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  • 特表-抗CD98抗体およびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-19
(54)【発明の名称】抗CD98抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230512BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230512BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230512BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230512BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230512BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230512BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20230512BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K16/28
C07K16/46
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/00
A61P25/14
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K47/55
G01N33/53 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562042
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 IB2021052892
(87)【国際公開番号】W WO2021205361
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】63/006,988
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/035,961
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522395749
【氏名又は名称】アリアダ セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】エダヴェタル,スゼンヌ
(72)【発明者】
【氏名】シング,サンジャヤ
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゴ,デリック
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンソン,ディープティ
(72)【発明者】
【氏名】セジュド-マーティン,ピラー
(72)【発明者】
【氏名】ジャイプラサート,ファービー
(72)【発明者】
【氏名】ガイスト,ブライアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA11
4C076AA95
4C076BB13
4C076CC01
4C076CC27
4C076EE59
4C076FF67
4C076FF70
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA21
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
薬剤を、それを必要とする対象の脳に送達するためのモノクローナル抗CD98抗体およびその抗原結合性断片が、記載される。神経学的障害を処置もしくは検出するため、および/または治療剤もしくは診断剤を血液脳関門を越えて送達するための、治療剤または診断剤、例えば、第2の抗体およびその抗原結合性断片に連結された抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、コンジュゲートおよび融合構築物もまた、記載される。抗体、コンジュゲート、および融合構築物をコードする核酸、ならびに関連する組換え宿主細胞もまた、記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を、それを必要とする対象の脳に送達するための抗CD98抗体またはその抗原結合性断片であって、中性pHにおいて、少なくとも1nM、好ましくは、1~500nMの解離定数Kで、酸性pH、好ましくは、pH5において、少なくとも10-4-1、好ましくは10-4~10-1-1の解離速度定数kで、CD98、好ましくは、ヒトCD98hcに結合する、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
中性pHにおいて、2×10-2~2×10-4-1、好ましくは、8×10-3-1の解離速度定数kを有する、請求項1に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
(1)重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む軽鎖可変領域であって、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3が、
(i)それぞれ、配列番号7、8、9、10、11、および12、
(ii)それぞれ、配列番号67、68、69、70、71、および72、
(iii)それぞれ、配列番号89、90、91、92、93、および94、
(iv)それぞれ、配列番号113、114、115、116、117、および118、
(v)それぞれ、配列番号123、124、125、126、127、および128、
(vi)それぞれ、配列番号133、134、135、136、137、および138、
(vii)それぞれ、配列番号150、151、152、153、154、および155、
(viii)それぞれ、配列番号160、161、162、163、164、および165、
(ix)それぞれ、配列番号170、171、172、173、174、および175、
(x)それぞれ、配列番号180、181、182、183、184、および185、
(xi)それぞれ、配列番号194、195、196、197、198、および199、もしくは
(xii)それぞれ、配列番号204、205、206、207、208、および209、のアミノ酸配列を有する、重鎖可変領域および軽鎖可変領域、または
(2)重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖の単一可変ドメイン(VHH)であって、
(i)それぞれ、配列番号29、30、および31、
(ii)それぞれ、配列番号48、49、および50、
(iii)それぞれ、配列番号143、144、および145、
のアミノ酸配列を有する、重鎖の単一可変ドメイン(VHH)
を含む、請求項1または2に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
配列番号28、配列番号47、または配列番号142に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、VHH断片である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
リンカーを介して軽鎖可変領域に共有結合的に連結された重鎖可変領域を含む、一本鎖可変断片(scFv)であり、好ましくは、前記リンカーが、配列番号189のアミノ酸配列を有し、より好ましくは、前記scFvが、配列番号6、配列番号66、配列番号88、配列番号112、配列番号122、配列番号132、配列番号149、配列番号159、配列番号169、配列番号179、配列番号193、または配列番号203のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
治療剤または診断剤に連結された、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、コンジュゲートであって、好ましくは、前記コンジュゲートが、CD98に結合し、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗原結合性断片を含む、第1の抗原結合性領域と、脳の標的、例えば、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Aベータ)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチ反復キナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、およびカスパーゼ6からなる群から選択される脳の標的に結合する、第2の抗原結合性領域とを含む、多重特異性抗体である、コンジュゲート。
【請求項7】
脳の標的、例えば、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Aベータ)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチ反復キナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、およびカスパーゼ6からなる群から選択される脳の標的に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片に共有結合的に連結された、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、融合構築物。
【請求項8】
前記抗CD98抗体またはその抗原結合性断片が、リンカーを介して前記第2の抗体またはその抗原結合性断片の2つの重鎖のうちの一方のみのカルボキシ末端に共有結合的に連結されており、好ましくは、前記リンカーが、配列番号190または配列番号191のアミノ酸配列を有する、請求項7に記載の融合構築物。
【請求項9】
前記第2の抗体またはその抗原結合性断片の前記2つの重鎖のそれぞれが、野生型CH3ドメインポリペプチドと比較して、1つもしくは複数のヘテロ二量体突然変異、例えば、改変されたヘテロ二量体CH3ドメイン、または1つもしくは複数のノブ・アンド・ホール突然変異を含む、請求項8に記載の融合構築物。
【請求項10】
前記ヘテロ二量体突然変異が、T350位、L351位、F405位、およびY407位におけるアミノ酸改変を含む前記第1の重鎖の前記改変されたヘテロ二量体CH3ドメイン、ならびにT350位、T366位、K392位、およびT394位におけるアミノ酸改変を含む前記第2の重鎖の前記改変されたヘテロ二量体CH3ドメインを含み、T350位における前記アミノ酸改変が、T350V、T350I、T350L、またはT350Mであり、L351位における前記アミノ酸改変が、L351Yであり、F405位における前記アミノ酸改変が、F405A、F405V、F405T、またはF405Sであり、Y407位における前記アミノ酸改変が、Y407V、Y407A、またはY407Iであり、T366位における前記アミノ酸改変が、T366L、T366I、T366V、またはT366Mであり、K392位における前記アミノ酸改変が、K392F、K392L、またはK392Mであり、T394位における前記アミノ酸改変が、T394Wであり、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである、請求項9に記載の融合構築物。
【請求項11】
前記第1の重鎖の前記改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、突然変異T350V、L351Y、F405A、およびY407Vを含み、前記第2の重鎖の前記改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、突然変異T350V、T366L、K392L、およびT394Wを含む、請求項10に記載の融合構築物。
【請求項12】
前記第2の抗体またはその抗原結合性断片が、胎児性Fc受容体(RcRn)への前記融合体の結合を増強させる、Fcドメインにおける1つまたは複数の突然変異を含み、好ましくは、前記1つまたは複数の突然変異が、酸性pHにおいて前記結合を増強させ、より好ましくは、前記Fcが、M252Y/S254T/T256E(YTE)突然変異を有し、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである、請求項7から11のいずれか一項に記載の融合体。
【請求項13】
前記第2の抗体またはその抗原結合性断片が、エフェクター機能を低減または排除する、前記Fcドメインにおける1つまたは複数の突然変異を含み、好ましくは、前記Fcが、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位における1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つ、または3つの突然変異を有し、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである、請求項7から12のいずれか一項に記載の融合体。
【請求項14】
前記第2の抗体またはその抗原結合性断片が、Tauに結合し、それぞれ配列番号213~218のアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、好ましくは、前記第2の抗体が、配列番号110のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号111のアミノ酸配列を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体である、請求項7から13のいずれか一項に記載の融合構築物。
【請求項15】
(1)配列番号13、16、19、22、25、32、35、38、41、44、51、54、57、60、63、73、76、79、82、85、95、98、101、104、107、119、129、139、146、156、166、176、186、200、210、および219からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第1の重鎖と、
(2)それぞれ配列番号14、17、20、23、26、33、36、42、45、52、55、58、61、64、74、77、80、83、86、96、99、102、105、108、120、130、140、147、157、167、177、187、201、211、および220からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を、それぞれが独立して有する、2つの軽鎖と、
(3)それぞれ配列番号15、18、21、24、27、34、37、43、46、53、56、59、62、65、75、78、81、84、87、97、100、103、106、109、121、131、141、148、158、168、178、188、202、212、および221からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第2の重鎖と
を含む、請求項7から14のいずれか一項に記載の融合構築物。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性断片、請求項6に記載のコンジュゲート、または請求項7から15のいずれか一項に記載の融合構築物をコードする、単離された核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の単離された核酸を含む、ベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の核酸または請求項17に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項19】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、請求項6に記載のコンジュゲート、または請求項7から15のいずれか一項に記載の融合構築物を産生させる方法であって、前記抗体もしくは抗原結合性断片、前記コンジュゲート、または前記融合構築物をコードする核酸を含む細胞を、前記抗体もしくは抗原結合性断片、前記コンジュゲート、または前記融合構築物を産生させる条件下において培養するステップと、前記抗体もしくは抗原結合性断片、前記コンジュゲート、または前記融合構築物を、前記細胞または細胞培養物から回収するステップとを含む、方法。
【請求項20】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、請求項6に記載のコンジュゲート、または請求項7から15のいずれか一項に記載の融合構築物と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項21】
障害、好ましくは、神経学的障害の処置または検出を、それを必要とする対象において行う方法であって、前記対象に、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、請求項6に記載のコンジュゲート、請求項7から15のいずれか一項に記載の融合構築物、または請求項20に記載の医薬組成物を投与するステップを含み、好ましくは、前記神経学的障害が、神経変性疾患(例えば、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、脊髄小脳失調症、脊髄性筋萎縮症)、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病および核上性麻痺)、プリオン病(例えば、ウシ海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ病、クールー病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、慢性消耗性疾患、および致死性家族性不眠症)、球麻痺、運動ニューロン疾患、および神経系ヘテロ変性障害(nervous system heterodegenerative disorder)(例えば、カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥーレット病、メンケス症候群、コケイン症候群、ハラーホルデン・スパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、およびウンフェルリヒト・ルントボルグ病)、認知症(例えば、ピック病および脊髄小脳失調症)、ならびにCNSおよび/または脳のがん(例えば、身体の他の箇所のがんから生じる脳転移)からなる群から選択される、方法。
【請求項22】
前記抗体もしくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、または医薬組成物が、静脈内投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
治療剤または診断剤を、それを必要とする対象の血液脳関門(BBB)を越えて送達する方法であって、前記対象に、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片に連結、好ましくは共有結合的にコンジュゲートされた前記治療剤または診断剤を含む、複合体を投与するステップを含む、方法。
【請求項24】
前記投与が、Fcによって媒介されるエフェクター機能を低減させる、および/または急速な網状赤血球枯渇を誘導しない、請求項21から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
抗体依存性ファゴサイトーシス(ADP)の誘導を、それを必要とする対象において、炎症促進性サイトカインの分泌を刺激することなく行う方法であって、前記対象に、請求項1から5のいずれか一項に記載のその抗原結合性断片に連結、好ましくは、共有結合的にコンジュゲートされた治療用抗体またはその抗原結合性断片を含む、複合体を投与するステップを含み、前記治療用抗体またはその抗原結合性断片が、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位における1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つ、または3つの突然変異を含み、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである、方法。
【請求項26】
前記治療用抗体またはその抗原結合性断片が、tau凝集体に特異的に結合する、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月8日に出願された米国仮出願第63/006,988号および2020年6月8日に出願された米国仮出願第63/035,961号の優先権を主張し、これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された配列表の参照
本出願は、配列表を含み、これは、「JBI6290WOPCT1 Sequence_ Listing」というファイル名で作成日が2021年3月31日であり、478kBのサイズを有する、EFS-Webを通じて電子的に提出されたASCII形式の配列表である。EFS-Webを通じて提出された配列表は、本明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、ヒトCD98hcに結合する血液脳関門シャトル、およびそれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
血液脳関門(BBB)は、有害な物質が脳内に進入するのを防止し、脳の恒常性のためには必須であるが、薬物を脳へ効率的に送達するには手強い障壁となる。大型の分子、例えば、モノクローナル抗体および他の生物学的治療薬は、中枢神経系(CNS)における病態を処置/検出することに関して、大きな治療的/診断的可能性を有する。しかしながら、脳へのそれらの経路は、BBBによって妨げられる。これまでの研究により、血流中に注射されたIgGのうち、非常にわずかなパーセンテージ(およそ0.1%)のみが、BBBを通ってCNSコンパートメントに入ることができることが示されている(Felgenhauer, Klin. Wschr. 52: 1158-1164, 1974))。これにより、CNS内での抗体の濃度が低いことに起因して、任意の薬理学的作用が制限されることになる。
【0005】
受容体によって媒介されるトランスサイトーシス(RMT)の使用を含め、治療用モノクローナル抗体(mAb)の脳への送達を改善するために、多数のアプローチが研究されている。RMTは、BBBの管腔側に豊富に発現される受容体を、脳内皮細胞を通じた輸送に利用する。治療用mAbを脳内に送達するための臨床的に実現可能なプラットフォームを生成するためのこれまでの取り組みは、トランスサイトーシスの効率を増加させるように抗体を操作することに焦点を当てており、結合価、pH依存性、および親和性に対する観察を通じて結果を得ていた(Goulatis et al., 2017, Curr Opin Struct Biol 45: 109-115において考察されている)。しかしながら、非ヒト霊長類(NHP)および診療所への移行は、標的によって媒介される薬物体内動態(TMDD)に起因する急速な末梢クリアランス、および急性網状赤血球枯渇に起因する安全性によって、制限されている(Gadkar K, et al. Eur J Pharm Biopharm. 2016; 101: 53-61)。
【0006】
CD98重鎖サブユニット(CD98hc)は、溶質輸送体ファミリーのメンバーであり、いくつかのCD98軽鎖メンバーとヘテロ二量体を形成して、BBBにおけるアミノ酸輸送体を形成する(Zuchero YJ, et al. Neuron. 2016; 89(1): 70-82、Boado RJ, et al. PNAS 1999; 96(21): 12079-84を引用)。CD98hcの細胞内部分は、インテグリンシグナル伝達を媒介するように機能し、これは、細胞増殖および腫瘍発生の両方において役割を果たす(Zuchero YJ, et al. Neuron. 2016; 89(1): 70-82、Feral CC, et al. J Cell Biol 2007; 178: 701-711を引用、Cantor JM and Ginsburg MH. J Cell Sci 2012; 125: 1373-82)。CD98hcは、ヒト脳微小血管構造に高度に発現され、抗CD98hc二重特異性抗体が、治療用抗体をマウスの脳に送達するために使用されている(Zuchero YJ, et al. Neuron. 2016; 89(1): 70-82)。しかしながら、ヒトにおいて安全にCD98hcを標的とする能力は、まだ調査されていない。
【0007】
したがって、改善された安全性およびPKで効率的に薬物を脳へと輸送するために使用することができる、抗CD98モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本出願は、送達される薬剤、例えば、治療用モノクローナル抗体(mAb)の脳内濃度だけではなく、mAbの末梢薬物動態、安全性、および薬力学を含むmAbの治療的に関連する特徴も考慮した、脳への送達のための最適化されたプラットフォームに関する。このプラットフォームは、CD98結合分子、特に、CD98、好ましくは、ヒトCD98重鎖(huCD98hc)に結合する抗体またはその抗原結合性断片であって、CD98結合分子が、6.8~7.8の中性pH、例えば、生理学的pH(例えば、7.4)、および4.5~6.5の酸性pH、例えば、エンドソームコンパートメントにおいて見出されることが多い酸性pHの両方において、結合速度kおよび解離速度k値によって定義される最適化された輸送機能を有する、TfR結合分子を利用する。
【0009】
本発明者らは、予想外なことに、最適な値が、単純に、典型的な抗体-標的相互作用において予測され得るような、もっとも速い結合速度k値およびもっとも遅い解離速度k値ではないことを発見した。すなわち、この系に関しては、かならずしも、抗体-標的複合体の寿命がもっとも長くなるように比較的高い速度でCD98に「結合」および会合し、次いで、より緩徐にCD98から解離する分子を使用することが求められるわけではない。代わりに、一実施形態では、本明細書に記載されるCD98結合剤の最適化された輸送機能は、好ましくは、生理学的pH(例えば、7.4)および低いpH(例えば、6.5または6.0)の両方において、類似の(例えば、同じ桁の範囲内で)k速度を有するが、低いpH(例えば、pH6.5または6.0)では、生理学的pH(例えば、7.4)におけるk速度と比較して、より速い解離速度kを有する。
【0010】
1つの一般的な態様では、本出願は、治療剤または診断剤を、それを必要とする対象の脳に送達するための抗CD98抗体またはその抗原結合性断片であって、中性pHにおいて、少なくとも1nM、好ましくは、1nM~500nMの解離定数Kで、酸性pH、好ましくは、pH5において、少なくとも10-4-1、好ましくは、10-4~10-1-1の解離速度定数kで、CD98、好ましくは、ヒトCD98hcに結合する、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片について記載する。
【0011】
一部の実施形態では、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、中性pHにおいて、2×10-2~2×10-4-1、好ましくは、9×10-3-1の解離速度定数kを有する。
【0012】
別の実施形態では、本明細書に記載されるある特定のCD98結合剤の最適化された輸送機能は、好ましくは、生理学的pH(例えば、7.4)で、少なくとも1.05×10のk速度、および少なくとも9×10-3-1またはそれよりも速いk速度を有する。前述のpH、KD、k、およびkパラメーターは、最適化されたトランスサイトーシス条件を反映するにすぎず、決して、本明細書におけるある特定のCD98結合剤にコンジュゲートされたある特定の分子のCD98によって媒介される輸送が、いずれにせよ記載される好ましいパラメーター外で生じ得るという本発明者らの発見を制限するものではない。
【0013】
1つの一般的な態様では、本出願は、薬剤を、それを必要とする対象の脳に送達するための抗体またはその抗原結合性断片であって、CD98、好ましくは、ヒトCD98重鎖(huCD98hc)に結合し、
(1)重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む軽鎖可変領域であって、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3が、
(i)それぞれ、配列番号7、8、9、10、11および12、
(ii)それぞれ、配列番号67、68、69、70、71および72、
(iii)それぞれ、配列番号89、90、91、92、93および94、
(iv)それぞれ、配列番号113、114、115、116、117および118、
(v)それぞれ、配列番号123、124、125、126、127および128、
(vi)それぞれ、配列番号133、134、135、136、137および138、
(vii)それぞれ、配列番号150、151、152、153、154および155、
(viii)それぞれ、配列番号160、161、162、163、164および165、
(ix)それぞれ、配列番号170、171、172、173、174および175、
(x)それぞれ、配列番号180、181、182、183、184および185、
(xi)それぞれ、配列番号194、195、196、197、198および199、もしくは
(xii)それぞれ、配列番号204、205、206、207、208および209、
のアミノ酸配列を有する、
重鎖可変領域および軽鎖可変領域、または
(2)重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖の単一可変ドメイン(VHH)であって、
(i)それぞれ、配列番号29、30および31、
(ii)それぞれ、配列番号48、49および50、もしくは
(iii)それぞれ、配列番号143、144および145
のアミノ酸配列を有する、重鎖の単一可変ドメイン(VHH)
を含む、抗体またはその抗原結合性断片に関する。
【0014】
ある特定の実施形態では、本出願は、配列番号28、配列番号47、または配列番号142に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、抗CD98 VHH断片に関する。
【0015】
他の実施形態では、本出願は、抗CD98一本鎖可変断片(scFv)であって、リンカーを介して軽鎖可変領域に共有結合的に連結された、重鎖可変領域を含み、好ましくは、リンカーが、配列番号189のアミノ酸配列を有する、抗TfR一本鎖可変断片(scFv)に関する。より好ましくは、scFvは、配列番号6、配列番号66、配列番号88、配列番号112、配列番号122、配列番号132、配列番号149、配列番号159、配列番号169、配列番号179、配列番号193、または配列番号203のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0016】
本出願の別の態様は、治療剤または診断剤、例えば、神経学的障害薬または神経学的障害を検出するための薬剤に連結された本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、コンジュゲートに関する。好ましくは、治療剤または診断剤は、脳の標的に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片である。
【0017】
ある特定の実施形態では、本出願は、脳の標的、例えば、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Aベータ)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチ反復キナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、およびカスパーゼ6からなる群から選択される脳の標的に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片に共有結合的に連結された、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、融合構築物に関する。
【0018】
ある特定の実施形態では、本出願の融合構築物は、Tauに結合し、それぞれ配列番号213~218のアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む、第2の抗体またはその抗原結合性断片を含む。好ましくは、第2の抗体は、配列番号110のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号111のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、モノクローナル抗体である。
【0019】
一実施形態では、本出願の融合構築物は、リンカーを介して、脳の標的に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片の2つの重鎖のうちの一方のみのカルボキシル末端に共有結合的に連結された、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片、好ましくは、抗huCD98hc VHHまたはscFv断片を含む。好ましくは、リンカーは、配列番号190または配列番号191のアミノ酸配列を有する。
【0020】
ある特定の実施形態では、第2の抗体またはその抗原結合性断片の2つの重鎖のそれぞれは、2つの重鎖間のヘテロ二量体の形成を促進するように、野生型重鎖定常3(CH3)ドメインと比較して改変されたCH3ドメインを含む。2つの重鎖間のヘテロ二量体の形成を促進する任意の突然変異を、使用することができる。好ましくは、第1の重鎖の改変されたCH3ドメインは、T350位、L351位、F405位、およびY407位におけるアミノ酸改変を含み、第2の重鎖の改変されたCH3ドメインは、T350位、T366位、K392位、およびT394位におけるアミノ酸改変を含む。好ましくは、T350位におけるアミノ酸改変は、T350V、T350I、T350L、またはT350Mであり、L351位におけるアミノ酸改変は、L351Yであり、F405位におけるアミノ酸改変は、F405A、F405V、F405T、またはF405Sであり、Y407位におけるアミノ酸改変は、Y407V、Y407A、またはY407Iであり、T366位におけるアミノ酸改変は、T366L、T366I、T366V、またはT366Mであり、K392位におけるアミノ酸改変は、K392F、K392L、またはK392Mであり、T394位におけるアミノ酸改変は、T394Wである。より好ましくは、第1の重鎖の改変されたヘテロ二量体CH3ドメインは、突然変異T350V、L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2の重鎖の改変されたヘテロ二量体CH3ドメインは、突然変異T350V、T366L、K392L、およびT394Wを含む。本明細書全体を通じて抗体におけるアミノ酸残基の番号付けは、別途明示されない限り、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)に記載されるEUインデックスに従って行われる。
【0021】
ある特定の実施形態では、第2の抗体またはその抗原結合性断片の結晶性断片領域(Fc領域)は、エフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞毒性(ADCC)および/または補体依存性細胞毒性(CDC)を変更する(増加または減少させる)、好ましくは、排除する、置換を含む。好ましくは、第2の抗体またはその抗原結合性断片のFc領域は、第2の抗体またはその抗原結合性断片の、Fcガンマ受容体(FcγR)への結合を減少または停止させ、エフェクター機能によって媒介される毒性を回避する、1つまたは複数のアミノ酸改変を含む。例えば、第2の抗体またはその抗原結合性断片のFc領域は、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位における1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つ、または3つの突然変異を含み得、ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである。
【0022】
ある特定の実施形態では、第2の抗体またはその抗原結合性断片のFc領域は、第2の抗体またはその抗原結合性断片の、胎児性Fc受容体(FcRn)への結合を変更する(増加または減少させる)、好ましくは、増加させる、置換を含む。好ましくは、1つまたは複数の突然変異は、酸性pHにおける結合を増強させ、より好ましくは、Fcは、M252Y/S254T/T256E(YTE)突然変異を有し、ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである。
【0023】
ある特定の実施形態では、本出願の融合構築物は、
(1)配列番号13、16、19、22、25、32、35、38、41、44、51、54、57、60、63、73、76、79、82、85、95、98、101、104、107、119、129、139、146、156、166、176、186、200、210、および219からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第1の重鎖と、
(2)それぞれ配列番号14、17、20、23、26、33、36、42、45、52、55、58、61、64、74、77、80、83、86、96、99、102、105、108、120、130、140、147、157、167、177、187、201、211、および220からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を、それぞれが独立して有する、2つの軽鎖と、
(3)それぞれ配列番号15、18、21、24、27、34、37、43、46、53、56、59、62、65、75、78、81、84、87、97、100、103、106、109、121、131、141、148、158、168、178、188、202、212、および221からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第2の重鎖と
を含む。
【0024】
本出願の別の一般的な態様は、本出願の抗体もしくは抗原結合性断片、コンジュゲート、または融合構築物をコードする、単離された核酸に関する。また、本出願の単離された核酸を含むベクター、本出願の核酸またはベクターを含む宿主細胞も、提供される。
【0025】
本出願の別の一般的な態様は、本出願の抗体もしくは抗原結合性断片、コンジュゲート、または融合構築物を産生させる方法に関する。本方法は、本出願の核酸を含む細胞を、抗体もしくは抗原結合性断片、コンジュゲート、または融合構築物を産生させる条件下において培養するステップと、抗体もしくは抗原結合性断片、コンジュゲート、または融合構築物を、細胞または細胞培養物から回収するステップとを含む。
【0026】
さらに、本出願のコンジュゲートまたは融合構築物と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物が、提供される。
【0027】
本出願の別の一般的な態様は、神経学的障害の処置または検出を、それを必要とする対象において行う方法であって、対象に、有効量の本出願の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、または融合構築物、または医薬組成物を投与するステップを含む、方法に関する。好ましくは、神経学的障害は、神経変性疾患(例えば、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、脊髄小脳失調症、脊髄性筋萎縮症)、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病および核上性麻痺)、プリオン病(例えば、ウシ海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ病、クールー病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、慢性消耗性疾患、および致死性家族性不眠症)、球麻痺、運動ニューロン疾患、および神経系ヘテロ変性障害(nervous system heterodegenerative disorder)(例えば、カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥーレット病、メンケス症候群、コケイン症候群、ハラーホルデン・スパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、およびウンフェルリヒト・ルントボルグ病)、認知症(例えば、ピック病および脊髄小脳失調症)、ならびにCNSおよび/または脳のがん(例えば、身体の他の箇所のがんから生じる脳転移)からなる群から選択される。
【0028】
好ましくは、本出願の抗体もしくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、融合構築物、または医薬組成物は、静脈内投与される。
【0029】
また、治療剤または診断剤を、それを必要とする対象の脳に送達する方法であって、対象に、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に連結された治療剤または診断剤を含むコンジュゲートを投与するステップを含む、方法も記載される。好ましくは、治療剤または診断剤は、脳の標的に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片である。より好ましくは、対象の脳への、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に連結された治療剤または診断剤の投与は、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に連結されていない治療剤または診断剤の投与と比較して、Fcによって媒介されるエフェクター機能の低減をもたらし、かつ/または急速な網状赤血球枯渇を誘導しない。
【0030】
本発明のさらに別の一般的な態様は、抗体依存性ファゴサイトーシス(ADP)の誘導を、それを必要とする対象において、炎症促進性サイトカインの分泌を刺激することなく行う方法であって、対象に、本発明の実施形態に記載のその抗原結合性断片に連結、好ましくは、共有結合的にコンジュゲートされた治療用抗体またはその抗原結合性断片を含む、複合体を投与するステップを含み、治療用抗体またはその抗原結合性断片が、エフェクター機能を有さず、例えば、治療用抗体またはその抗原結合性断片が、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位における1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つ、または3つの突然変異を含み、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである、方法に関する。好ましくは、治療用抗体またはその抗原結合性断片は、tau凝集体に特異的に結合する。
【0031】
本発明の他の態様、特性、および利点は、本発明の詳細な説明およびその好ましい実施形態、ならびに添付の特許請求の範囲を含む、以下の説明から明らかであろう。
【0032】
上述の概要ならびに以下の本発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとより良好に理解されるだろう。図面には、本発明を説明する目的で、本件において好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、図面に示されているまさにそのような実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
【0033】
特許または出願の書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を有する本特許または本特許出願公報のコピーは、請求および必要な手数料の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】脳送達プラットフォームに使用されるトリポッドmAbフォーマットの説明図である。
図2H-ロイシン取込みに対する抗CD98hc Zymeworksトリポッド抗体の作用を示す、棒グラフである。データは、四連の平均±標準誤差である。点線は、Zymeworksトリポッドアイソタイプ対照(B624)の±(3×標準偏差)を表す。
図3】ヒト脳内皮細胞におけるトリポッドmAbの内部移行を示す画像である。トリポッドmAbは赤色に、核は青色に、アクチンは緑色に染色されている。示される画像は、BBBB449についてのものである。
図4】pH7.4でのオフレートを、pHを6.5および6.0に低減させた際のオフレートと比較することによって評価したpH依存性結合を示すグラフである。pHの減少と共にオフレートがより速くなった場合、トリポッドmAbにプラスのスコアを付けた。データは、BBBB578についてのものである。
図5】ヒト脳内皮細胞でのトリポッドmAb BBBB1067の内部移行を示す画像である。トリポッドmAbは赤色に、アクチンは緑色に染色されている。
図6】静脈内投薬したmAbの脳内濃度を示すグラフである。すべてのブレインシャトルmAbは、非ブレインシャトルmAbよりも増加した曝露を有した。個々の点は、それぞれの動物を表す(n=3匹)。
図7】mAbによって媒介されるミクログリアファゴソーム内への取込みを示すグラフである。すべてのブレインシャトルmAbは、非ブレインシャトルmAb、PT1B844と比べて同様のファゴソーム内への取込みを促進した。
【発明を実施するための形態】
【0035】
様々な刊行物、論文、および特許が、背景技術および本明細書全体において引用または記載されており、これらの参考文献のそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、動作、材料、デバイス、物品などに関する考察は、本発明の文脈を提供する目的のためのものである。そのような考察は、これらのものの一部またはすべてが、開示または特許請求される任意の発明に関する先行技術の一部を形成することを認めるものではない。
【0036】
別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって広く理解されているものと同じ意味を有する。それ以外の場合、本明細書に使用されるある特定の用語は、本明細書に記載される意味を有する。本明細書に引用されているすべての特許、公開特許出願、および刊行物は、参照によって、本明細書に全内容が記載されているように組み込まれる。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈により別途明確に示されない限り、複数形の参照物を含むことに留意しなければならない。
【0037】
別途示されない限り、本明細書に記載される任意の数値、例えば、濃度または濃度範囲は、すべての事例において「約」という用語によって修飾されているものとして理解されたい。したがって、数値は、典型的に、言及された値の±10%を含む。例えば、10mgの投薬量は、9mg~11mgを含む。本明細書に使用される場合、数値範囲の使用は、文脈により別途明確に示されない限り、すべての可能性のある部分範囲、その範囲内のすべての個々の数値を含み、そのような範囲内の整数および数値の分数が含まれる。
【0038】
本明細書に使用される場合、複数の言及される要素間の「および/または」という接続詞は、個別および組合せの両方の選択肢を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が、「および/または」によって接続されている場合、第1の選択肢は、第2の要素なしで第1の要素を適用することを指す。第2の選択肢は、第1の要素なしで第2の要素を適用することを指す。第3の選択肢は、第1および第2の要素を一緒に適用することを指す。これらの選択肢のうちのいずれのものも、この意味の範囲内に含まれ、したがって、本明細書に使用される「および/または」という用語の要件を満たことが理解される。選択肢のうちの1つを上回るものを同時に適用することもまた、この意味の範囲内に含まれ、したがって、「および/または」という用語の要件を満たすことが理解される。
【0039】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲を通じて、文脈により別途要求されない限り、「含む(comprise)」という言葉、ならびに「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などの変化形は、言及された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の包含を意味し、任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の除外を意味するものではないことを理解されたい。本明細書に使用される場合、「含む(comprising)は、「含む(containing)」もしくは「含む(including)」という用語、または本明細書に使用される一部の場合には「有する」という用語と置換することができる。
【0040】
本明細書に使用される場合、「からなる」は、特許請求要素に示されていない任意の要素、ステップ、または成分を除外する。本明細書に使用される場合、「から本質的になる」は、特許請求の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを除外しない。「含む(comprising)」、「含む(containing)」、「含む(including)」、および「有する」という前述の用語のいずれも、本発明の態様または実施形態の文脈において本明細書に使用される場合は常に、「からなる」または「から本質的になる」という用語と置き換えて、本開示の範囲を変動させてもよい。
【0041】
本明細書における「抗体」という用語は、広義に使用され、具体的には全長モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ならびに別途示されない限りまたは文脈に矛盾しない限り、所望される生物学的活性を呈する限りは、それらの抗原結合性断片、抗体バリアント、および多重特異性分子を含む。一般に、全長抗体は、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合性部分である。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書において、VHと略される)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインから構成される。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略される)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLから構成される。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される保存性の高い領域が点在した、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに分割することができる。それぞれのVHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、これらはアミノ末端からカルボキシ末端に以下の順序で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合性ドメインを含有する。抗体分子構造の一般原則、および抗体の産生に関する様々な技法は、例えば、Harlow and Lane, ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., (1988)に提供されている。
【0042】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、全長抗体は、異なる「クラス」に割り当てられ得る。全長抗体の5つの主要なクラスには、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgA2にさらに分割され得る。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、およびミューと称される。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構成は、周知である。
【0043】
「抗体」はまた、重鎖単独抗体(HcAb)とも称される重鎖の単一可変ドメイン(VHH)抗体であってもよく、これは、軽鎖が欠如しており、ラクダ科動物またはサメによって天然に産生され得る。HcAbの抗原結合性部分は、VHH断片から構成される。
【0044】
「組換え抗体」という用語は、本明細書に使用される場合、抗体をコードする核酸を含む組換え宿主細胞によって発現される抗体(例えば、キメラ、ヒト化、もしくはヒト抗体、またはその抗原結合性断片)を指す。組換え抗体を産生させるための「宿主細胞」の例としては、(1)哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、骨髄腫細胞(YOおよびNSO細胞を含む)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、Hela、およびVero細胞、(2)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、およびTn5、(3)植物細胞、例えば、ニコチアナ(Nicotiana)属に属する植物(例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))、(4)酵母細胞、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属に属するもの(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、またはアスペルギルス(Aspergillus)属に属するもの(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))、(5)細菌細胞、例えば、大腸菌(Escherichia, coli)細胞、または枯草菌(Bacillus subtilis)細胞などが挙げられる。
【0045】
抗体の「抗原結合性断片」は、抗原に検出可能に結合することができる全長抗体の一部分を含む、典型的には、少なくともVH領域の1つまたは複数の部分を含む、分子である。抗原結合性断片は、抗体の1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の抗原結合性部分を含む多価分子、ならびにVLおよびVH領域、またはその選択された部分が、合成リンカーまたは組換え方法によって結合されて、機能的抗原結合性分子を形成した一本鎖構築物を含む。抗原結合性断片はまた、ナノボディとしても知られている単一ドメイン抗体(sdAb)であってもよく、これは、単一の単量体可変抗体ドメイン(VHH)からなる抗体断片である。抗体のいくつかの抗原結合性断片は、より大きな抗体分子の実際の断片形成(例えば、酵素切断)によって得ることができるが、ほとんどは、典型的には、組換え技法によって産生される。本発明の抗体は、全長抗体またはその抗原結合性断片として調製することができる。抗原結合性断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab)、F(ab’)、F(ab)、Fv(典型的には、抗体の単一のアームのVLおよびVHドメイン)、一本鎖Fv(scFv、例えば、Bird et al., Science 1988; 242:423-426およびHuston et al. PNAS 1988; 85:5879-5883を参照されたい)、dsFv、Fd(典型的には、VHおよびCH1ドメイン)、ならびにdAb(典型的には、VHドメイン)断片;VH、VL、VHH、およびV-NARドメイン;単一のVHおよび単一のVL鎖を含む一価分子;ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、およびカッパボディ(例えば、Ill et al., Protein Eng 1997; 10:949-57を参照されたい);ラクダIgG;IgNAR;ならびに1つまたは複数の単離されたCDRまたは機能性パラトープ(ここで、単離されたCDRまたは抗原結合性残基もしくはポリペプチドは、機能性抗体断片を形成するように、一緒に会合または連結され得る)が挙げられる。様々なタイプの抗体断片が、例えば、Holliger and Hudson, Nat Biotechnol 2005; 23:1126-1136、国際公開第WO2005040219号、ならびに公開済みの米国特許出願第20050238646号および同第20020161201号において記載または考察されている。抗体断片は、従来的な組換えまたはタンパク質操作技法を使用して得ることができ、断片は、インタクトな抗体と同じ様式で、抗原結合性または他の機能についてスクリーニングすることができる。
【0046】
抗体断片の産生のための様々な技法が開発されている。従来的には、これらの断片は、全長抗体のタンパク質分解による消化を介して導出されていた(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 24:107-117 (1992)、およびBrennan et al., Science, 229:81 (1985)を参照されたい)。しかしながら、これらの断片は、現在では、組換え宿主細胞によって、直接的に産生させることができる。あるいは、Fab’-SH断片は、大腸菌(E. coli)から直接的に回収し、化学的に結合させて、F(ab’)2断片を形成することができる(Carter et al., Bio/Technology, 10:163-167 (1992))。別のアプローチによると、F(ab’)2断片は、組換え宿主細胞培養物から直接的に単離することができる。他の実施形態では、選択される抗体は、一本鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第WO 1993/16185号、米国特許第5,571,894号、および米国特許第5,587,458号を参照されたい。抗体断片はまた、例えば、例として、米国特許第5,641,870号に記載されるような「線形抗体」であってもよい。そのような線形抗体断片は、単一特異性であってもよく、または二重特異性であってもよい。
【0047】
「抗体誘導体」という用語は、本明細書に使用される場合、1つまたは複数のアミノ酸が、化学的に改変または置換された、全長抗体またはその抗原結合性断片を含む分子を指す。抗体誘導体において使用することができる化学的改変としては、例えば、アルキル化、PEG化、アシル化、エステル形成、またはアミド形成など、例えば、抗体を第2の分子に連結させるためのものが挙げられる。例示的な改変としては、PEG化(例えば、システイン-PEG化)、ビオチニル化、放射標識、および第2の薬剤(例えば、細胞毒性剤)とのコンジュゲーションが挙げられる。
【0048】
本明細書における抗体は、変更された抗原結合性または生物学的活性を有する「アミノ酸配列バリアント」を含む。そのようなアミノ酸変更の例としては、抗原に対する増強された親和性を有する抗体(例えば、「親和性成熟」抗体)、ならびに変更されたFc領域を有し、存在する場合には、例えば、変更された(増加または減少した)抗体依存性細胞毒性(ADCC)および/もしくは補体依存性細胞毒性(CDC)(例えば、国際公開第WO 00/42072号、Presta, L.および同第WO 99/51642号、Iduosogie et al)、および/または増加もしくは減少した血清半減期(例えば、国際公開第WO00/42072号、Presta, L.)を有する抗体が挙げられる。
【0049】
「多重特異性分子」は、少なくとも1つの他の機能性分子(例えば、別のペプチドまたはタンパク質、例えば、別の抗体または受容体のリガンド)と会合しているか、またはそれに連結された、抗体またはその抗原結合性断片を含み、それによって、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する分子が形成される。例示的な多重特異性分子としては、二重特異性抗体、および可溶性受容体断片もしくはリガンドに連結された抗体が挙げられる。
【0050】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書に使用される場合、フレームワーク領域およびCDR領域の両方が、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する(すなわち、それと同一であるか、またはそれと本質的に同一である)可変領域を有する、抗体を含むことを意図する。さらに、抗体が定常領域を含む場合には、定常領域もまた、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に「由来」する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的突然変異生成によって、またはin vivoでの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書に使用される場合、別の哺乳動物種、例えば、マウスの生殖細胞系に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列にグラフトされている抗体を含むことは意図しない。
【0051】
「ヒト化」抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む、ヒト/非ヒトキメラ抗体である。ほとんどの部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域に由来する残基が、所望される特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域に由来する残基で置き換えられている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の事例では、ヒト免疫グロブリンのFR残基が、対応する非ヒト残基で置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むことになり、ここで、超可変ループのすべてまたは実質的にすべてが、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR残基のすべてまたは実質的にすべてが、ヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを含み得る。さらなる詳細については、例えば、Jones et al., Nature 321:522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988)、およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)、国際公開第WO 92/02190号、米国特許出願第20060073137号、ならびに米国特許第6,750,325号、同第6,632,927号、同第6,639,055号、同第6,548,640号、同第6,407,213号、同第6,180,370号、同第6,054,297号、同第5,929,212号、同第5,895,205号、同第5,886,152号、同第5,877,293号、同第5,869,619号、同第5,821,337号、同第5,821,123号、同第5,770,196号、同第5,777,085号、同第5,766,886号、同第5,714,350号、同第5,693,762号、同第5,693,761号、同第5,530,101号、同第5,585,089号、および同第5,225,539号を参照されたい。
【0052】
「超可変領域」という用語は、本明細書に使用される場合、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」または「CDR」(軽鎖可変ドメインの残基24~34(L1)、50~56(L2)、および89~97(L3)、ならびに重鎖可変ドメインの31~35(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)、(Kabat et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242)に由来するアミノ酸残基、ならびに/または「超可変ループ」(軽鎖可変ドメインの残基26~32(L1)、50~52(L2)、および91~96(L3)、ならびに重鎖可変ドメインの26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3)、Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 1987; 196:901-917)に由来する残基を含む。典型的には、この領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,(上記)に記載される方法によって行われる。本明細書における「Kabatの位置」、「Kabatによる可変ドメイン残基番号付け」、および「Kabatによる」などの語句は、重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのこの番号付けシステムを指す。Kabatの番号付けシステムを使用すると、ペプチドの実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはCDRの短縮形に相当する、より少ないアミノ酸を含み得るか、またはそれへの挿入に相当する、追加のアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後に、単一のアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)、および重鎖FR残基82の後に、挿入された残基(例えば、Kabatによる残基82a、82b、および82cなど)を含み得る。Kabatの残基番号付けは、所与の抗体に関して、その抗体の配列の相同性の領域における、「標準の」Kabatの番号付けを行った配列とのアライメントによって、決定され得る。
【0053】
「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書に定義されるCDR以外のVHまたはVL残基である。
【0054】
「エピトープ」または「結合部位」は、抗原結合性ペプチド(例えば、抗体)が特異的に結合する抗原上の範囲または領域である。タンパク質エピトープは、結合に直接的に関与するアミノ酸残基(エピトープの免疫優性成分とも称される)、および結合には直接的に関与しない他のアミノ酸残基、例えば、特異的に抗原結合性ペプチドによって効果的に遮断されるアミノ酸残基(換言すると、アミノ酸残基は、特異的に抗原結合性ペプチドの「溶媒排除表面(solvent-excluded surface)」および/または「フットプリント」内にある)を含み得る。
【0055】
「パラトープ」は、抗原に特異的に結合する抗体の抗原結合性部分の範囲または領域である。別途示されない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、パラトープは、エピトープ結合に直接的に関与する、いくつかが典型的にはCDR内にあるアミノ酸残基、ならびに結合に直接的に関与しない他のアミノ酸残基、例えば、特異的に結合した抗原によって効果的に遮断されるアミノ酸残基(換言すると、アミノ酸残基は、特異的に結合した抗原の「溶媒排除表面」および/または「フットプリント」内にある)を含み得る。
【0056】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」とは、参照抗体のその抗原への結合を、競合アッセイにおいて、50%またはそれ以上遮断する抗体を指し、逆に、参照抗体は、抗体のその抗原への結合を、競合アッセイにおいて、50%またはそれ以上遮断する。
【0057】
「単離された」抗体は、その天然の環境の成分から分離されているものである。一部の実施形態では、抗体は、例えば、電気泳動法(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)、またはクロマトグラフィー法(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって判定した場合に、95%または99%を上回る純度まで精製される。抗体純度の評価のための方法に関する考察については、Flatman et al, J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照されたい。
【0058】
本発明の方法に関して、「投与すること」という用語は、本発明のコンジュゲート、またはその形態、組成物、もしくは医薬を使用することによって、本明細書に記載される症候群、障害、または疾患を、治療的または予防的に予防、処置、または緩和するための方法を意味する。そのような方法は、有効量の前記抗体、その抗原結合性断片、またはコンジュゲート、またはその形態、組成物、もしくは医薬品を、治療過程の間の異なる時点において、または組合せ形態で同時に、投与するステップを含む。本発明の方法は、すべての公知の治療的処置レジメンを包含するものとして理解されたい。
【0059】
標的抗体が標的分子の天然の標的リガンドへの結合を「遮断する」能力は、抗体が、可溶性または細胞表面結合型標的およびリガンド分子を使用するアッセイにおいて、標的分子のリガンドへの結合を、用量依存的様式で検出可能に低減させることができ、標的分子が、その抗体の不在下においてはリガンドに検出可能に結合することを意味する。
【0060】
「血液脳関門」または「BBB」は、分子の脳内への輸送を制限する緻密な障壁を作成する、脳毛細血管内皮形質膜内のタイトジャンクションによって形成される末梢循環と脳および脊髄との間の生理学的障壁を指す。BBBは、非常に小さな分子、例えば、尿素(60ダルトン)でさえも、脳への輸送を制限することができる。BBBの例としては、脳内のBBB、脊髄内の血液脊髄関門、および網膜内の血液網膜関門が挙げられ、これらのすべては、CNS内の連続的な毛細血管関門である。BBBはまた、障壁が毛細血管内皮細胞ではなく上衣細胞から構成されている、血液CSF関門(脈絡叢)も包含する。
【0061】
「血液脳関門受容体」(本明細書において「R/BBB」と略される)は、分子をBBBを越えて輸送することができるか、または投与された外因性分子を輸送するために使用される、脳内皮細胞上に発現される細胞外膜結合型受容体タンパク質である。R/BBBの例としては、CD98成分を含む、大型の中性アミノ酸輸送体(LAT)複合体、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF-R)、限定することなく、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)および低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)を含む、低密度リポタンパク質受容体、ならびにヘパリン結合上皮増殖因子様増殖因子(HB-EGF)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書における例示的なR/BBBは、CD98hcである。
【0062】
「中枢神経系」または「CNS」は、身体機能を制御する神経組織の複合体を指し、これには、脳および脊髄が含まれる。
【0063】
「コンジュゲート」は、本明細書に使用される場合、治療用ペプチドもしくはタンパク質、抗体、標識、または神経学的障害薬を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の異種分子に共有結合的に連結されたタンパク質を指す。
【0064】
本明細書に使用される場合、「連結された」という用語は、2つまたはそれ以上の物体が一緒に結合していることまたはその接続を指す。化学的または生物学的化合物に言及する場合、連結されたとは、2つまたはそれ以上の化学的または生物学的化合物の間の共有結合的な接続を指し得る。非限定的な例として、本発明の抗体は、目的のペプチドと連結されて、抗体連結型ペプチドを形成し得る。抗体連結型ペプチドは、抗体をペプチドにコンジュゲートするように設計された特定の化学反応を通じて形成され得る。ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、リンカーを通じて本発明のペプチドに共有結合的に連結され得る。リンカーは、例えば、まず、抗体またはペプチドに共有結合的に接続され、次いで、ペプチドまたは抗体に共有結合的に接続され得る。
【0065】
薬剤、例えば、医薬製剤の「有効量」または「治療有効量」は、必要とされる投薬量および期間で、所望される治療的または予防的結果を達成するのに有効な量を指す。
【0066】
「リンカー」は、本明細書に使用される場合、2つの異なる実体を共有結合的に接続する、化学的リンカーまたは一本鎖ペプチドリンカーを指す。リンカーは、本発明の抗体またはその断片、血液脳関門シャトル、融合タンパク質、およびコンジュゲートのうちの任意の2つを接続するために使用され得る。リンカーは、例えば、scFvにおけるVHおよびVL、またはモノクローナル抗体もしくはその抗原結合性断片を、治療用分子、例えば、第2の抗体に接続することができる。一部の実施形態では、一価の結合性実体が、CD98、好ましくは、ヒトCD98hcに指向されるscFvを含み、治療用分子が、CNS標的、例えば、Tauに指向される抗体を含む場合、リンカーは、scFvを、Tauに指向される抗体に接続することができる。ペプチド結合によって結合された、1~25個のアミノ酸、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、または25個のアミノ酸から構成される、一本鎖ペプチドリンカーを、使用することができる。ある特定の実施形態では、アミノ酸は、20個の天然に存在するアミノ酸から選択される。ある特定の他の実施形態では、アミノ酸のうちの1つまたは複数は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、およびリジンから選択される。化学的リンカー、例えば、炭化水素リンカー、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、ポリプロピレングリコール(PPG)リンカー、多糖リンカー、ポリエステルリンカー、PEGおよび埋め込まれた複素環からなるハイブリッドリンカー、ならびに炭化水素鎖もまた、使用することができる。
【0067】
「神経学的障害」は、本明細書に使用される場合、CNSに罹患する、および/またはCNSに病因を有する、疾患または障害を指す。CNS疾患または障害の例としては、ニューロパチー、アミロイドーシス、がん、眼疾患または障害、ウイルスまたは微生物感染症、炎症、虚血、神経変性疾患、発作、行動障害、およびリソソーム貯蔵疾患が挙げられるが、これらに限定されない。本出願の目的で、CNSは、血液網膜関門によって身体の残りの部分から通常は封鎖されている眼を含むことが理解されるであろう。神経学的障害の特定の例としては神経変性疾患(レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、脊髄小脳失調症、脊髄性筋萎縮症を含むが、これらに限定されない)、タウオパチー(アルツハイマー病および核上性麻痺を含むが、これらに限定されない)、プリオン病(ウシ海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ病、クールー病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、慢性消耗性疾患、および致死性家族性不眠症を含むが、これらに限定されない)、球麻痺、運動ニューロン疾患、および神経系ヘテロ変性障害(nervous system heterodegenerative disorder)(カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥーレット病、メンケス症候群、コケイン症候群、ハラーホルデン・スパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、およびウンフェルリヒト・ルントボルグ病を含むが、これらに限定されない)、認知症(ピック病および脊髄小脳失調症を含むが、これらに限定されない)、がん(例えば、CNSおよび/または脳のもの、身体の他の箇所のがんから生じる脳転移を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
「神経学的障害薬」は、1つまたは複数の神経学的障害の作用を処置または緩和するのに有用な薬物または治療剤である。本発明の神経学的障害薬としては、小分子化合物、抗体、ペプチド、タンパク質、1つもしくは複数のCNS標的の天然のリガンド、1つもしくは複数のCNS標的の天然のリガンドの改変バージョン、アプタマー、阻害性核酸(すなわち、低分子阻害性RNA(siRNA)および短いヘアピンRNA(shRNA))、リボザイム、または前述のもののいずれかの活性な断片が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の例示的な神経学的障害薬は、本明細書に記載されており、これには、それ自体が、CNS抗原または標的分子、例えば、限定されないが、アミロイド前駆体タンパク質またはその一部分、アミロイドベータ、ベータ-セクレターゼ、ガンマ-セクレターゼ、tau、アルファ-シヌクレイン、パーキン、ハンチンチン、DR6、プレセニリン、ApoE、神経膠腫または他のCNSがんマーカー、ならびにニューロトロフィンであるか、またはそれらを特異的に認識する、および/もしくはそれらに対して作用する(すなわち、阻害、活性化、もしくは検出する)かのいずれかである、抗体、アプタマー、タンパク質、ペプチド、阻害性核酸、および小分子、ならびに前述のもののいずれかの活性な断片が挙げられるが、これらに限定されない。神経学的障害薬の非限定的な例、およびそれらを使用して処置され得る対応する障害:脳由来神経栄養因子(BDNF)、慢性脳損傷(神経発生)、線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)、抗上皮増殖因子受容体脳がん、(EGFR)-抗体、グリア細胞株由来神経因子 パーキンソン病、(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF) 筋萎縮性側索硬化症、鬱、脳のリソソーム酵素リソソーム貯蔵障害、毛様体神経栄養因子(CNTF) 筋萎縮性側索硬化症、ニューレグリン-1 統合失調症、抗HER2抗体(例えば、トラスツズマブ) HER2陽性がんからの脳転移。
【0069】
「医薬製剤」という用語は、中に含まれる活性成分の生物学的活性が有効となるのを許容するような形態にあり、製剤が投与されるであろう対象にとって、許容できないほどに毒性である追加の成分を含まない、調製物を指す。
【0070】
本明細書に使用される場合、「薬学的に許容される担体または希釈剤」は、個体への投与に使用するのに好適な任意の物質を意味する。例えば、薬学的に許容される担体は、滅菌水溶液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)または注射用水であり得る。
【0071】
本明細書に使用される場合、「薬学的に許容される塩」とは、化合物、例えば、オリゴマー化合物またはオリゴヌクレオチドの生理学的および薬学的に許容される塩、すなわち、親化合物の所望される生物学的活性を保持し、望ましくない毒物学的作用を与えない、塩を意味する。
【0072】
本発明において使用するための薬学的に許容される酸性/アニオン性塩としては、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重酒石酸塩、臭化物、エデト酸カルシウム、カンシラート、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、ジヒドロクロリド、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、エシレート、フマル酸塩、グリセプテート(glyceptate)、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(glycollylarsanilate)、ヘキシルレゾルシネート(hexylresorcinate)、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムカート、ナプシレート、硝酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、およびトリエチオジドが挙げられ、これらに限定されない。また、有機酸または無機酸としては、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、リン酸、プロピオン酸、グリコール酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、シュウ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サッカリン酸、またはトリフルオロ酢酸が挙げられ、これらに限定されない。薬学的に許容される塩基性/カチオン性塩としては、アルミニウム、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-プロパン-1,3-ジオール(また、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トロメタン、または「TRIS」としても知られている)、アンモニア、ベンザチン、t-ブチルアミン、カルシウム、クロロプロカイン、コリン、シクロヘキシルアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、リチウム、L-リジン、マグネシウム、メグルミン、N-メチル-D-グルカミン、ピペリジン、カリウム、プロカイン、キニン、ナトリウム、トリエタノールアミン、または亜鉛が挙げられ、これらに限定されない。
【0073】
「ポリペプチド」または「タンパク質」は、ペプチド結合によって連結されてポリペプチドを形成した、少なくとも2つのアミノ酸残基を含む、分子を意味する。50個未満のアミノ酸の小さなポリペプチドは、「ペプチド」と称され得る。
【0074】
「配列同一性」、または「配列同一性パーセント(%)」、または「同一性%」、または「%同一である」という語句は、アミノ酸配列を参照して使用される場合、2つまたはそれ以上のアライメントされるアミノ酸配列の、アミノ酸配列の全長を構成するアミノ酸残基の数と比較した、同一のアミノ酸の一致(「ヒット」)の数を説明する。換言すると、アライメントを使用して、2つまたはそれ以上の配列について、同じであるアミノ酸残基のパーセンテージ(例えば、アミノ酸配列の全長にわたって90%、91%、92%、93%、94%、95%、97%、98%、99%、または100%の同一性)は、配列を、当該技術分野において公知の配列比較アルゴリズムを使用して測定される最大の一致について比較およびアライメントした場合、または手作業でアライメントされ目視で調査した場合に、判定され得る。配列同一性を判定するために比較される配列は、したがって、アミノ酸の置換、付加、または欠失によって異なり得る。タンパク質配列をアライメントするのに好適なプログラムは、当業者に公知である。タンパク質配列の配列同一性パーセンテージは、例えば、CLUSTALW、Clustal Omega、FASTA、またはBLASTなどのプログラムを用いて、例えば、NCBI BLASTアルゴリズム(Altschul SF, et al (1997), Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)を使用して、判定することができる。
【0075】
「特異的に結合すること」、または「特異的に結合する」、または「結合する」とは、抗体が、他の抗原よりも高い親和性で、抗原または抗原内のエピトープに結合することを指す。典型的に、抗体は、約1×10-8Mもしくはそれ未満、例えば、約1×10-9Mもしくはそれ未満、約1×10-10Mもしくはそれ未満、約1×10-11Mもしくはそれ未満、または約1×10-12Mもしくはそれ未満の解離定数(K)で、典型的には、その非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合のKよりも少なくとも100分の1のKで、抗原または抗原内のエピトープに結合する。Kは、抗体とその抗原との間のkoff/konの比である平衡解離定数である。Kおよび親和性は、逆相関する。「結合速度」(kon)は、抗体がその標的にどれほど迅速に結合するかを特徴付けるために使用される定数である。「解離速度」(koff)は、抗体がその標的からどれほど迅速に解離されるかを特徴付けるために使用される定数である。解離定数Kは、標準的な手順を使用して測定され得る。例えば、抗体のKは、表面プラズモン共鳴を使用することによって、例えば、バイオセンサーシステム、例えば、Biacore(登録商標)システムを使用することによって、またはバイオレイヤーインターフェロメトリー技術、例えば、Octet RED96システムを使用することによって、判定することができる。抗体のKの値が小さいほど、抗体が標的抗原に結合する親和性は高い。抗原または抗原内のエピトープに特異的に結合する抗体は、しかしながら、他の関連する抗原、例えば、他の種(ホモログ)、例えば、ヒトまたはサル、例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)(カニクイザル(cynomolgus、cyno))、チンパンジー(Pan troglodytes)(チンパンジー(chimpanzee、chimp))、またはコモンマーモセット(Callithrix jacchus)(コモンマーモセット(common marmoset、marmoset))に由来する同じ抗原に対して、交差反応性を有し得る。単一特異性抗体は、1つの抗原または1つのエピトープに特異的に結合するが、一方で二重特異性抗体は、2つの異なる抗原または2つの異なるエピトープに特異的に結合する。
【0076】
「対象」という用語は、本明細書に使用される場合、哺乳動物を指す。哺乳動物としては、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、および非ヒト霊長類、例えば、サル)、ウサギ、ならびにげっ歯動物(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、個体または対象は、ヒトである。対象がヒトである場合、それらは、「患者」と称することができる。
【0077】
2つのアミノ酸配列の文脈において、「実質的に同一である」という用語は、配列が、例えば、GAPまたはBESTFITのプログラムによって、デフォルトのギャップ重みを使用して最適にアライメントした場合に、少なくとも約50パーセントの配列同一性を共有することを意味する。典型的に、実質的に同一である配列は、少なくとも約60、少なくとも約70、少なくとも約80、少なくとも約90、少なくとも約95、少なくとも約98、または少なくとも約99パーセントの配列同一性を呈するであろう。
【0078】
「CD98」または「CD98hc」という用語は、本明細書に使用される場合、ジスルフィド結合によって複数の軽鎖のうちのいずれかに連結される、分化のクラスター98重鎖(CD98hc)からなる内在性膜タンパク質を指す。LAT1またはLAT2と会合すると、ヘテロ二量体輸送体複合体は、強制的なアミノ酸交換体として挙動する。CD98hcは、約80kDaの分子量を有する。好ましくは、CD98hcは、ヒトCD98hc(huCD98hc)である。huCD98hcは、SLC3A2遺伝子によってコードされる。
【0079】
「標的抗原」または「脳の標的」は、本明細書に使用される場合、抗体または小分子により標的化することができる、脳を含め、CNSにおいて発現される抗原および/または分子を指す。そのような抗原および/または分子の例としては、限定することなく、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Aベータ)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチ反復キナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、およびカスパーゼ6が挙げられる。一部の実施形態では、標的抗原は、BACE1である。一部の実施形態では、標的抗原は、Tauである。
【0080】
本明細書に使用される場合、「処置」(およびその文法上の変化形、例えば、「処置する」または「処置すること」)は、処置されている個体の自然な経過を変更するよう試みる臨床介入を指し、予防のために、または臨床病理の過程の間のいずれかで、行われ得る。処置の所望される作用としては、疾患の発症または再発を予防すること、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的な病理結果の減少、転移を予防すること、疾患進行の速度を減少させること、疾患状態の軽減または緩和、ならびに寛解または予後の改善が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるため、または疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0081】
抗体または免疫グロブリンは、重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、5つの主要なクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMに割り当てることができる。IgGは、免疫グロブリンの5つのタイプの中でもっとも安定しており、ヒトにおいては約23日間の血清半減期を有する。IgAおよびIgGは、さらに、アイソタイプIgA、IgA、IgG、IgG、IgG、およびIgGに細分類される。4つのIgGサブクラスのそれぞれは、エフェクター機能として知られる異なる生物学的機能を有する。これらのエフェクター機能は、一般に、Fc受容体(FcγR)との相互作用を通じて、および/またはC1qに結合し補体を固定することによって、媒介される。FcγRへの結合は、抗体依存性細胞媒介型細胞溶解または抗体依存性細胞毒性(ADCC)をもたらし得るが、一方で補体因子への結合は、補体によって媒介される細胞溶解または補体依存性細胞毒性(CDC)をもたらし得る。本発明の抗CD98抗体、または抗CD98抗体にコンジュゲートもしくは融合させようとする治療用もしくは診断用抗体は、エフェクター機能をまったく有さないかまたは最小限しか有さなくてよいが、FcRnに結合するその能力は保持し、その結合は、抗体が長いインビボ半減期を有する主要な手段となり得る。
【0082】
FcγRまたは補体(例えば、C1q)の抗体への結合は、いわゆるFc部分結合部位における定義されたタンパク質-タンパク質相互作用によって引き起こされる。そのようなFc部分結合部位は、当該技術分野において公知である。そのようなFc部分結合部位としては、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、およびP329(番号付けはKabatのEUインデックスによる)が挙げられ、例えば、これによって特徴付けられる。一部の実施形態では、本発明の抗CD98抗体、または抗CD98抗体にコンジュゲートもしくは融合させようとする治療用もしくは診断用抗体は、エフェクター機能を排除するために、1つまたは複数のFc部分結合部位における1つまたは複数の置換を含む。例えば、本発明の抗CD98抗体、または抗CD98抗体にコンジュゲートもしくは融合させようとする治療用もしくは診断用抗体は、以下の置換:残基233におけるプロリンとグルタミン酸との置換、残基234におけるアラニンまたはバリンとフェニルアラニンとの置換、および残基235におけるアラニンまたはグルタミン酸とロイシンとの置換のうちの1つまたは複数を含む、Fc領域を含み得る(EU番号付け、Kabat, E. A. et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. U.S. Dept. of Health and Human Services, Bethesda, Md., NIH Publication no. 91-3242)。好ましくは、目的の抗体は、L234A、L235A、およびP331S(EU番号付け、Kabat)のうちの1つ、2つ、または3つの突然変異を含む。
【0083】
サブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗体は、通常、C1qおよびC3結合を含む補体活性化を示し、一方で、IgG4は、補体系を活性化せず、C1qおよび/またはC3に結合しない。ヒトIgG4 Fc領域は、他のIgGサブタイプと比較して低減されたFcγRおよび補体因子に結合する能力を有する。好ましくは、本発明の抗CD98抗体、または抗CD98抗体にコンジュゲートもしくは融合させようとする治療用もしくは診断用抗体は、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域を含む。より好ましくは、Fc領域は、エフェクター機能を排除する置換を有するヒトIgG4 Fc領域を含む。例えば、IgG4 Fc領域におけるN結合型グリコシル化部位を、残基297(EU番号付け)におけるAlaをAsnと置換することによって除去することは、残留エフェクター活性を確実に排除する別の手段である。
【0084】
抗CD98抗体およびその抗原結合性断片
1つの一般的な態様では、本出願は、霊長類CD98、例えば、ヒトCD98またはサルCD98に結合する抗体またはその抗原結合性断片に関し、抗体またはその抗原結合性断片は、薬物を、それを必要とする対象の脳に送達するために最適化されている。本発明の発明者らは、驚くべきことに、結合速度および解離速度の両方からの影響が、脳内濃度に影響を及ぼすという、これまでに説明されていたものとはわずかに異なる親和性とトランスサイトーシス効率との間の関係性を発見した。具体的には、速すぎることも遅すぎることもない中間の解離速度が、薬剤(例えば、mAb)が抗CD98抗体またはその抗原結合性断片によって効率的に送達されるための最適な脳内PKおよびPDに必要である。
【0085】
好ましくは、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、pH感受性であり、例えば、それは、異なるpHではCD98に対する異なる結合親和性を有する。例えば、本出願の抗CD98抗体は、中性pH、例えば、生理学的pH(例えば、pH7.4)においては、高い親和性で細胞表面CD98に結合することができるが、エンドソームコンパートメントに内部移行されると、酸性pH、例えば、比較的低いpH(pH5~6.0)において、CD98から解離される。親和性は、2つの部分の間、例えば、抗体と抗原との間の結合の強度の尺度である。親和性は、いくつかの手段で表すことができる。1つの手段は、相互作用の解離定数(K)に関する。Kは、平衡透析、または抗原-抗体の解離および結合の速度、それぞれ、koff(kdもしくはkdis)およびkon(もしくはka)速度を直接的に測定することによるものを含め、日常的な方法によって測定することができる(例えば、Nature, 1993 361:186-87を参照されたい)。koff/konの比は、親和性に関連しないすべてのパラメーターを打ち消し、解離定数Kに等しくなる(一般に、Davies et al., Annual Rev Biochem, 1990 59:439-473を参照されたい)。したがって、Kの低さは、親和性の高さを意味する。親和性の別の表現は、Kであり、これは、Kの逆数、すなわちkon/koffである。したがって、Kの高さは、親和性の高さを意味する。例えば、本出願の組成物および/または方法において使用するための抗体またはその抗原結合性断片は、中性pH(例えば、pH6.8~7.8)、例えば、生理学的pH(例えば、pH7.4)において、1ナノモル(nM、10-9M)またはそれ以上のKで、CD98に結合し、酸性pH(例えば、pH4.5~6.5)、例えば、pH5.0)において、10-4-1またはそれ以上のkdisで、CD98から解離する、抗体またはその断片であり得る。
【0086】
したがって、本出願の一般的な態様は、薬剤を、それを必要とする対象の脳に送達するための抗CD98抗体またはその抗原結合性断片であって、中性pHにおいて、少なくとも1nM、好ましくは、1nM~500nMの解離定数Kで、酸性pH、好ましくは、pH5において、少なくとも10-4-1、好ましくは、10-4~10-1-1の解離速度定数kで、CD98、好ましくは、CD98hc、より好ましくは、ヒトCD98hcに結合する、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に関する。
【0087】
一実施形態では、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、中性pHにおいて、2×10-2~2×10-4-1、例えば、2×10-2、1×10-2、9×10-3、8×10-3、7×10-3、6×10-3、5×10-3、4×10-3、3×10-3、2×10-3、1×10-3、9×10-4、8×10-4、7×10-4、6×10-4、5×10-4、4×10-4、3×10-4、2×10-4-1、またはこれらの間の任意の値の解離速度定数kを有する。
【0088】
ある特定の実施形態では、ヒトCD98に結合する抗体またはその抗原結合性断片は、
(i)それぞれ、配列番号29、30、および31、
(ii)それぞれ、配列番号48、49、および50、または
(iii)それぞれ、配列番号143、144、および145
のアミノ酸配列を有する、重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む、重鎖の単一可変ドメイン(VHH)抗体である。
【0089】
好ましくは、それは、配列番号28、配列番号47、または配列番号142に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、VHH断片である。
【0090】
他の実施形態では、ヒトCD98に結合する抗体またはその抗原結合性断片は、重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む軽鎖可変領域であって、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3が、
(i)それぞれ、配列番号7、8、9、10、11および12、
(ii)それぞれ、配列番号67、68、69、70、71および72、
(iii)それぞれ、配列番号89、90、91、92、93および94、
(iv)それぞれ、配列番号113、114、115、116、117および118、
(v)それぞれ、配列番号123、124、125、126、127および128、
(vi)それぞれ、配列番号133、134、135、136、137および138、
(vii)それぞれ、配列番号150、151、152、153、154および155、
(viii)それぞれ、配列番号160、161、162、163、164および165、
(ix)それぞれ、配列番号170、171、172、173、174および175、
(x)それぞれ、配列番号180、181、182、183、184および185、
(xi)それぞれ、配列番号194、195、196、197、198および199、または
(xii)それぞれ、配列番号204、205、206、207、208および209
のアミノ酸配列を有する、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。
【0091】
他の実施形態では、本出願の抗体またはその抗原結合性断片は、本明細書に例証される抗体または抗原結合性断片と競合する。抗体または抗原の結合部位は、公知の方法、例えば、ELISA、ウエスタンブロットなどによって判定することができる。ある特定の実施形態では、そのような競合する抗体は、例証された抗体またはその抗原結合性断片が結合するのと同じエピトープ(例えば、線形または立体構造エピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的な方法は、Morris, G. E., (ed.), “Epitope Mapping Protocols,” In: Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Humana Press, Totowa, N.J. (1996)に提供されている。参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」とは、参照抗体のその抗原への結合を、競合アッセイにおいて、50%またはそれ以上遮断する抗体を指し、逆に、参照抗体は、抗体のその抗原への結合を、競合アッセイにおいて、50%またはそれ以上遮断する。
【0092】
好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、可動性リンカーを介して軽鎖可変領域(L)に共有結合的に連結された重鎖可変領域(H)を含む、一本鎖可変断片(scFv)である。scFvは、定常領域の除去およびリンカーの導入にもかかわらず、もともとの免疫グロブリンの特異性を保持することができる。scFvにおいて、ドメインの順序は、H-リンカー-L、またはL-リンカー-Hのいずれかであり得る。リンカーは、デノボで設計することができるか、または重大な立体障害を有することなくscFvの可変ドメインを架橋するのに適合する長さおよび立体構造を提供する公知のタンパク質構造に由来してもよい。リンカーは、10~約25個のアミノ酸の長さを有し得る。好ましくは、リンカーは、ドメインがフォールディングし、インタクトな抗原結合性部位を形成する能力に影響を及ぼすことのない、可変ドメインのカルボキシ末端と他のドメインのアミノ末端との間の約3.5nm(35Å)に及ぶペプチドリンカーである(Huston et al., Methods in Enzymology, vol. 203, pp. 46-88, 1991、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。リンカーは、好ましくは、タンパク質フォールディングを通して可変ドメイン内または可変ドメイン間のペプチドのインターカレーションを回避するために、親水性配列を含む(Argos, Journal of Molecular Biology, vol. 211, no. 4, pp. 943-958, 1990)。例えば、リンカーは、GlyおよびSer残基を含み得、かつ/または可溶性を増強させるためにGlu、Thr、およびLysなどの荷電残基が一緒に介在していてもよい。一実施形態では、リンカーは、配列番号189(GTEGKSSGSGSESKST)のアミノ酸配列を有する。任意の他の好適なリンカーもまた、本開示を踏まえて、使用することができる。
【0093】
一部の実施形態では、scFvは、配列番号6、配列番号66、配列番号88、配列番号112、配列番号122、配列番号132、配列番号149、配列番号159、配列番号169、配列番号179、配列番号193、または配列番号203のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0094】
好ましい実施形態では、CD98、好ましくは、CD98hc、より好ましくは、ヒトCD98hcに結合する抗体またはその抗原結合性断片は、遊離システインを含まない。
【0095】
抗CD98抗体またはその抗原結合性断片(例えば、VHHもしくはscFv断片)は、本開示を踏まえて、当該技術分野における好適な方法を使用して、産生させることができる。例えば、VHHまたはscFv断片は、抗体断片の産生に好適な条件下において、組換え宿主細胞(例えば、細菌、酵母、または哺乳動物細胞)を増殖させ、細胞培養物から断片を回収することによって、組換えで産生させることができる。
【0096】
脳シャトル構築物
本質的なトランスサイトーシス効率を増強させ、末梢薬物動態を拡張し、治療用mAbの有効性を維持すると同時に許容可能な安全性プロファイルとなるように操作することによって、CD98を使用した最適化されたRMT脳送達プラットフォームが、開発されている。カニクイザルにおけるトランスサイトーシス受容体親和性と脳内濃度との間の相互作用が、研究されている。結合動態に関する十分な研究により、mAbの最適な脳内PKおよびPDのためには、速すぎることも遅すぎることもない中間の解離速度が必要であることが示されている。
【0097】
胎児性Fc受容体(FcRn)への増加した結合を有する操作された抗体定常領域が、末梢クリアランスの減少および脳内濃度の増強をもたらしたこともまた、発見されている。
【0098】
Fcガンマ受容体(FcγR)への結合を停止させ、エフェクター機能によって媒介される毒性を回避するために、追加のFc突然変異が導入される。高親和性抗Tau結合mAbと連結された場合、これらの突然変異は、末梢におけるエフェクター機能によって媒介される毒性を予防し、同時に、ミクログリア取り込みおよび標的分解のための新規な非FcγR機序を通じて抗体依存性ファゴサイトーシス(ADP)を維持する。この機序は、CD98を通じた内部移行に依存し、炎症促進性サイトカインの分泌を刺激することなく、従来的なFcγRによって媒介されるADPよりも標的分解の促進がより効率的である。本発明者らが知る限り、様々な治療適用に利用することができる、新規の効率的な非炎症性ファゴサイトーシス機序を表すFcγRによって媒介されないADPに関する報告は、これが初めてである。
【0099】
したがって、1つの一般的な態様では、本出願は、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、抗体標的化脳送達システムに関する。抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、治療剤または診断剤を、細胞(例えば、がん細胞)またはBBB系に送達するために使用することができる。送達することができる薬剤としては、任意の神経学的障害薬、または神経学的障害薬を検出もしくは分析するために使用することができる薬剤が挙げられる。例えば、そのような薬剤は、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞株神経栄養因子(GDNF)、およびインスリン様増殖因子(IGF)を含むがこれらに限定されない、神経栄養因子;サブスタンスP、神経ペプチドY、血管作動性腸ペプチド(VIP)、ガンマ-アミノ-酪酸(GABA)、ドーパミン、コレシストキニン(CCK)、エンドルフィン、エンケファリン、およびチロトロピン放出ホルモン(TRH)を含むがこれらに限定されない、神経ペプチド;サイトカイン;抗不安剤;抗けいれん薬;例えば、低分子干渉RNAおよび/もしくはアンチセンスオリゴを含む、ポリヌクレオチドおよび導入遺伝子;または脳の標的に結合する抗体もしくはその抗原結合性断片であり得る。本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、目的の薬剤の、血液から脳への送達、およびそこでの機能を増強させるための有効な手段であり得る。
【0100】
具体的には、目的の薬剤は、本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片と組み合わされた形態、またはそれと連結された状態で、非経口で、例えば、静脈内に、送達することができる。例えば、薬剤は、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に非共有結合的に結合していてもよい。薬剤はまた、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に共有結合的に結合されて、コンジュゲートを形成してもよい。ある特定の実施形態では、コンジュゲーションは、タンパク質融合体の構築によるもの(すなわち、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片および神経学的障害薬をコードする2つの遺伝子の遺伝子融合、ならびに単一のタンパク質としての発現によるもの)である。公知の方法を使用して、本開示を踏まえて、薬剤を、抗体またはその抗原結合性断片に連結することができる。例えば、Wu et al., Nat Biotechnol., 23(9):1137-46, 2005、Trail et al., Cancer Immunol Immunother., 52(5):328-37, 2003、Saito et al., Adv Drug Deliv Rev., 55(2):199-215, 2003、Jones et al., Pharmaceutical Research, 24(9):1759-1771, 2007を参照されたい。
【0101】
一部の実施形態では、脳に送達しようとする治療剤または診断剤、ならびに抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、非ペプチドリンカーまたはペプチドリンカーを介して、一緒に共有結合的に連結され得る(またはコンジュゲートされ得る)。非ペプチドリンカーの例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、多糖、デキストラン、ポリビニルエーテル、生体分解性ポリマー、重合脂質、キチン、およびヒアルロン酸、またはこれらの誘導体、またはこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。ペプチドリンカーは、ペプチド結合またはその誘導体によって連結された1~50個のアミノ酸からなるペプチド鎖であってもよく、そのN末端およびC末端は、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に共有結合的に連結され得る。
【0102】
ある特定の実施形態では、本出願のコンジュゲートは、CD98に結合する第1の抗原結合性領域と、脳の抗原、例えば、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、tau、および本明細書に開示される他の脳の抗原に結合する第2の抗原結合性領域とを含む、多重特異性抗体である。多重特異性抗体を作製するための技法としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537, 1983)、国際公開第WO 93/08829号、およびTraunecker et al, EMBO J. 10: 3655, 1991を参照されたい)、ならびに「ノブ・イン・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、静電ステアリング作用を操作すること(国際公開第WO 2009/089004号A1)、2つまたはそれ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号およびBrennan et al, Science, 229: 81, 1985を参照されたい)、ロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny et al, J. Immunol., 148(5): 1547-1553,1992)を使用すること)、「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollinger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448, 1993)を参照されたい)、一本鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、Gruber et al, J. Immunol, 152:5368 (1994)を参照されたい)、ならびに例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60, 1991に記載される三重特異性抗体を調製することによって、作製することができる。本出願の多重特異性抗体はまた、3つまたはそれ以上の機能性抗原性結合部位を有する抗体を包含し、これには、「オクトパス抗体」または「二重可変ドメイン免疫グロブリン」(DVD)が挙げられる(例えば、米国出願第US2006/0025576号A1、Wu et al. Nature Biotechnology, 25(11):1290-7, 2007を参照されたい)。本出願の多重特異性抗体は、CD98ならびに脳の抗原(例えば、BACE1またはTau)に結合する抗原結合性領域を含む、「二重作用性Fab」または「DAF」も包含する(米国出願公開第US2008/0069820号を参照されたい)。一実施形態では、抗体は、抗体断片であり、様々なそのような断片が、本明細書に開示されている。
【0103】
一実施形態では、本出願の多重特異性抗体は、第2の抗体またはその抗原結合性断片に共有結合的に連結(または融合)された本出願の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を含む、融合構築物である。好ましくは、第2の抗体またはその抗原結合性断片は、脳の標的、例えば、BACE、tau、または他の脳の抗原、例えば、本明細書に記載されるものに結合する。抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、直接的に、またはリンカーを介して、第2の抗体またはその抗原結合性断片の軽鎖および/または重鎖のカルボキシ末端および/またはアミノ末端に融合され得る。
【0104】
一実施形態では、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、直接的に、またはリンカーを介して、第2の抗体またはその抗原結合性断片の軽鎖のカルボキシ末端に融合される。
【0105】
別の実施形態では、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、直接的に、またはリンカーを介して、第2の抗体またはその抗原結合性断片の軽鎖のアミノ末端に融合される。
【0106】
別の実施形態では、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、直接的に、またはリンカーを介して、第2の抗体またはその抗原結合性断片の重鎖のカルボキシ末端に融合される。
【0107】
別の実施形態では、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片は、直接的に、またはリンカーを介して、第2の抗体またはその抗原結合性断片の重鎖のアミノ末端に融合される。
【0108】
好ましい実施形態では、本出願の融合構築物は、リンカーを介して、脳の標的に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片の2つの重鎖のうちの一方のみのカルボキシ末端に共有結合的に連結された、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片、好ましくは、本出願の抗huCD98hc VHHまたはscFv断片を含む。好ましくは、リンカーは、配列番号312または配列番号313のアミノ酸配列を有する。
【0109】
2つの重鎖間、例えば、抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片の融合体を有するものと有さないものとの間、または抗CD98アームのためのFcを含むものと抗脳標的アームのためのものとの間のヘテロ二量体の形成を促進するために、ヘテロ二量体突然変異が、2つの重鎖のFcに導入される。そのようなFc突然変異の例としては、Zymework突然変異(例えば、米国特許第10,457,742号を参照されたい)および「ノブ・イン・ホール」突然変異(例えば、Ridgway et al., Protein Eng., 9(7): 617-621, 1996を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。他のヘテロ二量体突然変異もまた、本発明において使用することができる。一部の実施形態では、本明細書に記載される改変されたCH3が、2つの重鎖間のヘテロ二量体の形成を促進するために使用される。
【0110】
ヘテロ二量体突然変異に加えて、他の突然変異もまた導入され得る。一部の実施形態では、融合構築物または二重特異性抗体のFc領域は、さらに、ADCC/CDCを変更する(増加もしくは減少させる)、好ましくは、排除する、1つもしくは複数の突然変異(例えば、本明細書に記載されるAAS突然変異)、ならびに/またはFcRnへの融合構築物もしくは二重特異性抗体の結合を変更する(増加もしくは減少させる)、好ましくは、増加させる、1つもしくは複数の突然変異(例えば、本明細書に記載されるYTE突然変異)を含む。一部の実施形態では、融合構築物または二重特異性抗体における1つまたは複数のシステイン残基が、他のアミノ酸、例えば、セリンと置換される。
【0111】
ある特定の実施形態では、本出願の融合構築物は、
(1)配列番号13、16、19、22、25、32、35、38、41、44、51、54、57、60、63、73、76、79、82、85、95、98、101、104、107、119、129、139、146、156、166、176、186、200、210、および219からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第1の重鎖と、
(2)それぞれ配列番号14、17、20、23、26、33、36、42、45、52、55、58、61、64、74、77、80、83、86、96、99、102、105、108、120、130、140、147、157、167、177、187、201、211、および220からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を、それぞれが独立して有する、2つの軽鎖と、
(3)それぞれ配列番号15、18、21、24、27、34、37、43、46、53、56、59、62、65、75、78、81、84、87、97、100、103、106、109、121、131、141、148、158、168、178、188、202、212、および221からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第2の重鎖と
を含む。
【0112】
本出願のコンジュゲート、例えば、多重特異性抗体または融合構築物は、本開示を踏まえて、当該技術分野において公知のいくつかの技法のうちのいずれかによって産生させることができる。例えば、それは、融合構築物または多重特異性抗体の重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターが、標準的な技法によって宿主細胞にトランスフェクトされた、組換え宿主細胞から発現させることができる。宿主細胞は、原核生物宿主細胞であってもよく、または真核生物宿主細胞であってもよい。
【0113】
例示的な系では、本出願の融合構築物のヘテロ二量体の2つの重鎖および軽鎖をコードする1つまたは複数の組換え発現ベクターは、トランスフェクションまたはエレクトロポレーションによって、宿主細胞に導入される。選択された形質転換体宿主細胞を、融合構築物を産生させるのに十分な条件下において、重鎖および軽鎖の発現を可能にするように培養し、融合構築物を、培養培地から回収する。標準的な分子生物学技法を使用して、組換え発現ベクターを調製し、宿主細胞にトランスフェクトし、形質転換体を選択し、宿主細胞を培養し、培養培地からタンパク質構築物を回収する。
【0114】
本出願は、本明細書に記載される実施形態のうちのいずれかまたは特許請求の範囲のうちのいずれかにおける、単独または融合構築物もしくは多重特異性抗体の一部としての、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片のアミノ酸配列をコードする単離された核酸を提供する。単離された核酸は、ベクター、好ましくは、発現ベクターの一部であってもよい。
【0115】
別の態様では、本出願は、本明細書に開示されるベクターが形質転換された宿主細胞に関する。ある実施形態では、宿主細胞は、原核生物細胞、例えば、大腸菌(E. coli)である。別の実施形態では、宿主細胞は、真核生物細胞、例えば、原生生物細胞、動物細胞、植物細胞、または真菌細胞である。ある実施形態では、宿主細胞は、CHO、COS、NS0、SP2、PER.C6を含むがこれらに限定されない、哺乳動物細胞、または真菌細胞、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、または昆虫細胞、例えば、Sf9である。
【0116】
医薬組成物および関連する方法
本発明はまた、医薬組成物、その調製方法、およびその使用方法にも関する。
【0117】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、またはそのコンジュゲートと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物に関する。本発明の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、またはコンジュゲート(例えば、多重特異性抗体もしくは融合構築物)はまた、本明細書に言及される治療適用のための医薬の製造においても有用である。薬学的に許容される担体は、任意の好適な賦形剤、希釈剤、増量剤、塩、緩衝化剤、安定化剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソームカプセル封入、または医薬製剤における使用について当該技術分野において周知の他の材料であり得る。担体、賦形剤、または希釈剤の特徴は、具体的な適用の投与経路に依存するであろうことが、理解されるであろう。
【0118】
したがって、一実施形態では、本出願は、治療剤または診断剤を、血液脳関門(BBB)を越えて輸送する方法であって、治療剤または診断剤に連結された抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を、血液脳関門に曝露するステップを含み、結果として抗体またはその抗原結合性断片が、そこに連結された薬剤を、血液脳関門を越えて輸送することになる、方法に関する。一実施形態では、薬剤は、神経学的障害薬である。別の実施形態では、薬剤は、イメージング剤、または神経学的障害を検出するための薬剤である。好ましくは、抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、またはそのコンジュゲートは、アミノ酸輸送を妨害しない。抗体は、それがアミノ酸輸送を妨害しない様式で、CD98に特異的に結合する。一部の実施形態では、BBBは、哺乳動物、好ましくは、霊長類、例えば、ヒト、より好ましくは、神経学的障害を有するヒトにおけるものである。一実施形態では、神経学的障害は、アルツハイマー病(AD)、卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、ページェット病、がん、および外傷性脳損傷からなる群から選択される。
【0119】
一実施形態では、本出願の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、またはそのコンジュゲートは、症状の発生前に神経学的障害を検出するため、および/または疾患もしくは障害の重症度もしくは期間を評価するために、使用される。抗体、その抗原結合性断片、またはコンジュゲートは、放射線撮影法、断層撮影法、または磁気共鳴画像法(MRI)によるイメージングを含め、神経学的障害の検出および/またはイメージングを可能にする。
【0120】
別の実施形態では、抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、またはそのコンジュゲートは、処置を必要とする対象に、有効量の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、またはそのコンジュゲートを投与するステップを含む、神経学的障害(例えば、アルツハイマー病)の処置において、使用される。一部の実施形態では、本方法は、さらに、対象に、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を投与するステップを含む。
【0121】
別の実施形態では、本出願は、医薬の製造または調製における、本出願の抗CD98抗体もしくは抗原結合性断片、またはそのコンジュゲートの使用に関する。一実施形態では、医薬は、神経学的疾患または障害の処置のためのものである。さらなる実施形態では、医薬は、神経学的疾患または障害を有する個体に、有効量の医薬を投与するステップを含む、神経学的疾患または障害を処置する方法における使用のためのものである。
【0122】
本出願の別の一般的な態様は、抗体依存性ファゴサイトーシス(ADP)の誘導を、それを必要とする対象において、炎症促進性サイトカインの分泌を刺激することなく行う方法であって、対象に、本出願の実施形態による抗CD98抗体またはその抗原結合性断片に連結、好ましくは、共有結合的にコンジュゲートされた、治療用抗体またはその抗原結合性断片を含む、複合体を投与するステップを含み、治療用抗体またはその抗原結合性断片が、エフェクター機能を有さない、方法に関する。例えば、治療用抗体またはその抗原結合性断片は、エフェクター機能、例えば、ADCCまたはCDCを低減または排除する1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、Fcガンマ受容体への結合を低減または停止させる突然変異を含み得る。そのような突然変異は、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位におけるもの、例えば、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つ、または3つの突然変異であり得、ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによるものである。一実施形態では、治療用抗体またはその抗原結合性断片は、tau凝集体に特異的に結合する。
【0123】
一部の実施形態では、本方法は、さらに、対象に、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を投与するステップを含む。ある特定の実施形態では、追加の治療剤は、抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片またはコンジュゲートが処置に利用されるものと同じかまたは異なる神経学的障害を処置するのに有効な治療剤である。例示的な追加の治療剤としては、上述の様々な神経学的薬物、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン(rovastigmine)、およびタクリン)、NMDA受容体アンタゴニスト(例えば、メマンチン)、アミロイドベータペプチド凝集阻害剤、抗酸化剤、γ-セクレターゼモジュレーター、神経増殖因子(NGF)模倣体またはNGF遺伝子療法、PPARyアゴニスト、HMS-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)、アムパキン(ampakine)、カルシウムチャネル遮断剤、GABA受容体アンタゴニスト、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、静脈内免疫グロブリン、ムスカリン受容体アゴニスト、ニクロチン(nicrotinic)受容体モジュレーター、能動的または受動的アミロイドベータペプチド免疫付与、ホスホジエステラーゼ阻害剤、セロトニン受容体アンタゴニスト、ならびに抗アミロイドベータペプチド抗体が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの追加の治療剤は、神経学的薬物の1つまたは複数の副作用を軽減するその能力に関して、選択される。追加の治療剤は、同じかまたは別個の製剤で投与することができ、抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片またはコンジュゲートと一緒または別個に投与することができる。本出願の抗CD98抗体もしくは抗原結合性断片またはコンジュゲートは、追加の治療剤および/またはアジュバントの投与の前に、それと同時に、および/またはその後に、投与することができる。本出願の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片またはコンジュゲートはまた、放射線療法、行動療法、または当該技術分野において公知であり、処置もしくは予防しようとする神経学的障害に適切な他の治療などであるがこれらに限定されない、他の介入治療と組み合わせて使用することもできる。
【0124】
本出願の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片またはコンジュゲート(および任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、および鼻内、ならびに所望される場合には局所処置、病巣内投与を含む、任意の好適な手段によって、投与することができる。非経口注入としては、投与が短期間であるか慢性的であるかに部分的に応じて、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与が挙げられる。単回投与または様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、およびパルス注入を含むがこれらに限定されない、様々な投薬スケジュールが、本明細書において企図される。
【0125】
疾患の予防または処置に関して、本出願の抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片またはコンジュゲート(単独で、または1つもしくは複数の他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)の適切な投薬量は、様々な要因、例えば、処置しようとする疾患のタイプ、抗体またはコンジュゲートのタイプ、疾患の重症度および経過、抗体、その抗原結合性断片、またはコンジュゲートが、予防目的で投与されるか治療目的で投与されるか、これまでの治療、患者の臨床病歴および抗体に対する応答、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、健康状態を含む)、ならびに担当医師の判断に依存するであろう。処置投薬量は、最適には、安全性および有効性を最適化するために、滴定される。抗体、その抗原結合性断片、またはコンジュゲートは、好適には、一回、または一連の処置にわたって、患者に投与される。
【0126】
特定の実施形態によると、治療有効量は、以下の作用のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上を達成するのに十分である、治療の量を指す:(i)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状の重症度を低減または緩和すること、(ii)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状の持続期間を低減させること、(iii)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状の進行を予防すること、(iv)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状の退縮を引き起こすこと、(v)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状の発症または発生を予防すること、(vi)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状の再発を予防すること、(vii)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状を有する対象の入院を低減させること、(viii)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状を有する対象の入院の長さを低減させること、(ix)処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状を有する対象の生存期間を増加させること、(xi)対象における処置しようとする疾患、障害、もしくは状態、またはそれらと関連する症状を阻害または低減させること、ならびに/あるいは(xii)別の治療の予防作用または治療作用を増強または改善すること。
【0127】
別の態様では、本出願は、上記に記載される障害の処置、予防、および/または診断に有用な材料を含む、製品(例えば、キット)に関し、それが提供される。製品は、容器、および容器上または容器と関連するラベルもしくは添付文書を含む。好適な容器としては、例えばボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成することができる。容器は、組成物を、それ自体で、または状態の処置、予防、および/もしくは診断に有効な別の組成物との組合せで保持し、滅菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射用ニードルによって穿刺可能なストッパーを有する、静注バッグまたはバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本出願の抗体、その抗原結合性断片、またはコンジュゲートである。ラベルまたは添付文書は、組成物が、選択された状態を処置するために使用されることを示す。さらに、製品は、(a)本出願の抗体、その抗原結合性断片、またはコンジュゲートを含む組成物が中に含まれる第1の容器、および(b)さらなる細胞毒性剤またはそれ以外の治療剤を含む組成物が中に含まれる第2の容器を含み得る。本発明のこの実施形態における製品は、さらに、組成物が、特定の状態を処置するために使用することができることを示す、添付文書を含み得る。必要に応じて、製品は、薬学的に許容される緩衝液、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液を含む、第2の(または第3の)容器をさらに含み得る。これは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、ニードル、およびシリンジを含め、商業上および使用者の観点から望ましい他の材料を、さらに含んでもよい。
【0128】
実施形態
また、本発明は、以下の非限定的な実施形態を提供する。
1. 薬剤を、それを必要とする対象の脳に送達するための抗CD98抗体またはその抗原結合性断片であって、中性pHにおいて、少なくとも1nMの解離定数KDで、酸性pH、好ましくは、pH5において、少なくとも10-4-1の解離速度定数kdで、CD98、好ましくは、ヒトCD98重鎖(huCD98hc)に結合する、抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
1a. 中性pHにおいて、1nM~500nM、例えば1nM、10nM、50nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、またはその間の任意の値の解離定数KDを有する、実施形態1に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
1b. 酸性pHにおいて、10-4-1~10-1-1、例えば10-4、10-3、10-2、10-1-1、またはその間の任意の値の解離速度定数kdを有する、実施形態1または1aに記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
2. 中性pHにおいて、2×10-2~2×10-4-1、好ましくは、8×10-3-1の解離速度定数kdを有する、実施形態1~1bのいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
2a. 中性pHにおける解離速度定数kdが、2×10-2~2×10-4-1、例えば2×10-2、1×10-2、9×10-3、8×10-3、7×10-3、6×10-3、5×10-3、4×10-3、3×10-3、2×10-3、1×10-3、9×10-4、8×10-4、7×10-4、6×10-4、5×10-4、4×10-4、3×10-4、2×10-4-1、またはその間の任意の値である、実施形態2に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
3.
(1)重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む軽鎖可変領域であって、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3が、
i.それぞれ、配列番号7、8、9、10、11および12、
ii.それぞれ、配列番号67、68、69、70、71および72、
iii.それぞれ、配列番号89、90、91、92、93および94、
iv.それぞれ、配列番号113、114、115、116、117および118、
v.それぞれ、配列番号123、124、125、126、127および128、
vi.それぞれ、配列番号133、134、135、136、137および138、
vii.それぞれ、配列番号150、151、152、153、154および155、
viii.それぞれ、配列番号160、161、162、163、164および165、
ix.それぞれ、配列番号170、171、172、173、174および175、
x.それぞれ、配列番号180、181、182、183、184および185、
のアミノ酸配列を有する、重鎖可変領域および軽鎖可変領域、
または
(2)重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む重鎖の単一可変ドメイン(VHH)であって、
i.それぞれ、配列番号29、30および31、
ii.それぞれ、配列番号48、49および50、もしくは
iii.それぞれ、配列番号143、144、および145、
のアミノ酸配列を有する、重鎖の単一可変ドメイン(VHH)
を含む、実施形態1から2aのいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片。
4. 配列番号28、配列番号47、または配列番号142に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、VHH断片である、実施形態3に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
4a. VHH断片が、配列番号28、配列番号47、または配列番号142のアミノ酸配列を含む、実施形態3に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5. 約10~約25アミノ酸長を有するペプチドリンカーなどのリンカーを介して軽鎖可変領域(VL)に共有結合的に連結された重鎖可変領域(VH)を含む、一本鎖可変断片(scFv)である、実施形態3に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5a. VHが、scFvにあるリンカーを介してVLのアミノ末端に連結されている、実施形態5に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5b. VHが、scFvにあるリンカーを介してVLのカルボキシ末端に連結されている、実施形態5に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5c. リンカーが、GlyおよびSerのうちの1つまたは複数を含み、1つまたは複数のGlu、Thr、およびLys残基が散在しており、好ましくは、リンカーが配列番号189のアミノ酸配列を有する、実施形態5aまたは5bに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5d. scFvが、それぞれ、配列番号279、280、281、282、283、および284のアミノ酸配列、またはそれぞれ、配列番号292、293、294、295、296、および297のアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む、実施形態5cに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5e. scFvが、配列番号6、配列番号66、配列番号88、配列番号112、配列番号122、配列番号132、配列番号149、配列番号159、配列番号169、配列番号179、配列番号193、または配列番号203に対して少なくとも80%、例えば85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態5cもしくは5dに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5f. scFvが、配列番号6、配列番号66、配列番号88、配列番号112、配列番号122、配列番号132、配列番号149、配列番号159、配列番号169、配列番号179、配列番号193、または配列番号203のアミノ酸配列を含む、実施形態5eに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5g. scFvが、配列番号278、291、162、または218のアミノ酸配列を含む、実施形態5eに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5h. 実施形態1から5gのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片の同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合性断片。
5i. CD98に対する結合を、実施形態1から5gのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片と競合する抗体またはその抗原結合性断片。
5j. pH7.4において、1~500nM、例えば1nM、10nM、50nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、またはその間の任意の値の解離定数KDでヒトCD98に結合する、実施形態1から5iのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
5k. pH5において、10-4~10-1-1、例えば10-4、10-3、10-2、10-1-1、またはその間の任意の値の解離速度定数kdでヒトCD981に結合する、実施形態1から5jのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
6. 治療剤または診断剤に連結された、実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片を含む複合体。
6a. 抗体またはその抗原結合性断片が、治療剤または診断剤に非共有結合的に連結されている、実施形態6に記載の複合体。
6b. 抗体またはその抗原結合性断片が、治療剤または診断剤に共有結合的に連結されてコンジュゲートを形成している、実施形態6に記載の複合体。
6c. 抗体またはその抗原結合性断片が、リンカーを介して治療剤または診断剤に共有結合的に連結されている、実施形態6に記載の複合体。
6d. リンカーが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、多糖類、デキストラン、ポリビニルエーテル、生分解性ポリマー、重合脂質、キチン、およびヒアルロン酸、またはそれらの誘導体、またはそれらの組合せなどの非ペプチドリンカーである、実施形態6cに記載の複合体。
6e. リンカーが、ペプチド結合によって連結された1~50個のアミノ酸からなるペプチド鎖などのペプチドリンカーまたはその誘導体である、実施形態6cに記載の複合体。
6f. 抗体またはその抗原結合性断片が、神経学的障害を検出するための診断剤に連結されており、好ましくは、診断剤が、陽電子放出断層撮影法(PET)用の薬剤またはIDK用の薬剤である、実施形態6から6eのいずれか一項に記載の複合体。
6g. 抗体またはその抗原結合性断片が、治療剤、好ましくは神経学的障害薬に連結されている、実施形態6から6eのいずれか一項に記載の複合体。
6h. 神経学的障害薬が、小分子化合物、抗体、ペプチド、タンパク質、1つまたは複数のCNS標的の天然リガンド、1つまたは複数のCNS標的の天然リガンドの修飾型、アプタマー、阻害性核酸(つまり、低分子阻害性RNA(siRNA)および短鎖ヘアピンRNA(shRNA))、リボザイム、および上述のものの活性断片からなる群から選択される、実施形態6gに記載の複合体。
6i. 神経学的障害薬が、これらに限定されないが、アミロイド前駆体タンパク質またはその部分、アミロイドベータ、ベータ-セクレターゼ、ガンマ-セクレターゼ、Tau、アルファ-シヌクレイン、パーキン、ハンチンチン、DR6、プレセニリン、ApoE、神経膠腫または他のCNSがんマーカー、およびニューロトロフィンなどの、CNS抗原もしくは標的分子それ自体であるかまたはそれらを特異的に認識および/もしくはそれらに対して作用する(つまり、阻害する、活性化する、または検出する)抗体、アプタマー、タンパク質、ペプチド、阻害性核酸、および小分子、ならびに上述のもののいずれかの活性断片からなる群から選択され、神経学的障害薬およびそれらを使用して治療することができる対応する障害の非限定的な例は、脳由来神経栄養因子(BDNF)、慢性脳傷害(神経発生)、線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)、抗上皮増殖因子受容体 脳がん、(EGFR)抗体、グリア細胞株由来神経因子 パーキンソン病、(GDNF)、脳来神経栄養因子(BDNF) 筋萎縮性側索硬化症、うつ病、脳のリソソーム酵素リソソーム貯蔵障害、毛様体神経栄養因子(CNTF) 筋萎縮性側索硬化症、ニューレグリン1統合失調症、抗HER2抗体(例えば、トラスツズマブ) HER2陽性がんからの脳転移である、実施形態6gに記載の複合体。
7. CD98に結合する第1の抗原結合性領域および脳抗原(または脳標的)に結合する第2の抗原結合性領域を含む多重特異性抗体であり、第1の抗原結合性領域が、実施形態1から5kのいずれか一項に記載のその抗原結合性断片を含む、実施形態6に記載の複合体。
7a. 脳標的が、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Aベータ)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチ反復キナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、およびカスパーゼ6からなる群から選択される、実施形態7に記載の多重特異性抗体。
7b. 第2の抗原結合性領域が、BACE1またはTauに結合する、実施形態7aに記載の多重特異性抗体。
7c. 第1の抗原結合性領域が、第1のFcに共有結合的に連結されており、第2の抗原結合性領域が、第2のFcに共有結合的に連結されている、実施形態7から7bのいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
7d. 第1のFcは、第1のFcと第2のFcとのヘテロ二量体形成を促進するために、1つまたは複数のアミノ酸残基が第2のFcとは異なる、実施形態7cに記載の多重特異性抗体。
8. 脳抗原(または脳標的)に結合する第2の抗体またはその抗原結合性断片に共有結合的に連結されている実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片を含む融合構築物である、実施形態7から7bのいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
8a. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片が、第2の抗体またはその抗原結合性断片の重鎖のアミノ末端に、好ましくはリンカーを介して共有結合的に連結されている、実施形態8に記載の融合構築物。
8b. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片が、第2の抗体またはその抗原結合性断片の軽鎖のアミノ末端に、好ましくはリンカーを介して共有結合的に連結されている、実施形態8に記載の融合構築物。
8c. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片が、第2の抗体またはその抗原結合性断片の軽鎖のカルボキシ末端に、好ましくはリンカーを介して共有結合的に連結されている、実施形態8に記載の融合構築物。
8d. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片が、第2の抗体またはその抗原結合性断片の重鎖のカルボキシ末端に、好ましくはリンカーを介して共有結合的に連結されている、実施形態8に記載の融合構築物。
9. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片が、第2の抗体またはその抗原結合性断片の2つの重鎖のうちの一方のみのカルボキシ末端に、リンカーを介して共有結合的に連結されている、実施形態8dに記載の融合構築物。
9a. リンカーが、GlyおよびSerのうちの1つまたは複数を含むペプチドリンカーであり、好ましくは、リンカーが、配列番号190または配列番号191のアミノ酸配列を有する、実施形態8aから9のいずれか一項に記載の融合構築物。
9b. 第2の抗体またはその抗原結合性断片が、その第1の重鎖に第1のFcを含み、その第2の重鎖に第2のFcを含み、第1のFcは、第1のFcと第2のFcとのヘテロ二量体の形成を促進するために、1つまたは複数のアミノ酸残基が第2のFcとは異なる、実施形態8から9aのいずれか一項に記載の融合構築物。
9c. 第1のFcが1つまたは複数の「ノブ」突然変異を含み、第2のFcが1つまたは複数の対応する「ホール」突然変異を含むかまたはその逆であり(例えば、「ノブ・イン・ホール」突然変異については、米国特許第5,731,168号明細書、Ridgway et al., Protein Eng., 9(7): 617-621, 1996を参照。これら文献は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)、好ましくはノブ突然変異はT366Wであり、ホール突然変異はT366S、L368A、またはY407Vである、実施形態7dに記載の多重特異性抗体または実施形態9bに記載の融合構築物。
9d. 第1のFcおよび第2のFcの各々が、野生型CH3ドメインポリペプチドと比較して改変されたヘテロ二量体CH3ドメインを含み、好ましくは改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、米国特許第10,457,742号明細書に記載の1つまたは複数の突然変異を含む、実施形態7dに記載の多重特異性抗体または実施形態9bに記載の融合構築物。
9e. 第1のFcの改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、T350位、L351位、F405位、およびY407位にアミノ酸改変を含み、第2のFcの改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、T350位、T366位、K392位、およびT394位にアミノ酸改変を含む、実施形態9dに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
9f. T350位のアミノ酸修飾が、T350V、T350I、T350L、またはT350Mであり、L351位のアミノ酸改変がL351Yであり、F405位のアミノ酸改変が、F405A、F405V、F405T、またはF405Sであり、Y407位のアミノ酸改変が、Y407V、Y407A、またはY407Iであり、T366位のアミノ酸改変が、T366L、T366I、T366V、またはT366Mであり、K392位のアミノ酸改変が、K392F、K392L、またはK392Mであり、T394位のアミノ酸改変がT394Wである、実施形態9eに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
9g. 第1のFcの改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、突然変異T350V、L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のFcの改変されたヘテロ二量体CH3ドメインが、突然変異T350V、T366L、K392L、およびT394Wを含むか、またはその逆である、実施形態9eに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
10. 多重特異性抗体または融合構築物のFc領域が、胎児性Fc受容体(FcRn)に対する第2の抗体またはその抗原結合性断片の結合を変更する(増加または減弱させる)、好ましくは増加させる置換をさらに含む、実施形態7から9gのいずれか一項に記載の多重特異性抗体または融合構築物。
10a. 第2の抗体またはその抗原結合性断片が、融合体と胎児性Fc受容体(RcRn)との結合を増強する1つまたは複数の突然変異をFcドメインに含む、実施形態10に記載の多重特異性抗体または融合構築物。
10b. 1つまたは複数の突然変異が、酸性pHにおける結合を増強させる、実施形態10または10aに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
10c. 第2の抗体のFcが、M252Y/S254T/T256E(YTE)突然変異を有し、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスに従う、実施形態10bに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
11. 多重特異性抗体または融合構築物のFc領域が、エフェクター機能を変更する(増加または減弱させる)、好ましくは低減または排除する置換をさらに含む、実施形態7から10cのいずれか一項に記載の多重特異性抗体または融合構築物。
11a. 第2の抗体またはその抗原結合性断片が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)などのエフェクター機能を低減または排除する1つまたは複数の突然変異をFcドメインに含む、実施形態11に記載の多重特異性抗体または融合構築物。
11b. 第2の抗体のFcが、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位に1つまたは複数のアミノ酸改変を有し、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスに従う、実施形態11aに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
11c. 第2の抗体のFcが、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つまたは3つの突然変異(AAS突然変異)を有する、実施形態11bに記載の多重特異性抗体または融合構築物。
12. 第1の抗原結合性領域または抗体もしくはその抗原結合性断片がシステインを含まない、実施形態7から11cのいずれか一項に記載の多重特異性抗体または融合構築物。
13. 第2の抗原結合性領域または第2の抗体もしくはその抗原結合性断片が、Tauに結合し、好ましくは、それぞれ配列番号213~218のアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、好ましくは、第2の抗体が、配列番号110のアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号111のアミノ酸配列を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体である、実施形態7から12に記載の多重特異性抗体または融合構築物。
14.
(1)配列番号13、16、19、22、25、32、35、38、41、44、51、54、57、60、63、73、76、79、82、85、95、98、101、104、107、119、129、139、146、156、166、176、186、200、210、および219からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第1の重鎖と、
(2)それぞれ配列番号14、17、20、23、26、33、36、42、45、52、55、58、61、64、74、77、80、83、86、96、99、102、105、108、120、130、140、147、157、167、177、187、201、211、および220からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を、それぞれが独立して有する、2つの軽鎖と、
(3)それぞれ配列番号15、18、21、24、27、34、37、43、46、53、56、59、62、65、75、78、81、84、87、97、100、103、106、109、121、131、141、148、158、168、178、188、202、212、および221からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、95%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、第2の重鎖と
を含む、実施形態9に記載の融合構築物。
14a. 2つの軽鎖が同一のアミノ酸配列を有する、実施形態14に記載の融合構築物。
14b. 2つの軽鎖が異なるアミノ酸配列を有する、実施形態14に記載の融合構築物。
14c.
(1)第1の重鎖が、配列番号13、16、19、22、25、32、35、38、41、44、51、54、57、60、63、73、76、79、82、85、95、98、101、104、107、119、129、139、146、156、166、176、186、200、210、および219からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、
(2)2つの軽鎖は、それぞれ配列番号14、17、20、23、26、33、36、42、45、52、55、58、61、64、74、77、80、83、86、96、99、102、105、108、120、130、140、147、157、167、177、187、201、211、および220からなる群から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ有し、
(3)第2の重鎖が、それぞれ配列番号15、18、21、24、27、34、37、43、46、53、56、59、62、65、75、78、81、84、87、97、100、103、106、109、121、131、141、148、158、168、178、188、202、212、および221からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、
実施形態14に記載の融合構築物。
15. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性断片または実施形態7から14cのいずれか一項に記載の融合構築物をコードする、単離された核酸。
16. 請求項15に記載の単離された核酸を含む、ベクター。
17. 実施形態15に記載の核酸または請求項16に記載のベクターを含む、宿主細胞。
18. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、または実施形態7から14cのいずれか一項に記載の融合構築物を産生させる方法であって、抗体もしくは抗原結合性断片または融合構築物をコードする核酸を含む細胞を、抗体もしくは抗原結合性断片または融合構築物を産生させる条件下において培養するステップと、抗体もしくは抗原結合性断片または融合構築物を、細胞または細胞培養物から回収するステップとを含む、方法。
19. 実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、実施形態6から6iのいずれか一項に記載の複合体、または請求項7から14cのいずれか一項に記載の多重特異性抗体もしくは融合構築物と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
20. それを必要とする対象の神経学的障害を処置または検出する方法であって、実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、実施形態6から6iのいずれか一項に記載の複合体、または実施形態7から14cのいずれか一項に記載の多重特異性抗体もしくは融合構築物、または実施形態19に記載の医薬組成物の有効量を、対象に投与するステップを含む、方法。
21. それを必要とする対象の脳への治療剤または診断剤の送達を増加させる方法であって、対象に、実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片に連結された治療剤または診断剤を含むコンジュゲートを投与するステップを含む、方法。
22. 血液脳関門(BBB)を越えて治療剤または診断剤を輸送する方法であって、治療剤または診断剤に連結された、実施形態1から5kのいずれか一項に記載の抗CD98抗体またはその抗原結合性断片を、抗体またはその抗原結合性断片が、それに連結された薬剤が血液脳関門を越えて輸送されるように血液脳関門に曝露するステップを含む、方法。
23. 治療剤または診断剤を、それを必要とする対象の血液脳関門(BBB)を越えて送達する方法であって、対象に、実施形態1から5のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片に連結、好ましくは共有結合的にコンジュゲートされた治療剤または診断剤を含む複合体を投与するステップを含む、方法。
24. 抗体依存性ファゴサイトーシス(ADP)の誘導を、それを必要とする対象において、炎症促進性サイトカインの分泌を刺激することなく行う方法であって、対象に、実施形態1から5のいずれか一項に記載のその抗原結合性断片に連結、好ましくは共有結合的にコンジュゲートされた治療用抗体またはその抗原結合性断片を含む複合体を投与するステップを含み、治療用抗体またはその抗原結合性断片が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)などのエフェクター機能を低減または排除する1つまたは複数の突然変異をFcドメインに含む、方法。
24a. 治療用抗体またはその抗原結合性断片が、L234位、L235位、D270位、N297位、E318位、K320位、K322位、P331位、およびP329位に1つまたは複数のアミノ酸改変を含み、アミノ酸残基の番号付けが、Kabatに記載されるEUインデックスに従う、実施形態24に記載の方法。
24b. 治療用抗体またはその抗原結合性断片が、L234A、L235A、およびP331Sのうちの1つ、2つ、または3つの突然変異を含む、実施形態24aに記載の方法。
25. 対象が、神経学的障害の処置を必要としており、好ましくは、神経学的障害が、神経変性疾患(例えば、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、脊髄小脳失調症、脊髄性筋萎縮症)、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病および核上性麻痺)、プリオン病(例えば、ウシ海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ病、クールー病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、慢性消耗性疾患、および致死性家族性不眠症)、球麻痺、運動ニューロン疾患、および神経系ヘテロ変性障害(nervous system heterodegenerative disorder)(例えば、カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥーレット病、メンケス症候群、コケイン症候群、ハラーホルデン・スパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、およびウンフェルリヒト・ルントボルグ病)、認知症(例えば、ピック病および脊髄小脳失調症)、ならびにCNSおよび/または脳のがん(例えば、身体の他の箇所のがんから生じる脳転移)からなる群から選択される、実施形態20から24bのいずれか一項に記載の方法。
26. 抗体もしくはその抗原結合性断片、複合体、多重特異性抗体、融合構築物、または医薬組成物が、静脈内投与される、実施形態20から25のいずれか一項に記載の方法。
27. 治療剤または治療用抗体もしくはその抗原結合性断片が、神経学的障害薬である、実施形態20から26のいずれか一項に記載の方法。
28. 薬剤が、造影剤または神経学的障害を検出するための薬剤である、実施形態20から23のいずれか一項に記載の方法。
29. 抗CD98抗体もしくはその抗原結合性断片、複合体、またはその融合体が、アミノ酸輸送を妨害しない、実施形態20から28のいずれか一項に記載の方法。
30. 投与が、Fcによって媒介されるエフェクター機能を低減させる、実施形態20から29のいずれか一項に記載の方法。
31. 投与が、急速な網状赤血球枯渇を誘導しない、実施形態21から30のいずれか一項に記載の方法。
32. 治療用抗体またはその抗原結合性断片が、tau凝集体に特異的に結合する、請求項31に記載の方法。
33. 対象が、霊長類、例えばヒト、より好ましくは神経学的障害を有するヒトである、実施形態20から32のいずれか一項に記載の方法。
34. 神経学的障害が、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、エンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、がん、および外傷性脳傷害からなる群から選択される、実施形態33に記載の方法。
【0129】
本発明の以下の実施例は、本発明の性質をさらに説明するためのものである。以下の実施例は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって決定されるものであることが理解されるべきである。
【実施例
【0130】
[実施例1]
血液脳関門(BBB)は、有害物質の脳進入を防止し、脳恒常性にとって不可欠であるが、薬物の効率的な脳送達の場合は厄介な障害物になる。そのため、モノクローナル抗体(mAb)ブレインシャトルプラットフォームが開発された。これは、BBBを通過し、mAb単独よりも実質的により高い脳内濃度をもたらす。
【0131】
抗体生成(OMTラットおよびAblexisマウス)
OMTラット(Ligand PharmaceuticalsのOmniRat(登録商標))およびAblexisマウス(Ablexis, LLC、San Diego、CA)に、ヒトCD98hc(配列番号1)、またはヒトCD98hc、カニクイザルCD98hc(配列番号2)、およびマーモセットCD98hc(配列番号3)で免疫付与した。OMT免疫付与には、短期間(28日間)および長期間のプロトコール(48日間)の2つのプロトコールを、プロトコールごとに5匹のOMTラットの免疫付与に使用した。Ablexisマウスには、20または51日間のいずれかで、Sigma/CFAアジュバントを用いて、複数部位における反復的免疫付与(RIMMS)プロトコールを使用して、免疫付与を行った。簡単に述べると、動物に、流入領域リンパ節に近接した複数の皮下部位において反復的に免疫付与を行った。ELISAによる血清滴定を、長期間のプロトコールについては31日目、および短期間のプロトコールについては14日目に、huCD98hc ECDをコーティングしたプレート(OMT)またはhuCD98hcを過剰発現するCHO-S細胞(Ablexis)を使用して、行った。血清陽性動物からリンパ節を採取し、融合させて、ハイブリドーマを生成したか、または単一B細胞としてスクリーニングした。
【0132】
ハイブリドーマを、まず、huCD98hcをコーティングしたプレートへの結合について、ELISAによってスクリーニングした。ヒットを、次いで、ヒト、カニクイザル(配列番号2)、マーモセット(配列番号3)、マウス(配列番号4)、およびラット(配列番号5)CD98hcをコーティングしたELISAプレートに対する確認スクリーニングにおいて試験した。次いで、huCD98hcまたはcyCD98hcを過剰発現するCHO-S細胞、pBECS(初代ヒト脳内皮皮質細胞、内因性CD98hc発現)、ならびに陰性細胞株としてのCHO親細胞を使用して、細胞に基づくスクリーニングアッセイを完了した。確認のELISAの後に、94個のヒットを選択した(融合体1から62個のヒット、および融合体2から32個のヒット)。FACSアッセイにおいて、31個の細胞結合物質を確認することができたが、そのうち20個は、ELISAでは陽性が確認されなかった。
【0133】
アッセイし、少なくとも1つのアッセイにおいて陽性であることが見出されたすべてのクローンを、再配列し(94個のクローン)、ELISAおよび細胞結合(FACS)で再測定した。1回目の確認スクリーニングのデータが、2回目の確認スクリーニングにおいて確認された。mAbを、次いで、pBECにおける内部移行に関して評価した。次いで、内部移行されたmAbのV領域のシーケンシングデータを、取得した。シーケンシングデータを使用して、トリポッドmAbを構築した(図1)。
【0134】
抗体生成(ラマ)
ヒトCD98hcに対する単一ドメイン抗体(VHH)の生成のために、2頭のラマを、Abcoreでの免疫付与に使用した。抗体力価を、ヒトCD98hcタンパク質(1μg/ml)を使用したELISAによって判定した。2匹の動物から得た3つの採血を、試験し、両方の動物について、いずれの動物も、良好な初期力価を示した。
【0135】
ファージディスプレイは、Abcoreにおいてこの会社の標準的プロトコールを使用して行われた。2つのライブラリー:両動物の2回目の採血物に由来するライブラリー1ならびに2回目および3回目の採血物に由来するライブラリー2を作製した。12個のランダムな個々のクローンに由来するプラスミドDNAを配列決定した。>80%が正しいリーディングフレームを有するVHHインサートを含んでいた。両ファージディスプレイライブラリーを、標準的Abcoreパニング手順を使用してヒトCD98hcでスクリーニングした。10μg/mlのヒトCD98hcを用いて3ラウンドのパニングを行った。パニングした後、94個の個々のクローンを、プロテアーゼ活性化受容体1(Par1)N末端ドメインとの特異的結合およびBSA(ウシ血清アルブミン)との非特異的結合についてファージELISAでスクリーニングした。カニクイザル、マウス、およびラットCD98hcとの交差反応性を、測定した。結合を示した94個のクローンを、重鎖および軽鎖可変領域における配列分析に選択した。配列を使用して、トリポッドmAbを構築した(図1)。
【0136】
本発明のCD98hc抗体または抗原結合性断片の例は、表1にまとめられている。
【0137】
【表1】
【0138】
トリポッド構築物の設計
CD98に対して生成された抗体を、CD98、およびトリポッドmAb(TTP mAbとも称される)アーキテクチャのscFvまたはナノボディとしてフォーマットされた非競合的mAbとの結合競合についてスクリーニングし、特徴付けた。トリポッドを使用して、目的の物質(例えば、モノクローナル抗体)を脳に送達する。より具体的には、CD98hcに対する抗体の抗原結合性断片と目的のモノクローナル抗体(mAb)との融合物を含むトリポッド構築物(図1)を、mAbがBBBの通過を支援し、mAb単独よりも実質的により高い脳内濃度のmAbがもたらされるように開発した。
【0139】
例えば、トリポッドmAbは、CD98hc結合scFvまたはナノボディが短い可撓性リンカーを使用して1つの抗体重鎖のC末端に付加された治療用mAbからなる。トリポッドmAbを、トランスサイトーシスを増強することが以前に記載されている特徴(Goulatis and Shusta 2017に概説されている):原子価、結合親和性、pH依存性結合、および脳内皮細胞での迅速な内部移行について分析した。
【0140】
以下のフォーマット:Hc_GTEGKSSGSGSESKST(配列番号189)_Lcを使用して、CD98hcに対する抗体の重鎖および軽鎖可変配列を、単鎖可変断片(scFv)としての単一遺伝子構築物に融合した。
【0141】
次いで、CD98hcに対するscFvまたはVHHを、GGSGGS(配列番号190)またはGGAGGA(配列番号191)のいずれかのリンカーを使用して、目的の抗体の一方の重鎖のC末端に融合させた。CH3のZymeworksヘテロ二量体化突然変異(Zymeworks heterodimerization mutation)を、抗体Hc(Hc A:T350V_L351Y_F405A_Y407V;Hc B:T350V_T366L_K392L_T394W)に使用して、トリポッド構築物(図1)を生成した。これは、トリポッドmAbとも呼ばれる。トリポッドmAbは、同一のアミノ酸配列を有する2つの軽鎖、及び異なるアミノ酸配列を有する2つの重鎖を含む。2つの重鎖のうちの1つのみが、本発明のCD98抗体のscFvまたはVHHに融合されており、2つの重鎖は定常領域も異なり、2つの重鎖間のヘテロ二量体化が促進される。したがって、本出願の一実施形態による各トリポッドmAbは、3つのアミノ酸配列:CD98抗体の抗原結合性断片に融合されている第1の重鎖のアミノ酸配列、軽鎖のアミノ酸配列、およびCD98抗体の抗原結合性断片に融合されていない第2の重鎖のアミノ酸配列に関連付けられる。
【0142】
トリポッド発現および精製
トリポッドmAbを、CHO-Expi細胞で発現させ、プロテインA親和性クロマトグラフィー、続いてサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを使用して精製した。
【0143】
作製したトリポッドmAbの例は、表1aに示されている。
【0144】
【表2】
【0145】
細胞結合およびCD98hc特異性
ヒト脳内皮細胞(hCMECD3、50,000細胞)を10ug/mLの精製トリポッドmAbと共にインキュベートし、10×モル濃度のhuCD98hc(配列番号1)の存在下で4℃にて一晩のインキュベートを可能にした。翌朝、細胞を固定および洗浄し、二次抗体(Jackson Immunosciences カタログ番号109-546-170)と共にインキュベートし、再度洗浄し、次いでFACSで分析した。陽性結合物質は、結合シグナルがアイソタイプ対照の3倍を超えるものであると規定した(表2)。
【0146】
【表3】
【0147】
CD98hc機能性評価
hCMECD3細胞を、白色の不透明384ウェルプレートに播種し、37℃で一晩インキュベートした。翌日に、細胞を、37℃で30分間、ナトリウム不含リンガー溶液で洗浄し、パルスした。細胞を、ナトリウム不含リンガー溶液でもう一度洗浄し、抗CD98hc抗体(140nM)、またはLAT阻害剤BCH(50mM)およびT3(200μM)を、細胞に添加した。次いで、L-[3,4,5-3H(N)]-ロイシン(0.4μCi)を添加し、5分間のインキュベーションの後に、細胞を、氷冷ナトリウム不含リンガー溶液で2回洗浄し、0.2N NaOH溶液中の0.2% SDSで、細胞を溶解させた。ライセートを、Microscint-PS溶液とともに室温で1時間インキュベートし、シンチレーション計数を、Perkin-Elmer TopCount NXT機器で得た。アンタゴニスト活性の基準は、Zymeworksトリポッドアイソタイプ対照[平均-(3×標準偏差)]と比べたH-ロイシンの阻害であった(図2)。この基準に基づくと、試験抗体はいずれも、H-ロイシン取込みの阻害を示さなかったが、BCHおよびT3 LAT阻害剤の両方が、H-ロイシン取込みの有意な阻害を示した。CNTO3930(hIgG1アイソタイプ対照)が、追加の陰性対照として含まれ、活性を示さなかった。
【0148】
内部移行
ヒト脳内皮細胞(hCMECD3)を、コラーゲンコーティング384ウェルCell Carrier Ultraプレート(Perkin Elmer)に10,000細胞/ウェルで播種し、加湿インキュベーター内で16時間37℃にて付着を可能にした。次いで、細胞(50,000細胞)を、200ug/mLの精製トリポッドmAbと共にインキュベートし、37℃で1時間のインキュベートを可能にした。細胞を固定し、洗浄し、蛍光標識二次抗体と共に1時間インキュベートした。次いで、細胞を再度洗浄し、蛍光標識アクチン染色剤ファロイジンおよび核染色剤Hoeschst33342と共にインキュベートした。細胞を再度洗浄し、ImageXpress Micro(Molecular Devices)を40×対物レンズで使用して画像化した。mAbの内部移行は、MetaXpress 6.0を使用して、ファロイジンとの共局在化に基づいて特定した(図3の例)。mAbはすべて、内部移行について陽性だった。
【0149】
親和性分析&pH依存性結合、種間交差反応性
親和性測定のさらなる正確性を得るために、huCD98hcに対するトリポッドmAb親和性を、BioRad、ProteOn XPR36システムで表面プラズモン共鳴法(SPR)を使用して決定した。Fc捕捉表面は、アミンカップリング化学(BioRad)を使用して抗IgG Fc mAb(Jackson ImmunoResearch)をGLCチップ(BioRad)にカップリングすることによって生成した。トリポッドmAbを、0.3ug/mLの濃度を使用して捕捉し、約200RUの目標密度を得るために60uL/分で30秒間流し、次いでhuCD98hcを、固定化されたトリポッドmAbに対して6.25~400nM、800nM、または100~1600nM(4倍系列希釈)の濃度で4分間(50μL/分で)流して結合させ、続いて50uL/分で30分間解離させた。100mM HPO(Sigma)を100μL/分で2回18秒間パルスすることによって、チップ表面を再生した。収集したデータを、ProteOn ManagerソフトウェアV3.1.0.6(BioRad)を使用して処理した。まず、インタースポットを使用してデータのバックグラウンドを補正した。次いで、分析物を注入するための緩衝剤を注入することによって、データの二重参照減算を実施した。ラングミュア1:1結合モデルを使用して、データの動力学的分析を実施した。各mAbの結果を、Ka(オンレート)、Kd(オフレート)、およびKD(平衡解離定数)の形式で報告した(表3および3a)。
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
pH依存性結合を、上述のSPR(proteon)法を使用して評価したが、ビオチニル化CD98hcを、ストレプトアビジンチップに固定化し、解離中に緩衝液のpHを7.4から6.5、さらに6.0へと段階的に下げたことを除く。個々のセンサグラムを評価し、pHが減少するにつれて解離速度が速くなった場合には、pH依存性結合についてスコア付けした(図4の例)。
【0153】
種間交差反応性を、結合親和性を判定するためのものと同じ方法を使用して評価したが、使用したCD98hcが、カニクイザル(配列番号2)、マーモセット(配列番号3)、マウス(配列番号4)、およびラット(配列番号5)であったことを除く。ラット交差反応性mAbもマウス交差反応性mAbも、特定されなかった。カニクイザルおよびマーモセット交差反応性トリポッドmAbが、特定された(表4)。
【0154】
【表6】
【0155】
cyno研究のためのmAbの選択および抗Tau mAbに融合させたブレインシャトルの評価
CD98hc標的指向性トリポッドmAbがヒトにおいて治療用抗体脳曝露を増強する能力を確認するためには、非ヒト霊長類において脳への送達の増強を示すことが重要である。BBBB578、BBBB448、およびBBBB584を、カニクイザルPK研究に選択した。抗CD98hc scFvを、抗Tau mAb、PT1B844(配列番号110、111)に融合させて、BBBB1067/BBBB1065(配列番号76、77、78/配列番号79、80、81)、BBBB1061(配列番号35、36、37)、およびBBBB1070(配列番号98、99、100)を生成した。huCD98hcに対する親和性を測定すると(表5)、抗B21M mAbに融合した場合の結合と類似であった。
【0156】
【表7】
【0157】
以前の研究と同様に内部移行も評価した。抗Tau mAbとブレインシャトルとの融合は、ヒト脳内皮細胞に内部移行するその能力に影響を及ぼさなかった(図5)。
【0158】
抗TauブレインシャトルmAbのCyno薬物動態
カニクイザルに、IV注射(緩徐ボーラス)によって試験物質を表示用量で投与した。予定の時点で、上半身を生理食塩水で最低5分間灌流した後、カニクイザル脳を収集し、冷却生理食塩溶液ですすいだ。所定の脳位置を単離し、液体窒素で瞬間凍結し、組織ホモジナイズおよび毛細血管枯渇処理まで-80℃で保管した。
【0159】
BBBB1067、BBBB1061、およびBBBB1070を、非ブレインシャトル対応化mAb PT1B844およびPT1B916と共に10mg/kgでカニクイザルにi.v.投与した。血漿を、4、24、および72時間時に試料採取した。上半身を生理食塩水で最低で5分間灌流した後、カニクイザル脳を収集し、冷却生理食塩溶液ですすいだ。所定の脳位置を単離し、液体窒素で瞬間凍結し、組織ホモジナイズおよび毛細血管枯渇処理まで-80℃で保管した。
【0160】
毛細血管枯渇脳組織ライセートの試料調製のために、収集した脳位置の個々の組織重量を得た。脳組織試料を、プロテアーゼ阻害剤(Pierce;A32955)を含む計算体積の改変dPBS緩衝剤(組織1mg当たり2.5μLの緩衝剤)に添加し、溶解マトリックスD(MP Biomedicals(商標);6913-100)チューブに移した。Bead Ruptor 24 Elite(Omni International)を使用して、組織試料を2.9m/sで15秒間ホモジナイズした。全細胞懸濁物を新しいチューブに移し、等体積の26%デキストラン緩衝剤と混合した(最終デキストラン濃度13%)。混合組織ホモジネートを2,000gで10分間4℃にて遠心分離した。上部層(毛細血管枯渇画分)を残りの試料から慎重に分離し、10×RIPA溶解緩衝剤(Millipore(商標);20-188)を含む新しいチューブに移した。溶解緩衝剤を加えた毛細血管枯渇試料を十分にボルテックスし、14,000rpmで30分間4℃にて遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。脳組織試料溶解物は、-70℃で凍結保管したか、またはBCAタンパク質アッセイキット(Pierce(商標);23227)を使用してタンパク質濃度を測定したかのいずれかだった。最終的な脳組織試料ライセートを、BBB対応化mAbのイムノアッセイ決定前に、7mg/mLの総タンパク質濃度に対して正規化した。
【0161】
PK評価のために、カニクイザル脳組織におけるBBB対応化mAbの濃度を、典型的なサンドイッチイムノアッセイ形式で開発されたMesoScale Discovery(MSD(登録商標)、Gaithersburg、MD)ECLIA技術を使用して判定した。アッセイは、MSD Gold(商標)Small Spotストレプトアビジン96ウェルプレート(カタログ:L45SA)で実行した。ストレプトアビジンコーティングプレートを、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1%ウシ血清アルブミン(BSA)で30分間室温にてブロッキングした。50%ナイーブcyno脳組織ライセートを新たに系列希釈して、標準曲線を作成した。作業アッセイ濃度の2×のナイーブcyno脳組織ライセートで調製した凍結品質管理対照(QC)を希釈し、各アッセイで試験した。捕捉(ビオチン化抗ヒトFc mAb、1μg/mL)および検出(ルテニウム標識抗ヒトFc mAb、0.5μg/mL)試薬を含むマスターミックスを、希釈した標準物質、QC、および試料とアッセイプレートにて1:1体積比で一緒にした。混合物を室温で振盪しながら1時間インキュベートした。アッセイプレートを洗浄し、MSD T読取用緩衝剤(1×)をすべてのウェルに添加した。生データ値を、MSD SECTOR(登録商標)S600イメージャーで読み取った。アッセイの標準曲線範囲を、最小必要試料希釈(MRD)が1:2の1~512ng/mLにて試験し、脳組織ライセートでは2ng/mLの感度限界が得られた。生ECL計数を含むMSD出力ファイルを、Watson LIMS(Thermo Scientific)にインポートし、次いで1/F2加重による5パラメーターロジスティックフィッティングで回帰分析した。
【0162】
様々な区域にわたって4つのmAbの脳内濃度を判定した(図6)。すべてのブレインシャトル含有mAbは、脳のすべての領域において、非ブレインシャトル含有mAbよりも増加した脳曝露を有した。データを、脳1kg当たりの注射用量%に変換し、領域にわたって平均すると、ブレインシャトルmAbについて、脳内濃度における16倍の改善が実現した。
【0163】
CD98hcの広範な組織発現に起因して、FcgRに結合することができるトリポッドmAbは、様々な組織でADCC/ADCPを誘導し得る。この可能性を回避するために、「AAS」突然変異をトリポッドmAbに導入することによって、エフェクターサイレントFcを利用した。ADCC/ADCPを回避することは、治療用mAbの安全性にとって重要な特徴であるが、1つの可能性のある治療的作用機序は、Tau凝集体のFc依存性ミクログリアファゴサイトーシスに依存する。ブレインシャトルmAbがFcγRに結合する能力を阻害することによって、mAbは、ミクログリア細胞上のFcγRに結合してTau凝集体のファゴサイトーシスを促進することができなくなるであろう。しかしながら、本発明者らのブレインシャトルによって、CD98hcに媒介される非Fc依存性内部移行を通じた新規なミクログリア取込み機序が、利用される。
【0164】
ミクログリア細胞におけるTau凝集体の取込みを促進するAAS IgG1トリポッドmAbの能力を評価するために、人工多能性幹細胞(iPSC)に由来するヒトミクログリアを、384ウェルのPerkin Elmer Cell Carrier Ultraプレートに、プレート当たり7000個の細胞の希釈で播種し、Glutamax+、ペニシリン/ストレプトマイシン、IL34(100ng/ml)、およびGMCSF(10ng/ml)を含むアドバンストDMEM/F12培地で維持した。アッセイの当日、ビオチニル化ホスホ-tauオリゴマー[配列:SCBiot-(dPEG4)GTPGSRSR(pT)PSLP(pT) PPTREPLL-アミド(配列番号192)]を、15倍モル過剰のストレプトアビジンAlexa Flour 488(AF488)と複合体を形成させた。次いで、標識ホスホTauオリゴマーが、およそ2×モル過剰の試験mAbと結合することを室温で30分間可能にした。次いで、mAb:Tauオリゴマー複合体を、20μl/ウェルでミクログリアに送達した。インキュベーションの2、4、および8時間後に、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドの存在下で15分間室温にて固定した。固定した後、細胞を再びPBSで2回洗浄し、透過処理緩衝剤(0.1%サポニン+1%魚皮ゼラチン)中4μg/mlの濃度の、リソソームのマーカーであるLAMP1一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、Alexa Flour647にコンジュゲートした透過処理緩衝剤中1μg/mlの二次抗体で1時間4℃にて染色した。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中1μg/mlのヘキストDNA染色剤で10分間室温にて対比染色した。次いで、細胞を最後にもう1回PBSで洗浄し、1ウェル当たり20μlのPBSに再懸濁し、Opera Phenix共焦点ハイコンテント顕微鏡で画像化した。取得した画像を、HarmonyおよびImageJ分析ソフトウェアを使用して分析した。1条件当たりおよそ500個の細胞を、ファゴリソソーム構造内のTauオリゴマーの存在についてスコア化し、LAMP1抗体で標識した。
【0165】
ブレインシャトルmAb BBBB1067は、ファゴソーム内への同等の取込みを、非ブレインシャトルmAb、PT1B844よりも促進し(図7)、予想外なことには、BBBB1065が、さらに悪かった。こうしたデータは、FcγRとの結合を排除しも、抗Tau mAbの治療有効性に影響を及ぼさないはずであることを示している。実際、CD98hc媒介性内部移行およびファゴリソソームへの輸送は、ミクログリアでは、従来のFcγR媒介性ファゴサイトーシスよりも効率的であると思われる。
【0166】
考察
受容体媒介性トランスサイトーシスに基づく最適化脳送達プラットフォームを実現するために、pH依存的様式にて一連の親和性でヒトCD98hcに特異的に結合するmAbを生成した。結合親和性とトランスサイトーシス効率との関係性は、平衡解離定数Kに焦点を当てた数多くの出版物に広範に取り上げられている。Kは重要な尺度であるが、驚くべきことに、トランスサイトーシスに関しては、結合動態kおよびkが重要であることが本発明にて実証された。本発明者らは、送達される治療用mAbの効率的なトランスサイトーシスおよび薬物動力学的活性のために、オンレートおよびオフレートの両方を最適化する必要があることを発見した。こうした結果に基づくと、最適なトランスサイトーシスは、例えば、k≧10-1-1および中性k=8×10-3-1の場合に生じる。理論に束縛されることは望まないが、オンレートとオフレートとの相互関係は、分極細胞でのタンパク質輸送に関与する多様な細胞内小胞による効率的な経細胞輸送を確保するために重要であるという仮説が立てられる。
【0167】
カニクイザルにトリポッドmAbを投薬すると、対照mAbよりも16×の脳内濃度の増強がもたらされることが示された。酸性FcRn結合の増加は、末梢クリアランスの低減および脳内濃度の増強をもたらした。通常の生理学的条件下では、脳からのFcRn媒介性抗体排出は、脳内の望ましくない炎症および免疫応答を回避することによって脳恒常性を維持する上で重要である可能性が高い(Schlachetzki, Zhu et al. 2002, Roopenian and Akilesh 2007)。有力な証拠が、FcRn媒介性抗体流出に果たす役割が強力であることを示唆するが、このクリアランス機序については議論の余地が残っている(Garg and Balthasar 2009, Abuqayyas and Balthasar 2013)。本発明者らは、FcRnに対する結合親和性の増加が、末梢濃度および脳内濃度の両方に肯定的な影響を及ぼすことを発見した。これは、この系ではいかなる排出増強もあまり著しいものではないことが示唆される。
【0168】
Fc突然変異誘発の明らかな欠点は、治療用mAbからエフェクター機能が排除されることである。ベータアミロイドおよびTauのような、脳内の多くの治療標的にとって、ADPは、有効性に重要であると考えられている。本発明者らは、多価積荷のこの内因性転送を、ADPの代替的非古典的非FcγR機序として使用することができることを示した。非古典的および古典的ADPによって内部移行されたTauは、ミクログリアでは同様に輸送され、Tau凝集体は、分解のためにエンドリソソーム系からリソソームへと輸送される。記載されている非古典的ADPは、有効性のためにはADPを必要とするが、安全性のためには古典的ADPが有害である様々な治療適用に活用することができる。
【0169】
データは、非古典的ADPが、古典的ADPよりも効率的であることを示す。マクロファージ疲弊に関する観察は、in vitroおよび患者において行われており(Baig, 2014)、この疲弊表現型が、エフェクター機能を有するmAbの治療有効性に影響を及ぼし得ることを示している。非古典的ADPは、有効性の利点を提供し、FcγRと結合することでミクログリアを活性化することなくADPを媒介することによって、この枯渇表現型を回避する。
【0170】
非古典的ADPの別の利点は、ミクログリアの活性化を回避することによって、炎症促進性サイトカインの産生を刺激することなくADPが生じることである。脳、特に、慢性神経炎症をすでに罹患している患者における増加している神経炎症の近傍において疾患を処置する際にエフェクター機能コンピテントmAbを使用することの安全性に関しては、議論の余地が残っている(Heneka, et al. Lancet Neurol. 2015 Apr; 14(4): 388-405において概説されている)。加えて、炎症の増加が関与すると考えられる神経変性疾患の病因において炎症が果たす役割、ならびに議論中のすでに疲弊している可能性のあるミクログリアに係合するかまたはそれをさらに活性化する能力に対する注目が高まっている。例えば、ニューロンに対する古典的なADPの毒性の影響が示されており、エフェクター機能コンピテントmAbが、安全上のリスクを呈する可能性があるという仮説が立てられていた(Lee, etal. 2016)。結論として、ロバストな脳送達プラットフォームは、薬物動態、薬物動力学、および安全性が特徴付けられており、臨床試験に進むために必要なロバストな前臨床特徴付けが確立されている。
【0171】
最適化されたブレインシャトルを、Tauに結合するmAbであるPT1B844に融合させた。PT1B844に融合させたブレインシャトルは、カニクイザルにおいて静脈内投薬した場合に、脳内濃度に16倍の改善を示した。脳内濃度の向上は、文献に報告されている最良のブレインシャトルを上まわった。優れた脳PKに加えて、本ブレインシャトルは、Fcによって媒介されるエフェクター機能を低減させるように遺伝子操作されており、競合者によって報告されているようなカニクイザルでの急速な網状赤血球枯渇を誘発しない。重要なことに、ブレインシャトルは、ミクログリアによるTau取込みの媒介が、PT1B844単独よりも効率的であるため、Fc機能の喪失は、治療用Tau mAbの有効性に影響を及ぼさない。
【0172】
[実施例2]
選択した抗CD98ブレインシャトルを、プロトタイプの抗BACE(β-セクレターゼ)mAbに融合させ、上述のものと同じ方法を使用して、結合親和性を再評価した。抗CD98ブレインシャトルの親和性は、B21M mAb(抗ヒト呼吸器合胞体ウイルス)および抗BACEアンタゴニストmAbに融合した場合に、同様となることが予測される。選択した分子の内部移行について評価するが、これは、抗CD98ブレインシャトルをB21M mAbに融合した場合に観察される内部移行から変化しないことが見出されると予測されるであろう。
【0173】
抗CD98ブレインシャトルのいずれも、マウスまたはラットCD98に結合しなかったため、抗BACEアンタゴニストmAbを使用して、huCD98hcノックイン(KI)マウスにおいてin vivoげっ歯動物研究を実施することになる。抗BACEアンタゴニストmAbは、脳内に輸送されるmAbの量を反映するBACE1の阻害を(その産物であるペプチドAβ1~40の濃度を通じて)測定するためのモデルPD系として選択した。
【0174】
最初のin vivo研究では、huCD98hcマウスの網膜におけるPK/PD関係性を評価することになる。ノックイン(KI)マウスに、10mg/kgの抗BACEアンタゴニストmAbおよび対照mAbを静脈内投薬する。投薬の4時間および24時間後に、眼および血漿を採取することになる。予定の時点で、マウスをイソフルランの吸入で麻酔することになる。5mLの0.9%生理食塩溶液で全身灌流した後で、KIマウスからマウス眼を収集することになる。収集した眼試料(視神経を除く)を、液体窒素で瞬間凍結し、組織をホモジナイズするまでまたは免疫組織化学用に調製するまで-70℃で保管することになる。
【0175】
BACE活性測定は、マウス眼を溶解マトリックスDチューブ中でホモジナイズすることによって行うことになる(脳重量1mg当たり8μlの0.4%DEA/50mM NaCl、Fast Prep-24で6回/振盪/秒で20秒間)。次いで、チューブを、最高速度に設定したEppendorf遠心分離機で5分間4℃にて遠心分離することになる。次いで、ホモジネート(上清)を予冷チューブに移すことになり、次いでそれを13,000rpmで70分間4℃にて遠心分離した。次いで、上清を10%の0.5M Tris/HCLを含むチューブに移し、アッセイまで-80℃で凍結することになる。Aβ1~40ペプチド標準物質および解凍処理された眼ホモジネートを、ルテニウム(Meso Scale Discovery(MSD)、R91AN-1)標識抗Aβ抗体と1:1で事前に複合体化させる。Aβ1~40に対する捕捉抗体を含むブロックキングされたプレートに50ulの複合体を添加することになる。振盪せずに2~8℃で一晩インキュベーションした後、プレートを洗浄し、2×読取用緩衝剤(MSD、R92TC-1)を添加することになる。Meso Sector S600(MSD、IC0AA)を使用してプレートを読み取ることになる。
【0176】
当業者であれば、その幅広い発明概念から逸脱することなく、上記に記載の実施形態に変更をなすことができることを理解するだろう。したがって、本発明は、本開示の特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲内の改変を包含することが意図されていることが理解される。
【0177】
引用文献
【0178】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【国際調査報告】