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特表2023-520373電動システム用の伝熱流体の健全性の監視
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  • 特表-電動システム用の伝熱流体の健全性の監視 図1
  • 特表-電動システム用の伝熱流体の健全性の監視 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】電動システム用の伝熱流体の健全性の監視
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/26 20190101AFI20230510BHJP
   C09K 5/10 20060101ALI20230510BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20230510BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20230510BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20230510BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20230510BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20230510BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20230510BHJP
   C10M 105/06 20060101ALN20230510BHJP
   C10M 107/50 20060101ALN20230510BHJP
   C10M 107/38 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
B60L58/26
C09K5/10 E
B60L3/00 N
B60L50/60
C10M101/02
C10M107/02
C10M105/32
C10M105/18
C10M105/06
C10M107/50
C10M107/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558422
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 US2021022671
(87)【国際公開番号】W WO2021194813
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】63/001,032
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソンモービル・テクノロジー・アンド・エンジニアリング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ケリー ケヴィン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ シュジ
(72)【発明者】
【氏名】タッギ アンドリュー イー
【テーマコード(参考)】
4H104
5H125
【Fターム(参考)】
4H104BA03A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB31A
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
5H125AA01
5H125AC12
5H125CC04
5H125CD02
5H125CD06
5H125EE51
5H125FF22
5H125FF23
5H125FF24
(57)【要約】
伝熱システムを動作させる方法は、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて伝熱流体を循環させるステップと、伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップとを含む。伝熱流体についての次元有効係数(DEF流体)が、流体特性に基づいて、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて計算され、参照流体についての次元有効係数(DEF参照)が、伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて計算される。次いで、伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)が得られ、それによって、伝熱流体の健全性が得られる。NEF流体が所定の閾値を下回る場合、健全性が悪化していると判断され、NEF流体が所定の閾値を上回る場合、健全性が存続可能であると判断される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱システムを動作させる方法であって、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて非水性の誘電伝熱流体を循環させるステップであり、前記伝熱回路が、ポンプ、導管、および熱交換器を含むステップと、前記伝熱回路内の前記伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップであり、前記流体特性が、密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)からなる群から選択されるステップと、リアルタイム流体特性に基づいて、かつ前記伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、前記伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)を計算するステップと、参照流体について、かつ前記伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて次元有効係数(DEF参照)を計算するステップと、以下の方程式:
【数1】
から前記伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を決定するステップと、前記NEF流体に基づいて前記伝熱流体の健全性を判定するステップであり、前記NEF流体が所定の閾値を下回る場合、前記健全性が悪化していると判断し、前記NEF流体が所定の閾値を上回る場合、前記健全性が存続可能であると判断するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記ポンプが、容積式ポンプおよび遠心ポンプのうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電動システムが、電動車両、車載パワーエレクトロニクス、電動モータ、発電機、バッテリ、充電式バッテリシステム、充電ステーション、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DCコンバータ、電子機器、コンピュータ、サーバーバンク、データセンター、変圧器、動力管理システム、バッテリを制御するエレクトロニクス、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記伝熱流体を循環させるステップが、前記電動システムの1種または複数の電気構成要素の表面を前記伝熱流体で直接冷却することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記伝熱回路内の前記選択された支配的な流動レジームが、層流、遷移流、および乱流からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記流体特性の前記リアルタイム測定値を取得するステップが、前記伝熱流体が前記伝熱回路内を循環しているときに、前記伝熱流体と連通している1つまたは複数のセンサによって前記伝熱流体を監視することと、前記1つまたは複数のセンサによって前記流体特性の前記リアルタイム測定値を取得することとを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記流体特性の前記リアルタイム測定値を取得するステップが、前記伝熱回路から前記伝熱流体の試料を抽出することと、前記1つまたは複数のセンサによって前記伝熱流体の前記試料を分析することとを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記NEF流体が所定の閾値を下回ったときに前記電動デバイスのオペレータに警告を送信するステップと、前記伝熱流体の少なくとも一部を交換するステップとをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電動デバイスが自律型車両であり、前記方法が、前記NEF流体が所定の閾値を下回ったときに前記自律型車両に警告を送信するステップと、前記自律型車両をメンテナンスステーションに送り、前記伝熱流体の少なくとも一部を交換するステップとをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電動システムの温度を監視するステップと、前記温度が所定の温度限界を上回り、かつ前記伝熱流体の前記健全性が存続可能である場合、前記電動システムにハードウェア問題があると結論付けるステップとをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記伝熱回路が熱輸送支配型である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記伝熱回路が伝熱支配型である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記伝熱流体が、グループIのベースオイル、グループIIのベースオイル、グループIIIのベースオイル、グループIVのベースオイル、およびグループVのベースオイルからなる群から選択される流体である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記伝熱流体が、芳香族炭化水素、ポリオレフィン、パラフィン、イソパラフィン、エステル、エーテル、フッ素化流体、ナノ流体、およびシリコーン油からなる群から選択される流体である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記伝熱流体が、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、ナノ材料、ナノ粒子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1種または複数の添加剤を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記参照流体が、ビフェニル26.5%+ジフェニルオキシド73.5%、シロキサン(>95%、KV100 16.6cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 0.93cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 1.6cSt)、ペルフルオロ流体C5-C8(KV25 2.2cSt)、および3-エトキシ-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチル-ヘキサン(>99%)からなる群から選択される少なくとも1種の流体である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記参照流体が、新鮮なまたは未使用の状態の前記伝熱流体を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
伝熱システムを動作させる方法であって、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて非水性の誘電伝熱流体を循環させるステップであり、前記伝熱回路が、ポンプ、導管、および熱交換器を含むステップと、前記伝熱回路内の前記伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップであり、前記流体特性が、密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)からなる群から選択されるステップと、リアルタイム流体特性に基づいて、かつ前記伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、前記伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)を計算するステップと、参照流体について、かつ前記伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、次元有効係数(DEF参照)を計算するステップと、以下の方程式:
【数2】
から前記伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を決定するステップと、前記NEF流体に基づいて前記伝熱流体の健全性を判定するステップであり、前記NEF流体が所定の閾値を下回る場合、前記健全性が悪化していると判断し、前記NEF流体が所定の閾値を上回る場合、前記健全性が存続可能であると判断するステップと、前記電動システムの温度を監視するステップと、前記温度が所定の温度限界を上回り、かつ前記伝熱流体の前記健全性が存続可能である場合、前記電動システムにハードウェア問題があると判定するステップとを含む、方法。
【請求項19】
前記ポンプが、容積式ポンプおよび遠心ポンプのうちの1つである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記電動システムが、電動車両、車載パワーエレクトロニクス、電動モータ、発電機、バッテリ、充電式バッテリシステム、充電ステーション、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DCコンバータ、電子機器、コンピュータ、サーバーバンク、データセンター、変圧器、動力管理システム、バッテリを制御するエレクトロニクス、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記伝熱流体を循環させるステップが、前記電動システムの1種または複数の電気構成要素の表面を前記伝熱流体で直接冷却することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記伝熱回路内の前記選択された支配的な流動レジームが、層流、遷移流、および乱流からなる群から選択される、請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記流体特性の前記リアルタイム測定値を取得するステップが、前記伝熱流体が前記伝熱回路内を循環しているときに、前記伝熱流体と連通している1つまたは複数のセンサによって前記伝熱流体を監視することと、前記1つまたは複数のセンサによって前記流体特性の前記リアルタイム測定値を取得することとを含む、請求項18~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記流体特性の前記リアルタイム測定値を取得するステップが、前記伝熱回路から前記伝熱流体の試料を抽出することと、前記1つまたは複数のセンサによって前記伝熱流体の前記試料を分析することとを含む、請求項18~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記電動システムに前記ハードウェア問題があると判定された場合に、前記電動デバイスのオペレータに警告を送信するステップをさらに含む、請求項18~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記電動デバイスが自律型車両であり、前記方法が、前記電動システムに前記ハードウェア問題があると判定された場合に、前記自律型車両に警告を送信するステップと、前記自律型車両をメンテナンスステーションに送って、前記ハードウェア問題を解決するステップとを含む、請求項18~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記伝熱回路が熱輸送支配型である、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記伝熱回路が伝熱支配型である、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記伝熱流体が、グループIのベースオイル、グループIIのベースオイル、グループIIIのベースオイル、グループIVのベースオイル、およびグループVのベースオイルからなる群から選択される流体である、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記伝熱流体が、芳香族炭化水素、ポリオレフィン、パラフィン、イソパラフィン、エステル、エーテル、フッ素化流体、ナノ流体、およびシリコーン油からなる群から選択される流体である、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記伝熱流体が、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、ナノ材料、ナノ粒子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1種または複数の添加剤を含む、請求項18~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記参照流体が、ビフェニル26.5%+ジフェニルオキシド73.5%、シロキサン(>95%、KV100 16.6cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 0.93cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 1.6cSt)、ペルフルオロ流体C5-C8(KV25 2.2cSt)、および3-エトキシ-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチル-ヘキサン(>99%)からなる群から選択される少なくとも1種の流体である、請求項18~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記参照流体が、新鮮なまたは未使用の状態の前記伝熱流体を含む、請求項18~31のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気システム(electrical system)に使用するための伝熱流体に関し、より具体的には、伝熱流体のリアルタイムの健全性を判定することによって電動システム(electric system)の伝熱システムの性能を改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
伝熱システムは、多くのタイプの電動システムに組み込まれて、発生した熱を除去するのに役立ち、それによって、電動システムの長時間の動作を調整する。電動車両は、動作中に発生する熱を除去するための効率的な伝熱システムを必要とする電動システムの一種である。電動車両の伝熱システムは、典型的には、バッテリおよび電動モータなどの特定の電気構成要素から発生した熱を間接的に除去する水性伝熱流体(あるいは、「冷却剤」とも称される)を使用する。電動車両の技術が発展して、より長いバッテリ航続距離、より短い再充電時間、およびより高い車両出力を包含するようになるにつれて、電気構成要素の直接冷却に関連して利益があるものの、これは水性伝熱流体では不可能である。
炭化水素ベースの流体などの非水性の誘電伝熱流体を使用すると、水素の形成および放出の潜在的なリスクを含む、水の電気伝導率に関連する安全上の問題の可能性を減らすことができる。炭化水素ベースの伝熱流体は、その低い電気伝導率に基づいて、安全性および高温の電気構成要素の表面の直接冷却に関して、電動車両用途の発展において利益をもたらす。
【0003】
多くの電動車両用途では、伝熱流体の性能は、電気構成要素から熱を除去するその能力と、伝熱回路内で伝熱流体を循環させるのに必要な動力量との両方によって決定される。理想的に適した伝熱流体は、熱除去を最大化し、流体を循環させるのに最小限の動力を必要とする。
電動車両の設計に応じて、その全体的な性能を決定する伝熱流体の特定の流体特性は異なる。例えば、熱が除去されるべき大きな表面領域と、再循環前にその温度を低下させるために伝熱流体から熱が後に除去される大きな表面領域とがある電動車両の設計では、伝熱流体の熱容量が、高温の構成要素から伝熱流体に向かう熱流の量の判定を支配する。他の電動車両の設計では、粘度、密度、および熱伝導率などの流体特性も、熱流を判定する上で重要な役割を果たし得る。いずれの場合も、伝熱流体の流体特性は、伝熱流体を循環させるのに必要な動力量を判定する上でも重要であり得る。
内燃機関内のオイルの予想寿命および劣化経路については多くの進歩および理解がなされてきたが、電動車両などの電動システムにおける伝熱流体の健全性を理解および予測する上での経験および進展は最低限しかない。
【発明の概要】
【0004】
基本的な理解を提供するために、本開示の様々な詳細を以下に要約する。この概要は、本開示の広範な概要ではなく、本開示の特定の要素を識別することも、その範囲を叙述することも意図してはいない。むしろ、この概要の主な目的は、以下に提示されるより詳細な説明の前に、本開示のいくつかの概念を簡略化された形式で提示することである。
1つまたは複数の態様では、伝熱システムを動作させる方法が開示されており、この方法は、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて非水性の誘電伝熱流体を循環させるステップであり、伝熱回路が、ポンプ、導管、および熱交換器を含むステップと、伝熱回路内の伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップであり、流体特性が、密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)からなる群から選択されるステップと、リアルタイム流体特性に基づいて、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)を計算するステップと、参照流体について、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて次元有効係数(DEF参照)を計算するステップと、以下の方程式:
【数1】
から伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を決定するステップと、NEF流体に基づいて伝熱流体の健全性を判定するステップであり、NEF流体が所定の閾値を下回る場合、健全性が悪化していると判断し、NEF流体が所定の閾値を上回る場合、健全性が存続可能であると判断するステップとを含む。
【0005】
1つまたは複数のさらなる態様では、伝熱システムを動作させる別の方法は、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて非水性の誘電伝熱流体を循環させるステップであり、伝熱回路が、ポンプ、導管、および熱交換器を含むステップと、伝熱回路内の伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップであり、流体特性が、密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)からなる群から選択されるステップと、リアルタイム流体特性に基づいて、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)を計算するステップと、参照流体について、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて次元有効係数(DEF参照)を計算するステップと、以下の方程式:
【数2】
から伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を決定するステップと、NEF流体に基づいて伝熱流体の健全性を判定するステップであり、NEF流体が所定の閾値を下回る場合、健全性が悪化していると判断し、NEF流体が所定の閾値を上回る場合、健全性が存続可能であると判断するステップと、電動システムの温度を監視するステップと、温度が所定の温度限界を上回り、かつ伝熱流体の健全性が存続可能である場合、電動システムにハードウェア問題があると判定するステップとを含む。
以下の図は、本開示の特定の態様を説明するために含まれているのであって、排他的な実施形態であると考えられるべきではない。開示されている主題は、本開示の範囲から逸脱することなく、形態および機能において、かなりの修正、変更、組み合わせ、および等価物が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の原理を組み込むことができる例示的な伝熱システムの概略図である。
図2図1のコンピュータシステムの例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、電気システムに使用するための伝熱流体に関し、より具体的には、伝熱流体のリアルタイムの健全性を判定することによって電動システムの伝熱システムの性能を改善することに関する。
本明細書で伝熱流体を説明する際のパーセンテージはすべて、特に明記されていない限り、質量によるものである。「質量%」は、質量パーセントを意味する。
「電動システム」、「電動デバイス」、「電気システム」、「電気デバイス」、およびそれらの任意の変形形態は、主に電気的手段によって動力付与または動作され、長時間の動作にわたって発生した熱を除去するために伝熱システムを必要とする、任意のシステム、デバイス、または装置を指す。例示的な電動システムとしては、電動車両、電動車両に備えられているパワーエレクトロニクス(例えば、「車載」エレクトロニクス)、電動モータ、バッテリ、充電式バッテリシステム、充電ステーション、電子機器、コンピュータ、サーバーバンク(またはファーム)、データセンター、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0008】
「電動車両」およびその任意の変形形態は、単独または組み合わせて様々な並列または直列ドライブトレイン構成のいずれかを有し得、かつ車両で使用されるギアを有する機械および電気システム、サブシステム、および構成要素を含む、全電気および完全電動車両、ならびにハイブリッドおよびハイブリッド電動車両を指す。ギアを有するこれらの機械および電気システム、サブシステム、および構成要素としては、例えば、電気車両パワートレイン、パワートレイン構成要素、ドライブトレイン構成要素、運動エネルギー回収システム(KERS)、エネルギー再生システムなどが挙げられ得る。電動車両およびハイブリッド車両という用語は、交換可能に使用され得る。さらに、「電動車両」という用語は、陸上車両(例えば、自動車)に限定されてはおらず、それでいて、完全にまたは部分的に電気で動力付与されるあらゆるタイプの車両を包含することも意図しており、航空車両(例えば、飛行機、ドローン、宇宙船など)および航海車両(例えば、あらゆるタイプの船舶、ホバークラフトなど)を含む。「電動車両」は、マニュアル運転もしくは自動運転車両またはそれらの任意のハイブリッド車両も指し得る。
【0009】
高温の表面から熱を直接除去する非水性伝熱流体を使用して、電動車両動作中のバッテリ、車載パワーエレクトロニクス、超急速充電システム、および電動モータなどの電気構成要素またはデバイスからの熱の除去を行うことができると見出された。本開示で言及されている炭化水素ベースの伝熱流体などの非水性伝熱流体は、高温の構成要素表面の直接冷却と、非水性伝熱流体の低い電気伝導率に基づく安全性との両方に関して、電動車両の技術分野の発展において利益を提供することができる。
電動車両用途では、先に示されるように、伝熱流体の性能は、高温の表面から熱を除去するその能力と、伝熱回路を通じて伝熱流体を循環させるのに必要な動力量との両方によって決定される。理想的には、選択された伝熱流体は、熱除去を最大化し、伝熱回路を通じて流体を循環させるのに最小限の動力を必要とする。
【0010】
所与の電動車両設計における伝熱流体の有効性は、伝熱流体を循環させる動力(PC)に対する熱流(HF)の比として定義することができる。より高い有効性を有する電動車両用伝熱流体は、流体を循環させるのに必要な動力量当たりにより多くの熱を高温の表面から除去することができるようになり、これによって、電動車両用バッテリの航続距離を最大化することおよび/または車両における冷却システムの設計を最適化することに関する大きな利益がもたらされるであろう。特定の車両用途における伝熱流体の有効性と併せて電動車両の設計パラメータを評価することによって、HFおよびPCが、伝熱流体の流体特性、例えば、密度(ρ)、粘度(μ)、熱容量、または比熱(cp)、および熱伝導率(k)によってそれぞれどのように影響を受けるかを判定した。これによって、本明細書に記載されている電動車両設計のための伝熱流体の有効性を最大化する、本明細書で正規化有効係数(NEF流体)と称される流体特性の独自の組み合わせが特定された。
【0011】
予想外なことに、正規化有効係数(NEF流体)は、液体冷却剤の伝熱に関して一般的に適用されるものとして業界で一般的に提案されている、Mouromtseff方程式(または数)として知られている流体特性の組み合わせとは異なる。結果として、より低いNEF流体値を有する比較材料よりも高いNEF流体値をもたらす特性を有する伝熱流体の場合、電動車両冷却システムの全体的な性能を改善および最適化することができる。いくつかの場合において、例えば、伝熱システムの性能の改善は、1以上のNEF流体を有する伝熱流体を使用することによって得られる。少なくとも1つの実施形態では、NEF流体=1は、新鮮な伝熱流体に対応し得、動作中の劣化していく伝熱流体の少数値は、その有用性の低下または劣化度の直接的な指標である。そのような実施形態では、NEF流体の値がユーザ指定の値を下回ったときに(少数)、液体の交換が開始され得る。
Mouromtseff方程式は、得られる伝熱係数に対する流体特性の影響を比較するための迅速かつ好都合な方法として開発された。Mouromtseff方程式の使用によって、流体を迅速に比較するための好都合な方法が提供されるが、その使用には、例えば、流量、次元、および支配的な熱輸送メカニズムに関して、多くの欠点がある。
【0012】
流量に関しては、流体の物理的特性に関係するものを除いて伝熱相関式からすべての変数を排除する際に、従来のMouromtseff方程式の導出は、流体特性が流体循環速度に及ぼし得るあらゆる影響を無視する。特に、伝熱流体を循環させるために遠心ポンプが使用されている場合、伝熱流体の流体特性は、特定の形で循環速度に影響を与えるため、得られる局所的な流体速度に影響を及ぼすであろう。したがって、変数自体が流体特性に依存する場合、変数は、典型的には除外され、この依存性は、流体比較に含めるべきである。
次元に関して、従来のMouromtseff方程式で使用される流体特性変数は、単位を有する。これは、Nusselt(Nu)、Reynolds(Re)、およびPrandlt(Pr)数とは異なり、得られるMouromtseff方程式が無次元ではないことを意味するが、適切な単位は、多くの場合、文献で報告されていない。したがって、同じ流体についてのMouromtseff方程式を計算する2人の異なる実務者であれば、例えば、一方がSi単位を使用し、もう一方が帝国単位を使用することに応じて、異なる数値を出し得る。
【0013】
支配的な熱輸送メカニズムに関して、Mouromtseff方程式の使用は、流体を使用すべき物理的状況における熱除去が流体との局所的な伝熱によって支配されることを示唆している。しかしながら、いくつかの場合において、例えば、冷却すべき要素および熱遮断部位に大きな伝熱領域が存在する場面では、循環する伝熱流体による熱輸送が支配的である場合がある。そのような状況では、局所的な伝熱の実際のメカニズム、したがって、局所的な伝熱に対する流体特性の影響は重要ではなくなる。これらの用途では、Mouromtseff方程式が伝熱流体について何かを示している可能性があるが、それが示しているものは、伝熱流体としての流体性能には重要ではないだろう。
伝熱流体を循環させるためには、動力が必要である。この動力が独立的に供給されるいくつかの伝熱用途では、これは問題にならない場合がある。しかしながら、特にモビリティ用途では、流体を循環させるこの動力は、多くの場合、モビリティのための動力を供給するのと同じ動力源によって供給される。例えば、電動車両では、バッテリは、車両の運動に動力を供給し、かつ伝熱流体を循環させる動力を供給する。同様の状況は、航空および航空宇宙用途でも生じる。そのような状況では、伝熱用の流体を比較する際に、伝熱に流体特性がどのように影響するか、および流体を循環させるために必要な動力に流体特性がどのように影響するかの両方を考慮する必要がある。
【0014】
伝熱流体を循環させるのに必要な動力は、流体の体積流量と循環回路を通じた圧力降下との単純な積である。これは、この循環動力をもたらす特定のポンプの非効率性を含まず、理想的なポンプによって供給されると想定される。循環流体の体積流量と回路を通じた圧力降下との両方に対する流体特性の影響は、どの流動レジームがその回路における圧力降下を支配するかに依存する。言い換えるなら、伝熱回路における層流レジーム、遷移レジーム、または乱流レジームの存在は、異なる関係につながるであろう。
同様に、伝熱流体を循環させるために使用される特定のタイプのポンプが影響を与える。例えば、理想的な容積式ポンプの場合、流体の特性に関係なく、体積流量は常に一定となるが、生じる圧力降下は、伝熱流体の流体特性によって影響を受ける。そのような状況では、局所的な伝熱の優越および熱輸送の優越は、どちらも流量によっては変化しないが、ポンプ動力は、異なる流体の場合、依然として異なるであろう。逆に、定圧ポンプ(すなわち、流量に関係なく吐出圧力が一定のポンプ循環システム)を使用すべき場合、流量は物理的特性によって変化し、したがって、流体を循環させるのに必要な動力が変化するであろう。遠心ポンプの場合、吐出される圧力と体積流量との両方が、異なる伝熱流体によって変化し得る。
【0015】
本明細書で説明されているように、伝熱媒体としての伝熱流体の性能と、伝熱回路を通じて伝熱流体を循環させるのに必要な動力との両方を考慮するために、新たなタイプの伝熱流体有効係数を使用することができる。この有効係数は、(典型的には、伝熱領域が比較的大きいことを理由に、または低い循環速度が使用されることを理由に)冷却すべき電気構成要素における伝熱が支配的であるか、または循環する伝熱流体による伝熱が支配的であるかに依存して、特定の冷却用途に応じて異なるであろう。この有効係数は、Mouromtseff方程式と同じ単位欠損を有するため、本明細書では次元有効係数(DEF流体)と称される。これには単位があり、それによって、その特定の値は、特定のプロパティに使用される単位に依存するようになる。
【0016】
熱輸送が冷却用途における伝熱流体の性能を制御する支配的なモードである場合、次元有効係数(DEF流体)についての、指定された流体循環流動レジームでの流体特性とポンプタイプとに対する依存性は、表1に示される:
【表1】
【0017】
表1では、伝熱の詳細は重要ではない。というのも、これらの詳細によって伝熱流体の伝熱性能が制御されるわけではないからである。したがって、伝熱流体は、チューブを通じてまたは平板上を流れ得るか、ジェットとして噴霧され得るか、またはその他の流体接触メカニズムであり得、また伝熱が支配的であることを理由に、表1の適用可能な次元有効係数(DEF流体)方程式が適用されるであろう。局所的な伝熱メカニズムは重要ではないため、伝熱流体の熱伝導率(k)は、いずれの場合にも、表1に表示されていないことが見て取れる。
そうではなく、局所的な伝熱が冷却用途における伝熱流体の性能を制御する支配的なモードである場合、熱伝導率(k)が考慮されるであろう。さらに、次元有効係数(DEF流体)についての、指定された流体循環流動レジームでの流体特性とポンプタイプとに対する依存性は、表1に示されるものとは異なるであろう。したがって、表1に示される次元有効係数(DEF流体)方程式は、熱輸送が伝熱流体の性能を制御する支配的なメカニズムである用途において、例示目的で提供されているにすぎない。したがって、これらの方程式は、本開示の原理を特に限定するものと考えるべきではなく、単に例を提供しているにすぎない。他の例では、チューブ状の形状による局所的な伝熱が冷却流体の性能を制御する支配的なメカニズムである場合の方程式が提供されることがあり、ここで、平板上の流れによる局所的な伝熱が冷却流体の性能を制御する支配的なメカニズムであるか、または平板上へのジェット流による局所的な伝熱が用途における冷却液の性能を制御する支配的なメカニズムである。
【0018】
使用される単位系に対する次元有効係数(DEF流体)の依存の問題を克服するために、先で最初に導入された正規化有効係数(NEF流体)が使用される。正規化有効係数(NEF流体)は、以下の方程式:
【数3】
[式中、DEF流体は、選択されたポンプおよび選択された伝熱回路支配流動レジームについての表1に指定された方程式(または局所的な伝熱が支配的な用途に対応する別の表の方程式)に基づいて判定される伝熱流体についての次元有効係数であり、DEF参照は、DEF流体についての、かつ同じ選択されたポンプおよび同じ選択された伝熱回路支配流動レジームについての表1で指定された同じ方程式を使用して判定される参照流体についての次元有効係数である]
によって与えられる。DEF流体およびDEF参照の両方を同じ所定の温度で判定し、各特性についての一致する単位を各方程式で使用する。
【0019】
DEF流体およびDEF参照を判定するための所定の温度は、広い範囲にわたって変化し得る。例えば、所定の温度は、約-40℃~約175℃の間、または約-25℃~約170℃の間、または約-10℃~約165℃の間、または約0℃~約160℃の間、または約10℃~約155℃の間、または約25℃~約150℃の間、または約25℃~約125℃の間、または約30℃~約120℃の間、または約35℃~約115℃の間、または約35℃~105℃の間、または約35℃~約95℃の間、または約35℃~約85℃の間であり得る。DEF流体およびDEF参照を判定するための好ましい所定の温度としては、40℃または80℃が挙げられる。
【0020】
本開示に従って使用することができる例示的な参照流体としては、当技術分野で公知の従来の流体、例えば、ビフェニル26.5%+ジフェニルオキシド73.5%(Dowtherm A)、シロキサン(>95%、KV100 16.6cSt)(Duratherm S)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 0.93cSt)(Coolanol 20)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 1.6cSt)(Coolanol 25R)、ペルフルオロ流体C5-C8(KV25 2.2cSt)(Fluorinert FC-40)、3-エトキシ-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチル-ヘキサン(>99%)(Novec 7500)などが挙げられる。他の実施形態では、参照流体は、伝熱流体と同じであってもよいが、その流体特性の劣化はなく、すなわち、新鮮なまたは新しい伝熱流体である。より具体的には、1つまたは複数の態様では、参照流体は、新鮮なまたは未使用の状態の伝熱流体と同じであり得、そうでなくても、同じ特性を呈し得る。そのような態様では、伝熱流体を動作に使用する前に、NEF流体は、DEF流体が本質的にそれ自体で除算されるため、1に等しくなるであろう。その結果、以下でより詳細に論じられるように、経時的な動作による伝熱流体のその後の劣化は、DEF流体の値が減少するにつれて、ある少数値のNEF流体をもたらすであろう。
所与の参照流体DEF参照の流体特性は、文献で容易に入手可能であり、DEF流体およびDEF参照の評価に一貫した単位が使用される場合、正規化有効係数(NEF流体)は無次元となり、したがって、DEF流体やMouromtseff方程式などの手段の欠点のうちの1つを排除する。
【0021】
任意の特定の冷却用途について、適切な密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)の特性を判定することができ、次いで、これらの特性を使用してDEF流体およびDEF参照を計算することができ、これらから、NEF流体を判定することができる。
正規化有効係数(NEF流体)が依存する流体特性は、すべて温度に依存する。この開示の目的のために、特性は、冷却すべき要素内の平均温度で評価されるべきである。これらの方程式を使用して流体を定義する場合、40℃または80℃の温度を使用することができるが、評価される伝熱流体と参照流体の特性との両方に同じ温度を使用するならば、任意のその他の温度を使用してもよい。
先に提供されている正規化有効係数(NEF流体)方程式には、伝熱用途の流体の評価に関して、Mouromtseff方程式を使用することと比較して多くの利益がある。NEF流体方程式の主な利益は、流体の潜在的な伝熱性能を評価する際に、伝熱流体を循環させるために必要な動力を考慮することである。NEF流体方程式は、流体循環エネルギーの単位当たりの伝熱ポテンシャルの尺度を提供すると考えることができる。伝熱流体の循環と他の使用への動力供給との間で動力供給源が共有されている用途では、循環に必要な動力を最小限に抑えることによって、他の目的に利用可能な動力が最大化される。
【0022】
あるいは、設計プロセス中に利用される場合、より小さなバッテリを使用して同様の航続距離を生み出すことができるであろう。あるいは、車両設計者であれば、追加された動力を利用して、車両に追加の動力機能を提供することができる。同様に、航空用途では、循環動力の減少は、燃費の改善、航続距離の増加、または航空機への追加機能の搭載をもたらし得る。航空宇宙用途では、動力は、典型的には、ソーラーコレクタを介して供給される。利用可能な動力に対するこの制限から、動力管理により重点が置かれ、正規化有効係数(NEF流体)方程式の使用によって、限られた量の利用可能な循環動力について最大量の伝熱を得る手段が提供される。
Mouromtseff方程式の従来の導出は、伝熱相関式の簡略化において中の速度に対する流体特性の影響を無視する。これは、流体を循環させるために容積式を使用する用途ではそれほど重要ではないが、他のポンプタイプでは重要である。正規化有効係数(NEF流体)方程式のアプローチによって、流体特性が分析に完全に包含されることが確実になる。
【0023】
Mouromtseff方程式のこれまでの使用は、単位を有する数の使用につながる。異なる単位を有する値の比較は簡単ではない。正規化有効係数(NEF流体)方程式は単位がないため、様々なソースからの値を比較する好都合な手段を提供する。
流体評価のためのMouromtseff方程式のアプローチの使用は、局所的な伝熱プロセスが流体の伝熱性能を左右する支配的なメカニズムであることを示唆している。これは、常にそうとは限らない。流体の評価は、伝熱性能を左右する支配的なメカニズムの理解に基づいて行う必要がある。正規化有効係数(NEF流体)方程式のアプローチは、様々な用途のための様々な選択肢をもたらす。これによって、流体評価のためのより厳密かつ正確な方法が提供される。
本明細書で言及されている伝熱流体は、特定の電動システムにおいて十分な伝熱性能を付与するための流体特性(例えば、密度(ρ)、比熱(cp)、および動粘性率(μ))を呈する。さらに、本明細書で言及されている伝熱流体は、特定のデバイスにおけるそれらの使用に有益な他の特性を有し得る。そのような他の特性としては、例えば、熱伝導率(k)および引火点が挙げられる。熱伝導率(k)が比較的高い伝熱流体があると、それによって伝熱速度が上昇するため有益であり得、引火点が比較的高い流体があると、それによって可燃性が低減するため有益であり得る。さらに、電気的適合性、ならびに特定の電動システムおよびデバイスにおける材料との適合性を付与する特性を有する伝熱流体は、特定の電動デバイスにおいて有益であり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、密度(ρ)は、ASTM D8085またはD4052に従って判定され、比熱(cp)は、ASTM E1269によって判定され、動粘性率(μ)は、ASTM D8085によって判定されるか、またはASTM D445およびASTM D4052から導出される。
一実施形態では、本明細書で言及されている伝熱流体は、40℃の温度で、約0.25g/mL~約1.75g/mL、または約0.30g/mL~約1.70g/mL、または約0.35g/mL~約1.65g/mL、または約0.40g/mL~約1.60g/mL、または約0.45g/mL~約1.55g/mLの密度(ρ)を有する。
別の実施形態では、本明細書で言及されている伝熱流体は、80℃の温度で、約0.25g/mL~約1.75g/mL、または約0.30g/mL~約1.70g/mL、または約0.35g/mL~約1.65g/mL、または約0.40g/mL~約1.60g/mL、または約0.45g/mL~約1.55g/mLの密度(ρ)を有する。
一実施形態では、本明細書で言及されている伝熱流体は、40℃の温度で、約1.25kJ/kg・K~約3.50kJ/kg・K、または約1.35kJ/kg・K~約3.40kJ/kg・K、または約1.45kJ/kg・K~約3.25kJ/kg・K、または約1.50kJ/kg・K~約3.20kJ/kg・K、または約1.55kJ/kg・K~約3.15kJ/kg・Kの比熱(cp)を有する。
【0025】
別の実施形態では、本明細書で言及されている伝熱流体は、80℃の温度で、約1.25kJ/kg・K~約3.50kJ/kg・K、または約1.35kJ/kg・K~約3.40kJ/kg・K、または約1.45kJ/kg・K~約3.25kJ/kg・K、または約1.50kJ/kg・K~約3.20kJ/kg・K、または約1.55kJ/kg・K~約3.15kJ/kg・Kの比熱(cp)を有する。
平均流体温度が40℃である一実施形態では、本明細書で言及されている伝熱流体は、約0.50センチポアズ(cP)~約7.50cP、または約0.55cP~約7.00cP、または約0.65cP~約6.50cP、または約0.70cP~約6.00cP、または約0.75cP~約5.50cPの動粘性率(μ)を有する。
平均流体温度が80℃である別の実施形態では、本明細書で言及されている伝熱流体は、約0.50cP~約7.50cP、または約0.55cP~約7.00cP、または約0.65cP~約6.50cP、または約0.70cP~約6.00cP、または約0.75cP~約5.50cPの動粘性率(μ)を有する。
【0026】
いくつかの態様では、熱輸送が用途における伝熱流体の性能を制御する支配的なモードである場合、指定された流体循環流動レジームでの流体特性とポンプタイプとに対する次元有効係数(DEF流体)方程式の依存性は、以下の通りである:
1) 容積式ポンプおよび層流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ1p 1μ-1である。
2) 容積式ポンプおよび遷移伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.25p 1μ-0.25である。
3) 容積式ポンプおよび乱流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がcp 1である。
4) 遠心ポンプおよび層流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.19p 1μ-0.19である。
5) 遠心ポンプおよび遷移伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.04p 1μ-0.04である。
6) 遠心ポンプおよび乱流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がcp 1である。
【0027】
1つまたは複数の追加の態様では、熱輸送が用途における伝熱流体の性能を制御する支配的なモードである場合、指定された流体循環流動レジームでの流体特性とポンプタイプとに対する次元有効係数(DEF流体)方程式の依存性は、以下の通りである:
1) 容積式ポンプおよび層流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.5-1.5p 0.5-1.5μ-1.5-0.5である。
2) 容積式ポンプおよび遷移伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.1-0.5p 0.5-1.5μ-0.5-0.1である。
3) 容積式ポンプおよび遷移伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がcp 0.5-1.5である。
4) 遠心ポンプおよび層流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.05-0.5p 0.5-1.5μ-0.5-0.05である。
5) 遠心ポンプおよび遷移伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がρ0.01-0.1p 0.5-1.5μ-0.1-0.01である。
6) 遠心ポンプおよび乱流伝熱回路支配流動レジームの場合、DEF流体およびDEF参照の両方がcp 0.5-1.5である。
【0028】
前述の次元有効係数(DEF流体)方程式の依存性は、熱輸送が伝熱流体の性能を制御する支配的なモードである場合、例示目的で提供されているにすぎない。そうではなくて、局所的な伝熱(すなわち、熱伝導率)が冷却用途における伝熱流体の性能を制御する支配的なモードである用途では、方程式の依存性は異なるであろう。したがって、前述の次元有効係数(DEF流体)方程式の依存性は、例示目的で提供されているにすぎず、本開示の原理を特に限定するものと考えられるべきではない。
本明細書で言及されている伝熱流体は、伝熱流体の寿命にわたって持続する伝熱流体特性、ならびに本明細書で言及されている電気システム、例えば、電動車両およびその構成要素および材料との適合性を提供する。本開示に従って冷却することができる例示的な電動車両構成要素としては、例えば、電動車両用バッテリ、電動モータ、発電機、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DCコンバータ、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DC変圧器、動力管理システム、バッテリを制御するエレクトロニクス、車載充電器、車載パワーエレクトロニクス、超急速充電システム、充電ステーションにおける急速充電機器、定置型超急速充電器などが挙げられる。
【0029】
特定の電動システム(例えば、電動車両用バッテリ、電動モータ、発電機、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DCコンバータ、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DC変圧器、動力管理システム、バッテリを制御するエレクトロニクス、車載充電器、車載パワーエレクトロニクス、超急速充電システム、充電ステーションにおける急速充電機器、定置型超急速充電器など)に応じて、電動システムは、広い温度範囲で動作することができる。例えば、電動システムは、約-40℃~約175℃の間、または約-25℃~約170℃の間、または約-10℃~約165℃の間、または約0℃~約160℃の間、または約10℃~約155℃の間、または約25℃~約150℃の間、または約25℃~約125℃の間、または約30℃~約120℃の間、または約35℃~約115℃の間、または約35℃~約105℃の間、または約35℃~約95℃の間、または約35℃~約85℃の間の温度で動作することができる。
【0030】
一実施形態では、単一の伝熱流体を電動システムに使用することができる。別の実施形態では、電動システムにおいて、1種より多くの伝熱流体、例えば、バッテリ用の伝熱流体と、電動システムの別の構成要素用の別の伝熱流体とを使用することができる。
本明細書で言及されている伝熱流体は、例えば、以下のものを含む装置構成要素の表面上で有利な性能を提供する:金属、金属合金、非金属、非金属合金、混合炭素-金属複合材料および合金、混合炭素-非金属複合材料および合金、鉄金属、鉄複合材料および合金、非鉄金属、非鉄複合材料および合金、チタン、チタン複合材料および合金、アルミニウム、アルミニウム複合材料および合金、マグネシウム、マグネシウム複合材料および合金、イオン注入金属および合金、プラズマ改質表面;表面改質材料;コーティング;単層、多層、および勾配層コーティング;ホーニングされた表面;研磨された表面;エッチングされた表面;テクスチャード表面;テクスチャード表面上のマイクロおよびナノ構造;超仕上げの表面;ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、高い水素含有量のDLC、中程度の水素含有量のDLC、低い水素含有量のDLC、ほぼゼロの水素含有量のDLC、DLC複合材料、DLC金属組成物および複合材料、DLC非金属組成物および複合材料;セラミック、セラミック酸化物、セラミック窒化物、FeN、CrN、セラミック炭化物、混合セラミック組成物など;ポリマー、熱可塑性ポリマー、エンジニアリングされたポリマー、ポリマーブレンド、ポリマー合金、ポリマー複合材料;例えば、グラファイト、炭素、モリブデン、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリペルフルオロプロピレン、ポリペルフルオロアルキルエーテルなどを含む材料組成物および複合材料。
【0031】
図1を参照すると、本開示の原理を組み込むことができる例示的な伝熱システム100の概略図が図示されている。伝熱システム100は、1つまたは複数の導管104と、導管104を通じて伝熱流体を循環させるように構成されたポンプ106とを含む、伝熱回路102を含む。ポンプ106は、例えば、容積式ポンプまたは遠心ポンプを含み得る。伝熱流体は、本明細書で言及されている非水性の誘電伝熱流体のうちのいずれかを含み得、電動システムの一部を形成する電気構成要素108を冷却するために使用され得る。電気構成要素108は、伝熱領域Ahotを呈し、伝熱流体は、電気構成要素108の1つまたは複数の表面を直接冷却するように構成され得る。より具体的には、伝熱流体は、電気構成要素108に直接接触し得、それによって、電気構成要素108から熱を奪うことができる。
【0032】
電気構成要素108を温度Teに維持するためには、熱輸送率(Q)が必要である。熱容量(cp)を有する伝熱流体を循環させて電気構成要素108と直接接触させることによって、電気構成要素108から熱が除去される。伝熱流体は、最初に、低い(低温の)温度Tcを伴って電気構成要素108と接触する。電気構成要素108と熱交換した後に、伝熱流体は、上昇した温度Thを伴って電気構成要素108から運び去られる。次いで、温められた伝熱流体は、導管104内で輸送されて、伝熱回路102に含まれる熱交換器110に送られる。熱交換器110は、伝熱流体から熱を奪うことによってラジエータと同様に動作することができる。いくつかの場合において、熱交換器110は、熱を、別の伝熱流体に、または図示されているように、周囲温度Taの空気に排出することができる。熱交換器110(伝熱領域A低温を有する)は特定のデバイスであってもよく、または単に、伝熱流体が導管104を通じて流れるときに熱が大気に失われてもよい。
【0033】
ポンプ106は、伝熱流体を、
【数4】
の質量流量で伝熱回路102を通じて循環させる。定常状態では、熱輸送率(Q)は、以下の方程式:
【数5】
[式中、
【数6】
は、体積流量であり、ρは、流体密度である]
によって決まる。ポンプ106のタイプおよび伝熱流体の得られる流量に応じて、さらに、電気構成要素108および熱交換器108の構成とその表面領域A高温およびA低温に応じて、伝熱回路の支配的な流動レジームは、層流、遷移、または乱流であり得る。
【0034】
伝熱回路102内では、電気構成要素108の冷却は、流体が電気構成要素108から「熱を輸送する」能力によって支配され得るか、または電気構成要素108内の「局所的な伝熱」メカニズムによって支配され得る。これら2種の現象のうちのどちらが支配的であるかは、多くの異なる機器設計および動作要因によって左右され得る。例えば、電気構成要素108(すなわち、冷却すべき要素)において、局所的な伝熱は、有効伝熱面積を増加させる機器設計に冷却フィンを含めることによって強化することができるであろう。同様に、局所的な伝熱は、乱流の人工的な誘導によって改善され得るか、または要素内の流体ジェット流を介して流体/ハードウェアの接触を強化することによって促進され得る。特定の電動システムでは、基本的な設計によるものであっても、またはターゲットを絞った設計強化によるものであっても、この局所的な伝熱が、伝熱性能を制御する支配的なメカニズムでないことが可能であり、ただしその代わりに、伝熱流体の性能は、伝熱流体が電気構成要素108から熱を運び去る能力によって支配され得る。伝熱流体によって輸送され得る熱の最大量は、
【数7】
によって与えられる。
【0035】
電気構成要素108から輸送される実際の熱は、
【数8】
によって与えられる。
伝熱システム100は、輸送される実際の熱が、輸送され得る熱の最大量の半分以下、すなわち、
【数9】
である場合、局所的な伝熱によって支配されていると考えられる。
逆に、輸送される実際の熱量が、流体によって輸送され得る最大可能熱量の半分を超える場合、伝熱システム100は、「伝熱」、すなわち、
【数10】

によって支配されていると考えられる。
【0036】
Mouromtseff方程式(または数)は、伝熱流体の局所伝熱係数を流体特性に関連付けようとするものであるため、Mouromtseff方程式に関連する伝熱流体についてのこれまでの議論は、「局所的伝熱支配型」の用途においてのみ意味があり、「熱輸送支配型」の用途ではほとんど重要ではない。さらに、Mouromtseff方程式とは異なり、本明細書に記載されているDEFおよびNEF有効係数は、伝熱性能および流体を循環させるのに必要なエネルギーの両方を取り込んだものであることに留意されたい。
【0037】
本開示の実施形態によると、伝熱回路102を通じて循環する伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を判定(計算)して、伝熱流体のリアルタイムの健全性の理解および予測を補助することができる。伝熱流体の有効性に対する、密度、粘度、熱容量、熱伝導率、および電動デバイスの特定の設計の影響を理解することによって、伝熱流体のリアルタイムの健全性または存続性を使用中に評価することができる。これを達成するのを補助するために、伝熱システム100は、伝熱回路102と連通しており、かつ伝熱回路102内を循環する伝熱流体の密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)のリアルタイム測定値を取得するように構成された、1つまたは複数のセンサをさらに含み得る。図示されている実施形態では、伝熱システム100は、伝熱流体の密度(ρ)を測定するように構成された密度センサ112a、伝熱流体の動粘性率(μ)を測定するように構成された粘度センサ112b、伝熱流体の比熱(cp)を測定するように構成された熱容量センサ112c、および伝熱流体の熱伝導率(k)を測定するように構成された熱伝導率センサ112dを含む。
【0038】
センサ112a~dは、コンピュータシステム114と(有線または無線のいずれかで)通信していてもよい。センサ112a~dによって取得された測定値は、処理のためにコンピュータシステム114に伝達され得る。コンピュータシステム114は、センサ112a~dによって取得された測定値を使用して伝熱内回路102内の選択されたポンプ106および選択された支配的な流動レジームについての次元有効係数(DEF流体)および(DEF参照)を計算するのに役立つようにプログラムあるいは構成され得る。
さらに、コンピュータシステム114は、次いで、伝熱流体の健全性を判定するのに役立ち得る伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を判定あるいは計算するようにプログラムされたり、構成されたりし得る。NEF流体の値が所定の閾値以上である場合、例えば、伝熱流体の健全性は、電気構成要素106からの熱の除去に役立てるのに存続可能であるか、またはなおも効果的であると判断され得る。対照的に、NEF流体の値が所定の閾値未満である場合、伝熱流体の健全性は、悪化しているか、またはもはや効果的ではないと判断され得る。いくつかの実施形態では、伝熱流体のNEF流体の値の所定の閾値は、1.0であり得る。
いくつかの実施形態では、伝熱流体のNEF流体の値が所定の閾値を下回ったら、コンピュータシステム114は、同じことを示す警告をユーザ(オペレータ)に送信するように構成され得る。そのような実施形態では、ユーザは、次いで、必要に応じて伝熱流体を交換または補充することを決定することができる。他の実施形態、特に、自律型車両などを伴う実施形態では、伝熱流体のNEF流体の値が所定の閾値を下回ったら、コンピュータシステム114は、自律型車両をメンテナンスステーションに送り、そこで伝熱流体を交換または補充するように構成され得る。
【0039】
伝熱流体の有効性(存続性)は伝熱システム100の性能に影響を与えるため、伝熱流体のリアルタイムの有効性と伝熱システム100の全体的な有効性との比較は、冷却性能の低下が伝熱流体の劣化によるものか、それとも全体的なハードウェア問題によるものかを診断するのに役立ち得る。言い換えるなら、伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を判定あるいは計算することは、電気デバイスの動作温度の上昇が伝熱流体の劣化に関連しているかどうか、またはこの上昇が電気デバイス関連のハードウェア問題に起因するかどうかを診断するのにも役立つ。より具体的には、NEF流体の値が所定の閾値以上のままであるが電気装置の動作温度が上昇し続ける場合、伝熱流体の健全性は、電気構成要素106からの熱の除去に役立てるのに存続可能であるか、またはなおも効果的であると判断され得る。そうではなくて、動作温度の上昇の原因は、伝熱システム100のハードウェア問題に関連している可能性がある。例示的なハードウェア問題としては、電気構成要素108の汚れ、不適切に機能するポンプ106などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0040】
伝熱流体の健全性は存続可能なまま維持されているが伝熱システム100のハードウェア問題があり得ると判定される実施形態では、コンピュータシステム114は、同じことを示す警告をユーザ(オペレータ)に送信するように構成され得る。そのような実施形態では、ユーザは、次いで、電動デバイスのハードウェアのメンテナンスを実施することを決定することができる。他の実施形態、特に自律型車両などを伴う実施形態では、ハードウェア問題が伝熱システム100における温度上昇を引き起こしていると判定された場合、コンピュータシステム114は、自律型車両をメンテナンスステーションに送り、そこでハードウェアを分析し、ハードウェア問題を潜在的に解決することができるように構成され得る。
いくつかの実施形態では、センサ112a~dのうちの1つまたは複数が、伝熱回路102の一体部品を形成し得る。そのような実施形態では、例えば、センサ112a~dは、伝熱回路102と常に流体連通している電動車両の内部センサまたは車載センサを含み得る。さらに、そのような実施形態では、センサ112を用いて、自律的に、連続的に、半連続的に、所定の間隔で、またはコンピュータシステム114もしくはオペレータの指示に従って、測定値を取得することができる。
【0041】
しかしながら、他の実施形態では、センサ112a~dのうちの1つまたは複数は、伝熱回路102の外部に配置され得る。そのような実施形態では、伝熱流体の試料を、伝熱回路102から取得(抽出)し、分析のためにセンサ112a~dが配置されている箇所に移送することができる。少なくとも1つの実施形態では、伝熱流体の試料の取得は、内燃機関内のオイルの試料を取得することと同様であり得るか、または代替的には、その他の既知の手段を介して達成され得る。さらに、そのような実施形態では、伝熱流体の試料は、所定の間隔で、またはオペレータが伝熱流体の健全性をチェックしたいときにいつでも取得することができる。
図2は、図1のコンピュータシステム114の例示的な実施形態を図示している。示されるように、コンピュータシステム114は、コンピュータシステム114の動作を制御することができる1つまたは複数のプロセッサ202を含む。「プロセッサ」は、本明細書では「コントローラ」とも称される。プロセッサ202は、プログラム可能な汎用もしくは専用マイクロプロセッサ、および/または様々な専売もしくは市販のシングルもしくはマルチプロセッサシステムのうちのいずれか1つを含む、任意のタイプのマイクロプロセッサまたは中央処理装置(CPU)を含み得る。コンピュータシステム114はまた、プロセッサ202によって実行すべきコードのための、または1もしくは複数のユーザ、記憶デバイスおよび/もしくはデータベースから取得されたデータのための一時記憶域を提供することができる1つもしくは複数のメモリ204も含み得る。メモリ204は、読み出し専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、1つまたは複数の種類のランダムアクセスメモリ(RAM)(例えば、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)もしくはシンクロナスDRAM(SDRAM))、および/またはメモリ技術の組み合わせを含み得る。
【0042】
コンピュータシステム114の様々な要素は、バスシステム206に結合することができる。図示されているバスシステム206は、適切なブリッジ、アダプタ、および/またはコントローラによって接続された、任意の1つもしくは複数の別個の物理バス、通信回線/インターフェース、および/またはマルチドロップもしくはポイントツーポイント接続を表す抽象化したものである。コンピュータシステム114は、1つまたは複数のネットワークインターフェース208、1つまたは複数の入出力(IO)インターフェース210、および1つまたは複数の記憶デバイス212も含み得る。
ネットワークインターフェース208は、コンピュータシステム114が、ネットワークを介して、リモートデバイス、例えば、他のコンピュータシステムと通信することを可能にし得て、非限定的な例の場合、リモートデスクトップ接続インターフェース、イーサネットアダプタ、および/または他のローカルエリアネットワーク(LAN)アダプタであり得る。IOインターフェース210は、コンピュータシステム114を他の電子機器と接続するための1つまたは複数のインターフェース構成要素を含み得る。非限定的な例の場合、IOインターフェース210は、ユニバーサルシリアルバス(USB)ポート、1394ポート、Wi-Fi、Bluetoothなどの高速データポートを含み得る。さらに、コンピュータシステム114は、人間のユーザがアクセスすることができるため、IOインターフェース210は、ディスプレイ、スピーカー、キーボード、ポインティングデバイス、および/または様々な他のビデオ、オーディオもしくは英数字インターフェースを含み得る。記憶デバイス212は、不揮発的および/または非一時的にデータを記憶するための任意の従来の媒体を含み得る。したがって、記憶デバイス212は、永続的な状態でデータおよび/または命令を保持することができ、すなわち、値は、コンピュータシステム114への動力の中断にもかかわらず保持される。記憶デバイス212は、1つもしくは複数のハードディスクドライブ、フラッシュドライブ、USBドライブ、光学ドライブ、様々なメディアカード、ディスケット、コンパクトディスク、および/またはそれらの任意の組み合わせを含み得、コンピュータシステム114に直接接続され得るか、またはネットワークを介するなどしてそれにリモート接続され得る。例示的な実施形態では、記憶デバイス212は、データを記憶するように構成された有形のまたは非一時的なコンピュータ可読媒体、例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュドライブ、USBドライブ、光学ドライブ、メディアカード、ディスケット、コンパクトディスクなどを含み得る。
【0043】
図2に図示されている要素は、単一の物理マシンの要素のうちのいくつかまたはすべてであり得る。さらに、図示されている要素のうちのすべてが同じ物理マシン上またはその内部に配置されている必要はない。例示的なコンピュータシステムとしては、従来のデスクトップコンピュータ、ワークステーション、ミニコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、携帯情報端末(PDA)、携帯電話などが挙げられる。
【0044】
コンピュータシステム114は、ウェブページまたは他のマークアップ言語ストリームを取得し、それらのページおよび/またはストリームを(視覚的に、聴覚的に、または他の形式で)提示し、それらのページ/ストリーム上でスクリプト、コントロールおよび他のコードを実行し、(例えば、入力フィールドを完了する目的で)それらのページ/ストリームに関するユーザ入力を受け入れ、(例えば、完了した入力フィールドからのサーバー情報に送信するために)それらのページ/ストリームなどに関するハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)要求を発行するためなどのウェブブラウザを含み得る。ウェブページまたは他のマークアップ言語は、ハイパーテキストマークアップ言語(HTML)であり得るか、または埋め込み拡張マークアップ言語(XML)、スクリプト、コントロールなどを含む他の従来の形式であり得る。コンピュータシステム114はまた、クライアントコンピュータシステムにウェブページを生成および/または配信するためのウェブサーバも含み得る。
【0045】
例示的な実施形態では、コンピュータシステム114は、単一のユニットとして、例えば、単一のサーバーとして、単一のタワーとして、単一のハウジング内に含まれるなどして提供され得る。単一のユニットは、その様々な態様が、システムの他の態様の機能を中断することなく、例えば、アップグレード、交換、メンテナンスなどのために必要に応じてスワップインおよびスワップアウトできるようなモジュールであり得る。したがって、単一のユニットはまた、追加モジュール、および/または既存モジュールの追加機能が所望および/または改善されるときに追加する能力によって拡張可能であり得る。
コンピュータシステム114はまた、非限定的な例としてオペレーティングシステムおよびデータベース管理システムを含む、様々な他のソフトウェアおよび/またはハードウェア構成要素のうちのいずれかを含み得る。本明細書では、例示的なコンピュータシステムを示して説明しているが、これは、一般性および便宜のためであると理解されたい。他の実施形態では、コンピュータシステムは、アーキテクチャおよび動作が、ここに示され説明されているものとは異なり得る。
【0046】
記憶デバイス212は、メモリ204にデータを格納および配置し、プロセッサ202と対話するように構成された1つまたは複数のデータベースを含み得る。データは、密度(p)、比熱(cp)、熱伝導率(k)、および動粘性率(μ)からなる群から選択される少なくとも1つの流体特性を含む。
メモリ204の構成要素のうちの1つは、プログラムモジュール214であり得る。プログラムモジュール214は、プロセッサ202を制御して、本明細書に記載されている方法を実行するための命令を含む。例えば、プログラムモジュール214の実行の結果として、プロセッサ202は、伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)、参照流体の次元有効係数(DEF参照)、および伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を判定する。次いで、プロセッサ202は、NEF流体の値が、所定の閾値にあるか、それより高いか、またはそれより低いかを判定し、それによって、伝熱流体の健全性を存続可能または劣化として示すようにプログラムされ得る。プロセッサ202は、ネットワークインターフェース208のユーザインターフェースに、本明細書に記載されている方法の実行結果を出力する。あるいは、プロセッサ202は、ネットワークインターフェース208を介してリモートデバイス(図示せず)に出力を送ることができるであろう。
【0047】
本明細書では、「モジュール」という用語は、スタンドアロン構成要素として、または複数の従属構成要素の統合構成として具体化され得る機能動作を示すために使用される。したがって、プログラムモジュール214は、単一のモジュールとして、または互いに協働して動作する複数のモジュールとして実装され得る。さらに、本明細書では、プログラムモジュール214は、メモリ204にインストールされたためにソフトウェアで実装されるものとして説明されているが、これは、ハードウェア(例えば、電子回路)、ファームウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせのいずれかで実装することができる。
プログラムモジュール214は、メモリ204にすでにロードされているものとして示されているが、これは、メモリ204への後のロードのために記憶媒体335上に構成されてもよい。記憶媒体335は、その上のプログラムモジュール214を有形の形態で記憶する任意の従来の記憶媒体であり得る。記憶媒体335の例としては、フロッピーディスク、コンパクトディスク、磁気テープ、読み取り専用メモリ、光記憶媒体、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブ、デジタルバーサタイルディスク、またはZipドライブが挙げられる。あるいは、記憶媒体335は、リモート記憶システム上に配置され、ネットワーク330を介してコンピュータ305に結合された、ランダムアクセスメモリまたは他のタイプの電子記憶装置であり得る。
【実施例
【0048】
以下の非限定的な例は、本開示の様々な態様の説明に役立てるために提供される。
ケース1
ケース1で扱われる電動車両の設計では、熱が電動システムの高温表面から除去される大きな表面積がある。これは、例えば、冷却すべきバッテリが冷却に利用可能な大きな表面積を有する場合である。結果として、高温表面から伝熱流体への熱流の量は、熱輸送支配型である。このケース1で扱われる車両設計では、伝熱流体を循環させるために必要な圧力と、冷却システムのサイズおよび質量との間のバランスを達成するために、冷却回路の設計は、遷移流(約2100~約4000の間のレイノルズ数)を生成し、システム全体で支配的になる。最後に、このケース1で扱われる車両設計では、一定流(容積式)ポンプが用いられているため、システムによって圧送される伝熱流体の体積は、伝熱流体の特性とは無関係である。
結果として、このタイプの電動車両では、正規化有効係数(NEF流体)は、伝熱流体特性の以下の組み合わせに比例するであろう:
【数11】
【0049】
ケース2
ケース2で扱われる電動車両の設計では、熱が高温表面から除去される大きな表面積がある。これは、例えば、冷却すべきバッテリが冷却に利用可能な大きな表面積を有する場合である。結果として、高温表面から伝熱流体への熱流の量は、熱輸送支配型である。このケース2で扱われる車両設計では、エレクトロニクスなどの敏感な構成要素に対する損傷を保護し、伝熱流体を循環させるために必要な圧力を最小限に抑えるために、冷却回路の設計は、システム全体で層流(約2100未満のレイノルズ数)を生成する。最後に、このケース2で扱われる車両設計では、一定流(容積式)ポンプが用いられているため、システムによって圧送される伝熱流体の体積は、伝熱流体の特性とは無関係である。
結果として、このタイプの電動車両では、正規化有効係数(NEF流体)は、伝熱流体特性の以下の組み合わせに比例するであろう:
【数12】
【0050】
伝熱流体配合物の調製および試験結果
伝熱流体配合物に使用される成分はすべて市販されている。伝熱流体配合物は、本明細書に記載されているように調製した。配合物に使用される任意選択的な添加剤は、従来の量の従来の添加剤を含む。任意選択的な添加剤は、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、および耐摩耗添加剤のうちの1種または複数であった。
伝熱流体は、少なくとも1種のベースストックを、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、および耐摩耗添加剤から選択される1種または複数の添加剤とブレンドすることによって調製した。密度(ρ)は、ASTM D8085またはD4052に従って測定した。比熱(cp)は、ASTM E1269によって測定した。動粘性率(μ)は、ASTM D8085によって測定またはASTM D445およびASTM D4052から導出した。熱輸送が用途における伝熱流体の性能を制御する支配的なメカニズムである状況についての次元有効係数(DEF流体)方程式を本明細書の表1に示す。
【0051】
正規化有効係数(NEF流体)は、以下の方程式:
【数13】
[式中、DEF流体は、選択されたポンプおよび選択された冷却回路支配流動レジームについての本明細書の表1に指定された方程式に基づいて判定される伝熱流体についての次元有効係数であり、DEF参照は、同じ選択されたポンプおよび同じ選択された冷却回路支配流動レジームについての先のDEF流体についての表1で指定された同じ方程式を使用して判定される参照流体についての次元有効係数である]
によって決定した。DEF流体およびDEF参照の両方を同じ所定の温度(すなわち、40℃または80℃)で判定し、各特性についての一致する単位を各方程式で使用した。
長年にわたって、研究者は、多くの圧力降下相関式を開発してきた。例として、パイプ内の層流による圧力降下を計算するために最も広く利用されている相関式のうちの1つは、そのために一般的に使用されているハーゲン-ポアズイユ方程式である。使用すべき特定の相関式は、回路による圧力降下の大部分が生じる形状および流動レジームに依存するであろう。この開示では、以下のように定義される「ファニング摩擦係数」fについての相関式:
【数14】
[式中、fは、ファニング摩擦係数であり、dは、チューブ/パイプの直径であり、ΔPは、圧力降下であり、Lは、チューブ/パイプの等価長さであり、ρは、平均流体密度であり、vは、流体速度である]
を使用した。
【0052】
摩擦係数の相関式は、
【数15】
として、レイノルズ数の関数として開発された。
層流は、Re<2,100の場合と定義される。この流動レジームでは、摩擦係数fは、
【数16】
によって与えられる。
遷移流は、Re>2,100の場合と定義され、その摩擦係数は、以下に挙げるブラシウス方程式によって説明することができる:
【数17】
【0053】
完全乱流への移行は、パイプの粗さに依存する。滑らかなパイプの場合、先のブラシウス方程式は、107のレイノルズ数まで有効であり得る。特定の用途については、R. B. Bird, W. E. Stewart and E. N. Lightfoot, ”Transport Phenomena”, John Wiley & Sons, New York, 1960などの参考文献のチャートを参照することができ、ここでは、特定の用途の粗さに基づいて、ブラシウス方程式からの偏差を判定することができる。
これらの特定の相関式を使用して本開示の因子の特性に関する指数を導出したが、任意の特定の圧力降下相関式を任意の特定の用途に使用することが可能であり得ることに留意されたい。同様に、このアプローチは、その他の用途、例えば、チューブバンクの外側の流れ、または例えばロータ/ステータを直接冷却するときに遭遇し得るような同心回転シリンダーを通る軸流にも使用することができるであろう。
【0054】
伝熱流体ベースストックおよびコベースストック
広範囲の伝熱流体ベースオイルが当技術分野で公知である。本開示において有用な伝熱流体ベースオイルは、天然油、鉱油、および合成油であり、非従来の油(またはそれらの混合物)を、未精製、精製、または再精製(後者は、再生油または再処理油としても知られている)で使用することができる。未精製油は、天然または合成源から直接得られ、追加の精製なしで使用される。これらとしては、レトルト操作から直接得られるシェール油、一次蒸留から直接得られる石油、およびエステル化プロセスから直接得られるエステル油が挙げられる。精製油は、少なくとも1つの伝熱流体ベースオイル特性を改善するために精製油が1つまたは複数の精製ステップにかけられることを除いて、未精製油について論じた油と同様である。当業者は、多くの精製プロセスに精通している。これらのプロセスとしては、溶媒抽出、二次蒸留、酸抽出、塩基抽出、ろ過、およびパーコレーションが挙げられる。再精製油は、精製油と同様のプロセスによって得られるが、以前に供給原料として使用された油を使用している。
【0055】
グループI、II、III、IV、およびVは、伝熱流体ベースオイルのガイドラインを作成するために米国石油協会(API Publication 1509;www.API.org)によって開発および定義された広範なベースオイルストックカテゴリである。グループIのベースストックは、約80~120の間の粘度指数を有し、約0.03%超の硫黄および/または約90%未満の飽和物を含有する。グループIIのベースストックは、約80~120の間の粘度指数を有し、約0.03%以下の硫黄および約90%以上の飽和物を含有する。グループIIIのストックは、約120超の粘度指数を有し、約0.03%以下の硫黄および約90%超の飽和物を含有する。グループIVは、ポリアルファオレフィン(PAO)を含む。グループVのベースストックは、グループI~IVに含まれないベースストックを含む。以下の表2は、これら5つのグループのそれぞれの特性を要約している。
【表2】
【0056】
天然油としては、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油およびラード油)、および鉱油が挙げられる。良好な熱酸化安定性を有する動物油および植物油を使用することができる。天然油のうち、鉱油が好ましい。鉱油は、例えば、それらが、パラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン系-ナフテン系の混合物であるかどうかなど、それらの粗供給源に応じて大きく異なる。石炭またはシェール由来の油も有用である。天然油は、それらの製造および精製に使用される方法、例えば、それらの蒸留範囲、およびそれらが直留もしくは分解か、水素化精製か、または溶媒抽出かに応じても異なる。
アルキル芳香族物質および合成エステルなどの合成油を含む、グループIIおよび/またはグループIIIの水素化処理または水素化分解されたベースストックも、周知のベースストックオイルである。
合成油としては、炭化水素油が挙げられる。炭化水素油としては、重合および共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー、エチレン-オレフィンコポリマー、およびエチレン-アルファオレフィンコポリマー)などの油が挙げられる。ポリアルファオレフィン(PAO)オイルベースストックは、一般的に使用される合成炭化水素油である。例えば、C8、C10、C12、C14オレフィンまたはそれらの混合物から誘導されたPAOを利用することができる。米国特許第4,956,122号、同第4,827,064号、および同第4,827,073号を参照されたい。
【0057】
既知の材料であり、ExxonMobil Chemical Company、Chevron Phillips Chemical Company、BPなどの供給業者から大きな商業規模で一般的に入手可能なPAOの数平均分子量は、典型的には、約250~約3,000で変化するが、PAOは、約350cSt(100℃)までの粘度で作製され得る。PAOは、典型的には、アルファオレフィンの比較的低分子量の水素化ポリマーまたはオリゴマーで構成されており、これは、限定されることはないが、C2-約C32アルファオレフィンを含み、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンなどのC8-約C16アルファオレフィンが好ましい。好ましいポリアルファオレフィンは、ポリ-1-オクテン、ポリ-1-デセン、ポリ-1-ドデセン、ならびにそれらの混合物および混合オレフィン誘導ポリオレフィンである。しかしながら、C14-C18の範囲のより高級なオレフィンのダイマーを使用して、許容できる程度の低さの揮発性の低粘度ベースストックを提供することができる。粘度グレードおよび出発オリゴマーに応じて、PAOは、主に、出発オレフィンのトリマーおよびテトラマーであり得、少量のより高級なオリゴマーを伴い、粘度範囲は、1.5~12cStである。特定の用途のPAO流体は、3.0cSt、3.4cSt、および/または3.6cSt、ならびにそれらの組み合わせを含み得る。必要に応じて、1.5~約350cSt以上の粘度範囲を有するPAO流体の混合物を使用してもよい。
【0058】
PAO流体は、例えば、アルミニウムトリクロリド、三フッ化ホウ素、もしくは三フッ化ホウ素と水との複合体、エタノール、プロパノールもしくはブタノールなどのアルコール、カルボン酸、またはエチルアセテートもしくはエチルプロピオネートなどのエステルを含むフリーデル-クラフツ触媒などの重合触媒の存在下でアルファオレフィンを重合することによって好都合に作製することができる。例えば、米国特許第4,149,178号または第3,382,291号によって開示されている方法を本明細書において好都合に使用することができる。PAO合成の他の説明は、以下の米国特許第3,742,082号、同第3,769,363号、同第3,876,720号、同第4,239,930号、同第4,367,352号、同第4,413,156号、同第4,434,408号、同第4,910,355号、同第4,956,122号、および同第5,068,487号に見られる。C14-C18オレフィンのダイマーは、米国特許第4,218,330号に記載されている。
【0059】
他の有用な伝熱流体油ベースストックとしては、水素異性化ワックス状ストック(例えば、ガス油、スラックワックス、燃料水素化分解装置缶出液などのワックス状ストック)、水素異性化フィッシャー-トロプシュワックス、ガス-ツー-リキッド(GTL)ベースストックおよびベースオイル、ならびに他のワックスイソメレート水素異性化ベースストックおよびベースオイル、またはそれらの混合物を含む、ワックスイソメレートベースストックおよびベースオイルが挙げられる。フィッシャー-トロプシュ合成の高沸点残留物であるフィッシャー-トロプシュワックスは、非常に少ない硫黄含有量を有する高パラフィン系炭化水素である。そのようなベースストックの製造に使用される水素化処理には、特化した潤滑油水素化分解(LHDC)触媒のうちの1種または結晶性水素化分解/水素異性化触媒、好ましくはゼオライト触媒などの非晶質水素化分解/水素異性化触媒を使用してもよい。例えば、1種の有用な触媒は、米国特許第5,075,269号に記載されているように、ZSM-48であり、その開示は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。水素化分解/水素異性化蒸留物および水素化分解/水素異性化ワックスを作製するためのプロセスは、例えば、米国特許第2,817,693号、同第4,975,177号、同第4,921,594号および同第4,897,178号、ならびに英国特許第1,429,494号、同第1,350,257号、同第1,440,230号および同第1,390,359号に記載されている。前述の特許はそれぞれ、それらの全体が本明細書に組み込まれている。特に好ましいプロセスは、同様に参照によって本明細書に組み込まれる欧州特許出願第464546号および同第464547号に記載されている。フィッシャー-トロプシュワックス供給物を使用するプロセスは、米国特許第4,594,172号および同第4,943,672号に記載されており、それらの開示は、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0060】
ガス-ツー-リキッド(GTL)ベースオイル、フィッシャー-トロプシュワックス誘導ベースオイル、および他のワックス由来の水素異性化(ワックスイソメレート)ベースオイルは、本開示において有利に使用され、100℃で約4.0cStの動粘性率および約141の粘度指数を有するGTL4によって例示されるように、100℃で、約3cSt~約50cSt、好ましくは約3cSt~約30cSt、より好ましくは約3.5cSt~約25cStの有用な動粘性率を有し得る。これらのガス-ツー-リキッド(GTL)ベースオイル、フィッシャー-トロプシュワックス由来のベースオイル、および他のワックス由来の水素異性化ベースオイルは、約-20℃以下の有用な流動点を有し得、ある条件下で、約-25℃以下の有利な流動点を有し得、有用な流動点は、約-30℃~約-40℃以下である。ガス-ツー-リキッド(GTL)ベースオイル、フィッシャー-トロプシュワックス誘導ベースオイル、およびワックス由来の水素異性化ベースオイルの有用な組成物は、例えば、米国特許第6,080,301号、同第6,090,989号、および同第6,165,949号に記載されており、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0061】
ヒドロカルビル芳香族物質は、ベースオイルまたはベースオイル成分として使用することができ、ベンゼノイド部分もしくはナフテノイド部分などの芳香族部分またはそれらの誘導体に由来するその質量の少なくとも約5%を含有する任意のヒドロカルビル分子であり得る。これらのヒドロカルビル芳香族物質としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルオキシド、アルキルナフトール、アルキルジフェニルスルフィド、アルキル化ビスフェノールA、アルキル化チオジフェノールなどが挙げられる。芳香族物質は、モノアルキル化、ジアルキル化、ポリアルキル化などであり得る。芳香族物質は、単官能化または多官能化であり得る。ヒドロカルビル基はまた、アルキル基、アルケニル基、アルキニル、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、および他の関連するヒドロカルビル基の混合物で構成され得る。ヒドロカルビル基は、約C6-最大約C60の範囲にあり得、多くの場合、約C8-約C20の範囲が好ましい。多くの場合、ヒドロカルビル基の混合物が好ましく、約3個までのそのような置換基が存在し得る。ヒドロカルビル基は、硫黄、酸素、および/または窒素含有置換基を含有してもよい。芳香族基はまた、分子の少なくとも約5%が先の種類の芳香族部分で構成されることを条件として、天然(石油)源から誘導されてもよい。100℃で約3cSt~約50cStの粘度が好ましく、約3.4cSt~約20cStの粘度が、多くの場合、ヒドロカルビル芳香族成分にとってより好ましい。一実施形態では、アルキル基が主に1-ヘキサデセンで構成されるアルキルナフタレンが使用される。芳香族物質の他のアルキレートを有利に使用することができる。例えば、ナフタレンまたはメチルナフタレンは、オクテン、デセン、ドデセン、テトラデセンまたはそれより高級なもの、類似したオレフィンの混合物などのオレフィンでアルキル化することができる。伝熱流体組成物中のヒドロカルビル芳香族物質の有用な濃度は、用途に応じて、約2%~約25%、好ましくは約4%~約20%、より好ましくは約4%~約15%であり得る。
【0062】
本開示のヒドロカルビル芳香族物質などのアルキル化芳香族物質は、芳香族化合物の周知のフリーデル-クラフツアルキル化によって生成してもよい。Friedel-Crafts and Related Reactions, Olah, G. A. (ed.), Inter-science Publishers, New York, 1963を参照されたい。例えば、ベンゼンまたはナフタレンなどの芳香族化合物は、フリーデル-クラフツ触媒の存在下で、オレフィン、ハロゲン化アルキル、またはアルコールによってアルキル化される。Friedel-Crafts and Related Reactions, Vol. 2, part 1, chapters 14, 17, and 18と、Olah, G. A. (ed.), Inter-science Publishers, New York, 1964を参照されたい。多くの均一系または不均一系固体触媒が当業者に公知である。触媒の選択は、出発材料の反応性および製品の品質要件に応じて異なる。例えば、AlCl3、BF3、またはHFなどの強酸を使用してもよい。いくつかの場合において、FeCl3またはSnCl4などのより穏やかな触媒が好ましい。より新しいアルキル化技術では、ゼオライトまたは固体の超酸が使用される。
【0063】
エステルは、有用なベースストックを構成する。二塩基酸とモノアルカノールとのエステル、およびモノカルボン酸のポリオールエステルなどのエステルを使用することによって、添加剤の溶解力およびシール適合性を確実にすることができる。前者の種類のエステルとしては、例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸などのジカルボン酸と、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールなどの様々なアルコールとのエステルが挙げられる。これらの種類のエステルの具体例としては、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケートなどが挙げられる。
特に有用な合成エステルは、1種または複数の多価アルコール、好ましくはヒンダードポリオール(例えば、ネオペンチルポリオール、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、およびジペンタエリトリトール)を、少なくとも約4個の炭素原子を含有するアルカン酸、好ましくは、C5-C30酸、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸およびベヘン酸を含む飽和直鎖脂肪酸、または対応する分岐鎖脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸、またはこれらの材料のいずれかの混合物と反応させることによって得られるものである。
【0064】
好適な合成エステル成分としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、および/またはジペンタエリトリトールと、約5~約10個の炭素原子を含有する1種または複数のモノカルボン酸とのエステルが挙げられる。これらのエステルは、広く市販されており、例えば、ExxonMobil Chemical CompanyのMobil P-41およびP-51エステルである。
ココナッツ、ヤシ、ナタネ、ダイズ、ヒマワリなどの再生可能材料に由来するエステルも有用である。これらのエステルは、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、複合エステル、またはそれらの混合物であり得る。これらのエステルは、広く市販されており、例えば、ExxonMobil Chemical CompanyのMobil P-51エステルである。
再生可能なエステルを含有する伝熱流体配合物は、本開示に含まれている。そのような配合物の場合、エステルの再生可能含有量は、典型的には、約70質量パーセント超、好ましくは約80質量パーセント超、最も好ましくは約90質量パーセント超である。
【0065】
他の有用な流体としては、高性能の伝熱特性を提供するように、処理された、好ましくは触媒によって処理された、または合成された不在来型または非在来型のベースストックが挙げられる。
不在来型または非在来型のベースストック/ベースオイルとしては、1種または複数のガス-ツー-リキッド(GTL)材料から誘導されたベースストックの混合物、ならびに天然ワックスまたはワックス状供給物、鉱油および/または非鉱油ワックス状供給原料、例えば、スラックワックス、天然ワックスおよびワックス状供給原料、例えば、ガス油、ワックス状燃料水素化分解装置缶出液、ワックス状ラフィネート、水素化分解生成物、熱分解生成物または他の鉱物、鉱油もしくはさらに非石油由来のワックス状材料、例えば、石炭液化またはシェールオイルから得られるワックス状材料から誘導されたイソメレート/イソ脱ロウ体ベースストック、ならびにそのようなベースストックの混合物のうちの1種または複数が挙げられる。
【0066】
GTL材料は、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、水、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、プロピン、ブタン、ブチレン、およびブチンなどの供給原料としてのガス状炭素含有化合物、水素含有化合物、および/または元素から、1つもしくは複数の合成、組み合わせ、変換、転位、および/または劣化/脱構築プロセスによって誘導される材料である。GTLベースストックおよび/またはベースオイルは、一般的に、炭化水素、例えば、供給原料としての比較的単純なガス状炭素含有化合物、水素含有化合物、および/または元素からそれ自体が誘導されたワックス状合成炭化水素から誘導されるGTL材料である。GTLベースストックおよび/またはベースオイルとしては、潤滑油の沸点範囲で沸騰する油、すなわち、(1)合成されたGTL材料から、例えば蒸留によって分離/分留され、その後、低減された/低い流動点の潤滑油を製造するために、触媒脱ロウプロセスまたは溶媒脱ロウプロセスのうちの一方または両方を含む最終ワックス処理ステップに供されたもの、(2)例えば水素化脱ロウまたは水素異性化され、触媒および/または溶媒脱ロウされた合成ワックスまたはワックス状炭化水素を含む合成ワックスイソメレート、(3)水素化脱ロウまたは水素異性化され、触媒および/または溶媒脱ロウされたフィッシャー-トロプシュ(F-T)材料(すなわち、炭化水素、ワックス状炭化水素、ワックス、および可能な類似の酸素化物)、好ましくは、水素化脱ロウもしくは水素異性化され、続いて触媒および/もしくは溶媒脱ロウで脱ロウされたF-Tワックス状炭化水素、または水素化脱ロウもしくは水素異性化され、続いて触媒(または溶媒)脱ロウで脱ロウされたF-Tワックス、あるいはそれらの混合物が挙げられる。
【0067】
GTL材料から誘導されるGTLベースストックおよび/またはベースオイル、特に、水素化脱ロウまたは水素異性化され、続いて触媒および/または溶媒脱ロウされたワックスまたはワックス状供給物、好ましくはF-T材料由来のベースストックおよび/またはベースオイルは、典型的には、100℃で約2mm2/秒~約50mm2/秒の動粘性率を有することを特徴とする(ASTM D445)。これらは、典型的には、-5℃~約-40℃以下の流動点を有することをさらに特徴とする(ASTM D97)。これらはまた、典型的には、約80~約140以上の粘度指数を有することを特徴とする(ASTM D2270)。
さらに、GTLベースストックおよび/またはベースオイルは、典型的には、高パラフィン系(>90%飽和化合物)であり、非環式イソパラフィンと組み合わせた単環式パラフィンおよび多環式パラフィンの混合物を含有し得る。そのような組み合わせにおけるナフテン系(すなわち、シクロパラフィン)含有量の比は、使用される触媒および温度によって変化する。さらに、GTLベースストックおよび/またはベースオイルは、典型的には、非常に低い硫黄および窒素含有量を有し、一般的に、これらの元素のそれぞれを、約10ppm未満、より典型的には約5ppm未満含有する。F-T材料、特にF-Tワックスから得られるGTLベースストックおよび/またはベースオイルの硫黄および窒素含有量は、本質的にゼロである。さらに、リンおよび芳香族物質がないため、これは、低SAP製品の配合に特に好適になる。
【0068】
GTLベースストックおよび/またはベースオイルおよび/またはワックスイソメレートベースストックおよび/またはベースオイルという用語は、製造プロセスで回収されるような広い粘度範囲のそのような材料の個々の留分、そのような留分のうちの2種以上の混合物、ならびにブレンドを製造するための1種または2種以上の低粘度留分と1種または2種以上の高粘度留分との混合物を包含するものと理解されるべきであり、ここで、ブレンドは目標動粘性率を呈する。
GTLベースストックおよび/またはベースオイルを誘導するGTL材料は、好ましくはF-T材料(すなわち、炭化水素、ワックス状炭化水素、ワックス)である。
本開示において有用な配合される伝熱流体における使用のためのベースオイルは、APIグループI、グループII、グループIII、グループIVおよびグループVの油、ならびにそれらの混合物、好ましくは、APIグループII、グループIII、グループIVおよびグループVの油、ならびにそれらの混合物、より好ましくは、グループIII、グループIVおよびグループVのベースオイル、ならびにそれらの混合物に対応する様々な油のうちのいずれかである。高パラフィン系ベースオイルは、本開示において有用な配合される伝熱流体において有利に使用することができる。配合された潤滑油製品にブレンドするための添加剤を希釈するために使用される量など、少量のグループIのストックも使用することができる。グループIIのストックに関してさえも、グループIIのストックがそのストックに関連する比較的高い品質範囲にあること、すなわち、グループIIのストックが100<VI<120の範囲の粘度指数を有することが好ましい。
【0069】
本開示において有用な配合される伝熱流体における使用のための好ましいベース流体は、例えば、芳香族炭化水素、ポリオレフィン、パラフィン、イソパラフィン、エステル、エーテル、フッ素化流体、ナノ流体、およびシリコーン油を含む。
ベースオイルは、本開示の伝熱流体組成物の主成分を構成しており、典型的には、組成物の総質量に基づいて、約50~約99質量パーセント、好ましくは約70~約95質量パーセント、より好ましくは約85~約95質量パーセントの範囲の量で存在する。ベースオイルは、ASTM標準に従って、100℃で約2.5cSt~約12cSt(またはmm2/秒)、好ましくは100℃で約2.5cSt~約9cSt(またはmm2/秒)の動粘性率を有することが好都合である。必要に応じて、合成ベースオイルと天然ベースオイルとの混合物を使用してもよい。必要に応じて、グループI、II、III、IV、および/またはVのベースストックのバイモーダル混合物を使用してもよい。
伝熱流体添加剤
本開示において有用な配合される伝熱流体は、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、ナノ材料、ナノ粒子などを含むがこれらに限定されることはない、1種または複数の一般的に使用される伝熱流体性能添加剤をさらに含有し得る。これらの添加剤は、一般的に、5質量パーセント~50質量パーセントの範囲にあり得る様々な量の希釈油と一緒に送達される。
【0070】
本開示において有用な添加剤は、伝熱流体に可溶である必要はない。
伝熱流体組成物において本開示と組み合わせて使用される性能添加剤の種類および量は、本明細書で例示として示される例によって限定されることはない。
酸化防止剤
伝熱流体は、典型的には、少なくとも1種の酸化防止剤を含む。酸化防止剤は、使用中のベースオイルの酸化劣化を遅らせる。そのような劣化は、金属表面への堆積物、スラッジの存在、または伝熱流体の粘度上昇をもたらし得る。当業者は、伝熱流体において有用な多種多様な酸化抑制剤を知っている。例えば、Lubricants and Related ProductsのKlamann、前掲、ならびに米国特許第4,798,684号および同第5,084,197号を参照されたい。
【0071】
例示的な酸化防止剤としては、立体障害アルキルフェノール、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、および2,6-ジ-tert-ブチル-4-(2-オクチル-3-プロパン)フェノール;N,N-ジ(アルキルフェニル)アミン;ならびにアルキル化フェニレンジアミンが挙げられる。
酸化防止剤は、伝熱流体の0.01~5質量%、好ましくは0.4~0.8質量%の量で好適に存在する、ブチル化ヒドロキシトルエンなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤であり得る。あるいはまたはさらに、酸化防止剤は、単独または混合で使用される、モノオクチルフェニルアルファナフチルアミン(mono-octylphenylalphanapthyl amine)またはp,p-ジオクチルジフェニルアミンなどの芳香族アミン酸化防止剤を含み得る。アミン酸化防止剤成分は、伝熱流体の0.01~5質量%、より好ましくは0.5~1.5質量%の範囲で好適に存在する。
【0072】
有用な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノールが挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は、無灰(金属不含)フェノール系化合物であり得るか、または特定のフェノール系化合物の中性もしくは塩基性金属塩であり得る。典型的なフェノール系酸化防止剤化合物は、立体障害ヒドロキシル基を含有するものであるヒンダードフェノールであり、これらは、ヒドロキシル基が互いにo-またはp-位にあるジヒドロキシアリール化合物の誘導体を含む。典型的なフェノール系酸化防止剤としては、C6+アルキル基で置換されたヒンダードフェノール、およびこれらのヒンダードフェノールのアルキレン結合誘導体が挙げられる。この種類のフェノール系材料の例としては、2-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール、2-t-ブチル-4-オクチルフェノール、2-t-ブチル-4-ドデシルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ドデシルフェノール、2-メチル-6-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール、および2-メチル-6-t-ブチル-4-ドデシルフェノールが挙げられる。他の有用なヒンダードモノフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ヒンダード2,6-ジ-アルキル-フェノール系プロピオン酸エステル誘導体が挙げられ得る。ビスフェノール系酸化防止剤も、本開示と組み合わせて有利に使用され得る。オルト結合フェノールの例としては、2,2’-ビス(4-ヘプチル-6-t-ブチル-フェノール)、2,2’-ビス(4-オクチル-6-t-ブチル-フェノール)、および2,2’-ビス(4-ドデシル-6-t-ブチル-フェノール)が挙げられる。パラ結合ビスフェノールとしては、例えば、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)および4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)が挙げられる。
【0073】
他の例示的なフェノール系酸化防止剤としては、硫化および非硫化フェノール系酸化防止剤が挙げられる。本明細書で使用される「フェノール型」または「フェノール系酸化防止剤」という用語は、それ自体単核、例えばベンジル、または多核、例えばナフチルおよびスピロ芳香族化合物であり得る芳香環に結合した1個もしくはそれ以上のヒドロキシル基を有する化合物を含む。したがって、「フェノール型」としては、フェノール自体、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ナフトールなど、ならびにそれらのアルキルまたはアルケニルおよび硫化アルキルまたはアルケニル誘導体や、アルキレン架橋、硫黄架橋または酸素架橋によって連結されたそのようなビフェノール化合物を含むビスフェノール型化合物が挙げられる。アルキルフェノールとしては、モノおよびポリアルキルまたはアルケニルフェノール、3~100個の炭素、好ましくは4~50個の炭素を含有するアルキルまたはアルケニル基、およびそれらの硫化誘導体が挙げられ、芳香環に存在するアルキルまたはアルケニル基の数は、1から、芳香環に結合したヒドロキシル基の数を数えた後に残っている芳香環の利用可能な未充足原子価(unsatisfied valence)までの範囲にある。
【0074】
したがって、一般的に、フェノール系酸化防止剤は、一般式:
(R)x--Ar--(OH)y
[式中、
Arは、
【化1】
からなる群から選択され、
Rは、C3-C100アルキルまたはアルケニル基、硫黄置換アルキルまたはアルケニル基、好ましくはC4-C50アルキルまたはアルケニル基または硫黄置換アルキルまたはアルケニル基、より好ましくはC3-C100アルキルまたは硫黄置換アルキル基であり、最も好ましくはC4-C50アルキル基であり、Rgは、C1-C100アルキレンまたは硫黄置換アルキレン基、好ましくはC2-C50アルキレンまたは硫黄置換アルキレン基、より好ましくはC2-C20アルキレンまたは硫黄置換アルキレン基であり、yは、少なくとも1からArの利用可能な原子価までであり、xは、0からAr-yの利用可能な原子価までの範囲にあり、zは、1~10の範囲にあり、nは、0~20の範囲にあり、mは、0~4であり、pは、0または1であり、好ましくは、yは、1~3の範囲にあり、xは、0~3の範囲にあり、zは、1~4の範囲にあり、nは、0~5の範囲にあり、pは、0である]
によって表される。
【0075】
好ましいフェノール系酸化防止剤化合物は、立体障害ヒドロキシル基を含有するであるヒンダードフェノールおよびフェノール系エステルであり、これらは、ヒドロキシル基が互いにo-またはp-位にあるジヒドロキシアリール化合物の誘導体を含む。典型的なフェノール系酸化防止剤としては、C.sub.1+アルキル基で置換されたヒンダードフェノール、およびこれらのヒンダードフェノールのアルキレン結合誘導体が挙げられる。この種類のフェノール系材料の例としては、2-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール、2-t-ブチル-4-オクチルフェノール、2-t-ブチル-4-ドデシルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ドデシルフェノール、2-メチル-6-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール、2-メチル-6-t-ブチル-4-ドデシルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、および2,6-ジ-t-ブチル-4アルコキシフェノール、ならびに
【0076】
【化2】
が挙げられる。
【0077】
フェノール型酸化防止剤は、伝熱流体産業において周知であり、Ethanox(商標)1710、Irganox(商標)1076、Irganox(商標)L1035、Irganox(商標)1010、Irganox(商標)L109、Irganox(商標)L118、Irganox(商標)L135などの市販例が当業者に知られている。先のものは、例示的に提示されているだけであり、使用され得るフェノール系酸化防止剤の種類を限定するものではない。
【0078】
フェノール系酸化防止剤の他の例としては、2-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4-メチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン(「Antage DBH」という商品名でKawaguchi Kagaku Co.製)、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、および2,6-ジ-t-ブチル-4-アルキルフェノール、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールおよび2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール;2,6-ジ-t-ブチル-4-アルコキシフェノール、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノールおよび2,6-ジ-t-ブチル-4-エトキシフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルメルカプトオクチルアセテート、アルキル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、例えば、n-オクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4)-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「Yonox SS」という商品名でYoshitomi Seiyaku Co.製)、n-ドデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および2’-エチルヘキシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;2,6-ジ-t-ブチル-アルファ-ジメチルアミノ-p-クレゾール、2,2’-メチレンビス(4-アルキル-6-t-ブチルフェノール)化合物、例えば、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6)-t-ブチルフェノール)(「Antage W-400」という商品名でKawaguchi Kagaku Co.製)および2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(「Antage W-500」という商品名でKawaguchi Kagaku Co.製);ビスフェノール、例えば、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチル-フェノール)(「Antage W-300」という商品名でKawaguchi Kagaku Co.製)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)(「Ionox 220AH」という商品名でLaporte Performance Chemicalsによって製造)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2-(ジ-p-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-シクロヘキシリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコールビス[3,(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](「Irganox L109」という商品名でCiba Specialty Chemicals Co.製)、トリエチレングリコールビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-y-5-メチルフェニル)プロピオネート](「Tominox 917」という商品名でYoshitomi Seiyaku Co.製)、2,2’-チオ[ジエチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](「Irganox L115」という商品名でCiba Specialty Chemicals Co.製)、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]エチル}2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(「Sumilizer GA80」という商品名でSumitomo Kagaku Co.製)および4,4’-チオビス(3-メチル)-6-t-ブチルフェノール)(「Antage RC」という商品名でKawaguchi Kagaku Co.製)、2,2’-チオビス(4,6-ジ-t-ブチルレゾルシノール);ポリフェノール、例えば、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナト[メタン(「Irganox L101」という商品名でCiba Specialty Chemicals Co.製)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(「Yoshinox 930」という商品名でYoshitomi Seiyaku Co.製)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(「Irganox 330」という商品名でCiba Specialty Chemicals製)、ビス[3,3’-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-メチル-4-(2’’,4’’-ジ-t-ブチル-3’’-ヒドロキシフェニル)メチル-6-t-ブチルフェノール、および2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール;ならびにフェノール/アルデヒド縮合物、例えば、p-t-ブチルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、およびp-t-ブチルフェノールとアセトアルデヒドとの縮合物が挙げられる。
【0079】
有効量の1種または複数の触媒酸化防止剤も使用され得る。触媒酸化防止剤は、有効量のa)1種もしくは複数の油溶性多金属有機化合物、ならびに有効量のb)1種もしくは複数の置換N,N’-ジアリール-o-フェニレンジアミン化合物もしくはc)1種もしくは複数のヒンダードフェノール化合物、またはb)とc)との両方の組み合わせを含む。触媒酸化防止剤は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,048,833号によってより完全に記載されている。
【0080】
例示的な芳香族アミン酸化防止剤としては、以下の分子構造:
【化3】
[式中、Rzは、水素またはC1-C14の線状またはC3-C14の分岐状アルキル基、好ましくはC1-C10の線状またはC3-C10の分岐状アルキル基、より好ましくは線状または分岐状のC6-C8であり、nは、1~5の範囲の整数、好ましくは1である]
によって表されるフェニル-アルファ-ナフチルアミンが挙げられる。具体的な例は、Irganox L06である。
【0081】
他の芳香族アミン酸化防止剤としては、他のアルキル化および非アルキル化芳香族アミン、例えば、芳香族モノアミンが挙げられる。
典型的な芳香族アミン酸化防止剤は、少なくとも6個の炭素原子のアルキル置換基を有する。脂肪族基の例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、およびデシルが挙げられる。一般的に、脂肪族基は、14個超の炭素原子を含有しないであろう。存在し得るそのような他のさらなるアミン酸化防止剤の一般的な種類としては、ジフェニルアミン、フェノチアジン、イミドジベンジル、およびジフェニルフェニレンジアミンが挙げられる。そのような他のさらなる芳香族アミンのうちの2種以上の混合物も存在し得る。高分子アミン酸化防止剤も使用することができる。
本開示の伝熱流体において有用な酸化防止剤または酸化抑制剤は、ヒンダードフェノール(例えば、2,6-ジ-(t-ブチル)フェノール)、芳香族アミン(例えば、アルキル化ジフェニルアミン)、アルキルポリスルフィド、セレン化物、ボレート(例えば、エポキシド/ホウ酸反応生成物)、ホスホロジチオ酸、エステルおよび/または塩、ならびにジチオカルバメート(例えば、亜鉛ジチオカルバメート)である。一実施形態では、これらの酸化防止剤または酸化抑制剤は、個別に、または好ましい混合物の1:10~10:1のアミン/フェノール比で用いることができる。
【0082】
本開示の伝熱流体組成物においても有用な酸化防止剤または酸化抑制剤は、塩素化脂肪族炭化水素、例えば、塩素化ワックス;有機硫化物および多硫化物、例えば、ベンジルジスルフィド、ビス(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、および硫化テルペン;リン硫化炭化水素、例えば、リン含有硫化物とテレビン油またはメチルオレエートとの反応生成物、主に二炭化水素および三炭化水素ホスファイトを含むリン含有エステル、例えば、ジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイト、ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイト、ジメチルナフチルホスファイト、オレイル4-ペンチルフェニルホスファイト、ポリプロピレン(分子量500)置換フェニルホスファイト、ジイソブチル置換フェニルホスファイト;金属チオカルバメート、例えば、亜鉛ジオクチルジチオカルバメートおよびバリウムヘプチルフェニルジチオカルバメート;第II族金属ホスホロジチオエート、例えば、亜鉛ジシクロヘキシルホスホロジチオエート、亜鉛ジオクチルホスホロジチオエート、バリウムジ(ヘプチルフェニル)ホスホロジチオエート、カドミウムジノニルホスホロジチオエート、ならびにリン含有五硫化物と、イソプロピルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、およびn-ヘキシルアルコールの等モル混合物との反応である。
【0083】
硫黄、窒素、リンおよびいくつかのアルキルフェノールを含有する有機化合物を含む酸化抑制剤は、本開示の伝熱流体配合物における有用な添加剤である。酸化抑制剤の2つの一般的な種類は、開始剤、ペルオキシラジカル、およびヒドロペルオキシドと反応して不活性化合物を形成するものと、これらの物質を分解して活性のより低い化合物を形成するものである。例は、ヒンダード(アルキル化)フェノール、例えば、6-ジ(tert-ブチル)-4-メチル-フェノール[2,6-ジ(tert-ブチル)-p-クレゾール、DBPC]、および芳香族アミン、例えば、N-フェニル-アルファ-ナフタールアミンである。
硫化アルキルフェノールおよびそのアルカリまたはアルカリ土類金属塩も有用な酸化防止剤である。
伝熱流体組成物に使用される存在し得る別のクラスの酸化防止剤は、油溶性銅化合物である。任意の油溶性の好適な銅化合物を伝熱流体にブレンドしてもよい。好適な銅酸化防止剤の例としては、銅ジヒドロカルビルチオまたはジチオホスフェートおよびカルボン酸の銅塩(天然または合成)が挙げられる。他の好適な銅塩としては、銅のジチアカルバメート、スルホネート、フェネート、およびアセチルアセトネートが挙げられる。アルケニルコハク酸または無水物から誘導される塩基性、中性、または酸性の銅Cu(I)および/またはCu(II)塩が特に有用であると知られている。
【0084】
硫黄含有酸化防止剤は、例えば、ジラウリルチオジプロピオネートおよびジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネート、ジアルキルジチオカルバミン酸誘導体(金属塩を除く)、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、メルカプトベンゾチアゾール、リン含有五酸化物とオレフィンとの反応生成物、およびジセチルスルフィドを含む、硫黄を含有するあらゆる酸化防止剤であり得る。これらのうち、ジラウリルチオジプロピオネートおよびジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートが好ましい。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノアルキルジフェニルアミン、例えば、モノオクチルジフェニルアミンおよびモノノニルジフェニルアミン;ジアルキルジフェニルアミン、例えば、4,4’-ジブチルジフェニルアミン、4,4’-ジペンチルジフェニルアミン、4,4’-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、および4,4’-ジノニルジフェニルアミン;ポリアルキルジフェニルアミン、例えば、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、およびテトラノニルジフェニルアミン;ならびにナフチルアミン、例えば、アルファ-ナフチルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、ブチルフェニル-アルファ-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-アルファ-ナフチルアミン、オクチルフェニル-アルファ-ナフチルアミン、およびノニルフェニル-アルファ-ナフチルアミンが挙げられる。これらのうち、ジアルキルジフェニルアミンが好ましい。
【0085】
硫黄系酸化防止剤の例としては、ジアルキルスルフィド、例えば、ジドデシルスルフィドおよびジオクタデシルスルフィド;チオジプロピオン酸エステル、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、およびドデシルオクタデシルチオジプロピオネート、ならびに2-メルカプトベンゾイミダゾールが挙げられる。
そのような酸化防止剤は、個別に、または1つもしくは複数の種類の酸化防止剤の混合物として使用することができ、用いられる総量は、約0.01~約5質量%、好ましくは0.1~約4.5質量%、より好ましくは0.25~3質量%(受取時ベース)の量である。
【0086】
腐食抑制剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の腐食抑制剤を含み得る。腐食抑制剤は、伝熱流体油組成物と接触する金属部分の劣化を低減するために使用される。好適な腐食抑制剤としては、アリールチアジン、アルキル置換ジメルカプトチオジアゾール、アルキル置換ジメルカプトチアジアゾール、およびそれらの混合物が挙げられる。
腐食抑制剤は、水または他の汚染物質による化学的攻撃から金属表面を保護する添加剤である。これらは、多種多様に市販されている。本明細書で使用する場合、腐食抑制剤は、防錆添加剤および金属不活性化剤を含む。
腐食抑制剤の1つの種類は、金属表面を優先的に濡らしてこれを油膜で保護する極性化合物である。別の種類の腐食抑制剤は、水を油中水型エマルションに組み込むことで吸収し、それによって、油だけが金属表面に触れるようにする。さらなる別の種類の腐食抑制剤が、金属に化学的に付着して、非反応性表面を生成する。好適な添加剤の例としては、亜鉛ジチオホスフェート、金属フェノレート、塩基性金属スルホネート、脂肪酸、およびアミンが挙げられる。そのような添加剤は、約0.01~5質量パーセント、好ましくは約0.01~1.5質量パーセントの量で使用され得る。
【0087】
例示的な腐食抑制剤としては、(短鎖)アルケニルコハク酸、その部分エステル、およびその窒素含有誘導体;ならびに合成アルカリールスルホネート、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネートが挙げられる。腐食抑制剤としては、例えば、8~30個の炭素原子を有するモノカルボン酸、アルキルもしくはアルケニルスクシネートまたはそれらの部分エステル、12~30個の炭素原子を有するヒドロキシ脂肪酸およびその誘導体、8~24個の炭素原子を有するサルコシンおよびその誘導体、アミノ酸およびその誘導体、ナフテン酸およびその誘導体、ラノリン脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ならびにパラフィンオキシドが挙げられる。
【0088】
特に好ましい腐食抑制剤を以下に示す。モノカルボン酸(C8-C30)の例としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、ドコサン酸、エルカ酸、エイコセン酸、牛脂脂肪酸、ダイズ脂肪酸、ココナッツ油脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、トール油脂肪酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ラウリルサルコシン酸、ミリスチルサルコシン酸(myritsylsarcosinic acid)、パルミチルサルコシン酸、ステアリルサルコシン酸、オレイルサルコシン酸、アルキル化(C8-C20)フェノキシ酢酸、ラノリン脂肪酸、およびC8-C24メルカプト脂肪酸が挙げられる。
【0089】
腐食抑制剤として機能する多塩基カルボン酸の例としては、アルケニル(C10-C100)コハク酸およびそのエステル誘導体、ダイマー酸、N-アシル-N-アルキルオキシアルキルアスパラギン酸エステル(米国特許第5,275,749号)が挙げられる。腐食抑制剤としてまたは先のカルボキシレートとの反応生成物として機能してアミドなどを生成するアルキルアミンの例は、第1級アミン、例えば、ラウリルアミン、ココナッツアミン、n-トリデシルアミン、ミリスチルアミン、n-ペンタデシルアミン、パルミチルアミン、n-ヘプタデシルアミン、ステアリルアミン、n-ノナデシルアミン、n-エイコシルアミン、n-ヘンエイコシルアミン、n-ドコシルアミン、n-トリコシルアミン、n-ペンタコシルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、硬化牛脂アミン、およびダイズアミンによって表される。第2級アミンの例としては、ジラウリルアミン、ジココナッツアミン、ジ-n-トリデシルアミン、ジミリスチルアミン、ジ-n-ペンタデシルアミン、ジパルミチルアミン、ジ-n-ペンタデシルアミン、ジステアリルアミン、ジ-n-ノナデシルアミン、ジ-n-エイコシルアミン、ジ-n-ヘンエイコシルアミン、ジ-n-ドコシルアミン、ジ-n-トリコシルアミン、ジ-n-ペンタコシルアミン、ジオレイルアミン、ジ牛脂アミン、ジ硬化牛脂アミン、およびジダイズアミンが挙げられる。前述のN-アルキルポリアルキレンジアミン(N-alkylpolyalkyenediamines)の例としては、エチレンジアミン、例えば、ラウリルエチレンジアミン、ココナッツエチレンジアミン、n-トリデシルエチレンジアミン、ミリスチルエチレンジアミン、n-ペンタデシルエチレンジアミン、パルミチルエチレンジアミン、n-ヘプタデシルエチレンジアミン、ステアリルエチレンジアミン、n-ノナデシルエチレンジアミン、n-エイコシルエチレンジアミン、n-ヘンエイコシルエチレンジアミン、n-ドコシルエチレンジアミン、n-トリコシルエチレンジアミン、n-ペンタコシルエチレンジアミン、オレイルエチレンジアミン、牛脂エチレンジアミン、硬化牛脂エチレンジアミン、およびダイズエチレンジアミン;プロピレンジアミン、例えば、ラウリルプロピレンジアミン、ココナッツプロピレンジアミン、n-トリデシルプロピレンジアミン、ミリスチルプロピレンジアミン、n-ペンタデシルプロピレンジアミン、パルミチルプロピレンジアミン、n-ヘプタデシルプロピレンジアミン、ステアリルプロピレンジアミン、n-ノナデシルプロピレンジアミン、n-エイコシルプロピレンジアミン、n-ヘンエイコシルプロピレンジアミン、n-ドコシルプロピレンジアミン、n-トリコシルプロピレンジアミン、n-ペンタコシルプロピレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、またはトリエチレンテトラミン(TETA)、オレイルプロピレンジアミン、牛脂プロピレンジアミン、硬化牛脂プロピレンジアミン、およびダイズプロピレンジアミン;ブチレンジアミン、例えば、ラウリルブチレンジアミン、ココナッツブチレンジアミン、n-トリデシルブチレンジアミン-ミリスチルブチレンジアミン、n-ペンタデシルブチレンジアミン、ステアリルブチレンジアミン、n-エイコシルブチレンジアミン、n-ヘンエイコシルブチレンジアミン、n-ドコシルブチレンジアミン、n-トリコシルブチレンジアミン、n-ペンタコシルブチレンジアミン、オレイルブチレンジアミン、牛脂ブチレンジアミン、硬化牛脂ブチレンジアミン、およびダイズブチレンジアミン;ならびにペンチレンジアミン、例えば、ラウリルペンチレンジアミン、ココナッツペンチレンジアミン、ミリスチルペンチレンジアミン、パルミチルペンチレンジアミン、ステアリルペンチレンジアミン、オレイルペンチレンジアミン、牛脂ペンチレンジアミン、硬化牛脂ペンチレンジアミン、およびダイズペンチレンジアミンが挙げられる。
【0090】
他の例示的な腐食抑制剤としては、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾチアゾール、アルキルトリアゾール、ならびにベンゾトリアゾールが挙げられる。本開示で使用され得る腐食抑制剤として有用な二塩基酸の例は、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、3-メチルアジピン酸、3-ニトロフタル酸、1,10-デカンジカルボン酸、およびフマル酸である。腐食抑制剤は、直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和モノカルボン酸またはそのエステルであり得、これは、35質量%までの量で硫化されてもよい。好ましくは、酸は、C4-C22の直鎖不飽和モノカルボン酸である。この添加剤の好ましい濃度は、伝熱流体組成物全体の0.001質量%~0.35質量%である。好ましいモノカルボン酸は、硫化オレイン酸である。しかしながら、他の好適な材料は、オレイン酸自体;吉草酸およびエルカ酸である。例示的な腐食抑制剤としては、先ほど定義したトリアゾールが挙げられる。トリアゾールは、組成物全体の0.005質量%~0.25質量%の濃度で使用されるべきである。好ましいトリアゾールは、本開示の組成物に含まれ得るトリルトリアゾール(tolylotriazole)であり、金属不活性化剤または金属不動態化剤として有用なトリアゾール、チアゾール、および特定のジアミン化合物を含む。例としては、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、およびアルキル置換誘導体などの置換ベンゾトリアゾールが挙げられる。アルキル置換基は、一般的に、1.5個までの炭素原子、好ましくは8個までの炭素原子を含有する。トリアゾールは、芳香環に、ハロゲン、ニトロ、アミノ、メルカプトなどの他の置換基を含有していてもよい。好適な化合物の例は、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ヘキシルベンゾトリアゾール、オクチルベンゾトリアゾール、クロロベンゾトリアゾール、ならびにニトロベンゾトリアゾールである。ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールが特に好ましい。35質量%までの量で任意に硫化されてもよい直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和モノカルボン酸;またはそのような酸のエステル;およびトリアゾールもしくはそのアルキル誘導体、または5個までの炭素原子の短鎖アルキル;nは、ゼロまたは1~3(両端含む)の整数であり;水素、モルホリノ、アルキル、アミド、アミノ、ヒドロキシ、またはそれらのアルキルもしくはアリール置換誘導体であり;または1,2,4トリアゾール、1,2,3トリアゾール、5-アニロ-1,2,3,4-チアトリアゾール、3-アミノ-1,2,4トリアゾール、1-H-ベンゾトリアゾール-1-イル-メチルイソシアニド、メチレン-ビス-ベンゾトリアゾール、およびナフトトリアゾールから選択されるトリアゾール。
腐食抑制剤は、伝熱流体組成物の総質量に基づいて、0.01~5質量%、好ましくは0.01~1.5質量%、より好ましくは0.01~0.2質量%、さらにより好ましくは0.01~0.1質量%(受取時ベース)の量で使用され得る。
【0091】
消泡剤
有利には、消泡剤が伝熱流体組成物に添加され得る。これらの薬剤は、安定した泡の形成を遅らせる。シリコーンおよび有機ポリマーが典型的な消泡剤である。例えば、シリコーン油またはポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサンが消泡特性を提供する。消泡剤は、市販されており、解乳化剤などの他の添加剤と共に従来の少量で使用され得、通常、組み合わされるこれらの添加剤の量は、1質量パーセント未満であり、多くの場合、0.1質量パーセント未満である。一実施形態では、そのような添加剤は、約0.01~5質量パーセント、好ましくは0.1~3質量パーセント、より好ましくは約0.5~1.5質量パーセントの量で使用され得る。
耐摩耗添加剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の耐摩耗剤を含み得る。適切な耐摩耗剤の例としては、リン含有化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート(例えば、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート)、チオカルバメート含有化合物、例えば、チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレン結合チオカルバメート、およびビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドが挙げられる。
【0092】
伝熱流体の配合に使用される耐摩耗剤は、本質的に無灰または灰形成性であり得る。好ましくは、耐摩耗剤は無灰である。いわゆる無灰耐摩耗剤は、燃焼時に実質的に灰を形成しない材料である。例えば、非金属含有耐摩耗剤が無灰であると考えられる。
一実施形態では、油溶性リン含有アミン耐摩耗剤は、リン含有酸エステルのアミン塩またはそれらの混合物を含む。リン含有酸エステルのアミン塩としては、リン酸エステルおよびそれらのアミン塩;ジアルキルジチオリン酸エステルおよびそれらのアミン塩;ホスファイトのアミン塩;リン含有カルボン酸エステル、エーテルおよびアミドのアミン塩;ならびにそれらの混合物が挙げられる。リン含有酸エステルのアミン塩は、単独で、または組み合わせて使用され得る。
一実施形態では、油溶性リン含有アミン塩としては、部分アミン塩-部分金属塩化合物またはそれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、リン含有化合物は、分子内に硫黄原子をさらに含む。一実施形態では、リン含有化合物のアミン塩は、(他の成分と混合される前に)無灰、すなわち金属不含であり得る。
アミン塩としての使用に好適であり得るアミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、およびそれらの混合物が挙げられる。アミンとしては、少なくとも1個のヒドロカルビル基または特定の実施形態では2個もしくは3個のヒドロカルビル基を有するアミンが挙げられる。ヒドロカルビル基は、2~30個の炭素原子または他の実施形態では8~26個もしくは10~20個もしくは13~19個の炭素原子を含有し得る。
【0093】
第1級アミンとしては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、オクチルアミンおよびドデシルアミン、ならびに脂肪アミン、例えば、n-オクチルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-オクタデシルアミンおよびオレイルアミンが挙げられる。他の有用な脂肪アミンとしては、市販の脂肪アミン、例えば、Armeen C、Armeen O、Armeen OL、Armeen T、Armeen HT、Armeen S、およびArmeen SDなどの「Armeen(商標)」アミン(Akzo Chemicals,Chicago,Illから入手可能な製品)が挙げられ、文字記号は、脂肪基、例えば、ココ、オレイル、牛脂、またはステアリル基に関連している。
好適な第2級アミンの例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、メチルエチルアミン、エチルブチルアミン、およびエチルアミルアミンが挙げられる。第2級アミンは、ピペリジン、ピペラジン、およびモルホリンなどの環状アミンであり得る。
【0094】
アミンはまた、第3級脂肪族第1級アミンであり得る。この場合の脂肪族基は、2~30個、または6~26個、または8~24個の炭素原子を含有するアルキル基であり得る。第3級アルキルアミンとしては、モノアミン、例えば、tert-ブチルアミン、tert-ヘキシルアミン、1-メチル-1-アミノ-シクロヘキサン、tert-オクチルアミン、tert-デシルアミン、tert-ドデシルアミン、tert-テトラデシルアミン、tert-ヘキサデシルアミン、tert-オクタデシルアミン、tert-テトラコサニルアミン、およびtert-オクタコサニルアミンが挙げられる。
一実施形態では、リン含有酸アミン塩は、C11-C14の第3級アルキル第1級基またはそれらの混合物を有するアミンを含む。一実施形態では、リン含有酸アミン塩は、C14-C18の第3級アルキル第1級アミンまたはそれらの混合物を有するアミンを含む。一実施形態では、リン含有酸アミン塩は、C18-C22の第3級アルキル第1級アミンまたはそれらの混合物を有するアミンを含む。
【0095】
アミンの混合物も本開示で使用され得る。一実施形態では、アミンの有用な混合物は、「Primene(商標)81R」および「Primene(商標)JMT」である。Primene(商標)81RおよびPrimene(商標)JMT(どちらもRohm&Haasによって製造および販売されている)は、それぞれC11-C14の第3級アルキル第1級アミンとC18-C22の第3級アルキル第1級アミンとの混合物である。
一実施形態では、リン含有化合物の油溶性アミン塩としては、リン含有化合物の硫黄不含アミン塩が挙げられ、これは、アミンを、(i)リン酸のヒドロキシ置換ジエステルまたは(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換ジまたはトリエステルと反応させるステップを含むプロセスによって得られ得る/得ることが可能であり得る。この種類の化合物のより詳細な説明は、国際出願PCT/US08/051126に開示されている。
一実施形態では、アルキルリン酸エステルのヒドロカルビルアミン塩は、C14-C18のアルキル化リン酸と、C11-C14の第3級アルキル1級アミンの混合物であるPrimene 81RT(商標)(Rohm&Haasによって製造および販売されている)との反応生成物である。
ジアルキルジチオリン酸エステルのヒドロカルビルアミン塩の例としては、イソプロピル、メチル-アミル(4-メチル-2-ペンチルまたはそれらの混合物)、2-エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、またはノニルジチオリン酸と、エチレンジアミン、モルホリン、またはPrimene 81R(商標)との反応生成物およびそれらの混合物が挙げられる。
【0096】
一実施形態では、ジチオリン酸は、エポキシドまたはグリコールと反応させられ得る。この反応生成物は、リン含有酸、無水物、または低級エステルとさらに反応させられる。エポキシドとしては、脂肪族エポキシドまたはスチレンオキシドが挙げられる。有用なエポキシドの例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブテンオキシド、オクテンオキシド、ドデセンオキシド、およびスチレンオキシドが挙げられる。一実施形態では、エポキシドは、プロピレンオキシドであり得る。グリコールは、1~12個、または2~6個、または2~3個の炭素原子を有する脂肪族グリコールであり得る。ジチオリン酸、グリコール、エポキシド、無機リン含有試薬、およびそれらを反応させる方法は、米国特許第3,197,405号および同第3,544,465号に記載されている。次いで、得られる酸は、アミンで塩にされ得る。
ジチオカルバメート含有化合物は、ジチオカルバメート酸または塩を不飽和化合物と反応させることによって調製され得る。ジチオカルバメート含有化合物はまた、アミン、二硫化炭素、および不飽和化合物を同時に反応させることによっても調製され得る。一般的に、反応は、25℃~125℃の温度で起こる。
【0097】
硫化されて硫化オレフィンを形成し得る好適なオレフィンの例としては、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、ヘキサン、ヘプテン、オクタン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、ウンデシル、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、オクタデセネン、ノノデセン、エイコセン、またはそれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、オクタデセネン、ノノデセン、エイコセン、またはそれらの混合物、ならびにそれらのダイマー、トリマーおよびテトラマーが、特に有用なオレフィンである。あるいは、オレフィンは、1,3-ブタジエンなどのジエンのディールス-アルダー付加物およびブチルアクリレートなどの不飽和エステルであってもよい。
硫化オレフィンの別のクラスとしては、脂肪酸およびそれらのエステルが挙げられる。脂肪酸は、多くの場合、植物油または動物油から得られ、典型的には、4~22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸およびそれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトオレイン酸、またはそれらの混合物が挙げられる。多くの場合、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナッツ油、ダイズ油、綿実油、ヒマワリ種子油、またはそれらの混合物から得られる。一実施形態では、脂肪酸および/またはエステルは、オレフィンと混合されている。
【0098】
ポリオールとしては、ジオール、トリオール、およびより数の高いアルコール性OH基を有するアルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、ジ、トリおよびテトラエチレングリコールを含むエチレングリコール;ジ、トリおよびテトラプロピレングリコールを含むプロピレングリコール;グリセロール;ブタンジオール;ヘキサンジオール;ソルビトール;アラビトール;マンニトール;スクロース;フルクトース;グルコース;シクロヘキサンジオール;エリトリトール;ジおよびトリペンタエリトリトールを含むペンタエリトリトールが挙げられる。多くの場合、ポリオールは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、またはジペンタエリトリトールである。
別の実施形態では、無灰耐摩耗剤は、ポリオールと、脂肪族カルボン酸、多くの場合、12~24個の炭素原子を含有する酸とのモノエステルであり得る。多くの場合、ポリオールと脂肪族カルボン酸とのモノエステルは、ヒマワリ油などとの混合物の形態にあり、これは、混合物中に、該混合物の5~95、いくつかの実施形態では10~90、または20~85、または20~80質量パーセントで存在し得る。エステルを形成する脂肪族カルボン酸(特に、モノカルボン酸)は、典型的には、12~24個または14~20個の炭素原子を含有する酸である。カルボン酸の例としては、ドデカン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、およびオレイン酸が挙げられる。
【0099】
本開示において有用な例示的な耐摩耗添加剤としては、例えば、カルボン酸の金属塩が挙げられる。金属は、遷移金属およびその混合物から選択される。カルボン酸は、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、芳香族カルボン酸、およびそれらの混合物から選択される。
金属は、好ましくは、第10族、第11族および第12族の金属、ならびにそれらの混合物から選択される。カルボン酸は、好ましくは、約8~約26個の炭素原子を有する脂肪族飽和非分岐カルボン酸、およびそれらの混合物である。
金属は、好ましくは、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、およびそれらの混合物から選択される。
カルボン酸は、好ましくは、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ウンデシル酸(C11)、ラウリン酸(C12)、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、ノナデシル酸(C19)、アラキジン酸(C20)、ヘンイコシル酸(C21)、ベヘン酸(C22)、トリコシル酸(C23)、リグノセリン酸(C24)、ペンタコシル酸(C25)、セロチン酸(C26)、およびそれらの混合物から選択される。
【0100】
好ましくは、カルボン酸の金属塩は、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸銀、ステアリン酸パラジウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銀、パルミチン酸パラジウム、およびそれらの混合物を含む。
カルボン酸の金属塩は、配合される油の総質量に基づいて、約0.01質量パーセント~約5質量パーセントの量で、本開示の伝熱流体配合物中に存在し得る。
金属アルキルチオホスフェート、より具体的には、金属成分が亜鉛である金属ジアルキルジチオホスフェート、または亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)は、本開示の伝熱流体の有用な成分であり得る。ZDDPは、第1級アルコール、第2級アルコール、またはそれらの混合物から誘導され得る。ZDDP化合物は、一般的に、式:
Zn[SP(S)(OR1)(OR2)]2
[式中、R1およびR2は、C1-C18アルキル基、好ましくはC2-C12アルキル基である]
のものである。これらのアルキル基は、直鎖または分岐状であり得る。ZDDPに使用されるアルコールは、2-プロパノール、ブタノール、第2級ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、例えば、4-メチル-2-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、アルキル化フェノールなどであり得る。第2級アルコールの混合物または第1級アルコールと第2級アルコールとの混合物が好ましいであろう。アルキルアリール基も使用され得る。
【0101】
市販されている好ましい亜鉛ジチオホスフェートとしては、例えば、Lubrizol Corporationから「LZ 677A」、「LZ 1095」、および「LZ 1371」という商品名で、例えば、Chevron Oroniteから「OLOA 262」という商品名で、および例えば、Afton Chemicalから「HITEC 7169」という商品名で入手可能なものなどの第2級亜鉛ジチオホスフェートが挙げられる。
ZDDPは、典型的には、伝熱流体の総質量に基づいて、約0.4質量パーセント~約1.2質量パーセント、好ましくは約0.5質量パーセント~約1.0質量パーセント、より好ましくは約0.6質量パーセント~約0.8質量パーセントの量で使用されるが、より多くても少なくても、多くの場合で有利に使用することができる。好ましくは、ZDDPは、第2級ZDDPであり、伝熱流体の総質量の約0.6~1.0質量パーセントの量で存在する。
低リン含有伝熱流体配合物が本開示に含まれる。そのような配合物の場合、リン含有量は、典型的には、約0.12質量パーセント未満、好ましくは約0.10質量パーセント未満、最も好ましくは約0.085質量パーセント未満である。
【0102】
本開示において有用な他の例示的な耐摩耗剤としては、例えば、亜鉛アルキルジチオホスフェート、アリールホスフェートおよびホスファイト、硫黄含有エステル、リン硫黄化合物、ならびに金属または無灰ジチオカルバメートが挙げられる。
本開示の伝熱流体における耐摩耗添加剤濃度は、伝熱流体の総質量に基づいて、約0.01~約5質量パーセント、好ましくは約0.1~4.5質量パーセント、より好ましくは約0.2質量パーセント~約4質量パーセントの範囲にあり得る。
他の添加剤
本開示において有用な配合される伝熱流体は、分散剤、清浄剤、粘度調整剤、金属不動態化剤、イオン液体、極圧添加剤、焼付き防止剤、ワックス改質剤、流体損失添加剤、シール適合性剤、潤滑剤、防汚剤、発色剤、泡止め剤、解乳化剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、ゲル化剤、粘着剤、着色剤などを含むがこれらに限定されることはない他の一般的に使用される伝熱流体性能添加剤のうちの1種または複数をさらに含有し得る。多くの一般的に使用される添加剤の概観については、Klamann, Lubricants and Related Products, Verlag Chemie, Deerfield Beach, FL; ISBN 0-89573-177-0を参照し、また、その開示についてその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,704,930号も参照されたい。これらの添加剤は、一般的に、5質量パーセント~50質量パーセントの範囲にあり得る様々な量の希釈油と一緒に送達される。
【0103】
本開示において有用な添加剤は、伝熱流体に可溶である必要はない。油中のステアリン酸亜鉛などの不溶性添加剤を本開示の伝熱流体に分散させることができる。
伝熱流体組成物において本開示と組み合わせて使用される性能添加剤の種類および量は、本明細書で例示として示される例によって限定されることはない。
分散剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の分散剤を含み得る。電気装置構成要素の動作中に、油不溶性の酸化副生成物が生成される。分散剤は、これらの副生成物を溶解状態に保つのに役立ち、したがって、金属表面へのそれらの堆積を減少させる。伝熱流体の配合に使用される分散剤は、本質的に無灰または灰形成性であり得る。好ましくは、分散剤は無灰である。いわゆる無灰分散剤は、燃焼時に実質的に灰を形成しない有機材料である。例えば、非金属含有またはホウ酸化金属不含分散剤は、無灰であると考えられる。
好適な分散剤は、典型的には、比較的高分子量の炭化水素鎖に結合した極性基を含有する。極性基は、典型的には、窒素、酸素、またはリンのうちの少なくとも1種の元素を含有する。典型的な炭化水素鎖は、50~400個の炭素原子を含有する。
【0104】
特に有用なクラスの分散剤は、(ポリ)アルケニルコハク酸誘導体、典型的には、長鎖ヒドロカルビル置換コハク酸化合物、通常はヒドロカルビル置換コハク酸無水物とポリヒドロキシまたはポリアミノ化合物との反応によって生成される(ポリ)アルケニルコハク酸誘導体である。油への溶解性を付与する分子の親油性部分を構成する長鎖ヒドロカルビル基は、通常、ポリイソブチレン基である。この種類の分散剤の多くの例は、商業的にかつ文献で周知である。そのような分散剤を記載している例示的な米国特許は、米国特許第3,172,892号、同第3,2145,707号、同第3,219,666号、同第3,316,177号、同第3,341,542号、同第3,444,170号、同第3,454,607号、同第3,541,012号、同第3,630,904号、同第3,632,511号、同第3,787,374号、および同第4,234,435号である。他の種類の分散剤は、米国特許第3,036,003号、同第3,200,107号、同第3,254,025号、同第3,275,554号、同第3,438,757号、同第3,454,555号、同第3,565,804号、同第3,413,347号、同第3,697,574号、同第3,725,277号、同第3,725,480号、同第3,726,882号、同第4,454,059号、同第3,329,658号、同第3,449,250号、同第3,519,565号、同第3,666,730号、同第3,687,849号、同第3,702,300号、同第4,100,082号、同第5,705,458号に記載されている。分散剤のさらなる記載は、例えば、この目的のために参照される欧州特許出願第471071号で見ることができる。
【0105】
ヒドロカルビル置換コハク酸およびヒドロカルビル置換コハク酸無水物誘導体は、有用な分散剤である。特に、炭化水素置換基中に少なくとも50個の炭素原子を有することが好ましい炭化水素置換コハク酸化合物と、少なくとも1当量のアルキレンアミンとの反応によって調製されるスクシンイミド、スクシネートエステル、またはスクシネートエステルアミドが特に有用である。
スクシンイミドは、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物とアミンとの間の縮合反応によって形成される。モル比は、ポリアミンに応じて異なり得る。例えば、TEPAに対するヒドロカルビル置換コハク酸無水物のモル比は、約1:1~約5:1で変化し得る。代表的な例は、米国特許第3,087,936号、同第3,172,892号、同第3,219,666号、同第3,272,746号、同第3,322,670号、および同第3,652,616号、同第3,948,800号に示されている。
スクシネートエステルは、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物とアルコールまたはポリオールとの間の縮合反応によって形成される。モル比は、使用されるアルコールまたはポリオールに応じて異なり得る。例えば、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物とペンタエリトリトールとの縮合生成物が有用な分散剤である。
【0106】
スクシネートエステルアミドは、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物とアルカノールアミンとの間の縮合反応によって形成される。例えば、好適なアルカノールアミンとしては、エトキシル化ポリアルキルポリアミン、プロポキシル化ポリアルキルポリアミン、およびポリアルケニルポリアミン、例えば、ポリエチレンポリアミンが挙げられる。一例は、プロポキシル化ヘキサメチレンジアミンである。代表的な例は、米国特許第4,426,305号に示されている。
前段落で使用されているヒドロカルビル置換コハク酸無水物の分子量は、典型的には、800~2,500以上の範囲にあるだろう。先の生成物は、硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸、例えば、オレイン酸などの様々な試薬と後反応させることができる。先の生成物はまた、ホウ酸、ボレートエステル、または高度にホウ酸化された分散剤などのホウ素化合物と後反応させて、一般的に分散剤反応生成物1モル当たり約0.1~約5モルのホウ素を有するホウ酸化された分散剤を形成することができる。
【0107】
マンニッヒ塩基分散剤は、アルキルフェノール、ホルムアルデヒド、およびアミンの反応から作製される。参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第4,767,551号を参照されたい。オレイン酸およびスルホン酸などの加工助剤および触媒も、反応混合物の一部であり得る。アルキルフェノールの分子量は、800~2,500の範囲にある。代表的な例は、米国特許第3,697,574号、同第3,703,536号、同第3,704,308号、同第3,751,365号、同第3,756,953号、同第3,798,165号、および同第3,803,039号に示されている。
本開示において有用な典型的な高分子量の脂肪族酸修飾マンニッヒ縮合生成物は、高分子量のアルキル置換ヒドロキシ芳香族物質またはHNR2基含有反応物から調製することができる。
ヒドロカルビル置換アミン無灰分散剤添加剤は、当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,275,554号、同第3,438,757号、同第3,565,804号、同第3,755,433号、同第3,822,209号、および同第5,084,197号を参照されたい。
【0108】
例示的な分散剤としては、モノスクシンイミド、ビススクシンイミド、および/またはモノスクシンイミドとビススクシンイミドとの混合物からの誘導体を含むホウ酸化および非ホウ酸化スクシンイミドが挙げられ、ヒドロカルビルスクシンイミドは、多くの場合に高末端ビニル基を伴って、約500~約5000もしくは約1000~約3000もしくは約1000~約2000のMnを有するポリイソブチレンなどのヒドロカルビレン基、またはそのようなヒドロカルビレン基の混合物から誘導される。他の好ましい分散剤としては、コハク酸エステルおよびアミド、アルキルフェノール-ポリアミン結合マンニッヒ付加物、それらのキャップされた誘導体、および他の関連する成分が挙げられる。
ポリメタクリレートまたはポリアクリレート誘導体は、分散剤の別のクラスである。これらの分散剤は、典型的には、窒素含有モノマーと、エステル基に5~25個の炭素原子を含有するメタクリル酸またはアクリル酸エステルとを反応させることによって調製される。代表的な例は、米国特許第2,100,993号および同第6,323,164号に示されている。ポリメタクリレートおよびポリアクリレート分散剤は、通常、多機能粘度調整剤として使用される。低分子量のバージョンを伝熱流体分散剤または燃料清浄剤として使用することができる。
【0109】
本開示において有用な他の例示的な分散剤としては、ポリアルケニル置換モノまたはジカルボン酸、無水物、またはエステルから誘導された分散剤が挙げられ、この分散剤は、ポリアルケニル部分(中程度の機能性分散剤)1つ当たり、少なくとも900の数平均分子量と、1.3超~1.7個、好ましくは1.3超~1.6個、最も好ましくは1.3超~1.5個の官能基(モノまたはジカルボン酸生成部分)とを有するポリアルケニル部分を有する。機能性(F)は、以下の式:
F=(SAP×Mn)/((112,200×A.I.)-(SAP×98))
[式中、SAPは、けん化価(すなわち、ASTM D94に従って決定される、1グラムのコハク酸含有反応生成物中の酸基の完全な中和において消費されるKOHのミリグラム数)であり、Mnは、出発オレフィンポリマーの数平均分子量であり、A.I.は、コハク酸含有反応生成物の有効成分のパーセントである(残りは、未反応のオレフィンポリマー、コハク酸無水物、および希釈剤である)]
に従って決定することができる。
【0110】
分散剤のポリアルケニル部分は、少なくとも900、好適には少なくとも1500、好ましくは1800~3000、例えば、2000~2800、より好ましくは約2100~2500、最も好ましくは約2200~約2400の数平均分子量を有し得る。分散剤の分子量は、一般的に、ポリアルケニル部分の分子量で表される。これは、分散剤の正確な分子量範囲が、分散剤を誘導するために使用されるポリマーの種類、官能基の数、および用いられる求核基の種類を含む多数のパラメータに依存するためである。
ポリマーの分子量、具体的にはMnは、様々な既知の技術によって決定することができる。1つの好都合な方法としては、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)があり、これはさらに、分子量の分布情報を提供する(W. W. Yau、J. J. Kirkland、and D. D. Bly, ”Modern Size Exclusion Liquid Chromatography”, John Wiley and Sons, New York, 1979を参照)。分子量を決定するための別の有用な方法、特に、低分子量ポリマーのための別の有用な方法は、蒸気圧浸透圧測定法(例えば、ASTM D3592)である。
好ましくは、分散剤中のポリアルケニル部分は、数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比によって決定される、多分散度とも呼ばれる狭い分子量分布(MWD)を有する。2.2未満、好ましくは2.0未満のMw/Mnを有するポリマーが最も望ましい。好適なポリマーは、約1.5~2.1、好ましくは約1.6~約1.8の多分散度を有する。
【0111】
分散剤の形成に用いられる好適なポリアルケンとしては、ホモポリマー、インターポリマー、または低分子量炭化水素が挙げられる。そのようなポリマーのうちの1種のファミリーは、エチレンおよび/または少なくとも1種のC3-C24アルファ-オレフィンのポリマーを含む。好ましくは、そのようなポリマーは、エチレンと先の式の少なくとも1種のアルファ-オレフィンとのインターポリマーを含む。
別の有用なクラスのポリマーは、イソブテンおよびスチレンなどのモノマーのカチオン重合によって調製されるポリマーである。このクラスの一般的なポリマーとしては、35~75質量%のブテン含有量と30~60質量%のイソブテン含有量とを有するC4製油所流の重合によって得られるポリイソブテンが挙げられる。ポリ-n-ブテンを作製するための好ましいモノマー源は、ラフィネートIIなどの石油供給流である。これらの供給原料は、米国特許第4,952,739号などの技術分野で開示されている。好ましい実施形態では、純粋なイソブチレン流またはラフィネートI流から調製されたポリイソブチレンを利用して、末端ビニリデンオレフィンを有する反応性イソブチレンポリマーを調製する。用いられ得るポリイソブテンポリマーは、一般的に、1500~3000のポリマー鎖に基づく。
【0112】
アルケニルまたはアルキル基を含有する分散剤は、約500~約5000のMn値および約1~約5のMw/Mn比を有する。好ましいMn間隔は、濾過性を改善する薬剤の化学的性質に依存する。マレイン酸無水物または他の酸物質もしくは酸形成物質との反応に好適なポリオレフィン系ポリマーとしては、主要量のC2-C5モノオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、およびペンテンを含有するポリマーが挙げられる。非常に好適なポリオレフィン系ポリマーは、ポリイソブテンである。反応物質として好ましいコハク酸無水物は、PIBSA、すなわち、ポリイソブテニルコハク酸無水物である。
分散剤が、コハク酸無水物とポリアミンとの反応生成物を含むスクシンイミドを含有する場合、反応物質としての役割を果たすコハク酸無水物のアルケニルまたはアルキル置換基は、好ましくは、約1200~約2500のMn値を有する重合イソブテンからなる。より有利には、反応物質としての役割を果たすコハク酸無水物のアルケニルまたはアルキル置換基は、約2100~約2400のMn値を有する重合イソブテンからなる。濾過性を改善する薬剤が、コハク酸無水物と脂肪族多価アルコールとの反応生成物を含むコハク酸のエステルを含有する場合、反応物質としての役割を果たすコハク酸無水物のアルケニルまたはアルキル置換基は、有利には、500~1500のMn値を有する重合イソブテンからなる。優先的には、850~1200のMn値を有する重合イソブテンが使用される。
【0113】
アミドは、モノまたはポリカルボン酸のアミドまたはそれらの反応性誘導体であり得る。アミドは、約6~約90個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基を特徴とし得、それぞれ、独立的に、水素であるか、またはヒドロカルビル、アミノヒドロカルビル、ヒドロキシヒドロカルビルもしくは複素環式置換ヒドロカルビル基であるが、ただし、どちらも水素であるわけではなく、それぞれ、独立的に、約10個までの炭素原子を含有するヒドロカルビレン基である。
アミドは、モノカルボン酸、6~約30個または38個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基から誘導することができ、より多くは、12~約24個の炭素原子を含有する脂肪酸から誘導されたヒドロカルビル基であろう。
ジまたはトリカルボン酸から誘導された例示的なアミドは、ポリカルボン酸の種類に応じて、6~約90個以上の炭素原子を含有するであろう。例えば、アミドがダイマー酸から誘導される場合、約18~約44個以上の炭素原子を含有し、トリマー酸から誘導されたアミドは、一般的に、平均約44~約90個の炭素原子を含有するであろう。それぞれ、独立的に、水素であるか、または約10個までの炭素原子を含有するヒドロカルビル、アミノヒドロカルビル、ヒドロキシヒドロカルビルもしくは複素環式置換炭化水素基である。これは、独立的に、複素環式置換基がピロール、ピロリン、ピロリジン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ピリジン、ピペコリンなどから誘導された、複素環式置換ヒドロカルビル基であり得る。具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ヘキシル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、2-エチルピリジン、1-エチルピロリジン、1-エチルピペリジンなどが挙げられる。
【0114】
例示的な脂肪族モノアミンとしては、モノ脂肪族およびジ脂肪族置換アミンが挙げられ、脂肪族基は、飽和または不飽和であり得、かつ直鎖または分岐鎖であり得る。そのようなアミンとしては、例えば、モノおよびジアルキル置換アミン、モノおよびジアルケニル置換アミンなどが挙げられる。そのようなモノアミンの具体例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、イソブチルアミン、ココアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環式置換脂肪族アミンの例は、2-(シクロヘキシル)-エチルアミンである。複素環式置換脂肪族アミンの例としては、2-(2-アミノエチル)-ピロール、2-(2-アミノエチル)-1-メチルピロール、2-(2-アミノエチル)-1-メチルピロリジンおよび4-(2-アミノエチル)モルホリン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペリジン、2-(2-アミノエチル)ピリジン、1-(2-アミノエチル)ピロリジン、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、3-(2-アミノプロピル)インドール、4-(3-アミノプロピル)モルホリン、1-(3-アミノプロピル)-2-ピペコリン、1-(3-アミノプロピル)-2-ピロリジノンなどが挙げられる。
【0115】
例示的な脂環式モノアミンは、環状環構造中の炭素原子を介してアミノ窒素に直接結合した1個の脂環式置換基が存在するモノアミンである。脂環式モノアミンの例としては、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキセニルアミン、シクロペンテニルアミン、N-エチル-シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどが挙げられる。脂肪族置換、芳香族置換、および複素環式置換脂環式モノアミンの例としては、プロピル置換シクロヘキシルアミン、フェニル置換シクロペンチルアミン、およびピラニル置換シクロヘキシルアミンが挙げられる。
例示的な芳香族アミンとしては、芳香環構造の炭素原子がアミノ窒素に直接結合しているモノアミンが挙げられる。芳香環は、通常、単核芳香環(すなわち、ベンゼン由来のもの)であるが、縮合芳香環、特にナフタレン由来のものを含んでいてもよい。芳香族モノアミンの例としては、アニリン、ジ-(パラ-メチルフェニル)アミン、ナフチルアミン、N-(n-ブチル)-アニリンなどが挙げられる。脂肪族置換、脂環式置換、および複素環式置換芳香族モノアミンの例は、パラ-エトキシ-アニリン、パラ-ドデシルアニリン、シクロヘキシル置換ナフチルアミン、様々に置換されたフェノチアジン(phenathiazines)、およびチエニル置換アニリンである。
【0116】
例示的なポリアミンは、それらの構造内にさらなるアミノ窒素が存在することを除いて、上記のモノアミンに類似した脂肪族、脂環式、および芳香族ポリアミンである。さらなるアミノ窒素は、第1級、第2級、または第3級アミノ窒素であり得る。そのようなポリアミンの例としては、N-アミノ-プロピル-シクロヘキシルアミン、N,N’-ジ-n-ブチル-パラフェニレンジアミン、ビス-(パラ-アミノフェニル)メタン、1,4-ジアミノシクロヘキサンなどが挙げられる。
例示的なヒドロキシ置換アミンは、カルボニル炭素原子以外の炭素原子に直接結合したヒドロキシ置換基を有するものであり、すなわち、これらは、アルコールとして機能することができるヒドロキシ基を有する。そのようなヒドロキシ置換アミンの例としては、エタノールアミン、ジ-(3-ヒドロキシプロピル)-アミン、3-ヒドロキシブチル-アミン、4-ヒドロキシブチル-アミン、ジエタノールアミン、ジ-(2-ヒドロキシアミン、N-(ヒドロキシプロピル)-プロピルアミン、N-(2-メチル)-シクロヘキシルアミン、3-ヒドロキシシクロペンチルパラヒドロキシアニリン、N-ヒドロキシエチルピペラジン(N-hydroxyethal piperazine)などが挙げられる。
【0117】
一実施形態では、アミンは、水素を含むか、または約10個までの炭素原子を含有するヒドロカルビル、アミノヒドロカルビル、ヒドロキシヒドロカルビルもしくは複素環式置換ヒドロカルビル基を含む、アルキレンポリアミンである。そのようなアルキレンポリアミンの例としては、メチレンポリアミン、エチレンポリアミン、ブチレンポリアミン、プロピレンポリアミン、ペンチレンポリアミン、ヘキシレンポリアミン、ヘプチレンポリアミンなどが挙げられる。
アルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ジ(ヘプタメチレン)トリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(トリメチレン)トリアミンなどが挙げられる。前述のポリアミンのうちのいずれかの2種以上の混合物と同様に、2種以上の先に説明したアルキレンアミンを縮合することによって得られるようなより高級な同族体が有用である。
【0118】
先に述べたものなどのエチレンポリアミンは、費用および有効性の理由から特に有用である。そのようなポリアミンは、”Diamines and Higher Amines”という見出しで、The Encyclopedia of Chemical Technology, Second Edition, Kirk and Othmer, Volume 7, pages 27-39, Interscience Publishers, Division of John Wiley and Sons, 1965に詳細に説明されており、これは、有用なポリアミンの開示のために参照によって本明細書に組み込まれる。そのような化合物は、アルキレンクロリドとアンモニアとの反応またはエチレンイミンとアンモニアなどの開環試薬との反応などによって最も好都合に調製される。これらの反応は、ピペラジンなどの環状縮合生成物を含むアルキレンポリアミンのいくらか複雑な混合物の生成をもたらす。
【0119】
他の有用な種類のポリアミン混合物は、上記のポリアミン混合物のストリッピングから得られるものである。この場合、低分子量ポリアミンおよび揮発性汚染物質がアルキレンポリアミン混合物から除去され、しばしば「ポリアミン缶出液」と呼ばれるものが残留物として残る。一般的に、アルキレンポリアミン缶出液は、約200℃未満で沸騰する物質が、2質量%未満、通常は1質量%未満であることを特徴とし得る。容易に入手可能であり、非常に有用であると分かっているエチレンポリアミン缶出液の場合、缶出液は、約2%(質量)未満の総ジエチレントリアミン(DETA)またはトリエチレンテトラミン(TETA)しか含有していない。Dow Chemical Company of Freeport,Tex.から得られるそのようなエチレンポリアミン缶出液の典型的な試料は、「E-100」と表した。そのような試料のガスクロマトグラフィー分析は、これが、約0.93%の「ライトエンド」(高い確率でDETA)、0.72%のTETA、21.74%のテトラエチレンペンタミン、および76.61%のペンタエチレンヘキサミン、ならびにより高級なもの(質量)を含有することを示した。これらのアルキレンポリアミン缶出液は、環状縮合生成物、例えば、ピペラジンや、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンのより高級な類似体などを含む。
【0120】
例示的な分散剤は、高分子量フェノールと、アルキレンポリアミンと、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドとの縮合反応生成物であるマンニッヒ塩基;有機ヒドロキシ化合物および/またはアミンとさらに反応させたオレフィンポリマーとコハク酸アシル化剤(酸、無水物、エステル、またはハロゲン化物)との反応生成物であるコハク酸系分散剤;高分子量アミドおよびエステル、例えば、ヒドロカルビルアシル化剤と多価脂肪族アルコール(例えば、グリセロール、ペンタエリトリトール、またはソルビトール)との反応生成物から選択される。分散させるべき粒子と結合する極性官能基に連結した油溶性の高分子量の骨格を通常含有する無灰(金属不含)ポリマー材料が、典型的には分散剤として使用される。酢酸亜鉛キャップされた、また任意に処理された分散剤は、約0.1%から10~20%以上までの範囲の処理率で、ホウ酸化された環状カーボネート、エンドキャップされたポリアルキレンマレイン酸無水物など;先のもののいくつかの混合物を含む。一般的に使用される炭化水素骨格材料は、オレフィンポリマーおよびコポリマー、すなわち、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、スチレンであり、ポリマーの骨格に組み込まれる300tp~5000の範囲の分子量のさらなる官能基がある場合またはない場合がある。アミン、アルコール、アミド、またはエステルなどの極性物質は、架橋を介して骨格に結合している。
分散剤は、好ましくは非ポリマー性(例えば、モノまたはビススクシンイミド)である。そのような分散剤は、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2008/0020950号に開示されているような従来のプロセスによって調製することができる。
分散剤は、米国特許第3,087,936号、同第3,254,025号、および同第5,430,105号に一般的に開示されているように、従来の手段によってホウ酸化させることができる。
【0121】
そのような分散剤は、約0.01~20質量パーセントまたは0.01~10質量パーセント、好ましくは約0.5~8質量パーセント、またはより好ましくは0.5~4質量パーセントの量で使用され得る。または、そのような分散剤は、約2~12質量パーセント、好ましくは約4~10質量パーセント、もしくはより好ましくは6~9質量パーセントの量で使用され得る。活性成分ベースで、そのような添加剤は、約0.06~14質量パーセント、好ましくは約0.3~6質量パーセントの量で使用され得る。分散剤原子の炭化水素部分は、C60-C1000、またはC70-C300、またはC70-C200の範囲にあり得る。これらの分散剤は、中性窒素および塩基性窒素の両方、ならびに両方の混合物を含有し得る。分散剤をボレートおよび/または環状カーボネートによってエンドキャップすることができる。完成した油中の窒素含有量は、約200質量ppm~約2000質量ppm、好ましくは約200質量ppm~約1200質量ppmで変化し得る。塩基性窒素は、約100質量ppm~約1000質量ppm、好ましくは約100質量ppm~約600質量ppmで変化し得る。
本明細書で使用される場合、分散剤濃度は、「送達時」ベースで与えられる。典型的には、活性分散剤は、プロセスオイルと一緒に送達される。「送達時」の分散剤は、典型的には、「送達時」の分散剤製品中に、約20質量パーセント~約80質量パーセントまたは約40質量パーセント~約60質量パーセントの活性分散剤を含有する。
【0122】
清浄剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の清浄剤を含み得る。本開示において有用な清浄剤の例としては、例えば、アルカリ金属清浄剤、アルカリ土類金属清浄剤、または1種もしくは複数のアルカリ金属清浄剤と1種もしくは複数のアルカリ土類金属清浄剤との混合物が挙げられる。典型的な清浄剤は、分子の長鎖疎水性部分と分子のより小さなアニオン性または疎油性の親水性部分とを含有するアニオン性材料である。清浄剤のアニオン性部分は、典型的には、硫黄酸、カルボン酸(例えば、サリチル酸)、リン酸、フェノール、またはそれらの混合物などの有機酸から誘導される。対イオンは、典型的には、アルカリ土類またはアルカリ金属である。
清浄剤は、好ましくは、有機酸または無機酸の金属塩、フェノールの金属塩、またはそれらの混合物である。金属は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらの混合物から選択される。有機または無機酸は、脂肪族有機または無機酸、脂環式有機または無機酸、芳香族有機または無機酸、およびそれらの混合物から選択される。
【0123】
金属は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらの混合物から選択される。より好ましくは、金属は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、およびそれらの混合物から選択される。
有機酸または無機酸は、好ましくは、硫黄酸、カルボン酸、リン含有酸、およびそれらの混合物から選択される。
好ましくは、有機もしくは無機酸の金属塩またはフェノールの金属塩は、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムサリチレート、マグネシウムフェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムサリチレート、およびそれらの混合物を含む。
実質的に化学量論量の金属を含有する塩は、中性塩として記載され、0~80の総塩基価(TBN、ASTM D2896によって測定)を有する。多くの組成物は、過塩基性であり、過剰の金属化合物(例えば、金属水酸化物または酸化物)と酸性ガス(例えば、二酸化炭素)とを反応させることによって達成される大量の金属塩基を含有する。有用な清浄剤は、中性、わずかに過塩基性、または高度に過塩基性であり得る。これらの清浄剤は、中性、過塩基性、高度に過塩基性のカルシウムサリチレート、スルホネート、フェネートおよび/またはマグネシウムサリチレート、スルホネート、フェネートの混合物に使用することができる。TBN範囲は、0もの低さから600もの高さまでを含む、低、中、高TBNの製品と様々であり得る。好ましくは、清浄剤によって送達されるTBNは、1~20の間にある。より好ましくは、1~12の間にある。低、中、高TBNの混合物を、カルシウムおよびマグネシウム金属系清浄剤の混合物と共に使用することができ、これには、スルホネート、フェネート、サリチレート、およびカルボキシレートが含まれる。金属比1の清浄剤混合物は、金属比2の清浄剤および金属比5もの高さの清浄剤と組み合わせて使用することができる。ホウ酸化された清浄剤も使用することができる。
【0124】
アルカリ土類金属フェネートは、清浄剤の別の有用なクラスである。これらの清浄剤は、アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物(例えば、CaO、Ca(OH)2、BaO、Ba(OH)2、MgO、Mg(OH)2)とアルキルフェノールまたは硫化アルキルフェノールとを反応させることによって作製することができる。有用なアルキル基としては、直鎖または分岐状のC1-C30アルキル基、好ましくはC4-C20、またはそれらの混合物が挙げられる。好適なフェノールの例としては、イソブチルフェノール、2-エチルヘキシルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノールなどが挙げられる。出発アルキルフェノールは、それぞれ独立的に直鎖または分岐状であり、かつ0.5~6質量パーセントで使用され得る1個より多くのアルキル置換基を含有し得ることに留意されたい。非硫化アルキルフェノールを使用する場合、硫化生成物は、当技術分野で周知の方法によって得ることができる。これらの方法は、アルキルフェノールと硫化剤(元素硫黄、二塩化硫黄などのハロゲン化硫黄などを含む)との混合物を加熱し、次いで、硫化フェノールとアルカリ土類金属塩基とを反応させることを含む。
【0125】
カルボン酸の金属塩は、有用な清浄剤である。これらのカルボン酸清浄剤は、塩基性金属化合物と少なくとも1種のカルボン酸とを反応させ、反応生成物から遊離水を除去することによって調製することができる。サリチル酸から作製された清浄剤は、カルボン酸から誘導された清浄剤の1つの好ましいクラスである。有用なサリチレートとしては、長鎖アルキルサリチレートが挙げられる。組成物の1種の有用なファミリーは、式:
【化4】
[式中、Rは、1~約30個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、Mは、アルカリ土類金属である]
のものである。好ましいR基は、少なくともC11、好ましくはC13以上のアルキル鎖である。Rは、清浄剤の機能を妨害しない置換基で置換されてもよい。Mは、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、またはバリウムである。より好ましくは、Mは、カルシウムである。
【0126】
ヒドロカルビル置換サリチル酸は、コルベ反応によってフェノールから調製することができる(米国特許第3,595,791号を参照)。ヒドロカルビル置換サリチル酸の金属塩は、水またはアルコールなどの極性溶媒中で金属塩を二重分解することによって調製することができる。
アルカリ土類金属ホスフェートも清浄剤として使用され、当技術分野で公知である。
清浄剤は、単純な清浄剤であっても、またはハイブリッドもしくは複合清浄剤として知られているものであってもよい。後者の清浄剤は、別々の材料をブレンドする必要なく、2種の清浄剤の特性を提供することができる。米国特許第6,034,039号を参照されたい。
【0127】
例示的な清浄剤としては、カルシウムアルキルサリチレート、カルシウムアルキルフェネート、およびカルシウムアルカリールスルホネートが挙げられ、使用される代替的な金属イオンは、例えば、マグネシウム、バリウム、またはナトリウムである。使用され得る洗浄剤および分散剤の例としては、金属系清浄剤、例えば、中性および塩基性のアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネートおよびアルカリ土類金属サリチレート、アルケニルスクシンイミドおよびアルケニルスクシンイミドエステル、ならびにそれらのホウ素水素化物、フェネート、サリエニウス錯体清浄剤、ならびに硫黄化合物で改変された無灰分散剤が挙げられる。これらの薬剤は、ベースオイル100質量部当たり0.01~1質量部の範囲の量で、個別に、または混合物の形態で好都合に添加および使用することができ、これらはまた、高TBN、低TBN、または高/低TBNの混合物であり得る。
好ましい清浄剤としては、カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、カルシウムサリチレート、マグネシウムサリチレート、カルシウムフェネート、マグネシウムフェネート、および他の関連成分(ホウ酸化された清浄剤を含む)、ならびにそれらの混合物が挙げられる。清浄剤の好ましい混合物としては、マグネシウムスルホネートとカルシウムサリチレート、マグネシウムスルホネートとカルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネートとカルシウムフェネート、カルシウムフェネートとカルシウムサリチレート、カルシウムフェネートとカルシウムスルホネート、カルシウムフェネートとマグネシウムサリチレート、カルシウムフェネートとマグネシウムフェネートが挙げられる。
【0128】
本開示の伝熱流体における清浄剤濃度は、伝熱流体の総質量に基づいて、約0.01~約10質量パーセント、好ましくは約0.1~7.5質量パーセント、より好ましくは約0.5質量パーセント~約5質量パーセントの範囲にあり得る。
本明細書で使用される場合、清浄剤濃度は、「送達時」ベースで与えられる。典型的には、活性清浄剤は、プロセスオイルと一緒に送達される。「送達時」の清浄剤は、典型的には、「送達時」の清浄剤製品中に、約20質量パーセント~約100質量パーセントまたは約40質量パーセント~約60質量パーセントの活性清浄剤を含有する。
粘度調整剤
粘度調整剤(粘度指数向上剤(VI向上剤)および粘度向上剤としても知られている)を本開示の伝熱流体組成物に含めることができる。
粘度調整剤は、伝熱流体に高温および低温動作性を提供する。これらの添加剤は、高温での剪断安定性および低温での許容可能な粘度を付与する。
【0129】
好適な粘度調整剤は、高分子量の炭化水素と、ポリエステルと、粘度調整剤および分散剤の両方として機能する粘度調整剤分散剤とを含む。これらのポリマーの典型的な分子量は、約10,000~1,500,000の間、より典型的には約20,000~1,200,000の間、さらにより典型的には約50,000~1,000,000の間にある。
好適な粘度調整剤の例は、線状または星形のポリマー、およびメタクリレート、ブタジエン、オレフィンまたはアルキル化スチレンのコポリマーである。ポリイソブチレンは、一般的に使用される粘度調整剤である。別の好適な粘度調整剤は、ポリメタクリレート(例えば、様々な鎖長のアルキルメタクリレートのコポリマー)であり、そのいくつかの配合物は、流動点降下剤としても機能する。他の好適な粘度調整剤としては、エチレンとプロピレンとのコポリマー、スチレンとイソプレンとの水素化ブロックコポリマー、およびポリアクリレート(例えば、様々な鎖長のアクリレートのコポリマー)が挙げられる。具体的な例としては、分子量50,000~200,000のスチレン-イソプレンまたはスチレン-ブタジエン系ポリマーが挙げられる。
【0130】
オレフィンコポリマーは、Chevron Oronite Company LLCから「PARATONE(登録商標)」(例えば、「PARATONE(登録商標)8921」および「PARATONE(登録商標)8941」)という商品名で、Afton Chemical Corporationから「HiTEC(登録商標)」(例えば、「HiTEC(登録商標)5850B」)という商品名で、およびLubrizol Corporationから「Lubrizol(登録商標)7067C」という商品名で市販されている。水素化されたポリイソプレン星形ポリマーは、Infineum International Limitedから例えば「SV200」および「SV600」という商品名で市販されている。水素化されたジエン-スチレンブロックコポリマーは、Infineum International Limitedから例えば「SV50」という商品名で市販されている。
ポリメタクリレートまたはポリアクリレートポリマーは、Evnoik Industriesから「Viscoplex(登録商標)」(例えば、Viscoplex 6-954)という商品名で入手可能な線状ポリマー、またはLubrizol CorporationからAsteric(商標)(例えば、Lubrizol 87708およびLubrizol 87725)という商品名で入手可能な星形ポリマーであり得る。
【0131】
本開示において有用な例示的なビニル芳香族物質含有ポリマーは、主にビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導され得る。本開示において有用な例示的なビニル芳香族物質含有コポリマーは、以下の一般式:
A-B
[式中、Aは、主にビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されたポリマーブロックであり、Bは、主に共役ジエンモノマーから誘導されたポリマーブロックである]
によって表すことができる。
本開示の一実施形態では、粘度調整剤は、約10質量パーセント未満、好ましくは約7質量パーセント未満、より好ましくは約4質量パーセント未満の量で使用され得、特定の例では、配合される伝熱流体の総質量に基づいて、2質量パーセント未満、好ましくは約1質量パーセント未満、より好ましくは約0.5質量パーセント未満で使用され得る。粘度調整剤は、典型的には、濃縮物として大量の希釈油に添加される。
粘度調整剤は、伝熱流体組成物の総質量に基づいて、0.01~20質量%、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~7.5質量%、さらにより好ましくは1~5質量%(受取時ベース)の量で使用され得る。
【0132】
本明細書で使用される場合、粘度調整剤濃度は、「送達時」ベースで与えられる。典型的には、活性ポリマーは、希釈油と一緒に送達される。「送達時」の粘度調整剤は、「送達時」のポリマー濃縮物において、典型的には、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートポリマーについて20質量パーセント~75質量パーセントの活性ポリマー、またはオレフィンコポリマー、水素化されたポリイソプレン星形ポリマーもしくは水素化されたジエン-スチレンブロックコポリマーについて8質量パーセント~20質量パーセントの活性ポリマーを含有する。
金属不動態化剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の金属不動態化剤を含み得る。金属不動態化剤/不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジアルキル-2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール;N,N’-ジサリチリデンエチレンジアミン、N,N’-ジサリチリデンプロピレンジアミン;亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、およびジアルキルジチオカルバメートが挙げられる。
【0133】
本開示のいくつかの実施形態は、黄色金属不動態化剤をさらに含み得る。本明細書で使用される場合、「黄色金属」とは、真鍮および青銅合金、アルミニウム青銅、リン青銅、銅、銅ニッケル合金、およびベリリウム銅を含む冶金学的グループを指す。典型的な黄色金属不動態化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トツトリアゾール、トリルトリアゾール、ナトリウムトルトリアゾールとトリルトリアゾールとの混合物、およびそれらの組み合わせが挙げられる。1つの特定の非限定的な実施形態では、トリルトリアゾールを含有する化合物が選択される。典型的な商業的な黄色金属不動態化剤としては、現在BASEの一部であるCiba Specialty Chemicalsから入手可能なIRGAMET(商標)-30およびIRGAMET(商標)-42、ならびにR.T.Vanderbilt Company,Inc.から入手可能なVANLUBE(商標)601および704、およびCUVAN(商標)303および484が挙げられる。
本開示の伝熱流体における金属不動態化剤濃度は、伝熱流体の総質量に基づいて、約0.01~約5.0質量パーセント、好ましくは約0.01~3.0質量パーセント、より好ましくは約0.01質量パーセント~約1.5質量パーセントの範囲にあり得る。
【0134】
イオン液体(IL)
イオン液体は、好ましくは室温で液体であり、かつ/または定義上100℃未満の融点を有する、いわゆる塩溶融物である。これらは、ほとんど蒸気圧を有さず、したがって、空洞化特性を有さない。さらに、イオン液体中のカチオンおよびアニオンの選択によって、伝熱流体の寿命が増加し、電気伝導率を調整することによって、これらの液体を、電荷の蓄積がある機器、例えば、電動車両構成要素において使用することができる。イオン液体に好適なカチオンとしては、第4級アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、オキサゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、グアニジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、トリアルキルスルホニウムカチオン、またはトリアゾリウムカチオンが挙げられ、これは、[PF6-、[BF431、[CF3CO231、[CF3SO3-およびそのより高級な同族体、[C49--SO331または[C817--SO3-およびより高級なペルフルオロアルキルスルホネート、[(CF3SO22N]-、[(CF3SO2)(CF3COO)N]-、[R1--SO3-、[R1--O--SO331、[R1--COO]-、Cr-、Br-、[NO3-、[N(CN)2-、[HSO4-、PF(6-x)3 xまたは[R12PO4-からなる群から選択されるアニオンで置換され得、ラジカルR1およびR2は、互いに独立的に、水素;1~20個の炭素原子を有する線状または分岐状、飽和または不飽和、脂肪族または脂環式アルキル基;ヘテロアリールラジカル中に3~8個の炭素原子を有し、かつN、OおよびSのうちの少なくとも1個のヘテロ原子を有し、C1-C6アルキル基および/またはハロゲン原子から選択される少なくとも1個の基と組み合わされ得る、ヘテロアリール、ヘテロアリール-C1-C6-アルキル基;アリールラジカル中に5~12個の炭素原子を有し、少なくとも1個のC1-C6アルキル基によって置換され得るアリール-アリールC1-C6アルキル基から選択され;R3は、ペルフルオロエチル基またはより高級なペルフルオロアルキル基であり得、xは、1~4である。しかしながら、他の組み合わせも可能である。
【0135】
高度にフッ素化されたアニオンを有するイオン液体は、それらが通常、高い熱安定性を有するため、特に好ましい。水分吸収能力は、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(bis(trifluoromethylsutfonyl)imide anion)の場合、そのようなアニオンによって確実に低下するであろう。
例示的なイオン液体としては、例えば、ブチルメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(MBPイミド)、メチルプロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(MPPイミド)、ヘキシルメチルイミダゾリウムトリス(ペルフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(HMIMPFET)、ヘキシルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(HMIMイミド)、ヘキシルメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(HMP)、テトラブチルホスホニウムトリス(ペルフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(BuPPFET)、オクチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(OMIM PF6)、ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメチル)スルホニルイミド(Hpyイミド)、メチルトリオクチルアンモニウムトリフルオロアセテート(MOAac)、ブチルメチルピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(MBPPFET)、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(HPDイミド)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムエチルスルフェート(EMIMエチルスルフェート)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMIMイミド)、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMMIMイミド)、N-エチル-3-メチルピリジニウムノナフルオロブタンスルホネート(EMPyflate)、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(2,4,4-トリフルオロメチルペンチル)ホスフィネート、トリブチル(テトラデシル)ホスホニウムドデシルベンゼンスルホネートなどが挙げられる。
【0136】
イオン液体をもたらすカチオン/アニオンの組み合わせとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、およびホスホニウムなどと、有機アニオン、例えば、スルホネート、イミド、メチドなど、ならびに無機アニオン、例えば、ハロゲン化物およびホスフェートなどが挙げられ、そのため、低融点が達成可能であるカチオンとアニオンとのその他の組み合わせも考えられる。イオン液体は、それらの化学構造に応じて、極めて低い蒸気圧を有し、不燃性であり、多くの場合、260℃超までの熱安定性を有し、さらに伝熱流体として好適でもある。
【0137】
伝熱流体のそれぞれの所望の特性は、カチオンおよびアニオンの好適な選択を通じてイオン液体によって達成される。これらの所望の特性としては、伝熱流体の電気伝導率を調整して使用領域を広げること、伝熱流体の使用寿命を増加させること、および粘度を調整して温度適合性を改善することが挙げられる。イオン液体に好適なカチオンは、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミド、ペルフルオロアルキルスルホネート、トリス(ペルフルオロアルキル)メチデン、ビス(ペルフルオロアルキル)イミデン、ビス(ペルフルオロアリール)イミド、ペルフルオロアリールペルフルオロアルキルスルホニルイミドおよびトリス(ペルフルオロアルキル)トリフルオロホスフェートから選択されるフッ素含有アニオンと、またはハロゲン不含アルキルスルフェートアニオンと組み合わされ得る、ホスホニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、またはピロリジニウムカチオンであることが証明されている。
【0138】
高度にフッ素化されたアニオンを有するイオン液体が好ましい。なぜなら、これらは、通常、高い熱安定性を有するからである。水分吸収能力は、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アニオンを使用する場合、そのようなアニオンによって大幅に低下するであろう。
一実施形態では、そのようなイオン液体添加剤は、約0.1~10質量パーセント、好ましくは0.5~7.5質量パーセント、より好ましくは約0.75~5質量パーセントの量で使用され得る。
帯電防止添加剤
電気装置構成要素では、特に伝熱流体が使用中であるときに静電気が生じる。その危険を低減するために、導電性帯電防止添加剤を伝熱流体全体に添加および分配することができる。この伝熱流体は、それによって、静電気の蓄積からのベースストックの局所的分解および安全上の問題に関連するその性能の低下を回避するであろう。
石油蒸留物でもある「帯電防止流体」または「帯電防止添加剤」と呼ばれるクラスの製品を添加して、伝熱流体の伝導率を、安全なレベルに、例えば、メートル伝導率当たり100ピコジーメンス以上に調整することができる。伝導率を、所望のレベル、すなわち、炭化水素1,000ガロン当たり約10~30ミリリットルに上げるためには、非常に少量のこれらの帯電防止流体が必要とされる。
【0139】
本開示の別の特徴によると、帯電防止添加剤は、伝熱流体との材料の化学的適合性の能力と、伝熱流体の期待される用途のための所望のレベルに伝熱流体の伝導率を調整することの費用対効果とに基づいて、市販の材料の集団から選択される。
典型的な帯電防止流体は、Exxsol(商標)流体として知られている脱芳香族炭化水素流体のExxonMobil(商標)Chemicalのラインである。代表的な流体およびそれらの蒸留点としては、Exxsol(商標)帯電防止流体ヘキサン(最小65IBP(℃)、最大71DP(℃)、および添加剤量30ml/1000gal)、D40(最小150IBP(℃)、最大210DP(℃)、および添加剤量30ml/1000gal)、D3135(最小152IBP(℃)、最大182DP(℃)、および添加剤量10ml/1000gal)、およびD60(最小177IBP(℃)、最大220DP(℃)、および添加剤量30ml/1000gal)が挙げられる。IBPは、材料の1%が蒸留される温度であり、DPは、材料の96%が蒸留される温度である。
他の例示的な帯電防止剤は、長鎖脂肪族アミン(エトキシル化されてもよい)およびアミド、第4級アンモニウム塩(例えば、ベヘントリモニウムクロリドまたはコカミドプロピルベタイン)、リン酸のエステル、ポリエチレングリコールエステル、またはポリオールをベースとする。さらなる帯電防止剤としては、長鎖アルキルフェノール、エトキシル化アミン、グリセロールモノステアレートなどのグリセロールエステル、アミド、グリコール、および脂肪酸が挙げられる。
【0140】
伝熱流体の伝導率を調整するために必要な帯電防止添加剤の量は、帯電防止添加剤が混合される際の伝熱流体の伝導率を測定し、その用途に一致する所望の伝導率に達したときに停止することによって決定される。混合される帯電防止剤の量は、伝熱流体の0.001質量%~10質量%、優先的には1質量%~7.5質量%の範囲にあるが、これは、10~100,000ppmの液体体積で混合されてもよい。
流動点降下剤(PPD)
必要に応じて、従来の流動点降下剤(潤滑油流動向上剤としても知られている)を本開示の伝熱流体組成物に添加してもよい。これらの流動点降下剤は、流体が流動するか、または注ぐことが可能な最低温度を低下させるために、本開示の伝熱流体組成物に添加され得る。好適な流動点降下剤の例としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物との縮合生成物、ビニルカルボキシレートポリマー、ならびにジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステルおよびアリルビニルエーテルのターポリマーが挙げられる。米国特許第1,815,022号、同第2,015,748号、同第2,191,498号、同第2,387,501号、同第2,655,479号、同第2,666,746号、同第2,721,877号、同第2,721,878号、および同第3,250,715号には、有用な流動点降下剤および/またはそれらの調製が記載されている。そのような添加剤は、約0.01~5質量パーセント、好ましくは0.1~3質量パーセント、より好ましくは約0.5~1.5質量パーセントの量で使用され得る。
【0141】
シール適合性剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種のシール適合性剤を含み得る。シール適合性剤は、流体中で化学反応を、またはエラストマー中で物理的変化をもたらすことによって、エラストマー性シールを膨張させるのに役立つ。伝熱流体に好適なシール適合性剤としては、有機ホスフェート、芳香族エステル、芳香族炭化水素、エステル(例えば、ブチルベンジルフタレート)、およびポリブテニルコハク酸無水物が挙げられる。そのような添加剤は、約0.01~5質量パーセント、好ましくは0.1~3質量パーセント、より好ましくは約0.5~1.5質量パーセントの量で使用され得る。
摩擦調整剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の摩擦調整剤を含み得る。摩擦調整剤は、表面の摩擦係数を変更することができる任意の材料である。摩擦低減剤、または潤滑剤もしくは油性剤としても知られている摩擦調整剤、およびベースオイル、配合される伝熱流体組成物もしくは機能性流体の能力を変化させて表面の摩擦係数を調整する他のそのような薬剤は、必要に応じて、本開示のベースオイルまたは伝熱流体組成物と組み合わせて効果的に使用され得る。摩擦係数を低下させる摩擦調整剤は、本開示のベースオイルおよび潤滑油組成物と組み合わせると特に有利である。
【0142】
例示的な摩擦調整剤としては、例えば、有機金属化合物もしくは材料、またはそれらの混合物が挙げられ得る。本開示の伝熱流体配合物において有用な例示的な有機金属摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンアミン、モリブデンジアミン、有機タングステネート、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンアミン錯体、モリブデンカルボキシレートなど、およびそれらの混合物が挙げられる。同様のタングステンベースの化合物が好ましい場合がある。
本開示の伝熱流体配合物において有用な他の例示的な摩擦調整剤としては、例えば、アルコキシル化脂肪酸エステル、アルカノールアミド、ポリオール脂肪酸エステル、ホウ酸化グリセロール脂肪酸エステル、脂肪アルコールエーテル、およびそれらの混合物が挙げられる。
例示的なアルコキシル化脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンステアレート、脂肪酸ポリグリコールエステルなどが挙げられる。これらとしては、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシブチレンステアレート、ポリオキシエチレンイソステアレート、ポリオキシプロピレンイソステアレート、ポリオキシエチレンパルミテートなどが挙げられ得る。
【0143】
例示的なアルカノールアミドとしては、例えば、ラウリン酸ジエチルアルカノールアミド、パルミチン酸ジエチルアルカノールアミド(palmic acid diethylalkanolamide)などが挙げられる。これらとしては、オレイン酸ジエチルアルカノールアミド、ステアリン酸ジエチルアルカノールアミド、オレイン酸ジエチルアルカノールアミド、ポリエトキシル化ヒドロカルビルアミド、ポリプロポキシル化ヒドロカルビルアミドなどが挙げられ得る。
例示的なポリオール脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセロールモノオレエート、飽和モノ、ジおよびトリグリセリドエステル、グリセロールモノステアレートなどが挙げられる。これらとしては、ポリオールエステル、ヒドロキシル含有ポリオールエステルなどが挙げられ得る。
【0144】
例示的なホウ酸化グリセロール脂肪酸エステルとしては、例えば、ホウ酸化グリセロールモノオレエート、ホウ酸化飽和モノ、ジおよびトリグリセリドエステル、ホウ酸化グリセロールモノステレートなどが挙げられる。グリセロールポリオールに加えて、これらとしては、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビタンなどが挙げられ得る。これらのエステルは、ポリオールモノカルボキシレートエステル、ポリオールジカルボキシレートエステル、場合によってポリオールトリカルボキシレートエステルであり得る。グリセロールモノオレエート、グリセロールジオレエート、グリセロールトリオレエート、グリセロールモノステアレート、グリセロールジステアレートおよびグリセロールトリステアレート、ならびに対応するグリセロールモノパルミテート、グリセロールジパルミテートおよびグリセロールトリパルミテート、ならびにそれぞれのイソステアレート、リノレエートなどが好ましいことがある。場合によって、グリセロールエステル、ならびにこれらのうちのいずれかを含有する混合物が好ましいことがある。ポリオールのエトキシル化、プロポキシル化、ブトキシル化脂肪酸エステル、特に、基礎となるポリオールとしてグリセロールを使用するポリオールのエトキシル化、プロポキシル化、ブトキシル化脂肪酸エステルが好ましいことがある。
例示的な脂肪アルコールエーテルとしては、例えば、ステアリルエーテル、ミリスチルエーテルなどが挙げられる。C3-C50の炭素数を有するものを含むアルコールは、エトキシル化、プロポキシル化、またはブトキシル化されて、対応する脂肪族アルキルエーテルを形成することができる。基礎となるアルコール部分は、好ましくは、ステアリル、ミリスチル、C11-C13炭化水素、オレイル、イソステリルなどであり得る。
【0145】
本開示の伝熱流体は、摩擦調整剤の存在下または不在下で、所望の特性、例えば摩耗制御を呈する。
摩擦調整剤の有用な濃度は、0.01質量パーセント~5質量パーセント、または約0.1質量パーセント~約2.5質量パーセント、または約0.1質量パーセント~約1.5質量パーセント、または約0.1質量パーセント~約1質量パーセントの範囲にあり得る。モリブデン含有材料の濃度は、多くの場合、Mo金属濃度で表される。Moの有利な濃度は、25ppm~700ppm以上の範囲にあり得、多くの場合、好ましい範囲は、50~200ppmである。すべての種類の摩擦調整剤が、単独で、または本開示の材料との混合物で使用され得る。多くの場合、2種以上の摩擦調整剤の混合物、または摩擦調整剤と代替的な表面活性材料との混合物も望ましい。
【0146】
極圧剤
伝熱流体組成物は、少なくとも1種の極圧剤(EP)を含み得る。油に可溶なEP剤としては、硫黄およびクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素EP剤、およびリン含有EP剤が挙げられる。そのようなEP剤の例としては、塩素化ワックス;硫化オレフィン(例えば、硫化イソブチレン)、有機スルフィドおよびポリスルフィド、例えば、ジベンジルジスルフィド、ビス(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、および硫化ディールス-アルダー付加物;ホスホ硫化炭化水素、例えば、リン含有スルフィドとテレビン油またはメチルオレエートとの反応生成物;リン含有エステル、例えば、二炭化水素および三炭化水素ホスファイト、例えば、ジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイト;ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイト、およびポリプロピレン置換フェノールホスファイト;金属チオカルバメート、例えば、亜鉛ジオクチルジチオカルバメートおよびバリウムヘプチルフェノール二酸;アルキルおよびジアルキルリン酸のアミン塩または誘導体;ならびにそれらの混合物(米国特許第3,197,405号に記載されている)が挙げられる。
極圧剤は、伝熱流体組成物の総質量に基づいて、0.01~5質量%、好ましくは0.01~1.5質量%、より好ましくは0.01~0.2質量%、さらにより好ましくは0.01~0.1質量%(受取時ベース)の量で使用され得る。
【0147】
ナノ材料およびナノ粒子
伝熱流体は、ナノ材料および/またはナノ粒子を含み得る。ナノ材料および/またはナノ粒子は、本開示の伝熱流体の伝熱特性を有利に変更することができる。
本開示の伝熱流体は、工業ナノ材料、ナノ材料、およびナノ粒子と組み合わせて、有利な伝熱性能および特性を呈し得る。
ナノ材料としても知られている工業ナノ材料は、ナノ粒子を含む材料であって、これらのナノ粒子が、原子および/または分子の小規模集合体であり、かつ対応するバルク材料のものとは異なる独自/新規の特性を有するように製造された、ナノ粒子を含む材料である。
ナノ粒子は、約1nm~約100nm(nm=ナノメートル)のサイズ範囲にある1つまたは複数の寸法を有する粒子である。一態様では、ナノ粒子は、周囲の界面層を考慮することなく作用すると考えられ得る。別の態様では、ナノ粒子は、界面層の効果を含めて作用すると考えられ得る。
【0148】
ナノ材料およびナノ粒子組成物は、例えば、金属(例えば、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Fe、およびそれらの組み合わせなど)、非金属(例えば、C、B、Si、O、P、N、ハロゲン化物、それらの組み合わせなど)、半金属、金属合金、金属間化合物、導体、半導体、絶縁体、電気活性材料;光学活性の、電気光学的な、分極化する、分極可能な材料;磁性、強磁性、反磁性、電磁性、非磁性の材料;有機体、ヘテロ原子含有有機体、有機金属;無機体、セラミック、金属酸化物(例えば、Ti酸化物、Zn酸化物、Ce酸化物など);塩、錯塩、清浄剤-金属塩錯体、清浄剤-金属カーボネート錯体、過塩基性清浄剤錯体、ミセル-金属塩錯体、ミセル-金属カーボネート錯体、およびそれらの組み合わせ;単結晶、多結晶、多結晶性、半結晶性、非晶質、半非晶質、ガラス質、それらの組み合わせなどを含む。
【0149】
また、ナノ材料およびナノ粒子としては、例えば、凝集材料、非凝集材料;疎水性の可溶性、不溶性、部分的に可溶性の材料;親水性の可溶性、不溶性、部分的に可溶性の材料;フラーラン(fullerane)、フラーレン、それらの官能化された誘導体;カルボラン、ボラン、ボレート、ボラミン;ホウ素-炭素、ホウ素-ヘテロ原子、ホウ素-金属/半金属錯体;グラフェン、その官能化された誘導体;単一炭素原子シートまたはマルチシート材料、それらの官能化された誘導体;単層、シームレス、円筒形のカーボンナノチューブ、それらの官能化された誘導体;例えば、炭素、ホウ素、窒化物、ヘテロ原子、それらの組み合わせなどを含有する、ナノチューブおよびそれらの官能化された誘導体;例えば、単層、多層、同軸、ロールスクロールされている、キャップされていない、エンドキャップされているなどの、ナノチューブおよびそれらの官能化された誘導体;例えば、炭素、ホウ素、窒化物、ヘテロ原子、それらの組み合わせなどを含有する、ナノワイヤおよびそれらの官能化された誘導体;例えば、半導体、セレン化Cd、テルル化Cdなどを含む、量子ドット;例えば、単層、多層、中間層、積層、ロールされている、ロールスクロールされている、折り畳まれた、インターカレートされたプレート、プレートレットなどである、分子シート;例えば、分子ストリング、分子ワイヤ、分子ロープ、分子ケーブル、同軸ケーブル、単一および複数ワイヤ、コイル状、らせん状、織り合わせなどである、ナノワイヤ;コアコーティングされた、表面改質された、表面官能化されたコアシェル;いくつかの例では、すべての次元で低い、例えば、1に近づくアスペクト比を有する形態、および他の例では、少なくとも1対の寸法について、高い、例えば、1超、5超、10超、50超、100超、500超、またはさらには1000超のアスペクト比を有する形態が挙げられる。
【0150】
好適なナノ材料およびナノ粒子は、例えば、合成、化学反応、核生成、および結晶成長;結晶化、沈殿;錯体化;酸塩基反応;金属塩、金属酸化物、金属炭酸塩の可溶化;カルボン酸-塩基反応;金属塩、金属酸化物、金属炭酸塩のカルボン酸またはカルボキシレート可溶化;金属カルボキシレート過塩基化;清浄剤金属-カーボネート過塩基化;液体堆積;バルク材料の粉砕、研削、粉末化などの物理的プロセス;コロイドプロセス;ジェット押出、エアロゾル化、気化、蒸着、イオンビーム分解;物理的分離、化学的分離;バルク材料の脱構築、分解、消化、層間剥離、インターカレーションなど;それらの組み合わせなどによって調製される。
伝熱流体へのナノ材料およびナノ粒子の組み込みは、必要に応じて、例えば、溶媒、分散剤、清浄剤、過塩基性清浄剤、可溶化剤;錯化剤、すなわち、例えば、O、S、N、P-O、ヘテロ原子官能基、アニオンなどを含む電子供与基を有する錯化剤;例えば、金属、半金属、B、P、Si、カチオン、アルカリ金属およびアルカリ土類金属イオン、錯カチオンなどを含む電子受容基を有する錯化剤;ミセル、ミセル錯体、ミセル-金属塩錯体、清浄剤-金属塩錯体、過塩基性清浄剤錯体;イオン液体;例えば、芳香族物質、ヘテロ芳香族物質、ヘテロ原子、極性官能基、分極性基および構造、アルコール、エーテル、ポリエーテル、エステル、ポリエステル、カーボネート、ポリカーボネート、アミン、ポリアミン、アミド、ポリアミド、尿素、カルボキシル基、カルボキシレート、それらの組み合わせなどを含有するヒドロカルビルベースオイルなどを含む、1種または複数の好適な適合化剤の使用によって改善される。
【0151】
ナノ材料およびナノ粒子を含有する伝熱流体は、例えば、延長された使用寿命、改善された酸化安定性、改善された熱安定性、改善された摩耗保護、改善された極圧摩耗保護、改善された清浄度、制御された摩擦、制御された熱伝導率、制御された熱容量、制御された電気伝導率を含む、有利な性能および特性を有し得る。
ナノ材料およびナノ粒子は、伝熱流体組成物の総質量に基づいて、0.01~20質量%、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~7.5質量%、さらにより好ましくは1~5質量%(受取時ベース)の量で使用され得る。
伝熱流体組成物が、先に論じた添加剤のうちの1種または複数を含有する場合、添加剤は、その意図された機能を実施するのに十分な量で組成物にブレンドされる。本開示において有用なそのような添加剤の典型的な量を以下の表3に示す。
添加剤の多くは、特定の量のベースオイル希釈剤と一緒に1種または複数の添加剤をまとめて含有する濃縮物として添加剤製造業者から発送されることに留意されたい。したがって、以下の表3の質量、および本明細書で言及されている他の量は、活性成分(すなわち、成分の非希釈部分)の量を対象とする。以下に示される質量パーセント(質量%)は、伝熱流体組成物の総質量に基づく。
【0152】
【表3】


前述の添加剤は、すべて市販の材料である。これらの添加剤は、独立的に添加してもよいが、通常は、伝熱流体添加剤の供給業者から得ることができるパッケージに事前に組み合わされている。様々な成分、比率、および特性を有する添加剤パッケージが利用可能であり、適切なパッケージの選択では、最終的な組成の不可欠な使用が考慮される。
【0153】
実施形態の一覧
本開示は、なかでも、以下の実施形態を提供し、これらはそれぞれ、任意の代替的な実施形態を含んでもよいと考えることができる。
項目1.伝熱システムを動作させる方法であって、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて非水性の誘電伝熱流体を循環させるステップであり、伝熱回路が、ポンプ、導管、および熱交換器を含むステップと、伝熱回路内の伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップであり、流体特性が、密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)からなる群から選択されるステップと、リアルタイム流体特性に基づいて、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)を計算するステップと、参照流体について、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて次元有効係数(DEF参照)を計算するステップと、以下の方程式:
【数18】

から伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を決定するステップと、NEF流体に基づいて伝熱流体の健全性を判定するステップであり、NEF流体が所定の閾値を下回る場合、健全性が悪化していると判断し、NEF流体が所定の閾値を上回る場合、健全性が存続可能であると判断するステップとを含む、方法。
【0154】
項目2:ポンプが、容積式ポンプおよび遠心ポンプのうちの1つである、項目1に記載の方法。
項目3:電動システムが、電動車両、車載パワーエレクトロニクス、電動モータ、発電機、バッテリ、充電式バッテリシステム、充電ステーション、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DCコンバータ、電子機器、コンピュータ、サーバーバンク、データセンター、変圧器、動力管理システム、バッテリを制御するエレクトロニクス、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、項目1に記載の方法。
項目4:伝熱流体を循環させるステップが、電動システムの1種または複数の電気構成要素の表面を伝熱流体で直接冷却することをさらに含む、項目3に記載の方法。
項目5:伝熱回路内の選択された支配的な流動レジームが、層流、遷移流、および乱流からなる群から選択される、項目1~4のいずれか1つに記載の方法。
項目6:流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップが、伝熱流体が伝熱回路内を循環しているときに、伝熱流体と連通している1つまたは複数のセンサによって伝熱流体を監視することと、1つまたは複数のセンサによって流体特性のリアルタイム測定値を取得することとを含む、項目1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
項目7:流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップが、伝熱回路から伝熱流体の試料を抽出することと、1つまたは複数のセンサによって伝熱流体の試料を分析することとを含む、項目1~4のいずれか1つに記載の方法。
項目8:NEF流体が所定の閾値を下回ったときに電動デバイスのオペレータに警告を送信するステップと、伝熱流体の少なくとも一部を交換するステップとをさらに含む、項目1~7のいずれか1つに記載の方法。
項目9:電動デバイスが自律型車両であり、方法が、NEF流体が所定の閾値を下回ったときに自律型車両に警告を送信するステップと、自律型車両をメンテナンスステーションに送り、伝熱流体の少なくとも一部を交換するステップとをさらに含む、項目1~8のいずれか1つに記載の方法。
項目10:電動システムの温度を監視するステップと、温度が所定の温度限界を上回り、かつ伝熱流体の健全性が存続可能である場合、電動システムにハードウェア問題があると結論付けるステップとをさらに含む、項目1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0156】
項目11:伝熱回路が熱輸送支配型である、項目1~10のいずれか1つに記載の方法。
項目12:伝熱回路が伝熱支配型である、項目1~10のいずれか1つに記載の方法。
項目13:伝熱流体が、グループIのベースオイル、グループIIのベースオイル、グループIIIのベースオイル、グループIVのベースオイル、およびグループVのベースオイルからなる群から選択される流体である、項目1~12のいずれか1つに記載の方法。
項目14:伝熱流体が、芳香族炭化水素、ポリオレフィン、パラフィン、イソパラフィン、エステル、エーテル、フッ素化流体、ナノ流体、およびシリコーン油からなる群から選択される流体である、項目1~12のいずれか1つに記載の方法。
項目15:伝熱流体が、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、ナノ材料、ナノ粒子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1種または複数の添加剤を含む、項目1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0157】
項目16:参照流体が、ビフェニル26.5%+ジフェニルオキシド73.5%、シロキサン(>95%、KV100 16.6cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 0.93cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 1.6cSt)、ペルフルオロ流体C5-C8(KV25 2.2cSt)、および3-エトキシ-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチル-ヘキサン(>99%)からなる群から選択される少なくとも1種の流体である、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
項目17:参照流体が、新鮮なまたは未使用の状態の伝熱流体を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0158】
項目18:伝熱システムを動作させる方法であって、電動システムと流体連通している伝熱回路を通じて非水性の誘電伝熱流体を循環させるステップであり、伝熱回路が、ポンプ、導管、および熱交換器を含むステップと、伝熱回路内の伝熱流体の流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップであり、流体特性が、密度(ρ)、比熱(cp)、動粘性率(μ)、および熱伝導率(k)からなる群から選択されるステップと、リアルタイム流体特性に基づいて、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて、伝熱流体の次元有効係数(DEF流体)を計算するステップと、参照流体について、かつ伝熱回路内の選択されたポンプおよび選択された支配的な流動レジームについて次元有効係数(DEF参照)を計算するステップと、以下の方程式:
【数19】
から伝熱流体の正規化有効係数(NEF流体)を決定するステップと、NEF流体に基づいて伝熱流体の健全性を判定するステップであり、NEF流体が所定の閾値を下回る場合、健全性が悪化していると判断し、NEF流体が所定の閾値を上回る場合、健全性が存続可能であると判断するステップと、電動システムの温度を監視するステップと、温度が所定の温度限界を上回り、かつ伝熱流体の健全性が存続可能である場合、電動システムにハードウェア問題があると判定するステップとを含む、方法。
【0159】
項目19:ポンプが、容積式ポンプおよび遠心ポンプのうちの1つである、項目18に記載の方法。
項目20:電動システムが、電動車両、車載パワーエレクトロニクス、電動モータ、発電機、バッテリ、充電式バッテリシステム、充電ステーション、AC-DC/DC-AC/AC-AC/DC-DCコンバータ、電子機器、コンピュータ、サーバーバンク、データセンター、変圧器、動力管理システム、バッテリを制御するエレクトロニクス、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、項目18または項目19に記載の方法。
【0160】
項目21:伝熱流体を循環させるステップが、電動システムの1種または複数の電気構成要素の表面を伝熱流体で直接冷却することをさらに含む、項目20に記載の方法。
項目22:伝熱回路内の選択された支配的な流動レジームが、層流、遷移流、および乱流からなる群から選択される、項目18~21のいずれか1つに記載の方法。
項目23:流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップが、伝熱流体が伝熱回路内を循環しているときに、伝熱流体と連通している1つまたは複数のセンサによって伝熱流体を監視することと、1つまたは複数のセンサによって流体特性のリアルタイム測定値を取得することとを含む、項目18~22のいずれか1つに記載の方法。
項目24:流体特性のリアルタイム測定値を取得するステップが、伝熱回路から伝熱流体の試料を抽出することと、1つまたは複数のセンサによって伝熱流体の試料を分析することとを含む、項目18~22のいずれか1つに記載の方法。
【0161】
項目25:電動システムにハードウェア問題があると判定された場合に、電動デバイスのオペレータに警告を送信するステップをさらに含む、項目18~24のいずれか1つに記載の方法。
項目26:電動デバイスが自律型車両であり、方法が、電動システムにハードウェア問題があると判定された場合に、自律型車両に警告を送信するステップと、自律型車両をメンテナンスステーションに送って、ハードウェア問題を解決するステップとを含む、項目18~25のいずれか1つに記載の方法。
項目27:伝熱回路が熱輸送支配型である、項目18~26のいずれか1つに記載の方法。
項目28:伝熱回路が伝熱支配型である、項目18~26のいずれか1つに記載の方法。
項目29:伝熱流体が、グループIのベースオイル、グループIIのベースオイル、グループIIIのベースオイル、グループIVのベースオイル、およびグループVのベースオイルからなる群から選択される流体である、項目18~28のいずれか1つに記載の方法。
【0162】
項目30:伝熱流体が、芳香族炭化水素、ポリオレフィン、パラフィン、イソパラフィン、エステル、エーテル、フッ素化流体、ナノ流体、およびシリコーン油からなる群から選択される流体である、項目18~28のいずれか1つに記載の方法。
項目31:伝熱流体が、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、ナノ材料、ナノ粒子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1種または複数の添加剤を含む、項目18~30のいずれか1つに記載の方法。
項目32:参照流体が、ビフェニル26.5%+ジフェニルオキシド73.5%、シロキサン(>95%、KV100 16.6cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 0.93cSt)、有機シリケートエステル(>90%、KV100 1.6cSt)、ペルフルオロ流体C5-C8(KV25 2.2cSt)、および3-エトキシ-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチル-ヘキサン(>99%)からなる群から選択される少なくとも1種の流体である、項目18~31のいずれか1つに記載の方法。
項目33:参照流体が、新鮮なまたは未使用の状態の伝熱流体を含む、項目18~31のいずれか1つに記載の方法。
【0163】
本明細書で引用されるすべての特許および特許出願、試験手順(例えば、ASTM法、UL法など)、ならびに他の文書は、そのような開示が本開示と矛盾しない程度に、かつそのような組み込みが許可されているすべての法域について、参照によって完全に組み込まれる。
数値の下限および数値の上限が本明細書に列挙されている場合、任意の下限から任意の上限までの範囲が企図される。本開示の例示的な実施形態を具体的に説明してきたが、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者には様々な他の修正形態が明らかであり、これを容易に行うことができると理解されるであろう。したがって、ここに添付されているクレームの範囲は、本明細書に記載されている実施例および説明に限定されることは意図されておらず、クレームは、本開示が関連する当業者によってその等価物として扱われ得るすべての特徴を含む、本開示に存在する特許を受けることができる新規性のすべての特徴を包含するものとして解釈される。
本開示について、多数の実施形態および特定の例を参照して先に説明した。先の詳細な説明に照らして、多くの変形形態が当業者に自明であろう。そのような明白な変形形態はすべて、添付のクレームの完全な意図された範囲にある。
図1
図2
【国際調査報告】