(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】重水素化オキソフェニルアルシン化合物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07F 9/74 20060101AFI20230428BHJP
A61K 31/285 20060101ALI20230428BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230428BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230428BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230428BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230428BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230428BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20230428BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230428BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230428BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20230428BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20230428BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230428BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20230428BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C07F9/74 CSP
A61K31/285
A61P35/00
A61P25/28
A61P3/00
A61P29/00
A61P37/06
A61P31/12
A61P25/00
A61P25/16
A61P21/00
A61P25/14
A61P21/04
A61P11/00
A61P1/16
A61P31/14
A61P31/18
A61P25/22
A61P25/24
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K31/337
A61K31/675
A61K31/7068
A61K31/4188
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559630
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 CN2021084773
(87)【国際公開番号】W WO2021197396
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】202010246586.5
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522361803
【氏名又は名称】▲ヌオ▼貝▲タイ▼医薬科技(上海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】NUO-BETA PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY (SHANGHAI) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】4560 Jinke Road, Zhangjiang Hi-Tech Park, Shanghai 201210, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】黄 福徳
(72)【発明者】
【氏名】王 文安
(72)【発明者】
【氏名】洪 峰
(72)【発明者】
【氏名】魏 万国
(72)【発明者】
【氏名】章 建剛
(72)【発明者】
【氏名】焦 常平
(72)【発明者】
【氏名】曹 魯郷
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
4H050
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
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4C086ZC75
4C206AA01
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4C206ZB33
4C206ZC21
4C206ZC75
4H050AA01
4H050AB20
4H050AC90
4H050WA13
4H050WA21
(57)【要約】
本開示は、重水素化オキソフェニルアルシン、またはその薬学的に許容できる塩、ならびに薬学的に許容できる担体および重水素化オキソフェニルアルシンを含む医薬組成物である。該重水素化オキソフェニルアルシンは、癌および関連疾患の処置および予防に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は独立して、水素、重水素、ハロゲン、メチル、モノ重水素化メチル、ジ重水素化メチルまたはトリ重水素化メチルから選択され、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは、重水素または重水素化メチルである]
で示される化合物またはその薬学的に許容できる塩。
【請求項2】
R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5が独立して、水素または重水素から選択され、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つ、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、4つまたは5つが重水素である、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩。
【請求項3】
化合物が、
【化2】
からなる群から選択される、請求項2に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩。
【請求項4】
対象において疾患または病的反応を予防または処置するための薬物の調製における請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩の使用。
【請求項5】
疾患が、腫瘍、カヘキシー、例えば悪性腫瘍、または腫瘍を処置するための化学療法薬により引き起こされるカヘキシー、アルツハイマー病、細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患、リソソーム蓄積症、炎症性反応、組織および臓器線維症、ウイルスにより引き起こされる感染性疾患、および神経症から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
対象が、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
腫瘍が、リンパ腫、子宮頚部癌、肝癌、乳癌、例えば三種陰性乳癌、肺癌、例えば非小細胞性肺癌または小細胞肺癌、結腸直腸癌、胃癌、皮膚癌、例えば黒色腫、骨癌、骨肉腫、骨髄腫、白血病または卵巣癌から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患が、パーキンソン病、レビー小体認知症、多系統萎縮症、封入体筋炎、前頭側頭骨性認知症、ハンチントン病、ポリグルタミン病、筋萎縮性側索硬化症またはプリオン病である、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
リソソーム蓄積症が、スフィンゴ脂質代謝障害、例えばゴーシェ病、C型ニーマン・ピック病、ムコ多糖症、グリコーゲン蓄積症、糖タンパク質蓄積症、脂質蓄積症、翻訳後修飾欠損症、内在性膜タンパク質欠乏症、神経セロイドリポフスチン症またはリソソーム関連細胞小器官の障害である、請求項5に記載の使用。
【請求項10】
炎症性反応が、局所組織または全身血液における炎症性因子、例えばTNF-αまたはIL-6により現れる、請求項5に記載の使用。
【請求項11】
組織および臓器線維症が、肺線維症または肝線維症から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項12】
ウイルスが、コロナウイルスおよび非コロナウイルスを含み、好ましくは、コロナウイルスが、トリ伝染性気管支炎ウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタδコロナウイルス、イヌ呼吸器コロナウイルス、マウス肝炎ウイルス、ネココロナウイルス、ヒトコロナウイルス、重度急性呼吸器症候群ウイルス、中東呼吸器症候群ウイルスまたは新型コロナウイルスから選択され、非コロナウイルスが、C型肝炎ウイルスまたはHIVから選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項13】
神経症が、神経衰弱症、不安、うつ病または躁病から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項14】
必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含む、請求項5~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
疾患が腫瘍から選択され、第二の物質が腫瘍を処置するための物質であり、疾患が肺線維症から選択され、第二の物質が肺線維症を処置するための物質、例えば血管内皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害物質、好ましくはニンテダニブである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
第二の物質が腫瘍を処置するための物質であり、該腫瘍を処置するための物質が、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミドおよびテモゾロミドの少なくとも1つから選択される、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩が、第二の物質が投与される前、後、または同時に投与される、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項19】
腫瘍を処置するための薬物をさらに含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
該腫瘍を処置するための薬物が、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミドおよびテモゾロミドの少なくとも1つから選択される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩を調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
【化3】
1)0~10℃で、式(I)に対応する構造を有するアニリンまたはその塩の水溶液に、濃塩酸および亜硝酸ナトリウムの水溶液を順次に加え、温度を5℃以下に維持する工程;
2)炭酸ナトリウム、三酸化ヒ素および硫酸銅の水溶液を90℃~100℃に加熱し、次に該水溶液を冷却し、該冷却した水溶液に工程1)で調製した溶液を添加し、得られた混合物を撹拌して濾過し、酸を添加することによって濾液のpH値を調整し、析出された固体を分離する工程;および
3)析出された固体、ヨウ化カリウム、亜硫酸水素ナトリウムまたは塩酸および二酸化硫黄を、メタノール中で反応が完了するまで攪拌し、次に、後処理を行って、前記化合物を得る工程。
【請求項22】
組織および臓器線維症、例えば肺線維症または肝線維症を予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用。
【請求項23】
炎症性反応を予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用であって、炎症性反応は、局所組織または全身血液における炎症性因子、例えばTNF-αまたはIL-6の増加によって現れる、使用。
【請求項24】
カヘキシー、例えば悪性腫瘍、または腫瘍を処置するための化学療法薬により引き起こされるカヘキシーを予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用。
【請求項25】
腫瘍を予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用。
【請求項26】
オキソフェニルアルシンおよびその誘導体が、式(II):
【化4】
[式中、
(a)R
6はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、C1-6アルキレン-NH2、C1-6アルキレン-NH-C(O)H、-As(O)、-N=NH、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)H、-NH-S(O)2H、-C(O)OH、-OC(O)H、-SH、-S(O)2H、-S(O)2-NH2またはヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、R
7またはR
8によって置換されていてよく、ここで、R
7およびR
8はそれぞれ独立して、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、N-(C1-6アルキル)アミノ、N-(6-12員アリール)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、C3-6シクロアルキル、6-12員アリールまたは3-12員ヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、-NH-C(O)-R
10、-C(O)OR
9、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、ここで、R
9は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、ここで、R
10は、H、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルから選択され;および/または
(b)2個の隣接する炭素原子上のR
6は、5-12員シクロアルキル、アリールまたはヘテロシクリルを形成し、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、
nは、0~5の整数である]
の構造を有し、またはその薬学的に許容できる塩である、請求項22~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
nが0~2の整数であり、R
6がそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)
2アミノ、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)
2Hから選択され、これらは場合により、R
7またはR
8によって置換されていてよい、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
nが0~2の整数であり、R1がそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)
2Hから選択され、これらは場合により、R
7またはR
8によって置換されていてよい、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
nが1または2であり、R
6がそれぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-NH-C(O)R
7または-NH-S(O)2R
8から選択され、ここで、R
7は、C1-6アルキルであり、これは場合により、6-12員アリールによって置換されていてよく、R
8は、6-12員アリールであり、これは場合により、1つのハロゲン、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルによって置換されていてよい、請求項26に記載の使用。
【請求項30】
R
6が、-As(O)基のオルト位および/またはパラ位に位置する、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
nが、0である、請求項26に記載の使用。
【請求項32】
化合物が、
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
からなる群から選択される、請求項26に記載の使用。
【請求項33】
対象が、ヒトまたは哺乳動物である、請求項22~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
腫瘍が、リンパ腫、子宮頚部癌、肝癌、乳癌、例えば三種陰性乳癌、肺癌、例えば非小細胞性肺癌または小細胞肺癌、結腸直腸癌、胃癌、皮膚癌、例えば黒色腫、骨癌、骨肉腫、骨髄腫、白血病または卵巣癌から選択される、請求項25に記載の使用。
【請求項35】
必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含み、該第二の物質が、好ましくは腫瘍を処置するための物質である、請求項25に記載の使用。
【請求項36】
第二の物質が、腫瘍を処置するための物質である、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
化合物が、第二の物質が投与される前、後、または同時に投与される、請求項35に記載の使用。
【請求項38】
該腫瘍を処置するための物質が、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミドおよびテモゾロミドの少なくとも1つから選択される、請求項37に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学合成の分野に属し、特に、新規な重水素化オキソフェニルアルシン化合物およびその調製方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
オキソフェニルアルシン(フェニルアルシンオキシド、PAO)は、生物学的阻害物質として知られている。オキソフェニルアルシン中のヒ素原子は、生体分子中のスルフヒドリルの硫黄原子と高い親和性を有している。最近の研究では、オキソフェニルアルシンはアルツハイマー病の処置に使用することができるPI4KIIIα阻害物質であることが見出されている。
【0003】
重水素は、水素の安定な同位体である。水素と比較して、重水素はより安定な化学結合を形成でき、これは薬物分子をより安定化させる。ヒトを対象とした試験では、重水素による置換により薬物の半減期を変動し、本来の活性および選択性を維持したまま投与頻度を減少させることができることに見出した。重水素化薬物は、新薬の研究の新しい方向性・モードとなっている。2017年、米国食品医薬品局は、世界初の重水素化薬、すなわち重水素化テトラベナジン(AUSTEDOTM、ハンチントン病およびそれに関連するジスキネジアの処置用)を承認した。現在、複数の重水素化薬物が臨床研究に入っている。
【発明の概要】
【0004】
一態様において、本発明は、式I
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は独立して、水素、重水素、ハロゲン、メチル、モノ重水素化メチル、ジ重水素化メチルまたはトリ重水素化メチルから選択され、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の少なくとも1つは、重水素または重水素化ものである]
で示される化合物またはその薬学的に許容できる塩を提供する。
【0005】
一実施態様において、R1、R2、R3、R4およびR5は独立して、水素または重水素から選択され、R1、R2、R3、R4およびR5の少なくとも1つ、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、4つまたは5つは重水素である。
【0006】
特定の実施態様において、前記化合物は、
【化2】
からなる群から選択される。
【0007】
別の態様において、本発明は、対象において疾患または病的反応を予防または処置するための薬物の調製における上記化合物またはその薬学的に許容できる塩を開示する。
【0008】
一実施態様において、前記疾患が、腫瘍、カヘキシー(悪液質)、例えば悪性腫瘍、または腫瘍を処置するための化学療法薬により引き起こされるカヘキシー、アルツハイマー病、細胞内タンパク質のミスフォールディング(誤った折り畳み)に関連する疾患、リソソーム蓄積症、炎症性反応、組織および臓器線維症、ウイルスにより引き起こされる感染性疾患、および神経症から選択される。
【0009】
一実施態様において、対象は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
【0010】
特定の実施態様において、前記腫瘍は、リンパ腫、子宮頚部癌、肝癌、乳癌、例えば三種陰性乳癌、肺癌、例えば非小細胞性肺癌または小細胞肺癌、結腸直腸癌、胃癌、皮膚癌、例えば黒色腫、骨癌、骨肉腫、骨髄腫、白血病または卵巣癌から選択される。
【0011】
特定の実施態様において、前記細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患は、パーキンソン病、レビー小体認知症、多系統萎縮症、封入体筋炎、前頭側頭骨性認知症、ハンチントン病、ポリグルタミン病、筋萎縮性側索硬化症またはプリオン病である。
【0012】
特定の実施態様において、前記リソソーム蓄積症は、スフィンゴ脂質代謝障害、例えばゴーシェ病、C型ニーマン・ピック病、ムコ多糖症、グリコーゲン蓄積症、糖タンパク質蓄積症、脂質蓄積症、翻訳後修飾欠損症、内在性膜タンパク質欠乏症、神経セロイドリポフスチン症またはリソソーム関連細胞小器官の障害である。
【0013】
特定の実施態様において、前記炎症性反応は、局所組織または全身血液における炎症性因子、例えばTNF-αまたはIL-6の増加により現れる。
【0014】
特定の実施態様において、前記組織および臓器線維症は、肺線維症または肝線維症から選択される。
【0015】
特定の実施態様において、前記ウイルスは、コロナウイルスおよび非コロナウイルスを含み、好ましくは、コロナウイルスは、トリ伝染性気管支炎ウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタδコロナウイルス、イヌ呼吸器コロナウイルス、マウス肝炎ウイルス、ネココロナウイルス、ヒトコロナウイルス、重度急性呼吸器症候群ウイルス、中東呼吸器症候群ウイルスまたは新型コロナウイルスから選択され、非コロナウイルスは、C型肝炎ウイルスまたはHIVから選択される。
【0016】
特定の実施態様において、前記神経症は、神経衰弱症、不安、うつ病または躁病から選択される。
【0017】
別の態様において、本発明は、対象において疾患を予防または処置するための薬物の調製における上記化合物またはその薬学的に許容できる塩の使用であって、それを必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含む方法を開示する。本発明は、対象において疾患を予防または処置するための組み合わせ投与の薬物の調製における上記化合物またはその薬学的に許容できる塩および第二の物質の使用を開示する。
【0018】
一実施態様において、前記疾患は腫瘍から選択され、前記第二の物質は腫瘍を処置するための物質である。
【0019】
特定の実施態様において、前記疾患は肺線維症から選択され、前記第二の物質は、肺線維症を処置するための物質、例えば血管内皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害物質、好ましくはニンテダニブである。
【0020】
特定の実施態様において、前記第二の物質は腫瘍を処置するための物質であり、前記腫瘍を処置するための物質は、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミドおよびテモゾロミドの少なくとも1つから選択される。
【0021】
一実施態様において、上記化合物またはその薬学的に許容できる塩は、第二の物質が投与される前、後、または同時に投与される。
【0022】
別の態様において、本発明は、上記化合物またはその薬学的に許容できる塩および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物を開示する。
【0023】
一実施態様において、前記医薬組成物は、腫瘍を処置するための薬物をさらに含む。
【0024】
特定の実施態様において、前記腫瘍を処置するための薬物は、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミドおよびテモゾロミドの少なくとも1つから選択される。
【0025】
別の態様において、本発明は、上記化合物またはその薬学的に許容できる塩を調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
【化3】
1)0~10℃で、式(I)に対応する構造を有するアニリンまたはその塩の水溶液に、濃塩酸および亜硝酸ナトリウムの水溶液を順次に加え、温度を5℃以下に維持する工程;
2)炭酸ナトリウム、三酸化ヒ素および硫酸銅の水溶液を90℃~100℃に加熱し、次に該水溶液を冷却し、該冷却した水溶液に工程1)で調製した溶液を添加し、得られた混合物を撹拌して濾過し、酸を添加することによって濾液のpH値を調整し、析出された固体を分離する工程;および
3)析出された固体、ヨウ化カリウム、亜硫酸水素ナトリウムまたは塩酸および二酸化硫黄を、メタノール中で反応が完了するまで攪拌し、次に、後処理を行って、前記化合物を得る工程。
【0026】
一実施態様において、工程3)の後処理は、pH値を酸または塩基で適切な値に調整すること、酢酸エチルで抽出すること、有機相を一緒にすることおよび蒸発乾固することを含む。
【0027】
さらなる別の態様において、本発明は、組織および臓器線維症、例えば肺線維症または肝線維症を予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用を開示する。
【0028】
本発明は、炎症性反応を予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用であって、該炎症性反応は、局所組織または全身血液における炎症性因子、例えばTNF-αまたはIL-6の増加により現れる使用を開示する。
【0029】
本発明は、カヘキシー、例えば悪性腫瘍、または腫瘍を処置するための化学療法薬により引き起こされるカヘキシーを予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用を開示する。
【0030】
本発明は、腫瘍を予防または処置するための薬物の調製におけるオキソフェニルアルシンおよびその誘導体の使用を開示する。
【0031】
一実施態様において、前記オキソフェニルアルシンおよびその誘導体は、式(II)
【化4】
[式中、
(a)R
6はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、C1-6アルキレン-NH2、C1-6アルキレン-NH-C(O)H、-As(O)、-N=NH、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)H、-NH-S(O)2H、-C(O)OH、-OC(O)H、-SH、-S(O)2H、-S(O)2-NH2またはヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、R
7またはR
8によって置換されていてよく、ここで、R
7およびR
8はそれぞれ独立して、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、N-(C1-6アルキル)アミノ、N-(6-12員アリール)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、C3-6シクロアルキル、6-12員アリールまたは3-12員ヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、-NH-C(O)-R
10、-C(O)OR
9、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、ここで、R
9は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R
10は、H、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルから選択される;および/または
(b)2個の隣接する炭素原子上のR
6は、5-12員シクロアルキル、アリールまたはヘテロシクリルを形成し、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、
nは、0~5の整数である]
の構造を有し、またはその薬学的に許容できる塩である。
【0032】
一実施態様において、nは0~2の整数であり、R6はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され。これらは場合により、R7またはR8によって置換されていてよい。
【0033】
一実施態様において、nは0~2の整数であり、R6はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R7またはR8によって置換されていてよい。
【0034】
一実施態様において、nは1または2であり、R6はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-NH-C(O)R7または-NH-S(O)2R8から選択され、ここで、R7は、場合により6-12員アリールによって置換されていてよいC1-6アルキルであり、R8は、場合により1つのハロゲン、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルによって置換されていてよい6-12員アリールである。
【0035】
一実施態様において、R6は、-As(O)基のオルト位および/またはパラ位に位置する。
【0036】
一実施態様において、nは0である。
【0037】
一実施態様において、前記化合物は、
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
からなる群から選択される。
【0038】
一実施態様において、前記対象は、ヒトまたは哺乳動物である。
【0039】
一実施態様において、腫瘍は、リンパ腫、子宮頚部癌、肝癌、乳癌、例えば三種陰性乳癌、肺癌、例えば非小細胞性肺癌または小細胞肺癌、結腸直腸癌、胃癌、皮膚癌、例えば黒色腫、骨癌、骨肉腫、骨髄腫、白血病または卵巣癌から選択される。
【0040】
一実施態様において、前記使用、それを必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含み、該第二の物質は、好ましくは、腫瘍を処置するための物質である。
【0041】
一実施態様において、前記第二の物質は、腫瘍を処置するための物質である。
【0042】
一実施態様において、前記化合物は、前記の第二の物質が投与される前、後、または同時に投与される。
【0043】
一実施態様において、前記腫瘍を処置するための物質は、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミドおよびテモゾロミドの少なくとも1つから選択される。
【0044】
本発明は、疾患を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、
薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質または核酸またはPI4KIIIαと接触させること、および薬物候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害できるかどうかを検出すること、を含み、該疾患は、組織または臓器線維症、炎症性反応、カヘキシーおよび腫瘍から選択される、方法をさらに開示する。
【0045】
一実施態様において、前記組織および臓器線維症は、肺線維症または肝線維症から選択される。
【0046】
一実施態様において、前記炎症性反応は、局所組織または全身血液における炎症性因子、例えばTNF-αまたはIL-6の増加により現れる。
【0047】
一実施態様において、前記腫瘍は、リンパ腫、子宮頚部癌、肝癌、乳癌、例えば三種陰性乳癌、肺癌、例えば非小細胞性肺癌または小細胞肺癌、結腸直腸癌、胃癌、皮膚癌、例えば黒色腫、骨癌、骨肉腫、骨髄腫、白血病または卵巣癌から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、SD系雄性ラットにPAOまたはd5PAOを0.1mg/kg単回静脈内注射した後の薬物動態の血漿中薬物濃度-時間曲線を示す図である。
【0049】
【
図2】
図2は、SD系雄性ラットにPAOまたはd5PAOを0.2mg/kg単回経口灌流した後の薬物動態の血漿中薬物濃度-時間曲線を示す図である。
【0050】
【
図3】
図3は、α-シヌクレイン過剰発現プラスミドのベクターマップを示す図である。
【0051】
【
図4】
図4は、α-シヌクレインELISAの基本調製一覧図を示す図である。
【0052】
【
図5】
図5は、SH-sy5y細胞のアポトーシスに対するd5PAOおよびPAOの阻害作用を示す図である。
図5Aは、MTTによって検出したSH-sy5y細胞の生存能力に対する特定の濃度のd5PAOおよびPAOの効果を示す図である(n=5;平均±SEM;一元ANOVA;***p < 0.0001 vs. ctrl; ### p < 0.0001 vs. ctrl)。
図5Bは、培養液中にヨウ化プロピジウム(PI)を添加し、混合物を15分間共インキュベートし、次いでKi67を免疫蛍光染色した免疫蛍光染色像である。
【0053】
【
図6】
図6は、安定的に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞の生存能力の改善およびAβ放出の促進に対するd5PAOおよびPAOの効果を示す図である。
図6Aは、MTTにより検出した、安定的に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞の生存能力に対する特定の濃度のd5PAOおよびPAOの効果を示す図である(n=5;平均±SEM;一元ANOVA;**p < 0.001, ***p < 0.0001 vs. ctrl)。
図6Bは、ELISAキットにより検出した上清中のAβ含有量を示し、各群のAβ値は、標準曲線に従って算出するものである。
図6Cは、各群におけるAβ含有量の倍率変化を示す図である(データはctrlを1として正規化;n=3;平均±SEM;一元ANOVA;*p < 0.03, **p < 0.001, ***p < 0.0001 vs. ctrl)。
【0054】
【
図7】
図7は、構造式を有する重水素化化合物PAOのAβ放出促進効果の比較を示す図である。
図7Aは、ELISAキットで検出した上清中のAβ含有量を示し、各群のAβ値は、標準曲線に従って算出する。
図7Bは、各群におけるAβ含有量の倍率変化を示す図である(データはctrlを1として正規化;n=3;平均±SEM;一元ANOVA;*p < 0.03, **p < 0.001, ***p < 0.0001 vs. ctrl; and ##p < 0.001, ###p < 0.0001 vs. 50nMのd5PAO)。
【0055】
【
図8】
図8は、α-シヌクレインの過剰発現によって引き起こされるSH-sy5y細胞の損傷の低減、およびα-シヌクレイン放出の促進に対するd5PAOおよびPAOの効果を示す図である。
図8Aは、MTTにより検出した、一過性に形質転換されたα-シヌクレイン細胞の生存能力に対する特定の濃度のd5PAOおよびPAOの効果を示す図である(n=5;平均±SEM;一元ANOVA; *p < 0.03、**p < 0.001、**p < 0.0001 vs. ctrl)。
図8Bは、ELISAキットにより検出した上清中のα-シヌクレイン含有量を示し、各群のα-シヌクレイン値は、標準曲線に従って計算する(n=3;平均±SEM;一元ANOVA;*p < 0.03 vs. Ctrl)。
図8Cは、各群におけるα-シヌクレイン含有量の倍率変化を示す図である(データはα-syn OE群を1として正規化;n=3;平均±SEM;一元ANOVA;*p < 0.03 vs. ctrl)。
【0056】
【
図9】
図9は、CBEによって構築したSH-SY5Y細胞モデルにおけるd5PAOおよびPAOの保護効果を示す図である。
図9Aは、MTTにより検出した、CBEで48時間処理したSH-SY5Y細胞の生存能力を示す図である。
図9Bは、最初に100μMのCBEで24時間処理し、次に100μMのCBEでさらに24時間処理しながら飢餓状態(FBSを含まない高グルコースDMEM)とし、最後に異なる濃度のPAOで24時間処理した、MTTにより検出したSH-SY5Y細胞の生存能力を示す図である。
図9Cは、最初に100μMのCBEで24時間処理し、次に100μMのCBEでさらに24時間処理しながら飢餓状態(FBSを含まない高グルコースDMEM)とし、最後に異なる濃度のd5PAOおよびPAOで24時間処理した、MTTにより検出したSH-SY5Y細胞の生存能力(n=5;データは平均±SEMとして示す;###p < 0.0001 vs. ctrl; and **p < 0.001 vs. 100μMのCBE, ***p < 0.0001 vs. 100μMのCBE)。
【0057】
【
図10】
図10は、CBE誘導性リソソームおよびGlcCer貯蔵の阻害およびGlcCer排出の促進に対するPAOの効果を示す図である。
図10Aは、Lyso-trackerの免疫蛍光染色画像を示し、ここで、SH-SY5Y細胞をリソソームtrackerと30分間共培養し、次に上清を除去し、様々な濃度のPAOを添加し、混合物を10分間インキュベートし、Lyso-trackerを免疫蛍光染色により観察した。
図10Bは、各群におけるLyso-trackerの蛍光強度の統計分析を示す図である(スケールバー:50μm;n=5;一元ANOVA;##p < 0.001 vs. ctrl; and **p < 0.001, ***p < 0.0001 vs. 100μMのCBE)。
図10Cは、LC/MS測定値による各群の細胞ライセート中のGlcCer濃度の統計分析を示す。
図10Dは、LC/MS測定値による各群の細胞溶解物の上清中のGlcCer濃度の統計解析結果を示す図である。
図10Dは、LC/MS測定値による各群の細胞培養液上清中のGlcCer濃度の統計分析を示す図である。
【0058】
【
図11】
図11は、リソソーム貯蔵の減少の促進に対するPI4Kaノックダウンの効果を示す図である。
図11Aは、SH-SY5Y細胞を様々なshRNA干渉レンチウイルスベクター(sh-ctr、sh1-PI4Ka、sh2-PI4Kaおよびsh3-PI4Ka)で48時間処理して、ウエスタンブロットにより検出したPI4KIIIαタンパク質レベルを示す図である。
図11Bは、ウエスタンブロットの統計分析を示す図である。
図11Cは、shRNA干渉レンチウイルスベクターで処理した後のLyso-trackerの免疫蛍光染色により検出した蛍光強度を示す図である。
図11Dは、統計分析(スケールバー:50μm;n=5;データは平均±SEMとして示す;一元ANOVA;***p < 0.0001)。
【0059】
【
図12】
図12は、pGMLV-SC5RNAiベクターマップを示す図である。
【0060】
【
図13】
図13は、24時間処理したMRC-5細胞の明視野画像であり、ここで、MRC-5細胞をMEM(FBSフリー、5ng/mLのTGF-β1および群によって異なる濃度のPAOまたはd5PAOを含む)中で24時間培養した(スケールバー:50μm)。
【0061】
【
図14】
図14は、MRC-5細胞モデルにおけるα-SMAおよびCalponin1の発現に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用を示す図である。
図14Aは、ウエスタンブロットにより検出したα-SMAおよびCalponin1の発現レベルを示す図である。
図14Bは、各群におけるα-SMAの発現レベルの統計解析結果を示す図である。
図14Cは、各群におけるCalponin1の発現レベルの統計分析結果を示す図である(タンパク質シグナル強度は、Image Jソフトウェアにより分析し、ctrlのシグナル強度を1とし;n=3;一元ANOVA;データは平均±SEMとして示す;*p < 0.03、**p < 0.001、***p < 0.0001 vs.5ng/mL TGF-β1;#p < 0.03 vs.ctrl)。
【0062】
【
図15】
図15は、MRC-5細胞モデルにおけるα-SMAおよびCalponin1の発現に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用を示す図である。
図15Aは、各群におけるα-SMAの免疫蛍光染色画像(赤色:α-SMA、青色:DAPI(核)、スケールバー:50μm)を示す図である。
図15Bは、各群におけるCalponin1の免疫蛍光染色画像(赤色:Calponin1、青色:DAPI(核)、スケールバー:50μm)を示す図である。
図15Cおよび
図15Dはそれぞれ、α-SMAおよびCalponin1の免疫蛍光強度の統計分析結果を示す図である(ctrlの平均値を1とする;n=5;一元ANOVA;データは平均±SEMで示す;*p < 0.03、**p < 0.001、***p < 0.0001 vs.5 ng/mL TGF-β1; ###p < 0.0001 vs.ctrl)。
【0063】
【
図16】
図16は、MSCにおけるCalponin1の発現に対するd5PAOおよびPAOの調整効果を示す図である。
図16Aは、各群におけるCalponin1の免疫蛍光染色画像(赤色:Calponin1、青色:DAPI(細胞核)、スケールバー:50μm)。
図16Bは、Calponin1の免疫蛍光強度の統計分析結果を示す図である。(n=4;一元ANOVA;データは平均±SEMとして示す)。
【0064】
【
図17】
図17は、線維化中のMRC-5細胞におけるCOL1の分泌に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用を示す図である。
図17Aは、ELISAにより検出した各群の上清中のCOL1濃度を示す図である(n=6、データは平均±SEMとして示す)。
図17Bは、各群の上清中のCOL1濃度の統計分析を示す図である。(ctrlの平均値を1として;データは平均±SEMとして示す;*p < 0.03、**p < 0.001、***p < 0.0001 vs.5ng/mL TGF-β1;#p < 0.0001 vs.ctrl)
【0065】
【
図18】
図18は、PI4KIIIαの発現の低減に対するshRNA干渉レンチウイルスベクターの効果を示し、ここで、shRNA干渉レンチウイルスベクターをMRC-5細胞と48時間共培養し、タンパク質を集めて、ウエスタンブロットにかけた。
図18Aは、PI4KIIIαタンパク質の検出を示す図である。
図18Bは、Image Jソフトウェアのデータ分析結果を示す図である。(データはsh-ctrlを1として正規化し、平均±SEMとして示す;n=3;***p < 0.0001 vs. sh-ctrl)。
【0066】
【
図19】
図19は、TGF-β1で処理したMRC-5細胞におけるCalponin1およびα-SMAの発現に対するPI4Kaノックダウンの阻害作用を示し、ここで、MRC-5細胞を壁に接着させた後、様々な配列を有するレンチウイルスベクターを添加し、24時間培養し、5ng/mLのTGF-β1の有無にかかわらず群別に24時間培養し、観察前に免疫蛍光染色を行う。
図19Aは、各群におけるα-SMAの免疫蛍光染色画像を示す図である(赤色:α-SMA、青色:DAPI(核)、緑色:緑色蛍光タンパク質(GFP)、スケールバー:50μm)。
図19Bは、各群におけるcalponin1の免疫蛍光染色画像を示す図である(赤色:Calponin1、青色:DAPI(細胞核)、緑色:緑色蛍光タンパク質(GFP)、スケールバー:50μm)。α-SMA(
図19C)およびCalponin1の免疫蛍光強度の統計分析結果を示す図である(データはsh-ctrlの平均値を1として正規化し、平均±SEMとして示す;n=5;*p < 0.03、***p < 0.0001 vs.sh-ctrl+5 ng/mL TGF-β1;##p < 0.001、###p < 0.0001 vs.sh-ctrl)。
【0067】
【
図20】
図20は、BV2細胞炎症モデルにおけるIL-6およびTNF-αの分泌に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用を示す図である。
図20Aは、ELISA法により検出した、BV2細胞の上清中のTNF-α濃度を示し、TNF-α含有量(pg/mL)は、標準曲線に従って計算する。
図20Bは、各群におけるTNF-αの相対濃度変化(ctrlの平均濃度を1として)を示す図である。
図20Cは、ELISA法により検出した、BV2細胞の上清中のIL-6濃度を示し、ここで、IL-6含有量(pg/mL)は、標準曲線に従って計算する。
図20Dは、各群におけるIL-6の相対濃度変化(ctrlの平均濃度を1として;n=3;一元ANOVA;データは平均±SEMとして示す;*p < 0.03、**p < 0.001、***p < 0.0001 vs.1 μg/mL LPS;#p < 0.03、##p < 0.001 vs.ctrl)である。
【0068】
【
図21】
図21は、乳癌に対するPAOの阻害作用を示す図である。
【0069】
【
図22】
図22は、リンパ腫に対するPAOの阻害作用を示す図である。
【0070】
【
図23】
図23は、黒色腫対するd5PAOの阻害作用を示す図である。
【0071】
【
図24】
図24は、投与28日目における黒色腫に対するd5PAOの阻害作用を示す図である。
【0072】
【
図25】
図25は、マウスの体重および生存率に対する、高用量PAOおよび灌流を介したd5PAOの効果の比較を示す図である。
【0073】
【
図26】
図26は、乳癌マウスモデルの体重に対するPAOの効果を示す図である。
【0074】
【
図27】
図27は、膵臓癌モデルの体重に対するPAOの効果を示す図である。
【0075】
【
図28】
図28は、リンパ腫動物モデルの体重に対するPAOの効果を示す図である。
【0076】
【
図29】
図29は、黒色腫を有するマウスの体重に対するd5PAOの併用投与の効果を示す図である。
【0077】
【
図30】
図30は、HCoV229E(インフルエンザコロナウイルス)に対するPAOおよびd5PAOの阻害作用を示す図である。
【0078】
【
図31】
図31は、PAOおよびd5PAOの抗不安作用を示す図であり、d5PAOはPAOよりも顕著抗不安作用を有する。
【0079】
【
図32】
図32は、PAOおよびd5PAOの抗うつ作用を示す図であり、d5PAOはPAOよりも顕著かつ安定な抗うつ作用を有する。
【0080】
【
図33】
図33は、U18666Aによるコレステロール貯蔵に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用を示す図である(スケールバー:50μm)。
【0081】
【
図34】
図34は、細胞モデルにおける、LC3Bおよびp62の発現を促進することに対するPAOの作用、ならびにPAOの保護をブロッキングすることに対するBaf-A1の作用を示す図である。
図34Aは、ウエスタンブロットにより検出したLC3Bおよびp62タンパク質を示す図である。34Bおよび34Cは、Image Jソフトウェアにより分析した、LC3Bおよびp62タンパク質のシグナル強度の統計分析を示す図である。
図34Dは、LC3Bおよびp62の免疫蛍光染色画像(赤色:p62、緑色:LC3B、スケールバー:50μm)を示す図である。
図34Eは、MTTにより検出した各群の細胞生存能力、および統計分析(n=5;データは平均±SEMでとして示す;一元ANOVA;###p < 0.0001 vs. ctrl; and **p < 0.001 vs. 100μMのCBE)を示す図である。
【0082】
【
図35】
図35は、ALPの活性化に対するPI4Kaノックダウンの作用を示す図である。
図35Aおよび35Bは、SH-SY5Y細胞を様々なshRNA干渉レンチウイルスベクター(sh-ctrl、h1-PI4Ka、sh2-PI4Kaおよびsh3-PI4Ka)で48時間処理したウエスタンブロットにより検出したLC3Bタンパク質レベルを示し、統計分析を示す図である。
図35Cおよび35Dは、細胞をshRNA干渉レンチウイルスベクターによりトランスフェクトしながらCBE処理を行い、48時間共培養し、検出したLC3Bタンパク質レベル、および統計分析(n=3;データは平均±SEMとして示す;一元ANOVA;*p < 0.03 vs.sh-ctrl)を示す図である。
【0083】
【
図36】
図36は、ベースラインに対するアセチルコリンによる増強ポーズ(Penh)値のパーセンテージを示す図である。
【0084】
【
図37】
図37は、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好酸球、マクロファージ、好中球およびリンパ球の総数(T.Test;片側;* < 0.5、** < 0.1 vs.モデル群の総細胞含有量)を示す図である。
【0085】
【
図38】
図38は、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好酸球、マクロファージ、好中球およびリンパ球のそれぞれの数(T.Test;片側;* < 0.5, ** < 0.1 vs. モデル群のBALF)を示す図である。
【0086】
【
図39】
図39は、血漿中のコラーゲンI型含有量を示す図である(正常群をctrlとする)。
【0087】
【
図40】
図40は、肺線維症マウスの血漿中のヒアルロン酸のダウンレギュレーションに対するPAOおよびdPAOとニンテダニブ(陽性対照薬)の作用の比較(正常群をCtrlとする)である。
【0088】
本発明の詳細な説明
以下、本発明を実施態様に基づき、添付図面とともに詳細に説明する。本発明の上記態様およびその他の態様は、以下の詳細な説明から明らかとなる。なお、本発明の範囲は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0089】
本明細書で使用される用語「化合物」とは、示された構造のすべての立体異性体(例えば、エナンチオマーおよびジアステレオマー)、幾何異性体、互変異性体および同位体を含むことを意図している。
【0090】
別の態様において、本発明は、好ましくは、ベンゼン環上のすべての水素原子が重水素化同位体によって置換されている重水素化オキソフェニルアルシンに関する。
【0091】
本明細書に記載の化合物は、非対称であってもよい例えば、1つまたはそれ以上の立体中心を有する)。特に断らない限り、エナンチオマーおよびジアステレオマーなどの全ての立体異性体が含まれることが意図される。本明細書に記載の化合物は、例えば、オレフィンおよび炭素-炭素二重結合を含む様々な幾何異性体を有し得て、全ての安定な異性体が本明細書で考慮されている。本明細書では、化合物のCis-およびtrans-幾何異性体が記載されており、異性体混合物または個々の異性体の形態で単離され得る。
【0092】
本明細書に記載の化合物は、互変異性形態も含む。互変異性形態は、プロトンの移動を伴う隣接する二重結合との単結合の交換に起因する。互変異性形態は、同じ化学式および全電荷を有する異性プロトン化状態のプロトン互変異性体を含む。プロトン互変異性体の例としては、ケト-エノール、アミド-イミド酸、ラクタム-ラクチム、エナミン-イミンおよびプロトンがヘテロ環系の2またはそれ以上の位置(1H-および3H-イミダゾール、1H-、2H-および4H-1,2,4-トリアゾール、1H-および2H-イソインドール、1H-および2H-ピラゾールなど)を占有し得る環状の形態が含まれる。互変異性体は、適切な置換によって平衡化されるか、または1つの形態に立体的にロックされ得る。
【0093】
特定の実施態様において、本明細書に記載の小分子化合物は、有機合成の手段によって得ることができる。本明細書に記載の化合物(その塩、エステル、水和物または溶媒和物を含む)は、周知の有機合成技術のいずれかにより調製することができ、様々な可能な合成経路に従って合成することができる。
【0094】
本明細書で使用される用語「オキソフェニルアルシン」(PAO)とは、以下の特定の化学構造:
【化9】
を有する小分子化合物を意味する。
【0095】
細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患
本明細書で使用される用語「細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患」とは、細胞質内で異常に折り畳まれたタンパク質が凝集することを特徴とする疾患を意味し、タンパク質凝集(蓄積)疾患またはタンパク質ミスフォールディング疾患とも診断される。さらに、「細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患」には、タンパク質凝集および封入体形成を伴う疾患であって、かかる封入体は主にミスフォールディングによるコアタンパク質の凝集によって形成され、折り畳まれていないタンパク質への反応に関与する種々のストレスタンパク質が付着しているような細胞内封入体疾患の一部も含まれる。
【0096】
細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患には、パーキンソン病(PD)、レビー小体認知症(LBD)、多系統萎縮症(MSA)、封入体筋炎(IBM)、前頭側頭骨性認知症(FTD)、ハンチントン病(HD)、ポリアミン疾患(PolyQ)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびプリオン病が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
によるリソソーム機能不全
リソソーム蓄積症
本明細書で使用される用語「リソソーム蓄積症」とは、様々な理由でいくつかの内因性物質または外因性物質がリソソームに蓄積されることにより引き起こされる疾患を意味し、これには、リソソームにおける酵素活性の不足、アクティベータータンパク質、輸送タンパク質またはリソソームタンパク質の処理・補正酵素の不足より引き起こされるリソソーム機能不全、これにより対応する基質が二次リソソームで消化されずに蓄積し、代謝障害を起こして蓄積症に至ることが含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
リソソーム蓄積症には、スフィンゴ脂質代謝障害、ムコ多糖症、グリコーゲン蓄積症、糖タンパク質蓄積症、脂質蓄積症、翻訳後修飾欠損症、内在性膜タンパク質欠乏症、神経セロイドリポフスチン症またはリソソーム関連細胞小器官の障害が含まれるが、これらに限定されない。その中、スフィンゴ脂質代謝障害は、ファブリー病、代謝異常性皮膚病(Farbe病)、ゴーシェ病I型、II型およびIII型および周産期致死性ゴーシェ病、GM1ガングリオシドーシスI型、II型およびIII型、GM2ガングリオシドーシス(黒内障性家族性白痴)、GM2ガングリオシドーシス、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、異染性白質ジストロフィーおよびニーマン・ピック病A型およびB型を含むが、これらに限定されなく;ムコ多糖症は、ハーラー症候群およびシャイエ症候群(ML I)、ハンター症候群(MPS II)、サンフィリポ症候群A(MPS IIIA)、サンフィリポ症候群B(MPS IIIB)、サンフィリポ症候群C(MPS IIIC)、サンフィリポ症候群D(MPS IIID)、エクセントロ・オステオコンドロジスプラシア症候群(MPS IVA)、エクセントロ・オステオコンドロジスプラシア症候群(MPS IVB)、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー症候群、MPS VI)、スライ症候群(MPS VII)およびMPS IXを含むが、これらに限定されなく;グリコーゲン蓄積症は、稀少なポンペ病(GSD II)を含むが、これに限定されなく;糖タンパク質蓄積症は、アルファ-マンノース症、ベータ-マンノース症、フコシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、シンドラー病I型(乳児神経軸索ジストロフィー)、シンドラー病II型(Kanzaki病)、シンドラー病III型(中重度)、シアリドーシスI型(さくらんぼ赤色斑ミオクローヌス症候群)、シアリドーシスII型(ムコ多糖症I)およびガラクトシアリドーシスを含むが、これらに限定されなく;脂質蓄積症は、酸性リパーゼ欠乏症、例えばウォルマン病およびコレステロールエステル蓄積症を含むが、これらに限定されなく;翻訳後修飾欠損症は、多種スルファターゼ欠損症、ムコリピド症IIα/β型(I-細胞疾患)、ムコリピド症IIα/β型(偽ハーラー症候群)およびムコリピド症IIIγ型(偽性ハーラー症候群変異型(pseudo-Hurler syndrome variant))を含むが、これらに限定されなく;膜内在性タンパク質欠失障害は、ホモシスチン尿症、ダノン病、ミオクローヌス腎不全症候群、シアリドーシス(例えばISSD、Salla疾患および中重度Salla疾患)、ニーマン・ピック病C1型およびC2型およびムコリピド症IV型を含むが、これらに限定されなく;神経セロイドリポフスチン症は、セロイドリポフスチン症1型(ハルティア-サンタヴオリ病(Haltia-Santavuori disease)およびINCL)、神経セロイドリポフスチン症2型(ヤンスキー-ビールショースキー病)、セロイドリポフスチン症3型(バッテン-スピルマイヤー-シェーグレン病(Batten-Spielmeyer-Sjogren disease))、セロイドリポフスチン症4型(Parry病およびKufs病A型およびB型)、セロイドリポフスチン症5型(フィンランド型晩発性幼児症)、セロイドリポフスチン症6型(Lake-Cavanaghまたはインド型変異種)、セロイドリポフスチン症7型(トルコ変異型(Turkish variant))、セロイドリポフスチン症8型(北方てんかんおよびてんかん知的障害)、セロイドリポフスチン症9型、セロイドリポフスチン症10型、セロイドリポフスチン症11型、セロイドリポフスチン症12型、セロイドリポフスチン症13型およびセロイドリポフスチン症14型を含むが、これらに限定されなく;リソソーム関連細胞小器官の障害は、ヘルマンスキー・パドラック症候群1型、ヘルマンスキー・パドラック症候群2型、ヘルマンスキー・パドラック症候群3型、ヘルマンスキー・パドラック症候群4型、ヘルマンスキー・パドラック症候群5型、ヘルマンスキー・パドラック症候群6型、ヘルマンスキー・パドラック症候群7型、ヘルマンスキー・パドラック症候群8型、ヘルマンスキー・パドラック症候群9型、グリシェリ症候群1型(エレジャルデ症候群)、グリシェリ症候群2型およびChediak-Higashi病を含むが、これらに限定されない。
【0099】
薬物投与および医学的使用
本明細書で使用される用語「薬学的に許容できる」とは、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なしに、合理的な医学的判断の範囲内でヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合った化合物、材料、組成物および/または投与形態を意味する。特定の実施態様において、薬学的に許容できる化合物、材料、組成物、および/または投与形態は、動物(より詳細にはヒト)における使用について規制機関(例えば、米国食品医薬品局(United States Food and Drug Administラットion)、中国国家医療品管理局(National Medical Products Administラットion of China)、または欧州医薬品庁(European Medicines Agency))により承認されたか、または一般的に認識されている薬局方(例えば、米国薬局方、中国薬局方、または欧州薬局方)に記載されているものを意味する。
【0100】
本明細書で使用される用語「対象」とは、ヒトおよび非ヒト動物を含み得る。非ヒト動物には、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物が含まれる。また、「対象」は、家畜(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、トリ、ウサギまたはウマ)、齧歯類(例えば、ラットまたはマウス)、霊長類(例えば、ゴリラまたはサル)または飼育動物(例えば、イヌまたはネコ)でもあり得る。「対象」は、男性であっても女性であってもよく、また、年齢が異なっていてもよい。ヒトの「対象」は、白人、アフリカ人、アジア人、セム人、その他の人種であってもよく、異なる人種のハイブリッドであってもよい。ヒトの「対象」は、高齢者、成人、青年、子供または幼児であってもよい。
【0101】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の対象は、ヒトまたは非ヒト霊長類である。
【0102】
本明細書に開示される重水素化オキソフェニルアルシンは、当技術分野で公知の投与経路、例えば、注射(例えば、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射(静脈内点滴または注入を含む)、筋肉内注射または皮内注射)投与又は非注射投与(例えば、口腔投与、経鼻投与、舌下投与、直腸投与または局所投与)によって投与され得る。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の重水素化オキソフェニルアルシンは、経口、皮下、筋肉内または静脈内投与される。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の重水素化オキソフェニルアルシンは、経口投与される。
【0103】
本明細書で使用される用語「治療有効量」とは、対象の疾患または症状を軽減または除去する、または疾患もしくは症状の発症を予防的に阻害または予防する薬物の量を意味する。治療有効量は、対象の1つまたはそれ以上の疾患もしくは症状をある程度軽減する薬物の量;疾患もしくは症状の原因に関連する1つまたはそれ以上の生理学的または生化学的パラメーターを部分的または完全に正常に回復させることができる薬物の量;および/または疾患もしくは症状の発症の可能性を低減し得る薬物の量を意味する。いくつかの実施態様において、本明細書で使用される用語「治療有効量」とは、対象の細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患またはリソソーム蓄積症を軽減または排除することができる薬物の量を意味する。
【0104】
本明細書で提供される重水素化オキソフェニルアルシンの治療有効量は、体重、年齢、過去の病歴、現在受けている処置、対象の健康状態、薬物相互作用、アレルギー、過敏症および副作用の強さ、ならびに投与経路および疾患の進行度などの当業者に周知の種々の要因に依存する。当業者(例えば、医師または獣医師)は、これらの条件または他の条件または要件に応じて、投与量を下げたり上げたりすることができる。
【0105】
いくつかの実施態様において、前記の処置は、それを必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含む。
【0106】
いくつかの実施態様において、前記第二の物質は、細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患を処置するための物質であり、レボドパおよびリルゾールを含むが、これらに限定されない。
【0107】
いくつかの実施態様において、重水素化オキソフェニルアルシンは、第二の物質が投与される前、後、または同時に投与される。
【0108】
本出願はまた、細胞内タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患を予防または処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の重水素化オキソフェニルアルシンを投与することを含む方法に関する。
【0109】
本出願はまた、リソソーム蓄積症を予防または処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の重水素化オキソフェニルアルシンを投与することを含む方法に関する。
【実施例】
【0110】
実施例1.化合物の合成および物理的性質
1.d5PAO(ペンタ-重水素化オキソフェニルアルシン)の合成および物理的性質
1.1 d5PAOの合成
d5PAOの合成経路は、以下の通りである:
【化10】
【0111】
工程1:d5-PAの合成:
【化11】
三つ口フラスコに水91.35mLおよびペンタ-重水素化アニリン(d5-アニリン)18.27gを入れ、攪拌し、0~10℃に冷却した。濃塩酸37.45mLを滴下した。その後、亜硝酸ナトリウムの水溶液(固体の亜硝酸ナトリウム13.43gを水36.5mLに溶解したもの)を滴下し、温度を2~3時間5℃以下に維持させて、ジアゾニウム塩の調製を完了した。
【0112】
別の容器に精製水274mL、炭酸ナトリウム69.06g、三酸化ヒ素36.82gおよび硫酸銅ペンタ水和物(CuSO4・5H2O)2.83gを入れ、90℃~100℃に加熱し、サーモスタットで30分攪拌し、次に5℃~15℃に冷却した。上記で調製したジアゾニウム塩をバッチでゆっくりと添加し、温度を15℃未満に制御した。得られた混合物を2~3時間攪拌し、次に室温まで自然加熱し、一晩攪拌し、濾過した。濾過ケークを水ですすいだ。濾液を一緒にした。濃塩酸をゆっくりと添加してシステムのpH値を3.0に調整し、少量の褐色の綿状沈降物を析出された。吸引濾過を行った。濾液を酢酸エチル100mLで3回洗浄し、水相を50℃~60℃で減圧下、約170mLまで濃縮し、白色固体を大量に析出させた。吸引濾過を行った。濾過ケーキを冷水ですすぎ、除湿し、固体をブラストオーブン中50℃で18時間直接乾燥させ、35gのd5-PAを灰白色の固体として得た(収率:90.83%、MS ES+(m/z): 208.0 [(M+H)+])。
【0113】
工程2:d5-PAOの合成:
【化12】
精製水400mL、d5-PA 25g、重亜硫酸ナトリウム75.4g、ヨウ化カリウム0.32g、メタノール125mLを三口フラスコに加え、30℃~40℃で一晩攪拌した。原料のほとんどが完全に反応するまで反応を終了させた。得られた溶液の温度を30℃未満に制御し、濃塩酸を添加することによってpH値を7.0に調整した。この混合物を酢酸エチルで4回抽出した。次に、有機相を一緒に、35℃~45℃で乾燥するまで濃縮し、湿った白色の固体20gを得た。この固体をtert-ブチルメチルエーテル240mLで1時間還流加熱し、次に冷却した。吸引濾過を行った。濾過ケークを冷MTBEで洗浄し、ブラストオーブン中50℃で一晩乾燥させ、d5PAO 8.7gを白色の固体として得た(
13C-NMR (δ, DMSO-d6): 149.9, 129.6, 129.4, 128.2, MS ES+(m/z): 173.99 [(M+H)
+])。
【0114】
1.2 d5PAOの物理化学的性質
1.2.1 機器
Agilent1260Prime高速液体クロマトグラフ、Mettler Toledo XS105型バランス(0.01mg)、KQ5200B超音波装置(Kunshan 超音波計測器s Co., Ltd.)、BR2000-GM可変速発振器(VWR International)および0.45μm濾過膜(Shanghai Qingyang Biotechnology Co., Ltd.)。
【0115】
1.2.2 実験用薬物
d5PAO(純度:97.9%)、アセトニトリル(クロマトグラフィーのally pure, Sinopharm Chemical 試薬 Co., Ltd.)、および塩酸およびDMSO(analytically pure, Sinopharm Chemical 試薬 Co., Ltd.)。
【0116】
1.2.3 溶液の調製
0.1M塩酸溶液2mLを取り、脱イオン水で20mLに希釈して0.01M塩酸溶液を得て、pHは精密pH試験紙で2と測定された。
【0117】
0.01M塩酸溶液2mLを取り、脱イオン水で20mLに希釈して0.001M塩酸溶液を得た。
【0118】
0.001M塩酸溶液2mLを取り、脱イオン水で20mLに希釈して0.0001M塩酸溶液を得て、溶液のpHは精密pH試験紙で4と測定された。
【0119】
脱イオン水20mLを取り、pHは6と測定された。
【0120】
d5PAOを7.5mg遠心管に取り、次いでDMSOを1mL添加した。得られた混合液を超音波で振動させて溶解し、アセトニトリル/水(1/1)混合液体で10mLに希釈して、0.75mg/mLのd5PAO貯蔵液を得た。このd5PAO貯蔵液を様々なd5PAO希釈標準溶液(working solution)(0.3mg/mL、0.15mg/mL、0.075mg/mL、0.03mg/mL、0.015mg/mL)に希釈しした。
【0121】
1.2.4 クロマトグラフィー条件
液体クロマトグラフ:Agilent 1260 Infinity II Prime超高圧液体クロマトグラフィーシステム。
クロマトグラフィーのカラム:ACQUITY UPLC(登録商標)Peptide C18130Å 2.1 * 100 mm ID.、1.7μm(Waters)。
移動相A:0.01%AAおよび2mmol/LのNH4OAcを含む水:ACN(v:v,95:5)溶液。
移動相B:0.01%AAおよび2mmol/LのNH4OAcを含む水:ACN(v:v,5:95)溶液。
【0122】
【0123】
1.2.5 方法論的検討
線形関係の調査
上記のクロマトグラフィー条件に従って、様々なd5PAO溶液(0.75mg/mL、0.3mg/mL、0.15mg/mL、0.075mg/mL、0.03mg/mL、0.015mg/mL)を取って測定し、クロマトグラムを記録した。試料濃度に対するピーク面積の線形回帰を行い、回帰式を得た:
y = 1647.7x + 0.9623、R2 = 0.9999
【0124】
結果では、d5PAO試料濃度が0.015~0.75mg・mL-1の範囲にあり、ピーク面積と良好な線形関係があることが示された。
【0125】
1.2.6 平衡溶解度の測定
様々なpHの緩衝液をそれぞれ2mLずつ3mLの遠心管にピペッティングした。過剰のd5PAO粉末を添加した。溶液中に白色の不溶性沈殿が多量に生じるまで、得られた混合物を30分間超音波処理し、恒温槽に入れ、25℃で24時間振盪し、次にさらに30分間超音波処理し、0.45μmの濾過膜で濾過した。その後の濾液をピペッティングし、水で10倍希釈した。上記のクロマトグラフィー条件に従って測定し、クロマトグラムを記録した。様々なpHの緩衝液に対するd5PAOの溶解度は、それぞれ5.36mg/mL、5.39mg/mL、5.98mg/mLと計算された。
【0126】
【0127】
2. PAOの合成および物理的性質
2.1 PAOの合成
合成経路:
【化13】
【0128】
工程1:
【化14】
250mLの一口フラスコにアニリン(10.0g、107mmol、1.0eq.)およびアセトン(20mL)を加え、約-15℃に冷却し(温度が高いと生成物が暗色になる)、次いで48%HBF4(30mL、29.5g、161mmol、1.5eq.)をゆっくりと添加した。NaNO
2(11.0g、161mmol、1.5eq.)をH
2O(20mL)に溶解し、この混合物を上記溶液にゆっくりと滴下して添加した。添加後、温度を-15℃で2時間維持し、次いで、0℃で約1時間反応を撹拌した。固体(白色)を濾過し、イソプロピルエーテル(50mL×2)で洗浄した。生成物を30℃で真空下乾燥させ(重量:17.5g、収率:85%、ピンク色の固体)、次の工程で直接使用した。
【0129】
工程2:
【化15】
250mLのフラスコにNa
2CO
3(21.2g、200.6mmol、3.85eq.)、As
2O
3(11.3g、57.3mmol、1.1eq.)、CuSO
4-5H
2O(800mg、3.13mol、0.06eq.)およびH
2O(60mL)を加えた。固体のほとんどが溶解できるように、懸濁液を約90℃まで約20分間加熱した。この溶液を約0~15℃に冷却した。アゾベンゼンフルオロボレート(10.0g、52.1mmol、1.0eq.)およびH
2O(60mL)の懸濁液をバッチでゆっくりと添加し、少量のアセトンを添加して、泡の凝集を減少させた。添加後、混合物を室温で約12時間撹拌し、珪藻土で濾過し、H
2O(20mL×3)で洗浄し、ここで、濾液が濃すぎる場合、濾過前に活性炭を添加して脱色することできる。濾液に濃塩酸(12N、40mL)を添加して中和し、反応液体をさらに酸性に調整した。濾液を約50mLに濃縮した。固体を濾過し、冷水で1回洗浄した。濾液を濃縮して、個体を得た。個体を濾過し、冷水で1回洗浄した。固体をすべて一緒にシ、乾燥させた(白色の固体、重量:8.6g、収率:82%、MS ES+(m/z): 202.9 [(M+H)
+])。
【0130】
工程3:
【化16】
フェニルアルセン酸(8.0 g、40 mmol、1.0 eq.)、メタノール(40mL)、濃塩酸(15mL)およびKI(触媒量、50mg)の混合物にSO
2を飽和するまで通し、得られた混合物を室温で2時間攪拌した。この混合物にNaOH溶液(2N)を溶液が透明になるまで添加した。次に、濃塩酸を添加して中和させた。白色の固体を析出させ、濾過し、水/エタノール(1/5)で再結晶し、乾燥させた(重量:4.0g、収率:60%、白色の粉末状固体、
1H NMR (δ, CDCl
3): 7.41-7.62 (m, 3H), 7.75-7.78 (m, 2H). MS ES
+ (m/z): 168.8 [(M+H)
+])。
【0131】
2.2 PAOの物理化学的性質
PAOは、分子式がC6H5AsOであり、分子量が168.03である。
【0132】
2.2.1 装置
Agilent1260Prime高速液体クロマトグラフ、Mettler Toledo XS105天秤(0.01mg)、KQ5200B超音波計測器(Kunshan Ultrasonic Instruments Co., Ltd.)、BR2000-GM可変速発振器(VWR International)および0.45μm濾過膜(Shanghai Qingyang Biotechnology Co., Ltd)。
【0133】
2.2.2 実験薬物
PAO(純度:98%)、アセトニトリル(クロマトグラフィー純度、Sinopharm Chemical 試薬 Co., Ltd.)、塩酸およびDMSO(分析純度、Sinopharm Chemical 試薬 Co., Ltd.)。
【0134】
2.2.3 溶液の調製
0.1M塩酸溶液2mLを取り、脱イオン水で20mLに希釈して0.01M塩酸溶液を得て、pHは精密pH試験紙で2と測定された。
【0135】
0.01M塩酸溶液2mLを取り、脱イオン水で20mLに希釈し、0.001M塩酸溶液を得た。
【0136】
0.001M塩酸溶液2mLを取り、脱イオン水で20mLに希釈して0.0001M塩酸溶液を得て、pHは精密pH試験紙で4と測定された。
【0137】
脱イオン水20mLを取り、pHは6と測定された。
【0138】
PAOを7.5mg遠心管に取り、次いでDMSO 1mLを添加した。得られた混合液を超音波振動させて溶解し、アセトニトリル/水(1/1)混合液体で10mLに希釈して、0.75mg/mLのPAO貯蔵液を得た。このPAO貯蔵液を様々なPAO希釈標準溶液(0.3mg/mL、0.15mg/mL、0.075mg/mL、0.03mg/mL、0.015mg/mL)に希釈した。
【0139】
2.2.4 クロマトグラフィー条件
液体クロマトグラフ:Agilent 1260 Infinity II Prime超高圧液体クロマトグラフシステム。
クロマトグラフィーのカラム:ACQUITY UPLC(登録商標)Peptide C18130Å 2.1 * 100 mm ID.、 1.7μm(Waters)。
移動相A:0.01%AAおよび2mmol/LのNH4OAcを含む水:ACN(v:v,95:5)溶液。
移動相B:0.01%AAおよび2mmol/LのNH4OAcを含む水:ACN(v:v,5:95)溶液。
【0140】
【0141】
2.2.5 方法論的調査
線形関係の考察
上記のクロマトグラフィー条件に従って、様々なPAO溶液(0.75mg/mL、0.3mg/mL、0.15mg/mL、0.075mg/mL、0.03mg/mL、0.015mg/mL)を取って測定し、クロマトグラムを記録した。試料濃度に対するピーク面積の線形回帰を行い、回帰方程式を得た:
y = 1834.8x - 4.2355 R2 = 1
【0142】
結果では、PAO試料濃度が0.015~0.75mg・mL-1の範囲にあり、ピーク面積と良好な線形関係があることが示された。
【0143】
2.2.6 平衡溶解度の測定
様々なpHの緩衝液をそれぞれ2mLずつ3mLの遠心管にピペッティングした。過剰のPAO粉末を添加した。溶液中に白色の不溶性沈殿が多量に生じるまで、得られた混合物を30分間超音波処理し、恒温発振器に入れ、25℃で24時間振盪し、次にさらに30分間超音波処理し、0.45μmの濾過膜で濾過した。その後の濾液をピペッティングし、水で10倍希釈し、上記のクロマトグラフィー条件に従って測定し、クロマトグラムを記録した。様々なpHの緩衝液に対するPAOの溶解度は、それぞれ1.15mg/mL、3.38mg/mL、4.52mg/mLと計算された。
【0144】
【0145】
3. 重水素化化合物d1PAO、d2PAOおよびd3PAOの合成および物理化学的性質
3.1 d1PAOの調製
【化17】
窒素下、パラブロモアニリン(3.44g)を重水素化メタノール(5mL)に溶解し、反応混合物を30分間還流し、スピン乾燥を3回行い、除湿し使用した。重水素化メタノール(10 mL)に金属ナトリウム3gをバッチで加え、反応終了後、重水(30mL)をゆっくりと添加して、10%重水酸化ナトリウム重水溶液を得た。窒素下、工程1の生成物を重水素化メタノール(5mL)に溶解した。亜鉛粉末(6.5g)および調製した10%重水酸化ナトリウム重水溶液を添加した。得られた混合物を3時間還流加熱し、TLCにより検出したパラブロモアニリンの消失後に室温まで冷却し、エーテルで抽出し、低温でスピン乾燥を行って、生成物であるp-重水素化アニリンを得た。
【0146】
【化18】
磁気撹拌棒付き丸底フラスコに前工程で得られたp-重水素化アニリン(0.94g)および水(5mL)を加え、0~5℃に冷却した。この温度で37%塩酸水溶液(2mL)をゆっくりと添加し、混合物を水5mLで希釈した。得られた溶液をさらに30分間撹拌して反応させた。次に、NaNO
2の水溶液(724.5mg、10.5mmol、3mLのH
2O)を0~5℃で30~40分以内にゆっくりと反応液に添加し、帯褐色黄色の溶液を得た。この帯褐色黄色の溶液をさらに2時間低温で撹拌し反応させた。Na
2CO
3(4.0g、38.0mmol、3.8eq.)、As
2O
3(1.0g、5.0mmol、0.5eq.)、CuSO
4・5H
2O(150mg、0.6mmol、0.06eq.)およびH
2O(13 mL)を別の丸底反応フラスコに滴下して添加した。この混合物を95℃で45分間反応させて緑色の溶液を得た。この緑色の溶液を0~5℃に冷却した。工程2の反応液に工程1で調製したアゾ塩酸塩をゆっくりと滴下し、反応系の温度を5℃未満になるように制御した。滴下中に泡が発生した場合は、少量のアセトンを添加して泡を除去した。泡が消えたら滴下を継続した。滴下は1時間以内に完了させ、次に、自然に昇温した。得られた生成物を一晩撹拌し、珪藻土で濾過し、濾過ケークを氷水(2mL×2)ですすいだ。水相を50℃で減圧下10mLまで濃縮した。氷水浴中で6N HCl 4 mLを滴下することによってpHを7~8に調整したところ、少量の黄褐色の固体が出現した。吸引濾過を行い、固体を2mLの氷水で洗浄し、廃棄した。濾液に6N HCl 2.5mLを滴下してpHを2~3に調整したところ、泡が大量に出現した。濾液を減圧下で濃縮した。固体が大量に出現したら、温度を下げ、吸引濾過を行い、個体を回収した。得られた濾液に6N HClを添加してpHを1に調整し、次に、回転蒸発を行った。個体が多く出現したら、温度を下げ、吸引濾過を行った。母液を2回洗浄し、固体を回収した。純固体p-重水素化フェニルアルソン酸900mgを得た(収率:44%、1H NMR (δ, DMSO-d6): 7.60 (d, 2H), 7.53 (d, 2H))。
【0147】
【化19】
25mLの三つ口フラスコにP-重水素化フェニルアルソン酸(880mg、4.3mmol、1.0eq.)、KI(16.6mg、0.1mmol、0.023eq.)、37%HCl(1.7mL、20.0mmol、4.6eq.)およびメタノール(5.8 mL)を順次に加え、室温で5~10分間攪拌した。SO
2を連続的に通過させ、3時間反応させた。TLCにより反応完了を示した。反応液を吸引濾過にかけ、メタノール(1.5mL×2)で洗浄した。得られた液に氷水浴中で15%NaOH水溶液を滴下することによりpHを14に調整したところ、系は橙色の濁った液体として出現した。この混合物を酢酸エチル(50mL×2)で抽出した。有機相を一緒にシ、無水Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、低温(20℃~28℃)でスピン乾燥を行い、粗生成物を得た。粗生成物に約4mLのジエチルエーテルを添加し、混合物を約30分間パルプ化し、濾過し、除湿して、約430mgのd1PAOを灰白色の固体として得た(
1H NMR (δ, DMSO-d6): 7.70 (d, 2H), 7.46 (d, 2H), MS ES
+ (m/z): 169.9 [(M+H)
+], yield: about 59%)。
【0148】
【0149】
ジエチルエーテル中のo-ブロモアニリン(3.44g)溶液に濃塩酸(5mL)を滴下して個体を得た。サンドコアファネルで吸引濾過を行い、混合物をジエチルエーテルで洗浄し、除湿してアニリンヒドロクロライドを得た。窒素下、密閉管内で固体を重水(7mL)に溶解し、120℃に加熱し、24時間反応させた。重水をスピン乾燥し、窒素を置き換えた。再び重水(7mL)を添加し、48時間反応させた。反応物を室温まで冷却し、30%水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整した。混合物をジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、スピン乾燥を行って2-ブロモ-4,6-デューテリウム-アニリン(2-bromo-4,6-dideuterium-aniline)を得た。窒素下、22mLのメタノールを2-ブロモ-4,6-デューテリウム-アニリンおよび10%Pd/C(300mg)の混合物に添加した。窒素を水素に置き換え、3時間反応させた。TLCにより2-ブロモ-4,6-デューテリウム-アニリンの消失が示されたら、得られた反応液を珪藻土で濾過し、少量のメタノールで洗浄し、直接スピン乾燥して2,4-デューテリウム-アニリンヒドロブロミドを得た。
【0150】
【化21】
磁気撹拌棒付き25mLの丸底フラスコに前工程で得られた2,4-デューテリウム-アニリンヒドロブロミドおよび水(5mL)を加え、0~5℃に冷却した。この温度で、塩酸の37%水溶液(1.1mL)をゆっくりと添加し、混合物を水5mLで希釈した。得られた溶液をさらに30分間撹拌して反応させた。次に、NaNO
2の水溶液(724.5mg、10.5mmol、3mLのH
2O)を0~5℃で30~40分以内にゆっくりと反応液に添加し、帯褐色黄色の溶液を得た。この帯褐色黄色の溶液をさらに2時間低温で撹拌して反応させた。Na
2CO
3(4.0g、38.0mmol、3.8eq.)、As
2O
3(1.0g、5.0mmol、0.5eq.)、CuSO
4・5H
2O(150mg、0.6mmol、0.06eq.)およびH
2O(13mL)を50mLの丸底反応フラスコに滴下した。この混合物を95℃で45分間反応させて、緑色の溶液を得た。この緑色の溶液を0~5℃に冷却した。工程2の反応液に工程1で調製したアゾ塩酸塩をゆっくりと滴下し、反応系の温度が5℃未満になるように制御した。滴下中に泡が発生したら、少量のアセトンを添加して泡を除去した。泡が消えたら滴下を継続した。滴下は1時間以内に完了させ、次に、自然に昇温した。得られた生成物を一晩撹拌し、珪藻土で濾過し、濾過ケークを氷水(2mL×2)ですすいだ。水相を50℃で減圧下10mLに濃縮した。氷水浴中で6N HCl 4 mLを滴下してpHを7~8に調整したところ、少量の黄褐色の固体が出現した。吸引濾過を行い、次に、固体を2mLの氷水で洗浄し、廃棄した。濾液に6N HCl 2mLを滴下してpHを3~4に調整したところ、粘稠な固体が出現した。吸引濾過を行い、この固体(NMRにより、この固体は生成物を含まないことが示された)を廃棄した。得られた濾液を8mLに濃縮し、6N HCl(0.5mL)を添加してpHを2~3に調整したところ、多量の固体が出現した。吸引濾過を行い、2,4-デューテリウム-フェニルアルソン酸1.15gを固体として得た(収率:56.4%、
1H NMR (δ, DMSO-d6): 7.72 (d, 1H), 7.56-7.59 (m, 2H))を得た。
【0151】
【化22】
25mL三つ口フラスコに2,4-ジデューテリウム-フェニルアルソン酸(1.1g、5.4mmol、1.0 eq.)、KI(20.6mg、0.124mmol、0.023eq.)、37%HCl(2.1mL、25.0mmol、4.6eq.)およびMeOH(7.3mL)を順次に加え、室温で5~10分間攪拌した。SO
2を連続的に通過させ、3時間反応させた。TLCにより反応完了が示された。氷水浴中で15%NaOH水溶液を滴下してpHを7に調整したところ、系内に多量の不溶性物質が出現した。混合物を酢酸エチル(50mL×2)で抽出した。有機相を一緒シ、無水Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、低温(20℃~28℃)でスピン乾燥し、粗生成物を得た。粗生成物に酢酸エチルを約3mL添加し、混合物を約30分間パルプ化し、濾過し、除湿して、約400mgのd2PAOを灰白色の固体として得た(
1H NMR (δ, DMSO-d6): 7.58 (d, 1H), 7.36-7.39 (m, 2H). MS ES+ (m/z): 170.7 [(M+H)+], yield: about 48%)。
【0152】
【0153】
アニリン溶液(アニリン2.65g、重水7mL)に濃塩酸(5mL)を滴下して個体を得た。サンドコアファネルで吸引濾過を行い、混合物をジエチルエーテルで洗浄し、除湿してアニリンヒドロクロライドを得て、これを次の工程で直接使用した。窒素下、密閉管内でこの固体を重水(7mL)に溶解し、120℃に加熱し、24時間反応させた。重水をスピン乾燥し、窒素を置き換えた。再び重水(7mL)を添加し、48時間反応させ、2,4,6-トリデューテリウム-アニリンの重水溶液を得て、これを次のステップで直接使用した。
【0154】
【化24】
磁気撹拌棒付き25mL丸底フラスコに2,4,6-トリデューテリウム-アニリンの重水溶液(4.33mL)および水(2.5mL)を加え、0~5℃に冷却した。この温度で塩酸の37%水溶液(1.1mL)をゆっくりと添加し、混合物を水5mLで希釈した。得られた溶液をさらに30分間撹拌して反応させた。次に、0~5℃で30~40分以内に反応液にNaNO
2の水溶液(724.5mg、10.5mmol、3mLのH
2O)をゆっくりと添加し、紫色から黄色に変化した溶液を得た。次に、この黄色の溶液をさらに2時間低温で撹拌して反応させた。50mL丸底反応フラスコにNa
2CO
3(4.0g、38.0mmol、3.8eq.)、As
2O
3(1.0g、5.0mmol、0.5eq.)、CuSO
4・5H
2O(150mg、0.6mmol、0.06eq.)およびH
2O(13 mL)を滴下した。この混合物を95℃で45分間反応させて緑色の溶液を得た。この緑色の溶液を0~5℃に冷却した。工程2の反応液に工程1で調製したアゾ塩酸塩をゆっくりと滴下し、反応系の温度が5℃以下になるように制御した。滴下中に泡が発生したら、少量のアセトンを添加して泡を除去した。泡が消えたら滴下を継続した。滴下は1時間以内に完了させ、次に、自然に昇温した。得られた生成物を一晩撹拌し、珪藻土で濾過し、濾過ケークを氷水(2mL×2)ですすいだ。水相を50℃で減圧下10mLに濃縮した。氷水浴中で6N HCl 1.8mLを滴下してpHを7~8に調整したら、少量の黄褐色の固体が出現した。吸引濾過を行い、次に、固体を2mLの氷水で洗浄し、廃棄した。濾液に6N HCl 1.8mLを滴下してpHを3に調整したところ、微量の黄色の固体が出現した。吸引濾過を行い、次に、固体を2mLの氷水で洗浄し、回収した。得られた濾液を8mLに濃縮し、6N HCl 0.8mLを添加してpHを1に調整したところ、多量の個体が出現した。吸引濾過を行い、個体を回収して2,4,6-トリデューテリウム-フェニルアルソン酸を全量固体として860mg得た(収率:39%、
1H NMR (δ, DMSO-d6): 7.56 (s, 2H))を得た。
【0155】
【化25】
25mL三つ口フラスコに2,4,6-トリデューテリウム-フェニルアルソン酸(3.9mmol、1.0eq.)、KI(15mg、0.09mmol、0.023eq)、37%HCl(1.3mL、18.0mmol、4.6eq.)およびメタノール(5.3mL)を順次に加え、室温で5~10分間攪拌した。SO
2を連続的に通過させ、3時間反応させた。TLCにより反応完了を示された。反応液を吸引濾過にかけ、メタノール(1.5mL×2)で洗浄した。氷水浴中で17%NaOH溶液4.3mLを滴下してpHを7に調整したところ、フラスコ壁面に黄色の油状物質が出現した。混合物を酢酸エチル(25mL×2)で抽出した。有機相を一緒にし、無水NaSO4で乾燥させ、濾過し、低温(20℃~28℃)でスピン乾燥させた。得られた固体に酢酸エチル約3mLを添加し、混合物を約30分間パルプ化し、濾過し、除湿して、約200mgのd3PAOを灰白色の固体として得た。前工程で得られた母液をスピン乾燥させ、得られた固体に約1.5mLのEt2Oを加え、その混合物を約30分間パルプ化し、濾過し、除湿して、約170mgのd3PAOを灰白色の個体として得た。d3PAOを一緒にした(収率:約55%、
1H NMR (δ, DMSO-d6): 7.46 (s, 2H). MS ES
+ (m/z): 171.9 [(M+H)
+])。
【0156】
実施例2. d5PAOおよびPAOの薬物動態研究
d5PAO(d5-PAO)は実施例1に記載の方法で調製し、PAOは当社で調製した。成人雄ラット対象にPAOおよびd5PAOを単回静脈注射(用量は0.1mg/kg、化合物そ0.1%DMSOに溶解)または単回経口投与(用量は0.2mg/kg)し、投与後0時間、0.083時間、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、24時間、32時間および48時間で静脈血を採取をして薬物動態試験に供した。試験試料中のPAOおよびd5PAOは、タンパク質沈殿法により抽出した。処理後の試料を液体クロマトグラフィー-質量スペクトロメーター/質量スペクトロメーター(LC-MS/MS)にロードし、液相分離後にESIマイナスイオンモードで検出した。
【0157】
試料処理(血液試料):
1)96ウェルプレートに40μLの未知試料、校正標準試料、品質管理試料、シングルブランク試料およびダブルブランク試料を添加し;
2)各試料に0.1mg/mLのナトリウムジメルカプトスルホネート水溶液120μLを添加し;
3)各試料に0.2%ギ酸40μLを添加し、得られた混合物均一に混合し、次に、45℃で15分間振とう培養し、4℃で5分間遠心分離した(×3220g);
4)各試料(ダブルブランク試料を除く)を200μLのIS1でクエンチし(ダブルブランク試料は、240μLのMeOHでクエンチ)、15分間混合し、次に、4℃で15分間の遠心分離した(×3220g);
5)上清50μLを96ウェルプレートに移し、4℃で5分間遠心分離し(×3220g)、次に、Triple Quad6500+LC-MS/MS(SCIEX)システムを介してLC-MS/MSにより分析した。
【0158】
実験結果:
SD系雄性ラット(n=3)に単回静脈内注射(0.1mg/kg)または単回経口投与(0.2mg/kg)で投与した同用量のPAOおよびd5PAOの薬物動態指標に有意差はなかった(表3、表4ならびに
図1および2を参照)。0.1mg/kg強制経口処理群(gavage group)のバイオアベイラビリティは15.7%であった。
【0159】
【0160】
【0161】
実施例3.細胞生存能力および薬物動力学に対するd5PAOおよびPAOのの作用の比較
細胞培養および薬物投与:SH-SY5Yの完全な培養系は、15%FBS(Gibco)を添加した高グルコースDMEM(Gibco)とした。Fu遺伝子 HDトランスフェクション試薬(Promega, Beijing Biotech Co., Ltd. Catalog No. E2311)によりプラスミドをトランスフェクトした。プラスミドはObio Technology(Shanghai Corp., Ltd)から購入し、ベクターマップは
図3に示すとおりであった。α-シヌクレイン過剰発現プラスミドは、以下の配列を有する。
【0162】
安定に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞株は、Swedish二重変異APP695 cDNAをトランスフェクトしたヒト胚体腎臓細胞株である。細胞を播種する前に、プレートを20μg/mLのポリ-D-lysine(PDL)で24時間処理した。培養液は10%FBSを添加した高グルコースDMEMで、200μg/mLのG418を添加して選択を行った。細胞をプレートに48時間播種した後、飢餓状態、すなわち血清を除去し、高グルコースDMEM培地のみを使用することを実施した。24時間培養後、完全な培養系に交換し、薬物を投与した。
【0163】
細胞生存能力は、Thiazolyl Blue(MTT)アッセイにより検出した。
投与後12時間目に終濃度0.5mg/mLのMTTを添加し、混合物4時間インキュベートし、次いで培養液をピペッティングした。100μLのDMSOを添加し吸着したMTTを溶解し、残留物を15分間振盪し、次に吸光度値を読み取った。
【0164】
ELISA法
a) α-シヌクレインELISA用α-シヌクレインモノクローナル抗体(Mouse monoclonal)はSigma-Aldrich(Shanghai, Catalog No. S5566)より購入し;α-シヌクレインELISAキットはThermo Fisher Scientific(Catalog No.KHB0061)より購入した。Huα-シヌクレイン検出抗体溶液50μLを各ウェル(クロモゲンブランク空、すなわちクロモゲンブランクウェルを除く)に加え、試料および標準曲線試料(標準曲線サンプルの調製については
図4を参照)50μLを各ウェル(クロモゲンブランク空から除く)に加えた。得られた混合物を軽く振盪し、均一に混合した。プレートをフィルムで覆い、4℃で一晩インキュベートした。100μLの1×Wash緩衝液で4回洗浄し、100μLのAnti-Rabbit IgG HRPを各ウェルに加えた(クロモゲンブランクのウェルを除く)。プレートをフィルムで覆い、室温で30分間インキュベートし、次に、1×Wash緩衝液で4回洗浄した。各ウェルに100μLの安定化クロモゲン(Stabilized Chromogen)を加えた。溶液は青色に変わり、次にそれを室温で暗所で30分間インキュベートした。100μLの停止液(停止液)を各ウェルに加えた。得られた混合物を軽く振盪し、均一に混合した。溶液は黄色に変わり、NovoStarマイクロプレートリーダー(BMG社、ドイツ)を使用して、450nmの吸収波長で読み取った。
【0165】
b) AβELISA
アミロイドベータ42ヒトELISAキットは、Thermo Fisher Scientific(Catalog No. KHB3544)より購入した。100μLの希釈標準曲線試料、100μLのブランク対照および100μLの試料を、アッセイプレートの対応するウェルに加えた。プレートをフィルムで覆い、37℃で2時間インキュベートした。各ウェル内の液体を廃棄し、次に、100μLの検出試薬A希釈標準溶液を各ウェルに添加した。プレートをフィルムで覆い、37℃で1時間インキュベートした。上澄みを廃棄した。次に、液体残留物をできるだけ少なく保ちながら、各ウェルを1×洗浄緩衝液で各回2分間、3回洗浄した。100μLの検出試薬B希釈標準溶液を各ウェルに加え、プレートをフィルムで覆い、37℃で1時間インキュベートした。洗浄は5回繰り返した。90μLの基質溶液を各ウェルに加え、プレートをフィルムで覆い、暗所で37℃で20分間インキュベートした。溶液は青色に変わった。50μLの停止液を各ウェルに加えた。得られた混合物を軽く振盪し、均一に混合した。溶液は黄色に変わり、マイクロプレートリーダーを使用して、吸収波長450nmでできるだけ早く読み取った。
【0166】
ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodide, PI)染色
免疫蛍光染色の15分前にPI(Cell Signaling Technology、Catalog No. 4087)を添加した。混合物を細胞インキュベーターで15分間共培養し、次いで免疫蛍光染色にかけた。PI/RNase染色液の最長励起波長と発光波長は、それぞれ535nmと617nmであった。
【0167】
免疫蛍光染色
薬物などで処理した細胞から上清を吸引した。次に、残留物を予め冷却したPBSで3回洗浄し、4%PFAで処理し、室温で30分間静置し、次に、PB-Sで3回洗浄(各回10分間)した。Triton-XをPBSに溶解して0.1%Triton-X溶液を調製し、15分間処理を行った。この溶液を10%ロバ血清で1時間ブロッキングした。一次抗体:Mouse anti-Ki67 (Cell Signaling Technology, Catalog No. 9129);二次抗体:anti-Mouse Alex488。
【0168】
統計分析
データはGraphPad Prism5ソフトウェアで処理・分析した。一元ANOVAおよび平均±SEMが関与し、p<0.03は統計的な差異を示した。
【0169】
実験結果
SH-sy5y細胞の生存能力に対するd5PAOおよびPAOの影響
SH-sy5y細胞株の完全培養系は、15%FBSを添加した高グルコースDMEMである。細胞毒性実験では、SH-sy5y細胞を48時間培養し、様々な濃度のd5PAOおよびPAOで24時間処理した。終濃度0.5mg/mLのThiazolyl Blue(MTT)を添加し、4時間インキュベーションし、次いで培養液をピペッティングした。100μLのDMSOを添加して吸着したMTTを溶解し、残留物を15分間振盪し、次に、吸光度値を読み取った。その結果、6.25nM、25nM、50nM、100nM、200nMのd5PAOはSH-sy5y細胞の増殖を有意に促進したことを示したが、200nMのPAOは毒性を示し、24時間処理で細胞死を引き起こした。さらに、SH-sy5y細胞に対する様々な濃度のd5PAOおよびPAOの毒性を検出するために、SH-sy5y細胞のアポトーシス/死滅および増殖に対するd5PAOおよびPAOの影響をPI染色およびKi67の免疫蛍光染色により検討した。PI(ヨウ化プロピジウム)は、DNAやRNAの塩基と色素の間に挿入できる蛍光色素として、生きている細胞膜は通過できないが、損傷した細胞膜を通過してアポトーシス/死滅細胞の核を染色することできる。しかし、Ki67は細胞増殖に不可欠なタンパク質であり、その機能は有糸分裂と密接に関係している。そのため、Ki67は増殖サイクルにある細胞の目印としてよく使用され、臨床応用では、Ki67陽性率の高い細胞腫瘍は一般に成長が早いと考えられている。d5PAOおよびPAOを様々な濃度で24時間処理した後、PI染色およびKi67染色を行った。その結果、PAOは50nMおよび100nM、d5PAOは50nMおよび100nMのいずれもKi67陽性率を有意に増加させず、PI陽性細胞は対照群(ctrl)と比較して減少しており、これは、d5PAOおよびPAOは細胞のアポトーシスまたは死滅を低減するが、細胞の増殖は有意に促進しないことを示している(
図5)。
【0170】
実施例4.安定に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞の生存能力およびAβ放出に対するd5PAOおよびPAOの作用
安定に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞株は、スウェーデン二重変異アミロイド前駆体タンパク質(APP)695 cDNAをトランスフェクトし、G418選択マーカーを有するヒト胚体腎臓細胞株であった。細胞を播種する前に、プレートを20μg/mLのポリ-D-リシン(PDL)で24時間処理した。培養液は10%FBS添加の高グルコースDMEMとし、選択用に200μg/mLのG418を添加した。48時間培養後、様々な濃度のd5PAOおよびPAOを添加し、24時間処理を行った。終濃度0.5mg/mLのThiazolyl Blue(MTT)を添加し、混合物を4時間インキュベートし、次いで培養液をピペッティングした。100μLのDMSOを添加して吸着したMTTを溶解し、残留物を15分間振盪し、次に、吸光度値を読み取った。
【0171】
APP(SW)HEK293細胞のAβ放出に対するd5PAOおよびPAOの作用を検出する実験において、48時間培養後、24時間飢餓状態にさらさせ、次に、完全な培養系に置き換えた。この細胞を化合物d5PAOおよびPAOで4時間処理し、細胞培養液の上清中のAβレベルをELISAにより検出した。
【0172】
実験結果
安定に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞を、25nM、50nM、100nM、200nMのd5PAOで24時間処理したところ、対照群と比べて細胞生存能力が有意に上昇した。これまでの研究で、PAOはアミロイドβタンパク質(Aβ)などの放出を促進することができることが明らかになっている。安定に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞の上清中のAβをELISAキットで検出したところ、以下の結果が得られた:25nM、50nMおよび100nMのd5PAOならびに25nM、50nMおよび100nMのPAOは細胞外Aβ含有量を有意に増加させた(
図6)。
【0173】
実施例5. 安定的に形質転換されたAPP(SW)HEK293細胞のAβ放出に対する他の重水素化化合物の作用の比較
PAOの重水素化化合物であるd1PAO、d2PAOおよびd3PAOを選択した。APP(SW) HEK293細胞の培養方法および投与方法は実施例4と同じである。群としては、対照群(ctrl)、d5PAO 50nM処理群、d5PAO 100nM処理群、PAO 50nM処理群、PAO 75nM処理群、d1PAO 25nM処理群、d1PAO 50nM処理群、d1PAO 75nM処理群、d2PAO 25nM処理群、d2PAO 50nM処理群、d2PAO 75nM処理群、d3PAO 25nM処理群、d3PI03 50nM処理群およびd3PAO 75nM処理群を含ませた。その結果、対照群と比較して、50nMおよび75nMのd5PAO処理群、50nMおよび75nMのPAO処理群、25nM、50nMおよび75nMのd1PAO処理群、25nM、50nMおよび75nMのd2PAO処理群ならびに25nM、50nMおよび75nMのd3PAO処理群で細胞外Aβ含有量がすべて有意に増加したことが示された。d5PAO 50nM処理群と他の群(対照群を除き)を比較すると、50nMおよび75nMのPAO処理群、25nM、50nMおよび75nMのd1PAO処理群、25nMおよび75nMのd2PAO処理群および25nMおよび75nMのd3PAO処理群は、細胞培養上清中のAβ含有量の点で有意差があった(
図7Aおよび
図7B)。
【0174】
実施例6. α-シヌクレイン分泌に対するd5PAOおよびPAOの作用
SH-SY5Y細胞株を、Fu遺伝子 HDトランスフェクション試薬を用いて、α-シヌクレイン過剰発現(α-syn OE)プラスミドでトランスフェクションした。飢餓状態を24時間行い、次に、完全な培養系に置き換えた。細胞を化合物d5PAOおよびPAOで24時間処理し、α-シヌクレインプラスミドをトランスフェクトしたSH-sy5y細胞の生存能力に対するd5PAOおよびPAOの作用をMTTで検出した。その結果、α-シヌクレイン過剰発現はSH-sy5y細胞の生存能力を有意に低下させ、25nM、50nM、75nM、100nM、および200nMのd5PAOならびに50nM、75nM、および100nMのPAOは、α-シヌクレインを過剰発現するSH-sy5y細胞の生存能力を、α-シヌクレイン過剰発現群と比べて有意に増加させることが示された。細胞上清中のα-シヌクレインはELISAキットで検出した。その結果、50nMのd5PAOは、上清中のα-シヌクレイン含有量を有意に増加させ、PAOおよびd5PAOは、α-シヌクレインを増加させる同様の傾向を示したことが示された(
図8)。
【0175】
実施例7. ゴーシェ病に対するd5PAOおよびPAOの治療作用
1. CBE誘導性SH-SY5Y細胞のアポトーシスまたは死滅に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用
Conduritol Bepoxide(CBE)は、リソソームグルコセレブロシダーゼGBA遺伝子にコードされるGBA1酵素の阻害物質であり、ゴーシェ病(GD)の細胞モデルおよび動物モデルの構築によく使用されるものである。SH-SY5Y細胞をCBEで48時間処理し、SH-SY5Y細胞の細胞生存能力の濃度依存的な減少をもたらした(
図9A)。100μMのCBEを選択してその後の実験に使用した。SH-SY5Y細胞を100μMのCBEで24時間処理し、様々な群に従って特定の濃度のd5PAOまたはPAOと24時間共培養した。細胞生存能力をMTTにより検出した。実験結果では、100μMのCBE処理群と比較して、100μMのCBE+25nM、50nMおよび100nMのd5PAO共処理群ならびに100μMのCBE+25nM、50nMおよび100nMのPAO共処理群の細胞生存能力が有意に増加し(
図9Bおよび9C)、SH-SY5Y細胞のCVE誘発アポトーシスまたは死滅に対してd5PAOまたはPAOが保護作用を有することを示している。
【0176】
2. リソソーム蓄積減少およびグルコシルセラミド(GlcCer)排出促進に対するPAOの作用
GDはリソソーム蓄積症の代表的なタイプである。d5PAOおよびPAOがCBE誘導性リソソーム蓄積を軽減するかどうかを、リソソームマーカーであるLyso-tracker red DND99を用いて検討した。実験の結果、対照群(ctrl)と比較して、100μMのCBE処理群および100μMのCBE Lyso-trackerの蛍光強度は増加し(
図10Aおよび10B)、これは、CBE処理がSH-SY5Y細胞のリソソーム蓄積を引き起こすことを示している。100μMのCBE処理群と比較して、100μMのCBE+50nMおよび100nMのPAO共処理群におけるLyso-trackerの蛍光強度は、有意に減少した(
図10Aおよび10B)。GDの基本的な欠陥は、グルコセレブロシダーゼの活性の欠如にある。しかし、この酵素は主にグルコセレブロシドをグルコースおよびGlcCerに分解する過程を仲介している。そのため、GD患者やCBE処理細胞では、GlcCerなどの基質の貯蔵が起こっている。SH-SY5Y細胞モデルにおいて、PAOがGlcCer貯蔵に影響を与えるかどうかをさらに検討するために、細胞および細胞培養液の上清中の異なる側鎖のGlcCer含有量をLC-MSによって検出した。検出の結果、100μMのCBE処理群の細胞中の各種側鎖のGlcCer濃度は対照群(ctrl)よりもはるかに高く、100μMのCBE+50nMのPAO共処理群のGlcCer濃度は100μMのCBE処理群のそれよりも低いことが示された(
図10C)。また、100μMのCBE処理単独では、細胞培養液の上清中のGlcCerが減少したが、100μMのCBE+50nMのPAO共処理群では、GlcCer濃度が増加した(
図10D)。
【0177】
3. リソソーム蓄積低減の促進に対するPI4Kaノックダウンの作用
これまでの研究で、低濃度(<5μM)のPAOは主にホスファチジルイノシトール4キナーゼ(PI4KIIIα)に作用することが示されている。線維症において標的スポットPI4KIIIαに対するPAOのの作用をさらに調べるため、PI4KIIIαタンパク質をコードする遺伝子配列PI4Kaに対してshRNA干渉レンチウイルスベクター(緑色蛍光タンパク質GFP発現配列付き)を設計した。ウエスタンブロットの結果、SH-SY5Y細胞にPI4Kaを標的とする3つのshRNA干渉レンチウイルスベクターを48時間トランスフェクトした後、干渉配列sh1、sh2およびsh3は全て処理群のPI4KIIIαの発現レベルを著しく低下させた(
図11Aおよび
図11B)。また、細胞をshRNA干渉レンチウイルスベクターで48時間処理した後、免疫蛍光染色により、Lyso-trackerの蛍光強度を観察した。sh-ctrl群と比較して、sh-ctrl+100μMのCBE共処理群では、Lyso-trackerの免疫蛍光強度が有意に増加した。また、sh-ctrl+100μMのCBE共投与群と比較して、sh1-PI4Ka+100μMのCBE共投与群のLyso-trackerの免疫蛍光強度は、有意に減少していた(
図11C)。以上の結果では、PI4Kaノックダウンにより、リソソーム蓄積の減少が促進されることそ示している。
【0178】
実施例8.肺線維症に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用
肺線維症(PF)は、様々な要因によって引き起こされる慢性線維性肺疾患として、主に乾いた咳と進行性の呼吸困難が現れるものである。予後不良であり、現在も治癒が困難な疾患である。PFの主な病理学的特徴は、正常な肺組織構造が破壊された後の過剰な瘢痕修復であり、最終的に呼吸不全に至る。肺線維症の病態生理学的メカニズムに関する研究は大きく進展しているが、その病因は完全には解明されておらず、臨床的には有効な治療薬が不足しているのが現状である。
【0179】
ヒト胎児肺線維芽細胞、すなわちMRC-5細胞は、PFの病的変化や薬物開発を研究するための重要な細胞ツールである。PFの発生過程では、トランスフォーミング増殖因子-1(TGF-β1)などの関連転写因子が線維芽細胞の異常な活性化、増殖および移動を制御し、細胞外マトリックス(ECM)の異常沈着と肺胞構造の破壊を引き起こし、最終的にPFの形成に至る。TGF-β1は、PF誘導の重要な因子の一つとして、対応する受容体に結合することにより、線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換を制御することができる。したがって、MRC-5細胞は、通常、実験プロセスにおいて特定の濃度のTGF-β1で処理して、線維症の進展を促進する。d5PAOおよびPAOは、それぞれオキソフェニルアルシンおよびそのバリアントである。予備的な研究では、PAOはPFを阻害する可能性があることが示された。
【0180】
実験方法
MRC-5細胞の培養および処理
MRC-5細胞は、中国科学院分子細胞科学精鋭化センター(Center for Excellence in Molecular Cell Science, the Chinese Academy of Sciences)から購入した。細胞培養説明書に従い、10%牛胎児血清(FBS)を含むMEM(Gibco)中で、37℃、5%CO2の飽和湿度の恒温培養器で24時間培養し、壁に接着させた。翌日、5ng/mLのTGF-β1(Proteintech Group, HZ-1011)を添加し、群によって異なる濃度のPAOまたはd5PAOを含むMEM(Gibco)を添加した。実験上の必要性に応じて、細胞をさらに24時間培養した。各群は以下の通りである:対照群(ctrl)、5ng/mLのTGF-β1群、5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO群)、5ng/mLのTGF-β1+25nMのd5PAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+25nMのd5PAO群)、5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAO群)および5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO群)。
【0181】
ラット間葉系幹細胞の初代培養および処理
6週齢のSprague-Dawley(SD)ラット(Shanghai Slack Experimental Animal Co., Ltd.)を抱水クロラールで麻酔し、75%エタノールで滅菌し、スーパークリーンベンチで解剖して脛骨と大腿骨を取り出した。脛骨と大腿骨の両端を滅菌したハサミで切除して、骨髄腔を露出させた。骨髄腔を10%FBSを含むMEM 5mLで洗い流した。骨髄を含む洗い流した液体を培養皿に加え、70μmのセルストレーナーで濾過し、2000rpmで3分間遠心分離した。上清を除去し、10%FBSを含むMEMに細胞を再懸濁した。細胞をプレートに播種後、37℃、5%CO2、飽和湿度の恒温インキュベーターで6時間インキュベートした。次に、非付着性細胞を培地交換により除去した。80%密度まで成長したところで、細胞を2.5%トリプシンで1分間消化させ、1:2の割合で継代した。免疫蛍光実験用の間葉系幹細胞は、24ウェルプレートのカバースリップ上に、3000~5000個/ウェルで播種する。観察して細胞密度が70%になった時点で、群別に異なる濃度のPAOまたはd5PAOを含むMEM(FBSを含まない)を添加した。次に、このプレートを37℃、5%COの飽和湿度の恒温インキュベーターで24時間インキュベートした。群は以下の通りである:対照群(ctrl)、50nMのd5PAO処理群、25nMのd5PAO処理群、50nMのPAO処理群および25nMのPAO処理群。
【0182】
免疫蛍光染色
MRC-5細胞を24時間処理した後、上清を吸引した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加して3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)を添加した。得られた混合物を室温で30分間静置した。4%PFAは廃棄した。次に、PBSを添加して10分ずつ3回洗浄し、0.3%非イオン性洗浄剤Triton-X(PBS中)を添加した。得られた混合物を室温で30分間静置した。0.3%Triton-Xを吸引した。10%ヤギ血清(GS)を含むPBSブロッキング緩衝液を添加した。混合物を室温で1時間静置した。一次抗体を4℃で一晩インキュベートした(一次抗体を10%GSブロッキング緩衝液で1:200に希釈した;α-平滑筋アクチン(ウサギ抗α-平滑筋アクチン、Cell Signaling Technology #19245);Calponin1希釈比は1:100)。
【0183】
翌日、PBSを添加して3回、各回10分ずつ洗浄した。二次抗体Alexa Flour555 ヤギ-抗ウサギIgG(Molecular Probes)をインキュベートし、ブロッキング緩衝液で1:500に希釈し、1μg/mLの4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を添加した)。得られた混合物を室温で2時間静置した。PBSを添加して3回、各回10分ずつ洗浄した。封鎖剤でカバースリップをスライドに付着させ、顕微鏡で観察した。骨髄間葉系幹細胞の免疫蛍光染色法は、上記と同じである。
【0184】
ウエスタンブロット実験
1) 細胞培養皿を氷上に置き、上清を吸引し、細胞を予め冷却したPBSで3回洗浄し;
2) 細胞溶解物を120μL/ウェルで添加し、細胞培養皿を氷上に水平に30分間置き;
3) 細胞スクレーパーを用いて溶解物を削り、1.5mL EP管に収集し;
4) 15000gで15分間遠心分離を行い、上清を新しいEP管に収集し、5μLの試料を取りタンパク質含有量検出(BCA法)にかけ、残りの溶解物に1/4(容量)のローディング緩衝液を添加し;
5) 得られた混合物を水中で5分間煮沸し;
6) 10%SDS分離ゲルを調製し、スタッキングゲルを調製し;
7) SDS-PAGEゲル電気泳動により、分子量の異なるタンパク質を分離し;
8) 湿式転写緩衝液を調製し、0.45μm PVDF膜を使用して膜転写実験を行い;
9) 5%スキムミルクを添加し、室温で1時間ブロッキングを行い;
10) 洗浄後、一次抗体を4℃で一晩インキュベートし;
11) 翌日、TBST溶液を添加して3回洗浄し、二次抗体をインキュベートし、次に、室温で2時間静置し;
12) ECL顕色剤を添加して発色させ、GEを添加した。
【0185】
酵素免疫測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay):ヒトコラーゲンタイプIELISAキット
合計8サンプル:対照群(ctrl)、5ng/mLのTGF-β1群、5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO群)、5ng/mLのTGF-β1+25nMのd5PAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+25nMのd5PAO群)、5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAO群)および5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO共処理群(5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO群)。
【0186】
ヒトコラーゲンタイプIELISAキットはNovus Biologicals(Catalog No. NBP2-30102)から購入し、説明書に従って以下の実験工程を実施した:
1) 標準曲線試料(4000pg/mL、2000pg/mL、1000pg/mL、500pg/mL、250pg/mL、125pg/mL、62.5pg/mLおよび0pg/mL)を標準希釈剤を用いて調製し;
2) 各ウェルに試験する試料(3つのウェル)または標準曲線試料を100μL添加し、プレートを封止フィルムで密封し、37℃で2時間インキュベートし;
3) 上清を吸引し、洗浄の必要はなく;
4) 検出試薬A溶液100μLを各ウェルに加え、プレートを封止フィルムで密封し、37℃で1時間インキュベートし;
5) 上清を廃棄し、1×洗浄溶液350μLを各ウェルに加え、オシレータで2分間洗浄し、プレートを無塵紙の上に反転して置き、叩いて上清を除去し、連続3回洗浄し;
6) 検出試薬B溶液100μLを各ウェルに加え、プレートを封止フィルムで密封し、37℃で30分間インキュベートし;
7) 上清を廃棄し、1×洗浄溶液350μLを各ウェルに加え、オシレータで2分間洗浄し、プレートを無塵紙の上に反転して置き、叩いて上清を除去し、連続5回洗浄し;
8) その後、各ウェルにTMB基質を90μL添加し、プレート内の液体が徐々に青色に変わり、レートを封止フィルムで密封し、室温で10分間静置し;
9) 各ウェルに停止溶液50μLを添加し、プレート内の液体が黄色変わり;
10) マイクロプレートリーダーを用い、450nMの吸収波長で読み取り、データを分析した。
【0187】
shRNAレンチウイルスベクターの構築および処理
PI4Ka干渉用shRNAレンチウイルスベクターは、Genomeditech (Shanghai) Co., Ltd.により設計、製造された。ベクター情報:pGMLV-SC5 RNAiベクター(
図12)。
【0188】
【0189】
MRC-5細胞を、10%牛胎児血清(FBS)を含むMEMで、37℃C、5%CO2飽和湿度恒温インキュベーターで24時間インキュベートして、壁に付着させた。翌日、群別にレンチウイルスベクターを1μL/ウェルで添加した。24時間後、5ng/mLのTGF-β1を群別に添加し、混合物を24時間共インキュベートした。タンパク質を収集してウエスタンブロット実験または免疫蛍光染色に使用した。
【0190】
統計
蛍光強度処理はImage Jソフトウェアを用いて行い、データ処理と統計はGraphPad prism 5ソフトウェアを用いて行い、データは平均値±平均値の標準誤差(平均値±SEM)で示した。群間の差は一元ANOVAにより比較・分析し、p<0.03で統計的な差を示した。
【0191】
実験結果
MRC-5細胞を、5ng/mLのTGF-β1を含むMEM(FBSを含まない)で24時間処理し、群別に異なる濃度のd5PAOまたはPAOで処理した。対照群と比較して、単独または特定の濃度のd5PAOまたはPAOと組み合わせて使用したTGF-β1は、有意な細胞死滅またはアポトーシスを引き起こさなかった(
図13)。α-平滑筋アクチン(α-SMA)およびアクチン結合タンパク質(Calponin1)は、筋線維芽細胞のマーカーである。d5PAOおよびPAOが肺線維症に対する調節作用を有するかどうかを調べるために、α-SMAおよびCalponin1を別々に検出した。ウエスタンブロット実験の結果、以下のように示した:対照群(ctrl)と比較して、5ng/mLのTGF-β1処理群ではα-SMAの発現レベルが有意に上昇し、これは、5ng/mLのTGF-β1で24時間処理したMRC-5細胞が細胞の線維症を起こしていることを示しており、一方、25nM、50nMおよび100nMのd5PAOならびに50nMおよび100nMのPAOは、用量依存関係で5ng/mLのTGF-β1によって誘導されるα-SMA過剰発現を有意に阻害した(
図14Aおよび14B)。Calponin1のウエスタンブロット実験結果は、上記のα-SMAの結果と同様であった。ctrl群と比較して、5ng/mLのTGF-β1処理群のカルポニン1の発現レベルは有意に増加し、特定の濃度のd5PAOまたはPAO+5ng/mLのTGF-β1共処理群のCalponin1の発現レベルは、5ng/mLのTGF-β1処理群のそれよりも有意に高かった(
図14A及び
図14C)。また、免疫蛍光アッセイの結果もウエスタンブロットの結果と一致しており、5ng/mLのTGF-β1処理群のα-SMAの発現レベルは、対照群よりも有意に高かった(
図15Aおよび
図15C)。5ng/mLのTGF-β1+25nMのd5PAO、5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO、5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO、5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAO共処置群のα-SMAの発現レベルは対照群と有意差はなかった。しかし、5ng/mLのTGF-β1+25nMのd5PAO、5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO、5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO、および5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAO共処理群のαSMAの発現レベルは、5ng/mLのTGF-β1処理群と比較して有意に低下した(
図15A、
図15C)。アクチン結合タンパク質(Calponin1)の免疫蛍光アッセイの結果は、上記のα-SMAの結果と一致した(
図15Bおよび
図15D)。これらの結果は、d5PAOおよびPAOが、TGF-β1によって誘導されるMRC-5細胞の線維化過程を有意に阻害することができることを示した。
【0192】
骨髄間葉系幹細胞(bMSC)におけるCalponin1発現に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用
肺線維症は有効な治療薬や治療法がなく、幹細胞はそのユニークな生物学的性質と潜在的な生物医学的応用価値から、近年肺線維症処置におけるホットな研究分野になっている。間葉系幹細胞(MSC)は、低免疫原性、多様な分化能、免疫調節能、抗炎症能、供給源が広い、分離培養が容易、倫理的問題が少ないなどの利点から、創傷組織修復、臓器機能再建および細胞治療などに最適な工学細胞となっている。そこで、ラット骨由来MSCを分離培養し、d5PAOおよびPAOがMSCのCalponin1発現を制御するか否かを検討した。分離したMSCは、10%FBSを含むMEMで培養し、次に免疫蛍光実験では24ウェルプレートのカバースリップ上に3000~5000/ウェルで播種した。観察して細胞密度が70%になった時点で、群別に異なる濃度のPAOまたはd5PAOを含むMEM(FBSを含まない)を添加した。次に、プレートを37℃、5%CO
2飽和湿度恒温インキュベーターで24時間インキュベートした。免疫蛍光アッセイの結果では、MSCを24時間処理した25nMおよび50nMのd5PAOならびに25nMおよび50nMのPAOが、MSCにおけるCalponinの発現を阻害する傾向を有することを示した(
図16)。
【0193】
TGF-β1で処理したMRC-5細胞からのI型コラーゲン(COL1)分泌に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用
COL1は、細胞外マトリックスの重要な構成成分の一つである。これまでの研究で、TGF-β1がMRC-5細胞の線維化過程におけるCOL1の分泌を有意に増加させることが示されている。d5PAOおよびPAOが肺線維症を阻害する過程でCOL1の分泌を調節できるかどうかをさらに検討するために、細胞上清中のCOL1レベルをELISAにより検出した。MRC-5細胞を5ng/mLのTGF-β1を含むMEM(FBSフリー)で24時間処理し、群別に異なる濃度のd5PAOまたはPAOで24時間処理した。上清をまとめELISAに供した。実験の結果、以下のように示した:ctrl群と比較して、5ng/mLのTGF-β1処理群の細胞上清中のCOL1レベルは有意に上昇し、5ng/mLのTGF-β1+25nMの d5PAO、5ng/mLのTGF-β1+50nMのd5PAO、5ng/mLのTGF-β1+100nMのd5PAO、5ng/mLのTGF-β1+25nMのPAO、5ng/mLのTGF-β1+50nMのPAOおよび5ng/mLのTGF-β1+100nMのPAO共処理群の細胞上清中のCOL1レベルは、5ng/mLのTGF-β1処理群と比較して低下し(
図17Aおよび17B)、これは、d5PAOおよびPAOがMRC-5細胞モデルにおけるCOL1の分泌を阻害することができることを示している。
【0194】
MRC-5細胞の線維化に対するPI4Kαノックダウンの阻害作用
これまでの研究で、低濃度(<5μM)のPAOは主にホスファチジルイノシトール4キナーゼ(PI4KIIIα)に作用することが示されている。線維化の間の標的スポットPI4KIIIαに対するPAOのの作用をさらに調べるために、PI4KIIIαタンパク質をコードする遺伝子配列PI4Kaに対してshRNA干渉レンチウイルスベクター(緑色蛍光タンパク質GFP発現配列付き)を設計した。ウエスタンブロットの結果、MRC-5細胞にPI4Kaを標的とする3つのshRNA干渉レンチウイルスベクターを48時間トランスフェクトした後、干渉配列sh1、sh2およびsh3は全て処理群のPI4KIIIαの発現レベルを有意に低下させた(
図18Aおよび
図18B)。shRNA干渉レンチウイルスベクターによる処理を48時間行い、次に、免疫蛍光染色法によりCalponin1およびα-SMAの発現を観察した。ベクター対照群(sh-ctrl)と比較して、sh-ctrl+5ng/mLのTGF-β1共処理群では、α-SMAの発現レベルが有意に上昇した。sh-ctrl+5ng/mLのTGF-β1共処理群と比較して、sh1+5ng/mLのTGF-β1共処理群およびsh3+5ng/mLのTGF-β1共処理群のα-SMAの発現レベルは有意に低下し、sh2+5ng/mLのTGF-β1共処理群のα-SMAの発現レベルも低下傾向を示している(
図19Aおよび
図19C)。Calponin1の観察結果は、α-SMAの観察結果と一致し(
図19Bおよび
図19D)、PI4KαノックダウンがMRC-5細胞の線維化を阻害していることを示している。
【0195】
実施例9. d5PAOおよびPAOの抗炎症作用の比較
【0196】
マウスミクログリア細胞BV2における炎症性因子放出に対するd5PAOおよびPAOの阻害作用
BV2細胞は、v-raf/v-mycによるマウスミクログリア細胞のレトロウイルス介在トランスフェクションによって不死化されたもので、ミクログリア細胞の多くの形態学的、表現的、および機能的特徴を保持します。、ミクログリア細胞の多くの形態的、表現的、機能的特徴を保持している。神経系の炎症に関連する実験では、実験用の炎症細胞モデルを得るために、リポポリサッカライド(LPS)を用いてBV2細胞を刺激することが一般的である。この実験では、LPSを用いてBV2細胞を刺激して、炎症細胞モデルを得た。腫瘍壊死因子α(TNF-α)やインターロイキン-6(IL-6)などの炎症性因子の分泌に対するd5PAOおよびPAOの作用を観察し、実験では一般的に使用される抗炎症薬であるインドメタシンを陽性対照として使用した。
【0197】
細胞培養・処理
BV2細胞を10%FBS添加高グルコースDMEMで37℃、5%CO2細胞インキュベーターにて48時間培養した。培養液を除去し、1μg/mLのLPS(リポポリサッカライド、Sigmaより購入、Catalog No.L2880)を含む高グルコースDMEM(FBS不含)に置き換えた。群別に異なる濃度のd5PAOまたはPAOを細胞とともに24時間インキュベートした。上清を集め、遠心分離して、その後の実験に使用した。群は以下の通りである:対照群(ctrl)、1μg/mLのLPS群、1μg/mLのLPS+50nMのd5PAO共処理群(1μg/mLのLPS+50nMのd5PAO群)、1μg/mLのLPS+25nMのd5PAO共処理群(1μg/mLの LPS+25nMのd5PAO群)、1μg/mLのLPS+12.5nMのd5PAO共処理群(1μg/mLのLPS+12.5nMのd5PAO)、1μg/mLのLPS+50nMのPAO共処理群(1μg/mLのLPS+50nMのPAO群)、1μg/mLのLPS+25nMのPAO共処理群(1μg/mLのLPS+25nMのPAO群)、1μg/mLのLPS+12.5nMのPAO共処理群(1μg/mLのLPS+12.5nMのPAO群)および1μg/mLのLPS+100μMのインドメタシン共処理群。
【0198】
マウス腫瘍壊死因子α(TNF-α)ELISA
マウス腫瘍壊死因子α(TNF-α)ELISAキットは、Signalway Antibody LLCより購入した(Catalog No.EK16997)。製品の説明書に従い、以下の実験を行った:
1) 希釈緩衝液を用い、10ng/mL、5ng/mL、2.5ng/mL、1.25ng/mL、0.625ng/mL、0.312ng/mL、0.156ng/mLおよび0の標準液を調製し;
2) 検出試薬Aおよび検出試薬Bを軽く振動させ、希釈緩衝液で試薬Aおよび試薬Bを母液の1/100に希釈し、希釈標準溶液濃度とした。
3) 洗浄溶液を脱イオン水で母液の1/30に希釈し、希釈標準溶液を形成させ;
4) 各ウェルに試験する試料または標準試料を100μLずつ加え、プレートを封止フィルムで密封し、37℃で2時間インキュベートし;
5) 上清を除去し、洗浄の必要はく;
6) 各ウェルに検出試薬A希釈標準溶液を100μL添加し、プレートを封止フィルムで密封し、37℃で1時間インキュベートし;
7) 上清を廃棄し、洗浄溶液の希釈標準溶液300μLを添加して3回洗浄し、各回2分間静置し、次に、プレートを無塵紙上に反転して置き、洗浄溶液を可能な限り除去し;
8) 各ウェルに検出試薬B希釈標準溶液100μLを添加し、プレートを封止フィルムで密封し、37℃で1時間インキュベートし;
9) 工程7)の方法に従い、プレートを5回洗浄し;
10) 各ウェルに基質溶液90μLを添加し、プレート上で液体を観察して青色に変わったら、プレートを封止フィルムで密封し、37℃、暗所で20分間インキュベートし;
11) 各ウェルにStop solution50μLを添加し、プレート上で液体を観察して青色の液体が黄色に変わったら、プレートを封止フィルムで密封し、得られた混合物をシェーカーを用いて回転、振盪し、10分間均一に混合し;そして
12) マイクロプレートリーダー(NOVOstar液体移動式マイクロプレートリーダー)を用いて、波長450nMにおける試料の吸光値を読み取った。
【0199】
マウス IL-6 ELISA実験
マウスIL-6 ELISAキットは、Proteintech groupより購入した(Catalog No.KE10007)。製品の説明書に従って、以下の実験を行った:
【0200】
各濃度の標準曲線試料または検体を100μLアッセイプレートの対応するウェルに加え、クロモゲンブランクのウェルを確保し;カバーフィルムを加湿箱に入れて、プレートを37℃で2時間インキュベートした。各ウェルに洗浄溶液350μLを添加して4回、毎回1~2分間洗浄し、液体残留物をできるだけ少なくした。各ウェルに希釈抗体溶液(検出抗体溶液)100μLを添加し、カバーフィルムを加湿箱に入れて、37℃で1時間インキュベートしました。洗浄は毎回1~2分間4回繰り返し、液体残留物をできるだけ少なくした。各ウェルにHRPコンジュゲート抗体を100μL添加し、カバーフィルムを加湿箱に入れて、37℃で40分間インキュベートした。洗浄を4回繰り返し、液体残留物をできるだけ少なくした。各ウェルにTMB基質溶液を100μL添加し、プレートをフィルムで覆い、37℃、暗所で15分間インキュベートした。溶液は青色に変わった。各ウェルにStop solutionを100μL添加し、混合物を軽く振盪して均一に混合した。溶液が黄色に変わったら、NOVOstar(液体搬送式)マイクロプレートリーダーを用いて、できるだけ速く吸収波長450nmで読み取った。
【0201】
統計
データ処理および統計はGraphPad prism 5ソフトウェアを用いて行い、データは平均値±平均値の標準誤差(mean ± SEM)で示した。群間の差は一元ANOVAで比較・分析し、p<0.03と統計的な差を示した。
【0202】
実験結果
BV2細胞を10%FBS添加高グルコースDMEMで37℃、5%CO
2細胞インキュベーターにて48時間培養し、培養液を除去し、1μg/mLのLPSを含む高グルコースDMEM(FBS不含)に置き換えた。この細胞を様々な濃度のd5PAOまたはPAOと24時間共インキュベートし、上清を集め、培養液中のIL-6およびTNF-αの濃度をELISA(酵素結合免疫吸着測定法)により検出した。実験の結果、対照群(ctrl)と比較して、1μg/mLのLPS処理群のBV2細胞の上清中のIL-6およびTNF-αの濃度は有意に上昇し、これは、BV2細胞を1μg/mLのLPSで処理することにより、炎症性因子の放出が促進されたことが示された(
図20A~
図20D)。1μg/mLのLPS処理群と比較して、100μMの陽性薬物(インドメタシン)はTNF-αの分泌を有意に阻害した(
図20A~
図20B)。陽性薬物の結果と同様に、1μg/mLのLPS+12.5nM、25nMおよび50nMのd5PAO共処理群ならびに1μg/mLのLPS+12.5nM、25nMおよび50nMのPAO共処理群の上清中のTNF-αの濃度は、1μg/mLのLPS処理群と比較して有意に減少し、これは、d5PAOおよびPAOがLPSによるTNF-αの放出を阻害することができることを示している。また、IL-6のELISAの結果では、特定の濃度のd5PAOおよびPAOで処理することにより、LPSによるBV2細胞からのIL-6の分泌を阻害する傾向が示された(
図20C~
図20D)。以上の実験から、特定の濃度のd5PAOおよびPAOは、LPSによるBV2細胞からの炎症性因子の放出を阻害することができることが示された。
【0203】
実施例10. d5PAOおよびPAOの抗腫瘍作用の比較
1. 腫瘍細胞モデルにおけるPAOおよびd5PAOの薬力学的実験
実験方法
【0204】
細胞のプレーティング
完全培地を調製し、均一に混合した。解凍した原発性腫瘍細胞(Shanghai ChemPartner)を約2世代継代し、成長条件の良い細胞株を選択した。細胞の付着:培養液を吸引し、トリプシンを添加して洗浄し、廃液を廃棄し、培養フラスコに新鮮なトリプシン3mLを加えて消化させた。細胞がフラスコ壁から剥離しそうになった時点で、完全培地8mLを加えてトリプシンによる消化を停止し、次いで軽く混合した。細胞懸濁液を遠心管にピペッティングし、次いで1000rpmで4分間遠心した。細胞懸濁:細胞懸濁液を遠心管にピペッティングし、1000rpmで4分間遠心分離した。上清は廃棄した。遠心管に適切な容量の培養液を加え、軽くブローすることにより細胞を均一に再懸濁させた。Vi-Cell XRセルカウンターを用いて、細胞を計数した。細胞懸濁液を適切な濃度に調整した。
【0205】
化合物プレートの調製および添加
試験する化合物:DMSO中の化合物の10mM溶液を調製し、化合物PAOおよびd5PAOをDMSO中0.5mM溶液に希釈した。HPD300装置を用いて対応する細胞ウェルに化合物を添加し、CO2インキュベーターで72時間インキュベートした。
【0206】
試薬の調製および試験
CellTiter-Glo緩衝液を室温で融解した。凍結乾燥したCellTiter Glo基質を室温に平衡化した。CellTiter-Glo緩衝液をCellTiter Glo基質に添加し、十分に均一に混合した。細胞プレートを取り出し、室温に平衡化した。各ウェルに均一に混合したCellTiter Glo試薬100マイクロリットルを添加し、暗所で10分間振盪した、次いで10分間インキュベートした。培養プレートをEnvision読み取りプレートに入れ、ルミネセンス読み取り結果を記録した。阻害率は、以下の式に従って計算した:阻害率(%)=(1-(RLU化合物-RLUブランク)/(RLU DMSO-RLUブランク))×100%。XLFitを用いて薬力学的阻害率曲線をプロットし、IC50値を計算した。4パラメータモデル
【数1】
を使用した。
【0207】
実験結果
下記の表5に示すように、d5PAOおよびPAOの両方ともに試験した腫瘍細胞に対して阻害作用を示し、その阻害作用(IC50)は同程度であった。d5PAOのIC50はやや低かった。U2-OSおよびA-375細胞に対して最も強い阻害作用を示し、IC50は50nM未満であり、HeLa、SK-HEP-1、Daudi、EL4、HL-60、Jurkat、Clone E6-1およびNAMALWA細胞に対しては比較的強い阻害作用があり、IC50は50~100nMであった。A-431細胞に対する阻害作用は最も弱く、IC50は約300nMであった。しかし、他の細胞ではIC50は100~200nMであった。PAO(オリジナル化合物)およびd5PAO(ペンタ重水素化化合物)と比較すると、ほとんどの腫瘍細胞に対する一重水素化化合物d1PAOの有効阻害濃度は200nMを超えており、これは、腫瘍細胞に対する一重水素化化合物の阻害作用はPAOおよびd5PAOほどではないことを示している。
【0208】
【0209】
2. マウス腫瘍モデルに対するPAOおよびd5PAOの薬力学的実験
実験動物は、Beijing Biocytogen Co., Ltd.の動物センターのSPFバリア施設で飼育した。バリアシステムの温度は20℃~26℃、湿度は40%~70%に制御した。明暗周期は12時間ごとにシフトした。SPFグレードの成長・繁殖用飼料はBeijing Keao Xieli Feed Co., Ltd.から購入した。飲用水はオートクレーブで滅菌した酸性水(pH2.5~3.0)を使用した。動物は無菌の餌と水を自由に摂取できる
【0210】
2.1 乳癌に対するPAOの阻害作用
実験方法
【0211】
PDXモデルの接種および群分け
接種用のPDX腫瘍が約800~1000mm3に成長した後、無菌状態で腫瘍を取り出し、RPMI1640培養液に入れ、石灰化や分泌物などの非腫瘍組織を除去し、次に、腫瘍を均一なサイズ(3×3×3mm)に小片化し、乳癌PDXモデル(BP1395)の皮下接種に使用した。マウスの右側胸部皮膚をヨードフォルで消毒し、はさみで約3~5mm切開し、接種針で腫瘍片をマウスの右側胸部に皮下接種した。平均腫瘍体積が約100mm3に達した時点で、腫瘍体積が中程度のマウスを取り、腫瘍体積に応じてランダムに4つの実験群に分け、1群8匹とした。投与は群分けした当日から開始した。全群に群分け当日に試験物質PAOを1日1回、計20回経口(P.O.)投与した。パクリタキセルは週1回、計4回静脈内投与した。動物は、実験終了時または人道的終点で過剰なCO2で安楽死させた。
【0212】
腫瘍の体積:群分け後、週2回、ノギスを用いて腫瘍体積を測定した。安楽死させる前に、腫瘍体積を測定し、腫瘍の長径と短径を測定した。体積計算式は以下の通りである:腫瘍体積=0.5×長径×短径2。
【0213】
体重測定:動物に接種し、群分けを行い(すなわち、初回投与前)、投与中は週2回体重を測定し、安楽死前に体重を測定した。
【0214】
薬物の評価指標:
腫瘍体積阻害率(TGITV)
TGI(%)=[1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100
(Ti:投与後i日目の処置群の平均腫瘍体積、T0:投与後0日目の処置群の平均腫瘍体積、Vi:投与後i日目の溶媒対照群の平均腫瘍体積、V0:投与後0日目の溶媒対照群の平均腫瘍体積)
【0215】
腫瘍重量阻害率(TGITW):
実験終了後、生きている動物を安楽死させ、次に、腫瘍組織を摘出した。腫瘍重量を秤量し、各群の腫瘍重量差を算出し、さらに腫瘍重量阻害率(TGITW)を算出した。計算式は以下の通りである:
腫瘍重量阻害率(TGITW)%=(W溶媒対照群-W処置群)/W溶媒対照群×100%(ここで、Wは腫瘍重量を意味する。)
【0216】
データ収集および統計分析:
分析はオリジナルデータに基づいて行い、結果は平均値±平均値の標準誤差(Mean±SEM)で示した。同時に、腫瘍体積を統計的に分析し、P<0.05と統計的な差異を示した。結果を分析する際には、統計学的および生物学的な有意性の両方を考慮した。
【0217】
実験結果:
実験では、すべての動物が投与中に良好な活動性と摂食状況を示した。また、非腫瘍マウスの体重はある程度増加し、腫瘍マウスの体重は若干減少したことから、これは、試験物質に対する動物の耐性が良好であったことを示している。群分け・投与後21日目の溶媒対照群G1の平均腫瘍体積は436±40mm
3であった。処置群G2(PAO、2mg/kg)、G3(パクリタキセル、7mg/kg)およびG4(パクリタキセル、7mg/kg+PAO、2mg/kg)の平均腫瘍体積はそれぞれ519±96mm
3、290±63mm
3および162±26mm
3で、腫瘍体積阻害率(TGI
TV)はそれぞれ-25.7%、44.8%および84.1%(P=0.01)であった。この結果は、PAOとパクリタキセルを組み合わせることで、腫瘍の成長を効果的に阻害できることを示したいる(
図21)。
【0218】
2.2リンパ腫に対するPAOの阻害作用
実験方法
ATCCから購入したマウスリンパ腫SU-DHL-1細胞を、10%不活性化牛胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地で、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
【0219】
腫瘍細胞の接種および群分け:
PBSに再懸濁したSU-DHL-1リンパ腫細胞を、B-NGGヒト化マウスの右側面に、1×107細胞/0.1mLおよび0.1mL/マウスで皮下接種した。平均腫瘍体積が約100mm3に達した時点で、腫瘍体積が中程度のマウス36匹を取り、腫瘍体積に応じて無作為に6実験群に分け、1群6匹とした。群分けした当日から投与を開始した。試験物質PAOは1日1回、計17回投与した。シクロホスファミドは週1回、計4回皮下(i.v.)注射した。動物は、実験終了時または人道的終点に過剰なCO2で安楽死させた。
【0220】
実験結果
実験では、すべての動物が投与中に良好な活動性と摂食状況を示した。非腫瘍マウスの体重はある程度増加し、腫瘍マウスの体重は若干減少したことから、これは、試験物質に対する動物耐性が良好であったことを示している。群分け・投与後17日目の溶媒対照群G1の平均腫瘍体積は3899±272mm
3であった。処置群G2(シクロホスファミド、50mg/kg)、G3(PAO、0.3mg/kg)、G4(PAO、0.6mg/kg)、G5(PAO、1.2mg/kg)およびG6(シクロホスファミド、50mg/kg+PAO 0.6mg/kg)の平均腫瘍体積はそれぞれ367±79mm
3、3427±128mm
3、3784±114mm
3、3735±205mm
3および497±106mm
3であった。腫瘍体積阻害率TGI
TVはそれぞれ、-93%(**P<0.001)、17.2%、3%、4.3%および89.9%(P<0.001**)であった。また、腫瘍重量の実験結果も確認した。シクロホスファミドはリンパ腫の成長を効果的に阻害することができ、PAOとシクロホスファミドの組み合わせ使用は阻害作用をさらに改善するができない(
図22)。
【0221】
2.3 黒色腫に対するd5PAOの阻害作用
実験方法:
A2058細胞をB-NGGマウスの右側面に1×10
7細胞/0.1mLおよび0.1mL/マウスで皮下接種した。平均腫瘍体積が約100mm
3に達した時点で、腫瘍体積が中程度のマウス48匹を取り、腫瘍体積に応じて6つの実験群にランダムに分け、1群あたり8匹とした。G3(生理食塩水/ビヒクル)、G4(d5PAO、0.5mg/kg)、G5(d5PAO、1.5mg/kg)、G6(テモゾロミド、30mg/kg+d5PAO、0.5mg/kg)、G7(テモゾロミド、30mg/kg+d5PAO、1.5mg/kg)およびG8(テモゾロミド、30mg/kg)の群であった。一方、16匹の非腫瘍性マウスを体重に応じて取り、2つの実験群(1群8匹)に等分し、すなわちG1(通常食塩水/ベヒクル)およびG2(d5PAO、1.5mg/kg)であった。試験物質d5PAOを群分け当日に全群に1日1回、計23回、胃内投与した。試験物質テモゾロミドは週4回、計12回投与した。投与中と観察中の週2回、マウスの体重と腫瘍体積を測定し、その測定値を記録した(
図23)。実験終了後、動物を安楽死させ、腫瘍を摘出し、秤量し、写真を撮影し、腫瘍成長阻害率(TGI%)を算出した。
【0222】
実験結果:
実験では、すべての動物が投与中に良好な活動性と摂食状況を示した。非腫瘍マウスの体重はある程度増加し、腫瘍マウスの体重は若干減少し、これは、試験物質に対する動物の耐性は良好であったことを示している。群分け・投与後25日目の溶媒対照群G3の平均腫瘍体積は2806±240mm
3であった。処理群G4(d5PAO 0.5mg/kg)、G5(d5PAO 1.5mg/kg)、G6(テモゾロミド、30mg/kg+d5PAO、0.5mg/kg)、G7(テモゾロミド、30mg/kg+d5PAO、1.5mg/kg)およびG8(テモゾロミド、30mg/kg)の平均腫瘍体積はそれぞれ、2907±295mm
3、2180±312mm
3、1064±164mm
3、1213±155mm
3および1480±136mm
3であった。腫瘍体積阻害率TGI
TVはそれぞれ、-3.7%、23.2%、64.5%、58.9%および49.1%であった。また、腫瘍重量の実験結果も確認した。実験終了時、マウスの腫瘍組織重量は以下の通りであった:G3群(ビヒクル/生理食塩水) 3.413±0.253g;G4群(d5PAO 0.5mg/kg) 3.557±0.379g;G5群(d5PAO 1.5mg/kg2.744±0.459g);G6群(テモゾロミド、30mg/kg+d5PAO、0.5mg/kg) 1.413±0.233g;G7群(テモゾロミド、30mg/kg+d5PAO、1.5mg/kg) 1.442±0.251g;およびG8群(テモゾロミド、30mg/kg) 1.884±0.217g(
図24)。
【0223】
対照群G3と比較して、30mg/kg テモゾロミドを単独で、0.5mg/kgおよび1.5mg/kg テモゾロミドをd5PAOと組み合わせて使用したら、両方ともA2058の皮下移植腫瘍の成長に対して極めて有意な阻害作用があった(P<0.001)。テモゾロミドを単独で使用した場合と比較して、組み合わせ使用で阻害効果をさらに向上させることができる。
【0224】
実施例11. d5PAOおよびPAOの抗腫瘍・カヘキシー作用の比較
癌は人間の死因の第2位であり、世界の死因の6分の1近くが癌によるものである。癌の治療は、主に化学療法、放射線療法、外科療法、免疫療法、遺伝子療法、ホルモン療法などの手段で行われている。現在、化学療法は最も有効な手段の一つである。しかし、化学療法の最大の問題はその副作用である:化学療法薬物が癌細胞を殺すとき、血液、口、消化器系および毛根など体内で早く成長する細胞も殺すため、消化器系の反応、脱毛、骨髄抑制および他のシステムの機能低下などを引き起こすことがある。
【0225】
カヘキシーは、悪液質とも称さ依、極端な痩せ、体重減少、脂肪減少および骨格筋や心筋の溶解低下によって発現し、機能不全が進行し、ついには全身性の機能障害および他の症候群に至る。カヘキシーは、腫瘍、AIDS、重症外傷、術後、吸収不良、重症敗血症など、重度慢性消耗性疾患によって起こることがほとんどである。中でも、腫瘍に伴うカヘキシーは最もよく見られる状況で、腫瘍性カヘキシーとも称される。悪性腫瘍患者の31%~87%はカヘキシーを伴い、腫瘍患者の約20%の直接の死因は、疾患そのものよりもカヘキシーによる栄養障害である。カヘキシーは、膵臓癌、胃癌、肺癌、肝臓癌などと高い相関がある。カヘキシーは癌治療効果に直接影響し、合併症の発生率を高め、クオリティ・オブ・ライフを低下させ、生存期間を短縮させ、治療期間を延長させ、医療費を増加させる。
【0226】
カヘキシーの原因は完全には解明されていないが、近年の研究により、腫瘍細胞または腫瘍細胞の周辺環境にある細胞から放出される様々な病原因子が徐々に明らかになってきている。腫瘍性カヘキシーの発生を遅らせるか予防することは、患者のクオリティ・オブ・ライフの向上や生存期間の延長につながり、抗癌治療計画の主要な部分を占めている。動物実験モデルに対する研究では、腫瘍の発生の間の体重減少を防ぐと生存率が延長することが示されている。腫瘍患者のカヘキシーを処置する主なアプローチは、薬物による体重減少や筋肉損失を抑制することである。これまでのところ、第一選の抗カヘキシー薬のほとんどは、腫瘍性カヘキシーの予防および処置に対して非常に限られた効果しか有していない。
【0227】
1. 健康なマウスの体重に対するPAOおよびd5PAOの影響
C57B/6雄性マウス22匹(2ヶ月齢)および20匹(6ヶ月齢)をマウス飼育ケージに入れ、各ケージ5~6匹ずつ飼育した。そのうち、12匹(2ヶ月齢)および10匹(6ヶ月齢)のマウスにMCT中のd5PAOを2.1mg/kgで毎日に投与し、残りの10匹(2ヶ月齢)および10匹(6ヶ月齢)のマウスにMCT中のPAOを2.0mg/kgで毎日投与した。投与初日から4日ごとの初日には、投与前にすべてのマウスの体重を測定し、その体重を記録した。次の4日間では、体重をもとに,対応する量のPAOまたはd5PAOを胃内投与した。生きているマウスの数は、4日ごとに記録した。
【0228】
その結果は、
図25に示した。d5PAO(2M-d5PAO)処置群およびPAO(2M-PAO)処置群の2ヶ月齢マウスについて、マウスの平均体重は胃内投与の最初の24日間は全く同じで、徐々に増加した。24日目以降、両群のマウスはすべて体重が減少し、その中で2M-PAO群の体重減少は2M-d5PAO群よりも有意に速かった。投与44-48日目には、1匹のマウスが死亡したが、2M-d5PAO群では死亡はなかった。d5PAO(6M-d5PAO)処置群およびPAO(6M-PAO)処置群の6ヶ月齢マウスについては、胃内投与48日目に、両群のマウスの平均体重は全体としてゆらぎながら徐々に減少していた。しかし、投与32日目から6M-PAO群の体重減少は6M-d5PAO群より有意に速くなり、6M-PAO群5匹(50%)、6M-d5PAO群2匹(20%)と両群ともマウスが死亡した。したがって、d5PAOの胃内投与による毒性は、6M-PAOのそれよりも有意に低いものであった。
【0229】
2. 腫瘍動物モデルの体重に対するPAOの影響
2.1 乳癌マウスモデルの体重に対するPAOの影響
パクリタキセルの注射は、動物の体重減少を引き起こすことがある。投与21日目には、動物の体重は101.4%±1.6%(ビヒクル群、0日目の平均体重に対して)から94.3%±2.6%(7mg/kgパクリタキセル群、0日目の平均体重に対して、P = 0.036* )に減少していた。PAOの添加により、パクリタキセルによる体重減少を防ぐことができた(105.3%±2.4T、P=0.187)。PAO自体も、担腫瘍動物の体重を増加させることができることは注目に値する(106.1%±2.5%、P=0.128)(
図26)。
【0230】
2.2 膵臓癌モデルの重量に対するPAOの影響
膵臓癌モデルの確立は上記と同様であった。投与28日目のゲムシタビン(1.5mg/kg)+パクリタキセル(7mg/kg)群の平均体重(104.3%±4.0%、0日目の平均体重に対して)は、ビヒクル群(99.0%±2.2%、0日目の平均体重に対して)と有意差はなかった。しかし、PAOの添加により、116.7%±3.9%まで体重を増加させることができる(P=0.002 vs. ビヒクル群およびゲムシタビン+パクリタキセル群、
図27)。
【0231】
2.3 リンパ腫動物モデルの体重に対するPAOの影響
リンパ腫モデルの確立は上記と同じであった。PAOの添加により、腫瘍の成長をさらに阻害することはできなかったが、シクロホスファミドの注射による体重減少を軽減することができていた。投与17日目、動物の体重は117.4%±1.4%(ビヒクル群G1、0日目の平均体重に対して)から104.7%±1.6%(50mg/kgシクロホスファミド群G2、0日目の平均体重に対して、P<0.01*)に減少していた。シクロホスファミドと組み合わせて使用したPAO(0.6~0.9mg/kg)は、シクロホスファミドによる体重減少を軽減した(G6、111.1%±1.9%、P=0.032 vs. ビヒクル群、P=0.05 vs. シクロホスファミド群)(
図28)。
【0232】
2.4 黒色腫動物モデルの体重に対するd5PAOの影響
健康なマウスと比較すると、担腫瘍マウスの体重は全て減少した。ビヒクル群の担腫瘍マウスと比較して、30mg/kg テモゾロミドを単独で使用するとマウスの体重が減少し(88%±1.5%、0日目に対して)、テモゾロミドを高用量のd5PAO(1.5mg/kg)と組み合わせて使用すると、体重減少を軽減していた(95%±2%、P=0.01vs.テモゾロミド群、P=0.038 vs.ビヒクル群)。d5PAO単独で使用では、担腫瘍動物の体重に有意な影響なかった(
図29)。
【0233】
実施例12. HCoV229E(インフルエンザコロナウイルス)に対するPAOおよびd5PAOの阻害作用
【0234】
試験化合物および対照化合物
対照化合物RemdesivirはWuXi AppTecから提供された。この化合物はDMSO溶液で20mM貯蔵液に調製した。試験試料および対照化合物は、8つの濃度で試験シ、2倍または3倍の勾配で希釈し、2つウェルにした。
【0235】
細胞株、ウイルス株および試薬
MRC5細胞およびHCoV229E株はATCCから購入した。10%牛胎児血清(Hyclone)、1%二重抗体(Hyclone)、1%L-グルタミン(Gibco)、1%非必須アミノ酸(Gibco)を添加したEMEM(Sigma)培養液で培養した。実験用培養液としては、5%牛胎児血清(Hyclone)、1%二重抗体(Hyclone)、1%L-グルタミン(Gibco)および1%非必須アミノ酸(Gibco)を添加したEMEM(Sigma)培養液を使用した。このプロジェクトで使用した主な試薬は、細胞生存能力検出キットCellTiter-Glo(Promega)である。
【0236】
試験方法
MRC5細胞を96ウェルアッセイプレートに20000細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで一晩培養した。翌日、倍率希釈した化合物(8濃度点、2倍または3倍勾配で希釈、2つのウェル)を添加し、次に、ウイルスを200TCID50/ウェルで細胞に添加した。細胞対照(化合物処理、ウイルス感染なしの細胞)、ウイルス対照(ウイルス感染させた細胞、化合物処理なし)、培養液対照(培養液のみ)を設定した。培養液中のDMSOの最終濃度は0.5%であった。細胞インキュベーターで3日間培養した。ウイルスを感染させない以外は同じ実験条件で、細胞毒性実験およびと抗ウイルス実験を同時に行った。細胞生存能力は、細胞生存能力アッセイキットCellTiter Glo(Promega)を用いて検出した。化合物の抗ウイルス活性および細胞毒性はそれぞれ、ウイルスによる細胞変性作用に対する様々な濃度の化合物の阻害率(%)およびMRC5細胞の生存率(%)で示した。計算式は以下の通りである:
阻害率(%)=(試験ウェルの読み取り値-ウイルス対照の平均値)/(細胞対照の平均値-ウイルス対照の平均値)×100
細胞生存率(%)=(試験ウェルの読み取り値-培養液対照の平均値)/(細胞対照の平均値-培養液対照の平均値)×100
【0237】
GraphPad Prism(version 5)を用いて、化合物の阻害率および細胞生存率について非線形フィッティング解析を行い、化合物の半有効濃度(EC50)および半細胞毒性濃度(CC50)を算出した。フィッティングの式は以下の通り:log(inhibitor) vs. response--Variable slope。
【0238】
結果
図30に示すPAOおよびd5PAO薬物の用量反応フィッティング曲線。対照化合物Remdesivirは、期待される抗ウイルス活性および細胞毒性を示した。
【0239】
試験の結果、試験化合物PAOおよびP100はHCoV229Eに対して抗ウイルス活性を有し、EC50値はそれぞれ55.35nMおよび47.21nMであった。試験化合物PAOおよびP100は、MRC5細胞に対して明らかな毒性を示し、CC50値はそれぞれ256.8nMおよび317.5nMであった。
【0240】
実施例13. 低用量d5PAOおよびPAOの抗不安作用および抗うつ作用の比較
試験動物
ICR系雄性マウス(2ヶ月齢)30匹を、クリーンルーム(clean-grade room)内で正常なサーカディアンリズム等の条件下で8週間飼育した。担体群、PAO群、d5PAO群に、1群2ケージ、1ケージ5匹で慢性予測不能多発刺激(CUMS)を与えた。
【0241】
CUMSうつ病モデリング
CUMSうつ病モデリング:マウスにさまざまな刺激を毎日交互に毎週与え、マウスに与えられた各刺激の持続時間と、次の刺激のパターンと持続時間は予測できなかった。最初の 1週間の刺激とスケジュールを表6に示した。表の各日の刺激パターンと時間はモジュールを形成し、合計7モジュールである。2週目からは、月曜日の刺激は7つのモジュールから選択し、火曜日の刺激は残りの6つのモジュールから選択し、水曜日の刺激は残り5つのモジュールから選択した。試験が特定の日に予定されている場合は、前の2日間および試験当日の刺激に対して適切な調整を行った。
【0242】
【0243】
投与方法
CUMS刺激1週目終了後、PAO群およびd5PAO群のマウスに、化合物PAOおよびd5PAOの溶液をそれぞれ0.05mg/kg/日で毎日胃内投与した。担体群のマウスには、MCT(MIGLYOL812N、IOI Oleo GmbH供給)を毎日マウスの体重に相当する量で胃内投与し、ここでMCTは化合物PAOおよびd5PAOの溶液を調製するために使用する担体であった。MCT中のPAOおよびd5PAOの溶液の濃度は、0.005mg/mLであった。
【0244】
新規抑制摂食(NSF)試験
新規抑制摂食(NSF)試験では、25cm×25cm×20cm(縦×横×高さ)の不透明なプレキシガラス製の箱を用意した。この箱は上端が開いており、中央に小さな台があり、その上にマウスの餌を置きた。試験では、箱のどの角からもマウスを入れ、頭を箱の角に向けさせ、干渉を受けずに5分間自由に移動させ、5分以内の最初の摂食の潜伏時間を記録した。5分以内に食べないマウスは取り出し、そのマウスの初回摂餌の潜伏時間を300秒として記録した。初回摂餌の潜伏時間の長さ(秒)がマウスの不安の指標となる。
【0245】
うつ行動指数:砂糖水嗜好性試験
砂糖水選好試験は、清潔なマウスケージの給水場所にあらかじめ秤量した2本の同じボトルを置き、1本には水を、もう1本には1%スクロース水溶液を入れました。実験では、マウスをボトルから離れた清潔ケージの端に置き、頭をボトルと反対方向に向けさせた。マウスは1時間以内に砂糖水または水に干渉されることなく自由にアクセスすることができた。1時間後、マウスを取り出し、2本のボトルを慎重に取り出して重量を測定し、マウスが飲む砂糖水と水の重量をそれぞれW水およびW砂糖水とカウントした。マウスの砂糖水嗜好性=W砂糖水/(W水およびW砂糖水)×100%とした。
【0246】
統計方法
統計分析は、SPSSソフトウェアを用いて行い、データは平均値±平均値の標準誤差
で示した。PAOには抗うつ作用があることが知られているので、PAO群、d5PAO群と担体群との間の投与後の砂糖水嗜好性の違いをOne-tail unpaired ttestにより有意に検定し、P<0.05は*と、P<0.01は**と表記した。
【0247】
結果
3群のマウスに3週間のCUMSを行い、担体(MCT)、PAOおよびd5PAO製剤をそれぞれ15日間胃内投与し、次いで、新規性抑制摂食試験(NSF)を実施した。その結果、ベクター群では10匹中2匹だけが餌を食べ、他の8匹は制限時間5分以内に餌を食べず、その潜伏時間は300秒と記録され、この群の平均不安指数は282±12(sec)であった。PAO群およびd5PAO群の平均不安指数はそれぞれ227±29(sec)および181±36(sec)であり、担体群に比べ有意に低い値であった。このことから、低用量(0.05mg/kg/日)のPAOおよびd5PAOも明らかな抗不安作用を有し、d5PAOはd5PAOよりも有意に抗不安作用を有することが示された(
図31)。
【0248】
3群のマウスがNSF試験を終了した48時間後に、3群のマウスの抑うつ度を検出するために、砂糖水嗜好性試験を行った。
図27に示すように、担体群、PAO群およびd5PAO群のマウスの砂糖水嗜好性はそれぞれ、66%±3.8%、75%±4.3%および78%±2.4%であった。PAO群およびd5PAO群の砂糖水嗜好性は担体群よりも有意に高く、これは、低用量(0.05mg/kg/日)のPAOおよびd5PAOにも有意な抗うつ作用があり、d5PAOはPAOよりも有意に抗うつ作用があることを示している(
図32)。最初の砂糖水嗜好性試験が終了した後、さらに3群のマウスにCUMSを合計38日間投与し、砂糖水嗜好性試験を実施した。その結果、担体群、PAO群およびd5PAO群のマウスの砂糖水嗜好性はそれぞれ、71%±3.5%、77%±2.0%、82%±2.9%であり、PAO群およびd5PAO群の砂糖水嗜好性は担体群より高かったが、PAO群と担体群との間に有意差がないことから、低用量(0.05 mg/kg/日)PAOおよびd5PAOは依然として抗うつ作用を有することを示しており、d5PAOはd5PAOよりも有意な安定した抗うつ作用を有していた(
図32)。
【0249】
実施例14. NPCに対するd5PAOおよびPAOの治療作用に関する研究
細胞内コレステロール輸送阻害物質であるU1866Aは、C型ニーマン・ピック病(NPC)の細胞モデルの構築によく使用されるものである。
【0250】
1. 細胞培養および化合物処理
SH-SY5Y細胞を、高グルコースDMEMおよび15%FBSを含む完全培地にて、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。細胞コンフルエンスが70%に達した時点で、10μMのU18666A (Absin (Shanghai) Biotechnology Co., Ltd.から購入、Catalog No. abs819512)を添加し、群別に異なる濃度のd5PAOおよびPAOを添加し、24時間培養を継続した。
【0251】
2. Filipin染色
1) 24ウェルプレート内の培養液を廃棄し、PBS緩衝液1mLを添加し、1分間静置し、24ウェルプレート内の液体を廃棄し、それらの工程を2回繰り返し;
2) 各ウェルに4%パラホルムアルデヒドを1mL添加し、室温で30分間固定させ;
3) 24ウェルプレート中の4%パラホルムアルデヒドを廃棄し、PBS緩衝液1mLを添加し、24-ウェルプレートを1分間軽く振盪し、24ウェルプレート中の液体を廃棄し、この工程を 2回繰り返し;
4) 各ウェルに1.5mg/mLのグリシン溶液1mLを添加し、次いで、室温で10分間インキュベートし;
5) 24ウェルプレート内の液体を廃棄し、終濃度50μg/mLのFilipin染色液(sigma Aldrichから購入、Catalog No.SAE0087)1mLを添加し、室温暗所で1時間インキュベートし;
6) 24ウェルプレート内の液体を廃棄し、PBS緩衝液1mLを添加し、24ウェルプレートを1分間軽く振盪し、24-ウェルプレート内の液体を廃棄し、これらの工程を2回繰り返し;
7) スライドグラスを取り、その中央に封鎖剤(DAPI含有)5μLを滴下し、セルスライド(cell slide)を取り出して乾燥させ、細胞が成長した面を下向きにしてスライドグラスを被せ、細胞を封鎖剤に完全に接触させ、次いで室温暗所で30分間インキュベートし;
8)レーザーコンフォーカル顕微鏡を用いて観察を行った。
【0252】
実験結果
SH-SY5Y細胞を10μMのU18666Aで処理し、群別に異なる濃度のd5PAOおよびPAOと24時間共同インキュベートし、Filipin染色を行った後、観察を行った。免疫蛍光染色の結果、10μMのU1866A処理群のFilipinの蛍光強度は対照群(ctrl)よりも強く、これは、10μMのU1866A処理によりFilipinへのコレステロールの結合量の増加、すなわちコレステロールの貯蔵が引き起こされたことを示している。10μMのU1866A処理群と比較して、10μMのU18666A+35nMのd5PAO共処理群、10μMのU18666A+70nMのd5PAO共処理群、10μMのU18666A+35nMのPAO共処理群および10μMのU18666A+70nMのPAO共処理群においてFilipinの蛍光強度は減少した(
図33)。以上の結果から、特定の濃度のd5PAOおよびPAOは、U1866Aによるコレステロールの貯蔵を阻害することができることが示された。
【0253】
実施例15. オートファジー-リソソーム経路(ALP)の活性化に対するPAOおよびPI4Kaノックダウンの作用
これまでの研究で、GDおよび他のリソソーム蓄積症の進展中にALPがブロックされたことが示された。SH-SY5Y細胞をCBEで48時間処理し、群別に異なる濃度のPAOまたは陽性対照として添加したmTOR 阻害物質であるラパマイシン(RAPA)と24時間共同インキュベーした。ウエスタンブロットまたは免疫蛍光アッセイを実施した。ALPの共通マーカーを観察することによって、オートファジー-リソソーム経路に対するPAOおよび他の化合物の影響を研究した。ALPの共通マーカーであるLC3Bおよびp62を検出し、ウエスタンブロットにより以下のことが示された:CBEにより構築されたSH-SY5Y細胞モデルにおいて、PAOは用量依存的にLC3Bタンパク質の発現を促進し、p62タンパク質のレベルを阻害し、これは、PAOがALP経路を活性化し、オートファジーフラックス(autophagic flux)を活性化していることが示された(
図34A~
図34C)。結果は、陽性対照である500nMのRAPAと同様であった(
図34A~
図34C)。免疫蛍光アッセイの結果は、ウエスタンブロットの結果と一致していた(
図34D)。また、H+-ATPase阻害物質であるBafilomycin A1(Baf-A1)は、一般的に使用されるALP阻害物質である。Baf-A1でALPシグナル伝達をブロッキングすることにより、CBEにより構築されたSH-SY5Y細胞に対するPAOなどの化合物の保護作用がALPと関連しているかどうかをさらに検証することができる。SH-SY5Y細胞をCBEで48時間処理し、群別に異なる濃度のPAOまたは50nMのBaf-A1と24時間共同-インキュベートした。細胞生存能力をMTTにより検出した。実験の結果、対照群(ctrl)と比較して、100μMのCBEはSH-SY5Y細胞の生存能力を有意に阻害したことが示された。100μMのCBE処理群と比較して、100μMのCBE+25nM、50nMおよび75nMのPAO共処理群は、細胞生存能力を有意に増強させた。50nMのBaf-A1処理では、対応する群におけるPAOの保護作用を低下させ、その結果、50nMのBaf-A1および100μMのCBE+25nM、50nMおよび75nMの1PAO共処理群の細胞生存能力は、100μMのCBE処理群と有意な差がなかった(
図34E)。これは、Baf-A1は、ALPシグナル伝達を阻害することによってCBE処理SH-SY5Y細胞の保護作用をブロッキングしたことを示している。以上の結果から、PAOはALPを活性化してオートファジックフラックスを活性化し、GD細胞モデルに対してALPによる保護作用を発揮することが確認された。shRNA干渉レンチウイルスベクターで処理したSH-SY5Y細胞について、ALP経路マーカーであるLC3Bの検出を行った。その結果、以下のことが示された:sh-ctrl群と比較して、PI4Kaノックダウン後にLC3Bタンパク質のレベルが有意に向上し(
図35)、CBE処理SH-SY5Y細胞におけるPI4KaノックダウンもLC3Bタンパク質の発現を促進し、これは、PI4Ka阻害物質PAOの結果と同様に、PI4KaノックダウンはALP経路を活性化することを示している。
【0254】
実施例16. 化学的因子による肺炎および肺線維症に対するPAOおよびd5PAOの抵抗性
肺や上気道は、病原体、化学的因子(薬物を含む)、異物、物理的損傷、アレルギー性反応、自己免疫異常など、様々な病因によって引き起こされる炎症性反応を最も多く受ける組織・器官である。引き起こされる炎症性反応は、局所組織または全身血液における白血球(好中球、マクロファージおよびリンパ球など)の増加や、様々な炎症性因子またはサイトカインの増加によって現れる。病原体には、微生物および寄生虫が含まれる。微生物には、細菌、ウイルス、クラミジア、マイコプラズマ、スピロヘータ、真菌などが含まれる。肺の炎症は、時に肺組織の線維化を引き起こし、肺の構造や機能を損傷し、特に換気や酸素の拡散を損傷することがある。
【0255】
ブレオマイシンは、明らかに肺炎や肺線維症を引き起こすことができる薬物または化学物質である。ブレオマイシンが動物の肺に引き起こす間質性肺炎および肺線維症は、特発性肺線維症(IPF)の一般的なモデルである。IPFは進行性で不可逆的な肺線維症を特徴とする致死的な疾患であり、現在のところ特異的な処置法はない。既存の処置法の治癒効果は大きくない。ほとんどの患者が、症状発症後3~8年以内に進行性の呼吸不全で亡くなっている。IPFの病因メカニズムについてはほとんど分かっていないが、象徴的な病理学的特徴として、炎症性反応、線維芽細胞の過増殖、細胞外マトリックスの異常な沈着が挙げられる。
【0256】
マウスにおいてブレオマイシン誘導性肺炎および肺線維症に対するPAOおよびd5PAOの有効性は、炎症性反応や組織線維症に対するPAOおよびd5PAOの医薬の応用例である。
【0257】
実験方法:
ブレオマイシン誘導
【0258】
ブレオマイシンの調製
ブレオマイシンを生理食塩水に溶解し、用量に応じて最終濃度を調整した。
【0259】
誘導方法
1日目に、動物を2~5%イソフルラン吸入により麻酔した。体重に基づいて、動物にブレオマイシンを気管内投与した(2mg/kg、投与された特定の容量は動物の体重に基づいて計算し記録した)。
【0260】
投与方法
ブレオマイシン誘導を受けた日を試験1日目とした。3日目に動物をスクリーニングし、群分けした。試験8日目に全動物に1日1回、試験終了まで投与した。具体的な投与レジメンは表7を参照すること。
【0261】
【0262】
試料採取および分析
21日目に、投与後の気管支反応性を試験した後、全ての動物を2~5%イソフルラン吸入により麻酔し、眼窩から最小0.5mLの全血を採取した。血液はEDTA-2Kで抗凝固剤処置し、血漿は10000rpm、4℃で10分間遠心分離し、-80℃で保存した。動物から血液試料を採取した後、動物をZoletil(腹腔内注射、25~50mg/kg、1mg/mL キシラジンを含む)で麻酔し、気管カニューレを挿入し、PBS(1%FBS含有)0.5mLで肺の最初の肺洗浄をした。さらにPBS(1%FBS含有)0.5mLを肺の2回目の肺洗浄に使用した。懸濁液100μLを採取してBALF中の細胞の総数をカウントした。BALFを300g、4℃で5分間遠心分離し、細胞塊を含まない気管支肺胞洗浄液(BALF)上清を採取した。マウスのBALF中の炎症性因子(TNF-α、IL-1β、IL-6およびIFN-γなど)およびサイトカインの濃度を電気化学発光免疫アッセイ(Merck MSDのマウス因子X検出キット、V-PLEX Proinflammatory Panel1マウスキット、カタログ番号15048D-X)により検出した。遠心分離後に得られた細胞塊を再懸濁し塗抹標本とし、Wright-Giemsa染色液で染色して好酸球、好中球、マクロファージおよびリンパ球の区別を行った。細胞は光学顕微鏡でカウントした。
【0263】
洗浄後、動物を頸椎脱臼で安楽死させた。肺組織を採取し、右肺を凍結保存し、ホモジナイズ後、全タンパク質を抽出した。I型コラーゲン、ヒアルロン酸およびα-SMAの含有量は、市販のELISAキットで検出し、すべての試料を2つのウェルにロードした。
【0264】
左肺を採取し、中性ホルムアルデヒドで固定した。各動物の左肺を3等分してパラフィンブロックに包埋し、パラフィン包埋ブロックと厚さ5ミクロンの超薄切片を作製した。Massonの染色後、組織病理学的評価を行った。
【0265】
血漿中のヒアルロン酸およびコラーゲンのレベルを検出するためのELISA
ヒアルロン酸ELISAキット(Mouse Quantikine ELISA Kit, Biotechne, Catalog No. DHYAL0)およびI型コラーゲンELISAキット(Mouse Typel I Colagen Detection ELISA Kit, Chondrex, Catalog No. 6012)の製品説明書に基づき、各群のマウスの血漿中のヒアルロン酸およびI型コラーゲンの検出を行なった。
【0266】
試験指標
【0267】
体重
全試験期間において、動物の体重をモデル化当日に1回、群分け当日に1回、群分け後1週間に3回測定し、その体重を記録した。
【0268】
2.肺機能試験
試験マウスに対して、肺機能を測定するための非拘束型全身プレチスモグラフ(WBP)システムを用いて気管支応答性亢進アッセイを実施した。まず、マウスはエアロゾル吸入を介してPBS溶液を受け、次に連続エアロゾル吸入を介して1.5625mg/mL、3.125mg/mL、6.25mg/mL、12.5mg/mL、25mg/mLおよび50mg/mLのメタコリン(Mch)を受け、対応する濃度でエンハンスドポーズ(Penh)を測定し、刺激は各濃度で90秒間行った。ベースライン-Mch濃度に対するPenhの変化率の曲線をプロットし、曲線下面積を計算した。
【0269】
3.病理学的評価
各動物の左肺を3等分してパラフィンブロックに包埋し、パラフィン包埋ブロックと厚さ5ミクロンの超薄切片を作製した。各パラフィンブロックから1切片を作製し、マッソン染色を行い、線維化評価を行った。採点基準は表8を参照すること。
【0270】
【0271】
I型コラーゲン、ヒアルロン酸、α-SMAおよび10因子(TNF-α、IL-1βおよびIL-6など)の含有量の検出
【0272】
採取した右肺組織を市販の検出キットの説明書に従ってホモジナイズして処理し、I型コラーゲン、ヒアルロン酸およびα-SMAの含有量を検出した。BALF中のサイトカインの発現は、MSDにより測定した。
【0273】
細胞塊を含まないBALF上清を採取し、BALF中のサイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIL-6など10因子の含有量)をMSDにより測定し、試料を2つのウェルでロードした。
【0274】
試験観察
1日2回、ケージ付近で動物の健康状態を観察し、動物飼育室に関するログに記録した。
【0275】
秤量と同時に、プロジェクトチーム内のメンバーにより動物の状態を観察した。いずれかの異常な外観または行動があれば、PharmaLegacyの生物学的試験観察表に詳細に記録する必要がある。例えば、投与後に動物の体重が有意に減少(15%を超える)した場合またはその他の副作用(無気力、不動および精神的不快など)が生じた場合は、直ちに依頼者に報告し、用量または投与レジメンを変更するかどうかを依頼者と協議しなければならない。
【0276】
統計分析
試験データは平均値±平均値の標準誤差(mean ± S.E.M.)で示した。データはSPSSまたはGraphpad Prismを用いて分析した。使用した特定の分析方法は、図の凡例と表の下の注釈に記載した。P<0.05と統計的な違いを示した。
【0277】
実験結果
試験用マウスに対してWBPシステムを用いて気管支応答性亢進アッセイを実施した。まず、マウスにエアロゾル吸入を介してPBS溶液を投与し、次に連続エアロゾル吸入を介して1.5625mg/mL、3.125mg/mL、6.25mg/mL、12.5mg/mL、25mg/mLおよび50mg/mLのメタコリン(Mch)を投与し、対応する濃度でエンハンスドポーズ(Penh)を測定し、刺激は各濃度で90秒間行った。ベースラインに対するPBSおよび異なる濃度のMchでの各マウスのPenhのパーセンテージを計算した。結果を表9に示す。ベースライン-Mch濃度に対するPenhの変化率の曲線をプロットし(
図36)、曲線下面積を計算した(表10)。これらの結果は、PAOおよびd5PAOが肺線維症による肺機能の損傷を十分に改善できることを示しており、d5PAOの作用はPAOの作用よりも強力である。
【0278】
各群の動物のBALF中の10種類の炎症性因子(TNF-α、IL-1βおよびIL-6など)およびサイトカインを電気化学発光免疫アッセイにより検出した。表11に示すように、PAOおよびd5PAOは、両方ともIFN-γ、IL-1β、IL-2、IL-5、IL-6およびTNF-αの上方制御に対して阻害作用を有し、特にIL-6の上方制御に対して強力な阻害作用を有していた。
【0279】
各群のマウスのBALF細胞を用いてスライドを塗抹し、Wright-Giemsa染色液により染色して、好酸球、好中球、マクロファージおよびリンパ球を区別して、光学顕微鏡でカウントした。各群の4種類の細胞の合計カウント結果を表9に、各群の4種類の細胞のそれぞれのカウント結果を
図38に示す。PAOおよびd5PAOは、肺線維症による炎症細胞の総数および4種類の炎症細胞の増加に対して異なる阻害作用を有し、特に好中球の増加に対して有意な阻害作用を有することが示された。
【0280】
肺線維症は、多くの場合、血中のヒアルロン酸およびコラーゲンのレベルの上昇を伴っていた。そこで、血漿中のヒアルロン酸およびコラーゲンのレベルをELISAにより試験した。一部の結果は
図39および
図40に示し、これは、PAOおよびd5PAOが肺線維症による血漿中のヒアルロン酸およびコラーゲンの増加に対して阻害作用を有し、ヒアルロン酸の増加に対する阻害作用は陽性対照薬(ニンテダニブ)と比較して明らかに高いことを示している。
【0281】
【0282】
【0283】
【0284】
本発明の特定の実施態様が例示の目的で本明細書に記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、それに対して様々な変更を加えることができることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明の特定の実施態様および実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書で引用されたすべての文書は、引用によりその全体が本明細書に包含される。
【国際調査報告】