IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオテウス インコーポレイティドの特許一覧

特表2023-519440多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム
<>
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図1
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図2
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図3
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図4
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図5
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図6
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図7
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図8
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図9
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図10
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図11
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図12
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図13
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図14
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図15
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図16
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図17
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図18
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図19
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図20
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図21
  • 特表-多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】多重特異性抗体構築のためのプラットフォーム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230428BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230428BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230428BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230428BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230428BHJP
   C07K 14/005 20060101ALN20230428BHJP
   C07K 1/14 20060101ALN20230428BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K19/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 N
A61K38/02
A61K39/395 Y
C07K14/005
C07K1/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559869
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 CN2021084198
(87)【国際公開番号】W WO2021197359
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】202010244571.5
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522384835
【氏名又は名称】バイオテウス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】リウ シアオリン
(72)【発明者】
【氏名】ツン アンディー
(72)【発明者】
【氏名】スン ツォーユエ ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ミャオ シアオニウ
(72)【発明者】
【氏名】ワン タオ
(72)【発明者】
【氏名】タイ ショアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE00
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD14
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA02
4C084BA41
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085BB42
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG06
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明において、多重特異性抗体を構築する方法が提供される。この方法は、(i)第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドを、各々、構築する工程であって、ここで第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドは、各々、CL領域を含む第一のポリペプチド及びCH1領域を含む第二のポリペプチドをコードし、並びにジスルフィド結合が、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果この抗体がヘテロ二量体形を有する工程;並びに、(ii)第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドを発現し、第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを得、並びに第一のポリペプチドと第二のポリペプチドを二量体化し、ヘテロ二量体形を伴う多重特異性抗体を形成する工程を含む。本発明の抗体は、異なる標的へ同時に結合し、並びに当初の抗体の結合活性を維持することができ、これは標的が、膜表面受容体又は溶液中の標的である場合に役割を果たし、並びに複数の標的に対する生物活性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重特異性抗体の構築方法であって;
(i)各々、N-末端からC-末端へ式Iにより表された構造を有する第一のポリペプチドをコードしている第一のポリヌクレオチド、及びN-末端からC-末端へ式IIにより表される構造を有する第二のポリペプチドをコードしている第二のポリヌクレオチドを構築する工程であって、
A1-L1-B1-L2-CL-L3-A2 (式I)
A3-L4-B2-L5-CH1-L6-A4 (式II)
ここで、A1、A2、A3、及びA4は、各々独立して、関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片であり、並びにA1、A2、A3、及びA4の各々により標的化された標的抗原は、同じ又は異なることができ;
L1、L2、L3、及びL4は、各々独立して、ヌル又はリンカーエレメントであり;
B1及びB2は、両方共ヌルであるか、又はB1及びB2は、各々、同じ標的を標的化する抗体のVL領域及びVH領域であり;並びに
ジスルフィド結合は、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果この抗体がヘテロ二量体形を有する工程;並びに
(ii)第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドを発現し、第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを得、並びに第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを二量体化し、ヘテロ二量体形を伴う多重特異性抗体を形成する工程:を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
N-末端からC-末端へ式Iにより表された第一のポリペプチド、及びN-末端からC-末端へ式IIにより表された第二のポリペプチドを含むことを特徴とする、多重特異性抗体であって:
A1-L1-B1-L2-CL-L3-A2 (式I)
A3-L4-B2-L5-CH1-L6-A4 (式II)
ここで、
A1、A2、A3、及びA4は、各々独立して、関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片であり、並びにA1、A2、A3、及びA4の各々により標的化された標的抗原は、同じ又は異なることができ;
L1、L2、L3、及びL4は、各々独立して、ヌル又はリンカーエレメントであり;
B1及びB2は、両方共ヌルであるか、又はB1及びB2は、各々、同じ関心対象の標的を標的化する抗体のVL領域及びVH領域であり;並びに
ジスルフィド結合が、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果前記抗体がヘテロ二量体形を有する、前記多重特異性抗体。
【請求項3】
請求項2に記載の多重特異性抗体を含み、及び前記多重特異性抗体の第一のポリペプチドが、N-末端からC-末端へ式IIIにより表される構造を有することを特徴とする、融合タンパク質であって、
A1-L1-CL-L3-Fc (式III)
ここで、Fcは、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む、抗体のFc断片であり;並びに
融合タンパク質が、Fc断片間のジスルフィド結合を介してホモ二量体を形成し得る、前記融合タンパク質。
【請求項4】
第一のヌクレオチド及び第二のヌクレオチドを含むことにより特徴付けられる、単離されたポリヌクレオチドの組合せであって、ここで第一のヌクレオチドは、請求項2に記載の多重特異性抗体のもしくは請求項3に記載の融合タンパク質の第一のポリペプチドをコードし、並びに第二のヌクレオチドは、第二のポリペプチドをコードしている、単離されたポリヌクレオチドの組合せ。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドの組合せを含むことにより特徴付けられる、ベクター。
【請求項6】
宿主細胞が、請求項5に記載のベクターを含むか、又は請求項4に記載のポリヌクレオチドの組合せがそのゲノムに組み込まれていること;あるいは、
該宿主細胞が、請求項2に記載の多重特異性抗体又は請求項3に記載の融合タンパク質を発現することを特徴とする、宿主細胞。
【請求項7】
抗体の作製方法であって:
(a)請求項6に記載の宿主細胞を、好適な条件下で培養し、請求項2に記載の多重特異性抗体又は請求項3に記載の融合タンパク質を含む培養物を得る工程;並びに
(b)工程(a)において得られた培養物を精製及び/又は単離し、抗体を得る工程:を含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
免疫複合体であって、
(a)請求項2に記載の多重特異性抗体又は請求項3に記載の融合タンパク質;並びに
(b)検出可能な標識、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、又は酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁気粒子、ウイルス外被タンパク質もしくはVLP、又はそれらの組合せからなる群から選択される、カップリング部分:を含有することを特徴とする、免疫複合体。
【請求項9】
医薬品、試薬、検出プレート、又はキットの製造における、請求項2に記載の多重特異性抗体、請求項3に記載の融合タンパク質、又は請求項8に記載の免疫複合体の使用であって;
ここで試薬、検出プレート又はキットが、試料中の関心対象の標的分子の存在又は非存在の検出に使用され;並びに
医薬品が、関心対象の標的分子を発現している腫瘍の治療又は予防に使用される、使用。
【請求項10】
(i)請求項2に記載の多重特異性抗体、請求項3に記載の融合タンパク質、又は請求項8に記載の免疫複合体;並びに、(ii)医薬として許容し得る担体:
を含有することを特徴とする、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、バイオ医薬又はバイオ医薬品の技術分野に属し、且つ特に多重特異性抗体を構築するためのプラットフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
二重特異性抗体(bispecific antibodies)の原型となる概念は、1960年に、Roswell Park Memorial Institute(ニューヨーク)のNisonoff及び彼の同僚により、最初に提唱された。その後の抗体操作及び抗体生物学の分野における画期的進歩により、二重特異性抗体の構築に関する概念及び技術は、継続して革新されている。現在100種を超える二重特異性抗体構造パターンが存在し、そのおよそ1/4は、技術プラットフォームとして開発され、且つ新規抗体療法のためにバイオテクノロジー会社及び製薬会社により市販されている。今日までに、20種より多い様々な市販の技術プラットフォームが、二重特異性抗体の開発に関して利用可能であり、且つ85種を超える二重特異性抗体が、臨床開発中である。
【0003】
T細胞に会合する二重特異性抗体であるブリナツモマブ(CD3及びCD19を標的化する、急性Bリンパ球性白血病の治療に関して2014年にFDAにより承認された)の素晴らしい臨床の転帰は、該産業におけるこの概念の関心と投資に拍車を掛けた。現在、40種を超えるT細胞をリダイレクトする二重特異性抗体が、血液癌及び固形腫瘍の治療のために臨床開発中である。癌に加えて、炎症疾患にも、二重特異性抗体の臨床開発に焦点が当てられている。Roche社のエミシズマブ(凝固因子第X因子及び第IXa因子を標的化する)は、2017年11月にFDAにより承認され、血友病を、二重特異性抗体に関する最初の非癌適応症とした。現在多くの研究班が同じく、糖尿病、HIV感染症、他のウイルス及び細菌の感染症、アルツハイマー病、骨粗鬆症などの、他の疾患領域における、二重特異性抗体の治療的可能性を探求している。二重特異性抗体のデュアル-標的化の特徴(すなわち、2種の抗原又は1種の抗原の2つの異なるエピトープを同時に特異的に標的化する能力)は、それらを、有望な治療機会のあるものにしているが、二重特異性抗体の臨床療法への転換は、依然課題が多い。
【0004】
治療的二重特異性抗体は、急激に広がっている多様な分子の集団である。モノクローナル抗体と比べ、デュアル-標的化の概念の増大した複雑さは、発見及び開発の様々な段階での更なる困難を示しているが、二重特異性抗体は、新規薬物の設計及び開発に関して刺激的な機会を提供する。疾患分野の視点から、現在のデータは、産業界は、二重特異性抗体による癌治療により期待していることを示している。二重特異性抗体の継続的開発は、癌などの疾患の治療に持続的な影響を持つであろう。
【0005】
従って、低コスト及び高効率の多重特異性抗体を構築する方法を開発することが、当該技術分野において緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は、低コスト及び高効率の多重特異性抗体を構築する方法を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の第一の態様において、多重特異性抗体の構築方法が提供され、これは:
(i)N-末端からC-末端へ式Iにより表された構造を有する第一のポリペプチドをコードしている第一のポリヌクレオチド、及びN-末端からC-末端へ式IIにより表される構造を有する第二のポリペプチドをコードしている第二のポリヌクレオチドを構築する工程であって、
A1-L1-B1-L2-CL-L3-A2 (式I)
A3-L4-B2-L5-CH1-L6-A4 (式II)
ここで、
A1、A2、A3、及びA4は、各々独立して、関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片であり、並びにA1、A2、A3、及びA4の各々により標的化された標的抗原は、同じ又は異なることができ;
L1、L2、L3、及びL4は、各々独立して、ヌル(null)又はリンカーエレメントであり;
B1及びB2は、両方共ヌルであるか、又はB1及びB2は、各々、同じ標的を標的化する抗体のVL領域及びVH領域であり;並びに
ジスルフィド結合は、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果この抗体が、ヘテロ二量体形を有する工程;
(ii)第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドを発現し、第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを得、並びに第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを二量体化し、ヘテロ二量体形を伴う多重特異性抗体を形成する工程:を含む。
【0008】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドのCL領域は、配列番号:9に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:9に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0009】
別の好ましい例において、第二のポリペプチドのCH1領域は、配列番号:3に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:3に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0010】
別の好ましい例において、A1、A2、A3、及びA4において関心対象の標的は、抗原、細胞表面受容体、リガンド、又はサイトカインである。
【0011】
別の好ましい例において、A1、A2、A3、及びA4において関心対象の標的は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:PD-1、TIGIT、ヒト血清アルブミン、VEGF、PD-L1、PD-L2、又は41BB。
【0012】
別の好ましい例において、A1、A2、A3、及びA4において関心対象の標的を標的化する抗体又はそれらの抗原性断片は、ナノボディのVHH鎖、抗体重鎖可変領域、抗体軽鎖可変領域、抗体Fc断片、又はそれらの組合せである。
【0013】
別の好ましい例において、A1、A2、A3、及びA4において関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:抗-TIGITナノボディのVHH鎖、抗-HSAナノボディのVHH鎖、抗-PD-L1ナノボディのVHH鎖、抗-PD-L2ナノボディのVHH鎖、抗-VEGF抗体のVH鎖、抗-VEGF抗体のVL鎖、抗-PD-1抗体のVH鎖、又は抗-PD-1抗体のVL鎖。
【0014】
別の好ましい例において、抗-TIGITナノボディのVHH鎖は、配列番号:6に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:6に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0015】
別の好ましい例において、抗-HSAナノボディのVHH鎖は、配列番号:5に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:5に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0016】
別の好ましい例において、抗-PD-L1ナノボディのVHH鎖は、配列番号:14又は28に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:14又は28に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0017】
別の好ましい例において、抗-PD-L2ナノボディのVHH鎖は、配列番号:19に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:19に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0018】
別の好ましい例において、B1及びB2において関心対象の同じ標的を標的化する抗体は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:抗-PD-1抗体、抗-VEGF抗体。
【0019】
別の好ましい例において、B1及びB2は、各々、抗-PD-1抗体のVL領域及びVH領域であり;ここで、抗-PD-1抗体のVL領域は、配列番号:8に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:8に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、抗-PD-1抗体のVH領域は、配列番号:2に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:2に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0020】
別の好ましい例において、B1及びB2は、各々、抗-VEGF抗体のVL領域及びVH領域であり;ここで、抗-VEGF抗体のVL領域は、配列番号:16に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:16に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、抗-VEGF抗体のVH領域は、配列番号:13に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:13に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0021】
別の好ましい例において、リンカーエレメントの配列は、(4GS)nであり、ここでnは、正の整数(例えば、1、2、3、4、5、又は6)であり、好ましくはn=4である。
【0022】
別の好ましい例において、リンカーエレメントの配列は、配列番号:4又は21に明記したものであるか、又は配列番号:4又は21に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有する。
【0023】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:1に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:1に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:7に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:7に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0024】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:10に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:10に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:11に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:11に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0025】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:12に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:12に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:15に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:15に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0026】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:17に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:17に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:18に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:18に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0027】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:20に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:20に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:18に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:18に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0028】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:22に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:22に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:23に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:23に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0029】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:17に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:17に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:24に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:24に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0030】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:17に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:17に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:25に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:25に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0031】
本発明の第二の態様において、N-末端からC-末端へ式Iにより表された第一のポリペプチド、及びN-末端からC-末端へ式IIにより表された第二のポリペプチドを含む、多重特異性抗体が提供され:
A1-L1-B1-L2-CL-L3-A2 (式I)
A3-L4-B2-L5-CH1-L6-A4 (式II)
ここで、
A1、A2、A3、及びA4は、各々独立して、関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片であり、並びにA1、A2、A3、及びA4の各々により標的化された標的抗原は、同じ又は異なることができ;
L1、L2、L3、及びL4は、各々独立して、ヌル又はリンカーエレメントであり;
B1及びB2は、両方共ヌルであるか、又はB1及びB2は、各々、同じ標的を標的化する抗体のVL領域及びVH領域であり;並びに
ジスルフィド結合は、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果抗体は、ヘテロ二量体形を有する。
【0032】
本発明の第三の態様において、本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体を含む、融合タンパク質が提供され、及びこの多重特異性抗体の第一のポリペプチドは、N-末端からC-末端へ式IIIにより表される構造を有し、
A1-L1-CL-L3-Fc (式III)
ここで、Fcは、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む、抗体のFc断片であり;並びに
融合タンパク質は、Fc断片間のジスルフィド結合を介してホモ二量体を形成してよい。
【0033】
別の好ましい例において、第一のポリペプチドは、配列番号:27に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:27に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有し;並びに、第二のポリペプチドは、配列番号:30に明記したアミノ酸配列、又は配列番号:30に明記した配列と85%より大きいもしくは等しい配列同一性(好ましくは90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%)を有するアミノ酸配列を有する。
【0034】
本発明の第四の態様において、第一のヌクレオチド及び第二のヌクレオチドを含む単離されたポリヌクレオチド組合せが提供され、ここで第一のヌクレオチドは、本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体のもしくは本発明の第三の態様に従う融合タンパク質の第一のポリペプチドをコードし、並びに第二のヌクレオチドは、第二のポリペプチドをコードしている。
【0035】
本発明の第五の態様において、本発明の第四の態様に従うポリヌクレオチド組合せを含むベクターが、提供される。
【0036】
別の好ましい例において、ベクターは、以下からなる群から選択される:DNA、RNA、ウイルスベクター、プラスミド、トランスポゾン、他の遺伝子導入システム、又はそれらの組合せ;好ましくは、発現ベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、AAVウイルス、レトロウイルス、又はそれらの組合せなどの、ウイルスベクターを含む。
【0037】
本発明の第六の態様において、本発明の第五の態様に従うベクターを含むか、又は本発明の第四の態様に従うポリヌクレオチドの組合せをそのゲノムへ組み込んでいる、宿主細胞が提供されるか;
あるいは、宿主細胞は、本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体又は本発明の第三の態様に従う融合タンパク質を発現する。
【0038】
別の好ましい例において、宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞を含む。
【0039】
別の好ましい例において、宿主細胞は、大腸菌、酵母細胞、及び哺乳動物細胞からなる群から選択される。
【0040】
本発明の第七の態様において、抗体を作製する方法が提供され、これは:
(a)本発明の第六の態様に従う宿主細胞を、好適な条件下で培養し、本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体又は本発明の第三の態様に従う融合タンパク質を含む培養物を得る工程;並びに
(b)工程(a)において得られた培養物を精製及び/又は単離し、抗体を得る工程:を含む。
【0041】
別の好ましい例において、精製は、アフィニティクロマトグラフィー精製及び単離により行われ、関心対象の抗体を得ることができる。
【0042】
別の好ましい例において、精製され且つ単離された関心対象の抗体の純度は、95%より大きい、96%より大きい、97%より大きい、98%より大きい、99%より大きい、及び好ましくは100%である。
【0043】
本発明の第八の態様において、免疫複合体が提供され、これは:
(a)本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体又は本発明の第三の態様に従う融合タンパク質;並びに
(b)検出可能な標識、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、又は酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁気粒子、ウイルス外被タンパク質もしくはVLP、又はそれらの組合せからなる群から選択される、カップリング部分:を含有する。
【0044】
別の好ましい例において、放射性核種は、以下を含む:
(i)以下からなる群から選択される診断用同位体:Tc-99m、Ga-68、F-18、I-123、I-125、I-131、In-111、Ga-67、Cu-64、Zr-89、C-11、Lu-177、Re-188、もしくはそれらの組合せ;及び/又は
(ii)以下からなる群から選択される治療用同位体:Lu-177、Y-90、Ac-225、As-211、Bi-212、Bi-213、Cs-137、Cr-51、Co-60、Dy-165、Er-169、Fm-255、Au-198、Ho-166、I-125、I-131、Ir-192、Fe-59、Pb-212、Mo-99、Pd-103、P-32、K-42、Re-186、Re-188、Sm-153、Ra223、Ru-106、Na24、Sr89、Tb-149、Th-227、Xe-133、Yb-169、Yb-177、もしくはそれらの組合せ。
【0045】
別の好ましい例において、カップリング部分は、薬物又は毒素である。
【0046】
別の好ましい例において、薬物は、細胞毒性薬である。
【0047】
別の好ましい例において、細胞毒性薬は、以下からなる群から選択される:抗-チューブリン薬、DNA副溝結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、葉酸拮抗薬、代謝拮抗薬、化学療法増感剤、トポイソメラーゼ阻害薬、ビンカアルカロイド、又はそれらの組合せ。
【0048】
特に有用な細胞毒性薬の例は、例えば、DNA副溝結合剤、DNAアルキル化剤、及びチューブリン阻害薬を含み;代表的細胞毒性薬は、例えば、アウリスタチン、カンプトテシン、デュオカルマイシン、エトポシド、メイタンシン及びメイタンシノイド類(例えば、DM1及びDM4)、タキサン、ベンゾジアゼピン、又はベンゾジアゼピン-含有薬(例えば、ピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン(PBD)、インドリノベンゾジアゼピン及びオキサゾリジノベンゾジアゼピン)、ビンカアルカロイド、又はそれらの組合せを含む。
【0049】
別の好ましい例において、毒素は、以下からなる群から選択される:アウリスタチン(例えば、アウリスタチンE、アウリスタチンF、MMAE、及びMMAF)、クロルテトラサイクリン、メイタンシノイド、リシン、リシンA鎖、コンブレタスタチン、デュオカルマイシン、ドラスタチン、アドリアマイシン、ダウノルビシン、パクリタキセル、シスプラチン、cc1065、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシン、ジフテリア毒素、シュードモナスエキソトキシン(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α-サルシナ、ゲロニン、ミトゲルチン(mitogeltin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、クルシン、クロチン、カリケアマイシン、サボンソウ(Sapaonaria offficinalis)阻害剤、糖質コルチコイド、又はそれらの組合せ。別の好ましい例において、この複合部分は、検出可能な標識である。
【0050】
別の好ましい例において、複合体は、以下からなる群から選択される:蛍光又はルミネセンスの標識、放射性標識、MRI(磁気共鳴画像法)又はCT(コンピュータ断層撮影法)の造影剤、又は検出可能な生成物を生成可能な酵素、放射性核種、生物毒素、サイトカイン(例えば、IL-2)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、ナノ磁気粒子、プロドラッグ-活性化酵素(例えば、DT-ジアホラーゼ(DTD)又はビフェニルヒドラーゼ-様タンパク質(BPHL))、化学療法薬(例えば、シスプラチン)。
【0051】
別の好ましい例において、免疫複合体は、本発明の第二の態様に従う多価の(例えば、二価の)多重特異性抗体を含む。
【0052】
別の好ましい例において、多価とは、免疫複合体のアミノ酸が、本発明の第二の態様に従う抗体又は本発明の第三の態様に従う融合タンパク質の複数の反復配列を含むことを指す。
【0053】
本発明の第九の態様において、医薬品、試薬、検出プレート、又はキットの製造における、本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体、本発明の第三の態様に従う融合タンパク質、又は本発明の第八の態様に従う免疫複合体の使用が提供され:
ここで、試薬、検出プレート又はキットは、試料中の関心対象の標的分子の存在又は非存在を検出するために使用され;並びに
医薬品は、関心対象の標的分子を発現する腫瘍を治療又は予防するために使用される。
【0054】
別の好ましい例において、本免疫複合体の複合部分は、診断用同位体である。
【0055】
別の好ましい例において、試薬は、同位体トレーサー、造影剤、フロー検出試薬、細胞免疫蛍光検出試薬、ナノ-磁気粒子及び呈色試薬からなる群から選択される1又は複数の試薬である。
【0056】
別の好ましい例において、試料中の関心対象の標的分子を検出するための薬剤は、関心対象の標的分子の(インビボにおける)検出のための造影剤である。
【0057】
別の好ましい例において、検出は、インビボにおける検出又はインビトロにおける検出である。
【0058】
別の好ましい例において、検出は、フロー検出及び細胞免疫蛍光検出を含む。
【0059】
別の好ましい例において、腫瘍は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:急性骨髄性白血病、慢性顆粒球性白血病、多発性ミエロパチー、非ホジキンリンパ腫、結腸直腸癌、乳癌、大腸癌、胃癌、肝臓癌、白血病、腎臓腫瘍、肺癌、小腸癌、骨癌、前立腺癌、前立腺癌、子宮頸癌、リンパ腫、副腎腫瘍、及び膀胱腫瘍。
【0060】
本発明の第十の態様において、(i)本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体、本発明の第三の態様に従う融合タンパク質、又は本発明の第八の態様に従う免疫複合体;並びに、(ii)医薬として許容し得る担体を含有する、医薬組成物が提供される。
【0061】
別の好ましい例において、本免疫複合体の複合部分は、薬物、毒素、及び/又は治療的同位体である。
【0062】
別の好ましい例において、本医薬組成物は更に、細胞毒性薬などの、腫瘍治療のための他の薬物を含有する。
【0063】
別の好ましい例において、腫瘍治療のための他の薬物は、パクリタキセル、ドキソルビシン、シクロホスファミド、アクシチニブ、レンバチニブ、又はペムブロリズマブを含む。
【0064】
別の好ましい例において、本医薬組成物は、関心対象の標的分子を発現する(すなわち、関心対象の標的分子について陽性)腫瘍の治療のために使用される。
【0065】
別の好ましい例において、本医薬組成物は、注射用剤形である。
【0066】
別の好ましい例において、本医薬組成物は、腫瘍を予防及び治療するための医薬品を調製するために使用される。
【0067】
本発明の第十一の態様において、疾患を治療する方法が提供され、この方法は:本発明の第二の態様に従う多重特異性抗体、本発明の第三の態様に従う融合タンパク質、本発明の第八の態様に従う免疫複合体、又は本発明の第十の態様に従う医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することを含む。
【0068】
別の好ましい例において、この対象は、哺乳動物、好ましくはヒトを含む。
【0069】
本発明の第十二の態様において、第二の態様に従う多重特異性抗体、本発明の第三の態様に従う融合タンパク質、本発明の第八の態様に従う免疫複合体、又は本発明の第十の態様に従う医薬組成物、並びに使用説明書を含むキットが、提供される。
【0070】
別の好ましい例において、使用説明書は、本キットは、検出のために対象における、関心対象の標的分子の発現を非侵襲的に検出するために使用されることを説明している。
【0071】
別の好ましい例において、使用説明書は、本キットは、関心対象の標的分子を発現する(すなわち、関心対象の標的分子について陽性)腫瘍を検出するために使用されることを説明している。
【0072】
本発明の範囲内において、本発明の先に説明した特徴及び以下に(例えば実施例において)具体的に説明するものは、新規の又は好ましい実施態様を形成するために互いに組み合わされてよいことは、理解されるべきである。これらは、本明細書の長さのために、繰り返されることはないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図面の簡単な説明
図1図1は、3種の三重特異性抗体の構造の概略を示す;
図2図2は、Octetシステムを使用し決定された、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原共-結合能の結果を示す;
図3図3は、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のCHO-hPD-1細胞及びCHO-hTIGIT細胞への結合活性のアッセイの結果を示す;
図4図4は、ELISAにより決定された、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合活性を示す;
図5図5は、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒトPD-L1のヒトPD-1への結合に対するブロック作用を示す;
図6図6は、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のCD155のTIGITへの結合に対するブロック作用を示す;
図7図7は、Octetシステムを使用し決定された、抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原共-結合能の結果を示す;
図8図8は、抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のCHO-hPD-1細胞への結合活性のアッセイの結果を示す;
図9図9は、ELISAにより決定された、抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合活性を示す;
図10図10は、ELISAにより決定された、抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒトVEGFタンパク質への結合活性を示す;
図11図11は、3種の三重特異性抗体及び1種の四重特異性抗体の構造の概略を示す;
図12図12は、3種のPD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のCHO-hPD-L1細胞及びCHO-hPD-L2細胞への結合活性のアッセイの結果、並びに抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の、CHO-hPD-L1細胞、CHO-hPD-L2細胞、及びCHO-hTIGIT細胞への結合活性のアッセイの結果を示す;
図13図13は、ELISAにより決定された、3種の抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体及び抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の、ヒト血清アルブミンへの結合活性を示す;
図14図14は、3種の抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体及び抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の、ヒトPD-L1又はPD-L2のヒトPD-1への結合に対するブロック作用を示す;
図15図15は、3種の抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体及び抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の、インビトロにおけるPD-L1/PD-1及びPD-L2/PD-1シグナル伝達経路の同時ブロックの結果を示す;
図16図16は、三重特異性抗体の構造の概略を示す;
図17図17は、PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のCHO-hPD-L1細胞及びCHO-41BB細胞への結合活性のアッセイの結果を示す;
図18図18は、ELISAにより決定した、PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合活性を示す;
図19図19は、PD-L1/41BBを発現する細胞に架橋する、抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の能力を示す;
図20図20は、抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の、ヒトPD-L1のヒトPD-1への結合に対するブロック作用を示す;
図21図21は、実施例5に説明された、PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質の構造の概略を示す;並びに
図22図22は、抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質のCHO-hPD-L1細胞及びCHO-hPD-L2細胞への結合活性のアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
詳細な説明
本発明者らは、大規模且つ集中的な研究を行い、結果的に、膨大な数のスクリーニングを通じ、初めて多重特異性抗体の構築方法を開発した。実験は、安定したヘテロ二量体は、抗原-結合断片(抗体可変領域、単一ドメイン抗体又はFcなど)を、未変性の抗体のCL断片及びCH1断片に連結することにより形成され得ることを明らかにしている。本出願の方法により構築された多重特異性抗体は、異なる標的に同時に結合し、当初の抗体の結合活性を維持することができ;標的が、膜表面受容体又は溶液中の標的である場合に、有効であり;複数の標的に対する生物活性を有し;並びに、単一ドメイン抗体又は正常抗体又はFc断片を連結することができる。従って本発明の方法及び提供されたプラットフォームは、巨大な適用の見込みを有する。本発明、この知見を基に企図されている。
【0075】
用語
本開示をより容易に理解するために、いくつかの用語が最初に定義される。本出願において使用される以下の用語の各々は、本明細書において別に明確に特定されない限りは、以下に提示した意味を有するものとする。追加の定義は、本出願を通じて明記される。
【0076】
本明細書において使用される用語「多重特異性抗体を構築するためのプラットフォーム」及び「本発明の構築方法」は、互換的に使用され、本発明の第一の態様に従う多重特異性抗体の構築方法を指し、ここでジスルフィド結合を介してCLとCH1の間に形成されるヘテロ二量体は、コア構造であり、並びに関心対象の異なる標的部位を標的化する抗体又はそれらの抗原性断片と融合される。
【0077】
多重特異性抗体
二重特異性/多重特異性抗体(BsAb、MsAb)は、2種又はそれよりも多い異なるモノクローナル抗体の断片で構成される人工のタンパク質であり、従って2種又はそれよりも多い異なる型の抗原に結合することができる。例えば、癌免疫療法において、操作されたBsAbは、細胞傷害性細胞及び死滅されるべき標的(例えば、腫瘍細胞)の両方へ結合する。三機能性抗体、化学連結されたFab、及び二重特異性T細胞アダプターを含む、二重特異性抗体の少なくとも3種の型が、提唱又は試験される。製造上の難点を克服するために、三機能性抗体と称される第一世代のBsMAbが開発され、これは各々異なる抗体由来の2本の重鎖及び2本の軽鎖からなり;2つのFab領域は、2種の抗原に対し方向付けられ;このFc領域は、2本の重鎖からなり、且つ第三の結合部位を形成し、従ってそのように称される。
【0078】
別の型の二重特異性抗体は、短い半減期、免疫原性、及びサイトカイン放出により引きおこされる副作用などの、いくつかの問題に対処するように設計されている。これらは:Fab領域からのみなる、化学的に連結されたFab、及び様々な型の二価及び三価の単一鎖可変領域(scFv)(これは、2種の抗体可変ドメインの融合タンパク質を模倣している)を含む。最も最近に開発されたフォーマットは、二重特異性T細胞アダプター(BiTE)及び四機能性抗体である。
【0079】
抗体は、抗原へ特異的に結合し、且つ重鎖(H鎖)と称されるより大きい分子量の2本鎖、及び軽鎖(L鎖)と称されるより小さい分子量の2本鎖の4本のポリペプチド鎖から構成される、免疫グロブリンのクラスとして周知である。モノクローナル抗体において、2本のH-鎖及び2本のL-鎖のアミノ酸組成は同一であるのに対し、二重特異性抗体は、2本の異なるH-鎖及び2本の異なるL-鎖を同時発現することにより開発された。H2L2の10種の可能性のある組換え混合物から機能性の二重特異性抗体を得ることは、二重特異性抗体の開発における最初の挑戦の一つであり、これは通常鎖-関連問題と称される。過去数十年にわたり、研究者らは、この問題に対処するために数多くの戦略を開発してきた。
【0080】
断片-ベースのフォーマット
Fc領域を伴わない断片-ベースの二重特異性抗体は、1個の分子内の複数の抗体断片へ、単純に結合し、これは鎖-関連問題を回避し、且つ高収率及び低コストの利点、並びに比較的短い半減期の欠点を有する。加えて、断片-ベースの二重特異性抗体は、安定性及び重合の問題点を提示し得る。
【0081】
対称フォーマット
二重特異性抗体の対称フォーマットは、未変性の抗体に近いが、サイズ及び構造が異なる、Fc領域を保持している。これらの差異は、未変性の抗体に関連した有益な特性(例えば、安定性及び溶解性)に負の影響を及ぼすことがあり、このことはこれらの二重特異性抗体の物理化学特性及び/又は薬物動態特性を損ない得る。
【0082】
非対称フォーマット
非対称フォーマットを伴うほとんどの二重特異性抗体は、天然の抗体に非常に類似しており、且つ最小の免疫原性の可能性を有すると考えられる。しかし、鎖-関連問題を解決するために関与し得る複合体操作は、一部の非対称フォーマット二重特異性抗体のこの利点を相殺し得る。
【0083】
しかし本発明においては、ヘテロ二量体形を基にした多重特異性抗体のクラスが、提供される。
【0084】
本明細書において使用される用語「本発明の多重特異性抗体」、「本発明のマルチ-抗体」、及び「本発明の抗体」は、互換的に使用され、且つ全て、本発明により提供された多重特異性抗体の構築方法を用いて構築された多重特異性抗体を指す。
【0085】
好ましくは、本発明により提供される抗体は、N-末端からC-末端へ式Iに明記した第一のポリペプチド、及びN-末端からC-末端へ式IIに明記した第二のポリペプチドを含み、
A1-L1-B1-L2-CL-L3-A2 (式I)
A3-L4-B2-L5-CH1-L6-A4 (式II)
ここで、
A1、A2、A3、及びA4は、各々独立して、関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片であり、並びにA1、A2、A3、及びA4の各々により標的化された標的抗原は、同じ又は異なることができ;
L1、L2、L3、及びL4は、各々独立して、ヌル又はリンカーエレメントであり;
B1及びB2は、両方共ヌルであるか、又はB1及びB2は、各々、関心対象の同じ標的を標的化する抗体のVL領域及びVH領域であり;並びに
ジスルフィド結合は、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果この抗体は、ヘテロ二量体形を有する。
【0086】
好ましい実施態様において、式IのCL領域は、配列番号:9に明記したアミノ酸配列を有し、及び式IIのCH1領域は、配列番号:3に明記したアミノ酸配列を有する。
【0087】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:1に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:7に明記したアミノ酸配列を有する。
【0088】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:10に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:11に明記したアミノ酸配列を有する。
【0089】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:12に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:15に明記したアミノ酸配列を有する。
【0090】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:17に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:18に明記したアミノ酸配列を有する。
【0091】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:20に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:18に明記したアミノ酸配列を有する。
【0092】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:22に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:23に明記したアミノ酸配列を有する。
【0093】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:17に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:24に明記したアミノ酸配列を有する。
【0094】
一実施態様において、本多重特異性抗体は、抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:17に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:25に明記したアミノ酸配列を有する。
【0095】
別の実施態様において、本発明は、Fc断片が、本発明の多重特異性抗体の第一のポリペプチドのC-末端に融合された融合タンパク質を提供し、その結果この多重特異性抗体は、Fc断片間のジスルフィド結合のために、ホモ二量体化が可能であり、より安定したホモ二量体を形成する。
【0096】
好ましくは、この融合タンパク質は、抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体であり、ここで第一のポリペプチドは、配列番号:27に明記したアミノ酸配列を有し、且つ第二のポリペプチドは、配列番号:30に明記したアミノ酸配列を有する。
【0097】
本明細書において使用される用語「単一ドメイン抗体」、「ナノボディVHH」、及び「ナノボディ」は、同じ意味を有し、完全な機能を伴う最小の抗原-結合断片である、抗体の重鎖の可変領域をクローニングすることにより構築されるただ1個の重鎖可変領域からなるナノボディ(VHH)を指す。ただ1個の重鎖可変領域からなるナノボディ(VHH)は、典型的には、軽鎖及び重鎖定常領域1(CH1)を天然に欠いている抗体を入手し、次にこの抗体重鎖の可変領域をクローニングすることにより、構築される。
【0098】
本明細書において使用される用語「可変」とは、抗体の可変領域のある部分は、配列が異なり、このことは特定の抗体の各々の、その特定の抗原に対する結合及び特異性を生じることを意味する。しかし可変性は、抗体可変領域を通じて均等に分布されてはいない。これは、軽鎖及び重鎖の可変領域内の相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と称される、3つの断片に集中されている。これらの可変領域のより保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と称される。未変性の重鎖及び軽鎖の可変領域は、各々、4つのFR領域を含み、これらは実質的に、連結ループを形成し、並びに場合によってはベータ-シート構造の一部を形成することがある3つのCDRにより連結された、ベータ-シート構造である。各鎖のCDRは、FR領域を介して一緒に近傍に位置し、且つ他方の鎖のCDRと抗体の抗原結合部位を形成する(Kabat et al, NIH Publ. No. 91-3242, Vol. I, 647-669頁 (1991)参照)。これらの定常領域は、抗体の抗原への結合には直接関与しないが、これらは、抗体の抗体-依存した細胞傷害性における参画など、異なるエフェクター機能を発揮する。
【0099】
本明細書において使用される用語「フレームワーク領域」(FR)は、CDR間に挿入されたアミノ酸配列を指し、すなわち単独種の異なる免疫グロブリン間で比較的保存されている免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖可変領域のその部分を指す。免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖は、各々、4つのFRを有し、それぞれ、FR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-L及びFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hと指定される。従って軽鎖可変ドメインは、結果的に、(FR1-L)-(CDR1-L)-(FR2-L)-(CDR2-L)-(FR3-L)-(CDR3-L)-(FR4-L)と称されてよく、並びに重鎖可変ドメインは、結果的に、(FR1-H)-(CDR1-H)-(FR2-H)-(CDR2-H)-(FR3-H)-(CDR3-H)-(FR4-H)と称されてよい。好ましくは、本発明のFRは、天然のヒト抗体FRと実質的に同一である、すなわち85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する、ヒト抗体FR又はその誘導体である。
【0100】
CDRのアミノ酸配列がわかると、当業者は、フレームワーク領域FR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-L及び/又はFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hを容易に決定することができる。
【0101】
本明細書において使用される用語「ヒトフレームワーク領域」は、天然のヒト抗体のフレームワーク領域に対し、実質的に(約85%又はそれよりも大きい、具体的には90%、95%、97%、99%、もしくは100%)同一であるフレームワーク領域である。
【0102】
本明細書において使用される用語「親和性」は、無傷の抗体と抗原の間の釣り合った会合により理論的に規定される。本発明の二重特異性抗体の親和性は、FortebioRed96装置を使用するバイオレイヤー干渉法(BLI)などの、KD値(解離定数)(又は他の決定手段)により、評価又は決定されてよい。
【0103】
本明細書において使用される用語「リンカー」は、各ドメイン又は領域に十分な可動性を提供する、本発明の抗体に挿入された、1又は複数個のアミノ酸残基を指す。
【0104】
当業者に公知のように、免疫複合体及び融合発現産物は、以下を含む:薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、及び本発明の抗体又はその断片への他の診断的又は治療的分子の結合により形成された複合体。本発明はまた、多重特異性抗体又はその断片へ結合する、細胞表面マーカー又は抗原も含む。
【0105】
本発明において用語「本発明の抗体」、「本発明のタンパク質」、又は「本発明のポリペプチド」は、互換的に使用され、且つ最初のメチオニンを含むか又は含まなくてよい、本発明により提供された多重特異性抗体を指す。
【0106】
本発明はまた、本発明の抗体を有する、他のタンパク質又は融合発現産物も提供する。特に本発明は、可変領域が、本発明の抗体の重鎖可変領域に対し、同一であるか又は少なくとも90%相同、好ましくは少なくとも95%相同であることを条件として、この可変領域を含む重鎖を有する任意のタンパク質又はタンパク質複合体及び融合発現産物(すなわち、免疫複合体及び融合発現産物)を含む。
【0107】
本発明は、無傷の抗体のみではなく、免疫学的に活性のある抗体の断片又は他の配列とこの抗体により形成された融合タンパク質も含む。従って本発明は、本抗体の断片、誘導体、及びアナログも含む。
【0108】
本明細書において使用される用語「断片」、「誘導体」、及び「アナログ」は、本発明の抗体と実質的に同じ生物学的機能又は活性を保持しているポリペプチドを指す。本発明のポリペプチド断片、誘導体、又はアナログは、(i)1もしくは複数の保存されたもしくは保存されないアミノ酸残基(好ましくは保存されたアミノ酸残基)が置換されており、且つそのような置換されたアミノ酸残基が、遺伝暗号によりコードされるかもしくはコードされない、ポリペプチド、又は(ii)1もしくは複数のアミノ酸残基中に置換基を有する、ポリペプチド、又は(iii)この成熟ポリペプチドを別の化合物(例えば、ポリペプチドの半減期を増加する化合物、例えばポリエチレングリコールなど)と融合することにより形成された、ポリペプチド、又は(iv)追加のアミノ酸配列(例えば、リーダー配列もしくは分泌配列又はこのポリペプチドもしくはプロタンパク質の配列を精製するために使用される配列、又は6Hisタグとの融合タンパク質など)を、このポリペプチドの配列へ融合することにより形成された、ポリペプチドであってよい。そのような断片、誘導体、及びアナログは、本明細書の技術を考慮し、当業者に周知である。
【0109】
本発明の抗体はまた、本発明の抗体と同じ機能を有し、且つその第一又は第二のポリペプチドは変動(複数可)を有する、形も含む。これらの変動(複数可)の形は、以下を含む(しかし限定されない):1個又は複数(通常1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個)のアミノ酸の欠失、挿入、及び/又は置換、並びにC-末端及び/又はN-末端での1もしくは数個の(通常最大20個、好ましくは最大10個、より好ましくは最大5個)のアミノ酸の付加。例えば、当該技術分野において、性能が同様又は類似しているアミノ酸との置換は、典型的にはそのタンパク質の機能を変更しない。同じく例えば、C-末端及び/又はN-末端での1個又は数個のアミノ酸の付加は、一般にそのタンパク質の機能を変更しない。この用語はまた、本発明の抗体の活性断片及び活性誘導体も含む。
【0110】
このポリペプチドの変種は、以下を含む:相同配列、保存的変種、アレル変種、天然の変異体、誘導された変異体、高もしくは低ストリンジェンシー条件下で本発明の抗体をコードしているDNAへハイブリダイズすることが可能なDNAによりコードされたタンパク質、並びに本発明の抗体に対し生じた抗血清を用いて得られたポリペプチド又はタンパク質。
【0111】
本発明はまた、他のポリペプチド、例えば単一ドメイン抗体又はその断片を含む融合タンパク質なども提供する。実質的完全長ポリペプチドに加え、本発明はまた、本発明の単一ドメイン抗体の断片も包含している。典型的には、この断片は、本発明の抗体の少なくとも約50個の近接アミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の近接アミノ酸、より好ましくは少なくとも約80個の近接アミノ酸、及び最も好ましくは少なくとも約100個の近接アミノ酸を有する。
【0112】
本発明において、「本発明の抗体の保存的変種」とは、本発明の抗体のアミノ酸配列と比べ、性質が同様又は類似しているアミノ酸と、最大10個、好ましくは最大8個、より好ましくは最大5個、及び最も好ましくは最大3個のアミノ酸が置換されているポリペプチドを指す。これらの保存的変種ポリペプチドは、好ましくは、表Aに従うアミノ酸置換により生成される。
【表1】
【0113】
本発明はまた、前記抗体又はその断片もしくは融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチド分子も提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA又はRNAの形状であってよい。DNAの形状は、cDNA、ゲノムDNA又は人工的に合成されたDNAを含む。このDNAは、一本鎖又は二本鎖であってよい。このDNAは、コード鎖又は非コード鎖であってよい。
【0114】
本発明の成熟ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、以下を含む:成熟ポリペプチドのみをコードしているコード配列;成熟ポリペプチドのコード配列及び様々な追加のコード配列;成熟ポリペプチドのコード配列(及び任意に追加のコード配列)並びに非コード配列。
【0115】
用語「ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド」は、ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを含んでよく、且つ同じく追加のコード配列及び/又は非コード配列のポリヌクレオチドも含む。
【0116】
本発明はまた、先に説明された配列にハイブリダイズし、且つこれらの2種の配列間で少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、及びより好ましくは少なくとも80%の同一性を有する、ポリヌクレオチドにも関する。本発明は特に、ストリンジェント条件下で、本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「ストリンジェント条件」とは、以下を意味する:(1)0.2×SSC、0.1%SDS、60℃などの、比較的低いイオン強度及び比較的高い温度でのハイブリダイゼーション及び溶出;又は、(2)50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清/0.1%フィコール、42℃でなどの、ハイブリダイゼーション時の変性剤の添加;又は、(3)2種の配列の間の同一性が、少なくとも90%もしくはそれよりも多い、好ましくは95%もしくはそれよりも多い場合にのみ起こる、ハイブリダイゼーション。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチドもまた、成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能及び活性を有する。
【0117】
本発明の抗体又はその断片の完全長ヌクレオチド配列は、一般に、PCR増幅法、組換え法、又は人工的合成法により得ることができる。一つの可能性のある方法は、特に断片が短い場合に、人工合成により、関連のある配列(複数可)を合成することである。典型的には、長い断片は、複数の小型断片の最初の合成、その後それらを一緒にライゲーションすることにより得られる。加えて、重鎖のコード配列及び発現タグ(例えば、6His)を、一緒に融合し、融合タンパク質を形成することができる。
【0118】
関連配列は、配列が得られた後の組換え法により、大量に得ることができ、これは一般に、関連配列をベクターへクローニングする工程、ベクターを細胞へ導入する工程、並びに従来型の方法により増殖された宿主細胞から関連配列を単離及び入手する工程を含む。それに本発明が関連する生体分子(核酸、タンパク質など)は、単離された形で存在した生体分子を含む。
【0119】
現時点で、本発明のタンパク質(又はその断片もしくは誘導体)をコードしているDNA配列は、化学合成により完全に入手することができる。その後このDNA配列は、様々な存在するDNA分子(又は例えばベクター)及び当該技術分野において公知の細胞へ導入することができる。更に、変異も、化学合成により、本発明のタンパク質配列へ導入することができる。
【0120】
本発明はまた、先に説明された好適なDNA配列及び好適なプロモーター又は制御配列を含むベクターにも関する。これらのベクターは、そのタンパク質を発現することができるよう、好適な宿主細胞を形質転換するために使用され得る。
【0121】
この宿主細胞は、細菌細胞などの原核細胞;又は、酵母細胞などの比較的下等の真核細胞;又は、哺乳動物細胞などの比較的高等の真核細胞であってよい。代表例は、大腸菌、ストレプトマイセス;例えば、サルモネラ・ティフィムリウスなどの細菌細胞;例えば酵母などの真菌細胞;例えばドロソフィアS2もしくはSf9などの昆虫細胞;例えばCHO、COS7、293細胞などの動物細胞を含む。
【0122】
宿主細胞の組換えDNAによる形質転換は、当業者に周知の従来型の技術により実行され得る。宿主が大腸菌など原核細胞である場合、DNAの取込みが可能であるコンピテント細胞は、指数増殖期の後収集され、且つ当該技術分野において周知の手順を使用するCaClアプローチにより処理されることができる。別のアプローチは、MgClを使用する。望ましいならば、形質転換はまた、電気穿孔法により実行されることもできる。宿主が真核細胞である場合、以下のDNAトランスフェクション法が、使用されてよい:リン酸カルシウム共沈殿法、微量注入、電気穿孔法、リポソームパッケージングなどの、従来型の機械的方法。
【0123】
得られた形質転換体は、本発明の遺伝子によりコードされたポリペプチドを発現するために、従来型の方法により培養されることができる。培養において使用される培地は、使用される宿主細胞に応じて、様々な従来型の培地から選択されてよい。培養は、宿主細胞の成長に適した条件下で実行される。宿主細胞が適切な細胞密度に成長した後、選択プロモーターが適切な方法(例えば、温度シフト又は化学誘導)により導入され、並びにこれらの細胞は、更なる期間培養される。
【0124】
前記方法における組換えポリペプチドは、細胞内でもしくは細胞膜上に発現されるか、又は細胞の外側に分泌されてよい。必要ならば、組換えタンパク質の物理的特徴、化学的特徴及び他の特徴を、様々な単離法による、組換えタンパク質の単離及び精製に利用することができる。これらの方法は、当業者に周知である。そのような方法の例は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:従来型の再構成処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析など)、遠心分離、浸透圧による細胞溶解、音波処理、超遠心分離、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、及び他の様々な液体クロマトグラフィー技術及びそれらの組合せ。
【0125】
本発明の抗体は、単独で、又は検出可能な標識(診断目的のため)、治療薬、PK(プロテインキナーゼ)修飾部分、もしくは前述のいずれかの組合せと組合せるかもしくは複合して、使用されてよい。
【0126】
診断目的のための検出可能な標識は、蛍光もしくはルミネセンスの標識、放射性標識、MRI(磁気共鳴画像法)もしくはCT(コンピュータ断層撮影法)の造影剤、又は検出可能な生成物を生成することが可能な酵素を含むが、これらに限定されるものではない。
【0127】
本発明の抗体に結合又は複合されてよい治療薬は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:1.放射性核種;2.生物毒素;3.IL-2などの、サイトカイン;4.金ナノ粒子/ナノロッド;5.ウイルス粒子;6.リポソーム;7.ナノ磁気粒子;8.プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ジアホラーゼ(DTD)又はビフェニルヒドロラーゼ-様タンパク質(BPHL));10.化学療法薬(例えば、シスプラチン)又はナノ粒子の任意の形状など。
【0128】
発明の構築方法
本発明において、多重特異性抗体を構築する方法が提供され、これは:
(i)各々、N-末端からC-末端へ式Iにより表された構造を有する第一のポリペプチドをコードしている第一のポリヌクレオチド、及びN-末端からC-末端へ式IIにより表される構造を有する第二のポリペプチドをコードしている第二のポリヌクレオチドを構築する工程であって、
A1-L1-B1-L2-CL-L3-A2 (式I)
A3-L4-B2-L5-CH1-L6-A4 (式II)
ここで、A1、A2、A3、及びA4は、各々独立して、関心対象の標的を標的化する抗体又はその抗原性断片であり、並びにA1、A2、A3、及びA4の各々により標的化された標的抗原は、同じ又は異なることができ;L1、L2、L3、及びL4は、各々独立して、ヌル又はリンカーエレメントであり;B1及びB2は、両方共ヌルであるか、又はB1及びB2は、各々、同じ標的を標的化する抗体のVL領域及びVH領域であり;並びに、ジスルフィド結合は、第一のポリペプチドのCL領域と第二のポリペプチドのCH1領域の間に形成されてよく、その結果抗体は、ヘテロ二量体形を有する工程;並びに
(ii)第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドを発現し、第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを得、並びに第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを二量体化し、ヘテロ二量体形を伴う多重特異性抗体を形成する工程:を含む。
【0129】
好ましくは、第一のポリペプチドのCL領域は、配列番号:9に明記したアミノ酸配列を有し、及び第二のポリペプチドのCH1領域は、配列番号:3に明記したアミノ酸配列を有し、ここでジスルフィド結合は、これら2つの領域間に形成されてよい。
【0130】
医薬組成物
本発明はまた、組成物も提供する。好ましくは、本組成物は、上記抗体又はその活性断片又はその融合タンパク質、及び医薬として許容し得る担体を含有する医薬組成物である。一般にこれらの物質は、典型的には約5~約8のpH、好ましくは約6~約8のpHを有する、無毒の、不活性の、及び医薬として許容し得る水性担体媒体中に製剤化されるが、このpHは、製剤化される物質の性質及び治療される状態に応じて変動するであろう。製剤化された医薬組成物は、非限定的に、以下を含む、通常の経路により、投与されてよい:腫瘍内投与、腹腔内投与、静脈内投与、又は局所投与。
【0131】
本発明の医薬組成物は、関心対象の標的分子を結合するために、直接使用されることができ、従って、対応する疾患を治療するために使用されることができる。加えて他の治療薬を、同時に使用してよい。
【0132】
本発明の医薬組成物は、前述の本発明の抗体(又はその複合体)の安全且つ有効な量(例えば、0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)、及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する。そのような媒介物(vector)は、以下を含む(しかしこれに限定されない):食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組合せ。この医薬製剤は、投与様式に、適合しなければならない。本発明の医薬組成物は、例えば、生理食塩水又はグルコース及び他のアジュバントを含有する水性溶液を使用する通常の方法により、注射剤の形状で調製されることができる。注射剤、液剤などの医薬組成物は、好ましくは無菌条件下で調製される。活性成分の投与量は、治療的有効量、例えば、約10μg/kg体重~約50mg/kg体重である。加えて、本発明のポリペプチドはまた、他の治療薬と共に使用されてよい。
【0133】
医薬組成物を使用する場合、免疫複合体の安全且つ有効な量が、哺乳動物へ投与され、ここで安全且つ有効な量は、典型的には少なくとも約10μg/kg体重であり、ほとんどの症例において、約50mg/kg体重を超えず、好ましくは投与量は、約10μg/kg体重~約10mg/kg体重である。当然、特定の用量はまた、投与経路、患者の健康状態などの要因も考慮され、これは熟練した医師の技術の範囲内である。
【0134】
本発明の主な利点は、以下である:
1)本発明の二重/多重特異性抗体構造は、異なる標的へ同時に結合し、且つ当初の抗体の結合活性を維持することができる;
2)本発明の二重/多重特異性抗体構造は、標的が、膜表面受容体又は溶液中の標的である場合に、有効である;
3)本発明の二重/多重特異性抗体構造は、複数の標的に対する生物活性を有する;
4)本発明の二重/多重特異性抗体構造は、単一ドメイン抗体又は正常抗体又はFc断片へ連結されてよい;
5)本発明の二重/多重特異性抗体は、CH1-CL二量体を中心とすることにより構築された、抗体又は融合タンパク質であり、並びにそれを基に、本発明はまた、Fc断片を含む多重特異性抗体を提供し、このことはタンパク質の半減期を有意に改善し、且つ精製プロセスを簡略化する。
【0135】
本発明は、下記の具体的実施例を参照し、更に例示されるであろう。これらの実施例は、単に例示を目的とし、本発明の範囲を限定することは意図しないことは、理解されなければならない。下記実施例に注記した具体的条件を伴わない実験手順は、一般に、例えば、Sambrookらの「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載された、又は製造業者の推奨に従う従来型の条件に従い実行される。別に指示しない限りは、百分率及び部は、重量による。
【表2-1】
【表2-2】
【実施例
【0136】
実施例1:抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体
1.1 抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の構築
M-ボディ技術を明らかにするために、この実験において、2種の抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体を構築した:
【0137】
2本のポリペプチド鎖からなるBi-70-71は、図1Aに示した構造を有し、ここでペプチド鎖#1は、配列番号:1に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-PD-1抗体ペムブロリズマブ(特許番号US8354509)由来のVHアミノ酸配列(配列番号:2)を含み、このVHアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列(配列番号:3)へ直接連結しており;並びに、ペプチド鎖#1は、抗-ヒト血清アルブミン配列番号:5を有するナノボディALB8(特許番号:WO2004/041865)のC-末端の、ペムブロリズマブの重鎖可変領域のN-末端への、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介した連結、並びに、抗-TIGITナノボディE-Ye-11(配列番号:6)のN-末端の、CH1のC-末端への、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチドを介した連結により得られ;ペプチド鎖#2は、配列番号:7に明記したアミノ酸配列を有し、これは、抗-PD-1抗体ペムブロリズマブ由来のVLアミノ酸配列(配列番号:8)を含み;並びに、ペプチド鎖#2は、VLアミノ酸配列のC-末端の、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列(配列番号:9)への直接連結により、得られた。
【0138】
同じく2本のポリペプチド鎖からなるBi-72-73は、図1Bに示した構造を有し、ここでペプチド鎖#1は、配列番号:10に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-PD-1抗体ペムブロリズマブ由来のVHアミノ酸配列(配列番号:2)を含み、このVHアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列(配列番号:3)へ直接連結しており;ペプチド鎖#2は、配列番号:11に明記したアミノ酸配列を有し、これは、抗-PD-1抗体ペムブロリズマブ由来のVLアミノ酸配列(配列番号:8)を含み、このVLアミノ酸配列のC-末端は、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列(配列番号:9)へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#2は、抗-ヒト血清アルブミンナノボディALB8(配列番号:5)のC-末端の、ペムブロリズマブの軽鎖可変領域のN-末端への、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介した連結、並びに、抗-TIGITナノボディE-Ye-11(配列番号:6)のN-末端の、CLのC-末端への、11個のアミノ酸残基GGGGSGGGGSGの可動性ペプチド(配列番号:4)を介した連結により、得られた。
【0139】
1.2 抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の発現及び精製
この実施例において、下記のような具体的手順により、実施例1.1において構築した抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-70-71及びBi-72-73の2本の鎖の各々をコードしているヌクレオチド配列を、市販の真核細胞発現ベクターpCDNA3.1(+)へ、マルチクローニングサイトを介してライゲーションし、並びに真核細胞において発現し及び精製し、三重特異性抗体Bi-70-71及びBi-72-73を得た。
【0140】
抗体遺伝子のpCDNA3.1発現ベクターへの構築
Bi-70-71及びBi-72-73の2本鎖の各々をコードしている遺伝子配列を、GENEWIZ,Inc.により合成し、その後、市販の指示書中の手順に従い、線状化したpCDNA3.1ベクターへ、相同組換え酵素(Vazymeから購入)及びEcoRI/NotI二重消化によりライゲーションした。この相同組換え産物を、Top10コンピテント細胞へ形質転換し、アンピシリン耐性プレートに播種し、37℃で一晩培養し、単一クローンを配列決定のために採取した。
【0141】
タンパク質発現及び精製
前記プラスミドを、Expi-CHO細胞へ、ExpiCHO(商標)発現系キット(Thermo)を用い、市販の指示書に従うトランスフェクション法により導入し、及びその上清を5日間細胞培養後に収集し、KappaSelect(GE)アフィニティクロマトグラフィーカラムを用いて精製した。具体的方法は、以下に従う:試料は、0.2μm滅菌針フィルターPESを通し、シリンジにより濾過し;クロマトグラフィーカラムは、溶出液の電導度及びpHが変化しなくなるまで、5カラム容積の平衡緩衝液(20mM PB+0.15M NaCl、pH7.4)により平衡化し;流量は、0.5ml/分であった。並びに、試料負荷の終了後、クロマトグラフィーカラムを、浸透が完了し且つUV値がそれ以上は減少しなくなるまで、平衡(balance)緩衝液により、連続して洗浄した。溶出緩衝液(0.1Mグリシン-HCl、pH3.0)による溶出後、溶出液を収集した。溶出直後に、収集した抗体溶液は、抗体が安定しているpHまで、アルカリ緩衝液(例えば、1Mトリス/HCl、pH8.0)により中和すべきであった。
【0142】
このタンパク質の純度は、HPLCにより決定した。HPLC法は、以下のようであった:移動相:150mM NaHPO・12HO、pH7.0。クロマトグラフィー条件は、以下のようであった:検出波長:280nm、カラム温度:25℃、流量:0.35ml/分、検出時間:20分間、Zenix-C SEC-300カラム(SEPAX 4.6×300mm、3μm)。SEC結果は、二重特異性抗体Bi-70-71は、純度99.14%であり、及びBi-72-73は、純度98.27%であることを示した。
【0143】
1.3 抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原共-結合能の決定
先に説明した本発明の2種の例証的抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-70-71及びBi-72-73は、PD-1、TIGIT、及びヒト血清アルブミンへ同時に結合することができるかどうかを、Octetシステム(ForteBio Inc.により製造)を用いる、速度論的結合アッセイにより決定した。本実験開始の30分前に、SAセンサー(Pall)を、SD緩衝液(PBS 1×、BSA 0.1%、ツイーン20 0.05%)に浸漬することにより、室温で平衡化した。96-ウェル黒色ポリスチレン製ハーフ-マイクロプレート(Greiner)のウェルへ、ブランク対照(バックグラウンド減算のため)としてのSD緩衝液100μL、100nM精製した双特異性抗体Bi-70-71及びBi-72-73の100μL、並びにSD緩衝液中に希釈した抗原としてビオチン化-標識したヒトPD-1(100nM)(ACROBiosystems)、ヒトTIGIT(100nM)(ACROBiosystems)、及びヒト血清アルブミン(ACROBiosystems)の各々100μL溶液を、添加した。SAセンサーを、ビオチン化-標識したヒトPD-1溶液を含有するウェルに、60秒間、室温で含浸させ、その後負荷した。その後このセンサーを、ベースラインに達するまで、SD緩衝液中で洗浄し、次に100μL抗体溶液を含有するウェル中に含浸させ、抗体の抗原への会合をモニタリングし、引き続きセンサーを、100μLのSD緩衝液を含有するウェルへ移動させ、抗体解離をモニタリングし;その後、このセンサーを、100nMヒトTIGIT溶液を含有するウェルへ移動させ、抗体のヒトTIGITへの結合を検出し、次にセンサーを、100μLのSD緩衝液を含有するウェルへ移動させ、抗原解離をモニタリングし;その後このセンサーを、100nMヒト血清アルブミン溶液を含有するウェルへ移動させ、抗体のヒト血清アルブミンへの結合を検出し、引き続きセンサーを、100μlのSD緩衝液を含有するウェルへ移動させることにより、抗原解離をモニタリングした。回転速度は1000rpmであり、及び温度は30℃であった。
【0144】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、本発明の抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-70-71(図2Aに示す)及びBi-72-73(図2Bに示す)は、ヒトPD-1、ヒトTIGIT、及びヒト血清アルブミンタンパク質へ、同時に結合することができる。
【0145】
1.4 抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原の結合能の決定
ヒトPD-L1又はヒトTIGITを過剰発現しているCHO細胞(CHO-hPD-L1細胞、CHO-hTIGIIT細胞)を、pCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)の、MCSへクローニングした、ヒトPD-1又はヒトTIGIT cDNA(Nano Biologicalから購入)によるトランスフェクションにより、作製した。増幅したCHO-hPD-L1細胞/CHO-hTIGIIT細胞を、細胞密度2×10個細胞/mlに調節し、並びにこれらの細胞100μLを、96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した三重特異性抗体を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料100μLを、細胞を含有する96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。精製した抗体試料ウェルの各ウェルへ、PBSで希釈したマウス抗-ヒトIgG-Fab(PE)(Abcamから購入)100μLを添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0146】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図3に示したように、結果は、本発明の抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体は、CHO-hPD-1細胞及びCHO-hTIGIIT細胞の両方に対する結合活性を有することを示した。
【0147】
1.5 ELISAレベルでの抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合
ヒト血清アルブミン(ACROBiosystems)を、ELISAコーティング溶液により希釈し、その後ELISAプレートへ添加し、4℃で一晩コーティングした。コーティング溶液を廃棄し、250μLのPBSTを、各ウェルへ添加し、3回洗浄し、ELISAプレートを、後で使用するために、5%BSAにより、室温で1hブロックした。精製した抗体及び対照抗体を、勾配希釈し、その後ブロックしたELISAプレートへ添加し、このプレートを、室温で2hインキュベーションし、PBSTで3回洗浄し;精製した抗体試料ウェルへ、ヤギ抗-ヒトFab-HRP(Abcam)を添加し、このプレートを、室温で1hインキュベーションし、PBSTで3回洗浄し、引き続きELISA呈色溶液を添加し、室温で3分間静置し、ELISA停止溶液を添加し、450nmで吸光度の値を測定した。
【0148】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図4に示したように、実験結果は、ELISAレベルでの、本発明の抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合を示した。
【0149】
1.6 抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体によるヒトPD-L1のヒトPD-1への結合のブロック
CHO-hPD-1細胞を、細胞密度2×10個細胞/mLに調節し、100μLの細胞を、96-ウェルフロープレートの各ウェルに添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した抗体及び対照抗体の試料を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料60μLを、96-ウェル試料希釈プレートの各ウェルに添加する一方で、60μLのビオチン化-標識したヒトPD-L1タンパク質(ACROBiosystemsから購入)を、各ウェルへ、最終濃度500ng/mLで添加し、この混合物を、試料と共に、4℃で30分間インキュベーションした。100μLの同時-インキュベーションした試料を、細胞を含有する先の96-ウェルフロープレートの各ウェルに添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。PBSにより100-倍希釈したストレプトアビジン、R-フィトエリスリン複合体(Thermo fisherから入手)の1ウェルに100μLを添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0150】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図5に示したように、実験結果は、本発明の抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体は、PD-L1のPD-1への結合をブロックすることができることを示した。
【0151】
1.7 抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体によるヒトCD155のヒトTIGITへの結合のブロック
CHO-hTIGIT細胞を、細胞密度2×10個細胞/mLに調節し、100μLの細胞を、96-ウェルフロープレートの各ウェルに添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した抗体及び対照抗体の試料を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料60μLを、96-ウェル試料希釈プレートの各ウェルに添加する一方で、1ウェルに60μLのヒトCD155-mFcタンパク質(ACROBiosystemsから購入)を、最終濃度2μg/mLで添加し、この混合物を、試料と共に、4℃で30分間インキュベーションした。100μLの同時-インキュベーションした試料を、細胞を含有する先の96-ウェルフロープレートの各ウェルに添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。PBSで100-倍希釈した100μLのヤギ抗-マウスIgG Fc-APC(Biolegendから購入)を1ウェルにつき添加し、プレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0152】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図6に示したように、実験結果は、本発明の抗-PD-1/TIGIT/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体は、CD155のTIGITへの結合をブロックすることができることを示した。
【0153】
要約すると、本抗体の結合活性は、1又は複数のナノボディドメインを連結する一方での、CH1-CLドメイン上のVHドメイン及びVLドメインを連結することにより、効果的に維持され、二重特異性又は多重特異性抗体を形成することができる。ペムブロリズマブ由来のこの実験において使用されたVH-VL組合せは、細胞表面抗原ヒトPD-1へ結合するドメインであった。
【0154】
実施例2:抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体
2.1. 抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の構築
この実験において、連結されたVH-VLドメインが、血液中の遊離抗原に標的化される場合に、M-ボディが適用可能であるかどうかを確認するために、Bi-74-76と指定された、2種のポリペプチド鎖からなる1種の抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体を構築し、その概略構造を、図1Cに示し、ここでペプチド鎖#1は、配列番号:12に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-VEGF抗体ベバシズマブ(特許番号:WO1998045332)由来のVHアミノ酸配列(配列番号:13)を含み、このVHアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列(配列番号:3)へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#1は、抗-ヒト血清アルブミンナノボディALB8(配列番号:5)のC-末端を、ベバシズマブ重鎖可変領域のN-末端へ、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結すること、並びに抗-ヒトPD-L1ナノボディC-Ye-8-5(特許出願番号:2019108631090)(配列番号:14)のN-末端を、CH1のC-末端へ、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結することにより得られ;ペプチド鎖#2は、配列番号:15に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-VEGF抗体ベバシズマブ由来のVLアミノ酸配列(配列番号:16)を含み、このVLアミノ酸配列のC-末端は、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)由来のアミノ酸配列(配列番号:9)へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#2は、抗-ヒトPD-L1ナノボディC-Ye-8-5(配列番号:14)のN-末端を、CLのC-末端へ、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結することにより得られた。
【0155】
2.2 抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の発現及び精製
この実施例において、実施例2.1において構築した抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-74-76をコードしている2種のヌクレオチド配列を、市販の真核細胞発現ベクターpCDNA3.1(+)へ、マルチクローニングサイトを介してライゲーションし、並びに真核細胞において発現し及び精製し、三重特異性抗体Bi-74-76を得た。発現プラスミド構築、細胞トランスフェクション、タンパク質精製及びHPLC純度検出の方法は、実施例1.2と同じであった。SEC結果は、二重特異性抗体Bi-74-76は、純度95.89%であることを示した。
【0156】
2.3 抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原共-結合能の決定
先に説明した本発明の2種の例証的抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-74-76は、ヒトPD-L1、VEGF、及びヒト血清アルブミンへ同時に結合することができるかどうかを、Octetシステム(ForteBio Inc.)を用いる、速度論的結合アッセイにより決定した。本実験開始の30分前に、SAセンサー(Pall)を、SD緩衝液(PBS 1×、BSA 0.1%、ツイーン20 0.05%)に浸漬することにより、室温で平衡化した。96-ウェル黒色ポリスチレン製ハーフ-マイクロプレート(Greiner)のウェルへ、ブランク対照(バックグラウンド減算のため)としてのSD緩衝液100μL、100nM精製した三重特異性抗体Bi-74-76の100μL、並びに抗原としてSD緩衝液中に希釈したビオチン化-標識したヒトVEGF(100nM)(ACROBiosystems)、ヒトPD-L1(100nM)(ACROBiosystems)、及びヒト血清アルブミンの溶液(ACROBiosystems)の各々100μL溶液を、添加した。SAセンサーを、ビオチン化-標識したVEGF溶液を含有するウェルに、60秒間、室温で含浸させ、その後負荷した。その後このセンサーを、ベースラインに達するまで、SD緩衝液中で洗浄し、次に100μL抗体溶液を含有するウェル中に含浸させ、抗体の抗原への会合をモニタリングし、引き続きセンサーを、100μLのSD緩衝液を含有するウェルへ移動させ、抗体解離をモニタリングし;その後、このセンサーを、100nMヒトPD-L1溶液を含有するウェルへ移動させ、抗体のヒトPD-L1への結合を検出し、引き続きセンサーを、100μLSD緩衝液を含有するウェルへ移動させ、抗原解離をモニタリングし;その後このセンサーを、100nMヒト血清アルブミン溶液を含有するウェルへ移動させ、抗体のヒト血清アルブミンへの結合を検出し、引き続きセンサーを、100μlのSD緩衝液を含有するウェルへ移動させることにより、抗原解離をモニタリングした。回転速度は1000rpmであり、及び温度は30℃であった。
【0157】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図7に示したように、実験結果は、抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-74-76は、ヒトPD-L1、ヒトVEGF、及びヒト血清アルブミンへ同時に結合することができることを示した。
【0158】
2.4 抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原結合能の決定
ヒトPD-L1を過剰発現しているCHO細胞(CHO-hPD-L1細胞、CHO-hTIGIIT細胞)を、pCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)の、MCSへクローニングした、ヒトPD-1 cDNA(Nano Biologicalから購入)によるトランスフェクションにより、作製した。抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のCHO-hPD-L1細胞への結合活性は、実施例1.4のように検出した。
【0159】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図8に示したように、結果は、本発明の抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体は、CHO-hPD-L1細胞へ結合することができることを示した。
【0160】
2.5 ELISAレベルでの抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合の決定
抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合能を、この実験においてELISA反応の方法により検出し、且つ実験方法は、実施例1.5と同じであった。先に説明した方法によるアッセイ実験において、本発明の精製した抗体は、ヒト血清アルブミンへ、ELISAレベルで結合することができる(図9参照)。
【0161】
2.6 ELISAレベルでの抗-VEGF/PD-L1/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒトVEGFへの結合
ヒトVEGF(ACROBiosystems)タンパク質を、ELISAコーティング溶液で希釈し、その後ELISAプレートへ添加し、4℃で一晩コーティングした。コーティング溶液を廃棄し、250μLのPBSTを、各ウェルへ添加し、3回洗浄し、且つこのELISAプレートを、5%BSAにより、室温で1hブロックした。精製した抗体Bi-074-076抗体を、勾配希釈し、その後ブロックしたELISAプレートへ添加し、このプレートを、室温で2hインキュベーションし、PBSTで3回洗浄し;精製した抗体試料ウェルへ、ヤギ抗-ヒトFab-HRP(Abcam)を添加し、対照抗体試料ウェルへ、ヤギ抗-ヒトFc-HRP(Abcam)を添加し、このプレートを、室温で1hインキュベーションし、PBSTで3回洗浄し、引き続きELISA呈色溶液を添加し、室温で3分間静置し、ELISA停止溶液を添加し、450nmで吸光度値を測定した。
【0162】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、本発明の精製した抗体Bi-74-76は、ELISAレベルで、ヒトVEGFタンパク質へ結合することができた(図10参照)。
【0163】
要約すると、本抗体の結合活性は、1又は複数のナノボディドメインを連結する一方での、CH1-CL構造上のVHドメイン及びVLドメインを連結することにより、効果的に維持され、二重特異性又は多重特異性抗体を形成することができる。ベバシズマブ由来のこの実験において使用されたVH-VL組合せは、血液中の遊離抗原VEGFへ結合するドメインであった。
【0164】
実施例3:抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体
3.1 抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の構築
同じ細胞の異なる標的を標的化する2種のナノ-抗体に結合する場合に、M-ボディは、適用可能であるかどうか確認するために、本発明者らは、抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の群を構築した。
【0165】
この実施例において、3種の抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体を構築し:
2本のポリペプチド鎖からなるBi-78-79は、図11Aに示した概略構造を有し、ここでペプチド鎖#1は、配列番号:17に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(配列番号:14)を含み、このナノボディアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列(配列番号:3)へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#1は、抗-ヒト血清アルブミンナノボディALB8(配列番号:5)のC-末端を、CH1領域のC-末端へ、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結することにより得られ;ペプチド鎖#2は、配列番号:18に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-PD-L2ナノボディD-Ye-22アミノ酸配列(配列番号:19)を含み、並びにペプチド鎖#2は、このナノボディアミノ酸配列のC-末端を、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列(配列番号:9)に直接連結することにより得られた。
【0166】
2本のポリペプチド鎖からなるBi-78-80は、図1Aに示した概略構造を有し、ここでペプチド鎖#1は、配列番号:20に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-PD-L1ナノボディの配列番号:2を含み、このナノボディアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列の配列番号:6へ直接連結され;これは、抗-PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(配列番号:14)を含み、このナノボディアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列(配列番号:3)へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#1は、抗-ヒト血清アルブミンナノボディALB8(配列番号:5)のC-末端を、CH1領域のC-末端へ、5個のアミノ酸残基(DKTHT)の可動性ペプチド(配列番号:21)を介して連結することにより得られ;ペプチド鎖#2は、配列番号:18に明記したアミノ酸配列を有した。
【0167】
2本のポリペプチド鎖からなるBi-81-82は、図1Aに示した概略構造を有し、ここで、ペプチド鎖#1は、配列番号:22に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(配列番号:14)を含み、このナノボディアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来のCH1アミノ酸配列(配列番号:3)へ、11個のアミノ酸鎖(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結され;並びに、ペプチド鎖#1は、抗-ヒト血清アルブミンナノボディALB8(配列番号:5)のC-末端を、CH1領域のC-末端へ、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結することにより得られ;ペプチド鎖#2は、配列番号:23に明記したアミノ酸配列を有し、これは、抗-PD-L2ナノボディD-Ye-22アミノ酸配列(配列番号:19)を含み、且つペプチド鎖#2は、このナノボディアミノ酸配列のC-末端を、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列(配列番号:9)へ、11個のアミノ酸(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド鎖(配列番号:4)を介して連結することにより得られた。
【0168】
この実施例において、Bi-79-83と指定され、図1Aに示された概略構造を伴う、2本のポリペプチド鎖からなる1種の抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体が構築され、ここで、ペプチド鎖#1は、配列番号:17に明記したアミノ酸配列を有し;ペプチド鎖#2は、配列番号:24に明記したアミノ酸配列を有し、これは、抗-PD-L2ナノボディD-Ye-22アミノ酸配列(配列番号:19)を含み、このナノボディアミノ酸配列のC-末端で、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列(配列番号:9)へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#2は、抗-TIGITナノボディE-Ye-11のN-末端を、CL領域のC-末端へ、11個のアミノ酸残基(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド(配列番号:4)を介して連結することにより得られた。
【0169】
3.2 PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の発現及び精製
この実施例において、実施例3.1において構築した抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-78-79、Bi-78-80、及びBi-81-82並びに抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体Bi-79-83の2本鎖をコードしているヌクレオチド配列を、市販の真核細胞発現ベクターpCDNA3.1(+)へ、マルチクローニングサイトを介してライゲーションし、並びに真核細胞において発現し及び精製した。発現プラスミド構築、タンパク質発現及び精製の方法は、実施例1.2と同じであった。
【0170】
この試験は、SECアッセイを用い、精製した生成物の純度を試験し、これは、実施例1.2と同じであった。実験結果は、4種全ての多重特性抗体は、比較的高い純度を有したことを示した(Bi-78-79:98.07%;Bi-78-80:98.62%;Bi-81-82:96.31%;Bi-79-83:99.14%)。
【0171】
3.3 抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の抗原結合能の決定
ヒトPD-L1又はヒトPD-L2又はヒトTIGITを過剰発現しているCHO細胞(CHO-hPD-L1細胞、CHO-hPD-L2細胞、CHO-hTIGIIT細胞)を、pCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)を、MCSへクローニングした、ヒトPD-L1又はヒトPD-L2又はヒトTIGIT cDNA(Nano Biologicalから購入)によるトランスフェクションにより、作製した。増幅したCHO-hPD-L1細胞/CHO-hPD-L2細胞/CHO-hTIGIIT細胞を、細胞密度2×10個細胞/mlに調節し、並びにこの細胞100μLを、96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した三重特異性抗体を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料100μLを、細胞を含有する96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。精製した抗体試料ウェルの各ウェルへ、PBSで希釈したマウス抗-ヒトIgG-Fab(PE)(Abcamから購入)100μLを添加し、及び対照抗体試料ウェルには、PBSで希釈したヤギF(ab’)2抗-ヒトIgG-Fc(PE)(Abcamから購入)を添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0172】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図12に示したように、結果は、本発明の精製した試料Bi-78-79、Bi-78-80及びBi-81-82は、CHO-hPD-L1細胞及びCHO-hPD-L2細胞の両方への結合活性を有し;本発明の精製した試料Bi-79-83は、CHO-hPD-L1細胞、CHO-hPD-L2細胞及びCHO-hTIGIT細胞の全てに対する結合活性を有したことを示した。
【0173】
3.4 ELISAレベルでの抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体とヒト血清アルブミンの結合の決定
抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体とヒト血清アルブミンの結合能を、この実験においてELISA反応の方法により検出し、実験方法は、実施例1.3の方法と同じであった。
【0174】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図13に示したように、実験結果は、本発明の抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体は全て、ELISAレベルで、ヒト血清アルブミンへ結合することができることを示した。
【0175】
3.5 抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体の決定によるヒトPD-L1/PD-L2のPD-1への結合活性のブロック
CHO-hPD-1細胞を、細胞密度2×10個細胞/mLに調節し、100μLの細胞を、96-ウェルフロープレートの各ウェルに添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した抗体Bi-78-79、Bi-78-80、Bi-81-82、及びBi-79-83並びに対照抗体の試料を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料60μLを、96-ウェル試料希釈プレートの各ウェルに添加する一方で、60μLのビオチン化-標識したヒトPD-L1タンパク質又はビオチン化-標識したヒトPD-L2タンパク質(ACROBiosystemsから購入)を、各ウェルへ、最終濃度500ng/mlで添加し、この混合物を、試料と共に、4℃で30分間インキュベーションした。100μLの同時-インキュベーションした試料を、細胞を含有する先の96-ウェルフロープレートの各ウェルに添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。PBSで100-倍希釈した100μLのストレプトアビジン、R-フィトエリスリン複合体(Thermo fisherから購入)を、各ウェルへ添加し、プレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0176】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図14に示したように、実験結果は、抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体は全て、ヒトPD-L1及びヒトPD-L2の細胞表面上のヒトPD-1への結合をブロックすることができることを示した。
【0177】
3.6 抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体によるPDL1/PDL2/PD1/lucシグナル伝達経路をブロックする実験
PD-L1及びPD-L2は、腫瘍細胞又は免疫細胞上で同時-発現されることができ、並びに精製された抗体Bi-78-79、Bi-78-80、Bi-81-82、及びBi-79-83のPD-L1/PD-1経路及びPD-L2/PD-1経路に対する同時ブロック作用は、ヒトPD-L1及びヒトPD-L2を同時-発現しているCHO細胞並びにヒトPD-1を過剰発現し且つNFAT-ルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むJurkat細胞を、同時-インキュベーションする方法により検出され、具体的手順は、以下のようであった。
【0178】
ヒトPD-L1及びヒトPD-L2を同時-発現している機能性細胞(CHO-K1-PD-L1/PD-L2)を、密度5×10個細胞/mlに調節し、100μLの細胞を、96-ウェル細胞培養白色底プレートの各ウェルに播種し、5%COのインキュベーター内で、37℃で一晩培養した。精製した抗体及び対照抗体1640を、完全培地中に、その後の使用のために、勾配希釈した。ヒトPD-1を過剰発現し且つNFAT-ルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むJurkat細胞(Jurkat-PD-1-NFAT)を、1640完全培地により、その後の使用のために、細胞密度2.5×10個細胞/mLに調節した。白色底プレートを取りだし、培養物上清をピペッティングし、希釈した試料40μLを添加し、白色底プレートへ、1個のウェルにつき添加し、Jurkat-PD-1-NFATエフェクター細胞浮遊液40μLを同時に添加し、並びにこの白色底プレートを、接着培養のために6h、5%COのインキュベーター内に、37℃で配置した。Bio-Glo(商標)試薬(Promega)を、各ウェルへ添加し、蛍光シグナルを、多機能マイクロプレートリーダーを使用し測定した。
【0179】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図15に示したように、実験結果は、抗-PD-L1/PD-L2/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体又は抗-PD-L1/PD-L2/TIGIT/ヒト血清アルブミン四重特異性抗体は、PD-L1/PD-1及びPD-L2/PD-1シグナル伝達経路を、インビトロにおいて同時にブロックすることができ、且つこのブロック作用は、抗-PD-1モノクローナル抗体ペムブロリズマブの作用に類似していることを示した。
【0180】
要約すると、親抗体の結合活性は、2種の異なるナノボディドメインの、CH1-CL構造のN-末端への連結により、及び三重特異性抗体を形成するための、1種のナノボディドメインの、CH1のC-末端への連結によるか、あるいは、四重特異性抗体を形成するための、2種の異なるナノボディドメインの、CH1-CL構造のC-末端への連結により、効果的に維持することができる。このナノボディは、CH1又はCLのN-末端へ、可動性ペプチド鎖を介して又は直接連結することにより、抗原結合能を維持することができる。このナノボディは、CH1のC-末端へ、11個のアミノ酸(GGGGSGGGGSG)の可動性ペプチド鎖又は5個のアミノ酸(DKTHT)の短いペプチド鎖を介して連結することにより、抗原結合能を維持することができる。
【0181】
この実施例において、抗-PD-L1及び抗-PD-L2ナノボディの組合せが、同じ細胞上の2種の抗原に結合するために使用され、且つこれらの結果は、全ての多重特異性抗体は、PD-L1をPD-L2へ同時に結合し、且つPD-L1/PD-L2のPD-1への結合をブロックし、下流のシグナル伝達経路を活性化することを指摘した。
【0182】
実施例4:抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体
4.1 抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の構築
M-ボディが、異なる細胞上に位置した異なる標的を標的化する2種のナノ-抗体を連結するために適用可能であるかどうかを確認するために、本発明者らは、Bi-79-86と指定される抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体を構築し、これは図16に示されたような概略構造である、2種の異なるポリペプチドを含む。ペプチド鎖#1は、配列番号:17に明記したアミノ酸配列を有した。ペプチド鎖#2は、配列番号:25に明記したアミノ酸配列を有し、これは抗-41BBナノボディアミノ酸配列(配列番号:26、特許番号)を含み、及びペプチド鎖#2は、このナノボディアミノ酸配列のC-末端を、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列の配列番号:9へ直接連結することにより得た。
【0183】
4.2 抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の発現及び精製
この実施例において、実施例4.1において構築した抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-79-86の2本鎖をコードしているヌクレオチド配列を、市販の真核細胞発現ベクターpCDNA3.1(+)へ、マルチクローニングサイトを介して全てライゲーションし、並びに真核細胞において発現し及び精製した。発現プラスミド構築、並びにタンパク質発現及び精製の方法は、実施例1.2と同じであった。
【0184】
この試験は、SECアッセイを用い、精製した生成物の純度を試験し、これは実施例1.2と同じであった。実験結果は、本研究において得られた抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体は、純度95.08%であることを示した。
【0185】
4.3 抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体の抗原結合能の決定
ヒトPD-L1又はヒト41BBを過剰発現するCHO細胞(CHO-hPD-L1細胞、CHO-41BB細胞)を、pCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)の、MCSへクローニングした、ヒトPD-L1又はヒト41BB cDNA(Nano Biologicalから購入)によるトランスフェクションにより、作製した。増幅したCHO-hPD-L1/CHO-41BB細胞を、細胞密度2×10個細胞/mlに調節し、並びにこの細胞100μLを、96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した三重特異性抗体を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料100μLを、細胞を含有する96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。精製した抗体試料ウェルの各ウェルへ、PBSで希釈したマウス抗-ヒトIgG-Fab(PE)(Abcamから購入)100μLを、対照抗体試料ウェルへ、PBSで希釈したヤギF(ab’)2抗-ヒトIgG-Fc(PE)(Abcamから購入)を添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0186】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図17に示したように、結果は、本発明の抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-79-86は、CHO-hPD-L1細胞及びCHO-41BB細胞の両方への結合活性を有したことを示した。
【0187】
4.4 ELISAレベルでの抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のヒト血清アルブミンへの結合の決定
この実験において、抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-79-86のヒト血清アルブミンへの結合能を、ELISA反応の方法により検出し、且つこの実験方法は、実施例1.3における方法と同じであった。
【0188】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、結果は図18に示し、並びに本発明の抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体は、ELISAレベルで、ヒト血清アルブミンへ結合することができる。
【0189】
4.5 抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体のPD-L1/41BBを発現している細胞へ架橋する能力の決定
ヒトPD-L1及びヒト41BBを、各々、腫瘍細胞及び免疫細胞の表面上に発現させ、並びに細胞架橋実験は、三重特異性抗体Bi-79-86の、ヒトPD-L1を過剰発現している細胞(CHO-hPD-L1)及びヒト41BBを過剰発現している細胞(CHO-h41BB)へ同時に結合することにより、2種の細胞をより近くに引き寄せる能力を証明し、具体的手順は、以下のようであった。
【0190】
2×10個のCHO-hPDL1細胞及びCHO-h41BB細胞を、各々、採取し、遠心分離し、CellTrace(商標)CFSE及びCellTracer(商標)Violet BMQC色素である2種の色素により再浮遊させ、暗所において37℃で12分間インキュベーションし;Bi-079-Asa 086、A-Na-19、alpha HSA(Ablynx benchmark)を、PBSによる2-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈した。CHO-hPDL1細胞及びCHO-h41BB細胞を、遠心分離し、その後PBSで再浮遊させ、細胞比1:1で混合した。この混合物100μL/ウェルを、96-ウェルプレートへ添加し、上清を遠心分離により廃棄した。ヒト血清アルブミンを、PBSにより2μg/mLに希釈し、その後1ウェルにつき50μLで細胞プレートへ添加し、先に調製した抗体50μL/ウェルを添加した。この混合物を混ぜ合わせ、暗所において37℃で2hインキュベーションし、CytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出した。
【0191】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図19に示したように、実験結果は、本発明の抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-79-86は、システムが高濃度のヒト血清アルブミンを含む条件下で、CHO-hPDL1細胞及びCHO-h41BB細胞を近くに引き寄せることができることを示し、このことは、Bi-79-86は、異なる細胞表面上に発現された異なる抗原に同時に結合することができ、且つその結合活性は、そのシステム中のヒト血清アルブミンにより影響を受けないことを証明した。
【0192】
4.6 抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体によるヒトPD-L1のヒトPD-1への結合のブロック
精製された抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-79-86により、PD-L1タンパク質のPD-1細胞への結合活性をブロックすることを検出する方法は、実施例1.6の方法と同じであった。先に説明した方法によるアッセイ実験において、図20に示したように、実験結果は、抗-PD-L1/41BB/ヒト血清アルブミン三重特異性抗体Bi-79-86分子は、PD-L1タンパク質のPD-1細胞への結合をブロックすることができることを示した。
【0193】
要約すると、親抗体の結合活性は、2種の異なるナノボディドメインの、CH1-CL構造のN-末端への連結により、及び三重特異性抗体を形成するための、1種のナノボディドメインの、CH1のC-末端への連結により、効果的に維持することができる。この実施例において、抗-PD-L1及び抗-41BBナノボディの組合せを、異なる細胞上の2種の抗原に結合するために使用し、この結果は、本発明の三重特異性抗体構造は、細胞レベルでPD-L1及び41BBへ同時に結合し、且つ各々、PD-L1及び41BBを発現している細胞に架橋することができ、並びにこの結合及び架橋の活性は、そのシステム中のヒト血清アルブミンにより左右されないことを指摘した。
【0194】
実施例5:抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質
5.1 抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質の構築
本抗体のFcドメインは、薬物の物理的半減期を延長するために、FcRnへ結合することができ;このFcドメインは、他のFc受容体へ結合し、ADCC/CDCなどの下流反応を引きおこすことができ;Fcドメインは、プロテインAに特異的に結合することができ、これはタンパク質精製を促進することができる。
【0195】
M-ボディ技術を、Fcと融合する場合において適用できるかどうかを確認するために、本発明者らは、Bi-203-204と指定される、抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体を構築し、これは、図21に示した概略構造を伴う、2種の異なるポリペプチドを含んだ。ここで、ペプチド鎖#1は、配列番号:27に明記したアミノ酸配列を有し、これは、抗-PD-L1ナノボディの配列番号:28を含み、ナノボディアミノ酸配列のC-末端は、ヒトIgG1由来の配列番号:3に明記したCH1アミノ酸配列へ直接連結され;並びに、ペプチド鎖#1は、ヒトIgG1(LALA変異型)Fc(配列番号:29)ドメインを、CH1領域のC-末端へ直接連結することにより得られ;ペプチド鎖#2は、配列番号:30に明記したアミノ酸配列を有し、これは、抗-PD-L2ナノボディHZ-D-NA-96-01アミノ酸配列の配列番号:31を有し、且つペプチド鎖#2は、このアミノ酸配列のC-末端を、ヒトκ軽鎖定常領域(CL)へ直接連結することにより得た。
【0196】
5.2 抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質の発現及び精製
この実施例において、実施例5.1において構築された抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Bi-203-204の2本鎖の各々をコードしているヌクレオチド配列を、市販の真核細胞発現ベクターpCDNA3.1(+)へ、マルチクローニングサイトを介してライゲーションし、並びに真核細胞において発現し及び精製し、二重特異性抗体Bi-203-204を得、具体的手順は、以下のようであった。
【0197】
このプラスミドを、Expic(商標)発現系キット(Thermoから購入)を用い、製品の使用説明書に記載されたトランスフェクション方法に従い、Expi-CHO細胞へ導入した。5日間の細胞培養後、上清を収集し、標的タンパク質を、プロテインA磁気ビーズ(GenScriptから購入)選別法により精製した。磁気ビーズを、好適な容積の結合緩衝液(PBS+0.1%ツイーン20、pH7.4)(ビーズ容積の1~4倍)中に再浮遊させ、その後精製されるべき試料に添加し、この混合物を、穏やかに振動させながら、室温で1hインキュベーションした。この試料を、磁気スタンド(Beaverから購入)上に配置し、上清を廃棄し、ビーズを、結合緩衝液により3回洗浄した。溶出緩衝液(0.1Mクエン酸ナトリウム、pH3.2)を、磁気ビーズの3~5倍の容積で添加し、室温で、5~10分間振盪させた。試料を、磁気スタンド上に配置し、溶出緩衝液を収集し、中和緩衝液(1Mトリス、pH8.54)を添加した収集パイプに移し、この混合物を混ぜ合わせた。
【0198】
このタンパク質の純度は、HPLCにより決定した。HPLC法は、以下のようであった:移動相:150mM NaHPO・12HO、pH7.0。クロマトグラフィー条件は、以下のようであった:検出波長:280nm、カラム温度:25℃、流量:0.35ml/分、検出時間:20分間、Zenix-C SEC-300カラム(SEPAX 4.6×300mm、3μm)。
【0199】
実験結果は、抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質Bi-203-204は、比較的良い純度(>99%)を有し、且つBi-203-204の精製した分子は、4種のペプチド鎖を含み、精製により得られたタンパク質分子のサイズに従い、正確に対を形成したことを示した。
【0200】
5.3 抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質の抗原結合能の決定
増幅したCHO-hPD-L1細胞/CHO-hPD-L2細胞を、細胞密度2×10個細胞/mlに調節し、並びにこの細胞100μLを、96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、引き続きその後の使用のために遠心分離した。精製した二重特異性抗体を、PBSによる3-倍連続希釈(400nMで出発し、合計12の濃度)により希釈し、希釈した試料100μLを、細胞を含有する96-ウェルフロープレートの各ウェルへ添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。精製した抗体試料ウェルの各ウェルへ、PBSで希釈したヤギF(ab’)2抗-ヒトIgG-Fc(PE)(Abcamから購入)100μLを添加し、このプレートを、4℃で30分間インキュベーションし、PBSで2回洗浄した。1ウェルにつき100μLのPBSを添加し、細胞を再浮遊させ、これをCytoFlexフローサイトメーター(Bechman)上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0201】
先に説明した方法によるアッセイ実験において、図22に示したように、結果は、本発明の抗-PD-L1/PD-L2二重特異性抗体Fc融合タンパク質Bi-203-204は、CHO-hPD-L1細胞及びCHO-hPD-L2細胞の両方に対し結合活性を有することを示した。
【0202】
要約すると、親抗体の結合活性は、2種の異なるナノボディドメインの、CH1-CL構造のN-末端での連結により、及び二重特異性の特異的抗体Fc融合タンパク質を形成するための、ヒト抗体FcドメインのCH1のC-末端での連結により、効果的に維持されることとができる。同時に、Fcドメインは、この抗体の精製及び安定した四量体構造の形成を促進することができる。
【0203】
本出願において言及された全ての文献は、各々が個別に引用により組み込まれているように、引用により本出願中に組み込まれている。更に、本発明の様々な変更又は修飾は、先の本発明の教示を分かった後、当業者により行われることができ、並びにこれらの同等物もまた、本出願の添付された請求の範囲内に収まることは理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
2023519440000001.app
【国際調査報告】