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特表2023-520956非因果的チャネルの影響を軽減し補償する低複雑性の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】非因果的チャネルの影響を軽減し補償する低複雑性の方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
H04L27/26 112
H04L27/26 410
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542086
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 TR2020050540
(87)【国際公開番号】W WO2021225538
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】2020/07096
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514023586
【氏名又は名称】アセルサン・エレクトロニク・サナイ・ヴェ・ティジャレット・アノニム・シルケティ
【氏名又は名称原語表記】Aselsan Elektronik Sanayi ve Ticaret Anonim Sirketi
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥグ カヤ
(72)【発明者】
【氏名】ゴクハン ムザファー グヴェンセン
(57)【要約】
本発明では、結果的な両側ISIの影響を等価な非因果的通信チャネルへ移行する。従って、両側ISIを軽減して非因果的チャネルの影響を補償する方法を提案する。この方法はCP及びCSの挿入及び除去を含む。ブロック伝送に基づく通信システムにおいてCS及びCPを送信機において挿入し受信機において除去する際に、非因果的通信チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成することができる。それに加えて、この方法は、チャネル状態情報が受信機において入手可能である際の、ブロック伝送に基づく通信システムにおける非因果的通信チャネルの等化を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック伝送に基づく通信システムにおいて、ポストカーソル及びプレカーソルとのシンボル間干渉を軽減し、非因果的通信チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成する方法であって、
送信機において、情報ブロックを巡回プレフィックス(CP)及び巡回サフィックス(CS)により拡張するステップと、
前記拡張した情報ブロックを送信するステップと、
受信機において、受信した前記拡張した情報ブロックから前記CP及び前記CSを除去するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記CPによる拡張が、時間領域内で、前記情報ブロックの後部をコピーし、前記コピーした後部を同じ前記情報ブロックの先頭に挿入することに相当する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CPの長さが、前記非因果的通信チャネルのポストカーソル・タップの数以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記CPを除去するために、時間領域内で、前記受信した前記拡張した情報ブロックの先頭から、前記CPの長さ分の量の情報を破棄することを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記CSによる拡張が、時間領域内で、前記情報ブロックの前部をコピーし、前記コピーした前部を同じ前記情報ブロックの終端に挿入することに相当する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記CSの長さが、前記非因果的通信チャネルのプレカーソル・タップの数以上である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記CSを除去するために、時間領域内で、前記受信した前記拡張した情報ブロックの終端から、前記CSの長さ分の量の情報を破棄することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記CP及び前記CSの除去に続いて、
前記受信した情報ブロックをFFTによって周波数領域に変換するステップと、
周波数領域のチャネル係数が前記受信機において入手可能である際に、周波数領域の等化器によって、分散した前記非因果的通信チャネルを等化するステップと
を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック伝送に基づく通信システムにおいて非因果的通信チャネルによって生じるポストカーソル及びプレカーソルとのシンボル(符号)間干渉(ISI:inter-symbol interference)(両側ISIとしても知られている)を軽減する方法に関するものである。それに加えて、本発明は、チャネル状態情報が受信機において入手可能である際の、ブロック伝送に基づく通信システムにおける非因果的通信チャンネルの等化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムでは、送信される信号に、マルチパス(多経路)チャネルとしても知られている分散した因果的通信チャネルの問題が生じ得る。一般に、これらの因果的チャネルは、次式の線形離散時間タップ付き遅延線モデルによってモデル化される:
【数1】
ここに、y[i]は受信されるシンボルを表し、x[i]は送信されるシンボルを表し、n[i]はシンボル毎の付加ノイズを表し、h[i]は使用中のチャネルの時間領域のタップ係数(以下「タップ係数」)を表し、Lはこのチャネルの遅延拡散を表す。チャネルのメモリ作用により、送信されるシンボルは後続するシンボルと干渉する。こうしたシンボルは、送信されるシンボルにノイズと同じ影響を与えて、通信システムの信頼性を低下させる。この現象はシンボル間干渉(ISI)として知られている。ISIはポストカーソルISIまたは片側ISIとしても知られている。
【0003】
ブロック伝送に基づく通信システムでは、送信機が、後続する情報ブロックとの間に巡回(サイクリック)プレフィックス(CP:cyclic prefix)と称されるガードインターバルを導入することによって、こうした低下を防止することができる。CPの挿入は、情報ブロックの後部をコピーし、コピーした部分を同じ情報ブロックの先頭に挿入することによって情報ブロックを拡張することに相当する。CPの挿入は、関心事のシステムが因果的インパルス応答を有し、片側ISIしか存在しない際にCPを利用することができるものと仮定する。この従来技術は、非因果的インパルス応答を有するシステムを無視している。従って、例えば、CPを用いて非因果的チャネルによって生じるISI(両側ISI)を完全に解決することはできない。
【0004】
図1では、情報ブロック(10)が、送信機におけるCP挿入後にCPにより拡張された情報ブロック(20)に変換される。CPの長さが(因果的)チャネル遅延拡散以上であれば、受信機においてCPを除去すると片側ISIを防止することができる。図2では、CPにより拡張されて受信される情報ブロック(30)が、受信機におけるCPの除去後に情報ブロック(10)に変換される。さらに、CPの長さが(因果的)チャネル拡散以上である際には、送信機におけるCPの挿入及び受信機におけるCPの除去が、チャネルのテプリッツ(Toeplitz)コンボリューション(畳み込み)行列を巡回行列に変換する。
【0005】
巡回行列の重要性は、その対角化により生じ:離散フーリエ変換(DFT:discrete Fourier transformation)が巡回行列を対角化する。対角チャネル・コンボリューション行列は、チャネルをM、即ち伝送されるシンボルの数で識別し、サブチャネルは互いに無相関である。高速フーリエ変換(FFT:fast Fourier transform)により、結果的なチャネルは各サブキャリア(副搬送波)の全体にわたって平坦(フラット)と考えることができる。従って、周波数領域では、周波数領域等化器(イコライザ)(FDE:frequency domain equalizer)によって各サブチャネルを独立して等化することができる。
【0006】
ブロック伝送に基づく通信システムでは、パルス整形の不整合(ミスマッチ)、同期誤差、及び非線形効果を非因果的チャネルとしてモデル化することができる。これらのチャネルの非因果的インパルス応答により、送信されるシンボルは後続するシンボル及び先行するシンボルによる干渉を受ける。こうしたシンボルは送信されるシンボルにノイズと同じ影響を与えて、通信システムの信頼性を低下させる。次世代通信システムでは、低電力の影響さえもトランシーバの性能を低下させ得る。従って、結果的な両側ISIは、プレカーソルISIが弱電力であるにもかかわらず、受信機において軽減するべきである。
【0007】
英国特許第2463508号なる出願(特許文献1)は、時間反転及びCP及び巡回サフィックス(CS:cyclic suffix)の使用を含むブロック伝送方法に関するものである。この方法は、OFDM(orthogonal frequency division multiplexing:直交周波数分割多重)及びSC-FDE(single carrier frequency domain equalization:単一搬送波(シングルキャリア)周波数領域等化)システムにおける、等価チャネルの結果的な周波数係数が実数値であるような方法による、CP/CSの挿入及び除去を説明する。しかし、上記特許は、以前に挿入したCP及びCSを、本発明とは完全に異なる方法で除去している。上記特許は、CSとCPとを組み合わせた長さを、受信した情報ブロックの先頭から除去するプロセスを提案しているに過ぎない。この上記特許は、実数値の周波数領域チャネル係数を時間反転系内で獲得することを目的とする。上記特許では、この獲得を用いて、任意数の多重送信アンテナを採用して、フルレート直交時空間ブロック符号化を、実数値または複素数値の信号伝達(シグナリング)用に実現する。上記特許では、非因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成する具体的意図は存在しない。それに加えて、本発明では、チャネル状態情報が受信機において入手可能であるものと仮定するのに対し、上記特許では、チャネル状態情報を送信機において必要とし、このことは、他のチャネル、即ちフィードバックチャネルを有することにより不利であり得る。
【0008】
OFDMにおいてCP及び/またはCSを精密なタイミング同期の目的で使用することは、国際公開第2006/019255号なる出願(特許文献2)、発明の名称”Method for detecting OFDM symbol timing in OFDM systems”中に詳述されている。しかし、上記特許には受信機の構造は説明されていない。受信機においてCP及び/またはCSを除去する方法の具体的説明は存在しない。それに加えて、この特許は、送信ブロック構造を、OFDM用のみに、しかも精密なシンボル・タイミング検出用のみに使用する。非因果的通信チャネルを等化する具体的意図は存在しない。しかし、本発明の好適例では、このブロック構造をCP及びCSの除去と共に受信機において用いて、ブロック伝送に基づく通信システムにおける非因果的通信チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成する。さらに、本発明の好適例は、CP及びCSの挿入及び除去を時間領域内に留める限り、使用中の変調形式の種類には依存しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】英国特許第2463508号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/019255号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、結果的な両側ISIの影響を等価な非因果的チャネルへ移行する。従って、両側ISIを軽減して非因果的チャネルの影響を補償する方法を提案する。この方法は、CP及びCSの挿入及び除去を含む。ブロック伝送に基づく通信システムにおいてCS及びCPを送信機において挿入し受信機において除去する際に、非因果的通信チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成することができる。それに加えて、この方法は、チャネル状態情報が受信機において入手可能である際の、ブロック伝送に基づく通信システムにおける非因果的通信チャネルの等化を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来のブロック伝送に基づく通信システムにおける、送信機における巡回プレフィックスの挿入を概略的に示す図である。
図2】従来のブロック伝送に基づく通信システムにおける、受信機における巡回プレフィックスの除去を概略的に示す図である。
図3】ブロック伝送に基づく通信システムにおける、本発明の特定の実施形態による、送信機における巡回プレフィックスの挿入を概略的に示す図である。
図4】ブロック伝送に基づく通信システムにおける、本発明の特定の実施形態による、送信機における巡回プレフィックス及び巡回サフィックスの挿入を概略的に示す図である。
図5】ブロック伝送に基づく通信システムにおける、本発明の特定の実施形態による、受信機における巡回プレフィックス及び巡回サフィックスの除去を概略的に示す図である。
図6】ブロック伝送に基づく通信システムにおける、本発明の特定の実施形態による、送信機において情報のブロックを生成して伝送する方法を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
線形時不変(LTI:linear and time-invariant)システムは、そのインパルス応答によって完全に特性化することができる。因果的インパルス応答の時間領域タップ(以下「タップ」)は次の2つにグループ化することができる:メインカーソル・タップ及びポストカーソル・タップ。しかし、非因果的インパルス応答のタップは、次の3つにグループ化することができる:プレカーソル・タップ、メインカーソル・タップ、及びポストカーソル・タップ。
【0013】
非因果的LTIシステムは複数の理由によって観測することができる。それらの例の一部は次の通りである:
-ルート・レイズド・コサイン(RRC:root-raised cosine)フィルタを送信機におけるパルス整形フィルタとして選択すると、他のRRCフィルタを受信機側で整合(マッチト)フィルタとして採用することができる。理想的な通信システムでは、これら2つのRRCフィルタと等価なフィルタがレイズド・コサイン(RC:raised cosine)フィルタとなる。RCフィルタは、ナイキスト(Nyquist)ISI基準を満足してシンボル間干渉(ISI)を解消する。しかし、理想的なRRCフィルタは無限長である。実現可能なフィルタのインパルス応答は有限長のものであり、因果的でなければならない。従って、RRCフィルタを実現するためには、時間領域内で方形窓(ウィンドウ)関数を乗ずることによってRRCフィルタのインパルス応答を短縮するべきである。短縮されたRRCフィルタを送信機内及び受信機内の両方で用いると、等価なフィルタはRCフィルタにはならない。むしろ、等価なフィルタは次の3次(3段)のカスケードフィルタ、即ち:1つのRCフィルタ及び2つの追加的フィルタを含み、その周波数応答はシンク(sinc)関数である。この等価なフィルタはナイキストISI基準を満足することができず、結果的なシステムの周波数応答は平坦フェージング特性を有さない。その代わりに、この等価なフィルタのインパルス応答は非因果的になり、両側ISIを生じさせる低電力のプレカーソル・タップの存在を伴う。この等価なフィルタは等価な非因果的チャネルとして考えることができる。
-時刻同期(シンボル同期としても知られている)は、ほぼ間違いなく、受信機における最も重要なタスクのうちの1つである。受信した信号が適正な瞬時にサンプリングされなければ、時刻同期誤差が発生し、これが両側ISIを生じさせる。時刻同期誤差のモデル化は、低電力プレカーソル・タップを有する等価な非因果的通信チャネルを利用することによって、受信機からチャネルへ移行することができる。
-非線形歪みも、整合フィルタ出力における片側ISIとして出現し得る。非線形歪みは、既に存在していた両側ISIも強める。従って、非線形歪みのモデル化も、低電力のプレカーソル・タップを有する等価な非因果的通信チャネルを利用することによって、受信機からチャネルへ移行することができる。
【0014】
これらの例は、本発明において提案する方法を採用するために不可欠ではない。本発明の焦点は、周波数領域のチャネル係数が受信機において入手可能である際に、両側ISIを軽減して非因果的チャネルの影響を補償することについてである。
【0015】
本発明は、CSをCPと共に利用して、次世代通信システムのために両側ISIを軽減し、非因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成する。CSの挿入は、前部をコピーし、コピーした部分を同じ情報ブロックの終端に挿入することによって情報ブロックを拡張することに相当する。図3では、情報ブロック(10)が、送信機におけるCSの挿入後にCS(40)により拡張された情報ブロックに変形している。
【0016】
CP及びCSの挿入は、後部及び前部をコピーし、コピーした部分を同じ情報ブロックのそれぞれ先頭及び終端に挿入することによって情報ブロックを拡張することに相当する。図4では、送信機におけるCP及びCSの挿入後に、情報ブロック(10)が、CP及びCSにより拡張された情報ブロック(50)に変化している。CPの長さが非因果的チャネルのポストカーソル・タップの数以上であり、CSの長さが非因果的チャネルのプレカーソル・タップの数以上である場合、受信機においてCP及びCSを除去すると両側ISIを軽減することができる。図5では、CP及びCSにより拡張されて受信された情報ブロック(60)が、受信機におけるCP及びCSの除去後に情報ブロック(10)に変化している。さらに、CPの長さが非因果的チャネルのポストカーソル・タップの数以上であり、CSの長さが非因果的チャネルのプレカーソル・タップの数以上である場合、送信機におけるCP及びCSの挿入、及び受信機におけるCP及びCSの除去は、非因果的チャネルのテプリッツ・コンボリューション行列を非因果的チャネルの巡回コンボリューション行列に変換する。巡回コンボリューション行列は、時間領域の情報ブロックを周波数領域に変換するためのFFTを可能にすることによって、チャネル推定及び周波数領域の等化を容易にする。チャネルを等化するために、受信機はチャネル識別プロセスを用いる必要がある。本発明では、周波数領域のチャネル係数が受信機において入手可能であるものと仮定する。
【0017】
両側ISIの軽減を実証するために、非因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列の生成、チャネルの等化、本発明の実現を示す。なお重要なこととして、実現におけるチャネル推定は学習に基づく。しかし、提案する方法では、周波数領域のチャネル係数が受信機において入手可能であるものと仮定する。実現では、非因果的LTIシステムの離散時間出力を次式のように書くことができる:
【数2】
【0018】
式2では、h[m]は非因果的チャネルのタップ係数を表し、x[m]は送信される情報ブロック内の要素を表し、y[m]は受信される情報ブロック内の要素を表し、n[m]は要素毎の付加(加法性、加算性)ノイズを表す。さらに、Lfは非因果的インパルス応答のポストカーソル・タップ及びメインカーソル・タップの数を表し、Lbは非因果的インパルス応答のプレカーソル・タップの数を表し、従って合計の非因果的チャネル長は(Lf+Lb)になる。-Lb≦Lf-1である限り、Lf及びLbは任意の非負の数とすることができる。換言すれば、式2は1以上のチャネル長について成り立つ。
【0019】
式2からの観測は、次式の行列-ベクトル形式に書き換えることができる:
【数3】
ここに、「M」は1つの情報ブロック内の要素の数を表す。h[l]を含む行列は非因果的チャネルのテプリッツ・コンボリューション行列である。長さ(Lf-1)のCPの挿入は、x[-1]=x[M-1], x[-2]=x[M-2],...,x[-(Lf-1)]=x[M-(Lf-1)]を示すことに相当する。上述した非因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成するために、本発明が示唆するように、長さLbのCSを挿入することができる。こうしたCSの挿入は、x[M]=X[0], x[M+1]=X[1],...,x[M+Lb―1]=x[Lb―1]を示すことに相当する。ここで、式3を上述したCP及びCSの挿入により書き換えれば、次の行列-ベクトル式のようになる:
【数4】
【0020】
h[l]を含む行列は非因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列となる。
【0021】
式4は次式のように書き換えることができる:
【数5】
ここに、yは受信される情報ブロック内の要素のCP及びCSを除いたベクトル表現であり、Hは通信チャネルに対するテプリッツ・コンボリューション行列を表し、
(外1)
は送信される情報ブロック内の要素のCP及びCSを除いたベクトル表現であり、nは要素毎の付加ノイズのベクトル表現である。通信チャネルが因果的特性を有する場合(式2中でLb=0である場合)、この因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成するためには、長さ(Lf-1)以上のCPを送信機において情報ブロックに挿入し、受信機において受信した情報ブロックから除去するべきである。通信チャネルが非因果的特性を有する場合(式2中でLb≧1である場合)、この非因果的チャネルに対する巡回コンボリューション行列を生成するためには、長さ(Lf-1)以上のCP及び長さLb以上のCSを送信機において挿入し受信機において除去するべきである。
【0022】
f個のポストカーソル・タップ及びメインカーソル・タップ、Lb個のプレカーソル・タップを有する非因果的チャネルが存在する場合、かつ長さ(Lf-1)以上のCP及び長さLb以上のCSを送信機において挿入し受信機において除去する場合、式5は時間領域内で複数の情報ブロックについて次式のように書き換えることができる:
【数6】
ここに、
【数7】
であり、
(外2)
は巡回コンボリューションを表し、「m」は1つの情報ブロック内の要素のインデックス(指標)を表し、下付き文字(サブスクリプト)「i」は情報ブロック番号を表し、「yi[m]」はi番目に受信された情報ブロック内のm番目の要素を表し、「xi[m]」はi番目に送信された情報ブロック内のm番目の要素を表し、「ni[m]」はi番目の情報ブロック内のm番目の要素上の付加ノイズを表し、「h[m]」は非因果的通信チャネルを表す。式6では、横方向に同じ伝送ブロックを仮定しているので、通信チャネルを下付き文字なしで記述している。
【0023】
時間領域内での巡回コンボリューションの結果として、式6は周波数領域内での乗算として次式のように書き換えることができる:
【数8】
ここに、「Yi[k]」は式6中の「yi[m]」の周波数領域への変換を表し、
(外3)
は式6中の
(外4)
の周波数領域への変換を表し、「Xi[k]」は式6中の「xi[m]」の周波数領域への変換を表し、「Ni[k]」は式6中の「ni[m]」の周波数領域への変換を表し、「k」は周波数ビンのインデックスを表し、下付き文字「i」は式7中でも情報ブロック番号を表す。式7では、横方向に同じ伝送ブロックを仮定しているので、通信チャネルの周波数応答、即ち
(外5)
を下付き文字なしで記述している。従って、Lf個のポストカーソル・タップ及びメインカーソル・タップ、Lb個のプレカーソル・タップを有する非因果的チャネルが存在する場合、かつ長さ(Lf―1)以上のCP及び長さLb以上のCSを送信機において挿入し受信機において除去する場合、FFTを用いて情報ブロックを時間領域から周波数領域に変換することができ、FFTのサイズは、少なくとも、CP及びCSなしのブロックサイズに等しくするべきである。実証のために、FFTのサイズを情報ブロックのサイズ、即ちMに等しく選択するが、このことは本発明の実行にとって必須でないことは明らかである。
【0024】
本発明では、周波数領域のチャネル係数が受信機において入手可能であるものと仮定する。この実証では、チャネルを学習によって周波数領域内で推定する。しかし、このことは通信チャネルを推定する唯一の方法ではない。通信チャネルは、学習、パイロット、等のような異なる技法によって周波数領域内または時間領域内で推定することができる。本発明では、ブロック伝送に基づく通信システムにおいて通信チャネルを推定するあらゆる方法を採用することができる。前述したように、この実証では、チャネルを学習によって周波数領域内で推定する。従って、送信されるT個の情報ブロック、ここにT<<Nが受信機にとって既知であり、これらの情報ブロックを用いて非因果的チャネルの周波数応答を推定するものと仮定する。チャネル推定は次式のように示すことができる:
【数9】
ここに、
(外6)
は非因果的チャネルの推定した周波数応答を表し、上付き文字”*”は複素共役演算を表す。
【0025】
チャネル状態情報が受信機において入手可能である際に、本発明ではFDEを用いることができる。FDEのいくつかの例は、ゼロフォーシング(ZF:zero-forcing:ミニマックス)等化、最小平均二乗誤差等化、周波数領域判定帰還によるFDE、等である。実証のためにZFを利用するが、このことは非因果的通信チャネルに対する両側ISI軽減及び巡回コンボリューション行列生成の性能に影響を与えないことは明らかである。ZF等化器及びその出力は次式のように書かれる:
【数10】
ここに、
(外7)
はj番目に受信した情報ブロックにおける等化したk番目の周波数ビンを表し、この周波数ビンは両側ISI及び非因果的チャネルによる影響を受けており、「Yj[k]」はj番目に受信した情報ブロックにおけるk番目の周波数ビンを表し、この周波数ビンは両側ISI及び非因果的チャネルよる影響を受けている。
【0026】
前述したように、本発明では、両側ISIを軽減して非因果的チャネルの影響を補償する。この方法は、周波数領域のチャネル係数が受信機において入手可能である際の、ブロック伝送に基づく通信システムにおける巡回プレフィックス、巡回サフィックスの挿入及び除去、及び非因果的通信チャネルの等化を含む。本発明は、いかなる種類の変調形式も提案しない。従って、FDE後に、受信した情報ブロックを等化したバージョン、即ち式9中の
(外8)
は、選定した変調形式に応じて、時間領域に変換することができ、あるいは周波数領域内に留めることができる。
【0027】
要約すれば、この実証では、各々がM個の要素を有するN個の情報ブロックが送信機において形成される。最初のT個の情報ブロックが受信機にとって既知であるものと仮定する。次に、各情報ブロックをCP及びCSの挿入により拡張し、これらの情報ブロックを図6に示すように連結させる。次に送信機が送信する。受信機は、拡張されて連結された情報ブロックの全部を捕捉して、CP及びCSを除去する。CP及びCSの除去に続いて、受信機は、受信した情報ブロックをFFTによって周波数領域に変換する。次に、受信機は、受信した情報ブロックのうち最初のT個を用いて、非因果的チャネルを周波数領域内で推定する。最後に、残りの情報ブロックをFDEによって周波数領域内で等化する。周波数領域内で等化された結果的な情報ブロックは、選定した変調形式に応じて、時間領域に変換することができ、あるいは周波数領域内に保つことができる、というのは、本発明は選定した変調から独立しているからである。
【0028】
以上の本発明の態様の全部を、コンピュータプログラム製品を用いて実現することができ、このコンピュータプログラム製品は、キャリア媒体上に担持されるコンピュータで実行可能な命令を含むことができる。キャリア媒体は、ストレージ(記憶装置)製品を含むことができ、あるいはダウンロードのように信号を含むことができる。
【符号の説明】
【0029】
10 情報ブロック
20 CPにより拡張された情報ブロック
30 CPにより拡張されて受信された情報ブロック
40 CSにより拡張された情報ブロック
50 CP及びCSにより拡張された情報ブロック
60 CP及びCSにより拡張されて受信された情報ブロック
CP 巡回プレフィックス
CS 巡回サフィックス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】