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特表2023-519600線維性状態の治療におけるバイオマーカーの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-11
(54)【発明の名称】線維性状態の治療におけるバイオマーカーの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4425 20060101AFI20230501BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230501BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20230501BHJP
【FI】
A61K31/4425
A61P43/00 105
A61P11/00
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P43/00 121
A61K31/496
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559353
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2021058285
(87)【国際公開番号】W WO2021198253
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】20167596.4
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】シュトローベル ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】バウム パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ディーフェンバッハ クラウディア
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC50
4C086CB07
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA59
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZB21
4C086ZC75
(57)【要約】
CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPOおよびPRTN3から選択される遺伝子は、進行性線維性間質性肺疾患の治療のための方法においてバイオマーカーとして使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療に対する患者の応答の監視を含み、前記監視が、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から第1の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から第2の生体試料を入手するもしく入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記第1および第2の試料において、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)第1および第2の生体試料から得られた前記1種もしくは複数のバイオマーカーの発現のレベルを比較するまたは前記レベルを比較させるステップであって、対照値を考慮に入れてもよい、ステップと
を含む、使用のための抗線維化薬。
【請求項2】
PF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、有益な応答の存在または非存在の検出を含み、前記検出が、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
f)試料と対照とのレベルの差が患者における有益な応答を反映しているか否かを判定するまたは判定させるステップと
を含む、使用のための抗線維化薬。
【請求項3】
患者における有益な応答が検出された場合に、前記方法が、
g1)患者への抗線維化薬の投与を継続するもしくは継続させるステップ、または
g2)用量もしくは投薬回数を低減するもしくは低減させるステップ
をさらに含む、請求項1~2の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬。
【請求項4】
患者における有益な応答が検出されなかった場合に、前記方法が、
g3)患者への抗線維化薬の投与を中止するまたは中止させるステップ、または
g4)抗線維化薬の用量もしくは投薬回数を増やすもしくは増やさせるステップ
をさらに含む、請求項1~2の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬。
【請求項5】
PF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療開始の決定を含み、前記決定が、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
h)試料中の発現レベルと対照値との差が線維性障害の治療開始の必要性を反映しているか否かを判定するまたは判定させるステップと、
i)線維性障害の治療開始の必要性が判定された場合に、患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと
を含む、使用のための抗線維化薬。
【請求項6】
抗線維化薬による治療のためのPF-ILDから選択される線維性障害を有する患者を選択するための、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
j)比較の結果に基づいて、患者が抗線維化薬による治療に適格であるか否かを判定するまたは判定させるステップと
を含む、使用。
【請求項7】
患者におけるPF-ILDから選択される線維性障害の進行を予測するための、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)および/またはc)抗線維化薬の投与開始前および/または抗線維化薬の投与後に、患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
k)比較の結果に基づいて疾患の進行を予測するまたは予測させるステップと
を含む、使用。
【請求項8】
治療を必要とする患者におけるPF-ILDから選択される線維性障害の治療において抗線維化薬が効果的であるかを判定するための、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から第1の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から第2の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記第1および第2の試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)第1および第2の生体試料から得られた前記1種もしくは複数のバイオマーカーの発現のレベルを比較するまたは前記レベルを比較させるステップであって、対照値を考慮に入れてもよい、ステップと
を含む、使用。
【請求項9】
抗線維化薬が、シルデナフィルクエン酸塩と組み合わされていてもよい、ニンテダニブモノエタンスルホン酸塩、およびピルフェニドンから選択される、請求項1~5の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬または請求項6~8の1つ以上に記載の使用。
【請求項10】
PF-ILDが、特発性肺線維症(IPF)、全身性硬化症関連ILD(SSc-ILD)、膠原病関連ILD(CTD-ILD)、関節リウマチ関連ILD(RA-ILD)、慢性線維性過敏性肺炎(HP)、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、分類不能型特発性間質性肺炎(IIP)、環境/職業性線維性肺疾患、自己免疫特徴を有する特発性肺炎(IPAF)およびサルコイドーシスからなる群から選択される、請求項1~5および9の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬または請求項6~9の1つ以上に記載の使用。
【請求項11】
抗線維化薬の投与開始時に患者が約40%以上の努力肺活量および/または約40%以上の一酸化炭素肺拡散能を示す、請求項1~5および9~10の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬または請求項6~10の1つ以上に記載の使用。
【請求項12】
生体試料が血液または末梢血単核球試料である、請求項1~5および9~11の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬または請求項6~11の1つ以上に記載の使用。
【請求項13】
1種または複数のバイオマーカーが遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~5および9~12の1つ以上に記載の使用のための抗線維化薬または請求項4~12の1つ以上に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行性線維性間質性肺疾患から選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療に対する患者の応答の監視、有益な応答の存在もしくは非存在の検出または治療開始の決定を含み、それぞれが、患者からの生体試料において、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するステップを含む、抗線維化薬に関する。加えて、本発明は、抗線維化薬による治療のための前記線維性障害を有する患者を選択するための、患者における前記線維性障害の進行を予測するための、または治療を必要とする患者における前記線維性障害の治療において抗線維化薬が効果的であるか否かを判定するための、1種または複数の前記バイオマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
進行性線維性ILD(PF-ILD)とは、種々の間質性肺疾患(ILD)を横断して一部の患者で観察される疾患挙動を示す。ILDは、肺の肺胞周辺の組織および間隙のレース状ネットワーク(間質)を冒す種々の疾患群である。ILDを有する一部の患者では、悪化し続ける肺に瘢痕組織の蓄積がある。肺が進行性に傷つき、肥厚し、硬化すると、肺機能の悪化、呼吸器症状および健康関連の生活の質の悪化につながる。特発性肺線維症(IPF)は、PF-ILDの最も典型的例と考えられる。
【0003】
特発性肺線維症(IPF)は、肺の間質の進行性線維症を特徴とする病因不明の希少疾患であり、肺容量の減少および進行性の肺機能不全を引き起こす。個々の患者における疾患の経過は、様々である:一部の患者は急速に進行し、他の患者は、比較的安定した期間が急性増悪によって中断されており、他の患者は比較的緩徐に進行する。IPFの急性増悪は、年間5~10%の患者で起こる原因不明の呼吸悪化の事象であり、非常に不良な転帰と関連する。IPFは中年および高齢の患者で最も多く見られ、通常40~70才の年齢で見つかる。診断後のIPF患者における平均余命の中央値は、2~3年である。米国胸部学会(ATS:American Thoracic Society)、欧州呼吸器学会(ERS:European Respiratory Society)、日本呼吸器学会(JRS:Japanese Respiratory Society)、ラテンアメリカ胸部学会(ALAT: Latin American Thoracic Association)が2015年に共同で発表した、IPF治療のための臨床実践ガイドラインの最新の更新版では、個々の患者の値および優先度を考慮して、IPF患者の大部分にニンテダニブまたはピルフェニドンによる治療を条件付きで推奨している。従来のIPF治療薬、例えば、n-アセチルシステイン(NAC)、コルチコステロイド、シクロホスファミド、シクロスポリンおよびアザチオプリンはIPFのための承認された治療薬でなく、それらの有効性は疑わしいまたは有害でさえある。非薬物療法、例えば、肺リハビリテーションおよび長期酸素療法は一部の患者には推奨されるが、IPF患者におけるそれらの有効性は確立されていない。肺移植は、IPF患者の生存にプラスの影響を与えることが示されている。IPFに起因する移植患者の数はここ数年にわたって着実に増加しているが、ドナー臓器を十分に入手できない、ならびに併存疾患があるおよび高齢であることにより、多くの患者が肺移植への紹介から除外されている。
【0004】
IPFに加えて、PF-ILDは、とりわけ、強皮症もしくは全身性硬化症(SSc-ILD)と関連するまたは膠原病(CTD-ILD)もしくは関節リウマチ(RA-ILD)と関連するそれらの疾患の形態を包含する。ニンテダニブは、SSc-ILDおよびRA-ILDに対しても効果的な治療を提供することが示されている。PF-ILDはまた、慢性線維性過敏性肺炎(HP)、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、分類不能型特発性間質性肺炎(IIP)、環境/職業性線維性肺疾患、自己免疫特徴を有する特発性肺炎(IPAF)およびサルコイドーシスを含む。
【0005】
ニンテダニブおよび/またはピルフェニドンによる治療が考えられているさらなる線維性障害としては、筋ジストロフィー、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、線維腫症、例えば、デュピュイトラン拘縮および骨髄線維症、例えば、原発性骨髄線維症(PMF)が挙げられる。
ニンテダニブ(3-Z-[1-(4-(N-((4-メチル-ピペラジン-1-イル)-メチルカルボニル)-N-メチル-アミノ)-アニリノ)-1-フェニル-メチレン]-6-メトキカルボニル-2-インドリノン)、式A
【0006】
【化1】
の化合物は、非常に強力で、経口的に生体利用可能である、低分子細胞内チロシンキナーゼ阻害薬である。これは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)および線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)を阻害する。これは、これらの受容体のアデノシン三リン酸(ATP)結合ポケットに競合的に結合し、細胞内シグナル伝達を遮断する。加えて、ニンテダニブは、Fms様チロシンプロテインキナーゼ3(Flt3)、リンパ球特異的チロシンプロテインキナーゼ(Lck)、チロシンプロテインキナーゼlyn(Lyn)および癌原遺伝子チロシンプロテインキナーゼsrc(Src)を阻害する(Hilberg et al., Cancer Res. 2008, 68, 4774-4782)。したがって、これは、例えば、腫瘍性疾患、免疫疾患もしくは免疫成分に影響を与える病態、または線維性疾患の治療に有用な薬理学的性質を有する。
【0007】
ニンテダニブは、WO01/27081に記載されている。WO2004/013099は、特に医薬としての開発に特に好適なそのモノエタンスルホン酸塩を開示しており、さらなる塩の形態がWO2007/141283に提示されている。ニンテダニブを含む医薬剤形は、WO2009/147212およびWO2009/147220に開示されている。免疫疾患または免疫成分に影響を与える病態の治療のためのニンテダニブの使用がWO2004/017948に記載されており、腫瘍性疾患の治療のための使用がWO2004/096224に記載されており、線維性疾患の治療のための使用がWO2006/067165に記載されている。
【0008】
ニンテダニブは、前臨床モデルにおいて抗線維化および抗炎症性活性を示している:ニンテダニブによるVEGFR、PDGFRおよびFGFR阻害のその抗線維化能が、一連の前臨床研究で評価されている。ニンテダニブのキナーゼ特異性プロフィールを示すデータが、Hilberg et al., Cancer Res. 2008; 68: 4774-82によって公表されている、すなわち、血管新生および線維化関連キナーゼ、例えば、VEGFR、PDGFRおよびFGFR、炎症および増殖に関連するSrcファミリーキナーゼ、例えば、Src、LckおよびLyn、ならびに他のキナーゼ、例えば、FLT-3、IGF1R、InsR、EGFR、HER2、CDK1、CDK2およびCDK4に関して公表されている。ニンテダニブは、in vitroで正常なヒト肺線維芽細胞のPDGFR-αおよびβの活性化および増殖を阻害すること、ならびにIPF患者および対照ドナーに由来するヒト肺線維芽細胞のPDGF-BB、FGF-2およびVEGFによって誘発される増殖を阻害することが示された。ニンテダニブは、IPF患者由来の肺線維芽細胞のPDGFまたはFGF-2刺激による遊走を減弱し、IPF患者由来の初代ヒト肺線維芽細胞の、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-βによって誘発される線維芽細胞から筋線維芽細胞への変換を阻害する(Hostettler et al., Respir. Res. 2014; 15: 157; Wollin et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 2014; 349:209-20)。ニンテダニブの多重薬理学は、L. Wollin et al., Eur. Respir. J. 2015; 45: 1434-1445によって記載されている。IPFの2つの異なるマウスモデルにおいて、ニンテダニブは、気管支肺胞洗浄液中のリンパ球数および好中球数の著しい減少、炎症性サイトカインの減少、ならびに肺組織の組織学的分析における炎症および肉芽腫形成の減少によって示されるように、抗炎症効果を発揮した。IPFマウスモデルにより、総肺コラーゲンの著しい減少によって、ならびに組織学的分析で確認された線維症の減少によって示されるように、ニンテダニブ関連抗線維化効果も明らかになった。
【0009】
前臨床研究から得られた肯定的な知見はまた、臨床設定につながっている:複数の臨床試験において、ニンテダニブは、IPF患者の年間肺機能低下を減少させるその能力が証明されている(とりわけ、INPULSIS、TOMORROW試験)。その結果として、ニンテダニブは多くの国でIPFの治療のために認可されている。同様に、IPF以外の進行性肺線維症(INBUILD研究)に罹患している患者または全身性強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)(SENSCIS研究)に罹患している患者において、疾患の進行を遅らせることができた。ニンテダニブは、IPFのために商標名Ofev(登録商標)で販売されている。その推奨投与量は、ニンテダニブ1日2回150mgである。1日2回150mgの用量に耐えられない患者、または軽度肝障害(Child Pugh A)を有する患者においては、1日2回100mgのより低い用量を使用することが推奨される。
ピルフェニドン(5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドン)、式B
【0010】
【化2】
の化合物は、非臨床モデルにおいて抗線維化活性を示し、臨床試験(とりわけ、CAPACITYおよびASCEND試験)において努力肺活量(FVC)肺機能低下の減少において有効性を示した。ピルフェニドンは、IPFの治療のために、ピルフェニドン267mgのカプセル剤でEsbriet(登録商標)として販売されている。IPF患者のための推奨1日用量は、食物と共に1日3回3カプセル、合計2403mg/日である。
【0011】
治療開始時に、用量は、14日の期間にわたって1日当たり9カプセルの推奨1日用量まで以下のように漸増すべきである:
● 1~7日目:1日3回1カプセル(801mg/日)
● 8~14日目:1日3回2カプセル(1602mg/日)
● 15日目以降:1日3回3カプセル(2403mg/日)
【0012】
ニンテダニブおよびピルフェニドンはIPFと診断された患者のための標準治療と考えることができるが、可能な限り最も効率的な治療を提供するためには、抗線維化薬に対する有益な治療応答を予測、検出および監視することが、依然として不可欠である。したがって、線維性疾患に対する治療選択肢の有効性を追跡し、これらの治療から最も恩恵を受ける患者を特定し且つ治療法を決定および調整する、改良された手段が必要である。線維性障害の臨床経過および治療法の利益を予測するのに、したがって疾患の経過において早期に所定の患者の治療を最適化するのに好適なバイオマーカーの特定は、このギャップを埋めるのに役立つ可能性があり、患者の管理において依然として最も関連性のある課題の1つである。
【0013】
トランスクリプトームワイド遺伝子発現解析(transcriptome-wide gene expression analysis)は、比較的入手しやすい全血患者試料の、治療依存性または疾患依存性の微妙な変化を特定する可能性があるので、バイオマーカー発見のための強力なアプローチとなる。IPFの存在および程度に関連する転写の変化を特徴付けるために、多くの研究で、ヒトまたはマウス由来の血液、末梢血単核細胞または肺組織試料を使用して、マイクロアレイまたはRNA配列決定に基づく解析が実施されている(Vukmirovic and Kaminski, Front Med (Lausanne), 2018 Apr 4;5:87に概説されている)。これらの研究では通常、健常状態と比較して疾患(IPF)において変化している数百~数千の遺伝子が特定された。例えば、Yangらは、軽度IPF患者(一酸化炭素拡散能(DLCO)>65%)の血液中では、対照と比較して1428個の遺伝子が差次的に発現されること、ならびに重度IPF患者(DLCO>35%)では対照と比較して2790個の転写物が差次的に発現されることを示した(Yang et al., PLoS One, 2012;7(6):e37708)。同様に、IPF患者の肺組織トランスクリプトームを対照のトランスクリプトームと比較した場合、Bauerらは、差次的発現遺伝子を合計1696個特定した(Bauer et al., Am J Respir Cell Mol Biol. 2015 Feb;52(2):217-31.)。異なる患者コホートを横断して検証されている、これまで唯一の遺伝子セットは、無移植生存を予測する可能性について差次的発現遺伝子を試験することによって特定された52個の遺伝子のセットである(Herazo-Maya et al., Sci Transl Med. 2013 Oct 2;5(205):205ra136.)。この遺伝子シグネチャーは、T細胞機能と関連する遺伝子が豊富であることが判明した。IPF患者における転帰(生存)を予測するためのその値は、6つの異なる患者コホートを横断して検証されている(Herazo-Maya et al., Lancet Respir Med. 2017 Nov;5(11):857-868.)。しかし、総じて、異なる研究において特定された遺伝子間の重複は不十分であり、これらの遺伝子のいずれかの発現の変化が有効な治療的処置を示し得るか否かは不明である。
【発明の概要】
【0014】
第1の態様において、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療に対する患者の応答の監視を含み、前記監視が、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から第1の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から第2の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記第1および第2の試料において、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)第1および第2の生体試料から得られた前記1種もしくは複数のバイオマーカーの発現のレベルを比較するまたは前記レベルを比較させるステップであり、任意に対照値を考慮に入れる、ステップと
を含む、抗線維化薬に関する。
【0015】
第2の態様において、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、有益な応答の存在または非存在の検出を含み、前記検出が、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
f)試料と対照とのレベルの差が患者における有益な応答を反映しているか否かを判定するまたは判定させるステップと
を含む、抗線維化薬に関する。
【0016】
第3の態様において、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療開始の決定を含み、前記決定が、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
h)試料中の発現レベルと対照値との差が線維性障害の治療開始の必要性を反映しているか否かを判定するまたは判定させるステップと、
i)線維性障害の治療開始の必要性が判定された場合に、患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと
を含む、抗線維化薬に関する。
【0017】
第4の態様において、本発明は、抗線維化薬による治療のための線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を有する患者を選択するための、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
j)比較の結果に基づいて、患者が抗線維化薬による治療に適格である否かを判定するまたは判定させるステップと
を含む、使用に関する。
【0018】
第5の態様において、本発明は、患者における線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害の進行を予測するための、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)および/またはc)抗線維化薬の投与開始前および/または抗線維化薬の投与後に、患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
k)比較の結果に基づいて疾患の進行を予測するまたは予測させるステップと
を含む、使用に関する。
【0019】
第6の態様において、本発明は、治療を必要とする患者における線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害の治療において抗線維化薬が効果的であるか否かを判定するための、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から第1の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から第2の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記第1および第2の試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)第1および第2の生体試料から得られた前記1種もしくは複数のバイオマーカーの発現のレベルを比較するまたは前記レベルを比較させるステップであり、任意に対照値を考慮に入れる、ステップと
を含む、使用に関する。
【0020】
本発明のさらなる態様は、当業者には、前述および以下の説明ならびに実施例から直接明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】IPF患者において、来診2(V2、ベースライン)および治療後12週間(V5)での、14個の選択されたニンテダニブ応答遺伝子のうちの8個の遺伝子についての遺伝子発現レベル(CPM、100万当たりのカウント)の群間変化を、プラセボと比較して示すボックスプロットである。
図2】IPF患者において、来診2(V2、ベースライン)および治療後12週間(V5)での、14個の選択されたニンテダニブ応答遺伝子のうちのさらなる6個の遺伝子についての遺伝子発現レベル(CPM、100万当たりのカウント)の群間変化を、プラセボと比較して示すボックスプロットである。
図3】IPF患者において、来診2(V2、ベースライン)および治療後12週間(V5)での、14個の選択されたニンテダニブ応答遺伝子についての遺伝子発現の患者特異的倍率変化を、プラセボと比較して示すボックスプロットである。(TRT=治療)
図4】14個のニンテダニブ応答遺伝子を機能的に分類するためにパスウェイエンリッチメント解析(pathway enrichment analysis)を適用した図である。遺伝子オントロジー(GO)生物学的パスウェイおよびReactomeパスウェイの関連を、各マトリックス内に灰色のマークで示す。
図5】14個のニンテダニブ応答遺伝子の目的変数なしの遺伝子セット変動解析(GSVA)を示すグラフである。ボックスプロットは、IPF患者における、ニンテダニブ(N150mg_bid)での治療前(V2)および治療後(V5、12週)またはプラセボにおけるGSVAスコアを示す。
図6】SSc-ILD患者において、来診2(V20、ベースライン)、治療後24週間(V70)および治療後52週間(V90)での、14個の選択されたニンテダニブ応答遺伝子のうちの8個の遺伝子についての遺伝子発現レベル(CPM、100万当たりのカウント)の群間変化を、プラセボと比較して示すボックスプロットである。
図7】SSc-ILD患者において、来診2(V20、ベースライン)、治療後24週間(V70)および治療後52週間(V90)での、14個の選択されたニンテダニブ応答遺伝子のうちのさらなる6個の遺伝子についての遺伝子発現レベル(CPM、100万当たりのカウント)の群間変化を、プラセボと比較して示すボックスプロットである。
図8】SSc-ILD患者において、来診2(V2、ベースライン)および治療後24週間(V7)での、14個の選択されたニンテダニブ応答遺伝子についての遺伝子発現の患者特異的倍率変化を、プラセボと比較して示すボックスプロットである。(TRT=治療)
図9】14個のニンテダニブ応答遺伝子の目的変数なしの遺伝子セット変動解析(GSVA)を示すグラフである。ボックスプロットは、SSc-ILD患者における、ニンテダニブ(Nint)での治療前(V20)および治療後(V70、24週;V90、52週)またはプラセボ(Pbo)のGSVAスコアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般用語および定義
ここで特に定義しない用語は、当業者によって開示および文脈を考慮してそれに与えられるであろう意味を与えるべきである。しかし、本明細書中で使用する、以下の用語は、そうでないことが明記されていない限り、示され得る意味を有し、以下の規則に従う。
【0023】
「本発明による化合物」、「式(I)の化合物」、「本発明の化合物」などの用語は、本発明による式(I)の化合物を、その互変異性体、立体異性体およびそれらの混合物ならびにその塩、特にその薬学的に許容される塩、ならびにこのような互変異性体、立体異性体およびそれらの塩の溶媒和物および水和物を含む、このような化合物の溶媒和物および水和物を指す。
また、特に示さない限り、明細書および添付した特許請求の範囲の全体を通じて、示された化学式または化学名は、それらの互変異性体ならびに全ての立体異性体、光学異性体および幾何異性体(例えば、エナンチオマー、ジアステレオマー、E/Z異性体など)ならびにそのラセミ体;加えて、別個のエナンチオマーの種々の割合の混合物、ジアステレオマーの混合物、またはこのような異性体およびエナンチオマーが存在する前述の形態のいずれかの混合物;加えて、その薬学的に許容される塩を含む、その塩、および遊離化合物の溶媒和物または化合物の塩の溶媒和物を含む、例えば水和物などのその溶媒和物を包含するものとする。
【0024】
「薬学的に許容される」という表現は、過度の毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症を引き起こすことなく、健全な医学的判断の範囲内でヒトおよび動物の組織との接触に使用するのに好適であり、かつ妥当なベネフィット/リスク比に見合う、それらの化合物、材料、組成物および/または剤形を指すために、本明細書中で使用する。
本明細書中で使用する「薬学的に許容される塩」とは、親化合物がその有機または無機の酸塩または塩基塩を作ることによって修正されている、開示した化合物の誘導体を指す。薬学的に許容される塩の例としては、アミンのような塩基性残基の鉱酸または有機酸塩;カルボン酸のような酸性残基のアルカリまたは有機塩などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
上に挙げた以外の酸の塩、例えば、本発明の化合物の精製または単離に有用なもの(例えば、トリフルオロ酢酸塩)も、本発明の一部を構成する。
本明細書中において使用する「治療」および「治療する」という用語は、治療的処置、すなわち、治癒処置および/または緩和的処置と予防的処置、すなわち、予防処置との両方を包含する。
【0025】
治療的処置(「療法」)とは、顕性、急性または慢性の形態の前記状態の1種または複数をすでに発現している患者の処置を指す。治療的処置は、特定の適応症の症状を緩和するための対症治療であっても、適応症の状態を回復させるもしくは部分的に回復させるまたは疾患の進行を停止もしく減速するための原因治療であってもよい。
予防的処置(「防止」、「予防」)は、前記状態の1種または複数を発現するリスクのある患者を疾患の臨床的発症前に治療して、前記リスクを低減することを指す。
「治療」および「治療する」という用語は、症状または合併症の発症を予防もしくは遅延させるための、および疾患、状態もしくは障害の発現を予防もしくは遅延させるための、ならびに/または疾患、状態もしくは障害を排除もしくは制御するための、さらに疾患、状態もしくは障害と関連する症状もしくは合併症を軽減するための、1種または複数の活性化合物の投与、特にその治療有効量の投与を含む。
【0026】
本発明が治療を必要とする患者に言及する場合、本発明は主に哺乳動物、特にヒトにおける治療に関する。
「治療有効量」という用語は、(i)特定の疾患もしくは状態を治療もしくは予防する、(ii)特定の疾患もしくは状態の1種もしくは複数の症状を減弱させる、寛解させる、もしくは排除する、または(iii)本明細書中に記載した特定の疾患もしくは状態の1種もしくは複数の症状の発症を予防するもしくは遅延させる、本発明の化合物の量を意味する。
【0027】
「バイオマーカー」という用語は、単一の遺伝子もしくはタンパク質ならびに遺伝子の組合せ(例えば、「遺伝子セット」、「遺伝子シグネチャー」)および/またはタンパク質の組合せであって、その発現の変化が内科的治療に対する生物学的、病理学的または薬理学的応答を示唆するものを示す。
本明細書中に記載した方法の全てのステップは、1つの単一の個人もしくは団体のみによってまたは複数の個人もしくは団体によって実施され得ることが理解される。したがって、方法が特定の方法ステップを実施することを含む場合は常に、これは等しく、前記方法ステップを実施させることに関し得る。
【0028】
本発明は、線維性障害の治療における前記必要性に対処し、このために有用なバイオマーカーを提供する。したがって、本発明は、抗線維化薬を投与することによって線維性障害を有する患者の効率的な治療を可能にする。
基礎をなす実験的知見については、「実施例および実験データ」の項を参照されたい。
本発明の第1の態様において、線維性障害を有する患者の抗線維化治療に対する応答を監視するためにバイオマーカーを使用できることが見出されている。
【0029】
したがって、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための、抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療に対する患者の応答の監視を含み、前記監視が、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から第1の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から第2の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記第1および第2の試料において、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)第1および第2の生体試料から得られた前記1種もしくは複数のバイオマーカーの発現のレベルを比較するまたは前記レベルを比較させるステップであり、任意に対照値を考慮に入れる、ステップと
を含む、抗線維化薬に関する。
記載した方法は、患者における有益な応答の存在または非存在の検出にも同様に好適である。
【0030】
言うまでもなく、当業者には明らかなように、ステップd)に定義した第1の試料におけるバイオマーカー発現レベルの測定は必ずしもステップb)およびc)の後に実施する必要はなく、ステップa)の後であってステップe)の前の任意の時点で実施してもよい。
このため、この点に関して、前記一連の方法ステップは、厳密な時系列と解釈すべきではない。
任意に、ステップc)、d)およびe)は、治療中の複数のもっと後の時点で反復して、さらなる試料を得るまたは用意し、それらのバイオマーカー発現レベルを測定し、それらを前に得られたレベルと比較して、患者の応答の連続的な監視を実施できるようにしてもよい。
【0031】
その限りにおいて、この方法は、患者の薬物治療プロトコール遵守に対する監視にも等しく適用できる。
同様に、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、治療を必要とする患者において治療するための方法であって、前記方法が、前記ステップa)、b)、c)、d)およびe)を含む治療に対する患者の応答の監視を含み、ステップb)において、1種または複数の抗線維化薬、特に単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬を患者に投与する、方法に関する。
同様に、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための医薬の製造における、1種または複数の抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される1種または複数の抗線維化薬の使用であって、前記方法が、前記ステップa)、b)、c)、d)およびe)を含む、治療に対する患者の応答の監視を含む、使用に関する。
【0032】
本発明の第2の態様において、線維性障害を有する患者において抗線維化治療の有益な応答の存在または非存在を検出するためにバイオマーカーを使用できることが見出されている。
したがって、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、有益な応答の存在または非存在の検出を含み、前記検出が、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
f)試料と対照とのレベルの差が患者における有益な応答を反映しているか否かを判定するまたは判定させるステップと
を含む、抗線維化薬に関する。
この方法が有益な応答の存在の検出に関する限りにおいて、これは、患者の薬物治療プロトコール遵守に対する監視にも等しく適用できる。
【0033】
同様に、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、治療を必要とする患者において治療するための方法であって、前記方法が、前記ステップb)、c)、d)、e)およびf)を含む、有益な応答の存在または非存在の検出を含み、ステップb)において、1種または複数の抗線維化薬、特に単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬を患者に投与する、方法に関する。
【0034】
同様に、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するため医薬の製造における、1種または複数の抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される1種または複数の抗線維化薬の使用であって、前記方法が、前記ステップb)、c)、d)、e)およびf)を含む、有益な応答の存在または非存在の検出を含む、使用に関する。
【0035】
本発明の第3の態様において、線維性障害を有する患者において抗線維化治療の開始を決定するためにバイオマーカーを使用できることが見出されている。
したがって、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための方法における使用のための、抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬であって、前記方法が、治療開始の決定を含み、前記決定が、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
h)試料中の発現レベルと対照値との差が線維性障害の治療開始の必要性を反映しているか否かを判定するまたは判定させるステップと、
i)線維性障害の治療開始の必要性が判定された場合に、患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと
を含む、抗線維化薬に関する。
【0036】
同様に、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、治療を必要とする患者において治療するための方法であって、前記方法が、前記ステップa)、d)、e)、h)およびi)を含む、治療開始の決定を含み、ステップi)において、1種または複数の抗線維化薬、特に単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される抗線維化薬を患者に投与する、方法に関する。
同様に、本発明は、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を、その治療を必要とする患者において治療するための医薬の製造における、1種または複数の抗線維化薬、特に、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択される1種または複数の抗線維化薬の使用であって、前記方法が、前記ステップa)、d)、e)、h)およびi)を含む、治療開始の決定を含む、使用に関する。
【0037】
本発明の第4の態様において、抗線維化薬による治療のための、線維性障害を有する患者を選択するためにバイオマーカーを使用できることが見出されている。
したがって、本発明は、抗線維化薬による治療のための、線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害を有する患者を選択するための、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
j)比較の結果に基づいて、患者が抗線維化薬による治療に適格である否かを判定するまたは判定させるステップと
を含む、使用に関する。
【0038】
患者選択のためのバイオマーカーの前記使用は、例えば、抗線維化薬による治療後に有益な応答を示すことが期待される患者または期待されない患者の患者集団を強化する方法において適用され得る。
本発明の第5の態様において、患者における線維性障害の進行を予測するためにバイオマーカーを使用できることが見出されている。
【0039】
したがって、本発明は、患者における線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害の進行を予測するための、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)および/またはc)抗線維化薬の投与開始前および/または抗線維化薬の投与後に、患者から生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを対照値と比較するまたは比較させるステップと、
k)比較の結果に基づいて疾患の進行を予測するまたは予測させるステップと
を含む、使用に関する。
本発明の第6の態様において、線維性障害を有する患者において抗線維化治療の有効性を評価するためにバイオマーカーを使用できることが見出されている。
【0040】
したがって、本発明は、治療を必要とする患者における線維性障害、特にPF-ILDから選択される線維性障害の治療において抗線維化薬が効果的であるか否かを判定するための、1種または複数のバイオマーカー、特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択される1種または複数のバイオマーカーの使用であって、
a)抗線維化薬の投与開始前に患者から第1の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
b)患者に抗線維化薬を投与するまたは投与させるステップと、
c)抗線維化薬の投与後に患者から第2の生体試料を入手するもしくは入手させるまたは前記試料を用意するもしくは用意させるステップと、
d)前記第1および第2の試料において、前記1種または複数のバイオマーカーの発現のレベルを測定するまたは前記レベルを測定させるステップと、
e)第1および第2の生体試料から得られた前記1種もしくは複数のバイオマーカーの発現のレベルを比較するまたは前記レベルを比較させるステップであり、任意に対照値を考慮に入れる、ステップと
を含む、使用に関する。
言うまでもなく、当業者には明らかなように、ステップd)に定義した第1の試料におけるバイオマーカー発現レベルの測定は必ずしもステップb)およびc)の後に実施する必要はなく、ステップa)の後であってステップe)の前の任意の時点で実施してもよい。このため、この点に関して、前記一連の方法ステップは、厳密な時系列と解釈すべきではない。
【0041】
本発明の前出の態様のいずれかの一実施態様によれば、抗線維化薬は、単剤療法としてのもしくは互いに組み合わされるまたはシルデナフィルもしくはその薬学的に許容される塩と組み合わされる、ニンテダニブ、その薬学的に許容される塩およびピルフェニドンから選択され、好ましくは、任意にシルデナフィルまたはシルデナフィルクエン酸塩と組み合わされる、ニンテダニブおよびその薬学的に許容される塩から選択され、最も好ましくは任意にシルデナフィルクエン酸塩と組み合わされる、ニンテダニブまたはニンテダニブモノエタンスルホン酸塩である。
本発明の活性医薬成分を投与するのに好適な製剤は、当業者には明らかであり、好適な製剤としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、坐剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、サシェ剤(sachet)、注射剤、吸入剤(inhalatives)および散剤などが挙げられる。好適な錠剤は、例えば、1種または複数の前記活性医薬成分を公知の賦形剤、例えば、不活性な希釈剤、担体、崩壊剤、補助剤、界面活性剤、結合剤および/または滑沢剤と混合することによって得ることができる。
【0042】
特に、ニンテダニブを含む経口投与用の医薬剤形は、WO2009/147212およびWO2009/147220に開示されている。ピルフェニドンの投与に好適な製剤は、例えば、WO2007/038315およびWO2017/172602によって提供される。
例えば、ニンテダニブの治療有効用量は、それを必要とする患者に経口投与する場合には、1日当たり100mg~300mgの範囲であり、好ましくは、50mg、100mgまたは150mgを約12時間間隔で1日2回投与とすることができる。
実際の治療有効量または治療投与量は、言うまでもなく、当業者に公知の因子、例えば、患者の年齢および体重、投与経路ならびに疾患の重症度によって異なる。いずれにしても、活性化合物は、患者の固有状態に基づいて治療有効量を送達できる投与量および方法で投与する。同様に、例えば医薬活性成分に対する有害反応に起因する用量調整の必要性の判定、およびそれらの実践は、当業者には公知である。
したがって、一実施形態によれば、抗線維化薬は、抗線維化薬と1種または複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物の形態で投与する。
【0043】
別の実施形態によれば、医薬組成物は、経口投与用の組成物から、好ましくはカプセル剤および錠剤から、最も好ましくはカプセル剤から選択される。
一実施形態によれば、線維性障害は、進行性線維性間質性肺疾患(PF-ILD)、特に、肺線維化徴候を伴う疾患、例えば、特発性肺線維症(IPF)、全身性硬化症関連ILD(SSc-ILD)、膠原病関連ILD(CTD-ILD)、関節リウマチ関連ILD(RA-ILD)、慢性線維性過敏性肺炎(HP)、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、分類不能型特発性間質性肺炎(IIP)、環境/職業性線維性肺疾患、自己免疫特徴を有する特発性肺炎(IPAF)およびサルコイドーシスから選択され、好ましくはIPF、SSc-ILDおよびRA-ILDから選択される。
別の実施形態によれば、線維性障害は、筋ジストロフィー、線維腫症および骨髄線維症からなる群から、好ましくはデュシェンヌ型筋ジストロフィー、デュピュイトラン拘縮および原発性骨髄線維症(PMF)から選択される。
【0044】
一実施形態によれば、抗線維化薬の投与開始時に、患者は、予測正常値の約40%以下、予測正常値の約40%~約50%、予測正常値の約50%~約60%、予測正常値の約60%~約80%、または予測正常値の約80%以上の努力肺活量(FVC)を示す。
別の実施形態によれば、抗線維化薬の投与開始時に、患者は、予測正常値の約40%以下、予測正常値の約40%~約60%、予測正常値の約60%~約80%、または予測正常値の約80%以上の一酸化炭素肺拡散能(DLCO)を示す。
【0045】
一実施形態によれば、ステップc)の生体試料は、ステップb)の開始後約1週間以後に、例えば、ステップb)の開始後約1週間~約52週間の時間枠内で、好ましくはステップb)の開始後約1週間~約24週間の時間枠内で、
より好ましくはステップb)の開始後約1、2、3、4、6、8、10、12、16、20または24週間後に、
最も好ましくはステップb)の開始後約1、2、4、8または12週間後に
入手しまたは入手させる。
別の実施形態によれば、生体試料は、血液、末梢血単核細胞(PBMC)または皮膚試料、好ましくは血液またはPBMC試料である。
別の実施形態によれば、生体試料は、血液採取または生検によって、好ましくは血液採取によって、入手しまたは入手させる。
【0046】
一実施形態によれば、1種または複数のバイオマーカーは、好中球、細胞外基質および免疫応答に関連する遺伝子であり、
特に、遺伝子CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPO、PRTN3およびそれらの組合せからなる群から選択され、
好ましくはCEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LMOD1、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4およびその組合せからなる群から選択され、
より好ましくはCEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1およびその組合せからなる群からまたはCEACAM6、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4およびその組合せからなる群から選択され、
最も好ましくはCEACAM6、CTSG、DEFA4、LTF、OLFM4およびその組合せからなる群から選択される。
【0047】
別の実施形態によれば、本明細書中に記載した方法および使用のステップd)およびe)において、前記群の遺伝子のいずれかから選択される単一遺伝子である、1つの単一バイオマーカーが使用される。
【0048】
別の実施形態によれば、本明細書中に記載した方法および使用のステップd)およびe)において、2つ以上のバイオマーカーが使用され、それらは、前記群の遺伝子のいずれかから選択される単一遺伝子であり、
特にそれらのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14個の遺伝子であり、より特定するとそれらのうちの2、3、5、6、8、10または14個の遺伝子であり、
好ましくは5個の遺伝子、CEACAM6、CTSG、DEFA4、LTF、OLFM4が使用され、または
6個の遺伝子、CEACAM6、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4が使用され、または
8個の遺伝子、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4およびOLR1が使用され、または
10個の遺伝子、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LMOD1、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4が使用され、または
14個の遺伝子、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPOおよびPRTN3が使用される。
【0049】
別の実施形態によれば、本明細書中に記載した方法および使用のステップd)およびe)において、1種または複数のバイオマーカーは、前記群の遺伝子のいずれかから選択される1種または複数の遺伝子の組合せ、特にそれらのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14個の遺伝子の組合せ、より特定するとそれらのうちの2、3、5、6、8、10または14個の遺伝子の組合せであり、
好ましくは5個の遺伝子、CEACAM6、CTSG、DEFA4、LTF、OLFM4の組合せが使用され、または
6個の遺伝子、CEACAM6、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4の組合せが使用され、または
8個の遺伝子、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4およびOLR1の組合せが使用され、または
10個の遺伝子、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LMOD1、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4の組合せが使用され、または
14個の遺伝子、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPOおよびPRTN3の組合せが使用される。
【0050】
別の実施形態によれば、バイオマーカーのレベルは、RNA配列決定もしくは定量的リアルタイムPCR(例えば、これらに限定されないが、TaqMan遺伝子発現アッセイまたは低密度アレイ(TLDA)カード)またはNanostring nCounter技術(Geiss et al., Nat Biotechnol. 2008 Mar;26(3):317-25)または別のRNAもしくはcDNAベースアッセイによって、
好ましくはRNA-配列決定または定量的リアルタイムPCRによって、より好ましくは定量的リアルタイムPCRによって、
決定される。
【0051】
一実施形態によれば、対照値、特に本発明の第1、第2および第6の態様による対照値は、抗線維化薬の投与開始前の患者から採取した試料、プラセボで治療した患者から採取した試料、または例えばニンテダニブ以外の、別の抗線維化薬で治療した患者から採取した試料を使用して、好ましくは抗線維化薬の投与開始前に患者から採取した試料を使用して決定される。
別の実施形態によれば、対照値、特に本発明の第3、第4、第5および第6の態様による対照値は、線維性障害に罹患していない対象から採取した試料または線維性障害を罹患していることがわかっている対象から採取した試料を使用して決定される。
別の実施形態によれば、対照値、特に本発明のいずれかの態様による対照値は、疾患の進行性の経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料、または疾患の安定した経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料を使用して、決定される。
【0052】
疾患の進行性の経過および安定した経過の分類は、個々の症例の状況によって異なる可能性があるが、当分野における経験豊富な専門家にとってはルーチン的なプロセスの一部である。例えば、PF-ILDの進行は、6カ月または12カ月以内の一連の肺機能検査において、FVCの10%超および/またはDLCOの15%超の絶対的な低下と定義することができる。
一実施形態によれば、測定されたバイオマーカー発現レベルは、ステップe)による比較の範囲内において、それらの差が対照値に対して少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の場合に、好ましくはそれらの差が少なくとも約20%、30%、40%または50%の場合に、対照値と異なる、すなわち、対照値より高いまたは低いと考える。
【0053】
別の実施形態によれば、
例えば、抗線維化薬の投与開始前に患者から採取した試料、プラセボで治療した患者から採取した試料、または疾患の進行性の経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料を使用して対照値を決定した場合に、
測定された試料中バイオマーカー発現レベルが対照値より低いことによって、患者における有益な応答の存在が示され、それ故に、患者における有益な応答の非存在は、測定された試料中バイオマーカー発現レベルが対照値より低くないことによって示される。
別の実施形態によれば、
例えば、線維性障害に罹患していない対象から採取した試料または疾患の安定した経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料を使用して対照値を決定した場合に、
測定された試料中バイオマーカー発現レベルが対照値より高いことに基づいて、抗線維化治療の開始が示され、または線維性障害を有する患者が抗線維化治療のために選択される。
【0054】
別の実施形態によれば、
例えば、線維性障害に罹患していることがわかっている対象から採取した試料または疾患の進行性の経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料を使用して対照値を決定した場合に、
測定された試料中バイオマーカー発現レベルが対照値より低くないことに基づいて、抗線維化治療の開始が示され、または線維性障害を有する患者が抗線維化治療のために選択される。
別の実施形態によれば、
例えば、抗線維化薬の投与開始前に患者から採取した試料、プラセボで治療した患者から採取した試料または疾患の進行性の経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料を使用して対照値を決定した場合に、
測定された試料中バイオマーカー発現レベルが対照値より低いことによって、抗線維化治療の有効性が示される。
【0055】
別の実施形態によれば、
例えば、線維性障害に罹患していない対象から採取した試料、疾患の安定した経過を有する線維性障害に罹患している対象から採取した試料、または別の抗線維化薬で治療した患者から採取した試料を使用して対照値を決定した場合に、
測定された試料中バイオマーカー発現レベルが対照値より高くないことによって、抗線維化治療の有効性が示される。
【0056】
言うまでもなく、ステップe)および後続の方法ステップf)~k)による、バイオマーカーの発現レベルの対照値との比較または相互の比較は、該当する場合、適切な統計的考察の使用を含み得る。このような方法、例えば、仮説検定、信頼区間などの使用およびそれらの適用は当業者に周知である。
前記バイオマーカーの使用が、抗線維化薬による線維性障害の治療の修正の必要性を決定する選択肢を提供することがさらにわかっている。例えば、本発明の第2の態様によれば、患者における有益な応答の検出が、さらなる治療選択肢を提供する:耐えられない副作用が観察されていない場合、抗線維化薬の投与計画を変更せずに抗線維化薬の投与を継続し得る。あるいは、有益な応答にもかかわらず、抗線維化治療の副作用が耐えられないと認知される場合、有益な治療応答を維持しながら副作用を最小にする目的で、用量または投薬回数を低減し得る。
したがって、一実施形態によれば、この方法は、患者における有益な応答が検出されている場合、
g1)患者への抗線維化薬の投与を継続するまたは継続させるステップ
をさらに含む。
【0057】
別の実施形態によれば、この方法は、患者における有益な応答が検出されている場合、
g2)用量または投薬回数を低減するまたは低減させるステップ
をさらに含む。
他方、有益な応答が検出できなかったが耐えられない副作用が起こっていない場合、抗線維化薬の投与の中止を考慮してもよいし、または副作用を耐えられるレベルに保ちながら有益な応答を達成する目的で、抗線維化薬の用量または投薬回数を増加させてもよい。
したがって、一実施形態によれば、この方法は、患者における有益な応答が検出されていない場合、
g3)患者への抗線維化薬の投与を中止するまたは中止させるステップ
をさらに含む。
【0058】
別の実施形態によれば、この方法は、患者における有益な応答が検出されている場合、
g4)抗線維化薬の用量もしくは投薬回数を増やすもしくは増やさせるステップ
をさらに含む。
同じ考慮事項を、本発明の第1の態様による応答の監視について準用する。
前記治療修正の程度は、言うまでもなく、個々の症例の実態および状況によって異なるが、本発明の分野における経験豊富な専門家のルーチンの一部である。
【実施例
【0059】
実施例および実験データ
以下の実施例は、本発明を例示することを目的とし、本発明の範囲を何ら限定することを意図しない。
A)IPF患者におけるニンテダニブの効果を評価するための臨床試験
努力肺活量(FVC)障害が限定されているIPF患者におけるバイオマーカーに対するニンテダニブの効果を評価する、12週間の二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験(それに続く、40週間の単一活性アーム相)。
主な選択基準:IPFと診断された男性または女性患者(40才以上);FVCが来診1(スクリーニング)時に予測正常値の80%以上
用量用法:ニンテダニブ150mgを1日2回経口投与。
主要エンドポイント:ベースラインから52週目までのFVCの変化率(勾配)
主要な副次的エンドポイント:FVCの絶対値(予測値%)の低下によって定義される疾患進行を示す患者の割合が10%以上または52週目までに死亡。
安全基準:有害事象(とりわけSAEおよび他の重要なAE)、身体検査、体重測定、12誘導心電図、バイタルサインおよび検査室評価。
統計的方法:連続エンドポイントのためにはランダム係数回帰モデル、time-to-event型エンドポイントのためにはログランク検定、カプラン-マイヤープロットおよびコックス回帰、バイナリーエンドポイントのためにはロジスティック回帰モデルまたは他の適切な方法。
【0060】
この実施例に基づき、同様な臨床試験についての公的に十分に入手可能な情報が一緒にあれば、当業者ならば、本発明の他の態様を対象とする関連した臨床試験を設計および実施することに困難を感じないであろう。
B)バイオマーカーの決定
IPF、SScおよびPF-ILD患者のコホートにおけるニンテダニブ対プラセボ治療の効果をそれぞれ研究する臨床試験において、全血試料を前向きに収集した。
【0061】
RNAの単離および配列決定
血液をPAXgene RNAチューブ(PreAnalytix)中にサンプリングし、PAXgene Blood RNAキットを使用してRNAを抽出した。全RNAの量を、分光光度計を使用して260nmでの直接吸光度測定によって決定した。Illumina TruSeq Stranded Total RNA Library Prep KitをRibo-Zero Globinと共に使用して、RNAシーケンシングライブラリーを作成した。簡潔には、リボソームRNAおよびグロビンをコードするmRNAを除去後、切断されたRNA断片を、逆転写酵素およびランダムプライマーを使用して第1鎖cDNAに逆転写し、続いて、DNAポリメラーゼIおよびリボヌクレアーゼHを使用して第2鎖cDNAを合成した。第1鎖cDNA合成にヌクレオチドミックス中にチミンの代わりにウラシルを使用することによって、鎖の開始点を保った。3’-アデニル化およびインデックスアダプター連結後、cDNA産物を精製し、PCRによって濃縮して、最終cDNAライブラリーを作成した。ライブラリーの量は、Quant-iT Pico Green dsDNA試薬を使用して決定し、品質は、Agilent Bioanalyzer 2100デバイスを使用してcDNA断片サイズを解析することによってチェックした。ライブラリーを5nMまで希釈後、クラスター生成のために試料をプールした。RNA塩基配列決定は、Illumina HiSeq-3000シーケンサーで行った。
【0062】
計算解析
品質管理:各試料について得られた生データ(捕獲したcDNA断片のシングルエンドリード配列)を、FASTQC v0.11.2を使用して品質について評価した。試料の遺伝子発現解析を成功させるためには、約5000万リードが必要であった。リードを、STAR v2.5.2aを使用してヒト参照ゲノムhg38(GRCh38 Ensembl v.84)にマッピングした。マッピングしたリードを、RNA-SeQC v1.1.8を使用して評価し、マッピング統計(例えば、ユニークマッピング率、検出遺伝子数、タンパク質コード遺伝子にマッピングされるリードの割合)がデータの有用性を決定する最終基準を提供した。
【0063】
遺伝子発現強度を、リードカウントまたはTPM値のいずれかとして表し、それぞれ、subread featureCountsおよびRSEM バージョン1.2.31を使用してEnsembl v84遺伝子アノテーションに基づいて算出した。さらなるステップは、bamファイルのインデックス作成および重複リードのマーキングなどの中間計算のためのbamUtil バージョン1.0.11およびsamtools バージョン1.1の使用を含んだ。最後に、PCAおよび階層的クラスタリング解析を使用して、外れ値を特定した。
【0064】
差次的発現解析:少なくとも1つの試料が100万当たりのカウント(cpm)≧1を示した遺伝子のみを、以後の解析で使用した。edgeRのcalcNormFactors関数のデフォルトパラメーターを使用するM値の加重トリム平均(TMM)法を使用して、生のライブラリーサイズに基づき試料をスケール変更するための正規化係数を計算した(Robinson and Oshlack, Genome Biol.2010;11(3):R25.)。これらの前処理ステップの後、limmaのvoom関数を使用して、前のステップからの正規化されたライブラリーサイズに基づいて、100万あたりのlog2カウントを各観察についての関連重みと共に計算した(Law et al., Genome Biol. 2014 Feb 3;15(2):R29.)。患者ごとの対測定値間の相関を、duplicateCorrelation関数によって推定した。各遺伝子について、治療(ニンテダニブまたはプラセボ)、来診および治療と来診の相互作用を固定効果とし、患者をブロック化因数として、反復測定線形回帰モデルを利用した。ここで、各観察についての重み付けを考慮に入れた。全ての線形モデルを、limmaパッケージのlmFit関数を使用して実行した。各治療アームにおける、12週目(wk12)のフォローアップ来診とベースライン(bl)との平均log2倍率変化の推定値を、以下のように計算した。
log2 FCNintw12 vs Nintbl=(log2 Nintw12-log2 Nintbl
log2 FCPBOw12 vs PBObl=(log2 PBOw12-log2 PBObl
変化を、log2-倍率変化、およびBenjamini-Hochbergによる関連する偽陽性率(FDR)調整p値によって定量化した。
【0065】
遺伝子セット分散分析(GSVA):BioconductorパッケージGene Set Variance Analysis バージョン1.3.2を適用して、14個の遺伝子(LTF、CEACAM6、CTSG、OLFM4、MMP8、CEACAM8、DEFA4、OLR1、SHISA4、ABCA13、EMID1、LMOD1、MPOおよびPRTN3)の活性について各試料を個々にスコア化した。GSVA関数は、各値に0.01の疑似カウントを追加したlog2(100万当たりの転写物(TPM:Transcripts Per Million))の発現マトリックス、14個の遺伝子のリスト、およびtrueに設定したパラメーターmx.diffを用いて実行した。異なる治療群間のGSVAスコア間の統計学的有意差は、単純な線型モデルを使用して検定し、モデレートt統計量を、limmaパッケージによって経験的ベイズ縮小法を使用してコンピューター処理した(Law et al., Genome Biol. 2014 Feb 3;15(2):R29.)。
【0066】
IPF患者におけるニンテダニブ治療時に変更された遺伝子の特定
幾つかのバイオマーカーに対するニンテダニブの効果が、INMARK研究において評価されている。この研究においては、全血試料を、IPF患者から、ベースラインおよびプラセボまたはニンテダニブのいずれかによる治療(150mgを1日2回経口投与)後12週間に前向きに収集した:プラセボおよび積極的治療コホートから、それぞれ230個および116個の試料を入手した。全RNAをこれらの血液試料から単離し、品質管理(QC)を行い、全トランスクリプトームRNA配列決定によって解析して、各治療アームにおけるベースラインと12週目のフォローアップ来診との間でおよび各来診時におけるプラセボ治療とニンテダニブ治療との間で、差次的に発現された遺伝子(DEG)を特定した。QCの後に、ニンテダニブ治療アームからの110個の試料およびプラセボアームからの217個の試料が解析に適格であった。ニンテダニブ治療前と治療後に遺伝子発現を比較すると、19個のタンパク質コード遺伝子が有意差を示した(調整p値<0.05)。これらの遺伝子のうちの18個が下方制御され、1つの遺伝子が上方制御されていた。下方制御されていた遺伝子の上位10個(CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LMOD1、LTF、MMP8、OLFM4、OLR1、SHISA4)を、さらなる特徴付けのために最初に選択した。残りの8個の下方制御されていた遺伝子のうちの、4個のさらなる遺伝子(ABCA13、EMID1、MPO、PRTN3)を、それらの倍率変化、ならびに文献およびパスウェイ関連ツール(下記を参照のこと)から明らかな、提示されている生物学的役割に基づいて選択した。
これらの選択された14個の遺伝子について、表1は、来診2(V2、ベースライン)と来診5(V5、12週)との間の、ニンテダニブおよびプラセボ治療下における遺伝子発現の線形倍率変化およびBenjamini-Hochberg調整p値を要約する。
【0067】
【表1】
【0068】
14個の選択された遺伝子の全てが、ニンテダニブ治療ではプレセボ治療と比較して、より強い低減を示し、プラセボは遺伝子発現の変化がわずかしかもたらさないか、または全くもたらさなかった(図1および2)。患者ごとに計算された倍率変化(図3)が同様の効果、場合によってはより強い効果を示したという知見は、観察された群間変化(図1および2)がロバストでありかつ外れ値によって動かされないことを示している。
【0069】
14個の遺伝子の全てが、ILD関連パスウェイと極めて有意な関連性を示すことがわかった。例えば、14個の遺伝子のうちの11個(ABCA13、CEACAM6、CEACAM8、CTSG、DEFA4、LTF、MMP8、MPO、OLFM4、OLR1、PRTN3)は、遺伝子オントロジー(GO)生物学的プロセス用語「好中球媒介免疫(GO:0002446)」と関連しており(調整p値9.25E-13)、14個の遺伝子のうちの4つは、Reactomeパスウェイ「細胞外マトリックス(ECM)組織化Homo sapiens R-HSA-1474244」と関連している(調整p値0.02687)(図4)。CEACAM6およびCEACAM8は、Reactomeパスウェイ「フィブロネクチンマトリックス形成Homo sapiens R-HSA-1566977」にも関連している(調整p値0.01043)。LMOD1は、IPFの組織で対照に比べて上方制御されていることが以前に示された(Selman et al., Am J Respir Crit Care Med. 2006 Jan 15;173(2):188-98.)。EMID1は、ECM/マトリソーム関連タンパク質である。SHISA4については、生物学的役割は不明であった。しかし、マウスにおけるShisaオルソログが、WntおよびFgfシグナル伝達アンタゴニストとして記載された(Furushima et al., Dev Biol. 2007 Jun 15;306(2):480-92.)。さらに、14個の遺伝子のうちの4つ(CEACAM6、CTSG、DEFA4、OLFM4)は、一酸化炭素拡散能(DLCO)値の差によって定義される重度IPFを軽度IPFと識別することが以前に見出されている(Yang et al., PLoS One. 2012;7(6):e37708.)、上方制御された全血13-遺伝子セットと重複していた。CTSG、OLFM4、DEFA4、CEACAM8およびLTFは、重度IPFを健常対照から識別する20個の遺伝子のリストに含まれていた(Yang et al., PLoS One. 2012;7(6):e37708.)。DEFA4、OLFM4およびCTSGはさらに、原発性骨髄線維症(PMF)と対照との間の差次的な発現を示す全血5遺伝子セットの一部であった(Hasselbalch et al., PLoS One. 2014 Jan 13;9(1):e85567.)。CEACAM6、CEACAM8、MPOおよびMMP8はさらに、前線維性骨髄線維症(prePMF)を本態性血小板血症(ET)と鑑別する全血7遺伝子セットの一部であった(Skov et al., PLoS One. 2016 Aug 31;11(8):e0161570.)。
【0070】
特定されている14遺伝子セットに対する、ニンテダニブ治療対プラセボ治療の差次的効果を評価するために、ノンパラメトリックな目的変数なしの遺伝子セット変動解析(GSVA)を実施した(Hanzelmann et al., BMC Bioinformatics. 2013 Jan 16; 14:7.)。結果は、ニンテダニブ治療ではGSVAスコアの極めて有意な低減を示している(p=1.35E-05)が、プラセボでの治療後には有意な変化が観察されなかった(図5)。
【0071】
非IPF ILDにおけるニンテダニブ誘発発現変化の検証
IPFとの関連でINMARK試験において14個のニンテダニブ応答遺伝子を特定後、これらの遺伝子の発現を2つのさらなる臨床試験で評価した。SENSCIS試験では、SSc-ILD患者580人のコホートにおいて、52週間の時間枠にわたってニンテダニブ治療対プラセボ治療の効果を検討した。PF-ILD試験INBUILDでは、膠原病(CTD)関連ILD、関節リウマチ関連ILD(RA-ILD)、慢性線維性過敏性肺炎(HP)、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、分類不能型特発性間質性肺炎(IIP)、環境/職業性肺疾患またはサルコイドーシスを含む、進行性線維性ILDを有する患者662人のコホートにおいて52週間の時間枠にわたって、ニンテダニブ治療対プラセボ治療の効果を検討した。これらの試験のいずれにおいても、全血試料を前向きに収集し、14個の前記遺伝子の発現を、全トランスクリプトームRNA配列決定によって後ろ向きに解析した。INMARK試験における知見と一致して、SENSCIS研究において、治療後24週間(V70)、場合によっては、治療後52週間(V90)に、ニンテダニブ治療では14個の遺伝子のほとんどが下方制御されていたが、プラセボ後には下方制御されていなかった(図6および7)。発現の倍率変化を患者ごとに計算した場合も、同様な効果が観察された(図8)。GSVA分析はさらに、いずれの来診時においてもニンテダニブでの治療後にGSVAスコアの有意な低減を示したが、プラセボでの治療後には有意な変化は観察されなかった(図9)。
C)ニンテダニブを含有する経口投与用製剤
● 150mgのニンテダニブを含有する軟ゼラチンカプセル剤
【0072】
【表2】
【0073】
● ニンテダニブを含む経口投与用のさらなる医薬剤形は、WO2009/147212およびWO2009/147220に開示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】