(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-11
(54)【発明の名称】サーマルインクジェットプリントヘッド並びにサーマルインクジェットプリントヘッドを備える印刷組立体及び印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
B41J2/14 203
B41J2/14 209
B41J2/14 205
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549884
(86)(22)【出願日】2021-02-23
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2021054363
(87)【国際公開番号】W WO2021170543
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】スキナ, パオロ
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF40
2C057AF65
2C057AF99
2C057AG46
2C057BA04
2C057BA13
(57)【要約】
本発明のサーマルインクジェットプリントヘッドは、基板と、ノズル層を貫通して形成された複数のノズルを含む、ノズル層と、複数のノズルに対応する複数のインク吐出チャンバと、基板に形成され、複数のインク吐出チャンバに対応する複数のヒータ抵抗器と、複数のヒータ抵抗器に形成され、複数のヒータ抵抗器に対応する複数の分離したキャビテーションアイランドであって、キャビテーションアイランドのそれぞれは、ヒータ抵抗器の異なるヒータ抵抗器を覆う、複数の分離したキャビテーションアイランドと、ヒータ抵抗器とキャビテーションアイランドとの間に介在する誘電体層とを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)と、
ノズル層(18)であって、前記ノズル層(18)を貫通して形成された複数のノズル(19)を含む、ノズル層(18)と、
前記複数のノズル(19)に対応する複数のインク吐出チャンバ(16)と、
前記基板(1)に形成され、前記複数のインク吐出チャンバ(16)に対応する複数のヒータ抵抗器(2)であって、前記ノズル(19)のそれぞれを通るインク滴吐出が、前記対応するインク吐出チャンバ(16)に位置する前記ヒータ抵抗器(2)のうちの1つのヒータ抵抗器の加熱によって引き起こされるように、前記ヒータ抵抗器(2)のそれぞれは、前記インク吐出チャンバ(16)のうちの異なるインク吐出チャンバに位置する、複数のヒータ抵抗器(2)と、
前記複数のヒータ抵抗器(2)に形成され、前記複数のヒータ抵抗器(2)に対応する複数の分離したキャビテーションアイランド(33)であって、前記キャビテーションアイランド(33)のそれぞれは、前記ヒータ抵抗器(2)の異なるヒータ抵抗器を覆う、複数の分離したキャビテーションアイランド(33)と、
前記ヒータ抵抗器(2)と前記キャビテーションアイランド(33)との間に介在する誘電体層(23)であって、前記誘電体層(23)は、窒化ケイ素及び炭化ケイ素で作られ、約0.4μm~約0.65μmの範囲の厚さを有する複合膜である、誘電体層(23)と、
を備える、サーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
前記ヒータ抵抗器(2)がU形ヒータ抵抗器である、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
前記キャビテーションアイランド(33)のそれぞれが高融点金属膜で作られている、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
前記高融点金属膜がタンタル膜である、請求項3に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項5】
前記キャビテーションアイランド(33)のそれぞれが、前記ヒータ抵抗器(2)の対応するヒータ抵抗器を完全に覆うのに十分な大きさでありながら、最小化される表面積を有する、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項6】
前記複数のキャビテーションアイランド(33)を覆い、前記ノズル層(18)の下に形成されたバリア層(17)をさらに備え、
前記インク吐出チャンバ(16)が前記バリア層(17)によって画定される、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項7】
前記バリア層(17)が、前記複数のインク吐出チャンバ(16)に対応する複数のインクチャネル(15)を形成するためにパターニングされ、前記インクチャネル(15)のそれぞれが、前記インク吐出チャンバ(16)の異なるインク吐出チャンバに通じる、請求項6に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項8】
前記基板(1)と前記ヒータ抵抗器(2)との間に介在する絶縁層をさらに備える、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項9】
前記キャビテーションアイランド(33)のそれぞれが浮遊性である、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のサーマルインクジェットプリントヘッドを備える印刷組立体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のサーマルインクジェットプリントヘッドを備える印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
[0001]本発明は、サーマルインクジェット印刷技術の分野に関し、特に、サーマルインクジェットプリントヘッドに関する。
【発明の背景】
【0002】
[0002]サーマルインクジェット印刷技術は比較的十分に開発が進んできた。種々のサーマルインクジェットプリントヘッドが存在してきた。例えば、米国特許第6123419号は、寄生抵抗における非効率的な電力消散を克服するために高抵抗値セグメント化ヒータ抵抗器を使用するサーマルインクジェットプリントヘッドを開示する。米国特許第6582062号は、寄生抵抗及び入力リード線の数を低減するために、多重化デバイスを使用する大型アレイインクジェットプリントヘッドを開示する。
【0003】
[0003]サーマルインクジェットプリントヘッドにおいて、ノズルを通るインク滴の吐出は、インク吐出チャンバ内に存在する或る容積のインクを素早く加熱することによって達成され、インクの加熱は、インク吐出チャンバ内に配置されたヒータ抵抗器に印可される短い電流パルスによって達成される。インクの加熱は、インク蒸気泡を急速に形成させ、膨張させ、したがって、液体インクを、ノズルを通して押し出す。パルスが終了し、インク滴が吐出されると、インク吐出チャンバは、インクチャネルによってインクが再充填される。ヒータ抵抗器は抵抗膜で作られ、サーマルインクジェットプリントヘッドは、複数のそのようなヒータ抵抗器を抵抗器アレイとして備える。ヒータ抵抗器は、ヒータ抵抗器のそれぞれが適切に制御されるように、導電性トレース及び/又はパッドによって、関連する論理回路部及び電力回路部に電気接続される。論理回路部及び電力回路部を実装するとき、金属ラインが使用される。
【0004】
[0004]従来技術のサーマルインクジェットプリントヘッドデバイスにおいて、通常、全てのヒータ抵抗器は、連続保護層によって覆われ、連続保護層は、プリントヘッドの動作中に、インク蒸気泡の急激な崩壊によって、下層側の抵抗膜が損傷されることを防止する。このため、大きい機械的強度と良好な熱伝導率を共に示すタンタルのような或る高融点金属が、保護層に使用される。そのようなタンタル膜は、一般に、全抵抗器アレイに及ぶ全抵抗器エリアに連続的に堆積される。タンタルの電気伝導率によって、デバイスの大面積が、連続タンタル導電性膜によって覆われることになる。一方で、デバイス全体にわたる金属ラインの電圧レベルが時間的に実際に変化するため、このタンタル導電性膜は、タンタル導電性膜の下の近傍金属ラインと容量結合する可能性があり、したがって、タンタル導電性膜は、論理回路部に関して或る問題を引き起こす可能性がある。他方で、タンタル層と下層側の金属ラインとの間に介在する誘電体層において考えられるピンホール又は不連続部は、寄生電気短絡経路を生じる可能性があり、寄生電気短絡経路の作用は、電気的欠点とインクによる電気化学的作用の両方を引き起こす可能性がある。米国特許第6441838号は、崩壊する駆動気泡のキャビテーション圧を吸収することによってインク放出用抵抗器に機械的パッシベーションを提供するタンタルパッシベーション層を備えるインクジェットプリントヘッドを開示し、タンタルパッシベーション層は、ヒータ抵抗器を覆って堆積され、インクチャンバを越えて且つ関連するインクチャネルを覆って延在する。
【発明の概要】
【0005】
[0005]従来技術における上記問題のうちの少なくとも一部を軽減又は解決することができる解決策を提供することが本発明の目的である。上記問題は、独立請求項の主題によって解決される。さらなる好ましい実施形態は、従属請求項において規定される。
【0006】
[0006]本発明の一態様によれば、サーマルインクジェットプリントヘッドが提供され、サーマルインクジェットプリントヘッドは、
基板と、
ノズル層であって、ノズル層を貫通して形成された複数のノズルを含む、ノズル層と、
複数のノズルに対応する複数のインク吐出チャンバと、
基板に形成され、複数のインク吐出チャンバに対応する複数のヒータ抵抗器であって、ノズルのそれぞれを通るインク滴吐出が、対応するインク吐出チャンバに位置するヒータ抵抗器のうちの1つのヒータ抵抗器の加熱によって引き起こされるように、ヒータ抵抗器のそれぞれは、インク吐出チャンバのうちの異なるインク吐出チャンバに位置する、複数のヒータ抵抗器と、
複数のヒータ抵抗器に形成され、複数のヒータ抵抗器に対応する複数の分離したキャビテーションアイランドであって、キャビテーションアイランドのそれぞれは、ヒータ抵抗器の異なるヒータ抵抗器を覆う、複数の分離したキャビテーションアイランドと、
ヒータ抵抗器とキャビテーションアイランドとの間に介在する誘電体層であって、誘電体層は、窒化ケイ素及び炭化ケイ素で作られ、約0.4μm~約0.65μmの範囲の厚さを有する複合膜である、誘電体層と
を備える。
【0007】
[0007]本発明の別の態様によれば、上記で説明したサーマルインクジェットプリントヘッドを備える印刷組立体が提供される。
【0008】
[0008]本発明のさらに別の態様によれば、上記で説明したサーマルインクジェットプリントヘッドを備える印刷装置、例えば、プリンタが提供される。
【0009】
[0009]本発明の解決策によって、各キャビテーションアイランドとキャビテーションアイランド近傍の回路部とのオーバーラップを低減することができ、したがって、キャビテーション層とキャビテーション層近傍の回路部との間の寄生容量結合を生成する可能性が、従来技術に関する可能性と比較して劇的に低減される。さらに、単一キャビテーションアイランドの比較的小さい表面積によって、キャビテーションアイランドが、キャビテーションアイランドの下の薄い誘電体膜の考えられる欠陥とオーバーラップする可能性が小さい、すなわち、誘電体膜内の欠陥が、或るキャビテーションアイランドの真下に存在し、したがって、或る電気的短絡を引き起こす確率が低減される。そのため、誘電体層の特定の組成及び厚さ(従来技術の誘電体層よりずっと薄い)によって、「電気的に(electrically)」絶縁されたキャビテーションアイランドを設けることは明らかに有利である。結果として、本発明は、異なる層間に好ましくない導電性ブリッジを有するピンホールを有するリスクの低減を伴う、最適化された熱伝達を提供する。したがって、本発明を使用することは、プリントヘッドの信頼性を実質的に改善するのに役立ち、製造プロセスの収量を向上させることができる。
【0010】
[0010]本発明の非限定的及び非網羅的実施形態は、以下の図を参照して例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態によるサーマルインクジェットプリントヘッドの例示的なレイアウトを示す模式図である。
【
図2】ダイシングされる前の例示的なウェハを示す模式図である。
【
図3】本発明のサーマルインクジェットプリントヘッドを組み込む例示的な印刷組立体の斜視図を概略的に示す図である。
【
図4】例示的なマイクロ流体回路の一部分を透視図で概略的に示す図である。
【
図5】
図4のマイクロ流体回路の一部分を断面図で概略的に示す図である。
【
図6】
図5の一部分をより詳細に概略的に示す断面図である。
【
図7】
図1のサーマルインクジェットプリントヘッドの一部分を概略的に示す図である。
【
図8】従来技術のサーマルインクジェットプリントヘッドの一部分を概略的に示す図である。
【
図9a】サーマルインクジェットプリントヘッドの部分が
図8に示されるサーマルインクジェットプリントヘッドについて考えられる状況を示す図である。
【
図9b】
図9aの状況に対応する等価回路を示す図である。
【
図9c】等価回路の修正バージョンを示す図である。
【
図10a】サーマルインクジェットプリントヘッドの部分が
図8に示されるサーマルインクジェットプリントヘッドについて考えられる別の状況を示す図である。
【
図10b】
図10aの状況に対応する1つの考えられる等価回路を示す図である。
【
図10c】
図10aの状況に対応する別の考えられる等価回路を示す図である。
【実施形態の詳細な説明】
【0012】
[0021]本発明の上記及び他の特徴及び利点をより明らかにするために、本発明は、添付図面と併せて以下でさらに説明される。本明細書で示す特定の実施形態が、当業者に説明するためのものであり、単に例示的であるが、制限的でないことが理解される。
【0013】
[0022]
図1は、本発明の一実施形態によるサーマルインクジェットプリントヘッドの例示的なレイアウトを概略的に示す。
図1のサーマルインクジェットプリントヘッドは基板1を備え、基板1は、1つ又は複数の列3内に配置された複数のヒータ抵抗器2がその表面に設けられる。サーマルインクジェットプリントヘッドはチップの形態であってもよい。
図2に示すように、それぞれが基板1によって保持される複数のそのようなチップは、単一シリコンウェハ5内で製造されることができ、単一シリコンウェハ5は、その後、薄膜蒸着、フォトリソグラフィ、ウェット及びドライエッチング技法、イオン注入、酸化等を含む適切な半導体技術を使用して、個々のチップにダイスカットされる。ヒータ抵抗器2の列は、インク再充填を可能にするためにプリントヘッドチップの内部部分に作られた貫通スロット4に極めて接近して配置されることができる。ヒータ抵抗器2のそれぞれは、抵抗膜で作られることができ、対応する導電性トレース(複数可)と接触することができる。プリントヘッドの周辺領域において、通常、TAB(Tape Automated Bonding、テープ自動化ボンディング)プロセスを使用してフレキシブルプリント回路に結合される接触パッド6のセットが存在してもよい。ヒータ抵抗器のそれぞれは、対応する導電性トレース(複数可)及び対応する接触パッド(複数可)6を介してフレキシブルプリント回路に電気接続されることができる。基板1の能動部分10において、特に、ヒータ抵抗器に関連する電子レイアウトが、ヒータ抵抗器の数が増加するにつれて、比較的複雑になるとき、抵抗器をアドレス指定するMOSトランジスタ11のアレイ、1つ又は複数の論理回路部12、1つ又は複数のプログラマブルメモリ13、及び考えられる他の構成要素が存在することができる。ヒータ抵抗器を形成する抵抗膜に加えて、本出願のサーマルインクジェットプリントヘッドは、他の層/膜を備えることができ、それらは後で説明される。
【0014】
[0023]本発明を組み込む印刷組立体を示す
図3を参照すると、フレキシブルプリント回路7は、プリントヘッドカートリッジ本体8に取り付けられ、本発明のサーマルインクジェットプリントヘッドはプリントヘッドカートリッジ本体8に搭載され接続されることができる。フレキシブルプリント回路7は、サーマルインクジェットプリントヘッドと共に使用されるプリンタと電気信号を交換するためにより大きい接触パッド9を備える。サーマルインクジェットプリントヘッド、例えば、
図1に示すサーマルインクジェットプリントヘッドは、任意の適切な方法でプリントヘッドカートリッジ本体8に搭載され接続されることができる。
【0015】
[0024]
図4及び
図5を参照すると、領域14に概略的に示されるように、抵抗膜、導電性膜、及び、誘電体膜の積層体が堆積されパターニングされている本発明のサーマルインクジェットプリントヘッドの基板表面に、マイクロ流体回路が堆積され実現されることができるため、インクは、適切なチャネル15を通して、堆積されたマイクロ流体回路内に流れ、その壁が対応するヒータ抵抗器2を囲むインク吐出チャンバ16に達することができる。チャネル15は、貫通スロット4と流体連通しており、貫通スロット4は、インクリザーバ(示さず)に通じることができる。マイクロ流体回路は、しばしば、バリア層と呼ばれる適切な高分子層17内にパターニングされる。例えばプレートの形態のノズル層18は、バリア層の上に設けられる。それぞれが、下層側のヒータ抵抗器と整列される複数のノズル19は、ノズルプレート18を貫通して形成されることができ、ノズルから、インク滴20が吐出される。サーマルインクジェットプリントヘッドの動作中に、ヒータ抵抗器2が起動されることを要求される場合、短い電流パルスが抵抗器を加熱するために印可され、それが、さらに、抵抗器の真上のインクの薄層の気化、したがって、蒸気泡21の形成を引き起こす。気化された層内の圧力が急激に上昇し、起動された抵抗器の上の対応するノズルからの、上を覆う液体インクの部分の吐出を引き起こす。インク滴は媒体(例えば、一枚の用紙)に向かって移動し、媒体の表面にインクドットを生成する。その後、新たなインクは、定常状態に達するまで、吐出された滴を置き代えるためにインク吐出チャンバ内16に引き入れられる。
【0016】
[0025]ヒータ抵抗器2(ジュール効果を介して電流パルスによって加熱される)からインクへのエネルギー伝達を最適化するために、好ましくは、上を覆うインクに向かって熱流が起きるように、抵抗器が基板から断熱されることが必要であり、インクは、さらに、薄い誘電体膜によって抵抗膜層から分離されて、電気的リークを回避する。基板は、かなりの熱伝導率を有するシリコンから作られることができ、その場合、基板と抵抗器との間に十分な厚さを有する絶縁層を介在させることが必要である:換言すれば、抵抗器は、基板上に成長又は堆積される適切な絶縁層を覆って堆積されるべきである。高温プロセスで生成された熱成長酸化ケイ素及びBPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass、ホウ素リンケイ酸塩ガラス)は共に、抵抗器の断熱に適した材料であり、単独で又は組み合わせて使用されることができる。これらの材料の成長或いは堆積及び/又はアニーリングのための温度は、プリントヘッドのヒータ抵抗器の動作温度よりも高いため、これらの材料は、プリントヘッドの通常の動作中に安定したままであることになる。
【0017】
[0026]プリントヘッドの動作中に急速な且つ大きい温度変化を受ける抵抗膜は、安定した特性及び熱機械的応力に対する良好な耐性を有するべきである。典型的には、ヒータ抵抗器2の抵抗値は、数十オームである;異なる形状及び異なる抵抗値を使用されることができるが、約30オームの抵抗を有する正方形のヒータ抵抗器がしばしば採用される。ヒータ抵抗器についての広範囲で且つ長持ちする選択は、タンタルアルミニウム合金で作られた複合膜である:約900オングストロームの膜厚は、平方当たり30オームのシート抵抗を与える、すなわち、そのような膜で作られた正方形の抵抗器は、30オームの抵抗を有する。本発明の好ましい実施形態によれば、ヒータ抵抗器は、U形ヒータ抵抗器であり、U形ヒータ抵抗器は、異なる電圧にバイアスされた近傍導体間にギャップが存在することを意味する。
【0018】
[0027]複数のヒータ抵抗器をアドレス指定し駆動する種々の知られている解決策が入手可能である。プリントヘッド内のノズルの数が数十までと比較的少ない場合は、各ヒータ抵抗器は、電気線路を通して対応する接触パッドに直接接続されることができ、一方、電流の戻りは、一般に、1つ又は少数の接地パッドによって収集されることができる。ノズルの数が増加するにつれて、抵抗器をアドレス指定する多数の接触パッドを必要とする直接的個別的駆動は、実現するのが難しい:実際には、パッドは、通常、プリントヘッドチップの外側境界に沿って分配され、パッドの数は、無制限に増えることはできない。より実際的な解決策は、アドレス指定用マトリクスを採用することであり、アドレス指定用マトリクスは、減少した数の接触パッドを使用して、多数の抵抗器の駆動を可能にする。アドレス指定用マトリクスは、好ましくは、複数のMOSトランジスタを用いて実現され、MOSトランジスタのそれぞれは、決定されたヒータ抵抗器と電気的につながっている。個々のヒータ抵抗器は、要求に応じて起動されることができるように、トランジスタマトリクスの電極に適切な方法で接続されることができ、プリントヘッドからのインク滴の吐出を引き起こす。
【0019】
[0028]上記で示したように、ヒータ抵抗器の上の誘電体層は、インクに電気的絶縁を提供する:一般に、シリコン窒化膜は、単独で又は炭化ケイ素と組み合わせて、この目的で、誘電体層を形成するために使用される。誘電体層用の絶縁膜は、プリントヘッドの動作中に受ける熱機械的応力並びに気泡崩壊による衝撃に耐えながら、強い熱流を可能にするのに十分に薄くあるべきである。本発明によれば、誘電体層は、窒化ケイ素及び炭化ケイ素で作られた複合膜であり、その厚さは、少なくとも4000オングストローム(0.4μm)、せいぜい6500オングストローム(0.65μm)である。実際には、ヒータ抵抗器の加熱による蒸気泡の急速な膨張は、気泡の内圧を、外部大気圧より十分に低いレベルまで大幅に低減する効果を有する。気泡の膨張の最大時に、気泡は、インク吐出チャンバの床によってその下側部分が制限され、インクによって囲まれた低圧内部を有するキャビティであることになる。より大きい外部大気圧は、キャビティの上に存在する液体インクを押し戻し、チャンバの床に対する激しい衝撃を引き起こす。インク内に前もって形成されたキャビティの崩壊の結果として起こるこの衝撃は、チャンバの床、すなわち、抵抗膜及び上を覆う絶縁膜を構成する膜を損傷する可能性がある。しばしば、薄い絶縁膜は十分に強くなく、例えばタンタルのような高融点金属で作られたキャビテーション層と呼ばれるさらなる保護膜が、絶縁膜の上に堆積される。タンタル膜は、熱伝導性があり、抵抗膜からインクに向かう強い熱束が、さらなる層が存在しても維持される。本発明によれば、キャビテーション層についての新規な配置構成が提案される。その概念は、キャビテーション層の膜表面の面積を、その機能に影響を及ぼすことなく低減することである。特に、キャビテーション層は、複数の分離したキャビテーションアイランドであって、それぞれが、ヒータ抵抗器の対応するヒータ抵抗器の上にパターニングされる、複数の分離したキャビテーションアイランドからなることができる。そのようなキャビテーション層は
図7を参照して後でさらに説明されるであろう。
【0020】
[0029]抵抗層、誘電体層、及びキャビテーション層を備える
図5の領域14の概略的表示は、
図6の断面図においてより詳細に観察されることができる。バリア層17の下に、キャビテーション層22が存在し、キャビテーション層22は、保護部として誘電体膜23上に堆積される。示すヒータ抵抗器エリアにおいて、誘電体膜23は、抵抗膜24のすぐ上に配置され、一方、導電性金属ライン25が実現されるヒータ抵抗器のすぐ外側で、誘電体膜23が導体上に堆積される。好ましい実施形態において、キャビテーション層はタンタルで作られるが、他の選択が行われることができ、そのような選択は当技術分野で知られていてもよい。
【0021】
[0030]
図7は、
図1のサーマルインクジェットプリントヘッドの一部分を概略的に示す。
図7に示すように、一連のヒータ抵抗器2が、バリア層17によって囲まれるため、ヒータ抵抗器2のそれぞれは、バリア層17の2つの垂直壁によって画定されるインク吐出チャンバ内に収容される。インクは、貫通スロット4のエッジ26からチャネル15を通ってインク注入チャンバに向かって流れる。この実施形態において、スロットエッジは直線であるが、ヒータ抵抗器の全てについて再充填時間を等化にするために、ヒータ抵抗器のスタガード配置に従うエッジ形状を採用することができる。
【0022】
[0031]
図7において、キャビテーション層を共にひとまとめに構成する複数のキャビテーションアイランド33が示される。そのようなキャビテーション層は、スプリットキャビテーション層又はセグメント化キャビテーション層と呼ばれることができ、キャビテーションアイランドのそれぞれは、キャビテーションセグメントとも呼ばれることができる。これらのキャビテーションアイランド33は互いから分離される。各キャビテーションアイランド33は、単一の異なるヒータ抵抗器2に対応し、単一の異なるヒータ抵抗器2を覆い、その面積は、キャビテーションアイランド33によって覆われる抵抗器の面積よりわずかに大きくすることができる。各キャビテーションアイランド33は、タンタル片からなることができるが、他の適切な材料、特に、高融点導電性材料が使用されることができる。
【0023】
[0032]1つの好ましい実施形態において、キャビテーションアイランド33は、浮遊性である、すなわち、任意の電圧源に接続されることができない。
【0024】
[0033]各キャビテーションアイランド33は、その近傍回路部29と小さいオーバーラップエリアのみを有し、したがって、キャビテーション層の存在によって寄生容量結合を生成する可能性は、従来技術に関する可能性と比較して劇的に減少する。さらに、セグメント化キャビテーション層によって覆われる全エリアが比較的小さいため、キャビテーション層とキャビテーションアイランドのすぐ下にある下層側の金属ラインとの間の誘電体層における考えられる好ましくないピンホール及び不連続部を有する確率も、劇的に減少されることができる。そのうえ、新規なレイアウトを使用することは、キャビテーション層と下層側の論理回路部との間の距離を増加させ、考えられる寄生キャパシタンス及び容量結合を低減するのに役立つ。
図7に示すセグメント化キャビテーション層を使用することは、プリントヘッドの信頼性を高め、実質的に改善するのに役立ち、製造プロセスの収量を向上させることができる。
【0025】
[0034]セグメント化キャビテーション層の存在は、バリア層17が堆積される表面を、少し粗くする場合があるが、バリア層の堆積及び後続のパターニングは、とにかく実施されることができ、抵抗器アレイに接近して平坦表面及び良好な付着を提供する。
【0026】
[0035]上記で述べたキャビテーション層を含む上記のセグメント化キャビテーション層を採用する本発明のサーマルインクジェットプリントヘッドの、従来技術に勝る利点は、以下の説明からより明らかになるであろう。
【0027】
[0036]
図8は、従来技術のサーマルインクジェットプリントヘッドデバイスの一部分を概略的に示す。
図8に示すように、一連のヒータ抵抗器102は、バリア層117によって囲まれ、バリア層117の垂直壁は、ヒータ抵抗器に対応するインク吐出チャンバを境界付ける。インクは、貫通スロット104のエッジ126からチャネル115を通ってチャンバに向かって流れる。
【0028】
[0037]点線領域で概略的に示す連続キャビテーション層122の前エッジ127は、スロット形成プロセスが層を損傷するのを防止するために、スロットエッジ126から一定距離に存在する。キャビテーション層の下の誘電体層(示さず)についても同じ注意が払われる。述べた層のエッジは、必ずしも一致する必要はない:誘電体層のエッジは、キャビテーション層のエッジに比べてスロットエッジ126に近いようにすることができる、又は、逆のことが、デバイスの信頼性に影響を及ぼすことなく起こることができる。キャビテーション層122の後エッジ128は、抵抗器102の十分に背後に存在する。そのような実装について幾つかの理由が存在する:タンタルのキャビテーション層は、一般に、上を覆うバリア層に良好な付着を提供し、そのことは、チャンバの周りの及び隣り合うチャンバ間の密封性が、デバイスの正しい性能を保証するために極めて重要である領域において非常に所望される。この付着は、デバイスの吐出エリアに近いタンタル層の表面の連続性によってさらに一層改善され、その理由は、シャープなエッジがない平滑なトポグラフィが、高分子バリア層のより容易な堆積及びパターニングを提供するからである。
【0029】
[0038]それでも、以下で示されるように、タンタルキャビテーション層122によって覆われる大きい面積から生じる欠点が存在する。
【0030】
[0039]プリントヘッドデバイスは、吐出エリアに極めて接近する、点線領域で概略的に示す適切な電気回路部129を通して制御され電力供給され、したがって、電気回路部129は、タンタルキャビテーション層によって部分的にオーバーラップされるが、回路部及びキャビテーション層は、窒化ケイ素及び炭化ケイ素でできた介在する誘電体層によって分離される。
【0031】
[0040]薄い誘電体層によって分離された、タンタルキャビテーション層及び下層側の電気回路部の金属ラインは、複数のキャパシタとして共に働くが、それらは、その目的のために設計されていない。これらの寄生キャパシタは、デバイスの電気回路部に属さなくても、主に精緻な論理回路が存在する場合、それでもデバイス挙動に対する予期しない且つ望ましくない作用を有する可能性がある。デバイス全体にわたる寄生キャパシタの存在は、導電性部品が極めて接近していることによるものであり、その理由は、導電性部品が、並んで、小さいギャップによって分離されるからである、又は、導電性部品が、導電性部品の間に絶縁層がある状態で、積層されるからである。モノリシック電子デバイスにおいて寄生作用の存在を回避することは難しく、その理由は、作製プロセスに対するコスト要件が、電気構成部品の表面密度を設計者に増加させるように強く促し、さらに、寄生作用を受け易いというより高いリスクを伴うからである。
【0032】
[0041]タンタルキャビテーション層の大きい表面のため、タンタルプレート自体によってオーバーラップされることができる下層側レベルに属する多数の導電性ラインが存在し、したがって、上側タンタルプレートを上部電極として有する多数の寄生キャパシタも存在する。下側導電性ラインは、デバイスの動作モードに従って時間と共に動的に変化する電圧レベルにあることがあるため、これは、電圧転流中に低いレベルの異なる導体間に或る容量結合を引き起こす可能性がある。
【0033】
[0042]一例として、
図9aにおいて、或る状況が断面図で示される:必ずしも共に接近していない2つの導電性ライン130及び131が存在する。両方のラインは、誘電体層123によって覆われ、誘電体層123は、さらに、幅広の連続キャビテーション層122によってオーバーラップされる。或る時点で、導体とも呼ばれる導電性ライン130及び131は、
図9bに示すように、電圧V1及びV2にそれぞれ設定されることができ、
図9bは、この状況に対応する簡略化された等価回路を示す。
図9bにおいて、タンタル層122を通る導電性経路の抵抗値RT並びに導電性ライン130及び131の抵抗値R1及びR2が考慮される。
【0034】
[0043]
図9bのモデルに従うと、電圧V1の値は、階段状波形の場合のように、突然の変化ΔVを受ける場合、それは、導体131に対応する、キャパシタC2の下側プレート上で急激な擾乱を引き起こす。ΔVと比較した、導体131上の擾乱のマグニチード及びトレンドが、抵抗値R1、R2、及びRT並びにキャパシタC1及びC2の静電容量値に実際に依存することを当業者が理解することが容易である。一般に、電圧V1が変化した直後に、突然の変化ΔVは、
図9bに示す抵抗値R1及びR2を有する抵抗器にわたって分配され、その理由は、キャパシタが、突然の電圧変動について短絡部として振る舞うからである。したがって、R1及びRT<<R2である場合、突然の変化ΔVは、最初は、ほぼ完全に導体131に伝達されることになる。その後、キャパシタのプレートへの漸次的電荷蓄積によって、システムは、一定期間後に新しい定常状態に達する傾向があり、そのとき、擾乱のマグニチュードは、ほぼゼロに落ちる:寄生キャパシタC1及びC2のキャパシタンス値が大きければ大きいほど、擾乱の持続時間が長くなる。
【0035】
[0044]同様の状況は、例えば、導体131がMOSトランジスタのゲートに接続されているときに見出されることができる。ほとんどの場合、回路内のトランジスタゲートは、浮遊状態のままにされず、プルダウン又はプルアップ抵抗器を通してグラウンドに接続されることができ、プルダウン又はプルアップ抵抗器の抵抗値は、導電性層の抵抗値より著しく大きい;したがって、条件R1及びRT<<R2が満たされる。電圧V1の突然の変化は、ゲート電極上の擾乱が十分に長く続く場合、トランジスタの状態の好ましくない転流をもたらす可能性がある。これは、主に、擾乱されたゲートが論理回路の一部であり、或る望ましくない動作が、この電気的障害によってトリガーされることができるときに、デバイスの機能不全を引き起こす可能性がある。またさらに、プリントヘッドにおいて、ノズルヒータ抵抗器に給電する電力ラインが、しばしば、10ボルトより高い電圧にバイアスされ、一方、典型的には、論理回路部の電源が3~5ボルトの範囲内に存在するため、論理トランジスタに寄生結合された電力ラインの突然の電圧変化は、ゲート上の障害がΔVに対して減衰される場合でも、論理トランジスタに対して深刻な影響を引き起こす可能性がある。
【0036】
[0045]寄生キャパシタC1及びC2の容量値を下げるために誘電体層123の厚さを増加させること、さらに、擾乱継続時間を低減することは、推奨されず、その理由は、ヒータ抵抗器からインクへの熱伝達の効果が薄い誘電体層を利用するからである。一方、ヒータ抵抗器領域のために及び背後の回路部のために2つの異なる厚さの誘電体層を使用することは、製造プロセスの複雑化、したがって、より高いコストを意味する。
【0037】
[0046]この問題を解決する考えられる解決策は、
図9cに示すように、互いから寄生キャパシタを切り離すために、タンタルキャビテーション層をグラウンドに接続することによって得られることができ、
図9cにおいて、タンタルキャビテーション層からグラウンドへの導電性経路の抵抗値RT’及びRT’’が反映されている。この実装は、キャビテーション層との容量結合によって引き起こされるクロストークを低減するのに非常に効果的であることになる;それでも、この実装は、他の欠点を受ける確率を増加させる傾向がある。
【0038】
[0047]実際には、デバイスの作製中に、堆積、パターニング、及びエッチングのような多くのプロセスが互いに続き、しばしば、デバイスの層における或る欠陥の存在を回避することは不可能である。例えば、エッチングプロセス後に、残留粒子が表面上に残っていると、残留粒子は、真上に堆積された後続層の完全性を損なう可能性がある。この層が誘電体膜である場合、ピンホール又は材料の欠如するゾーンが、膜表面全体を通して生じる可能性があり、絶縁の均一性を損なう。導電性層が、欠陥のある誘電体層上に堆積される場合、導電性材料の一部は、膜上の穴を貫入し、最悪の場合、絶縁性誘電体層それ自体の下に存在する導電性線路(複数可)とある程度接触する可能性がある。これは、従来技術による連続キャビテーション層について、上側導電性層が大きい表面積を覆うときに起こる可能性がある:大きいオーバーラップエリアは、
図10aに示すように、タンタルが、導電性線路の真上にある誘電体膜内の或る貫通孔を遮断する確率を増加させる。
【0039】
[0048]
図10aは、層積層体の断面図を示し、中間誘電体層123内の欠陥、特に貫通孔が、一番上のキャビテーション層の材料によって満たされており、下層側の導電性線路130に向かって導電性ブリッジ132を生成する。この欠陥は、欠陥なしデバイスにおいて電気絶縁されるべきである2つの導電性層間の短絡部として、又は少なくとも抵抗経路として働くことになる。キャビテーション層が、浮遊性のままにされるか、グラウンドに接続されるかに応じて、この状況に対応する等価回路は、
図10b又は
図10cに示されることができる。金属キャビテーション層と下層側の金属線路130との間の導電性ブリッジ132は抵抗器RBで示される。
【0040】
[0049]
図10bに示す場合では、全浮遊性キャビテーション層は、導体130に印可されるのと同じ電位V1にもたらされる。キャビテーション層と下層側の回路部との間の寄生容量結合はさらに強くなり、その理由は、電圧V1が、可変量であるときでも、タンタルキャビテーション層に直接影響を及ぼすからである。さらに、非常にしばしば、インクが或る量の電気伝導率を示すため、他の電気的問題が、誘電体膜内の欠陥によってデバイス回路部にわたって拡散される可能性がある;さらに、インクに関係する電気化学的作用も起こる可能性があり、おそらく、シリコンダイのバルクを通る電流経路を閉鎖する。
【0041】
[0050]一方、タンタルキャビテーション層からグラウンドへの導電性経路の抵抗値RT’及びRT’’が示される
図10cに示す場合では、キャビテーション層の電圧は、グラウンドに固定され、それが、タンタル膜に関係する容量結合の考えられる作用を抑制又は大幅に低減する。しかしながら、電圧V1がゼロ(グラウンド電位の値と仮定される)と異なる場合、短絡部又は低抵抗率電流経路が確立されることになり、デバイス完全性に有害な影響を及ぼす:ほとんどの場合、これらの問題は、作製中に実施されるデバイスの電気試験中に検出されることができ、それが、さらに、デバイスの排除をもたらし、したがって、製造プロセスの収量を減少させる。
【0042】
[0051]要約すると、従来技術のサーマルインクジェットプリントヘッドにおける大きい連続キャビテーション層の存在は、その電気的状態がどのようなものであっても、幾つかの深刻な態様を伴う。一方、吐出領域内の膜が、プリントヘッドの動作中に蒸気泡の崩壊によって損傷されることを防止する必要性が存在する。
【0043】
[0052]対照的に、上記で説明したキャビテーション層の新規なレイアウトを採用する本発明の解決策によって、キャビテーション層の存在は、抵抗器アレイのヒータ抵抗器のみを取り囲む、より小さい領域内のみに維持され、キャビテーション層の膜表面積は劇的に低減される。低減された膜表面積によって、キャビテーション層が、その下の誘電体膜内の考えられる欠陥とオーバーラップする可能性は低い、すなわち、誘電体膜内の欠陥がキャビテーション層のすぐ下に存在し、電気的短絡を引き起こす確率は低減される。一方、新規なレイアウトを使用することは、キャビテーション層と下層側の論理回路部との間の距離を増加させるのに役立つ。より小さいキャビテーション層面積及びキャビテーション層と重要な論理回路部との間のより長い距離は、寄生キャパシタンスを低減するのに役立つ。したがって、本発明のサーマルインクジェットプリントヘッドは、より頑健で且つ好ましくない電気的干渉を受けにくい。
【0044】
[0053]上記で説明した種々の技術的特徴は、任意に組み合わされてもよい。これらの技術的特徴の考えられる全ての組み合わせが説明されていないが、これらの技術的特徴の任意の組み合わせが、本明細書によってカバーされると考えられるべきであり、そのような組み合わせについての競合が存在しないものとする。
【0045】
[0054]本発明は、例に関連して説明されたが、上記説明及び図が、制限的ではなく例示的であるだけであり、本発明が開示される例に限定されないことを当業者は理解するであろう。種々の変更及び変形が、本発明の趣旨から逸脱することなく可能である。
【国際調査報告】