(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】T細胞受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230508BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20230508BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230508BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230508BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230508BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230508BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230508BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230508BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230508BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230508BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K14/725 ZNA
C12N15/867 Z
C12N5/10
A61K38/17
A61K48/00
A61K35/15
A61P35/00
C12N15/12
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558271
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 US2021024370
(87)【国際公開番号】W WO2021195503
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438515
【氏名又は名称】2セブンティ バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マン, ジャスディープ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA41
4C084DA45
4C084NA14
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、改善されたT細胞受容体、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、細胞、およびそれらの使用方法を提供する。本開示の一部は概して、発現、安定性、および機能的アビディティが増加するよう改変された(操作された)単離されたT細胞受容体、そのポリヌクレオチド、組成物、医薬品および使用に関するものである。様々な実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖と、最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む単離されたT細胞受容体(TCR)が提供され、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小限にマウス化されたTCRα鎖、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む単離されたT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含み、前記TCRは、MAGEA4に結合しない、単離されたTCR。
【請求項2】
単離されたT細胞受容体(TCR)であって、
(a)90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびに
(b)18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む、単離されたTCR。
【請求項3】
単離されたT細胞受容体(TCR)であって、
(a)P90S、E91D、S92V、S93P、S115L、G118V、およびF119Lのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびに
b)E18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む、単離されたTCR。
【請求項4】
単離されたT細胞受容体(TCR)であって、
(a)少なくとも4個の最小マウス化アミノ酸置換、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに少なくとも3個の疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、前記TCRα鎖定常ドメインは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むTCRα鎖、ならびに
(b)少なくとも5個の最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、前記TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むTCRβ鎖、を含む、単離されたTCR。
【請求項5】
単離されたT細胞受容体(TCR)であって、
(a)配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびに
(b)配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む、単離されたTCR。
【請求項6】
前記TCRが、α-フェトプロテイン(AFP:α-fetoprotein)、B Melanoma Antigen(BAGE)ファミリー類、Brother of the regulator of imprinted sites(BORIS)、癌-精巣抗原、癌-精巣抗原83(CT-83)、Carbonic anhydrase IX(CA1X)、癌胎児抗原(CEA:Carcinoembryonic antigen)、サイトメガロウイルス(CMV)抗原、メラノーマ上の細胞傷害性T細胞(CTL)認識抗原(CAMEL:Cytotoxic T cell(CTL)-recognized antigen on melanoma)、エプスタイン-バールウイルス(EBV:Epstein-Barr virus)抗原、G antigen 1(GAGE-1)、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7B、GAGE-8、糖タンパク質100(GP100:Glycoprotein 100)、B型肝炎ウイルス(HBV)抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)非構造タンパク質3(NS3)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)、ヒトパピローマウイルス(HPV)-E6、HPV-E7、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、潜在膜タンパク質2(LMP2:Latent membrane protein 2)、Melanoma antigen family A,1(MAGE-A1)、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、Melanoma antigen recognized by T cells(MART-1)、メソテリン(MSLN)、ムチン1(MUC1)、ムチン16(MUC16)、New York esophageal squamous cell carcinoma-1(NYESO-1)、P53、P抗原(PAGE:P antigen)ファミリー類、Placenta-specific 1(PLAC1)、Preferentially expressed antigen in melanoma(PRAME)、サバイビン(Survivin)、Synovial sarcoma X 1(SSX1)、Synovial sarcoma X 2(SSX2)、Synovial sarcoma X 3(SSX3)、Synovial sarcoma X 4(SSX4)、Synovial sarcoma X 5(SSX5)、Synovial sarcoma X 8(SSX8)、サイログロブリン、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質(TRP:Tyrosinase related protein)1、TRP2、Wilms tumor protein(WT-1)、X Antigen Family Member 1(XAGE1)、およびX Antigen Family Member 2(XAGE2)からなる群から選択される標的抗原に結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離されたTCR。
【請求項7】
最小限にマウス化されたTCRα鎖、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むが、前記TCRα鎖の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸置換を含まないTCRと比較して、前記TCRの発現およびアビディティは増加している、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離されたTCR。
【請求項8】
最小限にマウス化されたTCRα鎖、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含まないが、前記TCRα鎖の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸置換を含むTCRと比較して、前記TCRの発現およびアビディティは増加している、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離されたTCR。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のTCRα鎖およびTCRβ鎖を含む、融合タンパク質。
【請求項10】
前記TCRα鎖の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸置換を含む、最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む融合タンパク質であって、MAGEA4に結合しない、融合タンパク質。
【請求項11】
融合タンパク質であって、
(a)90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、
(b)ポリペプチド切断シグナル、ならびに
(c)18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、融合タンパク質。
【請求項12】
融合タンパク質であって、
(a)P90S、E91D、S92V、S93P、S115L、G118V、およびF119Lのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、
(b)ポリペプチド切断シグナル、ならびに
(c)E18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、融合タンパク質。
【請求項13】
融合タンパク質であって、
(a)少なくとも4個の最小マウス化アミノ酸置換、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに少なくとも3個の疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、前記TCRα鎖定常ドメインは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むTCRα鎖、
(b)ポリペプチド切断シグナル、ならびに
(c)少なくとも5個の最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、前記TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むTCRβ鎖、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、融合タンパク質。
【請求項14】
融合タンパク質であって、
(a)配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、
(b)ポリペプチド切断シグナル、ならびに
(c)配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、融合タンパク質。
【請求項15】
前記ポリペプチド切断シグナルが、ウイルス自己切断ペプチドまたはリボソームスキッピング配列である、請求項9~14のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項16】
前記ポリペプチド切断シグナルが、ウイルス2Aペプチドである、請求項9~15のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項17】
前記ポリペプチド切断シグナルは、アフトウイルス2Aペプチド、ポティウイルス2Aペプチド、またはカルジオウイルス2Aペプチドである、請求項9~16のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項18】
前記ポリペプチド切断シグナルは、口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aペプチド、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2Aペプチド、Thosea asignaウイルス(TaV)2Aペプチド、ブタテッショウウイルス-1(PTV-1)2Aペプチド、タイロウイルス2Aペプチド、および脳心筋炎ウイルス2Aペプチドからなる群から選択されるウイルス2Aペプチドである、請求項9~17のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項19】
請求項1~8のいずれか一項に記載のTCR、または請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項20】
最小限にマウス化されたTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチドであって、前記TCRα鎖の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸置換を含む、第一のポリヌクレオチド、内部リボソーム侵入部位(IRES)、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含む核酸であって、前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、核酸。
【請求項21】
核酸であって、
(a)90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチド、
(b)IRES、ならびに
(c)18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、核酸。
【請求項22】
核酸であって、
(a)P90S、E91D、S92V、S93P、S115L、G118V、およびF119Lのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチド、
(b)IRES、ならびに
(c)E18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、核酸。
【請求項23】
核酸であって、
(a)少なくとも4個の最小マウス化アミノ酸置換、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに少なくとも3個の疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、前記TCRα鎖定常ドメインは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むTCRα鎖、をコードする第一のポリヌクレオチド、
(b)IRES、ならびに
(c)少なくとも5個の最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、前記TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むTCRβ鎖、をコードする第二のポリヌクレオチド、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、核酸。
【請求項24】
核酸であって、
(a)配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチド、
(b)IRES、ならびに
(c)配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含み、
前記融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない、核酸。
【請求項25】
請求項1~8のいずれか一項に記載のTCR、または請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸を含む、ベクター。
【請求項26】
前記ベクターが、好ましくは発現ベクター、より好ましくはレトロウイルスベクター、またはさらに好ましくはレンチウイルスベクターである、請求項19~24のいずれか一項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項27】
請求項1~8のいずれか一項に記載のTCRを発現する細胞。
【請求項28】
請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞。
【請求項29】
請求項19~24のいずれか一項に記載の核酸を含む細胞。
【請求項30】
請求項25または請求項26に記載のベクターを含む細胞。
【請求項31】
前記細胞が、免疫エフェクター細胞である、請求項27~30のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項32】
前記細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはナチュラルキラーT(NKT)細胞からなる群から選択される免疫エフェクター細胞である、請求項27~31のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項33】
請求項1~8のいずれか一項に記載のTCR、請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項19~24のいずれか一項に記載の核酸、請求項25もしくは請求項26に記載のベクター、または請求項27~32のいずれか一項に記載の細胞を含む、組成物。
【請求項34】
薬学的に許容可能な担体、および請求項1~8のいずれか一項に記載のTCR、請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項19~24のいずれか一項に記載の核酸、請求項25もしくは請求項26に記載のベクター、または請求項27~32のいずれか一項に記載の細胞を含む、医薬組成物。
【請求項35】
医薬品としての使用のための、請求項1~8のいずれか一項に記載のTCR、請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項19~24のいずれか一項に記載の核酸、請求項25もしくは請求項26に記載のベクター、または請求項27~32のいずれか一項に記載の細胞、請求項33に記載の組成物、または請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項36】
癌の治療における使用のためであり、前記癌は、好ましくは血液の癌または固形腫瘍であり、より好ましくは前記癌は、肉腫、前立腺癌、子宮癌、甲状腺癌、精巣癌、腎臓癌、膵臓癌、卵巣癌、食道癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌腫、頭頚部癌、胃癌、子宮内膜癌、大腸癌、胆管癌、乳癌、膀胱癌、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病からなる群から選択され、最も好ましくは、前記癌は、NSCLC、SCLC、乳癌、卵巣癌、または大腸癌、肉腫、または骨肉腫からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載のTCR、請求項9~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項19~24のいずれか一項に記載の核酸、請求項25もしくは請求項26に記載のベクター、または請求項27~32のいずれか一項に記載の細胞、請求項33に記載の組成物、または請求項34に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月27日に出願された米国仮特許出願第63/000,800号の35 U.S.C.§119(e)に基づく優先権を主張し、当該仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表に関する記載
本出願に関する配列表は紙媒体の代わりにテキストフォーマットで提出され、参照により本明細書に援用される。配列表を含むテキストファイルの名前は、BLUE-130_PC_ST25.txtである。テキストファイルは70KBであり、2021年3月25日に作成され、本明細書の出願と同時にEFS-Webを介して電子的に提出される。
【0003】
本発明は、発現および機能的アビディティが改善されるように操作されたT細胞受容体(TCR:T cell receptor)に関する。より具体的には、本発明は、発現および機能的アビディティを改善するアミノ酸置換を有するTCR、同TCRをコードするヌクレオチド、ベクター、細胞、組成物、薬剤、およびそれらを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
関連分野に関する記載
癌の診断および治療における技術的進歩はあるが、いまだに多くの癌患者は予後不良の状態である。
【0005】
養子細胞療法(ACT:Adoptive cell therapy)は、悪性腫瘍およびウイルス感染の治療に対する有望なアプローチである。抗原特異的T細胞受容体(TCR:antigen-specific T cell receptor)で遺伝子改変されたTリンパ球の養子移入は、患者自身のT細胞の腫瘍除去能力を活用し、増幅させる試みであり、健康な組織を傷つけることなく腫瘍を除去する。理論上、免疫系のT細胞には腫瘍細胞に特異的なタンパク質パターンを認識する能力があり、様々なエフェクター機構を介して腫瘍細胞の破壊を介在する。
【0006】
しかしこのアプローチは腫瘍免疫学の分野にとって新しいものではなく、多くの欠点によって、養子T細胞療法を癌および他の疾患の治療に幅広く使用することができない。TCR遺伝子治療が直面する重大な障害は、TCRのミスペアリングである。TCRのミスペアリングは、導入されたTCRα鎖またはTCRβ鎖と、内因性のTCRβ鎖またはTCRα鎖との間の不正確なペア形成であり、これによって、治療用αβTCRの表面発現が少なくなり、さらには特異性と毒性が不明なT細胞が生成されてしまう可能性がある。TCR遺伝子療法のもう一つの重大な制限事項は、TCRの発現が予測不能なことである。これによって、TCRの不安定性がもたらされ、機能的アビディティが低下する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一部は概して、発現、安定性、および機能的アビディティが増加するよう改変された(操作された)単離されたT細胞受容体、そのポリヌクレオチド、組成物、医薬品および使用に関するものである。
【0008】
様々な実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖と、最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む単離されたT細胞受容体(TCR)が提供され、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含む。
【0009】
様々な実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖と、最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む単離されたT細胞受容体(TCR)が提供され、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含み、当該TCRは、MAGEA4に結合しない。
【0010】
特定の実施形態では、単離されたT細胞受容体(TCR)は、90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0011】
特定の実施形態では、単離されたT細胞受容体(TCR)は、P90S、E91D、S92V、S93P、S115L、G118V、およびF119Lのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびにE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0012】
特定の実施形態では、単離されたT細胞受容体(TCR)は、少なくとも4個の最小マウス化アミノ酸置換、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに少なくとも3個の疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα鎖定常ドメインは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むもの、ならびに少なくとも5個の最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むもの、を含む。
【0013】
一部の実施形態では、単離されたTCRは、定常領域の90位、91位、92位および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常領域のアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常領域を含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常領域のアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0014】
特定の実施形態では、単離されたTCRは、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119L、を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、この場合において当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0015】
特定の実施形態では、単離されたT細胞受容体(TCR)は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、および配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0016】
特定の実施形態では、TCRは、以下からなる群から選択される標的抗原に結合する:α-フェトプロテイン(AFP:α-fetoprotein)、B Melanoma Antigen(BAGE)ファミリー類、Brother of the regulator of imprinted sites(BORIS)、癌-精巣抗原、癌-精巣抗原83(CT-83)、Carbonic anhydrase IX(CA1X)、癌胎児抗原(CEA:Carcinoembryonic antigen)、サイトメガロウイルス(CMV)抗原、メラノーマ上の細胞傷害性T細胞(CTL)認識抗原(CAMEL:Cytotoxic T cell(CTL)-recognized antigen on melanoma)、エプスタイン-バールウイルス(EBV:Epstein-Barr virus)抗原、G antigen 1(GAGE-1)、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7B、GAGE-8、糖タンパク質100(GP100:Glycoprotein 100)、B型肝炎ウイルス(HBV)抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)非構造タンパク質3(NS3)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)、ヒトパピローマウイルス(HPV)-E6、HPV-E7、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、潜在膜タンパク質2(LMP2:Latent membrane protein 2)、Melanoma antigen family A,1(MAGE-A1)、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、Melanoma antigen recognized by T cells(MART-1)、メソテリン(MSLN)、ムチン1(MUC1)、ムチン16(MUC16)、New York esophageal squamous cell carcinoma-1(NYESO-1)、P53、P抗原(PAGE:P antigen)ファミリー類、Placenta-specific 1(PLAC1)、Preferentially expressed antigen in melanoma(PRAME)、サバイビン(Survivin)、Synovial sarcoma X 1(SSX1)、Synovial sarcoma X 2(SSX2)、Synovial sarcoma X 3(SSX3)、Synovial sarcoma X 4(SSX4)、Synovial sarcoma X 5(SSX5)、Synovial sarcoma X 8(SSX8)、サイログロブリン、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質(TRP:Tyrosinase related protein)1、TRP2、Wilms tumor protein(WT-1)、X Antigen Family Member 1(XAGE1)、およびX Antigen Family Member 2(XAGE2)。
【0017】
さらなる実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むが、TCRα鎖の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸置換を含まないTCRと比較して、当該TCRの発現およびアビディティは増加している。
【0018】
さらなる実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含まないが、TCRα鎖の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸置換を含むTCRと比較して、当該TCRの発現およびアビディティは増加している。
【0019】
特定の好ましい実施形態では、本明細書において予期される単離されたTCRは、MAGEA4に結合しない。
【0020】
特定の実施形態において、本明細書において予期されるTCRα鎖およびTCRβ鎖を含む融合タンパク質が提供される。
【0021】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、最小限にマウス化されたTCRα鎖であって、当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含むもの、ポリペプチド切断シグナル、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖、を含む。
【0022】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0023】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、P90S、E91D、S92V、S93P、S115L、G118V、およびF119Lのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、ならびにE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0024】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、少なくとも4個の最小マウス化アミノ酸置換、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに少なくとも3個の疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα鎖定常ドメインは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに少なくとも5個の最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むもの、を含む。
【0025】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、定常領域の90位、91位、92位および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常領域のアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常領域を含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常領域のアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0026】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119L、を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、この場合において当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0027】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、および配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0028】
一部の実施形態では、ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス自己切断ペプチドまたはリボソームスキッピング配列である。
【0029】
特定の実施形態では、ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス2Aペプチドである。
【0030】
さらなる実施形態では、ポリペプチド切断シグナルは、アフトウイルス2Aペプチド、ポティウイルス2Aペプチド、またはカルジオウイルス2Aペプチドである。
【0031】
追加的な実施形態では、ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス2Aペプチドであり、口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aペプチド、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2Aペプチド、ゾセアアシグナウイルス(TaV)2Aペプチド、ブタテスコウイルス-1(PTV-1)2Aペプチド、タイロウイルス2Aペプチド、および脳心筋炎ウイルス2Aペプチドからなる群から選択される。
【0032】
特定の好ましい実施形態では、本明細書において予期される融合タンパク質は、MAGEA4に結合しない。
【0033】
他の実施形態では、核酸は、本明細書に予期されるTCRまたは融合タンパク質をコードする。
【0034】
一部の実施形態では、核酸は、最小限にマウス化されたTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチドであって、この場合において当該TCRα鎖膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含むもの、内部リボソーム侵入部位(IRES)、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含む。
【0035】
特定の実施形態では、核酸は、90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチド、IRES、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含む。
【0036】
特定の実施形態では、核酸は、P90S、E91D、S92V、S93P、S115L、G118V、およびF119Lのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチド、IRES、ならびにE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hのアミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含む。
【0037】
一部の実施形態では、核酸は、少なくとも4個の最小マウス化アミノ酸置換、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに少なくとも3個の疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチドであって、当該TCRα鎖定常ドメインは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むもの、IRES、ならびに少なくとも5個の最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチドであって、当該TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むもの、を含む。
【0038】
好ましい実施形態では、核酸は、定常領域の90位、91位、92位および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチドであって、当該TCRα定常領域のアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、IRES、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常領域を含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチドであって、当該TCRβ定常領域のアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0039】
特定の実施形態では、核酸は、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119L、を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチドであって、この場合において当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、IRES、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチドであって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0040】
特定の実施形態では、核酸は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖をコードする第一のポリヌクレオチド、IRES、および配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖をコードする第二のポリヌクレオチド、を含む。
【0041】
特定の好ましい実施形態では、本明細書で予期される核酸は、MAGEA4に結合する単離されたTCRまたは融合タンパク質をコードしない。
【0042】
一部の実施形態では、ベクターは、本明細書で予期されるTCRまたは融合タンパク質をコードする核酸を含む。
【0043】
特定の実施形態では、ベクターは、本明細書で予期される核酸を含む。
【0044】
一部の実施形態において、ベクターは、発現ベクターである。
【0045】
他の実施形態において、ベクターは、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである。
【0046】
特定の実施形態では、細胞は、本明細書で予期されるTCRを発現するように改変される。
【0047】
特定の実施形態では、細胞は、予期される融合タンパク質を発現するように改変される。
【0048】
特定の実施形態では、細胞は、本明細書で予期される核酸を発現するように改変される。
【0049】
特定の実施形態では、細胞は、本明細書で予期されるベクターを含む。
【0050】
特定の実施形態では、細胞は、免疫エフェクター細胞である。
【0051】
さらなる実施形態では、細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはナチュラルキラーT(NKT)細胞からなる群から選択される免疫エフェクター細胞である。
【0052】
様々な実施形態では、組成物は、本明細書で予期されるTCR、融合タンパク質、核酸、ベクター、または細胞を含む。
【0053】
様々な実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体と、本明細書で予期されるTCR、融合タンパク質、核酸、ベクターまたは細胞を含む。
【0054】
医薬品としての使用のための、本明細書で予期されるTCR、融合タンパク質、核酸、ベクター、細胞、組成物、または医薬組成物。
【0055】
癌の治療における使用のための本明細書に予期されるTCR、融合タンパク質、核酸、ベクター、細胞、組成物または医薬組成物であって、当該癌は、好ましくは血液の癌または固形腫瘍であり、より好ましくは当該癌は、肉腫、前立腺癌、子宮癌、甲状腺癌、精巣癌、腎臓癌、膵臓癌、卵巣癌、食道癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌腫、頭頚部癌、胃癌、子宮内膜癌、大腸癌、胆管癌、乳癌、膀胱癌、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病からなる群から選択され、最も好ましくは、当該癌は、NSCLC、SCLC、乳癌、卵巣癌、または大腸癌、肉腫、または骨肉腫からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1は、MAGEA4 TCR発現に対する様々なアミノ酸置換の影響を示す。ドナー細胞(n=2)を、TCR
TM(膜貫通ドメインにおける疎水性変異)、TCR
MM(最小マウス変異)、TCR
TM/MM(両方の変異セット)、またはTCR
WT(ヒトTCR)をコードするレンチウイルス構築物で形質導入し、10日間培養した。非形質導入(UTD:untransduced)T細胞は、対照として使用した。10日目にMAGEA4ペプチド(五量体構造)で標識することによって発現を検証した。
【
図2】
図2Aは、二つの異なる形質導入(Tdxn)条件下で、TCR
WTをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞と比較し、TCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞において、TCRの発現が増加していたことを示す(左パネル)。
図2Bは、二つの異なるTdxn条件下で、レンチウイルスTCR構築物のTCR
TM/MMおよびTCR
WTを用いたドナー細胞(n=2)の形質導入効率は同等であったことを示す(右パネル)。
【
図3】
図3Aは、TCR
WTを発現するT細胞におけるTCRミスペアリングを示す。ペアリングは、v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合として表される。v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合が等しい場合は、特異的なTCRペアリングが示唆される。
図3Bは、TCR
TM/MMを発現するT細胞におけるTCRミスペアリングを示す(右パネル)。ペアリングは、v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合として表される。v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合が等しい場合は、特異的なTCRペアリングが示唆される。
【
図4】
図4Aは、TCR
WTおよびTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたドナーT細胞からのIFNγ産生を示す。UTD T細胞、TCR
WTまたはTCR
TM/MM T細胞を、1:1のE:T比で、MAGEA4発現腫瘍細胞と一緒に共培養し、IFNγ発現を24時間後に測定した(左パネル)。
図4Bは、TCR
WTおよびTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたドナーT細胞の細胞傷害活性を示す。UTD T細胞、TCR
WTまたはTCR
TM/MM T細胞を、1:1のE:T比で、MAGEA4発現腫瘍細胞と一緒に共培養し、細胞障害活性を3日間にわたり測定した(右パネル)。
【
図5A】
図5Aおよび5Bは、NY-ESO-1 TCR発現に対する様々な変異の作用を示す。ドナー細胞(n=2)を、TCR
WT(ヒトTCR)、TCR
MM(最小マウス変異)、またはTCR
TM/MM(膜貫通ドメインにおける疎水性変異、および最小マウス変異)をコードするレンチウイルス構築物で形質導入し、10日間培養した。非形質導入(UTD:untransduced)T細胞は、対照として使用した。
図5Aは、10日目にNY-ESOペプチド(五量体構造)で標識することにより検証されたNY-ESO-1 TCR発現を示す。
【
図5B】
図5Bは、各ドナーについて、NY-ESO-1 TCR発現の平均蛍光強度(MFI)を示す。
【
図6】
図6は、UTD T細胞、TCR
WT T細胞、およびTCR
TM/MM T細胞におけるNY-ESO-1 TCRのミスペアリングを示す。ペアリングは、v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合として表される。
【発明を実施するための形態】
【0057】
配列番号に関する簡単な説明
配列番号1は、ヒトTCRα定常領域のアミノ酸配列を記載する。
配列番号2は、ヒトTCRβ定常領域1のアミノ酸配列を記載する。
配列番号3は、ヒトTCRβ定常領域2のアミノ酸配列を記載する。
配列番号4は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含むヒトTCRα定常領域のアミノ酸配列を記載する。
配列番号5は、最小マウスアミノ酸置換を含むヒトTCRβ定常領域1のアミノ酸配列を記載する。
配列番号6は、最小マウスアミノ酸置換を含むヒトTCRβ定常領域2のアミノ酸配列を記載する。
配列番号7は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、含む定常領域を含むヒトMART-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号8は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトMART-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号9は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトMART-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号10は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトMART-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号11は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトWT-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号12は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトWT-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号13は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトHPV16 E6 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号14は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトHPV16 E6 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号15は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号16は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号17は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号18は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号19は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号20は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号21は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号22は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトNY-ESO-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号23は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトHPV16 E7 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号24は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトHPV16 E7 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号25は、最小マウスアミノ酸置換、および膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸置換と、を含む定常領域を含むヒトGP100 TCRα鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号26は、最小マウスアミノ酸置換を含む定常領域を含むヒトGP100 TCRβ鎖のアミノ酸配列を記載する。
配列番号27~37は、様々なリンカーのアミノ酸配列を記載する。
配列番号38~62は、プロテアーゼ切断部位および自己切断型ポリペプチドの切断部位のアミノ酸配列を記載する。
配列番号63は、コンセンサスKozak配列のポリヌクレオチド配列を記載する。
本開示全体を通して、TCRαおよびTCRβの定常領域を用いて、アミノ酸の位置についての参照がなされる。アミノ酸の位置は、TCRαについては配列番号1および4、TCRβについては配列番号2、3、5、および6を参照して番号が付けられている。
【0058】
前述の配列において、Xは、存在する場合には任意のアミノ酸を指し、またはアミノ酸の非存在を指す。
【0059】
A.概要
本開示の一部は概して、発現、安定性、および機能的アビディティが増加するよう改変されたT細胞受容体に関するものである。TCRのアビディティは、その標的ペプチドに対するTCRのアフィニティと、TCRの発現によって決定される。標的ペプチドに対するTCRのアフィニティは概して、1μM~10μMの範囲内である。しかし、TCRのアフィニティが高すぎる場合、胸腺拒絶反応や、望ましくないオフターゲット活性のいずれかが生じてしまう可能性がある。TCRのアビディティは、細胞表面上に発現されるTCR分子の数を増加させることによって向上させることもでき、可能性としては、コドン最適化や、鎖の方向性の最適化を行い、バランスのとれた発現を実現することによってアビディティ向上を実現することができる。TCRの安定性も、TCR発現において役割を果たし得る。
【0060】
TCR膜貫通領域中の正電荷残基は、TCRの不安定化と、発現減少の原因となり得る。膜貫通ドメインの組成を変化させることで不安定化を低下させ、発現が増加する場合もあるが、一部の電荷残基はCD3複合体との相互作用に必須であるため、当該鎖を劇的に変化させることはできない。
【0061】
TCR鎖の不安定性に加えて、内因性TCR鎖との競合も低発現の原因となる。トランスジェニック(外因性)鎖と内因性鎖とのミスペアリングによって、TCR発現の低下が生じ、TCRの機能的アビディティが減少して、さらにオフターゲット毒性の可能性も生じる。当分野では、内因性TCR座位のノックアウトや、トランスジェニック定常ドメイン(例えば、ヒト)を異なる種由来の定常ドメイン(例えば、マウス)で置換することにより、この問題に対処してきた。しかしこれらの戦略では、内因性TCR座位の不完全な不活化、および外来性定常ドメインの存在による免疫原性のリスク増加の恐れがある。
【0062】
本発明者らは、最小マウスアミノ酸置換、およびTCRαの膜貫通ドメインにおける疎水性アミノ酸置換の組み合わせを用いて操作されたTCRが、TCRの安定性、発現、特異的ペアリング、および機能的アビディティを相乗的に増加させるという予想外の発見をした。さらに本発明者らは驚くべきことに、TCR定常ドメインを操作することにより、多くのTCR(高アフィニティおよび低アフィニティの両方とも)が、前述の特性を保有し得ること、それに伴い、取り扱いやすい免疫療法戦略となることを見出した。さらに、本明細書で予期される操作されたTCRは、シンプルな製造工程、用量を満たすためのTCR T細胞数の減少、およびTCR発現を低下させることなくさらに操作できる可能性をはじめとする、当分野の操作されたTCR T細胞を超える他の利点を提供する。
【0063】
様々な実施形態では、安定性、発現、および機能的アビディティを増加させるよう操作されたT細胞受容体(TCR)が提供される。本明細書に予期されるTCRは、TCRを最小限にマウス化するための一つ以上のアミノ酸置換、および膜貫通ドメインに一つ以上のアミノ酸疎水性アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、TCRは、最小限にマウス化され、および膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換を含む定常領域を伴うTCRα鎖、ならびに最小限にマウス化された定常領域を伴うTCRα鎖を含む。
【0064】
特定の実施形態では、本明細書に予期されるTCRは、TCRα定常領域にTCRα鎖を最小限にマウス化するための1個、2個、3個、または4個のアミノ酸置換、TCRα膜貫通ドメインに1個、2個または3個の疎水性アミノ酸置換、およびTCRβ定常領域にTCRβ鎖を最小限にマウス化するための1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸置換、を含む。好ましい実施形態では、本明細書に予期されるTCRは、TCRα定常領域にTCRα鎖を最小限にマウス化するための4個のアミノ酸置換、TCRα膜貫通ドメインに3個の疎水性アミノ酸置換、およびTCRβ定常領域にTCRβ鎖を最小限にマウス化するための5個のアミノ酸置換、を含む。
【0065】
本明細書で予期されるTCRは、典型的には、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子によって提示される標的抗原に結合する。特定の実施形態では、本明細書で予期されるTCRは、癌細胞上に発現される標的抗原、すなわち限定されないが、腫瘍関連抗原(TAA:tumor associated antigen)および腫瘍特異的抗原(TSA:tumor specific antigen)をはじめとする腫瘍抗原に結合する。
【0066】
特定の実施形態では、操作されたTCRをコードする一つ以上のポリヌクレオチドが、予期される。TCRα鎖およびTCRβ鎖は、異なるポリヌクレオチドによってコードされてもよく、またはポリシストロニックタンパク質として、もしくは融合ポリペプチドとして単一のポリヌクレオチドによってコードされてもよく、この場合において当該鎖は、任意で自己切断型ポリペプチドなどのリンカーポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによって分離される。特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、TCRα鎖、自己切断型ポリペプチド、およびTCRβポリペプチドをコードする。他の特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、TCRβ鎖、自己切断型ポリペプチド、およびTCRαポリペプチドをコードする。
【0067】
特定の実施形態では、TCRポリヌクレオチドは、免疫エフェクター細胞に導入されることがさらに予期される。本明細書で予期されるTCRを発現する免疫エフェクター細胞は、組成物または医薬組成物として製剤化されてもよく、癌の治療のための医薬品の製造において使用されてもよく、および/または癌の治療方法において使用されてもよい。
【0068】
好ましい実施形態では、本明細書に予期されるTCRは、限定されないが、霊長類またはヒトのMAGEA4をはじめとするMAGEA4に結合しない。
【0069】
組み換え(すなわち、操作された)DNA、ペプチドおよびオリゴヌクレオチド合成、免疫アッセイ、組織培養、形質変換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)、酵素反応、精製ならびに関連する技術および手法は、本明細書を通じて引用され、考察される、微生物学、分子生物学、生化学、分子遺伝学、細胞生物学、ウイルス学および免疫学における様々な一般的およびより具体的な参考文献に記載されるように一般的に行われてもよい。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons、2008年7月に更新)、Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Glover,DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(IRL Press,Oxford Univ.Press USA,1985)、Current Protocols in Immunology(Edited by:John E.Coligan,Ada M.Kruisbeek,David H.Margulies,Ethan M.Shevach,Warren Strober 2001 John Wiley&Sons,NY,NY)、Real-Time PCR:Current Technology and Applications,Edited by Julie Logan,Kirstin Edwards and Nick Saunders,2009,Caister Academic Press,Norfolk,UK、Anand,Techniques for the Analysis of Complex Genomes,(Academic Press,New York,1992)、Guthrie and Fink,Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology(Academic Press,New York,1991)、Oligonucleotide Synthesis(N.Gait,Ed.,1984)、Nucleic Acid The Hybridization(B.Hames&S.Higgins,Eds.,1985)、Transcription and Translation(B.Hames&S.Higgins,Eds.,1984)、Animal Cell Culture(R.Freshney,Ed.,1986)、Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)、Next-Generation Genome Sequencing(Janitz,2008 Wiley-VCH)、PCR Protocols(Methods in Molecular Biology)(Park,Ed.,3rd Edition,2010 Humana Press)、Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986)、the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.)、Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory)、Harlow and Lane,Antibodies,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1998)、Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987)、Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I-IV(D.M.Weir andCC Blackwell,eds.,1986)、Roitt,Essential Immunology,6th Edition,(Blackwell Scientific Publications,Oxford,1988)、Current Protocols in Immunology(Q.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach and W.Strober,eds.,1991)、Annual Review of Immunology、ならびにAdvances in Immunologyなどの専門誌の研究論文を参照されたい。
【0070】
B.定義
本開示をより詳細に記載する前に、本明細書で使用されるべきある特定の用語の定義を提供することは、その理解に役立ち得る。
【0071】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって普遍的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似した、または均等の方法および材料を、特定の実施形態の実施または検証に使用することができるが、本明細書においては好ましい組成物、方法および材料の実施形態を開示している。本開示の目的に対し、以下の用語を、以下に規定する。
【0072】
「a」、「an」および「the」といった冠詞は、本明細書において、当該冠詞の文法上の対象の一つまたは複数(すなわち少なくとも一つ、または一つもしくは複数)を指すために使用される。例示として、「an element」とは、一つの要素、または一つもしくは複数の要素を意味する。
【0073】
選択肢(例えば「または」)の使用は、いずれか一つ、両方、またはその選択肢の任意の組み合わせを意味すると理解されたい。
【0074】
「および/または」という用語は、いずれか一つ、またはその選択肢の両方を意味すると理解されたい。
【0075】
本明細書において使用される場合、「約」または「およそ」という用語は、基準の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重さ、または長さに対し、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%までも変化する数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重さ、または長さを指す。一つの実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、基準の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重さ、または長さに関し、±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%または±1%の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重さ、または長さの範囲を指す。
【0076】
一つの実施形態では、例えば1~5、約1~5、または約1~約5といった範囲は、当該範囲に包含される各数値を指す。例えば、一つの非限定的かつ単なる例示としての実施形態では、「1~5」という範囲は、1、2、3、4、5という表現、または1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、もしくは5.0という表現、または1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、もしくは5.0という表現と同等である。
【0077】
本明細書において使用される場合、「実質的に」という用語は、基準の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重さ、または長さと比較して、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上である数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重さ、または長さを指す。一実施形態では、「実質的に同じ」は、参照の量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さとほぼ同じである効果、例えば、生理学的効果を生じる量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さを指す。
【0078】
本明細書全体を通じて、文脈が別段要求しない限り、語句「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含むこと」は、規定される工程もしくは構成要素または工程もしくは構成要素の群を含むことを暗示するが、任意の他の工程もしくは構成要素または工程もしくは構成要素の群を除外することを暗示しないことは理解されるだろう。「~からなる」とは、語句「からなる」に続くもの全てを含み、それらに限定されることを意味する。ゆえに、「~からなる」という文言は、列記される要素が必要または義務であり、他の要素は存在し得ないことを示す。「本質的に~からなる」とは、当該文言の後に列記される任意の要素、および列記される要素に関して本開示中に特定される活性もしくは作用に干渉しない、または寄与しない他の要素に限定される任意の要素を含むことを意味する。ゆえに、「本質的に~からなる」という文言は、列記される要素が必須または義務であり、しかし列記される要素の活性または作用に実質的に影響を与える他の要素は存在しないことを示す。
【0079】
本明細書全体を通じて「一つの実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「関連する実施形態」、「ある実施形態」、「追加的な実施形態」、もしくは「さらなる実施形態」、またはそれらの組み合わせに対する参照は、当該実施形態と関連付けて記載される特定の性質、構造または特徴が、少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。ゆえに本明細書全体の様々な箇所での前述の文言の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではない。さらに特定の性質、構造または特徴は、一つ以上の実施形態において任意の適切な様式で組み合わされ得る。さらに、一つの実施形態でのある性質の肯定的な列挙は、特定の実施形態では当該性質の除外の根拠として機能することを理解されたい。
【0080】
「外来」分子は、細胞に通常存在しないが、一つまたは複数の遺伝子、生化学的または他の方法によって細胞に導入される分子である。例示的な外来分子としては、小有機分子、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、上記分子の任意の改変された誘導体、または上記分子の一つまたは複数を含む任意の複合体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞への外来分子の導入方法は、当業者に公知であり、脂質により仲介される伝達(すなわち、中性脂質およびカチオン性脂質を含むリポソーム)、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、微粒子銃、バイオポリマーナノ粒子、リン酸カルシウム共沈殿、DEAE-デキストランにより仲介される伝達、およびウイルスベクターにより仲介される伝達が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
「内在」分子は、特定の環境条件下での特定の発生段階で、特定の細胞に通常存在する分子である。追加の内在分子には、タンパク質が含まれ得る。
【0082】
追加の定義は、本開示全体を通じて記載されている。
【0083】
C.T細胞受容体
主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子によって標的抗原のペプチド断片が提示されるとき、T細胞受容体(TCR)は標的抗原ペプチド断片を認識する。MHC分子には、二つの異なるクラスのMHC IとMHC IIがあり、異なる細胞区画から細胞表面にペプチドを送達する。TCRと抗原およびMHCとの関与は、関連する酵素、共受容体、および特殊なアクセサリ分子によって媒介される一連の生化学的事象を通して免疫エフェクター細胞の活性化をもたらす。
【0084】
本明細書で予期されるTCRは、TCRアルファ(TCRα)鎖およびTCRベータ(TCRβ)鎖を含むヘテロ二量体複合体である。ヒトTCRα座位は、14番染色体(14q11.2)上に位置する。成熟TCRα鎖は、可変(V)セグメントと結合(J)セグメントとの組み換えに由来する可変ドメインと、定常(C)ドメインとを含む。「可変TCRα領域」または「TCRα可変鎖」または「TCRα可変ドメイン」という用語は、TCRα鎖の可変領域を指す。ヒトTCRβ座位は、7番染色体(7q34)上に位置する。成熟TCRβ鎖は、可変(V)セグメント、多様性(D)セグメント、および結合(J)セグメントの組み換えに由来する可変ドメインと、二つの定常(C)ドメインのうちの一つとを含む。「可変TCRβ領域」または「TCRβ可変鎖」または「TCRβ可変ドメイン」という用語は、TCRβ鎖の可変領域を指す。
【0085】
TCRα鎖およびTCRβ鎖の両鎖の再構成されたV(D)J領域は、それぞれが相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)として知られる三つの超可変領域を含有する。CDR3が、処理された抗原を認識するメインのCDRであるが、アルファ鎖のCDR1は、抗原ペプチドのN末端部分と相互作用すること、一方でベータ鎖のCDR1は、抗原ペプチドのC末端部分と相互作用することが示されている。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられている。フレームワーク領域(FR)は、CDRの間に配置されている。これらの領域によって、TCR可変領域の構造が形成される。
【0086】
TCR鎖の定常ドメインまたは定常領域は、TCR構造にも寄与しており、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および短い細胞質ドメインからなる。
【0087】
TCR構造によって、TCR複合体が形成される。TCR複合体は、TCRα鎖、TCRβ鎖、ならびにアクセサリ分子のCD3γ、CD3δ、CD3ε、およびCD3ζを含む。T細胞複合体からのシグナルは、特定の共受容体によるMHC分子への同時結合によって増強される。CD4はヘルパーT細胞上に発現されるMHC II分子の共受容体であり、CD8は細胞傷害性T細胞上に発現されるMHC I分子の共受容体である。共受容体によって、抗原に対するTCRの特異性が確保されるだけではなく、抗原提示細胞とT細胞との間の長期間の係合も可能となり、活性化Tリンパ球のシグナル伝達に関与する細胞内の必須分子(例えばLCK)もリクルートされる。
【0088】
本明細書で予期されるTCRを使用して、免疫エフェクター細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることができる。本明細書で予期されるTCRは、TCRの安定性、TCRの発現、特異的なTCRペアリング、および機能的アビディティを高めるように操作される。
【0089】
特定の実施形態では、TCRαおよびTCRβ鎖の定常ドメインは、TCRの安定性、TCRの発現、特異的なTCRペアリング、および機能的アビディティを高めるように操作され、または改変される。
【0090】
操作されたTCR配列の正しいペアリングを効率的に強化し、内因性TCR鎖とのミスペアリングを回避するために、操作されたTCR配列は、TCRαおよびTCRβの定常ドメインが最小限にマウス化するように改変される。TCRのマウス化とは、ヒトのTCRα定常ドメインおよびTCRβ定常ドメインを、それぞれのマウスでのカウンターパートと置き換えることを指す。九つのアミノ酸が、マウス化TCRの発現改善に寄与すると特定されている。「最小マウス化」を行うことによって、細胞表面発現が強化されると同時にアミノ酸配列内の「外来性」アミノ酸残基の数も減少するため、免疫原性のリスクも低下するという利点がもたらされる。最小マウス化とは、TCRαの定常ドメインにおける、1、2、3、または4個のアミノ酸の置換、好ましくは4個すべてのアミノ酸の置換、およびTCRβ定常ドメインにおける、1、2、3、4、または5個のアミノ酸の置換、好ましくは5個すべてのアミノ酸の置換を指し、それらアミノ酸は、マウス化TCRの発現の改善に寄与するアミノ酸である。好ましい実施形態では、最小マウス化とは、ヒトTCRαの定常ドメイン中の4個のアミノ酸の置換、およびヒトTCRβ定常ドメイン中の5個のアミノ酸の置換を指し、それらアミノ酸は、マウス化TCRの発現の改善に寄与するアミノ酸である。
【0091】
本明細書で予期される操作されたTCRまたは改変されたTCRは、TCRの安定性、TCRの発現および機能的アビディティを高めるために、最小限にマウス化されたTCRα定常ドメインおよびTCRβ定常ドメインを含み、さらにTCRα膜貫通ドメインには疎水性アミノ酸置換を含む。TCRα鎖の膜貫通ドメインは、鎖の全体的な安定性の欠如の原因となること、ゆえにTCR-CD3複合体全体の形成と表面発現に影響を及ぼすことが示されている。特定の実施形態では、TCRαの膜貫通ドメインにおいて、1、2、または3個のアミノ酸、好ましくは3個すべてのアミノ酸を、疎水性アミノ酸と置換することによって、TCRの安定性、発現、およびアビディティが改善される。好ましい実施形態では、TCRαの膜貫通ドメインには、3個の疎水性アミノ酸置換が含まれ、それによって、TCRの安定性、発現、およびアビディティが改善される。
【0092】
特定の実施形態での使用に適した疎水性アミノ酸の例としては、アラニン(A)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)が挙げられる。好ましい実施形態では、疎水性アミノ酸は、アラニン(A)、バリン(V)、イソロイシン(I)およびロイシン(L)からなる群から選択される。より好ましい実施形態では、疎水性アミノ酸は、バリン(V)、イソロイシン(I)およびロイシン(L)からなる群から選択される。さらにより好ましい実施形態では、疎水性アミノ酸は、バリン(V)およびロイシン(L)である。
【0093】
特定の実施形態では、操作されたTCRは、最小限にマウス化されたTCRα鎖と、最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含む。
【0094】
好ましい実施形態では、操作されたTCRは、TCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖と、TCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖とを含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含む。
【0095】
好ましい実施形態では、操作されたTCRは、定常領域の90位、91位、92位、および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0096】
好ましい実施形態では、操作されたTCRは、以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93Pと、定常領域の膜貫通ドメインにおいて以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0097】
好ましい実施形態では、操作されたTCRは、定常領域の90位、91位、92位および93位で最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位および119位で疎水性アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常領域のアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常領域を含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常領域のアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0098】
特定の実施形態では、操作されたTCRは、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119L、を含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、この場合において当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0099】
特定の好ましい実施形態では、操作されたTCRは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRα鎖、および配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。
【0100】
特定の実施形態では、操作されたTCRは、抗原に結合する可変ドメインを含む。好ましい実施形態では、抗原は、MAGEA4ではない。
【0101】
D.標的抗原
本明細書で予期される操作されたT細胞受容体(TCR)は、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)のクラスI分子またはMHCクラスII分子によって提示されるポリペプチド抗原に結合し、好ましくはMHCクラスI分子によって提示されるポリペプチド抗原に結合する。
【0102】
「主要組織適合性遺伝子複合体」(MHC)とは、ペプチド抗原を細胞表面に送達する糖タンパク質を指す。MHCクラスI分子は、膜にまで及ぶα鎖(三つのαドメインを含む)と、非共有結合的に関連付けられたβ2マイクログロブリンとを有するヘテロ二量体である。MHCクラスII分子は、αとβの二つの膜貫通型糖タンパク質から構成され、それら糖タンパク質は両方とも膜にまで及んでいる。各鎖は二つのドメインを有する。MHCクラスI分子は、細胞質を起源とするペプチドを細胞表面へと送達し、ペプチド:MHC複合体は細胞表面でCD8+T細胞によって認識される。MHCクラスII分子は、小胞系を起源とするペプチドを細胞表面へと送達し、細胞表面でペプチド:MHC複合体はCD4+T細胞によって認識される。ヒトMHCは、ヒト白血球抗原(HLA)とも呼ばれる。
【0103】
好ましい実施形態では、「抗原(Ag)」、「標的抗原」、および「ポリペプチド抗原」は相互交換可能に使用され、集合的に、自然に処理された抗原性タンパク質部分、または合成的に作製された抗原性タンパク質部分を指す。例えば、腫瘍関連抗原(TAA)または腫瘍特異的抗原(TSA)があり、約7アミノ酸~約15アミノ酸の長さの範囲で、MHC(例えば、HLA)と複合体を形成して、標的抗原:MHC(例えば、HLA)複合体を形成することができる。
【0104】
抗原提示細胞(APC)(例えば、樹状細胞、マクロファージ、リンパ球または他の細胞型)による抗原処理の原理、およびAPCによるT細胞への抗原提示の原理はしっかりと確立されており、免疫適合性のある(例えば、抗原提示に適したMHC遺伝子のアレル型を少なくとも一つ共有すること、など)APCとT細胞の間の主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)拘束性の提示などが挙げられる(例えば、Murphy,Janeway’s Immunobiology(8th Ed.)2011 Garland Science,NYのチャプター6、9および16を参照のこと)。例えば、細胞質を起源とし、処理された抗原ペプチド(例えば、腫瘍抗原、細胞内病原体など)は多くの場合、約7アミノ酸~約11アミノ酸の長さであり、クラスI MHC分子と関連付けられる。一方で小胞系で処理されたペプチド(例えば、細菌性ペプチド、ウイルス性ペプチド)は多くの場合、約10アミノ酸~約25アミノ酸の長さで変化し、クラスII MHC分子と関連付けられる。
【0105】
特定の実施形態では、本明細書で予期される操作されたTCRは、例えばTAAやTSAなどの腫瘍抗原に結合する。「腫瘍関連抗原」または「TAA」としては限定されないが、腫瘍胎児抗原、過剰発現抗原、系統限定抗原、および癌-精巣抗原が挙げられる。TAAは、相対的に腫瘍細胞に限定される。TAAは、腫瘍細胞で発現レベルが上昇しているが、健康な細胞でも低レベルで発現する。「腫瘍特異的抗原」または「TSA」としては限定されないが、新抗原(neoantigen)や腫瘍ウイルス抗原(oncoviral antigen)が挙げられる。TSAは、腫瘍細胞に固有のものである。TSAは、癌細胞で発現され、正常細胞では発現されない。
【0106】
特定の実施形態では、本明細書で予期される操作されたTCRは、以下からなる群から選択されるポリペプチドの抗原性部分に結合する:α-フェトプロテイン(AFP:α-fetoprotein)、B Melanoma Antigen(BAGE)ファミリー類、Brother of the regulator of imprinted sites(BORIS)、癌-精巣抗原、癌-精巣抗原83(CT-83)、Carbonic anhydrase IX(CA1X)、癌胎児抗原(CEA:Carcinoembryonic antigen)、サイトメガロウイルス(CMV)抗原、メラノーマ上の細胞傷害性T細胞(CTL)認識抗原(CAMEL:Cytotoxic T cell(CTL)-recognized antigen on melanoma)、エプスタイン-バールウイルス(EBV:Epstein-Barr virus)抗原、G antigen 1(GAGE-1)、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7B、GAGE-8、糖タンパク質100(GP100:Glycoprotein 100)、B型肝炎ウイルス(HBV)抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)非構造タンパク質3(NS3)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)、ヒトパピローマウイルス(HPV)-E6、HPV-E7、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、潜在膜タンパク質2(LMP2:Latent membrane protein 2)、Melanoma antigen family A,1(MAGE-A1)、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、Melanoma antigen recognized by T cells(MART-1)、メソテリン(MSLN)、ムチン1(MUC1)、ムチン16(MUC16)、New York esophageal squamous cell carcinoma-1(NYESO-1)、P53、P抗原(PAGE:P antigen)ファミリー類、Placenta-specific 1(PLAC1)、Preferentially expressed antigen in melanoma(PRAME)、サバイビン(Survivin)、Synovial sarcoma X 1(SSX1)、Synovial sarcoma X 2(SSX2)、Synovial sarcoma X 3(SSX3)、Synovial sarcoma X 4(SSX4)、Synovial sarcoma X 5(SSX5)、Synovial sarcoma X 8(SSX8)、サイログロブリン、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質(TRP:Tyrosinase related protein)1、TRP2、Wilms tumor protein(WT-1)、X Antigen Family Member 1(XAGE1)、およびX Antigen Family Member 2(XAGE2)。
【0107】
特定の実施形態では、本明細書で予期される操作されたTCRは、CT-83、MAGE-A3、MART-1、MUC16、NY-ESO-1、PLAC-1、PRAME、SSX2、サバイビン、およびWT-1からなる群から選択されるポリペプチドの抗原性部分に結合する。
【0108】
特定の実施形態では、本明細書で予期される操作されたTCRは、NY-ESO-1の抗原性部分に結合する。
【0109】
E.ポリペプチド
様々なポリペプチド、融合ポリペプチド、およびポリペプチドバリアントが本明細書で予期され、限定されないが、TCRポリペプチド、TCRα鎖ポリペプチド、TCRβ鎖ポリペプチド、TCR融合ポリペプチド、およびそれらの断片が挙げられる。特定の実施形態では、本明細書で予期されるポリペプチドの例としては、配列番号4~26のいずれか一つに記載されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0110】
「ポリペプチド」「ペプチド」、および「タンパク質」は、相互交換可能に使用され、反対であることが明記されない限り、従来的な意味に従う。すなわちアミノ酸配列として使用される。ポリペプチドは特定の長さに限定されず、例えばポリペプチドは、全長ポチペプチドまたはポリペプチド断片を含有してもよく、ポリペプチドは、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などのポリペプチドの翻訳後修飾を一つ以上含んでもよく、ならびに当分野に公知の天然および非天然の他の修飾を含んでもよい。
【0111】
本明細書において使用される場合、「単離されたポリペプチド」などは、細胞環境からの、および細胞の他の構成要素との会合からの、ペプチド分子またはポリペプチド分子のインビトロでの合成、単離および/または精製を指し、すなわち、インビボでの物質と実質的に関連づけられていない。特定の実施形態では、単離されたポリペプチドは、合成ポリペプチド、組み換えポリペプチド、または半合成ポリペプチド、または組み換え源から取得された、もしくは誘導されたポリペプチドである。
【0112】
ポリペプチドには、「ポリペプチドバリアント」が含まれる。ポリペプチドバリアントは、一つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、付加および/または挿入において天然に存在するポリペプチドとは異なってもよい。そうしたバリアントは、天然であってもよく、または本明細書で予期されるポリペプチド配列の一つ以上を改変することによって合成的に作製されてもよい。例えば特定の実施形態では、TCRα鎖および/またはTCRβ鎖内に、一つ以上の置換、欠失、付加および/または挿入を導入することによって、TCRの結合アフィニティ、安定性、発現、特異的ペアリング、機能的アビディティ、および/または生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。特定の実施形態では、ポリペプチドは、本明細書において予期されるポリペプチド配列のいずれかに対し、少なくとも約65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、86%、97%、98%、または99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドを含み、典型的には、当該バリアントは、参照配列の生物学的活性を少なくとも一つ維持している。
【0113】
ポリペプチドには「ポリペプチド断片」が含まれる。ポリペプチド断片は、単量体または多量体であってもよく、アミノ末端欠失、カルボキシル末端欠失、および/または自然発生的または組み換えにより産生されたポリペプチドの内部欠失または置換を有する、生物学的に活性なポリペプチドを指す。本明細書で使用される、用語「生物学的に活性な断片」または「最小限の生物学的に活性な断片」は、天然に存在するポリペプチド活性の少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、または少なくとも5%を保持するポリペプチド断片を指す。ある実施形態では、ポリペプチド断片は、少なくとも5~約500アミノ酸の長さのアミノ酸鎖を含有し得る。ある実施形態では、断片は、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、150、200、250、300、350、400、または450のアミノ酸長である。
【0114】
上述のように、特定の実施形態では、ポリペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、切断および挿入を含む、様々な方法で改変されてもよい。そうした操作のための方法は、当分野において一般的に公知である。例えば、参照ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、DNA中の変異により作製され得る。変異誘導およびヌクレオチド配列改変のための方法は、当分野に公知である。例えば、Kunkel(1985、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82:488-492)、Kunkelら、(1987、Methods in Enzymol、154:367-382)、米国特許第 4,873,192号、Watson、J.D.ら、(Molecular Biology of the Gene、Fourth Edition、Benjamin/Cummings、Menlo Park、Calif.、1987)、およびそれらにおいて引用される参照文献を参照のこと。対象となるタンパク質の生物活性に影響を与えない適切なアミノ酸置換に関するガイダンスは、Dayhoffら、(1978)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.、Washington、D.C.)のモデルに見出され得る。
【0115】
好ましい実施形態では、融合ポリペプチドが本明細書で予期される。融合ポリペプチドおよび融合タンパク質とは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個以上のポリペプチドセグメントを有するポリペプチドを指す。融合ポリペプチドは、典型的にはC末端~N末端で連結されるが、C末端~C末端、N末端~N末端、またはM末端~C末端で連結されることもできる。特定の実施形態では、融合タンパク質のポリペプチドは、任意の順序であってもよく、または指定される順序であってもよい。
【0116】
特定の実施形態では、本明細書で予期されるTCRは、TCRα鎖、ポリペプチドリンカー、およびTCRβ鎖を含む融合ポリペプチドとして発現される。一部の実施形態では、TCRは、融合タンパク質として発現され、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα鎖、ポリペプチドリンカー、およびTCRβ鎖を含む。一部の実施形態では、TCRは、融合タンパク質として発現され、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRβ鎖、ポリペプチドリンカー、およびTCRα鎖を含む。
【0117】
「リンカー」は、ポリペプチドまたは融合ポリペプチドの隣接するドメインを接続するアミノ酸配列である。リンカーの例としては、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(G1-5S1-5)n(式中、nは、少なくとも1、2、3、4または5の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および当分野で公知の他の柔軟性のあるリンカーが挙げられる。グリシンは、アラニンよりも非常に多くのphi-psi空間にアクセスし、より長い側鎖を有する残基よりもはるかに制限が少ない(Scheraga,Rev.Computational Chem.11173-142(1992)を参照のこと)。リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個またはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。他の例示的なリンカーとしては限定されないが、以下のアミノ酸配列が挙げられる:DGGGS(配列番号27);TGEKP(配列番号28)(例えば、Liu et al.,PNAS 5525-5530(1997)を参照されたい)、GGRR(配列番号29)(Pomerantz et al.1995、上記)、(GGGGS)n(式中、n=1、2、3、4または5である)(配列番号30)(Kim et al.,PNAS 93,1156-1160(1996.)、EGKSSGSGSESKVD(配列番号31)(Chaudhary et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:1066-1070)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号32)(Bird et al.,1988,Science 242:423-426)、GGRRGGGS(配列番号33)、LRQRDGERP(配列番号34)、LRQKDGGGSERP(配列番号35)、LRQKD(GGGS)2 ERP(配列番号36)。あるいは柔軟性のあるリンカーは、DNA結合部位とペプチドそれ自体の両方をモデリングすることができるコンピュータープログラム(Desjarlais & Berg,PNAS 90:2256-2260(1993),PNAS 91:11099-11103(1994))またはファージディスプレイ法を使用して合理的に設計することもできる。特定の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列:GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号37)(Cooper et al.,Blood,101(4):1637-1644(2003))を含む。
【0118】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む融合タンパク質であって、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含むもの。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、最小限にマウス化されたTCRβ鎖、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRα鎖を含む融合タンパク質であって、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含むもの。
【0119】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、TCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチドリンカー、およびTCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチドリンカー、およびTCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、TCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖、ポリペプチドリンカー、およびTCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖を含む融合タンパク質であって、当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含むもの。
【0120】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、TCRα定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびにTCRα定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lを含む、最小限にマウス化されたTCRα鎖(例えば、配列番号7、9、11、13、15、17、19、21、23、および25)、ポリペプチドリンカー、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖(例えば、配列番号8、10、12、14、16、18、20、22、24、および26)を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびにTCRα定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lを含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ポリペプチドリンカー、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、ポリペプチドリンカー、ならびにTCRα定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびにTCRα定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lを含む定常ドメインを含むTCRα鎖、を含む融合タンパク質。
【0121】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、TCRα定常ドメインの90位、91位、92位、および93位に最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位に疎水性アミノ酸置換とを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチドリンカー、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα定常ドメインの90位、91位、92位、および93位に最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位に疎水性アミノ酸置換とを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチドリンカー、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチドリンカー、ならびにTCRα定常ドメインの90位、91位、92位、および93位に最小マウス化アミノ酸置換、ならびに115位、118位、および119位に疎水性アミノ酸置換とを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む融合タンパク質。
【0122】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92VおよびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチドリンカー、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92VおよびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチドリンカー、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチドリンカー、ならびに定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92VおよびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0123】
好ましい実施形態では、ポリペプチドリンカーは、ポリペプチド切断シグナルである。ポリペプチド切断シグナルの例としては、例えばプロテアーゼ切断部位、ヌクレアーゼ切断部位(例えば、稀な制限酵素認識部位、自己切断リボザイム認識部位)、および自己切断ウイルスオリゴペプチド(deFelipe and Ryan,2004.Traffic,5(8);616-26を参照のこと)といったポリペプチド切断認識部位が挙げられる。
【0124】
適切なプロテアーゼ切断部位および自己切断ペプチドは、当業者に公知である(例えば、Ryan et al.,1997.J.Gener.Virol.78,699-722;Scymczak et al.(2004)Nature Biotech.5,589-594を参照のこと)。プロテアーゼ切断部位の例としては限定されないが、ポティウイルスNIaプロテアーゼ(例えばタバコエッチ病ウイルスプロテアーゼ)、ポティウイルスHCプロテアーゼ、ポティウイルスP1(P35)プロテアーゼ、ビオウイルス(byovirus)NIaプロテアーゼ、ビオウイルスRNA-2-コードプロテアーゼ、アフトウイルスLプロテアーゼ、エンテロウイルス2Aプロテアーゼ、ライノウイルス2Aプロテアーゼ、ピコルナ3Cプロテアーゼ、コモウイルス24Kプロテアーゼ、ネポウイルス24Kプロテアーゼ、RTSV(ワイカウイルス)3C様プロテアーゼ、PYVF(パースニップ黄斑ウイルス)3C様プロテアーゼ、ヘパリン、トロンビン、第Xa因子、およびエンテロキナーゼの切断部位が挙げられる。切断ストリンジェンシーが高いために、一つの実施形態ではTEV(タバコエッチ病ウイルス)プロテアーゼ切断部位、例えばEXXYXQ(G/S)(配列番号38)、例えばENLYFQG(配列番号39)およびENLYFQS(配列番号40)が好ましく、式中、Xは、任意のアミノ酸を表している(TEVによる切断は、QとGの間、またはQとSの間で発生する)。
【0125】
特定の実施形態において、ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス自己切断ペプチドまたはリボソームスキッピング配列である。
【0126】
リボソームスキッピング配列の実例には、2Aもしくは2A様部位、配列またはドメインが挙げられるが、これらに限定されない(Donnellyら、2001年、J.Gen.Virol.82:1027~1041を参照)。特定の実施形態では、ウイルス2Aペプチドは、アフトウイルス2Aペプチド、ポティウイルス2Aペプチド、またはカルジオウイルス2Aペプチドである。
【0127】
一実施形態では、ウイルス2Aペプチドは、口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aペプチド、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2Aペプチド、ゾセアアシグナウイルス(TaV)2Aペプチド、ブタテスコウイルス-1(PTV-1)2Aペプチド、タイロウイルス2Aペプチド、および脳心筋炎ウイルス2Aペプチドからなる群から選択される。
【0128】
【0129】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む融合タンパク質であって、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含むもの。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、最小限にマウス化されたTCRβ鎖、ポリペプチド切断シグナル、および最小限にマウス化されたTCRα鎖を含む融合タンパク質であって、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、疎水性アミノ酸置換を含むもの。
【0130】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、TCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、およびTCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、およびTCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含み、この場合において当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、TCRβ定常領域に5個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRβ鎖、ポリペプチド切断シグナル、およびTCRα定常領域に4個のアミノ酸置換を含む最小限にマウス化されたTCRα鎖を含む融合タンパク質であって、当該TCRα鎖の膜貫通ドメインは、3個の疎水性アミノ酸置換をさらに含むもの。
【0131】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、TCRα定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびにTCRα定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lを含む最小限にマウス化されたTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびにTCRα定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lを含む定常ドメインを含むTCRα鎖、ポリペプチド切断シグナル、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖、ポリペプチド切断シグナル、ならびにTCRα定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92V、およびS93P、ならびにTCRα定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lを含む定常ドメインを含むTCRα鎖、を含む融合タンパク質。
【0132】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、TCRα定常ドメインの90位、91位、92位、および93位に最小マウス化アミノ酸置換、ならびにTCRα定常ドメインの115位、118位、および119位に疎水性アミノ酸置換とを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、TCRα定常ドメインの90位、91位、92位、および93位に最小マウス化アミノ酸置換、ならびにTCRα定常ドメインの115位、118位、および119位に疎水性アミノ酸置換とを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、18位、22位、133位、136位、および139位で最小マウス化アミノ酸置換を含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびにTCRα定常ドメインの90位、91位、92位、および93位に最小マウス化アミノ酸置換、ならびにTCRα定常ドメインの115位、118位、および119位に疎水性アミノ酸置換とを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む融合タンパク質。
【0133】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92VおよびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、5’から3’に向かって、定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92VおよびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。一部の実施形態では、5’から3’に向かって、以下の最小マウス化アミノ酸置換であるE18K、S22A、F133I、E/V136A、およびQ139Hを含む定常ドメインを含むTCRβ鎖であって、当該TCRβ定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、ポリペプチド切断シグナル、ならびに定常ドメインに以下の最小マウス化アミノ酸置換であるP90S、E91D、S92VおよびS93P、ならびに定常ドメインの膜貫通ドメインに以下の疎水性アミノ酸置換であるS115L、G118V、およびF119Lとを含む定常ドメインを含むTCRα鎖であって、当該TCRα定常ドメインのアミノ酸配列は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一であるもの、を含む。
【0134】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチド切断シグナルを含み、当該ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス自己切断ペプチドまたはリボソームスキッピング配列である。
【0135】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチド切断シグナルを含み、当該ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス2Aペプチドである。
【0136】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチド切断シグナルを含み、当該ポリペプチド切断シグナルは、アフトウイルス2Aペプチド、ポティウイルス2Aペプチド、またはカルジオウイルス2Aペプチドである。
【0137】
特定の実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチド切断シグナルを含み、当該ポリペプチド切断シグナルは、ウイルス2Aペプチドであり、当該ウイルス2Aペプチドは、口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aペプチド、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2Aペプチド、ゾセアアシグナウイルス(TaV)2Aペプチド、ブタテスコウイルス-1(PTV-1)2Aペプチド、タイロウイルス2Aペプチド、および脳心筋炎ウイルス2Aペプチドからなる群から選択される。
【0138】
F.ポリヌクレオチド
特定の実施形態では、一つ以上のTCRポリペプチド、TCRα鎖ポリペプチド、TCRβ鎖ポリペプチド、TCR融合ポリペプチド、およびそれらの断片をコードする一つ以上のポリヌクレオチドが提供される。本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、およびDNA/RNAハイブリッドを指す。ポリヌクレオチドは、モノシストロニックまたはポリシストロニックであってもよく、一本鎖または二本鎖であってもよく、および組み換え、合成または単離されていてもよい。ポリヌクレオチドとしては限定されないが、プレメッセンジャーRNA(プレmRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムDNA(gDNA)、PCR増幅されたDNA、相補的DNA(cDNA)、合成DNA、または組み換えDNAが挙げられる。ポリヌクレオチドとは、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも5000、少なくとも10000、または少なくとも15000以上のヌクレオチドの長さのヌクレオチドの多量体型を指し、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチド、またはいずれかタイプのヌクレオチドの改変型、ならびにすべての中間の長さのものを指す。本文脈において、「中間の長さ」とは、例えば、6、7、8、9など、101、102、103など、151、152、153など、201、202、203などの引用されている値の間の任意の長さを意味すると、容易に理解されるであろう。特定の実施形態では、ポリヌクレオチドまたはバリアントは、参照配列に対し、少なくとも、もしくは約50%、55%、60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%,76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する。
【0139】
ポリヌクレオチドの例示としては限定されないが、配列番号4~26をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0140】
本明細書において使用される場合、「単離されたポリヌクレオチド」とは、自然状態で隣接する配列から精製されたポリヌクレオチドを指し、例えば、通常では当該断片と隣接する配列から取り出されたDNA断片を指す。特定の実施形態において、「単離されたポリヌクレオチド」はまた、自然界には存在せず、人為的に作製された、相補的DNA(cDNA)、組換えDNA、または他のポリヌクレオチドも指す。特定の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、合成ポリヌクレオチド、組み換えポリヌクレオチド、半合成ポリヌクレオチド、または組み換え源から取得された、もしくは誘導されたポリヌクレオチドである。
【0141】
様々な実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書において予期されるポリペプチドをコードするmRNAを含有する。ある実施形態では、mRNAは、キャップ、一つ以上のヌクレオチド、そしてポリ(A)尾部を含有する。
【0142】
特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、コドン最適化されてもよい。本明細書で使用される、用語「コドン最適化」は、ポリペプチドの発現、安定性および/または活性を増加させるためにポリペプチドをコードするポリヌクレオチド中のコドンを置換することを指す。コドン最適化に影響を及ぼす因子としては限定されないが、以下のうちの一つ以上が挙げられる:(i)二つ以上の生物体または遺伝子または合成構築されたバイアステーブルの間のコドンバイアスの変動、(ii)生物体、遺伝子または遺伝子セット内のコドンバイアスの程度の変動、(iii)コンテキストを含むコドンの体系的変動、(iv)その解読tRNAに伴うコドンの変動、(v)三つ組全体または三つ組の一つの位置のいずれかのGC%に伴うコドンの変動、(vi)例えば天然配列などの参照配列に対する類似性における変動、(vii)コドン頻度のカットオフにおける変動、(viii)DNA配列から転写されたmRNAの構造的性質、(ix)コドン置換セットの設計の基礎となるDNA配列の機能に関する予備知識、(x)各アミノ酸に対するコドンセットの合成的変動、および/または(xi)誤った翻訳開始位置の分離された除去。
【0143】
本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチドバリアント」および「バリアント」などの用語は、参照ポリヌクレオチド配列と相当の配列同一性を呈するポリヌクレオチド、または本明細書において規定されるストリンジェントな条件下で参照配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。これらの用語は、一つ以上のヌクレオチドが、参照ポリヌクレオチドに比べて、付加もしくは欠失もしくは異なるヌクレオチドで置換されたポリヌクレオチドを含む。この点に関し、当分野において、参照ポリヌクレオチドに対し、変異、付加、欠失および置換を含むある変更が為され、変更されたポリヌクレオチドは、参照ポリヌクレオチドの生物学的機能または生物活性を保持し得ると理解されている。
【0144】
ポリヌクレオチドバリアントは、生物学的に活性なポリペプチド断片またはバリアントをコードするポリヌクレオチド断片が含まれる。本明細書で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド断片」は、少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、または少なくとも5%の自然発生ポリペプチド活性を保持するポリペプチドをコードする、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500個、1600、1700以上のヌクレオチド長のポリヌクレオチド断片を指す。ポリヌクレオチド断片はアミノ末端欠失、カルボキシル末端欠失、カルボキシ末端欠失、および/または内部欠失または天然もしくは組換え産生ポリペプチドの一つ以上のアミノ酸の置換を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指す。
【0145】
「配列同一性」、または例えば「~に対して50%同一の配列」を含む、という文章は、本明細書において使用される場合、比較ウィンドウ上で配列が、ヌクレオチド毎で同一である、またはアミノ酸ごとで同一である程度を指す。ゆえに「配列同一性の百分率」は、比較ウィンドウ上の二つの最適アライメント配列を比較する工程、同一核酸塩基(例えばA、T、C、G、I)または同一アミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が、両方の配列中に存在する位置の数を決定して、合致位置数を算出する工程、合致位置数を、比較ウィンドウ中の総位置数(すなわちウィンドウサイズ)で割る工程、および結果に100を掛けて、配列同一性の百分率を算出する工程、により計算されてもよい。本明細書に記載される参照配列のいずれかに対して少なくとも約50%、55%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、86%、97%、98%、または99%の配列同一性を有するヌクレオチドおよびポリペプチドが含まれ、典型的には、ポリペプチドバリアントは、参照ポリペプチドの少なくとも一つの生物学的活性を維持する。
【0146】
二つ以上のポリヌクレオチドまたはポリペプチド間の配列関係を記載するために使用される用語には、「参照配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」、および「実質的な同一性」が挙げられる。「参照配列」は、長さが、少なくとも12個の単量体単位であり、多くの場合、15~18個の単量体単位であり、多くの場合、少なくとも25個の単量体単位である、ヌクレオチドおよびアミノ酸残基を含む。二つのポリヌクレオチドはそれぞれ、(1)二つのポリヌクレオチド間で類似する配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の一部のみ)、および(2)二つのポリヌクレオチド間で発散する配列を含んでもよく、二つの(またはそれ以上の)ポリヌクレオチド間の配列比較は、典型的には、配列類似性の局所領域を同定し、比較するために、二つのポリヌクレオチドの配列を「比較ウィンドウ」で比較することによって行われる。「比較ウィンドウ」は、少なくとも6個の連続する位置、通常は、約50~約100、より一般的には約100~約150の概念セグメントを指し、配列は、二つの配列が最適に整列された後、同じ数の連続する位置の参照配列と比較される。比較ウィンドウは、二つの配列の最適なアライメントのため、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して約20%以下の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含みうる。比較ウィンドウを整列するための配列の最適なアラインメントは、Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0,Genetics Computer Group、575 Science Drive Madison、WI、USAにおけるアルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)のコンピュータ化実行によって、または選択された様々な方法のいずれかによって生成される検査および最良のアラインメント(すなわち、比較ウィンドウにわたり最も高い相同性をもたらす)によって行われ得る。例えば、Altschulら、1997、Nucl.Acids Res.25:3389により開示されるプログラムのBLASTファミリーを参照されたい。配列解析の詳細な考察は、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons Inc.、1994~1998年、第15章のユニット19.3に見ることができる。
【0147】
ポリヌクレオチドの方向性を記載する用語には、5’(通常、遊離リン酸基を有するポリヌクレオチドの末端)および3’(通常、遊離ヒドロキシル(OH)基を有するポリヌクレオチドの末端)が含まれる。ポリヌクレオチド配列は、5’から3’の向きまたは3’から5’の向きで注釈付けされ得る。DNAおよびmRNAについて、5’から3’の鎖は、その配列が、プレメッセンジャー(プレmRNA)の配列と同一であるために、「センス」鎖、「プラス」鎖、または「コード」鎖と指定される[DNA中のチミン(T)の代わりに、RNA中のウラシル(U)を除く]。DNAおよびmRNAについては、RNAポリメラーゼによって転写された鎖である相補的な3’から5’鎖は、「鋳型」、「アンチセンス」、「マイナス」、または「非コード」鎖として指定される。本明細書で使用される、用語「逆方向」は、3’から5’の方向に書かれた5’から3’の配列、または5’から3’の方向に書かれた3’から5’の配列を指す。
【0148】
さらに当業者であれば、遺伝子コードの縮重の結果として、本明細書に記載されるポリペプチドまたはそのバリアント断片をコードするヌクレオチド配列は多数存在することを認識するであろう。これらポリヌクレオチドの一部は、任意の天然遺伝子のヌクレオチド配列に対し、最小の相同性を担持する。とはいえコドン使用頻度の差異によって変化するポリヌクレオチドが予期され、特定の実施形態では例えばヒトおよび/または霊長類のコドン選択に最適化されたポリヌクレオチドが予期される。さらに、本明細書に提供されるポリヌクレオチド配列を含む遺伝子の対立遺伝子も使用され得る。対立遺伝子は、ヌクレオチドの欠失、付加および/または置換など、一つまたは複数の変異の結果として改変される内在性遺伝子である。
【0149】
本明細書において使用される場合、「核酸カセット」または「発現カセット」という用語は、RNAを発現し、その後にポリペプチドを発現することができるベクター中の遺伝子配列を指す。一つの実施形態では、核酸カセットは、対象となる遺伝子、例えば対象となるポリヌクレオチドを含有する。別の実施形態では、核酸カセットは、一つまたは複数の発現制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリ(A)配列、および例えば対象となるポリヌクレオチドなどの対象となる遺伝子を含有する。ベクターは、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個以上の核酸カセットを含有してもよい。核酸カセットは、ベクター内で位置的に、そして連続的に方向付けられる。それにより、カセット中の核酸はRNAに転写されることができ、必要な場合にはタンパク質またはポリペプチドへと翻訳され、形質転換細胞での活動に必要とされる適切な翻訳後修飾を受け、適切な細胞内区画に標的化されることで生物活性に適した区画へと移行され、または細胞外区画へと分泌されることができる。カセットは、ベクター内への即時の挿入に適合された3’末端および5’末端を有することが好ましく、例えば各末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を有している。好ましい実施形態では、核酸カセットは、TCRの鎖を一つ以上コードする。カセットは取り出され、そして単一ユニットとしてプラスミドまたはウイルスベクター内に挿入されることができる。
【0150】
ポリヌクレオチドは、対象となるポリヌクレオチドを含む。本明細書で使用される場合、用語「目的のポリヌクレオチド」は、ポリペプチド、ポリペプチドバリアント、または融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指す。ベクターは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の目的のポリヌクレオチドを含んでもよい。特定の実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、疾患または傷害の治療または予防において治療効果を提供するポリペプチドをコードする。目的のポリヌクレオチド、およびそれからコードされるポリペプチドは、野生型ポリペプチド、ならびに機能的バリアントおよび断片をコードする両方のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、機能的バリアントは、対応する野生型参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の同一性を有する。特定の実施形態では、機能的バリアントまたは断片は、対応する野生型ポリペプチドの生物活性の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%を有する。
【0151】
本明細書において想定されるポリヌクレオチドは、コード配列自体の長さにかかわらず、本明細書の他の箇所に開示されるか当該技術分野で知られている、プロモーターおよび/またはエンハンサー、非翻訳領域(UTR)、シグナル配列、コザック配列、ポリアデニル化シグナル、付加的な制限酵素部位、多重クローニング部位、内部リボソーム侵入部位(IRES)、リコンビナーゼ認識部位(例えば、LoxP、FRT、およびAtt部位)、終止コドン、転写終結シグナル、および自己切断ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、エピトープタグなどの他のDNA配列と組み合わされてもよく、その結果、それらの全体的な長さが大幅に変動してもよい。したがって、ほぼ任意の長さのポリヌクレオチド断片が特定の実施形態で使用されてもよく、全長は、意図される組み換えDNAプロトコルにおける調製および使用の容易さによって制限されることが好ましい。
【0152】
ポリヌクレオチドは、当分野で公知および利用可能な様々な確立された技術のいずれかを使用して調製され、操作され、および/または発現されてもよい。所望のポリペプチドを発現するために、当該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、適切なベクターに挿入されてもよい。
【0153】
ベクターの例示としては限定されないが、プラスミド、自己複製配列、および転位因子、例えば、piggyBac、Sleeping Beauty、Mos1、Tc1/mariner、Tol2、mini-Tol2、Tc3、MuA、Himar I、Frog Princeおよびその誘導体が挙げられる。
【0154】
ベクターの追加的な例示としては限定されないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、例えば酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、例えばラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファージ、および動物ウイルスが挙げられる。
【0155】
ベクターとして有用なウイルスの例示としては限定されないが、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴型ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えばSV40)が挙げられる。
【0156】
発現ベクターの例示としては限定されないが、哺乳動物細胞における発現用のpClneoベクター(Promega社)、哺乳動物細胞におけるレンチウイルス介在性の遺伝子導入および発現のためのpLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、およびpLenti6.2/V5-GW/lacZ(Invitrogen社)が挙げられる。特定の実施形態では、本明細書に開示されるポリペプチドのコード配列は、哺乳動物細胞でのポリペプチドの発現のために、そうした発現ベクター内にライゲートされてもよい。
【0157】
特定の実施形態では、ベクターは、エピソーム性ベクター、または染色体外で維持されるベクターである。本明細書において使用される場合、「エピソーム性」という用語は、宿主の染色体DNAに統合されることなく複製することができるベクターであり、宿主細胞の分裂により徐々に減少することがないということは、当該ベクターが染色体外で、またはエピソーム性に複製することも意味している。
【0158】
発現ベクター中に存在する「制御要素」、「制御配列」は、ベクターの非翻訳領域であり、複製起源、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(Shine Dalgarno配列またはKozak配列)、イントロン、ポリアデニル化配列、5’および3’の非翻訳領域が挙げられ、宿主の細胞タンパク質と相互作用して、転写と翻訳を実行する。そうした因子は、その強度および特異性を変化させてもよい。利用するベクターシステムおよび宿主に応じて、ユビキタスプロモーターおよび誘導性プロモーターをはじめとする任意の数の適切な転写因子および翻訳因子を使用してもよい。
【0159】
特定の実施形態では、ベクターとしては限定されないが、発現ベクターおよびウイルスベクターが挙げられ、それらは例えばプロモーターおよび/またはエンハンサーなどの外因性、内因性、または異種の制御配列を含む。「内因性」制御配列は、ゲノム中で所与の遺伝子と自然に連結される配列である。「外因性」制御配列は、その遺伝子の転写が連結されたエンハンサー/プロモーターによって指向されるように、遺伝子操作の手段(すなわち、分子生物学的技法)によって遺伝子と並立に配置されるものである。「異種」制御配列は、遺伝子操作される細胞とは異なる種に由来する外因性配列である。
【0160】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼが結合するポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)の認識部位を指す。RNAポリメラーゼは、プロモーターに操作可能に連結されたポリヌクレオチドの転写を開始させる。特定の実施形態では、哺乳動物細胞で動作するプロモーターは、転写が開始される部位からおよそ25~30塩基上流に位置するAT-リッチ領域、および/または転写開始部位から70~80塩基上流に存在する別の配列であるCNCAAT領域を含有し、式中、Nは任意のヌクレオチドであり得る。
【0161】
「エンハンサー」という用語は、転写の強化を提供することができる配列を含むDNAセグメントを指し、一部の場合では、別の制御配列に対する方向性に関係なく機能することができる。エンハンサーは、プロモーター因子および/または他のエンハンサー因子と協働して、または相加的に機能することができる。「プロモーター/エンハンサー」という用語は、プロモーター機能とエンハンサー機能の両方を提供することができる配列を含むDNAセグメントを指す。
【0162】
「操作可能に連結した」という用語は、記載される構成要素が、それらが意図された様式で機能することができるような関係にある並置を意味する。一実施形態では、用語は、核酸発現制御配列(プロモーターおよび/またはエンハンサーなど)と第二のポリヌクレオチド配列、例えば、対象のポリヌクレオチドとの間の機能的結合を指し、ここで、発現制御配列は、第二の配列に対応する核酸の転写を指示する。
【0163】
本明細書において使用される場合、「構造的発現制御配列」という用語は、操作可能に連結された配列の継続的な、または連続的な転写を可能にするプロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーを指す。構造的発現制御配列は、様々な細胞型と組織型での発現を可能にする「ユビキタス」なプロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーであってもよく、または限定的な細胞型および組織型での発現を可能にする、それぞれ「細胞特異的」、「細胞型特異的」、「細胞株特異的」、または「組織特異的」なプロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーであってもよい。
【0164】
特定の実施形態における使用に適したユビキタス発現制御配列の例示としては限定されないが、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ウイルス性シミアンウイルス40(SV40)(例えば初期または後期)、モロニ-マウス白血病ウイルス(MoMLV)LTRプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーター、ワクシニアウイルス由来のH5、P7.5およびP11プロモーター、伸長因子1アルファ(EF1a)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR1:early growth response 1)、フェリチンH(FerH)、フェリチンL(FerL)、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素(GAPDH)、真核細胞翻訳開始因子4A1(EIF4A1)、ヒートショック70kDaタンパク質5(HSPA5)、ヒートショックタンパク質90kDa ベータ、メンバー1(HSP90B1)、ヒートショックタンパク質70kDa(HSP70)、β-キネシン(β-KIN)、ヒトROSA 26座位(Irions et al.,Nature Biotechnology 25,1477-1482(2007))、ユビキチンCプロモーター(UBC)、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター、β-アクチンプロモーターおよび骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、ネガティブ制御領域欠失型、dl587revプライマー結合部位置換(MND)U3プロモーター(Haas et al.Journal of Virology.2003;77(17):9439-9450)が挙げられる。
【0165】
一つの実施形態では、ベクターは、MNDU3プロモーターを含有する。
【0166】
一つの実施形態では、ベクターは、ヒトEF1a遺伝子の第一イントロンを含むEF1aプロモーターを含有する。
【0167】
一つの実施形態では、ベクターは、ヒトEF1a遺伝子の第一イントロンを欠くEF1aプロモーターを含有する。
【0168】
本明細書で使用される場合、「条件付き発現」とは、限定されないが、誘導性発現、抑制性発現、特定の生理学的状態、生物学的状態もしくは疾患状態を有する細胞または組織における発現などをはじめとする任意のタイプの条件付き発現を指す場合がある。この定義は、細胞型特異的または組織特異的な発現を除外することは意図されない。ある実施形態は、対象となるポリヌクレオチドの条件付き発現を提供するものであり、例えば発現は、細胞、組織、生物体を、ポリヌクレオチドが発現される処理または条件、または対象となるポリヌクレオチドにコードされるポリヌクレオチドの発現が増加もしくは減少する処理または条件に曝すことにより制御される。
【0169】
誘導性プロモーター/システムの例示としては限定されないが、ステロイド誘導性プロモーター、例えばグルココルチコイド受容体またはエストロゲン受容体をコードする遺伝子のプロモーター(対応するホルモンの処理で誘導可能)、メタロチオネインプロモーター(様々な重金属の処理で誘導可能)、MX-1プロモーター(インターフェロンで誘導可能)、「GeneSwitch」ミフェプリストン制御性システム(Sirin et al.,2003,Gene,323:67)、クミン酸塩(cumate)誘導性遺伝子スイッチ(WO2002/088346)、テトラサイクリン依存性制御システムなどが挙げられる。
【0170】
本明細書において使用される場合、「内部リボソーム侵入部位」または「IRES」とは、シストロン(タンパク質コード領域)の例えばATGなどの開始コドンに内部リボソームが直接侵入することを促進し、キャップ非依存性の遺伝子翻訳を生じさせる因子を指す。例えば、Jackson et al.,1990.Trends Biochem Sci 15(12):477-83)およびJackson and Kaminski.1995.RNA 1(10):985-1000を参照のこと。特定の実施形態では、ベクターは、一つ以上のポリペプチドをコードする一つ以上の目的のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、複数のポリペプチドの各々の効率的な翻訳を達成するために、ポリヌクレオチド配列は、自己切断ポリペプチドをコードする一つ以上のIRES配列またはポリヌクレオチド配列によって分離され得る。一つの実施形態では、本明細書において予期されるポリヌクレオチドに使用されるIRESは、EMCV IRESである。
【0171】
本明細書において使用される場合、「Kozak配列」という用語は、リボソーム小サブユニットへのmRNAの初期結合を大きく促進し、翻訳を増加させる短いヌクレオチド配列を指す。コンセンサスKozak配列は、(GCC)RCCATGG(配列番号63)であり、式中、Rはプリン(AまたはG)である(Kozak,1986.Cell.44(2):283-92、およびKozak,1987.Nucleic Acids Res.15(20):8125-48)。特定の実施形態では、ベクターは、ポリヌクレオチドを含み、当該ポリヌクレオチドは、コンセンサスKozak配列を有し、例えばTCRなどの所望のポリペプチドをコードする。
【0172】
異種核酸転写物の効率的な終止とポリアデニル化を誘導する因子は、異種遺伝子の発現を増加させる。転写終止シグナルは、一般的にポリアデニル化シグナルの下流に存在する。特定の実施形態では、ベクターは、発現されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの3’側にポリアデニル化配列を含有する。本明細書において使用される場合、「ポリA部位」または「ポリA配列」という用語は、RNAポリメラーゼIIによる初期RNA転写物の終止とポリアデニル化の両方を誘導するDNA配列を示す。ポリアデニル化配列は、ポリAテールをコード配列の3’末端に付加することによってmRNA安定性を促進することができ、したがって、翻訳効率の向上に寄与する。切断およびポリアデニル化は、RNA中のポリ(A)配列によって指示される。哺乳類プレmRNAのコアポリ(A)配列は、切断ポリアデニル化部位に隣接する二つの認識エレメントを有する。典型的には、ほぼ不変のAAUAAA六量体が、U残基またはGU残基が豊富な、より可変性の高い因子の上流20~50ヌクレオチドに存在する。初期転写物の切断はこれら二つの因子の間で発生し、5’切断産物に最大で250個のアデノシンが付加される。特定の実施形態では、コアポリ(A)配列は、最良のポリA配列(例えば、AATAAA、ATTAAA、AGTAAA)である。特定の実施形態では、ポリ(A)配列は、SV40のポリA配列、ウシ成長ホルモンポリA配列(BGHpA)、ウサギβ-グロビンポリA配列(rβgpA)、それらのバリアント、または当分野に公知の別の適切な異種または内因性ポリA配列である。
【0173】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチド、またはポリヌクレオチドを保有する細胞は、直接的な毒性および/または非制御増幅のリスクを減少させるための誘導性自殺遺伝子をはじめとする自殺遺伝子を利用する。特定の態様では、自殺遺伝子は、ポリヌクレオチドを保有する宿主、または細胞に対して免疫原性ではない。使用され得る自殺遺伝子の例は、カスパーゼ-9またはカスパーゼ-8またはシトシンデアミナーゼである。カスパーゼ-9は、二量体形成の特定の化学誘導物質(CID:chemical inducer of dimerization)を使用して活性化され得る。
【0174】
特定の実施形態では、TCRα鎖およびTCRβ鎖をコードする一つ以上のポリヌクレオチドが、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって、細胞(例えば、免疫エフェクター細胞)に導入される。「ベクター」という用語は、本明細書において、もう一つの核酸分子を移送または輸送することができる核酸分子を指すために使用される。伝達された核酸は、一般的に、例えば、ベクター核酸分子に挿入される。ベクターは、細胞内で自己複製を指示する配列を含んでもよく、または宿主細胞DNAへの組み込みを可能にするのに十分な配列を含んでもよい。特定の実施形態では、非ウイルスベクターを使用して、本明細書で意図される一つまたは複数のポリヌクレオチドをT細胞に送達する。
【0175】
非ウイルス性ベクターの例示としては限定されないが、mRNA、プラスミド(例えばDNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、および細菌人工染色体が挙げられる。
【0176】
特定の実施形態で予期されるポリヌクレオチドの非ウイルス性の送達法の例示としては限定されないが、エレクトロポレーション法、ソノポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、バイオリステック法、ウイロゾーム法、リポソーム法、免疫リポソーム法、ナノ粒子法、ポリカチオンまたは脂質:核酸複合体、ネイキッドDNA法、人工ビリオン、DEAE-デキストラン介在移送、遺伝子銃、およびヒートショックが挙げられる。
【0177】
特定の実施形態において予期される特定の実施形態での使用に適したポリヌクレオチド送達システムの例示としては限定されないが、Amaxa Biosystems,Maxcyte,Inc.、BTX Molecular Delivery Systems、およびCopernicus Therapeutics Inc.により提供されるシステムが挙げられる。リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体-認識リポフェクションに適したカチオン性脂質および中性脂質は、文献に記載されている。例えば、Liu et al.(2003)Gene Therapy.10:180-187;およびBalazs et al.(2011)Journal of Drug Delivery.2011:1-12を参照のこと。抗体標的化送達、細菌誘導送達、非生物ナノセル系送達も特定の実施形態において予期される。
【0178】
様々な実施形態では、ポリヌクレオチドは、所望のポリペプチドを一過性に発現させるために細胞内に導入されるmRNAである。本明細書で使用される場合、「一過性」とは、数時間、数日、または数週間の期間にわたる非統合型導入遺伝子の発現を指し、発現期間は、細胞内のゲノムに統合されるか、または安定的なプラスミドレプリコン内に含有される場合、ポリヌクレオチドの発現期間よりも短い。
【0179】
特定の実施形態では、ウイルス性ベクターを使用して、本明細書に予期される一つ以上のポリヌクレオチドがT細胞に送達される。
【0180】
本明細書で予期される特定の実施形態における使用に適したウイルスベクター系の例示としては限定されないが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、およびワクシニアウイルスのベクターが挙げられる。
【0181】
特定の実施形態では、TCRα鎖およびTCRβ鎖を含むTCRをコードするポリシストロニックなポリヌクレオチドが、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって細胞に導入される。特定の実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチド切断シグナル、ならびに最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRをコードする融合タンパク質をコードするポリシストロニックなポリヌクレオチド。
【0182】
特定の実施形態では、TCRα鎖およびTCRβ鎖を含むTCRをコードするポリシストロニックなポリヌクレオチドが、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって細胞に導入される。特定の実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、IRES、ならびに最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRをコードする融合タンパク質をコードするポリシストロニックなポリヌクレオチド。
【0183】
特定の実施形態では、ポリシストロニックなポリヌクレオチドは、TCRβ鎖に対し5’側にTCRα鎖を含む。他の実施形態では、ポリシストロニックなポリヌクレオチドは、TCRβ鎖に対し3’側にTCRα鎖を含む。
【0184】
G.遺伝子改変細胞
様々な実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、癌の治療における使用のための、本明細書で予期されるTCRを発現するように遺伝子改変された細胞が、提供される。様々な実施形態において、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクター細胞は、癌治療用の医薬品の調製または製造において、使用される。
【0185】
特定の実施形態では、本明細書で予期されるTCRをコードするポリヌクレオチドは、本明細書で予期されるTCRを発現させるために、および免疫エフェクター細胞を、標的抗原を発現する標的細胞へとリダイレクトさせるために、免疫エフェクター細胞へと導入される。特定の実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRをコードする一つ以上のポリヌクレオチドは、一つ以上の免疫エフェクター細胞に導入される。特定の実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、例えばポリペプチド切断シグナルなどのポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、一つ以上の免疫エフェクター細胞に導入される。
【0186】
「免疫エフェクター細胞」は、一つまたは複数のエフェクター機能(例えば細胞傷害性の細胞殺傷活性、サイトカイン分泌、ADCCおよび/またはCDCの誘導など)を有する免疫系の任意の細胞である。本明細書で予期される免疫エフェクター細胞の例示は、限定されないが、細胞傷害性T細胞(CTL;CD8+T細胞)、TIL、およびヘルパーT細胞(HTL;CD4+T細胞)をはじめとするTリンパ球である。特定の実施形態では、細胞は、αβ T細胞を含む。特定の実施形態では、αβTCRを発現するよう改変されたγδ T細胞を含む。一つの実施形態では、免疫エフェクター細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞を含む。一つの実施形態では、免疫エフェクター細胞は、ナチュラルキラーT(NKT)細胞を含む。
【0187】
免疫エフェクター細胞は、自己(self)または非自己(non-self、例えば同種、同系または異種)であってもよい。本明細書において使用される場合、「自己」とは、同じ対象に由来する細胞を指す。本明細書において使用される場合、「同種」とは、比較した細胞と遺伝的に異なる同じ種の細胞を指す。本明細書において使用される場合、「同系」とは、比較した細胞と遺伝的に同一である、異なる対象の細胞を指す。本明細書において使用される場合、「異種」とは、比較した細胞と異なる種の細胞を指す。好ましい実施形態では、細胞は自己である。
【0188】
特定の実施形態において予期されるTCRとともに使用される免疫エフェクター細胞の例としては、Tリンパ球が挙げられる。「T細胞」または「Tリンパ球」という用語は、当分野において認識されており、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、静止Tリンパ球、または活性化Tリンパ球を含むことが意図される。T細胞は、例えばTヘルパー1(Th1)細胞またはTヘルパー2(Th2)細胞などのTヘルパー(Th)細胞であってもよい。T細胞は、ヘルパーT細胞(HTL;CD4+T細胞)のCD4+T細胞、細胞傷害性T細胞(CTL:CD8+T細胞)、CD4+CD8+T細胞、CD4-CD8-T細胞、またはT細胞の任意の他のサブセットであってもよい。特定の実施形態での使用に適したT細胞の他の例示的な集団としては、ナイーブT細胞(TN)、Tメモリー幹細胞(TSCM)、中央メモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、およびエフェクターT細胞(TEFF)が挙げられる。
【0189】
当業者によって理解されるように、他の細胞も免疫エフェクター細胞として本明細書に予期されるTCRとともに使用され得る。特に、免疫エフェクター細胞は、NK細胞、NKT細胞、好中球およびマクロファージも含む。免疫エフェクター細胞は、エフェクター細胞の前駆体も含み、このような前駆細胞は、インビボまたはインビトロで免疫エフェクター細胞に分化するように誘導されてもよい。したがって特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、例えば臍帯血、骨髄または動員末梢血に由来する細胞のCD34+集団内に含有される造血幹細胞(HSC)などの免疫エフェクター細胞の前駆体を含み、それらは対象に投与されたときに成熟免疫エフェクター細胞へと分化し、またはin vitroで誘導されて成熟免疫エフェクター細胞へと分化してもよい。
【0190】
本明細書において使用される場合、「CD34+細胞」という用語は、その細胞表面上にCD34タンパク質を発現する細胞を指す。本明細書において使用される場合、「CD34」とは、細胞-細胞接着因子として作用することが多く、リンパ節へのT細胞の侵入に関与する細胞表面糖タンパク質(例えばシアロムチンタンパク質)を指す。CD34+細胞集団は、造血幹細胞(HSC)を含有し、HSCは患者に投与されたときに分化し、T細胞、NK細胞、NKT細胞、好中球、および単球/マクロファージ系統の細胞を含むすべての造血系の元となる。
【0191】
本明細書に予期されるTCRを発現する免疫エフェクター細胞を作製する方法が、特定の実施形態において提供される。一つの実施形態では、当該方法は、個体から単離された免疫エフェクター細胞をトランスフェクトまたは形質導入することを含み、その結果、当該免疫エフェクター細胞は、改変TCRα鎖と改変TCRβ鎖を含むTCR、または最小限にマウス化されたTCRα鎖およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、ならびに最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書に予期されるTCRをコードする融合タンパク質、をコードするポリシストロニックなメッセージを発現するようになる。
【0192】
好ましい実施形態では、当該方法は、個体から単離された免疫エフェクター細胞をトランスフェクトまたは形質導入することによって、当該免疫エフェクター細胞が、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、2A自己切断型ポリペプチド、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書に予期されるTCRをコードするポリシストロニックなメッセージを発現することを含む。特定の実施形態では、形質導入された細胞は続いて培養されて拡張し、その後に対象に投与される。
【0193】
ある実施形態では、免疫エフェクター細胞は、インビトロでのさらなる操作を伴わずに個体から単離され、および遺伝子改変される。次いでそうした細胞を当該個体に直接再投与してもよい。さらなる実施形態において、免疫エフェクター細胞はまず活性化および刺激され、インビトロで増殖し、その後に遺伝子改変されて、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、リンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRを発現する。これに関し、免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変される前、および/または遺伝子改変された後に培養され得る。
【0194】
特定の実施形態では、本明細書に記載される免疫エフェクター細胞のインビトロ操作または遺伝子改変の前に、対象から細胞源が取得される。特定の実施形態では、改変された免疫エフェクター細胞は、T細胞を含有する。
【0195】
特定の実施形態では、本明細書で予期される方法を使用して、PBMCが直接遺伝子改変されて、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRをコードするポリシストロニックなメッセージが発現されてもよい。特定の実施形態では、PBMCの単離後、Tリンパ球をさらに単離し、特定の実施形態において、細胞傷害性Tリンパ球とヘルパーTリンパ球の両方を、遺伝子改変および/または増殖の前または後のいずれかに、ナイーブ、メモリーおよびエフェクターT細胞亜集団に保存することができる。
【0196】
例えばT細胞などの免疫エフェクター細胞は、公知の方法を使用して単離された後に遺伝子改変されてもよく、または免疫エフェクター細胞は、インビトロで活性化および拡張されて(または前駆細胞の場合には分化されて)、その後に遺伝子改変されてもよい。特定の実施形態では、例えばT細胞などの免疫エフェクター細胞は、拡張のために活性化および刺激され、その後に本明細書で予期されるTCRで遺伝子改変され(例えば、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む、本明細書で予期されるTCRをコードするポリシストロニックなメッセージをコードする核酸を含むウイルスベクターで形質導入され)、その後にインビトロで活性化および拡張される。様々な実施形態では、T細胞は、例えば、米国特許第6,352,694号、第6,534,055号、第6,905,680号、第6,692,964号、第5,858,358号、第6,887,466号、第6,905,681号、第7,144,575号、第7,067,318号、第7,172,869号、第7,232,566号、第7,175,843号、第5,883,223号、第6,905,874号、第6,797,514号、第6,867,041号、および米国特許出願公開20060121005に記載される方法を使用して、遺伝子改変の前または後に、活性化および拡張されてもよい。
【0197】
一つの実施形態では、CD34+細胞は、本明細書で予期される核酸構築物で形質導入される。特定の実施形態では、形質導入されたCD34+細胞は、概して、細胞が本来単離された対象である対象に投与後、インビボで成熟免疫エフェクター細胞に分化される。別の実施形態では、CD34+細胞は、過去に報告された方法(Asheuer et al.,2004;Imren,et al.,2004)に従い、以下のサイトカイン:Flt-3リガンド(FLT3)、幹細胞因子(SCF)、巨核球成長および分化因子(TPO)、IL-3、ならびにIL-6のうちの一つ以上への曝露の前に、またはそれらを用いて、遺伝子改変された後に、インビトロで刺激されてもよい。
【0198】
特定の実施形態では、癌の治療のための改変された免疫エフェクター細胞の集団は、本明細書で予期されるCARおよびCCRを含む。例えば、改変された免疫エフェクター細胞の集団は、本明細書に記載されるB細胞悪性腫瘍と診断された患者(自己ドナー)から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から調製される。PBMCは、CD4+、CD8+、またはCD4+およびCD8+であってもよいTリンパ球の異種集団を形成する。
【0199】
H.組成物および製剤
本明細書に予期される組成物は、本明細書に予期される一つ以上のTCRポリペプチド、TCRα鎖ポリペプチド、TCRβ鎖ポリペプチド、TCR融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド、それを含むベクター、遺伝子改変された免疫エフェクター細胞などを含み得る。組成物としては限定されないが、医薬組成物が挙げられる。好ましい実施形態では、組成物は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む操作されたTCRを発現するように改変された一つ以上の細胞を含むか、または最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、例えばポリペプチド切断シグナルなどのポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを含む融合タンパク質を発現するように改変された一つ以上の細胞を含む。好ましい実施形態では、組成物は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、2A自己切断型ポリペプチド、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを含む融合タンパク質を発現するように改変された一つ以上の細胞を含む。
【0200】
「医薬組成物」とは、細胞または動物への投与に対し、薬学的に許容可能な溶液または生理学的に許容可能な溶液中で、単独で、または一つまたは複数の他の治療モダリティと併用されて製剤化される組成物を指す。所望の場合には、組成物は、例えばサイトカイン、増殖因子、ホルモン、低分子、化学療法剤、プロドラッグ、薬剤、抗体、または他の様々な薬学的に活性な剤などの他の剤も同様に併用されて投与され得ることも理解されたい。事実上、組成物に含有され得る他の構成要素に制限はないが、追加される剤は、意図される療法を送達する組成物の能力に有害な影響を与えないものとする。好ましい実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤と、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含む操作されたTCRを発現するように改変された一つ以上の細胞、または最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを含む融合タンパク質を発現するように改変された一つ以上の細胞とを含む。
【0201】
本明細書において、「薬学的に許容可能」という文言は、適切な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴わずにヒトおよび動物の組織と接触して使用することに適し、合理的な利益/リスク比に見合った、それら化合物、物質、組成物および/または剤型を指すために採用される。
【0202】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤」としては限定されないが、等張生理食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、リン酸緩衝液、および医薬製剤で採用される任意の他の適合性のある物質が挙げられる。
【0203】
特定の実施形態では、組成物は、ある量の免疫エフェクター細胞を含み、当該免疫エフェクター細胞は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現する。本明細書で使用される場合、「量」という用語は、臨床結果を含む、有益または所望の予防または治療結果を達成するために、遺伝子改変された治療用細胞、例えば、T細胞などの「有効な量」または「有効量」を指す。
【0204】
「予防的有効量」は、所望の予防的結果を達成するために有効な遺伝子改変された治療用細胞の量を指す。必ずではないが典型的には、予防的投与量は、疾患の早期ステージの前、または早期ステージの対象において使用されるため、予防的有効量は、治療有効量よりも少ない。
【0205】
遺伝子改変された治療用細胞の「治療有効量」は、個体の病態、年齢、性別、および体重などの因子、ならびに個体において所望の応答を引き出す幹細胞および前駆細胞の能力に応じて変化し得る。治療有効量はまた、ウイルスまたは形質導入された治療用細胞の任意の毒性または有害な影響を、治療上有益な効果が上回るものである。用語「治療有効量」は、対象(例えば、患者)を「治療する」のに有効な量を含む。治療的な量が示されている場合、投与される組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、腫瘍の大きさ、感染または転移の程度、および状態における個々の差を考慮し、医師により決定され得る。
【0206】
一般的に、本明細書に記載されるT細胞を含む医薬組成物は、106~1013細胞/体重kg、好ましくは108~1013細胞/体重kgの用量で、当該範囲内のすべての整数値を含み、投与され得ると言える。細胞数は、組成物の意図される最終用途、組成物中に含有される細胞のタイプに依存する。本明細書において提示される用途に関し、細胞は一般的に、リットル以下の量であり、500mL以下、さらには250mLまたは100mL以下であり得る。ゆえに所望される細胞の密度は、多くの場合、106細胞/ml超であり、一般的には、107細胞/ml超、一般的には108細胞/ml以上である。臨床的に関連する免疫細胞数は、複数回の点滴に分けられてもよく、累積的には、106、107、108、109、1010、1011、1012または1013細胞以上となる。組成物は、これらの範囲内の用量で複数回投与されてもよい。細胞は、療法を受けている患者にとって同種、同系、異種、または自己であってもよい。
【0207】
組成物は、非経口投与、例えば、血管内(静脈内または動脈内)腹腔内または筋肉内投与のために製剤化されることが好ましい。
【0208】
液体医薬組成物は、溶液、懸濁液、または他の類似の形態であるかどうかにかかわらず、注射用水、生理食塩水、好ましくは生理食塩液、リンゲル液、または等張食塩水などの滅菌希釈剤のうちの一つまたは複数を含み得る。非経口調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラスもしくはプラスチックで作製された複数回用量バイアルに封入され得る。注射用医薬組成物は、滅菌であることが好ましい。
【0209】
一つの実施形態では、本明細書に予期されるT細胞組成物は、薬学的に許容可能な細胞培養培地中で製剤化される。そうした組成物は、ヒト対象への投与に適している。特定の実施形態では、薬学的に許容可能な細胞培養培地は、無血清培地である。
【0210】
無血清培地は、血清含有培地を超える利点をいくつか有しており、シンプルでより明白な組成、汚染物質量の低下、感染性実体の源となる可能性の排除、およびコスト低下が挙げられる。様々な実施形態では、無血清培地は、動物質を含まず、任意で無タンパク質であってもよい。任意で培地はバイオ医薬品的に受容可能な組み換えタンパク質を含有してもよい。「動物質を含まない」培地とは、構成要素が非動物源に由来する培地を指す。組み換えタンパク質は、動物質を含まない培地中で天然動物性タンパク質を置き換え、その栄養素は合成、植物または微生物の源から取得される。「タンパク質を含まない」培地は、対照的に、実質的にタンパク質を含まないと規定される。
【0211】
特定の組成物において使用される無血清培地の例示としては限定されないが、QBSF-60(Quality Biological、Inc.)、StemPro-34(Life Technologies社)、およびX-VIVO 10が挙げられる。
【0212】
ある好ましい実施形態では、本明細書に予期される免疫エフェクター細胞を含む組成物は、PlasmaLyte Aを含む溶液中で製剤化される。
【0213】
別の好ましい実施形態では、本明細書で予期される免疫エフェクター細胞を含む組成物は、凍結保存媒体を含む溶液中で製剤化される。例えば凍結保存剤を含む凍結保存培地を使用して、融解後の高い細胞活性成績を維持してもよい。特定の組成物において使用される凍結保存培地の例示としては限定されないが、CryoStor CS10、CryoStor CS5、およびCryoStor CS2が挙げられる。
【0214】
より好ましい実施形態では、本明細書で予期される免疫エフェクター細胞を含む組成物は、CryoStor CS10に対してPlasmaLyte Aを50:50で含む溶液中で製剤化される。
【0215】
特定の実施形態では、組成物は、有効量のゲノム編集済み免疫エフェクター細胞を単独で、または一種以上の治療剤と組み合わせて含み、当該免疫エフェクター細胞は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するように改変されている。したがって、免疫エフェクター細胞組成物は、単独で、または放射線療法、化学療法、移植、免疫療法、ホルモン療法、光力学的療法などの他の公知の癌治療と組み合わせて投与されてもよい。組成物は、抗生物質と併用して投与されてもよい。そうした治療剤は、例えば特定の癌などの本明細書に記載の特定の疾患状態に対する標準治療として当分野において承認されている場合がある。特定の実施形態において予期される治療剤の例としては、サイトカイン、成長因子、ステロイド、NSAID、DMARD、抗炎症剤、化学療法剤、放射線療法、治療用抗体、またはは他の活性で補助的な剤が挙げられる。
【0216】
特定の実施形態では、ゲノム編集済み免疫エフェクター細胞を含む組成物は、任意の数の化学療法剤と併用されて投与されてもよく、当該免疫エフェクター細胞は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するように改変されている。
【0217】
特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞を含む組成物は、治療用抗体とともに投与されるものであり、当該免疫エフェクター細胞は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するように改変されている。特定の実施形態において予期されるCAR改変T細胞との併用に適した治療用抗体の例示としては限定されないが、アテゾリズマブ、アベルマブ、バビツキシマブ、ベバシズマブ(アバスチン)、ビバツズマブ、ブリナツモマブ、コナツムマブ、クリゾチニブ、ダラツムマブ、デュリゴツマブ(duligotumab)、ダセツズマブ、ダロツズマブ、デュルバルマブ、エロツズマブ(HuLuc63)、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、インダツキシマブ、イノツズマブ、イピリムマブ、ロルボツズマブ、ルカツムマブ、ミラツズマブ、モキセツモマブ、ニボルマブ、オカラツズマブ、オファツムマブ、ペムブロリズマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、テプロツムマブ、およびウブリツキシマブが挙げられる。
【0218】
特定の実施形態では、薬学的に許容可能な担体溶液の製剤は、当分野に公知であり、例えば腸内および非経口、例えば血管内、静脈内、動脈内、骨内、脳室内、大脳内、頭蓋内、髄腔内、クモ膜下腔内、および髄内の投与ならびに製剤を含む様々な治療レジメンにおける、本明細書に記載の特定の組成物の使用に関する適切な投薬レジメンおよび治療レジメンの開発も同様である。当業者であれば、本明細書に予期される特定の実施形態は、例えば、薬学分野で公知であり、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,volume I and volume II.22nd Edition.Edited by Loyd V.Allen Jr.Philadelphia,PA:Pharmaceutical Press;2012に記載される製剤などの他の製剤を含み得ることを理解するであろう。
【0219】
I.治療方法
本明細書に予期される最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現する遺伝子改変免疫エフェクター細胞は、癌の予防、治療、および改善に使用される、または癌に関連する少なくとも一つの症状の予防、治療、または改善に使用される養子免疫治療の改善方法を提供する。
【0220】
一つの実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するようにT細胞が遺伝子改変されている、あるタイプの細胞療法は、その必要のあるレシピエントに点滴され、提供される。注入された細胞は、レシピエントにおいて疾患を引き起こす細胞を死滅させることができる。抗体療法とは異なり、T細胞療法は、インビボで複製することができ、その結果、持続的な癌治療をもたらすことができる長期持続性をもたらす。
【0221】
一つの実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα鎖膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するT細胞は、安定的なインビボT細胞拡張を経ることができ、および長時間、持続することができる。別の実施形態では、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するT細胞は、特異的メモリーT細胞または幹細胞メモリーT細胞へと分化し、それらは再活性化されて、任意の追加的な腫瘍の形成または増殖を阻害することができる。
【0222】
特定の実施形態では、本明細書で予期される最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現する改変免疫エフェクター細胞は、固形腫瘍または癌の治療において使用される。
【0223】
特定の実施形態では、本明細書において予期される改変免疫エフェクター細胞は、限定されないが、副腎癌、副腎皮質癌、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫、非定型奇形腫様腫瘍/非定型横紋筋様腫瘍、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳/CNS癌、乳癌、気管支腫瘍、心臓腫瘍、子宮頸癌、胆管癌、軟骨肉腫、脊索腫、結腸癌、結腸直腸癌、頭蓋咽頭腫、非浸潤性乳管癌(DCIS)、子宮内膜癌、上位腫、食道癌、鼻腔神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、眼癌、卵管癌、線維性組織肉腫、線維肉腫、胆嚢癌、胃癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、神経膠腫、グリア芽腫、頭頚部癌、血管芽細胞腫、肝細胞癌、下咽頭癌、眼内黒色腫、カポジ肉腫、腎癌、喉頭癌、平滑筋肉腫、舌癌、脂肪肉腫、肝癌、肺癌、非小細胞肺癌、胚カルチノイド腫瘍、悪性中皮腫、髄様癌、髄芽腫、髄膜腫、黒色腫、メルケル細胞癌、正中線癌、口腔癌(mouth cancer)、粘液肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性新生物、鼻腔および副鼻腔の癌、上咽頭癌、神経芽細胞腫、乏突起神経膠腫、口腔癌(oral cancer、oral cavity cancer)、口腔咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、膵島細胞腫瘍、乳頭癌、傍神経節腫、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、褐色細胞腫、松果体腫、下垂体腫瘍、胸膜肺芽腫、原発性胸膜腫、前立腺癌、直腸癌、網膜芽腫、腎細胞癌、腎盂および尿管の癌、横紋筋肉腫、唾液腺癌、皮脂腺癌、皮膚癌、軟部組織肉腫、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、小腸癌、胃癌、汗腺癌、滑液腫瘍、精巣癌、咽頭癌、胸腺癌、甲状腺癌、尿道癌、子宮癌、子宮肉腫、膣癌、血管癌、外陰癌、およびウィルムス腫瘍を含む固形腫瘍または癌の治療に使用される
【0224】
特定の実施形態において、本明細書で予期される改変免疫エフェクター細胞は、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、結腸直腸癌、膵癌、乳癌、甲状腺癌、膀胱癌、子宮頸癌、食道癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、神経膠腫、神経膠芽腫、および乏突起神経膠腫を含むが、これらに限定されない、固形腫瘍または癌の治療において使用される。
【0225】
特定の実施形態において、本明細書で予期される改変免疫エフェクター細胞は、非小細胞肺癌、転移性結腸直腸癌、神経膠芽腫、頭頸部癌、膵癌、および乳癌を含むが、これらに限定されない、固形腫瘍または癌の治療において使用される。
【0226】
特定の実施形態において、本明細書で予期される改変免疫エフェクター細胞は、神経膠芽腫の治療において使用される。
【0227】
特定の実施形態において、本明細書で予期される最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現する改変免疫エフェクター細胞は、液状癌または血液の癌の治療において使用される。
【0228】
特定の実施形態では、本明細書において予期される改変免疫エフェクター細胞は、限定されないが、白血病、リンパ腫および多発性骨髄腫を含むB細胞悪性腫瘍の治療に使用される。
【0229】
特定の実施形態では、本明細書において予期される改変免疫エフェクター細胞は、限定されないが、白血病、リンパ腫および多発性骨髄腫:急性リンパ球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病、有毛細胞白血病(HCL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、および慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、および真性多血症、ホジキンリンパ腫、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、菌状息肉症、未分化大細胞リンパ腫、セザリー症候群、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、多発性骨髄腫、顕性多発性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞白血病、非分泌性骨髄腫、IgD骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、孤立性骨形質細胞腫、および髄外形質細胞腫を含む液状の癌の治療に使用される。
【0230】
特定の実施形態において、本明細書で予期される改変免疫エフェクター細胞は、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用される。
【0231】
本明細書において使用される場合、「個体」および「対象」という用語はしばしば相互交換可能に使用され、本明細書において別段に予期される遺伝子療法ベクター、細胞系治療剤、および方法で治療され得る疾患、傷害または病の症状を呈する任意の動物を指す。好ましい実施形態では、対象は、遺伝子療法ベクター、細胞系治療剤、および本明細書において別段に予期される方法を用いて治療され得る癌に関連する疾患、傷害、または病態の症状を呈する任意の動物を含む。適切な対象(例えば、患者)としては、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギまたはモルモット)、家畜(farm animal、domestic animal)、またはペット(例えば、ネコまたはイヌ)が挙げられる。非ヒト霊長類、好ましくはヒト患者も含まれる。
【0232】
本明細書で使用される場合、用語「患者」は、遺伝子療法ベクター、細胞系治療剤、および本明細書の他の場所で開示される方法を用いて治療され得る特定の疾患、傷害または病態と診断された対象を指す。
【0233】
本明細書で使用される「治療(treatment)」または「治療すること(treating)」には、疾患または病態の症状もしくは病理に対する、あらゆる有益な作用または望ましい作用を含み、治療される疾患または状態の一つ以上の測定可能なマーカーの最小の低減さえも含み得る。治療には、任意で、疾患もしくは病態の減少、または疾患もしくは病態の進行の遅延のいずれかが含まれてもよい。「治療」は必ずしも、疾患もしくは状態、またはその関連症状の完全な排除または治癒を示すものではない。
【0234】
本明細書において使用される場合、「予防する」、および例えば「予防される」、「予防すること」といった類似の文言は、疾患もしくは状態の予防、阻害、または発生もしくは再発の可能性の低下を目的としたアプローチを示す。さらに、疾患もしくは状態の発生または再発の遅延、または疾患もしくは状態の症状の発生または再発の遅延も指す。本明細書において使用される場合、「予防」およびその類似文言も、疾患もしくは症状の発生または再発の前の、疾患もしくは状態の強度、作用、症状、および/または負荷量の低下を含む。
【0235】
本明細書において使用される場合、「~の少なくとも一つの症状の改善」とは、対象が治療される疾患もしくは状態の一つまたは複数の症状の減少を指す。特定の実施形態では、治療される疾患または状態は、癌であり、この場合において改善される一つまたは複数の症状としては限定されないが、脱力、疲労、息切れ、あざができやすい、および出血しやすい、頻発する感染、リンパ節の拡張、腹部膨張または腹部疼痛(膨張した腹部臓器が原因)、骨または関節の疼痛、骨折、予期せぬ体重減少、食欲低下、寝汗、持続性の微熱、および排尿減少(腎機能の障害が原因)が挙げられる。
【0236】
「強化する」、または「促進する」、または「増加する」、または「拡張する」とは概して、本明細書において予期される組成物、例えば、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現する遺伝子改変T細胞が、ビヒクルまたは対照の分子/組成物のいずれかにより引き起こされる応答と比較して、大きな生理学的応答(すなわち下流効果)を生じさせる、惹起させる、または引き起こすことを指す。測定可能な生理学的反応としては特にT細胞の拡張、活性化、持続性、および/または癌細胞殺傷能力の増加が挙げられ、当分野および本明細書の記載の理解から明白である。「増加した」または「強化された」量は、典型的には「統計的に有意な」量であり、ビヒクルまたは対照組成物によりもたらされる反応の1.1、1.2、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30またはそれ以上(例えば500倍、1000倍)(その間および1を超えるすべての整数および小数点を含む、例えば1.5、1.6、1.7、1.8など)である増加を含む場合がある。
【0237】
「減少する」、または「下げる」、または「低める」、または「低下する」、または「弱める」とは概して、本明細書において予期される組成物が、ビヒクルまたは対照の分子/組成物による反応と比較して、小さな生理学的反応(すなわち下流効果)をもたらす、惹起させる、または発生させる能力を指す。「減少」または「低下した」量は、典型的には「統計的に有意な」量であり、ビヒクル、対照組成物によりもたらされる反応、または特定の細胞株での反応の1.1、1.2、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30またはそれ以上(例えば500倍、1000倍)(その間および1を超えるすべての整数および小数点を含む、例えば1.5、1.6、1.7、1.8など)である減少を含む場合がある。
【0238】
「維持する」、または「保存する」、または「維持」、または「変化がない」、または「実質的な変化がない」、または「実質的な減少が無い」とは概して、本明細書において予期される組成物が、ビヒクル、対照の分子/組成物により生じた反応、または特定の細胞株での反応と比較して、細胞において類似した、または同等の生理学的反応(すなわち、下流効果)を生成する、惹起させる、または生じさせることを指す。同等の反応は、基準反応と実質的に違わない、または測定可能な程度に違わない反応である。
【0239】
一つの実施形態では、それを必要とする対象における癌を治療する方法は、例えば、本明細書に予期される遺伝子改変された免疫エフェクター細胞を含む組成物の治療有効量などの有効量を投与することを含む。投与の量ならびに頻度は、患者の状態、患者の疾患のタイプおよび重大度といった因子により決定されるが、適切な用量は、臨床試験により決定されてもよい。
【0240】
一つの実施形態では、例えば最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するT細胞などの免疫エフェクター細胞の、対象に投与される組成物中での量は、少なくとも1x107細胞、少なくとも0.5x108細胞、少なくとも1x108細胞、少なくとも0.5x109細胞、少なくとも1x109細胞、少なくとも1x1010細胞、少なくとも1x1011細胞、少なくとも1x1012細胞、少なくとも5x1012細胞、または少なくとも1x1013細胞である。
【0241】
特定の実施形態では、約1x107T細胞~約1x1013T細胞、約1x108T細胞~約1x1013T細胞、約1x109T細胞~約1x1013T細胞、約1x1010T細胞~約1x1013T細胞、約1x1011T細胞~約1x1013T細胞、または約1x1012T細胞~約1x1013T細胞が、対象に投与される。
【0242】
一つの実施形態では、例えば最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを発現するT細胞などの免疫エフェクター細胞の、対象に投与される組成物中での量は、少なくとも0.1x104細胞/体重kg、少なくとも0.5x104細胞/体重kg、少なくとも1x104細胞/体重kg、少なくとも5x104細胞/体重kg、少なくとも1x105細胞/体重kg、少なくとも0.5x106細胞/体重kg、少なくとも1x106細胞/体重kg、少なくとも0.5x107細胞/体重kg、少なくとも1x107細胞/体重kg、少なくとも0.5x108細胞/体重kg、少なくとも1x108細胞/体重kg、少なくとも2x108細胞/体重kg、少なくとも3x108細胞/体重kg、少なくとも4x108細胞/体重kg、少なくとも5x108細胞/体重kg、または少なくとも1x109細胞/体重kgである。
【0243】
特定の実施形態では、約1x106T細胞/体重kg~約1x108T細胞/体重kg、約2x106T細胞/体重kg~約0.9x108T細胞/体重kg、約3x106T細胞/体重kg~約0.8x108T細胞/体重kg、約4x106T細胞/体重kg~約0.7x108T細胞/体重kg、約5x106T細胞/体重kg~約0.6x108T細胞/体重kg、または約5x106T細胞/体重kg~約0.5x108T細胞/体重kgが対象に投与される。
【0244】
当業者であれば、所望の治療効果を発揮させるために、本明細書に予期される組成物の投与が複数回必要とされる場合があることを認識するであろう。例えば組成物は、1週、2週、3週、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、1年、2年、5年、10年またはそれ以上の期間にわたり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上投与される場合がある。
【0245】
ある実施形態では、対象に活性化された免疫エフェクター細胞が投与され、次いで対象から採血して(またはアフェレーシス療法を実施し)、それに由来する免疫エフェクター細胞を活性化し、そしてこれら活性化および拡張された免疫エフェクター細胞を患者に再注入することが望ましい場合がある。このプロセスは、数週ごとに複数回実施されてもよい。ある実施形態では、免疫エフェクター細胞は、10cc~400ccの採血から活性化されてもよい。ある実施形態では、免疫エフェクター細胞は、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90cc、100cc、150cc、200cc、250cc、300cc、350cc、または400cc以上の採血から活性化される。学説には拘束されないが、複数回の採血/複数回の再注入のプロトコルを使用することで、免疫エフェクター細胞のある群の選択に役立つ場合がある。
【0246】
本明細書で予期される組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、移植、または移植を含む、任意の都合の良い方法で実施されうる。好ましい実施形態では、組成物は非経口的に投与される。本明細書で使用されるとき、「非経口投与」および「非経口的に投与」という語句は、経腸投与および局所投与以外の投与様式を指し、通常は注射によって、限定されるものではないが、血管内、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、関節内、眼窩内、腫瘍内、心臓内、皮内、腹腔内の、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内注射および注入が挙げられる。一実施形態では、本明細書で予期される組成物は、腫瘍、リンパ節、または感染部位への直接注射によって対象に投与される。
【0247】
一実施形態では、対象のB細胞関連状態に対する細胞性免疫反応を増加させる組成物の有効量がそれを必要とする対象に投与される。免疫応答は、感染細胞を殺傷することができる細胞傷害性T細胞、制御T細胞、ヘルパーT細胞応答によって媒介される細胞免疫応答を含んでもよい。主にB細胞を活性化することができるヘルパーT細胞によって媒介され、したがって抗体産生をもたらす液性免疫応答も誘発され得る。様々な技術を使用して、組成物によって誘導される免疫応答のタイプを分析してもよく、それら技術は当分野において例えば、Current Protocols in Immunology,Edited by:John E.Coligan,Ada M.Kruisbeek,David H.Margulies,Ethan M.Shevach,Warren Strober(2001)John Wiley&Sons,NY,N.Y.において充分に記載されている。
【0248】
一つの実施形態では、癌と診断された対象を治療する方法が提供され、当該方法は、対象から免疫エフェクター細胞を取り出すこと、本明細書に予期される最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRをコードする核酸を含ベクターを用いて、当該免疫エフェクター細胞を遺伝子改変すること、それにより、改変免疫エフェクター細胞の集団を作製すること、および当該対象に当該改変免疫エフェクター細胞の集団を投与すること、を含む。好ましい実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞を含む。
【0249】
ある特定の実施形態では、対象において標的細胞集団に対する免疫エフェクター細胞介在性の免疫調節因子応答を刺激する方法が提供され、当該方法は、最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRをコードする核酸構築物を発現する免疫エフェクター細胞集団を当該対象に投与する工程を含む。
【0250】
特定の実施形態において予期される細胞組成物を投与する方法は、生体外で遺伝子改変された免疫エフェクター細胞の再導入をもたらすのに有効な任意の方法を含み、当該遺伝子改変された免疫エフェクター細胞は、本明細書で予期される最小限にマウス化されたTCRα鎖、およびTCRα膜貫通ドメインに疎水性アミノ酸置換、ポリペプチドリンカー、および最小限にマウス化されたTCRβ鎖を含むTCRを対象において直接発現するか、または免疫エフェクター細胞の遺伝子改変前駆細胞の再導入時に発現するかのいずれかであり、当該免疫エフェクター細胞の遺伝子改変前駆細胞は、対象への導入時にTCRを発現する成熟免疫エフェクター細胞へと分化する。一つの方法は、本明細書に予期される核酸構築物を用いて生体外で末梢血T細胞を形質導入することと、当該形質導入細胞を対象に戻すことと、を含む。
【0251】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許出願、および登録された特許は、あたかも個々の刊行物、特許出願、または登録された特許が、参照により組み込まれることを具体的かつ個別に示したかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0252】
前述の実施形態は、明確性および理解を目的として、図および実施例により詳細に記載されているが、本明細書に予期される教示に照らし、特定の変化および改変が、添付の請求の範囲の主旨または範囲から逸脱することなく実施され得ることが当業者には容易に明らかであろう。以下の実施例は、説明の目的のみで提供され、限定の目的で提供されるものではない。当業者であれば、本質的に類似した結果をもたらすために変更または修正され得る様々な非臨界パラメータを容易に認識するであろう。
【実施例】
【0253】
実施例1
TCR発現を相乗的に増加させるT細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
MAGEA4 TCR配列を、標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングし、改変した。TCRWT構築物は、非改変の親構築物である。TCRTM構築物は、TCRα鎖膜貫通ドメインに3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含む。TCRMM構築物は、TCRα鎖定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。TCRTM/MM構築物は、TCRα鎖およびTCRβ鎖の定常領域に9個のマウス化アミノ酸置換を含み、ならびにTCRα鎖膜貫通ドメインに3個の疎水性アミノ酸置換を含む。
【0254】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCR
WT、TCR
TM、TCR
MM、またはTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養した。10日後、UTD T細胞、またはTCR
WT、TCR
TM、TCR
MMもしくはTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のMAGEA4五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。フロー分析によって、TCR
WTをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞と比較して、TCR
TMおよびTCR
MMのレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞ではTCR発現が2倍増加していたこと、TCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞では相乗的に4倍増加していたことが示された。
図1。レンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞は、同等のベクターコピー数(VCN:vector copy number)を示した。
【0255】
実施例2
改変TCRで形質導入されたT細胞は、非改変TCRで形質導入されたT細胞と比較し、発現が増加していた。
【0256】
二名の正常ドナーに由来するPBMCを、CD3抗体およびCD28抗体を使用して活性化し、TCRWTまたはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで、二つの異なる形質導入条件(Tdxn 1-強化tdxnプロセス、Tdxn 2-基礎的tdxnプロセス)を使用して形質導入し、10日間培養した。非形質導入(UTD:untransduced)T細胞は、対照として使用した。
【0257】
10日後、細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のMAGEA4五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。フロー分析によって、TCR
WTをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞と比較し、TCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞では4倍の増加が、両方の形質導入条件下で示された。
図2A。
【0258】
RT-PCRを使用して、ベクターコピー数(VCN)を測定し、各形質導入条件下でのLVV統合を評価した。VCNは、各形質導入条件下で同等であった。
図2B。
【0259】
実施例3
改変TCRで形質導入されたT細胞は、TCRミスペアリングを消滅させる。
PBMCを、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWTまたはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養した。
【0260】
10日後、TCRWTおよびTCRTM/MMを形質導入されたT細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈の五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価した。v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合が等しい場合は、特異的TCRペアリングが示唆される。
【0261】
TCR
TM/MMが形質導入されたT細胞は、TCR
WTで形質導入されたT細胞と比較して、90%を超える特異的ペアリングを示した。これらのデータから、TCR
TM/MMに存在する改変によって、TCRミスペアリングが消滅したことが示される。
図3Aおよび
図3B。
【0262】
実施例4
改変TCRで形質導入されたT細胞は、強力な抗腫瘍性能を有する
二名の正常ドナーに由来するPBMCを、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWTまたはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養した。
【0263】
IFNγ-アッセイ:UTD T細胞、またはTCR
WTもしくはTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞を、MAGEA4陽性A549腫瘍Nuc-red細胞とともに、1:1のE:T比率で24時間共培養し、TCR発現に基づいて正規化を行った。24時間後、これらのサンプルから上清を回収し、Meso Scale Discovery(MSD)アッセイを使用して分析を行い、サイトカイン産生を測定した。TCR
TM/MM-発現T細胞は、TCR
WT-発現T細胞と比較して、IFNγ産生において有意な(4倍)増加を示した。
図4A。
【0264】
細胞障害性アッセイ:UTD T細胞、またはTCR
WTもしくはTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞を、MAGEA4陽性A549腫瘍Nuc-red細胞と1:1のE:T比率で共培養し、TCR発現に基づいて正規化を行った。Incucyte S3を使用して、細胞傷害性を3日間にわたりモニタリングした。TCR
TM/MM-発現T細胞は、TCR
WT-発現T細胞またはUTD T細胞と比較して、急勾配の殺傷曲線を示した。
図4B。
【0265】
実施例5
NY-ESO-1 TCRにおいて、TCR発現および特異的TCRペアリングを相乗的に増加させるT細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
NY-ESO-1 TCRの配列(配列番号15および16)を、標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングし、改変した。TCRMM構築物は、TCRα鎖定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。TCRTM/MM構築物は、TCRα鎖およびTCRβ鎖の定常領域に9個のマウス化アミノ酸置換を含み、ならびにTCRα鎖膜貫通ドメインに3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0266】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、TCRMM、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養した。
【0267】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCR
WT、TCR
MM、もしくはTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のNY-ESO-1五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。フロー分析によって、UTD T細胞、またはTCR
WTもしくはTCR
MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞と比較し、TCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞は、TCR発現が増加したことが示された。
図5A。各ドナーにおけるTCR染色の平均蛍光強度を、
図5Bに示す。
【0268】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCR
WT、TCR
MM、もしくはTCR
TM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のNY-ESO-1五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価した。v-ベータ染色および四量体抗原染色によって検出された陽性細胞の割合が等しい場合は、特異的TCRペアリングが示唆される。UTD T細胞、またはTCR
WTもしくはTCR
MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞と比較し、TCR
TM/MMを形質導入されたT細胞は、特異的ペアリングの増加を示した。
図6。
【0269】
実施例6
MART-1 TCRにおける、T細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
ペアリング強化変異を含むMART-1 TCRα鎖およびβ鎖の配列(配列番号7および8;配列番号9および10)を作製し(TCRTM/MM)、これを標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングする。TCRTM/MMは、TCRα鎖の定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)、および3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖の定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0270】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養する。
【0271】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のMART-1五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。
【0272】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のMART-1五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価する。
【0273】
実施例7
WT-1 TCRにおける、T細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
ペアリング強化変異を含むWT-1 TCRα鎖およびβ鎖の配列(配列番号11および12)を作製し(TCRTM/MM)、これを標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングする。TCRTM/MMは、TCRα鎖の定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)、および3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖の定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0274】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養する。
【0275】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のWT-1五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。
【0276】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のWT-1五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価する。
【0277】
実施例8
HPV16 E6 TCRにおける、T細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
ペアリング強化変異を含むHPV16 E6 TCRα鎖およびβ鎖の配列(配列番号13および14)を作製し(TCRTM/MM)、これを標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングする。TCRTM/MMは、TCRα鎖の定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)、および3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖の定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0278】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養する。
【0279】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のHPV16 E6五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。
【0280】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のHPV16 E6五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価する。
【0281】
実施例9
NY-ESO-1 TCRにおける、T細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
ペアリング強化変異を含むNY-ESO-1 TCRα鎖およびβ鎖の配列(配列番号17および18;配列番号19および20;配列番号21および22)を作製し(TCRTM/MM)、これを標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングする。TCRTM/MMは、TCRα鎖の定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)、および3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖の定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0282】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養する。
【0283】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のNY-ESO-1五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。
【0284】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のNY-ESO-1五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価する。
【0285】
実施例10
HPV16 E7 TCRにおける、T細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
ペアリング強化変異を含むHPV16 E7 TCRα鎖およびβ鎖の配列(配列番号23および24)を作製し(TCRTM/MM)、これを標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングする。TCRTM/MMは、TCRα鎖の定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)、および3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖の定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0286】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養する。
【0287】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のHPV16 E7五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。
【0288】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のHPV16 E7五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価する。
【0289】
実施例11
GP100 TCRにおける、T細胞受容体(TCR)定常領域中のアミノ酸置換
ペアリング強化変異を含むGP100 TCRα鎖およびβ鎖の配列(配列番号25および26)を作製し(TCRTM/MM)、これを標準的なクローニング技術を使用してレンチウイルスベクター内にクローニングする。TCRTM/MMは、TCRα鎖の定常領域に4個のマウス化アミノ酸置換(P90S、E91D、S92V、S93P;TCRα鎖定常領域を参照して番号付けられた)、および3個の疎水性アミノ酸置換(S115L、G118V、F119L;TCRα定常領域を参照して番号付けられた)を含み、さらにTCRβ鎖の定常領域に5個のマウス化アミノ酸置換(E18K、S22A、F133I、E/V136A、Q139H;TCRβ定常領域を参照して番号付けられた)を含む。
【0290】
二名の正常ドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)を、CD3抗体とCD28抗体を使用して活性化し、TCRWT、またはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入して、10日間培養する。
【0291】
発現:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のGP100五量体-ペプチド標識試薬で染色し、PE蛍光についてフローサイトメトリーで分析した。
【0292】
ペアリング:10日後、UTD T細胞、またはTCRWTもしくはTCRTM/MMをコードするレンチウイルスベクターで形質導入された細胞を、フロー染色緩衝液中、1:20希釈のGP100五量体-ペプチド標識PE試薬と、1:100希釈のv-ベータ鎖FITC標識蛍光色素を用いた二重染色を使用して、特異的TCRペアリングについて評価する。
【0293】
全般に、以下の特許請求の範囲において、使用された用語は、特許請求の範囲を、本明細書および特許請求の範囲に開示されている特定の実施形態に限定させるものと解釈されるべきではないが、かかる特許請求の範囲が権利を与える等価物の完全な範囲と共に全ての可能な実施形態を含むものと解釈されるべきである。したがって、請求の範囲は、本開示により限定されない。
【配列表】
【国際調査報告】