(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】自動化された高スループットのイメージング質量サイトメトリ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/04 20060101AFI20230516BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230516BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230516BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20230516BHJP
G01N 1/44 20060101ALI20230516BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230516BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G01N35/04 E
G01N21/64 E
G01N27/62 F
G01N1/22 T
G01N1/44
G01N33/53 Y
B25J13/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532044
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 US2020062268
(87)【国際公開番号】W WO2021108584
(87)【国際公開日】2021-06-03
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522211553
【氏名又は名称】スタンダード バイオツールズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】サンドキュール,ダーフ
(72)【発明者】
【氏名】ロボダ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】イェ,ヴィンセント イーチン
(72)【発明者】
【氏名】ゲイラットマンド,ラダン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G043
2G052
2G058
3C707
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA14
2G041FA10
2G041FA11
2G041FA16
2G041GA06
2G041GA16
2G041GA19
2G041HA04
2G041JA05
2G041JA16
2G043AA01
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA05
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043KA02
2G052AA33
2G052BA16
2G052DA07
2G052EB01
2G052EB02
2G052EC03
2G052FA01
2G052FA08
2G052GA24
2G052GA32
2G058CD23
2G058GA01
2G058GA11
2G058GA14
3C707AS01
3C707BS12
3C707DS01
3C707KS03
3C707KT03
3C707KT05
3C707KT06
3C707LS14
3C707LW12
(57)【要約】
イメージング用途のための自動スライドハンドリングのための方法およびシステムが本明細書に記載されている。特定の態様では、自動スライドハンドラは、スライドホテルおよび/または本明細書に記載の1つまたは複数のイメージングシステムに動作可能に結合されてもよい。自動スライドハンドラは、最大6自由度を有するロボットアームであってもよい。自動スライドハンドリングは、切片化および染色などの試料調製を含んでもよい。適切なイメージングシステムは、蛍光顕微鏡またはイメージング質量サイトメータを含む。本明細書に開示する方法およびシステムは、組織切片の高スループットプロファイリングを可能にする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イメージングシステムにスライドを導入するためのシステムであって、
6自由度を含む自動スライドハンドラを含むシステム。
【請求項2】
前記自動スライドハンドラはロボットアームを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムはレーザアブレーションシステムをさらに含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記システムは、ロボットアーム動作を指示するように一体化された1つまたは複数のカメラをさらに含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
複数のスライドを保持するように構成されたスライドホテルをさらに含み、前記スライドハンドラは、前記スライドホテルと1つまたは複数のイメージングシステムとの間でスライドを移送するように構成される、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは、前記スライドホテル内の複数のスライドの関心のある領域を記録するように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
試料調製ステーションをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記試料調製ステーションは、1つまたは複数のスライドに装着された試料に試薬を送達するように構成される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記試薬は質量タグ付き抗体を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
イメージングシステムをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記イメージングシステムはイメージング質量サイトメータを含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記イメージングシステムは、ピクセルごとの取得を実行する、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
前記システムはイメージング質量サイトメータを含み、前記システムは、イメージング質量サイトメータによるイメージングのための1つまたは複数の関心のある領域を記録するように構成される、請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記イメージング質量サイトメータはサンプリング装置を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記サンプリング装置はレーザアブレーション源である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記イメージング質量サイトメータは誘導結合プラズマ質量分析器を含む、請求項14または15に記載のシステム。
【請求項17】
前記イメージング質量サイトメータはTOF検出器を含む、請求項13から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記イメージングシステムは、LA-ICP-MSシステムと一体化された光学顕微鏡を含む、請求項13から17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記システムは、レーザアブレーションによってスライド上に基準点を作成するように構成される、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記システムは、ROIのサンプリングを指示するためにスライド上のレーザアブレーション基準点を特定するように構成される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記イメージングシステムは光学顕微鏡を含む、請求項13から20のいずれか一項に記載のシステム。
システムは、イメージング質量サイトメータと、前記イメージング質量サイトメータから分離した別の光学顕微鏡と、を含み、前記スライドハンドラは、前記光学顕微鏡と前記イメージング質量サイトメータとの間でスライドを移送するように構成される、請求項1から20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記光学顕微鏡は蛍光顕微鏡を含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記光学顕微鏡は共焦点顕微鏡を含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記システムは、前記光学顕微鏡によって決定されたROIに対してイメージング質量サイトメトリを実行するように構成される、請求項1から23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記システムは、スライド上の組織切片の特徴に基づいてROIを特定するように構成される、請求項1から24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
6自由度を含む自動スライドハンドラに動作可能に結合されたイメージング質量サイトメータを含むシステム。
【請求項27】
スライドホテルからイメージングシステムへの複数のスライドの自動導入のために、請求項1から26のいずれか一項に記載のシステムを使用する方法。
【請求項28】
第1のステップでは、前記複数のスライド上に関心のある領域(ROI)を記録するステップを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
第2のステップでは、前記複数のスライドを前記イメージングシステムに導入し、前記イメージングシステムを使用して関心のある領域をイメージングするステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
イメージングするステップは、イメージング質量サイトメトリによるものである、請求項27から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記関心のある領域は、イメージング質量サイトメトリ以外のイメージングモダリティによって決定される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記試料は、積み立てられたFFPE試料を含む、請求項27から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記試料は、積み立てられたFFPE試料を含む、請求項27から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
レーザアブレーションによって前記スライド上に基準点を作成するステップをさらに含む、請求項27から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
複数の膜標的に対する質量タグ付き抗体を含むセグメント化パネルで前記試料を染色するステップをさらに含む、請求項27から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記スライドホテル内の試料の自動染色をさらに含む、請求項27から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
樹脂包埋およびアレイ断層撮影試料調製をさらに含む、請求項27から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記自動スライドハンドラはロボットアームを含み、前記システムは、ロボットアーム動作を指示するように一体化された1つまたは複数のカメラをさらに含む、請求項27から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記1つまたは複数のカメラは、前記ロボットアーム上に配置された立体カメラを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記1つまたは複数のカメラは3Dビューを提供する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記ロボットアームによってアクセスされる機器とのスライドの位置合わせを必要とする動作にコミットする前に、前記ロボットアームの動作を停止し、前記ロボットアームまたは前記スライドの位置を確認するステップをさらに含む、請求項38から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記1つまたは複数のカメラは、前記ロボットアーム上に配置された立体カメラを含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項43】
前記1つまたは複数のカメラは3Dビューを提供する、請求項4に記載のシステム。
【請求項44】
スライド、イメージングシステム、およびスライドホルダのうちの1つまたは複数に基準点をさらに含む、請求項4、42または43に記載のシステム。
【請求項45】
前記ロボットアームによってアクセスされる機器とのスライドの位置合わせを必要とする動作にコミットする前に、前記ロボットアームの動作を停止させ、前記ロボットアームまたは前記スライドの位置を確認するためのソフトウェア命令を含むコンピュータ可読媒体をさらに含む、請求項4、42、43または44に記載のシステム。
【請求項46】
前記ロボットアームによってアクセスされる前記機器は、イメージングシステムおよびスライドホテルの少なくとも一方を含む、請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
複数の組織スライドを保持するように構成されたスライドホテルと、
組織スライドを受け入れるように構成されたイメージングシステムと、
前記組織スライドを操作するように構成されたグリッパを含むロボットアームであって、前記ロボットアームは6自由度を有し、前記ロボットアームは、前記スライドホテルと前記イメージングシステムの両方にアクセスすることができる、ロボットアームと、
を含む、自動イメージングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月29日に出願された米国仮出願第63/045,512号および2019年11月27日に出願された米国仮出願第62/941,028号の優先権の利益を主張し、これらの両方の内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の実施形態は、自動化された高スループットイメージングの方法およびシステム、例えば、イメージング質量サイトメトリのためのものを含む、イメージング用途のための自動スライドハンドリングに関する。
【背景技術】
【0003】
組織試料などの複数の試料のイメージングは、過度のハンズオン動作を必要とする可能性がある。ピクセルごとの取得に依存するいくつかのイメージングモダリティなど、低速のイメージングモダリティの場合、自動化された試料導入が有益であり得る。しかしながら、イメージングシステムは、任意の場所でスライド導入を必要とする場合がある。さらに、個々の試料は、後続のイメージングを案内するために最初の質問によって決定された異なる関心のある領域を有する場合がある。
【発明の概要】
【0004】
イメージング用途のための自動スライドハンドリングを含む、自動化された高スループットイメージングのための方法およびシステムが本明細書に記載される。
【0005】
特定の態様では、スライドをイメージングシステムに導入するためのシステムは、6自由度などの複数の自由度を含む自動スライドハンドラを含む。スライドハンドラは、6軸ロボットアームなどのロボットアームを含んでもよい。
【0006】
システムは、レーザアブレーションシステム、イメージングシステム、ロボットアーム動作を指示するように統合された1つもしくは複数のカメラ、および/またはスライドホテルのうちの1つまたは複数をさらに含んでもよい。例えば、システムは、複数のスライドを保持するように構成されたスライドホテルを含んでもよく、スライドハンドラは、スライドホテルと1つまたは複数のイメージングシステムとの間でスライドを移送するように構成されてもよい。
【0007】
システムは、スライドホテル内の複数のスライドの関心のある領域を記録し、任意選択的にさらに関心のある領域でイメージング(例えば、イメージング質量サイトメータ)を指示するように(例えば、コントローラおよびソフトウェアによって)構成されてもよい。
【0008】
システムは、試料調製ステーションをさらに含んでもよい。試料調製ステーションは、1つまたは複数のスライドに装着された試料に試薬を送達するように構成されてもよい。試薬は、質量タグ付き特異的結合パートナー(例えば、抗体)を含んでもよい。
【0009】
システムは、1つまたは複数のイメージングシステムをさらに含んでもよく、イメージングシステムはイメージング質量サイトメータを含んでもよい。システムは、LA-ICP-MS、イメージング質量サイトメトリ、および/または共焦点顕微鏡法などによるピクセルごとの取得を実行するイメージングシステムを含んでもよい。
【0010】
システムは、イメージング質量サイトメトリによるイメージングのための1つまたは複数の関心のある領域を記録するように構成されてもよい。
【0011】
システムは、レーザアブレーション源またはイオンビーム源などのサンプリング装置を含むイメージング質量サイトメータを含んでもよい。イメージング質量サイトメータは、プラズマ(例えば、誘導結合プラズマ)などのイオン化源をさらに含んでもよい。あるいは、またはさらに、イメージング質量サイトメータは、磁気セクタまたは飛行時間検出器などの検出器を含んでもよい。
【0012】
システムは、イメージング質量サイトメトリシステム(LA-ICP-MSイメージング質量サイトメトリシステムなど)と統合された、またはイメージング質量サイトメトリシステムとは別個の光学顕微鏡を含んでもよい。システムは、レーザアブレーションによってスライド上に基準点を作成するように構成されてもよい。システムは、スライド上のレーザアブレーション基準点(例えば、X-Y座標の較正を可能にするもの、またはROIを直接示すもの)を特定してROIのサンプリングを指示するように構成されてもよい。
【0013】
イメージングシステムは、広視野蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡などの光学顕微鏡を含んでもよい。システムは、イメージング質量サイトメータと、イメージング質量サイトメータから分離した光学顕微鏡と、を含んでもよく、スライドハンドラは、光学顕微鏡とイメージング質量サイトメータとの間で(例えば、スライドホテル中間部などを介して)スライドを移送するように構成される。システムは、蛍光顕微鏡などの光学顕微鏡によって決定されたROIに対してイメージング質量サイトメトリを実行するように構成されてもよい。システムは、ユーザ入力または所定のソフトウェアなどを介して、スライド上の組織切片の特徴に基づいてROIを特定するように構成されてもよい。6自由度を含む自動スライドハンドラに動作可能に結合されたイメージング質量サイトメータを含むシステム。
【0014】
本明細書に記載のシステムを使用する方法も含まれる。方法は、スライドホテルからイメージングシステムへの複数のスライドの自動導入を含んでもよい。
【0015】
方法は、第1のステップで、複数のスライド上の関心のある領域(ROI)を記録するステップを含んでもよい。本方法は、第2のステップで、複数のスライドをイメージングシステムに導入し、イメージングシステムを使用して関心のある領域をイメージングするステップをさらに含んでもよい。イメージングシステムは、イメージング質量サイトメータを含んでもよい。このように、本方法は、イメージング質量サイトメトリの前に複数の試料中の関心のある領域を特定するステップをさらに含んでもよい。特定の態様では、試料は、積み立てられたFFPE試料および/または別々のスライド上の連続切片を含む。方法はまた、レーザアブレーションによってスライド上に基準点を作成するステップを含んでもよい。
【0016】
あるいは、またはさらに、方法は、樹脂包埋およびアレイ断層撮影試料調製を含んでもよい。
【0017】
あるいは、またはさらに、方法は、流体染色システムなどによる試料の自動染色を含んでもよい。
【0018】
あるいは、またはさらに、方法は、IMC分析のための複数の膜標的に対する質量タグ付き抗体を含むセグメント化パネルで試料を染色するステップを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】例示的なロボットアームの動作範囲を示す図である。
【
図4A】本出願のスライドハンドリングシステムの図である。
【
図4B】本出願のスライドハンドリングシステムの図である。
【
図4C】本出願のスライドハンドリングシステムの図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
自動化された高スループットイメージング用途のための方法およびシステムが本明細書に記載される。特定の態様では、自動スライドハンドラは、スライドホテルおよび/または本明細書に記載の1つまたは複数のイメージングシステムに動作可能に結合されてもよい。
【0021】
高スループットイメージング(HTI)システムおよびワークフローは、ユーザの介入なしに、5枚、10枚、20枚、50枚、または100枚を超えるスライドなどの多数のスライドをイメージングすることができる。イメージング質量サイトメータなどのイメージングシステムは、高スループット無人動作のための自動化ツールから利益を得ることができる。本出願の潜在的なシステム(例えば、HTIユニット)は、ピクセルごとのイメージングシステムならびに大きなデータセットを生成し、および/または動作に長い時間を必要とするイメージングシステムを含む。市販の顕微鏡では、PriorのPL200ロボットなどのデカルト座標ロボットを使用して、スライドローディングの自動化が行われている。しかしながら、多軸ロボットアームなどの少なくとも3、4、または5自由度(例えば、6自由度)を含むスライドハンドラは、より高価な解決策である。しかしながら、より高価な解決策の欠点は、設置および較正の単純さ、およびこのタスクに適した大量生産のロボットアームの将来のアクセス可能性によって相殺することができる。さらに、そのようなスライド導入は、様々なイメージングシステム、スライドホテルおよび/または試料調製ステーションの結合、ならびに異なるスライドサイズおよび形状の動作を可能にすることができる。
【0022】
自動スライドハンドラおよび動作
本出願のスライドハンドラは、少なくとも3、4、または5自由度を有してもよい。特定の態様では、スライドハンドラは6自由度を有する。
【0023】
スライドハンドラは、スライドホテルおよび/またはイメージングシステム内のスライドなどのスライドを走査するように構成されてもよい。スライドハンドリングシステムは、スライドホテルと1つまたは複数のイメージングシステムとの間でスライドを移送するためのソフトウェアを含んでもよい。ソフトウェアは、各スライドの関心のある領域を(例えば、光学顕微鏡画像または初期イメージング質量サイトメトリスキャンに基づいて)記録し、および/または各スライドの記録された関心のある領域を(例えば、イメージング質量サイトメトリによって)イメージングするためのフォーマットをさらに含んでもよい。
【0024】
自由度
スライドハンドラは、少なくとも3、4、または5の自由度を有してもよい。特定の態様では、スライドハンドラは6自由度を有する。
【0025】
図1は、3つの並進運動および3つの回転運動を含む6自由度を示す。3つの並進運動は、サージ(X軸上の前後)、スウェイ(Y軸上の左右)、およびヒーブ(Z軸上の上下)を含む。3つの回転動作は、ロール(X軸を左右に傾動)、ピッチ(Y軸を前後に傾動)、およびヨー(Z軸を左右に旋回)である。
【0026】
スライドハンドラの自由度が増すと、スライドハンドラは任意の位置でスライドを操作することができる。例えば、スライドハンドラは、スライドホテルと1つまたは複数のイメージングシステムとの間でスライドを移送してもよい。
【0027】
ロボットアーム
特定の態様では、スライドハンドラはロボットアームである。ロボットアームは、少なくとも3、4、5、または6つの軸などの複数の軸を有してもよい。したがって、ロボットアームは、3、4、5、または6の自由度を有してもよい。特定の態様では、ロボットアームは6軸ロボットアーム(すなわち、少なくとも6つの軸を含む)である。ロボットアームは、ベースをさらに含んでもよい。ロボットアームは、スライドを把持および解放するように構成されたグリッパをさらに含んでもよい。
【0028】
図2に示すように、ロボットアーム200は、スライドホテルおよび/またはイメージングシステムなどの1つまたは複数のシステムに動作可能に結合することができる動作領域202を有する。
図2に示す例示的なロボットアームは、Mecademicによって提供されるMeca500小型ロボットアームである。
【0029】
特定の態様では、システムは、ロボットアームの動作領域の大部分またはすべてをカバーする視野を有するカメラを含んでもよい。カメラは、ロボットアームに装着されてもよく、またはロボットアームとは別個であってもよい。カメラは、(例えば、ロボットアームのコントローラを用いて)一体化されて、ロボットアームを誘導して、スライドホテルのスロットとイメージング装置のスライド導入位置との間でスライドを移送することができる。
【0030】
図3に示すように、ロボットアーム300は、ベース302と、複数の動作軸304,306,308,310,312および314と、グリッパ316と、を含んでもよい。
【0031】
本出願の態様は、「スライドホテル」からスライドを掴み、スライドをHTIユニットのスライドホルダ(例えば、スライド導入位置)に送達するための6軸ロボットアームの使用を含む。この手法は、わずかな変更で多種多様な顕微鏡で利用できるほど十分に柔軟で一般的である。
【0032】
本発明者は、十分に正確な6軸ロボットアームに基づいてスライドローダを作成することは、ロボットアームのスライドホテルに対する相対位置、およびロボットアームのHTIユニット内のスライドホルダに対する相対位置の較正のみを必要とし得ることを認識した。これは、ほとんどすべての複雑さがロボットアーム内に含まれているため、設計の大幅な簡素化、および代替的なスライドローダに対するモジュール性の向上を表す。
【0033】
特定のHTI構成では、スライドは、6軸アームに取り付けられたロボットグリッパによって把持される。グリッパは、一般に、スライドソースおよびスライド受け部の異なる構成のためのカスタマイズを提供してもよい。アーム自体は、十分な位置決め精度、到達範囲(例えば、動作領域)および機械的強度を有する一般的なアームとすることができる。
【0034】
設定全体の潜在的な問題は、グリッパがスライドを把持しようとするとき、またはそれを保持して障害物に乗り込むとき、またはスライドをスライドホルダに挿入するときに、スライドを損傷する可能性があることである。この問題を回避するために、スライドグリッパは、スライド位置を記録する機能を有することができる。あるいは、グリッパは、スライドを不正確に把持する可能性があり、スライドホルダ受け部は、不正確に把持されたスライドの挿入を案内する機能を有してもよい。さらに別の代替案として、不正確に把持されたスライドを挿入することができ、その動作がスライドを中間位置に位置合わせする中間位置があり得る。この十分に位置合わせされたスライドは、正確に把持され、次いでスライドホルダに挿入され得る。
【0035】
カメラ
さらなる統合の観点から。アーム自体に、またはスライドホルダ挿入領域およびスライド保管領域などの動作の重要な領域に、1つまたは複数の監視カメラを設置することが有益であり得る。ソフトウェアを使用して、異常を検出し、エラーを処理することができる。機械学習は、画像処理および状態監視に適することができる。保管側の別の潜在的に有用なツールは、スライド存在検出器である。このツールは、ホテル側のスライドインサートごとに個々の光検出器の形態をとることができる。カメラおよびスライド検出ソフトウェアは、スライド検出機能も提供することができる。同様のスライド現在検出器を顕微鏡スライドホルダに利用することができる。これにより、スライドローダが既に装填されているスライドホルダにスライドを装填しようとしている状況が回避される。
【0036】
バッチ動作では、スライドローダは、スライドを顕微鏡ステージから取り出し、次にスライドをスライド「ホテル」内の自由な場所に戻すことができる。ソフトウェアは、その位置を「使用済み」スライドとしてマークしてもよい。次いで、新しいスライドがピックアップされ、スライドローダがそれを顕微鏡ステージ上のスライドホルダに挿入する。HTIユニットの場合、これらの装填/取り出し動作は、スライド導入位置(例えば、レーザアブレーションチャンバの)へのドアの開閉、アブレーションチャンバ内のガスのフラッシング、および/または装填/取り出し位置への、およびそこからの、アブレーションXYZステージの移動と同期させることができる。
【0037】
一実施形態では、カメラは、グリッパに対する、または顕微鏡のスライドホルダ(またはアブレーションチャンバ)に対する、またはスライドストレージ(スライドラック、スライドホテル)に対するスライドの位置を評価するために3D視覚に使用される。
【0038】
カメラからの情報は、マシンビジョンアルゴリズムを使用して処理されてもよい。例えば、3D視覚設定は、スライドがスライドホルダに挿入される直前に起動することができる。(例示目的のための)シーケンスは、以下のように進むことができる。グリッパを有するアームがスライドをスライドホルダに近接するように移動させ、3Dビジョンシステムが、スライドホルダに対するグリッパ内のスライドの相対位置を読み取り、次の移動において、先に撮影された3D画像の観察されたエラーを考慮するためにスライドをスライドホルダに係合させる補正を行う。
【0039】
3D視覚設定は、一対のカメラを含むことができる。一実施形態では、カメラは互いに90度の角度で取り付けられ、一方のカメラはスライドの薄い側を見ており、他方のカメラはスライドの広い側を見ている。この配置では、スライドの縁部が見える。別の実施形態では、カメラは、異なる相対角度、例えば120度の角度で取り付けられる。それでもなお、マシンビジョンアルゴリズムは、スライドおよびスライドホルダの3D座標を計算するために画像を再処理している。スライド縁部の観察を容易にするために、専用の照明源および光波長の特殊な選択を設定することができる。特殊な顕微鏡スライドは、例えば、対象の方法におけるロボットアームの動きを案内するための視覚フィードバックを提供するために使用される強調された(または、着色されている)縁部を有する基準点を含んでもよい。あるいは、またはさらに、ワークステーションは、スライドまたはアームの位置を特定するための基準として使用される基準点を含んでもよい。
【0040】
3Dビジョンでは、LIDARベースのカメラおよび構造化光照明または光パターンに基づく立体カメラなどの他の技術を採用することができる。
【0041】
カメラは、ロボットアームに取り付けることができ、アームと共に移動するか、またはカメラは静止していて、スライド装填/取り出しゾーンなどの重要な領域の近くに配置することができる。
【0042】
一実施形態では、立体3D視覚は、1つのカメラが静止しており、重要領域に配置され、第2のカメラがロボットアームに取り付けられている一対のカメラによって達成される。
【0043】
固定カメラの欠点は、3D視覚設定をすべての重要領域に対して複製する必要があることである。顕微鏡(または、質量サイトメトリ顕微鏡)におけるスライドラックとスライドホルダとの間の単純なピックアンドプレース作業の場合、4つのカメラが必要とされる。しかし、複数の機器を有するより複雑なシステムは、多くのカメラを必要とする。これは、ロボットアーム上に3Dビジョンシステムを配置することが有益になり得る場合である。一方、このタスクに適した単純なカメラの価格は低下し続けており、立体カメラは現在、設定あたり200ドルの価格で提供されている。これは、重要なインターロックとして機能するシステムに200ドルを費やすことが、スライド上の複雑な機器および高価な試料に対して正当化され得ることを意味する。
【0044】
(マシンビジョンによって促進される)重要なインターロックとして機能する3Dビジョンシステムでは、ソフトウェアは、単一の動作を処理し、各動作の成功のチェックを実行することができる。例えば、アームは、スライドをスライドホルダに近づけることができる。次いで、システムは相対位置を読み取る。相対位置が許容範囲外であることをシステムが見出した場合には、システムは、動き/位置を修正するか、または安全な状態で動作を停止する。スライドがスライドホルダに挿入されると、同じ手法を繰り返すことができる。システムは、スライドホルダ内のスライドの相対位置をチェックし、さらなる動作を進めることが安全かどうか、検出された相対位置に基づいてさらなる動作を修正することが安全かどうか、またはシステムを停止させる必要があるかどうかを決定することができる。多くの場合、異常シナリオで動作を停止することが最適な行動方針である。実際、異常な状態での作動を進めると、貴重な試料が失われる可能性がある。システムは異常状態をほとんど経験しないように設計されるので、停止動作はスループットをあまり低下させない。しかし、異常動作が発生した場合、3D視覚システムからのチェックは、システムが試料を保存することを可能にする。FMEAの用語では、3DビジョンチェックおよびSW分析が所定の位置にないと、システムは、故障の可能性が低く、試料損失(またはハードウェアの損傷)の重大度に対するペナルティが高くなる。したがって、確率と重大性の積は、多くの用途にとって依然として高すぎる可能性がある。異常状態のチェックを追加することにより、確率を数桁減少させ、確率*重大性の値を許容可能なレベルにすることができる。
【0045】
態様は、スライドを動かす動作にコミットする前に、ロボットアーム(例えば、ロボットアームのグリッパ)および/またはスライドの位置(例えば、位置および/または向き)をチェックするための命令を含むコンピュータ可読媒体をさらに含んでもよい。動作は、スライドをスライドホテルから/へ、またはイメージングシステムから/イメージングシステムへ取り外すか、または装填するなど、ロボットアームによってアクセスされる機器とスライドを位置合わせすることを必要とする動作であってもよい。ロボットアームは、位置が確認されている間は停止されてもよい。予想位置からの位置の差異は、位置を修正するために使用されてもよく、またはユーザに通知するためにエラー警告をトリガしてもよい。コンピュータ可読媒体は、画像認識を使用して、ロボットアーム、スライド、1つもしくは複数の追加の機器、および/または1つもしくは複数の基準点を特定してもよい。コンピュータ可読媒体は、ロボットアームの外部のコンピュータ上にあってもよい。コンピュータ可読媒体は、ロボットアームのコントローラに命令を提供してもよく、1つまたは複数の追加の機器に命令をさらに提供してもよい。一般に、コンピュータ可読媒体は、本明細書に記載の方法のいずれかを実行することができる。
【0046】
全体として、上記の実施形態のいずれかは、組織の包括的な調査のための自動化されたパイプラインを提供することができる。
【0047】
スライドハンドラへの追加の構成要素
特定の態様では、本出願のシステムまたは方法は、以下に説明する1つまたは複数の追加の機器(例えば、ロボットアームなどの自動スライドハンドラによってアクセス可能な機器)を含んでもよい。
【0048】
複数(例えば、3以上、または5以上)の機器がロボットアームによって整備される場合、機器は長い直線ベンチ上に設置することができ、ロボットアームは、プロセスによって要求されるように異なる場所を訪れるレール上に設置することができる。レール上のロボットアームキャリアは、2つの異なる機器の間で試料およびアームを往復させるためのスライド保管区画を含むことができる。
【0049】
代替例として。ロボットアームは、半円の周りに配置された複数(例えば、3以上、または5以上)の機器に対応するように設定することができる。多くの異なる機器を統合しなければならない場合、各々がロボットアームを有する2つ以上の半円を設定することができる。これらのロボットアーム間で試料を移送するために、一方向または双方向コンベヤを動作することができる。Planar Motorsによって開発されたものなどのランダムアクセスコンベヤを使用して、各々がそのロボットアームを備えた半円形クラスタ間でスライドを移送することができる。
【0050】
全体として、高度に自動化されたシステムは、コア施設または病院の中央イメージングハブとして機能するのに適している可能性がある。そのような設定では、マシンビジョンハードウェアおよびマシンビジョンソフトウェアを備えたロボットアームは、様々な多様な機器を標準化されているが柔軟な一組のイメージングワークフローに統合することを可能にする重要な部分となる。設定全体を1つの自動化された顕微鏡として見ることができ、マシンビジョンを備えたロボットアームは、多様な機器のセットを互いに接着するための重要な構成要素として機能する。
【0051】
追加の機器は、以下のうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【0052】
スライド保管ユニット(ブランクスライド、染色済スライド、加工済スライド)、
必要に応じてスライドバーコードステーションおよびスライドバーコードリーダ、
スライドおよび試料ブロックを受け入れ、組織切片を有するスライドを生成する組織切片化ステーション、
組織染色ステーション、異なる切片が異なるワークフローに進む可能性があるため、2つ以上の切片が存在する可能性がある、
顕微鏡スライドスキャナ(蛍光または明視野)。これは、主分析またはイメージング質量サイトメータによる分析の前の予備分析に使用することができる。
【0053】
スライド再フォーマットステーション。これは、スライドを他の機器と互換性をもたせるために、あるホルダフォーマットから別のホルダフォーマットへのスライドの変換を容易にする1つの機器であり得る。
【0054】
さらに本明細書に記載されるようなイメージング質量サイトメトリ機器には、例えば、LA-ICP-MSシステムまたはSIMSシステム、
組織切片のためのMALDIのマトリックスを適用するための機器または同様の試料調製ツール、
MALDIまたはDESIなどによる、小薬物分子または脂質または他のインタクトなイオンのイメージングのためのイメージング質量分析機器、
SEM(二次電子顕微鏡)または高解像度イメージングのための他のタイプの電子顕微鏡、ならびに/あるいは
超解像光学顕微鏡などがある。
【0055】
一実施形態では、ロボットアームは、異なる機能を有する複数の機器間での試料の移送を容易にする。そのような機器の例は、組織切片化モジュール、自動スライド染色モジュールまたは複数のモジュール、スライドバーコーディングモジュール、クイック光学プレスキャンモジュール、光学顕微鏡、質量サイトメトリ顕微鏡、イメージング質量分析法設定、電子顕微鏡、物理試料フォーマット変換モジュールおよび保管モジュールである。一実施形態では、設定はマルチモーダルイメージングを自動化する。例えば、切片を光学顕微鏡法および質量サイトメトリ顕微鏡法で染色することができる。次いで、染色後に、切片は光学プレスキャンモジュールに自動的に装填されるか、明視野および蛍光イメージングのために光学顕微鏡に直接入る。光学イメージングの後に、スライドは保管モジュールに移送され、データはサーバに転送される。これにより、科学者は、ROIを選択し、これらのROIを質量サイトメトリ顕微鏡法によるイメージングのためにスケジュールすることを可能にする情報にアクセスすることができる。別の連続切片は、例えば、小分子(例えば、脂質、コレステロール、薬物およびそれらの代謝産物など)の濃度をイメージングするための質量分析イメージングのために独立して調製することができる。組織断層撮影のための様々な技術によって、複数の連続切片を染色およびイメージングすることができる。光学プレスキャンは、サービスカメラの1つによってスライド全体をキャプチャするために関心のあるスライドの写真またはいくつかの写真を撮影することを構成することができる。画像は高品質ではないが、スライド上でのナビゲーションの粗目的には十分であるべきである。スライド装填設定のカメラは、スライドのバーコードまたはQRコード(登録商標)を読み取るための第2のデューティを有することができる。
【0056】
スライドホテル
特定の態様では、スライドハンドリングシステムは、スライドホテルに動作可能に結合されたスライドハンドラを含む。スライドホテルは、スライドを保持するための複数の場所を含む。態様は、複数のスライドを有するスライドホテルに動作可能に結合された本出願のスライドハンドラを含む。
【0057】
特定の態様では、スライドホテルは、スライドに取り付けられた試料の安定性を維持するための熱制御を含んでもよい。スライドホテルは、外部環境からスライドをシールし、本明細書に記載のロボットアームにスライドを能動的に提供するように動作可能であり得る。
【0058】
図4Aに示すように、スライドハンドリングシステム400は、スライドを保持するように構成された複数のスロット404を含むスライドホテル402に動作可能に結合されたロボットアーム300を含んでもよい。
【0059】
試料調製ステーション
特定の態様では、スライドハンドリングシステムは、イメージングのためにスライドを調製するための試料調製ステーションを含む。試料調製ステーションは、スライド上にマウントされた試料に、質量タグ付き特異的結合対(SBP)、例えば、以下により詳細に記載されるように、(その同族抗原に結合する)抗体、DNAもしくはRNA標的にハイブリダイズするためのアプタマーもしくはオリゴヌクレオチド、または他の生体分子を導入するように構成されてもよい。さらに、試料調製ステーションは、本明細書に記載の他の試料調製ステップを実行するように構成されてもよい。試料調製システムは、スライドホテルの一部であってもよく、またはスライドハンドラによってスライドホテルに結合されてもよい。
【0060】
例えば、ロボットアームベースのスライドローダは、蛍光読み出しが限られた数のチャネルを有する抗体の連続染色を有する顕微鏡の基礎を形成することができる。ロボットアームは、読み出し顕微鏡と再染色化学処理ステーションとの間のスライドをシャッフルするように構成することができる。
【0061】
ロボットアームによって移送される試料の形式は、常に単純な顕微鏡スライドである必要はない。いくつかの実施形態では、一組の顕微鏡スライドがラック内またはプレート上に配置される。機器の中には、ラックまたはホルダプレートに配置された試料でのみ動作するものがある。例えば、H&E用のスライドストレーナは、多くの場合、試料のラックで動作する。IHC用のスライド染色装置は、多くの場合、試料のプレートをフォーマットとしてとる。特定の態様では、顕微鏡スライドは、ロボットアームのグリッパによるハンドリングを容易にするために専用ホルダに嵌合される。特定の態様では、スライド再フォーマットステーションは、ロボットアームによる把持を可能にするために、基準点をスライドに適用する(例えば、スライドの縁部を強調表示する)、および/またはホルダを凹凸面などのスライドに嵌合するように構成されてもよい。
【0062】
ロボットアームのタスクは、1つのフォーマットで試料を採取し、それらを別のフォーマットに変換することを含むことができる。
【0063】
試料間のスライドの再配置およびこれらの動作のスケジューリングは、組織イメージングの自動ラインを実行するためにサーバ設定によって調整することができる。
【0064】
イメージングシステムおよびワークフロー
イメージング質量サイトメトリおよび本明細書に記載の任意の他のイメージングモダリティのためのイメージングシステムおよびワークフローは、スライドハンドリングシステムおよびワークフローと統合されてもよい。
【0065】
図4Bに示すように、スライドハンドリングシステム400は、ロボットアーム300に動作可能に結合されたイメージングシステム406を含むことができ、そのようなロボットアーム300は、イメージングシステム406上のスライド導入位置408にアクセスすることができる。特定の態様では、イメージングシステム406は、イメージング質量サイトメータを含む。スライドハンドリングシステムは、複数のイメージングシステム406を含んでもよい。
【0066】
図4Cに示すように、スライドハンドリングシステム400は、ロボットアーム300を介してスライドホテル402に動作可能に結合されたイメージングシステム406を含んでもよい。
【0067】
特定の態様では、イメージングシステムは、イメージング質量サイトメータおよび共焦点顕微鏡などにおいて、ピクセルごとの取得を実行する。例えば、イメージング質量サイトメータは、異なるX-Y座標にある試料のスポット(ピクセル)からサンプリングし、各スポットの標識原子を分析することができる。ピクセルごとの取得には、各試料に対して少なくとも10分、30分、1時間、2時間、4時間、またはそれ以上かかる場合がある。
【0068】
イメージング質量サイトメータ
本明細書にさらに記載されるように、イメージング質量サイトメータは、固体支持体(スライド)上の生体試料から質量タグ(例えば、質量タグの標識原子)をサンプリングし、イオン化し、検出する。
【0069】
ROI決定
試料の関心のある領域(ROI)は、最初の質問によって、例えば、広視野イメージングまたは高速スキャンによって決定することができる。
【0070】
本出願の方法は、複数の試料のROIを決定するステップを含んでもよい。ROIは、ソフトウェア内のX-Y座標、および/またはスライド上の基準として記録することができる。基準点は、関心のある領域(例えば、単独で、または記録されたX-Y座標と組み合わせて)を示すために、および/またはX-Y座標の較正を可能にするために、レーザアブレーションによって作成されてもよい。スライドが連続切片を含む場合、1つのスライドに対して決定されたROIは、スライド全体に適用されてもよい。
【0071】
組織形態、マーカーおよび/または特定の細胞型などの生体試料の特徴を使用して、ROIを決定することができる。ROIは、ユーザによって、または対象システムの自動化ソフトウェアによって決定されてもよい。各試料に関連するROIは、スライドハンドラによって試料をイメージング質量サイトメータに導入した後に、イメージング質量サイトメトリによって調べることができる。
【0072】
HTIの場合、ユーザは、これらの画像を使用して関心のある領域(ROI)を特定するために、HTIユニット上の試料の光学画像(別名パノラマ)を取得したい場合がある。したがって、ユーザは、光学パノラマを収集するだけのために試料のバッチを最初にロードし、それらをアンロードすることができる。スライドのパノラマが到着し始めると、ユーザは、スキャンされた画像に基づいてROIを割り当てる各スライドのバッチファイルを迅速に作成することができる。ROIのバッチは、手動でまたはコンピュータアルゴリズムを介して自動的に特定され得る。次いで、ユーザは、同じスライドに対して2回目の装填を開始することができる。このとき、スライドは、ユーザによって選択されたROIに基づいて、イメージング質量サイトメトリ法によってロードされ、読み取られ得る。第2の装填後のスライド上のROI位置の精度をさらに改善するために、ユーザは、レーザアブレーションによる第1の装填サイクル中に基準点で燃焼するようにHTIユニットに指示することができる。次に、スライドの2回目の装填中、これらの基準点は、CyTOF7.0ソフトウェアによって実行されるように、XY座標位置合わせに使用することができる。スライドの第1および第2の装填は、スライドローダの助けを借りて自動化することができる。基準点で燃焼する能力は、他の種類の顕微鏡では一般的ではないが、そのレーザアブレーションハードウェアのためにHTIによって容易に達成される。他の顕微鏡は、基準点として使用される画像内のランドマークを見つけることに依存することができる。
【0073】
スライドをロードし、単純な画像を記録し、次いでそれをアンロードし、より洗練された顕微鏡検査のためにROIを選択するためにその画像に取り組む必要性は、HTIに固有のものではない。これは、蛍光顕微鏡検査において遭遇し得る。例えば、システムは、スライドをロードして明視野画像を読み取り、次いでその画像をROI選択のためにオペレータに利用可能にすることができる。スライドがアンロードされると、システムは別のスライドを処理することができる。また、ROIおよびより多くのイメージングプロセスのための命令セットがユーザによって定義されると、第1のスライドはバッチによって自動的にリロードされ得る。
【0074】
例えば、ROIは、広視野イメージングによって決定されてもよい。ROIは、後に、各試料に対して少なくとも10分、30分、1時間、2時間、4時間、またはそれ以上かかり得るイメージング質量サイトメトリなどのピクセルイメージング様式によってピクセルごとに分析されてもよい。したがって、本方法における第1のステップは、第1のステップにおけるユーザ入力、および第2の(例えば、より遅い)ステップにおける各試料のROIのピクセルごとのイメージングに基づいて、複数の試料のROIを決定するステップを含んでもよい。本出願の試料ハンドラは、第2のステップの自動化を可能にすることができる。
【0075】
注目すべきことに、ROIの決定は、ピクセルをサブサンプリングすること、および/またはイメージングシステムを低感度で動作させることなどによる、迅速なピクセル取得によるものであり得る。そのようなROI決定は、イメージング質量サイトメトリによるものであってもよい。
【0076】
イメージング質量サイトメータ
イメージング質量サイトメトリは、固体支持体上の生体試料からの質量タグのサンプリング、イオン化、および検出を含む。イメージング質量サイトメータは、サンプリングシステム、例えば、レーザ、イオンビーム、または電子ビーム源などの放射線源を含んでもよい。特定の態様では、サンプリングシステムはまた、試料を原子化および/またはイオン化してもよい。イオン化および/または原子化は、サンプリングシステムの下流、例えば誘導結合プラズマなどのプラズマで行われてもよい。イメージング質量サイトメータは、標識原子を質量タグから検出器に選択的に通過させるためのイオン光学系を含んでもよい。イメージング質量サイトメータは、飛行時間型検出器または磁気セクタ検出器などの検出器を含む。様々なイメージング質量サイトメータおよびそのサブシステムが本明細書に記載される。
【0077】
レーザサンプリング
生体試料のレーザサンプリングは、レーザアブレーション、レーザ脱離、LIFT(例えば、レーザ放射を使用して試料の下にある膜を加熱すること)、または直接イオン化(例えば、試料表面またはその近くにプラズマを形成することによる)によるものであり得る。
【0078】
レーザアブレーションベースの分析器は、典型的には3つの構成要素を含む。第1のものは、分析のために試料から蒸気状および粒子状材料のプルームを生成するためのレーザ・アブレーション・サンプリング・システムである。アブレーションされた試料材料のプルーム中の原子(以下に説明するような任意の検出可能な標識原子を含む)を検出器システム-質量分析器構成要素(MS構成要素、第3の構成要素)によって検出することができる前に、試料をイオン化(および原子化)しなければならない。したがって、システムは、質量/電荷比に基づいてMS成分によるそれらの検出を可能にするために原子をイオン化して元素イオンを形成するイオン化システムである第2の構成要素を含んでもよい。レーザ・アブレーション・サンプリング・システムは、移送導管によってイオン化システムに結合されてもよい。
【0079】
レーザ・アブレーション・サンプリング・システム
要約すると、レーザ・アブレーション・サンプリング・システムの構成要素は、試料に向けられたレーザ放射ビームを放射するレーザ源を含む。試料は、レーザ・アブレーション・サンプリング・システム内のチャンバ(試料チャンバ)内のステージ上に配置される。ステージは通常、平行移動ステージであるため、試料はレーザ放射ビームに対して移動することができ、それによって試料上の異なる位置を分析のためにサンプリングすることができる(例えば、レーザビームの相対運動の結果としてアブレーションすることができるよりも互いに離れた位置を、本明細書に記載のレーザスキャンシステムによって誘導することができる)。以下でより詳細に説明するように、ガスは試料チャンバを通って流れることができ、ガスの流れは、その元素組成(元素タグからの標識原子などの標識原子を含む)に基づく試料の画像の分析および構築のために、レーザ源が試料をアブレーションするときに生成されるエアロゾル化材料のプルームを運び去る。以下でさらに説明するように、別の動作モードでは、レーザ・アブレーション・サンプリング・システムのレーザシステムを使用して、試料から材料を脱着することもできる。
【0080】
試料材料のアブレーションしきい値付近のフルエンスでレーザアブレーションを行うことが可能である。このようにアブレーションすると、エアロゾル形成が改善されることが多く、分析後のデータの品質を改善するのに役立つ。最小クレータを得るために、得られる画像の解像度を最大にするために、ガウスビームが使用されることが多い。
【0081】
レーザシステムは、単一または複数(すなわち、2つ以上)の波長のレーザ放射を生成するように設定することができる。典型的には、論じられるレーザ放射の波長は、最も高い強度を有する波長(「ピーク」波長)を指す。システムが異なる波長を生成する場合、それらは異なる目的、例えば、試料中の異なる材料を標的とするために使用することができる(ここでの標的化は、選択される波長が材料によって良好に吸収される波長であることを意味する)。
【0082】
レーザスキャンシステム
レーザサンプリングシステムは、例えば、本明細書でさらに説明するように、試料を横切ってレーザをスキャンするための構成要素を含んでもよい。レーザスキャンシステムは、アブレーションされるべき試料上にレーザ放射を誘導する。レーザスキャナは、静止レーザビームに対して試料ステージを移動させるよりもはるかに迅速に試料上のレーザ焦点の位置を方向転換することができるので(スキャンシステムの動作構成要素における慣性がはるかに低いかまたは全くないため)、試料上の離散スポットのアブレーションをより迅速に実行することができる。このより速い速度は、かなり大きな領域をアブレーションして単一のピクセルとして記録することを可能にすることができ、またはレーザスポット移動の速度は、例えばピクセル取得速度の増加、またはその両方の組み合わせに単純に変換することができる。さらに、レーザ放射のパルスを向けることができるスポットの位置の急速な変化は、例えば、レーザスキャナシステムによって試料上の位置に向けられたレーザ放射のパルス/ショットのバーストによって不均一な形状の細胞全体がアブレーションされ、次いでイオン化されて単一の材料のクラウドとして検出され、単一の細胞分析を可能にするように、任意のパターンのアブレーションを可能にする(本明細書でさらに説明されるセクション「エラー!参照ソースが見つからない。」を参照)。本明細書でさらに説明するシステムおよび方法に関してより詳細に説明するように、同様の高速バースト技術を、試料キャリアから試料材料を除去するために脱着を使用する方法、すなわち細胞LIFT(レーザ誘起順方向移動)に展開することもできる。
【0083】
既存のイメージング質量サイトメータでは、ステージを移動させて、異なるピクセル(アブレーションスポット)のアブレーションを可能にすることができる。本明細書に記載のポジショナを使用するレーザスキャン(任意選択的に、試料ステージの並進と共に)は、特徴または特徴の一部の迅速な取得など、任意の形状およびサイズのピクセルの取得を可能にすることができる。ピクセルは、一時的なアブレーションプルームによって提供される連続信号として検出されてもよい。
【0084】
反対側アブレーション
上述のように、放射線(例えば、レーザ放射)は、試料支持体を通過して試料に衝突することができる。放射線は、UV、IRまたは緑色レーザなどのfsレーザによって生成され得る。レーザがUVレーザである場合、試料支持体は石英またはシリカであってもよい。レーザがIRまたは緑色である場合、試料支持体はガラスであってもよい。緑色fsレーザは、ガラス支持体(例えば、ガラススライド)を可能にすることができ、これはコストの観点から好ましく、依然として高解像度を可能にする。
【0085】
高NA対物レンズおよび反対側アブレーション
特定の態様では、本方法およびシステムの試料チャンバは、高NA対物レンズ(例えば、レンズ)を含んでもよい。
【0086】
イマージョンレンズを使用する場合(例えば、液浸レンズがスライドの試料とは反対側に配置されている場合)、試料は、厚さが300nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下、75nm以下、50nm以下、または30nm以下の組織切片などの超薄試料であってもよい。そのような組織切片(特に厚さ100nm以下の組織切片)は、電子顕微鏡法と同様または同一の方法で調製されてもよい。例えば、超薄切片化の前に、組織を樹脂(例えば、エポキシ、アクリルまたはポリエステル)で包埋してもよい。
【0087】
高NA対物レンズは、0.5以上、0.7以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、または1.4以上のNAを有してもよい。注目すべきことに、1.0を超えるNAは、空気または真空(例えば、1.0より大きい)よりも高い屈折率を有する油または固体透明材料などの媒体を用いて達成することができる。高NA光学系は、400nm以下、300nm以下、200nm以下、150nm以下、または100nm以下のスポットサイズを提供し得る。
【0088】
特定の態様では、高NA対物レンズによって集束されるレーザ放射は、緑色またはUV範囲などの波長が1μm以下である。レーザは、本明細書で説明するように、fsレーザであってもよい。例えば、近IR範囲のfsレーザは、緑色範囲のレーザ放射を提供するために第2高調波で、またはUV範囲のレーザ放射を提供するために第3高調波で動作することができる。緑色またはUVなどのより低い波長は、より高い分解能(例えば、より小さいスポットサイズ)を可能にすることができる。レーザ放射が試料支持体を横切って試料に衝突するとき、試料支持体はレーザ放射に対して透明である必要がある。ガラスおよびシリカは緑色波長に対して透明であり、シリカはスライドするがガラスはUVに対して透明ではない。ガラススライドの使用を可能にしながら分解能を最大にするために、IR fsレーザを第2高調波(例えば、約50%の変換効率)で動作させて緑色レーザ放射を提供することができる。注目すべきことに、市販の対物レンズは、多くの場合、緑色範囲で最良の補正を有する。
【0089】
試料チャンバ
試料は、レーザアブレーションを受けるときに試料チャンバ内に配置される。試料チャンバは、試料を保持するステージを含む(通常、試料は試料キャリア上にある)。アブレーションされると、試料中の材料はプルームを形成し、ガス入口からガス出口まで試料チャンバを通過したガスの流れは、アブレーションされた位置にあった標識原子を含むエアロゾル化材料のプルームを運び去る。ガスは材料をイオン化システムに運び、イオン化システムは材料をイオン化して検出器による検出を可能にする。試料中の標識原子を含む原子は、検出器によって区別することができ、したがってそれらの検出は、プルーム中の複数の標的の存在または非存在を明らかにし、したがって試料上のアブレーションされた軌跡にどの標的が存在したかの決定を明らかにする。したがって、試料チャンバは、分析される固体試料を収容するだけでなく、エアロゾル化材料のイオン化および検出システムへの移送の開始点でもあるという二重の役割を果たす。これは、チャンバを通るガス流が、アブレーションされた材料のプルームがシステムを通過するときにどのように広がるかに影響を及ぼし得ることを意味する。アブレーションされたプルームがどのように広がるかの尺度は、試料チャンバのウォッシュアウト時間である。この図は、試料からアブレーションされた材料が、試料チャンバを通って流れるガスによって試料チャンバから搬出されるのにかかる時間の尺度である。
【0090】
このようにしてレーザアブレーションから生成された信号(すなわち、以下で説明するように、アブレーションが、除去のためだけではなく、イメージングのために使用される場合)の空間分解能は、以下を含む要因に依存する。(i)アブレーションされた全領域にわたって信号が積分されるため、レーザのスポットサイズ、およびプルームが生成される速度対レーザに対する試料の移動、ならびに(ii)上述のように連続するプルームからの信号の重なりを回避するために、プルームが生成される速度に対する、プルームが分析され得る速度。したがって、プルームを可能な限り最短の時間で分析することができることは、プルームの個々の分析が望まれる場合には、プルームの重なりの可能性を最小限に抑える(したがって、プルームをより頻繁に生成することを可能にする)。
【0091】
したがって、短いウォッシュアウト時間(例えば100ms以下)を有する試料チャンバは、本明細書に開示するシステムおよび方法での使用に有利である。ウォッシュアウト時間が長い試料チャンバは、画像を生成することができる速度を制限するか、または連続する試料スポット(例えば、参考文献1、10秒を超える信号持続時間を有する)から生じる信号間の重なりをもたらす。したがって、エアロゾル洗浄時間は、総スキャン時間を増加させることなく高解像度を達成するための重要な制限要因である。≦100msのウォッシュアウト時間を有する試料チャンバは、当技術分野で公知である。例えば、参考文献2は、100ms未満のウォッシュアウト時間を有する試料チャンバを開示している。30ms以下のウォッシュアウト時間を有し、それによって高いアブレーション周波数(例えば、20Hz超)を可能にし、したがって迅速な分析を可能にする試料チャンバが、参考文献3(参考文献4も参照)に開示されている。別のこのような試料チャンバは、参考文献5に開示されている。参考文献5の試料チャンバは、ターゲットに近接して動作可能に配置されるように構成された試料キャプチャセルを含み、試料キャプチャセルは、キャプチャセルの表面に形成された開口部を有するキャプチャキャビティを含み、キャプチャキャビティは、開口部を通して、レーザアブレーション部位から放出または生成されたターゲット材料を受け入れるように構成され、ガイド壁は、キャプチャキャビティ内に露出され、キャプチャキャビティ内に受け入れられたターゲット材料の少なくとも一部が試料として出口に移送可能であるように、キャプチャキャビティ内のキャリアガスの流れを入口から出口に導くように構成される。参考文献5の試料チャンバ内のキャプチャキャビティの体積は1cm3未満であり、0.005cm3未満であり得る。場合によっては、試料チャンバは、20ms以下、10ms以下、5ms以下、2ms以下、1ms以下、500μs以下、200μs以下、100μs以下、50μs以下、または25μs以下など、25ms以下のウォッシュアウト時間を有する。例えば、試料チャンバは、10μs以上のウォッシュアウト時間を有してもよい。典型的には、試料チャンバは5ms以下のウォッシュアウト時間を有する。
【0092】
[1]Kindness et al.(2003)Clin Chem 49:1916-23.
[2]Gurevich&Hergenroder(2007)J.Anal.At.Spectrom.,22:1043-1050.
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[4]国際公開第2014/146724号
[5]国際公開第2014/127034号
完全性のために、試料からのプルームは、試料チャンバのウォッシュアウト時間よりも頻繁に生成されることがあり、結果として得られる画像はそれに応じて不鮮明になる(例えば、可能な限り最高の分解能が、行われている特定の分析に必要であるとみなされない場合)。これは、本明細書で説明するように、パルスのバーストが試料に向けられ(例えば、パルスはすべて、細胞などの関心のある特徴/領域に向けられる)、結果として生じるプルーム内の材料が連続的な事象として検出される高解像度イメージングには望ましくないかもしれないが、特定のプルームからの信号の重なりはそのような問題ではない。実際、ここでは、バースト内の各個々のアブレーション事象からのプルームは、実質的に単一のプルームを形成し、その後に、検出のために続けられる。
【0093】
試料チャンバは、典型的には、試料(および試料キャリア)を保持し、レーザ放射ビームに対して試料を移動させる並進ステージを含む(本発明のいくつかの実施形態では、試料ステージとレーザビームの両方が同時に移動していてもよく、例えば、試料ステージが一定速度で移動しており、レーザスキャンシステムが、試料が試料ステージ上を移動するときに試料を横切る一致した掃引でレーザを導いている場合である。例えば、試料ステージがX軸に沿って移動し、レーザスキャンシステムがY軸に沿って掃引し、レーザスキャンシステムによる移動の主ベクトルはステージの移動方向に直交する(ステージの移動を考慮してレーザスキャナ内の任意の移動を考慮する))。例えば本明細書で説明するLIFT方法のように、試料キャリアを通って試料へのレーザ放射の方向を必要とする動作モードが使用される場合、試料キャリアを保持するステージはまた、使用されるレーザ放射に対して透明であるべきである。
【0094】
したがって、試料は、アブレーションプルームが、レーザ放射が試料に向けられている側と同じ側で放出され、そこから捕捉されるように、試料上に向けられているときにレーザ放射に面する試料キャリア(例えば、ガラススライド)の側に配置されてもよい。あるいは、試料は、レーザ放射が試料上に向けられるときにレーザ放射とは反対側の試料キャリアの側に配置されてもよく(すなわち、レーザ放射は、試料に到達する前に試料キャリアを通過する)、アブレーションプルームは、レーザ放射とは反対側に放出され、レーザ放射とは反対側から捕捉される。
【0095】
本発明の態様によるシステムにおける試料ステージの移動の制御は、レーザスキャナシステムの移動を調整し、任意選択的にレーザ放射(例えば、パルスピッカ用のトリガコントローラ)のパルスの放射を制御する同じ制御モジュールによって調整されてもよい。
【0096】
試料の様々な不連続領域内の特定の部分がアブレーションされる場合に特に有用である試料チャンバの1つの特徴は、試料がレーザに対してx軸およびy軸(すなわち、水平)で移動することができる広範囲の移動であり、x軸およびy軸は互いに垂直である。ステージを試料チャンバ内で移動させ、レーザの位置をシステムのレーザ・アブレーション・サンプリング・システム内で固定したままにすることによって、より信頼性が高く正確な相対位置が達成される。移動の範囲が大きいほど、個別のアブレーションされた領域は互いにより遠くなり得る。試料は、試料が配置されるステージを移動させることによってレーザに対して移動される。したがって、試料ステージは、x軸およびy軸において少なくとも10mm、例えばx軸およびy軸において20mm、x軸およびy軸において30mm、x軸およびy軸において40mm、x軸およびy軸において50mm、例えばx軸およびy軸において75mmの試料チャンバ内の移動範囲を有することができる。時には、移動範囲は、標準的な25mm×75mmの顕微鏡スライドの表面全体がチャンバ内で分析されることを可能にするようなものである。もちろん、細胞内アブレーションを達成することを可能にするために、広範囲の動きに加えて、動きは正確でなければならない。したがって、ステージは、5μm未満、4μm未満、3μm未満、2μm未満、1μm未満、または1μm未満、500nm未満、200nm未満、100nm未満など、10μm未満の増分で試料をx軸およびy軸に移動させるように構成することができる。例えば、ステージは、少なくとも50nm刻みで試料を移動させるように構成されてもよい。正確なステージ移動は、1μm±0.1μmなど、約1μm刻みであり得る。市販の顕微鏡ステージは、例えば、Thorlabs、Prior Scientific、およびApplied Scientific Instrumentationから入手可能なものを使用することができる。あるいは、電動ステージは、Smaract製のSLC-24ポジショナなどの、所望の範囲の移動および適切に精密な移動を提供するポジショナに基づいて、構成要素から構築することができる。試料台の移動速度は、分析の速度にも影響を及ぼし得る。したがって、試料ステージは、10mm/s、50mm/sまたは100mm/sなどの1mm/sを超える動作速度を有する。
【0097】
当然のことながら、試料チャンバ内の試料ステージが広範囲の移動を有する場合、試料は、ステージの移動に対応するように適切なサイズにされなければならない。したがって、試料チャンバのサイズは、関与する試料のサイズに依存し、それが可動試料ステージのサイズを決定する。例示的なサイズの試料チャンバは、10×10cm、15×15cmまたは20×20cmの内部チャンバを有する。チャンバの深さは、3cm、4cm、または5cmであってもよい。当業者は、本明細書の教示に従って適切な寸法を選択することができる。レーザアブレーションサンプラを使用して生体試料を分析するための試料チャンバの内部寸法は、試料ステージの移動の範囲、例えば少なくとも5mm、例えば少なくとも10mmより大きくなければならない。これは、チャンバの壁がステージの縁部に近すぎると、材料のアブレーションされたプルームを試料から取り出してイオン化システムに流入させるチャンバを通過するキャリアガスの流れが乱れる可能性があるためである。乱流は、アブレーションされたプルームを乱し、そのため、アブレーションされた材料の堅い雲として残る代わりに、材料のプルームは、アブレーションされてシステムのイオン化システムに運ばれた後に広がり始める。アブレーションされた材料のより広いピークは、ピークの重なりによる干渉をもたらし、したがって最終的には、アブレーションの速度が、もはや実験的に関心対象ではないような速度に減速されない限り、空間分解されたデータが少なくなるため、イオン化および検出システムによって生成されたデータに悪影響を及ぼす。
【0098】
上述したように、試料チャンバは、イオン化システムに材料を取り込むガス入口およびガス出口を含む。しかしながら、それは、行われている特定のアブレーションプロセスに当業者によって適切であると判断されるように、チャンバ内のガスの流れを誘導し、および/またはチャンバにガスの混合物を提供するための入口または出口として作用するさらなるポートを含んでもよい。
【0099】
移送導管
特定の態様では、移送導管(インジェクタとも呼ばれる)は、レーザ・アブレーション・サンプリング・システムとイオン化システムとの間にリンクを形成し、レーザ・アブレーション・サンプリング・システムからイオン化システムへの、試料のレーザアブレーションによって生成された試料材料のプルームの輸送を可能にする。移送導管の一部(または全部)は、例えば、プルームの通過のための管腔(例えば、円形、長方形、または他の断面を有する管腔)を生成するために適切な材料を穿孔することによって形成することができる。移送導管は、0.2mm~3mmの範囲の内径を有することがある。時には、移送導管の内径は、その長さに沿って変えることができる。例えば、移送導管は端部でテーパ状であってもよい。移送導管は、1センチメートル~100センチメートルの範囲の長さを有することがある。場合によっては、長さは、10センチメートル以下(例えば、1~10センチメートル)、5センチメートル以下(例えば、1~5センチメートル)、または3cm以下(例えば、0.1~3センチメートル)である。場合によっては、移送導管管腔は、アブレーションシステムからイオン化システムまでの全距離、またはほぼ全距離に沿って真っ直ぐである。それ以外の場合、移送導管管腔は距離全体にわたって真っ直ぐではなく、向きを変える。例えば、移送導管は徐々に90度回転してもよい。この構成は、レーザ・アブレーション・サンプリング・システム内の試料のアブレーションによって生成されたプルームが最初に垂直平面内で移動することを可能にし、移送導管入口の軸は真っ直ぐ上を指し、イオン化システム(例えば、対流冷却を利用するために一般的に水平に向けられたICPトーチ)に近づくにつれて水平に移動する。移送導管は、プルームが入るか形成される入口開口部から少なくとも0.1センチメートル、少なくとも0.5センチメートル、または少なくとも1センチメートルの距離にわたって直線状であり得る。一般的に言えば、典型的には、移送導管は、レーザ・アブレーション・サンプリング・システムからイオン化システムに材料を移送するのにかかる時間を最小限に抑えるように適合される。
【0100】
1つまたは複数のガス流は、アブレーションプルームをイオン化システムに送達することができる。例えば、ヘリウム、アルゴン、またはそれらの組み合わせは、アブレーションプルームをイオン化システムに送達することができる。特定の態様では、別個のガス流を試料チャンバおよびインジェクタに供給することができ、これらはアブレーションプルームがインジェクタに取り込まれると混合する。場合によっては、インジェクタ入口が試料チャンバ内で開始するときなど、1つのガス流のみが存在する。
【0101】
より高い流量では、導管内で発生する乱流のリスクが増加する。これは、移送導管が小さい内径(例えば、1mm)を有する場合に特に当てはまる。しかしながら、ガスの移送流として従来使用されているアルゴンの代わりにヘリウムまたは水素などの軽質ガスを使用する場合、小さい内径を有する移送導管内で高速移送(最大300m/s以上)を達成することが可能である。
【0102】
高速移送は、許容可能なレベルのイオン化が生じることなく、アブレーションされた試料材料のプルームがイオン化システムを通過する可能性がある限り、問題を呈する。低温ガスの流れが増加するとトーチの端部のプラズマの温度が低下するため、イオン化のレベルが低下する可能性がある。試料材料のプルームが適切なレベルまでイオン化されない場合、その成分(標識原子/元素タグを含む)を質量分析器によって検出することができないため、アブレーションされた試料材料から情報が失われる。例えば、試料は、ICPイオン化システム内のトーチの端部のプラズマを非常に迅速に通過するため、プラズマイオンは、試料材料をイオン化するために試料材料に作用するのに十分な時間を有さない。狭い内径の移送導管内の高流量、高速移送によって引き起こされるこの問題は、移送導管の出口に流れ犠牲システムを導入することによって解決することができる。流れ犠牲システムは、移送導管からガスの流れを受け取り、その流れの一部(アブレーションされた試料材料の任意のプルームを含む流れの中央部分)のみをイオン化システムにつながるインジェクタに前方に送るように適合されている。流れ犠牲システムにおける移送導管からのガスの分散を容易にするために、移送導管出口を広げることができる。
【0103】
イオン化システム
元素イオンを生成するために、原子化された試料を気化、霧化、およびイオン化することができる硬質イオン化技術を使用する必要がある。
【0104】
誘導結合プラズマトーチ
一般に、誘導結合プラズマは、分析される物質が分析のために質量検出器に送られる前に分析される物質をイオン化するために使用される。それは、電磁誘導によって生成された電流によってエネルギーが供給されるプラズマ源である。誘導結合プラズマは、複数の(例えば、3つの)同心管からなることができるトーチ内で維持され、最も内側の管はインジェクタとして知られている。
【0105】
インジェクタは、本明細書に記載の試料チャンバに結合されてもよい。インジェクタは、レーザアブレーションによって試料から放出された材料がインジェクタに運ばれ得るように、試料支持体の上方に位置する入口または開口部を含んでもよい。試料チャンバは、アブレーションプルームをインジェクタ内に運ぶための1つまたは複数のガス入口を含むことができ、インジェクタは、インジェクタ内に捕捉されたアブレーションプルームをICPトーチに輸送するための移送ガス入口(例えば、シースガス入口)を含んでもよい。特定の態様では、システムは単一のガス源を含んでもよい。
【0106】
ICPへのインジェクタは、試料チャンバ内に入口を有してもよい。例えば、インジェクタがレーザ放射と試料(または試料支持体)の同じ側に配置される場合、インジェクタは、レーザ放射が通過する窓と、レーザ放射が通過し、結果として生じるレーザアブレーションプルームがICPトーチに送達するためにインジェクタによって捕捉される開口部と、を含んでもよい。あるいは、インジェクタは、レーザアブレーションのためのレンズ、窓、または他の光学系を貫通して延在してもよい。別の例では、レーザ放射は、インジェクタから試料(または試料チャンバ)の反対側に向けられてもよく、試料支持体を通過してもよい。レーザ放射が試料支持体を通過して試料に衝突すると、インジェクタは、レーザ放射の側とは反対側のレーザアブレーション部位の近位に入口を含んでもよい。特定の態様では、インジェクタの入口または開口部は、試料コーン(例えば、狭い端部がレーザアブレーションの部位に向けられている)の形態であってもよい。
【0107】
流体および/または光学系の態様は、インジェクタ開口部または入口からICP-MSシステムへの短いおよび/または直線経路を可能にするように構成されてもよい。例えば、光学系の一部または全部は、インジェクタからの試料支持体に対向して配向されてもよい。あるいは、またはさらに、インジェクタは、1つまたは複数のレンズおよび/またはミラーなどの光学素子を通過してもよい。
【0108】
プラズマを維持する電磁エネルギーを提供する誘導コイルは、トーチの出力端の周りに配置される。交流電磁場は、毎秒数百万回極性を反転させる。2つの最も外側の同心管の間にアルゴンガスが供給される。自由電子は、放電によって導入され、次いで、交流電磁場で加速され、その後に、それらはアルゴン原子と衝突し、それらをイオン化する。定常状態では、プラズマは、大部分がアルゴン原子からなり、自由電子およびアルゴンイオンの割合は少ない。
【0109】
2つの最も外側の管の間のガスの流れがプラズマをトーチの壁から遠ざけるので、ICPをトーチ内に保持することができる。インジェクタ(中心管)と中間管との間に導入された第2のアルゴン流は、プラズマをインジェクタから遠ざける。第3のガス流がトーチの中央のインジェクタに導入される。分析される試料は、インジェクタを通してプラズマに導入される。
【0110】
電子イオン化
電子イオン化は、気相試料に電子ビームを衝突させることを含む。電子イオン化チャンバは、電子源および電子トラップを含む。電子ビームの典型的な源は、レニウムまたはタングステンワイヤであり、通常、70電子ボルトのエネルギーで動作する。電子イオン化のための電子ビーム源は、Markes Internationalから入手可能である。電子ビームは電子トラップに向けられ、電子が移動する方向に平行に印加された磁場は、電子を螺旋経路に移動させる。気相試料は、電子イオン化チャンバを通って導かれ、電子ビームと相互作用してイオンを形成する。電子イオン化は、プロセスが典型的には試料分子を断片化させるので、イオン化の難しい方法と考えられる。市販の電子イオン化システムの例としては、Advanced Markus電子イオン化チャンバが挙げられる。
【0111】
代替的放射線源
荷電粒子源
特定の態様では、荷電粒子源を使用して、荷電粒子ビームを試料上の位置に通過させる。特定の態様では、そのようなサンプリングは真空または真空付近であってもよく、得られたイオンは真空インターフェースなしでイオン光学系に直接渡されてもよい。
【0112】
イオンビーム:
イオンは、分析される試料からスパッタリングを生成するための任意の適切なイオンであり得る。一次イオン源の例は、酸素(16O-、16O2
+、16O2
-)、アルゴン(40Ar+)、キセノン(Xe+)、SF5
+、もしくはC60
+一次イオンを生成するDuoplasmatron、133Cs+一次イオンを生成する表面イオン化源、およびGa+一次イオンを生成する液体金属イオン銃(LMIG)である。他の一次イオンには、Aun
+(n=1~5)、Bin
q+(n=1~7、q=1および12)、C60
q+プローブ(q=1~3)および大きなArクラスタ(Muramoto,Brison,&Castner,2012)などのクラスタイオンが含まれる。
【0113】
イオン源の選択は、展開されるイオン衝撃の種類(すなわち、静的または動的)および分析される試料に依存する。静的は、低い一次イオンビーム電流(1nA/cm2)、通常はパルスイオンビームを使用することを含む。電流が低いため、各イオンは試料表面の新しい部分に衝突し、粒子の単層(2nm)のみを除去する。したがって、静的は、イメージングおよび表面分析(Gamble&Anderton、2016)に適している。動的は、高い一次イオンビーム電流(10mA/cm2)、通常は連続的な一次イオンビームを使用することを含み、表面粒子の迅速な除去をもたらす。結果として、深度プロファイリングに動的を使用することが可能である。さらに、より多くの材料が試料表面から除去されるので、動的SIMSは静的よりも良好な検出限界を与える。動的は、通常、高い画像解像度(100nm未満)を生成する(Vickerman&Briggs、2013)。
【0114】
特定の態様では、イオンビームは、10pj、100pj、500pj、1nJ、10nJ、50nj、100nJ、500nJ、1uJ、5uJ、10uJ、20uJ、50uJ、100uJ、および500uJ、またはそれらの間のエネルギーを有してもよい。イオンビームのエネルギーは、試料スポットでの効率的な熱伝達を可能にし得る。
【0115】
酸素一次イオンは電気陽性元素(Malherbe,Penen,Isaure,&Frank,2016)のイオン化を促進し、市販のCameca IMS 1280-HRで使用されるのに対して、セシウム一次イオンは電気陰性元素(Kiss、2012)を調べるために使用され、市販のCameca NanoSIMS 50で使用される。
【0116】
試料の迅速な分析のために、例えば200Hz(すなわち、毎秒200パケットを超えるイオンが試料に向けられる)を超える高周波スパッタリングが必要である。一般に、一次イオン源による一次イオンパルス生成の周波数は、少なくとも400Hz、例えば少なくとも500Hz、または少なくとも1kHzである。例えば、いくつかの実施形態におけるイオンパルスの周波数は、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、少なくとも1MHz、または少なくとも10MHzである。例えば、イオンパルスの周波数は、400~100MHzの範囲内、1kHz~100MHzの範囲内、10kHz~100MHzの範囲内、100kHz~100MHzの範囲内、または1MHz~100MHzの範囲内である。
【0117】
したがって、本発明は、荷電粒子の供給源がイオンビームである装置を提供する。
【0118】
電子ビーム
電子ビーム放射は、気相試料に電子ビームを衝突させることを含む。電子イオン化チャンバは、電子源および電子トラップを含む。電子ビームの典型的な源は、レニウムまたはタングステンワイヤであり、通常、70電子ボルトのエネルギーで動作する。電子ビームは電子トラップに向けられ、電子が移動する方向に平行に印加された磁場は、電子を螺旋経路に移動させる。気相試料は、電子イオン化チャンバを通って導かれ、電子ビームと相互作用してイオンを形成する。
【0119】
特定の態様では、イオンビームは電子ビームである。1kV~100kVのエネルギーを有する電子ビームは、100nm、50nm、または30nm以下の厚さを有する試料を調べるのに特に適し得る。
【0120】
高強度パルス電子ビームは、アブレーション/スパッタリングを引き起こすために使用される。電子電流のパルスがアブレーションに不十分である場合、その効果は、上述のように点火事象として使用することができ、その後に、レーザパルスによるエネルギーポンピングは、天然材料のアブレーションのレベルより低いが、既に活性化された材料のアブレーションに必要なエネルギーポンピングのレベルより高い輝度レベルに設定される。
【0121】
試料の迅速な分析のために、例えば200Hz(すなわち、毎秒200パケットを超える電子が試料に向けられている)を超える高周波スパッタリングが必要である。一般に、電子源による電子パルス発生の周波数は、少なくとも400Hz、例えば少なくとも500Hz、または少なくとも1kHzである。例えば、いくつかの実施形態における電子パルスの周波数は、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、少なくとも1MHz、または少なくとも10MHzである。例えば、電子パルスの周波数は、400~100MHzの範囲内、1kHz~100MHzの範囲内、10kHz~100MHzの範囲内、100kHz~100MHzの範囲内、または1MHz~100MHzの範囲内である。
【0122】
荷電粒子源に電子ビームを利用する利点は、機器全体を電子顕微鏡を含むプラットフォーム上に構築できることである。したがって、本発明は、電子顕微鏡をさらに含む装置を提供する。したがって、本発明は、荷電粒子源が電子ビームであり、電子ビームが電子顕微鏡における電子源である装置を提供する。
【0123】
イオン光学系
イメージング質量サイトメータは、標識原子の検出を改善するためのイオン光学系を含んでもよい。イオン光学系は、質量フィルタおよび/またはイオン集束光学系を含んでもよい。例えば、RF四重極などのハイパスフィルタは、プラズマ中で生成されたアルゴンダイマーイオンを除去するために、80amu以上などの特定の質量しきい値を超えるイオンのみを通過させることができる。
【0124】
検出器
四重極検出器
四重極質量分析器は、一端に検出器を有する4つの平行なロッドを含む。交流RF電位および固定DCオフセット電位が、一方のロッド対(互いに対向するロッドの各々)が他方のロッド対に対して反対の代替電位を有するように、一方のロッド対と他方のロッドとの間に印加される。イオン化された試料は、ロッドに平行な方向で検出器に向かってロッドの中央を通過する。印加された電位はイオンの軌道に影響を及ぼし、その結果、特定の質量電荷比のイオンのみが安定した軌道を有し、検出器に到達する。他の質量電荷比のイオンは、ロッドと衝突する。
【0125】
磁気セクタ検出器
磁気セクタ質量分析法では、イオン化された試料は、湾曲したフライトチューブを通ってイオン検出器に向かって通過する。フライトチューブを横切って印加される磁場は、イオンをそれらの経路から偏向させる。各イオンの偏向量は、各イオンの質量電荷比に基づくため、イオンの一部のみが検出器に衝突し、他のイオンは検出器から離れるように偏向される。マルチコレクタセクタ場機器では、異なる質量のイオンを検出するために検出器のアレイが使用される。ThermoScientific Neptune PlusおよびNuプラズマIIなどのいくつかの機器では、磁気セクタを静電セクタと組み合わせて、質量電荷比に加えて運動エネルギーによってイオンを分析する二重集束磁気セクタ機器を提供する。特に、Mattauch-Herzog幾何形状を有するそれらのマルチ検出器を使用することができる(例えば、SPECTRO MSであって、これは半導体直接電荷検出器を使用して1回の測定でリチウムからウランまでのすべての元素を同時に記録することができる)。これらの機器は、複数のm/Q信号を実質的に同時に測定することができる。それらの感度は、検出器に電子増倍器を含めることによって高めることができる。しかしながら、アレイセクタ機器は、常に適用可能であり、増加する信号を検出するのに有用であるが、信号レベルが減少しているときにはあまり有用ではなく、したがって、ラベルが特に非常に可変な濃度で存在する状況にはあまり適していない。
【0126】
飛行時間型(TOF)検出器
飛行時間型質量分析器は、試料入口と、強い電場が印加される加速チャンバと、イオン検出器と、を含む。イオン化された試料分子のパケットは、試料入口を通って加速チャンバに導入される。最初に、イオン化試料分子の各々は同じ運動エネルギーを有するが、イオン化試料分子が加速チャンバを通って加速されると、それらはそれらの質量によって分離され、より軽いイオン化試料分子はより重いイオンよりも速く移動する。次いで、検出器は、それらが到達するにつれてすべてのイオンを検出する。各粒子が検出器に到達するのにかかる時間は、粒子の質量電荷比に依存する。
【0127】
したがって、TOF検出器は、単一の試料内の複数の質量を準同時に登録することができる。理論的には、TOF技術は、空間電荷特性のためにICPイオン源に理想的には適していないが、TOF機器は、実際には、実現可能な単一細胞イメージングを可能にするのに十分迅速かつ感度的にICPイオンエアロゾルを分析することができる。TOF質量分析器は、通常、TOF加速器およびフライトチューブ内の空間電荷の影響に対処するために必要な妥協のために原子分析には不評であるが、本開示による組織イメージングは、標識原子のみを検出することによって効果的であり得るので、他の原子(例えば、100未満の原子質量を有するもの)を除去することができる。これは、より効率的に動作および集束されることができ、それによってTOF検出を容易にし、TOFの高いスペクトルスキャン速度を利用することができる、(例えば)100~250ダルトン領域内の質量が濃縮された、より低密度のイオンビームをもたらす。したがって、迅速なイメージングは、TOF検出を、試料では一般的ではなく、理想的には標識付けされていない試料に見られる質量を超える質量を有する標識原子を選択することと組み合わせることによって、例えばより高い質量遷移元素を使用することによって達成することができる。したがって、ラベル質量のより狭い窓を使用することは、TOF検出が効率的なイメージングに使用されることを意味する。
【0128】
適切なTOF機器は、Tofwerk、GBC Scientific Equipment(例えば、Optimass 9500 ICP-TOFMS)、およびFluidigm Canada(例えば、CyTOF(商標)およびCyTOF(商標)2機器)から入手可能である。これらのCyTOF(商標)機器は、TofwerkおよびGBC機器よりも高い感度を有し、ランタニドなどの希土類金属の質量範囲(特に100~200のm/Q範囲)のイオンを迅速かつ高感度に検出することができるため、質量サイトメトリでの使用が知られている[6]。本出願の質量サイトメータは、このような質量範囲のイオンを優先的に検出することができる。例えば、本出願のシステムは、質量タグのランタニド同位体などの複数の質量タグの存在を選択的に検出するように構成されてもよい。
【0129】
したがって、これらは、本開示で使用するための好ましい器具であり、当技術分野で既に知られている機器設定、例えば参考文献7および8でのイメージングに使用することができる。それらの質量分析器は、高周波レーザアブレーションまたは試料脱着のタイムスケールで高質量スペクトル取得周波数で準同時に多数のマーカーを検出することができる。それらは、細胞あたり約100の検出限界で標識原子の存在量を測定することができ、組織試料の画像の高感度な構築を可能にする。これらの特徴のために、質量サイトメトリを使用して、細胞内解像度での組織イメージングの感度および多重化の必要性を満たすことができる。高解像度レーザ・アブレーション・サンプリング・システムおよび高速通過低分散試料チャンバと質量サイトメトリ機器を組み合わせることにより、実用的なタイムスケールで高多重化して組織試料の画像を構築することが可能になっている。
[6]Bandura et al.(2009)Anal.Chem.,81:6813-22.
[7]Bendall et al.(2011)Science 332,687-696.
[8]Bodenmiller et al.(2012)Nat.Biotechnol.30:858-867.
【0130】
TOFは、質量割り当て補正器と結合されてもよい。イオン化事象の大部分はM+イオンを生成し、そこでは単一の電子が原子からノックアウトされている。TOF MSの動作モードのために、特に多数の質量Mのイオンが検出器に入る場合、1つの質量(M)のイオンが隣接する質量(M±1)のチャネルにいくらかブリーディング(またはクロストーク)することがある(すなわち、システムがそのようなイオン偏向器を含む場合、サンプリングイオン化システムとMSとの間に配置されたイオン偏向器がそれらがMSに入るのを妨げるほどではないが、高いイオンカウントである)。検出器への各M+イオンの到達時間は平均(各Mについて知られている)に関する確率分布に従うので、質量M+のイオンの数が多い場合、一部は通常M-1+またはM+1+イオンに関連付けられる時間に到達する。しかしながら、各イオンは、TOF MSに入ると既知の分布曲線を有するので、質量Mチャネルのピークに基づいて、(既知のピーク形状と比較することによって)M±1チャネルへの質量Mのイオンの重なりを決定することが可能である。TOF MSで検出されるイオンのピークは非対称であるため、この計算はTOF MSに特に適用可能である。したがって、M-1、MおよびM+1チャネルの読み取り値を補正して、検出されたイオンのすべてをMチャネルに適切に割り当てることができる。そのような補正は、試料から材料を除去するための技術として、レーザアブレーション(または後述するような脱着)を含む本明細書に開示したものなどのサンプリングおよびイオン化システムによって生成されたイオンの大きなパケットの性質のために、画像データを補正するのに特に使用される。TOF MSからのデータをデコンボリューションすることによってデータの品質を改善するためのプログラムおよび方法は、参考文献9、10および11に記載されている。
【0131】
画像の構築
システムは、試料から除去されたイオン化試料材料のパケット内の複数の原子の信号を提供することができる。試料材料のパケット内の原子の検出は、原子が試料内に自然に存在するため、または原子が標識試薬によってその位置に局在化されているため、アブレーションの位置に存在することを明らかにする。試料の表面上の既知の空間位置からイオン化試料材料の一連のパケットを生成することによって、検出器信号は試料上の原子の位置を明らかにし、したがって信号は試料の画像を構築するために使用することができる。複数の標的を識別可能な標識で標識付けすることにより、標識原子の位置を同族標的の位置と関連付けることが可能であるため、本方法は複雑な画像を構築し、蛍光顕微鏡法などの従来の技術を使用して達成可能な多重化レベルをはるかに超える多重化レベルに達することができる。
【0132】
画像への信号のアセンブリは、コンピュータを使用し、既知の技術およびソフトウェアパッケージを使用して達成することができる。例えば、Kylebank SoftwareのGRAPHISパッケージを使用してもよいし、あるいはTERAPLOTなどの他のパッケージを使用することもできる。MALDI-MSIなどの技術からのMSデータを使用したイメージングは当技術分野で知られており、例えば、参考文献12は、Matlabプラットフォーム上のMSイメージングファイルを表示および分析するための「MSiReader」インターフェースを開示しており、参考文献13は、完全な空間およびスペクトル分解能での2Dおよび3D MSIデータセットの両方の迅速なデータ探索および視覚化のための2つのソフトウェア機器、例えば「Datacube Explorer」プログラムを開示している。
[9]国際公開第2011/098834号
[10]米国特許第8723108号
[11]国際公開第2014/091243号
[12]Robichaud et al.(2013)J Am Soc Mass Spectrom 24(5):718-21.
[13]Klinkert et al.(2014)Int J Mass Spectrom http://dx.doi.org/10.1016/j.ijms.2013.12.012
【0133】
本明細書に開示する方法を使用して得られた画像は、例えばIHC結果が分析されるのと同じ方法でさらに分析することができる。例えば、画像は、試料内の細胞亜集団を描写するために使用することができ、臨床診断に有用な情報を提供することができる。同様に、SPADE分析を使用して、本開示の方法が提供する高次元サイトメトリデータから細胞階層を抽出することができる[14]。特定の態様では、細胞型(例えば、SPADE分析によって特定される)は、複数の細胞型(その少なくとも一部はマーカーの組み合わせによって特徴付けられる)が同時に視覚化されることを可能にするように色付けされてもよい。
[14]Qiu et al.(2011)Nat.Biotechnol.29:886-91.
【0134】
あるいは、またはさらに、連続切片をイメージング質量サイトメトリによってイメージングし、積み重ねて試料の3D画像を得ることができる。タグ付け原子の豊富さは、2次元または3次元の特徴または関心のある領域(ROI)にわたって、例えば細胞、細胞のクラスタ、微小転移巣、腫瘍または組織サブ領域などにわたって統合されてもよい。特定の態様では、レーザスキャンを実行して、1つまたは複数の組織切片上のそのような特徴またはROIを迅速に分析してもよい。そのような信号の統合は、分析を単純化し、および/または感度を改善することができる。
【0135】
複数のイメージングモダリティ
複数のイメージングモダリティを使用して、1つまたは複数の組織切片をイメージングすることができる。場合によっては、同じ組織からの切片がそれぞれ異なるモダリティによってイメージングされ得、次いで、それが同時登録される(例えば、同じ座標系にマッピングされ、積み重ねられ、重ね合わされ、および/または組み合わされて、より高いレベルの特徴を識別する)。さらに、1つまたは複数のイメージングモダリティを使用して、本明細書に記載の後続の分析のために試料中の関心のある領域を特定することができる。
【0136】
本発明の態様は、画像を重ね合わせる方法を含み、本方法は、イメージング質量サイトメトリ以外のイメージングモダリティによって組織試料の第1の組織切片から第1の画像を得るステップと、イメージング質量サイトメトリによって組織試料の第2の組織切片の第2の画像を得るステップと、第1および第2の画像を重ね合わせるステップと、を含む。特定の態様では、第1の画像、または第1の画像と第2の画像の両方が第三者によって提供されてもよい。
【0137】
場合によっては、イメージング質量サイトメータは、明視野、蛍光、および/または非線形顕微鏡法などの光学顕微鏡法を含むがこれらに限定されない追加のモダリティでイメージングするように装備されてもよい。例えば、イメージング質量サイトメータは、レーザアブレーションおよび光学顕微鏡のための光学系を積み重ねてもよい。組織化学染色を光学顕微鏡によってイメージングして、イメージング質量サイトメトリによる分析のための関心のある領域(ROI)を特定することができる。あるいは、またはさらに、光学顕微鏡法を使用して、本明細書に記載の別のモダリティ(例えば、別のシステムによって)によって、第1の組織切片からのイメージング質量サイトメトリによって得られた画像を、第2の組織切片(例えば、連続切片)から得られた画像と重ね合わせることができる。高速(例えば、フェムト秒)レーザが使用される場合、非線形顕微鏡法は、1つまたは複数の高調波で実行され、それによって試料の構造的側面をイメージングすることができる。抗体が標識原子およびフルオロフォア標識の両方でタグ付けされている場合、フルオロフォア標識の分布の分析は、試料に対して非破壊的であり得、その後に、標識原子のIMC分析が行われ得る。特定の態様では、フルオロフォアラベルは、関心のある領域から(例えば、光開裂)切断され、吸引後に分析される蛍光バーコードであってもよい。
【0138】
場合によっては、追加のイメージングモダリティは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡であってもよい。一般的なレベルでは、電子顕微鏡は、電子銃(例えば、タングステンフィラメントカソードを用いる)と、試料チャンバ内の試料上にビームを向けるようにビームを制御する静電/電磁レンズおよび開口部と、を含む。試料は真空下に保持されるので、ガス分子は電子銃から試料への途中で電子を妨害または回折することができない。透過型電子顕微鏡法(TEM)では、電子は試料を通過し、そこで偏向される。次いで、偏向された電子は、蛍光スクリーンなどの検出器、または場合によってはCCDに結合された高分解能蛍光体によって検出される。試料と検出器との間には、検出器上の偏向電子の倍率を制御する対物レンズがある。
【0139】
TEMは、検出器に当たる偏向された電子から画像を再構築することができるように、十分な電子が試料を通過することを可能にするために超薄切片を必要とする。典型的には、TEM試料は、ウルトラミクロトームの使用によって調製される場合、100nm以下である。生体組織検体を化学的に固定し、脱水し、ポリマー樹脂に包埋して、超薄切片化を可能にするのに十分に安定化させる。生体標本、有機ポリマーおよび同様の材料の切片は、必要な画像コントラストを達成するために、重原子標識による染色を必要とすることがあり、その理由は、それらの生来の染色されていない状態の染色されていない生体試料は、電子顕微鏡画像を記録できるようにそれらを偏向させるために、電子と強く相互作用することはほとんどないからである。
【0140】
上記のように、薄い切片が使用される場合、IMSまたはIMCによっても分析される試料に対して電子顕微鏡法を実行することが可能である。したがって、高解像度構造画像は、電子顕微鏡法、例えば透過型電子顕微鏡法によって得ることができ、次いで、この高解像度画像は、(光子と比較して電子の波長がはるかに短いために)IMSまたはIMCによって得られた画像データの解像度をレーザ放射を使用したアブレーションで達成可能な解像度を超える解像度に改良するために使用される。場合によっては、電子顕微鏡法とIMCまたはIMSによる元素分析の両方が、単一のシステム(IMC/IMSは破壊的プロセスであるので、電子顕微鏡法はIMC/IMSの前に実行される)で試料に対して実行される。
【0141】
1つまたは複数の組織切片は、イメージング質量サイトメトリならびに1つまたは複数の追加のイメージングモダリティによって分析され、組織切片を保持するスライド上に存在する基準点(座標系など)に基づいて共位置合わせされてもよい。あるいは、またはさらに、同じ組織からの2つの切片に存在する特徴(例えば、構造またはパターン)を整列させることによって、共位置合わせを行うことができる。特徴は、同じまたは異なるイメージングモダリティによって識別され得る。同じイメージングモダリティによって識別された場合でも、特徴またはそれらのx、y座標は、異なるイメージングモダリティを重ね合わせるために使用されてもよい。
【0142】
特定の態様では、追加のイメージングモダリティはMALDI質量分析イメージングである。MALDIイメージングのための組織切片の試料調製は、イメージング質量サイトメトリのための調製と適合しない場合がある。したがって、第1の切片のMALDIイメージングは、同じ組織からの第2の切片(例えば、連続切片)のイメージング質量サイトメトリと共位置合わせされてもよい。MALDIイメージングにおけるレーザ脱離イオン化は、質量分析法によって検出される分子イオンを提供する。試料のMALDI画像は、腫瘍および/または健康な組織を含む組織切片またはその部分領域における分析物(例えば、薬物、例えば、癌薬物、潜在的な癌薬物、またはその代謝産物)の分布を特定し得る。分析物が薬物である場合、分析物は、本明細書に記載の分析のために組織試料が採取される対象(例えば、ヒト患者または動物モデル)に投与されてもよい。他の点では同一の分析物を、天然に豊富ではない同位体(例えば、H、C、またはN)などで同位体標識付けし、マトリックスと共に組織に適用して、元の分析物に関する質量スペクトルのピークを特定し、予想することができる。分析物のイメージング分布に代えて、またはそれに加えて、MALDI画像は、内因性生体分子(またはその分子イオン)の分布を提供し得る。MALDIイメージングは、共有または類似の組織化学染色(例えば、クレシルバイオレット、ポンソーS、ブロモフェノールブルー、ルテニウムレッド、トリクローム染色、四酸化オスミウムなど)を介してIMC画像と共位置合わせされてもよい。特定の態様では、MALDIイメージングによって分析された試料の標識原子は、処置に耐えることができ、IMCの分析を可能にする。しかしながら、MALDI試料調製物は、IMCイメージングのための試料調製物を複雑にする可能性があり、その場合、MALDIおよびIMC画像は、異なる組織切片から得ることができる。
【0143】
MALDI画像と質量サイトメトリ画像との共位置合わせは、薬物を保持する組織の部分および/または組織に対する薬物の効果へのさらなる洞察を提供し得る。例えば、金属含有組織化学染色、生存性試薬および/または細胞状態指標は、薬物が、結合組織(例えば、間質、細胞外マトリックスまたは巨大分子、例えばコラーゲンまたは糖タンパク質、線維性タンパク質、例えばアクチン、ケラチン、チューブリン)、細胞または細胞の部分領域(例えば、細胞膜、細胞質および/または核)、増殖細胞、生細胞または死細胞、低酸素細胞または低酸素領域、壊死領域、腫瘍細胞または腫瘍シグネチャを有する領域(例えば、腫瘍に特徴的な表面マーカーおよび/または細胞状態マーカーの組み合わせ)、ならびに/あるいは健康な組織の少なくとも1つを標的とするか否かを識別してもよい。場合によっては、薬物の効果は、薬物分布(例えば、MALDIイメージングによって識別される)と薬物またはその周囲の組織の状態(例えば、イメージング質量サイトメトリによって特定される)との組み合わせによって推測することができる。例えば、腫瘍細胞または腫瘍浸潤免疫細胞の数、位置、細胞活性表面マーカー、細胞内信号伝達マーカー、細胞型マーカーを使用して、薬物の効果を特定し、および/または追加の薬物標的(薬物に応答して腫瘍細胞または腫瘍浸潤免疫細胞で上方または下方制御される受容体など)を特定することができる。腫瘍浸潤免疫細胞は、樹状細胞、リンパ球(B細胞、T細胞および/またはNK細胞など)、あるいはCD4+、CD8+、および/またはCD4+CD25+T細胞などの免疫細胞のサブセットの1つまたは複数を含んでもよい。場合によっては、イメージング質量サイトメトリは、腫瘍微小環境における複数の免疫細胞型を特定することができ、細胞状態(例えば、免疫応答の活性化または抑制に関与する受容体の細胞内信号伝達および/または発現)をさらに特定することができる。MALDIによってイメージングされた薬物分布の領域は、イメージング質量サイトメトリ分析のためのROIを特定することができ、および/または質量サイトメトリ画像と共登録することができる。
【0144】
特定の態様では、IMC画像を非IMC画像と共位置合わせすることにより、細胞または細胞内解像度で複数(例えば、少なくとも5、10、20、または30)の異なる標的(例えば、またはそれらの関連する標識原子)の分布が提供される。IMC画像は、LA-ICP-MSによって、および任意選択で本明細書に記載のフェムト秒レーザおよび/またはレーザスキャンシステムの使用によって得ることができる。
【0145】
領域分割は、(異なるイメージングモダリティによって得られた)2つの画像を(例えば、共有座標系に)互いにマッピングすること(例えば、整列)を含んでもよい。2つの共位置合わせされた画像(または各画像の態様)は、2つの異なるイメージングモダリティによって検出された2つの標的の共発現などのより高いレベルの特徴を提示するために重ね合わせまたは組み合わせることができる。特定の態様では、共位置合わせは関心のある領域のみであってもよい。
【0146】
光学顕微鏡
光学顕微鏡は、例えば、イメージング質量サイトメトリによるさらなる分析のために、試料の関心のある領域の特定を可能にすることができる。光学顕微鏡はまた、追加のイメージングモダリティをイメージング質量サイトメトリと共位置合わせすることを可能にしてもよい。光学顕微鏡は、以下に説明する様々な構成要素および能力を有してもよい。光学顕微鏡は、明視野顕微鏡および/または蛍光顕微鏡を含んでもよい。光学顕微鏡は、イメージング質量サイトメータと一体化されてもよく、または自動スライドハンドラを介してイメージング質量サイトメータに動作可能に結合されてもよい。
【0147】
カメラ
レーザ・アブレーション・サンプリング・システムにカメラ(電荷結合素子画像センサベース(CCD)カメラまたはアクティブピクセルセンサベースのカメラなど)または任意の他の光検出手段を含めることにより、様々なさらなる分析および技術が可能になる。CCDは、光を検出し、それを画像を生成するために使用することができるデジタル情報に変換するための手段である。CCDイメージセンサには、光を検出する一連のキャパシタがあり、各キャパシタは決定された画像上のピクセルを表す。これらのキャパシタは、入ってくる光子を電荷に変換することを可能にする。次いで、CCDを用いてこれらの電荷を読み出し、記録された電荷を画像に変換することができる。能動ピクセルセンサ(APS)は、ピクセルセンサのアレイを含む集積回路からなる画像センサであり、各ピクセルは、光検出器および能動増幅器、例えばCMOSセンサを含む。
【0148】
カメラは、本明細書で説明する任意のレーザ・アブレーション・サンプリング・システムに組み込むことができる。カメラを使用して、試料をスキャンして、特定の目的の細胞または特定の目的の領域(例えば、特定の形態の細胞)を特定するか、抗原に特異的な蛍光プローブ、または細胞内もしくは構造を特定することができる。特定の実施形態では、蛍光プローブは、検出可能な金属タグも含む組織化学染色または抗体である。そのような細胞が特定されると、レーザパルスをこれらの特定の細胞に向けて、例えば自動化プロセスで(システムが関心のある細胞などの特徴/領域を識別してアブレーションする)または半自動化プロセスで(システムのユーザ、例えば臨床病理医が、関心のある特徴/領域を特定し、次いで、システムが自動化された方法でアブレーションする)分析のために材料をアブレーションすることができる。これは、特定の細胞を分析するために試料全体をアブレーションする必要がある代わりに、関心のある細胞を特異的にアブレーションすることができるため、分析を行うことができる速度の大幅な増加を可能にする。これは、アブレーションを実施するのにかかる時間に関して生体試料を分析する方法において、しかし、特にアブレーションからの画像を構築することに関して、アブレーションからのデータを解釈するのにかかる時間に関して効率性をもたらす。データから画像を構築することは、イメージング手順のより時間のかかる部分の1つであり、したがって、試料の関連部分からのデータに収集されるデータを最小限に抑えることによって、分析の全体的な速度が向上する。
【0149】
カメラは、明視野顕微鏡または蛍光顕微鏡などの光学顕微鏡からの画像を記録することができる。
【0150】
レーザが蛍光顕微鏡法のためにフルオロフォアを励起するために使用される場合、いくつかの実施形態では、このレーザは、生体試料から材料をアブレーションするために(およびLIFT(脱着)のために)使用されるレーザ放射を生成するのと同じレーザであるが、試料からの材料のアブレーションまたは脱着を引き起こすのに十分ではないフルエンスで使用される。いくつかの実施形態では、フルオロフォアは、試料アブレーションまたは脱着に使用されるレーザ放射の波長によって励起される。他の実施形態では、例えば、異なる波長のレーザ放射を得るためにレーザの異なる高調波を利用することによって、異なる波長を使用することができる。フルオロフォアを励起するレーザ放射は、アブレーションおよび/またはリフティングレーザ源とは異なるレーザ源によって提供されてもよい。
【0151】
画像センサ(例えばCCD検出器またはアクティブピクセルセンサ、例えばCMOSセンサ)を使用することにより、蛍光の位置を試料のx、y座標と相関させ、次いでその位置の細胞が持ち上げられる前にその位置を囲む領域にアブレーションレーザ放射を向ける制御モジュール(コンピュータまたはプログラムされたチップなど)を使用することによって、関心のある特徴/領域を特定し、次いでそれらをアブレーションするプロセスを完全に自動化することが可能である。このプロセスの一部として、いくつかの実施形態では、画像センサによって撮影された第1の画像は、低い対物レンズ倍率(低い開口数)を有し、これにより、試料の広い領域を調査することができる。これに続いて、より高い倍率の対物レンズへの切り替えを使用して、例えば、試料が蛍光標識試薬によって染色されている場合には、より高い倍率の光学イメージングによって蛍光を発するなど、関心があると判定された特定の関心のある特徴に焦点を合わせることができる。次いで、例えば蛍光を発するために関心のあるものとして記録されたこれらの特徴をアブレーション/脱着することができる。より低い開口数のレンズを最初に使用することは、被写界深度が増加するというさらなる利点を有し、したがって、試料内に埋め込まれた特徴が、最初からより高い開口数のレンズを用いたスクリーニングよりも高い感度で検出され得ることを意味する。
【0152】
関心のある特徴/領域を特定する分析は、本発明の態様のシステムによって実行することができ、またはシステムの外部で実行することができる。例えば、スライドは、医師または組織学者によって本発明の態様のシステムから離れて分析することができ、スライド上のどこをアブレーションすべきかの位置情報をシステムにフィードバックすることができる。
【0153】
例えば、本発明の態様の一実施形態は、細胞などの関心のある領域の位置を特定するステップと、レーザパルスのバーストを導いて細胞の全部または一部をサンプリングするステップと、を含んでもよい。本明細書で説明するように、レーザパルスのバーストは、関心のある特徴内の複数の既知の位置でレーザスキャンシステムによって導かれ、レーザパルスのバーストから生じるプルームは、単一の事象として検出することができる。
【0154】
場合によっては、位置情報は、試料キャリア上の関心のある特徴の位置に関する絶対測定の形態であってもよい。他の例では、関心のある特徴の位置情報は、相対的な方法で記録されてもよい。例えば、多数の特徴が蛍光を発するUV光による照射後に、試料の視覚画像を記録することができる。関心のある特徴の位置は、蛍光特徴のパターンに対する位置情報として記録されてもよい。したがって、アブレーションされる位置を特定するための相対位置情報の使用は、システム内の試料の不正確な位置決めに起因する誤差を低減する。そのような基準パターンに関する関心のある特徴の位置を計算する方法は、例えば重心座標系を使用することによって、当業者にとって標準的である。
【0155】
いくつかの例では、関心のある特徴、例えば生体試料中の細胞は、他の生物学的材料、例えば細胞内マトリックスまたは関心のある細胞のアブレーションに影響を及ぼし得る他の細胞によって取り囲まれ得る。ここで、レーザスキャナシステムを使用したアブレーションは、関心のある細胞の周囲の材料を除去するために使用することができ、それにより、レーザパルスのバーストが連続的な事象として、または細胞内分解能で関心のある細胞をアブレーションすることを可能にする。時には、関心のある特徴(例えば、関心のある細胞)の周囲の領域をクリアするために行われたアブレーションからデータが記録されない。時には、周囲領域のアブレーションからデータが記録されることがある。周囲領域から得ることができる有用な情報には、タンパク質およびRNA転写物などのどの標的分子が周囲の細胞および細胞間環境に存在するかが含まれる。これは、直接的な細胞間相互作用が一般的である固体組織試料をイメージングするときに特に興味深い場合があり、どのタンパク質などが周囲の細胞で発現されるかは、関心のある細胞の状態に関して有益であり得る。
【0156】
したがって、本明細書に開示するいくつかの実施形態では、本方法は、関心のある特徴の位置情報を使用して細胞をアブレーションするステップを含み、関心のある細胞がアブレーションされる前に、最初にレーザアブレーションを実行して関心のある特徴の周囲の試料材料を除去するステップを含む。いくつかの実施形態では、特徴は、試料の光学画像の検査によって識別され、任意選択で、試料は蛍光標識で標識付けされており、試料は、蛍光標識が蛍光を発するような条件下で照明される。
【0157】
共焦点顕微鏡法
本出願のイメージングシステムは、共焦点顕微鏡法が可能であり得る。
【0158】
共焦点顕微鏡法は、焦点面から離れた背景情報(光)からの干渉を低減する能力を含む、いくつかの利点を提供する光学顕微鏡法の一形態である。これは、焦点外光またはグレアの除去によって行われる。共焦点顕微鏡法を使用して、細胞の形態、または細胞が別個の細胞であるか、または細胞の塊の一部であるかどうかについて、染色されていない試料を評価することができる。多くの場合、試料は(例えば、標識抗体または標識核酸によって)蛍光マーカーで特異的に標識付けされる。これらの蛍光マーカーは、特定の細胞集団(例えば、特定の遺伝子および/またはタンパク質を発現する)または細胞上の特定の形態学的特徴(例えば、核、またはミトコンドリア)を染色するために使用することができ、適切な波長の光で照射されると、試料のこれらの領域は特異的に識別可能である。したがって、本明細書に記載のいくつかのシステムは、試料を標識付けするために使用される標識中のフルオロフォアを励起するためのレーザを含むことができる。あるいは、蛍光体を励起するためにLED光源を使用することができる。非共焦点(例えば、広視野)蛍光顕微鏡法を使用して、生体試料の特定の領域を特定することもできるが、共焦点顕微鏡法よりも分解能が低い。
【0159】
蛍光とレーザアブレーションを組み合わせた例示的な技術として、生体試料中の細胞の核を蛍光部分にコンジュゲートされた抗体または核酸で標識付けすることが可能である。したがって、蛍光標識を励起した後に、カメラを用いて蛍光の位置を観察し記録することにより、核または核物質を含まない領域に特異的にアブレーションレーザを向けることができる。試料の核および細胞質領域への分割は、細胞化学の分野で特に応用されるであろう。画像センサ(例えばCCD検出器またはアクティブピクセルセンサ、例えばCMOSセンサ)を使用することにより、蛍光の位置を試料のx、y座標と相関させ、次いでアブレーションレーザをその位置に向ける制御モジュール(コンピュータまたはプログラムされたチップなど)を使用することによって、関心のある特徴/領域を特定し、次いでそれらをアブレーションするプロセスを完全に自動化することが可能である。このプロセスの一部として、画像センサによって撮影された第1の画像は、低い対物レンズ倍率(低い開口数)を有することができ、これにより、試料の広い領域を調査することができる。これに続いて、より高い倍率を有する対物レンズへの切り替えを使用して、より高い倍率の光学イメージングによって蛍光を発すると決定された特定の関心のある特徴に焦点を合わせることができる。次いで、蛍光を発するために記録されたこれらの特徴は、レーザによってアブレーションされてもよい。より低い開口数のレンズを最初に使用することは、被写界深度が増加するというさらなる利点を有し、したがって、試料内に埋め込まれた特徴が、最初からより高い開口数のレンズを用いたスクリーニングよりも高い感度で検出され得ることを意味する。
【0160】
蛍光イメージングが使用される方法およびシステムでは、試料からカメラへの蛍光の発光経路は、1つもしくは複数のレンズおよび/または1つもしくは複数の光学フィルタを含んでもよい。1つまたは複数の蛍光標識からの選択されたスペクトル帯域幅を通過するように適合された光学フィルタを含むことによって、システムは、蛍光標識からの発光に関連する色収差を処理するように適合される。色収差は、レンズが異なる波長の光を同じ焦点に集束させることができない結果である。したがって、光学フィルタを含むことにより、光学系における背景が低減され、得られる光学画像はより高い解像度を有する。
【0161】
より高い解像度の光学画像は、光学技術とレーザ・アブレーション・サンプリングとのこの結合において有利であり、それは、光学画像の精度が、その後に、アブレーティングレーザが試料をアブレーションするために向けられ得る精度を決定するからである。
【0162】
したがって、本明細書に開示するいくつかの実施形態では、本発明の態様のシステムはカメラを含む。このカメラをオンラインで使用して、試料、例えば特定の細胞の特徴/領域を識別することができ、次いで、例えば、特徴/関心のある領域でパルスのバーストを発射して、特徴/関心のある領域から試料材料のスラグをアブレーションまたは脱着することによって、アブレーション(またはLIFTによって脱着、以下を参照)することができる。パルスのバーストが試料に向けられる場合、検出された結果として生じるプルーム内の物質は、連続的な事象とすることができる(各個々のアブレーションからのプルームは、事実上、単一のプルームを形成し、その後に、検出のために運ばれる)。関心のある特徴/領域内の位置からの集合プルームから形成された試料材料の各クラウドは一緒に分析することができるが、各異なる関心のある特徴/領域からのプルーム内の試料材料は依然として離散したままである。すなわち、第(n+1)の特徴/領域のアブレーションが開始される前に、第nの関心のある特徴/領域からの試料材料を可能にするために、関心のある異なる特徴/領域のアブレーションの間に十分な時間が残される。
【0163】
蛍光分析とレーザ・アブレーション・サンプリングの両方を組み合わせたさらなる動作モードでは、レーザアブレーションをそれらの位置に標的化する前にスライド全体を蛍光について分析する代わりに、(試料をアブレーションするのではなく、単に試料中の蛍光部分を励起するために低エネルギーで)試料上のスポットでレーザからパルスを発射することが可能であり、予想される波長の蛍光発光が検出された場合には、そのスポットでレーザをフルエネルギーで発射することによってスポットの試料をアブレーションすることができ、得られたプルームは以下に記載されるように検出器によって分析される。これは、分析のラスタモードが維持されるが、蛍光をパルス化して試験し、(検出器からのイオンデータを分析および解釈して領域が関心のある領域であったかどうかを判定するのに時間がかかるのではなく)蛍光から直ちに結果を得ることができ、重要な遺伝子座のみを分析の標的とすることができるため、速度が向上するという利点を有する。したがって、複数の細胞を含む生体試料のイメージングにこの戦略を適用すると、以下のステップ、すなわち、(i)試料中の複数の異なる標的分子を1つまたは複数の異なる標識原子および1つまたは複数の蛍光標識で標識付けして、標識付けされた試料を提供するステップと、(ii)試料の既知の位置に光を照射して、1つまたは複数の蛍光標識を励起するステップと、(iii)その位置に蛍光があるどうかを観察および記録するステップと、(iv)蛍光がある場合には、その位置にレーザアブレーションを導いて、プルームを形成するステップと、(v)プルームを誘導結合プラズマ質量分析法に供するステップと、(vi)試料上の1つまたは複数のさらに既知の位置についてステップ(ii)~(v)を繰り返すステップと、を実行することができ、これにより、プルーム内の標識原子の検出が、アブレーションされた領域の試料の画像の構築を可能にする。
【0164】
いくつかの例では、試料または試料キャリアは、(例えば、光学顕微鏡または蛍光顕微鏡によって)特定の位置に光学的に検出可能な部分を含有するように修飾されてもよい。次いで、蛍光位置を使用して、システム内の試料を位置的に配向することができる。そのようなマーカー位置の使用は、例えば、試料が視覚的に「オフライン」で、すなわち本発明の態様のシステム以外のシステムで検査された可能性がある場合に有用性を見出す。そのような光学画像は、例えば医師によって、特定の細胞に対応する関心のある特徴/領域でマークすることができ、その後に、関心のある特徴/領域が強調表示され、試料が本発明の態様によるシステムに移送される。ここで、注釈付き光学画像内のマーカー位置を参照することにより、本発明の態様のシステムは、カメラの使用によって対応する蛍光位置を特定し、それに応じてレーザパルスの位置のアブレーティブおよび/または脱着(LIFT)プランを計算することができる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の態様は、上記のステップを実行することができる配向コントローラモジュールを含む。
【0165】
いくつかの例では、関心のある特徴/領域の選択は、本発明の態様のシステムのカメラによって撮影された試料の画像に基づいて、本発明の態様のシステムを使用して実行されてもよい。
【0166】
非線形顕微鏡法
本出願のイメージングシステムは、非線形顕微鏡法が可能であり得る。
【0167】
代替的なイメージング技術は、二光子励起顕微鏡法(非線形顕微鏡法または多光子顕微鏡法とも呼ばれる)である。この技術は、一般に、フルオロフォアを励起するために近赤外光を使用する。IR光の2つの光子は、各励起事象に対して吸収される。組織内の散乱は、IRによって最小限に抑えられる。さらに、多光子吸収により、バックグラウンド信号が強く抑制される。最も一般的に使用されるフルオロフォアは、400nm~500nmの範囲の励起スペクトルを有するが、二光子蛍光を励起するために使用されるレーザは、近赤外の範囲にある。フルオロフォアが2つの赤外線光子を同時に吸収すると、励起状態に上昇するのに十分なエネルギーを吸収する。次いで、フルオロフォアは、その後に検出され得る使用されるフルオロフォアのタイプに依存する波長を有する単一光子を放出する。
【0168】
レーザを使用して蛍光顕微鏡検査のためにフルオロフォアを励起する場合、このレーザは、生体試料から材料をアブレーションするために使用されるレーザ光を生成するのと同じレーザであるが、試料から材料をアブレーションさせるのに十分ではない出力で使用されることがある。時には、蛍光体は、レーザが試料をアブレーションする光の波長によって励起される。他の実施形態では、例えば、異なる波長の光を得るためにレーザの異なる高調波を生成することによって、または試料をアブレーションするために使用される高調波とは別に、上述の高調波生成システムで生成された異なる高調波を利用することによって、異なる波長を使用することができる。例えば、Nd:YAGレーザの第4および/または第5高調波が使用される場合、基本高調波、または第2~第3高調波を蛍光顕微鏡法に使用することができる。
【0169】
非線形顕微鏡法を統合するイメージング質量サイトメータは、2光子蛍光、第2高調波発生(SHG)、3光子蛍光(3PF)、第3高調波発生(THG)、および/またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)のうちの1つまたは複数を提供することができる。特定の態様では、試料は、造影剤またはフルオロフォアタグ付きSBPなどによる、1つまたは複数の形態の非線形顕微鏡法によるイメージングのために調製されてもよい。試料は、質量タグ付きSBPを用いてさらに調製されてもよい。
【0170】
第2高調波発生(SHG)では、コラーゲン含有組織で最も強く信号が生成され、この場合、信号は、レーザ焦点におけるコラーゲンの種類ならびにその3次元配向に関する豊富な情報を与えることが示されている。そのような情報は、他の顕微鏡技術では得ることができない。第3高調波発生では、信号は、異種材料間の界面の存在下で試料内で一意に生成される。例えば、この信号は細胞膜で生成され、細胞セグメント化の精度を向上させるために使用できることを意味する。2光子励起蛍光では、結果として得られる画像の信号対ノイズ比が、レーザ焦点の外側で信号が生成されないために一般にはるかに良好であることを除いて、信号は「通常の」蛍光と非常に同様に挙動する。刺激ラマン散乱またはコヒーレント反ストークスラマン散乱(SRS、CAR)では、特定の周波数で共振する光学的に活性な振動結合を有する特定の化学物質の濃度(固有または導入)によって信号が生成される。一例として、最近の研究では、一連の人工化学物質の30プレックスSRSイメージングが示されている。この信号の別の強力な適用は、細胞壁または細胞内の脂質液滴などの高脂質濃度の検出である。
【0171】
試料
イメージングシステムに結合されたスライドハンドラシステムによる処理のために、固体支持体(本明細書ではスライドとも呼ばれる)上に様々な試料を提供することができる。特定の態様では、試料は、組織切片または細胞スメアを含む試料などの生体試料である。特定の態様では、試料は、本明細書に記載の質量タグで染色されてもよい。
【0172】
生体試料は、小さいおよび/または不規則な特徴(例えば、ミクロンスケールの細胞)を有することができ、広い視野での分析から利益を得ることができる。本明細書で使用される場合、特徴は、組織の領域、個々の細胞、細胞下の構成要素、細胞の膜、細胞-細胞界面、および/または細胞外マトリックス、ならびに切片または画像内の異なる組織または細胞(例えば、健康な組織、腫瘍、腫瘍浸潤リンパ球などのリンパ球、骨格筋もしくは平滑筋などの筋肉、脈管構造などの上皮、および/または間質もしくは線維などの結合組織)を含んでもよい。そのような特徴は、本明細書に記載のようにレーザスキャンによって取得(例えば、選択的に取得される)することができる。広い視野(例えば、mmまたはcmスケールで)および/または多くの試料にわたってそのような特徴を分析することは、各ピクセルが約1μmであり、周囲のピクセルと区別する必要がある従来のIMCによって数時間または数日かかる場合がある。本方法およびシステムでは、レーザスキャン(任意選択的にステージ移動と組み合わされる)は、個々の特徴の迅速な取得を可能にすることができる。特定の態様では、システムおよび/または方法は、毎秒10、50,100,200,500、1000、2000または5000細胞を超える細胞取得速度を可能にする。特徴は、光学顕微鏡(例えば、明視野および/または蛍光顕微鏡法)によって自動的に識別され、本明細書に記載のようにレーザ変調によってサンプリングされ得る。特定の態様では、造影剤は、そのような特徴の識別を改善することができる。
【0173】
特定の態様では、方法および/またはシステムは、関心のある領域(ROI)を特定するために広い視野にわたってサンプリングすることができる。具体的には、質量タグの存在は、fsレーザを用いた高速スキャンによって検出され、試料の薄層のみを除去し、質量タグ付き試料の残りを無傷のままにすることができる(さらなる分析に適している)。離間した(隣接していない)スポットからのサンプリングは、質量タグの空間分布の初期調査、およびより詳細なサンプリング(例えば、ピクセルごとに、または繰り返しスキャンのため)のための関心のある領域の特定を可能にすることができる。レーザはスキャンされてもよく、ステージは、そのような最初の問い合わせ中に連続的に移動されてもよい。このように、広い視野および/または多数の試料(例えば、合計が1平方センチメートルを超える)が、IMCによってさらに調査するROIを特定するために迅速に最初に問い合わせられる(例えば、1時間、30分、10分、または5分未満で)。
【0174】
特定の態様では、懸濁細胞の試料(例えば、末梢血単核細胞(PBMC)、非接着性細胞培養物、または無傷の組織もしくは接着性細胞培養物からの脱凝集細胞)は、細胞スメアとして分析のために提供されてもよい。そのような細胞は、質量タグ付きSBPで懸濁液中で染色し、本方法およびシステムによる分析のために表面(スライドなど)に適用することができる。較正および/または正規化のために、元素標準粒子と共に支持体上に細胞スメアを提供することができる。あるいは、またはさらに、生体試料中の遊離分析物を検出するためのアッセイバーコード化ビーズに沿って細胞スメアを提供することができる。例えば、PBMCを含む細胞スメアは、PBMCと同じ血液試料からの遊離分析物に結合したアッセイバーコード化ビーズと共に提供されてもよい。特定の態様では、表面は、細胞および/またはビーズを保持するための捕捉部位、例えばマイクロメートルスケールウェルを有してもよい。
【0175】
アッセイバーコード化ビーズは、個別に検出可能であってもよく、ミクロンスケールであってもよい。そのようなビーズは、ビーズ表面上のSBPを特定するアッセイバーコードをその表面または内部に含んでもよい。異なるSBPを有する各アッセイバーコードビーズがアッセイバーコードによって区別されるように、アッセイバーコードアイソトープの固有の組み合わせがビーズ表面上のSBPを識別することができる。アッセイバーコード化ビーズを生物学的流体(例えば、細胞上清、細胞溶解物、または血清)と混合し、試料中の遊離分析物(例えば、サイトカイン)に結合させることができる。レポータ質量タグに結合したレポータSBPは、細胞表面のSBPに結合した分析物に結合し得る。アッセイバーコードは分析物を区別するので、同じレポータ質量タグをアッセイバーコード化ビーズにわたって使用することができる。
【0176】
特定の態様では、同種細胞株またはPBMCなどの対照細胞試料をスライドに適用することができる(例えば、細胞スメアとして、組織の切片として、または接着性細胞として)。対照細胞試料は、染色などの試料処理の変動について正規化するために使用されてもよい。対照細胞試料は、以前に特徴付けられた試料に由来してもよく(および、例えば、マーカーの既知の発現レベルを有してもよく)、および/または他の試料と共に複数のスライドにわたって使用されてもよい。対照細胞試料は、正規化および/または定量化、および/または分類に使用することができ、試料染色の変動を制御することができる。例えば、機器感度の変動を説明するために、質量タグの較正、正規化および/または定量化のために元素標準を使用することができるが、関心のある試料と共に染色された対照細胞は、試料染色の変動を説明するための正規化を可能にすることができる。以前に定義された関心のある集団(例えば、PBMC)を有する対照細胞を使用して、1つまたは複数の関心のある試料中の類似の集団の細胞を分類することができる。対照細胞は、細胞を対照細胞として特定することができる1つまたは複数の標識原子(試料バーコードなど)を有してもよい。
【0177】
対照細胞試料は、例えば、関心のある試料(例えば、同じスライド上で)もパラフィン化試料である場合、パラフィン化細胞試料であってもよい。特定の態様では、対照細胞試料は、試料処理の再現性を追跡するために使用される試料スライド上のパラフィン処理細胞株であってもよい。あるいは、対照細胞試料は、例えば、関心のある試料(例えば、同じスライド上の)も凍結組織試料である場合、凍結組織切片であってもよい。いずれの場合も、対照細胞試料は、染色工程を含む関心のある試料と共に処理され得る。あるいは、またはさらに、対照細胞試料を予め染色してもよい。例えば、予め染色された対照細胞試料は、染色が類似しているかどうかを判定するために(および任意選択で、染色および/または試料調製の他の態様からの変動を正規化するために)関心のある試料と共に染色された対照細胞試料に対するものであり得る。
【0178】
アッセイバーコードビーズの内部は、識別可能な金属同位体の組み合わせなどのアッセイバーコードを含んでもよい。ビーズの内部は、固体金属コア、金属キレート化ポリマー内部、ナノコンポジット内部、またはハイブリッド内部などの様々な適切な構造のいずれかであってもよい。固体金属コアは、1つまたは複数の金属元素および/または同位体の混合物(例えば、溶液)を高い熱および/または圧力にさらすことによって形成することができる。ナノコンポジット構造体は、ナノ粒子/ナノ構造体(例えば、それぞれが異なる物理的特性を含み、1つまたは複数のアッセイバーコード元素/同位体に寄与する、および/またはアッセイバーコード要素/同位体を含む他のナノ粒子のための足場を提供する)の組み合わせ(例えば、マトリックス)を含んでもよい。ビーズの内部は、(例えば、DOTA、DTPA、またはそれらの誘導体などのペンダント基を介して)アッセイバーコード金属および/またはキレートアッセイバーコード金属を捕捉するポリマーを含んでもよい。適切なポリマー主鎖は、分枝していてもよく(例えば、超分岐)、またはマトリックスを形成していてもよい。いくつかの態様では、ポリマーは、エマルジョン中で、または制御されたリビング重合によって形成されてもよい。特定の態様では、アッセイビーズの内部は、アッセイ生体分子(例えば、オリゴヌクレオチドまたは抗体)に付着する前に官能化(例えば、表面全体での重合によって)される必要がある不活性表面(例えば、固体金属表面など)を呈してもよい。アッセイビーズの表面は、ポリマー、アッセイ生体分子(例えば、SBP)を表面から離間させるためのリンカー、および/またはコロイド安定性(例えば、PEGリンカー)を付加するためのリンカー、アッセイ生体分子および/または試料バーコードを付着させる(またはそれらに付着する)ための官能基を含んでもよい。
【0179】
複数の試料からの細胞スメアおよび/またはアッセイバーコード化ビーズの細胞は、試料をバーコード化するときに組み合わせることができる。試料バーコードは、染色に使用されない複数の同位体(すなわち、SBPの質量タグに関連付けられていない)を含んでもよい。試料バーコードは、試料バーコード同位体を細胞またはビーズに送達する1つまたは複数の小分子またはSBPを含んでもよい。同位体の固有の組み合わせが、各試料からのビーズおよび/または細胞に適用される。細胞またはビーズを質量サイトメトリ(例えば、LA-ICP-MS)によって分析すると、バーコード同位体の固有の組み合わせは、細胞またはビーズが最初に由来する試料を特定する。試料は、異なる供給源からのものであってもよく、および/または異なる処理条件および/または染色条件に供されてもよい。特定の態様では、生細胞バーコード(例えば、チオール反応性テルル系バーコード、または広く発現される表面マーカーに対する元素タグ付き抗体)を使用することができ、これは試料中の生細胞(例えば、新鮮な血液)もバーコード化する利点を追加することができる。このアプローチは、生細胞(例えば、PBMCの)の刺激または別の処置と並行して実施され得る。場合によっては、試料バーコードは、生細胞をバーコード化することができる。場合によっては、試料バーコードは、生細胞に対して非毒性であるなど、生細胞に対して非損傷性であり得る。
【0180】
場合によっては、アッセイバーコードおよび試料バーコードのいくつかの固有の組み合わせを用いてバーコード化試薬を調製することによって、バーコード化試薬を予め構成された形態で提供することができる。そのような場合、各固有のバーコード化試薬は、ウェルプレートの別個のウェルなどの別個の容器に保存することができる。一例では、ウェルプレートは、特定のカラム(またはロウ)に沿ったすべてのウェルが同じアッセイバーコードを共有する一方で、特定のロウ(またはカラム)に沿ったすべてのウェルが同じ試料バーコードを共有するように確立することができる。別の例では、各充填ウェルが特定の固有の試料バーコードと多数のアッセイバーコードとの様々な組み合わせを有するバーコード化試薬を含むようにウェルプレートを確立することができる。したがって、第1のウェルは、すべてが第1の試料バーコードを有するが、それぞれが異なるアッセイバーコードを有するバーコード化試薬を含み得、第2のウェルは、すべてが第2のバーコードを有するが、それぞれが異なるアッセイバーコードを有するバーコード化試薬を含んでもよい。場合によっては、予め構成されたバーコード化試薬は、数千の固有ビーズ群の製造を必要とし得る。
【0181】
染色を自動化するために、表面上の生体試料(例えば、細胞を含む)を、(例えば、本明細書に記載の試料調製ステーションを使用して)質量タグ付きSBPを細胞の表面にわたって流すことによって染色することができる。
【0182】
アブレーションされるべき領域を特定できるようにするための関心のある細胞の特定は、典型的には、細胞の視覚画像の検査を含む。例えば、単純化された分析のために、細胞スメアでは、スメア上に別個の細胞として存在する個々の細胞を分析することが望ましく(すなわち、細胞のダブレット、トリプレットまたはそれ以上の番号のクラスタとしてではない)、この決定は、試料の目視検査によって容易に達成することができる。以下で論じられるように、本明細書に開示する特定の実施形態では、試料は、可視光範囲内の細胞の検査から明らかなマーカーについて検査することができる。時として、共焦点顕微鏡下で特定される細胞形態は、関心のある細胞を特定するのに十分である。他の例では、試料は、1つまたは複数の組織化学染色または蛍光標識にコンジュゲートされた1つまたは複数のSBP(場合によっては、標識原子にも共役しているSBPであり得る)で染色することができる。これらの蛍光マーカーは、特定の細胞集団(例えば、特定の遺伝子および/またはタンパク質を発現する)または細胞上の特定の形態学的特徴(例えば、核、またはミトコンドリア)を染色するために使用することができ、適切な波長の光で照射されると、試料のこれらの領域は特異的に識別可能である。場合によっては、特定の領域から特定の種類の蛍光が存在しないことが特徴的であってもよい。例えば、細胞膜タンパク質を標的とする第1の蛍光標識を使用して細胞を広く特定することができるが、(MKI67遺伝子によってコードされる)ki67抗原を標的とする第2の蛍光標識は、増殖細胞と非増殖細胞とを区別することができる。したがって、第2の標識の蛍光を欠く細胞を標的化することによって、非複製細胞を分析のために特異的に標的化することができる。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のシステムは、試料を標識付けするために使用される標識中のフルオロフォアを励起するためのレーザを含むことができる。あるいは、蛍光体を励起するためにLED光源を使用することができる。非共焦点(例えば、広視野)蛍光顕微鏡法を使用して、生体試料の特定の領域を特定することもできるが、共焦点顕微鏡法よりも分解能が低い。
【0183】
本開示の特定の態様は、生体試料をイメージングする方法を提供する。そのような試料は、試料中のこれらの細胞の画像を提供するために、イメージング質量サイトメトリ(IMC)に供することができる複数の細胞を含むことができる。一般に、本発明の態様は、現在免疫組織化学(IHC)技術によって研究されているが、質量分析法(MS)または発光分析法(OES)による検出に適した標識原子を使用して、組織試料を分析するために使用することができる。
【0184】
特定の態様では、試料は複数の切片(例えば、連続組織切片)を含んでもよい。特定の態様では、組織切片は、切片化の前に冷却(例えば、凍結)および/またはワックス(例えば、パラフィン)包埋されてもよい。当業者に知られている任意の切片化方法を使用することができるが、切片化のほとんどの方法は、鋭利なブレードをある角度で適用して組織試料を切断し、得られた組織切片をスライドなどの固体支持体に装着することを含む。同じ組織からの切片(例えば、連続切片)は、イメージング質量サイトメトリおよび/または異なるモダリティによってイメージングされ、本明細書に記載されるように互いに共登録され得る。染色剤の浸透および/またはイメージング様式が、組織切片の最上層のみを分析することを可能にする場合、組織切片化は、互いに面する側で染色および/またはイメージングされる2つの連続切片を調製することを含んでもよい。例えば、一方の切片は、他方の切片に隣接する面を提示するように反転されてもよい。第1の切片に基づいてROIを特定するとき、および/または2つの切片からの画像と1つの切片から取得された画像とを重ね合わせるときに、フリップすることができる。あるいは、またはさらに、連続切片を、それぞれのスライド(または同じスライド)上の基準点と位置合わせすることができ、それにより、切片化前の互いに対するそれらの大まかな位置が保持または表現される。本明細書に記載の方法では、任意の適切な組織試料を使用することができる。例えば、組織は、上皮、筋肉、神経、皮膚、腸、膵臓、腎臓、脳、肝臓、血液(例えば、血液スメア)、骨髄、頬側スワイプ、子宮頸部スワイプ、または任意の他の組織のうちの1つまたは複数からの組織を含むことができる。生体試料は、不死化細胞株または生体被験体から得られた一次細胞であってもよい。診断、予後診断または実験(例えば、薬物開発)目的のために、組織は腫瘍由来であり得る。いくつかの実施形態では、試料は既知の組織に由来し得るが、試料が腫瘍細胞を含有するかどうかは不明であってもよい。イメージングは、腫瘍の存在を示す標的の存在を明らかにすることができ、したがって診断を容易にする。腫瘍からの組織は、本方法によっても特徴付けられる免疫細胞を含み得、腫瘍生物学への洞察を提供し得る。組織試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を含んでもよい。組織は、哺乳動物、動物研究モデル(例えば、ヒト腫瘍異種移植片を有する免疫不全齧歯類などの特定の疾患のもの)、またはヒト患者などの任意の生きている多細胞生物から得ることができる。特定の態様では、組織試料は積み立てられてもよい。特定の態様では、別個のスライド上の組織試料は、同じ組織ブロックからのものであってもよい。
【0185】
組織試料は、例えば、2~10μmの範囲内、例えば4~6μmの厚さを有する切片であってもよい。そのような切片を調製するための技術は、脱水工程、固定、包埋、透過化処理、切片化などを含む、例えばマイクロトームを使用するIHCの分野から周知である。したがって、組織を化学的に固定し、次いで切片を所望の平面で調製することができる。凍結切除またはレーザキャプチャ顕微解剖もまた、組織試料を調製するために使用することができる。試料は、例えば、細胞内標的を標識付けするための試薬の取り込みを可能にするために透過化処理されてもよい(上記参照)。
【0186】
分析される組織試料のサイズは、現在のIHC法と同様であるが、最大サイズは、レーザアブレーションシステムによって、特にその試料チャンバに適合することができる試料のサイズによって決定される。5mm×5mmまでのサイズが典型的であるが、より小さい試料(例えば、1mm×1mm)も有用である(これらの寸法は、その厚さではなく切片のサイズを指す)。
【0187】
組織試料のイメージングに有用であることに加えて、本開示は、代わりに、(従来の免疫細胞化学におけるように)接着細胞または固体表面上に固定化された細胞の単層などの細胞試料のイメージングに使用することができる。これらの実施形態は、細胞懸濁質量サイトメトリのために容易に可溶化することができない接着細胞の分析に特に有用である。したがって、本開示は、現在の免疫組織化学的分析を増強するために有用であるだけでなく、免疫細胞化学を増強するために使用することができる。
【0188】
連続切片および再サンプリング
特定の態様では、組織の連続切片は、イメージング質量サイトメトリによって分析されてもよい。連続切片は、異なるマーカーについて同一に染色または染色されてもよい。例えば、第1の連続切片はタンパク質マーカー(または主にタンパク質マーカー)について染色されてもよく、第2の連続切片はRNAマーカー(または主にRNAマーカー)について染色されてもよい。これは、1セットのマーカーの試料調製(タンパク質マーカーの抗原回収など)が別のセットのマーカー(RNAマーカーなど)を検出する能力を損傷または損なう可能性がある場合に特に有用である。連続切片は、本明細書中にさらに記載されるように、薄い切片の樹脂(例えば、BMMA)包埋およびアレイ断層撮影によって作製されてもよい。
【0189】
複数の連続切片を、同じまたは重複する質量タグを含む異なるセットのSBPで染色することができる。あるいは、連続切片は、同じまたは重複する質量タグを含む同じまたは重複するセットのSBPで染色されてもよい。連続切片にわたって共有される特徴上に存在するマーカーは、分析のために統合されてもよく、そうでなければ組み合わされてもよい。例えば、後続の切片にわたって細胞などの特徴において検出された同じマーカー(例えば、同じSBPによって結合される)を一緒に追加して、その特徴における発現を決定することができる。これは、より高い感度を提供し得、低発現マーカーの存在量を検出および/または決定するのに特に有用であり得る。細胞などの特徴は、単一の切片よりも大きくてもよく、または切片にわたって分割されてもよい。様々な方法により、ミクロンスケールで薄い切片を切断することができる。試料調製中の切片の脱水をレーザアブレーションの深さと組み合わせて、切片の厚さの大部分をアブレーションすることができる。切片がレーザアブレーションの深さよりも著しく厚い場合、ある位置での再サンプリングは、分析される特徴からのより多くの材料を可能にすることができる。fsレーザなどの短い強パルスを有するレーザは、試料からよりきれいにサンプリングすることができ(例えば、アブレーション部位を超えてほとんど熱放散しない)、再サンプリングをより良好に可能にする。上述のように、複数の連続切片の再サンプリングおよび/または分析は、より高い感度を可能にすることができる。さらに、複数の連続切片の再サンプリングおよび/または分析は、3D質量サイトメトリ画像の再構築を可能にし得る。
【0190】
特定の態様では、特徴の識別は、光学的調査中に行われてもよく、レーザは、光学的に識別された関心のある特徴に沿ってスキャンされてもよい。あるいは、特徴は、ピクセルごとの質量サイトメトリ画像、例えば、ミクロン(例えば、直径0.5~2ミクロン)スケールのピクセルのアレイから識別されてもよい。特徴に関連するピクセルを分析段階で識別することができ、その特徴のマーカーからの信号を統合することができる。特徴に沿ったレーザスキャン、(ステージの並進および/またはレーザスキャンによって得られた)ピクセルの特徴へのグループ化、ある位置での再サンプリング、および/または連続切片にわたる特徴の統合は、任意の組み合わせで、特徴に関連するマーカーの感度を改善することができる。レーザスキャンが適用されると、大幅な時間節約を可能にすることができ、これは連続切片を分析するときにさらに有益になる。
【0191】
IMCは、金属標識からの信号がほとんどまたは全く重ならないという点で免疫組織化学イメージングまたは免疫蛍光顕微鏡法を超える固有の利点を提供し、一方の組織切片から40以上のタンパク質(および/または他のマーカー)を同時にイメージングすることを可能にする。場合によっては、IMCは他の方法よりも感度が低いことがある。例えば、従来のIMCの検出限界は、100個の原子およびICP-TOF-MSの典型的な透過率で標識付けされた抗体に基づいて、直径1マイクロメートルのレーザスポット(ピクセル)当たり400コピーの抗体であってもよい。細胞などの特徴は、10、20、50、または100平方ミクロンを超える場合がある。従来のIMCでは、3~10マイクロメートルの厚さ(例えば、厚さ5~7マイクロメートル)の組織は、典型的には、1マイクロメートル以下の厚さに乾燥され、これは、IMCで使用される典型的なレーザエネルギーの全アブレーションのおおよその限界である(レーザヘッドで1マイクロジュールと仮定)。いくつかの細胞は、初期切片の厚さがより大きい。したがって、組織切片は、多くの場合、完全な細胞ではなく、細胞片を含有する。注目すべきは、異なるレーザ速度、波長、およびエネルギーが、これらの仮定を変更し得ることである。場合によっては、高速(例えばfs)レーザは、より厚い組織切片への再サンプリングおよび「穿孔」を可能にし得る。
【0192】
細胞などの特徴をIMCによって調べると、均一に分布し得る低存在量マーカーの検出力が低くなり得(例えば、細胞質全体)、細胞の画分におけるそれらの存在量は、細胞全体よりも低くなり得る。さらに、いくつかのマーカーは、いくつかのマーカーが特定の細胞区画に存在し得るので、細胞の特定の画分において過少に表され得る。例えば、細胞の核(例えば、イリジウム核酸インターカレータによって検出可能である)は、特定の組織切片において、その画分中に完全に存在し得るか、完全に存在し得ないか、または存在し得る。結果として、それは、良好な信号対雑音比で完全に検出可能であるか、部分的に検出可能であるか、または全く検出できない/存在しないかのいずれかであり得る。同様に、タンパク質マーカーは、細胞区画/切片におけるそれらの存在に依存して、検出可能であり得るか、部分的に検出可能であり得るか、または全く検出不能であり得る。検出しきい値を超えるマーカーであっても、より高い感度は、マーカーの存在量の定性的または定量的評価を改善または可能にし得る。
【0193】
本明細書に記載されるように、方法またはシステムは、細胞中に高存在量で存在する主要マーカーを測定することができ、測定は連続した組織切片で行われる。次いで、主要マーカー信号を使用して、各断面における特定の細胞を表す対象物を特定する/細胞様対象物をセグメント化するか、または各組織切片に存在する細胞の典型的な表現型を発現させることができる。次いで、マーカーシグネチャまたは細胞表現型を、各特定された対象物のXY座標にリンクすることができる。次いで、近接したXY座標を有する類似の主要マーカーシグネチャ/表現型の対象物は、マイクロトーム中に切片化された同じ細胞の断片として互いに連結される。一連の切片内の対象物が同じ細胞を表すものとして識別されると、すべてのマーカーに対する信号が一連の組織切片間で統合され(例えば、合計され)、マーカー信号の「体積積分」を効果的に生成する。マーカー信号の合計は、合計された切片の数に応じて潜在的にスケーリングすることができるが、背景信号は、合計された切片の数の平方根に比例するため、これにより、信号対雑音比および信号対雑音比が改善される。
【0194】
さらに、特定の細胞区画(または区画内のマーカー)が1つの組織切片に存在しない場合、それは同じ組織ブロックの前または次の切片に存在し得る。したがって、いくつかのマーカーの検出は、何倍も改善され得るか、または可能にさえされ得る。同じ細胞に属するものとしての主要なマーカーシグネチャの認識の複数の方法が利用可能であり、これには画像セグメント化の分野の方法(例えば、ウォーターシェッド法)が含まれる。上記の例は細胞について提供されているが、この手法は本明細書に記載の任意の特徴に使用することができる。形状および/またはマーカー発現などの類似の特性を有する、および/または類似の周囲の一組の特徴を有する類似のXY座標における特徴は、そのようなセグメント化後に同じ細胞特徴(例えば、細胞)に属すると認識することができる。
【0195】
試料スライド
特定の実施形態では、試料は、固体支持体(本明細書では試料キャリアまたはスライドとも呼ばれる)上に固定化されてもよい。固体支持体は、光学的に透明であってもよく、例えばガラスまたはプラスチック製であってもよい。試料キャリアが光学的に透明である場合、
図5に示すように、支持体を介した試料材料のアブレーションを可能にする。場合によっては、試料キャリアは、例えば、アブレーションまたは脱着されて分析される関心のある特徴/領域の相対位置の計算を可能にするために、本明細書に記載のシステムおよび方法で使用するための基準点として機能する特徴を含む。基準点は、光学的に分解可能であってもよいし、質量分析によって分解可能であってもよい。
【0196】
標的元素
イメージング質量分析法では、1つまたは複数の標的元素(すなわち、元素または元素同位体)の分布に関心があり得る。特定の態様では、標的元素は、本明細書に記載の標識原子である。標識原子は、単独で、または生物学的に活性な分子に共有結合して、またはその中で、試料に直接添加されてもよい。特定の実施形態では、標識原子(例えば、金属タグ)は、以下により詳細に記載されるように、DNAまたはRNA標的にハイブリダイズするための(その同族抗原に結合する)抗体、アプタマーまたはオリゴヌクレオチドなどの特異的結合対(SBP)のメンバーにコンジュゲートされてもよい。標識原子は、当技術分野で公知の任意の方法によってSBPに結合されてもよい。特定の態様では、標識原子は、ランタニドもしくは遷移元素または本明細書に記載の別の金属タグなどの金属元素である。金属元素は、60amuより大きい、80amuより大きい、100amuより大きい、または120amuより大きい質量を有し得る。本明細書に記載の質量分析器は、元素イオンを金属元素の質量よりも少なくすることができるので、豊富なより軽い元素は空間電荷効果を生じず、および/または質量検出器を圧倒しない。
【0197】
組織試料の標識化
本開示は、標識原子、例えば複数の異なる標識原子で標識付けされた試料の画像を生成し、標識原子は、試料の特定の、好ましくは細胞内の領域をサンプリングすることができるシステムによって検出される(したがって、標識原子は元素タグを表す)。複数の異なる原子への言及は、試料を標識付けするために2つ以上の原子種が使用されることを意味する。これらの原子種は、プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると2つの異なるMS信号が生じるように、質量検出器(例えば、それらは異なるm/Q比を有する)を使用して区別することができる。プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると2つの異なる発光スペクトル信号が生じるように、光学分光計(例えば、異なる原子は異なる発光スペクトルを有する)を使用して原子種を区別することもできる。
【0198】
質量タグ付き試薬
本明細書で使用される質量タグ付き試薬は、いくつかの成分を含む。第1はSBPである。第2は質量タグである。質量タグおよびSBPは、質量タグとSBPとのコンジュゲートによって少なくとも部分的に形成されるリンカーによって結合される。SBPと質量タグとの間の連結は、スペーサも含んでもよい。質量タグとSBPは、様々な反応化学によって互いにコンジュゲートされ得る。例示的なコンジュゲーション反応化学としては、チオールマレイミド、NHSエステルおよびアミン、またはクリック化学反応性(好ましくはCu(I)を含まない化学)、例えば歪みアルキンおよびアジド、歪みアルキンおよびニトロンならびに歪みアルケンおよびテトラジンが挙げられる。
【0199】
質量タグ
本発明で使用される質量タグ(元素タグとも呼ばれる)は、いくつかの形態をとることができる。典型的には、タグは少なくとも1つの標識原子を含む。標識原子は、本明細書において以下で説明される。特定の態様では、質量タグは、金属キレート化ペンダント基を含む直鎖または分岐ポリマーなどの金属キレート化ポリマーを含んでもよい。しかしながら、他のタイプの質量タグには、金属ナノ粒子(例えば、生体分子への付着のために官能化された金属クラスタ表面)または金属埋め込みポリマーが含まれる。
【0200】
したがって、その最も単純な形態では、質量タグは、配位子に配位した金属標識原子を有する金属キレート基である金属キレート部分を含んでもよい。いくつかの例では、質量タグあたり単一の金属原子のみを検出することで十分であり得る。しかしながら、他の例では、各質量タグが2つ以上の標識原子を含むことが望ましい場合がある。これは、以下に説明するように、いくつかの方法で達成することができる。
【0201】
2つ以上の標識原子を含むことができる質量タグを生成するための第1の手段は、ポリマーの2つ以上のサブユニットに結合した金属キレート配位子を含むポリマーの使用である。ポリマー中の少なくとも1つの金属原子に結合することができる金属キレート基の数は、約1~10,000、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、または500~1,000であり得る。少なくとも1つの金属原子は、金属キレート基の少なくとも1つに結合することができる。ポリマーは、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、または500~1,000など、約1~10,000の重合度を有することができる。したがって、ポリマーベースの質量タグは、約1~10,000個、例えば5~100個、10~250個、250~5,000個、500~2,500個、または500~1,000個の標識原子を含むことができる。
【0202】
ポリマーは、直鎖ポリマー、コポリマー、分岐ポリマー、グラフトコポリマー、ブロックポリマー、スターポリマーおよび超分岐ポリマーからなる群から選択することができる。ポリマーの主鎖は、置換ポリアクリルアミド、ポリメタクリレートまたはポリメタクリルアミドから誘導することができ、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、アクリル酸もしくはメタクリル酸のホモポリマーまたはコポリマーの置換誘導体とすることができる。ポリマーは、可逆的付加開裂重合(RAFT)、原子移送ラジカル重合(ATRP)およびアニオン重合からなる群から合成することができる。ポリマーを提供するステップは、N-アルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド、N-アリルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリルアミド、ナリルメタクリルアミド、メタクリレートエステル、アクリレートエステルおよびそれらの機能的等価物からなる群から選択される化合物からのポリマーの合成を含むことができる。
【0203】
ポリマーは水溶性であり得る。この部分は、化学的含有量によって限定されない。しかしながら、それは、骨格が比較的再現可能なサイズ(例えば、長さ、タグ原子の数、再現性のあるデンドリマーの特徴など)を有する場合、分析を単純化する。安定性、溶解性および非毒性の要件も考慮される。したがって、異なる反応性基(連結基)を配置する合成戦略による官能性水溶性ポリマーの調製および特性評価は、骨格に沿って多くの官能基に加え、リンカーおよび任意選択でスペーサを介してポリマーを分子(例えば、SBP)に結合させるために使用することができる。ポリマーのサイズは、重合反応を制御することによって制御可能である。典型的には、ポリマーのサイズは、ポリマーの旋回放射が可能な限り小さくなるように、例えば2ナノメートル~11ナノメートルになるように選択される。例示的なSBPであるIgG抗体の長さは約10ナノメートルであり、したがって、SBPのサイズに対して過度に大きいポリマータグは、その標的へのSBP結合を立体的に妨害し得る。
【0204】
少なくとも1つの金属原子に結合することができる金属キレート基は、少なくとも4つの酢酸基を含むことができる。例えば、金属キレート基は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)基または1,4,7,10テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10四酢酸(DOTA)基であり得る。代替基としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’、N’-四酢酸(EGTA)が挙げられる。
【0205】
金属キレート基は、エステルまたはアミドを介してポリマーに結合することができる。適切な金属キレート化ポリマーの例としては、Fluidigm Canada,Inc.から入手可能なX8およびDM3ポリマーが挙げられる。
【0206】
ポリマーは水溶性であり得る。それらの加水分解安定性のために、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、およびメタクリレートエステルまたは機能的等価物を使用することができる。約1~1000(1~2000の骨格原子)の重合度(DP)は、関心のあるポリマーの大部分を包含する。より大きなポリマーは、同じ機能を有する本発明の態様の範囲内であり、当業者によって理解されるように可能である。典型的には、重合度は、1~10,000、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、または500~1,000である。ポリマーは、比較的狭い多分散性をもたらす経路による合成に適し得る。ポリマーは、原子移送ラジカル重合(ATRP)または可逆的付加開裂(RAFT)重合によって合成することができ、これは1.1~1.2の範囲のMw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)の値をもたらすはずである。約1.02~1.05のMw/Mnを有するポリマーが得られる、アニオン重合を含む代替戦略。両方の方法は、開始剤または終了剤の選択により、末端基の制御を可能にする。これにより、リンカーを結合させることができるポリマーを合成することができる。後の工程でリガンドされた遷移金属単位(例えばLn単位)を結合させることができる繰り返し単位中に官能性ペンダント基を含むポリマーを調製する戦略を採用することができる。この実施形態は、いくつかの利点を有する。それは、リガンド含有モノマーの重合を行うことから生じ得る複雑さを回避する。
【0207】
ペンダント基間の電荷反発を最小限に抑えるために、(M3+)の標的リガンドは、キレートに-1の正味電荷を付与すべきである。
【0208】
金属キレート基は、当業者に公知の方法によってポリマーに結合させることができ、例えば、ペンダント基はエステルまたはアミドを介して結合させることができる。例えば、メチルアクリレートベースのポリマーに対して、金属キレート基は、最初にメタノール中でのポリマーとエチレンジアミンとの反応、続いて炭酸塩緩衝液中でのアルカリ性条件下でのDTPA無水物のその後の反応によってポリマー骨格に結合させることができる。
【0209】
第2の手段は、質量タグとして作用することができるナノ粒子を生成することである。そのような質量タグを生成するための第1の経路は、ポリマーでコーティングされた金属のナノスケール粒子の使用である。ここで、金属は、ポリマーによって環境から隔離および遮蔽され、例えばポリマーシェルに組み込まれた官能基によって、ポリマーシェルを反応させることができる場合には反応しない。官能基は、クリック化学試薬を付着させるためにリンカー成分(任意選択でスペーサを組み込む)と反応させることができ、その結果、このタイプの質量タグを単純なモジュール方式で上記の合成戦略に差し込むことができる。
【0210】
Grafting-toおよびGrafting-fromは、ナノ粒子の周囲にポリマーブラシを生成するための2つの主要な機構である。グラフト化では、ポリマーは別々に合成されるため、ナノ粒子をコロイド的に安定に保つ必要性によって合成が制約されない。ここで、可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)合成は、多種多様なモノマーおよび容易な官能化のために優れていた。連鎖移送剤(CTA)は、官能基自体として容易に使用することができ、官能化CTAを使用することができ、またはポリマー鎖を後官能化することができる。化学反応または物理吸着を使用して、ポリマーをナノ粒子に付着させる。グラフト化の1つの欠点は、粒子表面への付着中のコイルドポリマー鎖の立体反発に起因して、通常はより低いグラフト化密度である。すべての移植方法は、官能化ナノコンポジット粒子から過剰の遊離リガンドを除去するために厳密な後処理が必要であるという欠点を抱えている。これは、典型的には、選択的沈殿および遠心分離によって達成される。グラフト化アプローチでは、原子移送ラジカル重合(ATRP)のための開始剤または(RAFT)重合のためのCTAのような分子が粒子表面に固定化される。この方法の欠点は、新しい開始剤カップリング反応の開発である。さらに、グラフト化とは反対に、粒子は重合条件下でコロイド的に安定でなければならない。
【0211】
質量タグを生成する追加の手段は、ドープされたビーズの使用によるものである。キレート化ランタニド(または他の金属)イオンをミニエマルジョン重合で使用して、キレート化ランタニドイオンがポリマーに埋め込まれたポリマー粒子を作成することができる。キレート基は、当業者に知られているように、金属キレートが水に無視できる溶解度を有するが、ミニエマルジョン重合のためのモノマーに合理的な溶解度を有するように選択される。使用することができる典型的なモノマーは、当業者に知られているように、とりわけ、スチレン、メチルスチレン、様々なアクリレートおよびメタクリレートである。機械的堅牢性のために、金属タグ付き粒子は、室温より高いガラス転移温度(Tg)を有する。場合によっては、コア-シェル粒子が使用され、ミニエマルジョン重合によって調製された金属含有粒子は、表面官能性の性質を制御するためのシード乳化重合のためのシード粒子として使用される。この第2段階重合のための適切なモノマーの選択によって、表面官能性を導入することができる。さらに、アクリレート(および可能なメタクリレート)ポリマーは、エステル基がランタニド錯体上の満たされていない配位子部位に結合または安定化することができるので、ポリスチレン粒子よりも有利である。そのようなドープされたビーズを作製するための例示的な方法は、(a)少なくとも1つの標識原子含有錯体が可溶性である少なくとも1つの有機モノマー(一実施形態ではスチレンおよび/またはメチルメタクリレートなど)と、前記有機モノマーおよび前記少なくとも1つの標識原子含有錯体が可溶性でない少なくとも1つの異なる溶媒と、を含む溶媒混合物中で少なくとも1つの標識原子含有錯体を化合させるステップと、(b)均一なエマルジョンを提供するのに十分な期間にわたってステップ(a)の混合物を乳化するステップと、(c)重合を開始し、モノマーのかなりの部分がポリマーに変換されるまで反応を継続するステップと、(d)少なくとも1つの標識原子含有錯体がその中の粒子の中または上に組み込まれたポリマー粒子のラテックス懸濁液を得るのに十分な期間、ステップ(c)の生成物をインキュベートするステップであって、ポリマー質量タグを調べると、前記少なくとも1つの標識原子から別個の質量信号が得られるように、前記少なくとも1つの標識原子含有錯体が選択される、ステップである。異なる標識原子を含む2つ以上の錯体を使用することにより、2つ以上の異なる標識原子を含むドープビーズを作製することができる。さらに、異なる標識原子を含む錯体の比率を制御することにより、標識原子の比率が異なるドープビーズの製造が可能になる。複数の標識原子を使用し、異なる比率では、明確に識別可能な質量タグの数が増加する。コア-シェルビーズでは、これは、第1の標識原子含有複合体をコアに組み込み、第2の標識原子含有複合体をシェルに組み込むことによって達成され得る。
【0212】
またさらなる手段は、配位金属配位子としてではなく、ポリマーの骨格に標識原子を含むポリマーの生成である。例えば、CarerraおよびSeferos(Macromolecules 2015,48,297-308)は、ポリマーの骨格へのテルルの包含を開示している。標識原子として機能することができる原子を組み込んだ他のポリマー、スズ、アンチモンおよびビスマスを組み込んだポリマー。そのような分子は、とりわけ、Priegertら、2016(Chem.Soc.Rev.,45,922-953)において論じられている。
【0213】
したがって、質量タグは、少なくとも2つの成分、すなわち標識原子、およびキレート化するか、標識原子を含むか、または標識原子でドープされたポリマーを含むことができる。さらに、質量タグは、上記の議論に沿ったクリック化学反応において、2つの成分の反応後に質量タグとSBPとの間の化学結合の一部を形成する結合基(SBPにコンジュゲートされていない場合)を含む。
【0214】
ポリドーパミンコーティングは、SBPを例えばドープされたビーズまたはナノ粒子に付着させるさらなる方法として使用することができる。ポリドーパミン中の官能基の範囲を考慮すると、SBPは、例えば抗体などのSBP上のアミンまたはスルフヒドリル基の反応によってPDAがコーティングされたビーズまたは粒子から形成された質量タグにコンジュゲートされ得る。あるいは、PDA上の官能基を、SBPとの反応のためにさらに官能基を導入する二官能性リンカーなどの試薬と反応させることができる。いくつかの例では、リンカーは、以下に説明するように、スペーサを含むことができる。これらのスペーサは、質量タグとSBPとの間の距離を増加させ、SBPの立体障害を最小限に抑える。したがって、本発明の態様は、SBPとポリドーパミンを含む質量タグとを含む質量タグ付きSBPを含み、ポリドーパミンは、SBPと質量タグとの間の結合の少なくとも一部を含む。ナノ粒子およびビーズ、特にポリドーパミンコーティングされたナノ粒子およびビーズは、数千の金属原子を有することができ、同じ親和性試薬の複数のコピーを有することができるので、低存在量の標的を検出するための信号増強に有用であり得る。親和性試薬は、信号をさらにブーストすることができる二次抗体であり得る。
【0215】
標識原子
本開示と共に使用することができる標識原子には、MSまたはOESによって検出可能であり、非標識組織試料に実質的に存在しない任意の種が含まれる。したがって、例えば、12C原子は、天然に豊富であるので、標識原子として不適切であり得るが、11Cは、天然には存在しない人工同位体であるので、理論的にはMSに使用され得る。多くの場合、標識原子は金属である。しかしながら、好ましい実施形態では、標識原子は、希土類金属(15個のランタニド、ならびにスカンジウムおよびイットリウム)などの遷移金属である。これらの17個の元素(OESおよびMSによって区別することができる)は、(MSによって)容易に区別することができる多くの異なる同位体を提供する。多種多様なこれらの元素は、富化された同位体の形態で入手可能であり、例えばサマリウムは6つの安定同位体を有し、ネオジムは7つの安定同位体を有し、これらはすべて富化された形態で入手可能である。15個のランタニド元素は、重複しない固有の質量を有する少なくとも37個の同位体を提供する。標識原子としての使用に適した元素の例には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム、(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)、およびイットリウム(Y)が含まれる。希土類金属に加えて、他の金属原子、例えば金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ビスマス(Bi)などが検出に適している。放射性同位体の使用は、取扱いにあまり便利でなく不安定であるため好ましくない。例えば、Pmはランタニドの中で好ましい標識原子ではない。
【0216】
飛行時間(TOF)分析(本明細書で説明する)を容易にするために、80~250の範囲内、例えば80~210の範囲内、または100~200の範囲内の原子質量の標識原子を用いることが有用である。この範囲はすべてのランタニドを含むが、ScおよびYを除く。100~200の範囲は、TOF MSの高いスペクトルスキャン速度を利用しながら、異なる標識原子を使用することによる理論的な101プレックス分析を可能にする。上述のように、質量が非標識試料(例えば、100~200の範囲内)に見られるものよりも上の窓にある標識原子を選択することによって、TOF検出を使用して生物学的に有意なレベルで迅速なイメージングを提供することができる。
【0217】
様々な数の標識原子が、使用される質量タグ(したがって、質量タグあたりの標識原子の数)および各SBPに結合される質量タグの数に応じて、単一のSBPメンバーに結合され得る。より多くの標識原子が任意のSBPメンバーに結合している場合、より高い感度を達成することができる。例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100個を超える標識原子、例えば最大10,000個、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000個の標識原子をSBPメンバーに結合させることができる。上記のように、各々がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはDOTAなどのキレート剤を含有する、複数のモノマー単位を含有する単分散ポリマーを使用することができる。DTPAは、例えば、約10-6Mの解離定数で3+ランタニドイオンに結合する。これらのポリマーは、チオールで終結することができ、チオールは、マレイミドとの反応を介してSBPに結合するために使用することができ、上記のものと一致してクリック化学反応性を結合する。他の官能基、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどのアミン反応性基、またはカルボキシルもしくは抗体のグリコシル化に対して反応性の基も、これらのポリマーのコンジュゲーションに使用することができる。任意の数のポリマーが各SBPに結合し得る。使用され得るポリマーの具体例としては、両方ともMaxPar(商標)試薬として入手可能な直鎖(「X8」)ポリマーまたは第3世代樹枝状(「DN3」)ポリマーが挙げられる。金属ナノ粒子の使用もまた、上記で考察されるように、標識中の原子の数を増加させるために使用することができる。
【0218】
いくつかの実施形態では、質量タグ内のすべての標識原子は同じ原子質量のものである。あるいは、質量タグは、異なる原子質量の標識原子を含むことができる。したがって、いくつかの例では、標識付けされた試料は、それぞれがただ1種類の標識原子(ここで、各SBPはその同族標的に結合し、そのため、各種類の質量タグは、試料上で特定の、例えば抗原に局在する)を含む一連の質量タグ付きSBPで標識付けされてもよい。あるいは、いくつかの例では、標識付けされた試料は、それぞれが標識原子の混合物を含む一連の質量タグ付きSBPで標識付けされてもよい。いくつかの例では、試料を標識付けするために使用される質量タグ付きSBPは、単一の標識原子質量タグを有するものの混合物およびそれらの質量タグ内の標識原子の混合物を含んでもよい。
【0219】
スペーサ
上記のように、いくつかの例では、SBPは、スペーサを含むリンカーを介して質量タグにコンジュゲートされる。SBPとクリック化学試薬(例えば、SBPと歪みシクロアルキン(またはアジド)との間、歪みシクロアルケン(またはテトラジン)など)との間にスペーサが存在してもよい。質量タグとクリック化学試薬との間(例えば、質量タグとアジド(または歪みシクロアルキン)との間、テトラジン(または歪みシクロアルケン)など)にはスペーサがあってもよい。いくつかの例では、SNPとクリック化学試薬との間、およびクリック化学試薬と質量タグとの間の両方にスペーサが存在してもよい。
【0220】
スペーサは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサ、ポリ(N-ビニルピロリド)(PVP)スペーサ、ポリグリセリン(PG)スペーサ、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)スペーサ、またはポリオキサゾリン(POZ、例えば、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンまたはポリプロピルオキサゾリン)もしくはC5-C20非環状アルキルスペーサであってもよい。例えば、スペーサは、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、15個以上、20個異常のEG(エチレングリコール)単位を有するPEGスペーサであってもよい。PEGリンカーは、3~12個のEG単位、4~10個のEG単位を有していてもよく、または4、5、6、7、8、9もしくは10個のEG単位を有していてもよい。リンカーは、シスタミンまたはその誘導体を含んでもよく、1つまたは複数のジスルフィド基を含んでもよく、あるいは当業者に公知の任意の他の適切なリンカーであってもよい。
【0221】
スペーサは、コンジュゲートされるSBPに対する質量タグの立体効果を最小限に抑えるために有益であり得る。PEG系スペーサなどの親水性スペーサはまた、質量タグ付きSBPの溶解度を改善するように作用し、凝集を防止するように作用し得る。
【0222】
SBP
イメージング質量サイトメトリを含む質量サイトメトリは、特異的結合対のメンバー間の特異的結合の原理に基づいている。質量タグは特異的結合対メンバーに連結されており、これは質量タグを対の他方のメンバーである標的/分析物に局在化する。しかしながら、特異的結合は、他の分子種を排除するためにただ1つの分子種への結合を必要としない。むしろ、結合は非特異的ではない、すなわちランダムな相互作用ではないと定義されている。したがって、複数の標的に結合するSBPの例は、いくつかの異なるタンパク質間で共通するエピトープを認識する抗体である。ここで、結合は特異的であり、抗体のCDRによって媒介されるが、複数の異なるタンパク質が抗体によって検出される。共通のエピトープは天然に存在し得るか、または共通のエピトープはFLAGタグなどの人工タグであってもよい。同様に、核酸について、定義された配列の核酸は、完全に相補的な配列に排他的に結合することはできないが、当業者によって理解されるように、異なるストリンジェンシのハイブリダイゼーション条件の使用下でミスマッチの様々な許容範囲を導入することができる。それにもかかわらず、このハイブリダイゼーションは、SBP核酸と標的分析物との間の相同性によって媒介されるので、非特異的ではない。同様に、リガンドは、複数の受容体に特異的に結合することができ、容易な例は、TNFR1およびTNFR2の両方に結合するTNFαである。
【0223】
SBPは、核酸二重鎖、抗体/抗原複合体、受容体/リガンド対、またはアプタマー/標的対のうちのいずれかを含んでもよい。したがって、標識原子を核酸プローブに結合させることができ、次いでこれを組織試料と接触させて、プローブがその中の相補的核酸にハイブリダイズして、例えばDNA/DNA二重鎖、DNA/RNA二重鎖、またはRNA/RNA二重鎖を形成することができる。同様に、標識原子を抗体に結合させることができ、次いで、標識原子を組織試料と接触させて、標識原子をその抗原に結合させることができる。標識原子をリガンドに結合させることができ、次いで、それを組織試料と接触させて、その受容体に結合させることができる。標識原子をアプタマーリガンドに結合させることができ、次いで、これを組織試料と接触させて、その標的に結合することができる。したがって、標識SBPメンバーを使用して、DNA配列、RNA配列、タンパク質、糖、脂質、または代謝産物を含む試料中の様々な標的を検出することができる。
【0224】
したがって、質量タグ付きSBPは、タンパク質もしくはペプチド、またはポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドであり得る。
【0225】
タンパク質SBPの例としては、抗体またはその抗原結合断片、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体融合タンパク質、scFv、抗体模倣物、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、ビオチン、またはこれらの組み合わせが挙げられ、任意選択で、抗体模倣物は、ナノボディ、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、またはこれらの任意の組み合わせ、受容体-Fc融合物などの受容体、リガンド-Fc融合物などのリガンド、レクチン、小麦胚芽凝集素などの凝集素を含む。
【0226】
ペプチドは、直鎖状ペプチド、または環状ペプチド、例えば二環式ペプチドであってもよい。使用され得るペプチドの一例は、ファロイジンである。
【0227】
ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、一般に、3’-5’ホスホジエステル結合によって連結されたデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、ならびにポリヌクレオチド類似体を含有するヌクレオチドの一本鎖または二本鎖ポリマーを指す。核酸分子には、DNA、RNAおよびcDNAが含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド類似体は、天然のポリヌクレオチドに見られる標準的なホスホジエステル結合以外の骨格、および任意選択的に、リボースまたはデオキシリボース以外の修飾された1つまたは複数の糖部分を有し得る。ポリヌクレオチド類似体は、ワトソン-クリック型塩基対合によって標準的なポリヌクレオチド塩基に水素結合することができる塩基を含有し、ここで、類似体骨格は、オリゴヌクレオチド類似体分子と標準的なポリヌクレオチド中の塩基との間の配列特異的様式でのそのような水素結合を可能にする様式で塩基を提示する。ポリヌクレオチド類似体の例としては、限定ではないが、異種核酸(XNA)、架橋核酸(BNA)、グリコール核酸(GNA)、ペプチド核酸(PNA)、yPNA、モルホリノポリヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、トレオース核酸(TNA)、2’-0-メチルポリヌクレオチド、2’-0-アルキルリボシル置換ポリヌクレオチド、ホスホロチオエートポリヌクレオチドおよびボロノホスフェートポリヌクレオチドが挙げられる。ポリヌクレオチド類似体は、例えば、7-デアザプリン類似体、8-ハロプリン類似体、5-ハロピリミジン類似体、またはヒポキサンチン、ニトロアゾール、イソカルボスチリル類似体、アゾールカルボキサミド、および芳香族トリアゾール類似体を含む任意の塩基と対合することができるユニバーサル塩基類似体、または親和性結合のためのビオチン部分などの追加の官能性を有する塩基類似体を含む、プリンまたはピリミジン類似体を有してもよい。
【0228】
抗体SBPメンバー
典型的な実施形態では、標識SBPメンバーは抗体である。抗体の標識化は、1つまたは複数の標識原子結合分子の抗体へのコンジュゲーションによって、例えばNHS-アミン化学、スルフヒドリル-マレイミド化学またはクリック化学(例えば、歪みアルキンおよびアジド、歪みアルキンおよびニトロン、歪みアルケンおよびテトラジンなど)を使用した質量タグの付着によって達成することができる。イメージングに有用な細胞タンパク質を認識する抗体は、IHC使用のために既に広く利用可能であり、現在の標識技術(例えば、蛍光)の代わりに標識原子を使用することによって、これらの既知の抗体は、本明細書の方法開示での使用に容易に適合させることができるが、多重化能力を高めるという利点がある。抗体は、細胞表面上の標的または細胞内の標的を認識することができる。抗体は、様々な標的を認識することができ、例えば、個々のタンパク質を特異的に認識することができ、または共通のエピトープを共有する複数の関連タンパク質を認識することができ、またはタンパク質上の特定の翻訳後修飾を認識することができる(例えば、関心のあるタンパク質上のチロシンとリン-チロシンとを区別するため、リジンとアセチル-リジンとを区別するため、ユビキチン化を検出するためなど)。その標的に結合した後に、抗体にコンジュゲートした標識原子を検出して、試料中のその標的の位置を明らかにすることができる。
【0229】
標識付けされたSBPメンバーは、通常、試料中の標的SBPメンバーと直接相互作用する。しかしながら、いくつかの実施形態では、標識SBPメンバーが標的SBPメンバーと間接的に相互作用することが可能であり、例えば、一次抗体は標的SBPメンバーに結合してもよく、次いで、標識二次抗体は、サンドイッチアッセイの様式で一次抗体に結合してもよい。しかしながら、通常、この方法は、より容易に達成することができ、より高い多重化を可能にするため、直接相互作用に依存する。しかし、いずれの場合も、試料中の標的SBPメンバーと結合し得るSBPメンバーに試料を接触させ、その標的SBPメンバーに付された後段の標識を検出する。
【0230】
核酸SBP、および標識方法の改変
RNAは、本明細書中に開示する方法およびシステムが特異的、高感度および所望であれば定量的様式で検出することができる別の生物学的分子である。タンパク質の分析について上述したのと同様に、RNAに特異的に結合する元素タグで標識付けされたSBPメンバー(例えば、相補的配列のロックド核酸(LNA)分子、相補的配列のペプチド核酸(PNA)分子、相補的配列のプラスミドDNA、相補的配列の増幅DNA、相補的配列のRNAの断片および相補的配列のゲノムDNAの断片を含む、上記の相補的配列のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド)を使用することによってRNAを検出することができる。RNAには、成熟mRNAだけでなく、RNAプロセシング中間体および新生プレmRNA転写物も含まれる。
【0231】
ある特定の実施形態において、RNAおよびタンパク質の両方が、特許請求される発明の方法を使用して検出される。
【0232】
RNAを検出するために、本明細書に記載の方法およびシステムを使用して、RNAおよびタンパク質含有量の分析のために、本明細書に記載の生体試料中の細胞を調製することができる。特定の態様では、細胞は、ハイブリダイゼーション工程の前に固定され、透過化処理される。細胞は、固定および/または透過化処理されたものとして提供されてもよい。細胞は、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの架橋固定剤によって固定することができる。あるいは、またはさらに、エタノール、メタノールまたはアセトンなどの沈殿固定剤を用いて細胞を固定してもよい。ポリエチレングリコール(例えば、Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween-20)、サポニン(両親媒性グリコシドの群)などの界面活性剤、またはメタノールもしくはアセトンなどの化学物質によって細胞を透過化処理することができる。特定の場合には、固定および透過化は、同じ試薬または試薬のセットを用いて実施されてもよい。固定および透過化処理技術は、Jamurらによる「Permeabilization of Cell Membranes」(Methods Mol.Biol.,2010)で論じられている。
【0233】
細胞における標的核酸または「in-situハイブリダイゼーション」(ISH)の検出は、以前に、フルオロフォアでタグ付きされたオリゴヌクレオチドプローブを用いて行われている。本明細書で説明するように、イオン化および質量分析法と組み合わせた質量タグ付きオリゴヌクレオチドを使用して、細胞内の標的核酸を検出することができる。in-situハイブリダイゼーションの方法は、当技術分野で公知である(Zenobi et al.’’Single-Cell Metabolomics:Analytical and Biological Perspectives,’’ Science vol.342,no.6163,2013)を参照)。ハイブリダイゼーションプロトコルは、米国特許第5,225,326号、および米国特許出願公開第2010/0092972号および同第2013/0164750号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0234】
ハイブリダイゼーションの前に、懸濁液中に存在する細胞または固体支持体上に固定化された細胞を、先に論じたように固定し、透過化処理することができる。透過化は、標的ハイブリダイゼーションヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド、および/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドが細胞に入ることを可能にしながら、細胞が標的核酸を保持することを可能にし得る。細胞は、任意のハイブリダイゼーション工程の後に、例えば、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドの核酸標的へのハイブリダイゼーションの後に、増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの後に、および/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの後に洗浄されてもよい。
【0235】
ハンドリングを容易にするために、本方法の工程の全部または大部分について細胞を懸濁状態にすることができる。しかしながら、本方法は、固体組織試料(例えば、組織切片)中の細胞および/または固体支持体(例えば、スライドまたは他の表面)上に固定化された細胞にも適用可能である。したがって、時折、細胞は、試料中およびハイブリダイゼーション工程中に懸濁状態にあり得る。他の場合、細胞は、ハイブリダイゼーション中に固体支持体上に固定化される。
【0236】
標的核酸は、本方法によって検出される細胞中の十分な存在量の任意の関心のある核酸を含む。標的核酸は、その複数のコピーが細胞内に存在するRNAであってもよい。例えば、標的RNAの10コピー以上、20コピー以上、50コピー以上、100コピー以上、200コピー以上、500コピー以上または1000コピー以上が細胞中に存在し得る。標的RNAは、メッセンジャーNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、低分子核RNA(snRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、長鎖非コードRNA(IncRNA)、または当技術分野で公知の任意の他の種類のRNAであってもよい。標的RNAは、20ヌクレオチド長以上、30ヌクレオチド長以上、40ヌクレオチド長以上、50ヌクレオチド長以上、100ヌクレオチド長以上、200ヌクレオチド長以上、500ヌクレオチド長以上、1000ヌクレオチド長以上、20~1000ヌクレオチド長、20~500ヌクレオチド長、40~200ヌクレオチド長などであってもよい。
【0237】
特定の実施形態では、質量タグ付きオリゴヌクレオチドを標的核酸配列に直接ハイブリダイズさせることができる。しかしながら、さらなるオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、特異性および/または信号増幅の改善を可能にし得る。
【0238】
特定の実施形態では、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを標的核酸上の近位領域にハイブリダイズさせることができ、ハイブリダイゼーションスキームにおいて追加のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションのための部位を一緒に提供することができる。
【0239】
特定の実施形態では、質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドに直接ハイブリダイズすることができる。他の実施形態では、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドにハイブリダイズし、質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合することができる複数のハイブリダイゼーション部位を提供するように、1つまたは複数の増幅オリゴヌクレオチドを同時にまたは連続して追加することができる。質量タグ付きオリゴヌクレオチドの有無にかかわらず、1つまたは複数の増幅オリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができる多量体として提供されてもよい。
【0240】
2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドの使用は特異性を改善するが、増幅オリゴヌクレオチドの使用は信号を増加させる。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを細胞内の標的RNAにハイブリダイズさせる。合わせて、2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、増幅オリゴヌクレオチドが結合することができるハイブリダイゼーション部位を提供する。増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよび/またはその後の洗浄は、2つの近位標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを可能にするが、ただ1つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへの増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度より高い温度で行われ得る。第1の増幅オリゴヌクレオチドは、第2の増幅オリゴヌクレオチドが結合することができ、分岐パターンを形成する複数のハイブリダイゼーション部位を提供する。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、第2の増幅ヌクレオチドによって提供される複数のハイブリダイゼーション部位に結合し得る。合わせて、これらの増幅オリゴヌクレオチド(質量タグ付きオリゴヌクレオチドを含むまたは含まない)は、本明細書では「多量体」と呼ばれる。したがって、「増幅オリゴヌクレオチド」という用語は、さらなるオリゴヌクレオチドがアニールすることができる同じ結合部位の複数のコピーを提供するオリゴヌクレオチドを含む。他のオリゴヌクレオチドの結合部位の数を増加させることにより、標的に対して見出すことができる標識の最終的な数が増加する。したがって、複数の標識オリゴヌクレオチドは、単一の標的RNAに間接的にハイブリダイズする。これは、RNAあたりに使用される元素の検出可能な原子の数を増加させることによって、低コピー数RNAの検出を可能にする。
【0241】
この増幅を実施するための1つの特定の方法は、以下により詳細に説明するように、Advanced cell diagnosticsからのRNAscope(登録商標)法を使用することを含む。さらなる代替法は、QuantiGene(登録商標)FlowRNA法(Affymetrix eBioscience)を適合させる方法の使用である。アッセイは、分岐DNA(bDNA)信号増幅を用いたオリゴヌクレオチドペアプローブ設計に基づく。カタログまたはカスタムセットには4,000を超えるプローブがあり、追加料金なしで要求することができる。前の段落に沿って、本方法は、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを標的にハイブリダイゼーションさせ、続いて第1の増幅オリゴヌクレオチド(QuantiGene(登録商標)法では前増幅オリゴヌクレオチドと呼ばれる)を含む分岐構造を形成して、複数の第2の増幅オリゴヌクレオチドがアニールすることができるステム(QuantiGene(登録商標)法では単に増幅オリゴヌクレオチドと呼ばれる)を形成することによって機能する。次いで、複数の質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合し得る。
【0242】
RNA信号の増幅の別の手段は、ローリングサークル増幅手段(RCA)に依存する。この増幅システムを増幅プロセスに導入することができる理由は様々である。第1の例では、第1の核酸が環状である第1の核酸がハイブリダイゼーション核酸として使用される。第1の核酸は、一本鎖であってもよいか、または二本鎖であってもよい。それは、標的RNAに相補的な配列として含む。第1の核酸の標的RNAへのハイブリダイゼーションに続いて、第1の核酸に相補的なプライマーが第1の核酸にハイブリダイズされ、ポリメラーゼおよび核酸を使用したプライマー伸長に使用され、典型的には外因的に試料に添加される。しかしながら、いくつかの例では、第1の核酸が試料に添加されるとき、第1の核酸は、それにハイブリダイズされた伸長のためのプライマーを既に有してもよい。第1の核酸が環状である結果として、プライマー伸長が完全な複製ラウンドを完了すると、ポリメラーゼはプライマーを置換し、伸長が継続し(すなわち、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性なし)、第1の核酸の相補体の連結されたさらなる鎖状コピーを生成し、それによってその核酸配列を増幅することができる。したがって、元素タグ(RNA、DNA、LNA、PNAなど)を含むオリゴヌクレオチドは、第1の核酸の相補体の鎖状コピーにハイブリダイズされてもよい。したがって、RNA信号の増幅の程度は、環状核酸の増幅工程に割り当てられた時間の長さによって制御することができる。
【0243】
RCAの別の用途では、第1の、例えば環状である標的RNAにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドではなく、それは線状であってもよく、その標的に相補的な配列を有する第1の部分と、ユーザが選択した第2の部分と、を含んでもよい。次いで、この第2の部分に相同な配列を有する環状RCA鋳型をこれに第1のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、上記のようにRCA増幅を行うことができる。第1の、例えば標的特異的部分およびユーザ選択部分を有するオリゴヌクレオチドの使用は、ユーザ選択部分が様々な異なるプローブ間で共通になるように選択され得ることである。同じ後続の増幅試薬を、異なる標的を検出する一連の反応に使用することができるので、これは試薬効率的である。しかしながら、当業者によって理解されるように、この戦略を使用する場合、多重化反応における特異的RNAの個々の検出のために、標的RNAにハイブリダイズする各第1の核酸は、ユニークな第2の配列を有する必要があり、各環状核酸は、標識オリゴヌクレオチドによってハイブリダイズされ得る固有の配列を含むべきである。このようにして、各標的RNAからの信号を特異的に増幅して検出することができる。
【0244】
RCA分析をもたらすための他の構成は当業者に公知である。いくつかの例では、第1のオリゴヌクレオチド、例えばオリゴヌクレオチドが、後続の増幅およびハイブリダイゼーション工程中に標的から解離するのを防ぐために、第1のオリゴヌクレオチド、例えばオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーション後に(例えばホルムアルデヒドによって)固定することができる。
【0245】
さらに、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を使用してRNA信号を増幅することができる(例えば、Choi et al.、2010、Nat.Biotech,28:1208-1210を参照)。Choiは、HCR増幅器が、開始剤の非存在下で重合しない2つの核酸ヘアピン種からなると説明する。各HCRヘアピンは、露出した一本鎖トーホールドを有する入力ドメインと、折り畳まれたヘアピンに隠された一本鎖トーホールドを有する出力ドメインと、からなる。2つのヘアピンのうちの1つの入力ドメインへの開始剤のハイブリダイゼーションは、そのヘアピンを開いてその出力ドメインを露出させる。この(以前は隠れていた)出力ドメインの第2のヘアピンの入力ドメインへのハイブリダイゼーションは、そのヘアピンを開いて、開始剤と配列が同一の出力ドメインを露出させる。開始剤配列の再生は、ニックの入った二本鎖「ポリマー」の形成をもたらす交互の第1および第2のヘアピン重合ステップの連鎖反応の基礎を提供する。本明細書に開示する方法およびシステムの用途では、第1および第2のヘアピンのいずれかまたは両方を元素タグで標識付けすることができる。増幅手順は特定の配列の出力ドメインに依存するので、別々のヘアピンのセットを使用する様々な別個の増幅反応を同じプロセスで独立して行うことができる。したがって、この増幅はまた、多数のRNA種の多重分析における増幅を可能にする。Choiが指摘するように、HCRは等温トリガ自己組織化プロセスである。したがって、ヘアピンは、in situでトリガされた自己組織化を受ける前に試料を貫通すべきであり、深い試料貫通および高い信号対バックグラウンド比の可能性を示唆している。
【0246】
ハイブリダイゼーションは、細胞を標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド、および/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドなどの1つまたは複数のオリゴヌクレオチドと接触させること、ならびにハイブリダイゼーションが起こり得る条件を提供することを含んでもよい。ハイブリダイゼーションは、緩衝溶液、例えば生理食塩水クエン酸ナトリウム(SCC)緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水リン酸ナトリウム-EDTA(SSPE)緩衝液、TNT緩衝液(Tris-HCl、塩化ナトリウムおよびTween20を有する)、または任意の他の適切な緩衝液中で行われ得る。ハイブリダイゼーションは、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度付近またはそれ未満の温度で実施されてもよい。
【0247】
特異性は、未結合オリゴヌクレオチドを除去するように、ハイブリダイゼーション後に1回または複数回の洗浄を行うことによって改善されてもよい。洗浄のストリンジェンシの増加は特異性を改善し得るが、全体的な信号を減少させ得る。洗浄のストリンジェンシは、洗浄緩衝液の濃度を増加または減少させること、温度を上昇させること、および/または洗浄の持続時間を増加させることによって増加させることができる。RNAse阻害剤は、任意またはすべてのハイブリダイゼーションインキュベーションおよびその後の洗浄に使用されてもよい。
【0248】
1つまたは複数の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドを含む第1のセットのハイブリダイゼーションプローブを使用して、第1の標的核酸を標識付けすることができる。さらなる標的核酸を標識付けするために、さらなるハイブリダイゼーションプローブセットを使用することができる。ハイブリダイゼーションプローブの各セットは、異なる標的核酸に特異的であってもよい。ハイブリダイゼーションプローブのさらなるセットは、異なるセットのオリゴヌクレオチド間のハイブリダイゼーションを低減または防止するように、設計、ハイブリダイズおよび洗浄されてもよい。さらに、各セットの質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、固有の信号を提供し得る。したがって、オリゴヌクレオチドの複数のセットを使用して、2、3、5、10、15、20またはそれ以上の異なる核酸標的を検出することができる。
【0249】
時折、検出される異なる核酸は、単一遺伝子のスプライス変異体である。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、エクソンの配列内で(以下に説明するように他のオリゴヌクレオチドを介して直接的または間接的に)ハイブリダイズして、そのエクソンを含有するすべての転写物を検出するように設計することができ、またはスプライスジャンクションを架橋して特定の変異体を検出するように設計することができる(例えば、遺伝子が3つのエクソンを有し、2つのスプライス変異体(エクソン1-2-3およびエクソン1-3)を有する場合には、2つを区別することができ、エクソン2にハイブリダイズすることによって変異体1-2-3を特異的に検出することができ、エクソン1-3ジャンクションを横切ってハイブリダイズすることによって変異体1-3を特異的に検出することができる。
【0250】
組織化学染色
1つまたは複数の内因性金属原子を有する組織化学染色試薬を、本明細書中に記載されるような他の試薬および使用方法と組み合わせることができる。例えば、組織化学染色は、金属含有薬物、金属標識抗体、および/または蓄積した重金属と共局在化(例えば、細胞または細胞内分解能で)されてもよい。特定の態様では、1つまたは複数の組織化学染色が、他のイメージング方法(例えば、蛍光顕微鏡法、光学顕微鏡法、または電子顕微鏡法)のために使用されるものよりも低い濃度(例えば、半分未満、4分の1、10分の1などである)で使用される場合がある。
【0251】
構造を視覚化および特定するために、広範囲の組織学的染色および指標が利用可能であり、十分に特徴付けられる。金属含有染色剤は、病理学者によるイメージング質量サイトメトリの受け入れに影響を及ぼす可能性がある。特定の金属含有染色剤は、細胞成分を明らかにすることが周知であり、本発明での使用に適している。さらに、特徴認識アルゴリズムのためのコントラストを提供するデジタル画像分析において、明確に定義された汚れを使用することができる。これらの特徴は、イメージング質量サイトメトリの開発にとって戦略的に重要である。
【0252】
多くの場合、組織切片の形態学的構造は、抗体などの親和性産物を用いて対比することができる。それらは高価であり、組織化学染色を使用するのと比較して、金属含有タグを使用する追加の標識化手順を必要とする。この手法は、入手可能なランタニド同位体で標識付けされた抗体を使用して、したがって生物学的疑問に答えるために機能性抗体の質量(例えば金属)タグを枯渇させるイメージング質量サイトメトリに関する先駆的研究において使用された。
【0253】
本発明は、Ag、Au、Ru、W、Mo、Hf、Zr(粘液性間質を特定するために使用されるルテニウムレッド、コラーゲン線維を特定するためのトリクローム染色、細胞対比染色剤としての四酸化オスミウムなどの化合物を含む)などの元素を含む利用可能な同位体のカタログを拡張する。銀染色は核型分析に使用される。硝酸銀は、核小体形成領域(NOR)関連タンパク質を染色し、銀が沈着している暗い領域を生成し、NOR内のrRNA遺伝子の活性を示す。IMCへの適応は、より低濃度の銀溶液、例えば0.5%、0.01%、または0.05%未満の銀溶液を使用するためにプロトコル(例えば、過マンガン酸カリウムおよび銀濃度1%での酸化)を変更することを必要とし得る。
【0254】
特定の態様では、同じ組織の2つの切片(例えば、連続組織切片)の両方を、金属含有組織化学染色によって染色し、2つ以上の異なるイメージングモダリティによって分析することができる。これらのイメージングモダリティの1つは、原子質量分析法であってもよい。
【0255】
自己金属学的増幅技術は、組織化学における重要なツールに発展している。いくつかの内因性および毒性の重金属は、Agイオンとの反応によって自己触媒的に増幅することができる硫化物またはセレニドナノ結晶を形成する。次いで、より大きなAgナノクラスタをIMCによって容易に可視化することができる。現在、Zn-S/Seナノ結晶の銀増幅検出、ならびに銀-セレンナノ結晶の形成によるセレンの検出のための堅牢なプロトコルが確立されている。さらに、市販の量子ドット(Cdの検出)も自己触媒的に活性であり、組織化学的標識として使用することができる。
【0256】
本発明の態様は、組織化学染色および元素質量分析法によるイメージングにおけるそれらの使用を含んでもよい。元素質量分析法によって溶解可能な任意の組織化学染色が、本発明において使用されてもよい。特定の態様では、組織化学染色は、60amu、80amu、100amu、または120amuを超えるなど、試料をイメージングするために使用される元素質量分析器のカットオフを超える質量の1つまたは複数の原子を含む。例えば、組織化学染色剤は、本明細書中に記載されるような金属タグ(例えば、金属原子)を含んでもよい。金属原子は、組織化学染色にキレート化されていてもよく、または組織化学染色の化学構造内で共有結合していてもよい。特定の態様では、組織化学染色剤は有機分子であってもよい。組織化学的染色は、極性、疎水性(例えば、親油性)、イオン性であってもよいか、または異なる特性を有する基を含んでもよい。特定の態様では、組織化学染色剤は、2つ以上の化学物質を含んでもよい。
【0257】
組織化学的染色には、2000、1500、1000、800、600、400または200amu未満の小分子が含まれる。組織化学染色は、共有結合または非共有結合(例えば、イオン性または疎水性)相互作用を介して試料に結合し得る。組織化学染色は、例えば、個々の細胞、細胞内構造および/または細胞外構造の識別を助けるために、生体試料の形態を解明するためのコントラストを提供してもよい。組織化学染色によって分離され得る細胞内構造には、細胞膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリア、および他の細胞小器官が含まれる。組織化学染色は、核酸、タンパク質、脂質、リン脂質または炭水化物などの生物学的分子の種類に対する親和性を有してもよい。特定の態様では、組織化学染色剤は、DNA以外の分子に結合してもよい。適切な組織化学的染色には、間質(例えば、粘膜間質)、基底膜、介在性間質、コラーゲンまたはエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む細胞外構造(例えば、細胞外マトリックスの構造)に結合する染色も含まれる。
【0258】
特定の態様では、組織化学染色および/または代謝プローブは、細胞または組織の状態を示してもよい。例えば、組織化学的染色は、シスプラチン、エオシンおよびヨウ化プロピジウムなどの生体染色を含んでもよい。他の組織化学染色は、低酸素について染色することができ、例えば、低酸素条件下でのみ結合または沈着することができる。ロドデオキシウリジン(IdU)またはその誘導体などのプローブは、細胞増殖のために染色することができる。特定の態様では、組織化学染色は、細胞または組織の状態を示さない場合がある。細胞状態を検出するが(例えば、生存率、低酸素および/または細胞増殖)、インビボで(例えば、生きている動物または細胞培養物に)投与されるプローブは、本方法のいずれかで使用されるが、組織化学染色として適格ではない。
【0259】
組織化学染色は、核酸(例えば、DNAおよび/またはRNA)、タンパク質、脂質、リン脂質、炭水化物(例えば、単糖類もしくは二糖類もしくはポリオールなどの糖類、オリゴ糖、および/またはデンプンもしくはグリコーゲンなどの多糖類)、糖タンパク質、および/または糖脂質などの生物学的分子のタイプに対する親和性を有してもよい。特定の態様では、組織化学染色剤は対比染色剤であってもよい。
【0260】
以下は、特定の組織化学染色および本方法におけるそれらの使用の例である。
【0261】
粘液性間質検出のための金属含有染色剤としてルテニウムレッド染色剤を以下のように使用することができる。免疫染色された組織(例えば、脱パラフィン化FFPEまたは凍結切片)を0.0001~0.5%、0.001~0.05%、0.1%未満、0.05%未満、またはおよそ0.0025%ルテニウムレッドで(例えば、4~42℃、または室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間、または約30分間)処理することができる。生体試料は、例えば水または緩衝溶液でリンスしてもよい。次いで、元素質量分析法によるイメージングの前に組織を乾燥させることができる。
【0262】
リンタングステン酸(例えば、トリクローム染色剤として)は、コラーゲン線維のための金属含有染色剤として使用されてもよい。スライド上の組織切片(脱パラフィン化FFPEまたは凍結切片)を、ブアン液中で(例えば、4~42℃または室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間、または約30分間)固定することができる。次いで、切片を(例えば、4~42℃または室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間、または約15分間)0.0001%~0.01%、0.0005%~0.005%またはおよそ0.001%のリンタングステン酸で処理してもよい。次いで、元素質量分析法によるイメージングの前に、試料を水および/または緩衝溶液でリンスし、任意選択で乾燥させることができる。トリクローム染色は、光学(例えば、蛍光)顕微鏡によるイメージングに使用される濃度と比較して希釈(例えば、5倍、10倍、20倍、50倍またはそれ以上に希釈)して使用されてもよい。
【0263】
いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は有機分子である。いくつかの実施形態では、第2の金属は共有結合している。いくつかの実施形態では、第2の金属はキレート化される。いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は細胞膜に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は四酸化オスミウムである。いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は親油性である。いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は細胞外構造に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は細胞外コラーゲンに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、組織化学染色剤は、リンタングステン酸/リンモリブデン酸を含む三色染色剤である。いくつかの実施形態では、例えば、濃度がトリクローム染色の50倍希釈以上である光学的イメージングに使用されるよりも低い濃度などで、試料を抗体と接触させた後にトリクローム染色が使用される。
【0264】
金属含有薬物
医学における金属は、薬理学における新しい刺激的な分野である。金属タンパク質、核酸金属錯体もしくは金属含有薬物に取り込まれる前に金属イオンを一時的に貯蔵することに関与する細胞構造、またはタンパク質もしくは薬物分解時の金属イオンの運命についてはほとんど知られていない。微量金属の輸送、貯蔵、および分布に関与する調節機構を解明するための重要な第1のステップは、理想的には組織、細胞、または個々の細胞小器官および細胞内区画のレベルでさえ、それらの生来の生理学的環境に関連して、金属の特定および定量化を表す。組織学的試験は、典型的には、組織の薄切片または培養細胞を用いて行われる。
【0265】
多くの金属含有薬物、すなわち、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを含むメタロセンベースの抗癌剤、Wを含むタングステン酸塩、HfまたはZrを含むB-ジケトネート錯体、Auを含むオーラノフィン、ポリオキソモリブデン酸塩薬物が様々な疾患の治療に使用されているが、それらの作用機構または生体内分布については十分に知られていない:多くの金属錯体がMRI造影剤(Gd(III)キレート)として使用されている。金属系抗癌剤の取り込みおよび体内分布の特性評価は、根底にある毒性を理解し、最小限に抑えるために非常に重要である。
【0266】
薬物中に存在する特定の金属の原子質量は、質量サイトメトリの範囲に入る。具体的には、シスプラチンおよび他のPt錯体(イプロプラチン、ロバプラチン)は、広範囲の癌を治療するための化学療法薬として広く使用されている。白金系抗癌剤の腎毒性および骨髄毒性は周知である。本明細書に記載の方法および試薬を用いて、組織切片内のそれらの細胞内局在化、ならびに質量(例えば、金属-)タグ付き抗体および/または組織化学染色との共局在化をここで調べることができる。化学療法薬は、直接DNA損傷、DNA損傷修復経路の阻害、放射能などを介して、増殖細胞などの特定の細胞に対して毒性であり得る。特定の態様では、化学療法薬は、抗体中間体を介して腫瘍に標的化されてもよい。
【0267】
特定の態様では、金属含有薬物は化学療法薬である。本方法は、生体試料を得る前に、前述の動物研究モデルまたはヒト患者などの生きている動物に金属含有薬物を投与することを含んでもよい。生体試料は、例えば、癌性組織または初代細胞の生検であってもよい。あるいは、金属含有薬物は、不死化細胞株または初代細胞であり得る生体試料に直接添加されてもよい。動物がヒト患者である場合、本方法は、金属含有薬物の分布の検出に基づいて、金属含有薬物を含む治療レジメンを調整することを含んでもよい。
【0268】
金属含有薬物を検出する方法工程は、元素質量分析法による金属含有薬物の細胞内イメージングを含み得、細胞内構造(例えば、膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリア、および他の細胞小器官)および/または細胞外構造(例えば、間質、粘膜間質、基底膜、介在性間質、コラーゲンまたはエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む)中の金属含有薬物の保持を検出することを含んでもよい。
【0269】
上記の構造の1つまたは複数を分解する(例えば)組織化学染色および/または質量(例えば、金属)タグ付きSBPは、特定の細胞内または細胞外構造での薬物の保持を検出するために、金属含有薬物と共局在化されてもよい。例えば、シスプラチンなどの化学療法薬は、コラーゲンなどの構造と共局在化されてもよい。あるいは、またはさらに、薬物の局在化は、細胞生存率、細胞増殖、低酸素、DNA損傷応答または免疫応答のマーカーの存在に関連してもよい。
【0270】
いくつかの実施形態では、金属含有薬物は、非内因性金属を含み、例えば、非内因性金属は、白金、パラジウム、セリウム、カドミウム、銀または金である。特定の態様では、金属含有薬物は、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを含むメタロセンベースの抗癌剤、Wを含むタングステン酸塩、HfまたはZrを含むB-ジケトネート錯体、Auを含むオーラノフィン、ポリオキソモリブデン酸塩薬物、Pdを含むN-ミリストイルトランスフェラーゼ-1阻害剤(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)、またはそれらの誘導体のうちの1つである。例えば、薬物はPtを含んでもよく、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、イプロプラチン、ロバプラチンまたはこれらの誘導体であってもよい。金属含有薬剤は、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、ガドリニウム(Gd)、パラジウム(Pd)、またはそれらの同位体などの非内因性金属を含んでもよい。癌に対する光熱療法のための金化合物(例えばオーラノフィン)および金ナノ粒子バイオコンジュゲートは、組織切片で特定することができる。
【0271】
多重分析
本開示の1つの特徴は、試料中の複数(例えば、10以上、さらには最大100以上)の異なる標的SBPメンバーを検出する能力、例えば複数の異なるタンパク質および/または複数の異なる核酸配列を検出する能力である。これらの標的SBPメンバーの差次的検出を可能にするために、それらのそれぞれのSBPメンバーは、それらの信号を区別することができるように異なる標識原子を有するべきである。例えば、10個の異なるタンパク質が検出されている場合、10個の異なる抗体(それぞれ異なる標的タンパク質に特異的)を使用することができ、それらのそれぞれは、異なる抗体からの信号を区別することができるように固有の標識を有する。いくつかの実施形態では、例えば同じタンパク質上の異なるエピトープを認識する、単一の標的に対する複数の異なる抗体を使用することが望ましい。したがって、方法は、このタイプの冗長性のために標的よりも多くの抗体を使用してもよい。しかしながら、一般に、本開示は、複数の異なる標的を検出するために複数の異なる標識原子を使用する。
【0272】
2つ以上の標識抗体が本開示と共に使用される場合、検出される標識原子の量と組織試料中の標的抗原の存在量との間の関係が(特に高いスキャン周波数で)異なるSBPにわたってより一貫していることを確実にするのに役立つので、抗体はそれぞれの抗原に対して同様の親和性を有するべきであることが好ましい。同様に、様々な抗体の標識が同じ効率を有し、その結果、抗体がそれぞれ同程度の量の標識原子を有することが好ましい。
【0273】
いくつかの例では、SBPは蛍光標識ならびに元素タグを担持してもよい。次いで、試料の蛍光を使用して、標識原子の検出のためにサンプリングすることができる関心のある材料を含む試料の領域、例えば組織切片を決定することができる。例えば、蛍光標識は、癌細胞上に豊富に存在する抗原に結合する抗体にコンジュゲートさせることができ、次いで、標識原子にコンジュゲートされたSBPによってほぼ決定される他の細胞タンパク質の発現を決定するために、任意の蛍光細胞を標的とすることができる。
【0274】
標的SBPメンバーが細胞内に位置する場合には、典型的には、試料を標識と接触させる前または接触させている間に細胞膜を透過化処理することが必要であろう。例えば、標的がDNA配列であるが、標識SBPメンバーが生細胞の膜を貫通することができない場合、組織試料の細胞を固定し、透過化処理することができる。次いで、標識付けされたSBPメンバーは、細胞に入り、標的SBPメンバーとSBPを形成することができる。この点で、IHCおよびFISHと共に使用するための公知のプロトコルを利用することができる。
【0275】
方法は、少なくとも1つの細胞内標的および少なくとも1つの細胞表面標的を検出するために使用されてもよい。しかしながら、いくつかの実施形態では、本開示は、細胞内標的を無視しながら複数の細胞表面標的を検出するために使用することができる。全体として、標的の選択は、本開示が試料中の選択された標的の位置の画像を提供するので、本方法から所望される情報によって決定される。
【0276】
本明細書にさらに記載されるように、標識原子を含む特異的結合パートナー(すなわち、親和性試薬)を使用して、生体試料を染色(接触)することができる。適切な特異的結合パートナーには、抗体(抗体断片を含む)が含まれる。標識原子は、質量分析法によって区別可能であってもよい(すなわち、異なる質量を有してもよい)。標識原子は、それらが1つまたは複数の金属原子を含む場合、本明細書では金属タグと呼ばれ得る。金属タグは、炭素骨格と、それぞれ金属原子に結合する複数のペンダント基とを有するポリマーを含んでもよい。あるいは、またはさらに、金属タグは金属ナノ粒子を含んでもよい。抗体は、共有結合または非共有結合相互作用によって金属タグでタグ付けされてもよい。
【0277】
抗体染色は、細胞または細胞内解像度でタンパク質をイメージングするために使用されてもよい。本発明の態様の態様は、生体試料の細胞によって発現されるタンパク質に特異的に結合する1つまたは複数の抗体と試料を接触させることを含み、抗体は第1の金属タグでタグ付けされている。例えば、試料を、各々が識別可能な金属タグを有する5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上の抗体と接触させることができる。試料を抗体で染色する前、染色中(例えば、ワークフローを容易にするために)、または染色後(例えば、抗体の抗原標的の変化を回避するために)に、試料を1つまたは複数の組織化学染色とさらに接触させることができる。試料は、本明細書に記載の1つまたは複数の金属含有薬物および/または蓄積重金属をさらに含んでもよい。
【0278】
本発明で使用するための金属タグ付き抗体は、金属を含まない代謝プローブ(例えば、EF5)に特異的に結合し得る。他の金属タグ付き抗体は、蛍光顕微鏡法および光学顕微鏡法で使用される従来の染色の標的(例えば、上皮組織、間質組織、核などの)に特異的に結合し得る。そのような抗体には、抗カドヘリン、抗コラーゲン、抗ケラチン、抗EFS、抗ヒストンH3抗体、および当技術分野で公知のいくつかの他の抗体が含まれる。
【0279】
単一細胞分析
本開示の方法は、試料中の複数の細胞のレーザアブレーションを含み、したがって、複数の細胞からのプルームが分析され、それらの内容物が試料中の特定の位置にマッピングされて画像が提供される。ほとんどの場合、本方法のユーザは、試料全体ではなく、試料内の特定の細胞に信号を局在化する必要がある。これを達成するために、試料中の細胞の境界(例えば、原形質膜、または場合によっては細胞壁)を画定することができる。
【0280】
細胞境界の分離は、様々な方法で達成することができる。例えば、試料は、細胞境界を画定することができる従来の技術、例えば上述の顕微鏡法を用いて研究することができる。したがって、これらの方法を実行する場合、上述のようなカメラを含む分析システムが特に有用である。次いで、本開示の方法を使用してこの試料の画像を調製することができ、この画像を以前の結果に重ね合わせることができ、それによって検出された信号を特定の細胞に局在化させることができる。実際、上述したように、場合によっては、レーザアブレーションは、顕微鏡に基づく技術の使用によって関心があると判定された試料中の細胞のサブセットのみに向けられてもよい。
【0281】
しかしながら、複数の技術を使用する必要性を回避するために、本開示のイメージング方法の一部として細胞境界を画定することが可能である。そのような境界画定戦略は、IHCおよび免疫細胞化学からよく知られており、これらの手法は、検出することができる標識を使用することによって適合させることができる。例えば、この方法は、細胞境界に位置することが知られている標的分子の標識化を含むことができ、次いで、これらの標識からの信号を境界画定に使用することができる。適切な標的分子には、接着複合体(例えば、β-カテニンまたはE-カドヘリン)のメンバーなどの細胞境界の豊富なまたは普遍的なマーカーが含まれる。いくつかの実施形態は、境界を強化するために2つ以上の膜タンパク質を標識付けすることができる。
【0282】
適切な標識を含めることによって細胞境界を画定することに加えて、このようにして特定の細胞小器官を画定することも可能である。例えば、ヒストン(例えばH3)などの抗原を使用して核を特定することができ、ミトコンドリア特異的抗原、細胞骨格特異的抗原、ゴルジ特異的抗原、リボソーム特異的抗原などを標識付けすることも可能であり、それによって細胞の超微細構造を本開示の方法によって分析することが可能になる。
【0283】
細胞(または細胞小器官)の境界を画定する信号は、眼によって評価することができ、または画像処理を使用してコンピュータによって分析することができる。そのような技術は、他のイメージング技術について当技術分野で知られており、例えば、参考文献15は、蛍光画像から細胞境界を決定するために空間フィルタリングを使用するセグメント化方式を記載し、参考文献16は、明視野顕微鏡画像から境界を決定するアルゴリズムを開示し、参考文献17は、共焦点顕微鏡画像から細胞の幾何学的形状を抽出するためのCellSeT法を開示し、参考文献18は、蛍光顕微鏡画像用のCellSegm MATLAB(登録商標)ツールボックスを開示している。本開示に有用な方法は、ウォーターシェッド変換およびガウスぼかしを使用する。これらの画像処理技術は、単独で使用することもできるし、使用後に目視で確認することもできる。
[15]Arce et al.(2013)Scientific Reports 3,article 2266.
[16]Ali et al.(2011)Mach Vis Appl 23:607-21.
[17]Pound et al.(2012)The Plant Cell 24:1353-61.
[18]Hodneland et al.(2013)Source Code for Biology and Medicine 8:16.
細胞境界が画定されると、特定の標的分子からの信号を個々の細胞に割り当てることが可能である。例えば、定量的標準に対して方法を較正することによって、個々の細胞中の標的分析物の量を定量することも可能であり得る。
【0284】
元素標準
特定の態様では、試料キャリアは元素標準を含んでもよい。本開示の方法は、元素標準を試料キャリアに適用するステップを含んでもよい。あるいは、またはさらに、本開示の方法は、本明細書でさらに説明するように、元素標準に基づいて較正を実行するステップ、および/または元素標準に基づいて試料から得られたデータを正規化するステップを含んでもよい。元素標準を含む試料キャリアおよび方法は、本開示の他の箇所に記載されている追加の態様またはステップをさらに含んでもよい。
【0285】
元素標準は、既知の量の複数の同位体を含む粒子(例えば、ポリマービーズ)を含んでもよい。特定の態様では、粒子は、それぞれが複数の同位体の量を含む異なるサイズを有してもよい。粒子は、試料を保持する支持体に適用されてもよい。例えば、試料が細胞スメアである場合、元素標準粒子を支持体(例えば、細胞スメアに沿って)に適用してもよい。
【0286】
元素標準が本明細書に記載の別個の粒子を含む場合、本システムおよび本方法は、粒子の表面を横切ってレーザをスキャンしてICP-MSによる分析のための連続プルームを提供することを可能にし得る。このようにして粒子のすべてを取得し、既知の量の複数の同位体を有する粒子からの積分信号を提供することができる。粒子から取得された信号は、経時的に積分され、本明細書に記載の正規化または較正に使用され得る。
【0287】
システムおよび用途に応じて、機器感度ドリフトは、イオン光学ドリフト、表面帯電、検出器ドリフト(例えば、経年変化)、拡散に影響を及ぼす温度およびガス流ドリフト、ならびに電子機器の挙動(例えば、プラズマ電力、イオン光学電圧など)を含む多くの要因によって引き起こされ得る。そのような機器感度は、本明細書に記載の元素標準を使用して正規化または較正することによって適応させることができる。
【0288】
元素標準は、1つまたは複数の元素または同位体を含む粒子、膜および/またはポリマーを含んでもよい。元素標準は、元素標準にわたる元素または同位体の一貫した存在量を含んでもよい。あるいは、元素標準は、各々が異なる量の1つまたは複数の元素または同位体(例えば、標準曲線を提供する)を有する別個の領域を含んでもよい。元素標準の異なる領域は、元素または同位体の異なる組み合わせを含んでもよい。
【0289】
本明細書に記載されるように、既知の元素または同位体組成の元素標準粒子(すなわち、参照粒子)を、試料中の標的元素イオンの検出中に参照として使用するために試料(または試料支持体または試料キャリア)に添加することができる。特定の実施形態では、参照粒子は、遷移金属またはランタニドなどの金属元素または同位体を含む。例えば、参照粒子は、60amu超、80amu超、100amu超、または120amu超の質量の元素または同位体を含んでもよい。1つまたは複数の元素または同位体の量は既知であってもよい。例えば、同じ元素組成または同位体組成の参照粒子中の原子数の標準偏差は、平均原子数の50%、40%、30%、20%または10%であってもよい。
【0290】
特定の実施形態では、参照粒子は、光学的に溶解可能であってもよい(例えば、1つまたは複数のフルオロフォアを含んでいてもよい)。
【0291】
特定の実施形態では、参照粒子は、100amuを超える質量を有する元素または元素同位体(例えば、ランタニドまたは遷移元素系列中の元素)を含んでもよい。あるいは、またはさらに、参照粒子は、複数の元素または元素同位体を含んでもよい。例えば、参照粒子は、試料中の標識原子のすべて、一部またはいずれも元素または元素同位体と同一である元素または元素同位体を含んでもよい。あるいは、参照粒子は、標識原子の少なくとも1つの質量の上および下の質量の元素または元素同位体を含んでもよい。参照粒子は、既知量の1つまたは複数の元素または同位体を有してもよい。参照粒子は、標的元素とは異なる元素もしくは同位体、または元素もしくは同位体の異なる組み合わせを有する参照粒子を含んでもよい。
【0292】
元素標準粒子(すなわち、参照粒子)は、本明細書に一般的に記載される粒子と同様の直径範囲、例えば1nm~1um、10nm~500nm、20nm~200nm、50nm~100nm、1um未満、800nm未満、600nm未満、400nm未満、200nm未満、100nm未満、50nm未満、20nm未満、10nm未満、または1nm未満の直径を有してもよい。特定の態様では、元素標準粒子はナノ粒子であってもよい。元素標準粒子は、本明細書に一般的に記載される粒子と同様の組成を有してもよく、例えば、金属ナノ結晶コアおよび/またはポリマー表面を有してもよい。
【0293】
本発明の態様は、イメージング質量分析法による試料実行中の正規化のための方法、試料および参照粒子を含む。正規化は、個々の参照粒子の検出によって行われ得る。参照粒子は、例えば、以下に記載される実施形態の態様のいずれかに従って、試料のイメージング中の機器感度ドリフトを補正するために、イメージング質量分析法における標準として使用されてもよい。
【0294】
特定の態様では、試料のイメージング質量分析法の方法は、固体支持体上に試料を提供することを含み、試料は1つまたは複数の標的元素を含み、参照粒子は、複数の参照粒子が個別に溶解可能であるように試料上または試料内に分布している。試料上のイオン化および原子化位置を実行して、標的元素イオンおよび参照粒子元素イオンを生成することができる。個々の参照粒子からの標的元素イオンおよび元素イオンを(例えば、試料上の異なる位置で)検出することができる。標的元素イオンは、検出された標的元素イオンに近接して検出された1つまたは複数の個々の参照粒子の正規化元素イオンであってもよい。あるいは、またはさらに、第1および第2の位置で検出された標的元素イオンは、異なる個々の参照粒子から検出された元素イオンに対して正規化されてもよい。次いで、正規化された標的元素イオンの画像は、当技術分野で知られているかまたは本明細書に記載されている任意の手段によって生成されてもよい。
【0295】
本発明の態様は、標識原子に(例えば、原子を標識付けすることを含む元素タグに)(例えば、共有結合的または非共有結合的に)結合した複数の特異的結合パートナーを含む固体支持体上の生体試料を含む。生体試料は、複数の参照粒子が個別に溶解可能であるように、固体支持体上の生体試料上または生体試料内に分布する参照粒子をさらに含んでもよい。
【0296】
本発明の態様は、固体支持体上に試料を提供することによってそのような生体試料を調製するステップであって、試料が固体支持体上の生体試料である、ステップと、標識原子に結合した特異的結合パートナーで生体試料を標識付けするステップと、複数の参照粒子が個別に溶解可能であるように、生体試料上または生体試料内に参照粒子を分配するステップと、を含む。特定の態様では、試料は、本明細書に記載の標識原子などの1つまたは複数の標的元素を含んでもよい生体試料である。
【0297】
本発明の態様は、試料のイメージング中の機器感度ドリフトを補正するためのイメージング質量分析法における標準としての参照粒子または参照粒子の組成の使用を含む。特定の態様では、試料は、本明細書に記載の標識原子などの1つまたは複数の標的元素を含んでもよい生体試料である。
【0298】
上述の方法および使用は、以下に説明するように、追加の要素を含んでもよい。
【0299】
元素標準は、試料またはその一部の上または中に堆積させることができる。あるいは、またはさらに、元素標準は、試料とは異なる、または試料が配置される場所とは異なる試料キャリア上の位置にあってもよい。
【0300】
別の例では、試料の一部の時間的近傍内、例えば6時間、3時間、1時間、30分、10分、1分、30秒、10秒、1秒、500μs、100μs、50μsもしくは10μs以内、または標的元素イオンの検出から特定数のレーザもしくはイオンビームパルス以内(例えば、1000パルス、500パルス、100パルス、または50パルス以内)に検出された元素標準粒子を正規化または較正に使用することができる。
【0301】
標識原子などの標的元素は、個々の参照粒子から検出された元素イオンに基づいて、試料実行内で正規化することができる。例えば、本方法は、個々の参照粒子から元素イオンを検出するステップと、標的元素イオンのみを検出することとを切り替えるステップを含んでもよい。
【0302】
標的元素イオンは、イオンピーク下の面積または同じ質量チャネル内のイオン事象(パルス)の数などの強度値として検出することができる。特定の実施形態では、検出された標的元素イオンは、個々の参照粒子から検出された元素イオンに対して正規化されてもよい。特定の実施形態では、異なる位置の標的元素イオンは、同じ試料実行中に異なる参照粒子に対して正規化される。
【0303】
正規化は、標的元素イオンの定量化を含んでもよい。参照粒子が既知量の1つまたは複数の元素または同位体を(例えば、上記のように、ある程度の確実性をもって)有する実施形態では、参照粒子からの元素イオンから検出された信号を使用して、標的元素イオンを定量することができる。
【0304】
試料実行中の参照粒子への正規化は、機器の感度ドリフトを補償することができ、異なる位置にある同じ数の標的元素が異なって検出され得る。システムおよび用途に応じて、機器感度ドリフトは、イオン光学ドリフト、表面帯電、検出器ドリフト(例えば、経年変化)、拡散に影響を及ぼす温度およびガス流ドリフト、ならびに電子機器の挙動(例えば、プラズマ電力、イオン光学電圧など)を含む多くの要因によって引き起こされ得る。
【0305】
本発明の態様は、元素標準として試料キャリアなどの支持体に適用され得るかまたはその上に存在し得る元素膜または複数の元素膜を含む。元素膜は、粘着性の元素膜であってもよいし、高分子膜であってもよい。特定の実施形態では、元素膜は、支持体上に取り付けることができるポリマー(例えば、プラスチック)層を含んでもよい。支持体は、本明細書に記載されるように、試料スライドであってもよい。他の実施形態では、元素膜は、試料スライド上に予め印刷されてもよい。本明細書で説明するように、試料スライドは、試料中の細胞および/または遊離分析物を結合させるための1つまたは複数の領域を有してもよい。
【0306】
特定の態様では、ポリマー膜はポリエステルプラスチック膜であってもよい。ポリマーは、金属溶液および揮発性溶媒と混合すると、溶媒を蒸発させた後に金属を捕捉する膜を生成し得る長鎖ポリマーであってもよい。例えば、ポリマー膜はポリ(メチルメタクリレート)ポリマーであってもよく、溶媒はトルエンであってもよい。均一な分布を可能にするために、ポリマーをスピンコーティングしてもよい。
【0307】
元素膜は、少なくとも1、2、3、4、5、10、または20個の異なる元素を含んでもよい。元素膜は、少なくとも1、2、3、4、5、10、20、30、40、または50個の異なる元素同位体を含んでもよい。元素または元素同位体は、ランタニドおよび/または遷移元素などの金属を含んでもよい。元素同位体の一部または全部は、60amu以上、70amu以上、80amu以上、90amu以上、または100amu以上の質量を有してもよい。特定の実施形態では、元素膜は、1つまたは複数の標識原子と同一の元素、元素同位体、または元素同位体質量を含んでもよい。例えば、元素膜は、同じ支持体上の試料をタグ付けするために使用されるものと同一の質量タグを含んでもよい。元素膜は、(共有結合またはキレート化のいずれかによって)ポリマーに結合した元素原子を含んでもよく、または膜に直接結合した元素原子(遊離、クラスタ、またはキレート化のいずれか)を含んでもよい。元素膜は、その表面全体に元素または元素同位体の均一なコーティングを含んでもよいが、個々の同位体は同じまたは異なる量で存在してもよい。あるいは、異なる量の同じ同位体が、膜の表面にわたって既知の分布でパターン化されてもよい。元素膜は、少なくとも0.01、0.1、1、10、または100平方ミリメートルであってもよい。
【0308】
特定の態様では、元素膜は、質量タグでタグ付けした後(および潜在的に未結合の質量タグを洗浄した後)に試料スライドに適用することができる。これにより、元素膜からの試料の相互汚染を低減することができる。例えば、元素膜の使用は、試料取得中のバックグラウンドの50%、25%、10%、または5%未満の増加をもたらしてもよい。バックグラウンドは、元素膜中に存在する同位体の質量の1つまたは複数(例えば、大部分)の信号強度であってもよい。
【0309】
特定の態様では、元素膜にわたる各元素同位体(または元素同位体の大部分)の平均数(または平均強度)は、20%未満、15%未満、10%未満、または5%もしくは2%未満の変動係数(CV)を有することができる。例えば、CVは6%未満であってもよい。CVは、少なくとも2、5、10、20、または40個の関心のある領域にわたって測定することができ、各領域は、少なくとも100、500、1,000、5,000、または10,000平方マイクロメートルである。同様に、元素膜間の各元素同位体(または元素同位体の大部分)の平均数(または平均強度)のCVは、20%、15%、10%、5%、または2%未満であってもよい。
【0310】
元素膜は、標識原子(例えば、試料実行内および/または試料実行間)の調整、信号正規化および/または定量化に使用することができる。例えば、元素膜は、長い試料実行(例えば、1、2、4、12、24、または48時間を超える)全体にわたって使用されてもよい。
【0311】
特定の態様では、接着元素膜は、試料取得前、単一の固体支持体上の異なる領域から(または異なる時間に)試料を取得する間、またはその両方でシステムを調整するために使用されてもよい。調整中、接着元素膜は、レーザアブレーションを受けてもよく、得られたアブレーションプルーム(例えば、過渡的)は、本明細書に記載の質量検出器に移送されてもよい。次いで、空間分解能、過渡クロストーク、および/または信号強度(例えば、所与の過渡におけるすべてのプッシュにわたるなど、1回または複数回のプッシュにわたるイオンカウントの数)を読み出すことができる。1つまたは複数のパラメータは、読み出しに基づいて調整することができる。そのようなパラメータは、ガス流(例えば、シース、キャリア、および/または補給ガス流)、電圧(例えば、増幅器またはイオン検出器に印加される電圧)、および/または光学パラメータ(例えば、アブレーション周波数、アブレーションエネルギー、アブレーション距離など)を含んでもよい。例えば、信号強度が期待値(例えば、予め設定された値または同じもしくは類似の接着元素膜から得られた以前の信号強度から得られた値)に戻るようにイオン検出器に印加する電圧を調整してもよい。
【0312】
特定の態様では、接着元素膜は、異なる固体支持体上の試料間で検出された標識原子、単一の固体支持体上の試料からの領域間で(または異なる時間に)検出された標識原子、またはその両方からの信号強度を正規化するために使用されてもよい。正規化は、試料取得後に実行され、異なる試料、領域、時間または動作条件から得られた信号強度の比較を可能にする。試料またはその領域の所与の元素同位体(例えば、質量タグに関連付けられる)から取得された信号強度(例えば、イオンカウント)は、空間的または時間的に近接した元素膜から取得された同じ(または類似の)元素同位体の信号強度に対して正規化されてもよい。例えば、検出された標的元素イオンの100um、50um、25um、10umまたは5um以内などの空間的に近接した範囲内の元素膜を正規化に使用することができる。別の例では、1分、30秒、10秒、1秒、500μs、100μs、50μsもしくは10μs以内、または標的元素イオンの検出から一定数のレーザもしくはイオンビームパルス(例えば、1000パルス、500パルス、100パルス、または50パルス以内)以内などの時間的近接内で検出された元素膜を使用して正規化することができる。
【0313】
正規化は、標的元素イオン(例えば、イオン化元素同位体)の定量化を含んでもよい。元素膜が既知の量の1つまたは複数の元素または同位体(例えば、上記のように、ある程度の確実性をもって)を有する実施形態では、元素膜から元素イオンから検出された信号を使用して、標的元素イオンを定量することができる。
【0314】
試料実行中の元素膜への正規化は、機器の感度ドリフトを補償することができ、異なる位置にある同じ数のターゲット元素が異なって検出され得る。システムおよび用途に応じて、機器感度ドリフトは、イオン光学ドリフト、表面帯電、検出器ドリフト(例えば、経年変化)、拡散に影響を及ぼす温度およびガス流ドリフト、ならびに電子機器の挙動(例えば、プラズマ電力、イオン光学電圧など)を含む多くの要因によって引き起こされ得る。正規化の代わりに、または正規化に加えて、上記の機器感度ドリフト係数に影響を及ぼすパラメータは、元素膜から取得された信号に基づいて調整されてもよい。
【0315】
以下に説明するように、元素(例えば、元素同位体)標準を使用して、質量タグ(例えば、標識原子の数)の量または所与の質量タグに結合された分析物の数を定量化するための標準曲線を生成することができる。異なる既知量の元素または元素同位体を有する複数の元素膜(または単一の元素膜の複数の領域)を使用して、そのような標準曲線を生成することができる。
【0316】
特定の実施形態では、元素膜は接着テープ上の金属含有標準であってもよい。このテープは、長時間の画像取得時に染色された組織スライドに適用することができる。これらの長い取得は、定期的なサンプリングから利益を得て、機器性能の能動的監視のためのデータを取得することができる。これはさらに、長期研究のための標準化および/または正規化を可能にする。
【0317】
本明細書に記載されるように、元素標準は、既知の元素または同位体組成の参照粒子を含むことができ、試料中の標的元素イオンの検出中に参照として使用するために試料(または試料キャリア)に添加することができる。特定の実施形態では、参照粒子は、遷移金属またはランタニドなどの金属元素または同位体を含む。例えば、参照粒子は、60amu超、80amu超、100amu超、または120amu超の質量の元素または同位体を含んでもよい。
【0318】
標識原子などの標的元素は、個々の参照粒子から検出された元素イオンに基づいて、試料実行内で正規化することができる。例えば、本方法は、個々の参照粒子から元素イオンを検出するステップと、標的元素イオンのみを検出することとを切り替えるステップを含んでもよい。
【0319】
ヒドロゲルを使用した分析前の試料の膨張
従来の光学顕微鏡法は、照明源の波長の約半分に制限され、可能な最小分解能は約200nmである。膨張顕微鏡法は、ポリマーネットワークを使用して試料を物理的に膨張させ、その結果、試料の光学的視覚化の分解能を約20nmに高める試料調製(特に生体試料)の方法である(国際公開第2015127183号)。膨張手順を使用して、イメージング質量分析法およびイメージング質量サイトメトリのための試料を調製することができる。このプロセスにより、1μmのアブレーションスポット直径は、未膨張試料上で1μmの分解能を提供するが、この1μmのアブレーションスポットでは、膨張後に約100nmの分解能を表す。
【0320】
膨張顕微鏡法は、接着組織中の個々の細胞(または別の特徴)が本明細書に記載のレーザスキャンシステムおよび方法によって別々にサンプリングされ得る拡大された試料を提供し得る。
【0321】
生体試料の膨張顕微鏡検査は、一般に、固定、アンカリングのための調製、ゲル化、機械的均質化、および膨張の工程を含む。
【0322】
固定段階では、試料を化学的に固定し、洗浄した。しかしながら、生理学的状態の関数としてのタンパク質-タンパク質相互作用などの特定の信号伝達機能または酵素機能は、固定工程なしで膨張顕微鏡を使用して検査することができる。
【0323】
次に、試料は、後続のゲル化工程で形成されたヒドロゲルに取り付ける(「アンカリングする」)ことができるように調製される。ここで、本明細書の他の箇所で論じられるようなSBP(例えば、試料中の関心のある標的分子に特異的に結合することができる抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸および/または小分子)を試料とインキュベートして、試料中に存在する場合に標的に結合させる。任意選択で、試料は、イメージングに有用な検出可能な化合物で標識付けする(「アンカリングする」と呼ばれることもある)ことができる。光学顕微鏡法の場合、検出可能な化合物は、例えば、蛍光標識抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸および/または試料中の関心のある標的分子に特異的に結合することができる小分子によって提供され得る(米国特許出願公開第2017276578号)。イメージング質量サイトメトリを含む質量サイトメトリの場合、検出可能な標識は、例えば、元素タグ標識抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸および/または試料中の関心のある標的分子に特異的に結合することができる小分子によって提供され得る。いくつかの例では、標的へのSBP結合は標識を含まず、代わりに二次SBP(例えば、免疫組織化学的技術において一般的であるように、標的に結合する一次抗体および一次抗体に結合する二次抗体)によって結合され得る特徴を含む。一次SBPのみが使用される場合、これはそれ自体、試料を後続のゲル化工程で形成されたヒドロゲルに付着または架橋する部分に連結されてもよく、その結果、試料をヒドロゲルに繋ぐことができる。あるいは、二次SBPが使用される場合、これは試料をヒドロゲルに付着または架橋する部分を含んでもよい。場合によっては、二次SBPに結合する第3のSBPが使用される。例示的な実験プロトコルの一例は、Chen et al.,2015(Science 347:543-548)に記載されており、これは、標的に結合する一次抗体、一次抗体に結合する二次抗体であって、二次抗体がオリゴヌクレオチド配列に結合している二次抗体、次いで三次SBPとして、二次抗体に結合した配列に相補的なオリゴヌクレオチドを使用し、三次SBPは、アクリルアミドヒドロゲルに組み込むことができるメタクリロイル基を含んでいた。いくつかの例では、ヒドロゲルに組み込まれる部分を含むSBPは、標識も含む。これらの標識は、蛍光標識または元素タグであり得、したがって、例えば、フローサイトメトリ、光学的スキャンおよび蛍光測定法(米国特許出願公開第2017253918号)、または質量サイトメトリもしくはイメージング質量サイトメトリによるその後の分析に使用され得る。
【0324】
ゲル化段階は、密に架橋された高度に荷電したモノマーを含むヒドロゲルを試料に注入することによって、試料中にマトリックスを生成する。例えば、アクリル酸ナトリウムは、コモノマーであるアクリルアミドおよび架橋剤であるN-N’メチレンビスアクリルアミドと共に、固定され透過化処理された脳組織に導入されている(Chen et al.,2015を参照)。ポリマーが形成されると、アンカリング工程で標的に連結された部分を組み込んで、試料中の標的がゲルマトリックスに付着するようになる。
【0325】
次いで、試料を均質化剤で処理して試料の機械的特性を均質化し、試料が膨張に抵抗しないようにする(国際公開第2015127183号)。例えば、試料は、酵素(プロテアーゼなど)による分解、化学的タンパク質分解(例えば、臭化シアンによって)、試料を70~95℃に加熱すること、または超音波処理などの物理的破壊によって均質化することができる(米国特許出願公開第2017276578号)。
【0326】
次いで、低塩緩衝液または水中で複合体を透析することによって試料/ヒドロゲル複合体を膨張させて、試料を3次元で元のサイズの4倍または5倍に膨張させる。ヒドロゲルが膨張するにつれて、試料、特に標的に付着した標識およびヒドロゲルは、それらの元の標識の三次元配置を維持しながら膨張する。試料が膨張すると、低塩溶液または水で膨張するため、膨張した試料は透明であり、試料の奥深くの光学的イメージングが可能になり、質量サイトメトリを実行するときに有意なレベルの汚染元素を導入することなく(例えば、蒸留水の使用によるか、または容量性脱イオン化、逆浸透、炭素濾過、精密濾過、限外濾過、紫外線酸化もしくは電気脱イオン化を含む他のプロセスによって精製される)イメージングが可能になる。
【0327】
次いで、膨張された試料をイメージング技術によって分析することができ、擬似的に改善された分解能が得られる。例えば、蛍光顕微鏡法を蛍光標識と共に使用することができ、イメージング質量サイトメトリを元素タグと共に、任意選択的に組み合わせて使用することができる。ヒドロゲルの膨潤および天然試料に対する膨張した試料中の標識間の距離の付随する増加のために、以前に分離して分離することができなかった標識(光学顕微鏡における可視光の回折限界、またはIMCにおけるスポット径による)。
【0328】
本明細書に開示するシステムおよび方法を使用して適用することもできる膨張顕微鏡法(ExM)の変形例が存在する。これらの変形例には、タンパク質保持ExM(proExM)、蛍光in situハイブリダイゼーション(ExFISH)、反復ExM(iExM)が含まれる。反復膨張顕微鏡法は、上記の技術を使用して予備膨張を既に受けた試料中に第2の膨張性ポリマーゲルを形成することを含む。第1の膨張したゲルを溶解し、次いで第2の膨張性ポリマーゲルを膨張させて、全膨張を最大約20倍にする。例えば、Chang et al.,2017(Nat Methods 14:593-599)は、第1のゲルが切断可能な架橋剤(例えば、ジオール結合が高pHで切断され得る市販の架橋剤N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド(DHEBA))で作製されるという置換を伴って、上記のChen et al.2015の方法に基づく技術を提供する。第1のゲルのアンカリングおよび膨張に続いて、第1のゲルに組み込まれたオリゴヌクレオチドに相補的な標識オリゴヌクレオチド(第2のゲルに組み込むための部分を含む)を、膨張した試料に加えた。標識オリゴヌクレオチドの部分を組み込んだ第2のゲルを形成し、切断可能なリンカーの切断によって第1のゲルを破壊した。次いで、第2のゲルを第1のゲルと同じ方法で膨張させ、標識のさらなる空間的分離をもたらしたが、元の試料中の標的の配置に対してそれらの空間的配置を維持した。いくつかの例では、第1のゲルの膨張後に、中間の「再包埋ゲル」を使用して、実験工程が行われている間、膨張した第1のゲルを所定の位置に保持し、例えば、標識付けされたSBPを第1のゲルマトリックスにハイブリダイズさせ、第1のヒドロゲルおよび再包埋ゲルを破壊して第2のヒドロゲルの膨張を可能にする前に、未膨張の第2のヒドロゲルを形成する。前述のように、使用される標識は、蛍光タグまたは元素タグであってもよく、したがって、例えば、フローサイトメトリ、光学的スキャンおよび蛍光測定、または質量サイトメトリまたはイメージング質量サイトメトリによるその後の分析において、必要に応じて使用され得る。
【0329】
追加の高スループット試料ハンドリング
ロボットアームなどの自動試料導入システムは、高スループット試料ハンドリングの形態として上述されている。あるいは、またはさらに、アレイ断層撮影および自動化された染色などの他の形態の高スループット試料ハンドリングが、以下に記載されるようなイメージング(例えば、IMCの場合)のために実施されてもよい。
【0330】
樹脂包埋およびアレイ断層撮影
特定の態様では、アレイ断層撮影と呼ばれるプロセスで、埋め込まれた組織試料の連続切片を配列(例えば、単一のスライド上で)することができる。そのような切片は、蛍光顕微鏡法、電子顕微鏡法、および/またはイメージング質量サイトメトリの形態を含む、本明細書に記載の一連のイメージングモダリティと適合し得る。特定の態様では、個々の切片は、IMCによるイメージングの前に、蛍光および/または電子顕微鏡などの非破壊的手段によってイメージングされてもよい。
【0331】
本明細書に記載のBMMA試料樹脂などの硬質樹脂は、例えば、連続切片がIMCによってイメージングされ、計算的に積み重ねられる3D IMCのアレイ断層撮影の上流に埋め込まれてもよい。アレイ断層撮影は、500nm未満、400nm未満、300nm未満、または200nm未満のスポットサイズ(ピクセルサイズ)を有する超解像IMCの超薄切片を提供することができる。あるいは、またはさらに、アレイ断層撮影は、異なるSBPに対して同じ質量タグを使用する連続切片にわたって同じ、3D再構築、および/または異なる染色パネルの使用のより高いスループット分析を可能にしてもよい(それによって多重性を高める)。
【0332】
本出願の態様は、本明細書に記載の試料、試料の調製、および/または試料の分析を含んでもよい。試料調製および/または分析に使用される試薬の任意の組み合わせを含むキットも企図される。例えば、キットは、質量タグ付きSBPに加えて、樹脂包埋試薬および/またはアレイ断層撮影機器を含んでもよい。
【0333】
特定の態様では、組織試料は、ポリマー樹脂(例えば、「硬質」ポリマー樹脂)で埋め込まれてもよい。FFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)試料および他の軟質包埋試料調製物と比較して、硬質ポリマー樹脂への包埋は、より薄い切片化を可能にし、これは本明細書に記載される多くの利点を有する。
【0334】
高分子樹脂は、エポキシ樹脂であってもよい。しかし、エポキシ樹脂は、標的エピトープが損傷する可能性があるため、SBPで標識付けするのにあまり適していない可能性がある。エポキシは、タンパク質などの生体物質と共有結合を形成し、エピトープの曝露を低減する。とはいえ、エポキシは、EMイメージングに対して安定な試料の構造的詳細を保存する。超薄切片化は、質量タグ付きSBPによる結合のためのエピトープの曝露を可能にし得る。エポキシは、高温(例えば、50℃を超える)で硬化することができ、ナトリウムエトキシドなどの試薬で脱可塑化することができ、SBP標的を損傷する可能性がある。特定の態様では、エポキシ樹脂は、Spurr樹脂またはAraldite樹脂(変性エポキシ)であってもよい。
【0335】
高分子樹脂は、アクリル樹脂またはその誘導体であってもよい。アクリル樹脂は、エポキシ樹脂よりも一般的ではないが、IMCに多くの利点を提供する。アクリル樹脂包埋では、アクリルモノマーの二重結合にフリーラジカルが反応し、モノマーの1つ大きい新しいラジカルが生成される。モノマーはこのように添加され続け、ポリマーはその成長が終了するまでより大きく成長する。フリーラジカルは、タンパク質および核酸に対してほとんどまたは全く親和性を有し得ず、したがって、関心のある生体分子はポリマーネットワークに組み込まれず、SBPがそれらの標的に結合することを可能にし得る。
【0336】
アクリル樹脂は、低粘度を有し、免疫染色によく適しているLR WhiteまたはLR Goldなどのポリヒドロキシ芳香族アクリル樹脂であってもよい。しかしながら、LR Whiteは有機溶媒による脱可塑化に耐性があり、高温での熱硬化が必要とされる場合があり、その一方または両方が標的へのSBP結合を減少させる可能性がある。さらに、低いSBP(例えば、抗体)浸透は、極薄(例えば、厚さ200nm未満)切片の必要性をもたらし得る。
【0337】
アクリル樹脂は、lowicryl(低温での低粘度)樹脂であってもよい。このような樹脂は、高度に架橋されたアクリレートおよびメタクリレート系媒体、低温での低い粘度を有し得、低い凝固点(例えば、マイナス60℃未満、例えばマイナス80℃)を有し得る。
【0338】
アクリル樹脂は、ブチルメチルメタクリレート(BMMA)などのメチルメタクリレート(MMA)樹脂であってもよい。BMMAは、様々なイメージングモダリティに使用され得るように、可変硬度を有する汎用ポリマーである。BMMAは、UV光下、低温で硬化させることができる。これはエタノールおよびアセトンに可溶性であり、より多くのSBP標的(例えば、エピトープ)を無傷のままにする穏やかな枯渇を可能にする。BMMA包埋樹脂は、超薄切片および/または厚切片で切片化することができる。例えば、超薄切片は、厚さが250nm、200nm、150nm、100nm、または50nm以下であってもよい。厚い切片は、厚さが300nm、400nm、500nm、1um、または2um以上であってもよい。特定の態様では、BMMA切片の厚さは、100nm、150nm、200nm、300nm、400nm、500nm、1um、または2um未満であってもよい。
【0339】
BMMA樹脂包埋は、H&E(ヘマトキシリンおよびエオシン)染色などの組織学的染色、免疫染色(例えば、抗体などのSBPを用いる)、in situハイブリダイゼーション、第2高調波発生(SHG)顕微鏡法などの非線形顕微鏡法、共焦点顕微鏡法などの蛍光顕微鏡法、直接イオン化(本明細書に記載)もしくはMALDIなどのIMS、直接イオン化もしくは本明細書に記載の別の手段によるIMC、ならびに/またはSEMおよびTEMなどの電子顕微鏡法に適合し得る。抗体などの特定のSBPは、半薄BMMA切片に浸透し、それらから除去することができ、反復顕微鏡法(反復蛍光顕微鏡法など)を可能にする。したがって、BMMA埋め込みは、上記のイメージングモダリティの1つまたは複数と組み合わせることができる。BMMAはパラフィンよりも硬く、断層撮影のためのより清浄な厚い切片を提供し得る。特定の態様では、厚いBMMA切片は、免疫染色され(例えば、脱可塑化後)、薄いBMMA切片のイメージングモダリティと共位置合わせされてもよい。BMMA切片(例えば、脱可塑化後)は、質量タグ付きSBPと適合性であってもよい。
【0340】
特定の態様では、BMMA連続切片は、UVへの曝露によって硬化され、アセトンを使用して脱可塑化され、50~95%エタノールへの浸漬によって再水和され、緩衝液で洗浄され、抗原回収に曝露され(例えば、加熱および/または酸性化によって)、および/または免疫抑制されてもよい(例えば、質量および/または蛍光タグ付きSBPにより)。
【0341】
本明細書に記載されるように、包埋は、LRホワイト、低アクリル、またはメタクリル酸メチルを含むアクリルポリマー樹脂を用いてもよい。特定の態様では、低アクリル樹脂またはMMA樹脂などの樹脂は、UV光によって硬化(光重合)することができ、高温硬化と比較してより多くのSBP標的(例えば、エピトープ)を無傷のまま残すことができる。特定の態様では、組織は包埋前にパラホルムアルデヒドで固定されてもよい。方法は、複数の質量タグ付きSBPで標識付けする前に、組織切片の1つまたは複数を脱可塑化することを含んでもよい。
【0342】
アクリル樹脂は、ブチルメチルメタクリレート(BMMA)などのメチルメタクリレート(MMA)樹脂であってもよい。BMMAは、様々なイメージングモダリティに使用され得るように、可変硬度を有する汎用ポリマーである。BMMAは、UV光下、低温で硬化させることができる。これはエタノールおよびアセトンに可溶性であり、より多くのSBP標的(例えば、エピトープ)を無傷のままにする穏やかな枯渇を可能にする。BMMA包埋樹脂は、超薄切片および/または厚切片で切片化することができる。例えば、超薄切片は、厚さが250nm、200nm、150nm、100nm、または50nm以下であってもよい。厚い切片は、厚さが300nm、400nm、500nm、1um、または2um以上であってもよい。特定の態様では、BMMA切片の厚さは、100nm、150nm、200nm、300nm、400nm、500nm、1um、または2um未満であってもよい。
【0343】
BMMA樹脂包埋は、H&E(ヘマトキシリンおよびエオシン)染色などの組織学的染色、免疫染色(例えば、抗体などのSBPを用いる)、in situハイブリダイゼーション、第2高調波発生(SHG)顕微鏡法などの非線形顕微鏡法、共焦点顕微鏡法などの蛍光顕微鏡法、直接イオン化(本明細書に記載)もしくはMALDIなどのIMS、直接イオン化もしくは本明細書に記載の別の手段によるIMC、ならびに/またはSEMおよびTEMなどの電子顕微鏡法に適合し得る。抗体などの特定のSBPは、半薄BMMA切片に浸透し、それらから除去することができ、反復顕微鏡法(反復蛍光顕微鏡法など)を可能にする。したがって、BMMA埋め込みは、上記のイメージングモダリティの1つまたは複数と組み合わせることができる。BMMAはパラフィンよりも硬く、断層撮影のためのより清浄な厚い切片を提供し得る。特定の態様では、厚いBMMA切片は、免疫染色され(例えば、脱可塑化後)、薄いBMMA切片のイメージングモダリティと共位置合わせされてもよい。BMMA切片(例えば、脱可塑化後)は、質量タグ付きSBPと適合性であってもよい。
【0344】
特定の態様では、BMMA連続切片は、UVへの曝露によって硬化され、アセトンを使用して脱可塑化され、50~95%エタノールへの浸漬によって再水和され、緩衝液で洗浄され、抗原回収に曝露され(例えば、加熱および/または酸性化によって)、および/または免疫抑制されてもよい(例えば、質量および/または蛍光タグ付きSBPにより)。
【0345】
本明細書に記載されるように、包埋は、LRホワイト、低アクリル、またはメタクリル酸メチルを含むアクリルポリマー樹脂を用いてもよい。特定の態様では、低アクリル樹脂またはMMA樹脂などの樹脂は、UV光によって硬化(光重合)することができ、高温硬化と比較してより多くのSBP標的(例えば、エピトープ)を無傷のまま残すことができる。特定の態様では、組織は包埋前にパラホルムアルデヒドで固定されてもよい。方法は、複数の質量タグ付きSBPで標識付けする前に、組織切片の1つまたは複数を脱可塑化することを含んでもよい。
【0346】
得られた2次元画像タイルの計算ステッチは、体積分析(例えば、関心のある特徴または領域にわたって)を可能にする。複数のイメージングモダリティが共位置合わせされてもよい。切片は、複数の区別可能にタグ付けされたSBPで標識付けされてもよい。切片は超薄であってもよく、高解像度イメージングを可能にする。均一なSBP浸透による深さの不変性も可能にする超薄切片。この利点は、定量化を改善することができる。特定の態様では、IMCは、厚い切片で実行することができ、より高解像度のイメージングは、同じ組織(例えば、同じ埋め込まれた組織ブロック)からのより薄い切片で実行することができる。IMCによって分析された切片は、残留樹脂(例えば、脱可塑化後)を有し得る。
【0347】
包埋および切片化は時間と技術を要するため、有毒な試薬の使用、および高価な機器(ダイヤモンドナイフ切片ツールなど)を含む場合があるため、上記の利点が認識されない限り、そのような手法はIMC分析に使用されない場合がある。
【0348】
特定の態様では、組織試料は、上記の実施形態で説明したように樹脂包埋されて配列され、次いでセグメント化パネルで染色され、本明細書でさらに説明するようにセグメント化されてもよい。連続切片が計算的にスタックされる場合(例えば、分割前または分割後)など、セグメント化は3Dであってもよい。特定の態様では、連続切片(例えば、それらのそれぞれの切片内の同じまたは類似の位置にある)上のセグメント化された細胞は、同じ細胞事象に割り当てられ得る。例えば、連続切片の一連のIMC画像を、fcsデータセット(例えば、フローサイトメトリおよび懸濁液質量サイトメトリに従来使用されている)などの細胞事象データセット(例えば、マトリックスにおいて、例えば、各細胞は、マーカーの発現を表す異なる質量チャネルにおける信号について異なるカラムの値を有するデータセットのロウであり、またはその逆である)に変換することができる。データセットは、各細胞の中心点のX、YまたはX、Y、Z座標をさらに含んでもよい。あるいは、データセットは、隣接する細胞を表すノードに接続するエッジを有するノードとして表された細胞、および各ノードが異なる質量チャネルの信号(異なるマーカーの発現レベル)の値を有するグラフ(またはグラフとして視覚化されてもよい)であってもよい。
【0349】
特定の態様では、細胞表面マーカーに対する抗体の組み合わせ(細胞型分類パネル)を使用して、ゲーティング、クラスタリング、または別の適切な分類方法などによって、セグメント化された細胞の細胞型を識別することができる。2D IMC画像内の膜マスクで表されるか、グラフ内のノードとして表されるかにかかわらず、細胞は、それらの細胞型に基づいて色付けされてもよい。特定の態様では、IMCデータセットは、上述のマトリックスデータセットまたはグラフデータセットなど、単一細胞データをアルゴリズムへの入力として使用して試料(例えば、診断または予後診断用途のために)を分類することができるように構造化することができる。例えば、マトリックスまたはグラフデータセットは、組織を分類するように訓練されたニューラルネットワークの入力として、例えば癌性組織対非癌性組織を分類するため、および/または癌性組織にステージを割り当てるために使用することができる。
【0350】
自動染色
特定の態様では、自動染色システム(例えば、流体染色システム)をスライドホテルと一体化することができる。例えば、流体染色システムは、1つまたは複数のスライドを保持するように構成されたスライドホテルの1つまたは複数の位置に流体的に結合されてもよい。あるいは、スライドハンドリングシステム(イメージング質量サイトメトリシステムにスライドを導入することもできるロボットアームなど)を、スライドホテルから流体染色システムにスライドを移送するように構成することができる。
【0351】
自動染色システムは、抗体パネル(例えば、質量タグ付き抗体パネル)および/または組織化学染色用のリザーバ、(未結合抗体または他の試薬を除去するための)洗浄溶液を有するリザーバ、および/または追加の試薬、ならびに使用される試薬用の1つまたは複数の廃棄レセプタクルを含む複数のリザーバを含んでもよい。自動染色システムによって実行されるIMC試料調製のための試薬およびステップは、脱ワックス(例えば、キシレン中)、水和(例えば、エタノール中)、抗原回収(例えば、適切な緩衝液中で)、ブロッキング(例えば、1~5%BSA中)、染色パネル(例えば本明細書に記載の、例えば、セグメント化パネル、細胞型分類パネルおよび/または細胞表現型分類パネルなどの1つまたは複数のパネル)、および/または非抗体染色(例えば本明細書に記載の、例えば、イリジウムなどの組織化学染色またはインターカレータ)のうちの1つまたは複数を含んでもよい。特定の態様では、自動染色システムは、スライドおよび/またはスライドに塗布された溶液の温度を制御して、1)リザーバ内の試薬を適切な温度に維持する、2)抗原回収のためにスライド(例えば、スライド上の組織切片)を70、80、または90℃超で加熱する、または3)スライドを染色のための温度に維持する(インキュベートする)ことができる。
【0352】
特定の態様では、自動染色システムによるスライド(例えば、スライド上の組織切片)の染色は、例えば、スライドが自動染色システムによる処理とIMCによる分析との間で同様の持続時間を有するように、IMCによって分析される順序に基づいてずらしてもよい。
【0353】
特定の態様では、システムは、本明細書に記載の試料導入システム(例えば、ロボットアーム)およびスライドホテルを含んでもよい。あるいは、またはさらに、システムは、(例えば、上記のように)流体染色システムをさらに含んでもよい。システムは、ホテルおよび/または自動染色システム内の試料の温度を制御するための熱コントローラをさらに含んでもよい。ロボットアームは、(例えば、スライドホテルの一部または別個の染色ステーションにおいて)流体染色システムと流体連通するように試料を移送することができる。スライドホテルは、流体染色システムと流体連通していてもよい。
【0354】
特定の態様では、試料ハンドリングの方法は、流体染色システム(例えば、流体染色システムを介して試料に質量タグ付き抗体を導入し、結合していない質量タグ付き抗体を洗浄する)で試料(例えば、組織切片を含むスライド)を染色することを含んでもよい。本方法は、本明細書にさらに記載されるように、染色された試料のイメージング質量サイトメトリシステムへの自動移送をさらに含んでもよい。
【0355】
細胞のセグメント化
イメージング質量サイトメトリ(IMC)画像の細胞セグメント化は、例えば腫瘍免疫微小環境を調査するために、単一細胞レベルで組織不均一性を識別する第1のステップである。しかしながら、手動のセグメント化は面倒で一貫性がなく、適切な金属含有組織化学的膜染色(例えば、FFPE組織染色の場合)は今日まで報告されておらず、セグメント化のための特定の膜マーカーの使用は組織全体に適用できない可能性がある。特定の態様では、膜染色剤は、接合タンパク質に対する抗体および非接合タンパク質に対する抗体を含む。
【0356】
膜マーカーを使用した細胞セグメント化は、Ortiz de Solorzano et al.(「Segmentation of nuclei and cells using membrane related protein markers.」 journal of Microscopy 201.3(2001):404-415)などによる光学顕微鏡で報告されている。多重化細胞表面マーカーは、McKinley et al.(「Optimized multiplex immunofluorescence single-cell analysis reveals tuft cell heterogeneity.」 JCI insight 2.11(2017))およびGerdes et al.(「Single-cell heterogeneity in ductal carcinoma in situ of breast.」 Modern Pathology 31.3(2018):406-417)などによって、蛍光顕微鏡法における特定の組織型の細胞セグメント化に使用されてきた。特定の組織(すなわち、既存のIMCデータセットから選択される)における特定のパネルの細胞表面マーカーに基づくイメージング質量サイトメトリにおける自動セグメント化は、Schuffler et al.(「Automatic single cell segmentation on highly multiplexed tissue images.」 Cytometry Part A 87.10(2015):936-942)によって報告された。
【0357】
本出願の特定の実施形態は、組織タイプにわたるIMCセグメント化のための標準化されたセグメント化パネル、パネルに基づいて開発された自動セグメント化アルゴリズム、細胞型分類パネルおよびセグメント化された細胞の関連する自動細胞型分類、および/または関連する方法を含む。そのような実施形態は、本明細書に記載の高スループットおよび自動化イメージング質量サイトメトリの他の態様、例えば試料ハンドリングおよび/または迅速取得態様と組み合わせることができる。そのようなセグメント化パネルを、金属含有DNAインターカレータ(例えば、イリジウム)および/またはヒストンに対する質量タグ付き抗体(例えば、H3)などの核染色剤と組み合わせることができる。本明細書に記載のセグメント化パネルは、細胞表面マーカーに対する1つまたは複数の親和性試薬(例えば、抗体)を含んでもよいが、金属含有組織化学染色剤(親油性染色剤など)は、本明細書では単独で、または親和性試薬ベースのセグメント化パネルと組み合わせて使用されてもよい。セグメント化は、セグメント化パネルおよび核染色に基づいて、任意選択で、さらにサイトゾル区画染色および/または細胞外染色に基づいて(例えば、金属含有組織化学染色または細胞質ゾルもしくは細胞外区画に局在する標的に対する抗体によって)行われ得る。特定の態様では、金属含有組織化学染色剤(例えば、粘液性間質を特定するために使用されるルテニウムレッド、コラーゲン線維を特定するためのトリクローム染色、細胞対比染色剤としての四酸化オスミウムなど)をセグメント化に使用することができる。
【0358】
細胞セグメント化パネルおよびキット
特定の態様では、IMCのセグメント化パネルは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5(例えば、1、2、3、4または5)個の異なる標的に対する抗体を含んでもよい。セグメント化パネルは、膀胱、乳房、結腸、喉頭、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、横紋筋、精巣、甲状腺、および舌(例えば、およびその癌の大部分)のすべて、1つを除くすべて、または2つを除くすべてなど、複数の組織にわたるセグメント化に使用することができる。組織はヒトであってもよい。あるいは、組織は、マウスなどの非ヒト哺乳動物の組織であってもよい。
【0359】
特定の態様では、本明細書に記載の細胞セグメント化実施形態は、高スループット/自動化された試料取扱い(例えば、アレイ断層撮影、自動試料調製/染色、および/または自動試料導入)および/または迅速な取得(例えば、直接イオン化、レーザスキャンなど)などにおいて、本明細書に記載の1つまたは複数の他の高スループット実施形態と組み合わせることができる。
【0360】
例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つ(例えば、1、2、3、4または5)の異なる標的は、CD3、CD4、CD20、CD44、CD45、CD45RA、CD45RO、CD81、CD298(Na/K ATPase)、CD326(EpCAM)、シンタキシン(例えば、シンタキシン4)、溶質担体ファミリ、GLUT1、コラーゲン(例えば、コラーゲン1)、アクチン(例えば、ベータ作用性またはパン-アクチン)、カテニン(例えば、ベータカテニン)、ビリン、ケラチン(例えば、ケラチン8/18、パンケラチン、サイトケラチン7またはパンサイトケラチン)、ベータチューブリン、カドヘリン(例えば、E-カドヘリンまたはパン-カドヘリン)、平滑筋アクチン(SMA)、セレクチン、ビメンチン、アンキリン(例えば、アンキリン3)、Gタンパク質、ERMタンパク質ファミリ(例えば、モエシン、エズリン)、ホスファチジルエタノールアミン結合タンパク質(すなわち、PEBP1などのPEBP)から選択されてもよい。セグメント化パネルは、上に列挙されたものから選択されたマーカーのみを含んでもよく、または上に列挙されていない1つまたは2つの追加のマーカーをさらに含んでもよい。例えば、セグメント化パネルは、質量タグ付きレクチン(小麦胚芽凝集素(WGA)など)および/または親油性化合物(ファロイジンまたはその誘導体など)をさらに含んでもよい。
【0361】
マーカーはヒトであってもよい。タンパク質局在に関する情報は、Human Protein Atlasに集中しており、これは、異なる組織および細胞型にわたって原形質膜(例えば、細胞接合部)に特異的に局在するタンパク質標的を特定するために検索可能であり、例えば、上に列挙されていない1つまたは2つの追加のセグメント化マーカーを特定するために使用することができる。あるいは、マーカーはマウスなどの非ヒト哺乳動物のものであってもよい。
【0362】
特定の態様では、セグメント化パネル中の抗体の少なくとも1つの標的(例えば、1つまたは2つの標的)は、カテニン(例えば、ベータカテニン)などの細胞接着を調節するタンパク質および/またはEpCAMなどの細胞接着分子(CAM)、インテグリン、カドヘリン(例えば、E-カドヘリンまたはパン-カドヘリン)、またはセレクチンであってもよい。
【0363】
特定の態様では、セグメント化パネルにおける抗体の少なくとも1つの標的(例えば、1つまたは2つの標的)は、シンタキシン(例えば、シンタキシン4)、溶質担体ファミリ(例えば、溶質担体ファミリ1メンバー5、溶質担体ファミリ41メンバー3および/または溶質担体ファミリ16メンバー1)、Na/K ATPアーゼ(すなわち、CD298)、S100カルシウム結合タンパク質A4、Glut1および/またはAP-2複合体(例えば、サブユニットμ)などのタンパク質調節輸送であってもよい。特定の態様では、セグメント化パネルは、イオン輸送タンパク質に対する抗体と小分子輸送タンパク質に対する抗体の両方を含んでもよい。
【0364】
特定の態様では、セグメント化パネル内の抗体の少なくとも1つの標的(例えば、1つまたは2つの標的)が細胞信号伝達に関与してもよい。
【0365】
特定の態様では、セグメント化パネル内の抗体の少なくとも1つの標的(例えば、1つまたは2つの標的)は、構造タンパク質であってもよい。
【0366】
特定の態様では、セグメント化パネルにおける抗体の少なくとも1つ(ただし、すべてではない)は、細胞接合部に局在する細胞表面マーカーに対するものであってもよい。
【0367】
特定の態様では、セグメント化パネル内の抗体の少なくとも1つの標的(例えば、1つまたは2つの標的)は、CD3、CD4、CD20、CD44、CD45、CD45RA、またはCD45ROなどの免疫細胞マーカーであってもよい。
【0368】
特定の態様では、膜染色剤は、接合タンパク質に対する抗体および非接合タンパク質に対する抗体を含む。
【0369】
本明細書に記載されるように、異なる標的に対する各抗体は、異なる質量タグにコンジュゲートされてもよい。従来のIMCパネルのほとんどまたはすべての抗体にコンジュゲートされたランタニド質量タグはランタニド質量タグ(例えば、金属キレート化ポリマーに担持される)であるが、セグメント化パネルの質量タグは非ランタニド金属であってもよく、金属キレートポリマーにロードされてもよく、または抗体に直接結合した小分子のものであってもよい。例えば、セグメント化パネルの質量タグは、白金、カドミウム、ハフニウム、ジルコニウム、ビスマス、インジウム、および/またはテルル、またはそれらの富化された同位体を含んでもよい。特定の態様では、セグメント化パネルの質量タグは、金属含有分子、例えばシスプラチン、例えば富化白金同位体を含むシスプラチンであってもよい。一般に、そのような非ランタニド質量タグは、金属キレート化ポリマーに担持されたランタニド質量タグと比較して低い信号を提供し得る。これは、所与の抗体に結合している金属原子がより少ないため、および/または非ランタニド金属が約80amuのカットオフ質量範囲に近いためであってもよい。そのような質量タグを使用することにより、セグメント化パネルを既存のIMCパネルと組み合わせることが可能になり得る。さらに、より低い感度の質量タグの使用は、セグメント化パネルターゲットに十分であり得、セグメント化パネルターゲットは豊富に発現され得る。
【0370】
細胞セグメント化のためのキットは、上記のように、セグメント化に使用される異なる細胞表面標的に対する複数の抗体(すなわち、セグメント化パネル)を含む膜染色を含んでもよい。セグメント化パネルの抗体は、異なる質量タグにコンジュゲートされ得、異なる質量タグに対する信号は、ユニバーサル膜染色チャネル(例えば、本明細書に記載の膜マスクを作成するために)を提供するために統合されてもよい。あるいは、細胞セグメント化パネルの抗体は、1つの質量チャネルがユニバーサル膜染色を提供するように、同じ質量タグにコンジュゲートされてもよく、次いで、本明細書に記載の膜マスクを作成することなどによってセグメント化に使用することができる。
【0371】
細胞セグメント化パネルを含むキットは、さらなる構成要素をさらに含んでもよい。
【0372】
膜染色剤は、原形質膜以外の区画の標的を染色する抗体を含まない。膜染色剤は、膜染色剤の任意の個々の抗体よりも多くの細胞型の膜に結合し得る。複数の抗体は混合していてもよい。
【0373】
キットは、例えば、細胞をより良好に個体識別し、膜に沿って細胞セグメント化を誘導するために、核染色、細胞質ゾル染色および/または細胞外マトリックス染色をさらに含んでもよい。あるいは、またはさらに、キットは、細胞型を決定するために使用される細胞表面標的に対する抗体のパネル(細胞型パネル)をさらに含む場合があり、ただし、この場合、パネルの抗体は、異なる質量タグにコンジュゲートされ、かつ、(例えば、集団の分類を自動化することによって)本明細書中に記載されるような細胞集団を特定するために有用である。
【0374】
特定の態様では、セグメント化パネルは、複数の質量タグおよび複数の抗体を含み、複数の抗体のそれぞれが異なる細胞表面マーカーに特異的に結合する。異なる抗体は、区別可能な質量タグにコンジュゲートされてもよい。識別可能な質量タグの1つまたは複数(例えば、すべて)は、ランタニドファミリ外の標識原子であってもよい。あるいは、異なる抗体は、同じ質量タグにコンジュゲートされてもよい(すなわち、同じ質量チャネル内で信号を提供する)。
【0375】
癌細胞は、健康な組織とは異なる発現を有する場合があり、健康な組織を確実に染色する膜マーカーでは十分に染色されない場合がある。あるいは、またはさらに、癌性組織は、健康な組織よりも高い細胞密度であり得、セグメント化はより困難であり得る。したがって、少なくとも1つの質量タグ付き抗体は、組織切片の癌細胞において過剰発現される細胞表面マーカーに特異的に結合して、癌性細胞のセグメント化を助けることができる。特定の態様では、抗体の少なくとも1つは細胞接着タンパク質(例えば、細胞接合部で)に特異的に結合し、抗体の少なくとも1つは免疫細胞マーカーに特異的に結合し、抗体の少なくとも1つは線維構造タンパク質に特異的に結合し、抗体の少なくとも1つは輸送タンパク質に特異的に結合し、および/または抗体の少なくとも1つは信号伝達タンパク質に特異的に結合する。抗体の少なくとも1つは、膀胱、乳房、結腸、喉頭、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、横紋筋、精巣、甲状腺、および舌から選択される組織などの組織中の細胞の20%未満、10%未満、または5%未満によって主に発現される(大部分が発現される)タンパク質にのみ結合する。例えば、セグメント化パネルの抗体の少なくとも1つは、膀胱、乳房、結腸、喉頭、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、横紋筋、精巣、甲状腺および舌ならびにその癌の大部分の4つ未満で発現される。
【0376】
特定の態様では、セグメント化パネルは、膀胱、乳房、結腸、喉頭、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、横紋筋、精巣、甲状腺、および舌の少なくとも8(例えば、少なくとも9、少なくとも10、またはすべて)の組織切片中の細胞の80%超、90%超、または95%超のセグメント化を可能にする。組織は、ヒトまたはマウスなどの哺乳動物種のものであってもよい。これは、その癌の大部分を含んでもよい。
【0377】
細胞セグメント化方法およびコンピュータ可読媒体
本出願の態様は、異なる組織型(例えば、本明細書に列挙される2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、または10以上の組織)のIMCのための同じセグメント化パネルの使用を含む。
【0378】
現在のIMCデータ定量化分析ワークフローは、サイズによって細胞を定義するCell Profilerの核ベースのセグメント化方法を使用する。この方法は、細胞サイズの推定に基づいており、したがって、異なる細胞型のすべての異なるサイズ値を考慮すると、正確かつ効率的ではない。異なる組織および細胞型にわたって広範かつ豊富な組織発現を共に提供する原形質膜マーカーのパネルおよび使用が本明細書に記載される。セグメント化パネルを適用し、ソフトウェアツールと組み合わせて、セグメント化および下流定量分析のための細胞境界を定義することができる。
【0379】
特定の態様では、膜染色剤は、他の抗体パネルの前、並んで、または後に適用することができる。細胞セグメント化は、イメージング質量サイトメトリによって得られた画像に対して行われ得る。セグメント化手法は当技術分野で公知であり、例えば、Wang et al.「Cell Segmentation for Image Cytometry:Advances,Insufficiencies,and Challenges.」Cytometry.Part A(2019):708-711に記載されている。一般に、細胞セグメント化は、細胞膜および細胞内部(例えば、核染色によって可視化される細胞核)の明確な標識化から利益を得る。
【0380】
本明細書に記載されるように、セグメント化パネルは、複数の抗体にわたって使用される単一の質量タグのみを含んでもよいか、または異なる抗体に対して異なる質量タグを含んでもよい。後者の場合、異なる質量タグからのチャネル(信号)は、セグメント化しみ全体を表す単一のチャネルに(例えば、等しいまたは異なる重み付けで)結合されてもよい。このチャネルは、セグメント化プログラム(例えば、以下に記載されるように)によって追加のチャネル(例えば、核染色チャネル、細胞質ゾルチャネルおよび/または細胞外空間/マトリックスチャネル)と共に使用されてもよい。
【0381】
様々なセグメント化プログラムを、セグメント化パネルで染色した組織から得られたIMC画像の細胞をセグメント化するために適用することができる。そのようなプログラムの使用、およびそのようなプログラムは、畳み込みニューラルネットワークなどのニューラルネットワークであってもよい。特定の態様では、ウォーターシェッドアルゴリズムおよび/またはエッジ検出アルゴリズムがプログラムによって使用されてもよい。そのようなプログラム、およびそのようなプログラムを含むコンピュータ可読媒体の使用は、本方法およびキットの範囲内である。例えば、セグメント化キットは、セグメント化パネルと、例えば本明細書でさらに説明するように、セグメント化パネルに基づくセグメント化のためのプログラムを含むコンピュータ可読媒体と、を含んでもよい。
【0382】
特定の態様では、プログラムは、同じセグメント化パネルに基づいてセグメント化を自動的に実行するために、複数の異なる組織にわたって訓練されてもよい。プログラムは、新しいIMC画像上で自動的に実行されてもよい。あるいは、プログラムは、ユーザがセグメント化パネルに基づいてエッジおよび/またはピクセルを膜として識別するときなどに、人間のユーザ(例えば、特定の組織またはIMC画像の訓練)によって誘導されてもよく、
特定の態様では、プログラムは、ピクセルを、膜と1つまたは複数の非膜カテゴリ(例えば、またはラベル)として、例えば、膜と核、膜と核と細胞質ゾル、膜と核と細胞外、または膜と核と細胞質ゾルと細胞外などとして分類してもよい。注目すべきことに、すべてのピクセルが分類を受け取るわけではない。例えば、ピクセルを膜ピクセルと核ピクセルとに分類すると、いくつかのピクセルはヌル分類(核でも膜でもない)を残すことがある。特定の態様では、プログラムは、信頼性レベルを割り当て、および/または不確実な分類を有するピクセルを呼び出すようにユーザを促すことができる。
【0383】
セグメント化プログラムは、個々の細胞を識別するためにIMC画像に重ねることができる膜マスクを提供することができる。あるいは、またはさらに、個々のセグメント化された細胞における発現(例えば、異なる標的に対応する異なる質量チャネルからの信号)を(例えば、そのセグメント化された細胞のピクセルにわたって)統合し、本明細書に記載のfcs(フローサイトメトリ)データセットまたはマトリックスデータセット(例えば、csvフォーマットで)などの別個のデータセットに保存してもよい。そのようなデータセットは、本明細書でさらに説明するように、ゲーティングまたは分類アルゴリズムに基づいて、例えば細胞型パネルに基づいて細胞型を識別するために使用されてもよい。
【0384】
セグメント化された細胞の細胞型分類
迅速な分析を容易にするために、特定のパネルに関連するゲーティング戦略を、元素分析器データを分析するためのソフトウェアに予めロードすることができる。選択されると(例えば、手動または自動で)、ソフトウェアは、セグメント化された細胞に対してそのゲーティング戦略を使用して、元素分析器データから結果を生成することができる。
【0385】
場合によっては、ソフトウェアは試料の細胞型を自動的に識別することができる。細胞型の自動識別は、表面マーカーのサブセットの類似の発現を共有する細胞集団の所定のゲーティングに基づくことができる。あるいは、またはさらに、細胞型の識別はまた、クラスタリングアルゴリズムによって導くことができる。
【0386】
場合によっては、ソフトウェアは細胞型結果を出力することができる。細胞型結果には、様々な細胞型の相対定量(例えば、全細胞の%、親細胞(親細胞集団)の%、グランド親細胞の%など)が含まれ得る。細胞型には、CD4αβT細胞(例えば、総CD4、ナイーブ、セントラルメモリ、エフェクタ、エフェクタメモリ、および調整)などの免疫細胞(例えば、組織常在細胞または腫瘍浸潤リンパ球)、CD8αβT細胞(例えば、総CD8、ナイーブ、セントラルメモリ、エフェクタ、エフェクタメモリ)、δγT細胞、B細胞(例えば、総B細胞、ナイーブ、メモリ、休止メモリ、移行性)、NK細胞、単球、および/または樹状細胞が含まれてもよい。あるいは、またはさらに、ゲーティングを実施して、組織および/または癌性細胞に内在する細胞を特定することができる。
【0387】
方法は、共有パネルおよびその別個のパネルに基づいて個々の質問された細胞を細胞集団に分類することをさらに含んでもよい。例えば、共有パネルはT細胞親集団を識別し得るが、パーティションの1つに使用される別個のT細胞パネルは、その親集団内の亜集団を識別し得る。これらの方法に適した他の集団およびパネルが本出願で論じられる。分類は、ゲーティング、(次元が分類に使用される表面マーカーの数に関連する)高次元空間で動作する訓練されたクラスタリングアルゴリズム、またはニューラルネットワークによるものであってもよい。
【0388】
セグメント化、および任意選択で細胞型分類および/または表現型分類の後に、得られたデータは、癌の診断もしくは予後に、または適切な治療の特定などの組織切片の分類に使用されてもよい。そのような分類は、セグメント化されたデータについて訓練されたニューラルネットワークなどのアルゴリズムによるものであってもよい。
【0389】
特定の態様では、イメージング質量サイトメトリのための自動分析および細胞セグメント化の方法は、以下のうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【0390】
a)複数の質量タグ付き抗体を含むセグメント化パネルで組織切片を染色するステップであって、複数の抗体の各々が異なる細胞表面マーカーに特異的に結合する、ステップと、
b)組織切片を核染色剤で染色するステップと、
c)イメージング質量サイトメトリにより試料をイメージングするステップと、
d)セグメント化パネルおよび核染色剤からの信号に基づいて、イメージング質量サイトメトリデータセット内の細胞をセグメント化するステップ。
【0391】
セグメント化は、1)セグメント化パネルの抗体が同じ質量タグにコンジュゲートされている場合、または2)異なる表面マーカーに特異的に結合するセグメント化パネルの抗体が識別可能な質量タグにコンジュゲートされている場合など、セグメント化パネルの抗体からの信号を組み合わせる単一チャネルに基づくことができ、さらに、識別可能な質量タグからの信号をイメージング質量サイトメトリデータセットの同じ質量チャネルに組み合わせることを含み、その後に、セグメント化する。
【0392】
特定の態様では、方法は、サイトゾルおよび/または細胞外区画の染色、ならびにセグメント化パネル、核染色、ならびにサイトゾルおよび/または細胞外染色に基づくセグメント化をさらに含んでもよい。
【0393】
特定の態様では、本方法は、組織切片を細胞分類パネルで染色するステップと、細胞型分類パネルに基づいて、セグメント化された細胞の細胞型を特定するステップと、をさらに含んでもよい。細胞型分類パネルは、セグメント化パネルの抗体と同じ細胞表面マーカーに結合するが、示差的に質量タグ付けされている少なくとも1つの抗体を含んでもよい。
【0394】
本明細書に記載のセグメント化方法は、膀胱、乳房、結腸、喉頭、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、横紋筋、精巣、甲状腺、および舌の組織切片の2つ以上などの複数の異なる組織で実施することができる。
【0395】
特定の態様では、本方法は、試料を染色、イメージングおよびセグメント化する前に、アレイ断層撮影法によって、樹脂(例えば、BMMAでは)に試料を埋め込み、試料の切片を同じスライド上に配列するステップをさらに含む。
【0396】
セグメント化プロトコルの例
ソフトウェアのダウンロード:以下のソフトウェアをダウンロードしてインストールし、IMCデータセットがデスクトップ上で利用可能であることを確認する。
-R Studio 1.2.5042
-R 3.6.3
-MCDビューア
-Ilastik 1.3.3
-Cell Profiler 3.1.9
前処理:セグメント化のために複数のPMチャネルを使用することが望まれる場合、様々なPMチャネルの値の組み合わせをセグメント化のために単一のチャネルに組み合わせる必要がある。
【0397】
・Rでは、セグメント化に使用したいすべてのPMチャネルの値を任意の「Neg」カラムに結合する。これは既存のカラムである。Negカラムを使用する理由は、MCDビューアがチャネルに特定の名前を期待しており、分析にはNegカラムを使用しないため、新しいカラムを追加するよりもNegカラムを使用する方が好ましい。
【0398】
MCDビューアとして新しいPMチャネルカラムとして単一結合値カラムを使用すると、同じ色に設定されたチャネル、すなわち白色に設定された複数のPMチャネルがうまく結合されない。
【0399】
【0400】
【0401】
ステップ1:MCDビューア、セグメント化および分析のための画像を生成する
入力:MCDまたはtxtファイル
出力:16bitのtiff画像
セグメント化の場合:(3)画像
DNAチャネル(191イリジウム)
PMチャネル(4PM)
DNAとPMの組み合わせ
データ解析の場合:(37)複数画像
パネルに含まれるすべての単一チャネルマーカー
【0402】
ステップ2:Ilastik、Ilastikピクセル分類を使用して核確率マップを生成する
入力:DNA Channel.tiff(ステップ1)
出力:核確率マップ
Ilastikにおけるステップ:
新しいプロジェクトを作成する ピクセル分類
【0403】
1.入力データ:
DNA Channel.tiff画像をIlastikにロードする
【0404】
2.特徴の選択:
すべて(37)の特徴(緑色のボックス)を選択する。
【0405】
3.訓練:
以下の場合には、個々のピクセルに標識1を付ける:
ピクセルは明らかに核に属する(核の一部である)
以下の場合には、個々のピクセルに標識2を付ける:
ピクセルはバックグラウンド(非核)に属する。
2つの特定の領域の標識付けツールを用いて画像上に手動で描画すると、この作業に時間をかけるほど確率マップはより正確になる。
不確実性および予測を絶えずチェックして、分類がどのタイプのピクセルに標識を付けるべきかわからないことを確認する。核があまり高密度でない場合、すなわち、重複する核が非常に少ない場合、より多くの標識がより良好である。しかしながら、多くの重複する核を有する非常に密集した領域がある場合には、標識が十分に一般化するように選択されることを確実にする。一般化するとは、標識付けされたピクセルが、同様の強度である画像内の他のピクセルの標識を表すことを意味する。例えば、ほぼ確実に核の一部である超「明るい」ピクセルであるため、標識付けするのに適している。
【0406】
4.プレディケーションエクスポート:
エクスポート画像設定を選択...
切欠き部分領域
y、x、cのボックスにチェックを入れる
変換:
データ型に変換:未割り当て16ビット
[min,max]を0.00、1.00から、0、65535に再正規化する
軸順序への転置:cyx
【0407】
ステップ3および4:Cell Profiler、ROIのセグメント化
入力:
組み合わせたDNAとPM Channel.tiff(ステップ1)
核確率マップ(ステップ2)
出力:セグメント化マスク
【0408】
1.2つの画像をCell Profilerにロードする
名称および型:
名前を割り当てる:画像照合規則
核確率マップ名と一致する単一の画像を作成する
画像タイプ:グレースケール
画像メタデータから強度範囲を設定
組み合わせたDNAとPM.tiffに一致する2つの異なる画像を作成する
画像タイプ:1グレースケール、1色
両方の画像メタデータから強度範囲を設定する
更新ボタンをクリックして、3つの画像がすべて揃っていることを確認する。
【0409】
2.追加モジュール:一次対象物を特定する(これらの設定を適用してください)
注:核が密集している場合には、凝集した形状の分割線を区別して描く方法は、両方が形状よりも強度に設定されていれば、より良い結果を得ることができる。
【0410】
3.モジュールを追加する:二次対象物を特定する(これらの設定を適用してください)
【0411】
ステップ4:単一チャネル分析(ステップ3と同じパイプライン)
入力:
単一チャネル画像(ステップ1)
核確率マップ(ステップ2)
出力:
ROIからの単一細胞データ
【0412】
1.個々のチャネル画像をCell Profilerにロードする
名称および型:
名前を割り当てる:画像照合規則
すべての分析チャネル画像について:
画像タイプ:グレースケール
画像メタデータから強度範囲を設定
【0413】
2.モジュールを追加する:対象物強度を測定する
任意の(またはすべての)個別のチャネルにおける細胞対象物強度を測定する
【0414】
3.モジュールを追加する:拡散シートへのエクスポート
すべての測定値を.csvファイルとしてエクスポート
【0415】
4.モジュールを追加する:アウトラインのオーバーレイ
任意選択的に、以前に生成された任意の画像上に特定された対象物(核または細胞、核マスクまたはセグメント化マスク)を重ね合わせる。
【0416】
5.単一細胞データを保存する。
【0417】
光学ベースのセグメント化
特定の態様では、細胞膜および/または核染色は、光学顕微鏡によって(例えば、蛍光顕微鏡法などの光学顕微鏡法によって決定される1つまたは複数の比色または蛍光色素を介して)検出されてもよい。そのような膜染色は、組織化学的であり得るか、または1つまたは複数の細胞表面マーカーに結合する抗体にコンジュゲートされた色素を含んでもよい。光学顕微鏡(例えば、明視野顕微鏡法)自体を使用して、膜および/または核染色なしで細胞境界を特定することができる。光学顕微鏡(例えば、明視野または蛍光)画像は、同じ組織切片のIMC画像と共位置合わせすることができ、光学顕微鏡画像は、IMC画像のセグメント化をガイドするために使用することができる。例えば、光学画像のセグメント化は、IMC画像上にオーバーレイされてもよく、IMC画像のピクセルは、異なる細胞にセグメント化されてもよい。
【0418】
本出願のイメージング質量サイトメータは、光学顕微鏡(例えば、明視野または蛍光)を含むことができ、イメージング質量サイトメータと一体化することができる(例えば、LA-ICP-MSに使用されるレーザと光路を共有することができる)。さらに、光学顕微鏡を使用して、レーザアブレーションシステムを集束させ(例えば、閉回路ループを介したオートフォーカス)、および/またはそのような共位置合わせのために光学およびレーザアブレーション光学系を位置合わせすることができる。
【0419】
特定の態様では、光学顕微鏡法の(例えば、明視野または蛍光)画像を細胞セグメント化して、イメージング質量サイトメトリのためのサンプリング(例えば、レーザアブレーションによって)を案内することができる。例えば、試料の細胞(例えば、細胞スメアまたは組織切片)を光学顕微鏡で分析し、個々の細胞座標を特定し、レーザアブレーションを一度に1つの細胞で実行することができる。レーザアブレーションのスポットサイズは、ICP-MS分析のために光学顕微鏡法によって特定された細胞をサンプリングするために、本明細書でさらに説明するように調整されてもよく、および/またはレーザはスキャンまたは変調されてもよい。
【0420】
高密度組織では、細胞間接着により、2つの隣接する細胞の膜がIMCによって同じピクセル(例えば、LA-ICP-MSによる同じレーザアブレーションスポット)にサンプリングされる。特定の態様では、細胞セグメント化は、ピクセルを両方の隣接細胞に、またはどちらの細胞にも属性付けすることを含んでもよい。細胞型分類は、他の細胞と共有されていないピクセル上の細胞表面マーカー発現に基づいてもよく、または共有ピクセル間で一貫した細胞表面マーカー発現に基づいてもよい(例えば、マーカーは、細胞のすべての膜ピクセルで発現し、および/または1つの隣接する細胞と共有されるピクセルだけで発現しない)。
【0421】
特定の態様では、細胞間の縁部は、IMC分析のために個々の縁部の(例えば、レーザスキャンによる)サンプリング(例えば、レーザアブレーション)を案内するために光学顕微鏡によって識別されてもよい。細胞の残り(例えば、サイトゾル区画および核区画)は、別個のレーザアブレーションによって生成された別個の過渡信号などで、別個にサンプリングされてもよい。この中でサンプリングされた縁部は、任意選択で別々にサンプリングされた細胞内(細胞質ゾルおよび核区画)と共に、光学顕微鏡画像に基づいて同じ細胞事象に割り当てられ(例えば、組み合わされ)得る。細胞事象に割り当てられたエッジの一部のみにわたって発現されるマーカーは、その細胞型分類における使用から除外されてもよい。
【0422】
細胞型分類パネルおよびセグメント化された細胞の自動化された細胞型分類
特定の態様では、細胞表面マーカーに対する抗体の組み合わせ(細胞型分類パネル)を使用して、ゲーティング、クラスタリング、または別の適切な分類方法などによって、セグメント化された細胞の細胞型を識別することができる。2D IMC画像内の膜マスクで表されるか、グラフ内のノードとして表されるかにかかわらず、細胞は、それらの細胞型に基づいて色付けされてもよい。特定の態様では、IMCデータセットは、本明細書に記載のマトリックスデータセットまたはグラフデータセットなど、単一細胞データをアルゴリズムへの入力として使用して試料(例えば、診断または予後診断用途のために)を分類することができるように構造化することができる。例えば、マトリックスまたはグラフデータセットは、組織を分類するように訓練されたニューラルネットワークの入力として、例えば癌性組織対非癌性組織を分類するため、および/または癌性組織にステージを割り当てるために使用することができる。
【0423】
特定の態様では、IMC画像またはデータセットは、fcsデータセット(例えば、フローサイトメトリおよび懸濁液質量サイトメトリに従来使用されている)などの細胞事象データセット(例えば、マトリックスにおいて、例えば、各細胞は、マーカーの発現を表す異なる質量チャネルにおける信号について異なるカラムの値を有するデータセットのロウであり、またはその逆である)に変換されてもよい。データセットは、各細胞の中心点の座標(例えば、X、Y座標)をさらに含んでもよい。あるいは、データセットは、隣接する細胞を表すノードに接続するエッジを有するノードとして表された細胞、および各ノードが異なる質量チャネルの信号(異なるマーカーの発現レベル)の値を有するグラフ(またはグラフとして視覚化されてもよい)であってもよい。
【0424】
特定の態様では、細胞表面マーカーに対する抗体の組み合わせ(細胞型分類パネル)を使用して、ゲーティング、クラスタリング、または別の適切な分類方法などによって、セグメント化された細胞の細胞型を識別することができる。2D IMC画像内の膜マスクで表されるか、グラフ内のノードとして表されるかにかかわらず、細胞は、それらの細胞型に基づいて色付けされてもよい。特定の態様では、IMCデータセットは、上述のマトリックスデータセットまたはグラフデータセットなど、単一細胞データをアルゴリズムへの入力として使用して試料(例えば、診断または予後診断用途のために)を分類することができるように構造化することができる。例えば、マトリックスまたはグラフデータセットは、組織を分類するように訓練されたニューラルネットワークの入力として、例えば癌性組織対非癌性組織を分類するため、および/または癌性組織にステージを割り当てるために使用することができる。
【0425】
迅速な取得
個々のミクロンスケールのピクセルのレーザアブレーションを含む従来のIMCは、本明細書に記載の高スループット試料取扱い方法およびシステムでは、遅く、容認できない可能性がある。したがって、以下に説明するように、試料取得時間を増加させるために、レーザスキャン、直接イオン化、および/またはスポットサイズ調整を実施することができる。そのような迅速な取得は、上述の自動化された/高スループットの試料取扱い実施形態および/または細胞セグメント化の実施形態と組み合わされてもよい。
【0426】
レーザスキャンによる迅速な取得
取得速度を増加させるためのスキャンシステムの使用は、試料がイメージングされる速度を増加させるための他の戦略に優る多くの利点を提供する。例えば、適切に適合されたシステムを使用して、単一のレーザパルスで100μm×100μmの領域をアブレーションすることができる。しかしながら、そのようなアブレーションは、多くの問題をもたらす。単一のレーザパルスで試料の広い領域を一度にアブレーションすると、アブレーションされた材料は、小さな粒子ではなく、音速付近の速度で最初に飛行する大きな塊に分割され、材料がキャリアガスの流れ(以下でより詳細に説明する)で試料から急速に輸送されるのではなく、大きな塊は、小さな塊よりも引き込まれるのに時間がかかる(試料チャンバのウォッシュアウト時間が長くなる)か、引き込まれないか、試料からまたは試料の別の部分にランダムに飛行するだけである。材料の大きな塊が試料から飛散すると、標識原子などの検出可能な原子の形態の材料の塊の任意の情報が失われる。材料の塊が試料の別の部分に着地した場合、情報はアブレーションされた領域から失われ、さらに、材料の塊中の検出可能な原子は今や存在し、試料の別の部分から取得される信号と干渉し得る。アブレーションされたスポット(例えば、軟骨材料対筋肉)における生体物質の違いは、生成物の分解方法にも影響を及ぼす可能性があるため、より大きなアブレーションスポットのサイズもまた、試料の分画を悪化させる可能性があり、一部の種類の物質は、他のものよりも少ない程度でガスの流れに同伴される。さらに、本明細書で説明するように、多くの用途では、100μmのオーダーではなくμmのオーダーの小さなスポットサイズが好ましく、数桁異なるレーザスポットサイズ間の切り替え(例えば、100μm対1μm)も技術的課題を提示する。例えば、1μmのスポットサイズでアブレーションすることができるレーザは、単一のレーザパルスで100μmのスポットサイズの領域をアブレーションするためのエネルギーを有さない場合があり、レーザビームのエネルギーの著しい損失またはアブレーションスポットの鮮明さの損失なしに1μmと100μmとの間の移行を容易にするために高度な光学系が必要とされる。
【0427】
レーザ放射を試料上の異なる位置に迅速に向けることができる任意の構成要素を、レーザスキャンシステムのポジショナとして使用することができる。以下に説明する様々なタイプのポジショナは市販されており、それぞれ固有の強度および制限を有するため、システムが使用される特定の用途に適切に当業者によって選択することができる。以下に説明するように、本発明の態様のいくつかの実施形態では、以下に説明する複数のポジショナを単一のレーザスキャンシステムで組み合わせることができる。ポジショナは、一般に、レーザビームに相対運動を導入するために移動構成要素に依存するもの(例えば、ガルバノミラー、圧電ミラー、MEMSミラー、ポリゴンスキャナなどを含む)と、そうでないもの(例えば、そのような音響光学装置および電気光学装置を含む)とに分類することができる。前の文に列挙されているポジショナの種類は、レーザ放射ビームを様々な角度に制御可能に偏向させるように作用し、アブレーションスポットの平行移動をもたらす。レーザスキャンシステムは、単一のポジショナを含んでもよく、またはポジショナおよび第2のポジショナを含んでもよい。レーザスキャンシステム内に2つのポジショナが存在する「ポジショナ」および「第2のポジショナ」の説明は、レーザ放射のパルスがレーザ源から試料までのその経路上のポジショナに当たる順序を定義しない。
【0428】
ポジショナを含む実施形態では、アブレーションレーザパルスが試料に向けられ得る速度は、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、200Hz~50kHz、200Hz~10kHz、1kHz~1MHz、5kHz~1MHz、10kHz~1MHz、50kHz~1MHz、100kHz~1MHz、1kHz~100kHz、または10kHz~100kHzであってもよい。
【0429】
ガルバノメータおよび圧電ミラーポジショナ
ミラーが取り付けられた軸上のガルバノメータモータを使用して、レーザ放射を試料上の異なる位置に偏向させることができる。移動は、固定磁石および移動コイル、または固定コイルおよび移動磁石を使用することによって達成することができる。固定コイルおよび移動磁石の配置は、より速い応答時間をもたらす。典型的には、シャフトおよびミラーの位置を検知するためにモータにセンサが存在し、それによってモータのコントローラにフィードバックを提供する。1つのガルバノミラーは、レーザビームを1つの軸内に向けることができ、したがって、一対のガルバノミラーが、この技術を使用してX軸およびY軸の両方におけるビームの方向を可能にするために使用される。
【0430】
ガルバノミラーの1つの強みは、大きな偏向角(例えば固体偏向器よりもはるかに大きい)を可能にすることであり、その結果、試料ステージのよりまれな移動を可能にすることができる。しかしながら、モータおよびミラーの可動部品は質量を有するので、それらは慣性を被るので、部品の加速のための時間はサンプリング方法内に収容されなければならない。典型的には、非共振ガルバノミラーが使用される。当業者には理解されるように、共振ガルバノミラーを使用することができるが、レーザスキャンシステムのポジショナとしてそのような共振部品のみを使用するシステムは、任意の(ランダムアクセスとしても知られる)スキャンパターンを行うことができない。ミラーに基づいているので、ガルバノメータミラー偏向器は、レーザ放射ビーム品質を低下させ、アブレーションスポットサイズを増加させる可能性があり、したがって、ビームに対するそのような影響を許容する状況において最も適用可能であることが当業者によって再び理解されるであろう。
【0431】
ガルバノメータミラーベースのシステムは、センサノイズまたは追跡誤差を介して、それらの位置決めに誤差が生じやすい可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、各ミラーは位置センサと関連付けられ、このセンサはミラーの位置をガルバノメータにフィードバックしてミラーの位置を改善する。場合によっては、位置情報は、ミラーの位置決め誤差を補正するガルバノメータミラーに直列のAODまたはEODなどの別の構成要素に中継される。
【0432】
同様に、ミラーが取り付けられたシャフト上の圧電アクチュエータを、レーザ放射を試料上の異なる位置に偏向させるためのポジショナとして使用することができる。やはり、質量を有する構成要素の運動に基づくミラーポジショナとして、本質的に慣性があり、したがってこの構成要素によるミラーの運動に固有の時間オーバーヘッドがある。したがって、このポジショナは、レーザスキャンシステムのナノ秒応答時間が必須ではない特定の実施形態において用途を有することが当業者によって理解されよう。同様に、ミラーに基づいているため、圧電ミラーポジショナは、レーザ放射ビーム品質を低下させ、アブレーションスポットサイズを増加させるので、ビームに対するそのような影響を許容する状況で最も適用可能であることが当業者によって再び理解されるであろう。
【0433】
チルトチップミラー配置に基づく圧電ミラーでは、X軸およびY軸における試料へのレーザ放射の方向が単一の構成要素に提供される。
【0434】
圧電ミラーは、Physik Instrumente(ドイツ)などの供給業者から市販されている。
【0435】
したがって、本発明の態様のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムは、圧電ミラーアレイまたはチルトチップミラーなどの圧電ミラーを含む。
【0436】
MEMSミラーポジショナ
レーザ放射を試料上に向ける表面の物理的移動に依存する第3の種類のポジショナは、MEMS(微小電気機械システム)ミラーである。この部品のマイクロミラーは、静電、電気機械および圧電効果によって作動させることができる。この種の構成要素のいくつかの強度は、軽量、システム内での位置決めの容易さ、および低消費電力などの小さいサイズに由来する。しかしながら、レーザ放射の偏向は依然として最終的に構成要素内の部品の動きに基づいているため、部品は慣性を受ける。この場合もやはり、ミラーに基づいているため、MEMSミラーポジショナは、レーザ放射ビーム品質を低下させ、アブレーションスポットサイズを増大させ、したがって、当業者は、このようなスキャナ構成要素が、したがってレーザ放射に対するこのような影響を許容する状況において適用可能であることを再度理解するであろう。
【0437】
ポリゴンスキャナ
レーザ放射を試料上に向ける表面の物理的移動に依存するさらなる種類のポジショナは、ポリゴンスキャナである。ここで、反射多角形または多面鏡は機械軸上で回転し、多角形の平坦なファセットが入射ビームを横切るたびに、角度偏向スキャンビームが生成される。ポリゴンスキャナは一次元スキャナであり、スキャン線に沿ってレーザビームを導くことができる(したがって、試料に対するレーザビームの第2の相対運動を導入するために二次ポジショナが必要であり、または試料は試料ステージ上で移動する必要がある)。例えばガルバノメータベースのスキャナの前後運動とは対照的に、ラスタスキャンの1つのラインの終わりに達すると、ビームはスキャンロウの開始時の位置に戻される。多角形は、用途に応じて規則的または不規則的であり得る。スポットサイズは、ファセットのサイズおよび平坦度、ならびにファセットの数に対するスキャン線の長さ/スキャン角に依存する。非常に高い回転速度を達成することができ、その結果、スキャン速度が速くなる。しかしながら、この種のポジショナは、ファセット製造公差および軸方向の揺動、ならびにミラー表面からの潜在的な波面歪みに起因して位置決め/フィードバック精度が低いという点で欠点を有する。したがって、当業者は、そのようなスキャナ構成要素が、レーザ放射に対するそのような影響を許容する状況において適用可能であることを再度理解するであろう。
【0438】
電気-光偏向器(EOD)ポジショナ
レーザスキャナシステム部品の前述のタイプとは異なり、EODは固体構成要素であり、すなわち移動部品を含まない。したがって、それらは、レーザ放射を偏向させる際に機械的慣性を受けず、したがって1ns程度の非常に速い応答時間を有する。それらはまた、機械的構成要素のように摩耗に悩まされない。EODは、光学的に透明な材料(例えば、結晶)から形成され、この材料は、EODを横切って印加される電界に応じて変化する屈折率を有し、これは次に、媒体に電圧を印加することによって制御される。レーザ放射の屈折は、ビームの断面にわたる位相遅延の導入によって引き起こされる。屈折率が電界と共に線形に変化する場合、この効果はポッケルズ効果と呼ばれる。電界強度によって二次的に変化する場合、これはカー効果と呼ばれる。カー効果は、通常、ポッケルズ効果よりもはるかに弱い。2つの典型的な構成は、光学プリズムの界面における屈折に基づくEOD、およびレーザ放射の伝播方向に垂直に存在する屈折率勾配による屈折に基づくEODである。EODにわたって電界を配置するために、電極は、媒体として作用する光学的に透明な材料の対向する側面に結合される。一組の対向電極を接合することにより、1次元スキャンEODが生成される。第2の組の電極を第1の組の電極に直交して接合することにより、2次元(X、Y)スキャナが生成される。
【0439】
EODの偏向角は、例えば、ガルバノミラーよりも低いが、いくつかのEODを順番に配置することによって、所与のシステム設定に必要な場合、角度を大きくすることができる。EOD中の屈折媒体の例示的な材料には、タンタル酸カリウムニオブ酸塩KTN(KTaxNb1-xO3)、LiTaO3、LiNbO3、BaTiO3、SrTiO3、SBN(Sr1-xBaxNb2O6)およびKTiOPO4が含まれ、KTNは同じ電界強度でより大きな偏向角を示す。
【0440】
EODの角度精度は高く、主に電極に接続されたドライバの精度に依存する。さらに、上述したように、EODの応答時間は非常に迅速であり、後述するAODよりも速い(結晶内の(変化する)電場が、材料内の音速ではなく、材料内の光の速度で確立されるという事実に起因している。Romer and Bechtold,2014,Physics Procedia 56:29-39の議論を参照)。
【0441】
音響光学偏向器(AOD)ポジショナ
このクラスのポジショナも固体構成要素である。部品の偏向は、周期的に変化する屈折率を誘起するために、光学的に透明な材料内を伝播する音波に基づく。変化する屈折率は、材料を伝搬する音波に起因する材料(すなわち、密度の変化)の圧縮および希薄化のために生じる。周期的に変化する屈折率は、光学格子のように作用することによって、材料を通って進むレーザビームを回折させる。
【0442】
AODは、トランスデューサ(典型的には圧電素子)を音響光学結晶(例えば、TeO2)に結合することによって生成される。電気増幅器によって駆動されるトランスデューサは、屈折媒体に音波を導入する。反対側の端部において、結晶は、典型的には、音響波の反射が結晶内に戻るのを回避するために、スキューカットされ、音響吸収材料が嵌合される。波が結晶を通って一方向に伝播すると、これは1次元スキャナを形成する。2つのAODを直交して直列に配置することによって、または直交する結晶面上に2つのトランスデューサを接合することによって、2次元スキャナを生成することができる。
【0443】
EODに関しては、AODの偏向角はガルバノミラーよりも低いが、この場合もやはりそのようなミラーベースのスキャナと比較して角度精度が高く、結晶を駆動する周波数はデジタル制御され、一般に1Hzに分解可能である。RomerおよびBechtold、2014によれば、ガルボベースのスキャナに一般的なドリフト、ならびにアナログコントローラと比較した温度依存性は、通常、AODが遭遇する問題ではないことに留意されたい。
【0444】
AODの屈折媒体として使用するための例示的な材料には、二酸化テルル、溶融シリカ、結晶石英、サファイア、AMTIR、GaP、GaAs、InP、SF6、ニオブ酸リチウム、PbMoO4、三硫化ヒ素、テルライトガラス、ケイ酸鉛、Ge55As12S33、塩化水銀(I)、および臭化鉛(II)が含まれる。
【0445】
偏向角を変更するためには、結晶に導入される音の周波数を変更しなければならず、音波が結晶を満たすのに有限の時間がかかり(結晶内の音波の伝播速度および結晶のサイズに依存する)、それによって遅延度があることを意味する。それにもかかわらず、応答時間は、可動部品に基づくレーザシステムポジショナと比較して比較的速い。
【0446】
特定の事例において利用することができるAODのさらなる特徴は、結晶に印加される音響パワーが、レーザ放射のどれだけが0次(すなわち、回折されない)ビームに対して回折されるかを決定することである。非回折ビームは、通常、ビームダンプに向けられる。したがって、AODを使用して、偏向されたビームの強度およびパワーを高速で効果的に制御(または変調)することができる。
【0447】
AODの回折効率は、典型的には非線形であり、したがって、回折効率対パワーの曲線は、異なる入力周波数に対してマッピングすることができる。次いで、各周波数のマッピングされた効率曲線は、式として、または本明細書に開示したシステムおよび方法におけるその後の使用のためのルックアップテーブルに記録することができる。
【0448】
したがって、本発明の態様のいくつかの実施形態では、レーザスキャナシステムはAODを含む。
【0449】
ポジショナの統合
前の段落では、2つのタイプのレーザスキャンシステムポジショナ、すなわち、移動部品を含むミラーベースのポジショナ、および固体ポジショナについて説明した。前者は、偏向角が大きいが、慣性に起因して応答時間が比較的遅いことを特徴とする。対照的に、固体ポジショナは、より低い偏向角度範囲を有するが、応答時間がはるかに速い。したがって、本発明の態様のいくつかの実施形態では、レーザスキャンシステムは、直列にしたミラーベースの構成要素と固体構成要素の両方を含む。この配置は、両方の強み、例えば、ミラーベースの構成要素によって提供される広い範囲を利用するが、ミラーベースの構成要素の慣性に適応する。
【0450】
したがって、例えばミラーベースのスキャナ構成要素の誤差を補正するために、固体ポジショナ(すなわち、AODまたはEOD)を使用することができる。この場合、固体構成要素へのミラー位置フィードバックに関する位置センサ、および固体構成要素によってレーザ放射ビームに導入される偏向角度は、ミラーベースのスキャナ構成要素の位置誤差を補正するために適切に変更することができる。
【0451】
したがって、100μm2の単一のスポットをアブレーションするのではなく、100×100(すなわち10,000)の直径1μmのスポットを使用して、エリア全体をラスタリングすることによってエリアをアブレーションすることができる。アブレーションのためのより小さなスポットサイズは、当然ながら、上記の問題をそれほど大きな程度では受けず、より小さなアブレーションスポットによって必然的に生成される粒子自体のサイズははるかに小さい。さらに、より小さなスポットでは、アブレーションから生じる得られたより小さな粒子は、試料チャンバからのより短く、より規定されたウォッシュアウト時間を有する。小さなスポットのそれぞれが別々に分解されることが望ましい場合、これは、検出器で検出されたときに各アブレーションレーザパルスからの過渡現象が重なり合わない(または、以下に説明するように、許容可能な程度まで重なり合っている)ので、データをより迅速に取得することができるという結果をもたらす。
【0452】
しかしながら、試料ステージを1μm刻みでロウに沿って移動させ、その後ロウを下に移動させることは、上記のように慣性のために比較的遅い。したがって、試料ステージを移動させることなく、または試料ステージをあまり頻繁にまたは一定の速度で移動させることなく、領域にわたってラスタするためにレーザスキャナシステムを使用することによって、試料ステージの比較的遅い速度は、試料をアブレーションすることができる速度を制限しない。
【0453】
したがって、迅速なスキャンを可能にするために、レーザスキャンシステムは、レーザ放射が試料上に向けられている位置を迅速に切り替えることができなければならない。レーザ放射のアブレーション位置を切り替えるのにかかる時間は、レーザスキャンシステムの応答時間と呼ばれる。したがって、本発明の態様のいくつかの実施形態では、レーザサンプリングシステムの応答時間は、1msよりも速く、500μsよりも速く、250μsよりも速く、100μsよりも速く、50μsよりも速く、10μsよりも速く、5μsよりも速く、1μsよりも速く、500nsよりも速く、250nsよりも速く、100nsよりも速く、50nsよりも速く、10nsよりも速く、または約1nsである。
【0454】
レーザスキャンシステムは、アブレーション中に試料が配置される試料ステージに対して少なくとも1つの方向にレーザビームを向けることができる。場合によっては、レーザスキャンシステムは、レーザ放射を試料ステージに対して2つの方向に向けることができる。一例として、試料ステージを使用して試料をX軸に増分的に移動させることができ、レーザを試料にわたってY軸に掃引することができる。1μmのスポットサイズが使用される場合、X軸の移動は1μm刻みであってもよい。X軸における所与の位置において、レーザスキャンシステムを使用して、レーザをY軸において1μm離れた一連の位置に向けることができる。レーザスキャンシステムがレーザ放射をY軸の異なる位置に向けることができる速度は、ステージがX軸で増分的に移動することができる速度よりもはるかに速いため、スキャナの動作のこの単純な図では、アブレーション速度の大幅な増加が達成される。
【0455】
特定の態様では、レーザスキャンシステムは、一方向にのみスキャンするように構成されてもよい。例えば、レーザスキャンシステムは、一方向にのみスキャンすることができる1つのポジショナのみを有してもよい。そのような場合、試料ステージは、レーザビームの方向に非平行な異なる方向に運動を提供するように移動されてもよい。
【0456】
特定の態様では、レーザビームがレーザスキャンシステムによって誘導されている間に、試料ステージの移動によってスキャンされる面積(例えば、関心のある領域)を増加させることができる。試料ステージの移動がない場合、レーザビームによってスキャンされる領域は、レーザアブレーションセルの上部の窓および/または照射された試料の取り込みのために配置されたレーザアブレーションセル(チャンバ)内のインジェクタチューブの一部の窓など、ビームが通過する窓のサイズによって制限されてもよい。あるいは、またはさらに、試料ステージの移動がない場合、レーザビームによって覆われる領域は、レーザビームによって衝撃を受けた試料の部分を、試料(例えば、レーザビームによってアブレーションされ、脱着され、または持ち上げられた試料)をイオン化システムおよび/または質量検出器に送達するエアロゾル取り込みシステム(例えば、インジェクタチューブ)の近位に配置する必要性によって制限されてもよい。したがって、レーザスキャン中のステージの移動は、連続的にスキャンされる面積を増加させることができる。特定の態様では、複数の関心のある領域がスキャンされる。
【0457】
高速スキャンは、より多くの試料の処理を可能にし得る。したがって、本出願のスライドハンドラは、レーザスキャンシステム、例えばレーザスキャンシステムを含むイメージング質量サイトメータに動作可能に結合されてもよい。
【0458】
別の用途は、任意のアブレーション領域の整形である。高い繰り返しレートのレーザが使用される場合、ナノ秒レーザが1つのパルスを送出するのと同時に、近接した間隔のレーザパルスのバーストを送出することが可能である。レーザパルスのバースト中にアブレーションスポットのXおよびY位置を迅速に調整することにより、任意の形状およびサイズ(光の回折限界まで)のアブレーションクレータを作成することができる。例えば、バースト内のnおよびn+1位置は、スポットサイズの直径の8倍未満、5倍未満、2.5倍未満、2倍未満、1.5倍未満、約1倍、または1倍未満など、(n番目のスポットおよび(n+1)番目のスポットのアブレーションスポットの中心に基づいて)レーザスポット直径の10倍に等しい距離以下であってもよい。この技術を使用する特定の方法は、以下の方法のセクション、ページエラー!ブックマークが定義されていない。特定の態様では、任意のアブレーション領域は、スライドハンドリングシステムによってアクセスされるスライドホテル内のスライドに対して決定されたROIであってもよい。
【0459】
直接イオン化による迅速な取得
本明細書に記載のように、直接イオン化イメージング質量分析器の1つまたは複数のパラメータを設定して、所望のプラズマを得て、それを質量検出器に送達することができる。用途に応じて、特定のパラメータを予め決定することができ(例えば、所望の解像度が与えられたスポットサイズ)、本明細書に記載されるように、他のパラメータを調整して所望のプラズマ特性を得ることができる。一般的な方向として、最適な放射エネルギー、より短い放射パルス時間、より小さいスポットサイズ、および試料によって十分に吸収された波長は、より高いイオン化効率(例えば、発光によって、または酸化もしくは質量検出器に送られるイオンの量として測定することができる)を有するプラズマを提供する。このより小さく、より速い規模のアブレーションは、中和なしでイオンサンプリングをもたらすことができるナノプラズマの形成を容易にする。レーザパルス時間などの放射パルス時間は、プラズマ形成の持続時間、または中和を経たプラズマの形成の持続時間よりも短くてもよい。これらのパラメータおよび試料自体の材料は、プラズマ中の試料の量およびその温度(運動エネルギー)に影響を及ぼし、より高い温度でより迅速に真空中で膨張する材料が少なくなり、それによって中性物質の形成が減少する。
【0460】
プラズマ発生の初期段階では、局所的な熱平衡の状態に達すると仮定することができる。これは、1つの温度値が電子の温度およびイオンの温度を表すことができることを意味する。局所的な熱平衡を達成するためには、十分な密度のプラズマが必要であり、これは、プラズマが局所的な密度が高く衝突が多い試料にちょうどある場合である。本明細書に記載されるように、プラズマが真空中に膨張すると、正イオンは、衝突による中和が低減または排除される点まで負イオンおよび電子から分離する。したがって、本明細書の実施形態で説明されるプラズマの特性は、(例えば、80%または90%などの大部分の中和衝突が発生した後に)プラズマの過去の中和を説明することができる。例えば、プラズマが(例えば、およびは、無衝突、または無衝突状態に近づいている可能性がある)中和を過ぎた場合、3000Kを超える温度、例えば3000K~30000K、例えば5000K~10000Kの温度を依然として有し得る。このように、中和後のプラズマ中のイオンは、安定してイオン化され、検出器に送られ得る。本明細書に記載の直接イオン化法およびシステムは、イメージング質量サイトメトリ、特に生体試料中の金属タグのイメージングに固有の利点を有する。
【0461】
高温高圧のガスでは、熱衝突により一部の原子がイオン化する。サハイオン化方程式は、熱平衡を仮定して、ガスのイオン化状態をその温度、圧力、およびその複合原子のイオン化エネルギーに関連付ける。例えば、6000Kの熱プラズマ中のランタニド原子のイオン化効率は高い(100%に近い)。放射パルスが(例えば、フェムト秒またはピコ秒レーザによって)十分に迅速に、十分に小さいスポットサイズで十分に高いエネルギーで印加され、試料(例えば、レーザ光または電子ビームの10%または20%が熱エネルギーとして吸収された)によって吸収されたと仮定すると、高度にイオン化(例えば、高いランタニドイオン化効率)した局所プラズマの条件が満たされる。特定の態様では、プラズマ中のランタニドのイオン化効率は、質量検出器に送達されるイオンがランタニドイオンについて富化されるように、炭素または他のより低い質量元素のイオン化効率よりも高くてもよい。特定の態様では、パラメータ(スポットサイズ、パルス時間および/またはパルスエネルギーなど)は、異なる用途のために、またはプラズマの一貫性を維持するために(例えば、イオン化効率に関するリアルタイムフィードバックを用いて)調整可能であってもよい。
【0462】
後述するように、試料スポットにプラズマを提供する放射は、レーザ放射またはイオンビームもしくは電子ビームなどの荷電粒子ビームであってもよい。
【0463】
レーザアブレーションによる直接イオン化の概要
イメージング質量サイトメトリのいくつかの形態を含む多くのイメージング質量分析法の用途は、レーザアブレーションICP-MSシステムを使用する。これらのタイプのシステムには、対処すべき自然な課題がある。
【0464】
プラズマ-真空インターフェース(および我々が使用する飛行時間型質量分析器)は、分析物イオンの大部分が検出器に到達しないで機器のエンドツーエンド感度を低下させることを防ぐ。
【0465】
ICPは、ArおよびArArイオンから大きなバックグラウンド信号を導入し、これにより、80amuを超える質量を有する分析物イオンまでの質量範囲が効果的に制限される。
【0466】
アブレーション部位からプラズマへの試料輸送、ならびにプラズマ自体の滞留時間は、アブレーション速度を数百Hz(例えば、<~1kpixel/s)に制限する主な要因である。
【0467】
レーザアブレーションの分解能は、波長、対物開口数、サンプリングジオメトリ、および既存のシステムで動作可能な試料のタイプ(例えばFFPE組織切片)の選択により、約1μmである。
【0468】
機器全体は非常に複雑であり、分析物は検出される前に多くのプロセスおよびインターフェースを通過する。これにより、機器の構築コスト、運用コスト、およびサービスコストが増加し、エンドツーエンドの分析が複雑になる。
【0469】
以下に説明するシステムおよび方法は、代替的な構成を提供し、1つまたは複数のレーザ源を使用して、既に真空中にある試料をアブレーションおよびイオン化し、次いで、得られたイオンは、ICPおよび真空インターフェースを必要とせずに、質量分析器に直接加速される。
【0470】
本発明者の現在のLA-ICP-MSシステムでは、大気圧に近いヘリウム/アルゴン環境でレーザを使用して試料をアブレーションする。アブレーション事象は、レーザ源(長パルス持続時間UVレーザまたはフェムト秒レーザ)の選択に応じて、本質的に熱的または非熱的であり得る。どちらの方法でも、アブレーションプロセス中に形成される可能性があるプラズマは、アブレーションされた雲の密度、ならびに大気圧でのキャリアガスとの長時間の接触のために急速に中和される。次いで、真空インターフェースを有するICPを使用して、アブレーションされた材料をイオン化し、イオンをサンプリングする。
【0471】
分析物イオンをサンプリングする代替方法は、局所プラズマを生成し、分析物イオンをこのプラズマから質量分析器に直接注入することである。本発明者は、中和を防止するためには、アブレーションプラズマを十分に疎にし、中和が停止されプラズマが「凍結」されるのに十分迅速に膨張させる必要があることに気付いた。これを超えると、プラズマ中のこの中和イオンはイオン化されたままである(例えば、イオンの80%超または90%超がイオン化されたままであり得る)。これは、アブレーション体積(例えば、スポットサイズ)を小さく保つ必要があることを意味する。典型的なレーザアブレーション体積は、約1×1×1μm(本発明者のHTIプラットフォーム)以上(レーザ誘起破壊分光法、地質試料のLA-ICP-MSなど)である。本発明者は、低中和度を確実にするための適切なアブレーション体積を100×100×100nm以下(例えば、100nm以下のスポットサイズ)と推定する。
【0472】
注目すべきことに、fs-LIBSの文献は、多くの場合、LIBSプロセスをプラズマ進化として記載している。LIBSプラズマは最終的に冷却され、イオンが中和され、複雑な分子がLIBS発生の最終段階で形成される。このシーケンスは、アブレーションによって生成された中性粒子が多すぎ、プラズマが冷めるにつれて衝突し続けるために起こる。さらに、小さい体積内の荷電粒子が多すぎ、正および負の荷電粒子間の引力が、アブレーションプルーム内のイオンに作用する他のすべての力に打ち勝つことができる。一定のイオン化度の場合、プラズマプルーム内のイオンの数は、ピクセルサイズの立方乗程度に減少する。同じ三乗則が、アブレーションされたプルーム中の中性種の数に適用される。したがって、ナノスケールで生成されたLIBSタイプのプラズマは、中和せずに質量分析器に直接サンプリングできる分析イオンの供給源となり得る。言い換えれば、ナノスケールアブレーションに由来するプルームは、「凍結」プラズマとしてサンプリングすることができる。そして、プラズマを正粒子と負粒子に分離し、正イオンを質量分析器で高効率に検出することができる。古典的なLIBSでは、LIBSの主要な情報源である不十分な光信号のためにそこに行く動機がないため、100nm(またはそれ以下)の空間分解能でアブレーションされたピクセルのトピックは未調査のままである。質量分析器へのイオンの直接サンプリングと組み合わせて、ナノスケールアブレーションから生成されたLIBSタイプのプラズマを使用することによって。プラズマからのイオンが電子から分離すると、それらを分析することができる。対応するピクセルからのイオンパケットの広がりを最小限の時間で、イオンの抽出およびイオンの動作を容易にするために、試料は、アブレーション事象中に真空環境または比較的低い圧力にある必要がある。
【0473】
局所熱平衡(LTE)の状態でプラズマを生成することが有利であり得る。この条件は、従来のICP-MSにおけるプラズマと並行している。LTEプラズマが有用である理由は、イオン化効率がプラズマの温度および所与の元素のイオン化ポテンシャルに依存するようになるからである。約7000Kの温度では、イオン化度は、質量サイトメトリのためのMaxPar試薬に使用される元素の大部分(例えば、ランタニド同位体)について90%を超える。同時に、炭素、水素および酸素などの最も豊富な生物学的元素のイオン化度は、約数パーセントのままである。したがって、膨張するプラズマ中の荷電粒子の量はかなり低いままであり、これはプラス粒子とマイナス粒子へのプラズマ分離に役立つ。
【0474】
プラズマの温度は、アブレーション容積内に堆積されたレーザエネルギーの量と共に上昇する。したがって、所望のイオン化度および最適なプラズマ破壊を達成するように温度を調整することができる。非熱プラズマについてのイオン生成挙動をモデル化することはより困難であり得るが、非熱プラズマもこの用途に作用し得ることに留意されたい。実験は、非熱プラズマによるイオン化のための最適条件を開発するための指針として使用することができる。パルス持続時間が長くなると、熱に近いプラズマになることが起こり得る。しかし、より短いパルス持続時間が熱プラズマをもたらすことも起こり得る。プラズマの状態は、パルスエネルギー、その波長、パルス持続時間およびパルス形状などのいくつかのパラメータに依存する。光偏光特性さえも、レーザパルスによって生成されるプラズマのタイプに寄与し得る。
【0475】
熱プラズマ中の原子の平均速度は、プラズマの温度および原子の質量から計算することができる。これは、アブレーションされている固体から真空中にプラズマが膨張し始める速度であり、7000Kの炭素原子では約3000m/sである。この速度では、プラズマは10psで30nmの距離をカバーする。したがって、10psは、プラズマを加熱するために依然として使用することができる光の最大持続時間の推定値になる。約10psより長いパルス持続時間は、光エネルギーをプラズマエネルギーに変換するのに効率的ではない可能性がある。費用効率の高いfsファイバレーザは、500fs規模の持続時間を有するレーザパルスを生成することが好都合である。そのようなパルスは、適切な光学系を使用して100nmスケールに集束させることができる限り、所望のプラズマを生成するのによく適しているはずである。
【0476】
ほとんどの顕微鏡は、可視光の回折限界および利用可能な開口数の制限によって約200nm以上の空間分解能に制限されるため、そのような小さなアブレーションされた体積は特別な光学配置を必要とする。これは、FWHM焦点径の式:D=0.541λ/(√m[NA]^0.91)によって示され、式中、λは使用される光の波長であり、mは光学プロセスの次数であり、NAは開口数(この式が有効であるために0.7から1.4の間)である。λ=450nmおよびNA=1.4を使用すると、約180nmのFWHMスポット直径が得られる。
【0477】
上記のスポットサイズ式は、100nm以下のアブレーションスケールを達成することができる3つの方法があることを示している。すなわち、可視からUV以下に波長を減少させること、高次(非線形)光学プロセスを使用すること、または一般的な市販の顕微鏡部品から利用可能なものを超える開口数を増加させることである。
【0478】
EUVレーザアブレーション
波長は、50nm未満の波長を有するEUVレーザを使用することによって低減することができる。1未満の開口数を使用する必要があるとしても(浸漬のために材料を使用することができないため)、これを補うよりも短い波長および100nm以下の焦点サイズが容易に達成される可能性があり、EUVリソグラフィで商業的に使用される13nmの波長を有する高調波発生レーザ源またはスズ蒸気レーザでは、潜在的に10×10×10nmまで低下する。0.4の開口数(EUVリソグラフィで使用されるものに近い)であっても、13nmの波長は依然として30nmスケールのアブレーションスポットをもたらす。
【0479】
この手法は、非常に厳しい表面形状公差を有するカスタム全反射光学系の使用、およびおそらくカスタムレーザ源を必要とする。材料がレーザの経路内にあってはならないという事実はまた、アブレーションレーザがイオンの収集が行われるのと同じ側から試料に到達する必要があり得ることを意味する。これには、アブレーションレーザを反射して集束させることができ、生成されたイオンの透過のための明確な開口部を依然として有することができる非常に特殊な光学系が必要である。
【0480】
この手法の欠点は、カスタムEUVレーザ源および光学系の高コストおよび複雑さを含む。
【0481】
10ps未満のパルス持続時間の必要性は、上記のスズ液滴EUVレーザにとって重大な制限となり得るが、高調波発生源は、アト秒パルス持続時間を生成することが知られており、この観点から実行可能である。
【0482】
フェムト秒レーザアブレーション
フェムト秒レーザも使用することができ、これはアブレーション事象を本質的に非線形にする。これにより、m(mは非線形プロセスの次数)の平方根だけ有効スポットサイズが縮小される。例えば、周波数を2倍にしたTi:Spレーザからのレーザパルスは、約400nmの中心波長を有する。開口数1.49のTIRF対物レンズを使用し、二次非線形プロセス以上を仮定すると、スポットサイズは直径106nm以下(FWHM)になる。さらに、非線形アブレーションプロセスは明確なしきい値を有するので、パルスエネルギーを正確に制御することによって、FWHM直径をはるかに下回る有効なアブレーションスポットサイズを達成することができる。文献では、5~10の因子が日常的に達成され、5倍の減少が一般に再現性の上限と考えられている。これは、約20~30nmのアブレーションサイズを意味する。
【0483】
この手法の1つの主な利点は、標準的なレーザおよび顕微鏡光学系を使用できることであり、これにより、市場投入までの時間が大幅に短縮され、部品コストが低減される。さらに、レーザパルスを試料キャリア(すなわち、既製の顕微鏡対物レンズの場合の顕微鏡カバースリップ)を通して集束させることができ、これにより、イオンサンプリング側をイオンの加速および収集に完全に専念させることができるため、機器の設計が大幅に簡素化される。
【0484】
数フェムト秒~数百フェムト秒程度のパルス持続時間は、市販のレーザシステム(例えば、それぞれチタンドープサファイアレーザまたはイッテルビウムドープレーザ)で日常的に達成されている。非線形アブレーションプロセスから線形アブレーションプロセス(すなわち、線形吸収)への移行は、1~10ピコ秒のパルス持続時間付近で起こり得る。いずれの場合も、パルス持続時間は、小さなスポットサイズおよびプラズマの膨張速度のために数十psよりもはるかに長くならない可能性がある。例えば、アブレーションプラズマが3000m/sで膨張する場合、30nmの体積は、約10psでそのサイズ/直径の2倍に膨張する。
【0485】
固浸レンズ
別の手法は、固浸レンズを使用して開口数を大幅に増加させ、それによってスポットサイズを縮小することであり得る。例えば、ダイヤモンド固浸レンズは市販されており、266nmのレーザ波長で使用することができる。この波長における開口数は、材料の屈折率によって制限され、約2.5までであり得る。このような高い開口数では、上記のスポットサイズ式はもはや有効ではないが、D=63nmを推定するために依然として使用することができる。このタイプのダイヤモンドレンズは、ビームのタイトフォーカシングによって可能にされる2TBのスケールの記憶容量を有するソニーによる光記憶ディスクのプロトタイプに使用された。
【0486】
この手法の主な利点は、低コストの標準的なレーザ源を使用できること(第4高調波Ndレーザ)、およびレーザを試料キャリアを通して集束させ、他方の側をイオンの加速および収集のために自由にすることができることである。しかしながら、いくつかの大きな欠点があり、それは、
高部品コストおよびイマージョンレンズの厳しい公差、
イマージョンレンズの非常に厳しい動的アライメント公差、
非常に小さな視野である。
【0487】
試料は、レンズ自体に取り付ける必要があるか、または同じ材料の厳しい公差の基板に取り付ける必要があり、レンズと基板との間の界面は光学的接触を必要とし、動的に維持することは困難である。
【0488】
試料の調査を容易にするために、レーザビームラスタを使用することができる。例えば、レーザは、毎秒5000ラインでスキャンすることができ、各レーザラインは、10Mpixel/sおよび10MHzのレーザ繰り返しレートにつながる2000ピクセルを生成することができる。100nmピクセルでは、レーザラインは200マイクロメートルをカバーし、移動速度は500mm/sとなる。このようなパラメータは極端な場合であり、より実用的な設定は、100mm/sで1000ライン/秒で収集されたライン当たり1000ピクセルを含む。データは、100×100マイクロメートルの視野内で2次元でビームをラスタリングすることによって収集することができる。
【0489】
質量分析器の考慮事項
どの手法を使用してアブレーション体積を適切なサイズに縮小するかにかかわらず、イオンを試料から直ちに加速し、質量分析器に注入する必要がある。これは、試料キャリアが導電性であることを必要とする可能性が高い(例えば、ITOコーティングされた顕微鏡スライドを使用するか、またはグラフェンコーティングなどの本発明者の分析物イオンチャネルに現れない低質量原子で作られた導電性コーティングを使用する)。特定の態様では、試料支持体は導電性であり、本明細書に記載の直接イオン化によって生成されたイオンをはじくように帯電してもよい。
【0490】
多重化マルチチャネル検出を伴う磁気セクタ質量分析器、パルス抽出を伴わないTOF質量分析器、またはパルス抽出を伴うTOF質量分析器など、イオン光学の様々な構成を使用することができる。パルス抽出を伴うTOFの場合、パルスをレーザビームの発射と同期させることができる。パルス抽出の目的は、MALDI質量分析器の技術分野で実施されているように、機器の質量分解能を改善することであり得る。ここで、この技術は、遅延抽出という名前で使用される。
【0491】
本発明者の現在のICPベースの機器に対する提案されたイオン化方法の利点は、キャリア/プラズマガスなどからのバックグラウンドイオンが存在しないため、分析器の質量範囲をより低い質量に拡張できることである。炭素+イオンなどの高輝度イオン種は、この方法のイオンビーム中に存在するが、TOFまたは磁気分離に基づいて除去することができる。一方、分子イオンおよびクラスタはデータに現れる可能性が高く、本発明者の現在の機器と比較して分析が複雑になる。分子イオンおよびクラスタの大部分は、元素タグの関心のある質量範囲外の質量範囲に現れる。したがって、それらもまた、適切な質量分析フィルタリングによって除去することができる。代替として、分子イオンおよびクラスタは、質量分析法の分野で公知の手段によってイオン断片化を誘導することによって抑制することができる。
【0492】
さらに、アブレーション部位から離れてイオンを直ちに加速することによって、質量分析器におけるイオンパルスの持続時間は非常に短くなり、これは、本発明者の現在の機器と比較して、スキャン速度の大幅な改善、すなわち、TOFでは最大数十kHzまたは数百kHz、磁気セクタ機器では最大100MHzが可能であることを意味する。磁気セクタ機器の場合、制限要因は検出チャネルにおけるパルス持続時間であり得る。磁気セクタ機器のイオン光学系は、検出器表面で10nsのスケールのイオンパルス持続時間を維持するように設計することができる。これは、プラズマ膨張によって導入されるエネルギーの広がりに起因する補償を含むようにイオン光学系を必要とする場合がある。検出器において狭いビームパルスを維持するTOF技術とマルチチャネル磁気セクタ技術とを融合するクロスオーバーイオン光学技術は、そのような高い取得速度で動作するために適用することができる。
【0493】
試料の考慮事項
アブレーション体積は、本発明者の標準プラットフォームと比較してはるかに小さいため、レーザアブレーション事象当たりの分析物イオンの数は大幅に減少する。これは、エンドツーエンド検出効率が比例的に改善されない場合に問題となり得る。真空インターフェースの欠如、およびTOFまたは磁気質量分析器を使用する可能性のために、エンドツーエンド検出効率は著しく高くなり得る。一方、分析物イオンのイオン化効率は、膨張段階中のプラズマのいくらかの再結合のために、ICPベースの機器と比較して低下する可能性がある。いずれの方法でも、この技術は、体積当たりの分析物イオンの数を増加させる新しい染色技術から明らかに利益を得るであろう。
【0494】
別の考慮事項は、アブレーション深さが短いことは、約100nm以下の薄い試料を使用する必要があることを意味することである。これらは、電子顕微鏡法で日常的に使用されている。これらの試料は樹脂包埋されており、生体試料の不均一性にかかわらず、寸法安定性およびアブレーションしきい値の再現性のために有益である可能性が高い。
【0495】
単一の試料に対して多数の連続切片を調製し、次いで提案された方法によって迅速に読み出すことができる。これにより、この方法は生体切片の3D分析によく適している。実際、1Mpixel/sおよび100nmピクセルサイズでは、100×100マイクロメートルの面積を1秒で読み取ることができ、1000秒で1000層で3次元を読み取ることができ、20分未満で100×100×100マイクロメートルの体積の完全な3D画像が得られ、多数のチャネルが同時に検出される。
【0496】
最後に、単一コピー検出のレベルでの機器の感度および個々の抗体をイメージングする機器の能力は、質量タグバーコードによる個々の抗体のタグ付けを容易にする。これにより、膨大な数のタグ付けオプションへのアクセスが可能になり、1000種類の異なる抗体を用いた実験も可能になり得る(例えば、二値オン/オフバーコードを有する10個の質量チャネルを使用すると、210=1024個の利用可能な染色チャネルが得られる)。
【0497】
電子ビームによる直接イオン化の概要
このセクションでは、パルス電子源を使用して、既に真空中にある試料をアブレーションおよびイオン化し、次いで得られたイオンを質量分析器に直接加速する代替構成について説明する。電子パルスを生成するのに十分な速さの電子機器により、この概念におけるレーザの必要性が排除され、製品の追加のコスト削減につながる可能性がある。
【0498】
例えば、IMCに使用されるLA-ICP-MSシステムでは、大気圧に近いヘリウム/アルゴン環境でレーザを使用して試料をアブレーションする。アブレーション事象は、レーザ源(長パルス持続時間UVレーザまたはフェムト秒レーザ)の選択に応じて、本質的に熱的または非熱的であり得る。どちらの方法でも、アブレーションプロセス中に形成されるプラズマは、アブレーションされた雲の密度、ならびに大気圧でのキャリアガスとの長時間の接触のために急速に中和される。次いで、真空インターフェースを有するICPを使用して、アブレーションされた材料を再イオン化し、イオンをサンプリングする。
【0499】
分析物イオンをサンプリングする代替方法は、局所的なプラズマを生成し、このプラズマから分析物イオンを質量分析器に直接注入することによって、アブレーションの中和を防止することである。本発明者は、中和を防止するために、アブレーション事象中に試料が真空環境にある必要があり、アブレーションプラズマが十分にまばらであり、中和が停止され、プラズマが「凍結」されるのに十分迅速に膨張する必要があることに気付いた。これは、アブレーション体積を小さく保つ必要があることを意味する。典型的なレーザアブレーション体積は、約1×1×1μm(本発明者のHTIプラットフォーム)以上(地質試料などのLA-ICP-MS)である。プラズマ中の低中和度を確実にするための適切なアブレーション体積を100×100×100nm以下と推定することができる。フェムト秒レーザ誘起分解分光法(fs-LIBS)に関する文献は、しばしばLIBSプロセスをプラズマ進化として記載していることに留意されたい。LIBSプラズマは最終的に冷却され、イオンが中和され、複雑な分子がLIBS発生の最終段階で形成される。このシーケンスは、アブレーションによって生成された中性粒子が多すぎ、プラズマが冷めるにつれて衝突し続けるために起こる。さらに、小さい体積内の荷電粒子が多すぎ、正および負の荷電粒子間の引力が、アブレーションプルーム内のイオンに作用する他のすべての力に打ち勝つことができる。一定のイオン化度の場合、プラズマプルーム内のイオンの数は、ピクセルサイズの立方乗程度に減少する。同じ三乗則が、アブレーションされたプルーム中の中性種の数に適用される。したがって、ナノスケールで生成されたLIBSタイプのプラズマは、中和せずに質量分析器に直接サンプリングできる分析イオンの供給源となり得る。言い換えれば、ナノスケールアブレーションに由来するプルームは、「凍結」プラズマとしてサンプリングすることができる。そして、プラズマを正粒子と負粒子に分離し、正イオンを質量分析器で高効率に検出することができる。古典的なLIBSでは、LIBSの主要な情報源である不十分な光信号のためにそこに行く動機がないため、100nm(またはそれ以下)の空間分解能でアブレーションされたピクセルのトピックは未調査のままである。本発明の進歩性は、質量分析器へのイオンの直接サンプリングと組み合わせて、電子パルスによって引き起こされるナノスケールアブレーションから生成されたLIBSタイプのプラズマを使用することである。プラズマからのイオンがプラズマ中の電子から分離すると、それらを分析することができる。対応するピクセルからのイオンパケットの広がりを最小限の時間で、イオンの抽出およびイオンの動作を容易にするために、試料は、アブレーション事象中に真空環境または比較的低い圧力にある必要がある。真空は、電子ビームパルスが試料に送達されるためにも必要である。
【0500】
局所熱平衡(LTE)の状態でプラズマを生成することが有利であり得る。この条件は、従来のICP-MSにおけるプラズマと並行している。LTEプラズマが有用である理由は、イオン化効率がプラズマの温度および所与の元素のイオン化ポテンシャルに依存するようになるからである。約7000Kの温度では、イオン化度は、質量サイトメトリのためのMaxPar試薬に使用される元素の大部分について90%を超える。同時に、炭素、水素および酸素などの最も豊富な生物学的元素のイオン化度は、約数パーセントのままである。したがって、膨張するプラズマ中の荷電粒子の量はかなり低いままであり、これはプラス粒子とマイナス粒子へのプラズマ分離に役立つ。
【0501】
プラズマの温度は、パルス電子ビームによってアブレーション体積に蓄積されたエネルギーの量と共に上昇する。したがって、電子パルスの総電荷(またはビームの他のパラメータ)を増加させることによってプラズマの温度を調整して、所望のイオン化度および最適なプラズマ破壊を達成することができる。なお、非熱プラズマは、この用途にも作用することができる。非熱プラズマのイオン生成挙動を予測することを困難にするだけである。実験およびモデリングは、非熱プラズマによるイオン化のための最適条件を開発するための指針として使用することができる。パルス持続時間が長くなると、熱に近いプラズマになることが起こり得る。しかし、より短いパルス持続時間が熱プラズマをもたらすことも起こり得る。技術的観点から、ビーム内の空間電荷による電子の反発を回避するために、より長い電子パルスで動作する方が容易であり得る。しかしながら、プラズマの滞留時間によって課されるパルス持続時間には緩やかな上限がある。電子パルスは、プラズマを試料から遠ざけるために必要な時間よりも短い必要がある。
【0502】
熱プラズマ中の原子の平均速度は、プラズマの温度および原子の質量から計算することができる。これは、アブレーションされている固体から真空中にプラズマが膨張し始める速度であり、7000Kの炭素原子では約3000m/sである。この速度では、プラズマは10psで30nmの距離をカバーする。したがって、10psは、プラズマを加熱するために依然として使用することができる電子パルスの最大持続時間の推定値となる。約10psより長いパルス持続時間は、電子エネルギーをプラズマエネルギーに変換するのに効率的ではない。
【0503】
いくつかの電子ビームは、直径10nmのスポット(またはそれ以下)に日常的に集束させることができる。この種の集束は、電子顕微鏡にその高い空間分解能を与える。
【0504】
7000Kの所望の温度でプラズマを生成するのに必要なビームパラメータは、以下のように計算することができる。
【0505】
使用される電子エネルギーは、試料の厚さ(約30nmが提案される)と相関し得る。個々の電子のエネルギーは、電子エネルギーの大部分が試料内で失われるように十分に低く選択することができる。したがって、(電子顕微鏡で一般的な)30keVまたは100keVエネルギーを有する電子は、軟質材料への浸透範囲が1マイクロメートル以上のスケールであるため、最良の選択ではない。この範囲では、最初の30nmでエネルギーの3%のみが失われる可能性があり、これは試料のアブレーションに利用可能なエネルギーの程度である。1~2keVなどの著しく低いエネルギーを有する電子は、より短い範囲(試料の厚さに匹敵する)を有し、この用途により適している可能性が高い。電子ビームをより低いエネルギーで動作させることはまた、機器のための電子機器のコストを低減する。
【0506】
試料におけるアブレーションおよびプラズマ形成に必要なパルスの総エネルギーは、エネルギーバランスから推定することができる。10×10×10nmのアブレーション体積を仮定すると、原子が0.1nm離れていると仮定して、そのような体積中の原子の数を推定することができる。したがって、アブレーションを受けた体積は、3次元すべてで100×100×100個の原子を有する。これは合計100万個の原子になる。結合を破壊し、原子を7000Kまで加熱するためには、各原子当たり約2eVを供給する必要がある。したがって、所望のプラズマを生成するのに必要なエネルギーの総量は2MeVである。入ってくる電子のエネルギーがわずか50%の効率で利用され得ることを考慮すると、電子ビームの総エネルギーは4MeVになる。各電子は2keVを運ぶので、アブレーションを引き起こすためにパルスは2000個の電子を含む必要があり得る。この大きさのパルスが10ps以内に到達すると、32μAの電子電流が直径10nmのスポットに集中する。
【0507】
このレベルの電子電流およびこの電子速度では、空間電荷効果はかなり小さいはずである。より大きな領域をアブレーションする必要がある場合、電流は領域と共に増加し、空間電荷効果が増大し、顕著になる可能性がある。したがって、電子ビームの最適サイズは直径10nmであり得る。はるかに狭いビームは製造が困難であり、1~2keVのエネルギーで試料に入ると、いずれにせよ10nmの体積に広がる。
【0508】
ピーク電流および空間電荷効果の観点から、パルスをより長く拡散することが有益である。しかし、ビームの持続時間は、プラズマが膨張するのにかかる時間よりも長くすることはできない。したがって、最適なパルス持続時間は約10psである必要がある。
【0509】
電子ビームの10nmサイズは、抗体の10nmサイズとよく一致する。したがって、所与のアブレーション事象において、少数の抗体しか調べることができない。その事象からの信号は、いくつかの金属タグから生成された信号を超えない。これは、そのようなシステムのダイナミックレンジの上限がピクセルあたりわずか数コピーに低減されることを意味する。これにより、イオン検出システムを簡素化することができる。
【0510】
プラズマイオン化が効率的にサンプリングされ、タグ付け試薬がほぼ100%でイオン化される場合には、これは、イオン経路を通るイオンのほぼ100%の効率的な透過を仮定して、検出器で100個のイオンを生成する。約100%の効率的な透過のためのイオン光学設計は、プラズマから出現するイオンビームのコンパクトな位相空間体積によって容易になる。したがって、個々のタグは、ノイズから容易に認識可能な検出事象を生成することができる。したがって、抗体の単一コピー検出は標準的な動作モードになる。これは、いくつかの理由で質量サイトメトリの顧客にとって価値が高い。すなわち、抗体を高い忠実度で計数することができ、それらのそれぞれの位置は完全に特徴付けられ、その後に、質量タグをバーコード化して読み出しチャネルの数を増やすことができる。
【0511】
質量分析器の考慮事項
どの手法を使用してアブレーション体積を適切なサイズに縮小するかにかかわらず、イオンを試料から直ちに加速し、質量分析器に注入する必要がある。これは、試料キャリアが導電性であることを必要とする可能性が高い(例えば、ITOコーティングされた顕微鏡スライドを使用するか、またはグラフェンコーティングなどの本発明者の分析物イオンチャネルに現れない低質量原子で作られた導電性コーティングを使用する)。
【0512】
多重化マルチチャネル検出を伴う磁気セクタ質量分析器、パルス抽出を伴わないTOF質量分析器、またはパルス抽出を伴わないTOF質量分析器など、イオン光学の様々な構成を使用することができる。パルス抽出を伴うTOFの場合、パルスを電子ビームの発射と同期させることができる。パルス抽出の目的は、MALDI質量分析器の技術分野で実施されているように、機器の質量分解能を改善することであり得る。そこで、この技術は遅延抽出という名称で呼ばれている。
【0513】
本発明者の現在のICPベースの機器に対する提案されたイオン化方法の利点は、キャリア/プラズマガスなどからのバックグラウンドイオンが存在しないため、分析器の質量範囲をより低い質量に拡張できることである。炭素+イオンなどの高輝度イオン種は、この方法のイオンビーム中に存在するが、TOFまたは磁気分離に基づいて除去することができる。一方、分子イオンおよびクラスタはデータに現れる可能性が高く、本発明者の現在の機器と比較して分析が複雑になる。分子イオンおよびクラスタの大部分は、元素タグの関心のある質量範囲外の質量範囲に現れる。したがって、それらもまた、適切な質量分析フィルタリングによって除去することができる。代替として、分子イオンおよびクラスタは、質量分析法の分野で知られている手段によってイオン断片化を誘導することによって抑制することができる。
【0514】
さらに、アブレーション部位から離れてイオンを直ちに加速することにより、質量分析器におけるイオンパルスの持続時間は非常に短くなり、これは、本発明者の現在のIMC(ハイペリオン)機器と比較して、TOFでは最大数十kHzまたは数百kHz、磁気セクタ機器では最大100MHzのスキャン速度の大幅な改善が可能であることを意味する。磁気セクタ機器の場合、制限要因は検出チャネルにおけるパルス持続時間であり得る。磁気セクタ機器のイオン光学系は、検出器表面で10nsのスケールのイオンパルス持続時間を維持するように設計することができる。これは、プラズマ膨張によって導入されるエネルギーの広がりに起因する補償を含むようにイオン光学系を必要とする場合がある。検出器において狭いビームパルスを維持するTOF技術とマルチチャネル磁気セクタ技術とを融合するクロスオーバーイオン光学技術は、そのような高い取得速度で動作するために適用することができる。
【0515】
電子パルスの生成
電子パルスは、1~2keVのスケールのエネルギーを有する電子を生成する必要がある。最適なパルス持続時間は約10psである。プラズマを生成するために必要なパルス中の電子数は2000から20000程度である。電子エミッタまたはビーム制限開口部のサイズは、放出されたイオンのエネルギー分布が10nmのスポットサイズへのビームの再集束を容易にすることを条件として、1マイクロメートルのオーダーとすることができる。ショットキー電子エミッタは、このタスクによく適し得る。10ps幅のパルスを生成するには、超高速パルス電子回路が必要になる。より長い電子パルスをエミッタから抽出し、次いで抽出パルスの印加によって圧縮することができ、同様の技術はTOF質量分析器における飛行時間集束を容易にする。あるいは、光カソードから10psの電子パルスを生成することができる。ピコ秒またはフェムト秒レーザを1マイクロメートルのスポットに集束させて電子を放出することができる。GaAsまたは負電子親和力(NEA)を有する他の材料を使用して、エミッタとして機能させることができる。
【0516】
電子パルスは、荷電粒子光学素子-電子ビーム対物レンズを使用して試料に集束することができる。この素子は、磁気集束または静電集束を使用することができる。静電集束は、1~2keVの電子エネルギーで動作するためのより安価で簡単な選択肢であり得る。静電電子ビーム対物レンズの設計はまた、プラズマからイオンを抽出する浸漬場をサポートする必要がある。一方、磁気集束は依然として抽出場を含むことができるが、電子とイオンとの間の質量の大きな差があるため、磁気対物レンズは主に電子に作用するが、第1の近似に対するイオン軌道は磁場の影響を受けない。これにより、対物レンズの設計を単純化することができる。
【0517】
電子の経路は、イオン光学分野で公知の方法を使用してイオンの経路から分離することができる。例えば、電子ビームは、イオンが直線軌道をたどり続ける間に磁場によって偏向され得る。
【0518】
試料の考慮事項
アブレーション体積は、本発明者の標準プラットフォームと比較してはるかに小さいため、レーザアブレーション事象当たりの分析物イオンの数は大幅に減少する。エンドツーエンド検出効率が比例的に改善されない場合、これは問題となる可能性が高い。真空インターフェースの欠如、およびTOFまたは磁気質量分析器を使用する可能性のために、エンドツーエンド検出効率は著しく高くなり得る。一方、分析物イオンのイオン化効率は、その膨張段階中のプラズマのいくらかの再結合のために、ICPベースの機器と比較して低下する可能性がある。いずれの方法でも、この技術は、体積当たりの分析物イオンの数を増加させる新しい染色技術から明らかに利益を得るであろう。
【0519】
別の考慮事項は、アブレーション深さが短いことは、約100nm以下の薄い試料を使用する必要があることを意味することである。これらは、電子顕微鏡法で日常的に使用されている。これらの試料は樹脂包埋されており、生体試料の不均一性にかかわらず、寸法安定性およびアブレーションしきい値の再現性のために有益である可能性が高い。
【0520】
単一の試料に対して多数の連続切片を調製し、次いで提案された方法によって迅速に読み出すことができる。これにより、この方法は生体切片の3D分析によく適している。実際、1Mpixel/sおよび100nmピクセルサイズでは、100×100マイクロメートルの面積を1秒で読み取ることができ、1000秒で1000層で3次元を読み取ることができ、20分未満で100×100×100マイクロメートルの体積の完全な3D画像が得られ、多数のチャネルが同時に検出される。
【0521】
最後に、単一コピー検出のレベルでの機器の感度および個々の抗体をイメージングする機器の能力は、質量タグバーコードによる個々の抗体のタグ付けを容易にする。これにより、膨大な数のタグ付けオプションへのアクセスが可能になり、1000種類の異なる抗体を用いた実験も可能になり得る(例えば、二値オン/オフバーコードを有する10個の質量チャネルを使用すると、210=1024個の利用可能な染色チャネルが得られる)。
【0522】
直接イオン化システムおよび方法のさらなる態様
直接イオン化イメージング質量分析法のシステムおよび方法は、以下に記載される代替または追加の態様を有してもよい。
【0523】
例えば、システムは、試料が分析に供されるときに試料が配置される構成要素である試料チャンバを含んでもよい。試料チャンバは、試料(典型的には、試料は、顕微鏡スライド、例えば組織切片、薄いEM切片、細胞の単層または個々の細胞などの試料キャリア上にあり、例えば、細胞懸濁液が顕微鏡スライド上に滴下され、スライドがステージ上に置かれる)を保持するステージを含んでもよい。サンプリングおよびイオン化システムは、例えば、試料からの材料の除去を引き起こすプロセスの一部として、元素イオンに変換される試料チャンバ内の試料から材料を除去するように作用する(除去された材料は本明細書では試料材料と呼ばれる)。
【0524】
次いで、イオン化された物質は、検出器システムである第2のシステムによって分析される。検出器システムは、例えば質量分析法に基づく分析装置の質量検出器など、決定されるイオン化試料材料の特定の特性に応じて異なる形態をとることができる。
【0525】
特定の態様では、サンプリングおよびイオン化システムは、放射(レーザまたは電子ビームなど)を試料のスポット上に導き、そのスポットで材料を原子化およびイオン化して元素イオン(すなわち、原子イオン)を形成するプラズマを形成する放射源を含む。
【0526】
特定の態様では、レーザスキャンシステムは、アブレーションされる試料上にレーザ放射を導き、そのスポットにプラズマを形成する。レーザスキャナは、慣性がはるかに低いかまたは全くないために、試料ステージよりも高速に移動する(すなわち、より速い応答時間を有する)ので、試料上の離散スポットのアブレーションをより迅速に実行することが可能になり、解像度を失うことなく単位時間当たりにかなり大きな領域をアブレーションすることが可能になる。さらに、レーザ放射が向けられるスポットの急速な変化は、例えば、レーザスキャナシステムを使用して試料上の位置に向けられた急速に遷移するレーザ放射のパルス/ショットのバーストによって、不均一な形状の細胞全体がアブレーションされ、次いでイオン化されて単一の材料のクラウドとして検出され、単一細胞分析を可能にするように、ランダムパターンのアブレーションを可能にする。位置は、典型的には、隣接する位置、または互いに近い位置である。
【0527】
次いで、試料材料のイオンが検出器システムに送られる。検出器システムは多くのイオンを検出することができるが、これらの一部は、自然に試料を構成する原子のイオンであってもよい。いくつかの用途、例えば、地質学的または古細菌学的用途などにおける鉱物の分析では、これで十分であり得る。
【0528】
場合によっては、例えば生体試料を分析する場合、試料の天然元素組成は適切に情報価値がないことがある。これは、典型的には、すべてのタンパク質および核酸が同じ主要構成原子から構成されるため、タンパク質/核酸を含有する領域を、そのようなタンパク質または核酸材料を含有しない領域から識別することは可能であるが、特定のタンパク質を他のすべてのタンパク質から区別することは不可能であるからである。しかしながら、通常の条件下で分析される材料中に存在しない、または少なくとも有意な量で存在しない原子(例えば、希土類金属などの特定の遷移金属原子、さらなる詳細については、以下の標識付けのセクションを参照)で試料を標識付けすることによって、試料の特定の特性を決定することができる。IHCおよびFISHと同様に、検出可能な標識は、特に、試料上または試料中の分子を標的とする抗体、核酸またはレクチンなどのSBPの使用によって、試料上または試料中の特異的標的(固定細胞またはスライド上の組織試料など)に付着させることができる。イオン化された標識を検出するために、試料中に自然に存在する原子からイオンを検出するための検出器システムが使用される。検出された信号を、それらの信号を生じさせた試料のサンプリングの既知の位置に連結することによって、各位置に存在する原子、天然の元素組成および任意の標識原子(例えば、参考文献2、3、4、5を参照)の両方の画像を生成することが可能である。試料の天然の元素組成が検出前に枯渇している態様では、画像は標識原子のみの画像であってもよい。この技術は、多くの標識の並行した分析(多重化とも呼ばれる)を可能にし、これは、本明細書に開示する装置および方法におけるレーザスキャンシステムの適用により速度が向上した生体試料の分析において大きな利点である。
【0529】
したがって、本発明は、生体試料などの試料を分析するための装置を提供し、装置は、
(i)試料から材料を除去し、前記材料をイオン化して元素イオンを形成するためのサンプリングおよびイオン化システムであって、試料スポットにプラズマを形成するための放射源(レーザ源など)と、任意選択で、レーザスキャンシステムおよび/または固体支持体(例えば、試料キャリア、透明スライド、電子顕微鏡メッシュ、および/または並進可能な試料ステージなど)と、を含む、サンプリングおよびイオン化システムと、
(ii)前記サンプリングおよびイオン化システムから元素イオンを受け取り、前記元素イオンを検出するための検出器と、を含む。
【0530】
高スループットと自動化イメージングの組み合わせ
高スループットおよび自動化された試料調製、セグメント化、ならびに迅速な取得の上記の実施形態は、単独でまたは任意の適切な組み合わせで、本出願の範囲内である。
【国際調査報告】