(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(54)【発明の名称】植込み型デバイス感染症を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20230510BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230510BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20230510BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20230510BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P31/04
C12Q1/04
C12N7/00 ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560902
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 US2021025794
(87)【国際公開番号】W WO2021207082
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517317347
【氏名又は名称】アダプティブ ファージ セラピューティクス, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Adaptive Phage Therapeutics, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】バス, スブヘンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ホプキンズ, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】メリル, グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】ファクラー, ジョゼフ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QR66
4B063QR79
4B063QS10
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4B065AA98X
4B065AC20
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA17
4C087MA56
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB35
(57)【要約】
本発明は、ファージ療法の分野に関し、特に、ファージベースの組成物、および植込み型デバイスに関連する感染症を処置または予防するための方法を提供することに関する。その組成物は、そのデバイスの感染位置に、必要に応じて単回用量としておよび/または他の投与様式によって、直接投与されることがあり、植込み型デバイスの交換の必要を潜在的に回避し得る。上記方法は、(a)前記対象から生物学的試料を得るステップ;(b)前記生物学的試料中に存在する細菌を培養するステップ;(c)前記培養された細菌を溶解するファージを接種するステップを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象内に植え込まれたデバイスに関連する1または複数の細菌によって引き起こされる感染症を処置する方法であって、前記方法は、
(a)前記細菌に感染することができる少なくとも1つの同定済みファージを特定することであって、前記同定済みファージは、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/もしくはAPT-PJI-50、または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、前記細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージから選択される少なくとも1つのファージを含むライブラリーから選択されること;および
(b)前記同定済みファージを含む治療有効量の組成物を前記対象に投与することであって、前記組成物は、前記感染症を処置および/または低減するのに効果的であること
を含む、方法。
【請求項2】
細菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクがある対象を特定する方法であって、前記方法は、
(a)前記対象から生物学的試料を得るステップ;
(b)前記生物学的試料中に存在する細菌を培養するステップ;
(c)前記培養された細菌に、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50ならびに前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、前記細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージのうちの1または複数のファージから選択される少なくとも1つのファージを含むライブラリーから選択される同定済みファージを接種するステップ;および
(d)前記培養された細菌が、前記同定済みファージによって溶解されるかを決定するステップであって、前記培養された細菌のいずれかが、前記ファージによって溶解されたとき、前記対象は、(1)前記細菌感染症に対するバクテリオファージによる処置に適格である、(2)細菌感染症に罹患している;かつ/または(3)細菌感染症に罹患するリスクがある、と決定されるステップ
を含む、方法。
【請求項3】
前記組成物が、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/もしくはAPT-PJI-50、または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、前記細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージからなる群から選択される少なくとも1つの同定済みファージを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/もしくはAPT-PJI-50、または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、前記細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージからなる群から選択される少なくとも2つの同定済みファージを含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの同定済みファージが、
(a)前記同定済みファージが、同じ細菌株において溶解を引き起こす;
(b)前記同定済みファージが、異なる細菌株において溶解を引き起こす;
(c)前記同定済みファージの少なくとも1つが、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45およびAPT-PJI-46ならびに前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択される;
(d)前記同定済みファージの少なくとも1つが、APT-PJI-13、APT-PJI-14および前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択される;
(e)前記同定済みファージの少なくとも1つが、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17およびAPT-PJI-18ならびに前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージから選択されるからなる群より選択される;
(f)前記同定済みファージの少なくとも1つが、APT-PJI-20およびAPT-PJI-21ならびに前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージから選択されるからなる群より選択される、
(g)前記同定済みファージの少なくとも1つが、APT-PT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45またはAPT-PJI-46および前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択される;
(h)前記同定済みファージの少なくとも1つが、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49またはAPT-PJI-50および前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択される、
(i)前記同定済みファージの少なくとも1つが、(a)~(h)の組み合わせのいずれかから選択される
と特徴付けられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、10
5~10
13pfuの範囲内の用量の各ファージを提供し、好ましくは、各ファージの前記用量は、10
6~10
12pfu;10
7~10
11pfu;10
8~10
11pfu;10
9~10
11pfu;10
9~10
10pfuの範囲内であるか;
またはおよそ10
6pfu、10
7pfu、10
8pfu、10
9pfu、10
10pfu、10
11pfu、10
12pfuもしくは10
13pfuという用量である、
前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌が、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalisおよびEnterococcus feciumを含むEnterococcus spp.、S.simulans、S.capraeおよびS.lugdunensisを含む他のコアグラーゼ陰性Staphylococcus属の種、ランスフィールドA、B、CおよびG群、S.agalactiaeおよびS.pneumoniaeを含むStreptococcus spp.、大腸菌を含む好気性グラム陰性菌、Enterobacter clocaeを含む他のEnterobacteriaceae、Clostridium spp.、Actinomyces spp.、Peptostreptococcus spp.、Cutibacterium acnes、Klebsiella pneumoniae、P.aeruginosaならびにBacteroides fragilisのうちの少なくとも1つから選択される、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記細菌が、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalisおよびEnterococcus feciumを含むEnterococcus spp.、S.simulans、S.capraeおよびS.lugdunensisを含む他のコアグラーゼ陰性Staphylococcus属の種、ランスフィールドA、B、CおよびG群、S.agalactiaeおよびS.pneumoniaeを含むStreptococcus spp.、大腸菌を含む好気性グラム陰性菌、Enterobacter clocaeを含む他のEnterobacteriaceae、Clostridium spp.、Actinomyces spp.、Peptostreptococcus spp.、Cutibacterium acnes、Klebsiella pneumoniae、P.aeruginosaおよびBacteroides fragilisから選択される2またはそれを超える異なる細菌株から選択される、前述の請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌が、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisから選択される、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisのうちの少なくとも2つに感染することができる異なる溶菌特異性を有する少なくとも2つのファージを含む、前述の請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、異なる溶菌特異性を有する少なくとも3つのファージを含み、各ファージは、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisのうちの少なくとも1つに感染することができる、前述の請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記他の溶菌性ファージが、前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するゲノム配列を有する、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、
(a)ある地理的位置に存在すると知られている細菌株に適合した同定済みファージ;
(b)APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50から選択されるファージ
を含む、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記デバイスが、
(a)前記対象に永久に植え込まれている;
(b)前記対象に一時的に植え込まれている;
(c)取り外し可能である;かつ/または
(d)人工関節、左室補助装置(LVAD)、ステント、金属棒、留置カテーテル、脊椎機器および/もしくは脊椎器具、ならびに/または骨機器および/もしくは骨器具
から選択される、
前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記感染症が、人工関節感染症(PJI)、慢性細菌感染症、急性細菌感染症、難治性感染症、バイオフィルムに関連する感染症、植込み型デバイスに関連する感染症から選択される、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、
(a)IV注射によって;
(b)感染部位への直接注射によって;
(c)関節内注射によって;
(d)IM注射によって;
(e)予防的に;
(f)手術の前に;
(g)手術の代わりに;
(h)手術中に;
(i)1回で(すなわち、「シングルショット」として)、および/または
(j)2週間またはそれを超える治療過程として、
投与される、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
溶解が、
(a)成長阻害;
(b)光学密度;
(c)代謝出力;
(d)測光(例えば、蛍光、吸収および透過アッセイ);および/または
(e)プラーク形成
の変化によって測定される、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記測光の変化が、測光シグナルの検出を引き起こすおよび/または強める添加物を用いて測定され、好ましくは、前記添加物は、テトラゾリウム色素である、前述の請求項に記載の方法。
【請求項19】
前記生物学的試料が、
(a)滑液;
(b)植込み型デバイスの周囲の領域;
(c)感染部位;
(d)手術中の試料;
(e)前記デバイスのスワブ;
(f)バイオフィルム;
(g)フィステル;および/または
(h)感染部位の吸引物
から得られる、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記細菌感染症が、
(a)多種薬剤耐性である;
(b)抗菌剤処置に対して臨床的に治療難治性である;
(c)バイオフィルム生成に起因して抗菌剤処置に対して臨床的に治療難治性である;かつ/または
(d)有害反応に起因して前記対象が抗菌剤を許容できないことに起因して臨床的に治療難治性である、
前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、機器関連感染症に罹患している、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、人工関節感染症(PJI)に罹患している、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記ライブラリーが、所望されないおよび/または毒性の特徴を含むファージを除外するためにプレスクリーニングされたファージを含む、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
所望されないおよび/または毒性の特徴を含む前記除外されるファージが、トキシン遺伝子または他の細菌の病原性因子、溶原特性を有するかつ/または溶原性遺伝子を保有するファージ、細菌の病原性因子遺伝子または抗生物質耐性遺伝子を伝達するファージ、任意の抗生物質耐性遺伝子を保有するまたは細菌株に抗生物質耐性を付与し得るファージ、および不適当な免疫応答を誘発するかつ/または哺乳動物系において強いアレルギー応答を惹起するファージから選択される、前述の請求項に記載の方法。
【請求項25】
前記所望されないおよび/または毒性の特徴が、ゲノム編集によって排除される、請求項23または24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ファージ療法の分野に関し、特に、ファージベースの組成物を提供すること、およびファージベースの組成物を用いて、植込み型デバイスに関連する急性または慢性の細菌感染症を処置または予防するための方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の考察
以下の説明では、背景および導入目的のために、特定の物品および方法を説明する。本明細書に含まれるものは、先行技術の「承認」と解釈されるべきではない。出願人は、適切な場合には、本明細書で参照される物品および方法が、適用される法的規定の下で先行技術を構成しないことを明示する権利を明確に留保する。
【0003】
最も一般的には膝および股関節部の、部分関節置換術または全関節置換術は、毎年数百万人の患者が受ける、生活を向上させる一般的な手技である。ほとんどの場合、この手技は、非常に奏功し、痛みを緩和して、患者の機能および自立性を回復させる。比較的少数の症例において、人工関節デバイスの不具合(例えば、摩耗、デバイスの破損、位置異常によって引き起こされるもの)、または人工関節デバイスおよび隣接組織が関わる感染症である人工関節周囲感染症としても知られる人工関節感染症(PJI)の出現などの合併症が生じることがある。研究により、米国におけるPJIの発生率は、膝置換術で約2%および股関節置換術で最大約1.5%であると明らかにされた(Tande AJ & R Patel,Clin.Microbiol.Rev.27(2):302-345,2014)。しかしながら、この数は、比較的少ないが、PJIは、患者にとって非常に重大なリスクであり、痛みおよび腫れを伴うかなりの病的状態をもたらし、場合によっては切断が必要になるかつ/または患者の死につながる可能性がある。PJIの診断、処置および管理は、医療システムにとって非常に大きなコスト負担でもあり、2020年には米国だけで15億米ドルを超えると予測された;Kurtz SMら、J.Arthroplasty 27:61-65.e61,2012)。
【0004】
一般に、PJIは、3種類のPJIに大別されており;各々、手術後に感染が現れる時期によって区別されている。したがって、PJIは、(i)手術の3ヶ月以内の早期に発生する感染症(「早期発症型」PJI);(ii)手術の3ヶ月後かつ12または24ヶ月より前に遅れて発生する感染症(「遅延発症型」PJI);および(iii)手術の12~24ヶ月後より後に発生する感染症(「晩期発症型」PJI)を含む。PJI感染症は、手術後1ヶ月以内に発生する「急性」の感染症、または手術から1ヶ月より後に発生する「慢性」に分類されることもある。どの分類システムを用いるかに関係なく、早期PJI感染症は主に、Staphylococcus aureusなどの比較的毒性の微生物および/またはPseudomonas aeruginosaなどの好気性グラム陰性菌によって引き起こされ、遅延型PJIのタイプは、コアグラーゼ陰性S.aureus(CoNS)、Staphylococcus epidermidisおよび/またはEnterococci spp.などの毒性の低い細菌に起因するものが一般的である。早期型と遅延型の両方の種類が、手術中に獲得されると考えられているが、晩期型PJI感染症は、別の細菌感染部位からの二次感染(例えば、他の感染巣から血液を介した細菌の血行性伝播によって生じる)として頻繁に生じることがある。S.aureusは、血行性伝播から生じる晩期発症型PJIの一般的な原因微生物であるとみられる(Tande & Patel,前出)。
【0005】
PJIの処置を成功させるには、症例の大部分において通常、外科的介入および/または内科的治療(例えば、抗生物質などの抗菌剤による治療)が必要である。いくつかの処置は、デブリドマン(すなわち、感染/損傷した組織の外科的除去)、抗生物質による処置、およびインプラント(人工関節デバイス)の保定を伴い、DAIR手技と称され、他の場合では、処置は、抗菌剤による処置と組み合わせた1段階または2段階の関節置換形成術(Tande & Patel,前出)における人工関節デバイスの交換を必要とする。2段階の関節置換形成術の手技は、通常、「感染の根絶および関節機能の保存に関して最も確実なストラテジー」とみなされており、成功率は、股関節置換術で87~100%および膝置換術で72~95%もの高さであると報告されている(Tande & Patel,前出)。しかしながら、これらの2段階の手技は、複雑かつ高価であることがあり、2~3ヶ月またはそれを超える間隔をあけることもある少なくとも2回の手術、および抗菌剤による長期間の処置が必要となる。これは、一部の患者が、2段階の(または1段階の手技であっても)関節置換形成術に適さないか、またはさらなる手術を受けたがらないことを意味し、その場合、抗菌剤でPJIの処置を試みる以外の選択肢はほとんどない。しかしながら、これは、推奨されるものではなく、一般的には、患者に経口抗菌剤による長期または無期限の処置が行われ、慎重に治療的なモニタリングが継続される(Tande & Patel,前出)。
【0006】
抗菌剤によるPJIの効果的な処置に対する追加の厄介な問題は、その感染症が「複数菌感染症」であり得ることであり、これは、その感染症に2つ以上の原因微生物が存在することを意味する。これは特に、早期発症型PJIの場合であり、この場合、そのような感染症の最大35%が、S.aureus、Enterococci spp.、およびP.aeruginosaなどの好気性グラム陰性菌による感染を通常伴う複数菌感染症であると推定されている(Berbari EFら、Clin.Infect.Dis.27:1247-1254,1998;Peel TNら、Antimicrob.Agents Chemotherap.56:2386-2391,2012)。それゆえ、処置を成功させる場合には、抗菌剤の慎重な選択が必要である。
近年、PJIの処置の有効性および選択肢は、著しく改善したが、関節置換術患者におけるこれらの感染症ならびに植込み型デバイスに関連する他の感染症を効果的に処置および/または予防するための新規または改善された処置および/または管理ストラテジーを特定および開発する必要性が大いに高まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tande AJ & R Patel,Clin.Microbiol.Rev.27(2):302-345,2014
【非特許文献2】Kurtz SMら、J.Arthroplasty 27:61-65.e61,2012
【非特許文献3】Berbari EFら、Clin.Infect.Dis.27:1247-1254,1998
【非特許文献4】Peel TNら、Antimicrob.Agents Chemotherap.56:2386-2391,2012
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
この要旨は、以下の詳細な説明でさらに説明される概念の選択を簡略化した形で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の重要なまたは本質的な特徴を特定することを意図しておらず、特許請求される主題の範囲を限定するために使用されることも意図していない。特許請求される主題の他の特徴、詳細、有用性、および利点は、任意の添付の図面に示され、添付の特許請求の範囲に定義される態様を含む以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0009】
具体的には、開示される発明は、対象内に植え込まれたデバイスに関連する1または複数の細菌によって引き起こされる感染症を処置する方法であって、方法は、
(a)細菌に感染することができる少なくとも1つの同定済みファージを特定することであって、同定済みファージは、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/もしくはAPT-PJI-50、または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージから選択される少なくとも1つのファージを含むライブラリーから選択されること;および
(b)同定済みファージを含む治療有効量の組成物を対象に投与することであって、組成物は、感染症を処置および/または低減するのに効果的であること
を含む、方法を記載する。
【0010】
他の実施形態では、開示される発明は、細菌感染症に罹患しているか、罹患するリスクがあるかまたはそのための処置を受けるのに適合する対象を特定する方法であって、方法は、
(a)対象から生物学的試料を得るステップ;
(b)生物学的試料中に存在する細菌を培養するステップ;
(c)培養された細菌に、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50ならびに前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージのうちの1または複数のファージから選択される少なくとも1つのファージを含むライブラリーから選択される同定済みファージを接種するステップ;および
(d)培養された細菌が、同定済みファージによって溶解されるかを決定するステップであって、培養された細菌のいずれかが、ファージによって溶解されたとき、対象は、(1)細菌感染症に対するバクテリオファージによる処置に適格である、(2)細菌感染症に罹患している;かつ/または(3)細菌感染症に罹患するリスクがある、と決定されるステップ
を含む、方法を記載する。
【0011】
さらに記載される実施形態では、いずれかの方法において使用される組成物は、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/もしくはAPT-PJI-50、または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージからなる群から選択される少なくとも1つの同定済みファージを含む。
【0012】
他の実施形態は、下記でさらに説明される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
以下の定義は、以下の書面による説明において用いられる特定の用語に対して提供される。
【0014】
定義
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の言及を含む。また、当業者によって理解されるように、「ファージ」という用語は、単一のファージまたは2つ以上のファージを指すために使用することができる。
【0015】
本発明は、本発明の成分「を含む(comprise)」(オープンエンド)または「から本質的になる」ことができる。本明細書で使用される場合、「を含む(comprising)」は、列挙された要素、または構造もしくは機能におけるそれらの等価物、ならびに列挙されていない任意の他の要素または複数の要素を意味する。「有する」および「含む(including)」という用語はまた、文脈上別段の示唆がない限り、オープンエンドと解釈されるべきである。
【0016】
「約(about)」または「およそ(approximately)」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容され得る範囲内を意味し、これは値がどのように測定または決定されるか、例えば測定システムの制限に部分的に依存するであろう。例えば、「約」は、所与の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、より好ましくはさらに1%までの範囲を意味することができる。あるいは、特に生物学的システムまたは方法に関して、この用語は、一桁以内、例えば、値の5倍以内、または2倍以内を意味し得る。特に明記しない限り、「約」という用語は、特定の値に対して許容され得る誤差範囲内、例えば±1~20%、好ましくは±1~10%、より好ましくは±1~5%を意味する。さらなる実施形態では、「約」は、+/-5%を意味すると理解されるべきである。
【0017】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値、およびその記載された範囲内の任意の他の記載値または介在値が本発明に含まれることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立してより小さい範囲に含まれてもよく、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界を条件として、本発明に包含される。記載された範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界の両方を除外した範囲も本発明に含まれる。
【0018】
本明細書に列挙されるすべての範囲は、2つの値の範囲「間」を列挙するものを含む終点を含む。
【0019】
「約、」、「一般に、」、「実質的に、」、「およそ」などの用語は、絶対的ではなく、先行技術で読まれないように用語または値を修飾するものと解釈されるべきである。そのような用語は、それらの用語が当業者によって理解されるように、状況およびそれらが修飾する用語によって定義される。これは、少なくとも、値を測定するために使用される所与の技法についての予想される実験誤差、技法誤差、および機器誤差の程度を含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、2またはそれを超える項目のリストで使用される場合の「および/または」という用語は、列挙された特性のいずれか1つが存在し得るか、または列挙された特性の2またはそれを超える任意の組み合わせが存在し得ることを意味する。例えば、組成物が特徴A、Bおよび/またはCを含有すると記載されている場合、組成物はA特徴のみ、B単独、C単独、AおよびBの組み合わせ、AおよびCの組み合わせ、BおよびCの組み合わせ、またはA、BおよびCの組み合わせを含むことができる。
【0021】
当業者が理解している用語「バクテリオファージ」または「ファージ」とは、適切な宿主細胞、すなわち細菌宿主細胞においてのみ複製する非細胞性感染体を指す。
【0022】
用語「ファージ療法」とは、細菌感染症、あるいは細菌によって引き起こされる疾患もしくは症状(例えば、PJI)または細菌の存在に関連する症候もしくは疾患/症状の発症もしくは進行を示す疾患もしくは症状を処置する任意の治療を指す。ファージ療法は、細菌に感染するため、細菌を死滅させるためまたは細菌の増殖を阻害するために使用することができる1または複数の治療用ファージ組成物の処置を必要とする患者への投与を含むことがあり、その組成物は、1または複数の生存可能なファージを抗菌剤として含む(例えば、ファージ「カクテル」中に1つのファージタイプまたは2もしくはそれを超えるファージタイプを含む組成物)。その1または複数のファージタイプは、在庫品として貯蔵されている場合があるファージのストックから得てもよい。ファージ療法が、2つ以上の治療用ファージ組成物の投与を含む場合、それらの組成物は、異なる宿主域を有し得る(例えば、1つが広い宿主域を有し得、1つが狭い宿主域を有し得、かつ/または1もしくはそれを超える組成物が、互いに相乗的に作用し得る)。さらに、当業者がすぐに理解するように、ファージ療法において使用される治療用ファージ組成物は、典型的には、様々な従来の薬学的に許容され得る賦形剤、キャリア、緩衝剤および/または希釈剤から選択される一連の不活性成分も含む。
【0023】
「薬学的に許容され得る」という用語は、細胞、細胞培養物、組織または生物などの生物系と適合する非毒性物質を指すために使用される。薬学的に許容され得る賦形剤、担体、緩衝剤および/または希釈剤の例は、当業者によく知られており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(最新版)、Mack Publishing Company、Easton、Paに見出すことができる。例えば、薬学的に許容され得る賦形剤には、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質、結合剤、安定剤、保存剤、増量剤、吸着剤、消毒剤、洗剤、糖アルコール、ゲル化剤または増粘剤、香味剤および着色剤が含まれるが、これらに限定されない。薬学的に許容され得る担体としては、高分子、例えばタンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、トレハロース、脂質凝集体(油滴またはリポソームなど)、および不活性ウイルス粒子が挙げられる。薬学的に許容され得る希釈剤としては、限定されないが、水および生理食塩水が挙げられる。
【0024】
本発明は、ファージベースの組成物、および例えば人工関節感染症(「PJI」)などの植込み型デバイスに関連する感染症を処置するための方法を提供することに関する。その処置が、組成物を感染領域(例えば、関節)に必要に応じて単回用量として直接投与することを含むことがあるため、その組成物および方法は、かなりの単純さを提供し得、例えば、ファージ療法が、植込み型デバイス(例えば、感染した関節の人工関節デバイス)の交換の必要を潜在的に回避し得る。
【0025】
したがって、第1の態様において、本発明は、植込み型デバイスに関連する感染症(例えば、患者における人工関節感染症(PJI))を溶解することができる少なくとも2つの異なるバクテリオファージを含む医薬組成物を提供し、その医薬組成物は、IVによって感染位置に直接、および/または経口的に患者に投与するように製剤化されている。
【0026】
1つの実施形態において、少なくとも2つの異なるバクテリオファージは、植込み型デバイス感染症に存在し得る単一の細菌種または2もしくはそれを超える細菌種(すなわち、複数菌感染症の場合)を溶解する(すなわち死滅させる)ことができる能力について選択されたファージタイプであり得る。
【0027】
治療適応症に対するファージタイプの選択は、植込み型デバイス感染症に存在する細菌(すなわち、原因微生物)のタイプを決定する試験の結果に基づき得る;例えば、滑液吸引およびその後の固体上または液体培地中でのその滑液の培養によって、その培養物中に存在する細菌を、16S rRNA遺伝子配列解析(例えば、Whelan FJら、Ann.Am.Thorac.Soc.11:513-521,2014に記載)をはじめとした当業者によく知られた標準的な技術によって容易に決定することができる。生物学的試料は、個々のファージに対する感受性について細菌を評価するアッセイにも使用されることがあり、このアッセイは、組成物に含めるためのファージタイプを選択する上で非常に有益であり得る。
【0028】
ファージタイプの選択は、どの原因微生物が植込み型デバイス感染症に存在するかという予測または予想にも基づき得る。同様に、ファージタイプの選択は、どの原因微生物が特定の地理的位置に存在するかという予測または予想にも基づき得る。
【0029】
例えば、本組成物に含めるために選択されるファージは、遅延発症型デバイス感染症、例えば、一般に遅延発症型PJIの原因となる細菌、すなわち、S.aureus(例えば、コアグラーゼ陰性S.aureus)およびEnterococcus spp.(例えば、E.fecalisおよびEnterococcus fecium)を溶解することができるタイプを含み得る。そのような組成物は、一般にS.aureusによって引き起こされる晩期発症型PJIの処置にも効果的であり得る。あるいは、選択されるファージは、急性感染症または慢性感染症を処置するために使用することができる。適切に選択されたファージタイプを含めることによって標的とされ得る他の細菌としては、PJIを引き起こすと報告されている他のコアグラーゼ陰性Staphylococcus属の種、例えば、S.simulans(Razonable RRら、Mayo Clin.Proc.76:1067-1070,2001)、S.caprae(Allignet Jら、Microbiology 145(Part 8):2033-2042,1999)およびS.lugdunensis(Sampathkumar Pら、Mayo Clin.Proc.75:511-512,2000);ランスフィールドA、B、CおよびG群(Meehan AMら、Clin.Infect.Dis.36:845-849,2003;Zeller Vら、Presse Med.38:1577-1584,2009;およびKleshinski Jら、 South.Med.J.93:1217-1220,2000)、S.agalactiaeおよびS.pneumoniae(Raad Jら、Semin.Arthritis Rheum.34:559-569,2004)を含むPJIに関連する様々なStreptococcus spp.、好気性グラム陰性菌、例えば、大腸菌(Jaen Nら、Rev.Esp.Quimioter.25:194-198,2012)、他のEnterobacteriaceae(Hsieh PHら、Clin.Infect.Dis.49:1036-1043,2009)、例えば、Enterobacter clocae;およびその他のもの、例えば、Clostridium spp.、Actinomyces spp.、Peptostreptococcus spp.、Cutibacterium acnes(以前のPropionibacterium acnes)、Klebsiella pneumoniae、P.aeruginosaおよびBacteroides fragilis(Tande & Patel,前出)が挙げられる。
【0030】
さらに、組成物に含められる同定済みファージが、特定の地理的位置でよく生じる感染症に基づく適合したファージ組成物であり得ることも企図される。そのような「地理的に適合した(geomatched)」ファージの例は、2020年1月3日出願のUSSN62/956,729(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0031】
したがって、本発明の一態様は、対象内に植え込まれたデバイスに関連する1または複数の細菌によって引き起こされる感染症を処置する方法であって、方法は、
(a)細菌に感染することができる少なくとも1つの同定済みファージを特定することであって、同定済みファージは、表1に記載されるAPT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/もしくはAPT-PJI-50、または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージから選択される少なくとも1つのファージを含むライブラリーから選択されること;および
(b)同定済みファージを含む治療有効量の組成物を対象に投与することであって、組成物は、感染症を処置および/または低減するのに効果的であること
を含む、方法である。
【0032】
表1は、公開されたファージ(例えば、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17およびAPT-PJI-18)ならびに公的に入手可能でない専売のファージ(例えば、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50)に関連した情報を提供している。
【0033】
好ましい実施形態において、本組成物および本方法は、専売のファージの任意の組み合わせを用いて行われる。具体的には、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つおよび/または少なくとも5つのファージを用いて、本明細書に記載のPJI感染症に罹患している患者を処置する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0034】
別の態様では、開示される発明は、細菌感染症に罹患している、罹患するリスクがあるおよび/またはそのためのファージ処置に適合する対象を特定する方法であって、方法は、
(a)対象から生物学的試料を得るステップ;
(b)生物学的試料中に存在する細菌を培養するステップ;
(c)培養された細菌に、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50ならびに前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージのうちの1または複数のファージから選択される少なくとも1つのファージを含むライブラリーから選択される同定済みファージを接種するステップ;および
(d)培養された細菌が、同定済みファージによって溶解されるかを決定するステップであって、培養された細菌のいずれかが、ファージによって溶解されたとき、対象は、(1)細菌感染症に対するバクテリオファージによる処置に適格である、(2)細菌感染症に罹患している;かつ/または(3)細菌感染症に罹患するリスクがある、と決定されるステップ
を含む、方法である。
【0035】
好ましい実施形態では、組成物は、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージからなる群から選択される少なくとも1つの同定済みファージを含む。
【0036】
なおさらに好ましい実施形態では、組成物は、APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-13、APT-PJI-14、APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18、APT-PJI-20、APT-PJI-21、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45、APT-PJI-46、APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49および/またはAPT-PJI-50または前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有し、細菌の溶解を引き起こすことができる、他の任意の溶菌性ファージからなる群から選択される少なくとも2つの同定済みファージを含む。
【0037】
さらなる態様において、少なくとも2つの同定済みファージは、(a)同じ細菌株において溶解を引き起こし;(b)異なる細菌株において溶解を引き起こす。
【0038】
他のさらなる態様において、上記2つの同定済みファージのうちの1つは、(a)APT-PJI-01、APT-PJI-02、APT-PJI-03、APT-PJI-04、APT-PJI-05、APT-PJI-06、APT-PJI-07、APT-PJI-08、APT-PJI-09、APT-PJI-10、APT-PJI-11、APT-PJI-12、APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45およびAPT-PJI-46ならびに(a)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択されるか;(b)APT-PJI-13、APT-PJI-14および(b)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択されるか;(c)APT-PJI-15、APT-PJI-16、APT-PJI-17、APT-PJI-18および(c)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージから選択されるからなる群より選択されるか;(d)APT-PJI-20またはAPT-PJI-21および(d)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択されるか;または(e)APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49またはAPT-PJI-50および(e)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択される。
【0039】
さらなる態様において、上記2つの同定済みファージは、先のパラグラフに記載されたファージ由来の、(a)および(b)の各々から選択される;(a)および(c)の各々から選択される;(a)および(d)の各々から選択される;(a)および(e)の各々から選択される;かつ/または(b)および(c)の各々から選択される、(b)および(d)の各々から選択される;(b)および(e)の各々から選択される;かつ/または(c)および(d)の各々から選択される;(c)および(e)の各々から選択される;かつ/または(d)および(e)の各々から選択される。さらなる態様において、上記組成物は、少なくとも3つの同定済みファージを含み、その同定済みファージの少なくとも1つは、先のパラグラフに記載されたファージ由来の(a)、(b)、(c)、(d)および/または(e)の各々から選択される。
【0040】
他のさらなる態様において、上記2つの同定済みファージのうちの1つは、(a)(a)APT-PJI-22、APT-PJI-23、APT-PJI-24、APT-PJI-25、APT-PJI-26、APT-PJI-27、APT-PJI-28、APT-PJI-29、APT-PJI-30、APT-PJI-31、APT-PJI-32、APT-PJI-33、APT-PJI-34、APT-PJI-35、APT-PJI-36、APT-PJI-37、APT-PJI-38、APT-PJI-39、APT-PJI-40、APT-PJI-41、APT-PJI-42、APT-PJI-43、APT-PJI-44、APT-PJI-45およびAPT-PJI-46ならびに(a)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択されるか;(b)APT-PJI-20またはAPT-PJI-21および(b)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択されるか;または(c)APT-PJI-47、APT-PJI-48、APT-PJI-49またはAPT-PJI-50および(c)の中の前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するゲノム配列を有する他の任意の溶菌性ファージからなる群より選択される。
【0041】
さらなる態様において、上記2つの同定済みファージは、先のパラグラフに記載されたファージ由来の、(a)および(b)の各々から選択される;(a)および(c)の各々から選択される;かつ/または(b)および(c)の各々から選択される。さらなる態様において、上記組成物は、少なくとも3つの同定済みファージを含み、その同定済みファージの少なくとも1つは、先のパラグラフに記載されたファージ由来の(a)、(b)および(c)の各々から選択される。
【0042】
さらなる態様では、組成物は、105~1013pfuの範囲内、好ましくは、106~1012pfu;107~1011pfu;108~1011pfu;109~1011pfu;109~1010pfuの範囲内の用量またはおよそ106pfu、107pfu、108pfu、109pfu、1010pfu、1011pfu、1012pfuもしくは1013pfuという用量の各ファージを提供する。最も好ましい実施形態において、本組成物中の各ファージの用量は、およそ109pfuである。
【0043】
したがって、本組成物は、適切な用量の各ファージタイプがその組成物中に含まれるように製剤化され得る。単なる例として、ファージの適切な用量は、105~1013pfu、より好ましくは109~1012pfuの範囲内である。最も好ましくは、本組成物は、約109pfu、1010pfuまたは1011pfuという用量の各ファージタイプが存在するように製剤化されている。
【0044】
好ましい実施形態では、細菌は、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalisおよびEnterococcus feciumを含むEnterococcus spp.、S.simulans、S.capraeおよびS.lugdunensisを含む他のコアグラーゼ陰性Staphylococcus属の種、ランスフィールドA、B、CおよびG群、S.agalactiaeおよびS.pneumoniaeを含むStreptococcus spp.、大腸菌を含む好気性グラム陰性菌、Enterobacter clocaeを含む他のEnterobacteriaceae、Clostridium spp.、Actinomyces spp.、Peptostreptococcus spp.、Cutibacterium acnes、Klebsiella pneumoniae、P.aeruginosaならびにBacteroides fragilisのうちの少なくとも1つから選択される。
【0045】
他の好ましい実施形態では、細菌は、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalisおよびEnterococcus feciumを含むEnterococcus spp.、S.simulans、S.capraeおよびS.lugdunensisを含む他のコアグラーゼ陰性Staphylococcus属の種、ランスフィールドA、B、CおよびG群、S.agalactiaeおよびS.pneumoniaeを含むStreptococcus spp.、大腸菌を含む好気性グラム陰性菌、Enterobacter clocaeを含む他のEnterobacteriaceae、Clostridium spp.、Actinomyces spp.、Peptostreptococcus spp.、Cutibacterium acnes、Klebsiella pneumoniae、P.aeruginosaおよびBacteroides fragilisから選択される2またはそれを超える異なる細菌株から選択される。
【0046】
なおさらに好ましい実施形態では、細菌は、S.aureus、S.epidermidisおよび/またはE.fecalisから選択される。そのような感染症を処置するために、組成物は、S.aureus、S.epidermidisおよび/またはE.fecalisのうちの少なくとも2つに感染することができる異なる溶菌特異性を有する少なくとも2つのファージを含むことができる。他の態様では、組成物は、例えば、異なる溶菌特異性を有する少なくとも3つのファージを含み、各ファージは、S.aureus、S.epidermidisおよびE.fecalisのうちの少なくとも1つに感染することができる。
【0047】
好ましくは、溶菌性ファージは、前述のファージのいずれかのゲノム配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するゲノム配列を有する。
【0048】
本明細書で言及される配列同一性パーセンテージは、National Center for Biotechnology Informationのデータベース(NCBI;Bethesda,MD,United States of America)からのBLASTアルゴリズムを用いて2つのポリヌクレオチド配列を比較することによって算出されたものと理解されるだろう。
【0049】
用語「配列類似性パーセント(%)」、「配列同一性パーセント(%)」などは、一般に、共通の進化的起源を共有していてもよいし共有していなくてもよい、核酸分子の異なるヌクレオチド配列間またはポリペプチドの異なるアミノ酸配列間の同一性または一致の程度を指す(Reeckら、前出を参照のこと)。配列同一性は、いくつかの公的に利用可能な配列比較アルゴリズムのいずれか、例えば、BLAST、FASTA、DNA Strider、GCG(Genetics Computer Group,Program Manual for the GCG Package,Version 7,Madison,Wisconsin)などを用いて決定することができる。
【0050】
2つのアミノ酸配列間または2つの核酸分子間の同一性パーセントを決定するために、それらの配列を、最適な比較の目的のためにアラインメントする。2つの配列間の同一性パーセントは、それらの配列が共有する同一の位置の数の関数である(すなわち、同一性パーセント=同一の位置の数/位置(例えば、重複する位置)の総数×100)。1つの実施形態において、それらの2つの配列は、同じ長さであるかまたはほぼ同じ長さである。2つの配列間の同一性パーセントは、以下に説明される技法と類似の技法をギャップの許容ありまたはなしで用いて決定することができる。パーセント配列同一性を算出する際、典型的には、完全一致をカウントする。
【0051】
2つの配列間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。2つの配列の比較に利用される数学的アルゴリズムの非限定的な例は、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90:5873-5877におけるように改変された、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1990,87:2264のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、Altschulら、J.Mol.Biol.1990;215:403のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている。NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いてBLASTヌクレオチド検索を行うことにより、本発明の配列に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いてBLASTタンパク質検索を行うことにより、本発明のタンパク質配列に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的の、ギャップの入ったアラインメントを得るために、Altschulら、Nucleic Acids Res.1997,25:3389に説明されているようにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI-Blastを用いることにより、分子間の距離関係を検出する反復検索を行うことができる。Altschulら(1997)前出を参照のこと。BLAST、Gapped BLASTおよびPSI-Blastプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトのパラメータを使用することができる。ワールドワイドウェブ上のncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照のこと。
【0052】
配列を比較するために利用される数学的アルゴリズムの別の非限定的な例は、Myers and Miller,CABIOS 1988;4:1 1-17のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用するとき、PAM120重み付き残基表、12というギャップ長ペナルティおよび4というギャップペナルティを使用することができる。
【0053】
好ましい実施形態において、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラム(Accelrys,Burlington,MA;ワールドワイドウェブ上のaccelrys.comにおいて利用可能)に組み込まれているNeedlemanおよびWunschのアルゴリズム(J.Mol.Biol.1970,48:444-453)を用いて、Blossum62行列またはPAM250行列、16、14、12、10、8、6または4というギャップ重み、および1、2、3、4、5または6という長さ重みを用いて、決定される。なおも別の好ましい実施形態において、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラムを用いて、NWSgapdna.CMP行列、40、50、60、70または80というギャップ重み、および1、2、3、4、5または6という長さ重みを用いて決定される。特に好ましいパラメータのセット(および実務家が、分子が本発明の配列同一性または配列相同性の限界であるかを決定するためにどのようなパラメータを適用すべきか不明である場合に使用できるもの)は、Blossum62スコア行列を、12というギャップオープンペナルティ、4というギャップ伸長ペナルティ、および5というフレームシフトギャップペナルティとともに用いるものである。
【0054】
同一性パーセントを決定できる方法の別の非限定的な例は、Current Protocols In Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987)Supplement 30,section 7.7.18,Table 7.7.1に説明されているソフトウェアプログラムなどのソフトウェアプログラムを使用することである。好ましくは、デフォルトのパラメータをアラインメントに使用する。好ましいアラインメントプログラムは、デフォルトのパラメータを用いるBLASTである。特に、好ましいプログラムは、以下のデフォルトのパラメータを用いるBLASTNおよびBLASTPである:遺伝暗号=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;行列=BLOSUM62;説明=50配列;ソート=高スコア別;データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、以下のインターネットアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLASTに見られる。
【0055】
本明細書に記載の特性の統計解析は、標準的な検定、例えば、t検定、ANOVAまたはカイ二乗検定によって行われ得る。典型的には、統計的有意性は、p=0.05(5%)、より好ましくはp=0.01、p=0.001、p=0.0001、p=0.000001のレベルで測定される。
【0056】
好ましい態様では、本明細書に記載の方法は、デバイスに関連し、デバイスは、(a)対象に永久に植え込まれている;(b)対象に一時的に植え込まれている;(c)取り外し可能である;かつ/または(d)人工関節、左室補助装置(LVAD)、ステント、金属棒、留置カテーテル、脊椎機器、ならびに/または骨機器から選択される。
【0057】
さらなる態様では、感染症は、人工関節感染症(PJI)、慢性細菌感染症、急性細菌感染症、難治性感染症、バイオフィルムに関連する感染症、および/または植込み型デバイスに関連する感染症から選択される。
【0058】
さらなる態様では、本明細書に記載の方法は、組成物に関連し、組成物は、例えば、
(a)IV注射によって;(b)感染部位への直接注射によって;(c)予防的に;(d)手術の前に;(e)手術の代わりに;(f)手術中に;(g)1回で(すなわち、「シングルショット」として)、および/または(h)2週間またはそれを超える治療過程として、投与される。
【0059】
さらなる態様では、ファージによる細菌の溶解は、これらに限定されないが、(a)成長阻害;(b)光学密度;(c)代謝出力;(d)測光(例えば、蛍光、吸収および透過アッセイ);および/または(e)プラーク形成など当該技術分野において公知のアッセイを使用して測定できる。
【0060】
好ましい態様では、溶解を測定するために使用される測光アッセイは、測光シグナルの検出を引き起こすおよび/または強める添加物を使用する。そのような添加物の例として、テトラゾリウム色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
他の好ましい態様では、生物学的試料は、(a)滑液;(b)植込み型デバイスの周囲の領域;(c)感染部位;(d)手術中の試料;(e)デバイスのスワブ;(f)バイオフィルム;(g)フィステル;および/または(h)感染部位の吸引物
から得られる。
【0062】
さらなる態様では、細菌感染症は、(a)多種薬剤耐性である;(b)抗菌剤処置に対して臨床的に治療難治性である;(c)バイオフィルム生成に起因して抗菌剤処置に対して臨床的に治療難治性である;かつ/または(d)有害反応に起因して対象が抗菌剤を許容できないことに起因して臨床的に治療難治性である。
【0063】
本明細書で理解されるように、用語「多剤耐性」、「多種薬剤耐性(multi drug resistant)」、「多種薬剤耐性(multi drug resistance)」、「MDR」などの用語は、本明細書で交換可能に使用されてよく、当業者に知られており、すなわち、多剤耐性細菌は、複数の異なる抗菌薬、例えば、抗生物質に対して耐性;より詳細には、複数の異なるクラスの抗生物質に対して耐性を示す生物である。処置される細菌感染症は、バイオフィルム内の細菌および/またはプランクトン増殖様式(planktonic growth modes)の細菌を含むと本明細書で理解される。
【0064】
処置され得る典型的なMDR細菌の例としては、性質上、院内感染であることが多く、重症の局所感染症および全身感染症を引き起こし得る、「ESKAPE」病原体(Enterococcus faecium、Staphylococcus aureus、Klebsiella pneumonia、Acinetobacter baumannii、Pseudomonas aeruginosaおよびEnterobacter sp)が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、これらとしては、例えば、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA);バンコマイシン耐性Enterococcus faecium(VRE);カルバペネム耐性Klebsiella pneumonia(NDM-1);MDR-Pseudomonas aeruginosa;およびMDR-Acinetobacter baumanniiが挙げられる。
【0065】
ESKAPE病原体のうち、A.baumanniiは、病院の集中治療室内で容易に広がるグラム陰性で被包性の日和見病原体である。例えば、A.baumannii感染は、典型的には、気道、尿路および創傷で見られる。多くのA.baumannii臨床分離株は、MDRでもあり、これにより、利用可能な処置の選択肢が著しく制限され、外傷における治療不能な感染は、治癒期間の延長、広範な外科的デブリドマンの必要性、および場合によっては肢のさらなる切断または完全切断をもたらすことが多い。特に、軍隊集団における爆風関連の傷害は、著しい組織破壊とそれと同時に起きる大量の失血を伴うので、これらの傷害は、感染性合併症のリスクが高い。A.baumanniiおよび他のMDR ESKAPE病原体が、多くの環境設定においてコロニー形成でき、生存できることを考えると、当業者は、これらの病原体に対する新しい治療薬が緊急に必要であることを理解するであろう。
【0066】
さらなる態様において、対象は、機器関連感染症に罹患している。
【0067】
好ましい実施形態において、その感染症は、人工関節感染症(PJI)である。例えば、本発明の組成物は、タイプを問わず、PJIの処置に有用であり得る。つまり、2またはそれを超えるファージを適切に選択することによって、本組成物は、早期発症型、遅延発症型および晩期発症型のPJI、ならびに複数菌感染の結果であるPJIの処置に有益になり得る。同様に、他の好ましい実施形態において、本明細書に記載の組成物は、急性および/または慢性感染症、好ましくは、PJI感染症を処置するために使用できる。本発明の組成物は、特に股関節、膝、肩および肘の人工関節置換術に関連するPJIの処置に有用であり得る。
【0068】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法において使用されるライブラリーは、所望されないおよび/または毒性の特徴を含むファージを除外するためにプレスクリーニングされたファージを含む。そのような所望されないおよび/または毒性の特徴の例は、トキシン遺伝子または他の細菌の病原性因子、溶原特性を有するかつ/または溶原性遺伝子を保有するファージ、細菌の病原性因子遺伝子または抗生物質耐性遺伝子を伝達するファージ、任意の抗生物質耐性遺伝子を保有するまたは細菌株に抗生物質耐性を付与し得るファージ、および不適当な免疫応答を誘発するかつ/または哺乳動物系において強いアレルギー応答を惹起するファージから選択される。そのようなプレスクリーニングされたファージライブラリーを作製する例は、例えば、US10,357,522(その開示の全体が参照により本明細書に援用される)に説明されている。
【0069】
細菌感染症を処置するためにバクテリオファージを使用することによって起き得る結果は、抗生物質耐性、トキシン形成および哺乳動物の望まれない自然免疫応答であることが知られている(Quirosら、Antimicrob Agents Chemother 58:606-609,2014;do Valeら、Front.Microbiol.7:42,2016)。いくつかの観点において、所望されないおよび/または毒性の特徴を含むファージを、はじめにライブラリーから除外することができる。所望されないおよび/または毒性の表現型を除外および/または低減するためにファージを遺伝的に変更することも当該技術分野の技術の範囲内であることがよく理解されている。有害な表現型は、ファージの一本鎖DNA上に位置する遺伝子までさかのぼることができる。これらの遺伝子を除去するため、およびファージがこれらの特徴を植込み型デバイス内の慢性感染症に関連する細菌に水平伝播するのを防ぐために、CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)などのシステムを用いて、遺伝物質を編集することができる。DNAゲノムまたはRNAゲノムを有するファージは、CRISPRシステムを用いて操作され得る。
CRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集
【0070】
CRISPR/Cas9システムと称されるCRISPRおよびCRISPR関連タンパク質9(Cas9)が、遺伝子編集を行うために使用され得る。遺伝子編集には、遺伝子挿入、遺伝子置換、遺伝子欠失、フレームシフト、単一ヌクレオチド変化、ナンセンス変異、ミスセンス変異などが含まれるが、これらに限定されない。遺伝子編集には、遺伝子発現を調節するための制御配列の編集も含まれることがある。これらの技術に基づくと、様々な細胞株および生殖系列配列において遺伝子を変異、修復または調節することができる。CRISPR/Cas9システムの総説は、Hsuら、“Development and Applications of CRISPR-Cas9 for Genome Engineering”Cell(2014)vol.157:1262に見られる場合がある。CRISPR/Cas9システムの使用の指針は、Addgene(addgene.org/CRISPR/guide)に見られる場合がある。
【0071】
CRISPR/Cas9システムを用いることにより、様々な細胞型および生物において特定の遺伝子を「ノックアウト」および「ノックイン」すること、ならびに特定の遺伝子を選択的に活性化または抑制すること、DNAの特定の領域を精製すること、蛍光顕微鏡法を用いて生細胞内のDNAを画像化すること、ならびに他の多くの用途で使用することができる。
【0072】
本発明の実施形態によると、CRISPR/Cas9システムは、所望されないおよび/または毒性の表現型を排除および/または低減するためにファージ内の遺伝子を編集するために使用することができる。毒性の表現型を低減または排除することによって、抗生物質耐性を含む細菌感染症、トキシン形成および哺乳動物の望まれない自然免疫応答を処置するためのバクテリオファージ療法の所望されない効果が、低減または排除されることから、それらのファージが、感染症の処置において有用であると予想される。
【0073】
本発明の他の実施形態によると、CRISPR/Cas9システムによって編集されたファージは、患者に投与され得る。本発明のなおもさらなる実施形態において、CRISPR/Cas9システムによって編集されたファージは、本明細書に記載の1または複数のさらなる作用物質と併用され得る。
【0074】
従来、時間のかかる高難度のプロセスだったファージのゲノム編集は、CRISPR/Cas9システムを用いて効率的に行うことができる。いくつかの場合において、CRISPR/Cas9システムによる編集は、Cas9遺伝子、ガイドRNA、および該当する場合、ヌクレオチド置換配列の送達の24時間以内に生じ得る。
CRISPR/Cas9システムの構成要素
【0075】
一般に、CRISPR/Cas9システムは、少なくとも2つの構成要素:(i)DNA二重らせんの両方の鎖を切断することができるヌクレアーゼであるCas9タンパク質;および(ii)目的遺伝子(ゲノム標的)の特定の位置または遺伝子座に対してCas9を標的とするように設計されている少なくとも1つのRNA配列(例えば、ガイドRNA(gRNA)配列、例えば、一本鎖ガイドRNA(sgRNA)配列)を含む。gRNAは、ゲノム標的にCas9をリクルートするために、ゲノム標的に相同な標的化配列、ならびにCas9に結合する足場ドメインを含む。
非相同末端結合
【0076】
いくつかの実施形態において、CRISPR/Cas9システムは、ゲノム標的において二本鎖DNA切断を誘導する。この切断は、非相同末端結合(NHEJ)を用いる細胞の修復機構を刺激すると考えられている。ランダムな挿入または欠失による遺伝子破壊につながり得る非相同末端結合は、二本鎖切断(DSB)を修復するための主要な機構であると考えられている。NHEJ媒介性のDSB修復は、ゲノム標的のオープンリーディングフレーム(ORF)を破壊して、非機能タンパク質をもたらすことができる。
【0077】
NHEJ法の場合、Cas9ならびにgRNAは、例えば、予め組み立てられた複合体として、または1もしくはそれを超える発現ベクターに挿入された状態で、宿主細胞に導入される。
相同組換え修復(Homology Directed Repair)
【0078】
他の実施形態において、CRISPR/Cas9システムは、ゲノム標的における1または複数のヌクレオチドを修復、置換または挿入するために利用される。この方法では、置換ヌクレオチド配列を細胞に導入する。ここで、その置換ヌクレオチド配列は、ゲノム標的の上流および下流に所望の編集ならびに相同性領域を含む。相同組換え修復(HDR)を行うためには、gRNA、例えば、インビトロで転写されたsgRNA、および置換ヌクレオチド配列と複合体化した、Cas9、例えば、Streptococcus pyogenes由来の組換えCas9が必要である。
【0079】
相同組換え修復(HDR)は、単一のヌクレオチド塩基の変更から大きなヌクレオチド配列の挿入にわたる遺伝子編集を行うために使用され得る。遺伝子編集にHDRを利用するために、置換ヌクレオチド配列が、gRNAおよびCas9とともに細胞内に送達される。置換ヌクレオチド配列は、所望のゲノム編集、ならびにゲノム標的配列のすぐ上流および下流にさらなる相同配列(左相同性アームおよび右相同性アームと称される)を含む。置換ヌクレオチド配列は、特定の用途に応じて、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖DNAプラスミドなどであり得る。一般に、置換ヌクレオチド配列は、Cas9切断の標的とならないようにプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含まない。
gRNA
【0080】
先に論じたように、gRNAは、標的化配列および足場ドメインを含む。発現されると、Cas9およびgRNAは、gRNAと足場ドメインとの相互作用を介してリボタンパク質複合体を形成する。gRNAが結合すると、Cas9は、標的化配列が自由にゲノム標的DNAと相互作用できるようにするのと同時に、DNAと結合する形態に立体構造変化を起こす。ゲノム標的DNAを切断するCas9の場合、標的化配列は、ゲノム標的配列に対して高い相同性を示すべきである。一般に、標的配列は、20ヌクレオチドまたは約20ヌクレオチドを含み、合成RNAであり得る。
【0081】
一般に、「標的配列」または「標的化配列」とは、gRNAの配列(例えば、足場ドメインと会合しない部分)を指す。「ゲノム標的」または「ゲノム標的配列」とは、編集のために標的とされるゲノムの配列または遺伝子座を指す。
【0082】
gRNAは、標的配列を用いてCas9のヌクレアーゼ活性をゲノム標的に集中させる。標的配列が、ゲノム標的に結合またはハイブリダイズしたら、Cas9は、その部位においてまたはその部位の近くにおいてゲノムDNAを切断する。標的配列を変更することによって、Cas9のゲノム標的を改変することができる。
【0083】
いくつかの実施形態において、gRNAは、商業的に入手可能なキット、例えば、Guide-it sgRNA In Vitro Transcription Kitを用いて合成され得る。インビトロ転写を用いることにより、当該技術分野で知られている技術を用いて精製され得るgRNAを作製してもよい。
ゲノム標的
【0084】
ゲノム標的配列は、オフターゲット効果を回避するために、当該生物または細胞の残りのゲノムと比べてユニークであるべきである。
【0085】
さらに、ゲノム標的配列は、ゲノムのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列のすぐ上流に存在するべきである。PAM配列は、Cas9の結合のために必要であり、正確なPAM配列は、使用されるCas9の種に依存する。Streptococcus pyogenes由来のCas9が、ゲノム工学において広く使用される。一般に、Cas9は、PAM配列に結合し、PAM配列のおよそ3塩基対上流でDNA切断が生じる。
【0086】
PAM配列の例は、5’-NGG-3’である。ゲノム標的配列は、ゲノムDNAのどちらかの鎖に存在し得る。
【0087】
いくつかのオンラインツール(例えば、http://crispr.mit.edu/またはhttps://chopchop.rc.fas.harvard.edu/)が、PAM配列を選択するために利用可能であり、目的のゲノム遺伝子座またはゲノム位置(例えば、CXCR4、PD-1などのタンパク質をコードするゲノム位置)内の潜在的なゲノム標的配列のリストも提供する。これらのツールは、他の位置でのゲノムDNAの切断を最小限に抑えるゲノム標的配列の選択を可能にするために、オフターゲット効果も予測する。
ベクターおよび宿主細胞
【0088】
CRISPR/Cas9システム用のベクターを含む様々なタイプのベクターの構築は、米国特許出願第2014/0273226号(参照により本明細書に援用される)に見られる場合がある。
【0089】
一般に、ポリヌクレオチド、例えば、Cas9をコードするポリヌクレオチド、gRNA配列をコードするポリヌクレオチド、置換ヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチドなどが、任意の所望のDNAまたはRNAベースのベクターに制限なく組み込まれ得る。例えば、発現ベクター、サブクローニングベクター、シャトルベクター、インビトロ転写反応で使用するために設計されたベクター、コスミド、ファージミド、およびレトロウイルス(例えば、レンチウイルス)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)をはじめとした哺乳動物ウイルスに由来するベクター、ならびにエプスタイン・バーウイルス起源のエピソームEBNAベースのベクターにポリヌクレオチドがクローニングされ得る。
【0090】
いくつかの実施形態において、ベクターは、環状の形態であっても直鎖状の形態であってもよい。直鎖状の形態は、サブクローニングのステップ、例えば、gRNA標的配列を宿主ベクターにクローニングするステップにおいて使用され得る。
【0091】
当業者は、遺伝子産物を発現するための多種多様の発現ベクターが、本発明の実施形態の範囲内であることを理解するだろう。発現ベクターは、タンパク質、例えば、Cas9、バリアントCas9などを宿主細胞において発現するように最適に設計することができる。例えば、タンパク質(例えば、Cas9オープンリーディングフレーム(ORF))をコードするヌクレオチド配列および適切な調節エレメントを含むベクターが、トランスフェクション、形質導入などの任意の適切な方法によって宿主細胞に送達され得る。転写または翻訳の制御に関わる任意のタイプおよび任意の量の調節エレメントが、発現ベクターに組み込まれてよく、ORFの上流または下流に配置され得る。宿主細胞に入ると、宿主細胞自体の機構、例えば、内在性のRNAポリメラーゼなどが、mRNAを合成するために使用され得、そのmRNAが翻訳されてタンパク質が生成される。
【0092】
他の実施形態において、発現ベクターは、機能性RNA分子、例えば、Cas9をゲノム標的配列に繋ぎとめるためのガイドRNAを発現するように最適に設計される。
【0093】
いくつかの実施形態において、Cas9 mRNAおよびgRNAは、同じ発現ベクターから発現される。他の実施形態において、Cas9 mRNAおよびgRNAは、異なる発現ベクターから発現される。発現ベクターに挿入されたCas9遺伝子は、例えば、Streptococcus pyogenes、Staphylococcus aureusなどに由来する天然の細菌Cas9遺伝子であり得る。いくつかの実施形態において、発現ベクターは、哺乳動物発現ベクター、例えば、ヒト発現ベクターであり得、1または複数のプロモーターエレメント、例えば、T7プロモーターなどのバクテリオファージプロモーターエレメントを含み得る。
【0094】
さらなる実施形態において、Cas9をコードする遺伝子は、核局在化シグナルをコードする1または複数の遺伝子に動作可能に連結され得、それにより、発現されたCas9/gRNAが宿主細胞の核に標的化される。
【0095】
なおも他の実施形態において、Cas9をコードする遺伝子は、遺伝子編集が行われる生物にとって好ましいコドン使用頻度を反映するように最適化される。例えば、遺伝子編集がファージにおいて行われる場合、発現ベクター構築物内のCas9をコードする遺伝子は、好ましいコドン利用を反映するように最適化される。
【0096】
いくつかの実施形態において、ファージが、単離され得、予め組み立てられたgRNA/Cas9複合体が、自由選択のヌクレオチド置換配列とともに宿主細胞にエレクトロポレートされ得る。gRNA配列は、1または複数の遺伝子のエキソンコード領域と相同性を有するように設計され得る。
【0097】
他の実施形態において、CRISPR/Cas9システムは、複数のgRNAを単一のベクターにクローニングすることによって、複数の遺伝子座(ゲノム標的)の標的化を可能にする。
【0098】
本実施形態は、本明細書に記載のCRISPR/Cas9システムを用いたインビボでの遺伝子置換、遺伝子変異および遺伝子修復のための組成物および方法も提供する。このシステムは、高度に特異的な様式での細胞ゲノムの操作に有用である。いくつかの実施形態において、CRISPR/Cas9システムによって作製された、操作された細胞株は、ヒト疾患を処置するための治療的な移植に有用である。細菌感染症から生じるヒト疾患は、本発明の組成物および方法、または本発明の組成物および方法によって作製された、編集済みの細胞株で処置することができる。
【0099】
本発明の実施形態によると、宿主細胞またはファージの特異的なゲノム改変のための方法が提供され、その方法は、(i)Cas9タンパク質またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチドおよびgRNAをコードする第2のポリヌクレオチドを含む発現ベクター構築物を提供することであって、ここで、そのgRNAは、目的のゲノム遺伝子座に相同な標的配列を含むこと、(ii)目的のゲノム遺伝子座を含む宿主細胞を提供すること、(iii)発現ベクター構築物を宿主細胞内に送達すること、および(iv)宿主細胞内で第1および第2のポリヌクレオチドを発現することを含む。いくつかの実施形態において、その方法は、ゲノム標的において遺伝子編集を有する宿主細胞を可視化すること、同定することまたは選択することをさらに含み得る。
【0100】
本発明の他の実施形態によると、宿主細胞の特異的なゲノム改変のための方法が提供され、その方法は、(i)Cas9タンパク質をコードし、転写制御領域またはそのバリアントを有する第1のポリヌクレオチドを含む第1の発現ベクターおよびgRNAをコードする第2のポリヌクレオチドを含む第2の発現ベクターを提供することであって、ここで、そのgRNAは、ゲノム標的に相同な標的配列を含むこと、(ii)そのゲノム標的を含む宿主細胞を提供すること、(iii)それらの2つの発現ベクター構築物を宿主細胞内に(例えば、トランスフェクションを介して)送達すること、および(iv)宿主細胞内で第1および第2のポリヌクレオチドを発現することを含む。いくつかの実施形態において、その方法は、ゲノム標的において遺伝子編集を有する宿主細胞を可視化すること、同定することまたは選択することを含み得る。目的遺伝子の発現をコントロールするプロモーター領域などの制御領域を標的とすることによって、発現が調節、例えば、抑制または活性化され得る。
【0101】
本発明のなおも他の実施形態によると、宿主細胞の特異的なゲノム改変のための方法が提供され、その方法は、(i)gRNAと複合体化したCas9タンパク質を提供することであって、ここで、そのgRNAは、ゲノム標的に相同な標的配列を含むこと、(ii)そのCas9タンパク質/gRNA複合体を、ゲノム標的を含む宿主細胞にエレクトロポレートすること、(iii)ゲノム標的(ゲノム遺伝子座)によってコードされるタンパク質の発現レベルに基づいて宿主細胞を選択することを含む。いくつかの実施形態において、その方法は、ゲノム標的によってコードされる細胞表面タンパク質の存在について宿主細胞を染色すること、およびフローサイトメトリーを用いて、低レベルの細胞表面タンパク質を発現している宿主細胞を選択することをさらに含み得る。
【0102】
本発明のなおも他の実施形態において、2つ以上のゲノム標的(目的の遺伝子座)が、同時に遺伝子編集の標的とされる。したがって、発現ベクターは、複数のヌクレオチド配列を含み得、その各ヌクレオチド配列は、異なる標的化配列を有する異なるgRNAをコードし、各標的化配列は、ゲノム標的に対応する。あるいは、複数の発現ベクターが使用され得、その各発現ベクターは、1または複数の標的化配列を含み、各標的化配列は、ゲノム標的に対応する。
【0103】
当業者は、本発明の実施形態が、本明細書で言及されるポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に限定されないこと、およびバリアントポリペプチド配列およびバリアントポリヌクレオチド配列も包含することを理解するだろう。バリアントポリペプチド配列には、そのアミノ酸配列に保存的アミノ酸置換を有するポリペプチドが含まれる。バリアントポリヌクレオチド配列には、ヌクレオチド配列に変更を有するように改変されたポリヌクレオチドであって、発現されたときに、改変されていないヌクレオチド配列によって発現されるポリペプチドと本質的に同じ機能または活性を有するポリペプチドをもたらすポリヌクレオチドが含まれる。
【0104】
いくつかの実施形態において、CRISPR-CAS9システムが、ファージを編集するために使用される。いくつかの他の実施形態において、タイプI-E CRISPR-Casシステムが、ファージを編集するために使用される。さらに他の実施形態において、タイプIII CRISPR-CAS10システムが、ファージを編集するために使用される。
【0105】
例えば、最近の刊行物に記載のプロトコルを、Myoviridae、SiphoviridaeおよびPodoviridae科のファージにおいて毒性のおよび/または所望されない表現型を欠失させるために改変してもよい(Bariら、Synth Biol.2017;6(12):2316-2325;Boxら、Journal of Bacteriology Jan 2016,198(3)578-590、Taoら、ACS Synth Biol.2017;6(10):1952-1961;およびParkら、Sci Rep.2017;7:42458)。Bariらは、天然のCRISPR-Casシステムを用いてまたは用いずに、S.aureus株を標的とするファージを編集するためのタイプIII-A CRISPR-Cas10システムを説明している。このシステムは、複数の遺伝子座に点変異を有する配列などのファージ由来の配列を選択するためおよび所望の変異を獲得したファージの組換えを回復させるための機構を提供する。RNA配列をマップとして使用するとき、Cas酵素は、有害なおよび/または毒性の特徴を有する標的化された遺伝子を切断する。別の刊行物(Yosefら、Proceedings of the National Academy of Sciences Jun 2015,112(23)7267-7272)には、抗生物質耐性細菌のゲノムへの、溶原ファージベースのCRISPR-Cas送達が説明されている。
【0106】
いくつかの実施形態において、ファージまたはファージミドが、細菌細胞にDNAを送達するために使用される。
【0107】
いくつかの実施形態では、特定の細菌株をマイクロバイオームから除去することによってそれらを排除するため、または特定の治療のためにCRISPRシステムを使用することができる。
【0108】
さらに好ましい実施形態において、本方法は、所望されないおよび/または毒性の遺伝子、好ましくは、細菌の病原性遺伝子、例えば、細菌の内在性遺伝子、単一ヌクレオチド多型(SNP)、エピ染色体遺伝子、抗生物質耐性遺伝子、1もしくはそれを超える病原性因子をコードする遺伝子、1もしくはそれを超えるトキシンをコードする遺伝子、種、属もしくは門の間で高度に保存された遺伝子、および/または宿主の生理機能を調節できる生成物とともに生化学的経路に関わる酵素をコードする遺伝子を編集するために、CRISPR/Cas9システムなどのCRISPRシステムに頼る。
【0109】
好ましい実施形態において、CRISPRシステムは、Akarsuら(2019)PLoS Comput Biol 15(4):e1006946、Xieら、Nucleic Acids Res.2018;46(D1):D749-D753、Harmsら、Mol Cell.2018;70(5):768-784およびdo Valeら、2016に記載されているものなどの、プラスミドの維持、ファージに対する防御、持続およびビルレンスを含む重要な生物学的機能に関わるトキシン遺伝子座および抗毒素遺伝子座を標的とする。
【0110】
細菌病原体の例としては、大腸菌、Shigella dysenteriae、Yersinia pestis、Francisella tularensis、Bacillus anthracis、Staphylococcus aureus、Streptococcus pyogenes、Vibrio cholerae、Pseudomonas aeruginosa、Klebsiella pneumoniae、Acinetobacter baumanniiおよびSalmonella enterica Typhiが挙げられる。なおさらに好ましい実施形態において、細菌は、S.aureus、S.epidermidisおよび/またはE.fecalisから選択される。
【0111】
トキシンの例としては、Bordetella pertussisが分泌する百日咳毒素およびアデニル酸シクラーゼ毒素(ACT)、Bacillus anthracis由来の炭疽毒素およびStaphylococcus aureusのロイコトキシン、Photobacterium damselaepiscicida(Phdp)由来のAIP56、マイコラクトン、Mycobacteriumulceransが産生するポリケチド分子、公式にトキシンと呼ばれていない他の細菌分泌生成物、例えば、S.aureusスーパー抗原様タンパク質(SSL)およびフェノール可溶性モジュリン(PSM)、クロストリジウムC3トキシン、志賀毒素、コレラ毒素、溶血素、ロイコシジン、線毛アドヘシンおよび非線毛(afimbrial)アドヘシン、プロテアーゼ、リパーゼ、エンドヌクレアーゼ、エンドトキシンおよび外毒素の細胞傷害因子、ミクロシンおよびコリシンが挙げられる。いくつかの実施形態において、トキシンは、S.aureusのSek遺伝子などのスーパー抗原エンテロトキシン遺伝子によってコードされる。いくつかの実施形態において、トキシンは、毒素性ショック症候群毒素-1(TSST-1)などの外毒素;SEA、SEB、SECn、SED、SEE、SEG、SEHおよびSEIなどのエンテロトキシン、ならびにETAおよびETBなどの表皮剥脱毒素である。
【0112】
ビルレンスの形質を大腸菌(例えば、O157:H7)に付与する遺伝子の例としては、stx1およびstx2(志賀毒素様毒素をコードする)およびespA(腸細胞の展退(LEE)A/E病変の誘導に関与する)が挙げられるがこれらに限定されない。ビルレンスの形質を大腸菌に付与する遺伝子の他の例としては、fimA(線毛大サブユニット)、csgD(curli制御因子)およびcsgAが挙げられる。ビルレンスの形質をYersinia pestisに付与する遺伝子の例は、yscF(プラスミドによって運ばれる(pCD1)T3SS外部ニードルサブユニット)である。ビルレンスの形質をFrancisella tularensisに付与する遺伝子の例は、fslAである。ビルレンスの形質をBacillus anthracisに付与する遺伝子の例は、pag(炭疽毒素、細胞に結合する防御抗原)である。ビルレンスの形質をVibrio choleraeに付与する遺伝子の例としては、ctxAおよびctxB(コレラ毒素)、tcpA(毒素共調節線毛)およびtoxT(マスタービルレンス制御因子)が挙げられるがこれらに限定されない。ビルレンスの形質をPseudomonas aeruginosaに付与する遺伝子の例としては、シデロフォアピオベルジンの生成をコードする遺伝子(例えば、シグマ因子pvdS、生合成遺伝子pvdL、pvdl、pvdJ、pvdH、pvdA、pvdF、pvdQ、pvdN、pvdM、pvdO、pvdP、トランスポーター遺伝子pvdL、pvdR、pvdTおよびopmQ)、シデロフォアピオケリンの生成をコードする遺伝子(例えば、pchD、pchC、pchB、pchA、pchE、pchFおよびpchG)、ならびにトキシンをコードする遺伝子(例えば、exoU、exoSおよびexoT)が挙げられるがこれらに限定されない。ビルレンスの形質をKlebsiella pneumoniaeに付与する遺伝子の例としては、fimA(粘着性、タイプI線毛大サブユニット)およびcps(莢膜多糖)が挙げられるがこれらに限定されない。ビルレンスの形質をAcinetobacter baumanniiに付与する遺伝子の例としては、ptk(莢膜重合)およびepsA(アセンブリ)が挙げられるがこれらに限定されない。ビルレンスの形質をSalmonella enterica Typhiに付与する遺伝子の例としては、hilA(侵入、SPI-1制御因子)、ssrB(SPI-2制御因子)、ならびに排出ポンプ遺伝子acrA、acrBおよびtolCを含む胆汁耐性に関連する遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。
【0113】
抗生物質耐性遺伝子またはそれを同定するための様々な方法の例が、当該技術分野で知られている。Suら、Journal of Clinical Microbiology Feb 2019,57(3)e01405-18に説明されている抗菌薬感受性試験(WGS-AST)およびRuppeら、Nat Microbiol.2019;4(1):112-123において腸管微生物叢から同定された抗生物質耐性決定基(ARD)のためのホールゲノムシークエンスなどの、株の耐性表現型を同定するゲノムの方法は、当該技術分野で説明されている。いくつかの実施形態において、耐性遺伝子は、ペニシリンクラスの抗生物質の狭域ベータ-ラクタム系抗生物質に対する耐性を付与する。他の実施形態において、耐性遺伝子は、メチシリン(例えば、メチシリンまたはオキサシリン)、またはフルクロキサシリン、またはジクロキサシリン、またはこれらの抗生物質の一部もしくは全部に対する耐性を付与する。選択された実施形態において、CRISPRシステムは、メチシリン耐性S.aureus(MRSA)および/またはバンコマイシン耐性S.aureus(VRSA)を選択的に標的とするのに適している。特定の実施形態において、耐性遺伝子は、リネゾリド、ダプトマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリスチンに対する耐性を付与し得る。いくつかの実施形態において、耐性遺伝子は、ホスホマイシン耐性遺伝子fosB、テトラサイクリン耐性遺伝子tetM、カナマイシンヌクレオチジルトランスフェラーゼaadD、二機能性アミノグリコシド修飾酵素遺伝子aacA-aphD、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼcat、ムピロシン耐性遺伝子ileS2、バンコマイシン耐性遺伝子vanX、vanR、vanH、vraE、vraD、メチシリン耐性因子femA、fmtA、mecl、ストレプトマイシンアデニリルトランスフェラーゼspc1、spc2、antl、ant2、スペクチノマイシン(pectinomycin)アデニルトランスフェラーゼspd、ant9、aadA2および他の任意の耐性遺伝子から選択される。
【0114】
好ましい実施形態において、CRISPRシステムは、広域スペクトルベータ-ラクタマーゼ耐性因子(ESBL因子)、CTX-M-15、ベータラクタマーゼ、New Delhiメタロ-β-ラクタマーゼ(NDM)-1,2,5,6およびテトラサイクリンA(tetA)から選択される抗生物質耐性遺伝子のうちの1または複数の遺伝子を標的とする。
【0115】
アミノグリコシドに対する耐性を付与する遺伝子の例としては、aph、aacおよびaadバリアントならびにアミノグリコシド修飾酵素をコードする他の遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。アミノグリコシド耐性を付与するSNPを含む遺伝子の例としては、rpsL、rrnAおよびrrnBが挙げられるがこれらに限定されない。ベータ-ラクタム耐性を付与する遺伝子の例としては、ベータ-ラクタマーゼ(bla)をコードする遺伝子(例えば、TEM、SHV、CTX-M、OXA、AmpC、IMP、VIM、KPC、NDM-1、ベータ-ラクタマーゼファミリー)およびmecAが挙げられるがこれらに限定されない。ダプトマイシン耐性を付与するSNPを含む遺伝子の例としては、mprF、yycFG、rpoBおよびrpoCが挙げられるがこれらに限定されない。マクロライド-リンコサミド-ストレプトグラミンB耐性を付与する遺伝子の例としては、ermA、ermBおよびermCが挙げられるがこれらに限定されない。キノロン耐性を付与する遺伝子の例としては、qnrA、qnrS、qnrB、qnrCおよびqnrDが挙げられるがこれらに限定されない。キノロン耐性を付与するSNPを含む遺伝子の例としては、gyrAおよびparCが挙げられるがこれらに限定されない。トリメトプリム/スルホンアミド耐性を付与するSNPを含む遺伝子の例としては、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子およびジヒドロプテロイン酸シンターゼ(DHPS)遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。バンコマイシン耐性を付与する遺伝子の例としては、vanA(例えば、vanRSおよびvanHAX)、vanBおよびvanCオペロンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0116】
いくつかの実施形態において、CRISPRシステムは、多剤排出ポンプをコードする遺伝子、例えば、acrAB、mexAB、mexXY、mexCD、mefA、msrAおよびtetLの過剰発現を引き起こすSNPを標的とするために使用され得る。
【0117】
複雑な微生物群を再構築する目的の、微生物の種、属または門を典型的に表わすことができる高度に保存された遺伝子(本明細書で「リモデリング」遺伝子と称される)の例としては、リボソームの構成要素rrnA、rpsL、rpsJ、rplO、rpsM、rplC、rpsH、rplPおよびrpsK、転写開始因子infB、ならびにtRNAシンテターゼpheSが挙げられるがこれらに限定されない。
【0118】
宿主の生理機能を調節できる生成物とともに生化学的経路に関わる酵素をコードする遺伝子(本明細書で「調節性」遺伝子と称される)の例としては、(1)肝細胞癌種に関係があるデオキシコレート産生に関わる酵素をコードする遺伝子、(2)制御性T細胞(TREG)の発達、IL-10応答およびTH1細胞数の増加につながる、Bacteroides fragilisによる多糖Aの産生に関わる酵素をコードする遺伝子、(3)誘導性抗菌ペプチドの分泌につながるブチレート産生に関わる酵素をコードする遺伝子、(4)エネルギー回収の増大、肥満症、炎症性の調節および胃腸管創傷の治癒につながる短鎖脂肪酸産生に関わる酵素をコードする遺伝子、(5)グルコースのホメオスタシスを破壊して非アルコール性脂肪性肝疾患および循環器疾患を招き得る、コリンからメチルアミンへの変換に関わる酵素をコードする遺伝子、(6)y-アミノ酪酸、ノルアドレナリン、5-HT、ドーパミンおよびアセチルコリンなどの神経調節性化合物の生成に関わる酵素をコードする遺伝子、ならびに(7)不安に関係がある乳酸およびプロピオン酸の形成に関わる酵素をコードする遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。
【0119】
CRISPR/Cas9システムのほかに、他のゲノム編集ツールを用いて、毒性のおよび/または所望されない特徴を改変および/または排除することができる。そのようなファージゲノム編集ツールの例としては、他のCRISPRベースのシステム、操作されたTALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)バリアント、操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)バリアント、および相同組換えベースの技術、エレクトロポレートされたDNAのバクテリオファージリコンビニアリング(BRED)、アセンブルされたファージゲノムDNAを用いるファージのリブートを含む、Chenら(Front.Microbiol.,03 May 2019)に説明されているシステムなどの他のシステムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
本明細書で理解されるように、本発明の医薬組成物の「有効量」および「治療有効量」などの用語は、例えば、対象内の細菌病原体を除菌することおよび/または生き残っているファージ耐性細菌病原体のビルレンスもしくは抗生物質感受性を変化させること、ならびに/あるいは本組成物が効果的なおよび/または無効な抗生物質と同時に投与されたとき、追加の利点を提供することによって、対象において治療上有益な応答を誘発するのに適した組成物の量を指す。そのような応答には、例えば、細菌感染症に関連する1または複数の病理学的症状を予防、回復、処置、阻害および/または低減することが含まれ得る。当業者は、本明細書に記載の組成物の初回量が、致死閾値に達する前に細菌集団をコントロールするのに十分であることが望ましいことを理解するだろう。動物モデルは、成人の肝臓に急性に提示されるタンパク質負荷に基づいて、1用量あたり109~1011pfu/mlファージ粒子が、耐えられる最大投与量である可能性が高いだろうと示唆している(これは小児集団ではスケールダウンされるだろう)。これは、免疫応答を増強するのに十分な細菌負荷量を減少させるのに十分な急性ボーラスであると推測される。特に、ファージ「ウイルス血症」は、投与後の血中で測定され得る。宿主の免疫応答および細網内皮系(肝臓および脾臓)における隔離を考慮すると、動物モデルは、ウイルス血症がかなり一過性であると示唆している。
【0121】
本発明の組成物の適切な有効量は、当業者が容易に決定することができ、処置される対象の年齢、体重、種(非ヒトの場合)および病状に依存し得る。さらに、当業者は、感染のタイプ(例えば、全身性または局在性)、およびその感染の処置の利用しやすさも、有効であるとみなされる投与量に影響を及ぼし得ることを理解するだろう。当業者は、最初の情報が、研究室での実験において収集され得ること、およびその後、ヒトに対する本明細書に記載の組成物の有効量が、投与治験および通常の実験法によって決定されることを理解するだろう。
【0122】
本発明の組成物が、全身性、非経口(例えば、槽内注射および槽内注入の技術によるもの)、皮内、膜貫通、経皮(局所を含む)、筋肉内、腹腔内、静脈内、動脈内、病巣内、皮下、経口および鼻腔内(例えば、吸入)の投与経路を含むがこれらに限定されない従来の方法に係る様々な経路によって対象に投与され得ることがなおもさらに企図される。投与は、持続注入またはボーラス注射によるものでもあり得る。
【0123】
さらに、本発明の組成物は、様々な剤形で投与され得る。これらとしては、例えば、非経口投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与または静脈内投与(例えば、注射可能な投与)用の調製物を含む液体の調製物および懸濁液、例えば、選択されたpHに緩衝され得る滅菌された等張性の水溶液、懸濁液、エマルジョンまたは粘稠性組成物が挙げられる。特定の実施形態において、本発明の組成物は、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射または経皮注射による送達用の注射可能な組成物を含むがこれらに限定されない注射可能な組成物として対象に投与されることが本明細書で企図される。そのような組成物は、当業者よく知られた様々な医薬賦形剤、キャリアまたは希釈剤を用いて製剤化され得る。
【0124】
別の特定の実施形態において、本発明の組成物、および/またはそれとともに投与される医薬製剤、例えば、抗生物質は、経口的に投与され得る。本発明の方法に従って投与するための経口製剤には、様々な剤形、例えば、液剤、散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カプレット剤、徐放製剤、または持効性の調製物もしくは液体の充填物を有する調製物、例えば、ゼラチンで覆われた液体(ゼラチンが胃で溶解されて腸に送達される)が含まれ得る。そのような製剤には、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロースおよび炭酸マグネシウムを含むがこれらに限定されない本明細書に記載の様々な薬学的に許容され得る賦形剤が含まれ得る。
【0125】
特定の実施形態において、経口投与用の組成物は、液体製剤であってもよいし、舌の上に載せられる溶ける紙の一部として存在してもよいことが本明細書で企図される。そのような製剤は、例えば、胃の内膜との長時間の接触をもたらすことによって、活性な作用物質の粘膜送達を容易にする高粘度の組成物を作製できる薬学的に許容され得る増粘剤を含み得る。そのような粘稠性の組成物は、従来の方法を用い、薬学的賦形剤および試薬、例えば、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボマーを用いて、当業者によって作製され得る。
【0126】
経鼻または呼吸(粘膜)投与に適した他の剤形、例えば、スクイーズスプレーディスペンサー、ポンプディスペンサーまたはエアロゾルディスペンサーの形態の剤形が、本明細書で企図される。直腸または経腟送達に適した剤形も本明細書で企図される。適切な場合には、本発明の方法とともに使用するための組成物は、凍結乾燥されてもよく、従来の方法を用いて再水和ありまたはなしで対象に送達されてもよい。
【0127】
したがって、理解され得るように、本発明の方法は、様々なレジメンに従って、すなわち、対象にとって臨床的に意味のある利点を提供するのに十分な量および様式で、かつそのような十分な時間にわたって、本発明の組成物を対象に投与することを含む。本発明で使用するのに適した投与レジメンは、従来の方法に従って当業者によって決定され得る。例えば、有効量が、単回用量、数日間にわたって投与される一連の反復用量、または単回用量の後、1もしくはそれを超えるさらなる「ブースティング」用量として対象に投与され得ることが本明細書で企図される。本明細書で使用される用語「用量」または「投与量」とは、対象への投与に適した物理的に不連続な単位を指し、各投与量は、所望の応答をもたらすように計算された所定の量の医薬品有効成分を含む。
【0128】
投与レジメン(administrative regimen)、例えば、投与される量、処置の回数、および単位用量あたりの有効量などは、実務家の判断に依存し、各対象に特有である。この点において考慮される因子としては、対象の身体的状態および臨床状態、投与経路、意図する処置目標、ならびに特定の組成物の効力、安定性および毒性が挙げられる。当業者によって理解されるように、「ブースティング用量」は、初回投与量と同じ投与量または異なる投与量を含み得る。実際に、対象において所望の応答をもたらすために一連の用量の投与が行われるとき、当業者は、その場合、「有効量」が2以上の投与量を包含し得ることを理解するだろう。
【0129】
好ましい実施形態において、本明細書に記載の組成物は、局所的と全身的の両方で、例えば、IV、関節内、IMおよび/または感染部位への直接の注射を介して、投与され得る。例えば、PJIの場合、本明細書に記載の組成物は、感染した関節に直接注射され得る。したがって、その組成物は、当業者にすぐに明らかになるような、注射可能な流体、半固体またはデポータイプの製剤として製剤化され得る。しかしながら、PJIは、IV注射によって、ならびに/または感染部位への直接注射と、IV、関節内および/もしくはIMによる投与との両方の組み合わせとしても処置され得る。
【0130】
感染した関節をデブリドマンおよび/または1段階もしくは2段階の関節置換形成術における人工関節デバイスの交換によっても処置する場合、本組成物は、手術中に当該関節に直接投与され得る。例えば、本組成物は、1回で投与されてもよいし(すなわち、「シングルショット」)、必要とされ得るときは複数回で投与されてもよい(この「シングルショット」は、感染部位への直接注射またはIVの両方を包含する)。しかしながら、本組成物は、潜在的にシングルショットとして投与され得、さらに、感染した関節の人工関節デバイスを交換する必要を回避し得ると考えられる。
【0131】
いくつかの実施形態において、本組成物は、さらなる活性な作用物質または調製物、例えば、1もしくはそれを超える抗生物質(例えば、リファンピンおよび/またはフルオロキノロン、例えば、シプロフロキサシン)、1もしくはそれを超える殺菌剤、および/または1もしくはそれを超える他の治療用分子、例えば、殺菌活性を有する小分子もしくは生物製剤をさらに含み得る。これらのさらなる作用物質は、本組成物の一部として投与され得るか、またはファージ組成物の投与と同時であるが別々に投与され得る。
【0132】
さらなる態様において、本発明は、人工関節感染症(PJI)を有する患者またはPJIを発症するリスクがある患者を処置する方法を提供し、その方法は、第1の態様に記載の医薬組成物を投与することを含む。
【0133】
いくつかの実施形態において、患者は、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisから選択される細菌によって引き起こされるPJIを有する。
【0134】
他の実施形態において、患者は、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisから選択される細菌によって引き起こされたと決定されたPJIを有する。前記決定は、例えば、患部関節から吸引によって得られた滑液を培養し、例えば、16S rRNA遺伝子配列解析によって、その培養物中の細菌の正体を決定することによって、行われ得る。
【0135】
他の実施形態において、患者は、S.aureus、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisから選択される細菌によって引き起こされるPJIを発症するリスクがある。
【0136】
本発明の方法は、タイプを問わず、PJIの処置または予防に有用であり得る。つまり、本組成物に含めるための2またはそれを超えるファージを適切に選択することによって、本方法は、早期、遅延および晩期発症型のPJI、ならびに複数菌感染の結果であるPJIの処置において有益になり得る。
【0137】
本方法は、有効量、すなわち、有益なまたは所望の臨床結果が達成されるように、処置される感染症、例えば、処置されるPJI(または発症し得るPJI)に存在する細菌の溶解(すなわち、死滅)を引き起こすのに十分な量および/または細菌感染症の発生を予防するのに十分な量、の少なくとも2つの異なるファージを提供するために行われ得る。有効量は、1または複数の投与で投与され得る。典型的には、有効量は、疾患または症状を処置するために十分であるか、またはそうでない場合は、PJIの進行または発症を軽減する、回復させる、安定化させる、逆転させる、遅くする、遅延させるまたは予防するために十分である。
【0138】
処置される感染には、患者にすでに存在している細菌感染症だけでなく、植込み型デバイスを有する患者に発生するかもしれないし発生しないかもしれない将来の感染の予防も含まれるが、これらに限定されない。例えば、特定の地理的位置で頻繁に発生すると知られている特定の細菌株の細菌感染症(例えば、地理的に適合した組成物)が、将来の細菌感染症の予防を目指して、予防的様式にて本開示の組成物で処置され得る。
【0139】
さらなる詳細において、本方法は、感染した関節またはPJIを発症するリスクがある人工関節に本組成物を直接投与することを含み得る。後者の場合、本方法は、手術時に行われ得る(すなわち、本組成物は、関節置換術が行われている時点において投与され得る)。本方法が、感染した関節を処置するために用いられる場合、本方法は、人工関節デバイスの交換の必要を回避し得る。すなわち、本方法は、手術の代わりに行われ得る。感染した関節をデブリドマンおよび/または1段階もしくは2段階の関節置換形成術における人工関節デバイスの交換によっても処置する他の場合において、本方法は、好都合なことに手術中に行われ得る(すなわち、本組成物は、手術中に当該関節に投与され得る)。本組成物は、1回で投与されてもよいし(すなわち、「シングルショット」)、必要とされ得るときは複数回で投与されてもよい。
【0140】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、併用療法として行われ得る。例えば、少なくとも2つの異なるファージを含む組成物が、さらなる活性な作用物質または調製物、例えば、1もしくはそれを超える抗生物質(例えば、リファンピンおよび/またはフルオロキノロン、例えば、シプロフロキサシン)、1もしくはそれを超える殺菌剤、および/または1もしくはそれを超える他の治療用分子、例えば、殺菌活性を有する小分子もしくは生物製剤の投与を含む併用療法として患者に投与され得る。
【0141】
さらなる活性な作用物質または調製物との併用療法として行われる場合、本組成物は、少なくとも2つの異なるファージを、そのさらなる活性な作用物質または調製物とともに含み得るか(すなわち、単一の組成物として)、またはそうでない場合は、別個の組成物が使用され得る。別個の組成物で投与される場合、治療用ファージ組成物およびさらなる活性な作用物質または調製物は、同時に、または任意の順序で連続的に(例えば、数秒以内もしくは数分以内(例えば、5~60分以内)または数時間以内(例えば、2~48時間以内)に)投与され得る。
【0142】
本明細書では、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、これらの実施形態および本明細書に提供される例は、本発明の原理および応用の単なる例示であることが理解されるべきである。ゆえに、例示的な実施形態および例に数多くの修正を加えることができること、および添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく他の構成を考案することができることが理解されるべきである。本明細書に引用されるすべての特許出願、特許、文献および参考文献が、その全体が参照により本明細書に援用される。
【実施例】
【0143】
ここからは、以下の実施例を参照して本発明をさらに例証する。以下は単なる例示であり、本発明の範囲に含まれながら、詳細に対して修正を加えることができると理解されるだろう。
実施例1:PJI組成物に含めるためのファージの選択
【0144】
S.aureus(MRSAおよび/またはMSSA)、S.epidermidis、E.fecalis、S.capraeおよび/またはS.lugdunensisのうちの1または複数のものによって引き起こされ得るPJIを処置するための組成物を設計する。その組成物に含めるための候補ファージは、Felix d’Herelle Reference Center for Bacterial Viruses of the Universite Laval(Quebec City,Quebec,Canada;www.phage.ulaval.ca)から公的に入手可能なファージおよび表1(上記)に列挙された専売のファージから特定される。
注射可能な組成物の製剤化
【0145】
約1011pfuの、以下のファージAPT-PJI-01、APT-PJI-13およびAPT-PJI-15の各々を薬学的に許容され得る希釈剤(例えば、等張食塩水)中で合わせることによって、1つの特定の例において、注射可能な流体組成物が調製される。その組成物は、予め充填されたシリンジとして提供され得る。
実施例2:PJI組成物に含めるためのファージの選択
【0146】
実施例1の組成物は、植込み型デバイス感染症(例えば、PJIなど)の他の病原細菌(例えば、S.lugdunensis、E.fecium、S.agalactiae、P.aeruginosa、K.pneumoniae、大腸菌およびE.clocae)を溶解するために標的とされる1または複数のファージを、その組成物に加えるかまたはその組成物の1もしくはそれを超えるファージと交換することによって、容易に改変され得る。そのような組成物に含めるためのいくつかの候補ファージの例は、Felix d’Herelle Reference Center for Bacterial Viruses of the Universite Laval(Quebec City,Quebec,Canada;www.phage.ulaval.ca)から公的に入手可能なファージから特定され、下記の表2に列挙される。
【表2】
実施例3:机上のケーススタディ
【0147】
セラミック-オン-ポリエチレン股関節置換術を受けた2ヶ月後、55歳の男性患者は、その関節に相当な痛みがあることを整形外科医に報告した。その患者は、患部関節のCTスキャンを勧められ、それにより、関節の膨張が確認され、人工関節周囲組織の感染が示唆される。血液検査も、PJIのエビデンスをさらに提供する。続いて、滑液試料を、関節吸引(関節穿刺(athrocentesis))によって股関節から採取し、その滑液中に存在する細菌を、液体培地中で培養する。次いで、抽出された細菌DNAを16S rRNA遺伝子のV1-V3領域の配列解析に供することにより、16S rRNA配列データベースを用いて、存在する細菌種を同定する。その患者のPJIは、S.aureusおよびE.fecalisが原因であることが分かる。
【0148】
その患者に、薬学的食塩水中に約109pfuの、APT-PJI-01(S.aureusを標的とする)およびAPT-PJI-15(E.fecalisを標的とする)ファージの各々を含む単回用量の治療用ファージ組成物が患部関節への直接注射によって投与される。続いて、その患者を静脈内(IV)ファージ(APT-PJI-01および/またはAPT-PJ-15)で10日間処置する。処置の後、臨床応答について患者を綿密にモニターする。4週間後、患者は、痛みがほとんどまたは全く残っていないと報告する。感染が残っていないか決定するために、関節から吸引することもある。関節がもはや感染していないことを決定するために、必要であれば、さらなるCTスキャンを行ってもよい。
【0149】
本発明は、先に記載された本明細書の実施形態に限定されず、その実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなく構成および詳細が変更され得る。本明細書で参照されたいずれの特許、特許出願または他の刊行物の教示全体も、本明細書に完全に記載されたかのように、参照により本明細書に援用される。
【配列表】
【国際調査報告】