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特表2023-520369トラジピタントによる下気道感染症の治療
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  • 特表-トラジピタントによる下気道感染症の治療 図1
  • 特表-トラジピタントによる下気道感染症の治療 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】トラジピタントによる下気道感染症の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/444 20060101AFI20230510BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230510BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
A61K31/444
A61P11/00
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/04
A61K45/00
A61K9/10
A61K9/14
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/20
A61K47/12
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558378
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 US2021023875
(87)【国際公開番号】W WO2021195205
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】63/000,477
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/067,298
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/002,323
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/001,248
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】313006588
【氏名又は名称】バンダ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VANDA PHARMACEUTICALS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、ミハエル エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、クリストス
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロプロス、ヴァシリオス
(72)【発明者】
【氏名】シアオ、チャンフー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA31
4C076AA94
4C076BB01
4C076BB13
4C076CC15
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD41
4C076DD57
4C076DD67
4C076EE16
4C076EE31
4C076EE32
4C076FF04
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA19
4C084MA23
4C084MA34
4C084MA41
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA12
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC60
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA23
4C086MA34
4C086MA41
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA12
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
例えば、コロナウイルス疾患(COVID-19)、インフルエンザ、又は他のウイルスによって引き起こされる下気道感染症の治療方法であって、NK-1受容体アンタゴニスト、トラジピタントによる治療を含む、前記方法を本明細書において開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下気道感染症と診断された患者を治療する方法であって、
前記患者にトラジピタント(tradipitant)を、前記下気道感染症又はその少なくとも1の症状を治療するのに有効な用量で投与すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記下気道感染症が、ウイルス感染である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記下気道感染症が、ウイルス性肺炎である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルス性肺炎が、急性である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルス性肺炎が、COVID-19感染によって引き起こされる又はこれに付随して起こる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルス性肺炎が、インフルエンザ感染によって引き起こされる又はこれに付随して起こる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス性肺炎が、SARS-CoV、ライノウイルス、SARS-CoV以外のコロナウイルス、又は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の感染によって引き起こされる又はこれに付随して起こる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記下気道感染症が、細菌感染である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌感染が、肺炎連鎖球菌によって引き起こされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、入院している、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記患者の治療が、侵襲的機械換気、体外式膜型人工肺(ECMO)、非侵襲的換気、高流量酸素デバイス、又は酸素補給のうちの1又は複数をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記下気道感染症の前記少なくとも1の症状が、発熱、息切れ、咳、肺炎、92%未満の酸素飽和度、及び炎症性肺損傷のエビデンスからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記下気道感染症の治療が、前記患者が臨床改善を達成するまでの継続期間を短縮することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記下気道感染症の治療が、前記下気道感染症からの回復を加速させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記下気道感染症の治療が、前記患者における前記下気道感染症の進行を防止、遅延、又は軽減する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記下気道感染症の治療が、前記患者における呼吸の悪化を防止することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記下気道感染症の治療が、前記下気道感染症からの回復後の肺損傷を防止することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記下気道感染症の治療が、前記下気道感染症又はその1若しくは複数の症状の収束を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記トラジピタントが、前記患者に、トラジピタント及び1又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与され、トラジピタント用量が、100~400mg/日、100~300mg/日、又は100~200mg/日である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記トラジピタントが、前記患者に、トラジピタント及び1又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与され、トラジピタント用量が、150~400mg/日、150~300mg/日、又は150~200mg/日である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記トラジピタント用量が、170mg/日である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記トラジピタント用量が、85mgを1日2回(bid)である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記トラジピタントが、トラジピタント及び1又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態で経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記トラジピタントが、液体懸濁液形態で経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記トラジピタントが、液体懸濁液形態で静脈内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記トラジピタントが、14日間の期間で前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記トラジピタントが、7日間の期間で前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記トラジピタントを抗ウイルス薬剤と組み合わせて前記患者に投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタント。
【請求項30】
前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを含む医薬組成物。
【請求項31】
前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを含む医薬組成物の製造における使用のためのトラジピタント。
【請求項32】
前記トラジピタントが、結晶形態IV又は結晶形態Vである、請求項1~請求項31のいずれか一項に記載の方法、トラジピタント、又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年3月26日に出願された米国仮特許出願第63/000,477号;2020年3月27日に出願された米国仮特許出願第63/001,248号;2020年3月30日に出願された米国仮特許出願第63/002,323号;及び2020年8月18日に出願された米国仮特許出願第63/067,298号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、トラジピタント(tradipitant)による、関連する症状を含めた下気道感染症の治療方法に関する。より詳細には、本発明は、例えば、COVID-19、インフルエンザ、又は別の呼吸器系ウイルスによって引き起こされるウイルス性肺炎に罹患している患者の治療のための方法に関する。かかる治療は、かかる患者に、重症又は重篤なCOVID-19感染に関連する臨床転帰の加速した改善の機会を付与する。
【背景技術】
【0003】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV2)は、感染性の高い呼吸器疾患であるコロナウイルス疾患(COVID-19疾患)を引き起こす新型のコロナウイルスである。COVID-19は、2020年3月11日に世界保健機関(WHO)によってパンデミックであると宣言されたものであり、1%を超え得る死亡率を有する。前記ウイルスは、飛沫又は接触を介してヒトからヒトへの感染が生じると理解されている。一般的な症状として、発熱、悪寒、咳、息切れ又は呼吸困難、倦怠感、筋肉又は体の痛み、頭痛、新たな味覚又は嗅覚喪失、咽頭痛、鼻詰まり、吐き気又は嘔吐、及び下痢が挙げられる。一部の患者における、頭痛、吐き気、及び嘔吐を含めた症状の提示は、COVID-19の神経侵襲の可能性についての懸念を生じている。
【0004】
加えて、多くの入院患者が、呼吸不全に至る急性呼吸窮迫症候群を伴った重篤な肺炎を経験する。サイトカインストームは、COVID-19の合併症として観察されており、肺線維症もまた、COVID-19からの回復後に観察されている。疾患のパターンは、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)によって引き起こされる疾患において観察されたものと類似している。罹患率及び死亡率を低減する可能性を含めた、患者に改善された転帰を付与するCOVID-19治療に対する緊急の必要性が存在する。COVID-19の治療における治療の成功は、抗マラリア薬剤であるクロロキン及びヒドロキシクロロキン、並びにレムデシビルの使用を通して主張されている。しかし、COVID-19に罹患した患者におけるサイトカインストーム並びに呼吸不全及び高い死亡率に至る急性呼吸窮迫症候群を防止又は治療する、並びに、COVID-19感染から回復後に残存し得る炎症性肺損傷及び線維症を低減することができる治療が必要とされている。
【0005】
哺乳類タキキニン(ニューロキニン[NK])は、共通のC末端配列を共有するペプチド神経伝達物質のファミリーである。この群は、サブスタンスP(SP)、ニューロキニン-A(NKA)、及びニューロキニン-B(NKB)を含む。SPは、最も豊富なNKであり、ニューロキニンタイプ-1(NK-1)受容体に優先的に結合し、肺の神経性炎症を含めた多くの生理的プロセスの調節に関与する。
【0006】
NK-1受容体は、中枢神経系にマッピングされており、中脳、基底核、視床下部、及び辺縁系を含めた脳において広い分布を有することが分かった。ニューロキニン受容体もまた、消化管、気管支樹、及び血管系にも広く分布されている。
【0007】
トラジピタントは、極めて強力な、選択性の、中心に浸透する、経口で有効なNK-1受容体アンタゴニストであり、式Iとして以下に示される構造を有する。
【0008】
【化1】
【0009】
トラジピタントは、米国特許第7,320,994号に開示されており、3,5-ビス-トリフルオロメチルフェニル部位、2つのピリジン環、トリアゾール環、クロロフェニル環、及びメタノンの6つの主要構造成分を有する。トラジピタントは、化学名、2-[1-[[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メチル]-5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル]-3-ピリジニル](2-クロロフェニル)-メタノン、及び{2-[1-(3,5-ビストリフルオロメチルベンジル)-5-ピリジン-4-イル-1H-[1,2,3]トリアゾール-4-イル]-ピリジン-3-イル}-(2-クロロフェニル)-メタノンで知られており、また、VLY-6868、以前はLY686017としても知られている。トラジピタントの結晶形態IV及び結晶形態Vは、米国特許第7,381,826号に開示されており、結晶性{2-[1-(3,5-ビストリフルオロメチルベンジル)-5-ピリジン-4-イル-1H-[1,2,3]トリアゾール-4-イル]-ピリジン-3-イル}-(2-クロロフェニル)-メタノン、形態IVを調製するためのプロセスは、米国特許第8,772,496号及び同第9,708,291号に開示されている。
【0010】
米国特許第7,320,994号は、トラジピタントなどの化合物を、過剰のタキキニンに関連する状態を治療するために使用するための方法を記載しており、最も特定的には、過剰のタキキニンに関連する状態はうつ病及び不安である。米国特許第7,320,994号は、他のかかる疾患におけるトラジピタントなどの化合物の使用をさらに記載しており、すなわち、なぜなら、これらの化合物が、過剰のタキキニンに関連する生理作用を阻害するからである。前記特許は、精神病、統合失調症、及び他の精神病性障害;アルツハイマー型老年性認知症、アルツハイマー病、AIDS関連認知症、及びダウン症を含めた認知症などの神経変性障害;多発性硬化症及び筋萎縮性側索硬化症などの脱髄疾患、並びに、末梢性ニューロパシー、糖尿病及び化学療法誘発性ニューロパシーなどの他の神経病理学的疾患、並びにヘルペス後の及び他の神経痛;成人呼吸窮迫症候群、気管支肺炎、気管支けいれん、慢性気管支炎、ドライバーコフ(drivercough)、及びぜんそくなどの急性及び慢性閉塞性気道疾患;炎症性腸疾患、乾癬、結合組織炎、変形性関節症、及び関節リウマチなどの炎症性疾患;骨粗しょう症などの筋骨格系の障害;湿疹及び鼻炎などのアレルギー;毒ツタなどの過敏性障害;結膜炎、春季カタルなどの眼疾患;接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、じんましん、及び他の湿疹様皮膚炎などの皮膚疾患;アルコール依存症などの嗜癖障害;ストレス関連の身体疾患;肩手症候群などの反射性交感神経性ジストロフィー;気分変調性障害;移植組織の拒絶などの反対の免疫反応及び全身性エリテマトーデスなどの免疫促進又は抑制に関連する障害;潰瘍性大腸炎、クローン病及び過敏性腸症候群などの内臓の神経調節に関連する胃腸障害又は疾患;膀胱排尿筋過反射及び失禁などの膀胱機能の障害;アテローム性動脈硬化症;強皮症及び好酸球肝蛭症などの線維及びコラーゲン疾患;良性前立腺肥大症の刺激症状;高血圧などの血圧に関する障害;又は狭心症、偏頭痛、及びレイノー病などの、血管拡張及び血管攣縮性疾患によって引き起こされる血流の障害;化学療法誘発性の吐き気及び嘔吐を含めた嘔吐;並びに例えば上記状態のいずれかに起因する又は関連する疼痛又は痛覚を含めた、タキキニン受容体活性化に関係する多数の他の障害の治療におけるこれらの化合物の有用性を記載している。最終的に、前記特許は、かかる化合物が、約0.001mg/kg/日~約100mg/kg/日で変動することが予期されている量で有効であることを記載している。
【0011】
トラジピタントは、生物学的に利用可能である様々な投与経路を通して治療的に投与されることが知られている。米国特許第7,320,994号は、経口及び非経口経路による、例えば、経口による、吸入による、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、鼻腔内、直腸内、眼内、局所、舌下、及び頬側へのトラジピタントの投与であって、経口投与が治療に概して好ましいことを開示している。加えて、トラジピタントの、掻痒及びアトピー性皮膚炎の治療における使用が、国際公開第2016/141341号に開示されており、胃不全まひを含めた胃運動障害におけるものが、国際公開第2019/099883号に開示されており、乗り物酔いにおけるものが、国際公開第2020/069092号に開示されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明の態様は、下気道感染症と診断された患者を治療する方法であって、 前記患者にトラジピタントを、前記下気道感染症又はその少なくとも1の症状を治療するのに有効な用量で投与することを含む、前記方法を提供する。前記下気道感染症は、ウイルス感染であってよく、さらには、所見において急性であってよいウイルス性肺炎であってよい。前記ウイルス性肺炎は、SARS-CoV2の感染、すなわち、COVID-19感染、インフルエンザ感染又は他のウイルス性呼吸器疾患によって引き起こされ得又はこれに付随して起こり得る。いくつかの態様によると、トラジピタント治療に加えて、前記患者は、入院していてよく、適応があれば、侵襲的機械換気(invasive mechanical ventilation)、体外式膜型人工肺(ECMO)、非侵襲的換気(non-invasive ventilation)、高流量酸素デバイス(high flow oxygen device)、又は酸素補給の使用を含めた、診断された具体的な下気道感染症についての標準治療にしたがって治療されてよい。前記下気道感染症の症状として、例えば、発熱、息切れ、咳、肺炎、炎症性肺損傷のエビデンス、及び他の症状を挙げることができる。
【0013】
前記患者の治療は、トラジピタント及び1又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態(solid immediate release form)の経口投与を含んでいてよく、トラジピタント用量が、100~400mg/日、100~300mg/日、又は100~200mg/日;150~400mg/日、150~300mg/日、又は150~200mg/日;約170mg/日;又は約85mgを1日2回(bid)である。前記トラジピタントは、代替的には、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態(solid controlled release form)で経口投与されてよく、又は液体懸濁液形態(liquid suspension form)で経口若しくは静脈内投与されてよい。治療は、例えば、14日を超える入院を必要とする場合において、7日間、14日間、又はこれを超える期間で継続してよい。治療は、例えば、レムデシビルなどの抗ウイルス性治療薬との共投与をさらに含んでいてよい。
【0014】
本発明の態様に関して、前記下気道感染症の治療は、限定されないが:前記患者が臨床改善を達成するまでの継続期間を短縮すること、前記下気道感染症からの回復を加速させること、前記患者における前記下気道感染症の進行を防止、遅延、若しくは軽減すること、症状の完全な収束(resolution)、前記患者における呼吸の悪化を防止すること、並びに/又は前記下気道感染症から回復後の前記患者の肺損傷を防止することを含む。
【0015】
本発明の第2態様は、前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを提供する。
【0016】
本発明の第3態様は、前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを含む医薬組成物を提供する。
【0017】
本発明の第4態様は、前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを含む医薬組成物の製造における使用のためのトラジピタントを提供する。
【0018】
本発明のこれら及び他の態様、利点及び顕著な特徴は、本発明の実施形態を開示する、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本明細書において実施例1に記載されている治療意図(ITT:intent-to-treat)集団における7日目の2以上のポイントの改善に対する時間のプロットを示す。
図2図2は、本明細書において実施例1に記載されている治療意図(ITT:intent-to-treat)集団における28日目の2以上のポイントの改善に対する時間のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図は、本開示の典型的な態様のみを示すことを意図しており、したがって、本開示の範囲を限定するとみなされるべきではない。
【0021】
本発明の様々な実施形態において、本明細書に記載されている方法は、下気道感染症、すなわち、肺損傷を引き起こす感染性疾患と診断された患者の治療のための方法を含む。下気道感染症の原因は、当該分野において知られている。しかし、様々な実施形態において、前記下気道感染症は、ウイルス疾患若しくは感染であり、又はより詳細にはウイルス性呼吸器感染である。かかるウイルス感染として、例えば、コロナウイルス疾患(COVID-19)及びこれに関連する肺炎、並びに、他のウイルス、例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)、インフルエンザの感染によって引き起こされる又はこれに関連する肺炎、並びに、ライノウイルス、コロナウイルス、又は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)によって引き起こされるものなど一般的な風邪に続発する肺炎を挙げることができる。他の実施形態において、前記下気道感染症は、例えば、肺炎連鎖球菌の感染によって引き起こされるものを含めた細菌性肺炎であってよい。本明細書に記載されている方法は、感染性疾患の確定診断を受けている、又は、感染性疾患の疑いがある、例えば、COVID-19、SARS、インフルエンザなどの感染の疑いがある症状に悩まされている患者の治療に適用可能であり得る。
【0022】
本明細書において使用されているとき、前記下気道感染症の治療は、症状の重症度の減少、進行の防止若しくは軽減、又は、前記下気道感染症の1若しくは複数の症状、例えば、COVID-19、急性肺炎、及びかかる症状(複数可)が患者において現れた後の他の感染の完全な収束(resolution)を含むとみなされてよい。例えば、重症度の減少は、侵襲的機械換気から非侵襲的換気又は高流量酸素デバイスへの移行の成功、これらの呼吸補助形態から単なる酸素補給への移行の成功、酸素補給の除去の成功、及び退院を含み得る。進行の防止又は軽減は、例えば、酸素補給の必要性からより侵襲的な換気及び呼吸補助の必要性への深刻化の回避を含み得る。治療は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の収束(resolution)を含めた、上記の感染性疾患によって引き起こされる炎症性肺損傷の防止又は減少を特に含み得る。
【0023】
治療はまた、臨床改善の達成の加速を含むともみなされる。かかる加速は、病気の時間的経過を短縮し得、且つ、かかる治療の非存在下で達成され得るよりも早期の回復を結果として生じさせ得る。かかる加速はまた、例えば機械換気などの特定の呼吸補助が必要とされる継続期間を短縮し得る。トラジピタントによるかかる治療は、合計入院時間の低減、集中治療室(ICU)の時間の低減、患者が、例えば、カニューレ、高流量、人工呼吸器などを含めた酸素サポートを必要とする期間の低減、及び、病気が入院を許可するほど充分に重篤ではない患者における結果として入院につながる深刻化の防止を含み得る。
【0024】
治療は、ウイルスの侵入若しくは侵入後のウイルス集合のいずれかを妨害することによる、又はウイルスを他の抗ウイルス剤に暴露することによる、生体内(in vivo)での抗ウイルス効果の発揮をさらに含み得る。例えばレムデシビル及び当該分野において公知の他のものなどの抗ウイルス剤は、さらに、トラジピタントと組み合わせて患者に投与されてよい。
【0025】
他の実施形態において、治療は、例えばCOVID-19の感染によって引き起こされるウイルス性肺炎から回復後の長期の肺機能の改善又は長期の肺機能損失の防止を含み得る。急性ウイルス性肺炎に関連する長期の肺機能損失、及び当該肺炎から回復後にかなり残存することは、当該分野において公知である。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、治療は、感染性疾患、例えば、COVID-19による病気の間に患者の臨床所見を改善してもしなくてもよい。例えば、治療は、上記の病気の時間的経過又は継続期間を減少させ得るが、回復前の上記の病気の重症度を減少してもしなくてもよい。それにもかかわらず、かかる治療は、ウイルス性肺炎によって引き起こされる長期の肺障害を防止する作用を有し得る。そのため、治療は、ポスト-ウイルス性肺機能損失及び肺線維症の防止における使用を含み得る。
【0027】
一態様において、炎症性肺損傷を引き起こす可能性がある感染性疾患、例えばCOVID-19と診断された患者の治療の方法であって、当該患者にトラジピタントを投与することを含む、前記方法が提供される。前記トラジピタントは、トラジピタント及び1又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与されてよい。代替的には、前記トラジピタントは、トラジピタント及び1又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態で経口投与されてよい。固形放出制御形態は、固形即時放出形態よりも比較的多量のトラジピタントを含有していてよく、1日2回(bid)よりもむしろ頻繁でない間隔、例えば、1日1回(qd)で投与されてよい。さらには、前記トラジピタントは、液体懸濁液形態で経口又は静脈内のいずれかによって投与されてよい。患者に投与される前記トラジピタントは、剤形又は投与経路にかかわらず、結晶形態IV又は結晶形態Vであってよい。
【0028】
固形即時放出形態が使用される場合、トラジピタントの投与量として、例えば、約100~400mg/日、約150~400mg/日、約100~300mg/日、約150~300mg/日、約100~200mg/日、約170~340mg/日、又は約170~255mg/日を挙げることができる。ある特定の実施形態において、当該量は、約170mg/日のトラジピタントであってよい。より詳細には、前記投与量は、85mgを1日2回(bid)、又は85mgを12時間毎投与(Q12H)であってよい。上記のトラジピタントの投与量は、例えば、完全に記載されているように参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/141341号及び同第2019/055225号から、治療レジメンの継続期間の間、少なくとも約100ng/mL、少なくとも約125ng/mL、少なくとも約150ng/mL、少なくとも約175ng/mL、少なくとも約200ng/mL、又は約225ng/mL以上のトラジピタント血漿濃度レベルの達成及び管理と一致するトラジピタント暴露を付与するために充分である量及び頻度であることが知られている。当該治療レジメンの継続期間は、最大で7日、14日の期間、及び7日、14日を含む期間であってよく、又は、患者が入院しているときには、例えば、当該病院から退院するまで、かかる期間を超えていてよい。
【0029】
本明細書において記載されているように投与されるトラジピタントは、有益な抗炎症作用を付与して、COVID-19に罹患している患者においてCOVID-19関連炎症性肺損傷の進行を防止、遅延、若しくは軽減する、及び/又はかかる感染から回復する時間を加速させるのに有用であり得る。
【0030】
別の実施形態において、疑いがある又は確認された感染性疾患、例えば、COVID-19に関連する肺炎に罹患している又は当該疾患の症状に悩まされている患者を治療するための方法を提供する。かかる症状は、例えば、発熱(≧36.6℃(腋窩)、≧37.2℃(口腔)、若しくは≧37.8℃(直腸)の温度として定義されている)、咳、胸部X線検査若しくはCTスキャンによって確認された肺炎、低い酸素飽和度(92%未満と定義されている)、又は炎症性肺損傷のエビデンスを含み得る。あるいは、前記患者は、RT-PCRによるCOVID-19感染の検査室診断が確認されていてよく、及び/又は、治療する病院によって定義されているCOVID-19感染の重症若しくは重篤基準を満たすと判断されていてよい。
【0031】
この実施形態において、前記方法は、前記患者に、例えば結晶形態IV又は結晶形態Vでトラジピタントを経口投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記トラジピタントは、約100~400mg/日、約150~400mg/日、約100~300mg/日、約150~300mg/日、約100~200mg/日、約170~340mg/日、又は約170~255mg/日、約170mg/日のトラジピタント、約85mg bid、又は85mg Q12Hのトラジピタント用量を含有する固形即時放出形態で経口投与されてよい。治療レジメンの継続期間は、最大で7日、14日の期間、及び7日、14日を含む期間であってよく、又は、患者が入院しているときには、例えば、当該病院から退院するまで、かかる期間を超えていてよい。
【0032】
上記のように、前記トラジピタントは、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与されてよく、又は代替的には、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態で経口投与されてよい。さらにまた、前記トラジピタントは、液体懸濁液形態で経口又は静脈内のいずれかによって投与されてよい。投与の形態又は経路にかかわらず、かかる投与は、炎症を減少させ、及び、疾患関連の炎症性肺損傷の進行を防止、遅延、又は軽減する効果を有し得、且つ、ウイルスの侵入若しくは侵入後のウイルス集合のいずれかを妨害することによる、又はウイルスを他の抗ウイルス剤に暴露することによる、生体内(in vivo)での抗ウイルス効果の発揮をさらに含み得る。
【0033】
本発明のさらなる態様において、例えばCOVID-19であってよい感染性疾患に罹患している患者における、炎症を減少させる、炎症性肺損傷を防止する、又は炎症性肺損傷の進行を遅延若しくは軽減するための方法を提供する。この実施形態において、前記方法は、前記患者に、例えば結晶形態IV又は結晶形態Vでトラジピタントを経口投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記トラジピタントは、約100~400mg/日、約150~400mg/日、約100~300mg/日、約150~300mg/日、約100~200mg/日、約170~340mg/日、又は約170~255mg/日、約170mg/日のトラジピタント、約85mg bid、又は85mg Q12Hのトラジピタント用量を含有する固形即時放出形態で経口投与されてよい。治療レジメンの継続期間は、最大で7日、14日の期間、及び7日、14日を含む期間であってよく、又は、患者が入院しているときには、例えば、当該病院から退院するまで、かかる期間を超えていてよい。
【0034】
上記のように、前記トラジピタントは、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与されてよく、又は代替的には、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態で経口投与されてよい。さらには、前記トラジピタントは、液体懸濁液形態で経口又は静脈内のいずれかによって投与されてよい。
【0035】
さらなる実施形態は、感染性疾患、例えば、COVID-19に罹患している患者を治療する、及び当該患者の呼吸機能の低下を防止する方法を提供する。かかる実施形態において、呼吸機能の低下は、92%未満の酸素飽和度を有すると定義される。この実施形態において、前記方法は、前記患者に、例えば結晶形態IV又は結晶形態Vでトラジピタントを経口投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記トラジピタントは、約100~400mg/日、約150~400mg/日、約100~300mg/日、約150~300mg/日、約100~200mg/日、約170~340mg/日、又は約170~255mg/日、約170mg/日のトラジピタント、約85mg bid、又は85mg Q12Hのトラジピタント用量を含有する固形即時放出形態で経口投与されてよい。治療レジメンの継続期間は、最大で7日、14日の期間、及び7日、14日を含む期間であってよく、又は、患者が入院しているときには、例えば、当該病院から退院するまで、かかる期間を超えていてよい。
【0036】
上記のように、前記トラジピタントは、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与されてよく、又は代替的には、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態で経口投与されてよい。さらには、前記トラジピタントは、液体懸濁液形態で経口又は静脈内のいずれかによって投与されてよい。
【0037】
さらなる実施形態において、感染性疾患、例えば、COVID-19から回復後の肺損傷を、トラジピタントを患者に投与することによって防止するための方法を提供する。かかる実施形態において、前記肺損傷は、肺活量の低減、すなわち、肺の損失として現れ得る。これらの損失は、例えば、病気の前の肺機能又は肺活量に対して減少し得る。特に、前記肺損傷は、肺線維症であってよい。
【0038】
この実施形態において、前記方法は、前記患者に、例えば結晶形態IV又は結晶形態Vでトラジピタントを経口投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記トラジピタントは、約100~400mg/日、約150~400mg/日、約100~300mg/日、約150~300mg/日、約100~200mg/日、約170~340mg/日、又は約170~255mg/日、約170mg/日のトラジピタント、約85mg bid、又は85mg Q12Hのトラジピタント用量を含有する固形即時放出形態で経口投与されてよい。治療レジメンの継続期間は、最大で7日、14日の期間、及び7日、14日を含む期間であってよく、又は、患者が入院しているときには、例えば、当該病院から退院するまで、かかる期間を超えていてよい。
【0039】
上記のように、前記トラジピタントは、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形即時放出形態で経口投与されてよく、又は代替的には、トラジピタント及び1若しくは複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む固形放出制御形態で経口投与されてよい。さらには、前記トラジピタントは、液体懸濁液形態で経口又は静脈内のいずれかによって投与されてよい。
【0040】
さらなる実施形態は、前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタント、前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを含む医薬組成物、及び前記の治療方法のいずれかにおける使用のためのトラジピタントを含む医薬の製造における使用のためのトラジピタントを提供する。
【0041】
上記実施形態のいずれかにおいて、前記患者のCOVID-19の兆候は、炎症性肺損傷、肺炎の診断を含み得、及び/又は、炎症性肺損傷の存在下若しくは非存在下のいずれかでの重症若しくは重篤なCOVID-19感染を含み得る。前記患者のCOVID-19の兆候は、発熱及び/又は咳の症状をさらに含み得る。さらには、前記患者は、診断試験によって確認され得るCOVID-19の診断を有し得、又は、例えば、症状、病歴、並びに旅行及び/若しくは暴露歴のうちの1若しくは複数に基づいて疑われ得る。
【0042】
当業者は、さらなる実施形態が、上記の実施形態を組み合わせることによって、又は本明細書に付与されている例を参照することによって選択されてよいことを認識するであろう。
【0043】
実施例1
ランダム化二重盲検プラセボ対照試験は、重症又は重篤なCOVID-19感染に関連する炎症性肺損傷及び肺炎の治療、並びに重症又は重篤なCOVID-19感染に関連する臨床転帰の改善におけるトラジピタントの効能を調査する。かかる臨床転帰の改善は、長期の肺機能損失及び肺線維症の減少を含む。
【0044】
方法:参加予定者は、試験の-1日目~0日目に、予定の患者の参加資格をアセスメントするスクリーニングビジットに参加する。全ての登録患者は、最初の身体検査を受け、試験に登録する前に試験対象患者基準及び除外基準を満たさなければならない。合計300患者のサンプルサイズ(150/アーム)は、発熱及び酸素飽和度において20%の正常化の差を検出するおよそ93%の能力を付与し、5%の有意水準で両側フィッシャー正確検定に基づいてそれぞれプラセボ群及びトラジピタント治療群において50%及び70%の正常化率を仮定する。
【0045】
試験対象患者基準は:18~90歳の成人;RT-PCRによって実験室確認されたCOVID-19感染;胸部X線検査又はコンピューター断層撮影によって確認された肺炎;≧36.6℃(腋窩)、≧37.2℃(口腔)、又は≧37.8℃(直腸)の温度として定義されている発熱;並びに、呼吸補助又は20/分を超える呼吸速度を有さず、試験の際、室内空気において又は機械換気において又は増加した呼吸仕事量(WOB)において92%未満の酸素飽和度を含む。除外基準は:最近の不正薬物使用又はアルコール依存症;トラジピタント又は他のニューロキニン-1アンタゴニストへのアレルギー既往;妊娠;HIV、HBV、又はHCV感染の既往;悪性腫瘍、他の深刻な全身性疾患;及び、インフォームドコンセントを付与することができないこと、又は、インフォームドコンセントを付与する権限を与えられた親戚若しくは指定された人がいないこと、又はプロトコル要求に応じることができないことを含む。
【0046】
試験対象患者-除外基準を満たす患者を、治療する病院でのプロトコルにしたがったCOVID-19感染の標準治療に加えて、85mgのトラジピタントを1日2回(bid)経口で(PO、すなわち経口)又は二重盲検条件下でのマッチングプラセボのいずれかでの治療について、1:1でランダム化した。両方の試験アームにおいて、試験薬剤での治療は、14日間又は病院から退院するまで継続する。トラジピタント治療及びプラセボの両方の試験アームにおいて、患者に、午前9:00又はこれより前の朝に毎日経口で1カプセルの試験薬剤を与え、且つ、およそ12時間後(±1時間)の午後に毎日経口で1カプセルの試験薬剤を与える。トラジピタント治療アームにおける患者には、85mgのトラジピタント、並びに、賦形剤としての、スプレー乾燥したラクトース一水和物、微結晶性セルロース(Avicel PH102及びPH200)、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びステアリン酸マグネシウムを含有するカプセルを投与する。上記のトラジピタントカプセルは、乳白色の硬ゼラチンカプセルである。プラセボカプセルは、トラジピタントを含有するものと同じサイズ及び外観で付与される。
【0047】
経鼻胃管を介しての投与を必要とする患者には、以下の手順を使用する:1)ガラス乳鉢中の1つの85mgのカプセルの内容物を空にして、全ての顆粒を完全に粉砕するまで乳棒を使用して破砕する;2)破砕し続けながら10mLの水を添加して均一な分散液を得る;3)全分散液を好適なシリンジ内に引き上げる;4)シリンジ先端を経鼻胃管に接続して全シリンジ内容物を押圧する;並びに5)乳鉢及び乳棒を5mLの水でリンスして、工程3)及び4)を繰り返す。粉砕手順により、次いで閉塞することなく経鼻胃管を通して投与することができる水中で均一な分散液の調製を結果として生じさせる。
【0048】
患者アセスメントを、以下の表1に詳説する評価のスケジュールにしたがって実施する。
【0049】
【表1】
【0050】
EOS=研究の終了;ET=早期終了;WOCBP=妊娠可能な女性;PG=薬理遺伝;NEWS2=全国瞬時警報スコア2;CT=コンピューター断層撮影
試験のインフォームドコンセントをスクリーニングビジットにおいて対象に説明し、あらゆる手順を実施する前に署名されなければならない。
実験室テストを必要に応じて繰り返していずれの異常な変化もフォローする。
身長をスクリーニングのみにおいて記録する。体重のみをスクリーニング及びEOS/ETにおいて収集する。
所与のECG機からの自動解釈を使用してあらゆる心臓異常を判断する
可能な場合のみ実施され、対象に挿管しない。
【0051】
酸素飽和度を、表1に規定するように、パルスオキシメータを使用して毎日測定する。パルスオキシメータによって血中酸素濃度(SpO2)を測定する。酸素の正常化のための基準は、末梢毛細血管酸素飽和度(SpO2)が>94%で少なくとも24時間持続されることである。
【0052】
体温を表1に規定するように毎日測定する。発熱の正常化のための基準は、36.6℃未満(腋窩)、37.2℃未満(口腔)、又は37.8℃(直腸)未満の温度が、少なくとも24時間持続されることを含む。
【0053】
鼻咽頭スワブを収集してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってCOVID-19のウイルス負荷を検出する。この毎日のアセスメントは、感染及び炎症のマーカーの一部であり、評価のスケジュール(表1)において適応があれば実施する。
【0054】
NEWSは、英国内科医師会によって開発されて、後に、2017年にNEWS2にアップデートされたツールである。NEWS2スコアは、入院患者の敗血症を含めた急激な悪化を同定する。これは、6の生理学的パラメータ:呼吸速度、酸素飽和度、収縮期血圧、脈拍数、意識又は新たな撹乱のレベル、及び体温;の簡素な総スコアシステムに基づくものである。NEWS2を表1に示されている間隔でアセスメントする。
【0055】
死亡率を、院内死亡率による参加者の割合としてアセスメントし、治療アーム毎に評価する。
【0056】
咳の重症度を咳についての数値化スケール(NRS)を使用してアセスメントする。このスケールでは、医師又は被指名人は、0(全く咳なし)~10(最大の咳)まで参加者の咳を格付けする。アセスメントを適応があれば評価のスケジュール(表1)において実施する。
【0057】
臨床状態を、以下に定義されているスコアによる、7ポイントの順序尺度を使用して、入院の間、毎日アセスメントする:1)死亡;2)侵襲的機械換気又は体外式膜型人工肺(ECMO)において入院;3)非侵襲的換気又は高流量酸素デバイスにおいて入院;4)酸素補給を必要として入院;5)酸素補給を必要とせず入院;6)活動を制限して、入院していない;並びに7)入院していない。
【0058】
フェリチン;CRP;差異のあるCBC;IL-1ベータ、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-37;顆粒球コロニー刺激因子;インターフェロン-ガンマ;COVID-19のウイルス負荷;PT/PTT/INR;D-Dimer、BNP、ESR;トロポニン-1及びT;TNF-アルファ;並びに誘導タンパク質10を含めた、感染及び炎症のマーカーを毎日(表1)収集し、これらを使用して炎症及び炎症性肺損傷の減少を定量化及びアセスメントする。
【0059】
COVID-19の治療におけるトラジピタントの効能を以下の尺度によってアセスメントする:ベースラインと比較して7ポイントの順序尺度によってアセスメントする、臨床状態の改善及び当該改善までの時間;14日目で発熱及び酸素飽和度を正常化した参加者の割合;1日1回、朝に収集した、インターロイキン-6(IL-6)を含めた、炎症の肺のマーカーの、ベースラインからの変化;鼻咽頭のサンプルからRT-PCRによってアセスメントした、COVID-19のウイルス負荷の減少率;院内死亡率による参加者の割合;ランダム化後にスクリーニングにおいて毎日アセスメントした、ベースラインからのNEWS2スコアの平均変化;並びに、可能であれば、ランダム化後に、朝に、スクリーニングにおいて毎日アセスメントした、咳についてのNRS(数値化スケール)によって測定した、ベースラインからの咳の減少。
【0060】
結果:最初の60の登録患者の中間解析により、このCOVID-19患者集団におけるトラジピタントの安全性及び効能をアセスメントする。この治療意図集団の人口構成を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
臨床状態を上記の7ポイントの順序尺度においてアセスメントする。臨床改善を前記7ポイントの順序尺度における少なくとも2ポイントの改善として定義する。前記トラジピタントアームにおける患者の57%が臨床改善を示す一方で、前記プラセボアームにおける患者の50%が臨床改善を示す。前記トラジピタントアームは、14.2%の死亡率を有する一方で、前記プラセボアームは、16.6%の死亡率を有する。これらの尺度のそれぞれにおいて、前記トラジピタントアームにおける患者は、統計的に有意なマージンによるものではないが、優れた結果を示す。
【0063】
改善分析する期間中において、トラジピタントで治療した患者は、プラセボを投与された患者よりも早期に回復する(図1)。表3に示すように、この差は、治療の7日目において統計的に有意であり(HR=2.55、p=0.0375)、ベースラインにおいて重症度が変動する患者間で概して一貫性がある。表3は、7日目の全体の結果及びベースラインの順序尺度スコアによる結果(4、3、及び2のベースラインの順序尺度スコア)を示す。
【0064】
【表3-1】
【0065】
【表3-2】
【0066】
表4及び図2は、28日目において、トラジピタントが、プラセボに対して数字上の利益を示し、回復へのメジアン時間がより早い(HR=1.55、p=0.2254、トラジピタントでは10日及びプラセボでは28日の改善のメジアン時間)。この利益は、ベースラインにおいて重症度が変動する患者間で概して一貫性がある。表4は、28日目の全体の結果及びベースラインの順序尺度スコアによる結果(4、3、及び2のベースラインの順序尺度スコア)を示す。
【0067】
【表4-1】
【0068】
【表4-2】
【0069】
これらのデータは、トラジピタントが、重症又は重篤なCOVID-19感染患者において臨床改善の時間を加速させること、及びCOVID-19肺炎の入院患者がトラジピタントによって治療されたときプラセボと比較してより早く改善することを示している。COVID-19に関連する比較的低い死亡率を考慮すると、死亡率への治療効果をアセスメントするために有意に大きな試験集団が必要とされる。
【0070】
本発明の様々な態様の上記の詳細な説明は、例示及び説明の目的で提示されている。包括的であること又は本発明を開示されている明確な形態に限定することは意図しておらず、変更及び変形が可能である。当業者に明らかであり得るかかる変更及び変形は、添付の特許請求の範囲によって定義されているように本発明の範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
【国際調査報告】