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特表2023-520316最適化された干渉散乱顕微鏡法のための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】最適化された干渉散乱顕微鏡法のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20230510BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556540
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 GB2021050639
(87)【国際公開番号】W WO2021186154
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】2003946.7
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522368754
【氏名又は名称】レフェイン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100210398
【弁理士】
【氏名又は名称】横尾 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ケーン,ジョサイア
(72)【発明者】
【氏名】ハントケ,マックス・フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】カーニー,ルイス
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AA04
2H052AA08
2H052AC07
2H052AC34
2H052AD20
2H052AD34
2H052AF14
(57)【要約】
干渉散乱顕微鏡法によってサンプルを画像化する方法であって、少なくとも1つの光源でサンプルを照明するステップであって、サンプルは反射信号が形成されるように、反射面を含むサンプル位置に保持され、反射信号は光源からの光とサンプルによって散乱された光とを含む、ステップと、第1のフレームNについて、第1の時間窓にわたって出力光を検出するステップと、第2のフレームNについて、第2の時間窓にわたって出力光を検出するステップと、NとNの比から1を引いたレシオメトリ信号Rを計算するステップと、フレームNおよびNからレシオメトリ動きシグネチャS=(S,S)を推定するステップであって、Sは、与えられた動きベクトルm=(m,m)に対してxおよびyに沿って動く不変のサンプルから測定されるレシオメトリ画像として定義される、ステップと、RがSとmを用いて近似されるように最も一貫性のあるベクトルとしてmを推定するステップと、R、S、mから補正されたレシオメトリコントラスト画像R*を計算するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉散乱顕微鏡法によってサンプルを画像化する方法であって、
少なくとも1つの光源でサンプルを照明することであって、前記サンプルは反射信号が形成されるように、反射面を含むサンプル位置に保持され、反射信号は、前記光源からの光と前記サンプルによって散乱された光とを含むことと、
第1のフレームNについて、第1の時間窓にわたって出力光を検出することと、
第2のフレームNについて、第2の時間窓にわたって出力光を検出することと、
とNの比から1を引いたレシオメトリ信号Rを計算することと、
与えられた動きベクトルm=(m,m)に対してxおよびyに沿って動く不変のサンプルから測定されるレシオメトリ画像であるネイティブカメラフレームNおよびNから、レシオメトリ動きシグネチャS=(S,S)を推定することと、
RがSとmを用いて近似されるように最も一貫性のあるベクトルとしてmを推定することと、
R、S、mから補正されたレシオメトリコントラスト画像R*を計算することと
を含む、方法。
【請求項2】
ピクセル位置(x,y)における水平および垂直レシオメトリ動きシグネチャSおよびSは、ネイティブ画像Nから、
[x,y]=(N[x+1,y]-N[x-1,y])/(2N[x,y])
[x,y]=(N[x,y+1]-N[x,y-1])/(2N[x,y])
として推定される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
mは、R=m+mとなるように最も一貫性のあるベクトルとして推定される、
請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記補正されたレシオメトリコントラスト画像フレームR*は、
R*=R-(m+m
として計算される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
動きを補償するために前記サンプルを移動させること
をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記検出された動きが所定のレベルを超える場合、アラートがトリガされる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反射信号の少なくとも1つを空間フィルタに通すこと
をさらに含み、
前記空間フィルタは、入射放射の強度の減衰をもたらすように構成され、
強度の前記減衰は、所定の開口数内でより大きい、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記光源はコヒーレント光源である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
サンプルをサンプル位置に保持するためのサンプルホルダと、
照明光を供給するように配置された照明光源と、
検出器と、
照明光を前記サンプル位置に向けるように配置され、反射した出力光を集めるように配置された光学系であって、前記出力光は前記サンプル位置からの散乱光と前記サンプル位置からの反射照明光の両方を含み、前記出力光を前記検出器に向けるように配置された光学系と、
前記出力光をフィルタリングするように配置された空間フィルタであって、出力光を通過させるが、より大きな開口数よりも所定の開口数内でより大きい強度を減衰させるように配置された空間フィルタと、
請求項1~8のいずれか一項に記載のステップを実行するように装置に指示するように構成されたコンピュータプログラム手段と、
を含む、
干渉散乱顕微鏡。
【請求項10】
前記推定された動きベクトルmに応答して前記サンプルを安定化させるアクチュエータ
をさらに含む、
請求項9に記載の干渉散乱顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化された干渉散乱顕微鏡法(本明細書ではIScatと呼ぶ)のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IScatは、独自の時空間分解能を持つ単一粒子追跡と、単一分子レベルまでのラベルフリー感度の両方、および、質量光度法および質量イメージングによる単一粒子の質量決定に対する強力なアプローチとして具現化された。
【0003】
IScatは、例えば、Kukura等の「単一ウイルスの位置および向きの高速ナノスコピック追跡(High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus)」、Nature Methods 2009 6:923-935、およびOrtega Arroyo等の「干渉散乱顕微鏡法(IScat):超高速および超高感度光学顕微鏡の新展開(Interferometric scattering microscopy (IScat):new frontiers in ultrafast and ultrasensitive optical microscopy)」、Physical Chemistry Chemical Physics 2012 14:15625-15636において、開示されている。
【0004】
かなりの可能性があるにもかかわらず、IScatの広範な適用は、特注の顕微鏡、従来とは異なるカメラおよび複雑なサンプル照明の要件によって制限されており、単一分子と同程度の小さな物体の確実かつ正確な検出、画像化および特性評価に対するIScatの能力が制限されている。
【0005】
本出願人の以前の特許であるWO2018/011591では、参照光フィールドと散乱光フィールドの相対振幅を改善するように構成された新規のコントラスト増強空間マスクを含む干渉散乱顕微鏡を開示した。そこに記載された顕微鏡は、従来のIScat技術と同様の感度を達成することができるが、従来の顕微鏡が空間マスクの簡単な修正および包含によってIScatを行うように構成され得る程度に、実装の複雑性および費用を劇的に減少させることが可能である。
【0006】
しかしながら、そのアプローチを用いて達成可能な測定感度に対する多くの限界が、本願の発明者らに明らかになった。
IScat顕微鏡では、境界に結合した粒子によって生成された信号を検出するために、隣接するフレーム間の比率がよく用いられる。このようにして、ある時点の前後2つの進行するフレームからピクセル強度の相対的な変化を表示するレシオメトリコントラスト画像が計算される。
【0007】
しかし、隣接するフレーム間でサンプルが移動すると、問題が発生し得る。サンプルの動きもピクセル強度の変化と関連しており、これらもレシオメトリ画像で検出され、粒子の検出とデータからの質量決定に問題が生じる。実際、この技術は感度が高いため、1ピクセルより小さい移動距離であっても、粒子からの信号がサンプルキャリアの動きによってかき消されてしまうことがある。ピクセルサイズの1%程度の動きでも、タンパク質1個と同じ振幅を有する信号が得られる。このように、非常に小さな動きでも、非常に誤った信号を出す可能性がある。
【0008】
現在、サブピクセルレベルの動きを補正する方法には、反復画像レジストレーション、フーリエ変換、オプティカルフローなどが含まれる。これらの方法は,レシオメトリ画像に直接適用することはできず、また、kHzのフレームレートでリアルタイムに十分な精度で実行することはできない。
【0009】
本発明は、サンプルの動きを補正する最適化されたIScat技術のための方法および装置を提供する。本明細書に開示される方法は、動きを検出し、信号から差し引くことによってこれに対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、干渉散乱顕微鏡法によってサンプルを画像化する方法が提供される。
方法は、干渉散乱顕微鏡法によってサンプルを画像化する方法を含み、方法は、少なくとも1つの光源でサンプルを照明するステップであって、サンプルは反射信号が形成されるように、反射面を含むサンプル位置に保持され、反射信号は、光源からの光とサンプルによって散乱された光とを含むステップと、第1のフレームNについて、第1の時間窓にわたって出力光を検出するステップと、第2のフレームNについて、第2の時間窓にわたって出力光を検出するステップと、NとNの比から1を引いたレシオメトリ信号Rを計算するステップと、与えられた動きベクトルm=(m,m)に対してxおよびyに沿って動く不変のサンプルから測定されるレシオメトリ画像であるネイティブカメラフレームNおよびNからレシオメトリ動きシグネチャS=(S,S)を推定するステップと、RがSとmを用いて近似されるように最も一貫性のあるベクトルとしてmを推定するステップと、R、S、mから補正されたレシオメトリコントラスト画像R*を計算するステップと、を含む。
【0011】
従来の画像位置合わせではなく、このようにレシオメトリック信号から動きシグネチャを取り除くことで、kHzのレートで引き続きリアルタイムに画像処理を行うことができる。
【0012】
ピクセル位置(x,y)における水平および垂直レシオメトリ動きシグネチャSおよびSは、ネイティブ画像Nから、
[x,y]=(N[x+1,y]-N[x-1,y])/(2N[x,y])
[x,y]=(N[x,y+1]-N[x,y-1])/(2N[x,y])
として推定される。
【0013】
mは、R=m+mとなるように最も一貫性のあるベクトルとして推定される。
補正されたレシオメトリコントラスト画像フレームR*は、R*=R-(m+m)として計算される。
【0014】
計算された動きベクトルmに基づいて、高精度なアクチュエータでサンプルを移動させる、または安定させることにより、移動、ドリフト、または振動を補償することができる。
【0015】
さらに、または代替として、検出された動きが所定のレベルを超える場合、アラートがトリガされ、検出された画像が信頼できない可能性があることをユーザーに警告する。
上記のいずれか一項に記載の方法において、動きを補償するためにサンプルを移動させるステップ、をさらに含む。
【0016】
第1のフレームは、第1の複数のネイティブフレームにわたる平均を含み、第2のフレームは、第2の複数のネイティブフレームにわたる平均を含んでもよい。
方法は、反射信号の少なくとも1つを空間フィルタに通すステップをさらに含んでもよく、空間フィルタは、入射放射の強度の減衰をもたらすように構成され、強度の減衰は、所定の開口数内でより大きい。空間フィルタを使用すると、反射光の大部分を除去することができる。しかし、散乱光は一般的に開口率が高いので、空間フィルタでは除去されない。そのため、この空間フィルタを使用することで、よりコントラストの高い画像を得ることができる。
【0017】
光源はコヒーレント光源であってもよい。
本発明によれば、干渉散乱顕微鏡が提供される。干渉散乱顕微鏡は、サンプルをサンプル位置に保持するためのサンプルホルダと、照明光を供給するように配置された照明光源と、検出器と、照明光をサンプル位置に向けるように配置され、反射した出力光を集めるように配置された光学系であって、出力光はサンプル位置からの散乱光とサンプル位置からの反射照明光の両方を含み、出力光を検出器に向けるように配置された光学系と、出力光をフィルタリングするように配置された空間フィルタであって、出力光を通過させるが、より大きな開口数よりも所定の開口数内でより大きい強度を減衰させるように配置された空間フィルタと、上記のステップを実行するように装置に指示するように構成されたコンピュータプログラム手段と、を含む。
【0018】
上記の干渉散乱顕微鏡は、推定された動きベクトルmに応答してサンプルを安定化させるアクチュエータをさらに含む。アクチュエータは、電動アクチュエータであってもよい。
【0019】
本発明は、10-15以下の照明光に対する散乱断面積を有する物体を含むサンプルに有利に適用され得る。典型的には、そのような物体は、10-26以上、すなわち10-15から10-26までの範囲内の照明光に関する散乱断面積を有することもできる。研究され得る物体の例としては、タンパク質またはその小さな凝集体、ならびに金属、有機または無機のナノ粒子が挙げられる。
【0020】
非常に弱い散乱体である物体を画像化するために、空間フィルタは、所定の開口数内で強度が入射強度の10-2以下に減衰した出力光を通過させるように配置される。典型的には、空間フィルタは、例えば入射強度の10-2から10-4の範囲において、所定の開口数内で強度を入射強度の10-4以上に減衰させた出力光を通過させるように配置されてもよい。
【0021】
以下、より良い理解を得るために、本発明の実施形態は、次に、添付の図面を参照して、非限定的な例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来技術のIScat顕微鏡の概略図である。
図2】従来技術のIScat顕微鏡の改良版の概略図である。
図3】動き補正が適用されていないIScat顕微鏡からの画像を示す図である。
図4】本発明による動き補正が適用されたIScat顕微鏡からの画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書に記載のシステムおよび方法において、使用される光は、紫外線(本明細書において、10nm~380nmの範囲の波長を有すると定義され得る)、可視光(本明細書において、380nm~740nmの範囲の波長を有すると定義され得る)、または赤外線(本明細書において、740nm~300μmの範囲の波長を有すると定義され得る)であり得る。光は、波長の混合物であってもよい。本明細書において、「光学の」および「光学」という用語は、方法が適用される光に一般的に言及するために使用される。
【0024】
図1および図2は、本発明の装置および方法と共通する多くの構造的特徴および機能性を有する、WO2018/011591に開示されたIScat顕微鏡の構成を示す図である。
【0025】
WO2018/011591の開示は、参照により本明細書に組み込まれるが、完全を期すために、以下の説明では、WO2018/011591のものと共通し、図1および図2に示される本発明のIScat顕微鏡の構成および機能性を示し、次に、本開示によってもたらされる上記構成の種々の改良を述べ、その実施形態例を提供する。
【0026】
したがって、図1を参照すると、顕微鏡1は、サンプル3をサンプル位置に保持するためのサンプルホルダ2を含む。サンプル3は、以下により詳細に説明する撮像対象物を含む液体サンプルであってもよい。サンプルホルダ2は、サンプル3を保持するのに適した任意の形態をとることができる。典型的には、サンプルホルダ2は、サンプルホルダ2とサンプル3との間の界面を形成する表面上にサンプル3を保持する。例えば、サンプルホルダ2は、カバースリップであってもよく、および/またはガラスから作られてもよい。サンプル3は、例えばマイクロピペットを用いて、簡単な方法でサンプルホルダ2上に提供されてもよい。
【0027】
顕微鏡1は、さらに、照明源4と検出器5とを備える。照明源4は、照明光を提供するように配置される。照明光は、コヒーレント光であってもよい。例えば、照明源4は、レーザであってもよい。照明光の波長は、サンプル3の性質および/または検査される性質に依存して選択され得る。一例では、照明光は、405nmの波長を有する。
【0028】
任意選択で、照明光は、例えばKukura等の「単一ウイルスの位置および向きの高速ナノスコピック追跡(High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus)」、Nature Methods 2009 6:923-935に詳述されているように、照明およびレーザノイズのコヒーレントな性質から生じるスペックルパターンを除去するために空間的に変調されてもよい。
【0029】
検出器5は、サンプル位置からの反射で出力光を受光する。検出器に到達する照明光は、サンプルの表面、典型的にはサンプルとサンプルホルダの間の界面から主に反射され、それによってその表面に近いサンプル中の物体との干渉がもたらされる。
【0030】
ガラスと水の界面が使用される例では、比較的少量(典型的にはわずか0.5%)の照明光が反射されるが、界面にあるナノスコピックの物体で散乱した光は、照明光の方向へ戻ってくる量が非常に多い(典型的には90%を超える)。これにより、散乱光と反射光の比が透過型の幾何学的形状に比べて本質的に1000倍超向上し、干渉計のコントラストが大きくなる。その結果、特定の散乱体、照明強度、および露光時間が与えられた場合に、同じ公称S/Nを達成するために検出する必要がある光子の数は、透過型セットアップの場合よりも3桁少なくなる。
【0031】
典型的には、顕微鏡1は、広視野モードで動作してもよく、この場合、検出器5は、サンプル3の画像を捕捉する画像センサであってもよい。顕微鏡1は、代替的に共焦点モードで動作してもよく、この場合、検出器5は、イメージセンサであってもよく、またはフォトダイオードのような点状検出器であってもよく、この場合、走査配置が、画像を構築するためにサンプル3の領域を走査するために使用されてもよい。検出器5として採用され得るイメージセンサの例としては、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサまたはCCD(電荷結合素子)などが挙げられる。
【0032】
顕微鏡1は、サンプルホルダ2と照明源4と検出器5との間に配置された光学系10をさらに備える。光学系10は、サンプル3を照明するために照明光をサンプル位置に照射し、サンプル位置からの反射で出力光を集め、出力光を検出器5に導くように、以下のように配置されている。
【0033】
光学系10は、サンプルホルダ2の前方に配置されたレンズ系である対物レンズ11を含む。また、光学系10は、集光レンズ12と、チューブレンズ13とを含む。集光レンズ12は、光源11(図1に連続線で示す)からの照明光を、対物レンズ11を通してサンプル位置のサンプル3に集光する。
【0034】
対物レンズ11は、(a)サンプル位置からの反射した照明光(図1に連続線で示す)と、(b)サンプル位置のサンプル3からの散乱光(図1に点線で示す)の双方を含む出力光を集光する。反射光は、サンプルホルダ2とサンプル3との界面からの反射が主である。
【0035】
典型的には、これは比較的弱い反射、例えばガラス-水反射である。例えば、反射照明光の強度は、入射した照明光の強度の0.5%程度であり得る。この散乱光は、サンプル3内の物体によって散乱する。サンプルの表面または表面に近い物体からの散乱光は、反射光と建設的に干渉するので、検出器5によって捕捉された画像において視認可能である。
【0036】
図1に示すように、反射照明光と散乱光は、異なる指向性を有する。特に、反射照明光は、光源4および光学系6によって出力された光ビームの幾何学的形状に起因する開口数を有する。散乱光は、大きな範囲の角度で散乱するため、反射照明光よりも大きな開口数を満たす。チューブレンズ13は、対物レンズ11からの出力光を検出器5上に集光する。
【0037】
光学系10は、光源4からの照明光と検出器5に向けられた出力光との光路を分割するように配置されたビームスプリッタ14も含む。ビームスプリッタ14は、そこに入射する光の部分反射と部分透過を提供する従来の構造を有し得る。
【0038】
本開示の実施例では、光源4は、光源4からの照明光がビームスプリッタ14によって対物レンズ11に反射されるように対物レンズ11の光路からオフセットされ、逆に検出器5は、サンプル位置からの出力光がビームスプリッタ14を介して検出器5に向かって透過するように対物レンズ11の光路に整合される。
【0039】
従来の構造であってよい上述の構成要素に加えて、顕微鏡1は、空間マスクまたはフィルタ20を含む。図1の例では、空間フィルタ20は、ビームスプリッタ14上に形成され、これにより対物レンズ11のバックアパーチャの後方に、したがって対物レンズ11のバックフォーカルプレーン15の直後方に配置されるが、空間フィルタ20は、以下に述べるような同じ効果を達成するために、IScat顕微鏡の光路に沿って他のポイントに配置されてもよい。
【0040】
空間フィルタ20は、サンプルホルダインターフェースから検出器5へ通過する逆伝播出力光をフィルタリングするように配置される。検出器5が対物レンズ11の光路と整列している本開示の実施例では、空間フィルタ20は、したがって、透過性である。
【0041】
空間フィルタ20は、部分的に透過性であるため、反射した照明光を含む出力光を通過させるが、強度が低下する。また、空間フィルタ20は、光軸と整合しており、所定の開口を有するので、所定の開口数内で強度の低減を提供する。ここで、開口数は、出力光が由来するサンプル位置に対する角度の範囲を特徴付ける無次元量であるとして、その通常の態様で定義される。
【0042】
具体的には、開口数NAは、以下の式で定義することができる。NA=n・sin(θ)、ここでθは収集の半角、nは出力光が通過する材料(例えば、光学系10の構成要素の材料)の屈折率である。
【0043】
空間フィルタ20は、任意の適切な方法で形成されてもよく、典型的には、堆積材料の層を含む。材料は、例えば、銀のような金属であってもよい。いくつかの実施形態では、空間フィルタは、1つまたは複数の誘電体コーティングを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、空間フィルタは、所定の角度範囲内で入射放射に対して部分的に反射するように形成されてもよい。蒸着は、任意の適切な技術を用いて行われてもよい。
【0044】
界面付近のサブ回折の大きさの物体は、反射照明光よりも大きな開口数に優先的に光を散乱させるので、空間フィルタ20によって与えられる強度の低減は、散乱光よりも反射照明光の検出強度を優先的に低減させる。したがって、低開口数における空間フィルタ20による強度の低減は、反射照明光に主に影響を与え、散乱光には最小限の影響を与えるので、キャプチャ画像におけるコントラストを最大化することができる。撮像コントラストが向上することで、弱い散乱体である物体を高コントラストで検出することが可能となる。
【0045】
コントラストの向上は、以下のように理解することができる。空間フィルタ20が所定の開口数の出力光の一部を通過させる(すなわち、この例では部分的に透過性である)ので、照明光および散乱光フィールドのフラクションは検出器に到達し、十分にコヒーレントな照明源について干渉する。そして、検出器に到達する光強度Idetは、次式で与えられる。
【0046】
det=│Einc{r+│s│+2rt│s│cosΦ}
ここで、Eincは入射光フィールド、rは界面の反射率、tは空間フィルタ20の透過率、sは物体の散乱振幅、Φは透過した照明光と散乱光との位相差である。
【0047】
空間フィルタ20によって提供される追加のフィルタリングは、標準的なIScatのようにガラス-水界面の反射率によって固定されるのではなく、空間フィルタ20の透過率tの選択によって、参照フィールドの振幅を直接調整することを可能にする。空間フィルタ20が堆積材料の層である場合、透過率tは、層の材料および/または厚さの選択によって選択され得る。このような調整は、例えば、関心のある散乱体、カメラのフルウェル容量、および倍率に応じて行うことができる。
【0048】
明視野照明は、通常対物レンズに由来する最も強い不要な後方反射が検出器5から遠ざかるようにし、撮像バックグラウンドを最小化し、照明光ビームの複雑な走査なしに広い視野を可能にする。
【0049】
比較的弱い散乱体である物体を撮像するために、空間フィルタ20は、所定の開口数内で、入射強度(この文脈では、空間フィルタ20に入射する出力光の強度)の10-2から10-4の範囲内の強度まで低減した反射照明光を通過させるように配置されてもよい。
【0050】
例えば、5000kDa以下の質量を有する物体を含むサンプルを撮像することができる。典型的には、開示された技術は、10kDa以上の質量を有する物体、例えば10kDa~5000kDaの範囲内の質量を有する物体、および/または10-12以下、より好ましくは10-17以下の照明光に関する散乱断面積を有する物体を含むサンプルに適用されてもよい。典型的には、そのような物体は、例えば、10-17~10-26の範囲内の、照明光に関する散乱断面積を有することもできる。本開示の技術を適用して画像化することができる物体の例には、タンパク質またはその小さな凝集体、またはそれらの結合パートナーが含まれる。
【0051】
より強い散乱体を同時に画像化するために、第2のフィルタの透過率は、所望の検出範囲に応じて、1~10-2の間の任意の範囲に設定され得る。
図2を参照すると、顕微鏡1の第2の例の構成が図示されている。図2の構成は、WO2018/011591にも開示されており、同様に、本発明の技術の適用により最適化するのに適している。
【0052】
図2の構成は、空間フィルタ20を、対物レンズ11の後方開口の後方に位置させるのではなく、対物レンズ11の後方焦点面の共役焦点面21に位置させる。対物レンズ11の後方焦点面15の共役焦点面21は、チューブレンズ13の後方に配置された一対のテレスコープレンズ22、23の間に形成される。
【0053】
光源4の後に音響光学デフレクタ32が配置され、照明光の走査を行う。音響光学デフレクタ32は、画像を構築するためにサンプル3の領域を走査するように、および/または、上述のように照明およびレーザノイズのコヒーレントな性質から生じるスペックルパターンを除去するために空間変調を提供するように、動作させることができる。
【0054】
集光レンズ12は、音響光学デフレクタ32におけるビーム経路のあらゆる修正を結像対物レンズの後方焦点面に結像させる機能を果たす一対のテレセントリックレンズ30および31に置き換えられる。
【0055】
光源4と検出器5の位置は、光源4からの照明光がビームスプリッタ14を通って対物レンズ11に透過し、逆にサンプル位置からの出力光がビームスプリッタ14によって検出器5に向かって反射されるように、図1の構成に対して逆になっている。
【0056】
ビームスプリッタ14は偏光ビームスプリッタであり、ビームスプリッタ14とサンプル3との間には1/4波長板33が配置されており、ビームスプリッタ14が光を分岐するようになっている。また、ビームスプリッタ14で反射された出射光を偏向させるためにミラー34が配置されている。
【0057】
レシオメトリフレームRは、位置(x、y)の各ピクセルについて、レシオメトリ信号がR[x,y]=N[x,y]/N[x,y]-1として計算されるように、2つのネイティブフレームNおよびNから計算される。
【0058】
しかし、フレームNとNの間でサンプルが移動すると、隣接するピクセルからの寄与がある。例えば、サブピクセル移動の場合、位置(x、y)のピクセルは、(x+1,y)、(x-1,y)、(x,y+1)、(x,y-1)を含む任意の隣接ピクセルからの寄与があり得る。
【0059】
x方向のみの動きを考慮すると、フレームNのピクセルN[x+1,y]からNの取得時にピクセルN[x,y]への動き寄与mが存在する可能性がある。これは、一次的には、次のように表すことができる。
【0060】
[x,y]=m[x+1,y]+(1-m)N[x,y]
レシオメトリ画像への寄与は、数1式のようになる。
【0061】
【数1】
【0062】
このように、隣接ピクセルの比率が計算できれば、フレーム内の全ピクセルに最も適合するmの値として、動きの寄与を計算することができる。
同様に、y方向の動きについては、フレームNのピクセルN[x,y+1]からNの取得時にピクセルN[x,y]への動き寄与mがあり得る。これは、レシオメトリ画像に数2式の寄与を与えることになる。
【0063】
【数2】
【0064】
2次元で見ると、フレーム間の動きベクトルはm=(m,m)である。mは、RとSから、R=m+mとなるような最も一貫性のあるベクトルとして推定される。
【0065】
ピクセルインデックス(x,y)における水平および垂直方向の動きシグネチャS,Sは、ネイティブ画像Nから、次のように推定することができる。
[x,y]=(N[x-1,y]-N[x+1,y])/(2N[x,y])
[x,y]=(N[x,y-1]-N[x,y+1])/(2N[x,y])
そして、動き補正されたレシオメトリ画像R*は、R*=R-(m+m)として計算することができる。
【0066】
これは、ピクセル間の線形補間を使用しているが、より洗練された動き推定を生成するために、Lanczosリサンプリングのようなより高度な補間を使用することができる。さらに、このアプローチは、フレーム全体のピクセルの勾配を計算することによって、1つを超えるピクセルの動きに適用することができる。
【0067】
この方法の他の応用は、観察方向と平行な動きの検出を含む。これは、(上述のような並進による線形運動ではなく)非線形運動として検出される。画像内のボケは、顕微鏡の光学特性を用いて較正する必要がある。
【0068】
本説明では個々のネイティブフレームNとNを使用しているが、ネイティブフレームの代わりにフレームの平均を使用することも可能である。
IScat顕微鏡は、検出された動きが所定値を超える場合に、アラームまたはアラートが通知されるアラームまたはアラートを含んでもよい。アラームは、音声または視覚アラームであってもよい。
【0069】
IScat顕微鏡は、動き、ドリフトもしくは振動を補正する、または補償するためのアクチュエータを含んでいてもよい。アクチュエータは、サンプルを直交する3方向に移動させることができる電動アクチュエータであってもよい。
【0070】
図3図4は、単量体、二量体、三量体という3つの明確な分子種を有するサンプルのIScat顕微鏡による画像を示す。
図3は、本発明による動き抑制を行わずにIScat顕微鏡で撮影した(レシオメトリ)フレームを示すものである。動きがあるため、個々の粒子を識別することはできない。アプリケーションウィンドウの右上隅にある感嘆符で示されるように、プログラムによって動きが検出される。左下のパネルでは、動きの振幅が時間に対してプロットされている。図3の右側は、観察スライドに着地した検出された粒子の質量のヒストグラムである。動きによるノイズが選択と同定のプロセスを妨害しているため、3つの異なる分子種について明確なピークがない。
【0071】
図4は、IScat顕微鏡で撮影した同じ(レシオメトリ)フレームを示しているが、今回は本発明によって動きが補正されている。2つの粒子が黒丸ではっきりと見え、左下パネルの運動振幅プロットは、図3よりもはるかに低い値を示している。レシオメトリフレームから計算されたヒストグラムでは、3つの明確なピークが見られ、これはサンプル中の3種の粒子の質量に対応する。
【0072】
この顕微鏡1は、単一分子の検出を含む幅広い用途のIScatを行うために使用することができる。特に、弱い散乱体のラベルフリー画像化の用途では、関心のある物体を大きな背景の上に必ず検出しなければならないため、画像化コントラストが低下する。顕微鏡1は、例えば、単一分子の結合/脱離、相転移、クラスタリング、集合/分解、凝集、タンパク質/タンパク質相互作用、タンパク質/低分子相互作用、高感度ラベルフリー画像化を含む、屈折率のあらゆる変化の測定など、広範囲の研究および測定に使用することができる。
【0073】
このように、顕微鏡1には、基礎研究から製薬業界などの産業応用まで、数多くの用途がある。例えば、IScatは現在、世界で最も高感度なラベルフリー単一分子画像化バイオセンサであり、例えば表面プラズモン共鳴センシング市場に大きな影響を与える可能性がある。また、上述のように顕微鏡1は質量測定にも利用でき、溶液中で正確、精密かつ高分解能の単一分子質量分析計として機能し、研究および産業界で多くの用途がある。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】