(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-22
(54)【発明の名称】標的組込み方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/79 20060101AFI20230515BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230515BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230515BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230515BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C12N15/79 ZNA
C12N15/09 100
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12P21/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562134
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(85)【翻訳文提出日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2021058952
(87)【国際公開番号】W WO2021204807
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヨンソン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・イヴァンソン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA03
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA45
(57)【要約】
本開示は、ドナーベクターの、単離された真核生物宿主細胞の特定の予め定義されたゲノム位置への標的組込み方法に関する。ベクター及び宿主細胞は一緒に、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置にドナーベクターを組み込んだ細胞の選択を可能にする核酸成分を含む。加えて、それは、ドナーベクターの、宿主細胞ゲノムの他の部分への任意の無作為な組込みの同定をもたらす。同定されると、このような細胞は、その後の組換えタンパク質産生の優れた選択肢となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーベクターの、単離された真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への標的組込み方法であって、
i) a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1;
b.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E1;及び
c.プロモーター核酸配列P1
を含む、予め定義されたゲノム位置を含む、単離された真核生物細胞を用意する工程;
ii)
a.核酸配列I2;
b.対象である核酸配列;
c.前記第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E2;
d.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;
e.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセットを含む、ドナーベクターを用意する工程;
iii)前記ドナーベクターを前記細胞と第一のDNA酵素の存在下で接触する工程であって、前記第一のDNA酵素の存在が、前記ドナーベクターの核酸配列I2と前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置に存在する核酸配列I1との間での組換えを可能にする、前記工程;
iv)前記細胞における前記第一の選択マーカーの発現を検出することによって、前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれた前記ドナーベクターを有する細胞を選択する工程であって、前記第一の選択マーカーの前記発現は、前記予め定義されたゲノム位置で前記プロモーター核酸配列P1によって活性化される、前記工程;並びに
v)前述の工程において選択された前記細胞を単離する工程
を含む、方法。
【請求項2】
第二のDNA酵素の存在下で、前記核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列を請求項1の工程v)において単離した前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置から切除する工程を含む工程vi)を更に含み、前記第二のDNA酵素の存在が、前記核酸配列E1とE2との間での組換えを可能にし、前記細胞における前記核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列の存在が、前記ドナーベクターの、前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置への安定な組込みの指標である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程vi)が、工程iii)の一部をなすか、又は工程iv)後若しくは工程v)後等の、工程iii)後に行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程vi)が、工程v)の前に行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程ii)の前記ドナーベクターが、e)第二の選択マーカーをコードする発現カセットを更に含み、工程v)において単離された前記細胞が、加えて、前記第二の選択マーカーのその不発現に基づき選択され、前記第二の選択マーカーの発現が、ドナーベクターが、細胞の前記予め定義されたゲノム位置と異なる位置で組み込まれていることを示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程vi)が、工程v)後に行われ、前記核酸配列E1及びE2が隣接している前記核酸配列が、工程vi)において単離された前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置から切除されている、細胞を単離する工程を含む、工程vi)後に行われる、工程vii)を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
工程ii)の前記ドナーベクターが、e)第二の選択マーカーをコードする発現カセットを更に含み、工程vii)において単離された前記細胞が、前記第二の選択マーカーのその不発現に基づき選択され、前記第二の選択マーカーの発現が、ドナーベクターが、細胞の前記予め定義されたゲノム位置と異なる位置で組み込まれていることを示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程ii)の前記ドナーベクターの対象である前記核酸配列が、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項2から7のいずれか一項に従属するとき、前記切除される核酸配列が、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含有する前記少なくとも1つの発現カセットを欠く、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程ii)の前記ドナーベクターが、
f.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I3;及び
g.プロモーター核酸配列P2
を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に従属するとき、n個の追加のドナーベクターの、前記真核生物の細胞の前記予め定義されたゲノム位置への連続的標的組込みを行う工程を更に含み、
nが、1以上の整数であり;
(A)
VIII.請求項5の工程v)において単離された、又は請求項6若しくは7の工程vii)において単離された前記細胞を用意する工程;
IX.
A. 前記第一のDNA酵素の存在で、前述の工程において提供される細胞に存在する前記対応する核酸配列I3を用いて組み換える能力がある核酸配列I4;
B.対象である核酸配列;
C.核酸配列E2;
D.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;及び
E.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセット;
F.任意選択で、第一のDNA酵素及びプロモーター核酸配列P1の認識部位を含む核酸配列I1
を含むドナーベクターを用意する工程;
X.第一のDNA酵素の存在下で、工程II)のドナーベクターを前記細胞に導入する工程であって、前記第一のDNA酵素の存在が、前記ドナーベクターの前記核酸配列I4と前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置に存在する前記核酸配列I3との間での組換えを可能にする、前記工程;
XI.前記細胞における前記第一の選択マーカーの前記発現を検出することによって、前記予め定義されたゲノム位置に組み込まれた前記ドナーベクターを有する細胞を選択する工程であって、前記第一の選択マーカーの前記発現が、前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置での前記プロモーター核酸配列P2によって活性化される、前記工程;
XII.前述の工程において選択された前記細胞を単離する工程;
XIII.第二のDNA酵素の存在下で、工程Vにおいて単離された前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置から、前記核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列を切除する工程であって、前記第二のDNA酵素の存在が、前記核酸配列E1とE2との間での組換えを可能にし、前記細胞における前記核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列の存在が、前記ドナーベクターの、前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置への安定な組込みの指標である、前記工程;
XIV.細胞を単離する工程であって、前記配列E1及びE2が隣接している前記核酸配列が、工程Vにおいて単離される前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置から切除されている、前記工程
を含む、第一の追加のドナーベクターを前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置に組み込む工程;
(B)但し、nが、前述の工程において単離された前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれた追加のドナーベクターの数より大きく、
III.前述の工程で単離された、前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれた前記核酸配列I1を含む細胞を用意する工程;
IV.請求項1又は10に記載の工程ii)、請求項1に記載の工程iii)~iv)、請求項1又は5に記載の工程v)、請求項2から4又は6のいずれか一項に記載の工程vi)、及び請求項6又は7に記載の工程vii)を行う工程
を含む、追加のドナーベクターを前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置に組み込む工程;
(C)但し、nが、前述の工程において単離された前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれた追加のドナーベクターの数より大きく、
III.前述の工程(B)を行うことによって得られた、前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれた前記核酸配列I3を含む前記細胞を用意する工程;
IV.前記細胞が、前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれたn個の追加のドナーベクターを有するまで、工程(A)II~(A)IX及び工程(B)を繰り返す工程
を含む、追加のドナーベクターを前記細胞の前記予め定義されたゲノム位置に組み込む工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
- 請求項1に記載の工程i)の細胞が、n個の予め定義されたゲノム位置を含み、それぞれが、それぞれ、核酸配列I、I1
1~I1
nを含み、前記I1
1~I1
nが、互いに異なり;
- 請求項1に記載の工程ii)が、1~n個のドナーベクターを用意する工程を含み、前記1~n個のドナーベクターのそれぞれが、それぞれ、核酸配列I2
1~I2
nを含み、前記第一のDNA酵素の存在下で、前記ドナーベクターの前記対応するI1
1~I1
n核酸配列を用いて組み換える能力があり、前記1~n個のドナーベクターのそれぞれが、第一の選択マーカーSM
1~SM
nを含み、SM
1~SM
nが、互いに異なり;
- 請求項1に記載の工程iv)が、前記1~n個のドナーベクターを前記細胞に導入する工程を含み;
- 請求項1に記載の工程v)が、前記細胞における前記異なる第一の選択マーカーSM
1~SM
nのそれぞれを検出することによって、その対応する予め定義されたゲノム位置で組み込まれた前記1~n個のドナーベクターのそれぞれを有する細胞を選択する工程を含み;
nが、2以上の整数である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の工程ii)のドナーベクターが、
f.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I3;及び
g.プロモーター核酸配列P2
を更に含み、
前記切除される配列が、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含有する前記発現カセットを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記第一のDNA酵素がリコンビナーゼである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
(a)I1が、2つのリコンビナーゼ認識部位バリアントI1a及びI1bを含み;
(b)I2が、2つのリコンビナーゼ認識部位バリアントI2a及びI2bを含み;
(c)I1aが、I2aを用いて組み換える能力があり、I1bが、前記第一のDNA酵素の存在下で、I2bを用いて組み換える能力がある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
I1aが、I2aと同一であり、I1bが、I2bと同一である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
I1a、I1b、I2a及びI2bが、それぞれ、loxP、rox若しくはFRT又はそのバリアントから選択され、前記第一のDNA酵素が、それぞれ、Creリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼ及びFLPリコンビナーゼからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(a)I1が、単一のリコンビナーゼ認識部位を含み;
(b)I2が、単一のリコンビナーゼ認識部位を含み;
(c)I1及びI2が、前記第一のDNA酵素の存在下で組み換える能力がある、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
I1によって構成される前記リコンビナーゼ認識部位が、I2によって構成される前記リコンビナーゼ認識部位とは配列が異なる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記リコンビナーゼ認識部位が、attB、attP又はそのバリアントから選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記リコンビナーゼが、PhiC31若しくはBxb1リコンビナーゼ又はその変異体である、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記第一のDNA酵素が、遺伝子編集ヌクレアーゼである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
(a)I1が、前記遺伝子編集ヌクレアーゼの切断部位並びに2つの配列領域LHA1及びRHA1を含み;
(b)I2が、LHA1及びLHA2に相同な2つの配列領域LHA2及びRHA2を含み;
(c)I1及びI2が、前記第一のDNA酵素の存在下で、組み換える能力がある、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記遺伝子編集酵素が、(i)Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN);(ii)メガヌクレアーゼ等の、ホーミングエンドヌクレアーゼ;(iii)TALENS及び(iv)CRISPR/Cas9等の、DNA又はRNAガイドヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項22から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記核酸配列E1及びE2が、それぞれ、loxP、rox若しくはFRT又はそのバリアント等の、同一のリコンビナーゼ認識部位であり、但し、E1及びE2が、I1及びI2と異なる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記第二のDNA酵素が、Creリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼ及びFLPリコンビナーゼからなる群から選択され、但し、前記第一のDNA酵素が、Creリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼ又はFLPリコンビナーゼではない、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記プロモーター核酸配列P1及び/又はP2が、前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれたとき、スプリットイントロンの前記5'部分に機能的に融合される、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記切除される核酸配列が、
(a)第一の選択マーカーをコードする前記核酸配列;
(b)前記プロモーター核酸配列P1若しくはP2;及び/又は
(c)第二の選択マーカーをコードする前記発現カセット
を含む、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記第一の選択マーカーが、(i)蛍光タンパク質及び(ii)異種性細胞表面マーカーの群から選択される、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記第一のDNA酵素が、プラスミド、mRNA又は精製されたタンパク質の形態で提供され、任意選択で、前記第一のDNA酵素が、前記ドナーベクターによってコードされ、それから発現される、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記第二のDNA酵素が、プラスミド、mRNA又は精製したタンパク質の形態で提供される、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
工程ii)の前記ドナーベクターが、第二のDNA酵素をコードする発現カセットを更に含み、前記第二のDNA酵素の前記発現が、前記ドナーベクターが、工程i)の細胞の予め定義されたゲノム位置に組み込まれたとき、活性化されている、請求項1から5又は8から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記第一のDNA酵素が、工程i)の細胞の前記予め定義されたゲノム位置に存在する前記第一のDNA酵素をコードする発現カセットから発現される、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記真核生物細胞が、酵母細胞、糸状菌細胞、植物細胞、昆虫細胞又は哺乳類細胞からなる群から選択される、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか一項に記載の方法によって得られ得る、単離された真核生物細胞。
【請求項36】
組換えタンパク質を産生する方法であって、
i)請求項1から34のいずれか一項に記載の方法を行うことによって、予め定義されたゲノム位置に組み込まれた1つ又は複数の対象である核酸配列を含む単離された真核生物細胞を得る工程であって、少なくとも1つの対象である核酸配列が、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含む、前記工程;
ii)工程i)の前記細胞において、対象である前記遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する工程;及び
iii)工程ii)の前記タンパク質を単離する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質の産生のための最適化された発現系の分野に関する。より具体的には、それは、ドナーベクターの、真核生物の宿主細胞ゲノムの特定の予め定義されたゲノム位置への標的組込みを利用する細胞ベースの方法に関し、前記ベクター及び宿主細胞は、ドナーベクターを宿主細胞ゲノムの予め定義されたゲノム位置に組み込んだそれらの細胞を選択的に選択し、ゲノムの他の部分への任意の追加の無作為な組込み事象を受けた細胞を検出し、取り除くことを可能にする核酸成分を含む。
【背景技術】
【0002】
過去30年の間に、組換えタンパク質治療は、市販薬の中でも新しいものから優占的な地位へと進化した。治療タンパク質の組換え生成は、毎年1000億ドルの市場規模を上回り、世界経済並びに高度医療において重要な役割を果たす。治療タンパク質の種類は、組換えタンパク質(インスリン、成長因子、サイトカイン及び血液因子)、ワクチン(抗原、VLP)並びにモノクローナル抗体を含む。ずば抜けて独占的な形態は、モノクローナル抗体である。組換えタンパク質の一部は、大腸菌(E. coli)等の単細胞微生物において産生され得るが、モノクローナル抗体の種類を含むより複雑なタンパク質については、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が、産生のための独占的な宿主である[1、2]。
【0003】
今日の産業において高性能の治療タンパク質を産生する細胞株を生成する主なアプローチは、組換えタンパク質遺伝子を無作為な組込みアプローチを介して宿主CHO細胞株のゲノムに導入し、十分に高い転写を生じ、同時に、高いタンパク質翻訳及び分泌を支持する能力がある表現型を有する、コピー数で活性なゲノム部位で組み込まれた遺伝子を有する個々の細胞を選択/スクリーニングすることである。これは、高い固有の不確実性及び生物学上のバリエーションを伴う、大変集中のいる作業であり、時間のかかるプロセスである。典型的なプロセスの期間は、宿主細胞の成長、行われる自動操作のレベル及び終了点(例えば、長期間のクローン安定性の評価が含まれる場合)に依存して、3~12ヶ月に渡る。
【0004】
無作為な組込みアプローチに付随する1つの基本的な制限は、低いサンプリングであり、これは、遺伝子導入された細胞プールにおける細胞多様性である。遺伝子導入された細胞のおよそ0.1~1%のみが、組換えDNAを組み込む。更に、この亜集団は、組み込まれたDNAの組込み位置、コピー数及び統合性に関して非常に不均一である。高いゲノム及びエピ-ゲノム可塑性に起因してCHO細胞に固有である、CHO細胞の固有の全般的な表現型多様性の付加が、高い産生クローンを見出すことはある意味至難のわざである。これは又、非クローン性の安定なプールからのタンパク質産生における高い変動が一般的に観察される理由である(表現型多様性の確率論的サンプリング)。
【0005】
このサンプリング不足及び高い生物学的ノイズは又、発現の最適化のための治療タンパク質候補の異なる遺伝子カセット設計の比較を困難にする。安定なプールの並行する生成を介した複数のバリアントの比較は、大変集中のいる作業であり、高い生物学的ノイズは、結果を信頼できないものにするだろう。バリアントライブラリーの同時トランスフェクションの使用は、無作為な組込みが、典型的には、発現ベクターの複数のコピーの組込みをもたらし、ゆえに、このようなワークフローを介して生成された任意の細胞が、典型的には、1つより多くの遺伝子カセット設計から組み込まれたコピーを含有するであろうという事実によって妨害される。エフェクター遺伝子の無作為な組込みに基づく細胞株操作ストラテジーによるタンパク質発現の改善は、同じ理由によって妨害される。
【0006】
上記の制限の全てに対する1つの可能性のある主要な改善は、対象である遺伝子(GOI)の標的組込み(部位指定組込み;SDI)を利用することである。このような筋書きでは、高く、安定な転写を支持することが知られている、予め同定されたゲノム位置は、GOIの標的先として使用される。ヌクレアーゼ又はリコンビナーゼ等の同時遺伝子導入された核酸酵素の使用を含む、予め導入された配列とベクター設計とのスマートな組合せの使用は、標的挿入を促進し、培養中の全ての細胞が、正しく挿入されたGOIを含有し、ゆえに、高い転写率を有することを確実にする。これは、細胞株の開発(CLD)のスクリーニング作戦に必要なクローン数を有意に低減し、遺伝子カセット設計又は細胞株操作労力の比較における生物学的ノイズを低減するであろう。標的組込みのための複数の技術的解決が、当該技術分野において記載されている[3~6]。しかしながら、それにも関わらず、課題は残ったままである。
【0007】
標的組込みを利用する全てのストラテジーの一般的な課題は、典型的な解決が単一GOIコピーの組込みをもたらすことであるため、GOIの高い十分な発現を生成することである。当該技術分野において記載される入手可能な解決の他の課題及び制限は、以下に概説される。
【0008】
標的組込みに対するFlp-Inシステム(フリッパーゼリコンビナーゼとも呼ばれる、Flp/フリッパーゼリコンビナーゼに基づく)[7]は、予め定義されたゲノム位置での標的組込みを可能にするための、そのリコンビナーゼとの組合せで単一のリコンビナーゼ認識配列を利用する解決の例である。リコンビナーゼの作動後、完全な発現ベクターは、リコンビナーゼ認識配列で組み込まれる。リコンビナーゼ認識部位での組込みは、ひとつの選択マーカーを不活性化し、第二の選択マーカーを活性化するので、正しい組込み事象を有する細胞を選択することができる。この解決での主要な欠点は、(i)無作為な組込み事象による発現ベクターの組み込まれた追加のコピーを有する細胞を検出するか、又は取り除くメカニズムが存在しないこと、(ii)GOIの発現が陰性であり得る、プラスミド骨格配列及び活性な選択マーカー遺伝子等の、配列領域を取り除くメカニズムが存在しないこと、並びに(iii)組込み中の選択マーカーの活性化が、その機能性に影響し得る、N末端での余分なアミノ酸の融合をもたらすので、方法が、選択マーカーの選択における疑わしい可動性を有することである。
【0009】
標的組込み後のGOI発現に対して潜在的に負の影響を有する配列の存在を回避するために、予め定義されたゲノム位置でのカセット交換反応のための異なる解決が、当該技術分野において記載されている[3~6]。このような解決の例は、Rentschlerによって開示されている[8]。予め定義されたゲノム位置は、共に、同じリコンビナーゼの標的である2つの直交性リコンビナーゼ認識配列が隣接する、活性な選択マーカー遺伝子(GFP)を利用する。同様に、発現ベクター中のGOIに、2つのリコンビナーゼ認識配列が隣接し、これが、ゲノムに存在する2つと一致する。リコンビナーゼの作動の際、選択マーカーカセットとGOIカセットとの間でのカセット交換が生じ得る。カセット交換を受けている細胞は、GFP発現が存在しないことによって選択することができる。この種の解決の欠点は、(i)無作為な組込み事象によって組み込まれた発現ベクターの追加のコピーを有する細胞を検出するか、又は取り除くメカニズムが存在しないこと、(ii)カセット交換を受けている細胞の選択が、最初は活性な遺伝子産物が存在しないことに基づくため、選択の時間点が、GFPの分解/希釈を可能にするよう遅らせなければならないことである。
【0010】
Haghighat-Khah REらは、昆虫、すなわち、アエデス・アエジプティ(Aedes aegypti)蚊及びプルテラ・キシロステラ(Plutella xylostella)蛾における2工程部位特異的カセット交換システムを開示する[9]。この交換システムは、予め定義されたゲノム位置での発現ベクターの組込みのためphiC31リコンビナーゼを利用し、続いて、プラスミド骨格配列の発現のため、第二のリコンビナーゼ(Cre又はFlp)を使用する。しかしながら、Haghighat Khah REらの交換システムは、標的組込みと無作為な組込み事象とを区別する手段をもたらさない。加えて、選択マーカー遺伝子を除去する手段も提供されていない。
【0011】
Yuan, Yらは、標的細胞のゲノムに天然に存在する偽attP配列へのPhiC31介在性遺伝子送達を利用した選択マーカー及びベクター骨格を含まない遺伝子導入細胞を生成するためのリコンビナーゼベースの方法を開示する[10]。組込みが生じた細胞の選択は、発現ベクターにおける活性なeGFP発現カセットの存在を介して達成され、標的組込みの際に不活性化されるatt-B-TK融合遺伝子は、第二の選択工程において無作為な組込み事象を除去するための負の選択マーカーとして使用された。選択システム及びプラスミド細菌骨格は、その後、2つの他のリコンビナーゼCre及びDreを使用することによって切除された。1つの予め定義されたゲノム位置への組込みに基づく組換えタンパク質産生適用の採用のための、Yuan, Yらによって開示される方法における重大な欠点は、(i)不活性なTK遺伝子が、両方の筋書きから生じるため、方法は、予め定義された位置でのみ組込みを受けた細胞を、予め定義された部位と無作為な偽attP部位の両方での組込みを受けた細胞から区別する手段をもたらさないこと、(ii)時間を必要とする、選択マーカーの一過性の発現が消えるまで、第一の選択工程を行うことができないこと、(iii)第一の選択工程が、所望される組込み、偽attP部位での組込み又は無作為な組込み事象を区別しないことである。
【0012】
したがって、組換えタンパク質の産生のための改善された発現系を同定することが、当該技術分野において依然として必要である。この点に関して、以下の望ましい特性:
(a)無作為な組込みの解決との対で、GOI発現レベルを支持する能力、
(b)予め定義されたゲノム位置で組込みを受けた細胞の迅速かつ特異的な選択、
(c)更に、所望されない組込み事象を受けた細胞を検出し、取り除くための手段、
(d)単離された細胞におけるGOI発現に対する負の作用を有し得る配列の存在を回避する手段
を単一の解決に組み合わせるために既存のSDIシステムを改善することが、当該技術分野において必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題は、本明細書において更に提示される方法及び手段の提供によって、ここで解決されるか、又は少なくとも減ぜられる。
【0014】
本開示は、単一コピーのドナーベクターの、単離された真核生物の宿主細胞の予め定義されたゲノム位置への部位指定組込み(SDI)を利用した組換えタンパク質産生のための新規解決を提供する。本開示のSDIベースのシステムは、ドナーベクターの宿主細胞の専用の標的部位への効率的な組込みのための十分に確立された核酸成分の固有かつ発明の組合せに基づく。方法は、ドナーベクターを専用の予め定義されたゲノム位置に組み込んだ宿主細胞の特異的な正の選択を提供する。方法は又、負の選択による、所望されない組込み事象が、宿主細胞ゲノムの他の位置で生じた任意の細胞を検出する工程及び任意選択で取り除く工程を提供する。この2工程の選択方法は、固有であり、組換えタンパク質産生の分野で非常に有用となるであろう。
【0015】
本明細書において既に述べられた通り、細胞株の開発の改善、柔軟な細胞株エンジニアリング、遺伝子コンストラクトライブラリーの同時プロービング等の、高度な応用を可能にするために不可欠な要素は、宿主細胞株への組換え遺伝子組込みの制御を増大させ、それらのコピー数をより良好に制御することである。これは、ここで、本開示により提供される。
【0016】
推定ホットスポット位置は同定されているが、SDIシステムは、ヒト細胞等の哺乳類細胞を含む、任意の真核生物細胞システムに適用可能であるべきであるため、最初に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用して、本明細書において提示される方法を設定した。
【0017】
したがって、第一の態様では、本開示は、ドナーベクターの、真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への標的組込み方法に関し、前記方法は、
i) a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1;
b.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E1;及び
c.プロモーター核酸配列P1;
を含む予め定義されたゲノム位置を含む、真核生物細胞を用意する工程;
ii)
a.核酸配列I2;
b.対象である核酸配列;
c.前記第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E2;
d.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;及び
e.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセット;
を含む、ドナーベクターを用意する工程;
iii)ドナーベクターを細胞と第一のDNA酵素の存在下で接触する工程であって、第一のDNA酵素の存在が、ドナーベクターの核酸配列I2と細胞の予め定義されたゲノム位置に存在する核酸配列I1との間での組換えを可能にする、前記工程;
iv)細胞における第一の選択マーカーの発現を検出することによって、予め定義されたゲノム位置で組み込まれたドナーベクターを有する細胞を選択する工程であって、第一の選択マーカーの発現は、予め定義されたゲノム位置でプロモーター核酸配列P1によって活性化される、前記工程;並びに
v)前述の工程において選択された細胞を単離する工程
を含む。
【0018】
さらなる態様では、本開示は、本明細書において記載される方法によって得られる単離された真核生物の細胞に関する。
【0019】
なおさらなる態様では、本開示は、組換えタンパク質を生成するための、本明細書において記載される方法によって得られる単離された真核生物細胞の使用に関する。
【0020】
なおさらなる態様では、本開示は、組換えタンパク質を生成する方法に関し、本方法は、
i)本明細書において開示される方法を実施することによって、予め定義されたゲノム位置に組み込まれた対象である1つ又は複数の核酸配列を含むドナーベクターを含む単離された真核生物細胞を得る工程、対象である少なくとも1つの核酸配列は、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含む;
ii)工程i)の前記細胞において、対象である遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する工程;及び
iii)工程ii)のタンパク質を単離する工程
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1-1】
図1。直交性特異性を有する少なくとも2つのDNA酵素の使用を介した、ドナーベクターの、宿主細胞の予め定義したゲノム位置への標的組込み方法の一般的な概念の略図を示す図である。
【
図2】着地パッド設計(宿主細胞ゲノムの予め定義したゲノム位置に存在する核酸配列)並びにLP1P1及びHyClone LP2P2細胞株のためのマッチングドナーベクターの略図を示す図である。
【
図3】遺伝子導入されていない対照(NC)と比較した、トランスフェクション後7日目のフローサイトメトリープロットの例を説明する図である。濃縮された主要な集団を有するプロット中の細胞の密度を、黒色と白色の領域(それぞれの領域における総細胞の20%)を互い違いにすることにより可視化する。上部の列は、HyClone CHO細胞の非トランスフェクション対照(NC)培養物のFACSデータを示す。中程の列は、ドナーベクターBのみ(PhiC31を有さない)を遺伝子導入したHyClone CHO細胞(LPを欠く)に基づく無作為な組込み対照(RI)のFACSデータを示す。下部の列は、PhiC31及びドナーベクターB(SDI)を遺伝子導入したHyClone CHO LP2P2細胞株のFACSデータを示す。それぞれの列の中程のプロットにおけるゲート(B、D、F)は、遺伝子導入されていない対照に基づくセットであり、バックグラウンドより高く選択マーカーを活性化している細胞のパーセンテージを報告する。
【
図4】使用した着地パッド細胞株及びドナーベクター並びにPhiC31(1)及びCre(2)の活性を介して生じると予測される着地パッドでの変化の略図を示す図である。
【
図5】陰性偽トランスフェクション対照と比較して、Creリコンビナーゼバリアントのトランスフェクション後7日目のSDI集団のフローサイトメトリープロットを示す図である。濃縮された主要な集団を有するプロット中の細胞の密度を、黒色と白色の領域(それぞれの領域における総細胞の20%)を互い違いにすることにより可視化する。上部のパネルは、Creリコンビナーゼをコードする核酸分子を欠く偽トランスフェクションのプロットを示し、中程のパネルは、Creリコンビナーゼ発現プラスミドで遺伝子導入した集団のプロットを示し、下部のパネルは、合成CreリコンビナーゼmRNAで遺伝子導入した集団のプロットを示す。
【
図6】使用した着地パッド細胞株及びドナーベクター並びにPhiC31リコンビナーゼ(1)及びCreリコンビナーゼ(2)の活性を介して生じると予測される着地パッドでの変化の略図を示す図である。
【
図7】
図6により行った工程からのフローサイトメトリープロットを示す図である。濃縮された主要な集団を有するプロット中の細胞の密度を、黒色と白色の領域(それぞれの領域における総細胞の20%)を互い違いにすることにより可視化する。上部のパネルにおける左のプロットは、2回目のeGFP(緑色蛍光タンパク質)陽性選別後の集団を示す。上部のパネルにおける中程のプロットは、Creリコンビナーゼトランスフェクション後7日目の集団を示す。上部のパネルにおける右のプロットは、Creリコンビナーゼトランスフェクション後のゲートEにより行ったeGFP陰性選別後の集団を示す。下部のパネルは、DNAドナーベクターBを用いた工程2の選別細胞のトランスフェクション後7日目の集団のプロットを示す。
【
図8】使用した着地パッド細胞株及びドナーベクターの略図を示す図である。GSx=グルタミン合成酵素遺伝子バリアント。
【
図9】ドナーベクターのSDIを使用した細胞集団の生成のフローサイトメトリープロットを示す図である。濃縮された主要な集団を有するプロット中の細胞の密度を、黒色と白色の領域(それぞれの領域における総細胞の20%)を互い違いにすることにより可視化する。上部のパネルは、G418選択、RFP(赤色蛍光タンパク質)陽性FACS選別及び合成CreリコンビナーゼmRNAでのトランスフェクションを経た集団のプロットを示す。RFP陰性亜集団(TagRFP-TのCreリコンビナーゼ介在性切除を用いた着地パッドでの組込みに相当する)とRFP陽性亜集団(着地パッドでのオフターゲット組込み又は切断型組込みによって引き起こされ得る、TagRFP-TのCreリコンビナーゼ介在性切除の失敗に相当する)との両方についてのeGFPヒストグラムを示す。下部のパネルは、上部のパネルのRFP陰性/GFP陽性細胞のFACSソートを使用して生成した最終SDIプールのプロットを示す。
【
図10-1】
図10。IRESエレメントを介して前記第二のDNA酵素をコードする遺伝子に連結した前記ドナーベクターの第一の選択マーカーを示す図である。第一の選択マーカーと第二のDNA酵素との両方を、予め定義したゲノム位置での組込みの際に活性化する。
【
図11-1】
図11。予め定義したゲノム領域が、前記第一のDNA酵素の発現カセットをも含み、予め定義したゲノム位置でドナーベクターを組込むと、前記第二のDNA酵素の認識部位が隣接するようになり、したがって、前記第二のDNA酵素の存在下で取り除かれ得るように配置されている場合を示す図である。
【
図12-1】
図12。遺伝子編集酵素を使用して、ドナーベクターの、宿主細胞ゲノムの予め定義したゲノム位置への組込みを触媒する、標的組込みのバリアントを例示する図である。
【
図13-1】
図13。リコンビナーゼ介在性カセット交換(RMCE)を使用して、宿主細胞ゲノムの予め定義したゲノム位置での組込みを触媒する、標的組込みのバリアントを示す図である。
【
図14-1】
図14。単一のリコンビナーゼ認識部位対を使用して、宿主細胞の予め定義したゲノム位置でのドナーベクターの組込みを触媒する、標的組込みのバリアントを示す図である。
【
図15-1】
図15。予め定義したゲノム位置での組込みを触媒するための単一リコンビナーゼ認識部位対の使用を示し、予め定義したゲノム位置に存在するプロモーターP1を、スプリットイントロンの5'部分に機能的に融合させる図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、ここで、添付の図面及びいくつかの非限定的な実施例と関連してより詳しく記載される。
【0023】
定義
本開示の詳細は、以下で説明される。本明細書において記載されるものと同様又は均等な任意の材料及び方法を、本発明の実施又は試験において使用するが、好ましい材料及び方法が記載される。本明細書において使用される全ての語句及び用語は、別の意味が、内容から明らかでない限り、当業者によってそれらに通常付与されるのと同じ意味を有するとみなされるだろう。
【0024】
1つ又は複数の列挙される構成要素「を含む」組成物は又、具体的に列挙されない他の構成要素を含んでもよい。
【0025】
単数形の「a」及び「an」は、複数も含むとして構成されるだろう。
【0026】
「発現」は、遺伝子からのタンパク質の産生を意味するために使用され、本明細書において、「セントラルドグマ」の工程、すなわち、転写、翻訳及び活性状態のタンパク質に達するためのタンパク質フォールディングの成功した作用を指し、含む。
【0027】
本明細書において定義される場合、「発現ベクター」は、宿主細胞に存在するとき、ベクターからのタンパク質発現を達成するための核酸配列を含むベクターである。本明細書において、発現ベクターを使用して、例えば、対象である特定の遺伝子を細胞に導入し、その後、対象である遺伝子によってコードされる対象であるタンパク質を産生するためのタンパク質合成のための細胞機構を指示する。発現ベクターは、「発現カセット」を含有することができ、前記発現カセットは、タンパク質発現を促進するための核酸配列を含有する。加えて、ベクターは、他の核酸配列エレメント又は成分を含有してもよい。
【0028】
本明細書に言及される、「ドナーベクター」は、ベクターの、単離された真核生物の宿主細胞の予め定義されたゲノム位置への組込みを促進するための核酸エレメント又は成分を含む、ベクター、好ましくは、DNAベクターである。ドナーベクターは、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置に存在する核酸配列、対象であるタンパク質を任意選択でコードする対象である核酸配列、第二のDNA酵素の認識部位及び第一の選択マーカーをコードする核酸配列を有する、組換え事象を促進する核酸配列を有する。任意選択で、それは又、第二の選択マーカーのための発現カセットを含有してもよい。「ドナーベクター」は又、ときに、本明細書において、「ベクター」として言及されてもよい。「ドナーベクター」は、ときに、ドナーベクターが、第二の選択マーカーをコードする発現カセットを含むとき等の、発現ベクターの形態であってもよい。より具体的には、本明細書に記載されるドナーベクターは、真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置に存在するI1との組換えのための少なくとも核酸配列I2を含有する。加えて、それは、対象である前記核酸が、対象であるタンパク質をコードする場合、本明細書において対象である遺伝子(「GOI」)としても言及される、対象である前記核酸配列を含む。それは又、ドナーベクターの安定な組込みが、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置で生じたら、ベクター骨格の部分を切除することを可能にする、第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E2を含む。それは又、ドナーベクターが、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置における正しい位置に組み込まれている場合にのみ、達成される発現である、第一の選択マーカー(SM1)をコードする核酸配列を含有する。最後に、ドナーベクターは、第二の選択マーカー(SM2)をコードする発現カセットを任意選択で含む。第二のDNA酵素の作用後、第二の選択マーカーは、ベクターの無作為な組込み事象が生じ、本方法の選択の第二ラウンドで使用される場合のみ、細胞において発現され、指示することが可能になるであろう。ドナーベクターは、好ましくは、DNAドナーベクターであるが、これに限定されない。DNAドナーベクターは、ときに、「DDV」と略される。
【0029】
「発現カセット」は、対象であるタンパク質の転写及び翻訳の開始に必要とされる全てのエレメントを含有する発現ベクターの一部を形成する核酸成分である。対象であるタンパク質をコードする対象である遺伝子は又、発現カセットの一部を形成する。発現カセットは、例えば、転写の開始に必須のプロモーター、及びエンハンサー配列等の、転写を促進する他の配列を含有する。ときに、第二のDNA酵素の作用後に予め定義されたゲノム位置に留まるドナーベクター由来の核酸配列に対応する、用語「組込みカセット」が、本明細書において使用される。「組込みカセット」は、「発現カセット」を含んでもよい。
【0030】
本明細書において、対象である「1つの」遺伝子は、対象であるタンパク質を産生するために必要とされる核酸成分を指し、対象であるタンパク質が、複数のポリペプチド鎖を含み得るため、同じ発現カセットに存在する、対象である複数の遺伝子を指すこともできる。対象である複数の遺伝子を含有する発現カセットは、個々の遺伝子の転写を達成するために個々のプロモーターを利用し得るか、又は2つ以上の遺伝子は、すなわち、IRESエレメントによって分けられる個々の遺伝子と共通のmRNAとして転写され得る。これは、本明細書において、「a」が使用されるときはいつも、これは、複数を指し得ることに則している。発現カセットが、1つより多くの対象である遺伝子を含むときの例は、抗体が、対象である遺伝子から発現されるべきときであり、例えば、軽鎖及び重鎖抗体は、発現カセットの別個の遺伝子として存在する。
【0031】
「イントロン」は、一旦転写され、最終RNA生成物の産生中に、RNAスプライシングによって取り除かれる遺伝子である核酸配列である。イントロンは、RNA転写物の非コード領域、又はそれをコードするDNAであり、翻訳前のスプライシングによって除去される。
【0032】
本明細書において、スプリットイントロンの5'部分に機能的に融合されたプロモーターは、スプリットイントロンの5'部分の転写が、前記プロモーターによってもたらされることを意味する。本明細書において、スプリットイントロンの5'部分は、スプライスドナー部位配列(例えば、GT)を含むと定義される。本明細書において、スプリットイントロンの3'部分は、(i)スプライスブランチ部位配列、(ii)Pyリッチな配列領域及び(iii)スプライスアクセプター部位配列(例えば、AG)を含むと定義されてもよい。
【0033】
転写は、細胞機構によるDNAのRNAへの転換を含む。「転写制御配列」は、特定の遺伝子の最終的な発現を増加させるか、又は減少する能力がある核酸配列のセグメントであり、すなわち、前記配列は、前記遺伝子の転写を制御する能力がある。転写制御配列の例は、プロモーター、エンハンサー及び同様のエレメントである。
【0034】
翻訳されない領域(「UTR」)は、mRNAの鎖上のコード配列のそれぞれの側にある2つのセクションのいずれかを指す。5'側で、それは5'UTRと呼ばれ、3'側で、それは3'UTRと呼ばれる。
【0035】
本明細書において言及される、上流のオープンリーディングフレーム(uORF)は、mRNA分子の5'の翻訳されない領域(5'UTR)内のオープンリーディングフレーム(ORF)である。uORFは、真核生物の遺伝子発現の制御に一般的に関与する。uORFの翻訳は、典型的には、初代ORF(オープンリーディングフレーム)の下流の発現を阻害し、したがって、これを提示するとき、タンパク質発現の低減を引き起こす。ヒト遺伝子のおよそ半分は、これらの領域を含有する。
【0036】
配列内リボソーム進入部位(「IRES」)は、capに依存した方法で翻訳の開始を可能にする、RNAエレメントである。それらは、しばしば、真核生物のリボソームをmRNAに動員することができる、RNA分子の領域の別個の領域として言及される。IRESエレメントの位置は、しばしば、5'UTR領域にあるが、それは、mRNAにおけるその他の場所で生じ得る。
【0037】
「プラスミド」は、細胞の、独立して複製し得、細菌において見られる、小さい環状染色体外DNA分子である。プラスミドは、しばしば、分子クローニング、すなわち、選択されたDNAを宿主細胞に伝達し、導入するためのベクターとして使用される。プラスミドは、特定かつ必須のエレメントから構築され、細菌宿主細胞に同種又は異種であり得る遺伝子を含有し得る。プラスミドは、例えば、細菌の複製起源を常に含有し、最も頻繁には、特定の抗生物質抵抗性の遺伝子を含有する。
【0038】
本明細書において言及される、「対象である核酸配列」は、人が、細胞に組み込んで、前記細胞の機能性に影響を与えることを望む、核酸配列として定義されてもよい。それは、対象であるタンパク質をコードする、対象である遺伝子(「GOI」)を含んでもよい。
【0039】
本明細書において述べられる「組換え」タンパク質とは、発現ベクターによって細胞に導入された発現カセットから製造されたタンパク質が意味される。組換えタンパク質を生成する技術は、当業者に周知である。
【0040】
「プロモーター」は、遺伝子の転写を、RNAポリメラーゼのそれへの結合の際に開始する、DNAの領域である。プロモーターは、遺伝子の転写開始部位近くに位置する。
【0041】
本明細書において言及される、「宿主細胞」は、本明細書において開示されるドナーベクターによって形質転換されることが意図されるか、又は形質転換されている、真核生物細胞に関する。
【0042】
「単離された細胞」、「単離された宿主細胞」又は「単離された真核生物宿主細胞」は、その自然環境から単離されている細胞を指し、自然界で生じ得るいかなる追加の成分を含まず、もはやその自然環境の一部ではないことを意味する。
【0043】
本明細書において、ときに「着地パッド」(「LP」と略される)として、又はむしろ着地パッド配列を含む予め定義されたゲノム位置としても言及される「予め定義されたゲノム位置」は、宿主細胞ゲノムにおける特定の核酸配列によって特徴付けられる、位置、又は核酸位置を指すことが意図される。予め定義されたゲノム位置は又、「安全なハーバー部位」及び/又は「組換え部位」として本明細書において言及されてもよい。宿主細胞の予め定義されたゲノム位置において、第一のDNA酵素の存在によって促進される、核酸配列l1とl2との間の組換え事象が生じ、これにより、第一の選択マーカーの発現が開始し、首尾よい組込み事象を示している。基本的に、予め定義されたゲノム位置は、第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列、第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列及びプロモーター核酸配列を含む。
【0044】
本明細書において、「標的組込み」が言及されるとき、このような配列間の組換え事象を促進し、これにより、元の配列からハイブリッドした配列を生成する、核酸配列エレメント又は成分の別の核酸エレメント又は成分への組込み又は導入を意味することが意図される。このような組込み事象は、組換えの基礎を形成する核酸配列エレメント又は成分の任意の1つ又はいくつかにおける酵素認識核酸配列の存在によって誘発される。
【0045】
「酵素の認識部位」は、核酸配列におけるヌクレオチドの特定の組合せを指し、その組合わせは、酵素のそれへの結合を促進する特定の酵素によって認識され、その酵素は、その後、2つの配列間の組換え事象等の、認識部位での作用を開始する。
【0046】
本明細書において言及される、用語「DNA酵素」は、DNA片を切断すること、又はDNAを切断し、別のDNA配列に組み込むこと等の、DNA上で作用する酵素として定義される。この用語は、Crisps/Cas9、リコンビナーゼ、インテグラーゼ、ヌクレアーゼ等の酵素を含むが、本開示は、これらに限定されない。
【0047】
本明細書において言及される、「第一のDNA酵素」は、本明細書において開示される方法において、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置でのドナーベクターの組込みに関与し得る、酵素として機能的に定義され得る。第一のDNA酵素の機能は、取り除くのではなく、核酸配列を予め定義されたゲノム領域に導入することである。第一のDNA酵素は、1つの特定の酵素であり得るか、又は本明細書において開示される方法において使用されるとき、それは、異なる酵素であり得る。これは、例えば、ドナーベクターの組込みが、連続的であり、これにより、複数回繰り返されて、対象/ドナーベクターの核酸配列の複数のコピー/バリアントを宿主細胞の予め定義されたゲノム位置に導入する場合、又は対象である核酸配列の可逆可能な組込みが、おこなわれる場合である。本方法の状況において使用するための「第一のDNA酵素」の例は、本明細書における他の場所で与えられる。
【0048】
本明細書において言及される、「第二のDNA酵素」は、本明細書において開示される方法において、ドナーベクターを組み込んだ予め定義されたゲノム位置から核酸配列領域を切除するのに関与し得る酵素として機能的に定義することができ、前記核酸配列領域に、第二のDNA酵素によって認識される特定の配列に隣接する。第二のDNA酵素が、配列を認識するとき、それは、これらの配列間の核酸配列成分を切断するであろう。本方法の状況において使用するための「第二のDNA酵素」の例は、本明細書における他の場所で与えられる。
【0049】
「第一のDNA酵素の存在下で」及び/又は「第二のDNA酵素の存在下で」は、第一及び/又は第二のDNA酵素が、例えば、ドナーベクター、別々の発現ベクター、細胞のゲノムに存在する発現カセット、合成mRNA等から発現されたタンパク質として、本明細書に記載される任意の形態で提供されることを意味する。「存在下」は、第一のDNA酵素及び/又は第二のDNA酵素の機能は、本明細書において開示される任意の適当な方法でもたらされることを指すことが意図される。
【0050】
本明細書において言及される、「選択マーカー」は、例えば、本状況において、特定の事象が生じたこと、ドナーベクターの組込みが、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置で生じたことを示し得るマーカー(第一の選択マーカー)である。選択マーカーは、しばしば、ドナーベクターが、宿主細胞ゲノムの正しい部位で組み込まれたら、宿主細胞によって発現される蛍光タンパク質である。蛍光タンパク質の発現は、例えば、FACS(蛍光活性化細胞選別)によって検出することができる。他の可能性のある選択マーカーは、本明細書における他の場所で述べられる。
【0051】
本明細書において「SM1」としても略される、「第一の選択マーカー」は、ドナーベクターに存在するとき、サイレントな非活性又はプロモーターのない選択マーカーとして定義することができる。第一の選択マーカーは、予め定義されたゲノム位置に存在するプロモーターと適合する、非コード区間を含有する。ドナーベクターが、予め定義されたゲノム位置における正しい位置に組み込まれると、第一の選択マーカーは、ここで、転写を開始するためのプロモーターを有するため、発現され得る。選択マーカーが発現されると、第一の選択マーカーを発現している細胞集団は、予め定義されたゲノム位置でのドナーベクターの安定な組込みが陽性であるとして選択することができる。第一の選択マーカーは又、本明細書において「レポーター」として言及され得る。適当な第一の選択マーカーの例は、本明細書における他の場所で提供される。
【0052】
本明細書において「SM2」とも略される、「第二の選択マーカー」は、本明細書において開示されるドナーベクターの最適な特性であり、ドナーベクターに存在するとき、非サイレントな活性及び/又は機能的選択マーカーとして定義することができる。選択マーカーは、発現カセットの一部としてコードされ、すなわち、選択マーカーは、細胞への侵入の際に、一過性に発現され、その後、ゲノムにおいて、それが導入された場所と独立して、安定な発現を促進するであろう。第二の選択マーカーは、本明細書において提示される方法の大部分の態様では、負の選択マーカーであり、これは、これらの細胞が(又)、予め定義されたゲノム位置以外の他の場所でドナーベクターを組み込むため、このマーカーを発現する細胞が、好ましくは、組換えタンパク質産生のため使用されないことを意味している。
【0053】
詳細な説明
ドナーベクターの、単離された真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への標的及び検出可能な組込みのための特異的な部位指定組込み(SDI)システムを利用した方法が、本明細書において提供される。加えて、方法は、ドナーベクターの、予め定義された位置以外の、真核生物宿主細胞ゲノムの他の部分への無作為な組込み事象の同定を可能にする。
【0054】
これは、組合せで、宿主細胞ゲノムの標的部位(予め定義されたゲノム位置)でドナーベクターを、好ましくは、宿主細胞ゲノムの他の位置でドナーベクターの追加の無作為な組込みの不存在下で、正に組み込んだ細胞の集団の「二重」選択を提供し、これにより、その後の組換えタンパク質発現のための最適化されたシステムを提供する。方法は、細胞の集団の正の(予め定義されたゲノム位置での組込み)及びその後の負の(無作為な組込み事象の不存在)選択に基づく組み合わせられた選択ストラテジーを使用する。
【0055】
総合的な解決は、高い転写を支持するそれらの能力及びその長期安定性について選択された予め定義されたゲノム位置でのいわゆる「着地パッド」(LP)配列の組込みに基づく。着地パッドは、予め定義された部位への調節された組込み及び所望される組込みのみが生じた細胞の直接選択を可能にするマッチングドナーベクターと一緒に設計される。本明細書において、予め定義されたゲノム位置及び着地パッド/着地パッド配列は、互換的に使用され得る。
【0056】
SDIシステムの基本的な設計は、(i)真核生物宿主細胞の事前標的ゲノム位置に対象である核酸配列を含むドナーベクターの組込み、(ii)少なくとも1つ、又は或いは、2つの直交性選択工程を使用した、予め定義されたゲノム位置に単一コピーのドナーベクターを組み込んだ細胞の選択、及び(iii)任意選択で、予め定義されたゲノム位置でのドナーベクターからの望ましくない配列の除去を可能にする、2つの異なるDNA酵素、例えば、特定のリコンビナーゼと一緒に、2つの種類のDNA酵素認識配列の組合せを使用する。
【0057】
方法の一般的な実行は、
図1において概説される。前記単離された真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置は、(i)第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1、(ii)第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E1及び(iii)開始転写部位を含むプロモーター核酸配列P1を含む。I1、E2及びP1は、2つの対称な5'-3'配列向きO1=[I1、3'-5'方向性を有するP1、E1]又はO2=[E1、5'-3'方向性を有するP1、I1]のいずれかで形成される。ドナーベクターは、(i)前記第一のDNA酵素の存在下でI1を用いた組換えを促進する核酸配列I2、(ii)プロモーターを欠く第一の選択マーカー遺伝子(SM1)、(iii)前記第二のDNA酵素の認識部位E2、(iv)組込みカセットIC及び任意選択で(v)第二の選択マーカー遺伝子(SM2)の活性な発現カセットを含む。SM1、SM2(存在するとき)、E2及びICは、2つの対称な時計回りの向きO3=[I2、IC、E2、SM2、反時計回りの方向性を有するSM1]又はO4=[I2、時計回りの方向性を有するSM1、SM2、E2、IC]のいずれかで形成される。予め定義されたゲノム位置及びドナーベクターに存在する核酸配列エレメントは、2つのマッチング向き(a)O1/O3又は(b)O2/O4のいずれかで常に形成される。
【0058】
完全なドナーベクター又はドナーベクターの一部の、前記単離された真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への組込みは、ドナーベクターを細胞に、第一のDNA酵素の存在下で導入することによって達成され、第一のDNA酵素の存在が、ドナーベクターの核酸配列I2と細胞の予め定義されたゲノム位置に存在する核酸配列I1との間で組換えを可能にする。
【0059】
P1が、SM1遺伝子の転写を達成し、ゆえに、SM1遺伝子産物の発現を達成し得るように、予め定義されたゲノム位置での組込みは、SM1遺伝子に位置する。したがって、予め定義されたゲノム位置に完全なドナーベクター又はドナーベクターの一部を組み込んだ細胞が、SM1の発現を正の選択の基準として使用することによって、選択され、単離され得る。
【0060】
任意選択で、単離された細胞の意図される機能性に潜在的に負の影響を与え得る望ましくない配列は、I1、I2、E1及びE2から組込みカセット(IC)及び残りの配列のみを残す補足工程において、予め定義されたゲノム位置から特異的に取り除かれ得る。
【0061】
予め定義されたゲノム位置の完全なドナーベクター又はドナーベクターの一部の組込みの際に、プラスミド骨格配列(すなわち、細菌におけるプラスミド伝播のための配列)並びにSM1及びSM2のための発現カセット(存在する場合)に、2つの核酸配列E1及びE2が隣接するようになる(
図1を参照のこと)。前記第二のDNA酵素の存在下で、E1及びE2が隣接するこの配列領域は、E1及びE2で作用する第二のDNA酵素を介して予め定義されたゲノム位置から切除される。E1及びE2が隣接する領域を切除されている細胞は、SM1発現の不存在(SM2が、元のドナーベクターに存在しない場合)及び/又はSM2発現の不存在(SM2が、元のドナーベクターに存在する場合)に基づく負の選択工程において選択され、単離され得る。所望されない配列の除去の達成に加えて、予め定義されたゲノム位置外での組込み後にSM1の活性化(非特異的機構を介した)を達成している任意の細胞は、E1及びE2が隣接するSM1を有さず、ゆえに、SM1発現に基づく負の選択工程において選択されないため、この補足選択工程は、予め定義されたゲノム位置に完全なドナーベクター又はドナーベクターの一部を組み込んだ細胞の単離の特異性を常に増加させる。
【0062】
ドナーベクターに存在するSM2を用いて、改善された機能性を有する選択工程が、前記第二のDNA酵素の作用後に行われ得る。SM2が、活性な発現カセットとして提供されるため、所望されないゲノム位置に組み込まれた任意のコピーのドナーベクターは、SM2の発現をもたらすだろう。しかしながら、重要なことに、E1が、予め定義されたゲノム位置においてのみ存在するため、このような組込み事象は、E1及びE2が隣接しているSM2発現カセットにつながらないであろう。ゆえに、E1及びE2が隣接している配列領域の切除につながる前記第二のDNA酵素の作用後、予め定義されたゲノム位置で、かつその位置でのみ単一コピーの組込みカセット(IC)を組み込んだ細胞は、SM2発現の不存在に基づき、負の選択工程で選択され、単離され得る。
【0063】
組込みカセット(IC)は、典型的には、対象である遺伝子(GOI)の発現カセットを含むが、方法の適用は、それに限定されない。
【0064】
特定の実行及び一般的な方法のさらなる例は、予め定義されたゲノム位置に存在し、ドナーベクターに存在する鍵となる配列エレメントの2つの可能な対称な向きのうちの1つのみを使用して、一般的に例示されるが、それに限定されない。
【0065】
設計概念の1つの特定の実行は、着地パッド(LP1P1)及びDNAドナーベクターに注目した
図4において概説される。実行に基づき行われた実験の結果は又、実施例2の実験セクションにおいて説明され、考察される。この実行は、単に、本発明を行う1つの方法の例であるが、それに限定されることは意図されない。
【0066】
したがって、
図4において説明される1つの実行において、真核生物宿主細胞株は、予め定義されたゲノム位置において、リコンビナーゼ PhiC31リコンビナーゼの第一のリコンビナーゼ認識配列(attP1)、3'から5'の向きのプロモーター及びリコンビナーゼCreリコンビナーゼの第二のリコンビナーゼ認識配列(loxP)を含有する。
【0067】
PhiC31リコンビナーゼは、ストレプトマイセス属のファージφC31からもたらされたDNAリコンビナーゼである。この酵素は、2つの核酸配列attBとattPとの間での組換えを仲介することができる。Creリコンビナーゼは又、本システムにおいて使用して、その後、選択システム及びプラスミド細菌骨格を切除する部位特異的リコンビナーゼである。したがって、開始の選択がなされると、Creリコンビナーゼは、ベクター骨格を有用でない配列から「一掃する」として記載され得る。PhiC31リコンビナーゼとCreリコンビナーゼとの両方は、部位特異的組換において使用される周知の酵素である([10])。
【0068】
マッチングDNAドナーベクターは、反時計回りの向きでコードされるプロモーターを欠く第一の選択マーカー(ここで、RFP、赤色蛍光タンパク質によって例示される)、マッチングPhiC31リコンビナーゼ認識配列(attB1)、対象であるタンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセット、Creリコンビナーゼの補足リコンビナーゼ認識配列(loxP)、第二の選択マーカーの完全な機能的発現カセット(任意選択で、ここで、FC-eGFPによって例示される)及びプラスミド骨格(細菌伝播のための配列等を含む)を含む。
【0069】
着地パッド(LP)配列の予め定義されたゲノム位置を含む、PhiC31の発現のためDNAドナーベクター及びベクターを真核生物宿主細胞に同時遺伝子導入することは、遺伝子導入された細胞の分画についてattP1及びattB2のPhiC31介在性組換えを介したLPでのドナーベクターの組込みにつながるであろう。予め定義されたゲノム位置での組込みの際、プロモーターを含まない選択マーカーは、予め定義されたゲノム位置にあるプロモーターによって活性化されるように、位置されるだろう。次いで、第一の選択マーカーの活性を使用して、LPでの組込みを受けた細胞について選択することができる(RFPの場合、FACSを使用して)。適切な選択は、大部分の細胞が、LPで組込まれた単一コピーを有する、細胞のプールを生成しなければならない。しかしながら、細胞の分画は、ゲノム偽attP配列でのDNA修復介在性の無作為な組込み及びPhiC31介在性組込み等のオフターゲット組込み機構を介して組み込まれた追加のコピーを有すると予測される。このような事象に対して選択し、同時に、予め定義されたゲノム位置での選択マーカーカセット及びプラスミド骨格の除去(すなわち、「一掃」)を可能にするために、第二のリコンビナーゼ介在性工程が設計された。
【0070】
予め定義されたゲノム位置が、loxP配列を含有し、DNAドナーベクターが又、戦略的に置かれたloxP配列を含有するため、予め定義されたゲノム位置での組込み事象は、2つのloxP配列が隣接する、両方の選択マーカー(並びにプラスミド骨格等の他の望まれない配列エレメント)を含有するだろう。対照的に、大抵のオフターゲット事象は、loxPに隣接した選択マーカーにつながるべきではない(連結されたドナーベクターの一部の無作為な組込み事象は、隣接した第二の選択マーカー遺伝子につながり得るが、これは、ごく稀であるべきである)。Creリコンビナーゼをコードするベクターの第二のトランスフェクションを使用することによって、loxP配列が隣接している領域は、対応する細胞のゲノムから切除され得る。予め定義されたゲノム位置に組み込まれた単一コピーを有し(オフターゲット組込みを欠く)、並びに除去される望まれない配列エレメントを有する細胞は、選択マーカー活性の不存在(FACSを使用したeGFP活性の不存在)を介して選択することができる。これは又、負の選択による選択と呼ばれる。
【0071】
本明細書において開示される一般的なSDIシステムの一部の鍵となる一般的な理論上の利点は、
(1)単離された細胞が、予め定義されたゲノム位置で、かつその位置でのみ組み込まれた、単一コピーの、すなわち、対象である遺伝子(GOI)を有する所望される結果と異なるという可能性を最小にする選択工程を可能にすることである。これは、生物学的変動を低減し、ゆえに、必要とするスクリーニングを低減するため、CLD作戦において重要である。それは又、CLD作戦から単離された細胞が、プラットフォーム培養プロセスにおいて十分に挙動するという可能性を改善する。発現カセット設計のライブラリーを含むドナーベクター混合物のトランスフェクションに基づく発現カセット設計の最適化のために、細胞の表現型と単一の対応する遺伝子カセット設計との間で、1対1で相関する必要があるため、これは、重大な特性である。
【0072】
(2)細胞株の生産性に関与する配列のみが、保持される。無作為な組込み(RI)に基づく細胞株開発(CLD)の場合にあり得るように、選択マーカータンパク質の発現又は切断型GOIバージョンの発現に細胞源が消費されることはない。GOIの長期発現安定性に対して潜在的に負の影響を有する細菌起源の配列の存在が回避され得る。
【0073】
(3)選択マーカーは、予め定義されたゲノム位置配列の一部ではないため、選択マーカーの選択において柔軟性がある。最適な選択マーカーは、適用に基づき選択することができる。
【0074】
(4)所望される組込み事象は、高い特異性で予め定義されたゲノム位置での組込みを有する細胞の正の選択を可能にする第一の選択マーカーの発現を活性化する。蛍光タンパク質又は細胞表面マーカー等の選択マーカーを使用して、これは、トランスフェクションと正の組込み体の選択(例えば、FACS又はMACSを使用した)との間を非常に短い期間にするのを可能にする。2~3日間で結果が得られるはずである。これは、すなわち、CLD作戦に必要な時間を短縮する。加えて、所望される位置に組込みを受けている細胞の、所望されない組込み事象を受けているか、又は組込みを受けていない細胞からの早期単離は、所望されない細胞が所望される細胞より速く増殖してしまうリスクを最小にするため、さらなる利点を有し得る。ゆえに、方法の効率及び性能は、この特性を欠く方法と比較して、改善され得る。
【0075】
(5)方法は、望まれない配列の構築なしで、同じゲノム位置での連続的組込みを可能にする。これは、
図6において第一のDNA酵素として使用されるPhiC31について説明されるように、第一のGOI(又は対象である核酸配列)の下流に予め定義されたゲノム位置に第二の組込み事象に必要とされる新規の配列を置くことによって達成することができる。この特性は又、個々に強調され得る複数の着地パッドを用いた宿主真核生物細胞株の生成を可能にするだろう。これは、複数のコピーのGOIが、対象である対応するタンパク質(POI)の増加した発現を達成するために、1つ又はいくつかの予め定義されたゲノム位置で組み込まれることを可能にする。或いは、それを利用して、発現を改善する、細胞のエフェクタータンパク質の調節された組込みを介してタンパク質及びクローン特異的細胞株操作を可能にすることができる。
【0076】
単一のマッチングリコンビナーゼ認識配列対(すなわち、attP/attB)との組合せにおいて第一のDNA酵素としてPhiC31又はBxb1等のセリンリコンビナーゼを利用する方法の好ましい実行は、優れた組込み効率の可能性を更に有する。具体的には、ゆえに、前記プロモーターP1又はP2との組合せにおいて、スプリットイントロンの5'部分に機能的に融合している。それらの対応するattP/attB対のPhiC31又はBxb1介在性組換えは、不可逆的な反応であり、ゆえに、理論において、組込みは、トランスフェクション効率及びプラスミド安定性によるもののみに制限されるべきである。これは、競合する非生産性反応経路が存在し得る、Creベースの組込み又はCRISPR/Cas9ベースの組込みと対照的である。
【0077】
ゆえに、本開示は、対象である核酸配列(例えば、対象であるタンパク質をコードする)の、宿主細胞への効率的かつ選択的標的組込みの新規かつ改善された方法を提供する。対象である核酸配列を含む、単一コピーのドナーベクターを選択的に組み込まれている単離された宿主細胞は、多くの異なる適用範囲における使用を見出すであろう、組換えタンパク質産生の優れたシステムを提示する。
【0078】
したがって、第一の態様では、本開示は、ドナーベクターの、単離された真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への標的組込み方法に関し、前記方法は、
i) a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1;
b.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E1;及び
c.プロモーター核酸配列P1;
を含む、予め定義されたゲノム位置を含む単離された真核生物細胞を用意する工程;
ii)
a.核酸配列I2;
b.対象である核酸配列;
c.前記第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E2;
d.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;
e.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセット;
を含む、ドナーベクターを用意する工程;
iii)ドナーベクターを細胞と第一のDNA酵素の存在下で接触する工程であって、第一のDNA酵素の存在が、ドナーベクターの核酸配列I2と細胞の予め定義されたゲノム位置に存在する核酸配列I1との間での組換えを可能にする、前記工程;
iv)細胞における第一の選択マーカーの発現を検出することによって、予め定義されたゲノム位置で組み込まれたドナーベクターを有する細胞を選択する工程であって、第一の選択マーカーの発現は、予め定義されたゲノム位置でプロモーター核酸配列P1によって活性化される、前記工程;並びに
v)前述の工程において選択された細胞を単離する工程
を含む。
【0079】
第一の選択マーカーは又、本明細書において「SM1」と略され、言及されてもよい。
【0080】
第二の選択マーカーは又、本明細書において「SM2」と略され、言及されてもよい。
【0081】
第一のDNA酵素の非限定的な例は、PhiC31又はBxb1リコンビナーゼ等の、本明細書における他の場所で記載される、DNAリコンビナーゼである。第一のDNA酵素として使用されるとき、リコンビナーゼの特徴付ける特性は、それが、核酸配列領域を取り除くのではなく、予め定義されたゲノム領域に導入することである。
【0082】
第二のDNA酵素の非限定的な例は、PhiC31リコンビナーゼ、Bxb1リコンビナーゼ、Creリコンビナーゼ及びDreリコンビナーゼ等の、本明細書における他の場所で記載される、DNAリコンビナーゼである。第二のDNA酵素として使用されるとき、リコンビナーゼの特徴付ける特性は、それが、核酸配列領域を導入するのではなく、予め定義されたゲノム領域から取り除くことである。
【0083】
第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1は、前記予め定義されたゲノム位置に存在するPhiC31若しくはBxb1リコンビナーゼのattP又はattB部位であり得るか、又は別な方法として第一のDNA酵素が本状況において使用されているものに依存して本明細書において例示され得る。一例として、それは又、CreリコンビナーゼのloxP部位であり得るか、又は別な方法として本明細書において例示され得る。
【0084】
核酸配列I2は、前記ドナーベクターに存在するPhiC31若しくはBxb1リコンビナーゼのattB部位若しくはattP部位(認識部位)であり得るか、又は別な方法として第一のDNA酵素が本状況において使用されているものに依存して本明細書において例示され得る。一例として、それは又、CreリコンビナーゼのloxP部位であり得るか、又は別な方法として本明細書において例示され得る。
【0085】
核酸配列E1は、CreリコンビナーゼのloxP部位又はDreリコンビナーゼのroxP部位であり得る。それは又、PhiC31若しくはBxb1リコンビナーゼのattP若しくはattB部位であり得るか、又は別な方法として、本明細書において例示され得る。
【0086】
核酸配列E2は、CreリコンビナーゼのloxP部位又はDreリコンビナーゼのroxP部位であり得る。それは又、PhiC31若しくはBxb1リコンビナーゼのattP若しくはattB部位であり得るか、又は別な方法として、本明細書において例示され得る。
【0087】
第一のDNA酵素が、PhiC31リコンビナーゼである場合、第二のDNA酵素は、PhiC31リコンビナーゼではない。同じことは、任意の他の第一及び第二のDNA酵素に適用し、すなわち、第一及び第二のDNA酵素は、同じSDIシステムにおいて決して同一ではない。
【0088】
本明細書において、第一の選択マーカーと第二のDNA酵素との両方が、予め定義されたゲノム位置での組込みの際に活性化されるように、前記ドナーベクターの第一の選択マーカー(SM1)は、IRESエレメント又はSM1のアミノ酸配列を介して前記第二のDNA酵素をコードする遺伝子に連結されてもよく、前記第二のDNA酵素は、自己切断型ペプチドによって融合される。これは、
図10において説明される。ドナーベクターが、予め定義されたゲノム位置に組み込まれ、核酸ベクターのさらなる導入が、方法の工程を用いて進められる必要がないと、これは、第二のDNA酵素の存在を確実にする。第二のDNA酵素の細胞内濃度が、E1及びE2が隣接する配列領域の核局在化並びに切除を促進するのに十分高い値に達するまで、SM1の発現を進めることができる。適切なタイミングの正の選択工程により、予め定義されたゲノム位置で組込みを受けている細胞は、正の選択を可能にするレベルのSM1を含有するだろう。
【0089】
本明細書において、予め定義されたゲノム位置は又、予め定義されたゲノム位置でのドナーベクターの組込みの際、前記第二のDNA酵素の認識部位が隣接し、前記第二のDNA酵素の作用を介して予め定義されたゲノム領域から除去されるように位置する、前記第一のDNA酵素の発現カセットを含んでもよい。これは、
図11において説明される。これは、方法を更に単純化し、高い組込み効率の可能性を改善するべきである。発現カセットは、方法の後の工程中に取り除かれるため、最終的な単離された細胞における第一のDNA酵素の発現で消費される細胞源はなく、第一のDNA酵素の長期存在の任意の負の結果が回避される。
【0090】
したがって、第一のDNA酵素は、予め定義されたゲノム位置からの発現によって、又は前記細胞における前記第一のDNA酵素の一過性の存在を生じる、任意の形態での細胞への導入によってもたらされてもよい。これは、単離されたタンパク質自体の導入、前記第一のDNA酵素のための発現カセットを含む別々の発現プラスミドの導入、前記ドナーベクターにおける前記第一のDNA酵素のための活性な発現カセットの存在又は前記第一のDNA酵素をコードする合成mRNAの導入を含む。
【0091】
本明細書において既に述べられた通り、本開示の全ての態様により、予め定義されたゲノム位置に対して任意の変更をなすことなく、選択マーカーの選択において可動性を可能にする。SM1は、(i)抗生物質抵抗性遺伝子、(ii)GS若しくはDHFR等の代謝酵素遺伝子、(iii)蛍光タンパク質遺伝子又は(iv)CD4若しくはCD10等の細胞表面マーカーの群から選択され得る。SM2は、(i)TK等の毒性産物生成酵素、(ii)蛍光タンパク質遺伝子又は(iii)CD4若しくはCD10等の細胞表面マーカーの群から選択され得る。
【0092】
好ましくは、両方の選択マーカーは、FACS又はMACS等の方法を介して高速な選択工程を可能にする、(i)蛍光タンパク質遺伝子又は(ii)細胞表面マーカーの群から選択される。
【0093】
選択マーカーが、蛍光タンパク質である場合、第一又は第二の選択マーカーの発現は、例えば、FACSを使用することによって検出することができる。選択マーカーが、抗生物質抵抗性遺伝子である場合、組込みは、対応する抗生物質の存在下で細胞を培養することによって検出することができる。細胞が、抗生物質が加えられた培地において生存する場合、ドナーベクターは、守備よく組み込まれている。
【0094】
第二のDNA酵素の存在下で、本明細書における方法の工程v)において単離された細胞の予め定義されたゲノム位置から、核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列を切除する工程を含む工程vi)を更に含む方法が又、本明細書において提供され、第二のDNA酵素の存在が、核酸配列E1とE2との間での組換えを可能にし、前記細胞における核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列の存在が、ドナーベクターの、細胞の予め定義されたゲノム位置への安定な組込みの指標である。
【0095】
本明細書において述べられる通り、リコンビナーゼは、宿主細胞ゲノムにおける適切な核酸領域(E1及びE2)が隣接する核酸配列を切除するのに有用である。予め定義されたゲノム位置に導入された核酸配列のいくつかの部分は、組込み及び選択がなされると、余分になるため、これは、宿主細胞ゲノムにおける単に「片付ける」ための工程である。それらの存在は又、細胞エネルギーを消費し得る。核酸配列の切除は、第二のDNA酵素が、ヌクレオチド、すなわち、E1とE2の特定の組合せに結合することによって、宿主細胞ゲノムから核酸配列部分を切り取り、取り除く能力があることを意味する。予め定義されたゲノム位置での核酸配列E1及びE2の存在は、原則として、ドナーベクターの安定な組込みが生じている証拠である。
【0096】
本明細書において、工程vi)は、工程iii)の一部をなしてもよいか、又は前記方法の工程iv)の後若しくは工程v)の後等の、工程iii)の後に行われてもよい。工程vi)は又、工程v)の前に行われてもよい。
【0097】
工程ii)のドナーベクターは、e)第二の選択マーカーをコードする発現カセットを更に含み、工程v)において単離された細胞は、加えて、第二の選択マーカーのその不発現に基づき選択され、第二の選択マーカーの発現は、ドナーベクターが、細胞の予め定義されたゲノム位置と異なる位置で組み込まれていることを示す、方法も又提供される。
【0098】
工程ii)のドナーベクターは、e)第二の選択マーカーをコードする発現カセットを更に含み、工程vii)において単離された細胞は、第二の選択マーカーのその不発現に基づき選択され、第二の選択マーカーの発現は、ドナーベクターが、細胞の予め定義されたゲノム位置と異なる位置で組み込まれていることを示す、方法も又本明細書において提供される。
【0099】
予め定義されたゲノム位置での組込みの際に、それが、E1及びE2配列が隣接するように、第二の選択マーカーをコードする前記発現カセットは、前記ドナーベクターに位置する。しかしながら、ドナーベクターが、予め定義されたゲノム位置の外側に組み込まれる場合、第二の選択マーカーをコードする前記発現カセットに、E1及びE2が隣接しないだろう。
【0100】
したがって、第二のDNA酵素の作用後に、細胞集団における細胞の間での第二の選択マーカー(SM2)の発現を、例えば、FACSにより検出することが可能である場合、これは、ドナーベクターの所望されない組込み事象が、細胞の別の位置で生じていることを意味する。このような細胞を取り除いて、ドナーベクターの組込みが、予め定義されたゲノム位置でのみ生じている、細胞についての選択(負の選択による)を可能にする。
【0101】
工程vi)が、工程v)後に行われる方法も又提供され、方法は、核酸配列E1及びE2が隣接している核酸配列が、工程vi)において単離された細胞の予め定義されたゲノム位置から切除されている、細胞を単離する工程を含む、工程vi)後に行われる、工程vii)を更に含む。
【0102】
第二のDNA酵素は、単離されたタンパク質自体として提供されてもよく、それは、別々の発現ベクター若しくはプラスミド上の発現カセットから発現されてもよいか、又は前記第二のDNA酵素をコードする合成mRNAから発現されてもよい。それは又、既に記載された通り、予め定義されたゲノム位置に組み込まれると、ドナーベクターから発現され得る。
【0103】
工程ii)のドナーベクターの対象である核酸配列は、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含む、方法も又本明細書において提供される。対象であるタンパク質は、抗体又は他の治療タンパク質等の、使用者が発現を望む、任意のタイプの組換えタンパク質であり得る。
【0104】
切除される核酸配列が、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含有する少なくとも1つの発現カセットを欠く、方法も又本明細書において提供される。
【0105】
無作為な組込み(RI)に基づく細胞株の開発は、典型的には、複数のコピーの、組み込まれた標的遺伝子を有するトップクローンをもたらす。本開示の方法が又、競合タンパク質発現レベルに必要な転写レベル(細胞当たりのmRNAコピー数)を生じ得ることを確実にするために、調節された方法で標的遺伝子コピー数を増加させる能力を有することは、有利であるだろう。発現プラスミドのサイズは、細菌拡大効率、トランスフェクション効率、CHO細胞におけるプラスミド安定性及び組込み効率の課題になるため、1回での複数のコピーの組込みは、問題であり得る。
【0106】
それゆえ、複数のコピーの対象である核酸の宿主細胞ゲノムへの連続的組込み方法が又、本明細書において提供される。発現プラスミドサイズの低減に加えて、連続的な方法でコピーを挿入することは、細胞に課された組換え発現を徐々に増加させるという可能性のある追加の特性をもたらす。これは、順に、新たなストレス源の環境に徐々に適用する可能性に起因して、高生産性の表現型を単離する可能性を改善し得る。既に言及された通り、予め定義されたゲノム位置での反復性組込みを又利用して、対象であるタンパク質のための発現カセットをまず導入し、続いて、その後の組込み工程において対象であるタンパク質の発現を改善し得る細胞のエフェクター遺伝子を導入することによって、タンパク質及びクローン特異的細胞株操作が可能になり得る。
【0107】
複数のコピーの単純かつ調節された連続的組込みへの鍵を固守する、本明細書において提示される、PhiC31/attの鍵となる特性に基づくテクノロジーは、直交性attP/attB対の存在である。直交性attP/attB対は、中心のヌクレオチド対でのみ天然の配列と異なる。第一のDNA酵素の直交性認識部位を使用した同じゲノム位置での反復性組込みの例は、実施例3の実験セクション、並びに
図6及び
図8において示される。当然、本明細書において記載されるPhiC31/attベースのテクノロジーと同じアプローチは、直交性DNA酵素認識対/配列が存在する、Cre、Dre、Flp又はCRISPR/Cas9等の、他のDNA酵素のために使用することができる。
【0108】
したがって、対象である複数の核酸配列の連続的組込みをもたらすため、本明細書における他の場所で定義される工程を含む方法が又、本明細書において提供され、本明細書において提示される方法の工程ii)のドナーベクターは、
f.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I3;及び
g.プロモーター核酸配列P2
を更に含む。
【0109】
前記ドナーベクターにおけるさらなる認識部位I3の存在は、上で説明された、同じ予め定義された遺伝子位置での2つ以上のドナーベクターの反復性標的組込みをもたらす。第一の組換え事象が、核酸配列対I1/I2(例えば、attB1/attP1)内で生じ、これにより、ハイブリッド配列(attR1)を生じると、さらなる認識部位I4(例えば、attB2)を含む第二のドナーベクターを用いた次のラウンドの組込みのため促進し得る、さらなる認識部位I3(例えば、attP2)を維持する。
図6は、かかる連続的組込み手法が、どのように行われ得るかを説明する。方法は、対象である追加の核酸配列の組込みに道をあけるための、第一又はさらなるドナーベクターを組み込む予め定義されたゲノム位置からの核酸配列成分の切除のラウンドを含む。
【0110】
したがって、n個の追加のドナーベクターの、真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への連続的標的組込み方法が、本明細書において提供され、第一のドナーベクターは、本明細書において既に述べられた成分に加えて、f.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I3;及びg.プロモーター核酸配列P2を更に含む。
【0111】
n個の追加のドナーベクターの、真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への連続的標的組込み方法は、少なくとも工程i)~iv)を行う工程に加えて、任意選択で、v)、vi)及び/又はvii)を、任意の適当な順で、n個の追加のドナーベクターの、単離された真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置への連続的標的組込みを行う工程を含み、
nは、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は任意の他の数等の、1以上の整数であり;
方法は、
(A)
I.工程v)において単離された細胞又は工程vii)において単離された細胞を用意する工程;
II.
A. 前記第一のDNA酵素の存在下で、前述の工程において用意された細胞に存在する対応する核酸配列I3を用いて組み換える能力がある核酸配列I4、;
B.対象である核酸配列;
C.核酸配列E2;
D.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;並びに
E.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセット;
F.任意選択で、第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1及びプロモーター核酸配列P1
を含むドナーベクターを用意する工程;
III.第一のDNA酵素の存在下で、工程II)のドナーベクターを細胞に導入する工程であって、第一のDNA酵素の存在が、ドナーベクターの核酸配列I4と細胞の予め定義されたゲノム位置に存在する核酸配列I3との間での組換えを可能にする、前記工程;
IV.細胞における第一の選択マーカーの発現を検出することによって、予め定義されたゲノム位置で組み込まれたドナーベクターを有する細胞を選択する工程であって、第一の選択マーカーの発現は、細胞の予め定義されたゲノム位置でのプロモーター核酸配列P2によって活性化される、前記工程;
V.前述の工程において選択された細胞を単離する工程;
VI.第二のDNA酵素の存在下で、工程Vで単離された細胞の予め定義されたゲノム位置から、核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列を切除する工程であって、第二のDNA酵素の存在は、核酸配列E1とE2との間での組換えを可能にし、前記細胞における核酸配列E1及びE2が隣接する核酸配列の存在は、ドナーベクターの、細胞の予め定義されたゲノム位置への安定な組込みの指標である、前記工程;
VII. 細胞を単離する工程であって、配列E1及びE2が隣接している核酸配列は、工程Vにおいて単離された細胞の前記予め定義されたゲノム位置から切除されている、前記工程
を含む、第一の追加のドナーベクターを、細胞の予め定義されたゲノム位置に組込む工程;
(B) 但し、nは、前述の工程において単離された細胞の予め定義されたゲノム位置で組み込まれた追加のドナーベクターの数より大きく、
I.前述の工程において単離された、予め定義されたゲノム位置で組み込まれた核酸配列I1を含む細胞を用意する工程;
II.工程ii)、工程iii)~iv)、工程v)、工程vi)、及び工程vii)を行う工程
を含む追加のドナーベクターを細胞の予め定義されたゲノム位置に組み込む工程;
(C) 但し、nは、前述の工程において単離された細胞の予め定義されたゲノム位置で組み込まれた追加のドナーベクターの数より大きく、
I.前述の工程(B)を行うことによって得られた、予め定義されたゲノム位置で組み込まれた核酸配列I3を含む細胞を用意する工程;
II.細胞が、予め定義されたゲノム位置に組み込まれたn個の追加のドナーベクターを有するまで、工程(A)II~(A)IX及び工程(B)を繰り返す工程
を含む、追加のドナーベクターを細胞の予め定義されたゲノム位置に組込む工程を含む工程、
を含む。
【0112】
本明細書において既に述べられた通り、ドナーベクターにおける認識部位I4は、宿主細胞の予め定義されたゲノム位置に既に存在する(すなわち、前のラウンドの組込みにおいて組み込まれた)認識部位I3を用いた組換えをもたらす。これにより、第二、及びさらなるコピー/複数のコピーの対象である核酸は、ドナーベクターを介した認識部位バリアントのその後の導入によって、予め定義されたゲノム位置に導入することができる。導入されたドナーベクターと予め定義されたゲノム領域に存在する核酸配列の間での組換えのため使用された特定の認識部位バリアント(対)(すなわち、第一のDNA酵素認識部位)は、それぞれのラウンドの組込みの間で異なる対の認識部位が存在する限り、組換え事象のラウンドを介して再使用することができる。同じことが、選択マーカーについても真実である。
【0113】
具体的には、第一のリコンビナーゼ酵素の認識配列の2つの直交性対及び前記第一の選択マーカーの2つのバリアントにのみ基づく前記真核生物細胞の予め定義されたゲノム位置に任意の所望される数のドナーベクターコピーを組み込む反復の方法が提供され、
(i)前記第一のリコンビナーゼ酵素は、PhiC31若しくはBxb1又はその変異したバリアント等のセリンリコンビナーゼの群から選択され;
(ii)前記2つの選択マーカーバリアントは、(a)蛍光タンパク質又は(b)異種性細胞表面マーカーの群から選択され;
(iii)奇数の組込み工程において使用されるドナーベクターは、
(a)第一のバージョンの前記第一の選択マーカー、
(b)第一の対の認識配列由来の第一のリコンビナーゼ認識配列、
(c)第二の直交性対の認識配列由来の第一のリコンビナーゼ認識配列
を含み;
(iv)偶数の組込み工程において使用されるドナーベクターは、
(a)第二のバージョンの前記第一の選択マーカー、
(b)前記第二の直交性対の認識配列由来の第二のリコンビナーゼ認識配列、
(c)第一の対の認識配列由来の第二のリコンビナーゼ認識配列
を含み;
(v)奇数の組込み工程における組込みは、前記第一の対のリコンビナーゼ認識配列由来のリコンビナーゼ認識配列間の組換えによって促進され;
(vi)偶数の組込み工程における組込みは、前記直交性第二の対のリコンビナーゼ認識配列由来のリコンビナーゼ認識配列間での組換えによって促進され;
(vii)奇数の組込み工程の相互作用前に、前記第一のバージョンの第一の選択マーカーは、リコンビナーゼ認識配列E1及びE2で作用する前記第二のリコンビナーゼ酵素の存在によって、予め定義されたゲノム位置から切除され;
(viii)偶数の組込み工程の相互作用前に、前記第二のバージョンの第一の選択マーカーは、リコンビナーゼ認識配列E1及びE2で作用する第二のリコンビナーゼ酵素の存在によって、予め定義されたゲノム位置から切除され;
(ix)前記第二のリコンビナーゼ酵素は、Cre、Dre又はFlp等のチロシンリコンビナーゼの群から選択され;
(x)E1=E2。
【0114】
- 工程i)の細胞は、n個の予め定義されたゲノム位置を含み、それぞれが、それぞれ、核酸配列I、I11~I1nを含み、I11~I1nは、互いに異なり;
- 工程ii)は、1~nのドナーベクターを用意することを含み、1~n個のドナーベクターのそれぞれが、それぞれ、核酸配列I21~I2nを含み、前記第一のDNA酵素の存在下で、前記ドナーベクターの対応するI11~I1n核酸配列を組み換える能力があり、1~n個のドナーベクターのそれぞれが、第一の選択マーカーであるSM1~SMnを含み、SM1~SMnが、互いに異なり;
- 工程iv)は、1~n個のドナーベクターを細胞に導入することを含み;
- 工程v)は、細胞における異なる第一の選択マーカーであるSM1~SMnのそれぞれを検出することによって、その対応する予め定義されたゲノム位置で組み込まれた1~n個のドナーベクターのそれぞれを有する細胞を選択する工程を含み;
nは、2以上の整数である、方法が更に提供される。
【0115】
工程ii)のドナーベクターは、
f.第一のDNA酵素の認識部位を含む、核酸配列I3;及び
g.プロモーター核酸配列P2
を更に含み、
切除される配列は、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現カセットを含む、方法も又提供される。
【0116】
切除される配列が、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現カセットを含むという事実は、第二のラウンドの組換えが、予め定義されたゲノム位置で対象であるタンパク質をコードする対象である新規かつ「第一の」核酸配列を導入することができる、可逆的な組込みが存在することを意味する。ゆえに、予め定義されたゲノム位置に存在する、複数のコピーの対象である同じ遺伝子が存在せず、本明細書において既に述べられた連続的な組込みの目的である。これは、対象である別のタンパク質の発現のため高い性能のクローンの再使用のため利用することができる。
【0117】
図8及び実施例4において、それは、2つの連続した選択工程、すなわち、第二のDNA酵素を組込み後に加えて、もはや細胞において目的を果たさない核酸配列を取り除く工程を使用したSDI細胞プールの生成が説明される。この実施例では、抗生物質抵抗性遺伝子は、第一の選択マーカー(SM1)として使用された。第二ラウンドの選択は、それぞれの末端におけるloxP核酸領域が隣接する核酸配列を切除するためのCreリコンビナーゼを使用して行われた。無作為な組込み事象の存在は、FACSを使用して、二重陽性シグナルGFP/RFP(緑色/赤色蛍光タンパク質)によって検出された。細胞は、陽性/陰性のGFP/RFPシグナルに基づき選別された。この追加の工程は、予め決定されたゲノム位置で1つのドナーベクターを組み込み得るが、宿主細胞ゲノムにおける無作為の非標的位置で第二又はさらなるドナーベクターを無作為に組み込まれ得る細胞の除去をもたらす。
【0118】
本明細書において既に述べられた通り、前記第一のDNA酵素は、リコンビナーゼであってもよい。第一のDNA酵素のDNA酵素のいずれかが、第二のDNA酵素と同じでない限り、第一のDNA酵素は、リコンビナーゼ等の、異なるDNA酵素の混合物であってもよい。
【0119】
本明細書において、2つ以上の認識部位等の、ドナーベクターに存在する前記第一のDNA酵素の1つより多くの認識部位が存在してもよい。これは、2つ以上の認識部位等の、予め定義されたゲノム位置に存在する前記第一のDNA酵素の1つより多くの認識部位も又存在するであろうことを意味する。リコンビナーゼを利用するこのようなシステムの例は、
図13に示される。
図13は、予め定義されたゲノム位置での組込みを触媒するためのリコンビナーゼ介在性カセット交換(RMCE)を示す。
図1~
図2、
図9~
図11及び
図15に記載の改変されたそのバリアントは又、本開示によって包含される。
【0120】
ゆえに、
図13における例では、予め定義されたゲノム位置は、5'~3'配列の順で、(i)第一のリコンビナーゼ酵素(I1a)の第一の認識部位;(ii)前記第一のリコンビナーゼ酵素(I1b)の第二の認識部位、(iii)3'~-5'方向性を有するプロモーターP1及び(v)第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位を含む。
【0121】
この例では、ドナーベクターは、5'~3'配列の順で、(i)前記第一のリコンビナーゼ酵素(I2a)の第三の認識部位、(ii)ここで、対象である遺伝子(GOI)のための発現カセットによって例示される、組込みカセット(IC)、(iii)前記第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位E2、(iv)第二の選択マーカー(SM2)の発現カセット、(v)3'~5'方向性でコードされる第一の選択マーカー(SM1)の遺伝子及び(vi)前記第一のリコンビナーゼ酵素(I2b)の第四の認識部位を含む。
【0122】
ドナーベクター及び第一のリコンビナーゼの、細胞の集団への導入は、(a)ドナーベクターにおける組込みカセットの組込み、すなわち、細胞の分画のための予め定義されたゲノム位置での前記第三及び第四のリコンビナーゼ認識部位が隣接する配列領域(
図13b、パネル(ii)を参照のこと)並びに(b)細胞の分画のためのドナーベクターのオフターゲットゲノム組込み(予め定義されたゲノム位置の外側)(
図13b、パネル(iii)を参照のこと)をもたらす。
【0123】
予め定義されたゲノム位置での組込みは、SM1についての活性な発現カセットの形成をもたらす(
図13b、パネル(ii)を参照のこと)。更に、予め定義されたゲノム位置での組込み後、SM1とSM2の両方に、前記第二のリコンビナーゼ酵素の2つの認識部位が隣接する。
【0124】
オフターゲット事象による組込み(
図13b、パネル(iii)を参照のこと)は、典型的には、SM1の活性化につながらないが、前記第二のリコンビナーゼ酵素の2つの認識部位が隣接しない活性なSM2を組み込む。
【0125】
予め定義されたゲノム位置で組込みを受けている細胞は、組込み事象を有さない細胞(
図13b、パネル(i)を参照のこと)及びSM1の活性を介してオフターゲット組込み事象のみを受けている細胞と異なる。ゆえに、SM1の活性を使用して、LPで組込みを受けている細胞を選択することができる。
【0126】
予め定義されたゲノム位置での組込みに加えて、オフターゲット組込み事象を受けている細胞を取り除くために、前記第二のリコンビナーゼのリコンビナーゼ活性は、SM1活性について選択された細胞内で導入される。LPでの組込みのため、これは、SM1とSM2の両方の切除をもたらし、ゆえに、それらの対応する活性をもたらす。オフターゲット組込み事象のため、この反応は、生じることができず、SM2活性が残る。結果として、予め定義されたゲノム位置で所望される標的組込み事象のみを受けている細胞は、SM2活性の不存在を介して複数の組込み事象を受けている細胞から選択することができる。
【0127】
最終的に選択された細胞についての予め定義されたゲノム位置(
図13cを参照のこと)は、E1及びE2(E)の組換えを介して生成される配列を除き、SM2の発現カセットも、SM1の活性化された発現カセットも、ドナーベクター由来の任意の残りの配列も含有しない。
【0128】
前記第一のリコンビナーゼ酵素は、(i)セリンリコンビナーゼ又は(ii)チロシンリコンビナーゼの群から選択することができる。
【0129】
前記第一~第四のリコンビナーゼ認識部位は、
(a)PhiC31[I1a=I1b=attP若しくはattB及びI2a=I2b=attB若しくはattP]又はBxb1[I1a=I1b=Bxb1 attP若しくはBxb1 attB及びI2a=I2b=Bxb1 attB若しくはBxb1 attP]等の、セリンリコンビナーゼの1つのマッチング認識部位を使用する、I1a=I1b及びI2a=I2b、
(b)PhiC31(I1a及びI1b=異なるattPバリアント又はattBバリアント;I2a及びI2b=異なるattBバリアント若しくはattPバリアント)等のセリンリコンビナーゼの変異した認識対を使用して、2つの異なるマッチング認識部位対を選択すること、並びに
(c)チロシンリコンビナーゼについてのI1a=I2a及びI1b=I2bは、Cre(入手可能な変異したloxP対から選択されるLoxP1及びLoxP2)、Dre(入手可能な変異したrox対から選択されるrox1及びrox2)又はFLP(入手可能な変異したFRT対から選択されるFRT1及びFRT2)等の、存在する変異した認識部位バリアント対である
により選択することができる。
【0130】
前記第二のリコンビナーゼ酵素は、前記第一のリコンビナーゼ酵素と異なり、(i)セリンリコンビナーゼ又は(ii)チロシンリコンビナーゼの群から選択することができる。
【0131】
前記第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位E1及びE2は、(i)Creリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=loxP若しくはその変異したバリアント、(ii)Dreリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=rox若しくはその変異したバリアント又は(iii)FLP(フリッパーゼ)リコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=FRT若しくはその変異したバリアントによって例示される通り、配列において同一であり得る。
【0132】
前記第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位E1及びE2は、(i)PhiC31リコンビナーゼを用いた使用のための、E1=attP及びE2=attB若しくはその変異したバリアント、又は(ii)Bxb1リコンビナーゼを用いた使用のための、E1=Bxb1 attP及びE2=Bxb1 attB若しくはその変異したバリアントによって例示される通り、異なる配列を有し得る。
【0133】
第一のDNA酵素のさらなる認識部位は、I1のバリアント、すなわち、I1a及びI1b、並びにI2のバリアント、すなわち、I2a及びI2b等として、本明細書において言及することができる。
【0134】
したがって、
(a)I1は、2つのリコンビナーゼ認識部位バリアントI1a及びI1bを含み;並びに
(b)I2は、2つのリコンビナーゼ認識部位バリアントI2a及びI2bを含み;並びに
(c)I1aは、I2aを用いて組み換える能力があり、I1bは、前記第一のDNA酵素の存在下で、I2bを用いて組み換える能力がある、
方法が又本明細書において提供される。
【0135】
ときに、I1aは、I2aと同一であり、I1bは、I2bと同一である。I1a、I1b、I2a及びI2bは、それぞれ、loxP、rox若しくはFRT又はそのバリアントから選択されてもよく、第一のDNA酵素は、それぞれ、Creリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼ及びFLPリコンビナーゼ[3]からなる群から選択されてもよい。
【0136】
本明細書において、
(a)I1は、単一のリコンビナーゼ認識部位を含み;並びに
(b)I2は、単一のリコンビナーゼ認識部位を含み;並びに
(c)I1及びI2は、前記第一のDNA酵素の存在下で、組み換える能力がある
方法が又提供される。
【0137】
I1によって構成されるリコンビナーゼ認識部位は又、I2によって構成されるリコンビナーゼ認識部位とは配列が異なっていてもよい。本明細書において提供されるリコンビナーゼ認識部位は、attB、attP、Bxb1 attP、Bxb1 attB又はそのバリアントから選択されてもよい。前記リコンビナーゼは、PhiC31若しくはBxb1リコンビナーゼ又はその変異体であってもよい。
【0138】
認識部位/DNA酵素の任意のバリアント又は変異体は、その機能的に均等なバリアント又は変異体であるだろう。当業者は、このような機能的に均等なバリアント又は変異体を構築し、生成するだろう。
【0139】
予め定義されたゲノム位置での組込みを触媒するための単一のリコンビナーゼ認識部位対を使用する例が、
図14において示される。
図1、
図9~
図11及び
図15に記載の改変されたバリアントは又、本開示によって包含される。
【0140】
この例では、予め定義されたゲノム位置は、5'~3'配列の順で、(i)第一のリコンビナーゼ酵素(I1)の第一の認識部位;(ii)3'~-5'方向性を有するプロモーターP1及び(iii)第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位を含む。
【0141】
この例では、ドナーベクターは、5'~3'配列の順で、(i)前記第一のリコンビナーゼ酵素(I2)の第二の認識部位、(ii)ここで、対象である遺伝子(GOI)のための発現カセットによって例示される、組込みカセット(IC)、(iii)前記第二のリコンビナーゼ酵素の第二の認識部位E2、(iv)第二の選択マーカー(SM2)の発現カセット、及び(v)3'~5'方向性でコードされる第一の選択マーカー(SM1)の遺伝子を含む。
【0142】
ドナーベクター及び第一のリコンビナーゼの、LP細胞の集団への導入は、(a)LP細胞の分画のためのLPでのドナーベクターの組込み(
図14b、パネル(ii)を参照のこと)及び(b)細胞の分画のためのドナーベクターのオフターゲットゲノム組込み(予め定義されたゲノム位置の外側)(
図14b、パネル(iii)を参照のこと)をもたらす。
【0143】
予め定義されたゲノム位置での組込みは、SM1についての活性な発現カセットの形成をもたらす(
図14b、パネル(ii)を参照のこと)。更に、予め定義されたゲノム位置での組込み後、SM1とSM2との両方に、前記第二のリコンビナーゼ酵素の2つの認識部位E1及びE2が隣接する。
【0144】
オフターゲット事象による組込み(
図14b、パネル(iii)を参照のこと)は、典型的には、SM1の活性化につながらないが、前記第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位が隣接しない活性なSM2を組み込む。
【0145】
予め定義されたゲノム位置で組込みを受けている細胞は、組込み事象を有さない細胞(
図14b、パネル(i)を参照のこと)及びSM1の活性を介してオフターゲット組込み事象のみを受けている細胞と異なる。ゆえに、SM1の活性を使用して、予め定義されたゲノム位置で組込みを受けている細胞を選択することができる。
【0146】
予め定義されたゲノム位置での組込みに加えて、オフターゲット組込み事象を受けている細胞を取り除くために、前記第二のリコンビナーゼのリコンビナーゼ活性は、SM1活性について選択された細胞内で導入される。予め定義されたゲノム位置での組込みのため、これは、SM1とSM2との両方の切除をもたらし、ゆえに、それらの対応する活性をもたらす。オフターゲット組込み現象のため、この反応は、生じることができず、SM2活性が残る。結果として、LPで所望される標的組込み事象のみを受けている細胞は、SM2活性の不存在を介して複数の組込み事象を受けているLP細胞から選択することができる。
【0147】
最終的に選択された細胞についての予め定義されたゲノム位置(
図14cを参照のこと)は、I1及びI2(I12)並びにE1及びE2(E)の組換えを介して生成される配列を除き、SM2の発現カセットも、SM1の活性化された発現カセットも、ドナーベクター由来の残りの配列も含有しない。
【0148】
前記第一のリコンビナーゼ酵素は、PhiC31及びBxb1等のセリンリコンビナーゼの群から選択することができる。前記第一及び第二のリコンビナーゼ認識部位(I1及びI2)は、(a)I1=attPバリアント及びI2=attBバリアント又は(b)I1=attBバリアント及びI2=attPバリアントに従って、選択されたリコンビナーゼをマッチさせる認識部位を用いて選択することができる。
【0149】
前記第二のリコンビナーゼ酵素は、前記第一のリコンビナーゼ酵素と異なり、(i)セリンリコンビナーゼ又は(ii)チロシンリコンビナーゼの群から選択することができる。
【0150】
前記第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位E1及びE2は、(i)Creリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=loxP若しくはその変異したバリアント、(ii)Dreリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=rox若しくはその変異したバリアント又は(iii)FLPリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=FRT若しくはその変異したバリアントによって例示される通り、配列において同一であり得る。
【0151】
前記第二のリコンビナーゼ酵素の認識部位E1及びE2は、(i)PhiC31リコンビナーゼを用いた使用のための、E1=attP及びE2=attB若しくはその変異したバリアント、又は(ii)E1=Bxb1 attP及びE2=Bxb1 attBによって例示される通り、異なる配列を有し得る。
【0152】
図15において説明される方法も又提供され、それは、予め定義されたゲノム位置での組込みを触媒するための単一のリコンビナーゼ認識部位対を例示し、予め定義されたゲノム位置に存在するプロモーターP1は、スプリットイントロンの5'部分に機能的に融合される。先に記載されたが、
図15により改変された方法(すなわち、スプリットイントロン設計を使用する)は又、本開示によって包含される。
【0153】
この例では、予め定義されたゲノム位置は、3'~5'方向性を有するイントロンの5'部分及び前記第一のリコンビナーゼ酵素の前記第一の認識部位と3'~5'方向性を有する前記プロモーターP1との間の3'~5'方向性を有する機能的配列領域F1を更に含む。
【0154】
この例では、ドナーベクターは、3'~5'方向性を有する前記第一の選択マーカーSM1と前記第一のリコンビナーゼ酵素の前記第二の認識部位との間に位置する配列領域を更に含む。前記配列領域は、5'~3'配列の順で、(a)3'~5'方向性を有する機能的配列領域F3及び(b)スプライスアクセプター部位配列の下流に機能的配列領域F2を更に含む、3'~5'方向性を有するイントロンの3'部分を含む。
【0155】
予め定義されたゲノム位置での組込みの際(
図15b、上部のパネルを参照のこと)、前記第一の選択マーカーSM1のための、機能的なイントロンを含む、完全な発現カセットが形成される。ゆえに、SM1の発現は、活性化される。
【0156】
オフターゲット組込み現象(
図15b、下部のパネルを参照のこと)後、切断型バージョンのSM1発現カセットが組み込まれる。
【0157】
偶然の現象によって、切断型SM1カセットの転写が、生じ得る。これは、(a)プロモーター救出、ドナーベクターは、切断型SM1カセットが、細胞ゲノムに存在する天然のプロモーターとインフレームで位置するようになる方法で、組み込まれている、又は(b)ドナーベクターに存在するプロモーターが、切断型SM1カセットとインフレームで再配向され続いて、得られたコンカテマーが組み込まれるような、ドナーベクターの切断及びコンカテマー形成に起因し得る。
【0158】
このような偶然の現象は、予め定義されたゲノム位置にドナーベクターを組み込む細胞の選択に基づく、SM1の特異性を低減することができる。機能的な配列領域F1~F3の特定の組合せの使用により、改善された特異性が達成され得る(
図15bを参照のこと)。
【0159】
F1~F3の第一の設計において、(a)SM1(ドナーベクターに存在するとき)は、ATG開始コドンを欠き、3'イントロンに直接融合され、(b)F1は、(3'~5'から)全て、3'~5'方向性を有する、開始転写部位(TSS)、第一の5'-UTR領域、コザック/翻訳開始部位及びATG開始コドンからなる。オフターゲット組込み現象後、これは、任意の組み込まれたSM1遺伝子が、開始コドンを欠き、ゆえに、機能的SM1タンパク質の発現を生じないことを意味する。しかしながら、予め定義されたゲノム位置での組込みの際、機能的発現カセットが形成される。イントロンのスプライシングの際、ATG開始コドンは、SM1に直接融合され、これにより、SM1タンパク質の適切な発現につながる。
【0160】
F1~F3の第二の設計では、(a)SM1は、ATG開始コドンを含有し、(b)F3は、(3'~5'から)全て、3'~5'方向性を有する第二の5'-UTR領域及びコザック/翻訳開始部位からなり、(c)F2は、3'~5方向性を有する少なくとも1つの短い上流のオープンリーディングフレーム(uORF)を含み、(d)F1は、開始転写部位(TSS)及び第一の5'-UTR領域からなる。オフターゲット組込み現象後、切断型SM1カセットは、典型的には、1つ又は複数のuORFを保持するだろう。これらのuORFは、意図されるSM1開始コドンでの開始を低減し、これにより、オフターゲット組込みベースのSM1活性化と予め定義されたゲノム位置での組込みに基づくSM1活性化との間の識別が改善されるだろう。好ましくは、一連の複数のuORFが使用され、SM1開始コドンと最短の距離(イントロンスプライスブランチ部位のすぐ下流)で置かれる。
【0161】
最適な5'-UTR配列は、SM1のため使用することができるので、スプリットイントロン設計の使用は又、活性化されたSM1の発現を改善する。スプリットイントロンを欠く設計において、I1及びI2の組換えを介して生成された配列(
図15を参照のこと)は、SM1 5'-UTRによって含まれるだろう。これは、SM1の得られ得る発現レベルを低減すること(SM1に基づき、正の選択工程における特異性に影響すること)ができる、可能性のある最適でない配列組成物を用いて伸長された5'-UTRにつながる。本明細書において記載されるスプリットイントロンの使用を介して、I1/I2組換え産物は、予め定義されたゲノム位置での組込みの際に、完全に形成されたイントロンに取り込まれる(
図15を参照のこと)。細胞による成熟SM1 mRNAの生成の際、イントロンは、スプライスアウトされ、対応するSM1 5'-UTRが、F1及びF2によって完全に明確にされる。したがって、SM1 5'-UTRは、意図される目的のためSM1発現を最適化するための完全な対照を用いて設計することができる。F2~F3の設計における変動は、LPでの組込みの際に、SM1の発現レベルに可動性を更に付与する。F3の5'-UTR領域の長さの拡張は、SM1の発現を低減し、F2における転写エンハンサーエレメントの付加は、最適な5'-UTRのみで達成されるものより高く、SM1の発現を増加させることができる。
【0162】
最後に、スプリットイントロン設計の使用は、実施例1の実験のセクションにおいて示される通り、予め定義されたゲノム位置での、I1とI2との間の組換え効率を改善することができる。観察される改善された組込み効率についての1つの可能性のある説明は、予め定義されたゲノム位置でのスプリットイントロンの5'部分が、開始転写部位の周りで結合するRNAポリメラーゼ開始複合体と第一のDNA酵素(例えば、PhiC31)のコピーとの間での立体的干渉を回避し/低減することができる重大なスペーサーとして機能し、I1の結合及び操作によってその機能を果たすということである。組込み効率を増加させるために、スプリットイントロンの前記5'部分は、少なくとも50bp、少なくとも100bp又は少なくとも300bpの長さを有するよう設計することができる。
【0163】
図12は、遺伝子編集酵素を使用して、予め定義されたゲノム位置でのドナーベクターの組込みを触媒する(第一のDNA酵素は、遺伝子編集酵素である)、方法を説明する。
図1、
図9~
図11及び
図15に記載のその改変は又、本開示によって包含される。
【0164】
この例では、予め定義されたゲノム位置は、5'~3'配列の順で、(i)左相同アーム(LHA)、(ii)遺伝子編集酵素の認識部位/切断部位(CS)、(iii)3'~5'方向性を有する(すなわち、プロモーターに近い末端にスプライスドナー部位を有する)イントロンの5'部分としても機能する、右相同アーム(RHA)、(iv)3'~5'方向性を有するプロモーターP1及び(v)第二のDNA酵素の認識部位E1を含む。
【0165】
この例では、ドナーベクターは、5'~3'配列の順で、(i)前記左相同アーム(LHA)、(ii)ここで、対象である遺伝子(GOI)のための発現カセットによって例示される、組込みカセット(IC)、(iii)前記第二のDNA酵素の認識部位E2、(iv)第二の選択マーカー(SM2)のための発現カセット、(v)3'~5'方向性でコードされる第一の選択マーカー(SM1)の遺伝子、(vi)3'~5'方向性(すなわち、SM1に近い末端にスプライスブランチ部位及びスプライスアクセプター部位を有する)を有するイントロンの3'-部分、並びに(vii)3'~5'方向性を有するイントロンの5'部分としても機能する、前記右相同アーム(RHA)を含む。
【0166】
ドナーベクター及びCSについての切断特異性を有する遺伝子編集酵素の、真核生物細胞の集団への導入は、(a)真核生物細胞の分画のための、予め定義されたゲノム位置にあるCSでの2本鎖切断、(b)CSでの2本鎖切断を有する真核生物細胞の分画のための、相同性指示DNA修復によるLHA及びRHAが隣接するドナーベクター領域の組込み、(c)LP細胞の分画のための、ドナーベクターのオフターゲットゲノム組込み(予め定義されたゲノム領域の外側)をもたらす。
【0167】
予め定義されたゲノム位置での組込みは、SM1についての活性な発現カセットの形成をもたらす(
図12b、パネル(ii)を参照のこと)。組込み現象は、プロモーターP1とSM1との間で完全な機能的イントロンを更に生成するので、SM1の成熟mRNAは、RHAを含まない。更に、LPでの組込み後、SM1とSM2との両方に、前記第二のDNA酵素の2つの認識部位が隣接する。
【0168】
オフターゲット現象による組込み(
図12b、パネル(iii)を参照のこと)は、典型的には、SM1の活性化につながらないが、前記第二のDNA酵素の2つの認識部位が隣接しない活性なSM2を組み込む。
【0169】
予め定義されたゲノム位置で組込みを受けている真核生物細胞は、組込み現象を有さない細胞(
図12b、パネル(i)を参照のこと)及びSM1の活性を介してオフターゲット組込み事象のみを受けている細胞と異なる。ゆえに、SM1の活性を使用して、予め定義されたゲノム位置で組込みを受けている細胞を選択することができる。
【0170】
予め定義されたゲノム位置での組込みに加えて、オフターゲット組込み事象を受けている細胞を取り除くために、E1及びE2を組み換える能力があるリコンビナーゼ活性(第二のDNA酵素)が、SM1活性について選択された細胞内で導入される。LPでの組込みのため、これは、SM1とSM2との両方の切除をもたらし、ゆえに、それらの対応する活性をもたらす。オフターゲット組込み現象のため、この反応は、生じることができず、SM2活性が残る。結果として、予め定義されたゲノム位置で所望される標的組込み事象のみを受けている細胞は、SM2活性の不存在を介して複数の組込み事象を受けている細胞から選択することができる。
【0171】
最終的に選択された細胞についての予め定義されたゲノム位置(
図12cを参照のこと)は、E1及びE2(E)の組換えを介して生成される配列を除き、SM2の発現カセットも、SM1の活性化された発現カセットも、ドナーベクター由来の残りの配列も含有しない。
【0172】
遺伝子編集酵素は、(i)Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN);メガヌクレアーゼ等のホーミングエンドヌクレアーゼ;(iii)TALEN又は(iv)CRISPR/Cas9等の、DNA若しくはRNAガイドヌクレアーの群から選択され得るが、これらに限定されない。
【0173】
前記第二のDNA酵素は、リコンビナーゼ活性を有し、(i)セリンリコンビナーゼ又は(ii)チロシンリコンビナーゼの群から選択されてもよい。
【0174】
E1及びE2は、(i)Creリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=loxP若しくはその変異したバリアント、(ii)Dreリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=rox若しくはその変異したバリアント又は(iii)FLPリコンビナーゼを用いた使用のための、E1=E2=FRT若しくはその変異したバリアントによって例示される通り、配列において同一であってもよい。
【0175】
E1及びE2は、(i)PhiC31リコンビナーゼを用いて使用するための、E1=attP及びE2=attB又は(ii)E1=Bxb1 attP及びE2=Bxb1 attBによって例示される通り、異なる配列を有し得る。
【0176】
したがって、前記第一のDNA酵素が、遺伝子編集ヌクレアーゼ等の遺伝子編集酵素である、方法が本明細書において提供される。これにより、(a)I1が、前記遺伝子編集ヌクレアーゼの切断部位並びに2つの配列領域LHA1及びRHA1を含み;(b)I2が、LHA1及びLHA2に相同な2つの配列領域LHA2及びRHA2を含み;(c)I1及びI2が、前記第一のDNA酵素の存在下で組換えする能力がある、方法がここで提供される。
【0177】
既に述べられた通り、前記遺伝子編集酵素が、(i)Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN);(ii)メガヌクレアーゼ等の、ホーミングエンドヌクレアーゼ;(iii)TALENS及び(iv)CRISPR/Cas9等の、DNA又はRNAガイドヌクレアーゼからなる群から選択されるが、これらに限定されない、方法が提供される。
【0178】
核酸配列E1及びE2は、それぞれ、loxP、rox若しくはFRT又はそのバリアント等の、同一のリコンビナーゼ認識部位であってもよく、但し、E1及びE2は、I1及びI2と異なる。
【0179】
前記第二のDNA酵素は、Creリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼ及びFLPリコンビナーゼからなる群から選択されてもよく、但し、第一のDNA酵素は、Creリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼ又はFLPリコンビナーゼでもない。
【0180】
本明細書において提供される方法において、プロモーター核酸配列P1及び/又はP2は、前記予め定義されたゲノム位置で組み込まれたとき、スプリットイントロンの5'部分に機能的に融合されてもよい。これは、本明細書において既に考察された
図15において説明される。予め定義されたゲノム位置におけるプロモーターP1(又はP2)とI1(又はそのバリアント)との間でのスプリットイントロンの導入は、妨害に起因して、ポリメラーゼからプロモーターに生じ得る立体障害を最小にする「スペーサー」をもたらす。このスペーサーの存在は、実施例1の実験セクションに示される通り、第一の選択マーカー(SM1)の改善された発現をもたらす。
【0181】
したがって、予め定義されたゲノム位置は、3'~5'方向性を有するイントロンの5'部分及び前記第一のリコンビナーゼ酵素の前記第一の認識部位と、3'~5'方向性を有する前記プロモーターP1との間に3'~5'方向性を有する機能的配列領域F1を更に含み、ドナーベクターは、3'~5'方向性を有する前記第一の選択マーカーSM1と前記第一のリコンビナーゼ酵素の前記第二の認識部位との間に位置する配列領域を更に含む、方法が本明細書において提供される。前記配列領域は、5'~3'配列の順で、(a)3'~5'方向性を有する機能的配列領域F3及び(b)スプライスアクセプター部位の下流に機能的配列領域F2を更に含む、3'~5'方向性を有するイントロンの3'部分を含む。
【0182】
本明細書において既に考察された、前記切除された核酸配列は、
(a)第一の選択マーカーをコードする核酸配列;
(b)プロモーター核酸配列P1若しくはP2;及び/又は
(c)第二の選択マーカーをコードする発現カセットを含む、方法が又本明細書において提供される。
【0183】
切除される核酸配列の上述の設計は、第二の選択マーカー(SM2)の発現に基づき、予め定義されたゲノム位置以外の位置において、ドナーベクターが無作為に組み込まれている細胞の選択をもたらす。これは、このような設計を使用して、SM2の発現が、前記第二のDNA酵素の作用後に、予め定義されたゲノム位置の外側にドナーベクターを組み込む細胞についてのみ正であり得ることを意味する。したがって、第二ラウンドの選択を、SM2の発現に基づく負の選択工程を使用して、予め定義されたゲノム位置の外側にドナーベクターが組み込まれている細胞を取りとができる。第二の選択マーカーをコードする発現カセットの除去は又、代わりに、対象であるタンパク質を産生するために使用され得る細胞のためのエネルギーを保存するよう、方法に対する改善である。
【0184】
第一の選択マーカーは、本明細書における他の場所で述べられているものに加えて、(i)蛍光タンパク質及び(ii)異種性細胞表面マーカーの群から選択されてもよい。選択が、第一の選択マーカーの濃度が、ある限度より上に増加される(FACSにおいてバックグランドより上の蛍光の検出を可能にし、MACSにおいて磁気ビーズへの効率的な結合を可能にする)とすぐに、迅速かつ直接的な単離方法(すなわち、FACS又はMACSに基づく)を使用して行われ得るため、選択マーカーとしての蛍光タンパク質又は細胞表面マーカーの使用は、特定の利点をもたらす。これは、長期かつ間接的な単離ストラテジーを必要とする代謝酵素又は抗生物質抵抗性遺伝子に基づく選択マーカーとは対照的に、活性な選択マーカーを欠く細胞をゆっくりと成長しすぎる、活性な選択マーカーを有する細胞に基づく。
【0185】
第一のDNA酵素は、プラスミド、mRNA又は精製されたタンパク質の形態でもたらされてもよく、任意選択で、前記第一のDNA酵素は、前記ドナーベクターによってコードされ、それから発現されてもよい。第一のDNA酵素は又、本明細書において開示される方法の工程i)の細胞の予め定義されたゲノム位置に存在する、前記第一のDNA酵素をコードする発現カセットから発現されてもよい。
【0186】
本明細書において既に述べられた通り、工程ii)のドナーベクターは、第二のDNA酵素をコードする発現カセットを更に含んでもよく、前記第二のDNA酵素の発現は、前記ドナーベクターが、本明細書において開示される方法における工程i)の細胞の予め定義されたゲノム位置に組み込まれているとき、活性化されている。
【0187】
第二のDNA酵素は又、プラスミド、mRNA又は精製されたタンパク質の形態でもたらされてもよい。
【0188】
本明細書において提示される方法において使用するための真核生物細胞は、酵母細胞、糸状菌細胞、植物細胞、昆虫細胞又は哺乳類細胞からなる群から選択されてもよい。哺乳類細胞は、ヒト、サル、げっ歯類又はマウス細胞であってもよいが、これらに限定されない。真核生物細胞は、本明細書において既に述べられた単離された真核生物細胞である。単離された細胞は、その天然の環境から単離されているか、又は取り除かれている細胞である。
【0189】
本明細書において提示される方法において使用するための真核生物細胞は、バイオリアクターにおける組換えタンパク質の産生のための適合性に基づき、特異的に選択されてもよい。適切な細胞は、CHO又はHEK細胞株の群から選択することができる。
【0190】
本明細書において提示される方法において使用するための真核生物細胞は、ヒト等の哺乳類種に存在する細胞タイプに対する類似性に基づき、特異的に選択されてもよい。
【0191】
本明細書において提示される方法において使用するための真核生物細胞は、懸濁培養液において成長する能力がある細胞株の群から選択されてもよい。
【0192】
別の態様では、本明細書において記載される方法によって得られ得る単離された真核生物の細胞が又提供される。本明細書において開示される方法によって得られ得る、単離された真核生物細胞は、予め定義されたゲノム位置に組み込まれた対象である1つ又は複数の核酸配列を含有する。好ましくは、得られた単離された細胞は、予め定義されたゲノム位置より、宿主細胞ゲノムにおける他の位置に組み込まれている任意のドナーベクターを含有しない。
【0193】
なお別の態様では、組換えタンパク質を生成するための、本明細書において記載される方法によって得られ得る単離された真核生物細胞の使用も又提供される。
【0194】
ゆえに、別の態様では、組換えタンパク質を産生する方法が又提供され、前記方法は、
i)本明細書において開示される方法を行うことによって、予め定義されたゲノム位置に組み込まれた1つ又は複数の対象である核酸配列を含む単離された真核生物細胞を得る工程であって、少なくとも1つの対象である核酸配列は、対象であるタンパク質をコードする遺伝子を含む少なくとも1つの発現カセットを含む、前記工程;
ii)工程i)の前記細胞において、対象である遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する工程;及び
iii)工程ii)のタンパク質を単離する工程
を含む。
【0195】
さらなる態様では、
a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列;
b.対象である核酸配列;
c.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列
を含むドナーベクターが提供される。
【0196】
なおさらなる態様では、予め定義されたゲノム位置を含む単離された真核生物細胞が提供され、予め定義された位置は、
a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1;
b.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E1;及び
c.プロモーター核酸配列P1;
d.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;
e.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセット
を含む。
【0197】
なおさらなる態様では、対象である核酸配列の宿主細胞への標的組込みのための組換え発現システムが提供され、前記発現システムは、
a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列;
b.対象である核酸配列;
c.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列
を含むドナーベクター;並びに
a.第一のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列I1;
b.第二のDNA酵素の認識部位を含む核酸配列E1;及び
c.プロモーター核酸配列P1;
d.第一の選択マーカーをコードする核酸配列;
e.任意選択で、第二の選択マーカーをコードする発現カセット
を含む、予め定義されたゲノム位置を含む単離された真核生物細胞
を含む。
【0198】
本開示は、ここで、以下の実施例のセクションによって、そこに提供される実施例に限定されることなく、説明される。実施例のセクションは、本発明を行う異なる方法を単に説明する。
【0199】
実験のセクション
略語
LP=着地パッド
LP1P1=attP1を含む着地パッド
LP2P2=attP2及びスプリットイントロンを含む着地パッド2
CHO=チャイニーズハムスター卵巣
FC-eGFP=IgG1由来のFCに融合した増強した緑色蛍光タンパク質
TagBFP2=青色蛍光タンパク質バリアント
TagRFP-T=赤色蛍光タンパク質バリアント
G418=ジェネテシンとしても知られ、ネオマイシン抵抗性遺伝子(NeoR)を発現する哺乳類細胞を選択する広範なスペクトルの抗生物質。
【0200】
配列表
以下の配列を、実験のセクションにおいて使用するが、本開示は、これらの配列に制限されない。したがって、前記配列バリアントの機能が、本質的に元の配列と同じままである、そのバリアントも予想する。
【0201】
attP1(配列番号1)
【0202】
【0203】
attB1(配列番号2)
【0204】
【0205】
attP2(配列番号3)
【0206】
【0207】
attB2(配列番号4)
【0208】
【0209】
PhiC31遺伝子(配列番号5)
【0210】
【0211】
loxP(配列番号6)
【0212】
【0213】
Cre遺伝子(配列番号7)
【0214】
【0215】
FC-eGFP遺伝子(配列番号8)
【0216】
【0217】
FC-TagBFP2遺伝子(配列番号9)
【0218】
【0219】
TagRFP-T遺伝子(配列番号10)
【0220】
【0221】
eGFP遺伝子(配列番号11)
【0222】
【0223】
TagBFP2遺伝子(配列番号12)
【0224】
【0225】
NeoR遺伝子(配列番号13)
【0226】
【実施例1】
【0227】
phiC31リコンビナーゼ介在性組込み及び選択マーカー活性化の効率
組込み効率を調査するために、HyClone CHO LP 細胞及び非LP HyClone CHO対照細胞を、PhiC31リコンビナーゼ発現プラスミドの組合せ及びドナーベクターA又はBのいずれかを用いて遺伝子導入した(
図2)。ドナーベクターは、LP細胞におけるLPでの組込みの際に活性化するように位置する、FC-eGFP及びFC-TagBFP2のための発現カセット並びにプロモーターを含まないTagRFP-T遺伝子を含有する。
【0228】
2つのHyClone-CHO LPバリアント及びマッチングドナーベクターを調査した、
図2を参照のこと。HyClone-CHO LP1P1において、LPにおけるプロモーターは、attP1のすぐ下流に位置する。ドナーベクターAにおいて、TagRFP-T遺伝子を、attB1のすぐ上流に位置する。HyClone-CHO LP2P2において、スプリットイントロンの5'部分は、LPのattP2と下流のプロモーターとの間に位置する。ドナーベクターBにおいて、スプリットイントロンの3'部分を、attB2と上流のTagRFP-T遺伝子との間に位置する。組込みの効率を、バックグラウンドより上のRFPシグナルを提示する細胞のパーセンテージを測定することによって、トランスフェクションの7日後にフローサイトメトリーによって評価した(遺伝子導入していない対照と比較して明確にする、
図3を参照のこと)。
【0229】
図3において、生じたフローサイトメトリーデータの例を、対照との比較においてHyClone CHO LP2P2について説明する。結果の完全なセットを、表1において要約する。LP1P1については、遺伝子導入していない対照のみを使用し、一方、LP2P2については、無作為な組込み対照(RI対照、ドナーベクターのみ)と偽att組込み対照(LPを欠くCHO細胞株におけるドナーベクター+PhiC31)との両方を行った。データによると、両方のLPバリアントは機能的だが、スプリットイントロン設計を利用するLP2P2バリアントは、優れた組込み効率を与える。
【0230】
【実施例2】
【0231】
組込み部位でのベクター骨格のCreリコンビナーゼ介在性切除の効率
HyClone CHO LP1P1細胞を、LP細胞におけるLPでの組込みの際に活性化するように位置する、PhiC31発現プラスミド並びにFC-eGFP及びFC-TagBFP2についての発現カセットを含有するドナーベクター並びにプロモーターを含まないTagRFP-T遺伝子を使用して遺伝子導入した(
図4)。着地パッド(LP)でドナーベクターを組み込んだ細胞を、バックグラウンドより上のTag-RFP-Tシグナル及びFC-eGFPとFC-TagBFP2との両方の平均した発現をゲーティングするいくつかのFACS選別工程によって富化した。次いで、細胞の得られたソートし、拡大したプールを、(a)Creリコンビナーゼ発現プラスミド、(b)Creをコードする合成mRNA又は(c)核酸分子をコードするCreリコンビナーゼを欠く偽トランスフェクション溶液のいずれかを使用して、2回目の遺伝子導入をした。2回目のトランスフェクションの7日後、全ての細胞集団をフローサイトメトリーによって分析して、2つのloxP部位が隣接する領域の切除の効率を評価した。
【0232】
Creリコンビナーゼトランスフェクション後のフローサイトメトリー分析のプロットを、
図5において見ることができる。データは、偽対照と比較して、2つのCreリコンビナーゼで処理したプールについてFC-TagBFP2を発現しない細胞の増加を示す。これは、順に、FC-TagBFP2に、Creリコンビナーゼ酵素が作用し得る2つのloxP部位が隣接するように、LPでドナーベクターの正しい組込みを明確に示す。データによると、Creリコンビナーゼが触媒した切除反応は、最大少なくとも80%の収率を伴い、非常に有効である。
【実施例3】
【0233】
直交性attP/attB対の使用による同じゲノム位置での反復性組込み
HyClone CHO LP1P1細胞を、PhiC31発現プラスミド並びにattB1配列、続いてattP2配列、スプリットイントロンの5'部分、プロモーター、loxP配列及びeGFPについての発現カセットを含有するドナーベクター(
図6、ドナーベクターA)を使用して、遺伝子導入した。トランスフェクション後7日目に、eGFP陽性細胞をFACSによって選別し、続いて細胞を拡大した。次いで、eGFP陽性細胞の2回目のより厳密な選別を行った。2回目の正の選別(
図7、工程1の選別)後に拡大した細胞を、Creリコンビナーゼをコードする合成mRNAを使用して遺伝子導入した。Creリコンビナーゼトランスフェクションの7日後、eGFP陰性細胞を、FACSを使用して選別した。拡大後、eGFP陰性細胞プールを、フローサイトメトリー(
図7、工程2の選別)によって分析した。選別及び分析工程のデータを、
図7、上部のパネルに示す。これらの工程中、CHOゲノムにおける着地パッドが、
図6における工程(1)及び(2)によって示す通り、変化していると想定する。
【0234】
変化した着地パッドの機能性を検証するために、最終選別(
図7、工程2の選別)後に得たeGFP陰性プールを、DNAドナーベクターB(
図6、工程3)を使用して遺伝子導入し、トランスフェクションの7日後にフローサイトメトリーによって分析した(
図7、下部のパネル)。データは、新規の着地パッドの機能性を示す。最後に、eGFP陰性プール由来の細胞を、FACSによる単一の細胞選別を使用してクローニングし、それらのゲノムの着地パッド領域を、PCRによって増幅し、配列決定した。着地パッドの正しい変化を、配列決定によって複数のクローンについて確認し(新規着地パッド領域の完全担保)、これは、
図7に概説する変化を守備よく達成していることを示している。
【実施例4】
【0235】
2つの連続した選択工程を使用してSDI細胞プールの生成
HyClone CHO LP2P2細胞(実施例3により生成したクローン)を、
図8に従い構築したPhiC31リコンビナーゼ発現プラスミド及びドナーベクターを使用して、遺伝子導入した。
【0236】
トランスフェクションの2日後に開始して、細胞を、G418の存在下で培養して、着地パッドでドナーベクターを組み込む細胞について選択し、これにより、ネオマイシン抵抗性遺伝子(Neo
R)を活性化した。G418選択後の高い生存率(>98%)まで戻った後、細胞を、GFP/RFP二重陽性シグナルに基づくFACSによって選別した。拡大後、選別した細胞を、Creリコンビナーゼをコードする合成mRNAを使用して、遺伝子導入した。Creリコンビナーゼトランスフェクション後7日目に、細胞を、GFP陽性/RFP陰性シグナル(
図9、ゲートE)によってFACS選別した。最終SDIプールを、拡大後のフローサイトメトリーによって分析した。
【0237】
FACS/フローサイトメトリーのデータを、
図9において見ることができる。Creリコンビナーゼトランスフェクション後の追加の選択工程は、TagRFP-T陽性(正くない組込み)及びTagRFP-T陰性(正しい組込み)細胞についてのeGFPシグナルの平均値及びCVによって示す通り、プールにおける不均一を低減する。
【0238】
【配列表】
【国際調査報告】