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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】pH値調整剤を備えた失禁用品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/15 20060101AFI20230516BHJP
   A61F 13/496 20060101ALI20230516BHJP
   A61F 13/534 20060101ALI20230516BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20230516BHJP
   A61F 13/49 20060101ALI20230516BHJP
   A61F 13/47 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
A61F13/15 145
A61F13/496
A61F13/534 100
A61F13/53 300
A61F13/49
A61F13/47 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538088
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086915
(87)【国際公開番号】W WO2021123085
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】19218866.2
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500054765
【氏名又は名称】パウル・ハルトマン・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】バーレ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】エスケーラ,ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ガウス,エンノ
(72)【発明者】
【氏名】ヒダルゴ,ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ケッセルメイアー,リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】スタルテル,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】スウェレフ,マキシミリアン
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA12
3B200BA14
3B200BB17
3B200BB21
3B200BB30
3B200CA03
3B200CA08
3B200CA11
3B200DA16
3B200DB02
3B200DB23
3B200DF07
3B200EA18
(57)【要約】
本発明は、少なくとも部分的に液体透過性のトップシートと、実質的に液体不透過性のバックシートと、そのトップシートとそのバックシートとの間に配置された吸収体と、を備えた身体排泄物を受容するための失禁用品に関し、その失禁用品は、トップシートとバックシートとの間において少なくとも部分的にpH調整剤を備え、そのpH調整剤がクエン酸一ナトリウム又はクエン酸二ナトリウムを有することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体排泄物を受容するための失禁用品であって、
少なくとも部分的に液体透過性のトップシートと、
実質的に液体不透過性のバックシートと、
前記トップシートと前記バックシートとの間に配置された吸収体と、を備えた失禁用品において、
前記失禁用品は、前記トップシートと前記バックシートとの間において少なくとも部分的にpH調整剤を備え、
前記pH調整剤がクエン酸一ナトリウム又はクエン酸二ナトリウムを有することを特徴とする、失禁用品。
【請求項2】
前記pH調整剤はクエン酸三ナトリウムを有する、請求項1に記載の失禁用品。
【請求項3】
前記pH調整剤はクエン酸一ナトリウムから成る、請求項1に記載の失禁用品。
【請求項4】
前記pH調整剤はクエン酸二ナトリウムから成る、請求項1記載の失禁用品。
【請求項5】
前記pH調整剤は粒子形状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の失禁用品。
【請求項6】
前記pH調整剤の少なくとも50重量%が、10~2000μm、特に50~1200μm、更に特に80~800μmの粒子サイズを有する、請求項5に記載の失禁用品。
【請求項7】
前記pH調整剤の量が、10~100g/m、特に20~80g/m、更に特に25~60g/mの値である、請求項1~6のいずれか1項に記載の失禁用品。
【請求項8】
前記吸収体は、高吸水性ポリマー(SAP)を有する少なくとも1つの貯蔵層を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の失禁用品。
【請求項9】
前記貯蔵層は実質的に前記pH調整剤を含まない、請求項8に記載の失禁用品。
【請求項10】
前記失禁用品は、前記トップシートに直接面する前記吸収体の層を形成する液体受容層を備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の失禁用品。
【請求項11】
前記pH調整剤は、実質的に、前記液体受容層と前記バックシートに面する吸収体層との間に配置される、請求項10に記載の失禁用品。
【請求項12】
前記失禁用品は、少なくとも2回、特に少なくとも3回の排尿にわたって、皮膚に優しいpH値を維持する、請求項1~11のいずれか1項に記載の失禁用品。
【請求項13】
前記失禁用品の皮膚に面する表面の前記pH値が、4.8~6.5、特に5.0~6.2、更に特に5.2~6.0、更に特に5.3~5.8、更に特に5.4~5.6の値である、請求項12に記載の失禁用品。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の失禁用品のアレンジメントであって、
前記アレンジメントは、少なくとも2つ、特に少なくとも3つ、更に特に少なくとも4つ、更に特に少なくとも5つ、更に特に少なくとも6つの失禁用品を備え、
前記アレンジメントの少なくとも第1の失禁用品と第2の失禁用品とが、
サイズ、
ISO11948-1(1996)による吸収容量、
g/mにおけるpH調整剤の量、
失禁用品当たりのpH調整剤の総量、
吸収体層の数、
から成る群から選択される少なくとも1つの特徴において異なる、失禁用品のアレンジメント。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の失禁用品のアレンジメントであって、
前記アレンジメントは、少なくとも2つ、特に少なくとも3つ、更に特に少なくとも4つ、更に特に少なくとも5つ、更に特に少なくとも6つの失禁用品を備え、
前記アレンジメントの少なくとも第1の失禁用品と第2の失禁用品とが、
失禁パッド、
閉鎖機構付きの開放型失禁用おむつ、
閉鎖型失禁用おむつ、
患者用シーツ、
から成る群から選択される異なる失禁用品である、失禁用品のアレンジメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大人による好ましい使用のための、pH値の調整のための手段を備えた、身体排泄物の受容のための失禁用品、及びそのような失禁用品のアレンジメントに関する。
【背景技術】
【0002】
失禁用品の継続使用においてよく問題になるのは、例えば尿のような身体排泄物と皮膚との長時間の接触によって生じる皮膚刺激又は皮膚炎症である。特に高齢の失禁者においては、会陰又は生殖器周辺の領域における、尿のような刺激物との接触によって生じる皮膚炎、いわゆる失禁関連皮膚炎(IAD)が多く発症する。その際、アルカリ性の尿に触れたときの皮膚のpHの変化が非常に重要である。高齢者におけるIADのひんぱんな発生は、加齢に伴う皮膚のバリア機能の低下、及び皮膚の再生能力の低下と相関している。更に、治療又は加齢によって失禁に悩む人は、多くは介護者によるサポートに依存している。その際、特に夜間においては、当人の睡眠を妨げないようにする必要性が、排尿後に速やかに交換する目的で使用する失禁用品を定期的にチェックすることの妨げになっている。そのため、皮膚は身体排泄物と長時間接触することが多い。もし排尿のたびにすぐに失禁用品を交換する必要がないならば、排尿の間隔が短く排尿回数が多い人にとっては、生活の質の向上、またコスト面においても有利である。
そのため、特に排尿回数が多い場合又は交換間隔が長い場合に、皮膚適合性を向上させた失禁用品が求められている。
【0003】
大人用の失禁用品は、長い間知られており、多くの場合、少なくとも部分的に液体に対して透過性のトップシートと、液体に対して実質的に不透過性のバックシートと、トップシートとバックシートの間に配置された吸収体とを有している。この失禁用品は、例えば、体に直接当てる失禁製品として、又は、吸収性のある失禁パッドとして、原理的には様々な方法において形成可能である。
従来技術において、pH値制御のための手段を有する失禁用用品を提供するアプローチが存在する。特許文献1には、例えば、所定の混合比におけるクエン酸及びクエン酸ナトリウムのような、弱酸又は弱塩基、及びそれぞれの対応する塩を含む緩衝液の使用が示されている。クエン酸ナトリウムという用語は、一般の専門用語において、クエン酸の三塩基性ナトリウム塩と呼ばれ、クエン酸三ナトリウムとしても知られている。
本発明者らは、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの緩衝混合物の使用には以下の不具合があることを認識した。すなわち、均質な混合物の製造はプロセス技術的に労力がかかり、製造プロセスにおける個々の成分の少なくとも部分的な分解及び偏在が生じやすい。このため、通常、高速製造機において生産される失禁用品に、不具合のある、規格に適合しない成分が生じる可能性がある。これは、緩衝混合物の成分の量及び/又は分布が、すなわち、用品の目的にかなった使用の際の望ましい緩衝効果の確保が、個々の失禁用品の間又は失禁用品の中において、強い変動にさらされるというリスクを伴う。クエン酸の局所的な蓄積のリスクは、失禁用品のpH値がこの領域において強い酸性反応を示すこと、すなわち、この領域のpH値が皮膚の健康に良い値よりも著しく低下することを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、本発明の課題は、これらの不具合を克服することにある。
本発明の更なる課題は、異なるニーズを有する使用者に、皮膚により優しい失禁用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、少なくとも部分的に液体に対して透過性のトップシートと、実質的に液体に対して不透過性のバックシートと、トップシートとバックシートとの間に配置された吸収体と、を備えた、身体排泄物を受容するための失禁用品によって解決される。その失禁用品は、トップシートとバックシートとの間において少なくとも部分的にpH調整剤を備えおり、そのpH調整剤は、クエン酸一ナトリウム又はクエン酸二ナトリウムを有することを特徴とする。したがって、pH調整剤は、好ましくは、クエン酸一ナトリウム又はクエン酸二ナトリウム、或いは、クエン酸一ナトリウム及びクエン酸二ナトリウム、のいずれかを有し得る。
【0006】
本発明による失禁用用品を使用することによって、複数回の排尿にわたって、比較的均一なpH値を達成することができる。クエン酸一ナトリウムを使用する際の更なる利点は、例えば、クエン酸一ナトリウムは、例えばクエン酸よりも吸湿性が低く、したがって、使用前の失禁用品への湿気の望ましくない導入が回避され得るということである。クエン酸一ナトリウムは、更なる利点として、例えばクエン酸よりも注ぎやすく、それによって、クエン酸一ナトリウムは容易に投与される。
【0007】
バックシートは、特に、通気性がありながら実質的に水密なフィルム材料によって形成することができる。トップシートは、少なくとも部分的に、好ましくは、不織布(Vlies)ベースの少なくとも部分的に液体透過性の材料から形成されている。
【0008】
好ましい一実施形態においては、pH調整剤は更にクエン酸三ナトリウムを有し、したがって、pH調整剤は、好ましくは、クエン酸一ナトリウムとクエン酸三ナトリウム、又は、クエン酸二ナトリウムとクエン酸三ナトリウム、又は、クエン酸一ナトリウムとクエン酸二ナトリウムとクエン酸三ナトリウムを有し得る。これによって、クエン酸を使用した場合のような強酸性領域が生じるリスクがなく、用品の所望の使用期間又は吸収容量に応じて、失禁用品の緩衝効果を細かく調整することができる。
【0009】
好ましくは、pH調整剤は、そのような場合、それぞれのクエン酸塩の均質な混合物を有する。そのことは、pH調整剤の緩衝作用における局所的な差を避け得るという利点を有する。
【0010】
クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、及びクエン酸三ナトリウムという用語は、それぞれの物質の非水和物形態と水和物の両方を含む。
【0011】
好ましい一実施形態において、pH調整剤はクエン酸一ナトリウムから成る。
更に好ましい一実施形態においては、pH調整剤はクエン酸二ナトリウムから成る。
製造プロセス中において、異なる成分の混合、又は均一な混合状態を維持する必要がないため、pH調整剤として1つの成分のみを使用することによってプロセス上の利点がある。加えて、失禁用品のpH調整剤含有領域を越えて均一な緩衝効果が、更にサポートされる。
【0012】
pH調整剤が粒子形状に形成されている場合、それは有利であることが実証されている。
好ましくは、少なくとも50重量%のpH調整剤は、10~2000μm、特に50~1200μm、更に特に80~800μmの粒子サイズを有する。
基本的に、より小さな粒子サイズ又はより大きな粒子サイズのpH調整剤も入手可能であり、使用可能である。
【0013】
しかしながら、好ましい粒子サイズは、そのようなサイズの粒子が、使用の際に排尿液のような身体排泄物によって、粒子サイズの小さいpH調整剤よりもゆっくりと溶解するという利点を有する。そのため、使用中にpH調整剤がそれほど早く洗い落されず、使用者の皮膚に面した失禁用品の表面におけるpH調整効果が長く維持される。
【0014】
更に、好ましい粒子サイズのpH調整剤は、製造プロセスにおける粉塵の形成及びそれによる材料の損失が少ないため、例えば微粉末のpH調整剤よりも、特に高速運転の機械により容易に投与され、且つ失禁用品に組み込まれる。
他方、このサイズの粒子は、例えば、より大きい粒子サイズを有する粒状物よりも失禁用品の使用中に触覚的に知覚されにくく、それによって失禁用品の着用快適性を向上させるという利点も提供する。
【0015】
粒子形状のpH調整剤の代替として、pH調整剤はまた、溶解した形態において、特に水性又はアルコール性溶液として、特に噴霧又は浸漬、及び任意にその後の少なくとも1つの吸収体層の乾燥によって失禁用品に導入され得る。
更なる代替として、pH調整剤によって前処理された、追加の、特に平面的な材料、特に不織布材料又はセルロース材料が、失禁用品に含まれてもよい。好ましくは、このような平面的な材料を、吸収体の液体受容層と貯蔵層との間に配置することができる。
【0016】
好ましい一実施形態においては、pH調整剤の量は、10~100g/m、特に20~80g/m、更に特に25~60g/mの値である。その際、pH調整剤の量は、pH調整剤によって覆われた平板状失禁用品の面積に関係する。上記のpH調整剤の量指示は、無水pH調整剤、例えば非水素化クエン酸一ナトリウムに関するものと解される。pH調整剤が1種以上の水和物、又は後述のように5%以上、特に10%以上の添加剤を含む場合、含有する純粋及び/又は非水素化pH調整剤の総量が上記好ましい量に対応するように、pH調整剤の総量をg/mにおいて調整する。
好ましくは、クエン酸一ナトリウム又はクエン酸二ナトリウム又はクエン酸三ナトリウムは、実質的に純粋な形態において、特に少なくとも90%、更に特に少なくとも95%、更に特に少なくとも98%、更に特に少なくとも99%、更に特に100%の純度を有する状態において使用する。これによって、失禁用品の使用時に、他の物質の残留によって引き起こされる皮膚刺激を最大限に回避することができる。
しかしながら、pH調整剤が、1種以上の添加物質、例えば仕上げ(Konfektionierung)剤及び/又は調整剤を少量有することも考えられ得る。その仕上げ剤及び/又は調整剤は、離型剤、安定剤、ダスト結合剤、固結防止剤、湿潤剤、凝固剤、抗凝固剤、接着剤又は表面活性剤、又は抗菌物質、着色剤又は香料、又はpH指示薬のような物である。このような場合、pH調整剤の総量に占める1種以上の他の物質の割合は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更に好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満の値である。
【0017】
失禁用品の吸収体は、身体排泄物、特に体液、特に尿を受容して恒久的に貯蔵するのに適しており、それを意図している。
そのために、吸収体は有利には、好ましくは高吸水性ポリマー(SAP)を有する少なくとも1つの貯蔵層を含む。
代替的に、吸収体は、1つより多くの、特に少なくとも2つの貯蔵層を含み得る。
吸収体は、1つ以上の貯蔵層に1つ以上のチャネル(Kanaele)を含み得る。
吸収体は、長方形、三角形、楕円形、T字型、砂時計型、非対称型、又は、当業者が適当と考える他の形状に形成され得る。
【0018】
好ましい実施形態においては、吸収体は、5~100重量%、好ましくは10~95重量%、更に好ましくは15~90重量%、最も好ましくは20~80重量%の高吸水性ポリマー材料(SAP)を含んでいる。典型的には、SAP材料は、その重量の少なくとも15倍、特に20倍の0.9重量%食塩水を吸収することができる(NWSP242.0.R2(15)に従って測定)。
【0019】
SAP材料は、例えば、粒子形状、又は、繊維形状、又は、シート又は発泡体形状に形成され得る。
【0020】
吸収体の貯蔵層は、セルロース繊維(「フラッフ」)又はプラスチック繊維のような、他の材料を含み得る。更に、異なる材料、特に不織布材料から成る1つ以上の層を配置することによって吸収体の貯蔵層を形成することも考えられる。
【0021】
好ましい一実施形態によれば、貯蔵層は実質的にpH調整剤を含まない。
実質的にpH調整剤を含まないとは、吸収体のそれぞれの層、特に貯蔵層が、10g/m未満、特に7g/m未満、更に特に5g/m未満、更に特に2g/mのpH調整剤を含み、更に特にpH調整剤を含まないことを意味する。これによって、有利には、それぞれの層の、特に貯蔵層の、特に貯蔵層に好ましくは含まれるSAP材料の、機能障害の可能性を回避することができる。
【0022】
更に、バックシートに直接面する吸収体の層は、実質的にpH調整剤を含まないことが好ましい。バックシート側から失禁用品のより柔らかい触感が得られるため、有利には、特に身体に密着する失禁用品の場合、より高い着用快適性がもたらされる。粒子形状の材料が、実質的に液体不透過性のバックシート、特に吸収性用品の液体不透過性のバックシートフィルムを損傷し、用品の漏れにつながり得る研磨力を及ぼし得ることも、更に当業者には知られている。そのため、pH調整剤を、特に粒子形状のpH調整剤を実質的に含まない、バックシートに直接面する層は、製造プロセス中に又は失禁用品の使用中にバックシートフィルムが損傷するリスクを低減する、という利点を有する。
【0023】
更に、失禁用品がトップシートに直接面する吸収体の層を形成する液体受容層を含む場合、有利であることが実証されている。それによって、排尿中に発生した液体量を速やかに受容して、分配し、少なくとも1つの貯蔵層に移動させることができる。
【0024】
身体排泄物の迅速な受容及び分配のための層、いわゆる液体受容層又は分配層はこの専門分野においては既に知られており、典型的には繊維材料、特に不織布材料から構成されている。
繊維は、天然由来又は人工由来でもよく、及び、長さが決まっているもの(ステープルファイバ)、又は連続したもの(「エンドレス」)、又はインサイチュ(in-situ)形成されたものでもよい。繊維は、単一のポリマー又はポリマーブレンド(単一成分繊維)、或いは、複数の単一のポリマー、及び/又は、ポリマーブレンド(多成分繊維)から形成されてもよい。
多成分繊維は、複数の単一のセクションを含む断面を有し、そのようなセクションはそれぞれ異なるポリマー又はポリマーブレンドを含む。多成分繊維という用語は、2成分繊維を含むが、これに限定されない。多成分繊維の様々な成分は、繊維の断面全体にわたって実質的に異なる領域に配置され、繊維の長さにわたって連続的に延びている。多成分繊維は、任意の形状又は配列の2つ以上の異なる成分の部分領域を有する全体断面を有していてもよい。その部分領域は、例えば、同軸サブセクション、コア及びシースサブセクション、並置サブセクション、放射状サブセクション、島状サブセクション等を含む。
「コア/シース構造」を有する2成分繊維は、以下を含む断面を有する。すなわち、それぞれがポリマー又はポリマーブレンドから成る2つの個別のセクション。ここでシースポリマー又はシースポリマーブレンド成分は、コアポリマー又はコアポリマーブレンド成分の周りに配置される。
【0025】
不織布材料の面積重量は、通常、1平方メートル当たりのグラム数(g/m)によって表される。
【0026】
好ましい実施形態において、液体受容層は、多成分繊維、特に2成分繊維、更に特にポリエステルを有する2成分繊維、いわゆるBico/PES繊維を含む。多成分繊維、特に2成分繊維は、好ましくは、円形又は3葉形の断面を有する。
2成分系繊維における好ましい成分の組み合わせは、ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリエチレン(PE)、PET/ポリプロピレン(PP)、PET/ポリエステルコポリマー(CoPET)、ポリ乳酸(PLA)/ポリラクチドコポリマー(COPLA)、PLA/PE、及びPLA/PPである。
【0027】
代替として、化学的に修飾されたセルロース繊維、例えば架橋されたセルロース繊維から成る材料を液体受容層として使用することが専門分野において知られている。
また、液体受容層は、有孔フィルム又は発泡体などのような、他の材料を含み得る、又はそれから構成され得る。
【0028】
液体受容層は、吸収体の少なくとも1つの貯蔵層を実質的に完全に又は部分的にのみ覆うことができ、それによって、平らに横たわる失禁用品の長手方向及び/又は横方向において、吸収体の、少なくとも1つの貯蔵層及び/又はバックシートと直接面する層よりも実質的に同じ面積的広がり又は少なくとも部分的に小さい広がりを有することができる。好ましくは、液体受容層は、吸収体の、少なくとも1つの貯蔵層及び/又はバックシートに直接面する層と、その面積的広がりの5~100%、特に10~90%、更に特に15~80%、更に特に20~70%重なっている。
好ましくは、液体受容層は、少なくとも使用時に排尿液体が失禁用品と当たる領域に配置される。特に、流体受容層は、吸収体の横方向における中心軸上及びその領域において広がっている。
【0029】
好ましい一実施形態において、pH調整剤は、実質的に、液体受容層とバックシートに面する吸収体層との間に配置されている。特に、液体受容層とバックシートに面する吸収体層との間に、pH調整剤の少なくとも70重量%、更に特に80重量%、更に特に90重量%、更に特に95重量%が配置されている。
好ましくは、pH調整剤は、失禁用品の乾燥状態においてトップシートに接触せず、特に少なくとも70重量%、更に特に80重量%、更に特に少なくとも90重量%、更に特に少なくとも95重量%のpH調整剤が、トップシートに面する吸収体の層、特に液体受容層と、バックシートの方向に最も近く位置する吸収体の層との間に配置されている。
【0030】
そのことから、有利には、pH調整剤は、失禁用品の使用時に使用者の肌から離れる方向に向いた、液体受容層の表面上又は他の吸収体層に配置され、特に、使用者の肌と直接接触しないようにされる。
代替的には、pH調整剤は、実質的に、トップシートに面する液体受容層の表面とバックシートに面する吸収体層との間に、特に実質的に液体受容層内に配置され得る。
【0031】
その際、失禁用品の皮膚に面する表面のpH値が4.8~6.5、特に5.0~6.2、更に特に5.2~6.0、更に特に5.3~5.8、更に特に5.4~5.6の値である場合、有利であることが実証されている。失禁用品が、少なくとも2回の、特に少なくとも3回の排尿にわたって皮膚に優しいpHを維持する場合、有利である。
【0032】
上記の実施形態の有利な更なる展開において、本発明の範囲において、失禁用品のアレンジメントが含まれる。このアレンジメントは、少なくとも2つ、特に少なくとも3つ、更に特に少なくとも4つ、更に特に少なくとも5つ、更に特に少なくとも6つの失禁用品を備える。その際、そのアレンジメントの少なくとも第1の失禁用品と第2の失禁用品とが、サイズ、ISO11948-1(1996)による吸収容量、g/mにおけるpH調整剤の量、失禁用品当たりのpH調整剤の総量、吸収体層の数、から成る群から選択される少なくとも1つの特徴において異なる。
【0033】
特に成人による使用を意図した失禁用品当たりのpH調整剤の総量は、好ましくは0.2~3.0g、より好ましくは0.4~2.5g、更に好ましくは0.6~2.0gの値である。
【0034】
第1の失禁用品が、第2の失禁用品のそれぞれの値よりも少なくとも20%、特に少なくとも30%、更に特に少なくとも40%、更に特に少なくとも50%、更に特に少なくとも75%、更に特に少なくとも100%大きいそれぞれの値を有する場合には、好ましいアレンジメントの失禁用品は、g/mのpH調整剤の量において、又は、失禁用品当たりのpH調整剤の総量において、又は、ISO11948-1(1996)による吸収容量において、互いに異なっている。
【0035】
アレンジメントは、そのアレンジメントに属する失禁用品の具体的な構成によって、特に用品相互の関連又は関係によって生じる。アレンジメントは、全体のパックユニットの提示、及び/又は、好ましくは、失禁用品及び/又はそのパックに印を付けること、及び/又は、アレンジメントに属することを示す、互いの空間的又は内容的な近接さの提示のいずれかによって行われる。そのアレンジメントを形成する失禁用品は、好ましくは、1つの同一の製造業者に由来する。
1つのアレンジメントを形成する失禁用品は、ブランド名及び/又はサブブランド名のような、好ましくは、同一の製品識別を有する。
【0036】
例えば第1のサイズ及び第2のサイズのような、1つの特徴の第1の態様の失禁用品及び1つの特徴の第2の態様の失禁用品からなるアレンジメントは、少なくともそれぞれ1つのその代表を意味すると解される。また、1つの又はそれらを含むパック及びパックユニットは、複数の、1つの特徴の第1の態様のその失禁用品及び/又は1つの特徴の第2の態様のその失禁用品を含む。
【0037】
本発明の範囲において、更に失禁用品のアレンジメントが含まれる。そのアレンジメントは、少なくとも2つ、特に少なくとも3つ、更に特に少なくとも4つ、更に特に少なくとも5つ、更に特に少なくとも6つの失禁用品を備える。その際、そのアレンジメントの少なくとも第1の失禁用品と第2の失禁用品が、失禁パッド、閉鎖機構付きの開放型失禁用おむつ、閉鎖型失禁用おむつ、患者用シーツ、から成る群から選択される異なる失禁用品である。
【0038】
本発明の更なる特徴、詳細及び利点は、添付の特許請求の範囲、並びに、図面及び本発明の好ましい実施形態及び実施例の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明による失禁用品の実施例としての、閉鎖要素を有する開放型の失禁用おむつの概略的な平面図である。
図2a】SAP材料を含む貯蔵層と、液体受容層と、その間に配置されたpH調整剤とを備えた失禁用品の概略的な断面図である。
図2b】2つの貯蔵層と、SAP材料と、液体受容層と、その間に配置されたpH調整剤とを備えた失禁用品の概略的な断面図である。
図3】液体受容層に対する、pH値の表面測定のための測定点の位置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、参照符号17によって全体的に指示された本発明による失禁用品を、例示的に、大人用のいわゆるT字形状の閉鎖要素を備えた開放型の失禁用おむつを、縮尺に従わず概略的に示す。失禁用おむつ17は、体液を吸収する吸収体69を有し、参照符号65によって全体的に指示された主要部(シャーシ)を含む。本実施例においては、吸収体69は、SAP材料(図1においては図示せず)を含む少なくとも1つの貯蔵層70と、液体受容層71とを含む。本発明による失禁用おむつ17は、図2a及び図2bにおいて詳細に説明するように、実質的に、吸収体の、液体受容層71と少なくとも1つの貯蔵層70との間に配置されたpH調整剤72を含む。吸収体69は、2つの平坦な材料の間、詳しくは、おむつ主要部65の、少なくとも部分的に液体透過性のトップシート80と実質的に液体不透過性のバックシート81との間に配置されている。失禁用おむつ17において、失禁用おむつ17の長手方向73と横方向74とが区別可能であり、その際、後者は、失禁用おむつの装着状態において、使用者の腰部の周方向に対応する。主要部65は、前側長手方向端部83を有する前方領域82と、第1の後側長手方向端部66及び第2の後側長手方向端部67を有する後方領域64と、その間に配置された股領域84とを含む。股領域84のそれぞれの長手方向端部85に隣接して、主要部65はそれぞれの弾性部、したがって弾性脚開口部86を有する。これらの弾性脚開口部86は、図示の場合においては、トップシート80とバックシート81との間を走り、且つトップシート80及び/又はバックシート81にプレテンション状態において固定された弾性糸によって形成されている。その弾性糸は、弧状に湾曲し、したがって少なくとも一つの成分によって失禁用おむつ17の長手方向73に方向付けられている。
【0041】
T字型の失禁用おむつ17の場合には、主要部65の後方領域64において、第1の後側長手方向端部66を越えて横方向に延びる第1の弾性おむつ側部62と、第2の後側長手方向端部67を越えて横方向に延びる第2の弾性おむつ側部63とが失禁用おむつ17の横方向74に設けられている。それら弾性おむつ側部は、後側長手方向端部66又は67の領域における重なり領域87において、主要部65の後方領域64と、切り離されないように結合されている。これに対して、前方領域82には、おむつ側部は設けられていない。
【0042】
代替的な実施変形例においては、失禁用おむつをH字型の失禁用おむつとして形成することもでき、この場合、例えば国際公開第2005102241号パンフレットに示されるように、前方領域に好ましくはその両側部に、おむつ側部が追加的に形成される。更なる実施変形例として、閉鎖型の失禁用おむつも考えられ、その場合、好ましくは前方領域及び後方領域において、腹部又は背部部品がそれぞれ取り付けられ、これらは、例えば国際公開第2013171068号パンフレットに示されるように、失禁用おむつが腰部の周方向において環状に閉じられるように、腹部及び背部部品のそれぞれの横側の長手方向端部において一緒に結合されている。更なる実施変形例として、失禁用品17は、患者用シーツ又は失禁パッドとして形成されてもよい。
【0043】
T字型失禁用おむつ17の第1の弾性おむつ側部62及び第2の弾性おむつ側部63は、失禁用おむつ17の横方向74において自由であるそれらの端部88の領域に、それぞれ少なくとも1つの閉鎖要素44を有する。その閉鎖要素44は好ましくは矩形のフラップ(Lasche)の形態に形成され、製造者によってそれ自体に折り畳まれる。使用状態においては、失禁用おむつ17を使用者に装着するために、閉鎖要素44を開く、すなわち再び広げることができる。その際、第1の弾性おむつ側部62及び第2の弾性おむつ側部63は、主要部65の前方領域82と重なるようにされ、閉鎖要素44は、主要部65の前方領域82の、使用者から離れる方を向く側に、取り外し可能に付着して取り付けられる。
【0044】
図2a及び図2bは、それぞれ、例示的な態様で、それぞれの失禁用品18a,18b、例えば閉鎖機構を有する開放型の失禁用おむつ(図1においてより詳細に示される)又は閉鎖型の失禁用おむつ又は失禁パッド又は患者用シーツの断面を、縮尺に従わず概略的に示す。失禁用品18a,18bは、液体透過性のトップシート80と、実質的に(すなわち使用時において)液体不透過性のバックシート81と、その間に配置された吸収体76とを備える。失禁用品18a(図2a)の吸収体76は、例えばセルロース繊維又はプラスチック繊維のような繊維状材料70aとSAP材料70bとを含む貯蔵層70と、液体受容層71と、その間に配置されたpH調整剤72とを有する。液体受容層71は、吸収体76のうちトップシート80に直接面する層を形成している。貯蔵層70は、バックシートに直接面し、pH調整剤72を実質的に有さない。失禁用品18b(図2b)の吸収体は、更なる層、すなわちバックシート81に直接面する、吸収体76の層75を有し、この層は、実質的に、例えばセルロース繊維又はプラスチック繊維のような繊維状材料70aから成り、貯蔵層70とバックシート81との間に配置されている。バックシート81に直接面する層75は、pH調整剤72を実質的に含まない。
【0045】
図2a及び図2bに示す実施例においては、pH調整剤72は、Jungbunzlauer社のタイプ「Fine Granular F3500」の粒子形状のクエン酸一ナトリウムを含む。このクエン酸一ナトリウムは、59重量%において、80~355μmの粒子サイズ、及び少なくとも99%の純度を有する。pH調整剤72の量は、本実施例においては30g/mの値である。
【0046】
SAP材料70bは、図示の例においては、粒子形状に形成されている。考えられ得る一変形例においては、SAP材料は、繊維状に、或いは、シート状又は発泡体状に形成されてもよい。
【0047】
図2a及び図2bの両方は、それぞれ失禁用品18a及び18bの断面を、それぞれの場合に横方向74において、失禁用おむつ17の場合には、例えば股領域において示している(図1における参照符号84、弾性脚開口部86は示されず)。
【0048】
液体受容層71は、吸収体76の貯蔵層70を部分的に覆うだけであり、この場合、平坦に横たわる失禁用品18の横方向74において、貯蔵層70(図2a)よりも、又は、貯蔵層70及びバックシート81に直接面する、吸収体76の層75(図2b)よりも小さな広がりを有する。代替的には、液体受容層は、貯蔵層、及び/又は、バックシート81に直接面する吸収体76の層75に完全に重なっていてもよい。貯蔵層70は、この例(図2b)においては、バックシート81に直接面する吸収体76の層75と横方向74に実質的に同様に広がる。しかしながら、貯蔵層70と、バックシート81に直接面する吸収体76の層75とは、異なって広がることも可能である。
【0049】
実施例1:クエン酸と比較した、クエン酸一ナトリウム又はクエン酸二ナトリウムによるpH調整
【0050】
1A:クエン酸一ナトリウムから成るpH調整剤を用いて、大人用の失禁用おむつ(本発明による、第1の失禁用おむつ1A)を作製した。失禁用おむつ1Aは、以下の構成要素を提示した指示において有する。
-トップシート:SMS不織布材料,12g/m,Avgol LTD社のタイプ3000063
-液体受容層:けば立て(kardiert)、及び熱接着した不織布材料(「エアスルーボンド」),Bico/PES,40g/m,寸法90×270mm(0.0243m),Berry社のタイプ11040WC0A
-pH調整剤:25g/mのクエン酸一ナトリウム,純度>95%,非水素化,失禁用品当たりの総量0.6g,失禁用品当たりのクエン酸一ナトリウムの算出総モル量0.003mol,Thermo Fisher Scientific社のカタログ番号21533
-貯蔵層:21.5gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S;13.5gの粒子形状SAP材料(Evonik社のタイプSXM9791)と混合
-バックシートに面する吸収体の層:34.8gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S
-バックシート:不織布-フィルムラミネート,18g/m、RKW社のHyfol PE soft Textile タイプ14202
【0051】
1B:クエン酸二ナトリウムから成るpH調整剤を用いて、別の大人用失禁用おむつ(本発明による、比較のための第2の失禁用おむつ1B)を作製した。失禁用おむつ1Bは、以下の構成要素を提示した指示において有する。
-トップシート:SMS不織布材料,12g/m,Avgol LTD社のタイプ3000063
-液体受容層:けば立て、及び熱接着した不織布材料(「エアスルーボンド」),Bico/PES,40g/m,寸法90×270mm(0.0243m),Berry社のタイプ11040WC0A
-pH調整剤:31g/mのクエン酸二ナトリウム,純度99%、水和物形態(クエン酸水素二ナトリウムセスキ水和物),失禁用品当たりの総量0.75g、失禁用品当たりのクエン酸二ナトリウムの算出総モル量0.003mol、Thermo Fisher Scientific社のカタログ番号25024
-貯蔵層:21.5gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S;13.5gの粒子形状SAP材料(Evonik社のタイプSXM9791)と混合
-バックシートに面する吸収体の層:34.8gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S
-バックシート:不織布-フィルムラミネート,18g/m、RKW社のHyfol PE soft Textile タイプ14202
【0052】
1C:クエン酸から成るpH調整剤を用いて、更なる大人用失禁用おむつ(本発明によらない、比較のための第3の失禁用おむつ1C)を作製した。失禁用おむつ1Cは、以下の構成要素を提示した指示において有する。
-トップシート:SMS不織布材料,12g/m,Avgol LTD社のタイプ3000063
-液体受容層:けば立て、及び熱接着した不織布材料(「エアスルーボンド」),Bico/PES,40g/m,寸法90×270mm(0.0243m),Berry社のタイプ11040WC0A
-pH調整剤:26g/mのクエン酸,少なくとも99.5%の純度,非水素化,失禁用品当たりの総量0.625g、失禁用品当たりのクエン酸の算出総モル量0.003mol,Barcelonesa社の品番471A1F,「citric acid anhydrous pharm」
-貯蔵層:21.5gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S;13.5gの粒子形状SAP材料(Evonik社のタイプSXM9791)と混合
-バックシートに面する吸収体の層:34.8gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S
-バックシート:不織布-フィルムラミネート,18g/m、RKW社のHyfol PE soft Textile タイプ14202
【0053】
pH調整剤は、第1の失禁用おむつ1A及び第2の失禁用おむつ1B及び第3の失禁用おむつ1C内において、液体受容層と貯蔵層との間に配置された。
【0054】
第1の失禁用おむつ1A及び第2の失禁用おむつ1B及び第3の失禁用おむつ1C内におけるpH調整の比較可能性を高めるために、失禁用品当たりのpH調整剤のそれぞれの総量を、失禁用品当たり0.003molの実質的に等しい総モル量がそれぞれのpH調整剤に存在するように、それぞれ選択した(表1参照)。
【0055】
【表1】
【0056】
以下の試験方法の段落において詳説するように、尿代用液を用いた連続した3回の排尿を模擬し、第1及び第2及び第3のトップシートのそれぞれの外側の表面においてpH値を測定した。図3は、第1及び第2及び第3の失禁用品の液体受容層71に対する4つの測定点3の位置を示す図である(トップシート上への視線方向)。液体受容層71の横方向の広がりAは、いずれの場合も90mmであった。液体受容層71の長手方向の広がりBは、270mmであった。4つの測定点3全てにおいてpH値を測定し、一時点当たり4つの測定値から平均値を算出し、その平均値を表3に示した。各模擬排尿後に得られたpH平均値から、さらに、その平均値とそれに対応する標準偏差を算出し、同様に表3に示した。測定点3は、液体受容層71のそれぞれの横端部1に長手方向73において最も近い測定点3と、長手方向73において最も近いそれぞれの横端部1との間の距離eが45mmとなるように、それぞれの液体受容層の長手方向73において配置された。長手方向73に互いに続く2つの測定点3間の距離dは、この例においては60mmであった。
【0057】
それぞれの液体受容層71のそれぞれの長手端部2に横方向74において最も近い測定点3と、横方向74において最も近いそれぞれの長手端部2との間の距離cは、25mmであった。横方向74に互いに続く2つの測定点3間の距離fは、この例においては40mmであった。
【0058】
3つの模擬排尿のそれぞれの液量を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
説明した4つの測定点3において、異なる時点に測定したpH値を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
クエン酸を使用した第3の失禁用おむつ1Cは、第1回目の模擬排尿によれば、4.0~4.5のpH値を示し、その際、pH4.3±SD=0.2の平均値となり、肌に優しい範囲を大きく下回った。試験開始から2時間後と5時間後の第2及び第3回目の模擬排尿のときのみ、5.4から5.5の範囲の肌に優しいpH値が出現した(平均値pH5.4±SD=0.1、pH5.5±SD=0.1)。
【0063】
クエン酸二ナトリウムを使用した第2の失禁用おむつ1Bは、第1回目の模擬排尿後にすでにpH5.0~5.3の肌に優しいpH値を示し(平均pH5.2±SD=0.1)、第2及び第3回目の模擬排尿後にはわずかに上昇した(平均pH5.6±SD=0.1、pH5.7±SD=0.1)。
【0064】
また、クエン酸一ナトリウムを使用した第1の失禁用おむつ1Aは、3回の模擬排尿の間、比較的一定の肌に優しいpH5.1~5.5を維持し、特に第2及び第3回目の模擬排尿後はpH値をpH5.4~5.5に一定に保っていた(いずれも平均値pH5.5±SD=0.1)。
【0065】
特に、第1の失禁用おむつ1Aと第2の失禁用おむつ1Bの両方が、第1回目の模擬排尿後のpH値がほぼ等しく、肌に優しいpH値(いずれも平均値pH5.2±SD=0.1)でありながら、3つの失禁用おむつ全てがpH調整剤の総モル量(いずれも0.003mol)が実質的に等しいにも関わらず、クエン酸を用いた第3の失禁用おむつ1C(平均値pH4.3±SD=0.2)よりも著しく高いpH値だったことは驚くべきことであった。更に驚くべきことは、第1の失禁用おむつ1A、第2の失禁用おむつ1Bの両方が、クエン酸を用いた失禁用おむつ1CのpH値と比べて、第2及び第3回目の模擬排尿後にpH値が上昇しないか、あまり上昇しないこと(平均値表3)であった。
【0066】
クエン酸一ナトリウムを用いた第1の失禁用おむつ1Aは、実験の全期間にわたって、クエン酸二ナトリウムを用いた第2の失禁用おむつ1Bよりもわずかに優れたpH調整を与え、pH調整剤の総モル量(それぞれ0.003mol)は実質的に同じであった。したがって、本実施例において使用した水素化クエン酸二ナトリウムと比較して、クエン酸一ナトリウムを使用した場合には、約20重量%少ないpH調整剤を使用することができる。このように、pH調整剤の選択は、上記のプロセス上の利点に加え、経済的及び業務遂行上の利点ももたらすことができる。
【0067】
実施例2:クエン酸及びクエン酸三ナトリウムから成るpH調整剤によるpH調整
【0068】
2A:クエン酸三ナトリウムとクエン酸の混合物から成る先行技術(国際公開第2012121932号パンフレット)において公知のpH調整剤を用い、大人用失禁用おむつ(本発明によらない、比較のための第4の失禁用おむつ2A)を作製した。その際、混合比は6.2:1(w/w)であった。失禁用おむつ2Aは、以下の構成要素を提示した指示において有する。
-トップシート:SMS不織布材料,12g/m,Avgol LTD社のタイプ3000063
-液体受容層:けば立て、及び熱接着した不織布材料(「エアスルーボンド」),Bico/PES,40g/m,寸法90×270mm(0.0243m),Berry社のタイプ11040WC0A
-pH調整剤:31g/m(失禁用品当たりの総量0.75g)のクエン酸三ナトリウム:クエン酸 6.2:1(w/w)
-貯蔵層:21.5gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S;13.5gの粒子形状SAP材料(Evonik社のタイプSXM9791)と混合
-バックシートに面する吸収体の層:34.8gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S
-バックシート:不織布-フィルムラミネート,18g/m、RKW社のHyfol PE soft Textile タイプ14202
【0069】
2B:先行技術(国際公開第2012121932号パンフレット)において公知の、クエン酸三ナトリウムとクエン酸の混合物から成るpH調整剤を用い、大人用失禁用おむつ(本発明によらない、比較のための第5の失禁用おむつ2B)を作製した。その際、混合比は7.2:1(w/w)であった。失禁用おむつ2Bは、以下の構成要素を提示した指示において有する。
-トップシート:SMS不織布材料,12g/m,Avgol LTD社のタイプ3000063
-液体受容層:けば立て、及び熱接着した不織布材料(「エアスルーボンド」),Bico/PES,40g/m,寸法90×270mm(0.0243m),Berry社のタイプ11040WC0A
-pH調整剤:31g/m(失禁用品1個当たりの総量0.75g)のクエン酸三ナトリウム:クエン酸 7.2:1(w/w)
-貯蔵層:21.5gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S;13.5gの粒子形状SAP材料(Evonik社のタイプSXM9791)と混合
-バックシートに面する吸収体の層:34.8gのセルロース繊維(「フラッフ」),Resolute社のタイプCoosAbsorb S
-バックシート:不織布-フィルムラミネート,18g/m、RKW社のHyfol PE soft Textile タイプ14202
【0070】
第4の失禁用おむつ2A及び第5の失禁用おむつ2Bに使用したクエン酸三ナトリウムは、99%以上の純度を有し、二水和物として存在した(VWR Chemicals社の品番27833.363)。クエン酸は、非水素化形態として存在し、少なくとも99.5%の純度を有していた(Barcelonesa社の品番471A1F,「citric acid anhydrous pharm」)。
【0071】
pH調整剤は、第4の失禁用おむつ2A及び第5の失禁用おむつ2B内において、液体受容層と貯蔵層との間に配置された。
【0072】
実施例1を参照して試験方法の段落においてより詳細に説明したように、尿代用液を用いて3回の連続した排尿を模擬し、第4及び第5の失禁用品のトップシートのそれぞれの外側の表面において、液体受容層71の領域においてpH値を測定した。図3は、第4及び第5の失禁用品の液体受容層71に対する4つの測定点3の位置(トップシート上への視線方向)を示す図である。液体受容層71の横方向の広がりAは、いずれの場合も90mmであった。液体受容層71の長手方向の広がりBは270mmであった。4つの測定点3全てにおいてpH値を測定し、一時点当たり4つの測定値から平均値を算出し、表5に示した。各模擬排尿後に得られたpH平均値から、さらに、その平均値とそれに対応する標準偏差を算出し、同様に表5に示した。測定点3は、液体受容層71のそれぞれの横端部1に長手方向73において最も近い測定点3と、長手方向73において最も近いそれぞれの横端部1との間の距離eが45mmとなるように、それぞれの液体受容層の長手方向73において配置された。長手方向73に互いに続く2つの測定点3間の距離dは、この例においては60mmであった。
【0073】
それぞれの液体受容層71のそれぞれの長手端部2に横方向74において最も近い測定点3と、横方向74において最も近いそれぞれの長手端部2との間の距離cは、25mmであった。横方向74に互いに続く2つの測定点3間の距離fは、この例においては40mmであった。
【0074】
3つの模擬排尿の液量を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
説明した測定点3において、異なる時点に測定したpH値を表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
異なる混合比におけるクエン酸三ナトリウムとクエン酸の混合物からなる公知のpH調整剤を添加した第4及び第5の失禁用おむつ2A及び2Bは、第1回目の模擬排尿後、pH値が5.5~5.7となった。第2及び第3回目の模擬排尿後、第4及び第5の失禁用おむつのそれぞれのpH値は増加し、5.7~5.9という比較的高いpH値となった。クエン酸三ナトリウムとクエン酸の混合比が異なるにもかかわらず、第4及び第5の失禁用おむつ2A及び2Bは、ほぼ同等のpH調整を示し、その結果、この例においては、どちらの混合比も他に対して有利点を示さなかった。
【0079】
実施例1及び2の両方を合わせて見ると、第1の失禁用おむつ1Aのクエン酸一ナトリウム又は第2の失禁用おむつ1Bのクエン酸二ナトリウムを含むpH調整剤は、試験した他の全ての第3の失禁用おむつ1C、第4の失禁用おむつ2A、及び第5の失禁用おむつ2Bに比べて優れていることが分かる。それは、3回の模擬排尿の全てにわたって、第1の失禁用おむつ1A及び第2の失禁用おむつ1BのpH値が肌に優しい範囲内にあったためである。その際、特にpH値が、狭い範囲内において比較的一定に保たれ、更に特に、第1回目の排尿後においてpH値の著しい低下はなく、また、合計3回の模擬排尿において5時間を超えて経過しても著しい上昇がなかった。
【0080】
試験方法 失禁用品の表面のpH値測定:
失禁用品の表面、特にトップシートの外側の表面のpH値測定のために、尿代用溶液を使用する。尿代用溶液は、ISO11984-1(1996)に従って製造された、蒸留水中の塩化ナトリウム(NaCI)から成る0.9%(w/v)溶液である。その溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)によってpH6.8に調整されている。このような溶液は古くから一般に知られており、その調整はこの分野のルーチンメソッドの一つに属する。
【0081】
試験する失禁用品は、トップシート側を上にして平らに広げ、その際、必要であれば完全に広げ、必要であれば台座に固定する。
【0082】
試験は、ISO11984-1(1996)に従って,温度23℃±2℃、及び相対湿度50%±5%のもとに実行される。試験する失禁用品と尿代用溶液は、ISO11984-1(1996)に従って事前に調整する。
【0083】
使用状況を比較的リアルに表現し、複数回の排尿を伴うより長い使用期間にわたってpH値の推移又はpH調整剤の緩衝効果を追跡するために、後述のように、試験の過程において5時間にわたって3回の排尿が模擬された。失禁用品には、その際、その失禁用品の最大吸収能力の約90%に相当する液体量が充填されている。
【0084】
そのため、第1回目の模擬排尿及び第2回目の模擬排尿及び第3回目の模擬排尿の合計量が失禁用品の最大吸収能力の約90%に相当するように、第1回目の模擬排尿及び第2回目の模擬排尿及び第3回目の模擬排尿の量が選択される。その際、第1回目の模擬排尿の量は、失禁用品の最大吸収量の45%~50%に相当する。第2及び第3回目の模擬排尿の量は、実質的に等しく、それぞれ最大吸収能力の20%~22.5%に相当する。
【0085】
失禁用品の最大吸収容量が分からない場合には、最大吸収容量は、ISO11984-1(1996)に従い、第2の比較可能な失禁用品、例えば、同じ吸収力及びサイズ、製品タイプに属し、また、必要に応じて、試験される失禁用品と同じパックから取り出した失禁用品に基づいて事前に決定するものとする。
【0086】
失禁用品の最大吸収能力の50%に相当する量の尿代用液を、第1回目の排尿を模擬することを目的のために、30秒以内に乾燥失禁用品に注ぐ、しかも、尿代用液が、使用状態での排尿時に排尿液が当たるであろう失禁用品の領域に当たるように注ぐ。この領域が疑いなく決定できない場合、尿代用液は、吸収体の中心、特に吸収体の横方向中心軸の領域に当たるべきである。失禁用品が液体受容層又は液体分散層を有する場合、尿代用液を、失禁用品上の、特に液体受容層又は液体分配層によって形成される領域内の中央に注ぐ。
【0087】
第1の尿代用液による第1回目の模擬排尿の開始から2時間後に、第2の排尿を模擬するために、失禁用品の最大吸収容量の20%に相当する量の第2の尿代用液を上記のように失禁用品に注ぐ。
【0088】
第1の尿代用液の装填を開始してから5時間後に、第3の排尿を模擬するために、失禁用品の最大吸収容量の20%の量に相当する第3の尿代用液を上記のように失禁用品に注ぐ。
【0089】
3回の模擬排尿のそれぞれ終了後の、1分、3分、5分、10分、15分、及び20分後に失禁用品のトップシートの外側の表面のpHを測定する。このために、平たく広げた失禁用品の長手方向及び/又は横方向に互いに間隔をあけて配置した4つの測定点においてpH値をそれぞれ測定し、その4つの測定点は、4つの測定値の平均値を形成する。液体受容層又は液体分散層がある場合は、この層によって形成される領域内において測定すべきである。いずれの場合も、測定点は、pH調整剤によって被われた領域内に配置すべきである。
【0090】
測定点は、互いに間隔をあけて、特に少なくとも重ならないようにすべきである。基本的に、信頼性の高い測定結果を得るためには、失禁用品の測定箇所が乾燥しすぎていないことに注意すべきである。好ましくは、4つの測定点の位置は全ての測定において維持されるべきである。しかしながら、例えば、測定点が後の測定時に乾燥し過ぎている場合には、1つ又は複数の測定点の位置を変化させることも可能である。これは、例えば、再湿潤性が特に低い失禁用品の場合に、特にそれぞれの模擬排尿の後15分及び/又は20分の場合に起こり得ることである。ある時点の測定に適した測定点が少なくとも2つ存在しない場合には、測定はそれぞれの模擬排尿の終了後、他の時点にのみが評価される。測定点が2点又は3点しか利用できない場合には、2点又は3点の測定値の平均値を算出する。
【0091】
現場におけるこのようなpH測定は日常的に行われているため、当業者であれば、測定点が乾燥し過ぎているかどうかの評価を簡単に行うことができる。
【0092】
測定は、原則として、当業者の判断によってpH値の表面測定に適した任意の測定器によって行うことができる。例えば、HANNA Instruments社のモデルHI14142又はHI1413の電極が適している。測定器は、測定開始前に製造元の指示に従って校正する。
図1
図2a
図2b
図3
【国際調査報告】