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特表2023-519579組織再生の為の方法及び其の為のキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-11
(54)【発明の名称】組織再生の為の方法及び其の為のキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230501BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/506
A61P17/02
A61K9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558115
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 US2021014847
(87)【国際公開番号】W WO2021194618
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】63/000,309
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522375947
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】グルトナー,ジェフリー シー.
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ケレン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,スン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ヘン,ドミニク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB21
4C076BB31
4C076CC19
4C076EE30A
4C076EE43A
4C076FF31
4C084AA17
4C084MA28
4C084MA55
4C084NA10
4C084NA12
4C084ZA89
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA55
4C086NA10
4C086NA12
4C086ZA89
(57)【要約】
本願に於いては、ヒト及び他の大型生物に於いて組織再生を容易化する為の方法、並びに其の為のキットが記載される。損傷組織への接着斑キナーゼ(FAK)の阻害剤の適用は、創傷治癒プロセスの間の線維化及び/又は瘢痕化を縮減し得る。臓器機能に影響する多数の線維化疾患についての患者ケアは、斯かる処置に依って改善され得る。FAK阻害剤の適用の為のキットは、FAK阻害剤を内包するハイドロゲル製剤を包含し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型哺乳動物の創傷組織への局所投与の為に構成されたFAK阻害剤を含む組成物を含む、大型哺乳動物に於いて線維化を縮減し乍ら組織治癒を促進する為のキット。
【請求項2】
組成物が多孔性骨格を含み、FAK阻害剤が多孔性骨格の細孔内に配される、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
多孔性骨格がハイドロゲルを含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
多孔性骨格ハイドロゲルが薄膜である、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
ハイドロゲルがプルラン-コラーゲンハイドロゲルである、請求項3又は4に記載のキット。
【請求項6】
キットが、創傷組織を保護する様に構成された創傷ドレッシングを更に含む、請求項1~5の何れか1項に記載のキット。
【請求項7】
有効量の接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を含む組成物を大型哺乳動物の組織に近接して配し、組織が創傷を含む事と;
創傷組織に近接して組成物からのFAK阻害剤を投薬する事と;
或る選択された期間に渡って接着斑キナーゼのレベルを縮減し、其れに依って、創傷組織を治癒させ乍ら線維化を縮減する事と、
を含む、大型哺乳動物に於いて線維化を縮減し乍ら組織治癒を促進する方法。
【請求項8】
組成物が多孔性骨格を含み、FAK阻害剤が多孔性骨格の細孔内に配される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
FAK阻害剤を含む組成物が局所投与される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
多孔性骨格がハイドロゲルを含む、請求項7~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
多孔性骨格ハイドロゲルが薄膜である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ハイドロゲルがプルラン-コラーゲンハイドロゲルである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
大型哺乳動物がヒトである、請求項7~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
FAK阻害剤がVS-6062である、請求項7~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
創傷が切創、穿通創傷、又は熱傷である、請求項7~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
FAK阻害剤がコントロールドリリースの為に製剤化される、請求項7~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
FAK阻害剤を含む組成物に依る処置の為の選択された期間が、約7日から約100日である、請求項7~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
FAK阻害剤を含む組成物が36から48時間毎に組織に近接して新しく適用される、請求項7~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
接着斑キナーゼ阻害剤の有効量が重量で30~100マイクログラム/g組織である、請求項7~18の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、本願に於いて詳しく提示される場合の様に参照に依って組み込まれる「組織再生の為の方法及び其の為のキット(METHODS FOR TISSUE REGENERATION AND KITS THEREFOR)」と題する2020年3月26日出願の米国仮特許出願第63/000,309号の優先権の利益を主張する。
【0002】
参照に依る組み込み
本明細書に於いて言及される全ての刊行物及び特許出願は、各個別の刊行物又は特許出願が特に且つ個別に参照に依って組み込まれる事を指示される場合と同じ程度に、其れ等の全体が参照に依って本願に組み込まれる。
【0003】
連邦出資の研究についての申し立て
本発明は、国立衛生研究所から授与された契約DE026914に依る政府の支援に依って成された。政府は本発明に或る種の権利を有する。
【0004】
本発明は、組織再生の為の方法及び其の為のキットに関する。
【背景技術】
【0005】
ヒト及び他の大型生物では、組織損傷は瘢痕形成及び線維化を齎す。此れは、損傷が線維化なしの正常な組織アーキテクチャの再生に至るプラナリア、或る種のマウス、及び他の「モデル生物」に於いて生起する組織修復とは対照的である。ヒト及び他の大型生物に於いて組織再生を容易化する事は、バイオメディカル研究の「聖杯」の1つであり、臓器機能に影響する多数の線維化疾患についての患者ケアに革命を起こし得る。斯かる疾患は、心筋梗塞及び虚血性脳卒中を包含し得るが、此れ等に限定されない。此れ等の其々は、個人及び社会全体に対する有意な経済の及びクオリティ・オブ・ライフのインパクトを有する。加えて、皮膚及び下に重なる組織への熱傷、鈍器及び穿通創傷を包含する外傷性損傷からの線維性瘢痕化の縮減は、斯かる場合のアウトカムの有意な改善であろう。線維性/瘢痕形成を改善する為の新規のアプローチが必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒト等の大型哺乳動物に於いて線維化及び/又は瘢痕化を縮減し乍ら創傷治癒を促進する為の方法及びキットに関し、此れは、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を包含する組成物を大型哺乳動物の創傷組織に近接して投与する事を包含する。FAK阻害剤は局所投与され得る。組成物は多孔性骨格を包含し得、FAK阻害剤は多孔性骨格の細孔内に配される。
【0007】
第1の態様に於いては、大型哺乳動物に於いて線維化を縮減し乍ら組織治癒を促進する方法が提供され、有効量の接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を含有する組成物を大型哺乳動物の組織に近接して配し、組織が創傷を包含する事と;創傷組織に近接して組成物からのFAK阻害剤を投薬する事と;或る選択された期間に渡って接着斑キナーゼのレベルを縮減し、其れに依って、創傷組織を治癒させ乍ら線維化を縮減する事とを包含する。
【0008】
幾つかの変形では、FAK阻害剤を含有する組成物は局所投与され得る。
【0009】
幾つかの変形では、組成物は多孔性骨格を包含し得、FAK阻害剤は多孔性骨格の細孔内に配される。幾つかの変形では、多孔性骨格はハイドロゲルを包含し得る。幾つかの変形では、多孔性骨格ハイドロゲルは薄膜であり得る。幾つかの変形では、ハイドロゲルはプルラン-コラーゲンハイドロゲルであり得る。
【0010】
幾つかの変形では、大型哺乳動物はヒトであり得る。
【0011】
幾つかの変形では、FAK阻害剤はVS-6062であり得る。
【0012】
幾つかの変形では、創傷は切創、穿通創傷、又は熱傷であり得る。
【0013】
幾つかの変形では、FAK阻害剤はコントロールドリリースの為に製剤化され得る。
【0014】
幾つかの変形では、FAK阻害剤を含有する組成物に依る処置の為の選択された期間は、約7日から約100日であり得る。幾つかの変形では、FAK阻害剤を含有する組成物は36から48時間毎に組織に近接して新しく適用され得る。
【0015】
幾つかの変形では、接着斑キナーゼ阻害剤の有効量は重量で約30から約100マイクログラム/g組織であり得る。
【0016】
別の態様では、大型哺乳動物に於いて線維化を縮減し乍ら組織治癒を促進する為のキットが提供され:大型哺乳動物の創傷組織への局所投与の為に構成されたFAK阻害剤を含有する組成物を包含する。幾つかの変形では、FAK阻害剤を含有する組成物は、重量で約30から約100マイクログラム/g組織のFAK阻害剤を送達する様に構成される。幾つかの変形では、FAK阻害剤を含有する組成物は、コントロールドリリースの様式でFAK阻害剤を送達する様に構成される。
【0017】
幾つかの変形では、組成物は多孔性骨格を包含し得、FAK阻害剤は多孔性骨格の細孔内に配される。幾つかの変形では、多孔性骨格はハイドロゲルを包含し得る。幾つかの変形では、多孔性骨格ハイドロゲルは薄膜であり得る。幾つかの変形では、ハイドロゲルはプルラン-コラーゲンハイドロゲルであり得る。
【0018】
幾つかの変形では、キットは、創傷組織を保護する様に構成された創傷ドレッシングを更に包含し得る。
【0019】
特許又は出願ファイルは、カラーで制作された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面(単数又は複数)と共に本特許又は特許出願公報のコピーは、請求及び必要な手数料の支払いに依って特許庁から提供されるであろう。
【0020】
本発明の新規の特徴は後続する請求項に於いて特定して提示される。本発明の特徴及び利点のより良好な理解は、本発明の原理が利用される例解的な実施形態を提示する次の詳細な記載と付随する図面との参照に依って得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】大型生物に於けるメカノトランスダクションの遮断は、深い部分層創傷治癒を加速させ、線維性瘢痕形成を弱め、組織再生を促進する。(図1A)大面積(5×5cm)の深い部分層切除創(~25cm)がレッドデュロックブタの外背側(左及び右)に作られた(新しい創傷の写真、下段の列)。創傷は:標準的な包帯ドレッシング(創傷:W、灰色の箱、左);ブランクのプルラン-コラーゲンハイドロゲル(創傷+ハイドロゲル:W_H、青色の箱、中心);又は接着斑キナーゼ阻害剤(FAKI)放出ハイドロゲル(創傷+FAKIハイドロゲル:W_HF、赤色の箱、右)何方かに依って処置された(条件当たりトータルでn=6~9つの創傷)。(図1B)全ての3つの群の創傷が、術後日(POD)180迄、指示されている時点に於いて肉眼的写真撮影に依って査定された。FAKIハイドロゲル処置はPOD90迄継続した。ドレッシング交換は全てのブタに於いてPOD90迄継続した。(図1C)創傷閉鎖速度及びビジュアルアナログスケール(VAS)スコア付けが、4人の盲検化された瘢痕エキスパートに依って、治癒プロセスの間の創傷のデジタル写真の定量に依って評価された(創傷閉鎖はPOD0からPOD25迄評価された;VASはPOD90に於いて評価された)。創傷当たりn=3のランダムに選択された画像。(図1D)創傷の硬さ(左)及び弾性(右)が正常な創傷(W)及びFAKI処置された創傷(W_HF)間でキュートメーターに依ってPOD60に於いて比較された(条件当たりn=8つの創傷)。(図1D~1F)3つの創傷群のピクロシリウスレッド染色が定量され、創傷なしの皮膚(UW)と比較された。整列の強さ(平均ベクトル長;MVL、上段のグラフ)及び線維長メトリクス(ピクセル;px、下段のグラフ)を用いた(n=9つの創傷/条件)。(図1G)毛包(黄色の実線矢印)、二次的な皮膚腺(黒色の実線矢印)、及び付属器構造に近接した真皮内脂肪細胞(黄色の点線矢印)の存在を評価する為の、治癒した瘢痕のマッソントリクローム染色(サンプルは元の切除創の中心から収集された)。スケールバー:200μm。(図1H)盲検化された創傷エキスパートが、毛包(上段)及び皮膚腺(下段)をPOD90及びPOD180の治癒した創傷に於いてカウントした。統計的比較が、分散分析(ANOVA)を用いる事に依ってテューキーの多重比較検定(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001)に依って(図1E、1F、1H)又は対応のない両側t検定(#p<0.05)を用いて(図1D)何方かで成された。
図2】機械的ストレス及び爾後のメカノトランスダクションの阻害は、ヒト線維芽細胞転写シグネチャーを駆動する。図2Aは、異なる解剖学的部位に於ける3人の患者から収集された組織から、成人真皮線維芽細胞を単離するプロセスの模式的表現である;乳房切除術サンプルからの乳房、腹部形成術サンプルからの腹、及び太股リフトサンプルからの太腿。新しく単離された線維芽細胞が3Dコラーゲン骨格に播種され、歪みなし(NS、青色)、歪み(S、緑色)、又は歪み及び10μM FAKI(S+FAKI、橙色)何方かに付され、其れから超並列シーケンシング(10Xゲノミクス(10X Genomics))及びゲノム分析に提出された。(図2B)コラーゲン骨格は10%歪みに付され、酸化チタンドット(内側の9つの円)を用いて、課された正確な歪みをトラッキングした。肉眼的写真撮影(上段の列)及び模式図(下段の列)に依って示されている。骨格は歪みを掛ける為のアームにピン留めされた(外側の円;アーム当たり2つの円)。スケールバー:1cm。(図2C)歪みなし(NS、青色)、歪み(S、緑色)、及び歪み+FAKI(S+FAKI、橙色)群に於ける細胞の転写プロファイルのUMAP密度プロット。(図2D)線維芽細胞転写シグネチャーの教師なしクラスター化は、ヒト真皮線維芽細胞のトータルで8つの別物の亜集団を明らかにした(0から7と付番)。(図2E)全てのクラスターに於ける上位5つの差次的発現される遺伝子のヒートマップ(左)、及び遺伝子オントロジー分析に依って明らかにされる各クラスターに於ける最も差次的発現される遺伝子に依って上方制御される鍵の経路(右)。(図2F)クラスターを定義する差次的発現される遺伝子のフィーチャーUMAPプロット。クラスター当たりの発現レベルを例解する対応するバイオリンプロットと共に示される;PTPN11-非受容体型蛋白質チロシンホスファターゼ11、MMP1-メタロプロテイナーゼ1、COL1A1-コラーゲン1型アルファ1、JUND-JunD、TUBB-チューブリンベータクラス1、STC1-スタニオカルシン-1、MFGE8-乳脂肪球EGF因子8、WNT5A-ウイングレス関連インテグレーション部位-5a。
図3】メカノトランスダクションの遮断は、線維化促進性の線維芽細胞亜集団を枯渇させて瘢痕形成を防止し、皮膚再生を許す。(図3A)線維芽細胞転写プロファイルの擬時間UMAP分析。正常な(歪みなし)線維芽細胞を起点として用いた。(図3B)筋線維芽細胞分化、瘢痕形成、又はコラーゲン分解に寄与する決定的遺伝子のフィーチャープロットと、処置群に依ってビニングされた発現レベルを示す為の対応するバイオリンプロット(歪み+FAKI-橙色、歪みなし-青色、歪み-緑色)。ACTA2-平滑筋アクチンアルファ2、COL1A1-コラーゲン1型アルファ1、COL3A1-コラーゲン3型アルファ1、MMP1-メタロプロテイナーゼ1、MMP3-メタロプロテイナーゼ3。(図3C)此れ等の同じ遺伝子の8つのSeuratクラスター間の擬時間トラジェクトリープロット。(図3D)ヒトscRNA-seq観察の蛋白質レベルの確認。創傷ありの且つ処置された(W_HF、左)vs.創傷ありの且つ無処置の(W、右)ブタの真皮組織切片(図1から)の免疫蛍光染色を用いた。アルファSMA(ACTA2から翻訳される蛋白質)、コラーゲンI(COL1A1)、及びコラーゲンIII(COL3A1)、MMP1(MMP1)及びMMP3(MMP3)の染色。スケールバー:100μm。(図3E)増大した機械的ストレスが如何に線維化及び瘢痕形成を駆動するのかを実証する提唱される作用機序を示す模式図。
図4】ブタの実験の時系列。当初の損傷の時からPOD180迄の事象の詳しいスケジュールが2つの別個の時系列ダイアグラムに示されている。B-生検、C-キュートメーター読み取り、P-写真。
図5】経時的なブタの深い部分層創傷のビジュアルアナログスケール(VAS)瘢痕スコア。指示されている時点(当初の損傷の~1、2、及び3ヶ月後)に於いて収集された瘢痕画像が、4人の盲検化された瘢痕エキスパート(全て形成外科認定医及び上級学位を有する創傷治癒科学者)に依って分析された。各コントロール創傷に対して相対的に低いスコアは、方法の項に記載されている通り調べられた5つのコンポーネントについての改善を指示している(血管分布、色、許容度、観察者の快適さ、及び輪郭)。統計分析がテューキーの多重比較検定に依る分散分析(ANOVA)を用いて此れ等のプロットについて実施された(**p<0.01;***p<0.001)。
図6】ブタモデルに於けるFAKIハイドロゲルの急性、全身性、及び埋植毒性試験。(図6A)急性毒性を評価する為に、濃FAKI溶液(4%DMSO及び30%PEG-300に溶解された150μM及び1.5mM)が創傷なしのブタ皮膚に連続14日に渡って毎日滴下された。創傷が肉眼的写真撮影に依ってモニタリングされ、有害な皮膚反応は観察されなかった。青色の箱サイズ=25cm。(図6B)FAKI処置されたブタの末梢血サンプルの質量分析が行なわれて、ヒト研究からのFAKIの経口投与後の血清中FAKIレベルに対して相対的に、トータルの体表面積の凡そ7~10%をカバーする外用で適用されたFAKIの全身到達を評価した。局所的な送達に依る血清中FAKI濃度は、3匹の異なるブタから収集された3つの独立した実験に於いて無視出来た。(図6C~6D)FAKIハイドロゲル及びブランクのハイドロゲルの生体適合性が、スーチャーを用いて閉鎖された皮下ポケットに4cmサイズハイドロゲルを埋植する事に依って試験された。組織標本が14日後に切り出された。切断されたカスパーゼ-3(図6C)染色は、両方の条件に於いて低いレベルのアポトーシス細胞を示し、トリクローム染色(図6D)は、上に重なる皮膚の真皮構造の識別可能な変化を示さなかった。
図7】線維分析が、コラーゲン分析の2つの確立されたメトリクスを用いて実証された。(図7A)2つの先に公開されたメトリクスMatFiber及びCT-FIRE(両方ともMATLAB(登録商標)から)を用いて行なわれたピクロシリウスレッド染色画像の定量の為の線維を視覚化する処理された画像。両方のメトリクスに依る分析は処置群間の変化を実証した(図1fに示されている)。(図7B)CT-FIRE定量線維カウントメトリクスは、創傷なしの皮膚の近く迄線維数を戻すFAKI処置の能力の傾向を示す。統計的比較はテューキーの多重比較検定に依る分散分析(ANOVA)を用いて成された(*p<0.05)。
図8】二次的な真皮構造の周囲の再生した真皮内脂肪細胞は、ペリリピンA陽性の完全に分化した脂肪細胞である。FAKI処置された創傷(W_HF、下段の列)は、POD90に於いて、発生して行く付属器構造(白色の矢印が示す)に隣り合う深い真皮層に於けるペリリピンA陽性の真皮内脂肪細胞の再生(赤色、黄色の点線矢印)を示した。無処置のコントロール(UW、示されていない)及びプラセボ(ハイドロゲルのみ、W_H、上段の列)処置された創傷では、真皮内脂肪細胞はなかった。
図9】3Dコラーゲン骨格システムは、ブタの組織で見られた観察を再現する。(図9A)歪みなし(青色、左)、10%等二軸歪み(緑色、真中)、又は10%等二軸歪み+FAKI(橙色、右)を経過した3D伸展培養系の伸展及び歪みの定量は、歪みの有効な誘導を実証する。(図9B)全ての3つの条件に於ける培養された線維芽細胞のアルファ平滑筋アクチン(アルファSMA)筋線維芽細胞蛋白質発現が、免疫蛍光染色に依って定量された。DAPI=青色、アルファSMA=赤色、スケールバー:140μm。(c)一軸束縛(歪みなし)(青色、左)、10%一軸歪みのみ(緑色、真中)、又は10%一軸歪み+FAKI(橙色、右)を経過した3D伸展培養系に於ける線維芽細胞の整列が、先に公開されたアルゴリズムを用いて定量されて、ファロイジン(緑色)を免疫染色された線維芽細胞を分析した。スケールバー:140μm。(図9C)コラーゲン骨格を用いた収縮インビトロアッセイは、FAKIに依るメカノトランスダクションの遮断が、線維芽細胞がECM環境をリモデリングする事(R)を妨害するという事を実証する。統計的比較は、分散分析(ANOVA)を用いる事に依って、テューキーの多重比較検定に依って(*p<0.05;****p<0.0001)(図9A~9C)又は対応のない両側t検定(#p<0.05)(図9D)から何方かで成された。
図10】ヒトドナーに従う線維芽細胞発現のSeuratマッピングは、線維芽細胞が、ヒト起源ではなくて、歪み及び処置両方の群に従ってクラスター化するという事を示す。(図10A)3人の患者(図2に示されている患者1、2、及び3)からの線維芽細胞は患者起源に従ってクラスター化しない。代わりに、実験群に従ってクラスター化した(図2に示されている通り、歪みなし[NS]vs.歪み[S]vs.歪み+FAKI。(図10B)3人のヒトドナー及び3つの処置群からの全ての9つの群の詳細な検討。(図10C)ENCODE遺伝子データベースに従う細胞の転写プロファイルは、3Dコラーゲンシステム内の全ての細胞がヒト線維芽細胞であったという事を確認している。(図10D図2Bの8つのSeuratクラスターの有意に上方制御される遺伝子のKEGG GOデータベースを用いた遺伝子濃縮経路分析は、各クラスターの上方制御される鍵のメカノトランスダクション及び炎症経路を浮かび上がらせている。
図11】追加の遺伝子発現プロファイルは、歪みが古典的な線維化促進性及びメカノトランスダクションマーカーを増大させるという事を更に実証する。(図11A)Seuratクラスターにオーバーレイされた擬時間トラジェクトリー。正常な線維芽細胞を起点として用いた。(図11B)歪みに依って有意に上方制御される遺伝子のフィーチャー及びバイオリンプロット(左から右):yes関連蛋白質1(YAP1)、ホスホイノシチド-3-キナーゼ制御サブユニット1(PIK3R1)、ジンクフィンガーEボックス結合ホメオボックス2(ZEB2)、血小板由来成長因子受容体-アルファ(PDGFRA)、上皮成長因子(EGFR)、マイトジェン活性化蛋白質キナーゼ1(MAPK1)、runt関連転写因子1(RUNX1)、Ras関連C3ボツリヌス毒素基質1(RAC1)、及びRho関連コイルドコイル含有蛋白質キナーゼ1(ROCK1)。(図11C)FAKI処置に依って有意に上方制御される遺伝子のMmp10のフィーチャー及び対応するバイオリンプロット。(図11D)S+FAKI線維芽細胞を起点として用いた擬時間UMAPプロット。図3Cの遺伝子トラジェクトリーを作る為に用いられた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願に於いて言われる大型哺乳動物は、約7kg;約10kg;約20kg;約50kg;約60kg;約70kg、約80kg;約90kg;約100kg、約150kg;約200kg;約250kg、又はより多くよりも多大な成体体重を有する哺乳動物である。大型哺乳動物は約0.5kg;約1kg;約5kg;約7kg、又はより多くの出生時体重を有し得る。大型哺乳動物は、猫、犬、ヒト、ブタ、馬、駱駝、又は象を包含するが、此れに限定されない。
【0023】
本願に於いて言われる接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤は、上皮細胞を包含する細胞に於けるインテグリン及び成長因子受容体の下流のシグナル伝達の媒介因子であるPTK2としてもまた公知のFAKを阻害する事が出来る有機低分子又は生体分子である。VS-6062が本願に於いては使用の為に記載されるが、方法及びキットは限定されず、何れかの好適なFAK阻害剤が用いられ得る。幾つかの例示的なFAK阻害剤はVS-6062、PF-562271、PR-573228、TAE226(NVP-TAE226)、PF-03814735、PF-562271 HCl、GSK2256098、PF-431396、PND-1186(VS-4718)、デファクチニブ(VS-6063、PF-04554878)、及びソラネソール(ノナイソプレノール)を包含する。
【0024】
組織修復及び治癒は、依然として、出生後の一生に於いて生起する最も複雑化したプロセスの一つである。損傷後に、ヒト及び他の大型生物は線維性瘢痕組織を形成する事に依って治癒し、此れは逓減した機能を有する。対照的に、プラナリア、山椒魚、及びマウス等のより小さい生物は、組織機能の復元を有する瘢痕なしの組織再生に依って損傷に応答する。良く確立されたスケーリング則は、生物がより大型に成ると、運動が組織内の指数的に増大したピーク力を要求するという事を示している。進化は、組織の肥大及び過形成に見られる様に臓器レベルの機械的特性を増大させる事に依って、此れ等の要求に対する補償を導いた。然し乍ら、此れ等の生物学的適応は、別様には良く均衡した力が今や組織線維化及び瘢痕形成を齎す損傷の間の意図されない帰結を有し得る。出願人は、大型動物モデルに於いて力の生体センサーをブロックする事が、創傷治癒を有意に加速させ、毛包等の二次構造の回復を有する組織再生を可能化するという事を発見した。ヒト組織に於いて、出願人は、機械的な力の増大が線維化促進性表現型の方への線維芽細胞集団のシフトを誘導し、此れは力変換シグナル伝達の早期の薬理学的ブロックに依って可逆的であるという事を実証した。初めて、生体質量及び力の間の根本的な関係性が大型生物の線維化を駆動するという事と、ネイティブな力変換機序を中断する事が組織再生を齎すという事とが示された。四肢、心臓、及び他の組織を再生する為の仕事にとって含意を有する知見である。
【0025】
「モデル生物」をヒト及び他の大型哺乳動物から区別する鍵の特徴は質量であり、大型生物は典型的には数桁大型である(例えば、ヒトはプラナリアの質量の10倍超を有する)。進化は低い機械的ストレスの環境に於いては完全に再生する能力をモデル生物に許したが、増大した組織の力に耐える能力は、哺乳動物が質量に於いてより大型に成長し、生体の複雑さが増大する事を許した。良く確立されたスケーリング則は、生物が進化し、より大型に成長すると、ロコモーション及び運動の間の其れ等の組織内のピークストレスが指数的に増大するという事を規定する。進化は、組織の肥大等の根本的な変化からロコモーションの間に骨及び筋肉に依って経験される力を縮減する為の四肢姿勢の変調に見られる通りのより複雑な適応迄の種々のやり方で、此れ等の増大した力を補償する様に大型生物の発生を形作っている。此れ等の力を和らげる能力を有さない他の臓器、例えば皮膚は、代わりに、此れ等の力に対処する為に機械的特性を変調及び増大させる事に依って適応する事を強いられる。生体質量及び力の間の関係性を支配する此れ等のスケーリング則は、ヒトに於ける線維化の発生を説明する。
【0026】
種々の最近の仕事は、ヒトの再生を促進する為に利用され得る遺伝子、蛋白質、又はシグナル伝達経路を突き止める為に、再生するモデル生物を研究している。然し乍ら、新規の標的経路が同定され得てはいるが、機械的な力を増大させる事が此れ等のプロセスに対して有し得る効果については未知である。
【0027】
出願人は、驚くべき事に、大型生物再生に於ける組織の機械的ストレスが決定的に重要であるという事を発見した。高い機械的ストレスは線維芽細胞に依る線維形成性表現型及びコラーゲン沈着を促し、線維性瘢痕形成に至り、此れは再生プロセスに決定的に干渉し得る。メカノトランスダクションをブロックする事は、大型生物に於ける生理的な創傷治癒の旺盛なコラーゲン沈着及び線維性の性質を抑制し得、其れ故に、加速した瘢痕なしの創傷治癒及び爾後の皮膚再生に至り得る。細胞が生理的に高いレベルの機械的ストレスを感知する事を阻害する事に依って、線維化促進性亜集団が消失し得、帰結としての瘢痕形成を縮減又は消失させ得る。此れは、他の細胞が創傷に遊走して正常な皮膚組成を復元し、其れに依って大型生物の組織再生を作出する事を可能にし得る。出願人は、機械的ストレス及び細胞のメカノトランスダクションシグナル伝達経路が、大型哺乳動物及びヒト患者に於いて真の再生を達成しようと試みる時に考えられるべき重要な因子であるという事を見出した。本出願人は、質量及び力の間の根本的な関係性を遮断する事が、生物の複雑さ及び再生能の間の進化的なトレードオフを消去し、大型生物を「モデル生物」様の組織再生の方に駆動し得るという事を発見した最初の者である。具体的には、出願人は、力の鍵の生体センサーの接着斑キナーゼ(FAK)を遮断する事が、ヒト及び他の大型哺乳動物に於いて損傷後の組織再生を可能化し得、四肢、心臓、及び他の組織を再生する為の仕事にとって奥深い含意を提供し得るという事を発見した。
【0028】
大型動物の創傷に於いて力の生体センサーを阻害する事は、最小限の線維性応答で組織再生を許す。FAKシグナル伝達は、組織レベルのインテグリン-マトリックスの力感覚相互作用を下流の細胞経路に転送する為の上流の媒介因子として同定された。大型動物の組織修復に対するメカノトランスダクションをブロックする効果を査定する為に、FAKの薬理学的阻害剤(FAK-I、VS-6062)を探査した。此の化合物は、治験に於いて進行した固形腫瘍を処置する為の抗癌治療として有効性を有する事が先に実証された。レッドデュロックブタに於ける切除創を、皮膚生理及び皮膚創傷治癒の点でヒトに最も類似と広く考えられる大型動物であるモデル生物として選択した(図1Aを見よ)。ヒト及びレッドデュロックは両方とも、生理的な軟らかい皮膚組織に取って代わる肥厚したコラーゲン性の肥大瘢痕(HTS)を発生する事に依って、深い真皮損傷から治癒する。創傷なしの皮膚と比較して、此の瘢痕組織は決して毛包又は皮膚付属器の回復を有さない。実際に、此の組織は肥厚した真皮と真皮内脂肪の不在とを特徴とし、増大した機械的剛性を齎す。
【0029】
メカノトランスダクションの遮断を低分子FAK阻害剤(FAKI)を用いて探査して、創傷治癒動態が調節され得るかどうかを決定した。実験法の項に記載される通り、徐放ハイドロゲル骨格を用いてFAKIに依って処置された創傷は、術後日(POD)14±2.3に於いて完全に治癒する事が見出された。図1B~1Cに示される通り、標準的なドレッシング又は空のハイドロゲルに依って処置された創傷よりも10日超早期であり、此れ等は両方ともPOD24後に治癒した。更に其の上、機械的シグナル伝達の薬理学的ブロックは、図1Cに示される通り、処置されたブタ創傷に於いて正常な外見の皮膚を齎した。瘢痕化の此の顕著な違いはPOD40程も早期に明白であった(図5を見よ)。皮膚のバイオメカニクス的特性を測定する非侵襲的臨床装置の組織キュートメーターを用いると、FAKIに依って処置された創傷は、図1Dの棒グラフに示される通り、減少した硬さ及び増大した弾性を包含する創傷なしの皮膚の物に類似の組織特性を見せた。一緒にすると、皮膚創傷後の組織の機械的ストレスを感知する細胞の能力を遮断する事は、加速した治癒と正常な皮膚の性質の回復とに至り得る。
【0030】
無処置のブタ創傷の組織微細構造の定量的評価は、図1Eに示される通り、コラーゲン伸長及び増大した一方向的な線維整列に依って実証される有意な線維化を明らかにした。メカノトランスダクションの薬理学的ブロックに依って処置された創傷は、対照的に、図1E~1F及び図7A~7Bに示される通り、創傷なしのブタの皮膚に特徴的な斜子織り様のコラーゲン構造を有して治癒した。更に其の上、此れ等の処置された創傷は、ネイティブな皮膚に類似の毛包及び他の皮膚腺の再成長を見せるという事が発見されたが、図1G~1H及び図8に示される通り、処置なしで機械的な力を経験する事を許された創傷は二次構造の再生を達成しなかった)。理論に依って制約される事なしに、此れ等の結果は、機械的シグナル伝達が創傷治癒の間の線維性組織発生の決定的な媒介因子であり得るという事を指示している。此のシグナル伝達を遮断する事は、線維化を縮減、正常な皮膚アーキテクチャを復元、及び二次構造再生を促進し得る。
【0031】
メカノトランスダクションはヒト線維芽細胞の不均質性をシフトさせる。大型生物の質量を増大させる為の進化的な圧力は、臓器が増大した耐久性及び機械的特性を有して発生する事を齎した。線維性応答に於けるメカノトランスダクションの役割についてのブタモデルの結果の応用ポテンシャルを確認する為に、ヒトの手術患者から単離された真皮線維芽細胞を其れから査定した。細胞を2.0mg/mLコラーゲン及び200,000細胞/mLの密度で3Dコラーゲン骨格に播種した(図2A)。開示全体が其の全体が参照に依って此処に組み込まれるChen K. et al., "Role of boundary conditions in determining cell alignment in response to stretch", PNAS 115,p.986-991, doi:10.1073/pnas.1715059115(2018年)に記載され、図2B及び図9Aに示されている通り、人工的に組織の力を増大させる為に、線維芽細胞に適用される機械的な歪みを精密に操作した。細胞の或るサブセットに於いてもまた、メカノトランスダクションシグナル伝達を、FAKI処置に依って、歪みの適用の直ちに後にブロックした。治癒して行く創傷及び齎される瘢痕で観察される線維形成性表現型を模倣する為の此のインビトロシステムの効力を確認した。特に、一軸歪み環境に於いて培養された真皮線維芽細胞は、図9Cに示される通り、一方向的な伸長した細胞整列を実証した。対照的に、機械的な力を感知する事をブロックされた線維芽細胞は多方向的に整列し、正常なアーキテクチャと整列した復元を実証した。此れは、図1E~1Fに示される通り、ブタの皮膚で見られる物に類似であった。ECMの線維芽細胞再編成は、コラーゲンリモデリングと線維化に特徴的な長い整列したコラーゲン線維の発生とを駆動する。帰結として、メカノトランスダクションの阻害は、図9Dに示される通り、コラーゲンを再編成及び其れ等の周囲の環境をリモデリングする線維芽細胞の能力を縮減した。此の3Dコラーゲン骨格システムは、正常な創傷治癒の間に観察される線維形成性応答と其れ等の応答をブロックする能力とを両方とも再現する。
【0032】
此の実験系を用いて、インビボの真皮歪みパターンを模倣した。二軸歪みを線維芽細胞に課し、サンプルの或るサブセットに於いてはメカノトランスダクションをもまた弱めた。コラーゲン骨格を酵素消化して線維芽細胞の細胞懸濁液を得た。其れから、図2A及び2Cに示される通り、此れ等をscRNA-seqの為に処理した。全ての1細胞データは当初には起源の表現型に対して盲検化された様式で分析された。log正規化後に、プールされたデータを半教師ありのルーヴェン(Louvain)に基づくクラスター化に付し、UMAP空間に埋め込んだ(Seurat)。8つの転写的に別物の亜集団(クラスター0からクラスター7)が、図2Dに示される通り、プールされたデータのスーパーセットからの細胞間から同定された。非盲検化された時には、クラスター間の可成りの寛容性が表現型及び生物学的反復両方に於いて見出され、ヒト真皮線維芽細胞間の公知の不均質性と整合した(図2D)。自動細胞レベルアノテーションが、ENCODE Blueデータベースに対してSingleRツールキットを用いて得られ、実験に用いられた全ての細胞が線維芽細胞転写プログラムを呈するという事を支持した(図10C)。
【0033】
歪ませられていない線維芽細胞は、推定上のクラスター0の細胞の圧倒的大多数を表すUMAP埋め込みの中心の近くの比較的均質な群として、一緒に集まる事が見出された。主としてクラスター0の上方制御される良く確立されたハウスキーピング遺伝子のHADHA及びPTPN11等の線維芽細胞遺伝子の一貫した発現に依って定義される此れ等の細胞は、蓋然的には、実験系に於けるネイティブな線維芽細胞定常状態を表す(図2C~2D)。対照的に、シーケンシングに直ちに先立って機械的な歪みに付された線維芽細胞は、可成り変調したトランスクリプトームプロファイルとデータ多様体内に於ける比較的不均質な分散とを有する事が見出された。此れ等の歪ませられた線維芽細胞は主としてクラスター2、3、4、及び7に分布し、COL1A1、COL3A1、JUND、TUBB、及びWNT5A等の線維化促進性遺伝子の差次的発現に依って定義された(図2C~2D)。
【0034】
最後に、線維芽細胞のメカノトランスダクションシグナル伝達が歪みの適用に直ちに先立って薬理学的に遮断された時には、齎された転写プログラムは、処置なしの歪ませられた細胞から反対「方向」の新たなメタ状態の方にシフトした。此れ等の処置された細胞は殆ど専ら推定上のクラスター1、5、及び6にマッピングされ、MMP1及びMMP3等のECM分解を駆動する事が公知の遺伝子並びにSTC1及びMFGE8等の線維化抑制性遺伝子の差次的過剰発現に依って定義された。処置された線維芽細胞の小さいサブセットは、歪ませられていない線維芽細胞と整合した転写プログラミングに復帰する様にさえ見えた。歪ませられた且つ無処置の線維芽細胞からの何れかの細胞では、観察されなかった事である。更に其の上、処置された細胞に於ける線維芽細胞転写シグネチャーの全体的なシフトはロバストであり、其々が異なる患者の異なる解剖学的部位から収集された3つの多様なヒトサンプル間で保たれていた(図2C図10A~10B)。メカノトランスダクションの調節は、線維性の転写状態に対して線維芽細胞プログラミングを「押し進める」及び「引き離す」の何方かをし得る。
【0035】
メカノトランスダクションの遮断は、力応答性の線維化促進性亜集団の濃縮を防止し、全体的にストレス遮蔽された推定上再生性の状態の方に線維芽細胞をシフトさせる。1細胞データに於いて観察された転写シフトを更に調査する為に、表現型の状態に基づく擬時間トラジェクトリーを構築した。歪ませられていない線維芽細胞を起点として定義すると、機械的に歪ませられた線維芽細胞は、此れもまたFAKIに依って処置された歪ませられた線維芽細胞と比較して、結び付けられた擬時間トラジェクトリーに沿って著しく強い転写の違いを示すという事が見出された(図3A図11A)。此れは、歪みの間の線維芽細胞の処置が、齎されるプログラムを変調させるのみならず、処置なしの其れ等の歪ませられた線維芽細胞とは転写的に別物であるやり方で然うするという事を示唆する。
【0036】
トランスクリプトームシグネチャーの更なる分析は、機械的に歪ませられた線維芽細胞が、古典的な線維化促進性マーカー(ACTA2、PDGFRA)、筋線維芽細胞分化を促進するマーカー(RUNX1、ZEB2)、及び下流のメカノトランスダクションシグナル伝達経路遺伝子(MAPK1、PI3KR1、EGFR、RAC1、YAP1)のより多大な発現を見せるという事を示した(図3B図11B)。此れ等の歪ませられた線維芽細胞内のメカノトランスダクションの抑制は、此れ等の線維性シグナル伝達の変化の略全てを廃した(図3B図11B~11C)。
【0037】
線維化の下流産物を調べると、歪ませられていない及び歪ませられた線維芽細胞は両方ともCOL1A1及びCOL3A1 mRNAの高い発現を実証したが、FAKI処置は此れ等のECMコンポーネント遺伝子の転写を強く縮減した。此の薬理学的ブロックは、広い範囲の疾患モデルに於いて線維化を縮減する事が公知の且つコラーゲンの分解に関わる鍵の酵素のMMP1及びMMP3の発現をもまた増大させた。此れ等の知見を更に実証する為に、機械的に遮断された線維芽細胞を擬時間に於ける起点としてセットして、機械的に遮断された線維芽細胞から正常な線維芽細胞及び最後には転写的に別物の歪ませられた線維芽細胞への細胞の転写シグネチャーの進行をマッピングした(図3C図11D)。擬時間トラジェクトリーを此の順序で並べる事に依って、増大して行く機械的ストレスと逆相関する「再生の軸」が実証された。此の軸に沿って、線維性遺伝子は増大し、推定上の再生性遺伝子は減少する。
【0038】
蛋白質レベルで確認する為に、ヒト線維芽細胞の知見を大型動物比較器からの組織のブロックに適用した。免疫蛍光染色を特定の時点の創傷ありのブタ組織について行い、図3Dに示されている画像の為に、図1A~1Bに示される通りブタ創傷から収集された組織を染色した(上でパラグラフ[0035]から[0037]に記載されている通り)。アルファSMA(ACTA2の翻訳産物)、コラーゲンI(COL1A1)、及びコラーゲンIII(COL3A1)の蛋白質発現はFAKI処置された創傷では減少し、MMP1(MMP1)及びMMP3(MMP3)は増大していた。其れ故に、ブタの瘢痕傷に於ける蛋白質発現の変化は、ヒト線維芽細胞のscRNAseq分析に依って決定された遺伝子発現データと整合した(図3B~3D)。正常なブタ創傷は、増大したアルファSMA発現に依って実証される増大した筋線維芽細胞分化を呈し、此れは翻って増大したコラーゲン沈着を齎した。対照的に、遮断された機械的シグナル伝達を有する創傷は、増大したMMP1及びMMP3発現と併せて、減少した筋線維芽細胞分化及びコラーゲン産生を実証した。此れ等のデータはヒト細胞に於ける知見を裏付け、大型生物の創傷治癒及び瘢痕形成に於ける機械的シグナル伝達の決定的役割を確立する。
【0039】
此れ等の実験は、機械的ストレスの増大が直接的に、ヒトの生理的な創傷治癒で見られる線維化促進性表現型に至るであろうという仮説を試験する為に設計された。生物がサイズに於いてより大型に成長すると、其れ等は、其れ等の組織の機械的強さを増大させる事に依って生物学的に適応した。理論に依って制約される事なしに、治癒プロセスの間に存在する此れ等の増大した機械的な力は、次の機序に依って瘢痕形成を促進及び真の再生を防止し得る(図3E)。増大した機械的ストレスはインテグリン及びFAKの活性化を誘発し得、此れ等は翻ってアルファSMA発現及び爾後の筋線維芽細胞分化を促進し得る。アルファSMA安定化は例えばYAP-TAZ経路に依って核蛋白質の発現を促進し得、此れ等は核に移行して、増大したメカノトランスダクションシグナル伝達並びにCOL1A1及びCOL3A1発現に依って実証される線維化促進性シグナルのカスケードを促進し、旺盛なコラーゲン沈着及び線維性瘢痕形成に至る。然し乍ら、メカノトランスダクションの遮断は、此れ等のシグナルカスケードが生起する事を阻害し、此れ等の線維化促進性線維芽細胞亜集団を消失させ乍ら、MMP1及びMMP3等の瘢痕組織を縮減する酵素の発現をもまた促進し得る。MMP1等のMMPは、既存の瘢痕組織のみならず、損傷後の急性創傷面を作り上げる種々の仮設マトリックス蛋白質をもまた分解する。更に、MMPは創傷への細胞の遊走及び周囲のケラチノサイトに依る再上皮化をもまた促進し得、加速した治癒に至る。瘢痕形成を防止及びMMP発現を促進する事に依って、再生性の細胞亜集団が誘導されて、創傷に遊走し、皮膚再生を促進し得る。
【0040】
キット.大型哺乳動物に於いて線維化を縮減し乍ら組織治癒を促進する為のキットが提供される。キットは組成物を包含し得、組成物は、大型哺乳動物の創傷組織への局所投与の為に構成されたFAK阻害剤を包含する。幾つかの実施形態に於いて、組成物は多孔性骨格を包含し得、FAK阻害剤は多孔性骨格の細孔内に配される。幾つかの変形では、多孔性骨格はハイドロゲルを包含し得る。幾つかの変形では、多孔性骨格ハイドロゲルは薄膜であり得る。幾つかの実施形態に於いて、ハイドロゲルはプルラン-コラーゲンハイドロゲルであり得る。幾つかの変形では、キットは創傷組織を保護する様に構成された創傷ドレッシングを更に包含し得る。
【0041】
実験法
FAKI放出プルラン-コラーゲンハイドロゲル産生:FAKI放出ハイドロゲルパッチ産生の為の全ての実験室手続きは、Ma, et al., "Controlled Delivery of a Focal Adhesion Kinase Inhibitor Results in Accelerated Wound Closure with Decreased Scar Formation", Journal of Investigative Dermatology, (2018年), vol. 138,p.2452-2460に記載されている通り実施した。此れの開示は、其の全体が参照に依って組み込まれる。FAKI(VS-6062)化合物はベラステムオンコロジー(Verastem Oncology)(ニーダム、MA)及びセレクケム(Selleckchem)(ヒューストン、TX)から得た。其れ等の最終形態のパッケージングされたFAKIハイドロゲルパッチは、サードパーティー企業(ステリテック(Steri-Tek)、フリーモント、CA)に依るe線照射に依って滅菌され、使用迄は気密パッケージ内に維持された。
【0042】
動物ケア:全ての動物研究は、スタンフォード大学に依って承認された実験動物ケア管理委員会プロトコール(APLAC#31530及び32962)に従って実施した。術時に6~8週齢の且つ凡そ16~20kgの体重の7匹の雌レッドデュロックブタを、ポークパワーファームズ(Pork Power Farms)(ターロック、CA)から購入した。全ての動物は到着後に少なくとも1週に渡って馴化した。全ての動物はラボブタグロワー飼料及び水を自由に摂らせた。
【0043】
ブタの深い部分層切除創モデル:手術に先立って、動物には経口アモキシシリン10mg/kgを24時間に渡って投与した。全身麻酔は獣医学担当職員に依って投与され、麻酔前投薬として1回投与された筋肉内テラゾール6~8mg/kgに依って確立された。其れから、動物に気管チューブを用いて挿管し、手続きの間は1.5~3%の吸入イソフルランに維持した。背中の毛を刈り、皮膚を当初にはベタジン(登録商標)溶液、次に70%アルコールリンスに依って消毒した。切除創を標準的な電気式ジンマーダーマトーム(ジンマーバイオメット、ウォーソー、IN)に依って作った。サイズが凡そ5cm×5cmの最高で8つの創傷を、創傷間に3~5cm間隔を有して各脇腹外側に作った(図1A)。複数のダーマトーム通過を行なって、均一な0.07インチの深さの深い部分層創傷を作った。創傷は、FAKIハイドロゲル(W_HF)、ブランクハイドロゲル(「プラセボ」、W_H)、又はハイドロゲルなし(創傷ありのコントロール、W)何方かを受け取る様にランダム割り付けされた(条件当たりn=6~9つの創傷)。動物には、経口アモキシシリン10mg/kgを術後に1日2回、トータルで5日に渡って与えた。FAKIハイドロゲルパッチを包含する創傷ドレッシングを、当初の損傷後に最初の3週に渡ってPOD21迄1日置きに交換した(図1C)。其の後に、ドレッシングは、週当たり2回、POD90迄交換した。動物は各ドレッシング交換について短時間の鎮静を受けた。創傷に送達された実際のドーズをブタの新しい創傷(レッドデュロックブタ)で試験した。経時的な研究では、凡そ0.5mm創傷深さに於いて24時間に検出されたVS-6062の量は重量で30~100マイクロG/g組織の範囲であった。1mm創傷深さを越えて検出されたVS-6062の量は5マイクロG/g組織未満であった。
【0044】
創傷閉鎖、目視瘢痕評価、及び粘弾性分析.創傷は各ドレッシング交換に於いて写真撮影的にモニタリングした。開放創傷エリアなしの完全な再上皮化として定義される創傷閉鎖迄の日数を、肉眼的写真撮影評価に基づいて各創傷について決定した。瘢痕メトリクスの定量は、ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて、5つのコンポーネント(血管分布、色、観察者の快適さ、許容度、及び輪郭)について、4人の盲検化された瘢痕エキスパートのパネルに依って行なわれた。トータルのスコアは全ての5つのスコアのコンポジットとして計算される;より低いスコアは、改善された瘢痕の外見を指示する。キュートメーター(デュアルMPA580、カレッジ・カザカエレクトロニック(Courage+Khazaka Electronic)、ケルン、独国)を用いて、POD60に於ける治癒して行く創傷の硬さ及び弾性を査定した。キュートメーターは小さい円形の直径(2mmプローブ)からの陰圧(吸引)を適用する事に依って皮膚表面の垂直変形を測定する。キュートメーター評価はヒト患者に於いて粘弾性を測定する為のゴールドスタンダードである。2秒の変形(吸引)、次に2秒の弛緩(吸引なし)が、3サイクル適用される。弾性比(組織が元のセットポイントに戻る能力)を弛緩期に於いて測定した(R2メトリック)。
【0045】
組織学的及び免疫蛍光染色.図4に示される通り、標本を中間時点及び研究の終わりに於いて各創傷の中心から収穫し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、脱水し、其れからパラフィン包埋した。マッソントリクローム染色及びピクロシリウスレッド染色を行なった。ピクロシリウスレッド染色画像は偏光顕微鏡法を用いて取り込んだ(ライカDM5000B正立顕微鏡)。コラーゲン線維は第二高調波発生(SHG)を用いてライカSP5正立共焦点多光子顕微鏡に依ってもまた視覚化した。20×対物を用いた。SHG画像は、860nmの励起波長、凡そ100fsのパルス長、及び20nmバンド幅で445nmを中心とする吸収フィルターに依って取り込んだ。前方SHGを用いて線維芽細胞をイメージングし、後方SHGを用いてインビボ組織切片をイメージングした。線維整列の分析は40×倍率のピクロシリウスレッド染色画像に依って行い、複数のサンプルからのコラーゲン線維及びストレスファイバーの総体的な整列の分析の為の強度勾配検出アルゴリズム、カスタムソフトウェアMatFiberを用いた。平均ベクトル長(MVL)は整列の強さを表し、0の値(完全にランダムな線維整列)から1(完全に整列した線維)の範囲である。線維の整列の総体的な強さを計算した(Chen K. et la., "Role of boundary conditions in determining cell alignment in response to stretch", PNAS第115巻, p.986-991, doi:10.1073/pnas.1715059115(2018年)を見よ。此れの開示全体は其の全体が参照に依って此処に組み込まれる)。線維のトータル数の分析はCT-FIRE個別線維抽出の為のMatlabソースコードを用いて計算した。免疫蛍光染色は、α-平滑筋アクチン(アルファSMA)、コラーゲンI、コラーゲンIII、MMP1、及びMMP3を標的化する一次抗体を用いて行なった。此れ等はアブカム(Abcam)(バーリンゲーム、CA)又はセルシグナリングテクノロジーズ(Cell Signaling Technology)(ダンバース、MA)何方かから購入した。蛍光面積のパーセンテージはカスタムのMATLAB画像処理コードを用いて定量した(Chen K. et al., "Role of boundary conditions in determining cell alignment in response to stretch", PNAS第115巻, p.986-991, doi:10.1073/pnas.1715059115(2018年)を見よ。此れの開示全体は其の全体が参照に依って此処に組み込まれる)。示されている全ての組織学及び免疫蛍光画像は複数の実験の代表的な画像である。
【0046】
線維芽細胞を満たした3Dコラーゲン骨格実験.真皮線維芽細胞をブタ及びヒト皮膚サンプル両方から単離し、別個に培養した。ブタ皮膚は安楽死させたレッドデュロックブタの創傷なしの(正常な皮膚)エリアから得られた。ヒト皮膚サンプルは承認されたIRB(#54225)の下で得られ、3つの外科手術;乳房切除術、腹部形成術、及び太股リフト(n=3人の患者)から収集された。線維芽細胞を機械的及び酵素的消化に依って単離し、標準的な条件下で継代3迄培養した。其れから、初代線維芽細胞培養を用いて、線維芽細胞を満たしたコラーゲンハイドロゲルを200k細胞/mL及び2mg/mLコラーゲンの終濃度で作った(PureCol、アドバンストバイオマトリクス(Advanced Biomatrix)、サンディエゴ、CA)。Chen K. et al, "Role of boundary conditions in determining cell alignment in response to stretch", PNAS第115巻, 986-991, doi:10.1073/pnas.1715059115(2018年)に記載されているプロトコールを踏襲した。此れの開示全体は其の全体が参照に依って此処に組み込まれる。簡潔には、コラーゲン骨格を、底にPDMSコーティング(~4mm)を有するペトリ皿上に十字架形状で製剤化した(図2B)。歪みなし、10%等二軸歪み、又は歪み+FAKI処置何方かに追加の48時間に渡って付される前に、ピンをハイドロゲル十字架アームを通して挿して、24h前培養期に渡って骨格を両方向に拘束した(図2A~2B、図9A)。FAKI処置は、骨格の培養培地にDMSO中の20mM FAKIを追加して48時間に渡って10マイクロモルFAKIの終濃度を達成する事に依って投与された。歪みは、アンカーピンを除去する事と、ハイドロゲル十字架アームを手動で広げる事と、ピンを再度挿してアームを新たな広げられた位置に留める事とに依って課された。9つの酸化チタン(IV)ペイントドット(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))をゲルの中心領域の表面に適用して(図9Aの箱)、課された歪みをトラッキング及び定量した。デジタルカメラを用いて、歪みの前及び後のマーカーをイメージングした。マーカー位置の写真を用いて、未変形位置から変形位置迄の9つのマーカー位置の最小二乗ベストフィットマッピングを提供する単一の均一変形勾配テンソルFを、過剰決定系の行列方程式:
x=FX+p (1)
を解く事に依って演算した。此処で、pは画像間の移動を考慮する為に包含される任意のベクトルである。変形は:
E=1/2([F F]-I) (2)
を用いて歪みテンソルEに変換された。
【0047】
1細胞バーコード化、ライブラリー調製、及び1細胞RNAシーケンシング.2日の増大した(歪みの誘導)又は阻害された(歪みの誘導+FAKI)メカノトランスダクション後に、コラーゲン骨格をマイクロダイセクションし、酵素消化して、10xクロミウム(Chromium)1細胞プラットフォームを用いる液滴に基づくマイクロ流体1細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)の為のヒト線維芽細胞の細胞懸濁液を得た(図2C)(Single Cell 3' v3, 10x Genomics, 米国)。細胞懸濁液、逆転写マスターミックス、及びパーティショニングオイルの液滴を1細胞チップに載せ、クロミウム(Chromium)コントローラ上で処理した。逆転写を53℃に於いて45minに渡って行なった。cDNAを、トータルで12サイクル(バイオラッドC1000タッチサーモサイクラー)に渡って、SpriSelectビーズ(ベックマンコールター(Beckman Coulter)、米国)を用いて選択されたcDNAサイズと0.6のサンプル体積に対するSpriSelect試薬体積の比とに依って増幅した。定性的なコントロール目的で、cDNAをアジレントバイオアナライザー高感度DNAチップに依って分析した。cDNAを専用の断片化酵素ブレンドを用いて5minに渡って32℃で断片化し、次に30minの65℃での末端修復及びAテーリングをした。cDNAをSpriSelectビーズを用いてダブルサイドサイズセレクションした。シーケンシングアダプターを15minに渡って20℃でcDNAにライゲーションした。cDNAはプライマーとしてサンプル特異的なインデックスオリゴを用いて増幅し、次に、SpriSelectビーズを用いるダブルサイドサイズセレクションの別のラウンドをした。定性的なコントロール目的で、最終的なライブラリーをアジレントバイオアナライザー高感度DNAチップに依って分析した。cDNAライブラリーをHiSeq4000イルミナプラットフォームに依ってシーケンシングした。細胞当たり50,000リードを目標とした。
【0048】
データ処理、FASTQ生成、及びリードマッピング.ベースコールをCell Ranger(10Xゲノミクス(10X Genomics);バージョン3.1)実装mkfastqを用いてリードに変換し、其れから、GRCh38 v3.0.0(ヒト)ゲノムに対してアラインメントした。SC3Pv3ケミストリーに依るCell Rangerのカウント機能(STAR v2.7.0の実装)と、サンプル当たり5,000個の予想される細胞とを用いた42。高品質細胞を代表する細胞バーコードを、アポトーシス細胞又はバックグラウンドRNAのバーコードからデリニエーションした。プロファイリングされた少なくとも200個のユニークな転写物、10,000未満のトータルの転写物、及びミトコンドリア起源の其れ等のトランスクリプトームの10%未満を有するという閾値に基づいた。
【0049】
データ正規化及び細胞亜集団同定.各細胞バーコードからのユニーク分子識別子(UMI)を全ての下流分析について保持した。生のUMIカウントを細胞当たり10,000UMIのスケール因子に依って正規化し、爾後に、RパッケージSeurat(バージョン3.1.1)を用いて1の擬似カウントで自然log変換した。高度に可変な遺伝子を同定し、細胞をミトコンドリア転写物の画分に対して回帰に依ってスケーリングした。其れから、集計データを、最初の15個の主要なコンポーネントの一様多様体近似及び射影(UMAP)分析を用いて査定した。細胞アノテーションはENCODE blueデータベースに対してSingleRツールキット(バージョン3.11)を用いて帰属させた。
【0050】
特徴的な亜集団マーカーの生成及び濃縮分析.細胞型マーカーのリストを、SeuratのネイティブなFindMarkers機能に依って、0.25というlog倍の変化の閾値に依って生成した。ROC検定を用いて、予測力を各遺伝子に割り当てた。各クラスターについて、此の分析からの100個の最も高ランクの遺伝子を用いて、遺伝子セット濃縮分析を経路データベースに対してプログラム的な様式でEnrichR(バージョン2.1)を用いて行なった。
【0051】
或る特徴又は要素が本願に於いて別の特徴又は要素「の上にある」と言われる時には、其れは直接的に別の特徴若しくは要素の上にあり得るか、又は介在する特徴及び/若しくは要素もまた存在し得る。対照的に、或る特徴又は要素が別の特徴又は要素「の直接的に上にある」と言われる時には、介在する特徴又は要素は存在しない。或る特徴又は要素が別の特徴又は要素に「接続される」、「取り付けられる」、又は「カップリングされる」と言われる時には、其れは別の特徴若しくは要素に直接的に接続され得るか、取り付けられ得るか、若しくはカップリングされ得るか、又は介在する特徴若しくは要素が存在し得るという事もまた理解されるであろう。対照的に、或る特徴又は要素が別の特徴又は要素に「直接的に接続される」、「直接的に取り付けられる」、又は「直接的にカップリングされる」と言われる時には、介在する特徴又は要素は存在しない。1つの実施形態について記載されるか又は示されているが、然う記載されるか又は示されている特徴及び要素は、他の実施形態に適用され得る。別の特徴に「隣り合って」配される或る構造又は特徴を言う時は、隣り合った特徴の上に重なるか又は下に重なる部分を有し得るという事もまた当業者には了解されるであろう。
【0052】
本願に於いて用いられる術語は、具体的な実施形態を記載する目的の為のみであり、発明を限定する事は意図されない。例えば、文脈が明瞭に別様に指示しない限り、本願に於いて用いられる単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形も包含する事を意図する。用語「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」は、本明細書に於いて用いられる時には、申し立てられた特徴、ステップ、作動、要素、及び/又はコンポーネントの存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、ステップ、作動、要素、コンポーネント、及び/又は其れ等の群の存在又は追加を妨げないということが更に理解されるであろう。本願に於いて用いられる用語「及び/又は」は、結び付けられた列記されている項目の1つ以上の何れかの及び全ての組み合わせを包含し、「/」と略され得る。
【0053】
空間的に相対的な用語、例えば「の下に」、「よりも下に」、「下部」、「の上に」、「上側」、及び同類は、本願に於いては、図に例解される別の要素(単数若しくは複数)又は特徴(単数若しくは複数)に対する1つの要素又は特徴の関係性を記載する為の記載の容易さの為に用いられ得る。空間的に相対的な用語は、図に図示されている定位に加えて、使用又は作動中のデバイスの異なる定位を包摂することを意図するという事は理解されるであろう。例えば、図のデバイスが倒置される場合には、他の要素又は特徴「の下」又は「の下側」と記載される要素は、他の要素又は特徴「の上に」定位するであろう。其れ故に、例示的な用語「下」は上及び下両方の定位を包摂し得る。デバイスは別様に(90度回転されて又は他の定位で)定位し得、本願に於いて用いられる空間的に相対的な記述語は然るべく解釈され得る。類似に、用語「上の方に」、「下の方に」、「垂直な」、「水平な」、及び同類は、特に別様に指示されない限り、本願に於いては説明の目的でのみ用いられる。
【0054】
用語「第1」及び「第2」は本願に於いては種々の特徴/要素(ステップを包含する)を記載する為に用いられ得るが、此れ等の特徴/要素は、文脈が別様に指示しない限り、此れ等の用語に依って限定されるべきではない。此れ等の用語は1つの特徴/要素を別の特徴/要素から区別する為に用いられ得る。其れ故に、本発明の教示から逸脱する事なしに、下で論じられる第1の特徴/要素は第2の特徴/要素と呼称され得、類似に、下で論じられる第2の特徴/要素は第1の特徴/要素と呼称され得る。
【0055】
本明細書及び後続する請求項に於いては、文脈が別様に要求しない限り、単語「含む(comprise)」、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の変形は、種々のコンポーネントが合同して方法及び成形品(例えば、デバイス及び方法を包含する組成物及び装置)に使用され得るという事を意味する。例えば、用語「含む」は、何れかの他の要素又はステップの排除ではなく、何れかの申し立てられた要素又はステップの包含を含意すると理解されるであろう。
【0056】
明確に別様に指定されない限り、本願に於いては、例に於いて用いられる物を包含する明細書及び請求項に於いて用いられる全ての数は、用語が明確に登場しない場合でさえも、単語「約」又は「凡そ」に依って前置きされている場合の様に読まれ得る。言い回し「約」又は「凡そ」は、大きさ及び/又は位置を記載する時に、記載された値及び/又は位置が値及び/又は位置の適当な予想される範囲内であるという事を指示する為に用いられ得る。例えば、或る数値は、申し立てられた値(又は値の範囲)の+/-0.1%、申し立てられた値(又は値の範囲)の+/-1%、申し立てられた値(又は値の範囲)の+/-2%、申し立てられた値(又は値の範囲)の+/-5%、申し立てられた値(又は値の範囲)の+/-10%等である値を有し得る。本願に於いて与えられる何れかの数値は、文脈が別様に指示しない限り、約又は凡そ其の値をもまた包含すると理解されるべきである。例えば、値「10」が開示される場合には、「約10」もまた開示される。本願に記載される何れかの数的範囲は、其の中に含められる全ての部分範囲を包含する事を意図する。或る値が開示される時には、当業者に依って適切に理解される様に、値「未満か又は等しい」、「値よりも多大か又は等しい」物、及び値の間の可能な範囲もまた開示されるという事もまた理解される。例えば、値「X」が開示される場合には、「X未満か又は等しい」及び「Xよりも多大か又は等しい」(例えば、此処でXは数値である)もまた開示される。本願に於いては、データは幾つもの異なるフォーマットで提供されるという事と、此のデータは終点及び始点、並びにデータ点の何れかの組み合わせの範囲を表すという事とをもまた理解される。例えば、具体的なデータ点「10」及び具体的なデータ点「15」が開示される場合には、10及び15よりも多大、其れよりも多大か又は等しい、其れ未満、其れ未満か又は等しい、及び其れに等しい、並びに10及び15の間が、開示されていると考えられるという事が理解される。2つの具体的な単位の間の各単位もまた開示されるという事もまた理解される。例えば、10及び15が開示される場合には、11、12、13、及び14もまた開示される。
【0057】
種々の例解的な実施形態が上で記載されているが、幾つもの変更の何れかは、請求項に依って記載される通りの本発明の範囲から逸脱する事なしに、種々の実施形態に成され得る。例えば、種々の記載される方法ステップが行なわれる順序は、代替的な実施形態に於いては多くの場合に変更され得、他の代替的な実施形態に於いては、1つ以上の方法ステップが全くスキップされ得る。種々のデバイス及びシステムの実施形態の最適な特徴は、幾つかの実施形態には包含され得、他ではされずにあり得る。因って、前述の記載は主として例示目的で提供され、其れが請求項に於いて提示される通りの本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0058】
本願に包含される例及び例解は、限定ではなく例解として、主題が実施され得る特定の実施形態を示している。言及された通り、本開示の範囲から逸脱する事なしに、構造的及び論理的な代用及び変更が成され得る様にして、他の実施形態が利用され得、其れから導出され得る。本発明の主題の斯かる実施形態は、本願に於いては、単に便宜の為に、且つ1つ超が実際に開示される場合には本願の範囲を自発的に何れかの単一の発明又は発明の概念に限定する事を意図する事なしに、個別に又は集合的に用語「発明」に依って言われ得る。其れ故に、特定の実施形態が本願に於いて例解及び記載されたが、同じ目的を達成する様に計算された何れかのアレンジメントが、示されている特定の実施形態に代用され得る。本開示は種々の実施形態の何れかの及び全ての適応又は変形をカバーする事を意図する。上の実施形態の組み合わせ及び本願に於いて特に記載されてはいない他の実施形態は、上の記載を精査する事に依って当業者には明らかであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図11D
【国際調査報告】