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特表2023-520099蒸発冷却を備えた電池システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-16
(54)【発明の名称】蒸発冷却を備えた電池システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/633 20140101AFI20230509BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230509BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20230509BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230509BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20230509BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01M10/633
H01M10/613
H01M10/653
H01M10/625
F28D15/02 M
H05K7/20 Q
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535848
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 IB2019061283
(87)【国際公開番号】W WO2021130518
(87)【国際公開日】2021-07-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511081196
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マルタ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF MALTA
【住所又は居所原語表記】Msida,MSD2080 Malta
(74)【復代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】カミッレーリ,ロベルト
【テーマコード(参考)】
5E322
5H031
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322DB12
5E322EA11
5E322FA01
5H031CC09
5H031KK08
(57)【要約】
【解決手段】電池システムは、多孔質芯部と熱連通する少なくとも1つの電池セルを有する電池パックを囲む、蓋を備えた圧力容器を含む。電池パックは、液相である伝熱流体に部分的に沈没される。多孔質芯部から伝熱流体の蒸発によって、作動温度範囲内に電池の温度を維持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池システムであって、
取り外し可能な蓋によって密閉された圧力容器と、
前記圧力容器内の少なくとも1つの電池パックであって、前記少なくとも1つの電池パックは、縦軸を含み、かつ所定の温度範囲内で作動するために構成された、少なくとも1つの電池パックと、
前記少なくとも1つの電池パックを少なくとも部分的に包み、かつ前記少なくとも1つの電池パックと熱連通する芯部と、を含み、
ここで、前記芯部は、多孔質材料からなり、濡れると、縦軸に実質的に平行な方向に前記芯部に沿って流体の流れを制御し、前記少なくとも1つの電池パックを所定の温度範囲内に維持し、および前記少なくとも1つの電池パック内の温度差を減少させるように構成される、電池システム。
【請求項2】
芯材パッドと熱連通する電池管理サブシステムをさらに含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記芯材パッドは多孔質材料でできている、請求項1に記載の電池システム。
【請求項4】
前記芯部は、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、綿、およびビスコースからなる群から選択される少なくとも1つの材料で構成される、請求項1に記載の電池システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電池パックはリチウムイオン電池セルを含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電池パックは、円筒状またはプリズム形状である電池セルを含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項7】
前記所定の温度範囲は摂氏35度以下である、請求項1に記載の電池システム。
【請求項8】
前記蓋の表面は、強制的空気対流による冷却のために構成される、請求項1に記載の電池システム。
【請求項9】
前記蓋は、ヒートシンクとして機能するように構成される、請求項1に記載の電池システム。
【請求項10】
前記蓋は、冷却剤を通らせて輸送するための導管を含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項11】
前記導管は、熱交換流体の供給源と連通するように構成される、請求項10に記載の電池システム。
【請求項12】
前記蓋は、少なくとも1つの圧力逃し弁を含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項13】
前記蓋は、電気的フィードスルーを含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項14】
前記圧力容器の表面は、電気的フィードスルーを含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項15】
前記芯部を部分的に浸漬するように、所定の高さまで延在する前記圧力容器中の伝熱流体をさらに含む、請求項1に記載の電池システム。
【請求項16】
前記伝熱流体は液相であり、所定の沸点温度および所定の気化熱を有する、請求項15に記載の電池システム。
【請求項17】
前記所定の気化熱は、前記伝熱流体の1グラム当たり100ジュール以上である、請求項16に記載の電池システム。
【請求項18】
前記所定の沸点温度は、前記所定の温度範囲の最大値にほぼ等しい値である、請求項16に記載の電池システム。
【請求項19】
前記伝熱流体の体積は、前記圧力容器の内部体積の約5%~約30%である、請求項15に記載の電池システム。
【請求項20】
電池システムを蒸発冷却するための方法であって、
圧力容器、前記圧力容器内の少なくとも1つの電池パック、芯部、電池管理サブシステム、および芯材パッドを提供する工程と、
前記芯部を前記少なくとも1つの電池パックと熱連通して、および、前記芯材パッドを前記電池管理サブシステムと熱連通するように配置する工程と、
所定の沸点温度および所定の気化熱を有する液相の伝熱流体を提供する工程と、
前記圧力容器を所定の高さまで伝熱流体で満たし、それによって、前記芯部を前記伝熱流体に部分的に浸漬する工程と、
前記伝熱流体の蒸発によって前記少なくとも1つの電池パックの表面から熱を放散する工程と、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システム、具体的には、冷却機構を備えた電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、断続的な再生可能エネルギー源を最大限に活用することで、輸送を電動化し、発電業界を変革するための重要な実現技術である。特に、充電式リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度、長い電池寿命、高い放電率、低い自己放電特性、メモリー効果なし、および非常に低いメンテナンスを必要とする多くの用途に最適なエネルギー貯蔵技術になっている。
【0003】
しかしながら、既存の電池には欠点がないわけではなく、これは、内部の化学的性質の安定性が限られていることに起因する。電池パック内の個々の電池セルは、高速で充電または放電されると、内部抵抗のため相当な熱を発生する。熱の発生率が放熱率を超えると、電池セルの中核温度が上昇する。中核温度が上昇すると、電池全体の寿命が短くなるだけでなく、熱暴走や壊滅的な電池障害を引き起こす可能性がある。さらに、電力密度が非常に高いリチウムイオン電池は、現在、可燃性液体を使用して、電池セル内のリチウムイオンの可動性を高めている。これらの電池において、過熱はさらに火災の危険をもたらす。
【0004】
電池セルの内部加熱の例として、典型的な18650型のリチウムイオン充電式電池セルは、30ミリオームの平均直流内部抵抗を有する。電池端子間の電流が20アンペアに達すると、オーム加熱電力は12ワットになる。したがって、そのような電池セルが1,000個ある電池パックは、12キロワットの熱出力を生成し、放散する必要がある。熱過負荷を避けるために、熱を放散しなければならない。さらに、電気自動車では、自動車の設計および性能の要件を満たすために、電池システムを軽量、かつフォームファクターを小さくする必要があるため、放熱の問題はさらに複雑になる。
【0005】
高エネルギー密度電池システムにおいて電池寿命を延ばし、性能を向上させ、熱暴走のリスクを低減、または排除するための1つのアプローチは、電池管理サブシステム(またはBMS)を使用することである。BMSは典型的に、電池パックの充電/放電率を制御し、電池セルの温度が、リチウムイオン電池の場合に摂氏15~35度(C)などの所定の動作温度範囲内に維持されるようにする。電気自動車がオフの場合でも、BMSは稼働中のままである。例えば、電池パックのオフライン再充電中、再充電に必要な時間が長くなる可能性があっても、BMSは、過熱を防ぐために充電率を制御する。
【0006】
しかしながら、BMSには、電気自動車の性能範囲に制限を課すという欠点がある。例えば、機械的エネルギーを使用して電池セルを急速充電する回生ブレーキ中に、BMSは、熱過負荷を防ぐために回生を一時停止または制限する場合がある。別の例として、電池セルの高い電池放電率を必要とする登坂および急加速中、BMSは、熱過負荷を防ぐために、加速度または加速の持続時間を制限する場合がある。
【0007】
電池セルからの放熱率は、強制的空気対流、間接冷却、ヒートパイプ、および液体への直接浸漬など、さまざまな熱力学的冷却機構によって向上させられ得る。ファンが周囲の空気または冷却された空気を電池パックに吹き付ける強制的空気対流は、実装が簡単であるが、放熱が不十分になる。電池パックがマニホールドによって外部ラジエーターまたは熱交換器に接続される間接冷却は、重量およびフォームファクターの制限のため、典型的に電気自動車には実用的ではない。同様の理由で、ヒートパイプは実用的ではない。さらに、大型電池パックの間接冷却は、電池セル間の大きな温度差、および電池セル内の大きな温度勾配に悩まされる。高比熱容量の液体に直接浸漬すると、液体の熱伝導および対流によって冷却が容易になるが、液体の体積および重量を大きくする必要があることが大きな欠点である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、軽量および小さなフォームファクターを維持しながら、蒸発冷却を使用して大きな熱負荷を放散する電池システムおよび方法を提供する。
【0009】
本発明は、多孔質芯部と熱連通する少なくとも1つの電池セルを有する電池パックを囲む、蓋を備えた圧力容器を含む電池システムを提供する。電池パックは、液相である伝熱流体に部分的に沈没される。多孔質芯部から伝熱流体の蒸発によって、作動温度範囲内に電池セルの温度を維持する。
【0010】
本発明の実施形態は電池パックを対象とする。電池パックは、縦軸を含み、所定の温度範囲内に作動するために構成された、少なくとも1つの電池セル、少なくとも1つの電池セルと熱連通する芯部であって、芯部は、少なくとも1つの電池セルを少なくとも部分的に履い、および多孔質材料でできた芯部であり、濡らされたとき、縦軸に実質的に平行な方向に芯部に沿って流体の流れを制御し、少なくとも1つの電池パックを所定の温度範囲内の温度に維持するために構成される、芯部を含む。
【0011】
随意に、電池パックは、芯部がポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、綿、およびビスコースからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含むようなものである。
【0012】
随意に、電池パックは、少なくとも1つの電池セルがリチウムイオン電池セルであるようなものである。
【0013】
随意に、電池パックは、少なくとも1つの電池セルが円筒状またはプリズム形状であるようなものである。
【0014】
随意に、電池パックは、所定の温度範囲が摂氏約35度以下であるようなものである。
【0015】
随意に、電池パックは、少なくとも1つの電池セルが複数の電池セルを含むようなものである。
【0016】
本発明の実施形態は電池システムを対象としている。電池システムは、圧力容器、および圧力容器中の少なくとも1つの電池パックを含む。少なくとも1つの電池パックは、縦軸を含み、所定の温度範囲内に作動するために構成された、少なくとも1つの電池セル、少なくとも1つの電池セルと熱連通する芯部であり、芯部は、少なくとも1つの電池セルを少なくとも部分的に履い、および多孔質材料でできた芯部であり、濡らされたとき、縦軸に実質的に平行な方向に芯部に沿って流体の流れを制御し、少なくとも1つの電池パックを所定の温度範囲内の温度に維持するために構成される、芯部を含む。
【0017】
随意に、電池システムは、圧力容器が蓋によって覆われた囲まれたチャンバーを含むようなシステムである。
【0018】
随意に、電池システムは、少なくとも1つの電池セルが複数の電池セルを含むようなシステムである。
【0019】
随意に、電池システムは、芯部がポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、綿、およびビスコースからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含むようなシステムである。
【0020】
随意に、電池システムは、少なくとも1つの電池セルがリチウムイオン電池セルであるようなシステムである。
【0021】
随意に、電池システムは、少なくとも1つの電池セルが円筒状またはプリズム形状であるようなシステムである。
【0022】
随意に、電池システムは、所定の温度範囲が摂氏35度以下であるようなシステムである。
【0023】
随意に、電池システムは、蓋の表面が、強制的空気対流による冷却のために構成されるようなシステムである。
【0024】
随意に、電池システムは、蓋がヒートシンクとして機能するように構成されるようなシステムである。
【0025】
随意に、電池システムは、蓋が冷却剤を通らせて輸送するために導管を含むようなシステムである。
【0026】
随意に、電池システムは、導管が熱交換流体の供給源と連通状態になるために構成されるようなシステムである。
【0027】
随意に、電池システムは、蓋が少なくとも1つの圧力逃し弁を含むようなシステムである。
【0028】
随意に、電池システムは、蓋が電気的フィードスルーを含むようなシステムである。
【0029】
随意に、電池システムは、圧力容器の表面が電気的フィードスルーを含むようなシステムである。
【0030】
随意に、電池システムは、芯部を部分的に浸漬するように、所定の高さまで延在する圧力容器内の伝熱流体をさらに含むようなシステムである。
【0031】
随意に、電池システムは、伝熱流体が液相であり、所定の沸点温度および所定の気化熱を有するようなシステムである。
【0032】
随意に、電池システムは、所定の気化熱が、伝熱流体の1グラム当たり100ジュール以上であるようなシステムである。
【0033】
随意に、電池システムは、所定の沸点温度が、所定の温度範囲の最大値にほぼ等しい値であるようなシステムである。
【0034】
随意に、電池システムは、伝熱流体の体積が、圧力容器の内部体積の約5%~約30%の間になるようなシステムである。
【0035】
随意に、電池システムは、圧力容器中に電池管理サブシステムをさらに含むようなシステムである。
【0036】
随意に、電池システムは、電池管理サブシステムと熱連通する芯材パッドをさらに含むようなシステムである。
【0037】
随意に、電池システムは、芯材パッドが多孔質材料であるようなシステムである。
【0038】
本発明の実施形態は、電池システムを蒸発冷却するための方法に関する。該方法は、圧力容器および圧力容器中の少なくとも1つの電池パックを提供する工程であって、電池パックは少なくとも1つの電池セルおよび芯部を含む、工程と、芯部を少なくとも1つの電池セルと熱連通させるように配置する工程と、所定の沸点温度および所定の気化熱を有する液相に伝熱流体を提供する工程と、圧力容器を所定の高さまで伝熱流体で満たし、それにより、芯部を伝熱流体に部分的に浸漬させる工程と、伝熱流体の蒸発によって少なくとも1つの電池セルの表面から熱を放散する工程とを含む。
【0039】
本明細書に別段の定めがない限り、本明細書中で使用される全ての技術的および/または科学的な用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料は、本発明の実施形態の実施あるいは試験の際に使用され得るが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含む本特許明細書が優先される。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示にすぎず、必ずしも限定的であることを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明のいくつかの実施形態は、ほんの一例として添付の図面を参照して、本明細書に記載されている。とりわけ図面を詳細に参照することで、示されている詳細は一例であり、本発明の実施形態の例示的な説明の目的のためのものであることを強調する。この点では、図面に関する記載により、本発明の実施形態をいかにして実施するかが当業者に明白となる。
【0041】
ここで、図面に着目すると、同様の参照番号または特徴は、対応するまたは同様の構成要素を指し示す。
図1図1は、本発明に係る例示的な電池システムの斜視図である。
図2図2は、図1の電池システムの様々な芯材料における、芯部の高さ対湿潤時間の実験的プロットを示すグラフである。
図3図3は、図2の電池システムの例示的な芯材料の拡大図である。
図4図4は、本発明に係る例示的な電池パックの断面図である。
図5図5は、本発明に係る、図1の電池システムを製造するための例示的な方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図面の詳細な説明
【0043】
図1は、本発明に係る例示的な電池システム(100)の斜視図を示す。システム(100)において、例示的な配向は、相互に直交するベクトルX、Y、およびZに基づく。本文書全体にわたって、上向き、下向き、上位、下位、上、下、上部、下部などの方向や配向に対する言及がなされる。これらの言及は、本発明、およびその実施形態を記述かつ説明するための例示であり、いかなる形でも限定されるものではない。
【0044】
システム(100)は、システム(100)の内部にある圧力容器(110)を含む。圧力容器(110)は、Z軸がほぼ垂直方向を指すように配向されており、この方向は、平面X-Yに垂直である。圧力容器(110)は、取り外し可能な蓋(115)を含み、この蓋は、例えば、容器(110)のための流体(気体および/または液体)密封を形成する。圧力容器(110)は、電池パック(130)および電池管理サブシステム(BMS)(140)を包囲しており、その両方は圧力容器(110)の内部で組み立てられている。伝熱流体(HTF)(120)が設けられており、例えば、表面レベル(122)をH1によって示される高さに到着させる。例えば、HTF(120)の体積は、圧力容器(110)の内部体積の約5%~約30%の間で変動する。このようにHTF(120)の体積が変動することで、電池システム(100)における一連の作動状態が可能になる。
【0045】
蓋(115)は、例えば、冷媒冷却剤などの外部から供給される熱交換流体によって冷却され、熱交換流体は、熱伝導導管(116)、例えば、蓋(115)に埋め込まれた冷却導管(116)を通って流れる。取り外し可能な蓋(115)の圧力逃し弁(117)は、内圧が所定の安全値を超えることを防止する。フィードスルー(118)は、電力ケーブルおよび信号ケーブルが圧力容器(110)の壁を通過することを可能にする。代替的に、フィードスルー(118)は、取り外し可能な蓋(115)上に、または圧力容器(110)の壁のうちいずれかに沿って配置されてよい。
【0046】
電池パック(130)は、例えば、数多くの電池セル(133)を含み、その各々は、Z軸とほぼ平行な長手軸「L」を有し、少なくとも一部が多孔質芯部(135)に囲まれている。電池セル(133)は、例えば、直並列電気回路で配線されることにより、互いに電気通信状態となる。BMS(140)は、電池パック(130)に電気的に配線される(図1に示されない回路と配線)。BMS(140)は電気回路を含み、この回路は、基盤(図示せず)の上に取り付けられ、多孔質芯材パッド(145)との熱接触状態で配置される。
【0047】
多孔質芯部(135)は、芯部(135)の界面と対応する電池セル(133)に熱的接触が存在するように個々の電池セル(133)の形状に一致する。電池セル(133)は、図1において円筒形状を呈するものとして示されているが、他の形状が適切である。例えば、電池セル(133)は、リチウムイオン・ポリマー電池の形状などのプリズム形状を呈してもよい。さらに、図1に示されるように、芯部(135)は、電池セル(133)を完全に取り囲んでもよく、または芯部(135)が電池セル(133)を部分的に取り囲むように切り欠きを有してもよい。
【0048】
多孔質芯材パッド(145)は、芯部(135)と同じHTFを使用して、BMS(140)に蒸発冷却をもたらす。図1に概略的に示されるように、多孔質芯材パッド(145)は、電気回路構成要素を含む表面と反対側にあるBMS(140)の表面と熱接触状態にある。芯部(135)および芯材パッド(145)は、例えば、同じ材料組成を有する。例示的な材料は、気孔率が約30%~70%である80重量%ポリエステルと20重量%ポリアミドの撚り繊維配合物などの材料である。さらに、芯部(135)および多孔質芯材パッド(145)のための材料組成を、以下の表1に提供する。
【0049】
隣接する芯部(135)の間に存在するギャップ(134)はチャネルを形成し、このチャンネルを通って、蒸発するHTF蒸気は蓋(115)に向かって流れ出る。図1に示されるように、電池パック(130)中の電池セル(133)のタイリング幾可学的形状は、例えば、六角形である。隣接する電池セル(133)の芯部(135)は、密に詰まった平面アレイを形成する。代替的に、隣接する電池セル(133)の芯部(135)は、例えば、電池パックの間隔の制約に応じて、間隔を置いて配置される。
【0050】
HTF(120)は、例えば、非腐食性、不燃性、電気絶縁性の誘電性流体であり、その沸点温度は、電池セル(133)の動作温度範囲の上限(典型的に35℃)以下であり、気化熱は1グラム当たり100ジュールを超える。HTF(120)の熱伝導性(k)は、典型的に0.05ワット毎メートル毎度という所定の最小値よりも大きい。高熱伝導率により、HTF温度は容器(110)全体にわたってほぼ同じになり、それによって、電池セル間の温度変動は低減される。HTF(120)の例示的な材料は、例えば、3M(商標)Novec(商標)7000Engineered Fluid(1-メトキシヘプタフルオロプロパン)である。
【0051】
矢印(123)で表される毛細管の流れにより、HTFレベルは芯部(135)の内部で上昇する。定常状態の芯材高さ(H2)は、ジュリンの法則により、HTF(120)の密度(ρ)と表面張力(γ)、HTFと芯材料間の進行する液体接触角(θ)、平均芯細孔半径(R)、および重力加速度(g)に依存する:
【0052】
【数1】
方程式1は、典型的に3マイクロメートル~100マイクロメートルの広範囲の細孔半径Rにわたり有効である。方程式1は、この範囲にわたり、約3~20マイクロメートルの小さな細孔半径が大きな芯材高さ(H2)を達成することを示している。
【0053】
細孔半径Rは、例えば、芯材料を構成するフィラメントの幾何学的形状に依存する。フィラメントは、捻られる場合があり、その場合、1メートルあたりの回転数の単位で測定されるときのより高い捻れレベルは、一般的に、同じフィラメント寸法において、より小さな値の細孔半径Rをもたらす。例えば、最大の芯材高さ(H2)は、典型的に1メートルあたり100~300回転の範囲の捻れレベルで達成される。この範囲外では、捻れトレベルの値がさらに高くなると、方程式1を有効にするには小さすぎる細孔半径が生じる可能性がある。
【0054】
接触角度θは、HTF(120)と芯部(135)の材料組成に依存し、例えば、可能な限りゼロに近くなる。
【0055】
適切な蒸発冷却操作のために、芯材高さ(H2)の値は、例えば、(L-H1)以上であり、ここで、LとH1はそれぞれ、電池セル(133)の上部および表面(122)の高さであり、容器(110)の下部より上にある。H2の値に関するこの条件が満たされると、HTF(120)は、典型的に芯部(135)全体を電池セル(135)の上部まで濡らせる。
【0056】
HTFは、空気と接触している芯部(135)の表面から蒸発し、芯部(135)の側面と上面からそれぞれ放たれる矢印(126)および(128)で表される蒸気の流れを生じさせる。蒸気は、蓋(115)に向かって上昇し、そこで凝縮して液体になり、矢印(125)で表されるHTF戻り流を生成し、HTF表面レベル(122)を上昇させる。
【0057】
図2は、(a)~(e)とラベル付けされた5つの異なる種の芯材料について、ミリメートル(mm)での芯材高さ対秒での湿潤時間(t)の実験プロットを示すグラフである。実験では、初期時間t=0で乾燥した芯部をHTFの槽に入れ、毛細管圧力の作用によって芯部の高さが上昇し始めた。芯部の高さは、最初は時間とともに直線的に増加し、その後、方程式1のH2で与えられる定常状態の値に横ばいになった。芯材高さの初期変化率(U)は、主にHTFの動的粘度と芯部の細孔半径Rに依存していた。以下の表1は、芯材料および、図2の5つの曲線のそれぞれについて実験的に決定されたUおよびH2の値を示している。
【0058】
【表1】
UとH2の最大値は、ポリエステルとポリアミドの80-20配合物に対応するケース(a)に取得される。
【0059】
図3は、光学顕微鏡で作成された拡大画像に基づいた、表1からのケース(a)に対応する80-20配合物の図面を示している。垂直陰影のある領域(310)はポリエステル糸に対応し、太い破線の陰影のある領域(320)はポリアミド糸に対応する。ポリアミド糸は、ポリエステル糸に対して約40度の角度(θ)で渦巻き模様を形成する。これにより、毛細管圧が高まり、過剰な重量を含み、冷却が非効率になる過剰な液体(すなわち、HTF)が不要になる。
【0060】
図4は、本発明の別の実施形態に係る、単一の電池セル(133)および多孔質芯部(135)を含む電池パックの断面図である。電池直径および芯部の厚さは、それぞれDおよびTで示され、ミリメートル(mm)の単位で表される。電池セル(133)は、表面レベル(122)までHTF(120)に浸漬される。表面レベル(122)より下では、芯部とHTF(120)との間の熱対流によって冷却が行われる。表面レベル(122)より上では、熱は芯部(135)からの蒸発冷却(蒸発)によって放散される。HTF(120)の気化潜熱が高いため、電池表面の単位面積あたりの蒸発冷却は、熱対流よりも効率的である。
【0061】
蒸発した液体は、毛細管流(123)によって、方程式で与えられる質量流量で芯部に補充される:
【0062】
【数2】
【0063】
式中、mWは芯部内のHTFの質量、U/2は時間平均毛細管流量の近似値、およびαは芯部の多孔質であり、これは典型的に30%~75%の無次元パラメーターである。
【0064】
蒸発冷却によって提供されるものを除いてすべての冷却源を無視すると、上記の質量流量は、P/qの値以上であるべきであり、典型的にそれを超える必要があり、ここで、Pは電池セル(133)によって消費される最大熱出力であり、qはHTFの1グラム当たりのジュール単位の蒸発潜熱である。したがって、芯部の厚さ(T)は、以下のように方程式3の条件を満たすべきであり、典型的に満たす必要がある。
【0065】
【数3】
これにより、Tの値に下限が設定される。
【0066】
電池(133)の外部表面から芯部(135)の厚さを通る熱の熱流は、膜沸騰を防ぐ範囲内でなければならず、典型的にそうであるべきである。膜沸騰が始まると、蒸発冷却が芯部と電池セルの界面の薄い領域に制限され、濡れた芯部の厚さ全体が蒸発冷却に寄与するのを防ぐ。さらに、膜沸騰の開始には、電池セル表面を最高作動温度よりもはるかに高い温度に過熱することが必要とされる。
【実施例
【0067】
この例は、1つの電池セル当たりP=12ワットの必要な最大冷却電力を達成するためのパラメーターの例を示す。システムの例示的な構成部分は以下のとおりである:
(a)電池セル:Samsung(商標)18650型リチウムイオン電池、3000ミリアンペア時(mAh)の公称容量を有する型番INR18650-30Q;20アンペアの最大放電電流;P=12ワットの最大熱方放散;D=18.33mmの直径;および、64.85mmに等しい高さ。
(b)伝熱流体(HTF):3M(商標)Novec(商標)7000 engineered fluid(1-メトキシヘプタフルオロプロパン);34Cの沸点;1グラム当たりq=142ジュールの蒸発潜熱、1C当たり1メートル当たりk=0.075ワットの熱伝導性;ρ=1.4グラム/立方センチメートルの液体の密度;0.32センチストークの動粘性率;および、7.4の誘電定数;標準気温および圧力(25oCおよび1気圧)の条件である。(c)芯部:吸上率U=5.2mm/秒、公称芯部多孔質α=0.5のポリエステル80%(重量)とポリアミド20%(重量)のねじり繊維ブレンド。
【0068】
例示的なHTFは、多孔質芯材料、電池セル、およびBMSと化学的に適合性であり、ならびに非毒性、非可燃性、非腐食性、および難燃性である。
【0069】
方程式3に数値パラメーター値を代入すると、T(D+T)≧14.8mmが得られ、これは、電池セルの直径がD=18.33mmの場合、芯部の厚さTが0.78mm以上であることを意味する。
【0070】
製造方法
図5は、図1の電池システムの製造の例示的なプロセス、または方法(400)のブロック図である。プロセスは、サブプロセスを含み、この方法は、以下のように、ブロック(402)~(416)のサブプロセスによって実行される:
402-電気フィードスルーおよび、埋め込まれた冷却導管を備えた蓋を備えた圧力容器を提供する工程;
404-所定の沸点の伝熱流体(HTF)を提供する工程;
406-多孔質芯部と熱的に接触する少なくとも1つの電池セルを備えた電池パックを準備する工程;
408-電池パックを圧力容器の底部、またはその近くに取り付ける工程;
410-多孔質芯部が部分的に沈むように圧力容器にHTFを所定のレベルまで充填する工程;
412-電池パックからフィードスルーへ電気配線を接続する工程;
414-圧力容器の蓋を閉じて密閉する工程;および
416-埋め込まれた冷却導管を外部の熱交換流体源に接続する工程。
【0071】
本明細書に開示されるように、BMS(140)も蒸発冷却によって冷却される場合、工程(ブロック406)は、多孔質芯材パッド(145)と熱接触するBMS(140)を準備することを含み、および工程(ブロック410)における充填することは、さらに、多孔質芯材パッド(145)が部分的に沈没されることを引き起す。
【0072】
代替的な実施形態は、例えば、電池パック(130)内の各電池セルの周りの個々の芯部を、多孔質芯材料のブロック内へと延在する直径Dの穴あき開口穴のアレイと交換することを含み得る。電池セルは、各穴あけされた開口穴に挿入されてもよい。構造的剛性を維持するために、材料のブロックは、高密度ポリエチレンなどの高密度ポリマー材料で作られた剛性フレームで囲まれていてもよい。
【0073】
他の代替の実施形態は、各電池セルと多孔質材料のブロックとの間の熱接触を確実にするために、各穴あき開口穴の内側を熱伝導性ペーストでコーティングすることを含み得る。
【0074】
さらに他の代替の実施形態は、HTF温度が電池の動作温度範囲の下限を下回るのを防ぐために、非常に寒い天候(例えば、低温)で作動する発熱体を有する電池システムを含み得る。例えば、リチウムイオン電池については、下限温度は約15Cである。
【0075】
上記の記載が例として機能するようにのみ意図され、他の多くの実施形態が、添付の請求項において定義されるように本発明の範囲内で可能であることが認識されるだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】