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特表2023-520459原発性免疫不全症すなわちウィスコット・アルドリッチ症候群及びX連鎖無ガンマグロブリン血症に関連するペプチドに特異的に結合する抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】原発性免疫不全症すなわちウィスコット・アルドリッチ症候群及びX連鎖無ガンマグロブリン血症に関連するペプチドに特異的に結合する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230510BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230510BHJP
   C07K 17/14 20060101ALI20230510BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230510BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C07K17/14
C12M1/34 F
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559914
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 US2021025627
(87)【国際公開番号】W WO2021203031
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】63/004,415
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522349742
【氏名又は名称】シアトル・チルドレンズ・ホスピタル・ドゥーイング/ビジネス/アズ・シアトル・チルドレンズ・リサーチ・インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーン,シフーン
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】イー,ファン
(72)【発明者】
【氏名】ダユハ,レムウィリン
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB17
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、原発性免疫不全障害(PIDD)ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)に関連するペプチドに結合する抗体を提供する。この抗体は、他の用途のうちでも、ペプチド免疫親和性濃縮において、選択反応モニタリング質量分析(immuno-SRM)アッセイと組み合わせて、WAS及びXLAの臨床診断及び新生児スクリーニングなどの用途に使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下:
(C)配列番号3に示される配列を有するCDRH1、配列番号4に示される配列を有するCDRH2、及び配列番号5に示される配列を有するCDRH3を含む重鎖可変(VH)ドメイン、ならびに、配列番号6に示される配列を有するCDRL1、配列番号7に示される配列を有するCDRL2、及び配列番号8に示される配列を有するCDRL3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン
(D)配列番号9に示される配列を有するCDRH1、配列番号10に示される配列を有するCDRH2、及び配列番号11に示される配列を有するCDRH3を含むVHドメイン、ならびに配列番号12に示される配列を有するCDRL1、配列番号13に示される配列を有するCDRL2、及び配列番号14に示される配列を有するCDRL3を含む、VLドメイン、
を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
請求項1(A)の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下:配列番号15に示される配列を有するVHドメイン;配列番号17に示される配列を有する重鎖;配列番号16に示される配列を有するVLドメイン;または配列番号18に示される配列を有する軽鎖、
のうちの1つ以上を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
前記VHドメインが配列番号15に示される配列を有し、前記VLドメインが配列番号16に示される配列を有する、請求項2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記重鎖が配列番号17に示される配列を有し、前記軽鎖が配列番号18に示される配列を有する、請求項2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
請求項1(B)の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下:配列番号23に示される配列を有するVHドメイン;配列番号25に示される配列を有する重鎖;配列番号24に示される配列を有するVLドメイン;または配列番号26に示される配列を有する軽鎖、のうちの1つ以上を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
前記VHドメインが配列番号23に示される配列を有し、前記VLドメインが配列番号24に示される配列を有する、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
前記重鎖が配列番号25に示される配列を有し、前記軽鎖が配列番号26に示される配列を有する、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
請求項1の抗体のある方法における使用であって、以下:
対象に由来する生物学的試料を入手することと;
前記生物学的試料由来のタンパク質を酵素で消化して、1つ以上のペプチドを生成することと;
濃縮することであって、
請求項1の(A)の抗体またはその抗原結合フラグメントを有するWASpシグネチャーペプチド;及び/または
請求項1の(B)の抗体またはその抗原結合フラグメントを有するBTKシグネチャーペプチド、を濃縮することと;
前記濃縮ペプチドに対して液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング質量分析(LC-MRM-MS)を実行して、各シグネチャーペプチドの濃度を決定することと、
を含む、前記使用。
【請求項9】
前記生物学的試料が乾燥血液スポット(DBS)、口腔内綿棒、末梢血単核細胞(PBMC)、または白血球(WBC)である請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記酵素がトリプシンである、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
請求項8に記載の使用であって、さらに、
各シグネチャーペプチドの濃度を、対応する所定の閾値濃度の濃度と比較することと;
前記対象が:
前記WASpシグネチャーペプチドの前記濃度が前記対応する所定の閾値濃度よりも低い場合、または前記WASpシグネチャーペプチドが存在しない場合はWASであり;
前記BTKシグネチャーペプチドの前記濃度が前記対応する所定の閾値濃度よりも低い場合、または前記BTKシグネチャーペプチドが存在しない場合はXLAであると、
診断することと、
を含む、前記使用。
【請求項12】
フェニルケトン尿症、原発性先天性甲状腺機能低下症、嚢胞性線維症、及び鎌状赤血球症のうちの1つ以上について前記対象をさらにスクリーニングする、新生児スクリーニング(NBS)の一部として前記使用が行われる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記対象におけるWAS及び/またはXLAの臨床症状がない状態で前記使用が行われる、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
各シグネチャーペプチドの前記対応する所定の閾値濃度が、正常な対照対象の集団由来の対応する生物学的試料中の各シグネチャーペプチドの前記平均濃度の標準偏差から計算される、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記生物学的試料がDBSであり、正常な対照対象の集団由来のDBSにおける前記WASpシグネチャーペプチドの前記平均濃度が7000pmol/L~30000pmol/Lの範囲の濃度を含む、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記生物学的試料がDBSであり、正常な対照対象の集団由来のDBSにおける前記BTKシグネチャーの前記平均濃度が400pmol/L~2000pmol/Lの範囲の濃度を含む請求項14に記載の使用。
【請求項17】
対象におけるウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及び/またはX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)のスクリーニングのためのアッセイであって、以下:
(i)請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントならびに
(ii)以下を含む参照シグネチャーペプチド:
配列番号1のWASのWASpシグネチャーペプチド;及び/または
配列番号2のXLAのBTKシグネチャーペプチド、
を含む、前記アッセイ。
【請求項18】
前記参照シグネチャーペプチドが同位体標識されている、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項19】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが磁気ビーズに付着している、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項20】
請求項17に記載のアッセイ、ならびに濾紙カード、口腔内綿棒、採血管、パンチツール、消化酵素、消化緩衝液、抗体またはその抗原結合フラグメントの固体支持体、及び溶出緩衝液から選択される1つ以上の追加の成分を備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、本明細書に完全に記載されているかのようにその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2020年4月2日に出願された米国仮特許出願第63/004,415号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府が後援する研究または開発に関する声明
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたAI123135の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
配列表に関する声明
本出願に関連する配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名前は2GV8205_ST25.txtである。テキストファイルは59KBで、2021年4月2日に作成され、EFS-Webを介して電子的に提出されている。
【0004】
開示の分野
現在の開示は、原発性免疫不全症(PIDD)、例としては、ウィスコット・アルドリッチ症候群及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)に関連するペプチドに結合する抗体を提供する。この抗体は、他の用途の中でも、WAS及びXLAの臨床診断及び新生児スクリーニングに使用され得る。
【背景技術】
【0005】
多くの疾患には、利用可能な効果的な処置がある。しかし、これらの疾患の多くでは、一旦、症状が現れると、その疾患は既に致命的であるか、不可逆的な損傷をもたらしている。このような疾患の例としては、原発性免疫不全症(PIDD)が挙げられる。
【0006】
原発性免疫不全症(PIDD)は、先天性免疫不全症(IEI)とも呼ばれ、免疫系の構成要素が欠落しているか、または不適切に機能している416を超えるまれな遺伝性疾患のグループである。PIDDの例としては、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)が挙げられる。PIDDの早期発見は、生命を脅かす可能性のある感染症及び慢性後遺症を制御及び予防する上で非常に重要である。
【0007】
臨床症状が現れる前に診断を行うことができれば、PIDDの処置は著しく強化されるであろう。新生児スクリーニング(NBS)は、米国で毎年生まれる400万人の乳児を対象とした標準的な公的で予防的で義務的なスクリーニング検査である。NBSでは通常、出生後24~48時間に血液検査が行われる。スクリーニングでは、濾紙に付着した新生児のかかとから数滴の血液を使用する。乾燥血液スポット(DBS)を含む紙は、検査が行われるまで保管され得る。
【0008】
NBS評価を実施するために、乾燥血液のパンチをDBSから採取し、出生時に明らかではないが後年、深刻な健康問題を引き起こす障害を示す、血液内の特定の物質(マーカーまたはバイオマーカーと呼ばれる)の有無を検出するために臨床検査を行う。スクリーニングされる障害は州ごとに異なるが、ほとんどの州では、フェニルケトン尿症、原発性先天性甲状腺機能低下症、嚢胞性線維症、及び鎌状赤血球症をスクリーニングする。NBSは、患者の転帰を改善し、影響を受けた個体の長期的な障害を回避すると同時に、医療費を削減するのに非常に効果的であることが証明されている
【0009】
国際出願番号PCT/US2019/054856は、重症複合免疫不全症(SCID)、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)、シスチン症、及びウィルソン病(WD)について新生児をスクリーニングするために使用され得る多重化アッセイの開発について説明している。このアッセイは、壊滅的でかつ致命的な場合が多い臨床症状が現れる前にこれらの障害を確実に診断することにより、影響を受けた個体の転帰を有意に改善し得る。アッセイは、既存の新生児スクリーニング(NBS)手順の一部としてすでに慣用的に収集されている乾燥血液スポット(DBS)を使用して、これらの障害に関連するマーカーの有無を検出し得る。PCT/US2019/054856に記載されている多重アッセイは、選択反応モニタリング質量分析(immuno-SRM)と組み合わせたペプチド免疫親和性濃縮を利用する。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、原発性免疫不全障害(PIDD)すなわち、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)に関連するシグネチャーペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。
【0011】
特定の実施形態は、WAS(配列番号1)のWASp 289シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、以下を含む:配列番号3のCDRH1、配列番号4のCDRH2、及び配列番号5のCDRH3を含む重鎖可変(VH)ドメイン、ならびに配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、及び配列番号8のCDRL3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン。特定の実施形態では、WASp 289シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号15を含むVHドメインを含む。特定の実施形態では、WASp 289シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号16を含むVLドメインが含まれる。特定の実施形態では、WASp 289シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号17を含む重鎖が含まれる。特定の実施形態では、WASp 289シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号18を含む軽鎖が含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、組換え抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0012】
特定の実施形態には、XLA(配列番号2)のBTK545シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、以下を含む:配列番号9のCDRH1、配列番号10のCDRH2、及び配列番号11のCDRH3を含む重鎖可変(VH)ドメイン、ならびに配列番号12のCDRL1、配列番号13のCDRL2、及び配列番号14のCDRL3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン。特定の実施形態では、BTK 545シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号23を含むVHドメインが含まれる。特定の実施形態では、BTK545シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号24を含むVLドメインが含まれる。特定の実施形態では、BTK545シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号25を含む重鎖が含まれる。特定の実施形態では、BTK545シグネチャーペプチドに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントには、配列番号26を含む軽鎖が含まれる。特定の実施形態では、その抗体または抗原結合フラグメントは、組換え抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0013】
特定の実施形態では、本開示の抗体は、WAS及びXLAを臨床的に診断するためのアッセイにおいて使用され得る。特定の実施形態は、試料として乾燥血液スポット(DBS)を利用するアッセイにおいて、本開示の抗体を使用して、WAS及びXLAについて新生児をスクリーニングすることを提供する。特定の実施形態では、本開示の抗体は、選択反応モニタリング質量分析(immuno-SRM)アッセイと組み合わせたペプチド免疫親和性濃縮において使用され得る。特定の実施形態では、アッセイは、口腔内綿棒、末梢血単核細胞(PBMC)、及び白血球(WBC)を試料として利用し得る。抗体を含む現在のこのアッセイは、壊滅的でかつ致命的な場合も多い臨床症状が現れる前にこれらの障害を確実に診断することにより、罹患した個体の転帰を大幅に改善し得る。この抗体は、他の疾患のスクリーニングパネルの一部として多重immuno-SRMアッセイで使用され得る。
【0014】
特定の実施形態では、本開示の抗体は、イムノアッセイを含む他の方法で使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1-1】ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)を診断するために、選択反応モニタリング質量分析(immuno-SRM-MS)と組み合わせたペプチド免疫親和性濃縮に使用されるタンパク質標的及びペプチド配列。総質量、親イオン質量、及び娘イオン質量も示される。++は、二重に荷電された親イオンを示す。娘イオンのイオンタイプは括弧内にある。
図1-2】ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)を診断するために、選択反応モニタリング質量分析(immuno-SRM-MS)と組み合わせたペプチド免疫親和性濃縮に使用されるタンパク質標的及びペプチド配列。総質量、親イオン質量、及び娘イオン質量も示される。++は、二重に荷電された親イオンを示す。娘イオンのイオンタイプは括弧内にある。
図2A図2A図2B。WASp289及びBTK545のポリクローナル抗体を用いてマルチプレックス免疫多重反応モニタリング(MRM)アッセイによって測定されたペプチドの応答曲線。1回の質量分析(MS)実施で複数の親イオンをモニタリングする場合、このタイプの分析は、多重反応モニタリング(MRM)として公知である。MRM分析を使用すると、1回の質量分析実施で複数のタンパク質及びタンパク質の複数の領域(シグネチャーペプチド)をモニタリングし得る。応答曲線は、乾燥血液スポット(DBS)から抽出された消化タンパク質のバックグラウンドマトリックスで測定された、重いペプチド濃度の関数としての重:軽のピーク面積比率をプロットしている。この曲線により、アッセイの線形範囲及び感度を決定し得る。各データポイントは、灰色のボックスとしてプロットされ、線形回帰は線としてプロットされる。回帰適合パラメーターは、各プロットの隅に報告される。各プロットの重み付けは1/xである。(図2A)WASp 289;(図2B)BTK545。
図2B図2A図2B。WASp289及びBTK545のポリクローナル抗体を用いてマルチプレックス免疫多重反応モニタリング(MRM)アッセイによって測定されたペプチドの応答曲線。1回の質量分析(MS)実施で複数の親イオンをモニタリングする場合、このタイプの分析は、多重反応モニタリング(MRM)として公知である。MRM分析を使用すると、1回の質量分析実施で複数のタンパク質及びタンパク質の複数の領域(シグネチャーペプチド)をモニタリングし得る。応答曲線は、乾燥血液スポット(DBS)から抽出された消化タンパク質のバックグラウンドマトリックスで測定された、重いペプチド濃度の関数としての重:軽のピーク面積比率をプロットしている。この曲線により、アッセイの線形範囲及び感度を決定し得る。各データポイントは、灰色のボックスとしてプロットされ、線形回帰は線としてプロットされる。回帰適合パラメーターは、各プロットの隅に報告される。各プロットの重み付けは1/xである。(図2A)WASp 289;(図2B)BTK545。
図3A】内部標準(左パネル)及び内因性(右パネル)シグネチャーペプチドのMRMトレース:(図3A)WASp 289。WASp 289に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図3B】内部標準(左パネル)及び内因性(右パネル)シグネチャーペプチドのMRMトレース:(図3B)BTK 545。BTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図4A】正常な対照(n=40)及び患者(Pt)におけるシグネチャーペプチド濃度。(図4A)WASp 289;(図4B)BTK 545 WAS:n=11、BTK:n=26)。****p<0.0001、*p<0.05。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図4B】正常な対照(n=40)及び患者におけるシグネチャーペプチド濃度。(図4A)WASp 289;(図4B)BTK 545 WAS:n=11、BTK:n=26)。****p<0.0001、*p<0.05。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図5-1】臨床診断及び遺伝子型を用いた盲検コホート研究からの正常対照及び患者におけるATP7B 1056シグネチャーペプチド濃度。
図5-2】臨床診断及び遺伝子型を用いた盲検コホート研究からの正常対照及び患者におけるATP7B 1056シグネチャーペプチド濃度。
図5-3】臨床診断及び遺伝子型を用いた盲検コホート研究からの正常対照及び患者におけるATP7B 1056シグネチャーペプチド濃度。
図6-1】盲検コホート研究からの正常対照におけるシグネチャーペプチドの定量化。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図6-2】盲検コホート研究からの正常対照におけるシグネチャーペプチドの定量化。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図7-1】臨床診断及び遺伝子型を用いた盲検コホート研究からの患者におけるシグネチャーペプチドの濃度。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図7-2】臨床診断及び遺伝子型を用いた盲検コホート研究からの患者におけるシグネチャーペプチドの濃度。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図7-3】臨床診断及び遺伝子型を用いた盲検コホート研究からの患者におけるシグネチャーペプチドの濃度。WASp289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図8A図8A図8B。PIDDのimmuno-SRMの診断能力を示す受信者動作特性(ROC)プロット。(図8A)WASp 289及びBTK545のROCプロット。漸増的なストリンジェントなカットオフ値に対して、真陽性率及び偽陽性率をプロットする。同一線は、患者と対照を区別できない試験を示す。(図8B図8Aに示されるペプチドの曲線下面積(AUC)値及びp値。WASp 289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図8B図8A図8B。PIDDのimmuno-SRMの診断能力を示す受信者動作特性(ROC)プロット。(図8A)WASp 289及びBTK545のROCプロット。漸増的なストリンジェントなカットオフ値に対して、真陽性率及び偽陽性率をプロットする。同一線は、患者と対照を区別できない試験を示す。(図8B図8Aに示されるペプチドの曲線下面積(AUC)値及びp値。WASp 289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図9】ワシントン州の新生児スクリーニング研究所から入手した新生児DBSのシグネチャーペプチドレベル。WASp 289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図10-1】盲検コホート研究におけるATP7Bペプチド及び患者診断に対するシグネチャーペプチドの比率。WASp 289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図10-2】盲検コホート研究におけるATP7Bペプチド及び患者診断に対するシグネチャーペプチドの比率。WASp 289及びBTK545に結合するポリクローナル抗体を使用した。
図11A図11A、11B。正常な対照乾燥血液スポットにおける、モノクローナル抗体(BTK 545、n=55;WASp 289、n=50)とポリクローナル抗体(n=40)との間での測定されたペプチドの相違。
図11B図11A、11B。正常な対照乾燥血液スポットにおける、モノクローナル抗体(BTK 545、n=55;WASp 289、n=50)とポリクローナル抗体(n=40)との間での測定されたペプチドの相違。
図12】WASp 289モノクローナル抗体の正常な対照(n=50)範囲。
図13】XLA患者(n = 8)におけるBTK545モノクローナル抗体及びBTK545値の正常対照(n=55)範囲。
図14-1】本開示の例示的な配列。
図14-2】本開示の例示的な配列。
図14-3】本開示の例示的な配列。
図14-4】本開示の例示的な配列。
図14-5】本開示の例示的な配列。
図14-6】本開示の例示的な配列。
図14-7】本開示の例示的な配列。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
多くの疾患には、利用可能な効果的な処置を伴う。しかし、これらの疾患の多くでは、一旦症状が出現すれば、その疾患はすでに致命的であるか、または不可逆的な損傷をもたらしている。このよい例は、原発性免疫不全症(PIDD)である。
【0017】
原発性免疫不全障害(PIDD)は、先天性免疫異常(inborn errors of immunity:IEI)とも呼ばれ、免疫系の構成要素が欠落しているか、または不適切に機能している416を超えるまれな遺伝性障害のグループである。個々にはまれであるが、PIDDの合計発生率は約1200分の1と推定されている(Tangye et al.Journal of Clinical Immunology,2020.In Press;McCusker,C.,J.Upton、及びR.Warrington,Primary immunoficiency.Allergy、asthema,and clinical immunology:Canadian Society of Allergy and Clinical Immunologyのofficial journal,2018.14(Suppl 2): p.61-61;Kobrynski et al.J Clin Immunol, 2014.34(8):p.954-61)。一旦、適切に診断及び治療されると、患者は比較的正常な生活を送ることができる場合が多い(Kaveri et al.Clin Exp Immunol,2011.164 Suppl 2:p.2-5;Raje, N.及びC.Dinakar,Immunology and allergy clinics of North America, 2015.35(4):p.599-623)。障害に応じて、造血幹細胞移植(HSCT)、酵素補充療法(ERT)、または遺伝子療法による治癒的治療も可能である(Raje,N.及びC.Dinakar,Immunology and allergy clinics of North America, 2015.35(4):p.599-623;Aydin et al.J Clin Immunol,2015.35(2):p.189-98;Gaspar et al.Blood,2009.114(17):p.3524-32;Moratto et al.,Blood,2011.118(6):p.1675-84;Parta et al.,Journal of Clinical Immunology,2017.37(6):p.548-558;Staal et al.Frontiers in Pediatrics,2019.7(443);Ferrua et al.,Lancet Haematol,2019.6(5):p.e239-e253)。ほぼ遍在的に、PIDDの早期発見は、生命を脅かす可能性のある感染症及び慢性後遺症の管理及び予防に非常に重要である(Grunebaum et al.,JAMA,2006.295(5):p.508-18;Kanariou et al.Curr Opin Hematol,2018.25(1):p.7-12)。
【0018】
早期介入は、PIDDを臨床的に診断することの難しさ、及び単純な集団スクリーニングツールの欠如によって制限される。実験室での評価は、通常、再発性及び/または慢性感染症の証拠によって誘発される。臨床評価後、診断の確認に必要な臨床検査には、免疫細胞サブセット分析、タンパク質発現、及び/または患者の白血球の酵素活性など、技術的に要求の厳しい分析が含まれることがよくある(Bonilla et al.,Journal of Allergy and Clinical Immunology,2015.136(5):p.1186-1205.e78)。
【0019】
WASは、血小板の数及びサイズの減少を特徴とする免疫不全症である。WASは、WASタンパク質(WASp)を産生するWAS遺伝子の変異によって引き起こされ、X連鎖性血小板減少症及び重度の先天性好中球減少症という2つの他の障害を伴う疾患スペクトルの一部と見なされる場合が多い。これらの状態には、重複する兆候及び症状があり、同じ遺伝的原因がある。
【0020】
WASに関連する血小板の数及びサイズの減少は、血餅を形成する能力の低下をもたらす。これにより、あざができやすく、軽度の外傷に続いて出血が長引く症状発現につながり、これは、場合によっては生命を脅かすものである。WASの個体はまた、感染症、自己免疫障害(例えば、湿疹)、及び特定のがん(リンパ腫など)に対する感受性も高くなる。一旦、診断されると、WASの処置が利用可能になる。例示的な処置としては、免疫グロブリン注入、抗生物質、及び幹細胞移植が挙げられる。WASの処置選択肢として遺伝子治療も検討されている。
【0021】
XLAは、B細胞が正常に発達するのを妨げる遺伝性免疫不全症である。XLAは、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)と呼ばれる遺伝子の変異によって引き起こされる。XLAでは、細菌、ウイルス、その外来物質から防御するために必要な抗体を生成できなくなる。XLAの子供は、出生前に取得した母体の抗体によって保護されているため、通常、生後1~2か月は健康である。しかし、この時間の後、母体の抗体は体から排除され、罹患した子供は再発性感染症を発症する。再発性感染症は臓器の損傷につながる場合がある。一旦、診断されれば、XLAを処置するために抗体注入と抗生物質の形態での処置が利用可能である。
【0022】
先天性PIDDの大部分は特定のタンパク質の減少または欠如をもたらすので、これらの標的タンパク質の直接定量化は、特に新生児において魅力的な潜在的スクリーニングツールを表し、その結果、PIDDを早期に診断し、適切に処置し得る。
【0023】
新生児スクリーニング(NBS)評価を実施するために、血液中の特定の物質(マーカーまたはバイオマーカーと呼ばれる)の有無を検出するために、乾燥血液スポット(DBS)のパンチに対して臨床検査を実施する。スクリーニングされる障害は州ごとに異なるが、ほとんどの州では、フェニルケトン尿症、原発性先天性甲状腺機能低下症、嚢胞性線維症、及び鎌状赤血球症がスクリーニングされる。NBSは、患者の転帰を改善し、影響を受けた個体の長期的な障害を回避すると同時に、医療費を削減するのに非常に効果的であることが証明されている。残念ながら、検出は、血球中の非常に低いタンパク質濃度及びDBSに存在する限られた血液量によって制限される場合が多い。
【0024】
国際出願番号PCT/US2019/054856は、DBSなどの複雑な生物学的試料から、WAS及びXLAによって影響を受ける患者の識別を可能にするロバストなアッセイ及び方法を記載している。このアッセイでは、抗ペプチド抗体を使用してDBSから目的のペプチドを精製及び濃縮した後、質量分析計でペプチドを定量する。シグネチャーペプチドとして公知の目的のペプチドは、WASまたはXLAの影響を受けた個体に不足または欠失しているタンパク質の化学量論的代理である。選択反応モニタリング質量分析(immuno-SRM)と組み合わせたアッセイであるペプチド免疫親和性濃縮により、血液中に低ピコモル濃度で存在するタンパク質を高い再現性で定量可能になる(Collins et al.,Frontiers in Immunology、2018.9(2756))。
【0025】
シグネチャーペプチドマーカー及びそれらに結合する抗体はまた、他のPIDD、例えば、X連鎖慢性肉芽腫性疾患(X-GGD)、X連鎖リンパ増殖性症候群(XLP1;SH2D1A欠損症)、家族性血球貪食性リンパ組織球症2(FHL2)、運動失調症(AT)、分類不能型免疫不全症(CVID;B細胞機能不全)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、及びサイトカイン症8(DOCK8)欠損症の専用因子を診断するために、ならびにimmuno-SRMを使用して、血小板の細胞特異的マーカー(CD42)及びナチュラルキラー細胞(CD56)を検出するために開発された(PCT/US2021/020679;Collins et al.,Frontiers in Immunology,2020.11(464))。
【0026】
本開示は、例えば新生児で、WAS及びXLAを確実に診断するためのimmuno-SRM法において使用され得る抗体及びその抗原結合フラグメントを提供する。抗ペプチド抗体及びその抗原結合フラグメントは、他の疾患のスクリーニングパネルの一部として、多重(マルチプレックス)immuno-SRMアッセイでさらに使用され得る。
【0027】
本開示の以下の態様は、ここでより詳細に説明される:(i)生物学的試料の収集及び処理;(ii)WAS及びXLAのペプチドマーカー;(iii)WAS及びXLAのペプチドマーカーに結合する抗体;(iv)バリアント;(v)抗ペプチド抗体の免疫複合体;(vi)本開示の組換えタンパク質の生産;(vii)使用方法;(viii)キット;(ix)例示的な実施形態;(x)実験例;(xi)最終段落。
【0028】
(i)生物学的試料の収集及び処理。特定の実施形態では、本開示のimmuno-SRMアッセイで使用され得る生物学的試料には、血液または細胞に由来する試料が含まれる。特定の実施形態では、アッセイで使用される試料はDBSである。特定の実施形態では、対象由来の全血は、血液を濾紙カード上に置き、血液を乾燥させることによって調製し得る。
【0029】
特定の実施形態では、対象由来の全血を任意の抗凝固因子中に収集してもよい。特定の実施形態では、対象由来の全血は、ヘパリン中に収集してもよい。DBSは、50~100μL(例えば、70μL)の血液/スポットを、濾紙カード(例えば、Protein Saver(商標)903(登録商標)Card,Whatman Inc,Piscataway,NJ)上にピペッティングすることによって調製し、室温で乾燥させてもよい。特定の実施形態では、血液を濾紙カード上で一晩乾燥させる。DBSは、例えば、使用するまで-80℃で密封されたビニール袋に保管してもよい。特定の実施形態では、丸ごとのDBSを本開示のimmuno-SRMアッセイで使用してもよい。特定の実施形態では、DBS由来の1つ以上の3mmのパンチを、本開示のimmuno-SRMアッセイで使用してもよい。特定の実施形態では、DBSは、50mMの重炭酸アンモニウム中の0.1%のTriton X-100で可溶化してもよい。
【0030】
特定の実施形態では、本開示のimmuno-SRMアッセイで使用される試料は、口腔内綿棒または粘膜試料から得られた細胞を含む。特定の実施形態では、粘膜試料には、口腔、鼻、生殖器、及び直腸の試料が含まれる(Espinosa-de Aquino et al.(2017)Methods in Ecology and Evolution 8:370-378)。特定の実施形態では、口腔内綿棒試料は、頬または口由来の細胞を含む。特定の実施形態では、口腔内綿棒試料は、以下に記載されるプロトコルに従って対象から得てもよい:CHLA.(2016,April 4).Buccal Swab Collection Procedure.CHLA-Clinical Pathology;(2016,July 27).Buccal DNA Collection Instructions.Pathway Genomics;(2017,Dec 14).Instruction for Buccal Swab Sample Collection.Otogenetics;PDXL PDXL.(2017,Nov 28).Buccal Swab collection procedure-PersonalizedDx Labs [Video].YouTube.On World Wide Web at youtu.be/3ftvHkfM71o?t=146;and Centers of Disease Control and Prevention (CDC). (2020, July 8).Interim Guidelines for collecting, handling, and testing clinical specimens for Covid-19.On World Wide Web at cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/lab/guidelines-clinical-specimens.html。
【0031】
特定の実施形態では、口腔内綿棒試料は、以下のプロトコルを用いて対象から得てもよい。試料採取の前に、患者は少なくとも30分間、喫煙、食事、飲酒、ガムを噛んだり、歯を磨いたりしない。綿棒はパッケージから慎重に取り出し、先端が物体や表面に触れないようにする。綿棒は、頬、歯、上歯茎の間の口の片側にある頬腔に挿入する。綿棒の先端を片方の頬の内側に押し込み、円を描くように上下左右にこする。摩擦中にハンドルを回転させて、先端全体を頬の細胞で覆う。収集プロセス中は、その先端が歯、歯茎、唇に触れないようにしておく。綿棒が唾液で過剰に飽和しないようにする。採取後、歯、歯茎、唇に触れることなく、綿棒を口から取り除く。綿棒を室温で少なくとも30分間風乾させる。ハンドルを取り外した綿棒は、極低温バイアルに保管してもよい。この手順は、反対側の頬に2番目の綿棒を付けて繰り返してもよい。口腔内綿棒試料は、収集後最大72時間2~8℃で保存してもよいし、72時間以上の場合は-80℃以下の冷凍庫に保存してもよい。特定の実施形態では、口腔内綿棒を用いた細胞の収集は、少なくとも30秒間であり得る。特定の実施形態では、口腔内綿棒を有する細胞の収集は、最大の粘膜表面から収集され得る。特定の実施形態では、1から5つの口腔内綿棒試料を対象ごとに収集してもよい。特定の実施形態では、口腔内綿棒試料は、滅菌表面上で、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも15分、少なくとも20分、少なくとも25分、少なくとも30分、またはそれ以上空気乾燥され得る。特定の実施形態では、対象は、試料収集の前に、きれいな水で口をすすいでもよい。特定の実施形態では、試料収集の領域は、別個の綿棒を使用して生理食塩水で湿らせてもよい。特定の実施形態では、口腔内綿棒試料は、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、0℃、-5℃、-10℃、-15℃、-20℃、またはそれ以下で保存してもよい。特定の実施形態では、口腔内綿棒試料は、-20℃で1~2週間保存してもよい。特定の実施形態では、頬側試料は、綿棒の代わりに水及び/またはうがい薬リンスから収集してもよい(Michalczyk et al.(2004)Bio Techniques 37(2):262-269)。
【0032】
特定の実施形態では、口腔内綿棒試料由来の細胞は、50mM重炭酸アンモニウム中の0.1%Triton X-100で可溶化してもよい。特定の実施形態では、タンパク質は、Espinosa-de Aquino et al.(2017)に記載されているプロトコルに従って、口腔内綿棒試料から単離してもよい。特定の実施形態では、口腔内綿棒試料由来の細胞は、TRIzol(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)などの適切な緩衝液で抽出してもよく、そして核酸沈殿後の上清を、タンパク質抽出に使用してもよい。特定の実施形態では、タンパク質をアセトンで沈殿させてもよく、タンパク質ペレットを適切な緩衝液(例えば、2.5%グリセロールを補充した95%エタノール中の塩酸グアニジン)に再懸濁してもよく、ペレットを超音波処理によって分散してもよく、このペレットを遠心分離して洗浄してもよく、このペレットを乾燥させてもよく、このペレットを適切な緩衝液(例えば、PBS及びドデシル硫酸ナトリウム)に可溶化してもよい。特定の実施形態では、可溶化されたペレットを100℃で加熱し、次に遠心分離して、使用するための上清を得てもよい。
【0033】
特定の実施形態では、本開示の方法で使用される試料には、末梢血単核細胞(PBMC)が含まれる。PBMCは末梢血に由来し、骨髄に存在する造血幹細胞(HSC)に由来する。PBMCは、核が丸い血液細胞であり、単球、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞など)、樹状細胞、及び幹細胞など、多くの種類の細胞を含み得る。PBMCは、密度遠心分離(例えば、フィコール-パックを用いた)を含む、当技術分野で公知の任意の技術によって単離され得る。密度勾配遠心分離は、細胞密度によって細胞を分離する。特定の実施形態では、全血またはバフィーコート層は、2つの層を混合した後に遠心分離することなく、密度媒体の上または下に層状になり得る。特定の実施形態では、PBMCは、血漿と密度勾配媒体との間の界面に薄い白色層として現れる。特定の実施形態では、フィコール-ハイパックを含むVacutaener(登録商標)採血管、及びフィコール溶液を採血される血液から分離するゲルプラグを使用してもよい(細胞調製チューブCPT(商標)、BD Biosciences,San Jose,CA;Puleo et al.(2017)Bio-protocol 7(2):e2103)。特定の実施形態では、密度勾配媒体と試料とが遠心分離の前に混合するのを防ぐためにインサートを備えて設計されたSepMate(商標)チューブ(STEMCELL(商標)Technologies,Vancouver,CA)を使用してもよい(Kerfoot et al.,Proteomics Clin Appl、2012.6(7-8):394-402;Grievink et al.,Biopreserv Biobank.2016 Oct;14(5):410-415;Corkum et al.(2015)BMC Immunol.16:48;Jia et al.(2018)Biopreserv Biobank 16(2):82-91)。特定の実施形態では、PBMCは、白血球アフェレーシスによって単離してもよい。白血球アフェレーシスマシンは、ドナーから全血を採取し、高速遠心分離を使用して標的PBMC画分を分離し、同時に血漿、赤血球、及び顆粒球などの血液の残りの部分をドナーに戻す自動装置である。特定の実施形態では、単離されたPBMCは、50mMの重炭酸アンモニウム中の0.1%のトリトンX-100で可溶化してもよい。
【0034】
特定の実施形態では、本開示のimmuno-SRMアッセイで使用される試料には、白血球(WBC;白血球)が挙げられる。WBCは免疫系の一部であり、感染症及び外来の侵入者から体を保護する。特定の実施形態では、WBCは、顆粒球(多形核細胞)、リンパ球(単核細胞)、及び単球(単核細胞)を含む。特定の実施形態では、WBCは、リンパ球及び単球を含むが、顆粒球を含まない。WBCは、当該分野で公知の任意の技術、例としては、密度勾配遠心分離(Boyum(1968)ヒト血液からの単核細胞及び顆粒球の分離(Isolation of mononuclear cells and granulocytes from human blood)。1回の遠心分離による単核細胞の分離、ならびに遠心分離及び1gでの沈降の組み合わせによる顆粒球の分離(Isolation of mononuclear cells by one centrifugation and of granulocytes by combining centrifugation and sedimentation at 1 g)Scand.J.Clin.Lab Invest.Suppl.97:77;Boyum(1977)Lymphology,10(2):71-76)によって;浸透圧ショックによる白血球溶解(Morgensen and Cantrell(1977)Pharm Therap.1:369-383);RosetteSep(商標)(STEMCELL(商標)Technologies,Vancouver,CA)、例としては、抗体を介した不要な細胞の赤血球への結合及び密度勾配分離による除去(Beeton and Chandy(2007)J Vis Exp.(8):326);細胞の濃縮または枯渇のための磁気ビーズ(Brocks et al(2006)In vivo 20(2):239);B及び/またはNK細胞を濃縮するための補体媒介溶解(Faguet and Agee(1993)J Imm Meth 165(2):217);ならびに抗体でコーティングされたプレートへの付着による細胞の濃縮または枯渇を含む不要な細胞を除去するためのパンニング(Brousso et al(1997)Immunol Let 59(2):85)によって分離及び任意選択で濃縮されてもよい。WBCの分離及び濃縮プロトコルのレビューについては、Dagur and McCoy(2015)Curr Protoc Cytom、73:5.1.1-5.1.16を参照のこと。
【0035】
(ii)WAS及びXLAのためのペプチドマーカー。標的タンパク質由来の多くの理論的なタンパク質分解ペプチドがあり、それらは、モノクローナル抗体産生の潜在的な候補となり得る。特定の実施形態では、MS/MSによってそれらの特徴をスクリーニングした後、最良の潜在的な候補ペプチドを選択した。最高の感度及び特異性を有するこれらのシグネチャーペプチドを選択して、対応するモノクローナル抗体を開発し、臨床試料を使用して検証した。
【0036】
典型的には、目的のタンパク質に固有であり、MS実験で一貫して観察される1つまたは2つのシグネチャープロテオティピックペプチドを、目的のタンパク質を化学量論的に表すために選択する(Mallick et al.Nat Biotechnol 2007;25:125-131)。シグネチャーペプチドは、以前のMS実験での検出、MSで観察可能な可能性が最も高いペプチドを予測するための計算ツールの使用、またはその両方の組み合わせによって選択され得る。特定の実施形態では、中程度の疎水性を有する長さ5~22のアミノ酸のトリプシンペプチドを選択してもよい。極めて親水性及び極めて疎水性のペプチドは、HPLCでの保持時間の変動及び表面への損失に起因して、安定性が低下する可能性がある。特定の実施形態では、メチオニン残基(酸化)、N末端グルタミン(環化)、アスパラギンに続くグリシンまたはプロリン(脱アミド化の傾向がある)、及び二塩基性末端(例えば、KK、KR、RR、RKなどの隣接するリジンまたはアルギニン残基は、消化効率が変動する可能性がある)は望ましくない場合がある(Whiteaker及びPaulovich Clin Lab Med.2011;31(3):385-396)。より短いペプチド及びプロリン残基を含むペプチドは、SRMのより良い標的となり得る(Lange et al.Molecular Systems Biology 2008;4:222)。
【0037】
特定の実施形態では、ペプチドは、個体がWAS及び/またはXLAを有するか否かを診断するためのバイオマーカーとして役立つことができるシグネチャーペプチドである。シグネチャーペプチドバイオマーカーの欠損または欠失は、個体がWAS及び/またはXLAを有することを示す。特定の実施形態では、ペプチドは、WASp、及び/またはBTKの一部を含む。特定の実施形態では、ペプチドは、表1の配列番号1及び2を含む。
【0038】
【表1】
【0039】
(iii)WAS及びXLAのペプチドマーカーに結合する抗体。本開示のシグネチャーペプチドバイオマーカーに結合する抗体及びその抗原結合フラグメントが提供される。特定の実施形態では、WAS及びXLAにおいて減少または存在しないタンパク質のペプチドに対して生成された抗ペプチド抗体及びその抗原結合フラグメントは、WAS及びXLAを確実に診断するためにimmuno-SRM法において使用され得る。特定の実施形態では、本開示の抗体及びその抗原結合フラグメントは、組換え抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。
【0040】
特定の実施形態では、本開示の抗体及びその抗原結合フラグメントは、表2及び3に示される相補性決定領域(CDR)、可変重ドメイン(VH)、可変軽ドメイン(VL)、重鎖、及び軽鎖を含む。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0043】
特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号31によってコードされるリーダー配列を有する抗WASp 289 VHドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号32によってコードされるリーダー配列を有する抗WASp 289 VLドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号33によってコードされるリーダー配列を有する抗WASp 289重鎖を含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号34によってコードされるリーダー配列を有する抗WASp 289軽鎖を含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号35によってコードされるリーダー配列を有する抗BTK 545VHドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号36によってコードされるリーダー配列を有する抗BTK545 VLドメインを含む。具体的な実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号37によってコードされるリーダー配列を有する抗BTK 545重鎖を含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号38によってコードされるリーダー配列を有する抗BTK 545軽鎖を含む。
【0044】
特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号62によってコードされるリーダー配列を有さない抗WASp 289 VHドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号63によってコードされるリーダー配列を有さない抗WASp 289 VLドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号64によってコードされるリーダー配列を有さない抗WASp 289重鎖を含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号65によってコードされるリーダー配列を有さない抗WASp 289軽鎖を含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号66によってコードされるリーダー配列を有さない抗BTK 545 VHドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号67によってコードされるリーダー配列を含まない抗BTK 545 VLドメインを含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号68によってコードされるリーダー配列を有さない抗BTK 545重鎖を含む。特定の実施形態では、例示的な抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号69によってコードされるリーダー配列を有さない抗BTK 545軽鎖を含む。
【0045】
抗体は、天然であるか、または部分的もしくは完全に合成的に産生されたかにかかわらず、免疫グロブリン遺伝子(複数可)、またはそのフラグメントによって実質的にコードされるポリペプチドリガンドを含む。抗体は、エピトープ(例えば、抗原)に特異的に(または選択的に)結合して認識する。抗体は、免疫グロブリン結合ドメインと相同または大部分が相同である結合ドメインを有する任意のタンパク質を含み得る。抗体はモノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEなどの任意のヒトのクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであり得る。認識される免疫グロブリン遺伝子としては、カッパ及びラムダ軽鎖定常領域遺伝子、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー重鎖定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。抗体の「Fc」部分は、1つ以上の重鎖定常領域ドメイン、CH1、CH2及びCH3を含むが、重鎖可変領域を含まない免疫グロブリン重鎖のその部分を指す。
【0046】
インタクトな抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重鎖(H)鎖及び2つの軽鎖(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHまたはVと略される)及び重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域には、CH1、CH2、及びCH3という3つのドメインが含まれる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLまたはVと略される)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域には、1つのドメインCLが含まれる。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域(フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が点在する)にさらに細分化され得る。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。重鎖及び軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれている。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的な補体系の第1の成分(Clq)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0047】
抗体フラグメントは、完全長未満である抗体の任意の誘導体または部分を含む。特定の実施形態では、抗体フラグメントは、結合パートナーとしての全長抗体の特異的結合能力の少なくともかなりの部分を保持している。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、Fv、dsFvダイアボディ、及びFdフラグメント、ならびに/または本明細書に記載のエピトープに特異的に結合する免疫グロブリンの任意の生物学的に有効なフラグメントが挙げられる。抗体または抗体フラグメントとしては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ミニボディ、及び線状抗体の全部または一部が挙げられる。
【0048】
一本鎖可変フラグメント(scFv)は、短いリンカーペプチドに接続された免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域の融合タンパク質である。Fvフラグメントには、抗体の単一のアームのVLドメイン及びVHドメインが含まれる。Fvフラグメントの2つのドメイン、VL及びVHは、別個の遺伝子によってコードされているが、それらは、例えば、組換え法を使用して、それらを単一のタンパク質鎖として作製することを可能にする合成リンカーによって結合されてもよく、ここでは、VL領域とVH領域が対になって、一価分子(一本鎖Fv(scFv))を形成する。Fv及びscFvに関する追加情報については、例えば、Bird,et al.,Science 242(1988)423-426;Huston,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(1988)5879-5883;Plueckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore(eds.),Springer-Verlag,New York),(1994)269-315;WO1993/16185;米国特許第5,571,894号;及び米国特許第5,587,458号を参照のこと。
【0049】
Fabフラグメントは、VL、VH、CL及びCH1ドメインを含む一価の抗体フラグメントである。F(ab’)フラグメントは、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む2価フラグメントである。インビボ半減期が延長したFab及びF(ab’)フラグメントの考察に関しては、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディには、二価であってもよい2つのエピトープ結合部位が含まれる。例えば、欧州特許第0404097号;WO1993/01161;及びHolliger, et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)6444-6448を参照のこと。二重親和性再標的化抗体(Dual affinity retargeting antibodies)(DART(商標);ダイアボディフォーマットに基づくが、追加の安定化のためのC末端ジスルフィドブリッジを特徴とする(Moore et al.,Blood 117,4542-51(2011))も使用してもよい。抗体フラグメントには単離されたCDRも含まれ得る。抗体フラグメントのレビューについては、Hudson,et al.,Nat.Med.9(2003)129-134を参照のこと。
【0050】
抗体フラグメントは、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体フラグメントは、インタクトな抗体の断片化によって酵素的もしくは化学的に生成されてもよいし、または部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成されてもよい。あるいは、抗体フラグメントは、全体的または部分的に合成的に産生され得る。抗体フラグメントは、一本鎖抗体フラグメントを含んでもよい。別の実施形態では、このフラグメントは、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結されている複数の鎖を含んでもよい。このフラグメントはまた、多分子複合体を含んでもよい。機能的抗体フラグメントは、典型的には少なくとも50アミノ酸を含み得、より典型的には少なくとも200アミノ酸を含む。
【0051】
特定の実施形態では、組換え免疫グロブリンを産生し得る。Cabilly、米国特許第4,816,567号、及びQueen et al.,Proc Natl Acad Sci USA,86:10029-10033(1989)を参照のこと。
【0052】
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から分離されたものである。特定の実施形態では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換または逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC))によって決定されるように、95%または99%を超える純度に精製される。抗体の純度を評価する方法のレビューについては、例えば、Flatman et al.(2007)Chromatogr.B 848:79-87を参照のこと。
【0053】
示されるように、特定の実施形態では、操作された抗体または抗原結合フラグメントの結合ドメインは、リンカーを介して結合され得る。リンカーは、操作された抗体の結合ドメインまたは抗原結合フラグメントの間の高次構造移動のための可塑性及び余地を提供し得るアミノ酸配列である。任意の適切なリンカーを使用してもよい。リンカーの例は、Chen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 Oct15;65(10):1357-1369に見出され得る。リンカーは、標的への所望の機能ドメインの提示に応じて、可塑性であっても、固定であっても、または半固定であってもよい。一般的に使用される可塑性のリンカーとしては、GGSGGGSGGSG(配列番号39)、GGSGGGSGSG(配列番号40)及びGGSGGGSG(配列番号41)などのGly-Serリンカーが挙げられる。追加の例はとしては以下が挙げられる:GGGGSGGGGS(配列番号42);GGGSGGGS(配列番号43);及びGGSGGS(配列番号44)。CH3単独またはCH2CH3配列などの1つ以上の抗体ヒンジ領域及び/または免疫グロブリン重鎖定常領域を含むリンカーもまた使用してもよい。
【0054】
抗体が様々な翻訳後修飾を受け得ることも当業者によって理解されるであろう。これらの修飾の種類及び程度は、抗体の発現に使用される宿主細胞株及び培養条件に依存する場合が多い。このような修飾としては、グリコシル化、メチオニン酸化、ジケトピペラジン形成、アスパラギン酸異性化、及びアスパラギン脱アミド化の変化を含み得る。
【0055】
モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を含み、すなわち、集団を含む個々の抗体は、モノクローナル抗体の産生中に生じ得る可能性のあるバリアント(そのようなバリアントは一般的には少量で存在する)を除いて、同一であるか、及び/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられている。このタイプの抗体は、単一の抗体産生ハイブリドーマの娘細胞によって産生される。モノクローナル抗体は通常、結合する任意のエピトープに対して単一の結合親和性を示す。
【0056】
修飾因子「モノクローナル」は、抗体の均一な集団から得られるものとしての抗体の特徴を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。モノクローナル抗体は1種類の抗原のみを認識する。本明細書のモノクローナル抗体としては、重鎖及び/または軽鎖の一部が特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるが、鎖(複数可)の残りの部分は、別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列、ならびにそのような抗体のフラグメントと同一または相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)が挙げられる。抗体を産生するための技術は、当該技術分野で周知であり、例えば、Harlow and Lane“Antibodies,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbour Laboratory Press,1988;Harlow and Lane “Using Antibodies:A Laboratory Manual”Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999;Tickle et al.JALA:Journal of the Association for Laboratory Automation.2009;14(5):303-307;Babcook et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996;93:7843-7848;及び米国特許第5,627,052号に記載されている。
【0057】
「ヒト抗体」とは、ヒトもしくはヒト細胞によって産生されるか、またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列配列に対応するアミノ酸配列を含む抗体である。
【0058】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンVまたはVフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVまたはV配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループから行われる。配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda Md.(1991),vols.1-3などのサブグループであってもよい。特定の実施形態では、Vの場合、サブグループは、Kabat et al.(前出)のようにサブグループのカッパIである。特定の実施形態では、Vの場合、サブグループは、Kabatら(前出)のようにサブグループIIIである。
【0059】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基及びヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、CDRの全てまたは実質的に全てが非ヒト抗体のものに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意選択で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含み得る。抗体の「ヒト化型」、例えば、非ヒト抗体は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0060】
ヒト化抗体及びそれらを作製する方法は、例えば、Almagro及びFransson、Front Biosci.13:1619-1633、2008においてレビューされており、さらに、例えば、Riechmann et al.,Nature 332:323-329、1988;Queen et al.,Proc. Nat’l Acad.Sci.USA 86:10029-10033,1989;米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号、及び同第7,087,409号;Kashmiri et al.,Methods 36:25-34,2005(SDR(a-CDR)グラフティグを記述);Padlan,Mol.Immunol.28:489-498,1991(「リサーフェーシング(resurfacing)」を記述);Dall’Acqua et al.,Methods 36:43-60,2005(「FRシャッフリング」を記述);ならびにOsbourn et al.,Methods 36:61-68,2005及びKlimka et al.,Br.J.Cancer,83:252-260,2000(FRシャッフリングに対する「ガイド選択(guided selection)」アプローチを記述)にさらに記載される。EP-B-0239400は、最初の抗体の1つ以上のCDRが、その抗体ではない配列、例えば別の抗体のフレームワーク内に配置される「CDR-グラフティング」をさらに記述している。
【0061】
ヒト化に使用され得るヒトフレームワーク領域には、以下が含まれる:「ベスト-フィット」法を使用して選択されたフレームワーク領域(例えば、Sims et al.J.Immunol.151:2296,1993を参照);軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter et al.,Proc.Nati.Acad.Sci.USA,89:4285、1992;及びPresta et al.,J.Immunol.,151:2623、1993を参照のこと);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633、2008を参照);及びFRライブラリーのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Baca et al.,J.Biol.Chem.272:10678-10684,1997;及びRosok et al.,J.Biol.Chem.271:22611-22618,1996を参照のこと)。
【0062】
特定の実施形態では、「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強さを指す。特に明記しない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体及びペプチド)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(K)または結合定数(K)で表され得る。親和性は、当該技術分野で公知の一般的な方法によって測定され得る。特定の実施形態では、Kは、放射性標識された抗原結合アッセイ(RIA)または表面プラズモン共鳴アッセイを用いて特徴付けされ得る。
【0063】
特定の実施形態では、「結合」とは、抗体の結合ドメインが、10-8M以下の解離定数(K)、特定の実施形態では10-5M~10-13M、特定の実施形態では10-5M~10-10M、特定の実施形態では10-5M~10-7M、特定の実施形態では10-8M~10-13M、または特定の実施形態では10-9M~10-13Mという解離定数(KD)でその標的ペプチドと会合することを意味する。この用語はさらに、結合ドメインが、存在する他の生体分子に結合しないことを示すために使用されてもよい(例えば、それは、10-4M以上、特定の実施形態では10-4M~1Mという解離定数(K)を有する他の生体分子に結合する)。
【0064】
特定の実施形態では、「結合」とは、抗体の結合ドメインが、10-1以上の親和性定数(すなわち、会合定数、K)、特定の実施形態では10-1~1013-1、特定の実施形態では10-1~1010-1、特定の実施形態では10-1~10-1、特定の実施形態では10-1~1013-1、または特定の実施形態では10-1~10-1という親和性定数でその標的ペプチドと会合することを意味する。この用語はさらに、結合ドメインが存在する他の生体分子に結合しないことを示すために使用されてもよい(例えば、それは、10-1以下の会合定数(K)、特定の実施形態では10-1~1M-1の会合定数)で他の生体分子に結合する)。
【0065】
本明細書に開示される抗体と同じエピトープに結合する抗体は、競合アッセイにおいて、本明細書に開示される抗体のそれぞれのペプチドへの結合を50%以上ブロックする抗体を指し、逆に、本明細書に開示される抗体は、競合アッセイにおけるその抗原に対する抗体の結合を50%以上ブロックする。例示的な競合アッセイにおいて、固定化されたWASp 289またはBTK 545ペプチドは、それぞれ、WASp 289またはBTK 545ペプチドに結合するための、WASp 289またはBTK 545ペプチドに結合する第1の標識抗体と、抗WASp 289または抗BTK 545と競合する能力について試験されている第2の非標識抗体とを含む溶液中でインキュベートされる。対照として、固定化されたWASp 289またはBTK 545ペプチドを、WASp 289またはBTK 545ペプチドに結合するが、2番目の非標識抗体には結合しない、第1の標識抗体を含む溶液中でインキュベートする。抗WASp 289または抗BTK 545のそれぞれのペプチドへの結合を許容する条件下でのインキュベーション後、過剰な非結合抗体を除去し、固定化されたWASp 289またはBTK 545ペプチドに関連する標識の量を測定する。固定化されたWASp 289またはBTK 545ペプチドに関連する標識の量が、対照試料と比較して試験試料で大幅に減少している場合、それは、二次抗体がそれぞれWASp 289またはBTK 545ペプチドへの結合について抗WASp 289または抗BTK 545と競合していることを示す。Harlow and Lane(1988)Antibodies:A Laboratory Manual ch.14(Cold Spring Harbour Laboratory、Cold Spring Harbour、NY)を参照のこと。
【0066】
(iv)バリアント。本明細書に記載の抗体のバリアントも含まれる。抗体のバリアントとしては、タンパク質の結合に悪影響を及ぼさない、1つ以上の保存的アミノ酸置換または1つ以上の非保存的置換を有するバリアントが含まれ得る。
【0067】
特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換は、参照配列の構造的特徴を実質的に変化させない場合がある(例えば、置換アミノ酸は、抗体/ペプチド結合を破壊してはならない)。当該分野で認識されているポリペプチドの二次及び三次構造の例は、Proteins, Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden & J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));及びThornton et al., Nature, 354:105 (1991)に記載されている。
【0068】
天然に存在するアミノ酸は、一般に、以下のように保存的置換ファミリーに分類される:グループ1:アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)、及びスレオニン(Thr);グループ2:(酸性):アスパラギン酸(Asp)、及びグルタミン酸(Glu);グループ3:(酸性;極性、負に帯電した残基及びそれらのアミドとしても分類される):アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、Asp、及びGlu;グループ4:Gln及びAsn;グループ5:(塩基性;極性の正に帯電した残基としても分類される):アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、及びヒスチジン(His);グループ6(大きな脂肪族、非極性残基):イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、バリン(Val)、及びシステイン(Cys);グループ7(非荷電極性):チロシン(Tyr)、Gly、Asn、Gln、Cys、Ser、及びThr;グループ8(大きな芳香族残基):フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、及びTyr;グループ9(非極性):プロリン(Pro)、Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Met、及びTrp;グループ11(脂肪族):Gly、Ala、Val、Leu、及びIle;グループ10(小さな脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基):Ala、Ser、Thr、Pro、及びGly;及びグループ12(硫黄含有):Met及びCys。追加情報は、Creighton(1984)Proteins、W.H.Freeman and Companyに見出され得る。
【0069】
そのような変更を行う際に、アミノ酸のハイドロパシー指数を考慮してもよい。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与する際のハイドロパシーアミノ酸指数の重要性は、当技術分野で一般的に理解されている(Kyte and Doolittle,1982,J.Mol.Biol.157(1)、105-32)。各アミノ酸には、その疎水性と電荷特性に基づいてハイドロパシー指数が割り当てられている(Kyte and Doolittle,1982)。これらの値は次のとおりである。Ile(+4.5);Val(+4.2);Leu(+3.8);Phe(+2.8);Cys(+2.5);Met(+1.9);Ala(+1.8);Gly(-0.4);Thr(-0.7);Ser(-0.8);Trp(-0.9);Tyr(-1.3);Pro(-1.6);His(-3.2);Glutamate(-3.5);Gln(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);Asn(-3.5);Lys(-3.9);及びArg(-4.5)。
【0070】
特定のアミノ酸が、同様のハイドロパシー指数またはスコアを有する他のアミノ酸によって置換されてもよく、それでも同様の生物学的活性を有するタンパク質をもたらし得、すなわち、生物学的に機能的に同等のタンパク質を依然として得ることが当技術分野で公知である。そのような変更を行う際に、ハイドロパシー指数が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、そして±0.5以内のものがさらに特に好ましい。同様のアミノ酸の置換は、親水性に基づいて効果的に行うことができることも当技術分野で理解されている。
【0071】
米国特許第4,544,101号に詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:Arg(+3.0);Lys(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);Ser(+0.3);Asn(+0.2);Gln(+0.2);Gly(0);Thr(-0.4);Pro(-0.5±1);Ala(-0.5);His(-0.5);Cys(-1.0);Met(-1.3);Val(-1.5);Leu(-1.8);Ile(-1.8);Tyr(-2.3);Phe(-2.5);Trp(-3.4)。アミノ酸は、同様の親水性値を有する別のアミノ酸で置換されてもよく、それでも生物学的に同等の、特に免疫学的に同等のタンパク質を得ることができることが理解される。そのような変化において、親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、そして±0.5以内のものがさらに特に好ましい。
【0072】
上で概説したように、アミノ酸置換は、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいてもよい。
【0073】
特定の実施形態では、V領域は、開示されたVに由来するか、またはそれに基づいて得られてもよく、開示されたVと比較した場合、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)の挿入、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)の欠失、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)のアミノ、酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)、または上記の変化の組み合わせを含んでもよい。挿入、欠失または置換は、この領域のアミノ末端またはカルボキシ末端またはその両方の末端を含むV領域のいずれであってもよく、ただし、各CDRがゼロの変化または多くても1、2、または3つの変化を含む条件で、及び修飾されたV領域を含む抗体が、野生型結合ドメインと同様の親和性でその標的エピトープに特異的に結合し得る条件である。
【0074】
特定の実施形態では、V領域は、開示されたVに由来するか、またはそれに基づいて得られてもよく、そして本明細書に開示されるVと比較した場合、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)の挿入、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)の欠失、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換)、または上記の変化の組み合わせを含んでもよい。挿入、欠失、または置換は、この領域のアミノ末端もしくはカルボキシ末端またはその両方など、V領域のどこにあってもよく、ただし、各CDRにゼロの変化、または多くても1つ、2つ、または3つの変化が含まれる条件で、修飾されたV領域を含む抗体が、野生型結合ドメインと同様の親和性でその標的エピトープに特異的に結合し得る条件である。
【0075】
特定の実施形態では、バリアントは、本明細書に開示される抗体配列に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%の配列同一性を有する配列を含むか、またはその配列である。特定の実施形態では、バリアントは、軽鎖可変領域(V)及び/または重鎖可変領域(V)、あるいはその両方に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%の配列同一性を有する配列を含むか、またはその配列であり、各CDRはゼロ変化を含むか、または、本明細書に開示される抗体、またはWASpもしくはBTKシグネチャーペプチドに特異的に結合するその断片または誘導体からゼロの変化、または最大で1、2、もしくは3つの変化を含む。
【0076】
特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸修飾は、抗体のFc領域に導入され得、それにより、Fc領域バリアントを生成し得る。Fc領域バリアントは、1つ以上のアミノ酸位置でのアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fc領域)を含んでもよい。
【0077】
特定の実施形態では、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作抗体、例えば「チオMAb」を作製することが望ましい場合がある。特定の実施形態では、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位で生じる。これらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基はそれによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、以下でさらに説明するように、抗体を他の部分に結合させるために使用され得る。システイン操作抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されているように生成してもよい。
【0078】
特定の実施形態では、修飾された抗体は、1つ以上のアミノ酸が非アミノ酸成分で置き換えられているか、またはアミノ酸が官能基に会合されているか、または官能基がそうでなければアミノ酸と会合されている。修飾アミノ酸は、例えば、グリコシル化アミノ酸、ペグ化アミノ酸、ファルネシル化アミノ酸、アセチル化アミノ酸、ビオチン化アミノ酸、脂質部分に結合したアミノ酸、または有機誘導体化剤にコンジュゲートされたアプローチであってもよい。アミノ酸(複数可)は、例えば、組換え産生中に同時翻訳されても、または翻訳後修飾されてもよく(例えば、哺乳動物細胞での発現中のN-X-S/TモチーフでのN-結合型グリコシル化)、または合成手段によって修飾されてもよい。修飾アミノ酸は、配列内にあっても、または配列の末端にあってもよい。修飾には、ニトロ化された構築物も含まれる。
【0079】
特定の実施形態では、バリアントは、参照配列のアミノ酸配列と比較して、グリコシル化部位の数及び/またはタイプが変更されているグリコシル化バリアントを含む。特定の実施形態では、グリコシル化バリアントは、参照配列よりも多いまたは少ない数のN結合型グリコシル化部位を含む。N結合型グリコシル化部位は、配列:Asn-X-SerまたはAsn-X-Thrによって特徴付けられ、ここで、Xとして指定されるアミノ酸残基は、プロリンを除く任意のアミノ酸残基であり得る。この配列を作成するためのアミノ酸残基の置換は、N-結合型糖鎖の付加のための潜在的な新しい部位を提供する。あるいは、この配列を排除する置換は、既存のN-結合型糖鎖を除去する。1つ以上のN結合型グリコシル化部位(例えば、天然に存在する部位)が排除され、1つ以上の新しいN結合型部位が作成される、N結合型炭水化物鎖の再配列も提供される。追加の抗体バリアントには、参照配列と比較して、1つ以上のシステイン残基が別のアミノ酸(例えば、セリン)から欠失または置換されているシステインバリアントが含まれる。これらのシステインバリアントは、不溶性封入体の単離後など、抗体を生物学的に活性なコンフォメーションにリフォールディングする必要がある場合に有用であり得る。これらのシステインバリアントは、一般に、参照配列よりもシステイン残基が少なく、通常、対になっていないシステインに起因する相互作用を最小限に抑えるために偶数である。
【0080】
ペグ化(PEGylation)は、特に、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖がタンパク質などの他の分子に共有結合するプロセスである。タンパク質をペグ化するいくつかの方法が文献で報告されている。例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)-PEGを、リジン残基の遊離アミン基及びタンパク質のN末端をペグ化するために使用した。アルデヒド基を有するPEGは、還元試薬の存在下でタンパク質のアミノ末端をペグ化(PEG化)するために使用されてきた。マレイミド官能基を持つPEGは、タンパク質のシステイン残基の遊離チオール基を選択的にペグ化するために使用されてきた。アセチルフェニルアラニン残基の部位特異的PEG化を行ってもよい。
【0081】
「配列同一性%」とは、配列を比較することによって決定される、2つ以上の配列間の関係を指す。当技術分野において、「同一性」とはまた、そのような配列のストリング間の一致によって決定される、タンパク質、核酸、または遺伝子配列間の配列関連性の程度を意味する。「同一性」(しばしば「類似性」と呼ばれる)は、以下に記載されている方法を含む(ただしこれらに限定されない)公知の方法によって容易に算出され得る:Computational Molecular Biology(Lesk、A.M.,ed.)Oxford University Press,NY(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,ed.)Academic Press,NY(1994);Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,及びGriffin,H.G.,編集)Humana Press,NJ(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(Von Heijne,G.,ed.)Academic Press (1987);及びSequence Analysis Primer(Gribskov,M.及びDevereux,J.,eds.)Oxford University Press,NY(1992)。同一性を決定するための好ましい方法は、試験された配列間で最良の一致を与えるように設計されている。同一性と類似性を決定する方法は、公に利用可能なコンピュータプログラムに体系化されている。配列アラインメント及びパーセント同一性の計算は、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR、Inc.、Madison,Wisconsin)のMegalignプログラムを使用して実行され得る。配列の多重整列(マルチプルアラインメント)は、Clustalのアラインメント方法(Higgins and Sharp CABIOS、5、151-153(1989)、デフォルトパラメーター(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10)を使用して実行してもよい。関連プログラムとしてはまた、プログラムのGCGスイート(Wisconsin Package Version 9.0,Genetics Computer Group(GCG),Madison,Wisconsin);BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschul、et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990);DNASTAR(DNASTAR,Inc.,Madison、Wisconsin);及びSmith-Watermanアルゴリズムを組み込んだFASTAプログラム(Pearson、Comput.Methods Genome Res.,[Proc.Int.Symp.](1994),Meeting Date 1992、111-20。編集者:Suhai,Sandor.Publisher:Plenum,New York,N.Y..この開示の文脈において、配列分析ソフトウェアが分析に使用される場合、分析の結果は、参照されるプログラムの「デフォルト値」に基づくことが理解されよう。本明細書で使用される「デフォルト値」とは、最初に初期化されたときのソフトウェアでもともとロードされる値またはパラメーターの任意のセットを意味する。
【0082】
(v)抗ペプチド抗体の免疫複合体。開示された抗体及びその抗原結合フラグメントは、免疫複合体であってもよい。特定の実施形態では、免疫複合体は、標識を含む、1つ以上の異種分子(複数可)にコンジュゲートした抗体である。
【0083】
ラベルは、親和性タグを含んでもよい。アフィニティータグとしては、例えば、Hisタグ(配列番号45)、Flagタグ(配列番号46~48)、Xpressタグ(配列番号49)、Aviタグ(配列番号50)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)タグ(配列番号51)、ポリグルタミン酸タグ(配列番号52)、HAタグ(配列番号53~55)、Mycタグ(配列番号56)、Strepタグ(これは、元のSTREP(登録商標)タグ(配列番号57)、STREP(登録商標)タグII(配列番号58)(IBA Institut fur Bioanalytik,Germany);例えば、米国特許第7,981,632号を参照)、Softag 1(配列番号:59)、Softag 3(配列番号60)、及びV5タグ(配列番号61)が挙げられる。
【0084】
標識は、検出部分を含んでもよい。本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントにコンジュゲートし得る検出部分には、着色粒子;金ナノ粒子;コロイド;化学発光タグ;放射性同位元素;蛍光タグ、例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、ローダミンRed(商標)(例えば、Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)、シアニンフルオロフォア、TexasRed(登録商標)(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR)、フィコエリトリン(PE)、R-フィコエリトリン、アロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン、フィコエリスロシアニン、DyLight(商標)(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)、Alexa Fluor(登録商標)(Molecular Probes、Inc.、Eugene,OR)、Atto色素、またはGFPなどの蛍光タンパク質;ならびに酵素レポーター、例として画、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びβ-ガラクトシダーゼが含まれる。特定の実施形態では、酵素レポーター標識は、視覚化のために比色、蛍光発生または化学発光基質と組み合わせて使用される。
【0085】
異種分子への本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントのコンジュゲーションまたは標識は、当該技術分野で公知の任意の方法を使用してもよく、これには、様々な二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHClなど)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベレートなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス-アジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トルエン2,6-ジイソシアナートなど)、及びビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)が挙げられる。炭素14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドを抗体(WO94/11026)にコンジュゲーションさせるための例示的なキレート剤である。
【0086】
特定の実施形態では、免疫複合体は、架橋剤試薬、例えば、N-(β-マレイミドプロピルオキシ)スクシンイミドエステル(BMPS)、N-ε-マレイミドカプロイル-オキシスクシンイミドエステル(EMCS)、N-γ-マレイミドブチリル-オキシスクシンイミドエステル(GMBS)、1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホン(HBVS)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、4-(4-N-マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド(MPBH)、スクシンイミジル3-(ブロモアセトアミド)プロピオネート)(SBAP)、スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)、スクシンイミジル6-((ベータ-マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、N-κ-マレイミドウンデカノイル-オキシスルホスクシンイミドエステル(スルホ-KMUS)、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、スルホ-SMPB、及びスクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)安息香酸(SVSB)(これらは、市販されている(例えば、Pierce Biotechnology,Inc.,Rockford,ILから))を用いて調製してもよい。
【0087】
特定の実施形態では、リンカーは、「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari et al.,Cancer Res。52:127-131(1992);米国特許第5,208,020号)を、利用してもよい。
【0088】
(vi)開示の組換えタンパク質の産生。本開示によるポリペプチド(例えば、抗体または抗体の一部)は、当技術分野で公知の任意の手段によって産生され得る。特定の実施形態では、ポリペプチドは、組換えDNA技術を使用して生成される。ポリペプチドをコードする核酸配列は、分子クローニングの標準的な技術(ゲノムライブラリースクリーニング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、プライマー支援ライゲーション、酵母及び細菌由来のscFvライブラリー、部位特異的突然変異誘発など)によって調製し及び完全なコード配列にアセンブルしてもよい。得られたコード領域を発現ベクターに挿入し、適切な発現細胞株を形質転換するために使用してもよい。
【0089】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドをコードする核酸配列(ポリヌクレオチドまたはヌクレオチド配列と交換可能に使用される)を指す。この定義には、様々な配列多型、突然変異、及び/または配列バリアントであって、そのような変化が、コードされたポリペプチドの機能に実質的に影響を及ぼさないものを含む。「遺伝子」という用語は、コード配列だけでなく、プロモーター、エンハンサー、及び終結領域などの調節領域も含み得る。この用語はさらに、選択的スプライシング部位から生じるバリアントとともに、mRNA転写物からスプライシングされた全てのイントロン及び他のDNA配列を含み得る。ポリペプチドをコードする遺伝子配列は、ポリペプチドの発現を指示するDNAであっても、またはRNAであってもよい。これらの核酸配列は、RNAに転写されるDNA鎖配列であっても、またはポリペプチドに翻訳されるRNA配列であってもよい。核酸配列には、全長核酸配列と、全長ポリペプチドに由来する非全長配列の両方が含まれる。この配列はまた、特定の細胞型においてコドン優先性を提供するために導入され得る1つ以上の天然配列(複数可)の縮重コドンを含んでもよい。
【0090】
「コードしている、エンコーディング(encoding)」とは、アミノ酸の定義された配列などの他の高分子の合成のためのテンプレートとして機能する、相補的DNA(cDNA)またはメッセンジャーRNA(mRNA)などの、遺伝子中のヌクレオチドの特定の配列の特性を指す。したがって、その遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が、細胞または他の生物系でポリペプチドを生成する場合、その遺伝子はポリペプチドをコードする。「ポリペプチドをコードする遺伝子配列」は、互いの縮重バージョンであり、そして実質的に類似した形態及び機能の同じアミノ酸配列またはアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。
【0091】
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド遺伝子配列は、関連する調節配列に作動可能に連結され得る。例えば、調節配列と外因性核酸配列との間に機能的結合があり、外因性核酸配列の発現を生じる場合がある。別の例では、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に置かれる場合、第1の核酸配列は、第2の核酸配列と作動可能に連結され得る。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与える場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結されている。
【0092】
本開示で使用される例示的な核酸構築物(ポリヌクレオチド)において、プロモーターは、本開示の抗体または本開示の抗体に由来するポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結されており、すなわち、プロモーター及び核酸配列は、ポリヌクレオチドをコードするDNAからのmRNAの転写を促進するように配置されている。このプロモーターは、ゲノム起源のものであってもよいし、または合成的に生成されたものでもよい。このプロモーターは、エンハンサーと関連していてもしなくてもよく、このエンハンサーは、特定のプロモーターと自然に関連していても、異なるプロモーターと関連していてもよい。構成的または誘導的発現を可能にするプロモーターを使用してもよく、ここで、発現は、標的宿主、所望の発現レベル、標的宿主の性質などに応じて制御され得る。
【0093】
任意選択で、シグナル配列は、ポリペプチドの細胞位置への適切な標的化、または細胞からの分泌のために、ポリヌクレオチドの5’末端に存在し得る。
【0094】
終結領域は、転写の適切な終結のためにポリヌクレオチドの3’末端で利用され得る。特定の実施形態では、終結領域は、ポリアデニル化シグナルを含み得る。発現に悪影響を与えることなく、多種多様な終結領域を使用し得る。
【0095】
本開示はさらに、本開示のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。本明細書で使用される「ベクター」という用語は、例えば、異なる遺伝子環境間の輸送のため、または宿主細胞での発現のために、例えば、制限及びライゲーションによって、所望の配列を挿入し得る多数の核酸のいずれかを指す。核酸ベクターは、DNAであっても、またはRNAであってもよい。ベクターには、プラスミド、ファージ、ファージミド、細菌ゲノム、及びウイルスゲノムが挙げられる。クローニングベクターとは、宿主細胞内で複製可能であり、1つ以上のエンドヌクレアーゼ制限部位によってさらに特徴付けられるベクターであり、このベクターでは、ベクターは決定可能な方法で切断され得、ここに所望のDNA配列が連結されて、その結果新しい組換えベクターが、宿主細胞内で複製する能力を保持する。特定のベクターは、それらが導入された宿主細胞で自律複製し得る。他のベクターは、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。発現ベクターは、本開示のポリペプチドを発現し得、すなわち、ベクター配列は、プロモーター、オペレーター、転写終結部位、リボソーム結合部位などを含む、ポリペプチドの転写及び翻訳に必要な調節配列を含む。
【0096】
ベクター宿主系には、インビボ(例えば、動物)またはインビトロ(例えば、細菌または細胞培養)のいずれかでの、細菌、哺乳動物、酵母、昆虫または植物細胞系などの系が含まれる。適切な宿主の選択は、本明細書の教示から当業者の範囲内であると見なされる。特定の実施形態では、宿主細胞は、細菌、例えば、E.coliである。
【0097】
宿主細胞は、本開示のベクターを用いて遺伝子操作(感染、形質導入、形質転換、またはトランスフェクト)される。特定の実施形態では、宿主細胞は、本開示のポリヌクレオチドを含むベクターを含む。操作された宿主細胞は、プロモーターの活性化、形質転換体の選択、またはポリヌクレオチドの増幅のために適切に改変された従来の栄養培地で培養され得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前に使用されたものであり、当業者には明らかであろう。
【0098】
(vi)使用方法。本開示の抗体及びその抗原結合フラグメントは、本明細書に記載のシグネチャーペプチドの免疫親和性濃縮に使用され得る。濃縮されたシグネチャーペプチドは、その後、WAS及びXLAの診断のためのSRMアッセイで検出され得る。シグネチャーペプチドには、WASp 289及びBTK 545が含まれる。
【0099】
特定の実施形態では、シグネチャーペプチドの濃縮は、消化された生物学的試料由来のペプチドフラグメントの混合物を、シグネチャーペプチドを認識する本開示の1つ以上の結合抗体及びその抗原結合フラグメントと接触させることを含む。特定の実施形態では、生物学的試料としては、DBS、口腔内綿棒、PBMC、及びWBCが挙げられる。
【0100】
特定の実施形態では、配列番号3~8及び15~22を含む抗体を使用して、配列番号1を含むWASpペプチドを濃縮する。
【0101】
特定の実施形態では、配列番号9~14及び23~30を含む抗体を使用して、配列番号2を含むBTKペプチドを濃縮する。
【0102】
SRMの前の所望のペプチド標的の濃縮は、当該技術分野で公知の任意の手段によって達成され得る。試料からの豊富なタンパク質種の免疫吸着ベースの枯渇、沈殿、クロマトグラフィー、電気泳動、溶媒分配、免疫沈降、免疫電気泳動、及び免疫クロマトグラフィーを含む、多くの濃縮手順が利用可能である。特定の実施形態では、試料の消化物からの個々のトリプシンペプチドの特異的抗体ベースの捕捉のためのSISCAPA法を使用してもよい。Anderson et al.,J.Proteome Research 2004;3:235-244;米国特許第7,632,686号。
【0103】
特定の実施形態では、本明細書に開示される抗体などのペプチドマーカーに結合する抗体は、固体支持体に付着され得る。特定の実施形態は、抗体がクロマトグラフィー媒体に共有結合しているアフィニティーカラムを使用する。特定の実施形態では、POROS(Applied Biosystems,Foster City,CA)ナノカラムを、SISCAPA濃縮で使用してもよく、高い結合能力、標的ペプチドの迅速な濃縮を可能にする比較的高濃度の抗体、及び様々な官能化基によってカラムを調製する能力を特徴とする。あるいは、抗体は、ビーズ、磁気ビーズ、または他の固体粒子に付着されてもよい。付着の1つの手段は、ビーズ上にコーティングされたタンパク質への抗体の結合である。例えば、プロテインGでコーティングされた粒子は、好ましい方向で抗体の結合を提供する。ビーズを抗体で直接コーティングするなど、他の付着手段を使用してもよい。磁性粒子は、抗体への結合を可能にする多様な化学物質で利用され得る。粒子に付着した抗体で濃縮すると、試料の並列処理が可能になる。磁粉処理は、質量分析による分析のためにプレートで溶出するSISCAPA濃縮ステップ用に96ウェルプレートで自動化されている。他の特定の実施形態は、ナノフロークロマトグラフィーシステムに沿ってビーズ処理ステップを実行するために開発された新規のビーズトラップデバイスを使用する。Anderson et al.Mol Cell Proteomics 2009;8(5):995-1005。これにより、溶出ステップと分析ステップの間の容器へのペプチドの損失が最小限に抑えられる。ペプチド濃縮は、ピペットチップに抗ペプチド抗体を固定化することによっても実行され得る。Nelson et al.Anal Chem.1995;67(7):1153-1158。遊離ペプチドから抗体結合ペプチドを分離した後、結合ペプチドを溶出し得る。任意の溶出手段を使用してもよい。効率的であることが判明している1つの溶出手段は、5%酢酸/3%アセトニトリルである。特定のペプチドに効率的であるように、他の酸を含む他の溶出手段、及び他の濃度の酢酸を使用してもよい。
【0104】
特定の実施形態では、それらの同族のシグネチャーペプチドに結合する、表2及び3に開示される抗WASp 289及び/または抗BTK 545抗体を使用して、WAS及び/またはXLAをスクリーニングしてもよい。特定の実施形態では、それらの同族のシグネチャーペプチドに結合する、表2及び3に開示される抗WASp 289及び/または抗BTK 545抗体を使用して、WAS及び/またはXLAについて集団をスクリーニングしてもよい。
【0105】
本開示の抗体及びその抗原結合フラグメントを使用して、生物学的試料中の本明細書に記載のWASp 289ペプチド、BTK 545ペプチド、及び/またはそれらの対応するタンパク質のレベルを検出し得る。特定の実施形態では、この方法は、抗WASp 289及び/または抗BTK 545抗体またはその抗原結合フラグメントの、それらのそれぞれのペプチドまたはタンパク質に対する結合について許容される条件下で、生物学的試料と、本明細書に記載の抗WASp 289及び/または抗BTK 545抗体またはその抗原結合フラグメントとを接触させることと、抗WASp 289抗体もしくはその抗原結合フラグメントとWASp 289ペプチドまたはその対応するタンパク質との間、または抗BTK 545抗体もしくはその抗原結合フラグメントとBTK 545ペプチドまたはその対応するタンパク質との間で複合体が形成されるか否かを検出することを含む。そのような方法は、インビトロの方法であっても、またはインビボの方法であってもよい。特定の実施形態では、生物学的試料は、全血、DBS、血清、血漿、他の血液画分、細胞、組織、及び対象に由来する試験試料を含む。
【0106】
特定の実施形態では、配列番号3~8及び15~22を含む抗体を使用して、配列番号1を含むWASpペプチドを検出する。
【0107】
特定の実施形態では、配列番号9~14及び23~30を含む抗体を使用して、配列番号2を含むBTKペプチドを検出する。
【0108】
特定の実施形態では、抗WASp 289及び/または抗BTK 545抗体またはその抗原結合フラグメントを使用して、WASp 289ペプチド、BTK 545ペプチド、及び/またはそれらの対応するタンパク質のレベルを検出することは、イムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、ウエスタンブロット、ドットブロット、ラジオイムノロジーアッセイ(RIA);サンドイッチアッセイ;フローサイトメトリー;蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH);免疫組織学的染色;免疫電気泳動;免疫沈降、及び免疫蛍光などの当業者に公知のアッセイの一部として行ってもよい。
【0109】
本明細書に開示される実施形態はまた、液体クロマトグラフィー及び/または質量分析を利用し得る。特定の実施形態では、1つ以上のLC精製ステップを、SRM-MSの前に実行する。濃縮ペプチドの混合物(移動相)は、材料が充填されたカラム(固定相)を通過して、カラムの移動相と固定相に対する重量と親和性に基づいてペプチドを分離し得る。従来のLC分析は、試料成分とカラム充填物質との間の化学的相互作用に依存しており、カラムを通過する試料の層流が、試験試料から目的の分析物を分離するための基礎である。当業者は、そのようなカラムでの分離が拡散プロセスであることを理解するであろう。試料のクロマトグラフィー分離にはさまざまなカラムパッキング材料が利用可能であり、適切な分離プロトコルの選択は、試料の特性、目的の分析物、存在する干渉物質及びその特性などに依存する経験的プロセスである。さまざまなパッキングケミストリーを、必要に応じて使用してもよい(例えば、精製される化合物の構造、極性、溶解性)。特定の実施形態では、カラムは、極性、イオン交換(カチオン及びアニオンの両方)、疎水性相互作用、フェニル、C-2、C-8、C-18カラム、多孔質ポリマー上の極性コーティング、またはその他の市販されているものである。クロマトグラフィーの間、材料の分離は、溶離液(「移動相」としても知られる)の選択、勾配溶出の選択、及び勾配条件、温度などの変数の影響を受ける。特定の実施形態では、分析物は、目的の分析物がカラムパッキング材料によって可逆的に保持され、1つ以上の他の材料が保持されない条件下で、試料をカラムにアプライすることによって精製され得る。これらの実施形態では、目的の分析物がカラムによって保持される第1の移動相条件を使用してもよく、その後、保持されていない材料が一旦洗浄されれば、第2の移動相条件を使用して、保持された材料をカラムから除去してもよい。あるいは、分析物は、目的の分析物が1つ以上の他の材料と比較して異なる速度で溶出する、移動相条件下でカラムに試料をアプライすることによって精製され得る。上記のように、そのような手順は、試料の他の1つ以上の成分と比較して、目的の1つ以上の分析物の量を濃縮し得る。特定の実施形態では、LCは、マイクロフローLC(マイクロLC)である。マイクロフローLCでは、クロマトグラフィー分離は、毎分低マイクロリットルの範囲の流量を使用して実行される。特定の実施形態では、LCは、ナノフローLC(ナノLC)である。ナノフローLC(nanoLC)では、クロマトグラフィー分離は、毎分300ナノリットルの流量を使用して実行される。この遅くなった流速によって、このタイプのクロマトグラフィーによって得られる高い濃縮効率に起因して、高い分析感度が得られる。(Cutillas,Current Nanoscience,2005;1:65-71)。
【0110】
質量分析計には、気相イオンの質量電荷(m/z)比に変換できるパラメーターを測定する気相イオン分光計が備えられている。質量分析とは、質量分析計を使用して気相イオンを検出することを指す。質量分析計には通常、イオン源及び質量分析計が含まれる。質量分析計の例は、飛行時間型(TOF)、磁気セクター、四重極フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、静電セクターアナライザー、及びこれらのハイブリッドである。レーザー脱離質量分析計には、分析物を脱離、揮発、及びイオン化する手段としてレーザーエネルギーを使用する質量分析計が備えられる。タンデム質量分析計には、イオン混合物中のイオンを含むイオンのm/zベースの識別または測定の2つの連続した段階を実行し得る任意の質量分析計を備える。このフレーズには、m/zベースの識別またはイオンの空間的タンデム測定の2つの連続した段階を実行し得る2つの質量分析計を備えた質量分析計が含まれる。このフレーズはさらに、m/zベースの識別またはイオンの時間的タンデム測定の2つの連続する段階を実行し得る単一の質量分析器を有する質量分析計を含む。したがって、このフレーズには、Qq-TOF質量分析計、イオントラップ質量分析計、イオントラップ-TOF質量分析計、TOF-TOF質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計、静電セクター-磁気セクター質量分析計、三連四重極質量分析計、及びそれらの組み合わせが明示的に含まれる。
【0111】
質量分析におけるイオン化には、試料中の分析物がイオン化されるプロセスを含む。このような分析物は、さらなる分析に使用される荷電分子になる場合がある。例えば、試料のイオン化は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、レーザースプレーイオン化(LSI)、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、電子イオン化、高速原子衝撃(FAB)/液体二次イオン化(LSIMS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、フィールドイオン化、フィールド脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、及び粒子ビームイオン化によって実行され得る。当業者は、イオン化方法の選択が、測定される分析物、試料のタイプ、検出器のタイプ、ポジティブモード対ネガティブモードの選択などに基づいて決定され得ることを理解するであろう。
【0112】
質量分析器は、イオン化された質量を取り、それらをm/z比に基づいて分離し、それらを検出器に出力し、ここでそれらが検出され、後でデジタル出力に変換される質量分析計の構成要素を備える。m/z比を決定するための適切な質量分析計としては、四重極質量分析計、飛行時間型(TOF)質量分析計、磁気または静電セクター質量分析計、及びイオントラップ(例えば、イオンサイクロトロン共鳴)質量分析計が挙げられる。
【0113】
選択された反応モニタリング(SRM)-MSアッセイは、目的の所定のタンパク質について所定のペプチドのセットを標的とする。SRMは、タンデム質量分析の第1段階で特定の質量のイオン(親イオンまたはプリカーサーイオン)を選択し、検出のための第2質量分析ステージでプリカーサーイオンのフラグメンテーション反応のイオン生成物を選択するタンデム質量分析モードである。選択したプリカーサーイオン及びフラグメントイオンに関連付けられたm/z値の特定のペアは、トランジションと呼ばれる。各シグネチャーペプチドについて、最適なシグナル強度を提供し、試料に存在する他の種から標的されたペプチドを区別するフラグメントイオンが識別される。最適化されたトランジションは、効果的なSRMアッセイに貢献する。このようないくつかのトランジション(プリカーサー/フラグメントイオン対)を経時的にモニターし、特定のトランジションの保持時間及びシグナル強度を座標として有する一連のクロマトグラフィートレースが生成される。シグネチャーペプチドのSRM-MS分析は、通常、トリプル四重極質量分析計(QQQ-MS)で実行され、これは、シグネチャーペプチドのm/zに対応するプリカーサーイオンを選択的に分離し、ペプチド特異的なフラグメントイオンを選択的にモニターする機能を備えた機器である。SRM分析では、特異性は複数の質量分析計(質量フィルター)に依存する。最初の四重極は、所望の親イオンまたはプリカーサーイオンを選択するためである。第3の四重極は、(1つ以上の)フラグメントイオン(複数可)をモニターするためである。フラグメントイオン(複数可)は、第2の四重極で衝突によって誘発される解離によって生成される。共溶出するバックグラウンドイオンが非常に効果的にろ過されるので、2つのレベルの質量選択により高い選択性が可能になる。試料中の全ての分析物を調査する従来のタンデム質量分析(MS/MS)実験とは異なり、SRM分析は、特定の分析物を選択的に標的(フィルター)し、これは、従来の「フルスキャン」技術と比較して感度が1桁または2桁向上することを意味する。さらに、SRMは、最大5桁の広いダイナミックレンジにわたって線形応答を提供する。これにより、非常に複雑な混合物中の少量のタンパク質の検出が可能になる。したがって、SRMは、バックグラウンド干渉が少ない、非常に特殊な検出/モニタリング方法である。1回のMS実施で複数の親イオンをモニタリングする場合、このタイプの分析は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)として公知である。MRM分析を使用すると、1回の質量分析実施で複数のタンパク質及びタンパク質の複数の領域(シグネチャーペプチド)をモニタリングし得る。選択された反応モニタリング/多重反応モニタリング質量分析(SRM/MRM-MS)は、例えば、米国特許第8,383,417号、WO2013/106603、及び米国特許出願公開第2013/105684号に記載されている。
【0114】
特定の実施形態では、以下のパラメーターを使用して、特定のLC-SRM-MSシステム下でのタンパク質のLC-SRM-MSアッセイを特定し得る:(1)所定のタンパク質のトリプシンペプチドの濃縮;(2)LCカラムでのペプチドの保持時間(RT);(3)ペプチドプリカーサーイオンのm/z値;(4)プリカーサーイオンをイオン化するために使用されるデクラスタリングポテンシャル;(5)ペプチドプリカーサーイオンから生成されたフラグメントイオンのm/z値;及び(6)特定のペプチド用に最適化されたペプチドプリカーサーイオンをフラグメント化するために使用される衝突エネルギー(CE)。RTには、分析物の注入から溶出までの経過時間が含まれる。デクラスタリングポテンシャル(DP)には、イオンクラスターを溶解及び解離するための電位が含まれる。これは、製造業者次第で、「フラグメント電圧」または「イオントランスファーキャピラリオフセット電圧」としても公知である。衝突エネルギー(CE)には、プリカーサーイオンが衝突セルに加速されるときに受け取るエネルギーの量が含まれる。
【0115】
本明細書に開示される方法によるペプチドの正確な定量化を容易にするために、目的のペプチドの同位体標識された合成バージョンのセットを、内部標準として使用するために既知の量で試料に添加してもよい。同位体標識ペプチドは、対応する代理のペプチドと同一の物理的及び化学的特性を有するので、クロマトグラフィーカラムから共溶出し、得られたマススペクトルで容易に識別可能である。Gerber et al.Proc.Natl.Asso.Sci.2003;100:6940-6945;Kirkpatrick et al.Methods 2005;35:265-273。所定のペプチドのアミノ酸を標識できる同位体としては、13C、H、15N、17O、18O、及び34Sが挙げられる。特定の実施形態では、ペプチドは、13C及び/または15Nの重同位体で標識されている。標識標準の添加は、タンパク質分解消化の前または後に行ってもよい。特定の実施形態では、標識された内部標準ペプチドを、タンパク質分解消化の後に加える。同位体標識されたペプチドを合成する方法は、当業者に公知であろう。したがって、特定の実施形態では、実験試料は、内部標準ペプチドを含む。特定の実施形態では、内部標準ペプチドは、参照シグネチャーペプチドを含む。特定の実施形態では、シグネチャーペプチド濃度は、以下を組み合わせることによって決定され得る:(i)シグネチャーペプチドのピーク面積を、LC-MRM-MSアッセイから得られたその対応する参照シグネチャーペプチドのピーク面積と比較することから計算された比、及び(ii)参照シグネチャーペプチドの既知の濃度。参照標準として選択され、定量に適したペプチドは、量子型ペプチド(Q-ペプチド)と呼ばれることもある。Q-ペプチドは、プロテオタイプペプチドの全ての特性を含むが、人工的な修飾及び/または不完全な切断を根絶するために参照ペプチドを構成し得る残基にも制限を課す。Holman et al.Bioanalysis 2012;4(14):1763-1786。
【0116】
所定のタンパク質(複数可)の絶対定量的レベルは、SRM/MRM方法論によって決定され得、それにより、1つの生物学的試料中の所定のタンパク質からの個々のペプチドのSRM/MRMシグネチャーピーク面積を、既知量の「スパイクされた」内部標準のSRM/MRMシグネチャーピーク面積と比較する。特定の実施形態では、内部標準は、1つ以上の重い同位体で標識された1つ以上のアミノ酸残基を含む同じ正確なペプチドの合成バージョンである。このような同位体標識内部標準は、質量分析がネイティブペプチドシグネチャピークとは異なっており、かつ別個であり、コンパレータピークとして使用され得る、予測可能でかつ一貫性のあるSRM/MRMシグネチャーピークを生成するように合成される。したがって、内部標準を生物学的試料由来のタンパク質調製物に既知の量でスパイクし、質量分析によって分析すると、ネイティブペプチドのシグネチャーピーク面積が内部標準ペプチドのシグネチャーピーク面積と比較され、この数値比較が、生物学的試料からの元のタンパク質調製物に存在する天然ペプチドの絶対モル濃度及び/または絶対重量のいずれかを示す。フラグメントペプチドの絶対定量データは、試料ごとに分析されたタンパク質の量に従って表示される。絶対定量を、多くのペプチド、したがってタンパク質にわたって、単一の試料で同時に、及び/または多くの試料にわたって実行して、個々の生物学的試料及び個々の試料のコホート全体におけるタンパク質の絶対量に関する洞察を得てもよい。
【0117】
ペプチドの絶対定量のための別の戦略は、イコライザーペプチドによる等モル性である。この方法論では、同位体標識された目的のQペプチドをジペプチドとして化学的に合成することを含む。一般的なアミノ酸配列は、Q-ペプチドのN末端に位置し、イコライザーペプチドと呼ばれる。可溶化及びタンパク質分解消化後、Q-ペプチドの量は、単一の光標識ペプチドを参照することにより正確に決定され得る。次に、適切な量の各標準ペプチドを目的の試料に追加して(前消化またはタンパク質分解前のいずれか)、絶対定量を容易にする。Holzmann et al.Anal.Chem.2009;81:10254-10261。絶対定量には、定量コンカテマー(QconCAT)タンパク質を使用してもよい。Beynon et al.Nat.Methods 2005;2:587-589;Johnson et al.J.Am.Soc.Mass Spectrom.2009;20:2211-2220;Ding et al.J.Proteome Res.2011;10:3652-3659;Caroll et al.Molecular&Cellular Proteomics 2011;Sep 19:mcp-M111。この戦略では、親和性のタグ付けされた、目的のいくつかのタンパク質由来の標準ペプチドの連結である組換え人工タンパク質が、安定した同位体濃縮培地で増殖したEscherichia coliで異種生産される。次に、QconCATタンパク質は、アフィニティー精製され、試料と共消化され、それを構成する全ての「重い」Qペプチドの化学量論的混合物が生成され、ネイティブタンパク質由来のタンパク質分解ペプチド及び内部標準を、その後分析する。ペプチド連結型標準(peptide-concatenated standards)(PCS)と呼ばれるQconCATアプローチの変形は、内因性環境を反映する人工タンパク質配列内のQペプチド間の隣接領域を使用する。Kito et al.J.Proteome Res.2007;6:792-800。他の特定の実施形態は、絶対定量化(PSAQ)のためにタンパク質標準を使用する。Brun et al.Mol.Cell.Proteomics 2007;6:2139-2149。PSAQは、組換えタンパク質を使用するが、いくつかのタンパク質からのペプチドの連結ではなく、定量されるタンパク質全体が、安定な同位体標識された形で発現される。次に、1つ以上のPSAQを、試料の前消化に追加して、定量を容易にしてもよい。
【0118】
特定の実施形態は、強度ベースの測定(America and Cordewener,Proteomics 2008;8:731-749)またはスペクトルカウント(Lundgren et al.Expert Rev.Proteomics 2010;7:39-53)などのタンパク質定量化のための標識なしの戦略を使用する。
【0119】
所定のペプチドの相対的定量的レベルを取得するために、1つの生物学試料における所定のタンパク質からの個々のペプチドまたは複数のペプチドの質量分析由来のシグネチャーピーク面積(またはピークが十分に分解されている場合はピーク高さ)を、同じSRM/MRM手法を使用して、1つ以上の追加のかつ異なる生物学的試料で、同じペプチドまたは同じタンパク質由来のペプチドに対して決定されたシグネチャーピーク面積と比較してもよい。このようにして、所定のタンパク質由来の特定のペプチド(複数可)の量は、同じ実験条件下での2つ以上の生物学的試料にまたがり同じペプチドまたは同じタンパク質由来のペプチドと比較して決定される。さらに、SRM/MRM手法により、その所定のタンパク質のそのペプチドのシグネチャーピーク面積を、生物学的試料由来の同じタンパク質調製物内の異なるタンパク質由来の別の及び異なるペプチド(複数可)についてのシグネチャーピーク面積に対して比較することにより、単一の試料内の単一のタンパク質由来の所定のペプチド(複数可)について、相対定量を決定し得る。このようにして、所定のタンパク質由来の特定のペプチドの量、したがって所定のタンパク質の量を、同じ試料内の別のタンパク質と比較して決定する。これらのアプローチは、所定のタンパク質由来の個々のペプチド(複数可)を、試料間及び試料内の同じタンパク質由来または異なるタンパク質由来の別のペプチド(複数可)の量に対して定量し、ここで、シグネチャーピーク面積によって決定される量は、この生物学的試料由来のタンパク質調製物中のペプチドの絶対重量対容積または重量対重量の量に関係なく、互いに相対的である。異なる試料間の個々のシグネチャーピーク面積に関する相対的な定量データは、試料ごとに分析されたタンパク質の量に正規化してもよい。相対定量を、単一の試料中で同時に多くのペプチドにわたって、及び/または多くの試料にわたって実行して、相対的なタンパク質量についての洞察を得てもよい。
【0120】
シグネチャーペプチドレベルは、濃度単位(例えば、pmol/L)で表してもよい。特定の実施形態では、WAS及び/またはXLAについてスクリーニングされている対象に由来する試験試料中のシグネチャーペプチドの平均濃度を、正常な対照試料中の対応するペプチドの平均濃度と比較してもよい。特定の実施形態では、正常対照試料は、1つ以上の正常な対照対象から、または正常な対照対象の集団から誘導され得る。特定の実施形態では、正常な対照対象としては、WAS及び/またはXLAを有さないか、または有することが知られていない対象が挙げられる。特定の実施形態では、正常な対照対象としては、WAS及び/またはXLAに関連する遺伝子変異を有さない対象が挙げられる。
【0121】
特定の実施形態において、正常な対照対象の集団由来のDBSにおけるWASp 289シグネチャーペプチドの平均濃度は、7000pmol/L~30000pmol/Lの範囲、7500pmol/L~28000pmol/Lの範囲、及び8000pmol/L~26000pmol/Lの範囲の濃度を含む。特定の実施形態では、正常な対照対象の集団由来のDBS中のWASp 289シグネチャーペプチドの平均濃度は、7000pmol/L、7000pmol/L、7100pmol/L、7200pmol/L、7300pmol/L、7400pmol/L、7500pmol/L、7600pmol/L、7700pmol/L、7800pmol/L、7900pmol/L、8000pmol/L、8100pmol/L、8200pmol/L、8300pmol/L、8400pmol/L、8500pmol/L、8600pmol/L、8700pmol/L、8800pmol/L、8900pmol/L、9000pmol/L、9100pmol/L、9200pmol/L、9300pmol/L、9400pmol/L、9500pmol/L、9600pmol/L、9700pmol/L、9800pmol/L、9900pmol/L、10000pmol/L、11000pmol/L、12000pmol/L、13000pmol/L、14000pmol/L、15000pmol/L、16000pmol/L、17000pmol/L、18000pmol/L、19000pmol/L、20000pmol/L、21000pmol/L、22000pmol/L、23000pmol/L、24000pmol/L、25000pmol/L、26000pmol/L、27000pmol/L、28000pmol/L、29000pmol/L、30000pmol/L以上の濃度を含む。
【0122】
特定の実施形態では、正常な対照対象の集団由来のDBSにおけるBTK 545シグネチャーペプチドの平均濃度は、400pmol/L~2000pmol/Lの範囲、500pmol/L~1800pmol/Lの範囲、及び600pmol/L~1500pmol/Lの範囲の濃度を含む。特定の実施形態では、正常な対照対象の集団由来のDBSにおけるBTK 545シグネチャーペプチドの平均濃度は、400pmol/L、450pmol/L、500pmol/L、550pmol/L、600pmol/L、650pmol/L、700pmol/L、750pmol/L、800pmol/L、850pmol/L、900pmol/L、950pmol/L、1000pmol/L、1050pmol/L、1100pmol/L、1150pmol/L、1200pmol/L、1250pmol/L、1300pmol/L、1350pmol/L、1400pmol/L、1450pmol/L、1500pmol/L、1550pmol/L、1600pmol/L、1650pmol/L、1700pmol/L、1750pmol/L、1800pmol/L、1850pmol/L、1900pmol/L、1950pmol/L、2000pmol/L以上の濃度を含む。
【0123】
特定の実施形態では、予め決定されたカットオフ値が、所定のシグネチャーペプチドの閾値として使用される。閾値を超える所定のシグネチャーペプチドの濃度は、アッセイされたDBSが、WAS及び/またはXLAに罹患していない個体由来であることを示す。閾値を下回るか、または存在しない所定のシグネチャーペプチドの濃度によって、アッセイされたDBSがWAS及び/またはXLAに罹患している個体由来であることが示される。特定の実施形態では、この閾値は、正常対照の集団の分析及びこの集団における所定のシグネチャーペプチドの濃度の標準偏差(SD)の計算によって決定し得る。閾値は、所定のシグネチャーペプチドの平均濃度から特定のSDで設定し得る。特定の実施形態では、閾値は、所定のシグネチャーペプチドの平均濃度から-1SD、-1.1SD、-1.2SD、-1.3SD、-1.4SD、-1.5SD、-1.6SD、-1.7SD、-1.8SD、-1.9SD、-2.0SD、-2.1SD、-2.2SD、-2.3SD、-2.4SD、-2.5SD、-2.6SD、-2.7SD、-2.8SD、-2.9SD、-3.0SD、またはそれ以上のSDである。特定の実施形態では、WAS及び/またはXLAの診断またはスクリーニングのために、閾値は、正常対照の集団の分析、及びこの集団におけるATP7B(Jung et al., J. Proteome Res. 2017;16: 862-871)の内因性濃度に対する所定のシグネチャーペプチドの濃度の比の標準偏差(SD)の計算によって決定され得る。各PIDDのペプチド濃度カットオフは、各シグネチャーペプチドの平均濃度またはATP7Bの内因性濃度に対する特定のシグネチャーペプチドの濃度の比率から導出される特定のSDに設定され得る。
【0124】
特定の実施形態において、シグネチャーペプチドの閾値濃度は、正常な対照の集団における対応するシグネチャーペプチドの平均濃度から-1.0SD、-1.25SD、-1.3SD、-1.35SD、-1.4SD、-1.45SD、-1.5SD、-1.55SD、-1.6SD、-1.65SD、-1.7SD、-1.75SD、-1.8SD、-1.85SD、-1.9SD、-1.95SD、-2.0SD、-2.25SD、-2.3SD、-2.35SD、-2.4SD、-2.45SD、-2.5SD、-2.55SD、-2.6SD、-2.65SD、-2.7SD、-2.75SD、-2.8SD、-2.85SD、-2.9SD、-2.95SD、-3.0SD、またはそれ以上を含む。
【0125】
特定の実施形態では、WASp 289ペプチドの閾値濃度は、3600pmol/L以下、3550pmol/L以下、3500pmol/L以下、3490pmol/L以下、3480pmol/L以下、3470pmol/L以下、3460pmol/L以下、3450pmol/L以下、3440pmol/L以下、3430pmol/L以下、3420pmol/L以下、3410pmol/L以下、3400pmol/L以下、3300pmol/L以下、3200pmol/L以下、3100pmol/L以下、3000pmol/L以下、2900pmol/L以下、2800pmol/L以下、2700pmol/L以下、2600pmol/L以下、2500pmol/L以下、2300pmol/L以下、2200pmol/L以下、2100pmol/L以下、2000pmol/L以下を含む。特定の実施形態では、WASp 289ペプチドの閾値濃度としては、3384.4pmol/Lを含む。
【0126】
特定の実施形態では、BTK 545ペプチドの閾値濃度は、350pmol/L以下、345pmol/L以下、340pmol/L以下、335pmol/L以下、330pmol/L以下、325pmol/L以下、320pmol/L以下、315pmol/L以下、310pmol/L以下、300pmol/L以下、290pmol/L以下、280pmol/L以下、270pmol/L以下、260pmol/L以下、250pmol/L以下、240pmol/L以下、230pmol/L以下、220pmol/L以下、210pmol/L以下、200pmol/L以下、190pmol/L以下、180pmol/L以下、170pmol/L以下、160pmol/L以下、150pmol/L以下、140pmol/L以下、130pmol/L以下、120pmol/L以下、110pmol/L以下、100pmol/L以下を含む。特定の実施形態では、BTK 545ペプチドの閾値濃度としては、311.4pmol/L以下を含む。
【0127】
1つ以上の標準ペプチドは、当該技術分野で公知の任意の方法で合成され得る。そのような合成ペプチドは、1つ以上の天然修飾を有するアミノ酸をさらに含み得る。そのような天然修飾には、グルタミン及びアスパラギンの脱アミノ化、アミノ化、酸化、及びヒドロキシル化が含まれ得る。
【0128】
本明細書に開示される方法は、本明細書に開示される組成物及び方法による、WAS及び/またはXLAのスクリーニングの結果に基づく対象(例えば、ヒト)の治療を含む。対象の治療には、治療上有効な量の送達が含まれる。治療有効量としては、有効量、予防的処置及び/または治療的処置を提供する量が含まれる。
【0129】
「有効量」とは、対象において所望の生理学的変化をもたらすのに必要な組成物の量である。例えば、有効量は、WAS及び/もしくはXLAの症状の緩和、症状の除去、または治癒を提供し得る。有効量は研究目的で投与される場合が多い。本明細書に開示される有効量は、疾患の発達、進行、及び/または解消の評価に関連する動物モデルまたはインビトロアッセイにおいて統計的に有意な効果を引き起こし得る。
【0130】
特定の実施形態は、「予防的処置」として組成物を投与することを含み得る。予防的処置としては、その処置が、その障害の症状を発症するリスクまたはその障害の負の影響を軽減または低減する目的で施されるように、WAS及び/もしくはXLAの兆候もしくは症状を示さないか、またはWAS及び/もしくはXLAの初期の兆候もしくは症状のみを示す対象に施される処置が挙げられる。したがって、予防的処置は、WAS及び/またはXLAの症状または負の影響に対する予防的処置として機能する。
【0131】
特定の実施形態では、予防的処置は、WAS及び/またはXLAの発症を予防、遅延、または低減し得る。特定の実施形態では、予防的処置は、抗生物質の使用などの他の予防措置の前に、同時に、または後に行ってもよい。特定の実施形態では、予防的処置は、WAS及び/またはXLAに関連する症状または合併症の重症度を予防または軽減し得る。
【0132】
WASの症状及び合併症には、以下が挙げられ得る:出血;湿疹;血性下痢;及び再発性感染症。XLAの症状及び合併症としては、以下が挙げられ得る:感染;下痢;成長不全;関節疾患;腎炎症;赤血球の分解;ならびに皮膚及び筋肉の炎症。
【0133】
「治療的処置」としては、WAS及び/またはXLAの症状または徴候を示す対象に施され、WAS及び/またはXLAの徴候または症状を軽減または排除する目的で対象に施される処置が挙げられる。特定の実施形態では、治療的処置は、WAS及び/またはXLAと診断された対象に免疫機能を提供し得る。特定の実施形態では、治療的処置は、本明細書に記載のものなどの、WAS及び/またはXLAの症状及び合併症を低減、制御、または排除し得る。
【0134】
有効な量、予防的処置及び治療的処置は、相互に排他的である必要はなく、特定の実施形態において、投与された投薬量は、複数の処置タイプを達成し得る。
【0135】
特定の実施形態では、治療有効量は、WAS及び/もしくはXLAを有すると診断された対象に免疫系機能を提供する。したがって、特定の実施形態では、本明細書に開示される処置の方法としては、WAS、及び/またはXLAなどの障害に対する幹細胞移植、免疫グロブリン注入、抗生物質注入、及び/または遺伝子治療が挙げられる。
【0136】
特定の対象に対する正確な投与量及び投与スケジュールは、標的、体重、状態の重症度、以前または同時の治療的介入、対象の突発性疾患及び投与経路を含む物理的及び生理学的要因などのパラメーターを考慮して、医師、獣医または研究者によって決定され得る。
【0137】
(viii)キット。本開示の抗体及びその抗原結合フラグメントを含むキットも提供されている。キットには、血液を刺すためのランセット、血液滴を収集するためのフィルターカード、口腔内綿棒、採血管、DBSを可溶化するための溶液、ならびにDBS内のマーカータンパク質を消化するための適切な緩衝液及び酵素を備え得る。キットは、WASp 289及び/もしくはBTK545ペプチド、またはそれらの対応するタンパク質の非存在または減少を評価するための抗ペプチド抗体及びその抗原結合フラグメント、ならびに/または試薬もしくは供給品を含む1つ以上の容器をさらに備えてもよい。特定の実施形態では、このキットは、抗WASp 289及び/または抗BTK 545抗体を備える、1つ以上の容器を備える。この抗体は、カラムまたはビーズなどの固体支持体に固定されてもよい。キットには、抗体からペプチドを放出するための溶出緩衝液をさらに備えてもよい。特定の実施形態では、キットは、シグネチャーペプチドの絶対定量化を実行するために、1つ以上の標識された参照ペプチドを備えてもよい。特定の実施形態では、キットはまた、ガーゼ、滅菌接着ストリップ、手袋、チューブなどのような、キットを効果的に使用するために必要な必須の実験室及び/または医療用品のいくつかまたは全てを備えてもよい。本明細書に記載されているキットのいずれの内容にも変更を加えてもよい。
【0138】
キットの構成要素は、保管及び後で使用するために調製され得る。そのような容器(複数可)に関連するのは、キットの製造、使用、または販売を規制する政府機関によって規定された形式の通知であり得、この通知は、必要に応じて、製造、使用、または販売の機関による承認を反映する。
【0139】
必要に応じて、キットは、この方法においてキットを使用するための説明書をさらに含む。様々な実施形態において、この説明書は、このキットの使用に関連する結果を解釈するための適切な指示;関連する廃棄物の適切な処分;などを含んでもよい。この説明書は、キット内で提供される印刷された説明書の形態であってもよいし、またはこの説明書はキット自体の一部に印刷されてもよい。説明書は、シート、パンフレット、小冊子、CD-ROM、もしくはコンピューターで読み取り可能なデバイスの形式である場合もあれば、ウェブサイトなどの離れた場所にある説明書への指示を提供する場合もある。
【0140】
以下の例示的な実施形態及び実施例は、本開示の特定の実証のために含まれている。当業者は、本開示に照らして、本明細書に開示される特定の実施形態に多くの変更を加えてもよく、それでも本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0141】
(ix)例示的な実施形態。
1.抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下:
(A)配列番号3に示される配列を有するCDRH1、配列番号4に示される配列を有するCDRH2、及び配列番号5に示される配列を有するCDRH3を含む重鎖可変(VH)ドメイン、ならびに、配列番号6に示される配列を有するCDRL1、配列番号7に示される配列を有するCDRL2、及び配列番号8に示される配列を有するCDRL3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン
(B)配列番号9に示される配列を有するCDRH1、配列番号10に示される配列を有するCDRH2、及び配列番号11に示される配列を有するCDRH3を含むVHドメイン、ならびに配列番号12に示される配列を有するCDRL1、配列番号13に示される配列を有するCDRL2、及び配列番号14に示される配列を有するCDRL3を含む、VLドメイン、
を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0142】
2.実施形態1(A)の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下:配列番号15に示される配列を有するVHドメイン;配列番号17に示される配列を有する重鎖;配列番号16に示される配列を有するVLドメイン;または配列番号18に示される配列を有する軽鎖、
のうちの1つ以上を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0143】
3.前記VHドメインが配列番号15に示される配列を有し、前記VLドメインが配列番号16に示される配列を有する、実施形態1または2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0144】
4.前記重鎖が配列番号17に示される配列を有し、前記軽鎖が配列番号18に示される配列を有する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0145】
5.実施形態1(B)の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下:配列番号23に示される配列を有するVHドメイン;配列番号25に示される配列を有する重鎖;配列番号24に示される配列を有するVLドメイン;または配列番号26に示される配列を有する軽鎖、のうちの1つ以上を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0146】
6.前記VHドメインが配列番号23に示される配列を有し、前記VLドメインが配列番号24に示される配列を有する、実施形態1または5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0147】
7.前記重鎖が配列番号25に示される配列を有し、前記軽鎖が配列番号26に示される配列を有する、実施形態1、5及び6のいずれか1つに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0148】
8.実施形態1の抗体のある方法における使用であって、以下:
対象に由来する生物学的試料を入手することと;
前記生物学的試料由来のタンパク質を酵素で消化して、1つ以上のペプチドを生成することと;
濃縮することであって、
実施形態1(A)の抗体またはその抗原結合フラグメントを有するWASpシグネチャーペプチド;及び/または
実施形態1(B)の抗体またはその抗原結合フラグメントを有するBTKシグネチャーペプチド、を濃縮することと;
前記濃縮ペプチドに対して液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング質量分析(LC-MRM-MS)を実行して、各シグネチャーペプチドの濃度を決定することと、
を含む、前記使用。
【0149】
9.前記生物学的試料が乾燥血液スポット(DBS)、口腔内綿棒、末梢血単核細胞(PBMC)、または白血球(WBC)である実施形態8に記載の使用。
【0150】
10.酵素がトリプシンである、実施形態8または9に記載の使用。
【0151】
11.実施形態8~10のいずれか1項に記載の使用であって、さらに、
各シグネチャーペプチドの濃度を、対応する所定の閾値濃度の濃度と比較することと;
前記対象が:
WASpシグネチャーペプチドの濃度が対応する所定の閾値濃度よりも低い場合、またはWASpシグネチャーペプチドが存在しない場合はWASであり;
BTKシグネチャーペプチドの濃度が対応する所定の閾値濃度よりも低い場合、またはBTKシグネチャーペプチドが存在しない場合はXLAであると、
診断することと、
を含む、前記使用。
【0152】
12.フェニルケトン尿症、原発性先天性甲状腺機能低下症、嚢胞性線維症、及び鎌状赤血球症のうちの1つ以上について前記対象をさらにスクリーニングする、新生児スクリーニング(NBS)の一部として使用が行われる、実施形態8~11のいずれか1つに記載の使用。
【0153】
13.前記対象におけるWAS及び/またはXLAの臨床症状がない状態で前記使用が行われる、実施形態8~12のいずれか1つに記載の使用。
【0154】
14.各シグネチャーペプチドの前記対応する所定の閾値濃度が、正常な対照対象の集団由来の対応する生物学的試料中の各シグネチャーペプチドの前記平均濃度の標準偏差から計算される、実施形態11に記載の使用。
【0155】
15.前記生物学的試料がDBSであり、正常な対照対象の集団由来のDBSにおけるWASpシグネチャーペプチドの前記平均濃度が7000pmol/L~30000pmol/Lの範囲の濃度を含む実施形態14に記載の使用。
【0156】
16.対応する所定の閾値濃度が、正常な対照対象の集団由来のDBSにおけるWASpシグネチャーペプチドの前記平均濃度の-1.75標準偏差(SD)~-2.75SDまでを含む、実施形態14または15の使用。
【0157】
17.前記生物学的試料がDBSであり、正常な対照対象の集団由来のDBSにおける前記BTKシグネチャーの前記平均濃度が400pmol/L~2000pmol/Lの範囲の濃度を含む実施形態14に記載の使用。
【0158】
18.前記対応する所定の閾値濃度が、正常な対照対象の集団由来のDBSにおけるBTKシグネチャーの前記平均濃度の-1.5SD~-2.5SDを含む、実施形態14または17に記載の使用。
【0159】
19.対象におけるウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及び/またはX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)のスクリーニングのためのアッセイであって、このアッセイは以下:
(i)実施形態1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントならびに
(ii)以下を含む参照シグネチャーペプチド:
配列番号1のWASのWASpシグネチャーペプチド;及び/または
配列番号2のXLAのBTKシグネチャーペプチド、
を含む、アッセイ。
【0160】
20.前記参照シグネチャーペプチドが同位体標識されている、実施形態19に記載のアッセイ。
【0161】
21.前記抗体またはその抗原結合フラグメントが磁気ビーズに付着している、実施形態19または20に記載のアッセイ。
【0162】
22.実施形態19~21のいずれか1つに記載のアッセイ、ならびに濾紙カード、口腔内綿棒、採血管、パンチツール、消化酵素、消化緩衝液、抗体またはその抗原結合フラグメントの固体支持体、及び溶出緩衝液から選択される1つ以上の追加の成分を備えるキット。
【0163】
(x)実験的実施例。実施例1。要約。研究を行って、選択された反応モニタリング質量分析(immuno-SRM)と組み合わせたペプチド免疫親和性濃縮に基づくマルチプレックスアッセイが、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)、及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)を有する罹患した患者を、お互いから、及び罹患していない正常対照乾燥血液スポット(DBS)試料から、確実かつ正確に識別し得るか否かを評価した。42人の原発性免疫不全障害(PIDD)患者、40人の正常な成人対照、及び62人の正常な新生児由来のDBS試料におけるWASp、及びBTKからタンパク質分解的に生成されたペプチドの盲検化多重分析を(それぞれ、WAS、及びXLAについて)実施した。immuno-SRMアッセイは、アッセイ内及びアッセイ間の精度(13及び22%;17及び43%)、直線性(1.39~2000fmolペプチド)、及び安定性(72時間で0.06%以下の差)など、DBS内の標的ペプチドを確実に定量化した。シグネチャーペプチドの分析により、対照群と比較して、罹患した患者のペプチドレベルの統計的に有意な減少(または欠如)が見られた(WAS及びBTK:p=0.0001)。DBSにおけるWASp、及びBTK由来のタンパク質分解性ペプチドのimmuno-SRMベースの定量化は、関連するPIDD症例を対照から区別する。このアプローチは、選択的PIDDの大規模な多重新生児スクリーニングを実施するために使用され得る。図2A図11B及び表5~7のデータは、WASp 289及びBTK 545に対するモノクローナル抗体で作成された。
【0164】
材料及び方法。患者の試料。PIDD及び正常な対照血液試料は、Seasttle Children’s Immunology Diagnostic Laboratory(シアトルチルドレンズ免疫学診断研究所)から入手した。新生児DBSは、Institutional Review Board(施設内審査委員会)の承認後、Washington State Newborn Screening Laboratory(ワシントン州の新生児スクリーニング研究所)(Shoreline,WA)から回収された。XLA DBSは、疑いのあるベトナム人20人の患者から収集され、通常の郵便でSeattle Children’s Hospital(シアトル小児病院)に発送された。サンガーシーケンシングによるこれらの患者の遺伝子型は、以前に報告されている(Segundo et al.Front Immunol.Frontiers;2018;9:289)。合計で、42人のPIDD患者及び40人の正常な対照からDBS試料を得た。正常対照及びPIDD患者DBSは、70μLの血液/12mmスポットを濾紙カード(Protein Saver 903 Card,Whatman,Piscataway,NJ)にピペッティングして調製し、室温で一晩乾燥させ、使用するまで-80℃で密封されたビニール袋に保管した。罹患した患者の試料は、収集場所から発送され、使用するまで-80℃で保管した。
【0165】
代理ペプチドの選択及び抗体産生。WASp、及びBTKの代理ペプチドは、インシリコでトリプシン消化及びNCBI BLASTツールによって選択された。最終的なペプチドの選択は、ペプチドの長さ、転写後修飾の欠如、及び前述のようなBLAST検索によるヒトゲノムの独自性を含む、immuno-SRM開発の受け入れられた主要な基準に従って行った(Kerfoot et al.Proteomics Clin Appl.2012;6:394-402;Abbatiello et al.Mol.Cell Proteomics.American Society for Biochemistry and Molecular Biology;2015;14:2357-2374;Hoofnagle et al.Clin.Chem.2016;62:48-69)。ATP7Bシグネチャーペプチドのペプチド選択及びモノクローナル抗体産生は以前に報告されている。Jung et al.2017、上記。次に、粗ペプチドを経験的にスクリーニングして、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)によって検出及び定量の適合性を判断した。
【0166】
モノクローナル抗体(mAb)は、2つのペプチドに対して首尾よく生成された。簡単に説明すると、シグネチャーペプチドは、N末端システイン伸長で合成され、免疫化のためにキーホールリンペットヘモシアニン(KHL)にコンジュゲートされた。ペプチドごとに2匹のニュージーランド白ウサギを注射した。ペプチドのmAbは、25mLの抗血清からのアフィニティー精製に成功した。
【0167】
免疫-SRMアッセイ試薬。ProteaseMAX(商標)界面活性剤(番号V2072)及びプロテオミクスグレードのトリプシン(番号V5113)は、Promega(Madison、WI)から購入した。ウシ血清アルブミン標準(200mg/mL)、及び(3-[3-コラミドプロピル)=ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート)(Pierce(商標)CHAPS、番号PI28300)界面活性剤は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から入手した。重炭酸アンモニウム(40867-50G-F)は、Fluka Analytical(Munich,Germany)から購入した。アセトニトリル(番号A955)、水(番号W6、LCMS optimaグレード)、ギ酸(番号PI28905)、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS、番号10010-023)は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から入手した。
【0168】
重く安定な同位体標識ペプチドを、Anaspec(Fremont,CA)から入手した。安定同位体標識ペプチドを、HPLCによって>95%超まで精製し、C末端のアルギニンまたはリジンを13C及び15N原子で標識した結果、それぞれ+8または+10Daの質量シフトが生じた。アリコートは、使用するまで-20℃で5%アセトニトリル/0.1%ギ酸中に保存した。
【0169】
抗体は、2.8μmのDynabeadsプロテインG磁気ビーズ(番号10004D、Invitrogen,Carlsbad,CA)に、1μgの抗体対2.5μLというビーズ比で固定化された。簡単に説明すると、250μLのビーズを1.5mLエッペンドルフチューブ(022363204エッペンドルフ)に加え、250μLの1×PBSで2回洗浄した後、100μgの抗体と1×PBS+0.03%CHAPS(番号28300、Thermo Scientific,Waltham,MA)を加えて、合計250μLの容積を得た。その抗体を4℃でタンブリングしながら一晩ビーズに結合させた。翌日、抗体は化学的架橋によりビーズに固定した。要するに、磁気プルダウンを使用して抗体ビーズを収集し、過剰なPBSを廃棄し、300μLの新たに調製した20mMのDMP(ジメチルピメリミデート二塩酸塩、番号D8388、Sigma Aldrich,St.Louis,MO)含有の200mMトリエタノールアミン、pH8.5(番号T58300、Sigma Aldrich,St.Louis,MO)を添加した。その試料を室温で30分間タンブリングさせ、トリエタノールアミン中のDMPを廃棄した。250μLの150mMモノエタノールアミン(番号411000、Sigma Aldrich,St.Louis,MO)を添加し、そのビーズを室温で30分間回タンブリングさせた。抗体ビーズを、250μLの5%酢酸+0.03%CHAPSを使用して2回洗浄し(毎回室温で5分間、タンブリング)、250μLの1×PBS+0.03%CHAPSを使用してもう一度洗浄した。次に、CD3ε、WASp、及びBTK抗体結合ビーズを洗浄し、5%酢酸+3%アセトニトリル(ACN)でインキュベートし、250μLの1×PBS+0.03%CHAPSで洗浄し、後の2つのステップを1回繰り返した。中性pH(7.0)に達するまで、全ての抗体結合ビーズを250μLの1×PBS+0.03%CHAPSで洗浄した。次に、洗浄した抗体結合ビーズを、抗真菌特性のために250μLの1×PBS+0.03%CHAPS及び2.5μLのNaN(52002-5G Sigma Aldrich)に再懸濁し、使用するまで4℃で保存した。
【0170】
DBSタンパク質抽出及びトリプシン消化。各試料(盲検化された正常な対照または患者)について、70μLの血液を含む1つのDBSスポット(13mm)全体に、標準の革製パンチツールを使用して直径3mmの17個のパンチに穿孔した。最終的な試料表現は、WAS:n=11、XLA:n=26、及び通常の対照(n=40)であった。パンチを1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、50mM重炭酸アンモニウム(pH8)中の490μLの0.1%ProteaseMax(商標)を各チューブに加えた。そのチューブを、EppendorfMixMate(Eppendorf,Hamburg,Germany)で1時間ボルテックスした後、各試料10μLをアリコートして、ブラッドフォードアッセイ用に200倍に希釈してタンパク質濃度を測定した。ジスルフィド結合の還元は、5mMの2M DTTで行い、37℃の水浴で30分間インキュベートする前に、50mM重炭酸アンモニウム(pH8)中の0.1%ProteaseMax(商標)490μLを各チューブに追加した。次に、トリプシンを、1:50の酵素対タンパク質比(w/w)で添加し、アセトニトリルを最終濃度が15%になるように添加した。その混合物を37℃の水浴で一晩インキュベートして消化した後、13,000RPMで10分間遠心分離した後、各上清を新しいチューブに移し、Savant(商標)SpeedVac(商標)高容量濃縮器(High Capacity Concentrator)(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)で乾燥させた)。全てのトリプシン処理されたDBS消化物を、使用するまで-80℃で保存した。
【0171】
ワシントン州のNBS研究所から分析された試料については、5つまたは6つの3mmパンチを、タンパク質の抽出及び消化に使用した(n=62)。手順は、前の試料の手順と同じであるが、次のように容積を減らした:各添加について150μLの0.1%ProteaseMax(商標)及び0.78μLのDTT。
【0172】
ペプチド免疫親和性濃縮。DBS消化物を、1×PBS+0.03%CHAPSに再懸濁して、名目上1μg/μLのタンパク質消化物濃度を得た。架橋された抗体コーティングビーズを、各標的について総質量2μgの抗体に添加した。次いで、20μLの1M Tris pH8.0(15568-025 UltraPure,Invitrogen,Carlsbad,CA)を添加した。同位体標識ペプチドを内部標準(IS)として追加した。この懸濁液を、4℃でタンブリングしながら一晩インキュベートして、ペプチドの捕捉を達成した。翌日、抗体ビーズ:ペプチド複合体を、100μL PBS+0.01%CHAPSで2回、100μL 0.01%PBS+0.01%CHAPSで1回洗浄した。最後に、ペプチドは30μLの5%酢酸/3%ACNでのインキュベーションによって溶出した。放出されたペプチドは、分析まで-80℃で保存した。ワシントン州NBS実験室から分析された試料の手順は、容積を以下のように減少したことを除いて、以前の試料の手順と同じであった:58.1μLの1×PBS+0.03%CHAPS、各ペプチドの0.59μg pAb、3.13μLの内部標準(IS)、及び12.5μLのTRIS。
【0173】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析。濃縮された試料を、2つの実験室サイトで分析し、2つの別々のLC-MS/MSシステム及び機器構成(以下で説明)を利用して、データ収集における実験室間の変動を調べた。次に、測定されたペプチド濃度を方法確認のために比較した。ペプチドの親イオンと娘イオンのスペクトルは、以前に報告されている。Kerfoot et al.Proteomics Clin Appl.2012;6:394-402。
【0174】
機器は、Warters M-Class勾配及びLoadingポンプ(Waters,Milford,MA)に接続されたイオンキーソース技術を備えたWaters Xevo TQ-XS MSを備えた。クロマトグラフィー溶媒は、A:HO+0.1%ギ酸(FA)及びB:ACN+0.1%FAであった。最初に、ペプチド混合物を、98:2のA:Bの一定流量を20μL/分で3分間使用して、M-Class Trap Symmetry 300μm×50mM C18カラム(100Å、5μm)にロードした。続いて、流れを逆にし、150μm×100mmのBEH C18 ikey(130Å、1.7μm)を横切る勾配フローを使用して、ペプチドを分離した。勾配プログラミング法を表4に示す。この場所でモニターされたペプチドは、WASp 289を含んだ。
【0175】
【表4】
【0176】
トランジション及び衝突エネルギー(CE)のパラメーターは、Skylineにおいて以前に最適化された値、及びWatersインテリスタート技術を使用して生成された値の線形回帰から得て、イオン化時に最も強いフラグメントを同定した。SRMトランジションは、Q1とQ3の両方の四重極でユニット/ユニット分解能で取得して、滞留時間は5ミリ秒、質量範囲間で休止時間は3ミリ秒で、サイクルタイムは1.5秒になった。全ての試料は盲検方式で実行した。
【0177】
方法性能評価。DBSのバックグラウンドマトリックスにおけるアッセイの直線性及び感度を決定するために、応答曲線を実行した。通常の対照DBS由来のパンチ(1試料あたり4パンチ)は、抽出緩衝液(ProteaseMax(商標)、重炭酸アンモニウム)を使用して3回抽出した。抽出したタンパク質に対してトリプシン消化を行い、消化物をプールして共通のバックグラウンドマトリックスを作成した。重安定同位体標準を消化物にスパイクし、段階的に希釈して、さまざまなペプチド量(2000、200、12.5、4.17、1.39、0.69fmol)の試料を作成した。磁性プロテインGビーズに共有結合した各抗体2マイクログラムを、バックグラウンドマトリックスに添加し、一晩インキュベートした。その抗体ビーズをPBSで洗浄し、溶出液をSRMで分析した。
【0178】
アッセイ内及びアッセイ間の精度は、5つの別々の日にわたって内因性(軽)ペプチドシグナルの測定を実施することによって特徴付けて、それぞれアッセイの正確性及び精度を評価した。各試料は、1日あたり5回の完全なプロセス複製(パンチ、抽出、分解、濃縮、及び質量分析を含む)で分析した。
【0179】
最後に、安定性は、室温で1日及び3日間保存されたDBSで検出された内因性(軽)ペプチドを、密封容器内で、-80℃で、DBSで検出されたペプチドと比較することによって評価した。各試料は、上記のように3回のプロセスで処理した。パーセント差は、各時点で計算した。
【0180】
データ分析。全てのSRMデータは、Skyline(MacCoss Lab Software、オープンソース、Seatle,WA)を使用して分析及びプロットした。MacLean et al.Bioinformatics.2010;26:966-968。内因性標的ペプチド濃度は、シグネチャーペプチドのピーク面積と既知の濃度(100fmol)で添加されたそのISとの比率を比較することによって定量化した。統計は、Graphpad Prism(San Diego,CA)を使用して行った。受信者動作特性(ROC)曲線は、Graphpad Prism及び95%信頼区間を使用して構築した。
【0181】
結果。ペプチドの選択及び抗体の開発。選択されたペプチド配列、分子量、親イオン、及び娘イオンを図1に列挙している。目的のペプチドの断片化パターンは以前に報告されている。(Kerfoot et al.Proteomics Clin Appl.2012;6:394-402)。抗体(Pacific Immunology,Ramona,CA)を、ペプチドに対して生成し、標的配列を首尾よく捕捉できる能力、及び同時精製されたペプチド混入物質によってもたらされるバックグラウンドシグナルがないおかげで、ヒト試料での使用を追求した。
【0182】
方法性能評価。分析性能指数を表5に報告する。全体として、線形応答は1.39~2000fmolのペプチドの範囲に及んだ(図2A図2B)。応答曲線上の全てのポイントの変動係数(CV)の中央値は11%であった。定量下限(LLOQ)は、13及び22%というCVをもたらす最低点によって定義された。LLOQは、0.69~1.39fmolであった。2つのペプチドに関して、平均のアッセイ内(すなわち、日内)変動は、13~22%であり、一方で、アッセイ間(すなわち、日間)変動は、17~43%であった。
【0183】
【表5】
【0184】
最後に、安定性は、室温で1日及び3日間保存されたDBSで検出された内因性(軽)ペプチドを、密封容器内で、-80℃で保存されたDBSで検出されたペプチドと比較することによって評価した。結果を表5に示す。このペプチドにはLLOQを超える内因性シグナルがあり、経時的な変動はほとんどなかった。各ペプチドの代表的な多重反応モニタリング(MRM)クロマトグラムを図3A図3Bに示す。
【0185】
ペプチド濃度。分析後、罹患した患者の比較のための正常範囲を定義するために、正常対照は盲検化しなかった。正常対照からの平均ペプチド濃度は以下のとおりであった(平均±SD):WASp 289=10326.98±4513.13pmol/L、及びBTK 545=1038.44±465.77pmol/L。シグネチャーペプチドの分析は、それぞれの場合において、対照群と比較して、患者のペプチドレベルの統計的に有意な(p<0.05~0.0001)減少を見出した(図4A図4B)。罹患した患者の大多数のペプチドレベルは、著しく減少したか、または存在しなかった。各患者について、ATP7B 1056の濃度も、以前に開発されたimmuno-SRM方法論を使用して決定された。Jung et al.2017,J Proteome Res 16:862-871)。これらのタンパク質濃度は、品質管理(QC)測定として機能し、試料間の一貫性を使用して、消化及びプロセスの再現性を評価する(図5)。
【0186】
各PIDD診断のためのペプチド濃度カットオフは、-1.75SD(WASp 289)、及び-2SD(BTK 545)で設定した。これらの範囲を使用すると、正常な対照で2つの偽陽性の兆候が生じた。NC4は、WASP 289によるものであることが示された。NCシグネチャーペプチド値を図6に示す。PIDDを確実に識別するためのカットオフを、表6に示す。
【0187】
【表6】
【0188】
これらのカットオフを使用して、特定のPIDD診断が各患者について予測された。予測された診断は、図7に示されるように、臨床的または遺伝的診断との優れた一致を示した。WAS及びBTKの分子的に確認された全ての症例は、immuno-SRM分析によっても診断された。無ガンマグロブリン血症と臨床的に診断された2人の患者、患者10及び13は、immuno-SRMによれば正常レベルのBTKタンパク質を有していた。分子的には、これらの患者ではBTKの変異は確認されなかった(Segundo et al.Front Immunol.Frontiers;2018;9:289)。興味深いことに、無ガンマグロブリン血症の患者12は、BTKタンパク質のレベルが低かったが、BTKのコード領域に変異は見られなかった。利用された各シグネチャーペプチドについて、ROCプロットの曲線下面積(AUC)分析によって、<0.0001の範囲のp値で0.930(WASp 289)~0.999(BTK 545)の領域が明らかになる(図8A、8B)。全体で97.6%の症例で、臨床診断とimmuno-SRMアッセイの結果との間が一致していた。興味深い外れ値及び不一致の症例については、以下でさらに考察する。
【0189】
NBS実験室(新生仔)試料のシグネチャーペプチド濃度を図9に示す。各DBS試料は、以前に設定されたPIDDの診断カットオフを超える有意な測定ペプチド濃度を示し、罹患していない状態を示している。
【0190】
DBS由来の2つの生命を脅かすPIDD(すなわち、WAS、及びXLA)を有する患者の多重検出のための高感度かつ特異的なプロテオミクススクリーニング方法としてのimmuno-SRMが実証されている。その結果は、PIDDの患者を正常な対照と明確に区別し、細胞内タンパク質WASp及びBTKの低レベルの内因性ペプチドが標的疾患(それぞれWAS、及びXLA)と相関している。これらの診断は、1回の実施で行うことが可能で、疾患標的あたりの合計実行時間は6.67分である。開示された結果は、DBSでのペプチドの安定性も示しており、室温で72時間保存した後の濃度の変動は最小限である(表5)。
【0191】
immuno-SRMプラットフォームは、この高度に多重化された方法で、正常な対照BBSから内因性ペプチドを確実に検出した。正常対照DBS(N=40)は盲検化されておらず、正常範囲及び潜在的な陽性スクリーニングのカットオフを定義するために利用された(図6)。臨床検査室では、診断試験の基準範囲は、一般集団の正規分布によって決定される。スクリーニング検査の最初のカットオフは通常保守的であり、疾患の発生率に比べて過度に高いスクリーニング陽性率を生み出すことなく、全ての真陽性を検出することを目的としている(表6)。ただし、これらのカットオフは、人口ベースの研究に従って継続的に検証及び調整されている。これらのパラメーターを考慮すると、陽性スクリーニングの結果の定義は、この実施例のペプチドの平均よりも1.75~2標準偏差(SD)低い範囲であった。選択されたカットオフによって、1つの偽陽性正常対照が生じ、これを、WASP289を用いてWAS患者としてスクリーニングした(図6)。NC4の場合、再スクリーニングにより、正常範囲のWASpレベルが示された。これらの予備的なカットオフは静的ではなく、より多くの正常な対照及び患者の試料がスクリーニングされるにつれて、より明確に定義されるようになる。
【0192】
これらのカットオフを使用して、広範囲の突然変異をカバーするあらゆる分子的に確認されたWAS及びBTK患者が明確に同定された(図7)。仮説として、ペプチド濃度は、遺伝子型に関係なく、BTK及びWASの症例の大部分で減少している(Qasim et al.Br.J.Haematol.2001;113:861-865;Jin et al.Blood.American Society of Hematology;2004;104:4010-4019;Futatani et al.British Journal of Haematology.2001;114(1):141-9)。したがって、これらのペプチドは、診断及びスクリーニングのためのバイオマーカーを提供する。
【0193】
ROC曲線は、immuno-SRM分析の診断能力を評価するために構築された。これらのプロットは、真の陽性率を偽陽性率に関連付け、カットオフ値がますます厳しくなっている。診断カットオフが低くなると、試験は真の陽性を記録する能力が高くなるが、このプロセスは偽陽性につながる可能性も高くなる。したがって、高い真陽性率及び低い偽陽性率を維持するスクリーニング試験は、グラフがy軸の近くにあり、大きなAUCをもたらすことになる(図8A図8B)。これらの値によって、PIDDのシグネチャーペプチドのimmuno-SRM分析の高い診断精度が示される。
【0194】
消化及びプロセス性能のQCモニタリングは、ATP7Bシグネチャーペプチド測定の形態で現在のimmuno-SRMマルチプレックスに含まれている。検出された全ての代謝物が有用なNBS標的であるとは限らないため、代謝物比の計算及び二次代謝産物分析を使用して、メチルマロン酸尿症におけるC3:C2比及び2-メチルクエン酸分析などの特定の疾患に対するNBSの感度及び特異性を改善する(Lindner et al.J.Inherit.Metab.Dis.2nd ed.2008;31:379-385)。さらに、標的の比率は、試料の収集品質、保存、抽出及び消化の効率、ならびに血液の特性など、多数の要因によってもたらされる試料間のばらつきを説明し得る(Razavi et al.Bioanalysis.Future Science Ltd London,UK;2016;8:1597-1609)。ここで、ATP7B濃度は、スクリーニングされた試料全体でほぼ一貫していることがわかった(図6)。ATP7Bがないことは、不適切に処理または取り扱われた検体に警告を与えるのに役立つ場合がある。最初の実験として、各PIDDペプチドを、同じ試料中のATP7Bの内因性濃度に対する比率で比較した。ペプチド濃度に基づいて得られた予測は、臨床診断との完全な一致を示し、immuno-SRM及びATP7Bの比率がPIDD診断のための効果的かつ補完的なツールであることを実証している(図10及び表7)。これらのタイプの比率は、選択したペプチドが試料の大規模なコホート全体にわたって遍在し、かつ著しく不変のシグナルであることが証明されている場合、臨床immuno-SRMスクリーニングで有用である。
【0195】
【表7】
【0196】
サンガーシーケンシングによるBTKの突然変異を欠いた2人の臨床的に定義された無ガンマグロブリン血症患者(試料番号10及び13)において、正常レベルのBTKが見出されたことは注目に値する(図7)。したがって、これらの患者はXLAを持っていない可能性が高いが、より広範な遺伝子検査は行っていないものの、他の常染色体型の無ガンマグロブリン血症を有する場合はある。別の患者(試料番号12)は、BTKタンパク質のレベルが低下していたが、BTKに識別可能な変異はなかった。これによって、コーディング領域及びイントロン-エクソン接合部の配列決定中に変異が見落とされたか、またはこの患者が調節エレメント、ポリアデニル化シグナル、もしくはイントロン領域のいずれかに影響を与えるBTK変異を保有している場合があることが示唆される。これらの症例によって、immuno-SRMの臨床的有用性が強調される。
【0197】
さらに、同じWAS患者の骨髄移植(BMT)前後から2つの試料を得た(それぞれ、図7の試料番号29及び30)。BMT前のimmuno-SRM分析により、患者はWASであることが確認された。BMT後、患者は正常であると特定された。この症例によって、immuno-SRMがBMTの治療過程を追跡して、免疫系の再構成が成功したことを確認する能力が強調されている。同様の原理は、遺伝子治療を受けている単一遺伝子障害の患者にも適用され得る。
【0198】
全体として、分析によって、開示されたアッセイが、DBS中の標的ペプチドの濃度を決定するための広い線形範囲及び許容可能な精度を有することが実証されている(表5)。
【0199】
ワシントン州のNBS研究所によって提供されたランダムに選択された試料を使用して、NBSの状況においてimmuno-SRM分析を利用することの実現可能性を試験した。試料の入手可能性が限られているため、及びより小さな試料からのシグネチャーペプチド分析の有用性を試験するために、使用されるDBSの量を、1スポット全体から5つまたは6つの3mmパンチに減らした。目的のペプチドは、試料処理への変更を最小限に抑えて、容易に濃縮及び分析された。シグネチャーペプチドの濃度は全て、既知の正常対照の分析から得られた事前定義されたカットオフよりも大きかった(図9)。したがって、これらの患者は正常として指定される。試料入力を大幅に削減してこの分析を確実に実行する能力によって、immuno-SRM分析は、NBSへの変換にさらに適するものになる。このハイスループット多重化法は、疾患ごとの実行時間を効果的に短縮し得、現在の自動化法の通常の実行時間が3分未満であるNBSに適している(Rashed et al.Clin.Chem.1997;43:1129-1141;Khalid et al.J Med Screen.SAGE Publications,Sage UK:London,England;2008;15:112-117)。ベトナムからの従来の郵便で、周囲温度で発送されたDBSを使用したBTK患者の予測の成功によって、DBSの収集及び発送が経済的である資源の乏しい環境での診断試験の潜在的な有用性も強調される。
【0200】
実施例2.この研究は、WASp 289及びBTK 545シグネチャーペプチドに結合する本明細書に記載のモノクローナル抗体から得られた結果を説明している。モノクローナル抗体は、再現性及び一貫性があるので、臨床、診断、及び新生児スクリーニングアッセイで使用するためにポリクローナル抗体よりも好ましい。モノクローナル抗体は、immuno-SRMアッセイにおいて、乾燥血液スポットからシグネチャーペプチドを濃縮し、正常な対照範囲を生成し、患者を対照から区別する能力において、ポリクローナル抗体と同等に機能する。WASp 289及びBTK 545のモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、同等の標準偏差を有する正常な対照範囲を生成することが判明した(図11A、11B、及び表8)。これらの集団では、モノクローナル抗体試薬を使用すると、平均ペプチド濃度が適度に増加することが判明した。これはおそらく、ポリクローナル抗体と比較した試薬の均一性に起因するものであり、非特異的結合が大きいか、またはペプチド結合エピトープの集団が減少している場合がある。
【0201】
【表8】
【0202】
WASp 289に対するモノクローナル抗ペプチド抗体を使用して、標的ペプチドは、正常な対照DBSから濃縮した。標的シグネチャーペプチドは、14905.9±4608.6pmol/Lの平均濃度で存在した(図12)。
【0203】
BTK 545に対するモノクローナル抗ペプチド抗体を使用して、標的ペプチドは、正常な対照BBSから濃縮した。標的シグネチャーペプチドは、1267.8±478.2pmol/Lの平均濃度で存在していた。XLA患者(n=8)の分析にこのマーカーを利用すると、臨床的に確認されたXLAのあらゆる症例がBTK 545のimmuno-SRM分析によって診断されたことが判明した(図13及び表9)。
【0204】
【表9】
【0205】
患者3、p.R544Gにおけるアミノ酸変化は、BTK 545バイオマーカーペプチドの直前のトリプシン切断部位を排除する。この変化は、トリプシン消化によるBTK 545ペプチドの放出をブロックし、同様に、追加のアミノ酸の分子量の違いに起因して、野生型の内因性BTK545の欠如を引き起こす。変異部位を含むシグネチャーペプチドは、アミノ酸の変化に伴う質量シフトに起因して、MSでは検出不能である。これにより、総ペプチド質量が変化し、変異したペプチドが質量分析計で検出できなくなり、野生型バイオマーカーシグナルが存在しなくなる。したがって、患者3ではBTK 545レベルを検出できない。したがって、BTK 545には患者3の点突然変異の部位が含まれているので、前述のシグネチャーペプチドBTK 407(PCT/US2019/054856)で見逃される可能性のある症例は、BTK 545を使用して特定できる可能性がある。これは、複数のシグネチャーペプチドを使用すると、特にimmuno-SRMによって偽陰性を引き起こす既知の変異がある場合に、患者を特定できる可能性が高くなり得ることを示している。
【0206】
モノクローナル抗体分析に基づいて、WASp 289カットオフは3384.4pmol/L(-2.5SD)に設定し、BTK 545カットオフは311.4pmol/L(-2SD)に設定した(表10)。
【0207】
【表10】
【0208】
NBSは、現代において最も成功した公衆衛生イニシアチブの1つであるが、下流の酵素欠乏に起因して、蓄積された代謝産物の検出に依存している。しかし、PIDDを含む多くの遺伝性疾患は、タンパク質の欠如または減少を特徴とし、現行のNBS法の範囲を制限する(Qasim et al.Br.J.Haematol.2001;113:861-865;Jin et al.Blood.American Society of Hematology;2004;104:4010-4019)。DBSからPIDD関連ペプチドを検出できることにより、immuno-SRMは、現在のカバレッジのこのギャップを埋め、現在の代謝物バイオマーカーがない治療可能な疾患へのNBSの拡大を可能にする。immuno-SRMは、タンパク質欠乏の定量化された証拠を迅速に提供し、さらに侵襲的な手順を行うことなく、DBSからの初期スクリーニング及び分子分析と同時に実行され得る。これらのシグネチャーペプチドの定量化は、さまざまな先天性疾患の高度に多重化可能なスクリーニング及び診断ツールとしてのimmuno-SRMの基礎を築く。
【0209】
予測的実施例1.ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)及びX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)の診断のためのWASp及び/またはBTKシグネチャーペプチドのimmuno-SRMアッセイ。DBS(上記のとおり)、口腔内綿棒試料、末梢血単核細胞(PBMC)、またはWASもしくはXLAの患者、またはWASもしくはXLAの疑いのある患者の白血球(WBC)、及び正常な対照からの対応する試料を、シグネチャーペプチドWASp 289、BTK 545、またはそれらの組み合わせ、ならびに実施例2及び本明細書の他の場所に記載されているそれらの関連するモノクローナル抗体を使用するimmuno-SRMによって分析する。
【0210】
口腔内綿棒試料。管理機関の審査委員会は、口腔内綿棒試料のプロトコルを承認し、全ての対象は書面によるインフォームドコンセントを得る。通常の対照の口腔内綿棒試料は、商業的供給業者から入手する。全ての口腔内綿棒試料は、-20℃または-80℃で実験室に保管する。盲検の試料には送信者から提供されたIDのラベルを付け、識別され同意された患者試料には受信時にラボIDを付与する。Peel Pouches,Copan Diagnostics 502CS01のNylon Flocked Dry Swabsは、Fisher Scientific(Chicago,IL;カタログ番号23-600-951)から入手する。2mLのCryogenic Storage Vials Internal Threadは、Fisher Scientific(Chicago,IL;カタログ番号12-567-501)から入手する。口腔内綿棒試料収集は、CHLA(2016年4月4日)で説明されているプロトコルに従ってもよい。口腔内綿棒収集手順。CHLA-臨床病理学;(2016年7月27日)。口腔内DNA収集の説明。Pathway Genomics;(2017,Dec 14).Instruction for Buccal Swab Sample Collection.Otogenetics;PDXL PDXL.(2017,Nov 28).Buccal Swab collection procedure-PersonalizedDx Labs[Video].YouTube.On World Wide Web at youtube/3ftvHkfM71o?t=146;及びCenters of Disease Control and Prevention (CDC).(2020,July 8).Interim Guidelines for collecting,handling,and testing clinical specimens for Covid-19.On World Wide Web at cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/lab/guidelines-clinical-specimens.html.細胞を含む口腔内綿棒の先端は、DBSについて前述したように、可溶化及び消化のためにチューブにクリップで留めてもよい。
【0211】
末梢血単核細胞(PBMC)及び白血球(WBC)。PBMC及びWBCは、Kerfoot et al.,Proteomics Clin Appl、2012.6(7-8):394-402;Grievink et al.(2016)Biopreserv Biobank 14(5):410-415;Corkum et al.(2015)BMCImmunol.16:48;及びJia et al.(2018)Biopreserv Biobank 16(2):82-91;及びZhou et al.(2012)Clinical and Vaccine Immunology 19(7):1065-1074に記載されているものなど、当技術分野で公知のプロトコルによって収集される。単離されたPBMCまたはWBCは可溶化され、細胞由来のタンパク質はDBSについて前述したように消化され得る。
【0212】
immuno-SRM診断は、臨床診断と比較されるであろう。可能な場合は、WAS及び/またはBTK遺伝子の遺伝情報と治療情報を各患者について取得する。immuno-SRMアッセイは、他の疾患の他のシグネチャーペプチドと多重化し得る。これらの研究によって、本明細書に記載のモノクローナル抗体を利用するimmuno-SRMアッセイを使用して、DBS、口腔内綿棒試料、PBMC、またはWBCを含む生物学的試料中の開示されたWASp及び/またはBTKシグネチャーペプチドを検出し、対象がシグネチャーペプチドの検出レベルに基づくWAS及び/またはXLAを有するか否かを診断し得ることが示される。
【0213】
(xi)最終段落。所与のCDRまたはFRの正確なアミノ酸配列境界は、以下によって記載されたものを含む、多数の周知のスキームのいずれかを使用して容易に決定することができる:Kabat et al.(1991)「Sequences of Proteins of Immunological Interest,」5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health,Bethesda,Md.(カバット番号付けスキーム);Al-Lazikani et al.(1997)J Mol Biol 273:927-948(Chothiaナンバリングスキーム);Maccallum et al.(1996)J Mol Biol 262:732-745(連絡先番号付けスキーム);Martin et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.,86:9268-9272(AbMナンバリングスキーム);Lefranc M P et al.(2003)Dev Comp Immunol 27(1):55-77(IMGTナンバリングスキーム);ならびにHonegger及びPluckthun(2001)J Mol Biol 309(3):657-670(「Aho」番号付けスキーム)。特定のCDRまたはFRの境界は、識別に使用されるスキームによって異なる場合がある。例えば、Kabatスキームは、構造アラインメントに基づいているが、Chothiaスキームは構造情報に基づいている。Kabatスキーム及びChothiaスキームの両方の番号付けは、最も一般的な抗体領域の配列の長さに基づいており、挿入文字、例えば、「30a」にあった挿入がされ、一部の抗体では欠失が見られる。2つのスキームでは、特定の挿入及び削除(「インデル」)が異なる位置に配置され、番号が異なることになる。Contactスキームは、複雑な結晶構造の分析に基づいており、多くの点でChothiaの番号付けスキームと類似している。特定の実施形態では、本明細書に開示される抗体CDR配列は、Kabat番号付けによる。
【0214】
本明細書で提供される核酸及びアミノ酸配列は、米国特許法施行規則第1.822条で定義されているように、ヌクレオチド塩基及びアミノ酸残基の文字の略語を使用して示されており、WIPO標準ST.25(1998)、付録2、表1及び3の表に記載されている。各核酸配列の1つの鎖のみが示されているが、相補鎖は、適切な実施形態に含まれることが理解される。
【0215】
本明細書に明示的に提供されない範囲で、本明細書に開示されるタンパク質のコード配列及び本明細書に開示されるコード配列のタンパク質配列は、当業者から容易に導き出され得る。
【0216】
本明細書に開示される各実施形態は、その特定の記載された要素、ステップ、成分または構成要素を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなってもよい。したがって、「含む(include)」または「含んでいる(including)」という用語は、「含む、からなる、または本質的にからなる」を意味すると解釈されるべきである。移行用語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」とは、不特定の要素、ステップ、成分、または構成要素を、たとえ大量であっても、有するがこれらに限定されず可能にすることを意味する。「からなる」という移行句は、指定されていない任意の要素、ステップ、成分、または構成要素を除外する。「本質的にからなる」という移行句は、実施形態の範囲を、特定の要素、ステップ、成分、または構成要素に、及び実施形態に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。重大な影響により、本明細書に開示される抗体または抗原結合フラグメントがその同族のペプチドバイオマーカーに結合する能力の統計的に有意な低下を引き起こすであろう。
【0217】
別段示さない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量などの特性、反応条件などを表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメーターは、本発明によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、均等論の適用を請求項の範囲に限定する試みとしてではなく、各数値パラメーターは、少なくとも報告された有効桁数に照らして、及び通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。さらに明確にする必要がある場合、「約」という用語は、記載された数値または範囲と組み合わせて使用される場合、すなわち、記載された値または範囲よりいくらか多いまたはいくらか少ないことを示すとき(記載された値の±20%の範囲内まで;記載値の±19%;記載値の±18%;記載値の±17%;記載値の±16%;記載値の±15%;記載値の±14%;記載値の±13%;記載値の±12%;記載値の±11%;記載値の±10%;記載値の±9%;記載値の±8%;記載値の±7%;記載値の±6%;記載値の±5%;記載値の±4%;記載値の±3%;記載値の±2%;または記載値の±1%)、当業者によって合理的に帰される意味を有する。
【0218】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。ただし、数値には本質的に、それぞれの試験測定で見出された標準偏差から必然的に生じる特定の誤差が含まれている。
【0219】
本発明を説明する文脈で(特に以下の特許請求の範囲で)使用される用語「a」、「an」、「the」及び同様の指示対象は、本書に別段の記載がない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方をカバーすると解釈されるべきである。本明細書での値の範囲の列挙は、単に、その範囲内にある各々の個別の値を個別に言及する簡単な方法として機能することを意図している。本明細書に別段の記載がない限り、個々の値は、本明細書に個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行され得る。本明細書で提供されるありとあらゆる例、または例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく解明することを意図したものであり、それ以外に特許請求される本発明の範囲を制限するものではない。本明細書のいかなる文言も、本発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0220】
本明細書に開示される本発明の代替要素または実施形態の分類は、限定として解釈されるべきではない。各グループのメンバーは、個別に、またはグループの他のメンバーまたは本明細書に見られる他の要素と任意の組み合わせで参照及び請求され得る。グループの1つ以上のメンバーが、利便性及び/または特許性の理由から、あるグループに含まれるか、またはあるグループから削除されることが予想される。そのような包含または削除が発生した場合、本明細書には変更されたグループが含まれていると見なされ、したがって、添付の特許請求の範囲で使用されている全てのマーカッシュ(Markushグループ)の書面による説明が満たされる。
【0221】
本発明を実施するために本発明者に知られている最良のモードを含む、本発明の特定の実施形態が本明細書に記載されている。当然ながら、これらの説明された実施形態の変形は、前述の説明を読むと、当業者には明らかになるであろう。本発明者は、当業者がそのような変形を適切に使用することを期待し、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明を実施することを意図している。したがって、本発明は、適用法令によって許可されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に列挙された主題の全ての変更及び同等物を含む。さらに、その全ての可能な変形における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、本発明に含まれる。
【0222】
さらに、本明細書全体を通して、特許、印刷された刊行物、雑誌記事、及び他の書面のテキスト(本明細書の参照資料)に対して多数の参照がなされてきた。参照される資料のそれぞれは、それらの参照される教示のために、その全体が参照により本明細書に個別に組み込まれる。
【0223】
本明細書に開示される本発明の実施形態は、本発明の原理の例示であることが理解されるべきである。使用され得る他の変更は、本発明の範囲内である。したがって、限定ではないが例として、本発明の代替の構成を、本明細書の教示に従って利用し得る。したがって、本発明は、正確に示され、説明されたものに限定されない。
【0224】
本明細書に示される詳細は、例として、本発明の好ましい実施形態の例示的な議論を目的とするものにすぎず、本発明の様々な実施形態の原理及び概念的態様の最も有用かつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供する目的で提示される。この点に関して、本発明の基本的な理解に必要であるよりも詳細に本発明の構造の詳細を示す試みはなされておらず、図面及び/または実施例とともに行った説明は、本発明のいくつかの形態が、実際に具体化され得る方法を当業者に明らかにしている。
【0225】
本開示で使用される定義及び説明は、実施例で明確かつ明瞭に変更されない限り、または意味の適用がなんらかの構造を無意味または本質的に無意味にする場合を除いて、なんらかの将来の構造を制御することを意味及び意図する。用語の構成によって意味がなくなるか、または本質的に意味がなくなる場合、定義はWebster’s Dictionary、3rd Edition、またはOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology(Eds.AttwoodT et al.,Oxford University Press,Oxford,2006)などの当業者に公知の辞書から取得する必要がある。
図1-1】
図1-2】
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8A
図8B
図9
図10-1】
図10-2】
図11A
図11B
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図14-4】
図14-5】
図14-6】
図14-7】
【配列表】
2023520459000001.app
【国際調査報告】