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特表2023-520002細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用
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  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図1
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図2
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図3
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図4
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図5
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図6
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図7
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図8
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図9
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図10
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図11
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図12
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図13
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図14
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図15
  • 特表-細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用 図16
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症におけるPI4K阻害物質の応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230508BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230508BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230508BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230508BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230508BHJP
   A61K 31/285 20060101ALI20230508BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230508BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230508BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230508BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230508BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230508BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230508BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230508BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230508BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230508BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20230508BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K31/285
A61K45/06
A61P25/16
A61P25/28
A61P21/00
A61P29/00
A61P25/14
A61P25/00
C12N15/113 Z
C07K16/18
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N9/12
C12N15/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559747
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 CN2021084612
(87)【国際公開番号】W WO2021197389
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】202010246586.5
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522361803
【氏名又は名称】▲ヌオ▼貝▲タイ▼医薬科技(上海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】NUO-BETA PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY (SHANGHAI) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】4560 Jinke Road, Zhangjiang Hi-Tech Park, Shanghai 201210, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】黄 福徳
(72)【発明者】
【氏名】王 文安
(72)【発明者】
【氏名】洪 峰
(72)【発明者】
【氏名】鄭 檪楠
(72)【発明者】
【氏名】焦 常平
(72)【発明者】
【氏名】曹 魯郷
(72)【発明者】
【氏名】謝 ▲ユゥ▼宇
【テーマコード(参考)】
2G045
4B050
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
2G045BB24
2G045CB01
2G045FA16
2G045FB03
2G045GC15
4B050CC07
4B050DD07
4B050KK13
4B050LL01
4C084AA17
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA151
4C084ZA941
4C084ZB111
4C084ZC211
4C084ZC212
4C084ZC411
4C084ZC412
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086BB02
4C086BC05
4C086BC12
4C086BC17
4C086BC46
4C086BC67
4C086BC73
4C086BC74
4C086BC88
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA15
4C086ZA94
4C086ZB11
4C086ZC21
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB06
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA15
4C206ZA94
4C206ZB11
4C206ZC21
4C206ZC41
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書では、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患の予防または処置におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用が提供され、また、リソソーム蓄積症の予防または処置におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を予防または処置するための調製におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用。
【請求項2】
リソソーム蓄積症を予防または処置するための調製におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用。
【請求項3】
PI4KIIIα特異的阻害物質が、抗体、小分子化合物、RNAi分子またはアンチセンス核酸である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
抗体が、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
RNAi分子が、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
RNAi分子が、18~100塩基長である、請求項3に記載の使用。
【請求項8】
RNAi分子が、その安定性を向上するように修飾されている、請求項3および6~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
PI4KIIIα特異的阻害物質が、小分子化合物である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項10】
該小分子化合物が、フェニルアルシンオキシドまたはその誘導体、G1およびその類似体、ならびにA1およびその類似体である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
フェニルアルシンオキシドおよびその誘導体が、式(I):
【化1】
[式中、R1はそれぞれ独立して、
(a)H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、C1-6アルキレン-NH2、C1-6アルキレン-NH-C(O)H、-As(O)、-N=NH、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)H、-NH-S(O)2H、-C(O)OH、-OC(O)H、-SH、-S(O)2H、-S(O)2-NH2またはヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよく、ここで、R2およびR3はそれぞれ独立して、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、N-(C1-6アルキル)アミノ、N-(6-12員アリール)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、C3-6シクロアルキル、6-12員アリールまたは3-12員ヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、-NH-C(O)-R5、-C(O)OR4、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R4は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R5は、H、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルから選択され、および/または
(b)2個の隣接する炭素原子上のR1は、5-12員シクロアルキル、アリールまたはヘテロシクリルを形成し、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、
nは、0~5の整数である]
で示される構造を有し、またはその薬学的に許容できる塩である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
nが0~2の整数であり、R1がそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよい、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
nが0~2の整数であり、R1がそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよい、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
nが1または2であり、R1がそれぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-NH-C(O)R2または-NH-S(O)2R3から選択され、ここで、R2は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つの6-12員アリールによって置換されていてよく、R3は、6-12員アリールであり、これは場合により、1つのハロゲン、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルによって置換されていてよい、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
R1が、-As(O)のオルト位および/またはパラ位に位置する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
nが、0である、請求項11に記載の使用。
【請求項17】
該小分子化合物が、以下の化合物:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
からなる群から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項18】
対象が、ヒトまたは哺乳動物である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項19】
細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患が、パーキンソン病、レビー小体認知症、多系統萎縮症、封入体筋炎、前頭側頭骨性認知症、ハンチントン病、ポリグルタミン病、筋萎縮性側索硬化症、またはプリオン病である、請求項1に記載の使用。
【請求項20】
リソソーム蓄積症が、スフィンゴ脂質代謝障害、C型ニーマン・ピック病、ムコ多糖症、グリコーゲン蓄積症、糖タンパク質蓄積症、脂質蓄積症、翻訳後修飾欠損症、内在性膜タンパク質欠乏症、神経セロイドリポフスチン症、またはリソソーム関連細胞小器官の障害である、請求項2に記載の使用。
【請求項21】
スフィンゴ脂質代謝障害が、ゴーシェ病である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
それを必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項23】
第二の物質が、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を処置するための物質、またはリソソーム蓄積症を処置するための物質である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
PI4KIIIα特異的阻害物質が、第二の物質が投与される前、後、または同時に投与される、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質もしくは核酸またはPI4KIIIαもしくはPI4KIIIαタンパク質複合体と接触させること、および、薬物候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害できるかどうか、またはPI4KIIIαタンパク質複合体の形成、安定性、活性または細胞膜への局在、を検出することを含む方法。
【請求項26】
リソソーム蓄積症を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質もしくは核酸またはPI4KIIIαもしくはPI4KIIIαタンパク質複合体と接触させること、および、薬物候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害できるかどうか、またはPI4KIIIαタンパク質複合体の形成、安定性、活性または細胞膜への局在、を検定することを含む方法。
【請求項27】
PI4KIIIαタンパク質複合体が、PI4KIIIαおよびEfr3a/Efr3b、TTC7A/TTC7B、FAM126A/FAM126Bまたはそれらの相同タンパク質からなるタンパク質複合体である、請求項25および26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患の予防または処置におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用に関し、また、本発明は、リソソーム蓄積症の予防または処置におけるPI4KIIIα特異的阻害物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リソソームは、小胞構造を有する単層膜で囲まれた細胞内器官であり、様々な外来および内在性高分子を分解できるヒドロラーゼ、例えばタンパク質、炭水化物、脂質などを分解できるヒドロラーゼを多数含む、そのため、リソソームは、タンパク質、核酸および多糖などの生体高分子を分解でき、また、細胞自体の局所細胞質または細胞小器官を消化することができる。リソソームは、一次リソソームと二次リソソームに分類される。
【0003】
一次リソソームは、直径約0.2~0.5um、膜厚7.5nm、内容物が均一で目立った粒子がなく、ゴルジ体からの分泌により形成される。一次リソソームは、以下の過程に従って、transゴルジ体に出現する形で形成される:小胞体のリボソームがリソソームタンパク質を合成し、リソソームタンパク質が小胞体の腔に侵入してN-結合型糖鎖修飾を受け、リソソーム酵素タンパク質はまず3つのグルコース、9つのマンノースおよび2つのN-アセチルグルコサミンが与えられ、次にグルコース3分子およびマンノース1分子が除去されて得られたリソソーム酵素タンパク質がCisゴルジ体に侵入する;N-アセチルグルコサミンホスホトランスフェラーゼがリソソームヒドロラーゼのシグナルプラークを認識し;N-アセチルグルコサミンホスフェートを1~2個のマンノース残基に転移し;N-アセチルグルコサミンは中間のゴルジ体のN-アセチルグルコサミニダーゼにより切断されてM6Pリガンドを形成し;M6Pリガンドはcisゴルジ体の受容体に結合し;そして、選択的にパッケージされて一次リソゾームが形成される。一次リソソームは、活性を有しない多くのヒドロラーゼを含んでおり、リソソームが破裂するか、または他の物質が侵入したときにのみヒドロラーゼは活性を有する。一次リソソームのヒドロラーゼには、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼおよびホスファチダーゼなどがあり、60以上のヒドロラーゼが知られており、ヒドロラーゼはすべて酸性ヒドロラーゼに属し、反応の至適pH値は約5であり、リソソーム膜の厚さは細胞質膜と似ているが、リソソーム膜の成分は細胞質膜のものと異なり、主に以下のような違いがある:(1)リソソーム膜はプロトンポンプを有し、H+がリソソーム内に送られ、リソソームのpH値を低下させること;および(2)膜タンパク質は高度にグリコシル化されており、膜タンパク質自体の分解を防ぐのに有利となっている可能性があること。
【0004】
二次リソソームは全て、消化途中の、あるいは消化が完了したリソソームである消化胞であり、ヒドロラーゼおよびそれに対応する基質を含み、消化される物質が外部由来であるファゴリソソーム、および消化される物質が細胞自体の種々の成分由来であるオートファゴ・リソソーム(autophago lysosome)に分類される。
【0005】
二次リソソームは、リソソーム基質の供給源によって、次のように分類される:
(1)ヘテロリソソーム:細胞質膜を透過できない高分子溶液またはウイルス、細菌などを意味し、ピノサイトーシス(受容体介在エンドサイトーシスを含む)を介して前者により形成される飲小胞(またはエンドソーム)、およびファゴサイトーシスを介して後者により形成される食細胞胞はそれぞれ、一次リソソーム(またはエンドリソソーム)と融合し、二次リソソーム(またはリソソーム)を形成する;
(2)オートリソソームまたはオートファゴ・リソソーム:部分的に損傷または老化した細胞小器官(ミトコンドリア、小胞体断片など)を取り囲むオートファゴソームと一次リソソーム(またはエンドリソソーム)が融合して形成される二次リソソームを意味する。オートリソソームまたはオートファゴ・リソソームに消化される物質は内因性である。消化できない残留物質を含む二次リソソームは、残余小体と称される。一部の残留物質は排出できるが、一部の残留物質は細胞内に長期間保存され、排出されない。
【0006】
残余小体はポストリソソームとも称され、酵素活性を失い、未消化の残留物だけを有する。残余小体は、流出によって細胞から排出されることもあれば、肝細胞のリポフスチンのように細胞内にとどまって年々増加することもある。
【0007】
したがって、リソソームは、オートファジー、エンドサイトーシスおよびER-ゴルジ体経路などの複数の細胞代謝経路の下流にある共通の接合部である。オートファジーまたはオートファゴ・リソソームを介するシグナル伝達経路は、細胞内タンパク質の恒常性を維持するための主要な制御システムの1つと考えられている(Manecka et al., 2017)。オートファジー-リソソームシグナル伝達経路は、マクロオートファジーとシャペロン媒介オートファジー(CMA)といった2つのモードによって実現される。マクロオートファジーは、主にオートファゴソームの形成から始まり、オートファゴソームがリソソームと融合し、タンパク質をリソソームに導入して分解する(Bento et al., 2016)。CMAは、シャペロン(Hsc70)が標的タンパク質に結合し、リソソーム受容体LAMP2Aを介してタンパク質をリソソームへ輸送し分解することである(Cuervo and Wong, 2014)。
【0008】
遺伝子変異などに伴うヒドロラーゼの欠損、ヒドロラーゼの活性不足、アクチベータータンパク質、トランスポータータンパク質、またはリソソームにおけるリソソームタンパク質プロセシングおよび修正のための酵素の欠乏に起因するリソソーム機能の欠陥により、二次リソソーム内の対応する基質の不消化、基質の蓄積および代謝障害をもたらし、したがってリソソーム貯蔵障害(LSD)の形成につながる。LSDには、ゴーシェ病、ポンペ病、C型ニーマン・ピック病(NPC)など、60を超える疾患が含まれる。今日まで、そのような疾患の処置のための主な戦略は、リソソーム酵素基質の合成をブロックするか、リソソーム酵素を置き換えることであるが、ほとんどの処置は効果が限られている(Platt et al., 2018)。したがって、オートファジーおよびリソソームの分泌を促進することによって、リソソームに蓄積された物質を細胞から排除することは、LSDの新しい治療の方向性である(Samie and Xu, 2014)。
【0009】
さらに、様々なタンパク質封入体凝集疾患(細胞内タンパク質がミスフォールディング(誤った折り畳み)により封入体内に凝集することによって引き起こされる疾患)において、様々なオートファジー-リソソーム調節因子、例えばmTOR(Kahan, 2011, Decreassac et al., 2013, Magahaes et al., 2016, Tian et al., 2016)、-1(Spencer et al., 2009)、Spermidin[14] (Buttner et al., 2014)、PLK2(Mbefo et al., 2010)およびLAMP2(Xilouri et al., 2013)の発現および活性がさまざまな程度に変化している。パーキンソン病(PD)やレビー小体認知症(LBD)に関連するα-シヌクレインなど、これらの封入体内に凝集されたタンパク質は、オートファジー-リソソーム経路に存在するか、それによって分解される(Dehay et al., 2010. J. Neurosci, 30:12535-12544)。したがって、オートファジーおよびリソソームの分泌を促進することにより、細胞はこれらのタンパク質の排除を促進することもでき、それによって封入体の凝集が減少される。
【0010】
リソソームの内容物には多くの重要な酵素が含まれており、細胞の老廃物は細胞外に排出される必要がある。ミクログリアのリソソームはエキソサイトーシスによって細胞外に内容物を放出し、リソソームの分泌機能の一部はリソソームのエキソサイトーシスによって達成され、エキソサイトーシスは小胞が細胞質膜と融合した後に内容物を細胞外空間に放出するエネルギー依存的な活動である。リソソームは、細胞質膜との完全な融合を介して内容物を放出することでき、または「キスアンドラン(kiss-and-run)」によってエキソサイトーシスを起こすこともできる。「キスアンドラン」エキソサイトーシスでは、リソソーム小胞と細胞質膜の融合は一過性であり、融合孔の急速な開閉により小胞の内容物が放出させる。
【0011】
リソソーム分泌(エキソサイトーシス)の調節により、パーキンソン病やレビー小体認知症を含むリソソーム蓄積症および細胞性封入体凝集疾患の処置のための有効な治療アプローチを提供することを期待している。
【0012】
細胞性封入体疾患多系統萎縮症(MSA)患者の脳組織におけるオートファゴソーム形成関連遺伝子GABARAPs/GATE-16のレベルは有意に低下しており、これは、MSA患者においてオートファゴソームタンパク質のレベルが抑制され、したがってオートファジーシステムの成熟過程が破壊されていることを示している(Tanji et al., 2013)。別の研究[22](Miki et al., 2016)では、MSAにおけるα-シヌクレイン結合タンパク質の分解は、それと結合しているオートファジー/ベクリン1レギュレーター1(AMBRA1)タンパク質によって調節され、MSA神経細胞のAMBRA1過剰リン酸化レベルが有意に上昇することが示された。マウス皮質細胞に対するインビトロ実験では、オートファジー阻害物質がAMBRA1の活性を沈黙させ、それによってα-シヌクレインの凝集をもたらすことが示された。
【0013】
封入体筋炎(IBM)では、チューブリンのような15~18nmの細胞内タンパク質の折り畳みと沈着が非常によく見られる。
【0014】
一部の家族性前頭側頭葉変性症は、プログラニュリン(PGRN)遺伝子の変異が関連していることがある。プログラニュリンは増殖因子であり、遺伝子変異により増殖因子が減少し、神経の成長や修復が阻害される可能性がある。最近、TAR-DNA結合タンパク質43(TDP-43、転写を調節する核タンパク質)の異常なリン酸化が、運動ニューロン疾患を伴う前頭側頭葉変性症と密接に関連していることが見出された。
【0015】
ポリグルタミン病(PolyQ病)は、9つの疾患(ハンチントン病(HD);X関連球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核小脳萎縮症(dentatorubralpalludoluysian atrophy, DRPLA)および6種類の脊髄小脳萎縮症(SCA1、2、3、6、7&17))からなる。各疾患に関連するタンパク質は異なるが、それらはオートファジーの流動性の不活性化に関連しており[26](Cortes et al., 2015)、オートファゴソームマーカータンパク質P62はSBMAマウスモデルにおいて行動と運動機能の障害を軽減することができる[27](Doi et al., 2013)。DRPLAショウジョウバエモデルは、凝集体にリポフスチンとP62を含むリソソーム蓄積症の表現型と同様の表現型を示し、これは、オートファジーの機能障害によって引き起こされるリソソーム消化機能の不活性化を示している[28](Settembre et al., 2008)。
【0016】
ハンチントン病では、Htt遺伝子の変異により、長さの異常な(CAGにコードされた)ポリグルタミンが翻訳および蓄積される。
【0017】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の95%の運動ニューロンには、主にTDP-43タンパク質で構成される封入体が含まれている。FUSやSOD1などの他のタンパク質も、ALS患者で共凝集することが多い。
【0018】
プリオン病は、プリオンタンパク質(PrP)のミスフォールディング(誤った折り畳み)によって引き起こされる疾患である(Cai et al., 2016)。正常のPrP(PrPC)は細胞膜上に存在し、感染性の形態(PrPSc)に変換されることもある。
【0019】
ホスファチジルイノシトール(PI)とその代謝酵素は、リソソームの形成と輸送に重要な役割を果たす。PI4KIIIβはリソソームの放出やリソソーム物質の選別を制御できることが見出されている[38, 39] (Sridhar S, Patel B, Aphkhazava D, et al. The lipid kinase PI4KIIIβ preserves lysosomal identity[J]. The EMBO Journal, 2012, 32(3):324-339; De Barry J, Janoshazi, Dupont J L, et al. Functional Implication of ニューロンの Calcium Sensor-1 and Phosphoinositol 4-Kinase-beta Interaction in Regulated Exocytosis of PC12 Cells [J]. Journal of Biological Chemistry, 2006, 281(26):18098-18111)。ゴルジ体におけるPI4KIIIβおよびPI4KIIαは両方とも、リソソーム酵素やタンパク質のリソソームへの送達を調整あるいは促進することに関与している。組織学的には、PI4KIIα遺伝子欠損マウスはリポフスチン沈着を示し、これは、PI4KIIαのダウンレギュレーションがエンドリソソーム輸送を阻害することで、プルキンエ細胞の減少や脊髄の軸索欠損につながることを示している。PI4KIIIβおよびPI4KIIαの阻害は、リソソームタンパク質の蓄積とゴーシェ病(リソソーム貯蔵障害)のにつながる(Jovic M, Kean M J, Szentpetery Z, et al. Two phosphatidylinositol 4-kinases control lysosomal delivery of the Gaucher disease enzyme-グルコセレブロシダーゼ[J]. Molecular Biology of the Cell, 2012, 23(8):1533-1545)。しかし、リソゾーム輸送におけるPI4KIIIαの役割は報告されていない。
【0020】
PI4KIIIαは、足場タンパク質TTC7AまたはTTC7B、および細胞膜に位置するEfr3aまたはEfr3b、および細胞質タンパク質FAM126AまたはFAM126B、またはそれらのホモログタンパク質と細胞膜上でタンパク質複合体を形成し、細胞膜上のホスファチジルイノシトール-4ホスフェートのレベルを直接調整し;PI4KIIIαの発現や細胞膜上の位置は、Efr3a/Efr3b、TTC7A/TTC7BおよびFAM126A/FAM126Bに依存する(Baird D, Stefan C, et al., J Cell Biol, 2008, 183: 1061-1074; Nakatsu F, Baskin JM, et al., J Cell Biol, 2012, 199: 1003-1016; Baskin JM, Wu X et al., Nat Cell Biol, 2016, 18: 132-138; Zhang X, Jiang LX, et al., J Neurosci, 2017, 37(16): 4928-4941; Lees JA, Zhang Y, et al., PNAS, 2017, 114: 13720-13725)。
【発明の概要】
【0021】
一態様において、本発明は、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を予防または処置するための医薬の調製におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、リソソーム蓄積症を予防または処置するための薬物の調製におけるPI4KIIIα特異的阻害物質の使用を提供する。
【0023】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、抗体、小分子化合物、RNAi分子またはアンチセンス核酸である。
【0024】
いくつかの実施態様において、抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0025】
いくつかの実施態様において、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である。
【0026】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。
【0027】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、18~100塩基長である。
【0028】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、その安定性を向上するように向上するように修飾されている。
【0029】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は小分子化合物である。
【0030】
いくつかの実施態様において、小分子化合物は、フェニルアルシンオキシドまたはその誘導体、G1およびその類似体、A1およびその類似体である。
【0031】
いくつかの実施態様において、フェニルアルシンオキシドおよびその誘導体は、式(I)
【化1】
[式中、R1はそれぞれ独立して、
(a)H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、C1-6アルキレン-NH2、C1-6アルキレン-NH-C(O)H、-As(O)、-N=NH、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)H、-NH-S(O)2H、-C(O)OH、-OC(O)H、-SH、-S(O)2H、-S(O)2-NH2またはヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよく、ここで、R2およびR3はそれぞれ独立して、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、N-(C1-6アルキル)アミノ、N-(6-12員アリール)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、C3-6シクロアルキル、6-12員アリールまたは3-12員ヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、-NH-C(O)-R5、-C(O)OR4、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R4は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R5は、H、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルから選択され、および/または
(b) 2個の隣接する炭素原子上のR1は、5-12員シクロアルキル、アリールまたはヘテロシクリルを形成し、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、
nは、0~5の整数である]
で示される構造を有し、またはその薬学的に許容できる塩である。
【0032】
いくつかの実施態様において、nは、0~2の整数であり、R1はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよい。
【0033】
いくつかの実施態様において、nは、0~2の整数であり、R1はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよい。
【0034】
いくつかの実施態様において、nは、1または2であり、R1はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-NH-C(O)R2または-NH-S(O)2R3から選択され、ここで、R2は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つの6-12員アリールによって置換されていてよく、R3は、6-12員アリールであり、これは場合により、1つのハロゲン、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルによって置換されていてよい。
【0035】
いくつかの実施態様において、R1は、-As(O)のオルト位および/またはパラ位に位置する。
【0036】
いくつかの実施態様において、nは0である。
【0037】
いくつかの実施態様において、小分子化合物は、以下の化合物:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
からなる群から選択される。
【0038】
いくつかの実施態様において、対象は、ヒトまたは哺乳動物である。
【0039】
いくつかの実施態様において、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患は、パーキンソン病、レビー小体認知症、多系統萎縮症、封入体筋炎、前頭側頭骨性認知症、ハンチントン病、ポリグルタミン病、筋萎縮性側索硬化症またはプリオン病である。
【0040】
いくつかの実施態様において、リソソーム蓄積症は、スフィンゴ脂質代謝障害、ムコ多糖症、グリコーゲン蓄積症、糖タンパク質蓄積症、脂質蓄積症、翻訳後修飾欠損症、内在性膜タンパク質欠乏症、神経セロイドリポフスチン症またはリソソーム関連細胞小器官の障害(lysosome-related organelle disorder)である。
【0041】
いくつかの実施態様において、スフィンゴ脂質代謝障害はゴーシェ病である。
【0042】
いくつかの実施態様において、必要とする対象に第二の物質を投与することがさらに含まれる。
【0043】
いくつかの実施態様において、第二の物質は、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を処置するためのものまたはリソソーム蓄積症を処置するためのものである。
【0044】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、第二の物質を投与する前、後または同時に投与される。
【0045】
別の態様において、本発明は、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質もしくは核酸またはPI4KIIIαと接触させること、および薬物候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害できるかどうかを検出すること、を含む方法を提供する。
【0046】
別の態様において、本発明は、リソソーム蓄積症を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質もしくは核酸またはPI4KIIIαと接触させること、および薬物候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害できるかどうかを検出すること、を含む方法を提供する。
【0047】
本発明では、PI4KIIαまたはPI4KIIIβ遺伝子を欠損させた場合に生じる結果とは逆に、PI4KIIIαを阻害すると、リソソームの分泌が促進され、細胞やリソソームにおける様々な分子の蓄積や貯蔵が減少することが見出されている。小分子化合物PAOなどのPI4KIIIα阻害物質は、血液脳関門を通過し、PI4KIIIα活性を阻害することにより、リソソーム分泌を促進し、細胞やリソソームへの様々な分子の蓄積や貯蔵を減少させ、それによって既存の治療法の欠点を補填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、PI4KIIIαの阻害によりミクログリアリソソームのエキソサイトーシスを誘導することを示すものである。(A)対照群:添加液中でインキュベーション、27個のスポットを無作為に選択、図1(A)におけるスケールバーは22μm;(B)100nMのPAO処理群:21個のスポットを無作為に取り、図1(B)におけるスケールバーは22μm;(C)PI4KIIIαヘテロ接合ノックアウト群:22個の蛍光スポットを無作為に取り、図1(C)のスケールバーは16μm。
【0049】
図2図2は、ブロモフェノールブルー(BPB)が「キスアンドラン」エキソサイトーシスによりミクログリアのリソゾームに進入することによって、リソゾーム蛍光の減少を引き起こすことを示すものである。写真はそれぞれ0秒と500秒の蛍光グラフであり、折れ線グラフはリソソーム蛍光強度の変化のグラフである。(A)WT細胞をBPB溶液中で0秒インキュベートした対照群:20個のスポットを無作為に選択、図2(A)におけるスケールバーは16μm;(B)PAO処理群:WT細胞をBPBおよびPAO溶液中で0秒の時点でインキュベート、22個のスポットを無作為に選択;図2(B)におけるスケールバーは22μm;(C)PI4KIIIαヘテロ接合性ノックアウト細胞群: BPB溶液中で0秒の時点でインキュベーション、22個のスポットを無作為に取り、図2(C)におけるスケールバーは22μm。
【0050】
図3図3は、BPBがリソソームから出た後のミクログリアリソソーム蛍光の回復/増加を示すものである。写真はそれぞれ0秒、200秒および500秒の蛍光グラフであり、折れ線グラフは薬物投与の60分前にBPB溶液を添加した場合のリソソーム蛍光強度の変化のグラフである。(A)対照群:WT細胞を添加液中で0秒の時点でインキュベート、22個のスポットを無作為に選択;(B)PAO処理群:WT細胞をPAO溶液中で0秒の時点でインキュベート、28個のスポットを無作為に選択;(C)PI4KIIIαヘテロノックアウト細胞群:BPB溶液中で0秒の時点でインキュベーション、26スポットを無作為に取る。図3におけるスケールバーは22μmである。
【0051】
図4図4は、PI4KIIIαの酵素活性の阻害により、ミクログリアリソソームによるATPの細胞外分泌を促進することを示すものである。(A)ATPとリソソームとの共局在化。左グラフ:1μMのキナクリン標識WTミクログリアの細胞内ATP分子、中間のグラフ:LysoTracker標識リソソーム、右グラフ:チャンネルを統合した後の共局在化蛍光グラフ。図4におけるスケールバーは16μmである。(B)100nMのPAO処理WT細胞群およびPI4K+/-細胞群の細胞外ATP濃度。
【0052】
図5図5は、PI4KIIIα誘導性ニューロン細胞のリソソームエクソサイトーシスの阻害を示すものである。海馬ニューロンにおけるリソソームの蛍光写真を、0秒および500秒の時点で撮影したものである。(A)対照群;(B)100nMのPAO処理群。図5におけるスケールバーは16μmである。
【0053】
図6図6は、PAOがα-シヌクレインの過剰発現により引き起こされる細胞死またはアポトーシスを阻害することを示すものである。PAO処理を12時間行い、MTTを添加し、細胞を4時間インキュベートし、吸光値を測定する。(A)写真は細胞生存を示し、(B)細胞生存率。
【0054】
図7図7は、PAOおよびPI-07がα-シヌクレインの分泌を促進することを示すものである。
【0055】
図8図8は、PAOが細胞内α-シヌクレインタンパク質レベルをダウンレギュレートすることを示すものである。(A)ELISAにより、細胞内α-シヌクレインタンパク質レベルを検出。n=6、一元ANOVA、**p < 0.001 vs. α-syn-OE。(B)ウエスタンブロットにより、細胞内のα-シヌクレインタンパク質レベルを検出。
【0056】
図9図9は、PAOがHTTタンパク質およびSOD1タンパク質の分泌を促進することを示すものである。(A)ELISAにより、HTTタンパク質の分泌を検出;(B)ELISAにより、SOD1タンパク質を検出。
【0057】
図10図10は、CBE誘発性SH-SY5Y細胞損傷の低減におけるPAOの作用を示すものである。MTTアッセイにより、細胞生存率を検出。(A)様々な濃度のCBEによりSH-SY5Y細胞を処理;(B)100μMのCBEで処理した後にさまざまな濃度のPAOで24時間処理。n=5、一元ANOVA、**p < 0.001, ***p < 0.0001, vs. α-syn-OE。
【0058】
図11図11は、PAOがCBE誘導性リソソームの凝集と細胞内のグルコシルセラミド(GlcCer)の蓄積を軽減することを示すものである。(A)SH-SY5Y細胞およびリソソームトラッカーを30分間インキュベートし、次に、上清を捨て、様々な濃度のPAOで置き換え、10分間インキュベートし、Lyso-Trackerを免疫蛍光法で観察し;(B)各群のLyso-Tracker蛍光強度を統計的に分析し;スケールバー:50μm;n=5;一元ANOVA分析、対照群と比較して##p < 0.001、100μMのCBE処置群と比較して**p < 0.001および***p < 0.0001;(C)各群の細胞溶解物のGlcCer濃度は、LC/MSアッセイによって統計的に分析する。
【0059】
図12図12は、PI4KIIIa阻害物質A1およびG1がCBE誘導性リソソーム凝集を軽減することを示すものである。SH-SY5Yを100μMのCBEで72時間処理し、次に、Lyso-Trackerを添加してリソソームを標識し、30分後、50nMまたは75nMのA1またはG1を5分間および10分間処理し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)固定後に観察を実施した。スケールバー:50μm。
【0060】
図13図13は、PI4Kaのノックダウンがリソソームのエキソサイトーシスを促進するか、またはリソソーム蓄積を減少させることを示すものである。図13Aは、ノックダウンウェスタンブロットアッセイにより、様々なshRNAレンチウイルスベクター(sh-ctrl、sh1-PI4Ka、sh2-PI4Ka、sh3-PI4Ka)で48時間処理したSH-SY5Y細胞におけるPI4KIIIαタンパク質レベルを検出することを示し;図13Bは、ウエスタンブロット アッセイ結果の統計分析であり;図13Cは、免疫蛍光法によるshRNA干渉レンチウイルスベクター処理後のLyso-Tracker蛍光強度の検出と統計分析(図13D)である。スケールバー:50μm;n=5;データは平均±SEMで示し、一元ANOVA、***p < 0.0001。
【0061】
図14図14は、PAOがLC3Bおよびp62の発現を促進し、Baf-A1が細胞モデルにおけるPAO保護をブロックすることを示すものであり、図34Aは、ウェスタンブロットアッセイによるLC3Bおよびp62タンパク質の検出を示し;34Bおよび34Cは、Image JソフトウェアによるLC3Bおよびp62タンパク質シグナル強度の統計分析を示し;図34Dは、免疫蛍光法によるLC3Bおよびp62の検出を示し、赤色:p62、緑色:LC3B、スケールバー:50μm;図34Eは、MTTによる各群の細胞生存率の決定および統計分析を示す。n=5、データは平均±SEMで示し、一元ANOVA分析、対照群と比較して###p < 0.0001、100μMのCBE処理群と比較して**p < 0.001。
【0062】
図15図15は、PI4Kaのノックダウンが、CBE処理細胞およびCBE無処理細胞においてオートファジー経路を活性化することを示すものである。PAOは、LC3Bおよびp62の発現を促進し、Baf-A1は、細胞モデルにおけるPAO保護をブロックする。(A)ウェスタンブロットアッセイによりLC3Bとp62タンパク質を検出;(B、C)Image JソフトウェアによるLC3Bおよびp62タンパク質シグナル強度の統計分析;(D)免疫蛍光法によるLC3Bおよびp62の検出、赤色:p62、緑色:LC3B、スケールバー:50μm;E)MTTによる各群の細胞生存率の決定、および統計分析。n=5、データは平均±SEMで示し、一元ANOVA分析、対照群と比較して###p < 0.0001、処理群と比較して**p < 0.001。
【0063】
図16図16は、U1866Aによって引き起こされるコレステロール蓄積のPAOによる阻害を示すものである。スケールバー:50μm。
【0064】
発明の詳細な説明
以下、本発明を実施態様に基づき、添付図面と共に詳細に説明する。本発明の上記態様およびその他の態様は、以下の詳細な説明から明らかとなる。なお、本発明の範囲は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0065】
PI4KIIIα特異的阻害物質
本明細書で使用される用語「PI4KIIIα特異的阻害物質」とは、PI4KIIIα遺伝子の転写または翻訳、および/またはPI4KIIIαタンパク質の活性を特異的に低減、減少または排除することができる種々の物質を意味する。いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、PI4KIIIαの活性を少なくとも5%、10%、20%、40%、50%、80%、90%、95%またはそれ以上低下させることができる。本明細書で使用される場合、増加または減少と共に使用される「活性」とは、検出された機能的活性を意味し、これは、変化する量で存在してもよく、または一定量であるが変化する機能的活性で存在してもよいものである。
【0066】
本明細書で使用される場合、PI4KIIIαの活性とは、PI4KIIIαタンパク質がホスファチジルイノシトール(PI)を特定の位置でリン酸化する(例えば、ホスファチジルイノシトール4-ホスフェート(PI4P)に変換する)活性を意味する。PI4KIIIα特異的阻害物質のPI4KIIIαタンパク質に対する結合定数は、PI4KIIIα特異的阻害物質の他の非特異的結合タンパク質に対する結合定数の少なくとも2倍である。いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、好ましくは、他のPI4Kサブタイプタンパク質との混合物を含む複雑な混合物中のPI4KIIIαタンパク質を認識することができる。
【0067】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質はPI4KIIIを、PI4Kタンパク質の他のサブタイプ(例えば、PI4KIIαまたはPI4KIIβを含むPI4Kタンパク質)よりも少なくとも1倍、2倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、500倍または10,000倍強く阻害する。例えば、いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、PI4KII(例えば、PI4KIIαまたはPI4KIIβ)を実質的に阻害しなく、例えば、PI4KIIIα特異的阻害物質のIC50は、10μΜ、20μΜ、30μΜ、40μΜ、50μΜ、60μΜ、80μΜ、100μΜ、150μΜ、200μΜまたは500μΜ以上である。
【0068】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質はPI4KIIIαを、PI4KIIIの他のサブタイプ(例えば、PI4KIIIβ)よりも少なくとも1倍、2倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、500倍、または10,000倍強く阻害する。
【0069】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIαに対するPI4KIIIα特異的阻害物質のIC50は、100μM、80μM、50μM、30μM、20μM、10μM、5μM、3μM、2μM、1μM、0.5μM、0.2μM、0.1μM、0.05μM、0.02μM、0.01μM、0.005μM、0.002μMまたは0.001μM以下である。いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、抗体、小分子化合物、RNAi分子またはアンチセンス核酸である。
【0070】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は抗体である。
【0071】
本明細書で使用される用語「抗体」とは、特定の抗原に結合する任意の免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体、二価抗体、一価抗体または抗体を包含する。本明細書における用語「抗体」とは、通常の4本鎖抗体、ならびに4本鎖を有しない一般的でない抗体(例えば、天然に軽鎖が欠けている抗体)を包含することが意図される。
【0072】
通常の1つのインタクトな抗体は、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含むヘテロテトラマーである。哺乳動物の重鎖は、α鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖に分類され得て、各重鎖は、可変領域(VH)と第1定常領域、第2定常領域および第3定常領域(それぞれCH1、CH2およびCH3)から構成されており;哺乳動物の軽鎖は、λ鎖またはκ鎖に分類され得て、各軽鎖は可変領域(VL)および定常領域から構成されている。通常の抗体は「Y」字型であり、「Y」字型構造の首の部分は、2本の重鎖がジスルフィド結合により結合した第2定常領域および第3定常領域から構成されている。Y字型構造の各アームは、1本の重鎖の可変領域および第1定常領域を含み、これは1本の軽鎖の可変領域および定常領域に結合する。軽鎖および重鎖の可変領域は、抗原結合を決定するものである。各鎖の可変領域は、3つの超可変領域、すなわち相補性決定領域(CDR)を含む(軽鎖のCDRは、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、重鎖のCDRは、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む)。3つのCDRは、CDRよりも高度に保存され、超可変ループを支える足場を形成するフレームワーク領域(FR)と知られている側面連続した部分の間に挟まれている。重鎖および軽鎖の定常領域は、抗原結合には関係しないが、複数のエフェクター機能を有する。
【0073】
本発明のいくつかの実施態様において、抗体は、完全長抗体または抗原結合断片である。
【0074】
本明細書で使用される用語「抗原結合断片」とは、1つまたはそれ以上のCDRを有する抗体部分を含むが、インタクトな抗体構造を有しない抗体断片から形成される抗体断片を意味する。抗原結合断片の例としては、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fv断片、単鎖抗体分子(scFv)、scFvダイマー、ラクダ化単一ドメイン抗体およびナノボディが挙げられるが、これらに限定されない。抗原結合断片は、親抗体と同一の抗原に結合し得る。
【0075】
抗体の「Fab」断片とは、1本の軽鎖(可変領域および定常領域を含む)と、1本の重鎖の可変領域および第1定常領域がジスルフィド結合で結合した抗体部分を意味する。
【0076】
「Fab'」断片とは、ヒンジ領域の一部を含むFab断片を意味する。
【0077】
「F(ab')2」断片とは、Fab'のダイマーを意味する。
【0078】
抗体の「Fv」断片は、1本の軽鎖の可変領域および1本の重鎖の可変領域から構成される。
【0079】
「単鎖抗体分子」または「scFv」とは、軽鎖可変領域と重鎖可変領域が直接連結された、またはペプチド鎖で連結された工学的な抗体を意味する。詳細な説明は、例えば、Huston JS et al., Proc Natl Acad Sci USA, 85:5879 (1988)を参照すること。
【0080】
「scFvダイマー」とは、2つのscFvから形成されるポリマーを意味する。
【0081】
「ラクダ化単一ドメイン抗体」(「重鎖抗体」または「重鎖のみ抗体(HCAb)」とも称される)とは、2つの重鎖可変領域を含むが、軽鎖を含まない抗体を意味する。重鎖抗体は、もともとラクダ科(ラクダ、ヒトコブラクダおよびラマ)に由来する抗体である。ラクダ化抗体は、軽鎖が欠落しているにもかかわらず、抗原結合のための機能をすべて有する。
【0082】
「ナノボディ」は、重鎖抗体からの1つの重鎖可変領域ならびに2つの定常領域CH2、CH3から構成される。
【0083】
いくつかの実施態様において、抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0084】
いくつかの実施態様において、抗体は、マウス抗体、ウサギ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である。
【0085】
本明細書で使用される用語「完全ヒト」とは、抗体または抗原結合断片に適用する場合、抗体または抗原結合断片のアミノ酸配列が、ヒトまたはヒト免疫細胞によって産生されるか、または非ヒト源、例えばヒト抗体ライブラリを利用するトランスジェニック非ヒト動物に由来する抗体のアミノ酸配列、またはヒト抗体をコードする他の配列に対応していることを意味する。
【0086】
本明細書で使用される用語「ヒト化」とは、抗体または抗原結合断片に適用される場合、非ヒト動物由来のCDR、ヒト由来のFR領域、およびヒト由来(該当する場合)の定常領域を含む抗体または抗原結合断片を意味する。ヒト化抗体または抗原結合断片は、それが低い免疫原性を有するため、特定の実施態様においてはヒトの治療薬として使用することができる。特定の実施態様において、非ヒト動物は哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモットまたはハムスター)である。特定の実施形態において、ヒト化抗体または抗原結合断片は、非ヒトであるCDR配列を除いて、本質的に完全にヒト配列から構成される。
【0087】
本明細書で使用される用語「キメラ」とは、抗体または抗原結合性断片に適用する場合、ある種に由来する重鎖および/または軽鎖の一部を有し、残りの重鎖および/または軽鎖が異なる種からの抗体または抗原結合性断片に由来することを意味する。いくつかの実施態様において、キメラ抗体は、ヒト由来の定常領域および、非ヒト動物(例えば、マウスまたはウサギ)由来の可変領域を含むことができる。
【0088】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の抗体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体である。
【0089】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の抗体は、さらに標識されていてもよい。
【0090】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、RNAi分子である。
【0091】
本明細書で使用される用語「RNAi分子」とは、RNA干渉を導くように標的RNAと十分な配列相補性を有するRNAまたはその類似体を意味する。いくつかの実施態様において、RNAを産生するのに使用され得るDNAもまた含まれる。RNA干渉(RNAi)とは、標的分子(例えば、標的遺伝子、タンパク質またはRNA)がダウンレギュレートされる配列特異的または選択的なプロセスを意味する。
【0092】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、PI4KIIIαの発現を低減させることができ、例えば、PI4KA遺伝子をノックダウンすることができる。
【0093】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、[5’- GCTGATCTCTACTACACTTCC -3’](配列番号:1)を有する。
【0094】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、[5’- GGTTATCACCGGAAATCAATA -3’](配列番号:2)を有する。
【0095】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、[5’- GCAACATTATGCTGGACAAGA -3’](配列番号:3)を有する。
【0096】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、18~100塩基長である。
【0097】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、その安定性を向上するように修飾される。
【0098】
いくつかの実施態様において、RNAi分子は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。
【0099】
本明細書で使用される用語「低分子干渉RNA(siRNA)」とは、約10~50ヌクレオチド長、好ましくは約15~25ヌクレオチド長、より好ましくは約17、18、19、20、21、22、23、24または25ヌクレオチド長を有するRNA分子、好ましくは二重鎖分子を意味し、該鎖は場合により、例えば、1、2または3個のオーバーハングヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)を含むオーバーハング末端を有する。siRNAは、RNAの分解を誘導または媒介することができる。
【0100】
本明細書で使用される用語「低分子ヘアピン型RNA(shRNA)」とは、相補的配列の第1領域および第2領域を含み、相補性の程度および領域方向が領域間で塩基対形成が起こるのに十分であり、第1領域および第2領域がループ領域によって結合されており、ループはループ領域のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間で塩基対形成がないことに起因する、ステムループ構造を有するRNA分子を意味する。
【0101】
本明細書で使用される用語「マイクロRNAまたはmiRNA」とは、約16~26ヌクレオチド(nt)長(例えば、約16~29nt、19~22nt、20~25ntまたは21~23nt)の短い、自然に存在する非コード一本鎖RNA分子で、これは一般的に、インビボでの遺伝子発現調節に関与している。真核細胞において、miRNA遺伝子はDNAトランスクリプターゼIIによって「一次miRNA」(pri-miRNA)に転写され、リボヌクレアーゼIII(Drosha)によって「前駆体」miRNA(pre-miRNA)に迅速に処理され、そのpre-miRNAは細胞核から細胞質へ運ばれ、別のリボヌクレアーゼIII(Dicer)によって認識して切断して成熟miRNAになる。成熟miRNA分子は、1つまたはそれ以上のmRNAと部分的に相補的であり、タンパク質の発現を調節する。既知のmiRNAの配列は、miRNAの配列情報、機能アノテーション、予測される遺伝子標的などを含む情報が提供されているmiRBaseデータベース(www.mirbase.org)などの公開データベースから取得することができる。本発明において、miRNAは、合成プラスミドにより細胞内で発現し、天然のmiRNAに類似する構造および機能を有するRNA分子をさらに含み、天然miRNAのように対応するmRNAを標的とし、そのタンパク質への翻訳を防止することができる。
【0102】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、アンチセンス核酸である。
【0103】
本明細書で使用される用語「アンチセンス核酸」とは、アンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズできる限り、標的配列に完全に相補的なヌクレオチド、および1つまたはそれ以上のヌクレオチドミスマッチを有するヌクレオチドを含む。例えば、本明細書のアンチセンス核酸は、少なくとも15の連続するヌクレオチド長にわたって、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドを含む。ハイブリッドの形成により、標的遺伝子の転写および/または標的mRNAの翻訳が減少またはブロックされる。
【0104】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα阻害物質は、小分子化合物である。
【0105】
本明細書で使用される用語「小分子化合物」とは、3000ダルトン、2500ダルトン、2000ダルトン、1500ダルトン、1000ダルトンまたは500ダルトン未満の分子量を有する有機化合物を意味し、天然または化学的に合成されるものであってよい。
【0106】
いくつかの実施態様において、フェニルアルシンオキシドおよびその誘導体は式(I)
【化6】
[式中、R1はそれぞれ独立して、
(a)H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、C1-6アルキレン-NH2、C1-6アルキレン-NH-C(O)H、-As(O)、-N=NH、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)H、-NH-S(O)2H、-C(O)OH、-OC(O)H、-SH、-S(O)2H、-S(O)2-NH2またはヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよく、ここで、R2およびR3はそれぞれ独立して、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、N-(C1-6アルキル)アミノ、N-(6-12員アリール)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、C3-6シクロアルキル、6-12 員アリールまたは3-12員ヘテロシクリルから選択され、これらは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、-NH-C(O)-R5、-C(O)OR4、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R4は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つまたはそれ以上のハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、R5は、H、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルから選択され、および/または
(b) 2個の隣接する炭素原子上のR1は、5-12員シクロアルキル、アリールまたはヘテロシクリルを形成し、これらは場合により、1つまたはそれ以上の ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、6-12員アリール、C1-6アルキル、C2-6アルキニル、C2-6アルケニル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、3-6員ヘテロシクリル、C3-6シクロアルキルまたはBn-O-によって置換されていてよく、
nは、0~5の整数である]
で示される構造を有し、またはその薬学的に許容できる塩である。
【0107】
いくつかの実施態様において、nは、0~2の整数であり、R1はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、カルバモイル、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、N-(C1-6アルキル)アミノ、N,N-(C1-6アルキル)2アミノ、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよい。
【0108】
いくつかの実施態様において、nは、0~2の整数であり、R1はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-As(O)、-NH-C(O)Hまたは-NH-S(O)2Hから選択され、これらは場合により、R2またはR3によって置換されていてよい。
【0109】
いくつかの実施態様において、nは、1または2であり、R1はそれぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、C1-6アルキルスルフリル、C1-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルキル、-NH-C(O)R2または-NH-S(O)2R3から選択され、ここで、R2は、C1-6アルキルであり、これは場合により、1つの6-12員アリールによって置換されていてよく、R3は、6-12員アリールであり、これは場合により、1つのハロゲン、C1-6アルコキシまたはC1-6ハロアルキルによって置換されていてよい。
【0110】
いくつかの実施態様において、R1は、-As(O)のオルト位および/またはパラ位に位置する。
【0111】
いくつかの実施態様において、nは0である。
【0112】
本明細書で使用される用語「置換されている」とは、化学基を意味する場合、化学基の1つまたはそれ以上の水素原子が除去され、置換基によって置換されていることを意味する。
【0113】
本明細書で使用される用語「置換基」とは、当該技術分野で既知の一般的な意味を有し、親基に共有結合しているか、または適切な場合には融合している化学部分を意味する。
【0114】
本明細書で使用される用語「Cn-Cm」は、炭素原子の数の範囲を示し、ここで、nおよびmは整数であり、炭素原子の数の範囲は、端点(すなわち、nおよびm)およびその間の各整数の点を含む。例えば、C1-C6は、1~6個の炭素原子の範囲を示し、これは1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子、4個の炭素原子、5個の炭素原子および6個の炭素原子を含む。
【0115】
本明細書で使用される用語「アルキル」は、別の用語の一部として使用されるか、または単独で使用されるかにかかわらず、飽和炭化水素基を意味し、これは、直鎖状または分枝状であってもよい。用語「Cn-Cmアルキル」とは、n~m個の炭素原子を有するアルキルを意味する。特定の実施態様において、アルキル基は、1~12個、1~8個、1~6個、1~4個、1~3個、または1~2個の炭素原子を含む。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、2-メチル-1-ブチル、n-ペンチル、3-ペンチル、n-ヘキシル、1,2,2-トリメチルプロピルなどの化学基があるが、これらに限定されない。
【0116】
本明細書で使用される用語「アルケニル」とは、別の用語の一部として使用されるか、または単独で使用されるかにかかわらず、不飽和ヒドロカルビル基を意味し、これは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐鎖基であってもよい。特定の実施形態において、アルケニル基は、2~12個、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個、または2~3個の炭素原子を含む。特定の実施形態において、アルケニル基は、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個の炭素-炭素二重結合を有することもできる。アルケニル基の例としては、エテニル、n-プロペニル、イソプロペニル、n-ブテニル、sec-ブテニルなどの化学基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
本明細書で使用される用語「アルキニル」とは、別の用語の一部として使用されるか、または単独で使用されるかにかかわらず、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する、直鎖状または分枝状の不飽和アルキニル基を意味する。特定の実施態様において、アルキニル基は、2~12個、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個、または2~3個の炭素原子を含む。特定の実施態様において、アルキニル基は、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個の炭素-炭素三重結合を有することもできる。アルキニル基の例としては、エチニル、プロピニルおよびブチニルなどの化学基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
本明細書で使用される用語「シクロアルキル」とは、少なくとも3個の原子からなる環状アルキルを意味する。また、用語「n-m員シクロアルキル」とは、環を形成するn-m個の構成員を有するシクロアルキルを意味する。さらに、環は、1つまたはそれ以上の二重結合を有していてもよいが、完全な共役系を有していない。特定の実施態様において、シクロアルキルは、3~8個、3~6個、または4~6個の炭素原子が環を形成している。シクロアルキルの例としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
本明細書で使用される用語「ヘテロシクリル」は、環系内の少なくとも1つの原子がヘテロ原子であり、残りの環原子が炭素原子である環状基を意味する。用語「n-m員ヘテロシクリル」とは、環を形成するn~m個の構成員を有するヘテロシクリルを意味する。本明細書で使用される用語「ヘテロシクリル」は、ヘテロアリールおよびヘテロシクロアルキルを含む。さらに、環は、1つまたはそれ以上の二重結合を有していてもよい。特定の実施態様において、ヘテロシクリルは、飽和ヘテロシクロアルキルである。ヘテロ原子の例としては、酸素、硫黄、窒素、リンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
本明細書で使用される用語「ヘテロシクロアルキル」とは、環系内の少なくとも1つの原子がヘテロ原子であり、残りの環原子が炭素原子であるシクロアルキルを意味する。用語「n-m員ヘテロシクロアルキル」とは、環を形成するn~m個の構成員を有するヘテロシクロアルキルを意味する。さらに、環は、1つまたはそれ以上の二重結合を有していてもよいが、完全な共役系を有していない。特定の実施態様において、ヘテロシクロアルキルは、飽和ヘテロシクロアルキルである。ヘテロ原子の例としては、酸素、硫黄、窒素、リンなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、ヘテロシクロアルキルは、環を形成する3~8個、3~6個、または4~6個の炭素原子を有する。ヘテロシクロアルキルの例としては、アゼチジン、アジリジン、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリン、ホモピペラジンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
本明細書で使用される用語「アリール」とは、別の用語の一部として使用されるかまたは単独で使用されるかにかかわらず、環を形成する炭素原子間に交互に二重結合および単結合を有するモノまたはポリ炭素環式環系基を意味する。用語「Cn-Cmアリール」とは、環を形成するn~m個の炭素原子を有するアリールを意味する。特定の実施態様において、アリール環系は、1つまたはそれ以上の環に6~12個、6~10個、または6~8個の炭素原子を有する。特定の実施態様において、アリール環系は、2つまたはそれ以上の環が一緒に縮合したものを有する。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルなどの化学基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本明細書で使用される用語「ヘテロアリール」とは、芳香環の少なくとも1つの環原子がヘテロ原子であり、残りの環原子が炭素原子であるアリール基を意味する。用語「n-m員ヘテロアリール」とは、環を形成するn~m個の構成員を有するヘテロアリールを意味する。ヘテロ原子の例としては、酸素、硫黄、窒素、リンなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施態様において、ヘテロアリールは、環を形成する5~10個、5~8個、または5~6個の構成員を有し得る。特定の実施態様において、ヘテロアリールは、5員または6員のヘテロアリールである。ヘテロアリールの例としては、フリル、チエニル、ピリジル、キノリル、ピロリル、N-低級アルキルピロリル、ピリジル-N-オキシド、ピリミジニル、ピラジニル、イミダゾリル、インドリルなどがあるが、これらに限定されない。
【0123】
本明細書で使用される用語「アルコキシ」とは、別の用語の一部として使用されるか、または単独で使用されるかにかかわらず、式「-O-アルキル」で示される基を意味する。用語「Cn-Cmアルコキシ」は、アルコキシのアルキル部分がn~m個の炭素原子を有することを意味する。特定の実施態様において、アルキル部分は、1~6個、1~4個、または1~3個の炭素原子を有する。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ(例えば、n-プロポキシおよびイソプロポキシ)、t-ブトキシなどの化学基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
本明細書で使用される用語「ハロアルキル」とは、別の用語の一部として使用されるか、または単独で使用されるかにかかわらず、式「-アルキル-X」[式中、Xはハロゲンであって、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される原子である]で示される基を意味する。用語「Cn-Cmハロアルキル」とは、ハロアルキルのアルキル部分がn~m個の炭素原子を有することを意味する。特定の実施態様において、アルキル部分は、1~6個、1~4個、または1~3個の炭素原子を有する。ハロアルキル基の例としては、ハロメチル、ハロエチル、ハロプロピル(例えば、n-ハロプロピルおよびイソハロプロピル)、t-ハロブチルなどの化学基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
本明細書で使用される用語「n員」とは、nが整数である場合、一般的に環系において環を形成する原子の数を示すために、環系と共に使用される。例えば、ピペリジニルは6員ヘテロシクロアルキル環の一例であり、ピラゾリルは5員ヘテロアリール環の一例であり、ピリジニルは6員ヘテロアリール環の一例であり、1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレンは10員のアリールの一例である。本明細書で使用される用語「n員-m員」とは、一般的に、環系において環を形成する構成員の数を表すために環系と共に使用されるものであり、ここで、nおよびmは整数であり、環を形成する構成員の範囲は、端点(すなわち、nおよびm)およびその間の各整数の点を含む。例えば、3員-8員とは、3員、4員、5員、6員、7員、8員など、環を形成する構成員が3~8個の範囲であることを意味する。
【0126】
本明細書で使用される用語「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される原子を意味する。
【0127】
本明細書で使用される用語「シアノ」とは、式「-CN」で示される基を意味する。
【0128】
本明細書で使用される用語「ヒドロキシル」とは、式「-OH」で示される基を意味する。
【0129】
本明細書で使用される用語「ニトロ」とは、式「-NO2」で示される基を意味する。
【0130】
本明細書で使用される用語「アミノ」とは、式「-NH2」で示される基を意味する。
【0131】
本明細書で使用される用語「カルバモイル」とは、式「-HNCONH2」で示される基を意味する。
【0132】
本明細書で使用される用語「化合物」とは、示される構造のすべての立体異性体(例えば、エナンチオマーおよびジアステレオマー)、幾何異性体および互変異性体を含むことを意図するものである。
【0133】
本明細書に記載の化合物は、非対称であってもよい(例えば、1つまたはそれ以上の立体中心を有するもの)。特に断らない限り、エナンチオマーおよびジアステレオマーなどの全ての立体異性体が含まれることが意図されている。オレフィン、炭素-炭素二重結合などを含む様々な幾何異性体も、本明細書に記載の化合物に存在し得て、そのような安定異性体はすべて本明細書で企図されてきたものである。化合物のCis-およびtrans-幾何異性体は、本明細書に記載されており、異性体の混合物として、または個々の異性体として単離され得る。
【0134】
本明細書の化合物は、化合物の互変異性形態も含む。互変異性形態は、プロトンの移動を伴う隣接する二重結合との単結合の交換に起因するものである。互変異性形態は、同じ化学式および全電荷を有する異性プロトン化状態のプロトンの互変異性体を含む。プロトン互変異性体の例としては、ケト-エノール対、アミド-イミド酸対、ラクタム-ラクチム対、エナミン-イミン対、およびプロトンがヘテロ環系の2つまたはそれ以上の位置を占めることができる環状形態、例えば1H-および3H-イミダゾール、1H-、2H-および4H-1,2,4-トリアゾール、1H-および2H-イソインドールおよび1H-および2H-ピラゾールが含まれる。互変異性形態は平衡状態にあるか、適切な置換によって1つの形態に立体的に固定され得る。
【0135】
特定の実施態様において、本明細書の小分子化合物は、有機合成によって得ることができる。本明細書の化合物(その塩、エステル、水和物、または溶媒和物を含む)は、周知の有機合成技術のいずれかを用いて調製することができ、様々な可能な合成経路に従って合成することができる。
【0136】
いくつかの実施態様において、本明細書の小分子化合物は、構造式
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
を有する化合物であって、それらの1つまたはそれ以上を含むものである。
【0137】
本明細書で使用される用語「フェニルアルシンオキシド」(PAO)とは、以下の特定の化学構造を有する小分子化合物を意味する:
【化11】
【0138】
本明細書で使用される用語「A1」および「G1」は、両方ともPI4KIIIαタンパク質の小分子化合物阻害物質であり、比較的類似した構造を有する。A1の化学構造式は、
【化12】
5-(2-アミノ-1-(4-(4-モルホリニル)フェニル)-1H-ベンズイミダゾール-6-イル)-N-(2-フルオロフェニル)-2-メトキシ-3-ピリジンスルホンアミド
である。
【0139】
G1の化学構造式は、
【化13】
(aS)-5-(2-アミノ-4-オキソ-3-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロキナゾリン-6-イル)-N-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-メトキシピリジン-3-スルホンアミド。
である。
【0140】
本発明はまた、フェニルアルシンオキシドの誘導体およびA1またはG1の類似体に関し、該誘導体および類似体は、PI4KIIIαタンパク質のホスホキナーゼ活性を阻害する機能を有する限り、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患およびリソソーム蓄積症の処置にも使用でき、かかる構造類似体を調製する方法も開示されている。いくつかの実施態様において、フェニルアルシンオキシド、A1またはG1の誘導体は、フェニルアルシンオキシド、A1またはG1に類似する構造を有する類似体である。
【0141】
細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患
本明細書で使用される用語「細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患」とは、細胞質内で異常に折り畳まれたタンパク質が凝集することを特徴とする疾患を意味し、タンパク質凝集/蓄積疾患またはタンパク質ミスフォールディング疾患とも診断される。さらに、用語「細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患」には、細胞内タンパク質のミスフォールディング関連疾患には、いくつかの細胞内封入体疾患、例えばタンパク質封入体蓄積疾患が含まれ、ここで、封入体は主に、フォールディングエラーにより凝集されたコアタンパク質と、折り畳まれていないタンパク質への応答に関与する、外部に付着した様々なストレスタンパク質を包含するものである。
【0142】
細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患には、パーキンソン病(PD)、レビー小体認知症(LBD)、多系統萎縮症(MSA)、封入体筋炎(IBM)、前頭側頭骨性認知症(FTD)、ハンチントン病(HD)、ポリグルタミン病(PolyQ)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびプリオン病が含まれるが、これらに限定されない。
【0143】
リソソーム蓄積症
本明細書で使用される用語「リソソーム蓄積症」とは、様々な理由でいくつかの内因性物質または外因性物質がリソソームに蓄積されることにより引き起こされる疾患を意味し、これには、リソソームにおける酵素活性の不足、アクチベータータンパク質、輸送タンパク質またはリソソームタンパク質の処理・補正酵素の不足より引き起こされるリソソーム機能不全、これにより対応する基質が二次リソソームで消化されずに蓄積し、代謝障害を起こして蓄積症に至ることが含まれるが、これらに限定されない。
【0144】
リソソーム蓄積症には、スフィンゴ脂質代謝障害、ムコ多糖症、グリコーゲン蓄積症、糖タンパク質蓄積症、脂質蓄積症、翻訳後修飾欠損症、内在性膜タンパク質欠乏症、神経セロイドリポフスチン症またはリソソーム関連細胞小器官の障害(lysosome-related organelle disorder)が含まれるが、これらに限定されない。スフィンゴ脂質代謝障害には、ファブリー病、代謝障害性皮膚疾患(Farbe病)、ゴーシェ病I型、II型、III型および胎児死亡、GM1 ガングリオシドーシスI型、II型およびIII型、GM2ガングリオシドーシス(家族性黒内障性白痴)、GM2ガングリオシドーシス、スフェロイド白質ジストロフィー(spheroid leukodystrophy)(クラッベ病)、異染性白質ジストロフィー、およびニーマン・ピック病A型およびB型が含まれるが、これらに限定されなく;ムコ多糖症には、ハーラー症候群およびシャイエ症候群(ML I)、Hunt症候群(MPS II)、サンフィリポ症候群A(MPS IIIA)、サンフィリポ症候群B(MPS IIIB)、サンフィリポ症候群C(MPS IIIC)、サンフィリポ症候群D(MPS IIID)、エクセントロ・オステオコンドロジスプラシア症候群(MPS IVA)、エクセントロ・オステオコンドロジスプラシア症候群(MPS IVB)、マロトー・ラミー症候群(Lamy症候群、MPS VI)、スライ症候群(MPS VII)およびMPSIXが含まれるが、これらに限定されなく; グリコーゲン蓄積症には、ポンぺ病(GSD II)が含まれるが、これに限定されなく;糖タンパク質蓄積症には、α-マンノシド蓄積症、β-マンノシド蓄積症、フコシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、シンドラー病I型(幼児期発症の神経軸索ジストロフィー)、シンドラー病II型(Kanzaki病)、シンドラー病III型(中重度)、シアル酸蓄積症I型(さくらんぼ赤色斑ミオクローヌス症候群)、シアル酸蓄積症II型(ムコ多糖症I)、およびガラクトシアリドーシスが含まれるが、これらに限定されなく;脂質蓄積症には、酸性リパーゼ欠乏症、例えばウルフマン病およびコレステロールエステル蓄積症がふくまれるが、これらに限定されなく;翻訳後修飾欠損症には、多種スルファターゼ欠損症、ムコリピド症II α/β(I細胞病)、ムコリピド症II α/β(偽性ハーラー症候群変異型)およびムコリピド症III γ(偽性ハーラー症候群変異型変異型)が含まれるが、これらに限定されなく;内在性膜タンパク質欠乏症には、シスチン症、ダノン病(Danon's disease)、ミオクローヌス腎不全症候群、シアル酸蓄積障害、例えばISSD、サラ症候群および中等度サラ症候群、ニーマン・ピック病C1型およびC2型およびムコリピド症IV型が含まれるが、これらに限定されなく;神経セロイドリポフスチン症には、セロイドリポフスチン症1型(ハルティア-サンタヴオリ症候群およびINCL)、神経セロイドリポフスチン症2型(ヤンキー・ビエルショフスキー症候群)、セロイドリポフスチン症3型(バッテン・シュピールマイヤー・シェーグレン症候群)、セロイドリポフスチン症4型(パリー病(Parry's disease) および Kuf A型およびB型)、セロイドリポフスチン症5型(幼児型フィンランド語変異型)、セロイドリポフスチン症6型(Lake-CavanaghまたはIndiana変異型)、セロイドリポフスチン症7型(トルコ変異型)、セロイドリポフスチン症8型(北方てんかん、てんかん的知的低下(epileptic intellectual deterioration))、セロイドリポフスチン症9型、セロイドリポフスチン症10型、セロイドリポフスチン症11型、セロイドリポフスチン症12型、セロイドリポフスチン症13型、セロイドリポフスチン症14型が含まれるが、これらに限定されなく;リソソーム関連細胞小器官の障害(lysosome-related organelle disorder)には、ヘルマンスキー・パドラック病1型、ヘルマンスキー・パドラック病2型、ヘルマンスキー・パドラック病3型、ヘルマンスキー・パドラック病4型、ヘルマンスキー・パドラック病5型、ヘルマンスキー・パドラック病6型、ヘルマンスキー・パドラック病7型、ヘルマンスキー・パドラック病8型、ヘルマンスキー・パドラック病9型、グリシェリ症候群1(エレジャルデ症候群)、グリシェリ症候群2および Chediak-Higashi病が含まれるが、これらに限定されない。
【0145】
薬物投与および医学的使用
本明細書で使用される用語「薬学的に許容できる」とは、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なしに、合理的な医学的判断の範囲内でヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合った化合物、材料、組成物および/または投与形態を意味する。特定の実施態様において、薬学的に許容できる化合物、材料、組成物、および/または投与形態は、動物(より詳細にはヒト)における使用について規制機関(例えば、米国食品医薬品局(United States Food and Drug Administラットion)、中国国家医療品管理局(National Medical Products Administラットion of China)、または欧州医薬品庁(European Medicines Agency))により承認されたか、または一般的に認識されている薬局方(例えば、米国薬局方、中国薬局方、または欧州薬局方)に記載されているものを意味する。
【0146】
本明細書で使用される用語「対象」とは、ヒトおよび非ヒト動物の両方を含み得る。非ヒト動物には、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物が含まれる。また、「対象」は、家畜(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、トリ、ウサギまたはウマ)、齧歯類(例えば、ラットまたはマウス)、霊長類(例えば、ゴリラまたはサル)または飼育動物(例えば、イヌまたはネコ)でもあり得る。「対象」は、男性であっても女性であってもよく、また、年齢が異なっていてもよい。ヒトの「対象」は、白人、アフリカ人、アジア人、セム人、その他の人種であってもよく、異なる人種のハイブリッドであってもよい。ヒトの「対象」は、高齢者、成人、青年、子供または幼児であってもよい。
【0147】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の対象は、ヒトまたは非ヒト霊長類である。
【0148】
本明細書に開示されるPI4KIIIα特異的阻害物質は、当技術分野において周知の投与経路、例えば、注射(例えば、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射(静脈内滴注または静脈内注入を含む)、筋肉内注射または皮内注射)または非注射(例えば、経口、経鼻、舌下、直腸または局所投与)によって投与することができる。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のPI4KIIIα特異的阻害物質は、経口、皮下、筋肉内、または静脈内投与される。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のPI4KIIIα特異的阻害物質は、経口投与される。
【0149】
本明細書で使用される用語「治療有効量」とは、対象の疾患または症状を軽減または除去する、または疾患もしくは症状の発症を予防的に阻害または予防する薬物の量を意味する。治療有効量は、対象の1つまたはそれ以上の疾患もしくは症状をある程度軽減する薬物の量;疾患もしくは症状の原因に関連する1つまたはそれ以上の通常の生理学的または生化学的パラメーターを部分的または完全に正常に回復させることができる薬物の量;および/または疾患もしくは症状の進展の可能性を低減し得る薬物の量を意味する。いくつかの実施態様において、本明細書で使用される用語「治療有効量」とは、対象の細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を軽減または排除することができる薬物の量を意味する。
【0150】
本明細書で提供されるPI4KIIIα特異的阻害物質の治療有効量は、体重、年齢、過去の病歴、現在受けている処置、対象の健康状態ならびに薬物相互作用、アレルギー、過敏症および副作用の強さ、ならびに投与経路および疾患の進行度などの当業者に周知の種々の要因に依存する。当業者(例えば、医師または獣医師)は、これらの条件または他の条件または要件に応じて、投与量を下げるか、上げることができる。
【0151】
いくつかの実施態様において、前記の処置は、それを必要とする対象に第二の物質を投与することをさらに含む。
【0152】
いくつかの実施態様において、前記第二の物質は、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を処置するためのものであり、レボドパおよびリルゾールを含むが、これらに限定されない。
【0153】
いくつかの実施態様において、PI4KIIIα特異的阻害物質は、第二の物質を投与する前、後、または同時に投与される。
【0154】
本出願はまた、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を予防または処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量のPI4KIIIα特異的阻害物質を投与することを含む方法に関する。
【0155】
本出願はまた、リソソーム蓄積症を予防または処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量のPI4KIIIα特異的阻害物質を投与することを含む方法に関する。
【0156】
薬物スクリーニング
本発明は、細胞内タンパク質ミスフォールディング関連疾患を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質もしくは核酸またはPI4KIIIαと接触させること、薬剤候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害することができるかどうかを検出することを含む、方法を提供する。
【0157】
本発明はまた、リソソーム蓄積症を予防または処置するための薬物をスクリーニングする方法であって、薬物候補物質をPI4KIIIαタンパク質もしくは核酸またはPI4KIIIαと接触させること、薬剤候補物質がPI4KIIIαの形成または活性を阻害することができるかどうかを検出することを含む、方法を提供する。
【実施例
【0158】
実施例1.PI4KIIIα阻害物質によるミクログリアリソソームのエキソサイトーシスの促進
【0159】
1.1 実験動物
使用したマウスは、野生型(WT)C57BL/6Jマウスと、PI4KAのヘテロ接合性ノックアウト(KO)C57BL/6Jマウスである。雄のPI4KA-/+変異マウス[Pi4kaGt (RRO073) Byg/+, MMRRC, Cat. #016351, UC Davis Mouse Resource Center (USA)]と野生型C57BL/6マウスを5世代以上戻し交雑させた。次に、得られたPi4kaGt (RRO073) Byg/+マウスを本試験に使用した。WTマウスはGemPharmatech Co., Ltd.から購入し、すべてのマウスはFudan University薬学研究所動物研究センター(中国、上海)で繁殖させた。すべてのマウスは5匹/ケージ以下の標準ケージで飼育し、12時間の明暗サイクルの間、餌と水の摂取を制限しなかった。繁殖を必要とするマウスについては、1ケージあたり雄1匹、雌2匹以下で飼育した。
【0160】
1.2 初代ミクログリアの単離と培養(完全培地:MEM+10%FBS)
【0161】
a. 混合ミクログリアの単離と培養
18~20日の妊娠マウスを麻酔剤(1.2%アバメクチンを0.3mL/10gで腹腔内に注射)で麻酔し、胚を採取して滅菌ビーカーに入れ、ビーカーの口を薄膜手袋で密閉して細胞室に移した。頭を切り、脳を取り出し、これまでの手順は、初代ニューロン細胞を採取する場合と同様であった。採取した脳組織は、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)を含む細胞培養皿に入れ、次に、解剖顕微鏡下で大脳皮質を分離してHBSSに入れ、大脳皮質に付着した髄膜と血管を剥がして鉗子で引き裂き、15mLのEP管に吸引した。HBSS洗浄後、HBSSを捨て、トリプシンを添加し(トリプシン容量は細胞量に依存し、一般的に10×トリプシン比は1:10)、37℃、CO2インキュベーター内で10分間消化し、次に、トリプシンを捨て、FBS(全容量の約20%)を添加して1.5~2分間消化反応を停止させた。FBSを、使い捨てピペットを用いて注意深くピペッティングし、MEM培養液を添加し、培養液が細胞を含む懸濁液になるまでピペッティングを繰り返し、この時、細胞は明らかな塊や組織片なしにMEM培養液中に均一に分散し、70ミクロン細胞ふるいを用いて篩い分けを行い;完全培地を添加し、細胞を均一にピペッティングし、カウントし;T25細胞培養用フラスコにFBSを10%含むMEM完全培地を添加し、1匹の胎児マウスの脳から分離したミクログリア細胞を各1個の培養フラスコで培養した。培養フラスコをCO2を含むインキュベーターでインキュベートし、一晩後に古い培養培地を捨て、新鮮な培養培地に置き換え、その後、48時間ごとに培地を置き換え、約10日後に細胞の層状の成長が観察され、ここで、屈折性の高い上層はミクログリアであり、成長を支える下層は星状膠細胞であった。
【0162】
b. マイルドなトリプシン消化法によるミクログリアの分離と精製
古い培養液を捨て、PBSで3回洗浄し、低濃度0.125%トリプシン5mLを添加して消化し、培養フラスコを振盪しながら倒立顕微鏡で観察し;ミクログリアを含む懸濁液を、上層細胞の大部分が剥がれた後に15mL遠心管に移した、4℃の低温、回転数1000gで5分間遠心分離し、ピペッティングにより上清を除去し、次に、完全培地2mLを添加して、細胞沈殿物を再懸濁し、細胞懸濁液を0.4%トリパンブルー溶液と9:1の割合でよく混合し、次に、混合物を血液カウントチャンバーに滴下してカウントした。カウント後、ポリリジンコーティング35mmガラス底培養皿に1×106の細胞数で接種し、30分後に古い培地を新鮮な完全培地に置き換え、完全付着していない乱交雑の細胞を除去し、残った細胞をCO2を含むインキュベーター内で培養した。精製から24時間後に培地を新鮮な完全培養液に置き換え、次に、2日ごとに培養液の全部または半分を置き換えた。初代ミクログリアを少なくとも4時間培養した後、培地を無血清培養液に置き換え、次に、実験を行った。
【0163】
1.3 ミクログリアIba1抗体のイムノール染色
Iba1(Ionized calcium-binding adapter molecule 1) 抗体は、ミクログリアやマクロファージに特異的な抗体で、ミクログリアが特異的に発現するカルシウム結合タンパク質に特異的に結合でき、中枢神経系におけるミクログリアのマーカーである。
【0164】
4%(w/v)のPFAの配合:まず、水700mLを磁力で攪拌して温度上昇を促進し、温度上昇後の溶解を助けるために1M 水酸化ナトリウム溶液を数滴滴下し、次に、パラホルムアルデヒド(PFA)40gを添加し、攪拌して完全に溶解させ、加熱した10×PBSを100mL添加し、水で1Lとし、pHを8.0に調整し、混合溶液を濾過し、50mL遠沈管にアリコットし、遠沈管を4℃の冷蔵庫に入れ、冷ましてから保存した。
【0165】
分離して精製したミクログリアをPDLでコーティングしたカバーガラスを敷いた12ウェルプレートに播種し、細胞コンフルエンスが約70%に達した時点で培養液を捨て、PBSで3回(各回5分間)洗浄し、PBSを捨て、4%(w/v)PFAを用いて4℃で20分間固定し、PBSを用いて3回(各回5分間)洗浄し、次に0.2%(w/v) Triton X-100-PBSを用いて室温で5分間透過処理し、PBSを用いて3回(各回5分間)洗浄した。固定した細胞は、室温で1時間の10%BSA(PBS)とのインキュベーションによりブロックし、PBSで2回洗浄した。細胞スライドを暗箱に入れ、抗Iba1抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、PBSで3回(各回5分間)洗浄した。蛍光標識した二次抗体を添加し、暗所で室温で1時間インキュベートし、PBSで4回(各回5分間)洗浄した。DAPI色素を含む抗蛍光消光マウント溶液(quenching mounting solution)を添加し、カバーガラスをガラススライド上で逆に座屈させ、細胞スライドを透明なマニキュアで密封し、アッセイ用の暗箱に入れた。一次抗体は1:500で希釈し、二次抗体は1:1000で希釈した。
【0166】
蛍光写真3枚を無作為に選択し、Image-pro-plusソフトウェアを用いて全画像を分析した。赤い点が陽性細胞数、青い点が核の総数で、陽性細胞率を計算した。計算式は以下の通りである:陽性細胞率(%)=陽性染色細胞数/全核数×100%。陽性細胞率を計算した結果、本実験における精製ミクログリアの純度は>95%であり、精製ミクログリアはその後の実験に使用することができる。
【0167】
1.4 蛍光染色および生細胞イメージング
生細胞イメージングを必要とする初代ミクログリアをガラス底培養皿に接種し、実験前に古い培養液を無血清培養液に置き換え、一晩培養した。1mM LysoTracker Red DND-99 を、10%FBS含有MEM完全培地で50nMに希釈し;古い培養液を、蛍光プローブを含む添加液に置き換えた後、培養皿をCO2インキュベーターに入れ30分間インキュベートして生細胞のリソソームを染色し、細胞内ATPを100nMに希釈したキナクリンで染色した。対物レンズにPlan Apo60×1.40倍オイルレンズを用いたNikon倒立顕微鏡(Nikon Eclipse Ti-E, Japan)で蛍光写真を撮影し、連続レーザースキャンにより生細胞イメージングを行い、LysoTrackerの発光は561nm、Quinacrineの発光は488nmであった。高濃度PAO母液を、培養液中のPAO母液の最終濃度が100nMとなるようにスポット的に細胞培養液に添加し、タイミングはスポット的にPAO添加0秒目から行い、タイムラプス撮影(time lapse shooting)により10秒ごとに蛍光画像を収集し、総撮影時間は500秒、蛍光画像分析はVolocityソフトウェア(PerkinElmer)を用いて実施した。タイムラプス撮影では、レーザー出力を可能な限り(<1%)下げて、蛍光漂白を避けた。
【0168】
1.5 PI4KIIIα阻害物質による細胞の処理
初代ミクログリアを、PI4KIIIαの特異的阻害物質である、低濃度のフェニルアルシンオキシド(PAO)で処理した。初代ミクログリア培養液を、完全培地で希釈した濃度0nM、25nM、100nMのPAOとそれぞれ1時間インキュベートし、次に、細胞サンプルを集めて、リソソームのエキソサイトーシスイメジングを行うか、または培養液を集めて細胞外液中のATP濃度を測定した。ミクログリアを、対照実験としてのPAOを含まない10%FBS含有MEM培養液で処理した。
【0169】
1.6 細胞培養液中のATPの濃度の測定
細胞外液中のATP含有量は、ルシフェラーゼ報告実験を用いた生物発光法により測定した。ミクログリアを無血清MEM培地で一晩飢餓状態とした。ATPの加水分解を防ぐために、ATPヒドロラーゼ阻害物質ジピリダモール(10μM)を実験中培地に添加した。0nM、25nM、100nMのPI4KIIIα阻害物質PAOをそれぞれ添加し、0分間、4分間、6分間、8分間、15分間、30分間および60分それぞれインキュベートした。ルシフェラーゼ-ルシフェリン緩衝液を含むATPアッセイ混合液50μLを不透明白色の96ウェルプレートに添加し、2分間静置してウェル内のATPを消費させ、次に、試料50μLをウェルに添加した。Varioskan Flash(Thermo Fisher Scientific)多機能マイクロプレートリーダーを用いて溶液の発光値を測定した。標準ATP試料の発光値から標準曲線を得て、標準式を参照して試料中のATP含有量を得た。データは、1群につき少なくとも3回の実験の平均±SEMで示した。統計データ分析は、一元ANOVA分析で行った。
【0170】
1.7 細胞中の総タンパク質含有量の測定
古い細胞培養液を吸引し、PBS緩衝液を添加して3回洗浄し、PBSを捨て、1%プロテアーゼ阻害物質を含むRIPA溶解物(12ウェルプレートでは100μL/ウェル)を添加し、氷上に置いて30分間融解し、次に、ウェル底部の細胞をセルスクレーパでこすり落とし、1.5mL遠心管に入れ、15000rpm、4℃で30分間遠心分離して上清を集め、その中の総タンパク質含有量を測定した。作業溶液と標準溶液を説明書の要求にしたがって調製し、96ウェルプレートに試料と作業溶液を1:8の比で、すなわち、各ウェルに試料、BSA標準液25μL、作業液200μLを添加し、平板振動子上で30秒間均一に混合し、次に、ウェルプレートをアルミホイルで覆い37℃で30分間インキュベートし、ウェルプレートを室温に冷却した後にウェルプレートの562nmにおける吸光度を測定した。標準曲線から細胞内総タンパク質濃度を計算することができる。
【0171】
1.8 統計分析
データ処理は、GraphPad Prism 5ソフトウェアを用いて分析した。処理には一元ANOVA分析を用い、平均値±SEM、p<0.03は統計的な差があったことを示す。
【0172】
1.9 PI4KIIIα阻害によるミクログリアのリソソームの蛍光強度の低下の促進
【0173】
実験で精製したミクログリアの純度は、陽性細胞率を算出した結果、>95%であり、精製したミクログリアはその後の実験に使用することができる。
【0174】
培養ミクログリア(それぞれC57B6またはPI4KA-/+変異マウス由来)については、1mM LysoTracker Red DND-99を50nMに希釈し、古い培養液を蛍光プローブを含む添加液に置き換えた後、培養皿を30分間インキュベートして生細胞のリソソーム染色を実施した。初代ミクログリア細胞培養液を100nM濃度のPAOまたは培養液で1時間培養した後、蛍光イメージングを行った(図1)。
【0175】
図1では、時間(0秒から500秒まで)と共に蛍光強度が減少していることを示し、これは、リソソーム膜と細胞質膜の融合により、リソソーム内で蛍光色素の解離することを示している。図1(A)の対照群(PAOを含まない野生型WTマウス細胞)において、各蛍光スポットの蛍光強度は500秒以内にあまり変化せず、0秒の蛍光強度と比較して、250秒では13.5%(p<0.001)、従来の500秒のリソソームのエキソサイトーシス後は15.1%(p<0.001)だけ蛍光強度が低下した。図1(B)のPAO(100nM)群において、100秒で5.2%の変色(p<0.001)、200秒で47.4%の変色(p<0.001)、400秒で68.5%(p<0.001)、500秒で70.1%(p<0.001)となっていることが示された。図1(C)のPI4K+/-群において、スポットによっては蛍光強度の低下が軽微であり、平均蛍光強度の低下は45.1%(p<0.001)であり、蛍光強度の変化の大きさは200秒以降に低下した。
【0176】
1.10 BPBによるミクログリアのリソソームの蛍光の減衰
この「kiss-and-run」融合形式をさらに検証するために、膜不透過性の蛍光消光剤であるブロモフェノールブルー(BPB)を作用濃度1mMで導入した。BPBは、「kiss-and-run」プロセスで形成される融合孔から速やかに拡散し、リソソーム膜内部のリーフレットに残留する蛍光を消光することができる。何も処理していない初代ミクログリアは、通常のエキソサイトーシスを受ける可能性があり、少量のBPBが細胞に入るようにし、一方、PI4KIIIα酵素活性を阻害すると、大量のBPBが「kiss-and-run」過程で形成された融合孔を通ってリソソームの内葉に入り、細胞内のリソソーム蛍光を短時間クエンチングした(図2)。
【0177】
図2(A)は、対照群において、0秒での蛍光強度と比較して、250秒では17.7%(p<0.001)、500秒では20.2%(p<0.001)、変色していることを示す。図2(B)は、PAO処理後、0秒での蛍光強度と比較して、10秒では22.3%(p<0.001)、50秒では55.1%(p<0.001)、100秒では62.8%(p<0.001)、200秒では69.1%(p<0.001)、400秒では75.5%(p<0.001)、500秒では78%(p<0.001)、変色していることを示す。図2(C)において、22個の蛍光スポットの平均蛍光強度は、0秒での平均蛍光強度と比較して、500秒では62.5%減少した。
【0178】
1.11 リソソームからのBPBの拡散によるミクログリアのリソソームの蛍光の回復・増加
【0179】
また、BPB溶液中で1時間インキュベートすると、BPBは通常のエキソサイトーシスを介して細胞内に入って、限られた濃度に達し、リソソームの蛍光はクエンチされ;このとき、PI4KIIIαのダウンレギュレーションによりリソソームと細胞質膜が「kiss-and-run」で融合し、リソソームの色素が解離する前にBPBがリソソームから拡散し、一時クエンチしていたリソソームの蛍光が再発光した(図3)。
【0180】
図3(A)は対照実験で、リソソームの蛍光強度は500秒ではほとんど変化しないが、0秒での蛍光強度と比較すると1.4%とわずかに向上した。図3(B)において、最初の200秒で、融合孔の存在により、細胞外のBPBがWT細胞に入り込んでリソソームの蛍光を一時的にクエンチし、0秒での場合と比較して蛍光強度が平均41.8%低下している。次の300秒では、融合孔の存在により、色素がリソソームから解離する前に細胞内BPBが再び融合孔を介して細胞外に排出され、一時クエンチした蛍光の回復が可能となり、0秒での場合と比較して26.4%向上した。図3(C)において、BPBを1時間インキュベートした後のPI4K-/+ヘテロ接合性ノックアウト細胞の細胞内・細胞外BPB濃度は、この間リソソームが常に「kiss-and-run」状態にあるため平衡に達し、最終的には0秒と比較して500秒では平均11.7%の蛍光強度増加を示している。
【0181】
1.12 PI4KIIIα阻害物質によるミクログリアのリソソームの細胞外ATP分泌の促進
【0182】
細胞外のATPがリソソームと細胞質膜の融合を促進する重要な役割を果たすことは文献で報告されており、ミクログリアには大量のATPが蓄積していることが確認されていた(Dou Y, Wu H J, Li H Q, et al. Microglial migration mediated by ATP-induced ATP release from lysosomes [J]. Cell Research, 2012, 22(6):1022-1033; Imura Y, Moriza WA Y, Komatus R, et al. Microglia release ATP by exocytosis [J]. Glia, 2013, 61(8):1320-1330; Zhang Z, Chen G, Zhou W, et al. Regulated ATP release from astrocytes through lysosome exocytosis [J]. Nature Cell Biology, 2007, 9(8):945-953)。PI4KIIIαを阻害すると、ミクログリアのリソソームと細胞膜の「kiss-and-run」融合が促進され、リソソームからATPが放出されるようになった。このATPは細胞外に放出され、さらにリソソームと細胞膜の融合を促進し、リソソーム内の細胞分解物やβアミロイドなどの細胞毒性物質が放出されるようになった。本発明では、リソソームにおけるATPの蓄積と放出を確認するために、100nMのキナクリンで細胞内のATPを標識した(図4)。
【0183】
図4において、細胞内ATPがリソソームと共存下していることが合併したグラフから確認でき、ミクログリアのリソソームに大量のATPが蓄積されていることが検証された。この時、PAOをインキュベートすると、ATPが細胞外に放出され、細胞内ATPが減少した。図4(B)のデータ分析から分かるように、PAO処理したWT細胞およびPI4K+/-細胞の8分、15分、30分、60分に測定した細胞外ATP濃度は、対照群と比較して有意に増加した(p<0.05)
【0184】
実施例2.PI4KIIIα阻害剤によるニューロンのリソソームのエキソサイトーシスの促進
2.1 海馬ニューロン細胞の単離と培養
18~20日間妊娠しているマウスを麻酔剤(1.2%アバメクチンを0.3mL/10gで腹腔内に注射)で麻酔し、胚を採取して滅菌ビーカーに入れ、ビーカーの口を薄膜手袋で密封して細胞室に移した。頭部を切断し、脳を採取し、脳組織を取り出してDMEM高グルコース培養液を含む細胞培養皿に入れ、解剖顕微鏡下で海馬を分離してDMEM高グルコース培養液に入れ、海馬に付着した髄膜と血管を剥がし、鉗子で引き裂き、12穴プレートに吸着させた。DMEM高グルコース培地を添加して十分に洗い流した後、DMEM高グルコース培地をマイクロピペットで注意深く吸引し、次に、プレートに0.125%トリプシン1mLを添加し、37℃の二酸化炭素入りインキュベーターに入れ、8分間穏やかに消化させ;4分ごとにプレートを取り出し、均一に消化されるように振盪し、トリプシンを注意深く吸引して捨て、牛胎児血清(FBS)(全容量の約20%)を添加して1.5~2分間消化反応を止めた。FBSを注意深く吸引し、接種源(DMEM-HG)を添加して10回ピペッティングし、次に、2分間静置;上澄中に遊離単細胞があり、底に塊が堆積していたので、上澄を氷浴培養皿に移し、上記の操作を3回繰り返した後に堆積した塊を捨てた。細胞を均一にピペッティングした後細胞をカウントし、血球カウントプレートの各ウェルについてカウントし、細胞が均一に分布していない場合は、再度カウントする必要があった。カウント終了後、均一にピペッティングした細胞に接種源を添加し、細胞培養プレート(通常、1*105細胞/ウェルの6ウェルプレートで、トランスフェクションが必要な場合は適宜細胞数を増やす)に播種した。プレートを、CO2を含むインキュベーターに入れ、4時間培養し、次に、古い培地をneurobasal培養基に置き換え、培地を置き換える時にプレート内の液体をわずかに振盪し、37℃の接種源でプレートを洗浄し、緩く付着した血管細胞を剥がした。その後、2日ごとに培地の半分を置き換え、10日間(DIV10)インビトロ培養を行い、以後の実験に供した。
【0185】
2.2 PI4KIIIα阻害によるニューロン細胞のリソソームの蛍光強度低下の促進
WT胚マウスの海馬から初代海馬ニューロンを分離し、この初代ニューロン細胞に対してPI4KIIIα薬物阻害を行い、薬物処理した野生型ニューロン細胞と薬物処理してない野生型ニューロン細胞におけるリソソームの変化をそれぞれ比較した(図5)。
【0186】
図5(A)は、PAOによるPI4KIIIα活性の阻害を行わなくても、WT初代ニューロン細胞においてリソソーム蛍光スポットの数がほとんど変化しないことを示す。図5(B)は、野生型初代ニューロン細胞において、PAO溶液をインキュベートした後、リソソームの蛍光強度が対照群と比較して有意に低下していることを示す。
【0187】
実施例3.PI4KIIIα阻害物質による細胞内α-シヌクレインタンパク質レベルの低下の抑制
【0188】
3.1 PC12、SH-SY5Y細胞株の培養
PC12完全培養系は高グルコースDMEMに10%HSおよび5%FBSを添加し;SH-SY5Y完全培養系は高グルコースDMEMに15%FBSを添加して調製した。
【0189】
3.2 PC12細胞およびSH-SY5Y細胞の免疫蛍光染色
細胞培養系を薬物で処理した後、以下の操作を行った:
固定:4%PFAで30分間処理;透過処理:0.1%Triton-Xで15分間処理;ブロッキング:10%ロバ血清で1時間ブロッキング;一次抗体:マウス抗αシヌクレイン;二次抗体:抗マウスAlex 555。
【0190】
3.3 α-シヌクレインELISAアッセイ
各ウェル(空の色素原ブランク、つまりブランク比色ウェルを除く)にHu α-シヌクレイン検出抗体溶液50μlを添加し、各ウェルに試料50μlおよび標準曲線(下図で制作される)を添加し、穏やかに振盪して均一に混合し、フィルムでウェルを覆い、4℃で一晩培養し;100μLの1×洗浄緩衝液で4回洗浄し、各ウェル(色素原ブランクを除き)に抗ウサギIgG HRP 100μLを添加し、フィルムを用いてウェルを覆い、室温で 30 分インキュベーションし、再度1×洗浄緩衝液で4回洗浄し;各ウェルに安定した色素原100μLを添加し、溶液を青色に変わったら、室温、暗所で30分間インキュベートし;そして、各ウェルに停止溶液100μLを添加した。混合物を穏やかに振盪して均一に混合し、溶液が黄色に変わったら、マイクロプレートリーダーで読み取った(波長:450nm)。
【0191】
3.4 PI4KIIIα阻害物質による細胞の処理
PC12またはSY細胞培養系:10%HS+5%FBS+高グルコースDMEM、40~60%培養皿に培養し、Fugene HDトランスフェクション試薬を用いてα-シヌクレイン過剰発現プラスミドのトランスフェクションを行った。24時間培養後、24時間飢餓培養を行い(血清除去)、通常培養系に変え、Lyso-Trackerを添加して30分間処理し、次いで新鮮な培養液に置き換え、PAO処理を行った。PAO処理群:25nM、50nM、100nMで10分間処理した後、免疫細胞化学染色を行った。
【0192】
3.5 チアゾリルブルー(MTT)アッセイによる細胞生存率の測定
薬物を12時間投与して処理し、終濃度05.mg/mLのMTTを添加し、4時間インキュベーション後に培養液を吸引し、DMSO 100μLを添加して吸着したMTTを溶解し、15分間振盪した後に吸光度値を読み取った。
【0193】
3.6 プラスミドのトランスフェクション
α-シヌクレイン過剰発現プラスミドの情報は以下の通りであった:
【0194】
α-シヌクレインELISAキットはThermo Fisher Scientific (Catalog No. KHB0061)から購入した。Fugene HDトランスフェクション試薬は、Promega (Beijing) Biotech Co., Ltd. (Catalog No. E2311)から購入し;α-シヌクレインモノクローナル抗体(マウスモノクローン)は、Sigma-Aldrich (Shanghai, Cataltlog No. S5566)から購入した。
【0195】
3.7 SH-SY5Y細胞におけるα-シヌクレインの過剰発現による細胞死またはアポトーシスに対するPAOの阻害
パーキンソン病患者の体表的な細胞病理学的特徴は、ミスフォールディングα-シヌクレインタンパク質を主とするタンパク質凝集の発生である。これらの凝集したタンパク質は、時間的にクリアーされないため、細胞毒性を引き起こすと考えられている。本発明では、SH-SY5Y細胞株にα-シヌクレイン過剰発現(α-syn-OE)プラスミドをトランスフェクトし、24時間後、12時間PAO処理を行った。その後、各群についてMTTアッセイにより細胞生存率を測定し、α-syn-OE群と比較した(図6)。
【0196】
一元ANOVA分析後、結果は以下の通りである:図6(A)は、α-syn-OE群の細胞生存率が、対照(ビヒクル)群の細胞生存率よりも有意に低いことを示し;図6(B)は、α-syn-OE+PAO処理群(それぞれ6.25nM、12.5nM、25nM、50nM、75nM、100nMの濃度のPAO)の細胞生存率が、α-syn-OE群の細胞生存率よりも有意に高かったことを示す(n=5、平均±SEM,一元ANOVA, **p < 0.01, ***p < 0.0001 vs. α-syn-OE)。この実験は、PAOがα-シヌクレインの過剰発現による細胞毒性を軽減するように作用することを実証している。
【0197】
3.8 PAOシリーズ化合物によるα-シヌクレイン分泌の促進
本発明ではさらに、PAOのα-シヌクレインの分泌または排泄を促進する特性についてアッセイした。培養したPC12細胞株およびSH-SY5Y細胞株にそれぞれFugene HD トランスフェクション試薬を用いてα-シヌクレイン過剰発現プラスミドをトランスフェクトし、24時間飢餓処理を行った後に古い培養系を完全培養系に置き換え、一方、PAOまたはPAO誘導体p-メチルフェニルアルシンオキシドを用いて4時間処理し、細胞培養液上清中のαシヌクレインレベルはELISAにより測定した。
【0198】
PAO誘導体p-メチルフェニルアルシンオキシドは、以下の化学式で示されるものである:
【化14】
図7(A)は、P12細胞株において、50nM、75nMおよび100nMのPAO処理群の細胞外α-シヌクレインタンパク質レベルが、PAOを含まない対照α-synOE群と比較して有意に向上たことを示しており、これは、PAOが細胞内α-シヌクレインタンパクの流出を促進できることを示唆している。図7(B)は、SH-SY5Y細胞株において、PAOが細胞外α-シヌクレインタンパク質レベルを促進する能力を同様に有していたことを示す。図7(C)は、P12細胞株において50nM、75nMのPI-70処理も、細胞内α-シヌクレインタンパク質の排出を促進することを示す。
【0199】
3.9 PAOによる細胞内α-シヌクレインタンパク質レベルの減少の促進
本発明では、まず細胞にPAO処理を行い、細胞内のα-シヌクレインタンパク質レベルをELISA法およびウエスタンブロットにより測定した。細胞培養および薬物処理の態様は上記と同様である。図8において、ELISAアッセイの結果、α-syn OE群と比較して、75nMおよび100nMのPAO処理群では、α-シヌクレインタンパク質レベルが有意に低下しており、これは、PAOが細胞内α-シヌクレインタンパク質レベルを低下できることを示唆している。図8(B)において、ウェスタンブロットアッセイの結果では、75nMおよび100nMのPAO処理群のα-シヌクレインは、対照群よりも低値であったことが示された。
【0200】
実施例4.PI4KIIIα阻害物質によるHTTタンパク質およびSOD1タンパク質の分泌の促進
4.1 SOD1 ELISAアッセイ
希釈した標準曲線試薬、ブランク対照、試料をアッセイウェルプレート100ulを対応するウェルに添加した。プレートをフィルムで覆い、37℃で2時間インキュベートし;各ウェルの液体を捨て、各ウェルに検出試薬A作業溶液100μを添加し、プレートをフィルムで覆い、37℃で1時間インキュベートし;上清を捨て、各ウェルを1X洗浄緩衝液で各回2分間ずつ3回洗浄し、できるだけ液体の残留物を残さないようにし;各ウェルに検出試薬B作業溶液溶液100μlを添加し、プレートをフィルムで覆い、37℃で1時間インキュベートし;洗浄操作を5回繰り返し;各ウェルに基質溶液90μLを添加し、プレートをフィルムで覆い、暗所で37℃で20分間インキュベートした。溶液は青色に変わり;各ウェルに停止溶液50μLを添加し、軽く振盪することにより均一に混合し、溶液が黄色に変わり、速やかにマイクロプレートリーダーで読み取った(吸収波長:450nm)。
【0201】
4.2 ヒトハンチンチンELISAアッセイ
希釈した標準曲線試薬、ブランク対照および資料50ulを、アッセイウェルプレートの対応するウェルに添加し;各ウェルに検出A作業溶液50ulを直ちに添加した。軽く振盪して均一に混合した後、プレートをフィルムで覆い、37℃で1時間インキュベートし;各ウェルの液体を除去し、上清を捨て、各ウェルを1X洗浄緩衝液で各回2分間ずつ3回洗浄し、可能な限り液体が残らないようにし;各ウェルに検出試薬B作業溶液100ulを添加した。プレートをフィルムで覆い、37℃で45分間インキュベートし、洗浄操作を5回繰り返し;各ウェルに基質溶液90μlを添加した。プレートを新しいフィルムで覆い、暗所、37℃で10~20分間インキュベートし;を各ウェルに停止溶液50μlを添加し、軽く振盪することによって均一に混合し、溶液が黄色に変わり、直ちにマイクロプレートリーダーで読み取った(吸収波長:450nm)。
【0202】
4.3 トランスフェクション試薬
トランスフェクションPC12細胞株に、Fugene HDトランスフェクション試薬を用いて、HTT(1-586aa)(HTT(1-586aa)過剰発現プラスミドは、HTTタンパク質のシャトルに重要な部分であるHTTタンパク質のN末端を発現することができた)またはSOD1過剰発現プラスミドのいずれかでトランスフェクトした。
【0203】
4.4 プラスミドのトランスフェクション
以下のプラスミドは、Obio Technology (Shanghai) Corp., Ltdから購入した:
1)遺伝子名:HTT(1-586aa);GenBank ID:NM_002111;
2)遺伝子名:SOD1、gen ID:6647
ヒトスーパーオキシドジスムターゼ1、可溶性(SOD1)ELISAキットは、Signalway Antibody LLC. (SAB, Catalog No. EK16688)に購入し;ヒトハンチンチン(HTT)ELISAキットは、Signalway Antibody LLC. (SAB, Catalog No. EK2869)から購入した。
【0204】
4.5 PI4KIIIα阻害物質によるHTTタンパク質およびSOD1タンパク質の分泌の促進
神経疾患においても、HTTタンパク質およびSOD1タンパク質はさまざまな神経疾患の発症に密接に関連しており、ハンチントン病は、HTTタンパク質に関連し、筋萎縮性側索硬化症はは、SOD1タンパク質に関連する。PC12細胞株に、Fugene HD トランスフェクション試薬を用いて、HTT(1-586aa)(HTT(1-586aa)過剰発現プラスミドは、HTTタンパク質シャトルにとって重要な部分であるHTTタンパク質のN末端を発現することができた)またはSOD1過剰発現のいずれかでトランスフェクトし;24時間培養後、24時間飢餓処理を行い、次に、通常の培養系に置き換え、化合物PAOで4時間処理し、細胞培養液の上清中のHTTタンパク質およびSOD1タンパク質のレベルをELISAを介して測定した。結果では、PC12細胞株において、25nM、50nM、75nM、および100nMのpao処置群が、HTT OE群と比較して、HTTタンパク質分泌を有意に促進したことが示された(図9A)。一方、SOD1過剰発現実験では、75nMおよび100nMのPAO処理群のSOD1分泌は、HTT OE群と比較して有意であった(図9B)。
【0205】
実施例5.PI4KIIIαの阻害によるCBE誘導性リソソーム凝集の緩和
5.1 PAOによるリソソーム促進によるCBE誘導性細胞毒性の緩和
ゴーシェ病は、リソソーム蓄積症(LSD)の代表的な疾患である。具体的には、グルコセレブロシダーゼの遺伝子変異により、体内の酸性β-グルコシダーゼまたはグルコセレブロシダーゼ(GCase)の活性が欠損するため、肝臓、脾臓、骨、肺、さらには脳などの様々な臓器のマクロファージのリソゾームにグルコセレブロシダーゼの基質のグルコセレブロシドが蓄積し、患部の組織・臓器は病的変化を起こし、複数の臓器が冒されて徐々に臨床的悪化が進んでいく。コンドゥリトールBエポキシド(CBE)は、β-グルコシダーゼの阻害物質として一般的に使用されており、ここではCBEを用いて、PAOによるゴーシェ病の調節を検討することにした。
【0206】
培養したSH-SY5Y細胞株に対し、それぞれ以下の濃度のCBEを添加した:1.5μM、3μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μM、100μM;72時間処理後、細胞生存率を測定した。その結果では、50μMおよび100μMのCBEを72時間処理することによる細胞死またはアポトーシスは、対照群(ctrl)と比較して有意に異なることが示された(図10A)。その後の実験のために、SH-SY5Y細胞の処理に100μMのCBEを選択した。100μMのCBE処理を24時間行った後、飢餓処理を行い、24時間の飢餓処理後、100μMのCBEを再インキュベーションに用い、様々な濃度のPAOせ24時間処理し、MTTアッセイを行って細胞生存率を測定した。n=5、一元ANOVA、**p < 0.001、***p < 0.0001、vs.α-syn-OE。100μM CBE処理による細胞死またはアポトーシスに対するPAOの作用を、MTTによりアッセイした。実験の結果では、6.25nM、12.5nM、25nM、50nM、75nMおよび100nMのPAO処理群の細胞生存率は、100μMのCBE処理群よりも有意に高いことが示された(図10B)。
【0207】
5.2 PAOによるリソソーム放出の促進および多重GlcCerの細胞内蓄積の減少
PAOはリソソーム放出に影響を及ぼすことができるため、本発明ではPAOとCBEを組み合わせ、PAOがリソソーム放出に影響を与えるかどうかを検証した。SH-SY5Y細胞を100μMのCBEで72時間処理した後、リソソームトラッカー(LysoTracker)を添加してリソソームを標識した。その結果では、100μMのCBE処理群では、LysoTrackerで標識した陽性細胞の数が陰性対照群と比較して有意に増加し(図11)、これは、CBEがリソソームでの凝集を誘導し、ゴーシェ病のシミュレーションに使用できることを示している。SH-SY5Yを100μMのCBEで72時間処理し、次に、LysoTrackerを添加し、30分後に50nMまたは75nMのPAOで5分間(A)または10分間(B)処理し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)固定後に観察を実施した。スケールバー=100μm。5分後(図11A)または10分後(図11B)、Lyso-Tracker標識陽性細胞は対照群と比較して減少しており、これは、PAOがCBE誘導性リソソーム凝集を軽減し得ることが示された。
【0208】
PAOはCBE処理した細胞におけるグルコシルセラミド(GlcCer)の蓄積を減少させた。GDの基本的欠陥は、主にグルコセレブロシドからグルコースとGlcCerへの分解を媒介するグルコセレブロシダーゼの活性の欠如であり、したがって、GD患者の細胞またはCBE処理細胞ではGlcCerなどの基質の蓄積が起こっている。SH-SY5Y細胞モデルにおいて、PAOがGlcCer蓄積に影響を与えるかどうかをさらに検討するために、LC-MSアッセイにより細胞内の異なる側鎖のGlcCer含有量を測定した。その結果では、100μMのCBEで処理した細胞内の様々な側鎖のGlcCer濃度は、対照群(ctrl)よりもはるかに高く、100μMのCBEおよび50nMのPAO共処理群のGlcCer濃度は、100μMのCBE処理群と比較して減少した(図11C)。
【0209】
化合物A1およびG1はまた、、PI4KIIIαの特異的な阻害物質である。SH-SY5Yを100μMのCBEで72時間処理し、次に、リソソームトラッカー(Lyso-tracker)を添加してリソソームを標識し;30分後、50nMまたは75nMのA1またはG1で10分間処理した。その結果では、100μMのCBE処理群のLyso-Tracker標識陽性細胞の数が陰性対照群と比較して有意に増加し、50nMおよび75nMのA1またはG1での10分間処理で、Lyso-Tracker標識陽性細胞が100μMのCBE処理と比較して少なかった(図12A、B)。したがって、A1およびG1の両方がリソソーム酵素のエキソサイトーシスを促進し、CBE処理によるリソソームへの蓄積を減少させることができる。
【0210】
5.3 PI4Kαのノックダウンによるリソソームのエキソサイトーシスの促進またはリソソーム蓄積の減少
以前の研究では、低濃度(<5μM)のPAOが主にホスファチジルイノシトール4-キナーゼPI4KIIIαに作用することが示されており、リソソーム蓄積症およびタンパク質ミスフォールディング関連疾患におけるPAO標的PI4KIIIαの役割をさらに調査するために、PI4KIIIαタンパク質をコードする遺伝子配列PI4Kαに対するshRNA干渉レンチウイルススベクター(緑色蛍光タンパク質GFP発現配列を有する)を設計した。ウエスタンブロットアッセイの結果では、PI4Kαに対する3つのshRNA干渉レンチウイルスベクターによるSH-SY5Y細胞のトランスフェクションの48時間後に、干渉配列sh1、sh2およびsh3が、処理群においてPI4KIIIαの発現レベルを有意に低下させたことが示された(図13Aおよび13B)。shRNA干渉レンチウイルスベクター処理後、48時間後にLyso-trackerの蛍光強度を免疫蛍光法で観察した。sh-ctrlと比較して、sh-ctrlおよび100μMのCBE共処理群ではLyso-Trackerの免疫蛍光強度が有意に向上した。sh-ctrlと100μMのCBE共処理群と比較して、sh1-PI4Kαと100μMのCBE共処理群のLyso-Trackerの免疫蛍光強度は、有意に低下した。以上の結果から、PI4Kαのノックダウンにより、リソソームの蓄積を阻害し、あるいはリソソームのエキソサイトーシスを促進することができることが示された。
【0211】
実施例6.PI4KIIIαの阻害によるオートファジーの促進または活性化およびオートファジーフラックス(Autophagic Flux)の活性化
これまでの研究で、GDなどのリソソーム蓄積症の発症の間にALPがブロックされることが示された。SH-SY5Y細胞をCBEで48時間処理した後、様々な濃度のPAOまたはmTOR阻害物質ラパマイシン(RAPA)(陽性対照として)をそれぞれ添加し、24時間インキュベートし、ウェスタンブロットアッセイまたは免疫蛍光アッセイを行い、ALPに対する一般的なマーカーを観察することによってオートファジー-リソソーム経路に対するPAOなどの化合物の作用を研究した。ALPに対して一般的なマーカーであるLC3Bおよびp62を検出し、ウェスタンブロットアッセイでは以下のように示された:CBEで構築したSH-SY5Y細胞モデルにおいて、PAOはLC3Bタンパク質発現を用量依存的に促進し、p62タンパク質レベルを阻害し、これは、PAOがALP経路を活性化し、オートファジーフラックスを活性化していることを示しており(図14A~C)、これは陽性対照の500nMのRAPAの結果(図14A~C)と同様であった。免疫蛍光法の結果は、ウェスタンブロットアッセイの結果と一致していた(図14D)。また、H+-ATPase阻害物質であるバフィロマイシンA1(Baf-A1)は一般的に用いられるALP阻害物質であり、Baf-A1によるALPシグナル伝達のブロッキングにより、CBEで構築したSH-SY5Y細胞に対するPAOなどの化合物の保護作用がALPと関連しているかどうかをさらに検証することができる。SH-SY5Y細胞をCBEで48時間処理し、次に、群分けに従ってそれぞれ異なる濃度のPAOまたは50nMのBaf-A1を添加し、24時間インキュベートし、MTTアッセイにより細胞生存率を測定した。実験の結果、100μMのCBEは対照群(ctrl)と比較して、SH-SY5Y細胞の生存率を有意に阻害したことが示された。100μMのCBE処理群と比較して、100μMのCBEと25nM、50nMおよび75nMのPAOとの共処理群では細胞生存率が有意に向上し、50nMのBaf-A1処理では対応する群におけるPAOの保護作用が低下し、50nMのBaf-A1および100μMのCBEとそれぞれ25nM、50nMおよび75nMのPAOとを組み合わせた処理群の細胞生存率は100μMのCBEの処理群と有意差がなく(図14E)、これは、Baf-A1は、ALPシグナル伝達を阻害することによって、CBE処理したSH-SY5Y細胞に対するPAOの保護作用をブロックしたことを示している。以上の結果から、PAOはALPを活性化してオートファジックフラックスを活性化し、ALPを介してGD細胞モデルに対して保護作用を発揮することが示された。
【0212】
ALP経路マーカーであるLC3BをshRNA干渉レンチウイルスベクターで処理したSH-SY5Y細胞で検出した結果:sh-ctrl群と比較して、PI4Kαのノックダウン後にLC3Bタンパク質レベルが有意に向上し(図15)、CBE処理したSH-SY5Y細胞におけるPI4Kαのノックダウンも同様にLC3Bタンパク質の発現を促進したが、これは、PI4Kα阻害物質PAOと同様の結果を示し、PI4KαのノックダウンもALP経路を活性化することを示している。
【0213】
実施例7.PI4KIIIαの阻害によるC型ニーマン・ピック(NPC)の細胞内コレステロール蓄積の減少(図16)
細胞内コレステロール輸送阻害物質であるU1866Aは、C型ニーマン・ピック(NPC)の細胞モデルを構築するのに使用されることが多い。
【0214】
1 細胞培養および化合物処理
SH-SY5Y細胞を高グルコースDMEM+15%FBSの完全培地で、37℃、5%CO2のインキュベータで培養した。細胞が70%コンフルエントになった時点で、10μMのU18666A(Absin Bioscience Inc.から購入、Cat. No:abs819512)を添加し、群分けに従って深さの異なるd5PAOおよびPAOを添加し、24時間培養した。
【0215】
2 Filipin染色
1) 24ウェルプレート中の培養液を捨て、PBS緩衝液1mLを添加し、1分間静置し、24ウェルプレート中の液体を捨て、上記過程を2回繰り返し;
2) 各ウェルに4%パラホルムアルデヒド1mLを添加し、室温で30分間固定し;
3) 24ウェルプレート中の4%パラホルムアルデヒドを捨て、PBS緩衝液1mLを添加し、24ウェルプレートを1分間軽く振盪し、24ウェルプレート中の液体を捨て、上記過程を2回繰り返し;
4) 各ウェルに1.5mg/mLのグリシン溶液1mLを添加し、プレートを室温で10分間インキュベートし;
5) 24ウェルプレート中の液体を捨て、50μg/mLのFilipin染色液(Sigma-Aldrichから購入、Catalog No: SAE0087)1mLを添加し、暗所、室温で1時間インキュベートし;
6) 24ウェルプレート中の液体を捨て、PBS緩衝液1mLを添加し、24ウェルプレートを1分間軽く振盪し、24ウェルプレート中の液体を捨て、上記過程を2回繰り返し;
7) スライドグラスを取り、封鎖剤(DAPI含有)5μlをスライドグラスの中央に滴下し、細胞スライドを取って乾燥させ、細胞が下を向くようにスライドガラスを覆い、細胞スライドが封鎖剤と完全に接触するように確保し、細胞を室温、暗所で30分間インキュベートした。
8)レーザー共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0216】
実験結果
SH-SY5Y細胞を10μMのU1866Aで処理するとともに、群分けに従って様々な濃度のPAOを添加し、24時間インキュベートし、Filipin染色後に観察した。免疫蛍光染色の結果、10μMのU1866A単独処理群のFilipin染色蛍光強度は対照群(ctrl)と比較して増強されていたが、これは、10μMのU1866A処理によりFilipinに結合するコレステロール量が増加した、すなわちコレステロールの蓄積を示唆している。10μMのU1866Aと35nM、70nMのPAOとの共処理群では、10μMのU1866A単独処理群と比較して、Filipin染色蛍光強度が低下した(図16)。以上の結果から、特定濃度のPAOは、U18666Aによるコレステロールの蓄積を阻害することができることが示された。
【0217】
本発明の特定の実施態様が例示の目的で本明細書に記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明の実施態様および実施例の詳細な説明は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明は、添付の特許請求の範囲による場合を除き、限定されない。本明細書で引用されたすべての文書は、その全体が引用により包含される。
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【国際調査報告】