(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-18
(54)【発明の名称】重度の炎症状態を処置するためのミトコンドリア標的抗酸化物質の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/54 20170101AFI20230511BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230511BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230511BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/66 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/473 20060101ALI20230511BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230511BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230511BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230511BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230511BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230511BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230511BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230511BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230511BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61K47/54
A61P29/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/05
A61K31/66
A61K31/122
A61K31/352
A61K31/473
A61P31/04
A61P31/14
A61P9/00
A61P37/02
A61P35/00
A61P31/10
A61P31/12
A61P31/16
A61P17/02
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560279
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 IB2021000219
(87)【国際公開番号】W WO2021198786
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513303913
【氏名又は名称】ミトテック ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】スクラチェフ,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】ジノフキン,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレエフ-アンドリーフスキー,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】エゴロフ,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】カルガー,エレーナ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロフ,アントン
(72)【発明者】
【氏名】フリードホフ,ローレンス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB13
4C076BB16
4C076BB17
4C076CC04
4C076CC11
4C076CC27
4C076CC32
4C076CC35
4C076CC41
4C076DD59
4C076DD60
4C076DD63
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA19
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZA36
4C084ZA89
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB21
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086CB22
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZA36
4C086ZA89
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206CB27
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA86
4C206NA13
4C206ZA36
4C206ZA89
4C206ZB07
4C206ZB11
4C206ZB21
4C206ZB26
4C206ZB33
4C206ZB35
4C206ZC75
(57)【要約】
ミトコンドリア標的抗酸化物質は、ウイルス感染(COVID-19など)、全身性ショック、外傷、火傷、著しい組織損傷を伴う手術、毒性損傷、自己免疫反応に伴う損傷などの重度の炎症状態の予防と治療に使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における炎症状態の治療または予防を補助する方法であって、式I(SkQ)のミトコンドリア標的抗酸化剤を投与することを含む、方法、
【化1】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化2】
および/またはその還元型であり、式中mは1~3の整数であり、各Yは独立してC
1~6アルキル、C
1~6アルコキシまたは隣接する2つのY基が、それらが結合する炭素原子と共に、以下の構造を形成するか、
【化3】
および/またはその還元型であり、式中R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1~6アルキルまたはC
1~6アルコキシである、からなる群から選択され、
式中、Lは以下を含むリンカー基であり、
a)1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b)天然のイソプレン鎖
式中、nは1~40の整数であり、
式中、Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記方法。
【請求項2】
SkQが以下に示す、その還元型または酸化型における化合物SkQ1である、請求項1に記載の方法:
【化4】
【化5】
またはその組み合わせ。
【請求項3】
SkQが、以下の化合物からなる群から選択される化合物である、請求項1に記載の方法:
SkQ3(還元型)
【化6】
SkQR1(還元型)
【化7】
SkQR4(還元型)
【化8】
SkQ5(還元型)
【化9】
MitoQ(還元型)
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
。
【請求項4】
炎症状態が、感染、COVID-19、敗血症もしくは敗血症性ショック、サイトカインストームもしくはSIRS、血管内皮損傷、血管内皮細胞の活性化、PAMPS、DAMPS、冷ショック、熱ショック、毒性ショック、熱傷、手術、自己免疫疾患、アナフィラキシー、癌、虚血疾患または対象の血液中のCIRPおよび/またはHMGB1の存在と関連している、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記感染が、細菌感染、真菌感染、またはウイルス感染である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルス感染が、インフルエンザウイルスまたはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
SkQが静脈内注射もしくは点滴、皮下注射、または徐放性製剤もしくはデバイスによって投与される、前記先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記対象の内皮細胞間の細胞間コンタクトの脱構築を防止する、前記先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
追加の治療剤を投与することをさらに含む、前記先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
対象がCOVID-19にかかることを防止する、前記先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
下記式Iのミトコンドリア標的抗酸化剤SkQと、前記先行する請求項のいずれかに記載の方法を実行するための説明書とを含むキット。
【化14】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化15】
および/またはその還元型であり、式中 mは1~3の整数であり、各Yは独立してC
1~6アルキル、C
1~6アルコキシまたは隣接する2つのY基が、それらが結合する炭素原子と共に、以下の構造を形成するか、
【化16】
および/またはその還元型であり、式中R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1~6アルキルまたはC
1~6アルコキシである、からなる群から選択され、
式中、Lは以下を含むリンカー基であり、
a)1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b)天然のイソプレン鎖
式中、nは1~40の整数であり、
式中、Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記キット。
【請求項12】
それを必要とする対象における炎症状態の治療または予防に使用するための組成物であって、式I(SkQ)のミトコンドリア標的抗酸化剤を含む、組成物。
【化17】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化18】
および/またはその還元型であり、式中 mは1~3の整数であり、各Yは独立してC
1~6アルキル、C
1~6アルコキシまたは隣接する2つのY基が、それらが結合する炭素原子と共に、以下の構造を形成するか、
【化19】
および/またはその還元型であり、式中R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1~6アルキルまたはC
1~6アルコキシである、からなる群から選択され、
式中、Lは以下を含むリンカー基であり、
a)1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b)天然のイソプレン鎖
式中、nは1~40の整数であり、
式中、Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記キット。
【請求項13】
SkQが以下に示す、その還元型または酸化型における化合物SkQ1である、請求項12に記載の組成物:
【化20】
【化21】
またはその組み合わせ。
【請求項14】
SkQが、以下の化合物からなる群から選択される化合物である、請求項12に記載の組成物:
SkQ3(還元型)
【化22】
SkQR1(還元型)
【化23】
SkQR4(還元型)
【化24】
SkQ5(還元型)
【化25】
MitoQ(還元型)
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
。
【請求項15】
前記炎症状態が、感染、COVID-19、敗血症もしくは敗血症性ショック、サイトカインストームもしくはSIRS、血管内皮損傷、血管内皮細胞の活性化、PAMPS、DAMPS、冷ショック、熱ショック、毒性ショック、熱傷、手術、自己免疫疾患、アナフィラキシー、癌、虚血疾患または対象の血液中のCIRPおよび/もしくはHMGB1の存在と関連している、請求項12~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記感染が、細菌感染、真菌感染、またはウイルス感染である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルス感染が、インフルエンザウイルスまたはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染である、請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、重大なまたは全身性炎症に関連する重篤な状態にある患者の予防および処置を支援するために、ミトコンドリア標的抗酸化物質を使用する方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
この出願は、2020年4月3日出願の米国仮出願第63/004,893号、および2020年4月17日出願の米国仮出願第63/011,920号に対する優先権を主張し、いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
重大なウイルス感染(COVID-19を含む)、全身性炎症反応症候群、実質的な組織損傷を伴う外傷または手術、冷または熱ショック、および毒性ショックなどの状態は、適切な処置法を欠いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重大な炎症反応およびそれに関連する器官および組織損傷を含むそのような状態を予防および処置するための改善された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本技術は、重大なまたは全身性炎症に関連する重篤な状態にある患者の予防および処置を支援するために、ミトコンドリア標的抗酸化物質を使用する方法を提供する。 このような状態は、例えば、重大なウイルス感染または細菌感染、異なる起源の全身性炎症反応症候群、実質的な組織損傷を伴う外傷または手術、冷または熱ショック、毒性ショック、自己免疫状態、アナフィラキシーショック、および重大なまたは全身性炎症に関連する他の病状によって引き起こされる可能性がある。
【0006】
この技術は、次の特徴の一覧でさらに要約できる。
1. それを必要とする対象における炎症状態の処置または予防を補助する方法であって、式I(SkQ)のミトコンドリア標的抗酸化剤を投与することを含む、方法、
【化1】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化2】
および/またはその還元型であり、式中 mは1~3の整数であり、各Yは独立してC
1~6アルキル、C
1~6アルコキシまたは隣接する2つのY基が、それらが結合する炭素原子と共に、以下の構造を形成するか、
【化3】
および/またはその還元型であり、式中R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1~6アルキルまたはC
1~6アルコキシである、からなる群から選択され、
式中、Lは以下を含むリンカー基であり、
a)1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b) 天然のイソプレン鎖
式中、nは1~40の整数であり、
式中、Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記方法。
【0007】
2. SkQが以下に示す、その還元型または酸化型における化合物SkQ1である、特徴1に記載の方法:
【化4】
【化5】
またはその組み合わせ。
【0008】
3. SkQが、以下の化合物からなる群から選択される化合物である、特徴1に記載の方法:
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
。
【0009】
4.炎症状態が、感染、COVID-19、敗血症もしくは敗血症性ショック、サイトカインストームもしくはSIRS、血管内皮損傷、血管内皮細胞の活性化、PAMPS、DAMPS、冷ショック、熱ショック、毒性ショック、熱傷、手術、自己免疫疾患、アナフィラキシー、癌、虚血性疾患または対象の血液中のCIRPおよび/もしくはHMGB1の存在と関連している、先行する特徴のいずれかに記載の方法。
5.前記感染が、細菌感染、真菌感染、またはウイルス感染である、特徴4に記載の方法。
6.前記ウイルス感染が、インフルエンザウイルスまたはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染である、特徴5記載の方法。
7.SkQが静脈内注射もしくは点滴、皮下注射、または徐放性製剤もしくはデバイスによって投与される、前記先行する特徴のいずれかに記載の方法。8.前記対象の内皮細胞間の細胞間コンタクトの脱構築を防止する、前記先行する特徴のいずれかに記載の方法。9.追加の治療剤を投与することをさらに含む、前記先行する特徴のいずれかに記載の方法。
10.対象がCOVID-19にかかることを防止する、先行する特徴のいずれかに記載の方法。
【0010】
11.下記式Iのミトコンドリア標的抗酸化剤SkQと、前記先行する特徴のいずれかに記載の方法を実行するための説明書とを含むキット。
【化12】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化13】
および/またはその還元型であり、式中 mは1~3の整数であり、各Yは独立してC
1~6アルキル、C
1~6アルコキシまたは隣接する2つのY基が、それらが結合する炭素原子と共に、以下の構造を形成するか、
【化14】
および/またはその還元型であり、式中R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1~6アルキルまたはC
1~6アルコキシである、からなる群から選択され、
式中、Lは以下を含むリンカー基であり、
a) 1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b) 天然のイソプレン鎖
式中、nは1~40の整数であり、
式中、Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記キット。
【0011】
12.それを必要とする対象における炎症状態の処置または予防に使用するための組成物であって、式I(SkQ)のミトコンドリア標的抗酸化剤を含む、組成物。
【化15】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化16】
および/またはその還元型であり、式中 mは1~3の整数であり、各Yは独立してC
1~6アルキル、C
1~6アルコキシまたは隣接する2つのY基が、それらが結合する炭素原子と共に、以下の構造を形成するか、
【化17】
および/またはその還元型であり、式中R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1~6アルキルまたはC
1~6アルコキシである、からなる群から選択され、
式中、Lは以下を含むリンカー基であり、
a)1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b)天然のイソプレン鎖
式中、nは1~40の整数であり、
式中、Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記組成物。
【0012】
13.SkQが以下に示す、その還元型または酸化型における化合物SkQ1である、特徴12に記載の組成物:
【化18】
【化19】
またはその組み合わせ。
【0013】
14.SkQが、以下の化合物からなる群から選択される化合物である、特徴12に記載の組成物:
SkQ3(還元型)
【化20】
SkQR1(還元型)
【化21】
SkQR4(還元型)
【化22】
SkQ5(還元型)
【化23】
MitoQ(還元型)
【化24】
SkQB1A
【化25】
SkQB1B
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
。
【0014】
15.前記炎症状態が、感染、COVID-19、敗血症もしくは敗血症性ショック、サイトカインストームもしくはSIRS、血管内皮損傷、血管内皮細胞の活性化、PAMPS、DAMPS、冷ショック、熱ショック、毒性ショック、熱傷、手術、自己免疫疾患、アナフィラキシー、癌、虚血疾患または対象の血液中のCIRPおよび/もしくはHMGB1の存在と関連している、特徴12~14のいずれかに記載の組成物。
16.前記感染が、細菌感染、真菌感染、またはウイルス感染である、特徴15に記載の方法。
17.前記ウイルス感染が、インフルエンザウイルスまたはSARS-CoV-2などのコロナウイルスによる感染である、特徴16記載の方法。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、記載された値のプラスまたはマイナス10%、5%、1%、または0.5%以内の範囲を指す。
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」は、請求の範囲の基本的および新規な特性に実質的に影響しない材料またはステップを含めることを可能にする。 用語「含む」の本明細書における任意の記述は、特に組成物の構成成分の説明において、または装置の要素の説明において、「からなる」または「から本質的になる」という代替表現と交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】
図1A~1Dは、SPFカテゴリーWistarラットからの血液サンプル中のSkQ1濃度の経時的なLCMS/MS測定の結果を示す。
図1Aは、SkQ1を静脈内注射により投与した後の経時的なSkQ1血中濃度を示す。
【
図1B】
図1A~1Dは、SPFカテゴリーWistarラットからの血液サンプル中のSkQ1濃度の経時的なLCMS/MS測定の結果を示す。
図1Bは、SkQ1を腹腔内注射により投与した後の経時的なSkQ1血中濃度を示す。
【
図1C】
図1A~1Dは、SPFカテゴリーWistarラットからの血液サンプル中のSkQ1濃度の経時的なLCMS/MS測定の結果を示す。
図1Cは、SkQ1を皮下注射により投与した後の経時的なSkQ1血中濃度を示す。
【
図1D】
図1A~1Dは、SPFカテゴリーWistarラットからの血液サンプル中のSkQ1濃度の経時的なLCMS/MS測定の結果を示す。左の
図1Dは、静脈内(i/v)、腹腔内(i/p)、皮下注射(i/c)のLCMS/MS曲線下面積(AUC)データの比較を示している。
図1Dの右側には、相対生物学的利用能がプロットされ、i/vを100%として使用して正規化されている。
【
図2】
図2は、Wistarラットに皮下導入された徐放性ポンプ容器を用いた投与による、血液中の長期SkQ1濃度の時間に対するプロットを示す。
【
図3】
図3は、ヒト内皮細胞の培養細胞を敗血症患者から採取した血液試料から血清に曝露した後の内皮マーカー(血管内皮カドヘリン)の放出のウェスタンブロットの結果を示す。 細胞培養物を、異なる指示量のSkQ1で前処理し、次いで5~10%敗血症由来血清で処理し、その後、1時間のVE-カドヘリン研究を実施した(実施例2参照)。 グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)対照は、下部に示されている。
【
図4】
図4は、ヒト内皮細胞の培養細胞をSIRSと診断された患者(18~75歳)由来の血清に曝露した後の蛍光顕微鏡結果を示す。 細胞培養物を異なる量のSkQ1で前処理し、5~10%SIRS血清で処理した。 対照の条件は、SIRS血清、SIRS血清+2nM SkQ1、SIRS血清+20nM SKQ1、およびSIRS血清+200nm SkQ1対アクチン、VE-カドヘリン、および核は、実施例2に記載の通りであった。
【
図5】
図5は、インフルエンザウイルスに感染したマウスの処置におけるSkQ1の効果を示す。 危篤状態の動物(balb\cマウス、10-12g)の割合は、H5N1インフルエンザウイルス(株ニワトリ/Kurgan/5/2005)の鼻注射による植菌後に示される。 マウスをプラセボ(n=11)、SkQ1 333nmoles/kg(n=9)、SkQ1 1000nmoles/kg(n=9)、またはSkQ1 3000nmoles/kg(n=11)のi/p注射により処置した。 各動物は、指示された用量のSkQ1またはプラセボを含む450μlの生理食塩水のi/p注射によって処置された(実施例3を参照)。
【
図6】
図6は、インフルエンザウイルスの注射後日数に対する生存率%を示す(
図5と同じ条件)。
【
図7】
図7は、単離された肝臓ミトコンドリアの懸濁液をマウスの尾静脈に注射した後の生存曲線を示し、示された処置を伴う。 SkQ1、ビヒクル、またはC12 TPPを、ミトコンドリア注射前の5日間、および注射後5日間注射した。
【
図8】
図8は、-20℃に90分間さらすことによって誘導されたマウスの鋭い冷ショック後の生存曲線を示している。 処理条件は
図7と同様とし、
【
図9】
図9は、SkQ1による前処理の有無にかかわらず、毒性のある高濃度のC12 TPPを有するマウスを処置した後の生存曲線を示す。
【
図10】
図10は、ミトコンドリア注入の1分後にSkQ1による処置の有りまたは無い場合の、単離された肝臓ミトコンドリアの懸濁液をマウスの尾静脈に注射した後の生存曲線を示す。
【
図11】
図11は、SkQ1による即時処置の有りまたは無い場合の、90分間-20℃によるショックに曝されたマウスの生存率を示している(実施例6参照)。
【
図12】
図12は、C12 TPP注射の4.5時間前およびC12TPP注射の0.5時間後に、SkQ1(1.5 μmol/kg)注射による処置の有りまたは無い場合の、C12 TPP(34 μmol/kg)の毒性濃度に曝露されたマウスの生存曲線を示している。
【
図13】
図13は、C12 TPP投与後1時間後にSkQ1(1.5 μmol/kg)を注射したかしない場合の、C12 TPP(42 μmol/kg)の毒性濃度に曝露されたマウスの生存曲線を示している。
【
図14A】
図14Aは、SkQ1注射をしたかまたはしない場合の、肝臓ミトコンドリアの注射後の時間の関数としてマウスの血液中のTNFα濃度を示す。
【
図14B】
図14Bは、SkQ1注射をしたかまたはしない場合の、肝臓ミトコンドリアの注射後の時間の関数として、マウスの血液中のIL-6濃度を示す。
【
図15A】
図15Aは、SkQ1またはビヒクル注射による冷ショック後の時間の関数として、マウスの血液中のTNFα濃度を示す。
【
図15B】
図15Bは、SkQ1またはビヒクル注射による冷ショック後の時間の関数として、マウスの血液中のIL-5濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
様々な危篤状態にある患者の著しい健康低下または死でさえ、しばしば、疾患または他の病理学的状態であり得るきっかけによって患者の体内で活性化された免疫系の危険な応答のために起こることが知られている。 このようなきっかけの例は、ウイルス感染(SARS-CoV-2ウイルスによる感染であるCOVID-19を含む)、細菌または真菌感染症(敗血症を含む)、外傷、冷または熱ショック(火傷を含む)、手術に起因する組織損傷、毒性物質による損傷、自己免疫反応、およびアナフィラキシーまたは重大なアレルギー反応などの重大な感染症である。
【0018】
上記の状態の多くに共通する危険な結果の一例は、全身性炎症応答症候群(SIRS)である。 SIRSは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症および進行と関連していることが多い。 COVID-19のパンデミックの中で、病院は重篤な状態の患者の処置に対する過負荷の需要を経験している。 COVID-19の重症患者は、しばしば呼吸不全を経験し、人工呼吸器を装着され、重篤な状態を複雑にするための特別なケアを受ける。 COVID-19の重篤な症例のほとんどは、ウイルスまたは広範囲の病原体によって引き起こされる可能性のある生命を脅かす肺疾患であるARDSをもたらす。 COVID-19関連ARDSの合併症には、心筋症、心膜炎、心膜滲出液、不整脈、および突然の心臓死を含む心臓損傷、急性腎損傷(AKI)、肝障害(肝臓酵素の上昇)、敗血症、およびショックが含まれ得る。多臓器機能障害症候群(MODS)として知られる重篤な状態がすぐに発生し得る。
【0019】
本技術は、重篤および/または全身性炎症に関連する重篤な状態の処置または予防を支援する方法を提供する。それには軽微な性質の局所炎症の処置または予防のための方法は含まれていない。この技術は、原因にかかわらず、対象の体内の炎症に関連する致死的または生命を脅かす状態の処置または予防を支援するために使用し得る。この方法はまた、そのような状態を発症するリスクを有する対象において、そのような状態を発症するリスクを低減するために使用し得る。この方法は、それを必要とする対象(すなわち、重度の炎症に関連する状態を発症する可能性が高いと医療専門家によって考えられている対象)に、SkQ型のミトコンドリア標的抗酸化物質を投与することを含む。このような化合物は、一般式Iのものである。これらの化合物は、重篤な炎症に関連する状態の発症から対象を保護することができ、また、そのような状態の処置において処置し、または援助することができる。
【化31】
式中、Aは、任意に以下の構造を有するエフェクター部分/酸化防止剤であるか、
【化32】
および/またはその還元型(例えば、1つ以上の=Oを-OHに還元したもの)であって、
式中 、mは1~3の整数であり、各Yは、以下からなる群から独立して選択される:C
1~6アルキル(低級アルキル)、C
1~6アルコキシ(低級アルコキシ)、または2つの隣接するY基は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、以下の構造を形成する:
【化33】
および/またはその還元型;
式中、R1およびR2は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立してC
1-6アルキルまたはC
1-6アルコキシであり;
L は、リンカー基であり、以下を含む:
a)1つ以上の置換基で任意に置換され、任意に1つ以上の二重または三重結合を含む、直鎖または分岐した炭化水素鎖、および/または
b)天然のイソプレン鎖
nは1~40の整数であり;
Bは、親油性カチオンと薬理学的に許容されるアニオンからなるミトコンドリア標的化基、
および/またはその溶媒和物、塩、異性体、またはプロドラッグ、
である前記化合物。
【0020】
本明細書で使用される場合、イソプレン鎖または天然イソプレン鎖は、-[CH2C(Me)=CHCH2]
e-または-[CH2C(Me)=CHCH2]e-OH(片末端-OH)を指し、ここでeは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、またはここでeは基のいずれか2つのメンバーによって定義される範囲にあり;または式中eは1~40の範囲にある。
式(I)のミトコンドリア標的抗酸化剤の例は、
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【0021】
本明細書に開示される方法において使用するためのさらなるSkQ化合物は、SkQ1または上記化合物のいずれかから、例えば、エフェクター部分Aからメチル基を除去することによって誘導することができる。 したがって、任意の方法は、以下のようなミトコンドリア標的抗酸化剤SkQ(還元型または酸化型のいずれかにおいて)の投与を含むことができる:
【化47】
。
【化48】
またはその組み合わせ。
【0022】
上記の化合物(SkQ)の全ては、還元もしくは酸化形態のいずれか、またはそれらの混合物であり得る。 還元型は、例えば、1つ以上の=Oを-OHに還元することができ、酸化型は酸化キノン部分を有することができる(上記のSkQ1について示されているように)。
【0023】
SkQ化合物の各変異体は、薬学的に許容され得るアニオン、例えば塩化物、臭化物、硫酸塩、リン酸塩、メシル酸塩、クエン酸塩、または酢酸塩との塩の形態で使用することができる。 化合物の「中性」形態は、塩形態を塩基または酸と接触させることによって回収することができ、伝統的な方法による元の化合物の放出および例えば沈殿、カラムからの溶出、または抽出による単離を伴う。 化合物の元の形態は、特定の物理的特性、例えば極性溶媒への溶解度において塩形態とは異なる可能性がある。
【0024】
SkQ化合物を、単独でまたは組み合わせて、約80%~約100%、約90%~約100%、約95%~約100%、約99%~約100%、約99.5%~約100%、約99.9%~約100%の純度範囲で提供することができる。純度を測定する例としては、ダイオードアレイ検出器を使用してUHPLCカラムからの溶出液を監視し、メイン吸光度ピーク(SkQ)を不純物ピークとともに積分します。 一例において、本明細書に開示されるSkQ化合物は、SkQ化合物上の-OH基と、グリシルエステル、アミノエステル、またはポリマーエステルなどの適切な変換基との間のエステルの形成によってプロドラッグに処方することができる。
【0025】
患者へのこれらの化合物(SkQ)の投与経路の1つは、静脈注射である。実験結果は、ヒトの合理的な用量範囲が1日当たり約1mg~約22mgのSkQ1であり得ることを示す(実施例4)。投与量範囲は、任意選択で、数回の注射(例えば、12時間毎に1回の注射)に分けることができる。ヒトの用量範囲は、1日当たり約1mg~約5mgのSkQ1、1日当たり約1mg~約10mgのSkQ1、1日当たり約1mg~約15mgのSkQ1、1日当たり約1mg~約20mgのSkQ1、または1日あたり約1mg~約22mgのSkQ1の範囲であり得る。 より少ない生物学的利用能を以ってすれば、投与経路に応じて、上限をより高くすることができる。別の投与方法は、SkQの順次静脈内注入であり得る(実施例1)。SkQはまた、上記の投与量範囲で皮下または腹腔内注射によって投与することができる。静脈製剤、皮下、または腹腔内製剤の処方は、静脈、皮下、または腹腔内状態のいずれかに一致するように処方浸透圧を調整することを含み得る。任意選択で賦形剤、防腐剤、他の活性剤(例えば、組合せまたはカクテル療法)を含めることができる。
【0026】
ARDSは、大規模なウイルス感染を有する患者に起こる全身性炎症と密接に関連していることが知られている。全身性炎症の重要な要素の1つは、主に血管内皮に影響を及ぼすいわゆる「サイトカインストーム」である。SIRSまたは他の炎症関連機構は、しばしば血管内皮の損傷をもたらす。多くの重篤な状態における健康の低下および死亡のリスクは、内皮の損傷のために起こり得る。本技術の使用のひとつは、SkQによる血管内皮の保護による重大なまたは全身性炎症状態に関連する血管内皮への損傷の処置または予防を支援することである(実施例2を参照されたい)。
【0027】
本明細書に開示されるミトコンドリア標的抗酸化剤は、これらの細胞がSIRSまたは敗血症を有する患者からの血清サンプルで処理されるときに、培養中のヒト血管内皮細胞間の細胞間接触の脱構築を防止することができる。 VE-カドヘリンウェスタンブロットの結果は、ヒト内皮細胞の細胞培養物を異なる用量のSkQ1で前処理し、次いで敗血症と診断された患者からの血清に曝露する
図3に提示される。
図3の右側では、200nM SkQ1および血清に曝露されたVE-カドヘリンは、左側の対照とほぼ同じ強度である。
図4では、SIRSと診断された、18~75歳の患者から血液サンプルを採取している。 ヒト内皮細胞の細胞培養物を、異なる用量のSkQ1で前処理し、次いでSIRS血液サンプルからの5~10%血清で処理する。
図4の上部にあるVE-カドヘリン(蛍光顕微鏡)cは、
図4の下部にあるVE-カドヘリン(SIRS血清+200nM SkQ1)に似ている。
図4のアクチンと核の可視化は、VE-カドヘリン観測値に対応している。
【0028】
様々な臨界状態がSkQによって処置または予防され得ることを実証するために、そのような臨界状態のいくつかの動物モデルについて実験が行われる。 実験は、重篤なニーズをモデル化するために選択された。 実施例3は、重大なウイルス感染のモデルを提示する。 インフルエンザウイルスH5N1の経鼻注射は、
図5に示すプラセボ状態(450μL生理食塩水)において、ほとんどのマウスを臨界状態に誘導する。 SkQ1(1000nmoles/kgおよび3000nmoles/kg)の腹腔内投与は、重篤な状態から保護する。 生存率を
図6にプロットする。
【0029】
実施例5においては、ミトコンドリアの静脈内注射、冷却(-20℃)、またはC12 TPPによる被毒を用いてマウスに重大なショックをモデル化した。ミトコンドリアおよび冷却モデルの静脈内注射において、SkQ1によるマウスの前処置および後処置は、高い生存率転帰に有効である。
図7はミトコンドリアの静脈内注射の生存率を示し、
図8はコールドショックの生存率を示す。C12 TPPモデル(
図9)では、SkQ1前処理を行わない状態では1日以内に90%の死亡率を示し、SkQ1前処理はミトコンドリアの静脈注射またはコールドショックによって引き起こされる死亡率を防ぐのと同様に死亡率を予防する。 実施例6は、ミトコンドリア標的抗酸化剤の即時(約1分間)投与の有効性を実証する。 実施例7は、サイトカインTNFaおよびIL-6に対するSkQ1の効果をさらに探索する。 したがって、本技術の一例は、実証された動物モデルに対応する重篤な状態におけるヒト患者の予防または処置のためのSkQ化合物の使用である。
【0030】
例えば、本明細書に開示されるミトコンドリア標的抗酸化剤による患者の処置は、重篤な状態のトリガーに曝露した直後または曝露後、約30秒後以内、約1分後以内、約5分後以内、約30分後以内、約1時間後以内、約2時間後以内、約5時間後以内、約1日後以内、または約3日後以内に、に行うことができる。 一例において、緊急または救命処置は、重篤な状態のトリガーに曝露された直後または曝露後の処置を含み得る。 前処置の例には、重篤な状態の約10日前、約5日前、約1日前、約12時間前、約6時間前、または約1時間前に患者を処置することが含まれ得る。 前処置の例には、重篤な状態の約10日前、約5日前、約1日前、約12時間前、約6時間前、または約1時間前に患者を処置することが含まれ得る。
図2に例示されるように、治療および組成物の連続注入を利用することができる。
【0031】
本発明者らは、それぞれが重大な全身性炎症に関連する異なる形態のショックの致死的影響を、SkQ化合物の投与によって予防または処置できることを実証した。例えば、(a)マウスの血液へのミトコンドリアの注射、(b)低体温、および(c)毒性レベルでのC12 TPPの注射の致死的影響は、ミトコンドリア標的抗酸化物質SkQ1の投与によって防止することができる。これらの結果は、SkQ化合物が哺乳動物生物において非常に異なる炎症関連状態によって引き起こされる重篤な状態を予防し得ることを示している。 これらの状態は、サイトカイン、シグナルメッセンジャー、そしておそらくタンパク質などの根底にあるメカニズムを明らかに共有している。 この技術を特定のメカニズムに限定する意図はなく、そのような共通の根底にあるメカニズムの少なくとも2つの候補は、冷間誘導性RNA結合タンパク質(CIRP)および高移動度グループボックス1タンパク質(HMGB1)であることが信じられている。したがって、本技術の別の例は、炎症状態の予防または処置の方法であり、この方法は、CIRP、またはHMGB1、またはtoll様受容体と直接的または間接的に相互作用する別のメッセンジャーに関与する機構によって引き起こされる状態を有する患者への有効かつ安全な用量のSkQの投与を含む。
【0032】
この技術の別の例には、重篤または全身性炎症を特徴とする状態を経験している患者、または状態を発症するリスクがある患者へのSkQの投与が含まれる。このような処置には、SkQの皮下、腹腔内または静脈内投与(ただし、これらに限定されない)が含まれる。投与は、緊急自動注射器または緊急ペンを介して行うことができる。このような状態には、ウイルス感染、細菌感染(敗血症を含む)、真菌感染、自己免疫疾患、SIRS、血管内皮損傷、血栓症、外傷、冷または熱ショック(火傷を含む)、著しい組織損傷に関連する手術、および有毒物質への曝露による損傷が含まれる。関連する例は、アポトーシス、壊死および/または炎症性活性化からの患者の血管内皮細胞の保護である。
【0033】
皮膚(局所)・製剤を介した、または上記の経路のいずれかを有する微粒子もしくはナノ粒子の投与による吸収は、本技術内であると考慮される。SkQの投与のための製剤の他の例は、粒子またはミスト、および経口処方の吸入を含む吸入製剤である。
【0034】
重篤な状態にある患者の保護および処置のための医薬品または製剤を製造する方法は、ビヒクルを提供するするステップ、およびビヒクルをSkQ型のミトコンドリア標的抗酸化剤(一般式Iの化合物)と接触させるステップを含む。一般式Iの化合物は、例えば薬学的に許容される塩として提供することができる。例としては、限定するものではないが、クエン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフト酸塩、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル硫酸塩、粘液酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(embonate)、パルミチン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、二塩酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エストル酸塩、エシレート、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプテート、グルコヘプトン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニレート、ヘミ硫酸塩、ヘプタノ酸塩、パントテン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、亜酢酸塩、コハク酸塩、タンネート、酒石酸塩、テオク酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、ウンデカン酸塩、吉草酸塩、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、酒石酸水素塩、ホウ酸塩、臭化物、酪酸塩、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸塩)のカルシウム塩、カンフォレート、カンファースルホン酸塩、カムシレート、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。 ビヒクルは、気体、固体、または液体であり得る。一例において、医薬または製剤は、水性ビヒクルと一般式Iの化合物またはその塩とからなる。
【0035】
医薬または製剤を製造する際に、一般式Iの化合物は、液体、気体、噴霧状、または固体形態で提供することができ、任意に、例えば体積、数、または重量基準で測定される数ナノメートルから約1ミリメートルの範囲を含む粒径分布を含むことができる。 この方法は、薬学的に許容される担体を添加することをさらに含むことができ、またはビヒクルを薬学的に許容される担体とすることができる。 この方法は、微粉化、粉砕、音波混合または超音波処理、均質化、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0036】
一般式Iの化合物は、治療上有効な量で提供することができる医薬または製剤は、濃縮された形態で提供することができ、これは後で治療上有効な量に希釈される。希釈は、濃縮溶液または製剤の注射または投与によって行うことができる。治療有効量は、一般式Iの化合物の1日当たりまたは12時間ごとに約1mg~約5mgの範囲、一般式Iの化合物の1日当たりまたは12時間ごとに約1mg~約10mg、一般式Iの化合物の1日当たりまたは12時間ごとに約1mg~約15mg、一般式Iの化合物の1日当たりまたは12時間ごとに約1mg~約20mg、または一般式Iの化合物の1日当たりまたは12時間ごとに約1mg~約22mgのヒトに対する1日用量を提供することができる。本明細書で使用される場合、安全で有効な量または安全な用量は、本明細書に記載される治療有効量の上限程度である。 生物学的利用能が低い場合、投与経路に応じて、例えば
図1Dに示すように、安全で有効な量または安全な用量を高く調整して、低い生物学的利用能を考慮することができる。
【0037】
医薬または製剤を製造する方法は、任意の薬学的に許容される酸または塩基を用いたpH調整を含むことができる。例えば、クエン酸塩には、皮膚刺激性が低いため皮下製剤のpH調整に使用でき、他の例には、HCl、マレイン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、炭酸水素ナトリウム、およびリン酸ナトリウムが含まれる。医薬または製剤のpHは、約3.0~9.0の範囲、約4.0~8.0の範囲、約5.0~8.0の範囲、約6.0~8.0の範囲、または約7.0~8.0の範囲、または約5.0、または約7.4であり得る。一例では、皮下薬または製剤は、約pH5.0であり得る。静脈薬または製剤は約pH7.4であり得る。医薬または製剤のオスモル濃度は、例えば、NaCl、KCl、Na/KH2PO4、スクロース、イオン、または緩衝液を添加することによって調整することができる。 医薬または製剤のオスモル濃度は、約300mOsm/kg、または約600mOsm/kg、または約200mOsm/kgから約700mOsm/kgの範囲、または約200mOsm/kgから約600mOsm/kgの範囲、または約300mOsm/kgから約600mOsm/kgの範囲であり得る。 注入される総量を減らすために高張溶液を提供することができるが、より高い高張度は注射痛を引き起こす可能性があり、600mOsm/kgの上限は高張性誘発性疼痛を最小限に抑えることができる。
【0038】
投与手順は、経口、舌下および直腸などの経腸、経皮、皮内および眼胚葉などの局所、および非経口的を含むことができる。 投与の適切な非経口手順には、注射、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、動脈内、および他の注射、および非注射実践、例えば膣、鼻、直腸、ならびに血管形成性ステントコーティングとしての医薬組成物の投与手順が含まれる。 前記医薬又は製剤は、例えば、腹腔内、静脈内、動脈内、非経口、及び吸入を含む経路によって投与することができる。
【0039】
この方法は、他の成分、例えば、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、DMSO、アセトニトリル、プロピレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン、グリコフロール、グリセロールホルマール、アセトン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジグライム、ジメチルイソソルビド、および乳酸エチル)、他の活性剤、防腐剤、溶解剤、緩衝剤、生物製剤、細胞、キレート剤、および着色剤を提供することを含むことができる。
【0040】
SkQ化合物は、重大な状態、または全身性炎症状態にある患者の保護および処置のための医薬の製造に使用することができる。 本明細書に開示される組成物および方法は、患者の緊急処置のためのキットにおいて提供することができる。このキットは、例えば、緊急ケア施設への患者の輸送中に、重大な炎症状態が致死的状態に変わるのを防ぐために利用することができる。例えば、本明細書に記載の方法および組成物は、高温または低温ショック、全身性ショック、ウイルス感染を処置するための緊急キットの形態で提供することができ、COVID-19によって引き起こされる損傷を予防または逆転させる血管を処置するため、毒性ショックまたは中毒を処置するため、重度の組織損傷からのショック、敗血症性ショック、または患者におけるまだ特異的に診断されていないショックまたは炎症状態から生じる致死的状態の予防のためである。キットは、SkQの注射可能な製剤を含む緊急投与ペンを含むことができる。キットは、SkQの注射可能な製剤を含むシリンジを含むことができる。キットは、貫通可能なバイアルまたはアンプル中にSkQを含むことができ、SkQで充填するためのシリンジを設けることができる。
【0041】
別の例では、重大なまたは全身性の炎症状態を引き起こす状態に曝露されたと疑われる対象を保護する方法は、曝露の前、最中、または後にSkQの投与を含み得る。 予防線量例えば、毒素、熱、風邪、細菌、インフルエンザ、SARS-CoV-2などのウイルスを含む、または含む疑いのある領域に入る人、またはウイルスまたは他の微生物に感染した他の人は、SkQの予防用量を受けることができる。
【0042】
SkQ化合物、またはそれらを含有する組成物の投与は、例えば、化合物または組成物の連続静脈内注入によって達成することができる。投与は、SkQを含むミスト、粒子、または蒸気を注入したウェアラブル呼吸マスクによって行うことができる。重篤な状態にある患者を引き起こす状態にさらされていることが知られている人、極端な暑さや寒さにさらされていることが知られている人、または健康と安全に対する危険が疑われる人のためのウェアラブルデバイスも考えられる。点滴、注入、および移植カテーテル装置を含む装置は、必要とする患者に投与されるSkQの量および速度を制御する。本明細書に開示される装置には、固定式人工呼吸器、例えば吸入空気中のSkQを含む病院人工呼吸器が含まれる。
【0043】
ミトコンドリア標的抗酸化SkQ化合物を利用する本開示の方法は、様々な供給源からの炎症を処置するために使用することができる。例としては、アレルギー反応、化学物質、薬物、または食品に対する有害反応、ストレス、細菌感染、ウイルス感染、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)または敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、臓器移植、腫瘍溶解症候群、多発性硬化症、膵炎、およびワクチンまたは治療用タンパク質に対する反応を含む。場合によっては炎症反応がサイトカインストームまたはサイトカイン放出症候群(CRS)を引き起こす可能性があり、それは本明細書に開示されるミトコンドリア標的抗酸化化合物を投与することによって処置することができる。 本明細書に開示されるミトコンドリア標的抗酸化化合物を投与することによって処置することができる炎症に関連するウイルス感染の例には、COVID-19、SARS、MERS、インフルエンザ、およびエボラ出血熱が含まれる。
【0044】
本技術によって提供される組成物および処置方法は、臨床現場で重篤な状態に悪化した可能性のある患者に、またはそのような発生を予防するための治療を提供することができる。患者は、咳、発熱、喉の痛み、中耳炎/耳の痛み、上気道感染症、腹痛、嘔吐、嘔吐を伴うか伴わない下痢、急性皮膚炎または発疹、外傷、関節または四肢の炎症または痛み、またはCNS症状を有するなど、急速に重篤な状態になる初期臨床症状を示すことがある。 患者が重篤な状態に悪化する原因となる状態の例は、アルツハイマー病、関節炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、うつ病、糖尿病、心臓病、高血圧、毒素または薬物への長期曝露、高コレステロール、肥満、骨粗鬆症、または脳卒中などの慢性状態から生じ得る。
【0045】
本化合物および方法は、例えば、急性蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシー、動物の咬傷創傷、虫垂炎、関節炎(例えば、若年性関節リウマチ、JRA)、喘息または喘息発作、アトピー性皮膚炎、菌血症・オカルト、脳腫瘍、骨折、気管支炎、火傷、蜂巣炎、子宮頸部腺炎、クラミジア肺炎、閉鎖性頭部外傷、 疝痛、風邪、妊娠中の合併症(例:肝内胆汁うっ滞)、先天性副腎過形成、先天性股関節脱臼、結膜炎、便秘、接触性皮膚炎、クループ、嚢胞性線維症、脱水、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、薬物反応、エンコプレシス、急性繁栄障害、熱性痙攣、異物吸引、胃炎、胃腸炎、胃食道逆流、ジアルジア、頭痛(片頭痛、緊張)、心臓発作、溶血/尿毒症症候群、 肝炎、水頭症、膿痂疹/蜂巣炎、嵌頓ヘルニア、頭蓋内圧の上昇、その他の感染症(毒性腱鞘炎、敗血症性関節炎、骨髄炎など)、炎症性腸疾患(IBD)、児童虐待による急性損傷、転倒または自動車事故による損傷、腸重積症、川崎病、レッグ・カルベ・ペルテス病、白血病/腫瘍、悪性腫瘍、肥満炎、髄膜炎、複合微生物(真菌または細菌)感染症、中耳滲出液、薬物または薬物の誤用、モニリア皮膚感染、単核球症、ナースメイドの肘、オズグッド・シュラッター病、骨髄炎、中耳炎、卵巣/精巣ねじれ、骨盤内炎症性疾患(PID)、消化性潰瘍、眼窩周囲/眼窩蜂巣炎、扁桃周囲膿瘍および咽頭後膿瘍、百日咳、咽頭炎(例:連鎖球菌有りまたはなし猩紅熱、またはウイルス性)、肺炎、プリオン、心因性腹痛、腎盂腎炎、幽門狭窄症、狂犬病、再発性中耳炎、 呼吸器感染症、リウマチ熱、ロゼオラ、疥癬、猩紅熱、脂漏性皮膚炎、感染症に続発する病態(例、連鎖球菌性咽頭炎、中耳炎)、発作性障害、熱性痙攣、敗血症性関節炎、鎌状赤血球発症、副鼻腔炎、滑った大腿骨頭骨端、スティーブンス・ジョンソン症候群、連鎖球菌性咽頭炎、腱炎、破傷風、白癬感染症、扁桃炎、結核、原因不明のショック、上気道感染症(URI)、尿路感染症(UTI)、腎盂腎炎、 血管炎(例:ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、HSP)、ウイルス性発疹(水痘、麻疹または風疹、第5の疾患)、ウイルス性疾患の疑い(未確認または非特定的)、または渦巻き/腸閉塞などによって引き起こされる、重篤なまたは全身性状態を処置または予防するために使用することができる。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
SkQ1生物学的利用能研究:静脈内、皮下、腹腔内投与の比較。
SkQ1の生物学的利用能は、異なる投与方法を使用した後に決定した。 SPFカテゴリーWistarラットを使用した。 血液サンプル中のSkQ1濃度をLCMS/MS法を用いて測定し、SkQ1を2mg\kgで投与し、指示された時点で血液サンプルを採取した。 投与は静脈内注射(
図1A)、腹腔内注射(
図1B)、又は皮下注射(
図1C)によって行った。 総SkQ1用量は、
図1Dの左に示すように曲線下面積(AUC)として計算した。 SkQ1生物学的利用能は、
図1Dの右側に示されているように、静脈投与の生物学的利用能に対して正規化された。 腹腔内投与で見出されたSkQ1生物学的利用能は35%であり、皮下投与に対しては静脈内投与後の生物学的利用能の44%であった。
【0047】
上記の実験から、SkQ1は血液から急速に消失すると結論付けることができる。 次の実験では、Wistarラットに皮下導入された徐放性注入ポンプを用いて血液中のSkQ1の存在を延長した。 これらの動物から血液試料を
図2に示す時点で採取し、上記のようにしてSkQ1濃度を測定した。
図2に提示された結果は、血中のSkQ1濃度が化合物の徐放性を用いて安定化され得ることを実証する。この実験はまた、静脈内注入を用いたSkQ1の投与をモデル化する。
【0048】
[実施例2]
SkQ1は、SIRS患者の血清サンプルによって引き起こされる血管内皮単層の破壊を抑制する。
ミトコンドリアを標的とした抗酸化物質SkQ1は、全身性炎症反応症候群(SIRS)または敗血症の患者からの血清サンプルでこれらの細胞を処置した場合、培養中のヒト血管内皮細胞間の細胞間接触の解体を防止した。 これらの接触の中断は、典型的には患者の重篤な状態の発症に関連する内皮損傷をもたらす。SkQ1は血管内皮の炎症に対する応答を抑制することが見出された。
【0049】
血液サンプルは、SIRSと診断された18~75才の患者から採取した。 ヒト内皮細胞の細胞培養物を、異なる量のSkQ1で前処理し、その後、培養物をSIRS血液サンプルからの5~10%血清で処理した。 1時間のVE-カドヘリン研究を蛍光顕微鏡によって実施し、続いてウェスタンブロット分析を行った。 実験の結果を
図3(ウェスタンブロット)および
図4(顕微鏡)に表す。 これらの結果は、全身性炎症時の血管内皮の損傷を予防する上でのSkQ1の作用を実証する。
【0050】
[実施例3]
SkQ1は、重篤なウイルス感染のマウスモデルにおける生存期間および無症状期間を増加させる。
ミトコンドリア標的抗酸化物質SkQ1は、マウスにおけるインフルエンザウイルスH5N1感染によって引き起こされる健康状態の悪化と死亡の両方を遅らせた。
0日目に、balb\cマウス(10-12g)にH5N1インフルエンザウイルス(ニワトリ/Kurgan/5/2005株)を鼻注射で接種した。 動物を4つの実験群に分けた:
1.プラセボ (n = 11)
2.SkQ1 333 nmoles\kg (n = 9)
3.SkQ1 1000 nmoles\kg (n = 9)
4.SkQ1 333 nmoles\kg (n = 9)
2日目(感染後3日目)から、各動物は、対応する用量のSkQ1またはプラセボを含む450μlの生理食塩水の腹腔内注射によって処置された。重篤な状態の発症時刻および動物死亡の時期がモニターされた。
実験の結果を
図5(重篤な状態)および
図6(死亡)に示す。これらの結果は、SkQ1処置が重篤なウイルス感染によって引き起こされる重篤な状態の発症および死から生物を保護することができることを示している。
【0051】
[実施例4]
SkQ1毒物学研究:急性および慢性皮下投与。
皮下投与により投与されたSkQ1溶液の急性毒性を、SPF雄および雌CD-1マウスにおいて研究した。 呼吸停止による投与後最初の数時間に高用量のSkQ1の致死的効果が観察されたが、SkQ1毒性用量の投与後14日間生存したマウスでは肝毒性および腎毒性の徴候が認められた。LD50は、男性で31(20.5~37.2)mgのSkQ1/kg、女性で26.8(23~31)mgのSkQ1/kgと推定された。
【0052】
SkQ1溶液を14日間回復させた28日間の慢性毒性を、SPF雄および雌のCD-1マウスにおいて、SkQ1用量0.6、2.5、および10mg/kgの皮下投与で1日1回研究した。2.5mgのSkQ1/kgにおいては、投与終了時または回復終了時のいずれにおいても副作用は確認されなかった(NOAEL)。10mg/kg~15%の動物が腹膜炎のために死亡し、多様な系の変化を示し、そのほとんどは回復の14日間で逆転した。腹膜炎は製剤の局所的な潰瘍作用に由来し、系/器官の有害反応は明らかに腹膜炎の結果であった。
【0053】
[実施例5]
SkQ1前処理は、ミトコンドリアの静脈内注射、冷ショック、またはC12 TPPの毒性レベルによって引き起こされる死からマウスを保護する。
SkQ1は、重大な危篤状態の3つの異なるマウスモデルでマウスを保護した。最初の危篤状態は、単離された肝臓ミトコンドリアの懸濁液をマウス尾静脈に注射することによって誘導された。 第2の危篤状態は、マウスを-20℃の環境に90分間置くという鋭い冷ショックによって誘発された。 第3の病態は、親油性陽イオンC12 TPPの毒性濃度の投与によって誘発され、その式は以下に示される。
【化49】
血流へのミトコンドリアの注射は、重大な感染のシグナルとして哺乳動物の体によって知覚され、身体の反応は、血流が細菌またはウイルスに感染しているかのように、敗血症性ショックに似ている。しかしながら、ミトコンドリア懸濁液の静脈内投与後の血液中に感染因子は存在しない。 この種の現象は、損傷関連分子パターン(DAMP)と呼ばれ、機械的損傷に応答して損傷した細胞から放出される炎症誘発性内因性危険分子の放出を指す。 これは、微生物感染に応答して前炎症性分子が放出される病原体関連分子パターン(PAMP)とは対照的である。ミトコンドリア由来のDAMPは、細菌性PAMPと進化的に保存された類似性を有し、したがって敗血症性ショックに似た炎症状態を誘発し得る。血流中のミトコンドリアの存在は、細胞膜に孔を形成する免疫系の活性化(例えばウイルス感染による)のために起こり得、したがって、細胞溶解または血流へのミトコンドリアを含む細胞小器官の抽出をもたらす。
【0054】
図7は、単離マウス肝臓ミトコンドリアをマウスの尾静脈に注射した実験の結果を示す。ミトコンドリアの注射は、最初の日の生存に影響を及ぼさなかった(動物の100%が生存した)。しかし、その後の2日間で生き残った動物はわずか60%であったこの生存率は少なくとも16日間持続した。抗酸化物質SkQ1をミトコンドリア注射の5日前と注射後5日目に投与したマウスのコホートは、はるかに高い生存率を示した(動物の90%が生存した)。
図7を参照されたい。この実験では、ミトコンドリアの注射後最初の3日間に体重の強い減少がはっきりと観察された。その後、生き残った動物は回復し始めた-死亡率は消え、体重は増加し始めました。対照実験では、SkQ1の代わりにC12 TPPを使用した。C12 TPPの場合、ミトコンドリア注射後最初の半日でマウスの20%が死亡し、2日後に死亡率は80%に増加した。
【0055】
次の実験では、臨界状態は、全く異なるストレス、すなわちマウスを-20℃で1.5時間インキュベートすることに起因する冷ドショックによって引き起こされた。
図8では、冷ショックが5日目から8日目の間に死亡率を劇的に増加させ、生存率が40%になったことがわかる。SkQ1の投薬前とアフターショック処置、動物の死を完全に防ぎ、一方で、C12 TPPの投薬前処置は6日目までに死亡率を100%に増加させた。
【0056】
次の実験では、毒性用量のC12 TPP(34μmole/kg)の静脈注射によってマウスの危篤状態が誘発された。C12 TPPの膜透過性および膜破壊特性を考慮すると、C12 TPPの静脈注射の致死的効果は、血管内皮細胞を含む血管系内の細胞の破壊によって生じることが予期し得る。
図9は、C12 TPPを34μmol/kg注射すると1日以内に90%の死亡率がもたらされ、この死亡率はSkQ1マウスの前処置によって防止されたことを示しており、これは冷ショックまたはミトコンドリアの静脈注射によって引き起こされる死亡率の予防と同じメカニズムによって起こる。
【0057】
[実施例6]
SkQ1後処理は、ミトコンドリアの静脈内注射、冷ショック、またはC12 TPPの毒性レベルによって引き起こされる死亡からマウスを保護する。
以前の実験では、SkQ1前投薬が血液中のミトコンドリアの出現、身体の突然の冷却、またはC12 TPPの注射によって引き起こされるショックからマウスを保護することが実証された。次の一連の実験では、チャレンジと同時に、またはチャレンジ後に投与されたSkQ1処置によって動物を救助できるかどうかを調べた。
図10および
図11に見られるように、血流へのミトコンドリアの注射(
図10)またはコールドショック(
図11)からの死亡率は、ショック刺激の誘導後本質的に即時(1分)にSkQ1の注射によって著しく減少した。
【0058】
この一連の実験は、C12 TPPの毒性濃度によって引き起こされた致死的ショックを用いて継続した。 C12 TPPの2つの投与量が使用された: 34 μmol/kg C12 TPP (
図12)、または42μmol/kg C12 TPP (
図13)である。
図12に示すデータにおいて、SkQ1(1.5 μmol/kg投与量)は、C12 TPP投与の4.5時間前およびC12 TPP投与後0.5時間の両方で、それぞれのマウスに投与された。SkQ1がなければ、マウスの約80%がC12 TPPの注射後32時間以内に死亡した;SkQ1使用では死亡率は40%に低下した。
図13に記載した実験では、C12 TPPの量は42μmol/kgに増加された。
図13に見られるように、対照群では12匹の動物全てがそのような処置後1.5時間以内に死亡した。実験群では、SkQ1はC12 TPP処置後1時間以内に1回投与された。SkQ1処置群では、動物の1/3が生存していた(
図13)。
【0059】
[実施例7]
サイトカインTNFαおよびIL-6に対するSkQ1の効果。
コロナウイルス感染中の炎症は、多くのサイトカインによって刺激されることが示されている。特に、TNFαおよびIL-6は、炎症の存在に対するマーカーと考えられる。この実験では、肝ミトコンドリアの静脈内注射は、マウスにおけるTNFαおよびIL-6の血中濃度の著しい上昇を引き起こした。ミトコンドリアの注射から約3時間後に最大に達したこの効果は、SkQ1の腹腔内注射によってほぼ完全に抑制された(
図14Aおよび
図14B)。コールドショックの実験でも同様の結果が得られた(
図15Aおよび
図15B)。これらの結果は、SkQがサイトカインストームに関連する危篤状態下で生物を保護するだけでなく、サイトカインストームの重要な要素を抑制することができることを示している。
【国際調査報告】