(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】細胞カプセル化層,カプセル化された細胞,細胞カプセル化組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/10 20060101AFI20230510BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230510BHJP
C12N 11/04 20060101ALI20230510BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20230510BHJP
【FI】
C12N11/10
C12N5/0783
C12N11/04
A61K35/17
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560150
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2021004203
(87)【国際公開番号】W WO2021201660
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0040814
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0042722
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521189156
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ アール アンド ディービー ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ナダニエル・ソ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ビョン‐ギ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミンジ
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B033NA01
4B033NA15
4B033NB03
4B033NB44
4B033NB49
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4B065AA94X
4B065BB25
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4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087NA03
(57)【要約】
本発明は、多種細胞共同培養方法に関するものであって、本発明によれば、細胞毒性を誘発しないながら、多種細胞間の相互作用を円滑にし、細胞に損傷がなしに単一細胞を分離させることができる。したがって、多種の組織細胞に対する再生研究に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン及びヒアルロン酸を含み前記キトサン及びヒアルロン酸が、架橋結合を形成する、細胞カプセル化層。
【請求項2】
前記キトサン及び前記ヒアルロン酸が酵素反応によって架橋結合を形成する、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項3】
前記キトサン及び前記ヒアルロン酸がアリールオキシ結合によって架橋結合を形成する、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項4】
前記キトサン及び前記ヒアルロン酸がそれぞれ独立してフェノール、カテコールまたはキノンで官能化される、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項5】
前記キトサン及び前記ヒアルロン酸がフェノールで官能化される、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項6】
前記細胞カプセル化層の厚さが50~500nmである、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項7】
前記細胞カプセル化層の厚さが100~200nmである、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項8】
前記キトサンの分子量が15~310kDaである、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸の分子量が1.2~8,000kDaである、請求項1に記載の細胞カプセル化層。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の細胞のカプセル化層及び細胞を含む、細胞カプセル化組成物。
【請求項11】
前記キトサンが細胞と直接接触する、請求項10に記載の細胞カプセル化組成物。
【請求項12】
前記組成物が少なくとも2つの細胞カプセル化層を含む、請求項10に記載の細胞カプセル化組成物。
【請求項13】
前記細胞カプセル化層が1~5個のキトサン層及び1~5個のヒアルロン酸層を含む、請求項10に記載の細胞カプセル化組成物。
【請求項14】
請求項10~13の何れか一項に記載の細胞カプセル化組成物を製造する方法として、
(i)第1残基グループで官能化されたキトサン及び(ii)第2残基グループで官能化されたヒアルロン酸を含む溶液を製造する段階と、
前記溶液に酵素を添加して、前記(i)及び(ii)を架橋結合する段階と、前記酵素の添加前、途中、または後に、前記溶液に細胞を添加する段階と、を含む、細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項15】
前記第1残基グループ及び前記第2残基グループがそれぞれ独立してフェノール、カテコールまたはキノンを含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項16】
前記第1残基グループ及び前記第2残基グループがフェノールを含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項17】
前記架橋結合がアリールオキシ結合を含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項18】
前記酵素がチロシナーゼを含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項19】
前記酵素がストレプトマイセスエバーミチリスに由来するチロシナーゼを含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項20】
前記溶液のうち前記(i)が、少なくとも1つのアリールグループに変形されたキトサンを0.01~5%含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項21】
前記溶液のうち前記(ii)が、少なくとも1つのアリールグループに変形されたヒアルロン酸を0.01~5%含む、請求項14に記載の細胞カプセル化組成物の製造方法。
【請求項22】
請求項1~9の何れか一項に記載の細胞カプセル化層でカプセル化された、細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の表面にハイドロゲルフィルムを形成する細胞カプセル化層,細胞カプセル化組成物及び細胞カプセル化組成物を製造する方法に関する。
【0002】
本願は、2020年4月3日付の大韓民国特許出願第10-2020-0040814号及び2021年4月1日付の大韓民国特許出願第10-2021-0042722号に基づいた優先権の利益を主張し、当該大韓民国特許出願の文献に開示されたあらゆる内容は、本明細書の一部として含まれる。
【背景技術】
【0003】
細胞治療剤は、幹細胞,免疫細胞,β細胞など、細胞自体を体内に移植または注入する医薬品であって、重症疾患の治療法として注目を浴びている。現代の医薬分野では、治療が難しい肝硬変,関節炎,癌などに適用するために、代表的な血液癌細胞治療剤であるCAR-T細胞、第1型糖尿病細胞治療剤であるβ細胞移植、幹細胞治療剤のように細胞を医薬品として使用する細胞治療剤に対する商業的関心が高まっている。
【0004】
治療剤として使われる細胞は、体内移植時に、物理的ストレス、免疫反応などによって、生存率が大きく低下するという問題点があるので、組織工学及び再生医療分野で細胞をカプセル化する技術が研究されている。従来の細胞伝達プラットフォームとしては、アルギン酸を利用したマイクロビーズ技術、積層式細胞コーティング技術などがある。
【0005】
しかし、マイクロビーズ技術は、細胞のサイズに比べて過度に厚いハイドロゲルの厚さによって、栄養分、酸素のようなカプセル外部物質の供給及び交換に制限があるので、細胞が壊死するか、その機能が低下するという問題点がある。また、積層式細胞コーティング技術は、負電荷と正電荷とを帯びる高分子間の引力を利用するので、結合強度が比較的弱い静電気力に依存するために、コーティング層の厚さが相対的に薄く、注入過程で圧力、血液の流れなど外部の物理的なストレスによって容易に除去されるので、安定性、持続性、保持力に限界点がある。
【0006】
したがって、外部環境のストレスから細胞を保護して生存率を高めながら、同時に物質交換が容易であって、細胞カプセル化以後、細胞の生存率と増殖とに影響を及ぼさない細胞カプセル化と関連した研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、細胞カプセル化層を提供することである。
本発明の他の目的は、細胞カプセル化組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、カプセル化された細胞を提供することである。
また、本発明のさらに他の目的は、前記細胞カプセル化組成物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、キトサン及びヒアルロン酸を含み、前記キトサン及びヒアルロン酸が、架橋結合を形成する細胞カプセル化層を提供する。
【0009】
一具現例によれば、前記キトサン及び前記ヒアルロン酸は、酵素反応によって架橋結合を形成しうる。
【0010】
一具現例によれば、前記キトサンと前記ヒアルロン酸は、アリールオキシ結合によって架橋結合を形成しうる。
【0011】
一具現例によれば、前記キトサンと前記ヒアルロン酸は、それぞれ独立してフェノール、カテコールまたはキノンで官能化され、具体例を挙げれば、フェノールで官能化される。
【0012】
一具現例によれば、前記細胞カプセル化層の厚さは、50~500nm、具体例を挙げれば、100~200nmである。
【0013】
一具現例によれば、前記キトサンの分子量は、15~310kDaである。
【0014】
また、前記ヒアルロン酸の分子量は、1.2~8,000kDaである。
【0015】
本発明の他の具現例によれば、前記のような細胞カプセル化層及び細胞を含む細胞カプセル化組成物を提供する。
【0016】
一具現例によれば、前記キトサンは、細胞と直接接触することができる。
【0017】
一具現例によれば、前記組成物は、少なくとも2つの細胞カプセル化層を含みうる。
【0018】
一具現例によれば、前記細胞カプセル化層は、1~5個のキトサン層及び1~5個のヒアルロン酸層を含みうる。
【0019】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記のような細胞カプセル化組成物を製造する方法として、(i)第1残基グループで官能化されたキトサン及び(ii)第2残基グループで官能化されたヒアルロン酸を含む溶液を製造する段階;前記溶液に酵素を添加して、前記(i)及び(ii)を架橋結合する段階;及び前記酵素の添加前、途中、または後に、前記溶液に細胞を添加する段階;を含むものである細胞カプセル化組成物の製造方法を提供する。
【0020】
一具現例によれば、前記第1残基グループ及び前記第2残基グループは、それぞれ独立してフェノール、カテコールまたはキノンを含み、具体例を挙げれば、フェノールを含みうる。
【0021】
一具現例によれば、前記架橋結合は、アリールオキシ結合を含みうる。
【0022】
一具現例によれば、前記酵素は、チロシナーゼを含み、具体例を挙げれば、ストレプトマイセスエバーミチリスに由来するチロシナーゼ(Streptomyces avermitilis-derived tyrosinase)を含みうる。
【0023】
一具現例によれば、前記溶液のうち、前記(i)は、少なくとも1つのアリールグループに変形されたキトサンを0.01~5%含みうる。
【0024】
また、前記溶液のうち、前記(ii)は、少なくとも1つのアリールグループに変形されたヒアルロン酸を0.01~5%含みうる。
【0025】
本発明の他の具現例によれば、前記のような細胞カプセル化層でカプセル化された細胞を提供する。
【0026】
その他の本発明の具現例の具体的な事項は、以下の詳細な説明に含まれている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、細胞に毒性を最小化しながらカプセルコーティング層外部物質と細胞との間の物質交換が容易であり、安定した細胞カプセル化組成物を提供することができる。また、単一または多種細胞をそれぞれの細胞(single cell)またはクラスター(cell cluster)単位でカプセル化することができ、臓器をコーティングしてカプセル化することができるので、組織工学、再生医療分野などの分野で安定した細胞移植、注入のような細胞運搬体としてのプラットフォームとして容易に適用することができ、細胞イメージング、局所部位伝達のような技術を果たしうる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】高分子にフェノール残基を導入する過程を示す化学式である。
【
図2】従来のキノコ由来のチロシナーゼと放線菌由来のチロシナーゼとの構造的な比較図である。
【
図3】フェノール基が導入された高分子が架橋結合する過程を示す模式図である。
【
図4】グリコールキトサン及びヒアルロン酸高分子にモノフェノール残基が導入されたことを確認した結果を示した図である。
【
図5】高分子とチロシナーゼとの反応率を示すグラフである。
【
図8】本発明によるカプセル化細胞を示す模式図及び写真図である。
【
図9】GC-T濃度による細胞間の凝集現像を観察した写真図である。
【
図10】放線菌由来のチロシナーゼの細胞毒性を確認したグラフである。
【
図11】酵素濃度、反応時間及び高分子濃度による細胞カプセル化程度を示すグラフである。
【
図12】チロシナーゼ及び静電気力による細胞カプセル化の形成の有無を示すグラフである。
【
図13】水晶振動子微細スケール法でハイドロゲルナノフィルムの形成の有無を確認したグラフである。
【
図14】カプセル化された細胞のゼータ電位を示すグラフである。
【
図15】カプセル化された細胞のFACS結果を示すグラフである。
【
図16】カプセル化された単一細胞のCLSM結果を示す写真図である。
【
図17】カプセル化されたβ細胞スフェロイドのCLSM結果を示す写真図である。
【
図18】カプセル化された細胞のSEM結果を示す写真図である。
【
図19】カプセル化された細胞のTEM結果を示す写真図である。
【
図20】カプセル化層の積層回数による細胞のカプセル化程度を確認した結果を示す写真図である。
【
図21】カプセル化された細胞の生存率を確認した結果を示した図である。
【
図22】酵素の架橋有無による細胞カプセル化層の持続力を確認した結果を示した図である。
【
図23】ブドウ糖に対するカプセル化細胞の反応を確認した結果を示したグラフである。
【
図24】カプセル化細胞のタンパク質分解酵素及び物理的ストレス抵抗性を確認した結果を示した図である。
【
図25】カプセル化細胞のサイトカイン抵抗性を確認した結果を示したグラフである。
【
図26】カプセル化細胞及びナチュラルキラー細胞(NK cell)の共培養の模式図及び結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、多様な変換を加え、さまざまな実施例を有することができるので、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明で詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる、あらゆる変換、均等物または代替物を含むものと理解しなければならない。本発明を説明するに当って、関連した公知技術についての具体的な説明が、本発明の要旨を不明にする恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0030】
以下、本発明の具現例による細胞カプセル化層,細胞カプセル化組成物及び細胞カプセル化組成物の製造方法についてより詳細に説明する。
【0031】
本発明は、マイクロビーズの外部物質交換の制限問題、細胞積層コーティング法の安定性の低下問題を解決するために、カプセル内外部の物質交換が容易になるように適切な厚さとコーティング層の強い結合とを有する細胞カプセル化組成物を提供する。
【0032】
具体的に、本発明による細胞カプセル化組成物は、キトサン(chitosan)及びヒアルロン酸(hyaluronic acid)を含み、前記キトサン及びヒアルロン酸が、互いに架橋結合を形成する細胞カプセル化層でカプセル化された細胞を含む。前記カプセル化された細胞は、1つの細胞がカプセル化されたものであり、2つ以上の細胞がカプセル化されたものである。
【0033】
一具現例によれば、前記キトサンは、キトサンまたはその誘導体を含みうる。具体例を挙げれば、グリコールキトサン(glycol chitosan)を含み、キトサンの分子量は、例えば、15~310kDa、例えば、75~310kDaである。
【0034】
また、例えばヒアルロン酸の分子量は、1.2~8,000kDa、例えば40~64kDaである。
【0035】
前記「架橋結合(cross-linked bond)」は、「橋かけ結合」または「交差結合」のような意味として使われる。また、分子と分子間の共有結合またはイオン結合のように完全な化学的結合が形成されたものを意味する。例えば、本発明において、キトサンとヒアルロン酸は、互いに共有結合を形成することができ、アリールオキシ結合(aryloxyl coupling)によって架橋される。
【0036】
一具現例によれば、キトサン及びヒアルロン酸は、それぞれ独立してフェノール、カテコールまたはキノンで官能化され、具体例を挙げれば、キトサン及びヒアルロン酸は、それぞれフェノール(phenol)、例えば、モノフェノール(mono-phenol)で官能化される。
【0037】
前記のように、本発明は、細胞カプセル化層及び細胞を含む細胞カプセル化組成物を提供する。
【0038】
本発明の他の具現例によれば、前記のような細胞カプセル化層でカプセル化された細胞を提供する。
【0039】
一具現例によれば、カプセル化対象となる細胞は、特に制限されず、単一種類の細胞または1種以上の多種細胞をカプセル化することができる。また、それぞれの細胞をカプセル化するか、細胞クラスター(cell cluster)を一回にカプセル化することができ、臓器をコーティングしてカプセル化するものも可能である。
【0040】
一具現例によれば、細胞カプセル化層が含むキトサンは、細胞と直接接触することができる。
【0041】
一具現例によれば、本発明による細胞カプセル化組成物は、細胞の外郭に1~10層、例えば2~8層、例えば3~7層でフィルムが積層された形態を形成しうる。具体例を挙げれば、前記組成物は、少なくとも2つの細胞カプセル化層を含み、例えば、キトサン層及びヒアルロン酸層をそれぞれ独立して1~5個、例えばそれぞれ独立して1~3個含みうる。
【0042】
従来のアルギン酸塩ビーズを使用する細胞球面カプセル化の場合に比べて、前記のような本発明の多層薄膜(Layer-by-layer、LBL)形態のカプセル化層は、非常に薄い高分子層で形成されるので、細胞のブドウ糖感知及びインスリン分泌などの速い反応を許容する。具体的に、従来、500ミクロンサイズのアルギン酸塩ビーズを使用し、これは、グルコースがアルギン酸塩ビーズ内に数百ミクロンを移動しなければならないために、細胞がブドウ糖を感知し、インスリンを分泌するのに速い反応を制限する。
【0043】
多層薄膜形態のコーティングを形成するために、従来、高分子間の静電気相互作用を適用したが、このような方法は、最適の細胞カプセル化条件を果たすために、過度に長い準備時間を必要とするという短所がある。
【0044】
本発明では、酵素を活用した速い交差結合を誘導して、このような短所を解決することができる。
【0045】
本発明のさらに他の具現例によれば、前記組成物を製造する方法として、(i)第1残基グループで官能化されたキトサン及び(ii)第2残基グループで官能化されたヒアルロン酸を含む溶液を製造する段階;前記溶液に酵素を添加して、前記(i)及び(ii)を架橋結合する段階;及び前記酵素を添加する前、または前記酵素を添加する間に、または前記酵素を添加した後に、前記溶液に細胞を添加する段階;を含む細胞カプセル化組成物の製造方法を提供する。
【0046】
一具現例によれば、前記第1残基グループ及び前記第2残基グループは、それぞれ独立してフェノール、カテコールまたはキノンを含み、例えば、フェノールを含みうる。キトサン及びヒアルロン酸高分子にそれぞれ第1残基グループ及び第2残基グループを導入することにより、高分子間の架橋を誘導することができる。例えば、グリコールキトサンに4-ヒドロキシフェニル酢酸(4-hydroxyphenylacetic acid)、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸[3-(4-hydroxyphenyl)propionic acid]を処理してグリコールキトサンにモノフェノール残基を導入することができる。また、カテキン(catechin)、エピガロカテキンガレート(EGCG)、その他のポリフェノール類化合物を導入することができる。
【0047】
また、ヒアルロン酸にチラミン(tyramine)、チロシン(tyrosine)からなる群から選択される1つ以上を処理して、ヒアルロン酸にモノフェノール残基を導入することができる。また、例えば、前記チラミンは、塩酸塩の形態であるものを使用することができる。一具現例によるフェノール残基の導入過程を
図1に示した。
【0048】
一具現例によれば、前記第1残基グループ及び第2残基グループでフェノールを導入する段階以後に、キトサン及びヒアルロン酸にモノフェノール酸化酵素、ジフェノール酸化酵素及びラッカーゼ(laccase)からなる群から選択される1つ以上の酵素を添加して、酵素反応によって架橋結合を形成しうる。また、例えば、前記架橋結合は、アリールオキシ結合(aryloxyl coupling)を含みうる。
【0049】
一具現例によれば、前記溶液のうち、前記「(i)第1残基グループで官能化されたキトサン」が、少なくとも1つのアリールグループに変形されたキトサンを0.01~5%、例えば、0.1~1%含みうる。
【0050】
また、前記溶液のうち、前記「(ii)第2残基グループで官能化されたヒアルロン酸」が、少なくとも1つのアリールグループに変形されたヒアルロン酸を0.01~5%、例えば、0.1~1%含みうる。
【0051】
一具現例によれば、モノフェノール酸化酵素としてチロシナーゼ(tyrosinase)、ジフェノール酸化酵素としてカテコール酸化酵素(catechol oxidase)を含みうる。
【0052】
チロシナーゼは、銅を含んでいる金属酵素であって、キノコ、ジャガイモ、リンゴなど、多様な植物と動物とに存在する。モノフェノールを酸化してo-ジフェノール(diphenol)を生成するクレゾラーゼ(cresolase)作用、生成されたo-ジフェノールを再び酸化してo-キノン(o-quinone)で生成するカテコラーゼ(catecholase)作用を行う。
【0053】
カテコール酸化酵素(Catechol oxidase)は、チロシナーゼほぼ類似した機能を有する。しかし、カテコール酸化酵素は、o-キノンを生成するカテコラーゼの作用はできるが、チロシナーゼの作用のうち、他の1つであるモノフェノールを酸化させるクレゾラーゼの作用はできない。
【0054】
本発明の酵素は、チロシナーゼ(tyrosinase)を含み、例えば、ストレプトマイセス属(Streptomes sp.)に由来するチロシナーゼを使用することができる。具体例を挙げれば、本発明の酵素は、ストレプトマイセスエバーミチリスに由来するチロシナーゼ(Streptomyces avermitilis-derived tyrosinase)を含みうる。ストレブトミセス属放線菌由来のチロシナーゼは、キノコ由来のチロシナーゼよりも高分子に結合されているチロシン残基に対する触媒化効率が高いので、ドーパまたはキノン残基への変換効率が高い。変換された残基は、共有結合あるいは配位結合によって架橋が行われ、稠密な架橋反応によって、非特異的な交差結合を除去して、交差リンク時間を短縮し、高い熱的安定性及び機械的安定性を有する。架橋を成すタンパク質と架橋を進行するチロシンのみが使われるので、単位体化学物質の毒性及び酵素の限界的接近性に対する従来の技術限界を克服することができる。
【0055】
放線菌由来のチロシナーゼは、触媒化反応周辺が開放された構造であって、立体障害的な要因が非常に小さくて、構造的に他種由来のチロシナーゼと差異点がある。キノコ由来のチロシナーゼと放線菌由来のチロシナーゼとの構造的な比較図を
図2に示した。
図2のaは、放線菌由来のチロシナーゼであって、チロシナーゼが基質を受け入れる入口周辺の立体的障害が少ない。
【0056】
一方、
図2のbは、キノコ由来のチロシナーゼであって、入口周辺の不要なペプチドによる立体障害的な要因によって、ゼラチンのように体積が大きいタンパク質にあるチロシンとの接近性が低下する。すなわち、放線菌由来のチロシナーゼは、従来のキノコ由来のチロシナーゼに比べて、高分子物質のチロシン水酸化反応及び酸化反応に有利である。
【0057】
その結果、従来のチロシナーゼの反応時間が数時間であれば、ストレプトマイセスエバーミチリスに由来するチロシナーゼは、反応時間が数秒に急激かつ迅速な反応を誘導することができる。したがって、前記酵素を添加して架橋結合する段階で反応時間は、1分~1時間、例えば、1~30分、例えば、3~20分、例えば、5~15分である。
【0058】
前記のような酵素によってキトサン及びヒアルロン酸高分子に導入されたフェノールが酸化されて、ドーパ(dopa)またはキノン(quinone)、例えば、o-キノン(o-quinone)を形成することができ、ドーパまたはキノン残基は、配位結合、すなわち、共有結合による架橋を形成しうるので、稠密な架橋構造によって高い安定性を有しうる。
【0059】
本発明の一具現例によって、高分子にフェノール基を導入し、それを酸化して架橋する過程を
図3に示した。従来のDOPA変形された巨大分子と比較して、本発明による酵素を利用した分子は、特に、フェノール部分の酸化に効率的であり、カテコールキノンとアミン、チオール及びその他のフェノールグループの間の永久共有結合を通じて架橋結合を加速化することができる。また、このような酵素自体、カテコール、カテコールキノンに基づいた物質は、細胞毒性または炎症性がないので、チラミン結合されたキトサン及びヒアルロン酸を用いて細胞に薄いハイドロゲルを形成しうる。
【0060】
一具現例によれば、前記酵素を添加する段階は、キトサン0.01~1%、例えば0.05~0.5、例えば0.05~0.3及びヒアルロン酸0.01~1%、例えば0.05~0.5、例えば0.05~0.3の濃度にチロシナーゼを0.01~0.5u/ml、例えば0.01~0.3u/ml、例えば0.01~0.1u/ml添加する段階を含みうる。
【0061】
一具現例によれば、前記細胞を添加する段階は、メンブレン上に細胞を処理して浸漬する段階を含み、例えば、細胞を1×104~1×1010cell/mlでメンブレン上にシーディング(seeding)することができる。また、前記メンブレンは、気孔が0.5~10um、例えば、1~8um、例えば、2~5umである。メンブレンの種類は、例えば、ポリカーボネート(PC)、セルロース、フッ化ポリビニリデン(PVDF)からなる群から選択される1つ以上を使用することができるが、特に制限されるものではない。
【0062】
一具現例によれば、本発明による細胞カプセル化層は、積層式ハイドロゲルナノフィルムの形態に形成され、その厚さは、50~500nm、例えば、100~300nm、例えば、100~200nmに形成され、用途、適用環境などによって適切にその厚さを調節することができる。
【0063】
一具現例によれば、前記細胞カプセル化層組成物に蛍光分子、発光分子などの標識物質を導入してイメージング化することができる。また、薬物、成長因子などを導入して適用対象に局所的に伝達することができる。例えば、ペルオキシダーゼ(peroxidase)のような発色酵素、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)、放射性同位元素、コロイド、PE(phycoerythrin)、FCA(フルオレセインカルボン酸)、HRP、TAMRA、FITC(ポリL-リジン-フルオレセインイソチオシアネート)、RITC(ローダミン-Bイソシアネート)、ローダミン(rhodamine)、シアニン(cyanine)、テキサスレッド(texas Red)、フルオレセイン(fluorescein)、フィコエリスリン(phycoerythrin)、クアンタムドット(quantum dots)などの標識物質を導入してイメージング化することができる。また、例えば、抗体エピトープ(epitope)、基質(substrate)、補助因子(cofactor)、阻害剤または親和リガンドなどを導入することができる。
【0064】
前記のように、本発明の細胞カプセル化組成物は、静電気的引力と酵素媒介化学反応とを同時に適用してカプセルを構成する高分子間に共有結合を形成するので、カプセル化された細胞の注入時に、圧力、体内血流のような物理的刺激によって容易に損傷されないので、安定性及び持続性を向上させうる。また、細胞の種類に関係なく生細胞を単一細胞単位または2種以上の多種細胞単位でカプセル化することができる。
【0065】
また、本発明によれば、細胞の種類に関係なく細胞カプセル化を適用することができ、それを用いて細胞クラスターだけではなく、抗体タンパク質のようなバイオ医薬品の体内生存率を向上させうる。本発明のカプセル化層は、細胞をサイトカイン攻撃から保護することができるので、臓器をコーティングしてカプセル化し、臓器移植または細胞治療剤としてのプラットフォームとして適用して、体内で免疫細胞との物理的な接触を防止し、免疫拒絶反応を緩和させることができる。
【0066】
以下、当業者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳しく説明する。しかし、本発明は、さまざまな異なる形態として具現可能であり、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
〔実施例1〕
グリコールキトサン及びヒアルロン酸のフェノール残基の導入
グリコールキトサン(GC)及びヒアルロン酸(HA)高分子のそれぞれにモノフェノール残基を導入してキトサン-モノフェノール(GC-T)及びヒアルロン酸-モノフェノール(HA-T)を合成した。200mgのグリコールキトサンを0.1M pH4.7 MESバッファ10mlに溶解させた後、160.82mgの4-ヒドロキシフェニル酢酸(HPA)を10ml MESバッファに溶解させ、202.64mgのEDC及び114.76mgのNHSを溶液に添加し、5分間撹拌した。引き続き、2つの溶液を混合し、室温で一晩中反応させた。引き続き、溶液を蒸留水に対して72時間透析し、72時間以上の間に凍結乾燥させた。200mgのヒアルロン酸を0.1M pH4.7 MESバッファ20mlに溶解させた後、197.452mgのEDC及び111.822mgのNHSを添加し、5分間撹拌した。引き続き、178.85mgのチラミン塩酸塩(tyramine hydrochloride)を添加し、室温で一晩中反応させた。引き続き、溶液を蒸留水に対して72時間透析し、72時間以上の間に凍結乾燥させた。
【0068】
核磁気共鳴分光法(NMR Spectroscopy)でグリコールキトサン及びヒアルロン酸高分子にモノフェノール残基が導入されたことを確認し、
図4に、その結果を示した。
【0069】
また、蛍光を帯びる高分子を合成するために、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解された1mlの10mg/ml RITC(Rhodamine B isothiocyanate/Sigma-Aldrich)及びFA(Fluoresceinamine isomer I/Sigma-Aldrich)溶液をそれぞれGC-T及びHA-Tの反応溶液に添加して、GC-T-RITC及びHA-T-FAを合成した。
【0070】
GC-T及びHA-Tとチロシナーゼの反応
チロシナーゼは、放線菌であるStreptomyces avermitilis(SA)由来のものを使用した。SA由来のチロシナーゼ(SA-Ty)2.5uM、CuSO
45uM及び基質を総体積200ulの50mM Tris-HClバッファ、pH8.0で製造した。前記基質は、GC-T 1%(w/v)、HA-T 1%(w/v)またはL-チロシン(L-turosine)200uMである。マイクロプレートリーダー(Infinite M200 PRO、TECAN、Switzerland)を使用して37℃で吸光度475nm(εdopachrome=3600M
-1cm
-1)で30分間1分ごとに測定した。その結果は、
図5に示し、SA-Tyの初期反応率は、生成物の濃度と反応時間との勾配と定義される。また、酵素活性は、ml当たり単位(unit)(U/ml)で表示され、ここで、1単位(U)は、分当たり1umolのL-チロシン反応を触媒するSA-Ty量である。
【0071】
細胞カプセル化
凍結乾燥されたGC-T及びHA-Tをそれぞれ10mg/mlずつPBS及び0.1%酢酸に溶解させた。完全に溶解した後、それぞれの溶液をPBSで10倍希釈して最終濃度1mg/mlで製造し、滅菌された0.2umのメンブレン(membrane)を通じて濾過した。収集されたJurkat細胞をPBSで2回洗浄し、PBS 1ml当たり1×107の密度で準備した。細胞懸濁液100ulを3.0umのポリカーボネートメンブレン(Transwell(登録商標) 6.5mm insert、24-well plate、Corning(登録商標))にシーディングした。1,3,5層の奇数番目の層は、GC-T溶液、2,4,6層の偶数番目の層は、HA-T溶液を使用して、次のような方法を繰り返して細胞カプセル化を進行した。1mg/ml GC-TまたはHA-T溶液600ul及び0.05U/ml SA-Tyを24ウェルプレート(24-well plate)に添加した後、細胞がシーディングされた挿入物を室温(RT)で10分間浸漬した。
【0072】
培養する間に、プレートを2分ごとにタップした。10分後、振盪培養器(shaking incubator)で前記挿入物を30秒間培地(10% FBS(Corning)が含まれたRoswell Park Memorial Institure 1640(Gibco))500ulが添加されたウェルに移し、1分間PBS 500ulが添加されたウェルに移した。その後、HA-T及びGC-Tに対して、前記のような方法を適用して、最後の層を生成し、細胞を細胞培養培地(10% FBS(Corning)が含まれたRoswell Park Memorial Institure 1640(Gibco))に分散させた。前記のような過程を模式化した図面を
図6に示した。また、具体的なカプセル化原理を
図7に模式化した。
【0073】
前記のような方法で製造したカプセル化された細胞の形状を
図8に示した。
図8は、ハイドロゲルナノフィルムが6層で積層されたカプセル化細胞の形状であり、赤色蛍光(RITC)標識されたグリコールキトサン層及び緑色蛍光(FA)標識されたヒアルロン酸層の視覚化写真を確認することができる。また、細胞の外郭に積層されたハイドロゲルナノフィルムの厚さが、139.4nmであることを確認した。
【0074】
GC-T濃度による細胞間の凝集現像の確認
グリコールキトサン-モノフェノール(GC-T)の濃度を異ならせて、細胞間の凝集特性(cell clumping)を有するJurkat細胞をカプセル化し、その結果は、
図9に示した。16時間後、細胞を観察した時、0.05%以下の濃度では、細胞凝集現像を示す一方、0.1%以上の濃度では、細胞間の分離(repulsion)現象が起こることを確認した。これは、細胞表面にカプセル化されたグリコールキトサン-モノフェノール(GC-T)の電荷による現象である。
【0075】
〔実験例1〕放線菌由来のチロシナーゼの細胞毒性の確認
Streptomyces avermitilis(SA)由来のチロシナーゼ(SA-Ty)を0~5uMの濃度でそれぞれ10、30、60分間メディアに混ぜて培養した後、細胞生存率をLive/Dead assayを通じて確認した。その結果は、
図10に示し、全体で97%以上の生存率を示した。したがって、最大5uM、60分間細胞に処理した時、毒性がないことを確認した。
【0076】
〔実験例2〕細胞カプセル化条件の最適化
細胞カプセル化ハイドロゲルフィルムコーティングの最適化のために、SA-Ty濃度、反応時間及びポリマー濃度との関係を分析した。コーティング程度は、GC-T-RITC及びHA-T-FAの蛍光強度を測定して確認した。96-well組織培養プレートにシーディングされたMIN6 β細胞を0.1% GC-T-RITC溶液0.1%またはHA-T-FA溶液で0.05U/ml SA-Tyと共に10分間培養した。PBSで洗浄した後、2つの異なる領域で蛍光強度を測定した;測定領域のうち、1つは、λex=543nm/λem=580nm(RITC)であり、他の1つは、λex=495nm/λem=525nm(FA)である。Native(N)としては、コーティング溶液の代わりに、PBSを使用して同じ過程を進行したMIN6 β細胞を使用した。
【0077】
【0078】
SA-Tyの濃度は、0.05U/ml、反応時間は、10分、キトサン高分子の濃度は、0.1%で最も高いRITC強度を示した。SA-Ty濃度が0.05U/mlであり、キトサン高分子濃度が0.1%である時、GC-T-RITCのコーティングレベルは、反応時間が長いほど増加した。
【0079】
また、GC-T-RITC及びHA-T-FA溶液でそれぞれSA-Tyの存在によるコーティング効果を調査した。また、単一HA-TフィルムとGC-Tフィルムとを先にコーティングした細胞上にHA-Tフィルムをコーティングした細胞を比較して、コーティング順序の影響を分析した。その結果は、
図12に示した。SA-Tyの存在によって正電荷を帯びるGC-T-RITCは、2.9倍の差を示した一方、負電荷を帯びるHA-T-FAは、コーティング程度の差が微小であった。また、FA強度は、GC-Tフィルムがコーティングされた細胞上にHA-Tフィルムがコーティングされる場合、2.4倍増加した。
【0080】
〔実験例3〕細胞カプセル化の確認
ハイドロゲルナノフィルムの形成の有無を確認するために、水晶振動子微細スケール法を使用した。Cr/Au(クロム/金)結晶(5MHz、1インチ直径、AT-カット、平面-平面)を使用してGC-T/HA-T層を蒸着させた。蒸着前に、結晶をピラニア溶液(H
2SO
4:H
2O
2=3:1)で5分間処理し、酸素プラズマを5分間処理して表面を洗浄し、負電荷を設定した。次いで、結晶を0.05U/ml SA-Tyで0.1% GC-T溶液に浸した。10分後、電極を1分間PBSで2回洗浄した。残存するPBSを除去するために、結晶を送風機で乾燥した。総5個の二重層が積もるまで0.1% HA-T溶液で多層薄膜(layer-by-layer,LBL)蒸着(deposition)を進行した。ハイドロゲルフィルムが蒸着された結晶は、それぞれの層に対して水晶振動子微細スケール法QCM(Quartz Crystal Microbalance,QCM200,Stanford Research Systems,USA)で分析され、その結果は、
図13に示した。
【0081】
また、細胞のカプセル化を証明した。
【0082】
ゼータ電位
細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA、paraformaldehyde)で10分間固定させ、PBS 1ml当たり1×10
6細胞の密度で製造した。自然細胞(native cell)またはカプセル化された細胞のゼータ電位は、Nano ZS(Malvern Instruments,Germany)で測定して、
図14に示した。
【0083】
FACS(Fluorescence Activated Cell Sorter)
細胞をGC-T及びHA-Tの代わりに、GC-T-RITC及びHA-T-FAでカプセル化した。固定後、PBS 500μL当たり1×10
6個の細胞で製造した。RITC及びFAの蛍光は、488nm及び633nmの波長のレーザを使用して流細胞分析(FACS Aria II,BD Biosciences,USA)で測定した。GC-T-RITC及びHA-T-FAで単一層カプセル化された細胞は、ゲーティング(gating)のための陽性対照群として使用し、その結果は、
図15に示した。
【0084】
CLSM(Confocal Llaser Scanning Microscope)
単一細胞またはβ細胞スフェロイド(β-cell spheroids、膵臓細胞)をそれぞれGC-T-RITC及びHA-T-FAでカプセル化した後、常温(RT)で15分間4% PFAで固定させた。回転楕円体形態のスフェロイドを20mmの共焦点皿に置いた。共焦点顕微鏡(LSM 780,Carl Zeiss,Germany)を通じてイメージングした。単一細胞に対する結果は
図16、β細胞スフェロイドによる結果は
図17に示した。主にカプセル化スフェロイドの外部表面に蛍光が表われるので、ハイドロゲルナノフィルムが巨大分子の表面に均一な蓋で形成されることを確認した。
【0085】
SEM(scanning electron microscope)
カプセル化されたβ細胞スフェロイドの表面を観察するために、SEM(JSM-6701F,JEOL)イメージを分析した。
【0086】
SEM分析サンプルの製造のために、スフェロイドを2.5%グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)溶液で4時間固定し、エタノール(ethanol)で脱水処理した。その後、ヘキサメチルジシラザン(Hexamethyldisilazane)を通じて乾燥し、白金コーティングを120秒間進行して観察した。
【0087】
その結果は、
図18に示した。GC-TをJurkat細胞に均一にコーティングすれば、細胞が互いに押し出して高分子の均質な蓋でコーティングされる。カプセル化されたスフェロイドの表面に交差結合された高分子が均一に積層されたことを確認した。カプセル化層表面の構造は、メッシュ(mesh)構造を形成する。
【0088】
一方、自然スフェロイド(native spheroid)は、高分子がコーティングされていない滑らかな表面を有する。
【0089】
TEM(Transmission Electron Microscope)
細胞表面のナノメートル(nm)厚さのハイドロゲルを確認するために、TEM(Talos L120C,120kV,FEI,Czech)イメージを分析した。TEMサンプルの製造のために、自然細胞(native cell)及びカプセル化された細胞をKarnovskyの固定液で固定した。細胞をカコジル酸緩衝液(cacodylate buffer)中の四酸化オスミウム(osmium tetroxide)1%で1時間処理し、0.5%酢酸ウラニル(uranul acetate)で4℃で一日間処理した。エタノールで脱水した後、サンプルをSpurr樹脂に包埋させた。ウルトラミクロトーム(ultramicrotome,EM UC7,Leica,Germany)を使用して試片を切断し、分析結果は
図19に示した。
【0090】
蛍光顕微鏡
カプセル化されたβ細胞スフェロイドの積層回数別の細胞カプセル化程度を確認するために、蛍光イメージを観察した。
【0091】
β細胞スフェロイドをGC-T-RITC、HA-T-FAでカプセル化した時、積層回数が増加するにつれて蛍光強度が増加することを蛍光顕微鏡(EVOS(登録商標) Cell Imaging Systems、Thermo Fisher Scientific)でイメージングして確認した。
【0092】
【0093】
〔実験例4〕カプセル化された細胞生存率の確認
カプセル化された細胞生存力を確認するために、カルセイン-AM(clacein-AM)及びEthD-1(ethidium homodimer-1)を含有するLive/Dead(登録商標) Viability/Cytotoxicity Kitで細胞を染めて分析した。
【0094】
カルセイン-AMは、細胞間の直接接触で形成される細胞トンネルを通じてのみ隣接細胞に伝達される。細胞膜を通過したカルセイン-AMは、細胞内のエステル加水分解酵素(esterase)によってアセトキシメチルエステル(acetoxymethyl ester)結合が切れてカルセイン(calcein)に分離しながら膜透過性を失って細胞内に留まる。これを顕微鏡、Fluorometer、Flow cytometryなどで測定した緑色蛍光量は、生きている細胞の膜透過性とエステル加水分解酵素の活性の有無によって決定されるので、細胞活性をそのまま反映する。
【0095】
EthD-1は、細胞膜が損傷した死んだ細胞のみに入って核酸と結合しながら赤色蛍光を帯びる。
【0096】
染色された細胞を蛍光顕微鏡(EVOS(登録商標) Cell Imaging Systems、Thermo Fisher Scientific)でイメージングした後、細胞を別途の4個のフィールドで計数して生きている細胞の百分率を計算した。増殖のために、alamarBlue(登録商標)試薬を使用して24時間の間隔で3日または4日間細胞代謝を測定した。測定した試薬の蛍光は、初日の値で標準化した。結果は、
図21に示した。
図21のAは、カプセル化していないJurkat細胞と実施例1によって6層でカプセル化されたJurkat細胞との生存率を視覚化した写真である。
図21のBは、ハイドロゲルナノフィルムカプセル化層数による細胞生存率を示すグラフである。
図21のCは、カプセル化層数及び経時的な細胞増殖率を示すグラフである。
【0097】
〔実験例5〕カプセル化層の持続力の確認
酵素の架橋有無による細胞カプセル化層の持続力を確認するために、経時的なカプセル化層の蛍光強度を確認した。
【0098】
GC-T-RITC及びHA-T-FAを用いてβ細胞スフェロイドをカプセル化し、カプセル化時に、酵素の使用有無(-Tyまたは+Ty)によるカプセル化層の持続力を蛍光顕微鏡(EVOS(登録商標) Cell Imaging Systems、Thermo Fisher Scientific)でイメージングした。その結果は、
図22のAに示し、酵素を使用した場合、(+Ty)細胞の体外培養6日後まで蛍光を保持することを確認した。
【0099】
また、2D状態の細胞層にGC-T-RITCとHA-Tとを用いてカプセル化し、マイクロプレートリーダー(Infinite M200 PRO,TECAN,Switzerland)を使用して、同様に酵素の使用有無によるカプセル化層の持続力を励起(excitation)543nm、放出(emission)580nmで24時間ごとに測定した。その結果は、
図22のBに示し、カプセル化された細胞は、48時間目にも細胞の解離が抑制されることを確認した。
【0100】
〔実験例6〕ブドウ糖に対するカプセル化細胞の反応の確認
カプセル化細胞の積層回数によるインスリン分泌能及び関連遺伝子発現を確認するために、インスリンELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)分析を実施した。本発明のカプセル化層は、ブドウ糖、アミノ酸、インスリンなど低分子の細胞内、外部拡散が自在である。L6カプセル化層は、20kDa及び70kDaのFITC-デキストラン両方で低い拡散率を示すが、5.8kDaのインスリン分泌は妨害しない。
【0101】
GC-T、HA-Tを用いてカプセル化されたβ細胞スフェロイドをそれぞれ1日、7日後にELISA分析してインスリン分泌量を測定した。
【0102】
低血糖及び高血糖の溶液でインスリンレベルを確認した結果を
図23のA及びBに示した。
【0103】
また、インスリン分泌量を分析するために、カプセル化されたβ細胞スフェロイドサンプルを3.3mMの低濃度ブドウ糖(D-Glucose)、20mMの高濃度ブドウ糖の溶液でそれぞれ2時間ずつ培養した後、上澄み液を収得した。以後、マウスインスリン(mouse insulin)ELISA(80INSMS-E01,ALPCO)キットを用いてインスリンの濃度を分析した。
【0104】
高濃度ブドウ糖の溶液でのインスリン分泌量を低濃度ブドウ糖の溶液でのインスリン分泌量で割った値でブドウ糖反応性(glucose sensitivity)を確認して、
図23のCに示した。
【0105】
また、ブドウ糖及びインスリン関連遺伝子であるGLUT-2、INS-1、INS-2の発現程度を比較するために、重合酵素連鎖反応(polymerase chain reaction)を進行した。スフェロイドサンプルをトリゾール(Trizol)溶液500μlが入れられたチューブに移し、クロロホルム(Chloroform)溶液100μlを追加して、21,055xg、20分、4℃の条件で遠心分離した。透明な水溶液層を収得した後、イソプロパノール(Isopropanol)250μlを追加して、21,055xg、20分、4℃の条件で遠心分離した。上澄み液を除去した後、75%エタノール500μlで洗浄し、沈殿されたサンプルを蒸留水に溶解した。60℃で10分間変性(denaturation)させた後、EZ066M(Enzynomics,Korea)キットを用いてcDNAを製作した。
【0106】
GLUT-2、INS-1、INS-2遺伝子の発現程度は、StepOnePlusTM Real-Time PCR system(Applied Biosystems)装備とSYBR Green PCR Mastermixとを用いて分析した。
【0107】
その結果、インスリン合成及び分泌に関連したβ細胞関連遺伝子GLUT-2、INS-1、INS-2の積層回数別の変化を示すグラフを
図23のDに示した。
【0108】
〔実験例7〕カプセル化細胞のタンパク質分解酵素及び物理的ストレス抵抗性の確認
β細胞スフェロイドのカプセル化有無によって、タンパク質分解酵素である0.05%トリプシン(Trypsin)溶液でそれぞれ30分間培養した後、軽くピペッティングして(pipetting)、経時的に分解される程度を観察した。
【0109】
また、β細胞スフェロイドのカプセル化有無によって、タンパク質分解酵素である10mg/mlコラゲナーゼ2(Collagenase Type2)溶液で最大18時間培養後、分解程度を観察した。
【0110】
また、β細胞スフェロイドのカプセル化有無によって、物理的ストレス(遠心分離)に耐える程度を確認するために、自然スフェロイドまたはカプセル化されたβ細胞スフェロイドグループを80xg及び1073xgの条件でそれぞれ5分間遠心分離を進行した後、確認した。
【0111】
【0112】
トリプシンまたはコラゲナーゼ2を処理した自然スフェロイドグループは、崩壊して軽いピペッティングで容易に解離された一方、カプセル化されたスフェロイドグループは、細胞の分離が少なく、その構造を保持した。
【0113】
また、物理的ストレスに対して、低い遠心速度では自然スフェロイド及びカプセル化されたスフェロイドグループいずれも球状を保持したが、高速では自然スフェロイドが崩壊した。一方、L6カプセル化スフェロイドグループは、高圧を耐えることから耐久性があることを確認した。
【0114】
〔実験例8〕カプセル化細胞のサイトカイン抵抗性の確認
カプセル化されたβ細胞スフェロイドのサイトカイン抵抗性を確認した。
【0115】
炎症誘導サイトカイン(cytokine)であるTNF-αは、β細胞の細胞死(apoptosis)を誘導するが、カプセル化層のTNF-α接近の遮断如何をPCRを通じて分析した。培養条件に10nMの濃度のTNF-αを追加して培養し、48時間後、PCRを通じて自然スフェロイド群とカプセル化されたスフェロイド群との細胞死関連遺伝子の発現程度を比較した。PCR方式は、前記に説明したものと同じであり、遺伝子は、p53とCaspase-3とを選定した。
【0116】
その結果は、
図25に示した。カプセル化されたスフェロイド群は、サイトカイン攻撃を防御することによって、TNF-α処理に反応しないことを確認した。このような結果は、20kDaに近い分子量を有したサイトカインが、6層のハイドロゲルナノフィルムを有するL6カプセル化細胞を通じて拡散することができないことを示す。
【0117】
一方、自然スフェロイド群は、細胞周期及び細胞死に関与するp53とCaspase-3のような細胞遺伝子が相当なレベルに増加した。
【0118】
〔実験例9〕カプセル化細胞の免疫細胞の遮断確認
カプセル化細胞の免疫細胞の遮断如何を確認するために、カプセル化されたβ細胞スフェロイドとナチュラルキラー細胞(NK92c cell)とを共培養した。細胞-細胞接触で、β細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞との共培養を通じてカプセル化層の免疫細胞接触の遮断如何を確認した。
【0119】
β細胞スフェロイドサンプルは、CellTrackerTM Green(Invitrogen)、ナチュラルキラー細胞(NK-92 cell)は、cellTrace Far-red(Invitrogen)を用いてそれぞれ蛍光染色し、Chamlide TC incubator system(Live-cell Instrument,Korea)を用いて培養及びイメージングした。
【0120】
その結果は
図26に示し、カプセル化されたβ細胞スフェロイドには、ナチュラルキラー細胞の接触が少なく、スフェロイドのサイズも保持されることを確認した。これに比べて、自然スフェロイドには、ナチュラルキラー細胞の接触が高く、面積が迅速に減少することを確認した。
【0121】
前記の結果から確認できるように、細胞に及ぼす毒性なしにナノメートル厚さのハイドロゲルナノフィルムを細胞の外郭に形成することができ、ナノフィルムを構成する高分子間の共有結合の形成で安定性を向上させうる。また、適切な厚さを容易に形成しうるので、細胞と外部環境との間の物質交換が円滑であって、細胞を保護しながら機能を保持することができる。
【0122】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎないものであって、当業者ならば、本発明の本質的な特性から外れない範囲で多様な修正及び変形が可能である。また、本発明に開示された実施例は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく、説明するためのものであり、このような実施例によって、本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって解釈されねばならず、それと同等な範囲内にあるあらゆる技術思想は、本発明の権利範囲に含まれていると解釈されねばならない。
【国際調査報告】