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特表2023-519896疎水性に変性されたポリウレタン増粘剤及びそれの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】疎水性に変性されたポリウレタン増粘剤及びそれの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230508BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20230508BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20230508BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20230508BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20230508BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20230508BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C09D201/00
C08G18/28 015
C08G18/48
C08G18/00 C
C08G18/73
C08G18/75
C09D5/00 Z
C09D175/06
C09D175/08
C09K3/00 103G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558444
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 CN2020082342
(87)【国際公開番号】W WO2021195934
(87)【国際公開日】2021-10-07
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ニュー・リン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・チュンイエン
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4J034BA07
4J034BA08
4J034CA02
4J034CB01
4J034CC09
4J034CD06
4J034DA01
4J034DB01
4J034DB03
4J034DF11
4J034DF12
4J034DG03
4J034DG16
4J034DH02
4J034DH05
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA06
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KE02
4J034QC03
4J034RA02
4J034RA05
4J034RA07
4J034RA08
4J034RA17
4J038CF021
4J038CG001
4J038DG112
4J038DG132
4J038DG262
4J038KA06
4J038MA08
4J038MA10
(57)【要約】
水溶性ポリアルキレングリコール、ジイソシアネート及びポリエステルエンドキャップ剤を反応させることによって得られる疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを含む増粘剤組成物であって、前記ポリエステルエンドキャップ剤が、ラクトン化合物とモノヒドロキシ化合物との反応生成物である、増粘剤組成物。並びに、疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するための方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ラクトン化合物を次式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得られるエンドキャップ剤、
X-OH (I)
[式中、Xは、少なくとも5個の炭素原子を有し、任意に及び少なくとも一つの-O-または-COO-基を含む、脂肪族、環状脂肪族または芳香族炭化水素基を表す]
(b)水溶性ポリアルキレングリコール、及び
(c)ジイソシアネート、
を反応させることによって得られるポリウレタンポリマーを含む増粘剤組成物。
【請求項2】
式(I)のモノヒドロキシ化合物が、n-ブタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ドセカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、2-エチル-ヘキサノール、2-ビチル-1-オクタノール、イソデカノール、イソトリデカノール、2-シクロヘキシルエタノール、4-シクロヘキシル-1-ブタノール、4-フェニル-1-ブタノール、5-フェニル-1-ペンタノール、及び8-フェニル-1-オクタノールからなる群から選択される、請求項1に記載の増粘剤組成物。
【請求項3】
式(I)のモノヒドロキシ化合物が、n-デカノール、n-ドセカノール、及びn-テトラデカノールからなる群から選択される、請求項1に記載の増粘剤組成物。
【請求項4】
式(I)のモノヒドロキシ化合物が、アルカリールエトキシレートであり、好ましくはトリスチリルフェノールエトキシレートから選択される、請求項1に記載の増粘剤組成物。
【請求項5】
式(I)のモノヒドロキシ化合物が、EOの繰り返し単位数が20のエトキシル化トリスチリルフェノールである、請求項1に記載の増粘剤組成物。
【請求項6】
水溶性ポリアルキレングリコールが、1,500から50,000まで、より好ましくは3,000から20,000まで、最も好ましくは4,000から10,000g/モルまでの数平均分子量(Mn)を有する、請求項1~5のいずれか一つに記載の増粘剤組成物。
【請求項7】
ジイソシアネートが、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及び4,4’-メチレンビス(イソシアナトシクロヘキサン)(H12-MDI)からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一つに記載の増粘剤組成物。
【請求項8】
ポリウレタンポリマーが、先ずエンドキャップ剤及び水溶性ポリアルキレングリコールを混合し、この混合物を加熱し、次いで、ポリアルキレングリコール及びエンドキャップ剤のイソシアネート反応性基に対して0から35パーセントまでの化学量論量的に過剰の量でジイソシアネートを加えてポリウレタンを形成することによって得られる、請求項1~7のいずれか一つに記載の増粘剤組成物。
【請求項9】
ポリウレタンポリマーが、先ず、水溶性ポリアルキレングリコール及びジイソシアネートを反応条件下に接触させてプレポリマーを形成し、次いでエンドキャップ剤を反応条件下に前記プレポリマーと接触させてポリウレタンを形成することによって得られる、請求項1~7のいずれか一つに記載の増粘剤組成物。
【請求項10】
疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するためのエンドキャップ剤であって、ラクトン開環重合反応を介してラクトン化合物を次式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得られるポリエステルである、エンドキャップ剤。
X-OH (I)
[式中、Xは、少なくとも5個の炭素原子を有し、任意に及び少なくとも一つの-O-または-COO-基を含む脂肪族、環状脂肪族または芳香族炭化水素基であり、及びラクトン化合物が、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、及びこれらの置換誘導体からなる群から選択される。]
【請求項11】
疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するためのエンドキャップ剤であって、次式(II)の構造を有するポリエステルである、エンドキャップ剤。
【化1】
[式中、Xは、少なくとも5個の炭素原子を有し、任意に及び少なくとも一つの-O-または-COO-基を含む、脂肪族、環状脂肪族または芳香族炭化水素基である。]
【請求項12】
次式(III)の構造を有する、疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタン。
【化2】
[式中、Xは、少なくとも5個の炭素原子を有し、任意に及び少なくとも一つの-O-または-COO-基を含む脂肪族、環状脂肪族または芳香族炭化水素基であり、各Rは、独立して、HまたはC1~C4アルキルであり、mは2~7の整数であり、nは1~10の整数であり、EOはエチレンオキシド単位を表し、POはプロピレンオキシド単位を表し、yは40~250の整数であり、zは0~95の整数でありかつyより小さく、そしてAは、4~15個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン残基を表し、これらの残基は、それぞれ任意に、一つ以上のC1~C4アルキル基及び/または一つ以上のハロゲン原子で置換されている。]
【請求項13】
請求項12の疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンの水溶液を含む、増粘剤組成物。
【請求項14】
水系コーティング組成物における、請求項1または13に記載の増粘剤組成物の使用。
【請求項15】
水系接着剤調合物における、請求項1または13に記載の増粘剤組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊な構造を持つ疎水性に変性されたポリウレタンをベースとする増粘剤、それらの製造方法、及び水系コーティング調合物におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
レオロジー増粘剤と通常称されるレオロジー調整剤は、所望の流動挙動を達成するためにコーティング組成物中に使用される不可欠な添加剤である。改善されたコーティング粘度及び安定性を供する他、レオロジー増粘剤は、垂れの制御、スタチン耐性及び他の応用特性に関するコーティング性能を最適化することも助ける。
【0003】
レオロジー増粘剤は、天然及び合成源の両方に由来することができる。水系工業用コーティングに使用される合成増粘剤は、典型的には、アルカリ-膨潤/溶解性エマルジョン(ASE)、疎水性に変性されたアルカリ膨潤性エマルション(HASE)及び疎水性に変性されたエチレンオキシドウレタン樹脂(HEUR)にグループ分けされる。それらの中でもHEUR増粘剤は、性能の面で通常好まれるものであり、というのも、これらは、どのようなpHでも水溶性であり、そして広い範囲のレオロジー特性を与えるからである。一般的に、既知のHEUR構造は、水系コーティング液中で高い会合性増粘効果を供することができ、そうして、増強された流動及び均展性、高い膜堆積性、及び満足なブラシ/ローラ荷重性が得られる。
【0004】
しかしながら、水系コーティングで使用される殆どの商業的に入手可能なHEURでは、増粘のために顔料粒子を結合するHEURが発生する同じ会合力は、顔料粒子間の間隔を過度に狭める傾向があり、その結果、コーティング組成物の着色力及び隠蔽性の望ましくない損失を招く場合がある。更に、多くの既知のHEURの性能は、建築用コーティングで使用される種のラテックス樹脂に強く依存することも確認された。
【0005】
それ故、既知のHEURの格別なレオロジー増粘効果を維持しつつも、コーティングの着色力及び隠蔽性への最小化された負の影響、並びに建築用コーティングで使用される様々なラテックス樹脂との改善された適合性を特徴とする新規のHEUR添加剤を開発することは有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US4,647,647
【発明の概要】
【0007】
第一の観点では、本発明は、
(a)ラクトン化合物を次式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得られるポリエステル;
X-OH (I)
[式中、Xは、少なくとも5個の炭素原子を有し、任意に及び一つの-O-または-COO-基を含む、脂肪族、環状脂肪族または芳香族炭化水素基を表す]
(b)水溶性ポリアルキレングリコール、及び
(c)ジイソシアネート、
を反応させることによって得ることができる疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを含む増粘剤組成物を提供する。
【0008】
第二の観点では、本発明は、疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するためのエンドキャップ剤であって、ラクトン開環重合反応を介してラクトン化合物を次式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得られるポリエステルである、エンドキャップ剤を提供する。
【0009】
X-OH (I)
[式中、Xは先に定義した通りである]
第三の観点では、本発明は、疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するためのエンドキャップ剤であって、次式(II)の構造を有するポリエステルである、エンドキャップ剤を提供する。
【0010】
【化1】
[式中、Xは先に定義した通りであり、各Rは独立してHまたはC1~C4アルキルであり、mは2~7、好ましくは3~5の整数であり、そしてnは、1~10、好ましくは4~8の整数である]
【0011】
第四の観点では、本発明は、以下の構造(III)を有する疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを提供する:
【0012】
【化2】
式中、X、R、m及びnは先に定義した通りであり、EO及びPOはそれぞれエチレンオキシド単位及びプロピレンオキシド単位を表し、yは、40~250の整数であり、zは、0~95の整数でありかつyより小さく、そしてAは、4~15個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン残基を表し、これらの残基は、それぞれ任意に、一つ以上のC1~C4アルキル基及び/または一つ以上のハロゲン原子で置換されている。ここで使用される場合、「エチレンオキシド単位」という用語は、-OCHCH-の基を指し、そして「プロピレンオキシド単位」という用語は、-OCH(CH)CH-の基を指す。
【0013】
[発明を実施するための形態]
第一の観点では、本発明は、
(a)ラクトン化合物を次式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得られるエンドキャップ剤、
X-OH (I)
[式中、Xは、少なくとも5個の炭素原子を有し、任意に及び少なくとも一つの-O-または-COO-基を含む、脂肪族、環状脂肪族または芳香族炭化水素基を表す]
(b)水溶性ポリアルキレングリコール、及び
(c)ジイソシアネート、
を反応させることによって得ることができる疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを含む増粘剤組成物を提供する。
【0014】
上記のレオロジー増粘剤組成物は、水、任意に及び一種以上の有機溶剤を更に含むことができる。
【0015】
前記溶剤(複数種可)は揮発性有機溶剤である。それの好適な例は、低分子量アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、エタンジオール、ブタンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパンである。
【0016】
本発明に適した水溶性ポリアルキレングリコールは、ポリマー鎖の両端の第一級ヒドロキシル基、及びエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド及びエピクロロヒドリンの群から選択されるモノマーとしてのアルキレンオキシドを含むアルキレンオキシドポリマーである。特に、該ポリアルキレングリコールの十分な水溶性を保証するためには、エチレンオキシド単位の含有率は、好ましくは40重量%以上、より好ましくは60重量%以上、最も好ましくは70重量%から100重量%までである。ここで使用する「水溶性」とは、少なくとも1g/L、好ましくは少なくとも10g/L、より好ましくは少なくとも50g/Lの20℃での水中への溶解性を意味する。
【0017】
本発明に適した水溶性ポリアルキレングリコールは、1,500から50,000まで、より好ましくは3,000から20,000まで、最も好ましくは4,000から10,000g/モルまでの数平均分子量(Mn)を有するものであってよい。本発明者らは、上記の好ましい分子量範囲で特徴づけられるポリアルキレングリコールが、十分な水溶液粘度を有するHEUR製品を得ることを助けることを見出した。
【0018】
本発明にとって好ましい水溶性ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマー、及びエチレンオキシド/プロピレンオキシド/エチレンオキシドブロックターポリマーから選択される。
【0019】
本発明の好ましい態様の一つでは、ポリエチレングリコールが使用される。本発明にとって特に好適なポリエチレングリコールの一例は、Clariant社のポリグリコール8000S(Mn=8000g/モル)である。
【0020】
本発明で使用されるジイソシアネートは、一般式(V)を有する。
【0021】
O=C=N-A-N=C=O (V)
[式中、Aは、4~15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐鎖状アルキレン、アリーレンまたはアラルキレン残基を表し、これらの基は、それぞれ任意に、一つ以上のC~Cアルキル基及び/または一つ以上のハロゲン原子で置換されている]
【0022】
適当なジイソシアネートの例には、限定はされないが、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-及び2,4,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,10-デカメチレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(イソシアナトシクロヘキサン)、1,2-及び1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、m-及びp-フェニレンジイソシアネート、2,6-及び2,4-トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4-クロロ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、4,4’-メチレンジフェニルイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、及び1,5-テトラヒドロナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0023】
応じて、Aは、1,4-テトラメチレン、1,6-ヘキサメチレン、2,2,4-及び2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレン、1,10-デカメチレン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン)、1,2-及び1,4-シクロヘキシレン、イソホロン、m-及びp-フェニレン、2,6-及び2,4-トルエン、キシレン、4-クロロ-1,3-フェニレン、4,4’-ビフェニレン、4,4’-メチレンジフェニル、1,5-ナフチレン、及び1,5-テトラヒドロナフチレンからなる群から選択し得る。
【0024】
本発明にとってより好ましいジイソシアネートには、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及び4,4’-メチレンビス(イソシアナトシクロヘキサン)(H12-MDI)などが挙げられ、4,4’-メチレンビス(イソシアナトシクロヘキサン)(H12-MDI)が特に好ましい。
【0025】
応じて、Aは、好ましくは、1,6-ヘキサメチレン、イソホロン及び4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン)からなる群から選択され、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン)(H12-MDI)がより好ましい。
【0026】
反応混合物中のジイソシアネートの量は、約1%から約70%まで、好ましくは約20%から約60%まで、より好ましくは約30%から約55%までの範囲であることができる。
【0027】
本発明において「エンドキャップ剤」とは、一分子あたりで少なくとも6個の炭素原子、疎水性末端部分、少なくとも一つの-COO-(エステル)基及び一つの-OH(ヒドロキシル)基を含む、ポリエステル化合物を指す。該エンドキャップ剤自体は、HLB(親水性-親油性バランス)スケールに従って疎水性または親水性であってよい。
【0028】
本発明のエンドキャップ剤は、US4,647,647(特許文献1)に記載されるように、開環重合を介してラクトン化合物を式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得ることができる。
【0029】
「ラクトン」という用語は、同一分子内のアルコール基及びカルボン酸基の縮合生成物である環状エステルを指す。本発明に使用される適当なラクトン化合物は、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、及びこれらの置換誘導体からなる群から選択してよい。
【0030】
本発明にとって好適なラクトン化合物の例には、限定はされないが、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-フェニル-ε-カプロラクトン、γ-ヘプタラクトン、γ-ヘキサラクトン、δ-オクタラクトン、及びγ-オクタラクトンなどが挙げられ、それらの化学構造は以下に示す。特に好ましい例の一つは、ε-カプロラクトンである。
【0031】
【表1】
【0032】
前記エンドキャップ剤を製造するために本発明で使用される式(I)のモノヒドロキシ化合物には、脂肪族、環状脂肪族または芳香族化合物などが挙げられ、これらは、それぞれ線状または分岐状、飽和または不飽和、好ましくは飽和であることができる。
【0033】
式(I)のモノヒドロキシ化合物は、第一級アルコール、第二級アルコールまたは第三級アルコール、好ましくは第一級アルコールであることができる。
【0034】
本発明の一つの好ましい態様では、Xは、5~40個、好ましくは6~20個、より好ましくは10~14個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないアルキル基である。本発明の他の一つの好ましい態様では、Xは、6~40個、好ましくは10~35個、より好ましくは15~25個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないシクロアルキル基である。
【0035】
式(I)の脂肪族モノヒドロキシ化合物の適当な例には、限定はされないが、n-ブタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、2-エチル-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、イソデカノール、イソトリデカノール、2-シクロヘキシルエタノール、4-シクロヘキシル-1-ブタノール、4-フェニル-1-ブタノール、5-フェニル-1-ペンタノール、及び8-フェニル-1-オクタノールなどが挙げられ、それぞれ、単独または組み合わせて使用してよい。本発明の一つの好ましい態様では、式(I)の脂肪族モノヒドロキシ化合物は、n-デカノール、n-ドセカノール、及びn-テトラデカノールからなる群から選択される一種以上である。
【0036】
本発明の更に別の好ましい態様の一つでは、Xは、少なくとも6個の炭素原子を有する置換されたもしくは置換されていない芳香族基である。特に、Xは、EOの繰り返し単位を有するポリアルキレンオキシ部分であってよく、それにより、式(I)のモノヒドロキシ化合物はエトキシレートとなる。好ましくは、式(I)のモノヒドロキシ化合物は、アルカリールエトキシレート、例えばトリスチリルフェノールエトキシレートである。本発明に適したトリスチリルフェノールエトキシレートの商業的に入手可能な製品には、Clariant社のEmulsogen(登録商標)TS製品、例えば、EO数が10のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS100)、EO数が16のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS160)、EO数が20のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS200)、EO数が29のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS290)、EO数が40のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS400)、EO数が54のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS540)、及びEO数が60のエトキシル化トリスチリルフェノール(Emulsogen(登録商標)TS600)などが挙げられる。上記に挙げた製品の中でも、Emulsogen(登録商標)TS200(EO数20のエトキシル化トリスチリルフェノール)が特に好ましいことが分かっている。
【0037】
式(I)のモノヒドロキシ化合物とのラクトン開環重合反応は、既知方法によって、通常は約100℃から180℃までの温度で、好ましくはp-トルエンスルホン酸またはジブチル錫ジラウレートなどの触媒によって開始して、行われる。
【0038】
第二の観点では、本発明は、疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するためのエンドキャップ剤であって、ラクトン開環重合反応を介してラクトン化合物を次式(I)のモノヒドロキシ化合物と反応させることによって得られるポリエステルである、エンドキャップ剤を提供する。
【0039】
X-OH (I)
[式中、Xは先に定義した通りである]
第三の観点では、本発明は、疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを製造するためのエンドキャップ剤であって、次式(II)の構造を有するポリエステルである、エンドキャップ剤を提供する。
【0040】
【化3】
[式中、Xは先に定義した通りであり、各Rは独立してHまたはC1~C4アルキルであり、mは2~7、好ましくは3~5の整数であり、そしてnは、1~10、好ましくは4~8の整数である]
【0041】
本発明の一つの態様では、該疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンは、先ず、先に記載したエンドキャップ剤及び水溶性ポリアルキレングリコールを混合し、この混合物を、好ましくは50℃から110℃までの範囲の温度で、加熱し、次いで、任意にウレタン促進触媒、例えばオクタン酸ビスマスを用いて、ポリアルキレングリコール及びエンドキャップ剤のイソシアネート反応性基に対して0から35パーセントまで(好ましくは5から35パーセントまで)の化学量論的に過剰の量でジイソシアネートを加えることによって得ることができる。この反応が完了したら、生成物混合物に十分な水を加えて、ポリウレタン生成物からの過剰のイソシアネート基を抑制(quench)して、水性ポリマー溶液を形成する。
【0042】
本発明の他の態様の一つでは、該疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンは、先ず、水溶性ポリアルキレングリコール及びジイソシアネートを反応条件下に接触させてプレポリマーを形成し、次いで先に記載したエンドキャップ剤を反応条件下に前記プレポリマーと接触させて目的のポリウレタンを形成することによって得ることができる。好ましくは、この反応が完了したら、生成物混合物に十分な水を加えて、ポリウレタン生成物からの過剰のイソシアネート基を抑制(quench)して、水性ポリマー溶液を形成する。
【0043】
第四の観点では、本発明は、式(III)の構造を有する疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンを提供し、これは、エンドキャップ剤、水溶性ポリアルキレングリコール及びジイソシアネートを先に記載したように反応させることによって得ることができる。
【0044】
【化4】
式中、X、R、m、n、A、EO、PO、x及びyは先に定義した通りである。
【0045】
更に、本発明は、式(III)の構造を有する疎水性に変性されたアルキレンオキシドポリウレタンの水溶液を含む増粘剤組成物も提供する。例えば、前記水溶液は、式(III)のポリウレタンを、高められた温度で水と接触させることによって形成してよい。
【0046】
本発明は、水性分散液、例えば自動車用及び工業用塗料、顔料印刷用ペースト、化粧料調合物、水系接着剤調合物、洗浄剤組成物、水系コーティング組成物、並びに印刷及びテクスタイルインキなどでの、本発明による増粘剤組成物の使用にも関する。
【実施例
【0047】
以下の例は、例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0048】
HEUR製造
例1
(1-a)アルキルアルコールからのエンドキャップ剤の製造
14.6gのε-カプロラクタム(Sinopharm chemical reagent company製)、及びデカノール(<1.5%)、ドデカノール(約70%)、テトラデカノール(約27%)及びヘキサデカノール(<1.5%)から組成される25gのC12~14アルコールブレンド(Sasol社製Nafol(登録商標)1214S)を、100ml反応フラスコに加え、そして反応体を120℃に加熱した。
【0049】
この混合物が完全に溶融した時に、0.40gのジブチル錫ジラウレート(Sinopharm chemical reagent company製DBTDL)を前記フラスコに触媒として加えた。この反応混合物を120℃で6時間、連続的に加熱及び攪拌し、次いで320g/モル(OH価から決定)の平均分子量を有する固形のポリエステル生成物が得られるまで、室温まで段階的に冷却した。
【0050】
(1-b)HEURの製造
(1-a)で得られた4.14g(12.94mmol)のポリエステル、及び81.47g(10.35mmol)のポリグリコール8000S(Clariant社製)を、凝縮器を備えた500ml四つ首ボトル反応器に加えた。充填した反応器を、120℃に調節したヒートブロック上に置き、そして水を除去するために20mbarの真空を反応器中に連続的に2時間適用した。窒素を流し込んで反応器の内容物を70℃に冷却した後、4.41gの4,4’-メチレンビス(イソシアナトシクロヘキサン)(Wanhua社製のH12-MDI)(16.82mmol)を反応器に加え、そして反応を95℃で2時間続けた。次いで、反応器の内容物を70℃に冷却し、そしてHEURポリマーが完全に溶解して、粘性の外観を有する均一な白濁溶液が生じるまで、210gの脱イオン水を攪拌しながら反応器に滴下した。
【0051】
例2
(2-a)アルキルアルコールからのエンドキャップ剤の製造
8.0gのNafol(登録商標)1214S及び22.8gのε-カプロラクトンを使用し、そしてDBTDLの量を反応体混合物中で0.32gに調節したことを除き、例(1-a)と同様にしてポリエステルを製造した。682g/モルの平均分子量(OH価から決定)を有する固形のポリエステル生成物が得られる。
【0052】
(2-b)HEURの製造
(2-a)で得られた8.34gのポリエステルを原料として使用したこと及びH12-MDI及びポリグリコール8000Sの量を4.19及び77.46gに調節したことを除き、例(1-b)と同様にして(2-b)のHEURを製造した。
【0053】
例3
(3-a)アルキルアルコールからのエンドキャップ剤の製造
5.0gのNafol(登録商標)1214S及び28.5gのε-カプロラクトンを使用したこと及びDBTDLの代わりに、335mgのTIB KAT 256(TIBCHEMICALSから購入したモノブチル錫酸化物)を反応混合物中に使用したことを除き、例(1-a)と同様にしてポリエステルを製造した。1082g/モルの平均分子量(OH価から決定)を有する固形のポリエステル生成物が得られる。
【0054】
(3-b)HEURの製造
(3-a)で得られた4.14gのポリエステルを原料として使用したこと及びH12-MDI及びポリグリコール8000Sの量を4.41g及び81.47gに調節したことを除き、例(1-b)と同様にして(3-b)のHEURを製造した。
【0055】
例4
(4-a)芳香族アルコールからのエンドキャップ剤の製造
3.3gのε-カプロラクトン及び32gのEmulsogen(登録商標)TS200(Clariant社製)を、100mlの反応フラスコに加え、そして反応体を120℃に加熱した。混合物が完全に溶解した時に、353mgのDBTDLをフラスコに触媒として加えた。この反応混合物を120℃で6時間、連続的に加熱及び攪拌し、次いで1301g/モル(OH価から決定)の平均分子量を有する固形のポリエステル生成物が得られるまで、室温まで段階的に冷却した。
【0056】
(4-b)HEURの製造
(4-a)で得られた16.68g(11.3mmol)のポリエステル、及び71.46g(9.08mmol)のポリグリコール8000S(Clariant社製)を、凝縮器を備えた500ml四つ首ボトル反応器に加えた。充填した反応器を、130℃に調節したヒートブロック上に置き、そして水を除去するために20mbarの真空を反応器中に連続的に2時間適用した。窒素を流し込んで反応器の内容物を80℃に冷却した後、3.86gのH12-MDI(Wanhua社製、14.72mmol)を反応器に加え、そして反応を105℃に設定した加熱ブロックを用いて2時間続けた。次いで、反応器の内容物を70℃に冷却し、そしてHEURポリマーが完全に溶解して、粘性の外観を有する均一な白濁溶液が生じるまで、210gの脱イオン水を攪拌しながら反応器に滴下した。
【0057】
例5
(5-a)芳香族アルコールからのエンドキャップ剤の製造
11.9gのε-カプロラクトン及び23.0gのEmulsogen(登録商標)TS200を使用したこと及びDBTDLの量を反応混合物中で349mgに調節したことを除き、例(4-a)と同様にしてポリエステルを製造した。1563g/モルの平均分子量(OH価から決定)を有する固形のポリエステル生成物が得られる。
【0058】
(5-b)HEURの製造
(5-a)で得られた17.08g(10.93mmol)のポリエステルを原料として使用したこと及びH12-MDI及びポリグリコール8000Sの量を3.74g(14.26mmol)及び69.23g(8.80mmol)に調節したことを除き、例(4-b)と同様にして(5-b)のHEURを製造した。
【0059】
実用例
本発明の例におけるHEUR増粘剤を、スチレン-アクリレートコポリマーラテックス、アクリレートホモポリマーラテックス及びVAEラテックス調合物中での増粘効果について評価した。BR100P(COATEX社製の水溶性非イオン性ポリウレタン増粘剤製品)をベンチマークとして使用した。
【0060】
以下の応用例で使用した市販のラテックス製品には以下のものが挙げられる:
ラテックスA:MAINCOTETM HG-54C、固形分含有率が42.05重量%のスチレンアクリレートコポリマーラテックス(Dow社製);
ラテックスB:DA-102、固形物含有率が55.02重量%のビニルアセテート及びエチレンをベースとするコポリマー分散液(Dairen Chemical Corp.製);
ラテックスC:SETAQUA(登録商標)6998、固形物含有率が37.82重量%のアクリル系トップコートエマルション樹脂(Allnex社製);
ラテックスD:Mowilith(登録商標)LDM71、固形物含有率が46.78重量%の水系コーティング用のアクリル系ラテックス(Archroma社製); 及び
ラテックスE:Mowilith(登録商標)DN7070、固形物含有率が44.17重量%の水系コーティング用の架橋アクリル系ラテックス(Archroma社製)。
【0061】
増粘効果の評価手順
固形物含有率35%の希釈したラテックス分散液を、蒸留水と、前記の市販ラテックス製品のうちの一つとを混合することによって調製する。ポリウレタン増粘剤を3重量%含む均一な水溶液を次いで調製し、次いで或る一定の乾燥重量パーセンテージ(以下の表に記載の「DWP」として示される0.39%または1.13%)をベースに、前記の希釈ラテックス分散液に部分的に加えるために、計量した。増粘剤は、分散及び粉砕装置JSF-550の助けを借りて、1000rpmで5分間、室温で攪拌してホモジナイズすることにより、前記ラテックス液中に分散させる。次いで、各々のラテックス-増粘剤混合物の粘度を、1s-1または5s-1のせん断速度で、HAAKEレオメータRS61を用いて測定する。
【0062】
例1の脂肪族HEURの試験結果を、表1においてBR100Rと比較した。
【0063】
【表2】
【0064】
例4の芳香族HEURの試験結果を、表2においてBR100Rと比較した。
【0065】
【表3】
【0066】
前記の結果は、本発明のHEURが、水系ラテックスコーティング調合物中で高い増粘効果を供することができるだけでなく、これらは、コーティング工業において使用される様々なラテックス樹脂との優れた適合性も示し、これらの双方の特徴は、幾つかの市販製品の改善である。
【0067】
最後に、ここに記載の本発明の態様は、本発明の原理の応用の単なる例示であると理解されたい。例示した態様の詳細な記載は、特許請求の範囲を限定することを意図したものではなく、特許請求の範囲はそれら自体が、本発明にとって本質的なものと見なした特徴を記載している。
【国際調査報告】