg体重までの範囲であってよい。
【0197】
さらなるガイダンスとして:TCPが単独治療薬として、例えば自己免疫疾患との関連で投与されるとき、投与量は、それぞれの障害の処置に用いられるポリクローナル静脈内または皮下免疫グロブリン(IVIG)の投与量に相当する範囲であり得る。TCPが、免疫応答を抑制すべき薬剤と共投与されるとき、投与量は、むしろ、該薬剤の投与量に対してモル過剰となり得る。TCPが治療薬と連結されるとき、例えば、治療タンパク質との融合タンパク質を形成するとき、投与量は、殆どが、当該治療薬に適した有効量によって決定され得る。
【0198】
処置または予防すべき障害に応じて、TCPは、単回用量または複数回投与で適用され得る。例えば、投与は、毎日、2日毎に1回、週1回、2週間毎に1回、または月1回であってもよい。投与はまた、例えば、適切なポンプを介して、連続的に行われてもよい。有利なことに、TCPは、一般的には、そのFc-部分由来の骨格配列によって、良好な血漿半減期を有する。したがって、好ましくは、TCPを週1回、2週間毎に1回、またはさらに月1回投与することで十分である。二量体などの多量体は、特に長い血漿中半減期を有し、週1回、2週間に1回、あるいは月1回の投与を可能にし得る。特定のTCPの正確な血漿中半減期は、当業者であれば、当技術分野で知られている方法、例えば、適切な薬物動態試験によって決定することができる。血漿半減期は、新生児Fc-受容体(FcRn)へのTCPの結合が保持されるか否かにも依存して変化し得る。これは、当業者によって試験され得る。同様に、血漿半減期は、当業者によって延長または短縮することができる。例えば、上記のように、血漿中半減期を延長するために、TCPをPEG化することができる。
【0199】
TCPを含む医薬組成物は、本明細書に記載の治療用途の何れにも適用可能である。
【0200】
好ましくは、医薬組成物は安定な組成物であり、すなわち、TCPは、2~8℃、より好ましくは室温(18℃~25℃)で保存したとき、少なくとも3ヶ月、より好ましくは少なくとも6ヶ月、患者への投与への適性を維持し得る。
【0201】
TCPまたは医薬組成物は、適切な容器、例えば、フラスコ、ボトル、バッグまたは注射器内に構成されてもよい。医薬として用いるとき、TCPを含む医薬組成物は、好ましくは、薬学的に許容される容器に充填される。
【0202】
本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されるすべての形態において、望ましくない免疫応答が抑制され、および/または免疫寛容が付与されるべき薬剤などのさらなる薬剤の不存在下または存在下で、本発明のTCPを含む組成物であってもよい。本発明はまた、本発明のTCPおよび望ましくない免疫応答を誘発することができる薬剤を含む複合体化された組成物を含む医薬組成物に関する。
【0203】
本発明はまた、本発明のTCP(多量体、例えば二量体、または単量体であってもよい)、および別個に、望ましくない免疫応答を抑制すべき薬剤を含む医薬キットに関する。該キットは、例えば、本明細書中に記載された投与量および投与経路の指示を伴う、該キットの医学的使用のための説明書も含んでいてもよい。
【0204】
該キットは、これらの成分の共投与に用いるためのものであってもよく、共投与は、該キットで処置される対象の同一または近傍の部位または近傍の区画への投与であってもよい。例えば、共投与は、例えば、各種静脈への両成分の静脈内投与であってもよい。好ましくは、共投与は同じ部位で行われる。
【0205】
共投与はまた、同時または実質的に同時に、例えば1日以内、好ましくは1時間以内、例えば10分以内、5分以内または1分以内に行われ得る。共投与は、有利には、キットの成分、すなわち、TCPおよび薬剤が実質的に同時にT細胞に提示されることにより、薬剤のエピトープに反応するT細胞が、TCP由来のTレジトープによって活性化された制御性T細胞の影響を受け、薬剤に対する免疫応答が抑制され、および/または薬剤に対して免疫が付与されるという効果を奏する。
【0206】
医学的適応
本発明のTCPは、医療において有用である。Tレジトープの存在により、TCPは、免疫調節および免疫抑制特性を有し、複数の方法で医学において有益に用いられ得る。
【0207】
特に、本発明は、対象における免疫応答を調節するのに用いるための本発明の医薬組成物を提供する。本発明はまた、それを必要とする対象における免疫応答を調節するための方法であって、本発明の医薬組成物を該対象に投与することを含む方法を開示している。免疫応答の調節は、免疫応答を抑制すること、または免疫寛容を誘導すること(すなわち、免疫寛容を付与すること)であり得る。
【0208】
本発明はまた、免疫応答の抑制または免疫寛容の誘導に用いるための本発明の医薬組成物を提供する。本発明はまた、それを必要とする対象において免疫応答を抑制する、または免疫寛容を誘導するための方法であって、本発明の医薬組成物を該対象に投与することを含む方法を開示する。
【0209】
本発明はまた、自己免疫関連障害、アレルギー、ウイルス感染または移植関連免疫応答もしくは障害の予防または処置、好ましくは、処置に用いるための本発明の医薬組成物を提供する。同様に、本発明はさらに、自己免疫関連障害、アレルギー、ウイルス感染または移植関連免疫応答もしくは障害の予防または処置のための医薬品の製造のための、本発明のTCPの使用に関する。本発明はまた、それを必要とする対象における自己免疫関連障害、アレルギー、ウイルス感染または移植関連免疫応答もしくは障害を予防または処置する方法であって、本発明の医薬組成物を該対象に投与することを含む方法を提供する。
【0210】
本明細書中の“処置”とは、疾患の少なくとも1つの症状が改善されることを意味し、好ましくは、1以上、最も好ましくは、疾患の全ての症状が改善されるか、または症状がそれ以上発生しなくなることを意味する。処置は、所望により、繰り返し行うことができる。“予防”とは、疾患の発生のリスクまたは発生率の低減を含む。
【0211】
本明細書で用いる用語“対象”とは、ヒトまたは非ヒト哺乳動物、好ましくはヒト対象に関する。対象は、例えば、本明細書で言及されるような疾患または障害の1以上に罹患している、患者であってもよい。非ヒト哺乳動物という用語は、特に限定されず、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ラクダ、モルモット、ブタ、ウサギ、マウスまたはラットが含まれる。治療用途の場合、TCPに用いられるFc部分鎖および/またはTレジトープは、好ましくは、処置されるべき種に由来するものである。
【0212】
“自己免疫関連障害”とは、神経性自己免疫障害、皮膚性自己免疫障害、リウマチ性障害、代謝障害、甲状腺疾患、移植関連免疫応答および障害、ならびに他の自己免疫障害を包含する。
【0213】
神経系自己免疫疾患の例は、脱髄疾患、例えば、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、多巣性運動神経障害(MMN)、ギランバレー症候群、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎、重症筋無力症、ランバート-イートン症候群、抗NMDAR脳炎、スティッフ・パーソン症候群、神経変性中枢系疾患、IgM関連多発神経炎、筋炎、自己免疫性多発筋炎、封入体筋炎、免疫性神経筋炎、慢性局所脳炎、溶連菌感染に伴う小児自己免疫性神経精神障害(PANDAS)などである。
【0214】
皮膚自己免疫疾患の例としては、水疱性皮膚疾患、例えば、天疱瘡(例えば、尋常性天疱瘡および落葉状天疱瘡)、自己免疫性皮膚筋炎、壊疽性膿皮症、中毒性表皮壊死症(TEN)、スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)、アトピー性皮膚炎、自己免疫性蕁麻疹および強膜水腫が挙げられる。
【0215】
リウマチ性疾患の例としては、リウマチ性関節炎(RA)、若年性リウマチ性関節炎、乾癬および全身性エリテマトーデス(SLE)などが挙げられる。
【0216】
代謝性自己免疫疾患としては、例えば、I型糖尿病が挙げられる。
【0217】
甲状腺疾患型の自己免疫関連疾患としては、例えば、バセドウ病および自己免疫性甲状腺炎が挙げられる。
【0218】
他の自己免疫疾患としては、例えば、川崎症候群、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群、IgA関連血管炎、結節性多発動脈炎、リブド血管症、抗リン脂質抗体症候群(APS)、新生物随伴症候群および免疫性血小板減少症(ITP)などの、一次および二次血管炎がある。さらに考えられるのは、自己免疫性血友病(自己免疫性溶血性貧血など)、自己免疫性肝炎、自己免疫性喘息および神経皮膚炎、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、および慢性疼痛などの処置または予防である。
【0219】
自己免疫障害の処置において、TCPが薬剤、一般的には標的または自己免疫応答であることが知られているタンパク質と共投与(例えば、融合タンパク質の形態などの共有結合)されると有利であり得る。しかしながら、本明細書で説明するように、それは必須ではない。
【0220】
同様に、食物不耐性のようなアレルギーまたは不耐性も、本発明のこの面にしたがって処置され得る。例えば、この態様において、TCPが、不耐性の原因となるアレルゲンまたはその一部、あるいは物質または化合物(これらが知られている場合)と共投与(例えば、融合タンパク質の形態などの共有結合)されることが有利であり得る。しかしながら、本明細書で説明するように、それは必須ではない。
【0221】
本発明の医薬組成物が標的とし得るウイルス感染症の例としては、B型肝炎感染症およびC型肝炎感染症が挙げられる。例えば、慢性B型肝炎の急性増悪は、B型肝炎コア抗原およびe抗原(HBcAg/HBeAg)に対する細胞障害性T細胞応答の増加を伴う場合があり、増悪時にはHBcAgペプチド特異的細胞障害性T細胞の増加を伴い、HBcAgに特異的な制御性T細胞は減少する。WO 2008/094538 A2も参照のこと。したがって、本発明の処置によって仲介される制御性T細胞の活性化の増加は、そのような増悪またはその症状の軽減に役立ち得ると考えられる。この態様において、TCPが、増加した応答が見られる抗原またはその部分(これらが知られている場合)と共投与される(例えば、融合タンパク質の形態などの共有結合)ことが有利であり得る。しかしながら、本明細書で説明するように、それは必須ではない。
【0222】
“移植関連免疫応答および障害”とは、例えば、移植拒絶反応、宿主対移植片病、および移植片対宿主病などである。該免疫応答の少なくとも一部に関与する標的タンパク質またはT細胞エピトープが知られているとき、該標的タンパク質またはT細胞エピトープを本発明のTCPと、例えば、融合タンパク質の形態のように共有結合した形態で共投与することが可能である。しかしながら、それは必須ではない。
【0223】
投与時に、免疫応答は、対象に存在し得るか(例えば、患者に存在する自己免疫疾患またはアレルギー疾患、または治療剤、例えば置換治療タンパク質に対する免疫応答)、または免疫応答は、対象を処置しないとき、将来起こり得る(例えば、将来投与される薬剤、例えば、置換治療タンパク質などの治療剤に反応する免疫応答)。免疫応答が向けられる薬剤が知られているとき、TCPは、免疫応答が向けられる薬剤と共投与することができる。例えば、TCPは、アレルゲン、または自己免疫応答の標的タンパク質もしくは標的エピトープ、例えば、抗体と共投与することができる。
【0224】
Tレジトープの存在により、TCPは、例えば、TCPを単独の治療剤として、特に、薬剤が別の活性剤と共投与されない場合に用いることにより、既に有益に利用することができる免疫調節および免疫抑制特性を有する。従って、本発明のタンパク質は、免疫抑制剤または免疫調節剤として用いることができる。例えば、自己免疫関連障害、アレルギー、ウイルス感染、または移植関連免疫応答もしくは障害などの本明細書に記載の障害の予防または処置に好適に適用できる。
【0225】
したがって、TCPは、本明細書で定義されるように、単独の治療薬として投与に用いるためのものであってもよい。しかしながら、用語“単独(“stand-alone)の”治療法は、TCPが特定の障害を処置するのに有用な他の薬物と共投与されることを排除するものではない。単独用途の場合、TCPまたはTCP組成物は、アレルゲンのような望ましくない免疫反応を調節すべき薬剤、例えば融合タンパク質またはペプチドなどを含んでいない。好ましくは、そのような単独の用途のために、TCPは二量体または多量体として投与される。
【0226】
好ましくは、単独の治療薬の形態の本発明のTCPは、血漿由来の静脈内免疫グロブリンG(IVIG)または皮下血漿由来の免疫グロブリンGで有利に処置されることが知られている適応症で用いるためのものである。例えば、単独治療薬としての本発明のTCP、特に、本明細書で定義する二量体化または多量体化TCPからなるまたは本質的にそれからなるタンパク質は、アレルギー、免疫血小板減少症、川崎病、ギランバレー症候群などの自己免疫疾患、I型糖尿病、肝炎、多巣性運動神経障害、スティッフ・パーソン症候群、多発性硬化症および重症筋無力症などの神経疾患、筋炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、全身性エリテマトーデス、グレーブス病、自己免疫甲状腺炎、宿主対移植片病、移植片対宿主病ならびに慢性疼痛などの処置において有利に適用できる。この態様において、処置によって調節されるべき免疫応答の標的が既知であることは必要ではない。
【0227】
あるいは、対象における免疫応答の調節、免疫応答の抑制または耐性の誘導に用いるためのTCPは、別の薬剤と共投与される。その場合、該免疫応答は、一般的には、TCPが共投与される薬剤に対する免疫応答である。本明細書に記載されるように、一態様において、薬剤およびTCPは結合されていない。あるいは、医薬組成物は、TCPと非共有結合または共有結合した薬剤に対する望ましくない免疫応答の抑制または阻害、好ましくは、TCPと共有結合した、例えば、融合タンパク質の形態での使用のためのものであってもよい。目的の薬剤に共有結合または非共有結合しているとき、TCPは、結合のない単純な共投与の場合よりも、その耐性誘導特性を付与するのにさらに適している。
【0228】
態様リスト
第1の態様(態様1)において、本発明は、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTレジトープ担持ポリペプチド(TCP)を提供し、ここで、該TCPは、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。
【0229】
第2の態様において、態様1のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330との配列同一性は、少なくとも90%である。第3の態様において、態様1のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330との配列同一性は、少なくとも95%である。第4の態様において、態様1のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330との配列同一性は、少なくとも99%である。第5の態様において、態様1のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330との配列同一性は100%である。
【0230】
第6の態様において、本発明は、態様1~5の何れかのTCPであってよく、配列番号1のアミノ酸114から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、該TCPが、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない、
TCPを提供する。
【0231】
第7の態様において、態様6のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸114から330との配列同一性は、少なくとも90%である。第8の態様において、態様6のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸114から330との配列同一性は、少なくとも95%である。第9の態様において、態様6のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸114から330との配列同一性は、少なくとも99%である。第10の態様において、態様6のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸114から330との配列同一性は100%である。
【0232】
第11の態様において、本発明は、態様1~10の何れかのTCPであってよく、配列番号1のアミノ酸104から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、該TCPが、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない、
TCPを提供する。
【0233】
第12の態様において、態様11のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸104から330との配列同一性は、少なくとも90%である。第13の態様において、態様11のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸104から330との配列同一性は、少なくとも95%である。第14の態様において、態様11のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸104から330との配列同一性は、少なくとも99%である。第15の態様において、態様11のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸104から330との配列同一性は100%である。
【0234】
第16の態様において、本発明は、態様1~15の何れかのTCPであってよく、配列番号1のアミノ酸1から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、該TCPが、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない、
TCPを提供する。
【0235】
第17の態様において、態様16のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸1から330との配列同一性は、少なくとも90%である。第18の態様において、態様16のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸1から330との配列同一性は、少なくとも95%である。第19の態様において、態様16のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸1から330との配列同一性は、少なくとも99%である。第20の態様において、態様16のTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸1から330との配列同一性は100%である。
【0236】
第21の態様において、本発明は、態様1~20の何れかのTCPであってよく、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%の配列同一性を有する少なくとも190アミノ酸の連続配列を含み、ここで、該TCPが、該Fc-部分鎖とは非相同の少なくとも2つの制御性T細胞活性化エピトープを含み、該タンパク質が要すれば抗体のVHドメインおよび/またはCH1ドメインを含んでいなくてもよい、TCPを提供する。第22の態様において、態様21に記載のTCPのTレジトープの少なくとも1つ、要すれば少なくとも2つは、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置し、ここで、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応する。
【0237】
態様21および22において、配列同一性の決定にフレームの配列が考慮されるため、例えば態様1と比較して配列同一性が低くなる。
【0238】
第23の態様において、態様1~22の何れかのTCPは、少なくとも2つの非相同性Tレジトープ、好ましくは少なくとも3つ、要すれば4つの非相同性Tレジトープを含む。第24の態様において、態様1~23の何れかのTCPは、2~4個のTレジトープを含む。
【0239】
第25の態様において、態様1~24の何れかのTCPにおいて、第1の非相同性Tレジトープは、フレームA、BまたはCのいずれか1つに位置し、ここで、少なくとも第2のTレジトープは、フレームA、B、C、または配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端の異なるフレームに位置し、要すれば3-18アミノ酸のリンカーを介して該配列と連結される。
【0240】
第26の態様において、態様1~25の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープが配列フレームAに位置する。第27の態様において、態様1~26の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープが配列フレームBに位置する。第28の態様において、態様1~27の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列フレームCに位置する。第29の態様において、態様1~28の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列フレームAおよびBに位置する。第30の態様において、態様1~29の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列フレームAおよびCのそれぞれに位置する。第31の態様において、態様1~30の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列フレームBおよびCのそれぞれに位置する。第32の態様において、態様1~31の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列フレームBまたはCのいずれかに位置する。
【0241】
第33の態様において、態様1~32の何れかに記載のTCPにおいて、
(a)配列フレームAが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームAは、配列番号1の位置168から位置203と少なくとも85%の配列同一性を有し、かつ
(b)配列フレームBが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームBは、配列番号1の位置272から位置307と少なくとも85%の配列同一性を有し、かつ
(c)配列フレームCが非相同性Tレジトープを含まないとき、該フレームCは、配列番号1の位置212から位置249と少なくとも85%の配列同一性を有する。
【0242】
第34の態様において、態様1~33のいずれかのTCPは、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に少なくとも1つの非相同性Tレジトープを含む。第35の態様では、態様34のTCPにおいて、非相同性Tレジトープは、該アミノ酸配列の直接C末端である。第36の態様において、態様34のTCPにおいて、非相同性Tレジトープは、3-18個のアミノ酸のリンカーを介して該配列に連結されている。第37の態様において、態様36のTCPにおいて、リンカーは、GSリンカーまたは配列番号107、108、109もしくは110の何れかのリンカーからなる群より選択される。第38の態様では、態様34~37のいずれかのTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端の非相同性Tレジトープは、Treg134、Treg088xおよびTreg088からなる群より選択される。第39の態様において、態様34および36-37のいずれかのTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列の非相同性TレジトープC末端はTreg029Bであり、リンカーは配列番号108である。
【0243】
第40の態様では、態様34~39の何れかのTCPにおいて、TCPのC末端に非相同性Tレジトープがあり、要すれば、3-18個のアミノ酸のリンカーを介して該配列に連結されている。あるいは、第41の態様において、態様34~39の何れかのTCPにおいて、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端非相同性Tレジトープは、TCPのC末端にはなく、好ましくは、TCPは融合タンパク質である。
【0244】
第42の態様では、上記の何れかの態様のTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、該Tレジトープと同じ長さを有する、またはTレジトープの長さに1または2アミノ酸を加えた長さを有する配列番号1のアミノ酸135から330の配列に置換しているが、好ましくは、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは該Tレジトープと同じ長さを有する配列番号1のアミノ酸135から330の配列に置換している。
【0245】
第43の態様では、上記の態様の何れかに記載のTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、以下からなる群より選択される:
配列番号10(Treg289):EEQYQSTYRVVSVLTVLHQDW、
配列番号7(Treg084):GTDFTLTISSLQPED、
配列番号2(Treg009A):GGLVQPGGSLRLSCAASGFTF、
配列番号9(Treg088x):KTLYLQMNSLRAEDTAKHYCA、
配列番号8(Treg134):LNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS、
配列番号3(Treg029B):MHWVRQAPGKGLEWV、
配列番号4(Treg088):NTLYLQMNSLRAEDTAVYYCA、
配列番号5(Treg167):PAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQ、
配列番号6(Treg289n-天然):EEQYNSTYRVVSVLTVLHQDW、
配列番号11(トリミングされたTreg009A):VQPGGSLRLSCAASG、
配列番号12(トリミングされたTreg029B-v1):WVRQAPGKGL、
配列番号13(トリミングされたTreg029B-v2):VRQAPGKGL、
配列番号14(トリミングされたTreg088):YLQMNSLRAEDTAVY、
配列番号15(トリミングされたTreg088x-v1):KTLYLQMNSLRAEDTAKH、
配列番号16(トリミングされたTreg088x-v2):YLQMNSLRAEDTAKH、
配列番号17(トリミングされたTreg167):LQSSGLYSLSSVVTVPSSSL、
配列番号18(トリミングされたTreg289n):YNSTYRVVSVLTVLH、
配列番号19(トリミングされたTreg289):YQSTYRVVSVLTVLH、
配列番号20(トリミングされたTreg084):FTLTISSLQ、and
配列番号21(トリミングされたTreg134):FYPREAKVQWKVDNALQS、
ここで、要すれば、全てのTレジトープが該群から選択される。
【0246】
第44の態様では、上記の態様の何れかに記載のTCPにおいて、Tレジトープは、配列番号10、7、2、9および8からなる群より選択される。第45の態様において、態様1~44のいずれかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープが配列番号10を有する。第46の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープが配列番号7を有する。第47の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは配列番号2を有する。第48の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは配列番号9を有する。第49の態様において、態様1~44のいずれかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは配列番号8を有する。
【0247】
第50の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号3を有する。第51の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号4を有する。第52の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号5を有する。第53の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号6を有する。第54の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号11を有する。第55の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号12を有する。第56の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号13を有する。第57の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号14を有する。第58の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは配列番号15を有する。第59の態様では、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは配列番号16を有する。第60の態様では、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは配列番号17を有する。第61の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号18を有する。第62の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号19を有する。第63の態様では、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号20を有する。第64の態様において、態様1~44の何れかのTCPにおいて、少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号21を有する。
【0248】
第65の態様では、態様1~65の何れかのTCPにおいて、1つのTCPモノマー中のすべてのTレジトープは、異なる配列を有する。第66の態様において、態様1~65の何れかのTCPにおいて、1つのTCPモノマー中の全てのTレジトープは、同じ配列を有する。
【0249】
第67の態様において、本発明は、態様1~66の何れかのTCPにおいて、配列フレームAが、配列番号1の位置170から位置203に対応し、好ましくは、配列番号1の位置173から位置203に対応する、TCPを提供する。第68の態様において、本発明は、配列フレームBが、配列番号1の位置275から位置306、好ましくは、配列番号1の位置277から位置304に対応する、態様1~67のいずれかに記載のTCPを提供する。第69の態様において、本発明は、配列フレームCが、配列番号1の位置212から位置249、好ましくは、配列番号1の位置217から位置248に対応する、態様1~68のいずれかのTCPを提供する。
【0250】
第70の態様では、態様1~69のいずれかのTCPにおいて、
(a)フレームAは、配列番号10のTレジトープ(Treg289)を位置176から位置196に(すなわち、配列番号1のそれぞれの位置に対応する位置で)、位置174から位置199に配列番号5(Treg167)、位置180から位置200に配列番号2(Treg009A)、位置178から位置192に配列番号3(Treg029B)、位置186から位置200に配列番号7(Treg084)、位置179から位置202に配列番号8(Treg134)、または位置173から位置190に配列番号15(トリミングされたTreg088x~v1)を含み;および/または
(b)フレームBは、位置280から位置300に配列番号10(Treg289)、位置278から位置303に配列番号5(Treg167)、位置278から位置298に配列番号2(Treg009A)、位置287から位置301に配列番号3(Treg029B)、位置284から位置298に配列番号7(Treg084)、位置277から位置300に配列番号8(Treg134)、または位置287から位置304に配列番号15(トリミングされたTreg088x~v1)を含み;および/または
(c)フレームCは、位置225から位置245(または、配列番号1のそれぞれの位置に対応する位置)に配列番号10(Treg289)、位置223から位置248に配列番号5(Treg167)、位置223から位置243に配列番号2(Treg009A)、位置223から位置237に配列番号3(Treg029B)、位置224から位置238に配列番号7(Treg084)、位置222から位置245に配列番号8(Treg134)、または位置217から位置234に配列番号15(トリミングされたTreg088x~v1)を含み;および/または
(d)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端に位置する少なくとも1つの非相同性Tレジトープは、配列番号8(Treg134)、配列番号14(トリミングされたTreg088)または配列番号9(Treg088x)を有し、ここで、該Tレジトープは、要すれば、GSリンカーまたは配列番号107~110の何れかのリンカーなどの3-18アミノ酸のリンカーを介して配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有する該配列に連結され得る。
【0251】
第71の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(I) (a)フレームAに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
(b)フレームBに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
(c)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(d)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にあり、要すればGSリンカーなどの3-18アミノ酸のリンカーを介して該配列に連結されている配列番号9のTレジトープ(Treg088x)であって、該TレジトープはTCPのC末端に存在してもよい
を含むTCPである。
【0252】
第72の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(II) (a)フレームBに位置する配列番号9のTレジトープ(Treg088x)、および
(b)フレームCに位置する配列番号2のTレジトープ(Treg009A)、
を含むTCPである。
【0253】
第73の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(III) (a)フレームBに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、および
(b)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すればGSリンカーなどの3-18アミノ酸のリンカーを介して該配列に連結された配列番号9のTレジトープ(Treg088x)、ここで該TレジトープはTCPのC末端に存在してもよい
を含むTCPである。
【0254】
第74の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(IV) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(c)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すればGSリンカーなどの3-18アミノ酸のリンカーを介して該配列に連結された配列番号8のTレジトープ(Treg134)であって、該TレジトープはTCPのC末端に存在してもよい
を含むTCPである。
【0255】
第75の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(V) (a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームBに位置する配列番号8のTレジトープ(Treg134)、および
(c)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)
を含むTCPである。
【0256】
第76の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(VI)(a)フレームAに位置する配列番号10のTレジトープ(Treg289)、
(b)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(c)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すればGSリンカーなどの3-18アミノ酸のリンカーを介して該配列に連結された配列番号9のTレジトープ(Treg088x)であって、該TレジトープはTCPのC末端に存在してもよい
を含むTCPである。
【0257】
第77の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、
(VII) (a)フレームCに位置する配列番号7のTレジトープ(Treg084)、および
(b)配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列のC末端にある、要すればGSリンカーなどの3-18アミノ酸のリンカーを介して該配列に連結された配列番号8によるTレジトープ(Treg134)、であって、該TレジトープはTCPのC末端に位置していてもよい
を含むTCPである。
【0258】
第78の態様において、態様1~70のいずれかのTCPは、配列番号23~44および46~58および111からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0259】
第79の態様において、本発明は、態様1~78のいずれかのTCPを提供し、ここで、TCPは、二量体形成を可能にする少なくとも部分、要すれば、免疫グロブリンの完全なヒンジ領域を含んでいてもよい。
【0260】
第80の態様において、本発明は、TCPが195~350個のアミノ酸を含む、態様1~79のいずれかのTCPを提供する。
【0261】
第81の態様において、態様80のTCPは、本質的に、配列番号1のアミノ酸135から330と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列から本質的になり、ここで、該TCPは、配列フレームA、BまたはCの少なくとも1つ内に位置する配列番号1とは非相同の少なくとも1つのTレジトープを含み、
(a) 配列フレームAは、配列番号1の位置168から位置203に対応し、
(b) 配列フレームBは、配列番号1の位置272から位置307に対応し、および
(c) 配列フレームCは、配列番号1の位置212から位置249に対応し、
ここで、配列フレームA、BおよびCは、配列同一性を決定するために考慮されない。
【0262】
第82の態様において、本発明は、該TCPが、抗体のVHドメインおよび/またはCH1ドメインを含まない、態様1~81のいずれかのTCPを提供する。
【0263】
第83の態様において、本発明は、該TCPが、さらなる免疫グロブリンスーパーファミリドメインを含み、好ましくは、TCPが、少なくとも抗体のVHドメインおよびCH1ドメイン、好ましくは、抗体の抗原結合部をさらに含む、態様1~79のいずれかのTCPを提供する。
【0264】
第84の態様において、態様1~80および81~83のいずれかのTCPは、IgAのCH3ドメインを含み、および、要すればIgAの接合領域をさらに含んでいてもよい。
【0265】
第85の態様において、態様1~80および82~83のいずれかのTCPは、IgMのCH3およびCH4ドメインをさらに含む。
【0266】
第86の態様において、態様1~85のいずれかのTCPは、アルブミンまたはアルブミン結合ドメインからなる群より選択される親和性タグをさらに含む。第87の態様において、態様1~86のいずれかのTCPは、リンカー、例えば、GSリンカーまたは配列番号107~110のいずれかのリンカーをさらに含む。第88の態様において、態様1~87のいずれかのTCPは、シグナルペプチド、例えば、配列番号22を有するシグナルペプチドをさらに含む。
【0267】
第89の態様では、態様1~88のいずれかのTCPは、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個またはそれ以上のTCPモノマーを含む多量体を形成する。第90の態様において、態様89のTCPは、態様1~88のいずれか1つの、少なくとも2つのTCPモノマーを含む二量体を形成する。第91の態様において、態様90のTCPにおいて、該TCPモノマーは、少なくとも1つのジスルフィド架橋を介して共有結合しており、要すれば、該TCPモノマーは、少なくとも部分的に免疫グロブリンヒンジ領域を介して共有結合している。第92の態様において、態様91のTCPにおいて、部分ヒンジ領域は、配列番号1のアミノ酸104から113と少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有する。第93の態様では、態様91または92のいずれかのTCPにおいて、ヒンジ領域は、配列番号1のアミノ酸99から113と少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%の配列同一性を有している。
【0268】
第94の態様において、態様89~93のいずれかのTCPは、態様80~82のいずれかのTCPモノマーからなる。
【0269】
第95の態様において、態様89~93のいずれかのTCPは、態様83~85のいずれかの少なくとも1つ、好ましくは、2つのTCPモノマーを含む。
【0270】
第96の態様において、態様1~80、82~93および95のいずれかのTCPは、薬剤に共有結合または非共有結合しており、ここで、薬剤は、好ましくは、望ましくない免疫反応が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき、薬剤である。第97の態様において、態様96のTCPにおいて、該TCPは、該薬剤と共有結合している。第98の態様において、態様96のTCPにおいて、TCPは、該薬剤に非共有結合的に連結されている。
【0271】
第99の態様では、態様96~98のいずれかのTCPにおいて、該薬剤はアレルゲンである。第100の態様では、態様96~98のいずれかのTCPにおいて、該薬剤は、不耐性誘導剤である。第101の態様において、態様96~98のいずれかのTCPにおいて、該薬剤は、自己免疫反応の標的タンパク質、例えば、自己抗体の標的タンパク質である。第102の態様において、態様96~99のいずれかのTCPにおいて、該薬剤は、自己免疫反応の標的エピトープ、例えば、自己抗体の標的エピトープである。また、自己免疫応答の標的エピトープであるT細胞エピトープであってもよい。第103の態様において、第96~99のいずれかのTCPにおいて、該薬剤は、治療用薬剤である。第104の態様において、態様96~103のいずれかのTCPにおいて、該TCPおよび該薬剤は、融合タンパク質を形成する。
【0272】
第105の態様において、本発明は、態様1~104のいずれか1つのTCPをコード化する核酸を提供する。第106の態様において、態様105の核酸は、原核生物または真核生物宿主細胞においてTCPを発現させるのに適した発現ベクターおよび/または原核生物または真核生物宿主細胞における相同組換え用ベクターであり、宿主細胞は、好ましくは真核生物宿主細胞である。
【0273】
第107の態様において、本発明は、TCPをコード化する核酸、好ましくは態様105~106のいずれかの核酸を製造する方法であって、
(a)免疫グロブリンFc部分鎖をコードする核酸配列を提供する工程、
(b)本明細書で定義される配列番号1による免疫グロブリンFc部分鎖のフレームA、BまたはCの1以上に対応する位置で、工程(a)の核酸配列に1以上の非相同性Tレジトープの核酸配列を導入する工程、
(c)工程(b)の配列を有する核酸を生成する工程
を含む、方法を提供する。
【0274】
第108の態様において、本発明は、態様105~106のいずれかの核酸を含む、真核生物または原核生物、好ましくは、真核生物宿主細胞を提供し、ここで、要すれば、宿主細胞はTCPを発現するのに適したものである。
【0275】
第109の態様において、本発明は、
(a)TCPの発現に適した条件下で、態様108の宿主細胞を培養する工程;
(b)工程(a)で発現されたTCPを含む細胞または培地を収集する工程;
(c)該TCPを単離する工程;
(d)要すれば、工程(c)のTCPを薬学的に許容される組成物中に製剤する工程
を含む、TCPを製造する方法を提供する。
【0276】
第110の態様において、態様109の方法において、工程(c)は、TCPを親和性材料に吸着させることを含み、ここで、該親和性材料は、好ましくはヒトIgのFc-部分に対するポリクローナル抗体を含み、工程(c)は、要すれば、親和性クロマトグラフィーを含む。
【0277】
第111の態様において、本発明は、態様105~106のいずれか1つの核酸を含むトランスジェニック動物、好ましくは非ヒト動物、例えばマウスを提供する。
【0278】
第112の態様において、本発明は、態様1~104のいずれか、好ましくは、態様80~82または94のTCPを含む組成物を提供し、ここで、該組成物は、薬剤をさらに含み、ここで、該薬剤は、要すれば、望ましくない免疫反応が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき、薬剤である。第113の態様において、態様112の組成物において、該薬剤はアレルゲンである。第114の態様において、態様112の組成物において、該薬剤は不耐性誘導剤である。第115の態様において、態様112の組成物において、該薬剤は自己免疫反応の標的タンパク質、例えば自己抗体の標的タンパク質である。第116の態様において、態様112の組成物において、該薬剤は自己免疫応答の標的エピトープ、例えば自己抗体の標的エピトープである。また、T細胞ベースの自己免疫応答の標的エピトープであってもよい。第117の態様において、態様112の組成物において、該薬剤は治療薬である。
【0279】
第118の態様において、本発明は、態様1~104のいずれかのTCP、好ましくは、態様80~82または94のTCP、および薬剤、要すれば望ましくない免疫反応が抑制されるべき、および/または免疫原性寛容が付与されるべき薬剤を、別個に含むキットを提供する。第119の態様において、態様118のキットにおいて、該薬剤はアレルゲンである。第120の態様において、態様118のキットにおいて、該薬剤は不耐性誘導剤である。第121の態様において、態様118のキットにおいて、該薬剤は、自己免疫反応の標的タンパク質、例えば自己抗体の標的タンパク質である。第122の態様において、態様118のキットにおいて、該薬剤は、自己免疫反応の標的エピトープ、例えば自己抗体の標的エピトープである。また、自己免疫応答の標的エピトープであるT細胞エピトープであってもよい。第123の態様において、態様118のキットにおいて、該薬剤は治療薬である。
【0280】
第124の態様において、本発明は、態様1~104のいずれかのTCP、態様105~106のいずれかの核酸、または態様108の宿主細胞、および要すれば、薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい、医薬組成物を提供する。好ましくは、該医薬組成物はTCPを含む。
【0281】
第125の態様において、態様124の医薬組成物は、態様112~117のいずれかの組成物を含むか、または態様118~123のいずれかのキットである。
【0282】
第126の態様において、本発明は、対象における免疫応答を調節する際に用いるための、態様124~125のいずれかの医薬組成物を提供する。第127の態様において、態様126の使用のための医薬組成物は、免疫応答を抑制するため、または免疫寛容を誘導するためであり、要すれば、該免疫応答は、例えば共有結合形態で、TCPが共投与されている薬剤に対する免疫応答である。第128の態様において、態様126または127のいずれかの使用のための医薬組成物は、別の薬剤に対する望ましくない免疫応答の抑制または阻害における使用のためのものであり、TCPは、該薬剤と共投与される。第129の態様において、態様126の使用のための医薬組成物は、TCPに共有結合された薬剤に対する望ましくない免疫応答の抑制または阻害における使用のためのものである。
【0283】
第130の態様において、本発明は、自己免疫関連障害、アレルギー、ウイルス感染、または移植関連免疫反応もしくは障害の予防または処置における使用のための、好ましくは、自己免疫障害の処置における使用のための、態様124~129のいずれかの医薬組成物を提供する。第131の態様において、態様130の医薬組成物は、自己免疫関連障害の予防に用いるためのものである。第132の態様において、態様130の医薬組成物は、自己免疫関連障害の処置に用いるためのものである。第133の態様において、態様130の医薬組成物は、アレルギーの予防に用いるためのものである。第134の態様において、態様130の医薬組成物は、アレルギーの治療に用いるためのものである。第135の態様において、態様130の医薬組成物は、ウイルス感染症の処置に用いるためのものである。第136の態様において、態様130の医薬組成物は、移植関連免疫反応または障害の予防に用いるためのものである。第137の態様において、態様130の医薬組成物は、移植関連免疫反応または障害の処置に用いるためのものである。第138の態様において、本発明は、治療用タンパク質に対する自己免疫反応の予防に使用するための、態様124~129のいずれかの医薬組成物を提供する。
【0284】
第139の態様において、本発明は、免疫応答を調節するための、好ましくは、免疫応答を抑制するための、または免疫寛容を誘導するための、例えば、インビトロでの、免疫細胞を態様1~104のいずれかのTCP、態様105~106のいずれかの核酸、または宿主細胞もしくは態様108に接触させることを含み、ここで、要すれば、該免疫応答はTCPが共有結合または非共有結合で結合した薬剤に対する免疫応答である、方法を提供する。
【0285】
第140の態様において、態様1~139のいずれかの非相同性Tレジトープは、配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列において同じ位置に同一に発生せず、例えば、配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有する天然アミノ酸配列において同じ位置に同一に発生することはない。
【図面の簡単な説明】
【0286】
図1】Kuby, Immunology, Seventh Edition, W. H. Freeman & Co., New York, 2013によるIgドメイン構造であり、Tレジトープ配列の起源(origin)を示す図である。
図2】ヒトIgG重鎖の定常部分(P01857;配列番号1)および担体分子配列として配列番号1の位置104から位置330の好ましいFc部分サブ配列(配列番号60)の配列構造である。多重配列アライメントによって同定されたTレジトープ置換フレームを強調表示している。
図3】分子内ジスルフィド結合、ドメイン境界および局所残基番号を有する置換フレームを有する、Fc-部分サブ配列(配列番号60)を示す。
図4】Tレジトープ配列Treg289、Treg167、Treg009A、Treg029B、Treg084およびTreg134(配列番号10、5、2、3、7および8)と完全担体分子配列(P01857、配列番号1の位置150から220が示される、配列番号104)とのClustalXアライメントの一部分したものである。P01857、位置104から330に対するトリミングされたTreg088x-v1のさらなるアライメントを行い、追加した。完全な担体分子配列との全体的なアラインメントは、30残基のフレームAを規定する。
図5】Tレジトープ配列Treg289、Treg167、Treg009A、Treg029B、Treg084およびTreg134(配列番号10、5、2、3、7および8)と部分担体分子配列(P01857、配列番号1の位置241-310が示されている、配列番号105)とのClustalXアラインメントの一部分を示したものである。さらに、P01857に対するトリミングされたTreg088x-v1(配列番号15)のアラインメントを行い、追加した。この部分的な担体分子配列との全体的なアラインメントは、28残基のフレームBを規定する。
図6】Tレジトープ配列Treg289、Treg167、Treg009A、Treg029B、Treg084およびTreg134(配列番号10、5、2、3、7および8)と部分担体分子配列(P01857、配列番号1の位置205~250が示され、配列番号106)とのClustalXアラインメントの一部分を示したものである。なお、近傍のシステインはアライメント対象に含めていない。さらに、P01857に対するトリミングされたTreg088x-v1(配列番号15)のアラインメントを行い、追加した。この部分的な担体分子配列との全体的なアラインメントは、32残基のフレームCを規定する。
図7】フレームA(左バー、黒)、フレームB(中バー、グレー)、またはフレームC(右バー、淡色)への一置換Fcホモ二量体の予測される結合エネルギー。分子間ジスルフィド結合による共有結合の寄与は無視した。
図8】三重置換Fcホモ二量体の予測結合エネルギー。1:tgp0084fa、tgp0167fb、tgp009Afc;2:tgp0134fa、tgp029Bfb、tgp0167fc;3:tgp029Bfa、tgp0289fb、tgp0134fc;4:tgp0167fa、tgp009Afb、tgp0084fc;5:tgp0289fa、tgp0134fb、tgp0084fc;6:tgp0084fa、tgp0167fb、tgp009Afc;7:P01857 位置104-330、非置換担体(tgp:Tレジトープ, fa:フレームA, fb:フレームB, fc:フレームC。分子間ジスルフィド結合による共有結合の寄与は無視した。単一のTレジトープは、tgp0084などと記載する。
図9】選択したヘテロダイマーの結合エネルギー。1:P01857#104-330(グリコシル化)、非置換担体2:tgp0289fa-tgp0134fb-tgp0084fcを含むP01857#104-330およびtgp029B-tgp0289fb-tgp0134fcを含むP01857#104-3303:tgp0289fa-tgp0134fb-tgp0084fcを含むP01857#104-330およびtgp009Afa-tgp029Bfb-tgp0167fcを含むP01857#104-3304:tgp0084fa-tgp0134fb-tgp029Bfcを含むP01857#104-330およびtgp0167fa-tgp0289fb-tgp009Afcを含むP01857#104-3305:tgp0289fa-tgp0134fb-tgp0084fcを含むP01857#104-330およびtgp029Bfa-tgp0167fb-tgp009Afcを含むP01857#104-3306:tgp029Bfa-tgp0289fb-tgp0134fcを含むP01857#104-330およびtgp0289fa-tgp0134fb-tgp0084fcを含むP01857#104-3307:tgp0134fa-tgp0289fb-tgp0084fcを含むP01857#104-330およびtgp0167fa-tgp009Afb-tgp029Bfcを含むP01857#104-3308:tgp009Afa-tgp0084fb-tgp0289fcを含むP01857#104-330およびtgp0134fa-tgp029Bfb-tgp0167fcを含むP01857#104-3309:tgp0134fa-tgp0167fb-tgp009Afcを含むP01857#104-330およびtgp029Bfa-tgp0084fb-tgp0289fcを含むP01857#104-33010:tgp029Bfa-tgp009Afb-tgp0167fcを含むP01857#104-330およびtgp0084fa-tgp0134fb-tgp0289fcを含むP01857#104-33011:tgp0084fa-tgp0167fb-tgp0134fcを含むP01857#104-330およびtgp009Afa-tgp029Bfb-tgp0289fcを含むP01857#104-330。
図10】本発明のタンパク質であるTレジトープ担持ポリペプチド分子としてのFc二量体。ヘテロ二量体複合体[E(A:B)](下のグラフ)および単量体[E(A)、E(B)](上のグラフ)の全エネルギーと結合エネルギーとの相関を示す。
図11】構築物V32および3つの直接的Tレジトープ(Dir-Treg)の発現解析を示す。構築物V32またはDir-Treg-01-FLAGもしくはDir-Treg-02-FLAGもしくはDir-Treg-03-FLAG(配列番号101~103)のいずれかの配列情報を有するプラスミドDNA(一方、各Dir-TregはC末端にFLAG-タグが続く3つの連続的にクローニングしたTレジトープ配列を記載する)は、同一条件下でCAP-T細胞に核感染させて、4日間タンパク質発現を行った。細胞上清を遠心分離により集めた。構築物V32を1:10に希釈し、Dir-Treg-0x-FLAG上清を1:2に希釈し、サンプルをSDS-PAGEゲル上に添加した。カルボキシ末端FLAG-BAP融合タンパク質(Sigma-Aldrich、P7457-.1MG)を、対照として連続希釈に用いた。サイズ識別には、Precision Plus Protein All Blue Standard (Bio-Rad, 161-0373)を用いた。その後、SDS-PAGE実行後、ゲルからタンパク質をPVDF膜にブロットし、抗FLAG抗体および抗Fc抗体を用いて蛍光検出を行った。構築物V32の発現は、Dir-Treg-0x-FLAG変異体と比較して、顕著に高いタンパク質量となった。
図12】FcTregV1、V3、V13、V14、V20、V23、V32およびV34と対応する非修飾Fc-部分(配列番号60)のウェスタンブロット分析を示す。CAP-T細胞を、それぞれの構築物をコード化するプラスミドを用いて一過性にトランスフェクトし、4日間の細胞培養上清を添加し、還元SDS-PAGEによって分離した。ウェスタンブロット解析は、AffiniPure マウス抗ヒトIgG、Fcγフラグメント特異的一次抗体およびIRDye 800CW ラクダ抗マウス二次抗体を用いて行った。すべてのTレジトープを担持するポリペプチドは、よく発現し、分泌されている。Precision Plus Protein All Blue Prestained Protein Standardsを適用して得られたタンパク質のサイズが表示される。
【発明を実施するための形態】
【0287】
配列リスト
配列番号1: ヒト野生型IgG定常領域
配列番号2: Treg009A
配列番号3: Treg029B
配列番号4: Treg088
配列番号5: Treg167
配列番号6: Treg289n-天然
配列番号7: Treg084
配列番号8: Treg134
配列番号9: Treg088x
配列番号10: Treg289
配列番号11: トリミングされたTreg009A
配列番号12: トリミングされたTreg029B-v1
配列番号13: トリミングされたTreg029B-v2
配列番号14: トリミングされたTreg088
配列番号15: トリミングされたTreg088x-v1
配列番号16: トリミングされたTreg088x-v2
配列番号17: トリミングされたTreg167
配列番号18: トリミングされたTreg289n
配列番号19: トリミングされたTreg289
配列番号20: トリミングされたTreg084
配列番号21: トリミングされたTreg134
配列番号22: シグナルペプチド
配列番号23-44および46-58: FcTregV1-V22およびV24-V36
配列番号59: na コード化シグナルペプチド
配列番号60: Fc-部分サブ配列
配列番号61-96: na コード化FcTregV1-V22およびV24-V36
配列番号97: Dir-Treg01-FLAG
配列番号98: Dir-Treg02-FLAG
配列番号99: Dir-Treg03-FLAG
配列番号100: FLAG配列
配列番号101: Dir-Treg01-FLAG DNA
配列番号102: Dir-Treg02-FLAG DNA
配列番号103: Dir-Treg03-FLAG DNA
配列番号104: 図4に示す配列番号1の部分配列
配列番号105: 図5に示す配列番号1の部分配列
配列番号106: 図6に示す配列番号1の部分配列
配列番号107: リンカー1
配列番号108: リンカー2
配列番号109: リンカー3
配列番号110: GSリンカーの配列または部分配列
配列番号111: FcTregV32_変異体
【実施例
【0288】
実施例
分子モデリング研究によるTレジトープ用担体プラットフォームの検討
Tレジトープは、もともとヒトおよび霊長動物のG型免疫グロブリン(IgG)の定常領域に存在するペプチドであり、制御性T細胞を活性化させることができるものである。しかしながら、これらのペプチドの組換え生産は非常に困難である。その天然起源に従って、ヒトIgGのFc部分が、一連の異なるTレジトープ(配列番号2、3、5、6、7、8)用のクローニングフレームワーク候補として選択された。これらの配列は、図1に示すように、もともと免疫グロブリンの異なるドメインに由来するものであった。本試験の目的は、Tレジトープのクローニングおよび発現に適した配列フレームを同定することであった。本試験で用いた正確な基本配列は、UNIPROT配列P01857(配列番号1)、位置104から330(図2)であり、これはヒンジ領域の一部から開始して、ヒトIgG1の重鎖の定常領域のCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。配列の詳細は図3に示す。
【0289】
担体分子の配列内の置換候補フレームは、CLUSTALXによる多重配列アライメントで同定した。Tレジトープのエピトープ特性を維持するために、Tレジトープ配列にギャップのないアライメントを作成した。これは、可能な限り高いギャップペナルティ値(=100)を用いることで達成された。図4、5および6に、Tレジトープ配列と担体分子配列とのアラインメントを示す。完全な担体分子配列に対して、フレームA(図4)のアラインメントが得られる。分子内のジスルフィド結合を乱さないようにするため、全配列をシステイン残基を含まないセクションに分割した。これらのセクションは、さらにTレジトープとアライメントされた。その結果、図5(フレームB)および図6(フレームC)に示すアラインメントが得られた。これらの他の2つのセクションの相同性は、全配列よりもかなり低いことが特記される。
【0290】
その生物学的に活性な形態では、Fc部分はCH2ドメインおよびCH3ドメインを含むホモダイマーであり、ヒンジ領域で分子間ジスルフィド結合により共有結合している(図1)。YASARAソフトウェアスイートを用いたホモロジーモデリングと呼ばれるコンピューター手法により、類似配列との相同性に基づいたモデルが構築された。その結果、エネルギー的に最も好ましい構造がモデル構造として選択された。ソフトウェアが予測した収束性の悪さおよび二量体を形成しないことは、現実の折りたたみ問題の指標とされ、不安定性の予測として解釈された。計算された構造モデルに基づいて、フレームAは完全にドメインCH2に属し、フレームBはドメインCH3のほぼ中央にあることを示された。フレームCはドメインCH2と重複し、CH2とCH3の間のドメイン境界を含む。その結果、フレームAはTレジトープ置換の重要性が最も低く、フレームBおよびCはモノマーの構造、二量体の構造、二量体の結合エネルギーにより顕著な影響を及ぼし得る。
【0291】
置換フレームの折り畳み(fold)は常にβ鎖およびループまたは短いヘリックスのどちらか一方または両方の末端を含むと予測された。いずれの場合も、β鎖は同じドメイン内の他の鎖と対になっており、担体の他の二次構造要素との密接な結合が強調された。しかしながら、どのフレームも他のFc分子鎖との分子間相互作用には直接関与していない。正しく折りたたまれた担体は、既存の担体構造と同程度の結合エネルギーを示すはずである(P01857)。ヒンジ領域での分子間ジスルフィド結合の形成は、安定な二量体構造が形成されたときにのみ期待できる。この二量体形成には、CH3ドメイン間の相互作用が優先的に寄与していることが示されている。したがって、モデルのCH3-CH3相互作用エネルギーは、予測された構造の最初の検証のための有用な基準である。アニーリングおよび最小化の予測には、水分子を用いなかった。その代わりに、結晶構造を可能な限り再現するようにパラメトリック化された特殊な力場であるYASARA NOVA力場が、二量体エネルギー評価において計算量および精度で妥当な妥協点となることが判明した。
【0292】
実際、Fc-部分の変異体(約7500原子)の場合、ホモロジーモデリングプロセスに続く36サイクルのシミュレーションアニーリングおよび最急降下法による最小化が、構造、全エネルギー、モノマーエネルギーおよび結合エネルギーの収束に有用であることが見いだされた。しかしながら、古典的な力場に基づくモデルはその精度に限界があり、類似した構造の比較およびそこから傾向を定性的に推測するためにのみ解釈されるべきものである。結果の信頼性を高めるために、信頼できる実験データを参照した。
【0293】
以下の構造変異体を分析した:
a) 1つのTレジトープを備えるFcホモ二量体(各フレームのFc分子につき1つのTレジトープ)
b) 3つのTレジトープを備えるFcホモ二量体(Fc分子あたり3つのTレジトープ、各フレームで1つのTレジトープ)
c) 6つのTレジトープを備えるFcヘテロ二量体(Fc分子あたり3つのTレジトープ、各フレームに1つのTレジトープ、各Fcモノマーに異なるTレジトープ)
d) TレジトープのC末端への付着
e) a)、b)およびd)の組合せ。
【0294】
図7は、TCPの二量体結合エネルギーである(ケースaの場合)。これらの結果および他のすべての結果は、ヒンジ領域の2つのジスルフィド結合からの共有結合の寄与を無視していることに注意する必要がある。これらの寄与は、すべてのTレジトープ挿入変異体で同一であると仮定している。予想されるように、基本配列をTレジトープで置換すると、結合エネルギーが減少する。修飾された、あるいは欠失したグリコシル化がこの差に大きく寄与していると考えられる。注目すべきは、モデル化されたどの変異体もオリジナルのFcフラグメントと同じグリコシル化パターンを有していないことである。担体モデル構造は、その主要なテンプレートであるPDB結晶構造3SGKのグリコシル化パターンを有する。この構造は、配列番号60のAsn77でグリコシル化されている(図3参照)。これは、配列番号1のAsn180の位置である(図4参照)。このことは、tgp084、tgp0134およびtgp088xでグリコシル化がせいぜい期待される程度であり、これらもまさにこの位置にAsnを有していることが明らかである。フレームAに他のすべてのTレジトープを挿入すると、このグリコシル化部位は失われる。このデータから、グリコシル化が二量体結合エネルギーにどの程度影響するかは明らかではない。一方、N180Qの置換によってのみ元のFc配列と異なるtgp0289(図4参照)は、Fc二量体に最も近いが、135 kJ/molの結合エネルギーの差は驚くべきものである。これは主に、二面体(dihedral)および静電エネルギーの違いに由来する。特に静電エネルギーの差は溶媒和現象へのヒントであり、用いた力ファイルでは明示的に考慮されていない。そのため、結合エネルギーの差は、力場によって過大評価されている可能性がある。この図は、二量体の結合エネルギーに直接影響するフレームBの重要な役割を確認するものである。Tgp009AはフレームAに有利に導入されるはずである。
【0295】
図8はケースb)の結果であり、三重に置換されたFc-部分変異体をホモ二量体とした場合の結果である。まず、図7のデータと比較すると、Tレジトープの3つの置換による結合エネルギーに一定の相乗効果がある。エラーバーは、最適化過程での結合エネルギーの標準偏差(揺らぎ)を示す。
【0296】
図9にケースc)の置換の例を示す。これらはもはやホモ二量体ではなくヘテロ二量体であり、本質的な対称性を有していない。変異体2を除いて、すべてのヘテロ二量体変異体は、非置換Fc二量体よりも著しく安定性が低い。しかし、図8のホモ二量体と比較して、図9では、変異体11のみがそれらのホモ二量体よりも有意に安定性が低いことが示されている。原理的には、6つの異なるTレジトープを含むヘテロ二量体を実験的に生成することができる。また、変異体7、8および9は、少なくとも1つのグリコシル化モノマーを有し得る。
【0297】
図10は、ヘテロ二量体のエネルギー状況の概要を示す。大部分の変異体は、-250 kJ/molおよび-320 kJ/mol間の結合エネルギーを示し、全複合体エネルギーは-8740 kJ/molおよび-11000 kJ/molの間である。この表現における例外は、図9で定義されるように、非常に弱い結合エネルギーを有する変異体11(-154 kJ/mol結合エネルギー;-8214 kJ/mol総複合エネルギー)、非常に安定な変異体2(-424 kJ/mol結合エネルギー;-11481 kJ/mol総複合エネルギー)および非置換担体変異体1(-515 kJ/mol結合エネルギー;-10123kJ/mol総複合エネルギー)である。変異体2は、Tレジトープによる安定性の問題が偶然にキャンセルされたという点でユニークであると思われる。全エネルギーおよび結合エネルギー間に弱い相関が見られるのは、一貫性を示すものである。さらに、原子数(7200-7600個)に大きな違いがないため、エネルギーの垂直方向の広がりから、力場の精度およびエントロピーの寄与の両方の大きさの順序がわかる。
【0298】
Fc部分のC末端へのTレジトープの直接結合の予備的分析では、それぞれの二量体が不安定化することが明らかになった(データは示さず)。その理由は、C末端アルギニンのカルボキシ基が表面からアクセスできず、二量体構造の内部に隠されていることに関係し得る。C末端の位置が変わるような修飾は、CH3ドメインの変形につながり、二量体結合エネルギーを低下させる可能性がある。3つのリンカーバージョン(配列番号107-109)が、フレームB置換のない3つの異なるTレジトープ構築物と共に分析された。リンカーの1つであるリンカー3(配列番号109)はまた、正常なC末端リシン残基を欠く切断型Fc分子と共に用いられている。リンカー2(PTGSG;配列番号108)が結合エネルギーの改善を与えることが明らかとなり、これはC末端付着としてtgp029B(例えば、変異体3;担体配列にtgp009Afa(フレームaのTreg009A)、fbなし(フレームB中のTレジトープなし)、tgp0084fc(フレームC中のTreg084、およびtgp029B(Treg029B)C末端付着- ホモ二量体)で、tgp0289(変異体1;担体配列にtgp009Afa、fbなし、tgp0084fc、およびtgp0289 C末端付着-ホモ二量体)より顕著である。
【0299】
種々のTCPの発現
TCP(本明細書中、FcTregとも称する)用の36種の異なる発現構築物である、構築物FcTregV1~FcTregV22、FcTregV24~FcTregV36を調製した。FcTregV23も調製した(配列番号45)。それぞれのTCP変異体のアミノ酸配列(配列番号23~44および46~58)および核酸配列(配列番号61~82および84~96)は、本明細書の配列表に記載されている。全ての構築物の分泌のために、Fcシグナルペプチド、例えば、Fc-シグナル_AA(配列番号22):METDTLLLWVLLLWVPGSTGを用いた。
【0300】
このシグナル配列は、Fc-シグナル_DNA(配列番号59)によりコードされた:ATGGAAACCGACACACTGCTGCTGTGGGTGCTGCTTTTGTGGGTGCCAGGCAGCACCGGC。
【0301】
シグナル配列は、DNAの5’末端、それぞれタンパク質のN末端に付加された。シグナルペプチドは、タンパク質の輸送および分泌中に切断される。
【0302】
発現および二量体形成の分析のため、HEK293F細胞およびCAP-T細胞を用いて、構築物を一過性に発現させた。CAP-T細胞は、初代ヒト羊膜細胞をベースにした不死化細胞株であり、4mM L-Gluを添加したPEM培地(Life Technologies)中で浮遊増殖させる。CAP Go細胞と比較して、CAP-T細胞はさらにシミアンウイルス40のラージT抗原を発現している。HEK 293-f細胞株は、オリジナルのHEK 293細胞株に由来し、無血清培地での懸濁増殖に適合している。一過性のトランスフェクションは、市販のNucleofector(商標)システムを用いたエレクトロポレーションによって行われた。
【0303】
培養の指数増殖期中に、CAP-T細胞をCedex XS(Roche Applied Science, Innovatis)により計数し、生細胞密度および生存率を測定した。各ヌクレオフェクション反応について、1×10個のCAP-T細胞を遠心分離(150×g、5分間)により集めた。この細胞を100μLの完全ヌクレオファクター溶液SE(Lonza、スイス)中に再懸濁させ、それぞれのFc-Treg構築物(Tレジトープ担体分子をコードするプラスミド)と混合させた。DNA/細胞懸濁液をキュベットに移し、Nucleofector IIのX001プログラムを用いてヌクレオフェクションを実施した。パルス後、500μLの予熱した完全PEM培地(=4mM L-アラニル-L-グルタミンを添加)をキュベットに加えて細胞を回収し、125mLの振盪フラスコ中の11.5mL完全PEM培地に静かに移した。残留細胞を回収するため、キュベットを500μLの新鮮な培地で1回洗浄した。最終的な培養量は12.5mlであった。エレクトロポレーションを、7×10 HEK293-F細胞および7μgプラスミドを用いて同様に行った。トランスフェクション後、細胞を4日間インキュベートした。細胞ペレットおよび上清を、その後ウェスタンブロットによって試験した。対照(Reference)はFcモノマーによるトランスフェクションであった。試験したすべての構築物はペレットで発現を示したが、分泌には違いが観察された。HEK293F細胞およびCAP-T細胞で観察された発現間には、良好な相関があった。
【0304】
分子V1、V3、V13およびV14は、HEK293Fでの分泌および発現において良好な結果を示した。V7、V9およびV12は、やや劣るものの、分泌および発現の結果が得られた。これらの面で最も良好な結果を示したTCPは、V1、V3、V13およびV14であった(V13およびV14はCAP-T細胞でのみ試験された)。CAP-T細胞におけるV15-V36の上清を用いたさらなる試験では、V20、V23、V32およびV34について特に良好な結果を示した。
【0305】
したがって、本発明の好ましいTCPは、以下の構造を有し、ここで、特記しないフレームは、非相同性Tレジトープを含まない:
(a)フレームAのTreg289、フレームCのTreg084、Treg134 C末端、例えば、V1
(b)フレームAのTreg289、フレームCのTreg084、フレームBのTreg134、例えば、V3
(c)フレームAのTreg289、フレームCのTreg084、Treg88 C末端、例えば、V13
(d)フレームCのTreg084、Treg134 C末端、例えば、V14
(e)フレームCのTreg009A、フレームBのTreg088x、例えば、V20
(f)AフレームのTreg084、例えば、V23
(g)フレームAのTreg009A、フレームCのTreg084、フレームBのTreg009A、Treg088x C末端、例えば、V32
(h)フレームBのTreg289、Treg088x C末端、例えばV34。
【0306】
【表2】

【0307】
FcTregsV1、V3、V13、V14、V20、V23、V32およびV34ならびに対応する非修飾Fc部分(配列番号60)の例示的ウェスタンブロットを図12に示す。上記のように一過性にトランスフェクトしたCAP-T細胞の細胞培養上清を、それぞれの上清20μLと10μL NuPage LDS サンプルバッファー(4x、Thermo Fisher)、4μL NuPage サンプル還元剤(10x、Thermo Fisher)および6μL Aqua Dest. (B. Braun, Germany)を混合して調製した。サンプルを70℃にて10分間変性させ、調製したサンプル10μLをNuPAGE 勾配 4-12% BisTrisゲルに添加した。サイズマーカーとしてPrecision Plus Protein All Blue Prestained Protein Standards (Bio-Rad)を適用した。還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を200Vで行い、MOPSバッファー(40mL NuPAGE MOPS SDS 泳動バッファー + 760mL Aqua dest.+500μL NuPAGE Antioxidant)を用いて行った。その後のウェスタンブロッティングを、転写バッファー(50mL NuPAGE トランスファーバッファー (20x, Thermo Fisher) +1mL NuPAGE 抗酸化剤 + 100mL メタノール+849mL Aqua Dest.)を用いて、30Vで60分間ニトロセルロース膜上にて行った。検出のための非特異的な抗体結合をブロックするために、まず膜をOdysseyのブロッキングバッファー(PBS)で4℃にて一晩かけてブロッキングした。その後、一次抗体としてAffiniPure マウス抗ヒトIgG、Fcγフラグメント特異的 (Jackson ImmunoResearch, 209-005-098) を用いて、30mLのブロッキングバッファー+0.05% Tween 20を混合して調製した溶液で1:100に希釈して、穏やかに振り混ぜながら室温にて1時間インキュベートした。二次抗体IRDye 800CW ロバ抗マウス(1:15000希釈、Li-Cor)を、4℃にて1時間インキュベートした。一次抗体と二次抗体のインキュベーション工程間および工程後に、膜を約25mLのPBS-T(500mLのPBS+0.1%の10%Tween 20溶液)でそれぞれ4回洗浄した。膜をPBSで5分間2回濯いだ後、光から保護して一晩乾燥させた。膜をOdyssey CLx Imager (Li-Cor)を用いてスキャンし、抗体標識タンパク質バンドを検出した。
【0308】
図12に示すような還元SDS-PAGEに基づくウェスタンブロットの結果は、FcTregV1、V3、V13、V14、V20、V23、V32およびV34の特に良好な発現および分泌を明確に示している。TCPはほとんどが、SDS-PAGE実行中の還元条件により、約26~36kDaのサイズ範囲のモノマー(単量体)として見える。このサイズ範囲内の個々のFcTreg変異体内の複数のバンドは、クローン発現からではなく、一過性のトランスフェクトされたプール(集団)から得られたタンパク質のため、異なる翻訳後修飾種(例えば、グリコシル化)であり得る。二量体化したTCP分子のごく一部は、約55kDaから70kDaのバンドとして残っていることが確認されている。
【0309】
これらの結果は、本発明のアプローチに従って、免疫グロブリンFc部分に組み込むことによって、Tレジトープを効果的に発現させ、製造することが可能であることを示している。
【0310】
このようにして、分子V1、V3、V13、V14、V20、V23、V32およびV34が、組換えタンパク質を安定に発現するCAP Go基本細胞株を作製するために選択された。CAP Go細胞のトランスフェクションは、CAP-T細胞について上記のように行ったが、溶液SEの代わりに溶液Vを用い、Nucleofector II上でトランスフェクションプログラムX001を実行した。さらに、ヌクレオフェクションの72時間後にブラストサイジンによる選択を開始した。
【0311】
プロテインA/GまたはThermo ScientificのFcXLカラムを介した一般的な親和性精製プロトコルによって細胞培養上清から組換えTCP変異体を精製するいくつかの試みは、失敗した。TCPは樹脂に適切に結合せず、フロースルーで検出された。そこで、ウェスタンブロットで組換えタンパク質の変異体と結合することが示されているマウス抗ヒトIgG、Fc-γフラグメント特異的ポリクローナル抗体を用いて、特異的親和性精製戦略を開発した。この抗体(AffiniPure マウス抗ヒトIgG、Fc-γフラグメント特異的ポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch, Cat 209-005-098))を親和性クロマトグラフィー用の捕捉抗体として用いた。
【0312】
市販のAffiniPureマウス抗ヒトIgG、Fc-γフラグメント特異的ポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch、Cat 209-005-098)を、NHS活性化セファロース4ファストフロー樹脂(GE Healthcare、カタログ番号17-0906)に以下の工程で適用して共有結合させた:
(a) 抗ヒトIgG、Fc-γフラグメント特異的抗体バッファー(0.2M NaHCO, 0.5M NaCl, pH8.3)をカップリングバッファーに交換した。
(b) NHS活性化セファロース4ファストフローマトリックスを、1xマトリックス容量の1mM HClで6回、1xマトリックス容量のカップリングバッファーで1回洗浄した。
(c) 12.5mLの抗ヒトIgG、Fc-γフラグメント特異的抗体(約1mg/mL)を25mLの調製したNHS活性化セファロース4ファストフロー樹脂に添加した。ローテーターを用いて2-8℃にて一晩、コンジュゲーションした。
(d) マトリックスの非反応基を、0.1M Tris-HCl, pH 約8.5で4時間インキュベートすることによりブロッキングした。
(e) 0.1M Tris-HClバッファー、pH8~9、および0.1M 酢酸バッファー、0.5M NaCl、pH4~5を用いて樹脂の洗浄を行った。洗浄手順は、1マトリックス体積のTrisバッファーで3回洗浄後に、1マトリックス体積の酢酸バッファーで3回洗浄した。このサイクルを3~6回繰り返した。最後に、樹脂を20%エタノール中に保存した。
(f) 樹脂をXK 16/40またはTricorn 10/300カラムに充填した。
【0313】
分子発現調製物の細胞培養上清から組換えタンパク質変異体を精製するために、細胞培養上清をまずpH7.4に調整した。この上清を、流速2-6ml/分、圧力0.15-0.2 MPaで、調製した親和性カラムに添加した。その後、DPBS(ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水)でカラムを洗浄した。組換えタンパク質変異体を、100mM グリシン-HCl、pH2.7を用いて溶出させた。流速および圧力は、ローディング工程と同じにした。最終画分の約10%を1M Tris-HCl pH8.8での中和に用いた。組換えタンパク質変異体をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に再緩衝させて、Pierce Protein Concentrators(Thermo, カタログ番号88535)を用いて濃縮(約30倍)した。要すれば、Amicon限外ろ過フィルター(Merck、カタログ番号ufc901024)をさらなる濃縮に用いた。
【0314】
バイスタンダー抑制(Bystander suppression)アッセイ
健康なドナーのPBMC(末梢血単核細胞)を、破傷風トキソイドによる増殖反応をもたらす対応する抗原でエクスビボ刺激することに基づくバイスタンダー抑制アッセイ(TTアッセイ)を、エフェクターCD4細胞の増殖/活性化に対するそれらの阻害能力に関して分子構築物を評価するために用いた。ドナーを選択する際に、ヒト集団における対立遺伝子変異の95%以上をカバーする、可能な限り広い範囲のヒト集団(主要なHLA-DR B1スーパータイプをカバーする)を得ることが考慮された。インキュベートされた細胞の分析は、細胞内および細胞表面のマーカーによる免疫染色で行われ、フローサイトメトリーで分析した。分子集合体の阻害効果は、エフェクターCD4 T細胞の増殖および活性化の低下として観察された。統計学的解析により、特に有効な分子構築物を同定した。
【0315】
アッセイは、0日目に96ウェルプレートに3×10 細胞/ウェルを播種し、各データポイントをデュプリケートで実施した。刺激、Tレジトープ、免疫染色用抗体の添加およびフローサイトメトリーのセットアップを含むその後のすべての操作は、プレートから細胞を除去することなく行った。PBMCの刺激は、1日目に、0μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、40μg/mLまたは80μg/mLのTCP構築物のいずれかの存在下で、0.5μg/mLの破傷風トキソイド(TT)で行った。TCP構築物のみ、またはTTのみを投与した対照、およびこれらのいずれも投与しなかった対照も同様に含んだ。エフェクター(増殖、CD25)T細胞マーカー、メモリー(CCR7、CD45RA)T細胞マーカーおよび制御性(FoxP3、CD25)T細胞マーカーに従って、7日目に読み出しを行った。
【0316】
TCP変異体V20(Tレジトープ009Aおよび088xを含む)を、TT抑制アッセイ(上記参照)を用いて2名の健康なドナーのPBMCにおいて試験した。天然Fcを対照として用いた。抑制反応はドナーによって、また測定された刺激パラメータによって変化した。マイクロモル以下から低マイクロモル濃度のV20は、CD69(両ドナー)またはHLA-DR(1名のドナー)を評価する際のTTエフェクター反応を75%以上抑制した(バックグラウンドが差し引かれた後)。TTによる刺激に対する反応として測定されたパラメータの抑制に対する感受性の順序は、CD69>HLA-DR>増殖>CD25であった。ドナーの1名(EV0156)では、V20はこの試験でテストした4つの刺激パラメータのすべてを抑制した;CD69およびHLA-DRに関しては強く、増殖およびCD25に関してはより弱く抑制した。2番目のドナー(EV0159)では、V20はCD69に強い影響を与え、HLA-DRには弱い影響を与え、そして増殖およびCD25には顕著な影響を与えなかった。
【0317】
本発明の組換えタンパク質と直接融合したTレジトープペプチドの発現の比較
この実験の目的は、本発明のTCPの発現を、マウスIgG1シグナルペプチドにN末端融合させ、検出または潜在的精製のためにFLAG-タグにC末端融合させた3つの連続クローニングされたTレジトープ(直接Tレジトープ、Dir-Treg-FLAG)の発現と比較することであった(以下の表および示した配列番号を参照のこと)。
【0318】
【表3】

【0319】
CAP-T細胞を、4mM GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific、35050038)および5μg/mlブラストサイジン(Thermo Fisher Scientific、R21001;完全PEM培地)を添加したPEM培地で培養した。細胞を解凍するために、必要量の凍結バイアルを37℃の水浴に移した。解凍後、各バイアルを10mLの冷やした完全PEM培地に移した。この細胞懸濁液を150 × gで5分間遠心分離した。この洗浄工程中、DMSOを除去した。ペレットを15mLの暖かい完全PEM培地に再懸濁させ、125mL振とうフラスコに移した。細胞を、5% COを含む雰囲気の加湿インキュベーター内で37℃にてインキュベートした。フラスコを振盪台にセットし、185rpmで回転させ、50mmの軌道で振盪させた。
【0320】
細胞の継代培養は3から4日毎に行った。必要量の培養細胞懸濁液を新しいフラスコに移し、完全PEM培地を添加して、新鮮培養を0.5×10細胞/mlに設定した。移した細胞懸濁液が全容量の20%を超えるような場合には、懸濁液を150 × gで5分間遠心分離し、ペレットを新鮮な完全PEM培地に再懸濁させた。振盪フラスコ1本当たりの細胞懸濁液の量は、フラスコ全容積の20%であった。トランスフェクション実験を行う前に、解凍後、最低3回の継代培養を行った。
【0321】
CAP-T細胞を、4D-ヌクレオフェクターを用いてトランスフェクションした。各トランスフェクションについて、10×10個のCAP-T細胞を、15mlのコニカルチューブ中で150×gで5分間遠心分離させた。この細胞を、ペレットの体積およびプラスミド溶液の体積を考慮して、95μLの補充したSE緩衝液に再懸濁させた。その後、5μgのそれぞれのプラスミドを細胞懸濁液に加え、穏やかに撹拌した。この溶液を100μLのヌクレオキュベットに移した。用いたトランスフェクションプログラムはED-100である。トランスフェクション後、1つのヌクレオキュベットから細胞を、12.5mLの完全PEM培地を含む125mLの振とうフラスコに移した。この細胞を上記のように4日間培養した。4日目に、150 × gで5分間遠心分離することにより、細胞を回収した。
【0322】
本発明のタンパク質の上清を1:10に希釈し、Dir-Treg-FLAGの上清を還元サンプルバッファーで1:2に希釈した。カルボキシ末端FLAG-BAP融合タンパク質(Sigma-Aldrich、P7457-1MG)を対照として連続希釈(ゲルへの最終添加量:640ng、320ng、160ng、80ng、40ng、20ng)して用いた。NuPAGE LDSサンプルバッファー(4x, Thermo Fisher Scientific, NP0007)2.5部に、uPAGEサンプル還元剤(10x, Thermo Fisher Scientific, NP0004)1部を加えて還元サンプルバッファーを作製した。各サンプル20μLを1.5mLバイアル中で還元サンプルバッファーと混合し、サーモシェーカー(Eppendorf)を用いて70℃にて10分間加熱した。NuPAGE 4-12% Bis-Tris タンパク質ゲル(Thermo Fisher Scientific)をXCell SureLock ミニセル電気泳動システム(Thermo Fisher Scientific)に挿入し、内側および外側チャンバーに1× NuPAGE MES SDS泳動バッファー(Thermo Fisher Scientific, NP000202)を満たした。500μLのNuPAGE 抗酸化剤(Thermo Fisher Scientific)を内側チャンバーに添加した。調製した各サンプル10μLおよび1× LDS サンプルバッファーで1/10に希釈したプレシジョン Plus プロテインブルースタンダード(Bio-Rad, 161-0373)4μLをゲルに添加した。200Vの定電圧で50-60分間ゲルを泳動させることにより、サンプルの分離を行った。
【0323】
分離したタンパク質を免疫蛍光検出法で調べるために、セミウェットタンパク質転写用XCell II Blotモジュール(GE Healthcare Life Sciences社製)を用いて、Amersham Hybond 低蛍光 0.2μm ポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜(GE Healthcare Life Sciences)上に転写した。PVDF膜をSDSゲルに直接適用し、製造元の指示に従ってNuPAGE トランスファーバッファー(20X, Thermo Fisher Scientfic)をシステムに充填した。タンパク質ブロッティングを30Vで1時間行った。タンパク質転写後、膜をOdysseyのブロッキングバッファー(Licor)で4℃にて一晩ブロッキングし、その後、2μg/mL モノクローナル 抗FLAG M2抗体(Sigma Aldrich, F1804-200UG)および0.05% Tween 20を含むOdyssey ブロッキングバッファーで希釈した17μg/mLのAffiniPure マウス抗ヒトIgG, Fcγフラグメント特異的抗体(Jackson Immuno Research, 209-005-098)を用いて同時に1時間室温にてインキュベーションした。インキュベーション後、PVDF膜を0.1%PBSTで5分間4回洗浄した。タンパク質の検出のために膜を2つに切り分け、FLAG検出用の膜部分を0.067μg/mlのIRDye 800CW ロバ抗マウス抗体(Licor)と共に1時間インキュベートした。本発明のタンパク質を含む膜の他の部分は、IRDye 680RD ロバ抗マウス抗体(Licor)と共にインキュベートした。最後に、PVDF膜を0.1% PBSTで5分間4回、PBSで5分間2回洗浄し、水で濯いだ。Licor Odyssey Imagerを用いて膜を可視化した。Phoretix 1Dソフトウェアを用いてバンド強度を定量し、本発明のタンパク質とDir-Treg-FLAGとの発現率を比較した。
【0324】
後者の対照タンパク質の濃度依存的な免疫蛍光シグナルが観察され、抗FLAG抗体の検出の質の高さが示された(図11)。Dir-Treg-01-FLAGはほとんど発現していなかった。Dir-Treg-03-FLAGは最小の量で発現し、Dir-Treg-02-FLAGは連続したTレジトープペプチドの中で最も良好な発現を示した。しかし、本発明のタンパク質(構築物V32)の発現量は、Dir-Treg-02-FLAGと比較して9倍、Dir-Treg-03-FLAGと比較して20倍高かった。
【0325】
この試験は、FLAG-タグに融合した3つの連続したTレジトープペプチドの異なるバージョンの発現と比較して、本発明のTCPの有利な発現を明確に示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2023519347000001.app
【国際調査報告】