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特表2023-520657燃料電池システムのアノード区分内の温度に起因する圧力上昇を補償するための方法
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  • 特表-燃料電池システムのアノード区分内の温度に起因する圧力上昇を補償するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-18
(54)【発明の名称】燃料電池システムのアノード区分内の温度に起因する圧力上昇を補償するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20230511BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20230511BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230511BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04302
H01M8/04225
H01M8/0438
H01M8/04313
H01M8/0432
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557829
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2021056142
(87)【国際公開番号】W WO2021190942
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】102020108177.4
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592245937
【氏名又は名称】バイエリッシェ モトーレン ヴェルケ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Bayerische Motoren Werke Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Petuelring 130, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ペルガー
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB04
5H127AC02
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA57
5H127BA59
5H127BA60
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB23
5H127BB37
5H127DA11
5H127DB03
5H127DB06
5H127DB93
5H127DC02
5H127DC04
5H127DC09
(57)【要約】
本明細書に開示されている技術は、本発明によれば、燃料電池システム、とりわけ自動車の燃料電池システムにおける温度に起因する圧力上昇を少なくとも部分的に補償するための方法に関する。アノード供給経路(210)が、燃料電池スタック(300)を少なくとも1つの燃料源H2に接続する。アノード供給経路210に、アノード側のスタック遮断弁(234)が設けられている。アノード側のスタック遮断弁(234)は、アノード供給経路(210)の区分MDから燃料電池スタック(300)への燃料供給を阻止するように構成されている。区分MDに、圧力逃がし弁(242)が設けられている。圧力逃がし弁(242)は、区分MD内の圧力がトリガ圧力を上回った場合に、区分MDから燃料を排出するように構成されている。燃料電池システムがシャットダウンされた状態では、区分MD内の圧力が、燃料の加熱に基づいて上昇する。当該方法は、燃料電池システムがシャットダウンされた状態において、とりわけ区分MD内の圧力上昇中に、区分MD内の加熱されている燃料に基づいて上昇した圧力が圧力逃がし弁(242)のトリガ圧力にまだ到達しないうちに、アノード側のスタック遮断弁(234)を区分MDの圧力解放のために開弁するステップを含み、これにより、アノードサブシステムからの燃料排出を回避することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムにおける温度に起因する圧力上昇を少なくとも部分的に補償するための方法であって、
・アノード供給経路(210)が、燃料電池スタック(300)と少なくとも1つの燃料源(H2)との間に流体接続を形成し、
・前記アノード供給経路(210)に、アノード側のスタック遮断弁(234)が設けられており、
・前記アノード側のスタック遮断弁(234)は、前記アノード供給経路(210)のアノード区分(MD)から前記燃料電池スタック(300)への燃料供給を阻止するように構成されており、
・前記アノード区分(MD)に、圧力逃がし弁(242)が設けられており、
・前記圧力逃がし弁(242)は、前記アノード区分(MD)内の圧力がトリガ圧力を上回った場合に、前記アノード区分(MD)から燃料を排出するように構成されており、
・前記燃料電池システムがシャットダウンされた状態では、前記アノード区分(MD)内の圧力が、前記燃料の加熱に基づいて上昇し、
当該方法は、前記アノード区分(MD)内の上昇した圧力が前記圧力逃がし弁(242)の前記トリガ圧力にまだ到達しないうちに、前記アノード側のスタック遮断弁(234)を圧力解放のために開弁するステップを含む、
方法。
【請求項2】
前記スタック遮断弁(234)は、前記圧力解放のために10秒未満、または1秒未満、または100ミリ秒未満だけ開弁されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スタック遮断弁(234)は、前記燃料電池システムが前記シャットダウンされた状態をとった時点から所定の第1の期間が経過した後、前記圧力解放のために開弁される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記燃料の加熱中に、複数回の圧力解放が実施される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第1の圧力解放と第2の圧力解放との間の期間は、第2の期間であり、
前記第2の期間は、前記第1の期間よりも長い、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第1の期間および/または前記第2の期間は、3分~20分の間または5分~10分の間である、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記第1の期間および/または前記第2の期間は、加熱されている前記アノード区分(MD)の直接的な周囲における温度を示す周囲温度値に基づいて規定される、請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記第1の期間および/または前記第2の期間は、前記アノード区分(MD)内の燃料温度を示す燃料温度値に基づいて規定される、請求項3から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第1の期間および/または前記第2の期間は、前記燃料電池システムに格納されている特性マップによって規定され、
前記特性マップには、前記期間に対する、
・前記周囲温度値
・前記燃料温度値、および/または
・初期圧力値
に依存した種々の値が格納されており、
前記初期圧力値は、前記燃料電池システムが前記シャットダウンされた状態をとった時点における前記アノード区分(MD)内の初期圧力を示す、
請求項3から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記第1の期間、前記第2の期間、前記燃料温度値、前記周囲温度値、および/または前記初期圧力値が、前記燃料電池システムのシャットダウン中に特定される、請求項3から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記燃料電池システムの制御装置は、前記第1の期間および/または前記第2の期間の間、非アクティブであり、
前記制御装置は、前記圧力解放のためにアクティブ化される、
請求項3から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
当該方法は、
・前記燃料電池システムがシャットダウンされた状態における前記燃料の加熱中の、前記アノード区分(MD)内の実際の圧力を示す圧力値を検出するステップと、
・前記アノード区分(MD)内の検出された前記圧力値が限界値を上回った場合に、前記アノード側のスタック遮断弁(234)を開弁するステップと、
をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項13】
前記アノード供給経路(210)は、前記燃料源(H2)に接続された減圧器(244)を含み、
前記減圧器(244)の下流に、前記アノード区分(MD)が設けられている、
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記アノード側のスタック遮断弁(234)は、前記減圧器の閉鎖圧力に到達する前に、または前記閉鎖圧力に到達した場合に、前記圧力解放を終了するために再び閉弁される、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
マイクロプロセッサによって実行された場合に、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法を前記マイクロプロセッサに実行させるためのプログラム命令が格納されている、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
燃料電池によって駆動される自動車自体は、公知である。燃料電池によって駆動される自動車は、アノードサブシステムを有する燃料電池システムを含み、アノードサブシステム内には、通常、高圧領域を中圧領域から分離する圧力レギュレータが設けられている。中圧領域自体は、スタック遮断弁を介して燃料電池スタックのアノードから分離されている。自動車の停止後には、中圧領域内の圧力が急激に上昇し過ぎて、この中圧領域内に閉じ込められている燃料が、その場合にトリガされる安全弁を介して逃がされるという事態が発生する可能性がある。このような燃料排出は、望ましくない。
【0002】
本明細書で開示されている技術の好ましい課題は、従前から公知の解決手段の少なくとも1つの欠点を軽減または解決すること、または代替的な解決手段を提案することである。とりわけ、本明細書で開示されている技術の好ましい課題は、アノードサブシステムの製造コスト、重量、または所要スペースのような他のパラメータに顕著な悪影響を及ぼすことなく、駐車中の温度に起因する燃料排出を回避することである。さらなる好ましい課題は、本明細書に開示されている技術の有利な効果から得られる。上記の課題は、請求項1の対象によって解決される。従属請求項には、好ましい実施形態が記載されている。
【0003】
本明細書に開示されている技術は、とりわけ自動車の燃料電池システムにおける温度に起因する圧力上昇を少なくとも部分的に補償するための方法に関する。アノード供給経路が、燃料電池スタックを少なくとも1つの燃料源に接続する。アノード供給経路に、アノード側のスタック遮断弁が設けられている。アノード側のスタック遮断弁は、アノード供給経路のアノード区分から燃料電池スタックへの燃料供給を阻止するように構成されている。アノード区分に、圧力逃がし弁が設けられている。圧力逃がし弁は、アノード区分内の圧力がトリガ圧力を上回った場合に、アノード区分から燃料を排出するように構成されている。燃料電池システムがシャットダウンされた状態では、アノード区分内の圧力が、燃料の加熱に基づいて上昇する。当該方法は、燃料電池システムがシャットダウンされた状態において、とりわけアノード区分内の圧力上昇中に、アノード区分内の加熱されている燃料に基づいて上昇した圧力が圧力逃がし弁のトリガ圧力にまだ到達しないうちに、アノード側のスタック遮断弁をアノード区分の圧力解放のために開弁するステップを含み、これにより、アノードサブシステムからの燃料排出を回避することが可能である。開弁は、例えば、時間または圧力に基づいて実施可能である。
【0004】
本明細書に開示されている技術は、少なくとも1つの燃料電池を有する燃料電池システムに関する。燃料電池システムは、例えば、自動車(例えば、乗用車、オートバイ、商用車)のような移動用途のために、とりわけ、自動車を推進させるための少なくとも1つの駆動機械にエネルギを供給するために想定されている。燃料電池は、その最も簡単な形態では、燃料および酸化剤を反応生成物に変換し、その際に電気および熱を生成する電気化学的なエネルギ変換器である。燃料電池は、アノードおよびカソードを含み、これらのアノードとカソードとは、イオン選択性もしくはイオン浸透性のセパレータによって離隔されている。アノードには、燃料が供給される。好ましい燃料は、水素、低分子アルコール、バイオ燃料、または液化天然ガスである。カソードには、酸化剤が供給される。好ましい酸化剤は、例えば、空気、酸素、および過酸化物である。イオン選択性のセパレータは、例えば、プロトン交換膜(proton exchange membrane,PEM)として構成可能である。好ましくは、陽イオン選択性の高分子電解質膜が使用される。そのような膜のための材料は、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、およびアシプレックス(登録商標)である。
【0005】
燃料電池システムは、少なくとも1つの燃料電池の他に、少なくとも1つの燃料電池の動作時に使用することができる周辺システムコンポーネントを含む。通常、複数の燃料電池が1つの燃料電池積層体もしくはスタックに纏められている。
【0006】
アノードサブシステムは、燃料電池システムの燃料を案内する構成要素によって構成される。アノードサブシステムは、少なくとも1つの燃料源(通常、圧力容器)と、少なくとも1つのタンク遮断弁と、少なくとも1つの減圧器と、燃料電池スタックのアノード入口に通じる少なくとも1つのアノード供給経路と、燃料電池スタック内のアノード室と、燃料電池スタックのアノード出口から出て行く少なくとも1つの再循環経路と、少なくとも1つの水分離器と、少なくとも1つのアノードフラッシュ弁と、少なくとも1つの能動的または受動的な燃料再循環圧送器と、さらなる要素とを有することができる。アノードサブシステムの主なタスクは、アノード室の電気化学的活性面への燃料の供給および分配と、アノード排ガスの排出とである。
【0007】
燃料電池システムは、カソードサブシステムを含む。カソードサブシステムは、酸化剤を案内する構成要素から構成される。カソードサブシステムは、少なくとも1つの酸化剤圧送器と、カソード入口に通じる少なくとも1つのカソード流入経路と、カソード出口から出て行く少なくとも1つのカソード排ガス経路と、燃料電池スタック内のカソード室と、さらなる要素とを有することができる。
【0008】
アノード供給経路は、少なくとも1つの燃料源と燃料電池スタックのアノードとの間に流体接続を形成する。アノード供給経路は、複数のアノード管路によって形成可能であるか、またはアノード供給経路内の種々のコンポーネントを互いに接続する管路システムによって形成可能である。
【0009】
アノード供給経路は、減圧器を含むことができ、この減圧器は、その上流において燃料源に接続されており、この減圧器の下流に、アノード区分を設けることができる。減圧器は、減圧器の入口に印加される燃料入口圧力を、減圧器の出口に印加される燃料出口圧力または下流圧力まで低減するように構成されている。最も簡単な形態では、この減圧器は、絞り弁であってよい。通常、減圧器は、減圧弁を含み、この減圧弁は、種々異なる入口圧力にもかかわらず、出口側において所定の出口圧力を上回らないことを保証する。減圧器において、燃料が膨張する。ロックアップ圧力(Lock Up Pressure)とも称される減圧器の閉鎖圧力は、この圧力を超えると減圧器が減圧器の入口と出口との間の流体接続を遮断するというような圧力である。
【0010】
本明細書で開示されているアノード区分は、とりわけ、減圧器の下流にあって、かつスタック遮断弁の上流にある区分であり、アノードサブシステムの中圧領域とも称される。
【0011】
少なくとも1つのアノード側のスタック遮断弁は、燃料電池スタックをアノードサブシステムの残りのコンポーネントに対して気密に(漏れ流を除いて)封止することができる弁装置である。とりわけ、アノード側のスタック遮断弁は、燃料電池スタックをアノード供給経路の他の区分から分離する。スタック遮断弁は、自動車が利用されていないフェーズに、燃料電池スタックのうちの、スタック遮断弁によって実質的に封止されているアノード室への、漏れ流を除いた燃料の侵入を阻止するために使用される。例えば、比例弁またはインジェクタが、スタック遮断弁を構成することができる。有利には、このような弁を、同時にさらなる減圧器および/または調量弁として使用することができる。
【0012】
圧力逃がし弁は、アノード区分もしくは中圧領域に配置されており、アノード区分内の圧力が圧力逃がし弁のトリガ圧力に到達した場合、またはこれを上回った場合にアノード区分の負荷を解放する。好ましくは、圧力逃がし弁は、開閉可能な機械式の弁である。圧力逃がし弁のトリガ圧力は、減圧器の閉鎖圧力より大きく、例えば閉鎖圧力より約10%~約20%大きい。とりわけ、圧力逃がし弁は、通常、高過ぎる圧力がアノード区分のコンポーネントを損傷する可能性がある前に、トリガされるように設計されている。
【0013】
燃料源は、圧力容器、とりわけ低温圧力容器または高圧ガス容器であってよい。高圧ガス容器は、燃料を、周囲温度において少なくとも350barue(超大気圧)(=大気圧と比較した過圧)または少なくとも700barue(超大気圧)の公称の動作圧力(nominal working pressureまたはNWPとも称される)で持続的に貯蔵するように構成されている。低温圧力容器は、自動車の最低動作温度を格段に(例えば、50ケルビン超、または100ケルビン超)下回っている温度においても、燃料を上述した動作圧力で貯蔵するために適している。
【0014】
燃料電池システムのシャットダウンは、Shut-Downまたは稼働停止とも称される。シャットダウンは、燃料電池システムが自動車の駐車状態において留まることができる状態へと、燃料電池システムを移行させる全てのステップを含む。自動車が駐車状態になるフェーズが開始される直前または開始時に、燃料電池システムはシャットダウンされる。自動車は、本明細書に開示されている技術によれば、車両使用者がこの自動車から離れた場合に、駐車された状態もしくは「駐車」状態にある。通常、自動車は、駐車状態では、最大寿命を実現するために最小の電気エネルギを消費する状態をとる。したがって、この状態では、有利には、自動車を動作準備が完了した状態へと再び移行させるため(とりわけ、集中ドアロック、ワイヤレスキーの評価)、かつ自動車の確実な停止を保証するため(例えば、駐車灯、駐車ブレーキ、盗難警報装置等)に使用される機能のみを利用することができる。これらの機能の他に、駐車状態においてさらなる自給自足機能をオンにすることができる。燃料電池システムの制御装置は、「駐車」状態ではスイッチオフされており、通常、自動車を走行準備が完了した状態へと再び移行させるべき場合にのみ、または少なくとも1つの自給自足機能を実行すべき場合にのみ、スイッチオンされる。とりわけ、集中ドアロックを介して施錠された場合であって、かつある程度の時間にわたって車両内において車両使用者の行動が認識できない場合、すなわち、車両使用者が車両内にいないことが推測される場合に、「駐車」状態が存在することができる。
【0015】
燃料電池システムがシャットダウンされた状態では、通常、燃料の加熱に基づいてアノード区分内の圧力が上昇する。燃料電池システムがシャットダウンされた状態をとった時点では、アノード区分内の圧力は、減圧器の閉鎖圧力に実質的に相当する。
【0016】
燃料貯蔵部として少なくとも1つの圧力容器が使用される場合には、燃料は、取り出し中にアノード供給経路内でのこの燃料の膨張に基づいて強力に冷却される。それと同時に、自動車は、とりわけ夏には、多くの国々において高い周囲温度に晒される可能性があり、したがって、とりわけ減圧器の下流では、アノード区分内に存在する燃料とアノード区分の直接的な周囲との間に大きな温度差が生じる。加熱されているアノード区分の直接的な周囲における温度を、構造空間温度とも称することができる。構造空間温度は、自動車の周囲における外気温と、例えば燃料電池スタック、パワーエレクトロニクス等のような他のコンポーネントからの廃熱とによって影響を受ける。この温度差により、アノード区分内の燃料が強力に加熱されることとなる。アノード区分内の燃料は、閉じ込められているので、アノード区分内の圧力は、徐々に上昇する。
【0017】
本明細書に開示されている技術は、とりわけアノード供給経路内の圧力上昇中に、当該区分内の上昇した圧力が圧力逃がし弁のトリガ圧力にまだ到達しないうちに、アノード側のスタック遮断弁をアノード区分の圧力解放のために開弁するステップを含む。アノード側のスタック遮断弁の下流の圧力は、アノード区分内の圧力よりも低くなっている。したがって、加熱された燃料は、アノード側のスタック遮断弁の開弁後、燃料電池スタックのアノード室に流入し、これにより、アノード区分内の圧力が著しく低下する。コンポーネント保護のために、燃料が、その場合にトリガされる圧力逃がし弁を介して周囲に排出されるという事態が、これによって有利には回避される。比較的低いトリガ圧力を有する圧力逃がし弁を使用することも可能となる。全体として、アノード区分の構成要素を、比較的低い最大圧力用に設計することが可能となる。このことは、通常、製造コスト、重量、および所要構造スペースに対してポジティブに作用する。
【0018】
アノード側のスタック遮断弁は、圧力解放のために短時間だけ、例えば、1分未満、10秒未満、1秒未満、または100ミリ秒未満だけ開弁可能である。このことは、圧力解放のために必要とされる長さの間だけ、弁が開弁されており、そうでない場合には、アノードサブシステムの、燃料を案内する個々の領域同士が互いに離隔されているという利点を有する。複数の遮断弁が設けられている場合には、1つのスタック遮断弁だけを開弁することもできる。開弁時間は、とりわけ使用されている技術(例えば、比例弁、インジェクタ等)に応じて変更することができる。
【0019】
有利には、アノード側のスタック遮断弁は、燃料電池システムがシャットダウンされた状態をとった時点から所定の第1の期間が経過した後にようやく、圧力解放のために開弁される。アノード区分内の圧力を、差し当たり、加熱されている燃料に基づいて著しく上昇させることもできるようにするために、このことを企図することができる。1つの実施形態では、燃料の加熱中に、複数回の圧力解放を実施することができる。第1の圧力解放と第2の圧力解放との間の期間は、第2の期間である。第2の期間は、第1の期間よりも長い。第1の圧力解放後にはアノード区分内の圧力が比較的緩慢に上昇し、一般的に、スタック遮断弁が開弁される頻度をできるだけ少なくすべきであるので、このことが有利である。第1の期間および/または第2の期間は、3分~20分の間または5分~10分の間であってよい。
【0020】
第1の期間および/または第2の期間は、加熱されているアノード区分の直接的な周囲における温度を直接的または間接的に示す周囲温度値に基づいて規定可能である。したがって、周囲温度値は、構造空間温度を示す。例えば、自動車の場合には、自動車の外気温を(測定により、またはサーバから対応する情報を検出することにより)特定することができ、この外気温に、対応する構造空間温度を対応付けることができる。構造空間温度と周囲温度との間の相関は、例えばシミュレーションおよび/または一連の試験によって特定可能である。
【0021】
第1の期間および/または第2の期間は、アノード区分内の燃料温度を直接的または間接的に示す燃料温度値に基づいて規定可能である。1つの実施形態では、燃料温度値は、アノード区分内の温度センサによって検出可能である。他の実施形態では、圧力容器内の燃料温度が検出され、圧力容器内で検出された燃料温度に基づいてアノード区分内の温度が近似される。圧力容器内の温度とアノード区分内の温度との間の相関は、試験および/またはシミュレーションによって特定可能である。
【0022】
第1の期間および/または第2の期間は、燃料電池システムに格納されている特性マップによって規定可能である。特性マップは、例えば、制御装置の不揮発性メモリに格納可能である。特性マップには、期間に対する、周囲温度値、燃料温度値、および初期圧力値に依存した種々の値が格納可能であり、初期圧力値は、燃料電池システムがシャットダウンされた状態をとった時点におけるアノード区分内の初期圧力を直接的または間接的に示す。1つの実施形態では、アノード区分内の圧力を測定することができる。他の実施形態では、アノード供給経路の他の箇所において圧力を検出することができ、この値からアノード区分内の初期圧力を近似することができる。圧力を検出する代わりに、アノード区分内の不変の容積に基づいて同様に初期圧力を示すであろう密度を特定してもよい。したがって、すなわち、特性マップに基づいて、それぞれ異なる初期圧力、周囲温度、および燃料温度に対してそれぞれ異なる期間を規定することができる。これにより、わずかな圧力解放しか実施されないことを保証することができる。したがって、アノード側のスタック遮断弁は、できるだけ多くまたはできるだけ長い間、閉弁されており、燃料電池システムの制御装置が駐車中にアクティブ化される頻度ができるだけ少なくてもよくなり、このことは、駐車中のエネルギ消費量に対してポジティブに作用する。
【0023】
1つの実施形態では、第1の期間、第2の期間、燃料温度値、周囲温度値、および/または初期圧力値を、燃料電池システムのシャットダウン中に特定することができ、燃料電池システムの制御装置を、第1の期間および/または第2の期間の間、非アクティブにすることができ、燃料電池システムの制御装置を、圧力解放のためにアクティブ化することができる。このために、燃料電池システムの制御装置が再びアクティブ化されるように、上位の制御部においてタイマを使用することができる。
【0024】
さらなる実施形態では、当該方法は、
・燃料電池システムがシャットダウンされた状態における燃料の加熱中の、アノード区分(MD)内の実際の圧力を示す圧力値を検出するステップと、
・アノード区分内の検出された圧力値が限界値を上回った場合に、アノード側のスタック遮断弁を開弁するステップと
を含むことができる。
すなわち、さらなる実施形態では、十分な確率で圧力解放がもはや必要なくなるほどにアノード区分内の燃料が加熱されるまで、燃料電池システムの制御装置をアクティブのままにすることができる。とりわけ、制御装置は、アノード区分内の圧力を直接的または間接的に検出することができる。このために、例えば、アノード区分内に圧力センサを設けることができる。アノード区分内の検出された圧力が限界値を上回ると、アノード側のスタック遮断弁を開弁することができる。この場合、アノード区分内の圧力が圧力逃がし弁のトリガ圧力に到達する前にアノード区分が圧力解放されるように、限界値が選択されている。
【0025】
本明細書に開示されている方法は、減圧器の閉鎖圧力に到達する前に、圧力解放のために開弁されたアノード側のスタック遮断弁が再び閉弁されるステップを設けることができる。有利には、本明細書で開示されている方法は、(i)アノード区分内の圧力が、圧力逃がし弁のトリガ圧力を(好ましくはわずかに)下回ると、圧力解放が開始されるように構成されており、かつ(ii)アノード区分内の圧力が、減圧器の閉鎖圧力を(好ましくはわずかに)上回ると、圧力解放が終了するように構成されている。したがって、一方では、アノードサブシステムから燃料が不必要に逃がされないことを保証することができ、他方では、場合によっては後々の時点に、通常は数時間後に、自動車の自給自足機能のために必要とされることとなる燃料が、過度に早期の時点に燃料電池スタックのアノード室に供給されないことを保証することができる。これによって有利には、自動車の駐車状態においてタンク遮断弁を開弁する必要なく、アノード供給経路内の貯蔵燃料を自給自足機能のために使用することが可能となる。
【0026】
制御装置は、とりわけ、本明細書に開示されている方法ステップを実施するか、または一緒に実施するように構成可能である。このために、制御装置は、システムのアクチュエータを、供給された信号に基づいて少なくとも部分的に、好ましくは完全に閉ループ制御(英語:closed loop control)または開ループ制御(英語:open loop control)することができる。制御装置は、少なくとも燃料電池システム、とりわけ燃料電池システムのカソードサブシステム、アノードサブシステム、および/または冷却システムに影響を与えることができる。代替的または追加的に、制御装置を他の制御装置に、例えば上位の制御装置に一緒に組み込んでもよい。制御装置は、自動車のさらなる制御装置と相互作用することができる。
【0027】
さらに、本明細書に開示されている技術は、マイクロプロセッサによって実行された場合に、先行する請求項のうちのいずれか1項記載の方法をマイクロプロセッサに実行させるためのプログラム命令が格納されている、コンピュータ可読記憶媒体に関する。
【0028】
換言すれば、本明細書に開示されている技術は、中圧領域を圧力解放するための方法に関する。ここでの着想は、取り出しの停止(すなわち、燃料電池スタックがオフである)後に、アノード側のスタック遮断弁(すなわち、Hydrogen shut off valve)またはインジェクタを、所定の時間後に再度短時間だけ開弁して、所定の体積内に閉じ込められたガスが加熱されたことによって中圧管路内に形成された圧力を低下させ、その際に、アノード圧力を若干上昇させることである。アノード内には、数mbarの圧力上昇しか引き起こさないようにするため、かつそれと同時に中圧領域内の圧力を、例えば減圧器の閉鎖値(lock up pressure)まで低下させるために十分な体積が存在する。中圧のさらなる低減は必要でないが、不利でもないだろう。圧力が閉鎖値を下回る値まで低下されれば、管路の高圧領域から、すなわち圧力レギュレータの上流から水素が流出するであろう。中圧取り出しシステム(すなわち、比例弁またはインジェクタ)の駆動を、時間に基づいて、例えば5~7分後に実施することができ、必要に応じて再度、例えばさらに10~15分後に繰り返すことができる。(この間隔は、長くなる。なぜなら、密度が減少しており、管路内の燃料と構造空間温度との間の温度差が小さくなったからである。)
【0029】
代替的に、中圧管路から取り出される時点と、取り出されるべき量とを決定するために、燃料の密度と温度差とに依存して計算することができる特性曲線または特性マップを求めることができる。
【0030】
本明細書に開示されている技術を用いることにより、アノードサブシステムからの温度に起因する燃料排出を生じさせることなく、比較的低いトリガ圧力を有する圧力解放弁を設けることができる。これにより、より低コストでより軽量な安全弁を使用することが可能となる。有利には、中圧領域のさらなるコンポーネントも、低い破裂圧力用に設計することができ、このことは、製造コスト、所要スペース、および重量に対してポジティブに作用することができる。1つの実施形態によれば、アノード流入経路内の圧力をさらに低減させるために、自動車の停止後、タンク遮断弁が閉鎖されている場合に所定時間の間、燃料電池システムを引き続き動作させることできる。しかしながら、そのようなスイッチオフ手順は、常に可能というわけではなく、とりわけ、他の保護機能が燃料電池システムの予想外の停止(例えば、緊急停止)を引き起こした場合には不可能である。
【0031】
本明細書に開示されている技術を用いることにより、停止時に管路を圧力解放する必要がなくなるので、圧力容器の燃料タンクバルブ(On-Tank-Valveとも称される)を開弁することなく、自給自足動作のためにますます多くの燃料(例えば、アノードに圧送するための駐車中の燃料)を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】燃料電池システムの概略図である。
【0033】
以下、本明細書に開示されている技術を、燃料電池システムの概略図を示している図1に基づいて説明する。
【0034】
圧力容器H2内には、燃料、例えば700barまでの水素が貯蔵されている。圧力容器H2は、燃料電池スタック300のために水素を供給し、この燃料電池スタック300は、比較的低い圧力レベルで、例えば0.5~1barue(超大気圧)で動作される多数の燃料電池を有する。圧力容器H2の一方の端部には、タンク遮断弁211が設けられている。タンク遮断弁211を有するただ1つの圧力容器H2の代わりに、1つまたは複数のタンク遮断弁211を有する複数の圧力容器H2を設けてもよい。圧力容器H2と燃料電池スタック300との間の燃料を案内する流体接続は、燃料電池スタック300のアノードAに燃料を供給し、アノード供給経路210と称される。本明細書に示されているシステムにはさらに、減圧器244が設けられている。減圧器244は、700barまでの貯蔵圧力を、例えば、2bar~40barまたは12bar~18barの中圧レベルまで低下させる。アノード供給経路210にはさらに、アノード側のスタック遮断弁234が設けられており、このスタック遮断弁234は、ここではさらなる減圧器として機能し、中圧レベルの圧力を燃料電池の低圧まで低下させる。アノード区分MDは、ここではアノード供給経路210のうちの、減圧器244より下流に設けられていて、かつアノード側のスタック遮断弁234の上流に設けられている区分である。このアノード区分MDを、中圧領域と称することもできる。
【0035】
減圧器244の機能不全時におけるアノード供給経路210の管路の破裂またはコンポーネント(ねじ留め部、センサ、アノード遮断弁等)の損傷を阻止するために、ここでは減圧器244の下流に圧力逃がし弁242が設けられている。ここでは燃料電池スタック300の下流において、アノードサブシステムからの再循環流経路216に、水分離器232と、アノードフラッシュ弁238と、再循環ポンプ236とが設けられている。アノードフラッシュ管路239は、ここではアノードフラッシュ弁238をカソード排ガス管路416に接続しており、このカソード排ガス管路416は、燃料電池スタックのカソードKの下流から始まり、周囲において終端している。この排ガス管路416内には、触媒面を設けることができる(図示せず)。さらなる実施形態では、アノードフラッシュ管路239は、カソードKの上流でカソード供給管路415に開口しており、とりわけ、カソード側のスタック遮断弁430の下流に開口している。燃料および周囲空気の流れ方向は、ここでは矢印によって図示されている。燃料電池システムは、自動車内に構築されている(図示せず)。酸化剤圧送器410は、酸化剤O2を圧縮し、この酸化剤O2は、続いて熱交換器420において冷却される。さらに、カソード供給管路415から分岐していて、かつ排ガス管路416に開口しているバイパス管路460が設けられている。
【0036】
燃料が取り出される際には、燃料が膨張して、その際に冷却される。ここで、燃料電池システムがシャットダウンされた場合には、構造空間温度に対して相対的に低温である燃料が、アノード区分MDに滞留する。燃料温度と周囲温度との間の差が大きいことに起因して燃料に熱が導入され、これにより、アノード区分MD内の燃料が加熱されて、アノード区分MD内の圧力が上昇する。対策が講じられない限り、この圧力は、圧力逃がし弁242のトリガ圧力を上回る可能性がある。したがって、その場合には、圧力逃がし弁242を介して燃料が周囲に放出されることになる。本明細書に開示されている技術によれば、このことは、非アクティブの制御装置を再びアクティブ化して、第1の期間が経過した後に燃料電池スタック300のアノード室への圧力解放を開始することによって阻止される。圧力解放は、スタック遮断弁234の短時間の開弁によって達成される。圧力解放後には、アノード区分MD内の圧力は、著しく低下されている。とりわけ、ここではアノード側のスタック遮断弁234は、アノード区分MD内の圧力が減圧器の閉鎖圧力に実質的に相当するまでの間、開弁される。アノード区分MD内の圧力が温度に起因してさらに上昇した場合には、第2の期間が経過した後、第2の圧力解放と、場合によってはさらなる圧力解放とを開始することができる。好ましくは、制御装置は、圧力解放と圧力解放との間には非アクティブであり、スタック遮断弁234は、閉弁されている。
【0037】
本発明の上述の説明は、本発明を例示する目的でのみ使用され、本発明を限定する目的で使用されるわけではない。本発明の枠内では、本発明の範囲および本発明の均等物を逸脱することなく、種々の変更および修正が可能である。
図1
【国際調査報告】