(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】導電性要素
(51)【国際特許分類】
H01B 1/18 20060101AFI20230508BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20230508BHJP
C01B 32/16 20170101ALI20230508BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
H01B1/18
C25D7/00 Z
C25D7/00 R
C01B32/16
H01B5/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558128
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 GB2021050712
(87)【国際公開番号】W WO2021191601
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521115100
【氏名又は名称】クワンタム・コンダクターズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】フランクス,ジョン・エドワード
【テーマコード(参考)】
4G146
4K024
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AD15
4G146AD22
4G146BA42
4G146BC09
4G146BC27
4G146CB02
4G146CB03
4G146CB19
4G146CB34
4G146DA07
4K024AA09
4K024AB01
4K024BA11
4K024BB09
4K024BC08
4K024CA04
4K024CA07
4K024CB05
5G301DA06
5G301DA18
5G307BA03
5G307BB02
5G307BC10
(57)【要約】
テープ又はワイヤなどの導電性要素前駆体及び導電性要素の製造方法が提供される。方法は、複数の開口部を有する金属基材上に複数のカーボンナノチューブを成長させることを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材及び複数のカーボンナノチューブを備えた導電性要素前駆体であって、
前記金属基材は、上面及び下面、並びに複数の開口部を有し、前記複数の開口部の各々は、前記基材を通って前記上面と前記下面との間に延びる壁によって画定され、
前記複数のカーボンナノチューブは、前記複数の開口部の各々の前記壁上に形成されている、
導電性要素前駆体。
【請求項2】
前記複数の開口部の各々が、前記基材の前記上面に形状を形成する、請求項1に記載の導電性要素前駆体。
【請求項3】
前記複数の開口部の各々が、前記基材の前記上面に形状を形成し、前記基材の前記下面に対応する形状を形成する、請求項1に記載の導電性要素前駆体。
【請求項4】
前記複数の開口部の各々が、前記上面から前記下面まで、実質的に一定の断面を有する、請求項3に記載の導電性要素前駆体。
【請求項5】
前記複数の開口部の前記形状が、円形セクションを備えた形状を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項6】
前記複数の開口部の前記形状が、細長形状を含み、前記細長形状は、長さ方向軸線を有する、請求項2~5のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項7】
前記細長形状が、2つの平行な辺を備える、請求項6に記載の導電性要素前駆体。
【請求項8】
前記細長形状の前記2つの平行な辺が、前記細長形状の前記長さ方向軸線に対して実質的に平行である、請求項7に記載の導電性要素前駆体。
【請求項9】
2つの平行な辺を備えた前記細長形状が、第一の円形セクションをさらに備え、前記第一の円形セクションは、前記平行な辺の一方の第一の端部を、前記平行な辺の他方の第一の端部と接続する、請求項7又は請求項8に記載の導電性要素前駆体。
【請求項10】
2つの平行な辺を備えた前記細長形状が、第二の円形セクションをさらに備え、前記第二の円形セクションは、前記平行な辺の一方の第二の端部を、前記平行な辺の他方の第二の端部と接続する、請求項9に記載の導電性要素前駆体。
【請求項11】
前記細長形状が、各角が丸められた角である長方形の形態である、請求項7又は請求項8に記載の導電性要素前駆体。
【請求項12】
前記細長形状が、前記平行な辺の間に位置して、前記平行な辺に対して平行に延びている対称面を有する、請求項10又は請求項11に記載の導電性要素前駆体。
【請求項13】
前記平行な辺の各々が、0.5mm超の長さを有する、請求項12に記載の導電性要素前駆体。
【請求項14】
前記細長形状の前記平行な辺の間の距離が、50μm~500μmである、請求項7~13のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項15】
前記複数の開口部の前記形状が、複数の前記細長形状を含み、前記細長形状の各々の前記長さ方向軸線が、互いに対して実質的に平行である、請求項6~14のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項16】
前記細長形状の各々の前記長さ方向軸線が、前記上面のエッジ部に対して実質的に平行である、請求項15に記載の導電性要素前駆体。
【請求項17】
前記複数の開口部の前記形状が、第一の複数の前記細長形状及び第二の複数の前記細長形状を含み、前記第一の複数の細長形状の各々の前記長さ方向軸線は、互いに対して実質的に平行であり、及び前記第二の複数の細長形状の各々の前記長さ方向軸線は、互いに対して実質的に平行であり、前記第一の複数の細長形状の前記長さ方向軸線は、前記第二の複数の細長形状の前記長さ方向軸線に対して実質的に平行ではない、請求項6~14のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項18】
前記複数の開口部の前記形状が、2つ以上の異なる形状を含む、請求項2~17のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項19】
前記複数の開口部が、前記基材の前記上面に繰り返しパターンを形成する、請求項1~18のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項20】
隣接する開口部間の最短距離が、100μm以下である、請求項1~19のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項21】
隣接する開口部間の前記最短距離が、細長形状の前記長さ方向軸線に対して垂直である、請求項6に直接的又は間接的に従属する場合における請求項20に記載の導電性要素前駆体。
【請求項22】
前記複数の開口部が、前記開口部が存在する前記上面領域の面積の70%以上を占める、請求項1~21のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項23】
前記上面及び前記下面が、前記基材の厚さである距離によって分離されており、前記厚さは、0.5mm以下である、請求項1~22のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項24】
前記基材が、前記上面に沿って延びる長さと、前記上面に沿って延びる幅とを有し、前記長さは、前記幅に対して垂直であり、長さ対幅比は、2:1以上である、請求項1~23のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項25】
前記上面及び前記下面が、前記基材の前記厚さである距離によって分離されており、隣接する開口部間の前記最短距離が、前記基材の前記厚さ未満である、請求項1~24のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項26】
さらなるカーボンナノチューブが、前記上面及び前記下面に形成されている、請求項1
~25のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項27】
前記複数のカーボンナノチューブのカーボンナノチューブが、金属材料によって少なくとも部分的にコーティングされている、請求項1~26のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項28】
前記金属材料が、銅を含む、請求項27に記載の導電性要素前駆体。
【請求項29】
前記金属基材が、銅を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項30】
前記金属基材が、前記導電性要素前駆体を巻くことができるように構成されている、請求項1~29のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体。
【請求項31】
前記導電性要素前駆体が、巻かれた構成である、請求項30に記載の導電性要素前駆体を備えたインサート。
【請求項32】
前記導電性要素前駆体が、回転軸線の周りに、前記回転軸線が細長形状の前記長さ方向軸線に対して垂直であるように巻かれている、請求項6に直接的又は間接的に従属する場合における請求項31に記載のインサート。
【請求項33】
金属材料を含むマトリックス、
前記マトリックス中にあって、互いに実質的に整列されている第一の複数のカーボンナノチューブ、及び
前記マトリックス中にあって、互いに実質的に整列されている第二の複数のカーボンナノチューブ、
を備え、前記第一の複数のカーボンナノチューブは、前記第二の複数のカーボンナノチューブと実質的に整列されていない、導電性要素。
【請求項34】
前記第一の複数のカーボンナノチューブが、前記マトリックス中の全カーボンナノチューブの少なくとも10%を占め、前記第二の複数のカーボンナノチューブが、前記マトリックス中の全カーボンナノチューブの少なくとも10%を占める、請求項33に記載の導電性要素。
【請求項35】
シートの形態である、請求項33又は請求項34に記載の導電性要素。
【請求項36】
導電性要素前駆体の製造方法であって、以下の工程、
金属基材を入手すること、及び
前記複数の開口部の各々の前記壁上に複数のカーボンナノチューブを形成すること、
を含み、
ここで、前記金属基材は、上面及び下面、並びに複数の開口部を有し、前記複数の開口部の各々は、前記基材を通って前記上面と前記下面との間に延びる壁によって画定されている、
方法。
【請求項37】
前記複数のカーボンナノチューブを形成する前記工程が、化学蒸着を用いる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記複数のカーボンナノチューブのカーボンナノチューブを、金属材料でコーティングする工程をさらに含む、請求項36又は請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記カーボンナノチューブをコーティングする前記工程が、電気めっきすることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記カーボンナノチューブをコーティングする前記工程が、化学蒸着を介して前記カーボンナノチューブを前記金属材料で装飾すること、及び、続いて前記カーボンナノチューブを前記金属材料で電気めっきすることを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
金属基材を入手する前記工程が、
金属基材を提供する工程、及び
前記金属基材から材料を除去して複数の開口部を形成する工程、
を含む、請求項36~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
材料を除去する前記工程が、レーザーカッティングを用いる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
請求項1~30のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体を形成する、請求項36~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
インサートの製造方法であって、請求項36~43のいずれか一項に従って前記導電性要素前駆体を製造することを含み、及び、前記基材を巻いて前記インサートを形成する工程をさらに含む、方法。
【請求項45】
前記巻く工程が、前記基材を金属ボビンの周りに巻くことを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記基材が、前記巻き工程の前に前記金属ボビンに固定される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記巻かれた基材を上に備えた前記金属ボビンが、金属スリーブ中に配置されて前記インサートを形成する、請求項45又は請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記金属ボビン及び前記金属スリーブが、銅を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
導電性要素の製造方法であって、請求項44~48のいずれか一項に記載のインサートを製造すること、及び前記インサートを延伸して、その長さを増加させ、前記導電性要素を形成すること、を含む、方法。
【請求項50】
前記細長形状の前記長さ方向軸線が、前記延伸工程の延伸方向に対して垂直である、請求項6に直接的又は間接的に従属する場合における請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記延伸工程の後に、アニーリング工程をさらに含む、請求項49又は請求項50に記載の方法。
【請求項52】
さらなる延伸工程及びさらなるアニーリング工程をさらに含んで前記導電性要素を形成する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記導電性要素が、ワイヤの形態である、請求項49~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
導電性要素の製造方法であって、請求項36~43のいずれか一項に従って前記導電性要素前駆体を製造することを含み、前記金属基材を、前記導電性要素が形成されるように圧縮することをさらに含む、方法。
【請求項55】
請求項36~43のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる導電性要素前駆体。
【請求項56】
請求項44~48のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるインサート。
【請求項57】
請求項49~54のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる導電性要素。
【請求項58】
前記複数のカーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブを含む、請求項1~30、及び55のいずれか一項に記載の導電性要素前駆体、請求項31、32、及び56のいずれか一項に記載のインサート、又は請求項33~35、及び57のいずれか一項に記載の導電性要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性要素前駆体の製造方法、及び導電性要素、特にワイヤ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性要素、特に配線は、我々の日常生活の至る所に存在する。導電体は、ほんの数例の用途を挙げると、航空機、自動車、宇宙船、及び遠距離送電のための電力ケーブルに存在する。これらの用途の各々において、電流容量を増加させること、抵抗を低下させること、並びに/又はこれらのケーブルの重量を低下させること及び/若しくは必要なケーブルのサイズを低下させることは有利である。航空宇宙及び自動車用途におけるそのような重量の低下は、燃料消費量及びCO2排出量を大きく低減する。電流容量の増加は、電力ケーブルを通して電気を送る場合のロスを低減することができる。したがって、改善された導電性要素、及び必要な導電性要素を形成するために用いることができる前駆体を製造することが求められている。特に、ワイヤの形態である改善された導電性要素が求められている。
【0003】
導電性要素の導電率特性を調節することが有益となる用途も、数多く存在する。特に、導電性要素内の特定の方向又はパターンで最も高い導電率が得られることを確実にすることである。したがって、導電性要素の導電率特性を最適化し、制御する能力を向上させることが求められている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、金属基材及び複数のカーボンナノチューブを備えた導電性要素前駆体を提供し、金属基材は、上面及び下面、並びに複数の開口部を有し、複数の開口部の各々は、基材を通って上面と下面との間に延びる壁によって画定され、複数のカーボンナノチューブは、複数の開口部の各々の壁上に形成されている。
【0005】
本発明はまた、導電性要素前駆体の製造方法も提供し、方法は、以下の工程、金属基材を入手することであって、金属基材は、上面及び下面、並びに複数の開口部を有し、複数の開口部の各々は、基材を通って上面と下面との間に延びる壁によって画定されている、入手すること;及び、複数の開口部の各々の壁上に複数のカーボンナノチューブを形成すること、を含む。
【0006】
複数の開口部を備えた金属基材を用いることによって、カーボンナノチューブの配向及び分布を制御する能力が向上される。カーボンナノチューブは、開口部の壁上に形成されることから、開口部の構成を用いて、所望されるようにカーボンナノチューブを分布及び/又は配向させることができる。このことにより、最終導電性要素において所望されるようにカーボンナノチューブを配置及び配向させる目的でのさらなる分布及び/又は再配向プロセスの必要性を低減することができる。本発明は、基材の平面内にカーボンナノチューブを配向させるのに特に有用である。
【0007】
基材を通って延びる開口部が存在することはまた、カーボンナノチューブの形成が可能である面をさらに提供し、最終導電性要素に組み込むことができるカーボンナノチューブの割合が増加される。
【0008】
本発明はまた、本明細書で述べる導電性要素前駆体を備えたインサートも提供し、この場合、導電性要素前駆体は、巻かれた構成である。
本発明はさらに、インサートの製造方法も提供し、方法は、本明細書で述べる導電性要素前駆体を製造することを含み、さらに、基材を巻いてインサートを形成する工程を含む。
【0009】
インサートでは、基材を巻くことによってカーボンナノチューブを層状の構成に形成することができる。このことによって、有用な構成である本明細書で述べる導電性要素前駆体の利点が得られる。インサートは、概略円筒形態であり得ることから、延伸工程でのさらなる処理に特に適する導電性要素前駆体の形態である。
【0010】
本発明はまた、金属材料を含むマトリックス;マトリックス中にあって、互いに実質的に整列されている第一の複数のカーボンナノチューブ;及びマトリックス中にあって、互いに実質的に整列されている第二の複数のカーボンナノチューブ、を備えた導電性要素も提供し、第一の複数のカーボンナノチューブは、第二の複数のカーボンナノチューブと実質的に整列されていない。
【0011】
少なくとも2つの調節された配向であるカーボンナノチューブを有する導電性要素により、カーボンナノチューブの方向特性に基づいた所望される方向特性を有する導電性要素の製造が可能となる。そのような導電性要素を製造する能力は、本明細書で述べる手法によって可能とされたものである。
【0012】
本発明はさらに、導電性要素の製造方法も提供し、方法は、本明細書で述べるインサートを製造すること、及びスウェージング、圧延、又は延伸によってインサートの長さを延長して導電性要素を形成すること、を含む。これは、ワイヤの形態の導電性要素を製造する場合に特に有効な手法である。
【0013】
本発明はまた、導電性要素の製造方法を提供し、方法は、本明細書で述べる導電性要素前駆体を製造することを含み、さらに、導電性要素が形成されるように金属基材を圧縮することを含む。これは、導電性テープなどのより平面である形態の導電性要素を製造する場合に特に有効な手法である。
【0014】
複数のカーボンナノチューブのカーボンナノチューブは、少なくとも部分的に金属材料でコーティングされていてよい。このことは、カーボンナノチューブが金属材料と緊密に接触することを確実にする手助けとなり、カーボンナノチューブの導電性要素への組み込みを補助することができる。さらに、カーボンナノチューブをコーティングすることによって、続いての処理工程におけるカーボンナノチューブに対する保護を得ることもできる。このことは、導電性要素に存在する良好な品質の導電性カーボンナノチューブを提供する補助となり、したがって、カーボンナノチューブが金属マトリックスに電気的に結合され、導電性に寄与する高品質の導電性要素が提供される。
【0015】
複数の開口部を備えた基材を用いることは、コーティングされたカーボンナノチューブを得る補助とすることができる。特に、開口部の壁上に形成されたカーボンナノチューブに対して、各開口部において上面側及び下面側から、複数のカーボンナノチューブの側面へのコーティングプロセスのアクセスが可能となる。コーティングプロセスはまた、上面及び/又は下面にあるいずれのカーボンナノチューブの側面に対しても、より容易にアクセスすることができる。全体として、複数の開口部を備えた基材は、開口部のない基材上にカーボンナノチューブを形成する場合と比較して、カーボンナノチューブのより多くの側面を露出させ、したがって、カーボンナノチューブに対するコーティングプロセスのアクセスが向上される。
【0016】
導電性要素は、箔若しくはシートの形態を含むいかなる形態であってもよく、又は概略細長形態であってもよい。したがって、本発明は、ワイヤ又はテープの形態の導電性要素の製造に特に適している。ワイヤは、概略円形又は正方形の断面を有し、一方テープは、概略長方形の断面を有する。導電性要素の最も好ましい形態は、ワイヤの形態である。
【0017】
金属基材は、箔又はシートの形態であってよい。本明細書で用いられる場合、シートは、厚さ方向に対して垂直である寸法と比較して相対的に小さい厚さ寸法を有する平面の形態を有する。特に、シートは、好ましくは、厚さ方向に対して垂直であるいかなる寸法に対しても10分の1未満である厚さ寸法を有する。
【0018】
導電性テープなどの導電性要素は、導電性要素前駆体を、その長さを増加させ、導電性テープを形成するように圧縮することによって製造することができる。導電性要素の圧縮は、圧縮工程に先立って基材を巻いて又は巻くことなく行われ得る。圧縮工程は、導電性要素前駆体の断面を変化させる。導電性要素前駆体は、複数の圧縮工程に掛けられてもよい。導電性要素前駆体は、圧縮工程と圧縮工程との間に、本明細書で述べるアニーリング工程に掛けられてもよい。金属圧延プロセスの一般的な考察は、Le and Sutcliffe, International Journal of Mechanical Sciences 43 (2001), p1405-1419で成されている。
【0019】
導電性要素前駆体を、その長さを増加させ、導電性テープを形成するように圧縮する工程は、同時に、金属基材上の複数のカーボンナノチューブに対して、第一の方向にせん断力を適用するために用いることができる。別の選択肢として、せん断力を適用する別の工程が用いられてもよい。そのようなせん断力の存在は、本発明において必須ではないが、カーボンナノチューブの所望される配向を強調する又は作り出す手助けとなり得る。
【0020】
金属材料は、金属を含む。金属材料は、好ましくは、本質的に金属から成り、最も好ましくは、それは、金属から成る。金属材料は、金属合金であってもよい。
方法は、金属基材上に、少なくとも金属基材の開口部の中の壁上に、複数のカーボンナノチューブを形成することを含む。金属基材の開口部は、金属基材の厚さ全体を通して存在する孔である。言い換えると、開口部は、基材をその上面から下面へ貫通する開放経路を提供する。開口部には、基材材料は存在しない。開口部の大きさは、壁によって画定される。言い換えると、壁は、開口部の境界を画定する。壁は、上面と下面との間に存在する基材の内部面である。そのような内部面上にカーボンナノチューブを形成することによって、カーボンナノチューブを、金属材料の塊の中に容易に組み込むことができる。それらはまた、金属基材の平面内に容易に配向させることもできる。このことによって、設計の柔軟性が向上される。
【0021】
壁は、開口部を画定する連続面であり、すなわち、壁が、開口部を完全に画定している。壁は、互いに対して角度を成して延びる別個で識別可能な複数の面から構成されていてもよい。これは、例えば、壁が正方形の断面形状を有する開口部を画定する場合に当てはまり得る。この例の場合、壁は、直角に接する4つの面から構成される。
【0022】
壁は、金属基材の上面及び/又は下面に対して垂直に延び得る。金属基材の上面及び下面は、実質的に平行であり得る。この場合、壁は、上面及び下面の両方に対して垂直に延び得る。開口部の実際の配列は、導電性要素に対する設計要件に基づいて選択され得る。
【0023】
複数の開口部の各々は、基材の上面に形状を形成し得る。言い換えると、上面で見た場合の開口部の輪郭は、識別可能な形状を有する。この形状は、開口部の壁が上面と接している線によって画定される。壁は、なだらかに上面に移行する場合がある。この場合、壁が上面と接する線は、この移行の中間点に沿って延びる。基材の下面にも、対応する形状が形成され得る。同様に、この形状は、開口部の壁が下面と接している線によって画定される。開口部が両方の形状の間に延びていることから、下面にある形状は、上面にある形状に対応しているとされる。
【0024】
基材の上面にある開口部の形状は、基材の下面にある対応する形状と同じであり得る。この場合、開口部は、上面から下面まで実質的に一定の断面を有し得る。開口部の断面は、上面と下面との間を開口部の中心に沿って延びる軸線に対して垂直である領域である。そのような比較的単純な配置によって、開口部の製造がより容易となる。
【0025】
開口部の形状は、円形セクションを備え得る。言い換えると、上面及び/又は下面にある開口部の形状を画定する線が、円形のセクションの形態である線の部分を有し得る。円形のセクションは、好ましくは、開口部の中心に対して凹状である。円形のセクションは、本発明の導電性要素前駆体を形成するための金属基材の処理を補助し得る。特に、円形セクションは、本明細書で述べるセラミック層などの基材上に形成されたいずれの層のクラックも回避する補助となることが見出された。
【0026】
本明細書で述べるように、複数の開口部は、各々、基材の上面及び/又は下面に形状を形成し得る。複数の開口部のこれらの形状の中で、これらの形状の少なくとも一部は、細長形状であり得る。細長形状は、楕円形又は長方形など、幅寸法よりも長い長さ寸法を有する。細長形状は、各々、長さ方向軸線を有する。長さ方向軸線は、形状の2つの辺の間の中間点を、形状の長さに沿って延びる。細長形状を有する開口部を用いることによって、各開口部は、カーボンナノチューブの配向を異方性とすることに寄与することができ、なぜなら、カーボンナノチューブの大部分が、壁の配向に基づいてある特定の方向に配向されることになるからである。別の選択肢として、ある配向が支配的に存在することが回避されるべきである場合は、基材の上面及び/又は下面にある円形の形状からの開口部が用いられてもよい。
【0027】
細長形状の、その長さ方向軸線に沿って測定される長さは、0.5mm以上、1mm以上、又は2mm以上、又は4mm以上であり得る。長さ方向軸線の長さが長いと、カーボンナノチューブが沿って成長し得る所望される配向である壁の長さが長くなる。細長形状は、適切ないかなる長さであってもよいが、50mm以下であり得る。
【0028】
細長形状及びその配向は、導電性要素の所望される最終的な特性に基づいて選択され得る。細長形状は、平行な2つの辺、すなわち、互いに対して平行である2つの辺を備えていてよい。このことは、細長形状の異方性に対して同様に寄与することができる2つの辺が存在するという有益性を有する。さらに、これらの平行な辺は、細長形状の長さ方向軸線に対して実質的に平行であり得る。このことは、これらの平行な辺が、その形状におけるカーボンナノチューブの配向に対する支配的な寄与因子であることを意味する。
【0029】
本明細書で述べるように、形状は、円形セクションを備え得る。形状が、場合によっては平行である2つの直線の辺を備える場合、これらの2つの辺は、少なくとも部分的に、円形セクションによって接続され得る。このことは、平行な辺が存在すると共にこれらの円形セクションが存在することに伴う有益性をもたらす。
【0030】
場合によっては平行である2つの直線の辺を備えた細長形状は、第一の円形セクションを有してよく、この場合、第一の円形セクションは、辺のうちの一方の第一の端部と他方の辺の第一の端部とを接続する。さらに、この細長形状は、第二の円形セクションを備えてよく、この場合、第二の円形セクションは、直線の辺のうちの一方の第二の端部と他方の直線の辺の第二の端部とを接続する。そのような形状は、円形セクションが存在することの有益性と、カーボンナノチューブの分布及び配向に基づく導電性要素の所望される最終特性に寄与する手助けとなる直線の辺の存在とを組み合わせるものである。さらなる有利な形状は、平行な2組の辺である4つの辺を備えた長方形の形状であり、この場合、角の各々は、尖った直角とならないように丸められた角である。
【0031】
一般に、細長形状は、その長さに沿って延びる対称面を有し得る。これにより、細長形状によって誘導される異方性の効果が強調される。細長形状が平行な2つの辺を有する場合、対称面は、平行な辺の間に位置して、平行な辺に対して平行に延び得る。
【0032】
平行な辺は、0.5mm以上、1mm以上、又は2mm以上、又は4mm以上の長さを有し得る。
細長形状を、したがって、基材の面上の開口部を横切る最短距離は、50μm以上、100μm以上、200μm以上、又は好ましくは500μm以上であり得る。細長形状を横切る最短距離は、1mm以下であり得る。細長形状が平行である辺を有する場合、これは、平行な辺間の距離であり得る。このような開口部は、開口部内に実質的な長さのカーボンナノチューブを成長させる。
【0033】
複数の開口部の各々は、共通の特徴を共有していてよく、それらは、本明細書で述べる特徴のいずれであってもよい。例えば、複数の開口部の各々は、基材の上面に細長形状を形成し得る。したがって、形状は、細長いという共通の特徴を有する。しかし、形状は、長さが異なるなど、他の点で異なり得る。このことにより、所望される最終特性に寄与する共通の特徴を使用すると同時に、いくつかの共通しない特徴を有することによってさらに要件を調整することが可能となる。
【0034】
複数の開口部以外に、複数の開口部と共通する特徴を共有していても又は共有していなくてもよいさらなる開口部が存在していてもよい。別の選択肢として、カーボンナノチューブを含有する基材中の唯一の開口部が、複数の開口部であってもよい。
【0035】
複数の開口部の形状が、複数の細長形状を含む場合、細長形状の各々の長さ方向軸線は、互いに対して実質的に平行であり得る。このことは、すべての細長形状が、カーボンナノチューブの配向に対して同様に寄与することを意味する。さらに、長さ方向軸線は、基材の上面のエッジ部に対して平行であってもよい。このことは、配向が基材の全体的形態に関連することを意味し、これは、本明細書で述べる巻き及び延伸の工程などの続いての処理にとって有用であり得る。
【0036】
複数の開口部の形状は、第一の複数の細長形状及び第二の複数の細長形状を含んでよく、この場合、第一の複数の細長形状の各々の長さ方向軸線は、互いに対して実質的に平行であり、及び第二の複数の細長形状の各々の長さ方向軸線は、互いに対して実質的に平行であることは特に留意されたい。この場合、第一の複数の細長形状の長さ方向軸線は、第二の複数の細長形状の長さ方向軸線に対して実質的に平行ではない。加えて、さらなる1又は複数種類の複数の細長形状が存在してもよく、この場合、これらの細長形状の各々の長さ方向軸線は、その種類の複数の中では互いに対して実質的に平行であり、及びこれらの細長形状の各々の長さ方向軸線は、他の種類の複数の細長形状のいずれに対しても、実質的に平行ではない。特に、3種類のそのような複数の細長形状、又は4種類のそのような複数の細長形状が存在し得る。これは、有利には、基材の機械的特性の調節を含む、より多くの別個の方向への導電性要素の特性の調節を可能とするものである。
【0037】
複数の開口部の形状は、2つ以上の異なる形状を含み得る。これにより、導電性要素の最終特性の柔軟な調節をさらに可能とすることができる。別の選択肢として、複数の開口部は、上面及び/又は下面においてすべて同じ形状を有していてもよい。形状が同じであるのは、それらがすべての点で同一である場合であり、異なっているのは、異なるサイズを有するなど、それらが少なくとも1つの点で異なる場合である。
【0038】
複数の開口部は、基材の上面及び/又は下面に繰り返しパターンを形成し得る。繰り返しパターンは、基材全体にわたって、繰り返しパターンの単位の所望される効果を強化する。繰り返しパターンは、パターンの単位が基材全体にわたって規則的な間隔で繰り返されるいずれかのパターンである。
【0039】
隣接する開口部間の最短距離は、100μm以下であり、好ましくは50μm以下である。これは、基材に存在する複数の開口部のすべての開口部において、隣接する開口部間の最短距離であることが好ましい。このことにより、存在する基材の量に対して高い割合のカーボンナノチューブが存在することが確保される。開口部が上面及び/又は下面に細長形状を形成する場合、最短距離は、その長さ方向軸線に対して垂直であり得る。このことにより、目的の方向のカーボンナノチューブの高い割合を確保することができる。
【0040】
全体として、複数の開口部は、開口部が存在する上面領域の面積の70%以上を占め得る。好ましくは、開口部は、開口部が存在する上面領域の75%以上を、最も好ましくは80%以上を占める。開口部が存在する上面領域は、最外部にある開口部によって画定される領域である。開口部の存在率が高いことにより、最終導電性要素中におけるカーボンナノチューブの高い割合が可能となる。
【0041】
開口部は、適切ないかなる方法によって金属基材に形成されてもよい。特に、開口部は、基材から材料を除去することによって形成され得る。基材のレーザーカッティングが特に有効な方法であることが見出された。フォトリソグラフィは、有効であることが見出された開口部を形成するための別の手法である。
【0042】
上面と下面とは、基材の厚さである距離によって分離されている。隣接する開口部間の最短距離は、基材の厚さ未満であり得る。このことにより、開口部内の壁によってもたらされる面の量に対する基材の上面及び下面における面の量が減少する。このことにより、開口部の壁によって配向が決められるカーボンナノチューブの割合を、上面又は下面によって決められるカーボンナノチューブと比較して増加させることが可能となる。
【0043】
カーボンナノチューブは、金属基材の第一の面である上面に成長し得る。カーボンナノチューブは、金属基材の第二の面である下面にも成長し得る。これは、カーボンナノチューブの成長プロセスの過程で、カーボンナノチューブを成長させるべきすべての面を露出させることによって実現することができる。
【0044】
上面及び下面は、反対側の面であってよい。金属基材が箔又はシートの形態である場合、上面及び下面は、箔又はシートの2つの主面であってよい。
カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブが面から離れる方向へ成長するように、金属基材の面上で形成され得る。カーボンナノチューブの長さ方向軸線は、実質的に整列され得る。カーボンナノチューブの長さ方向軸線は、それらが上に成長する、複数の開口部の各々を画定する壁を含む金属基材の面の平面に対して実質的に垂直であり得る。上面にあるいずれのカーボンナノチューブの長さ方向軸線も、金属基材の上面の平面に対して実質的に垂直であり得る。下面にあるいずれのカーボンナノチューブの長さ方向軸線も、金属基材の下面の平面に対して実質的に垂直であり得る。カーボンナノチューブの整列は、開口部の壁から上面又は下面に変わる領域で比較的急に移行することが見出された。本明細書で説明されるように、このことが、続いての処理のためにカーボンナノチューブの側面を露出させる。
【0045】
カーボンナノチューブの成長時、平面の基材は、上面と下面とが実質的に鉛直方向に配向されるように配向され得る。このことにより、成長プロセスのための開口部への良好なアクセスが可能となる。
【0046】
本明細書において鉛直及び水平に言及する場合、鉛直は、鉛直線によって示される重力の方向として定義される。水平方向は、鉛直方向に対して垂直である。
本明細書で用いられる場合、「実質的に整列されている」の用語は、カーボンナノチューブが、大部分のカーボンナノチューブの長さ方向軸線が45°の範囲内、好ましくは25°以内、又は好ましくは20°若しくは15°若しくは10°以内、又は最も好ましくは5°以内であるように配向されていることを意味する。実質的にすべての又はすべてのカーボンナノチューブの長さ方向軸線が、これらの範囲内であり得る。
【0047】
本明細書で用いられる場合、カーボンナノチューブに関する「実質的に垂直」又は「実質的に平行」の用語は、大部分のカーボンナノチューブが、その長さ方向軸線がそれぞれ垂直方向又は平行方向の22.5°以内に存在するように、好ましくは20°若しくは15°若しくは10°以内に、又は最も好ましくは5°以内に存在するように配向されていることを意味する。実質的にすべての又はすべてのカーボンナノチューブの長さ方向軸線が、これらの範囲内であり得る。
【0048】
面又は軸線に関する「実質的に垂直」又は「実質的に平行」の用語は、面又は軸線が、それぞれ垂直又は平行の5°以内、好ましくは2°以内、最も好ましくは1°以内であることを意味する。
【0049】
金属基材上にカーボンナノチューブを形成することによって、得られるカーボンナノチューブは、分離された状態であり、すなわち、大部分のカーボンナノチューブは、別々のカーボンナノチューブとして存在する。このことによって、その導電特性を、導電性要素に組み込まれた場合にも維持することができる。これは、束の状態で存在するカーボンナノチューブとは対照的であり、その場合、導電特性が減少してしまう。続いてのカーボンナノチューブのコーティングは、ナノチューブを分離された状態に維持することを補助することができる。
【0050】
本発明において、カーボンナノチューブは、基材上に成長する。特に、カーボンナノチューブは、複数の開口部の各々の壁上に成長する。
本発明において、カーボンナノチューブは、基材上に成長し、カーボンナノチューブは、導電性要素前駆体及び最終導電性要素製品を製造するための続いてのプロセスを通して、基材上に維持される。これは、カーボンナノチューブの取り扱い易さを高める。
【0051】
複数のカーボンナノチューブを金属基材上に形成する工程は、複数のカーボンナノチューブを金属基材上に直接形成することを含み得る。別の選択肢として、好ましくは、金属基材と成長するカーボンナノチューブとの間に、中間材料層が存在する。
【0052】
複数のカーボンナノチューブを金属基材上に形成するいかなる方法が用いられてもよく、特には、整列されたカーボンナノチューブを生成する方法が用いられてよい。そのような手法は、アセチレン、ブタン、又はメタンなどの炭化水素ガスを、フェロセン又は鉄フタロシアニンの存在下で熱分解することを含む。
【0053】
特に好ましい手法は、化学蒸着を含む。用いられる化学蒸着プロセスは、直接液体注入化学蒸着(DLICVD)手法であってよい。この手法では、液体炭化水素前駆体が注入され、蒸発され、続いて反応チャンバーに運ばれ、そこで、カーボンナノチューブが基材上に堆積され、成長する。様々な種類の液体炭化水素が、この手法で用いられてよく、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、又はキシレンである。
【0054】
カーボンナノチューブの成長を開始するために、触媒が存在してもよい。この触媒は、金属基材上に存在してよい。金属基材上での触媒の分布は、本質的にランダムであってよい。しかし、DLICVDプロセスでは、触媒が炭化水素と共に液体中に含まれて、炭化水素と共に注入され、反応チャンバーへ導入されることが特に好ましい。触媒の使用は、金属基材の面上に複数のカーボンナノチューブを、それらが分離された状態であるように形成する補助となる。
【0055】
カーボンナノチューブの成長を補助するための考え得る触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、及び白金が挙げられる。触媒が液体炭化水素と共に導入されることになる場合、触媒金属の前駆体、例えば金属塩及び有機金属化合物が選択される。特に好ましい化合物は、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、ルテノセン、鉄フタロシアニン、及びニッケルフタロシアニンである。
【0056】
金属触媒前駆体が、液体炭化水素と組み合わされる場合、それは、0.2~15重量%の濃度であってよい。好ましくは、1~10重量%、又は1.5~7重量%、最も好ましくは、1.5~5重量%である。特に好ましい量は、2.5重量%である。
【0057】
DLICVDプロセスでは、注入される液体は、好ましくは、液滴の形態で導入される。このことにより、液体を蒸発させ、反応チャンバーへ運ぶことができる容易さが高められる。
【0058】
熱分解は、600~1100℃、好ましくは700~1000℃、最も好ましくは700~900℃の温度で行われる。
基材は、基材自体の抵抗加熱を介して、すなわち、基材に電流を流すことによって、反応温度まで加熱され得る。しかし、本発明では、別個の加熱源が熱を供給することが好ましい。
【0059】
熱分解は、必要とされる量のカーボンナノチューブを形成するために適するいかなる時間の長さにわたって行われてもよい。例えば、熱分解は、少なくとも5分間にわたって行われてよい。熱分解は、少なくとも10分間、又は少なくとも15分間にわたって行われてもよい。
【0060】
液滴の形態及び液滴が注入される頻度は、プロセスによる必要に応じて様々であってよい。例えば、各液滴は、2~100μlの体積を有していてよい。液滴は、1分間あたり0.9~1200回注入の頻度で注入されてよく、場合によっては1分間あたり1~60回注入の速度、好ましくは1分間あたり20~30回注入であってよい。別の選択肢として、液滴は、1分間あたり2000回以上注入の頻度で、例えば1分間あたり3000回注入の頻度で注入されてもよい。そのような高頻度の注入は、特に有効であることが見出された。
【0061】
カーボンナノチューブを形成する前に、金属基材は、その上に形成された層を有していることが好ましい。この層は、金属層であっても、又はセラミック層であってもよい。その場合、ナノチューブは、この層の上に成長することができる。この層は、20~500nmの厚さ、場合によっては400nmの厚さであってよい。セラミック層のための考え得るセラミックとしては、SiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2、Y2O3、SiC、SiCN、SiON、及びSiCNが挙げられる。特に好ましいセラミックは、SiO2である。この層のための考え得る金属材料としては、ニッケルが挙げられる。
【0062】
この層は、複数のカーボンナノチューブを形成する前に、化学蒸着を介して堆積されてよい。特に、セラミック層は、DLICVDによって形成されてよい。適切ないかなる前駆体が用いられてもよい。前駆体は、液体中に溶解又は懸濁されてよい。考え得るセラミック前駆体としては、Si(OEt)4、(iPrO)3Al、(BuO)4Zr、(BuO)4Sn、チタンイソプロポキシド、チタンアセチルアセトネート、イットリウムテトラメチルヘプタンジオネート、ジブトキシジアセトキシシラン、又はHMDSが挙げられる。ジブトキシジアセトキシシランの使用が、特に有効であることが見出された。熱分解は、前駆体を確実に分解するのに充分な温度及び圧力で行われる。
【0063】
層の化学蒸着及びナノチューブの化学蒸着は、同じ反応器で行われてよい。別の選択肢として、層の堆積は、ナノチューブの堆積とは別個の反応器で行われてもよい。これは、第一の反応器がカーボンナノチューブの成長に曝されず、したがって、定期的な洗浄を必要としないという利点を有する。また、カーボンナノチューブの堆積に用いられる反応器は、選択的に封鎖され、いかなる浮遊物(stray)及び潜在的に有害であるカーボンナノチューブをも燃焼除去するために、酸素含有ガスを導入することによって洗浄されてよい。したがって、これによって、超清浄で超安全なプロセスを促進することができる。基材の温度は、基材が別個の反応器間を移送される際に維持され得る。このことによって、プロセス全体の効率を高めることができる。
【0064】
一般的に、DLICVDプロセスは、蒸発された後にキャリアガスによって反応チャンバーへ運ばれる液体の注入を含む。そのようなキャリアガスは、通常、不活性ガスである。考え得るキャリアガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素、及び水素、又はこれらの混合物が挙げられる。キャリアガスは、1~5SLMの流量で、好ましくは1~3SLMの流量で供給されてよい。とは言え、反応器サイズに適するいかなるキャリアガス流量が用いられてもよい。
【0065】
カーボンナノチューブの成長は、Sato et al, Carbon 136 (2018), pp 143-149に記載のように、キャリアガス流中にH2O又はCO2が存在することを利用することによって補助することができる。H2O及びCO2の存在は、カーボンナノチューブの均一な成長及び収率の増加のために特に有利である。H2O又はCO2は、カーボンナノチューブの成長段階で用いられ、理論に束縛されるものではないが、これらを追加することが、炭素副生物の除去及び/又は触媒粒子のオストワルド熟成の抑制によって、触媒の失活を防止する補助となるものと考えられる。用いられ得る成長のための他の有用な補助剤としては、ヨウ素及び塩素が挙げられる。
【0066】
複数のカーボンナノチューブの形成工程後、アルゴンを例とする不活性ガスを複数のカーボンナノチューブに吹き付けることによって、いずれの遊離カーボンナノチューブも除去され得る。
【0067】
金属基材は、いかなる金属を含んでいてもよい。金属基材を形成するための考え得る金属としては、パラジウム、白金、金、クロム、マンガン、アルミニウム、ニッケル、及び銅が挙げられる。金属合金が金属基材のために用いられてもよく、例えばスチール鋼である。本発明のための特に好ましい金属基材は、銅である。
【0068】
本発明の方法は、好ましくは、コーティング工程を含む。このコーティング工程の結果、カーボンナノチューブが金属材料でコーティングされる。カーボンナノチューブのコーティングは、好ましくは、カーボンナノチューブが個々に金属材料でコーティングされるように行われる。複数のカーボンナノチューブの各カーボンナノチューブが、金属材料でコーティングされ得る。コーティング工程の結果、カーボンナノチューブが金属材料によって実質的に包含される。このことにより、続いての処理の過程でナノチューブが確実に保護され、また、カーボンナノチューブと結果として得られる導電性要素のマトリックスとの間の良好な界面も確保される。それはまた、カーボンナノチューブの続いての処理の過程において、カーボンナノチューブが束の状態となることを回避する補助とすることもでき、したがって、最終導電性要素に存在する場合のカーボンナノチューブの導電性を維持することができる。
【0069】
コーティング工程の結果、カーボンナノチューブが金属材料中に部分的に、実質的に、又は完全に封入される結果となることから、カーボンナノチューブは、本明細書で述べる続いてのアニーリング工程の過程で保護されることになる。
【0070】
コーティング工程のための考え得る金属材料は、金属基材のための考え得る金属材料として本明細書で列挙される材料から独立して選択され得る。コーティングに用いられる金属材料は、金属基材と同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。コーティングに用いられる金属材料は、基材の金属材料を含んでいてもよい。コーティング工程のための金属材料は、好ましくは銅である。
【0071】
コーティング工程は、過飽和金属塩水溶液又は有機溶液で複数のカーボンナノチューブを浸潤させることによって行うことができる。過飽和金属塩水溶液が用いられる場合、カーボンナノチューブは、浸潤の前に、ナノチューブを親水性とするために酸素プラズマ官能化工程を受けてよい。浸潤の後、複数のナノチューブは、続いて、金属前駆体の析出のために乾燥される。この金属前駆体は、次に、それを金属材料に変換するために、還元され得る。この浸潤及び乾燥工程は、複数回繰り返されて、カーボンナノチューブが所望される度合いまでコーティングされ得る。
【0072】
カーボンナノチューブをコーティングするための特に有利な手法は、化学蒸着を用いる。化学蒸着を用いて、カーボンナノチューブを完全にコーティングしてよい。別の選択肢として、コーティング工程は、2段階で行われてもよい。第一に、カーボンナノチューブは、金属材料でまず装飾されてよく(decorated)、次に、第二の段階を用いて、さらなる金属材料でコーティングが完了されてよい。この初期装飾は、好ましくは、さらなるコーティングと同じ材料である。しかし、初期装飾は、さらなるコーティング工程と異なる材料であってもよい。例えば、ニッケルによる装飾工程が用いられてよく、続いて銅などの異なる材料が、さらなるコーティングのために用いられる。別の選択肢として、初期装飾工程は、さらなるコーティングと同じ材料であるが、初期装飾工程と同時に、又は別個の装飾工程として、さらなる材料が装飾工程で堆積される。本明細書で用いられる場合、「装飾される」の用語は、カーボンナノチューブの面上に金属材料の粒子が堆積することを意味する。
【0073】
カーボンナノチューブを金属材料で装飾する第一の段階は、本明細書で詳細に述べるように、過飽和金属塩水溶液若しくは有機溶液による浸潤などの初期浸潤工程を介して行われてよく、又は別の選択肢として、CVD手法を介して行われてもよい。CVD手法を用いることによって、カーボンナノチューブを親水性とするために処理すること又は有機溶媒を用いることを必要とすることなく、カーボンナノチューブをコーティングすることができる。この装飾工程において、適切ないかなる金属前駆体が用いられてもよい。初期装飾段階は、続いての水性銅めっきプロセスによってコーティングを完了することができるように、カーボンナノチューブの下塗りを行う。初期装飾工程によって、カーボンナノチューブ全体に金属材料の初期部位を形成することができる。CVD手法は、これの実現において特に有効である。堆積された金属材料のこれらの初期領域は、続いてのカーボンナノチューブの均一コーティングを促進する。さらに、初期装飾工程を行うことによって、カーボンナノチューブを、コーティングの最終段階の前に、本明細書で述べる所望に応じて行われてよいせん断力の適用などの処理工程を受ける際に分離された状態で維持することができる。
【0074】
カーボンナノチューブの電気特性は、ドープ工程を含めることによって改善することができ、この場合、カーボンナノチューブは、ヨウ素などのハロゲンの分子によるCVD手法を用いて装飾される。この工程は、金属材料でカーボンナノチューブを装飾する工程の前、又は後、又は途中、又はそれと同時に行われてよい。CVDを介してヨウ素をドープするのに用いられる適切な溶液は、トルエン中のヨードエタン(C2H5I)の溶液、特にトルエン1部に対して2部のヨードエタンの溶液である。CVDで用いるための別の選択肢としての溶液は、トルエン中に溶解したI2結晶である。
【0075】
セラミック又は金属の中間層を堆積する工程(場合によっては第一の反応器で)、カーボンナノチューブを堆積する工程(場合によっては第二の反応器で)、及びカーボンナノチューブを装飾する工程(場合によっては第三の反応器で)において、CVDを用いることが特に有利である。これらの工程の各々においてCVDを用いることは、プロセス全体の効率を高めるはずである。また、各工程において別々の反応器(チャンバー)を用いることは、超清浄で超安全なプロセスを維持する補助にもなり、各反応器は、選択的に、他の反応器から隔離されていてよい。
【0076】
装飾段階の後、電気めっき工程を用いることによってコーティングを仕上げることができる。この方法では、金属材料は、ナノチューブ上に電気めっきされる。この手法により、コーティング工程によるカーボンナノチューブの良好な被覆が確保される。
【0077】
電気めっき工程では、カーボンナノチューブを上に備えた金属基材が、電解セルのカソードであり、一方アノードは、アノードバッグ中の電解グレード金属コーティング材料であり得る。金属基材は、導電性クランプを介して電流供給源と電気的に接続され得る。複数の導電性クランプが、金属基材の反対側の端部に接続され得る。セルは、均質なコーティングを提供する補助とするために、金属基材に対して幾何学的に平行に延びるアノードバッグを用いて設置され得る。電気めっき浴はCuSO4を含み得る。電気めっき浴は、さらに、硫酸、塩化ナトリウム、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、及び/又はドデシル硫酸ナトリウムを含んでよい。セチルトリメチルアンモニウムブロミド及びオクチルフェノキシポリエトキシエタノールなど、カチオン性及び非イオン性界面活性剤の組み合わせを含む電気めっき浴が、特に有効であると見出された。
【0078】
電気めっき浴は、最大濃度に対して10~100%の濃度を有してよい。特に、濃度は、最大濃度に対して30%~60%であってよく、例えば40%である。
電気めっき浴は、電気めっきプロセスの間、-20℃~50℃の温度で維持されてよい。特に、温度は、-10℃~10℃であってよく、例えば-5℃である。
【0079】
電気めっき浴は、電気めっきプロセスの間、撹拌されてよい。撹拌の適切な方法としては、スパージング、かき混ぜ(例えば、マグネティックスターラーを用いることによる)、及び超音波撹拌が挙げられる。
【0080】
電気めっきは、0.1Hz~100kHzのパルスめっき周波数を用いて行われてよく、例えば500Hzである。
電気めっきを用いて、カーボンナノチューブを完全にコーティングしてよい。言い換えると、本明細書で述べる初期装飾工程なしで、電気めっきが用いられてもよい。
【0081】
本発明は、巻き工程を含み得る。この工程では、場合によってはコーティングが成されたカーボンナノチューブを備えた基材が、それ自体に巻き付けられる。言い換えると、カーボンナノチューブが上に形成された基材が、カーペットを巻くようにして巻かれる。したがって、この工程は、カーボンナノチューブを備えた基材を巻いてインサートを形成することを含むと言える。言い換えると、それは、さらなる処理工程におけるその挿入を補助するような形態である。
【0082】
巻き工程は、好ましくは、金属基材の上面の少なくとも一部分が、金属基材の下面と接触するように行われる。カーボンナノチューブが基材の上面及び/又は下面に成長した場合、金属基材の1つの面上に形成されたカーボンナノチューブの少なくとも一部分は、金属基材の別の面上に形成されたカーボンナノチューブと、又は金属基材の他方の面自体と接触することができる。この方法により、巻き工程は、カーボンナノチューブの少なくとも一部分を、金属基材の層間に挟む結果となる。このことは、カーボンナノチューブをさらなる金属基材で取り囲むという有益性を有し、それは、続いての工程においてカーボンナノチューブを最終導電性要素中に組み込む補助となる。
【0083】
巻き工程を補助するために、金属基材は、好ましくは、シートの形態である。言い換えると、基材は、比較的大きい幅及び長さ寸法と比較して、比較的小さい厚さ寸法を有する。シートは、特に薄くてよく、したがって、箔の用語で称され得る。そのような箔は、1mm未満、又は0.5mm未満、好ましくは0.2mm未満、最も好ましくは0.1mm以下の厚さを有し得る。開口部の壁の面積は、基材の厚さと関連することから、充分な面積の壁であることが有用である。したがって、厚さは、10μm以上、25μm以上、50μm以上、75μm以上、100μm以上、最も好ましくは200μm以上である。50μm~500μmの厚さを有する金属基材が特に有効であることが見出された。
【0084】
金属基材の考え得る幅及び長さ寸法は、特に限定されない。長さ寸法は、幅寸法の少なくとも2倍であってよく、別の選択肢として、幅寸法の少なくとも3倍、又は幅寸法の少なくとも4倍であってよい。幅寸法は、50mm以上、又は100mm以上であってよい。長さ寸法は、100mm以上、300mm以上、又は好ましくは400mm以上であってよい。
【0085】
金属基材は、巻き工程の結果として基材がそれ自体に少なくとも2回巻かれるような寸法とされてよい。言い換えると、基材は、それが720°にわたって巻かれるように、好ましくは、それが少なくとも3回、又は4回、又は5回、又は6回巻かれるように、巻かれる。さらにより好ましくは、基材は、それが少なくとも10回、15回、20回、25回、35回、45回、又は50回巻かれるように、巻かれる。基材は、それが50回まで巻かれるように巻かれてよい。基材がそれ自体に巻かれる回数を増加させることによって、基材の間に挟まれるカーボンナノチューブの層の数が増加する。このことは、最終製品中で導電を起こすことができるカーボンナノチューブ材料を増加させる。
【0086】
巻き工程は、好ましくは、コーティングされたカーボンナノチューブを備えた基材を金属ボビンの周りに巻くことを含む。ボビンを用いることによって、巻き工程が促進される。好ましくは、金属基材は、基材をボビンの周りに巻く際に、金属ボビンと接触している。ボビンは、好ましくは、中実材料部品である。特に、ボビンは、好ましくは、基材と同じ材料である。この方法により、金属ボビンは、基材と共に、最終製品の金属マトリックスに寄与する。さらにより好ましくは、金属ボビン、金属基材、及びコーティング工程で用いられる金属材料は、すべて同じ材料であり、それらはすべて、最終製品の金属マトリックスに寄与する。金属基材に関する記述と一致して、金属ボビンは、金属基材について強調された金属のいずれを含んでいてもよい。金属ボビンは、好ましくは、銅を含む。
【0087】
金属ボビンの寸法は、特に限定されない。続いての処理に適するいかなる寸法が用いられてもよい。金属ボビンは、その最も太い部分で、少なくとも10mmの直径であってよく、別の選択肢として、少なくとも20mmの直径、50mmの直径、100mmの直径、200mmの直径、又は300mmの直径であってよい。直径の増加は、ボビンに巻くことのできる基材の量を増加させる。
【0088】
コーティングされたカーボンナノチューブを備えた金属基材は、巻き工程の前に、導電性ボビンに固定されることが好ましい。これによって、巻き工程が促進される。
金属基材は、溶接、はんだ付け、ろう付け、又は機械的手段によって、導電性ボビンに固定されてよい。
【0089】
金属基材は、金属基材の一方のエッジ部に沿って金属ボビンに固定されてよい。このことにより、ボビンに対して固定された一方のエッジ部は、所定の位置に維持され、一方反対側の自由端部は、金属ボビンの周りに基材を巻くために、金属ボビンの周りに巻かれる。金属ボビンは、金属基材を一方のエッジ部に沿って維持するために、金属基材の端部を受けるように構成されたスロットを有していてよい。
【0090】
金属基材が周りに巻かれた金属ボビンは、インサートを形成するために、金属スリーブ中に配置され得る。金属ボビンは、金属基材が巻き付けられることになる凹部を備えるような形状とされ得る。金属基材及びボビンは、金属基材がボビン上に完全に巻かれた場合に、金属基材が凹部を埋めて、ボビンの外面と同一面となるようなサイズとされる。これによって、金属基材を上に備えたボビンを、スリーブ中に確実にスライド挿入させることができ、スリーブ中にぴったり嵌め込むことが可能となる。別の選択肢として、金属基材及びボビンは、金属基材がボビン上に完全に巻かれた場合に、金属基材が凹部を埋めて、ボビンの残りの部分よりも僅かに盛り上がって収まるようなサイズとされる。これによって、ボビンの残りの部分が、続いての延伸工程の過程で金属基材の初期圧縮に干渉せず、続いてのインサートの処理の過程で、高品質の界面の生成を促進することを確実とすることができる。
【0091】
スリーブ及びボビンは、スリーブ内にボビンを受けることができる適切ないかなる長さであってもよい。スリーブは、1メートルまでの長さであってよい。ボビンは、400mmまでの長さであってよい。
【0092】
金属スリーブは、金属基材に関して本明細書で列挙した金属のいずれを含んでいてもよい。金属スリーブは、金属ボビンと同じ材料であることが好ましい。特に、金属スリーブは、好ましくは、銅を含む。金属スリーブは、最終製品のマトリックスに寄与する。したがって、金属スリーブ、金属ボビン、金属材料、及び金属基材はすべて、銅を含む同じ材料であることが特に好ましい。金属スリーブ、金属ボビン、金属材料、及び金属基材のすべてが存在するわけではない本発明の態様では、存在するものすべてが、好ましくは銅である同じ材料であることが、好ましい。
【0093】
本発明の方法はさらに、巻き工程の前に、金属基材上の複数のカーボンナノチューブに対して第一の方向にせん断力を適用する工程を含んでよい。これは、複数のカーボンナノチューブを第一の方向へ動かし、及び好ましくは整列させる効果を有する。これによって、製品の所望される最終構造に対する整列を選択することが可能となる。金属基材上の複数のカーボンナノチューブに対して第一の方向にせん断力を適用する工程は、巻き工程の後に行われてもよい。複数のカーボンナノチューブに対してせん断力を適用する工程は、延伸工程適用の過程で適用されるせん断力を意味してよく、又は延伸工程とは別にせん断力を適用する工程であってもよい。
【0094】
せん断力を適用するこの工程は、コーティング工程の前に行われてよい。この方法により、カーボンナノチューブは、それらがコーティングされた後に動かされるのとは対照的に、それらの移動が比較的容易であるときに再配向される。せん断力を適用する工程は、コーティング工程の最中に行われてもよい。例えば、カーボンナノチューブは、コーティングプロセスの初期工程として本明細書で述べるように装飾されてよく、次に、後期のコーティング工程が行われてコーティング工程が完了する前に、せん断力が適用されてよい。これは、せん断力を適用する工程の過程でナノチューブを分離された状態に維持する補助と成り得る。せん断力を適用する工程は、コーティング工程の後に行われてもよい。
【0095】
せん断力は、フラットエッジを有するツールを例とするツールの使用を介して適用され得る。ツールは、金属基材のカーボンナノチューブが形成されている面に沿って動かされてよく、その間、ツールは、カーボンナノチューブと直接又は間接的に接触した状態で維持される。この結果、カーボンナノチューブに対してせん断力がもたらされる。カーボンナノチューブの自由端部に適用されたせん断力は、カーボンナノチューブを第一の方向へ動かす。適用される力の量は、カーボンナノチューブが基材から剥がれ落ちないが、カーボンナノチューブを再配向させるのに充分な力が適用されることを確実とするように調整され得る。せん断力は、金属基材のカーボンナノチューブが形成されている面に沿って転がされる円筒形状ツール(すなわち、ローラー)を用いて適用することも可能である。特に、せん断力は、カーボンナノチューブを備えた金属基材を、1対のローラー間を移動させることによって適用されてよい。これは、基材の両側にカーボンナノチューブが存在する場合に、特に有効な手法である。
【0096】
せん断力が適用される第一の方向が、カーボンナノチューブが形成されている面に沿っていることが特に好ましい。これは、カーボンナノチューブが、基材に対して垂直となるのではなく、基材の面とより整列された状態になるように、カーボンナノチューブを横に寝かせる効果を有する。このことにより、上面及び/又は下面にあるいずれのナノチューブも、開口部内にあるナノチューブに類似の配向となるように再配向することが可能となる。第一の方向が、存在する開口部のいずれの細長形状の長さ方向軸線に対しても、実質的に垂直であることが特に好ましい。
【0097】
開口部のいずれの細長形状の長さ方向軸線も、金属基材が任意の巻き工程において巻かれる回転軸線に対して、実質的に垂直であることが特に好ましい。さらに、せん断力の任意の適用に関連する第一の方向は、好ましくは、金属基材が巻き工程で巻かれる回転軸線に対して実質的に平行である。ボビンが用いられる場合、これは、ボビンの回転軸線である。この方法により、カーボンナノチューブのすべてが概略同じ方向に実質的に整列した状態となったことを確実にすることができ、したがって、それらは、おおよそ回転軸線に沿った方向、例えばボビンの長さ方向に向くはずである。
【0098】
導電性テープを形成する場合、開口部のいずれの細長形状の長さ方向軸線も、最終導電性テープの長さ方向に対して実質的に垂直であることが特に好ましい。さらに、せん断力の任意の適用に関連する第一の方向は、好ましくは、最終導電性テープの長さ方向に対して実質的に平行である。
【0099】
延伸方向は、延伸工程でインサートが延伸される方向である。開口部のいずれの細長形状の長さ方向軸線も、延伸工程の延伸方向に対して実質的に垂直であってよい、又はせん断力の任意の適用に関連する第一の方向は、延伸工程の延伸方向に対して実質的に平行であってよい。カーボンナノチューブは、延伸工程の延伸方向に実質的に沿って整列され得る。これは、ボビンのスリーブ中への挿入を、回転軸線とカーボンナノチューブとがインサートの長さ方向、すなわちその長手軸線、に沿って配向されるように行うことによって実現することができる。したがって、インサートは、その後、延伸工程の過程で、この長手軸線に沿って延伸され得る。延伸工程の過程で、インサートの長さは増加し、その断面積は減少する。
【0100】
最終導電性要素は、延伸工程の後、スキャンされて、必要とされるカーボンナノチューブを含有していないいずれの部分も適切に切断、除去されてよい。これは、延伸工程前においてボビンに対してスリーブが非常に長いことに起因し得る。
【0101】
カーボンナノチューブを、実質的に延伸方向に沿って整列させることが所望され、なぜなら、このことによって、カーボンナノチューブが最終製品の長手軸線に沿った配向を有し始めるからである。これは、導電を発生させるために好ましい配向である。それとは関係なく、延伸工程自体も、比較的硬いカーボンナノチューブと比較したマトリックス材料の流動に起因して、カーボンナノチューブをある程度延伸方向に整列させることができる。この方法では、金属基材上のカーボンナノチューブに対して第一の方向にせん断力を適用する工程を、延伸工程に伴うせん断力が延伸方向に発生する延伸工程の一部として行うことができる。理論に束縛されるものではないが、延伸手法は、多層カーボンナノチューブの層間に相対的な動きを引き起こすこともできると考えられる。これは、ナノチューブが入れ子状に入り込んだ状態(telescoping)を引き起こすことができ、整列が向上する。したがって、本発明の方法は、最終導電性要素におけるカーボンナノチューブの密接整列又は超整列(super alignment)の状態を引き起こすことができる。
【0102】
延伸工程の後、アニーリング工程が行われてよい。アニーリング工程では、延伸段階で導入された可能性のある硬化若しくは内部応力を除去又は低減する目的で、延伸品が高い温度で保持される。アニーリングは、金属成分の結晶粒サイズを成長させるために用いることもできる。これは、結晶粒界の存在を低減し、導電特性を向上させる。アニーリング温度は、適切ないかなる温度であってもよく、例えば、400℃~700℃、又は550℃~800℃である。アニーリングは、およそ700℃で行われてよい。アニーリング工程は、好ましくは、低酸素環境下で、又は実質的に無酸素の環境下で行われる。例えば、アニーリングは、アルゴン又は窒素環境下で行われてよい。金属基材が銅から形成されている場合、アニーリング温度は、400℃~700℃の範囲内であってよく、最も好ましくは、アニーリング温度は550℃である。
【0103】
延伸工程及びアニーリング工程は、延伸品の径の減少及び長さの増加が徐々に成されるように、複数回繰り返されてよく、すなわち、延伸に続いてアニーリングが行われ、続いてさらなる延伸、及び続いてさらなるアニーリング、などとなる。これは、ワイヤなどの細長の導電体を製造するための標準的な手法である。延伸工程は、アニーリング工程間に、ワイヤの径を5%~60%減少させるように行われてよい。本発明において、導電性要素がワイヤの形態であることが特に好ましい。ワイヤは、通常、金属の円筒形状のフレキシブルなストランドである導電性要素である。
【0104】
延伸工程に関連して、インサートは、選択された減少し続ける金型サイズを通して延伸され得る。インサートを金型を通して引き抜くことによって、その径が減少し、その長さが増加する。延伸品は、複数回の延伸適用後に、又は各々の延伸適用後にアニーリングされてよい。延伸工程は、サイズが減少し続ける金型を通してインサートを10回以上、又は15回以上、又は20回以上引き抜くことを含んでよい。金型は、高速度鋼、硬化鋼、又はタングステンカーバイドから作られていてよい。
【0105】
延伸工程の初期段階として、インサートは、インサートをより小さい径に変形するために、圧縮工程(例:ロータリースウェージング又は圧延)に掛けられてよい。これは、インサートの別々の領域を一緒に圧縮する補助とすることができる。そしてこれは、残りの延伸工程の過程でインサートの長さが増加するに従ってボイドが形成されることを回避する補助とすることができる。圧縮工程は、スリーブとボビンと巻いた箔との間、及び箔の層の間のボイドも、除去又は実質的に低減することができる。この工程の結果、インサートの径の減少及び長さの増加が得られ、延伸工程の効率が向上する。
【0106】
本発明で用いられる複数のカーボンナノチューブは、好ましくは、多層カーボンナノチューブを含む。これらのカーボンナノチューブは、互いの中に入り込んだ複数のカーボンナノチューブから構成されている。ナノチューブのこの形態は、得られる製品の電気伝導性に対して特に有効に寄与する。
【0107】
本発明はまた、本明細書で述べる方法によって形成された導電性要素前駆体、インサート、及び導電性要素にも関する。
本明細書で述べる導電性要素は、絶縁性スリーブを用いて絶縁されていてよい。絶縁性スリーブは、シリコーンゴム、ポリ塩化ビニル、又はPTFEなどの適切ないかなる絶縁性材料であってもよい。
【0108】
本発明はさらに、金属材料を含むマトリックスと、マトリックス中にある実質的に整列された複数のカーボンナノチューブとを備えた導電性要素前駆体を提供する。
複数のカーボンナノチューブは、外面に対して実質的に平行に整列されていてよい。これは、前駆体を導電性要素へ処理することができる容易さを高める。
【0109】
本発明はさらに、インサートであって、金属材料を含むマトリックスと、マトリックス中にあって、インサートの長さ方向軸線に沿って実質的に整列された複数のカーボンナノチューブとを備えた、インサート、を提供する。
【0110】
本発明はまた、細長の導電性要素であって、金属材料を含むマトリックスと、マトリックス中にあって、細長の導電性要素の長さ方向軸線に沿って実質的に整列された複数のカーボンナノチューブとを備えた、細長の導電性要素も提供する。
【0111】
本明細書で述べるように、本発明はまた、金属材料を含むマトリックス;マトリックス中にあって、互いに実質的に整列されている第一の複数のカーボンナノチューブ;及びマトリックス中にあって、互いに実質的に整列されている第二の複数のカーボンナノチューブ、を備えた導電性要素も提供し、第一の複数のカーボンナノチューブは、第二の複数のカーボンナノチューブと実質的に整列されていない。
【0112】
第一及び第二の複数のカーボンナノチューブに加えて、互いに実質的に整列されているが、他の種類の複数のカーボンナノチューブのいずれとも実質的に平行ではないさらなる1又は複数種類の複数のカーボンナノチューブが存在してもよい。特に、3種類のそのような複数のカーボンナノチューブ、又は4種類のそのような複数のカーボンナノチューブが存在し得る。これは、有利には、導電性要素の特性を、より多くの別個の方向へ調節可能とするものである。
【0113】
第一の複数のカーボンナノチューブは、マトリックス中の全カーボンナノチューブの少なくとも10%を占めていてよく、第二の複数のカーボンナノチューブは、マトリックス中の全カーボンナノチューブの少なくとも10%を占めていてよい。さらに、いずれのさらなる種類の複数の整列されたカーボンナノチューブの各々についても、マトリックス中の全カーボンナノチューブの少なくとも10%を占めていてよい。第一の、第二の、及びいずれのさらなる種類の複数の整列されたカーボンナノチューブの各々についても、マトリックス中の全カーボンナノチューブの少なくとも15%、20%、25%、又は好ましくは少なくとも30%を占めていてよい。
【0114】
導電性要素及び導電性要素前駆体のマトリックスは、実質的に連続する領域を意味する。マトリックスは、複数のカーボンナノチューブを包含する。
細長の導電性要素の長さ方向軸線は、長手方向に沿っている。例えば、細長の要素がワイヤの形態である場合、長さ方向軸線は、ワイヤの長さに沿って延びている。
【0115】
導電性要素及びインサートは、それらが製造された方法に起因して、マトリックスの断面に沿って複数の別々のカーボンナノチューブ層を有し得る。例えば、巻き工程は、長さ方向軸線に対して垂直のマトリックスの断面に沿って、カーボンナノチューブを含有しない領域によって隔てられ得るカーボンナノチューブを含有する層が存在することを意味する。これらのカーボンナノチューブ層は、残りのマトリックスとははっきり異なっており、顕微鏡又はX線回折によって識別することができる。
【0116】
本明細書においていずれかの方法に関連して記載される特徴はまた、本明細書で述べるいずれかの最終的な細長の導電性要素に対しても適用可能である。例えば、導電性材料のマトリックスは、金属材料であってよく、銅であってよい。さらに、ナノチューブが実質的に整列されている、と記載される場合、上記で与えられる許容範囲は、製品に対しても同様に当てはまる。
【0117】
全体として、本発明の特に好ましい手法は、複数の開口部を備え、セラミック層を備えた金属基材を用い、その上にカーボンナノチューブが成長する。これらのカーボンナノチューブは、基材上に維持され、カーボンナノチューブ全体に金属材料を堆積させるためのCVDを用いた初期装飾工程が行われ、所望に応じて、カーボンナノチューブ全体にハロゲン粒子を堆積させるためのCVDを用いたドープ工程が行われる。カーボンナノチューブのコーティングは、カーボンナノチューブが完全に封入されることを確実とするために、電気めっき手法を用いることによって完了される。この結果、導電性要素前駆体が得られる。
【0118】
本発明について、以降、図面と共に以下の具体例に関連して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【
図1A】
図1は、本発明で用いるための複数の開口部を備えた基材、及び開口部の詳細を示す。
【
図1B】
図1は、本発明で用いるための複数の開口部を備えた基材、及び開口部の詳細を示す。
【
図2】
図2は、本発明で用いるためのさらなる基材の詳細である。
【
図3】
図3は、本発明で用いるためのさらなる基材の詳細である。
【
図4】
図4は、銅箔上に堆積されたシリカ層の面のSEM画像である。
【
図5】
図5は、上にカーボンナノチューブを成長させた本発明の基材の模式的斜視断面図である。
【
図6】
図6は、銅箔上に堆積されたシリカ層の面のSEM画像であり、説明の目的でシリカ層にクラックを発生させてその厚さを示したものである。
【
図7】
図7は、箔にカッティングされた開口部を備えた銅箔上に成長したカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図8】
図8は、開口部を備えたさらなる銅箔上に成長したカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図10】
図10は、銅粒子が堆積されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図11】
図11は、成長したカーボンナノチューブに対してせん断力を適用する工程を模式的に示す。
【
図12】
図12は、電気めっきプロセスで用いられる装置の模式図である。
【
図13】
図13は、電気めっき工程のために適用される電流プロファイルの模式図である。
【
図14】
図14は、電気めっき後の銅でコーティングされたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図15】
図15は、本発明で用いることができるボビンを模式的に示す。
【
図16】
図16は、ボビンの凹部に巻き付けられている金属基材を模式的に示す。
【
図17】
図17は、ボビンの凹部に巻き付けられている金属基材を模式的に示す。
【
図18】
図18は、本発明で用いることができるスリーブを模式的に示す。
【
図19】
図19は、ボビンを含有するスリーブの断面を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0120】
基材の作製
用いられる基材は、薄い銅箔リボンである。「リボン」の用語は、銅箔がその幅に対して長い長さを有することから用いられる。厚さが50μm、100μm、200μm、及び400μmである銅リボンを入手し、レーザーカッティング技術を用いて各々に複数の開口部を形成した。
【0121】
得られた基材を
図1に示し、この場合、開口部は、基材の上面及び下面にある細長形状の形態である。複数の開口部の各開口部は、同じ細長形状を有する。細長形状は、およそ0.7mmの長さである2つの平行な辺を有し、細長形状の全体長さは約1mmである。平行な辺の間隔は、約300μmである。これらの平行な辺は、それらの第一及び第二の端部において、円形セクションによって接続されている。2つの平行な辺の間に、細長形状の長さ方向軸線に沿って対称面が存在する(長さ方向軸線は、図を横切る水平方向に延びている)。開口部の長さ方向軸線はすべて、互いに対して平行である。隣接する開口部間の最短距離は、40μmである。細長形状は、基材の上面全体にわたる繰り返しパターンで存在する。パターンは、カーボンナノチューブが、基材の平面内に整列されるカーボンナノチューブに関連して、図の鉛直方向、長さ方向軸線に対して垂直に主として整列されていることを意味する。
【0122】
開口部の別の選択肢としてのパターンもカッティングした(
図2)。このパターンは、複数の細長形状を有し、細長形状の1つのサブセットは、ほぼ1mmの長さを有し、他方のサブセットは、約2mmの長さを有する。隣接する開口部間の最短距離は、50μmであり、開口部は、基材全体にわたる繰り返しパターンで配列されている。より長い細長形状を組み込むことによって、基材上に成長させることができるカーボンナノチューブの割合が高められる。
【0123】
開口部のさらなるパターンもカッティングした(
図3)。このパターンでは、細長形状の平行な辺間の距離が400μmとより大きく、開口部は、各角が丸められた角である長方形の形態の細長形状を有する。細長形状は、2mmの長さである。
【0124】
開口部を備えたそのような基材上におけるカーボンナノチューブの成長の模式図を、
図4の断面図で示す。この場合、基材1の厚さは、上面にある隣接する開口部間の距離よりも非常に大きい。カーボンナノチューブの大部分は、基材1の平面内、開口部の壁に対して垂直に配向されていることが分かる。開口部の細長形状に起因して、カーボンナノチューブの大部分は、開口部の長さ方向軸線に対して垂直に配向されている。
【0125】
シリカの堆積:
リボンは、銅又は真鍮製のサンプルホルダーに固定される。サンプルホルダーは、サイドドアを通して第一の反応チャンバー中に導入され、そこでは、次のチャンバーへの移行を確実にするレール上に位置している。堆積チャンバーは閉じられ、脱気及びアルゴンによる再充填が数回施されて、酸素及び水分のほとんどが除去される。次に、1SLMの一定のアルゴン流と共に、圧力が約5ミリバールの値に設定される。
【0126】
反応器チャンバーが加熱され、温度が650℃に到達した時点で、前駆体の注入が行われ得る。注入の周波数は、50Hzであり、開時間は0.7msである。無水トルエン中の0.1M TEOS溶液が、190℃に加熱された蒸発容器中に注入される。2SLMのArキャリアガス流が、蒸発器を通して流される。15分間の注入の後、前駆体流が中断され、チャンバーが数回脱気されて、残留する微量の前駆体溶液が除去される。
【0127】
得られるシリカ層は、400nmの平均厚さであり、開口部のない基材上で実施したものである
図5のSEM顕微鏡写真が示すように、非常に平滑である。
図6は、シリカ層に説明の目的で意図的にクラックを発生させて下地銅箔を露出させたセクションを示す。実際には、クラックを回避するために、シリカ層の堆積から次のカーボンナノチューブの森の成長工程までの間、金属基材の高められた温度が維持されてよい。
【0128】
カーボンナノチューブの森の成長:
洗浄が終了すると、アルゴンガスの充填によってチャンバー内の圧力が上げられ、大気圧に到達すると、サンプルホルダーは、ゲートバルブを通して次のチャンバーへ移される。サンプルが第二のチャンバーにあり、ゲートバルブがロックされると、カーボンナノチューブ注入プロセスが開始されてよい。トルエン中のフェロセンの3重量%溶液の前駆体が、シリカ前駆体の場合と同じプロセスに沿って注入される。注入パラメータは、0.7msの開時間、25Hzの周波数、及び3SLMのArキャリアガス流量である。蒸発器と堆積チャンバーとの間に存在する予備加熱炉は、725℃に加熱される。プロセスは、10分間継続される。プロセスが終了すると、銅リボンは冷却され、チャンバーは脱気され、アルゴンで再充填されて、残留する微量の前駆体が除去される。
【0129】
基材厚さが100μmである
図1の基材上に成長させたカーボンナノチューブの森を、
図7に示す。基材の平面内でのカーボンナノチューブの整列、さらには上面から上向きに成長したカーボンナノチューブが見られる。
【0130】
配列を調べるために、カーボンナノチューブを
図3の基材上に成長させ、
図8のように、開口部の幅全体にわたってカーボンナノチューブが成長する前に成長を停止した。ここでも、細長形状全体にわたるカーボンナノチューブの成長が見られ、基材の平面内での整列に対する強い選択性が示される。開口部の壁から成長するナノチューブの詳細も示す(
図9)。
【0131】
遊離カーボンナノチューブの洗浄:
カーボンナノチューブの森の成長プロセスが終了すると、サンプルホルダーは、別のゲートバルブを通して中間洗浄チャンバーへ移される。そこで、それは高流量のアルゴンに掛けられて、いずれの遊離CNTも吹き飛ばされる。この工程が完了すると、それは、第三の堆積チャンバーに移される。
【0132】
金属のシーディング:
サンプルが第三のチャンバー中の所定の位置にあると、圧力が再度160ミリバールまで低下され、前駆体流が、シリカ堆積の場合と同じプロセスに沿ってチャンバーに注入される。注入される前駆体溶液は、トルエン中のCu(acac)
2の0.25M溶液であり、パルス長さは0.7ms、周波数は25Hzである。カーボンナノチューブの森は、次に、
図10に示されるように、銅ナノ粒子によって装飾される。この工程により、次の工程の過程でカーペットの厚みの中への銅のより良好な堆積が可能となる。
【0133】
続いて、第三の堆積チャンバーが脱気され、アルゴンでフラッシングされ、大気圧まで圧力上昇される。次に、サンプルホルダーは、サイドドアを通して取り出される。
所望に応じて行われるハロゲンドープ
ドープするハロゲンとしてはヨウ素が用いられ、トルエン中のヨードエタン(C2H5I)の溶液:トルエン1部に対してヨードエタン2部、を用いて注入される。注入は、銅シーディング工程の過程で行われる。まず、銅前駆体が20分間にわたって注入され、次に、ヨウ素含有溶液が、15mlの溶液が注入されるまで、同じパラメータを用いて注入され、その後銅の注入が再開される。
【0134】
所望に応じて行われるカーボンナノチューブ再配向
コーティングされた箔リボンが、サンプルホルダーから取り外され、両側のカーボンナノチューブの森が、
図11に示されるように、コーティングされたリボン2を2つの回転する平滑な石英シリンダー4、5の間にリボンの幅寸法に沿って通すことによって、横に寝かせられる。このことによって、カーボンナノチューブを、続いての延伸プロセスと同軸に配向することが可能となる。
【0135】
銅の浸潤:
配向されたカーボンナノチューブの森を備えたリボン2は、次に、
図12に示されるように、ラックに装着されて電気めっき浴7に浸漬される。この浴は、0.67mol/lの硫酸、0.0027mol/lの塩化ナトリウムを含む0.56mol/lのCuSO
4水溶液の溶液から構成されている。浴中のこの溶液の体積は、250mlであり、5mlのN-メチルピロリドン(NMP)、5mlのメタノール、及び0.1gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が添加されている。電流は、カーボンナノチューブの森を銅で電気めっきするために、コーティングされた銅リボンと純銅アノードとの間で確立される。銅の電気めっきで通常行われ、Schneider, Weiser, Dorfer et al. (2012), Surface Engineering, vol. 28, issue 6, pages 435 to 441に記載されるようにして、電流が掛けられ、電位が調節される。森内部での銅の堆積を改善する目的で、電流は、非堆積時間の間に銅イオンに掛かるエレクトロマイグレーションの力を維持するための僅かなオフセットと共に、逆パルスパターン(pulse-reversed pattern)(“Mechanical Properties of Carbon Nanotubes/Metal Composites”doctoral dissertation by Ying Sun, University of Central Florida, 2010に記載の通り)に従う。
図13は、用いられる典型的なパターンを示し、I
Cは、めっき電流であり、I
Sは、ストリッピング電流であり、オフセットによって、めっきすることなく銅イオンのエレクトロマイグレーションが可能となる。完全にめっきされたカーボンナノチューブを、
図14に示す。
【0136】
ワイヤ延伸:
インサートは、所望に応じて、まず、インサート中のすべてのボイドが実質的に除去されるまで圧縮される(例:回転スウェージング機、又は熱間若しくは冷間圧延機によって)。
【0137】
ワイヤ延伸プロセスは、長さ300mm、幅100mmの銅基材を用いて行われる。この基材は、上記の工程に掛けられて、基材の両側の2つの主面上に銅ナノチューブが形成されたものである。
図15に示されるように、巻き付けられる基材を受けるための凹部領域10を有するボビン8が提供される。次に、基材6は、ボビン8に巻き付けられて、径18mmのボビンが形成される。これは、
図16及び
図17に示される。このボビン8は、スリーブ12の中へ、スリーブの一方の端部のキャビティ中へそれをスライド挿入することによってスライド挿入される。スリーブは、22mmの外径及び500mmの長さを有し、
図18に示される。内部にボビン8を有するスリーブ13は、
図19に示される。カーボンナノチューブは、横に寝かせられて、実質的にインサートの長さ方向に沿って整列されている。
【0138】
次に、インサートは、
図20に示されるように、ドローベンチ上で延伸されて、インサート径の10%の減少が実現される。延伸されたビレットは、次に、アルゴン雰囲気中、550℃の温度でアニーリングされる。
【0139】
延伸及びアニーリングの工程は、インサートの径が8mmに減少し、長さが3.75mに増加するまで繰り返される。
次に、銅だけであるセクションを識別し、切断するために、インサートの端部に対してX線分析が行われる(延伸前の基材と比較してビレットが非常に長いことに起因する)。次に、このインサートは、ロッドブレイクダウンマシン(rod breakdown machine)に通されて、径が2mmまで減少される。次に、これは、ワイヤ延伸機を用いて1mmまで延伸され、その後ワイヤが巻き取られる。この例でのワイヤの最終長さは、およそ50mである。
【0140】
図21は、銅マトリックス14が存在する最終ワイヤの図を示し、その中には、カーボンナノチューブを含有しない層によって分離されたカーボンナノチューブの層が存在する。カーボンナノチューブの層のこのパターンは、巻きプロセスで導入されたものである。
【0141】
請求項に列挙される特徴の組み合わせに加えて、本明細書で述べる様々な特徴が、適合性のあるいかなる方法で組み合わされてもよい。
以下のリストの実施形態は、本発明で用いることができる。特に、以下のリストの実施形態は、適合性のある方法で、請求項を含む本明細書で述べる他のいずれの特徴とも合わせて用いることができる。
【0142】
1.導電性要素前駆体の製造方法であって、方法は、以下の工程、
金属基材上に複数のカーボンナノチューブを形成すること、
金属基材上の複数のカーボンナノチューブに対して、第一の方向にせん断力を適用すること、及び
複数のカーボンナノチューブのカーボンナノチューブを、金属材料でコーティングすること、
を含む。
【0143】
2.導電性テープの製造方法であって、方法は、以下の工程、
実施形態1に記載の導電性要素前駆体を形成すること、
導電性要素前駆体を、その長さを増加させ、導電性テープを形成するように圧縮すること、
を含む。
【0144】
3.導電性テープの製造方法であって、方法は、以下の工程、
金属基材上に複数のカーボンナノチューブを形成すること、
金属基材上の複数のカーボンナノチューブに対して、第一の方向にせん断力を適用すること、及び
複数のカーボンナノチューブを備えた金属基材を、その長さを増加させ、導電性テープを形成するように圧縮すること、
を含む。
【0145】
4.インサートの製造方法であって、方法は、以下の工程、
実施形態1に記載の導電性要素前駆体を形成すること、及び
コーティングされたカーボンナノチューブを備えた基材を巻いてインサートを形成すること、
を含む。
【0146】
5.導電性要素の製造方法であって、方法は、以下の工程、
実施形態4に記載のインサートを形成すること、及び
インサートを延伸して、その長さを増加させ、導電性要素を形成すること、
を含む。
【0147】
6.導電性要素の製造方法であって、方法は、以下の工程、
金属基材上に複数のカーボンナノチューブを形成すること、
複数のカーボンナノチューブを備えた基材を巻いてインサートを形成すること、及び
インサートを延伸して、その長さを増加させ、導電性要素を形成すること、
を含む。
【0148】
7.複数のカーボンナノチューブのカーボンナノチューブを、金属材料でコーティングする工程をさらに含み、基材を巻くことが、コーティングされたカーボンナノチューブを備えた基材を巻いてインサートを形成する工程である、実施形態6に記載の方法。
【0149】
8.巻き工程の前に、金属基材上の複数のカーボンナノチューブに対して第一の方向にせん断力を適用する工程をさらに含む、実施形態6又は実施形態7に記載の方法。
9.巻く工程が、基材を金属ボビンの周りに巻くことを含む、実施形態4~8のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
10.基材が、巻き工程の前に金属ボビンに固定される、実施形態9に記載の方法。
11.巻かれた基材を上に備えた金属ボビンが、金属スリーブ中に配置されてインサートを形成する、実施形態9又は実施形態10に記載の方法。
【0151】
12.金属ボビン及び金属スリーブが、銅を含む、実施形態11に記載の方法。
13.カーボンナノチューブが、金属基材の第一の面上に形成され、第一の方向が、実質的に第一の面に沿っている、実施形態1~5、8のいずれか1つに記載の、又は、実施形態4又は実施形態8に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態9~12のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
14.コーティングされたカーボンナノチューブを備えた基材が、第一の方向がボビンの回転軸線に対して実質的に平行であるように、ボビンの周りに巻かれる、実施形態9に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態13に記載の方法。
【0153】
15.第一の方向が、延伸工程の延伸方向に対して実質的に平行である、実施形態5又は実施形態6に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態14に記載の方法。
16.複数のカーボンナノチューブを形成する工程が、化学蒸着を含む、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0154】
17.カーボンナノチューブをコーティングする工程が、化学蒸着を含む、実施形態1、2、4、5、7のいずれか1つに記載の、又は、実施形態4、5、又は7に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態8~16のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
18.カーボンナノチューブをコーティングする工程が、化学蒸着を介してカーボンナノチューブを金属材料で装飾すること、及び続いてカーボンナノチューブを金属材料で電気めっきすることを含む、実施形態17に記載の方法。
【0156】
19.せん断力を適用する工程が、装飾工程と電気めっき工程との間に行われる、実施形態1、2、4、5、又は8~16のいずれか1つに従属する場合における実施形態18に記載の方法。
【0157】
20.カーボンナノチューブをコーティングする工程が、電気めっきすることを含む、実施形態1、2、4、5、7のいずれか1つに記載の、又は、実施形態7に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態8~17のいずれか1つに記載の方法。
【0158】
21.延伸工程の後に、アニーリング工程をさらに含む、実施形態5~8のいずれか1つに記載の、又は、実施形態5又は実施形態6に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態9~20のいずれか1つに記載の方法。
【0159】
22.さらなる延伸工程及びさらなるアニーリング工程をさらに含んで導電性要素を形成する、実施形態21に記載の方法。
23.導電性要素が、ワイヤの形態である、実施形態5~8のいずれか1つに記載の、又は、実施形態5又は実施形態6に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態9~22のいずれか1つに記載の方法。
【0160】
24.金属基材が、箔の形態である、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
25.複数のカーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブを含む、実施形態1~24のいずれか1つに記載の方法。
【0161】
26.金属基材及び金属材料が、銅を含む、実施形態1、2、4、5、7、8のいずれか1つに記載の、又は、実施形態1、2、4、5、又は6のいずれか1つに直接的又は間接的に従属する場合における実施形態9~25のいずれか1つに記載の方法。
【0162】
27.実施形態1に記載の方法によって、又は実施形態1に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態13、16、17、18、19、20、24、25、又は26のいずれか1つに記載の方法によって形成された、導電性要素前駆体。
【0163】
28.実施形態2又は実施形態3に記載の方法によって、又は実施形態2又は実施形態3に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態13、16、17、18、19、20、24、25、又は26のいずれか1つに記載の方法によって形成された、導電性テープ。
【0164】
29.実施形態4に記載の方法によって、又は実施形態4に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態9、10、11、12、13、14、16、17、18、19、20、24、25、又は26のいずれか1つに記載の方法によって形成された、インサート。
【0165】
30.実施形態5~8のいずれか1つに記載の方法によって、又は実施形態5又は実施形態6に直接的又は間接的に従属する場合における実施形態9~26のいずれか1つに記載の方法によって形成された、導電性要素。
【0166】
31.金属材料を含むマトリックス、及び
マトリックス中にある実質的に整列されている複数のカーボンナノチューブ、
を備えた導電性要素前駆体。
【0167】
32.導電性要素前駆体が、外面を有し、複数のカーボンナノチューブが、外面に対して実質的に平行に整列されている、実施形態31に記載の導電性要素前駆体。
33.インサートであって、
金属材料を含むマトリックス、及び
マトリックス中にある複数のカーボンナノチューブであって、複数のカーボンナノチューブは、インサートの長さ方向軸線に沿って実質的に整列されている、複数のカーボンナノチューブ、
を備えた、インサート。
【0168】
34.細長の導電性要素であって、
金属材料を含むマトリックス、及び
マトリックス中にある複数のカーボンナノチューブであって、複数のカーボンナノチューブは、細長の導電性要素の長さ方向軸線に沿って実質的に整列されている、複数のカーボンナノチューブ、
を備えた、細長の導電性要素。
【0169】
35.マトリックスの断面に沿って配列されている複数の別々のカーボンナノチューブ層を含む、実施形態33に記載のインサート又は実施形態33に記載の細長の導電性要素。
【0170】
36.細長の導電性要素が、ワイヤの形態である、実施形態34又は実施形態35に記載の細長の導電性要素。
【国際調査報告】