IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイクール セラピューティクス,インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-520775医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法
<>
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図1
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図2
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図3
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図4A
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図4B
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図5
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図6
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図7
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図8
  • 特表-医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-19
(54)【発明の名称】医療用アイススラリーを使用して眼の表面の不快さの症状を緩和する方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20230512BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230512BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
A61F9/007 170
A61P27/02
A61K47/10
A61K33/00
A61K9/107
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558188
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 US2021024514
(87)【国際公開番号】W WO2021195582
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】63/000,922
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522376438
【氏名又は名称】アイクール セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】ステファター,ジェームズ アンソニー,ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】ストリエフスキー,トマシュ パウエル
(72)【発明者】
【氏名】サビール,サミール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD38
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA30
4C086MA22
4C086MA58
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA33
(57)【要約】
眼の表面の不快さの症状を緩和する方法が本明細書に開示され、該方法は:コールドスラリーを、患者の眼の角膜輪部に隣接して局所適用する工程を含み、ここでコールドスラリーは、水および凝固点抑制薬を含み、コールドスラリーの局所適用は、ある期間の眼の角膜のある程度の麻痺を引き起こすように構成され、眼の眼性感覚は、ある期間の後に回復される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドスラリーを、患者の眼の角膜輪部に隣接して局所的に適用する工程を含む、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法であって、
コールドスラリーが、水および凝固点抑制薬を含み、
コールドスラリーの局所適用が、ある期間眼の角膜のある程度の麻痺を引き起こすように構成され、
眼の眼性感覚が、ある期間の後に回復される、
方法。
【請求項2】
コールドスラリーが角膜輪部の後方に適用される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ある期間が、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所的に適用することなしで、約7日よりも長い、請求項1記載の方法。
【請求項4】
凝固点抑制薬がグリセロールである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
眼の眼性感覚が、コールドスラリーの局所適用後の約21日後に回復される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者の眼の強膜が、コールドスラリーの局所適用の間に約-6℃~約4℃の温度に冷却される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
コールドスラリーが、約5分~約15分間局所的に適用される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
コールドスラリーのさらなる量が、約90秒ごとに再度局所的に適用される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
コールドスラリーを局所的に適用する前に、患者の眼にコンタクトレンズを配置する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
コールドスラリーがペーストコンシステンシーであるように構成される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
患者の眼の角膜上に保護カバーを配置する工程;および
コールドスラリーを、患者の眼の眼球結膜に局所的に適用する工程を含む、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法であって、
コールドスラリーの局所適用が、患者の眼の疼痛の延長された低減を引き起こし、
患者の眼の角膜の部分的な感覚が、疼痛の延長された低減の間に維持される、
方法。
【請求項12】
コールドスラリーが、角膜輪部の後方に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
コールドスラリーが、保護カバーの上に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
疼痛の延長された低減が、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所適用することなしで、約7日より長く持続する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
疼痛の延長された低減が、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所的に適用することなしで、約14日より長く持続する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該症状が、眼乾燥症候群または角膜体性感覚機能不全のためのものである、請求項11記載の方法。
【請求項17】
患者の眼の強膜が、コールドスラリーの局所適用の間に約-6℃~約4℃の温度まで冷却される、請求項11記載の方法。
【請求項18】
保護カバーがコンタクトレンズであり、コンタクトレンズが眼の角膜の凍結を防ぐ、請求項11記載の方法。
【請求項19】
コールドスラリーを患者の眼に投与する工程を含む、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法であって、
コールドスラリーが水およびある割合の氷粒子を含み、
コールドスラリーの投与が延長された眼の知覚減退を引き起こし、
眼の眼性感覚が、延長された知覚減退の後に回復され、
コールドスラリーの投与が、眼の角膜に永続的な損傷を引き起こさない、
方法。
【請求項20】
眼乾燥症候群、慢性の眼の疼痛、術後の疼痛、光学的角膜屈折矯正手術後の疼痛、LASIK後の疼痛、白内障外科手術後の疼痛、および開放性損傷(open globe injury)修復後の疼痛、角膜損傷後、角膜体性感覚機能不全、異痛、および急性の損傷からの疼痛からなる群より選択される状態を治療する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
コールドスラリーが注射により投与される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
コールドスラリーが結膜下空間に注射される、請求項19記載の方法。
【請求項23】
コールドスラリーが局所適用を介して投与される、請求項19記載の方法。
【請求項24】
氷粒子の割合が約20%~40%である、請求項19記載の方法。
【請求項25】
コールドスラリーの温度が約-20℃~約-5℃である、請求項19記載の方法。
【請求項26】
コールドスラリーを、患者の眼の眼性表面上またはその近位に局所的に適用する工程を含む、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法であって、
コールドスラリーの局所適用が、眼の角膜の延長された知覚減退を引き起こし、
眼の眼性感覚が、延長された知覚減退の後に回復され、
コールドスラリーの局所適用が、眼の角膜に永続的な障害を引き起こさない、
方法。
【請求項27】
コールドスラリーが、角膜輪部の近位に適用される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
延長された知覚減退が、コールドスラリーの局所適用の単一治療の後、約1日より長く持続する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
眼の眼性感覚が、コールドスラリーの局所適用後の約30日までに回復される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
コールドスラリーが約5分~約15分の間、局所的に適用される、請求項26記載の方法。
【請求項31】
コールドスラリーを局所的に適用する前に、患者の眼にコンタクトレンズを配置する工程をさらに含む方法であって、コンタクトレンズが眼の角膜の凍結を防ぐ、請求項26記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は一般的に、コールドスラリーなどの生体材料を作製および投与するための装置、系および方法に関する。より具体的に、本発明は、コールドスラリーを被験体に投与して、安全かつ有効な様式で眼性知覚減退を引き起こすことにより眼の表面の不快さを治療するための系および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
眼の角膜は、水平に約11~12mmおよび垂直に9~11mmの寸法の透明な無血管の組織である。Sridhar, M. S., Anatomy of cornea and ocular surface. Indian Journal of Ophthalmology, 66(2), 190-194 (February 2018)。これは、眼の最も外側の表面に配置され、光が進入する場合に光を屈折させるために瞳孔および虹彩の前面に位置する。
【0003】
角膜に対する神経支配は脳幹で始まり、ここで大きな知覚根が橋から分岐して、髄質の側方部分に位置する三叉神経脊髄路核尾側亜核(trigeminal nucleus caudalis)に取り付けられる。そこから、三叉神経は、3つの区分に分かれ、その1つは眼の区分である。この根は、さらに3つの枝に分かれ、1つの伸長対は、鼻毛様体神経と称される。この純粋な感覚神経は、眼窩腔の上部に沿って移動し、角膜へのより小さな枝に寄与する。この神経由来の2種類の区分は、短毛様体神経および長毛様体神経と称される。短毛様体神経は、知覚根を通過して、毛様体神経節まで進み、次いで核から出て強膜を貫通し、脈絡外隙に進入し、ここでそれらは角膜へと移動し得る。Belmonte, C., Tervo, T. T., & Gallar, J. (2011). CHAPTER 16 - Sensory Innervation of the Eye. Adler's Physiology of the Eye (Eleventh Edition, pp. 363-384). Elsevier Inc。
【0004】
脈絡外隙は、眼球の最も外側の層である強膜と、眼の構造に栄養を提供するための原因である多数の血管が通った層である脈絡膜の間に位置する。強膜を刺す約8~10本の短毛様体神経があるが、これらの神経は、一旦脈絡外隙の内部に入ると、約15~20の区分に枝分かれする。長毛様体神経に関して、強膜を貫通し、再度脈絡外隙の内部で分かれる50を超える分岐がある。強膜と角膜の間の接合点である縁で、神経はそれらのミエリン鞘を喪失し、自由神経終末(free nerve ending)として続く。神経は、角膜からの知覚シグナルを集め、それらを脳幹に向かって逆方向に送る。Belmonte, C., Tervo, T. T., & Gallar, J. (2011). CHAPTER 16 - Sensory Innervation of the Eye. Adler's Physiology of the Eye (Eleventh Edition, pp. 363-384). Elsevier Inc。角膜神経支配の詳細の全てが全体的に十分に理解されてはおらず、患者ごとにいくらか異なり得る。他の神経線維からのいくつかの寄与または神経支配の経路におけるいくつかの正常な解剖学的バリエーションがあり得る。
【0005】
自由神経終末は、角膜構造を保護する前方の層である角膜上皮下に位置し、しばしば痛い眼の感覚に寄与する。患者がこれらの症状に悩む場合、該状態は、眼表面疾患(OSD)としても知られる眼乾燥症候群(DES)と称される。この状態の原因は多元的である。1つの重要な原因は、不適切な量の水性の涙の産生であり、眼から水和作用および潤滑を欠乏させる。眼表面疾患の他の原因としては、マイボーム腺機能不全または角膜上皮に対する損傷が挙げられ得る。
【0006】
これらの「角膜求心性ニューロンの特性に対する眼乾燥誘導改変および角膜入力の中心的な処理は、涙を流すことの調節および眼の疼痛の両方について有意な結果を有し得る。」Mcmonnies, C. W., The potential role of neuropathic mechanisms in dry eye syndromes, Journal of Optometry, 10, 5-13 (2017)。重要なことに、いくらかの患者は、それらの眼の表面が臨床的に正常な外観に戻ったとしても眼の表面の疼痛を有し続ける。この状況は、原因が、神経を刺激した元の傷害の後に長く持続する角膜神経支配の体性感覚機能不全であると考えられるので、臨床的な困難さを提示する。
【0007】
角膜不快さの他の原因としては、エキシマレーザー切除を適用する前に角膜上皮の除去を必要とする、屈折誤りを治療するために使用される手順である光学的角膜屈折矯正手術後にあり得る術後の疼痛が挙げられ得る。上皮の除去を必ずしも含まないが、手順の際に上皮が緩やか~適度な乾燥を経験する手順などの他の外科手術も、角膜不快さを引き起こし得る。患者は、眼の外傷(例えば角膜剥離)およびレーザー角膜内切削形成(laser in-situ keratomileusis) (LASIK)手術の後にも眼の不快さを経験し得る。
【0008】
角膜を神経支配する3つの異なる種類の侵害受容性受容体がある。角膜侵害受容器の20%はAδ機械的受容器であり、これは眼の表面に対する悪化により引き起こされる速く伝導する鋭く痛い刺激の原因である。角膜侵害受容器の70%は複数様式(polymodal)のものであり、これは角膜神経損傷により刺激され、ニューロパシー性疼痛および「反射性の涙を流すこと」を引き起こす。Levitt, A. E., et al., Chronic dry eye symptoms after LASIK: parallels and lessons to be learned from other persistent post-operative pain disorders, Molecular Pain, 11:21 (2015)。角膜侵害受容器の残りの10%はC線維冷受容器であり、これは基礎的な涙の分泌の維持に決定的な役割を果たす。これらの受容体は、角膜組織内の温度変化に高度に感受性であり、LASIK手術は、涙液膜表面での涙の蒸発を引き起こして、1秒当たり約0.3℃だけ温度を低下させ、そのためにC線維シグナルに影響を及ぼし得る。(Levitt et al., 2015).
【0009】
乾燥、以前の外科手術、眼瞼腺(eyelid gland)の機能不全または以前の化学物質刺激などの多くの機構が、眼の刺激の徴候および乾燥、熱傷または不快さを特徴とする症状に顕著なOSDの臨床的症状を引き起こし得る。該機構についての最初の傷害が解消された、すなわち正常な眼の潤滑が回復された後であっても、患者の眼の表面が疾患の最小の徴候のみを有するにもかかわらず、患者は依然として、眼の表面の不快さの有意な症状を報告し得、これは過感作または異痛の構成要素を示唆する。実際に、文献参照は、「眼の表面の状態のみでは、眼乾燥を理解するのに十分ではなく、眼乾燥を有する患者を評価する場合には、角膜体性感覚機能・・・を考慮しなければならない」と注意する。Spierer O, Felix ER, McClel- lan AL, et al. Corneal mechanical thresholds negatively associate with dry eye and ocular pain symptoms. Invest Ophthalmol Vis Sci.57:617-625 (2016)。この状況は、治療する医師に難局を提示し-患者は、正常に見える眼の表面と共に、残った痛みおよび不快さを有する(角膜体性感覚機能不全)。さらなる潤滑および眼の表面を向上するように標的化された他の治療は、予想されるように、これらの患者に対してもはや何の助けでもない。
【0010】
眼乾燥症候群/眼表面疾患、PRK、またはLASIK外科手術、または角膜体性感覚機能不全に関連する疼痛のための現在の治療方法は、一時的な価値に限定されるかまたは負の副作用を伴うかのいずれかである。眼乾燥症候群は、向上された涙の産生を標的化するかまたは炎症を低減する温湿布、処方箋不要の人工涙または処方点眼薬を用いて最も一般的に治療される。医師はまた、眼瞼のすぐ下から残骸を除去する衛生製品である局所的な眼の潤滑剤を推奨し得る。これらの方法は、角膜じゅうに涙産生を広げることを補助するために、マイボーム腺からの油性の脂質に富んだ分泌物であるマイボーム(meibum)を軟化することにより働く。これらの治療についての制限は、短期間の軽減であり、連続適用を必要とする。潤滑剤または人工の涙は刺激を和らげ得るが、実際には眼乾燥の原因に対処せず、眼瞼下に集まる残骸の増加にも寄与し得る。Shen Lee, B., et al., Managing dry eye disease and facilitating realistic patient expectations: A review and appraisal of current therapies, Clinical Ophthalmology, 14 119-126 (January 2020)。
【0011】
光学的角膜屈折矯正手術およびLASIKの眼の外科手術についての術後の疼痛の管理に関して、局所NSAIDおよび軟バンデージコンタクトレンズは最も一般的な治療である。NSAID医薬は、角膜組織損傷に伴って生じる炎症に関連するホルモン様物質であるプロスタグランジンの産生を防ぐ。Pathak, A. K., & Karacal, H., (2019). Pain reduction after photoablation. EyeWiki by the American Academy of Ophthalmology。局所NSAIDは、侵食、欠損、角膜上皮治癒の遅延または角膜融解(視力喪失をもたらし得る)などの角膜損傷のリスクを有する。軟バンデージコンタクトレンズを用いると、この方法は上皮細胞の再成長を刺激し得、抗生物質または局所NSAIDの送達系として働き得る。しかしながらバンデージコンタクトレンズは、細菌増殖を促進し得、しばしば疼痛の軽減に有効ではない。Shetty, R., et al., Pain management after photorefractive keratectomy, Journal of Cataract Refract Surgery, 45(7):972-976 (2019)。
【0012】
急性の眼の疼痛はまた、局所眼用麻酔液滴、例えばプロパラカイン塩酸塩およびテトラカイン塩酸塩を用いて治療され得る。これらの水溶液は、疼痛のための短期間治療として、または眼内圧を測定する、異物を除去する、角膜内の縫合を和らげる場合に、または目の外科手術のための手術前麻酔薬として与えられる。局所麻酔は、1用量当たり約15~20分間、角膜神経が痛みの刺激を送ることを遮断し得る。この短期間の疼痛軽減を用いると、患者は継続的な適用を必要とするが、慢性的な使用は最終的に、角膜毒性をもたらし得る。角膜に対する毒性効果は、角膜に対する外傷の治癒において重大な役割を果たす細胞である間質角膜実質細胞の損傷を含む。上皮細胞が角膜にわたり移動できない場合、上皮は最終的に脱落を開始し、角膜上皮が慢性的に治癒しないことをもたらす。
【0013】
しかしながらいくらかの疼痛の知覚を保持することは、健常な角膜の正常な機能にとって重要である。神経栄養性角膜炎としても知られるニューロパシー性角膜症は、角膜および結膜の感覚の病理学的欠損のために、眼の表面が、涙液膜異常から上皮症へ、最終的には間質溶解へと進行する症候群を経験する症候群である。真のニューロパシー性角膜症について、眼は、三叉神経痛の治療を意図した外科手術、聴神経腫の外科手術から、または眼部帯状疱疹(herpes zoster ophthalmicus)もしくはらいなどの感染から生じ得る三叉神経に対する病理学的破壊のために、角膜および結膜の感覚の欠損を有するはずである。他の形態のニューロパシー性角膜症は、局所麻酔の誤用により生じる。ウサギモデルにおいて、角膜上皮における典型的な栄養変化は、ウサギにおける三叉神経節の制御された熱凝固の後に示されている。この脱神経は、上皮の増殖活性に顕著に影響を及ぼすことが見出され、有糸分裂が乏しくなった。
【0014】
上に説明されるように、角膜は、疼痛または不安に対して強く感受性である。軽度から重度の角膜疼痛および不快さを引き起こす多くのヒト臨床状態があり、その全ては、角膜疼痛のための安全かつ有効な治療の開発により潜在的に対処され得る。局所麻痺液滴の現在の状態は、角膜を数分間麻痺させるだけであり、慢性的な使用は、角膜感染および角膜融解などの重度の病的状態を伴う。さらに、眼の疼痛を治療するための従来のアプローチは、眼に対する感覚の完全な感覚脱失を生じ、これは、ニューロパシー性角膜症の発症のリスクのために、慢性の状況では非常に問題になり得る。さらに、慢性的に炎症を起こして痛む眼において、角膜体性感覚機能不全は、疼痛症候群の優勢な特徴になる。まとめると、活動性の角膜の病理学に関連し得るかまたは検出可能な進行する病理学を有さずに元の傷害の後に長く持続し得る、弱体化する眼の表面の不快さを有する多くの患者がある。明確に、角膜の感覚を部分的に遮断し、患者の不快さを有意に減少する、より長く作用する安全な角膜麻酔療法の開発のための、大きなまだ対処されていない臨床的必要性がある。
【発明の概要】
【0015】
概要
一局面において、本発明は、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法を提供し、該方法は:コールドスラリーを、患者の眼の角膜輪部に隣接して局所適用する工程を含み、コールドスラリーは、水および凝固点抑制薬を含み、コールドスラリーの局所適用は、ある時間、眼の角膜のある程度の麻痺を引き起こすように構成され、眼の眼性感覚は、ある時間の後に回復される。
【0016】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、角膜輪部の後方に適用される。
【0017】
いくつかの態様において、ある時間は、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所適用することなしで、約2日より長い。
【0018】
いくつかの態様において、ある時間は、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所適用することなしで、約7日より長い。
【0019】
いくつかの態様において、凝固点抑制薬はグリセロールである。
【0020】
いくつかの態様において、眼の眼性感覚は、コールドスラリーの局所適用後の約21日後に回復される。
【0021】
いくつかの態様において、患者の眼の強膜は、コールドスラリーの局所適用の際に約-6℃~約4℃の温度に冷却される。
【0022】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、約5分~約15分の間局所適用される。
【0023】
いくつかの態様において、コールドスラリーのさらなる量は、約90秒ごとに再度局所適用される。
【0024】
いくつかの態様において、該方法はさらに、コールドスラリーを局所適用する前に、患者の眼にコンタクトレンズを配置する工程を含む。
【0025】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、ペーストコンシステンシー(paste consistency)であるように構成される。
【0026】
別の局面において、本発明は、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法を提供し、該方法は:患者の眼の角膜上に保護カバーを配置する工程;およびコールドスラリーを、患者の眼の眼球結膜に局所適用する工程を含み、コールドスラリーの局所適用は、患者の眼の疼痛の延長された低減を引き起こし、患者の眼の角膜の部分感覚は、疼痛の延長された低減の間に保持される。
【0027】
いくつかの態様において、コールドスラリーは角膜輪部の後部に適用される。
【0028】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、保護カバー上に適用される。
【0029】
いくつかの態様において、疼痛の延長された低減は、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所適用することなしで、約7日より長く持続する。
【0030】
いくつかの態様において、疼痛の延長された低減は、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所適用することなしで、約2日より長く持続する。
【0031】
いくつかの態様において、疼痛の延長された低減は、局所適用の最初の日の後の任意の日にさらなる時間コールドスラリーを局所適用することなしで、約14日より長く持続する。
【0032】
いくつかの態様において、症状は、眼乾燥症候群または角膜体性感覚機能不全による。
【0033】
いくつかの態様において、患者の眼の強膜は、コールドスラリーの局所適用の間に約-6℃~約4℃の温度に冷却される。
【0034】
いくつかの態様において、保護カバーはコンタクトレンズであり、該コンタクトレンズは眼の角膜の凍結を防ぐ。
【0035】
別の局面において、本発明は、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法を提供し、該方法は:コールドスラリーを患者の眼に投与する工程を含み、コールドスラリーは、水およびある割合の氷粒子を含み、コールドスラリーの投与は、眼の延長された知覚減退を引き起こし、眼の眼性感覚は、延長された知覚減退の後に回復され、コールドスラリーの投与は、眼の角膜に永続的な損傷を引き起こさない。
【0036】
いくつかの態様において、本発明はさらに、眼乾燥症候群、慢性の眼の疼痛、術後の疼痛、光学的角膜屈折矯正手術後の疼痛、LASIK後の疼痛、白内障外科手術後の疼痛、および開放性損傷(open globe injury)回復後の疼痛、角膜損傷後、角膜体性感覚機能不全、異痛、および急性の損傷からの疼痛からなる群より選択される状態を治療することを含む。
【0037】
いくつかの態様において、コールドスラリーは注射を介して投与される。
【0038】
いくつかの態様において、コールドスラリーは結膜下空間に注射される。
【0039】
いくつかの態様において、コールドスラリーは局所適用を介して投与される。
【0040】
いくつかの態様において、氷粒子の割合は約20%~40%である。
【0041】
いくつかの態様において、コールドスラリーの温度は約-20℃~約-5℃である。
【0042】
別の局面において、本発明は、眼の表面の不快さの症状を緩和する方法を提供し、該方法は:コールドスラリーを、患者の眼の眼性表面上にまたはその近位に局所適用する工程を含み、コールドスラリーの局所適用は延長された眼の角膜の知覚減退を引き起こし、眼の眼性感覚は延長された知覚減退の後に回復され、コールドスラリーの局所適用は眼の角膜に永続的な損傷を引き起こさない。
【0043】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、角膜輪部の近位に適用される。
【0044】
いくつかの態様において、延長された知覚減退は、コールドスラリーの局所適用の単一治療後約1日より長く持続する。
【0045】
いくつかの態様において、眼の眼性感覚は、コールドスラリーの局所適用後、約30日までに回復する。
【0046】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、約5分~約15分の間に局所適用される。
【0047】
いくつかの態様において、該方法はさらに、コールドスラリーを局所適用する前に患者の眼にコンタクトレンズを配置することを含み、該コンタクトレンズは眼の角膜の凍結を防ぐ。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図面の簡単な説明
以下の図は、本発明の例示的な態様を示す。
図1図1は、液体水、10%グリセリン体積/体積(v/v)を含む溶液および20%グリセリン(v/v)を含む溶液についての凝固点低下グラフを示す。
図2図2は、注射可能コールドスラリーを形成し得る例示的な生体材料の構成要素の体積および重量ごとの分解を示す表である。
図3図3は、-5.5℃および-8.1℃の結晶化凝結温度(crystallization set point)を有するコールドスラリーの氷含有量の特徴付けを示すグラフである。
図4A図4は、眼の異なる領域(4A)および解剖学的参照についての度(4B)を示すヒトの目の図を示す。
図4B図4は、眼の異なる領域(4A)および解剖学的参照についての度(4B)を示すヒトの目の図を示す。
図5図5は、局所適用されたコールドスラリー(実線)および注射されたコールドスラリー(破線)の眼への投与後のウサギにおけるリアルタイム強膜温度モニタリングを示すグラフである。
図6図6は、注射したコールドスラリー(ひし形)、局所適用したコールドスラリー(三角形)および室温で局所適用したスラリー(正方形)の、角膜を曝露した眼への投与後の、経時的なウサギの眼における知覚減退を示すグラフである。
図7図7は、局所適用したコールドスラリーの、角膜を曝露しない眼への投与後の、経時的なウサギの眼における知覚減退を示すグラフである。
図8図8は、対照群として意図的な8mm角膜剥離(8A)およびコールドスラリーの局所適用(8B)後の、経時的な角膜治癒を示す、蛍光染色したウサギ角膜の画像である。
図9図9は、コールドスラリーを最初に局所適用して次いで注射した組合せ治療後の、経時的な6匹のウサギの眼における知覚減退を示すグラフである。3匹のウサギ(ひし形、正方形および三角形で示される)において、注射されたスラリーはリポソームを含まず、一方で他の3匹のウサギ(「X」、星および丸で示される)において、注射されたスラリーは、リポソームを含んだ。
【発明を実施するための形態】
【0049】
詳細な説明
本開示は、生物学的材料、例えばコールドスラリーを用いて眼の表面の不快さを治療する装置、デバイス、系および方法について描かれる。いくつかの態様において、生体材料は、眼の不快さを低減するための予防または治療目的で、ヒト患者または被験体(例えば患者でないヒトまたは非ヒト動物)の眼に、局所適用を介してまたは注射を介して送達され得るコールドスラリー(例えばアイススラリー)である。本明細書に開示される系および方法は、予期せずに長く持続する眼の知覚減退を提供する。知覚減退は、長く持続する角膜の麻痺、その後、角膜に永続的な損傷を引き起こすことなくまたは角膜治癒の進行を乱すことなく、コールドスラリー処理の適用後、数日または数週間以内に眼性感覚の回復を引き起し得る。
【0050】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、長期間の角膜麻痺により、眼の表面の不快さの改善または治療などの所望の治療的効果を達成するために、局所的に適用され得る。いくつかの態様において、治療的に有効なコールドスラリーは、全体的に、水および賦形剤材料(すなわち活性医薬化合物を有さない材料)で構成される。他の態様において、コールドスラリーはさらに、公知の活性医薬化合物を含む。いくつかの態様において、コンタクトレンズなどの保護の層は、スラリーの局所適用の前に角膜に適用される。いくつかの態様において、眼瞼は、プラスチックまたは他の熱非伝導性材料の開瞼器(speculum)を被験体の眼に挿入することにより、スラリーの局所適用から保護される。
【0051】
いくつかの態様において、スラリーが被験体の眼に適用される時間の長さは、より大きなまたはより緩やかな知覚減退を誘導するように変化し得る。いくつかの態様において、被験体の眼に適用または注射されるスラリーの温度は、より大きなまたはより緩やかな知覚減退を誘導するように変化する。いくつかの態様において、知覚減退は、それが認められなくなる点まで経時的に減少する。他の態様において、被験体の眼が特に感受性であり得る場合、被験体の眼の神経のより多くを麻痺させるように、より大きい知覚減退が誘導される。
【0052】
いくつかの態様において、生体材料を含む容器(例えばバイアル、シリンジ)は、臨床的な管理の点で受容される。生体材料は、結晶化(または部分結晶化)状態で受容され得る。いくつかの態様において、局所適用または注射を介してヒト患者または被験体(例えば患者ではないヒトまたは非ヒト動物)に投与される最終生成物は、水の滅菌氷粒子および変動量の賦形剤または添加剤、例えば凝固点抑制薬で構成されるコールドスラリーである。例えば、コールドスラリー中の氷粒子のパーセンテージは、スラリーの約10重量%未満、約10重量%~約20重量%、約20重量%~約30重量%、約30重量%~約40重量%、約40重量%~約60重量%、約60重量%より多く等を構成し得る。氷粒子のサイズは、米国出願番号15/505,042(公開番号US2017/0274011)に記載され、参照により本明細書に援用されるように、種々のサイズの容器(例えば約7~約43のニードルゲージサイズ)を通る流動性を可能にするように制御される。さらに、他の方法を使用して、種々のサイズの容器を通る流動性を可能にするように、氷粒子のサイズを条件づけ得る。いくつかの態様において、氷粒子の大部分は、注射に使用される管腔または容器の内径の約半分未満である直径を有する。例えば氷粒子は、3mmカテーテルでの使用のために直径約1.5mm以下であり得る。
【0053】
コールドスラリーを調製するために使用され得る種々の技術がある。本開示は、任意の特定の方法または技術に限定されない。
【0054】
いくつかの態様において、1つ以上の賦形剤がコールドスラリーに含まれ得る。賦形剤は、それ自体は治療剤ではなく、希釈剤、アジュバントおよび/または治療剤の被験体もしくは患者への送達のためのビヒクルとして使用される任意の物質、および/またはその取扱い、安定性もしくは保存特性を向上するために組成物に添加される物質である。賦形剤は、コールドスラリーの約10%体積/体積(v/v)未満、スラリーの約10% v/v~約20% v/v、約20% v/v~約30% v/v、約30% v/v~40% v/vおよび約40% v/vより多くを構成し得る。種々の添加された賦形剤は、コールドスラリーの相変化温度を変化する(例えば凝固点を低減する)ため、コールドスラリーの氷の割合を変化するため、コールドスラリーの粘度を変化するため、氷粒子の凝集を防ぐため、樹状の氷の形成(すなわち雪片中に見られるものなどの複数の分岐した「樹状」の形態を有する結晶)を防ぐため、分離した氷粒子を維持するため、流体相の熱伝導性を上げるため、またはコールドスラリーの全体的な予防、治療もしくは麻酔効果を向上するために使用され得る。
【0055】
1つ以上の凝固点抑制薬は、0℃未満の凝固点を有するコールドスラリーを形成するための賦形剤として添加され得る。スラリーの凝固点を下げることにより、スラリーは、有効な割合の氷粒子をさらに含みながら、流動性を保持し、注射可能なままになる。適切な凝固点抑制薬としては、塩(例えば塩化ナトリウム、ベタデックススルホブチルエーテルナトリウム)、イオン、乳酸加リンガー溶液、糖(例えばグルコース、ソルビトール、マンニトール、ヘタスターチ、スクロース、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンまたはそれらの組合せ)、生体適合性界面活性剤、例えばグリセロール(グリセリン(glycerin)またはグリセリン(glycerine)としても知られる)、他のポリオール(例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、プロピレングリコール)、他の糖アルコール、または尿素等が挙げられる。他の例示的な凝固点抑制薬は、米国出願番号15/505,042(公開番号US2017/0274011)に開示され、それらの全体において本明細書に援用される。他の態様において、練り歯磨きの粘稠度(consistency)を有し、局所適用に最適な粘稠度を有するスラリーペーストが形成される。
【0056】
凝固点抑制薬の濃度は、コールドスラリーの氷粒子の割合ならびにその流動性および注射性を決定する。凝固点低下の程度は、本明細書に援用される米国出願番号15/505,042(公開番号US2017/0274011)に記載される以下の式:
ΔTF = KFbi
を使用して計算され得、式中、ΔTFは凝固点低下であり(TF (純粋溶媒) - TF (溶液)により規定される)、KFは凝固点降下定数であり、bは重量モル濃度であり、iは、溶質の個々の分子当たりのイオン粒子の数を表すファント・ホフ係数である。米国出願番号15/505,042(公開番号US2017/0274011)に開示されるように、凝固点低下を計算する他の方法も使用し得る。
【0057】
図1を参照すると、純水T1、水および10%(v/v)グリセリンの混合物T2ならびに水および20%(v/v)グリセリンの混合物T3についての凝固点低下のグラフが示される。このグラフにおいて、全ての物質は、-20℃の一定の温度を有する冷凍庫内に置かれた。それぞれの物質内に配置された温度計を使用して温度を測定した。グラフは、水およびグリセリンの混合物が純水とは異なる凝固点を有することを示し、これは溶液が0℃未満に冷却され得、部分的のみで結晶化され得ることを意味する。グラフは、冷却により、純水T1が0℃の平衡凝固点で結晶化することを示す。これは、純水T1が約-6℃の過冷却点を通過した直後に開始する、純水が約1.3時間から約4.4時間まで約0℃の温度のままである時間により示される。結晶化の平衡窓(すなわち図1中の純水T1の「平坦な直線」の部分)を有することは、純粋な溶媒にとっては典型的である。10%グリセリン溶液T2について、冷却により溶液は、約2.2時間後に約-3℃の最初の凝固点で結晶化を開始し、溶液の温度が約6時間後に約-8℃までさらに低下するにつれて、結晶化は続く。最初の結晶化は、10%グリセリン溶液T2が、約2.2時間で示される約-8℃の過冷却点(試料ごとに異なり得る、例えば約-15℃~約-3℃の過冷却点)を通過した直後に起こる。10%グリセリン溶液T2についての結晶化の降下温度窓を有することは、溶液(すなわち純粋でない混合物)に対して典型的である。同様に、20%グリセリン溶液T3について、冷却により溶液は、約3.5時間後の約-7℃の最初の凝固点(試料ごとに変化し得る、例えば約-25℃~約-5℃の最初の過冷却点の後)で結晶化を開始し、溶液の温度が約6時間後に約-11℃までさらに低下して、その後6.5時間経過して下がり続けるにつれて、結晶化は続く。最初の結晶化は、20%グリセリン溶液T3が約3.5時間で示される約-14℃の過冷却点を通過する直後に起こる。10%グリセリン溶液T2についてのトレースと同様に、20%グリセリン溶液T3についての結晶化の降下温度窓は、溶液に対して典型的である。
【0058】
図2を参照すると、このチャートは、コールドスラリーを形成し得る例示的な生体材料の構成要素を示す。このチャートは、例示的な生体材料についての氷の割合が特定の温度について計算され得ることを示す。例示的なスラリーは、-10℃で30質量%の氷(重量/重量;w/w)を含む。この例示的なスラリーは、80mLの食塩水(0.9% NaCl)および20mLのグリセロール(すなわちグリセリン)を有する。重量で、かかるスラリーは、約79.6gの純水、約0.72gの塩化ナトリウムおよび約25.2gのグリセロール(約20% v/v)を有する。他の態様において、スラリーは、食塩水に対するグリセロールの相対的な体積を調整することにより、より高いまたはより低い割合のグリセロールを含み得る。例えば、他の適切なスラリーは、約10% グリセロール(v/v)、約10%~約20%グリセロール、約30%グリセロールまたは約30%より多くのグリセロールを含む。したがって、活性医薬化合物がスラリーに添加される場合、食塩水の濃度は、所望の濃度の賦形剤、例えばグリセロールを維持するように調整され得る。氷の割合は、生体材料の組成に応じて変化する。
【0059】
図3を参照すると、異なるスラリー組成物(バッチ)が、それらの温度プロフィールおよび氷含有量に関して特徴付けられる。異なるスラリーバッチを、40℃に加熱されて、スラリーの温度の変化を経時的に測定する熱電対ワイヤを有する銅プレートに置いた。プロットされたデータは、3つの異なるスラリーバッチについての経時的な温度変化を示す。温度は、それぞれのスラリーについて2つの異なる位置:銅プレートの内部(トレースAC、BCおよびCC)に埋め込まれた位置およびプレートの外側に曝露された銅プレートの中間(トレースAM、BMおよびCM)の位置で測定される。温度トレースは、3つの別々に作製されたスラリーバッチを示し:15%グリセリンを有するスラリー組成物(-8.1℃の温度凝結温度(setpoint)を有する)は、トレースACおよびAMで表され、両方が10%グリセリンを有する2つの異なるスラリーバッチ(-5.5℃の温度凝結温度を有する)は、トレースBCおよびBMならびにトレースCCおよびCMで表される。スラリーバッチが最初に銅プレートに導入される場合、プレートの内部に埋め込まれた熱電対ワイヤ(トレースAC、BCおよびCC)は最初に、加熱されたプレート(例えば時点0でトレースACについて31℃)の温かい温度を測定し、次いで導入されたスラリーの冷却効果のためにより低い温度(例えば約2分でトレースACについて22℃)で平衡に達する。一方で、プレートの中間に配置された熱電対ワイヤについて、スラリーが最初に銅プレートに導入される場合に、ワイヤが曝露されているので、スラリーは熱電対ワイヤとすぐに接触する。これは、ワイヤと接触する結晶化されたスラリーのために、最初に中間位置においてマイナスの温度読み取り(例えば時点0でトレースAMについて-5℃)、次いでスラリーが加熱されたプレート上で融解を開始する場合により暖かい温度(例えば約4分でトレースAMについて18℃)で平衡を引き起こす。プレートの外側に曝露された熱電対ワイヤ(トレースAM、BMおよびCM)を使用して、結晶化したスラリーが融解を開始する間の相転移を検出し得る。グラフは、10%グリセリンを有する2つのスラリー組成物が、同様の時点で(トレースBMについて約4分で、およびトレースCMについて約2.7分で)、15%グリセリンスラリーについての相転移(相転移はトレースAMについて約0.2分で起こる)とは異なるそれらの相転移に達することを示す。グラフはまた、同じ組成(10%グリセリン:トレースBCおよびBMならびにトレースCCおよびCM)を有する2つのスラリーバッチが、(2つの熱電対ワイヤ位置により測定する場合に)熱電対の位置(中間/底)に応じて同様の時間枠および約15℃~19℃の同様の温度で平衡に達することを示す。一方で、異なる組成(15%グリセリン:トレースACおよびAM)を有するスラリーは、他の2つとは異なる温度プロフィールを有し、熱電対の位置(中間/底)に応じて、約19℃~22℃の温度でより早く平衡に達する。そのため図3は、異なる組成のスラリーが異なる温度プロフィールを有し、同じ組成を有するスラリーにわたりバッチごとにコンシステンシー(consistency)が存在する(例えばBCおよびBMで表されるスラリーならびにCCおよびCMで表されるスラリーは、ACおよびAMで表されるスラリーの温度プロフィールとは異なる同様の温度プロフィールを有する)ことを示す。
【0060】
図4Aを参照すると、強膜帯2、強膜帯3、角膜1および角膜輪部(角膜1と強膜帯2の間の点線を示す眼の図が示される。図4Aは、Andreoli CM、Gardiner MF. Open globe injuries: Emergent evaluation and initial management. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MAから再現される。図4Bは、眼に関して度(°)の角度を示す重ね合わされた分度器を有する眼の図を示す。この図において、90°は目に沿って最も上の位置を表す。
【0061】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるコールドスラリーは、局所的に適用されて、または代替的に注射されて、眼の表面の不快さを低減する長く持続する知覚減退を達成し得る。知覚減退は、眼の感覚の完全な遮断なく、眼の不快さまたは疼痛の低減をいう。そのため知覚減退は、知覚麻痺とは区別され、知覚麻痺は、眼の感覚のより顕著な遮断を特徴とする。知覚減退は、そうでなければ正常な治癒プロセスを含む眼の正常な機能を維持しながら、疼痛応答の低減を引き起こす角膜麻痺を含み得る。一方で知覚麻痺は、全ての角膜の感覚が失われるので、眼の異常な機能を引き起こし得る。角膜感覚は、瞬きおよび涙の産生などの保護機構の開始などの眼の正常な機能に重要である。
【0062】
1つのアプローチは、眼の表面に、体積が1~100マイクロリットル、好ましくは約10~80マイクロリットルで変わり得るコールドスラリーの液滴を適用することである。液滴として、製剤は、眼の表面に直接投与され得る。代替的に、最初に角膜を擦り得、その後に液滴を投与し得る。いくつかの態様において、局所的に適用されたコールドスラリーはより流動性のペーストコンシステンシーを有し、多くの量が、治療として眼の表面に局所的に適用され得る(3~50ml)。
【0063】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるコールドスラリーは、角膜輪部の後方、例えば図4Aの強膜帯2として示される領域に、約1分~約20分の間に局所的に適用される。いくつかの態様において、コールドスラリーは、約5分~約10分の間に適用される。いくつかの態様において、コールドスラリーは、1~20分の間に、1~10秒ごとにそれぞれの眼に投与される。この治療は、短時間(例えば5~20分)にわたり数回反復され得た。いくつかの態様において、コールドスラリーは、角膜輪部の後方に約10分間局所的に適用され、10分に達するまで90秒ごとに新鮮なスラリーが再度適用される。
【0064】
いくつかの態様において、局所適用の間に、潜在的な副作用を制限するために、感受性の眼の構造は、コールドスラリーと遭遇することから保護される。角膜表面の保護は、角膜組織を凍結することにより生じるいくつかまたは全ての角膜細胞の損傷または屈折変化を制限し得る。眼瞼結膜および眼瞼の保護は、治療効果に関連しない赤味、腫脹および炎症を防ぎ得る。眼球結膜上の縁(帯2として知られる前方の解剖学的領域に対応する、図4A)の後方の眼の表面に氷を選択的に適用することにより、角膜に対する潜在的な有害効果が最小化され得る。
【0065】
いくつかの態様において、保護コンタクトレンズまたは他の保護カバーを角膜上に位置するように適用して、角膜を損傷から保護し得る。いくつかの態様において、角膜カバーは完全に、コールドスラリーが角膜表面に直接接触することを防ぐ。いくつかの態様において、開瞼器(lid speculum)を使用して、コールドスラリー局所適用の間に眼瞼を開いたままにする。いくつかの態様において、開瞼器は、プラスチックまたは当該技術分野で公知の別の他の非伝導性材料などの熱非伝導性材料で作製される。熱非伝導性材料は、コールドスラリー治療の間に眼瞼に損傷を引き起こし得る凍結から眼瞼(内側および外側)を防ぐために、開瞼器に使用され得る。いくつかの態様において、コールドスラリーは、強膜のみに適用され、角膜は凍結から保護される。いくつかの態様において、角膜を凍結から保護することは、角膜のより速い治癒を確実にする。
【0066】
コールドスラリーに曝露される領域を眼球結膜/強膜だけに制御するためのデバイスが使用され得るので、コールドスラリーは、所望の臨床効果に関連のない隣接する組織に物理的に接触または凍結し得ない。いくつかの態様において、コールドスラリー製剤は、眼の表面との直接の接触を全く有さない。コールドスラリー製剤は、熱伝導性である材料、例えば小さな金属またはポリマー性のドーナツ型のものまたは他の保護リング内に含まれ得るので、製剤と眼の表面の直接接触に対する障壁を提供するが、必要な冷却は生じる。いくつかの態様において、望ましくない副作用(例えば高浸透圧溶液の眼への直接の適用による潜在的な眼の刺激)を最小化するために、デバイスは、冷却を潜在的な治療効果の領域のみに方向づけ、デバイス/冷却が、隣接する組織に接触および影響することを防ぐ。
【0067】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるコールドスラリーは、結膜下ボーラスとして、約2分ごとに注射される。それぞれの注射は、約0.5~1.5mlの凍結スラリーを提供し得、所望の治療の持続時間または合計約10分の間に約2分ごとに反復され得る。いくつかの態様において、コールドスラリーは、毛様体神経の軸索のより近くに直接注射される。毛様体神経は、眼の約0°および180°(図4B)に位置する。
【0068】
いくつかの態様において、スラリーを注射するために標準的なシリンジが使用される。代替的に、注射にスラリーを条件づけシリンジが使用され得る。いくつかの態様において、シリンジは、約18G~約25Gの針を有し得る。
【0069】
いくつかの態様において、治療(例えばコールドスラリー注射または局所適用)の間に眼の表面上でリアルタイム温度検知を行う。いくつかの態様において、コールドスラリーは、組織(例えば角膜表面、結膜または眼の任意の他の部分)を、約0℃未満、約-1℃未満、約-2℃未満、約-3℃未満、約-4℃未満または約-5℃未満まで冷却するために適用される。いくつかの態様において、コールドスラリーは、約1分間、好ましくは約2分~約10分間にわたり適用される。冷却された組織の温度およびスラリーが適用される時間の長さは、被験体が経験する知覚減退を変えるように変化し得る。
【0070】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、治療効果を維持するために、経時的に被験体の眼に定期的に再投与される。局所投与および/または注射のためのある範囲の可能な頻度がある。例えば、治療は、以下:2週間ごとに1回;1ヶ月に1回;2ヶ月ごとに1回;3ヶ月ごとに1回などのいずれか1つで投与され得る。
【0071】
いくつかの態様において、コールドスラリーは、角膜の不快さまたは疼痛を治療するために安全な角膜麻痺治療として使用される。コールドスラリーの種々の製剤は、上述のものなどの本明細書に記載される方法を用いて使用され得る。コールドスラリーのさらなる具体的な態様を、図5~9を参照して記載する。「ECT-4143」は、15%グリセロール、30% L-α-ホスファチジルコリンリポソームおよび0.9%食塩水(またはリン酸緩衝化食塩水)を含むスラリー製剤である。いくつかの態様において、ECT-4143は、約-25℃~-10℃の温度(スラリーの温度)で眼に(局所的にまたは注射を介して)投与される。いくつかの態様において、ECT-4143は、約-18℃の温度(図5~9を参照して以下に記載される態様におけるものなどのスラリーの温度)で眼に(局所的にまたは注射を介して)投与される。ECT-4143は、10分の総治療時間に達するまで、1適用当たり約2~3mlで約90秒ごとに投与される。
【0072】
「ECT-1719」は、15%グリセロールおよび0.9%食塩水(またはリン酸緩衝化食塩水)を含むスラリー製剤である。いくつかの態様において、ECT-1719は、約-20℃~-5℃または約-15℃~約-10℃の温度(スラリーの温度)で眼に(局所的にまたは注射を介して)投与される。いくつかの態様において、ECT-1719は、約-11℃の温度(図5~9を参照して以下に記載される態様におけるものなどのスラリーの温度)で眼に(局所的にまたは注射を介して)投与される。いくつかの態様において、ECT-1719は、1注射当たり0.7ml体積で注射され、4回の総注射は、2.8mlの総注射体積になる。ECT-1719は、10分の総治療に達するまで約120秒ごとに投与される。
【0073】
図5を参照すると、1匹のウサギにおいて局所的に適用されるコールドスラリー(ECT-4143、実線)および第2のウサギにおいて注射されるコールドスラリー(ECT-1719、破線)の眼への投与後に、ウサギにおいてリアルタイム強膜温度モニタリングを行った。温度モニタリングは、その遠位端に温度プローブを含む25gの針をテノン嚢下(subtenon)空間にカニューレ挿入することにより達成される。図5に見られ得るように、注射されるコールドスラリー(ECT-1719)を受けたウサギの強膜温度は、手順(コールドスラリー注射後約0秒~コールドスラリー注射後約463秒)の持続時間を通して約0℃~約8℃で変動した。約463秒でのグラフの鋭い線は、7.5分後の試験の終了および眼の組織からの温度プローブの除去を表す。局所的に適用されるコールドスラリー(ECT-4143)を受けたウサギの強膜温度は、温度が記録された間の時間(局所適用後約0秒~局所適用後約600秒)の大部分の時間で約-6℃~約4℃の変動を伴って、注射されるコールドスラリーについてよりも低かった。局所適用後、強膜の温度は、適用の時間(図5の約0秒)で約4℃から約120秒後に約0℃まで低下し続けた。強膜冷却の最初の期間の後、温度は、局所適用後約120秒から局所適用後約520秒まで約0℃~-5℃で比較的安定なままであった。さらに、局所適用後の約220秒~約520秒の持続時間に、強膜温度は、非常に小さな変動性を示し、約-2℃~約-3℃で安定なままであった。局所適用の約620秒後、治療を終了して温度プローブを除去し、図5に示されるように測定温度の鋭い増加が示される。
【0074】
コールドスラリー治療後の知覚減退効果は、モノフィラメント/知覚計を使用して、眼の接触刺激に対する応答として測定される。6cmフィラメントの長さで開始して0.5cmずつの徐々の変化で減少させて、瞬き応答が誘発されるまでそれぞれの長さで、眼を3回調査する。短くなるにつれてフィラメントはより堅くなるので、眼を調査する際に、より高い圧力が眼にかけられる。それぞれの時点についての知覚減退は、所定の長さのモノフィラメントに基づく。それぞれの時点で、記録される特定のモノフィラメントの長さは、瞬き応答がない最も短い長さ(最高圧力)である。例えば、6cmの最も長いモノフィラメントで開始して、調査した際にウサギが瞬きをしなければ、5.5cmの長さの次のモノフィラメントを使用して眼を調査する。ウサギが再度瞬きをしない場合、5cmの次のモノフィラメントの長さを使用する。ここでウサギが瞬きをする場合、これは瞬き応答がなかった(ある程度の知覚減退を反映する)最も短い長さであるので、5.5cmの以前の長さを記録する。知覚減退の最も深いレベルは、最も短いフィラメント長さ(例えば0.5cm)を用いて調査した際にウサギが瞬きをしない場合のものである。0度の知覚減退(疼痛の遮断なし/麻痺なし)は、最も長いフィラメント長さ(例えば6cm)を用いて調査した際にウサギが瞬きする場合のものである。フィラメント長さは圧力(g/mm2)に変換され得、6cmフィラメントは0.4g/mm2圧力(最低圧力)を生じ、一方0.5cmフィラメントは15.9g/mm2圧力(最高圧力)を生じる。そのため、記録した圧力は、瞬き応答がない最も短いフィラメント長さに対応する圧力である。
【0075】
図6を参照すると、知覚減退効果(本明細書に記載されるような接触刺激を使用して測定した角膜麻痺の程度)を、ウサギにおいて角膜が曝露された眼への、注射されるコールドスラリー(ECT-1719、この群中3匹のウサギ、ひし形で示される)、局所的に適用されるコールドスラリー(ECT-4143、この群中3匹のウサギ、三角形で示される)および室温で局所的に適用されるスラリー(ECT-4143、この群中1匹のウサギ、正方形で示される)の投与後に経時的に測定した。図6において、知覚減退の程度は、最高のあり得る圧力(すなわち15.9g/mm2圧力に対応する0.5cmの使用した最も短いモノフィラメント)に対する記録される圧力(すなわち瞬き応答の欠如がある最も短いモノフィラメントに基づいて)のパーセンテージとして示される。知覚減退の程度は、コールドスラリー投与後の1、7、14および28日目に示される。注射されるコールドスラリー(ECT-1719、ひし形で示される)について、1日目の知覚減退効果は約20%であり、14日目までにベースラインレベルに到達して次第に減り続けた(エラーバーは0%と重なる)。局所的に適用されるコールドスラリー(18℃で適用されるECT-4143、三角形で示される)について、1日目の知覚減退効果100%であり(測定され得た最大角膜麻痺)、次いで低下し続けて28日目に次第に終わり、その間に疼痛応答がベースラインレベルに戻った(エラーバーは0%と重なる)、室温で局所的に適用されるスラリー(ECT-4143、正方形で示される)について、知覚減退効果は、治療後のいずれの時点でも観察され得なかった。そのため、図6は、長く持続する知覚減退(ほぼ1ヶ月)を生じる局所的に適用されるコールドスラリーについての予期されずに強力な知覚減退効果を示す。注射されるコールドスラリーは、予測されるよりも長く(例えば約1週間~2週間)持続もした中度の知覚減退を生じる。重要なことに、局所および注射の両方の方法について、コールドスラリー治療は、永続的な麻痺効果を引き起こすことなく、ベースラインレベルに戻って標準化される長く持続する知覚減退を生じた。
【0076】
図7は、角膜が曝露されない(コンタクトレンズで保護される)以外は、図6と同様の局所的に適用されるコールドスラリー(6匹のウサギ、ECT-4143)の眼への投与後のウサギにおける経時的な知覚減退効果を示す。知覚減退効果は、図6に関して上記されるものと同じ方法で測定した。知覚減退効果は、局所的に適用されるコールドスラリーを用いた治療後の1、7、14、21および28日目に示される。知覚減退効果は1日目に約50%であり、次第に減って21日目までにベースラインレベルにゆっくり到達した(エラーバーは0%に重なる)。そのため、図7は、永続的な角膜麻痺または任意の角膜損傷を引き起こすことなく、長く持続する知覚減退(約3週間)を生じる局所的に適用されるコールドスラリー(角膜保護を有する)について、予期されない中度~強力な知覚減退効果を示す。
【0077】
図8を参照すると、フルオレセイン染色を使用したウサギ角膜の代表的な画像は、対照群(図8A)ならびに角膜および眼瞼に保護を適用した治療群におけるコールドスラリーの局所適用(図8B)後の両方に適用した、意図的な8mm角膜剥離後の経時的な角膜治癒を示す。損傷の進行は、損傷のサイズを経時的に測定することにより決定した。図8Aに見られ得るように、対照群(3匹のウサギ)における角膜治癒は、角膜剥離後の最初の24時間に1.31mm2/時間、および角膜剥離後の24時間~60時間に0.62mm2/時間の平均治癒速度で起こった。予期されずに、図8Bに示されるように、角膜治癒は、対照群と比較して、局所的に適用されるコールドスラリー(ECT-4143)を受けたウサギについて損なわれなかった。この群(3匹のウサギ)において、コールドスラリー治療後の角膜治癒は、コールドスラリー治療後の最初の24時間に1.09mm2/時間、およびコールドスラリー治療後の24時間~60時間に0.63mm2/時間の平均治癒速度で起こった。
【0078】
図9を参照すると、グラフは、コールドスラリーを最初に局所的に適用して次いで注射した組合せ治療の後に、6匹のウサギにおける経時的な知覚減退効果を示す。3匹のウサギ(ひし形、正方形および三角形で示される)において、局所的に適用されるコールドスラリーは、リポソームを含まず、同じコールドスラリー製剤(ECT-1719)の注射を続けたECT-1719であった。他の3匹のウサギ(「X」、星形および円で示される)において、局所的に適用されるコールドスラリーは再度、リポソームを含むコールドスラリー(ECT-4143)の注射を続けたECT-1719(リポソームを含まない)であった。知覚減退効果は、(図6および7を参照して本明細書に記載されるように)ウサギが瞬きを生じなかった最大圧力で示される。図9に示されるように、知覚減退効果は、治療後に増加し続け、組合せ治療(リポソームまたは非リポソーム注射)に関係なく4~11日目のどこかでピークに達する可能性があった。知覚減退効果は、次第に減って約17日目にベースラインレベルに戻った。驚くべきことに、第2のより顕著でない知覚減退の期間は、約22日目に自発的に起こり、26日目までにベースラインレベルに戻って次第に終わった。
【0079】
本明細書に記載されるデータは、コールドスラリー(局所および注射)が、永続的な角膜麻痺または損傷なしで知覚減退を生じる長期間の安全な角膜麻痺治療であることを支持する。
【0080】
理論に拘束されることなく、基本的な前提は、コールドスラリーの適用が、神経上のミエリン鞘の変性を引き起こすことにより痛み刺激のシグナル伝達を停止するということである。ミエリンは、迅速かつ効率的な様式で電気刺激を神経軸索の方に移動させる脂肪性の、脂質に富んだ物質である。神経の自由神経終末およびミエリン化された(myelinated)部分の両方にわたるコールドスラリーの投与により、冷たい温度は、脂肪細胞の液体成分を凍結または結晶化して、アポトーシスを誘導し、ミエリン鞘を変性させ、これはウォーラー変性として知られるプロセスである。このプロセスは、毛様体神経が、角膜から脳幹まで痛み刺激を伝達することを有意に低減する。眼の表面上の遠位神経終末の薄い体積のために、全ての末梢神経が影響を受けるわけではないので、眼の表面からの全ての感覚が排除されるわけではなく、これにより完全な知覚麻痺の代わりに相対的な知覚減退が誘導される。さらに、効果は、約4~8週間後に後退してその時点で眼の感覚は完全に回復する。ウォーラー変性を誘導する他の選択肢は、高周波切除および低温神経溶解(cryoneurolysis)(-80℃に達する温度で凍結すること)を含むが、これらの手順は、周囲の組織および構造を損傷するリスクを提示する。さらに、氷の結晶を含む不活性ビヒクルは、眼の他の構成要素を傷つけず、これを、眼の表面の疼痛をもたらす神経を治療するための妥当な用途にする。このアプローチは、視力および眼の表面の正常な機能を保存する。
【0081】
特定の理論に拘束されることなく、角膜輪部の周囲の結膜下空間への注射は、コールドスラリーを、毛様体神経の自由神経終末の周囲に分配させる。両目の角膜に枝分かれする自由神経終末を有する2つの主要な毛様体神経がある。それぞれの毛様体神経は、その軸索に沿ってミエリン化され、角膜内の自由神経終末から下流に位置する。コールドスラリーの注射は、毛様体神経の軸索がミエリンkされる下流にまで広がる。コールドスラリーが毛様体神経の軸索へと広がるにつれて、コールドスラリーは、ミエリン鞘の結晶化およびアポトーシスを引き起こして、毛様体神経を脱髄する。脱髄は、神経が痛み信号を脳に伝達することを防ぐ。代替的に、コールドスラリーは、神経のウォーラー変性を引き起こし得、同様に痛み信号が脳に伝達されることを防ぎ得る。
【0082】
局所的に適用されるおよび/または注射されるコールドスラリーは、角膜の表面を損傷しないので、他の投与方法よりも有利である。
【0083】
本明細書に開示される系および方法は、本明細書に記載される特定の態様についての範囲に限定されない。実際に、記載されるものに加えてデバイス、系および方法の種々の変更が、前述の記載から当業者に明らかとなる。
【実施例
【0084】
実施例1-角膜麻痺のためのコールドスラリー治療のインビボ試験
この実施例に記載される試験の結果は図5~9に見られ得る。動物試験による前臨床試験を行って、治療を送達するための最良の手段、治療の効果の持続時間および任意の潜在的な副作用を調べることなどの治療の有効性を決定した。眼の調査について、ニュージーランドホワイトラビットは、それらの角膜および角膜神経支配系がヒトと非常に似ているので理想的なモデルであり、文献における角膜試験についての標準的な受け入れられたモデルである。
【0085】
手順の調製
動物に、前麻酔(ウサギキシラジン1.1mg/kg IMブプレノルフィンHCL 0.01~0.05mg/kg IM)および前外科手術抗生物質(セファゾリン25~50mg/kg IM)を与えた。次いで動物を麻酔した(ウサギケタミン33mg/kg IM)。動物を加熱パッドの上に置き、生命徴候をモニタリングした。2滴のプロパラカインHCL .5%および5%フェニルエフリン/0.5%トロピカミド(拡張液滴)を、試験する眼に投与した。動物を、O2補充を有する吸入麻酔(1.5~2%濃度のイソフルラン)に供した。
【0086】
試験手順
動物を準備して、ポビドン-ヨウ化物液滴の眼の表面への点眼などの通常の滅菌様式において滅菌した布で覆った。開瞼器を設置して、スラリーの局所または結膜下注射を行う。
【0087】
注射投与
ECT-1719の知覚減退能力を評価するために、約0.7mLのコールドスラリーを、角膜輪部の周りに結膜下空間に注射した。部分的に角膜からの圧力、注射の力および自然の潜在的な空間存在のために、注射したコールドスラリーは均一に、角膜輪部の周りに360°分布する。注射手順は、120秒ごとに合計10分間反復する。
【0088】
対照動物は、滅菌食塩水を用いた治療(対照)またはビヒクル対照を用いた治療(冷却されないスラリー)を受けた。手順の終了時に、眼を注意深く検査して、開瞼器を除去して、滅菌した布を除去し、眼を滅菌食塩水で洗浄した。従来の麻酔液滴を角膜に適用したさらなる対照群があった。全ての外科手術は左目のみに行い(対照目的)、約10分続けた。
【0089】
上記の外科手術手順は、状態に応じて種々の異なる薬剤(例えばステロイド、抗生物質等)の注射を用いて、ヒトにおいて一般的に行われる。
【0090】
局所投与
ECT-4143知覚減退能力を評価するために、スラリーを、眼の表面の角膜の縁の後方に局所的に適用した。角膜をコンタクトレンズで、および眼瞼をプラスチック開瞼器で保護した。1適用当たり約2~3mlで約2~3mLのコールドスラリーを、約90秒ごとに、10分の総治療時間に達するまで局所的に適用した。)。手順の終了時に、眼を注意深く検査して、開瞼器を除去し、滅菌した布を除去し、眼を滅菌食塩水で洗浄した。
【0091】
生存動物についての後手順
ネオマイシン/ポリミキシン/バシトラシン眼軟膏、および手術後に数滴の酢酸プレドニゾンを、手術した眼に適用した。動物を手術テーブルから除去して加熱パッドに置いた。回復を待ちながら、動物は、それらの生命徴候をモニタリングした(例えば心拍数、呼吸、SPO2)。筋肉制御が回復するまで、動物はモニタリングを続けた。動物を、それらのそれぞれの元のケージに戻した。
【0092】
外科手術後動物モニタリング
動物は、外科手術の1日後に包括的眼検査(eye exam)を受け、次いで毎週、角膜感覚の測定を含んだ。この治療を受けた動物において有益な眼内圧の低下が観察され得る場合、眼内圧の測定も行った。さらに、フルオレセイン染色を用いた細隙灯検査(slit lamp exam)および散大眼底検査(dilated fundus exam)(すなわち眼を5%フェニルエフリン、0.5%トロピカミドで拡張する)を行った。点眼剤を1滴ずつ垂らしながら、動物を数秒間、限定的なケージに配置した。
【0093】
投与の効果
いくつかの技術を使用してコールドスラリーの投与の効果を試験した。
【0094】
知覚計を使用して、コールドスラリーの麻痺効果を試験した。デバイスから特定の堅さを有するフィラメントを伸ばした。コールドスラリーで治療した動物は、対照群中の動物よりも強い知覚計からの力に耐え得た。これは、知覚計フィラメントで目を突いた場合に動物が萎縮するかどうかにより示された。該試験は、試験の経過にわたり複数回行い、麻痺効果の長さを決定した。
【0095】
眼の治癒する能力に対するコールドスラリーの影響も試験した。トレフィンおよび角膜ブラシを用いて角膜に上皮欠損を作製した。フルオレセイン染色により傷を検証し、光学的に証明した(photodocumented)。管理の染色を使用して、傷のサイズを測定し、傷の進行を測定した。コールドスラリーは、眼の治癒する能力に影響を及ぼさなかった。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】