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特表2023-519588電気真空素子の接合に用いる低銀ろう材及びその製造方法
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  • 特表-電気真空素子の接合に用いる低銀ろう材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-11
(54)【発明の名称】電気真空素子の接合に用いる低銀ろう材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20230501BHJP
   B23K 35/40 20060101ALI20230501BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20230501BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B23K35/30 310B
B23K35/40 340H
C22C5/06 Z
C22C1/02 503A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558200
(86)(22)【出願日】2021-03-07
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2021079450
(87)【国際公開番号】W WO2022116405
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】202011403925.2
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522376564
【氏名又は名称】杭州華光▲ハン▼接新材料股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HANGZHOU HUAGUANG ADVANCED WELDING MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 李梅
(72)【発明者】
【氏名】王 思鴻
(72)【発明者】
【氏名】黄 世盛
(72)【発明者】
【氏名】胡 嶺
(72)【発明者】
【氏名】王 曉蓉
(72)【発明者】
【氏名】何 中要
(57)【要約】
本発明は、電気真空素子接合用の低銀ろう材に関し、Ag、Cu、Ni及び微量元素Rからなり、前記各組成が、質量%で、Ag 65%~71%、Ni 0~1.0%、微量元素R 0~0.1%、残部がCuであり、該微量元素Rが、P、Sc、Be、Zr、Laのうち1種又は複数種からなる。本発明は、さらに、低銀ろう材の製造方法に関する。当該低銀ろう材は、加工性、流動性、溶接ビード中のガス含有量が少なく、熱安定性に優れた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag、Cu、Ni及び微量元素Rからなり、前記各組成が質量百分率でAg 65~71%、Ni 0~0.1%、微量元素R 0~0.1%及び残部Cuからなり、該微量元素RがP、Sc、Be、Zr、Laのうち1種又は複数種からなることを特徴とする電気真空素子接合用の低銀ろう材。
【請求項2】
前記低銀ろう材中の微量元素Rの質量百分率は、0.0001%~0.01%であることを特徴とする請求項1に記載の電気真空素子接合用の低銀ろう材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気真空素子接合用の低銀ろう材の製造方法であって、
Ag、銅箔以外のCu、Niを溶解るつぼ内に均一にプリセットし、銅箔で包まれた微量元素をAg、銅箔以外のCu、Niからなる本体素材の上方に置き、その後真空誘導溶解炉を用いて溶解鋳造し、溶解鋳造時に炉体の真空度が10-1Paに達し、最後に後処理工程によりストリップ又はワイヤ材を製造するステップを含むことを特徴とする電気真空素子接合用の低銀ろう材の製造方法。
【請求項4】
銅箔の質量は0.01グラム~30グラムの間であることを特徴とする請求項3に記載の電気真空素子接合用の低銀ろう材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気真空素子の接合(溶接)に用いる低銀ろう材及びその製造方法に関し、主に電気真空素子の接合作業に適用される。
【背景技術】
【0002】
金属及び非金属を含む複数の材料を溶接によって接合して複雑な構造の部品を形成する電気真空デバイスであって、作業期間にわたり長期間で高真空を維持することが要求され、製造過程において通常は長期間高温(500℃以上)のベーキング排気に耐える必要があり、蒸気圧が低く、信頼性が高く、流動性が良い、例えばBAg72Cu、BAg71.5CuNiのような銀銅ロウでロウ付けを行うことが多い。しかし、貴金属の原材料価格の高騰に伴い、銀ろうを用いてろう付を行うメーカーは大きなコストに晒されてきている。単純に銀含有量を低減すると、ろう材の溶融温度は高くなり、例えばGB/T 10046-2018ではBAg50Cuの溶融温度は780~875℃で、BAg72Cuに比べて95℃上昇し、BAg56CuNiの溶融温度は785~870℃で、BAg72Cuに比べて90℃上昇する。また、フラックスによっては、低融点元素を添加してろう材の溶融温度を低下させることが行われており、GB/T 10046-2018におけるBAg62CuInの溶融温度は624~707℃、BAg60CuSnの溶融温度は600~730℃である。これらの低銀ろう材は、銀を節約しながら材料の溶融温度を低下させるが、いずれも他の悪影響を及ぼし、例えば、元素In、Snの添加量が高すぎると加工性に劇的な影響があり、ろう材の固液区間が増大してろう材溶融時の粘稠度が増加して流動性に影響を及ぼすとともに、ろう付け時の凝固収縮がさらに激しくなり、溶接ビードの隙間への充填度に影響を及ぼし、ろう材の固相線の低下が継手の高温性能に悪影響を及ぼす。従って、低銀含有量でありながら、良好なろう付け性及び継手安定性を有するろう材を提供することが必要である。
【0003】
公開番号CN108161274Aの中国特許には、「電気真空素子用封着材料及びその製造方法」と題する発明が開示されており、該特許では、銅の含有量が30~45%、ニッケルの含有量が0.1~2.0%、インジウムの含有量が0~5%、チタンの含有量が0~2%、残部が銀であり、銀ロウにニッケルを添加することにより加工性と濡れ性が向上し、インジウムを添加することによりロウ材の溶融温度が低下し、チタンを添加することによりロウ材の活性が増加するが、その溶融温度は比較的高く、ワイヤとしてのロウ付け時に偏析が生じ易く、溶融不良を招く恐れがある。公開番号CN110695567Aの特許文献には、「低融点で高可塑性の銀系ろう材」との発明が開示されており、該特許文献には、銅の含有量が27~32%、銀の含有量が55~60%、インジウムの含有量が5~9%、ガリウムの含有量が6~10%であり、溶解度の高いガリウム、インジウムを添加することによりろう材の溶融温度を低下させると共に加工性を確保しているが、ろう材自体の固相線が低く、熱安定性が不十分であり、焼成排気過程におけるリスクがあり、かつ固液線区間の増大により、炉内でのろう材の凝固収縮作用が大きくなり、マイクロボイドが発生してキャビティの真空度に影響を与えるという発明が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の問題点を解決するもので、加工性、流動性、溶接時のガス含有量が少なく、熱安定性に優れた電気真空素子接合用の低銀ろう材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、Ag、Cu、Ni及び微量元素Rからなる電気真空素子接合用の低銀ろう材であって、前記各組成が、質量%で、Ag 65%~71%、Ni 0~1.0%、微量元素R 0~0.1%、残部Cu (27.9%~35%)であり、該微量元素Rが、P、Sc、Be、Zr、Laの1種又は複数種からなることを特徴とする電気真空素子接合用の低銀ろう材を提供する。
【0006】
本発明に係る各成分の質量百分率は、それぞれ、Ag 66~69%、Ni 0.1~0.3%、微量元素R 0.0001~0.01%、および残部Cuであり、該微量元素Rが、Cu-R合金を加えて製造され、前記微量元素RがP、Sc、Be、Zr、Laの1種または複数種からなる。
【0007】
上記課題を解決する本願の技術的手段は、更に、上記電気真空素子接合用の低銀ろう材の製造方法を提供し、Ag、銅箔以外のCu、Niを溶解炉(るつぼ)内に均一にプリセットし、銅箔で包まれた微量元素(Cu-R合金)をAg、銅箔以外のCu、Niからなる本体素材の上方に配置してるつぼと直接接触させない状態で、真空誘導溶解炉を用いて溶解鋳造を行うステップを含み、溶解鋳造時に炉体の真空度を10-1Paにすることを要求し、最後に、従来の鋸引き、圧延、引き抜き、洗浄などの後処理工程によりストリップ又はワイヤ材を製造することを特徴とする。前記製造方法において、添加するR元素は蒸気圧が比較的高いか、或いは融点が比較的高く、銅元素は銅箔以外のCuと銅箔の二つの部分に分けられ、銅箔で包まれたCu-R合金の添加方式はR元素が十分に溶けて合金溶湯中にあることを助け、Cu-R合金を添加する際にルツボと直接接触せず、溶製時に素材の溶解順序が保証され、Cu-R合金の急速な加熱で早期に焼損して実用に耐え得ないことを回避することができる。
【0008】
前記銅箔の質量が0.01~30gである。
【発明の効果】
【0009】
本願は、従来技術に比べて、以下のメリット及び効果があります。1.従来品BAg62CuIn、BAg60CuSnの銀ろう材に比べて、より良好な加工性及びより良好な流動性を有し、より信頼性の高い溶接ビードを得ることができる。2.市販の低銀製品に比べて、In、Sn、Ga等の低融点元素を添加せず、固相線の低下による溶接ビードの熱安定性の低下を引き起こしない。3.市販の低銀製品の一部は、低銀ろう材として単に銀銅の比率を低下させるだけであるが、ろう材の成分組織の変化によるろう材溶融時の流動性不足、凝固収縮の増加、溶接ビード中のガス含有量の増加を招き、デバイス動作時にガスを放出して、キャビティの真空度に影響を与える。本願では、微量元素Rの添加により、ろう材の流動性を改善し、溶接ビード中のガス含有量を減少させ、デバイス動作時のキャビティの真空度を保証し、総合性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本願の実施例の原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0012】
本発明は、Ag、Cu、Ni及び微量元素Rからなり、前記各組成が質量百分率でAg 65~71%、Ni 0~1.0%、微量元素R 0~0.1%及び残部Cu(27.9~35%)であり、該微量元素RがP、Sc、Be、Zr、Laの1種又は複数種からなることを特徴とする電気真空素子(デバイス)接合用の低銀ろう材である。
【0013】
本願におけるNiの添加は、鋼、ステンレス鋼、コバール表面へのろう材のぬれ性を向上させ、材料組織を微細化し、材料の加工性を向上させ、継手強度を向上させることができ、また、前記範囲内で0.1~0.3%のNiを添加すると、ろう材の溶解温度への影響が少なく、ろう付け温度を上昇させることがなく、Ni含有量の増加に伴い、ろうぬれ性、継手強度が向上し続けるが、Ni含有量が1%を超えると、溶解温度が顕著に上昇し、電気真空素子のろう付けに不利となる。
【0014】
微量のR元素の添加は、溶解時の不純物除去、脱ガス作用があり、ろう付け時の少量添加は、ろう材の流動性を増加させ、ろう材が凝固収縮する際に溶接ビード中の微小気孔を埋め、ろう付け時に二次脱ガス作用を発揮し、デバイス動作時のチャンバ真空度を確保する。微量元素Rの添加範囲が0.0001~0.01%であるときは、高い流動性、ビード充填性、ガス除去性を併せ持ち、R含有量の上昇に伴いガス除去性は向上するが、ろう材の流動性が低下し、0.1%以上ではろう材の流動性に大きく影響し、欠肉、耐火性等の欠陥を引き起こすおそれがある。
【0015】
また、図1に示すように、「共生領域」の理論によれば、二元共晶組織を形成し得る合金系では、共晶点付近のある照射範囲において、共晶方向に組織が成長しやすい。溶解時に微量元素Rを添加することにより、その共生領域(共起領域)を拡大することができ、その結果、本来の「共生領域」から多少ずれた場合でも、材料組成物が共晶組織に向かって成長することができる。また、銀-銅二元系では、共晶組織の存在により低銀ろう材の物理的加工性及びろう付け性は、BAg72Cuに近くなり、電気真空素子のろう付けに一層適している。また、Agの含有量を65%以上にすると共晶組織への成長が促進されるが、Agの含有量が65%未満のとき、組織中にα-Cu相が顕著に現れ、ろう付時に偏析しやすくなり、溶解しにくく、溶け残り等の不具合が生じる。
【0016】
本実施例における低銀ろう材は、白銀IC-Ag99.99、無酸素銅、Ni99.995、および微量Cu-R合金を用い、上記配合で真空中溶錬炉を用いて溶製し、鋳造し、鋸引き(ソーイング)、圧延(押し出し)、引き抜き、成型、洗浄等の工程を経て製造される。
【0017】
本願実施例は、溶製前にAg、銅箔以外のCu、Niからなる本体素材を溶製ルツボに均一にプリセットし、銅箔で包まれた微量元素が本体素材の上方に置かれ、ルツボと直接接触せず、溶製、鋳込み時に炉体の真空度を10-1Paにすることを要求し、さらに、ソーイング、圧延、引抜き、洗浄等の工程によりストリップまたはワイヤ材にする製造をした。得られたろう材の溶融温度範囲は780~795℃であり、種々の規格、サイズのワイヤ、薄帯、溶接チップ等のろう材に加工することが可能である。
【0018】
(本願の実施例)
本願の実施例の電気真空素子用の低銀ろう材は、製品にはIn、Sn、Gaという低融点元素を含まず、貴金属の含有総量が低く、コストが低く、流動性がよく、溶接時のガス含有量が低く、接合信頼性が高く、主な技術指標は銀ろう材BAg72Cuに近く、電気真空素子への応用に代替することができる。以下、本発明を具体的な実施例によりさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
各実施例における具体的なパラメータは表1~表2に示され、表1は本出願の実施例1~6に関するデータテーブルであり、表2は本出願の実施例7~12に関するデータテーブルであり、各表におけるデータは質量%であり、具体的には以下の通りである。
【0020】
実施例1~実施例6に係るデータテーブルを表1に示す。
【表1】
注:R元素の組み合わせは、実施例1ではSc、Be、実施例2ではZr、実施例4ではP、実施例5ではP、Zr、Be、実施例6ではZr、Laである。
【0021】
実施例7~実施例12に係るデータテーブルを表2に示す。
【表2】
注:各実施例におけるR元素の組み合わせは、実施例7ではSc、P、実施例8ではBe、実施例9ではBe、実施例10ではSc、実施例11ではLa、実施例12ではBe、La、Zrである。
【0022】
本発明の実施例は、配合設計が合理的で、生産コストが低く、費用対効果が高く、電気真空素子のろう付けに使用する場合、濡れ性、流動性が良く、ろう付け接合部表面が滑らかで、溶接線が緻密で、偏析と耐火の問題が発生せず、銀の含有量が低く,良好なろう付け性および接合安定性を有し、BAg72Cuの代わりに電気真空素子ろう付けに使用されるとき、ろう付け性を低下させることが生じない。ある事例では、AgCuSnの低銀ろう材を使用してマグネトロンの陽極管および陰極部品をろう付けした後、性能検出時に高温状態で溶接ビードからガス漏洩が発生し、マグネトロンのチャンバの真空度が不十分という現象が発生してしまった。本願発明を使用すれば、R元素によるガス除去、流動促進などの作用により、上記問題点を解決することができる。また、他の事例では、AgCuNiの低銀ろう材を使用して真空遮断器のハウジング、接触ピンなどのスポットをろう付けするが、ろう付け工程を大幅に調整する必要があり、ろう材の粘着、部分的に融解しないという現象が発生しやすい。一方、本願発明の低銀ろう材を使用すると、融解温度が低く、流動性が良く、ろう付け工程を大幅に調整しなくても上記問題点を解決できる。
【0023】
<図面における符号の説明>
Aは純元素Aを表し、本実施例ではAgであり、
Bは純元素Bを表し、本実施例ではCuであり、
Cは、AにおけるB元素の最大固溶度を表し、
Dは、BにおけるA元素の最大固溶度を表し、
Eは、共晶点を表し、
TAは、純粋なAの融点を表し、
TBは、純粋なBの融点を表し、
Ceは共晶点に対応する成分を表し、
Lは液相を表し、
αはAの固溶相を表し、
βはBの固溶相を表し、
L+αはAの固液共存相を表し、
L+βはBの固液共存相を表す。
図1
【国際調査報告】