(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】免疫抗がん療法に対するバイオマーカーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20230510BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230510BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20230510BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230510BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20230510BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230510BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230510BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230510BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20230510BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20230510BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230510BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20230510BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
G01N33/53 D
G01N33/53 M
C12Q1/6886 Z
C07K16/28
C12N15/115 Z
C12N15/11 Z
C12N15/12
C07K14/47
C12N15/10 100Z
C12N5/09
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560021
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2021003834
(87)【国際公開番号】W WO2021201526
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0038620
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0039303
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522385326
【氏名又は名称】ロペルバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ROPHELBIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ソンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン-ハン
(72)【発明者】
【氏名】チュ、ホン ス
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ウォン-ジン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
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4B063QQ52
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4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA61
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明のDRG2は、PD-L1陽性がんにおいて免疫抗がん剤に対するがん患者の治療反応または予後に対する予測因子であり、PD-L1陽性がんにおいて免疫抗がん剤の投与決定のためのコンパニオン診断に使用できるバイオマーカーである。本発明を通じて、免疫抗がん剤の投与の有無を決定することによって、治療反応を示す患者に選別的に免疫抗がん剤を投与することができ、より効果的にPD-L1陽性がんを治療することができることが期待される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項2】
前記DRG2遺伝子のレベルを測定する製剤は、DRG2遺伝子に特異的に結合するプライマーまたはプローブであることを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項3】
前記DRG2タンパク質のレベルを測定する製剤は、DRG2タンパク質に特異的に結合する抗体またはアプタマーであることを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項4】
前記免疫抗がん剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)またはPD-L1(Programmed death-ligand 1)に特異的に結合する薬物であることを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項5】
前記PD-1に特異的に結合する薬物は、抗PD-1抗体であることを特徴とする請求項4に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項6】
前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)またはセミプリマブ(Cemiplimab)であることを特徴とする請求項5に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項7】
前記PD-L1に特異的に結合する薬物は、抗PD-L1抗体であることを特徴とする請求項4に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項8】
前記抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)またはデュルバルマブ(Durvalumab)であることを特徴とする請求項7に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項9】
前記組成物は、PD-L1陽性がんの免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用であることを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項10】
前記組成物は、対照群と比較して、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少したがんを免疫抗がん剤に対する治療反応性の低いがんまたは予後の悪いがんと予測することを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項11】
前記組成物は、対照群と比較して、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少したPD-L1陽性がんを免疫抗がん剤に対する治療反応性の低いがんまたは予後の悪いがんと予測することを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項12】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現減少は、がん細胞の表面で発現したPD-L1レベルの減少を示すことを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項13】
前記がん細胞表面におけるPD-L1発現レベルの減少は、がん細胞PD-L1とT細胞PD-1との結合減少を示すことを特徴とする請求項12に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項14】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現減少は、がん細胞におけるPD-L1のレベル増加、およびCD8 T細胞の数またはその活性増加を示すことを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項15】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルは、がん患者から分離した生物学的試料から測定することを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項16】
前記生物学的試料は、がん細胞、がん組織、血液、血漿、血清、骨髄、唾液、尿、および便からなる群から選択されたいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項15に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用キット。
【請求項18】
DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のためのコンパニオン診断(companion diagnosis)用組成物。
【請求項19】
請求項18に記載のPD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対するコンパニオン診断用組成物を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対するコンパニオン診断(companion diagnosis)用キット。
【請求項20】
がん患者から分離した生物学的試料からDRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項21】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルが、対照群と比較して減少した場合、免疫抗がん剤に対する治療反応性が低いかまたは予後が悪いものと予測することを特徴とする請求項20に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項22】
PD-L1陽性がん患者から分離した生物学的試料からDRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項23】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルが、対照群と比較して減少した場合、免疫抗がん剤に対する治療反応性が低いかまたは予後が悪いものと予測することを特徴とする請求項22に記載のPD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項24】
a)がん患者から分離した生物学的試料からDRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階と、b)前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の測定レベルが対照群と比較して減少した患者を選別する段階と、c)前記選別された患者に免疫抗がん剤を投与する段階と、を含む、がんの治療方法。
【請求項25】
DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む組成物の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫抗がん療法に対するバイオマーカーおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞は、腫瘍微細環境で免疫防御を避けるために、いくつかの方式で宿主免疫力に作用する。このような現象は、一般的に、「癌免疫回避(cancer immune escape)」と称される。このようなシステムにおいて最も重要な構成成分の一つは、PD-1(Programmed cell death protein 1)受容体およびそのリガンドであるPD-L1(Programmed death-ligand)によって媒介される免疫抑制共シグナル(免疫チェックポイント)である。
【0003】
PD-1受容体およびPD-L1リガンドは、免疫調節において必須の役割を行う。活性化したT細胞上で発現するPD-1は、間質細胞、腫瘍細胞、またはその両方により発現するPD-L1およびPD-L2によって活性化し、これを通じて、T細胞の死滅および局所化した免疫抑制を開始して、腫瘍発達および成長のための免疫寛容される環境を潜在的に提供する。反対に、このような相互作用の抑制は、局所的T細胞反応を向上させ、抗腫瘍活性を媒介することができる(Iwai Y,et al.Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:12293-97)。
【0004】
したがって、最近では、人体の免疫体系を活性化させてがん細胞を殺す治療法として、免疫抗がん療法(cancer immunotherapy)、特に免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor)が開発されて、がんの治療に使用されている。最も広く使用されている免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-1またはPD-L1に対するモノクローナル抗体を使用した阻害剤がある。この阻害剤は、T細胞の表面にあるPD-1とがん細胞の表面にあるPD-L1との結合を抑制して、T細胞など免疫細胞を活性化させることによって、がん細胞を除去するが、がん患者の生存率を画期的に増加させ、一部の患者の場合、数年間がんの再発がないことが報告された。
【0005】
PD-1およびPD-L1に対するモノクローナル抗体を使用した阻害剤は、PD-L1を発現するがん細胞にのみ効果を示す。したがって、PD-1およびPD-L1阻害剤を使用する前に、がん組織でPD-L1の発現を分析して、PD-L1を発現するがんのみに対して適用している。しかしながら、PD-L1を発現するがんの場合にも、50%以上のがん患者がPD-1およびPD-L1阻害剤に反応しないことが報告されているが、まだその理由を知らない。したがって、PD-1およびPD-L1を対象とする免疫抗がん剤を用いてがんを効果的に治療するためには、PD-L1を発現するがん細胞がPD-1およびPD-L1阻害剤に反応しない理由を明らかにし、これに基づいてPD-1およびPD-L1阻害剤に高い治療効果を示す患者を選別することに対する必要性が提起されているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述のような従来技術上の問題点を解決するためになされたものであって、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物、キット、またはこれを用いた免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測に関する情報提供方法などを提供することをその目的とする。
【0007】
より詳しくは、本発明者らは、DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少した場合、がん細胞においてPD-L1が発現しているにもかかわらず、がん細胞を死滅させることができるT細胞が活性化していることを確認して、DRG2の発現レベルが、がん細胞におけるPD-L1の発現および細胞死滅T細胞の活性化の両方に関連していることを確認し、DRG2の発現レベルの測定を通じてPD-L1陽性がんの免疫抗がん剤に対する治療反応性を予測することができることを確認することによって、本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物またはキットを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のためのコンパニオン診断(companion diagnosis)用組成物またはキットを提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法を提供することにある。
【0012】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用キットを提供する。
【0015】
また、本発明は、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のためのコンパニオン診断(companion diagnosis)用組成物を提供する。
【0016】
それだけでなく、本発明は、前記PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のためのコンパニオン診断用組成物を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のためのコンパニオン診断(companion diagnosis)用キットを提供する。
【0017】
本発明の一具現例において、前記DRG2遺伝子のレベルを測定する製剤は、好ましくは、DRG2遺伝子に特異的に結合するプライマーまたはプローブであってもよいが、DRG2遺伝子配列の全部または一部を増幅して、DRG2遺伝子の発現量を測定できる製剤であれば、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明の他の具現例において、前記DRG2タンパク質のレベルを測定する製剤は、好ましくは、DRG2タンパク質に特異的に結合する抗体(antibody)またはアプタマー(aptamer)であってもよく、前記抗体は、抗体の全部または一部であってもよいが、DRG2タンパク質に結合してタンパク質の量を測定できる製剤であれば、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明のさらに他の具現例において、前記免疫抗がん剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)またはPD-L1(Programmed death-ligand 1)に特異的に結合する薬物であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明のさらに他の具現例において、前記PD-1に特異的に結合する薬物は、抗PD-1抗体であってもよく、好ましくは、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、セミプリマブ(Cemiplimab)などであってもよいが、PD-1に特異的に結合して免疫抗がん剤の役割をすると知られている薬物であれば、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明のさらに他の具現例において、前記PD-L1に特異的に結合する薬物は、抗PD-L1抗体であってもよく、好ましくは、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)などであってもよいが、PD-L1に特異的に結合して免疫抗がん剤の役割をすると知られている薬物であれば、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明のさらに他の具現例において、前記組成物は、PD-L1陽性がんの免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用であってもよいが、これに限定されるものではない。前記PD-L1陽性がんは、一例として、免疫組織化学(Immunohistochemistry)検査を通じてPD-L1発現に対して陽性判定を受けたがんであってもよいが、一般的に使用されているPD-L1陽性がんを判定する方法によって判定されたPD-L1陽性がんであれば、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明のさらに他の具現例において、前記組成物は、対照群と比較してDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少したがんを免疫抗がん剤に対する治療反応性の低いがんまたは予後の悪いがんと予測できるが、これに限定されるものではない。前記対照群は、正常ヒト、すなわち、がんを有していないヒトから分離した生物学的試料においてのDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルであるか、または、がん組織でなく、がん組織周囲の正常組織で測定されたDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルであってもよい。
【0024】
本発明のさらに他の具現例において、前記組成物は、対照群と比較して、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少したPD-L1陽性がんを免疫抗がん剤に対する治療反応性の低いがんまたは予後の悪いがんと予測できるが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明のさらに他の具現例において、前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現減少は、間接的にがん細胞の表面で発現したPD-L1レベルの減少を示すことができ、これは、がん細胞PD-L1とT細胞PD-1との結合量の減少を示すことができ、または、がん細胞におけるPD-L1レベルの増加、およびCD8 T細胞の数またはその活性増加を示すことができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明のさらに他の具現例において、前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルは、好ましくは、がん患者から分離した生物学的試料から測定することができ、前記生物学的試料は、がん細胞、がん組織、血液、血漿、血清、骨髄、唾液、尿、便などであり、好ましくは、がん細胞またはがん組織であるが、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質を含んでいる試料であれば、これに限定されるものではない。
【0027】
また、本発明は、がん患者から分離した生物学的試料からDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、PD-L1陽性がん患者から分離した生物学的試料からDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対するコンパニオン診断のための情報提供方法を提供する。
【0029】
本発明の一具現例において、前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の測定レベルが対照群と比較して減少した場合、免疫抗がん剤に対する治療反応性が低いかまたは予後が悪いものと予測できるが、これに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明は、a)がん患者から分離した生物学的試料からDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階と、b)前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の測定レベルが対照群と比較して減少した患者を選別する段階と、c)前記選別された患者に免疫抗がん剤を投与する段階と、を含む、がんの治療方法を提供する。
【0031】
また、本発明は、DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む組成物の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための用途を提供する。
【0032】
また、本発明は、DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む組成物の免疫抗がん剤の投与のための患者を選別する用途を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明のDRG2は、PD-L1陽性がんにおいて免疫抗がん剤に対するがん患者の治療反応または予後に対する予測因子であり、PD-L1陽性がんにおいて免疫抗がん剤の投与決定のためのコンパニオン診断に使用できるバイオマーカーである。具体的に、PD-L1陽性がんにおいて組織細胞の内部および/または表面に存在するDRG2の量を測定した後、測定されたDRG2の量を分析して、免疫抗がん剤の投与の有無を決定することができる。本発明の選別方法を通じて免疫抗がん剤の投与の有無を決定することによって、高い治療効果を示す患者に選別的に免疫抗がん剤を投与することができ、より効果的にPD-L1陽性がんを治療することができることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1a-1b】
図1は、臨床データベースにおいてのPD-L1高発現とDRG2低発現との関連性を示す。 具体的に、
図1aは、TCGA腫瘍における高いPD-L1(CD274)遺伝子発現およびGEPIA(survival curve)を使用したGTExデータに基づく全体生存率を示す。
図1bは、TCGA腫瘍における低いPD-L1(CD274)遺伝子発現およびGEPIA(survival curve)を使用したGTExデータに基づく全体生存率を示す。
【
図2a-2e】
図2a~
図2eは、黒色腫腫瘍モデルにおいてDRG2欠乏がCD8 T細胞の活性を増進させることを示す。 具体的に、
図2aは、qRT-PCR(左)およびウェスタンブロット(右)で確認したDRG24ノックダウン結果である。
図2bは、対照群およびDRG2 KD黒色腫(5×10
5細胞)をC57BL/6マウスに皮下注射した後、黒色腫の成長を18日間観察した結果である。
図2cは、TILs(tumor infiltrating lymphocytes)内CD8
+IFN-γ
+ T細胞、CD3-NK1.1
+ NK細胞、CD11C
+F4/80
+ M1 MΦおよびCD206
+F4/80
+ M2 MΦのフローサイトメトリー結果を示す。
図2dは、抑制リガンドであるPD-L1、PD-L2、Gal-9および活性化リガンドである4-1BBL、OX40L、CD70、および抑制および活性化リガンドであるCD80、CD86のようなT細胞免疫チェックポイントのレベルを原発性対照群とDRG2 KD原発性黒色腫においてqRT-PCRで測定した結果である。
図2eは、抗体処理された原発性黒色腫溶解物のウェスタンブロット結果(左)およびPD-L1レベルに対するフローサイトメトリー結果(右)である。
【
図3a-3f】
図3a~
図3fは、黒色腫においてDRG2欠乏がIFN-γによって誘導された(IFN-γ-induced)PD-L1の発現をIFN-γpathwayの増進を通じて増加させることを示す。 具体的に、
図3aおよび
図3bは、対照群およびDRG2 KD B16F10細胞において24時間の間IFN-γの処理(5ng/ml)によるPD-L1発現の変化を示すqRT-PCR結果およびPD-L1レベルに対するフローサイトメトリー結果をヒストグラムで示した。
図3cは、用量依存的に24時間の間IFN-γ処理された対照群およびDRG2 KD B16F10細胞におけるIFN-γ-STAT1シグナル伝達(signaling)に対するウェスタンブロット結果である。
図3dは、PD-L1のIRF1転写因子に対するqRT-PCR分析結果である。
図3eは、flat-bottom 96ウェルプレート(左)および24 transwellプレート(右)で48時間の間IFN-γ前処理されたり、処理されない対照群およびDRG2 KD B16F10細胞と共培養した活性化したprimary CD4 T細胞のsoluble IL-2のレベルを示す。
図3fは、対照群およびDRG2 KD B16F10細胞の上清液で培養した活性化したprimary CD4 T細胞のIL-2 mRNA(左)およびsoluble IL-2(右)のレベルを示す。
【
図4a-4c】
図4a~
図4cは、DRG2欠乏黒色腫においてPD-L1が組換えPD-1との結合親和性(binding affinity)を減少させたことを示す。 具体的に、
図4aは、黒色腫における組換えPD-1とPD-L1との相互作用に対するフローサイトメトリー結果を示す。対照群およびDRG2 KD黒色腫細胞をIFN-γ(0.5ng/ml)で24時間の間処理したり、処理しなかった後、フローサイトメトリー30分前に組換えPD-1(1μg/ml)を10分間処理した。
図4bは、IFN-γ(0.5ng/ml)を24時間の間処理したり、処理しなかった対照群およびDRG2 KD黒色腫細胞のPD-L1に対するフローサイトメトリーヒストグラムを示す。PD-1とPD-L1の相互作用親和性(interaction affinity)は、PD-L1
+細胞に対するPD-1
+の%で計算した。
図4cは、対照群およびDRG2 KD細胞におけるPD-L1
+細胞当たりPD-1と相互作用する細胞の割合を示す。
【
図5a-5c】
図5a~
図5cは、DRG2欠乏が細胞内PD-L1を増加させることを示す。 具体的に、
図5aは、IFN-γが処理されたり、処理されなかった対照群およびDRG2 KD B16F10細胞溶解物においてEndo H処理によるPD-L1脱グリコシル化(deglycosylation)に対するウェスタンブロット結果(左)およびこれに対するグラフ(右)である。
図5bは、対照群およびDRG2 KD黒色腫細胞においてIFN-γ処理または無処理後のPD-L1のタンパク質発現を示す共焦点顕微鏡イメージ(左)およびこれに対するグラフ(右)である。赤色蛍光がPD-L1を示し、青色蛍光が核を示す。
図5cは、対照群およびDRG2 KDヒトの卵巣がん細胞(SKOV3)においてIFN-γ処理後のPD-L1のタンパク質発現を示す共焦点顕微鏡イメージ(左)およびこれに対する細胞の表面に発現したPD-L1割合を示すグラフ(右上)およびDRG2 KD、IFN-γの効果を確認するウェスタンブロット結果(右下)である。赤色がPD-L1を示し、青色が核を示す。
【
図6】
図6は、DRG2の発現レベルの変化によるがん細胞の表面におけるPD-L1の発現レベル変化およびこれによるがん細胞の表面のPD-L1とT細胞のPD-1との相互作用の変化を簡略に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者らは、PD-L1陽性がん患者に免疫抗がん剤を投与する場合、20~30%のがん患者にのみ免疫抗がん剤が治療効果を示す点に着目して、免疫抗がん剤の投与のための患者を選別する方法について鋭意研究した結果、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現が減少した患者の場合には、PD-L1が細胞の表面に正常に位置しなくて、免疫抗がん剤に対する治療効果が低いことを確認して、本発明を完成した。より詳しくは、一般的にPD-L1の発現が増加する場合、T細胞など免疫細胞の活性化が減少して生存率が減少するが、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現が減少した場合、PD-L1の発現が増加するが、がんの成長は抑制されることを確認した。これについて詳しく研究した結果、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現が減少した場合、発現が増加したPD-L1が細胞の表面に正常に位置しなくて、PD-1との結合程度が減少することを確認した。すなわち、PD-1に対する免疫抗がん剤またはPD-L1に対する免疫抗がん剤は、PD-1とPD-L1の結合を抑制することによって、免疫抗がん剤の効能を示す、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現量が減少したがんでは、免疫抗がん剤が作用できないことが確認できた。すなわち、従来のPD-L1の発現量だけを測定して免疫抗がん剤を投与する方法では、免疫抗がん剤に対する治療効果を示すことができる患者を正確に選別できないことが確認できた。したがって、本発明は、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現が増加したがん患者、またはPD-L1陽性がん患者であり、同時に、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現が増加したがん患者を免疫抗がん剤を投与する患者として選別する方法を提供することによって、免疫抗がん剤に対する治療効率を顕著に高めて、がん患者の苦痛および治療費用を効果的に減少させることができることが期待される。
【0036】
本明細書において、DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein2)とは、細胞内の様々な調節に関与するタンパク質であり、large superfamilyを成していることが知られており、このようなsuperfamilyには、trimeric G protein(例えば、transducin)、monomeric G protein(例えば、ras)およびタンパク質の合成に関与するGTPase(例えば、elongation factor Tu)などのような重要な3個のsubfamilyが存在するが、最近、これらと塩基配列および機能が互いに異なる新しいグループのG proteinが発見され、これらのうち一つであるDRG(developmentally regulated GTP-binding protein)は、GTPと結合に必要なG1からG5までの5個のregionを全部有しており、サイズは、trimeric G proteinと類似している。しかしながら、アミノ酸配列がtrimeric G proteinだけでなく、従来のG protein subfamilyと全く異なる特性を有していて、新しいsubfamilyに区分されている。
【0037】
また、DRGにはDRG1とDRG2があり、細菌からヒトに至るまでほぼすべての種類の細胞に存在する。例えば、Halobacterium cutirubrum,Thermoplasma acidophilum,Methanococcus jannaschii,Caenorhabditis elegans,Schizosaccharomyces pombe,Drosophila melanogaster,Xenopus laevis,Arabidopsis thaliana,Saccharomyces cerevisiaeなどに存在することが確認された。しかしながら、まだDRG2が、がん細胞におけるPD-L1の発現および細胞死滅T細胞の活性化と関連していることについては知られていない。
【0038】
本明細書において、「DRG2の遺伝子またはタンパク質のレベル(または発現レベル)」は、DRG2遺伝子のmRNA発現レベルとこれから発現するDRG2タンパク質の発現レベルを全部含む意味で使用される。本明細書において、前記「遺伝子のレベル(発現レベル)」は、免疫抗がん剤に対する治療効果を予測するために、生物学的試料からDRG2遺伝子のmRNA存在の有無および/または発現程度を確認する過程であり、mRNAの量を測定することによって確認できる。このための分析方法としては、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競合逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real-time RT-PCR)、RNaseプロテクションアッセイ(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern blotting)、RNA塩基配列決定法(RNA-seq;RNA-sequencing)、ナノストリング、DNAマイクロアレイチップなどがあるが、mRNAの発現量を測定できる方法であれば、これに限定されない。また、本明細書において、前記「タンパク質のレベル(発現レベル)」は、免疫抗がん剤に対する治療効果を予測するために、生物学的試料からDRG2遺伝子からコード化されたタンパク質の存在の有無と発現レベルを確認する過程であり、前記タンパク質に対して特異的に結合する抗体、アプタマーなどを用いてタンパク質の量を確認したり、タンパク質の活性を測定することによって確認できる。このための分析方法としては、ウェスタンブロッティング(western blotting)、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射免疫測定法(radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(Rocket)免疫電気泳動、免疫組織化学染色、免疫沈降分析(immunoprecipitation assay)、補体固定分析(complete fixation assay)、フローサイトメトリー(FACS)、タンパク質チップ(protein chip)、リガンドバインディングアッセイ、MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、SELDI-TOF(Surface Enhanced Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、2次元電気泳動分析、液体クロマトグラフィー-質量分析(liquid chromatography-Mass Spectrometry、LC-MS)、LCMS/MS(liquid chromatography-Mass Spectrometry/Mass Spectrometry)などがあるが、タンパク質の発現量を測定できる方法であれば、これに限定されない。
【0039】
本明細書において、「コンパニオン診断(Companion diagnostics)」とは、特定の治療薬物を特定の患者に適用するための可能性を確認するための診断テストの一つを意味するものであり、本発明では、PD-L1陽性がんを有する個体に免疫抗がん剤(例えば、抗PD-1抗体)を適用するための可能性を確認するために、がん患者においてDRG2の発現レベルをコンパニオン診断マーカーとして共に測定することができる。
【0040】
本明細書において、「免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法」とは、免疫抗がん剤に対する治療効果を予測し、これを介した予後を予測する方法に関し、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現が減少した患者の場合には、免疫抗がん剤に対する治療効果が低い可能性に関する情報を獲得する方法を意味する。
【0041】
本明細書において、前記DRG2遺伝子のレベルを測定する製剤は、DRG2遺伝子に特異的に結合するプライマーまたはプローブであってもよいが、これに限定されるものではない。前記プライマーまたはプローブは、本発明のバイオマーカー(DRG2)ヌクレオチド配列に対して相補的(complementary)配列を有する。本明細書において使用される用語、「相補的」は、任意の特定のハイブリダイゼーション(hybridization)またはアニーリング条件下で上述したヌクレオチド配列に選択的にハイブリダイズするに十分な相補性を有することを意味する。したがって、用語「相補的」は、用語「完全相補的(perfectly complementary)」とは異なる意味を有し、本発明のプライマーまたはプローブは、上述したヌクレオチド配列に選択的にハイブリダイズすることができる程度であれば、一つまたはそれ以上のミスマッチ(mismatch)塩基配列を有していてもよい。
【0042】
本明細書において使用される用語、「プライマー(primer)」は、好適な温度で好適な緩衝液内で好適な条件(すなわち、4種の異なるヌクレオシドトリホスフェートおよび重合反応酵素)下で鋳型(template)配列と合成の開始点として作用できる一本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。プライマーの好適な長さは、多様な要素、例えば、温度とプライマーの用途によって変化があるが、典型的に15~30ヌクレオチドである。短いプライマー分子は、鋳型と十分に安定した混成複合体を形成するために、一般的にさらに低い温度を要求する。プライマーのデザインは、上述したヌクレオチド配列を参照して当業者により容易に実施されることができ、例えば、プライマーデザイン用プログラム(例:PRIMER 3プログラム)を用いて製作することができる。
【0043】
本明細書において使用される用語、「プローブ(probe)」は、自然のまたは変形されたモノマーまたは連鎖(linkages)の線状オリゴマーを意味し、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを含み、ターゲットヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズすることができ、自然的に存在したりまたは人為的に合成されたものであってもよい。
【0044】
本明細書において、前記DRG2タンパク質のレベルを測定する製剤は、DRG2タンパク質に特異的に結合する抗体またはアプタマーであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
前記抗体(antibody)は、DRG2タンパク質の一部または全部を抗原性部位として認知して、前記抗原性部位に特異的にかつ直接的に結合することを意味し、ポリクロナール(polyclonal)抗体、モノクロナール(monoclonal)抗体、またはその断片を全部含む。このような抗体は、当業者に知られた公知の方法で製作することができる。すなわち、前記モノクローナル抗体は、当業界に広く公知となった融合方法(fusion method)、組換えDNA方法またはファージ抗体ライブラリー技術を用いて製造することができる。
【0046】
前記アプタマー(aptamer)は、一本鎖DNAまたはRNA分子であり、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)と呼ばれるオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)ライブラリーを用いた進化的な方法によって特定の化学分子や生物学的分子に高い親和力と選別力を持って結合するオリゴマーを分離して収得することができる。アプタマーは、標的に特異的に結合し、標的の活性を調整することができるが、例えば、結合を通じて標的が機能する能力を遮断することができる。
【0047】
本明細書において、「免疫抗がん剤」は、免疫チェックポイント阻害剤とも呼ばれる、一つ以上の免疫チェックポイントタンパク質を全体的にまたは部分的に抑制、妨害または調節する物質を意味する。免疫チェックポイントタンパク質は、T細胞の活性化または機能を調節する。多数の免疫チェックポイントタンパク質、例えば、PD-1、PD-L1、CTLA-4などが公知となっている。これらのタンパク質は、T細胞反応の共刺激性または抑制性相互作用に関与する。免疫抗がん剤は、抗体を含んでもよいし、抗体に由来してもよい。
【0048】
本明細書において、前記免疫抗がん剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)に特異的に結合する薬物であってもよいが、これに限定されるものではない。一つの特定例において、前記PD-1に特異的に結合する薬物は、抗PD-1抗体であってもよく、前記抗PD-1抗体の例としては、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、セミプリマブ(Cemiplimab)などが挙げられる。
【0049】
本明細書において、前記免疫抗がん剤は、PD-L1(Programmed death-ligand 1)に特異的に結合する薬物であってもよいが、これに限定されるものではない。一つの特定例において、前記PD-L1に特異的に結合する薬物は、抗PD-L1抗体であってもよく、前記抗PD-L1抗体の例としては、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)などが挙げられる。
【0050】
前記「抗体(antibody)」は、PD-1、PD-L1、CTLA4などの免疫チェックポイントタンパク質に対して特異的に結合して免疫チェックポイント抑制活性を示す物質である。前記抗体の範囲には、完全な形態の抗体だけでなく、抗体分子の抗原結合部位も含まれる。
【0051】
本明細書において、「がん(cancer)」は、浸潤によって局部的にそして転移を通じて体系的に拡張できる低酸素骨髄にある幹細胞から発生した各種血液がんと共に、無限成長が予告される悪性の固形腫瘍をいう。特にこれらに限らないが、がんの具体的な例としては、副腎がん、骨がん、脳がん、乳がん、気管支がん、結腸がんおよび/または直腸がん、胆のうがん、消化管がん、頭頸部がん、腎臓がん、喉頭がん、肝がん、肺がん、神経組織がん、膵臓がん、前立腺がん、副甲状腺がん、皮膚がん、胃がん、および甲状腺がんが含まれる。がんの他の例としては、腺がん、腺腫、基底細胞がん、子宮頸部異形成および上皮内がん、ユーイング(Ewing)肉腫、扁平上皮がん種、液腺細胞がん、悪性脳腫瘍、母細胞がん、腸の神経節細胞腫、過形成角膜神経がん、島細胞がん、カポジ(Kaposi)肉腫、平滑筋腫、白血病、リンパ腫、悪性がん様腫、悪性黒色腫、悪性高カルシウム血症、マルファン体型(marfanoid habitus)がん、髄様がん、転移性皮膚がん、粘膜神経種、骨髄異形成症候群、骨髄腫、菌状息肉症、神経芽細胞腫、骨肉腫、骨原性およびその他肉腫、卵巣がん、クロム親和性細胞腫、真性赤血球増加症、原発性脳腫瘍、小細胞性肺がん、潰瘍性および乳頭状扁平上皮がん、精上皮腫、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、網膜芽細胞腫、腎細胞腫瘍または腎細胞がん、網状細胞性肉腫、およびウィルムス腫瘍が含まれる。がんの具体的な例としては、また、星細胞腫、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor,GIST)、神経膠腫または神経膠芽腫、腎細胞がん(renal cell carcinoma,RCC)、肝細胞がん(hepatocellular carcinoma,HCC)、および膵臓神経内分泌がんが含まれる。好ましくは、肺がん、胃がん、神経膠腫、肝がん、黒色腫、腎臓がん、尿路上皮がん、頭頸部がん、メルケル細胞腫、前立腺がん、血液がん、乳がん、大腸がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、脳がん、卵巣がん、膀胱がん、気管支がん、皮膚がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、甲状腺がん、骨がんおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるが、これに限らない。
【0052】
本発明において、本発明の組成物は、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用でありうるが、これに限定されるものではない。前記PD-L1陽性がんは、免疫組織化学(Immunohistochemistry)検査を通じてPD-L1発現に対して陽性判定を受けたがんであってもよく、免疫組織化学検査を通じてPD-L1陽性がんであるか陰性がんであるかどうかを決定する方法およびそのためのキット(例えば、KEYTRUDATMのコンパニオン診断キットであるPD-L1 IHC 22C3 pharmDx)などが公知となっている。
【0053】
PD-L1コンパニオン診断キット(例えば、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx)は、染色時に、細胞膜と細胞質内部のPD-L1を全部染色させて、PD-L1の発現程度がどの程度であるかを確認し、これに基づいて、PD-L1陽性がん(Tumor Proportion Score≧50%)である場合、治療剤として免疫抗がん剤(例えば、キイトルーダ(Keytruda))を使用する方式で使用されている。すなわち、免疫抗がん剤の投与の有無の決定をがん組織内でPD-L1を発現するがん細胞の割合に基づいて判断している。がんのPD-L1は、CD8 T細胞を抑制する機序を有していて、これによって、がんの成長をさらに促進させる。反対に、免疫抗がん剤は、PD-L1を抑制させてT細胞の活性を増加させることによってがん患者を治療する方式である。このような治療をするためには、がん組織においてPD-L1がよく発現していなければならない。PD-L1の発現がうまくいかないがん患者に免疫抗がん剤を投与する場合には、治療効果をほとんど示さない。
【0054】
本明細書において、「PD-L1陽性」は、少なくとも約1%のPD-L1発現を意味する。PD-L1の発現は、関連技術分野において公知となっている任意の方法によって測定されることができる。例えば、PD-L1の発現は、免疫組織化学(IHC)により測定されることができる。PD-L1陽性がん(腫瘍)は、IHCによって測定した結果、腫瘍細胞の少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約5%、少なくとも約10%または少なくとも約20%がPD-L1を発現するがんでありうる。
【0055】
本発明において、本発明の「キット(kit)」は、試料内のDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定して、免疫抗がん剤に対する治療効果を予測できる検診用機器を意味し、がん患者から分離した生物学的試料からDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の量を確認できる形態であれば、制限がない。前記キットは、遺伝子増幅キット、マイクロアレイチップなどの形態でありうるが、これに限定されるものではない。前記用語「増幅」は、核酸分子を増幅する反応を意味する。多様な増幅反応が当業界に報告されており、例えば、重合酵素連鎖反応(PCR)は、米国特許第4683195号、第4683202号、第4800159号に開示されている。前記マイクロアレイにおいて、プローブを含んでもよいし、プローブは、ハイブリダイゼーションアレイ要素(hybridizable array element)として用いられ、基体(substrate)上に固定化される。好ましい基体は、好適な堅固性または半堅固性支持体であり、例えば、膜、フィルター、チップ、スライド、ウェハー、ファイバー、磁性ビーズまたは非磁性ビーズ、ゲル、チュービング、プレート、高分子、微小粒子および毛細管を含んでもよい。前記ハイブリダイゼーションアレイ要素は、前記基体上に配列されて固定化される。このような固定化は、化学的結合方法またはUVのような共有結合的方法によって実施されることができる。本発明のマイクロアレイに適用される試料は、標識(labeling)されてもよく、マイクロアレイ上のアレイ要素とハイブリダイズされる。ハイブリダイゼーション条件は多様にすることができる。ハイブリダイゼーション程度の検出および分析は、標識物質によって多様に実施することができる。また、本発明のキットには、対照群としてhouse-keeping gene、beta-actinなどをさらに含んでもよい。
【0056】
本明細書において使用される用語、「基準値(reference value)または対照群」は、遺伝子(mRNA)またはタンパク質の過発現/低発現を区分する基準となる値を意味する。前記基準値は、例えば、正常ヒトの平均mRNA/タンパク質発現レベルであるか、または、がん組織周囲の正常組織の平均mRNA/タンパク質発現レベルであってもよいが、これに限定されるものではない。また、前記基準値または対照群は、特定の患者群の平均mRNA/タンパク質発現レベルの分布によって定められることができるが、これに限定されるものではない。
【0057】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、ただ本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
[実施例]
実験材料および実験方法
細胞培養
マウス黒色腫B16F1、B16F10細胞株およびヒト卵巣がんSKOV3細胞株は、韓国細胞株バンク(KCLB-ソウル、韓国)から購入した。細胞を5%CO2の加湿大気下で37℃の温度で10%ウシ胎児血清(WELGENE、韓国)が添加されたDMEM培地で培養した。B16F10細胞株において遺伝子発現に対する低酸素症の効果は、93%N2、5%CO2および2%O2で構成されたガス混合物を維持したマルチガスインキュベーター(Galaxy R、New Brunswick Scientific)で細胞をインキュベートすることでテストした。
【0059】
実験動物
6週齢の雌C57BL/6マウスをオリエントバイオ(釜山、韓国)から購入した。マウスを特定の病原体のない条件下で蔚山大学校の実験室の動物施設で飼育し、蔚山大学校の動物管理および使用委員会の指針によって使用した。
【0060】
TCGA(Cancer Genome Atlas)データ分析
TCGA正常(normal)と比較したTCGA腫瘍のPD-L1(CD274)遺伝子発現およびGEPIA(Gene Expression Profiling Interactive Analysis)を用いたGTExデータに基づいて全体生存率(Overall survival、OS)分析を行った。仮説検定と関連して、GEPIAは、ログ順位検定を考慮した。50%(中央値)のCD274発現臨界値によってCD274高発現と低発現コホート(cohort)を分類した。したがって、CD274発現レベルが50%よりも高いかまたは低いサンプルをそれぞれ高発現コホート(cutoff-high)および低発現コホート(cutoff-low)に分類した。DRG2発現プロファイルおよび一部の患者の臨床情報を含むデータは、GEPIA(Gene Expression Profiling Interactive Analysis)を使用して収得した。サンプルのレベル(Fragments Per Kilobase of transcript per Million(FPKM)標準化)を得た。
【0061】
プラスミド、siRNA、トランスフェクションおよびレポーターアッセイ
マウスDRG2に対するshRNA(DRG2-shRNA、TRC0000047195、5’-CCGGGCTCATCCTACATGAATACAACTCGAGTTGTATTCATGTAGGATGAGCTTTTTG-3’(配列番号25))を含むプラスミドコンストラクトpLKO-DRG2-shRNAおよび非ターゲットshRNA対照群ベクター(MISSION pLKO.1-puro non-mammalian shRNA control plasmid DNA,SHC002)をSigmaから購入した。マウス/ヒトに対するsiRNA(siDRG2,5’-CAUUGAAUACAAAGGUGCCAACA-3’(配列番号26))および対照群siRNA(scRNA)は、GenePharmaから購入した。
【0062】
DRG2-欠乏細胞を製造するために、B16F10細胞をpLKO-DRG2-shRNAでトランスフェクションさせ、ピューロマイシン(Sigma P9620)を用いてB16F10/shDRG2を選別した。pLKO.1-puro内非ターゲットshRNAを使用して対照群細胞B16F10/pLKOを製造した。細胞は、TurboFect(Thermo Scientific)を使用してトランスフェクションさせた。トランスフェクションの効率をモニタリングするために、GFP発現ベクターpEGFP-N1/C1(Clontech)をプラスミドコンストラクトと共に共同トランスフェクションさせた。トランスフェクション効率(>80%)を確認した後、細胞を追加研究に使用した。
【0063】
リアルタイムおよび半定量(semiquantitative)RT-PCR
TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して細胞からトータルRNAを抽出した。NanoDropTM2000システム(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)を使用してRNA濃度を測定した後、トータルRNA2μgおよびM-MLV逆転写酵素(Promega)を使用してcDNAを合成し、表1に記載された遺伝子特異的プライマーを使用したリアルタイムおよび半定量PCRで鋳型として使用した。SYBR Green PCR Master Mix(QIAGEN)を使用してABI 7500 Fast Real-Time PCRシステム(Applied Biosystems)でリアルタイムqRT-PCRを実施した。Taq polymerase(Solgent、大田、韓国)を使用して半定量RT-PCRを実施した。
【0064】
【0065】
ウェスタンブロット(Western blotting)
脱グリコシル化分析(deglycosylation assay)のために、細胞抽出物内タンパク質または濃縮された上清液をSDS-PAGEで分離し、anti-DRG2(Proteintech)、mouse anti-PD-L1(Abcam)、anti-phospho STAT1(cell signaling)、anti-β-acin(Sigma)希釈液をそれぞれ処理した。免疫反応性(Immunoreactivity)バンドは、Pierce ECL Western blotting substrate(Thermo Scientific)を使用して検出した。
【0066】
PD-1とPD-L1相互作用分析(interaction assay)
PD-1とPD-L1タンパク質相互作用を測定するために、懸濁細胞を4%パラホルムアルデヒドで常温で15分間固定し、組換えヒトPD-1 Fcタンパク質(R&D Systems)と共に1時間の間インキュベートした。2次抗体としてanti-human Alexa Fluor 488 dye conjugate(Life Technologies)を使用した。核をDAPI(blue;Life Technologies)で染色した。そして、FACSフローサイトメーター(Becton Dickinson,Inc.)を使用してAlexa Fluor 488 dyeの蛍光強度を測定した。
【0067】
免疫細胞化学(Immunocytochemistry)
免疫細胞化学の分析のために、細胞を4%パラホルムアルデヒドで常温で15分間固定して、5% Triton X-100で5分間透過させた(permeabilized)後、1次抗体を使用して染色した。2次抗体としてanti-mouse Alexa Fluor 488または594 dye conjugateおよび/またはanti-rabbit Alexa Fluor 488または594 dye conjugate(Life Technologies)を使用した。核は、4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI;blue;Life Technologies)で染色した。マウントした(mounting)後、Olympus 1000/1200 laser-scanning confocal systemを使用して細胞を観察した。
【0068】
共培養(Co-culture)およびIL-2の測定
T細胞の不活性化に対する腫瘍細胞の影響を分析するために、腫瘍細胞をマウスT-Activator CD3/CD28(Life Technologies)で活性化したマウス脾臓CD4 T細胞と共培養した。5:1(Jurkat:tumour cell)の比で48時間の間インキュベートした。培地内に分泌されたIL-2のレベルをマウスIL-2 ELISAキット(Thermo Scientific)を使用して測定した。
【0069】
統計的有意性
すべての実験は、最小3回以上繰り返し行い、結果は、平均値±標準偏差で示した。統計的有意性は、Student’s t-testで確認し、P<0.05であれば、統計的に有意性があると判断した。Nsは、non-significant、*は、P<0.05、**は、P<0.01、***は、P<0.001、****は、P<0.0001を示す。
【0070】
実験結果
実施例1.PD-L1と生存率の相関関係の確認
存知のように、PD-L1のレベルが高いとき、低い生存率を示すかについて、臨床データを用いて確認した。その結果は、
図1aおよび
図1bに示した。
【0071】
図1aに示されたように、高いPD-L1レベルを有するがん患者は、低い生存率を示すことを確認した。このような患者においてDRG2の発現量を確認した結果、正常な周囲組織と比べて、がん細胞においてDRG2の発現が増加したことを確認した。
【0072】
これに対し、
図1bに示されたように、PD-L1のレベルが高いが、生存率が高い患者においてDRG2の発現量を確認した結果、正常な周囲組織と比べて、がん細胞においてDRG2の発現が減少したことを確認した。
【0073】
これを通じて、従来知られているように、PD-L1のレベルが高いとは、低い生存率を示すものではなく、これは、DRG2の発現程度によって変化することが確認できた。
【0074】
実施例2.DRG2発現レベルによるがん成長および免疫細胞分布の確認
DRG2発現レベルががんに及ぼす影響を確認するために、マウスにがんを注入し、がんの成長と免疫細胞の分布を確認した。その結果は、
図2a~
図2eに示した。
【0075】
図2aは、DRG24ノックダウン黒色腫においてDRG2のレベルが減少したことを示すqRT-PCR(左)およびウェスタンブロット(右)の実験結果である。
図2aに示されたように、shDRG2でトランスフェクションされた細胞は、DRG2の発現が減少したことを確認した。
【0076】
図2bは、マウスの脇腹部分に細胞(pLKO/B16F10またはshDRG2/B16F10)を皮下注射した後、時間の経過に伴うがんの成長を測定した結果である。
図2bに示されたように、DRG2のレベルが減少したがん細胞(shDRG2/B16F10)を注射した場合には、対照群(pLKO/B16F10)と比較して、がんの成長が抑制されたことを確認した。
【0077】
上記のようながんの成長の差異が、がんの周囲にある免疫細胞の分布の違いによるものであるかを確認するために、フローサイトメトリーを実施した(
図2c)。がんの周囲には、多様な免疫細胞が存在し、これらのうち、がんを直接的に死滅させる役割をする主な細胞は、細胞死滅T細胞(CD8 T cell)である。したがって、DRG2のレベルが減少したがん組織内のCD8 T細胞の活性化した形態であるCD8
+IFN-gamma
+ T細胞の分布を確認した。その結果は、
図2cに示した。
図2cに示されたように、CD8
+IFN-gamma
+ T細胞は、shDRG2/B16F10がん組織に顕著に増加したが、他の免疫細胞(間接的にCD8 T細胞に影響を与える細胞)の場合には、対照群と差異がないことを確認した。これを通じて、がん細胞においてDRG2のレベルが減少すると、がん細胞がCD8 T細胞の活性を調節せず、このような活性調節が他の免疫細胞による機序でなく、直接的にCD8 T細胞との交流を通じて行われることを確認した。
【0078】
T細胞を調節するのに重要な役割をするがん組織の表面タンパク質の量をmRNAレベルでqRT-PCRで確認した。その結果は、
図2dに示した。
図2dに示されたように、DRG2のレベルが減少したがん組織内のT細胞を活性化させる表面タンパク質と抑制させる表面タンパク質を全部確認した結果、T細胞の活性を抑制するPD-L1遺伝子の発現量が増加したことを確認した。
【0079】
タンパク質レベルでも同じ効果を示すかを確認するために、ウェスタンブロットおよびフローサイトメトリーを実施した。その結果は、
図2eに示した。
図2eに示されたように、mRNA結果と同様に、DRG2のレベルが減少したがん組織内でPD-L1タンパク質レベルが増加していることを確認した。
【0080】
前記結果を通じて、一般的にがん組織内のPD-L1の発現増加は、T細胞の活性化を抑制して、がんの成長および転移を促進させると知られているが、DRG2レベルが減少したがん組織内では、PD-L1のレベルが増加するが、T細胞は活性化して、がんの成長を抑制することが確認できた。
【0081】
実施例3.DRG2発現レベルがPD-L1の発現に及ぼす影響の確認
DRG2のレベル減少が直接的にPD-L1に及ぼす影響を確認するために、in vitro上で実験を実施した。その結果は、
図3a~
図3fに示した。T細胞とがん組織間の交流を模倣するために、培地にPD-L1の発現を増加させるサイトカインであるIFN-gammaを共に処理し、実験を進めた。
【0082】
図3aの上段グラフは、shDRG2を用いてDRG2のレベルを減少させたものであり、下段グラフは、siDRG2を用いてDRG2のレベルを減少させたものである。DRG2のレベルを人為的に減少させた後に、IFN-gammaによって誘導されるPD-L1遺伝子のレベルをqRT-PCRで確認した。
図3aに示されたように、DRG2のレベルを減少させた場合に、PD-L1遺伝子の発現が増加することを確認した。
【0083】
また、PD-L1タンパク質のレベルをフローサイトメトリーを通じて確認した。その結果は、
図3bに示した。
図3bに示されたように、DRG2のレベルを減少させた場合に、PD-L1タンパク質の量が増加することを確認した。
【0084】
図3cおよび
図3dは、DRG2のレベルが減少したとき、PD-L1のレベルが増加する機序を確認するために、IFN-gammaの主な活性経路であるSTAT1リン酸化、IRF1の発現程度をウェスタンブロットおよびqRT-PCRでそれぞれ確認した結果である。
図3cおよび
図3dに示されたように、DRG2のレベルの減少は、IFN-gammaによるSTAT1リン酸化およびIRF1の発現程度を顕著に増加させることを確認した。そして、これを通じて、PD-L1の発現を増加させることができることを確認した。
【0085】
図3eおよび
図3fは、実施例2のin vivo実験結果と同様に、in vitro上でもT細胞の活性に差異を示すかを確認した結果である。がん細胞は、PD-L1のような表面タンパク質を用いて直接的な接触を通じてT細胞の活性を抑制するが、サイトカインを分泌することによっても、直接的な接触なしでT細胞を調節することもできる。したがって、がん細胞とT細胞をco-cultureして直接的な接触が維持される場合(
図3eの左)、がん細胞が除去されたがん細胞培養液(conditioned media)を用いてT細胞を培養した場合(
図3eの右)、そして、トランスウェルを用いてT細胞とがん細胞の直接的な接触なしでco-cultureした場合(
図3fの左(RT-qPCR測定結果)および右(ELISA測定結果))のそれぞれのIL-2の量を測定した。
図3eおよび
図3fに示されたように、T細胞とがん細胞の直接的な接触がある場合(
図3eの左)にのみ、IL-2の量が増加し、直接的な接触がない場合には、IL-2の量が有意差を示さないことを確認した。これを通じて、直接的な接触を通じてT細胞の活性が増加したことを確認した。
【0086】
前記結果を通じて、DRG2のレベルが減少したがん細胞は、IFN-gammaによるPD-L1の発現を増加させ、T細胞と直接的な接触がある場合にのみ、T細胞を活性化させることを確認した。
【0087】
実施例4.DRG2の発現レベルの減少がPD-L1機能に及ぼす影響の確認
DRG2のレベルが減少したがんにおいてPD-L1の発現量は増加するが、正常に機能しない理由を確認するために、一次的にT細胞の表面タンパク質であるPD-1とがん細胞の表面タンパク質であるPD-L1の結合程度を確認した。その結果は、
図4a~
図4cに示した。
【0088】
図4aに示されたように、PD-1タンパク質をがん細胞に処理したとき、PD-1タンパク質と結合しているがん細胞の量をフローサイトメーターを用いて確認した結果、pLKO/B16F10+IFN-gammaと比べて、shDRG2/B16F10+IFN-gammaのサンプルにおいてPD-1との接触がさらに減少していることを確認した。
【0089】
図4bは、
図4aで利用された細胞のPD-L1の量をさらに確認した結果であり、DRG2のレベルが減少した場合、PD-L1の量は増加していることを確認した。
【0090】
図4cは、
図4bで確認したPD-L1量と比べて、
図4aで確認されたPD-1との接触量を計算した結果であり、DRG2のレベルが減少したとき、PD-L1のレベルと比べて、PD-1との接触量が顕著に減少したことを確認した。
【0091】
前記結果を通じて、DRG2のレベルが減少したがんでは、PD-L1の発現が増加するが、PD-L1とT細胞のPD-1との結合量は、反対に減少したことが確認できた。すなわち、DRG2のレベルが減少したがん細胞の場合には、T細胞との直接的な接触が抑制されて、T細胞の活性を増加させ、発現が増加したPD-L1は、その機能を正常に維持しないことが確認できた。
【0092】
実施例5.DRG2レベル減少によるがん細胞内のPD-L1機能低下機序の確認
DRG2のレベル減少は、PD-L1の発現を増加させるが、PD-L1の機能を抑制させる機序を確認するために、PD-L1のグリコシル化程度とPD-L1ががん細胞内に存在する位置を確認した。その結果は、
図5a~
図5dに示した。
【0093】
図5aは、PD-L1のグリコシル化(Glycosylation)程度をウェスタンブロットで確認した結果(左)およびこれを定量化した結果(右)であり、PD-L1のグリコシル化が起こらない場合、PD-1との相互作用する効率が減少すると知られている。
図5aに示されたように、PD-L1の完全なグリコシル化である場合には、55kDaサイズのPD-L1が観察されるが、Endo Hにより不完全なグリコシル化された部分が切られると、30~35kDaのサイズでバンドが観察されることを確認した。しかしながら、DRG2のレベルが減少しても、依然としてEndo Hにより切られない完全なグリコシル化したPD-L1の量が多いことを確認した。前記結果を通じて、DRG2レベルが減少したとき、グリコシル化の不完全性に起因して、PD-L1の機能低下を示すものではないことが確認できた。
【0094】
図5bは、PD-L1の細胞内位置を確認した結果である。
図5bに示されたように、DRG2のレベルが減少したがん細胞におけるPD-L1は、細胞内に存在する割合が高いことを確認した。前記結果を通じて、PD-L1が細胞内エンドサイトーシス(endocytosis)によって細胞の外部に移動せず、細胞の内部に存在することを意味し、これによって、PD-1との相互作用効率が減少して、T細胞を活性化させないことが確認できた。
【0095】
図5cは、ヒト卵巣がん細胞株であるSKOV3を用いた実験結果である。
図5cに示されたように、siDRG2を用いてDRG2のレベルを減少させたヒトがん細胞においても、IFN-gammaによってPD-L1の発現が増加するが(図の左下)、PD-L1が細胞表面に正常に位置しないことを確認した。
【0096】
前記結果を通じて、DRG2遺伝子および/またはDRG2タンパク質のレベルが減少したがんでは、PD-L1の発現が増加するが、PD-L1が正常に細胞表面に位置しないので、PD-L1とT細胞表面のPD-1との結合率が減少し、これを通じて、PD-L1が正常に作動しないことが確認できた。これを通じて、一般的に使用されている免疫抗がん剤、すなわち、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体などが正常に作動せず、これによって、PD-L1陽性がん患者のうちで20~30%程度だけが免疫抗がん剤に対する治療効果を示すことが確認できた。
【0097】
したがって、生物学的試料からDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定することによって、免疫抗がん剤の治療に効果を示すことができる患者を選別することができ、特に、PD-L1陽性がん患者の場合には、一般的に免疫抗がん剤を投与するが、PD-L1陽性がん患者においてDRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定することによって、より効果的に免疫抗がん剤の投与のための患者を選別できることが確認できた。本発明の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物、またはこれを用いた情報提供方法を利用することによって、免疫抗がん剤に対する治療効率を顕著に高めて、がん患者の苦痛および治療費用を効果的に減少させることができることが期待される。
【0098】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更しなくても他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物、またはこれを用いた情報提供方法は、従来のPD-L1を用いて免疫抗がん剤の投与の有無を決定することと比較して、高い正確性をもって免疫抗がん剤に対する治療反応性を確認できるので、多様ながん患者に免疫抗がん剤の投与の有無をさらに正確に決定することができ、これを通じて、治療効果を高めることができるので、がん患者の苦痛および治療費用を効果的に減少させることができることが期待される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-09-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項2】
前記DRG2遺伝子のレベルを測定する製剤は、DRG2遺伝子に特異的に結合するプライマーまたはプローブであることを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項3】
前記DRG2タンパク質のレベルを測定する製剤は、DRG2タンパク質に特異的に結合する抗体またはアプタマーであることを特徴とする請求項1に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項4】
前記免疫抗がん剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)またはPD-L1(Programmed death-ligand 1)に特異的に結合する薬物であることを特徴とする請求項1
~3のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項5】
前記PD-1に特異的に結合する薬物は、抗PD-1抗体であることを特徴とする請求項4に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項6】
前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)またはセミプリマブ(Cemiplimab)であることを特徴とする請求項5に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項7】
前記PD-L1に特異的に結合する薬物は、抗PD-L1抗体であることを特徴とする請求項4に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項8】
前記抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)またはデュルバルマブ(Durvalumab)であることを特徴とする請求項7に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項9】
前記組成物は、PD-L1陽性がんの免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用であることを特徴とする請求項1
~8のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項10】
前記組成物は、対照群と比較して、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少したがんを免疫抗がん剤に対する治療反応性の低いがんまたは予後の悪いがんと予測することを特徴とする請求項1
~9のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項11】
前記組成物は、対照群と比較して、DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現レベルが減少したPD-L1陽性がんを免疫抗がん剤に対する治療反応性の低いがんまたは予後の悪いがんと予測することを特徴とする請求項1
~10のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項12】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現減少は、がん細胞の表面で発現したPD-L1レベルの減少を示すことを特徴とする請求項1
~11のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項13】
前記がん細胞表面におけるPD-L1発現レベルの減少は、がん細胞PD-L1とT細胞PD-1との結合減少を示すことを特徴とする請求項12に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項14】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質の発現減少は、がん細胞におけるPD-L1のレベル増加、およびCD8 T細胞の数またはその活性増加を示すことを特徴とする請求項1
~13のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項15】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルは、がん患者から分離した生物学的試料から測定することを特徴とする請求項1
~14のいずれか1項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項16】
前記生物学的試料は、がん細胞、がん組織、血液、血漿、血清、骨髄、唾液、尿、および便からなる群から選択されたいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項15に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用組成物を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測用キット。
【請求項18】
DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のためのコンパニオン診断(companion diagnosis)用組成物。
【請求項19】
請求項18に記載のPD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対するコンパニオン診断用組成物を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対するコンパニオン診断(companion diagnosis)用キット。
【請求項20】
がん患者から分離した生物学的試料からDRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階を含む、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項21】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルが、対照群と比較して減少した場合、免疫抗がん剤に対する治療反応性が低いかまたは予後が悪いものと予測することを特徴とする請求項20に記載の免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項22】
PD-L1陽性がん患者から分離した生物学的試料からDRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する段階を含む、PD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項23】
前記DRG2遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルが、対照群と比較して減少した場合、免疫抗がん剤に対する治療反応性が低いかまたは予後が悪いものと予測することを特徴とする請求項22に記載のPD-L1陽性がんにおける免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための情報提供方法。
【請求項24】
DRG2(Developmentally-regulated GTP-binding protein 2)遺伝子またはDRG2タンパク質のレベルを測定する製剤を含む
、免疫抗がん剤に対する治療反応性または予後予測のための
薬剤を製造するための組成物の使用。
【国際調査報告】