(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-22
(54)【発明の名称】炭化珪素基板上のバッファ層及びバッファ層の形成方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230515BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20230515BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230515BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C23C16/42
C30B25/20
H01L21/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552808
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 CN2022075930
(87)【国際公開番号】W WO2022174753
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】202110186694.2
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520339091
【氏名又は名称】セミコンダクター マニュファクチュアリング エレクトロニクス(シャオシン)コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,シアン
(72)【発明者】
【氏名】コン,マオジエ
(72)【発明者】
【氏名】シエ,ジーピン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジーグオ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シュエンジエ
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB05
4G077DB07
4G077EF03
4G077HA12
4G077TA04
4G077TK08
4K030AA03
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4K030AA17
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4K030HA01
4K030JA01
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA10
5F152LL03
5F152LN03
5F152NN05
5F152NQ02
(57)【要約】
炭化珪素基板上のバッファ層、及びその形成方法が開示される。バッファ層は少なくとも2層の炭化珪素膜を含み、少なくとも各下層は、その上面に所定のイオンがドープされている。その結果、炭化珪素膜の上面にはパラメータの異なる障壁が形成され、炭化珪素膜内に広がった転位欠陥が炭化珪素膜内をさらに上方に伝播するのを阻止することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法であって、
第1の工程において、前記炭化珪素基板の表面に炭化珪素膜を形成し、
第2の工程において、前記炭化珪素膜の表面を所定のイオンで処理して、前記炭化珪素膜の上面に近い前記炭化珪素膜の上部ドープ領域が所定のイオンでドープされるようにし、これにより前記上部ドープ領域における所定のイオンの濃度を増加させるようにし、前記上部ドープ領域は10nm未満の厚さを有し、前記上部ドープ領域の厚さは、前記上部ドープ領域の下の同じ炭化珪素膜の残りの部分の厚さ未満であり、
第3の工程において、前記炭化珪素膜上に炭化珪素膜の別の層を形成し、
前記第2及び第3の工程を少なくとも1回繰り返して、前記バッファ層を構成する炭化珪素膜の少なくとも2つの層を連続的に形成する方法。
【請求項2】
前記炭化珪素基板は、連続して前記第1乃至第3の工程を同一の処理チャンバにおいて繰り返す、請求項1に記載の炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法。
【請求項3】
前記第1の工程は、炭素源ガス及びシリコン源ガスを前記処理チャンバに導入して前記炭化珪素膜を形成することを含み、
前記第2の工程は、前記炭素源ガス及び前記シリコン源ガスの導入を停止した後、前記処理チャンバに前記所定のイオンの源を導入して前記炭化珪素膜の上面をドープすることを含み、
前記第3の工程は、前記所定のイオンの源の導入を停止した後、前記シリコン源ガス及び前記炭素源ガスを再度導入して前記炭化珪素膜の別の層を成長させることを含む、請求項2に記載の炭化珪素基板の上にバッファ膜を形成する方法。
【請求項4】
前記所定のイオンは、n型不純物イオン又はp型不純物イオンであることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法。
【請求項5】
前記n型不純物イオンは、窒素イオン又はリンイオンであり、
前記p型不純物イオンは、アルミニウムイオン又はホウ素イオンである、
請求項4に記載の炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法。
【請求項6】
前記炭化珪素膜の厚さは、10nm~200nmである、請求項1に記載の炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法。
【請求項7】
前記バッファ層の厚さは、200nm~1000nmである、請求項1に記載の炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法。
【請求項8】
前記第2及び第3の工程は、少なくとも2回以上繰り返されて、複数層の前記炭化珪素膜を形成する、請求項1に記載の炭化珪素基板の上にバッファ層を形成する方法。
【請求項9】
炭化珪素基板を提供し、
前記請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を用いて、連続して少なくとも2層の炭化珪素膜を前記炭化珪素基板の上に形成してバッファ層を形成し、
前記バッファ層の上にエピタキシャル層を形成する
ことを含む炭化珪素エピタキシャルウェーハを形成する方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を用いて形成された炭化珪素基板上のバッファ層であって、
前記バッファ層は前記炭化珪素基板上に形成された炭化珪素膜の少なくとも2つの層を含み、
前記炭化珪素膜の隣接する層において、前記炭化珪素膜の上面に近い前記炭化珪素膜の下側の層の少なくとも上部ドープ領域は所定のイオンでドープされ、これにより、前記上部ドープ領域における所定のイオンの濃度を増加させ、前記上部ドープ領域は10nm未満の厚さを有し、前記上部ドープ領域の厚さは前記上部ドープ領域の下の同じ炭化珪素膜の残りの部分の厚さ未満である、バッファ層。
【請求項11】
炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板の上の、請求項10に記載のバッファ層と、
前記バッファ層の上に形成されたエピタキシャル層と、
を備える炭化珪素エピタキシャルウェーハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体技術の分野に関連し、特に、炭化珪素(silicon carbide)基板上のバッファ膜、及びその形成方法、並びに、炭化珪素エピタキシャルウェーハ、及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイドバンドギャップ半導体材料である炭化珪素(SiC)は、高い熱伝導率、高い破壊電界、高い飽和電子ドリフト速度、高い結合エネルギー、及び他の優れた利点を示す。その優れた性能は、高温、高周波、高出力、耐放射性、及び現代の電子機器の他の要件を満たすことができる。
【0003】
しかしながら、炭化珪素基板の品質及び表面条件は、デバイスの直接製造のための要件を満たしていない。例えば、炭化珪素基板には、一般に多くの転位欠陥(貫通らせん転位、貫通刃状転位、基礎積層欠陥などを含む)が存在する。このため、炭化珪素基板上に炭化珪素エピタキシャル膜をエピタキシャル成長させることが一般的に必要である。このエピタキシャル膜は、炭化珪素基板よりも高品質で、かつ、優れた電気的特性、制御性、再現性を有する。
【0004】
しかしながら、エピタキシャル成長中に、炭化珪素基板中のいくらかの転位が成長中の炭化珪素エピタキシャル層中に広がり得て、結果として得られる炭化珪素エピタキシャル層中に、いくつかの欠点をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、炭化珪素基板上のバッファ層を提供すること、またその形成方法を提供することである。これは、炭化珪素基板からその上層に外部に転位が広がりやすいという課題を解決するものである。
【0006】
この目的のために、本発明は、炭化珪素基板上にバッファ層を形成する方法であって、第1の工程において、炭化珪素基板の表面に炭化珪素膜を形成し、第2の工程において、炭化珪素膜の表面を所定のイオンで処理して、炭化珪素膜の上面に近い炭化珪素膜の上部ドープ領域が所定のイオンでドープされるようにし、これにより前記ドープ領域における所定のイオンの濃度を増加させるようにする。前記上部ドープ領域の厚さは10nm未満であり、上部ドープ領域の下の同じ炭化珪素膜の残りの部分の厚さ未満である。この方法は、第3の工程において、炭化珪素膜上に炭化珪素膜の別の層を形成する。この方法は、第2及び第3の工程を少なくとも1回繰り返して、バッファ層を構成する炭化珪素膜の少なくとも2つの層を連続して形成することを含む。任意選択的に、炭化珪素基板は、同じ処理チャンバ内で第1~第3の工程を連続的に受けてもよい。
【0007】
任意選択で、第1の工程は、炭素源ガス及びシリコン源ガスを処理チャンバに導入することによって炭化珪素膜を形成する工程を含み得る。第2の工程は、炭素源ガス及びシリコン源ガスの導入を停止し、次いで、処理チャンバに所定のイオン源を導入することによって炭化珪素膜の上面をドープする工程を含む。第3の工程は、所定のイオン源の導入を停止し、次いで、シリコン源ガス及び炭素源ガスを再度導入することによって他の炭化珪素膜を成長させる工程を含む。
【0008】
任意選択で、所定のイオンは、n型不純物イオン又はp型不純物イオンであってもよい。さらに、n型不純物イオンは窒素イオン又はリンイオンであってもよく、p型不純物イオンはアルミニウムイオン又はホウ素イオンであってもよい。任意に、炭化珪素膜は、10nm~200nmの厚さを有してもよい。さらに、バッファ層は、200nm~1000nmの厚さを有してもよい。任意選択で、第2及び第3の工程は炭化珪素膜の複数の層を形成するために、少なくとも2回以上繰り返されてもよい。
【0009】
また、本発明は、炭化珪素エピタキシャルウェーハを形成する方法であって、炭化珪素基板を提供し、バッファ層を構成する上記方法を用いて、連続して少なくとも2層の炭化珪素膜を炭化珪素基板の上に形成し、バッファ層上にエピタキシャル層を形成する方法を提供する。本発明はまた、上記方法を用いて形成された炭化珪素基板上のバッファ層を提供する。
【0010】
本発明により提供される、炭化珪素基板上のバッファ層、及びその形成方法において、少なくとも2層の炭化珪素膜が形成され、炭化珪素膜の隣接する層において、前記炭化珪素膜の上面に近い前記炭化珪素膜の少なくとも下層の上部ドープ領域が所定のイオンでドープされ、前記上部ドープ領域における前記所定のイオンの濃度が高くなるようにする。上部ドープ領域は10nm未満の厚さを有し、上部ドープ領域の下の同じ炭化珪素膜の残りの部分の厚さ未満である。また、炭化珪素基板上に上記のバッファ膜を有する炭化珪素エピタキシャルウェーハを提供する。
【0011】
本発明に係る炭化珪素基板上のバッファ層、及びその形成方法では、少なくとも2層の炭化珪素膜が形成され、隣り合う炭化珪素膜の層において、炭化珪素膜の上面に近い下層の炭化珪素膜の少なくとも上部ドープ領域に所定のイオンがドープされている。その結果、炭化珪素膜のこの上部ドープ領域のパラメータは、上部ドープ領域の下の膜の残りの部分のパラメータに対して変更される。これは、炭化珪素膜の上面に異なるパラメータを有する上部ドープ領域を形成することと等価である。
【0012】
この上部ドープ領域は下にある部分の障壁として作用し、貫通転位欠陥がさらに上方に伝播するのを効果的に阻止することができる。所定のイオンのドーピングから生じる障壁が炭化珪素膜の上面に広がった貫通転位欠陥のための垂直伝搬経路を水平経路に方向転換するように、転位の上方伝搬が阻止される。これは、上部ドープ層内の貫通転位のための伝搬経路を制限し、貫通転位欠陥をさらに上方に広げることができないようにする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭化珪素基板上のバッファ層の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、炭化珪素基板上にバッファ層を形成する方法の概略フロー図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るバッファ層の形成方法において形成される構造を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るバッファ層の形成方法において形成される構造を示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るバッファ層の形成方法において形成される構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
背景技術の項で述べたように、炭化珪素基板上に炭化珪素エピタキシャル層を直接的にエピタキシャル成長させると、炭化珪素基板中の転位欠損が炭化珪素エピタキシャル層中に広がる傾向にある。これを克服するために、炭化珪素基板と炭化珪素エピタキシャル層との間にバッファ層を配置して、炭化珪素基板中の転位欠損が炭化珪素エピタキシャル層中に広がるのを防止し、結果として得られる炭化珪素エピタキシャル層の質を高めることができる。
【0015】
具体的には、バッファ層が均一かつ高濃度にドープされた炭化珪素層から構成されてもよい。このような高濃度にドープされたバッファ層は転位欠陥の伝播をある程度阻止することができるが、貫通転位の伝播を阻止する能力は限られている。その結果、得られる炭化珪素エピタキシャル層には、依然として多数の貫通転位が存在することになる。
【0016】
これを解決するために、本発明は、バッファ層を形成する方法を提供する。形成されたバッファ層は炭化珪素基板上に形成された少なくとも2つの隣り合う炭化珪素膜を含み、隣り合う炭化珪素膜の層において、炭化珪素膜の上面に近い下側の炭化珪素膜の上部ドープ領域には、所定のイオンがドープされている。すなわち、炭化珪素膜の上面に所定のイオンをドープして上部ドープ領域を形成する。ドーピングから生じる上部ドープ領域はその下の残りの部分の薄膜パラメータとは異なる薄膜パラメータを有し、炭化珪素膜における貫通転位欠陥のさらなる上方への伝播を阻止するバリアとして機能することができる。
【0017】
以下、本実施形態に係る炭化珪素基板のバッファ層及びその形成方法について、図面を用いて詳しく説明する。本発明の利点及び特徴は、以下の説明からより明らかになるのであろう。図面は、必ずしも正確な縮尺で描かれていない非常に簡略化された形態で提供され、開示された実施形態をより便利かつより明確な方法で説明するのを助けるためだけのものであることに留意されたい。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る炭化珪素基板上のバッファ層の構造を示す模式図である。
図1に示すように、バッファ層200は炭化珪素基板100上に形成された炭化珪素膜210の隣接する少なくとも2つの層を含み、炭化珪素膜210の隣接する層において、炭化珪素膜の上面に近い下層の炭化珪素膜の上部ドープ領域には、所定のイオンがドープされている。すなわち、炭化珪素膜210の隣接する層では、少なくとも各下層の上部が所定のイオンでドープされ、それによって所定のイオンのより高い濃度を有する上部ドープ領域210aに変換される。また、炭化珪素210の各々について、上部ドープ領域210aの厚さはその下の残余部分の厚さよりも小さい。
【0019】
本実施の形態によれば、炭化珪素膜210の上面を所定のイオンでドーピングすることにより、炭化珪素膜210の上部部分(すなわち上部ドープ領域210a)のパラメータが変更される。その結果、炭化珪素基板100から炭化珪素膜210に拡散した貫通配向欠陥のための炭化珪素膜210の伝播経路は、上部ドープ領域210aでブロックすることができる。例えば、炭化珪素基板100から炭化珪素膜210へと広がった貫通転位欠陥のための炭化珪素膜210の成長経路は実質的に垂直であり、上面周辺の上部ドープ領域210aの存在は貫通転位欠陥に対する垂直成長経路を水平に迂回させることができ、それによって、貫通転位欠陥のさらなる上方への伝播を妨ぐことができる。
【0020】
なお、本実施形態では、炭化珪素膜210の上面をドーピングして上部ドープ領域210aが形成され、上部ドープ領域210aが比較的薄い厚さとなるようにしている。
【0021】
堆積プロセスとin-situドーピングとの組み合わせの使用によって直接形成される、均一にドープされた炭化珪素層は、通常、10nm未満に低減することができない厚さを有することが認識されるのであろう。しかし、本実施形態では、炭化珪素膜210を形成した後に所定のイオンをドープして上部ドープ領域を形成するので、上面から上面の下10nm未満の深さまでの範囲で、炭化珪素膜210にドープする所定のイオンを制御することができる。従って、得られた上部ドープ領域210aの厚さは、10nm、例えば5nm(この場合、所定イオンが上面から上面の下5nmの厚さまでの範囲でドープされる)、あるいはさらには3nm以下の範囲で制御することができる。
【0022】
なお、「上面から上面の下10nm未満の深さまでの範囲内で所定のイオンをドーピングする」ことは、炭化珪素膜210の最も上側の2以上の原子層内に所定のイオンをドーピングすること、すなわち、炭化珪素膜210の上側の表面を所定のイオンで実質的に2次元の方法でドーピングすることで、上部ドープ領域210aが薄い厚みを持つことを可能にすることと理解できる。
【0023】
本発明の発明者らは、比較的大きな厚さを有する単一の均一にドープされた炭化珪素層が貫通転位を良好に阻止することができないことを研究から見出した。これとは対照的に、本実施形態によれば、比較的薄い上部ドープ領域210aは効果的に貫通転位を阻止することができ、バッファ層200の所定の全厚において、このような複数の上部ドープ領域210aが、より良好に貫通転位を阻止することができる。
【0024】
バッファ層200における炭化珪素膜210の数は、実情に応じて決定すればよい。
例えば、3~6層の炭化珪素膜210を含み、上層の炭化珪素膜210よりも下層の他の全ての炭化珪素膜の上面に所定のイオンをドープしてもよい。もちろん、上層の炭化珪素膜210の上面に所定のイオンをドープしてもよい。バッファ層200中の炭化珪素膜210の数は、全部又は多くの貫通転位欠陥のブロッキングを可能にするように決定されてもよく、本発明はこの点に関して限定されないことが認識されるのであろう。
【0025】
また、バッファ層200の厚さは例えば、200nm~1000nmの範囲であり、バッファ層200には5層の炭化珪素膜210が含まれていてもよい。炭化珪素膜210の厚さは、同じであってもよいし、同じでなくてもよい。本実施形態において、例えば、炭化珪素膜210の厚さは、10nm~200nmの範囲であってもよい。特定の実施形態では、炭化珪素膜210の厚さが10nmの場合、例えば、上部ドープ領域210aの厚さが約3nm、更には3nm未満であってもよい。
【0026】
所定のイオンの種類は、実際の状況に応じて決定することができる。例えば、炭化珪素膜210がノンドープ炭化珪素である場合、炭化珪素膜210の上部にドープされる所定のイオンはn型不純物イオンであってもよいし、p型不純物イオンであってもよい。
【0027】
あるいは炭化珪素膜210がn型低濃度ドープ炭化珪素である場合、炭化珪素膜210の上部をドープする所定のイオンはn型不純物イオンであってよい。また、炭化珪素膜210がp型低濃度ドープ炭化珪素である場合、炭化珪素膜210の上部をドープする所定のイオンは、p型不純物イオンであってよい。n型不純物イオンとしては窒素イオン、リンイオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。p型不純物イオンとしてはアルミニウムイオン、ホウ素イオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
上述したように、炭化珪素膜210に所定のイオンをドープする前に、炭化珪素膜210はノンドープの炭化珪素であってもよい。この場合、所定のイオンにドープされた後、炭化珪素膜210の上部ドープ領域210a下の残存部分が非ドープ炭化珪素となる。あるいは、炭化珪素膜210の上部ドープ領域210a下の一部が所定のイオンで軽くドープされてもよい。この場合、炭化珪素膜210の上部部分を所定のイオンで2回ドープして上部ドープ領域210aを形成することができる。また、上部ドープ領域210aにおける単位厚当たりの所定イオン数は、残存する基底部よりも多くなる。
【0029】
特に、上部ドープ領域210aの基となる炭化珪素膜210の残りの部分は非ドープ単結晶炭化珪素層(すなわち、所定のイオンにも他のイオンにもドープしない)であってもよい。あるいは、上部ドープ領域210aの基となる炭化珪素膜210の部分は、所定のイオンではなく、例えば他のnタイプの不純物やpタイプの不純物などの他のイオンでドープすることができる。この場合、上部ドープ領域210aの基となる炭化珪素膜210の部分は、nドープ炭化珪素層か、pドープ炭化珪素層のいずれかである。
【0030】
以下、
図2及び
図3~
図5を参照して、上述したバッファ層を炭化珪素基板上に形成する方法について詳細に説明する。
図2は、本発明の一実施形態による、炭化珪素基板上にバッファ層を形成する方法の概略フロー図である。
図3~
図5は、本発明の一実施形態に係るバッファ層の形成方法において形成される構造を示す模式図である。
【0031】
まず、特に
図3を参照して、炭化珪素基板100の表面に炭化珪素膜210を形成する工程S100を行う。炭化珪素基板100は特に、単結晶炭化珪素基板であってもよい。あるいは、炭化珪素基板100が高濃度にドープされたn型炭化珪素基板又は高濃度にドープされたp型炭化珪素基板であってもよい。
【0032】
炭化珪素膜210は、特に化学気相堆積(CVD)プロセスによって形成することができる。特に、炭化珪素膜210の形成は、炭化珪素基板100を処理チャンバ(例えば、CVD処理チャンバ)内に配置することと、炭素源ガス及びシリコン源ガスを処理チャンバ内に導入することによって炭化珪素膜210を形成することとを含み得る。この工程では、処理チャンバ内の圧力が例えば20mbar~150mbarの範囲に維持され、処理チャンバ内の温度が例えば1400℃~1700℃の範囲に維持される。
【0033】
さらに、炭素源ガスは例えば、メタン、エチレン、アセチレン、及びプロパンのうちの少なくとも1つを含んでもよい。シリコン源ガスとしては、例えば、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランの少なくともいずれかを挙げることができる。炭素源ガスは例えば、10sccm~200sccmの流量で導入される。シリコン源ガスは例えば、10sccm~100sccmの流量で導入される。
【0034】
特定の実施形態では、炭素源ガス及びシリコン源ガスの導入中に、成長させた炭化珪素を改質するために、水素源ガスを導入して、得られる炭化珪素膜210の品質を改善することができる。ここで、水素源ガスは、水素及び/又は塩化水素を含むことができる。水素は例えば、10sccm~200sccmの流量で導入することができる。本実施形態において、炭化珪素膜210は、単結晶炭化珪素層として成長させてもよい。また、CVD工程で形成される単体炭化珪素膜210の膜厚は、10nm~200nmの範囲内に制御されてもよい。
【0035】
上述のように、炭化珪素膜210は、n型低濃度ドープ炭化珪素膜又はp型低濃度ドープ炭化珪素膜であってもよい。前者の場合、CVD工程において、シリコン源ガス及び炭素源ガスに加えて、n型イオン源(例えば、窒素、三水素化リン等)を導入してもよい。これにより、得られる炭化珪素膜210にn型イオンを均一にドープすることができる。
【0036】
同様に、成長した炭化珪素膜210がpドープ炭化珪素膜である場合、CVDプロセス中に、シリコン源ガス及び炭素源ガスに加えて、p型イオン源(例えば、トリメチルアルミニウム、三フッ化ホウ素など)を導入してもよい。このようにして、得られる炭化珪素膜210にp型イオンを均一にドープすることができる。もちろん、炭化珪素膜210は、実際の状況に応じて、ノンドープの炭化珪素層であってもよい。
【0037】
次に、特に
図4を参照して、工程S200が実行され、ここでは、炭化珪素膜210の表面が所定のイオンで処理され、その結果、炭化珪素膜210の上面の周りの部分が所定のイオンでドープされる。この結果、上面周辺の炭化珪素膜210の一部が、所定イオンの濃度を高めた上部ドープ領域210aに変換される。上部ドープ領域210aの厚さは10nm未満であり、また、上部ドープ領域210a下の残りの部分の厚さよりも小さい。
【0038】
さらに、炭化珪素膜210の表面処理は、炭化珪素膜210の成長が達成される同じ処理チャンバ内で達成されてもよい。すなわち、処理チャンバ内に配置された炭化珪素基板100上の炭化珪素膜210が所望の厚さに達した後、炭化珪素の更なる成長を防止するために、炭素源ガス及びシリコン源ガスの導入を停止する。
【0039】
そして、炭化珪素膜210の上面に所定のイオンが作用するように、処理チャンバ内に所定のイオン源を導入し、炭化珪素膜210の上面ドーピングを行う。実用的には、所定のイオン源の流量、及び/又は表面処理時間の長さが、上部ドープ領域210aの所要の厚さに従って適切に決定されることができる。
【0040】
本実施形態に係るドーピング工程は、炭化珪素膜210のダメージを回避することができるだけでなく、炭化珪素膜210の上面の2次元的なドーピングを実現することができる。これにより、炭化珪素膜210の上面から上面下10nm未満の深さまでの範囲で所定のイオンをドープするように制御することができる。これにより、炭化珪素膜210の膜厚を薄くすることができる。特に、所定のイオンは、n型不純物イオン(この場合、n型イオンのソースが導入される)又はp型不純物イオン(この場合、p型イオンのソースが導入される)であってもよい。より具体的には、炭化珪素膜210がn型の低濃度ドープ炭化珪素膜である場合、所定のイオンはn型イオンである。炭化珪素膜210がp型の低濃度ドープ炭化珪素膜である場合、所定のイオンはp型イオンである。
【0041】
本実施形態において、所定のイオンは例えば、窒素イオンである。したがって、所定のイオン源は窒素であってもよい。この場合、窒素系表面処理では例えば、20scmから2000scmの流量で窒素を導入することができ、窒素系表面処理は2秒から200秒間継続することができる。実用的には、上部ドープ領域210aの必要な厚さに応じて、窒素の流量率及び表面処理時間を決定することができる。
【0042】
次に、工程S300が実行され、前述の炭化珪素膜上に別の炭化珪素膜210が形成される。
図5を特に参照することができる。工程S200が完了した後、所定のイオン源(例えば、窒素)の導入を停止し、シリコン源ガス及び炭素源ガスを再び導入して、他の炭化珪素膜210を成長させてもよい。
【0043】
工程S200、S300の終了後、炭化珪素基板100上に2層の炭化珪素膜210を順次形成し、下層の炭化珪素膜の上面に所定のイオンを2次元ドープする。特定の実施形態では工程S200及びS300を2回以上繰り返して、炭化珪素膜210の2つ以上の層を形成することができ、炭化珪素膜210のこれらの層の総厚は200nm~1000nmの範囲内に制御される。
【0044】
以下、
図5に示すように、炭化珪素膜210を5層形成した実施形態を例に挙げて説明する。また、本実施の形態では多層の炭化珪素膜210において、上層以外の炭化珪素膜210は全て、所定のイオンを2次元ドープするための上面処理が施されている。しかしながら、代替的な実施形態では、上部の炭化珪素膜210も、所定のイオンによるそのような表面処理を受けてもよいことが認識されるのであろう。
【0045】
引き続き
図1を参照すると、炭化珪素エピタキシャル層300が、上述のバッファ層上に形成されて、改善された品質を有する炭化珪素エピタキシャルウェーハを調製することができる。具体的には、バッファ層200が炭化珪素基板100における貫通転位欠陥に対するブロッキング効果を提供することができる。
【0046】
このような炭化珪素基板100の貫通転位欠陥がバッファ層200に広がったとしても、所定のイオンがドープされた炭化珪素膜210の上面部によって形成された障壁はバッファ層200上に形成された上層の炭化珪素エピタキシャル層300に、炭化珪素膜の1つ以上に広がった貫通転位欠陥がさらに上方に伝播するのを阻止することができ、炭化珪素エピタキシャル層300の品質を確保することができる。
【0047】
また、炭化珪素エピタキシャル層300は低濃度ドープのn型炭化珪素エピタキシャル層であってもよいし、低濃度ドープのp型炭化珪素エピタキシャル層であってもよい。
ここで、「低濃度ドープ」とは、炭化珪素エピタキシャル層300のイオン濃度が炭化珪素基板100のイオン濃度よりも低いことを意味する。炭化珪素エピタキシャル層300の厚さは、例えば、5μm以上1000μm以下である。
【0048】
本発明はその好ましい実施形態を参照して上述されたが、これらの実施形態に限定されないことが理解されるべきである。上記の教示に照らして、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に対して多くの可能な修正及び変形を行うか、又はそれらを同等の実施形態に適合させることができる。したがって、その範囲から逸脱することなく、本発明の実質的な開示に基づいて前述の実施形態になされる任意の及びすべての単純な変形、均等な変更及び修正が、この範囲内に入ることが意図される。
【0049】
添付の図面に示される向きに関連して本明細書で使用される「上」、「下」、「上」、「下」、「前」、「後」などの相対用語は、異なる構成要素間の関係を説明するために使用され得る。これらの相対的な用語は、図に示される向きに加えて、異なる向きを包含することが意図される。例えば、図中のデバイスが反転されている場合、別の要素の「上に」と記載されている要素は、他の要素の「下に」配向される。
【符号の説明】
【0050】
100…炭化珪素基板、 200…バッファ層、 210…炭化珪素膜、 210a…上部ドープ領域、 300…炭化珪素エピタキシャル層。
【国際調査報告】