(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】ウォッカを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20230510BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558458
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2021057216
(87)【国際公開番号】W WO2021191127
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522378409
【氏名又は名称】ゼットエイチエス アイピー ヨーロッパ サール
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェフラー,ユリ
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LP02
(57)【要約】
【解決手段】水とエチルアルコールを混合する工程、混合物を活性炭で処理し、その後ろ過する工程、および任意選択で糖を添加する工程を含む、優れた特性を有するウォッカを調製する改善された方法が提供される。水とアルコールの混合物は、約-18℃の温度まで冷却され、この温度で混合物は少なくとも4~8時間維持される。結果として得られる混合物は、最終的に前記低温で冷却ろ過され、次いで徐々に室温に適合される。前記任意選択の糖はろ液に添加され、得られたウォッカ製品混合物は、ボトリングする前に再度ろ過されうる。ウォッカは、特に、37.5体積%~50体積%の間、好ましくは約40体積%の体積アルコール強度、および1~2g/lの間の糖のみを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とアルコールを混合して水-アルコール混合物を得る工程、水とアルコールの混合物を少なくとも-10℃の温度まで冷却する工程、および前記混合物を冷却ろ過する前に前記混合物を前記温度で数時間維持する工程を含む、ウォッカを製造する方法であって、前記混合物は、少なくとも約-18℃の温度まで冷却され、前記混合物を実質的に前記低温で、特に炭素フィルター、特にZカーボンフィルターを通して冷却ろ過する前に、前記温度で少なくとも4時間、好ましくは約8時間維持されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記混合物を冷却ろ過する前に、前記混合物が約-18℃で約8時間維持されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物の体積アルコール強度が、37.5体積%~50体積%の間、好ましくは約40体積%の無水アルコールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ろ過後の混合物に糖が添加されることを特徴とする、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物が、
水中の無水アルコール百分率が約37.5体積%~50体積%の間、特に約40体積%の無水アルコール、および
1~2g/lの間の糖、特に約1.2g/lの糖
のみからなることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記得られた混合物を、ボトリングする前に、特に一連のマイクロフィルターを通して、室温でろ過することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が断熱槽内において前記低温で維持されること、および前記断熱槽から非断熱槽へ前記混合物をポンプで送った後に、前記混合物が前記非断熱槽内で徐々に18℃~25℃の間の室温に適合されることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
アルカリ度が3meq/l未満の水を前記水として適用することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
冷却された混合物が、活性炭を含むZカーボンフィルターを通して冷却ろ過されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水とアルコールを混合して水-アルコール混合物を得る工程、水とアルコールの混合物を少なくとも-10℃の温度まで冷却する工程、および前記混合物を冷却ろ過する前に前記混合物を前記温度で数時間維持する工程を含む、ウォッカを製造する方法に関する。ここで、本出願の範囲において、「アルコール」という表現は、別段の明確な記載がない限り、または文脈から明らかでない限り、エチルアルコール(エタノール)を意味するよう使用されることに留意されたい。
【背景技術】
【0002】
現在、広く公知のウォッカの製造方法は、依然として、ウォッカの製造に使用される水-アルコール混合物に対し、室温における標準的な炭素ろ過を単に使用するものである。この公知の方法が使用する技術は、かなり単純であり、この方法によって製造されるウォッカの感覚刺激パラメータは、比較的劣っている。さらに、方法において、汚染物質がフィルター、特に活性炭に沈着することがあり、その活性および吸着能が低下する。この結果、混合物のろ過度が低下することがあり、残存する微量のフーゼル油または他の望まれない汚染物質が依然として得られたウォッカ中に含有されることがある。さらに、製品のあらゆる香味が、最終的に時間と共に蒸発することがあり、その結果、アルコールの後味がそれ自体臭気および風味中に現れる。
【0003】
これまでで最も良好で最も純粋な、市場で販売されているウォッカ蒸留酒は、出願人に付与された欧州特許EP1,549,734(特許文献1)に記載される方法によって製造される。この方法は、少なくとも-10℃の温度における冷却ろ過工程を、アルコール-水混合物をこの低温で数時間維持した後に含む。この方法により、フーゼル油および他の不純物を沈着させ、場合により結晶化させることができ、続くろ過工程を著しく向上させる。その結果、最終的なウォッカ製品は、その感覚刺激特性に影響を与えうるあらゆる不純物を実質的に含まず、非常に心地良く滑らかな風味が現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特に、より高品質でこれまでにない風味を有するウォッカを製造するために、後者の方法をさらに改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にかかる冒頭に記載のウォッカを製造する方法は、前記混合物を少なくとも約-18℃の温度まで冷却し、実質的に前記低温で、特に炭素フィルター、特にZカーボンフィルターを介して前記混合物を冷却ろ過する前に、前記温度で少なくとも4時間、好ましくは約8時間維持することを特徴とする。
【0007】
-18℃以下の温度への超冷却は、水-アルコール混合物の密度を大幅に増大させ、アルデヒドと他の微小汚染物質の混合物である微結晶膜を冷却器の壁上に形成させる。そのように低い温度におけるろ過は、水-アルコール混合物の冷却で形成される水-アルコール分子系を破壊することなく、水-アルコール混合物をさらに良好に精製する。同目的は、ろ過後に適切な時間差をおいて混合物を自然に徐々に温めることによっても達成される。
【0008】
分光法による吸収および透光性試験は、この方法で製造されるウォッカが、冷却ろ過前に少なくとも-18℃の温度で約4時間維持された後、不純物の濃度の急激で大幅なさらなる低下を示すことを示した。その結果、最終的な水/アルコール混合物は、存在すると最終製品の感覚刺激特性を損なわせうる汚染物質をほぼ有さない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にかかる方法の好ましい実施形態は、前記混合物を冷却ろ過する前に、前記混合物を約-18℃で約8時間維持することを特徴とする。前記最低温で4時間冷却することによる著しい改善は、先行技術を通して既にもたらされているが、水/アルコール混合物を少なくとも4時間長く維持することで、さらに少し高い純度レベルがもたらされると思われる。この点において、本発明にかかる方法の特定の実施形態は、前記混合物が37.5体積%~50体積%の間、特に約40体積%の体積アルコール強度を有することを特徴とする。
【0011】
上品な風味および他と異なる感覚刺激特性を有する最終製品を提供するため、本発明にかかる方法の特定の実施形態は、ろ過後に混合物に糖が添加されることを特徴とする。EUおよびUSにおける現行の規定に従い、任意選択で、ろ過後に1つまたは複数の添加剤が混合物に添加されてよく、ただし、前記添加剤は、糖(シロップ)および天然香料化合物を含有する群から選択され、蒸留物中に存在し、発酵原料から得られる。このような添加剤は、ウォッカに他と異なる風味および香りをもたらすことができ、製品と他のウォッカとを区別する。
【0012】
この点において、本発明にかかる方法の具体的実施形態は、前記混合物が、
- 水中の無水アルコールの百分率が約37.5体積%~50体積%の間、特に約40体積%の無水アルコール、および
- 1~2g/lの間の糖、特に約1.2g/lの糖
のみからなることを特徴とする。
【0013】
原料アルコールがこれまでにない品質を有するため、ウォッカ製品から発せられる風味および特性をわずかに高めるよう、単に糖を添加する必要がある。最終製品中のあらゆる残存汚染物質を除去するため、本発明にかかる方法のさらに好ましい実施形態は、前記得られた混合物を、ボトリングする前に、特に一連のマイクロフィルターを通して、室温でろ過することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、室温が達成されるまでろ液を非断熱槽へポンプで送ることによって、ろ液を室温に適合させる。通常、室温は、約18℃~25℃の間の範囲内である。本発明の方法のさらに好ましい実施形態において、結果として得られる室温の混合物は、ボトリングする前に、好ましくはボトリングする直前に、一連のマイクロフィルターを通してろ過される。
【0015】
好ましくは、水-アルコール混合物用の水は、軟水を逆浸透法で処理された水と混合することによって得られ、約2~3meq/lの範囲内のアルカリ性パラメータによって標準化される。本特許出願を通し、アルカリ性という語は、試料100mlを滴定するのに使用される、HCl濃度0.1Mの塩酸の体積(ml)(すなわち、0.1Mol/l)であると定義される。さらに、水-アルコール混合物は、好ましくは、炭カラムにおいて、40~50デカリットル/時のろ過速度で活性炭を用いて処理される。
【0016】
以下、多くの比較例に従って本発明を説明する。
【0017】
ウォッカ製品は、軟水を予め逆浸透法で処理された水と混合することによって得られ、約2~3meq/lの範囲内のアルカリ性パラメータによって標準化されたエチルアルコール(エタノール)「Lux」および水を使用して調製される。アルコールまたは蒸留酒「Lux」は、ロシア連邦国家規格GOST5962-2013号に記載されている。エチルアルコール「Lux」は、様々な種の穀物および穀物とジャガイモの混合物から製造されうる。エチルアルコール「Lux」を製造するための混合物中のでん粉の体積は、好ましくは60%を超えない。
実験設定
混合槽において、アルコールおよび水を混合し、無水アルコール含有量が約40体積%の混合物を得る。この混合物を、400~500リットル/時のろ過速度で活性炭を有するカラムに通す。ろ過された水-アルコール混合物を熱交換器に通してその温度を下げる。次いで、冷却された混合物を、数時間の間、断熱槽において保持する。このようにして、5つのバッチが形成され、そのうちの3つ(A、B、C)は、先行技術の製造方法の例であり、2つ(D、E)は、本発明に従うものである。これらのバッチは下記のとおりである。
【0018】
【表1】
示される温度に示される時間静置させた後、Zカーボンフィルターを通して低温の混合物をろ過する。それによって混合物の温度は、6~10度の間の幅で上昇する。最終的に、得られたろ液を非断熱槽へポンプで送り、混合物を徐々に18℃~25℃の間の室温を達成する。
【0019】
得られた水-アルコール混合物の全てのバッチに、単に同量の65.8%の糖シロップを添加することによって仕上げる。得られた組成物を1~5時間保持し、次いで製造されたウォッカを、ボトリングする前に1連のマイクロフィルターを通して連続ろ過する。
【0020】
バッチA~Eに一連の試験を行った。異なるバッチの化学的純度を分析するため、それらの試料を採取し、EU規則625/2003、付属書IV、方法12に規定される方法に準じて220nm、230nm、240nmおよび270nmの各波長で光吸収Aを測定した。さらに、364nmにおける光透過率Tを測定した。これらの波長は、試料中の不純物であると考えられる物質による吸収が予測されうる波長に対応する。これらの吸収/透過率試験の結果を下記に示す。
【0021】
【表2】
これらの結果は、
図1~
図5のグラフに表される。明らかに、-10℃~-15℃の間の温度で冷却ろ過される場合、-4℃のようなより高い温度における冷却ろ過と比較し、全ての波長において、工程S1によって吸収が著しく降下する。
図1~
図4に示されるように、-10℃~-15℃の範囲内で測定された吸収は、実質的に同一であり、温度を下げても実質的なさらなる改善はもたらされないことを示唆する。この傾向は、-4℃、-10℃、および-15℃の点を通るよう適合させた図中の曲線Sで示される。しかし、-18℃において、工程S2による予期せぬ吸収のさらなる降下が認められ、最終製品の純度が実質的により良好になったことに対応する。
図5に示されるように、364nmにおける透過率に関しても同様の効果が認められる。製品を-18℃で4時間より長時間維持すると(試料E)、製品の純度のさらなる改善がもたらされる。
【0022】
これらの化学的測定は、10人の鑑定人の試飲専門家パネルによって確認され、製造されたバッチA~D由来の試料に対し、以下の試飲記録および評価が行われた。
【0023】
【表3】
試飲方法は、様々な試料の感覚刺激特性を評価するためのGOST33817-2016(10点系)基準に従って行った。-18℃における冷却ろ過によって素晴らしい製品がもたらされること、および-18℃以下における冷却ろ過前に4時間超、特に8時間、製品を静置させることで、これまでにない品質、純度、および風味のウォッカ製品を生じさせることの有力な証拠が、この試飲によってもたらされる。
【0024】
本発明を、単に少しの例示的比較例を参照して説明し実証してきたが、本発明は、決してこれらの例に限定されないことが理解されるだろう。一方、より多くの実施形態および変形例が、本発明の真の範囲および趣旨を逸脱することなく、実現可能であり、当業者の理解の範囲内である。
【国際調査報告】