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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】フロー電池用の電極、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20230508BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20230508BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230508BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
H01M4/86 M
H01M4/96 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554781
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(85)【翻訳文提出日】2022-11-01
(86)【国際出願番号】 IB2021052020
(87)【国際公開番号】W WO2021181319
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】102020000005482
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(71)【出願人】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ディ フォンツォ ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ロヴェーラ エウゲニオ
(72)【発明者】
【氏名】カサレーノ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ザーゴ マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ナヴァ ジョルジオ
(72)【発明者】
【氏名】フマガッリ フランチェスコ
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA08
5H018AS07
5H018CC06
5H018DD05
5H018EE05
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H126AA02
5H126BB10
5H126FF02
5H126GG05
5H126JJ01
5H126JJ02
5H126JJ03
5H126RR01
(57)【要約】
本発明はフロー電池(B)用の電極(1)と、当該電極(1)を製造するための方法とに関し、電極(1)は、ナノメートルサイズの導電性材料の粒子(11)から成る第1の部分(12)を備えており、第1の部分(12)はメソポーラスであり、当該第1の部分(12)の有孔率は、電池(B)の電解液中における単位時間あたりの酸化還元反応の量を増大させるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー電池(B)用の電極(1)であって、
前記フロー電池(B)の電解液と接触するように配置可能な第1の部分(12)を備えており、
前記第1の部分(12)はメソポーラスであり、ナノメートルサイズの導電性材料の粒子(11)から成る電極(1)において、
前記電極(1)は、前記第1の部分(12)を担持する第2の部分(13)をさらに備えており、
前記第2の部分(13)は複数の炭素繊維を有し、
前記第1の部分(12)は前記炭素繊維のうち少なくとも1つを、前記粒子(11)の層によって少なくとも部分的に被覆する
ことを特徴とする電極(1)。
【請求項2】
前記電極(1)の深さ(D)及び/又は長さ(L)に沿った方向において前記粒子(11)の層の厚さが変化する、
請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記第1の部分(12)は、同心層構造を有する炭素粒子(11)によって形成されている、
請求項1又は2記載の電極。
【請求項4】
前記粒子(11)の粒径は1~100ナノメートルの範囲である、
請求項3記載の電極。
【請求項5】
前記粒子(11)の粒径は3~7ナノメートルの範囲である、
請求項4記載の電極。
【請求項6】
前記第1の部分(12)は、平均寸法が2~50ナノメートルの範囲である細孔を有する、
請求項1から5までのいずれか1項記載の電極。
【請求項7】
前記電極(1)の深さ(D)及び/又は長さ(L)に沿った方向において前記第1の部分(12)の有孔率が変化する、
請求項1から6までのいずれか1項記載の電極。
【請求項8】
前記第1の部分(12)の厚さは0.5μm~10μmの範囲である、
請求項1から7までのいずれか1項記載の電極。
【請求項9】
前記電極(1)の前記第1の部分(12)の比面積は少なくとも500m/gであり、単位体積あたりの面積は少なくとも20μm-1である、
請求項1から8までのいずれか1項記載の電極。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の電極を少なくとも1つ備えたフロー電池(B)。
【請求項11】
前記電極(1)は前記フロー電池(B)の負極として動作するように構成されている、
請求項10記載のフロー電池(B)。
【請求項12】
前記電極(1)に結合されたサーペンタイン形の流れ分配器(21)を備えており、
前記電極(1)の前記第1の部分(12)の厚さは0.5μm~5μmの範囲である、
請求項10又は11記載のフロー電池(B)。
【請求項13】
前記電極(1)に結合されたインターディジット形の流れ分配器(22)を備えており、
前記電極(1)の前記第1の部分(12)の厚さは2μm~10μmの範囲である、
請求項10又は11記載のフロー電池(B)。
【請求項14】
請求項1から9までのいずれか1項記載の電極(1)を製造するための方法であって、
ナノメートルサイズの導電性材料の複数の粒子を合成する合成工程と、
前記複数の粒子を用いて前記電極(1)の第1の部分(12)を形成する堆積工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
前記合成工程において、電磁場が存在する有限の空間内に、少なくとも1つの炭素含有ガスを含むガス混合物を流すことにより、前記複数の粒子を合成する、
請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記堆積工程において、前記電極(1)の前記第1の部分(12)の粗さを表す粗さ係数に基づいて求められる速度で前記電極(1)の前記第1の部分(12)に衝撃を与えるための前記粒子の流れを引き起こす、
請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
前記堆積工程において、複数の炭素繊維を含む第2の部分(13)に前記第1の部分(12)を堆積することにより、前記第1の部分(12)が前記複数の炭素繊維のうち少なくとも1つの炭素繊維の表面に層を形成するようにし、
前記層の所望の厚さに基づいて定められる速度で前記第2の部分(13)を回転及び/又は直進させる、
請求項14から16までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフロー電池用の電極と、当該電極を製造するための方法とに関し、本発明は具体的には、バナジウムフロー電池用、すなわち2つの電解質のうち少なくとも1つがバナジウムイオンを含む電池用の電極と、当該電極を製造するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、フロー電池が提供可能な最大電力は、実際には当該電池の電気容量に依存せず、実際、最大電力は単電池の特性(具体的には、電極の寸法及び化学物理的特性、使用される2つの電極と2つの電解液との間に挟まれるイオン交換膜の寸法及び種類、半電池1個あたりの電極数等)に依存し、それに対して電気容量は主に、使用される電解質及び酸化還元種の種類と、タンク内に貯蔵される当該電解質及び酸化還元種の総量と、に依存する。従って、フロー電池は当該電池の電気容量に依存せずに、最大提供可能な電力を生成できる、といえる。
【0003】
この特殊性によって、フロー電池を特殊用途に最適な寸法、例えば再生可能エネルギー源を利用する発電プラント(例えば太陽光、風力、水力、波力等の発電プラント)に結合するため等に最適な寸法とすることができ、実際、再生可能エネルギー源は電力-エネルギー比によって特徴付けられ、これは季節の傾向に従う(特に太陽光及び風力発電プラント)。すなわち、全ての季節においてほぼ常に最大電力が得られるが、1日に生成されるエネルギーは1年のどの時期かに応じて変動する。
【0004】
現在、フロー電池のエネルギー密度はリチウムイオン電池のエネルギー密度より低いが、フロー電池の容量は最大電力と相関し、電池が古くなるにつれて容量は減少する傾向にある。さらに、リチウム電池の個々の要素の寸法は安全規定と冷却要件によって決まる。
【0005】
“GONZALEZ, Zoraida, et al. Carbon nanowalls thin films as nanostructured electrode materials in vanadium redox flow batteries. Nano Energy, 2012, 1.6: 833-839.”に、 金電極の反応表面を拡大するため当該金電極の表面にカーボンナノウォール(CNW)の作製を行う溶液が記載されており、 かかる電極はその後、バナジウムフロー電池の正側の半電池において使用される。この溶液によってよりコンパクトな電極が得られるが、その電極の表面における酸化還元反応の速度を高めるものではない。よって、金電極を用いなければならないことにより経済的に好ましくないだけでなく、上記の溶液はバナジウムフロー電池の比電力の有意な増加を何ら達成するものではない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、フロー電池用の電極を提供することにより、上記及び他の課題を解決することを目的とする。
【0007】
本発明はまた、フロー電池用の電極を製造するための方法を提供することにより、上記及び他の課題を解決することを目的とする。
【0008】
本発明の基本的な思想は、フロー電池の電解液と接触するように配置される部分を有する電極であって、前記部分は、ナノメートルサイズの導電性材料の粒子から成るメソポーラス構造(すなわち、孔径が約1~100ナノメートルの範囲の細孔を有する構造)を有し、これにより、電解液の流れにおける酸化還元反応の速度を引き上げ、並びに/又は単位表面積あたりの活性部位数及び/若しくは電極面積を増加して、電極の投影面積あたりで生成される電流を増加させる電極を製造及び使用することである。
【0009】
フロー電池用の電極のメソポーラス構造を作製するために導電性材料のナノメートルサイズ粒子を使用することにより、当該電極の中に電解質を流すことができると同時に、電子が交換される活性部位の、電極の単位表面積あたりの数を増加させ、電解質と接触する電極面積を増加させることができ、上記の流れにおける酸化還元反応の速度(フロー電池の通常の充放電プロセス中に電解液と接触する電極表面にて生じる酸化還元反応の速度)を引き上げることができ、これによって有利には本発明の電極を流れる電解質において電子触媒現象を生じさせることができるという技術的効果が奏される。換言すると本発明は、電解液の流れにおける酸化還元反応の単位時間当たりの量を増加させ、これにより電極の単位投影面積あたりの電流密度を増大するという技術的効果を奏する。
【0010】
これによって有利には、フロー電池の電力密度を増大させることができ、特に本発明の好適な一実施形態の電極は、単位表面積あたりの電流量を、従来技術の電極により生成される電流の3倍(効率は80%超)とすることができる。
【0011】
また、上述の電子触媒は電極の過電位を低減し、これにより電池の電流密度を増大させることができるという利点もあり、実際、電極の過電位が低減することにより、巨視的な効果として電池の内部抵抗(すなわち、オーム抵抗だけでなく電気化学的抵抗)が低減し、ひいては電池の内部電圧降下も低減する。実際に実験的な試験を行った結果、負極として用いられる場合、本発明の電極は、従来技術の電池の充放電電流の少なくとも2倍の充放電電流で1.0~1.8ボルトの範囲でバナジウムフロー電池の個々の単電池を動作させることができることが判明した。実際問題として、これを達成できる理由は、過電位の低減により有利には、充放電フェーズ中に高電流が供給されたときに生成され得る水素及び酸素の量を低減することができるからであり、これにより、高強度の電流を吸収又は放出しなければならない特殊な状況に電池が対処できるようになる。
【0012】
よって、例えば再生可能エネルギー源から電気エネルギーを生成するための大型プラントであって発電が非常に変動的な傾向に従う大型プラント、例えば太陽光、風力等の発電プラント等のために上述のフロー電池を使用する必要がある用途等において、上述のフロー電池を用いることは、従来技術のフロー電池に対して有利である。
【0013】
さらに、本発明の電極はその酸化を低減し、及び/又は当該電極の表面における水素若しくは酸素の形成を低減することにより電極の劣化を低減し、これにより、他の種類の電池と比較して多数の充放電サイクルを行ってもフロー電池の性能を不変に維持することができる。
【0014】
添付の特許請求の範囲に本発明の他の有利な特徴が記載されている。
【0015】
添付図面に示されている好適な実施形態の以下の説明を参酌すれば、本発明の上記特徴及び他の利点がより明らかとなり、かかる好適な実施形態はあくまで非限定的な例示である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の電極を備えたフロー電池の動作の略図である。
図2】複数の異なる放射パワーレベルにおける、本発明の製造方法を実施することにより得られる結果を示す走査電子顕微鏡の3つの画像を示す図である。
図3図1の電極の略図である。
図4図1の電池において使用可能な2つの異なる種類の流れ分配器を示す図である。
図5図4の流れ分配器のうち1つに結合された状態の図1の電極の略図である。
図6図1の電極の概略的な断面図である。
図7図4の流れ分配器のうち1つに結合された状態の図1の電極の概略的な断面図である。
図8図1の電極を製造する工程において使用される高周波の電力に依存する、当該電極の粒子の単位質量あたりの面積及び単位体積あたりの面積の傾向を示すグラフである。
図9】本発明の好適な実施形態の電極の複数の異なる部分を異なる拡大率レベルで示す走査電子顕微鏡の4つの画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本説明では、「一実施形態」という場合には全て、特定の構成、構造又は特徴が本発明の少なくともいずれか1つの実施形態に含まれることを意味する。よって、本説明の複数の種々の箇所で「一実施形態」等の表現が用いられる場合があるが、これは必ずしも同一の実施形態をいうとは限らない。さらに、特定の構成、構造又は特徴は全て、適切と考えられる場合には1つ又は複数の実施形態に組み合わせることができる。よって、上述のような言及は以下ではあくまで簡単化のために用いられるものであり、種々の実施形態の保護範囲を限定するものではない。
【0018】
以下では、図1を参照して本発明の少なくとも1つの電極1を備えた電池Bについて説明する。当該電極1は、好適には平面状である。
【0019】
本説明において「電極」との用語は、電池の構成要素であって当該電池の充電時又は放電時に当該構成要素の表面において酸化還元反応を生じるものをいうこととする。
【0020】
電池Bは負側部分B1と正側部分B2とを有し、負側部分B1は負側半電池S1と、第1のタンクT1と、第1のポンプP1と、を備えており、正側部分B2は正側半電池S2と、第2のタンクT2と、第2のポンプP2と、を備えている。
【0021】
負側半電池S1は第1の往路導管D1と第1の復路導管R1とを介して第1のタンクT1に流動連通しており、上述の第1のタンクT1、両導管D1,R1及び負側半電池S1の中には第1の電解液が入っており、好適には、第1のポンプP1が動作状態の際に負側半電池S1において上記の第1の電解液の流れを生じるように第1のポンプP1が第1の往路導管D1上に配置されている。
【0022】
正側半電池S2も負側半電池S1と同様に、第2の往路導管D2と第2の復路導管R2とを介して第2のタンクT2に流動連通しており、上述の第2のタンクT2、両導管D2,R2及び正側半電池S2の中には第2の電解液が入っており、好適には、第2のポンプP2が動作状態の際に正側半電池S2において上記の第2の電解液の流れを生じるように第2のポンプP2が第2の往路導管D2上に配置されている。
【0023】
電池B2はまた、第1の面および第2の面を有するイオン交換膜(例えば、ナフィオン(NAFION、登録商標)その他の材料から作製された膜)を備えており、第1の面には、負側半電池S1に含まれる第1の電解液が接触すると共に、第2の面には、正側半電池S2に含まれる第2の電解液が接触する。
【0024】
さらに、反応半電池S1,S2のうち少なくとも一方は本発明の電極1を備えている。好適な実施形態では、負側半電池S1が上記の電極1を1つ備えているのに対し、正側半電池S2は好適には従来技術の通常の電極(例えば炭素電極等)又は本発明の電極1を備えている。上記の電極には、少なくとも1つの電気的負荷L及び/又は発電機Gを接続することができる。
【0025】
第1および第2の電解液は好適には、バナジウムイオンを含有する溶液である。かかる溶液によって、負側部分B1と正側部分B2の両方に対して同一の出発溶液を用いることができるとの利点が奏され、かかる出発溶液は例えば、硫酸バナジウムの水溶液(一般式VOSO)等である。実際には、バナジウム元素は5つの酸化状態(+1,+2,+3,+4,+5)をとるが、そのうち4つ(+2,+3,+4,+5)が電気化学的用途に効果的に使用できることに留意すべきである。このことにより、上記の出発溶液から従来技術の周知の手法を用いて、バナジウムが+2及び/又は+3酸化状態をとる第1の電解液(負側部分B1)と、バナジウムが+4及び/又は+5酸化状態をとる第2の電解液(正側部分B2)と、を作製することができる。
【0026】
電池Bが動作状態にあるときであって発電機Gが当該電池Bに再充電しているときには、第1の電解液中のバナジウム(負側部分B1)が還元し、電子を吸収することによって+3酸化状態から+2酸化状態に切り替わり、それと共に第2の電解液中のバナジウム(正側部分B2)が酸化して、電子を放出することにより+4酸化状態(VO2+)から+5酸化状態(VO )に切り替わる。
【0027】
電池Bが動作状態にあるときであって負荷Lが当該電池Bを放電させているときには、第1の電解液中のバナジウム(負側部分B1)が酸化し、電子を放出することによって+2酸化状態から+3酸化状態に切り替わり、それと共に第2の電解液中のバナジウム(正側部分B2)が還元して、電子を吸収することにより+5酸化状態(VO )から+4酸化状態(VO2+)に切り替わる。
【0028】
しかし、本発明の教示内容から逸脱することなく、別の性質の異なる電解液又は溶液(水系又は有機溶媒を含むものであって、ヨウ化物、硫化物及び臭化物等の活性種、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム等)又は遷移金属(鉄、クロム、チタン、錫、亜鉛、セリウム、マンガン等)又は有機分子及び酸化還元ポリマー(キノン、メチルビオロゲン、ACA、フェロシアン化物、TEMPO、PANI、PNB-g-PTMA、ポリチオフェン)又は固体粒子等)を使用することも可能である。
【0029】
使用される電解液は溶媒であり、これは好適には水である。水と共に、又は水に代えて、有機溶媒(例えばアセトンニトリル、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、炭酸エチル、ジオキソラン等)又はイオン液体(例えば1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(EMICl)/FeCl3/FeCl2、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(TEAPF6)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(EMIPF6))を使用することも可能である。
【0030】
本発明の電極1は、メソポーラスの(物理的)構造、すなわち、孔径が約1~100ナノメートルの範囲である細孔を有する構造を有する第1の部分を備えており、第1の部分は、電池Bの両電解液のうち1つと接触するように配置されるものであり、ナノメートルサイズの導電性材料の粒子から成る。前記第1の部分の有孔率は、電解液の流れの中での拡散を可能にする率であり、有利には、当該流れにおける酸化還元反応の単位時間当たりの量を増大させる率であり、ここで、前記流れは好適にはポンプP1,P2のうちいずれか1つによって生じるものである。
【0031】
このようにして、有利には、フロー電池における電力密度を高めることができる。
【0032】
電極1の第1の部分は、当該電極1の全体を構成することができる。すなわち、メソポーラスの(第1の)部分を1つの独立した電極として使用することができる。
【0033】
本発明の好適な実施形態では、上記のメソポーラスの部分を電池Bの他の構造的要素、例えば商業的に入手可能な炭素繊維電極等、又は、例えばガス拡散層(Sigracet(登録商標)29AA基板等のGDL(ガス拡散層))、膜、集電器、発泡体及び/若しくは金属メッシュ及び/若しくはポリマーメッシュ、エレクトロスピニング法により作製された材料、又は市場で入手可能な他の種類の材料等の他の基板によって支持することも可能である。
【0034】
下記にて詳細に説明するように、好適な本実施形態の電極1は第2の部分を備えており、この第2の部分が第1の部分の支持部として働くように、第1の部分は第2の部分に拘束されている。換言すると、第2の部分は第1の部分を支持する。
【0035】
よって、既に市場に出回っているフロー電池の電力密度及びエネルギー密度を向上できるという利点が奏される。というのも、電極の第1の部分に向かう電解質の移動が促進され、及び/又は、反応速度が上昇され、これにより電極の過電位を低減できるからである。
【0036】
ナノメートルサイズを有する導電性材料の粒子は、ゼロ次元(0Dナノ粒子)及び/又は二次元(2Dナノプレートレット)とすることができる。また、ゼロ次元粒子と2次元粒子との混合物を使用することも可能である点にも留意すべきである。
【0037】
好適には、上述のナノ粒子は任意の導電性材料とすることができ、例えば、炭素、金属、窒化物、ホウ化物、炭化物、酸化物、又はカルコゲニド等の化合物クラスのうちいずれかに属する材料とすることができる。より好適には、上述のナノ粒子は、窒化炭素(C)、炭素・窒素化合物(0<x<4/3のCN)、グラフェン、還元酸化グラフェン、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、フラーレン、窒化チタン(TiN)、酸窒化チタン、酸化チタン(TiO、0<x<2)、酸化モリブデン(MoO、0<x<3)、酸化タングステン(WO0<x<3)、酸窒化タングステン、窒化タングステン、酸化錫(SnO、0<x≦2)、インジウム、酸化インジウム、酸化イリジウム(IrO)、ルテニウム、酸化ルテニウム、ビスマス、ビスマスの酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、カルコゲナイド、テルル、マンガン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ガリウム、鉛、ランタン、セリウム及び/若しくは他のランタニド、チタン、モリブデン、タングステン、鉄、ニッケル、アルミニウムを含むことができる。
【0038】
また、図2を参照すると、本発明の好適な本実施形態では導電性粒子はカーボンナノ粒子であり、当該カーボンナノ粒子は玉ねぎ状の構造を有する。すなわち、粒子は同心層構造11を有する。驚くべきことに、このような構造によって電解質の流れにおける電子触媒を促進し、これにより電池Bにおける電力密度及びエネルギー密度が増加するという利点が奏される。
【0039】
上記の粒子の粒径を1~50ナノメートルとし、より好適には粒径を4~5ナノメートルとすると、電子触媒がさらに向上すること(すなわち、酸化還元反応の単位時間当たりの量がさらに増加すること)が観察された。
【0040】
粒子の集合(例えば、超音速噴流を行った後に真空雰囲気又は制御される雰囲気下で熱処理を行うことにより達成されるもの等)により、電極1の第1の部分においてある程度の有孔率が提供される。この粒子の集合により得られる有孔率は1~50ナノメートルの範囲とすることができる。すなわち、形成される細孔の孔径は1~50ナノメートルの範囲とすることができる。
【0041】
より具体的には、細孔の平均寸法は電池において使用される活性種の立体障害に依存して定めることができる点に留意すべきであり、ここで「活性種」との用語は、電気エネルギーを貯蔵して放出できる酸化還元反応に関与するイオンをいう。特に、バナジウム及び/又は分子量が1.000g/mol未満の他のイオン種若しくは酸化還元活性分子、例えばキノン系化合物(ベンゾキノン、アントラキノン等)、アルコキシベンゼン、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)の誘導体、N-メチルフタリミド等の活性種を、使用される電解質が含む場合、細孔の平均寸法を1~10ナノメートルから選択することができる。
【0042】
分子量が大きい酸化還元種を用いる場合、特にポリマーの粒子(例えばポリアニリンの誘導体、ポリ(ビニルベンジルエチルビオロゲン)の誘導体、いわゆる「ボトルブラシ」ポリマーのクラスの誘導体、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニロキシ(TEMPO)の誘導体、ポリチオフェン、ポリメタクリレート及びポリスチレン等の水溶性ポリマー、ボロンジピロメテン等)を用いる場合には、平均径が10~100nmの細孔を用いることができる。
【0043】
また、細孔寸法は電解質の粘度に合わせて調整することも可能であり、例えば、低粘度の電解液には平均径が1~10ナノメートルの細孔がより適しており、それに対して高粘度の電解液には平均径が10~100ナノメートルの細孔がより適している。
【0044】
さらに、活性種の立体障害及び電解質の粘度を遵守するように細孔寸法を選択することもできる。
【0045】
上記のような有孔率と活性元素を用いることにより酸化還元反応を向上させることができる。よって、既に市場に出回っているフロー電池の電力密度及びエネルギー密度を向上できるという利点が奏される。
【0046】
以下にて、図3を参照して電極1の可能な一実施形態を説明する。電極1は第1の部分12及び第2の部分13を有し、第1の部分は主に、同心層構造を有する炭素粒子11から成り、第2の部分13は好適には従来技術の炭素電極である。
【0047】
説明目的のため、好適には電極1の第2の部分13を構成する炭素繊維の(繊維)構造に拠る全ての複雑性を排除して第1の部分12の有孔率に関する点をグラフィックでより良好に強調するため、第2の部分を平面状の層として略示する。
【0048】
第1の部分12の厚さは0.01μm~1000μmの範囲、好適には0.1μm~50μmの範囲である。さらに好適には、電極の第1の部分12の厚さは0.5μm~10μmの範囲である。好適な一実施形態では、電極の第1の部分12の厚さは1μm~6μmの範囲である。
【0049】
使用される出発活性種如何にかかわらず、電極1の第1の部分12の深さDに沿った方向において内部有孔率が当該第1の部分の全厚の10%~90%の深さまで変化することができる。
【0050】
具体的には、第1の部分12の深さに沿った方向において有孔率が変化し、好適には、100ナノメートルごとに0%~80%の勾配で変化する。電極1の第1の部分12のうち電極1の第2の部分13寄りの領域では、酸化又は還元できるイオンの濃度が比較的低いため有孔率を低くしなければならないが、かかる領域は電極1の第2の部分13付近に位置し、上記の勾配により当該領域における酸化還元反応を向上させることができる。というのも、上述のような領域では電解質が電極1の第1の部分12の最外側の粒子に既に当たっており、酸化又は還元可能なイオンの濃度が既に低減しているからである。
【0051】
これにより、電極1の第1の部分12における第2の部分13から離れた表面と、当該第1の部分12における第2の部分13寄りの表面との間の電位差を低減することができ、これにより電極1内の電流の強度を最小限にすることができ、輸送可能な最大電流が低減することにより電極1の効率が得られるという利点が奏される。
【0052】
さらに、上述の勾配が存在することにより、電極1の第1の部分12を電解質が全透過することができ、これにより電解質流が促進される。これにより、電解質との接触面積が大きい電極を使用できると同時に、電解質の再生が一定になることを保証できるという利点が奏される。
【0053】
このようにして、有利には、フロー電池における電力密度及びエネルギー密度を高めることができる。
【0054】
上記構成に代えて、又は上記構成と組み合わせて、電極1の長さL及び/又は深さDに沿った方向において第1の部分12の有孔率及び厚さが変化することができる。
【0055】
特に、第1の部分の長さLに沿った方向において有孔率が変化することができ、好適には電極1の長さLのミリメートル単位で予め定められた有孔率値の0%~80%のパーセント値だけ変化することができ、及び/又は、電極1の深さDに沿った方向において有孔率が変化することができ、好適には電極1の深さDのミクロン単位で予め定められた有孔率値の0%~80%の範囲のパーセント値だけ変化することができる。
【0056】
また、上述の勾配は、電極1の第1の部分12のうち酸化又は還元可能なイオンの濃度が比較的低い領域における酸化還元反応の過電位を最小限にするためにも有用であり、これにより必要な有孔率を低くして活性表面積を拡大すること、すなわち活性部位数を増加させることができる。上記の領域は、電極1における電解質の流れが最後に接触する領域に配される。というのも、かかる領域では既に電解質が第1の部分12の大部分に当たっており、よって、電解質は酸化又は還元可能なイオンの濃度が既に減少しているからである。
【0057】
このようにして、有利には、フロー電池における電力密度及びエネルギー密度を高めることができる。
【0058】
電極1の第1の部分12の比面積(好適には、BET法で測定される比面積)は少なくとも500m/g、好適には少なくとも600m/g、さらに好適には610m/gであり、また、粗さ係数(すなわち単位体積あたりの面積)は少なくとも20μm-1、好適には少なくとも200μm-1、さらに好適には285μm-1である。
【0059】
粒径や有孔率と全く同様に、電極1の第1の部分12の全厚にわたって粗さ係数を不均一とすることができる。好適な一実施形態では、第1の部分12の粗さ係数は、20~500μm-1の勾配で変化することができる。これにより、電極1の第1の部分12の複数の異なる領域において、酸化又は還元可能なイオンの濃度が変化しても、酸化還元反応を均一及び/又は一定に保つことができる。
【0060】
このようにして、有利には、フロー電池における電力密度及びエネルギー密度を高めることができる。
【0061】
上記のように、電極1の第1の部分12を構成する炭素粒子は同心層構造を有し、その径は好適には2~100ナノメートルの範囲、より好適には3~7ナノメートルの範囲である。また、電極1の第1の部分12の厚さは、好適には0.1~100μm、より好適には1~10μmの範囲である。かかる厚さに沿った方向において、集合した各粒子間の有孔率は1~100nmの範囲になる。第1の部分12は第2の部分によって担持されており、第2の部分は好適には、炭素繊維製の市販の電極を備えている。
【0062】
また、図4を参照すると、本発明の電極1は好適には流れ分配器に結合されており、この流れ分配器は例えば、サーペンタイン形の流れ分配器21又はインターディジット形の流れ分配器22等である。
【0063】
流れ分配器21、22は、ポンプP1,P2のうちいずれかの働きによりタンクT1,T2のうちいずれかのタンクから電解液が流出した後にこの電解液の流れを電極1において分配することができるものである。なお、この電極1における電解液の流れの分配は、当該電極1の多孔質の体積の大半を通じて電解液を拡散させることを必然的に伴う点に留意すべきである。
【0064】
電解質がバナジウムイオンを含有するフロー電池の負極として上記の電極1を用いる場合、得られる電力密度は、電極の厚さや当該電極に結合された流れ分配器の種類等のファクタの組み合わせに厳密に相関する。
【0065】
サーペンタイン形の流れ分配器21を用いる場合、電極1の第1の部分12の厚さは好適には0.5μm~5μm、より好適には1μmである。
【0066】
インターディジット形の流れ分配器22を用いる場合、電極1の第1の部分12の厚さは好適には2μm~10μm、より好適には4μmである。
【0067】
また、電解質がバナジウムイオンを含有するフロー電池の正極として上記の電極1を用いる場合、得られる電力密度は、電極の厚さと当該電極に結合された流れ分配器の種類との組み合わせに厳密に相関する。また、より小さいスケールにすると、上記と同じ厚さと流れ分配器との組み合わせにより電子触媒の点で最良の結果が得られる点にも留意すべきである。
【0068】
本発明の電極1では、10S・mを超える電気伝導率が見られた。
【0069】
以下では図5を参照して、インターディジット形の流れ分配器22の作用下で電解液がどのようにして電極1内を流れるかについて説明する。
【0070】
公知のように、インターディジット形の流れ分配器22は少なくとも、供給導管221の少なくとも1つのグリッドと排出導管222のグリッドと備えており、これらの供給導管221及び排出導管222は外部に向かって開口している(すなわち、動作状態の際には電極1に向かって開口する)が、供給導管221と排出導管222とは互いには直接連通していない。このような分配器の構成により、分配器22が電極1に結合されたときに電極1内部の略全部に電解質の少なくとも1つの流れFを生じさせることができるという利点が奏される。これによって、電池Bの電極1両端に電流を循環させた場合、電極1における酸化還元反応の単位時間あたりの量を増大できるという利点が奏される。
【0071】
このようにして、有利には、フロー電池における電力密度及びエネルギー密度を高めることができる。
【0072】
また、以下では図6及び図7を参照して電極1の好適な実施形態を説明する。本実施形態では、電極1の第2の部分13が炭素繊維電極から成り、すなわち、第2の部分13は複数の炭素繊維を含む。
【0073】
炭素繊維に関する技術的特徴をより良好に説明するため、図6及び図7は炭素繊維の断面を示しているが、図3及び図5で強調表示された勾配は(分かりやすくするために)示されていない点に留意すべきである。
【0074】
電極の第2の部分13を構成する繊維の少なくとも1つは、当該電極の第1の部分12を構成する粒子11の層により被覆されている。換言すると、第2の部分13は複数の炭素繊維を有し、第1の部分(12)は少なくとも部分的に、粒子11の層によって当該繊維のうち少なくとも1つを被覆する、ということである。
【0075】
これにより電極1の過電位を低減できると同時に、電極の機械的強度を改善して、フロー電池の電流密度及び/又はエネルギー密度を増大させることができる。
【0076】
また、第1の部分12の層の厚さSは、電極1の繊維の位置に応じて変化することができる。
【0077】
具体的には、電解質流中の活性種濃度が高いほど厚さSは薄く、電解質流中の活性種濃度が低いほど厚さSは厚い。換言すると、電極1の深さD及び/又は長さLに沿った方向において粒子11の層の厚さSが変化する。
【0078】
好適には、電極1の第2の部分13(すなわち繊維)を包囲する第1の部分12の厚さSは、電極1の長さLの1ミリメートルあたり10ナノメートル~1000ナノメートルの範囲の量で変化し、及び/又は、電極1の厚さDの1ミクロンあたり10ナノメートル~1000ナノメートルの範囲の量で変化する。
【0079】
さらに、同一の繊維を囲む第1の部分12の厚さSが、例えば図5にて強調表示された勾配等で変化することもできる。
【0080】
このようにして電極における電位差が縮小し、電極1が吸収し又は電解質に供給できる電流を増加させるという利点が奏され、これによりフロー電池の電力密度及びエネルギー密度を増大できるという利点が奏される。
【0081】
本願明細書に記載の電極1は、種々の製法を用いて製造することができる。一般に、運動エネルギーを制御しつつ表面上にナノ粒子を堆積できる任意の成膜法を用いることができる。
【0082】
具体的には上述の電極1は、プラズマ源、スパッタリングシステム、パルスレーザ堆積(PLD)システム、プラズマ化学蒸着(PECVD)システム、又は大気圧スプレー等を用いてナノ粒子を堆積することにより作製することができる。
【0083】
すなわち、本発明の電極1を製造するための方法は以下の工程を有する:
a.ナノメートルサイズの導電性材料の複数の粒子を合成する合成工程、
b.前記複数の粒子を用いて電極1の第1の部分を形成する堆積工程。
【0084】
上記の電極1を製造するためには、出願人がユニヴァーシタ デグリ ストゥディ ディ ミラノ-ビコッカである国際公開第2011/064392号に記載されているようなプラズマ支援される超音速粒子源を作製することができ、かかる手法は、十分に小さいオリフィスによって第2のチャンバから分離された第1のチャンバ内で、好適には反応性プラズマ等を用いてナノ粒子のエアロゾルを生成できる装置を用いること想定しており、これにより、上記の複数のチャンバをそれぞれ異なる圧力下に維持して、懸濁粒子を含む超音速のガス噴流が生成される。両チャンバ間の圧力差を維持するため、両チャンバのうち一方にポンピングシステムが接続されている。より高圧に維持されるチャンバ(「合成チャンバ」と称される)は一対の電極を備えており、この電極に信号発生器(「RF信号発生器」とも称される)から供給されることにより、合成チャンバは事実上、内部に電磁場が存在する有限の空間を形成し、この電磁場は好適には前記信号発生器によって生成されるものであり、両電極間(すなわち上記の有限の空間内)には、例えばアセチレン(C)等の少なくとも1つの炭素含有ガスを含むガス混合物が噴射される。具体的には、上記の混合物は好適には、99.63%のアルゴン(Ar)と0.38%のアセチレン(C)とから構成される。RF信号発生器は、好適には13.56MHzの周波数と少なくとも20ワット、好適には120ワットの電力とを有する信号を発生するように構成されている。この信号によって電極にアセチレン分子が流れてラジアルに解離し、このラジアルは不活性のアルゴン雰囲気中(すなわち、時間単位あたりの酸素量が無視できる程度の雰囲気中)で重合を開始して数個の原子のクラスタになり、これによりナノ粒子となる。その後、上述のようにして合成された粒子は超音速噴流によって収集され、低圧チャンバ(「衝撃チャンバ」とも称される)内で加速される。動作時、合成チャンバ内の圧力は好適には130パスカルに維持されると共に、衝撃チャンバ内の圧力は好適には2パスカルに維持される。
【0085】
RF信号発生器と、当該発生器によって供給されたときに反応性プラズマを生成する2つの電極とに代わる代替手段として、例えば熱フィラメント(例えばジュール効果により加熱されるもの)又は高出力ランプ等の他の加熱システムを用いることが可能である。
【0086】
カーボンナノ粒子の合成プロセスを行う電力に依存して、カーボンナノ粒子をグラファイト化又は水素化することができる。後者の場合、完全にグラファイト化した炭素を得るためには、その材料に高温熱処理(すなわち700℃超、好適には1000℃超)を施す必要がある。
【0087】
堆積は犠牲基板(すなわち、堆積後に除去されて完成後の電極1を構成しない基板)上で行うことができ、又は市販の電極上で行うことができ、この市販の電極は好適には、例えばSigracet(登録商標)29AA型等の炭素繊維電極であり、堆積を市販の電極上で行う場合、有利には被覆範囲が最大となるように当該電極の両面で堆積を行うのがより好適である。
【0088】
炭素繊維電極(すなわち炭素繊維)上で堆積を行う場合には、堆積工程中に、形成しようとする第1の部分12の厚さSに基づいて定まる速度で上記の電極(すなわち第2の部分13)を回転及び/又は直進させることができる。換言すると、堆積工程において炭素繊維を有する第1の部分12が第2の部分13に堆積され、第1の部分12は炭素繊維のうち少なくとも1つに層を形成し、当該層の所望の厚さに基づいて定まる速度で第2の部分13を回転及び/又は直進させる。
【0089】
上述のような工程では、速度を変化させることにより上記の1つ又は複数の勾配を得ることができ、これにより電極1における電位差が縮小してフロー電池の電流密度及び/又はエネルギー密度が高まる。
【0090】
なお、電極を構成する炭素繊維によって、第2の部分13の全体にナノ粒子の噴流を完全に横断させることができ、これにより繊維の完全な官能化を図ることができる。さらに、全ての繊維を多かれ少なかれ均一に被覆できるように、第1の表面を官能化した後に衝撃チャンバ内で電極を回転させることにより、又は、電極の両面において2つの噴流源を用いることにより、上記のナノ粒子の噴流を開始電極の両面に堆積することができる。また、一方の面において厚さを大きくして堆積することにより、上述の1つ又は複数の勾配を得ることも可能である。
【0091】
上記にて既に説明したように、生成されるRF信号の電力は好適には20~1,000ワットの範囲であり、より好適なのは120ワットであると共に、RF信号の周波数は好適には13.56MHzである。より一般的には、電極1の単位表面積あたりのRF信号の電力は好適には0.1~30ワット/cm、より好適には1.6~8ワット/cmの範囲である。
【0092】
これにより、ナノメートル粒子の被覆の粗さ(すなわち、単位体積あたりの面積)を最大限にすることができる。かかる効果は、図2(a)~(c)に示されている画像で認識することができ、これらの各画像では、標準寸法の電極でそれぞれ20W,70W及び120Wの電力レベルを用いて製造された電極1の第1の部分(すなわち、これを構成する同心層粒子11)が示されている。図8は、複数の異なるRF電力レベルにおける粗さ係数とBET比面積の傾向を示している。RF電力を高くすると粗さ係数が増加してBET比面積が縮小し、粗さ係数及びBET比面積は供給されるRF電力と厳密に相関することが認識できる。
【0093】
つまり合成工程では、RF信号発生器から出力される高周波信号の電力は、電極1の第1の部分12の(所望の)粗さを表す粗さ係数に基づいて決定される。
【0094】
このようにして粗さ係数を制御し、電極における電位差を縮小してフロー電池の電流密度及び/又はエネルギー密度を増加させることができる。
【0095】
上記の実施形態に対して追加的又は代替的に、堆積工程において、電極1の第1の部分12の単位体積あたりの所望の活性領域密度を表す所望の粗さ係数に基づいて定まる速度で電極1の第1の部分12に粒子の流れを衝突させることにより、電極1の第1の部分12(すなわち集合したナノ粒子)の単位体積あたりの活性領域密度を表す粗さ係数を変化及び/又は制御することができる。上記の速度は、衝撃チャンバ内に入れられた電極1及び/若しくは合成チャンバの温度を変化させることにより、並びに/又は、両チャンバ間の圧力差を変化させることにより、並びに/又は、堆積先の電極1の表面とナノ粒子が出てくるノズルとの間の距離を変化させること等により、決定及び/又は制御することができる。
【0096】
粗さ係数を制御することにより、電極における電位差を縮小してフロー電池の電流密度及び/又はエネルギー密度を増加させることができる。
【0097】
図9は、粗さ係数が285μm-1の第1の部分を、担持基板として用いられる29AA電極から成る第2の部分13に堆積したものを備えた電極1を(複数の異なる拡大率レベルで)示す。活性元素としてバナジウムを用いたフロー電池での使用のための実際の動作条件下で、上記の電極の試験を行った。
【0098】
この試験により、厚さ4μmの本発明の電極をインターディジット形の流れ分配器に結合することにより、電解液と接触する単位表面積あたりの電流値が最大となると共に、厚さ1μmの本発明の電極をサーペンタイン形の流れ分配器に結合することにより、電解液と接触する単位表面積あたりの電流値が最大となることが判明した。
【0099】
具体的には、負極として、厚さ4μmの第1の部分12を有する本発明の電極1をインターディジット形の流れ分配器22に結合したものと、正極として、従来技術の電極を第2のインターディジット形の流れ分配器22に結合したものと、備えた単電池を試験した。充放電サイクルを実施することにより、電極1をインターディジット形の流れ分配器22に結合したものは、未処置の電極と比較して過電位を低減できることが観測できた。従って、放電電流が同じである場合、本発明の電極1とインターディジット形の流れ分配器22とを結合した構成により、効率を向上して排出の深さを伸ばすことができ、これにより電池Bの(有用な)容量を増大させることができる。
【0100】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を測定することにより高周波抵抗(HFR)パラメータを計算した後、いわゆるIR補正を行うためにイオン交換膜のオーム損失の寄与分を差し引くことができた。この補正により、電解質との接触面積が25cmである電極1をインターディジット形の流れ分配器22に結合したものは、電解質の流れの体積流量が100ml/minである場合、単位表面積あたりの放電電流が300mA/cmで、80%超の非常に高い効率値に達することができた。ここで注目すべき点として、電解質と接触する(巨視的な)面積が同じ(25cm)の従来技術の電極すなわちナノ粒子の層の無い電極は、同一の動作条件である場合、80%超の効率値で単位表面積あたりの放電電流値が100mA/cmに達した。よって、従来技術の電極に代えて本発明の電極1にインターディジット形の流れ分配器22を結合することにより、バナジウムフロー電池の電力密度を3倍にすることができる。
【0101】
上記実施形態と組み合わせて、例えば負極電極における水素の形成を低減する機能及び/又は正極電極の高電圧安定性を向上する機能等の特殊な機能を実現するために最適化されたナノメートル層(0.1~50nm)を電極1に被覆することができる。一般にこの被覆は、pH及び正極又は負極の電極の電圧状態下で安定的な材料であって、バナジウムの酸化還元反応に対して高い触媒活性を有すると共に、水素発生に関して不活性である材料から成ることができ、かかる材料は例えば、グラフェン、還元酸化グラフェン、窒化チタン(TiN)、酸窒化チタン(TiO、0<x<2)、酸化モリブデン(MoO、0<x<3)、酸化タングステン(WO0<x<3)、酸窒化タングステン、窒化タングステン、酸化錫(SnO、0<x≦2)、インジウム、酸化インジウム、ビスマス、テルル、マンガン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ガリウム、鉛、ランタン、セリウム及び/若しくは他のランタニド、チタン、モリブデン、タングステン、鉄、アルミニウム、シリコン、ゲルマニウム、ホウ素、銀、銀の酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物及びカルコゲニド等であり、例えばO,N,F,P,S,Cl,Se,Br,I及びその化合物(例えば硫黄と酸素、窒素と酸素、リンと酸素、又は塩素と酸素の化合物)等のアニオン基と有機官能性分子とを用いることにより、他の可能な官能化を実現することもできる。かかる被覆は、電極1の劣化を低減し、及び/又は水酸化反応に対する電極1の活性度を低減するように選択され、これによりOの生成やHを伴うOの還元とが生じる。さらに、被覆を最適化することによって、負極電極における最小電位を低減できると共に正極電極における最大電位を増大させることができ、これにより電池が動作可能な最大電圧範囲が拡大する。これにより、より大きな電流を供給又は吸収することが可能になるという利点が奏される。従って、電池Bの耐用年数を延ばすことができ、より効果的なピークシェービング、負荷シフト及び市場調整(すなわち、低コストで入手可能なときに大量の電気エネルギーを貯蔵して後の時期により高い価格で再販する等)を提供することができる。
【0102】
もちろん、上記にて説明した例について多くの変形形態を実施することも可能である。
【0103】
上記にて本発明の可能な変形形態の一部を説明したが、当業者であれば他の実施形態も実際に実施することができ、いくつかの要素を他の技術的に均等な要素に置き換えることができる。したがって、本発明は、上記にて例示した実施形態例に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲にて特定される基本的な発明の思想から逸脱することなく、様々な修正、改良、均等な部品および要素の置換を受けることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】