(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-18
(54)【発明の名称】T細胞二重特異性結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20230511BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230511BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230511BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230511BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230511BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230511BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230511BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230511BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C07K16/46
A61K39/395 N
A61P7/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555860
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 US2021022626
(87)【国際公開番号】W WO2021188590
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518445159
【氏名又は名称】マジェンタ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MAGENTA THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】ラーフル パルチョウデュリー
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドリー アール ピアース
(72)【発明者】
【氏名】チン リ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書で提供されるのは、造血幹細胞(HSC)抗原を発現するHSC、例えば、CD117+細胞のT細胞媒介性枯渇、ならびになかでも様々な造血疾患、代謝障害、がん、例えば、急性骨髄性白血病(AML)及び自己免疫疾患の治療に有用な組成物及び方法である。本明細書に記載されるのは、CD3などのT細胞抗原に対する第1の結合部分及びCD117などのHSC抗原に対する第2の結合部分を含む、二重特異性結合ポリペプチド及びその二重特異性抗原結合部分である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞(HSC)または造血前駆細胞上に発現されるCD117に結合する第1の抗原結合部分;及び
T細胞上に発現される抗原に結合する第2の抗原結合部分
を含む、二重特異性結合ポリペプチド。
【請求項2】
前記第2の抗原結合部分がCD3に結合する、請求項1に記載の二重特異性結合ポリペプチド。
【請求項3】
前記第1の抗原結合部分が抗CD117一本鎖可変断片(scFv)を含み、前記第2の抗原結合部分が抗CD3 scFvを含む、請求項1または2に記載の二重特異性結合ポリペプチド。
【請求項4】
前記二重特異性結合ポリペプチドが、二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合断片である、請求項1または2に記載の二重特異性結合ポリペプチド。
【請求項5】
前記抗CD117結合部分が、
(i)配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または
(ii)配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または
(iii)配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または
(iv)配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド。
【請求項6】
前記抗CD3結合部分が、
(i)配列番号37に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号38に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または
(ii)配列番号41に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号45に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド。
【請求項7】
CD117結合領域及びCD3結合領域を含む二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分であって、前記CD117結合領域は、
(i)配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または
(ii)配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び
配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または
(iii)配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または
(iv)配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び
配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、前記二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項8】
前記CD3結合領域が、
(i)配列番号37に記載される抗CD117 VHアミノ酸配列及び
配列番号38に記載される抗CD117 VLアミノ酸配列;または
(ii)配列番号41に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び
配列番号45に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項7に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項9】
第1の重鎖の第1のCH3領域及び第2の重鎖の第2のCH3領域を含むFc領域を含み、ここで、前記第1及び前記第2のCH3領域は、ノブインホール相互作用を介して安定的に会合することが可能である、請求項4、7または8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項10】
IgG、IgA、IgM、IgD、及びIgEからなる群から選択されるアイソタイプである、請求項4または7~9に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項11】
前記IgGがIgG1またはIgG4である、請求項10に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項12】
前記Fc領域が、野生型Fc領域と比較して、位置L234、L235、H435、またはこれらの組み合わせ(EUインデックス)にアミノ酸置換(複数可)を含む、請求項4または7~11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項13】
位置L234での前記アミノ酸置換がL234Aである、請求項12に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項14】
位置L235での前記アミノ酸置換がL235Aである、請求項12または13に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項15】
位置H435での前記アミノ酸置換がH435Aである、請求項12~14のいずれか1項に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項16】
前記第1のCH3領域が、位置T366、L368、及びY407(EUインデックス)にアミノ酸置換を含み、前記第2のCH3領域が、位置T366(EUインデックス)にアミノ酸置換を含む、請求項4または7~15のいずれか1項に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項17】
位置T366での前記アミノ酸置換がT366Sである、請求項16に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項18】
位置L368での前記アミノ酸置換がL368Aである、請求項16または17に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項19】
位置Y407での前記アミノ酸置換がY407VまたはY407Tである、請求項16~18のいずれか1項に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項20】
位置T366での前記アミノ酸置換がT366WまたはT366Yである、請求項16~19のいずれか1項に記載の二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分。
【請求項21】
治療上有効な量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を含む、医薬組成物。
【請求項22】
ヒト患者の幹細胞障害を治療する方法であって、前記患者に治療上有効な量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項23】
ヒト患者の免疫不全障害を治療する方法であって、前記患者に治療上有効な量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項24】
前記免疫不全障害が、先天性免疫不全または後天性免疫不全である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ヒト患者の代謝障害を治療する方法であって、前記患者に治療上有効な量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項26】
前記代謝障害が、グリコーゲン蓄積症、ムコ多糖症、ゴーシェ病、ハーラー病、スフィンゴリピド症、及び異染性白質ジストロフィーからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ヒト患者の自己免疫障害を治療する方法であって、前記患者に治療上有効な量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
前記自己免疫障害が、多発性硬化症、ヒト全身性ループス、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、乾癬治療、1型真性糖尿病、急性散在性脳脊髄炎、アジソン病、全身脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性卵巣炎、バロー病、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、シャーガス病、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、クローン病、瘢痕性類天疱瘡、セリアックスプルー-疱疹状皮膚炎、寒冷凝集素症、CREST症候群、デゴス病、円板状ループス、自律神経障害、子宮内膜症、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本甲状腺炎、化膿性汗腺炎、特発性及び/または急性血小板減少性紫斑病、特発性肺線維症、IgAニューロパチー、間質性膀胱炎、若年性関節リウマチ、川崎病、扁平苔癬、ライム病、メニエール病、混合性結合組織病、重症筋無力症、神経性筋強直症、オプソクローヌスミオクローヌス症候群、視神経炎、オルド甲状腺炎、尋常性天疱瘡、悪性貧血、多発性軟骨炎、多発性筋炎及び皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、結節性多発動脈炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、原発性無ガンマグロブリン血症、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、外陰痛、ならびにウェゲナー肉芽腫症からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ヒト患者のがんを治療する方法であって、前記患者に治療上有効な量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項30】
前記がんが、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、及び神経芽細胞腫からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ヒト患者の幹細胞の集団を枯渇させる方法であって、前記患者に有効量の請求項1~20のいずれか1項に記載の二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項32】
造血幹細胞を含む移植を前記患者に行うことを更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
造血幹細胞(HSC)を選択的に枯渇させることを、それを必要とするヒト患者に行う方法であって、HSCが枯渇するように、二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分を、それを必要とする前記ヒト対象に投与することを含み、前記二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分は、ヒトHSC細胞表面抗原に特異的に結合する第1の結合部分及びヒトT細胞表面抗原に特異的に結合する第2の結合部分を含む、前記方法。
【請求項34】
前記第1の抗原結合部分が、CD7、CDw12、CD13、CD15、CD19、CD21、CD22、CD29、CD30、CD33、CD34、CD36、CD38、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD48、CD49b、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD53、CD55、CD64a、CD68、CD71、CD72、CD73、CD81、CD82、CD85A、CD85K、CD90、CD99、CD104、CD105、CD109、CD110、CD111、CD112、CD114、CD115、CD117、CD123、CD124、CD126、CD127、CD130、CD131、CD133、CD135、CD138、CD151、CD157、CD162、CD164、CD168、CD172a、CD173、CD174、CD175、CD175s、CD176、CD183、CD191、CD200、CD201、CD205、CD217、CD220、CD221、CD222、CD223、CD224、CD225、CD226、CD227、CD228、CD229、CD230、CD235a、CD235b、CD236、CD236R、CD238、CD240、CD242、CD243、CD277、CD292、CDw293、CD295、CD298、CD309、CD318、CD324、CD325、CD338、CD344、CD349及びCD350からなる群から選択されるヒトHSC細胞表面抗原に結合する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の抗原結合部分がCD117に結合する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記第2の抗原結合部分がヒトCD3に結合する、請求項33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記第1の抗原結合部分がCD117に結合し、前記第1の抗原結合部分が、
(i)配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または
(ii)配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び
配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または
(iii)配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または
(iv)配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び
配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の抗原結合部分がCD3に結合し、前記第2の抗原結合部分が、
(i)配列番号37に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び
配列番号38に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または
(ii)配列番号41に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号45に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項39】
前記二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合断片がIgGである、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記IgGがIgG1またはIgG4である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合断片が、第1の重鎖の第1のCH3領域及び第2の重鎖の第2のCH3領域を含むFc領域を含み、前記第1及び前記第2のCH3領域は、ノブインホール相互作用を介して安定的に会合することが可能である、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1のCH3領域が、位置T366、L368、及びY407(EUインデックス)にアミノ酸置換を含み、前記第2のCH3領域が、位置T366(EUインデックス)にアミノ酸置換を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
位置T366での前記アミノ酸置換がT366Sである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
位置L368での前記アミノ酸置換がL368Aである、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
位置Y407での前記アミノ酸置換がY407VまたはY407Tである、請求項42~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
位置T366での前記アミノ酸置換がT366WまたはT366Yである、請求項42~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記患者が、幹細胞障害を有し、移植を必要としている、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
枯渇後にHSC移植を前記患者に行うことを更に含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記患者が、免疫不全障害、代謝障害、自己免疫障害、またはがんを有する、請求項40~48のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月16日に出願された米国仮出願第62/990,281号の優先権を主張する。前述の優先権の出願は、その内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に援用される。2021年3月16日に作成された当該ASCIIコピーは、M103034_2210WO_Sequence_Listing.txtという名称であり、サイズは56,311バイトである。
【0003】
本発明は、HSC細胞上に発現される抗原を含む、標的細胞の免疫駆動型枯渇を媒介するための抗CD3二重特異性抗体などのT細胞二重特異性結合タンパク質の使用に関する。本発明は、更に、造血幹細胞などの造血細胞の表面上に発現される抗原に結合する第1の結合ドメイン及びT細胞に結合する第2の結合ドメインを含む、抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片の組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
選択的な細胞枯渇は、幹細胞移植のためのコンディショニング、自己免疫疾患の治療、及び特定のがんの治療を含む、多数の治療法の治療になる可能性がある。例えば、B細胞枯渇療法は、特定の自己免疫状態の治療に使用することができる(Lee et al.(2020)Nature Reviews Drug Discovery,volume 20,pp.179-199)。
【0005】
コンディショニングは、患者が造血幹細胞を含有する移植を受けるための準備を行う(すなわち、「コンディショニングする」)プロセスである。コンディショニング処置により、造血幹細胞移植の生着が促進される。コンディショニングは、生着前に、患者が移植を受けるための適切な条件(例えば、幹細胞ニッチの形成)をもたらすために実施される。更に、いくつかの状況において、移植細胞が20%生着すると、特定の疾患状態が緩和または治癒され得る。
【0006】
現在、造血幹細胞療法(HSCT)の適応症及び異常ヘモグロビン症には、多数の非特異的(すなわち、非標的化)コンディショニング法が使用されており、これらには、限定するものではないが、放射線照射(例えば、全身照射(TBI))及びDNAアルキル化/修飾剤の使用が含まれ、いずれも患者の臓器系の多くに対して高い毒性があるだけでなく、造血細胞及び非造血細胞ならびに造血微小環境に影響を及ぼす。これらの過酷なコンディショニングレジメンは、典型的に、レシピエント患者の免疫系及びニッチ細胞の破壊を招き、多くの場合、生命を脅かす合併症を引き起こす場合がある。
【0007】
したがって、上述の非特異的コンディショニング法の望ましくない毒性を回避しつつ、標的組織内の内因性造血幹細胞集団を選択的に枯渇させるマイルドなコンディショニングレジメンの開発が必要とされている。HSCなどの幹細胞の枯渇は、例えば、CD117を含む、HSC上に発現される特定の分子を標的とすることによって促進することができる。
【0008】
CD117(c-kitまたは幹細胞因子受容体(SCRF)とも呼ばれる)は、リガンドである幹細胞因子(SCF)に結合する1回膜貫通型受容体チロシンキナーゼである。SCFは、cKITのホモ二量体を誘導し、PI3-AKT及びMAPKの両経路を介してそのチロシンキナーゼ活性及びシグナルを活性化させる(Kindblom et al.,Am J.Path.1998 152(5):1259)。CD117は、当初がん遺伝子として発見され、腫瘍学の分野で研究されてきた(例えば、Stankov et al.(2014)Curr Pharm Des.20(17):2849-80参照)。CD117は、造血幹細胞(HSC)で高度に発現している。この発現パターンにより、CD117は、幅広い疾患にわたるコンディショニングの標的となる可能性がある。しかしながら、骨髄移植などの移植のために患者をコンディショニングするのに有効な抗CD117に基づく治療法が依然として必要とされている。
【0009】
現在、幹細胞、例えば、CD117+幹細胞を標的とし、外因性幹細胞の生着を促進するコンディショニング剤として使用することができる代替方法及び組成物が必要とされている。そのような治療法及び剤は、選択的な細胞枯渇が治療的であるような他の疾患の治療にも有用であり得る。
【発明の概要】
【0010】
本明細書に記載されるのは、標的細胞の免疫駆動型枯渇を媒介するT細胞二重特異性結合タンパク質に関する方法及び組成物である。ある特定の実施形態において、本明細書で開示される方法及び組成物は、造血幹細胞(HSC)などの幹細胞上に発現される標的抗原にも結合する、二重特異性抗体などのCD3二重特異性結合タンパク質に関する。本明細書で開示される組成物及び方法の利点は、二重特異性物質がT細胞を使用して標的細胞を枯渇させ、化学療法または放射線照射などの細胞枯渇の非特異的方法の必要性を減少または排除することである。
【0011】
一態様において、本明細書に記載されるのは、造血幹細胞などの造血細胞の表面上に発現される抗原(すなわち、ヒトCD117;c-kitとしても知られる)に結合する第1の結合ドメイン及びT細胞などの免疫細胞の表面上に発現される抗原(例えば、CD3)に結合する第2の結合ドメインを含む抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片、ならびに当該二重特異性結合タンパク質の組成物及びその使用方法である。
【0012】
一態様において、本開示は、造血幹細胞(HSC)または造血前駆細胞上に発現されるCD117に結合する第1の抗原結合部分及びT細胞上に発現される抗原に結合する第2の抗原結合部分を有する二重特異性結合ポリペプチドを提供する。一実施形態において、第1の抗原結合部分は、抗CD117抗体、またはその抗原結合断片に由来する。別の実施形態において、第1の抗原結合部分は、一本鎖可変断片(scFv)を含む。更に別の実施形態において、第1の抗原結合部分は、Fab、Fab’、ジscFv、タンデムジscFv、トリscFv、タンデムトリscFv、Fv、ジスルフィド連結Fv、DART、単一ドメイン抗体(sdAb)、ダイアボディ、タンデムダイアボディ、トリアボディ及びタンデムトリアボディからなる群から選択される。別の実施形態において、第1の抗原結合部分は、抗CD117 scFvを含む。
【0013】
他の実施形態において、抗CD117 scFvは、(i)配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域、または(ii)配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または(iii)配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域、または(iv)配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0014】
ある特定の実施形態において、二重特異性抗CD3/CD117抗体は、表4に記載される抗CD117抗体及び抗CD3抗体アミノ酸配列に記載される結合領域(例えば、VH及びVL;またはVH及びVL CDR)を含む。
【0015】
ある特定の他の実施形態において、第2の抗原結合部分は、抗体、またはその抗原結合断片に由来する。一実施形態において、第2の抗原結合部分は、一本鎖可変断片(scFv)を含む。別の実施形態において、第2の抗原結合部分は、Fab、Fab’、ジscFv、タンデムジscFv、トリscFv、タンデムトリscFv、Fv、DART、ジスルフィド連結Fv、単一ドメイン抗体(sdAb)、ダイアボディ、タンデムダイアボディ、トリアボディ及びタンデムトリアボディからなる群から選択される。更に別の実施形態において、免疫細胞上に発現される抗原は、CD3である。いくつかの実施形態において、CD3は、CD3D(CD3δ)、CD3E(CD3ε)、CD3G(CD3γ)、及びCD3Z(CD3ζ)からなる群から選択される遺伝子によってコードされる。他の実施形態において、第2の抗原結合部分は、抗CD3 scFvを含む。
【0016】
他の実施形態において、抗CD3 scFvは、配列番号37に記載される抗CD117 VHアミノ酸配列及び配列番号38に記載される抗CD117 VLアミノ酸配列を含む。
【0017】
別の実施形態において、第1の抗原結合部分は、第1の一本鎖可変断片(scFv)を含み、第2の抗原結合部分は、第2のscFvを含む。更に別の実施形態において、二重特異性結合ポリペプチドは、第1のscFv及び第2のscFvを含むタンデム一本鎖可変断片(ta-scFv)である。ある特定の他の実施形態において、第1のscFv及び第2のscFvは、リンカーによって接続される。いくつかの実施形態において、第1のscFvは、抗CD117 scFvであり、第2のscFvは、抗CD3 scFvである。
【0018】
ある特定の実施形態において、抗CD117 scFvは、(i)配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または(ii)配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または(iii)配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または(iv)配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。別の実施形態において、抗CD3 scFvは、配列番号37に記載される抗CD117 VHアミノ酸配列及び配列番号38に記載される抗CD117 VLアミノ酸配列を含む。
【0019】
ある特定の他の実施形態において、二重特異性結合ポリペプチドは、安定的に会合することが可能な第1のFcドメイン及び第2のFcドメインを含むFc領域を有する。いくつかの実施形態において、Fc領域は、IgG、IgA、IgM、IgD、及びIgEからなる群から選択されるアイソタイプである。他の実施形態において、IgGは、IgG1またはIgG4である。更に他の実施形態において、Fc領域は、野生型Fc領域と比較して、位置L234、L235(EUインデックス)、及びD265(EUインデックス)にアミノ酸置換を含む。一実施形態において、位置L234でのアミノ酸置換は、L234Aである。別の実施形態において、位置L235でのアミノ酸置換は、L235Aである。更に別の実施形態において、二重特異性結合ポリペプチドは、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分である。
【0020】
別の態様において、本開示は、治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を有する医薬組成物を提供する。
【0021】
別の態様において、本開示は、ヒト患者の幹細胞障害を、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することによって治療する方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本開示は、ヒト患者の免疫不全障害を、患者に治療上有効な量の本明細書に記載される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することによって治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、免疫不全障害は、先天性免疫不全または後天性免疫不全である。
【0023】
別の態様において、本開示は、ヒト患者の代謝障害を、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することによって治療する方法を提供する。一実施形態において、代謝障害は、グリコーゲン蓄積症、ムコ多糖症、ゴーシェ病、ハーラー病、スフィンゴリピド症、及び異染性白質ジストロフィーからなる群から選択される。
【0024】
別の態様において、本開示は、ヒト患者の自己免疫障害を、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することによって治療する方法を提供する。一実施形態において、自己免疫障害は、多発性硬化症、ヒト全身性ループス、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、乾癬治療、1型真性糖尿病、急性散在性脳脊髄炎、アジソン病、全身脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性卵巣炎、バロー病、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、シャーガス病、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、クローン病、瘢痕性類天疱瘡、セリアックスプルー-疱疹状皮膚炎、寒冷凝集素症、CREST症候群、デゴス病、円板状ループス、自律神経障害、子宮内膜症、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本甲状腺炎、化膿性汗腺炎、特発性及び/または急性血小板減少性紫斑病、特発性肺線維症、IgAニューロパチー、間質性膀胱炎、若年性関節リウマチ、川崎病、扁平苔癬、ライム病、メニエール病、混合性結合組織病、重症筋無力症、神経性筋強直症、オプソクローヌスミオクローヌス症候群、視神経炎、オルド甲状腺炎、尋常性天疱瘡、悪性貧血、多発性軟骨炎、多発性筋炎及び皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、結節性多発動脈炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、原発性無ガンマグロブリン血症、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、外陰痛、ならびにウェゲナー肉芽腫症からなる群から選択される。
【0025】
別の態様において、本開示は、ヒト患者のがんを治療する方法であって、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を提供する。一実施形態において、がんは、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、及び神経芽細胞腫からなる群から選択される。
【0026】
別の態様において、本開示は、ヒト患者の幹細胞の集団を枯渇させる方法であって、患者に有効量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を提供する。一実施形態において、方法は、造血幹細胞を含む移植を患者に行うことを含む。
【0027】
本明細書に含まれるのは、造血幹細胞(HSC)または造血前駆細胞上に発現されるCD117に結合する第1の抗原結合部分及びT細胞上に発現される抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む二重特異性結合ポリペプチドである。
【0028】
ある特定の実施形態において、第2の抗原結合部分は、CD3に結合する。
【0029】
一実施形態において、第1の抗原結合部分は、抗CD117一本鎖可変断片(scFv)を含み、第2の抗原結合部分は、抗CD3 scFvを含む。
【0030】
一実施形態において、二重特異性結合ポリペプチドは、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合断片である。
【0031】
一実施形態において、抗CD117結合部分は、配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0032】
一実施形態において、抗CD117結合部分は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0033】
一実施形態において、抗CD117結合部分は、配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0034】
一実施形態において、抗CD117結合部分は、配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0035】
一実施形態において、抗CD3結合部分は、配列番号37に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号38に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0036】
一実施形態において、抗CD3結合部分は、配列番号41に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号45に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0037】
本明細書で開示されるのはまた、CD117結合領域及びCD3結合領域を含む二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分であり、ここで、CD117結合領域は、配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0038】
一実施形態において、二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分のCD3結合領域は、(i)配列番号37に記載される抗CD117 VHアミノ酸配列及び配列番号38に記載される抗CD117 VLアミノ酸配列;または(ii)配列番号41に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号45に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0039】
一実施形態において、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分は、第1の重鎖の第1のCH3領域及び第2の重鎖の第2のCH3領域を含むFc領域を含み、ここで、第1及び第2のCH3領域は、ノブインホール相互作用を介して安定的に会合することが可能である。
【0040】
一実施形態において、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分は、IgG(例えば、IgG1またはIgG4)、IgA、IgM、IgD、及びIgEからなる群から選択されるアイソタイプである。
【0041】
一実施形態において、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分のFc領域は、野生型Fc領域と比較して、位置L234、L235、H435、またはこれらの組み合わせ(EUインデックス)にアミノ酸置換(複数可)を含む。一実施形態において、位置L234でのアミノ酸置換は、L234Aである。一実施形態において、位置L235でのアミノ酸置換は、L235Aである。一実施形態において、位置H435でのアミノ酸置換は、H435Aである。
【0042】
ある特定の実施形態において、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分は、位置T366、L368、及びY407(EUインデックス)でのアミノ酸置換を含む第1のCH3領域と、位置T366(EUインデックス)でのアミノ酸置換を含む第2のCH3領域とを含む。一実施形態において、位置T366でのアミノ酸置換は、T366Sである。一実施形態において、位置L368でのアミノ酸置換は、L368Aである。一実施形態において、位置Y407でのアミノ酸置換は、Y407VまたはY407Tである。一実施形態において、位置T366でのアミノ酸置換は、T366WまたはT366Yである。
【0043】
また、治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を含む医薬組成物も開示される。
【0044】
更なる実施形態は、ヒト患者の幹細胞障害を治療する方法であって、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を含む。
【0045】
また更なる実施形態は、ヒト患者の免疫不全障害を治療する方法であって、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を含む。一実施形態において、免疫不全障害は、先天性免疫不全または後天性免疫不全である。
【0046】
別の実施形態は、ヒト患者の代謝障害を治療する方法であって、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を含む。一実施形態において、代謝障害は、グリコーゲン蓄積症、ムコ多糖症、ゴーシェ病、ハーラー病、スフィンゴリピド症、及び異染性白質ジストロフィーからなる群から選択される。
【0047】
また別の実施形態は、ヒト患者の自己免疫障害を治療する方法であって、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を含む。自己免疫障害の例は、多発性硬化症、ヒト全身性ループス、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、乾癬治療、1型真性糖尿病、急性散在性脳脊髄炎、アジソン病、全身脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性卵巣炎、バロー病、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、シャーガス病、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、クローン病、瘢痕性類天疱瘡、セリアックスプルー-疱疹状皮膚炎、寒冷凝集素症、CREST症候群、デゴス病、円板状ループス、自律神経障害、子宮内膜症、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本甲状腺炎、化膿性汗腺炎、特発性及び/または急性血小板減少性紫斑病、特発性肺線維症、IgAニューロパチー、間質性膀胱炎、若年性関節リウマチ、川崎病、扁平苔癬、ライム病、メニエール病、混合性結合組織病、重症筋無力症、神経性筋強直症、オプソクローヌスミオクローヌス症候群、視神経炎、オルド甲状腺炎、尋常性天疱瘡、悪性貧血、多発性軟骨炎、多発性筋炎及び皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、結節性多発動脈炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、原発性無ガンマグロブリン血症、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、外陰痛、またはウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。
【0048】
また別の実施形態は、ヒト患者のがんを治療する方法であって、患者に治療上有効な量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を含む。一実施形態において、がんは、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、及び神経芽細胞腫からなる群から選択される。
【0049】
また更なる実施形態は、ヒト患者の幹細胞の集団を枯渇させる方法であって、患者に有効量の本明細書で開示される二重特異性結合ポリペプチド、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合部分を投与することを含む、方法を含む。ある特定の実施形態において、方法は、造血幹細胞を含む移植を患者に行うことを更に含む。
【0050】
本明細書に含まれるのはまた、造血幹細胞(HSC)を選択的に枯渇させることを、それを必要とするヒト患者に行う方法であって、HSCが枯渇するように、二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分を、それを必要とするヒト対象に投与することを含み、二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合部分は、ヒトHSC細胞表面抗原に特異的に結合する第1の結合部分及びヒトT細胞表面抗原に特異的に結合する第2の結合部分を含む、方法である。一実施形態において、第1の抗原結合部分は、CD7、CDw12、CD13、CD15、CD19、CD21、CD22、CD29、CD30、CD33、CD34、CD36、CD38、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD48、CD49b、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD53、CD55、CD64a、CD68、CD71、CD72、CD73、CD81、CD82、CD85A、CD85K、CD90、CD99、CD104、CD105、CD109、CD110、CD111、CD112、CD114、CD115、CD117、CD123、CD124、CD126、CD127、CD130、CD131、CD133、CD135、CD138、CD151、CD157、CD162、CD164、CD168、CD172a、CD173、CD174、CD175、CD175s、CD176、CD183、CD191、CD200、CD201、CD205、CD217、CD220、CD221、CD222、CD223、CD224、CD225、CD226、CD227、CD228、CD229、CD230、CD235a、CD235b、CD236、CD236R、CD238、CD240、CD242、CD243、CD277、CD292、CDw293、CD295、CD298、CD309、CD318、CD324、CD325、CD338、CD344、CD349及びCD350からなる群から選択されるヒトHSC細胞表面抗原に結合する。ある特定の実施形態において、第1の抗原結合部分は、CD117に結合する。ある特定の実施形態において、第2の抗原結合部分は、ヒトCD3に結合する。
【0051】
一実施形態において、第1の抗原結合部分は、CD117に結合し、ここで、第1の抗原結合部分は、(i)配列番号7、8、及び9にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号10、11、及び12にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または(ii)配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号14に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または(iii)配列番号21、22、及び23にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号24、25、及び26にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域;または(iv)配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号28に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0052】
一実施形態において、第2の抗原結合部分は、CD3に結合し、ここで、第2の抗原結合部分は、(i)配列番号37に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号38に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;または(ii)配列番号41に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号45に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0053】
一実施形態において、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合断片は、IgG、例えば、IgG1またはIgG4である。
【0054】
ある特定の実施形態において、二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合断片は、第1の重鎖の第1のCH3領域及び第2の重鎖の第2のCH3領域を含むFc領域を含み、ここで、第1及び第2のCH3領域は、ノブインホール相互作用を介して安定的に会合することが可能である。一実施形態において、第1のCH3領域は、位置T366、L368、及びY407(EUインデックス)にアミノ酸置換を含み、第2のCH3領域は、位置T366(EUインデックス)にアミノ酸置換を含む。一実施形態において、位置T366でのアミノ酸置換は、T366Sである。一実施形態において、位置L368でのアミノ酸置換は、L368Aである。一実施形態において、位置Y407でのアミノ酸置換は、Y407VまたはY407Tである。一実施形態において、位置T366でのアミノ酸置換は、T366WまたはT366Yである。
【0055】
一実施形態において、患者は、幹細胞障害を有し、移植を必要としている。一実施形態において、方法は、枯渇後にHSC移植を患者に行うことを更に含む。
【0056】
一実施形態において、患者は、免疫不全障害、代謝障害、自己免疫障害、またはがんを有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】CD117発現標的細胞(Kasumi-1細胞)を使用した抗CD117/CD3二重特異性抗体(すなわち、「bs-Ab-1」)のin vitro細胞殺傷アッセイの結果を、1つの非標的化アーム及び1つの標的化アーム(すなわち、CD3またはCD117標的化アームのいずれか)を有する抗体対照と比較してグラフで示す。
図1中、対照抗体は、「抗CD117アイソタイプ抗体」及び「抗CD3アイソタイプ抗体」と称される。
【
図2】初代ヒト造血幹細胞を使用したbs-Ab-1二重特異性抗体のin vitro細胞殺傷アッセイの結果を、1つの非標的化アーム及び1つの標的化アーム(すなわち、CD3またはCD117標的化アームのいずれか)を有する抗体対照と比較してグラフで示す。
図2中、対照は、「抗CD117アイソタイプ抗体」及び「抗CD3アイソタイプ抗体」と称される。
【
図3A】bs-Ab-1二重特異性抗体が、ヒト化NSGマウスにおいて、ヒトHSCを選択的に枯渇させることを示すin vivo細胞枯渇アッセイの結果をグラフで示す。様々な濃度の(i)bs-Ab-1二重特異性抗体、(ii)抗CD117アイソタイプ抗体、(iii)抗CD3アイソタイプ抗体、(iv)抗CD117アイソタイプ抗体と抗CD3アイソタイプ抗体の組み合わせ、及び(v)対照(すなわち、「PBS」)の単回投与で治療したマウスにおいて、21日後に維持されたCD34+細胞の存在比率(%)を示す。
【
図3B】bs-Ab-1二重特異性抗体が、ヒト化NSGマウスにおいて、ヒトHSCを選択的に枯渇させることを示すin vivo細胞枯渇アッセイの結果をグラフで示す。様々な濃度の(i)bs-Ab-1二重特異性抗体、(ii)抗CD117アイソタイプ抗体、(iii)抗CD3アイソタイプ抗体、(iv)抗CD117アイソタイプ抗体と抗CD3アイソタイプ抗体の組み合わせ、及び(v)対照(すなわち、「PBS」)の単回投与で治療したマウスにおいて、21日後に維持されたCD34+細胞の絶対数を示す。
【
図3C】bs-Ab-1二重特異性抗体が、ヒト化NSGマウスにおいて、ヒトHSCを選択的に枯渇させることを示すin vivo細胞枯渇アッセイの結果をグラフで示す。様々な濃度の(i)bs-Ab-1二重特異性抗体、(ii)抗CD117アイソタイプ抗体、(iii)抗CD3アイソタイプ抗体、(iv)抗CD117アイソタイプ抗体と抗CD3アイソタイプ抗体の組み合わせ、及び(v)対照(すなわち、「PBS」)の単回投与で治療したマウスにおいて、21日後に維持されたCD34+CD117+細胞の存在比率(%)を示す。
【
図3D】bs-Ab-1二重特異性抗体が、ヒト化NSGマウスにおいて、ヒトHSCを選択的に枯渇させることを示すin vivo細胞枯渇アッセイの結果をグラフで示す。様々な濃度の(i)bs-Ab-1二重特異性抗体、(ii)抗CD117アイソタイプ抗体、(iii)抗CD3アイソタイプ抗体、(iv)抗CD117アイソタイプ抗体と抗CD3アイソタイプ抗体の組み合わせ、及び(v)対照(すなわち、「PBS」)の単回投与で治療したマウスにおいて、21日後に維持されたCD34+CD117+細胞の絶対数を示す。上述のように、抗CD3アイソタイプ抗体及び抗CD117アイソタイプ抗体は、CD3またはCD117標的化アームのいずれか及び非標的化アームを有する対照抗体を指す。
【
図4】初代ヒト幹細胞を使用したbs-Ab-2二重特異性抗体及びbs-Ab-3二重特異性抗体のin vitro細胞殺傷アッセイの結果を、(i)Ab85アイソタイプ抗体(すなわち、Ab85のCD117標的化アーム(T366Y及びH435Aのアミノ酸置換を含む)及び非標的化アーム(Y407T及びH435Aのアミノ酸置換を含む)を含む抗体;
図4中「Ab85-Iso」と称される)と抗CD3アイソタイプ抗体(すなわち、Ab2のCD3標的化アーム(Y407T及びH435Aのアミノ酸置換を含む)及び非標的化アーム(T366Y及びH435Aのアミノ酸置換を含む)を含む抗体;
図4中「抗CD3-Iso」と称される)の組み合わせ、及び(ii)Ab67アイソタイプ(すなわち、Ab67のCD117標的化アーム(T366Y及びH435Aのアミノ酸置換を含む)及び非標的化アーム(Y407T及びH435Aのアミノ酸置換を含む)を含む抗体;
図4中「Ab65-Iso」と称される)と抗CD3アイソタイプ抗体(すなわち、Ab2のCD3標的化アーム(Y407T及びH435Aのアミノ酸置換を含む)及び非標的化アーム(T366Y及びH435Aのアミノ酸置換を含む)を含む抗体;
図4中「抗CD3-Iso」と称される)の組み合わせと比較してグラフで示す。
【
図5】標的細胞の免疫駆動型枯渇を媒介するために使用することができるT細胞二重特異性抗体の模式図を提供する。
図5の二重特異性抗体は、CD3に結合するT細胞結合アーム(重鎖及び軽鎖)及びCD117に結合する標的細胞(例えば、HSC)結合アーム(重鎖及び軽鎖)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本明細書に記載されるのは、T細胞を介して細胞枯渇を媒介するために使用することができる二重特異性物質である。本明細書で開示される方法及び組成物は、T細胞特異的二重特異性タンパク質によって結合されたT細胞を使用して標的細胞を枯渇させるものであり、その標的は、二重特異性タンパク質の第2のアームによって定義される。例えば、二重特異性物質は、CD3(T細胞抗原)及びCD117(HSC標的抗原)を標的とし得る。したがって、本明細書に含まれるのは、ヒトCD117及びヒトCD3に結合する抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片に関する方法及び組成物である。
【0059】
一般に、本明細書で開示されるHSC及びCD3標的化二重特異性タンパク質、例えば、本明細書で提供される抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片は、幹細胞移植のためにヒト患者をコンディショニングする方法を含む治療法に有利な多くの特徴を有する。これらの特徴により、本明細書で開示される抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片はまた、様々な病態、なかでも、血液疾患、代謝障害、がん、及び自己免疫疾患などに罹患している患者を治療する方法での使用にも有利となっている。
【0060】
本開示は、ヒトCD117の外部ドメインに結合し、かつT細胞の表面上のヒトCD3に結合する抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片を提供する。本明細書で同定された単離された抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片のある特定の実施形態の結合領域は、以下に記載される。
【0061】
本明細書で開示されるHSC及びCD3標的化二重特異性タンパク質(例えば、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片)は、様々な障害、例えば、なかでも、造血系統細胞種の疾患、がん、自己免疫疾患、代謝障害、及び幹細胞障害を治療する方法に使用することができる。本明細書に記載される組成物及び方法は、(i)がん細胞(例えば、白血病細胞)及び自己免疫細胞(例えば、自己反応性T細胞)の集団などの病態を生じさせる細胞の集団を直接枯渇させ、及び/または(ii)移植された細胞がホーミングし得るニッチを提供することによって移植された造血幹細胞の生着を促進するように、内因性造血幹細胞の集団を枯渇させることができる。前述の活性は、例えば、造血幹細胞(または内因性疾患原因細胞)によって発現される抗原、すなわち、CD117、及びT細胞などの免疫細胞によって発現される抗原、例えば、CD3に結合することが可能な抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片の投与によって達成することができる。疾患を直接治療する場合、この投与により、目的の病態を生じさせる細胞の量を減少させることができる。患者の造血幹細胞移植療法の準備の場合、この投与により、内因性造血幹細胞の集団が選択に枯渇され得、それにより、骨髄などの造血組織に空きができ、その空きがその後移植される外因性造血幹細胞によって満たされ得る。本方法は、CD117(GNNK+CD117など)及びCD3に結合することが可能な抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片を患者に投与して、上記活性の両方をもたらすことができるという発見に部分的に基づいている。CD117及びCD3に結合する抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片は、がん性細胞または自己免疫細胞の集団を直接枯渇させるために、がんまたは自己免疫疾患に罹患している患者に投与することができ、また、移植される造血幹細胞の生存及び生着能を促進するために、造血幹細胞移植療法を必要とする患者に投与することができる。
【0062】
CD3及び抗HSC抗原に結合する二重特異性結合タンパク質、例えば、抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片の投与による造血幹細胞移植の生着は、様々な経験的測定で明示することができる。例えば、移植された造血幹細胞の生着は、例えば、CD117及びCD3に結合することが可能な抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片の投与及び後続の造血幹細胞移植の実施後に、患者の骨髄内に存在する競合的再建単位(CRU)の量を評価することによって評価することができる。更に、化学反応を触媒する酵素などの蛍光、発色、または発光生成物をもたらすレポーター遺伝子をベクターに組み込み、それをドナー造血幹細胞にトランスフェクトし、その後、造血幹細胞がホーミングした骨髄などの組織における対応するシグナルをモニタリングすることによって、造血幹細胞移植の生着を観察することができる。また、例えば、当該技術分野において知られている蛍光標識細胞分取(FACS)解析法によって決定されるように、造血幹細胞及び前駆細胞の量及び生存率を評価することによって、造血幹細胞生着を観察することもできる。生着はまた、移植後の期間中に末梢血中の白血球数を測定することによって、及び/または骨髄穿刺液試料中のドナー細胞による骨髄細胞の回復を測定することによって、決定することもできる。
【0063】
以下のセクションは、T細胞抗原、例えば、CD3、及び幹細胞標的、例えば、CD117に結合する二重特異性結合タンパク質についての説明を提供する。例としては、抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片が挙げられる。本明細書で開示される組成物及び方法は、がん(急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群など)もしくは自己免疫疾患に罹患している患者、または造血幹細胞移植片の生着を促進するために造血幹細胞移植療法を必要としている患者などの患者を治療するために使用することができ、そのような治療薬を患者に(例えば、造血幹細胞移植前に)投与する方法も同様である。
【0064】
定義
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、記載されている値の上または下5%以内の値を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、特定の抗原に特異的に結合するか、または特定の抗原と免疫学的に反応性である、免疫グロブリン分子を指す。抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、遺伝子操作された抗体、及び他の抗体の改変形態、例えば、限定するものではないが、脱免疫化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重、三重及び四重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディ、ならびにテトラボディ)、及び抗体断片(すなわち、抗体の抗原結合断片)、例えば、Fab’、F(ab’)2、Fab、Fv、rlgG、及びscFv断片(所望の抗原結合活性を呈する限り)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
一般に、抗体は、抗原結合領域(本明細書において抗原結合部分とも呼ばれる)を含有する重鎖及び軽鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書でHCVRまたはVHと略記される)及び重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2及びCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でLCVRまたはVLと略記される)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLから構成される。VH領域及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域と、その間に点在するフレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域とに更に分けることができる。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配列されている。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0067】
「抗原結合断片」という用語は、本明細書で使用される場合、標的抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の部分を指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片でも果たすことができる。抗体断片は、例えば、Fab、F(ab’)2、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ナノボディ、アプタマー、またはドメイン抗体であり得る。抗体の「抗原結合断片」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含有する二価断片であるF(ab’)2断片;(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片;(v)VH及びVLドメインを含むdAb;(vi)VHドメインからなるdAb断片(例えば、Ward et al.,Nature 341:544-546,1989参照);(vii)VHまたはVLドメインからなるdAb;(viii)単離された相補性決定領域(CDR);及び(ix)任意選択により合成リンカーによって接続され得る2つ以上(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ)の単離されたCDRの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。更に、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、組み換え法を使用して、VL領域とVH領域が対になって一価の分子を形成する単一タンパク質鎖としての作製を可能にするリンカーによって接続することができる(一本鎖抗体Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al.,Science 242:423-426,1988及びHuston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883,1988参照)。これらの抗体断片は、当業者に知られている従来の技術を使用して得ることができ、これらの断片は、インタクト抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングすることができる。抗原結合断片は、組み換えDNA技術、インタクト免疫グロブリンの酵素または化学的切断によって、あるいは、ある特定の場合、当該技術分野において知られている化学的ペプチド合成手順によって、作製することができる。二重特異性抗体の文脈では、抗原結合断片は、二重特異性断片、すなわち、二重特異性抗原結合断片(または部分)となる。
【0068】
「インタクト」または「全長」抗体は、本明細書で使用される場合、ジスルフィド結合によって相互に接続された2つの重鎖(H)ポリペプチド及び2つの軽鎖(L)ポリペプチドを有する抗体を指す。二重特異性抗体は、インタクト抗体であり得、ここで、二重特異性抗体の第1のアームは、第1の抗原(またはエピトープ)に結合する軽鎖及び重鎖を含み、二重特異性抗体の第2のアームは、第2の抗原(またはエピトープ)に結合する重鎖及び軽鎖を含む。
【0069】
「特異的に結合する」という用語は、本明細書で使用される場合、タンパク質一般ではなく、特定のタンパク質構造(エピトープ)を認識して結合する抗体または二重特異性結合タンパク質の能力を指す。抗体または二重特異性結合タンパク質がエピトープ「A」に対して特異的である場合、標識された「A」及び抗体を含有する反応において、エピトープAを含有する分子(または遊離の非標識A)が存在すると、抗体に結合する標識されたAの量が減少する。例として、抗体は、標識されている場合、対応する非標識抗体と競合し、その標的から離れ得る場合、標的に「特異的に結合する」。一実施形態において、抗体が標的に対して少なくとも約10-4M、約10-5M、約10-6M、約10-7M、約10-8M、約10-9M、約10-10M、約10-11M、約10-12Mまたはそれ以下(小さい(less)とは約10-12よりも小さい数、例えば、10-13を意味する)のKDを有する場合、抗体または二重特異性結合タンパク質は、標的、例えば、造血幹細胞によって発現されるCD117などの抗原に特異的に結合する。一実施形態において、KDは、標準的なバイオレイヤー干渉法(BLI)に従って決定される。しかしながら、抗体は、配列上関連する2つ以上抗原に特異的に結合することが可能であり得ることを理解されたい。例えば、一実施形態において、抗体は、抗原、例えば、CD117のヒト及び非ヒト(例えば、マウスまたは非ヒト霊長類)の両方のオルソログに特異的に結合することができる。
【0070】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、任意の真核生物、原核生物、またはファージクローンを含む単一クローンから、当該技術分野で利用可能であるまたは知られている任意の手段により得られる抗体を指し、ハイブリドーマ技術を介して産生される抗体に限定されない。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組み換え、及びファージディスプレイ技術、またはこれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野において知られている多種多様の技術を使用して調製することができる。
【0071】
本明細書で使用される場合、「免疫細胞」という用語は、造血系由来であり、免疫応答に関与する細胞を含むことが意図されるが、これに限定されない。免疫細胞には、T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれるが、これらに限定されない。ナチュラルキラー細胞は、当該技術分野においてよく知られている。一実施形態において、ナチュラルキラー細胞には、NK-92細胞などの細胞株が含まれる。NK細胞株の更なる例としては、NKG、YT、NK-YS、HANK-1、YTS細胞、及びNKL細胞が挙げられる。免疫細胞は、同種または自家であり得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、「抗CD117抗体」または「CD117に結合する抗体」という用語は、抗体がCD117を標的とする際に診断用剤及び/または治療薬剤として有用であるのに十分な親和性でCD117に結合することが可能な抗体を指す。同様に、「抗CD117二重特異性結合タンパク質」または「CD117に結合する二重特異性結合タンパク質」という用語は、二重特異性結合タンパク質がCD117を標的とする際に診断用剤及び/または治療薬剤として有用であるのに十分な親和性でCD117に結合することが可能な二重特異性結合タンパク質を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、「二重特異性結合タンパク質」または「二重特異性結合ポリペプチド」という用語は、2つの抗原(または同じ抗原上の2つのエピトープ)に結合する抗原結合領域を含むタンパク質を指す。二重特異性結合タンパク質の例は、二重特異性抗体またはBiTEである(例えば、Einsele et al.(2020)Cancer vol.126(14):3192-3201参照)。
【0074】
「二重特異性抗体」または「二重特異性抗体コンストラクト」という用語は、2つの異なる抗原または2つの異なるエピトープに対して二重結合特異性を示す抗体を指し、各結合部位は、異なっており、異なる抗原またはエピトープを認識する。例えば、結合特異性の一方は、造血幹細胞(HSC)表面抗原、例えば、CD117(例えば、GNNK+CD117)上のエピトープに向けられ、他方は、免疫細胞(例えば、T細胞)などの異なる細胞上のエピトープまたは異なる造血幹細胞表面抗原もしくは別の細胞表面タンパク質、例えば、特に細胞成長を増強するシグナル伝達経路に関与する受容体もしくは受容体サブユニット上のエピトープに向けることができる。一実施形態において、二重特異性抗体は、
図5に記載されるインタクト抗体によって表され、ここで、二重特異性抗体は、抗体重鎖及び軽鎖を含むT細胞特異的結合アームを含有し、抗体重鎖及び軽鎖を含む第2の標的特異的結合アーム(例えば、HSC上に発現される抗原に結合する)を含有する。
【0075】
特定の実施形態において、「二重特異性結合タンパク質」または「二重特異性抗体」または「二重特異性抗体コンストラクト」は、CD117に結合する第1の抗原結合ドメイン(または結合部分)及びCD3に結合する第2の抗原結合ドメイン(または結合部分)を有する。
【0076】
本明細書で開示される二重特異性結合タンパク質、例えば、抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片が(少なくとも)二重特異性であることを考慮すると、これらは自然に生じることはなく、自然に生じる産物とは極めて異なるものである。したがって、「二重特異性」結合タンパク質または免疫グロブリンは、異なる特異性を含む少なくとも2つの異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体または免疫グロブリンである。二重特異性結合タンパク質は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含む様々な方法によって産生することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,Clin.Exp.Imunol.79:315-321(1990)を参照されたい。
【0077】
「ノブインホール」または「ノブズインホール」という用語は、第1の抗原(またはエピトープ)に結合する軽鎖及び重鎖を含有する第1のアームと、第2の抗原(またはエピトープ)に結合する第2の軽鎖及び重鎖を含有する第2のアームを含有する、二重特異性抗体の特定の種類を指す。ノブインホール二重特異性抗体は、各アームのCH3ドメインを操作して各重鎖に「ノブ」または「ホール」のいずれかを作成し、2つの重鎖のヘテロ二量体化を促進することを伴う。
【0078】
特定の実施形態によれば、T細胞/HSCに特異的な二重特異性物質(例えば、抗CD3/CD117二重特異性抗体)は、「二重特異性一本鎖結合タンパク質」、より好ましくは、二重特異性「一本鎖Fv」(scFv)である。Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、組み換え法を使用して、VL領域とVH領域が対になって一価の分子を形成する単一タンパク質鎖としての作製を可能にする合成リンカーによって接続することができる。例えば、Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879-5883)を参照されたい。これらの抗体断片は、当業者に知られている従来の技術を使用して得ることができ、これらの断片は、全抗体または全長抗体と同じ様式で機能について評価される。したがって、一本鎖可変断片(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変領域及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質であり、通常、約10~約25アミノ酸、好ましくは、約15~20アミノ酸の短いリンカーペプチドで接続されている。リンカーは、通常、柔軟性のためにグリシンを多く含み、溶解性のためにセリンまたはトレオニンを多く含み、VHのN末端とVLのC末端またはその逆を接続することができる。このタンパク質は、定常領域の除去及びリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持している。
【0079】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR)という用語は、抗体(または本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質)の軽鎖及び重鎖の両方の可変ドメインに存在する超可変領域を指す。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と称される。抗体(または本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質)の超可変領域を画定するアミノ酸位置は、その文脈及び当該技術分野において知られている様々な定義に応じて変わり得る。可変ドメイン内のいくつかの位置は、ハイブリッド超可変位置とみなされることがあり、この場合、これらの位置は、ある一連の基準下では超可変領域内とみなすことができるが、別の一連の基準下では超可変領域外とみなされるものである。これらの位置のうちの1つ以上は、伸長超可変領域に存在する場合もある。本明細書に記載される抗体(または本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質)は、これらのハイブリッド超可変位置に改変を含有し得る。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、3つのCDRによって接続された主にβシート形状を取る4つのフレームワーク領域をそれぞれ含有し、CDRはβシート構造を接続するループを形成し、いくつかの場合にはβシート構造の一部を形成する。各鎖中のCDRは、フレームワーク領域によって、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順に近接して一緒に保持され、他方の抗体鎖のCDRとともに、抗体の標的結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institute of Health,Bethesda,MD.,1987参照)。ある特定の実施形態において、免疫グロブリンアミノ酸残基のナンバリングは、特に指示がない限り、Kabatらの免疫グロブリンアミノ酸残基ナンバリングシステムに従って行われる(ただし、任意の抗体ナンバリングスキーム、例えば、限定するものではないが、IMGT及びChothiaも利用することができる)。
【0080】
「Fc」、「Fc領域」、「Fcドメイン」、及び「IgG Fcドメイン」という用語は、本明細書で使用される場合、免疫グロブリン、例えば、IgG分子の部分であって、IgG分子のパパイン消化によって得られる結晶化可能な断片に関連する部分を指す。Fc領域は、ジスルフィド結合によって連結されたIgG分子の2つの重鎖のC末端側の半分を含む。Fc領域は、抗原結合活性を持たないが、炭水化物部分ならびに補体及びFcRn受容体(下記参照)を含むFc受容体に対する結合部位を含有する。例えば、Fcドメインは、第2の定常ドメインCH2(例えば、ヒトIgG1のEU位置231~340の残基)及び第3の定常ドメインCH3(例えば、ヒトIgG1のEU位置341~447の残基)を含有する。本明細書で使用される場合、Fcドメインは、「下部ヒンジ領域」(例えば、ヒトIgG1のEU位置233~239の残基)を含む。
【0081】
Fcは、この領域を単独で指すこともあれば、二重特異性結合タンパク質、抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質の文脈の中でこの領域を指すこともある。Fcドメインの多くの位置、例えば、限定するものではないが、EU位置270、272、312、315、356、及び358で多型が観察されていることから、本出願で提示される配列と当該技術分野において知られている配列との間にわずかな違いが存在し得る。したがって、「野生型IgG Fcドメイン」または「WT IgG Fcドメイン」は、天然に存在する任意のIgG Fc領域(すなわち、任意のアレル)を指す。ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4の重鎖の配列は、多くの配列データベースで見出すことができ、例えば、Uniprotデータベース(www.uniprot.org)では、それぞれP01857(IGHG1_HUMAN)、P01859(IGHG2_HUMAN)、P01860(IGHG3_HUMAN)、及びP01861(IGHG1_HUMAN)のアクセッション番号で見出すことができる。
【0082】
「修飾Fc領域」または「バリアントFc領域」という用語は、本明細書で使用される場合、Fcドメイン内の任意の位置に導入される1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入または修飾を含むIgG Fcドメインを指す。ある特定の態様において、バリアントIgG Fcドメインは、1つ以上のアミノ酸置換を含み、それにより、1つ以上のアミノ酸置換を含まない野生型Fcドメインと比較して、FcガンマR及び/またはC1qに対する結合親和性が低下または消失する。更に、Fc結合相互作用は、限定するものではないが、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)を含む様々なエフェクター機能及び下流のシグナル伝達イベントに必要不可欠である。したがって、ある特定の態様において、バリアントFcドメインを含む抗体(例えば、抗体、融合タンパク質またはコンジュゲート)は、例えば、Fc領域の対応する位置に天然に存在するアミノ酸残基を含有する非修飾のFc領域などの、同じアミノ酸配列を有するが、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入または修飾を含まない対応する抗体と比べて、少なくとも1つ以上のFcリガンド(例えば、FcガンマR)に対して、改変された結合親和性を示し得る。
【0083】
バリアントFcドメインは、それらを構成するアミノ酸修飾に従って定義される。Fc領域に関して本明細書で考察されるアミノ酸置換の全てについて、ナンバリングは、常に、KabatにおけるEUインデックスに従う。したがって、例えば、D265Cは、親Fcドメインを基準として、EU位置265のアスパラギン酸(D)がシステイン(C)で置換されたFcバリアントである。置換が提供される順序は任意であることに留意されたい。同様に、例えば、D265C/L234A/L235Aは、親Fcドメインを基準として、EU位置265(DからC)、234(LからA)、及び235(LからA)に置換を有するバリアントFcバリアントを定義する。バリアントはまた、変異したEUアミノ酸位置における最終アミノ酸組成物に従って指定することもできる。例えば、L234A/L235Aの変異体は、「LALA」と呼ぶことができる。更なる例として、E233P.L234V.L235A.delG236(236の欠失)変異体は、「EPLVLAdelG」と呼ぶことができる。更に別の例として、I253A.H310A.H435Aの変異体は、「IHH」と呼ぶことができる。置換が提供される順序は任意であることに留意されたい。
【0084】
「Fcガンマ受容体」または「FcガンマR」という用語は、本明細書で使用される場合、IgG抗体のFc領域に結合し、FcガンマR遺伝子によってコードされるタンパク質ファミリーの任意のメンバーを指す。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームのFcガンマRIa、FcガンマRIb、及びFcガンマRIcを含むFcガンマRI(CD64);アイソフォームのFcガンマRIIa(アロタイプH131及びR131を含む)、FcガンマRIIb(FcガンマRIIb-1及びFcガンマRIIb-2を含む)、及びFcガンマRIIcを含むFcガンマRII(CD32);及びアイソフォームのFcガンマRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)及びFcガンマRIIIb(アロタイプFcガンマRIIIb-NA1及びFcガンマRIIIb-NA2を含む)を含むFcガンマRIII(CD16)、ならびに任意の未発見のヒトFcガンマRまたはFcガンマRアイソフォームもしくはアロタイプが含まれるが、これらに限定されない。FcガンマRは、限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルを含む任意の生物に由来し得る。マウスFcガンマRには、FcガンマRI(CD64)、FcガンマRII(CD32)、FcガンマRIII(CD16)、及びFcガンマRIII-2(CD16-2)、ならびに任意の未発見のマウスFcガンマRまたはFcガンマRアイソフォームもしくはアロタイプが含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
「エフェクター機能」という用語は、本明細書で使用される場合、FcドメインとFc受容体の相互作用から生じる生化学的イベントを指す。エフェクター機能には、ADCC、ADCP、及びCDCが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される「エフェクター細胞」とは、1つ以上のFc受容体を発現し、1つ以上のエフェクター機能を媒介する免疫系の細胞を意味する。エフェクター細胞には、限定するものではないが、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びガンマデルタT細胞が含まれ、限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルを含む任意の生物に由来し得る。
【0086】
本明細書で使用される「サイレント」、「サイレンス」、または「サイレンシング」という用語は、本明細書に記載される修飾Fc領域を有する抗体または二重特異性結合タンパク質であって、Fcガンマ受容体(FcγR)に対する結合が非修飾のFc領域を含む同一の抗体または二重特異性結合タンパク質のFcγRに対する結合と比べて低減している抗体または二重特異性結合タンパク質を指す(例えば、FcγRに対する結合が、例えば、BLIによって測定した場合、非修飾のFc領域を含む同一の抗体のFcγRに対する結合と比べて、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%低減している)。いくつかの実施形態において、Fcサイレンス抗体または二重特異性結合タンパク質は、FcγRへの検出可能な結合を有さない。修飾Fc領域を有する抗体のFcγRへの結合は、当該技術分野において知られている様々な技術、例えば、限定するものではないが、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着法(ELISA);KinExA,Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008;またはラジオイムノアッセイ(RIA))、または表面プラズモン共鳴アッセイもしくは他のメカニズムのカイネティクスベースアッセイ(例えば、BIACORE(商標)解析またはOctet(商標)解析(forteBIO))、ならびに間接的な結合アッセイ、競合結合アッセイ蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ゲル電気泳動及びクロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過)などの他の方法を使用して、決定することができる。これらの方法及び他の方法は、試験される成分のうちの1つ以上に標識を利用してもよいし、及び/または発色標識、蛍光標識、発光標識、もしくは同位体標識を含むがこれらに限定されない様々な検出法を採用することができる。結合親和性及びカイネティクスの詳細な説明については、抗体と免疫原の相互作用に焦点を当てたPaul,W.E.,ed.,Fundamental Immunology,4th Ed.,Lippincott-Raven,Philadelphia(1999)に見出すことができる。競合結合アッセイの一例は、目的の抗体と標識抗原を漸増量の非標識抗原の存在下でインキュベーションし、標識抗原に結合した抗体を検出することを含む、ラジオイムノアッセイである。特定の抗原に対する目的の抗体の親和性及び結合オフレートは、スキャッチャードプロット析によってデータから決定することができる。二次抗体との競合は、ラジオイムノアッセイを使用して決定することもできる。この場合、抗原は、標識した化合物とコンジュゲートした目的の抗体とともに、漸増量の非標識の二次抗体の存在下でインキュベートされる。
【0087】
本明細書で使用される場合、「非修飾のFc領域を含む同一の抗体」または「非修飾のFc領域を含む同一の二重特異性結合タンパク質」という用語は、列挙されるアミノ酸置換(例えば、D265C、H435A、L234A、及び/またはL235A)を欠いているが、他の点では、比較されるFc修飾抗体またはFc修飾二重特異性結合タンパク質と同じアミノ酸配列を有する、抗体または二重特異性結合タンパク質を指す。
【0088】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」または「ADCC」という用語は、Fcドメインを含むポリペプチド、例えば、抗体または二重特異性結合タンパク質が、ある特定の細胞傷害性細胞(例えば、主にNK細胞、好中球、及びマクロファージ)に存在するFc受容体(FcR)に結合し、これらの細胞傷害性エフェクター細胞が、抗原を持つ「標的細胞」に特異的に結合し、その後、その標的細胞を細胞毒で殺傷することができる細胞傷害性の一形態を指す。(Hogarth et al.,Nature review Drug Discovery 2012,11:313)抗体または二重特異性結合タンパク質及びその断片に加えて、抗原を持つ標的細胞に特異的に結合する能力を有する、Fcドメインを含む他のポリペプチド、例えば、Fc融合タンパク質及びFcコンジュゲートタンパク質は、細胞媒介性細胞傷害を発揮することができることが企図される。
【0089】
簡潔さのために、Fcドメインを含むポリペプチドの活性に起因する細胞媒介性細胞傷害もまた、本明細書において、ADCC活性と呼ばれる。ADCCによる標的細胞の溶解を媒介する本開示の任意の特定のポリペプチドの能力は、アッセイすることができる。ADCC活性を評価するためには、目的のポリペプチド(例えば、抗体)を免疫エフェクター細胞と組み合わせて標的細胞に加えることで、標的細胞の細胞溶解をもたらす。細胞溶解は、一般に、標識(例えば、放射性基質、蛍光色素または天然の細胞内タンパク質)が溶解した細胞から放出されることによって検出される。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。in vitro ADCCアッセイの具体例は、Bruggemann et al.,J.Exp.Med.166:1351(1987);Wilkinson et al.,J.Immunol.Methods 258:183(2001);Patel et al.,J.Immunol.Methods 184:29(1995)に記載されている。代替的または追加的に、目的の抗体または二重特異性結合タンパク質のADCC活性は、例えば、Clynes et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA95:652(1998)に開示されているような動物モデルでin vivo評価することができる。
【0090】
本明細書で使用される場合、「コンディション」及び「コンディショニング」という用語は、患者が造血幹細胞を含有する移植を受けるための準備を行うプロセスを指す。そのような処置は、造血幹細胞移植の生着を促進する(例えば、コンディショニング処置及び後続の造血幹細胞移植後に患者から単離された血液試料内の生存可能な造血幹細胞の量の持続的な増加から推測される)。本明細書に記載される方法に従って、T細胞媒介性HSC細胞枯渇二重特異性抗体(例えば、造血幹細胞によって発現されるCD117(例えば、GNNK+CD117)などの抗原及びT細胞によって発現されるCD3などの抗原に結合することが可能な抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片)を患者に投与することによって、患者は、造血幹細胞移植療法のためのコンディショニングがなされ得る。ある特定の実施形態において、HSC上の抗原(例えば、CD117)及びT細胞上の抗原(例えば、CD3)に結合することが可能な二重特異性結合タンパク質またはその断片を、造血幹細胞移植療法を必要とする患者に投与することは、例えば、内因性造血幹細胞を選択的に枯渇させ、それにより、外因性造血幹細胞移植で補われる空きを作り出すことによって、造血幹細胞移植片の生着を促進することができる。
【0091】
提供されるのはまた、本明細書に記載される配列番号に記載される配列の「保存的配列修飾」であり、すなわち、ヌクレオチド及びアミノ酸配列の修飾は、ヌクレオチド配列によってコードされるまたはアミノ酸配列を含有する抗体または二重特異性結合タンパク質の抗原への結合を損なわないものである。そのような保存的配列修飾には、保存的なヌクレオチド及びアミノ酸の置換、ならびにヌクレオチド及びアミノ酸の付加及び欠失が含まれる。例えば、修飾は、部位特異的変異導入及びPCRによる変異導入などの当該技術分野において知られている標準的な技術によって本明細書に記載される配列番号に導入することができる。保存的配列修飾には、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換える、保存的アミノ酸置換が含まれる。類似の側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは、当該技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分岐状側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含むアミノ酸が含まれる。したがって、二重特異性抗体、例えば、抗CD117抗体または抗CD117二重特異性結合タンパク質において、必要でないと予測されるアミノ酸残基は、好ましくは、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基で置き換えられる。抗原結合を排除しないヌクレオチド及びアミノ酸の保存的置換を同定する方法は、当該技術分野において知られている(例えば、Brummell et al.,Biochem.32:1180-1187(1993);Kobayashi et al.Protein Eng.12(10):879-884(1999);及びBurks et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:412-417(1997)参照)。
【0092】
本明細書で使用される場合、「ドナー」という用語は、1つ以上の細胞が単離されるヒトまたは動物を指し、その後、その細胞またはその子孫がレシピエントに投与される。1つ以上の細胞は、例えば、造血幹細胞の集団であり得る。
【0093】
本明細書で使用される場合、「ダイアボディ」という用語は、2つのポリペプチド鎖を含有する二価抗体を指し、この場合、各ポリペプチド鎖は、同じペプチド鎖上のVHドメインとVLドメインの分子内会合が起きないような短いリンカー(例えば、5つのアミノ酸から構成されるリンカー)によって接続されたVHドメイン及びVLドメインを含む。この配置により、各ドメインは、別のポリペプチド鎖上の相補的なドメインと対合し、ホモ二量体構造が形成される。したがって、「トリアボディ」という用語は、3つのペプチド鎖を含有する三価抗体を指し、そのそれぞれは、同じペプチド鎖内のVHドメインとVLドメインの分子内会合が生じるような極めて短いリンカー(例えば、1~2つのアミノ酸から構成されるリンカー)によって接続された1つのVHドメイン及び1つのVLドメインを含有する。このように構成されたペプチドは、本来の構造へ折り畳まれるために、典型的に、隣接するペプチド鎖のVHドメイン及びVLドメインが互いに空間的に近接して配置されるように三量体化する(例えば、Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-48,1993参照)。
【0094】
本明細書で使用される場合、「内因性」という用語は、ヒト患者などの特定の生物で自然に見出される物質、例えば、分子、細胞、組織、または臓器(例えば、造血幹細胞または造血系統の細胞、例えば、巨核球、栓球、血小板、赤血球、マスト細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、ミクログリア細胞、顆粒球、単球、破骨細胞、抗原提示細胞、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、またはBリンパ球など)を記述するものである。
【0095】
本明細書で使用される場合、「生着能」という用語は、造血幹細胞及び前駆細胞が、かかる細胞が自然に循環しているか、移植によって提供されるかにかかわらず、組織を再建する能力を指すために使用される。この用語は、細胞の組織へのホーミング及び目的の組織内での細胞のコロニー化など、生着にまつわるまたは生着に至るまでの全ての事象を包含する。生着効率または生着率は、当業者に知られている任意の臨床的に許容されるパラメーターを使用して評価または定量化することができ、例えば、競合的再建単位(CRU)の評価;幹細胞がホーミング、コロニー化、もしくは生着した組織(複数可)におけるマーカーの取り込みもしくは発現;または疾患の進行を介した対象の進捗、造血幹細胞及び前駆細胞の生存、もしくはレシピエントの生存の評価が含まれ得る。生着はまた、移植後の期間中に末梢血中の白血球数を測定することによっても決定することができる。生着はまた、骨髄穿刺液試料中のドナー細胞による骨髄細胞の回復を測定することによっても評価することができる。
【0096】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、ヒト患者などの特定の生物で自然に見出されない物質、例えば、分子、細胞、組織、または臓器(例えば、造血幹細胞または造血系統の細胞、例えば、巨核球、栓球、血小板、赤血球、マスト細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、ミクログリア細胞、顆粒球、単球、破骨細胞、抗原提示細胞、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、またはBリンパ球など)を記述するものである。外因性物質には、生物または生物から抽出された培養物に外の供給源から供給されるものが含まれる。
【0097】
本明細書で使用される場合、「フレームワーク領域」または「FW領域」という用語は、抗体またはその抗原結合断片のCDRに隣接するアミノ酸残基を含む。FW領域残基は、例えば、なかでも、ヒト抗体、ヒト化抗体、モノクローナル抗体、抗体断片、Fab断片、一本鎖抗体断片、scFv断片、抗体ドメイン、及び二重特異性結合タンパク質またはその断片に存在し得る。
【0098】
本明細書で使用される場合、「造血幹細胞」(「HSC」)という用語は、自己複製する能力と、様々な系統、例えば、限定するものではないが、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、栓球(例えば、巨核芽球、血小板産生巨核球、血小板)、単球(例えば、単球、マクロファージ)、樹状細胞、ミクログリア、破骨細胞、及びリンパ球(例えば、NK細胞、B細胞及びT細胞)を含む成熟血液細胞に分化する能力とを有する未成熟血液細胞を指す。そのような細胞は、CD34+細胞を含み得る。CD34+細胞は、CD34細胞表面マーカーを発現する未成熟細胞である。ヒトの場合、CD34+細胞は、上に定義される幹細胞の特性を持つ細胞の亜集団を含むと考えられており、マウスの場合、HSCは、CD34-である。加えて、HSCはまた、長期的な再建能を持つHSC(LT-HSC)及び短期的な再建能を持つHSC(ST-HSC)を指す。LT-HSC及びST-HSCは、機能的な潜在能力、細胞表面マーカーの発現に基づいて、分化する。例えば、ヒトHSCは、CD34+、CD38-、CD45RA-、CD90+、CD49F+、及びlin-(CD2、CD3、CD4、CD7、CD8、CD10、CD11B、CD19、CD20、CD56、CD235Aを含む成熟系統マーカーが陰性)である。マウスにおいて、骨髄LT-HSCは、CD34-、SCA-1+、C-kit+、CD135-、Slamfl/CD150+、CD48-、及びlin-(Ter119、CD11b、Gr1、CD3、CD4、CD8、B220、IL7raを含む成熟系統マーカーが陰性)であり、一方、ST-HSCは、CD34+、SCA-1+、C-kit+、CD135-、Slamfl/CD150+、及びlin-(Ter119、CD11b、Gr1、CD3、CD4、CD8、B220、IL7raを含む成熟系統マーカーが陰性)である。加えて、ST-HSCは、恒常的な条件下において、LT-HSCよりも静止状態が少なく、増殖性が高い。しかしながら、LT-HSCは、自己複製能が高く(すなわち、成人期を通して生存し、継続的なレシピエントに連続して移植することができる)、ST-HSCは、自己複製能に限りがある(すなわち、限られた期間しか生存できず、連続的な移植能力を持たない)。これらのHSCのいずれも、本明細書に記載される方法に使用することができる。ST-HSCは、増殖性が高く、そのため、分化した子孫をより迅速に生み出すことができるので、特に有用である。
【0099】
本明細書で使用される場合、「造血幹細胞の機能的な潜在能力」という用語は、1)多能性(複数の異なる血液系統、例えば、限定するものではないが、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、栓球(例えば、巨核芽球、血小板産生巨核球、血小板)、単球(例えば、単球、マクロファージ)、樹状細胞、ミクログリア、破骨細胞、及びリンパ球(例えば、NK細胞、B細胞及びT細胞に分化する能力を指す)、2)自己複製能(母細胞と同等の能力を有する娘細胞を生み出し、更にその能力が生涯を通じて枯渇することなく繰り返し生じ得る造血幹細胞の能力を指す)、及び3)移植レシピエントに再導入され、その造血幹細胞ニッチにホーミングし、生産的かつ持続的な造血を再建する造血幹細胞またはその子孫の能力を含む、造血幹細胞の機能上の特性を指す。
【0100】
本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むことが意図される。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダム変異導入もしくは部位特異的変異導入、または遺伝子再構成、またはin vivoでの体細胞変異によって導入される変異)を含み得る。ただし、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体を含むことは意図されていない。ヒト抗体は、ヒト細胞(例えば、組み換え発現)において、または機能的に再構成されたヒト免疫グロブリン(重鎖及び/または軽鎖など)遺伝子を発現することが可能な非ヒト動物もしくは原核細胞もしくは真核細胞によって産生され得る。ヒト抗体が一本鎖抗体である場合、天然のヒト抗体にはないリンカーペプチドを含むことができる。例えば、Fvは、重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域とを接続する、2~約8個のグリシンまたは他のアミノ酸残基などのリンカーペプチドを含有することができる。そのようなリンカーペプチドは、ヒト由来であるとみなされる。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを使用したファージディスプレイ法を含む、当該技術分野で知られている様々な方法で作製することができる。ヒト抗体はまた、機能的な内因性免疫グロブリンを発現できないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを使用して作製することもできる(例えば、PCT公開第WO1998/24893号;同第WO1992/01047号;同第WO1996/34096号;同第WO1996/33735号;米国特許第5,413,923号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,569,825号;同第5,661,016号;同第5,545,806号;同第5,814,318号;同第5,885,793号;同第5,916,771号;及び同第5,939,598号参照)。
【0101】
本明細書で使用される場合、造血幹細胞移植を「必要とする」患者には、1つ以上の血液細胞種に欠損または欠失を呈する患者だけでなく、幹細胞障害、自己免疫疾患、がん、または本明細書に記載される他の病態を有する患者が含まれる。造血幹細胞は、一般に、1)多能性を示し、そのため、複数の異なる血液系統、例えば、限定するものではないが、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、栓球(例えば、巨核芽球、血小板産生巨核球、血小板)、単球(例えば、単球、マクロファージ)、樹状細胞、ミクログリア、破骨細胞、及びリンパ球(例えば、NK細胞、B細胞及びT細胞)に分化することができ、2)自己複製能を示し、そのため、母細胞と同等の能力を有する娘細胞を生み出すことができ、3)移植レシピエントに再導入され、その造血幹細胞ニッチにホーミングし、生産的かつ持続的な造血を再建する能力を示す。したがって、造血幹細胞は、造血系統の1つ以上の細胞種に欠損または欠失がある患者に投与し、欠損または欠失した細胞集団をin vivoで再構成することができる。例えば、患者は、がんに罹患している場合があり、当該欠失は、選択的または非特異的にがん性細胞集団を枯渇させる化学療法剤または他の薬剤の投与によって生じ得る。追加的または代替的に、患者は、鎌状赤血球貧血、サラセミア、ファンコーニ貧血、再生不良性貧血、及びウィスコットアルドリッチ症候群などの異常ヘモグロビン症(例えば、非悪性異常ヘモグロビン症)に罹患している場合がある。対象は、アデノシンデアミナーゼ重症複合型免疫不全(ADA SCID)、HIV/AIDS、異染性白質ジストロフィー、ダイヤモンドブラックファン貧血、及びシュワッハマンダイアモンド症候群に罹患している者であり得る。対象は、遺伝性血液障害(例えば、鎌状赤血球貧血)または自己免疫障害を有するか、またはその影響を受けている場合がある。追加的または代替的に、対象は、神経芽細胞腫または血液系がんなどの悪性腫瘍を有するか、またはその影響を受けている場合がある。例えば、対象は、白血病、リンパ腫、または骨髄腫を有し得る。いくつかの実施形態において、対象は、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、または非ホジキンリンパ腫を有する。いくつかの実施形態において、対象は、骨髄異形成症候群を有する。いくつかの実施形態において、対象は、強皮症、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病、1型糖尿病、または本明細書に記載される別の自己免疫的病態などの自己免疫疾患を有する。いくつかの実施形態において、対象は、キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法を必要とする。いくつかの実施形態において、対象は、代謝性蓄積障害を有するか、または別様に影響を受けている。対象は、グリコーゲン蓄積症、ムコ多糖症、ゴーシェ病、ハーラー病、スフィンゴリピド症、異染性白質ジストロフィー、または本明細書で開示される治療及び療法から利益を得ることができる任意の他の疾患もしくは障害、例えば、限定するものではないが、重症複合免疫不全、ウィスコットアルドリッチ症候群、高免疫グロブリンM(IgM)症候群、チェディアック東病、遺伝性リンパ組織球症、骨粗鬆症、骨形成不全症、蓄積症、大サラセミア、鎌状赤血球症、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、若年性関節リウマチ及びそれらの疾患、もしくは“Bone Marrow Transplantation for Non-Malignant Disease,”ASH Education Book,1:319-338(2000)(当該開示は、造血幹細胞移植療法の実施によって治療され得る病態に関して、その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されている障害からなる群から選択される代謝性障害に罹患しているか、または別様にその影響を受けている。追加的または代替的に、造血幹細胞移植を「必要とする」患者は、前述の病態の1つに罹患している者であるか、または罹患していないにもかかわらず、巨核球、栓球、血小板、赤血球、マスト細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、ミクログリア、顆粒球、単球、破骨細胞、抗原提示細胞、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、及びBリンパ球などの造血系統内の1つ以上の内因性細胞種が減少したレベル(例えば、健康な対象のレベルと比較して)を示す者であってもよい。当業者であれば、例えば、当該技術分野において知られている他の手順のなかでも、フローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取(FACS)法によって、前述の細胞種のうちの1つ以上または他の血液細胞種のレベルが他の健康な対象と比べて減少しているかどうかを容易に決定することができる。
【0102】
本明細書で使用される場合、「レシピエント」という用語は、造血幹細胞の集団を含有する移植などの移植を受ける患者を指す。レシピエントに投与される移植される細胞は、例えば、自家細胞、同系細胞、または同種細胞であり得る。
【0103】
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、対象から採取された検体(例えば、血液、血液成分(例えば、血清または血漿)、尿、唾液、羊水、脳脊髄液、組織(例えば、胎盤または皮膚)、膵液、絨毛試料、及び細胞)を指す。
【0104】
本明細書で使用される場合、「scFv」という用語は、抗体由来の重鎖及び軽鎖の可変ドメインが接続されて1つの鎖を形成している一本鎖Fv抗体を指す。scFv断片は、リンカーによって分離された抗体(または本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質)軽鎖(VL)の可変領域(例えば、CDR-L1、CDR-L2、及び/またはCDR-L3)及び抗体(または本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質)重鎖(VH)の可変領域(例えば、CDR-H1、CDR-H2、及び/またはCDR-H3)を含む単一のポリペプチド鎖を含有する。scFv断片のVL領域及びVH領域を接続するリンカーは、タンパク質生成アミノ酸で構成されるペプチドリンカーであり得る。タンパク質分解に対するscFv断片の耐性を増加させるために(例えば、D-アミノ酸含有リンカー)、scFv断片の溶解性を強化するために(例えば、ポリエチレングリコール含有リンカーまたはグリシン及びセリン残基の繰り返しを含有するポリペプチドなどの親水性リンカー)、分子の生物物理学的安定性を改善するために(例えば、分子内または分子間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基含有リンカー)、またはscFv断片の免疫原性を減弱させるために(例えば、グリコシル化部位含有リンカー)、代替リンカーが使用され得る。当業者であれば、本明細書に記載されるscFv分子の可変領域は、その由来となる抗体分子とアミノ酸配列が異なるように修飾することができることも理解するであろう。例えば、保存的置換をもたらすヌクレオチドもしくはアミノ酸置換またはアミノ酸残基での変更を(例えば、CDR及び/またはフレームワーク残基に)行い、対応する抗体または二重特異性結合タンパク質によって認識される抗原に結合するscFvの能力を維持または強化することができる。
【0105】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は、本明細書に記載される特定の疾患または状態に対する治療を受けるヒトなどの生物を指す。例えば、ヒト患者などの患者は、外因性造血幹細胞の生着を促進するために、造血幹細胞移植療法の前に治療を受けることがある。
【0106】
本明細書で使用される場合、「血液から実質的に消失した」という文言は、治療薬剤(抗CD117二重特異性抗体またはその抗原結合断片など)の患者への投与後の時点であって、患者から単離された血液試料中の治療薬剤の濃度について、治療薬剤が従来の手段によって検出されない(例えば、治療薬剤を検出するために使用されるデバイスまたはアッセイのノイズ閾値を上回って治療薬剤が検出されない)時点を指す。抗体、抗体断片、二重特異性抗体、及びその抗原結合断片を検出するには、当該技術分野において知られている様々な技術、例えば、当該技術分野において知られているまたは本明細書に記載されるELISAベース検出アッセイなどを使用することができる。抗体、または抗体断片、二重特異性抗体及びその抗原結合断片を検出するために使用することができる追加のアッセイとしては、当該技術分野において知られているもののなかでも、免疫沈降技術及びイムノブロットアッセイが含まれる。
【0107】
本明細書で使用される場合、「幹細胞障害」という文言は、対象の標的組織のコンディショニング、及び/または標的組織内の内因性幹細胞集団の除去(例えば、対象の骨髄組織からの内因性造血幹細胞または前駆細胞集団の除去)、及び/または対象の標的組織への幹細胞の生着もしくは移植によって、治療または治癒され得る任意の疾患、障害、または状態を広く指す。例えば、I型糖尿病は、造血幹細胞移植によって治癒されることが示されており、本明細書に記載される組成物及び方法に従ったコンディショニングから利益を得ることができる。本明細書に記載される組成物及び方法を使用して治療することができる追加の障害には、限定するものではないが、鎌状赤血球貧血、サラセミア、ファンコーニ貧血、再生不良性貧血、ウィスコットアルドリッチ症候群、ADA SCID、HIV/AIDS、異染性白質ジストロフィー、ダイヤモンドブラックファン貧血、及びシュワッハマンダイアモンド症候群が含まれる。本明細書に記載される患者コンディショニング及び/または造血幹細胞移植方法を使用して治療され得る追加の疾患には、遺伝性血液障害(例えば、鎌状赤血球貧血)ならびに強皮症、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、及びクローン病などの自己免疫障害が含まれる。本明細書に記載されるコンディショニング及び/または移植方法を使用して治療され得る追加の疾患には、神経芽細胞腫などの悪性腫瘍または白血病、リンパ腫、及び骨髄腫などの血液系がんが含まれる。例えば、がんは、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、または非ホジキンリンパ腫であり得る。本明細書に記載されるコンディショニング及び/または移植方法を使用して治療することが可能な追加の疾患には、骨髄異形成症候群が含まれる。いくつかの実施形態において、対象は、代謝性蓄積障害を有するか、または別様にその影響を受けている。例えば、対象は、グリコーゲン蓄積症、ムコ多糖症、ゴーシェ病、ハーラー病、スフィンゴリピド症、異染性白質ジストロフィー、または本明細書で開示される治療及び療法から利益を得ることができる任意の他の疾患もしくは障害、例えば、限定するものではないが、重症複合免疫不全、ウィスコットアルドリッチ症候群、高免疫グロブリンM(IgM)症候群、チェディアック東病、遺伝性リンパ組織球症、骨粗鬆症、骨形成不全症、蓄積症、大サラセミア、鎌状赤血球症、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、若年性関節リウマチ及びそれらの疾患、もしくは“Bone Marrow Transplantation for Non-Malignant Disease,”ASH Education Book,1:319-338(2000)(当該開示は、造血幹細胞移植療法の実施によって治療され得る病態に関して、その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されている障害からなる群から選択される代謝性障害に罹患しているか、または別様にその影響を受けている場合がある。
【0108】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、原核生物または真核生物宿主細胞に外因性DNAを導入するために一般的に使用される多様な技術のいずれか、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクションなどを指す。
【0109】
本明細書で使用される場合、「治療する」または「治療」という用語は、疾患症状の重症度及び/または頻度の軽減、疾患症状及び/または当該症状の根本原因の排除、疾患症状及び/またはその根本原因の頻度または可能性の軽減、ならびに疾患によって直接的または間接的に引き起こされる損傷の改善または修復を指す。有益なまたは所望の臨床結果には、本明細書に記載される抗体コンディショニング療法及び後続の造血幹細胞移植療法後の患者における外因性造血細胞の生着を促進させることが含まれるが、これらに限定されない。追加の有益な結果には、コンディショニング療法及び患者に対する外因性造血幹細胞移植片の後続投与後の造血幹細胞移植を必要とする患者における造血幹細胞の細胞数または相対濃度の増加が含まれる。本明細書に記載される療法の有益な結果にはまた、コンディショニング療法及び後続の造血幹細胞移植療法後における、巨核球、栓球、血小板、赤血球、マスト細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、ミクログリア細胞、顆粒球、単球、破骨細胞、抗原提示細胞、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、またはBリンパ球などの造血系統細胞のうちの1つ以上の細胞数または相対濃度の増加が含まれ得る。追加の有益な結果には、がん細胞(例えば、CD117+白血病細胞)または自己免疫細胞(例えば、自己抗原と交差反応するT細胞受容体を発現するCD117+T細胞などのCD117+自己免疫リンパ球)の集団などの疾患を引き起こす細胞集団の量の減少が含まれ得る。本発明の方法が障害の予防を対象とするものである限り、「予防する」という用語は、その疾患状態が完全に阻止されることを要しないことが理解される。むしろ、本明細書で使用される場合、予防するという用語は、疾患の発症前に本発明の化合物の投与が行われ得るように、障害に罹患しやすい集団を特定する当業者の能力を指す。この用語は、疾病状態が完全に回避されることを意味するものではない。
【0110】
本明細書で使用される場合、「バリアント」及び「誘導体」という用語は、区別なく使用され、本明細書に記載される化合物、ペプチド、タンパク質、または他の物質の天然、合成、及び半合成の類似体を指す。本明細書に記載される化合物、ペプチド、タンパク質、または他の物質のバリアントまたは誘導体は、元の物質の生物活性を保持または改善し得る。
【0111】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、プラスミド、DNAベクター、プラスミド、RNAベクター、ウイルス、または他の好適なレプリコンなどの核酸ベクターを含む。本明細書に記載される発現ベクターは、ポリヌクレオチド配列だけでなく、例えば、タンパクの発現及び/またはこれらのポリヌクレオチド配列の哺乳動物細胞のゲノムへの組み込みに使用される追加の配列要素を含有し得る。本発明の二重特異性抗体及び二重特異性抗体断片の発現に使用することができるある特定のベクターには、遺伝子の転写を指示するプロモーター領域及びエンハンサー領域などの制御配列を含有するプラスミドが含まれる。二重特異性抗体及び二重特異性抗体断片の発現に有用な他のベクターは、これらの遺伝子の翻訳速度を向上させるか、または遺伝子の転写から生じるmRNAの安定性もしくは核外輸送を改善するポリヌクレオチド配列を含有する。これらの配列要素には、発現ベクター上に搭載された遺伝子の効率的な転写を指示するために、例えば、5’及び3’非翻訳領域、ならびにポリアデニル化シグナル部位が含まれ得る。本明細書に記載される発現ベクターはまた、そのようなベクターを含有する細胞を選択するためのマーカーをコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。好適なマーカーの例としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、及びノーセオトリシン(nourseothricin)などの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0112】
T細胞抗原及びHSC抗原を標的とする二重特異性結合タンパク質
本明細書に記載される組成物及び方法は、標的細胞、特に、コンディショニングのために枯渇される標的細胞であるHSCのT細胞媒介性枯渇に基づいている。本明細書における開示の1つの利点は、二重特異性結合タンパク質、例えば、抗CD3/抗HSC二重特異性抗体が、免疫媒介性細胞傷害を使用してHSCを枯渇させる能力であり、細胞傷害性薬剤または全般的な細胞枯渇を引き起こす治療法、例えば化学療法もしくは放射線照射を必要とせず、あるいはその必要性が減少することである。この標的化アプローチは、標的細胞集団に関連する抗原を発現する細胞、例えば、HSCに焦点を当て、標的以外の細胞への影響を最小限に抑えている。更に、細胞枯渇は、本明細書で開示される二重特異性タンパク質を使用して、T細胞を標的細胞に向かわせることによって達成される。
【0113】
本明細書で使用される場合、「抗造血細胞抗体」または「抗HC抗体」という用語は、造血幹細胞によって発現されるCD117(例えば、GNNK+CD117)などの抗原に特異的に結合する抗体を指す。二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合領域は、抗HC抗体に由来する第1の結合部分、例えば、CD117に特異的な重鎖及び軽鎖の組み合わせを含み得る。
【0114】
本明細書で開示される二重特異性物質を含む組成物及び方法は、任意の標的特異的抗原を発現する細胞を標的にするために使用することができる。ある特定の実施形態において、本明細書で開示される組成物及び方法は、ヒトHSC上に発現される抗原、例えば、CD7、CDw12、CD13、CD15、CD19、CD21、CD22、CD29、CD30、CD33、CD34、CD36、CD38、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD48、CD49b、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD53、CD55、CD64a、CD68、CD71、CD72、CD73、CD81、CD82、CD85A、CD85K、CD90、CD99、CD104、CD105、CD109、CD110、CD111、CD112、CD114、CD115、CD117、CD123、CD124、CD126、CD127、CD130、CD131、CD133、CD135、CD138、CD151、CD157、CD162、CD164、CD168、CD172a、CD173、CD174、CD175、CD175s、CD176、CD183、CD191、CD200、CD201、CD205、CD217、CD220、CD221、CD222、CD223、CD224、CD225、CD226、CD227、CD228、CD229、CD230、CD235a、CD235b、CD236、CD236R、CD238、CD240、CD242、CD243、CD277、CD292、CDw293、CD295、CD298、CD309、CD318、CD324、CD325、CD338、CD344、CD349及びCD350などの抗原に特異的である。ある特定の実施形態において、標的細胞は、標的となり得る1つ以上のマーカーを発現するヒト造血幹細胞を含み、そのような抗原は、CD11a、CD18、CD37、CD47、CD52、CD58、CD62L、CD69、CD74、CD97、CD103、CD132、CD156a、CD179a、CD179b、CD184、CD232、CD244、CD252、CD302、CD305、CD317またはCD361を含む。
【0115】
ある特定の実施形態において、標的細胞は、本明細書で開示される抗CD3二重特異性抗体の標的となり得る1つ以上のマーカーを発現するヒト造血幹細胞であり、ここで、マーカーは、CD7、CDw12、CD13、CD15、CD19、CD21、CD22、CD29、CD30、CD33、CD34、CD36、CD38、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD48、CD49b、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD53、CD55、CD64a、CD68、CD71、CD72、CD73、CD81、CD82、CD85A、CD85K、CD90、CD99、CD104、CD105、CD109、CD110、CD111、CD112、CD114、CD115、CD117、CD123、CD124、CD126、CD127、CD130、CD131、CD133、CD135、CD138、CD151、CD157、CD162、CD164、CD168、CD172a、CD173、CD174、CD175、CD175s、CD176、CD183、CD191、CD200、CD201、CD205、CD217、CD220、CD221、CD222、CD223、CD224、CD225、CD226、CD227、CD228、CD229、CD230、CD235a、CD235b、CD236、CD236R、CD238、CD240、CD242、CD243、CD277、CD292、CDw293、CD295、CD298、CD309、CD318、CD324、CD325、CD338、CD344、CD349、またはCD350である。本開示は、造血幹細胞の表面上に発現される抗原に結合する第1の結合ドメイン及びT細胞の表面上のヒトCD3に結合する第2の結合ドメインを含む、二重特異性抗体を提供する。本開示のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体はヒトCD3イプシロンに結合する。
【0116】
ある特定の実施形態において、抗CD3結合ドメインは、US10,851,170、US10,933,132、US10,781,264、US10,738,130、及びWO2008/119567に記載されている抗CD3抗体に由来する抗原結合領域(可変領域またはCDR)を含み、そのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0117】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体の抗CD3結合ドメインは、表4に記載される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。一実施形態において、二重特異性抗体の抗CD3結合ドメインは、表4に記載される、CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域と、CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0118】
他の実施形態において、抗CD3/抗HC二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合断片は、表4に記載される抗CD3軽鎖及び/または重鎖可変領域配列に対して少なくとも95%の同一性、例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖及び/または重鎖可変領域を含む、抗CD3結合部分を含む。ある特定の実施形態において、抗CD3/抗HC二重特異性抗体、またはその二重特異性抗原結合断片は、表4に記載される抗CD3抗体またはそのバリアントの軽鎖及び/または重鎖可変ドメインを含む修飾軽鎖または重鎖可変領域を含み、ここで、バリアントは、(i)1、2、3、4もしくは5つのアミノ酸の置換、付加もしくは欠失において抗CD3抗原結合領域と異なり、(ii)最大5、4、3、2、もしくは1つのアミノ酸の置換、付加もしくは欠失において抗CD3抗原結合領域と異なり、(iii)1~5、1~3、1~2、2~5もしくは3~5個のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失において抗CD3抗原結合領域と異なり、及び/または(iv)抗CD3抗原結合領域に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含み、(i)~(iv)のいずれにおいても、アミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換であっても、非保存的アミノ酸置換であってもよく、修飾軽鎖及び/または重鎖可変領域は、二重特異性抗体のCD3結合特異性を保持しつつ、抗CD3抗体の軽鎖及び/または重鎖可変領域と比べて向上した生物活性を有し得る。
【0119】
他の実施形態において、本明細書で開示される二重特異性物質の抗CD3抗原結合領域は、表4に記載される以下の配列から選択されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3を含む可変軽鎖(VL)領域を含む:(a)配列番号60に示されるCDR-L1、配列番号61に示されるCDR-L2、及び配列番号62に示されるCDR-L3;(b)配列番号108に示されるCDR-L1、配列番号109に示されるCDR-L2、及び配列番号110に示されるCDR-L3;ならびに(c)配列番号129に示されるCDR-L1、配列番号130に示されるCDR-L2、及び配列番号131に示されるCDR-L3。
【0120】
他の実施形態において、本明細書で開示される二重特異性物質の抗CD3抗原結合領域は、表4に記載される以下の配列から選択されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3を含む可変重鎖(VH)領域を含む:(a)配列番号51に示されるCDR-H1、配列番号52に示されるCDR-H2、及び配列番号53に示されるCDR-H3、(b)配列番号63に示されるCDR-H1、配列番号64に示されるCDR-H2、及び配列番号65に示されるCDR-H3、(c)配列番号72に示されるCDR-H1、配列番号73に示されるCDR-H2、及び配列番号74に示されるCDR-H3、(d)配列番号81に示されるCDR-H1、配列番号82に示されるCDR-H2、及び配列番号83に示されるCDR-H3、(e)配列番号90に示されるCDR-H1、配列番号91に示されるCDR-H2、及び配列番号92に示されるCDR-H3、(f)配列番号99に示されるCDR-H1、配列番号100に示されるCDR-H2、及び配列番号101に示されるCDR-H3、(g)配列番号111に示されるCDR-H1、配列番号112に示されるCDR-H2、及び配列番号113に示されるCDR-H3、(h)配列番号120に示されるCDR-H1、配列番号121に示されるCDR-H2、及び配列番号122に示されるCDR-H3、(i)配列番号132に示されるCDR-H1、配列番号133に示されるCDR-H2、及び配列番号134に示されるCDR-H3、ならびに(j)配列番号141に示されるCDR-H1、配列番号142に示されるCDR-H2、及び配列番号143に示されるCDR-H3。
【0121】
更なる実施形態において、本明細書で開示される二重特異性物質の抗CD3抗原結合領域は、表4の配列番号67、69、115、117、136または138に示されるVL領域からなる群から選択されるVL領域を含む。
【0122】
他の実施形態において、本明細書で開示される二重特異性物質の抗CD3抗原結合領域は、表4の配列番号54、56、66、68、75、77、84、86、93、95、102、104、114、116、123、125、135、137、144または146に示されるVH領域からなる群から選択されるVH領域を含む。
【0123】
ある特定の他の実施形態において、本明細書で開示される二重特異性物質の抗CD3抗原結合領域は、表4に記載される以下の配列からなる群から選択されるVL領域及びVH領域を含む:(a)配列番号55または57に示されるVL領域、及び配列番号54または56に示されるVH領域、(b)配列番号67または69に示されるVL領域、及び配列番号66または68に示されるVH領域、(c)配列番号76または78に示されるVL領域、及び配列番号75または77に示されるVH領域、(d)配列番号85または87に示されるVL領域、及び配列番号84または86に示されるVH領域、(e)配列番号94または96に示されるVL領域、及び配列番号93または95に示されるVH領域、(f)配列番号103または105に示されるVL領域、及び配列番号102または104に示されるVH領域、(g)配列番号115または117に示されるVL領域、及び配列番号114または116に示されるVH領域、(h)配列番号124または126に示されるVL領域、及び配列番号123または125に示されるVH領域、(i)配列番号136または138に示されるVL領域、及び配列番号135または137に示されるVH領域、ならびに(j)配列番号145または147に示されるVL領域、及び配列番号144または146に示されるVH領域。
【0124】
本開示の他の実施形態において、抗CD3結合ドメインは、本明細書で開示されるVH領域とVL領域(または本明細書で開示されるCDRを有する可変領域)のペアを一本鎖抗体(scFv)の形態で含む。VH領域及びVL領域は、VH-VLまたはVL-VHの順序で配置される。一実施形態において、VH領域は、リンカー配列のN末端に位置し、VL領域は、リンカー配列のC末端に位置する。
【0125】
本開示の他の実施形態において、本明細書で開示される二重特異性物質の抗CD3抗原結合領域は、表4の配列番号58、59、70、71、79、80、88、89、97、98、106、107、118、119、127、128、139、140、148または149からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0126】
抗CD117/抗CD3二重特異性結合タンパク質
本開示は、T細胞特異的抗原(例えば、CD3)及びCD117、例えば、GNNK+CD117に結合することが可能な二重特異性結合タンパク質またはその抗原結合断片が、(i)CD117+細胞を特徴とするがん(急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群など)及び自己免疫疾患を治療し、(ii)移植療法を必要とする患者において移植された造血幹細胞の生着を促進するために、治療薬剤として使用することができるという発見に部分的に基づいている。これらの治療活性は、例えば、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞などの細胞の表面上に発現されるCD117(例えば、GNNK+CD117)に抗CD117二重特異性抗体またはその抗原結合断片が結合し、その後、細胞死が誘導されることによって生じ得る。内因性造血幹細胞の枯渇により、移植された造血幹細胞がホーミングするニッチが提供され、その後、生産的な造血が確立され得る。このようにして、移植された造血幹細胞は、本明細書に記載される幹細胞障害に罹患しているヒト患者などの患者に首尾よく生着し得る。
【0127】
したがって、本明細書で提供されるのは、CD117及びCD3の両方に結合する二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片である。本明細書で提供されるのはまた、そのような二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片をコードする相補的DNA(cDNA)などの単離核酸(ポリヌクレオチド)である。更に提供されるのは、そのような二重特異性結合分子またはその断片をコードする核酸(ポリヌクレオチド)またはベクター(例えば、発現ベクター)を含むベクター(例えば、発現ベクター)である。本明細書で提供されるのはまた、そのような二重特異性結合分子、細胞、及びベクターを作製する方法である。他の実施形態において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載される二重特異性結合ポリペプチド、核酸、及び/またはベクターを使用して、なかでも、様々な血液疾患、代謝障害、がん、及び自己免疫疾患を治療するための方法及び使用である。更に、関連する組成物(例えば、医薬組成物)、キット、及び診断方法も本明細書で提供される。
【0128】
ある特定の実施形態において、本明細書で提供されるのは、CD117及びCD3に特異的に結合し、血液疾患、幹細胞疾患、がん及び免疫障害を含むが、これらに限定されない様々な疾患を治療するためにT細胞の細胞傷害性を誘発する、二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片である。いかなる理論にも束縛されるものではないが、本明細書に記載される二重特異性結合分子は、腫瘍とT細胞を結合させるだけでなく、T細胞上のCD3と架橋して活性化カスケードを開始し、このようにして、T細胞受容体(TCR)による細胞傷害性が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)拘束性を回避して、所望の腫瘍標的に向け直されると考えられる。
【0129】
ヒトCD117(c-Kitとも呼ばれる、mRNA NCBI参照配列:NM_000222.2、Protein NCBI参照配列:NP_000213.1)に結合することが可能な二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、GNNK+CD117に結合することが可能なものを含め、造血幹細胞移植療法のために患者をコンディショニングするために、本明細書に記載される組成物及び方法に関連して使用することができる。人口のかなりの割合でCD117のコーディング領域または細胞外ドメインに影響する多型は、現在、腫瘍以外の適応症ではよく知られていない。CD117には、少なくとも4つのアイソフォームが同定されており、腫瘍細胞で発現される更なるアイソフォームも存在する可能性がある。CD117アイソフォームのうちの2つは、当該タンパク質の細胞内ドメインに位置しており、2つは、外側の膜近傍領域に存在する。2つの細胞外アイソフォームのGNNK+及びGNNK-は、4アミノ酸配列の存在(GNNK+)または不在(GNNK-)の点で異なる。これらのアイソフォームは、リガンド(SCF)に対して同じ親和性を有することが報告されているが、GNNK-アイソフォームに結合するリガンドは、内在化及び分解を増加させることが報告されている。GNNK+アイソフォームは、このアイソフォームに対して生成される抗体がGNNK+及びGNNK-タンパク質を含むことになるため、CD117に結合することが可能な抗体を生成するための免疫原として使用することができる。
【0130】
CD3は、ガンマ鎖、デルタ鎖、及び2つのイプシロン鎖を含むT細胞共受容体である。具体的な一実施形態において、CD3は、ヒトCD3である。GenBank(商標)アクセッション番号NM_000073.2(配列番号31)は、例示的なヒトCD3ガンマ核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_000064.1(配列番号32)は、例示的なヒトCD3ガンマアミノ酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NM_000732.4(配列番号33)は、例示的なヒトCD3デルタ核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_000723.1(配列番号34)は、例示的なヒトCD3デルタアミノ酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NM_000733.3(配列番号35)は、例示的なヒトCD3イプシロン核酸配列を提供する。GenBank(商標)アクセッション番号NP_000724.1(配列番号36)は、例示的なヒトCD3イプシロンアミノ酸配列を提供する。また、本発明の抗CD117二重特異性結合タンパク質またはその断片に関連して好ましいのは、配列番号38に示されるVL領域及び配列番号37に示されるVH領域を含む、T細胞の表面上のヒトCD3に結合する第2の結合ドメインである。
【0131】
本発明の二重特異性結合分子における免疫グロブリンは、非限定的な例として、モノクローナル抗体、ネイキッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。
【0132】
一実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、配列番号13のアミノ酸配列に記載される重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸配列に記載される軽鎖可変領域を含む。
【0133】
別の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、Ab85の重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列の3つのCDR配列及び軽鎖可変領域(LH)アミノ酸配列の3つのCDR配列を含む。
【0134】
別の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、Ab85の重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列及び軽鎖可変領域(LH)アミノ酸配列を含む。
【0135】
以下に提供される重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列は、配列番号13として以下に記載される。Ab85のVH CDRアミノ酸配列は、以下に下線で示され、次のとおりである:NYWIG(VH CDR1;配列番号7);IINPRDSDTRYRPSFQG(VH CDR2;配列番号8);及びHGRGYEGYEGAFDI(VH CDR3;配列番号9)。
Ab85 VH配列
【化1】
【0136】
Ab85の軽鎖可変領域(VL)アミノ酸配列は、配列番号14として以下に提供される。Ab85のVL CDRアミノ酸配列は、以下に下線で示され、次のとおりである:RSSQGIRSDLG(VL CDR1;配列番号10);DASNLET(VL CDR2;配列番号11;及びQQANGFPLT(VL CDR3;配列番号12)。
Ab85 VL配列
【化2】
【0137】
したがって、ある特定の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、配列番号7、8、及び9に記載されるCDRセット(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む重鎖と、配列番号10、11、及び12に記載されるCDRセットを含む軽鎖とを含む。
【0138】
別の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、Ab67の重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列及び軽鎖可変領域(LH)アミノ酸配列を含む。
【0139】
Ab67の重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列は、配列番号27に記載される。
【化3】
【0140】
Ab67のVH CDRアミノ酸配列は、次のとおりである:FTFSDADMD(VH CDR1;配列番号21);RTRNKAGSYTTEYAASVKG(VH CDR2;配列番号22);及びAREPKYWIDFDL(VH CDR3;配列番号23)。
【0141】
Ab67の軽鎖可変領域(VL)アミノ酸配列は、配列番号28として以下に提供される。
【化4】
【0142】
Ab67のVL CDRアミノ酸配列は、以下に下線で示され、次のとおりである:RASQSISSYLN(VL CDR1;配列番号24);AASSLQS(VL CDR2;配列番号25);及びQQSYIAPYT(VL CDR3;配列番号26)。
【0143】
他の実施形態において、本明細書で開示される抗CD117二重特異性抗体、またはその断片は、WO2020/219770(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されるエピトープ(複数可)などのCD117エピトープに結合することが可能である。更に他の実施形態において、本明細書で開示される抗CD117二重特異性抗体、またはその断片は、WO2020/219748(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されるエピトープ(複数可)などのCD117エピトープに結合することが可能である。
【0144】
本明細書で開示される抗CD117二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片のある特定の実施形態において、CD3に結合するscFvを含み、例えば、huOKT3(例えば、Adair et al.,1994,Hum Antibodies Hybridomas 5:41-47参照)、YTH12.5(例えば、Routledge et al.,1991,Eur J Immunol,21:2717-2725参照)、HUM291(例えば、Norman et al.,2000,Clinical Transplantation,70(12):1707-1712参照)、テプリズマブ(例えば、Herold et al.,2009,Clin Immunol,132:166-173参照)、huCLB-T3/4(例えば、Labrijn et al.,2013,Proceedings of the National Academy of Sciences,110(13):5145-5150参照)、オテリキシズマブ(例えば、Keymeulen et al.,2010,Diabetologia,53:614-623参照)、ブリナツモマブ(例えば、Cheadle,2006,Curr Opin Mol Ther,8(1):62-68参照)、MT110(例えば、Silke and Gires,2011,MAbs,3(1):31-37参照)、カツマクソマブ(例えば、Heiss and Murawa,2010,Int J Cancer,127(9):2209-2221参照)などの当該技術分野において知られているCD3特異的抗体のVH及びVLを含む。
【0145】
ある特定の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片のscFvは、当該技術分野において知られているCD3特異的抗体と同じエピトープに結合する。具体的な実施形態において、本発明の二重特異性結合分子のscFvは、CD3特異的抗体huOKT3と同じエピトープに結合する。同じエピトープへの結合は、例えば、変異解析または結晶学的研究などの当業者に知られているアッセイによって決定することができる。ある特定の実施形態において、scFvは、当該技術分野において知られている抗体とCD3への結合について競合する。具体的な実施形態において、本発明の二重特異性結合分子のscFvは、CD3特異的抗体huOKT3とCD3への結合について競合する。CD3への結合についての競合は、例えば、フローサイトメトリーなどの当業者に知られているアッセイによって決定することができる。ある特定の実施形態において、scFvは、当該技術分野において知られているCD3特異的抗体のVHに対して、少なくとも85%、90%、95%、98%、または少なくとも99%の類似性を有するVHを含む。ある特定の実施形態において、scFvは、1~5つの保存的アミノ酸置換を含む、当該技術分野において知られているCD3特異的抗体のVHを含む。ある特定の実施形態において、scFvは、当該技術分野において知られているCD3特異的抗体のVLに対して、少なくとも85%、90%、95%、98%、または少なくとも99%の類似性を有するVLを含む。ある特定の実施形態において、scFvは、1~5つの保存的アミノ酸置換を含む、当該技術分野において知られているCD3特異的抗体のVLを含む。
【0146】
本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片はまた、当該技術分野において知られているように、半減期を増加させるもの、ADCCを増加または減少させるものなどの抗体及び/または断片の特性を変える修飾及び/または変異を含み得る。
【0147】
一実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、バリアントFc領域を含み、当該バリアントFc領域は、当該分子のFcガンマRに対する親和性が変化するように、野生型Fc領域と比べて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む。Fc領域内のある特定のアミノ酸位置は、FcγRと直接接触していることが結晶学的研究により知られている。具体的には、アミノ酸234~239(ヒンジ領域)、アミノ酸265~269(B/Cループ)、アミノ酸297~299(C’/Eループ)、及びアミノ酸327~332(F/G)ループである(Sondermann et al.,2000 Nature,406:267-273参照)。例えば、Fc領域のアミノ酸位置234及び235でのアミノ酸置換は、Fc受容体、特にFcガンマ受容体(FcγR)への結合に対するIgG抗体の親和性を減少させることが特定されている。一実施形態において、本明細書に記載される抗CD117抗体は、L234及び/またはL235でのアミノ酸置換、例えば、L234A及びL235A(EUインデックス)を含むFc領域を含む。したがって、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、構造分析及び結晶学的分析に基づいて、FcγRと直接接触する少なくとも1つの残基の修飾を含むバリアントFc領域を含み得る。一実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片(またはそのFc含有断片)のFc領域は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,NH1,MD(1991)(明示的に参照により本明細書に援用される)におけるEUインデックスに従って、アミノ酸265にアミノ酸置換を含む。「KabatにおけるEUインデックス」または「EUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体のナンバリングを指し、特に指定のない限り、Fcアミノ酸位置に関して、本明細書において使用される。
【0148】
一実施形態において、Fc領域は、D265Aの変異を含む。一実施形態において、Fc領域は、D265Cの変異を含む。
【0149】
いくつかの実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片(またはその断片)のFc領域は、KabatにおけるEUインデックスに従って、アミノ酸234にアミノ酸置換を含む。一実施形態において、Fc領域は、L234Aの変異を含む。いくつかの実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片(またはその断片)のFc領域は、KabatにおけるEUインデックスに従って、アミノ酸235にアミノ酸置換を含む。一実施形態において、Fc領域は、L235Aの変異を含む。更に別の実施形態において、Fc領域は、L234A及びL235Aの変異を含む。更なる実施形態において、Fc領域は、D265C、L234A、及びL235Aの変異を含む。
【0150】
ある特定の態様において、バリアントIgG Fcドメインは、1つ以上のアミノ酸置換を含み、それにより、1つ以上のアミノ酸置換を含まない野生型Fcドメインと比較して、FcガンマR及び/またはC1qに対する結合親和性が低下または消失する。Fc結合相互作用は、限定するものではないが、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)を含む様々なエフェクター機能及び下流のシグナル伝達イベントに必要不可欠である。したがって、ある特定の態様において、修飾Fc領域を含む(例えば、L234A、L235A、及びD265C変異を含む)二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、実質的にエフェクター機能が減少または消失している。
【0151】
Fc領域に対する親和性は、当該技術分野において知られている様々な技術、例えば、限定するものではないが、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着法(ELISA);KinExA,Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008;またはラジオイムノアッセイ(RIA))、または表面プラズモン共鳴アッセイもしくは他のメカニズムのカイネティクスベースアッセイ(例えば、BIACORE(商標)解析またはOctet(商標)解析(forteBIO))、ならびに間接的な結合アッセイ、競合結合アッセイ蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ゲル電気泳動及びクロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過)などの他の方法を使用して、決定することができる。これらの方法及び他の方法は、試験される成分のうちの1つ以上に標識を利用してもよいし、及び/または発色標識、蛍光標識、発光標識、もしくは同位体標識を含むがこれらに限定されない様々な検出法を採用することができる。結合親和性及びカイネティクスの詳細な説明については、抗体と免疫原の相互作用に焦点を当てたPaul,W.E.,ed.,Fundamental Immunology,4th Ed.,Lippincott-Raven,Philadelphia(1999)に見出すことができる。競合結合アッセイの一例は、目的の抗体と標識抗原を漸増量の非標識抗原の存在下でインキュベーションし、標識抗原に結合した抗体を検出することを含む、ラジオイムノアッセイである。特定の抗原に対する目的の抗体の親和性及び結合オフレートは、スキャッチャードプロット分析によってデータから決定することができる。二次抗体との競合は、ラジオイムノアッセイを使用して決定することもできる。この場合、抗原は、標識した化合物とコンジュゲートした目的の抗体とともに、漸増量の非標識の二次抗体の存在下でインキュベートされる。
【0152】
一実施形態において、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、L235A、L235A、及びD265C(EUインデックス)を含むFc領域を含む。本発明の二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片は、例えば、(Dall’Acqua et al.(2006)J Biol Chem 281:23514-24)、(Zalevsky et al.(2010)Nat Biotechnol 28:157-9)、(Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213-6)、(Hinton et al.(2006)J Immunol 176:346-56)、(Shields et al.(2001)J Biol Chem 276:6591-604)、(Petkova et al.(2006)Int Immunol 18:1759-69)、(Datta-Mannan et al.(2007)Drug Metab Dispos 35:86-94)、(Vaccaro et al.(2005)Nat Biotechnol 23:1283-8)、(Yeung et al.(2010)Cancer Res 70:3269-77)及び(Kim et al.(1999)Eur J Immunol 29:2819-25)に記載されているものなどの追加のFc変異を導入することによって抗体半減期を更に調節するように更に操作されてもよく、位置250、252、253、254、256、257、307、376、380、428、434及び435が含まれる。単一でまたは組み合わせて行うことができる例示的な変異は、T250Q、M252Y、1253A、S254T、T256E、P2571、T307A、D376V、E380A、M428L、H433K、N434S、N434A、N434H、N434F、H435A及びH435R変異である。
【0153】
したがって、一実施形態において、Fc領域は、半減期の減少をもたらす変異を含む。短い半減期(本明細書において「高速」半減期とも呼ばれる)を有する二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片は、二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片が短命の治療薬として機能することが期待される特定の場合、例えば、二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片の投与の後にHSCが投与される本明細書に記載されるコンディショニングステップに有利であり得る。理想的には、二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、HSCの送達前に実質的にクリアリングされ、HSCも、一般的にはCD117を発現するが、内因性幹細胞とは異なり、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片の標的ではない。一実施形態において、Fc領域は、位置435に変異を含む(Kabatに従うEUインデックス)。一実施形態において、変異は、H435A変異である。別の実施形態において、変異は、D265C変異である。更に別の実施形態において、変異は、H435A変異及びD265C変異である。
【0154】
一実施形態において、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片は、24時間以下、22時間以下、20時間以下、18時間以下、16時間以下、14時間以下、13時間以下、12時間以下、11時間以下、10時間以下、9時間以下、8時間以下、7時間以下、6時間以下、または5時間以下の半減期を有する。一実施形態において、抗体の半減期は、5時間~7時間;5時間~9時間;15時間~11時間;5時間~13時間;5時間~15時間;5時間~20時間;5時間~24時間;7時間~24時間;9時間~24時間;11時間~24時間;12時間~22時間;10時間~20時間;8時間~18時間;または14時間~24時間である。
【0155】
本明細書に記載される患者コンディショニング法に関連して使用することができる抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片には、例えば、米国特許第5,489,516号に記載されるSR-1抗体などの、例えば、ATCCアクセッション番号10716(BA7.3C.9として寄託)から産生及び放出される抗体部分が含まれ、その開示は、抗CD117抗体に関して、参照により本明細書に援用される。
【0156】
一実施形態において、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、L235A、L235A、D265C、及びH435A(EUインデックス)を含むFc領域を含む。
【0157】
本明細書に記載される患者コンディショニング法に関連して使用することができる追加の抗CD117二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片には、米国特許第7,915,391号(例えば、ヒト化SR-1抗体について記載);米国特許第5,808,002号(例えば、抗CD117 A3C6E2抗体について記載)に記載されるもの、ならびに、例えば、WO2015/050959(ヒトCD117のPro317、Asn320、Glu329、Val331、Asp332、Lus358、Glue360、Glue376、His378、及び/またはThr380を含有するエピトープに結合する抗CD117抗体について記載);及びUS2012/0288506(米国特許第8,552,157号としても公開されている)(例えば、
アミノ酸配列SYWIG(配列番号1)を有するCDR-H1;
アミノ酸配列IIYPGDSDTRYSPSFQG(配列番号2)を有するCDR-H2;
アミノ酸配列HGRGYNGYEGAFDI(配列番号3)を有するCDR-H3;
アミノ酸配列RASQGISSALA(配列番号4)を有するCDR-L1;
アミノ酸配列DASSLES(配列番号5)を有するCDR-L2;及び
アミノ酸配列CQQFNSYPLT(配列番号6)を有するCDR-L3
のCDR配列を有する抗CD117抗体CK6について記載)に記載されるものが含まれる。
【0158】
CK6の重鎖可変領域アミノ酸配列は、配列番号27)に提供される:
【化5】
【0159】
CK6の軽鎖アミノ酸可変配列は、配列番号28に提供される:
【化6】
【0160】
本明細書に記載される組成物及び方法に関連して使用され得る追加の抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片には、クローン9P3、NEG024、NEG027、NEG085、NEG086、及び20376などのUS2015/0320880に記載されるものが含まれる。
【0161】
前述の公開物のそれぞれの開示は、抗CD117抗体に関して、参照により本明細書に援用される。本明細書に記載される組成物及び方法に関連して使用され得る抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片には、上記抗体及びその抗原結合断片だけでなく、上記のそれらの非ヒト抗体及び抗原結合断片のヒト化バリアント、ならびに、例えば、競合CD117結合アッセイによって評価されるように、上記のものと同じエピトープに結合する抗体または抗原結合断片が含まれる。
【0162】
前述の抗体の例示的な抗原結合断片には、なかでも、二重可変免疫グロブリンドメイン、一本鎖Fv分子(scFv)、ダイアボディ、トリアボディ、ナノボディ、抗体様タンパク質スカフォールド、Fv断片、Fab断片、F(ab’)2分子、及びタンデムジscFvが含まれる。
【0163】
抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載される組み換え法及び組成物を使用して作製され得る。一実施形態において、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片をコードする単離核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/または重鎖)をコードし得る。更なる実施形態において、そのような核酸を含む1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施形態において、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。そのような一実施形態において、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクター及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、それにより形質転換されている)。一実施形態において、宿主細胞は、真核生物、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施形態において、抗CLL-1抗体を作製する方法が提供され、当該方法は、上に提供される抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を抗体の発現に好適な条件下で培養することと、任意選択により、宿主細胞(または宿主細胞培地)から抗体を回収することとを含む。
【0164】
抗CD117二重特異性結合ポリペプチドまたはその断片の組み換え産生のために、抗体、例えば、上記の抗体をコードする核酸が単離され、更なるクローニング及び/または宿主細胞における発現のために、1つ以上のベクターに挿入される。そのような核酸は、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用して)、容易に単離及びシーケンシングされ得る。
【0165】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞には、本明細書に記載される原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、抗体は、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合、細菌中で産生され得る。細菌中での抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、同第5,789,199号、及び同第5,840,523号を参照されたい。(E.coli.での抗体断片の発現について記載するCharlton,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.,2003),pp.245-254も参照されたい。)発現後、抗体は、細菌細胞ペーストから可溶性画分で単離され得、更に精製することができる。
【0166】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で成長するように改良された哺乳動物細胞株が有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胚性腎臓株(293細胞または例えばGraham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977)に記載の293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980)に記載のTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ科腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562);例えば、Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982)に記載のTRI細胞;MRC 5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳類宿主細胞株には、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;ならびにY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.),pp.255-268(2003)を参照されたい。
【0167】
一実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、本明細書で開示される配列番号に対して、少なくとも95%、96%、97%または99%同一であるアミノ酸配列を有する可変領域を含む。あるいは、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、本明細書で開示される配列番号に対して、少なくとも95%、96%、97%または99%同一であるアミノ酸配列を有する本明細書に記載される可変領域のフレームワーク領域とともに、本明細書で開示される配列番号を含むCDRを含む。
【0168】
一実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、本明細書で開示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び重鎖定常領域を含む。別の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、本明細書で開示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む。更に別の実施形態において、抗CD117二重特異性結合ポリペプチド、またはその断片は、本明細書で開示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を含む。
【0169】
二重特異性抗体の調製方法
二重特異性抗体は、いくつかの実施形態において、全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab)2二重特異性抗体など)のいずれかとして、当該技術分野において知られている標準的な方法に従って調製することができる。全長二重特異性抗体の従来の産生は、2つの鎖が異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの共発現に基づく。免疫グロブリンの重鎖と軽鎖がランダムに対合するため、異なる抗体分子の混合物が生成される可能性があるが、一般に、二重特異性ヘテロ二量体の正しい対合は1つである。正しいヘテロ二量体分子の精製は、通常、アフィニティークロマトグラフィーによってなされる。
【0170】
二重特異性抗体はまた、重鎖ヘテロ二量体化法を使用して産生することができる。そのような方法には、例えば、米国特許第7,695,936号、米国特許第5,807,706号及び米国特許出願公開第2003/0078385号に記載されている「ノブインホール」法が含まれ、これらは、その全体が参照により本明細書に援用される。「ノブインホール」法では、第1の抗体分子の界面の1つ以上の小さいアミノ酸側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)を、より大きい側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって、「突起」を作製する。この大きい側鎖(複数可)と同一または同様の大きさの補償である「キャビティ」を、第2の抗体分子の界面上に、大きい側鎖を有するアミノ酸を小さい側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニンまたはトレオニン)に置き換えることによって作製する。これにより、ホモ二量体などの他の望ましくない最終産物よりもヘテロ二量体の収率が増加する機構が提供される。「ノブインホール」法によって産生される二重特異性抗体の多くの実施形態において、Fc領域は、ノブ及びホールの置換のペアを1つ含有する。いくつかの実施形態において、第1の重鎖、すなわち、鎖AのFc領域は、1つ以上のアミノ酸置換を含有し、第2の重鎖、すなわち、鎖BのFc領域は、1つ以上のアミノ酸置換を含有する。例えば、鎖A及び鎖BにおけるIgG1 Fc領域の次のノブ及びホールの置換は、非修飾の鎖A及び鎖Bに見出されるものと比較して、ヘテロ二量体形成を増加させることがわかっている:1)鎖AのY407T及び鎖BのT366Y;2)鎖AのY407A及び鎖BのT366W;3)鎖AのF405A及び鎖BのT394W;4)鎖AのF405W及び鎖BのT394S;5)鎖AのY407T及び鎖BのT366Y;6)鎖AのT366Y及びF405Aならびに鎖BのT394W及びY407T;7)鎖AのT366W及びF405Wならびに鎖BのT394S及びY407A;8)鎖AのF405W及びY407Aならびに鎖BのT366W及びT394S;ならびに9)鎖AのT366Wならびに鎖BのT366S、L368A、及びY407V。同様に、WO2009/089004(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されるように、1つ以上のアミノ酸残基、例えば、CH3-CH3界面における1つ以上のアミノ酸残基の電荷を変更する置換は、ヘテロ二量体の形成を向上させることができる。そのような置換は、本明細書において「電荷ペア置換」とも呼ばれ、したがって、A鎖に1つ以上の電荷ペア置換を含有するFc領域は、B鎖とは異なる置換(複数可)を含有し得る。電荷ペア置換の一般的な例としては、次が挙げられる:1)鎖AのK409DまたはK409Eと鎖BのD399KまたはD399R;2)鎖AのK392DまたはK392Eと鎖BのD399KまたはD399R;3)鎖AのK439DまたはK439Eと鎖BのE356KまたはE356R;及び4)鎖AのK370DまたはK370Eと鎖BのE357KまたはE357R。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体またはその一部は、共通の軽鎖を使用して産生されてもよい。共通の軽鎖を使用することにより、WO98/50431(その内容全体が参照により援用される)に記載されるように、起こり得るミスペアリングの数を減少させることができる。これらの「ノブインホール」及び/または「電荷ペア置換」のうちの1つ以上を、本明細書に記載されるヘテロ二量体二重特異性抗体のFc領域に使用することができる。
【0171】
いくつかの実施形態において、「ノブインホール」法を使用して二重特異性抗体を産生する方法は、「ノブ」変異を含む重鎖を含む第1のタンパク質分子を、「ホール」変異を含む重鎖を含む第2のタンパク質分子とともに、ヒンジ領域のシステインがジスルフィド結合異性化を受けるのに十分な還元条件下でインキュベートすることを含む。好適な条件の例は、米国特許出願公開第2016/0046727号に記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。いくつかの実施形態において、ヒンジ領域のシステインがジスルフィド結合異性化を受ける最小要件は、ホモ二量体出発タンパク質に応じて、特に、ヒンジ領域中の正確な配列に応じて、異なり得る。いくつかの実施形態において、「ノブ」及び「ホール」変異を含む第1及び第2の重鎖CH3領域のそれぞれのホモ二量体相互作用は、ヒンジ領域のシステインが所与の条件下でジスルフィド結合異性化を受けるのに十分弱いものである。いくつかの実施形態において、還元条件には、還元剤、例えば、トリペプチドグルタチオン(GSH)、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール(DTE)、グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、L-システイン及びベータ-メルカプト-エタノールからなる群から選択される還元剤の添加が含まれる。他の実施形態において、還元条件は、必要な酸化還元電位を基準にして記載される。酸化還元電位は、GSSGあたり2個のGSHが酸化されるという化学量論を考慮すると、酸化還元状態の定量的な指標となる。いくつかの実施形態において、反応は、-50mV未満、例えば、-150mV未満、-150~-600mV、例えば、-200~-500mV、-250~-450mV、例えば、-250~-400mV、-260~-300mVの範囲の酸化還元電位の還元条件で実施される。本明細書に記載される他の実施形態において、「ノブインホール」法を使用して二重特異性抗体を産生することは、還元反応の完了後に、例えば、還元剤を除去することによって、例えば、脱塩によって、非還元性または低還元性になるように条件を回復させることを含む。
【0172】
「ノブインホール」法を使用して産生される本明細書で提供されるバリアント重鎖分子は、二重特異性抗体の生成に有用であり、上述の制限及び技術的困難(例えば、不適切なペアリング)を克服することができる。いくつかの実施形態において、抗体内の1つの重鎖及び1つの軽鎖は、天然システインが非システインアミノ酸によって置換され、天然非システインアミノ酸がシステインアミノ酸によって置換されるように修飾される。本明細書で提供されるそのような修飾は、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)ドメインに生じるものであり、それにより、HC-LC鎖内ジスルフィド架橋の再配置がもたらされる。他の実施形態において、4つの別個のポリペプチドから二重特異性抗体を作製する場合、例えば、修飾アームが1つの標的に対する結合特異性を有し、非修飾アームが異なる標的に対する結合特異性を有する場合、4つのポリペプチドは、修飾重鎖ポリペプチドが修飾軽鎖と適切にハイブリダイズし、非修飾重鎖が非修飾軽鎖と適切にハイブリダイズするように組み立てられる。本明細書で使用される場合、「非修飾」という用語は、本明細書に記載される及び/または当該技術分野において知られているCH2及び/またはCH3領域に、本明細書に記載されるHC-LC修飾(例えば、「ノブインホール」またはシステイン修飾)を含有しない重鎖及び軽鎖を指す。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるHC-LC修飾は、適切な重鎖ヘテロ二量体化を確実にし、及び/または重鎖ヘテロ二量体の精製を向上させるために、重鎖の更なる修飾、特に、CH2及び/またはCH3領域中における修飾と組み合わせることができる。
【0173】
二重特異性結合タンパク質の同定方法
二重特異性結合タンパク質、またはその断片、CD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)に結合することが可能な分子のためのライブラリーのハイスループットスクリーニングのための方法を使用して、がん、自己免疫疾患の治療、及び本明細書に記載される造血幹細胞療法を必要とする患者(例えば、ヒト患者)のコンディショニングに有用な抗体を同定し、親和性成熟を行うことができる。そのような方法には、なかでも、ファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、酵母ディスプレイ、哺乳動物細胞ディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、及びcDNAディスプレイなどの当該技術分野において知られているin vitroディスプレイ技術が含まれる。生物学的に関連する分子に結合するリガンドを単離するためのファージディスプレイの使用は、例えば、Felici et al.,Biotechnol.Annual Rev.1:149-183,1995;Katz,Annual Rev.Biophys.Biomol.Struct.26:27-45,1997;及びHoogenboom et al.,Immunotechnology 4:1-20,1998に概説されており、そのそれぞれの開示は、in vitroディスプレイ技術に関して、参照により本明細書に援用される。細胞表面抗原に結合するポリペプチドを選択するために、ランダム化されたコンビナトリアルペプチドライブラリーが構築されており、Kay,Perspect.Drug Discovery Des.2:251-268,1995及びKay et al.,Mol.Divers.1:139-140,1996に記載されているとおりであり、そのそれぞれの開示は、抗原結合分子の発見に関して、参照により本明細書に援用される。多量体タンパク質などのタンパク質が機能性分子として良好にファージディスプレイされている(例えば、EP0349578;EP4527839;及びEP0589877、ならびにChiswell and McCafferty,Trends Biotechnol.10:80-84 1992を参照されたく、そのそれぞれの開示は、抗原結合分子の発見のためのin vitroディスプレイ技術の使用に関して、参照により本明細書に援用される)。加えて、Fab及びscFv断片などの機能性抗体断片が、in vitroディスプレイ形式で発現されている(例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552-554,1990;Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7978-7982,1991;及びClackson et al.,Nature 352:624-628,1991を参照されたく、そのそれぞれの開示は、抗原結合分子の発見のためのin vitroディスプレイプラットフォームに関して、参照により本明細書に援用される)。それらの技術は、なかでも、CD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)に結合する抗体を同定し、その親和性を改善するために使用することができ、それにより、造血幹細胞移植療法を必要とする患者(例えば、ヒト患者)において内因性造血幹細胞を枯渇させるために使用することができる。
【0174】
in vitroディスプレイ技術に加えて、計算論的モデリング技術を使用して、CD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)に結合する二重特異性結合タンパク質、またはその断片をin silicoで設計及び同定することができる。例えば、当業者であれば、計算論的モデリング技術を使用して、この抗原の細胞外エピトープなどの特定のエピトープに結合することが可能な分子について、二重特異性結合タンパク質、抗体、または抗体断片のライブラリーをin silicoでスクリーニングすることができる。これらの計算技術によって同定された二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその抗原結合断片は、本明細書に記載される治療法、例えば、本明細書に記載されるがん及び自己免疫疾患の治療法ならびに本明細書に記載される患者コンディショニング処置に関連して使用することができる。
【0175】
追加の技術を使用して、細胞(例えば、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞)の表面上のCD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)に結合し、例えば、受容体媒介性エンドサイトーシスによって、細胞によって内在化される、二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその抗原結合断片を同定することができる。例えば、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞の表面上のCD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)に結合し、その後、内在化される二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその抗原結合断片についてスクリーニングするように、上記のin vitroディスプレイ技術を適切に変更することができる。ファージディスプレイは、このスクリーニングパラダイムと組み合わせて使用することができるそのような技術の1つである。CD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)に結合し、その後、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞によって内在化される二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片を同定するために、当業者は、例えば、Williams et al.,Leukemia 19:1432-1438,2005,に記載されるファージディスプレイ技術を応用することができる(その開示は、その全体が参照により本明細書に援用される)。例えば、当該技術分野において知られている突然変異誘発法を使用して、ランダム化されたアミノ酸カセット(例えば、CDRもしくはその同等の領域の1つ以上もしくは全て、または二重特異性結合タンパク質、抗体もしくは抗体断片)を含有する、二重特異性結合タンパク質、抗体、抗体断片、例えば、なかでも、scFv断片、Fab断片、ダイアボディ、トリアボディ、及び10Fn3ドメインをコードする、組み換えファージライブラリーを作製することができる。二重特異性結合タンパク質、抗体または抗体断片のフレームワーク領域、ヒンジ、Fcドメイン、及び他の領域は、例えば、ヒト生殖細胞系列抗体配列またはヒト生殖細胞系列抗体に対してわずかな変化しか示さない配列を有することによって、ヒトにおいて非免疫原性であるように設計され得る。
【0176】
本明細書に記載されるまたは当該技術分野において知られているファージディスプレイ技術を使用して、例えば、まず、非特異的タンパク質結合を示す二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片をコードするファージ、及びFcドメインに結合する二重特異性結合タンパク質、抗体またはその断片をコードするファージを除去するために、ファージライブラリーをブロック剤(例えば、乳タンパク質、ウシ血清アルブミン、及び/またはIgGなどと一緒にインキュベートし、次いで、ファージライブラリーを造血幹細胞の集団と一緒にインキュベートすることによって、ファージ粒子に共有結合したランダム化二重特異性結合タンパク質、抗体、または抗体断片を含有するファージライブラリーをCD117(例えば、GNNK+CD117)(及び/またはCD3)抗原とともにインキュベートすることができる。ファージライブラリーは、抗CD117特異的二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその抗原結合断片(例えば、GNNK+CD117特異的抗体、またはその抗原結合断片)が細胞表面CD117(例えば、細胞表面GNNK+CD117)(及び/またはCD3)抗原に結合し、その後、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞によって内在化されるのを可能にするのに十分な時間(例えば、4℃で30分~6時間、例えば、4℃で1時間)、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞などの標的細胞とインキュベートすることができる。その後、これらの抗原のうちの1つ以上に対する十分な親和性を示さないために、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞に結合されず、それらによって内在化されない二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片を含有するファージは、例えば、pH2.8の冷(4℃)0.1Mグリシン緩衝液を用いて細胞を洗浄することによって、除去することができる。二重特異性結合タンパク質、抗体、もしくはその断片に結合しているファージ、またはがん細胞、自己免疫細胞、もしくは造血幹細胞によって内在化されたファージは、例えば、細胞を溶解し、内在化したファージを細胞培養液から回収することによって、同定することができる。次いで、当該技術分野において知られている方法を使用して、例えば、2xYT培地中で回収したファージと細菌細胞を一緒にインキュベートすることによって、ファージを細菌細胞で増幅することができる。次いで、この培地から回収されたファージを、例えば、ファージゲノム内に挿入された二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片をコードする遺伝子(複数可)の核酸配列を決定することによって、特性決定することができる。その後、コードされた二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片は、化学的合成(例えば、scFv断片などの抗体断片)または組み換え発現(例えば、全長抗体)によって、新規に調製することができる。
【0177】
調製された二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片の内在化能力は、例えば、当該技術分野において知られている放射性核種内在化アッセイを使用して評価することができる。例えば、本明細書に記載されるまたは当該技術分野において知られているin vitroディスプレイ技術を使用して同定された二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片は、18F、75Br、77Br、122I、123I、124I、125I、129I、131I、211At、67Ga、111In、99Tc、169Yb、186Re、64Cu、67Cu、177Lu、77As、72As、86Y、90Y、89Zr、212Bi、213Bi、または225Acなどの放射性同位体の組み込みによって、機能化することができる。例えば、18F、75Br、77Br、122I、123I、124I、125I、129I、131I、211Atなどの放射性ハロゲンを、求電子ハロゲン試薬を含有するポリスチレンビーズ(例えば、Iodination Beads,Thermo Fisher Scientific,Inc.,Cambridge,MA)などのビーズを使用して、二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片に組み込むことができる。放射性標識された二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片は、内在化を可能にするのに十分な時間(例えば、4℃で30分~6時間、例えば、4℃で1時間)、がん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞とインキュベートすることができる。次いで、細胞を洗浄して、内在化していない抗体またはその断片を除去することができる(例えば、pH2.8の冷(4℃)0.1Mグリシン緩衝液を使用して)。内在化された二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその断片は、得られたがん細胞、自己免疫細胞、または造血幹細胞から放出される放射線(例えば、γ線)を、回収した洗浄緩衝液から放出される放射線(例えば、γ線)と比較して検出することによって同定することができる。
【0178】
治療及び標的化細胞枯渇の方法
本明細書に記載されるように、造血幹細胞移植療法は、1つ以上の血液細胞種を増殖または再増殖させるために、治療を必要とする対象に行うことができる。造血幹細胞は、一般に、多能性を示し、そのため、複数の異なる血液系統、例えば、限定するものではないが、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、栓球(例えば、巨核芽球、血小板産生巨核球、血小板)、単球(例えば、単球、マクロファージ)、樹状細胞、ミクログリア、破骨細胞、及びリンパ球(例えば、NK細胞、B細胞及びT細胞)に分化することができる。造血幹細胞は、更に自己複製することが可能であり、そのため、母細胞と同等の能力を有する娘細胞を生み出すことができ、また、移植レシピエントに再導入され、その造血幹細胞ニッチにホーミングし、生産的かつ持続的な造血を再建する能力を特徴とする。
【0179】
したがって、造血幹細胞は、造血系統の1つ以上の細胞種に欠損または欠失がある患者に投与し、欠損または欠失した細胞集団をin vivoで再構成し、それにより、内因性血液細胞集団の欠損または枯渇に関連する病態を治療することができる。したがって、本明細書に記載される組成物及び方法は、非悪性異常ヘモグロビン症(例えば、鎌状赤血球貧血、サラセミア、ファンコーニ貧血、再生不良性貧血、及びウィスコットアルドリッチ症候群からなる群から選択される異常ヘモグロビン症)を治療するために使用することができる。追加的または代替的に、本明細書に記載される組成物及び方法は、先天性免疫不全などの免疫不全を治療するために使用することができる。追加的または代替的に、本明細書に記載される組成物及び方法は、後天性免疫不全(例えば、HIV及びAIDSからなる群から選択される後天性免疫不全)を治療するために使用することができる。本明細書に記載される組成物及び方法は、代謝性障害(例えば、グリコーゲン蓄積症、ムコ多糖症、ゴーシェ病、ハーラー病、スフィンゴリピド症、及び異染性白質ジストロフィーからなる群から選択される代謝性障害)を治療するために使用することができる。
【0180】
追加的または代替的に、本明細書に記載される組成物及び方法は、血液系がん、骨髄増殖性疾患などの悪性腫瘍または増殖性障害を治療するために使用することができる。がん治療の場合、本明細書に記載される組成物及び方法は、造血幹細胞移植療法の前に内因性造血幹細胞の集団を枯渇させるために患者に投与され得、この場合、移植細胞は、内因性細胞枯渇ステップによって形成されたニッチにホーミングし、生産的な造血を確立することができる。その結果、全身化学療法などのがん細胞根絶中に枯渇した細胞集団を再構築することができる。本明細書に記載される組成物及び方法を使用して治療することができる例示的な血液系がんには、限定するものではないが、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及び非ホジキンリンパ腫、ならびに神経芽細胞腫を含む他のがん性状態が含まれる。
【0181】
本明細書に記載される組成物及び方法で治療することができる追加の疾患には、限定するものではないが、アデノシンデアミナーゼ欠損症及び重症複合免疫不全、高免疫グロブリンM症候群、チェディアック東病、遺伝性リンパ組織球症、骨粗鬆症、骨形成不全症、蓄積症、大サラセミア、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、及び若年性関節リウマチが含まれる。
【0182】
本明細書に記載される抗CD3/抗HC二重特異性結合タンパク質、抗体、その抗原結合断片、及びコンジュゲートは、実質臓器移植寛容を誘導するために使用され得る。例えば、本明細書に記載される組成物及び方法は、標的組織から細胞集団を枯渇または除去するために(例えば、骨髄幹細胞ニッチから造血幹細胞を枯渇させるために)使用され得る。標的組織からのこのような細胞の枯渇に続いて、臓器ドナーからの幹細胞または前駆細胞(例えば、臓器ドナーからの造血幹細胞)の集団が移植レシピエントに投与され得、そのような幹細胞または前駆細胞の生着に続いて、一時的または安定した混合キメリズムが達成され得ることで、更なる免疫抑制剤を必要とすることなく、長期移植臓器寛容が可能となる。例えば、本明細書に記載される組成物及び方法は、実質臓器移植レシピエント(例えば、なかでも、腎臓移植、肺移植、肝臓移植、及び心臓移植)における移植寛容を誘導するために使用され得る。本明細書に記載される組成物及び方法は、例えば、移植臓器の長期寛容の誘導には、低い割合の一時的または安定したドナー生着で十分であるため、実質臓器移植寛容の誘導に関連して使用するのによく適している。
【0183】
加えて、本明細書に記載される組成物及び方法は、CD117+である細胞を特徴とするがんなどのがんを直接治療するために使用することができる。例えば、本明細書に記載される組成物及び方法は、白血病、特に、CD117+白血病細胞を呈する患者を治療するために使用することができる。本明細書に記載される組成物及び方法を使用して白血病細胞などのCD117+がん性細胞を枯渇することによって、様々ながんを直接治療することができる。このようにして治療され得る例示的ながんには、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及び非ホジキンリンパ腫などの血液系がんが含まれる。
【0184】
急性骨髄性白血病(AML)は、異常な白血球が急速に成長し、骨髄中に蓄積され、正常な血液細胞の産生を妨げることを特徴とする骨髄系血液細胞のがんである。AMLは、成人に生じる最も一般的な急性白血病であり、その発症率は、年齢とともに増加する。AMLの症状は、正常な骨髄が白血病細胞に置き換わり、赤血球、血小板、及び正常な白血球の減少が生じることによって発生する。急性白血病のため、AMLは、急速に進行し、未治療のままであると、数週間または数ヶ月で死に至る場合もある。一実施形態において、本明細書に記載される抗CD117二重特異性結合タンパク質は、それを必要とするヒト患者のAMLを治療するために使用される。ある特定の実施形態において、抗CD117二重特異性結合タンパク質治療は、治療される対象のAML細胞を枯渇させる。いくつかの実施形態において、AML細胞の50%以上が枯渇する。他の実施形態において、AML細胞の60%以上が枯渇するか、またはAML細胞の70%以上が枯渇するか、またはAML細胞の80%以上もしくは90%以上もしくは95%以上が枯渇する。ある特定の実施形態において、抗CD117二重特異性結合タンパク質治療は、単回投与治療である。ある特定の実施形態において、単回投与による抗CD117二重特異性結合タンパク質治療は、AML細胞の60%、70%、80%、90%または95%以上を枯渇させる。
【0185】
加えて、本明細書に記載される組成物及び方法は、自己免疫障害を治療するために使用することができる。例えば、抗CD3/CD117二重特異性抗体、またはその抗原結合断片は、CD117+免疫細胞を殺傷するために、自己免疫障害に罹患しているヒト患者などの対象に投与することができる。CD117+免疫細胞は、自己抗原に特異的に結合し、自己抗原に対する免疫応答を起こすT細胞受容体を発現するT細胞などの自己反応性リンパ球であり得る。本明細書に記載される組成物及び方法を使用して自己反応性CD117+細胞を枯渇させることによって、以下に記載されるものなどの自己免疫病態を治療することができる。追加的または代替的に、本明細書に記載される組成物及び方法は、造血幹細胞移植療法の前に内因性造血幹細胞の集団を枯渇させることによって自己免疫疾患を治療するために使用することができ、この場合、移植細胞は、内因性細胞枯渇ステップによって形成されたニッチにホーミングし、生産的な造血を確立することができる。その結果、自己免疫細胞根絶中に枯渇した細胞集団を再構築することができる。
【0186】
本明細書に記載される組成物及び方法を使用して治療することができる自己免疫疾患には、限定するものではないが、乾癬、乾癬性関節炎、1型真性糖尿病(1型糖尿病)、リウマチ様関節炎(RA)、ヒト全身性ループス(SLE)、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、リンパ球性大腸炎、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、全身脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)、自己免疫性卵巣炎、バロー病、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、シャーガス病、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、クローン病、瘢痕性類天疱瘡、セリアックスプルー-疱疹状皮膚炎、寒冷凝集素症、CREST症候群、デゴス病、円板状ループス、自律神経障害、子宮内膜症、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギランバレー症候群(GBS)、橋本甲状腺炎、化膿性汗腺炎、特発性及び/または急性血小板減少性紫斑病、特発性肺線維症、IgAニューロパチー、間質性膀胱炎、若年性関節リウマチ、川崎病、扁平苔癬、ライム病、メニエール病、混合性結合組織病(MCTD)、重症筋無力症、神経性筋強直症、オプソクローヌスミオクローヌス症候群(OMS)、視神経炎、オルド甲状腺炎、尋常性天疱瘡、悪性貧血、多発性軟骨炎、多発性筋炎及び皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、結節性多発動脈炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、原発性無ガンマグロブリン血症、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎(「巨細胞性動脈炎」としても知られる)、潰瘍性大腸炎、膠原性大腸炎、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、外陰痛(「外陰部前庭炎」)、及びウェゲナー肉芽腫症が含まれる。
【0187】
本明細書に記載される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質、抗体、またはその抗原結合断片は、様々な剤形で、患者(例えば、がん、自己免疫疾患に罹患しているか、または造血幹細胞移植療法を必要としているヒト患者)に投与することができる。例えば、本明細書に記載される二重特異性抗体結合タンパク質、またはその抗原結合断片は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含有する水溶液などの水溶液の形態で、がん、自己免疫疾患に罹患しているか、または造血幹細胞移植療法を必要とする患者に投与することができる。本明細書に記載される組成物及び方法とともに使用される薬学的に許容される賦形剤は、粘性調整剤を含む。水溶液は、当該技術分野において知られる技術を使用して、滅菌され得る。
【0188】
本明細書に記載される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質を含む医薬製剤は、抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質を1つ以上の任意選択の薬学的に許容される担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態に調製される。薬学的に許容される担体は、一般に、採用される投薬量及び濃度で、レシピエントに対して無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖、及びグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない。
【0189】
本明細書に記載される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質または抗原結合断片は、経口、経皮、皮下、鼻腔内、静脈内、筋肉内、眼内、または非経口などの様々な経路によって投与され得る。任意の所与の症例における投与に最も好適な経路は、投与される特定の抗CD117二重特異性結合タンパク質、または抗原結合断片、患者、医薬製剤法、投与方法(例えば、投与時間及び投与経路)、患者の年齢、体重、性別、治療される疾患の重症度、患者の食事、及び患者の排泄速度に応じて変わることになる。
【0190】
本明細書に記載される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質、またはその抗原結合断片の有効用量は、単回(例えば、ボーラス)投与、複数回投与、もしくは連続投与あたり、または抗体、その抗原結合断片の最適な血清中濃度(例えば、0.0001~5000μg/mLの血清中濃度)を達成するために、例えば、約0.001~約100mg/kg体重の範囲であり得る。
【0191】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.1mg/kg~約0.3mg/kgである。
【0192】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.15mg/kg~約0.3mg/kgである。
【0193】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.15mg/kg~約0.25mg/kgである。
【0194】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.2mg/kg~約0.3mg/kgである。
【0195】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.25mg/kg~約0.3mg/kgである。
【0196】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.1mg/kgである。
【0197】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.2mg/kgである。
【0198】
一実施形態において、ヒト患者に投与される抗CD117/CD3二重特異性結合タンパク質の用量は、約0.3mg/kgである。
【0199】
投与は、がん、自己免疫疾患に罹患しているか、または造血幹細胞移植を受けるための準備としてコンディショニング療法を受けている対象(例えば、ヒト)に1日、1週間、または1ヶ月に1回以上(例えば、約2~10回)、実施され得る。造血幹細胞移植前のコンディショニング処置の場合、抗CD117二重特異性結合タンパク質、またはその抗原結合断片は、外因性造血幹細胞の生着を最適に促進する時点、例えば、外因性造血幹細胞移植を実施する約1時間~1週間(例えば、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、または7日)またはそれ以上前に、患者に投与することができる。
【実施例】
【0200】
以下の実施例は、本明細書に記載される組成物及び方法がどのように使用、製造、評価され得るかについての説明を当業者に提供するために提示されるものであり、本発明の純粋な例示であることが意図され、本発明者らが発明とみなす範囲を制限することを意図するものではない。CD3/CD117二重特異性抗体bs-Ab-1、bs-Ab-2、及びbs-Ab-3は、
図5に記載される二重特異性抗体によって表される。以下の実施例において二重特異性抗体について記載される様々なアミノ酸置換に加えて、各二重特異性抗体は、そのFc領域にLALA変異も含む。これらの二重特異性抗体の結合領域のアミノ酸配列は、表4に記載される。
【0201】
実施例1.CD117/CD3二重特異性抗体bs-Ab-1の産生
以下に記載されるように、抗CD117抗体Ab85由来の抗原結合領域及び抗CD3抗体Ab2由来の抗原結合領域を使用し、「ノブインホール」ヘテロ二量体化技術を使用して、CD117抗原結合アーム及びCD3抗原結合アームを有する二重特異性抗体bs-Ab-1を調製した。
【0202】
bs-Ab-1は、配列番号13に記載される抗CD117重鎖可変領域配列及び配列番号14に記載される軽鎖可変領域配列を含み、次のFc置換T366Wが導入されるように操作した。部位特異的変異導入を使用して、抗CD117抗体Ab85の重鎖配列のFc領域(すなわち、US2019/0153114A1に記載されている配列番号150;その内容全体が参照により本明細書に明示的に援用される)を、次の置換T366W(EUインデックスに従う)が導入されるように操作した。続いて、抗CD117 Ab85抗体バリアント、すなわち、「Ab85 T366W」を発現させた。
【0203】
bs-Ab-1のCD3結合アームは、配列番号41に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号45に記載される軽鎖可変領域配列を含む。抗CD3重鎖を次のFc置換T366S、L368A及びY407Vが導入されるように操作した。配列番号49に記載されるAb2(抗CD3)抗体重鎖配列のFc領域は、次の置換T366S、L368A及びY407Vが導入されるように操作した(アミノ酸位置は、EUインデックスに従ったFc領域を指す)。続いて、Ab2(抗CD3)抗体バリアント「抗CD3 T366S L368A Y407V」を発現させた。
【0204】
次いで、Ab85 T366W親抗体及び抗CD3 T366S L368A Y407V親抗体を標準的なノブインホール技術を使用して組み立てて、二重特異性ヘテロ二量体bs-Ab-1を得た。
【0205】
凍結融解サイクルを2回繰り返した後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用する分析により、bs-Ab-1の安定性を評価した。凝集レベルを評価するために、20μgのbs-Ab-1をAdvanceBio SEC 300Åカラム(Agilent Technologies)に注入した。溶出したタンパク質は、280nmのUV吸光度を使用して検出され、2回の凍結融解後でも観察可能な凝集は示されなかった(データ示さず)。非還元キャピラリーSDS PAGE(非還元型CE-SDS)を使用して、更なる試験を実施し、これにより、部分的に還元された二重特異性抗体のレベルは、最小であったと決定された(母集団中で優勢な種(>95%)はbs-Ab-1であった)。
【0206】
また、OCTET(登録商標)プラットフォームによるバイオレイヤー干渉計を使用して、bs-Ab-1のヒトCD117(hCD117)に対する結合能力についても評価し、二重特異性フォーマットが二重特異性抗体の抗CD117アームを妨げないことを確認した。結合を決定するための方法は、当該技術分野において知られているもの、例えば、Tobias et al.,“Biomolecular Binding Kinetics Assays on the Octet Platform,” Application Note 14,22 pages(2013)に記載されているものに従った。結合アッセイは、Bio-Layer Interferometry Device(ForteBio)を使用して、リン酸緩衝生理食塩水(0.1%BSA)中25℃で実施した。Bs-Ab-1を、66.7nMの濃度で、OCTET(登録商標)Anti-human IgG Fc Capture(AHC)バイオセンサーにローディングした。次いで、33nMのhCD117抗原と会合させ、33nMのhCD3抗原と解離させて、bs-Ab-1が両方の抗原(CD3及びCD117)に結合できるようにした。この方法を使用すると、hCD117に対するbs-Ab1の結合応答は確認されたが、hCD3抗原への結合は検出されなかった(データ示さず)。更に、バキュロウイルス粒子アッセイは、bs-Ab-1が非特異的結合を呈さないことを示した。これらの結果により、hCD117に対するbs-Ab-1の結合能力が維持されることが示された。
【0207】
最後に、示差走査蛍光測定法(DSF)を使用して、bs-Ab-1の熱安定性を評価した。2マイクログラムのbs-Ab-1を、タンパク質熱シフトキット仕様書(Applied Biosystems、Protein Thermal Shift Dyeキット(品番#4461146)に従って、タンパク質熱シフト緩衝液及び色素と混合し、Life TechnologiesのApplied Biosystems Quant Studio7 Flex機器を使用して分析して、各抗体の融解温度(Tm)を決定した。データにより、bs-Ab-1二重特異性抗体が高い固有の熱安定性を示すことが示された。
【0208】
実施例2.抗CD117/抗CD3二重特異性抗体bs-1-Abを使用したin vitro細胞殺傷アッセイの分析
CD117発現標的細胞(Kasumi-1細胞)を実施例1のbs-Ab-1存在下で6日間培養し、その後、CD117発現標的細胞の生存数を決定した。
【0209】
図1の結果は、6日目において、bs-Ab-1がCD117発現標的細胞のin vitro殺傷に極めて効果的であることを示しており、抗CD117アイソタイプ抗体(すなわち、1つのCD117結合アーム及び1つの非標的化結合(アイソタイプ)アームを有する抗体)及び抗CD3アイソタイプ抗体(すなわち、1つのCD3結合アーム及び1つの非標的化結合(アイソタイプ)アームを有する抗体)と比較して(
図1参照;CD117発現標的細胞の有意な枯渇は観察されなかった)、CD117発現標的細胞の有意な殺傷(
図1;IC
50=6.0pM)を示している。実施例1のbs-Ab-1に関するIC
50(pM)値及び有効性のデータを以下の表1に記載する。
【表1】
【0210】
したがって、bs-Ab-1は、CD117発現標的細胞の殺傷に極めて効果的であった。
【0211】
実施例3.bs-Ab-1を使用したin vitro細胞殺傷アッセイの分析
ヒト造血幹細胞を使用したin vitro細胞殺傷アッセイのために、ヒト骨髄由来CD34+細胞を、実施例1のbs-Ab-1、抗CD3アイソタイプ抗体(すなわち、1つのCD3結合アーム及び1つの非結合(アイソタイプ)アームを有する抗体)、または抗CD117アイソタイプ抗体(すなわち、1つのCD117結合アーム及び1つの非結合(アイソタイプ)アームを有する抗体)のいずれかの存在下で、7日間培養した。フローサイトメトリーを使用して、細胞生存率を測定した。
【0212】
図2の結果は、6日目において、実施例1のbs-Ab-1が、抗CD117アイソタイプ抗体及び抗CD3アイソタイプ抗体と比較して(
図2;CD117発現標的細胞の有意な枯渇は観察されなかった)、初代ヒトCD34+骨髄細胞のin vitro殺傷に効果的であったことを示している(
図2;IC
50=15.1pM)。
【0213】
実施例1のbs-Ab-1に関するIC
50(pM)値及び有効性のデータを以下の表2に記載する。
【表2】
【0214】
したがって、実施例1のbs-Ab-1は、CD117発現細胞株(実施例2参照)及び初代ヒトCD34+細胞(本実施例)の殺傷に効果的であった。
【0215】
実施例4.bs-Ab-1を使用したin vivo枯渇アッセイ
抗CD3-アイソタイプ抗体、抗CD117-アイソタイプ抗体及び様々な対照(例えば、PBS(陰性対照))と比較した実施例1のbs-Ab-1の細胞枯渇能力を比較するために、in vivo枯渇アッセイを実施した。ヒト化NSGマウス(Jackson Laboratoriesから購入)を使用して、in vivo HSC枯渇アッセイを実施した。実施例1のbs-Ab-1二重特異性抗体を、0.3mg/kgのbs-Ab-1二重特異性抗体、1.0mg/kgのbs-Ab-1二重特異性抗体、または6.0mg/kgのbs-Ab-1二重特異性抗体の単回注射としてヒト化マウスモデルに投与した。加えて、同様に、抗CD117アイソタイプ抗体(すなわち、1つのCD117結合アーム及び1つの非標的化アームを有する)、抗CD3アイソタイプ抗体(すなわち、1つのCD3結合アーム及び1つの非標的化アームを有する)、及び抗CD117-アイソタイプ抗体と抗CD3-アイソタイプ抗体の両方の組み合わせを6mg/kgの単回注射としてヒト化マウスに0日目に投与した。21日目に骨髄を採取し、フローサイトメトリーで調べた。単回投与から21日後の治療マウスまたは対照マウスにおける、CD34+細胞(
図3A及びB)及びCD34+CD117+細胞(
図3C及びD)の存在率(維持された細胞の%)及び絶対数を
図3A~Dに示す。
【0216】
結果は、実施例1のbs-Ab-1二重特異性抗体で治療されたヒト化NSGマウスが、治療レジメンの単回投与から21日後に、PBS対照と比べて、骨髄中のヒトCD34+細胞の有意な枯渇を示したことを示している(
図3A及びB;
図3Aでは維持された細胞の%として、
図3Bでは大腿骨あたりの細胞絶対数として示される)。更に、結果は、実施例1のbs-Ab1二重特異性抗体が、治療レジメンの単回投与から21日後に、骨髄中のヒトCD34+CD117+細胞の有意な枯渇を示したことを示している(
図3C及び3D;
図3Cでは維持された細胞の%として、
図3Dでは大腿骨あたりの細胞絶対数として示される)。
【0217】
実施例5.CD117/CD3二重特異性抗体、bs-Ab-2及びbs-Ab-3の産生
表4に記載される抗原結合配列及び「ノブインホール」二重特異性操作技術を使用して、CD3/CD117二重特異性抗体bs-Ab-2及びbs-Ab-3を設計した。
【0218】
CD117結合アーム及びCD3結合アームを有するbs-Ab-2を、以下に記載される「ノブインホール」ヘテロ二量体化技術を使用して調製した。bs-Ab-2のCD117結合アームは、配列番号13に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号14に記載される軽鎖可変領域配列を含み、次のFc置換T366Y及びH435Aが導入されるように操作した。部位特異的変異導入を使用して、抗CD117抗体Ab85の重鎖配列のFc領域(すなわち、US2019/0153114A1に記載されている配列番号150;その内容全体が参照により本明細書に明示的に援用される)を、次の置換T366Y及びH435Aが導入されるように操作した(アミノ酸位置は、EUインデックスに従ったFc領域を指す)。続いて、抗CD117 Ab85バリアント、すなわち、「Ab85 T366Y H435A」を発現させた。
【0219】
bs-Ab-2のCD3結合アームは、配列番号41に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号45に記載される軽鎖可変領域配列を含み、次のFc置換Y407T及びH435Aが導入されるように操作した。
【0220】
配列番号49に記載されるAb2(抗CD3)抗体重鎖配列のFc領域は、次の置換Y407T及びH435Aが導入されるように操作した(アミノ酸位置は、EUインデックスに従ったFc領域を指す)。続いて、抗CD3抗体バリアント「抗CD3 Y407T H435A」を発現させた。次いで、Ab85 T366Y H435A親抗体及び抗CD3 Y407T H435A親抗体を標準的なノブ及びホール技術を使用して組み立てて、二重特異性ヘテロ二量体bs-Ab-2を得た。
【0221】
もう1つの二重特異性抗体、すなわち、CD117結合アーム及びCD3結合アームを有するbs-Ab-3を、以下に記載される「ノブインホール」ヘテロ二量体化技術を使用して調製した。bs-Ab-3のCD117結合アームは、配列番号27に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号28に記載される軽鎖可変領域配列を含み、次のFc置換T366Y H453Aが導入されるように操作した。部位特異的変異導入を使用して、抗CD117抗体Ab67の重鎖配列のFc領域(すなわち、US2019-0144558A1に記載されている配列番号152;その内容全体が参照により本明細書に明示的に援用される)を、次の置換T366Y及びH435Aが導入されるように操作した(アミノ酸位置は、EUインデックスに従ったFc領域を指す)。続いて、抗CD117 Ab67バリアント、すなわち、「Ab67 T366Y H453A」を発現させた。
【0222】
加えて、bs-Ab-3のCD3結合アームは、配列番号41に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号45に記載される軽鎖可変領域配列を含み、次のFc置換Y407T及びH435Aが導入されるように操作した。
【0223】
配列番号49に記載されるAb2(抗CD3)抗体重鎖配列のFc領域は、次の置換Y407T H435Aが導入されるように操作した(アミノ酸位置は、EUインデックスに従ったFc領域を指す)。続いて、抗CD3抗体バリアント「抗CD3 Y407T H435A」を発現させた。次いで、Ab67 T366Y H453A親抗体及び抗CD3 Y407V H435A親抗体を標準的なノブ及びホール技術を使用して組み立てて、二重特異性ヘテロ二量体bs-Ab-3を得た。
【0224】
加えて、3つの単一特異性抗体(すなわち、1つの結合アーム及び1つの非標的化アームを有する抗体)を対照として設計した。第1の単一特異性抗体(すなわち、1つの結合アーム及び1つの非標的化アームを有する抗体)である、CD117結合アーム及びアイソタイプ(すなわち、非結合)アームを有するAb85-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435Aを、「ノブインホール」ヘテロ二量体化技術を使用して調製した。Ab85-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435AのCD117結合アームは、配列番号13に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号14に記載される軽鎖可変領域配列を含むように調製され、次のFc置換T366Y及びH435Aが導入されるように操作した。加えて、Ab85-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435Aのアイソタイプ結合アームは、アイソタイプ抗体の重鎖可変領域配列を含むように調製され、次のFc置換Y407T及びH435Aが導入されるように操作した。
【0225】
第2の単一特異性抗体(すなわち、1つの結合アーム及び1つの非標的化アームを有する抗体)である、CD117結合アーム及びアイソタイプ(すなわち、非結合)アームを有するAb67-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435Aを、「ノブインホール」ヘテロ二量体化技術を使用して調製した。Ab67-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435AのCD117結合アームは、配列番号27に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号28に記載される軽鎖可変領域配列を含むように調製され、次のFc置換T366Y及びH435Aが導入されるように操作した。加えて、Ab67-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435Aのアイソタイプ結合アームは、アイソタイプ抗体の重鎖可変領域配列を含むように調製され、次のFc置換Y407T及びH435Aが導入されるように操作した。
【0226】
第3の単一特異性抗体(すなわち、1つの結合アーム及び1つの非標的化アームを有する抗体)である、CD3結合アーム及びアイソタイプ(すなわち、非結合)アームを有するAb2-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435Aを、「ノブインホール」ヘテロ二量体化技術を使用して調製した。Ab2-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435AのCD3結合アームは、配列番号41に記載される重鎖可変領域配列及び配列番号45に記載される軽鎖可変領域配列を含むように調製され、次のFc置換T366Y及びH435Aが導入されるように操作した。加えて、Ab2-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435Aのアイソタイプ結合アームは、アイソタイプ抗体の重鎖可変領域配列を含むように調製され、次のFc置換Y407T及びH435Aが導入されるように操作した。
【0227】
bs-Ab-2二重特異性抗体、bs-Ab-3二重特異性抗体、及び3つの対照抗体(すなわち、Ab85-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435A抗体、Ab67-T366Y-H435A-アイソタイプ-Y407T-H435A抗体及び抗CD3-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435A抗体)の安定性を、二重特異性抗体について実施した試験に従って安定性について評価すると、観察可能な凝集がないことを含め、安定性が確認された。
【0228】
実施例6.抗CD117/抗CD3二重特異性抗体を使用したin vitro細胞殺傷アッセイ
ヒト造血幹細胞を使用したin vitro細胞殺傷アッセイのために、ヒト骨髄由来CD34+細胞を、実施例5のbs-Ab-2二重特異性抗体、実施例5のbs-Ab-3二重特異性抗体、Ab85-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435A抗体(実施例5)と抗CD3-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435A抗体(実施例5)の組み合わせ、及びAb67-T366Y-H435A-アイソタイプ-Y407T-H435A抗体(実施例5)と抗CD3-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435A抗体(実施例5)の組み合わせのいずれかの存在下で、6日間培養した。フローサイトメトリーを使用して、細胞生存率を測定した。
【0229】
図4の結果は、6日目において、実施例5のbs-Ab-2二重特異性抗体が、Ab85-T366Y-H435A-Iso-Y407T-H435A単一特異性抗体と抗CD3-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435A抗体の組み合わせ及びAb67-T366Y-H435A-アイソタイプ-Y407T-H435A抗体と抗CD3-Y407T-H435A-Iso-T366Y-H435A単一特異性抗体の組み合わせのいずれかと比較して(
図4;CD34+細胞の有意な枯渇は観察されなかった)、初代ヒトCD34+骨髄細胞のin vitro殺傷に効果的であったことを示している(
図4;IC
50=6.4pM)。これらのデータもまた、実施例5のbs-Ab-2二重特異性抗体が実施例5のbs-Ab-3二重特異性抗体よりも効果的であることを示した(
図4)。有効性の差は、bs-Ab-3エピトープの細胞膜への近接性(Ab67抗体エピトープはWO2020/219748に記載されている;その全体が参照により本明細書に援用される)と比較した、bs-Ab-2エピトープの細胞膜への近接性(Ab85抗体のエピトープはWO2020/219770に記載されている;その全体が参照により本明細書に援用される)による可能性がある。
【0230】
二重特異性抗体1nMにおける有効率(%)の値を以下の表3に記載する。
【表3】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【表4-8】
【表4-9】
【表4-10】
【表4-11】
【表4-12】
【表4-13】
【表4-14】
【表4-15】
【表4-16】
【表4-17】
【表4-18】
【表4-19】
【表4-20】
【表4-21】
【表4-22】
【表4-23】
【表4-24】
【表4-25】
【表4-26】
【0231】
他の実施形態
本明細書において言及される全ての公開物、特許、及び特許出願は、それぞれの個々の公開物または特許出願が参照により本明細書に援用されることが具体的かつ個別に示される場合と同様に、参照により本明細書に援用される。
【0232】
特定の実施形態に関連して本発明が説明されてきたが、更なる変更が可能であることが理解される。本出願は、一般に、本発明の原則に従った本発明のあらゆる変形、使用、または適合を含むことが意図され、本発明が属する技術分野における既知のまたは慣習的な実施の範囲内であり、かつ本明細書に前述される本質的な特徴に適用され得る本開示からの逸脱を含み、特許請求の範囲の範囲に従うものである。
【0233】
他の実施形態は、特許請求の範囲内である。
【配列表】
【国際調査報告】