(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-19
(54)【発明の名称】肺浮腫又は肺炎症を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20230512BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558131
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 US2021024345
(87)【国際公開番号】W WO2021195488
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド エイチ.イングバー
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ピー.リッチ
(72)【発明者】
【氏名】ロバード ジェイ.シューマッハー
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206FA53
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA59
(57)【要約】
対象の肺管に直接投与するための医薬組成物は、トリヨードサイロニンの塩と、pH5.5~8.5に調整された医薬的に許容可能な緩衝液とを含む。組成物は、肺の炎症又は肺浮腫を治療するために、予防的又は治療的に対象に投与され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療する方法であって、該方法は、
前記対象における第1の血清T3レベルを測定すること、
トリヨードサイロニン(T3)の初期用量を前記対象の肺管に直接投与すること、
最初の時間間隔の後に第2の血清T3レベルを測定すること、
T3の第2の用量を前記対象に提供すること、を含む方法。
【請求項2】
前記第2の血清T3レベルが変曲点に達しておらず、かつ
前記T3の第2の用量が、前記T3の初期用量よりも多くのT3の沈着用量を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の血清T3レベルが変曲点に達しており、かつ
前記T3の第2の用量が、前記T3の初期用量と同じT3の沈着用量を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記T3の初期用量が少なくとも1μgから50μg以下の沈着用量を提供する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記初期の時間間隔が少なくとも5分間から48時間以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の用量が少なくとも5μgから50μg以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
第2の時間間隔の後に第3の血清T3レベルを測定すること、そして
T3の3回目の用量を前記対象に提供することを、さらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第3の血清T3レベルが変曲点に達しておらず、かつ
前記T3の第3の用量が、前記T3の第2の用量よりも多くのT3の沈着用量を提供する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第3の血清T3レベルが変曲点に達しており、かつ
前記T3の第3の用量が、前記T3の第2の用量と同じT3の沈着用量を提供する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の時間間隔が少なくとも5分間から48時間以下である、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第3の用量が少なくとも10μgから50μg以下である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
第3の時間間隔の後に第4の血清T3レベルを測定すること、そして
T3の第4の用量を前記対象に提供することを、さらに含む、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法
【請求項13】
前記第4の血清T3レベルが変曲点に達しておらず、かつ
前記T3の第4の用量が、前記T3の第3の用量よりも多くのT3の沈着用量を提供する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第4の血清T3レベルが変曲点に達しており、かつ
前記T3の第4の用量が、前記T3の第3の用量と同じT3の沈着を提供する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第3の時間間隔が少なくとも5分間から48時間以下である、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第4の用量が少なくとも20μgから50μg以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
第4の時間間隔の後に第5の血清T3レベルを測定すること、そして
T3の第5の用量を対象に提供することを、さらに含む、請求項12~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第5の血清T3レベルが変曲点に達しておらず、かつ
前記T3の第5の用量が、前記T3の第4の用量よりも多くのT3の沈着用量を提供する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第5の血清T3レベルが変曲点に達しており、かつ
前記T3の第5の用量が、前記T3の第4の用量と同じT3の沈着用量を提供する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記第4の時間間隔が少なくとも5分間から48時間以下である、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第5の用量が少なくとも25μgから50μg以下である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
第5の時間間隔の後に第6の血清T3レベルを測定すること、そして
T3の第6の用量を前記対象に提供することを、さらに含む、請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記第6の血清T3レベルが変曲点に達しておらず、かつ
前記T3の第6の用量が、前記T3の第5の用量よりも多くのT3の沈着用量を提供する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第6の血清T3レベルが変曲点に達しており、かつ
前記T3の第6の用量が、T3の第5の用量と同じT3の沈着用量を提供する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記第5の時間間隔が少なくとも5分間から48時間以下である、請求項22~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記第5の用量が少なくとも50μgである、請求項23記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月27日に出願された米国仮特許出願第63/000,939号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、1つの実施態様において、対象の肺管(例えば、鼻洞、気管内、気管支内、又は肺胞腔)に直接投与するための医薬組成物を記載する。一般に組成物は、トリヨードサイロニン(T3)の塩と、pH5.5~8.5に調整された医薬的に許容可能な緩衝液とを含む。
【0003】
いくつかの実施態様において、トリヨードサイロニンの塩は、10ml当たり少なくとも5μgの量で提供される。
【0004】
いくつかの実施態様において、組成物はエアロゾル化される。他の実施態様において、組成物は噴霧される。
【0005】
別の態様において、本開示は、対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療する方法を記載する。一般にこの方法は、対象にT3の初期用量を提供すること、及び対象におけるT3の血清レベルが変曲点に達するまで、T3の用量を段階的に増加させることを含む。
【0006】
上記の概要は、開示された各実施態様又は本発明のすべての実施を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施態様をより具体的に例示する。本出願全体のいくつかの場所で、例のリストを通じてガイダンスが提供され、これらの例はさまざまな組み合わせで使用することができる。いずれの場合も、列挙されたリストは代表的な群としてのみ機能し、排他的なリストとして解釈されるべきではない.
【図面の簡単な説明】
【0007】
本特許又は出願ファイルには、カラーで作成された少なくとも1つの図面又は写真が含まれている。カラー図面又は写真を含む本特許又は特許出願公開のコピーは、請求と必要な料金の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
【
図1】成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)患者及び正常なヒトの肺組織における酵素デヨージナーゼ-3(deiodinase-3)(D3)の免疫組織化学的局在化。(A)ARDS組織試料は、複数の細胞型でびまん性陽性D3染色を伴う、肺胞腔中の特徴的なびまん性肺胞損傷とタンパク性肺胞充填を示した。(D)ARDS組織試料は、II型肺胞肺細胞のD3陽性染色を伴うヒアリン膜形成を示した。(G)ARDS組織試料は、紡錘状細胞及び毛細血管内皮のD3陽性染色を伴う間質における増殖及び炎症細胞を示した。(B、E、H)正常なヒト肺からの対照組織試料は、有意なD3染色なしで、肺胞及び間質の正常な組織学的構造を示した。(C、F、I)1次抗体(特異性対照として)ではなく、正常なマウス血清で処理されたARDS試料も、有意なD3染色を示さなかった。
【
図2】ARDSの肺組織と正常なヒトの肺におけるデヨージナーゼ-3活性とT3量。肺D3酵素活性は初期ARDS肺で上昇し、肺T3濃度は初期及び後期ARDS肺の両方で減少する。D3活性(A)及び総T3濃度(B)は、死後のヒト初期ARDS(n=3)、後期ARDS(n=5)、及び正常対照(n=4)の肺で測定された。データは平均±SEMとして表示される。共通の上付き文字を共有していない群は、一元配置分散分析とテューキーの多重比較検定によって有意に異なる(P<0.05)。
【
図3】1回又は2回のT3投与プロトコール後の遊離T3レベル。以下のように[0時間目に0.05μg/kg+3時間目に0.1μg/kg(白三角)、0時間目に0.2μg/kg(黒丸)、又は0時間目に0.4μg/kg(黒菱形)]トリヨードサイロニンのボーラスのみを投与されているヒト患者の投与群による、平均±SD遊離トリヨードサイロニンレベル。影付きの四角は、無血清トリヨードサイロニンレベルの正常範囲を表す。
【
図4】FDA承認されたARDSを治療するためのT3点滴の第I/II相ヒト臨床試験計画。
【
図5】ラットモデルにおける血清T3濃度の経時変化(平均±SEM)。T3の単回投与は、2.7μg(約10.0μg/kg)の用量で気管内点滴により行った。試料は、化学発光アッセイを使用して総T3について分析された。可能な限り、平均濃度は3匹の動物/性別/時点から得られた。
【
図6】ラットへのリオチロニンナトリウム(300μl中2.7μg、pH7.5)の静脈内又は気管内投与後の血清T3濃度(平均±SEM)。T3の単回投与は、静脈内(ひし形)又は気管内点滴(四角)により行われた。試料は、化学発光アッセイを使用して総T3について分析された。
【
図7】T3は、95%酸素下及び酸素正常状態で回復中のRLE-6TN細胞の生存を上昇させる。(A)T3は、高酸素ストレス下のRLE-6TN細胞の生存率を上昇させる。細胞は90%O
2と5%CO
2中で72時間、T3(Aについて10
-6M)又はRT3(Aについて10
-6M)の存在下で、2%ストリップFBS培養培地中でインキュベートされた。(B)高酸素下でのRLE-6TN細胞生存のT3用量曲線。細胞は、10%FBSを含むDMEM/F12中で、21%O
2と5%CO
2中で一晩培養された。次に、細胞を90%O
2と5%CO
2中で72時間、2%ストリップFBSを補足したDMEM/F12培地中で、指示濃度のT3の存在下でインキュベートした。(C)RLE-6TN細胞を、T3を有り又は無しで高酸素状態で72時間インキュベートした後、細胞を室内空気に移し、10%FBSを含むDMEM/F12中でさらに72時間培養した。72時間の高酸素曝露の直後に、生存細胞をカウントする。細胞生存率は、トリパンブルーで評価される。特定の条件下で生存細胞は、高酸素状態単独からの細胞数のパーセントとして表示される。データは4つの独立した実験の平均値±標準偏差であり、
*=P<0.05の、
**=P<0.01である。
【
図8】T3は、高酸素損傷後のRLE-6TN細胞の数を増加させる。(A)RLE-6TN細胞を高酸素状態に24時間曝露した後、2%ストリップFBSを補足したDMEM/F12培地中で、T3又はrT3の存在下で室内空気に48時間移した。(B)RLE-6TN細胞を高酸素状態に48時間曝露した後、2%ストリップFBSを補足したDMEM/F12培地中で、T3又はrT3の存在下で室内空気に48時間移した。(A)と(B)の両方で、特定の条件下での生存細胞数は、同じ実験内で高酸素状態のみに関連する細胞数のパーセントとして表示される。データは4つの独立した実験の平均値±標準偏差であり、
*=P<0.05の、
**=P<0.01である。
【
図9】ATIIの高酸素損傷に対するT3の防御作用には、Nrf2の活性化が必要である。RLE-6TN細胞を、10
-6MのT3有り又は無しで90%O
2と5%CO
2中で24時間、2%ストリップFBSを補足したDMEM/F12培地中でT3(10
-6M)の存在下でインキュベートした。次に細胞をウェスタンブロッティング分析のために採取した。(A)Nrf2の細胞の総タンパク質。(B)核Nrf2。
【
図10】高酸素下のT3が増加したRLE-6TN細胞の生存には、HO-1アップレギュレーションが必要である。(A)T3は、高酸素下で総細胞性HO-1タンパク質を増加させる。細胞を、90%O
2と5%CO
2中で、T3(10
-6M)の存在下で72時間インキュベートした。次に細胞を採取して、ウェスタンブロット分析を行った。(B)細胞を、21%O
2と5%CO
2中で72時間、HO-1阻害剤であるスズプロトポルフィリンIX(10
-6M)又はT3(10
-6M)の存在下でインキュベートした。(C)細胞を、90%O
2と5%CO
2中で72時間、T3(10
-6M)又はスズプロトポルフィリン(10
-6M)の存在下でインキュベートした。細胞生存率はトリパンブルーで評価される。特定の条件下での生存細胞数は、高酸素状態のみに関連する細胞数のパーセントとして表示される。データは、3つの独立した実験の平均値±標準偏差であり、
*=P<0.05、
**=P<0.01である。
【
図11】PI3K阻害剤ワートマニン(wortmannin )は、高酸素下でT3誘導細胞の生存を阻止した。細胞を、90%O
2と5%CO
2中で72時間、2%ストリップFBSを補足したDMEM/F12培地中のT3(10
-6M)又はワートマニン(10
-6M)の存在下でインキュベートした。細胞生存率はトリパンブルーで評価される。特定の条件下での生存細胞数は、高酸素状態のみに関連する細胞数のパーセントとして表示される。データは、4つの独立した実験の平均値±標準偏差であり、
*=P<0.05、
**=P<0.01である。
【
図12】PI3Kを介するNrf2及びHO-1タンパク質の、高酸素下のT3誘導性増加。(A)総Nrf2のウエスタンブロット及びデンシトメトリーデータ。(B)細胞質Nrf2のウエスタンブロット及びデンシトメトリーデータ。(C)核Nrf2のウエスタンブロット及びデンシトメトリーデータ。
【
図13】高酸素状態は血清総T3濃度を低下させた。ラットを約95%の酸素に60時間曝露した。T3の補足は高酸素曝露の24時間後に開始された。データは、独立した実験の平均±標準偏差(SD)として表示される(室内空気制御のラット8匹、高酸素状態のラット10匹、T3補足のラット6匹)。
***、p<0.001。RA:室内空気制御。
【
図14】高酸素に誘導される徴候に対するT3の影響。(A)T3は、ウェット/ドライ肺重量比の高酸素誘導性の増加を低下させる。(B)T3は、気管支肺胞洗浄液(BAL)液体タンパク質濃度の高酸素誘導性の増加を低下させる。データは、独立した実験の平均±SDとして表示される(48時間曝露の2つの実験からの4匹のラット;60時間曝露の3つの実験からの3匹のラット)。
*、p<0.05;
**、p<0.01。RA:室内空気制御。
【
図15】T3は、BALF有核細胞の高酸素誘導性の増加を低下させる。データは、独立した実験の平均±SDとして表示される(48時間曝露の2つの実験からの4匹のラット;60時間曝露の3つの実験からの4匹のラット)。
*、p<0.05;
**、p<0.01;RA:室内空気制御。
【
図16】T3は、肺組織の高酸素誘導性のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を低下させる。データは、独立した実験の平均±SDとして表示される(48時間曝露の2つの実験からの4匹のラット;60時間曝露の3つの実験からの4匹のラット)。
*、p<0.05;
**、p<0.01。RA:室内空気制御。
【
図17】T3は、高酸素後の肺好中球(MPO陽性細胞)を減少させる。肺組織は、T3点滴有り/無しで高酸素曝露の60時間後に得られた。免疫染色は、1次抗MPO抗体を使用して行われた。黒い点はMPO陽性細胞を示す。
【
図18】T3注入は、形態学的な高酸素性肺損傷を軽減する。T3点滴有り/無しで60時間の高酸素曝露のラット肺組織をヘマトキシリンで染色し、光学顕微鏡で観察した。(A)対照:室内空気。(B)高酸素;(C)高酸素+T3。
【
図19】臨床医が治療移行点を超えてT3用量を増加させた症例の、時間の関数としての血清T3レベル、肺水、及びC反応性タンパク質(CRP)のレベルを示すプロット。
【
図20】臨床医が治療移行点を超えたT3用量を維持した症例の、時間の関数としての血清T3レベル、肺水、及びC反応性タンパク質(CRP)のレベルを示すプロット。
【
図21】T3で治療された患者の胸部レントゲン写真。2人の患者の、入院時、最初のT3投与前の朝、4回目のT3投与の24時間後、最初の投与後のフォローアップの30日目、及びフォローアップの60日目の胸部レントゲン写真が示される。いずれの患者も、病気の後、比較的迅速に完全に回復し、胸部レントゲン写真が正常になった。
【
図22】T3で治療された患者における酸素化の経時変化。患者1におけるPaO
2/FiO
2(P/F)比とPEEPレベルの経時変化が示される。T3投与の開始前に、患者1は、麻痺の使用、エポプロステノールナトリウムによる治療、及び腹臥位による酸素化にいくらかの改善があり、P/F比の2つの初期ピークの原因となっている。酸素化は、最初のT3投与前の12時間にわたって悪化していた。
【
図23】T3で治療された患者における酸素化の経時変化。患者2におけるPaO
2/FiO
2(P/F)比とPEEPレベルの経時変化が示される。患者2は、複数回の介入にもかかわらず、投与前に着実に悪化した経過をたどった。
【
図24】T3で治療された患者の甲状腺ホルモンレベルの経時変化。患者1のT3投与期間中の遊離T3、総T3(未変性T3)、遊離T4、及びTSHの変化。患者1は1日50μgを4日間投与された。遊離T3、総T3、及びTSHは、4回のT3投与にわたって経時的に増加したが、遊離T4は変化しなかった。
【
図25】T3で治療された患者の甲状腺ホルモンレベルの経時変化。患者2のT3投与期間中の遊離T3、総T3(未変性T3)、遊離T4、及びTSHの変化。患者2のT3投与量は段階的に増加した:1日目5μg;2日目10μg;3日目25μg;4日目50μg。患者2は、各投与後に血清遊離T3が一時的に増加したが、血清総T3又は遊離T4の一貫した変化はなかった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、肺浮腫及び/又は肺炎症、例えば急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で起きるプロセスを治療するのに有効なトリヨードサイロニン(T3)を含む組成物を記載する。T3組成物は、液体形態であってもエアロゾルであっても、肺に直接投与されるように製剤化される。本開示はさらに、T3の製剤を鼻洞、気管内、気管支内、又は肺胞腔に直接投与することによって肺炎症を治療する方法を記載する。
【0009】
肺は甲状腺ホルモン(TH)の標的組織である。甲状腺ホルモンは、肺の成長、肺機能、及び肺組織への損傷の修復に影響を与える。げっ歯類では、甲状腺機能低下症は肺の成長中に気腔液のクリアランスに損傷を与えるが、全身性T3は、成体ラットの肺の肺胞液クリアランスを増強する。肺胞液クリアランスのT3刺激は、肺で局所的かつ急速に発生する。さらに、甲状腺ホルモン受容体(TR)アルファ又はベータ遺伝子のいずれかをノックアウトしたマウスモデルでは、肺の成長、及びストレスや損傷に対する反応が変化している。ヒツジモデルでは、ベタメタゾン注射にサイロキシンを追加すると、早産子羊の周産期肺機能が大幅に改善された。
【0010】
臨床的には、甲状腺疾患は多様な肺症状と関連している。甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症の両方が、呼吸筋の衰弱及び/又は肺機能の低下を引き起こす可能性がある。甲状腺機能低下症は呼吸ドライブを低下させ、閉塞性睡眠時無呼吸又は胸水を引き起こす可能性がある。逆に、甲状腺機能亢進症は呼吸ドライブを上昇させ、労作時に呼吸困難を引き起こす可能性がある。甲状腺機能低下症又は甲状腺機能亢進症のいずれかが、特発性原発性肺動脈性肺高血圧症(IPPAH)に関連している可能性がある。さらに、根底にある甲状腺障害を治療することで肺高血圧症が改善する可能性があるが、病因に関与する正確なメカニズムは確立されていない。
【0011】
細胞レベルでは、甲状腺ホルモンの状態は、肺胞数、肺胞II型肺細胞の数とサイズ、及びこれらのサーファクタント産生に影響を与える。T3は、増強されたNa,K-ATPase活性を介して、肺胞上皮細胞の肺胞液クリアランス(AFC)を上昇させる。活発なナトリウム再吸収は、出生時、急性肺損傷(ALI)時、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)時、及びうっ血性心不全などの心原性浮腫時の肺の、肺(肺胞)浮腫の除去に関与している。逆に、肺のT3レベルを下げると、肺胞浮腫が悪化する可能性がある。
【0012】
本開示は、T3を鼻洞、気管内、気管支内、又は肺胞腔に、例えばスプレー、吸入、噴霧、又は点滴によって、直接投与することを含む方法を記載する。肺胞浮腫及び/又は肺炎症が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に関連する例示的な実施態様の文脈で本明細書に記載されているが、本明細書に記載の組成物及び方法は、炎症の根底にある原因に関係なく、肺胞浮腫及び/又は肺組織の炎症を治療するために使用することができる。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して治療可能な肺炎症又は肺胞浮腫の例示的な他の原因には、例えば早産、胸部外傷、うっ血性心不全、肺移植の前及び/又は後、肺癌の放射線療法又は化学療法の前及び/又は後、肺炎、敗血症、喫煙(タバコ又はTHCを問わず)、汚染物質への曝露(環境的又は職業的、例えば、石綿肺、珪肺症、ベリリウム症、石炭労働者、じん肺、ガス曝露、熱傷、又はその他の塵肺症)、過敏性肺炎、反応性又は閉塞性肺疾患(例えば、喘息、慢性気管支炎、反応性気道機能不全症候群、又は他の反応性気道疾患)、誤嚥性化学性肺炎又は肺炎、肺炎、又は鼻洞、気管内、気管支内、若しくは肺胞腔の感染(細菌、ウイルス、真菌など)、結合組織病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、サルコイドーシス、及びその他の関連疾患)、ウェゲナー肉芽腫症、グッドパスチャー疾患、急性又は慢性の好酸球性肺炎、投薬関連の肺損傷(例えば、アミオダロン、ブレオマイシン、ブスルファン、マイトマイシンC、メトトレキサート、アポモルヒネ、ニトロフラントイン、又はその他の肺向性薬の使用による損傷)、原因不明の器質化肺炎、チャーグ・ストラウス症候群、又は先天性若しくは構造的肺疾患(例えば、嚢胞性線維症、気管支拡張症)が含まれる。
【0013】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺胞液クリアランス(AFC)の減少と高い死亡率を伴う出血性炎症性肺浮腫を特徴とする。トリヨードサイロニン(T3)は、肺胞II型肺細胞に作用してNa,K-ATPase活性を増強し、それによって浮腫液クリアランスを促進し、毛細血管への酸素拡散を増強する。T3は酵素ヨードサイロニンデヨージナーゼIII型(D3)によって不活性化される。ARDS患者のほとんどは、肺胞浮腫液を除去する能力が低下している。さらに、肺胞液クリアランスの速度が遅いほど、死亡率が高くなり、人工呼吸器によるサポートの必要性が長くなる。従って、肺胞液クリアランスを改善することで、ARDS患者の転帰を改善することができる。本開示は、D3の発現及び活性が初期のARDSヒト肺組織において上昇していることを報告する。初期ARDSにおけるD3の誘導は、局所的な肺T3の不活性化を伴い、肺組織における肺T3濃度の低下をもたらす。T3が肺胞液クリアランスを刺激することを考えると、肺T3のD3誘導性の不活性化は、ARDSの肺胞液クリアランスを妨害し、液体による肺胞内の液貯留の程度と持続的な低酸素血症に寄与する可能性がある。
【0014】
ARDS肺組織試料は、肺胞腔内のタンパク質性肺胞充填、ヒアリン膜形成、及び間質中の炎症細胞を伴う特徴的なびまん性肺胞損傷を示した(
図1A、1D、1G)。対照組織試料は、肺胞及び間質の正常な組織構造を示した(
図1B、1E、1H)。ARDS組織におけるD3の免疫組織化学的局在は、肺胞II型肺細胞(
図1A、1D)、紡錘形間質細胞、及び毛細血管内皮細胞(
図1G)における高レベルのD3発現を明らかにした。正常な対照組織は、これらの細胞型のそれぞれにおいて、D3抗体染色がはるかに少ないことを示した(
図1B、1E、1H)。特異性対照として、1次抗体を除去しても、どの組織切片でも有意なD3染色は見られなかった(
図1C、1F、1I)。
【0015】
ARDS肺におけるD3発現の上昇が酵素活性の上昇と関連しているかどうかを判定するために、初期ARDS(n=3)、後期ARDS(n=5)、及び対照(n=4)の肺試料で、D3酵素活性を測定した。肺D3酵素活性は、初期ARDSでは正常対照組織より約11.3倍高かった(1.57対0.14±SEM fmol/mg/分、p<0.0001)(
図2A)。D3活性は、後期ARDSでは対照肺より約2.5倍高かった(0.34対0.14fmol/mg/分、p=0.29、有意差無し)。肺T3レベルは、初期及び後期ARDSでは対照の肺レベルより、それぞれ65%及び77%低かった(
図2B)。まとめると、これらのデータは、D3の発現と活性が初期のARDS患者の肺で顕著に誘導され、D3の上昇が組織全体のT3の局所的な低下と関連していることを示している。これらのデータは、ARDSにおける肺胞液クリアランス(AFC)の促進におけるT3の役割と、低酸素、炎症状態においてT3の不活性化を引き起こすD3の役割とを関連付けている。
【0016】
肺損傷では、肺胞上皮及び毛細血管内皮の透過性が亢進し、間質及び肺胞腔へのタンパク質、溶質、及び液体の経毛細管拡散が容易になる。間質性浮腫、特に肺胞浮腫液の再吸収は、肺胞での効率的なガス交換に不可欠である。肺胞液クリアランスは、基底外側のNa,K-ATPaseポンプと頂端ナトリウム輸送タンパク質の複合作用を介する、肺胞上皮バリアを通過する能動的肺胞上皮ナトリウム再吸収によって駆動される。
【0017】
正常なラットの肺と損傷したラットの肺の両方で、T3の点滴は肺胞液クリアランスを大幅に上昇させる。局所性及び/又は全身性の炎症は、ARDS肺のD3誘導を開始する可能性がある。急性細菌感染症及び/又は梗塞/虚血は、D3発現を誘発する可能性がある。本試験の患者におけるARDSは、肺炎(ウイルス性又は細菌性)、敗血症、外傷、及び手術後の肺損傷を含むさまざまな病因に起因し、すべて炎症がD3誘導及びその後のT3枯渇への共通の経路である可能性がある。ARDS肺の局所T3濃度が低下すると、肺胞液クリアランスが妨げられる。減少した肺胞液クリアランスは酸素拡散を妨害し、ARDSの特徴である低酸素血症を悪化させる。通常の状況のベースラインでは、全身の酸素摂取量の5%が呼吸と肺機能のために消費される。呼吸不全などの重大な病気では、通常、十分な酸素化と換気を維持するために、肺の代謝要件が大幅に増加する。ARDSでは、全身性及び局所性炎症がD3の全身性及び局所性発現を上昇させ、T3レベルを低下させ、機能の促進が望まれるときに肺代謝をダウンレギュレートする可能性がある。他のすべての臓器は酸素について肺ガス交換に依存しており、T3は肺胞液クリアランスと拡散能力の維持に関与しているため、肺のT3欠乏は有害な影響を及ぼす。
【0018】
T3点滴は、正常肺組織及び高酸素損傷性肺組織の肺胞液クリアランスを上昇させる。高酸素誘導性の肺損傷(HALI)は、急性肺損傷の確立された動物モデルである。高酸素状態によって生成された活性酸素種(ROS)は、アポトーシス及び壊死による肺胞上皮細胞死及び内皮細胞死を引き起こし、肺損傷に寄与する。酸素毒性の分子的基礎は、分子状酸素から直接誘導され、及び/又は分子状酸素と他の化学種との相互作用から間接的に誘導されるフリーラジカルROS(活性酸素種)によって媒介される。従って、酸化剤は、急性及び慢性の肺損傷の発症を媒介する。甲状腺ホルモンは、成体及び成育中のラットの脳と肺の両方の抗酸化防御に影響を与える。本開示は、HALIモデルにおける肺の炎症及び損傷に対する全身性T3補足の影響を評価するデータを提示する。
【0019】
高酸素は、血清総T3レベルを低下させた。重篤な疾患は、血清総T3濃度及び遊離T3濃度の低下を伴う、甲状腺機能亢進症症候群又は非甲状腺疾患を引き起こすことがよくある。
図13は、腹腔内T3補足(50μg/kg体重/24時間)有り又は無しで、95%酸素に60時間曝露されたラットにおける総血清T3レベルを測定したデータを示す。高酸素は、正常酸素室内空気(RA)ラットと比較して、血清総T3を有意に低下させ(RA:82.97±14.4399、高酸素:53.9±11.2953、p=0.00043)、そして補足により血清総T3が上昇した。
【0020】
T3は、高酸素状態により誘導される肺浮腫及び気管支肺胞洗浄液(BALF)タンパク質濃度の増加を低下させた。95%の酸素に60時間曝露された成体ラットは、BALFタンパク質濃度上昇、透過性亢進、及び肺浮腫の増加によって示されるように、実質的な肺損傷を起こす。高酸素状態は、正常酸素圧のラットの肺と比較して、湿潤肺と乾いた肺の重量比の増加を誘導する(それぞれ6.49±0.27対5.3±0.16、p=0.004)。
図14Aは、60時間の高酸素状態が、室内空気と比較して湿潤肺と乾いた肺の重量比を再び顕著に上昇させたことを示す(O
2:6.61±0.60対RA:4.82±0.14)。腹腔内T3による処置(12.5μg/kg体重を12時間ごとに注入)は、この高酸素誘導性増加を有意に低下させた(O
2:6.61±0.604;T3を伴うO
2:5.82±0.197、p=0.0495対O
2処置)(
図14A)。高酸素状態はまた、48時間及び60時間の両方の時点でBALFタンパク質濃度を顕著に上昇させ、T3投与は、両方の時点でBALFタンパク質濃度の高酸素性上昇を有意に弱めた(
図14B)。従ってT3の補足は、高酸素状態によって引き起こされる肺浮腫の程度と肺胞上皮バリアの機能不全を低下させた.
【0021】
T3は、BALF細胞性及び肺組織の好中球蓄積の高酸素による上昇を低下させた。成体ラットの肺では、95%酸素への曝露でBALF中の炎症細胞の数が増加した。実際、95%酸素に48時間又は60時間曝露すると、室内空気中の対照ラットと比較して、気管支肺胞洗浄(BAL)細胞の数が顕著に増加した。ほとんどのBAL細胞は単核細胞とマクロファージであったが、血球百分率測定は行わなかった。高酸素状態中のT3投与は、高酸素状態単独の場合と比較して、両方の時点でBALF細胞数を有意に低下させた(
図15)。
【0022】
肺への好中球の浸潤は、肺炎症の構成要素であり、これはしばしば肺損傷の前兆及び構成要素である。しかしながら、高酸素後のBALF細胞の比較的少数が好中球であった(データは示していない)。高酸素下での肺組織好中球に対するT3の影響は、以下の2つの方法で直接評価された:肺ホモジネート中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性の測定と、MPOに対する肺の免疫染色。肺のMPO活性は48時間の高酸素状態によって変化しなかったが(
図16、左パネル)、肺MPO活性は、室内空気対照と比較して60時間の高酸素で顕著に上昇した(
図16、右パネル)。T3補足は、高酸素誘導性MPO活性を有意に低下させた(
図16、右パネル)。同様に、細胞化学反応は、95%酸素に60時間曝露されたT3注入ラットが示したMPO陽性細胞は、T3補足なしの高酸素肺より少なく、MPO活性の結果が確認された(
図17)。全身のT3補足は、肺組織内の高酸素誘導性の好中球蓄積を抑制した。
【0023】
T3は、高酸素誘導性の形態学的肺損傷を軽減した。肺切片の組織病理学的評価も実施して、T3が高酸素性肺損傷を軽減したかどうかを定性的に評価した。予想通り、高酸素状態単独で、肺胞中隔肥厚、肺浮腫、及び肺胞炎症細胞が引き起こされた(
図18A及び18B)。対照的に、全身的なT3補足では、事実上正常な肺の形態が維持された(
図18C)。肺の組織学における顕著な違いは、T3補足が高酸素性肺損傷を顕著に軽減することをさらに証明した。
【0024】
従って本開示は、高酸素曝露と同時のT3投与が、高酸素誘導性のラット肺損傷の重症度を有意に低下させ、肺における好中球蓄積を減少、肺浮腫を減少、及び肺胞上皮透過性障壁の破壊を減少させたことを示すデータを提供する。T3補足は肺損傷と炎症を大幅に減少させたが、高酸素性肺損傷と炎症は排除しなかった.これらの結果は、高酸素性肺損傷に対するT3の防御的抗炎症作用を強く示唆している。
【0025】
高酸素曝露は血清総T3濃度を低下させた(
図13)。T3の腹腔内注入は、血清総T3を回復させ(
図13)、成体ラットにおける高酸素媒介性肺損傷を有意に低下させ、これは、(1)60時間後の湿潤/乾燥肺重量の比(
図14A)、(2)曝露の48時間後又は60時間後のBAL:体液総タンパク質濃度(
図14B)、(3)48時間後又は60時間後のBAL液中の有核細胞の数(
図15)、(4)60時間後の肺組織における好中球の蓄積(
図16及び
図17)、及び(5)60時間後のラット肺における組織病理学的びまん性肺胞壁損傷及び炎症細胞の浸潤(
図18)、の上昇が低下することによって測定された。これらの結果は、T3が高酸素媒介性の肺の炎症と損傷を軽減することを示している。
【0026】
甲状腺ホルモンは一般的に、肺機能の重要な調節因子として認識されていない。しかし、甲状腺ホルモンは肺にさまざまな影響を及ぼす。例えば甲状腺ホルモンは、肺胞II型細胞の数、ラメラ体の数、及びサーファクタントの放出を上昇させる。全身的又は局所的T3投与は、正常ラット肺と高酸素損傷ラット肺の両方で肺胞浮腫液クリアランスを上昇させる。肺胞腔T3投与は、ラット肺における高酸素誘導性の肺損傷によって低下したAFCを急速に回復させた。T3はまた、II型肺胞上皮細胞のNa,K-ATPase活性を有意に上昇させ、肺胞腔から浮腫液を除去するその役割と一致している。T3のこの作用には、PI-3キナーゼ(PI3K)/Akt及びERK1/2経路の両方の協調作用が関与する。PI-3K/Akt経路は、炎症を含むストレスに対する多くの細胞応答に関与している。
【0027】
また、点滴されたT3は、高酸素ストレスに曝露された肺胞II型細胞の生存も増強する。高酸素曝露は、肺胞上皮細胞のアポトーシスと壊死の両方を引き起こす。肺胞II型(AT2)細胞の生存は、酸化剤誘導性の肺損傷後の回復に重要である。甲状腺ホルモン(T3)は、インビボで95%超の酸素に曝露された成体ラットの高酸素誘導性の肺炎症を軽減した。
【0028】
動物における高酸素誘導性の急性肺損傷(HALI)は、急性肺損傷とARDSの十分に確立されたモデルである。高酸素状態に長時間曝露されると、過剰な活性酸素種が生成され、肺胞内皮細胞及び上皮細胞の損傷と死が引き起こされ、高肺胞レベルの炎症誘発性サイトカインと過剰な白血球浸潤を伴う。
【0029】
肺胞上皮細胞及び内皮細胞は、肺胞-毛細血管バリアを無傷の状態で維持し、酸化的損傷から防御する。高酸素状態に長時間曝露されると、活性酸素種(ROS)が過剰に生成され、レドックス恒常性を壊滅させて細胞に損傷を与える。核因子赤血球2関連因子2(Nrf2)転写因子は、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ-1(NQO-1)、グルタミン酸システインリガーゼ、ペルオキシレドキシン3、ペルオキシレドキシン6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、及びカタラーゼを含む酸化防止剤/解毒酵素パネルの協調的転写活性化により、酸化的損傷及び化学的発癌物質から細胞を防御する。Nrf2の遺伝子的除去は、高酸素状態によって誘導される肺損傷を増強するが、内因性Nrf2活性の増幅はHALIを弱体化させる。肺上皮細胞における抗酸化酵素及び第2相解毒酵素の発現の上昇は、高酸素状態によって生成されたROSによって引き起こされる損傷に対して防御作用をする。Nrf2制御HO-1は、アポトーシスを阻害することにより、肺損傷のさまざまなモデルで細胞死に対する細胞防御を付与する。Nrf2の活性化は、酸化的ストレス時の肺胞細胞の生存を促進する。
【0030】
T3は、90%酸素に72時間曝露した後の生存可能なAT2細胞の数を増加させた。インビボの高酸素は、初期段階のARDSと同様にラット肺の炎症と損傷を引き起こし、インビトロの高酸素曝露は、ARDSにおける肺胞上皮細胞の損傷と機能を研究するために広く使用されているモデルである。MDCK細胞を使用すると、細胞密度は、高酸素曝露中にアポトーシス、壊死、及び細胞増殖のバランスを決定した。インビボの高酸素曝露は血清T3を劇的に減少させるが、T3の補足は、高酸素誘導性の肺の炎症を軽減する。
図7は、T3が、肺胞上皮細胞を高酸素損傷から防御し、それらの生存を上昇させることを示している。ラット成体のATII様細胞株RLE-6TNを、T3又はRT3(不活性甲状腺ホルモン)の存在下又は非存在下で、90%の酸素に72時間曝露し、生存細胞数をトリパンブルー排除法によって測定した。高酸素状態は、生存するAT2細胞の数を、室内空気(21%酸素)培養条件と比較して、劇的にほぼ75%低下させた(
図7A)。T3は、高酸素ストレス下で生き残った細胞の数を、高酸素対照と比較して、約2.5倍大幅に上昇させた。対照的に、rT3は細胞の生存に何の役割も持っていなかった。T3の防御作用は、薬理学的濃度範囲(10
-7から10
-5M)全体にわたって観察された(
図7B)。外因性T3有り又は無しで、高酸素状態に72時間曝露されたAT2細胞をさらに72時間室内空気で回復させた場合(補足的T3なし)、生存可能なAT2細胞数に対するT3の防御作用が持続し、同様の大きさであった(
図7C)。高酸素中に存在する薬理学的濃度のT3を有することの有益な影響は、室内空気での回復期間の後でも、AT2細胞の生存率が高いことで明らかになった。これらの結果は、T3が、高酸素時のAT2細胞の生存を有意に保護したことを示している。
【0031】
T3は、高酸素損傷後のAT2細胞数の回復を増強した。肺の炎症及び損傷後の肺胞上皮の回復は、ARDS患者の回復を促進する。
図8は、T3が高酸素誘導性の損傷後のAT2細胞回復にプラスの影響を与えたことを示している。RLE-6TN細胞を、90%の酸素に24時間又は48時間曝露した。その後、細胞は、21%O
2/5%CO
2中で、T3又はrT3の存在下又は非存在下で48時間で回復した。24時間又は48時間の損傷(それぞれ
図8A及び
図8B)に続く回復後に、T3は48時間の回復で生存可能AT2細胞の数を有意に増加させたが、rT3には防御作用がなかった。すなわちT3はまた、回復期にのみ存在しても、高酸素からのAT2細胞の回復にも有益な影響をもたらす。
【0032】
T3は、高酸素ストレス下でNrf-2タンパク質の発現と核移行を上昇させた。転写因子Nrf2(NF-E2関連因子2)は、特に化学的ストレス又は酸化的ストレスに曝露されているときに、細胞の恒常性を促進する。Nrf2は、多数の抗酸化タンパク質、解毒酵素、及び生体異物トランスポーターの基礎的発現及び誘導性発現を調節する。
図9は、T3がNrf2活性を上昇させることを示す。総細胞性及び核のNrf2タンパク質は、24時間の高酸素曝露で評価された。高酸素は、驚くべきことに核Nrf2タンパク質レベルを変化させることなく、総Nrf2タンパク質発現を低下させた。高酸素中のT3処理は、全細胞の及び核のNrf-2タンパク質発現の両方を有意に上昇させた(
図9)。
【0033】
T3誘導性のHO-1の増加は、高酸素下のT3誘導性のRLE-6TN細胞の生存に必要である。ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)は、主要な転写因子Nrf2の活性化によって調節される抗炎症性、抗酸化性、及び細胞防御酵素である。HO-1は、ヘム分解の最初のかつ律速制限酵素の誘導性アイソフォームであり、その誘導は酸化的ストレスとアポトーシス細胞死に対する防御となる。デスオキシラポンチゲニンは、マクロファージ及び炎症性肺損傷においてNrf2を介するヘムオキシゲナーゼ-1発現をアップレギュレートする。
図10は、高酸素状態の間、T3がAT2細胞におけるHO-1発現を変化させたことを示す。RLE-6TN細胞を90%O
2に24時間曝露した後、細胞生存とHO-1の発現を測定した。細胞生存に対するHO-1阻害剤であるスズプロトポルフィリンの影響も測定した。T3治療は、高酸素状態の間、HO-1の総細胞タンパク質を有意に増強した(
図10A)。スズプロトポルフィリンは室内空気中のAT2細胞数に影響を及ぼさなかったが(
図10B)、T3による細胞生存率の増加及び細胞死の増大を阻止した(
図10C)。従って、T3は高酸素状態中のHO-1発現を増強し、HO-1アップレギュレーションは AT2細胞の生存に対するT3の防御作用を促進する。
【0034】
PI3-キナーゼ活性は、AT2細胞の生存、Nrf2活性、及びHO-1発現に対するT3の作用を媒介する。PI3K/Aktは、抗アポトーシス生存経路であり、いくつかの受容体依存性メカニズムによって調節されている。T3はPI3K活性を刺激し、この経路の活性化は、T3に誘導されるNa,K-ATPase活性と原形質膜発現の上昇を促進する。血管内皮では、PI3Kの活性化によりHO-1の発現が上昇するが、一方PI3Kの活性化は、他の細胞タイプにおけるNrf2タンパク質レベルとHO-1の活性化を上昇させる。高酸素状態中の肺胞細胞生存、Nrf2活性、及びHO-1タンパク質レベルに対するT3防御作用にPI3K/Akt経路が必要かどうかを検出するために、RLE-6TN細胞を高酸素状態で10
-6MのT3及び/又は100nMのワートマニンの存在下で72時間培養した。ワートマニンは、高酸素状態中のT3誘導性の細胞生存を阻止し、ほとんどすべての細胞の死をもたらした(
図11)。
【0035】
図12は、リン酸化によるAktの活性化に対するPI3Kの作用を示す。RLE-6TN細胞を高酸素状態に24時間曝露し、T3を一部の細胞に20分間添加した。高酸素状態単独では、室内空気対照細胞と比較して、総量又はホスホ-Aktの量は変化しなかったが、T3は、室内空気対照及び高酸素状態単独と比較して、Ser473でのAktのリン酸化を増強した(
図12A)。PI3キナーゼは高酸素状態中にT3によって活性化され、この経路の活性化は、AT2細胞の生存に対するT3の防御作用を促進する。さらに、PI3K阻害剤であるワートマニンは、Nrf2総細胞タンパク質及び核タンパク質の両方(
図12B)の、及び総細胞HO-1タンパク質量(
図12C)のT3誘導性増加も阻止した。従って、PI3-キナーゼ経路は、高酸素状態中にT3によって活性化され、この経路の活性化は、細胞防御エフェクターであるHO-1及びNrf2に対する、及びAT2細胞生存に対する、T3の有益な作用に関与している。
【0036】
肺胞上皮バリアの回復は、ARDSからの回復の構成要素である。損傷時の死滅から肺胞上皮細胞を防御すること及び/又は再上皮化を促進することは、治癒を早めるための戦略である。甲状腺ホルモンは肺治癒の決定因子とは考えられていないが、血清T3レベルは、急性肺損傷を有するヒトとラットの両方で低下している。肺組織のT3レベルも顕著に低下する。AT2細胞は、PI3K/Akt介在経路及びMAPキナーゼ介在経路の両方を介して、T3の薬理学的及び生理学的濃度に応答し、これらの経路は、Na,K-ATPase活性を増加させ、インビボで肺胞液クリアランスも増加させる。
【0037】
本開示は、薬理学的濃度のT3が高酸素状態中のAT2細胞生存を上昇させ、高酸素状態後のAT2細胞数の回復を加速すしたとを示すデータを提供する。これらの作用は、PI3キナーゼ及びNrf2の活性化と、HO-1発現のアップレギュレーションとに関連していた。PI3K活性化がワートマニンによって阻止された場合、又はHO-1の発現がスズプロトポルフィリンによって阻止された場合に、T3の細胞防御作用は阻止された。これらの知見は、肺におけるT3増強が肺胞上皮修復を増強することを示唆している。
【0038】
多くの研究では、肺上皮細胞を高酸素状態に60~72時間曝露すると細胞死が引き起こされる。しかしながら本開示は、高酸素状態への曝露前に、RLE-6TN細胞をT3で処理すると、未処理対照と比較して生存細胞数が増加したことを示すデータを提供する。細胞数に対するT3の作用は、少なくとも部分的には、細胞増殖を維持すること、壊死による細胞死を減少させること、アポトーシスによる細胞死を減少させること、及び/又は他のメカニズムにより引き起こされる可能性がある。T3は、PI3K経路活性を介して一部の選択された細胞タイプ(ヒト神経膠腫、ヒト膵島腫瘍)の増殖を増強するが、他のタイプ(ヒト近位尿細管細胞株(HK2)及び腎癌細胞株(Caki-2、Caki-1))の増殖を阻害する。培養AT2細胞の過去の研究では、甲状腺ホルモンによる増殖の刺激は示されていない。従って、細胞増殖に対するT3の効果は、細胞型に特異的であると思われる。さまざまな種類の細胞の細胞死に対する甲状腺ホルモンの作用は、まだ十分に検討されていない。
【0039】
AT2細胞の高酸素曝露は、細胞増殖の阻止を引き起こし、壊死とアポトーシスの組み合わせによって細胞死を増加させる。本開示は、T3の存在下で高酸素ストレス下の生存しているAT2細胞の数が、高酸素状態単独の場合よりも2.5倍高かったこと(
図7)、これはおそらく高酸素下のT3の強力な細胞防御的役割によるものであることを示すデータを示す。肺損傷後の肺胞細胞の再生及び/又は回復は、正常な肺の構造及び機能の回復を改善する。T3はまた、高酸素損傷からのRLE-6TN細胞の回復も促進した(
図8)。
【0040】
Nrf-2は、抗酸化物質防御の調節に関与している。酸化物質曝露に応答したNrf-2の活性化は、細胞ストレスを緩和するいくつかの抗酸化酵素及び細胞防御酵素の誘導に関与している。動物実験では、Nrf-2の発現は高酸素性肺損傷に対する防御に関与している。活性酸素種(ROS)のスカベンジャーである水素ガスは、Nrf-2経路を介して高酸素性肺損傷を軽減する。肺上皮細胞及び内皮細胞死は、高酸素性肺損傷の主要な特徴である。本開示は、高酸素下のT3が、Nrf2発現及び核蓄積を増加させ(
図9)、これは、T3が肺胞上皮細胞におけるNrf2活性を増加させることを示していることを示すデータを提供する。Nrf2のサイトゾルから核への移動は、フリーラジカル又は求電子物質の毒性を制限するT3の新しい細胞防御メカニズムである可能性がある。
【0041】
酸化的ストレス/求電子ストレスのセンサーとしてのNrf2は、細胞質内のKeap1/Cullin3/Ring Box1(Cul3/Rbx1)E3ユビキチンリガーゼ複合体経路を介して、常に分解されている。細胞が酸化的ストレスに曝露されると、Nrf2はKeap1複合体から解離し安定されて、核内に移動し、AREを介する遺伝子発現が活性化される。PKC、MAPK/ERK、p38、PERK、及びPI3K/Aktを含むいくつかのプロテインキナーゼはNrf2を活性化できるが、Ser9でのAkt介在リン酸化によってその活性を阻害することができるGSK-3ベータは、Nrf2を不活性化する。GSK-3ベータはチロシンキナーゼであるFynをリン酸化し、Fynの核局在化を引き起こす。FynはNrf2のチロシン568をリン酸化し、Nrf2の核外輸送、Keap1との結合、及びNrf2の分解をもたらす。高酸素状態への60分間の曝露は、肺上皮細胞におけるPI3K/Aktを介するNrf2活性を上昇させる。本開示は、PI3K阻害剤ワートマニンが、高酸素下のNrf2の核レベルでのT3誘導性増加を無効にし(
図12B)、T3によるPI3K活性化がNrf2の核移行に関与していることを示唆することを示すデータを提供する。
【0042】
ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)は、酸化的ストレスに対する細胞防御を媒介する抗酸化酵素である。HO-1は、マウスモデルで高酸素誘導性の肺内皮細胞死滅を防ぐ。チャイニーズハムスター肺線維芽細胞(V79-4)における、エコール(eckol)による、PI3K/Akt経路を介するNrf2媒介性のヘムオキシゲナーゼ-1発現のアップレギュレーション。本開示は、T3が高酸素条件下の肺胞上皮細胞におけるHO-1発現を増加させたことを示すデータを提示する(
図10A)。HO-1阻害剤であるTINは、T3誘導性の細胞生存の上昇を阻止した(
図10C)。これらの結果は、HO-1が高酸素下のT3の細胞防御作用を促進することを示した。
【0043】
要約すると、Nrf-2による抗酸化的及び細胞防御的遺伝子発現のアップレギュレーションは、高酸素ストレスに応答して、肺胞上皮細胞の生存を媒介し及び/又は細胞死を減少させる。T3は、肺胞上皮細胞の生存率を高め、高酸素損傷からの細胞回復を加速させる。T3のこれらの細胞防御作用には、T3活性化PI3Kを介するNrf2の活性化とHO-1遺伝子発現のアップレギュレーションが含まれる。
【0044】
従って、本開示は、対象におけるT3レベルを維持又は回復するための組成物及び方法を記載する。通常、被験者はヒトである。組成物は一般に、改変された製剤中にT3を含む。改変された製剤により、全身曝露が制限された忍容性の高い点滴剤が得られる。改変された製剤中で、点滴されたT3は、肺の炎症(例えば、肺移植、放射線療法、又は化学療法に関連する)を軽減、場合によっては除去、肺浮腫の体液クリアランスの増強、肺損傷の減少、及び/又は肺疾患又は損傷(例えば、ARDS)に関連する肺の炎症の治療に効果的である可能性がある。T3は、全身ではなく肺に直接投与されると、肺炎症の安全な予防及び/又は治療処置である。
【0045】
従来のT3液体製剤は、血流に直接静脈内投与することによる粘液浮腫昏睡/前昏睡を治療するための臨床的使用がFDAにより承認されている。血流への静脈内投与により、T3が急速に希釈され、血清タンパク質及び他の血液成分の緩衝能力によって緩衝化されるため、従来の製剤はpH調整されていない。従来のT3製剤を肺に直接投与した場合、その濃度はすぐには希釈されず、気管気管支樹と肺胞内膜液の両方の肺の緩衝能力の程度は不明である。従って、製造業者のバイアルから直接、つまりpHを調整せずにT3を気道と肺に点滴すると、ラットの肺粘膜と肺胞腔に対して極めて有毒である。
【0046】
本明細書に記載の改変製剤は、中性pH(5.5~8.5)に調整されたT3を含む。T3は、任意の適切な医薬的に許容可能な担体とともに製剤化することができる。本明細書で使用される「担体」には、任意の溶媒、分散媒体、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。医薬活性物質のためのそのような媒体及び/又は薬剤の使用は、当技術分野で周知である。従来の媒体又は薬剤が活性成分と適合しないか又は肺組織に有害であることが知られている場合を除き、治療組成物におけるその使用が企図される。補助活性成分も組成物に組み込むことができる。本明細書で使用される「医薬的に許容可能な」とは、生物学的に又は他の意味で望ましくない物質を指し、すなわち、その物質は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、又はそれが含まれる医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な方法で相互作用することなく、T3とともに個体に投与することができる。
【0047】
従ってT3は、医薬組成物に製剤化することができる。医薬組成物は、鼻洞、気管内、気管支内、又は肺胞腔への送達に適合した様々な形態で製剤化することができる。医薬組成物は、例えば、呼吸器粘膜への投与(例えば、スプレー、エアロゾル、噴霧、又は点滴による)により、粘膜表面に投与することができる。組成物は、徐放又は遅延放出によって投与することもできる。持続又は遅延放出は、持続又は遅延薬物送達のための従来の一般的な技術によって達成することができる。徐放はまた、T3を、T3を分解又は肺から除去するメカニズムを阻害する第2の薬物と組み合わせることによって達成することができる。1つの例示的な第2の薬物は、例えば、イオパン酸などのD3の阻害剤である。
【0048】
本明細書に記載の改変製剤は、中性pHに調整されたT3を含む。本明細書で使用される用語「中性pH」は、pH7.0±1.5、すなわちpH5.5~8.5を指す。いくつかの実施態様において、製剤は、少なくとも5.5、少なくとも6.0、少なくとも6.5、少なくとも7.0、又は少なくとも7.5の最小pHに緩衝化することができる。いくつかの実施態様において、製剤は、8.5以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、又は6.5以下の最大pHに緩衝化することができる。いくつかの実施態様において、製剤は、上に列挙された任意の最小pH、及び最小pHより大きい上に列挙された任意の最大pHによって定義される終点を有する範囲内に入るpHに緩衝化することができる。従って、例えば製剤は、pH5.5~8.5、例えばpH5.5~7.0、pH6.0~8.0、pH6.0~7.0、又は6.5-7.5に緩衝化することができる。
【0049】
T3は、特に限定されるものではないが、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル、又は任意の形態の混合物を含む任意の適切な形態で提供することができる。組成物は、任意の医薬的に許容可能な賦形剤、担体、又はビヒクルを含む製剤で送達することができる。例示的な適切な賦形剤には、特に限定されるものではないが、デキストロース及び水酸化アンモニウムが含まれる。例えば製剤は、肺への直接送達に適した剤形、例えばエアロゾル製剤、非エアロゾルスプレー、溶液、液体懸濁液などで送達することができる。製剤は、例えば補助剤、着色剤、芳香剤、香味剤などを含む1つ以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0050】
製剤は、単位剤形で便利に提供することができ、薬学の分野で周知の方法によって調製することができる。医薬的に許容可能な担体を含む組成物を調製する方法は、T3を1つ以上の補助成分を構成する担体と組合わせる工程を含む。一般に、製剤は、活性化合物を液体担体、微粉固体担体、又はその両方と、均一及び/又は密接に組合わせることによって調製することができる。
【0051】
投与されるT3の量は、特に限定されるものではないが、対象の体重、体調、及び/又は年齢;被験者が示す特定の臨床徴候又は症状;肺炎症又は肺浮腫の種類又は原因;及び/又は投与方法を含む様々な要因に応じて変化し得る。従って、所定の単位剤形に含まれるT3の絶対量は大きく変動する可能性があり、対象の種、年齢、体重、及び体調、及び/又は投与方法などの要因に依存する。従って、すべての可能な用途に有効なT3の量を構成する量を一般的に示すことは実際的ではない。細胞レベルでの生理的に活性なT3濃度が決定されており、細胞の種類と特定のホルモン標的効果によって変化する。T3の投与は、生理学的又は薬理学的な局所組織レベルを達成するように設計することができる。しかしながら、当業者は、そのような要因を考慮して適切な量を決定することができる。
【0052】
例えば、T3は、T3がすでに規制当局の承認を受けているのと同じ用量及び頻度で、肺浮腫又は肺炎症を治療するために投与することができる。他の場合では、T3は、臨床又は前臨床研究で薬物が評価されているのと同じ用量及び頻度で、肺胞浮腫又は肺の炎症を治療するために投与することができる。所望のレベルのT3を達成するために、必要に応じて投与量及び/又は頻度を変更することができる。従って、必要に応じて、標準/既知の投薬処方を使用したり、投薬をカスタマイズすることができる。しかし、T3の主な活性型、つまり最も大きな生理活性を持つ形態は、T3が「遊離」である場合、つまりアルブミンなどの大きなタンパク質に結合していない場合である。従って、所定量のT3の生理学的効果は、そこに導入されるタンパク質や環境の他の態様によっても影響を受ける可能性がある。従って、本明細書に記載の方法のための効果的な薬物沈着用量を達成するために必要とされるT3の量は、すなわち「遊離」状態で、鼻洞、気管内、気管支内、又は肺胞腔に直接送達されるT3の量は、静脈内送達による他の状態の治療に対して規制当局の承認を受けている用量よりも少なくてもよい。
【0053】
いくつかの実施態様において、この方法は、例えば約0.5μg~約2.0mgの沈着用量を対象に提供するのに十分なT3を投与することを含むことができるが、いくつかの実施態様においては、この方法は、T3をこの範囲外の用量で投与することによって実施することができる。これらの実施態様のいくつかでは、この方法は、対象に約5μg~約50μgの沈着用量を提供するのに十分なT3を投与することを含む。μg/kg基準では、生理学的効果を達成するための計算されたT3用量は、2ng/kgという低用量から1mg/kgまでの範囲であり得る。一例として、50μg用量は、約0.03μg/kg(160kgのヒトに対して)~高用量の25μg/kg(2kgの早産児に対して)のμg/kg用量範囲を提供することができる。しかし、多くの場合、肺組織への直接点滴は静脈内投与などの全身希釈の影響を受けないため、μg/kgベースの投与は絶対量ほど重要ではない。成人の肺のサイズは体重によって大きく変化しないため、送達されるT3の量が適切な用量のより重要な尺度となることがよくある。
【0054】
本明細書で使用される用語「沈着用量」又は「肺送達」用量は、気道の表面に沈着したT3の量を指す。点滴の場合、沈着用量は基本的に点滴される全用量である。しかし、エアロゾル又は噴霧製剤では、沈着用量は、従来、エアロゾル化又は噴霧される薬物の10%以下である。薬物の90%は、送達装置内で失われるか及び/又は吐き出されると予想される。これは、損傷したARDS肺ではより大きくなる可能性がある。従って、500μgのT3をエアロゾル化又は噴霧化して、50μgのエアロゾル化又は噴霧化された沈着用量を達成することができる。「沈着用量」又は「肺送達」用量という用語を使用することは、さまざまな投与経路全体で用量を標準化するのに有用である。
【0055】
十分な沈着用量又は肺沈着用量は、少なくとも5ngのT3の最小量、例えば少なくとも100ng、少なくとも1μg、少なくとも10μg、少なくとも50μg、少なくとも100μg、少なくとも250μg、少なくとも500μg、少なくとも1mg、少なくとも1.5mg、少なくとも2mg、少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも15mg、少なくとも20mg、又は少なくとも25mgの送達を提供することができる。
【0056】
十分な沈着用量又は肺沈着用量は、50mg以下のT3の最大量、例えば30mg以下、20mg以下、15mg以下、10mg以下、5mg以下、4mg以下、3mg以下、2mg以下、1.5mg以下、1mg以下、500μg以下、300μg以下、200μg以下、100μg以下、50μg以下、30μg以下、20μg以下、又は10μg以下の送達を提供することができる。
【0057】
十分な沈着用量又は肺沈着用量は、エンドポイントとして、上記で特定された最小沈着用量又は肺沈着用量と、前記最小沈着用量又は肺沈着用量を超える上記で特定された任意の最大沈着用量又は肺沈着用量との任意の組み合わせを含む、任意の範囲によっても特徴付けることができる。例えば、いくつかの実施態様において、沈着用量又は肺沈着用量は、1μg~1.5mg、例えば5μg~50μgであり得る。
【0058】
いくつかの実施態様において、T3は、例えば1日当たり単回投与から複数回投与で投与することができるが、いくつかの実施態様において、この方法は、この範囲外の頻度でT3を投与することによって実施することができる。一定期間内に用量を送達するために複数回投与が使用される場合、各投与の量は同じであっても異なっていてもよい。例えば、1日50μgの用量は、50μgの単回投与、25μgの2回の投与、又は複数回の不均等な投与として投与することができる。また、一定期間内に複数回投与する場合、投与間隔は同じであっても異なっていてもよい。特定の実施態様において、T3は、1日約1回、1日4回、又は連続的に投与することができる。
【0059】
いくつかの実施態様において、T3は、例えば、単回投与から複数日の期間にわたって投与することができるが、いくつかの実施態様において、この方法は、この範囲外の期間T3を投与することによって実施することができる。特定の実施態様において、T3は、3日間に1回、又は7日間に1回投与することができる。特定の実施態様において、T3は、1日約1回から、1日4回、又は連続的に投与することができる。通常、ヒトの臨床的甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモンの補充は、サイロキシンT4、又はT4とT3の組み合わせが毎日投与される。リオチロニン50μgの単回経口投与を使用した最近の試験では、平均半減期22.5時間で2.5時間でピーク血清濃度が得られた。5時間でのピーク血清濃度と心拍数増加の生理的効果との間にはタイムラグがあった(Jonklaas et al., Ther Drug Monit. 37(1): 110-118, 2015)。粘液浮腫性昏睡を伴う急性の重篤なヒトの病気の場合、4時間ごとから12~24時間ごとまで、静脈内T3投与の幅広い推奨頻度がある。すなわち、いくつかの実施態様において、T3は、漸増用量で気管内点滴によって1日1回投与することができ、血行力学的パラメーターの頻繁な生理学的測定及び血管外肺水(EVLW)の低頻度の測定を伴う。
【0060】
肺胞浮腫、肺炎症、又は関連状態の治療は、予防的である場合もあれば、あるいは、対象が肺浮腫若しくは肺炎症、又は関連する症状、又は状態の臨床徴候の発症後に開始することもできる。予防的である治療、例えば、対象がある事象(例えば、癌の放射線療法)を経験する前、又は状態の症状もしくは臨床徴候を示す前(例えば、感染症が無症状のままである間)に開始されることは、本明細書では、状態を有する「危険がある」対象の治療と呼ばれる。本明細書で使用される用語「危険がある」は、記述された危険を実際に有するかもしれないし、有していないかもしれない対象を指す。従って、例えば、感染状態の「危険がある」対象は、他人が感染状態を有すると特定された地域に存在する対象であり、及び/又は対象が、微生物による感染の検出可能な兆候を示していなくても、及び対象が症状が出ない量の微生物を保有しているかどうかに関係なく.感染病原体に曝露される可能性が高い対象である。別の例として、非感染状態の「危険がある」対象は、例えば遺伝的素因、家系、年齢、性別、地理的位置、又は病歴などの状態に関連する1つ以上の危険因子を有する対象である。
【0061】
従って、T3を含む医薬組成物は、対象が最初に肺浮腫、肺炎症、又は関連する状態の他の症状もしくは臨床徴候を示す前、その最中、又は後に投与することができ、又は感染状態の場合には、対象が最初に感染病原体と接触する前、その最中、又は後に投与することができる。対象が最初に肺浮腫又は肺炎症又は他の関連する症状若しくは臨床徴候を示す前に開始された治療は、組成物が投与されていない対象と比較して、対象が臨床的結果を経験する可能性を低下させ、重症度を低下させ、及び/又は肺の異常を完全に解消する。対象が最初に臨床症状を示した後に開始された治療は、組成物が投与されていない対象と比較して、対象が経験した肺浮腫及び/又は肺炎症の重症度の低下及び/又は完全な解消をもたらす可能性がある。
【0062】
例えば、インビボでのラットへの及びインビトロでの肺胞II型細胞への高酸素損傷は、T3が、有害な高酸素曝露に先立って又はそれと同時に投与されると、減少する。インビトロでは、肺胞II型細胞死が顕著に減少した。インビボでは、肺の炎症、肺損傷、好中球の浸潤、肺胞腔へのタンパク質の漏出が大幅に減少した。
【0063】
従って、この方法は、肺浮腫又は肺炎症を有するか又は有する危険がある対象に、有効量のT3組成物を投与することを含む。この態様において「有効量」は、肺浮腫又は肺炎症を、ある程度まで軽減、進行を制限、改善、又は解消するのに有効な量である。例えば、T3医薬組成物の「有効量」は、肺胞体液クリアランスを増加させ、肺胞II型肺細胞の集団を増加させ、肺胞II型肺細胞のサイズを増加させ、肺胞上皮細胞におけるNa,K-ATPアーゼ活性を上昇させ、又は肺胞損傷を低減又は修復し、低酸素血症を減少させ、及び/又は気道全体(例えば、鼻洞、気管内、気管支内、及び肺胞腔)の炎症を減少させる。
【0064】
予備試験は、気管内点滴によるT3組成物の投与の安全性を示している。安全性試験は、後述の実施例3に記載されている。優良試験所基準(Good Laboratory Practices(GLP))に準拠して実施された安全性試験では、体重250~350グラムのラットに、0.3mL(300μl)が気管内点滴により5日間連続して毎日投与された。組織病理学的、生理学的、及び臨床検査値評価の組み合わせを使用して、材料の投与では、重大な問題又は変化は観察されなかった。すべてのラットは、同じ用量のT3(0.3mLで約2.7μg)を投与された。1日目の体重に基づいて投与されたT3の計算用量は10μg/kgであった。肺重量に基づいて計算された用量は、約1.57μg/g湿潤肺重量であった。
【0065】
投与前及び投与中に、雄と雌の両方のラットでわずかな/軽度のポルフィリン染色が観察された。これは、麻酔と挿管を伴う5日間の取り扱いと輸送によって誘発された軽度の非特異的ストレスを反映している可能性がある。これは、馴化及び取り扱い期間中に非T3処理ラットで発生したため、ポルフィリン染色に関する観察結果は、T3処理に直接起因するものではあり得ない.
【0066】
平均して、すべての群の体重は、投与の最初の2日以内に減少する傾向があった。最終の安楽死の時点で、体重は投与前の体重よりも大きくなったが、T3の雌は投与前の体重よりもわずかに軽かった。最後の安楽死の前に、毒性期の雄の体重は267.17g~309.60gで、平均±標準偏差は285.28±11.10gであった。毒性期の雌の体重は240.11g~278.44gで、平均±標準偏差は258.24±9.79gであった。
【0067】
試験への登録時から安楽死までの毎日の観察中に、臨床的に重大な異常はどの動物にも認めらなかったが、例外として、重症度と原因が異なる以下に示す少数の麻酔回復の問題が観察された。試験の過程を通して、他の顕著な問題はなかった。他のすべての生き残った動物は、最終的な安楽死まで明らかに健康であった。試験の毒性期では、4匹の生理食塩水対照動物と1匹のビヒクル対照動物が、投与後の麻酔からの回復中に死亡した。これらの死亡は、投与後約30~60分で発生し、これは、剖検を行った獣医病理学者によって、加熱パッド上の麻酔からの回復中に過度の温度に曝露されたことが原因であると判断された。2匹のT3試験動物が用量投与後に死亡した。これらの死亡のうちの1匹については、肉眼的病理所見から、結腸埋伏によるものであることが示され、もう1匹の動物では、原因は不明であったが、点滴処置中の損傷によるものと考えられた。試験物質又は対照物質を投与されたすべての動物のうち、早期に死亡した7例のうち2例のみは、リオチロニンナトリウム注射で処置された動物であった。これらの損失にもかかわらず、各群の予備動物の投与により、試験計画で概説された各性別/群の動物の計画数は確実に達成された。
【0068】
凝固した試料のために血液学分析を受けなかった1匹の動物を除いて、予定された終了時まで生き残ったすべての毒性期の動物で、血液学及び血清化学的評価を実施した。
【0069】
雌の血液学検査の結果は、対照群と比較して、T3群では、軽度に増加した網状赤血球数と多色症の程度を示した(おそらく臨床的に有意ではない).雄の血液学パラメーターには、統計的又は臨床的に有意な変化はなかった。雌ラットの化学検査の結果では、唯一の知見は、T3群と対照群の間の平均アルブミン濃度のわずかな統計的差異であった(おそらく臨床的に有意ではない)。雄では、化学検査値の唯一の差は、T3群と対照群の間の平均グロブリンレベルのわずかな差であった。雌の平均アルブミンと平均グロブリンのT3群と対照群の差は、変化が最小限であり、臨床検査データに他の臨床的に重要な変化がないため、臨床的に有意ではないと見なされる。T3で処置した雌ラット群で網状赤血球数がわずかに多いことは、真の標準範囲がなく、ヘマトクリット、ヘモグロビン、RBC数、RBC形態の異常の同時低下、又は赤血球代謝回転の上昇の証拠が無いことを考えると、臨床的に有意ではない可能性がある。
【0070】
一般に、T3群と対照群の間で認められた変化は、臨床的に有意ではなく、T3とは直接関係がないと考えられる。
【0071】
動物の剖検及び肉眼的病理観察は、委員会認定の独立した評価者によって実施された。7匹の早期死亡例を除いて、すべての毒性期の動物は、予定された安楽死の時点で安楽死させられた。すべての動物について死亡した日に剖検を行ったが、麻酔からの回復中に死亡した5匹の動物については死亡の翌日に剖検を行った。どの剖検方法でも明らかな問題はなく、この試験のどの動物の肺にも肉眼的病変は検出されなかった。割り当てられた終了日に、3つの治療群からの合計4匹の動物で病変が検出されたが、これはおそらく末期の腹腔内注入に関連したものであった。全体的に毒性の証拠は観察されず、剖検中に、試験物質又は対照物質の投与に関連する臨床的に有意な異常は認められなかった。
【0072】
動物の組織学的評価は、以下の結論をもたらした。T3による治療に関連する肺の臓器重量に差はなかった。すべての肉眼的所見は、苦痛の変化、自己融解、及び/又は腹腔内注入及び/又は気管内点滴に関連する変化と一致していた。肺のすべての顕微鏡所見は、治療群全体で強度と頻度が類似していた。
【0073】
この試験では、予定外の死亡が7例あった:ビヒクル対照1例、生理食塩水対照4例、及びリオチロニンナトリウム注射動物2例。すべての症例において、動物は気管内注入の直後に死亡したか、又は投与後に死亡したことが判明した。すべての動物の肉眼的及び顕微鏡的所見は、自己分解及び/又は苦痛の変化と一致しており、リオチロニンナトリウム注入動物の死因は、点滴操作に関連している可能性が高く、試験物質には関連していなかった。検査された末端器官のいずれにも肉眼的又は顕微鏡的所見はなく、これらはリオチロニンナトリウム注入による処置に関連すると決定された。
【0074】
T3は、提出されたすべての試料で正常に定量された。報告されたすべての値は、アッセイの定量限界内であった(10pg/mL~460pg/mL)。測定値を
図5に示す(平均±標準誤差)。男性よりも女性の方が血清T3濃度が高いのは、女性の方が体重がやや軽いこと、そして平均して女性の方が男性よりも肺重量/体重比が大きいという予備試験の知見、全身循環へのT3のより大きな吸収を可能にする比較的大きな肺表面積による可能性が高い。
【0075】
従ってT3は、試験材料関連の有害事象又は問題が最小である直接点滴によって肺に投与された。投与操作後に毒性期の7匹の動物が死亡し、毒物動態学期の動物の死亡は0匹であった。
【0076】
試験中、有害なT3関連の臨床観察結果はなかった。リオチロニンナトリウムを投与された毒性期の雌ラットは、雄の群又は対照群と同じ速度で体重を回復することはなかった。T3群と対照群の間で認められた臨床病理学的変化は、臨床的に有意ではなく、T3とは直接関係がないと考えられた。
【0077】
T3のピークレベルは、雄では1時間の時点で、雌では2時間の時点で観察された。雄の値は、雌の対応する時点より一貫して低かった。体重に関係なく、すべての動物に同じ用量のT3を投与した。平均して、雌は雄よりも体重が軽いため、雄よりも体重あたりの計算された用量がわずかに高く、計算された湿潤肺の重量あたりの用量がわずかに高かった。
【0078】
ラットモデルでT3、生理食塩水、又はT3ビヒクルの気管内点滴を介するを投与を、投与の5日後に評価した結果、T3による治療に関連すると考えられる、試験物質又は対照物質に起因する可能性のある予定外の死亡はなく、肺重量に差はなく、肉眼的又は顕微鏡的観察所見に差はなかった。従って、すべての試験物質は、有害事象又は臨床的に有意な試験材料に関連する問題なしで、投与は成功した。
【0079】
予備的な用量設定試験では、3.0μgの中性pHのT3の1回の静脈内送達後又は5日間の気管内送達に、生理学的パラメーター(例えば、呼吸数、O2飽和度、又は心拍数)に急性の影響はなかった。また3.0μgのT3を気管内投与した場合、T3のCmaxは3.0μgのT3の静脈内投与後に見られた値の約1/17で、AUCは約1/5であった(データは示していない)。
【0080】
この試験で使用された実行可能な最大用量(肺重量あたりのT3のμgに基づく)は、提案された最初のヒト臨床試験の開始用量よりも300倍高く、大きな安全マージンを提供する。
【0081】
いくつかの実施態様において、この方法は、血清T3が、点滴T3の投与量をさらに増加させてはならないレベルに上昇するまで、T3の投与量を段階的に増加させて、肺に送達されるT3を増加させることを含み得る。通常、血清T3レベルが変曲点に達すると、点滴されたT3の投与量は増加しなくなり、これは、肺が、点滴された過剰なT3を肺から血流に排出していることを示す。この方法では、肺に直接送達されるT3が提供されるため、肺の体液レベルが低下し、酸素化が上昇する。一方、T3の全身レベルは、T3レベルが肺で上昇するほどには上昇しない。従って、治療は肺のみを標的とし、肺のT3を差別的に上昇させ、従って体内の他の臓器に対するT3の全身的作用を制限する。
【0082】
酸素化は、任意の適切な方法で追跡することができる。酸素化を追跡するための例示的な方法には、特に限定されるものではないが、酸素飽和度(O2sat)、PaO2/FiO2比(動脈酸素の分圧と吸気酸素のパーセントの比)、呼気終末陽圧(PEEP)、及びベッドサイド超音波が含まれる。
【0083】
肺の液体の減少と肺の炎症の減少によって肺の機能が改善されると、肺の液体の減少と肺の炎症の減少により、肺への酸素補助が減少する可能性がある。この減少は、適用される酸素と他のガスとのパーセントを変化させることによって、あるいは酸素の流量又は酸素の体積を減らすことによって行うことができる。
【0084】
患者への酸素療法におけるこれらの変更は、特に限定されるものではないが、血清T3、肺液/水、C反応性タンパク質、及び/又は酸素化を含む1つ以上の測定項目を考慮した後、臨床医が用手法で行うことができる。すなわち1つの実施態様において、本開示は、複数の生物学的マーカー又は測定可能な測定項目の同時改善のためにT3を肺に投与することを含む、ARDSを治療する方法を記載する。これらのマーカー又は測定項目には、特に限定されるものではないが、C反応性タンパク質(CRP)、肺液又は水レベル、及び/又は全身性若しくは血清T3の測定が含まれる。
【0085】
肺水は、任意の適切な方法を使用して測定することができる。例えば、肺水は、肺に存在する肺水の量を計算するハードウェア/ソフトウェアに接続された身体の他のセンサーと共に、大腿動脈内のカテーテルを使用して測定することができる。このようなシステムは市販されている。同様に、血清T3及びC反応性タンパク質(CRP)レベルは、任意の適切な方法によって測定することができる。例えば、血清T3やC反応性タンパクは、医療施設で一般的に行われている血液検査を使用して測定することができる。
【0086】
図19は、血清T3、肺水、及び血清C反応性タンパク質の例示的なプロットを示す。変曲点が発生し、適用されたT3薬物を肺が吸収及び使用し続けなくなると、所望の投与量が実現され、従って、過剰分が身体又は血流に排出されて廃棄される。これは、血清T3の増加として観察される。
図20では、臨床医はT3の定常状態用量を達成しており、血清T3レベルはその範囲でより静的である。
【0087】
肺の細胞はT3を吸収し始めると、細胞内液を廃棄のために腎臓に送り始め、こうして肺から体液を取り除く。これにより、肺機能が徐々に改善される。
図19及び
図20にプロットされているように、肺水が減少し始め、最小化の状態に移行する。
【0088】
C反応性タンパク質(CRP)は、身体の炎症の一般的な検査であり、肺の状態(及び身体の他の部位の損傷)を知る手がかりとなる。T3が肺に適用されると、肺の損傷状態が改善され、こうして肺のCRPが低下する。
【0089】
従って、所定の患者に対する最適用量は、血清T2、肺水、及び/又は血清CRPレベルを追跡することによって決定することができる。臨床医は、主に血清T3レベルを追跡することができる。肺が過剰なT3を血流に流し出すと、血清T3が増加し、最大有効量に達したことを臨床医に知らせる。過剰分は肺から単に流し出されるのみなので、肺に適用されるT3のレベルをこの値を超えるまで上げても、結果は改善されない。肺水及び/又は血清CRPレベルの低下を観察することは、T3用量が有効であることを繰り返している。
【0090】
T3が気道点滴によって投与される例示的な実施態様に関して上記で説明されているが、T3はまた、エアロゾル送達又は噴霧器を使用して投与することもできる。例えば、噴霧器は、一定の送達薬物レベルを提供することができる時定数用量を送達することができる。対照的に、点滴投与はボーラス事象であり、典型的には定期的な間隔で(例えば12時間ごと又は24時間ごとに)行われる。点滴用量、典型的には肺への点滴用の液体は、一定の半減期を有し、肺への一定の送達薬物レベルを必ずしも維持していない。ただし、点滴は機械的に簡単でコストが低くなる。
【0091】
血清T3、肺水、及びCRPは、T3肺治療の有効性に関する情報を提供すると共に、ARDS患者の治療中に使用する貴重なツールを臨床医に提供する。それらは臨床医に、ARDSを有するそれぞれ固有の患者を管理するためのツールを提供すると共に、酸素療法の最適レベルを管理するための指針を提供し、こうして、患者の健康と安心感のバランスを最大にし、一方患者の肺へのさらなる負担(例えば、純粋なO2の刺激)を最小にする。
【0092】
従って1つの実施態様において、本開示は、対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療する方法を記載する。一般にこの方法は、肺が過剰なT3を血流に流し始めるまで、肺へのT3の沈着用量を徐々に増加させながら、対象の血清T3レベルを追跡することを含む。従ってこの方法は、対象の血清T3レベルを測定すること、トリヨードサイロニン(T3)の初回用量を対象の肺管に直接投与すること、次に、一定時間後に対象の血清T3を測定した後、2回目の用量のトリヨードサイロニン(T3)を投与することを含む。血清T3レベルが変曲点に達した場合、肺はT3を血流に放出しており、T3の最大有効量に達している。従って、T3の2回目の用量は、1回目の用量と同じか又はそれより少ない。一方、血清T3レベルが変曲点に達していない場合は、T3の2回目の投与量を増やすことができる。血清T3を測定し、対象の肺管に投与されるT3のその後の投与量を調整するサイクルは、血清T3の変曲点に達するまで、又はT3の所望の最大沈着用量に達するまで、必要に応じて繰り返すことができる。従って、血清T3は、適切な時間間隔の後に再び測定することができる。この場合も、血清T3が変曲点に達していない場合はその後のT3用量を増加させるか、又は血清T3レベルが変曲点に達した場合はT3用量を維持することができる。
【0093】
T3の用量を対象の肺管に投与してから血清T3を測定するまでの最小時間間隔は、少なくとも5分、例えば少なくとも10分、少なくとも15分、少なくとも30分、少なくとも60分、少なくとも90分、少なくとも120分、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも5時間、少なくとも6時間、少なくとも9時間、少なくとも12時間、又は少なくとも24時間であり得る。T3の用量を対象の肺管に投与してから血清T3を測定するまでの最大時間間隔は、48時間以下、36時間以下、24時間以下、21時間以下、18時間以下、15時間以下、12時間以下、10時間以下、8時間以下、6時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下時間、90分以下、75分以下、60分以下、45分以下、30分以下、20分以下、15分以下、又は10分以下であり得る。T3が存在しないのではなく、所定量までで所定量を含む量で存在する場合、T3は所定の量「以下」の量で存在すると言われる。
【0094】
時間間隔は、上記で特定された任意の最小時間間隔、及び最小時間間隔より大きい上記で特定された任意の最大時間間隔によって定義されるエンドポイントを有する範囲によって特徴付けることができる。例えば、いくつかの実施態様において、時間間隔は、5分~12時間、15分~24時間、30分~12時間などであり得る。特定の実施態様において、時間間隔は、任意の最小値に等しくなり得るか、又は上記で特定された最大時間間隔に等しくなり得る。従って、例えば時間間隔は、5分、10分、30分、60分、75分、90分、2時間、6時間、12時間、24時間などであり得る。
【0095】
この方法に複数の時間間隔が含まれる場合、各間隔は、他の時間間隔と同じか又は異なってもよい。
【0096】
T3の初期用量は、少なくとも5ng、例えば少なくとも100ng、少なくとも1μg、少なくとも2μg、少なくとも5μg、少なくとも10μg、少なくとも15μg、又は少なくとも20μgの最小沈着用量を提供することができる。T3の初回用量は、100μg以下、50μg以下、30μg以下、20μg以下、又は10μg以下の最大沈着用量を提供することができる。T3の初期用量は、エンドポイントとして、上記で特定された最小沈着用量と、最小沈着用量より大きい上記で特定された任意の最大沈着用量との任意の組み合わせを含む任意の範囲によって特徴付けることができる。例えば、いくつかの実施態様において、T3の初期用量は、1μg~100μg、例えば5μg~50μgの沈着用量を提供することができる。
【0097】
上記で説明したように、血清T3レベルが変曲点に達していない場合、T3の後続用量を増やすことができる。後続用量は、少なくとも5ngの最小沈着用量、例えば少なくとも100ng、少なくとも1μg、少なくとも10μg、少なくとも20μg、少なくとも25μg、少なくとも50μg、少なくとも100μg、少なくとも250μg、少なくとも500μg、少なくとも1mg、少なくとも1.5mg、少なくとも2mg、少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも15mg、少なくとも20mg、又は少なくとも25mgを提供することができる。後続用量は、50mg以下のT3の最大量、例えば30mg以下、20mg以下、15mg以下、10mg以下、5mg以下、4mg以下、3mg以下、2mg以下、1.5mg以下、1mg以下、500μg以下、300μg以下、200μg以下、100μg以下、50μg以下、30μg以下、20μg以下、又は10μg以下を提供することができる。
【0098】
後続用量はまた、エンドポイントとして、上記で特定された最小沈着用量と、最小沈着用量よりも大きい上記で特定された任意の最大沈着用量との任意の組み合わせを含む任意の範囲によって特徴付けることができる。例えば、いくつかの実施態様において、後続用量は、少なくとも10μg~50μgの沈着用量、例えば少なくとも20μg~50μg又は25μg~50μgを提供することができる。
【0099】
2回以上の後続用量が与えられる場合、後続用量の量は、最初の用量であろうと中間の後続用量であろうと、他の用量とは無関係であり得る。T3用量の段階的増加を伴う実施態様において、後続用量に対する唯一の制限は、それが以前に投与された用量より多いことである。
【0100】
フェーズI/フェーズII臨床試験の一環として、2人の患者が点滴T3で治療された。両方の患者で、T3点滴直前の血清遊離T3レベルは非常に低かった(それぞれ<1.5pg/ml及び1.8pg/ml;正常範囲2.2~4.5pg/ml)。患者1は、1日50μgの用量を5日間で4回投与された(
図24)。送達が困難であったため、1回の投与が1日延期された。血清遊離T3レベルは、T3点滴治療のすべての日で正常範囲(1.9~3.4pg/ml)であり、遊離T4レベルは安定しており変化しなかった(0.7~0.8ng/dL;正常範囲0.7~1.7ng/dL)。患者2は、毎日増量するT3用量を4日間にわたって投与された(
図25)。血清遊離T3レベルは正常範囲未満又は正常範囲内(<1.5~2.2pg/ml)のままであり、遊離血清T4レベルは低いか又は正常(0.5~0.8ng/dL)であった。
【0101】
患者1と患者2の点滴前のTSHレベルは、それぞれ0.59μIU/mLと0.2μIU/mLであった(正常範囲:0.40~3.99μIU/mL)。その後の96時間のTSHレベルは、患者1では0.53~2.64μIU/mL、患者2では0.36~0.7μIU/mLの範囲であった。
【0102】
いずれの患者も、T3点滴に起因する肺又は全身の重大な有害事象はなかった。両方の患者は、低血圧のために昇圧剤を必要とし、適切な平均動脈圧を維持するために必要な昇圧剤の投与量は、T3点滴と一時的に関連して減少した。
【0103】
上記の説明及び以下の特許請求の範囲において、「及び/又は」という用語は、列挙された要素の1つ又はすべて、又は列挙された要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味する。用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、及びその変形は、制限のないものとして解釈されるべきであり、すなわち、追加の要素又は工程は任意選択的であり、存在してもしなくてもよい。他に明記されない限り、「1つ(a)」、「1つ(an)」、「その(the)」、及び「少なくとも1つ(at least one)」は互換的に使用され、1つ又は2つ以上を意味する。エンドポイントによる数値範囲の説明には、その範囲内に含まれるすべての数値が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などが含まれる)。
【0104】
前述の説明では、明確にするために、具体的な実施態様を単独に説明している場合がある。具体的な実施態様の特徴が他の実施態様の特徴と矛盾していることを明記されない限り、特定の実施態様は、1つ以上の実施態様に関連して本明細書で説明される適合する特徴の組み合わせを含むことができる。
【0105】
個別の工程を含む本明細書に開示される任意の方法について、工程は、実行可能な任意の順序で実施することができる。また、必要に応じて、2つ以上の工程の任意の組み合わせを同時に実行することもできる。
【0106】
本発明は、以下の実施例によって例示される。具体的な例、材料、量、及び操作は、本明細書に記載の本発明の範囲及び精神に従って広く解釈されるべきであることを理解すべきである。
【実施例】
【0107】
実施例1
ヒト肺組織の入手
死後の肺組織は、ARDSの臨床診断を受けた連続した成人患者(男性及び女性)から得られた。剖検は治験審査委員会(Institutional Review Board)によって承認され、家族の同意を得た後、2008年12月から2009年10月まで実施された。ARDSの診断は、以下の基準に基づいた:PaO
2/FIO
2<200mmHg、楔入圧<18mmHg又はCVP<12mmHg、及び米国欧州コンセンサス会議(American European Consensus Conference)によって定義された両側に斑状の浸潤を有するCXR。ARDSは、肺炎(ウイルス性又は細菌性)、敗血症、外傷、及び手術後の肺損傷を含むさまざまな病因に起因する(表1)。肺以外の原因で死亡し、検死官による剖検を受けた連続した成人患者を対照として使用した(例えば、アルコールの過剰摂取、低体温症、心筋梗塞、及び自動車外傷(表1))。
【表1】
【0108】
肺の試料は死後4~12時間以内に入手した。組織試料は、前肺野の末梢/胸膜下実質から切り裂かれ、2cm×2cm片にスライスされ、液体窒素で瞬間凍結され、将来のアッセイのために-80℃で保存されたか、又はホルマリンで固定され、組織学的及び免疫化学的分析用に包埋された。スタッフの病理学者(Department of Pathology and Laboratory Medicine, Essentia Health- St. Mary's Medical Center and Duluth Clinic, Duluth, MN)は、組織学的診断を組織の各セットに割り当てた。びまん性肺胞損傷(DAD)を示す肺試料(過細胞性、及びヒアリン膜/フィブリン沈着を含む)を研究組織として使用した。肺以外の原因で死亡し、正常な肺の組織学的構造を示す患者からの肺試料を対照組織として使用した。組織構造がはっきりしないすべての試料は除外した。
【0109】
ヒト肺デヨージナーゼIII(D3)免疫組織化学検査
D3の検出のための免疫組織化学検査は、1次ウサギ抗デヨージナーゼ3抗体(1:100;Domenico Salvatore, M.D., Ph.D., University of Naples Federico II, Naples, Italyからの寄贈)、及びビオチン化ヤギ抗ウサギ2次抗体を使用し、続いてアビジンビオチン複合体(Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)を使用して行った。ジアミノベンジジン(DAB)を発色源として使用した。以下のプロトコールを使用した:キシレンでスライドからパラフィンを除去し、内因性ペルオキシダーゼ活性をメタノール中の0.3%過酸化水素で阻止した。スライドを再水和し、トリプシンで90℃で30分間処理した。冷却後、切片を、PBS+0.1%ツイーン20中の10%正常ヤギ血清で30分間ブロックした。抗D3抗体(1:100)を室温で1時間添加した後、PBSで洗浄し、2次ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG抗体と共に室温で60分間インキュベートした。アビジンビオチン複合体(Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)を組織と共に30分間インキュベートした後、所望の染色強度に達するまでジアミノベンジジンで発色させた。スライドをヘマトキシリンで1分間対比染色し、脱水し、観察した。すべての組織は、同じ露出時間で同じように処理された。光学顕微鏡(DMRB, Leica Microsystems GmbH, Wetzlar, Germany)を使用して、観察と写真撮影を行った。
【0110】
D3酵素活性
凍結肺組織試料を解凍し、0.1Mリン酸塩、及び10mMジチオスレイトールと0.25Mスクロースを含むpH6.9の1mM EDTAで超音波処理した。D3活性は、150μgの細胞タンパク質、200,000cpmの3,5-[125I]3’-トリヨードサイロニン(PerkinElmer, Inc., Waltham, MA)、1mMの6N-プロピルチオウラシル(PTU)、10mMジチオスレイトール(DTT)、及び前述のように各反応で0~500nMの非標識T3を使用してHPLCで測定した(Simonides et al., J Clin Invest 118:975-983; 2008)。メタノールを添加することによって反応を停止させ、脱ヨウ素化の生成物を、既に記載されているようにHPLCによって定量した(Richard et al., J Clin Endocrinol Metab 83:2868-2874; 1998)。D3速度は、1分あたりの超音波処理タンパク質1mgあたりの内環脱ヨウ素化T3のfmol(fmol/mg/分)として表された。速度がアッセイの検出限界を下回る試料は、最小検出可能活性(MDA)値0.05fmol/mg/分に設定された。MDAは、統計的にバックグラウンド活性を3標準偏差だけ超える値として計算された。
【0111】
肺の全組織T3測定
甲状腺ホルモンは、約0.5gの重さのヒト肺試料から、既に記載された方法(Excobare et al., Endocrinology 117:1890-1900; 1985)の修正を使用して抽出された。組織1グラムあたり1mMのPTU(メタノール-PTU)を含む4mLメタノール中で、組織を、ローター/ステーターホモジナイザーを使用して約30,000rpmで30秒間ホモジナイズした。個々の試料の回収率を評価するために、100μLの125I-T4トレーサー(メタノール-PTU中0.02pg/μL)を各試料に添加した。メタノール-PTUの2倍量のクロロホルムを添加し、試料をボルテックス混合した。混合物を2000rpmで15分間遠心分離し、上清液をきれいな50mL試験管に移した。残りのペレットは、組織1グラムあたり5mLのクロロホルム:メタノール(2:1)中でボルテックス混合し、2000rpmで15分間遠心分離して2回抽出し、上清を取り出して最初の抽出物と合わせた。合わせた抽出物に、抽出物5mLごとに1mLの0.05%CaCl2を加えた。混合物をボルテックス混合し、2000rpmで5分間遠心分離した。甲状腺ホルモンを含む上の水層をきれいな50mL試験管に移した。前の工程で取り出された上層の量に等しい量の純粋な上層(クロロホルム:メタノール:0.05%CaCl2、3:49:48)で、下の有機層をさらに2回再抽出した。合わせた抽出した上層をロータリーエバポレーションにかけて、残りのクロロホルムとメタノールを除去した。水性混合物をシェル凍結し、凍結乾燥により蒸発させることにより完全に乾燥させた。各凍結乾燥試料を500μLのストリップラット血清に溶解し、T3レベルを、血清総T3RIAアッセイキット(Siemens Medical Solutions Diagnostics; Los Angeles, CA)を使用して、既に記載されているように(Bastian et al., Endocrinology 151:4055-4065; 2010)測定した。
【0112】
統計解析
D3活性と組織T3レベルの統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後多重比較検定を使用して行った。統計解析とデータのグラフ化は、Prism(GraphPad Software, La Jolla, CA)ソフトウェアパッケージを使用して行った。データは平均±SEMとして表示される。有意差を定義するためにα=0.05が選択された。
【0113】
実施例2
試験計画
FDAに承認された治験薬(Investigative New Drug)(#126204)に記載されている最初のヒト臨床試験。試験薬の投与前24時間以内にインフォームドコンセントを得る。治療群(介入)と対照群(非介入)の両方について、試験プロトコールは時間0に開始し、6時間目のEVLWI/PVPI測定、12時間目のEVLWI/PVPI測定、24時間目のEVLWI/PVPI測定、48時間目のEVLWI/PVPI測定、72時間目のEVLWI/PVPI測定、96時間目のEVLWI/PVPI測定を行う。
【0114】
試験薬
ヒトARDS患者は、甲状腺ホルモンT3の合成形態であるリオチロニンナトリウム(T3)で治療される。リオチロニンナトリウムは、6.8%アルコール(容量)、0.175mg無水クエン酸、及び2.19mg水酸化アンモニウムの無菌非発熱性水溶液中に10μg(1mlのバイアル中10mcg/ml)のリオチロニンナトリウムを含む琥珀色のバイアルで提供される。点滴の前に、1.0N HCLを加えてリオチロニンナトリウムを中性pH(6-8)に調整し、次に適切に訓練された薬剤師が無菌条件下で0.9%生理食塩水(NS)で希釈する。
【0115】
リオチロニンナトリウムは、次のように投与用に配合される:5μg用量(0.5mlリオチロニンナトリウム+0.9%NSで総量10mlへ);10μg用量(1.0mlリオチロニンナトリウム+0.9%NSで総量10mlへ);25μg用量(2.5mlリオチロニンナトリウム+0.9%NSで総量10mlへ);50μg用量(5.0mlリオチロニンナトリウム+0.9%NSで総量10mlへ)。
【0116】
治療群(介入)
50人の患者が治療を受ける。登録とベースライン値の測定時に、患者は気道点滴により5μgのT3を投与される。患者は、有害作用及びEVLWIの変化について24時間追跡される。24時間後、有害作用が見られず、EVLWI及び/又はPVPIに変化がない場合、患者は気道点滴により2倍増量の10μgのT3を投与される。患者は、有害作用並びにEVLWI及び/又はPVPIの変化について24時間追跡される。最初のT3投与からt=48時間に、有害作用が見られず、EVLWIに変化がない場合、患者は気道点滴により2.5倍増量の25μgのT3を投与される。患者は、有害作用並びにEVLWI及び/又はPVPIの変化について24時間追跡される。最初のT3投与からt=72時間に、有害作用が見られず、EVLWIに変化がない場合、患者は気道点滴により2倍増量の50μgのT3を投与される。最終EVLWI及びPVPI測定は、最終T3投与の24時間後の96時間目(終了時点)に行われる。
【0117】
対照群(非介入)
対照群には18人の患者が含まれる。登録及びベースライン値の測定時に、対照患者は試験の介入を受けない。対照群は標準治療を受ける。EVLWI及びPVPIは、時間0(治療前)、6時間目、12時間目、24時間目、48時間目、72時間目、及び96時間目に測定される。
【0118】
1次試験のエンドポイント
試験プロトコールを開始する前、及びその後も連続して、点滴T3療法に対する気道の安全性と忍容性が評価される。被験者は、肺事象(例えば、進行性喀血;量≧30mlの血痰)、心臓事象(例えば、新たな持続性心室性不整脈(持続時間>30秒);低血圧の悪化を伴う新たな持続性加速接合部不整脈(速度>80bpm);低血圧の悪化を伴う急速な心室反応(心室拍数>160bpm)を伴う新たな持続性心房細動;又は心停止(不全収縮又は無脈性電気活動);及び/又は高血圧クリーゼ(収縮期>200、又は拡張期>120、又はMAPの変化>20mmHg)を含む複合的エンドポイントについて追跡される。
【0119】
2次試験のエンドポイント
ARDS患者のEVLWI及び/又はPVPIの減少に対する気道点滴T3の有効性を評価するために、EVLWI、PVPI、及び酸素化(動脈血ガス、ABG)を、治療群と対照群の両方の被験者で、ベースライン(T=0)から開始して、その6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、及び96時間後に測定する。追加の連続測定には、血圧(BP)、平均動脈圧(MAP)、中心静脈圧(CVP)、心係数(CI)、全身性血管抵抗指数(SVRI)、酸素飽和度O2satが含まれる。最後に血清遊離T3、遊離T4、及びTSHが各時間間隔で測定される。
【0120】
実施例3
試験システム
この試験は、雄と雌の両方のスプラーグドーレイ(Sprague-Dawley)ラット(Envigo, Huntingdon, United Kingdom)を使用して実施された。ヒトの臨床試験におけるリオチロニンナトリウム注射液点滴の気管内経路の安全性の評価は、適切な用量レベルでこの種で達成できる。さらに、ラットの甲状腺ホルモンに対する反応は、ヒトの反応と同様であり、ラットモデルの選択は、甲状腺ホルモン及び関連する受容体の試験からの薬理学的データと、ラットの肺における生理学的反応に大きく基づいている。ミネソタ大学は、国際実験動物ケア評価認証協会(Association for the Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care, International (AAALAC))の認定を受けており、実験動物で研究を行うために米国農務省に登録されている。動物試験は、NIHガイドライン(実験動物の管理と使用に関するガイドライン(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、NIH発行番号86-23、1985年改訂)に準拠した。プロトコールは、ミネソタ大学の施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee:IACUC)によって審査され、規制を順守しており適切であるとして認可され、試験が開始されたか又は修正作業が行われた。
【0121】
毒性試験計画の要約
試験計画の詳細を表1に示す。60匹の動物(及び2匹の予備動物/性別/群)に麻酔をかけ、5日間連続して試験物質又は対照物質を気管内点滴により投与した。最後の投与の翌日、臨床病理検査のために最終採血を実施し、その後、動物を安楽死させ、委員会認定の獣医病理学者によって、すべての臓器の肉眼的観察が実施された。組織病理学検査のために選択した組織を採取した。毒物動態学(TK)期の24匹の動物に麻酔をして、T3を1回の気管内点滴により投与した。毒物動態学評価のために、動物1匹当たり、投与後最大24時間までの2つの指定された時点で、最終採血を行った。TK動物は、最終的な採血後、さらに評価することなく安楽死させた。すべての動物は、投与操作の前に最低7日間順応させた。動物は、試験の開始前にベースラインの観察と検査を受け、臨床観察と体重のモニタリングは、試験の実施期間を通して行われた。すべての動物は、同じ量(0.3mL)の試験物質又は対照物質を投与された。この最大実行可能用量(MFD)は、体重250g~350gのラットの肺に安全かつ再現可能に(5日間以上)点滴できる最大容量によって制限され、これは、予備的な毒性試験で0.3mLであると決定された。送達される実際の用量は、μg/kg体重及びμg/g湿潤肺重量の両方として報告される。毒性期の動物は、最初の投与時に72~135日齢であった。雄の体重は256.52g~307.50gで、平均±標準偏差は286.74±11.77gであり、雌の体重は250.46g~299.01gで、平均±標準偏差は260.64±10.34gであった。TK期の動物は、初回投与時に68~144日齢であった。雄の体重は261.23g~316.19gで、雌の体重は250.06g~280.32gであった。
【表2】
F=雌、M=雄、NA=該当せず
a 予備の使用 - 各群の動物と共に各性別/毒性群の2匹の予備動物に投与し、同様の時間枠内で交換できるようにした。試験材料に関連しない問題による初期死亡を経験したため、第2群の追加の2匹の雌に投与された。予備の動物は、最終的な臨床病理学検査及び肉眼的剖検評価を受けた。
b 予備の使用 -4匹の追加の未使用の予備は、試験責任者の指示で研究からはずされた。
【0122】
試験物質及び対照物質
この試験に使用されたT3は、1.0mLの琥珀色のガラス製バイアルに入った1.0mL中10μgの濃度のリオチロニンナトリウム注射液(X-GEN Pharmaceuticals, Inc., Horseheads, NY)である。リオチロニンナトリウム注射液の各1mLには、無菌の非発熱性USPグレードの水に、10μgのリオチロニン(T3)に相当するリオチロニンナトリウム、6.8容量%のアルコール、0.175mgの無水クエン酸、及び2.19mgのアンモニア(水酸化アンモニウムとして)が含まれている。予備試験では、市販されているリオチロニンナトリウムのpHが10.0を超えると、ラットは気管内点滴に耐えられないことが判明した。従って、リオチロニンナトリウムとビヒクルは、バイオセーフティキャビネットに無菌的に加えられた無菌1.0N HCl(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)で中性pH(6.0~8.0)に調整した後、動物への気管内点滴を行った。無菌技術を使用して、リオチロニンナトリウムのバイアルを開け、全内容物を無菌の1.5mLエッペンドルフチューブに移した。80~90μLの1.0N HClをチューブに加え、穏やかにボルテックス混合し、pH試験紙(pH4.5~10.0、Ricca Chemical Co., Arlington, TX)を使用してpHを測定した。pHが所望の範囲になるまで、必要に応じて追加のHClを徐々に滴定した。1.0N HClでpHを中性に調整した後、体積は約10%増加し、リオチロニンナトリウムの最終濃度は約2.73μgT3/300μL(9.17μg/ml)になる。この溶液は4℃で保存され、pH調整操作後最大26時間まで使用された。
【0123】
ビヒクル対照溶液は、無菌の非発熱性USPグレードの水(USP/EP Purified, Ricca Chemical Co., Arlington, TX)で調製され、溶液1mLあたり6.8容量%のエタノール(Decon Laboratories, Inc., King of Prussia, PA)、0.175mgの無水クエン酸(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)、及び2.19mgのアンモニア(J.T. Baker Chemical Co., Avantor Performance Materials LLC, Radnor, PA、強アンモニア溶液、27.0~30.0%、N.F.-F.C.C.)を含有した。上記のように、ビヒクルも1.0N HClで中性pH(6.0~8.0)に調整した。無菌技術を使用して、ビヒクルをフィルター滅菌し、21本の滅菌使い捨て試験管(各5mL)に分注して4℃で保存し、使用日ごとに新しい試験管を開けた。通常の生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液USP、B. Braun Medical, Inc., Bethlehem, PA)は室温で保存された。使用日ごとに新しいパッケージが開封された。
【0124】
動物の生活ケア
到着後、訓練を受けたスタッフが動物を視覚的に検査し、体重を計り、数を数え、性別を判断し、適切に収容ボックスに分けた。各動物は、個々の識別子を含む金属製の耳タグを取り付けられた後に、投薬された。動物は、AAALAC認定の檻に衛生的な状態で収容され、強さと仲間つきあいがよくなるように社会的に収容された。収容エリアの温度と湿度は、少なくとも1日1回追跡された。動物は、少なくとも7日間順応させた後に、投与が開始された。この期間中、予備調整を行って、動物を計量、検査、及び投与操作中に経験する取り扱いに順応させた。すべての動物には、食物(TEKLAD, Envigo, Huntingdon, United Kingdom)と飲料用の水道水が自由に与えられた。処置のために動物を絶食させることはなかった。試験期間を通して、獣医によるケアが利用可能であった。動物の活動、外観、食物と水の摂取量、死亡率/瀕死率、及びその他のエンドポイント(表2)を含む一般的な健康状態に関する観察が行われ、試験への登録時から訓練を受けた技術者による安楽死まで少なくとも1日1回記録された。獣医師は、活動又は外観の異常について知らされた。観察、健康上の懸念、又は治療に関する偏りを防ぐために、獣医及び一般的な動物ケア担当者は、投与群の分布について知らされなかった。
【表3】
【0125】
投与操作
無菌技術を使用して、試験物質及び対照物質を投与シリンジに引き込んだ。18G針を使用して、0.5mLの空気を1ccのシリンジに引き込み、続いて0.3mL(300μL)の溶液を引き込んだ。動物は、ケタミン40mg/kg~200mg/kgとキシラジン1mg/kg~7mg/kgの組み合わせを腹腔内(IP)投与して麻酔をかけた。投与量は、個々の動物の応答と回復に基づいて、必要に応じて毎日調整した。麻酔の深さはつま先のピンチで評価し、目に潤滑剤を塗布した。傾斜して立っているスタンドを使用して、動物の前切歯で、スタンドの上部にある柔らかい非ラテックスゴムバンドから動物を吊るすことにより、投与操作中に動物を所望の位置に支持した。先の鈍い胃管栄養針を使用して最大20μLの2%リドカインを喉の奥に局所適用した後、気管カテーテルを挿管して、喉頭けいれんを最小限に抑え、気管への配置を容易にした。リドカインが効果を発揮している間、動物をスタンドから外し、腹臥位に置いた。
【0126】
リドカインが効果を発揮するのに十分な時間を与えた後、動物を再び装置に吊るし、まず、喉に向けられた外部光源の助けを借りて、口腔を介して咽喉部を視覚化して、カテーテル(INTRAMEDIC、内径1.19mm、外径1.70mm、Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を気管に挿入した。先の鈍い鉗子と水で湿らせたガーゼで舌を脇に保持すると、気道の視覚化するのに有用であった。カテーテルを、主気管支の分岐点から約1.0cm手前の所定の深さまで気管内に進めた(気管及び気管支を露出させた動物の死体で測定された)。気道へのカテーテルの配置は、カテーテルの開口部に配置された歯科用ミラーの曇りによって確認された。次に、投与シリンジの針をカテーテルに挿入し、試験物質と空気のボーラスを1~2秒間隔で急速に送達した。試験物質の後に投与された空気ボーラスは、下気道への液体の投与を促進し、色素溶液を使用した予備実験で確認されたように、液体が気管又は主気管支に保持されないことが保証された。気管カテーテルを気道から取り外し、動物を支持装置から静かに取り外した。動物は、点滴後少なくとも2分間、胸部を上げて加温パッド上に腹臥位で置かれた。2分後、動物は、完全に回復するまで加熱パッドの上に平らに置かれた。
【0127】
終末安楽死の方法
臨床病理学(血液学及び生化学)検査のための採血
最終(5回目)の気管内投与の1日後に、臨床病理学検査のために毒性期の動物から血液試料を採取した。必要に応じてノーズコーンを介する吸入麻酔により、イソフルラン2~5%及び酸素1~1.5L/分で動物を麻酔した。血液学検査用に、0.5mL以上の全血を眼窩洞経由で、プレーン又はコーティングされたマイクロヘマトクリット毛細管を介して、さらに30μLの2%EDTA溶液(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を含むK
2EDTA採血管(BD Biosciences, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)に採取し、同日の分析まで4℃に保持した。血清化学検査のために、≧0.75mLの全血を眼窩洞経由で、コーティングされていない毛細管を介して、赤い上部の血清マイクロチューブ(Sarstedt AG & Co. KG, Numbrecht, Germany)に採取した。血清を採取するために、チューブを採血後30~60分間室温で維持し、10,000×gで4℃で5分間遠心分離した。得られた血清を分離し、分析を翌日に行う場合は-70℃以下で保存し、当日分析を行う場合は4℃で保存した。すべての試料は、分析のためにミネソタ大学獣医医療センター(Veterinary Medical Center:VMC)の臨床病理学研究室に送られた。血液学検査について評価されたパラメーターを表3に示す。臨床化学検査について評価されたパラメーターを表4に示す。採血後、動物を≧86mg/kgIPのユーサゾル(EUTHASOL)(Virbac Corp., Fort Worth, TX)で安楽死させ、次に剖検を行った。臨床病理値の評価は、ミネソタ大学の Jill Schappa Faustich, DVM, DACVP によって実施された。
【表4】
【表5】
【0128】
毒物動態学(TK)
採血
毒物動態学実験のために、ラットは、ケタミン40mg/kg~200mg/kgとキシラジン1mg/kg~7mg/kgの組み合わせの腹腔内(IP)投与で麻酔して、投与操作を行い、既に記載されているようにリオチロニンナトリウム注射液を気管内投与した。TK試料採取プロトコールの詳細を表5及び表6に示す。投与と1回目又は2回目の採血時点までの時間に応じて、動物は注入可能な麻酔薬で麻酔をかけたまま採血するか、又は回復した場合は、必要に応じて、イソフルラン2~5%と酸素1~1.5L/分でノーズコーンを介して吸入麻酔で麻酔して(つま先のピンチで評価)、適切な麻酔深度を維持した。局所プロパリカイン麻酔点眼液を各眼に適用した後、1回目の採血をい、効果が現れるまで待った。TK分析のための血清試料の採取は、上記の血清化学試料について説明したとおりであり、試料はアッセイするまで≦-70℃以下で保存された。動物は、最終的な採血後に、ユーサゾル(EUTHASOL)(Virbac Corp., Fort Worth, TX)≧86mg/kgIPで安楽死させた。
【表6】
【表7】
【0129】
生物分析操作
血清T3レベルの評価のために、試料は分析のためにミネソタ州フェアビュー大学メディカルセンターイーストバンク診断研究所(Fairview University of Minnesota Medical Center East Bank Diagnostic Laboratory)(CLIA及びCAPによって認定された臨床検査室)に送られた。血清試料を分析ラボに送る前に、各試料を通常の(0.9%)生理食塩水で1:4又は1:8に希釈した。予備試験で決定されたこれらの希釈により、試料の総T3濃度がアッセイ範囲(10pg/mL~460pg/mL)内に収まることが保証された。試料は、総トリヨードサイロニン(T3)の化学発光アッセイによって分析された。
【0130】
TK分析
毒物動態学パラメーターは、Phoenix 64 WinNonlin 薬物動態ソフトウェアバージョン7.0(Pharsight Corp., Mountain View, CA)を使用して推定された。パラメーターの推定には、投与経路と一致する非コンパートメント(NCA)アプローチが使用された。すべてのパラメーター(表7)は、特に明記しない限り、すべての時点からの血清中の平均T3濃度から生成された。可能な限り、平均濃度は3つの動物/性別/時点から得られた。パラメーターは、各用量投与の開始に対するサンプリング時間を使用して推定された。生データは、pg/dl値を100で割り、その試料の希釈係数4又は8を掛けることにより、血清のng/mlに変換された。定量限界未満の値は0として計算された。
【表8】
【0131】
マトリックス濃度データの算術平均及び標準偏差の計算は、レポート目的でエクセル(Microsoft, Corp., Redmond, WA)で実行/複製された。平均濃度対時間曲線からのパラメーター推定値に加えて、用量群、日、及び性別(適宜)ごとのAUC(0-t)及びCmaxの標準誤差を、WINNONLIN(Cetara USA, Inc., Princeton, NJ)を使用して作成した。
【0132】
Cmax及びTmaxは、データの検査によって得られた。時間ゼロで観察された濃度に基づいて、測定可能な内因性化合物が存在するため、ベースライン減算が実行された。平均濃度データを使用して、雄と雌の動物の残っている濃度から時間ゼロの濃度を差し引いた。ベースラインを差し引いた濃度の曲線下面積(AUC)は、線形台形則を使用して計算された。雄と雌の両方の動物の24時間濃度がほぼベースライン(投与前)濃度に戻ったため、これらの観察結果はAUCと半減期の計算では無視された。最終消失半減期は、2時間、4時間、及び6時間での最後の3つの観察から計算された。WINNONLIN NCAは、濃度の対数に対して線形回帰を実行する。均一な重み付けスキームが選択された。対数線形プロフィールの一部であるように見えても、2つの観察のみに基づいて半減期を提供しなくても、NCAのデフォルトの回帰アルゴリズムは、半減期の計算にCmaxを使用しない。雄動物のデフォルトの回帰が使用された。ただし、雌動物については、2時間後の濃度もCmax値であった。これは、3つの濃度すべての回帰直線(調整済みR2乗=1.0)に収まるように見えたため、半減期の計算に含めた。パラメーターは、評価者の裁量で適切に評価された。結果は個々の値として提供され、可能な場合は適切な群ごとに、エクセル(Microsoft, Corp., Redmond, WA)及びWINNONLIN(Cetara USA, Inc., Princeton, NJ)を使用して平均値と標準誤差のグラフ化を含む。
【0133】
剖検方法
肉眼的所見
予定された終了時に安楽死されたか、又は予定された終了時前に死亡していることが見つかったか又は安楽死された毒性期の動物は、委員会認定の獣医病理学者によって実施される広範な剖検を受けた。剖検には、動物の死体と筋骨格系、外面とそのすべての開口部、及び頸部、胸部、腹部、骨盤領域、空洞、及び内容物の検査が含まれた。末端眼窩採血法のため、眼は検査しなかった。
【0134】
組織病理
組織病理的変化についてこの試験で評価された主要な標的組織には、肺、気管-気管支分岐点、及び気管気管支リンパ節が含まれた。上記のすべての標的組織を含む無傷の心-肺臓器が、無傷の動物から取り出された。心-肺臓器の重量を測定し、写真を撮った後、10%中性緩衝化ホルマリン(NBF)で気管を介して肺を灌流膨張させた。膨張のために、10%NBFのリザーバーに接続された18gのバタフライカテーテルを気管に挿入し、肺を約20~25cmの一定圧力で2分間膨張させた後、気管を縫合糸で結び、固定中の肺の膨張を維持した。次に、心肺臓器全体を10%NBFに浸漬固定した。組織検査のためにさらに処理する前に、心臓、気管、及びその他の接着組織を肺から除去し、重量を測定した。この重量は、剖検時に採取された心-肺臓器の重量から差し引かれると、その後の実際の投与量の計算に使用される湿潤肺の重量を提供した。脳、心臓、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、及び副腎を含む非標的組織の肉眼的病変を評価した。非標的臓器は全体を採取し(代表的な標本が右葉前葉から採取された肝臓を除く)、可能性のある将来の分析のために10%NBFに保存された。組織学的処理と評価は、独立した評価者によって行われた(Alizee Pathology, LLC, Thurmont, MD)。
【0135】
用量管理
すべての用量は、5日間連続して毎日安全かつ再現可能に送達できる最大量で気管内点滴により投与された。この量は、予備試験では体重250~350gのラットに対して0.3mL(300μl)であると決定された。LRT633(T3ビヒクル群)への用量3投与中に、20~50μlのビヒクル対照物質が投与シリンジの上部から出てくる1つの例を除いて、材料の投与による明らかな問題はなかった。
【0136】
投与の初日(1日目)の体重及び計算された湿潤肺の重量に基づいて投与されたT3の計算された用量を表8に詳述する。
【表9】
【0137】
毒物動態学(TK)
リオチロニンナトリウム(T3)は、提出されたすべての試料で正常に定量された。報告されたすべての値は、アッセイの定量限界内であった(10pg/mL~460pg/mL)。
測定可能な値を表9に列挙し、
図5にグラフ化する(平均±標準誤差)。TK分析は、単回T3用量を投与された24匹の動物すべての希釈試料について行った(表10)。
【表10】
【表11】
【0138】
実施例4
細胞培養と高酸素曝露
成体ラットAT2細胞株RLE-6TN(ATCC, Manassas, VA)を、10%FBSを含むDMEM/F12培地で95%空気、5%CO2環境で、約50%コンフルエンスに達するまで培養し、次に細胞を、2%ストリップFBSを含むDMEM/F12中のT3の存在下又は非存在下で、95%O2、5%CO2に、指定された期間曝露した。高酸素曝露期間の終わりに、トリパンブルー色素排除によって生存細胞を数えた。
【0139】
核の抽出
核は、製造元の説明書に従って、NE-PER核及び細胞質抽出試薬キット(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を用いて抽出された。
【0140】
細胞溶解とウエスタンブロット
細胞は、20mMトリス塩酸(pH7.5)、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、プロテアーゼ阻害剤(1mM PMSF、2μg/mlペプスタチン、及びそれぞれ10μg/mlのアプロチニンとロイペプチン)を有する1%(容量/容量)トリトンX-100、及びホスファターゼ阻害剤(2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mM β-グリセロリン酸、及び1mM Na3VO4)を含む溶解緩衝液中で溶解させた。溶解物を、氷上で25ゲージの針を通して10回吸引してさらに溶解させた後、13,000rpmで4℃で15分間遠心分離した。上清を採取し、タンパク質濃度をBCAタンパク質アッセイキット(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を使用して測定した。この工程の直後に、等量のタンパク質をウェスタンブロッティング分析にかけた。
【0141】
核の抽出
核は、製造元の説明書に従って、NE-PER核及び細胞質抽出試薬キット(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を用いて抽出した。
【0142】
統計
他に明記されない限り、すべてのデータは、少なくとも3回以上の独立した実験の平均値±SDとして表される。ほとんどの実験において、実験内の個々のデータポイントは、少なくとも2つの重複の平均を表す。3つ以上の群を含む比較は、ANOVA及び事後の対になった比較によって分析された。平均間の差は、P<0.05で有意と見なされた。
【0143】
実施例5
実験計画
動物治療のためのすべての実験プロトコールは、ミネソタ大学の施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。生理食塩水又はT3のいずれかを腹腔内(ip)注射された特定病原菌を含まない(SPF)成体雄スプラーグドーレイラット(250g~300g)を、チャンバー内で食物と水へのアクセスを自由にして、標準圧高酸素(FIO
2>95%、5LPM)に、室温で48時間又は60時間曝露して、肺の炎症と損傷を誘発した。室内空気対照ラットは、大学の動物飼育施設で飼育した。表11にまとめた2つのプロトコールに詳述されている用量と時点で、ラットにT3又は生理食塩水を腹腔内注射した。高酸素曝露の最後に、ラットをペントバルビタールの腹腔内注射により殺処分し、肺を採取した。右葉は、組織病理検査、肺組織のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性、及び湿潤対乾燥重量比の測定に割り当てられた。左葉は気管支肺胞洗浄(BAL)を受け、BALタンパク質濃度と示差的細胞数を測定した。
【表12】
【0144】
湿潤-乾燥重量比
右肺の一部を PBSで簡単にすすぎ、水分を吸い取り、次に重量を量って「湿重量」を得た。次に肺を80℃のオーブンで7日間乾燥させて「乾燥」重量を得た。
【0145】
肺洗浄分析
左肺の気管支肺胞洗浄(BAL)は、既に記載された方法(Pace et al., Exp Lung Res 35:380-398, 2009)の修正を使用して実行された。簡単に説明すると、4mlの氷冷した1×PBS(pH7.4)を左肺に注入し、取り出し、2回続けて再注入した後、洗浄液を分析した。採取したBAL液を1500rpmで10分間遠心分離して、細胞及び破片を取り出した。細胞ペレットを1mlの1×PBS(pH7.4)に再懸濁し、血球計を用いて総細胞数を計数した。Hema3染色キット(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を使用してBALサイトスピン調製物を染色して、有核細胞を同定した。タンパク質濃度は、標準的なBCAアッセイ(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を使用して、BAL液の上清で決定された。
【0146】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイ
肺における好中球活性を定量するために、既に記載されたようにMPO活性をアッセイした(Abraham et al., J Immunol 165:2950-2954, 2000)。事前の洗浄なしで肺組織を液体窒素で凍結し、重量を測定し、-86℃で保存した。肺を1.5mlの20mMリン酸カリウム、pH7.4で30秒間ホモジナイズし、4℃、40,000×gで30分間遠心分離した。ペレットを、0.5%臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを含む1.5mlの50mMリン酸カリウム、pH6.0に再懸濁し、90秒間超音波処理し、60℃で2時間インキュベートし、14,000rpm、4℃で30分間遠心分離した。上清を、肺重量に補正されたペルオキシダーゼ活性についてアッセイした。MPOは、肺組織1グラムあたりの活性として表された。
【0147】
組織化学
肺組織を取り出し、4%パラホルムアルデヒド中で20cm水圧で膨張固定し、パラフィン包埋し、5ミクロンの切片として切断し、ポリ-L-リジンスライドにマウントした。切片をキシレン中で脱パラフィンし、メタノール中の段階的アルコール系列で再水和し、抗原採取のためにクエン酸緩衝液(pH6.0)中で98℃水浴に30分間入れた。PBS中の0.3%過酸化水素でクエンチした後、切片を正常血清中でアビジン/ビオチンブロッキングキット(Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)と共に、各30分間と15分間インキュベートした。ミエロペルオキシダーゼAb-1(Thermo Fisher Scientific, Inc., Fremont, CA)と共に4℃で一晩インキュベーションした後、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG(1:500)及びRTUストレプトアビジン(Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)を30分間連続して適用し、3,3’-ジアミノベンジジンをペルオキシダーゼ基質として使用した。切片をヘマトキシリンで対比染色した。画像解析と写真撮影には、Leica Leitz DMRB顕微鏡を使用した。
【0148】
血清T3測定
60時間の高酸素状態の終了時に血液試料を採取し、13,000rpm、4℃で30分間遠心分離した。上清は-20℃で保存した。血清総T3濃度は、市販のRIAキット(Siemens Medical Solutions Diagnostics, Los Angeles, CA)を用いて、既に記載されたように測定した(Bastian et al., Endocrinology 151:4055-4065, 2010)。
【0149】
統計解析
値は、少なくとも3回の実験の平均値±SDとして表された。3つ以上の群を含む比較は、ANOVA及び事後の対になった比較によって分析された。平均値間の差は、p<0.05で有意と見なされ、比較の数について整された。
【0150】
実施例6
挿管されたARDS患者のT3局所肺治療の合同第I/II相試験は、非臨床試験実施基準の毒性学及び薬物動態学及び薬力学研究(FDA IND126204)の後にFDAによって承認された。10ミリリットル(ml)の製剤化され、pH調整された市販の静脈内T3溶液(Par Pharmaceutical, Navi Mumbai, India; 及び XGen Pharmaceuticals DJB, Inc., Horseheads, NY)を、挿管されたARDS患者の気管内チューブの吸引カテーテルを介して肺胞腔に直接点滴した。1回の投与あたり最大50マイクログラムのT3用量を、4日間毎日投与した。この試験は、Essentia IRB (Duluth, MN)によって承認され、ClinicalTrials.gov (NCT04115514)に掲載された。
【0151】
患者1
67歳の男性は、高血圧と閉塞性睡眠時無呼吸の病歴があった。彼は、フロリダでのキャンプ旅行で、乾いた咳、息切れ、及び発熱が5日間にわたって進行した後、ミネソタ州北部に戻った.救急科(ED)では、彼は低酸素血症と微熱(38.6℃)があり、胸部画像では両側に斑状の陰影があり、呼吸困難のために挿管された。入院検査室は、正常な好中球数、絶対リンパ球減少症で、C反応性タンパク質、フェリチン、及びDダイマーレベルの上昇が目立った。彼はCOVID-19とライノウイルスの両方が陽性であった。
【0152】
圧力解放容量制御換気モード(PRVC)の人工呼吸器の初期設定は、1回換気量6ml/kg、静圧25cmH2O、FiO2 100%、16cm H2O PEEPで、P/F比160であった。彼は、最初の数日間は、肺保護換気方法、腹臥位、麻痺、吸入エポプロステノール、保存的輸液療法、及び経験的広域抗生物質とアジスロマイシン及びヒドロキシクロロキンで治療された。
【0153】
3日目に、彼は、まず気管内チューブの吸引カテーテルを介して点滴されたT3(50マイクログラム)の1日4回の投与を受けた。その後の投与は、4、6、及び7日目に行われた。5日目の投与は、新たに調製された再配合T3溶液をミネソタ州ミネアポリスからミネソタ州ダルースに運ぶのに技術的な問題が逢ったために延期された。喀痰培養がクレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes)陽性であったにもかかわらず、彼は11日目に人工呼吸器から抜管された。ICUから出た後、彼は軽い意識障害と譫妄があった。彼は退院し、室内空気の自宅に戻り、T3治療が開始されてから30日目のフォローアップで無症候性であり、肺の聴診はクリアであり、60日目に肺機能検査(PFT)は完全で胸部レントゲン写真は正常であった.
【0154】
患者2
51歳の男性は、高血圧、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満(BMI 46kg/m2)の病歴があり、非喫煙者であった。彼は、10日間の進行性の乾いた咳、鼻漏、喉の痛み、息切れ、及び発熱を示した.入院時、彼は微熱(38.6℃)で、かすかな粗い呼吸音、両側の斑状の胸部レントゲン写真の混濁、COVID-19検査陽性、白血球数10.6、並びにC反応性タンパク質、フェリチン、LDH、Dダイマー、フィブリノゲン、及びクレアチンキナーゼの上昇を伴っていた。
【0155】
彼は急いで挿管され、PRVCモード、FiO2 100%、PEEP 15、一回換気量7ml/kg理想体重、静圧28cmH2Oで、PaO2/FiO2比が60で換気された。彼はまた、肺の保護的換気、腹臥位、麻痺、吸入エポプロステノール、保存的輸液療法、ヒドロキシクロロキン、トシリズマブ、デキサメタゾン、セファゾリン、メロペネム、経験的ミカファンギンで治療された。喀痰培養では、メチシリン感受性の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とセラチア菌(Serratia marcescens)が増殖した。急性腎障害は、1日目から血液透析で治療された。体外膜酸素化治療のためのミネソタ大学の急性呼吸不全プログラム(University of Minnesota Acute Respiratory Failure program)への転院の可能性が請求されたが、肥満と彼が輸送を乗り切ることができないという懸念のために実現しなかった.
【0156】
人工呼吸器で3日目に、彼は、T3の点滴用量が1日に4回増量(5μg、10μg、25μg、及び50μg)する最初の気管内投与を受けた。投与量は患者1とは異なり、FDAは第I相で1日あたり50μgの投与を既に承認していたが、Essentia IRBが、患者2に対して当初計画された用量漸増プロトコールに従うように要求した。患者は、各点滴に耐え、明らかな有害な副作用はなかった。
【0157】
患者の以前悪化していた酸素化は4日間の治療で安定し、人工呼吸器は20日目に抜管され、その後、酸素補給なしで医療フロアに移動した。短いリハビリ入院の後、彼は退院し自宅に戻り、60日目の診療所のフォローアップでは、彼は肺検査が正常で、胸部レントゲン写真、及びPFTで無症候性であった。
【0158】
本明細書に引用されたすべての特許、特許出願、出版物、及び電子的に入手可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeqのヌクレオチド配列の提出、及びSwissProt、PIR、PRF、PDBのアミノ酸配列の提出、及びGenBank及びRefSeqの注釈付きコード領域からの翻訳)の完全な開示は、参照によりその全体が組み込まれる。本出願の開示と参照により本明細書に組み込まれる任意の文書の開示との間に矛盾が存在する場合、本出願の開示が支配するものとする。上記の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためだけに与えられたものである。そこから不必要な制限は理解されるべきではない。本発明は、示され記載された正確な詳細に限定されず、当業者に明らかな変更態様は、特許請求の範囲によって定義される本発明内に含まれる。
【0159】
別段の指示がない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量などを表すすべての数字は、すべての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。従って、別段の断りがない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載の数値パラメーターは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に均等論を限定する試みとしてではなく、各数値パラメーターは、少なくとも報告された有効桁数に照らして、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0160】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示す数値は可能な限り正確に報告されている。ただし、すべての数値には、それぞれの試験測定で検出された標準偏差から必然的に生じる範囲が本質的に含まれている。
【0161】
すべての見出しは読者の便宜のためのものであり、特に明記されていない限り、見出しに続くテキストの意味を制限するために使用されるべきではない。
【国際調査報告】