(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】イメージングにより生体微小組織を特徴付ける方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230508BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20230508BHJP
G01N 21/45 20060101ALN20230508BHJP
G01N 1/28 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/34 A
G01N21/45 Z
G01N1/28 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558488
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2021057977
(87)【国際公開番号】W WO2021191433
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522378638
【氏名又は名称】ツリーフロッグ セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドリ,ケビン,パスカル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ボン,ピエール
【テーマコード(参考)】
2G052
2G059
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AA40
2G052GA09
2G052GA11
2G052GA29
2G052HA19
2G052JA09
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059BB14
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE04
2G059FF01
2G059FF03
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
4B029AA07
4B029BB01
4B029CC01
4B029CC02
4B029CC13
4B029FA15
4B029GB06
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ04
4B063QQ08
4B063QS36
4B063QS40
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、参照光なしの位相測定技術によって真核生物の生体微小組織をイメージングによりインビトロで特徴付ける方法と、特に以下:-微小組織の品質管理、-培養中および/または増幅中の微小組織のバイオマスの増加の測定、-成熟中の微小組織の分化および/または組織化のモニタリング、-微小組織の細胞の表現型の決定、および/または-微小組織に未分化細胞がないことの確認、のための上記方法の使用とに関する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小寸法20μm以上の真核生物の生体微小組織を参照光なしの位相測定技術によるイメージングによりインビトロで特徴付ける方法。
【請求項2】
前記方法が微小組織内の細胞の組織化の調査を少なくとも含む、請求項1に記載の微小組織のインビトロ特徴付け方法。
【請求項3】
微小組織内の細胞の組織化の調査が、微小組織のトポロジーの調査および/または微小組織内の細胞の相対的な配置の調査を含むことを特徴とする、請求項2に記載の微小組織のインビトロ特徴付け方法。
【請求項4】
微小組織によって生成されたスペックルのコントラストが、最大単位コントラストの75%未満であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
照明のスペクトル範囲が可視領域で最低5nmであり、最大で600nmであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
照明の開口数が、イメージングシステムの開口数の最低5%、最大90%であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
微小組織が、ヒト、動物または植物の微小組織である、請求項1に記載の微小組織のインビトロ特徴付け方法。
【請求項8】
最大寸法が10mm以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の微小組織のインビトロ特徴付け方法。
【請求項9】
参照光なしの位相測定技術が、
-波面解析
-照明システムまたはイメージングシステムの瞳における位相または光度のダイナミック変調
-焦点面の変更を伴う光度多重イメージング
の中から選択されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の微小組織のインビトロ特徴づけ方法。
【請求項10】
参照光なしの位相測定技術が波面解析であり、この技術が波面勾配のイメージングを用いて実施されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項11】
波面勾配のイメージングが、シャックハルトマン法、修正または非修正ハルトマン法、瞳分割およびスペックルフィールドイメージングの中から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項12】
参照光なしの位相測定技術が、照明またはイメージングシステムの瞳における位相または光度のダイナミック変調であり、この技術が、瞳内の特定の周波数のタイコグラフィまたは選択的位相変調の技術を用いて実施されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項13】
参照光なしの位相測定技術が、焦点面の変更を伴う光度多重イメージングであり、この技術が、同時または逐次マルチプレーンイメージングを用いて実施されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項14】
微小組織を通過した光の位相の測定および場合によっては光度の測定を含むことを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項15】
以下の測定:
-位相の測定からの微小組織の密度、および
-必要に応じて、微小組織を通過した光の位相の測定および光度の測定からの、微小組織の局所吸収
を含むことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け法。
【請求項16】
少なくとも1つの以下のパラメータ:
-微小組織の寸法
-微小組織の少なくとも1つの細胞の寸法
-微小組織内の細胞数
-微小組織の全体質量と局所質量
-微小組織の全体密度と局所密度
-微小組織内の質量分布
-微小組織のトポロジー
-微小組織内の細胞の相対的な配置
-微小組織の細胞生存率
-微小組織のテクスチャ
の測定を含むことを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項17】
微小組織が、ヒドロゲルの外層を含む微小区画内にカプセル封入されることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項18】
微小組織が、卵形、管状、回転楕円体もしくは球体、または、それ自体で部分的に折り畳まれた単層(2.5D)の形態をとることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項19】
微小組織が、細胞外マトリクスによって少なくとも部分的に囲まれていることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項20】
微小組織が、ヒトまたは動物に移植されることが意図された、ヒトまたは動物の生体微小組織であることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項21】
微小組織が、上皮、結合、筋肉または神経の微小組織の中から選択された、ヒトまたは動物の生体微小組織であることを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項22】
微小組織が、分化された心臓細胞または、網膜細胞または神経細胞または肝細胞または軟骨細胞またはケラチノサイトまたはリンパ系細胞または造血幹細胞または間葉系幹細胞またはエピブラストの形態をとる多能性細胞を含むことを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項23】
微小組織が、薬剤または食品の生物生産の目的で作製された微小組織であることを特徴とする、請求項1から22のいずれか一項に記載の微小組織のインビトロ特徴付け方法。
【請求項24】
微小組織が、分裂組織、柔組織、伝導組織、支持組織、被覆または保護組織、分泌組織および栄養組織の中から選択された植物性の生体微小組織であることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項25】
バイオリアクタの内容物に対してオンラインで実施されることを特徴とする、請求項1から24のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項26】
i)フローセルで、または
ii)バイオリアクタ外の1回の採取で実施され、または
iii)微小組織をオンラインまたはオフラインで選別する
ことを特徴とする、請求項1から24のいずれか一項に記載の微小組織の特徴付け方法。
【請求項27】
-微小組織の品質制御、および/または
-培養中および/または増幅中の微小組織のバイオマスの増加の測定、および/または
-成熟中の微小組織の分化および/または組織化のモニタリング、および/または
-微小組織細胞の表現型の決定、および/または
-微小組織に未分化細胞がないことの確認、および/または
-微小組織の細胞生存率の決定
のための請求項1から26のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項28】
体外受精によって得られた胚のスクリーニングのための、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法の使用であって、胚が微小組織である使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織、特に生体微小組織をイメージングにより特徴付けることに関する。
【背景技術】
【0002】
研究や治療において、特に細胞の増殖および/または細胞と組織の品質を制御し、および/または細胞の分化をモニタリングし、および/または組織(tissu)の組織化(organisation)をモニタリングし、および/または1つの組織を構成する複数細胞の1つまたは複数の表現型を決定するなどのために、特に細胞培養中または細胞培養後に、生きている細胞および生体組織の特徴付けを可能にすることが必要不可欠である。
【0003】
しかし、現行のイメージング技術、特に蛍光顕微鏡法、組織学、静電容量測定、光学濃度および標準的な透過式のイメージングを用いる技術ではそれが不可能である。
【0004】
蛍光顕微鏡は、細胞を遺伝子改変することにより、抗体や内因性蛍光などの蛍光プローブと組み合わせて用いられる。一般には、蛍光顕微鏡法を用いた幾つかの技術、特に共焦点顕微鏡法、ライトシート顕微鏡法(またはSPIM:Selective Plane Illumination Microscopy(選択的平面照明顕微鏡法)、多光子顕微鏡法、フローサイトメトリー(「facs」)が使用されている。これらの技術は非常に確立されたものであるが、しかし、固定(細胞死)および/または制限条件(細胞外タンパク質のみのマーキング)、あるいは破壊的な非GMP製品もしくは細胞の遺伝子改変を誘引する製品の添加など、細胞療法の目的での細胞培養に適さない条件を必要とする。したがって、侵襲的であり、破壊的であることが多く、また非常に時間がかかることから、生体組織の特徴付けには適していない。
【0005】
組織学技術は、組織を固定し、次いでマーキングすることからなる。これらの技術は同様に細胞破壊を誘引し、蛍光顕微鏡と同じ欠点を有する。
【0006】
静電容量プローブによるバイオマス測定は、生きた細胞をコンデンサとみなすことができるという先験的推論からスタートしている。したがって、この測定では、無傷の膜を有する細胞のアクセス可能な外面のみが考慮される。細胞凝集体と微小組織の場合はさらに複雑であり、細胞間の接続の緊密さに依存することになる。以前の様々な方法とは異なり、これは非侵襲的であるが、アクセスできない体積または、この体積の表面に関する情報しか得られないので、組織の特徴付けに対してはあまりに限定的で不正確である。
【0007】
たとえば定量的位相コントラストのような標準的な透過イメージング技術は、迅速で非侵襲的である。イメージングでの位相測定は、調査対象と相互作用した後の光ビームの局所的な遅延を測定することである。位相イメージングに使用されるデバイスは光の干渉現象に基づいたものであり、位相情報を光度情報にエンコードする。顕微鏡検査のための様々な位相イメージング技術は、特に、Park,Y.,Depeursinge,C.&Popescu,G.「Quantitative phase imaging in biomedicine」Nature Photon 12,578-589(2018)doi;10.1038/s41566-018-0253-x)に記載されている。今日、位相イメージングは、微細な試料(分離細胞または厚さ10μm未満の微小組織の切片)の特徴付けに使われているが、それよりも大きい微小組織や組織には使用できない。なぜなら、位相イメージングで現在使用されている技術では、組織内の位相を定量的に測定することができないからである。この技術は定量的ではなく依然として定性的であるため、肉厚な対象の特徴付けに使用するのは難しい。
【0008】
さらに、位相測定によって得られる光学密度測定では試料の質量を把握可能であるが、10μmを超えるサイズの組織を特徴付けることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、先行技術のこうした様々な問題を解決し、生きている組織をインビトロで完全迅速かつ非侵襲的に特徴付ける方法のための解決策を提案し、特に、研究または治療において、特に細胞培養中または細胞培養終了時に、生きている生体微小組織の特徴付けを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
非常に微細な細胞および微小組織に対して現在実施されている位相測定では必然的に参照光を用いているが、本発明によれば、これは、質量を測定することや特定数のパラメータを定量化することができないので不適切な絶対測定につながる。
【0011】
そのため、発明者らは、本発明の目的を達成するために、最小寸法が20μm以上であるヒト、動物または植物の生体微小組織をインビトロで特徴付ける方法を開発し、上記方法は、参照光なしで、また蛍光マーキングを使用する必要のない位相測定技術を用いることからなる。
【0012】
実際、本発明によれば、参照光なしの位相測定技術すなわち間接測定技術あるいは相対位相測定とも呼ばれる技術だけが、最小寸法20μm以上の微小組織の特徴付けに対して機能することができる。さらに、本発明によれば、照明に使用されるビームのコヒーレンスを管理することが重要である。特に、試料レベルでのコヒーレンスは、試料(微小組織)によって生成されるスペックル(「speckle」)の低減が必要であり、好ましくはスペックルのコントラストが最大単位コントラストの75%未満、さらに好ましくは50%未満、理想的には10%未満である。実際には、こうしたスペックルの低減は、空間コヒーレンスおよび/または時間コヒーレンスを減少させることによって行われる。照明の空間コヒーレンスは、ビームのコヒーレンスとは独立して試料パラメータを測定するように、好ましくは照明の開口数がイメージングシステムの開口数の90%、さらに好ましくは50%、理想的には25%を超えないようにする必要がある。
【0013】
有利には、参照光なしの位相測定技術を使用することによって、生きている生体微小組織を、それらを破壊したり変更したりせずにハイスループットで定量的に特徴付けることができる。
【0014】
これにより、特に次のことが可能になる。
-培養中および/または増幅中の微小組織のバイオマスの増加の測定
-細胞生存率の決定
-微小組織の品質制御
-成熟中の微小組織の分化および/または組織化のモニタリング
-微小組織の細胞の表現型の決定、および/または
-微小組織に未分化細胞がないことの確認
【0015】
したがって、本発明は、また、特にこれらの用途のための特徴付け方法の使用を目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例で説明されているプロトコルに従って参照光なしの位相測定イメージングによって得られた、人工多能性ヒト細胞を含むヒドロゲルカプセルの画像である。
【
図2】実施例で説明されているプロトコルに従って参照光なしの位相強度測定(絶対測定)イメージングによって得られた、人工多能性ヒト細胞を含むヒドロゲルカプセルの画像である。
【
図3】バイオリアクタに含まれる生体微小組織を特徴付けるためのオンライン方法の変形実施形態の実施を示す概略図である。
【
図4】実施例1に記載された本発明による特徴付け方法に用いられた、参照光なしの位相測定イメージングシステムを示す概略図である。
【
図5a】実施例2のプロトコルに従って成長培地(MTesr1添加)中で6日間培養した後で、アルギネートカプセル中への人工ヒト幹細胞(Gibco Human Episomal)の封入で生じた微小組織を本発明による方法に従って撮影した画像である。微小組織は、単一の嚢胞を形成する幹細胞からなり、許容される微小組織のカテゴリに分類可能な細胞分布の均一性と丸みの基準を満たす幹細胞から構成されている。
【
図5b】実施例2のプロトコルに従って成長培地(MTesr1添加)中で6日間培養した後で、アルギネートカプセル中への人工ヒト幹細胞(Gibco Human Episomal)の封入で生じた微小組織を本発明による方法に従って撮影した画像である。微小組織は、複数の嚢胞を形成する幹細胞および/または、許容されない微小組織のカテゴリに分類可能な細胞分布の不均一性と丸みを有する幹細胞から構成されている。
【
図5c】(左)成長培地(MTesr1添加)中で6日間培養した後で、アルギネートカプセル中への人工ヒト幹細胞(Gibco Human Episomal)の封入で生じた微小組織を本発明による方法に従って撮影した画像である。(右)多光子顕微鏡を用いて取得した同じ対象を示す画像である。細胞核は、10ug/mL Hoechst 33342(Thermofisher)でマーキングされている。細胞の約半分が見える。セルの総数は約500である。
【
図6】アルギネートカプセル中の幹細胞の微小組織間の質量および面積測定をカプセル封入後の様々な時間(1~6日)で比較した結果を示し、実施例2に従って同時に生成された試料に対して質量の2次成長と質量および成熟度の多様性とを示すグラフである。
【
図7】実施例2に従って微小組織を含むカプセルと空のカプセルとで面積正規化による質量測定の比較結果を示すグラフである。
【0017】
定義
本発明の意味における微小組織の「局所吸収」とは、拡散ではなく光の吸収による局所光子の損失に起因する光の減衰を意味する。
【0018】
本発明の意味における「アルギネート」とは、β-D-マン-ヌロン酸とα-L-グルロン酸から形成される線状多糖類、それらの塩および誘導体である。
【0019】
本発明の意味における「ヒドロゲルカプセル」とは、液体、好ましくは水で膨潤したポリマー鎖のマトリクスから形成された三次元構造を意味する。
【0020】
本発明の意味における「ヒト細胞」とは、ヒト細胞または免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞を意味する。明記されていない場合でも、本発明による細胞、幹細胞、前駆細胞および組織は、ヒト細胞または免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞から構成されるか、またはそれらから得たものである。
【0021】
本発明の意味における「前駆細胞」とは、細胞分化(たとえば網膜の細胞への)にすでに関与しているが、まだ分化されていない幹細胞を意味する。前駆細胞は、特定のタイプの細胞に分化する傾向がある細胞である。したがって、それだけでも幹細胞より特異的である。前駆細胞は限られた回数しか分裂できず、当然のことながら、それらのテロメアの浸食を受ける。
【0022】
本発明の意味における「胚性幹細胞」とは、胚盤胞の内部細胞塊に由来する細胞の多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT4やNANOGなどのマーカーと、SSEA3/4、Tra-1-60、Tra1-81などの表面マーカーの存在によって評価することができる。胚性幹細胞は、たとえばChang他(「Cell Stem Cell」、2008、2(2)):113-117)に記載された技術を用いて、それらが由来する胚を破壊することなく得られる。必要に応じて、ヒト胚性幹細胞を除外できる。
【0023】
本発明の意味において「多能性幹細胞」または「多能性細胞」とは、元の生物全体に存在するすべての組織を形成する能力を有するが、生物全体をそれ自体として形成できるわけではない細胞を意味する。これは、特に人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、またはMUSE細胞(「Multilineage-differentiating Stress Enduring」)に関与することができる。多能性幹細胞はそれらのテロメアの長さを維持し、前駆細胞とは違って明確な細胞周期数の制限なしに分裂する能力を保持可能である。
【0024】
本発明の意味における「人工多能性幹細胞」とは、分化された体細胞の遺伝子再プログラミングによって多能性に誘導された多能性幹細胞を意味する。これらの細胞は、アルカリホスファターゼ染色やNANOG、SOX2、OCT4およびSSEA3/4タンパク質の発現などの多能性マーカーに対して特に陽性である。人工多能性幹細胞を得られる方法の数々の例が、Yu他の論文(Science 2007、318(5858):1917-1920)、Takahasi他(Cell、207、131(5):861-872)およびNakagawa他(Nat Biotechnol、2008、26(1):101-106)に記載されている。
【0025】
本発明の意味における「分化された」細胞とは、分化されていない多能性幹細胞とは対照的に、特定の表現型を示す細胞を意味する。
【0026】
本発明の意味におけるビームの「コヒーレンス」とは、時空間コヒーレンス、すなわち照明源の空間範囲およびスペクトル幅を意味する。
【0027】
本発明の意味における微小組織の「密度」とは、単位体積の質量を同じ体積の培養培地の質量で割ったものを意味する。
【0028】
本発明の意味における「微小組織」または「生体微小組織」とは、最大寸法が1cm以下である生体組織また生体物組織の試料を意味する。
【0029】
本発明の意味において、「位相」とは、微小組織の環境とそれが浸漬される培地のベースレベルとの間の光波面遅延、相対位相シフト、および光路差を意味する。
【0030】
本発明の意味における「位相測定技術」とは、光の位相を定量的に測定可能なあらゆる技術を意味する。
【0031】
本発明の意味における「参照光なしの位相測定技術」とは、微小組織と相互作用しない「参照光」と呼ばれる外部ビームの使用に頼ることなく、光の位相成分をつきとめることができる技術を意味する。
【0032】
本発明の意味における「組織」または「生体組織」とは、生物学における組織の常識、すなわち細胞と器官との間の中間の組織化レベルを意味する。組織は、クラスター、ネットワーク、またはバンドル(ファイバ)にグループ化された、同じ起源の類似細胞の集合である(異なる細胞系統を関連づけることでその起源を見つけられる場合もあるが、通常は大抵が共通の細胞系統に由来する)。組織は機能的な集合、つまり、その細胞が同一機能に寄与する集合を形成する。生体組織は定期的に再生し、互いに集まって様々な器官を形成する。組織は、分化細胞および幹細胞を含むことができる。一般に、多能性幹細胞は、エピブラストと呼ばれる上皮型組織を形成する(引用文献:Self-organization of the human embryo in the absence of maternal tissues、Shahbazi他、Nat Cell Biol.2016、doi:10.1038/ncb3347)。
【0033】
本発明の意味における微小組織の「テクスチャ」とは、画像の局所的な粗さとその局所的な周波数成分とを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
したがって、本発明は、最小寸法が20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である真核生物の生体微小組織、特にヒト、動物、または植物の微小組織をインビトロで特徴付ける方法を目的とする。この方法は、微小組織の一部だけでなく、生体微小組織をその全体で特徴付けることからなる。
【0035】
生体微小組織は、好ましくは、最大寸法が10mm以下、さらに好ましくは1mm以下、特に500μm以下、特に200μm以下の微小組織である。
【0036】
生体微小組織は、真核細胞、特にヒト細胞、または動物細胞(非ヒト)、特に羊膜細胞および特に哺乳動物細胞、または植物細胞を含む微小組織とすることができる。
【0037】
ヒトまたは動物の微小組織に関する場合、生体微小組織は、たとえば、上皮、結合、筋肉または神経の微小組織の中から選択することができる。
【0038】
1つの実施形態によれば、微小組織は、特に、
-分化された心臓細胞または、網膜細胞または神経細胞または肝細胞または軟骨細胞またはケラチノサイトまたはリンパ系細胞または造血幹細胞または間葉系幹細胞、および/または:
-前駆幹細胞
-内皮細胞
を含むことができる。
【0039】
別の実施形態によれば、微小組織は、エピブラストの形態の多能性細胞を含むことができ、またはこれらから構成することができる。
【0040】
生体微小組織は、それがヒトまたは動物の微小組織である場合、たとえば、生殖(ヒトまたは動物)または研究(ヒトまたは動物)または動物生産のための体外受精では特に発生の初期段階で、胚または胎児発生のさまざまな段階の中から選択される。
【0041】
植物性の微小組織に関する場合、たとえば、分裂組織、柔組織、伝導組織、支持組織、被覆または保護組織、分泌組織および栄養組織の中から生体微小組織を選択することができる。
【0042】
微小組織は、細胞外マトリクスによって少なくとも部分的に囲まれていてよい。細胞マトリクス層は、微小組織の細胞によって分泌される細胞マトリクスおよび/または添加された細胞外マトリクスによって構成されうる。細胞外マトリクス層はゲルを形成できる。このマトリクス層は、好ましくは、微小組織を構成する細胞の培養に必要なタンパク質と細胞外化合物との混合物を含む。好ましくは、細胞外マトリクスは、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質、ならびにTGF-ベータおよび/またはEGFなどの成長因子を含む。細胞外マトリクス層は、Matrigel(登録商標)および/またはGeltrex(登録商標)および/または、変性アルギネートなどの植物起源または合成起源またはMebiol(登録商標)タイプのポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)コポリマーおよびポリ(エチレングリコール)のコポリマー(PNIPAAm-PEG)を有するヒドロゲルタイプのマトリクスから構成されるか、またはこれらを含むことができる。
【0043】
変形実施形態によれば、微小組織は、たとえば国際公開第2018/096277号パンフレットに記載された微小区画のような、微小区画に封入されるか、またはヒドロゲル外層を含むカプセルに封入される微小組織とすることができる。ヒドロゲルカプセルについて説明する。好ましくは、使用されるヒドロゲルが生体適合性であり、すなわち細胞に対して毒性がない。ヒドロゲルカプセルは、微小区画に含まれる細胞に供給するために酸素と栄養素を拡散させ、細胞が生存できるようにする必要がある。ヒドロゲル外層は、アルギネートを含む外層であってもよい。この外層は、アルギネートだけから構成してもよい。アルギネートは、特に、80%のα-L-グルロン酸と20%のβ-D-マンヌロン酸から構成され、平均分子量100~400kDa、総濃度0.5~5質量%のアルギン酸ナトリウムとすることができる。ヒドロゲルカプセルは、特に細胞を外部環境から保護し、細胞の制御されない増殖を制限することができる。
【0044】
微小組織は、任意の三次元形状、すなわち、空間内の任意の物体の形状をとることができる。これは、たとえば、中空または中実の卵形、中空または中実の円筒状、中空または中実の管状または管、中空または中実の回転楕円体または球、それ自体で部分的に折り畳まれた単層(2.5D)の形をとることができる。微小組織の寸法と形状は、微小組織の外層または、存在する場合は細胞外マトリクス層によって与えられる。中実の微小組織の1例は、バイオプロダクションで使用される心臓スフェロイドである
(https://doi.org/10.1016/i.bbamcr.2015.11.036)
【0045】
本発明の1つの実施形態によれば、微小組織は、ヒトまたは動物に移植されるように意図されたヒトまたは動物の生体微小組織とすることができる。
【0046】
この方法を用いるにあたり、微小組織は、凍結または非凍結の生きた微小組織上に作製可能である。
【0047】
本発明による方法は、参照光なしの位相測定技術によってイメージングで微小組織を特徴付けることを含む。
【0048】
好ましくは、照明に使用されるビームのコヒーレンスを管理することが重要である。特に、微小組織レベルでのコヒーレンスは、試料(微小組織)によって生成されるスペックル(「speckle」)を低くすることが必要であり、好ましくはスペックルのコントラストが最大単位コントラストの75%未満、さらに好ましくは50%未満、理想的には10%未満である。実際には、こうしたスペックルの低減は、空間コヒーレンスおよび/または時間コヒーレンスを減少させることによって行われる。照明装置の空間コヒーレンスは、ビームコヒーレンスとは独立して試料(微小組織)のパラメータを測定するように、好ましくは照明の開口数がイメージングシステムの開口数の90%、さらに好ましくは75%、理想的には50%を超えないようにすることが必要である。
【0049】
特に適切な1つの実施形態によれば、この方法は、空間的に半コヒーレントなビームで実施される。すなわち:
-光源のスペクトル幅、すなわち照明波長とも呼ばれる照明のスペクトル範囲(照明の時間的コヒーレンスに対応する)が、可視領域で最低5nm、最大600nm、理想的には約100nm、たとえば100nmであり;また
-照明開口数(照明空間コヒーレンスに対応する)は、イメージングシステムの開口数の最低5%、最大90%、理想的には約50%、たとえば50% である。
【0050】
この特徴により、特に、試料(微小組織)や照明パラメータが何であっても、微小組織のパラメータをその全体で測定することによって、同等の位相の定量的測定を保証することができる。
【0051】
好ましくは、参照光なしの位相測定技術が以下の中から選択される:
-波面解析
-照明システムまたはイメージングシステムの瞳における位相または光度のダイナミック変調
-焦点面の変更を伴う光度多重イメージング
【0052】
参照光なしの位相測定技術が波面分析である場合、これは、好ましくは、波面勾配イメージング、特に以下の中から選択される波面勾配イメージング技術を用いて実施される:
-シャックハルトマン法(Gong,H他「Optical path difference microscopy with a Shack Hartmann wavefront sensor」、Opt.Lett.(2017)oi:10.1364/OL.42.002122)
-修正(または非修正)ハルトマン法(Bon,P.,Maucort,G.,Wattellier,B.& Monneret,S.「Quadriwave lateral shearing interferometry for quantitative phase microscopy of living cells」Opt.Express 17,13080-13094(2009))、
-瞳分割(Parthasarathy,A.B.,Chu,K.K.,Ford,T.N.& Mertz,J.「Quantitative phase imaging using a partitioned detection aperture」Opt.Lett.37,4062-4064(2012))
-スペックルフィールドイメージング(Berto,P.,Rigneault,H.& Guillon,M.「Wavefront sensing with a thin diffuser」Opt.Lett.42,5117-5120(2017))。
【0053】
好ましくは、本発明による方法で使用される参照光なしの位相測定技術は、微小組織を特徴付ける場合に安定性、感度および小型性に関して最も優れた妥協を得られる技術であることから、修正ハルトマン法である。
【0054】
参照光なしの位相測定技術が照明またはイメージングシステムの瞳における位相または光度のダイナミック変調である場合、この技術は、好ましくは以下を用いて実施される:
-タイコグラフィ(Zheng,G.,Horstmeyer,R.& Yang,C.「Wide-field,high-resolution Fourier ptychographic microscopy」Nat.Photonics 7,739(2013))または
-瞳内の特定周波数の選択的位相変調(Wang,Z.他「Spatial light interference microscopy」(SLIM).Opt.Express 19,1016-1026(2011))。
【0055】
好ましくは、本発明による方法で使用される参照光なしの位相測定技術はタイコグラフィ技術である。なぜなら、この技術における位相の定量化は、あまり定量的ではない画像のみを与える選択的位相変調よりも直接的であるからである。
【0056】
参照光なしの位相測定技術が焦点面の変更を伴う光度多重イメージングである場合、好ましくは以下を用いて実施される:
-同時マルチプレーンイメージング(Descloux,A.他「Combined multi-plane phase retrieval and super-resolution optical fluctuation imaging for 4D cell microscopy」.Nat.Photonics 12,165-172(2018))または逐次マルチプレーンイメージング(Soto,J.M.,Rodrigo,J.A.& Alieva,T.Label-free quantitative 3D tomographic imaging for partially coherent light microscopy.Opt.Express 25、15699-15712(2017)またはBarty,A.,Nugent,K.A.,Paganin,D.& Roberts,A.「Quantitative optical phase microscopy」.Opt.Lett.23,817-819(1998))。
【0057】
好ましくは、本発明による方法で使用される参照光なしの位相測定技術は、逐次マルチプレーンイメージングよりも複雑ではあるものの、高速の同時技術である。
【0058】
参照光なしの位相測定技術が何であれ、この方法は、好ましくは、微小組織を通過した光の位相の測定および場合によっては光度の測定を含む。
【0059】
好ましくは、本発明による方法は、参照光なしの位相測定技術によるイメージングによって真核生物の生体微小組織をインビトロで特徴付ける方法であり、この方法は、少なくとも微小組織内の細胞の組織化の調査、好ましくは、少なくとも微小組織のトポロジーの調査、および/または微小組織内の細胞の相対的な配置の調査を含む。
【0060】
好ましい1つの実施形態によれば、この方法は、以下の測定:
-位相の測定からの微小組織の密度の測定、および
-必要に応じて、微小組織を通過した光の位相および光度の測定からの微小組織の局所吸収の測定
を含む。
微小組織の密度は、位相の測定から次のように測定できる。
1)微小組織を含む画像の領域(有用領域と呼ばれる)を残りの部分(背景、一般的には培養培地と呼ばれる)から分離する。
2)背景の位相の値を有効領域の位相から減算する。
3)この減算の後、必要に応じて位相を光路差(単位:メートルで示す)に変換し、有効領域全体にわたって合計する。
4)この値を、画像の基本ピクセルの面積で乗算し、対象平面に戻す:値は立方メートルの単位で得られる。
5)この値を、組織ごとに調整可能な特定の屈折増分(Barer、「Interference microscopy and mass determination」Nature、1952)(平均0.18μm3/pg)で割る:このようにして、試料全体(微小組織)に統合された、いわゆる乾燥質量(総質量-培養培地の質量)の測定値を得る。
【0061】
この技術については比較例と説明を入手可能である(Zangle,T.et Teitell,M.A.,「Live-cell mass profiling:an emerging approach in guantitative biophysics」、Nature Methods,2014)。
【0062】
密度は質量(g)の単位で表される。
【0063】
微小組織の局所吸収は、微小組織を透過した光の位相と光度の測定から次のように測定できる。位相φと強度Iの同時測定により、電磁界E=Ieiφを得る。電磁界のデジタルフーリエ空間において実部と虚部を(フーリエ変換を介して)抽出することにより、この複素数値を分解することができる。フーリエ空間の実数成分の直接空間に(逆フーリエ変換を介して)戻ると、局所吸収の成分をつきとめることができる。吸収の測定値は、光子/cm2で表される。
【0064】
好ましくは、本発明による方法は、少なくとも1つの以下のパラメータの測定を含む:
-微小組織の寸法
-微小組織の少なくとも1つの細胞の寸法
-微小組織の細胞数
-微小組織の全体質量と局所質量
-微小組織の全体密度と局所密度
-微小組織内の質量分布
-微小組織内の細胞の組織化:微小組織のトポロジーおよび/または微小組織内の細胞の相対的な配置
-微小組織の細胞生存率
-テクスチャ
【0065】
微小組織の寸法は、位相の測定から次のように測定できる。画像平面内の寸法は、自動クリッピング(たとえば大津型エッジ検出アルゴリズム、または手動クリッピング)によって抽出され、楕円(卵形の微小組織の場合)によってクリッピングを調整することによって寸法が得られる。
【0066】
寸法はマイクロメートルで表される。
【0067】
微小組織の1つまたは複数の細胞の寸法は、位相の測定から次のように測定できる。光学解像度が細胞のサイズよりも優れている場合、微小組織内で手動または自動クリッピングを実施する(エッジ検出アルゴリズムまたは流域線)。次に、各々の自動クリッピングを楕円によって調整することにより寸法を得る。
【0068】
細胞の寸法はマイクロメートルで表される。
【0069】
微小組織の全体質量は、位相の測定から次のように測定できる。
【0070】
次に、微小組織(自動または手動クリッピングで得られたもの)を含む領域の位相情報の合計(光路の意味で。μmで表される)に、対象の空間(μm2で表される)に戻される位相ピクセルの面積を掛け、その後、特定の増分(一般に0.18pg/μm3)を掛けて全体質量の測定値を得る。
【0071】
全体質量はマイクログラムで表される。
【0072】
微小組織の局所質量は、位相の測定から次のように測定できる。
【0073】
上記と同じ方法が適用されるが、微小組織の選択された部分でのみ位相が合計される。
【0074】
局所質量はマイクログラムで表される。
【0075】
微小組織の全体密度は、位相の測定から次のように測定できる。質量は位相から測定される。画像面の横方向の寸法は位相画像で得られる。位相画像の直交面の寸法(厚さと呼ばれる)は、a)様々なイメージング面での対象の3D再構成ではなく、b)対象の形状に関する仮定(通常は卵形)または、c)微小組織と培地の平均光屈折率に関する仮定から得られ、これによって、(光路差という意味で)位相を屈折率の差で割ることによって微小組織の厚さをつきとめることができる。3つの寸法を組み合わせて、試料(微小組織)の体積を得る。質量を体積で割ると密度が得られる。
【0076】
全体密度はg/cm3で表される。
【0077】
微小組織の局所密度は、位相の測定から次のように測定できる。
【0078】
全体密度の測定の場合と同じプロトコルが使用されるが、測定領域は微小組織の下位部分に制限される。局所密度はg/cm3で表される。
【0079】
微小組織内の質量分布は、位相の測定から次のように測定できる。局所質量測定は、微小組織の全部または一部を覆う微小組織の下位部分について実施される。その質量の統計分析(標準偏差(deviation standard)/標準偏差(ecart-type)、平均偏差/中央偏差のタイプ)が実施される。
【0080】
質量分布はグラムで表される。
【0081】
微小組織内の細胞の組織化は、当業者によって理解されているように、この用語の組織学的な意味で解釈されるべきであり、組織のトポロジーならびに細胞および細胞外マトリクス要素の相対的な配置を表している。微小組織の細胞生存率は、位相の測定から次のように測定できる:局所質量の測定は、微小組織のすべてまたは一部を覆う微小組織の下位部分について実施される。その質量の統計分析(標準偏差(deviation standard)/標準偏差(ecart-type)、平均偏差/中央偏差のタイプ)が実施される。
【0082】
その場合、質量分布を従来の組織学的分析と関連付けて、分析および注釈付きのトレーニングデータセットを生成する。次に、プロセスを自動化するために、このデータセットに対してアルゴリズムおよび/または有向の自動学習(たとえばニューラルネットワークタイプ)を実行することができる。
【0083】
したがって、微小組織内の細胞の組織化は、ヒトであるかどうかにかかわらず、組織学的分類に基づいてエキスパートシステムにより認定される。
【0084】
細胞死現象は、フェーズ(Phase)で検出可能な細胞密度とサイズの変化を引き起こす。微小組織の細胞生存率は、位相の測定から次のように測定できる:局所質量の測定は、微小組織の全体または一部を覆う微小組織の下位部分について実施される。その質量の統計分析(標準偏差(deviation standard)/標準偏差(ecart-type)、平均偏差/中央偏差のタイプ)が実施される。その場合、臭化エチジウム(死細胞)やカルセイン(生細胞)などの一般的な生存率測定値と質量分布とを関連付けて生細胞のパーセンテージを特定し、分析および注釈付きのトレーニングデータセットを生成する。次に、プロセスを自動化するために、このデータセットに対してアルゴリズムおよび/または有向の自動学習(たとえばニューラルネットワークタイプ)を実行することができる。
【0085】
したがって、微小組織内の細胞生存率は、全細胞のうちの生細胞のパーセンテージとして表される。
【0086】
微小組織のテクスチャは、位相の測定から次のように測定できる。関心領域内の画像構造の標準偏差および周波数分布を含む位相の空間変動の統計を測定することによって、テクスチャパラメータを決定できる。
【0087】
テクスチャは位相単位で示され、(位相単位)/μmで表される。
【0088】
1つの実施形態によれば、本発明による方法は、ヒト、動物、または植物から事前に採取された微小組織に対してインビトロで実施することができる。この方法により、たとえば糖尿病患者への移植前に死体由来のランゲルハンス島の品質(特にその生存率)を特徴付けたり、着床前の胚を特徴付けたりすることが可能になる。
【0089】
別の実施形態によれば、本発明による方法は、分化することが意図された多能性幹細胞または前駆細胞を含む微小組織、または分化過程にある細胞を含む微小組織、または多能性幹細胞または前駆細胞から細胞培養によって得られた分化細胞を含む微小組織に対してインビトロで実施することができる。本発明による方法は、分化することが意図された多能性幹細胞から構成された微小組織、または分化過程にある細胞から構成された微小組織、または多能性幹細胞または前駆細胞から細胞培養によって得られた分化細胞から構成された微小組織に対してインビトロで実施することができる。
【0090】
変形実施形態によれば、本発明による方法は、バイオリアクタの内容物に対してオンラインで実施される。カプセルまたは微小区画内の細胞培養に適用されるこのような変形実施形態の一例を
図3に示す。この例では、微小組織をそれぞれ含むカプセル12が、バイオリアクタ10内の培養培地14内で懸濁されている。バイオリアクタ上に配置された出力手段16は、カプセル12をそれらの培養培地14内に流出させて、参照光なしの位相測定イメージングシステム18内を通過させることができる。このシステム18の出力では、バイオリアクタのユーザによって定義された品質基準を満たす微小組織を含むカプセル、いわゆる培養培地14中の正常カプセル12-1が、入力手段20を介してバイオリアクタ10内に再投入され、バイオリアクタのユーザによって定義された品質基準を満たさない望ましくないカプセル12-2は、排除手段22を介して回収され、除去される。出力手段16は、たとえばチューブおよび蠕動ポンプとすることができ、入口手段20は、たとえばチューブとすることができる。排出手段22は、たとえば圧電バルブシステムであってもよい。システム18は、本出願で説明されているシステムの1つのような、参照光なしの位相測定に適した任意のイメージングシステムとすることができる。
【0091】
これにより、有利には、特に分化または成熟中にオンラインで微小組織の品質をチェック可能になる。したがって、本発明による方法は、特に、バイオリアクタ内で微小組織を形成する細胞の分化または成熟中に実施する場合、以下のように実施することができる:
i)フローセルで。すなわち、バイオリアクタタイプの培養エンクロージャの内容物を、無菌流体システム内でこの培養エンクロージャの内容物の分析および/または選別を目的として連続的に再循環させる、または
ii)上記バイオリアクタの一部を特定の時点で分析するためにバイオリアクタ外でなされる1回のサンプリングで。一般には、「シードトレイン(seed train)」の場合および/または体積上昇の場合に第2のバイオリアクタの分析および/または再播種を目的として、および/またはバイオリアクタの内容物を複数のエンクロージャまたは複数の品質管理条件に分けることを目的としてなされるサンプリング中に行われる。または
iii)精製または、一連の生産および/または分化および/または条件付けの継続を目的として、バイオリアクタを空にする際にオフラインで微小組織を選別する。
【0092】
本発明による方法は、現在使用されている方法よりも多くの利点を有する。特に、調査対象の微小組織を破壊または変更することなく実装可能であり、実装に時間がかからず簡易機器で用が足り、微小組織を特徴付ける多くの物理的パラメータを測定することができるが、これは従来技術による方法では不可能であった。
【0093】
したがって、多くの用途にこの方法を使用することができる。特に、本発明は、以下のために上記の方法を使用することを目的とする:
-微小組織の品質制御:実際、本発明による方法の実施により、微小組織の大きさ、密度、細胞数またはそのテクスチャなどの特徴を測定可能であり、これらによって微小組織の品質をチェックすることができ、および/または
-培養および/または増幅中の微小組織のバイオマスの増加の測定:実際、本発明による方法によって、微小組織の全体質量または局所質量を測定可能であり、それによって、培養中、分化中および/または増幅中の微小組織内の細胞数の増加をモニタリングすることができ、および/または
-成熟中の微小組織のトポロジーの分化および/または進化、特にそれを構成する細胞の空間内の相対位置のモニタリング:実際、本発明による方法によって、微小組織の細胞の分化中および/または成熟中の微小組織内の質量分布および/または微小組織内の細胞の組織化および/または微小組織の細胞生存率を測定可能であり、これによって、細胞の分化および/または成熟に関する情報が得られ、および/または
-微小組織の細胞の表現型の決定。実際、本発明による方法によって、各細胞の質量および微小組織のテクスチャを測定可能であり、それによって細胞の表現型に関する情報が得られ、および/または
-微小組織に未分化細胞が存在しないことの確認:実際、細胞の質量および/または細胞の密度の測定、微小組織のテクスチャおよび/または微小組織内の細胞の組織化によって、微小組織の細胞の分化についての情報、およびその結果として、場合によっては細胞の分化の欠如に関する情報が得られる。
【0094】
1つの特定の実施形態によれば、微小組織は胚であり得る。したがって、本発明による方法は、体外受精によって得られた胚のスクリーニングに使用することができる。健康な胚の組織学的構造は代表的なものであり、非常に再現性が高く、母親への胚の着床の成功を予見させる。特に、再移植が求められるこうした胚の構造について説明するには、マーキングなしのイメージングソリューションのみを考慮に入れることができる。着床の歩留まりを改善し、失敗のリスク、または、その反対に複数胚のリスクを減らすために、病院では、着床前の受精胚のますます正確なモニタリング、特に発生のビデオモニタリングを開発している。本発明による方法は、マーキングなしで関連情報ソースを追加し、したがって非破壊的なソースを追加することによって、異常構造を有する胚をより効果的に除外することができる。
【0095】
別の実施形態によれば、微小組織は、薬剤の生物生産または食品の生物生産の目的で作製される微小組織である。
【0096】
以下、本発明による方法の1つの実施例を、従来技術の特徴付け方法の例と比較しながら説明する。
【0097】
実施例
実施例1
この実施例において、本方法は、国際公開第2018/096277号パンフレットの実施例1に記載されているような、1つの微小区画に含まれるヒト微小組織の分析に関する(実施例1:多能性に誘導したヒト細胞から細胞微小区画を取得するプロトコル)。
【0098】
下記文献に記載されているような強度測定によるイメージング法を使用して微小区画を分析した(Bon P他、「Quadriwave lateral shearing interferometry for quantitative phase microscopy of living cells」、2009 Optical Society of America)。
図4に示されたプロトコルで得られたインターフェログラムのフーリエ空間での処理を介した低周波の復調によって強度を得た。得られた結果を
図2に示す。
【0099】
本発明による方法に従って微小区画を分析した。操作プロトコルは次のとおりである:ハロゲン光を使用して試料を透過照明し、倒立顕微鏡に取り付けられた顕微鏡対物レンズ(×20、開口数0.5)を使用して自己参照干渉計(特に位相感知検出器)で試料の画像を形成する。使用されるイメージング技術は波面勾配イメージングであり、特に修正ハルトマン法である。
図4では同様にプロトコルを示した。
図4では、照明システム、試料、顕微鏡、および位相感知検出器が示されている。
図1と
図2を得るために用いた修正ハルトマンのセットアップを説明するために拡大図が示されている。
【0100】
【0101】
本発明による方法で得られた画像は、従来技術により得られる画像と比べて試料の局所密度を測定可能であり、この局所密度と吸収とを非相関にできることが確認される。特に、本発明による方法によって以下の測定が可能になった:
-各微小組織の合計寸法。これらは91μm(最大)および59μm(最小)であり、画像D上の各微小組織の直径をピクセルで測定することによって計算される。イメージングシステム全体の倍率gyと1つのピクセルの物理的なサイズTpixを知ることにより、微小組織の寸法はD×Tpix/gyとなる。
【0102】
-微小組織中心の均一な粒度と低い位相シフト(すなわち、より暗い画像)とを有する領域の寸法の分析による、微小組織中心の管腔領域の直径。最大の微小組織の場合は38μm、最小の場合は25μmである。
-対象の乾燥質量(対象の密度の積分)。出版物(Aknoun S他「Living cell dry mass measurement using quantitative phase imaging with quadriwave lateral shearing interferometry:an accuracy and sensitivity discussion」、J/of Biomedical Optics、2015)に記載されているように計算され、最大の微小組織では39μm、最小では16μgである。簡単に言えば、エッジを決定することによって各微小組織を自動的にクリッピングし、多項式適合によって背景の位相値を評価し、画像からそれを減算し、各微小組織の位相のすべての情報を合計し、これを次の式で質量に変換するものである:m=0.18pg/μm3×∬microtissu phase・ds-細胞数。最大の微小組織では608±176細胞、最小の微小組織では244±64細胞である。この値は、2つの補完的なアプローチによって得られる。細胞の平均的なサイズ(5μm)と微小組織内の細胞が存在する領域の体積(微小組織の体積-管腔の体積)とを知ることにより、細胞数の値が推定される(それぞれ421細胞と180細胞)。幹細胞の平均質量(50pg)と微小組織の全体質量を知ることにより、細胞数の別の算定が導かれる(それぞれ784細胞と312細胞)。
【0103】
実施例2
この実施例において、本方法は、国際公開第2018/096277号パンフレットの実施例1に記載されているような、微小区画に含まれる複数のヒト微小組織の分析に関する(実施例1:多能性に誘導したヒト細胞から細胞微小区画を取得するプロトコル)。ヒト多能性幹細胞(Gibco Human Episomal IPSC)を、アルギネートの多孔質壁に囲まれた細胞外マトリクス内にカプセル封入し、成長培地(MTesr1添加)中で6日間培養した。
【0104】
本発明による方法に従って微小組織を分析した。操作プロトコルは次のとおりである:ハロゲン光を使用して試料を透過照明し、倒立顕微鏡に取り付けられた顕微鏡対物レンズ(×20NA、開口数0.45)を使用して自己参照干渉計(特に位相感知検出器)で試料の画像を形成する。使用したイメージング技術は、干渉法による定量的位相イメージングである。
図4では同様にプロトコルを示した。照明の開口数は0.13(照明の空間コヒーレンス)、照明の波長は550±100nm(照明のスペクトル範囲または照明の時間的コヒーレンス)とした。
【0105】
得られた結果を
図5a、
図5b、
図5cに示した。これらの結果によって、許容できる微小組織(
図5a)および許容できない微小組織(
図5b)を有する微小区画のテクスチャと丸みを特徴付けることができる。
【0106】
図5aにおいて、微小組織は、単一の嚢胞を形成する幹細胞からなり、許容される微小組織のカテゴリに分類可能な細胞分布の均一性と丸みの基準を満たす幹細胞から構成されている。
【0107】
図5bにおいて、微小組織は、複数の嚢胞を形成する幹細胞および/または、許容されない微小組織のカテゴリに分類されうる細胞分布の不均一性と丸みを有する幹細胞から構成されている。
【0108】
本発明による方法は、丸みとテクスチャの均一性との統計的分析によって、同じ密度の許容できる微小組織と許容できない微小組織との特徴付けが可能になることが確認される。
【0109】
図5cは、左側が実施例2の方法に従って得られた微小組織の1つを示し、右側が多光子顕微鏡法を用いて得られた同じ微小組織を示している(細胞核は10μg/mLのHoechst 33342(サーモフィッシャー)でマークされている)。本発明と比べると、多光子技術では細胞の約半分が見える。セルの総数は約500である。
【0110】
また、微小組織の細胞核をマーキングすることにより、テクスチャおよび丸みのデータと細胞数との関連付けが可能になることが確認される。
【0111】
実施例3
この実施例において、本方法は、国際公開第2018/096277号パンフレットの実施例1に記載されているような、1つの微小区画に含まれるヒト微小組織を、微小組織なしの同一微小区画と比較して分析することに関する(実施例1:多能性に誘導したヒト細胞から細胞微小区画を取得するプロトコル)。
【0112】
微小組織のある場合とない場合とで本発明による方法に従って微小区画を分析した。操作プロトコルは次のとおりである:ハロゲン光を使用して試料を透過照明し、倒立顕微鏡に取り付けられた顕微鏡対物レンズ(×20NA、開口数0.45)を使用して自己参照干渉計(特に位相感知検出器)で試料の画像を形成する。使用したイメージング技術は、干渉法による定量的位相イメージングである。照明の開口数は0.13(照明の空間コヒーレンス)、照明の波長は550±100nm(照明のスペクトル範囲または照明の時間的コヒーレンス)とした。
【0113】
【0114】
図6では、個体群の成長を決定するとともに成熟時に微小組織を選別するための、所定の日付における細胞の成長の2次進化と分散がはっきりと分かる。
【0115】
図7では、位相イメージングにより、微小組織内に存在する細胞の密度の特徴付けが可能になることが確認される。
【国際調査報告】