(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(54)【発明の名称】キャリーオーバー監視
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20230508BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230508BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230508BHJP
【FI】
G01N30/86 V
G01N30/86 P
G01N30/72 C
G01N30/86 H
G01N30/86 F
G01N27/62 X
G01N27/62 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559857
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2021058432
(87)【国際公開番号】W WO2021198331
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【氏名又は名称】鳥居 健一
(72)【発明者】
【氏名】インテルマン,ダニエル
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA06
2G041FA10
2G041GA03
2G041GA09
(57)【要約】
本発明は、液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置上で前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するための方法であって、(a)前記LC-MS装置上で前記対象の試料の少なくとも1つのクロマトグラムを決定するステップと、(b)クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、(c)バックグラウンド高さに基づいて、前記前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するステップと、を含む、方法に関する。本発明はまた、前述の方法に関連する方法、システム、およびコンピュータプログラム製品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置で前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するための方法であって、
(a)前記LC-MS装置で前記対象の試料の少なくとも1つのクロマトグラムを決定するステップと、
(b)前記クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、
(c)前記バックグラウンド高さに基づいて、前記前の試料から前記対象の試料への前記分析物のキャリーオーバーを決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記クロマトグラムが、溶出時間にわたる分析物特有の信号の強度の表現であり、一実施形態では、溶出時間にわたる分析物定量器信号の強度の表現である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)が、前記バックグラウンド高さと前記キャリーオーバーに相関するパラメータとの間の所定の関係を使用することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)が、
b1)前記クロマトグラムにおいて前記分析物に対応するピークを特定するステップと、
b2)前記ピークの上側ピーク境界および下側ピーク境界を決定するステップと、
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
b3)前記上側ピーク境界および前記下側ピーク境界内の少なくとも1つの最小信号強度値を決定するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記バックグラウンド高さが、前記上側ピーク境界のすぐ上流および/または前記下側ピーク境界のすぐ下流で決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、少なくとも1つの確認ステップをさらに含み、前記確認ステップが前記バックグラウンド高さの信頼性を決定することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記バックグラウンド高さの前記信頼性が、信頼性パラメータを計算し、前記信頼性パラメータを予め規定された基準と比較することによって決定され、
一実施形態では、前記バックグラウンド高さの前記信頼性が、
(i)バックグラウンドデータ点の定量器/定性器比の平均を決定し、一実施形態では、前記クロマトグラムの前記バックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点の定量器/定性器比の平均を決定し、前記平均を予め規定された平均基準と比較することによって、および/または
(ii)バックグラウンドデータ点の変動パラメータを決定し、一実施形態では、前記クロマトグラムの前記バックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点の変動パラメータを決定し、前記変動パラメータを予め規定された変動基準と比較することによって、
決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、品質管理方法であるか、または品質管理方法に含まれる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
試料中の少なくとも1つの分析物の濃度を決定するためのシステムであって、
(I)少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置であって、前記LC-MS装置が、前記試料中の前記分析物を測定し、少なくとも1つのクロマトグラムを決定するように構成されている、少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計装置と、
(II)少なくとも1つの評価装置であって、前記クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定し、前記バックグラウンド高さに基づいてキャリーオーバーを決定するように構成されている、評価装置と、
を備える、システム。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の分析物のキャリーオーバーを決定するための方法を実行するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記評価装置が、請求項1から9のいずれか一項に記載の分析物のキャリーオーバーを決定するための方法を実行するように適合されている、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析装置を使用して試料中の分析物の少なくとも1つの測定を行うための方法であって、
(A)第1の試料に対して少なくとも1つの第1の測定を行うステップと、
(B)第2の試料に対して少なくとも1つの第2の測定を行うステップと、
(C)請求項1から9のいずれか一項に記載のキャリーオーバーを決定するための方法を用いて、前記第1の試料から前記第2の試料へのキャリーオーバーを決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記第1の試料から前記第2の試料への前記分析物の所定の閾値を超えるキャリーオーバーが決定された場合、前記第2の試料中の前記分析物について、(i)決定が提供されず、(ii)前記決定の結果が信頼できないことが示され、および/または(iii)前記測定の反復が開始される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の試料中の前記分析物の量を定量的に決定することを含み、一実施形態では、前記量が、請求項1から9のいずれか一項の少なくともステップa)からc)を実行し、前記第2の試料の前記分析物の定量結果から決定された前記キャリーオーバーを減算することによって補正される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
液体クロマトグラフィ質量分析計装置でのバックグラウンド高さと分析物のキャリーオーバーとの間の関係を決定するための方法であって、
(i)第1の試料について少なくとも1つの第1の測定を行うステップと、
(ii)第2の試料について少なくとも1つの第2の測定を行い、その少なくとも1つのクロマトグラムを決定するステップであって、前記第2の試料が、前記分析物を含まず、一実施形態では対照試料であり、さらなる一実施形態では緩衝液対照試料、ブランク対照試料、またはマトリックス対照試料である、ステップと、
(iii)前記第2の試料中の前記分析物の見かけの量またはそれに対応する信号を決定するステップと、
(iv)前記クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、
(v)少なくとも2つのさらなる第1の試料についてステップ(i)から(iv)を反復するステップであって、前記第1の試料が非同一濃度の前記分析物を含む、反復するステップと、
(vi)ステップ(iii)において決定された前記分析物の見かけ量またはそれに対応する信号をステップ(iv)において決定された前記バックグラウンド高さと相関させるステップと、
(vii)それによって、バックグラウンド高さと分析物のキャリーオーバーとの間の関係を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項17】
プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品であって、前記プログラムコード手段は、記憶媒体に記憶され得るか、または記憶されており、前記プログラムコード手段がコンピュータまたはコンピュータネットワークで実行されたときに、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法の少なくともステップb)およびc)ならびに/または請求項16に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行させる、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置で前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するための方法であって、(a)前記LC-MS装置で前記対象の試料の少なくとも1つのクロマトグラムを決定するステップと、(b)クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、(c)バックグラウンド高さに基づいて、前記前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するステップと、を含む、方法に関する。本発明はまた、前述の方法に関連する方法、システム、およびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
試料から試料への分析物のキャリーオーバーは、液体クロマトグラフィに伴う主な制限の1つであるが、一次試料取り扱いおよび試料調製も寄与する。キャリーオーバーの程度またはリスクを評価するための最先端の手法は、CLSI C62-A(Lynch(2020),Clinical Chemistry 62(1):24-299)のような規制ガイドラインによって記載されている。これらのガイドラインは、高濃度試料後にブランク試料を使用することによって、方法開発ならびに検証および検証段階中のキャリーオーバーを評価することを示唆している。これらのブランク試料の得られたピーク面積を使用して、潜在的なキャリーオーバーを計算する。Zengら(2006)、Rapid Comm Mass Spectrom 20:635は、HPLC-MSシステムにおける先行試料中の分析物の濃度に基づいて、後続試料中の分析物のピーク面積に対する先行試料の影響を推定することを教示している。
【0003】
方法開発中のキャリーオーバーの評価は、キャリーオーバーのリスクおよびその程度に関する一般的な概要を与える。しかしながら、この手法は、実際の試料測定に関する情報を提供するのに適していない。バッチモード分析では、通常、高濃度試料に続く試料の再分析がトリガされるが、これは、前の試料の分析物が実際の試料の分析物とは異なるランダムアクセスの場合には実行可能ではない。
解決すべき課題
【0004】
したがって、当該技術分野では、LC-MS測定におけるキャリーオーバーの検出および可能であれば補正を支援する手段および方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
この問題は、独立請求項の特徴を有する方法、システム、コンピュータプログラム製品、コンピュータまたはコンピュータネットワーク、コンピュータロード可能データ構造、コンピュータプログラム、および記憶媒体によって対処される。単独で、または任意の組み合わせで実現されることができる有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0006】
したがって、本発明は、液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置で前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するための方法であって、
(a)前記LC-MS装置で前記対象の試料の少なくとも1つのクロマトグラムを提供するステップと、
(b)クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、
(c)バックグラウンド高さに基づいて、前記前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するステップと、
を含む、方法に関する。
【0007】
本明細書で使用される用語は、広義の用語であり、当業者によってそれらに割り当てられるそれらの通常および通例の意味が与えられるべきである。したがって、本明細書で使用される用語は、特に指定されない限り、特別な意味またはカスタマイズされた意味に限定されない。以下において使用される場合、用語「有する」、「備える」もしくは「含む」またはそれらの任意の文法上の変形は、非排他的な方法で使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴に加えて、この文脈で説明されているエンティティにさらなる特徴が存在しない状況と、1つ以上の追加の特徴が存在する状況との双方を指す場合がある。例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」および「AはBを含む」という表現は、双方とも、B以外に、他の要素がAに存在しない状況(すなわち、Aが単独で且つ排他的にBからなる状況)、および、B以外に、要素C、要素CおよびD、さらにはさらなる要素など、1つ以上のさらなる要素がエンティティAに存在する状況を指す場合がある。また、当業者によって理解されるように、「を備える(comprising a)」および「を備える(comprising an)」という表現は、好ましくは「1つ以上を備える(comprising one or more)」を指し、すなわち「少なくとも1つを備える(comprising at least one)」と等価である。同様に、「Xを決定する(determining an X)」という用語は、1つのXを決定すること、ならびにXの2つ以上、例えばXの2つ、3つ、または4つを決定することを指す。また、「複数」という用語は、多数、一実施形態では少なくとも2つ、さらなる実施形態では、さらなる実施形態では少なくとも3つ、さらなる実施形態では少なくとも4つ、さらなる実施形態では少なくとも5つの示された項目に関する。
【0008】
さらに、以下で使用される場合、用語「好ましくは(preferably)、「より好ましくは(more preferably)」、「最も好ましくは(most preferably)」、「特に(particularly)」、「より特には(more particularly)、「具体的には(specifically)」、「より具体的には(more specifically)」、または同様の用語は、さらなる可能性を制限することなく、任意の特徴と併せて使用される。したがって、これらの用語により導入される特徴は、任意の特徴であり、特許請求の範囲を、いかなる方法によっても制約することを意図されていない。本発明は、当業者が認識するように、代替の特徴を使用することによって実施されてもよい。同様に、「実施形態では」または同様の表現によって導入される特徴は、本発明のさらなる実施形態に関する制限がなく、本発明の範囲に関する制限がなく、およびそのような方法で導入された特徴を、本発明の他の任意または非任意の特徴と組み合わせる可能性に関する制限がない任意の特徴であることを意図する。
【0009】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、関連分野において一般に認められている技術的精度を有する表示値に関し、好ましくは表示値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%に関する。さらに、「本質的に」という用語は、示された結果または使用に影響を及ぼす偏差が存在しない、すなわち、潜在的な偏差が、示された結果を±20%を超えて、より好ましくは±10%を超えて、最も好ましくは±5%を超えて偏差させないことを示す。したがって、「から本質的になる」とは、特定された成分を含むが、不純物として存在する材料、成分を提供するために使用されるプロセスの結果として存在する不可避の材料、および本発明の技術的効果を達成すること以外の目的のために添加される成分を除く他の成分を除外することを意味する。例えば、「から本質的になる」という語句を使用して定義される組成物は、任意の既知の許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、担体などを包含する。好ましくは、一組の成分から本質的になる組成物は、5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、さらにより好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の特定されていない成分を含む。本明細書で言及されるように、測定および計算されたパラメータは、例示的な基準で説明される。当業者が理解するように、パラメータは、標準的な数学的演算、特に乗算、除算、加算、減算、逆数形成、スケーリング、および当業者に知られている他の演算によって変更されることができる。一実施形態では、特に同じ数学的演算を適用することによって、基準がそれに応じて調整される。測定および計算されたパラメータはまた、スコアの計算に使用されてもよく、スコアの計算は、任意に重み付けされてもよい1つ以上のパラメータ値に基づいて、および/または特に上記のようなさらなる数学的演算、例えばスケーリングによって計算されてもよい。
【0010】
キャリーオーバーを決定するための方法は、インビトロ法である。さらに、本方法は、先に明示的に述べられたものに加えて、複数のステップを含んでもよい。例えば、さらなるステップは、例えば、ステップa)のための試料の提供、またはステップb)および/またはc)のさらなる計算に関連してもよい。さらに、前記ステップのうちの1つ以上は、自動化された機器によって実行されてもよい。一実施形態では、特にステップb)およびc)は、本明細書の他の箇所で指定されるように、評価装置として構成されることができるプロセッサ、特にコンピュータによって実行される。
【0011】
本明細書で使用される「提供」という用語は、示された情報または対象物を利用可能にすることに関する。したがって、クロマトグラムを提供する場合、クロマトグラムは、データとして、例えば、グラフィカル表現として、測定値のリストとして、例えば、溶出時間/定量器値対および/または溶出時間/定性器値対などの値対として、または数学的モデルとして提供されることができる。クロマトグラムは、当業者によって適切であると見なされる任意の媒体を介して、特にMS装置と評価装置との間の動作可能な接続を介して、データネットワークなどのデータ接続を介して、またはデータ記憶媒体を介して提供されることができる。一実施形態では、提供することは、本明細書において以下に指定されるように決定することである。
【0012】
「決定」という用語は、事実および/またはデータを確定すること、結論付けること、または確認することを指すと当業者によって理解される。したがって、一実施形態では、決定は、定性的決定、さらなる実施形態では、半定量的決定、さらなる実施形態では、定量的決定に関する。したがって、「キャリーオーバーの決定」は、キャリーオーバーが発生したという事実の確立(定性的決定)、キャリーオーバーの程度が許容範囲内であるか否かの確立(半定量的決定)、およびキャリーオーバーの量の確立(定量的決定)を含む。一実施形態では、決定は、定量的決定に関する。また、「クロマトグラムの決定」は、クロマトグラムを測定すること、具体的には、LC-MS実行の進行にわたって記録されたLC-MS装置の信号を表すデータ点を記録し、任意に適切な記憶装置に記憶することに関する。当業者が理解するように、クロマトグラムを決定する場合、一実施形態における決定は定量的である。同様に、一実施形態では、「バックグラウンド高さを決定すること」は、本明細書の他の箇所で指定されるように、バックグラウンド高さの値を定量的に確認することである。しかしながら、この用語は、例えば、バックグラウンド高さが所定の除外基準を超えるかどうかを決定することによる、バックグラウンド高さの半定量的決定にも関することができる。
【0013】
本明細書で使用される場合、「試験試料」とも呼ばれる「試料」という用語は、物質の任意の種類の組成物に関する。したがって、この用語は、限定されないが、生物学的試料などの任意の試料を指すことができる。一実施形態では、試料は、液体試料であり、さらなる実施形態では水性試料である。一実施形態では、試験試料は、血液、血清、血漿、唾液、眼水晶体液、涙液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水、粘液、滑液、腹腔液、および羊水を含む生理液、洗浄液、組織、細胞などからなる群から選択される。しかしながら、試料は、天然または工業用液体、特に地上水または地下水、下水、工業廃水、処理液、土壌溶出液などであってもよい。一実施形態では、試料は、少なくとも1つの対象の化合物、すなわち「分析物」と呼ばれる決定される化学物質を含むか、または含むと疑われる。試料は、1つ以上のさらなる化学化合物を含んでいてもよく、これらは決定されるべきではなく、一般に「マトリックス」と呼ばれる。試料は、それぞれの供給源から得られたものとして直接使用されてもよく、または1つ以上の前処理および/または試料調製ステップに供されてもよい。したがって、試料は、物理的および/または化学的方法、一実施形態では、遠心分離、濾過、混合、均質化、クロマトグラフィ、沈殿、希釈、濃縮、結合および/または検出試薬との接触、および/または当業者によって適切と考えられる任意の他の方法によって前処理されることができる。試料調製ステップにおいて、すなわち、試料調製ステップの前、最中、および/または後に、1つ以上の内部標準が試料に添加されることができる。試料には、内部標準が添加されてもよい。例えば、内部標準が所定の濃度で試料に添加されてもよい。内部標準は、質量分析装置の通常の動作条件下で容易に識別することができるように選択されることができる。内部標準の濃度は、予め決定され、分析物の濃度よりも有意に高くてもよい。
【0014】
上記のように、本明細書で使用される「分析物」という用語は、試料中で決定される任意の化合物または化合物群に関する。一実施形態では、分析物は、高分子、すなわち1000uを超える(すなわち、1kDaを超える)分子質量を有する化合物である。さらなる実施形態では、分析物は、生物学的高分子、特にポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖、または前述のいずれかの断片である。一実施形態では、分析物は、小分子化合物、すなわち最大1000u(1kDa)の分子質量を有する化合物である。さらなる実施形態では、分析物は、被験者、特にヒト被験者の身体によって代謝される化学化合物であるか、または被験者の代謝の変化を誘導するために被験者に投与される化合物である。したがって、一実施形態では、分析物は、乱用薬物またはその代謝産物、例えばアンフェタミン、コカイン、メタドン、エチルグルクロニド、硫酸エチル、オピエート、特にブプレノルフィン、6-モノアカチルモルヒネ、コデイン、ジヒドロコデイン、モルヒネ、モルフィン-3-グルクロニド、および/またはトラマドール、および/またはオピオイド、特にアセチルフェンタニル、カルフェンタニル、フェンタニル、ヒドロコドン、ノルフェンタニル、オキシコドン、および/またはオキシモルホンである。
【0015】
一実施形態では、分析物は、治療薬、例えばバルプロ酸、クロナゼパム、メトトレキサート、ボリコナゾール、ミコフェノール酸(合計)、ミコフェノール酸-グルクロニド、アセトアミノフェン、サリチル酸、テオフィリン、ジゴキシン、免疫抑制薬、特にシクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、および/またはタクロリムス、鎮痛薬、特にメペリジン、ノルメペリジン、トラマドール、および/またはO-デスメチル-トラマドール、抗生物質、特にゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、バンコマイシン、ピペラシリン(タゾバクタム)、メロペネム、および/またはリネゾリド、抗てんかん薬、特にフェニトイン、バルポール酸、遊離フェニトイン、遊離バルプロ酸、レベチラセタム、カルバマゼピン、カルバマゼピン-10、11-エポキシド、フェノバルビタール、プリミドン、ガバペンチン、ゾニサミド、ラモトリギンおよび/またはトピラマートである。一実施形態では、分析物は、ホルモン、特にコルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アルドステロン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)、ジヒドロテストステロン、および/またはコルチゾンである。一実施形態では、試料は、血清または血漿試料であり、分析物は、コルチゾール、DHEA-S、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アルドステロン、DHEA、ジヒドロテストステロン、および/またはコルチゾンである。一実施形態では、試料は、唾液試料であり、分析物は、コルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アンドロステンジオン、および/またはコルチゾンである。一実施形態では、試料は、尿試料であり、分析物は、コルチゾール、アルドステロンおよび/またはコルチゾンである。一実施形態では、分析物は、ビタミン、一実施形態ではビタミンD、特にエルゴカルシフェロール(ビタミンD2)および/またはコレカルシフェロール(ビタミンD3)またはそれらの誘導体、例えば25-ヒドロキシ-ビタミン-D2、25-ヒドロキシ-ビタミン-D3、24,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D2、24,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D3、1,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D2および/または1,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D3である。さらなる実施形態では、分析物は、被験者の代謝産物である。
【0016】
「キャリーオーバー」という用語は、原則として、1つの試料から第2の試料への少なくとも1つの成分の任意の移動に関し、一実施形態では、1つの試料から第2の試料への成分の移動である。本明細書の文脈では、前記移動は、第1の時点で分析装置、特に本明細書の他の箇所で指定されているLC-MS装置において処理された試料から、第1の試料の直後の前記分析装置で処理される実施形態では、第2の、後の時点で前記分析装置において処理される第2の試料への試料成分の移動である。理解されるように、前述の第2の試料は、キャリーオーバーが決定される試料である。少なくとも前述の第2の試料は、分析物が決定される試料である。上記に準じて、前述の第1の試料は、「前の試料」とも呼ばれ、前述の第2の試料は、「対象の試料」とも呼ばれる。当業者によって理解されるように、LC-MS測定では、LCステップの前にキャリーオーバーが起こり得、その結果、前の試料からの分析物によって引き起こされる分析物ピークの望ましくない増加(ピークキャリーオーバー)が本質的に生じる。しかしながら、キャリーオーバーは、LCステップの後にも起こることがあり、クロマトグラムにおけるバックグラウンドの増加を引き起こす(バックグラウンドキャリーオーバー)。驚くべきことに、本発明の基礎となる研究において見出されたように、2つのタイプのキャリーオーバーは相関し、特に正比例するため、バックグラウンドキャリーオーバーの測定が使用されて、ピークキャリーオーバーを決定し、必要に応じて正しいものにすることができる。
【0017】
「LC-MS装置」と略される「液体クロマトグラフ質量分析装置」という用語は、当業者によって理解される。一実施形態では、この用語は、液体クロマトグラフィ(LC)と質量分析(MS)との組み合わせを実施するように構成された装置に関する。したがって、装置は、一実施形態では、少なくとも1つのLCユニットおよび少なくとも1つのMSユニットを備え、LCユニットおよびMSユニットは、少なくとも1つのインターフェースを介して結合される。本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィ(LC)ユニット」という用語は、一実施形態では、質量分析装置を用いて1つ以上の分析物を検出するための一実施形態では、液体クロマトグラフィを介して試料の1つ以上の対象の分析物を試料の他の成分から分離するように構成された分析モジュールに関する。LCは、当業者によって適切と考えられる任意の分離原理に基づいてもよい。一実施形態では、LCは、逆相クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、アフィニティークロマトグラフィ、またはキラルクロマトグラフィである。さらなる実施形態では、LCは、逆相クロマトグラフィである。LC装置は、少なくとも1つのLCカラムを備えることができる。例えば、LC装置は、シングルカラム型のLC装置であってもよく、複数のLCカラムを有するマルチカラム型のLC装置であってもよい。LCカラムは、対象の分析物を分離および/または溶出および/または移送するために移動相が圧送される固定相を有することができる。LCユニットは、少なくとも1つの高速液体クロマトグラフィ(HPLC)ユニットおよび/または少なくとも1つのマイクロ液体クロマトグラフィ(μLC)装置とすることができるか、またはそれを備えることができる。本明細書で使用される場合、「質量分析ユニット」という用語は、一実施形態では、分析物またはその断片の質量電荷比に基づいて少なくとも1つの分析物を検出するように構成された質量分析装置に関する。質量分析ユニットは、少なくとも1つの四重極質量分析装置とすることができ、またはそれを備えることができる。LCユニットとMSユニットとを結合するインターフェースは、分子イオンを生成し、分子イオンを気相に移動させるように構成された少なくとも1つのイオン化源を備えることができる。一実施形態では、MSユニットは、タンデム質量分析(MS/MS)ユニット、さらなる実施形態ではトリプル四重極MS/MS、さらなる実施形態では多重反応モニタリング(MRM)モードである。
【0018】
「クロマトグラム」という用語は、当業者に知られている。一実施形態では、この用語は、試料から得られてMS検出器によって決定された信号の定量的尺度とクロマトグラフィ分離の進行との相関プロットに関し、一実施形態では経時的な相関プロット、例えば保持時間および/または溶出体積に関する。一実施形態では、信号の前記定量的尺度は、試料成分の少なくとも一部の濃度、特に分析物と相関する。したがって、信号の定量的尺度は、特に信号強度とすることができる。したがって、一実施形態では、クロマトグラムは、MSクロマトグラムであり、さらなる実施形態では、MS/MSクロマトグラムである。当業者によって理解されるように、前述の表現は、必ずしもそうである必要はないが、グラフィカル表現であってもよい。しかしながら、表現は、例えば、値対のリスト、例えば、溶出時間/定量器値対および/または溶出時間/定性器値対として、または数学的モデルとして提供されてもよい。一実施形態では、信号の前記定量的尺度は、分析物信号強度および/または内部標準信号強度を含む。一実施形態では、信号の前記定量的尺度は、分析物定量器、内部標準定量器、分析物定性器および/または内部標準定性器を含む。したがって、一実施形態では、特にMSがタンデムMSである場合、少なくとも1つのクロマトグラムを決定することは、上記のように、分析物定量器、内部標準定量器、分析物定性器および/または内部標準定性器のうちの少なくとも1つを経時的および/または溶出時間にわたって測定することを含む。当業者が理解するように、溶出時間は、特に溶出体積または保持時間によって、当業者によって適切と考えられるLCの進行の任意の他の尺度によって置き換えられることができる。
【0019】
「定量器」および「定性器」という用語は、本明細書の文脈において、当業者によって理解される。一実施形態では、この用語は、タンデムMSにおいて生成された分析物の断片の信号に関し、一般に、最も豊富なおよび/または最も確実に検出された断片は、分析物を定量するために使用され(分析物定量器)、第2の移行部(断片)は、分析物の同一性を確認するために使用される(分析物定性器)。対応する用語は、しばしばAQN(分析物定量器)およびAQL(分析物定性器)と略される。2つのパラメータの値は、通常、対応するm/z値を有するイオンの信号強度として決定され、特に、例えばピーク積分後のピーク面積として決定される。これらの値は、本明細書のクロマトグラムをもたらすためにLCの進行と相関させることができる。当業者によって理解されるように、「定性器」および「定量器」という用語およびその値は、信号強度として測定された生の値だけでなく、特にピーク積分によってそこから導出された値も指すために当該技術分野において使用される。したがって、特に指示しない限り、定量器および定性器という用語は、標準的な数学的演算、特に乗算、比計算、曲線平滑化、または平均の計算によって導出される値を含むが、それぞれ「積分された定性器」および「積分された定量器」と呼ばれるその導出された積分値は含まない、測定された信号強度に使用される。したがって、一実施形態では、値は、特に定量器/定性器の比の計算に使用される場合、単一サイクル値、すなわち1スキャンサイクル、選択イオンモニタリング(SIM)サイクル、または多重反応モニタリング(MRM)サイクルで決定される強度である。「定性器対定性器の比を決定すること」という表現は、定性器の値を定量器の値で割ることによって比を計算することに関する。同様に、「積分された定性器対積分された定性器の比を決定すること」という表現は、積分された定性器の値を積分された定量化語の値で割ることによって比を計算することに関する。一実施形態では、積分されたAQN/AQLの比は、分析物の化合物特有のおよび測定方法特有のパラメータである。理解されるように、上記は、必要な変更を加えて内部標準定量器および定性器の測定に準用される。
【0020】
一実施形態では、ステップb)は、b1)クロマトグラム中の分析物に対応するピークを特定するステップと、b2)前記ピークの上側ピーク境界および下側ピーク境界を決定するステップとを含む。さらなる実施形態では、ステップb)は、b3)上側ピーク境界および下側ピーク境界内の少なくとも1つの最小信号強度値を決定するステップを含む。
【0021】
本明細書で使用される「ピーク」という用語は、クロマトグラムの少なくとも1つの極大値に関する。これに対応して、ピーク積分は、クロマトグラムのピークによって囲まれたピーク面積を決定するための少なくとも1つの数学的演算および/または数学的アルゴリズムに関する。具体的には、ピークの積分は、クロマトグラムの曲線特性の同定および/または測定を含むことができる。ピーク積分は、ピーク検出、ピーク発見、ピーク同定、ピークフィッティング、ピーク評価、ピーク開始および/またはピーク終了の決定、バックグラウンドの決定、および基底線の決定のうちの1つ以上を含むことができる。ピーク積分は、ピーク面積、保持時間、ピーク高さ、およびピーク幅のうちの1つ以上の決定を可能にすることができる。一実施形態では、ピーク積分は、自動ピーク積分、すなわち、少なくとも1つのコンピュータおよび/またはコンピュータネットワークおよび/または機械によって実行されるピーク積分である。具体的には、自動ピーク積分は、手動の動作またはユーザとの相互作用なしに実行されてもよい。
【0022】
「バックグラウンド」という用語は、当業者に知られている。一実施形態では、この用語は、本明細書において上述したピークによって引き起こされていない検出装置、例えばMS装置によって測定された信号に関する。したがって、「バックグラウンド高さ」という用語は、クロマトグラムにおけるバックグラウンドの定量的尺度に関する。したがって、バックグラウンド高さという用語は、バックグラウンド高さの値にも関することができる。当業者は、原則として、例えばゼロ線からのクロマトグラムグラフのオフセットを決定することによって、ベースラインの下の面積を決定することなどによって、バックグラウンド高さを決定することができる。一実施形態では、バックグラウンド高さは、分析物ピークの近く、特に分析物ピークの上側および下側ピーク境界内の少なくとも1つの最小信号強度値として決定される。さらなる実施形態では、バックグラウンド高さは、上側ピーク境界のすぐ上流および/または下側ピーク境界のすぐ下流で決定され、この場合、「すぐに」という用語は、それぞれ、上流または下流の1までのピーク幅、一実施形態では1/2までのピーク幅、さらなる実施形態では1/4までのピーク幅を指す。一実施形態では、バックグラウンド高さは、ピーク積分プロセスの一部として決定され、これは、好ましくは、自動化された装置によって実行される。一実施形態では、バックグラウンド高さは、値の平均として、例えば、中央値、平均値、または当業者によって適切であると考えられる平均を示す別のパラメータとして決定される。一実施形態では、少なくとも2個、さらなる実施形態では少なくとも5個、さらなる実施形態では少なくとも10個の単一サイクル値が前記平均計算に使用される。2から1000個の一実施形態では、5から250個のさらなる実施形態では、10から100個のさらなる実施形態では、前記平均計算に単一サイクルバックグラウンド値が使用され、「単一サイクル」という用語は、記録された信号を生成するMSユニットによる信号強度測定の単一サイクルを指す。
【0023】
本方法のステップc)によれば、少なくとも1つの前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定することは、バックグラウンド高さ、すなわちステップb)において決定されたバックグラウンド高さの値に基づく。したがって、一実施形態では、本明細書で上述したように決定されたバックグラウンド高さは、キャリーオーバーと相関する。一実施形態では、相関は、定量的関係であり、一実施形態では正比例であり、さらなる実施形態では、少なくとも1つの線形関数、少なくとも1つの二次関数、少なくとも1つの有理関数、および/または少なくとも1つのシグモイド関数を含む。したがって、相関は、上記の相関を反映する任意の数学的表現、グラフィカル表現、または他の表現によって表されることができる。一実施形態では、関係は、バックグラウンド高さの下限閾値を超えると線形である。前述の相関を決定し、その適切な表現を確立するための方法は、本明細書において以下に、特に実施例に記載される。一実施形態では、分析物ピークのピーク面積は、ステップa)の後、すなわち指定されたクロマトグラムを確立した後に決定される。そのような場合、ピーク面積およびバックグラウンド高さと補正されたピーク面積またはそれから導出された値との相関が確立されることができ、そのような3パラメータ相関から補正された分析物値が直接確立されることができる。
【0024】
以下に示されるように、ステップc)の決定結果に応じて、キャリーオーバーを決定するための方法は、ステップc)の結果が所定の閾値を超える前記少なくとも1つの前の試料からの分析物のキャリーオーバーを示す場合、ステップa)の結果を信頼できないものとしてマークし、任意に、前記対象の試料の再実行を開始するステップをさらに含むことができる。したがって、LC-MS装置は、分析物の決定を提供しない場合があり、決定の結果が信頼できないことを示す場合があり、および/または少なくともクロマトグラム決定の反復、一実施形態では、影響を受けた試料のための方法のステップa)からc)の全てを引き起こす場合がある。一実施形態では、前記反復は、分析物を欠く対照試料の直後に、または既知の低濃度の分析物を有する試料の直後に行われる。さらなる実施形態では、ステップa)において確立されたクロマトグラムから決定された得られた量または濃度は、前記少なくとも1つの以前の試料からの分析物のキャリーオーバーについて補正されることができる。上記のように、本方法のステップb)は、キャリーオーバーと相関するバックグラウンド高さを提供し、当業者が、発生したキャリーオーバーについてステップa)において確立されたクロマトグラムから決定された分析物の量または濃度を補正することを可能にする。したがって、分析物の補正された量または濃度が計算されることができる。前述の相関を定量化するための例示的な方法は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0025】
一実施形態では、本方法は、少なくとも1つの確認ステップをさらに含み、確認ステップは、バックグラウンド高さの信頼性を決定することを含む。すなわち、一実施形態では、本方法は、増加したバックグラウンド値がキャリーオーバーによって引き起こされるかどうかの評価を提供するステップをさらに含む。理解されるように、品質管理目的のためには、分析物について測定された値をおそらく混同するキャリーオーバーを確立することで十分であり得るため、確認ステップは任意である。一実施形態では、バックグラウンド高さの信頼性を決定することは、クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点の一実施形態において、バックグラウンドデータ点の定量器信号および/または定性器信号を分析することを含む。さらなる実施形態では、バックグラウンド高さの信頼性を決定することは、クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点の一実施形態において、定量器信号および定性器信号、特に定性器信号に対する定量器信号の比、すなわち、バックグラウンドデータ点の定量器/定性器比を分析することを含む。一実施形態では、バックグラウンド高さの信頼性を決定することは、上側ピーク境界のすぐ上流および/または下側ピーク境界のすぐ下流、上側ピーク境界のすぐ上流の実施形態では、下側ピーク境界のすぐ下流のさらなる実施形態では、「すぐに」という用語が本明細書で上記に指定される意味を有する、定量器/定性器比を決定することを含む。一実施形態では、値は、特に、定量器/定性器比の計算に使用される場合、本明細書で上述したように、単一サイクル値である。
【0026】
一実施形態では、バックグラウンド高さの信頼性を決定することは、前述の信号および/またはパラメータから信頼性パラメータを決定することを含む。キャリーオーバーの増加の結果として、分析物定量器(AQN)および分析物定性器(AQL)について決定された値は、バックグラウンド測定において増加し、定量器/定性器比の値は、基準定量器/定性器比に近似し、前記基準定量器/定性器比は、分析物特有およびシステム特有である、すなわちアッセイ特有であることが見出された。一実施形態では、基準定量器/定性器比は、本質的に純粋な分析物および/またはキャリーオーバーフリー分析実行において決定された定量器/定性器比であり、さらなる実施形態では、基準定量器/定性器比は、本質的に純粋な分析物および/またはキャリーオーバーフリー分析実行において決定された積分された定量器/定性器比である。したがって、一実施形態では、定量器/定性器比の値が基準定量器/定性器比に近似する場合に、バックグラウンド高さ決定の信頼性が確認される。
【0027】
また、キャリーオーバーの増加の結果として、バックグラウンド測定における分析物定量器(AQN)および分析物定性器(AQL)について決定される値の変動性が減少することが見出されたため、一実施形態では、本明細書の他の箇所で指定される実施形態では、定量器/定性器比の値の変動性が基準を下回る場合にバックグラウンド高さ決定の信頼性が確認される。したがって、一実施形態では、バックグラウンド高さの信頼性を決定することは、信頼性パラメータとすることができるクロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点の一実施形態において、バックグラウンドデータ点の平均、一実施形態では定量器/定性器比の平均、特に中央値、算術平均、または幾何平均を決定することを含む。一実施形態では、前記平均値は、所定の基準と比較される。さらなる実施形態では、一実施形態ではバックグラウンドデータ点の変動性の尺度が、特に定量器信号、定性器信号の、および/または定量器/定性器比の信頼性パラメータとして提供される。バックグラウンドデータ点の変動性のそのような尺度は、当業者によって適切と考えられる任意の変動性パラメータ、特に変動係数とすることができる。しかしながら、例えば標準偏差または同等のパラメータが決定されることも想定される。
【0028】
本明細書で使用される「基準」という用語は、キャリーオーバー決定の信頼性を評価することを可能にする識別器を指す。そのような識別器は、キャリーオーバーを示す、例えば本明細書の他の箇所で指定される平均または変動パラメータの信頼性パラメータの値であってもよい。一実施形態では、基準は、定量的指標であり、さらなる実施形態では、値、例えば閾値であり、範囲、例えば信頼できるキャリーオーバー決定を示す値の範囲であり、スコアであり、または当業者によって適切と考えられる任意の他の値もしくは範囲である。一実施形態では、選択された基準の種類に応じて、基準は、分析物固有、装置固有、および/または方法固有のパラメータであり、さらなる実施形態では、分析物固有のパラメータである。適切な基準を確立するための方法は、本明細書の他の箇所に例示的に提供されている。上記を考慮して、一実施形態では、基準は、本明細書で指定される方法で使用されるのと同じタイプのLC-MS装置を使用して決定される。一実施形態では、バックグラウンドデータ点の定量器信号および/または定性器信号が分析される場合、基準は、定量器信号および/または定性器信号の変動性および/または期待値からの定量器信号および/または定性器信号の偏差の定量的指標の値である。したがって、定量器/定性器比が決定される場合、基準は、予備精製されたもしくは本質的に純粋な分析物および/またはキャリーオーバーフリー分析において決定された定量器/定性器比または積分された定量器/定性器比とすることができる。当業者は、例えばアッセイ開発中に適切な基準値を決定することができる。例示的には、一実施形態では、基準は、例えば、定量器/定性器比が決定された場合の閾値または基準範囲である。したがって、平均、特に中央値が決定される場合、基準は、±最大10倍、さらなる実施形態では±最大2倍、さらなる実施形態では±最大1.5倍、さらなる実施形態では±最大1倍、さらなる実施形態では±最大0.5倍、さらなる実施形態では±最大0.1倍の、本質的に純粋な分析物および/またはキャリーオーバーフリー分析実行において決定された値の(内部)定量器/定性器比とすることができる。したがって、基準範囲は、例えば、±1000%、一実施形態では±100%、さらなる実施形態では±50%、さらなる実施形態では±20%、さらなる実施形態では±10%の本質的に純粋な分析物および/またはキャリーオーバーフリー分析実行について決定された(内部)定量器/定性器比とすることができる。そのような場合、一実施形態では、閾値を下回るか、閾値に対応するか、または基準範囲内の値は、信頼できるキャリーオーバー決定を示す。さらなる例示的な実施形態では、変動係数が変動パラメータとして決定される場合、基準は、最大0.5、一実施形態では最大0.4、さらなる実施形態では最大0.3の閾値、または数学的に対応する値である。そのような場合、閾値以下の値は、一実施形態では、信頼できるキャリーオーバー決定を示す。
【0029】
本明細書で使用される「品質管理」という用語は、当業者に知られている。一実施形態では、品質管理は、エンティティによって実行されたプロセスおよび/または生産された商品が所定の品質基準に適合することを保証するプロセスである。さらなる実施形態では、試料測定、特に患者試料などの医療試料の測定、例えば臨床診断および/または臨床化学における品質管理は、特定の測定方法で得られた分析結果がゴールドスタンダード法で得られる結果に対応すること、したがって、一実施形態では、所定の範囲内で理論的に得られる結果に対応することを確実にすることを含む。したがって、一実施形態では、キャリーオーバーを決定するための方法は、ステップc)の決定結果に応じて、i)ステップb)の結果が所定の閾値を超えるバックグラウンド高さを示す場合に、ステップa)の結果を信頼できないとマークし、任意に、前記対象の試料の再実行を開始するステップ、ii)ステップc)の結果が所定の閾値を超える前記少なくとも1つの前の試料からの分析物のキャリーオーバーを示す場合、ステップa)の結果を信頼できないとマークし、任意に、前記対象の試料の再実行を開始するステップ、およびiii)本明細書の他の箇所で指定される実施形態では、前記少なくとも1つの以前の試料からの分析物のキャリーオーバーについてステップa)の結果を補正するステップ、のうちの1つ以上を1つ以上のさらなるステップとして含む。
【0030】
本明細書で使用される場合、「内部標準」という用語は、一実施形態では、試料中に定義された濃度で存在する分析物に関する。したがって、一実施形態では、内部標準の濃度は既知である。しかしながら、標準の濃度は未知であるが、少なくとも対象の試料および少なくとも1つの較正試料については同じであることも想定される。そのような場合、一実施形態では、内部標準の濃度は、分析される全ての試料について同じである。内部標準は、一実施形態では、分析物と構造的に類似しており、さらなる実施形態では、分析物と構造的に同一である。特に後者の場合、一実施形態では、内部標準は、同位体標識分子、特に分析物の同位体標識バージョン、例えば2H(重水素化)、15Nおよび/または13C標識誘導体である。内部標準試料は、既知の、例えば所定の濃度を有する少なくとも1つの内部標準物質を含む試料とすることができる。標準試料に関するさらなる詳細については、例えば欧州特許出願公開第3 425 369号明細書を参照されたい。
【0031】
有利には、本発明の基礎となる研究では、2つの試料間のキャリーオーバーの程度は、本明細書に記載のようにバックグラウンド高さを測定することによって決定されることができ、その結果、許容できないキャリーオーバーの程度の影響を受ける試料は、バックグラウンド高さを決定することによって検出されることができることが見出された。さらに、ピークキャリーオーバーとバックグラウンド高さとの間に比例関係があり、バックグラウンド高さの決定によってキャリーオーバーの定量的補正が可能であることが見出された。さらに、バックグラウンド高さデータ、特に単一サイクルバックグラウンドデータポイントが使用されて、キャリーオーバー決定の信頼性を検証することができることが見出された。
【0032】
上記の定義は、以下に準用される。以下にさらに行われる追加の定義および説明は、本明細書に記載される全ての実施形態にも準用される。
本発明は、さらに、試料中の少なくとも1つの分析物の濃度を決定するためのシステムであって、
(I)少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置であって、LC-MS装置が、試料中の分析物を測定し、少なくとも1つのクロマトグラムを決定するように構成されている、少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計装置と、
(II)少なくとも1つの評価装置であって、クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定し、バックグラウンド高さに基づいてキャリーオーバーを決定するように構成されている、評価装置と、
を備える、システムに関する。
【0033】
本明細書で使用される「システム」という用語は、互いに動作可能に連結された異なる手段に関する。前記手段は、単一の物理ユニット内に実装されてもよく、または互いに動作可能に連結された物理的に分離されたユニットであってもよい。適切な成分およびそれらの特性は、キャリーオーバーを決定するための方法の文脈において、本明細書の以下の他の箇所および本明細書の上記の箇所に記載されている。したがって、本発明の方法は、本明細書で指定されるシステムによって実装されることができる。したがって、一実施形態では、装置は、本明細書の他の箇所で指定されるような分析物のキャリーオーバーを決定するための方法、本明細書の他の箇所で指定されるような少なくとも1つの測定を行うための方法、および/または本明細書の他の箇所で指定されるような分析物のバックグラウンド高さとキャリーオーバーとの間の関係を決定するための方法を実行するように構成されている。システムは、さらなる装置またはユニット、特にデータ収集器、出力ユニット、通信インターフェース、および/または当業者によって適切であると考えられる任意の他の装置またはユニットを備えることができる。
【0034】
少なくとも1つのクロマトグラムを決定するためのLC-MS装置ならびに手段および方法は、本明細書では、キャリーオーバーを決定するための方法の文脈で上述されている。
【0035】
「評価装置」という用語は、一般に、一実施形態では少なくとも1つのデータ処理装置を使用し、さらなる実施形態では少なくとも1つのプロセッサおよび/または少なくとも1つの特定用途向け集積回路を使用することによって、上述した方法ステップを実行するように適合された任意の装置を指す。したがって、例として、少なくとも1つの評価装置は、いくつかのコンピュータコマンドを含むソフトウェアコードが記憶された少なくとも1つのデータ処理ユニットを備えることができる。評価装置は、示された動作のうちの1つ以上を実行するための1つ以上のハードウェア要素を提供することができ、および/または方法ステップのうちの1つ以上を実行するために実行されるソフトウェアを1つ以上のプロセッサに提供することができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「データ収集器」という用語は、データ、特にLC-MS装置によって決定されたデータ点、クロマトグラム、決定されたバックグラウンド高さ、キャリーオーバー決定の結果、および/または提供された推奨事項、および/または試料に関してさらに進む際に行われる決定を記憶するように構成された任意の記憶ユニットに関する。一実施形態では、データ収集器は、少なくとも1つのクロマトグラムを受信および/または記憶するように構成された少なくとも1つのデータベースを備える。一実施形態では、データ収集器は、1つ以上の基準値を含む少なくとも1つのデータベースを備える。一実施形態では、データ収集器は、バックグラウンド高さとキャリーオーバーとの間の相関に関するデータを含む少なくとも1つのデータベースを備える。
【0037】
本明細書で使用される「出力ユニット」という用語は、システムから別のエンティティへの情報の転送のために構成された任意のユニットに関し、別のエンティティは、さらなるデータ処理装置および/またはユーザとすることができる。したがって、出力装置は、適切に構成されたディスプレイなどのユーザインターフェースを備えてもよく、またはプリンタであってもよい。しかしながら、出力ユニットは、例えばキャリーオーバーの検出を示すインジケータ、例えばインジケータランプであってもよい。
【0038】
「通信インターフェース」という用語は、情報の交換、特にデータの交換のために構成された任意のインターフェースに関するものと当業者によって理解される。そのようなデータ交換は、同軸、ファイバ、光ファイバまたはツイストペア、10ベース-Tケーブル、USBなどのストレージユニットコネクタ、ファイアワイヤ、および同様のコネクタなどの永続的または一時的な物理的接続によって達成されることができる。あるいは、例えば、Wi-Fi、LTE、LTEアドバンストまたはブルートゥース(登録商標)などの電波を使用する一時的または永続的な無線接続によって達成されてもよい。
【0039】
本発明はまた、少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計装置を使用して試料中の分析物の少なくとも1つの測定を行うための方法であって、
(a)第1の試料に対して少なくとも1つの第1の測定を行うステップと、
(b)第2の試料に対して少なくとも1つの第2の測定を行うステップと、
(c)本発明のキャリーオーバーを決定するための方法にしたがって、キャリーオーバーを決定するための方法によって第1の試料から第2の試料へのキャリーオーバーを決定するステップと、
を含む、方法に関する。
【0040】
少なくとも1つの測定を行うための方法は、インビトロ法である。さらに、具体的に述べられたステップに加えてステップを含んでもよい。さらなるステップは、例えば、ステップ(A)の前の試料前処理のステップ、本明細書で上記に指定された品質管理のステップ、または本明細書で上記に指定されたキャリーオーバーのための分析物測定の結果を補正するステップに関することができる。さらに、1つ以上のステップは、自動化された機器によって支援されてもよい。しかしながら、完全な方法は、自動化された方法で、例えばハイスループット分析設定において実行されることも想定される。
【0041】
「試料中の分析物の測定」という用語は、当業者によって理解される。一実施形態では、この用語は、試料中の分析物の量の定性的、半定量的、または定量的決定に関し、一実施形態では、試料中の分析物の量の定量的決定に関する。本明細書で使用される場合、分析物の「量」という用語は、分析物の任意の定量的尺度に関し、試料質量または試料体積が既知である場合の量から計算されることができる質量分率および濃度などの他の対応する尺度と等価である。したがって、試料中の分析物の測定結果は、任意の単位、重量、質量分率、濃度などの測定値、またはそれらから導出された測定値、例えば所定の定義による国際単位を含む、当業者によって適切と考えられる任意の単位で表されることができる。したがって、「少なくとも1つの第1の測定を行うこと」および「少なくとも1つの第2の測定を行うこと」という表現は、それぞれ、上記のように第1および第2の試料中の分析物を測定することに関する。
【0042】
LC-MSによって分析物の量を決定するための方法は、原則として当業者に知られている。一実施形態では、本方法は、分析物のピーク面積(分析物のピーク面積)を決定することによって、試料中の分析物の量を定量的に決定することを含む。さらなる実施形態では、さらに内部標準のピーク面積(ISピーク面積)が決定され、分析物のピーク面積とISピーク面積との比が決定され、一実施形態では、前記比が較正関数と比較され、それによって濃度値が決定される。対応する方法は、当業者に知られている。さらなる実施形態では、分析物の前記量は、キャリーオーバーを決定するための方法の少なくともステップb)およびc)を実行し、一実施形態では、第2の試料について決定された分析物の量から決定されたキャリーオーバーを減算することによって、決定されたキャリーオーバーについて決定された量を補正することによって補正される。
【0043】
本発明は、さらに、バックグラウンド高さと液体クロマトグラフィ質量分析装置上の分析物のキャリーオーバーとの間の関係を決定するための方法であって、
(i)第1の試料について少なくとも1つの第1の測定を行うステップと、
(ii)第2の試料について少なくとも1つの第2の測定を行い、その少なくとも1つのクロマトグラムを決定するステップであって、前記第2の試料が、前記分析物を含まず、一実施形態では対照試料であり、さらなる一実施形態では緩衝液対照試料、ブランク対照試料、またはマトリックス対照試料である、決定するステップと、
(iii)前記第2の試料中の前記分析物の見かけの量またはそれに対応する信号を決定するステップと、
(iv)クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、
(v)少なくとも2つのさらなる第1の試料についてステップ(i)から(iv)を反復するステップであって、前記第1の試料が非同一濃度の前記分析物を含む、反復するステップと、
(vi)ステップ(iii)において決定された分析物の見かけ量またはそれに対応する信号をステップ(iv)において決定されたバックグラウンド高さと相関させるステップと、
(vii)それによって、バックグラウンド高さと分析物のキャリーオーバーとの間の関係を決定するステップと、
を含む、方法に関する。
【0044】
関係を決定するための方法は、インビトロ法である。さらに、本方法は、具体的に言及されていないさらなるステップを含んでもよい。特に、本方法は、分析物を含まない第1の試料を用いてステップi)からiv)を実行することを含んでもよい。本方法の一部または全てのステップは、自動化された機器によって支援または実行されてもよい。
【0045】
分析物の「見かけ量」という用語は、LC-MS法によって検出される量に関する。したがって、見かけ量は、キャリーオーバーのための補正がない場合に分析物について測定された量である。
【0046】
「バックグラウンド高さとキャリーオーバーとの間の関係を決定すること」という用語は、本開示を考慮して当業者によって理解される。一実施形態では、この用語は、本明細書の上記および実施例において指定されるように、バックグラウンド高さとキャリーオーバーとの間の相関のグラフィカルおよび/または数学的表現を確立することに関する。一実施形態では、関係は、線形関係であり、さらなる実施形態では、関係は、閾値を超えると線形である。
【0047】
本発明は、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されると、本明細書に添付された実施形態のうちの1つ以上において本発明にかかる方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムをさらに開示および提案する。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データキャリアに記憶されることができる。したがって、具体的には、上記の1つ、2つ以上、またはさらには全ての方法ステップは、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって、好ましくはコンピュータプログラムを使用することによって支援または実行されることができる。
【0048】
本発明は、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されると、本明細書に含まれる1つ以上の実施形態では、本発明にかかる方法を実行するために、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品をさらに開示および提案する。具体的には、プログラムコード手段は、コンピュータ可読データキャリアに記憶されることができる。
【0049】
さらに、本発明は、例えばコンピュータまたはコンピュータネットワークの作業メモリまたはメインメモリなど、コンピュータまたはコンピュータネットワークへとロードされた後に、本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上による方法を実行することができるデータ構造を記憶したデータキャリアを開示および提案する。
【0050】
本発明は、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されると、本明細書に開示された実施形態のうちの1つ以上にかかる方法を実行するために、機械可読キャリア上に記憶されたプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品をさらに提案および開示する。本明細書中で用いられる場合、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙のフォーマットなどの任意のフォーマットで、またはコンピュータ可読データキャリア上に存在することができる。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0051】
さらに、本発明は、本明細書に開示された実施形態のうちの1つ以上にかかる方法を実行するための、コンピュータシステムまたはコンピュータネットワークによって読み取り可能な命令を含む変調データ信号を提案および開示する。
【0052】
一実施形態では、本発明のコンピュータ実施態様を参照すると、本明細書に開示される実施形態の1つ以上にかかる方法のうちの1つ以上の方法ステップまたは全ての方法ステップは、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって実行されることができる。したがって、一般に、データの提供および/または操作を含む方法ステップのいずれかは、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって実行されることができる。一般に、これらの方法ステップは、試料の提供および/または実際の測定を実行する特定の態様などの手作業を必要とする方法ステップを通常除いて、任意の方法ステップを含むことができる。
【0053】
具体的には、本発明は、以下をさらに開示する。
【0054】
プロセッサが、この説明で記載される実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合された少なくとも1つのプロセッサを備えるコンピュータまたはコンピュータネットワーク。
【0055】
データ構造がコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合されたコンピュータロード可能データ構造。
【0056】
プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合されたコンピュータプログラム。
【0057】
コンピュータプログラムがコンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム。
【0058】
プログラム手段がコンピュータに読み取り可能な記憶媒体上に記憶された、先行する実施形態にかかるプログラム手段を備えるコンピュータプログラム。
【0059】
データ構造が記憶媒体に記憶され、データ構造がコンピュータまたはコンピュータネットワークのメイン記憶部および/またはワーキング記憶部にロードされた後、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合された、記憶媒体。
【0060】
コンピュータまたはコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶媒体上に記憶されることができる、または記憶される、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品。
【0061】
以上を考慮して、以下の実施態様が特に想定される。
【0062】
実施形態1:液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置で前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するための方法であって、
(a)前記LC-MS装置で前記対象の試料の少なくとも1つのクロマトグラムを提供するステップと、
(b)クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、
(c)バックグラウンド高さに基づいて、前記前の試料から対象の試料への分析物のキャリーオーバーを決定するステップと、
を含む、方法。
【0063】
実施形態2:前記クロマトグラムが、溶出時間にわたる分析物特有の信号の強度の表現であり、一実施形態では、溶出時間にわたる分析物定量器信号の強度の表現である、実施形態1に記載の方法。
【0064】
実施形態3:測定ステップa)が、一実施形態では溶出時間にわたって、定量器信号および定性器信号のうちの少なくとも1つを表すデータ点を決定し、場合により記憶媒体に記憶することを含む、実施形態1または2に記載の方法。
【0065】
実施形態4:ステップc)が、バックグラウンド高さとキャリーオーバーに相関するパラメータとの間の所定の関係を使用することを含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
実施形態5:関係が、少なくとも1つの線形関数、少なくとも1つの二次関数、少なくとも1つの有理関数、および/または少なくとも1つのシグモイド関数を含む、実施形態5に記載の方法。
【0067】
実施形態6:ステップb)が、
b1)クロマトグラムにおいて分析物に対応するピークを特定することと、
b2)前記ピークの上側ピーク境界および下側ピーク境界を決定することと、
を含む、実施形態1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0068】
実施形態7:b3)上側ピーク境界および下側ピーク境界内の少なくとも1つの最小信号強度値を決定するステップをさらに含む、実施形態6に記載の方法。
【0069】
実施形態8:バックグラウンド高さが、上側ピーク境界のすぐ上流および/または下側ピーク境界のすぐ下流で決定される、実施形態1から7のいずれか1つに記載の方法。
【0070】
実施形態9:少なくとも1つの確認ステップをさらに含み、確認ステップがバックグラウンド高さの信頼性を決定することを含む、実施形態1から8のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
実施形態10:バックグラウンド高さの信頼性が、信頼性パラメータを計算し、前記信頼性パラメータを所定の基準と比較することによって決定される、実施形態9に記載の方法。
【0072】
実施形態11:前記バックグラウンド高さの信頼性が、バックグラウンドデータ点、好ましくは前記クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点の定量器信号および定性器信号を分析することによって決定される、実施形態9または10に記載の方法。
【0073】
実施形態12:前記確認ステップにおいて、バックグラウンドデータ点の定量器/定性器比が決定される、実施形態9から11のいずれか1つに記載の方法。
【0074】
実施形態13:前記確認ステップにおいて、バックグラウンドデータ点の前記定量器/定性器比の中央値が決定され、所定の基準と比較される、実施形態8から12のいずれか1つに記載の方法。
【0075】
実施形態14:ステップc)において決定された前記キャリーオーバーが、前記定量器/定性器比の中央値が、本質的に純粋な分析物および/またはキャリーオーバーフリー分析において決定された定量器/定性器比の値と最大±100%、一実施形態では最大±50%、一実施形態では最大±20%異なる場合に信頼できると分類される、実施形態13に記載の方法。
【0076】
実施形態15:前記確認ステップが、バックグラウンドデータ点の変動係数好ましくはクロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するために使用されるバックグラウンドデータ点を決定することを含む、実施形態9から14のいずれか1つに記載の方法。
【0077】
実施形態16:ステップc)において決定された前記キャリーオーバーが、バックグラウンドデータ点の変動係数が最大でも所定の基準であり、一実施形態では≦0.5である場合に信頼できると分類される、実施形態15に記載の方法。
【0078】
実施形態17:前記少なくとも1つの前の試料が、前記液体クロマトグラフィ質量分析計で対象の試料の直前に測定された少なくとも1つの試料であり、好ましくは、前記少なくとも1つの前の試料が、前記液体クロマトグラフィ質量分析計で対象の試料の直前に測定された試料である、実施形態1から16のいずれか1つに記載の方法。
【0079】
実施形態18:方法ステップb)およびc)がコンピュータによって実行される、実施形態1から17のいずれか1つに記載の方法。
【0080】
実施形態19:品質管理方法であるか、または品質管理方法に含まれる、実施形態1から17のいずれか1つに記載の方法。
【0081】
実施形態20:試料中の少なくとも1つの分析物の濃度を決定するためのシステムであって、
(I)少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS)装置であって、LC-MS装置が、試料中の分析物を測定し、少なくとも1つのクロマトグラムを決定するように構成されている、少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析計装置と、
(II)少なくとも1つの評価装置であって、前記クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定し、前記バックグラウンド高さに基づいてキャリーオーバーを決定するように構成されている、評価装置と、
を備える、システム。
【0082】
実施形態21:実施形態1から19のいずれか1つに記載の分析物のキャリーオーバーを決定するための方法を実行するように構成されている、実施形態20に記載のシステム。
【0083】
実施形態22:前記評価装置が、実施形態1から9のいずれか1つに記載の分析物のキャリーオーバーを決定するための方法を実行するように適合されている、実施形態20または21に記載のシステム。
【0084】
実施形態23:少なくとも1つの液体クロマトグラフィ質量分析装置を使用して試料中の分析物の少なくとも1つの測定を行うための方法であって、
(a)第1の試料に対して少なくとも1つの第1の測定を行うステップと、
(b)第2の試料に対して少なくとも1つの第2の測定を行うステップと、
(c)実施形態1から19のいずれか1つに記載のキャリーオーバーを決定するための方法を用いて、第1の試料から第2の試料へのキャリーオーバーを決定するステップと、
を含む、方法。
【0085】
実施形態24:所定の閾値を超える前記第1の試料から前記第2の試料への前記分析物のキャリーオーバーが決定された場合、前記第2の試料中の前記分析物について、(i)決定が提供されず、(ii)決定の結果が信頼できないことが示され、および/または(iii)測定の反復が開始される、実施形態23に記載の方法。
【0086】
実施形態25:前記第2の試料中の前記分析物の量を定量することを含む、実施形態23または24に記載の方法。
【0087】
実施形態26:分析物と内部標準定量器とのピーク面積比が決定され、較正関数によって試料中の前記分析物の量が決定される、実施形態23から25のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
実施形態27:前記量が、実施形態1の少なくともステップb)およびc)を個別形成し、前記第2の試料の前記分析物の定量結果から求められたキャリーオーバー決定値を減算することによって補正される、実施形態23から26のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
実施形態28:液体クロマトグラフィ質量分析計装置でのバックグラウンド高さと分析物のキャリーオーバーとの間の関係を決定するための方法であって、
(i)第1の試料について少なくとも1つの第1の測定を行うステップと、
(ii)第2の試料について少なくとも1つの第2の測定を行い、その少なくとも1つのクロマトグラムを決定するステップであって、前記第2の試料が、前記分析物を含まず、一実施形態では対照試料であり、さらなる実施形態では緩衝液対照試料、ブランク対照試料、またはマトリックス対照試料である、決定するステップと、
(iii)前記第2の試料中の前記分析物の見かけの量またはそれに対応する信号を決定するステップと、
(iv)クロマトグラムのバックグラウンド高さを決定するステップと、
(v)少なくとも2つのさらなる第1の試料についてステップ(i)から(iv)を反復するステップであって、前記第1の試料が非同一濃度の前記分析物を含む、反復するステップと、
(vi)ステップ(iii)において決定された分析物の見かけ量またはそれに対応する信号をステップ(iv)において決定されたバックグラウンド高さと相関させるステップと、
(vii)それによって、バックグラウンド高さと分析物のキャリーオーバーとの間の関係を決定するステップと、
を含む、方法。
【0090】
実施形態29:実施形態9から19のいずれか1つに記載の方法にかかる信頼性決定のための1つ以上の基準値、および/または実施形態28に記載の方法にしたがって決定された実施形態におけるバックグラウンド高さとキャリーオーバーとの間の相関に関するデータを含むデータキャリア上に有形に埋め込まれたデータベース。
【0091】
実施形態30:実施形態20から22のいずれか1つに記載のシステムのデータ収集器上に有形に埋め込まれた実施形態29に記載のデータベース。
【0092】
実施形態31:少なくとも1つのプロセッサを備えるコンピュータまたはコンピュータネットワークであって、前記プロセッサが、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法の少なくともステップb)およびc)および/または実施形態28に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行するように適合される、コンピュータまたはコンピュータネットワーク。
【0093】
実施形態32:データ構造がコンピュータ上で実行されている間に、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法の少なくともステップb)およびc)および/または実施形態28に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行するように適合される、コンピュータロード可能データ構造。
【0094】
実施形態33:コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法の少なくともステップb)およびc)および/または実施形態28に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行するように適合される、コンピュータプログラム。
【0095】
実施形態34:コンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されている間に、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法の少なくともステップb)およびc)および/または実施形態28に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行するためのプログラム手段を備える、コンピュータプログラム。
【0096】
実施形態35:実施形態34に記載のプログラム手段を備えるコンピュータプログラムであって、前記プログラム手段が、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶される、コンピュータプログラム。
【0097】
実施形態36:記憶媒体であって、データ構造が前記記憶媒体に記憶され、前記データ構造が、コンピュータまたはコンピュータネットワークの主記憶装置および/または作業記憶装置にロードされた後に、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法の少なくともステップb)およびc)および/または実施形態28に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行するように適合される、記憶媒体。
【0098】
実施形態37:プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品であって、前記プログラムコード手段は、記憶媒体に記憶され得るか、または記憶されており、プログラムコード手段がコンピュータまたはコンピュータネットワークで実行されたときに、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法の少なくともステップb)およびc)ならびに/または実施形態28に記載の方法の少なくともステップ(vi)を実行させる、コンピュータプログラム製品。
【0099】
本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体の開示内容および本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書で組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】前の試料の分析物定量器(AQN)ピーク面積(x軸)とブランク試料の分析物定量器(AQN)ピーク面積(現在の試料、y軸)との間の相関である。
【
図2】キャリーオーバーの影響を示すAQNマストレースの例である;1:ブランク試料;2:中程度の量の分析物を含む試料;3:ブランク試料;4:検体量の多い試料;5:ブランク試料;矢印は、試料3が試料3の直後に測定され、試料5が試料4の直後に測定されたことを示す。下段は上段と同じクロマトグラムを示しているが、倍率がより高い(y軸上のスケールが異なる)。
【
図3】2つのタイプのキャリーオーバーの相関-バックグラウンド高さ(x軸)およびAQNピーク面積(y軸)である。
【
図4】キャリーオーバーの確認尺度として使用される単一サイクル比である。上段:経時的な信号強度(それぞれAQN(上の線)およびAQL(下の線))の例示的なクロマトグラム;中段:経時的な単一値および上段のデータ点のAQN/AQL比の中央値;下段:上段のデータ点のAQN/AQL比の変動係数。
【
図5】LC-MS法におけるテストステロン(40pg/mL-200ng/mL)の線形較正関数である。
【
図6】実施例3のテストステロン測定におけるバックグラウンド高さとキャリーオーバーピーク面積との間の相関である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
以下の実施例は、単に本発明を例示するものである。それらは、いかなる場合でも、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
実施例1:キャリーオーバーとバックグラウンド高さとの相関
【0102】
実験では、高濃度試料、続いてブランク試料のLC-MS設定データを生成した。
図1に示すように、ブランク試料の分析物ピーク面積と前の試料の分析物ピーク面積との間の相関が観察された。この関数の傾きは、キャリーオーバーの程度の尺度である。分析物のキャリーオーバーは、典型的には、LCカラム前のキャリーオーバーからのピークおよびLCカラム後のキャリーオーバーからの広範なベースライン増加(バックグラウンド信号)の2つの形態で起こる(
図2)。
【0103】
双方のタイプのキャリーオーバーは、ブランク試料、ダブルブランク、または溶媒試料のような分析物を含まない試料内で測定されることができるが、実際の患者試料内ではバックグラウンドの増加のみが測定されることができる。このため、キャリーオーバーによる結果偏差は、直接測定されることができない。予想外にも、双方のタイプのキャリーオーバーがかなり明確な相関を示すことが見出された(
図3)。したがって、バックグラウンド信号が使用されて、測定された試料内のキャリーオーバーを監視することができる。この相関関係を使用して、患者試料の定量結果に対するキャリーオーバーの影響の計算が推定されることができる。
実施例2:キャリーオーバー測定の確認
【0104】
原則として、バックグラウンド信号の増加は、いくつかの原因を有することができる。典型的な原因は、化学ノイズ(干渉)、バックグラウンド干渉、機器ノイズ、およびキャリーオーバーである。特に、機器ノイズは、イオン源の経年劣化および検出器の経年劣化/電圧の関数であるため、時間とともに変化する。バックグラウンド信号増加の非特異的な供給源からのキャリーオーバーによる影響を区別するために、全ての単一のデータ点の定量器/定量器比(単一サイクル比)が使用されて、目標値と比較することによってこの知見を確認することができる。さらに、単一サイクル比の変動係数(cv)を確認のために使用することもできる(
図4)。
実施例3:テストステロン測定における適用
【0105】
患者試料中のテストステロンの濃度は、較正関数(
図5)によって、測定された分析物定量器および内部標準定量器のピーク面積比(AQN/IQN)の濃度値を読み取ることによって決定されることができる。
【0106】
3つの異なる試料を比較した。非常に高濃度の試料の後に、非常に低い分析物濃度を有する試料1を測定した。高濃度試料の後に低分析物濃度の試料2を測定し、非常に高濃度の試料の後に中濃度の試料3を測定した。
図6にかかる相関を使用して、測定値がキャリーオーバーについて検証されることができる。結果を表1に要約する。
【0107】
2列目は、ピーク面積AQN、ピーク面積IQN、およびこれから計算されたAQN/IQN比の値、ならびにそれぞれの試料について決定されたバックグラウンド高さを示している。3列目は、カラム2のAQN/IQN比から計算された分析物濃度を示している。
【0108】
4列目は、バックグラウンド高さおよび
図6にかかる相関に基づいて決定された、キャリーオーバーによって寄与した見かけのAQNピーク面積、ならびに絶対濃度に対するキャリーオーバーの寄与および計算された濃度に対するこの寄与の割合を示している。結論として、試料1では、測定濃度の62%が実際にキャリーオーバーによって引き起こされた。
【0109】
表1の5列目は、確認尺度を示しており、それぞれの上段は、ピーク境界のすぐ外側のデータ点、所定の基準範囲、およびそれぞれの値と基準との比較の結果について計算された単一サイクルAQN/AQL比の中央値を示し、OKは、基準範囲内にある測定値を指し、すなわちキャリーオーバーを確認することを指し、NOは、基準範囲外にある値を示し、すなわちキャリーオーバーを確認しないことを示す。それぞれの下段は、ピーク境界のすぐ外側のデータ点について計算された単一サイクルAQN/AQL比の変動係数(cv)、所定の基準範囲、およびそれぞれの値と上記の意味を有する基準、OKおよびNOとの比較の結果を示す。
【0110】
表6に示すように、試料1および3では、試料3での干渉は軽微であるものの、キャリーオーバーによる干渉が確認されている。対照的に、試料2の測定では明らかなキャリーオーバーはない。
文献:
欧州特許出願公開第3 425 369号明細書
Lynch(2020)、Clinical Chemistry 62(1):24-299
【表1】
【国際調査報告】