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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】電極リサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/04 20060101AFI20230510BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20230510BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C22B3/04
H01M10/54
C22B7/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560264
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 FR2021050537
(87)【国際公開番号】W WO2021198600
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】2003254
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(71)【出願人】
【識別番号】319015935
【氏名又は名称】オラノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビリー,エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA27
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA09
4K001DB01
5H031RR02
(57)【要約】
【要約】 以下の連続ステップ、すなわち、
a)集電体と活物質と任意で結合剤とを含む少なくとも一つの電極を用意するステップと、
b)超音波の存在下において、溶媒イオン液体を含むイオン液体溶液に前記少なくとも一つの電極を浸漬することにより、前記活物質と、任意で前記結合剤とが前記集電体から分離されるステップと、
を含む、少なくとも一つの電極をリサイクルするための方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の連続ステップ、すなわち、
a)集電体と活物質と任意で結合剤とを含む少なくとも一つの電極を用意するステップと、
b)超音波の存在下において、溶媒イオン液体を含むイオン液体溶液に前記少なくとも一つの電極を浸漬することにより、前記活物質と任意で前記結合剤とが前記集電体から分離されるステップと、
を含む、少なくとも一つの電極をリサイクルするための方法。
【請求項2】
前記溶媒イオン液体が、イミダゾリウム、ピロリジニウム、アンモニウム、ピペリジニウム、及びホスホニウムのうち一つから選択されるカチオンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒イオン液体がハロゲン化物、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CFSO、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSO、トリフルオロメタンスルホン酸塩、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸塩、及びビス(オキサラート)ホウ酸塩アニオンから選択されるアニオンを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アニオンが、アンモニウム又はホスホニウムカチオンと組み合わされる塩化物であって、前記溶媒イオン液体が好ましくは[P66614][Cl]であることを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記イオン液体溶液が深共晶溶媒を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記深共晶溶媒が塩化コリンとエチレングリコールとの混合物であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)が20℃から150℃、好ましくは30℃から120℃の範囲の温度で行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)が2分から1時間、好ましくは3分から30分の範囲の持続時間にわたって行われることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記超音波の出力が0.5から16kWの範囲であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記超音波の周波数が16KHzと500KHzとの間、好ましくは16KHzと50KHzとの間であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン液体溶液が一以上の追加イオン液体を含有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)で複数の電極が用意され、前記電極が同一又は異なる性質であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウム、蓄電池、又はバッテリをリサイクルする一般分野に、より具体的には、Liイオン型バッテリのリサイクルに関する。
【0002】
本発明は、正電極又は負電極をリサイクルするためのリサイクル方法に関する。
【0003】
本発明は、活物質と集電体とが同時に回収され得るので特に興味深い。
【背景技術】
【0004】
特にLiイオン型のリチウム蓄電池(又はバッテリ)の市場は、とりわけモバイル用途(「スマートフォン」、ポータブル電気ツール等)の開発により、そして電気及びハイブリッド自動車の出現により、急速に成長している。
【0005】
リチウムイオン蓄電池は、アノード、カソード、セパレータ、電解質、そしてポリマーポーチ又は金属パッケージであり得る筐体を含む。負電極は一般的に、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの結合剤と混合されて、集電体として作用する銅箔に蒸着されるグラファイトを含む。正電極は、ポリフッ化ビニリデン型結合剤と混合されて、集電体として作用するアルミニウム箔に蒸着されるリチウムイオン挿入物質(例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiMnCoO,LiFeO)である。電解質は、環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート)、線形又は分岐カーボネート(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン)に基づく二元又は三元溶媒の混合物から成る有機塩基において様々な比率で可溶であるリチウム塩(LiPF,LiBF,LiCFSO,LiClO)から成る。
【0006】
動作は以下の通りである。充電中に、リチウムは正電極の活物質から脱離して負電極の活物質へ挿入される。放電中には、プロセスが逆転される。
【0007】
バッテリに存在する或る種の金属の提供についての環境的、経済的、そして戦略的な課題を考慮すると、Liイオンバッテリ及び蓄電池に含有される物質の少なくとも50%をリサイクルすることが必要である(指令2006/66/EC)。
【0008】
具体的に記すと、集電体(銅、アルミニウム)と活物質(炭素及び金属酸化物)から要素をリサイクル及び回収する必要がある。
【0009】
リサイクル方法において、湿式精錬手段により後で処理され得る「ブラックマス」(正電極の金属を含有する混合物)の量を決定するので、前処理ステップが基本である。その目的は、不純物の量を最少に抑えながら可能な限り最も濃縮された金属画分を得ることである。
【0010】
そのために、金属集電体(一般的にはアルミニウム及び銅)から挿入物質を分離することが不可欠である。これは、金属要素を備える挿入物質(コバルト、リチウム、又はニッケル)を集電体から回収するのに使用される化学槽の汚染を軽減するとともに、集電体を回復させてリサイクル率を高めることができる。
【0011】
挿入物質(炭素、金属酸化物)からの集電体(Cu,Al)の分離は、熱的及び/又は機械的手段により概ね達成される。
【0012】
例えば、500℃での熱処理は電極の結合剤を劣化させる。そして圧潰及び篩過ステップが行われて、より高価値の要素を回復させる。しかしながら、この方法は有毒な気体を発生させる上、CO形成により炭素を消費する。
【0013】
機械的分離そのものの主な欠点は、幾つかの化合物(金属、有機物質、無機物質)が互いに貫入して、分離が困難である多様な構成物質を含む複合混合物を生成するので、バッテリの全ての構成要素を充分に分離できないことである。
【0014】
水媒体での集電体の溶解及び/又は結合剤(CMC,PVDF等)の溶解が許容されるので、最も有望な経路の一つは化学経路である。しかしながら、水媒体での集電体の溶解は、大量の酸及び/又は濃縮酸を必要とする。加えて、湿式精錬方法においてこれは不純物を生じる。結合剤の溶解は、有機溶媒(N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、N‐Nジメチルホルムアミド(DMF)、N‐ジメチルアセトアミド(DMAC)、又はジメチルスルホキシド(DMSO))を必要とし、人間及び環境にとってこれはリスク及び危険となる。
【0015】
これらの欠点を解消するために、大気条件下(フッ化水素酸の形成を招く反応が生じない)で安定しているイオン液体に研究が向けられている。こうして、バッテリ及び蓄電池では銅及びアルミニウムの集電体から炭素及び金属酸化物の選択的な分離が許容される。
【0016】
例えば、300rpmの攪拌状態で180℃まで加熱されたイオン液体[BMIM][BF]を使用すると、PVDF結合剤を溶融してカソード材料からアルミニウム集電体を分離することが可能である。これらの処理条件下で、LiCoO活物質からのアルミニウム集電体の分離効率は、25分の処理で99%である(非特許文献1)。しかしながら、処理は幾つかの欠点を有する。180℃という非常に高い温度で実施されなければならならず、BF アニオンは水との加水分解により劣化してフッ化水素酸を形成するので、その使用は周囲雰囲気において有害である。
【0017】
カソードのPVDF結合剤の溶融は、活物質/溶融塩の割合が10%であって160℃まで加熱された溶融AlCl‐NaCl塩でも行われた。これらの処理条件について、LiCoO活物質からのアルミニウム集電体の分離効率は、20分の処理後に99.8質量%である(非特許文献2)。しかしながら、160℃の高温で処理が等しく実施される。加えて、感水性AlClの使用はその加水分解と集電体の溶解とを招く。
【0018】
190℃まで加熱されたイオン液体としての塩化コリングリセロール(深共晶溶媒)を使用するとPVDFが劣化することも判明している。15分後に、Li(NiMnCo)1/3活物質からのアルミニウム集電体の分離効率は99.86%である(非特許文献3)。しかしながら、この方法を行なうのに必要な温度はやはり非常に高い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】ヅァンほか(Zeng et al.)「使用済み高出力リチウムイオンバッテリからAl及びカソード材料を分離するためのイオン液体の革新的応用」(Innovative application of ionic liquid to separate Al and cathode materials from spent high-power lithium-ion batteries)危険物ジャーナル(Journal of Hazardous Materials)(2014年)271,50~56
【非特許文献2】ワンほか(Wang et al.)「低温溶融塩を使用する使用済みリチウムイオンバッテリからのアルミニウム箔及びカソード材料の効率的分離」(Efficient Separation of Aluminum Foil and Cathode Materials from Spent Lithium-Ion Batteries Using a Low-Temperature Molten Salt)ACS持続可能化学及び工学(ACS Sustainable Chemistry & Engineering)(2019年),7(9),8287~8294
【非特許文献3】ワンほか(Wang et al.)「使用済みリチウムイオンバッテリからのアルミニウム箔及びカソード材料の分離のための低毒性及び高効率の深共晶溶媒」(A low-toxicity and high-efficiency deep eutectic solvent for the separation of aluminum foil and cathode materials from spent lithium-ion batteries)危険物ジャーナル(Journal of Hazardous Materials)(2019年),380,120846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の一つの目的は、集電体から活物質を効果的に分離することにより電極をリサイクルするための方法を提供することであり、この方法は適度な温度(一般的に160℃未満)で行われることが可能でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このため、本発明は、以下の連続ステップ、すなわち、
a)集電体と活物質と任意で結合剤とを含む少なくとも一つの電極を用意するステップと、
b)超音波の存在下で溶媒イオン液体を含むイオン液体溶液に前記少なくとも一つの電極を浸漬することで、前記活物質と任意で前記結合剤が集電体から分離されるステップと、
を含む、少なくとも一つの電極をリサイクルするための方法を提供する。
【0022】
本発明は、超音波の存在下でのイオン液体による分離ステップの実行により、先行技術と基本的に異なっている。存在時に結合剤を溶解することなく、媒体を劣化させることなく、イオン液体媒体は、気体の放出を回避しながら電極の様々な構成要素を選択的に脱離及び分離することを可能にする。超音波の存在下において、イオン液体溶液への浸漬による集電体挿入物質の脱離/剥離は、非常に短い時間(一般的に1時間より短いか30分より短いか等しい)に低温(一般的に150℃より低いか等しい)で行われ、収率は99%より高い。
【0023】
提供されるこの方法では、電極の集電体及び活物質が別々に抽出及び回収され得る。
【0024】
第一の代替実施形態によれば、電極は正電極である。正電極(カソードとも呼ばれる)により、充電中には酸化部位であって放電中には還元部位である電極を意味する。
【0025】
第二の代替実施形態によれば、電極は負電極である。負電極(アノードとも呼ばれる)により、充電中には還元部位であって放電中には酸化部位である電極を意味する。
【0026】
以下の族、すなわち、イミダゾリウム、ピロリジニウム、アンモニウム、ピペリジニウム、そしてホスホニウムのうち一つから選択されるカチオンを溶媒イオン液体が含むと有利である。
【0027】
溶媒イオン液体は、ハロゲン化物あるいはTFSIと記されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CFSO、FSIと記されるビス(フルオロスルホニル)イミド(FSO、CFSO と記されるトリフルオロメタンスルホン酸塩又はトリフラート、FAPと記されるトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸塩、そしてBOBと記されるビス(オキサラート)ホウ酸塩のアニオンから選択されるアニオンを含むと、有利である。
【0028】
前記アニオンが、アンモニウム又はホスホニウムカチオンとの組み合わせにおける塩化物であると、さらに有利である。前記イオン液体溶媒は好ましくは[P66614][Cl]である。
【0029】
前記イオン液体溶液が深共晶溶媒を形成すると有利である。
【0030】
前記深共晶溶媒が塩化コリンとエチレングリコールとの混合物であると有利である。
【0031】
ステップb)が、20℃から150℃、好ましくは30℃から120℃の範囲の温度で行われると有利である。
【0032】
ステップb)が、2分から1時間、好ましくは3分から30分の範囲の持続時間にわたって行われると有利である。
【0033】
前記超音波の出力が0.5から16kWの範囲であると有利である。
【0034】
前記超音波の周波数が16KHzと500KHzの間、好ましくは16KHzと50KHzの間であると有利である。
【0035】
前記イオン液体溶液が一以上の追加イオン液体を含有すると有利である。
【0036】
ステップa)で、複数の電極が用意され、前記電極が同一又は異なる性質であると有利である。
【0037】
この方法は多くの利点を有する。
‐簡単な脱離により集電体と活物質とを分離することによる経済的及び環境的な利益。
‐低い実行温度。
‐集電体及び/又は結合剤の溶解を伴わない異なる要素の選択的分離による汚染の回避。
‐媒体の劣化を伴わない選択的分離。
‐気体発生を回避する安全な方法。
‐実行が簡単かつ迅速な方法。
‐試薬の消費と溶液(廃液)の再処理とを回避する方法。
‐閉回路で作動し得る方法。
【0038】
本発明の更なる特性および利点は、以下の更なる記載から明白になるだろう。
【0039】
この更なる記載は発明の目的の例示としてのみ挙げられ、いかなる点でもこの目的を限定するものと解釈されるべきではない。
添付図面を参照して、いかなる点でも限定目的ではなく純粋に例示として挙げられた実施形態例の説明を読むと、本発明が良く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】先行技術の方法の実行後に得られた正極集電体及び粒子形態の活物質を表す写真である。
図2a】先行技術の方法の実行後に得られた粒子形態の活物質について走査型電子顕微鏡により得られた画像である。
図2b】先行技術の方法の実行後に得られた粒子形態の活物質について走査型電子顕微鏡により得られた画像である。
図2c】先行技術の方法の実行後に活物質のX線回折により得られた写真である。
図3】本発明による方法の特定実施形態の実行後に得られた正極集電体及び粒子形態の活物質を表す写真である。
図4a】先行技術の方法の実行後に得られた粒子形態の活物質及び正極集電体について走査型電子顕微鏡により得られた画像である。
図4b】先行技術の方法の実行後に得られた粒子形態の活物質及び正極集電体について走査型電子顕微鏡により得られた画像である。
図5】本発明による方法の特定実施形態の実行後に得られた負極集電体及び粒子形態の活物質を表す写真である。
図6】本発明による方法の特定実施形態の実行後に得られた負極集電体及び粒子形態の活物質を表す写真である。
図7】本発明による方法の特定実施形態の実行後に得られた正極集電体及び粒子形態の活物質を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
決して限定的ではないが、本発明は、Liイオン型バッテリ/蓄電池/電池の電極のリサイクル及び/又は回収の分野に特定の用途を有する。
【0042】
リサイクル方法は以下の連続ステップを含む。
a)活物質と任意で結合剤により被覆された集電体を含む電極を用意するステップと、
b)超音波の存在下で溶媒イオン液体を含むイオン液体溶液に電極を浸漬して、活物質と任意で結合剤が集電体から分離されるステップ。
【0043】
電極は、例えばバッテリ又は蓄電池のものであり得る。
【0044】
活物質は、挿入活物質(活物質とも呼ばれる)である。結合剤により、高分子結合剤が意味されている。活物質と結合剤とは好ましくは混合される。
【0045】
電極は負電極(アノード)であり得る。負電極の活物質は、例えば炭素系、例えばグラファイトである。リチウムチタン酸塩LiTi12(LTO)であってもよい。活物質はPVDF型結合剤と混合され得る。集電体は銅箔であり得る。
【0046】
電極は正極電極(カソード)であり得る。活物質はリチウムイオン挿入物質である。これは、LiMO型の層状酸化物、オリビン構造のLiMPOリン酸塩、あるいはLiMnスピネル化合物であり得る。Mは遷移金属を表す。例えば、LiCoO,LiMnO,LiNiO,LiNiMnCoO,LiFePOが選択される。挿入物質はポリフッ化ビリニデン型結合剤と混合され得る。これは集電体、例えば、アルミニウム箔に蒸着される。
【0047】
電極の最大寸法は、例えば、0.05cmと15cmとの間、好ましくは0.5cmと5cmとの間である。
【0048】
ステップb)では、イオン液体溶液に電極が浸漬される。
【0049】
幾つかの同一の電極又は異なる性質が、連続的又は同時的にイオン液体溶液に浸漬され得る。
【0050】
電極は、イオン液体溶液に少なくとも部分的に浸漬され、好ましくは充分に浸漬される。
【0051】
電極は別の要素に装着されるか、イオン液体溶液中で浮遊し得る。
【0052】
イオン液体溶液は粒子形態の活物質を集電体から分離させ、溶解を回避しながらこれらの粒子を安定化することができる。結合剤により凝集力が保証され得る粒子ブロックの形態の活物質を分離することも可能である。
【0053】
粒子により、例えば球形、長形、又は卵形の形状を持つ要素を意味する。これらは、200μm未満、例えば2nmから20μmの範囲の最大寸法を有し得る。球形粒子のケースではこれは直径である。このサイズは動的光散乱法(DLS)により決定され得る。
【0054】
溶液は一以上のイオン液体を含む。イオン液体により、100℃未満又は約100℃の溶融温度で液体を発生させる少なくとも一つのカチオンと少なくとも一つのアニオンとの組み合わせを意味する。イオン液体は、200℃を上回る温度で化学的に安定している不揮発性かつ不燃性の溶媒である。
【0055】
イオン液体溶液は、溶媒イオン液体と呼ばれる少なくとも一つのイオン液体を含む。溶媒イオン液体により、熱的及び化学的に安定していて脱離現象中の媒体の劣化作用を最小化するイオン液体を意味する。
【0056】
イオン液体溶液は、一以上の(例えば二、三の)追加イオン液体も含み、すなわち、幾つかのイオン液体の混合物を含む。追加イオン液体(Ll,Ll,...)は、脱離ステップに関して、そして特に粘度、溶解度、疎水性、溶融温度のうち一以上の特性に関して、有利な役割を有する。
【0057】
溶媒イオン液体のカチオンは好ましくは以下の族のうち一つから選択される。イミダゾリウム、ピロリジニウム、アンモニウム、ピペリジニウム、及びホスホニウム。
【0058】
好ましくは、これは環境影響が低く低コストのカチオンである。アンモニウム又はホスホニウムカチオンが選択されると有利である。テトラアルキルアンモニウム、N,N‐ジアルキルイミダゾリウム、N,N‐ジアルキルピロリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、及びN,N‐ジアルキルピペリジニウムから成る群からカチオンが選択され得ると有利である。
【0059】
特に、ホスホニウムカチオンは安定しており、粒子形態の活物質の抽出を促進する。
【0060】
‐C14アルキル又はフルオロアルキル鎖を備えるカチオン、一般的にカチオン[P66614]+(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)が選択されると、より有利である。
【0061】
溶媒イオン液体のカチオンは、有機と無機のいずれかであって好ましくは環境影響が低く低コストであるアニオンと関連している。以下の特性のうち少なくとも一つ、好ましくは全てを得ることを可能にするアニオンが使用されると、有利である。
‐適度な粘度。
‐低い溶融温度(室温の液体)。
‐イオン液体の加水分解(劣化)を生じない。
【0062】
好ましくは、溶媒イオン液体のアニオンは複合体親和性を全く有さないか非常にわずかに有する。アニオンは、例えば、ハロゲン化物、TFSIと記されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CFSO、FSIと記されるビス(フルオロスルホニル)イミド(FSO、トリフルオロメタンスルホン酸塩又はトリフラートCFSO 、FAPと記されるトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸塩、そしてBOBと記されるビス(オキサラート)ホウ酸塩のアニオンから選択される。
【0063】
好ましくは、例えばアンモニウム又はホスホニウムカチオンとの組み合わせで塩化物アニオンが選択される。例示として、溶媒イオン液体であり[P66614][Cl]と記されるトリヘキシルテトラデシルホスホニウム塩化物が使用され得る。
【0064】
考えられ得る様々な組み合わせのうち、低コストで環境影響の低い(生分解性の)媒体が好まれる。
【0065】
食品添加物としても使用され得る生分解性の高い非毒性媒体が選択され得る。
【0066】
例えば、深共晶溶媒(又は「DES」)を形成するイオン液体が選択される。これは、
[Cat].[X].z[Y]
の一般式による、二つの塩の共融混合物を形成することにより得られる室温の液体混合物であって、
[Cat]は、イオン液体溶媒(例えばアンモニウム)のカチオンであり、
[X]は、ハロゲン化物アニオン(例えばCl)であり、
[Y]は、溶媒イオン液体のアニオンXと複合化され得るルイス又はブレンステッド酸であり、zは分子Yの数である。
【0067】
例えば、DESは、エチレングリコール、グリセロール、又は尿素など、毒性の非常に低い水素結合ドナーと組み合わされる塩化コリンであり、こうして非毒性で非常に低コストのDESが保証される。別の例によれば、塩化コリンはベタインで置き換えられ得る。
【0068】
任意で、イオン液体溶液は、乾燥剤及び/又は材料輸送促進剤を含み得る。
【0069】
無水乾燥剤は、電極での反応に関与せず溶媒と反応しない塩、例えばMgSO,NaSO,CaCl,CaSO,KCO,NaOH,KOH,又はCaOであり得る。
【0070】
材料輸送促進剤は、例えば、5%の水など、粘度を低下させるために追加され得る共溶媒の一画分である。有機溶媒も導入され、バッテリ電解質残留物が共溶媒(炭素系媒体)として使用されてバッテリのリサイクル率を高めると、より有利である。非包括的な例は、炭酸ビニレン(VC)、ガンマブチロラクトン(γ‐BL)、炭酸プロピレン(PC)、ポリエチレングリコール、ジメチルエーテルである。材料輸送促進剤の濃度は、1質量%から40質量%の範囲であると有利であり、5質量%から15質量%の範囲であるとより有利である。
【0071】
この方法において、混合物の温度は好ましくは160℃未満、より好ましくは150℃未満である。例えば、20℃から150℃、好ましくは30℃から150℃、より好ましくは30℃から120℃の範囲である。
【0072】
ステップb)は、空気、あるいは例えばアルゴン又は窒素などの不活性雰囲気で行われ得る。
【0073】
試薬の給送を保証するように、例えば50rpmと2000rpmとの間の攪拌が行われ得る。この速度は、イオン液体溶液に応じて調節される。好ましくは、攪拌は200rpmと800rpmとの間の範囲である。
【0074】
ステップb)は超音波で行われ得る。超音波による起動は、集電体から活物質を完全に脱離するのに必要な温度及び/又は時間をかなり低減する。
【0075】
好ましくは、超音波の周波数は16KHzと500KHzとの間、好ましくは16KHzと50KHzとの間である。
【0076】
好ましくは、超音波の出力は0.5kWと16kWとの間である。
【0077】
ステップb)(脱離ステップ)の持続時間は、圧潰バッテリ及び蓄電池材料の性質及び寸法に従って推定され得る。
【0078】
電極リサイクル方法は、電池及び/又は蓄電池及び/又はバッテリをリサイクルするための方法において実行され得る。リサイクル方法は以下のステップを含み得る。分類、バッテリの分解、物理的な(圧潰、手作業分離等)及び/又は化学的な(電解質の洗浄等)前処理、前に記載した電極リサイクル方法の実行。
【0079】
リサイクル方法は更に、様々な構成要素、主に活物質(金属酸化物)を回復及び回収するのに従来技術(乾式精錬及び/又は湿式精錬等)が使用される後続ステップを含み得る。
【0080】
例示的かつ非限定的な実施形態例
例1:イオン液体媒体P66614Clにおける正電極の脱離(比較例):
18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。アルミニウム集電体とLi(NiMnCo)1/3型の活物質とで形成される正電極が手で取り出される。200rpmの攪拌状態で110℃の温度のイオン液体溶液[P66614][Cl](塩化トリヘキシルテトラデシルホスホニウム)50mLに、電極ペレットの形態の正電極が浸漬される。1時間の処理後に、活物質が完全に脱離される。アルミニウムは粒子不在で表面の腐食が見られず、一方で活物質(Li(NiMnCo)1/3)は細かい完全粒子の形態である(図1)。
【0081】
例2:エタリンイオン液体媒体における正電極の脱離(比較例):
18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。アルミニウム集電体とLi(NiMnCo)1/3型活物質とで形成される正電極が手で取り出される。そして200rpmの攪拌状態で150℃の温度のエタリンイオン液体溶液(1:2の比の塩化コリン:エチレングリコール混合物)50mLに、電極ペレットが浸漬される。
【0082】
3.5時間の処理後に、活物質が完全に脱離される。方法の終了時に、活物質(Li(NiMnCo)1/3)は細かい粒子の形態であり(図2a,2b)、アルミニウムは粒子不在で、その表面に腐食の兆候は示されていない。粒子が最初と同じ組成(コバルト、マンガン、ニッケル)を有することがX線回折解析で確認される(図2c)。
【0083】
例3:本発明によるエタリンイオン液体媒体における超音波起動での正電極の脱離
18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。アルミニウム集電体とLi(NiMnCo)1/3型活物質とで形成される正電極が手で取り出される。そして200rpmの攪拌状態で、そして超音波の存在下において、150℃のエタリンイオン液体溶液(1:2の比の塩化コリン:エチレングリコール混合物)50mLに、電極ペレットが浸漬される。
【0084】
わずか20分の処理後に、活物質が完全に脱離される。アルミニウムは粒子不在で、その表面に腐食の兆候は示されず、活物質(Li(NiMnCo)1/3)は細かい完全粒子の形態である(図3)。
【0085】
例4:エタリンイオン液体媒体における負電極の脱離(比較例):
18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。銅と活物質としての炭素とで製作される集電体で形成される負電極が手で取り出される。200rpmの攪拌状態で、150℃のエタリンイオン液体溶液(1:2の比の塩化コリン:エチレングリコール混合物)50mLに、電極ペレットが浸漬される。
【0086】
2時間分の処理後に、挿入物質(炭素)が完全に脱離される。銅は粒子不在で、その表面に腐食の兆候は示されず、また活物質は細かい完全粒子の形態である(図4)。
【0087】
例5:本発明によるエタリンイオン液体媒体における超音波起動での正電極の脱離
サムスン(SAMSUNG)18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。負電極(炭素及び銅の集電体)が手で取り出される。そして200rpmの攪拌状態で、超音波の存在下において、30℃のエタリンイオン液体溶液(1:2の比の塩化コリン:エチレングリコール混合物)50mLに、電極ペレットが浸漬される。
【0088】
3分の処理後に、挿入物質(炭素)が完全に脱離される。銅は粒子不在で表面に腐食は見られず、一方で炭素は細かい完全粒子の形態である(図5)。
【0089】
例6:本発明によるエタリンイオン液体媒体における超音波起動での負電極の脱離
ソニー(SONY)18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。負電極(炭素及び銅の集電体)が手で取り出される。200rpmの攪拌状態で、超音波の存在下において、30℃のエタリンイオン液体溶液(1:2の比の塩化コリン:エチレングリコール混合物)50mLに、電極ペレットが浸漬される。
【0090】
30分の処理後に、挿入物質(炭素)が完全に脱離される。銅は粒子不在で表面に腐食は見られず、一方で炭素は細かい完全粒子の形態である(図6)。
【0091】
例7:本発明によるエタリンイオン液体媒体における超音波起動での正電極の脱離
サムスン(SAMSUNG)18650Liイオンバッテリが最初に放電、開封され、次に乾燥される。正電極(NMC及びアルミニウムの集電体)が手で取り出される。200rpmの攪拌状態で、超音波の存在下において、120℃のエタリンイオン液体溶液(1:2の比の塩化コリン:エチレングリコール混合物)50mLに、電極ペレットが浸漬される。
【0092】
わずか10分の処理後に、活物質が完全に脱離される。アルミニウムは粒子不在で表面に腐食は見られず、一方で活物質(Li(NiMnCo)1/3)は細かい完全粒子の形態である(図7)。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
【国際調査報告】