IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シクパ ホルディング ソシエテ アノニムの特許一覧

特表2023-520796物体を視覚的に認証する光学素子及び方法
<>
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図1
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図2
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図3A
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図3B
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図3C
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図4A
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図4B
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図5
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図6
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図7
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図8
  • 特表-物体を視覚的に認証する光学素子及び方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-19
(54)【発明の名称】物体を視覚的に認証する光学素子及び方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/50 20060101AFI20230512BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G02B27/50
G02B5/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560474
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2021059011
(87)【国際公開番号】W WO2021204844
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】20168421.4
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルツブルク, ユリー
(72)【発明者】
【氏名】テスタズ, ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】カルガーリ, アンドレア
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042AA01
2H042AA21
2H042AA26
(57)【要約】
本発明は、光源による光学素子の照明時に、基準画像を再現する可視画像を同時に表示するとともに、基準パターンを再現する可視コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成されるコースティック層及びマスク層を備えるコピー防止光学素子に関し、投射画像は基準画像とは異なる。また、本発明は、マスク層の透過特性と一致する前記コースティック層の光方向転換表面のレリーフパターンを設計する方法にも関連する。
【選択図】 図3C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射性又は屈折性の透明又は部分的に透明な一片の第1の光学材料から形成されるとともにレリーフパターンを有する光方向転換表面を有するコースティック層、を備える光学素子であって、
前記光学素子が、該光学素子の光学面上に又は前記光学素子内にそれぞれ配置されるマスク層を含み、前記マスク層が、マスクパターンを備えるとともに、可変光透過係数を有し、前記マスク層が、点状光源による前記光学素子の照明時に入射光を少なくとも部分的に透過するように構成され、
前記コースティック層の前記光方向転換表面の前記レリーフパターンが、前記点状光源から前記光学素子により受けられる入射光を方向転換させて、基準パターンを再現する可視コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成される、
ことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記点状光源による前記光学素子の照明時に、前記マスク層が、基準画像を再現する可視画像を示すように構成され、前記可視画像が前記投射画像とは異なる、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記レリーフパターンの深さのプロファイルが、不連続部を有する計算されたレリーフパターンプロファイルに従って前記一片の第1の光学材料の表面を機械加工することによって形成される急激な変化部を有し、前記機械加工された急激な変化部が前記不連続部に対応する、請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記レリーフパターンのプロファイルが30μm以下の最大深さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記レリーフパターンのプロファイルが250μm以下の最大深さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光方向転換表面の前記レリーフパターンが、前記光方向転換表面から距離dを隔てて前記光源から受けられる入射光を方向転換させるとともに、前記光方向転換表面から距離dを隔てた壁面上に前記コースティックパターンを含む前記投射画像を形成するように構成され、dの値が30cm以下であり、比率d/dの値が5以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記コースティック層と隣り合う、屈折性の透明又は部分的に透明な第2の光学材料から形成されたレンズ素子を更に備え、前記レンズ素子が、前記光源から前記光学素子により受けられる入射光を方向転換させて、前記基準パターンを再現する前記可視コースティックパターンを含む前記投射画像を形成するように構成され、
前記光方向転換表面が焦点距離fを有し、
前記レンズ素子が、前記光学素子を通して前記光源を見ている観察者の網膜上に直接に前記可視コースティックパターンを含む前記投射画像を形成するように設定される焦点距離fを有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
a)前記コースティック層が正の焦点距離(f>0)を有し、前記レンズ素子が負の焦点距離(f<0)を有する、又は、
b)前記コースティック層が負の焦点距離(f<0)を有し、前記レンズ素子が正の焦点距離(f>0)を有する、
のうちの一方を含む、請求項7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記レンズ素子の前記焦点距離fと前記コースティック層の前記焦点距離fとの間の関係が、以下の式、
【数1】

を満たし、
ここで、
Rが、前記コースティック層と前記観察者の眼との間の距離であり、
が、前記光源と前記光学素子との間の距離であり、
が、眼からの快適に読める距離であり、少なくとも25cmである、
請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
消費者製品、有価証券、納税印紙、及び、紙幣を含む群から選択される物体をマーク付けする、請求項1~9のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項11】
観察者によって、請求項1~9のいずれか一項に記載のマスク層を有する前記光学素子でマーク付けされた物体を視覚的に認証する方法であって、
前記光学素子を点状光源によって照明するステップと、
前記基準パターンを再現する前記可視コースティックパターンを含む前記投射画像を視覚的に観察するステップと、
前記コースティックパターンが前記基準パターンと視覚的に類似しているという前記観察者による評価に基づいて前記物体が本物であると決定するステップと、
を含む方法。
【請求項12】
前記点状光源による前記光学素子の照明時に、前記マスク層が、基準画像を再現する可視画像を示すように構成され、前記方法が、前記基準画像を再現する前記可視画像を視覚的に観察する更なるステップを含み、前記物体が本物であると決定する前記ステップが、前記可視画像が前記コースティックパターンと視覚的に異なっているという前記観察者による更なる検証を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
屈折性の透明又は部分的に透明な若しくは反射性の一片の第1の光学材料から形成されるコースティック層の光方向転換表面のレリーフパターンを設計する方法であって、前記コースティック層が、光学素子の光学面上に又は前記光学素子内にそれぞれ配置されるマスク層を含み、前記マスク層が、マスクパターンを備えるとともに、可変光透過係数を有し、前記マスク層が、点状光源による前記光学素子の照明時に入射光を少なくとも部分的に透過するように構成され、前記コースティック層が、前記点状光源から受けられる入射光を方向転換させて、コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成され、前記方法が、
画像平面内の座標{(x,y)}のN個の画像画素pのセットPを備える基準パターンの入力標的画像の離散的表現に対し、前記標的画像の所与の領域内に分布されて前記標的画像の標的コースティックパターンに対応する関連付けられた非ゼロ標的光強度{I}、i=1,…,Nを与えるコンピュータ実施ステップと、
前記コースティック層によって屈折又は反射されて座標(x,y)、i=1,…,Nの前記画像平面の点P(i)に集束される光線の光路長の定常性からそれぞれ得られる交差する複数の表面区分z=f(x,y)、i=1,…,Nを用いて、前記光方向転換表面の表現に基づき、前記(x,y)座標面よりも上方の高さzを有する、前記コースティック層の前記光方向転換表面z=F(x,y)の区分的表現を計算するコンピュータ実施ステップであって、各表面区分z=f(x,y)が、前記点P(i)を通過して高さz=f(x,y)、i=1,…,Nを有する点(x,y,z)において頂点を有する軸線周りでの回転面であり、N個の頂点の高さのそれぞれの値と関連付けられた前記光方向転換表面の前記区分的表現が、対応するN個の表面区分z=f(x,y)、i=1,…,Nの交線の包絡線によって形成される、コンピュータ実施ステップと、
前記N個の表面区分の頂点の高さz,…,zのそれぞれの値の所与のセットに関し、前記マスクパターンの前記可変光透過係数に従って、前記関連付けられた区分的な光方向転換表面を介して入射光を方向転換させる前記コースティック層によって前記点P(1),…,P(N)にそれぞれ集束される光強度I(1),…,I(N)の値の対応するセットを計算するコンピュータ実施ステップと、
前記関連付けられた光方向転換表面を介して前記点P(1),…,P(N)に集束される計算された光強度I(1),…,I(N)の前記それぞれの値と、前記標的光強度I,…,Iの前記それぞれの対応する値との間の差を最小化する、前記対応するN個の表面区分の前記N個の頂点の前記N個の高さz,…,zの前記それぞれの値を計算するコンピュータ実施ステップと、
を含み、
以て、前記マスク層を備える前記光学素子によって前記光源から受けられる入射光を方向転換させるとともに基準パターンを再現する前記標的コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成されるレリーフパターンを有する前記光方向転換表面を得る、方法。
【請求項14】
各表面区分z=f(x,y)、i=1,…,Nが、近軸近似において、前記光路長の前記定常性から得られる前記表面区分の式の2以上の次数kのテイラー展開をとることによって、近似される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記設計された光方向転換表面を使用して、前記コースティック層の前記光方向転換表面を機械加工するように機械加工工具を制御するための機械適合性表現を生成する、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コースティック(caustic)光学素子を設計する技術分野、特に、コースティック層の屈折性の透明又は部分的に透明な光方向転換表面(又は反射性の光方向転換表面)を設計すること、及び、適切な照明でコースティックパターンを投射するように動作可能な屈折性/反射性の光学セキュリティ素子に関する。
【発明の背景】
【0002】
一般に入手可能な手段を使用した、いわゆる「一般人」によって認証され得る、物体上のセキュリティ特徴が必要とされている。これらの手段は、五感、多くの場合は知覚及び触覚、を使用することに加えて、例えば携帯電話などの普及した手段を使用することを含む。
【0003】
セキュリティ特徴の幾つかの一般例は、紙幣、クレジットカード、ID、チケット、証明書、文書、パスポートなどで見ることができる、法医学繊維、糸、又は、箔(例えば、紙のような基材内に組み込まれる)、透かし、凹版印刷又はマイクロプリント(場合により、光学可変インクで基材に印刷される)である。これらのセキュリティ特徴は、光学可変インク、不可視インク、又は、発光性インク(特定の励起光を用いた適切な照明下で蛍光又は燐光を発する)、ホログラム、及び/又は、触覚特徴を含み得る。セキュリティ特徴の主な態様は、それが、偽造するのが非常に困難である何らかの物理的性質(光学効果、磁気効果、材料構造、又は、化学組成)を有し、それにより、そのようなセキュリティ特徴でマーク付けされた物体が、(視覚的に又は特定の装置を用いて)特性を観察できる又は明らかにできる場合に、確実に本物であると見なされ得ることである。
【0004】
しかしながら、物体が透明又は部分的に透明である場合、これらの特徴は適切ではない場合がある。実際、透明な物体は、多くの場合、必要とされるセキュリティ特徴を有するセキュリティ素子が、審美的又は機能的理由のいずれかのために、それらの透明性又はそれらの外観を変えないことを必要とする。顕著な例としては、医薬品用のブリスタ及びバイアルを挙げることができる。例えば、最近では、ポリマー紙幣及びハイブリッド紙幣は、それらのデザインに透明窓を組み込んでおり、したがって、それと適合するセキュリティ特徴の要望を生んでいる。
【0005】
文書、紙幣、保証付きチケット、パスポートなどのための大半の既存のセキュリティ特徴は、透明の物体/領域のために特に開発されたものではなく、したがって、そのような用途にあまり適していない。他の特徴、例えば、不可視及び蛍光インクにより得られるものは、「一般人」には容易に入手可能ではない場合がある特定の励起ツール及び/又は検出ツールを必要とする。
【0006】
半透明の光学可変特徴(例えば、液晶コーティング、又は、表面構造からの潜像)が、知られており、この種の機能性を与えることができる。残念ながら、そのようなセキュリティ特徴を組み込むマーキングは、一般に、効果が十分に可視であるためには、暗い/均一な背景に対して観察されなければならない。
【0007】
他の知られている特徴は、非金属化表面ホログラムなどの回折光学素子である。これらの特徴に伴う欠点は、直接見たときに、それらの特徴が非常に低コントラストの視覚効果を示すことである。更に、パターンを投射するために単色光源と組み合わせて使用されるとき、それらの特徴は、一般に、満足のいく結果を与えるためにレーザを必要とする。更に、はっきりと目に見える光学効果をもたらすためには、光源、回折光学素子、及び、ユーザの目の非常に高精度の相対的空間配置が必要とされる。
【0008】
レーザ彫刻されたマイクロテキスト及び又はマイクロコードは、例えば、ガラスバイアルのために使用されている。しかしながら、それらは、それらの実装のための高価なツール、及び、それらの検出のための特定の拡大ツールを必要とする。
【0009】
上記の問題は、透明又は部分的に透明な物体に適した光学(セキュリティ)素子では、屈折性の透明又は部分的に透明な光方向転換表面を有するコースティック層を使用する設計方法論を導入することによって克服されてきており、この場合、コースティック層は、光源から受けられる入射光を方向転換させるとともに、標的基準パターンを再現するコースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成されるレリーフパターンを有する。
【0010】
この手法は、コースティック層の表面を成形することによってコースティックパターンを制御できるようにする。光輸送に基づいた計算ツールは、標的画像から始めて、コースティック光学素子の屈折性又は反射性表面の幾何学的形状を最適化する(計算する)ことによって、殆どどんな所望の形状でも形成するように開発されてきた。コースティック表面及び標的基準画像から始めて前記コースティック表面を計算するための方法は、例えば以下の先行技術において開示されている。
【0011】
欧州特許出願公開第2711745(A2)号は、生成された表面をメッシュ内へ離散化し、これが後に変形されて画像の対応する領域の輝度を調節することを開示する。その後にメッシュと関連付けられた法線フィールドが決定され、対応するコースティック表面を見つけるために積分される。しかしながら、任意の画像を前提とすると、対応する法線フィールドが積分可能となるように追加の注意を払わなければならない。
【0012】
欧州特許出願公開第2963464(A1)号は、最適輸送マップ(OTM)を決定するために同様の手法をとり、同様に、法線フィールドを計算及び積分することを必要とする。
【0013】
米国特許第9188783(B2)号及び米国特許出願公開第2016041398(A1)号は、生成した表面を、それぞれがコースティックガウスカーネルを投射する役割を果たす一群のマイクロパッチへと分割し、カーネルの重ね合わせが所望の画像を近似する。しかしながら、この方法は、離散化アーチファクトを被り、低強度領域を解像することに困難を有する。また、法線フィールドは積分される必要もある。
【0014】
国際公開第2019063778(A1)号パンフレット及び国際公開第2019063779(A1)号パンフレットは、光源からの入射光を方向転換させて投射面上に投射画像を形成するように動作可能なレリーフパターンを有する屈折性の光方向転換表面を備える光学セキュリティ素子を開示し、投射画像は、人が容易に視覚的に認識できる基準パターンを再現するコースティックパターンを備える。
【0015】
しかしながら、コースティック表面を有するこれらの光学素子は幾つかの欠点を有する。磨耗や磨滅に弱いだけでなく、コースティック表面は、そのレリーフパターンのキャストを形成することによってコピーされ得る。更に、コースティック表面の存在により、物体の外観がある程度変更され、それにより、審美的に満足できなくなる可能性がある及び/又はコースティック画像を投射する機構に注意を引く。特定の状況下では、投射された画像を単に表面の形状から推測することができ、それにより、例えば光学素子を通して見ることによって光学素子を使用しなければならない人にとって驚きの効果が低減する(特に、この「驚き」の効果が光学素子によって与えられるべき安全な態様と関連付けられる場合)。
【0016】
したがって、本発明の目的は、前述の欠点を克服するコースティック表面を有するコピー防止光学素子を提供することである。
【0017】
本発明の更なる目的は、改良された光学素子を備える、消費者製品、有価証券(例えば、証明書、パスポート、身分証明書、運転免許証など)、及び、紙幣を備える群から選択される、マーク付き物体を提供することである。
【0018】
本発明の更なる目的は、一般に利用可能な手段を使用して光学素子でマーク付けされた物体を視覚的に認証する方法を提供することである。
【0019】
本発明の更なる目的は、消費者製品、有価証券、及び、紙幣を備える群から選択される物体を認証又は偽造防止するために光学素子を使用することである。
【発明の概要】
【0020】
一態様によれば、本発明は、反射性又は屈折性の透明又は部分的に透明な一片の第1の光学材料から形成されるとともにレリーフパターンを有する光方向転換表面を有するコースティック層を備える光学素子であって、
光学素子が、該光学素子の光学面上に又は光学素子内にそれぞれ配置されるマスク層を含み、マスク層が、マスクパターンを備えるとともに、可変光透過係数を有し、マスク層が、点状光源による光学素子の照明時に入射光を少なくとも部分的に透過するように構成され、
コースティック層の光方向転換表面のレリーフパターンが、点状光源から光学素子により受けられる入射光を方向転換させて、基準パターンを再現する可視コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成される、
光学素子に関する。
【0021】
点状光源による前記光学素子の照明時に、マスク層が、基準画像を再現する可視画像を示すように構成され、可視画像が投射画像とは異なる。
【0022】
好ましくは、レリーフパターンの深さのプロファイルが、不連続部を有する計算されたレリーフパターンプロファイルに従って一片の第1の光学材料の表面を機械加工することによって形成される急激な変化部を有し、前記機械加工された急激な変化部が不連続部に対応する。レリーフパターンのプロファイルは、最大深さが250μm以下であってもよい。しかしながら、レリーフパターンのプロファイルは、30μm以下の最大深さを有することが好ましい。本発明の実現形態によれば、光学素子の光方向転換表面は平坦なベース基板上に配置され、光学素子の全体の厚さは100μm以下である。光方向転換表面のレリーフパターンは、光方向転換表面から距離dを隔てて光源から受けられる入射光を方向転換させるとともに、光方向転換表面から距離dを隔てた壁面上にコースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成されることが好ましく、この場合、dの値が30cm以下であり、比率d/dの値が5以上である。
【0023】
他の実現形態によれば、光学素子は、コースティック層と隣り合う、屈折性の透明又は部分的に透明な第2の光学材料から形成されたレンズ素子を更に備え、レンズ素子は、光源から光学素子により受けられる入射光を方向転換させて、基準パターンを再現する可視コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成される。光方向転換表面が焦点距離fを有してもよく、レンズ素子は、光学素子を通して光源を見ている観察者の網膜上に直接に可視コースティックパターンを含む投射画像を形成するように設定される焦点距離fを有してもよい。光学素子は、
a)コースティック層が正の焦点距離(f>0)を有し、レンズ素子が負の焦点距離(f<0)を有する、又は、
b)コースティック層が負の焦点距離(f<0)を有し、レンズ素子が正の焦点距離(f>0)を有する、
のうちの一方を含んでもよい。
【0024】
好ましくは、レンズ素子の焦点距離fとコースティック層の前記焦点距離fとの間の関係は、以下の式、
【数1】

を満たし、
ここで、
Rは、前記コースティック層と前記観察者の眼との間の距離であり、
は、前記光源と前記光学素子との間の距離であり、
は、眼からの快適に読める距離であり、少なくとも25cmである。
【0025】
本発明に係る光学素子は、消費者製品、有価証券、納税印紙、及び、紙幣を含む群から選択される物体をマーク付けするために使用されてもよい。
【0026】
他の態様によれば、本発明は、観察者によって、マスク層を有する上記光学素子でマーク付けされた物体を視覚的に認証する方法であって、
光学素子を点状光源によって照明するステップと、
基準パターンを再現する可視コースティックパターンを含む投射画像を視覚的に観察するステップと、
コースティックパターンが基準パターンと視覚的に類似しているという観察者による評価に基づいて物体が本物であると決定するステップと、
を含む方法に関する。
【0027】
好ましい実現形態において、点状光源による光学素子の照明時に、マスク層は、基準画像を再現する可視画像を示すように構成され、方法は、基準画像を再現する可視画像を視覚的に観察する更なるステップを含み、物体が本物であると決定するステップは、可視画像がコースティックパターンと視覚的に異なっているという観察者による更なる検証を含む。
【0028】
本発明の更なる態様は、屈折性の透明又は部分的に透明な若しくは反射性の一片の第1の光学材料から形成されるコースティック層の光方向転換表面のレリーフパターンを設計する方法であって、コースティック層が、光学素子の光学面上に又は光学素子内にそれぞれ配置されるマスク層を含み、マスク層が、マスクパターンを備えるとともに、可変光透過係数を有し、マスク層が、点状光源による光学素子の照明時に入射光を少なくとも部分的に透過するように構成され、コースティック層が、点状光源から受けられる入射光を方向転換させて、コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成され、上記方法が、
画像平面内の座標{(x,y)}のN個の画像画素pのセットPを備える基準パターンの入力標的画像の離散的表現に対し、標的画像の所与の領域内に分布されて標的画像の標的コースティックパターンに対応する関連付けられた非ゼロ標的光強度{I}、i=1,…,Nを与えるコンピュータ実施ステップと、
コースティック層によって屈折又は反射されて座標(x,y)、i=1,…,Nの画像平面の点P(i)に集束される光線の光路長の定常性からそれぞれ得られる交差する表面区分z=f(x,y)、i=1,…,Nを用いて、光方向転換表面の表現に基づき、(x,y)座標面よりも上方の高さzを有する、コースティック層の光方向転換表面z=F(x,y)の区分的表現を計算するコンピュータ実施ステップであって、各表面区分z=f(x,y)が、点P(i)を通過して高さz=f(x,y)、i=1,…,Nを有する点(x,y,z)において頂点を有する軸線周りでの回転面であり、N個の頂点の高さのそれぞれの値と関連付けられた光方向転換表面の区分的表現が、対応するN個の表面区分z=f(x,y)、i=1,…,Nの交線の包絡線によって形成される、コンピュータ実施ステップと、
N個の表面区分の頂点の高さz,…,zのそれぞれの値の所与のセットに関し、マスクパターンの可変光透過係数に従って、関連付けられた区分的な光方向転換表面を介して入射光を方向転換させるコースティック層によって点P(1),…,P(N)にそれぞれ集束される光強度I(1),…,I(N)の値の対応するセットを計算するコンピュータ実施ステップと、
関連付けられた光方向転換表面を介して点P(1),…,P(N)に集束される計算された光強度I(1),…,I(N)のそれぞれの値と、標的光強度I,…,Iのそれぞれの対応する値との間の差を最小化する、対応するN個の表面区分のN個の頂点のN個の高さz,…,zのそれぞれの値を計算するコンピュータ実施ステップと、
を含み、
以て、マスク層を備える光学素子によって光源から受けられる入射光を方向転換させるとともに基準パターンを再現する標的コースティックパターンを含む投射画像を形成するように構成されるレリーフパターンを有する光方向転換表面を得る、方法に関する。
【0029】
各表面区分z=f(x,y)、i=1,…,Nは、近軸近似において、光路長の定常性から得られる表面区分の式の2以上の次数kのテイラー展開をとることによって、近似される。計算された光強度I(i)と対応する標的光強度Ii(i=1,…,N)との間の差を最小化する高さzを計算するステップは、無勾配最適化法によって実行され得る。或いは、計算された光強度I(i)と対応する標的光強度Ii(i=1,…,N)との間の差を最小化する高さzを計算するステップは、関連するコスト関数とその導関数とを計算するためのべき乗ダイアグラムを用いる最適化法によって実行されてもよい。
【0030】
設計された光方向転換表面は、コースティック層の光方向転換表面を機械加工するように機械加工工具を制御するための機械適合性表現を生成するために使用されてもよい。前記機械適合性表現は、例えば、STereoLithography(STL)又はInitial Graphics Exchange Specification(IGES)などの業界標準フォーマットを使用してもよい。特に、機械適合性表現は、複製によるコースティック層の大量生産に更に使用される中間基板の光方向転換表面を機械加工するように機械加工工具を制御するためにも使用することができる(そのような複製は、ロールツーロール、ホイルツーホイル、UVキャスティング、及び、エンボス加工を含んでもよい)。更に、レリーフパターンを設計する方法は、点状光源による光学素子の照明時に、基準パターンとは異なる基準画像を再現する可視画像を示すようにマスク層を構成する予備的なステップを含んでもよい。
【0031】
本発明は、本発明の顕著な態様及び特徴が示されている添付の図面を参照して、以下により完全に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】マスク層がない一般的な場合におけるコースティックパターンを投射するための屈折性光学素子の光学構成を示す。
図2】マスク層が存在して投射されたパターンの決定に寄与する、コースティックパターンを投射するための光学素子の本発明に係る一例を示す。
図3A】本発明に係るマスク層とコースティック層とが組み合わされた光学素子を示し、マスク層は、投射画像(ジョコンダのコースティックパターン)とは異なる基準画像(レオナルドの肖像画)を有する。
図3B】マスク層が除去されたときの図3Aの光学素子に対応し、投射画像上に歪み及び偽の特徴が見える。
図3C】(木の)投射画像とは異なる基準画像「木」を有するマスク層を有する、本発明に係る光学素子を示し、光学素子が透明なPMMAブロック上に形成される。
図4A】本発明に係るマスク層とコースティック層とが組み合わされた光学素子を示し、マスク層は、投射画像(アインシュタインの肖像画のコースティックパターン)とは異なる基準画像「E=mc」を有する。
図4B】マスク層が除去されたときの図4Aの光学素子に対応し、投射画像上に歪み及び偽の特徴が見える。
図5】観察者の網膜上に直接にコースティックパターンを投射するためのマスク層とコースティック層とが組み合わされた本発明に係るシースルー素子である光学素子を示し、レンズ素子が負の焦点距離を有し、コースティック層が正の焦点距離を有する。
図6】観察者の網膜上に直接にコースティックパターンを投射するためのマスク層とコースティック層とが組み合わされた本発明に係るシースルー素子である他の光学素子を示し、レンズ素子が正の焦点距離を有し、コースティック層が負の焦点距離を有する。
図7図2の屈折性光学素子の詳細図を示す。
図8】マスクパターンの一部によって覆われたコースティック層の入射面の一部を均一な強度で照明して像点を形成する平行光線を示す。
図9】光方向転換表面の区分的近似により、マスクパターンの一部によって覆われたコースティック層の入射面の一部を均一な強度で照明して複数の像点を形成する平行光線を示す。
【詳細な説明】
【0033】
光学では、用語「コースティック」は、少なくとも1つが湾曲している1つ以上の表面によって屈折又は反射される光線の包絡線、並びに、別の表面上へのそのような光線の投射を指す。より具体的には、コースティックは、光線の包絡線の境界を集光の曲線として規定する、各光線に接する曲線又は表面である。例えば、プールの底に太陽光線により形成される光パターンは、単一の光方向転換表面(波打った空気-水界面)によって形成されるコースティック「画像」又はパターンである一方、コップの曲面を通過する光は、その経路を方向転換させる2つ以上の表面(例えば、空気-ガラス、ガラス-水、空気-水)と交差する際に、コップが載っているテーブルの上に三日月様のパターンを作成する。
【0034】
以下においては、光学素子の(屈折性)コースティック層が1つの(湾曲)表面、又は光方向転換表面、及び1つの平坦表面によって境界付けられる最も一般的な構成が、より一般的な事例を制限することなく、一例として使用される。ここでは、より一般的な「コースティックパターン」(又は「コースティック画像」)を、コースティック層の適切に成形された光学面(適切なレリーフパターンを有する光方向転換表面を有する)が光を光源から方向転換させて、それを画面の幾つかの領域からそらし、それを画面の他の領域に予め定められた光パターンで集束させる(すなわち、こうして前記「コースティックパターン」を形成する)ときに例えば画面(投射表面)に形成される光パターンと呼ぶ。方向転換は、コースティック層が存在しない場合の光源から画面までの経路に対する、コースティック層の存在下での光源からの光線の経路の変化を指す。コースティック層(屈折性又は反射性)は、したがって、光源から受けられる光を方向転換させてコースティック画像を形成するように構成されるレリーフパターンを有する光方向転換表面を有する一片の第1の光学材料である。本発明に係る光学素子は、コースティック層を含み、光方向転換に関与する更なる光学素子(複数可)(例えば、レンズ、又は支持基材)を更に備え得る。
【0035】
一方、光方向転換光学面は、「レリーフパターン」と呼ばれ、この表面によって境界付けられる一片の第1の光学材料は、コースティック層と呼ばれる。コースティックパターンは、2つ以上の表面及び2つ以上の物体による光の方向転換の結果であり得るが、複雑性の増大という犠牲を伴う可能性があるということに留意すべきである。更に、コースティックパターンを生成するためのレリーフパターンは、回折パターン(例えば、セキュリティホログラムにおけるものなど)と混同されるべきではない。
【0036】
本発明の概念は、例えば、消費者製品、ID/クレジットカード、紙幣などの日常的な物体に適用され得る。そうするためには、光学素子のサイズを劇的に小さくすること、及び、特に、レリーフパターンのレリーフ深さが許容値を下回るようにすることが必要とされる。この目的のため、効率的なワークフローを有することが特に有用であるが、これは、そのような効率的なワークフローが、全ての動作制約が満たされるまで幾つかの設計反復を可能にするためである。
【0037】
この説明では、「レリーフ」とは、谷底と山頂との間の高度差(すなわち、「山頂から谷まで(peak to valley)」の尺度)に類似して、表面の最高点と最低点との間の高さの差(光学素子の光学軸に沿って測定される)の存在と理解されるべきである。本発明に係る方法は、特定のレリーフに限定されないが、企図される用途の多くについて、光学素子のレリーフパターン最大深さは、一般に、250μm以下、又はより好ましくは、30μm以下である一方で、超精密加工(UPM)及び複製プロセスによって課せられる制限、すなわち、約0.2μmを上回る。
【0038】
この説明によると、光方向転換表面上のレリーフパターン内の最高点と最低点との間の高さの差は、レリーフ深さεと呼ばれる。
【0039】
デジタル画像の近似を形成するコースティックパターン(画像)は、好適な点状光源によって照明されるとき、光学素子によって投射される光パターンと理解されるべきである。上で述べられたように、光学素子は、コースティック画像を作成する役割を果たす屈折性(又は反射性)材料の平板と理解されるべきである。
【0040】
光方向転換表面(複数可)は、光源から画面上へ入射光を方向転換させる役割を担うコースティック層の(光学素子の)表面(又は複数の表面)、又はコースティックパターンが形成される(おそらくは平坦な)投射表面である。
【0041】
光学素子のコースティック層を作製するために使用される第1の光学材料基材は、生の材料基材であり、この基材から表面が、レリーフパターンを有するように、したがって光方向転換表面を形成するように具体的に形成される。反射性の光方向転換表面の場合、第1の光学材料基材は、必ずしも均質又は透明ではなく、同じことが、更なる複製のためだけに使用されるマスター表面の場合にも当てはまる。例えば、材料は、可視光を透過させなくてもよく、反射性は、形成された表面の古典的な金属化によって取得され得る。屈折性の光方向転換表面の場合、生の材料基材は、屈折率nを伴って透明又は部分的に透明且つ均質であり(人間の目に見えるスペクトルの光子について)、対応する光方向転換表面は、「屈折率nの屈折性の透明又は部分的に透明な光方向転換表面」と名付けられる。
【0042】
この説明に係るマスター光方向転換表面は、計算されたものからの光方向転換表面の最初の物理的実現である。それを幾つかのコピー(ツール)へと複製することができ、そのコピーは、その後に、大量複製のために使用される。
【0043】
この説明において使用される点状光源(図1及び図2参照)は、光が光方向転換表面から距離dを隔てた単一の点から生じると考えられ得るほど(光学素子の視点からの)その角度サイズが十分に小さい光源Sである。大まかには、このことは、量:(光源直径)×d/dが、光方向転換表面から距離dを隔てた投射表面における投射画像上の標的コースティックパターンの所望の分解能(例えば、0.05~0.1mm)よりも小さいことを意味する。画面は、コースティックパターンが投射される表面と理解されるべきである。また、光源と光方向転換表面との間の距離は、光源距離dとも名付けられ、光方向転換表面と画面との間の距離は、画像距離dと名付けられる。
【0044】
工具(又は、曖昧さを取り除くことが必要なときには、複製工具)という用語は、大量複製のために使用される光方向転換表面のプロファイルを持つ物理的物体に対して主に使用される。工具は、例えば、マスター光方向転換表面のコピーを産生するために使用され得る(元のレリーフが、対応する反転レリーフを持つマスターから、エンボス加工又は注入により、再現される)。光方向転換表面のレリーフパターンを機械加工するために使用される工具については、機械加工工具という用語が、曖昧さを取り除くために使用される。
【0045】
図1は、(意味のある)基準パターンを再現するコースティックパターンを投射するための屈折性光学素子の典型的な光学構成の概略図である。屈折性の透明又は部分的に透明な一片の第1の光学材料から形成されるとともに屈折面(3)を有するコースティック層(2)を含む光学素子(1)は、点状光源Sからの光を方向転換し、その光を、(観察者によって)認識可能なコースティックパターン(5)が形成される任意の物体等の任意の表面であってもよい適切な画面(4)上に投射する。画像は、例えば、ロゴ、写真、数字、又は、特定のコンテキストに関連してもよい任意の他の情報となり得る。好ましくは、画面は平らな投射面又は任意の物体の平らな部分である。光方向変換表面(3)の特別な設計により、(認識可能な)コースティックパターンを曲面に投射することができる。
【0046】
図1の構成は、光源Sから光学素子(1)によって受けられる光が、コースティック層(2)の光方向転換表面(3)の適切に成形されたレリーフパターンによって方向転換されることを示す。この一般的な考え方は、例えば、自動車のヘッドライトのための反射面、LED照明用のリフレクター及びレンズ、レーザ光学における光学系、プロジェクタ、及び、カメラから知られている。しかしながら、通常、目標は不均一な光の分布を均一なものに変換することである。
【0047】
これに対し、図2に示されるように、本発明の目標は、(マスクパターンに従って)光源Sから受けられる光の光学素子(1)を通じた透過を変更するマスクパターン(7)を有するマスク層(6)を光学素子(1)が更に含むときに(例えば、基準パターンのデジタル画像上に表わされるように)基準パターンの相対輝度の幾つかの領域を(ほぼ)再現する不均一な光パターン、すなわち、コースティックパターン(5)を取得することである。したがって、光方向転換表面(3)のレリーフパターンは、所与の基準パターンを(ほぼ)再現するコースティクスの可視コースティックパターン(5)を与えるべくマスクパターン透過特性に特に適合されなければならない。マスク層(6)のマスクパターン(7)を形成する光学材料は、光源Sによって放出される可視光に対して不透過であり得る(すなわち、光を透過しない)か、又は多かれ少なかれ透過し得る。勿論、マスクパターン(7)の光学材料が不透過である場合、マスク層(6)は、(非ゼロ)光透過係数に従って光を透過できる不透明でない部分を備えなければならない。したがって、光透過に関して、マスク層(6)は、0(入射光がマスクパターンの不透明部分によって遮断される場合)から1(コースティック層のマスクがされていない部分を通じて入射光を完全に透過する場合)まで局所的に変化し得る可変光透過係数tによって特徴付けられ得る。マスクパターン(7)の対応する局所部分が部分的に透明である場合、透過係数の中間の局所値0<t<1が可能である。マスク層(6)は、何らかの特定の光学材料の層であってもよい。マスク層(6)は、異なる透過係数を有するとともにマスクパターン(7)の輪郭に従って当接する材料を有する2つの別個の部分を備えながら一定の厚さを有することができる。しかしながら、マスク層は、光学素子自体の光学材料の光透過特性の(マスクパターンを形成する)(局所的な)変更のみによってもたらされ得る、又は、マスクパターンは、マスク層の第1の光学材料の光透過特性の局所的な変更によって、すなわち、例えば、マスクパターンに従ってその透過係数tを局所的に変更するべく一片の第1の光学材料の表面を局所的にサンドブラストで磨くことによってもたらされ得る。マスク層(6)は、光学素子(1)の(光源Sからの入射光に対する)入口光学面上に、又は、別の光学面上に、又は、光学素子自体内部に(すなわち、内部層として)、又は、光方向転換表面(3)(図2参照)上に配置されてもよく、後者の場合、マスク層(6)は光方向転換表面(3)を更に保護できる(例えば、磨耗を防ぐため)。図2に示される例において、マスク層(6)は光学素子(1)の入射面に配置され、マスクパターン(7)は十字(すなわち「X」)の形状を有し、コースティック層(2)の光方向転換表面(3)の薄いレリーフパターンは、(既知の)基準パターンを再現するものとして観察者により簡単に識別され得る十字のない象徴的な様相に相当する、画面(4)に投射されるコースティックパターン(5)を与えるように計算されている。更に、マスク層が欠落している場合(例えば、除去されている場合、又は、コースティック層のレリーフパターンが偽造されている場合)、レリーフパターンは、その後、十字Xによって線引きされて消される象徴的な様相に相当する(変更された)コースティックパターン(5’)を投射する。この場合、可視コースティックパターンが正しい基準パターンを再現しないため、観察者は光学素子が本物でないことを容易に検出できる。
【0048】
好ましくは(図3及び図4参照)、マスクパターン(7)は、特に光源Sが光学素子(1)を照明するときに、マスク層(6)を見ている観察者によって見られ得る基準画像(例えば、肖像画、ロゴなど)を再現する可視画像(8)を含む。より好ましくは、可視画像(8)は、可視コースティックパターン(5)のようには見えず、したがって、照明されたマスク層(6)及び投射されたコースティックパターン(5)を見ている観察者に驚きの効果を引き起こす。
【0049】
したがって、本発明の利点は、マスク層(6)を備えた光学素子を殆ど偽造できないことである。例えば、本物の光学素子のマスク層(6)が前記光学素子(1)の入射面上(すなわち、図2に示されるように、光源Sによって放出される光を最初に受ける光学素子の表面上)に又は光学素子の屈折性の透明又は部分的に透明な一片の材料内に配置される場合、本物のコースティック層(3)のレリーフパターンを再現することによって(例えば、光学素子を複製するための金型を得るためにレリーフパターンの成型体を作ることによって)、しかしながら、対応するマスクパターンを非常に正確に配置することなく(すなわち、レリーフパターンと見当合わせして)又はマスク層を設けることなく、基準パターンと一致する可視コースティックパターンを与えることができる光学素子を作成しようとする偽造者は、正しい基準パターンを納得のいくように再現する目的の可視コースティックパターンは得られない。したがって、マスク層が特定の可視画像を表示するように設計されていない光学素子の場合でも、照明されたレリーフパターン(3)がそのマスク層(6)と共に既知の基準パターンを十分な品質(おそらく全体的な強度スケールファクタによって異なる)で再現するコースティックパターン(5)を画面(4)上に形成できれば、画面上のコースティックパターンを視覚的に観察するだけの人は、それが基準パターンの有効な再現を構成するかどうかを簡単に確認できるとともに、コースティックパターンが基準パターンに十分に類似している場合には、光学素子又は前記光学素子でマーク付けされた物体が(高い可能性で)本物であると見なすことができる。
【0050】
図3A図3B及び図4A図4Bは、マスク層の存在を考慮した設計に従ってそのコースティック層のレリーフパターンが機械加工された光学素子からの基準画像の複製を用いてマスク層を除去する効果を示す。これらの例のマスク層は、容易に除去できるように光学素子の表面に適用されている。また、図3B及び図4Bは、対応するマスク層を複製していない偽造者による、光学素子、特にその光方向転換表面のコピーの事例も示す。図3Aは、光源によって照明された光学素子(1)を示しており、この場合、マスク層(6)が光学素子の入射面に配置されてレオナルド・ダ・ヴィンチのよく知られた肖像画(基準画像)を表わし、一方、マスク層に適合された(図示しない光学素子の背面上の)コースティック層のレリーフパターンは、よく知られているジョコンダの肖像画(基準パターン)を表わす可視コースティックパターン(5)を投射する。表示された可視画像と投射されたコースティックパターンとを見ている観察者は、可視画像が実際に基準画像と類似しており、投射されたコースティックパターンが確かに基準パターンに似ていることを視覚的に評価することによって、光学素子(又はそのような光学素子でマーク付けされた物体)を容易に認証することができる。しかしながら、図3Bに示されるように、マスク層が光学素子の入射面から除去される場合には、勿論、基準画像の可視画像は存在しないが、投射された可視パターンも、この時点で、基準パターンの明らかに劣化した表現を示す。この後者の場合、観察者は、投射されたコースティックパターンが基準パターンと類似していないことを少なくとも明確に検出する。図3Cは、半球状のダイヤモンド工具を用いて(照明時に)木の投射画像を得るために及び非常に小さな工具でエッチングにより形成される「木」という単語に対応するマスクパターン領域を用いて艶消し効果、したがって、この領域内でのみ光を遮断する効果を得るためにCNCフライス加工により機械加工された、100×100×20mmの透明なPMMAブロック上に形成された光学素子に対応する。したがって、その結果は、はっきりと読み取れる単語「木」がその上にある入射面であり、一方、投射された画像は(照明されたときに)木を示す。
【0051】
図4Aは、有名なアインシュタインの式E=mc(基準画像)を表わすマスク層のマスクパターンを有する別の印象的な例を示すが、対応するコースティック層のレリーフパターンは、アルバートアインシュタインのよく知られた肖像画(基準パターン)を投射するように構成される。すなわち、マスク層が削除される場合、光学素子の入射面の照明時に可視画像は出現せず、また、投射されたコースティックパターンは、このとき、A.アインシュタインの肖像画を示すが、式E=mcのコースティックパターンで明確に線引きされて消される。ここでも、観察者は、マスク層が欠落しているか否か及び入射面上の画像及び投射されたコースティックパターンがそれぞれ基準画像及び基準パターンに視覚的に類似しているかどうかを容易に検出できる。
【0052】
図2の実施形態によれば、(点状の)光源Sからの光線は、レリーフパターンを有する光方向転換表面(3)を有する光源距離dを隔てた屈折性光学素子(1)まで伝搬する。光学素子は、ここでは、屈折率nの透明又は部分的に透明な均質材料で作製される。コースティックパターン(5)は、光学素子(1)の光方向転換表面(3)から画像距離dを隔てた画面(4)に投射される。光学素子の真正性(及びしたがって、この素子でマーク付けされた物体の真正性)は、投射されたコースティックパターン(5)と既知の基準パターンとの間の類似性の度合いを観察者が視覚的にチェックすることによって直接的に評価され得る。
【0053】
レリーフパターン(3)は、基準パターンの指定の標的デジタル画像を発端として計算されることが好ましい。その計算されたレリーフパターンから、対応する物理的なレリーフパターンが、例えば超精密加工(UPM)又はグレースケールリソグラフィを使用して、好適な光学材料基材、すなわち、屈折率nの透明又は部分的に透明な材料の表面(又は、反射性の光学素子の場合には不透明材料の反射面)上に作成され得る。不透明な光学材料基材の表面にレリーフを機械加工して反射面を形成する場合、良好な反射率は、材料自体の好適な性質、又は、レリーフ上に金属の薄層を堆積する(金属化)という更なる従来の工程のいずれかによって取得される。UPMは、ダイヤモンド機械加工工具及び超微細技術工具を使用して非常に高い正確性を達成し、それにより、公差は、「サブミクロン」レベル又はナノスケールレベルにまで達し得る。これとは対照的に、従来の機械加工における「高精度」とは、1桁台のミクロンの公差を指す。表面に物理的なレリーフパターンを作成するための他の考えられる好適な技術は、レーザ焼灼、及びグレースケールリソグラフィである。微細加工の分野で知られているように、これらの技術のそれぞれは、費用、精度、速度、分解能などに関して、異なる強み及び制限を有する。
【0054】
屈折性の光方向転換光学素子に適した光学材料基材は、光学的に明澄で、透明又は少なくとも部分的に透明で、機械的に安定していなければならない。一般に、透過率T≧50%が好ましく、T≧90%が最も好ましい。また、低ヘイズH≦10%が使用され得るが、H≦3%が好ましく、H≦1%が最も好ましい。また、光学材料は、平滑で欠陥のない表面をもたらすように、機械加工プロセス中に正しく挙動しなければならない。好適な基材の一例は、光学的に透明なPMMA(Plexiglas、Lucite、Perspexなどの商品名でも知られる)の平板である。反射性のコースティック光方向転換光学素子の場合、好適な光学材料基材は、機械的に安定していなければならず、また、鏡様の仕上げをもたらすことが可能でなければならない。好適な基材の一例は、罫線入りの格子のマスターのために使用されるもの及びレーザ反射鏡などの金属、又は、更に金属化され得る非反射性基材である。
【0055】
大量生産の場合、工具作成及び標的物体への光学素子の大量複製の更なるステップが必要とされる。マスターからの工具作成のための好適なプロセスは、例えば、電鋳法である。大量複製のための好適なプロセスは、例えば、ポリマーフィルムの熱エンボス加工、又はフォトポリマーのUV鋳造であり、これらは、ロールツーロール又はホイルツーホイルプロセスのいずれかにおいて更に実施され得る。大量複製の目的では、マスターもそこから派生される工具も光学的に透明である必要はないため、最終製品が屈折性光学素子であるときでさえ、不透明な材料(とりわけ、金属)も使用され得る。それにもかかわらず、場合によっては、マスターが透明であることが有利なことがあり、これは、それにより、ツーリング及び大量複製を進める前にコースティック画像の品質をチェックできるからである。
【0056】
セキュリティ特徴としてレリーフパターン及びマスク層を有する光方向転換表面を有する光学素子の使用のための重要な態様は、マーク付けされるべき標的物体と、コースティック画像を投射するために必要とされる光学構成とに適合しなければならない、その物理的尺度である。
【0057】
一般に、光学素子の最大横方向サイズは、物体の全体サイズによって制限され、通常、数cmから、あまり好ましくない事例では1cm未満の範囲に及び得る。例えば、紙幣のような、特定の用途では、標的とされる全厚は、極めて小さくなり得る(100μm以下程度)。更には、許容できる厚さ変動(レリーフ)は、機械的制約(薄い領域と関連付けられる弱い場所)及び動作的制約(例えば、紙幣を積み重ねるとき、その積み重なりは、札の厚い方の部分に応じて膨れ上がり、これが取り扱い及び保管を複雑にする)を含む様々な理由から、更に小さくなる。一般に、約100μmの全厚の紙幣の場合、この紙幣に含めるための光学素子のレリーフパターンの標的厚さは、約30μmとなり得る。約1mm厚のクレジットカード又はIDカードの場合、このクレジット/IDカードに含めるための光学素子のレリーフパターンの標的厚さは、約400μm未満、好ましくは約250μm以下となる。
【0058】
更に、光源距離及び画像距離は、一般的には、ユーザ快適性により、数十センチメートルに制限される。明らかな例外は、太陽光又は天井に取り付けられたスポットライトであるが、太陽光又はスポットライトは、特定の状況下ではそれほど容易に利用可能ではない。また、2つの距離間の比d/dは、認識するのがより容易である鮮明な画像を(良好なコントラストで)取得するように、一般に、5~10より大きい。更に、比d/d≧5であることと、光源Sが好ましくは点状である(例えば、従来の携帯電話の照明LED)こととにより、光源が実際にはほぼ「無限」であると考えることができ、したがって、光学素子から焦点距離付近のみにおける投射表面は、投射されたコースティックパターンをはっきりと見るのに好適である。結果として、ユーザによる良好な視覚的観察の条件は、光源、光学素子、及び、ユーザの目の厳密すぎる相対的空間配置を必要としない。
【0059】
透過型コースティック光学素子における構成のみがここでは説明されるが、同じ論拠が、僅かな変化を伴って(特に、フェルマーの原理の適用に関して)、反射性構成にも当てはまり得る。
【0060】
本発明の変形によれば、(屈折性)光学素子は、図5図6に示されるように、所与の深さ及び焦点距離fのレリーフパターンを有する光方向転換表面を有するコースティック層と、それを通じて点状光源から受けられる入射光を方向転換させるとともに光学素子を通じて点状光源を見ている観察者の網膜上に直接に投射されたコースティックパターンを形成するように構成される焦点距離fの隣り合うレンズ素子とを有するシースルー要素となり得る。好ましくは、光学素子は、
a)図5に示されるように、コースティック層が正の焦点距離(f>0)を有し、レンズ素子が負の焦点距離(f<0)を有する、又は、
b)図6に示されるように、コースティック層が負の焦点距離(f<0)を有し、レンズ素子が正の焦点距離(f>0)を有する、
のうちの一方を含む。
【0061】
図5に示される例において、光学素子は、入射面に配置されたマスク層(6)を有し、光源Sによる照明時に眼(9)で投射されたコースティックパターン(5)を見るために、コースティック層(2)は、山から谷までの高さΔh=30μmと焦点距離40mmとを有し、その隣に挿入された負のレンズ素子(10)と組み合わされる。光源Sは、コースティック層(2)から少なくとも400mmの距離を隔てて位置される。セットアップは、アイレリーフ距離Rと見なされる約20~30mmの距離を隔てて、眼(9)の前方に保持される。網膜上のコースティック画像(5)も示される。光学素子を出るビームは発散し、したがって、眼の虹彩が、視野と、見えるコースティック画像の部分とを制限する。光学素子が眼に近づくほど、視野が大きくなり、見えるコースティック画像の部分が大きくなる。
【0062】
図6に示される例において、光学素子は入射面に配置されたマスク層(6)も有し、コースティック層(2)’は、図5で使用された元の素子のネガコピーである光方向転換表面を有し、したがって、-40mmの負の焦点距離を有する。それは、正のレンズ素子(10’)と組み合わされるとともに、図5のセットアップと同様に、眼(9)から距離Rを隔てて保持される。また、光源Sは、コースティクス素子(2’)から少なくとも400mmの距離を隔てて位置される。対応するコースティックパターン(5)が眼の網膜上に作成される。図に示されるように、光学素子の出口で光線が収束し、眼の虹彩が網膜に到達する前に少ない光線を切り取っているため、図5と比較してコースティックパターンのより大きな部分が見られる。
【0063】
説明の目的のため、光学素子の光学軸と整列されて光源から画像へと向くz軸と、光軸に対して垂直な平面(x,y)とを有する、デカルト基準座標系を規定することが都合良い。本発明の概念を例示するため、「平凸」タイプの単純な光学素子が、検討される(図2及び図7)とともに、(実質的に)平行な光線のビームで照明され、この場合、コースティック層の第1の光学材料内又は第1の光学材料上にマスク層が配置される。図7は、マスク層(6)が平凸光学素子(1)の入射面に適用され、マスクパターン(7)が「×」の形状を有する、図2の例の詳細図を示す。マスク層(6)は、マスク層がコースティック層(2)の一部(複数可)を通る入射光線の光透過を遮断又は少なくとも低減できるようにしつつ入射光線をコースティック層の他の部分(複数可)に通過させる所与のマスクパターンに従う形状を伴って、光軸に対して実質的に垂直に延在する。有限距離を隔てた光源の場合への拡張は、レンズのような素子を追加することで簡単になり、それにより、有限距離の光源が無限遠の仮想光源へと変換される。レンズ状の素子の機能は、最終的に、コースティック光学素子に直接に組み込まれ得る。したがって、x軸及びy軸は、光学素子の平面(光学素子の入射面と平行である)上にある。光方向転換表面(3)のレリーフパターンに対応するコースティック表面は、光学素子の座標(x,y)の点における基準平面z=0からの表面の距離zを与えるスカラー関数z=F(x,y)によって数学的に説明される。後の説明を簡単にするため、この平面を光学素子(1)の裏面に位置させることができ、この場合、z=F(x,y)は、光学素子の厚さに等しい(図7参照)。図7に示される例において、この平面は、コースティックパターンの平面と平行である。
【0064】
同様に、コースティックパターンは、画面(4)における画像平面上の座標(x’,y’)の点(又は画素)における光度を与えるスカラー関数I(x’,y’)によって説明される。
【0065】
デカルト座標の使用は、便宜上であり、代わりに他の系も使用され得る(例えば、コースティック表面が湾曲した物体の一部分である又は湾曲した物体によって支持される場合)ことに留意すべきである。同様に、光学素子の裏面は、平坦である必要はないが、これは、当然ながら、計算に入れておかなければならない。
【0066】
本発明の実施形態は、光路長が経路内の任意の小変動に対して極値である(フェルマーの原理)、固定光路長の経路に沿って光が進む性質を利用する。コースティックパターンの任意の所与の点(x,y)の場合、そこに集束する小断面の線束は、同じ光路長の経路を進んできたものである。一般に、コースティック層(2)の光方向転換表面(3)のレリーフパターンは、コースティック層と、コースティック画像が形成される画像平面との間の距離dと比較して非常に小さいレリーフ深さεを有し(図7参照)、実際、一般的には、結果として生じるεの値は、300μm未満である一方、dは、5cmよりも大きく(したがって、ε/d<6 10-3)、レリーフ深さεは、レリーフパターンの最高点と最低点との間の高さの差と規定される。コースティック層(2)の全厚は(e+ε)であり、式中、eは、コースティック層の光学材料の均質部分の厚さである。一般的に、厚さeも、観察距離dと比較して非常に小さく、すなわち、一般に、eは、1ミリメートル未満である(したがって、e/d≦2 10-2、及び(e+ε)/d≦2.6 10-2)。しかしながら、単に平行光線としてのコースティック層内の入射光線の伝搬に対応する厚さeの層は、光路の差に関して影響がなく、したがって無視される。図7に例示されるコースティック層(2)を検討すると、(簡便性のため、平行な入射光線を有するようにするが、有限距離にある光源の場合への拡張は、単に有限距離光源を無限遠の仮想光源に変換する光学レンズを考慮することによって簡便となる)無限遠に位置する光源S(s=∞、d=d)の場合、(i)点(x,y)においてコースティック層(2)の平面(レベルz=0)に入り、等式z=F(x,y)の光方向転換表面のレベルzで点(x,y)に至るまで屈折率nの第1の光学材料におけるコースティック層を通過し、画面(4)上の画像平面の焦点(x,y)に達する直線光線の光路長l(x,y)と、(ii)点(x,y)に近い点(x,y)においてコースティック層の平面(レベルz=0)に入り、光方向転換表面のレベルzにおいて点(x,y)に至るまでコースティック層を通過し、画像平面の点(x,y)まで偏向される光線の光路長l(x,y)との間の、光路長Δlの差について検討する。
【0067】
rが、点(x,y)と点(x,y)との間の距離、すなわち、
【数2】

である場合、
【数3】

を有する。
【0068】
フェルマーの原理によると、Δl=0を有さなければならず、したがって、zに関する二次方程式を解くと、
【数4】

が得られ、式中、ε≪dの観点では、d-z≒dを有する。故に、上記z=f(x,y)が表面z=F(x,y)の局所表現(すなわち、点(x,y)の周辺)を指定し、z=f(x,y)が、頂点における引用であるとすると、
【数5】

と書くことができ、これは、点(x,y,z)における頂点を有するz軸の周りでの回転面を表わす。
【0069】
結果的に、焦点(x,y)の代わりに、画像平面上の焦点(x,y)のうちの任意の1つを検討する場合(i=1,…,N)、
【数6】

によって、F(x,y)の局所(すなわち、点(x,y)において頂点を有する)近似を規定することができ、式中、z=f(x,y)であり、
【数7】

である。故に、コースティック層(2)の光方向転換表面(3)の全体的な形状を与える関数F(x,y)は、光路の前述した定常性と一致して、区分的な表面が、画像平面上(画面(4)上)の所与の点(x,y)、i=1,…,Nに対応する頂点(x,y)の周辺の「基本形状関数」z=f(x,y)を有する表面区分の交線から生じる包絡線であることによって、局所的に表わされ得る。
【0070】
本発明は、近軸近似において、すなわち、r≪dの場合、したがって、
【数8】

である場合、コースティック表面のこの局所表現は、大括弧内の以下の式のテイラー展開の最初の幾つかの非ゼロ項により、(x,y)の付近で更に近似され得るという観察から更に利点を得る。
【数9】
【0071】
例えば、点(x,y)周辺のF(x,y)の局所近似f(x,y)について検討し、テイラー展開の最初の非ゼロ項のみを考慮する場合、局所表現の簡略化された近似を取得し、
【数10】

これは、図8に示されるように、z=0における(x,y)平面に対する、及び(空間座標(x,y,z)の)放物面の頂点に対応する、「高さ」z=f(x,y)を有する、(x,y)を中心とする軸線を有する回転放物面を説明するものである。
【0072】
次の非ゼロオーダー(k=4)へのテイラー展開では、点(x,y)周辺の局所表現の近似を、
【数11】

として取得する。
【0073】
局所表現f(x,y)の最初の非ゼロオーダーに至るまでの近似によって得られるF(x,y)の区分的な放物面近似について検討するとき、それぞれ点(x,y)より上の高さz及び隣り合う点(x,y)より上の高さzを有する2つのそのような(円形)放物面の交線は、一般的には、2つの点(x,y)及び(x,y)を結合する直線に垂直の平面内に放物面を規定する。したがって、画像平面の点{(x,y),i=1,…,N}のセット、及び上記点とそれぞれ関連付けられた放物面の頂点の高さ{z,i=1,…,N}の対応するセットでは、これらの放物面の交線の結果として生じる(外側)包絡線(区分的な光方向転換表面を規定する)は、鋭い放物曲線によって境界付けられる放物面の部分で形成される。これらの曲線は、単なる次数2の代数方程式を解くことによって計算され得る。次数k=4以上のテイラー展開の場合、対応する「基本形状関数」z=f(x,y)は、単なる放物面よりも複雑であり、表面区分の交差線の計算(それらの頂点の異なる高さを設定するとき)は、より面倒になる。
【0074】
図8に示される例では、入射する平行光線は、有効な不均一な光強度I(x,y)=It(x,y)でコースティック層の平面(入射)面z=0を照明し、この場合、Iは、(局所的な)光透過係数t(x,y)を持つマスクパターンが存在するため、入射する均一な光強度であり、したがって、光方向転換表面z=F(x,y)の所与の区分的な近似では、すなわち、N個の頂点(x,y,z)の所与のセット及び対応する基本形状関数f(x,y)、i=1,…,Nでは、表面の基本区分の交線の包絡線からの画像平面の点(x,y)における強度I(j)への寄与は、図9に示されるように、
【数12】

によって数学的に説明することができ、これは「トレース関数」(i,jは{1,…,N}に属する)
【数13】

を使用しており、式中、関数H[X]は、
【数14】

によって規定されるよく知られたヘヴィサイドの階段関数であり、コースティック素子(すなわち、「窓」又は集光領域)のサポート領域にわたって積分される。原則的に、窓の形状及び/又はサイズに対する特定の制限は存在しないということに留意されたい。しかしながら、単純な幾何学的形状、コンパクトな形状、及び凸形状は、計算及び実用の目的には有利である。
【0075】
コースティック表面z=F(x,y)の表現の区分的近似の式(所与の数Nの画像点(x,y)、i=1,…,Nについて)は、したがって、
【数15】

によって得られる。
【0076】
光方向転換表面z=F(x,y)の区分的近似が一旦取得されると(N個の頂点の所与のセットについて)、画像平面の選択されたそれぞれの点(x,y)、i=1,…,Nにおける光強度I(i)、i=1,…,Nの対応する分布を推測すること、及び、再現されるべき標的コースティックパターンに対応する同じ点におけるI(i)と所与の(標的)強度Iとの間の、各標的点(x,y)についての差を推測することが必要である。したがって、頂点の高さz、i=1,…,Nは、合計
【数16】

が最小化されるように反復的に設定される。
【0077】
例えば、表面f(x,y)の局所区分が、テイラー展開の主要項によって、すなわち放物面によって近似される場合、画像平面上の点(x,y)における非ゼロ強度I(j)は、それぞれの頂点(x,y,z)、i≠j、i∈{1,…,N}を有する(及びおそらくはコースティック層窓の境界線を有する)区分的な表面Fを形成する残りの放物面との交差後、頂点(x,y,z)の放物面の残ったもの、すなわち放物面(j)からのみ生じる。放物面(j)が少なくとも1つの放物面(i)によって完全にマスクされる場合(すなわち、zがzに対して十分に大きい場合)、強度I(j)はゼロである。前述したように、2つの放物面(i)及び(j)の交線の輪郭は、2つの点(x,y)及び(x,y)を結合する直線に垂直の平面内の放物面であり、この平面はzに沿って光学軸に平行であり、この平面とz=0における(x,y)平面との交線が直線セグメントを規定する。放物面(j)と近隣放物面(i)との交線を検討するとき、平面z=0上の対応する直線セグメントは、凸状の多角形セルΩを描く。明らかに、画像平面の点(x,y)において送達される光強度I(j)は、マスク層を通過して(局所透過係数t(x,y)に起因して光束密度を重み付ける)セルΩによって収集される入射する(均一の)平行光線のみから生じ、したがって、送達された強度I(j)は、セルΩの重み付けられた領域a(j)、すなわち、セルΩにわたるマスク層の透過係数の局所平均値により重み付けられる領域に比例する(これは、有効重み
【数17】

に対応する)。当然ながら、全ての交差する放物面の包絡線と関連付けられたセルの全ての重み付けられた領域の合計は、全「有効」領域A(平面z=0上)、すなわち、マスク透過によって重み付けられた窓の領域に等しくなければならない。
【数18】

この制約は、合計
【数19】

を(反復的に)最小化しながら、適切な正規化を選択することによって、考慮される。放物面の頂点の高さ間の相対的な差が修正されるたびに(N個の高さのうちの少なくとも1つを増大又は減少させることによって)、セルの領域はそれに応じて修正され、したがって、頂点の高さを変化させることは、セルの領域を変化させることと同等である。2つの隣り合う点(x,y)及び(x,y)に対応する2つの放物面のそれぞれの頂点の高さz及びzが、例えば、zをz+δzへ変更することによって(他の高さは未変更である)修正される場合、セルΩ(放物面(i)に関する)とセルΩ(放物面(j)に関する)との間の境界のセグメントは、δzが正である(すなわち、重み付けられた領域a(i)が減少される)場合はセルΩの方へ移動し、δzが負である(すなわち、重み付けられた領域a(i)が増大される)場合はセルΩの方へ移動する。更に、強度はセルの(重み付けられた)領域に比例するため、合計Sを最小化することは、合計
【数20】

を最小化することと同等であり、式中、aは、標的強度I、i=1,…,Nに対応する領域値である。重み付けられた領域a(i)は、セルΩと関連付けられたパラメータとして見ることができ、放物面の頂点の高さを変えることは、窓の領域の区画を形成するセルのパラメータを修正することと同等である。重み付けられた領域a(j)は、放物面の交線から生じ、前述したトレース関数を
【数21】

(窓の領域の(x,y)平面にわたって積分が実施される)として用いて計算され得る。
【0078】
放物面表面の例を用いた上の論拠は、光路長の定常性から直接派生される表面区分の式が、近似されない、又は任意の(偶数)次数k>2へのそのテイラー展開によって近似される(結果として生じる式は依然として回転面を説明する)場合でさえ、真のままであり、最小化動作の反復ステップnにおいて、値{z (n),i=1,…,N}のセットは、
【数22】

を用いて、N個の表面区分{z=f (n)(x,y),i=1,…,N}の交線を表わすセル{Ω (n),i=1,…,N}のセット及び重み付けられたセル領域{a(n)(i),i=1,…,N}の対応するセットを決定し、制約は、
【数23】

であり、コスト関数は、
【数24】

である。光方向転換表面の近似は、
【数25】

によって説明される。
【0079】
関数(すなわち、コスト関数)
【数26】

を最小化するプロセスは、例えば、(導関数不要)ネルダー・ミードシンプレックス法(J.A.Nelder及びR.Mead、“A simplex method for function minimization”、The Computer Journal,vol.7(4)、1965、pp308-313)のような、任意の既知の最小化法に従って実施され得る。当然ながら、例えば、座標降下法(Stephen J.Wright、“Coordinate Descent Algorithms”、Mathematical Programming,vol.151(1)、June 2015、pp3-34を参照)、又はマルチレベル座標探索(「MCS」)法(W.Huyer及びA.Neumaier、“Global Optimization by Multilevel Coordinate Search”、Journal of Global Optimization、vol.14(4)、June 1999、pp331-355を参照)などの他の導関数不要最適化法が使用され得る。
【0080】
本発明によると、及び、上記の光方向転換表面の区分的表現では、光源から受けられる入射光を方向転換させて、標的画像の所与のコースティックパターン(すなわち、非ゼロ光強度の所与の分布)を含む投射画像を形成するように構成されるマスク層を含むコースティック層の光方向転換表面を計算する技術的問題は、
入力標的画像の離散的表現を提供するステップであって、入力標的画像の離散的表現は、標的画像の所与の領域内に分散されて標的画像の標的コースティックパターンに対応する関連付けられた非ゼロ標的光強度{I}を有する画像平面内の座標{(x,y)},i=1,…NにおけるN個の画像画素pのセットPを備える、ステップと、
コースティック層によって屈折又は反射され、座標(x,y)、i=1,…,Nの画像平面の点P(i)に集束される光線の光路長の定常性からそれぞれ得られる交差する複数の表面区分f(x,y)、i=1,…,Nを用いて、光方向転換表面の表現に基づき、(x,y)座標面より上の高さzを有する、コースティック層の区分的な光方向転換表面z=F(x,y)を演算するステップであって、各表面区分z=f(x,y)が、高さz=f(x,y)、i=1,…,Nを有する、点P(i)を通過し、点(x,y,z)において頂点を有する軸の周りでの回転面であり、N個の頂点の高さのそれぞれの値と関連付けられた区分的な光方向転換表面が、対応するN個の表面区分の交線の包絡線によって形成される、ステップと、
N個の表面区分の頂点の高さz,…,zのそれぞれの値の所与のセットについて、関連付けられた区分的光方向転換表面を介して入射光を方向転換させるコースティック層によって点P(1),…,P(N)にそれぞれ集束される光強度I(1),…,I(N)の値の対応するセットを計算するステップと、
関連付けられた光方向転換表面を介して点P(1),…,P(N)に集束される計算された光強度I(1),…,I(N)のそれぞれの値と、標的光強度I,…,Iのそれぞれの対応する値との間の差を最小化する対応するN個の表面区分のN個の頂点のN個の高さz,…,zのそれぞれの値を計算するステップと、
によって解決される。
【0081】
例えば、ネルダー・ミードのシンプレックス法によるコスト関数Σの最小化では、最適化は、最適化N次元空間内の非縮退シンプレックスSの頂点(すなわち、N個の高さz,…,z)に位置するN+1点Q(1),…,Q(N+1)のセット、及びコスト関数値
【数27】

の対応するセットで始まる。次いで本方法は、作用シンプレックスSの一連の変換を、その頂点におけるコスト関数値を減少させることを目指して、実施する。各ステップにおいて、変換は、1つ以上のテスト点を、それらのコスト関数値と一緒に、演算することによって、及び、最も悪い頂点、すなわち最大コスト関数値を有するものを、より良いものと交換することを目指して、これらのコスト関数値を現在の頂点におけるものと比較することによって決定される。テスト点は、(i)反射、若しくは(ii)最も悪い頂点から離れる方への拡張、若しくは(iii)縮小、若しくは(iv)最良の頂点に向かう収縮、の4つのヒューリスティックのうちの1つに従って選択され得る。最小化は、作用シンプレックスSが十分に小さくなったとき、又は頂点におけるコスト関数値が十分に近いときに終了する。4つのヒューリスティック変換を用いて、ネルダー・ミードアルゴリズムは、一般に、各ステップにおいて1つ又は2つのみの関数評価を必要とするが、多くの他の直接検索法は、少なくともN個のコスト関数評価を使用する。ネルダー・ミードアルゴリズムの直感的説明は、(Press,WH;Teukolsky,SA;Vetterling,WT;Flannery,BP(2007).“Section 10.5.Downhill Simplex Method in Multidimensions”.Numerical Recipes:The Art of Scientific Computing(3rd ed.).New York:Cambridge University Press.ISBN 978-0-521-88068-8.)において次のように得られる:
「滑降シンプレックス法は、これより一連のステップを踏み、大半のステップは、関数が最大であるシンプレックスの点(「最高点」)をシンプレックスの反対面を通じてより低い点へ移動させるだけである。これらのステップは、反射と呼ばれ、それらは、シンプレックスのボリュームを守る(故に、その非縮退を維持する)ように構築される。それを行うことができるとき、本方法は、シンプレックスを1つ又は別の方向に拡張して、より大きなステップを踏む。それが「谷底」に達すると、本方法は、横方向に収縮し、谷を浸出させようとする。シンプレックスが「針の目を通過」しようとしている状況がある場合、それは、全ての方向に収縮し、その最も低い(最良の)点の周辺へと引っ込む。」
本発明の好ましいモードによると、最適な光方向転換表面は、(一般化された)パワー図法を用いて取得されるのが有利である(ボロノイ図法又はラゲール/ボロノイ図法としても知られる(F.de Goesら、“Blue Noise through Optimal Transport”,CAN Transactions on Graphics,vol.31(6),(SIGGRAPH Asia)2012を参照)(入手可能なソースコードは、ウェブサイトhttp://www.geometry.caltech.edu/BlueNoise/も参照)。実際に、この方法は有力であり、本発明の最適化問題に対応するケースでは、重みwがここでは高さzに対応し、及び容量mがここではセル重み付け領域a(i)に対応する、(透過率(x,y)によるセル領域の重みと混同しないように)重みの凹関数を最小化する、「任意の定められた容量制約のための」唯一の解決策としてのパワー図法が証明される(特に、de Goesらの上で引用した論文の付録を参照)。
【0082】
いかなる画像も画素の有限収集によって近似され得るため、コースティック表面は、対応する表面区分(例えば、放物面)の合成によって近似され得る。故に、標的画像I(x’,y’)を前提とすると、それを生成するコースティック表面を計算する問題は、I(x’,y’)を近似する点の所与セットのための重み{w}の適切なセットを見つけることまで低減する。
【0083】
最適輸送の仮説(de Goesらの上で述べた論文を参照)の下では、これは、場所{(x,y)}のパワー図のための重み{w}(ここでは高さ{z})を見つけることと同等であり、それにより、容量{m}(ここでは重み付けられたセル領域{a(i)})は、標的画像強度{I(x,y)}に比例する。高さ{z,i=1,...,n}の最適セット及び対応するセル境界∂Ω(重み付け領域a(i)のセルΩの)が、パワー図法により取得されると、区分的な表面が、円筒の交線を検討することによって再構築され、軸zに沿って構築され、その基底は、それぞれの表面区分が上記取得した高さにおいて頂点を有した状態で、セルの境界によって形成される。好ましいモードでは、表面区分は、放物面によって近似され、この場合、セルΩの境界∂Ωは、多角形であり、境界までの点の距離及び勾配の計算は、大いに簡略化される。より一般的なケース(すなわち、表面区分が近似されない、又は2より大きい次数のテイラー展開により近似される)では、セルΩの境界∂Ωは、依然として閉曲線であるが、曲線からなり、上記の境界までの点の距離及び勾配の計算は、より複雑である。
【0084】
にわたって最小化することで、関数Σ│m-Iは、単なる勾配降下アルゴリズムによって解かれ得る(例えば、前述のF.de Goesらの論文参照)。このプロセスは、{w}の初期セットから開始し(殆どの場合、全ての値を等しくとることによって)、次いで対応する区画の最適セット{w}に向かって容量mのセルΩ内へ収束する。次いで結果として生じる最適セット{w}から、放物面素子{z}の高さのセットが取得され、結果として生じる多角形セルΩの境界∂Ωから、放物面を有する基底∂Ωの垂直(zに沿った)円筒の交線により、最終的な区分的コースティック表面が構築される。
【0085】
本発明に従って演算及び設計される光方向転換表面を有するコースティック層は、この光学セキュリティ素子でマーク付けされた物体が、人によって視覚的に容易に認証され得るように、更なる手段を使用することなく(すなわち、裸眼で)又は一般的な容易に入手可能な手段を使用して、人によって容易に認識可能である基準パターンを再現するコースティックパターンを備える投射画像を形成する。屈折性の光学セキュリティ素子の透明の態様により、それは、少なくとも部分的に透明な基材(例えば、ガラス又はプラスチックボトル、ボトルキャップ、腕時計ガラス、ジュエリー、宝石など)にマーク付けするのに特に好適になる。
【0086】
コースティック層の、屈折性の透明若しくは部分的に透明な光方向転換表面、又は反射性の光方向転換表面を設計するための開示された方法は、高速で、スケールされ、信頼性が高く、正確である。それは、補正又は調節が必要とされないため、標的画像から対応する表面へたどり着くのに必要とされる反復の数を著しく低減することを可能にする。これはまた、設計に必要とされる全体的な時間を低減する。
【0087】
また、法線フィールドを計算及び積分するステップが排除され、容量制約の最小化による効率的な最適化技術が提供される。
【0088】
その上、標的画像を指定すること及び結果として生じる表面を受容することを超えたユーザ介入は完全に排除される。ユーザ介入の必要性を取り除くことは、専門技能が必ずしも入手可能でない製造の文脈において、本方法の実施を著しく簡略化する。
【0089】
マスク層を含むコースティック層のレリーフパターンを設計する別の方法を、図2に示される光学素子の例について以下に説明する。この方法は、M.Pauly、R.Restuz、及びY.Schwartzburgの欧州特許第2963464B1号に詳述されている「逆コースティックデザイン」の方法から、可変局所透過係数(マスクパターンによる)を有するマスク層の存在を導入することによって適合される。Paulyらの方法(欧州特許第2963464(B1)号、特に図2及び段落[0047]~[0073]参照)の方法は、最初に、特定の平面で所与の出力光分布を生成するために光方向転換表面の各点における方向と強度とによって規定される各光線がどのようにそらされなければならないかの最適なマッピングを見つける。このマッピングが与えられると、スネルの法則を使用して、出力光線が割り当てられた出力ポイントと交差するように、表面上の各点の法線方向を見つけることができる。これにより、標的法線フィールドが生成される。次に、この法線フィールドを特性として持つ連続面を見つける必要がある。通常、この場は可積分ではない。例えば、ポアソン積分を使用する又は同様の非線形方程式を解くことにより、この場にできるだけ一致する表面を見つける必要がある。これらのステップは、その後、収束するまで繰り返される。
【0090】
Paulyらの方法から適合された方法は、以下のステップ、すなわち、
マスク層を含むコースティック層の屈折性又は反射性の光方向変換表面(欧州特許第2963464(B1)号の図2の表面(5)参照)の初期形状を与えるステップと、
初期の光方向変換表面をメッシュで離散化するステップであって、メッシュが前記表面上のマスク層を介した入射照明に相当し、メッシュの頂点の各位置xが光線の入射方向及び強度値を含む、ステップと、
初期の光方向転換表面上のメッシュの部位のセットSのボロノイ図を生成するステップと、
標的表面をメッシュで離散化するステップであって、メッシュの頂点の位及び光線方向が、屈折性又は反射性の光方向転換表面及び入射照明から初期化される、ステップと、
光源からの光線を、メッシュの頂点の位置xにある屈折性又は反射性の光方向転換表面を介して、受信機へと追跡して(欧州特許2963464(B1)号の図2の受信機画面(3)及び図7参照)、受信機上の光源放射照度Esの区分的線形表現を取得するステップであって、受信機上の部位のセットSの各部位Sがほぼ同じ量の磁束Φiを表わす、ステップと、
受信機上の全体の放射照度分布が標的放射照度Eに厳密に一致するようにコースティック層の屈折性又は反射性の光方向転換表面から出るそれぞれの光線ごとに受信機上の標的位置xを決定する(欧州特許第2963464(B1)号の段落[0047]-[0049]参照)とともに、光方向変換表面上のボロノイ図の各ボロノイセルCをその磁束Φが標的分布ETに一致するべく分布されるようにどのように変形させて移動させる必要があるかを決定し、その決定が、
(i)それぞれの光線ごとに受信機上の標的位置xからスネルの法則を使用してメッシュのそれぞれの頂点ごとに光方向変換表面上の法線を決定すること、
(ii)磁束密度Φを尊重しながら、標的表面法線に最も良く一致するように頂点を移動させること、
(i)及び(ii)を繰り返すこと、
を含む(欧州特許第2963464(B1)号の段落[0023]及び[0028]参照)ステップと、
上記の繰り返しが収束すると、光方向転換表面の法線を統合して、最適化された標的表面(欧州特許第2963464(B1)号の図2の表面(7)参照)を取得するステップと、
を有する。
【0091】
マスク層を含むコースティック層のレリーフパターンを設計する別の方法は、M.Papas、W.Jarosz、W.Jacob、S.Rusinkiewicz、W.Matusik、及び、T.Weyrich:「目標ベースのコースティック」、EUROGRAPHICS 2010,M.Chen及びO.Deussen(Guest Editors),第30刊,第2号,2011の方法に基づいている。また、これらの著者の米国特許第9,188,783(B2)号も参照されたい。これらの文書は、光源によって照明されたときに所望の画像を生成する表面を設計及び製造するための技術を開示する。所望の画像は、一群のガウスカーネルに分解される。各ガウスカーネルに対応するマイクロパッチレンズの形状が決定され、得られたマイクロパッチレンズが組み立てられて、複数のガウスコースティクスの和から形成される所望の画像の近似をキャストする高度に連続的な表面が形成される。開示された技術を使用して、フライス加工又は他の製造プロセスに適した光方向転換表面の設計を作成することができる。
【0092】
特に、米国特許第9,188,783(B2)号(コラム5、3~36行、及び、図2参照)及び上記の引用論文(節4、Gaussian Image Decomposition参照)は、以下のm個の異方性ガウスカーネル関数の負でない線形結合を使用して画像を近似する方法を説明する。
【0093】
【数28】

ここで、計算されるべきパラメータは、2次元m項ガウス混合モデル(GMM)の重みw、平均μ、及び共分散行列Σである。Papasらの方法では、重みは全て同じ値
【数29】

を有する。しかしながら、マスク層が存在する場合、各パッチに関連付けられた重みは、パッチの対応する領域におけるマスク層の(平均)透過係数によって調整される必要がある。したがって、tがパッチの領域に関するマスク層の平均透過係数を指定する場合、上記の線形結合で、Papasらの均一な重みの代わりに、可変重み
【数30】

を使用する必要がある。この重みの変更により、Papasらの方法の残りのステップは、引用された特許及び論文に開示されているものと同じとなる。
【0094】
上に開示された主題は、限定的ではなく例示的であると考えられるべきであり、独立請求項によって規定される本発明のより良い理解を与えるのに役立つ。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】