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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】カソード材料及びプロセス
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20230428BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558312
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 GB2021050734
(87)【国際公開番号】W WO2021191621
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】2004509.2
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522306561
【氏名又は名称】イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EV Metals UK Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】クーマー,フィオナ クレア
(72)【発明者】
【氏名】コービン,ジェイムズ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ウォーラー,キャメロン ジョン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
(57)【要約】
本発明は、リチウム二次電池のカソード材料として有用な改良された粒子状リチウムニッケル酸化物材料と、それらを処理する方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状リチウムニッケル酸化物材料の表面と前記粒子状ニッケル酸化物材料内の粒界とのコバルトの濃度を上昇させて、濃縮された粒子状リチウムニッケル酸化物材料を提供するための0.05mol/L~1.5mol/Lの範囲の濃度のアルミニウムイオンを含む処理溶液の使用。
【請求項2】
調製時の前記処理溶液が、0.005mol/L以下のリチウムイオンの濃度を有し、調製時の前記処理溶液には実質的にコバルトイオンが無い、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記使用が、
(a)粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を前記処理溶液と接触させて、処理スラリーを提供すること、
(b)前記処理スラリーを乾燥させて、中間処理材料を提供すること、及び、
(c)前記中間処理材料を焼成して、(i)複数の粒を含むコア、及び(ii)前記コアの前記表面と前記コア内の前記粒界との濃縮領域であって、前記コアより高い濃度のアルミニウム及びコバルトを含む前記濃縮領域を含む濃縮リチウムニッケル酸化物カソード材料を提供すること
を含む、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
調製時の前記処理溶液のアルミニウムイオンの濃度が、0.1~0.7mol/Lの範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
調製時の前記処理溶液の前記アルミニウムイオンの濃度が、0.15~0.35mol/Lの範囲にある、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
アルミニウムの量が、処理される前記リチウムニッケル酸化物カソード材料のリチウムを除く金属の重量に基づいて、1~5wt%のアルミニウムを提供するように選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記処理溶液と接触した前記リチウムニッケル酸化物カソード材料が、式Iに従った式を有し、
【化1】
式中、
0.8≦a≦1.2
0.7≦x<1
0≦y≦0.3
0≦z≦0.1
0≦q≦0.2、及び、
-0.2≦b≦0.2、であり、
ここで、Mは、Al、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、W、Mo、Ta、Y、Sc、Nb、Pb、Ru、Rh、及びZn、ならびにこれらの組み合わせから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記濃縮リチウムニッケル酸化物カソード材料が、式IIに従った式を有し、
【化2】
式中、
0.8≦a≦1.2
0.7≦x<1
0≦y≦0.3
0≦z≦0.1
0.004≦p≦0.015
0≦q≦0.2、及び、
-0.2≦b≦0.2であり、
ここで、M1は、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、W、Mo、Ta、Y、Sc、Nb、Pb、Ru、Rh、及びZn、ならびにこれらの組み合わせから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
0.010≦p≦0.10である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
0.015≦p≦0.04である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記濃縮リチウムニッケル酸化物材料を含む電極(例えば、カソード)を形成するステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記電極を含む電池または電気化学セルを形成するステップをさらに含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を処理する方法であって、
(a)粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を、アルミニウムイオンを含む処理溶液と接触させて、処理スラリーを提供すること、
(b)前記処理スラリーを乾燥させて、中間処理材料を提供すること、及び、
(c)前記中間処理材料を焼成して、(i)複数の粒を含むコア、及び(ii)前記コアの前記表面と前記コア内の前記粒界との濃縮領域であって、前記コアより高い濃度のアルミニウム及びコバルトを含む前記濃縮領域を含む濃縮リチウムニッケル酸化物カソード材料を提供すること
を含み、
前記処理溶液のアルミニウムイオンの濃度は、0.05mol/L~1.5mol/Lの範囲にある、前記方法。
【請求項14】
調製時の前記処理溶液が、0.005mol/L以下のリチウムイオンの濃度を有し、調製時の前記処理溶液には実質的にコバルトイオンが無い、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池のカソード材料として有用な改良された粒子状リチウムニッケル酸化物材料と、それらを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式LiMOを有し、Mは一般的に1つまたは複数の遷移金属を含むリチウム遷移金属酸化物材料は、リチウムイオン電池のカソード材料として有用である。例には、LiNiO及びLiCoOが含まれる。
【0003】
US6921609B2には、実験式LiM’Ni1-yM”を有するコア組成と、コアよりCoのNiに対する比が大きいコア上のコーティングとを含むリチウム電池のカソード材料としての使用に適した組成物が記載されている。
【0004】
US10,501,335は、粒界でアルミニウムが濃縮された濃縮粒界を特徴とする電気化学的に活性な二次粒子を記載している。
【0005】
改良されたリチウム遷移金属酸化物材料とそれらの製造プロセスとに対するニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
リチウムニッケル酸化物材料の表面及び粒界のコバルト濃縮は有利であることが発見された。WO2013/025328A1には、層状のα-NaFeO型構造を有する第1の組成物を含む複数の微結晶を含む粒子が記載されている。粒子は、隣り合う微結晶の間に粒界を含み、粒界のコバルトの濃度は、微結晶中のコバルトの濃度より高い。コバルト濃縮は、粒子をLiNO及びCo(NO溶液で処理し、その後、噴霧乾燥及び焼成を行うことで達成される。
【0007】
しかしながら、産業界では、コスト、環境、及び倫理的理由で、このような材料のコバルトの含有量を低減することも望ましい。本発明者らは、コバルト濃縮が、リチウムニッケル酸化物材料を、アルミニウムイオンを含む処理溶液と接触させることによって達成し得ることを発見して驚いた。
【0008】
したがって、第1の好ましい態様では、本発明は、粒子状リチウムニッケル酸化物材料の表面と、粒子状ニッケル酸化物材料内の粒界とでコバルトの濃度を上昇させるために、0.05mol/L~1.5mol/Lの範囲の濃度のアルミニウムイオンを含む処理溶液の使用を提供する。
【0009】
第2の好ましい態様では、本発明は、粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を処理する方法であって、
(a)粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を、アルミニウムイオンを含む処理溶液と接触させて、処理スラリーを提供すること、
(b)処理スラリーを乾燥させて、中間処理材料を提供すること、及び、
(c)中間処理材料を焼成して、(i)複数の粒を含むコア、及び(ii)コア表面とコア内の粒界との濃縮領域であって、コアより高い濃度のアルミニウム及びコバルトを含む濃縮領域を含む濃縮リチウムニッケル酸化物カソード材料を提供すること
を含み、
処理溶液のアルミニウムイオンの濃度が、0.05mol/L~1.5mol/Lの範囲にある方法を提供する。
【0010】
第1の態様の使用は一般的に、第2の態様による方法を含む。
【0011】
さらなる好ましい態様では、本発明は、(i)複数の粒を含むコア、及び(ii)コア表面とコア内の粒界との濃縮領域であって、コアより高い濃度のアルミニウム及びコバルトを含む濃縮領域を含む濃縮された粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を提供する。材料は、本発明のプロセスによって取得されてよい、または取得可能であってよい。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、本発明による濃縮された粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を含むカソードと、そのカソードを含むリチウム二次セルまたは電池(例えば、二次リチウムイオン電池)とを提供する。電池は一般的に、アノード及び電解質をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で使用された未処理のリチウムニッケル酸化物材料の領域のFIB-TEM画像を示し、コバルトの分布を示している。
図2】実施例で調製された試料1の領域のアルミニウム分布を強調表示したFIB-TEM画像を示す。
図3】実施例で調製された試料1の領域のアルミニウム分布を強調表示したFIB-TEM画像を示す。
図4】実施例で調製された試料1の領域のコバルト分布を強調表示したFIB-TEM画像を示す。
図5】実施例で調製された試料1の領域のコバルト分布を強調表示したFIB-TEM画像を示す。
図6】実施例で調製された試料2の領域のアルミニウム分布を示すFIB-TEM画像である。
図7】実施例で調製された試料2の領域のコバルト分布を示すFIB-TEM画像である。
図8】実施例で調製された試料3の領域のアルミニウム分布を示すFIB-TEM画像である。
図9】実施例で調製された試料3の領域のコバルト分布を示すFIB-TEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで、本発明の好ましい及び/またはオプションの特徴を記載する。本発明のいずれの態様も、文脈により別段の要求が無い限り、本発明の任意の他の態様と組み合わせられてよい。任意の態様の好ましい及び/またはオプションの特徴のいずれも、文脈により別段の要求が無い限り、個々に、または、一緒に、本発明の任意の態様と組み合わせられてよい。
【0015】
処理溶液と接触したリチウムニッケル酸化物カソード材料は一般的に、α-NaFeO結晶構造を有する。この材料は一般的に、リチウム、ニッケル、及び酸素に加えてコバルトを含む。この材料は、式Iを有し得る。
【化1】
式中、
0.8≦a≦1.2
0.7≦x<1
0≦y≦0.3
0≦z≦0.1
0≦q≦0.2、及び、
-0.2≦b≦0.2、
ここで、Mは、Al、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、W、Mo、Ta、Y、Sc、Nb、Pb、Ru、Rh、及びZn、ならびにこれらの組み合わせから選択される。
【0016】
aは、0.9、0.95、0.99、または1.0以上であることが好ましい場合がある。aは、1.1以下、または1.05以下であることが好ましい場合がある。0.90≦a≦1.10、例えば、0.95≦a≦1.05であることが好ましい場合がある。0.99≦a≦1.05、または1.0≦a≦1.05であることが好ましい場合がある。0.95≦a≦1.05であることが特に好ましい場合がある。
【0017】
xは、0.99、0.98、0.97、0.96、または0.95以下であることが好ましい場合がある。xは0.8、0.85、0.9、または0.95以上であることが好ましい場合がある。0.8≦x≦0.99、例えば、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.97、0.85≦x≦0.96、または0.90≦x≦0.95であることが好ましい場合がある。0.85≦x≦0.98であることが特に好ましい場合がある。
【0018】
yは、0.01、0.02、または0.05以上であることが好ましい場合がある。yは、0.25、0.2、0.1、または0.10以下であることが好ましい場合がある。例えば、0.01≦y≦0.3、0.02≦y≦0.2、0.02≦y≦0.1、または0.02≦y≦0.10である。
【0019】
zは、0.001、0.002、または0.005以上であることが好ましい場合がある。zは、0.05、0.02、または0.01以下であることが好ましい場合がある。例えば、0.001≦z≦0.05、0.002≦z≦0.02、または0.002≦z≦0.01である。
【0020】
bは、-0.1以上であることが好ましい場合がある。bは、0.1以下であることが好ましい場合がある。一部の実施形態では、-0.1≦b≦0.1である。一部の実施形態では、bは0または約0である。一部の実施形態では、bは0である。
【0021】
Mは、Al、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、W、Mo、Ta、Y、Sc、Nb、Pb、Ru、Rh、及びZnから選択された1つまたは複数である。Mは、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、及びZnから選択された1つまたは複数であることが好ましい場合がある。MはMnであることが好ましい場合がある。
【0022】
0≦q≦0.15であることが好ましい場合がある。0≦q≦0.10であることが好ましい場合がある。0≦q≦0.05であることが好ましい場合がある。0≦q≦0.04であることが好ましい場合がある。0≦q≦0.03であることが好ましい場合がある。0≦q≦0.02であることが好ましい場合がある。0≦q≦0.01であることが好ましい場合がある。qは0であることが好ましい場合がある。
【0023】
例えば、式Iにおいて、
0.95≦a≦1.05
0.85≦x<0.95
0.02≦y≦0.1
0.002≦z≦0.02
0≦q≦0.05、及び、
-0.1≦b≦0.1
であることが好ましい場合がある。
【0024】
濃縮リチウムニッケル酸化物カソード材料は一般的に、αNaFeO結晶構造を有する。この材料は一般的に、リチウム、ニッケル、及び酸素に加えて、コバルト及びアルミニウムを含む。この材料は、式IIを有し得る。
【化2】
式中、a、b、x、y、z、及びqはそれぞれ、式Iを参照して上記のように別個に定義され、0.004≦p≦0.15であり、M1は、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、W、Mo、Ta、Y、Sc、Nb、Pb、Ru、Rh、及びZn、ならびにこれらの組み合わせから選択される。
【0025】
式IIは、材料全体の式である、すなわち、コア及び濃縮領域の両方を含むことを意図している。
【0026】
pは、0.005、0.008、0.010、0.015、0.018、または0.020以上であることが好ましい場合がある。これは、アルミニウムの量を増やすと、処理溶液と接触後のコバルト濃縮が低減され得る、またはコバルト濃縮が無くなり得るからである。pは、0.15、0.10、0.05、0.04、0.035、または0.03以下であることが好ましい場合がある。例えば、0.010≦p≦0.10または0.015≦p≦0.04である。
【0027】
M1は、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、W、Mo、Ta、Y、Sc、Nb、Pb、Ru、Rh、及びZnから選択された1つまたは複数である。M1は、Mn、V、Ti、B、Zr、Sr、Ca、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、及びZnから選択された1つまたは複数であることが好ましい場合がある。M1はMnであることが好ましい場合がある。一部の実施形態では、M1は、濃縮領域内より粒子のコア内でより高い濃度で存在するドーパントを表す。
【0028】
例えば、式IIでは、
0.95≦a≦1.05
0.85≦x<0.95
0.02≦y≦0.1
0.002≦z≦0.02
0.008≦p≦0.010
0≦q≦0.05、及び、
-0.1≦b≦0.1
であることが好ましい場合がある。
【0029】
例えば、式IIでは、
0.95≦a≦1.05
0.85≦x<0.95
0.02≦y≦0.1
0.002≦z≦0.02
0.010≦p≦0.05
0≦q≦0.05、及び、
-0.1≦b≦0.1
であることが好ましい場合がある。
【0030】
例えば、式IIでは、
0.95≦a≦1.05
0.85≦x<0.95
0.02≦y≦0.1
0.002≦z≦0.02
0.015≦p≦0.03
0≦q≦0.05、及び、
-0.1≦b≦0.1
であることが好ましい場合がある。
【0031】
処理溶液に含まれるアルミニウムイオンの量は一般的に、処理されるリチウムニッケル酸化物カソード材料のリチウムを除く金属の重量に基づいて、0.5~10wt%のアルミニウムを提供するように選択される。本明細書で使用される場合、アルミニウムのwt%は、処理される粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料のリチウムを除く全ての金属に対するアルミニウムの割合を意味する。例えば、処理される粒子状材料が、リチウム以外に100gの金属を有し、5.5gのアルミニウムが処理ステップで加えられると、これは、5.5wt%のアルミニウムとみなされる。粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料に供給されるアルミニウムの量は、アルミニウムの損失が無いものと想定して、処理溶液に加えられるアルミニウムの量とみなされる。
【0032】
処理溶液に含まれるアルミニウムイオンの量は、少なくとも1.0、1.5、または2wt%のアルミニウムを提供するように選択されてよい。処理溶液に含まれるアルミニウムイオンの量は、8、5、または3wt%以下のアルミニウムを提供するように選択されてよい。
【0033】
処理溶液は、調製時に、0.005mol/L以下のリチウムイオンの濃度を有することが好ましい。例えば、0.001または0.0001mol/L以下のリチウムイオンの濃度を有してよい。当業者は理解されるように、粒子状リチウムニッケル酸化物材料が処理溶液と接触するとき、リチウムニッケル酸化物材料からのリチウムが、溶液に溶解し得る。リチウムニッケル酸化物材料に由来するリチウムイオンによる、処理溶液中のリチウムの濃度の上昇は、調製時の処理溶液が記載の濃度を有するか否かに影響を与えない。同様に、本発明の方法中に加えられたリチウムニッケル酸化物材料だけに実質的に由来するリチウムイオンを含む処理溶液は、リチウムイオンを含まない処理溶液とみなされてよい。処理溶液は、調製時、意図的に追加されたリチウムイオンを含まなくてよい。処理溶液は、リチウムイオンを実質的に含まなくてよい(例えば、0.0001mol/以下のリチウムイオンの濃度を有する)。調製時の処理溶液のリチウムイオンの濃度は、実質的にゼロであってよい。
【0034】
処理溶液は一般的に、アルミニウムイオン、及び適切な対イオンを含む水溶液である。対イオンの性質は、特に限定されず、任意の適切なアルミニウム塩が使用されてよい。硝酸アルミニウムが特に適切な場合がある。
【0035】
処理溶液のアルミニウムイオンの濃度(調製時)は、0.05mol/L~1.5mol/Lの範囲である。例えば、濃度は、少なくとも0.08、0.1、0.15、0.2、または0.25mol/Lであってよい。濃度は、0.7、0.5、0.35、または0.3mol/L以下であってよい。アルミニウムイオンの濃度は、0.1~0.7、例えば、0.15~0.35mol/Lの範囲であることが好ましい場合がある。
【0036】
処理溶液は、調製時に、0.005mol/L以下のコバルトイオンの濃度を有することが好ましい。例えば、処理溶液は、0.001または0.0001mol/L以下のコバルトイオンの濃度を有してよい。当業者は理解されるように、粒子状リチウムニッケル酸化物材料が処理溶液と接触するとき、リチウムニッケル酸化物材料からのコバルトが、溶液に溶解し得る。リチウムニッケル酸化物材料に由来するコバルトイオンによる処理溶液中のコバルトの濃度の上昇は、調製時の処理溶液が記載の濃度を有するか否かに影響を与えない。同様に、本発明の方法中に加えられたリチウムニッケル酸化物材料だけに実質的に由来するコバルトイオンを含む処理溶液は、コバルトイオンを含まない処理溶液とみなされてよい。処理溶液は、調製時、意図的に追加されたコバルトイオンを含まなくてよい。処理溶液は、コバルトイオンを実質的に含まなくてよい(例えば、0.0001mol/以下のコバルトイオンの濃度を有する)。調製時の処理溶液のコバルトイオンの濃度は、実質的にゼロであってよい。処理溶液と接触したリチウムニッケル酸化物材料はコバルトを含むことが好ましい。
【0037】
濃縮リチウムニッケル酸化物材料は、複数の粒を含むコアと、コア表面とコア内の粒界とに濃縮領域であって、コアより高い濃度のアルミニウム及びコバルトを含む濃縮領域とを含む。濃縮領域のより高濃度のアルミニウム及びコバルトの存在は、FIB-TEMを使用して、例えば、下記の実施例に記載された方法を使用して、決定されてよい。図2、3、6及び8は、濃縮領域のより高いアルミニウムの濃度の証拠となるFIB-TEM画像を提供する。図4及び5は、濃縮領域のより高いコバルトの濃度の証拠となるFIB-TEM画像を提供する。濃縮領域の濃度の上昇は、FIB-TEMによって取得された元素マップを目で見ることによって観察可能なほど十分であり得る。本明細書で使用される場合、「粒界」という用語は、リチウムニッケル酸化物材料の粒子内の隣り合う結晶粒の間の境界にある領域を意味する。
【0038】
粒子状(濃縮)リチウムニッケル酸化物材料は一般的に、少なくとも4μm、例えば、少なくとも5μm、少なくとも5.5μm、少なくとも6.0μm、または少なくとも6.5μmのD50粒径を有する。リチウムニッケル酸化物の粒子(例えば、二次粒子)は一般的に、20μm以下、例えば、15μm以下、または12μm以下のD50粒径を有する。本明細書に別段の記載の無い限り、D50粒径は、Dv50(体積中位径)を指し、例えば、Malvern Mastersizer3000を用いて、ミー散乱近似で、ASTM B822 2017に設定された方法を使用することによって決定されてよい。
【0039】
材料のD10粒径は、約0.1μm~約10μm、例えば、約1μm~約10μm、約2μm~約8μm、または約5μm~約7μmであってよい。本明細書に別段の記載の無い限り、D10粒径は、Dv10(累積体積分布の10%径)を指し、例えば、Malvern Mastersizer3000を用いて、ミー散乱近似で、ASTM B822 2017に設定された方法を使用することによって決定されてよい。
【0040】
材料のD90粒径は、約10μm~約40μm、例えば、約12μm~約35μm、約12μm~約30μm、約15μm~約25μm、または約16μm~約20μmであってよい。本明細書に別段の記載の無い限り、D90粒径は、Dv90(累積体積分布において90%径)を指し、例えば、Malvern Mastersizer3000を用いて、ミー散乱近似で、ASTM B822 2017に設定された方法を使用することによって決定されてよい。
【0041】
本発明の方法及び使用は、粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料を処理溶液と接触させて処理スラリーを提供することを含み得る。例えば、粒子状リチウムニッケル酸化物カソード材料は、処理溶液に浸漬されてよい。粒子状リチウムニッケル酸化物材料は一般的に、1~100℃、例えば、20~80℃、または30~70℃の温度で処理溶液と接触する(例えば、に浸漬される)。粒子状リチウムニッケル酸化物材料は一般的に、1分~24時間、例えば、1分~5時間、1分~1時間、または、5分~30分の期間、処理溶液と接触する(例えば、に浸漬される)。処理スラリーは、還流下で加熱されてよい。
【0042】
方法及び使用は、処理スラリーを乾燥させることを含み得る。乾燥ステップは、加熱及び/または蒸発を伴うプロセスなどの任意の適切な乾燥プロセスによって行われてよい。噴霧乾燥が好まれる場合がある。
【0043】
中間処理材料は、焼成されて濃縮リチウムニッケル酸化物材料を提供する。焼成ステップは、少なくとも400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃、または少なくとも650℃の温度で行われてよい。焼成ステップは、1000℃以下、900℃以下、800℃以下、または750℃以下の温度で行われてよい。焼成中、焼成される濃縮リチウムニッケル酸化物材料は、少なくとも30分、少なくとも1時間、または少なくとも2時間の期間、400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃、または少なくとも650℃の温度にあってよい。期間は、24時間未満であってよい。
【0044】
焼成ステップは、COの無い雰囲気下で行われてよい。例えば、COの無い空気が、焼成中、オプションで、冷却中、焼成する材料の上を流れてよい。COの無い空気は、例えば、酸素と窒素の混合であってよい。COの無い雰囲気は、酸素(例えば、純酸素)であってよい。好ましくは、雰囲気は、酸化雰囲気である。本明細書で使用される場合、「COが無い」という用語は、100ppm未満のCO、例えば、50ppm未満のCO、20ppm未満のCO、または10ppm未満のCOを含む雰囲気を含むことを意図している。これらのCO2レベルは、COスクラバを使用してCOを除去することによって達成されてよい。
【0045】
方法は、1つまたは複数のミリングステップを含み得る、ミリングステップは、任意の時点で、例えば、処理溶液と接触する前、処理スラリーを乾燥させた後、及び/または、中間処理材料を焼成した後に行われてよい。ミリング機器の性質は特に限定しない。例えば、ミリング機器は、ボールミル、プラネタリボールミル、またはローリングミル(rolling bed mill)であってよい。ミリングは、粒子が所望のサイズに到達するまで、行われてよい。例えば、リチウムニッケル酸化物の粒子(例えば、二次粒子)は一般的に、少なくとも4.5μm、例えば、少なくとも5μm、少なくとも6μm、または少なくとも6.5μmのD50粒径を有するまで、ミリングされる。リチウムニッケル酸化物の粒子(例えば、二次粒子)は一般的に、15μm以下、例えば、14μm以下、または13μm以下のD50粒径を有するまで、ミリングされる。
【0046】
本発明の方法または使用は、濃縮リチウムニッケル酸化物材料を含む電極(一般的にはカソード)を形成するステップをさらに含んでよい。一般的に、これは、粒子状濃縮リチウムニッケル酸化物のスラリーを形成することと、集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面にスラリーを塗布することと、オプションで、電極の密度を高めるための加工(例えば、カレンダ加工)によって行われる。スラリーは、溶媒、バインダ、炭素材料、及び追加の添加剤の1つまたは複数を含み得る。
【0047】
一般的に、電極は、少なくとも2.5g/cm、少なくとも2.8g/cm、または少なくとも3g/cmの電極密度を有する。本発明の電極は、4.5g/cm以下、または4g/cm以下の電極密度を有してよい。電極密度は、電極の電極密度(質量/体積)で、電極が形成された集電体を含まない。したがって、電極密度は、活物質、あらゆる添加剤、あらゆる追加の炭素材料、及びあらゆる残りのバインダからの寄与を含む。
【0048】
本発明の方法または使用は、濃縮リチウムニッケル酸化物材料を含む電極を含む電池または電気化学セルを構築することをさらに含み得る。電池またはセルは一般的に、アノード及び電解質をさらに含む。電池またはセルは一般的に、二次(再充電可能な)リチウム(例えば、リチウムイオン)電池であってよい。
【0049】
ここで、以下の実施例を参照して本発明を説明する。実施例は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【0050】
実施例
試料の調製
リチウムニッケル酸化物材料(60gのLi1.031Ni0.904Co0.080Mg0.008)を還流下で60℃に予備加熱された脱イオン水(30mL)にかき混ぜながら追加した。スラリーは、60℃に平衡するにようにされた。硝酸塩(下記の表1の量)は、20mLの脱イオン水に溶解させて、リチウムニッケル酸化物材料スラリーに加えた。追加の10mLの脱イオン水を使用して、硝酸塩溶液で洗った。スラリーを60℃で10分間、かき混ぜ、その後、噴霧乾燥して、処理済みの粉末中間物を収集した。収集された粉末は、十分に緻密なアルミナるつぼに入れて、1L/分の総ガス流量で、20%O2、80%Nの雰囲気下の炉で焼成した。焼成プロファイルは、5℃/分で130℃に上昇して、5.5時間ホールドし、次に、5℃/分で450℃に上昇して、1時間ホールドし、その後、2℃/分で700℃に上昇して2時間ホールドした。試料は次に、除去前に、200℃未満に炉冷された。焼成された材料は、0.3galのミルポットでYSZミリング媒体(400g、0.5″円筒形)を使用して、ボールミルで5分間ミリングした。
【0051】
【表1】
【0052】
試料の元素組成は、ICP(誘導結合プラズマ)分析で決定した。このために、材料の0.1gを~130℃で100mLまで作成された王水(塩酸と硝酸の比が3:1)で溶かした。マトリクスマッチング較正基準と内部標準としてのイットリウムとを用いてAgilent5110でICP-OES分析を行った。使用したラインと較正基準は、機器が推奨したものである。ICP組成は下記の表2に記載する。
【0053】
【表2】
【0054】
FIB-TEM及び元素マッピング
試料1、2、3、及び4は、試料を調製するために使用した未処理のリチウムニッケル酸化物材料と共に、FIB-TEM分析を行った。試料(断面)は、30kVのガリウムイオンビームを有する集束イオンビーム機器を用いて調製した。仕上げ研磨は、5kVで行った。試料は、JEM2800走査型透過電子顕微鏡を用いて、電圧(kV)200、C2開口(um)70及び40の機器条件で検査した。X線放射検出による組成分析を走査モードで行った。
【0055】
図1は、コバルトの位置を示す未処理のリチウムニッケル酸化物材料の領域のFIB-TEM画像を示す。コバルトは、試料中に均等に分散している。同様に試料中に均等に分散された少量のアルミニウム汚染も検出された。これは、処理溶液と接触する前に、コバルトまたはアルミニウムの濃縮が無いことを実証している。
【0056】
図2及び3は、試料1の2つの領域のアルミニウム含有を強調表示しているFIB-TEM画像を示す。明るい部分は、アルミニウム濃度がより高い部分を示し、粒子の表面、及び粒界のAl濃度がより高い領域を表す。図4及び5は、試料1の同じ2つの領域を示すが、明るい部分は、コバルト濃度のより高い部分を示し、粒子の表面、及び粒界のCo濃度がより高い領域を表す。処理溶液はコバルトイオンを含まなかったので、コバルト濃縮が観察されるのは非常に驚くべきことである。
【0057】
図6及び7は、試料2のFIB-TEM画像である。図6は、粒子の表面、及び粒界のAl濃度がより高い領域を表すアルミニウム含有を示す。図7は、コバルトの均等な分布を表すコバルト含有を示す。処理溶液のアルミニウムの濃度は、試料1に使用されたものより高かった、これは、アルミニウムの濃度がコバルト濃縮に影響を与えたことを示唆している。
【0058】
図8及び9は、試料3のFIB-TEM画像である。図8は、粒子の表面と粒界のAl濃度がより高い領域を表すアルミニウム含有を示す。図9は、コバルトの均一な分布を表すコバルト含有を示す。試料3に使用された処理溶液は、コバルト濃縮が観察された試料1に使用された処理溶液と類似しているが、試料3の処理溶液は、リウムイオンを含む。よって、処理溶液中のリチウムの存在が、アルミニウム含有処理溶液によるコバルト濃縮を阻害するように見える。
【0059】
試料4も同様に分析した。粒子の表面と粒界で、Al濃度のより高い領域が観察された。コバルトの均一な分布が観察された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】