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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】気道管理デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/04 20060101AFI20230510BHJP
【FI】
A61M16/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022553060
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2021055460
(87)【国際公開番号】W WO2021175991
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】2003191.0
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522350151
【氏名又は名称】アルフェン メディカル デバイス ディベロップメント リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】デル ソコロ フォンタニラ ダサ,ゾライダ
(57)【要約】
本発明は、声門下気道または撮像デバイスを患者に挿入するためのデバイスを提供し、該デバイスは、長さに沿って湾曲する開放溝を備え、該デバイスの第1の端部はハンドル部分を備え、該デバイスの第2の端部は、使用中に患者の気管の開口に延びるよう構成される。本発明は、気管内チューブと2つの環状膨張式カフとを備える声門下気道デバイスをさらに提供し、各カフは、カフが膨張または収縮可能な膨張ラインを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
声門下気道または撮像デバイスを患者に挿入するためのデバイスであって、その長さに沿って湾曲する開放溝を備え、該デバイスの第1の端部がハンドル部分を備え、該デバイスの第2の端部が、使用中に該患者の気管の開口部まで延びるよう構成されている、デバイス。
【請求項2】
前記第2の端部が前記患者の食道を閉塞するよう構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記溝が70°から120°の角度でその長さに沿って湾曲している、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記溝が80°から100°の角度でその長さに沿って湾曲している、請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記溝の前記長さが150mmから250mmである、請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記溝が該溝の前記長さに沿った位置に1つまたはそれ以上の隆起部を備える、請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記1つまたはそれ以上の隆起部が前記溝内のこぶである、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
40から80のショア00硬さを有する材料から形成された、請求項1から7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
熱可塑性エラストマー(例えば、シリコーン熱可塑性エラストマー)から形成された、請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスが、該デバイスの1つまたはそれ以上の領域に緩衝部を備える、請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記緩衝部が前記デバイスの前記第2の端部で軟質突縁の形態で存在する、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記緩衝部が20から40の範囲のショア00硬さを有する、請求項10または11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ハンドル部分が前記デバイスから延びるつまみを含み、該つまみが、前記使用者が前記デバイスを引っ張るときに該使用者の親指が該つまみの端部から滑り落ちるのを防ぐストッパーを含む、請求項1から12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
患者に挿管する方法であって、
i)請求項1から13のいずれかに記載のデバイスを患者の喉に挿入する工程、
ii)該デバイスの開放溝に沿って気道デバイス(好ましくは声門下気道デバイス)を通すことによって該気道デバイスを該患者に挿入する工程、
iii)該気道デバイスを該患者に固定する工程、および
iv)請求項1から13のいずれかに記載の該デバイスを該患者から取り外す工程、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道を確保するために使用可能な気道管理デバイス、すなわち患者に声門下気道デバイスまたは光ファイバ撮像デバイスを挿入するためのデバイスに関する。さらに、本発明は、改良された声門下気道デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
声門上気道デバイス(SAD)は、換気を妨げないように人間や動物の上気道を確保するデバイスである。SAD(声門上気道または声門外/喉頭蓋気道デバイスともいう)は、換気、酸素供給および/または麻酔ガスの投与ができるように患者の咽頭に挿入可能な気道デバイスである。SADは患者の下咽頭に装着して声門上構造を覆うように設計されているため、気管内挿管を必要とすることなく気管を相対的に分離することができる。
【0003】
SADの例には、ラリンゲルマスク気道、バスカマスク(Baska mask)、ラリンゲルチューブLTS-D、キングチューブおよび1-Gel(登録商標)声門上気道デバイスが含まれる。
【0004】
しかし、声門上気道デバイスは患者の気管の上に設置されるため、声門上デバイスと患者の気管との間は完全には密閉されない。これは、声門上デバイスを通過したガスがすべて患者の気管に入るわけではないことを意味する。また、声門上気道デバイスの位置に起因して、患者の動き(例えば、声門上気道を挿入した状態で胸骨圧迫を行う場合)によって外れやすい。
【0005】
声門下気道デバイスは、空気やガスを直接患者の気管に送り込む、より高度な気道管理デバイスであって、患者の気道を確保および管理するための好ましい方法である。
【0006】
気管挿管とは、単に挿管と呼ばれることも多く、これは声門下デバイスを患者の気道に設置することである。例えば、気道を開いた状態を維持して適切な換気を保証するために、可撓性プラスチックやゴムのチューブを患者の気管に設置する。そしてこのチューブは、酸素や麻酔薬といった薬剤の投与が可能な管として機能する。気管挿管は、肺の換気(機械換気を含む)を促進して窒息や気道閉塞の可能性を防ぐために、重傷患者、病人、麻酔患者に対して頻繁に行われる。
【0007】
これらの声門下デバイスは、典型的には、チューブを気管内に封入して声門下デバイスを適切な位置に保持するために、チューブが気管内に位置決めされた後に膨張する、チューブの一部を取り囲む膨張式シールを備えている。
【0008】
挿管法としては、気管内チューブを鼻および気管内の発声器官に通す経鼻気管挿管が用いられることもあるが、より一般的には経口経路が用いられ、その場合はチューブを口および発声器官に通す。
【0009】
しかし現在のところ、気管挿管には挿入用の喉頭鏡(例えば、喉頭鏡ブレード)が必要である。この喉頭鏡は、気管チューブを気管に直接誘導することができるよう、気道を開いて医療従事者が気道を可視化するために使用される。喉頭鏡は形状が大きく、ステンレス製であることが多い。ある状況においては、こうした金属製の喉頭鏡の使用によって患者の口腔内や歯に損傷を与えることがある(粘膜病変、歯の損傷、一時的な舌神経や下舌神経の損傷を含む)。
【0010】
また、気管内挿管は高度な技術を持ち十分な訓練を受けた医療従事者によって行われなければならない場合が多く、そのような医療従事者でも挿管に数分かかることがある。気道が塞がれている場合は一刻を争うことから、迅速かつ正確に気道デバイスを挿入することが重要である。
【0011】
同様の手順や器具は、内視鏡による医用撮像(例えば、医用撮像デバイスを用いて患者の気道を撮像する気管支鏡検査)でも用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、声門下気道デバイス(または撮像デバイス)を挿入するための代替の、好ましくは改良されたデバイス、特に声門下気道デバイス(または撮像デバイス)を迅速、容易かつ正確に挿入することを可能にするデバイスが依然として必要である。
【0013】
さらに、声門下気道を長時間にわたって患者に使用する場合(例えば長時間の手術中)、膨張したシールが患者の気管の内壁を加圧し続けるため、組織損傷を引き起こす可能性がある。したがって、代替的な声門下気道デバイス、特に長時間の使用において組織損傷の可能性を低減する声門下気道デバイスも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、声門下気道デバイス、例えば気管内チューブを患者に迅速、容易かつ正確に挿管するために、または撮像デバイスを患者の喉から挿入するために使用可能なデバイスに関する。
【0015】
したがって、本発明は、声門下気道または撮像デバイスを患者に挿入するためのデバイスを提供し、デバイスは、その長さに沿って湾曲する開放溝を備え、デバイスの第1の端部はハンドル部分を備え、デバイスの第2の端部は、使用中に患者の気管の開口部に延びるよう構成される。
【0016】
デバイスは、声門下気道または撮像デバイスを挿入するためだけに使用され、声門下気道または撮像デバイスが挿入されると、声門下気道または撮像デバイスを適切な位置に残して本発明のデバイスを取り外すことができる。デバイス自体は、患者の肺に酸素を供給するために患者の体内の適切な位置に留置される声門下または声門上気道デバイスではない。
【0017】
デバイスは、気管内チューブなどの声門下気道を患者に挿入するために使用され得る。デバイスはまた、喉頭鏡や鼻咽頭鏡などの光ファイバ撮像デバイスを含む撮像デバイスを患者に挿入する場合にも同様に好適である。例えば、光ファイバ撮像デバイスは、光ファイバ気管支鏡や光ファイバ喉頭鏡であってよい。以下、本デバイスの使用について、声門下気道の挿入を例に説明する。しかし、声門下気道を挿入するためのデバイスの使用についての言及は、撮像デバイスを挿入するためのデバイスの使用にも関連し得ることは明らかである。
【0018】
デバイスは、側壁と一体的に形成された基部を備え、上部が開口した開放溝である溝を備える。
【0019】
側壁には、溝にさらなる構造的支持または剛性を与える補強部材を設けてもよい。例えば、側壁にリブを設けてもよく、あるいは補強パネルを設けてもよい。補強部材(例えばリブまたはパネル)は、溝と一体的に形成されてもよい。
【0020】
側壁は、(気管の開口部の近くに位置する)有喉頭蓋のひだを持ち上げ、そのひだが内側に下がりデバイス内の開放溝を塞がないようにするのに役立つ。
【0021】
溝はその長さに沿って湾曲している。溝は、典型的には70°~120°、例えば80°~100°の角度で湾曲している。言い換えると、溝の第2の端部は、溝の第1の端部に対して70°~120°、例えば80°~100°の角度で延びている。デバイスはある程度の可撓性を備えた材料から製造され得るが、曲率角は、(形状を歪ませ得る)外力がデバイスにない状態で測定される。
【0022】
その湾曲形状の一部として、溝はまた、上向きに湾曲した端部を有する。この湾曲した端部は、チューブを患者の気管に誘導する。湾曲した端部は、声門下気道を気管内に誘導するだけでなく、患者の食道を密閉または塞ぐように成形される。これを図6に模式的に示す。このようにして、端部は食道の開口部を閉塞し、また好ましくは密閉する。食道を密閉することで、挿入された後にデバイスを患者の喉内位置で保持するのを支援し、挿入された気管内が気管の入り口からずれる可能性を低減する。さらに、食道を密閉することで、挿管中に食道からの体液(例えば、嘔吐物または血液)が通過することを防ぎ、それによって気管支吸引を回避する。
【0023】
溝の形状(特に、上方に湾曲した端部)は、デバイスを患者の喉内に確実に位置決めして気管内チューブを患者の気管に誘導するために重要である。
【0024】
溝の長さは、患者のサイズによるが、典型的には150mm~250mm、例えば180mm~230mmである。また、溝は、典型的には15mm~30mm、好ましくは18mm~25mmの深さ(溝の基部の上面から側壁の先端までが測定される)を有する。
【0025】
溝の内幅は、典型的には10mm~25mm、例えば15mm~25mmであり、溝の外幅は、通常25mm~40mm、例えば30mm~40mmである。
【0026】
溝はまた、気管内チューブを患者の気管に誘導するのをさらに支援するために、溝の長さに沿った位置に1つまたはそれ以上の傾斜部または隆起部を備えていてもよい。この傾斜部や隆起部は、気管内チューブを湾曲した溝に沿って誘導し、溝の湾曲部分にチューブがはまる/引っかかることを防ぐのに役立つ。傾斜部または隆起部は、溝(好ましくは溝の基部)におけるこぶ、出っ張り、または傾斜面の形態をとり得る。
【0027】
デバイスは、患者の口や喉へのデバイスの挿入を容易にするのに十分な可撓性を有しつつ、患者の気道を開いてチューブを患者の気道から気管に挿入できる程度に頑丈な材料から形成される。例えば、デバイスは、典型的には熱可塑性エラストマー(好ましくはシリコーン熱可塑性エラストマー)、スチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS)またはポリ塩化ビニル(PVC)から形成される。好ましくは、使用される材料は、医療用シリコーン熱可塑性エラストマーなどの医療用材料である。医療機器での使用に適した熱可塑性エラストマーは、当業者には周知であるが、スチレン系ブロックコポリマー、スチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS)、ポリカーボネート、およびアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)ポリマーを含む。使用される材料によっては、デバイスは使い捨てデバイスまたは再利用可能なデバイスとすることができる。
【0028】
材料は、ショア硬さ(ショア00硬さスケールを使用)が30以上、例えば50以上など40以上であってよい。典型的には、材料のショア硬さは90以下、典型的には、例えば70以下など80以下となる。例えば、材料のショア硬さは40~80、好ましくは50~70の範囲内であってよい。
【0029】
材料はまた、デバイスを挿入する際、デバイスと患者の口や喉との間の摩擦を低減するための潤滑添加剤(例えば、ワックス添加剤)を含んでもよい。
【0030】
デバイスのハンドル部分は、デバイスから延びるつまみであってよい。つまみは、使用者の親指と第一指および第二指との間に保持することが意図される。つまみは、使用者がデバイスを引っ張るときに、使用者の親指がつまみの端から滑り落ちるのを防止するストッパー(例えば、突出部)を備えてもよい。
【0031】
デバイスはまた、デバイスの第2の端部に軟質突縁(soft tongue)を備えてもよい。突縁は、位置決めされたときに当該軟質突縁が食道の開口部に挿入されるように、可撓性のあるデバイスの他の部分よりも軟質な素材からなる。したがって、この軟質突縁は、デバイスが食道(または喉の他の組織)を損傷または刺激する可能性を低減する。いくつかの実施形態では、軟質突縁はまた、食道の開口部を密閉するように作用する。軟質突縁は、第2の端部(すなわち、使用中に食道開口部の上に配置される第2の端部の凸状基部)の側面および下側を覆い得る。あるいは、軟質突縁は、第2の端部の側面の周辺に伸びつつ、第2の端部の下側は露出した状態を維持し得る。
【0032】
軟質突縁に加えて、デバイスの他の領域、特に使用中に患者の気道内の組織の繊細な箇所と接触する可能性がある領域は、緩衝部を備えてよい。緩衝部は、熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、シリコーン、ゴム、ポリウレタン、ポリフタレートなどの医療用材料、またはそれらの混合物から形成し得る。
【0033】
軟質突縁および/または緩衝部のショア硬さ(ショア00硬さスケールを使用)は、10以上、例えば25以上など20以上であってよい。典型的には、材料のショア硬さは50以下、典型的には35以下など40以下となる。例えば、突縁/緩衝部のショア硬さは、10~50、例えば20~40の範囲であってよい。1つの実施形態において、緩衝部のショア硬さの値は、溝および側壁のショア硬さよりも30%~50%小さい。材料のショア硬さは、デュロメータを使用して測定できる。
【0034】
好ましくは、溝(側壁を含む)とハンドルは、同一の材料から一体的に形成される。典型的には、デバイス全体はポリマー材料を成形することによって製造される。したがって、有利なことに、本発明のデバイスは単一の成形品から形成することができ、デバイスはまた、その製造を複雑にするような独立して移動する部品または可動部品を含まない。
【0035】
しかし、いくつかの実施形態では、緩衝部分を除くデバイス全体が一体的に形成される。緩衝部分がデバイスの他の部分と一体的に形成されない場合、緩衝部分は接着剤を用いて溝/側壁に取り付けられてよい。
【0036】
デバイスは、例えばカメラなどの撮像デバイスを備えていてもよく、これは声門を直接視覚化するのに有用であり得る。カメラは、好ましくは、患者に挿入されたときに声門を撮像するのに適切な場所に位置決めされるように、デバイスの第2の端部の上側に取り付けられる。カメラは、撮像データが表示デバイス上で見ることができるよう、当該撮像データを無線受信器に無線送信可能な無線カメラであってよい。
【0037】
デバイスはまた、患者に対してどの程度挿入すべきかを示す表示や目盛りを溝上に備えてもよい。例えば、デバイスは、溝上の目盛りが使用者の口唇に位置合わせされたときに、挿入のための適切な深さがデバイスの位置と対応することを使用者に示す溝上の目盛りを含んでよい。
【0038】
また、本明細書は患者を挿管する方法であって、
i)本明細書に記載のデバイスを患者の喉に挿入する工程、
ii)デバイスの開放溝に沿って気道デバイス(好ましくは声門下気道デバイス)を通すことによって気道デバイスを患者に挿入する工程、
iii)気道デバイスを患者の体内に固定する工程、
iv)本明細書に記載のデバイスを患者から取り外す工程、を備える方法を提供する。
【0039】
挿入工程i)は、典型的には、デバイスの第2の端部が食道を密閉し、溝が気道デバイスを患者の気管に誘導するよう位置決めされるように、本明細書に記載のデバイスを患者に挿入することを含む。
【0040】
固定工程iii)は、使用される声門下デバイスの特徴に依存する。一例として、声門下デバイスが、患者の気管内に声門下気道デバイスを保持するための膨張式カフを備える場合、固定工程iii)は、膨張式カフを膨張させることを含むことになる。
【0041】
取り外し工程iv)は、デバイスを(ハンドルを使用して)患者の喉から引き抜くことによって簡単に実施することができる。開放溝の形状により、固定された気道デバイスをずらすことなくデバイスを取り外すことができる。
【0042】
同様に、撮像デバイスを患者に(より具体的には、患者の喉に)挿入する方法が提供される。当該方法は上述した挿管方法に相当するが、気道デバイスが撮像デバイスに置き換わる。
【0043】
本発明のデバイスは、同様の目的を達成しようとするために用いられる従来のデバイスに対して、
・硬性喉頭鏡の使用を回避すること、
・呼吸器への侵襲が少ないこと、
・気道を傷つけることが少なく、患者への刺激が少なくなること、
・患者にとってより耐えやすいこと、
・配置がより容易であること、
・緊急を要する状況において、患者の気道を安定させるために必要な時間が改善(すなわち、短縮)されること、
・経験の浅い人員でも容易に配置できること、
・気管内挿管(計画された麻酔または緊急の気道管理または機械的換気など)を必要とする処置において、筋弛緩剤の使用の必要性を低減する(または不要とする)こと
を含む、数多くの利点を提供する。
【0044】
さらに、本発明は、上記のデバイスと共に使用可能な改良された気管内チューブを提供する。
【0045】
従来の気管内チューブは、患者の気管内にチューブを密閉して当該チューブが外れるのを防ぐ膨張式カフを備える。しかし、長時間の使用(例えば、長時間の外科手術など)では、膨張したカフに加圧され続けることで、患者の気管の内壁が損傷を受ける可能性がある。そのため、本願発明者は、気管の圧迫外傷を軽減するために、交互に膨張させることができる2つの隣接する膨張式カフを有する気管内チューブも考案した。
【0046】
したがって、本発明は、気管内チューブと2つの環状膨張式カフとを備える声門下気道デバイスをさらに提供し、各カフは、カフを膨張または収縮可能な膨張ラインを備える。
【0047】
環状膨張式カフは、気管内チューブが挿入されたときに両方のカフが患者の気管内に位置するように、典型的には互いに隣接し、例えば2cm以下、好ましくは1cm以下の距離で離間している。これにより、どちらのカフを使用しても、気道を密閉して、気管内チューブを患者の気管内の適切な位置に固定することができる。
【0048】
以下に、本発明を添付の図面を参照して具体例に基づいて記載するが、これは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るデバイスを示す。
図2図2は、図1に示すデバイスの正面図である。
図3図3は、図1に示すデバイスの側面図である。
図4図4は、本発明のさらなる実施形態に係るデバイスの側面図である。
図5図5は、図1に示すデバイスの下端をより詳細に示す。
図6図6は、挿管のために患者に挿入したときのデバイスの位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の1つの実施形態を以下に説明する(添付の図1図6を参照のこと)。
【0051】
本明細書に記載されるように、本発明は、気管内チューブを挿入するためのデバイス(10)を提供する。
【0052】
デバイス(10)は、基部のいずれかの側に一体的に形成されて開放溝(12)を形成する立設壁(14)を有する基部を備える。立設壁(14)は、鋭い縁を避けるために、隣接する部分が丸みを帯びるように基部と一体的に形成される。
【0053】
図3に示すように、デバイスは溝の長さに沿って約90°の角度で湾曲している。
【0054】
溝(12)の上端には、デバイスの使用中にハンドルとして機能することが意図されたつまみ(16)がある。つまみ(16)には、デバイスのグリップを補助する突出部(18)が設けられている。使用中、つまみ(16)は、典型的には親指と第一指および第二指との間に保持され、突出部(18)は、デバイスを引っ張る(10)ときに親指がつまみ(16)から滑り落ちるのを防ぐ。
【0055】
溝(12)の下端には、凸面と凹面とを有するスプーン状の端部(20)がある。この端部は上向きに湾曲しており、使用中は気管内チューブを患者の気管内に誘導する。
【0056】
また、基部上の溝の長さに沿って、上部こぶ(22)および下部こぶ(24)がある。こぶは溝(12)(より具体的には、溝の基部)の一部として一体的に形成されている。こぶは気管内チューブを湾曲した溝に沿って誘導し、チューブが溝(12)の湾曲領域内に引っかかることを防ぐのに有利であることが分かっている。こぶ(22,24)がない場合のいくつかの例では、気管内チューブがデバイスの下方へと導かれているときに、チューブが溝の基部に引っかかり、チューブにさらなる力を加えると、チューブは溝に沿って押し込まれるのではなく、ただ単に溝の基部内へと押しやられてしまう。
【0057】
溝(12)(および側壁(14))、つまみ(16)、突出部(18)、および端部(20)は、ショア硬さ00値が約60の医療用シリコーン熱可塑性エラストマー(スチレンエチレンブタジエンスチレンなど)により、全て一体的に形成される。
【0058】
端部(20)の前面及び側面の下方及び周囲には、ショア硬さ00値が約30の医療用シリコーン熱可塑性エラストマーからなる軟質緩衝部分(26)がある。患者の喉に完全に挿入されると、端部は食道の開口部内に置かれ、より軟質な緩衝部を使用することで、食道開口部および周辺領域への組織損傷が低減する。側壁(14)の上縁およびデバイス背面(図示せず)にも、患者の喉内の組織への損傷を避けるための緩衝部(30)が設けられる。
【0059】
図4に示す別の実施形態では、緩衝部(26)は端部(20)を取り囲むが、端部の凸面及び凹面を露出した状態のままにする。本実施形態において、使用中、端部(20)の凸状部は患者の食道を閉塞し、また好ましくは密閉するが、周囲の緩衝部分が食道開口部の周囲の領域での組織損傷を低減する。
【0060】
緩衝部分(26)は、(例えば、食道の開口部を密閉するために)緩衝部分(26)の端部をより容易に圧縮可能とする中空の開口部(28)を有する。これにより、デバイス(10)の端部はより柔軟になり、食道における組織損傷を低減する。
【0061】
本デバイスは、気管内チューブの管を患者の咽頭から気管に誘導することによって、意識のない患者に気管内チューブを挿入するために使用される。
【0062】
気管内チューブは、チューブと、チューブに取り付けられ、かつチューブを取り囲む膨張式の環状カフとを備える。膨張式カフは、当該カフを膨張させるために(例えば、シリンジを使用して)ガスを供給可能な膨張ラインを備えている。
【0063】
使用中、使用者(すなわち気管内チューブを患者に挿入する人)が患者の咽頭を見やすくするために、患者の口を開く。そして、デバイスを患者の口内、その後咽頭の下方へと挿入する。デバイスの湾曲形状により、完全に挿入すると、デバイスの下端が(溝の開放端を気管に向けて)気管の開口部に位置し、デバイスの端部(20)の緩衝部分(26)は食道の入り口を塞ぐ/覆う。これを図6に模式的に示す。同図は単に例示を目的としたものであり、人体解剖または本発明のデバイスを正確に表現することを意図してしない。デバイス(10)を患者の気道に挿入すると、デバイス(26,28)の端部は食道(200)を塞いで密閉する。デバイス(および溝のこぶ)の湾曲した性質により、気管内チューブは、図6に示す湾曲した矢印の方向に、上方へと向けられて気管(100)へ誘導される。
【0064】
デバイスが適切な位置にある状態において、気管内チューブを送ることのできる、患者の喉を通る明確な通路がある。したがって、チューブは(膨張ラインと共に)、デバイスの湾曲形状および上部・下部のこぶ(22,24)により補助されて、チューブの端と環状カフが気管内に位置するように、溝を通って気管に送り込まれる。
【0065】
次いで、環状カフを膨張させて患者の気管との間を封止する。これにより、気管内チューブの移動を防ぐだけでなく、気管や肺に効果的にガスを送り込むことができるよう気密シールを提供する。
【0066】
気管内チューブを挿入した状態で環状カフを膨張させると、気管内チューブを適切な位置に置いたままでデバイスを患者から容易に引き抜くことができる。
【0067】
光ファイバ撮像デバイスを患者の喉を通って体内に挿入する際にも同様の手順を用いることができる。
【0068】
本発明のデバイスを使用することで、本格的な医療的訓練を受けていない使用者であっても、気管内チューブを5秒以内に患者に挿入可能である(したがって気道が確保される)ことが分かっている。死体での研究では、挿入時間の中央値は8秒であった。
【0069】
このように、本発明は、声門下気道を挿入するための新規のデバイスを提供する。
【0070】
また、本発明は、上記の挿入デバイスと組み合わせて使用し得る声門下気道デバイスを提供する。
【0071】
従来の声門下気道は、気管内チューブと膨張式カフとを備える。しかし、長時間の使用において、膨張式カフが気管の内壁に加える圧力は、組織損傷を引き起こし得る。
【0072】
また、本明細書において、2つの膨張式カフを有する改良された声門下気道デバイスが記載される。このデバイスは、医療用ポリ塩化ビニル(PVC)で形成された可撓性プラスチックチューブを備える。使用中に患者の喉の奥のどこまでチューブを挿入したかを使用者が目視できるように、チューブの長さに沿って長さの目盛りが設けられる。チューブの一端(上端)には、患者の気管に送り込まれるガス(例えば、酸素または麻酔薬などの薬剤を含むガス)源との気密接続を可能にするコネクタがある。チューブの他端(下端)には、互いに隣接する2つの膨張式バッグがあり、これらは膨張式カフとして機能する。バッグは環状であり、チューブを取り囲む。各チューブは、バッグの内部と流体連通してバッグを膨張または収縮可能なパイロットラインを備える。各パイロットラインの端部には、バッグを膨張させるためのガス源(例えばシリンジ)にパイロットラインを接続するコネクタがある。
【0073】
使用中、声門下気道を(例えば図1~5に示す上記デバイスを使用して)患者の気管に挿入して、シリンジを用いて大量の空気をパイロットラインに注入することによって一方の膨張式カフを膨張させる。膨張したカフは、チューブと患者の気管の内壁との間に気密シールを形成する。気管内壁の損傷を防ぐために、長時間の挿管中、気密シールをチューブの別の部分に沿って形成する(それによって患者の気管の別の部分に圧力を加える)ように、膨張していない方のカフを膨張させ、また膨張したカフを収縮させることができる。
【0074】
したがって、本発明は、新規の声門下気道デバイスをさらに提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
声門下気道または撮像デバイスを患者に挿入するためのデバイスであって、
(a)その長さに沿って湾曲する開放溝を備え、該溝がその長さに沿った位置で該溝内に1つまたはそれ以上のこぶを備え、
(b)該デバイスの第1の端部がハンドル部を備え、
(c)該デバイスの第2の端部が、使用中に該患者の気管の開口部まで延びるよう構成されている、デバイス。
【請求項2】
前記溝が、該溝の前記長さに沿った位置で上部こぶおよび下部こぶを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第2の端部が前記患者の食道を閉塞するよう構成されている、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記溝が70°から120°の角度でその長さに沿って湾曲している、請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記溝が80°から100°の角度でその長さに沿って湾曲している、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記溝の前記長さが150mmから250mmである、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記溝の深さが15mmから30mmである、請求項1から6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
40から80のショア00硬さを有する材料から形成された、請求項1から7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
熱可塑性エラストマーから形成された、請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
シリコーン熱可塑性エラストマーから形成された、請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスが、該デバイスの1つまたはそれ以上の領域に緩衝部を備える、請求項1から10のいずれかに記載のデバイス。
【請求項12】
前記緩衝部が前記デバイスの前記第2の端部で軟質突縁の形態で存在する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記緩衝部が、中空の開口部の形態で前記デバイスの前記第2の端部に設けられている、請求項11または12に記載のデバイス
【請求項14】
前記緩衝部が20から40の範囲のショア00硬さを有する、請求項11または13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
前記ハンドル部が前記デバイスから延びるつまみを含み、該つまみが、前記使用者が前記デバイスを引っ張るときに該使用者の親指が該つまみの端部から滑り落ちるのを防ぐストッパーを含む、請求項1から14のいずれかに記載のデバイス。
【請求項16】
患者に挿管する方法であって、
i)請求項1から15のいずれかに記載のデバイスを患者の喉に挿入する工程、
ii)該デバイスの開放溝に沿って気道デバイス(好ましくは声門下気道デバイス)を通すことによって該気道デバイスを該患者に挿入する工程、
iii)該気道デバイスを該患者に固定する工程、および
iv)請求項1から15のいずれかに記載の該デバイスを該患者から取り外す工程、
を含む、方法。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
声門下気道または撮像デバイスを患者に挿入するためのデバイスであって、
(a)その長さに沿って湾曲する開放溝を備え、該溝が該溝の該長さに沿った位置で上部こぶおよび下部こぶを備え、
(b)該デバイスの第1の端部がハンドル部を備え、
(c)該デバイスの第2の端部が、使用中に該患者の気管の開口部まで延びるよう構成されている、デバイス。
【請求項2】
前記第2の端部が前記患者の食道を閉塞するよう構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記溝が70°から120°の角度でその長さに沿って湾曲している、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記溝が80°から100°の角度でその長さに沿って湾曲している、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記溝の前記長さが150mmから250mmである、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記溝の深さが15mmから30mmである、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
40から80のショア00硬さを有する材料から形成された、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
熱可塑性エラストマーから形成された、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
シリコーン熱可塑性エラストマーから形成された、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスが、該デバイスの1つまたはそれ以上の領域に緩衝部を備える、請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記緩衝部が前記デバイスの前記第2の端部で軟質突縁の形態で存在する、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記緩衝部が、中空の開口部の形態で前記デバイスの前記第2の端部に設けられている、請求項10または11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記緩衝部が20から40の範囲のショア00硬さを有する、請求項10または12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記ハンドル部が前記デバイスから延びるつまみを含み、該つまみが、前記使用者が前記デバイスを引っ張るときに該使用者の親指が該つまみの端部から滑り落ちるのを防ぐストッパーを含む、請求項1から13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
患者に挿管する方法であって、
i)請求項1から14のいずれかに記載のデバイスを患者の喉に挿入する工程、
ii)該デバイスの開放溝に沿って気道デバイス(好ましくは声門下気道デバイス)を通すことによって該気道デバイスを該患者に挿入する工程、
iii)該気道デバイスを該患者に固定する工程、および
iv)請求項1から14のいずれかに記載の該デバイスを該患者から取り外す工程、
を含む、方法。
【国際調査報告】