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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-12
(54)【発明の名称】膣ゲル製剤及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20230502BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230502BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230502BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230502BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230502BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230502BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K9/06
A61K48/00
A61K47/04
A61K47/30
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/44
A61K47/38
A61K47/42
A61K47/10
A61K47/02
A61K47/12
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/34
C12N15/09 110
C12N15/88 Z ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560145
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 CN2020128051
(87)【国際公開番号】W WO2021258614
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】202010594395.8
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522069286
【氏名又は名称】珠海舒桐医療科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHUHAI SHU TONG MEDICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 404, Building 2, No. 36, Doukou Road, Guangdong-Macao Cooperation Traditional Chinese Medicine Science and Technology Industrial Park, Hengqin New District, Zhuhai,Guangdong, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝紅嫻
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA31
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB30
4C076DD25
4C076DD26
4C076DD28
4C076DD41
4C076DD43
4C076EE06H
4C076EE16H
4C076EE23H
4C076EE24
4C076EE26
4C076EE30H
4C076EE31H
4C076EE38H
4C076EE42H
4C076EE49H
4C076EE54H
4C076FF21
4C076FF35
4C084AA13
4C084MA28
4C084MA41
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZC01
4C084ZC80
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA41
4C086MA56
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZC01
4C086ZC80
(57)【要約】
本発明は、膣ゲル製剤及びその調製方法を提供する。当該膣ゲル製剤は、担体及び治療用遺伝子を含む。前記膣ゲル製剤は、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを更に含み、前記担体は、カチオン性ポリマーを含む。本発明の膣ゲル製剤は、ナノ粒子の構造を十分に安定化することができ、高いトランスフェクション効率を有し、治療効果が良く、安全性が高く、膣局所投与することができる。本発明の膣ゲル製剤は、調製プロセスが簡単であり、試薬処方が柔軟である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体及び治療用遺伝子を含む膣ゲル製剤であって、
親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを更に含み、前記担体は、カチオン性ポリマーを含むことを特徴とする膣ゲル製剤。
【請求項2】
前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトは、キトサン、キトオリゴ糖、キトサン誘導体、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ゼラチン、シェラック、トラガカンス、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンから選択された1つ又は複数の改質剤を用いてモンモリロナイトに対して改質することにより得られることを特徴とする請求項1に記載の膣ゲル製剤。
【請求項3】
前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトの中の前記親水性ポリマー材料と前記モンモリロナイトの質量比は、0.1~1:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の膣ゲル製剤。
【請求項4】
前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトは、ナトリウム塩を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の膣ゲル製剤。
【請求項5】
前記ナトリウム塩は、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム及び酢酸ナトリウムのうちの1つ又は複数であることを特徴とする請求項4に記載の膣ゲル製剤。
【請求項6】
前記カチオン性ポリマーと前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトの質量比は、1:1~1000であることを特徴とする請求項1に記載の膣ゲル製剤。
【請求項7】
前記膣ゲル製剤の調製方法は、前記カチオン性ポリマー及び前記治療用遺伝子を用いてナノ粒子を調製するステップと、前記ナノ粒子、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトと水を混合するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の膣ゲル製剤。
【請求項8】
前記担体と治療用遺伝子の質量比は、10~150:1であることを特徴とする請求項1又は7に記載の膣ゲル製剤。
【請求項9】
前記ナノ粒子の表面は、帯電していることを特徴とする請求項7に記載の膣ゲル製剤。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーは、ポリ-β-アミノエステル、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアミド-アミンのうちの1つ又は複数であることを特徴とする請求項1又は7に記載の膣ゲル製剤。
【請求項11】
前記治療用遺伝子は、プラスミド、DNA及びRNAのうちの1つ又は複数であることを特徴とする請求項1又は7に記載の膣ゲル製剤。
【請求項12】
PHは、4.0~8.0であることを特徴とする請求項1に記載の膣ゲル製剤。
【請求項13】
ナノ粒子が含まれることを特徴とする請求項1に記載の膣ゲル製剤。
【請求項14】
基質及びナノ粒子を含み、前記基質は、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを含み、前記ナノ粒子は、カチオン性ポリマー及び治療用遺伝子を含み、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトは、キトサン、キトオリゴ糖、キトサン誘導体、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ゼラチン、シェラック、トラガカンス、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンから選択された1つ又は複数の改質剤を用いてモンモリロナイトに対して改質することにより得られ、前記カチオン性ポリマーは、ポリ-β-アミノエステルであり、その一般構造式は、
【化1】
の通りであり、Mは、5~200の間の数であり、前記治療用遺伝子は、SpCas9-HF1及び/又はeSpCas9とsgRNA-1に転写することができるDNA及び/又はsgRNA-3に転写することができるDNAにより形成されるプラスミドであり、sgRNA-1に転写することができるDNAの配列は、TTCGAATGGAGAGATCCAGGであり、SGRNA-3に転写することができるDNAの配列は、GGTGACCCTCCTCCAGTACGであることを特徴とする膣ゲル製剤。
【請求項15】
酸性緩衝液において前記担体と前記治療用遺伝子がナノ粒子を形成するようにさせることにより、ナノ粒子を含む混合物を得るステップと、
前記のナノ粒子を含む混合物は、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトと直接に混合することにより、前記膣ゲル製剤を調製する、又は、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを水及び/又は酸性緩衝液に分散させてから、前記のナノ粒子を含む混合物と混合するステップとを備えることを特徴とする請求項1~14の何れか1つに記載の膣ゲル製剤の調製方法。
【請求項16】
前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを調製するステップを更に備え、当該ステップにおいては、モンモリロナイト及び親水性ポリマー材料を水に添加し、ナトリウム塩を選択的に添加し、混合及び撹拌し、その後、PHを4~6に調整し、攪拌して静置した後、コロイド状液体の上層を乾燥及び粉砕することにより、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを得ることを特徴とする請求項15に記載の膣ゲル製剤の調製方法。
【請求項17】
前記混合及び撹拌の温度は、50~90℃であり、時間は、1~10時間であり、PHが調整された後、50~90℃の一定の温度で0.5~2時間撹拌し、その後、冷却し、水を加えて均一に撹拌し、静置することを特徴とする請求項16に記載の膣ゲル製剤の調製方法。
【請求項18】
請求項1~14の何れか1つに記載の膣ゲル製剤を膣内に適用することを特徴とする治療用遺伝子の膣デリバリー方法。
【請求項19】
請求項1~14の何れか1つに記載の膣ゲル製剤を膣局所投与する投与方法を用いることを特徴とする投与方法。
【請求項20】
請求項1~14の何れか1つに記載の膣ゲル製剤が膣及び/又は子宮頸部疾患の遺伝子治療に用いられることを特徴とする応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、遺伝子治療分野に関し、特に、膣ゲル製剤及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム編集は、遺伝性疾患の治療において既に有望な成功が現れている。しかしながら、遺伝子治療の成功の鍵の1つは、遺伝子工学のデリバリービヒクルである。ポリマーナノ粒子(NPs)は、ナノメートルサイズ、低毒性、長いサイクルタイム及び優れた可塑性により、遺伝子治療の効率的な送達が既に実現できている。
【0003】
特定の治療目標及び薬物動態学に基づき、遺伝子治療は、系統的又は局所的に行うことができる。膣は、DNA、RNA及びタンパク質を含む、治療用分子の送達を容易にする幾つかの特徴がある。膣経路は、十分な血液供給、高い接触面積及び幾つかの物質に対する適切な透過性を有し、全身及び局所投与ができる。また、経口投与時に遭遇する肝臓の初回通過効果及び胃腸管の液体を回避することができる。また、パピローマウイルス(HPV)感染により引き起こされる病変や子宮頸がん等の一部の局所疾患は、何れも膣局所投与により治療することができる。全身投与に比べ、膣局所投与は、生殖路感染症の治療において独特のメリットを持っている。例えば、ゲノム編集ツールを局所使用してHPV感染症を治療ことは、治療効果を高め、オフターゲットによる副作用を最小限に抑えることができる。しかしながら、当該テクノロジーを臨床医学に転換する前に、幾つかの重要なハードルを克服する必要がある。膣の遺伝子治療薬を開発する主な困難の1つは、外来の遺伝子物質が局所的な微生物により分解されやすく、膣及び子宮頸部の粘液を通過する際に効率が低いことである故に、分解されないように遺伝子を保護し、その粘液浸透能力を高めることは、膣遺伝子デリバリー体系を開発する重点問題である。また、開放する生殖路からの流出を回避するために、製剤は、生殖路における保持及び長時間放出の目的を達成するために、坐剤、ゲル、錠剤、膣リング等の形態に調製する必要がある。しかし、これらの製剤においては、遺伝子デリバリーナノ粒子の構造を安定に保てるかどうかは、1つの大きなチャレンジである。膣と子宮頸の粘液の組成は、複雑である。ナノ粒子は、製剤において構造安定(例えば、カチオン性ポリマー及び遺伝子に分解する)を維持することができない場合、放出後、粘液の中のタンパク質/酵素、細菌分泌物、無機塩等の影響を受けやすいことにより、高いトランスフェクション効率を有する遺伝子―カチオン性ポリマーナノ粒子構造に自己組織化することができないため、遺伝子のトランスフェクション及びその後の治療効果に影響を与える。よって、ナノ粒子構造を安定に保てる製剤を開発することは、膣遺伝子デリバリーシステムの重要な一環である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、膣投与に適しており、外来遺伝子を効果的に送達することができる膣ゲル製剤及びその調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明に用いられる技術案は、担体及び治療用遺伝子を含む膣ゲル製剤を提供する。前記膣ゲル製剤は、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを更に含み、前記担体は、カチオン性ポリマーを含む。
【0006】
好ましくは、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトは、キトサン、キトオリゴ糖、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ゼラチン、シェラック、トラガカンス、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンから選択された1つ又は複数の改質剤を用いてモンモリロナイトに対して改質することにより得られる。
【0007】
更に、好ましくは、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトの中の前記親水性ポリマー材料と前記モンモリロナイトの質量比は、0.1~1:1であり、より好ましくは、0.1~5:1である。
【0008】
本発明に用いられる、改質されていないモンモリロナイト原料は、天然モンモリロナイトであることが好ましく、Al16.54%、MgO.65%、SiO50.95%を含み、その構造式が(Al、Mg)[SiO10](OH)・nHOであり、単斜晶系である。
【0009】
好ましくは、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトは、ナトリウム塩を更に含む。
【0010】
より好ましくは、前記ナトリウム塩は、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム及び酢酸ナトリウムのうちの1つ又は複数である。
【0011】
より好ましくは、前記ナトリウム塩と前記モンモリロナイトの質量比は、0.001~0.05:1であり、好ましくは、0.005~0.05:1である。
【0012】
好ましくは、前記カチオン性ポリマーと前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトの質量比は、1:1~1000であり、より好ましくは、1:1~100であり、更により好ましくは、1:1~40である。
【0013】
好ましくは、前記膣ゲル製剤の調製方法は、前記担体及び前記治療用遺伝子を用いてナノ粒子を調製するステップと、前記ナノ粒子、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトと水を混合するステップとを備える。
【0014】
また、好ましくは、前記ナノ粒子の中の担体と治療用遺伝子の質量比は、10~150:1であり、より好ましくは、10~100:1であり、更により好ましくは、10~80:1である。
【0015】
また、好ましくは、前記ナノ粒子の粒子サイズの範囲は、10~1000nmであり、より好ましくは、200~400nmである。
【0016】
また、好ましくは、前記ナノ粒子の表面は、帯電している。
【0017】
好ましくは、前記カチオン性ポリマーは、ポリ-β-アミノエステル(PBAE)、ポリリジン(PLL)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアミド-アミン(PAMAM)のうちの1つ又は複数である。
【0018】
また、好ましくは、前記ポリ-β-アミノエステルは、1,4-ブタンジオールジアクリレートモノマー、5-アミノ-1-ペンタノールモノマー及び1-(3-アミノプロピル)-4-メチルピペラジンモノマーから構成されている。
【0019】
また、好ましくは、前記ポリ-β-アミノエステルの一般構造式は、次の通りである。
【化2】
なお、mは、5~200の間の数であり、好ましくは、15~30の間の数である。
【0020】
また、好ましくは、前記ポリ-β-アミノエステルの数平均分子量は、1500~60000であり、より好ましくは、5000~8000である。
【0021】
また、好ましくは、前記ポリ-β-アミノエステルの調製方法は、まず、1,4-ブタンジオールジアクリレートと5-アミノ-1-ペンタノールを80~100℃で30~40時間反応させ、その後、後処理により中間体が得られ、次に、中間体を1-(3-アミノプロピル)-4-メチルピペラジンと10~40℃で20~30時間反応させ、後処理により前記ポリ-β-アミノエステルが得られる。
【0022】
より好ましくは、前記1,4-ブタンジオールジアクリレートと前記5-アミノ-1-ペンタノールの原料投入のモル比は、1:0.8~1.2であり、前記中間体と前記1-(3-アミノプロピル)-4-メチルピペラジンの原料投入のモル比は、1:4~6である。
【0023】
好ましくは、前記治療用遺伝子は、プラスミド、DNA及びRNAのうちの1つ又は複数である。
【0024】
また、好ましくは、前記治療用遺伝子は、ターゲットPERV-Pol遺伝子の、sgRNAに転写されることが可能なDNAとSpCas9から構成されるプラスミドである。
【0025】
より好ましくは、前記のsgRNAに転写されることができるDNAの配列は、SEQ ID NO.1及び/又はSEQ ID NO.2に示されている。
【0026】
より好ましくは、前記SpCas9は、SpCas9-HF1及び/又はeSpCas9である。
【0027】
1つの具体的な好ましい実施形態によれば、前記治療用遺伝子は、SpCas9-sgRNA-1及び/又はSpCas9-sgRNA-3であり、なお、前記SpCas9-sgRNA-1の配列は、SEQ ID NO.3に示され、前記SpCas9-sgRNA-1の配列は、SEQ ID NO.4に示されている。
【0028】
好ましくは、前記膣ゲル製剤のpHは、4~8であり、より好ましくは、4.5~5.5である。
【0029】
本発明においては、前記膣ゲル製剤は、ナノ粒子を含む。
【0030】
本発明における膣ゲル製剤は、酸性緩衝液を更に含み、前記酸性緩衝液は、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液及びリン酸緩衝液のうちの1つ又は複数である。
【0031】
より好ましくは、前記酸性緩衝液のpHは、4~6である。
【0032】
本発明においては、前記酸性緩衝液の濃度及び使用量並びに前記水の使用量は、ゲル製剤の必要な粘度に基づいて調整することができる。
【0033】
本発明の第二の側面は、基質及びナノ粒子を含む膣ゲル製剤を提供する。前記基質は、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを含み、前記ナノ粒子は、カチオン性ポリマー及び治療用遺伝子を含む。
【0034】
当該技術案における、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイト、カチオン性ポリマー及び治療用遺伝子は、本発明の第一の側面で提供される膣ゲル製剤の原料と同じであり、ここでは、繰り返して説明しない。
【0035】
1つの具体的な好ましい実施形態によれば、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトは、キトサン、キトオリゴ糖、キトサン誘導体、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ゼラチン、シェラック、トラガカンス、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンから選択された1つ又は複数の改質剤を用いてモンモリロナイトに対して改質することにより得られる。
【0036】
前記カチオン性ポリマーは、ポリ-β-アミノエステルであり、その一般構造式は、次の通りである。
なお、mは、5~200の間の数であり、前記治療用遺伝子は、SpCas9-HF1及び/又はeSpCas9とsgRNA-1に転写することができるDNA及び/又はsgRNA-3に転写することができるDNAにより形成されるプラスミドであり、sgRNA-1に転写することができるDNAの配列は、TTCGAATGGAGAGATCCAGGであり、sgRNA-3に転写することができるDNAの配列は、GGTGACCCTCCTCCAGTACGである。
【0037】
本発明の第三の側面は、前記膣ゲル製剤の調製方法を提供する。当該調製方法は、酸性緩衝液において前記担体と前記治療用遺伝子がナノ粒子を形成するようにさせることにより、ナノ粒子を含む混合物を得るステップと、前記のナノ粒子を含む混合物は、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトと直接に混合することにより、前記膣ゲル製剤を調製する、又は、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを水及び/又は酸性緩衝液に分散させてから、前記のナノ粒子を含む混合物と混合するステップとを備える。
【0038】
好ましくは、前記調製方法は、親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを調製するステップを更に備える。当該ステップにおいては、モンモリロナイト及び親水性ポリマー材料を水に添加し、ナトリウム塩を選択的に添加し、混合及び撹拌し、その後、pHを4~6に調整し、攪拌して静置した後、コロイド状液体の上層を乾燥及び粉砕することにより、前記の親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを得る。
【0039】
また、好ましくは、前記混合及び撹拌の温度は、50~90℃であり、時間は、1~10時間である。
【0040】
また、好ましくは、pHが調整された後、50~90℃の一定の温度で0.5~2時間撹拌し、その後、冷却し、水を加えて均一に撹拌し、静置する。
【0041】
また、好ましくは、酸を用いて前記pHを調整し、前記酸は、リン酸、クエン酸及び酢酸のうちの1つ又は複数である。
【0042】
1つの具体的な好ましい実施形態によれば、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトの調製方法においては、前記モンモリロナイト及び前記ナトリウム塩を水に加え、均一に混合した後、前記親水性ポリマー材料を加え、撹拌を続け、密封撹拌しながら、50~90℃まで温度を上昇させ、1~10時間保持し、酸でpHを4~6に調整し、一定の温度で0.5~2時間撹拌し、室温まで冷却し、水を加えて均一に撹拌し、30~60分間静置した後、コロイド状液体の上層を取って乾燥及び粉砕することにより、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを得る。
【0043】
好ましくは、前記ステップ(3)の具体的な方法においては、前記親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトを水と混合し、その後、酸性緩衝液を加え、前記ナノ粒子を加え、均一に攪拌すれば良い。
【0044】
本発明の第四の側面は、治療用遺伝子の膣デリバリー方法を提供する。当該方法においては、まず、治療用遺伝子及び担体をナノ粒子に調製し、その後、前記ナノ粒子を親水性ポリマー材料改質モンモリロナイトと混合してゲル製剤を調製し、前記ゲル製剤を膣内に投与すれば良い。
【0045】
本発明の第五の側面は、投与方法を提供する。当該投与方法は、前記膣ゲル製剤を膣局所投与する。
【0046】
本発明の第六の側面は、膣/子宮頸部疾患の遺伝子治療における前記膣ゲル製剤の応用を提供する。
【0047】
具体的には、前記疾患は、HPV感染に関連する子宮頸部病変、子宮頸がん又は単純ヘルペスウイルス(HSV)感染等を含む。
【0048】
本発明の膣ゲル製剤は、約18~25℃で保存する必要があるだけであり、当該製剤は、自分で使用することができ、患者及び医者にとって便利である。
【発明の効果】
【0049】
前記技術案の適用により、本発明は、従来技術に比べて以下のメリットを有する。即ち、
本発明の膣ゲル製剤は、ナノ粒子の構造を十分に安定化することができ、高いトランスフェクション効率を有し、治療効果が良く、安全性が高く、膣局所投与することができる。本発明の膣ゲル製剤は、調製プロセスが簡単であり、試薬処方が柔軟である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、PBAEポリマー及びPBAE-プラスミドポリマーNPsの特性評価結果である。
図2図2は、各基質又はゲルの走査型電子顕微鏡画像である。
図3図3は、NPs-mMMTゲルの中のNPsの放出状況の結果図である。
図4図4は、図4は、マウスの生体画像化図である。
図5図5は、異なるカチオン性ポリマーで調製されたゲル製剤のトランスフェクション効率の結果の比較である。
図6図6は、mMMTとHTTで調製されたゲル調製物のトランスフェクション効率の結果の比較である。
図7図7は、膣塗抹標本におけるGFP+細胞の陽性の割合を示している。
図8図8は、第四の実施形態の実験結果である。
図9図9は、第五の実施形態の実験結果である。
図10図10は、炎症性サイトカインであるIFN-γとTNF-αの免疫化学検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図面に示される実施形態を参照しながら、本発明を更に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。実施形態において用いられている実施条件は、具体的な用途の異なる要求に基づいて更に調整することができ、記載されていない実施条件は、当業界の通常の条件である。
【0052】
以下の実施形態に用いられる主な原材料は、次の通りである。
【0053】
1,4-ブタンジオールジアクリレート(BDD)及び5-アミノ-1-ペンタノール(AP)は、TCI(中国上海)から購入した。
【0054】
1-(3-アミノプロピル)-4-メチルピペラジン(AMP)は、Alfa Aesar(L04876、米国)から購入した。
【0055】
ポリエチレンイミン25kD(PEI 25kD)(Cat、28968)は、Polyscience(400Valley Road、Warrington)から購入した。
【0056】
ポリリジンは、アラジン試薬から購入した。
【0057】
PAMAMは、Weihai Chen Yuan、山東から購入した。
【0058】
pMAX-GFP(CAS:8603168)は、Bio Vector NTCC(中国北京)から購入した。
【0059】
コードがCas9及びsgRNAであるプラスミド(CRISPR/Cas9プラスミド)は、Addgene(#58778)から購入した。
【0060】
Maliら(Mali P, Yang L, Esvelt KM, Aach J, Guell M, DiCarlo JE, et al. RNA-guided human genome engineering via Cas9. Science. 2013;339(6121):823-6) の方法に従ってターゲットPERV-pol遺伝子(Accession No.AJ279056.1)に対する3つのsgRNAを設計し、GENEWIZ(中国江蘇)により合成された。
【0061】
二本鎖オリゴヌクレオチドタグ(Tsai SQ, Zheng Z, Nguyen NT, Liebers M, Topkar VV, Thapar V, et al. GUIDE-seq enables genome-wide profiling of off-target cleavage by CRISPR-Cas nucleases. Nature biotechnology. 2015;33(2):187-97)の具体的な配列は、次の通りである。順方向、5’GTTAATTGAGTTGTCATATGTTAATAACGGTT 3’、逆方向、5’AACCGTTATTAACATATGACAACTCAATTAAC 3’(は、リン酸化を示す)。「オリゴヌクレオチドタグ」の作成方法は、次の通りである。2つのオリゴヌクレオチドをSTE緩衝液(10mM Tris pH8.0、50mM NaCl、1mM EDTA)に溶解し、濃度が2OD/100uLであり、等モルで混合し、94℃で5分間インキュベートし、室温まで冷却する。本発明に用いられる全てのsgRNAsは、何れも表1に示されている。
【0062】
(第一の実施形態)ゲル製剤の調製
一、PBAEポリマーの合成
BDD、AP及びAMPは、以下の方法によりPBAEポリマーを調製する。まず、BDD(p-ヒドロキシアニソールMEHQで安定化する)とAPを、1:1のモル比で混合し、磁気撹拌板でN雰囲気において90℃で36時間撹拌した後、前記反応後、ジメチルホルムアミド(DMF)で希釈し、沈殿後、冷エーテルで洗浄する。真空乾燥によりエーテルを除去した後、中間生成物(i-PBAE)を室温で乾燥させる。次に、i-PBAEを無水DMFに溶解し、5倍のモル量のAMPと室温で24時間撹拌して反応させた後、反応生成物を冷たい無水ジエチルエーテルで沈殿させる。最後に、最終ポリマー(PBAE)をジエチルエーテルで3回洗浄し、真空で48時間乾燥させ、使用するまで室温で保存する。
PBAEポリマーの合成式は、図1Aに示されている。
【0063】
H-NMR分光法(Bruker AVANCE III 400MHz NMR分光計、溶媒:CDCl)により、i-PBAE及びPBAEの構造が特徴付けられ、図1Bは、スペクトルを示している。化学シフト値が4.062ppmであるピークは、PABE及びi-PABEのBDDユニットの-COOCH-の水素シグナルピークに属し、1.32-1.53ppm領域は、APのメチレン-CH-の水素シグナルピークであるが、2.42、2.65及び2.85ppmのピークは、-N(CH-、-NCHCHOCO及び-NCHCHOCO-の水素シグナルピークであり、i-PABEスペクトルの5.80-6.40ppm領域は、アリル末端基の水素シグナルピークであり、合成されたPABEスペクトルからが検出されておらず、C-C二重結合とAMPの間の反応が成功したことが示されている。
【0064】
本実施形態で調製されたPBAEの数平均分子量(Mn)は、6980Daであり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Waters-2410システム)、Waters 2414屈折率検出器(移動相:DMF、標準品:狭分散ポリスチレン)によりテストされ、そのサンプルを濃度が0.3wt%であるジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、図1Cは、テスト結果を示している。
【0065】
フーリエ変換赤外分光法(FTIR、PerkinElmer Spectrum Two、32回の繰り返しスキャン設定)により、i-PBAE及びPBAEの構造が特徴づけられ、図1Dは、スペクトルを示し、1730cm-1のピークは、特に、i-PABE及びPBAEのBDD鎖の脂肪エステル-CH2-COO-CH-に由来する。また、3200~3500cm-1の間の広いピークは、主鎖に-OHが存在することを示しているが、i-PBAEの固有の1639及び1620cm-1ピークは、C-C二重結合の炭化水素伸縮振動ピークであり、PBAEスペクトルにおいても消えている。前記結果は、H-NMRの結果と一致しており、PBAEが正常に合成されたことを示している。
【0066】
二、PBAE-プラスミドポリマーNPsの調製と特性評価
PBAE-プラスミドポリマーNPsを調製するために、PBAEをpHが5.0であるクエン酸緩衝液に溶解し、超音波処理により溶解してポリマー溶液(濃度が20mg/mLである)を得る。 ポリマー溶液とプラスミドを、75:1であるPBAEとプラスミドの重量比に従って均一に混合し、ボルテックスし、室温で30分間インキュベートし、PBAE-プラスミドポリマーNPsを得る。
【0067】
PBAE―プラスミドポリマーNPsの特性評価は、動的光散乱(DLS、Zetaplus、Brookhaven、米国)及び透過型電子顕微鏡(Hitachi HT7700、Japan)を用いて行われる。図1E及び図1Fは、テスト結果を示し、図1Gは、走査型電子顕微鏡(TEM)の検出結果を示している。
【0068】
研究から分かるように、PBAEとpDNAの最適な比率は、75:1である。この時、図1E及び図1Fから分かるように、平均粒子サイズは、317.1±5.3nmであり、PDIは、0.267(図1E)であり、表面電荷は、34.9±6.5mVである(図1F)。
【0069】
担体材料のPBAEとpDNAは、静電相互作用により圧縮されるので、NPsは、圧縮されて高密度に帯電する。透過型電子顕微鏡(TEM)により、図1Gに示すように、複合NPsの形態が観察できる。電子顕微鏡の写真から分かるように、PBAEにより形成された複合NPsは、全て球状粒子であり、サイズが約240nm前後に分布し、DLSテストの結果よりも小さい優れた分散特性を有する。この現象は、ポリ複合物NPsの脱水及び収縮により引き起こされている。
【0070】
PEI-プラスミドポリマーNPs、ポリリジン-プラスミドポリマーNPs、PAMAM-プラスミドポリマーNPs等の場合、PBAEの代わりに、PEI、ポリリジン、PAMAM等を用いてプラスミドと混合すれば良く、なお、プラスミドDNAと25kda liner PEIは、10:1の質量比に従って混合され、残りのカチオン性ポリマーとプラスミドの質量比は、依然として75:1である。
【0071】
三、膣ゲル製剤の調製
NPs-HTTゲルの調製では、66.65mgのヘクトライト(HTT)と1mLの水とを、磁気攪拌機において1000~1500rpmで混合し、20~30分間分散させた後、0.11mL10×クエン酸緩衝液(クエン酸:1mol/L、クエン酸ナトリウム:1mol/L、pH値:4.7)に加えられ、その後、均一に混合するまで、1mL PBAE-プラスミドポリマーNPs(250μgのプラスミドDNAと100μgのオリゴヌクレオチドタグを含む)が加えられ、当該ゲルのpHが5.0である。
【0072】
NPs-mMMTゲルの調製:
1、改質モンモリロナイトmMMTの調製
100mgの薬用天然モンモリロナイトを、1mgのクエン酸水素二ナトリウム及び20mgの水と混合し、均一に攪拌し、10mgのメチルセルロース改質剤を加えて攪拌を続け、密封攪拌しながら、ゆっくりと70°Cまで温度を上昇させ、5時間維持し、クエン酸を用いてpHが5になるように調整し、一定の温度で1時間撹拌し、室温に冷却し、250mgの水を加え、均一に撹拌し、40分間静置した後に、コロイド液体の上層を乾燥及び粉砕することにより、mMMTを得る。
【0073】
2、NPs-mMMTゲルの調製
60mgのmMMTと1mLの水を、磁気撹拌機において1000~1500rpmで混合し、20~30分間分散させる。0.11mL10×クエン酸緩衝液(クエン酸:1mol/L、クエン酸ナトリウム:1mol/L、pH値:4.7)を加え、1mL PBAE-プラスミドポリマーNPs(250マイクログラムのプラスミドDNA及び100μgのオリゴヌクレオチドタグを含む)を加え、均一に攪拌することで得られ、当該ゲルのpHは、5.0である。
【0074】
NPs-F127ゲルの調製は、上述した2つのゲルの調製方法と同じであり、HTT又はmMMTの代わり、感熱性ゲルPluronicF127を用いるという点が違い、当該ゲルのpHが5.0である。
【0075】
他のカチオン性ポリマーゲルは、PBAE-プラスミド複合ナノ粒子の代わりに、相応するポリマー-プラスミド複合ナノ粒子を用いれば良く、例えば、PBAE-プラスミド複合ナノ粒子の代わりに、PEI-プラスミド複合ナノ粒子、ポリリジン-プラスミド複合ナノ粒子、PAMAM-プラスミド複合ナノ粒子複合ナノ粒子等を用いれば良い。以下、NPs又は複合ナノ粒子と略称する。
【0076】
走査型電子顕微鏡(SEM、日本日立SU8010)を用い、PBAE-プラスミド複合ナノ粒子(即ち、図2の複合ナノ粒子)、改質モンモリロナイトゲル基質(即ち、前記NPs-mMMTゲルの調製時、1mLのPBAE-プラスミドマルチマーNPを加えずに調製された基質)、NPs-mMMTゲル(即ち、図2の複合ナノ粒子-改質モンモリロナイトゲル)、ヘクトライトゲル基質(即ち、前記NPs-HTTゲルの調製時、1mLのPBAE-プラスミドポリマーNPsを加えずに調製された基質)、NPs-HTTゲル(即ち、図2の複合ナノ粒子-ヘクトライトゲル)、F127ゲル基質(即ち、前記NPs-F127の調製時、1mLのPBAE-プラスミドポリマーNPsを加えずに調製された基質)及びNPs-F127ゲル(即ち、図2の複合ナノ粒子―F127ゲル基質)を2kVで観察し、図2は、テスト結果を示している。試験前に、サンプルをコーティングの形でシリコンウエハーに固定し、金を噴霧した。配合の安定性を観察するために、ゲルを室温で3日間保存した後、SEMで観察した。
【0077】
NPs-mMMTゲルを4倍量のクエン酸緩衝液で希釈し、0.45μmのフィルターで濾過し、ゲルの中のNPsの放出状況をテストした。当該溶液をDLSでテストし、ゲルから放出されたNPsの直径をテストし、室温で異なる保存時間(1日と3日間)を経た後、同じ方法でNPsの大きさをテストし、図3は、テスト結果を示している。
【0078】
図2及び図3から分かるように、mMMTゲルの中のNPsは、変化せず、NP構造の安定性を維持することができ、希釈後にゲル基質からナノ粒子の形で直接に放出することができ、良好な保存安定性を有し、室温で3日間保存した後に放出されたナノ粒子の直径が変わらない。一方、HTTゲル及び感熱ゲルPluronicF127においては、NPsは、基質から受ける影響が比較的大きく、ナノ粒子の構造を維持することができない。
【0079】
(第二の実施形態)マウス生体実験
私達は、生体画像技術により、昆明マウスモデルにおけるNPs-mMMTゲルの膣内保持能力を評価した。複合ナノ粒子の調製時に、蛍光色素Ce-6を、複合ナノ粒子の総質量の1%の質量比で複合ナノ粒子に混合してCe-6標識のNPsを得た後、第一の実施形態の技術案に基づいてCe-6標識のPBAE-プラスミド複合ナノ粒子ゲル(NPs-mMMT gel)を調製した。次に、遊離する蛍光色素Ce-6及びCe-6標識のPBAE-プラスミド複合ナノ粒子ゲルは、それぞれマウスの膣に入れた。図4は、テスト結果示しており、遊離する蛍光色素(Ce-6)のシグナルは、一日以内で消えた。mMMTゲルの場合、3日目に強い蛍光が見られる。これらの結果から分かるように、mMMTゲルは、良好な膣内保持能力を有しており、膣内の遺伝子薬物の作用時間を改善することができる。
【0080】
(第三の実施形態)豚実験
(一)、異なるカチオン性ポリマーのトランスフェクション効果の比較
膣ゲル製剤のトランスフェクション効率を評価するために、第一の実施形態のPBAE-プラスミド複合ナノ粒子、PEI-プラスミド複合ナノ粒子、PAMAM-プラスミド複合ナノ粒子の調製プロセスにおいては、第二の実施形態の方法で複合ナノ粒子を調製する際に、前記プラスミド(レポーター遺伝子)は、緑色蛍光タンパク質粒子(GFP)である。
【0081】
豚のゲノムは、人のゲノムに非常に近いため、私達は、大型哺乳類の豚を実験対象として選択し、豚は、生後1ヶ月の普通の家畜豚である。
【0082】
投与時、各豚には、GFP標識のPBAE-プラスミド複合ナノ粒子、PEI-プラスミド複合ナノ粒子、PAMAM-プラスミド複合ナノ粒子の何れか1つを投与し、投与量が2mLであり、膣ゲルを豚の膣表面、子宮頸部表面及び後膣円蓋に均一に広げる。私達は、1日目及び4日目に投与し、7日目にブラシ(パパニコロウ塗抹標本に類似する)で子宮頸部細胞を収集し、サンプリングした子宮頸部細胞を子宮頸部細胞保存液に保存し、715gで5分間遠心分離して収集した。次に、私達は、同じ体積のPBSに細胞を再懸濁し、DAPIで染色した後、直接に分析し、サイトメーターで一定体積の細胞数をカウントすることにより、収集された細胞の総数を計算する。各グループについては、私達は、約2.5×10個の細胞を採取し、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーに適用して検出を行い、その後、蛍光顕微鏡(Leica DMI8)及びフローサイトメトリー(C6、BD、米国)により各グループのトランスフェクション効果を検出し、図5は、テスト結果を示している。空白グループの細胞は、緑色蛍光が殆どなく、カチオン性ポリマーを含まないGFP-mMMTも、GFP表現が殆どないが、GFP-PBAE mMMT、GFP-PEI mMMT及びGFP-PAMAMmMMTグループは、明らかなGFP表現が現れ、それぞれは、57.0%、41.5%及び24.9%である。明らかに、mMMT+カチオン性材料PBAEを用いて膣ゲルを調製する際に、より高い割合のGFP陽性細胞を得ることができ、効率的な膣内遺伝子デリバリーを実現することができる。
【0083】
(二)、mMMTとHTTのトランスフェクション効果の比較
第一の実施形態のPBAE-プラスミドポリマーNPsの調製プロセスにおいては、第二の実施例の方法で複合ナノ粒子を調製する際に、緑色蛍光タンパク質(GFP)を、複合ナノ粒子の総質量の1%の質量比で複合ナノ粒子に混合し、第一の実施形態の技術案に基づき、mMMTとHTTのそれぞれを基質としてPBAE-GFP NPs-mMMT及びPBAE-GFP NPs-HTTを調製する。
【0084】
GFP-HTT及びGFP-mMMTの調製は、PBAEが省略されたことを除き、前記PBAE-GFP NPs-mMMT及びPBAE-GFP NPs-HTTの調製とほぼ同じである。
【0085】
次に、当該実施形態の第一の部分と同じ方法でトランスフェクション効率をテストした。図6は、テスト結果を示している。
【0086】
また、子宮頸部と臓器(卵巣、尿道、膣及び子宮)を収集し、任意の付着脂肪又は任意の他の余分の組織を除去するために、PBSで洗い流し、その後、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、厚さが3~5μmであるスライスに切り、H&E染色とIHC染色に用いられ、図7は、テスト結果を示している。また、3つのグループの繰り返しを行い、膣塗抹標本の中のGFP+細胞の割合をカウントし、結果は、空白グループが0.30%±0.05%であり、GFP-HTTグループが1.41%±0.28%であり、GFP-mMMTグループが1.80%±0.24%であり、PBAE-GFP NPs-HTTグループが25.79%±1.56%であり、PBAE-GFP NPs-mMMTグループがそれぞれ51.12%±1.23%である。
【0087】
明らかに、mMMT材料を用いて膣ゲルを調製した場合、GFP陽性細胞の割合が遥かに高くなる(p値<0.0001)。また、PBAEを含まないデリバリーは、トランスフェクション効率が低く、カチオン性ポリマーPBAEが遺伝子デリバリー担体として必要であることを意味する。総括すると、データから分かるように、PBAE-GFP NPs-mMMTゲルは、PBAE-GFP NP-HTTゲルに比べ、体内膣内のDNAデリバリーをより効率的に行うことができる。
【0088】
(第四の実施形態)ゲルシステムによる膣ウイルスの除去
豚の内在性レトロウイルス(PERVs)は、全ての豚のゲノムに組み込まれ、感染性粒子として放出される。幾つかの条件では、それらは、人の細胞に感染し、人の性感染症ウイルスと類似点を有する可能性がある。よって、この研究では、PERVsを治療ターゲットとして選択し、大型哺乳類の豚のウイルス統合フラグメントを除去するゲルシステムの能力をテストする。
【0089】
PERVは、そのDNAを豚のゲノムに組み込んでプロウイルスを形成することができるレトロウイルスである。そのゲノムは、主に、PERV-gag、pol、envの3つの遺伝子により構成されており、宿主ゲノムと一緒に複製することができる。
【0090】
以前の研究では、組織内のpol遺伝子のコピー数がgag及びenv遺伝子のコピー数より高いことが証明されているため、私達は、PERV-pol遺伝子をターゲットにしたsgRNAsを設計した。ZHANG実験室のウェブサイト(Doench JG、Fusi N、Sullender M、Hegde M、Vaimberg EW、Donovan KF、et al. Optimized sgRNA design to maximize activity and minimize off-target effects of CRISPR-Cas9.Nature biotechnology. 2016;34(2):184-91)に基づき、私達は、スコアが最も高い3つのsgRNAを選択し、SpCas9-sgRNAプラスミド(SpCas9-sgRNA-1、SpCas9-sgRNA-2、SpCas9-sgRNA-3)を構築した。その後、相応するPBAEプラスミドNPsを含む膣MMMTゲルを調製する(調製方法は、第一の実施形態と同じである)。私達の以前の実験では、ターゲットが突然変異している場合、CRISPR/Cas9システムの編集効率が影響を受けることが示されているからである。よって、動物実験の前に、私達は、慣例に従ってPERV DNAに対してSangerシークエンシングを行うことにより、PERVシーケンスが突然変異しているかどうかを確認する(図8Aは、テスト結果を示している)。結果から分かるように、sgRNA-2のターゲットDNAが1つの塩基突然変異を有し、CRISPR/Cas9システムの編集効率に影響を与える可能性がある(図8Bは、テスト結果を示している)。故に、私達は、sgRNA-1及びsgRNA-3を選択して更なる実験を行う。
【0091】
投与時、各豚には、2mLのPBAE-CRISPR/Cas9プラスミドmMMTゲル(250ugのCRISPR/Cas9遺伝子編集システムプラスミドを含む)(即ち、第一の実施形態で調製して得られたNPs-mMMTゲル)を投与し、それを生後1か月の豚の膣表面、子宮頸部表面及び後膣円蓋に均一に分布させる。1日目と4日目には、投与し、7日目には、細胞を収集した。その後、ブラシを雌豚の子宮頸の入口の周りで3回回転させて細胞を取得した(これは、人である患者のパパニコロウ塗抹標本収集法に非常に類似している)。子宮頸部細胞を採取して子宮頸部細胞保存溶液に入れ、715gで5分間遠心分離する。次に、同じ体積のPBSで細胞を再懸濁し、セルカウンターで一定体積の細胞数をカウントし、収集された細胞の総数を計算する。各グループから約2.5×10個の細胞を採取して分析を行う。
【0092】
DNA抽出及びPCR
DNeasy Blood&Tissue Kit 69506、Qiagen、Germany試薬テストキットを用いてDNAを抽出する。PCR反応は、Q5で高精度2X Master Mix (M0494S, NEW ENGLAND BioLabs, 米国)をウォームスタートすることで行われる。表1は、用いられたプライマーを示している。qPCRは、PowerUpSYBRGreen Master Mix(A25742、Applied Biosystems、米国)を用いてBio-Rad CFX96機器で行われる。実験は、3回の生物学的反復を行い、豚のGAPDH遺伝子を内部参照遺伝子として用いられ、2-ΔΔCT法でPERVコピー数の相対的な表現変化を計算する。表1は、用いられたプライマーを示している。
【表1】
私達は、PBAE NPsに基づくmMMTゲルがCRISPR/Cas9システムを豚の膣上皮に効率的に導入し、当該部位のPERVをターゲットとし、ウイルスのコピー数を大幅に減らしたことを証明することができた。PBAE-SpCas9/sgRNA-1 NPs-mMMT膣ゲルを豚の膣に適用された後、PERVのウイルスのコピー数を減らすことができた(図8E)。
【0093】
SpCas9が体内で膣内のPERV DNAを切断する場合、oligoは、切断部位に挿入される。挿入部位ゲノムとoligo DNAに対してPCR反応(1つのプライマーは、oligoにあり、もう1つのプライマーは、ターゲットに近いゲノム部位にある)を行うことにより、約200bpの正しいサイズが得られる(図8Cは、テスト結果を示している)。予想通り、Sanger-Sequencingsは、SpCas9-PERV sgRNAプラスミドが体内で豚の子宮頸部の上皮細胞のPERV DNA配列を効率的に切断し、oligoが正しく挿入されたことを示している(図8C)。更なるqPCRも、PBAE-SpCas9 NPsゲル処理グループでPERVのコピー数の減少を示している。治療の前に比べ、sgRNA-1グループのPERVのコピー数は、34%減少し、sgRNA-3グループのPERVのコピー数は、17%減少するので、sgRNA-1の切断効率は、sgRNA-3より優れることが分かる(図8E)。
【0094】
ゲノム編集の効率を損なうことなくオフターゲットサイトを減らすために、SpCas9ヌクレアーゼの特異性は、eSpCas9とSpCas9-HF1の2つのバリアントにより高めることができる。よって、当該研究では、mMMTゲルにおけるeSpCas9及びeSpCas9-HF1並びにsgRNA-1の有効性を更にテストした。対照グループに比べ、PERVコピー数はSpCas9-HF1グループのPERVが約42%減少し、eSpCas9グループが34%減少したので、SpCas9-HF1ベースの膣ゲルがより効果的であることを示している(P<0.05、図8F)。プラスミド送達は、PBAEのコピー数に影響を与える炎症反応を引き起こす可能性があるため、私達は、実験グループPBAE-SpCas9-HF1(sgRNAなし)NPs-mMMTゲルを別の対照グループとして追加してこの現象を観察した。私達は、sgRNA処理なしのSpCas9-HF1グループのPERVのコピー数は、処理前に比べて変化しなかったことが分かり(図8F)、これは、プラスミド送達がPERVのコピー数に影響を与える免疫応答を誘発しなかったことを意味する。
【0095】
総括すれば、これらのデータは、PBAE-Cas9 NPs-mMMT膣ゲルに基づく体内DNA送達が効率的な局所ゲノム編集を実現したことを示している。
【0096】
(第五の実施形態)ゲルの安全性評価
豚を安楽死させた後、その子宮頸部、卵巣、尿道、膣及び子宮を分離して固定する(4%のパラホルムアルデヒド)。パラフィン包埋切片(5 mm)は、Proteintechプロトコル(http://www.ptgcn.com/support/protocols)に基づいてIHC染色を行った。
【0097】
私達は、まず、デリバリーシステムの生体内分布を評価した。私達のシステムのCRISPR/Cas9プラスミドは、Flagタグを含んでいるため、プラスミドが豚の臓器のある場所に送達され、トランスフェクトに成功すると、Flagが表現される。私達は、免疫組織化(IHC)方法を用いて膣、尿道、子宮頸部、卵巣及び子宮等の異なる臓器におけるFlag標識の表現を染色した。膣及び子宮頸部の組織だけは、Flagの表現があり、膣が最も強いことが分かった。標識は、他の臓器組織において表現がない。これは、私達のシステムが膣と子宮頸部で局所的に機能し、近くの臓器に広がっていないことを意味している(図9A)。次に、NPs-mMMTゲル処理の豚に対して血液一般検査及び血液の生化学的検査を行い、その毒性を評価した。血液検査は、造血系や免疫系等を含む全身の複数のシステムの正常な代謝を反映している。血液生化学的指標の中では、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアルカリホスファターゼ(ALP)は、肝機能に関連しているが、アラニンアミノトランスフェラーゼ(BUN)は、腎臓の重要な指標である。1日目及び4日目には、一般的なmMMTゲルを投与し、血液と血清を採取し、治療の前日及び7日目には、血液検査と血液生化学的検査を行った。血液一般検査のWBC、RBC等の指標は、投与前に比べて顕著な差異がない(P<0.05、図9B)。血液生化学的検査でも類似する結果が得られた(図9C)。また、子宮頸部、卵巣、尿道、膣、子宮に対してヘマトキシリン-エオジン染色(H&E)を行い、薬物の毒性を評価した。その結果、異常な形態、病的浮腫、炎症性壊死及びアポトーシス小体が見られなかった(図9D)。
【0098】
私達は、結果を証明するために、PBAE-SpCas9/sgRNA NPs-mMMT治療グループと対照グループの膣、子宮頸部及び尿道内腔の炎症性サイトカインIFN-γ及びTNF-αに対して免疫化学的検査も行った。明らかな炎症性サイトカイン染色が観察されなかった(図10)。データは、私達の投与処方が比較的安全であり、局所的な膣の生物分布及び低毒性の特徴を有し、これも、臨床試験におけるゲルシステムの将来の応用に有利である。
【0099】
上述した統計分析の全ての定量的データは、少なくとも3回の並列測定の平均値±SDとして表される。統計分析は、単一要因分散分析を用い、GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Prism 8)で事後検定及びT検定を行うことにより計算し、なお、P<0.05は、顕著な差異とされる。
【0100】
上述した実施形態は、本願の技術的概念及び特徴を説明するものであり、その目的は、当該技術分野に精通している者が本発明の内容を理解し、本願の内容に基づいて実施することができるようにすることであり、本願の特許権利の範囲を制限しない。本願の精神に基づいて行われた全ての等価の変更又は修飾は、何れも本発明の特許保護の範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】