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▶ ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-12
(54)【発明の名称】安定化型ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/12 20060101AFI20230502BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230502BHJP
   C07K 14/11 20060101ALI20230502BHJP
   C07K 14/135 20060101ALI20230502BHJP
   C07K 14/155 20060101ALI20230502BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230502BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 15/33 20060101ALN20230502BHJP
   C12N 15/44 20060101ALN20230502BHJP
   C12N 15/45 20060101ALN20230502BHJP
   C12N 15/49 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
A61K39/12 ZNA
A61K45/06
A61P37/04
C07K14/11
C07K14/135
C07K14/155
C07K19/00
C12P21/02 C
C12N15/33
C12N15/44
C12N15/45
C12N15/49
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559794
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2021058601
(87)【国際公開番号】W WO2021198413
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】20167718.4
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516257833
【氏名又は名称】ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN VACCINES & PREVENTION B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】リッチェル,ティナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォーザット,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ルッテン,ルーシー
(72)【発明者】
【氏名】ヨンゲニーレン,マンディー,アントニア,キャサリナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンカーズ,ティム ユーゴ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ロイマンズ,ダーク,アンドレ,エミー
(72)【発明者】
【氏名】ランゲダイク,ヨハネス,ペトラス,マリア
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG32
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA03
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA03
4C085BA51
4C085CC21
4C085CC31
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG08
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045CA05
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、免疫学的有効量のRSV融合前Fタンパク質などのウイルス融合タンパク質抗原と、安定化量の抗ウイルス性化合物とを含むワクチン組成物、及びかかるワクチン組成物の調製方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫学的有効量のウイルス融合タンパク質抗原と安定化量の抗ウイルス性化合物とを含むワクチン組成物。
【請求項2】
前記ウイルス融合タンパク質がクラスI融合タンパク質である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記ウイルス融合タンパク質抗原が準安定性クラスI融合タンパク質である、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記ウイルス融合タンパク質が三量体クラスI融合タンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記抗ウイルス性化合物が融合阻害薬又はウイルス侵入阻害薬である、請求項1~4のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記抗ウイルス性化合物の前記安定化量が前記抗ウイルス性化合物の治療有効量に満たない量である、請求項1~5のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記抗ウイルス性化合物の前記安定化量が前記抗ウイルス性化合物の前記治療有効量の少なくとも100分の1である、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記ウイルス融合タンパク質及び前記抗ウイルス性化合物が、1:1以上1:300以下、好ましくは1:1以上300,000以下の範囲の三量体:化合物比で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
前記ウイルス融合タンパク質がRSV融合(F)タンパク質である、請求項1~8のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
前記RSV Fタンパク質が融合前RSV Fタンパク質である、請求項9に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
前記抗ウイルス性化合物がRSV融合又は侵入阻害薬である、請求項8又は9に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記RSV融合又は侵入阻害薬が、表1の化合物I~XVI及びその好適な類似体からなる群から選択される、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
前記融合タンパク質がHIVエンベロープ(env)タンパク質である、請求項1~8のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
前記HIV envタンパク質が融合前HIV envタンパク質である、請求項13に記載のワクチン組成物。
【請求項15】
抗ウイルス性化合物がHIV融合又は侵入阻害薬である、請求項13又は14に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記HIV融合又は侵入阻害薬が、表2の化合物XVII~XXIII、及びその好適な類似体からなる群から選択される、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
前記融合タンパク質がインフルエンザA型赤血球凝集素(HA)タンパク質である、請求項1~8のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記インフルエンザHAタンパク質がB型インフルエンザHAタンパク質である、請求項1~8のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
前記抗ウイルス性化合物がインフルエンザ融合又は侵入阻害薬である、請求項17又は18に記載のワクチン組成物。
【請求項20】
前記抗ウイルス性化合物が、表3の化合物XXIV~XXVI、及びその好適な類似体からなる群から選択される、請求項17又は19に記載のワクチン組成物。
【請求項21】
前記抗ウイルス性化合物が表3の化合物XXVII又はその好適な類似体である、請求項18又は19に記載のワクチン組成物。
【請求項22】
前記組成物が液体組成物である、請求項1~21のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項23】
室温~47℃の範囲の温度で少なくとも6週間にわたって貯蔵したときに安定性の向上を呈する、請求項1~22のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項24】
前記組成物を-80℃まで凍結し、続いて解凍した後に安定性の向上を呈する、請求項1~23のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項25】
限外ろ過/ダイアフィルトレーション時に安定性の向上を呈する、請求項1~24のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項26】
ウイルス融合タンパク質抗原を含むワクチン組成物の調製方法であって、免疫学的有効量の前記ウイルス融合タンパク質抗原を安定化量の抗ウイルス性化合物と混合することを含む方法。
【請求項27】
ワクチン組成物中のウイルス融合タンパク質の凝集を低減する方法であって、免疫学的有効量の融合タンパク質抗原を安定化量の抗ウイルス性化合物と混合することを含む方法。
【請求項28】
ワクチン組成物の凍結融解後における前記ワクチン組成物中のウイルス融合タンパク質の凝集を低減する方法であって、免疫学的有効量の融合タンパク質抗原を安定化量の抗ウイルス性化合物と混合することによって前記ワクチン組成物を調製することを含む方法。
【請求項29】
ウイルス融合タンパク質抗原を含むワクチンの保存方法であって、請求項1~25のいずれか一項に記載のワクチン組成物を調製することを含む方法。
【請求項30】
ウイルス融合タンパク質抗原を含むワクチンの保存方法であって、請求項1~25のいずれか一項に記載のワクチン組成物を調製すること、及び前記組成物を2~8℃の範囲の温度で少なくとも24ヵ月間にわたって貯蔵することを含む方法。
【請求項31】
ウイルス融合タンパク質抗原を含む液体ワクチン組成物を安定して維持する方法であって、請求項1~25のいずれか一項に記載のワクチン組成物を調製すること、及び前記組成物を2~8℃の範囲の温度で少なくとも24ヵ月間にわたって貯蔵することを含む方法。
【請求項32】
(熱)安定性ウイルス融合タンパク質免疫原を作製する方法であって、安定化量の抗ウイルス性化合物の存在下で前記ウイルス融合タンパク質免疫原を発現させることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
導入
本発明は、医薬分野に関する。本発明は、詳細には、安定化型ワクチン組成物、詳細には組換え融合前クラスI融合タンパク質を含む安定性ワクチン組成物、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)又はインフルエンザウイルスなどのエンベロープ型ウイルスは、その表面に発現する特殊な膜融合タンパク質によって触媒される過程であるウイルス膜と細胞膜との融合を誘導することによって細胞に侵入する。この融合糖タンパク質は、感染性ビリオンの表面に易変的な(準安定性の)形態で存在し、前記準安定性の融合前コンホメーションから安定性の融合後コンホメーションへの不可逆的タンパク質リフォールディングによって膜融合をドライブする動的な融合機械である。
【0003】
エンベロープ型ウイルスの融合タンパク質は、ウイルスによる標的細胞との融合をドライブするためにそれが見せる全般的な不可逆的フォールディング機構に基づき異なる種類に分類することができる。パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)の融合(F)タンパク質、レトロウイルス科(Retroviridae)エンベロープタンパク質、コロナウイルス科(Coronaviridae)スパイクタンパク質及びオルトミクソウイルス科(Orthomyxovirideae)ヘマグルチニン(HA)タンパク質など、無関係なウイルスの融合タンパク質がクラスI融合タンパク質に分類されており、これらは類似した機構を通じて易変的な融合前状態から安定性の融合後状態へとリフォールディングするが、いかなる有意な配列相同性も示さない。種々のクラスI融合タンパク質について、融合前コンホメーション及び融合後コンホメーションの構造が決定されており、この複雑な融合機械の機構に関して洞察を与えている。
【0004】
このような構造研究によれば、易変的な野生型タンパク質と同じ抗原部位を提示する安定性のクラスI融合タンパク質が、強力な中和抗体を効率的に引き出し、ひいてはワクチンの抗原としての使用に好適であることもまた示されている。ウイルス融合タンパク質がワクチンの免疫原として使用されるとき、その融合を起こす機能は重要でない。しかしながら、ウイルスに結合できる交差反応性抗体がワクチンによって誘導されることを確実にするために、免疫原が天然のウイルス表面タンパク質に擬態することが重要である。実際、タンパク質ワクチンの免疫原性は、特に立体エピトープ(天然のフォールディングによって一体となったポリペプチド鎖の異質な領域のところであって、抗体はそれに結合する必要がある)に関して、鍵となるタンパク質抗原の構造的完全性に(大きく)依存する。ひいては不可逆的なコンホメーション変化及び不可逆的な凝集は、ワクチンの有効性の低下につながり得る。従って、前記クラスI融合タンパク質をロバストで効果的なワクチン免疫原として開発するには、このような準安定性の融合タンパク質をその融合前コンホメーションに安定して維持することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多くのタンパク質ワクチンは、熱、若しくは4℃での(長期)貯蔵、又は凍結融解に不安定であり、ひいては貯蔵時にその効力が失われ得る。(熱)安定性の向上は、例えば辺地及び貧困地域で直面し得るコールドチェーンの問題を解決し、ワクチンの保管寿命を延ばし得る。ひいては、(熱)安定性が増加した及び/又は保管寿命が増加した安定ワクチン組成物を生み出すことが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、クラスI融合タンパク質などのウイルス融合タンパク質を抗原として含むワクチン組成物に関し、このワクチン組成物は、(熱)安定性の向上を呈する。本発明のワクチン組成物は、凍結又は冷蔵条件下で長期間貯蔵することができ、臨床及び商業生産での使用に好適である。本発明はまた、安定化型ワクチン組成物の調製方法にも関する。
【0007】
第1の態様において、本発明は、免疫学的有効量のウイルス融合タンパク質抗原、詳細には融合前クラスI融合タンパク質と、安定化量の抗ウイルス性化合物とを含むワクチン組成物に関する。
【0008】
本発明のワクチン組成物は、これまで開示された組成物と比較したとき、熱安定性の向上及び撹拌ストレス、熱ストレス(例えば凍結融解ストレス)、pH変動によるストレスに対する安定性の向上を呈し、その結果として長い保管寿命を呈する。
【0009】
本発明によれば、意外にも、安定化量の抗ウイルス性化合物、例えば小分子融合阻害薬又はウイルス侵入阻害薬などを前記ワクチン組成物に添加することにより、凍結融解サイクルなど、ストレスのある条件下であっても、ウイルス融合タンパク質が融合前コンホメーションに安定したまま保たれることが示されている。
【0010】
更なる態様において、本発明は、タンパク質抗原を含むワクチン組成物の調製方法に関し、前記方法は、免疫学的有効量の前記タンパク質抗原を安定化量の抗ウイルス性化合物と混合することを含む。
【0011】
詳細な態様において、本発明は、ワクチン組成物中のウイルス融合タンパク質の凝集を低減する方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、ワクチン組成物の凍結融解後における前記ワクチン組成物中のウイルス融合タンパク質の凝集を低減する方法を提供する。
【0013】
更に別の態様において、本発明は、タンパク質抗原を含むワクチンの保存方法を提供し、この方法は、本明細書に記載されるとおりのワクチン組成物を調製することを含む。
【0014】
本発明は更に、タンパク質抗原を含む液体ワクチン組成物を安定して維持する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載されるとおりのワクチン組成物を2~8℃の温度で少なくとも20ヵ月間にわたって貯蔵することを含む。
【0015】
前述の概要、並びに以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むと、更に良く理解されるであろう。本発明が、図面に示される厳密な実施形態に限定されないことが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1-1】図1:A.精製したpreFのSEC分析。B.非還元(レーン2)及び還元(レーン3)条件下でのRSV融合前Fタンパク質(preF)のSDS-PAGE分析。ゲルはクーマシーブリリアントブルーで染色した。C.CR9501及びCR9506モノクローナル抗体によるQ Octetアッセイで、精製したpreFを測定した。CR9501は部位Vに結合し、RSV-Fの融合前コンホメーションに特異的である(Gilman et.al.,Nat.Comm 2019)。CR9506は部位IIに結合し、RSV Fの融合前コンホメーション及び融合後コンホメーションに特異的である。
図1-2】(上記の通り。)
図1-3】(上記の通り。)
図2】示差走査型蛍光定量法(DSF)によるPreFタンパク質の温度安定性分析。℃単位での抗ウイルス性化合物無しの融合前Fと有りの融合前Fとの融解温度の差(ΔTm50)。使用した抗ウイルス性化合物は、ローマ数字I~VXIで示す(表1)。安定化化合物は、3つの三量体:化合物モル比:1:3、1:10及び1:100で添加する。安定化化合物は全て、DMSO中に溶解させた。対照試料として、1:3、1:10及び1:100組成物で使用したのと同じ量のDMSOをタンパク質に添加した。
図3-1】図3:融合阻害薬(三量体:化合物モル比:1:3)無し(n=6)(A)並びにII(B)及びIII(C)有り(n=3)の緩慢凍結/融解処理後におけるリン酸緩衝液中のPreF三量体の分析的SEC。6分より前にあるピークは凝集体であり、7分のピークは三量体ピークである。
図3-2】(上記の通り。)
図3-3】(上記の通り。)
図4-1】図4:異なる製剤緩衝液中における緩慢凍結処理後の融合阻害薬(表1)有り及び無しでの分析的SECによって測定された残留PreF三量体。図4Aでは、4つの異なる製剤緩衝液、即ち、AP1、FB12並びに製剤1及び2を試験する。Bでは、比が異なる大規模な一組の化合物を製剤1中で試験する。Cでは、2つの異なるpH値(pH7.0、製剤5a及びpH8.3、製剤5b)の追加的な緩衝液(製剤5)を試験する。Dは、製剤組成物1、2及びポリソルベート無しのAP1(AP1-P)の結果を示す。y軸上に4℃対照試料に対する相対的な三量体含有量を描く。データ平均値±SD。点線:100%三量体、破線:90%三量体。
図4-2】(上記の通り。)
図4-3】(上記の通り。)
図4-4】(上記の通り。)
図5-1】図5:37℃(A)及び40℃(B)で6週間貯蔵した後の安定化化合物III(三量体:化合物モル比:1:3及び1:9)有り及び無しの異なる製剤緩衝液中におけるpreFタンパク質のSEC分析。保持時間は凝集体が約3.1分及び三量体が約4.2分である。高温で6週間貯蔵した試料を破線として示し、黒色の線として示す4℃に置いておいた試料と比較する。
図5-2】(上記の通り。)
図5-3】(上記の通り。)
図5-4】(上記の通り。)
図5-5】(上記の通り。)
図5-6】(上記の通り。)
図6】安定化化合物を添加することがトランスフェクション後の粗上清中におけるRSV F発現に及ぼす影響。3つ全ての試料について、同じ容積の上清を注入した。融合前コンホメーションで安定化しているRSV F(preF;配列番号1)(黒色の実線)、不安定化型コンセンサスRSV A F(黒色の破線;配列番号2)及び化合物III(0.28μMの化合物濃度)の存在下で発現させた不安定化型コンセンサスRSV A F(配列番号2)(灰色の線)について、上清中の三量体含有量をSECを用いて測定した。
図7-1】図7:HIV-1 ConB-SOSIPを記載されるとおりに作製し、精製した(Rutten et.al.,Cell Reports 2018)。A.精製したHIV-1 Env ConB-SOSIPのSEC分析。B.精製したEnv ConB SOSIPに50倍モル過剰で添加して4℃で1週間貯蔵した、侵入阻害薬XVII(表2)の添加有り及び無しでの融解温度(Tm50)。C.AlphaLISAで測定した広域中和抗体(bNAb)及び非広域中和抗体(非Nab)の結合。
図7-2】(上記の通り。)
図7-3】(上記の通り。)
図8-1】図8:(A)50倍過剰のインフルエンザB侵入阻害薬XXVII有り及び無しでのマサチューセッツ/2/12(左側のパネル)及びコロラド/06/2017(右側のパネル)に対応する精製した可溶性HAタンパク質の融解温度(Tm50)(表3)。Tm50は、添加なし(黒色)、DMSOのみ(灰色)及びDMSO+阻害薬(白色)のタンパク質について、DSFを用いてトリプリケートで測定した。(B)ExpiHEK293F細胞(破線)についてDMSOの添加有り(点線)及びDMSO+30倍過剰の侵入阻害薬の添加有り(黒色の線)でのトランスフェクション4日後の細胞培養上清中における可溶性B型インフルエンザHAエクトドメイン(UFV 180933)の分析的SEC分析。4.0分に三量体ピーク及び4.3分に単量体ピーク。
図8-2】(上記の通り。)
図9】摂氏40度で6週間後の可溶性A型インフルエンザHAエクトドメイン(H1N1 A/ブリスベン/59/2007)(灰色の破線)についてDMSOの添加有り(灰色の点線)及び化合物XXIVの添加有り(黒色の実線)での分析的SEC分析。保持時間は三量体が約4.1分及び単量体が約4.5分である。
図10】液体安定性。異なる製剤緩衝液中に安定化化合物III有り及び無しで37℃で貯蔵した後の9、16及び26週間後のSEC分析に基づくRSV preFタンパク質の三量体含有量。三量体:化合物モル比:1:3及び1:9。三量体含有量は、4℃対照に対する相対で示される。個々のレプリケート(n=2)、平均値及び標準偏差を指示するエラーバーが描かれる。
図11】透析 過剰の安定化化合物III。透析及び緩慢凍結後、作業台上で試料を解凍し、その(a)分析的SECによる凝集体レベル及び(b)DSFによる融解温度(0日目)について評価した。次に試料を4℃及で貯蔵し、21日目及び84日目に更なるDSF分析用のアリコートを取り分けた。個々のレプリケート(緩慢凍結についてn=5;DSFについてn=3)、平均値及び標準偏差を指示するエラーバーが描かれる。
図12】UF/DF 過剰の安定化化合物III。UF/DF及び緩慢凍結後、試料をその(a)分析的SECによる凝集レベル及び(b)DSFによる融解温度(0日目)について評価した。次に試料を4℃及で貯蔵し、21日目及び84日目に更なるDSF分析用のアリコートを取り分けた。個々のレプリケート(緩慢凍結についてn=5;DSFについてn=3)、平均値及び標準偏差を指示するエラーバーが描かれる。
図13-1】図13:異なる緩衝液及び過剰の安定化化合物IIIを用いた緩衝液交換。安定化化合物IIIを含有する試料を室温(RT)で24時間プレインキュベートした。次に試料を透析するか(PS20無しの製剤2及びAP1緩衝液に対するpreF)、又はUF/DFし(PS20無しの製剤1に対するpreF並びにPS20無しの製剤1及び2及びAP1に対するpreF+1:50)、続いて、緩慢凍結した(24時間で-70℃に)。次に、(a)分析的SECによる凝集レベル、(b)DSFによる融解温度(0日目)について試料を評価した。個々のレプリケート(緩慢凍結についてn=5;DSFについてn=3)、平均値及び標準偏差を指示するエラーバーが描かれる。(c)UF/DF後の安定化化合物IIIの定量化。予めUF/DFし、スナップ凍結した試料を使用して、緩衝液交換後のFIの量を定量化した。定量化はLC-MS/MSを用いて実施した。左のY軸に各試料からの濃度をプロットした。右のY軸は、三量体当たりの安定化化合物III分子の当量に対応する。
図13-2】(上記の通り。)
図14】42日目のRSV CL57中和抗体力価。0及び28日目にマウスを免疫し、42日目に血清を採取した。RSV CL57株を使用したホタルルシフェラーゼアッセイによりVNA力価を測定した。IC90力価のlog2値として表す。黒色のバーは、各群内での応答平均値を特定し、点線は定量下限(LLoQ)を表す。
図15】RSV CL57中和抗体力価の統計的分析。4倍マージン(2log2)での全用量間非劣性試験(多重比較のためのボンフェローニ補正を用いたTobitモデル)により、preF+安定化化合物IIIで免疫した群のVNA力価とpreFタンパク質単独で免疫した群の力価との間の比較を行った。点が差の推定平均値を表し、水平の髭が信頼区間を表す。-2の点線は、予め設定した非劣性マージンを指し示している。0の点線は、ベンチマーク(融合阻害薬無しのpreF)の推定平均値を指し示している。
図16】分化型ヒト気道細胞培養物(hAEC)における42日目のRSV中和。0及び28日目にマウスを免疫し、42日目に血清を採取した。GFPレポーターをコードするRSV-A2株を使用して、気液界面で分化させた初代ヒト気道細胞でVNA力価を測定した。感染後4日でCytation 1自動顕微鏡を使用してトランズウェル(transwell)インサート全体をイメージングした。感染細胞が灰色で描かれる。3回のバイオロジカルレプリケートの代表的なインサートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
循環ヒト病原性ウイルスの多くは脂質二重層のエンベロープに包まれており、ウイルスエンベロープと標的細胞膜の融合を誘導することによってその標的細胞に感染する。ウイルス融合タンパク質は、膜融合反応を誘導してウイルスの侵入を可能にする鍵となる因子である。そのRNAゲノムを宿主細胞に送達するため、こうしたエンベロープ型ウイルスでは、ウイルスによっては2つの表面糖タンパク質:受容体結合タンパク質(例えば、RSV Gタンパク質)と融合タンパク質(例えば、RSV Fタンパク質)とを含む膜融合機構が進化している。しかしながら、エボラ及びHIVなど、幾つかのエンベロープ型ウイルスは、粒子表面に単一のタンパク質を提示するのみであり、必然的にそれが細胞表面への付着の媒介並びに続く膜融合反応の誘導の両方を行う。
【0018】
現在、特徴付けられている構造的に違いのある融合タンパク質には、インフルエンザHAが典型例であるクラスI;フラビウイルスエンベロープタンパク質Eによって例示されるクラスII;及びラブドウイルス糖タンパク質Gが典型例であるクラスIIIと称される3つのクラスがある。
【0019】
ウイルス膜と宿主細胞膜との融合は、クラスI融合タンパク質を用いるウイルスのライフサイクルにおいて決定的に重要である。クラスI融合タンパク質を担持するエンベロープ型ウイルスの群には、インフルエンザウイルス(オルトミクソウイルス科の4つの属:A、B、C及びD型インフルエンザ)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV、ニューモウイルス科(Pneumoviridae))並びにパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)の関連する麻疹、ムンプス及びパラインフルエンザウイルスなどの呼吸器ウイルスが含まれ、これにはまた、最近出現した、ヒトに重篤な疾患を引き起こす人畜共通ヘンドラ及びニパ脳炎ウイルスも含まれる。クラスI群の他の呼吸器ウイルスメンバーには、コロナウイルス(CoV)(コロナウイルス科(Coronaviridae))であって、季節性呼吸器感染症の原因であるもの(例えば、NL73 CoV及びHKU1 CoV)、並びに人畜共通重症急性呼吸器症候群(SARS CoV)及び中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS CoV)が含まれる。HIV及びヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)が例として挙げられるレトロウイルス科(Retroviridae)は、別の重要な一部のクラスIウイルスに相当する。最後に付け加えると、幾つかの重要な出血熱病原体がクラスI融合タンパク質を有し、最も注目すべきものは、アレナウイルス科(Arenaviridae)の他のメンバーと共にラッサウイルス、並びにエボラウイルス及びフィロウイルス科(Filoviridae)の近縁生物である。
【0020】
これらのウイルスの一部に対しては効率的なワクチンが存在するものの、大多数は予防的又は治療的処置がない。公知のワクチンは、典型的には、細胞への病原体の侵入を遮断する抗体を引き出すことによって働き、エンベロープ型ウイルスの場合には、それには典型的には、ウイルスエンベロープ付着又は融合タンパク質への抗体結合が関わる。
【0021】
上記に説明したとおり、融合タンパク質ベースのワクチンの免疫原活性は、特に立体エピトープ(天然のフォールディングによって一体となったポリペプチド鎖の異質な領域のところであって、抗体はそれに結合する必要がある)に関して、融合タンパク質抗原の構造的完全性に大きく依存する。ひいては不可逆的なコンホメーション変化及び凝集が、ワクチンの有効性の低下につながり得る。従って、ワクチン組成物の生産、輸送及び貯蔵時に融合タンパク質の構造特性、詳細にはワクチン中の融合タンパク質の二次、三次及び四次構造が保持されることが、極めて重要である。
【0022】
概して、クラスI融合タンパク質は典型的には易変的な(準安定性の)タンパク質であることが公知である。例えば、RSV Fは複数のコンホメーションをとり得る。ひいては、ウイルス表面上では、RSV Fは準安定性の融合前コンホメーションで存在し、それが感染過程の中で再編成されて、より安定性の高い融合後形態となり、宿主細胞へのウイルス侵入が可能となる。RSV自然感染によって誘導される中和抗体の大多数は、融合前コンホメーションに特異的なエピトープを指向することが示されている。従って、RSV融合タンパク質をベースとする効果的なワクチンの開発に際しては、この準安定性の融合タンパク質を融合前コンホメーションに安定して維持することが望ましい。
【0023】
例えば三量化ドメイン及び安定化アミノ酸置換によって融合前コンホメーションで安定化させた、且つ撹拌又は複数回の凍結/融解サイクルを受けても2~8度で長時間にわたって安定している準安定性のクラスI融合タンパク質は、それであってもなお、24時間の超緩慢凍結処理のような更に苛酷な条件の後には凝集体を形成し得るか、又は熱、若しくは4℃での長期貯蔵に不安定であり、ひいては貯蔵時にその効力が失われ得る。かかるタンパク質の安定性の向上は、例えば辺地及び貧困地域で直面し得るコールドチェーンの問題を解決することができ、及びワクチンの保管寿命を延ばすことができる。
【0024】
本発明は、免疫学的有効量のウイルス融合タンパク質抗原と安定化量の抗ウイルス性化合物とを含むワクチン組成物を提供し、この組成物は安定性の向上を呈する。特定の実施形態において、融合タンパク質は、準安定性の融合タンパク質である。準安定性の融合タンパク質は、融合前コンホメーションで安定しているが、その安定性は、融合前コンホメーションのままであり続けるには不十分である。特定のトリガー(受容体結合、pHの降下、温度上昇)が、タンパク質を非融合前コンホメーションへと押し動かし得る。上記に説明したとおり、その機能のためには、融合タンパク質は不安定性又は準安定性である必要がある。しかしながら、ワクチン目的では、それを融合前コンホメーションで安定化させることが重要である。不安定性、まして準安定性がある場合には、融合前コンホメーションは製造及び貯蔵を「生き延びる」ことができず、ワクチンの使用にまでたどり着かない恐れがある。
【0025】
好ましい実施形態において、融合タンパク質は、(準安定性の)三量体クラスI融合タンパク質である。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「免疫学的有効量」とは、それを必要としている対象において所望の免疫効果又は免疫応答を誘導するのに十分な抗原の量を意味する。特定の実施形態において、免疫学的有効量とは、それを必要としている対象において免疫を誘導する、例えば、ウイルス感染に対する防御効果を提供するのに十分な量を意味する。特定の実施形態において、免疫学的有効量とは、それを必要としている対象の免疫応答を亢進させるのに十分な量を意味する。例えば、プライム・ブーストレジメンにあるものなど、免疫応答を生じさせる能力を有する1つ以上の他の成分又は免疫原性組成物と組み合わせて使用されるとき、免疫学的有効量とは、その1つ以上の他の成分又は免疫原性組成物によって誘導される免疫応答を亢進させるのに十分な量であり得る。免疫学的有効量は、対象の身体条件、年齢、体重、健康、詳細な適用、例えば、免疫応答の誘導か、それとも防御免疫の付与か、及び免疫が所望されるウイルス感染症など、種々の要因に応じて異なり得る。有効量は、当業者が容易に決定することができる。
【0027】
本明細書で使用されるとき、安定性の向上(又は増加)とは、前記融合タンパク質抗原の免疫学的有効量を含むが抗ウイルス性化合物の無い組成物と比較したときの安定性の向上(又は増加)を意味する。用語の向上と増加とは、この点で同義的に使用される。安定性の向上(又は増加)は、熱安定性の向上(又は増加)、撹拌ストレスに対する安定性の向上(又は増加)、熱ストレス(例えば凍結融解ストレス)に対する安定性の向上(又は増加)、及び/又はpH変動によるストレスに対する安定性の向上(又は増加)を含み得る。本明細書で使用されるとき、熱安定性とは、タンパク質抗原が相対的に高い温度でその化学的又は物理的構造の不可逆的な変化に耐える性質を指す。
【0028】
本発明によれば、ウイルス融合タンパク質抗原、詳細には(準安定性の)クラスI融合タンパク質は、前記ウイルスタンパク質に結合する及び/又はその機能を妨げることが公知の安定化量の抗ウイルス性化合物を添加することによって安定化させ得ることが示された。本発明の組成物は、安定性の増加を呈する。本発明は、タンパク質の構造特性、詳細には二次、三次及び四次構造の保持が重要性を持つワクチン組成物に特に適用可能である。本発明を適用することにより、タンパク質抗原の不可逆的なコンホメーション変化及び不可逆的な凝集並びに結果として生じる、天然のタンパク質に対する免疫応答の誘導能の喪失が起こる可能性が大幅に低下する。本発明は、限定はされないが、タンパク質抗原の単離又は発現、その精製、ワクチン製品の製造並びにその輸送及び貯蔵を含めた、その全製品寿命にわたるタンパク質抗原の安定化に適用可能である。
【0029】
抗ウイルス性化合物は、宿主細胞内でのウイルス性病原体の発育を阻害することによってウイルス感染症の治療に特別に使用される抗微生物薬の部類である。本発明によれば、抗ウイルス性化合物は、ウイルスに結合し及び/又はそれが標的細胞に侵入するのを妨げることが公知の任意の抗ウイルス性化合物であってよい。本発明によれば、抗ウイルス性化合物は、典型的には、小分子化合物、即ち、低分子量(900ダルトン未満)の有機化合物である。多くの公知の薬物が小分子である。特定の実施形態において、抗ウイルス性化合物は、融合阻害薬及び/又はウイルス侵入阻害薬である。小分子融合阻害薬及び/又はウイルス侵入阻害薬は公知であり、典型的には、RSV、HIV又はインフルエンザなどのウイルスによって引き起こされるウイルス感染症の(実験的)治療において使用される。
【0030】
本発明によれば、前記融合及び/又はウイルス侵入阻害薬の「安定化量」とは、典型的には、タンパク質抗原を安定化させるのに十分な、しかし前記化合物の治療有効量を下回る量である。
【0031】
特定の好ましい実施形態において、抗ウイルス性化合物の安定化量は、前記抗ウイルス性化合物の治療有効量に満たない量である。ひいては、ワクチンとして投与されたとき、その抗ウイルス性化合物は何ら治療的な(抗ウイルス性の)効果を及ぼさないことになる。
【0032】
特定の実施形態において、抗ウイルス性化合物の安定化量は、前記抗ウイルス性化合物の治療有効量の少なくとも100分の1、好ましくは少なくとも1000分の1、より好ましくは少なくとも10,000分の1又は少なくとも100,000分の1、例えば500,000分の1である。
【0033】
特定の実施形態において、三量体融合タンパク質及び前記抗ウイルス性化合物は、限定はされないが、1:3、1:9、1:10、1:27、1:30、1:50、1:150、1:100、又は1:300の比など、1:1以上1:300以下、好ましくは1:1以上300,000以下の範囲の三量体:化合物比で存在する。本発明によれば、例えば1:3の三量体:化合物比とは、1モル当量の融合タンパク質三量体、例えばRSV Fタンパク質三量体、及び3モル当量の阻害薬化合物を意味する。
【0034】
特定の実施形態において、融合タンパク質は、RSV融合(F)タンパク質、好ましくは融合前RSV Fタンパク質、即ち、例えば安定化突然変異及び/又は異種三量化ドメインの付加によって融合前コンホメーションで安定化しているFタンパク質である。
【0035】
RSVの融合(F)タンパク質は、典型的には、幾つかのN-結合型グリコシル化部位を含む574アミノ酸の単一の前駆体として発現する。この前駆体分子F0が小胞体内でオリゴマー化して、各単量体の2つの部位でタンパク質分解のプロセシングを受ける結果、2つのジスルフィドで連結された断片:F2(小さい方のN末端断片)及びF1の三量体となる。このタンパク質は、F1のC末端領域の疎水性ペプチドを介してビリオン膜にアンカリングされ、それが惹起されるまでは準安定性の融合前コンホメーションをとると考えられている。惹起は、標的膜及び/又は受容体への結合がなくても起こり得る。RSV Fタンパク質は、2つの7アミノ酸リピートドメイン、HR1(別名HRA)及びHR2(別名HRB)を含有する。融合時、融合タンパク質のフォールディング中間体が形成され、これは3つのHR1ドメインのコイルドコイル構造を含有している。この三量体コイルドコイル構造が不可逆的にリフォールディングして、3つのHR2ドメインとの「6ヘリックス束」(6HB)複合体となり、ウイルス膜と細胞膜とが隣り合って並ぶことになる。
【0036】
融合前RSV Fタンパク質については、既に記載されている。本発明は、限定はされないが、国際公開第2014/174018号パンフレット、国際公開第2014/202570号パンフレット、国際公開第2017/005844号パンフレット、国際公開第2017/174568号パンフレット及び国際公開第2017/207480号パンフレットに記載されるとおりの融合前RSV Fタンパク質を含め、幾つかの融合前Fタンパク質に適用可能である。好ましいRSV Fタンパク質は、配列番号1の融合前Fタンパク質であり、これは2つのフューリン切断部位でプロセシングを受け、p27領域を切り出す結果、ジスルフィド架橋によって一体に保持されたF2及びF1で構成されるプロセシングされたFタンパク質となり、配列番号10のアミノ酸配列を有するプロセシングされたタンパク質を生じることになる。
【0037】
本発明によれば、抗ウイルス性化合物は、RSVウイルスに結合し及び/又はそれが標的細胞に融合するのを妨げる任意の小分子化合物であってよい。当業者は、好適な融合又は侵入阻害薬を特定することが可能であろう。例えば、抗ウイルス性化合物は、国際公開第2009/106580号パンフレットに記載されるとおり特定されるRSV侵入及び/又は融合阻害薬及びその類似体であってもよい。
【0038】
特定の実施形態において、抗ウイルス性化合物は、表1の化合物I~XVIからなる群から選択されるRSV F侵入又は融合阻害薬及びその好適な類似体である。
【0039】
好ましい実施形態において、抗ウイルス性化合物は、3-[[5-ブロモ-1-(3-メチルスルホニルプロピル)ベンズイミダゾール-2-イル]メチル]-1-シクロプロピル-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-オン(化合物III)である。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
他の実施形態において、クラスI融合タンパク質は、HIVエンベロープ(env)タンパク質、好ましくは融合前HIV envタンパク質である。HIVのエンベロープ(Env)タンパク質は、HIVビリオンのエンベロープ上に発現し、HIVによるHIV標的細胞の標的化及びその細胞膜への付着並びにウイルス膜と標的細胞膜との融合を可能にする。
【0043】
融合前HIV envタンパク質については、既に記載されている。本発明は、特定の融合前HIV envタンパク質に限定されない。好適なHIV envタンパク質は、例えば、Rutten et al.(Cell Reports 23:584-595(2018))によって記載されている。好ましいHIV envは、配列番号2の融合前HIV envタンパク質である。
【0044】
上記に指摘したとおり、本発明によれば、抗ウイルス性化合物は、HIVウイルスに結合し及び/又は標的細胞においてそれが侵入するのを妨げる任意の小分子化合物であってよい。当業者は、好適な融合又は侵入阻害薬を特定することが可能であろう。特定の実施形態において、抗ウイルス性化合物は、限定はされないが、表2の化合物XVII~XXIIIからなる群から選択されるHIV融合又は侵入阻害薬及びその好適な類似体など、HIV融合及び/又は侵入阻害薬である。
【0045】
【表3】
【0046】
更なる実施形態において、クラスI融合タンパク質は、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タンパク質、好ましくは融合前HAタンパク質である。ヘマグルチニン(HA)は、インフルエンザウイルスの主要エンベロープ糖タンパク質である。HAは、侵入過程の中で2つの主要な機能を有する。第一に、ヘマグルチニンは、シアル酸受容体との相互作用を通じて標的細胞の表面へのウイルスの付着を媒介する。第二に、ウイルスのエンドサイトーシス後、続いてHAはウイルス膜とエンドソーム膜との融合を惹起し、標的細胞の細胞質へとそのゲノムを放出する。HAは、約500アミノ酸の大型のエクトドメインを含み、これが宿主由来の酵素によって切断されると、ジスルフィド結合によって連結されたまま保たれる2つのポリペプチド(HA1及びHA2)が生じる。N末端断片の大半(HA1ドメイン、320~330アミノ酸)が、受容体結合部位及びウイルス中和抗体によって認識されるほとんどの決定基を含有する膜遠位球状「頭部ドメイン」を形成する。小さい方のC末端部分(HA2ドメイン、約180アミノ酸)は、球状ドメインを細胞膜又はウイルス膜にアンカリングするステム様構造を形成する。
【0047】
特定の実施形態において、クラスI融合タンパク質は、インフルエンザヘマグルチニン(HA)A又はBタンパク質、好ましくは融合前HA A又はBタンパク質である。
【0048】
本発明によれば、抗ウイルス性化合物は、インフルエンザウイルスに結合し及び/又は標的細胞においてそれが侵入するのを妨げる任意の小分子化合物であってよい。当業者は、好適な融合又は侵入阻害薬を特定することが可能であろう。特定の実施形態において、抗ウイルス性化合物は、インフルエンザ融合及び/又は侵入阻害薬である。特定の実施形態において、抗ウイルス性化合物は、A型インフルエンザHAについては、表3の化合物XXIV~XXVI、及びその好適な類似体からなる群から選択され、又はB型インフルエンザHAについては、化合物XVII、又はその好適な類似体である。
【0049】
【表4】
【0050】
特定の実施形態において、ワクチン組成物は、液体組成物である。凍結条件下(-80℃)で安定な液体組成物は、典型的には特別な発送及び高価な貯蔵施設を必要とするため、特に流通網の末端において、信頼できるコールドチェーンはほぼ不可能となる。従って、好ましいワクチン組成物は、2~8℃の温度範囲で、しかしまたそれより高い温度でも、例えば室温か又は更に高くても(例えば37℃)熱安定性が増加しているなど、安定性が増加した液体組成物であって、また、24時間の超緩慢凍結融解処理後であっても安定したまま保たれる液体組成物である。かかる組成物は、普通の冷蔵庫で貯蔵することができ、且つすぐに容易に投与することができる。加えて、冷蔵されているが凍結はされていない条件での貯蔵により、例えばリソースの限られた状況、例えば凍結機能が利用不可能な状況でのワクチン組成物の使用が確実に容易になる。その上、本発明の組成物が低温又は高温(例えば、25℃、37℃及び更には47℃)で安定性を維持することが観察されるということは、不注意な温度逸脱、例えば意図しない凍結があったか、又は温暖な気候であっても、一時的に組成物が室温に曝露されたときに、それが本発明のワクチン組成物に直ちに有害とはならないはずであることを示している。
【0051】
特定の実施形態において、本ワクチン組成物は、室温~47℃の範囲の温度で少なくとも6週間にわたって貯蔵したときに安定性の向上を呈する。ひいては、本発明によれば、本ワクチン組成物は、例えば室温か又は更には47℃に至るまでの高い温度など、上昇した温度で貯蔵したときに安定性の向上を呈する。
【0052】
特定の実施形態において、本ワクチン組成物は、前記組成物を-20~-80℃の温度に緩慢凍結し、続いて解凍した後に安定性の向上を呈する。
【0053】
特定の実施形態において、本発明に係るワクチン組成物は、限外ろ過/ダイアフィルトレーション時に安定性の向上を呈する。
【0054】
本発明に係るワクチン組成物は、原薬又は薬物製品のいずれかを指す。薬物製品は、典型的には、完成した剤形、例えば、錠剤、カプセル、又は溶液(製剤)であり、これは、必ずとは限らないが、概して1つ以上の他の成分が付随する形で原薬を含有する。原薬は、疾患の診断、治癒、緩和、治療、若しくは予防において薬理活性若しくは他の直接的な効果を付与すること又は人体の構造若しくは任意の機能に影響を及ぼすことが意図される有効成分である。本明細書に記載されるとおりの本発明に係るワクチン組成物は、投与を容易にし、且つ有効性を向上させるため、限定はされないが、経口(経腸)投与及び非経口注射を含めた、ヒト対象への投与に好適な任意の物質(matter)で製剤化されてもよい。例えば非経口注射には、皮下注射、筋肉内注射、又は皮内注射が含まれ得る。本発明の免疫原性組成物はまた、他の投与経路、例えば、経粘膜、直腸、舌下投与、経口、又は鼻腔内経路用に製剤化することもできる。好ましくは、免疫原性組成物は、筋肉内注射用に製剤化される。
【0055】
上記に指摘したとおり、本発明のワクチン組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を更に含み得る。「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、心地良い又は便利な剤形を調製するために抗原などの活性分子と組み合わされる任意の不活性物質が意味される。「薬学的に許容可能な賦形剤」は、用いられる投薬量及び濃度で被投与者にとって非毒性の、且つ抗原を含む組成物の他の成分と適合性のある賦形剤である。賦形剤の例は、凍結保護物質、非イオン性界面活性剤、緩衝剤、及び塩である。
【0056】
ワクチン組成物は、アジュバントを更に含み得る。用語「アジュバント」は、免疫系の刺激を引き起こし又は免疫応答を亢進させる1つ以上の物質として定義される。
【0057】
本発明は更に、タンパク質抗原を含むワクチン組成物の調製方法を提供し、前記方法は、免疫学的有効量の本明細書に記載されるとおりの前記融合タンパク質抗原を安定化量の本明細書に記載されるとおりの抗ウイルス性化合物と混合することを含む。
【0058】
特定の実施形態において、本組成物は、例えば室温か又は更には47℃に至るまでの高い温度など、上昇した温度で6週間にわたって貯蔵したとき安定している。本発明によれば、「安定している」とは、阻害薬化合物無しの同じ組成物と比較したときタンパク質の凝集が存在しないか、又は減少していることを意味する。
【0059】
特定の実施形態において、ワクチン組成物は、前記組成物を-20~-80℃の温度に緩慢凍結し、続いて解凍した後に安定性の向上を呈する。
【0060】
本発明は更に、ワクチン組成物中のウイルス融合タンパク質の凝集を低減する方法であって、免疫学的有効量の本明細書に記載されるとおりの融合タンパク質抗原を安定化量の本明細書に記載されるとおりの抗ウイルス性化合物と混合することを含む方法を提供する。
【0061】
本発明は、詳細には、ワクチン組成物の凍結融解後における前記ワクチン組成物中のウイルス融合タンパク質の凝集を低減する方法であって、免疫学的有効量の本明細書に記載されるとおりの融合タンパク質抗原を安定化量の本明細書に記載されるとおりの抗ウイルス性化合物と混合することによってワクチン組成物を調製することを含む方法を提供する。
【0062】
本発明はまた、融合タンパク質抗原を含むワクチンの保存方法であって、本明細書に記載されるとおりのワクチン組成物を調製することを含む方法も提供する。
【0063】
特定の実施形態において、前記方法は、前記組成物を2~8℃の範囲の温度で少なくとも24ヵ月間にわたって貯蔵することを更に含む。
【0064】
更には、本発明は、タンパク質抗原を含む液体ワクチン組成物を安定して維持する方法であって、本明細書に記載されるとおりのワクチン組成物を2~8℃の温度で少なくとも24ヵ月間にわたって貯蔵することを含む方法を提供する。
【0065】
本発明はまた、融合タンパク質免疫原を作製する方法であって、安定化量の抗ウイルス性化合物の存在下で融合タンパク質免疫原を作製することを含む方法も提供する。本発明によれば、融合タンパク質を抗ウイルス性化合物の存在下で作製する(例えば発現させる)ことにより、発現レベル及び収率が増加することが示されている。
【0066】
以下の詳細な例は、本発明の更なる理解に寄与することが意図される。しかしながら、本発明は、これらの例によって限定されない。本発明の他の実施形態は、当業者には、本明細書の考察及び本明細書に開示される本発明の実施から明らかであろう。
【実施例
【0067】
実施例1:RSV融合前Fタンパク質
融合前コンホメーションで安定化させた組換え可溶性RSV F(配列番号10)を精製し、分析的SEC(図1A)及びSDS-PAGE(図1B)で分析した。クーマシーブリリアントブルーで染色すると、ゲル上にタンパク質が可視化された。SDS-PAGEの主バンドは、還元試料ではRSV Fタンパク質のF1及びF2ドメインに対応する;非還元試料では、主バンドは、ジスルフィド結合で一体に連結されたF1+F2ドメインのサイズに対応する。融合前及び融合後結合抗体CR9506(それぞれ、配列番号8及び配列番号9の重鎖及び軽鎖可変領域を含む)を使用して、RSV Fタンパク質を測定した(図1C)。CR9501(国際公開第2011/020079号パンフレットに記載されるとおりの抗体58C5の結合領域を含む)への結合により、精製したタンパク質の融合前コンホメーションが確認された(図1C)。
【0068】
別の実験において、安定化型融合前RSV Fタンパク質は、2~8℃で24ヵ月を超えて融合前コンホメーションに安定したまま保たれた(データは示さず)。
【0069】
実施例2 阻害薬有り及び無しのRSV融合前Fの熱安定性
配列番号10のRSV融合前Fタンパク質の熱安定性を示差走査型蛍光定量法(DSF)により、96ウェル光学qPCRプレートにおいてSyproオレンジ色素(ThermoFisher Scientific)の蛍光発光をモニタすることによって決定した。図2に示されるとおり阻害薬I~XVI(表1)有り及び無しで、ウェル当たり15μlの66.67μg/mlポリペプチド溶液を使用した。阻害薬は、実験前にDMSOで希釈した。同じ量のDMSOを阻害薬無しの融合前Fタンパク質に添加した。各ウェルに、5μlの20倍Syproオレンジ溶液を添加した。温度を25℃から95℃に徐々に上昇させると(0.015℃/s)、ポリペプチドがアンフォールディングし、露出した疎水性残基に蛍光色素が結合して、発光の特徴的な変化につながる。融解曲線は、ViiA7リアルタイムPCR機(Applied BioSystems)を使用して測定した。3つの個別の試料(テクニカルトリプリケート)の温度(℃)に対する蛍光シグナル(a.u.)の一次導関数、並びに平均融解曲線をGraphpad Prismソフトウェア(Dan Diego,CA,米国)でプロットした。平均融解曲線から、Tm50を差し引いた(曲線の最下点)。Tm50値は、50%のタンパク質がアンフォールディングする温度を表し、ひいてはポリペプチドの温度安定性の尺度である。Tm50の上昇は、安定化抗ウイルス性化合物有りの融合前Fタンパク質のTm50を、DMSOのみを添加した(即ち抗ウイルス性化合物無しの)融合前Fタンパク質のTm50と比較した差として報告する。
【0070】
図2に示されるとおり、16種の異なる融合阻害薬を1:3、1:10又は1:100の三量体:阻害薬モル比で添加すると、Tm50値が増加したことから、タンパク質の熱安定性の増加が指摘される。
【0071】
実施例3:阻害薬有りのRSV融合前Fの抗原性
安定化化合物の添加有り及び無しのポリペプチド(配列番号10)に対する抗体の結合を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により測定した(表4)。初めに、96ウェルハーフエリアHBプレート(Perkin Elmer、カタログ番号6002290)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、50μL/ウェル中の異なる抗体(1μg/mL)でコートし、プレートを4℃で一晩インキュベートした。使用した融合前特異抗体:CR9501、CR9502(国際公開第2012/006596号パンフレットに記載されるとおりの抗体30D8の結合領域を含む)。使用した融合前及び融合後結合抗体:CR9506、CR9509(国際公開第2012/006596号パンフレットに記載されるとおりの、抗体17C9の結合領域を含む)。一晩インキュベートした後、プレートを100μL洗浄緩衝液(PBS+0.05%Tween20)で3回洗浄した。各ウェルに100μLブロッキング緩衝液を添加し(2%ウシ血清アルブミン(BSA)、PBS中0.05%Tween20)、プレートを室温で1時間、振盪しながらインキュベートした。次に、プレートを100μL洗浄緩衝液(PBS+0.05%Tween20)で3回洗浄した。試料調製のため、安定化化合物の添加有り及び無しのポリペプチド試料を初めにアッセイ緩衝液(1%BSA、PBS中0.05%Tween20)で4μg/mLに希釈した。安定化化合物有りの試料については、化合物は、73.5nM、245nM及び1125nMの最終濃度であった。750μLアッセイ緩衝液に250μL希釈液を添加することにより、4μg/mL試料(化合物有り及び無し)を更に4倍希釈した。プレートを室温で1時間、振盪しながらインキュベートした。インキュベーション後、プレートを300μL洗浄緩衝液で3回洗浄した。各ウェルに、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識を有する50μLの融合前及び融合後結合抗体CR9506を0.05μg/mLの濃度で添加した。プレートを室温で1時間、振盪しながらインキュベートした。インキュベーション後、プレートを300μL洗浄緩衝液で3回洗浄し、各ウェルに、20μLのPOD基質を添加した。基質の添加後5~15分の間にプレートを測定した(EnSightマルチモードプレートリーダー、HH34000000、Luminescence読取り)。ELISA曲線(タンパク質希釈度対RLU)をGraphPad Prismでプロットし、GraphPad Prismを使用してIC50値を計算した(表4)。RSV融合前FのIC50値は、化合物無しと有りとで極めて同等であり、融合阻害薬を添加しても実に融合前Fタンパク質の抗原性に何ら影響がないことを示している。
【0072】
【表5】
【0073】
実施例4:小分子阻害薬がRSV融合前Fに及ぼす凍結保護効果
配列番号10のRSV融合前Fタンパク質をリン酸緩衝液(製剤1)で0.3mg/mlに希釈し、ゴム栓付きのガラス注射バイアルに0.75mlを充填し、アルミニウムキャップで密封した。加えて、タンパク質を阻害薬有りの製剤緩衝液中に1:3の三量体:化合物比で希釈した。1つの阻害薬が1つの三量体に結合し、そのため1:3比では阻害薬が過剰となる。この結果、阻害薬化合物の濃度は5.2×10-6Mになった。環境シミュレーションチャンバ(Binder、モデルMKT 115)を使用してバイアルを緩慢凍結ストレスに供した。24時間で試料をRTから-70℃へと冷却した。試料をRTに解凍し、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析することにより、RSV F三量体の損失を測定した。
【0074】
図3Aは、安定化化合物無しのpreFタンパク質が緩慢凍結/融解処理後に凝集する傾向を有し、三量体シグナルの20±17%が失われることを示している。しかしながら、組成物に化合物II(図3B)又はIII(図3C)を添加したとき、凝集は強力に減少し、それぞれ、僅か2.4±1.9%又は2.0±2.0%の三量体シグナルが失われたに過ぎなかったことから、両方の安定化化合物についての強力な凍結保護効果が指摘される。
【0075】
実施例5.異なる製剤緩衝液中において小分子阻害薬がRSV融合前Fに及ぼす凍結保護効果
配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質を異なる製剤緩衝液(表5)で透析し、各製剤を0.3mg/mlに希釈した。0.75mlの各製剤をゴム栓付きのガラス注射バイアルに充填し、アルミニウムキャップで密封した。加えて、タンパク質を製剤緩衝液で希釈し、1:1、1:3、1:9、1:27及び1:50の三量体:化合物比で阻害薬を添加した。最終的な化合物濃度は、それぞれ、1.7×10-6M、5.2×10-6M、1.6×10-5M、4.6×10-5M、及び8.6×10-5Mであった。バイアルを24時間で-70℃に緩慢凍結した。続いて試料をRTに解凍し、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析することにより、4℃に置いておいた試料と比較したRSV F三量体の損失を測定した。
【0076】
図4Aが示すところによれば、安定化化合物無し又は化合物希釈剤(DMSO)の添加有りでは、試験した全ての製剤でpreFタンパク質は凝集傾向を呈する。製剤に応じて、三量体損失は43%(製剤2)から(製剤1、AP1及びFB12)について60%を超えるまでの範囲にわたる。しかしながら、組成物に化合物I、II又はIVを添加すると、全ての製剤緩衝液について三量体%が高くなることが観察され、3つ全ての化合物の強力な凍結保護効果が指摘される。
【0077】
製剤1で更なる化合物を評価し(図4B)、化合物及び濃度に応じて緩慢凍結後の三量体の損失を防ぐことができた。
【0078】
製剤5b(pH8.3)及び5a(pH7.0)については、化合物I、II又はIV(表1)を添加したとき、凝集は観察されなかった(図4C)。
【0079】
ポリソルベート20の非存在下での異なる製剤の試験を図4Dにまとめる。この場合もまた、安定化化合物無しのpreFタンパク質は凝集する傾向があった。ポリソルベート無しの製剤2に融合阻害薬を添加すると、90%を超える高い三量体回収率が得られた。ポリソルベート無しの製剤1について、三量体割合の用量依存的向上が観察された。これらの結果は、ポリソルベート20無しの製剤における化合物の強力な凍結保護効果を提示している。
【0080】
試験したレプリケートの数:A:PS4P preF n=20;TS5P2 preF n=20;AP1 preF n=10;FB12 preF n=5;PS4P/TS5P2 preF+I 1:3/1:9/1:50 n=5;PS4P preF+II 1:3 n=15;TS5P2/AP1 preF+II 1:3/1:50 n=10;FB12 preF+II 1:3 n=5;PS4P/AP1 preF+IV 1:3 n=10;TS5P2/FB12 +preF IV 1:3 n=5;AP1+preF IV 1:50 n=5;TS5P2/AP1 preF+DMSO 1:3 n=5;PS4P/TS5P2/AP1 preF+DMSO 1:50 n=5.B:PS4P:preF n=10;preF+III/V/VIII/XII/XIII 1:3/1:9 n=10;preF+III/V/VIII/XII/XIII 1:27 n=5;preF+IX/X/XI/XIV/XV/XVI n=5.C:n=5.D:PS4 preF n=15;TS5 preF n=10;AP1-P preF n=5;PS4/TS5P preF+II 1:1 n=5;PS4 preF+II 1:3 n=10;TS5P/AP1-1 preF+II 1:3 n=5;PS4/TS5P preF+II 1:9 n=5;PS4/TS5P preF+IV 1:1 n=5;PS4 preF+IV 1:3 n=10;TS5P/AP1-1 preF+IV 1:3 n=5;PS4/TS5P preF+V 1:3 n=5;PS4/TS5P preF+I 1:3 n=5;PS4/TS5P/AP1-1 preF+DMSO 1:3 n=5)。
【0081】
【表6】
【0082】
実施例6:異なる温度で異なる製剤緩衝液中において小分子阻害薬がRSV融合前Fに及ぼす安定化効果
配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質を異なる製剤緩衝液で透析し(AP1、製剤1、及び製剤5a(pH7.0)、各組成物を0.3mg/mlに希釈した。試料を化合物III有り及び無しで調製した(最終的な化合物濃度は5.2×10-6M(1:3の三量体:化合物比)、1.6×10-5(1:9の三量体:化合物比)。対照試料は4℃で貯蔵した。熱ストレスについては、試料を37及び47℃で6週間置いておいた。三量体含有量を分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析した。37℃では、三量体含有量は対照と比較して変化しなかったが(図5A)、47℃では、凝集が観察された(図5B)。この凝集は、化合物有りの試料と比較して化合物の無しの試料について高かった。これは、異なる製剤緩衝液について化合物が融合前タンパク質に及ぼす保護効果を示している。
【0083】
実施例7:限外ろ過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)時に小分子阻害薬がRSV融合前Fに及ぼす安定化効果
UF/DFは、サイズ排除に基づくロバストな分離処理であり、幅広い生物学的療法薬に適用が見出される。0.6mg/mlの濃度の配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質(50ml)をPS20無しの製剤2で限外ろ過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)した。UF/DFは、化合物有り及び無しで実施した。化合物IV(表1)は、preFタンパク質試料及びUF/DF緩衝液に1:3の三量体:化合物比で添加した。UF/DFにおける30kDaフィルタ(Cogent μscale TFFシステム(Merck Millipore、Burlington,MA))を使用し、350mlのダイアボリュームのUF/DF緩衝液を使用した。
【0084】
UF/DF後、納入業者Unchained Labs(Pleasanton,CA,米国)からの動的光散乱(DLS)UNcleによってUF/DFの2週間後に流体力学的径を測定した。UF/DF後、直径は、化合物無し及び有りの試料について、それぞれ209.71nm及び8.65nmであった。直径を出発材料(10.93nmの流体力学的径)と比較すると、化合物有りの試料の流体力学的径が出発材料と同等である一方、化合物無しの試料は直径の増加を示すことが示される。この直径の増加は、凝集し始めた結果である可能性が高い。
【0085】
実施例8:ワクチン作製及び製造の向上
安定化化合物を添加すると、RSV F三量体の発現及び収率もまた向上し得るかどうかを調べるため、可溶性コンセンサスA亜型RSV Fタンパク質(安定化突然変異無し)をコードするプラスミドのトランスフェクションを抗ウイルス性化合物有り及び無しで実施した。トランスフェクション後の三量体総含有量をSECによって分析し、安定化型preFをコードするプラスミドによるトランスフェクションと比較した。安定化型preF(配列番号1)及び不安定化型コンセンサスRSV A(配列番号2)の一過性トランスフェクションは、HEK293F細胞を使用して20mLスケールで実施した。トランスフェクションの6時間後、不安定化型コンセンサスRSV Aコンストラクトに化合物IIIを1:3の(三量体:化合物)比(0.28μMの化合物濃度)で添加した。3日間のタンパク質作製後、細胞を回収し、分析的SECで上清中のRSV Fの三量体含有量を評価した(図6)。不安定化型コンセンサスRSV AによるトランスフェクションについてはRSV Fタンパク質は検出されなかったが、しかしながら化合物III有りの同じコンストラクトのトランスフェクションについては、三量体の発現を検出することができた。このことから、RSV preFの安定性及び収率を増加させるため、作製及び製造過程において化合物の添加を適用し得ることが指摘される。
【0086】
実施例9:HIV Env ConB-SOSIPタンパク質
HIV-1 ConB-SOSIP(配列番号3)は、クレードBのHIV-1表面タンパク質gp140のエクトドメインに対応する。このタンパク質をHEK293F細胞の一過性トランスフェクションにより作製し、記載されるとおりレンチルレクチン及びSECによって精製した(Rutten et.al.,Cell Reports 2018)。回収当日、分析的SEC-MALSによって示されるとおり、タンパク質は三量体であった(図7A)。精製した融合前三量体HIV Envタンパク質は、更なる分析時まで-80℃で貯蔵した。
【0087】
実施例10:阻害薬有り及び無しでのHIV-1 ConB-SOSIP Envの熱安定性
納入業者Unchained Labs(Pleasanton、CA,米国)からのUNcleを使用したナノDSFで熱安定性を測定した。トリス緩衝液(20mMクエン酸塩、75mM NaCl、5%スクロース、0.03%Tween-80 pH6.0)中0.8mg/mlのHIV Env三量体を50倍モル過剰の侵入阻害薬化合物XVII無し又は有りでインキュベートした。両方の溶液とも、同程度の量のDMSOを含有し、それは1.95%v/vであった)。阻害薬により、Envの融解温度は約5℃上昇した(図7B)。
【0088】
実施例11:阻害薬有り及び無しでのHIV-1 ConB-SOSIP envの貯蔵安定性
HIV env三量体をクエン酸塩緩衝液(20mMクエン酸塩、75mM NaCl、5%スクロース、0.03%Tween-80 pH6.0)中0.8mg/mlにて4℃で1週間、阻害薬有り又は無しとしてインキュベートした。侵入阻害薬XVIIは、精製したEnv ConB SOSIPに50倍過剰で添加した。阻害薬をDMSOに溶解させたことに伴い、Envのみの対照試料は、阻害薬有りのEnvと同じ濃度のDMSO(1.95%v/v)を含有した。HIV Envの品質は、Envの閉じた天然の融合前コンホメーションに結合する広域中和抗体(bNAb)により、非天然のフォールディングのEnvを認識する非広域中和抗体(非bNAb)と比べて評価することができる(Rutten et.al.,Cell Reports 18)。HIV Envの品質については、増幅発光近接ホモジニアスアッセイ(AlphaLISA)で測定した抗原性によって評価したとき、1週間貯蔵する間に組成物中に侵入阻害薬を含有したEnv試料が優れていた(図7C)。阻害薬を含有した組成物については、bNAbへの優先的な結合がより多く、447-52Dを除き、試験した5つ全ての非bNAbへの結合が低下した。これは、阻害薬有りの試料がこれらの条件下で安定したまま保たれ、阻害薬無しのタンパク質が崩壊及び品質低下を示したことを示している。
【0089】
実施例12:B型インフルエンザHAタンパク質
哺乳類細胞におけるタンパク質発現
B型インフルエンザHAエクトドメインをコードするプラスミドでExpi-CHO細胞におけるトランスフェクションを実施した。ポリペプチドをコードするDNA断片を合成し(Genscript;Piscataway,NJ)、pcDNA2004発現ベクター(転写促進型CMVプロモーターを有する改良されたpcDNA3プラスミド)にクローニングした。
【0090】
ExpiCHO発現培地で培養したExpiCHO浮遊細胞(350mLスケール)において、ExpiFectamineトランスフェクション試薬(Gibco、ThermoFisher Scientific)を製造者のプロトコルに従い使用してそれぞれの産業グレードのDNAを一過性にトランスフェクトすることにより、C末端フォルドン三量化ドメインに融合したインフルエンザHAエクトドメインを作製した。トランスフェクションの1日後に、製造者のプロトコルに従い細胞培養物にExpiFectamine CHOエンハンサー及びExpiCHOフィード(Gibco、ThermoFisher Scientific)を添加した。ExpiCHOトランスフェクト細胞浮遊液を32℃、5%CO2でインキュベートし、7~11日目に、分泌されたポリペプチドを含有する培養上清を回収した。培養上清を遠心によって清澄化し、続いて0.2μmボトルトップフィルタ(Corning)でろ過した。
【0091】
回収した培養上清から、hisタグ付加ポリペプチド及びフォルドン三量化ドメインを含有するそれぞれの野生型株を、AEKTA Avant 25システム(GE Healthcare Life Sciences)を使用して二段階プロトコルに従い精製した。第一に、プレパックcOmplete Hisタグ精製カラム(Roche)を使用して固定化金属アフィニティークロマトグラフィーを実施し、1mMイミダゾールで洗浄し、300mMイミダゾールで溶出させた。第二に、HiLoad Superdex 200pg 26/600カラム(GE Healthcare Life Sciences)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。三量体ピーク画分をプールし、長期貯蔵のため-80℃で凍結した。精製したHA B三量体UFV170091(山形系統、C末端でフォルドンドメインに融合したB/マサチューセッツ(Massachussetts)/2/12の野生型 HAのエクトドメイン;配列番号4)及びUFV180300(ビクトリア系統、C末端でフォルドン_SortA_v2(His)に融合したB/コロラド/06/2017の野生型HAのエクトドメイン、配列番号5)を更なる分析時まで-80℃で貯蔵した。
【0092】
阻害薬有り及び無し(1:6のHA三量体:化合物比)での両方のタンパク質の融解温度(Tm50)をDSFを用いて測定した(図8A)。阻害薬を添加した結果、UFV170091及びUFV180300についてTmがそれぞれ0.5~1℃上昇したため、阻害薬は安定化効果を有した。
【0093】
次に、インフルエンザHAエクトドメイン(B/ブリスベン/60/08のHAをベースとする、UFV180933、配列番号6)を阻害薬有り又は無し(1:90のHA三量体:化合物比)でHEK293F細胞において一過性に発現させた。トランスフェクションから4日後に上清を回収し、単量体及び三量体の量を分析的SEC分析を用いて試験した(図7B)。阻害薬無し及び希釈剤DMSO有り又は無しの試料は、高い含有量の単量体を示した。融合阻害薬有りの試料は、単量体をほとんど示さず、ほぼ三量体であった。RSV及びHIVに関してと同様に、インフルエンザ融合阻害薬は、天然の融合前三量体に強力な安定化効果を及ぼした。従って、B型インフルエンザHA天然三量体を含むワクチン組成物もまた、貯蔵時に非治療用量の融合阻害薬を添加することによって安定化させることができる。
【0094】
実施例13.A型インフルエンザHA
H1N1 A/ブリスベン/59/2007のエクトドメイン(配列番号7)を含む精製したタンパク質に、化合物XV有り及び無しで、摂氏40度にて6週間にわたり熱ストレスを与えた。分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、三量体及び単量体含有量を決定した(図8B)。化合物XVは、1:6のHA三量体:化合物比で使用した。化合物XVを添加すると、三量体含有量が保たれたのに対し、化合物XV無し、タンパク質のみ及びタンパク質+DMSOの試料は、より多くの単量体を示し、三量体含有量が減少した。従って、A型インフルエンザHA天然三量体を含むワクチン組成物もまた、貯蔵時に非治療用量の融合阻害薬を添加することによって安定化させることができる。
【0095】
実施例14:異なる温度で異なる製剤緩衝液中において小分子阻害薬がRSV融合前Fに及ぼす安定化効果
配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質を異なる製剤緩衝液で透析し(AP1、製剤1、FB12、及び製剤5a(pH7.0)、各組成物を0.3mg/mlに希釈した。試料を安定化化合物III有り及び無しで調製した(最終的な化合物濃度は5.2×10-6M(1:3の三量体:化合物比)又は1.6×10-5M(1:9の三量体:化合物比)。対照試料は4℃で貯蔵した。試料は37℃で9又は16又は26週間にわたり置いておいた。三量体含有量を分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析し、4℃対照に対する相対で計算した。
【0096】
結果及び結論
37℃で最長26週間の期間にわたってインキュベートする間、安定化化合物IIIを添加すると、異なる緩衝液における液相中でのタンパク質凝集体の形成が防止される(図10)。比が高くなると(1:9)、時間の経過に伴う凝集の防止が最良となった。製剤5a及びFB12は、RSV preFタンパク質を37℃で液相中に安定させておくのに最も良好な緩衝液であるように見えた。安定化化合物IIIを添加すると、これらの緩衝液中で三量体含有量が常に向上した。製剤1及びAP1緩衝液は、時間が経つにつれ、最も低いタンパク質含有量を示した。安定化化合物IIIを添加すると、製剤1試料では三量体含有量が向上した。AP1試料では、安定化化合物IIIが存在しても、凝集の防止は示されなかった。
【0097】
実施例15:過剰の安定化化合物IIIを透析で取り除いた後の三量体安定性の向上
配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質を異なる製剤緩衝液で透析した(AP1、製剤1、FB12、及び製剤5a(pH7.0)。透析は、Slide-A-Lyzer(商標)G2透析カセット、20K MWCO、70mLを使用して、暗所下4℃で実施した。50mlのタンパク質を10Lの緩衝液で24時間透析した。タンパク質を製剤緩衝液で0.3mg/mlに希釈し、安定化化合物IIIを1:3及び1:30の三量体:化合物比で添加し、4℃で24時間プレインキュベートした。0.75mlの各製剤をゴム栓付きのガラス注射バイアルに充填し、アルミニウムキャップで密封した。バイアルを制御された条件下にて24時間で-70℃に凍結した。続いて試料をRTに解凍し、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析することにより、4℃に置いておいた試料と比較したRSV F三量体の損失を測定した。加えて、安定化化合物III有り及び無しの透析後の材料をDSFで評価して、融解温度を測定した。実験の詳細については、実施例2を参照のこと。
【0098】
結果及び結論
緩慢凍結後、RSV preFタンパク質は凝集する傾向がある。安定化化合物IIIを添加すると、透析前及び透析後試料において緩慢凍結後の凝集が防止された(図11A)。透析及び緩慢凍結後、安定化化合物IIIの存在により、タンパク質凝集が妨げられた(90%を超える三量体(timer))。凝集の防止は、添加する安定化化合物IIIの比に依存せず、1:3比と1:30比との間で三量体割合に有意差はなかった。安定化化合物IIIを添加した試料の全てにおいてTm50が高くなった(図11B)。添加する安定化化合物IIIの比が高くなると(1:30)、1:3比よりも高いTm50が生じた。安定化化合物III有りの透析前試料は、時間とともにTm50の上昇傾向を示した。安定化化合物III有りの試料では、透析後、Tm50が長時間にわたって比較的一定のまま保たれた。
【0099】
実施例16:過剰(access)の安定化化合物IIIをUF/DFで取り除いた後の三量体安定性の向上
Cogent μScale TFFシステム(Merck)を使用して、限外ろ過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)により安定化化合物III有り及び無しの試料の緩衝液交換を実施した。配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質を製剤緩衝液6でUF/DFした。安定化化合物IIIは、試料と共にプレインキュベートし、1つの例ではまた、UF/DFに使用した緩衝液に添加した(図12を参照のこと、1:3及び緩衝液中と表示される)。UF/DFのセッティングを表4にまとめる。ランは、Pelicon XL Biomax 50cm2フィルタカセットを使用して実施した。ラン毎に、システムをミリQ水によって30~50mL/分のクロスフローでフラッシュし、次にシステムをNaOH 0.1Mで(少なくとも5分間再循環させる)清浄化した。この後、システムを再びミリQ水でpH7に達するまでフラッシュし、その後、システムを所望の緩衝液で5分間フラッシュした。続いて、システムにタンパク質(50mL)を添加し、7ダイアボリューム(350mL)の所望の緩衝液に対するダイアフィルトレーションにかけた。
【0100】
【表7】
【0101】
各製剤(UF/DF前及びUF/DF後試料)を0.3mg/mlに希釈した。0.75mlの各製剤をゴム栓付きのガラス注射バイアルに充填し、アルミニウムキャップで密封した。バイアルを制御された条件下にて24時間で-70℃に凍結した。続いて試料をRTに解凍し、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析することにより、4℃に置いておいた試料と比較したRSV F三量体の損失を測定した。加えて、安定化化合物III有り及び無しの異なる製剤をDSFで評価して、融解温度を測定した。実験の詳細については、実施例2を参照のこと。
【0102】
結果及び結論
現在の条件下におけるUF/DF手順の結果、凝集は生じなかった。UF/DF及び緩慢凍結後、安定化化合物IIIを含有する試料は全て、安定化化合物IIIの濃度にかかわらず、凝集が防止された(図12A)。UF/DF前緩衝液中での緩慢凍結では、製剤6緩衝液中での緩慢凍結よりも多くの凝集体が生じた。FIを含有する試料(緩衝液交換無し又は交換緩衝液中でFI有り)は、時間とともにTm50の上昇を生じる傾向を示した(図12B)。タンパク質中及びダイアボリューム中に安定化化合物IIIを含んだ試料は、最も高いTm50を生じた。
【0103】
実施例17:高い比の安定化化合物III及びpreFに結合した全安定化化合物IIIの利点
配列番号10のRSV融合前F(preF)タンパク質を異なる製剤緩衝液(PS20無しの製剤1、PS20無しの製剤2及びAP1)で透析するか(方法の詳細については実施例15を参照のこと)、又はUF/DFした(方法の詳細については実施例16を参照のこと)。安定化化合物IIIを1:50の三量体:化合物比で添加した後UF/DFし、4℃で24時間インキュベートした。UF/DF処理の間に、過剰な未結合の安定化化合物IIIは取り除かれる。
【0104】
各製剤(透析前及び透析後試料)を0.3mg/mlに希釈した。0.75mlの各製剤をゴム栓付きのガラス注射バイアルに充填し、アルミニウムキャップで密封した。バイアルを24時間で-70℃に緩慢に凍結した。続いて試料をRTに解凍し、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析することにより、4℃に置いておいた試料と比較したRSV F三量体の損失を測定した。加えて、化合物III有り及び無しの異なる製剤をDSFで評価して、融解温度を測定した。実験の詳細については、実施例2を参照のこと。
【0105】
加えて、UF/DF後に試料中に存在する安定化化合物IIIの濃度をLC-MS/MSにより決定した。
【0106】
結果及び結論
緩衝液にかかわらず、安定化化合物IIIを添加すると、緩衝液交換及び続く緩慢凍結後の凝集が防止された(図13A)。最適でないPS20無しの製剤1であっても、安定化化合物IIIによって凝集の防止がもたらされた。AP1緩衝液は最適でなく、安定化化合物IIIによってもたらされた凝集の防止は不十分であった。
【0107】
安定化化合物IIIを添加すると、緩衝液にかかわらず、Tm50が上昇した(図13B)。UF/DF後も、安定化化合物IIIはタンパク質に結合したままであった。高過剰の安定化化合物III(1:50)を添加することにより、三量体当たり約2.6分子の安定化化合物IIIの結合(及び最も可能性が高いのは捕捉)が可能になった(図13C)。データは、1:3を上回る比で添加したときにTm50が高くなる/向上することを描き出すDSF分析と相関している(図11B及び図12B)。
【0108】
実施例18:マウスにおける免疫原性
Balb/cマウス(6~8週齢、雌)に対し、漸増用量のpreFタンパク質(配列番号10)(1.5、5又は15μg)、又はpreF三量体をベースとする3倍、10倍又は30倍モル過剰の安定化化合物IIIと組み合わせたpreFタンパク質(配列番号10)(1.5、5又は15μg)による28日間隔の2回の筋肉内(i.m.)免疫を与えた。初回投与から42日後、血清試料を採取し、A549細胞に対するRSV-CL57株の感染の阻害を測定する自動ホタルルシフェラーゼアッセイ(FFL-VNA)を用いてウイルス中和力価について分析した。
【0109】
融合阻害薬無しのpreFをベンチマークとした4倍マージンでの非劣性試験(多重比較のためのボンフェローニ補正を用いたTobitモデル)について、安定化化合物III有りで製剤化したpreF群のVNA力価を全用量間で比較した。
【0110】
結果及び結論
42日目に測定したFFL-VNA反応に基づけば、安定化化合物IIIと組み合わせたPreFによって誘導されるVNA力価は、添加した安定化化合物IIIの量にかかわらず、安定化化合物IIIの添加無しのpreFによって誘導される力価と比較して低くなかった(図14)。4倍マージンでの非劣性分析に基づけば、試験した比での安定化化合物IIIの添加によってpreFタンパク質ワクチン候補の免疫原性が負の影響を受けることはなかった(図15)。
【0111】
実施例19:ヒト気道上皮細胞におけるRSV中和
気液界面で成長させた、ヒト上気道を模倣する分化型初代ヒト気道上皮細胞(hAEC)に対し、実施例18からのプール血清を使用してVNAを実施した。
【0112】
Epithelix(スイス)にてhAECトランズウェル(transwell)インサートが調製される。手短に言えば、14例の健常ヒトドナーのプールからの初代ヒト細胞を気液界面で3週間超にわたって培養することにより、基底細胞、杯細胞及び線毛細胞からなる、粘液層に覆われた複合組織に分化させる。このhAECインサートは、RSVの天然のインビボ標的である線毛細胞に特に富んでいる。中和アッセイは、RSV-A2レポーター(GFP)ウイルスを使用して実施した。ウイルス感染レベルは、感染4日後にCytation 1自動顕微鏡(BioTek、米国)を使用してGFPシグナルを可視化することにより決定した。感染は、グレースケールで描出する(即ち、感染細胞が薄い灰色)。
【0113】
結果及び結論
安定化化合物III有りのpreF(1:30)の血清プールは、preF+DMSOと比較したとき、3つ全てのpreF投薬量で1/50希釈の分化型ヒト気道上皮細胞(hAEC)において一層高い中和力価を示した(図16)。
【0114】
配列
配列番号1:フォルドンドメイン(下線)に融合した安定化型RSV Fタンパク質(PreF)(p27ペプチドは下線及び太字)
【化1】
【0115】
配列番号10:フォルドンドメイン(下線)に融合した可溶性のプロセシングされた安定化型RSV Fタンパク質(PreF)
【化2】
【0116】
配列番号2:フォルドンドメイン(下線)に融合したコンセンサスRSV F A
【化3】
【0117】
配列番号3 ConB_SOSIP
【化4】
【0118】
配列番号4:UFV170091、フォルドンドメイン(下線)に融合した、及びHisタグを有するHAエクトドメイン(B/マサチューセッツ/2/12をベースとする)
【化5】
【0119】
配列番号5:UFV180300、フォルドンドメイン(下線)に融合した、Hisタグを有するHAエクトドメイン(B/コロラド/06/2017をベースとする)
【化6】
【0120】
配列番号6:UFV180933、Cタグを有するB/ブリスベン/60/08のHAエクトドメイン
【化7】
【0121】
配列番号7:Hisタグを有する、H1N1 A/ブリスベン/59/2007のエクトドメイン
【化8】
【0122】
CR9506重鎖(配列番号8)
【化9】
【0123】
CR9506軽鎖(配列番号9)
【化10】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
【配列表】
2023519740000001.app
【国際調査報告】