(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】感染に関連する炎症の治療のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20230508BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230508BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230508BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230508BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230508BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20230508BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230508BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230508BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230508BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230508BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20230508BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20230508BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230508BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K45/00
A61P43/00 123
A61P29/00
A61P31/00
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/22
A61P31/20
A61P31/04
A61P37/02
A61P3/00
A61P9/00
A61P11/00
A61P7/00
A61P25/00
A61P17/00
A61P1/14
A61P13/02
A61P19/02
A61P21/00
A61P25/04
A61P25/02
A61P1/08
A61P1/12
A61P25/18
A61P25/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559670
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-10-12
(86)【国際出願番号】 AU2021050282
(87)【国際公開番号】W WO2021195698
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518356338
【氏名又は名称】ノクソファーム リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】グラハム ケリー
(72)【発明者】
【氏名】オリバー ラツカ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ガンティアー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB352
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA08
4C086ZA18
4C086ZA21
4C086ZA36
4C086ZA43
4C086ZA53
4C086ZA59
4C086ZA69
4C086ZA71
4C086ZA73
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB02
4C086ZB11
4C086ZB32
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC21
(57)【要約】
本発明は、個体における、感染に関連する炎症を治療する方法、並びに感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症を予防又は重症度を低減する方法であって、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に投与するステップから本質的になるか、又は前記ステップからなり、前記個体が、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、又は有する疑いのある、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における炎症を治療するための方法であって、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に対して、感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前に投与し、それによって前記炎症を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法。
【請求項2】
前記個体が、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、又は有する疑いがある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症を予防又はその重症度を低減するための方法であって、
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するか又は有する疑いのある対象であって、敗血症を発症する危険性がある対象を特定するステップと、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする前記個体に投与し、それによって、前記個体における敗血症を予防又はその重症度を低減するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法。
【請求項4】
前記個体は、感染の発症時にイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記個体は、炎症の発症時にイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
投与が、炎症によって引き起こされる初期の臓器障害から後期の臓器障害までの期間から本質的になるか、又は前記期間からなる、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記感染が、ウイルスによって引き起こされる、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルスが、コロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、デングウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、及びエンテロウイルスから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルスが、コロナウイルス又はインフルエンザである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記感染が細菌によって引き起こされる、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌が、連鎖球菌種(Streptococcus spp.)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、並びにアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)及び髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記個体が、ウイルス感染を有すると診断されるか又は有する疑いがある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の前記症状が、異常なレベルの一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカー、異常なレベルの凝固因子、異常なレベルのトロポニンI、異常なレベルのアラニンアミノトランスフェラーゼ、異常なレベルの血中尿素窒素、異常なレベルのクレアチニン、異常なレベルのプロカルシトニン、異常なレベルの乳酸デヒドロゲナーゼ、体温上昇、心拍数上昇、呼吸数上昇、異常なリンパ球数、異常な好中球数、異常な血小板数、低血圧、低酸素血症、組織低酸素、血流低下、創傷周囲の発赤及び腫脹、低尿量、めまい又は脱力、蒼白、皮膚の変色又はシミ、不明瞭な発語、硬直、倦怠感、疲労、食欲不振、筋肉痛、関節痛、悪心、嘔吐、頭痛、発疹、嘔吐、下痢、脈圧拡大、心拍出量の増加(初期)、潜在的心拍出量低下(後期)、低フィブリノゲン血±出血、高窒素血症、高トランスアミナーゼ血症、高ビリルビン血症、精神状態変化、錯乱、せん妄、喚語困難又はフランク失語症(frank aphasia)、幻覚、振戦、ディスメトリア、歩き方の変化、てんかん発作及びそれらの組み合わせから選択される、請求項2から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記個体が、初期の臓器障害の少なくとも2、3、4、5、若しくは6の症状を有するとして特定されているか、又は有する疑いがある、請求項2から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーが、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン18(IL-18)、インターロイキン37(IL-37)、IP-10、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)、インターロイキン2受容体(IL-2R)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン13(IL-13)、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンベータ(IFN-β)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1若しくはCCL2)、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、C-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5若しくはRANTES)、β-2-ミクログロブリン(β-2M)、血清フェリチン、D-ダイマー、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cGAMP)、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーが、IL-1β、IL-2R、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IP-10、TNF-α、MCP-1、PCT、CRP、β-2M、血清フェリチン、D-ダイマー、cGAMP、CCL5(RANTES)、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーが、IL-6、IP-10、PCT、CRP、D-ダイマー、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記個体が、異常なレベルの少なくとも2、3、4、5、若しくは6のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーを有するとして特定される、請求項16から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の前記症状が、1ug/mLを越えるD-ダイマーレベルである、請求項2から19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記個体が、感染によって引き起こされる炎症と関連する後期の臓器障害の症状を有すると特定されない、診断されない、又は有する疑いがない、請求項1から20の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
任意選択的に静脈内輸液を含んでもよい抗生物質の投与をさらに含む、請求項1から21の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全内容を参照により本明細書に援用される豪州特許仮出願第2020900970号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、感染に関連する炎症の治療のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
敗血症は、感染に対する重篤な全身性炎症反応を特徴とする疾患である。
【0004】
細菌性敗血症は、血液中の侵襲性細菌感染によって引き起こされる複合性全身性炎症症候群である。敗血症は、ヒトや他の動物において罹患率及び死亡率が高い。米国では、敗血症は、ヒトの院内(特に集中治療室内)での死亡及び家畜や他の動物のこどもの感染による死亡の主な原因である。毎年、700,000を超える敗血症の新たな症例がヒトで診断されている。世界人口にあてはめると、世界中で毎年数百万件の重症敗血症が発生していることになる。死亡率は約20~30%であり、米国では毎年少なくとも150,000人が死亡している。
【0005】
敗血症は多くの原因によって引き起こされ得るが、通常は、肺炎、他の感染、外傷、手術、及び熱傷などの事象、又はがん若しくはAIDSなどの病気によって引き起こされる。敗血症は、通常、振戦、発熱、血圧低下(敗血症性ショック)、速い呼吸、頻脈、及び皮膚病変から始まる。数時間以内に、敗血症は、血管における自発的な凝固、重度の低血圧、多臓器不全、ショック、そして最終的には死に至る可能性がある。
【0006】
通常、これらの症状は、サイトカイン、白血球、及び補体などの宿主防御機構の過剰又は無制御活性化によって引き起こされる。凝固をはじめとするある特定の症状は、サイトカインとは関係なく、STING経路によって引き起こされる。
【0007】
敗血症は、通常、細菌感染(グラム陰性又はグラム陽性菌のいずれか)によって引き起こされるが、真菌、ウイルス、及び寄生虫などの他の病原体や、スーパー抗原などの非感染性刺激によっても引き起こされ得る。しかしながら、ほとんどの場合、敗血症はグラム陰性菌感染によって引き起こされる。しかしながら、敗血症に起因する損傷や症状は、細菌によって引き起こされるだけでなく、エンドトキシン又はリポ多糖(LPS)として知られる細菌細胞壁の成分によっても引き起こされる。LPS分子は、全てのグラム陰性菌の外膜に偏在する糖脂質である。LPS分子の既知の化学構造は複雑かつ多様であるが、共通の特徴はリピドA領域である。高度に保存されたリピドA LPS領域の認識は、敗血症の原因となる事象の全てではなくても多くを開始させる。LPSは、免疫系が侵入した細菌を破壊すると放出される。
【0008】
感染に関連する炎症の治療及び敗血症の予防のために改善された方法が必要とされている。
【0009】
本明細書における先行技術への言及は、この先行技術がいずれかの法域における一般常識の一部を形成していること、若しくはこの先行技術が当業者によって理解されること、関連するとみなされること、及び/又は先行技術の他の部分と組み合わされることが合理的に期待できることを承認又は示唆するものではない。
【発明の概要】
【0010】
一態様において、本発明は、
個体における炎症を治療する方法であって、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、又は有する疑いのある前記個体に対して投与し、
それによって前記炎症を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる方法を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、個体における炎症を治療する方法であって、
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するか又は有する疑いのある対象を特定するステップと、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする前記個体に投与し、
それによって、前記個体における炎症を治療するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、個体における炎症を治療する方法であって、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、前記個体に対して、感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前に投与し、
それによって前記炎症を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる方法を提供する。
【0013】
別の態様において、本発明は、個体における炎症を治療するための方法であって、
感染に関連する炎症であって、炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前であることを特徴とする炎症を有するか、又は有する疑いのある対象を特定するステップと、
それを必要とする前記個体に対して、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与し、
それによって前記個体における前記炎症を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる方法を提供する。
【0014】
いずれの態様においても、感染に関連する炎症は、感染によって引き起こされるか、前記感染によって誘導されるか、又は前記感染に起因するものであってよい。
【0015】
ある特定の実施形態において、本発明の方法、使用又は組成物は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の治療又はその症状の重症度の最小化に有用である。
【0016】
別の態様において、本発明はまた、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状を予防又はその重症度を低減する方法であって、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする前記個体に投与し、それによって、前記個体における初期の臓器障害の症状を予防又はその重症度を低減するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法も提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状を治療又はその重症度を低減する方法であって、
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するか、又は有する疑いのある対象を特定するステップと、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする個体に投与し、それによって、前記個体における初期の臓器障害を治療、又はその症状の重症度を低減するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0018】
ある好ましい実施形態では、初期の臓器障害の症状は、異常なレベルの一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカー、異常なレベルの凝固因子、異常なレベルのトロポニンI、異常なレベルのアラニンアミノトランスフェラーゼ、異常なレベルの血中尿素窒素、異常なレベルのクレアチニン、異常なレベルのプロカルシトニン、異常なレベルの乳酸デヒドロゲナーゼ、体温上昇、心拍数上昇、呼吸数上昇、異常なリンパ球数、異常な好中球数、異常な血小板数、低血圧、低酸素血症、組織低酸素、血流低下、創傷周囲の発赤及び腫脹、低尿量、めまい又は脱力、蒼白、皮膚の変色又はシミ、不明瞭な発語、硬直、倦怠感、疲労、食欲不振、筋肉痛、関節痛、悪心、嘔吐、頭痛、発疹、嘔吐、下痢、脈圧拡大、心拍出量の増加(初期)、潜在的心拍出量低下(後期)、低フィブリノゲン血±出血、高窒素血症、高トランスアミナーゼ血症、高ビリルビン血症、精神状態変化、錯乱、せん妄、喚語困難又はフランク失語症(frank aphasia)、幻覚、振戦、ディスメトリア、歩き方の変化、てんかん発作及びそれらの組み合わせから選択される、。好ましくは、個体は、初期の臓器障害の少なくとも2、3、4、5、若しくは6の症状を有すると特定されるか、又は有する疑いがある。
【0019】
一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、インターロイキン1アルファ(IL-1α)及びインターロイキン1β(IL-1β)(以下、一括して、インターロイキン1又はIL-1と称する)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン18(IL-18)、インターロイキン37(IL-37)、IP-10、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)、インターロイキン2受容体(IL-2R)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン13(IL-13)、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンベータ(IFN-β)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1若しくはCCL2)、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、C-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5若しくはRANTES)、β-2-ミクログロブリン(β-2M)、血清フェリチン、D-ダイマー、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cGAMP)、及びそれらの組み合わせから選択することができる。さらに好ましくは、一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、IL-1β、IL-2R、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IP-10、TNF-α、MCP-1、PCT、CRP、β-2M、血清フェリチン、D-ダイマー、cGAMP、CCL5(RANTES)、IFN-α、IFN-β、IFN-γ及びそれらの組み合わせから選択することができる。なお一層好ましくは、一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、IL-6、IP-10、PCT、CRP、D-ダイマー、及びそれらの組み合わせから選択することができる。好ましくは、個体は、異常なレベルの少なくとも2、3、4、5、若しくは6のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーを有すると特定される。
【0020】
別の態様において、本発明はまた、それを必要とする個体において、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状を軽減又は改善する方法であって、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする個体に投与し、それによって前記個体における初期の臓器障害の症状を軽減又は改善することを含むか、又は本質的にそれらからなるか、又はそれらからなる方法も提供する。
【0021】
別の態様において、本発明は、個体において、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状を軽減又は改善する方法であって、
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するか、又は有する疑いのある対象を特定するステップと、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする個体に投与し、
それによって、前記個体において初期の臓器障害の症状を軽減又は改善するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明はまた、個体において、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の進行を阻害又は最小化する方法であって、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状を経験している個体に対して投与し、
それによって、前記個体において、初期の臓器障害の症状の進行を阻害又は最小化するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法も提供する。
【0023】
個体は、本明細書中に記載する任意の生化学的若しくは臨床的方法又は試験によって初期の臓器障害の症状を経験していると特定することができる。
【0024】
他の実施形態において、本発明の方法、使用又は組成物は、感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症の予防又はその重症度の低減に有用である。
【0025】
さらなる態様において、本発明は、したがって、感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症を予防又はその重症度を低減する方法であって、
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するか又は有する疑いのある対象であって、敗血症を発症する危険性がある対象を特定するステップと、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする前記個体に投与し、それによって前記個体における敗血症を予防又はその重症度を低減するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症を予防又はその重症度を低減する方法であって、
・炎症によって引き起こされる後期の臓器障害より前であることを特徴とする炎症を有するか、又は有する疑いのある対象であって、敗血症を発症する危険がある対象を特定するステップと、
・治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、それを必要とする前記個体に投与し、
それによって前記個体における敗血症を予防又はその重症度を低減するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0027】
個体は、感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症を発症する危険性が高いか、中程度であるか、又は低いと特定され得る。
【0028】
別の実施形態において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、SARS-CoV-2によって引き起こされる感染、又はSARS-CoV-2によって引き起こされる感染に関連する炎症の開始時、又は開始から約7~10日から開始して投与される。この実施形態において、個体は、
・感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害、若しくはその症状を有する疑いがあるか、若しくは有すると診断され得る;及び/又は
・感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害若しくは敗血症を発症する危険性が高いと特定され得る。
【0029】
別の態様において、本発明は、したがって、個体において、感染に関連する炎症、又はその症状を治療する方法であって、
・治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に対して、SARS-CoV-2によって引き起こされる感染、又はSARS-CoV-2によって引き起こされる感染に関連する炎症の開始時、又は開始から約7~10日から開始して投与し、
それによって前記個体において、炎症又はその症状を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法も提供する。
【0030】
個体は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害、又はその症状を有すると診断されるか、又は有する疑いがある可能性がある。
【0031】
別の態様において、本発明は、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療する方法であって、
・感染を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体を提供するステップと、
・前記個体のサンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを測定又は決定するステップと、
・サンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルが、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有さない一以上の個体の代表的なデータの形態の参照データセットにおけるレベルよりも高い場合、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に投与し、
それによって、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療する方法であって、
・感染を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体を提供するステップと、
・前記個体のサンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを測定又は決定するステップと、
・サンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルが、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有する一以上の個体の代表的なデータの形態の参照データセットにおけるレベルと同じか又はそれよりも高い場合、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に投与し、
それによって、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0033】
別の態様において、本発明はまた:
・感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、若しくは有する疑いのある個体における炎症の治療;
・感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前であることを特徴とする炎症を有すると診断されるか、若しくは有する疑いのある個体における炎症の治療;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の治療若しくはその症状の重症度の低減;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の軽減若しくは改善;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の進行の阻害若しくは最小化;及び/又は
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症の予防若しくはその重症度の低減
のための薬剤の製造におけるイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの使用も提供する。
【0034】
別の態様において、本発明はまた:
・感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、若しくは有する疑いのある個体における炎症の治療;
・感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前であることを特徴とする炎症を有すると診断されるか、若しくは有する疑いのある個体における炎症の治療;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の治療若しくはその症状の重症度の低減;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の軽減若しくは改善;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の進行の阻害若しくは最小化;及び/又は
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症の予防若しくはその重症度の低減
において使用するためのイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグも提供する。
【0035】
別の態様において、本発明はまた:
・感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、若しくは有する疑いのある個体における炎症の治療;
・感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前であることを特徴とする炎症を有すると診断されるか、若しくは有する疑いのある個体における炎症の治療;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の治療若しくはその症状の重症度の低減;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の軽減若しくは改善;
・個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の進行の阻害若しくは最小化;及び/又は
個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症の予防若しくはその重症度の低減
において使用するための、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、並びに薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含むか、これらから本質的になるか、又はこれらからなる、医薬組成物も提供する。
【0036】
一態様において、好ましくは、組成物中に存在する唯一の活性成分は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグである。
【0037】
別の態様において、本発明は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体における炎症の治療用の医薬組成物であって、活性成分として、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、並びに薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。一実施形態において、組成物中に存在する唯一の活性成分は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグである。
【0038】
別の態様において、本発明は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体における炎症の治療用の医薬組成物であって、主成分として、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、並びに薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。一実施形態において、組成物中に存在する唯一の活性成分は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグである。
【0039】
別の態様において、本発明は、感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害より前であることを特徴とする炎症を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体における炎症の治療用の医薬組成物であって、活性成分として、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、並びに薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。一実施形態において、組成物中に存在する唯一の活性成分は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグである。
【0040】
別の態様において、本発明は、感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害より前であることを特徴とする炎症を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体における炎症の治療用の医薬組成物であって、主成分として、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、並びに薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。一実施形態において、組成物中に存在する唯一の活性成分は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグである。
【0041】
上記の本発明の任意の方法、使用又は組成物において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、任意選択的に静脈内輸液を含んでもよい、一つ以上の活性物質と組み合わせて投与してもよい。好ましくは、活性物質は、抗生物質、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイドなどのコルチコステロイド及びそれらの組み合わせから選択される。さらに好ましくは、活性物質は抗生物質である。イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、並びに活性物質であって、任意選択的に静脈内輸液を含んでよいものの投与は、同時、逐次及び/又は個別(即時又は長期の遅延)投与を含み得る。逐次及び/又は個別投与は任意の順序であってよい。例えば、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、個体に対して、任意選択的に静脈内輸液を含んでもよい活性物質の投与前又は投与後に投与してもよい。
【0042】
本発明の任意の態様において、好ましくは、感染は、細菌、ウイルス、真菌又は原生動物によって引き起こされる。
【0043】
好ましい一実施形態では、感染はウイルスによって引き起こされる。ウイルスは、好ましくは、コロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、デングウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、及びエンテロウイルスから選択される。さらに好ましくは、ウイルスはコロナウイルス又はインフルエンザである。なお一層好ましくは、ウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)であり、最も好ましくはSARS-CoV-2である。
【0044】
別の好ましい実施形態では、感染は細菌によって引き起こされる。細菌は、好ましくは、連鎖球菌種(Streptococcus spp.)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、並びにアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)及び髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)から選択される。連鎖球菌種(Streptococcus spp.)には、限定されるものではないが、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトココッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、及びストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)が含まれる。敗血症が細菌によって引き起こされる一実施形態においては、個体は、ウイルス感染を有すると診断されるか、又は有する疑いがある。好ましくは、ウイルス感染は、コロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、デングウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、及びエンテロウイルスから選択されるウイルスによって引き起こされる。さらに好ましくは、ウイルス感染はコロナウイルス又はインフルエンザによって引き起こされる。なお一層好ましくは、ウイルス感染は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、最も好ましくはSARS-CoV-2によって引き起こされる。
【0045】
本発明の任意の態様において、好ましくは、個体は、感染の発症時にイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない。本発明の任意の態様において、好ましくは、個体は、炎症の発症時にイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない。好ましくは、投与は、炎症によって引き起こされる初期の臓器障害から後期の臓器障害の前までの期間から本質的になるか、又は前記期間からなる。
【0046】
本明細書中に記載する本発明の任意の方法又は使用において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、全身的又は疾患の部位に直接投与することができる。イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、経口投与用に処方することができる。ある特定の実施形態において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、経鼻、静脈内又は直腸投与用に処方することができる。
【0047】
別の態様において、本発明はまた、本発明の方法において使用するための、又は本発明の方法において使用する場合のキットであって、
・本明細書中に記載するイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグと、任意選択的に
・本発明の方法におけるイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの使用を記載した説明書と、を含むか、又はこれらから本質的になるか、又はこれらからなるキットも提供する。
【0048】
本明細書中で使用する場合、文脈上別段の要求がある場合を除き、「comprise(含む)」という用語及びこの用語の変化形、例えば、「comprising」、「comprises」及び「comprised」は、さらなる添加物、成分、整数又はステップを除外することを意図しない。
【0049】
本発明のさらなる態様及び前の段落で記載された態様のさらなる実施形態は、例として与えられた以下の説明から、添付の図面を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】マウスSTING-mCherryを構成的に発現するヒトHEK細胞を、cGAS-GFP及びインターフェロン(IFN)ベータ-ルシフェラーゼ(A)又はNF-κB-Lucレポータ(B)レポータと3時間コトランスフェクトした後、表示された濃度のIDX(等体積のDMSO中)で一晩処理した。翌日、ホタルルシフェラーゼを定量した。示されているデータは、DMSOのみの条件の対照と比較した、生物学的に三連で行われた2(B)又は3(A)の独立した実験からの平均である(±SEM)。
【
図2】IFN刺激応答エレメント(ISRE)ルシフェラーゼレポータを安定して発現するマウスL929細胞を表示された用量のIDXで1時間前処理した後、20ug/mlのDMXAA刺激で8時間刺激した。細胞を溶解し、ホタルルシフェラーゼを実験終了時に定量した。示されているデータは、DMXAA及びDMSOのみの条件の対照と比較した、生物学的に三連で行われた2つの独立した実験からの平均である(±SEM)。
【
図3】
図2と同様に、L929細胞を2.5uMのIDXで前処理した後、DMXAAの濃度を増加させて8時間刺激した。ルシフェラーゼアッセイを8時間実施した。データをDMSO+DMXAAのみの条件に正規化し、3つの独立した実験(生物学的再現試験で実施)からの平均値±SDとして示す。各点は、独立した実験の各々の平均データを表す;カラムは、実験の平均を表す。
【
図4】ヒトSTING R284S変異体(活性化突然変異)のドキシサイクリン誘導バリアントを発現するヒトTHP-1細胞を2.5uMのIDXで1時間前処理した後、Dox(STING発現及びシグナリングを誘導する)で一晩刺激した。翌日、上清中のIP-10レベルをELISAによって測定した。示されているデータは、生物学的三連の2つの独立した実験からの平均値で、Doxのみの条件に対して報告されている(±SEM)。
【
図5】Dox誘導性R284S STING変異体を安定して発現するマウス不死化骨マクロファージ(iBMM)を2.5uMのIDXで1時間処理した後、Doxで一晩刺激した。翌日、IP-10レベルをELISAによって測定した。示されたデータは、生物学的三連で行った単一の試験から得られたものである(±SEM)。
【
図6】ヒトTERT不死化包皮線維芽細胞を2.5uMのIDXで1時間処理した後、polyI:C(20ug/ml)又はLPS(100ng/ml)で7時間刺激した。上清中のIL-6レベルをELISAによって測定した。示されたデータは、生物学的三連の単一の実験から得られたものであり、2つの独立した実験に代表的なものである(±SEM)。NT:未処理。各生物学的データポイントを
図4及び5に示す。IDXは、DMXAA又はTLRリガンドによって刺激期中に除去されなかった。
【
図7】マウスTC-1細胞を0.5μMのCPTの存在下で48時間、示されている場合は以下の化合物を用いてプレーティングした:H151(1.8μM)、IDX(2.5μM)。IL-6レベルはELISAによって決定した。示されたデータは、2(H151の場合)又は3つの独立した実験(生物学的再現で実施)からの平均値、±標準偏差(SD)である。表示された条件を比較する独立両側t検定を示す。各ポイントは各独立した実験の平均データを表し、カラムは実験の平均を表す。*P≦0.05;**P≦0.01;***P≦0.001;****P≦0.0001、ns:有意でない。
【
図8】ヒトPC-3細胞を0.5μMのCPTの存在下で20時間、表示されている場合は以下の化合物を用いてプレーティングした:H151(1.8μM)、IDX(1.25μM)。IL-6レベルはELISAによって決定した。データはCPTのみの条件で正規化し、3つの独立した実験(生物学的再現で実施)の平均値±SDで示した。表示された条件を比較する独立両側t検定を示す。各ポイントは各独立した実験の平均データを表し、カラムは実験の平均を表す。*P≦0.05;**P≦0.01;***P≦0.001;****P≦0.0001、ns:有意でない。
【
図9】A.ヒトHOS細胞を0.2μMのCPTの存在下で48時間、表示されている場合は以下の化合物を用いてプレーティングした:H151(1.8μM)、IDX(1.25μM)。IL-6レベルはELISAによって決定した。データはCPTのみの条件で正規化し、2(H151及びIDXのみの条件)又は4つの独立した実験からの平均(生物学的再現で実施)±SDとして示す。表示された条件を比較する独立両側t検定を示す。B.ヒトMG63細胞を0.1μMのCPTの存在下で48時間、表示された用量のIDX(7.5、5、2.5及び1.25μM)を用いてプレーティングした。IL-6レベルはELISAによって決定した。示されたデータは、2つの独立した実験(生物学的再現で実施)からの平均値±SDである。各ポイントは各独立した実験の平均データを表し、カラムは実験の平均を表す。*P≦0.05;**P≦0.01;***P≦0.001;****P≦0.0001、ns:有意でない。
【
図10】MG63細胞を1.25μMのIDXで40時間前処理した後、2.5μg/mLのISDとリポフェクタミン2000を用いてプレーティングし、トランスフェクトした。IP-10レベルは、ISDとともに一晩インキュベーションした後にELISAによって測定した。データはISDのみの条件で正規化し、2つの独立した実験(生物学的再現で実施)の平均値±SDで示した。各ポイントは各独立した実験の平均データを表し、カラムは実験の平均を表す。
【
図11】不死化マウス骨髄由来マクロファージを2.5uMのIDXで1時間前処理した後、表示された長さの時間、DMXAA(50ug/mL)で刺激し、次いで溶解し、特異的総抗体又はリン酸化抗体(phospho-antibody)を使用してウェスタンブロッティングによって分析した。STING及びp-STINGに関する結果は3つの独立した実験の代表的なものである。
【
図12】ヒトTHP-1細胞を2.5uMのIDXで1時間前処理した後、ヒトSTINGアゴニストで6時間刺激した(30uMのcGAMP合成アナログADU-S100又は100nMのGSK合成STINGアゴニスト-(1))。上清を集め、ELISA(左のパネル)、又はIFNβ ELISA(右のパネル)によってIP-10産生について分析した。示されたデータは、3つの独立した実験(生物学的再現で実施)からの平均±SEM(左のパネル)、又はGSK条件に対して正規化したもの(右のパネル)±SEM(ウェルチ補正のない独立t検定を示す)を示す。**P≦0.01。
【
図13】PMA分化THP-1細胞を2.5uMのIDXで1時間前処理した後、分類不可能なインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)(NTHi)(100CFU/細胞)で3時間、血清又は抗生物質の非存在下で感染させた。細胞をペニシリン/ストレプトマイシン含有培地で2回洗浄して、細胞外細菌を除去し、死滅させ、37℃で一晩インキュベートした。一晩インキュベーションした後、上清に対してTNF-αELISAを実施した。示されたデータは、2つの独立した実験(生物学的再現で実施)からの平均値である。
【
図14】ヒトhTERT不死化包皮線維芽細胞を、10uMのIDXで72時間前処理した後、セムリキ森林熱ウイルス(SFV-MOI2)を用いて24時間プレーティングし感染させた。感染性ウイルス粒子を含む上清を、続いて、以前に報告されているように48時間、コンフルエントなVero細胞で10倍連続希釈することにより滴定した(2)。
【
図15】2人の異なる献血者からのヒトPBMCを2.5uMのIDXで1時間刺激した後、ヒトSTINGアゴニストで6時間刺激した(100nMのGSK合成STINGアゴニスト)。上清を集め、IL-6及びTNFα産生についてELISAによって分析した。示されたデータは、2人の独立したドナー(各ドナーについて生物学的再現で実施)からの平均値±SEMである。
【
図16】Trex1変異マウスからの初代骨髄由来マクロファージを表示された用量のIDXで一晩処理した後、RNA収集及びRT-qPCR分析を行った。表示されたインターフェロン刺激遺伝子の発現を、ハウスキーピング18S RNAの発現に対して測定し、非処理状態に対して正規化した。示されたデータは、3匹の独立したマウス骨髄(各マウスについて生物学的再現で実施)からの平均±SEMである。NT条件に対するダネットの多重比較での一元配置分散分析を示す。*P≦0.05;***P≦0.001;ns:有意でない。
【
図17】7週令のTrex1変異マウスに2mg/kgのPBS中IDX溶液を腹腔内注射した後、血清及び脾臓を採取した。血清をLEGENDplexビーズベースのイムノアッセイによりTNFαについて分析し、その一方で、脾臓から精製されたRNAをRT-qPCR(b-アクチン発現について報告されたIfi44/Isg15/Ifih1/Rsad2について)により分析した。各ポイントは1匹のマウスを表す(なお、RNAは、5匹のTrex1 IDX処置マウスについてしか集めなかったが、血清はこのコホートの7匹のマウスから集めた)。各コホートのメジアン発現を線で示す。独立マンホイットニーU検定を示す。*P≦0.05。
【
図18】ドキシサイクリン(Dox)投与後の肺で活性TGF-β1を選択的に過剰発現する8~10週令のトランスジェニックマウスを、Dox投与の48時間後にIAVで感染させた(又は感染させなかった)。翌日に始めて、マウスに、感染後3日までPBS又はPBS/IDX溶液(5mg/kg)を注射した。気管支肺胞洗浄を集め、IL-6レベルをELISAによって分析した。グラフ上の各ドットはマウスを表す。バイオリン図は、全体的な集団変動を示し、独立両側t検定示す。*P≦0.05。
【発明を実施するための形態】
【0051】
発明の詳細な説明
本明細書に開示され定義された発明は、本文若しくは図面に記載されているか、又はこれらから明らかな個々の特徴の2つ以上のすべての代替的な組み合わせに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせはすべて、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【0052】
次に、本発明のある特定の実施形態について詳細に言及する。本発明を実施形態と関連付けて説明するが、本発明をこれらの実施形態に限定する意図はないことが理解されるであろう。それどころか、本発明は、請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれ得る、すべての代替物、修正物、及び等価物をカバーすることを意図している。
【0053】
当業者であれば、本明細書に記載されたものと類似又は同等の多くの方法及び材料が、本発明の実施に使用され得ることを認識するであろう。本発明は、記載された方法及び材料に何ら限定されるものではない。本明細書に開示され定義された発明は、本文若しくは図面に記載されているか、又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の2つ以上のすべての代替的な組み合わせに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせはすべて、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【0054】
本書で言及されるすべての特許及び刊行物は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0055】
本明細書の解釈上、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた同様とする。
【0056】
本明細書中で使用する場合、「予防する(preventing)」又は「予防(prevention)」は、疾患又は障害を獲得する危険性(又は罹患性)の可能性を少なくとも低減すること(すなわち、疾患に曝露され得るか又は疾患に罹患しやすい素因を有し得るが、疾患の症状をまだ経験又は呈していない個体において、疾患の臨床症状の少なくとも一つが発症しないようにすること)を指すことを意図する。そのような患者を特定するための生物学的及び生理学的パラメータは、本明細書中で提示され、また医師に周知である。
【0057】
特に好ましい実施形態において、本発明の方法は、本明細書中に記載する疾患又は状態の症状を予防するか若しくは症状の重症度を低減するか、又は症状の進行を阻害若しくは最小化することができる。したがって、本発明の方法は、治療並びに予防としても有用である。
【0058】
対象の「治療(treatment)」又は「治療する(treating)」という用語には、疾患若しくは状態、疾患若しくは状態の症状、又は疾患若しくは状態の危険性(又は易罹患性)の遅延、減速、安定化、治療(curing)、治癒、軽減、緩和、変更、治療(remedying)、悪化させない(less worsening)、改善、好転、又は影響を及ぼすことが含まれる。「治療する」という用語は、寛解;鎮静;悪化率の減少;疾患の重症度の低減;安定化、症状の軽減又は損傷、病状若しくは状態を個体に対してより寛容性にすること;変性又は減退率の鈍化;最終変性点の衰弱を減らすことなどの、任意の客観的又は主観的パラメータをはじめとする、損傷、病状又は状態の治療又は改善における成功の任意の兆候を指す。
【0059】
本明細書における「対象」は、好ましくはヒト対象である。「対象」及び「個体」という用語が、本発明による治療を必要とする個体に関連して交換可能であることは理解されるであろう。
【0060】
本発明に至る本発明者らの研究には、イドロノキシルがSTING経路を阻害するという予想外の発見が含まれる。STINGは、自然免疫系の重要な要素である。cGAS/STING経路は、細胞質DNAの感知に関与する。この細胞質DNAは、感染を引き起こす病原体、又は(急性腎損傷、又はDNA損傷に対する反応でみられるような)核若しくはミトコンドリアから漏出した細胞DNAに由来し得る。損傷した組織はまた、食細胞においてSTINGを誘発するDNAを放出すると考えられる(例えば、心筋梗塞、急性膵炎、珪肺、放射線誘発性肝臓損傷において)。cGAS/STING経路の活性化は、強力な炎症反応の迅速な刺激につながる。この応答は、I型インターフェロンと、IL-6、TNF-α及びIFN-ベータなどの炎症誘発性サイトカインとの強力な誘導によって特徴づけられる。臨床的には、炎症反応は、血流の増加、毛細血管透過性の増加、及び食細胞の流入によって特徴づけられる。
【0061】
細胞質DNAを結合すると、タンパク質サイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS)は、GTP及びATPの反応を誘発して、サイクリックGMP-AMP(cGAMP)を形成する。cGAMPは、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)と結合し、これによりTBK1/IKKεを介してIRF3及びNF-kBのリン酸化が誘発される。次に、IRF3及びNF-kBは、炎症性遺伝子の転写を誘発する。
【0062】
感染の発症時に、NF-kBを介した炎症経路の活性化によって、防御免疫効果が得られる。NF-kBは、サイトカインを産生する白血球を動員することによって、感染に対する免疫応答を調節する。
【0063】
感染の発症時のNF-kBの阻害剤、及びサイトカインをはじめとするNF-kBの下流標的の阻害剤の投与は、初期インフルエンザ感染時のインフラマソームの阻害でみられるように、感染に対する自然免疫応答に悪影響を及ぼす可能性がある(1)。同様に、感染の初期のSTING経路の阻害は、I型インターフェロンなどの抗ウイルス因子の産生を防止する可能性がある(2)。
【0064】
状況によっては、炎症反応は、異常に過剰な免疫応答に関連するサイトカイン応答症候群として知られる超急性炎症反応に発展し、その結果、超急性炎症をもたらす。感染に関連する炎症が解消されないそのような状況では、IRF3経路も制御する、STINGなどの別の炎症経路の阻害剤が、NF-kBの阻害剤単独では解消されない炎症及び感染を解消することが期待される。
【0065】
したがって、イドロノキシルは、本明細書中で記載する態様にしたがって使用して、感染に関連する炎症を治療することができ、この場合、個体は、炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると特定されるか、又は有する疑いがある。初期の臓器障害の発症時の治療は、感染と闘うための適切な免疫応答を有さない個体を標的とする。
【0066】
したがって、本発明は、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると診断されるか、又は有する疑いのある前記個体に投与し、
それによって前記炎症を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる治療に適用される。
【0067】
別の態様において、本発明は、個体における炎症を治療する方法であって、
治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、前記個体に対して、感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害よりも前に投与し、
それによって前記炎症を治療するステップを含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる方法を提供する。
【0068】
ある特定の実施形態において、本発明の方法、使用又は組成物は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の治療又はその重症度の最小化に有用である。
【0069】
ある特定の実施形態において、本発明の方法、使用又は組成物は、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の症状の進行の阻害又は最小化に有用である。
【0070】
他の実施形態において、本発明の方法、使用又は組成物は、感染に関連する炎症によって引き起こされる敗血症の予防又はその重症度の低減に有用である。
【0071】
好ましくは、個体は、感染の発症時に、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない。
【0072】
好ましくは、個体は、炎症の発症時に、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない。
【0073】
好ましくは、投与は、炎症及び/若しくは敗血症によって引き起こされる初期の臓器障害から後期の臓器障害の前までの期間から本質的になるか、又は前記期間からなる。
【0074】
感染及び炎症の発症は、体温上昇、好ましくは38℃を上回る体温上昇によって特徴づけることができる。好ましくは、感染がSARS-CoV-2によって引き起こされる場合、感染及び炎症の発症はまた、乾性咳嗽によって特徴づけられる。
【0075】
本明細書中で使用される初期の臓器障害は、感染及び炎症の発症後で、炎症によって引き起こされる後期の臓器障害及び/又は敗血症の前の期間を指す。初期の臓器障害時の炎症は超急性炎症である。
【0076】
初期の臓器障害の症状には、限定されるものではないが、異常なレベルの一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカー、異常なレベルの凝固因子、異常なレベルのトロポニンI、異常なレベルのアラニンアミノトランスフェラーゼ、異常なレベルの血中尿素窒素、異常なレベルのクレアチニン、異常なレベルのプロカルシトニン、異常なレベルの乳酸デヒドロゲナーゼ、体温上昇、心拍数上昇、呼吸数上昇、異常なリンパ球数、異常な好中球数、異常な血小板数、低血圧、低酸素血症、組織低酸素、血流低下、創傷周囲の発赤及び腫脹、低尿量、めまい又は脱力、蒼白、皮膚の変色又はシミ、不明瞭な発語、硬直、倦怠感、疲労、食欲不振、筋肉痛、関節痛、悪心、嘔吐、頭痛、発疹、嘔吐、下痢、脈圧拡大、心拍出量の増加(初期)、潜在的心拍出量低下(後期)、低フィブリノゲン血±出血、高窒素血症、高トランスアミナーゼ血症、高ビリルビン血症、精神状態変化、錯乱、せん妄、喚語困難又はフランク失語症(frank aphasia)、幻覚、振戦、ディスメトリア、歩き方の変化、てんかん発作及びそれらの組み合わせが含まれる。好ましくは、個体は、初期の臓器障害の少なくとも2、3、4、5、若しくは6の症状を有すると特定されるか、又は有する疑いがある。
【0077】
一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン18(IL-18)、インターロイキン37(IL-37)、IP-10、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)、インターロイキン2受容体(IL-2R)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン13(IL-13)、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンベータ(IFN-β)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1若しくはCCL2)、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、C-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5若しくはRANTES)、β-2-ミクログロブリン(β-2M)、血清フェリチン、D-ダイマー、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cGAMP)、及びそれらの組み合わせから選択することができる。さらに好ましくは、一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、IL-1β、IL-2R、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IP-10、TNF-α、MCP-1、PCT、CRP、β-2M、血清フェリチン、D-ダイマー、cGAMP、CCL5(RANTES)、IFN-α、IFN-β、IFN-γ及びそれらの組み合わせから選択することができる。なお一層好ましくは、一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、IL-6、IP-10、PCT、CRP、D-ダイマー、及びそれらの組み合わせから選択することができる。好ましくは、個体は、異常なレベルの少なくとも2、3、4、5、若しくは6のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーを有すると特定される。
【0078】
当業者に公知の生化学的又は臨床試験によって特定される初期の臓器障害の症状としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:
・約38℃超の温度、
・約90回/分超の心拍数、
・約20回/分超の呼吸数及び/又は32mmHg未満の動脈血二酸化炭素分圧(pCO2)、
・約10.0×109/Lより低い白血球数、
・約2.0×109/Lより低い、好ましくは約0.9~1.6×109/Lのリンパ球数、
・約0.1ng/mLより低い、好ましくは約0.05~約0.1ng/mLのプロカルシトニン(PCT)レベル、
・約1ug/mL超、好ましくは約1~2.5ug/mLのD-ダイマーレベル
・3mg/L超、好ましくは約3~25mg/LのC反応性タンパク質レベル
・約333U/mL超、好ましくは約333~約630U/mLのIL-2Rレベル、
・約1.7pg/mL超、好ましくは約1.7pg/mL~約15pg/mLのIL-6レベル、
・約9pg/mL超、好ましくは約9pg/mL~約30pg/mLのIL-8レベル、
・約3pg/mL超、好ましくは約3pg/mL~約5pg/mLのIL-10レベル、
・約3pg/mL超、好ましくは約3pg/mL~約9.5pg/mLのTNFレベル、
・3ug/mL超のベータ2ミクログロブリン(B2M)レベル
・80mmHg未満の動脈血酸素分圧(Pao2)、及び/又は
・IL-1β、乳酸塩、及びHMGB1のうちの一つ以上のレベルの上昇。
【0079】
いくつかの実施形態において、本発明の方法に従った、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの使用は、例えば、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するか、又は有する疑いのある個体の血液、血清、血漿、気管支肺胞洗浄液、尿、及び/又は唾液中の炎症誘発性サイトカイン又は炎症誘発メディエータの量における減少又は低下を促進又は達成することによって、炎症誘発性サイトカインに影響を及ぼす。
【0080】
炎症誘発性サイトカイン又は炎症誘発メディエータの例としては、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン18(IL-18)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)、CCL2(MCP-1)、及びCCL5(RANTES)が挙げられる。本開示のほとんどの実施形態における炎症誘発性サイトカインへの言及は、当該技術分野で公知の任意の一つ以上の炎症誘発性サイトカインを指し、炎症誘発性サイトカインの上記例の一つ以上を含むものを指し得ることは、当業者には理解されるであろう。
【0081】
いくつかの実施形態において、個体内の炎症誘発性サイトカインの量の減少は、前記個体における後期の臓器障害及び/若しくは敗血症の予防、制御、下方調節、並びに/又は発生の阻止に役立つ。
【0082】
当業者は、個体のサンプル中の一つ以上の好適なサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを測定することによって、個体における感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を特定又は診断することができ、例えば、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン18(IL-18)、インターロイキン37(IL-37)、IP-10、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)、インターロイキン2受容体(IL-2R)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン13(IL-13)、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンベータ(IFN-β)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1若しくはCCL2)、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、C-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5若しくはRANTES)、β-2-ミクログロブリン(β-2M)、血清フェリチン、D-ダイマー、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cGAMP)、及びそれらの組み合わせから独立して選択されるサイトカイン又は炎症性バイオマーカーなどの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10若しくはそれ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーを測定できる。さらに好ましくは、一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、IL-1β、IL-2R、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IP-10、TNF-α、MCP-1、PCT、CRP、β-2M、血清フェリチン、D-ダイマー、cGAMP、CCL5(RANTES)、IFN-α、IFN-β、IFN-γ及びそれらの組み合わせから選択することができる。なお一層好ましくは、一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーは、IL-6、IP-10、PCT、CRP、D-ダイマー、及びそれらの組み合わせから選択することができる。
【0083】
したがって、さらに別の態様において、本発明は、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療する方法であって、
・感染を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体を提供するステップと、
・前記個体のサンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを測定又は決定するステップと、
・サンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルが、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有さない1以上の個体の代表的なデータの形態の参照データセットにおけるレベルよりも高い場合、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に投与し、
それによって前記個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0084】
別の態様において、本発明は、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療する方法であって、
・感染を有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体を提供するステップと、
・前記個体のサンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを測定又は決定するステップと、
・サンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルが、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有する1以上の個体の代表的なデータの形態の参照データセットにおけるレベルと同じか又はそれよりも高い場合、治療上有効な量のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを前記個体に投与し、
それによって、個体をイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグで治療するステップと、を含むか、前記ステップから本質的になるか、又は前記ステップからなる、方法を提供する。
【0085】
サンプルは、個体からの生物学的サンプル、好ましくは、限定されるものではないが、血液、血清、血漿、気管支肺胞洗浄液、尿、及び/又は唾液サンプルをはじめとする体液サンプルである。好ましくは、前記サンプルは血清サンプルである。
【0086】
本発明の方法を実施する際、関連する対照プロファイル又は複数の対照プロファイルを含む参照データセットにおける個体におけるサンプル中の一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーを参照することによって判定する。参照データセットは、1以上の健常な個体、さらに詳細には、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有さない個体からの代表的なデータの形態であってよい。或いは、参照データセットは、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有するとして特定又は診断された1以上の個体からの代表的なデータの形態であってよい。
【0087】
個体が感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有する可能性を診断又は決定するための対象プロファイルは、診断が実施される同じ個体に由来してもよいが、異なる時点、例えば、1週間、1か月、1年、又は数年前であって良いと理解されるであろう。したがって、対照プロファイルはまた、個体が感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の危険性があるとみなされる前(例えば、感染を有すると診断される前)の、前記個体における一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを含み得る。それによって、そのような対照プロファイルは、試験プロファイルを比較することができる、個体における一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルのベースライン又は基礎レベルプロファイルを形成する。
【0088】
治療効果をモニタリング又は決定するための対照プロファイルは、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与された同じ個体からであるが、異なる時点、例えば、1週間前、1か月前、又は数カ月前に生成させることができる。それによって、そのような対照プロファイルは、疾患症状前、又は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ療法前若しくは療法中の段階で、個体における一つ以上のサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルの個体におけるベースライン若しくは基礎レベルプロファイルを形成する。
【0089】
感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を示すサイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルを測定する実験室ベースの方法は当業者には公知であろう。これらの方法は、例えば、個体が感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害に苦しんでいるか否かを判定するため、また本発明に従った治療が成功したか否かを判定するために、本発明の方法において有用であろう。
【0090】
血清及び血漿サンプルを含む生物学的サンプル中のサイトカインレベルを決定するための様々な方法が当業者に知られている。簡単に言うと、炎症性サイトカインのレベルは、製造業者のプロトコルに従ってELISAキットを使用した酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって生物学的サンプルにおいて決定することができる。
【0091】
あるいは、サイトカイン又は炎症性バイオマーカーのレベルは、製造業者の指示に従ってマルチプレックスビーズアレイキットを使用して決定することができる(例えば、Bio-Plex Human Cytokine Assay)。
【0092】
当業者はまた、ベースライン炎症性サイトカインレベルが、ある特定の個体の根底にある感染のために非常に高くなり得ることを理解するであろう。したがって、当業者は、サイトカイン又は炎症性バイオマーカーレベルの倍数増加、正味の増加又は増加の変化率を決定することが、絶対レベルよりもむしろ、個体における初期の臓器障害、及び治療の成功のより良好な指標を提供することも理解するであろう。
【0093】
初期の臓器障害の可能性を決定する他の方法には、サイトカイン又は炎症性バイオマーカーレベルの上昇を示すタンパク質をモニタリングすることが含まれる。例えば、C反応性タンパク質(CRP)は肝臓によって産生される急性期タンパク質であり、多くの場合、IL-6生物活性の信頼できる代替物として機能し得る。したがって、当業者はまた、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の治療を必要とする個体を特定するための手段としてCRPレベルを測定することの有用性を理解するであろう。
【0094】
好ましくは、感染がSARS-CoV-2によって引き起こされる場合、当業者に公知の生化学的又は臨床試験によって特定される初期の臓器障害の症状には、以下のうちの1つ以上が含まれる:
・約38℃超の温度、
・約90回/分超の心拍数、
・約20回/分超の呼吸数及び/又は32mmHg未満の動脈血二酸化炭素分圧、
・約0.1ng/mLより低い、好ましくは約0.05~約0.1ng/mLのプロカルシトニン(PCT)レベル、
・約1ug/mL超、好ましくは約1~2.5ug/mLのD-ダイマーレベル、
・3mg/L超、好ましくは約3~25mg/LのC反応性タンパク質レベル、
・約333U/mL超、好ましくは約333~約630U/mLのIL-2Rレベル、
・約1.7pg/mL超、好ましくは約1.7pg/mL~約15pg/mLのIL-6レベル、
・約9pg/mL超、好ましくは約9pg/mL~約30pg/mLのIL-8レベル、
・約3pg/mL超、好ましくは約3pg/mL~約5pg/mLのIL-10レベル、
・約3pg/mL超、好ましくは約3pg/mL]~約9.5pg/mLのTNFレベル、
・3ug/mL超のベータ2ミクログロブリン(B2M)レベル、
・80mmHg未満の動脈血酸素分圧(Pao2)及び/又は
・約0.05ng/mL超の心筋トロポニンIレベル;
・約10.0×109/Lより低い白血球数、
・約2.0×109/Lより低い、好ましくは約0.9~1.6×109/Lのリンパ球数、
・異常に少ない数の、CD3+T細胞(<200/μL)、CD4+T細胞(<100/μL)、CD8+T細胞(<100/μL)、B細胞(<50/μL)、及びそれらの組み合わせの一つ以上を含むTリンパ球サブセット;
・IL-1β、乳酸塩、及びHMGB1、ALT、AST、クレアチニン、CK、LDH、N末端プロブレイン(pro-brain)ナトリウム利尿ペプチド、及びそれらの組み合わせの一つ以上のレベルの上昇;
・CRP(R=0.62、p<.01);
・赤血球沈降速度(ESR)(R=0.55、p<0.01);
・顆粒球/リンパ球比(R=0.49、p<0.01);及び/又は
・血清フェリチンレベル約400ng/mL超。
【0095】
好ましくは、初期の臓器障害を有すると特定されるか、有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体は、後期の臓器障害を有すると特定されないか、有すると診断されないか、又は有する疑いはない。好ましくは、初期の臓器障害の一つ以上の症状を有すると特定されるか、有すると診断されるか、又は有する疑いのある個体は、後期の臓器障害の一つ以上の症状を有すると特定されないか、有すると診断されないか、又は有する疑いはない。
【0096】
好ましくは、感染がSARS-CoV-2によって引き起こされる場合、初期の臓器障害の症状は、感染の発症後約7~10日、例えば感染の発症後7、8、9又は10日に特定することができる。
【0097】
個体は、当業者に公知の生化学的若しくは臨床的方法又は試験によって、初期の臓器障害の症状を経験していると特定される場合がある。
【0098】
敗血症の一般的な原因には、肺炎、消化器系(胃及び結腸などの臓器を含む)の感染、腎臓、膀胱及び泌尿器系の他の部分の感染、又は血液感染(菌血症)が含まれる。したがって、それを必要とする対象は、これらの状態のうちの一つを有すると診断される可能性がある。
【0099】
敗血症及び敗血症性ショックは以下の対象でより多く起こる:
・年少者又は高齢者;
・免疫系が損なわれた、すなわち「免疫不全の対象」;
・糖尿病又は硬変症を有する;
・すでに重症であり、多くの場合、病院の集中治療室にいる;
・創傷又は損傷、例えば熱傷を有する;
・静脈内カテーテル又は呼吸管などの侵襲的機器を有する;並びに
・以前に抗生物質又はコルチコステロイドを投与されている。
【0100】
本明細書中で定義されている「対象」、つまり、それを必要とする対象は、直前に列挙した対象のいずれか一つであり得る。
【0101】
感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害とは、敗血症に関連する臓器機能不全を指す。炎症によって引き起こされる後期の臓器障害の症状には、限定されるものではないが、:低血中酸素濃度、脈圧拡大、心拍出量の増加(早期)、潜在的心拍出量低下(後期)、血中二酸化炭素(PaCO2)レベルの低下、高い血中窒素レベル、低尿産生、トランスアミナーゼの上昇、第I因子欠乏、出血多量、正常より高いレベルのビリルビン、指や唇の青みがかった変色(チアノーゼ)、重度の呼吸困難、急性錯乱、失語症、及びそれらの組み合わせが含まれる。好ましくは、個体は、炎症によって引き起こされる後期の臓器障害の1、2、3、4、5、6、若しくはそれ以上の症状を有すると特定されていないか、診断されていないか、又は有する疑いがない。
【0102】
当業者に公知の生化学的又は臨床試験によって特定される炎症によって引き起こされる後期の臓器障害の症状には、限定されるものではないが、以下の一つ以上が含まれ得る:
・約8.0×109/L超、好ましくは約10×109/L超の好中球数、
・約0.9×109/L未満のリンパ球数、
・約150×109/L未満の血小板数、
・約0.1ng/mL超のプロカルシトニンPCTレベル、
・約2.6ug/mL超のD-ダイマーレベル、
・25mg/mL超、好ましくは50mg/L超、さらに好ましくは100mg/L超のC反応性タンパク質レベル、
・約630U/mL超のIL-2Rレベル、
・約15pg/mL超のIL-6レベル、
・約30pg/mL超のIL-8レベル、
・約5pg/mL超のIL-10レベル、
・約9.5pg/mL超のTNFレベル、
・約87.5μMol/L超のクレアチニンレベル、
・約1.5mmol/L超、好ましくは約2.0mmol/L超、約3.0mmol/L超又は約4.0mmol/L超の乳酸塩レベル、及び/又は
・ビリルビン、IL-1ra、タンパク質C、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、CD64、及びsTREM-1のうちの一つ以上の上昇したレベル。
【0103】
好ましくは、感染がSARS-CoV-2によって引き起こされる場合、炎症によって引き起こされる後期の臓器障害の症状は、感染の発症後約10日、例えば、感染の発症後10~22日、例えば、感染の発症後10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22日に特定することができる。
【0104】
後期の臓器障害、又はその症状を有すると特定されるか、診断されるか、又は有する疑いのある個体は、初期の臓器障害の一つ以上の症状を有し得る。
【0105】
好ましくは、後期の臓器障害の前であると特徴づけられる炎症を有すると特定されるか、診断されるか、又は有する疑いのある個体は、炎症によって引き起こされる後期の臓器障害の症状を有さない。
【0106】
重症敗血症は、体組織への血流障害(血流低下)又は検出可能な臓器機能不全を伴う敗血症である。重症敗血症は、敗血症誘発性低血圧の有無を問わず起こる可能性がある(例えば、発熱、脳症、及び腎不全を伴うが、血圧は正常)。
【0107】
敗血症性ショックは、適切な輸液蘇生後も持続する敗血症誘発性低血圧[90mmHg未満の収縮期血圧(若しくはベースラインから40mmHg超の降下)又は70mmHg未満の平均動脈圧]を伴う重症敗血症である。「適切」は、患者の敗血症前の血管内容積状態の推定によって決定される。
【0108】
敗血症は、高齢者、妊婦、1歳未満の子ども、糖尿病、腎臓若しくは肺疾患、又はがんなどの慢性疾患を有する人、免疫系が弱くなっている人で最も一般的であり、最も危険である。それを必要とする対象は、これらの個体のうちのいずれかであり得る。
【0109】
感染は、細菌、真菌、ウイルス、又は原生動物によって引き起こされ得る。好ましくは、感染は細菌又はウイルスによって引き起こされる。細菌、真菌、ウイルス、又は原生動物に感染した個体を診断するための実験室ベースの方法は、当業者には公知であろう。例えば、SARS-CoV-2ウイルス感染の臨床診断には、呼吸組織、血液、血漿、又は他の体液からの個体サンプルから得られる陽性核酸試験が含まれ得る。
【0110】
一実施形態において、感染はウイルスによって引き起こされる。ウイルスは、好ましくは、コロナウイルスインフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、デングウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、及びエンテロウイルスから選択される。さらに好ましくは、ウイルスはコロナウイルス又はインフルエンザである。なお一層好ましくは、ウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)であり、最も好ましくはSARS-CoV-2である。
【0111】
別の好ましい実施形態では、感染は細菌によって引き起こされる。細菌は、好ましくは、連鎖球菌種(Streptococcus spp.)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、並びにアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)及び髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)から選択される。連鎖球菌種には、限定されるものではないが、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトココッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、及びストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)が含まれる。感染が細菌によって引き起こされる一実施形態において、個体は、ウイルス感染を有すると診断されるか、又は有する疑いがある。好ましくは、ウイルス感染は、コロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、デングウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、及びエンテロウイルスから選択されるウイルスによって引き起こされる。さらに好ましくは、ウイルス感染はコロナウイルス又はインフルエンザによって引き起こされる。なお一層好ましくは、ウイルス感染は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、最も好ましくはSARS-CoV-2によって引き起こされる。
【0112】
別の実施形態において、感染は真菌によって引き起こされ得る。真菌は、好ましくはカンジダ(Candida)及びアスペルギルス(Aspergillus)から選択される。カンジダとしては、限定されるものではないが、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、及びカンジダ・パラプローシス(Candida parapsilosis)が挙げられる。
【0113】
別の実施形態において、感染は原生動物によって引き起こされ得る。原生動物は、好ましくは、マラリア原虫、ヒト蟯虫(E.vermicularis)、クルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、エキノコッカス症(Echinococcosis)、神経嚢虫症(Cysticercosis)、トキソカラ症(Toxocariasis)、トリコモナス症(Trichomoniasis)、及びアメーバ症(Amebiasis)から選択される。
【0114】
成功的治療は:
・限定されるものではないが:解熱、血中酸素濃度の増加、一つ以上のサイトカイン若しくは炎症性バイオマーカー(好ましくはIP-10、IL-6、IFN-β、及びTNF-αから選択される)のレベルの低下、凝固因子レベルの低下、血液凝固の低下、及びそれらの組み合わせを含む、感染に関連する炎症によって引き起こされる初期の臓器障害の治療、若しくはその一つ以上の症状の重症度の減少;
・感染に関連する炎症によって引き起こされる後期の臓器障害若しくは敗血症の予防、若しくはその一つ以上の症状の重症度の減少;並びに/又は
・生存時間の増加
によって決定できる。
【0115】
イドロノキシル
イドロノキシル(IDX)、別名、フェノキソジオール;デヒドロエクオール;Haginin E(2H-1-ベンゾピラン-7-0,1,3-(4-ヒドロキシフェニル)としても知られる)は、以下の構造を有する:
【0116】
【0117】
文脈上別段の要求がない限り、本明細書におけるイドロノキシルという用語の使用は、任意のイドロノキシル誘導体、若しくはイドロノキシル誘導体の薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグに対する言及を含む。
【0118】
イドロノキシルの合成方法は、その内容を全体として参照により本明細書に援用される、国際公開第1998/008503号パンフレット及び国際公開第2005/049008号パンフレット、並びにその中で合成に関して言及される文献に記載されている。
【0119】
組成物、製剤、及び投与様式
「治療上有効な量」という表現は、概して、(i)特定の疾患、状態、若しくは障害を治療する、(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の一つ以上の症状を減弱、改善、若しくは排除する、又は(iii)本明細書中に記載する特定の疾患、状態、若しくは障害の一つ以上の症状の発症を遅らせる、本発明の一つ以上の活性成分の量を指す。
【0120】
典型的には、治療上有効な投与量は、少なくとも約0.1%から約50%以上までの濃度(重量基準)、並びにその範囲内に含まれる全ての組み合わせ及び下位組み合わせ(sub-combination)を含むように処方される。組成物は、本明細書中で記載する1つ以上の活性物質を、約0.1から約50%未満、例えば、約49、48、47、46、45、44、43、42、41又は40%までの濃度、約0.1%超、例えば、約0.2、0.3、0.4又は0.5%から約40%未満、例えば、約39、38、37、36、35、34、33、32、31又は30%までの濃度で含むように処方することができる。例示的組成物は、約0.5%から約30%未満、例えば、約29、28、27、26、25、25、24、23、22、21又は20%までの濃度、約0.5%超、例えば、約0.6、0.7、0.8、0.9又は1%から約20%未満、例えば、約19、18、17、16、15、14、13、12、11又は10%までの濃度で含み得る。組成物は、約1%超、例えば、約2%から、約10%未満、例えば、約9又は8%まで、例えば、約2%超、例えば、約3又は4%から、約8%未満、例えば、約7又は6%までの濃度で含み得る。活性剤は、例えば、約5%の濃度で存在し得る。全ての場合において、量は、処理された細胞又は組織に実際に送達される活性成分の量の差異を相殺するように調節することができる。
【0121】
投与頻度は、1日1回、又は1日に2若しくは3回であってよい。治療期間は、検出可能な疾患の持続期間であってもよい。好ましくは、治療は、14~28日の期間である。
【0122】
本発明の組成物は、経口、経鼻、静脈内、筋肉内、局所、皮下、直腸、経腟、又は尿道適用によって投与することができる。好ましくは、本発明の組成物は、直腸、経腟、又は尿道適用によって投与することができる。
【0123】
本発明の医薬組成物は、典型的には、一つ以上の医薬的及び生理学的に許容される製剤材料と混合された治療上有効な量の一つ以上の活性成分を含む。好適な製剤材料としては、限定されるものではないが、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、香味料及び希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、充填剤、増量剤、緩衝液、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤及び/又は補助薬が挙げられる。例えば、好適なビヒクルは、注射用水、生理食塩水溶液、又は人工外リンパであってよく、非経口投与用組成物で一般的な他の材料が追加されている可能性がある。中性緩衝食塩水又は血清アルブミンと混合された食塩水は、さらなる例示的ビヒクルである。
【0124】
本発明の医薬組成物は、本明細書中で使用する場合、所望の特定の剤型に適した、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、又は他の液体ビヒクル、分散若しくは懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤若しくは乳化剤、防腐剤、固体バインダー、潤滑剤及び同種のものを含む、薬学的に許容される担体をさらに含む。Remington’s Pharmaceutical Sciences,Sixteenth Edition,E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1980)は、医薬組成物の処方で用いられる様々な担体及び担体の調製のための公知技術を開示している。任意の従来の担体媒体が、望ましくない生物学的効果を生じさせるか、さもなければ医薬組成物の他の成分(複数可)と有害な方法で相互作用するなど、本発明の化合物と不適合である場合を除いて、担体の使用は、本発明の範囲内であることが企図される。薬学的に許容される担体として機能し得る材料のいくつかの例としては、限定されるものではないが、ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類;コーンスターチ及びジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、並びにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースなどのセルロースの誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター及び坐剤ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油;ベニバナ油、ゴマ油;オリーブ油;コーン油及びダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロゲンフリー水;等張食塩水;Ringer液;エチルアルコール、及びリン酸緩衝溶液、並びにラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性適合性潤滑剤が挙げられ、また着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香味料、及び香料、防腐剤及び酸化防止剤も、調剤者の判断にしたがって組成物中に存在させることができる。
【0125】
様々な投与単位は、それぞれ好ましくは、分離投与型(discrete dosage)錠剤、カプセル、ロゼンジ、ドラジェ、ガム、又は他の種類の固体製剤として提供される。カプセルは、粉末、液体、又はゲルを封入してもよい。固体製剤は、飲み込んでもよいし、又はサッカブル(suckable)若しくはチュアブル型(易崩壊型若しくはガム状のいずれか)であってよい。本発明は、ブリスターパック以外の投与単位保持デバイス、例えば、ボトル、チューブ、キャニスター、パケットなどのパッケージを企図する。投与単位は、結合剤、ゲル化剤、充填剤、打錠用潤滑剤、崩壊剤、界面活性剤、及び着色剤などの医薬製剤実務で周知の、またサッカブル若しくはチュアブル製剤用の周知の通常の賦形剤をさらに含んでもよい。
【0126】
経口使用を意図する組成物は、魅力的で味の良い製剤を提供するために、甘味料、香味料、着色剤、及び/又は保存料などの一つ以上の成分をさらに含んでもよい。錠剤は、錠剤の製造に好適な生理学的に許容される賦形剤と混合された活性成分を含む。そのような賦形剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、又はリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤、コーンスターチ又はアルギン酸などの造粒剤及び崩壊剤、デンプン、ゼラチン、又はアカシアなどの結合剤、及びステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、又はタルクなどの潤滑剤が挙げられる。錠剤はコーティングされていなくてもよいし、又は錠剤は公知技術によってコーティングして消化管中での崩壊及び吸収を遅らせ、それによって長期にわたる持続作用を提供することができる。例えば、グリセリルモノステアラート又はグリセリルジステアラートなどの時間遅延材料を採用してもよい。
【0127】
経口用製剤はまた、活性成分が炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又はカオリンなどの不活性固体希釈剤と混合されているハードゼラチンカプセル、或いは活性成分が水又はピーナッツ油、流動パラフィン、若しくはオリーブ油などの油媒体と混合されているソフトゼラチンカプセルとして、提供される場合もある。
【0128】
水性懸濁液は、活性成分(複数可)を、水性懸濁液を製造するために好適な賦形剤と混合して含む。そのような賦形剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、及びアカシアゴムなどの懸濁化剤、並びに天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)などの分散剤又は湿潤剤、ポリオキシエチレンステアラートなどのアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、ヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレアートなどのエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、又はポリエチレンソルビタンモノオレアートなどのエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物が挙げられる。水性懸濁液はまた、一つ以上の防腐剤、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はn-プロピル、一つ以上の着色剤、一つ以上の香味料、及びスクロース又はサッカリンなどの一つ以上の甘味料を含んでもよい。
【0129】
油性懸濁液は、落花生油、オリーブ油、ゴマ油若しくはココナッツ油などの植物油、又は流動パラフィンなどの鉱物油中に活性成分を懸濁させることによって処方できる。油性懸濁液は、ミツロウ、硬質パラフィン、又はセチルアルコールなどの増粘剤を含んでもよい。前述のような甘味料、及び/又は香味料を添加して、味の良い経口製剤を提供することができる。そのような懸濁液は、アスコルビン酸などの酸化防止剤の添加により保存することができる。
【0130】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性粉末及び顆粒は、分散剤又は湿潤剤、懸濁化剤、及び一つ以上の防腐剤と混合された活性成分を提供する。
好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、すでに上述したものによって例示される。甘味料、香味料、及び着色剤などのさらなる賦形剤が存在してもよい。
【0131】
医薬組成物はまた、水中油エマルジョンの形態であってもよい。油相は、オリーブ油若しくは落花生油などの植物油、流動パラフィンなどの鉱物油、又はそれらの混合物であってよい。好適な乳化剤としては、アカシアゴム又はトラガカントゴムなどの天然に存在するガム、ダイズレシチンなどの天然に存在するホスファチド、並びに脂肪酸及びヘキシトールから誘導されるエステル又は部分エステル、ソルビタンモノオレアート(monoleate)などの無水物、並びに脂肪酸及びヘキシトールから誘導される部分エステルとポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(monoleate)などのエチレンオキシドとの縮合生成物が挙げられる。エマルジョンはまた、一つ以上の甘味料及び/又は香味料を含んでもよい。
【0132】
シロップ及びエリキシルに、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、又はスクロースなどの甘味料を配合してもよい。そのような製剤はまた、一つ以上の粘滑剤、防腐剤、香味料、及び/又は着色剤を含んでもよい。
【0133】
組成物は、安定化剤、懸濁化剤、乳化剤、粘度調節剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、皮膚浸透促進剤、保湿剤及び持続放出物質などの、適用された製剤の安定性又は有効性を改善するように構成された一つ以上の成分をさらに含んでもよい。そのような成分の例は、Martindale-The Extra Pharmacopoeia(Pharmaceutical Press,London 1993)及びMartin(ed.),Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。製剤は、ヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチン-マイクロカプセルなどのマイクロカプセル、リポソーム、アルブミンマイクロスフィア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子又はナノカプセルを含んでもよい。
【0134】
防腐剤としては、限定されるものではないが、メチルパラベン、プロピルパラベン、ソルビン酸、安息香酸、及びホルムアルデヒドなどの抗菌剤、並びにビタミンE、アスコルビン酸ナトリウム/アスコルビン酸及び没食子酸プロピルなどの物理的安定剤及び酸化防止剤が挙げられる。好適な保湿剤としては、限定されるものではないが、乳酸及び他のヒドロキシ酸並びにそれらの塩、グリセリン、プロピレングリコール、及びブチレングリコールが挙げられる。好適な皮膚軟化剤としては、ラノリンアルコール、ラノリン、ラノリン誘導体、コレステロール、ペトロラタム、ネオペンタン酸イソステアリル、及び鉱物油が挙げられる。好適な芳香剤及び着色剤としては、限定されるものではないが、FD&C Red No.40及びFD&C Yellow No.5が挙げられる。局所製剤に含まれ得る他の好適な追加の成分としては、限定されるものではないが、研磨剤、吸収剤、アンチケーキング剤、消泡剤、帯電防止剤、収斂剤(マンサクなど)、アルコール、及びカモミールエキスなどのハーブエキス、バインダー/賦形剤、緩衝剤、キレート剤、フィルム形成剤、調整剤、プロペラント、乳白剤、pH調節剤、及び保護剤が挙げられる。
【0135】
経口投与用液体剤型としては、限定されるものではないが、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルが挙げられる。活性化合物に加えて、液体剤型は、例えば、水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにその混合物などの、当該技術分野で通常用いられる不活性希釈剤を含んでもよい。不活性希釈剤の他に、経口組成物はまた、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、甘味料、香味料、及び香料などのアジュバントを含んでもよい。
【0136】
注射用製剤、例えば、無菌注射用水性又は油性の懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて公知技術に従って処方できる。滅菌注射剤はまた、非毒性で非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射溶液、懸濁液又はエマルジョン、例えば、1,3-ブタンジオール中溶液であってよい。使用できる許容可能なビヒクル及び溶媒には、水、Ringer液、U.S.P.、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌固定油が溶媒又は懸濁媒として慣例的に使用されている。このために、合成モノグリセリド又はジグリセリドをはじめとする任意の低刺激性(bland)固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸が注射剤の調製に使用される。
【0137】
注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通すろ過によるか、又は使用前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体中に溶解若しくは分散できる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み入れることによって、滅菌できる。
【0138】
医薬組成物は、スプレー、ミスト、又はエアゾルをはじめとする吸入製剤として製剤化することができる。吸入製剤の場合、本明細書中で提示する組成物又は組み合わせは、当業者に知られている任意の吸入方法によって送達することができる。そのような吸入方法及びデバイスには、限定されるものではないが、CFC若しくはHFAなどのプロペラント又は生理学的及び環境的に許容されるプロペラントを含む定量吸入器が含まれる。他の好適なデバイスは、呼吸式吸入器、マルチドース乾燥粉末吸入器、及びエアゾルネブライザーである。対象の方法で使用されるエアゾル製剤は、典型的には、プロペラント、界面活性剤、及び共溶媒を含み、好適な計量バルブによって閉じられた従来型エアゾル容器中に充填してもよい。
【0139】
吸入用組成物は、噴霧療法及び気管支内使用に適した活性成分を含む液体若しくは粉末化組成物、又は計量された用量を分配するエアゾルユニットを介して投与されるエアゾル組成物を含み得る。好適な液体組成物は、等張食塩水又は静菌水などの水性の薬学的に許容される吸入用溶媒中に活性成分を含む。溶液は、ポンプ若しくは圧搾駆動式(squeeze-actuated)ネブライズドスプレーディスペンサーによるか、又は必要な用量の液体組成物を患者の肺に吸入させるか若しくは吸入を可能にする任意の他の従来型手段によって投与される。担体が液体である、例えば、鼻腔用スプレー又は点鼻薬としての投与に好適な製剤には、活性成分の水性又は油性溶液が含まれる。
【0140】
直腸投与に適した組成物は、好ましくは単位用量坐剤として提供される。これらは、活性物質を一つ以上の親油性ベース中に少なくとも部分的に分散させ、次いで混合物を成形することによって調製できる。
【0141】
ある特定の実施形態では、治療組成物は、治療組成物又は医薬組成物を保持するための容器を含む、使い捨て又は再利用可能なデバイスの形態で提供することができる。一実施形態において、デバイスはシリンジである。デバイスは1~2mLの治療組成物を保持することができる。治療用組成物は、すぐに使用できる状態で、又はさらなる成分の混合若しくは追加を必要とする状態で、デバイス中で提供され得る。
【0142】
イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの連続投与又は持続送達が所与の治療に有利であり得ることが想定される。連続投与は、輸液ポンプなどの機械的手段を介して達成され得るが、連続又は連続投与に近い他の様式が実施され得ることが企図される。例えば、化学的誘導体化又はカプセル化は、決定された投与計画に基づいて、予測可能な量で連続的存在の効果を有する活性物質の持続放出形態をもたらし得る。したがって、イドロノキシルには、そのような連続投与を達成するために誘導体化された、又は別の方法で処方されたイドロノキシルが含まれる。
【0143】
医薬組成物は、投与後に活性物質を持続放出させるカプセルなどの徐放性製剤として処方できる。このような製剤は、概して、周知の技術を用いて調製され、例えば、経口、直腸、皮下移植、又は所望の標的部位での移植により投与することができる。このような製剤内で使用する担体は、生体適合性であり、また生分解性であってもよい。好ましくは、製剤は比較的一定レベルの活性物放出を提供する。徐放性製剤に含まれる活性物質の量は、例えば、移植の部位、放出の速度及び予想される期間、治療される状態の性質に依存する。
【0144】
一実施形態において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、直腸、膣、又は尿道適用のためのデバイスで使用するための親油性ベース;界面活性剤;並びにイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを含む組成物で投与される。
【0145】
本開示において、「ベース」は、坐剤、ペッサリー又は尿道内デバイスにおいて担体として通常使用される物質を指す場合がある。概して、ベースは、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグのベース中の、少なくとも部分的、好ましくは完全な分散を可能にする、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの溶解力を有する。
【0146】
ベースは、油脂から構成され得るか、又は油脂からなり得る。ベースは、油脂のブレンドであり得る。油脂は、グリセロールでエステル化されていてもよい。油脂はエステル交換されていてもよい。
【0147】
ベースは、水素化された油脂から形成又は誘導することができる。油脂は、実質的又は完全に水素化されていてもよい。ベースは合成油から誘導することができる。ベースは、天然又は合成油脂から誘導することができる。ベースは、実質的に、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドを含み得、好ましくは、実質的にトリグリセリドを含み得る。
【0148】
ベースは、硬質脂肪であってもよい。硬質脂肪は、実質的に水素化された油から、グリセロールを用いたエステル化、又はエステル交換により作製することができる。油は、完全に水素化されていてもよいし、又は部分的に水素化されていてもよい。硬質脂肪は、硬質脂肪の融点、ヒドロキシル価及び鹸化価によって特徴づけられる。硬質脂肪は、典型的には、室温で固体である。ベースは、モノグリセリド、ジグリセリド、及び/又はトリグリセリドを含み得る。好ましくは、ベースは実質的にトリグリセリドを含む。ベースは、キャノーラ油、パーム油、パーム核油、ダイズ油、植物油、ヒマシ油、及びそれらの組み合わせなどの天然油から誘導することができる。これらの供給源から誘導される油は、分画して、飽和脂肪酸を含む油フラクションを得ることができる。
【0149】
ベースは合成油脂から形成することができ、例としては、Fattibase、Wecobee、Witepsol(Dynamit Nobel、Germany)、Suppocire(Gattefosse、France)、Hydrokote、及びDehydagが挙げられる。
【0150】
ベースは、エステル化又は非エステル化脂肪酸鎖を含む硬質脂肪を含み得る。好ましくは、ベースは実質的にエステル化されている。好ましくは、ベースは本質的にエステル化脂肪酸鎖からなる。最も好ましくは、ベースは完全にエステル化されている。脂肪酸鎖は、モノグリセリド、ジグリセリド、及び/又はトリグリセリド(trigyceride)、好ましくはC10~C18トリグリセリドの形態であってよい。トリエステルフラクションが優勢であり得る。
【0151】
トリグリセリドフラクションのパーセンテージは、約50%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約99.9%であり得る。トリグリセリドフラクションは約70%~99.9%であり得る。硬質脂肪は、実質的にトリグリセリドからなるものであってよい。硬質脂肪は、本質的にトリグリセリドからなるものであってよい。
【0152】
ベースは、水中に完全又は実質的に不溶性であってよい。
【0153】
ベースは硬質脂肪であってよく、所定のヒドロキシル価を有し得る。硬質脂肪のヒドロキシル価は、化学物質中の遊離ヒドロキシル基に関する尺度であり、典型的には、ヒドロキシル含有量に相当する物質1グラム当たりのKOHのミリグラムの単位で表される。ベースは15未満のヒドロキシル価を有し得る。ヒドロキシル価はベース中のモノグリセリド及び/又はジグリセリドの量を示す。0に近いヒドロキシル価は、硬質脂肪が本質的にトリグリセリドからなることを示す。好ましくは、ベースは5未満のヒドロキシル価を有し得る。好ましくは、ベースは約5のヒドロキシル価を有し得る。好ましくは、ベースは5のヒドロキシル価を有し得る。好ましくは、ベースは0に近いヒドロキシル価を有し得る。
【0154】
ベースは硬質脂肪であり、規定された融点を有し得る。ベースは体温に近い融点を有し得る。ベースは、約30℃、約35℃、約37℃若しくは約40℃を含む約30~約40℃又はその中の任意の範囲の融点を有し得る。ベースは約35℃~約40℃の融点を有し得る。好ましくは、ベースの融点は約38℃~約40℃である。さらに好ましくは、ベースの融点は約38℃~約39℃である。
【0155】
ベースは鹸化価を有する。ベースの鹸化価は、1gのベースを鹸化するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数の量である。ベースの鹸化価は約210~260であり得る。
【0156】
好ましい一実施形態において、ベースはSuppocire CMである。Suppocire CMは、脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドエステルからなり、トリエステルフラクションが優勢である。Suppocire CMは実質的にトリグリセリドからなる。Suppocire CMは体温にほぼ等しい融点を有する。
【0157】
最終生成物中の親油性坐剤ベースの割合は、活性な薬剤成分の投与量と、他の薬剤又は不活性成分(存在する場合)の存在の関数であるが、例として約1~99%w/w製剤の量で提供されてもよい。
【0158】
使用する界面活性剤は、単一の界面活性剤、又は複数の界面活性剤の界面活性剤ブレンドであってもよい。
【0159】
界面活性剤は両親媒性分子であり、頭部及び尾部で構成され得るか、又は複数のブロックで構成されていてもよく、各ブロックは異なる疎水性又は親水性を有する。分子の部分の溶解度が異なるため、界面活性剤は二つの相間の界面に優先的に落ち着き、表面張力、又は界面エネルギーが低下させる。
【0160】
好ましくは、界面活性剤は非イオン性である。
【0161】
界面活性剤は、疎水性-親油性バランスを有する。親水性-親油性バランスはHLBとも呼ばれる。当業者には、HLBはよく知られている。HLBは、界面活性剤の頭部及び尾部の相対的サイズ及び強度の0~20のスケールでの見積値である。
【0162】
界面活性剤(複数可)のHLBは、約6~約13又はその中の任意の範囲であり得る。界面活性剤(複数可)のHLBは、6、7、8、9、10、11、12、又は13であり得る。界面活性剤(複数可)のHLBは、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、又は約13であり得る。
【0163】
界面活性剤(複数可)は、温度の上昇と反比例する水溶性特性を示す場合がある。
【0164】
使用される界面活性剤(複数可)はポリエチレングリコールステアラートであってよい。界面活性剤は、モノステアラート、若しくはジステアラート、又はモノステアラートとジステアラートの混合物であってよい。界面活性剤は遊離グリコールを含んでもよい。ポリマー鎖の平均分子量は、特定の物質の名称で表示される場合があり、例えば、ポリエチレン-グリコール-100ステアラートは、ステアリン酸に結合した約100g/molのポリエチレングリコールである。ポリマー鎖中の結合したエトキシ化基の平均数は、特定の物質の名称で表示される場合があり、例えば、ポリエチレン-グリコール-8は、平均8のエトキシ基を有するポリマー鎖である。ポリエチレングリコールはPEGと略記される場合がある。
【0165】
界面活性剤は、平均数約5~約15若しくはその間の任意の範囲のPEG基を有し得る。界面活性剤は、平均数5のPEG基、6のPEG基、7のPEG基、8のPEG基、9のPEG基、10のPEG基、11のPEG基、12のPEG基、13のPEG基、14のPEG基、15のPEG基を有し得る。好ましくは、界面活性剤は8のPEG基を有する。
【0166】
界面活性剤は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、リリスチン酸(lyristic acid)、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、若しくはセロチン酸、又はそれらのブレンドを用いてエステル化されたポリエチレングリコールであり得る。界面活性剤は、モノエステル若しくはジエステル、又はモノエステルとジエステルとの混合物であってもよい。好ましくは、界面活性剤はステアリン酸エステルである。一実施形態において、界面活性剤はポリグリコール-8ステアラートである。PEG-8-ステアラートは、モノステアラート又はジステアラートであってよく、それぞれ、PEG8MS又はPEG8DSと称する。ポリエチレングリコールステアラートは、様々な商業的供給元から、様々な等級で、様々な商標、例えば、Cithrol4DS(PEG8DS、Croda)及びMyrjS8(PEG8MS、Croda)で入手することができる。
【0167】
好ましくは、界面活性剤はPEG8MSである。
【0168】
イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの、界面活性剤を含む親油性ベース中での分散は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの放出プロファイルを有利に改善する。ベースからのイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの放出は、使用される界面活性剤によって影響を受ける。界面活性剤は、活性物質の放出プロファイルが、PEG-8-MSで得られる放出プロファイルと実質的に同じであるように選択することができる。
【0169】
界面活性剤は、直腸内で液化親油性ベース及び水とエマルジョンの製剤を形成することができるか、又は形成を助けることができるように洗濯することができる。
【0170】
組成物は、粘膜を越えたイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの移動を改善するために有効な任意の量の界面活性剤を含んでもよい。最終生成物中の界面活性剤の割合は、活性な薬剤成分の投与量と、薬剤若しくは不活性成分(存在する場合)の存在の関数であるが、例として、約1~99%w/w製剤の量で提供されてもよい。ベースのパーセンテージとして表された、最終生成物中の界面活性剤の割合は、約2~約50%又はその中の任意の範囲、例えば、約2%、約5%、約8%、約10%、約15%、約20%、約22%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%であってよい。ベースのパーセンテージとして表される、最終生成物中の界面活性剤の割合は、2~50%又はその中の任意の範囲、例えば、2%、5%、8%、10%、15%、20%、22%、25%、30%、35%、40%、45%、又は約50%であってよい。例えば、50%界面活性剤及び18.5%活性物質を含む硬質脂肪ベースを使用する製剤は、18.5%活性物質、40.75%界面活性剤、及び40.75%硬質脂肪の全組成を有する。
【0171】
一実施形態において、使用される界面活性剤はPEG-8-MSである。ベース中のPEG-8-MSの割合は、約5%~約20%である。好ましくは、割合は約8%である。好ましくは、割合は8%である。
【0172】
別の実施形態において、使用される界面活性剤はPEG-8-DSである。使用される界面活性剤がPEG8DSである場合、ベース中の界面活性剤の割合は、約15~50%、好ましくは約22%である。好ましくは、割合は22%である。別の実施形態において、ベース中の界面活性剤の割合は、好ましくは約50%又は50%である。
【0173】
本発明の尿道適用のための坐剤、ペッサリー、及びデバイスは、以下のようにして調製することができる。イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、ベース中のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの少なくとも部分的、好ましくは完全又は実質的に完全な分散を可能にする状態で溶融形態の坐剤ベース(前述のとおり)と接触させる。この溶液を次に、PVC、ポリエチレン、又はアルミニウム型などの好適な型に注入する。例えば、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、ベースと、約35℃~約60℃、好ましくは約55℃~約60℃の温度で接触させてもよい。好ましくは、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、ベースの融点より20℃高い温度で接触させる。イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、ベースと接触する前に粉砕又は篩別することができる。
【0174】
本発明の製剤及び製剤から形成されるデバイスを製造するための方法は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを坐剤ベース中に分散させて、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグがその中に少なくとも部分的に分散するようにすることが必要とされると理解されるであろう。一実施形態において、製造、及び製剤又は製剤から形成されるデバイスのために提供された条件は、投与単位中に分散される所与の投与単位に対して、少なくとも50%、好ましくは60%、好ましくは70%、好ましくは80%、好ましくは90%、好ましくは95%のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを可能にするか、或いは提供するものである。これらの実施形態において、所与の投与単位に対して、50%以下のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグ、所与の投与単位に対して、好ましくは40%以下、好ましくは30%以下、好ましくは20%以下、好ましくは10%以下、好ましくは5%以下のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、投与単位の坐剤ベースと混合された状態(すなわち、分散されない)であってよい。
【0175】
好ましい実施形態において、坐剤の製造に用いられるベースは、硬質脂肪であり、室温で固体である。硬質脂肪は、脂肪の融点より約20℃高い最高温度まで溶融する。脂肪の融点は、好ましくは体温である。温度は、活性物質及び界面活性剤が導入される場合、ベースが可能な最低温度に保持されるように、製造プロセスの間制御される。活性物質を導入し、撹拌した後、組成物を可能な最高冷却温度まで冷却する。温度の制御は、有利には、坐剤の後硬化(post hardening)を低減させる。製造プロセスの温度の制御はまた、ベース内の活性物質の均質な分布を増大させる。硬質脂肪ベースの過熱は、脂肪の結晶構造を変化させ、これはまた活性物質の分布及び組成物からの活性物質の製剤的な潜在的な放出プロファイルに影響を及ぼす。
【0176】
製造された坐剤は、ガラス状固体状態又は半血漿状態であり得、好ましくはガラス状固体状態である。ベースの固体形態は、DSC又はXRDによって特徴づけることができる。
【0177】
好ましい実施形態において、投与単位に添加されるイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの全てをベース中に分散させる。投与単位は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを約0.1~約50%w/w含んでもよい。投与単位は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%~100%w/w含んでもよい。好ましくは、投与単位は、約15~約20%又はその中の任意の範囲であってよい。投与単位は、約15.5%、約16.5%、約17.5%、約18.5%、又は約19.5%であってよい。この実施形態において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、坐剤ベースとの混合物中に残っていない。これは、投与単位中で与えられるイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの全ての吸収の可能性を増大させると考えられる。
【0178】
製造プロセスの目的は、成分を混合する薬局実務で概して行われるような、坐剤ベースの、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグとの混合、又は組み合わせ、又はブレンドのためではないと理解される。というのも、結果として得られる混合物は、治療効果を提供する可能性が低くなると考えられるからである。この文脈では、任意の他の賦形剤、担体、又は他の薬剤的に活性な用量は、例えば、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグが、荷電分子種(他の薬剤的に活性な担体又は賦形剤)と複合体を形成し、その結果、複合体、ひいてはその中に含まれるイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグが坐剤ベース中に分散する傾向を低減する場合に起こり得るような、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグのベース中の分散に悪影響を及ぼさないことは特に重要である。
【0179】
任意選択的に、坐剤、ペッサリー、又は尿道内デバイスは、セチルアルコール、マクロゴール又はポリビニルアルコール及びポリソルベートで、パッキング前にコーティングして、崩壊時間若しくは潤滑を増大させるか、又は保存に際して接着性を低下させてもよい。
【0180】
製造された各バッチからの一つ以上のサンプル坐剤、ペッサリー、又は尿道内デバイスを、好ましくは、品質管理のための溶解法によって試験する。好ましくは、各バッチからのサンプルを、インビトロで、好ましくは、本明細書中で記載する方法を使用して試験して、75%超のイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグが6.5時間以内に坐剤、ペッサリー、又は尿道内デバイスから溶解するか否かを判定する。
【0181】
典型的には、坐剤、又はペッサリーデバイスは、全体として実質的に疎水性又は親油性であり、親水性担体若しくは薬剤活性物質などの親水性物質、或いはイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを、別の医薬化合物、担体、又は賦形剤と、ライゲート又は複合体化することから形成される親水性フォーカス若しくは領域を含まない。
【0182】
好ましくは、尿道適用のための坐剤、ペッサリー、及びデバイスを形成するための製剤は、さらなる薬剤活性剤、細胞毒性剤、又は化学療法剤を含まない。この実施形態において、活性物質は、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグだけであり、製剤は、プラチン、タキサン、又は他の細胞毒性剤若しくは化学療法剤を含まない。
【0183】
坐剤の総重量は、好ましくは約2000~約3500mgであり、より好ましくは約2200~約3300mgである。一実施形態によると、坐剤は約2200mg~約3300mgの総重量を有する。
【0184】
坐剤又はペッサリーは、好ましくは滑らかな葉巻型である。
【0185】
坐剤又はペッサリーの融点は、概して、患者の体内で溶融するために充分であり、典型的には約37℃以下である。
【0186】
投薬
本発明の有効量及び投与方法は、個体、どのような状態を治療するか、及び当業者に明らかな他の要因に基づいて変化し得る。任意の特定の患者のための特定の用量レベルは、使用する特定の化合物の活性、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、投与回数、及び排泄速度、薬物の組み合わせ(すなわち、患者を治療するために用いられる他の薬物)、及び療法を受ける特定の障害の重症度をはじめとする様々な要因に依存すると理解される。
【0187】
イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、毎日400mg~1800mg、好ましくは毎日400mg、600mg、800mg、1200mg、1600mg、又は1800mg、より好ましくは毎日1200mg~1800mgの量で投与することができる。
【0188】
好ましくは、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、経直腸、経膣、又は尿道適用により、例えば坐剤の形態で投与される。坐剤の総重量は、好ましくは約2000~約3500mg、より好ましくは約2200~約3300mgである。一実施形態によると、坐剤は約2200mg~約3300mgの総重量を有する。各坐剤は、
400mg又は600mgのイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグと、
界面活性剤と、
油脂の形態の坐剤ベースと、を含み
坐剤ベースは、坐剤の1~99%w/wの量で提供される。
【0189】
特に好ましい一実施形態において、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、坐剤中に400mg又は600mgの量で含まれ得る。個体には、複数の坐剤を1日1回、1日2回、又は1日3回投与して、個体に400mg、600mg、800mg、1200mg、1600mg、又は1800mgのイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグの総一日投薬量を提供することができる。
【0190】
好ましくは、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、及び28日を含む、14~28日の期間投与される。
【0191】
イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、2~4週間の期間にわたり1日に1回、2回、又は3回投与することができる。
【0192】
好ましくは、個体は、感染の発症時にイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない。
【0193】
好ましくは、個体は、炎症の発症時にイドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグを投与されていない。
【0194】
好ましくは、投与は、初期の臓器障害から、炎症によって引き起こされる後期の臓器障害及び/若しくは敗血症の前までの期間から本質的になるか、又はこの期間からなる。
【0195】
好ましくは、イドロノキシル、若しくはイドロノキシルの誘導体、薬学的に許容される塩、エステル、アミド、多形体及び/又はプロドラッグは、炎症の発症後7日以上で投与される。イドロノキシルは、炎症の発症後7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、又は22日で投与してもよい。さらに好ましくは、イドロノキシルは、炎症の発症後7日、8日、9日、又は10日に投与される。
【0196】
キット
別の実施形態において、一つ以上の上記組成物、及び/若しくは医薬組成物を含むキット又は製品が提供される。
【0197】
他の実施形態において、上記治療用途で使用されるキットであって、
・一つ以上の本明細書中で記載する組成物及び/又は医薬組成物を保持する容器と、
・使用説明書を含むラベル又はパッケージインサートと
を含むキットが提供される。
【0198】
ある特定の実施形態において、キットは、本明細書中で記載するような感染に関連する炎症の一つ以上のさらなる治療用活性成分(active principle)又は成分(ingredient)を含んでもよい。
【0199】
キット又は「製品」は、容器と、前記容器上又は容器に関連付けられたラベル又はパッケージインサートとを含み得る。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成することができる。容器は、状態を治療するために有効な治療組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、輸液バッグ又は皮下注射針で突き刺すことができるストッパーを有するバイアルであり得る)。ラベル又はパッケージインサートは、最適な状態を治療するために使用される治療組成物を表示する。一実施形態において、ラベル又はパッケージインサートには、使用説明書が含まれ、治療又は予防組成物が本明細書中に記載した炎症性疾患又は状態を治療するために使用できることが表示されている。
【0200】
キットは、(a)治療組成物と、(b)内部に第二の活性成分(active principle)又は成分(ingredient)を含む第二の容器とを含んでもよい。本発明のこの実施形態におけるキットは、障害を治療するため、又は本明細書で記載する炎症性疾患に起因する合併症を予防するために使用できる組成物及び他の活性成分を表示するパッケージインサートをさらに含んでもよい。代替的又は付加的に、キットは、静菌性注射用水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、Ringer液及びデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第二(又は第三)の容器をさらに含んでいてもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジをはじめとする、商業的及びユーザの観点から望ましい他の物質をさらに含んでもよい。
【0201】
本明細書に開示され定義された発明は、本文若しくは図面に記載されているか、又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の二つ以上のすべての代替的な組み合わせに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせはすべて、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【実施例】
【0202】
実施例は、本発明のこれらの態様や他の態様を示すことを意図すると理解され、実施例は本発明のある特定の実施形態を記載しているが、実施例はこれらの実施形態をこれらのものに限定するものではないと理解されるであろう。上述した本発明の態様及び/又は原則から逸脱することなく、様々な変更が可能であり、均等物を置換し、修飾することができる。このような変更、均等物、及び修飾はすべて、本明細書中に記載する特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0203】
方法:
細胞培養及び試薬。N末端にmCherry-タグに融合させたマウスSTINGを安定して発現するHEK細胞、及びインターフェロン刺激応答エレメント(ISRE)-ルシフェラーゼを発現するL929は以前に記載されている(3)。ヒトSTINGの誘導性R284S変異体を安定して発現する不死化マウス骨髄由来マクロファージ(iBMM)及びTHP-1細胞は以前に記載されている(4)。TC-1(5)、HEK、L929、及びiBMMは、10%滅菌ウシ胎仔血清(Life Technologies)及び1×抗生物質/抗真菌剤(Life Technologies)(完全DMEMと称する)を追加したダルベッコ変法イーグル培地(Life Technologies)中で増殖させた。PC-3(CRL-1435)、HOS(CRL-1543)及びMG-63(CRL-1427)はATCCから購入した。MG-63及びHOSは、10%滅菌ウシ胎仔血清(Life Technologies)及び1×抗生物質/抗真菌剤(Life Technologies)を追加したATCC配合(ATCC-formulated)イーグル最小必須培地(完全EMEMと称する)中で増殖させた。PC-3は、10%滅菌ウシ胎仔血清(Life Technologies)及び1×抗生物質/抗真菌剤(Life Technologies)を追加したATCC配合F-12K培地(完全F12Kと称する)中で増殖させた。
【0204】
ヒト線維芽細胞(hTERT-BJ1細胞)は、ピルビン酸を追加した完全DMEM(Life technologies)中で増殖させた。THP-1は、10%滅菌ウシ胎仔血清(Life Technologies)及び1×抗生物質/抗真菌剤(Life Technologies)を追加したRPMI(Life Technologies)(完全RPMIと称する)中で増殖させた。THP-1及びiBMMの培地にPuromycin(Sigma)を追加して、pTRIPZ-hSTING R284Sの選択を確実にした(4)。Trex1変異マウス(動物倫理基準A2018/38下で使用)は、Trex1欠損マウスで報告されているものと同様に、未成熟終止コドン(Q169X)及び細胞質DNAの異常蓄積に至るTrex1の単一塩基突然変異(single-based mutation)を有し、その結果、cGAS-STING経路の基本的関与がもたらされる(Ellyard J.I.及びVinuesa C.G.、投稿準備中)。3匹のTrex1変異マウスからの初代骨髄由来マクロファージ(BMDM)を抽出し、すでに報告されているように、L929調整培地を追加した完全DMEM中で6日間分化させた(6)。健常ドナーからの初代血液単核細胞(PBMC)を集め、以前に公開されているように精製した(7)。
【0205】
DMXAA(Sigma D5817)、H151(Invivogen)、及びカンプトテシン(Sigmaカタログ番号C9911)をDMSO中に再懸濁させた。イドロノキシル(IDX)はNoxopharm LTDにより提供され、DMSO中の40mMストックとして再懸濁させ、-20℃で凍結保存した(新鮮IDXと凍結IDXとの比較により活性の差は示されなかった)。DMSO中で希釈した。Poly(I:C)及びLPSはInvivogenからのものであった。ドキシサイクリン塩酸塩(Sigma)を1μg/mLで使用した。cGASリガンドISD70(VACV-70としても知られる)(8)は以下のように再懸濁させた:5μlのセンス鎖及び5μlのアンチセンス鎖を10μg/μlで90μlのPBSに対して滅菌条件下で添加し、75℃にて30分間加熱した後、室温まで放冷し、等分した(1μg/1μlのストック)。ISDをOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific)中リポフェクタミン2000を用いて1μg:1μlの比で2.5μg/mlの濃度にてトランスフェクトした。ADU-S100をMedChemExpress(#HY-12885)から購入し、RNase-DNaseを含まない水中に再懸濁させた。GSK化合物は最近報告されたヒトSTINGアゴニスト((1)からの化合物#3、本明細書中でGSKと称する-オーストラリアのCancer Therapeutics CRCからの寄贈)である。分類不可能なインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)(NTHi)での感染(100CFU/細胞)のために、THP-1を50ng/mlのPMAで前処理を40時間した。NTHiを以前に記載されたように増殖させた(9)。
【0206】
iBMM及びTC-1の上清中マウスIP-10産生及びIL-6は、マウスCXCL10/IP-10/CRG-2 Duo Set ELISA(R&D systems,#Dy466)及びIL6 OptE1A ELISA Kitマウス(BD Bioscience,#555240)を、それぞれ製造業者のプロトコルにしたがって使用して定量した。同様に、ヒトIP-10、TNF-a及びIL-6産生は、ヒトIP-10 OptEIA ELISAキット(BD Biosciences,#555157)、ヒトOptEIA TNF-aキット(BD Bioscience,#555212)及びヒトIL-6 OptEIA ELISA Set(BD Biosciences,#555220)を使用して細胞上清中で測定した。テトラメチルベンジジン基質(ThermoFisher Scientific)を、Fluostar OPTIMA(BMG LABTECH)プレートリーダーでのサイトカインの定量化のために使用した。
【0207】
細胞トランスフェクション:HEK Sting細胞を、200ngのIFNb-ルシフェラーゼレポータ及び400ngのcGAS-GFP過剰発現ベクターで、96ウェルプレートの1ウェルあたり1.8ulのリポフェクタミン2000及び約600,000個の細胞を用いて逆トランスフェクトした(以前に報告されているとおり(8))。3時間後、細胞を収集し、96ウェルプレートの12ウェル中に当分し(6ウェルプレートの各ウェルに)、表示された用量のIDXで一晩処理した後、翌日に40ulのGlo溶解緩衝液中に溶解させた(Promega)。Fluostar OPTIMA(BMG LABTECH)プレートリーダーのPromega ルシフェラーゼアッセイ Systemを使用してルシフェラーゼアッセイを実施した。
【0208】
ウイルスアッセイ:合計80000個のhTERT-BJ1細胞を24ウェルプレート中に10uMのIDX処置の3日後に播種し、数時間付着させた後、以前に記載(10)されているように、完全DMEM中セムリキ森林熱ウイルス(SFV)で感染させた(感染の多重度(MOI)2--Vero細胞中プラーク形成単位によって決定)(各条件は生物学的に三連で実施した)。細胞を、2.5%FBSを補足した新鮮な培地で感染の2時間後にリンスし、さらに22時間インキュベートした。ウイルス含有上清を24時間で集め、80%コンフルエントVero細胞で連続希釈(10倍希釈)した。48時間後、生存しているVero細胞を10%ホルマリンで固定し、20%エタノール中0.1%クリスタルバイオレット(w/v)で染色した後、H2Oで数回よく洗浄した。
【0209】
ウェスタンブロッティング:完全ミニプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma#4693124001)及びphosSTOP阻害剤(Sigma#4906845001)を追加したRIPA緩衝液中で溶解後、以前に報告されているように(4)、サンプルを、NuPAGE4%~12%Bis-Tris Protein Gels(Thermo Scientific)上で、MES又はMOPS電気泳動用緩衝液(Thermo Scientific)を用いて、SDS-Page分析に供した。抗Sting(#13647)、Phospho-Sting(#72971)、TBK1(#3013)、phospho-TBK1(#5483)、IKKe(#3416)、phospho-IKKe(#8766)、IRF-3(#4302)、phosphor-IRF3(#4947)、p-65(#4764)、phospho-p-65(#3033)抗体はすべてCell Signallingからのものであった。抗ベータ-アクチン抗体(#Ab49900)はAbcamからのものであった。
【0210】
mRNA逆転写定量リアルタイムPCR(RT-qPCR):全RNAは、ISOLATE II RNA Mini Kit(Bioline)を用いて細胞から精製した。ランダムヘキサマーcDNAは、High-Capacity cDNA Archive Kit(Thermo Fisher Scientific)を製造業者の指示にしたがって使用して、単離されたRNAから合成した。HT7900及びQuantStudio 6RT-PCRシステム(Thermo Fisher Scientific)でPower SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を使用してRT-qPCRを実施した。各PCRは技術的に二連で実施し、マウス18Sを参照遺伝子として使用した。各アンプリコンをゲル精製し、遺伝子発現の定量化のための標準曲線を作成するために使用した(各ランで使用)。融解曲線を各ランで使用して、増幅の特異性を確認した。
図16で使用したプライマーは以下のとおりである:マウスRsad2:mRsad2-FWD CTGTGCGCTGGAAGGTTT;mRsad2-REV ATTCAGGCACCAAACAGGAC;マウス18S:mRn18s- FWD GTAACCCGTTGAACCCCATT;mRn18s-REV CCATCCAATCGGTAGTAGCG;マウスIfih1:mIfih1-FWD TCTTGGACACTTGCTTCGAG;mIfih1-REV TCCTTCTGCACAATCCTTCTC;マウスIfit1:mIfit1-RT-FWD GAGAGTCAAGGCAGGTTTCT;mIfit1-RT-REV TCTCACTTCCAAATCAGGTATGT
【0211】
In vivo実験:Trex1変異マウス(7~8週令)にIDXの新たに調製したPBS溶液200ulを毎日腹腔内注射した(192ug/mL)。対照マウスにはPBSのみを注射した。マウスを10日後に処分し、RNA精製のために脾臓を集め、溶解させる一方で、LEGENDplexビーズベースのイムノアッセイ(製造業者の指示どおり)によって血清を分析した。ドキシサイクリン(Dox)投与後に肺で活性TGF-β1を過剰発現するトランスジェニックマウス(8週令)を、48時間Doxで処置した後、A型インフルエンザウイルスで感染させた。続いてマウスを感染後1日及び2日に、250ulのIDXの新たに調製したPBS溶液で腹腔内処置(384ug/mL)し、動物を第3日に処分した。Doxは、感染の期間中毎日注射した。気管支肺胞洗浄(BAL)は、2回続けて800uLの洗浄で実施し、IL-6ELISAによって分析した。
【0212】
結果:
本発明者らは、cGAS-GFP及びインターフェロンβ(IFN-β)-ルシフェラーゼレポータを過剰発現するHEK-Sting細胞においてイドロノキシル(IDX)を異なる用量で試験し、イドロノキシル(IDX)がIFN-β-ルシフェラーゼの強力な阻害剤であることを確認した(
図1)。
【0213】
IDXがSTINGシグナリングをより直接的に阻害できるか否かを判定するために、IFN刺激応答性ルシフェラーゼ(ISRE-Luc)を安定して発現するマウスL929細胞を様々な用量のIDXで前処理を1時間した後、8時間DMXAAで刺激した(
図2)。DMXAAはマウスSTINGのアクチベータである(11)。HEK STINGのデータと一致して、IDXは0.625uMでもDMXAA誘導性ISRE-Lucを強力に阻害した。DMXAAを100ug/mlまで増加させても阻害効果は変化しなかったので、この効果は、STINGに対するDMXAAとの競合的結合のよるものではなかった(
図3)。
【0214】
分子IDXは、NF-κBシグナリングを阻害するゲニステインと構造において近縁関係にあることは周知であるので、IDXのIL-6に対する阻害効果は意外ではない。したがって、IL-6産生におけるIDXによって誘導される低下は、STINGの下流のNF-κBシグナリング分岐の阻害の結果起こり得る。LL171細胞(2)と称するインターフェロン(IFN)刺激応答エレメント(ISRE)-ルシフェラーゼ構造を安定して発現し、マウスSTINGアゴニストDMXAAで刺激したマウスL929細胞を使用して、本発明者らは、IDXがNF-κBシグナリングに対して選択的に作用するならば、DMXAA誘導IFN-β産生及び下流ISRE-ルシフェラーゼ発現がIDXによってごくわずかしか影響を受けないと推測した。意外にも、細胞をDMXAAでの刺激の8時間前にIDXで1時間前処置することで、ISRE-Luc誘導が用量に依存して強力に損なわれた(
図3A)。さらに、DMXAAの濃度を100μg/mLまで増加させても、IDXによる阻害は逆転されなかった(
図3B)。IDXによるDMXAA感知及びSTINGのIFN-β分岐に対する効果の直接的阻害は、IDXがマウスSTINGの直接的阻害剤として作用し得ることを示す。
【0215】
IDXのSTINGに対する効果がヒトに及ぶか否かを判定するために、発現に際してNF-kB及びIRF3を構成的に活性化する高活性STING変異体(R284S)を試験した。ドキシサイクリン誘導プロモータ下でSTING R284Sを発現する安定な未分化THP-1細胞を、2.5uMのIDXで1時間処理した後、一晩STING誘導及びIP-10 ELISAを行った(
図4)。この実験により、IDXがSTING R284S発現によって誘導されるIRF3分岐を有意に減少させることが確認され、ヒトSTINGに対するその効果が確認された。このことと一致して、不死化マウス骨髄マクロファージにおけるSTING R284Sの一晩誘導発現は、強力なIP-10誘導に至り、このIP-10誘導はIDX前処理によって鈍化された(
図5)。
【0216】
STINGシグナリングに対するIDXの特異性を特定するために、機能的TLR4(LPS)及びTLR3(PolyI:C)応答性を有するヒトhTERT不死化包皮線維芽細胞を試験した。LPS又はPolyI:Cで7時間刺激する前に、2.5uMのIDX又はSTING阻害剤H151で細胞を前処理しても、IL-6産生はわずかしか減少しなかった(このモデルにおけるNF-kBシグナリングに対する活性が低いことを示す)。このことから、L929細胞においてのような短期実験では、ISRE-ルシフェラーゼレポータに対して見られるIDXの効果は、STINGシグナリングのNF-kB分岐ではなく、IRF3分岐の阻害が主な原因であることが示唆される(
図6)。
【0217】
本発明者らは、IDXが、STING経路に対する阻害効果によって、NF-κB及びIRF3経路の両方に影響をおよぼすことにより、IL-6及びインターフェロンのレベルを有意に低下させる能力を有することを実証した。
【0218】
ウイルス感染した細胞におけるDNA損傷は、同じ免疫感知メカニズムを介して機能する。
【0219】
ある特定の細胞では、DNA損傷が細胞質DNAの蓄積につながり、この蓄積はその後、cGAS-STING経路に関与することが知られている。SV40T大型(large)抗原を発現する線維芽細胞を低用量トポイソメラーゼI阻害剤(カンプトテシン-CPT)で処理すると、cGAS-STING活性化が引き起こされるが、初代マウス胚線維芽細胞はこの応答を示さず、このことは、SV40Tが何らかの形で、損傷されたDNAの細胞質漏出を増強することを示している(2)。HPV-16 E6/E7がん遺伝子で不死化し、H-rasで形質転換したC57BL/6マウスの肺細胞由来のTC-1細胞などの他のウイルス性がん遺伝子も、SV40Tと同様に、損傷されたDNAによりcGAS-STING関与を増強する(5)。CPTで24時間を超えて刺激されたSV40T発現細胞及びTC-1細胞のいずれにおいても、本発明者らはIL-6産生の有意な誘導を証明した(
図7)。理論によって拘束されることを望むものではないが、それぞれcGAS(12)及びSTING(13)を阻害するアスピリン又はH-151の存在下でのCPT治療は、IL-6産生を強力に減少させるので、本発明者らは、この応答がcGAS及びSTING依存性であるとことを前提にしている(
図7)。低用量IDXでの治療は、CPT誘導IL-6産生を有意に減少させた。
【0220】
さらにシグナリング経路を試験するために、機能的cGAS-STING及び構成的レベルの細胞質DNAを有することが報告されている(14)ヒト前立腺がんPC-3細胞に対するCPT及びIDXの効果を利用した。興味深いことに、IL-6レベルは24時間以内にCPTによって有意に増加したが、これはアスピリンによって阻害されず、これらの細胞において、損傷されたDNAに対する応答は、cGASに依存することを示している(
図8)。しかしながら、CPTに誘導されたIL-6レベルは、H-151によって弱められ、STING依存性が示唆される。TC-1細胞モデルと同様に、IDXは、このモデルにおいてCPTに誘導されたIL-6産生を有意に減少させた。
【0221】
IDXのIL-6発現を阻害する能力は、二つのヒト骨肉腫がん細胞株(HOS及びMG63)でさらに確認され、CPTはSTINGに依存して(H151阻害に依存して)IL-6の強固なレベルを誘導し、IDXはIL-6レベルを強力に減少させた(
図9A及び9B)。
【0222】
重要なことに、cGAS-STINGを活性化する免疫刺激性DNA(ISD)のトランスフェクションによるIL-6産生はまた、IDXで48時間前処理されたMG-63細胞でも減少し(
図10)、STING経路を介してIL-6のレベルを有意に低下させるIDXの能力はCPTによるDNA損傷以外にも及ぶことを示している。
【0223】
STINGに対するIDXの直接的活性をさらに確認するため、不死化マウス骨髄由来マクロファージを、IDXの存在下、DMXAAで1、2、又は3時間刺激した(
図11)。細胞可溶化物は、STING、TBK1、IRF3、及びp-65に対する特異的総抗体又はリン酸化(phospho)抗体を使用するウェスタンブロッティングによって分析した(
図11)。下流STINGシグナリングに対する阻害活性の裏付けとして、IDXは、TBK1及びIRF3並びにSTING自体のリン酸化反応を減少させた。重要なことに、STING活性化は、IDXによって弱められた総STINGのサイズにおけるシフトによっても明らかになった(3時間にわたって二つの明確なバンドが見られる)。これらの効果は、すべて、IDXによるTBK1阻害に依存し得るが、本発明者らは、この細胞系においてTBK1に依存しないp-65リン酸化反応の減少も観察した(4)。したがって、これらの結果は、TBK1ではなく、STING活性化自体に対するIDXの直接的作用を裏付ける。
【0224】
本発明者らは、ヒトTHP-1細胞において確立された強力なSTINGアゴニストの作用をブロックするIDXの能力を確認した。細胞を1時間IDXで前処理することで、ADU-S100(cGAMP合成アナログ)及び合成STINGアゴニストによるIP-10産生が強力に阻害された(1)(
図12A)。さらに、本発明者らは、合成STINGアゴニストでの刺激後にTHP-1によって産生されたIFNβレベルを測定した。IDXは、特異的IFNβ ELISAによって測定すると、このモデルにおいてIFNβ産生を約50%有意に抑制した(
図12B)。そのような強力なリガンドによるSTINGの活性化を抑制する能力は、STINGシグナリングに対するIDXの強力な阻害効果を裏付ける。
【0225】
STINGシグナリングに関与する肺細菌感染に影響を及ぼすIDXの能力を評価するために、本発明者らは、IDXで前処理したTHP-1細胞における分類不可能なインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)(NTHi)によって誘導された炎症の影響を試験した(15)。肺NTHiは、慢性閉塞性肺疾患(AECOPD)の急性増悪に最も関連する因子である。これらの実験(
図13)で、IDX前処理の強力な抗炎症効果が確認された。同様に、ヒトhTERT線維芽細胞を72時間10μMのIDX(細胞増殖にほとんど影響を及ぼさなかった)とインキュベーションすることで、SFV感染に対して細胞は感作されなかった(
図14)。
【0226】
これらの結果は、IDXがRNAウイルス感染に対して細胞を感作しないことを示す(なお、SFVは、ウイルスによって作られたdsRNAを感知することで起こるIFN産生に対して非常に敏感である)。
【0227】
さらに、本発明者らは、これまで得られたデータは細胞株に限定されていたとして、初代細胞におけるSTINGシグナリングの阻害を確認しようとした。
【0228】
まず、本発明者らは、ヒト合成STINGアゴニストで刺激した、二人のドナーからのヒト末梢血単核細胞(PBMC)に対する2.5μMのIDX前処理の効果を試験した。ヒト単球細胞(THP-1)における観察と同様に、IDX前処理は、サイトカインELISAによって測定すると、IL-6及びTNFα産生を減少させた(
図15)。
【0229】
次に、本発明者らは、Trex1変異体マウスからの初代骨髄由来マクロファージに対する、1.25及び2.5μMのIDXとの一晩インキュベーションの効果を試験した。これらのマウスは、Trex1欠損マウスで報告されているものと同様に、未成熟終止コドン(Q169X)及び細胞質DNAの異常蓄積に至るTrex1の単一塩基突然変異を有し、その結果、cGAS-STING経路の基本的関与がもたらされる(16)。本明細書中に提示された他のデータと一致して、本発明者らは、細胞のIDX処置で三つのインターフェロン刺激遺伝子(Ifit1、Ifih1、Rsad2)の用量依存的阻害を観察したところ、これらの初代細胞における基本的Stingシグナリングの阻害と一致した(
図16)。
【0230】
さらに、本発明者らは、Trex1変異マウスにおいて基本的STINGシグナリングを減少させるIDXの能力を調査した。マウスに、PBS中の懸濁液中2mg/kgのIDXを10日間毎日注射し、血清並びに脾臓RNAを収集した。血清TNFαレベルの分析により、PBS対照と比較してIDXで減少が示され、いくつかのインターフェロン刺激遺伝子(Ifi44、Ifih1、Rsad2、及びIsg15)の発現も脾臓において減少し(
図17)、Isg15で有意な減少が見られた。これらの実験は、IDXがTrex1変異マウスで見られる基本的STINGを制限することを裏付ける。
【0231】
そして、本発明者らは、A型インフルエンザウイルス(IAV)感染のマウスモデルの関連で、炎症が肺特異的TGF-b発現によって悪化する肺炎症誘発性サイトカインの産生を減少させるIDX脳能力を調査した(17)。マウスに、IAVでの感染後第1日から、気管支肺胞洗浄を実施する第3日まで、懸濁液中5mg/kgのIDXを毎日注射した。IL-6レベルをIAVによって誘導させながら、感染後のIDXの治療的使用により、感染した動物におけるIL-6産生を有意に減少させることができ、病原体による肺炎症を抑制する可能性が確認された(
図18)。
【0232】
ここで、IDXは、STINGシグナリングを調節して、COVID-19に感染した一部の患者でみられる有害な炎症反応に関連するサイトカインの産生の減少につながることが示されている。
【0233】
IDXのSTINGシグナリング阻害効果により、IDXは、I型インターフェロン(IFN-β)並びにIL-6及びTNF-αなどの炎症誘発性サイトカインをはじめとする広範囲のサイトカインの産生をブロックする可能性を有する。このより広範なアプローチは、IL-6受容体などの単一のサイトカイン受容体をブロックすることを目的とする現行の戦略とは異なる。
【0234】
したがって、IDXは、感染に関連する炎症を治療するために使用でき、この場合、個体は、前記炎症によって引き起こされる初期の臓器障害を有すると特定されるか、又は有する疑いがある。重度の炎症症状を有するこれらの感染患者においてIDXを使用して、病院システムの滞在期間、COVID-19感染及び炎症に関連する病状、並びに患者の死亡率を低減するまたとないチャンスがある。
【0235】
参考文献
1. Ramanjulu, J.M., Pesiridis, G.S., Yang, J., Concha, N., Singhaus, R., Zhang, S.-Y., Tran, J.-L., Moore, P., Lehmann, S., Eberl, H.C. et al. (2018) Design of amidobenzimidazole STING receptor agonists with systemic activity. Nature, 564, 439-443.
2. Pepin, G., Nejad, C., Ferrand, J., Thomas, B.J., Stunden, H.J., Sanij, E., Foo, C.-H., Stewart, C.R., Cain, J.E., Bardin, P.G. et al. (2017) Topoisomerase 1 Inhibition Promotes Cyclic GMP-AMP Synthase-Dependent Antiviral Responses. mBio, 8.
3. Ablasser, A., Schmid-Burgk, J.L., Hemmerling, I., Horvath, G.L., Schmidt, T., Latz, E. and Hornung, V. (2013) Cell intrinsic immunity spreads to bystander cells via the intercellular transfer of cGAMP. Nature, 503, 530-534.
4. Balka, K.R., Louis, C., Saunders, T.L., Smith, A.M., Calleja, D.J., D’Silva, D.B., Moghaddas, F., Tailler, M., Lawlor, K.E., Zhan, Y. et al. (2020) TBK1 and IKKε Act Redundantly to Mediate STING-Induced NF-κB Responses in Myeloid Cells. Cell Reports, 31, 107492.
5. Lin, K.-Y., Guarnieri, F.G., Staveley-O’Carroll, K.F., Levitsky, H.I., August, J.T., Pardoll, D.M. and Wu, T.-C. (1996) Treatment of Established Tumors with a Novel Vaccine That Enhances Major Histocompatibility Class II Presentation of Tumor Antigen. Cancer Research, 56, 6.
6. Ferrand, J. and Gantier, M.P. (2016) Assessing the Inhibitory Activity of Oligonucleotides on TLR7 Sensing. 1390, 79-90.
7. Gantier, M.P. (2013) Strategies for Designing and Validating Immunostimulatory siRNAs. 942, 179-191.
8. Pepin, G., De Nardo, D., Rootes, C.L., Ullah, T.R., Al-Asmari, S.S., Balka, K.R., Li, H.-M., Quinn, K.M., Moghaddas, F., Chappaz, S. et al. (2020) Connexin-Dependent Transfer of cGAMP to Phagocytes Modulates Antiviral Responses. mBio, 11.
9. Palaniyar, N., King, P.T., Sharma, R., O’Sullivan, K., Selemidis, S., Lim, S., Radhakrishna, N., Lo, C., Prasad, J., Callaghan, J. et al. (2015) Nontypeable Haemophilus influenzae Induces Sustained Lung Oxidative Stress and Protease Expression. Plos One, 10, e0120371.
10. Pepin, G., Nejad, C., Thomas, B.J., Ferrand, J., McArthur, K., Bardin, P.G., Williams, B.R.G. and Gantier, M.P. (2017) Activation of cGAS-dependent antiviral responses by DNA intercalating agents. Nucleic Acids Research, 45, 198-205.
11. Gao, P., Ascano, M., Zillinger, T., Wang, W., Dai, P., Serganov, Artem A., Gaffney, Barbara L., Shuman, S., Jones, Roger A., Deng, L. et al. (2013) Structure-Function Analysis of STING Activation by c[G(2′,5′)pA(3′,5′)p] and Targeting by Antiviral DMXAA. Cell, 154, 748-762.
12. Dai, J., Huang, Y.-J., He, X., Zhao, M., Wang, X., Liu, Z.-S., Xue, W., Cai, H., Zhan, X.-Y., Huang, S.-Y. et al. (2019) Acetylation Blocks cGAS Activity and Inhibits Self-DNA-Induced Autoimmunity. Cell, 176, 1447-1460.e1414.
13. Haag, S.M., Gulen, M.F., Reymond, L., Gibelin, A., Abrami, L., Decout, A., Heymann, M., van der Goot, F.G., Turcatti, G., Behrendt, R. et al. (2018) Targeting STING with covalent small-molecule inhibitors. Nature, 559, 269-273.
14. Ho, Samantha S.W., Zhang, Wendy Y.L., Tan, Nikki Yi J., Khatoo, M., Suter, Manuel A., Tripathi, S., Cheung, Florence S.G., Lim, Weng K., Tan, Puay H., Ngeow, J. et al. (2016) The DNA Structure-Specific Endonuclease MUS81 Mediates DNA Sensor STING-Dependent Host Rejection of Prostate Cancer Cells. Immunity, 44, 1177-1189.
15. Lu, C., Zhang, X., Ma, C., Xu, W., Gan, L., Cui, J., Yin, Y. and Wang, H. (2018) Nontypeable Haemophilus influenzae DNA stimulates type I interferon expression via STING signaling pathway. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research, 1865, 665-673.
16. Gray, E.E., Treuting, P.M., Woodward, J.J. and Stetson, D.B. (2015) Cutting Edge: cGAS Is Required for Lethal Autoimmune Disease in the Trex1-Deficient Mouse Model of Aicardi-Goutieres Syndrome. The Journal of Immunology, 195, 1939-1943.
17. Lee, C.G., Cho, S.J., Kang, M.J., Chapoval, S.P., Lee, P.J., Noble, P.W., Yehualaeshet, T., Lu, B., Flavell, R.A., Milbrandt, J. et al. (2004) Early Growth Response Gene 1-mediated Apoptosis Is Essential for Transforming Growth Factor β1-induced Pulmonary Fibrosis. Journal of Experimental Medicine, 200, 377-389.
【国際調査報告】