(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】顎関節用の補綴具および対応する補綴アセンブリ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/30 20060101AFI20230510BHJP
A61F 2/46 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
A61F2/30
A61F2/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560460
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 IT2021050089
(87)【国際公開番号】W WO2021199093
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】102020000007201
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509177407
【氏名又は名称】ウニヴェルシータ・デッリ・ストゥーディ・ディ・ウーディネ
(71)【出願人】
【識別番号】522389726
【氏名又は名称】アジエンダ サニタリア ウニベルシタリア フリウリ セントラーレ
【氏名又は名称原語表記】AZIENDA SANITARIA UNIVERSITARIA FRIULI CENTRALE
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ロビオニー、マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】センブローニオ、サルバトーレ
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA01
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC05
4C097CC06
4C097CC12
4C097DD01
4C097DD10
(57)【要約】
顎関節用の補綴具(10)は、患者の下顎関節頭(112)に結合可能な第1の補綴部材(11)と、前記患者のそれぞれの下顎関節窩に結合可能な対応する第2の補綴部材(12)と、を備える。本発明は、また、第1の部材を配置するためのアンカー座部(113)を作成するためのガイド装置(35)と、補綴具(10)およびガイド装置(35)を備える補綴アセンブリとに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎関節用の補綴具(10)であって、患者の下顎関節頭(112)に結合可能な第1の補綴部材(11)と、前記患者のそれぞれの下顎関節窩に結合可能な対応する第2の補綴部材(12)と、を備え、前記第1の補綴部材(11)は、前記第2の補綴部材(12)と協働して前記顎関節を形成するように構成されており、前記第1の補綴部材(11)は、前記下顎関節頭の形状に係合する形状を有する結合座部(14)を形成する凹部(13)を備え、前記第1の補綴部材(11)は、前記凹部(13)から突出するとともに少なくとも前記凹部(13)に取り付けられている1つ以上のアンカー要素(16)を備え、前記アンカー要素(16)は前記凹部(13)内に収容されており、前記アンカー要素(16)は、外内方向軸(X)に沿った主延在部を有し、前記下顎関節頭(112)上に存在する係合アンカー座部(113)の中へ挿入されるように構成されており、前記結合座部(14)は、前記外内方向軸(X)に沿って少なくとも部分的に開いている、補綴具。
【請求項2】
前記第1の補綴部材(11)は、前記関節頭(112)に対し側方において結合されるように構成されている外部側方部(17)をさらに備える、請求項1に記載の補綴具。
【請求項3】
前記第1の補綴部材(11)は、上部壁(19)と、前記上部壁(19)に対し傾いて配置されている外部側方壁(20)とを有する外殻(18)を備え、前記外殻(18)は、底部において開いており、また、前記外部側方壁(20)と前記上部壁(19)の端とに対向する領域において前記外内方向軸(X)に沿って、開いている、請求項1または2に記載の補綴具。
【請求項4】
前記アンカー要素(16)は板(25)として構成されており、前記板はその上部が前記凹部(13)の側において前記上部壁(19)に対し固定されており、前記板(25)は、前記外部側方壁(20)に対し側方に、また、前記上部壁(19)に略直交する方向に突出している、請求項3に記載の補綴具。
【請求項5】
前記板(25)は、前記外内方向軸(X)の方向に、前記外内方向軸(X)の方向における前記上部壁(19)の前記延在部とほぼ等しい縦延在部、すなわち、長さ(L)を有する、請求項4に記載の補綴具。
【請求項6】
前記板(25)は、補綴の一次固定と、海綿骨の再生と、前記関節頭(112)の皮質骨とのオッセオインテグレーションとを促進するように構成されている、請求項5に記載の補綴具。
【請求項7】
前記板(25)には、海綿骨の再生と、前記関節頭(112)の皮質骨とのオッセオインテグレーションとを促進するための大溝および小溝が設けられている、請求項6に記載の補綴具。
【請求項8】
前記板(25)には、前記大溝を形成するように適切に離間して配置された複数の歯(26)が設けられている、請求項7に記載の補綴具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の補綴具用のアンカー座部(113)を調製するためのガイド装置であって、少なくとも下顎枝の上外側部に対して配置可能な中央本体(36)と、上部で前記中央本体(36)に結合されており、前記関節頭(112)に対し実施される骨矯正術のプロファイルを有するガイド壁(37)と、を備え、前記ガイド壁(37)から前記中央本体(36)に向かって垂直に延在する溝(38)を有し、前記溝(38)は上部において開いており、外内方向軸(X)に平行な向きに通じており、前記溝(38)は、前記補綴具のアンカー要素(16)として機能する板(25)の高さ(H)とほぼ同じ深さ(D)を有する、ガイド装置。
【請求項10】
前記溝(38)は、前記ガイド壁(37)を第1のガイド枝(37a)と第2のガイド枝(37b)とに分割している、請求項9に記載のガイド装置。
【請求項11】
前記溝(38)は、メス用のアバットメントとして機能可能な末端部、すなわち、底部(39)を有する、請求項9または10に記載のガイド装置。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の補綴具(10)と請求項9~11のいずれか一項に記載のガイド装置(35)とを備える、顎関節用の補綴アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎関節用の補綴具と、前記補綴具および適切な骨座部の調製用のガイド装置を備える対応する補綴アセンブリとに関する。
上述の補綴具は、例えば、骨関節症/骨関節炎、関節頭吸収、良性腫瘍の場合、または外科手術に失敗した場合における、非広範性の関節病状を有する患者への適用に特に適切である。
【0002】
この解決策は、従来の経路では機能関節形成術における他の試み(通常失敗することになる)を伴うであろう多数の患者において、初回手術として採用されることも可能である。
【背景技術】
【0003】
顎関節の再構築が、それが顎口腔系の内部で果たす複雑な役割のため問題であることは知られている。
顎関節は、噛む際、話す際、呼吸交換を支援する際、および呑み込む際に、不可欠な役割を果たすとともに、前思春期中の顎における二次成長点である。さらにまた、顎関節は、身体における他の関節よりも多く荷重/脱荷重の繰り返しのサイクルを受ける。
【0004】
顎関節の解剖学的及び生体力学的な複雑さのため、問題および関連する病状を解決するための外科手術は複雑であり、現在のところ極めて侵襲性が高い。
顎関節は、下顎骨を側頭骨に繋ぎ、特に、下顎関節頭を側頭骨の下顎関節窩に接続する。
【0005】
顎関節用の補綴具は、したがって、2つの構成要素、すなわち、関節頭補綴具と下顎関節窩補綴具とを備え、それらはそれぞれ使用時に下顎関節頭および側頭骨の下顎関節窩に関連付けられる。両構成要素は、患者およびその解剖学的形態の特定の要請にしたがって作られる。
【0006】
それらの構成要素の適用前に、それぞれの補綴具を収容するように関節頭および下顎関節窩を調製する骨矯正術を実行することが必要である。この目的のため、外科医によって実行される骨切除の手術を容易にすることが可能なガイド装置が提供されることがある。さらにまた、影響を受けた骨組織およびその周囲に傷(極めて広範的な場合もある)を生じる従来の外科用バー(burr)を用いることが必要である。
【0007】
現在用いられる補綴具は非常に嵩張っており、大顎枝と頭蓋の底部との間に極めて大きな設置空間を必要とする(窩補綴具および関節頭補綴具を挿入可能とするために必要である)。このため、多くの場合、関節頭(および必要な場合には下顎関節窩)の骨矯正術は、非常に大掛かりで侵襲性のものとなる。
【0008】
これによって、関節補綴具のインプラントの指示は、極めて重症の場合のみに制限される。
現在の補綴具のサイズによってもまた、外科的処置が非常に侵襲性のものとなる(下顎関節窩補綴具の挿入のために耳の前が切開され、顎枝/関節頭補綴具の挿入のために顎下の後ろが切開される)。
【0009】
現在の補綴具の侵襲性と、それらの設置用の外科的処置とは、患者の長い入院期間や合併症の可能性に繋がる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、現在の技術における欠点のうちの1つ以上を克服可能である、顎関節に適用するための補綴具と、対応する補綴アセンブリとを完成する必要が存在する。
特に、本発明の1つの目的は、関節頭の(また場合によっては下顎関節窩の)限定的な骨矯正術しか必要とせずにインプラントが行われる、顎関節用の補綴具を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、従来の補綴具の使用と比較して、より多くの患者に対し外科的指示を、したがって適用可能性を拡張することを可能とする、顎関節用の補綴具を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、その設置を単純化および高速化するべく限られた数の構成要素からなる、顎関節用の補綴具を提供することにある。
本発明の別の目的は、有利にはカスタマイズ/個人化され、患者に対し特異的であり、また、対応する外科的技術を単純化すると同時により侵襲性でないものとすることが可能である、顎関節用の補綴アセンブリを提供することにある。
【0013】
本出願人は、現在の技術の欠点を克服するとともに、それらのおよび他の目的および利点を得るべく、本発明を想到し、試験し、具体化した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、独立請求項に記載され、特徴付けられている。従属請求項には、本発明の他の特徴や、その主たる発明概念に対する変形が記載されている。
上記の目的にしたがって、現在の技術の制限を克服するとともに、そこに存在する欠点を除去する顎関節用の補綴具は、患者の下顎関節頭に結合可能な第1の補綴部材と、前記患者のそれぞれの下顎関節窩に結合可能な対応する第2の補綴部材と、を備える。
【0015】
前記第1の補綴部材は、前記第2の補綴部材と協働して前記顎関節を形成するように構成されており、また、第2の補綴部材と協働して顎関節を形成する凸部を備える。
本発明の一態様では、前記第1の補綴部材は、前記凹部から突出するとともに少なくとも前記凹部に取り付けられている1つ以上のアンカー要素を備え、前記アンカー要素は、凹部に収容されており、また、外内方向軸に沿った主延在部を有する。前記アンカー要素は、前記下顎関節頭上に存在する(または提供される)係合アンカー座部の中へ挿入されるように構成されている。さらにまた、前記結合座部は、前記外内方向軸に沿って少なくとも部分的に開いている。
【0016】
このようにすると、第1の補綴部材は、前記外内方向軸に対し平行な方向に容易に挿入されることができ、患者からの骨材料の除去を最小に制限することを可能とし、それと同時に外科施術を大いに単純化することを可能とする。加えて、外科的手法および関節頭の切除の侵襲性が最小であることによって、従来の補綴具の使用と比較して、外科的指示を拡張することが、したがってより極めて大きな適用可能性が可能となる。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記第1の補綴部材は、前記下顎関節頭の形状に係合する形状を有する結合座部を形成する凹部を備える。前記凹部は、したがって、前記第2の補綴部材と協働して前記顎関節を形成するように構成されている。前記凸部は、前記凹部に対向している。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記補綴具用のアンカー座部(特に第1の補綴部材を配置するための)を調製するために、ガイド装置が提供される。
前記ガイド装置は、少なくとも下顎枝の上外側部に対して配置可能な中央本体と、前記上部で前記中央本体に結合されており、前記関節頭に対し実施される骨矯正術のプロファイルを有するガイド壁とを備える。
【0019】
本発明の特徴的な一態様では、前記ガイド装置は、前記中央本体に向かって垂直に延在する溝を有する。さらにまた、前記溝は前記上部において開いており、前記外内方向軸に平行な向きに通じている。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態は、補綴アセンブリを含む。該補綴アセンブリは、有利には、カスタマイズされ、患者に対し特異的であり、前記補綴具および対応するガイド装置に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本明細書に記載の実施形態における顎関節用の補綴具の斜視図。
【
図5】第1の補綴部材と下顎関節頭との結合を示す斜視図。
【
図9】本明細書に記載の実施形態によるガイド装置の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のこれらおよび他の態様、特徴、ならびに利点は、添付の図面を参照する非限定的な例として与えられるいくつかの実施形態に関する以下の記載から明らかとなるであろう。
【0023】
理解を容易にするべく、図面における同一の共通要素が識別されるように、可能な場合には、同じ参考番号が用いられる。簡便のため、一実施形態の要素および特性は、さらなる説明無しに他の実施形態に援用可能であることが理解される。
【0024】
ここで、添付の図面において1または複数の例が示されている本発明の可能な実施形態を詳細に参照する。各例は、本発明の例示を目的として与えられており、本発明の限定として理解されるべきものではない。例えば、一実施形態の一部である、図示または記載されている1または複数の特徴は、別の実施形態を生じるように、変形されたり、他の実施形態に対し適合されたり、あるいは他の実施形態に関連付けられたりすることができる。本発明は、そうした修正および変形すべてを含むものと理解される。
【0025】
これらの実施形態について記載する前に、本記載が、構成要素の作成および配置の詳細について、添付の図面を用いて以下の詳細な説明に記載される通り本出願を限定するものではないことも明確にしておく。本記載によって他の実施形態が提供されることが可能であり、様々な他の方法による取得や実行も可能である。また、本明細書において用いられる表現および用語が説明を目的としたものに過ぎず、限定と見なされるべきものではないことも明確にしておく。
【0026】
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、より詳細に以下に記載されるように、顎関節用の補綴具10(
図1~
図7)と、補綴具10のために特定のアンカー座部113(
図11)を調製するのに必要なガイド装置35(
図9~
図11)とに関する。また、他の実施形態は、補綴アセンブリを含む。該補綴アセンブリは、有利には、カスタマイズ/個人化され、患者に対し特異的であり、補綴具10およびガイド装置35を備える。
【0027】
本明細書では、今後、近位(proximal)、遠位(distal)、前(anterior)、後(posterior)、内側(medial)、外側(lateral)の用語は、ヒトおよび/または動物の体の自然な解剖学的な相対配置、またはそれに対する方向の用語の参照にしたがって、骨、解剖学的部分、補綴具およびその構成要素、または他の要素に関する特定の面または配向を示すために当業者が標準的に用いるところによって定義される。
【0028】
特に
図1を参照すると、顎関節は、下顎骨111を側頭骨110に繋ぎ、特に、下顎関節頭(
図5。以下、関節頭)112を側頭骨110の下顎関節窩(以下、関節窩)に接続する。
【0029】
補綴具10は、したがって、患者の関節頭112に結合可能な第1の補綴部材11と、患者のそれぞれの関節窩に結合可能な対応する第2の補綴部材12とを備える。特に、関節頭112は、以下により詳細に記載されるように、第1の補綴部材11を収容するように適切に成形される。
【0030】
第1の補綴部材11は、上述のように成形された関節頭112の形状に係合する形状を有する結合座部14を形成する凹部13を備える。
第1の部材11は、凹部13に対向する凸部15を備える。凸部15は、第2の補綴部材12に結合して顎関節を形成するように構成されている。
【0031】
第1の補綴部材11は、凹部13から突出するとともに少なくとも凹部13に取り付けられている1つ以上のアンカー要素16を備える。アンカー要素16は、実質的に凹部13の内部に収容されるような全体的なサイズを有する。
【0032】
アンカー要素16は、外内方向軸Xに沿った主延在部を有する。特に、ここ以降において、用語「外内方向(latero-medial)」では、外側の領域から患者の体の正中面の隣接部分に位置する領域に向かう方向を示すことが意図される。
【0033】
アンカー要素16は、以下に記載されるように、ガイド装置35のプロファイルに従うように成形される患者の関節頭112上に作られた係合アンカー座部113(
図11)中に挿入されるように構成されている。
【0034】
結合座部14は、可能な一用途では、外内方向軸(外部から内部に延びている)に平行な方向における第1の補綴部材11と関節頭112との結合を可能とするように、外内方向軸Xに沿って少なくとも部分的に開いている(
図2、
図5および
図7~
図8)。本明細書に記載の実施形態では、結合座部14は、関節頭112の接続する上方部分に実質的に係合する形状を有する。
【0035】
補綴具10の特定の幾何形状、特に、外内方向に挿入されたアンカー要素16を備える第1の補綴部材11の特定の幾何形状によって、患者からの骨材料の除去を最小に制限することが可能となる。また、それと同時に、耳の前の切開による1つのアクセスルートしか作る必要がないので、外科施術を大いに単純化してより侵襲性の低いものとすることが可能となる。
【0036】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、特に
図2、
図5、および
図8を参照すると、第1の補綴部材11は、関節頭112に対し側方において結合されるように構成されている外部側方部17をさらに備える。外部側方部17は、外内方向軸Xに沿った第1の補綴部材11の配置中に側方のアバットメントを可能とすること、またその固定を可能とすることなどのため、延在部を有する。
【0037】
第1の補綴部材11は、患者の関節頭112を少なくとも部分的に覆うように構成されている関節頭補綴具として構成されることが可能である。この第1の補綴部材11は、関節頭112の元の骨部分を可能な限り保存する目的のカバー補綴具として想定される。好ましくは、この関節頭補綴具は、非広範性の病状(実際のところ、そうした病状の発生が最も多い)の場合に用いられることが可能である。
【0038】
特に、第1の補綴部材11は、関節頭112の外側面、上面(通常、窩に接続されている)、また場合によっては前面、後面を覆うように構成されている。明らかであるように、第1の補綴部材11の挿入のモード、すなわち、外内方向軸Xに平行な方向における場合、関節頭112の内側部分を覆うようには提供されない(
図7~
図8)。
【0039】
特に
図2を参照すると、第1の補綴部材11は、上部壁19と、上部壁19に対し傾いて配置されている外部側方壁20とを有する外殻18を備える。外部側方壁20の傾きは、本質的には、患者の大顎枝114の解剖学的組織によって与えられる。本明細書に記載の実施形態の例では、この傾きは、約90°であるか、またはそれよりわずかに小さい。
【0040】
上部壁19は、その底で凹部13を形成し、その上部で凸部15を形成するなどの形状を有する(
図2および
図7)。
上部壁19は、少なくとも部分的に関節頭を覆い、その内部の内側部分を実質的に空いたままにするように構成されている。この目的のため、外殻18は、底部において開いており、また、外部側方壁20と上部壁19の端とに対向する領域において外内方向軸Xに沿って、開いている。
【0041】
外部側方壁20は、大顎枝114に沿った主発達部を有しており、身体の正中面に実質的に平行、または準平行である。
随意で、外部側方壁20には、取付要素(例えば、ねじ22)の挿入用に1つ以上の貫通孔21が設けられることも可能である(例えば、
図2および
図5~
図6を参照)。ねじ22は、少なくともオッセオインテグレーションの期間中、第1の補綴部材11の患者の下顎関節頭に対する一次固定を得ることを可能とする。ねじ22の寸法および長さは、関節頭の構成および寸法にしたがって変わる。
【0042】
本明細書に記載のこの実施形態では、特に
図2および
図7を参照すると、外殻18は、より大きな固定を保証するために、少なくとも部分的に前方および後方において関節頭を包むように構成されている一対の対向壁、すなわち、前壁23および後壁24も備える。前壁23および後壁24は、それぞれ上部壁19の一方の側および他方の側において、かつ外部側方壁20に対し側方において、その上部が上部壁19に対し接続されている。
【0043】
上部壁19、外部側方壁20、ならびに前壁23および後壁24は、別個の分離した要素として記載されておるが、しかしながら、それらが一体とされ、記載された通りの幾何形状および相互の配置にしたがって、一方が他方の延在部であってよいことは言うまでもない。
【0044】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、アンカー要素16は板25として構成されており、その板はその上部が凹部13の側において、かつ外部側方壁20に対し側方において、上部壁19に対し取り付けられている。しかしながら、板25が上部19に対してしか取り付けられないでよいことも除外されてはいない。板25は、壁、隔壁、上部壁19から突出する適切に成形された稜部として形成されることも可能である。
【0045】
特に、板25は、上部壁19に実質的に直交する方向に突出する(
図2および
図7)。板25は、結合座部14を実質的に2つの部分へと分割する。各部分は、それぞれアンカー座部113の面に位置する関節頭112の部分上に留置されることが可能である(
図11)。
【0046】
板25は、外内方向軸Xの方向に、外内方向軸Xの方向における上部壁19の延在部とほぼ等しい長尺上の延在部、すなわち、長さLを有する(
図2)。
しかしながら、板25がより短い長さLを有することも除外されない。明らかに、長さLがより大きくなると、よりよいインテグレーションおよび固定のために関節頭の骨に接触する有効面がより大きくなる。
【0047】
板25は、関節頭112上に提供されるアンカー座部113(
図11)の深さに比例した高さH(
図4)を有する。例えば、高さHは4mmの最小値を有することが可能であるが、より大きいことも可能である。
【0048】
板25は、長さLより十分に小さな厚さW1(
図7)を有する。例えば、厚さW1は、約1mm~約4mmの間で変わることが可能である。好ましくは、厚さW1は、約2mm~約3mmの間に含まれる。
【0049】
有利には、板25は、補綴の一次固定と、海綿骨の再生と、前記関節頭112の皮質骨とのオッセオインテグレーションとを促進するように構成されている。
特に、板25は、実質的に矩形形状を有することが可能であり、板25には、補綴の一次固定と、海綿骨の再生と、関節頭112の皮質骨とのオッセオインテグレーションとを促進するための大溝および小溝が設けられることが可能である。
【0050】
一実施形態(
図2および
図4)では、板25には、第1の補綴部材11のより大きな安定を保証するために、上述のように大溝を形成するように適切に離間して配置された複数の歯26が、使用時にそれらの内部の骨成長を促進するように設けられている。例えば、板25および歯26は、櫛状構成を形成する。
【0051】
板25は、関節頭112上のアンカー座部113における第1の補綴部材11の外内方向の挿入を容易にすることができる面取部29を備えることが可能である。この場合(
図4)、板25の形状は台形状であることが可能であり、面取部29を形成する傾斜面が1より多くの傾きを有することや、曲面によって形成されることも可能である。
【0052】
いくつかの実施形態では、第1の補綴部材11は、生体適合性材料(例えば、チタンまたはその合金、または他の可能な既知のまたは既知でない生体適合性材料)で作成される。有利には、この第1の補綴部材11の接続面は、関節運動時の摩擦を最小まで低減するために、可能な限り平滑に(例えば、鏡のように)なるように処理されることが可能である。
【0053】
特に、板25はチタン製であることが可能であり、その表面は、好ましくは、骨との接触面を増加させて骨とのオッセオインテグレーションを促進するように処理されることが可能である。例えば、板25の表面は、ハイドロキシアパタイトを用いるサンドブラスト処理および酸不動態化(RBM)で処理されることが可能である。可能な実施形では、板25は、これに代えてオッセオインテグレーションの目的のため、少なくとも部分的に有孔性または格子状の構造(例えば、骨の柱構造(緻密材料の一部に関連し得る)を再生する)を有することが可能である。
【0054】
最良のオッセオインテグレーションは、骨組織が保存されるとともに損傷が骨矯正術部位の調製用の従来のカッターよりも非常に少ない、ピエゾサージェリーでの外科手術部位の調製によっても促進される。
【0055】
いくつかの実施形態では、第1の補綴部材11は、選択的レーザー溶融(Selective Laser Melting;SLM)処理あるいは直接金属レーザー焼結(Direct Metal Laser Sintering;DMSL)処理で、さらにまたは電子ビーム溶融(Electron Beam Melting;EBM)技術によって、または一般には患者の特定の解剖学的な必要性に基づいた適切な「付加製造」または3D印刷技術によって、作成されることが可能である。そのような技術は、例えば、第1の補綴部材11、また特に板25が、例えば、少なくとも部分的には有孔性または格子状の構造、例えば、柱(緻密材料の一部に関連し得る)を少なくとも部分的に有する場合に有利である。
【0056】
図1および
図3に示される実施形態では、第2の補綴部材12は、患者の下顎関節窩を覆うように構成されている窩補綴具として構成されることが可能である。
第2の補綴部材12は、第1の補綴部材11の凸部15と使用時に協働することができる接続部分30と、使用時に患者の頬骨弓を覆うことができる頬骨突起部分31とを備える。
【0057】
接続部分30は、凸部15に係合する形状を有する、凸接続表面32を有する。
接続部分30の上部(使用時に患者の下顎関節窩に接触して位置する)は、窩の予め存在する(または外科的に成形された)骨表面をトレースする形状を有する。
【0058】
第2の補綴部材12は、ねじ34によって側頭骨に対し固定されることが可能である。この目的のため、接続部分(それの最も外側の部分)と頬骨突起部分31との両方が、ねじ34用の貫通孔33を備えることが可能である。本明細書に記載の例では、頬骨突起部分31は、3つのねじ34を用いて固定される。
【0059】
いくつかの実施形態では、第2の補綴部材12は、生体適合性材料(例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、または他の可能な既知のまたは既知でない生体適合性材料)で作成される。
【0060】
図9~
図11に記載の実施形態では、ガイド装置(この特定の場合では、外科用テンプレート)35は、少なくとも下顎枝の上外側部を包むことができる中央本体36と、上部で中央本体36に取り付けられており、患者の関節頭112に対し実施される骨矯正術のプロファイルを有するガイド壁37と、を備える。特に、中央本体36は、よりよい配置のために関節頭112の前面および後面を部分的に包むことに適切であってもよい。
【0061】
外科用テンプレート35は、その上部が開いた中央垂直溝38を有する。中央垂直溝38は、ガイド壁37を第1のガイド枝37aと第2のガイド枝37bとに分割している。
本明細書に記載の例では、ガイド壁37は実質的に曲がったプロファイルを有するが、しかしながら、ガイド壁37が、正方形のプロファイル、または骨矯正術の侵襲性を可能な限り少なくするのに適切な他のプロファイルを有してもよいことは除外されていない。
【0062】
垂直溝38は、外科医が垂直骨切除術を実行することを可能にするためにアンカー座部113を患者の関節頭112に調製するために、外内方向軸Xに平行な向きに通じている。
【0063】
ガイド溝38は、部分的には、中央本体36にも延びることが可能である。
溝38は、上部で開いており、アンカー座部113(
図11)の調製中にメス用のアバットメントとして機能可能な末端部、すなわち、底部39を有する。
【0064】
溝38は、第1の補綴部材11の板25の高さHとほぼ等しい深さDと、板25の厚さW1以下の幅W2とを有する(
図11)。さらにまた、溝38の上部の開口からその末端部39まで若干のテーパーを与えることが可能である。
【0065】
外科用テンプレート35は、中央本体36を通じて調製された、1つ以上の調整済みの穴40を備える。調整済みの穴40は、外科用テンプレート35を固定したのに続いて第1の補綴部材11を取り付けるように機能するねじを配置するために、対応する穴を患者の関節頭112に調製することを可能とする。可能な実装では、関節丘の補綴部材(すなわち、関節頭112)は、より多くの取付ねじを収容するためにその外部の外側部においてモデル化され成形されることが可能である。この目的のため、専用テンプレートの使用が提供されることも可能である。
【0066】
操作では、除去される関節頭112の部分の識別後、患者の解剖学的必要にしたがって適切に成形されたプロファイルを有する外科用テンプレート35が、関節丘枝114に配置され、ねじ(図示せず)によって取り付けられる(
図10)。続いて、第1の骨矯正術がガイド壁37のプロファイルにしたがって実行され、次いで、板25を収容するためのアンカー座部113(
図11)を作成するために、第2の垂直骨矯正術が溝38に沿って実行される。好ましくは、骨矯正術はピエゾハンドルを有するメスを用いて実行され、切断の正確性が最大化されることが保証される。
【0067】
以上に記載の顎関節用の補綴具および対応する補綴アセンブリに対し、特許請求の範囲によって定義されるところの本発明の分野および範囲を逸脱することなく、部分の修正および/または追加がなされてもよいことは明らかである。
【0068】
また、本発明はいくつかの特定の例に関して記載されているが、当業者には特許請求の範囲に記載の特徴を有し、したがって特許請求の範囲によって定義される保護の範囲内にある顎関節用の補綴具および対応する補綴アセンブリの他の多くの均等形態が得られることは明らかである。
【0069】
以下の特許請求の範囲では、括弧内の符号は読みやすさだけを目的とするものであり、特定の請求項により請求される保護の範囲に関する限定因子と見なされるものではない。
【国際調査報告】