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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-16
(54)【発明の名称】微細藻類からの細胞外小胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20230509BHJP
   C12R 1/89 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C12N1/12 C
C12R1:89
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538097
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086622
(87)【国際公開番号】W WO2021122880
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】102019000024580
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502346002
【氏名又は名称】コンシッリョ ナツィオナーレ デッレ リチェルケ
【氏名又は名称原語表記】CONSIGLIO NAZIONALE DELLE RICERCHE
(71)【出願人】
【識別番号】522230152
【氏名又は名称】アトランティック テクノロジカル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ボンジョヴァンニ,アントネッラ
(72)【発明者】
【氏名】マンノ,マウロ
(72)【発明者】
【氏名】ポクスファルヴィ,ガブリエッラ
(72)【発明者】
【氏名】トゥゼット,ニコラス
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AC20
4B065BD15
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA50
(57)【要約】
微細藻類の細胞外小胞
本発明は、天然の光合成非発酵微細藻類に由来する細胞外小胞、天然の光合成非発酵微細藻類から成長、遠心分離および超遠心分離工程によって細胞外小胞を単離する方法、ならびに診断剤、治療剤、栄養補助剤および/または美容剤のための担体としての単離された細胞外小胞の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類に由来する細胞外小胞であって、ここで細胞外小胞が、50-300nmの範囲(小細胞外小胞、sEV)または300-2μmの範囲(大細胞外小胞、lEV)の粒子サイズを有する生体脂質膜状ナノベシクルであり、脂質二重層膜に含まれ、細胞外小胞が、天然の光合成非発酵微細藻類に由来し、少なくとも細胞外小胞タンパク質マーカーAlixおよび所望によりエノラーゼ、アクチン、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数のさらなるタンパク質マーカーを含有することを特徴とする、細胞外小胞。
【請求項2】
微細藻類が、光合成微細藻類門である緑藻類および担子藻類から選択される、請求項1に記載の細胞外小胞。
【請求項3】
微細藻類が、光合成微細藻類門であるEuglenophyta、Cryptophyta、Rhodophyta、Glaucophyta、ChromophytaおよびChlorophytaから選択される、請求項1または2に記載の細胞外小胞。
【請求項4】
診断剤、治療剤、栄養補助剤および/または美容剤のための担体としての、請求項1-3のいずれか一項に記載の細胞外小胞の使用。
【請求項5】
天然の光合成非発酵微細藻類から、少なくとも細胞外小胞タンパク質マーカーAlixおよび、所望によりエノラーゼ、アクチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数のさらなるタンパク質マーカーを含有する細胞外小胞を単離する方法であって、該方法は、以下の工程を含む:
a)湿潤バイオマス1ml当たり0.5から2mgの最終濃度で、天然の光合成非発酵微細藻類バイオマス接種物を微細藻類培養培地に接種する工程;
b)約30-200マイクロアインシュタイン毎秒毎平方メートル(μE m-2 s-1)のLED照明システムによって提供される照明で、接種された微細藻類バイオマスを培養する工程であって、それにより微細藻類由来の細胞外小胞が生成される工程;
c)低速遠心分離を含む第1の分離工程によって工程b)の微細藻類培養物から微細藻類由来の細胞外小胞の第1の画分を単離する工程であって、それにより微細藻類由来の細胞外小胞を含有するペレットおよび低速上清が得られる工程;および
d)超遠心分離を含む第2の分離工程によって工程c)において得られる低速上清から微細藻類由来の細胞外小胞の第2の画分を単離する工程であって、それによりさらなる微細藻類由来の細胞外小胞を含有するペレットが得られる工程。
【請求項6】
工程b)において、接種された微細藻類バイオマスが、制御された温度および光周期条件下で、ここで温度が13から22°Cの範囲内であり、光周期が約14:10(明:暗)であり、および10から60日の範囲の所定の期間維持される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程c)において、第1の分離工程が、少なくとも第1、第2、および第3の低速遠心分離工程を含み、それぞれが300×g-10,000×gの間に含まれる異なる遠心分離速度である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
第1の低速遠心分離工程が約300×gで実施され、第2の低速遠心分離工程が約2,000×gで実施され、第3の低速遠心分離工程が約10,000xgで実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1の低速遠心分離工程が約4°Cの温度で約10分間実施され、第2の低速遠心分離工程が約4°Cの温度で約10分間実施され、第3の低速遠心分離工程が約4°Cの温度で約30分間実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程d)において、第2の分離工程が、約118,000×gの超遠心分離によって実施される、請求項5-9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
超遠心分離が約4°Cの温度で約2時間実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程c)において得られる微細藻類由来の細胞外小胞が、工程d)において得られるさらなる微細藻類由来の細胞外小胞よりサイズが大きい、請求項5-11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
工程c)において単離される微細藻類由来の細胞外小胞が、50-300nmの間に含まれる粒子サイズを有し(小細胞外小胞(sEV)、工程d)において単離される微細藻類由来の細胞外小胞が、300-2μmの間に含まれる粒子サイズを有する(大細胞外小胞(lEV)、請求項5-12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類から細胞外小胞(EV)を得る方法、本発明の方法によって得られる細胞外小胞(EV)、ならびに診断剤、治療剤、栄養補助剤および/または美容剤の送達のためのナノ担体としての微細藻類由来のEVの使用に関する。
【0002】
微細藻類は、原生生物として既知の真核微生物の多系統群である。微細藻類のいくつかの種は、ヒトの食料源または栄養補助食品として使用されている。過去10年間、天然の抗酸化物質(例えば、カロテノイド色素または多価不飽和オメガ3脂肪酸)または抗菌化合物などの高価値化合物に関して、微細藻類の代謝特性をより有効に活用する動きがあった。
【0003】
微細藻類は、脂質含有量およびさまざまな廃棄物の流れを浄化するためのバイオレメディエーション能力により、再生可能な第3世代バイオ燃料の文脈においても広く研究される。
【0004】
薬物を送達するためのナノベースのメカニズムとして、珪藻などの一部の種のシリカ外骨格の利用も試みられている。
【0005】
細胞外小胞(EV)は、細胞間でタンパク質およびRNAなどの生体分子を移動させることによって細胞間コミュニケーションを仲介する細胞由来の膜状構造である[Davis ME, et al., Nat Rev Drug Discov (2008) 7(9); Shi J, et al., Nano Lett (2010) 10(9); Si-mons M, Raposo G Curr Opin Cell Biol (2009) 21; Yanez-Mo M, et al., J Extracell Ves (2015) 4]。TheryおよびWitwerら(2018)は最近、EVのロバストな記述に必要なパラメーターを改訂した[Thery C, et al. Minimal information for studies of extracellular vesicles 2018 (MISEV2018): a position statement of the International Society for Extracellular Vesicles and update of the MISEV2014 guidelines, Journal of Extracellular Vesicles. 2018;7:1. DOI: 10.1080/20013078.2018.1535750]。MISEV2018において、EVの同一性は、タンパク質組成(ALIXの存在を含む)、サイズ((“小EV”(sEV)および“中/大EV”(m/lEV)、例えばそれぞれ<200nm[小]、または>200nm[大および/または中]))と定義される範囲を有する)、形態(円形)、および密度(<1.2g/ml)の観点から説明され、範囲が定義されている。
【0006】
EVを介した細胞、生物、生物間、さらには種間の細胞間コミュニケーションは、基礎科学で集中的に研究されており、さまざまな派生バイオテクノロジー適用についての大きな期待がある。
【0007】
WO2017161010A1およびWO2014134132A1は、それぞれ、EVからの膜小胞およびヒト細胞および牛乳からのオルガネラの産生を開示する。
【0008】
US9,273,359は、グラム陽性菌小胞を開示する。
【0009】
WO2013138335A1は、グラム陰性菌(すなわちシアノバクテリア)が脂質含有小胞を分泌すること、およびいくつかの実施形態において、タンパク質含有小胞の収集をさらに含む方法を開示する。
【0010】
WO02013070324A1およびWO2016166716A1は、食用植物由来のナノベシクルを開示する。
【0011】
先行技術に開示された細胞外小胞の使用は、ヒトの健康のための種々の適用(WO2017161010A1、WO2014134132A1、US9,273,359、WO02013070324A1、WO2016166716A1)、および再生可能なバイオ燃料(特に、WO383015A1A1830153のシアノバクテリア由来小胞)の供給源としての用途を含む。
【0012】
EP2519635B1(WO2011090731)は、細胞外小胞を含むSchizochytrium細胞外体を開示する。しかしながら、レビューLeyland B, Leu S, Boussiba S (2017) Are Thraustochytrids algae? Fungal Biology 121: 835-840は、Schizochytriumが属するThraustochytridが藻類として指定できるかどうかを議論する。Leylandら(2017)の著者によると、「「藻類」なる語は、光合成を行う生物の多系統群を指すために使用される。時々引用される他の基準は、一次色素としてのクロロフィルa、酸素生成、血管組織の欠如、および滅菌被覆または保護を持たない生殖細胞への依存を含む (Committee 1994; Lee 1999; South & Whittick 2009; Bolton 2017; Sanders 2017)」。そのため、著者らは一連の科学的証拠を検討して、「Thraustochytridは光合成を行わず、プラスチドを欠いているため、藻類ではない」と主張する。
【0013】
さらに、EP2519635B1(WO2011090731)は、Schizochytrium属を形質転換してウイルスタンパク質を合成し、遺伝子組み換え生物(GMO)を作成することに基づくアプローチを記載し、それは次いで主な炭素源として追加の有機栄養素を有する暗発酵条件下で培養される。EP2519635B1(WO2011090731)は、操作されていないSchizochytrium細胞の細胞外体を産生する能力を開示しておらず;それは変換された変異型に対してそうするのみである。実際、EP2519635B1(WO2011090731)は、いくつかの実施形態において、宿主の「細胞外体」において発現されるウイルス(インフルエンザウイルスAを含むが、これに限定されない)異種ポリペプチドの産生に関する。発酵中のSchizochytrium細胞において発現されるトランスジェニックタンパク質は、ヘマグルチニン(HA)、ニューロアミダーゼ(NA)、糖タンパク質、エンベロープタンパク質(E)、融合タンパク質(F)、マトリックスタンパク質(M)、糖タンパク質(G)、および糖タンパク質gp120およびgp41である。いくつかの実施形態(0146)において、トランスジェニックタンパク質は、I型、II型、マルチパス、脂質、およびGPI固定膜タンパク質を含む。これらのタンパク質は、いくつかの実施形態において、小胞、ミセル、膜フラグメント、膜凝集体、またはそれらの混合物として定義される「細胞外体」において発現される。一例として、図4Bは、60%スクロース画分から回収されたクマシー染色組換えHAタンパク質を示す。60%スクロース画分の密度は、1.286g/mlである。このことは、組換えHAタンパク質が、EVが通常回収される密度値より高い密度値で細胞外培地から回収されたことを示す。実際、Maria Yu. Konoshenko, Evgeniy A. Lekchnov, Alexander V. Vlassov, Pavel P. Laktionov, "Isolation of Extracellular Vesicles: General Methodologies and Latest Trends", BioMed Research International, vol. 2018, Article ID 8545347, 27 pages, 2018. https://doi.org/10.1155/2018/8545347は、EVが1.13-1.19g/mlの密度を特徴とすることを開示する。
【0014】
EVが生物活性のある小分子およびタンパク質の天然の担体として使用されてもよいという発見は、かかる小胞がmiRNA、siRNA、mRNA、lncRNA、タンパク質、ペプチドおよび合成薬物の治療的送達のための有望な用途を見出すことができることを考えると、薬物送達分野に大きな関心を集めている。
【0015】
過去30年以上にわたり、合成ポリマーおよび脂質ベースのナノ粒子、ならびに他の有機および無機材料ベースのナノベクターを含む、さまざまなナノ粒子ベースの薬物送達システムが開発されてきている[Kowal J, et al. PNAS (2016) 113; Biller, SJ, et al., Science (2014) 343:183]。
【0016】
天然のEVは、合成リポソームの制限の一部を潜在的に克服できると考えられる[Kooijmans, S.A., et al., Int J Nanomedicine, (2012) 6; Mentkowski KI., The AAPS Journal (2018) 20:508]。実際、EVは、種々の生体液において広く分布していることから証明されるように、体内で十分に許容され;長い循環半減期を有し;他の細胞によって内在化され;小分子およびカーゴを運ぶことができ;および血液脳関門(BBB)を通過することができるため、本質的に薬物送達媒体の多くの属性を持っている。
【0017】
最近、天然であり薬物を搭載した哺乳類細胞(間葉系細胞など)由来のEVが開発され、現在、「無細胞療法」として既知の急速に成長している研究分野を構成している。樹状細胞由来のEVを用いた第I相臨床試験は、自己EV投与の実現可能性および短期的な安全性を実証している (Lener et al., J Extracell Vesicles. 2015; 4: 10.3402/jev.v4.30087)。
【0018】
しかしながら、先行技術の全身送達されたEVは、肝臓、腎臓、および脾臓に蓄積する傾向があり、いくつかの哺乳動物由来の分泌EVは、それらの供給源、特に牛乳由来のEVのために、限られた薬学的許容性を示してきた。さらに、送達システムとしての合成または天然ナノ材料のかなりの成功にもかかわらず、それらの大規模で費用対効果の高い生産および固有の毒性を含む技術的課題は、それらの臨床的および市場の置き換え(translation)に限定されている。
【0019】
細胞外小胞についての天然源としての微細藻類の使用は、多くの利点を提供する。実際、微細藻類の代謝特性は、戦略的優先事項に対処するために世界中で積極的に研究されており、特にバイオ燃料の生成、バイオレメディエーションの開発、および高付加価値生化学物質の生合成に焦点が当てられる [Yanez-Mo M, et al., J Extracell Ves (2015) 4; Kim, O.Y., et al., Semin Cell Dev Biol, (2017). 67; Armstrong, J.P., et al. ACS Nano, (2017) 11(1); Blanch, H.W., Curr Opin Biotechnol, (2012). 23(3); Khozin-Goldberg, I., et al., Sub-cell Biochem, (2016). 86; Ryu, B.G., et al., Bio-resour Technol, (2013). 129; Pulz, O. and W. Gross, Appl Microbiol Biotechnol, (2004). 65(6)]。微細藻類バイオマスは、ヒトの栄養、動物飼料、水産養殖およびバイオ肥料について世界中で使用され、市場規模は乾物で-5,000トン/年で、-12億5000万米ドルを超える売り上げを生み出している。微細藻類バイオテクノロジーの最近の進歩は、酸化防止剤またはオメガ3多価不飽和脂肪酸などの微細藻類由来化合物の実行可能な工業生産について多くの楽観論を生み出している。本明細書で開示される微細藻類由来の細胞外ナノベシクルは、哺乳動物細胞由来のEVと比較して、高い成長率を有し、大規模フォトバイオリアクターにおいて制御された環境条件下で非耕作地で培養できるという点で、多くの利点を提供する。さらに、特に機能性食品および化粧品部門を考慮すると、それらの天然の持続可能な起源は、おそらく処方調製物についての供給源としてより社会的に受け入れられている(および倫理的にリスクが低い)ため、それらをEVの理想的な供給源にする。
【0020】
しかしながら、微細藻類から細胞外小胞を単離する可能性は、先行技術において以前は既知でも示唆されてもいなかった。
【0021】
実際、微細藻類は単細胞生物であり、その細胞外小胞の分泌メカニズムは、先行技術において一次および運動性の繊毛/鞭毛に関してのみ知られている。たとえば、緑藻Chlamydomonas reinhardiiにおいて、エクトソームと呼ばれるこれらの細胞外小胞はべん毛膜に由来し、べん毛吸収に関与している。光合成微細藻類源から得られたEVの説明は、以前に報告されていない。陸上植物に関連する緑藻門のいくつかの単細胞生物は、Chlamydomonasの場合のように、減少した、実質的な、または独特に装飾された細胞壁を持っている。従来技術では、堅固な細胞壁の存在が細胞外小胞の分泌を防止すると予想されていた。他の例は、珪藻および渦鞭毛藻であり、当業者は、原形質膜の外側の様々な厚さのシリカ外骨格および/または細胞壁または他の装飾品(例えば、装甲渦鞭毛藻の鞘)の存在が、EV生産の候補としてはあまり適していない。
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、珪藻および緑藻系統に属するがこれらに限定されない種を含む、それらの細胞壁のさまざまな構成を有する光合成微細藻類が、EVを増殖培地に自然に放出することを発見した。本発明者らの知る限り、これは光合成微細藻類によって産生されるかかる膜状小胞の最初の記述である。重要なことに、この能力の根底にあるメカニズムにより、EVの可能性を膜状のバイオナノマテリアルとして活用することができる。この場合、微細藻類のEVは、細胞を収穫する必要なく培養液から収集される。これらの生物(一部は一般に消費しても安全なGRASとみなされている)を送達手段の生産者として使用することはこれまで検討されておらず、ナノバイオテクノロジーについての新しい道を開く。
【0023】
したがって、本発明の第1の態様は、新規生成物、すなわち、添付の請求項1に定義されるような天然の光合成非発酵微細藻類から得られる細胞外小胞である。
【0024】
本明細書において、本発明による天然の光合成非発酵微細藻類に由来するまたは取得可能な細胞外小胞は、「ナノアルゴソーム」と呼ばれることがある。
【0025】
先行技術として上記に引用されたEP 2519635 B1(WO201109073)の開示は、本発明の細胞外小胞とはかなり異なり、本発明の細胞外小胞は、天然の非GMO、光合成および非発酵微細藻類生物から得られるAlix陽性細胞外小胞である。
【0026】
本発明の細胞外小胞は、微細藻類から細胞外小胞を単離するために本発明者らによって設計された新規な方法によって利用可能になり、これは本発明の第2の態様であり、添付の請求項6に定義される通りである。
【0027】
実験の節で説明されるように、本発明の天然の光合成非発酵微細藻類由来のEVは、1.12±0.01g/mlおよび1.16±0.1g/ml画分の連続勾配で回収される。上記は、EVが通常回復される典型的な密度値である。
【0028】
本発明の第3の態様は、微細藻類由来のEVを、診断剤、治療剤、栄養補助食品および/または美容剤の分子送達のための生体ナノ担体として使用することである。
【0029】
本発明のさらなる特徴および利点は、従属請求項に定義されているとおりである。
【0030】
添付の特許請求の範囲はすべて、本明細書の不可欠な部分を形成する。
【0031】
本発明の微細藻類由来のEVは、50-300nmの間(超遠心分離によって得られる小細胞外小胞(sEV))または300nm-2μmの間(低速遠心分離によって得られる大細胞外小胞(IEV))に含まれる粒子サイズを有する。これらは、確立された細胞外小胞タンパク質マーカーであるAlixおよび所望によりタンパク質マーカーであるエノラーゼおよび/またはアクチンを含有する。界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に対する感受性によって実験的に実証されるように、本発明の微細藻類由来EVは、脂質二重層膜を有する生体脂質膜状ナノベシクルである。
【0032】
以下でさらに説明するように、本発明の微細藻類由来のEVは、これらに限定されないが光合成珪藻Odontella種、または緑藻Tetraselmis種などの微細藻類培養物の馴化培地から単離される。
【0033】
新規生成物は、以下の工程を含む本発明の方法によって得ることができる:
a)湿潤バイオマス1ml当たり0.5から2mgの最終濃度で微細藻類バイオマス接種物を光合成微細藻類培養培地に接種する工程;
b)約30-200マイクロアインシュタイン毎秒毎平方メートル(μE m-2 s-1)のLED照明システムによって提供される照明で、接種された微細藻類バイオマスを培養する工程であって、それにより微細藻類由来の細胞外小胞が生成される工程;
c)低速遠心分離を含む第1の分離工程によって工程b)の微細藻類培養物から微細藻類由来の細胞外小胞の第1の画分を単離する工程であって、それにより微細藻類由来の細胞外小胞を含有するペレットおよび低速上清が得られる工程;および
d)超遠心分離を含む第2の分離工程によって工程c)において得られる低速上清から微細藻類由来の細胞外小胞の第2の画分を単離する工程であって、それによりさらなる微細藻類由来の細胞外小胞を含有するペレットが得られる工程。
【0034】
本発明の単離方法の詳細な説明を以下に提供する。以下の詳細な説明は、例示のみを目的として提供され、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0035】
1.微細藻類培養
工程a):接種
微細藻類培養培地(海洋および淡水種用のフィルター滅菌f/2またはBG11メディア)に、実験の開始時に湿潤バイオマス1ml当たり0.5-1.5mgの最終濃度で微細藻類バイオマス接種物を接種する(濃度ガラス製フラスコまたは円筒形リアクターで最終容量0.1-15リットルにする。最終的な容量は、目的の収量に応じてスケールアップおよびスケールダウされてもよい。
【0036】
工程b):成長
接種された微細藻類バイオマスは、制御された温度(13-22°C、好ましくは17°C)および光周期条件(14:10の明:暗)下で、所定の期間(10-50日、好ましくは30日)、約30-200マイクロアインシュタイン毎秒毎平方メートル(μE m-2 s-1)(好ましくは100μE m-2 s-1)のLED照明システムによって提供される照明を使用して維持される。
【0037】
典型的なバッチシステムにおいて、適切にウェルプレート分光光度計、電子粒子カウンター、重量測定または光学顕微鏡を使用して、培養物中の成長ダイナミクスを典型的には10-50日、好ましくは30日間にわたってモニターする。温度および光周期は、異なる種の微細藻類の成長を最適化するために変化されてもよく、異なる測定値は、細胞の成長をモニターするために使用されてもよい。培養パラメーターの変調は、生産されるEVの質および量に影響する。
【0038】
工程c)およびd):微細藻類由来の細胞外小胞の単離
本発明の方法の本質的な工程は、分泌タンパク質、代謝産物および微細藻類培養培地の分子成分を含むがこれらに限定されない可溶性分泌物質を含む微細藻類細胞および培養上清から細胞外小胞を分離することである。原則として、異なる物理的原理、すなわち濾過、遠心分離、沈殿に基づく異なる分離手順を適用することができる。優先的に、微細藻類培養物からの細胞外小胞(EV)の分離のための差動遠心分離。差動遠心分離は、速度を上げて細胞や細胞破片を除去し、低速遠心分離の最後にマイクロベシクルを含む画分を取得し、超遠心分離工程の最後に画分を含むより小さなEVを取得する一連の遠心分離工程で構成されている。この手順は、分離手順に不可欠である。実際、遠心分離の速度および時間は重要である。たとえば、最初の遠心分離速度が高すぎると、細胞が溶解して試料を汚染する可能性がある。
【0039】
工程c):低速遠心分離
低速遠心分離は、好ましくは、速度を上げながら少なくとも3回の別個の遠心分離工程によって実施される。速度(範囲200-15000xg)、遠心工程数(範囲1-10工程、好ましくは6工程)、温度(範囲2~-20°C、好ましくは4°C)、ローターのタイプ(固定角度またはスイングアウト)ローター、好ましくはスイングバケットローター)、チューブ、および低速遠心分離工程で使用される遠心分離機はさまざまであり得る。好ましくは、第1の低速遠心分離工程は、スイングバケットローターにおいて、4°Cで10分間、300×gの速度で実施される。第2の低速遠心分離工程は、好ましくは、4°Cで10分間、2,000×gで実施される。第3の低速遠心分離工程は、好ましくは、4°Cで30分間、10,000×gで実施される。好ましくは、各低速遠心分離工程は2回実施される。慎重にデカンテーションしてペレットを得る。あるいは、場合によっては、ピペットを使って吸引して上清を除去することもできる。10,000xgでの最後の低速遠心分離工程から得られたペレットは、より大きな細胞外小胞(例えば、マイクロベシクル)を含む。好ましくは、10,000×gのペレットを適切なバッファーで2回洗浄する。一般に、20nmの無菌フィルターでろ過されたPBSバッファーが使用される。洗浄工程は、ペレット自体を得るために使用される条件を使用して再遠心分離に続いて、ペレットの慎重な再懸濁によって実施される。
【0040】
工程d):超遠心分離
工程c)の10,000×gの上清の超遠心分離は、より小さなEVを含有する画分を得るために行われる。好ましくは、超遠心分離は、118,000xg(100,000-120,000xgの範囲)で、4°Cで2時間、スイングバケットローターを使用して実施されるが、遠心分離の時間はさまざまであってもよい(1-24時間の範囲)。好ましくは、洗浄工程は、ペレットを慎重に再懸濁する好ましいバッファーを用いて行われる。上清は通常、慎重にデカンテーションによって除去されるが、吸引によって除去されてもよい。超遠心分離後、ペレットは、一般に低容量のバッファーに再懸濁されてもよい。
【0041】
開示された生成物は示差超遠心分離を使用して得られたが、原則として他の分別分離方法を使用して小さなEVを分離することができる(例えば、タンジェンシャルフロー分別、勾配超遠心分離)。
【0042】
本明細書において、「細胞外小胞」または「EV」なる語は、大きい(例えば微小胞)および小さい細胞外小胞、例えばエキソソーム、エクトソーム)の両方を参照して使用される。
【0043】
「微細藻類」なる語は、通常、真核生物の微細な藻類を示すために使用され、通常は淡水または海洋系で見られ、水柱および堆積物の両方に生息する。それらは、個別に、または鎖または群で存在する単細胞種である。微細藻類は、例えば、光合成珪藻類、渦鞭毛藻類、ハプト藻類または緑藻類を含むが、これらに限定されない。
【0044】
さらに、本明細書において、「微細藻類」なる語は、例えば、これに限定されないが緑藻Haematococcus pluvialis、珪藻Stauroneis種、ハプト藻Pavlova種またはモデル種Chlamydomonas reinhardtiiなどの、シリカ外骨格および/または装飾された細胞壁を有し、有望な抗酸化または抗菌活性または色素および脂肪酸の特徴を有する種を含む光合成微細藻類を示すために使用される。微細藻類のさらなる例は、緑藻Tetraselmis種(株Tetraselmis種LA-CW-02など)およびDiatom Odontella種(株Odontella種LA-CW-28など)を含む。
【0045】
本発明の製造方法は、その焦点が単細胞真核光合成微細藻類から初めて精製されたナノベシクルを標的とするという点で、先行技術の他のEV関連方法とは異なる。さらに、それらの内容に関係なく、本発明の目標は、産業用途のために微細藻類由来のEVを大量に生産することでもある。この目的は、個別化された無細胞療法を含む、少量のEVを必要とするさまざまな目的に逆に示される哺乳類細胞由来のEVでは達成できなかった。
【0046】
本発明の方法は、持続可能で再生可能な生物資源(すなわち、微細藻類)から、膜状の生物起源のナノ材料(すなわち、EV)に基づく広範囲の新しい生成物を生成することを有利に可能にし、それらは、高価値微細藻類物質(抗酸化物質、色素、脂質、複合炭水化物など)、生物活性生物分子(例えばタンパク質、miRNA、siRNA、mRNA、lncRNA、ペプチド)および/または合成薬についての新しい天然送達システムとして使用することができる。
【0047】
以下の実験部分は、説明のためにのみ提供され、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0048】
実験部分
細胞ペレットおよび馴化培地を含む、海洋光合成緑藻(Tetraselmis種LA-CW-02株)および珪藻(Odontella種LA-CW-28株)の試料を使用した。細胞ペレットをRIPAバッファーで可溶化し、大小の細胞外小胞(エキソソームおよびマイクロベシクル)を馴化培地から超遠心分離によって単離した。
【0049】
微細藻類株を、フィルター滅菌培地60mlを含む3通のガラス管で30日間培養する。すべての培養物を、60-70μE m-2 s-1の放射照度の下で、14:10(明:暗)の光周期にさらす。対応する馴化培地を、微細藻類の培養の最後に次のように処理する。
【0050】
一連の低速遠心ラウンド(300xgおよび2,000xg)で、細胞および大きな有機凝集体を除去する。生体細胞外ナノ粒子を、スイングバケットローターを使用して4°Cで2時間、10,000×g(大きなEV)および118,000×g(小さなEV)の遠心分離によって回収する。
【0051】
ミクロビシンコニン(BCA)比色アッセイによって測定されたEVタンパク質含有量。微細藻類EVのサイズ分布を調べるために、sEVの動的光散乱(DLS)分析を適用した。散乱光強度およびその時間自己相関関数g2(t)を、λ0=532nmまで調整された固体レーザーを備えたBrookhaven BI-9000相関器(Brookhaven Instruments,Holtsville,NY,USA)を使用して、T=20°Cで異なるEV試料上で同時に測定した。小胞の相互作用および複数の散乱アーチファクトを回避するために、試料を最終総タンパク質含有量50μg/mlまで希釈した。脂質二重層の存在をsEV調製物をSDSで処理し、界面活性剤処理後のsEVサイズ分布を分析することによって評価した。EVの形態を、原子間力顕微鏡(AFM)によって評価した。
【0052】
結果:馴化培地容量60mlおよび最終微細藻類バイオマス1.5mg/mlから開始すると、小細胞外小胞タンパク質の総量に関して、次の製品含有量を得る:CW-02小細胞外小胞総タンパク質=8+2μg、CW-28小型細胞外小胞総タンパク質=3+0.7μg。
【図面の簡単な説明】
【0053】
DLS分析(図1)は、サイズが50-350nm(モーダ(moda)160nm)の膜状ナノベシクル(SDSに感受性)がsEV調製物中に存在することを実証した。
【0054】
図3は、微細藻類株(LACW2、LACW23、LACW28)、大きなEV画分(lEV)、小さなEV画分(sEV)のライセート(Lys)のイムノブロット分析の代表的な画像を示す。ロードされたタンパク質の量を、各レーンに示す。EVタンパク質マーカー(例えば、Alix)陽性のEVを、微細藻類の馴化培地から単離した。
【0055】
得られた結果を、添付の図面に示す。
【0056】
図1は、DiatomOdontella種で得られた結果を示す。(LA-CW-28)は、CW-28ナノベシクルの動的光散乱(DLS)実験によってsEVを派生させた。上のパネルは、sEV、0.5%SDSおよび参照0.5%SDS溶液とのインキュベーション後のsEVの強度自己相関関数を示し;関数は、分析されてサイズ分布を導出し;下のパネルは、sEVの初期量に正規化されたサイズ分布を示す。sEV試料は、再懸濁のために使用されるバッファー(0.5MNaClを含むリン酸緩衝生理食塩水、PBS)において、またはSDSを(最終濃度0.5%まで)添加して測定されている。SDSは、インキュベーション時にsEVの濃度に影響を与え、このことは微細藻類由来のナノベシクル膜の脂質組成を確認する。
【0057】
図2は、緑藻Tetraselmis種(LA-CW-02)由来sEVの原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。微細藻類からのsEVのAFM画像(タッピングモード)(100倍希釈およびマイカ試料基板上での10分間のインキュベーション)。上部のパネルは、2μmの広い視野の画像を表示し、そこで40-100nmのサイズで多くの丸い形のEVを観察できる(矢印でマークされている)。下のパネルは、75nmのsEVをより詳細に表示するクローズアップ500nm画像を表示する。
【0058】
図3は、確立された抗体を用いたウェスタンブロット解析の結果を示す。EVマーカー(抗Alix、クローン3A9)、抗エノラーゼおよび抗Hsp70を認識する特異的抗体を使用する、LACW2、LACW23、LACW28微細藻類株からの総タンパク質抽出物(Lys)、大きな小胞(lEV)、および小さな小胞(sEV)の免疫ブロット。下のパネルは、ローディング対照として、ポンソーレッドで染色されたPVDFメンブレンを示す。
【0059】
図4は、ナノアルゴソーム密度を決定するためにイオジキサノール勾配を使用した実験の結果を示す。(A)dUC単離試料の勾配超遠心法(gUC)で測定された10画分の密度。(B)各gUC画分で測定されたタンパク質の量。(C)dUCによって単離され、イオジキサノール密度勾配にロードされたナノアルゴソームの代表的な免疫ブロット分析。20μgの微細藻類ライセートおよび等画分容量を、ゲルにロードした。dUCで分離されたナノアルゴソームの画分5および、それより少ない程度で画分6は、EV固有のバイオマーカー(Alix)に対して陽性である。2つの独立した技術的反復(n=2)を実施した。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】